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カテゴリ: 多肉植物の論文

当ブログでは多肉植物の分類についてもぼちぼち記事にしていますが、近年では遺伝子解析を用いた分子系統による分類が当たり前となっています。サボテンもまた盛んに遺伝子解析がなされており、サボテンの属分類はだいぶ様変わりしました。さて、マミラリアだのパロディアだのと分類の記事を書いていましたが、私の好きなギムノカリキウムについては記事を書いていないことに気が付きました。論文自体は数年前に読んでいて、たまに引っ張り出しては参考にしていましたが、今更ですが記事にしておこうという次第です。
さて、本日ご紹介するのはPablo H. Demaioらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of Gymnocalycium (Cactaceae): Assessment of alternative infrageneric systems, a new subgenus, and trends in the evolution of the genus』です。割りと有名な論文ですから、あるいは皆さんご存知かも知れませんが、お暇であればしばしお付き合い下さい。

ギムノカリキウム属とは?
Gymnocalycium Pfeiff. ex Mittlerは、球状の生長パターンと、トゲがない花托を持つ昼行性の花を特徴とする、約50種からなる属です。パタゴニア南部を除くボリビア南部、パラグアイ南西部及び北部、ブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチンに分布します。
Gymnocalyciumは栽培しやすく開花も早いため、サボテン愛好家の間でも人気のある属の1つです。分類群の新しい記述は個人の収集家や栽培家により行われてきたため、小さな形態的な差異を過度に強調し新しい分類群として記述する傾向があります。そのため、異名が増加しており、安定した属内の分類システムが必要となりました。

ギムノカリキウム属の分類の歴史
ギムノカリキウム属の属内分類の最初の試みはFrič(1935)によるもので、種子の形質にもとづいて5つのグループからなるシステムを発表しました。しかし、このシステムは非公式で有効に記載されませんでした。

Frič, 1935
1, Ovatiseminae
2, Macroseminae
3, Trichomoseminae
4, Microseminae
5, Muscoseminae

Schütz(1968)はFričの基準に従い、5つの亜属からなる有効なシステムを発表しました。

Schütz, 1968
1, Gymnocalycium
  =Ovatiseminae Schütz, nom illeg.
2, Macroseminae Schütz
3, Trichomoseminae Schütz
4, Microseminae Schütz
5, Muscoseminae Schütz

Buxbaum(1968)は、ギムノカリキウムの列(series)、亜列(subseries)を公表しました。また、他にもBackeberg(1941, 1958)やIto(1950, 1957)、Pazout(1964)などは、茎と花の形態に基づき属内分類群を提案しましたが、無効であると判断されています。

Schütz(1968)の分類体系は、Till & Hesse(1985)及びMetzing(1992)により修正され、Till(2001)及びTill et al.(2008)が果実と花、種子の特徴に基づく新しい体系が発表されるまで、ほぼ30年間に渡り研究者や趣味家に広く受け入れられてきました。Tillの分類体系はSchützとは大きく異なりますが、どちらが自然な分類を反映しているのか判断する決定的な証拠はありませんでした。

分子系統解析
ギムノカリキウム属内分類における論争は、形態に基づく方法では分類体系の解決が困難であることを示しています。しかし、形態学的な情報と遺伝子情報を組み合わせて利用したなら、安定した分類が出来ます。

  ┏━Gymnocalycium
  ┃
  ┣━Trichomosemineum
 ┏┫
┏┫┗━Macrosemineum
┃┃
┃┗━━Scabrosemineum

┃┏━━Muscosemineum
┣┫
┃┗━━Pirisemineum

┗━━━Microsemineum

Microsemineum亜属
G. saglionis

Microsemineumはギムノカリキウムの中でもっとも早く分岐した分類群であることが示唆されます。特徴は茎は大型で、果実は色鮮やかかつジューシーで甘いため、鳥などの脊椎動物を引き寄せます。果実の特徴はPirisemineum亜属と似ています。ジューシーな果実はギムノカリキウム属を含むBCT系統群の多くの属、TrichocereusやStetsonia、Echinopsisと共通します。
G. saglionisはアルゼンチン北西部の山脈に自生します。ギムノカリキウム属の分子系統の基底にあるため、ギムノカリキウムの祖先はアルゼンチン北西部とボリビア南部の山岳地帯が起源であると考えられます。

Pirisemineum亜属+Muscosemineum亜属
Pirisemineum亜属
G. pflanzii ssp. pflanzii, G. pflanzii ssp. zegarrae, G. chacoense
Muscosemineum亜属
G. marsoneri ssp. marsoneri, G. marsoneri ssp. megatae, G. eurypleurum, G. schickendantzii ssp. schickendantzii, G. mihanovichii, G. anisitsii ssp. damsii

Pirisemineum亜属とMuscosemineum亜属は、分布域がアルゼンチン中央部まで広がるG. schickendantziiを除き、ほとんどの種はアルゼンチン北部、ボリビア南部、パラグアイ西部のグラン・チャコ森林に生息します。Pirisemineum亜属はジューシーな果実とムール貝のような形の種子を特徴としています。果実はMicrosemineum亜属と似ていますが、主にアリにより散布されます。

Scabrosemineum亜属
G. hossei, G. glaucum ssp. glaucum, G. glaucum ssp. ferrarii, G. castellasonii ssp. castellasonii, G. castellasonii ssp. ferocius, G. oenanthemum, G. bayrianum, G. monvillei, G. ritterianum, G. mostii ssp. valnicekianum, G. mostii ssp. mostii, G. horridispinum ssp. horridispinum, G. horridispinum ssp. achirasense, G. rhodanthemum, G. spegazzinii

このグループは広義(sensu lato)のMicrosemineum亜属で、Schütz(1968)より分類されました。Tillら(2008)はMicrosemineum亜属のSection Saglionia(節)に、Microsemineum亜節を分類しました。しかし、分子系統では分離されたグループを作っています。そのため、著者らはGymnocalycium subgen. Scabrosemineum Demaio, Barfusr, R. Kiesling and Chiapella, subgen. nov.を新亜属として記載しました。このグループのほとんどが、アルゼンチン中西部の山岳地帯の温帯亜湿潤気候に分布します。自生地は背の高い草むらが優勢で、岩の露頭が点在します。

Macrosemineum亜属
G. denudatum, G. horstii ssp. horstii, G. paraguayense, G. hyptiacanthum ssp. netrelianum, G. hyptiacanthum ssp. uruguayense, G. mesopotamicum, G. reductum ssp. leeanum

従来、Macrosemineum亜属(Macrosemineum亜節)に分類されていた種は分子系統では単系統とは見なされません。ブラジル南部に分布するG. horstiiとG. denudatumは、Trichomosemineum亜属やGymnocalycium亜属と姉妹関係にあり、まとまりがあります。解析方法によっては、G. hypticanthumはGymnocalycium亜属とされる場合もあります。Kiesling(1980)は、G. mesopotamicumの種子がTrichomosemineum亜属とG. hypticanthumの中間形態を示すことを指摘しました。分子系統でもG. mesopotamicumの位置はTrichomosemineum亜属と密接な関係があることを裏付けています。
Macrosemineum亜属のほとんどの種は形態的に類似しており、地理的に分布は限定されています。分布は、ウルグアイ、南中央パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン東部の、岩の露頭などに自生します。

Trichomosemineum亜属
G. bodenbenderianum, G. quehlianum

Trichomosemineum亜属は、アルゼンチン西部から中央部の山岳地帯と乾燥した谷間に生息しまTrichomosemineum亜属の命名はSchütz(1968)によるものですが、Buxbaum(1968)はSeries Quehliana(列)、Tillら(2008)はMicrosemineum亜属、Section Saglionia(節)、Subsection Pilesperma(亜節)に分類しました。分子系統はこれらのグループを支持しており、形態学的な過去の研究内容とも一致します。ただし、Tillら(2008)のPilespermaの位置は一致していません。

Gymnocalycium亜属
G. bruchii, G. calochlorum, G. baldianum var. baldianum, G. schroederianum, G. robustum, G. gibbosum ssp. gibbosum, G. fischeri, G. kieslingii, stringlianum, G. uebelmannianum, G. andreae, G. reductum ssp. reductum, G. erinaceum, G. amerhauseri

Gymnocalycium亜属は、ほとんどが中央アルゼンチンの山岳地帯に自生し、他にはパタゴニア北部、アルゼンチン東部、ウルグアイ西部に少数の種が分断されて自生します。すべての種は、Schütz(1968)、Till(2001)、Tillら(2008)のGymnocalycium亜属に相当します。ただし、Tillら(2008)のさらなる分類は現在のところ支持されません。過去10年間に発見されたギムノカリキウム属の新種はほとんどがこのグループに属し、形態学的に非常に類似しています。分子系統でもほとんどの配列が同じであり、顕著な均質性を示しました。この解像度の低さは既存のDNA配列データによる解決は難しい可能性があります。これは、急速に新しい時代に種が放散したことを反映しているのかも知れません。

