ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

カテゴリ: 球根植物

多肉植物には有毒なものもあります。しかし、毒性があると言うことは、人体に対して生理作用を及ぼすと言うことでもあり、民間薬として利用される可能性があります。毒性と言えばまずユーフォルビアが思いつきますが、実はBoophoneと言う巨大な球根植物も有毒であり、民間で利用されているらしいのです。詳細は知りませんでしたが、調べてみるとBoophoneが原因と思われる事件が発生しているようです。それは、Wj du Plooyらの2001年の論文、『Poisoning with Boophane disticha: a forensic case』です。タイトルではBoophaneとなっていますが、現在はBoophoneが正しい表記です。しかし、論文中では元の表記であるBoophaneですから、そのように呼びましょう。さて、Boophoneにより引き起こされた事件とは一体何なのでしょうか?

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Boophone disticha
『Curtis's botanical magazine』(1825年)より。


Boophane distichaの球根を食べると、鎮静、鎮痛、幻覚、意識喪失、非合理な行動、多弁、昏睡などの症状を引き起こします。Boophaneは悪霊を追い払い、幸運をもたらし、雨乞いに利用する目的で小屋の近くで栽培されます。
さて、事の経緯はこうです。南アフリカのヒーラー(伝統的医術者)が、ある人に魔術がかけられていると思い、魔術をかけた人物を突き止めようとしました。ヒーラーはその人にBoophane調合液150mLを飲ませました。しかし、Boophane調合液を飲んだ人は自身が襲われているという幻覚に見舞われ、拳銃を抜き無差別に発砲しました。発砲により1名が死亡し、数名が負傷しました。発砲した人物は逮捕され、Boophane調合液は分析のために南アフリカ警察法医学局に送られました。
クロマトグラフや質量分析によりBoophane調合液に含まれる化合物が同定されました。同定されたのは、アルカロイドであるBuphanidrin、Buphanine、Crinamidine、Undulatine、さらに揮発性油であるEugenolでした。さて、Buphanineにはスコポラミン同様の作用があり、制御不能な行動、幻覚、興奮、昏睡を引き起こします。Buphanidrineには麻薬性があり、幻覚作用があります。Eugenolには鎮痛作用があります。被告の不合理な行動は、Boophaneに含まれるBuphanineとBuphanidrineの摂取によるものと考えられます。ただ、この場合のEugenolの影響は不明です。


以上が論文の簡単な要約です。
伝統医学には魔術的要素があります。薬草を治療に用いるだけではなく、占いや呪術にも利用されるのです。今回の事件もまじない的な利用方法でした。
即死するような毒性ではないとはいえ、Boophoneには非常に強い作用があることが分かりました。この論文に取りあげられた事件は、Boophoneによる異常行動、興奮作用、幻覚作用が強く出た結果なのでしょう。とは言え、わざわざ球根から汁を搾らなければならないため、事故でうっかり搾り汁を飲んでしまうことはないでしょう。ですから、ただ園芸植物として栽培する分には、特に問題となるようなことは考えにくいはずです。むしろ、ユーフォルビアの方が厄介かも知れませんね。


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世界各地には未だに伝統医学が存在し、地域によっては住民の生活に深く根付いています。特に現代医学が浸透していない開発途上国には顕著です。しかし、このような伝統医学は様々な野生の植物を利用するため、場合によっては希少な植物が用いられてしまうこともあります。このような場合、野生の植物ではなく栽培された植物を利用することが出来れば、簡単に解決するでしょう。しかし、問題は栽培した植物が野生の植物より劣っていないかという疑念です。これは、薬用植物の栽培を考案する際の一番の問題点で、栽培品を下に見るのことは世界的に一般的です。しかし、希少植物の保護の観点から薬用植物の栽培を行う場合は、栽培品はその効果が疑われ、結局は野生の希少植物が使われてしまうという悪循環を断つことが中々出来ていない現状があります。ですから、栽培品の品質の証明は野生植物の保全対策としても急務課題と言えます。本日は栽培された蒼角殿(Bowiea volubilis)を市場で取引される野生株との薬効を比較した、M. A. Masondoらの2013年の論文、『A comparison of the pharmacological properties  of garden cultivated and mutch market-sold Bowiea volubilis』を見ていきます。

