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カテゴリ: アデニア

アデニアは割りと古くから塊茎植物として有名ですが、一般的に知られているのはAdenia glaucaやAdenia globosaなど一部に限られます。多肉植物ブームの昨今でもあまり見かけないのは、どちらかと言えば希少だからというより、それほど人気があるわけではないからでしょう。しかし、最近アデニアも面白いと思うようになり、少し調べてみようということになりました。以前、開発に伴いアデニアを移植しようという試みを記事にしてご紹介したことがありますので、そちらもご参照下さい。


アデニアの履歴書
アデニアは主に旧世界の熱帯や亜熱帯に分布するトケイソウ科植物です。塊茎や塊根を持ち、蔓性が一般的なようです。2024年8月時点で認められているアデニア属は105種類です。
アデニア属の経歴を見てみましょう。アデニア属が初めて命名されたのは1775年のことで、スウェーデンの探検家、博物学者、東洋学者であるPeter Forsskålによるものです。つまり、Adenia Forssk.です。Forsskålはvon Linneの弟子であり、アラビア探検中にイエメンでマラリアに罹患し客死しました。31歳でした。Forsskålの原稿は植物についてはForsskålの死から12年にあたる1775年に「Flora Aegyptico-Arabica」として出版され、その中でAdeniaは新属として記載されました。ですから、アデニア属の成立はForsskålの死後になされたのです。ここからは、アデニア属の異名(Heterotypic synonyms)を見ていきましょう。
1797年 Modecca Lam.
1820年 Kolbia P.Beauv., nom. illeg.
1821年 Blepharanthes Sm.
1822年 Paschanthus Burch.
1846年 Microblepharis M.Roem.
              Erythrocarpus M.Roem.
1861年 Clemanthus Klotzsch
1867年 Machadoa Welw. ex Benth. & Hook.f.
              Ophiocaulon Hook.f., nom. illeg.
1876年 Keramanthus Hook.f. 
1888年 Jaeggia Schinz
1891年 Echinothamnus Engl. 

このような異名が生まれる原因は様々ですが、おおよそのパターンは決まっています。新種が見つかった時に既存の属としないで新属を作ったり、既に命名されている種に対して改めて命名してしまったり、既存の属から分離させて新属を創設したりです。このように後にまとめられることはよくあります。また、提唱したものの、まったく認められず使用されてこなかったものもあるかも知れません。

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Adenia glauca Schinz, 1892
ボツワナ、南アフリカ北部州の原産。


アデニア研究最前線
さて、近年のアデニア属に対するアカデミアの興味は、どのようなものがあるでしょうか? 調べてみると、アデニアはどうも有毒なようです。その成分については昔から調べられているのですが、近年では何かに使えないかと研究がなされています。毒性があるということは、何かしらの生理活性があるということです。用法用量を工夫すれば、薬となるかも知れません。
例えば、YESSO Bogui Florianらの2022年の論文では、Adenia lobataの抽出物がラットの貧血に有効であったとしています。この抽出物のLD50(半数致死量)は5000mg/kgなので、人体には無害だとしています。
次にPacome Kouadio N' Goらの2021年の論文では、Adenia lobataがコートジボワールで伝統的に様々な慢性疾患や頭痛・歯肉炎の痛みの緩和、分娩の促進のために広く利用されていることが示されています。アデニア抽出物の抗炎症作用が試験され、伝統医学に科学的な根拠を与えました。
ピンポイントな研究もあります。例えば、Shashikala R. Inamdarらの2021年の論文では、Adenia hondala由来の成分が大腸がんと結合し増殖を阻害し、がん細胞にアポトーシス(自死)を引き起こすとしています。

もちろん、毒性も研究されております。例えば、Massimo Bortolottiらの2021年の論文では、Adenia kirkiiよりキルキリンなる植物毒素を分離しています。キルキリンはタンパク質を合成するリボソームに不可逆的な損傷を与え細胞死を引き起こします。
実はこの手の毒性だの薬理作用だのといった論文は山のようにあり、割りと新しいものをチョイスしました。というか、あまりに沢山あるため調べるのを止めました。期待されているということなのでしょう。

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Adenia olaboensis Claverie, 1909
マダガスカル原産。2変種からなり、var. olaboensisとvar. parvaがあります。


150年ぶりの再発見
Neil R. Crouchらの2016年の論文によると、Adenia natalensisが南アフリカのKwaZulu-Natalの、Tugela川下流域で再発見されました。A. natalensisは1860年代初頭に採取され、William Tyrer Gerrardによる2つのコレクションのみが知られており、原産地は「Natal」あるいは「Natal, Zulu-land」とだけ記録されていたものです。実に150年ぶりの再発見でした。しかし、この論文では、知られていないA. natalensisのメス個体は発見されませんでした。
この発見には続報がありました。Neil R. Crouch & David G. A. Stylesの2021年の論文では、Mngeni川水系の3箇所でもA. natalensisを発見し、開花し結実したメス個体を初めて発見しました。これにより、A. natalensisの雌雄異株についての完全な説明が可能となりました。