ギムノカリキウムの形態学
Nyffeler(2005)が説明したBCT clade(※1)の祖先分類群は、おそらくbarrel cacti(Ferocactus, Echinocactus)でした。BCT cladeのGymnocalycium属の祖先は、おそらく樽状(Barrel)の生長形態か球状で単独の生長形態であることが示唆されます。G. saglionisはこの属唯一の樽状生長形態を持つ種であり、おそらくはGymnocalycium属の祖先に似ています。他の種はサイズが徐々に縮小し、球状となる傾向を示します。円柱状あるいは樽状のサボテンの分布は低温により厳しく制限されていますが、球状のサボテンは寒さに強いようです。Gymnocalycium属のサイズが小さくなったのは、温暖な気候からより涼しい条件下へ適応した結果かも知れません。
かぶら状の根は水とデンプンの貯蔵に関係しています。かぶら状の根は高度の脱水に耐える能力があり、干ばつ時の水分損失を防ぎます。特にTrichomosemineum亜属とGymnocalycium亜属は、独特な多肉質の根を発達させる傾向があります。
基底系統であるMicrosemineum亜属、Pirisemineum亜属、Muscosemineum亜属は種子が小さく、果実はジューシーで色鮮やかです。この特徴は、endozoochory(※2)と関連があります。Macrosemineum亜属、Trichomosemineum亜属、Gymnocalycium亜属は乾燥した緑色の果実を持ち、これはアリ散布(myrmecochory)と関連があります。また、これらのグループは種子が大きいものもありますが、このような種子は散布されにくいものの発芽など活発な苗木を生み出す可能性があります。

※1 ) BCT caldeは、主に柱サボテンからなる巨大なグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。

※2 ) endozoochoryとは、果実が動物に食べられて体内で種子が運搬されること。被食散布される。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
注意事項としては、各亜属に書かれた学名は、論文が書かれた2011年当時のものであるため現在とは異なる部分があるかもしれません。また、書かれた学名は研究に用いた種を指しているだけで、すべての種を調査しているわけではありません。
さて、一応はギムノカリキウム属内の分類が科学的になされたわけですが、論文がやや古いためより精度の高い解析が望まれます。今回は割愛しましたが、論文では種ごとの関係まで解析されています。ただし、特にGymnocalycium亜属などは種ごとの関係性はあまり上手く解析出来ていないようです。おそらく、分散しながら急速に進化したため、既存の方法では上手くいかないのでしょう。さらなる研究が待たれます。


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アロエと言えば、美容関係や食品関係で使われるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)が有名ですが、知られていないだけで実はアロエは数百種類もあると言われています。サイズも数cmから十数mと、かなりの幅があります。しかし近年、アロエ属から樹木状のアロエ(Aloidendron)や叢生するアロエ(Aloiampelos)、葉が二列性のアロエ(Kumara)、三列性のアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア様のアロエ(Aristaloe)が分離されました。本日は樹木状のアロエ、つまりはアロイデンドロンの話です。
アロイデンドロンは南アフリカに育つディコトムム(Aloidendron dichotomum)が有名です。Aloe dichotomaといった方が、馴染みがあるかも知れません。アロイデンドロン以外にも大型になるアロエは他にもありますが、基本的に単幹で枝分かれせず、頭でっかちな外見となります。しかし、アロイデンドロンは枝の分岐を繰り返して樹冠を作り、樹木状の外見に育ちます。
さて、本日はアロイデンドロンの中でもAloidendron pillansiiについて書かれたColin C. Walkerの2024年の論文、『Aloidendron pillansii (L. Guthrie) Klopper & Gideon F. Sm. - a review of a Critically Endangered southern African tree aloe』を見てみましょう。

ピランシーの発見
Aloe pillansiiは、1928年にGuthrieにより記載されましたが、図解はありませんでした。ピランシーという名前は、南アフリカの著名な植物学者であるNeville Pillansにちなんで命名されました。A. pillansiiはPillansが1924年と1926年に行われたRichtersveld遠征で発見された種の1つです。Guthrieはその分布を、「南アフリカ、Little Namaqualand、Anisfonteinの南西、頂上が平らな丘の西斜面に豊富」としています。GuthrieはA. dichotomaと比較し、枝分かれがまばらで葉が大きく広がり、花序が散在し、雌しべがあまり突き出していないとしました。
Pillansは1935年に以下のように記述しています。「A. pillansiiは1926年10月にNamaqualandのRichtersveldのAnisfonteinの丘で発見されました。当時、ほとんどの植物はカナリア色の円錐花序をつけており、sugarbirdが訪れていました。この種はAnisfonteinからオレンジ川のSendlings Drift付近まで北に広がる狭い地域にのみ生息します。A. dichotoma(Kokerboom)とは、主幹に比べて枝が太く直立し、はるかに幅が広い葉で簡単に区別出来ます。高さ30フィートの植物は珍しくなく、最近少なくとも60フィート(≒18m)の植物の目撃情報があります。」

アロイデンドロンの誕生
2002年にZonneveldは 核DNA量の類似を根拠に、ディコトマの亜種、つまりA. dichotoma subsp. pillansiiとしました。
2013年にDuraらはアロエ属の遺伝子解析による分子系統を行い、A. tongaensis以外の樹木状アロエの系統関係が特定されました。アロエの系統樹でアロイデンドロンは基底群で、アロエの仲間では古い系統であり、A. pillansiiを含む樹木アロエは他のアロエとは異なる系統群を形成しました。この根拠に基づき、2013年にGraceらは6種類の樹木アロエをAloidendron Klopper & Gideon F. Smに分離しました。
2015年にVan Jaasveld & Juddによるアロイデンドロンに関する著作により、Kumara plicatilis(Aloe plicatilis)とともに扱われましたが、これはアロイデンドロンと必ずしも近縁ではありませんでした。

ピランシーの生息域
ピランシーの生息域はPillansが説明したように狭いのですが、ナミビア南部にも分布することが分かりました。3つの亜集団があり、1つはナミビアのRosh Pinah周辺、2つ目はRichtersveldの中央、3つ目はRichtersveld南部のEksteenfontein周辺です。ピランシーの分布に影響を与えている要因は、冬に霧の形で降水があることです。
2022年にSwartらは、ピランシーの生息地と生態についての特徴を要約しています。1〜345株の植物が単独で、あるいは局所的に豊富な小さなグループで発生します。通常はドロマイト、頁岩、砂岩、花崗岩などの様々な地層の露出した岩の多い地形で見つかります。地形は山の斜面から平地まで様々ですが、植物の大部分は東または西に面した斜面に生えます。降水量は年間50〜100mmですが、21世紀の干ばつにより一部の地域では雨が降りません。花は春(10月)に開花し、主にsugarbirdにより受粉しますが、他の鳥や蜂も関与している可能性があります。夏に果実は熟し種子が散布されます。だだし、干ばつの時期には開花しません。ピランシーは夏の気温が50℃を超えることもある厳しい環境に生息するため、耐熱性が顕著です。

ピランシーの減少
MidgleyはCornell's Kopにおけるピランシーの減少について考察しました。Reynoldsが1950年に出版した「The Aloes of South Africa」に記載された1950年以前に撮影された写真と、1997年当時の写真を比較しました。結果、「古い個体の減少と、新しい個体の欠如」が認められました。
2003年にLoots & Mannheimerはナミビアのピランシーの状況を調査しました。5つの集団で1500を超える植物を数えました。これらのうち、最大の集団は近くの採鉱が原因となり状態が悪いことが分かりました。また、すべての集団で新規植物の加入率が低いことが分かりました。
さらなるデータと評価は、Bolusら(2004)やDuncanら(2005, 2006)、Powell(2005)、Swart & Hoffman(2013)により提供されました。2022年にSwartらは、野生のA. pillansiiの状況に関する包括的な評価を行いました。
1, 3つの亜個体群があり、それぞれ気候と生息地の特性が異なります。
2, 野生の個体群の総数は5935個体以上、9000個体未満であることが確認されています。
3, ナミビア南部の北部亜集団の個体群は老化しています。密度が最も高く、個体群全体の46%が生息しています。苗木はなく、幼木もほとんどありません。
4, 中央の亜集団の個体群は約16%を占め、主にRichtersveld国境保護区内及び郊外に分布しています。最も密度が低い亜集団です。
5, 南部の亜集団の個体群は、約38%を占めています。

レッドリストの評価
上記のデータに基づき、Swartら(2022)はIUCNレッドリストで、A. pillansiiを絶滅危惧IA類(CR)としました。Swartらは以下のような脅威を特定しました。
1, 園芸取り引きのための違法な採取の結果として、中央亜集団の減少が報告されています。
2, 北部及び中央亜集団で、採掘活動により生息地の喪失と劣化が進行中です。砂の投棄や砂の採掘による二次的影響は、今後50年間に増加が予想されます。
3, 21世紀の極端な干ばつにより、個体数は減少しています。人為的な気候変動の影響は、現在及び将来的な主たる脅威であると考えられます。
4, 利用可能な餌不足により、ヒヒによる草食が大幅に増加し、特に南部の亜集団で深刻で、2015年から2020年の高い死亡率につながりました。