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蒼角殿 Bowiea volubilis

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B. volubilisの花

蒼角殿(Bowiea volubilis)は、南アフリカ東部に広く分布し、南アフリカの伝統医学で使用される薬用植物の14%におよびます。球根にはいくつかの強心配糖体が含まれています。強心配糖体は心筋に作用し鬱血性心不全の治療にも使用されますが、使い方次第では心臓に悪影響があります。しかし、伝統医学では様々な病気に対して利用されてきました。球根の汁を分娩時に妊婦に与えたり、感染症対策に皮膚に塗布したり、眼痛に対しても使用されます。さらに、ズールーの薬草医は腹水、不妊、膀胱炎、腰痛、筋肉痛などのためにB. volubilisを処方します。

南アフリカでは公式あるいは非公式の市場の両方で、薬草植物の需要は増加しており、明らかに規制はされていません。最大の懸念は使用される薬用植物の部位の85%は、球根や塊茎、樹皮などの再生不可能な部位であることです。多くの植物が過剰収穫により絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕しています。B. volubilisもまた、過剰収穫により減少し、南アフリカのレッドデータリストで脆弱種に指定されています。
研究者は薬用植物の絶滅リスクに対抗するために、薬用植物の小規模農業を提案しました。しかし、伝統医学のヒーラーは野生の薬用植物はより強力であると信じているため、栽培品への転換は進まないままです。

著者らは大学の植物園で栽培された約5歳のB. volubilisを、Muthi市場で取引されている株と比較しました。B. volubilisは乾燥させてから粉末にし、5gを石油エーテル(PE)、ジククロメタン(DCM)70%エタノール(EtOH)、および水で1時間の超音波処理により抽出しました。抽出物を濾過した後に真空濃縮し、これを微生物への薬効を見るためにエイムズ試験を実施しました。エイムズ試験では、4種類の最近株である枯草菌ATCC6051株、黄色ブドウ球菌ATCC12600株、大腸菌ATCC11775株、肺炎桿菌ATCC13883株、および真菌であるカンジダ・アルビカンスATCC10231株を試験しました。 
エイムズ試験の結果は、枯草菌に対しての各抽出物は栽培品と野生植物で同等あるいは栽培品の方がやや有効、黄色ブドウ球菌に対しては栽培品が有効なものと野生植物が有効なものとがあり、大腸菌は栽培品と野生植物で同等、肺炎桿菌は野生植物の方がやや有効、真菌は野生植物の方がやや有効でした。
B. volubilisは様々な感染症に利用されていますが、今回の試験結果では野生植物であっても抗菌力はかなり貧弱でした。とはいえ、今回試験された微生物以外に効果が高い可能性もあります。とりあえず、今回の結果からは栽培品と野生植物の間で大きな違いはないことが確認されました。植物の薬理活性は育ち方や年齢、サイズ、季節により異なるとされ、効果が最大となる栽培方法が分かればより有効かも知れません。


次に抗炎症作用(いわゆる消炎作用)についても試験され、栽培品も野生植物も抗炎症作用を持つことが確認されました。有機溶媒で抽出されたものより、水で抽出されたものの方が作用は強いものでした。2種類の炎症物質を阻害するかを見ましたが、1種類(COX-2)は水抽出物では栽培品も野生植物も100%炎症物質を阻害しました。もう1種類(COX-1)は水抽出物では栽培品は約50%の阻害、野生植物では90%以上を阻害しました。今回の結果から、伝統医学における疼痛および炎症性疾患に対するB. volubilisの有効性が確認されました。

