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カテゴリ: ダシリリオン

テキーラはアルコール度数の高いお酒として有名ですが、これはAgaveの絞り汁を発酵させて作られます。しかし、Agaveに近縁でメキシコなど分布も似ているDasylirionを利用したsotolと言うお酒があるらしいと知り、少し調べてみました。本日はJuan Manuel Madrid-Solorzanoらの2021年の論文、『La produccion de sotol: revision de literatura sistematica』を少し見てみましょう。

sotolはメキシコ北部で生産される伝統的な飲み物です。年間約52万リットルのsotolが生産されていると推定されます。sotolは年平均5%の割合で成長しています。原材料はsotol=Dasylirionですが、22種類のうち高い炭水化物含有量を持ち発酵に適した6種類があり、そのうち3種類はsotolの味や香りに適したD. cedrosanum、D. leiophyllum、D. duranguesisがあり、他にD. wheelei、D. texanum、D. serekeがあります。
利用されるDasylirionはメキシコ北部の米国と国境を接するチワワ州に生え、乾性低木と草原が優勢で州の面積の約65%を占めます。また、州の面積の75%は年間降水量300〜500mmの半乾燥あるいは乾燥気候からなります。

sotolはNOM-159-SCFI-2004と言う生産を規制する基準があり、チワワ州、コアウイラ州、デュランゴ州で共有されています。sotolの生産とマーケティング認証、および規制機関となることを目指す2つの協会があります。2006年に設立されたCMSと、2018年に設立されたCCSです。
CMSの推定によると3州には250の生産者がおり、52年リットルのsotolを生産しています。


論文では、sotolに関する過去に公開された論文や公文書などを調査しています。いくつかの論点があります。
①苗床
醸造のために野生のDasylirionを伐採することは、生態系に悪影響を与えます。かと言って、植林は水分不足や牛の放牧などのために、苗の生存率が低く上手くいきません。ですから、農業生産は重要です。しかし、実験室レベルでの薬品による発芽前処理なの関する発芽試験などはありましたが、実際の生産農家に適した方法や、苗の育成などについての研究はありませんでした。商業的な育成方法の確立と、野生のDasylirionの再生方法を研究する必要があります。
②農業
発芽前処理の進歩は商業プランテーションの創設につながる可能性があります。また、D. cedrosanumの種子から作られる小麦粉は、非常に栄養価が高いことが知られています。また、Dasylirionはフルクタン(水溶性食物繊維)含有量が多く、食品および製薬原料として使用出来ます。

以上が論点の簡単な要約です。
Agaveのみならず、Dasylirionでもお酒が作られており驚かされました。ただ、sotolはまだ個人の経験により作られている部分が大きく、工程や発酵に関わる微生物についての理解も進んでいません。産業化と言う面ではまだまだなのでしょう。Agaveほど研究も進んでいないようですから、Dasylirion特有の有効成分が見つかるかも知れませんね。



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以前から思っていたこととして、ノリナ属(Nolina)、カリバヌス属(Calibanus)、トックリラン属(Beaucarnea)はよく似ているということです。この3属の関係はどうなっているのでしょうか? というのも、ネットで調べるとNolina(=Beaucarnea)などと書かれており、何が正しいのか良くわからなくなったからです。
わからなくなら調べれば良いということで早速調べてみたところ、ちょうど良い論文が見つかりました。Vanessa Rojas-Pina, Mark E. Olson, Leonardo O. Alvarado-Cardenas & Luis E. Eguiarteの2014年の論文、『Molecular phylogenetics and morphology of Beaucarnea (Ruscaceae) as distinct from Nolina, and the submersion of Calibanus into Beaucarnea』です。

実は学術的にもトックリラン属Beaucarneaはあいまいな存在です。研究者によってはBeaucarneaはNolinaの異名とみなしています。しかし、まったく別の属であるとも言われます。さらに、BeaucarneaとCalibanusの関係もはっきりとはしていませんでした。
Beaucarneaは7種のメキシコ固有種があり、その他の3種は中央アメリカまで分布します(※2014年当時)。Beaucarneaは園芸用として19世紀半ばにヨーロッパへ導入されました。現在では世界中で栽培されています。しかし、園芸用途の長い歴史にも関わらず、系統関係の研究はなされていません。

以下に遺伝子解析による分子系統を示します。①~⑥のクレードがBeaucarneaです。ここでは6グループに分けられることを示しています。このBeaucarneaとDasylirionは姉妹群です。ご覧の通りNolinaはBeaucarneaと近縁ではあっても、BeaucarneaがNolinaに含まれるという考え方は否定されます。