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Adenia kirkii (Mast.) Engl., 1891
ケニア、タンザニアの原産。1871年にModecca kirkii Mast.と記載され、後にアデニアとされました。キルキリンという毒素を含みます。


新種の発見
アデニア属も新種が発見されています。新しいものだと、Veronicah Mutele Ngumbauの2017年の論文では、ケニアとタンザニアの海岸林に生息する新種のAdenia angulosaについて説明しています。A. gummiferaに似ているとしています。また、Marc Pingnalらの2013年の論文では、コモロ諸島のMayotte島から新種のAdenia barthelatiiを説明しました。マダガスカルのアデニアに近縁なようです。
 
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Adenia globosa Engl., 1891
エチオピア、ソマリア、ケニア、タンザニア原産。現在は3亜種、subsp. globosa、subsp. curvata、subsp. pseudoglobosaに分けられます。


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多肉植物の分布域は大抵は砂漠など、あまり人が住んでいないような場所です。しかし、近年では開発により生息地が破壊される速度が加速しています。本日はそんな開発により生息地を失った、とある多肉植物の救出作戦についてご紹介します。それは、Herta Kolbergの2014年の論文、『Relocation of Adenia pechuelii (Passifloraceae) -a viable rescue option?』です。Adenia pechueliiというアデニア属の塊茎植物の移転とその後の経過についての報告です。アデニア属と言えば、Adenia glaucaやAdenia globosaなど、緑色の塊茎からつるを伸ばす植物が稀に販売されています。

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Adenia pechuelii
『Die Pflanzenwelt Afrikas, insbesondere seiner propischen Gebiete』(1910年)より。

ウラン開発の余波
世界的なエネルギー危機と市場価格の高騰により、ナミビアにおけるウラン探査と採掘が増加しています。その計画の1つとして、カナダの企業がナミブ砂漠の東端にある農場でウラン採掘が行われることになりました。予定地の環境影響評価と環境管理計画では、一般的にElephant's Footと呼ばれるAdenia pechueliiの大規模な個体群が見つかりました。1994年のIUCN基準ではA. pechueliiは絶滅危惧IB(EN)として評価されていました。A. pechueliiはナミビアの固有種で西海岸沿いの霧が発生する地域に生えます。その生態はあまり良く知られていません。

移植試験
2008年にA. pechueliiの移植が可能であるかが試験されました。掘削機で植物の周囲を掘り、その後はスコップやバールを用いて丁寧に掘り上げ、なるべく根の損傷がないように深く掘り下げました。今回の試験では無作為に60本のA. pechueliiが選ばれ、様々な処理をして採掘予定地以外でA. pechueliiが生える地域に移植されました。移植は、ただ移植しただけの場合と、殺菌剤で処理したもの、発根ホルモンで処理したもの、定期的に水やりしたものなど、複数の条件が試されました。

移植後の経過観察
移植後は定期的な経過観察を行いましたが、移植から1年後にはすべての個体が生存していました。移植から4年後においても80%にあたる48個体が生存していました。枯死した個体のほとんどは移植によるダメージではなく、野生動物による食害によるものでした。移植しなかった個体も比較のために観察していましたが、やはり野生動物による食害により枯死するものが観察されています。また、食害による枯死は小型の個体が受けやすいようです。
これは、湿潤な年が続いた後で、干ばつが起こったことにより、野生動物による食害が発生しやすくなった可能性があります。野生動物の食害を受けないで枯死した個体は、わずか1個体でした。移植によるダメージを受けた可能性のある個体だけを考慮すると、移植後の生存率は98.5%にもなります。移植は有効であると判断されました。
移植時に様々な処理を試みましたが、これらは移植後の生存率や生長量には影響がありませんでした。ただ、定期的な水やりについては、移植した年は湿潤でよく雨が降ったため、その影響を推測することが出来ませんでした。しかし、移植時の水やりは、根の安定や発根の刺激のために必要であると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
A. pechueliiに関しては移植は有効なようです。移植先の環境が異なると上手くいかない場合もありますが、A. pechueliiの場合は自生地が広く、移植先が豊富にあったことが幸いしたようです。とは言え、開発が進めばA. pechueliiの生息地は減少し続けるでしょう。その時に、有効な移植先がなかったり、残された自生地に過密に移植されるようなことがなければ良いのですけどね。


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