ワシントン条約(CITES)による規定では、ピランシーは付属書Iに掲載されています。ちなみに、付属書Iに掲載された南アフリカのアロエはわずか4種類です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では発見の経緯から分類や命名の変遷、自生地、生態など、多くの過去の研究による知見が上手くまとめられています。大変、勉強になりますね。しかし、どうやらピランシーは大変な希少種のようで、そもそもの分布が狭く数も少ない上、開発や環境変動によりダメージを受け、新しい個体が育っていないようです。新規加入がなければジリ貧ですから、ピランシーの将来は厳しいと言わざる得ないでしょう。何もできないことがもどかしくはありますが、簡単な解決策もないのが現状です。ピランシーが野生絶滅する前に、有効な保護がなされることを願っております。


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先日、オザキフラワーパークにてCycas debaoensisを購入しました。以前から、BBでラフレシアリサーチさんがたまに持ってきていたのは知っていたのですが、他に欲しい多肉植物が沢山あったので購入は見送ってきました。しかし、10月にヨネヤマプランテイションのイベントでC. debaoensisが沢山並んでいるのを見て、どうにも気になるものの、悩んだ挙げ句、結局は購入しませんでした。しかししかし、ついにオザキフラワーパークで我慢出来ませんでした。というわけで、早速情報を集めてみましたが、あまり有用そうな情報は見当たりませんでした。そこで、C. debaoensisの論文を漁って見ることにしました。
ということで、本日はLUO Wenhuaらの2014年の論文、『Ex situ conservation of Cycas debaoensis: a rare and endangered plant』をご紹介します。何とこの論文は中国語で書かれたものです。というか、C. debaoensisが中国原産のためか、中国語の論文がほとんどでした。漢字だと『珍稀瀕危植物徳保蘇鉄迁地保护研究』ですかね? 本文は簡体字ですがよくわからないので、これで合ってるかは不明です。ちなみに、中国語はわからないので、機械翻訳ですから内容に関してはやや不安ではあります。

中国のソテツ
中国にはCycas属のソテツが38種類あります。いずれも、国家第一級重点保護野生植物に指定されています。C. debaoensisは広西チワン族自治区南部に自生する中国の固有種で、二分性で羽状に分かれた美しい葉を持ち高い装飾性があります。深刻な人為的介入や密猟により、その野生個体の数は大幅に減少しており、保護のための効果的な対策が喫緊となっています。

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Cycas debaoensis

C. debaoensisの故郷
C. debaoensisの原産地は、広西チワン族自治区徳宝県から約30km離れた福平郷福平村近くの石灰岩の斜面です。分布地域は南亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温19.5℃、最低気温マイナス2.6℃、最高気温37.0℃です。年間降水量は1461mmで、夏と秋に集中し、冬と春は乾季となります。土壌は石灰岩が風化して出来た土壌で、中性から弱アルカリ性を示します。森林は近隣の村人が放牧や薪の伐採に利用しており、植生は二次的な矮性低木が優勢で、C. debaoensisは植生の中では優勢な種の1つです。植生は乾生性の低木と草本で、樹種の多様性は小さいようです。
生息域外保護区として、桂林市の南の郊外、燕山鎮にある桂林植物園内にもあります。中部亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は19.2℃、最も寒い1月の平均気温は8.4℃、最も暑い7月の平均気温は28.4℃でした。また、最高気温は40℃になり、冬には霜が降りることもあります。土壌はpH4.7〜5.6の酸性の赤土からなります。

最適な種子の保管方法
2010年に広西チワン族自治区徳宝県福平郷上平屯の野生ソテツ個体群から、200個を超える選別した種子を収集しました。収集した種子は外皮を剥ぎ、5% 過マンガン酸カリウム溶液で消毒し、水洗いしました。
C. debaoensisの種子は成熟しても胚は完全に発達しておらず後熟し、約6ヶ月休眠します。種子は①乾燥(常温)、②冷蔵(5℃)、③湿った砂の3条件で6ヶ月以上保管し、70%遮光下で温室内の苗床に播種しました。
①種子を常温保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約50%に低下しました。
②種子を冷蔵保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約60%に低下しました。
③種子を湿った砂に保管した場合、保管期間が150日以内ならば発芽率に差は見られず、発芽率は約80%でした。

C. debaoensisの生長
C. debaoensisの生長は遅く、現地調査では何十年も育った植物でも、茎は高さ50cmに満たないことが分かっています。栽培された8年生植物の高さの平均は15.2cm、直径の平均は17.2cmで、高さの年平均生長は1.9cmです。草丈と直径の生長のピークは樹齢4年目から6年目で、年平均生長は高さ3.0cm、幅3.8cmでした。その後の生長は鈍化します。
樹齢8年生のC. debaoensisは、一株あたりの葉の数は平均8枚で、葉の長さは平均302.6cmでした。小葉の長さは平均26.3cmで、枚数の平均は740枚でした。
桂林植物園のC. debaoensisでは、新芽が5〜6月、まれに7月に出ます。新芽の展開には約40日かかります。9月に花が咲き始め、11月中旬から下旬に果実は成熟します。また、原産地と比べると、開花期は1〜2ヶ月遅れ、種子の成熟期は1ヶ月遅れます。これは、場所による積算温度の違いが関係している可能性があります。

C. debaoensisの適応性
C. debaoensisは湿潤な環境に適していますが、乾燥耐性が高く乾燥した石灰岩の環境でもよく育ちます。土壌適応力が高く酸性土壌の桂林植物園でも正常に育ちます。桂林植物園においても開花・結実し、生育や葉色も原産地より優れています。C. debaoensisは耐寒性もあり、マイナス3℃〜マイナス1℃の低温下でも目立った凍害は発生しませんでした。

C. debaoensisの受粉
C. debaoensisの雄花の成熟期は雌花より5〜10日早いため、人工受粉を利用した方が結実量を増やすことが出来ます。雄花が成熟したら花粉を袋に集め、4℃前後の冷蔵庫で保管します。雌花が成熟したら、花粉を取り出し室温に10分以上放置した後に、ブラシで人工受粉します。人工受粉では1株の植物から生産される種子は、250個を超えることもあり、野生の植物より40%以上も多くなります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年、にわかに流通し始めたCycas debaoensisという蘇鉄の原産地の情報や育て方、増やし方などについての論文でした。原産地では希少な植物のようで、中国では国家により保護されているようです。希少種であるからには、原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが、ここでは一歩進んで人工受粉や種子の保管についても言及しています。原産地の保護と繁殖方法の確立、さらには地域の人々に対し保護について説明し理解してもらい、場合によっては協力していただければ最良です。まあ、ここまで行くにはかなりの時間と手間がかかりますから、簡単にはいかないでしょう。しかし、この論文のような研究は種の保護に対する端緒としてとても重要なものです。
「原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが」などと調子の良いことを言いましたが、残念ながら植物は動物と比較すると人気がなく、予算すらまともに下りず、絶滅危惧種であっても調査すらされていない場合が多いのが現状です。この植物を軽視する傾向は、植物の自生地の破壊や絶滅に拍車をかけていますが、改善される見込みはありません。莫大な予算が下りている大型哺乳類であっても、生息する環境に植物がなければ存続出来ないことは明らかです。種単体ではなく、生態や環境を含んだ総合的な保護が必要とされているのではないでしょうか。


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植物の名前は混乱しているものが多く、1つの植物に沢山の異名があることは珍しいことではありません。古い時代に記載された種では、そもそもそれが何を指していたのかがよくわからないケースもあります。これは、国際命名規約が整備される前のもので必要な情報が足りていなかったり、古いため記述された標本が戦争などで失われてしまい現存しないなど、種の判別のために必要な情報が不足しているためです。多肉植物の記載された時の情報を知りたいため、古い時代の記述を調べることがありますが、図譜はなく標本の指定もなく、ラテン語による2〜3行の簡素な特徴の説明があるだけだったりします。このように、古い時代の記述は混乱しており、それが何を指しているのかは植物学者が丹念に調査しないとわからないものばかりです。ですから、古い記述が実はある植物を指していたことが判明し、より古いというか先に命名された名前に修正されることも珍しくありません。
ということで、本日は命名に関する内容ということで、Detlev Metzing & Roberto Kieslingの2007年の論文、『Winterocereus (Cactaceae) is the corred name for Hildewintera』をご紹介します。

Hildewinteraの歴史
Borzicactus族は球状から円柱状になるサボテンのグループで、ボリビア、ペルー、アルゼンチンに分布し、主に鳥媒花です。その中で、二重花被という特徴を持つものが、1962年にWinteria aureispina F. Ritterとして記載されました。しかし、これは1784年に記載されたWintera Murrayと同名(parahomonymy)、1878年に記載されたWinteria Saccardoと同名(Homonymy)であるため、属名を変更する必要がありました。
1966年にWinterocereus Backebergと、それより3〜4ヶ月早くHildewintera F. ritterに変更する提案がなされました。(先取権により)Hildewinteraとなり、その妥当性については疑問視されたことはありませんでした。

Hildewinteraは非合法
2003年にHildewinteraの新種が記載された論文が出されました。その論文に対するコメントとして、W. Greuter(私信)はING(Index Nominum Genericorum)において、Hildewinteraの項目に「タイプ種に対する不完全な参照」が記されていることを気が付かせてくれました。
著者らはRitter(1966)による学名への参照のページ番号が省略されているため、「完全かつ直接的」ではなかったことを見逃していました。これは属名にも当てはまり、よってHildewinteraは有効に公表されなかった(not validly published)ことが判明しました。その結果、Backeberg(1966)が公表したWinteriocereusは、規約の要件をすべてみたし、もっとも古い利用可能な名前です。Rowley(1968)による索引への記載により、Hildewinteraは有効に公表されましたが、そこでもWinteriocereus Backeberg 1966が異名として記載されているため、Hildewinteraは非合法名です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
特に疑問もなく一般的に使用されてきたHildewinteraが実は有効に公表されていない非合法名であり、これを有効に公表されているWinterocereusとしましょうという提案でした。しかし、現在はWinterocereusはCleistocactus Lem.に吸収されてしまいました。著者らもCleistocactusに含める意見については承知しており、別属とすべきであることを改めて主張していますが、結局のところCleistocactusに統廃合されつしまったわけで、この論文の提案を無駄ではないかと思われるかも知れません。とはいえ、この論文は分類学的に意味があり、特定の分類群の命名に対する正しい知識を与えてくれます。ですから、データベース上でもこの論文の知見は活用されており、将来の分類学に対する有効な資料となっています。例えば、キュー王立植物園のデータベースでCleistocactusを見てみましょう。

Cleistocactus Lem., 1861.
Heterotypic Synonyms
Winteria F. Ritter, 1962, nom illeg.
Winterocereus Backeb., 1966.
Hildewintera F. Ritter ex G. D. Rowley, nom illeg.