                        ┏①recurvata clade
                    ┏┫
                    ┃┗②gracilis clade
                ┏┫
                ┃┗③calibanus clade
            ┏┫
            ┃┗④purpusii clade
        ┏┫
        ┃┗⑤stricta clade
    ┏┫
    ┃┗⑥southern clade
    ┃
┏┫┏━Dasylirion acrotriche
┃┃┃
┃┃┣━━Dasylirion serratifolium
┃┗┫
┃    ┃┏━Dasylirion berlandieri
┃    ┃┃
┃    ┗╋━Dasylirion longissimum
┃        ┃
┃        ┗Dasylirion glaucophyllum

┃    ┏━━Nolina parviflora
┃    ┃
┃┏┫    ┏━━Nolina longifolia
┃┃┗━┫
┃┃        ┗Nolina cespitifera
┗┫
    ┃                    ┏━━Nolina duranguensis
    ┃    ┏━━━┫
    ┃    ┃            ┗Nolina juncea
    ┗━┫
            ┗━━━Nolina lindheimeriana


では、次にBeaucarneaの①~③の3つのクレードを見てみましょう。驚くべきことにCalibanusはBeaucarneaと区別することが出来ません。Calibanus glassianusはBeaucarnea compactaと非常に近縁です。しかも、③Calibanusは①+②と④のBeaucarneaに挟まれてしまっています。このように入れ子状ではCalibanusを独立した属とみなすことは困難です。もし、Calibanusを維持しようとするならば、Beaucarneaの他の5つのクレードもそれぞれ別の属として独立させる必要があります。しかし、一番簡単なのは、CalibanusをBeaucarneaに含めてしまうことです。

                  ①recurvata clade
        ┏━━Beaucarnea recurvata
    ┏┫
    ┃┃┏Beaucarnea sp1
    ┃┗┫
    ┃    ┗Beaucarnea sanctomariana
    ┃         ②gracilis clade
    ┃    ┏Beaucarnea gracilis 1
┏┫    ┃
┃┃    ┣Beaucarnea gracilis 2
┃┃┏┫
┃┃┃┗Beaucarnea gracilis 3
┃┗┫
┃    ┗Beaucarnea gracilis 4
            ③ calibanus clade
┃    ┏Beaucarnea compacta 1
┫    ┃
┃    ┣Beaucarnea compacta 2
┃    ┃
┃    ┣Beaucarnea compacta 3
┃┏┫
┃┃┣Calibanus glassianus 1
┃┃┃
┃┃┣Calibanus glassianus 2
┗┫┃
    ┃┗Calibanus glassianus 3
    ┃
    ┃┏━Calibanus hookeri 1
    ┗┫
        ┃┏Calibanus hookeri 2
        ┗┫
            ┗Calibanus hookeri 3

次に④~⑥のクレードです。非常に綺麗に分かれています。著者のBeaucarneaを6つのグループに分ける提案は正しいでしょう。また、B. purpusiiはB. strictaの異名とする意見も幾つかの植物のデータベースでは見られますが、クレードレベルで異なることが明らかになりました。つまりは、B. purpusiiは独立種であり、B. strictaとは別種です。

                ┏①recurvata clade
            ┏┫
            ┃┗②gracilis clade
        ┏┫
        ┃┗③calibanus clade
        ┃
        ┃        ④purpusii clade
        ┃    ┏Beaucarnea sp2
    ┏┫┏┫
    ┃┃┃┗Beaucarnea sp2
    ┃┃┃
    ┃┗┫            ┏Beaucarnea hiriartiae 1
    ┃    ┃    ┏━┫
    ┃    ┃    ┃    ┗Beaucarnea hiriartiae 2
┏┫    ┗━┫
┃┃            ┃┏Beaucarnea purpusii 1
┃┃            ┗┫
┃┃                ┗Beaucarnea purpusii 2
┃┃             ⑤stricta clade
┃┃┏Beaucarnea stricta 1
┃┗┫
┃    ┃┏━Beaucarnea stricta 2
┃    ┗┫
┃        ┗Beaucarnea stricta 3
┃                ⑥southern clade
┃                    ┏Beaucarnea goldmanii 1
┃                ┏┫
┃                ┃┗Beaucarnea goldmanii 2
┃            ┏┫
┃            ┃┃┏Beaucarnea guatemalensis
┃            ┃┗┫
┗━━━┫    ┗Beaucarnea pliabilis
                ┃
                ┗Beaucarnea goldmanii 3


