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カテゴリ:リュウゼツランの仲間 > ダシリリオン

テキーラはアルコール度数の高いお酒として有名ですが、これはAgaveの絞り汁を発酵させて作られます。しかし、Agaveに近縁でメキシコなど分布も似ているDasylirionを利用したsotolと言うお酒があるらしいと知り、少し調べてみました。本日はJuan Manuel Madrid-Solorzanoらの2021年の論文、『La produccion de sotol: revision de literatura sistematica』を少し見てみましょう。

sotolはメキシコ北部で生産される伝統的な飲み物です。年間約52万リットルのsotolが生産されていると推定されます。sotolは年平均5%の割合で成長しています。原材料はsotol=Dasylirionですが、22種類のうち高い炭水化物含有量を持ち発酵に適した6種類があり、そのうち3種類はsotolの味や香りに適したD. cedrosanum、D. leiophyllum、D. duranguesisがあり、他にD. wheelei、D. texanum、D. serekeがあります。
利用されるDasylirionはメキシコ北部の米国と国境を接するチワワ州に生え、乾性低木と草原が優勢で州の面積の約65%を占めます。また、州の面積の75%は年間降水量300〜500mmの半乾燥あるいは乾燥気候からなります。

sotolはNOM-159-SCFI-2004と言う生産を規制する基準があり、チワワ州、コアウイラ州、デュランゴ州で共有されています。sotolの生産とマーケティング認証、および規制機関となることを目指す2つの協会があります。2006年に設立されたCMSと、2018年に設立されたCCSです。
CMSの推定によると3州には250の生産者がおり、52年リットルのsotolを生産しています。


論文では、sotolに関する過去に公開された論文や公文書などを調査しています。いくつかの論点があります。
①苗床
醸造のために野生のDasylirionを伐採することは、生態系に悪影響を与えます。かと言って、植林は水分不足や牛の放牧などのために、苗の生存率が低く上手くいきません。ですから、農業生産は重要です。しかし、実験室レベルでの薬品による発芽前処理なの関する発芽試験などはありましたが、実際の生産農家に適した方法や、苗の育成などについての研究はありませんでした。商業的な育成方法の確立と、野生のDasylirionの再生方法を研究する必要があります。
②農業
発芽前処理の進歩は商業プランテーションの創設につながる可能性があります。また、D. cedrosanumの種子から作られる小麦粉は、非常に栄養価が高いことが知られています。また、Dasylirionはフルクタン(水溶性食物繊維)含有量が多く、食品および製薬原料として使用出来ます。

以上が論点の簡単な要約です。
Agaveのみならず、Dasylirionでもお酒が作られており驚かされました。ただ、sotolはまだ個人の経験により作られている部分が大きく、工程や発酵に関わる微生物についての理解も進んでいません。産業化と言う面ではまだまだなのでしょう。Agaveほど研究も進んでいないようですから、Dasylirion特有の有効成分が見つかるかも知れませんね。



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ダシリリオンはそもそもあまり流通していませんが、最近では実生苗がまれに販売されることもあります。そんな中、もっとも流通しているDasylirion longissimumは、じつはDasylirion quadrangulatumであるという記事を最近書きました。そもそもが海外での混乱がそのまま日本に波及した形なのですが、国内でそのことが話題に挙がることはないみたいですので、気にはなっています。

私は先ずDasylirion longissimumという名札が付いたDasylirion quadrangulatumを入手した後、正しい名札が付いたD. quadrangulatumを入手したので、結局はD. quadrangulatumを2株入手しただけでした。残念。
しかし、基本的にD. longissimum(本当はD. quadrangulatum)以外のダシリリオンはまあ見ないわけです。五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、明らかD. quadrangulatumではないダシリリオンを見つけたので購入しました。それが、ダシリリオン・ベルランディエリです。