以上のように、論文の知見が活用されています。WinteriaやHildewinteraが非合法名であることや、HildewinteraがRowleyにより再び記載されたことなどです。また、将来的にCleistocactusの再編が行われる可能性もあるため、その時にこの論文は重大な意味を持つことになるかも知れません。


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アガヴェは専門外なのですが、イベントでオマケでいただいた苗を2つ育てています。そんな縁もあり、たまにアガヴェについても記事にしています。そんなこんなで本日はアガヴェについての記事です。何でも、ネイティブアメリカンがかつてアガヴェを作物として栽培していたらしいのです。詳しく見てみましょう。本日ご紹介するのは、Wendy C. Hodsonらの2018年の論文、『Hohokam Lost Crop Found: A New Agave (Agavaceae) Species Only Known from Largescale pre-Columbian Agricultural Field in Southern Arizona』です。

アガヴェ栽培と考古学
考古学者は南アリゾナの先コロンブス期の居住者であるHohokam族が、大規模なアガヴェ栽培を行っていたことを提唱してきました。数千エーカーに及ぶ岩石や岩の配列や、アガヴェの収穫と加工に用いられた特徴的な石器、アガヴェを調理するための大きな焙煎穴などの証拠があります。1500年代半ばにスペイン人がアリゾナに到着したころには、1350年頃から始まる深刻な人口減少により、Hohokamの文化や農地利用のパターンは消滅していました。

Hohokam族と農業
Hohokam族は、現在のアリゾナ州中部と南部のソノラ砂漠で農業を営んでいました。Hohokamの社会は古代の狩猟採集集団から発展し、少なくとも4000年前からトウモロコシを栽培していました。Hohokam族は紀元後300年から1450年にかけて、Gila川、Salt川、San Pedro川、Santa Cruz川、Verde川とその支流に沿って、洗練された集約的な農業システムを開発しました。
数百マイルに及ぶ大規模で複雑な灌漑用水路と溝が、氾濫原と隣接する段丘で栽培される作物に水を供給しました。段丘ではトウモロコシ、tepary beans(Phaseolus acutifolius var. acutifolius)、ヒョウタン、アマランサス、綿花を栽培していました。西暦800年までにSan Pedro川などの川沿いに儀式用の舞踏場や土塁などの公共施設を備えた大規模なHohokamの竪穴式住居の村落が広がっていました。Salt川とGila川の流域では、Hohokamの人口は灌漑用水路の延長上に広がり、川の取水口から何マイルも離れていることも珍しくありませんでした。考古学者の推定によれば、西暦1300年までにHohokamの人口は約4万人に達しており、先史時代のアメリカ南西部ではもっとも人口が集中していた地域の1つでした。

先史時代の遺構
考古学者は、アガヴェはいくつかの河川沿いの畑の乾燥した地域で栽培されていたと推測しています。しかし、先史時代の灌漑氾濫原が沖積土に埋もれたため、アガヴェが栽培されていた証拠は山岳地帯のbajada(※1)とterrace(※2)でした見られません。bajadaとterraceは遠目には自然地形に見えますが、実際には重ねた岩や整列した岩により構築されており、乾燥農業用に修正され管理された人工的な景観を示します。

(※1)bajadaは、山の正面に沿い合体した一連の扇状地から構築される。

(※2)terraceは階段状の地形のこと。

アガヴェの痕跡
平板状の石ナイフや鋭角なパルプ加工用かんな、石鎚などの特殊な石器、焙煎穴の存在は、栽培されていた作物を特定するための重要な手がかりです。これらの道具は、先史時代を通じてアガヴェの食品あるいは飲料、繊維加工のために使用されていたからです。アリゾナ州中央部と南部のHohokam遺跡からは炭化したアガヴェが発見されており、葉の基部や繊維、葉柄の断片が含まれています。植物学的に見ると2種類以上のアガヴェが栽培されていたことが示唆されます。残念ながらアガヴェの残骸は断片的すぎて種の特定はできません。研究者は、Agave murpheyiやアリゾナ州のアガヴェ、またはメキシコ原産の栽培品種のいずれかが栽培されたと考えています。さらに、これらの先史時代の遺構や道具は、A. chrysanthaやA. deserti subsp. simplex、A. palmeri、A. parryiなどのアリゾナ州南東部及び中央部に分布する野生アガヴェの自生地より低い標高で発見されています。

先コロンブス期の栽培アガヴェ
1980年代初頭、Hodgson氏ら植物学者たちはアリゾナ州とメキシコのソノラ州北部で、先史時代の栽培アガヴェを突き止めるために現地調査を開始しました。アリゾナ州中部では先史時代の畑に残存するアガヴェの個体群を発見し、A. murpheyiとA. delamateriが先コロンブス期の栽培種であることを示しました。両種は種子をほとんど生成せず、根茎を介して容易に無性生殖するなど、栽培植物に共通する特徴を持っています。形態学的変異はほとんど見られず、自然環境ではないterraceなどの考古学的な環境に関連して生育しています。2007年にParkerらによる研究では、両種ともに野生のアガヴェより遺伝的多様性が低いことがわかりました。これは、作物に期待される特徴です。

未知の栽培アガヴェ
Clark & Lyons(2012)は、San Pedro川の考古学研究書において、完新世の氾濫原を見下ろすアリゾナ州南部にあるHohokamの乾性耕作地の段丘に、生きたアガヴェが存在することを明らかにしました。農地のいくつかは60ヘクタールを超えていました。畑に生えるアガヴェの写真は注目を集めましたが、種の同定はできませんでした。HodgsonとSalywonは現地を訪れ、そのアガヴェが未記載種であることを突き止めました。

新種アガヴェの情報
Agave sanpedroensis W. C. Hodgson & A. M. Salywon sp. nov.
タイプ: アメリカ合衆国、アリゾナ州Pima郡、標高914m、ソノラ砂漠上部の低木地帯、多数の先コロンブス期のbajadaとterrace。

自生地はTortolita山脈近くの1か所で、12以下の個体群が知られています。人工的な先コロンブス期の農地でのみ発生し、自然環境には見られません。分布域には、Calliandra eriophylla(緋合歓)、Carnegiea gigantea(弁慶柱、Saguaro)、Cylindropuntia fulgida(cholla)、Ferocactus wislizeni、Fouquieria splendens、Opuntia engelmannii、Opuntia phaeacantha、Parkinsonia microphylla、Prosopis velutina(ベルベットメスキート)、Eragrostis lehmannianaが自生します。
花色はA. phillipsianaおよびA. palmeriに類似しています。A. sanpedroensisのS字型の曲がりくねった細い花序と大きく厚みのある花は、A. phillipsianaに似ています。これは側枝のある頑丈な花序があるA. palmeriとは異なります。A. sanpedroensisの厚みのある基部と芽の形の刻印がある灰緑色の葉を持ち、目立って厚みがなく芽の形の刻印がなく、より濃い緑色のA. phillipsianaおよびA. palmeriとは異なります。
高さ及び幅は50〜70cmで、ロゼットは開き、根茎は自由に分離しクローンを形成する。葉は線状披針形から線状倒披針形で、長さ44〜49cmで縁は波打ちます。縁歯は強く反り返り、時々直立または上向きになります。花は7月下旬から8月で、果実は発育初期に枯れるらしく、知られていません。
著者らは開花した花を2個体観察しましたが、果実はありませんでした。不稔のように見えますが、根茎により容易に無性生殖するため、放棄されてから何世紀にも渡り畑で生き残ってきました。A. sanpedroensisが不稔である理由はわかりません。おそらく自家和合性がなく、野生個体の分布域外で育ったため、環境が着果に合わないであるとか、人為的選択の結果として遺伝的不適合があるのかも知れません。または、無性生殖のために意図的に選抜された可能性もあります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
驚くべきことに、先史時代に栽培されていたと思しきアガヴェの新種について述べられています。おそらく不稔で種子が出来ず、シュートなどの栄養繁殖で増える特徴はいかにも栽培植物です。 気になるのはAgave sanpedroensisの出自です。栽培された元の種は何だったのでしょうか? 近隣のアガヴェの交配種でしょうか? あるいはメキシコなど他所からの移入も考えられます。単に原種は絶滅して栽培植物だけ生き残っただけかもしれません。詳細は遺伝子解析が行われていないため、わかりませんが著者らも気にしているようですから、何れ解明されるでしょう。 さて、最後にアガヴェ栽培を行う意味について考えてみましょう。アガヴェは育つのに時間がかかりますから、日常的な生活を支える栽培作物とは言えないでしょう。ある程度の生活的余剰があることが見て取れます。そして、その文化が失われたのは、Hohokamの衰退ともに失われていったのでしょう。著者らは他地域からの侵入など、外圧を示唆しています。考古学とリンクした面白い研究ですが、この研究を受けて考古学者たちがどのような考えを持つのか気になりますね。