以上が論文の簡単な要約となります。
抗菌力に対しては調べた範囲では曖昧な結果でしたが、消炎作用に関しては強い作用があることが確認されました。わざわざ有機溶媒を使用しなくても水で抽出可能であったことは、伝統医学での利用方法と合致しており、実際に利用される際に利便性が高いと言えるでしょう。COX-1に関しては野生植物の方が強い作用があるようですが、論文中にもあるように適切な栽培方法の確立により解決可能であるかも知れません。また、野生植物においてもCOX-2に対する効果の方が高いので、COX-2の効果に適した利用方法を考慮するという考え方もあるでしょう。
この論文の最大のネックは、その検体の少なさです。そもそも、B. volubilisが収穫された場合により生育が異なるでしょうから、期待される効果にバラツキがあるかも知れません。あちこちの産地を比較する必要があります。もしかしたら、産地により大幅に成分比率が異なるかも知れず、その場合は栽培品以下のものもあるかも知れません。さらに言えば、栽培品の生育環境が不明であり、それが標準的な栽培方法かどうか考えなければなりません。
最後に、抗菌力に関して1つだけ。本来ならば、B. volubilisが利用される地域で疫学調査を行い、その地域でB. volubilisにより治療などで対策される微生物を特定し、その微生物に対して効果があるかを見る必要があります。しかし、現実的には①薬用植物の薬理作用の研究、
②薬用植物の原産地における利用方法の調査、③疫学調査の3点はバラバラに研究されています。この3点はセットにならないと本当の意味における確証が得られませんから、本来の目的である栽培品への代替は進まないでしょう。


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最近、Bowiea volubilisについて少しずつ調べています。Bowieaは葉のないモジャモジャした蔓を伸ばす緑色の玉葱のような球根植物です。アフリカでは薬草として利用されてきたことや、現在はB. volubilisの亜種とされているsubsp. gariepensisについても記事にしました。実際の薬理作用についても気になるところで、良さげな論文がありましたら記事にしてご紹介出来ればと考えております。
Bowieaにはもうひとつ、Bowiea kilimandscharicaという小型種があります。しかし、このB. kilimandscharicaは現在ではB. volubilisと同種とされ、B. kilimandscharicaという学名は異名とされています。しかし、小型であること位しか情報がありません。何か情報はないかと調べても、B. kilimandscharicaについては、何故かよくわかりません。せめて、B. kilimandscharicaが初めて記載された論文を探してはみたものの、1934年に出版されたドイツ語の「Notizblatt des Botanischen Gartens und Museums zu Berlin-Dahlem.」という雑誌らしいのですが、PDF化されていないのか見つかりません。まあ、探し方が悪いだけかもしれませんが…
 
しかし、調べる過程でBowieaを含むアフリカの球根植物の分類に挑戦した論文を発見しました。B. kilimandscharicaの調査は続行するとして、本日はアフリカの球根植物についての論文をご紹介します。

ご紹介するのは、Mario Martine-Azorin, Manuel B. Crespo, Maria Angeles-Vargas, Michael Pinter, Neil R. Crouch, Anthony P. Dold, Ladislav Mucina, Martin Pfosser & Wolfgang Wetschnigの2022年の7月に出たばかりの論文『Molecular phylogenetics of subfamily Urgineoideae (Hyacinthaceae) : Toward a coherent generic circumscription informed by molecular, morphological, and dirtributional data』です。
内容はキジカクシ科Urginea亜科(ヒヤシンス亜科)植物の遺伝子解析による分子系統を構築し、今後の分類の改訂を提案してあるようです。大変力が入った研究で、内容や議論されている内容をつぶさに検討すると、大変なボリュームとなってしまいますから、私の記事では分子系統を示すに留めたいと思います。まあ、球根類には詳しくないので、よく分からないという部分も大なのですが…