Beaucarneaは乾燥地域に分布するものと湿潤地域に分布するものがあります。①recurvata cladeと⑥southern cladeは割と湿潤な環境に自生します。この2つのクレードは遺伝的には近縁ではありませんが、形態学的特徴は共有しています。これは、環境に適応するために収斂した可能性があります。例えば、細い茎と枝、滑らかな樹皮、葉の形、浅く沈んだ気孔、無毛の葉などがあげられます。残りの4クレードは、乾生低木林や熱帯落葉樹林などの乾燥地に生えます。4つのクレードの共通する特徴は、丈夫な茎と枝、厚くタイル状の樹皮、ほぼまっすぐな光沢のある葉、深く沈んだ気孔などです。これらの特徴は、長い乾季の間に水分損失を減らすためと考えられます。

以上が論文の簡単な要約となります。著者はCalibanusはBeaucarneaに含まれるとし、Calibanus glassianusをBeaucarnea glassianaに、Calibanus hookeriをBeaucarnea hookeriとすることを提案しています。しかし、なぜBeaucarneaをCalibanusにではなく、CalibanusをBeaucarneaになのでしょうか? これは、別にCalibanusがBeaucarneaに囲まれているからとか、Beaucarneaの方が種類が多いからではありません。国際命名規約にある、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」に従っているだけです。Beaucarnea属とCalibanus属の創設年は以外の通りです。
1861年 Beaucarnea Lem.
1906年 Calibanus Rose
Beaucarneaの方が40年以上前に命名されていますね。この事実によりCalibanusがBeaucarneaに吸収されるのです。ちなみに、現在キュー王立植物園のデータベースではCalibanusはBeaucarneaの異名とされており、日本でも昔から使用されてきたCalibanus属は消滅したことになります。


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ダシリリオンの小さな実生苗を育てていますが、一体なんの仲間なのか以前から気になっていました。まあ、おそらくはリュウゼツランだのトックリランだのに近いのだろうとは感じていました。そこで、論文を調べてみたところ幾つか出てきたのですか、割と新しい論文がありましたので本日はそれをご紹介したいと思います。なぜ、新しい方が良いかというと、過去の知見を踏まえて試験されているということ以外にも理由があります。遺伝子を解析する分子生物学は新しい科学ですから、近年急激に進歩しています。90年代後半や2000年代前半くらいの論文は、精度が悪く信頼性が高くありません。というわけで、Ran Meng, Li-Ying Luo, Ji-Yuan Zhang, Dai-Gui Zhang, Ze-Long Nie & Ying Mengの2021年の論文、『The Deep Evolutionary Relationships of the Morphologically Heterogeneous Nolinoideae (Asparagaceae) Revealed by Transcriptome Data』をご紹介します。名前を見るに中国の研究者でしょうか? もしそうならば、今まで読んだ多肉植物の論文の中では、はじめてですね。なんだかんだで、多肉植物の論文は多肉植物先進国のヨーロッパとアメリカ、多肉植物の原産国であるメキシコや南アフリカあたりがほとんどのような気がします。

さて、現在の分類体系でキジカクシ科Asparagaceaeスズラン亜科Nolinoideaeに所属する植物は、形態学的に非常に不均一なグループで、かつては様々な科に分けられていました。あまりにも異なる見た目と、遺伝子解析の難しさから中々正しく理解されてきませんでした。この論文では調べた種類は少ないものの、逆に2126個もの遺伝子を調べることにより精度と解像度を上げることに成功しています。
このスズラン亜科の分類はかなり複雑な経緯をたどってきたようです。スズラン亜科は以前はRuscaceae sensu lato(広義)またはConvallariaceae sensu lato(広義)として知られていました。スズラン亜科は伝統的にEriospermaceae、Polygonateae、Ophiopogoneae、Convallarieae、Ruscaceae sensu stricto(狭義)、Dracaenaceae及びNolinaceaeとして知られる7つの異種系統で構成される複雑なグループでした。遺伝子解析の結果を以外に示します。