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先日、ここ10年あまりのアガヴェの新種について、記事を書きました。その中で、今年出た論文でアガヴェから新属を分離するという話がありました。これは、一体どういうことなのでしょうか? 詳細が知りたいため、当該論文を読んでみることにしました。
ということで、本日はJ. Anthonio Vazquez-Garciaらの2024年の論文、『NEW GENERA AND NEW COMBINATIONS IN AGAVACEAE (ASPARAGALES)』をご紹介しましょう。

アガヴェの歴史
Agave属(Agave L.、リュウゼツラン属)の分類学上の位置づけと、リュウゼツラン科(Agavaceae)は歴史的に変化してきました。Bentham & Hooker(1883)およびEngler & Prantl(1988)の分類体系では、主に子房下位の特徴からアガヴェは他のユリ科植物と共にアマリリス亜綱(Amaryllidae)に分類されました。Hutchinson(1934)と長く使われてきたCronquist(1981)の分類体系では、子房の位置に関係なく多かれ少なかれ繊維状の葉を持つリュウゼツラン科に含まれてていました。しかし、YuccaとAgaveだけが独自の核型を共有していることが分かり、Agaveのような核型を持つギボウシ(Hosta)をリュウゼツラン科とする解釈や、それをただの収斂進化と見る研究者もいました。Dahlgrenら(1985)の分類体系では、化学的特徴を追加しリュウゼツラン科をYucca族(Yucceae)とAgave族(Agaveae)により減らしましたが、これは後の遺伝子解析により裏付けられています。遺伝子解析による国際的な植物分類の研究の成果であるAPGシステムでは、APG II(2003)まではリュウゼツラン科は認識されていましたが、以降はキジカクシ科(Asparagaceae)という大きな科に含まれることになりました(APG III, 2009、APG IV, 2016)。同様にAgave属はManfredaやPolianthes、Prochnyanthesなど、伝統的に形態が異なる属を含むように拡大しました(Thiede et al., 2020)。

Choritepalae節の誕生
Gentry(1982)はAgave bracteosaとAgave ellemeetianaが、トゲのない葉と明確な花冠節を持つ円盤状の花托という際立った特徴を共有していることを指摘しました。2015年にはChoritepalae節として公式化されました。Gentryはその特徴からこのグループをAgave属から分離する提案を行いました。最近の遺伝子解析では、約618万年前にA. bracteosaが広義のAgaveから早期に分離し、約425万年前にA. ellemeetianaがJuncineae節から分離したと推定されます。Juncineae節はかつてStrictaグループと呼ばれていました。

新属の分離
以前の著者らは、Agave属を単系統群として、Manfreda、Polianthes、ProchnyanthesをAgave属に含めることを提案しました。しかし、この分類では形態が異常に多様になっています。遺伝的(Jamez-Barron et.al. 2020)、形態学的、推定分岐年代の証拠から、Agave属のより正確な範囲を指定し、Echinoagave、Paraagave、Paleoagaveの3つの新属を分離します。

Agave sensu lato(広義のアガヴェ)の系統解析

          ┏━━Agave sensu stricto 
      ┏┫   (狭義のアガヴェ)
      ┃┃┏━Polianthes
      ┃┗┫ (incl. Prochnyanthes)
  ┏┫    ┗━Manfreda
  ┃┃
  ┃┃┏━━Echinoagave
  ┃┗┫
  ┫    ┗━━Paraagave
  ┃
  ┗━━━━Paleoagave


新属をAgave属から分離する目的は、より自然なあるいは単系統群に基づき、正確な分類を提供することです。また、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesからなる系統群は狭義のAgave属(Agave sensu stricto)とは分けられます。分類群の特徴とサンプル数を増やすことで、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesの間の関係をより明確に出来る可能性があります。

240622104424196
Agave striata=Echinoagave striata
筑波実験植物園(2024年7月)


Agaveの分類
①Echinoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線があり先端はカールせずにトゲがある。花は交互に均等な融合花被片を持ち筒状。
1. E. albopilosa (A. albopilosa)
2. E. cryptica (A. cryptica)
3. E. cremnophila (A. cremnophila)
4. E. dasylirioides (A. dasylirioides)
5. E. gracielae (A. gracielae)
6. E. kavandivi (A. kavandivi)
7. E. lexii (A. lexii)
8. E. petrophila (A. petrophila)
9. E. rzedowskiana (A. rzedowskiana)
10. E. strata (A. strata)
11. E. stricta (A. stricta)
12. E. tenuifolia (A. tenuifolia)

②Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線がなく先端はカールしトゲはない。花は交互に不均等な自由花被片を持つ。
1. P. bracteosa (A. bracteosa)

③Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲはなく、先端は硬い。
1. P. ellemeetiana (A. ellemeetiana) 

④Agave sensu stricto
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲがある。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
趣旨としてはアガヴェから、3つの属を分離する提案です。割りとはっきりした結果ですので、認められまる可能性は高いように思われます。個人的にはこの提案には驚きました。というのも、分離されるのがManfredaやPolianthesといったアガヴェらしからぬグループではなかったからです。Manfredaなどはアガヴェとはかなり外見上の特徴は異なりますから、アガヴェ属への統廃合には違和感を覚える人も多いでしょう。しかし、狭義のAgaveとManfreda、Polianthesは非常に近縁で、新属Echinoagaveなどと遺伝的にかなり距離があるようです。要するに、EchinoagaveやParaagave、Paleoagaveの方がManfredaなどよりも分離の要件を満たしているということです。ただ、今年発表されたばかりの論文ですから、まだ3つの新属は認められていません。今後、審査されていくでしょう。来年、「The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2025. 」において新属として記載されるか、私も注視していきたいと思います。

ManfredaとPolianthes
次に気になるのはManfredaやPolianthesの今後でしょう。著者らのグループは、かつて古い時代の遺伝子解析結果を元に、ManfredaやPolianthesがアガヴェから分離出来ないことを指摘し、結果としてManfredaやPolianthesはアガヴェ属に統廃合されていきました。しかし、新しい遺伝子解析結果では、
ManfredaやPolianthesは明確に狭義のアガヴェから分離されているように見えます。ただ、サンプル数が少ないためManfredaやPolianthesとされる種のすべてで明瞭に分離が可能であるかは、まだわかりません。著者らもその点を明らかにする必要性を指摘しています。思うこととして、古い時代の遺伝子解析は精度が甘いので、大まかな傾向としては正しくても、細かい部分の信頼性には疑問がある場合もあることは薄々感じていました。といったわけで、ManfredaやPolianthesはアガヴェから分離される可能性もありますが、現時点でははっきりとしたことは言えないように思われます。今後の研究に期待しましょう。


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最近Yahooニュースで、イスラエルの洞窟からおよそ1000年前のコミフォラの種子が発見され、播種したところ発芽したという記事があがりました。日本でも古代蓮の例がありますが、古い時代の埋蔵種子の復活はなかなかロマンがあります。コミフォラ自体は日本人にはあまり馴染みがありませんが、近年では多肉植物ブームにより非常に高価ではありますがチラホラ見かけるようになりました。コミフォラは日本では観葉植物の域を出ませんが、海外では意味合いが異なります。何せ聖書に出てくる没薬とは、コミフォラやボスウェリアの樹脂のことだからです。

しかし、記事を読んでみても、どうも今ひとつ頭に内容が入ってきませんでした。例えば、「学者による種レベルの解析に必要な繁殖物質がつくられていないからだ」とか、何やら不自然な文章でよく意味がわかりません。これはおそらく、植物の分類や種の同定は花が基準になっていますから、未開花だと種の同定が難しいですよという意味でしょうか。わかりにくいので、元の論文をよんでみることにしました。ということで、Sarah Sallonらの2024年の論文、『Characterization and analysis of a Commiphora species germinated from an ancient seed suggests a possible connection to species mentioned in the Bible』をご紹介しましょう。