Urginea亜科の分子系統
                            ┏Austronea
                        ┏┫
                        ┃┗Fusifilum
                        ┃
                    ┏┫    ┏Boosia
                    ┃┃┏┫
                    ┃┃┃┃┏Fusifilum magnifium
                    ┃┗┫┗┫
                    ┃    ┃    ┗Urginea revoluta
                    ┃    ┃
                ┏┫    ┗Geschollia
                ┃┃
                ┃┣Urgineopsis
                ┃┃
                ┃┣Drimia
                ┃┃
                ┃┣Litanthus
                ┃┃
                ┃┣Schizobasis
                ┃┃
                ┃┣Rhadamanthopsis
                ┃┃
                ┃┃┏Rhadamanthopsis
                ┃┣┫          namibiensis
                ┃┃┗Aulostemon
                ┃┃
                ┃┣Squilla
                ┃┃
                ┃┣Tenicroa
                ┃┃
                ┃┗Rhodocodon
                ┃
                ┃    ┏Ebertia
                ┃┏┫
                ┃┃┗Vera-duthiea
                ┃┃
                ┃┃        ┏Indurgia
                ┣┫        ┃
                ┃┃    ┏┫┏Spirophyllos
                ┃┃    ┃┗┫
            ┏┫┃┏┫    ┗Urginea
            ┃┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┗Iosanthus
            ┃┃    ┃
            ┃┃    ┃┏Sekanama
            ┃┃    ┗┫
            ┃┃        ┗Zulusia
            ┃┃
            ┃┃        ┏Ledurgia
            ┃┃        ┃
            ┃┃    ┏╋Thuranthos
        ┏┫┃    ┃┃
        ┃┃┃┏┫┗Zingela
        ┃┃┃┃┃
        ┃┃┗┫┗Urginavia
        ┃┃    ┃
    ┏┫┃    ┗Sagittanthera
    ┃┃┃
    ┃┃┗Striatula
┏┫┃
┃┃┗Mucinaea
┫┃
┃┗Rhadamanthus

┗Bowiea


馴染みがない名前が多いのですが、南アフリカなどのアフリカの冬型球根としては、Drimia、Urginea、Schizobasisあたりは辛うじて知られています。最近ではケープバルブも見かけるようになってきましたから、聞いたことがあるものもあるかもしれません。しかし、ケープバルブと言っても、要するに南アフリカの冬型球根の総称ですから、分類すると特に近縁ではないいくつものグループが含まれています。この論文では扱われていない種類も沢山あります。

気になるBowieaについてですが、この論文ではB. gariepensisもB. kilimandscharicaも独立種とされています。分子系統を見ると、B. volubilisとB. kilimandscharicaは近縁で、B. gariepensisの2株は少し離れています。現在のところは、B. kilimandscharicaはB. volubilisに含まれてしまい、B. gariepensisはB. volubilisの亜種とされていますが、3種類の関係性は分子系統の結果と符合します。特徴や分布が異なり、生殖隔離もあるようですから、3種は別種としても良いのでないかと思います。そもそも、Bowieaの種の認定を左右する根拠は1987年のBruynsの論文によるものでしょうから、遺伝子解析が発達した近年の研究により改訂されるべきでしょう。この論文は2022年の最新のものですから、今後学名の変更の可能性はあります。ただし、そのためには様々な地域のB. volubilisとB. kilimandscharicaを比較して、B. kilimandscharicaがB. volubilis集団から明瞭に分離できるということが求められるかもしれません。

Bowieaの分子系統
                    ┏B. gariepensis 1
┏━━━━┫
┃                ┗━━B. gariepensis 2

┃    ┏━B. kilimandscharica
┗━┫
        ┗━━━━B. volubilis


以上が論文の内容ですが、本当に一部のみの抜粋です。論文では様々な議論が展開されています。著者は分類群を統合する分類学の流れに対し、意義を唱えています。例えば、一塊の分類群は「教育目的にはより実用的」(Chase et al., 2009)であるとか、分類群は「数が少ないほど扱いがより安定する」(Manning et al., 2004, 2009)と述べられています。しかし、その議論はあまりに推測的で不当ではないか、科学的根拠に欠けるのではないかと、著者は考えているようです。


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ガリエペンシスは蒼角殿の仲間です。学名に関する経緯は以下の通りです。まず、1867年に蒼角殿Bowiea volubilisが命名されました。その後、白花の種類が見つかり、1983年にvan JaarsveldによりBowiea gariepensis van Jaarsv.と命名されました。しかし、1987年(publ. 1988)に蒼角殿の亜種とするBowiea volubilis subsp. gariepensis (van Jaarsv.) Bruyns.とされました。しかし、ガリエペンシスは白花であるだけではなく蔓の色合いなど全体的に違いがあり、一見して別種に思えます。
そんな中、ガリエペンシスを発見したvan Jaarsveldの短いレビューを見つけましたのでご紹介します。2015年に
Ernst Jacobus van Jaarsveldが執筆したBowiea HYACINTHACEAE』です。