スズラン亜科の分子系統

                                    ┏Polygonatum
                                ┏┫      sibiricum
                                ┃┗Polygonatum
                            ┏┫       cyrtonema
                            ┃┗━Polygonatum
                        ┏┫        zanlanscianense
                        ┃┗━━Disporopsis
                    ┏┫               aspera
                    ┃┗━━━Maianthemum
                ┏┫                 japonicum
                ┃┃┏━━━Aspidistra
                ┃┗┫              fenghuangensis
                ┃    ┗━━━Tupistra chinensis
            ┏┫
            ┃┃┏━━━━Theropogon
            ┃┗┫                     pallidus
            ┃    ┗━━━Liriope platyphylla
        ┏┫
        ┃┃┏━━━Beaucarnea recurvata
        ┃┗┫
        ┃    ┗━━Dasylirion longissimum
    ┏┫
    ┃┗━━━━━━━Ruscus aculeatus
┏┫
┃┃┏━━━━━━Dracaena angustifolia
┃┗┫
┫    ┗━━━━━━━Sansevieria trifasciata

┗━Eriospermum lancifolium

遺伝子解析の結果から、6グループに分けられました。Eriospermumは比較のための外群です。
①Polygonateae
Polygonatum、Disporopsis、Mainthemumは近縁なグループです。Polygonatumとはいわゆるアマドコロ属で、ナルコユリが有名です。Mainthemumはマイヅルソウ属です。
Polygonataeは単系統でよくまとまった分類群ですが、Mainthemumはやや距離があるようです。

②Convallarieae
AspidistraとTupistraは姉妹群です。Aspidistraとはハラン属のことです。代表的なのはConvallaria、つまりはスズラン属です。
120430_173621
ドイツスズラン Convallaria majalis var. majalis

③Theropogon + Liriope
次にTheropogonとLiriopeは姉妹群です。Theropogonは東アジアに分布するスズラン様の草本です。Liriopeはいわゆるヤブラン属です。
Ophiopogoneae(ジャノヒゲ類)はConvallarieaeに含まれていましたが、実際の系統関係は不明でした。この論文ではTheropogonとLiriopeがOphiopogoneaeを代表しています。そして、遺伝子解析の結果では、OphiopogoneaeはPolygonateae + Convallarieaeに近縁であることが示されました。
DSC_2107
ヤブラン Liriope muscari

DSC_2106
ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus

④nolinoides
BeaucarneaとDasylirionは姉妹群です。Beaucarneaはトックリラン属のことです。
nolinoidesは伝統的にはユリ科でしたが、その後ドラセナ科やトックリラン科とされました。Nolina、Dracaena、Yuccaは繊維状の葉と木質化する幹からリュウゼツラン科Agavaceaeとする考え方もあります。その花や果実や種子の特徴からは、Convallarieaeと近縁とされていました。しかし、遺伝子解析の計算方法の違いにより、Convallarieae-Dracaenaceae-Ruscaceae、あるいはAspidistreae-Convallarieaeに近縁とする2つの結果が得られています。この論文では、nolinoidesはruscoidsやdracaenoidsのような木質化するグループより、草本のConvallarieaeに近縁としています。
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DSCPDC_0000_BURST20220503111716618
トックリラン Beaucarnea recurvata

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ダシリリオン

⑤ruscoids
Ruscusとはナギイカダ属のことです。
ruscoidsは伝統的にキジカクシ科と近縁と考えられてきましたが、遺伝子解析ではConvallarieaeと近縁でした。

⑥dracaenoids
DracaneaとSansevieriaは姉妹群です。実はSansevieriaはDracaenaに含まれるとする考え方が主流のようで、Sansevieria属は学術的には存在しません。どうも、2017~2018年頃に変更されたみたいです。論文が見つかれば記事にしたいですね。
dracaenoidsはユリ科、リュウゼツラン科、ドラセナ科、ナギイカダ科、スズラン科などに含まれたこともあり、系統関係はあやふやでした。しかし、特徴からはnolinoidesと近縁である可能性がありましたが、実際にはruscoidsと近縁でした。
09-02-10_06-32
ボウチトセラン Dracaena angolensis
                         (=Sansevieria cylindrica)


この論文の主眼は遺伝子解析の精度を高めることです。というのも、通常は2つの遺伝子を解析して系統関係を類推することが多いのですが、どうもスズラン亜科の過去の研究ではあまり高い精度を達成できていないみたいです。一応関係性は示されますが、精度が低いと信頼性も低いということになります。ですから、この論文では信頼性を高めることに成功したということです。しかし、dracaenoids、ruscoids、nolinoidesという木質化する各グループが、近縁であっても一つのグループにまとまっていないことがわかりました。さらなる詳細な研究が待たれます。

以上が論文の簡単な要約です。
この論文によりわかったこと、分類体系の確実性を増したことは確かでしょう。しかし、それは欠けたピースを少し埋めただけとも言えます。むしろこれからです。将来的な研究結果を楽しみにしています。