コミフォラとは
Commiphoraは乳香(Frankincense)や没薬(Myrrh)が豊富なブルセラ科の仲間で、主にアフリカ、マダガスカル、アラビア半島に分布します。この仲間の生産する芳香性樹脂やオレオレジンのために、経済的および民族植物学の観点から評価されてきました。オレオレジンが民族医療に用いられている25種のコミフォラのうち、C. gileadensisは「ユダヤバルサム(Judean Balsam)」または「ユダヤの香油(Balm of Gilead)」の候補であると考えられてきました。ユダヤバルサムは死海流域のオアシスで少なくとも1000年以上に渡り独占的に栽培されてきました。古代ユダヤのもっとも重要な輸出品であり、その芳香性と経済的な意味合いで高く評価されてきました。しかし、ユダヤバルサムは9世紀までに姿を消し、その正体について論争が続いています。候補であるC. gileadensisは記述された形態との違いや、南レバント(イスラエル、パレスチナ、ヨルダン)にコミフォラが発見された遺跡がなく、今日においても在来のコミフォラは存在しないことから、異論の余地があります。

241014212135466~2
Balsamodendrum opobalsamum
 =Commiphora gileadensis
「Medical plants.」(1880年)より。


古代の種子の復活
1986年から1987年にかけて実施されたユダヤ砂漠北部の洞窟の考古学調査の際に、正体不明の種子が発見されました。種子の放射性炭素年代では、西暦993年から1202年と推定されます。種子は大学に保管され、2010年に温室で播種されました。謎の種子は播種より約5週間後に発芽しました。
「Sheba」というあだ名をもらった苗は、コミフォラ属に典型的な形態学的特徴を示しました。現在は実生より14年経ち、高さは約3mになりました。樹皮は淡い緑がかった褐色で薄くシート状に剥がれ、その下は濃い緑色です。また、12月から4月までの涼しい時期には落葉し、樹皮を傷つけると透明のオレオレジンが少量出ます。しかし、葉や樹皮、樹脂からは、香りはほとんどありませんでした。「Sheba」はまだ開花していないため、現時点では種を判別する材料がありません。


遺伝子解析
「Sheba」と他のコミフォラ属109種との分子系統解析を行いました。「Sheba」は種が多く広範囲に分布するSpinescens cladeに含まれる、南アフリカ原産のコミフォラであるC. angolensis、C. neglecta、C. tenuipetiolataの姉妹種であることが判明しました。Spinescens cladeにはトゲのあるタイプと、商業的にオレオレジンが採取されるコミフォラのほとんどを含みます。
しかし、約200種知られるコミフォラのうち109種しか解析していないため、既存種と一致するものがあるかわかりません。そのため、ラテン語の学名を決定することができません。

仮説1 Judean Balsam
著者らは「Sheba」は古代に栽培されていた「ユダヤバルサム」あるいは「ユダヤの香油」の候補なのではないかと考えました。ユダヤバルサムのオレオレジンは古代ユダヤのもっとも貴重な商品であり、ローマ帝国に輸出されたオレオレジンは香水やお香、白内障の治療、防腐剤、解毒剤、儀式に用いられました。
死海地域のオアシスで栽培されていたユダヤバルサムは、古代ユダヤ特有のものとされています。しかし、その原産地であるとは考えられておりません。StrabonやJosephus Flaviusなどの古代の評論家は、その起源をエチオピア、エリトリア、南アラビアの一部を含む、古代Saba王国としています。古代Saba王国は香木やスパイス貿易への関与が知られています。南アラビアとイスラエル王国の交易は年代的にこの時代まで遡ることができます。ユダヤバルサムがユダヤに導入されたのは、紀元前10世紀、または紀元前8世紀のアッシリアによるイスラエル征服後であることが示唆されます。しかし、その経済的重要性にもかかわらず、ユダヤバルサムは「真のバルサム」(true Balsam)と共に9世紀までには姿を消しています。エジプトのヘリオポリスにあるAyn Shams (Matariyya)の庭園にのみ残り、ユダヤ原産とされる不稔株(sterile strain)が16世紀まで栽培されていたと言われています。

Judean Balsamとは?
ユダヤバルサムの同定は長い間、議論の的となってきました。18世紀以来、C. gileadensisがユダヤバルサムのもっとも有力な候補と考えられてきました。C. gileadensisは一般的に「ギレアドの香油」として知られ、アラビア半島と北東熱帯アフリカ原産の低木です。古代からユダヤバルサムの画像はほぼ残っていませんが、6世紀に描かれたモザイク画では、3葉の低木状の茂みがユダヤバルサムのプランテーションを表していると考えられています。しかし、Balanites aegypticaを含むいくつかの樹脂を生産する樹木もユダヤバルサムの候補です。また、C. gileadensis以外にも芳香性樹脂を目的に栽培されるC. africana、C. schimperi、C. habessinica、C. wightiiも候補です。
「Sheba」の葉や樹脂の化学成分の分析ではコミフォラの主要な芳香成分は検出されず、燃やしても揮発性の芳香成分は検出されませんでした。よって、「Sheba」は商業的な利用はされておらず、ユダヤバルサムではないと考えられます。

仮説2 "tsuori"
「Sheba」の成分分析では、創傷治癒や抗炎症、抗菌、抗ウイルス、肝臓保護、抗腫瘍活性があるとされる化学成分が検出されており、「Sheba」がその芳香目的ではなく医療などに利用されていた可能性があります。聖書には樹脂の抽出物である「tsuori」が記載されており、治癒に関連する貴重な物質であると考えられています。ちなみに、「tsuori」には芳香性があるという記述はありません。
聖書の「tsuori」は、紀元前18〜16世紀(中期青銅時代)の聖書資料(創世記)と、紀元前7〜6世紀(鉄器時代II)の文献(エレミア書)で言及されており、長い間議論の的となってきました。「tsuori」をユダヤバルサムと同一視する意見もありますが、それを証明する証拠は不十分です。聖書に登場する「tsuori」はおそらくは地元に分布し、死海・ヨルダン地溝帯のGilead地域と関連付けられます。古代のGilead地域は山岳の豊かな森林で、その下には肥沃は谷なあり、歴史を通じて集中的に耕作されてきました。「Sheba」もまた死海・ヨルダン地溝帯の洞窟で発見されています。
薬効成分のうち、五環性トリテルペノイドはC. confusaとC. holziannaで検出されています。「Sheba」の葉や茎には、皮膚軟化作用、抗酸化作用、保湿作用、抗腫瘍作用などが確認されている多価不飽和脂肪酸であるスクアレンが高濃度(30%)に含まれています。「Sheba」の樹脂から検出された糖脂質化合物は他には報告がありません。


「Sheba」の謎
著者らは「Sheba」が聖書に記述された「tsuori」である可能性を指摘しました。さらに、著者らは何故「Sheba」がユダヤ砂漠の洞窟に埋もれていたのかを考察しています。
コミフォラの果実を鳥が食べたり、種子を小型のげっ歯類が埋めて備蓄することが分かっています。発見された種子が少ないことからも、動物により運ばれ埋蔵された可能性は否定できません。しかし、人為的に種子が洞窟に保管されていた可能性も依然として存在します。
西暦9世紀にこの地域からユダヤバルサムが姿を消してしばらく経った時期には、かなりの政治的、社会的動乱が起こりました。動乱は初期ファーティマ朝とセルジューク朝の争い、1099年の第1回十字軍の到来、12世紀初頭に建国されたエルサレム王国の領土拡大のための戦争を経て、1289年のエルサレム王国の崩壊まで続きました。地元住民と支配者との戦闘や経済的困難から、この時期のユダヤ砂漠のいくつかの洞窟を織物など地元の物品の安全な保管場所として利用していた考古学的な証拠があります。しかし、他の遺物がほとんどないことから、住居としては使用されていなかったことが示唆されます。
おそらく商業と関係があった「Sheba」の生き残りから採れた種子は、洞窟に隠すほど貴重だったのかも知れません。この遺跡からは、銅器時代(紀元前5千年紀)の人骨、紀元前1世紀から4世紀のナツメヤシの種子、ローマ時代の遺跡などが見つかっています。


再びのJudean Balsam
もし、外来種とされるユダヤバルサムがコミフォラ属であったならば、在来の「Sheba」などを台木として接ぎ木されていた可能性もあります。その場合、C. gileadensisとの違いや、時代ごとにユダヤバルサムの記述が変化する謎が説明できます。例えば、「ザクロに似た背の高い木」(紀元前4世紀、テオプラストス)、「小さな低木サイズの木」(1世紀、ストラボン)などです。これらの変化は、何世紀にもわたる栽培化によるC. gileadensisの栽培品種であると説明されてきましたが、接ぎ木による穂木の活力低下により矮性化が引き起こされた可能性があります。接ぎ木は台木による種子中絶(abortion)や種無し果実を引き起こす単為結果(parthenocarpy)と関連するため、ユダヤバルサム栽培に関連する発掘現場からコミフォラの種子が発見されない理由かも知れません。接ぎ木は、紀元前1800年頃に開発され、紀元前5世紀までにギリシャに定着し、ローマ時代には一般化しており、紀元前4世紀からその支配下にあったユダヤ農民には馴染みがあった可能性が高いと言えます。接ぎ木の利点として、死海地域のストレスの多い乾燥貧栄養状態への適応、土壌の病原菌、土壌のpH、塩分、干ばつ、洪水などのストレスへの耐性の向上が挙げられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
聖書が啓典宗教にとって重要な意味を持つことは、皆様よくご存知のことと思いますが、対するこだわりは思った以上です。例えば、聖書に登場する植物だけをまとめたマニアックな本ですら昔から沢山出版されているくらいです。古代の洞窟から発見された種子「Sheba」がコミフォラとわかった時は、研究者たちも色めき立ったことでしょう。「Sheba」は重要かつ謎多きユダヤバルサムの可能性すらありましたが、残念ながら「Sheba」からは芳香成分は検出されませんでした。著者らは治癒に関連する「tsuori」である可能性を考えています。しかし、直接的な証拠はなく、今後の発掘調査に期待する感じでしょうか。
さて、論文では遺伝子解析をしていますが、種の同定にまで至っておりません。現実的にすべての種との比較はなかなか難しいでしょう。この論文で外見的特徴による同定がなされていないのは、葉や茎だけでは種の判別が難しいからということのようです。植物の同定は花が重要なため、「Sheba」は未だに開花していないため同定できません。「Sheba」の開花のニュースを待つしかなさそうです。