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葉は青白くトゲがあります。葉の断面が平たいことに注意。

ベルランディエリは葉の長さは120cmになり、葉はワックス状で青くトゲは不規則につきます。花茎は3.5メートルになるそうです。マイナス14℃に耐えるそうですから、ある程度のサイズになれば完全戸外栽培も可能でしょう。ベルランディエリは非常に美しい葉色を持ちますから、これからの生長が楽しみです。

ベルランディエリの学名は1879年に命名されたDasylirion berlandieri S.Watsonです。S.Watsonはアメリカの植物学者であるSereno Watsonです。種小名はフランスの植物学者であるJean-Louis Berlandierに対する献名です。Berlandierは1943年にメキシコのeast of MonterreyではじめてDasylirion berlandieriを発見しました。

ダシリリオンについては以下の記事もご参考までに。

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人は見たいものしか見ないとは、なるほど上手いことを言ったものです。私は割とアクティブに園芸店を巡ってきましたが、今まであまりダシリリオンを目にしたことはありませんでした。しかしある時、園芸店の入荷情報をチェックしていたら、ダシリリオンが入荷したというお知らせがありました。調べて見ると中々面白い植物のようです。早速、購入しましたが、それから1年と立たずにダシリリオンをさらに2種類見かけて購入するに至りました。ここでふと思ったわけです。今まで行った園芸店で、本当にダシリリオンは売っていなかったのだろうかと。興味のある多肉植物はそれなりに詳しく目がいきますが、知らない多肉植物は目に入っても素通りしていただけなのではないかと。一度、ダシリリオンに興味を持ち入手していますから、私のダシリリオンに対する感度が上がっただけかもしれません。見ているがその実は見えていなかった、そんな気がして少し気恥ずかしくなります。

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Dasylirion longissimum名義のダシリリオン。
シマムラ園芸で購入。

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Dasylirion quadrangulatum名義のダシリリオン。
五反田TOCのビッグバザールで購入。Ruchiaさんの販売している実生苗。
ともに、古い葉が少し枯れ混んだので、まだ小さな内は乾かし過ぎないようにした方がよさそうです。
まだ何者かわからない苗ですが、太い幹を持つコーデックスになります。それまでに何十年かかるかわかりませんが…


ここで気になる情報に気付きました。 国内の販売サイトでM's plantsというアガヴェなどの多肉専門店の解説では、Dasylirion longissimumの名前で販売されているダシリリオンは、実はDasylirion quadrangulatumであるというのです。具体的にはD. longissimumはトゲがあり、D. quadrangulatumにはトゲがないということです。その専門店も種子に記載された名前で販売していますが、こういう風に言われていますよという情報を教えてくれているわけです。
私の所有するダシリリオンも、間違いなのでしょうか?
しかし、国内ではまったく情報がありません。海外ではどうなのでしょう。

海外の情報を探ってみましたが、日本国内とは異なりこの問題は話題となっているようです。海外でも混乱しているみたいです。というよりも、海外で混乱状態なので、海外の種子を購入している日本国内でも同じ混乱が連鎖的に起きているといった方が正しいようです。
海外の趣味家のフォーラムでは、世界中の多肉植物ファンが盛んにやり取りをしています。そのフォーラムの中で、D. quadrangulatumの葉にはトゲがなく断面は四角形で、D. longissimumの葉にはトゲがあり断面は四角形ではないとしています。また、D. longissimumは灰色がかるという表現をされていますが、これは青白いということでしょう。

そもそも、D. quadrangulatumとD. longissimumはどうやら混同されてきたようです。海外の"LLIFLE"というサイトでは、2001年にColin WalkerがD. longissimumとD. quadrangulatumは同種であるとしたとあります。しかし、別種であるという意見もあり、論争があったようです。今でもD. longissimumとD. quadrangulatumは同種であると書いてあるサイトがあるのは、このことが原因なのでしょう。ただし、それぞれの分布域は重ならないともあります。


また、アリゾナ大学のHPを見ていたら、D. quadrangulatumはトゲがないため、植栽に向くとありました。やはり、ここでも国内の情報とは逆になっています。