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ダシリリオンはそもそもあまり流通していませんが、最近では実生苗がまれに販売されることもあります。そんな中、もっとも流通しているDasylirion longissimumは、じつはDasylirion quadrangulatumであるという記事を最近書きました。そもそもが海外での混乱がそのまま日本に波及した形なのですが、国内でそのことが話題に挙がることはないみたいですので、気にはなっています。

私は先ずDasylirion longissimumという名札が付いたDasylirion quadrangulatumを入手した後、正しい名札が付いたD. quadrangulatumを入手したので、結局はD. quadrangulatumを2株入手しただけでした。残念。
しかし、基本的にD. longissimum(本当はD. quadrangulatum)以外のダシリリオンはまあ見ないわけです。五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、明らかD. quadrangulatumではないダシリリオンを見つけたので購入しました。それが、ダシリリオン・ベルランディエリです。


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葉は青白くトゲがあります。葉の断面が平たいことに注意。

ベルランディエリは葉の長さは120cmになり、葉はワックス状で青くトゲは不規則につきます。花茎は3.5メートルになるそうです。マイナス14℃に耐えるそうですから、ある程度のサイズになれば完全戸外栽培も可能でしょう。ベルランディエリは非常に美しい葉色を持ちますから、これからの生長が楽しみです。

ベルランディエリの学名は1879年に命名されたDasylirion berlandieri S.Watsonです。S.Watsonはアメリカの植物学者であるSereno Watsonです。種小名はフランスの植物学者であるJean-Louis Berlandierに対する献名です。Berlandierは1943年にメキシコのeast of MonterreyではじめてDasylirion berlandieriを発見しました。

ダシリリオンについては以下の記事もご参考までに。

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人は見たいものしか見ないとは、なるほど上手いことを言ったものです。私は割とアクティブに園芸店を巡ってきましたが、今まであまりダシリリオンを目にしたことはありませんでした。しかしある時、園芸店の入荷情報をチェックしていたら、ダシリリオンが入荷したというお知らせがありました。調べて見ると中々面白い植物のようです。早速、購入しましたが、それから1年と立たずにダシリリオンをさらに2種類見かけて購入するに至りました。ここでふと思ったわけです。今まで行った園芸店で、本当にダシリリオンは売っていなかったのだろうかと。興味のある多肉植物はそれなりに詳しく目がいきますが、知らない多肉植物は目に入っても素通りしていただけなのではないかと。一度、ダシリリオンに興味を持ち入手していますから、私のダシリリオンに対する感度が上がっただけかもしれません。見ているがその実は見えていなかった、そんな気がして少し気恥ずかしくなります。

DSC_1691
Dasylirion longissimum名義のダシリリオン。
シマムラ園芸で購入。

DSC_1695
Dasylirion quadrangulatum名義のダシリリオン。
五反田TOCのビッグバザールで購入。Ruchiaさんの販売している実生苗。
ともに、古い葉が少し枯れ混んだので、まだ小さな内は乾かし過ぎないようにした方がよさそうです。
まだ何者かわからない苗ですが、太い幹を持つコーデックスになります。それまでに何十年かかるかわかりませんが…


ここで気になる情報に気付きました。 国内の販売サイトでM's plantsというアガヴェなどの多肉専門店の解説では、Dasylirion longissimumの名前で販売されているダシリリオンは、実はDasylirion quadrangulatumであるというのです。具体的にはD. longissimumはトゲがあり、D. quadrangulatumにはトゲがないということです。その専門店も種子に記載された名前で販売していますが、こういう風に言われていますよという情報を教えてくれているわけです。
私の所有するダシリリオンも、間違いなのでしょうか?
しかし、国内ではまったく情報がありません。海外ではどうなのでしょう。

海外の情報を探ってみましたが、日本国内とは異なりこの問題は話題となっているようです。海外でも混乱しているみたいです。というよりも、海外で混乱状態なので、海外の種子を購入している日本国内でも同じ混乱が連鎖的に起きているといった方が正しいようです。
海外の趣味家のフォーラムでは、世界中の多肉植物ファンが盛んにやり取りをしています。そのフォーラムの中で、D. quadrangulatumの葉にはトゲがなく断面は四角形で、D. longissimumの葉にはトゲがあり断面は四角形ではないとしています。また、D. longissimumは灰色がかるという表現をされていますが、これは青白いということでしょう。