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烏羽玉の仲間、つまりはペヨーテは幻覚作用を持つアルカロイドを含み、アメリカでは先住民が宗教的な意味合いで古くから利用してきました。南米ではTrichocereusの仲間をSan Pedroと呼び、やはりその幻覚作用を利用してきました。しかし、San Pedroはペヨーテほど一般的ではないせいか、あまり良い論文を見つけ出せずにいましたが、ようやく見つけ出せたので記事にします。
本日ご紹介するのは、Marlene Dobkinの1968年の論文、『Trichocereus pachanoi -A Mescaline Cactus Used in Folk Healing in Peru』です。ペルーの民間療法を調査した民族学的な研究です。言い訳になりますが、論文の出版が1968年と非常に古く、文字が掠れてよく読めない部分が多々ありましたので、内容的に不正確な訳があるやもしれないということはご了承いただきたいところです。

241005204719145~2
San Pedro (Trichocereus pachanoi) at Cataluco, near Huancabamba.
「Botanical Museum leaflets, Harvard University v.29」(1983年)


魔術的治療の調査
著者は1967年の夏に、リマの北約500マイルにある沿岸のメスティソの村で調査を行いました。Lambayeque県にある小さな農業コミュニティでは、100人以上の男性と3人の女性が、Trichocereus pachanoiの使用により病気の診断と治療に取り組んでいます。著者は病気に対する信念体系と、薬物と魔術について調査しました。

魔術的な治療
ペルーの沿岸農民は病気について、その経験則的な病因は認識しているものの、病気の根本原因を超自然的なものとしています。なので、経験的な治療は評価されていますが、魔術や祈祷が優先しあくまでも補助的なものです。病気の原因は聖地や墓、遺跡から発せられる蒸気や空気によると信じられます。
医療施設やバランスの取れた食事がなく、衛生設備も劣悪なため、病気からくる不安を抱えた住民は民間療法士(folk healer)であるmesaに相談します。夜通しの治療の儀式で、療法士と患者はSan Pedroで作った薬を飲みます。薬の作用がある間に療法士は病気の原因を占い、病人に投与する薬草を処方します。患者は村内だけではなく、友人や親戚から紹介され、遠く離れた地域からも訪れます。

処方
すべての療法士は治療の儀式でTrichocereus pachanoiを利用しますが、添加物や儀式にはバリエーションがあります。療法士の中には、下剤作用と不眠効果を高めるCondorillo(Lycopodium sp.、ヒカゲノカズラ類)、Misha(Datura arborea、キダチチョウセンアサガオ)、Hornamo(未確認)を加える場合もあります。ある療法士によると、Mishaは特に衰弱している患者に大量に与えると死に至る可能性があるということです。San Pedroとその添加物は吐気および激しい嘔吐を引き起こしますが、これは病人から不純物を取り除き浄化させるために重要であると考えられています。療法士は患者の体の大きさや病気の性質、罹患期間の長さに基づいて投薬量を決定します。一般的にサボテンは細かく切り刻まれ、水に入れてエッセンスだけが残るまで数時間煮られます。治癒の力は療法士が使用する物質に宿ると信じられています。

儀式
以下は著者がVallesecoで観察したある治療儀式の様子です。
バスで4時間ほど離れた町から3人の患者がやって来ました。儀式は夜間に行われ、人工的な照明は一切使われませんでした。
助手を務める治療師の弟子は、タバコと水の混合物を嗅ぎタバコとして吸い込みました。治療師はスペイン語で主の祈りに始まる、かなりメロディアスで心地良いな歌を歌い始めました。その後は、ラテン語とケチュア語の混じる自然な詩が続きました。歌にはガラガラの役目を果たすヒョウタンによるリズミカルな伴奏がありました。約1時間の歌唱の後に、San Pedroのエッセンスがカップに注がれ、その効果を高めるためにカップは石や剣、磨かれた棒により軽く叩かれました。
時折、患者と治療師、助手は外に出て催吐作用のある薬を吐き出しました。聖母マリアと神に祈りを捧げながら、さらに歌は続きました。時折、歌は治療師が病人に与えるであろう助けを朗読しました。患者は順番に立ち上がり、助手は装飾のある剣を患者の足の間に置き、患者に柄をつかませました。助手は嗅ぎタバコとして鼻にタバコをくわえ、剣を患者の体のあちこちに、十字を描くように擦り付けられました。
治療師は患者の症状とその問題について話し合い、完了すると歌を再開しました。やがて、助手が立ち上がり、空中に水を撒き、剣で空気を切り、「悪霊」(evil spirits)を追い払いました。別のタイミングで治療師は磨かれた石のいくつかを擦り合わせ、夜の暗闇の中に火花を飛ばしました。夜が明け、最後に一連の歌が歌われ儀式は終了しました。


その解釈
治療師たちはサボテンの効果が続くと、患者を苦しめている病気の性質についての洞察が得られると主張しています。石(herbal stone)を打つことで刺激されるビジョンは治療師たちの誇りであり、処方のための情報源です。治療師たちは病気を取り除く象徴として、病人にかける何らかの物体、あるいは小さなモルモット(cuye)を使用します。
治療師たちが用いる儀式の多くはローマ・カトリックの信仰と融合しており、実際の儀式にもカトリックの典礼がそのまま取り込まれています。カトリック教徒が多数を占めるこの土地では、馴染みのあるラテン語の祈りも唱えられます。祈りは様々なカトリックの聖人に向けられ、病人のためにとりなしてくれるように懇願されます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
普段あまり読まない内容ですから、割りと新鮮な気分で読めました。しかし、San Pedroは激しい嘔吐を伴うため、その使用は極めて宗教的な目的に限定せざる得ないようにも思われます。ペヨーテはドラッグとして法的に規制されている国もありますが、San Pedroはどうでしょうか? 抽出成分ならいざ知らず、サボテンを食べたり煮出した汁を飲んだけでは、ただただ苦しいだけでしょう。やはり、その豪華で美しい花を楽しむのが一番ですよね。


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トリコケレウスには幻覚作用があり、古来よりシャーマンが儀式に使用してきたと言われています。その成分や効果、あるいは使用について調べていたのですが、思わぬ論文を見つけました。それは、Cristian Corioらの2013年の論文、『An alkaloid fraction extracted from the cactus Trichocereus terscheckii affects fitness in the cactophilic fly Drosophila buzzatii (Diptera: Drosophilidae)』です。私はトリコケレウスは何故そのような成分を有しているのかは考えたことがありませんでしたが、論文では実験によりその謎を考察しています。

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Trichocereus terscheckii
『The Cactaceae II』(1920)より。

好サボテン性害虫
南米の好サボテン性のショウジョウバエであるDrosophila buzzatiiは、ウチワサボテンの腐った枝葉に好んで卵を産みますが、CereusやEchinopsisといった柱サボテンかにも見られます。しかし、柱サボテンで飼育したハエは、生存率の低下や、サイズの小型化、発育に時間がかかるなどの特徴が見られました。ウチワサボテンと異なり柱サボテンはアルカロイドや中鎖脂肪酸、ステロールジオール、トリテルペン配糖体などの毒性化合物を生成します。
ショウジョウバエはアルゼンチンのSan Juan州で、発酵させたバナナを用いて集められました。採取地ではD. buzzatiiが繁殖し、主にOpuntia sulphureaの腐った茎につきます。次いでT. terscheckiiにもつきます。

Trichocereus terscheckiiのアルカロイド
Trichocereus terscheckiiの化学的性質については、ほとんど知られていません。そこで、T. terscheckiiの抽出物の、好サボテン性ショウジョウバエのDrosophila buzzatiiへの影響を調べました。
T. terscheckiiはショウジョウバエの採取地で採取され、成分を分析しました。分析すると
T. terscheckiiの組織には、≒0.33mg/gのアルカロイドが含まれていました。これは、T. terscheckiiには0.25〜1.2%のアルカロイドが含まれている可能性を示した過去の研究内容と一致します。

アルカロイドの影響
T. terscheckiiの成分をアルカロイドと非アルカロイドに分離し、サボテンに含まれる濃度に調製し、D. buzzatiiに与えました。T. terscheckii由来成分を与えていないコントロールと比較すると、T. terscheckiiのアルカロイドを与えたショウジョウバエの生存率は低くなりました。また、T. terscheckiiの非アルカロイド成分を与えたショウジョウバエは、コントロールより生存率が高くなりました。また、幼虫の生存率には違いが見られず、生存率の差は蛹になって以降に生じているようです。
ショウジョウバエの羽を分析したところ、アルカロイドを与えたハエの多くは羽の展開に失敗したか、異常な羽脈パターンを示しました。また、アルカロイドを与えたハエは羽が小型化していました。