内容的にはB. volubilisとB. gariepensisの詳細な特徴を列挙しています。B. volubilisの球根は最大16cmほどで茎は3-4m(最大10m)で、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエ、マラウイ、アンゴラ、南アフリカに分布します。B. gariepensisの球根は最大14cmほどで茎は1.2m程度で、ナミビア南部と南アフリカ北西部に分布します。それ以外にも花の細かい特徴が記載されていますが割愛します。

これは論文ではなく、植物図鑑の解説のようなものですから、記述は短くこの程度の簡単なものです。しかし、van JaarsveldはガリエペンシスがBowiea volubilisの亜種とする意見も示しつつ、本文ではBowiea gariepensisで通しています。学名は一度決まったら不変なものではなく、新たな研究の進展により変わることが度々あります。実際にB. gariepensisがB. volubilisの亜種とされたことを見てもそれはわかります。ですから、ガリエペンシスもいつか亜種ではなく、いつの日か独立種とされる可能性はあるのでしょう。個人的には、単純に外見的な違いだけではなく、分布の隔たりを見るに生殖隔離が既に起きているように見受けられます。何を持って亜種とされたのかわかりませんが、その根拠が気になります。当該論文を上手いこと見つけられればいいのですが…



おまけ

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1984年の『Veld & Flora』に記載されたガリエペンシス。絵自体は1983年に描かれたものですから、初記載時の絵かもしれません。ちなみに、まだこの時は"Bowiea gariepensis Van Jaarsveld, sp. nov."と表記されています。


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蒼角殿は南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、タンザニア、ウガンダ、ケニア、モザンビーク、マラウイ、アンゴラ原産の、モジャモジャしたつるを持つ球根植物です。1867年にHarv. ex Hook.f.により命名されました。

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蒼角殿 Bowiea volubilis Harv. ex hook.f.

蒼角殿には強心作用があるとされていますが、原産地ではある種の薬草として利用されてきた歴史があります。蒼角殿に含まれる有効成分を調べた論文もあるようですが、本日は蒼角殿の薬草としての利用について調査した論文をご紹介します。

本日ご紹介するのは、南アフリカの研究者であるL.J. Ramarumo、A. Maroyi & M.P. Tshisikhaweの『Bowiea volubilis Harv. ex Hook.f. subsp. volubilis : A therapeutic plant species used by the traditional healers in the Soutpansberg Region, Vhembe Biosphere Reserve, Limpopo Province, South Africa』です。2019年に発表された新しい論文です。

論文は南アフリカのLimpopo州Vhembe自然保護区、Soutpansberg地域の伝統的なヒーラーによるB. volubilisの治療への利用を調査したものです。調査はヒーラー133人に対するインタビューにより収集されました。
身近にある植物を薬草として利用は、太古の昔から行われています。世界の人口の80%以上、特に農村地域では健康のために薬草に依存しています。アフリカ南部では4000種類以上の植物が、病気に対して治療薬として利用されているそうです。

B. volubilisは発疹、幼児の駆虫薬。肝感染症、骨盤痛、幼児の黄疸などに使用されました。その薬草としての加工方法も目的により異なります。例えば、発疹にB. volubilisを使用する際は、新鮮な球根をみじん切りにして汁を絞り、これをボディーローションとして1日2回、5日間患部に使用します。肝感染症には、新鮮なB. volubilisの全体を茹でて、Momordica(M. boivinii、M. balsamica、M. cardiospermoides、M. foetida、M. repens)の新鮮な根と一緒に煎じます。これは、1日3回、2ヶ月間薬湯として飲まれます。骨盤痛には、茹でて刻んだ新鮮な球根と、Artabotrys monteiroaeの煎じ薬をトウモロコシ粉と混ぜて粥を作ります。粥として1日2回を1週間食べます。

このように、B. volubilisの利用法についての調査により、薬草としての可能性はあります。しかし、残念ながらB. volubilisの持つ薬理作用に関してはあまりわかっていません。抽出された個別成分の研究はあるようですが、植物そのものが漢方薬のように効果があるかは検証されていません。しかし、B. volubilisが様々な生理活性物質を含んでいることは確かなので、今後の研究に期待したいところです。