そもそも、D. quadrangulatumとD. longissimumはどうやら混同されてきたようです。海外の"LLIFLE"というサイトでは、2001年にColin WalkerがD. longissimumとD. quadrangulatumは同種であるとしたとあります。しかし、別種であるという意見もあり、論争があったようです。今でもD. longissimumとD. quadrangulatumは同種であると書いてあるサイトがあるのは、このことが原因なのでしょう。ただし、それぞれの分布域は重ならないともあります。


また、アリゾナ大学のHPを見ていたら、D. quadrangulatumはトゲがないため、植栽に向くとありました。やはり、ここでも国内の情報とは逆になっています。

"World Flora Online"というサイトでは、それぞれの詳細情報が記述されていました。
まずは、D. quadrangulatumですが、葉の基部はスプーン型で耳状のフラップがあり、葉は80~90cmくらいでトゲはないが、葉縁は細かい鋸歯状とのことです。断面は基部では菱形で先端では正方形です。葉に光沢はないそうです。
対するD. longissimumは、葉の基部はスプーン型ですが耳状のフラップはありません。葉は80~140cmくらいで、葉の基部にはトゲがあり、やはり葉縁には弱い鋸歯があります。葉は時々光沢があるそうです。


情報を色々探っていくと、どうやらその元となった論文があるみたいです。1998年に発表されたのは、アメリカの植物学者であるDavid J BoglerによるThree new species of Dasylirion (Nolinaceae) from Mexico and a clarification of the D. longissimum complex』という論文です。混乱するD. quadrangulatumとD. longissimumを再定義しているらしいのですが、有料の学術雑誌なので内容はまったくわかりません。非常に残念です。しかし、2017年に発表された『La Familia Nolinaceae en el. estado de Nuevo Leon』という論文では、1998年の論文も資料の1つとして参照としながら、D. quadrangulatumとD. longissimumのややこしい事情も解説しています。しかし、この論文はスペイン語で書かれているため、まったく読めませんでした。仕方ないので機械翻訳しましたが、専門用語が多いせいか翻訳がうまく行かなくて割とめちゃくちゃな文章でしたので、解読には大変難儀しました。

ここからは論文の内容を抜粋して紹介します。ただし、論文では色々省略して論旨だけを淡々と書いているせいかわかりにくいので、私が情報を少し足しています。
フランスの植物学者であるCharles Antoine Lemaileは1856年にD. longissimumを命名しましたが、地域情報や標本なしの栽培植物に基づいているらしく、命名に問題があるようです。さらに、アメリカの植物学者であるSereno Watsonは、1879年にD. quadrangulatumを記述しており、これは不思議なことにLemaileのD. longissimumの記述に良く適合します。
イングランドの植物学者であるSir Joseph Dalton Hookerは、1900年にD. longissimumとD. quadrangulatumの両種を認識しており、詳細な説明とイラストを残しています。また、アメリカの植物学者であるWilliam Treleaseは、1911年にD. longissimum Nomen Confusem、つまりは「混同名」を宣言しました。
しかし、アメリカの植物学者であるDavid J Boglerは1994年にD. longissimumは2種類あることを資料と個体群からレビューしました。そこで、D. quadrangulatumを種として復元し、混同名をD. longissimumに宣言して、Querétaro、Hidalgo、San Luis Potosiの個体群を新種のD. treleaseiと命名しました。しかし、1998年にBoglerはD. treleaseiを破棄し、D. longissimumを復元しました。

というわけで、D. longissimumとD. quadrangulatumは別種であり、それぞれの学名は有効なものとなっております。

さて、それでは私の入手個体はどうなのでしょうか? D. longissimum名義でも実際に販売され普及しているのはD. quadrangulatumであるというのは、ヨーロッパ、アメリカ、日本においても実情は同じです。シマムラ園芸で購入したD. longissimumはD. quadrangulatumの可能性が高そうです。輸入種子がそうなっている以上は、そのままの名前で売るならそうなるでしょう。
では、RuchiaさんのD. quadrangulatumは、逆にD. longissimumなのでしょうか? しかし、外見的特徴ではD. longissimumらしさはありません。まだ幼弱な小苗ですから、特徴が出ていない可能性もありますが、現状ではD. quadrangulatumの名札通りな気もします。しかし、そうなるとRuchiaさんはD. quadrangulatumをちゃんと認識出来ていることになります。すごいですね。

しかし、なんと言ってもまだ苗ですから、まだまだこれからです。5年10年と育てて、じっくり観察していきたいと思います。


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