"World Flora Online"というサイトでは、それぞれの詳細情報が記述されていました。
まずは、D. quadrangulatumですが、葉の基部はスプーン型で耳状のフラップがあり、葉は80~90cmくらいでトゲはないが、葉縁は細かい鋸歯状とのことです。断面は基部では菱形で先端では正方形です。葉に光沢はないそうです。
対するD. longissimumは、葉の基部はスプーン型ですが耳状のフラップはありません。葉は80~140cmくらいで、葉の基部にはトゲがあり、やはり葉縁には弱い鋸歯があります。葉は時々光沢があるそうです。


情報を色々探っていくと、どうやらその元となった論文があるみたいです。1998年に発表されたのは、アメリカの植物学者であるDavid J BoglerによるThree new species of Dasylirion (Nolinaceae) from Mexico and a clarification of the D. longissimum complex』という論文です。混乱するD. quadrangulatumとD. longissimumを再定義しているらしいのですが、有料の学術雑誌なので内容はまったくわかりません。非常に残念です。しかし、2017年に発表された『La Familia Nolinaceae en el. estado de Nuevo Leon』という論文では、1998年の論文も資料の1つとして参照としながら、D. quadrangulatumとD. longissimumのややこしい事情も解説しています。しかし、この論文はスペイン語で書かれているため、まったく読めませんでした。仕方ないので機械翻訳しましたが、専門用語が多いせいか翻訳がうまく行かなくて割とめちゃくちゃな文章でしたので、解読には大変難儀しました。

ここからは論文の内容を抜粋して紹介します。ただし、論文では色々省略して論旨だけを淡々と書いているせいかわかりにくいので、私が情報を少し足しています。
フランスの植物学者であるCharles Antoine Lemaileは1856年にD. longissimumを命名しましたが、地域情報や標本なしの栽培植物に基づいているらしく、命名に問題があるようです。さらに、アメリカの植物学者であるSereno Watsonは、1879年にD. quadrangulatumを記述しており、これは不思議なことにLemaileのD. longissimumの記述に良く適合します。
イングランドの植物学者であるSir Joseph Dalton Hookerは、1900年にD. longissimumとD. quadrangulatumの両種を認識しており、詳細な説明とイラストを残しています。また、アメリカの植物学者であるWilliam Treleaseは、1911年にD. longissimum Nomen Confusem、つまりは「混同名」を宣言しました。
しかし、アメリカの植物学者であるDavid J Boglerは1994年にD. longissimumは2種類あることを資料と個体群からレビューしました。そこで、D. quadrangulatumを種として復元し、混同名をD. longissimumに宣言して、Querétaro、Hidalgo、San Luis Potosiの個体群を新種のD. treleaseiと命名しました。しかし、1998年にBoglerはD. treleaseiを破棄し、D. longissimumを復元しました。

というわけで、D. longissimumとD. quadrangulatumは別種であり、それぞれの学名は有効なものとなっております。

さて、それでは私の入手個体はどうなのでしょうか? D. longissimum名義でも実際に販売され普及しているのはD. quadrangulatumであるというのは、ヨーロッパ、アメリカ、日本においても実情は同じです。シマムラ園芸で購入したD. longissimumはD. quadrangulatumの可能性が高そうです。輸入種子がそうなっている以上は、そのままの名前で売るならそうなるでしょう。
では、RuchiaさんのD. quadrangulatumは、逆にD. longissimumなのでしょうか? しかし、外見的特徴ではD. longissimumらしさはありません。まだ幼弱な小苗ですから、特徴が出ていない可能性もありますが、現状ではD. quadrangulatumの名札通りな気もします。しかし、そうなるとRuchiaさんはD. quadrangulatumをちゃんと認識出来ていることになります。すごいですね。

しかし、なんと言ってもまだ苗ですから、まだまだこれからです。5年10年と育てて、じっくり観察していきたいと思います。


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