最後に、問題はB. volubilisがこのように生薬として様々な用途で利用されるため、個体数が減少して将来的に野生状態での絶滅の可能性があるということです。著者らは栽培の必要性を訴えています。

以上が論文の内容となります。
個人的に驚いたのは、意外にも用途に合わせて加工方法が異なり、他の薬草と合わせて調合されるなど調合方法が複雑なことです。薬草としての長い歴史的な経緯を感じさせます。
また、著者らは栽培の必要性を訴えていますが、栽培した時に野生株と比較して薬効成分が減少しないかは気になるところです。実際にその点を重視して調べた論文もあるようです。Bowiea volubilisの実際の薬理作用についても気になります。今後も注視して行きたいと考えております。


おまけ
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1867年の『Botanical Magazine』に掲載されたBowiea volubilisの図表。この論文によりB. volubilisは正式に新種として記載されました。



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英語でSea onion、日本では子持ちオーニソガラムの名前で知られているバルブを紹介します。

子持ちオーニソガラムはバルブ類、つまりは球根植物です。ただし、チューリップなどの球根と異なり球根は土に埋まらず、親球根から仔球根が出来てそれがポロポロ落ちて増えます。薄皮の内側に仔が出来て、薄皮が剥がれると仔球根が出てくる様子から、Pregnant Onion、つまり妊娠中のタマネギと言われることもあるようです。
何故かネットではヨーロッパ原産と書かれることもありますが、南アフリカ原産です。一応、ケープバルブと呼べないこともない気がします。

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上の写真の様に、仔球根が親球根からポロポロ落ちます。

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落ちた仔球根は転がった先で、根と芽を出して育ちます。乾燥に強いので、生着率は高いようです。

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転がった先で育ち、また仔球根を出して増えます。

さて、育て方ですが、これは物凄く簡単です。
地植えして放置でOK。霜に強く、雪が積もっても平気です。
以前は鉢栽培していたのですが、生長が早くよく増えるので、根詰まりを起こしやすいためやや面倒でした。
ただ、路地栽培は簡単で良いのですが、どんどん増えて手に終えなくなる感じはあります。

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増えすぎて困ります。

最後に学名についてです。
Ornithogalum caudatumとされがちですが、正式な学名は異なります。その経緯を解説します。
まず、1777年にオランダのニコラウス・フォン・ジャカンが、Ornithogalum longibracteatumと命名したのが最初のようです。ジャカンは神聖ローマ皇帝のフランツ1世により西インド諸島の調査を行った人物で、モーツァルトの友人とのことです。ちなみに、グランカクタスの佐藤勉さんが書いた『世界の多肉 3070種』ではこの学名を採用しているみたいで、和名は海ネギとなっています。ただし学名はOrnithogalum lonqibracfcatumと盛大な誤植があります。
1789年にジャカンにより、学名はOrnithogalum caudatumに変更されました。同年、スコットランドの植物学者であるウィリアム・エイトンにより、やはりO. caudatumとされました。
その後、1794年にスウェーデンの植物学者・博物学者・医学者であるカール・ペーテル・ツンベルクにより、Ornithogalum bracteatumとされました。ツンベルクは二名式学名の提唱者であり現代分類学の祖であるカール・フォン・リンネの弟子であり、鎖国下の日本にも来て出島に滞在しました。ツンベルクに献名されて命名された日本の植物の学名も沢山あり、種小名がthunbergiiとあるユキヤナギ、ハルリンドウ、タブノキ、クロマツ、ユウスゲなどがあります。
2009年に遺伝子解析の結果を踏まえ、Ornithogalum属からAlbuca属に移動となりました。つまり、Albuca bracteataです。この学名は、ツンベルクの学名を正当として命名されました。ですから表記上、Albuca bracteata (Thunb.) J.C.Manning & Goldblattが正式名称です。J.C.Manning & Goldblattは、南アフリカの植物学者であるジョン・チャールズ・マニングとピーター・ゴールドブラットのことです。


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