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Trichocereus terscheckiiの花と果実

最後に
ウチワサボテンの害虫であるDrosophila buzzatiiに対するTrichocereus terscheckiiの影響は、幼虫の成長遅延と生存率の低下でした。蛹化後に生存率が下がることから、羽化に失敗していることが考えられます。羽の小型化や異常からも、T. terscheckiiはD. buzzatiiの適した餌ではないのでしょう。ただし、ショウジョウバエの生存率が下がると言っても、それは蛹化後なのですからハエの幼虫が育ちきった後の話です。ハエは周囲のウチワサボテンからやって来ますから、生存率が低下しても食害が減少するようには思えません。ハエがT. terscheckiiを好まず産卵数が少ないなどの現象があるかなど、T. terscheckiiに有利な適応であると言えるのかを確認する必要があるかも知れません。

さて、これは蛇足なのですが、最後に少しだけ
T. terscheckiiについての話をします。他の柱サボテンと同様に、はじめに記載された時はCereusでした。1837年のことです。次いで、1920年にBritton & RoseによりTrichocereusとされました。おそらく一番使用されてきた名前でしょう。その後、TrichocereusやLobiviaをEchinopsisに統合すると言う動きがあり、T. terscheckiiも1974年にはEchinopsisとされました。しかし、近年の遺伝子解析技術により、巨大化したEchinopsis属は外見的な特徴が似ているだけで、近縁ではないものも含んだ雑多なグループであることが明らかとなったのです。肥大化したEchinopsisは徹底的に分解され、わずか20種類の小属におさまりました。T. terscheckiiも2012年にLeucosteleに分類されました。


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サボテンも生物である以上は繁殖する必要があり、そのために花を咲かせます。しかし、一口にサボテンと言ってもその繁殖戦略は様々で、花粉媒介者も昆虫だけではなくハチドリやコウモリにより受粉するサボテンもあります。当ブログでは度々サボテンの受粉様式=受粉生物学をご紹介してきました。参照とするのは、Bruno Henrique dos Santos Ferreiraらの2020年の論文、『Flowering and pollination ecology of Cleistocactus baumannii (Cactaceae) in the Brazilian Chaco: pollinator dependence and floral larceny』です。本日の主役はブラジルとその周囲に分布するヒモ状のサボテン、Cleistocactus baumanniiです。

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Cleistocactus baumannii(右)
筒状の花に注目。
『The Cactaceae II』(1920年)より。


C. baumanniiは鳥媒?
サボテンはブラジルのCaatingaやChaco植生の重要な要素の1つです。サボテン科の中でも、南米のサボテンでは様々な系統で鳥媒が想定されています。Cleistocactusは鳥による受粉に極端に特化した例として挙げられますが、それは花の特徴から推測されたものでした。Cleistocactusの受粉の評価は2016年(Gorostiague & Ortega-Baes, 2016)に行われ、C. baumanniiはハチドリによってのみ受粉し、C. smaradigoflorusはハチドリとミツバチにより受粉する可能性が示されました。
C. baumanniiはアルゼンチンやブラジルでは、アオムネヒメエメラルドハチドリ(Chlorostilbon lucidus)だけが花粉媒介者であると考えられています。しかし、花を訪問する昆虫による盗蜜の影響を調査する必要があります。


盗蜜
盗蜜者(nectar robbers)は、受粉せずに花の資源(花蜜や花粉)を集める花への訪問者ですが、花を噛んだりして傷付けるなどイリーガルな方法を用います。この花の損傷は、本来の花粉媒介者の行動や、花粉の飛散距離に影響を及ぼし、結実や種子数、種子の発芽率を低下させる可能性があります。しかし、盗蜜により蜜が減少するため、本来の花粉媒介者が訪れなければならない花の数が増えるため、他家受粉が促進される可能性もあります。
花への訪問者は次のように分類されます。
①潜在的な花粉媒介者(potential pollinators)
②非花粉媒介者(non-pollinators)
③泥棒(thieves)
④強盗(robbers)
泥棒は花粉や柱頭に触れることなく、花に損傷を与えない訪問者を指します。強盗は花に損傷を与える訪問者でこれを一次強盗、一次強盗のつけた傷口を利用する訪問者を二次強盗としました。


C. baumanniiの開花
C. baumanniiは円柱柱状のサボテンで、約1.5mの枝分かれした枝を持ちますが、他の植物に支えられている場合はより高くなることもあります。明るいオレンジがかった赤い花を沢山咲かせます。研究地域ではC. baumanniiは雨期に激しく開花します。花は両性花で、昼行性、匂いはありません。花は自家不稔で、自家不和合性です。花筒の長さは平均48.19mm、直径の平均は9.25mmでした。花は1年を通じて開花し続けます。
C. baumanniiの花の寿命は約48時間です。午前6時には花冠と葯は既に開いているものの、柱頭はまだ受容性はありません。つまり、開花開始時には花は機能的に雄蕊的です。午前8時から柱頭は一部が受容状態となります。午前10時頃には葯に花粉はほとんどなくなり、翌日まで雌性期です。翌日の午後には柱頭は萎れはじめ、翌日には完全に閉じます。
C. baumanniiの花は葯と柱頭が同じ高さで並び、雌雄離熟(herkogamy)ではありません。柱頭が受容前に花粉が放出されることから部分的雄性先熟で、自家受粉を減らし柱頭が詰まるのを防ぐと考えられます。

花への訪問者
ブラジルのChacoにおいて、C. baumanniiの花には5種のハチ、2種のアリ、1種のチョウ、1種のハチドリ(C. lucidus)が訪れました。この内、ハチドリと2種のハチは頻繁に訪花し、ほとんどの月で見られました。
観察すると、ハチドリは花の前でホバリングし、クチバシを花筒に入れて、クチバシ上部と頭が葯と柱頭に接触させて採蜜していました。採蜜は2秒間続き、1つの植物につき1つの花だけを採蜜しました。
3種のハチは花粉を集めるために葯に着地し、葯と柱頭に接触しましたが、基本的に花粉泥棒でした。さらに、Xylocopa splendulaというハチは、すべての訪花で花筒に口器を突き刺して盗蜜しました。このハチは同じ植物の別の花を訪れるため、主要な蜜泥棒です。X. splendulaの残した穴には、他の種類のハチやアリが訪れ、二次的な蜜泥棒となっていました。また、このような盗蜜を受けた花は、柱頭に付着した花粉が少ないことが分かりました。さらに、X. splendulaは自家受粉と隣花受粉(geitonogamy)を促進し柱頭を詰まらせ、盗蜜により有効な花粉媒介者であるハチドリの訪問を減らしている可能性があります。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
観察によりC. baumanniiの花の花粉媒介者はハチドリであることが確認されました。さらに、ハチは有効な花粉媒介者ではなく、それどころか花粉泥棒であり蜜泥棒でもあると判明しました。自家受粉や同じ植物個体の別の花からの受粉を受ける隣花受粉も、ハチにより引き起こされ、蜜の減少によりハチドリの訪花も減ってしまいいいことがありません。論文中で柱頭が詰まると言っているのは、柱頭に沢山の自家受粉、あるいは隣花受粉してしまうと、花粉から花粉管が花柱に伸びて行きますが自家受粉はしないので受粉はせず、後に他家受粉の花粉がついても花粉管を伸ばす隙間がないということでしょう。
まとめると、
本来ならば植物の受粉が期待さるハチが、受粉を阻害する要因になっている可能性があるのです。植物と昆虫との関係も非常に複雑です。今後もサボテンや多肉植物の受粉生物学を見つけ次第取り上げていくつもりです。


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アデニアは割りと古くから塊茎植物として有名ですが、一般的に知られているのはAdenia glaucaやAdenia globosaなど一部に限られます。多肉植物ブームの昨今でもあまり見かけないのは、どちらかと言えば希少だからというより、それほど人気があるわけではないからでしょう。しかし、最近アデニアも面白いと思うようになり、少し調べてみようということになりました。以前、開発に伴いアデニアを移植しようという試みを記事にしてご紹介したことがありますので、そちらもご参照下さい。


アデニアの履歴書
アデニアは主に旧世界の熱帯や亜熱帯に分布するトケイソウ科植物です。塊茎や塊根を持ち、蔓性が一般的なようです。2024年8月時点で認められているアデニア属は105種類です。
アデニア属の経歴を見てみましょう。アデニア属が初めて命名されたのは1775年のことで、スウェーデンの探検家、博物学者、東洋学者であるPeter Forsskålによるものです。つまり、Adenia Forssk.です。Forsskålはvon Linneの弟子であり、アラビア探検中にイエメンでマラリアに罹患し客死しました。31歳でした。Forsskålの原稿は植物についてはForsskålの死から12年にあたる1775年に「Flora Aegyptico-Arabica」として出版され、その中でAdeniaは新属として記載されました。ですから、アデニア属の成立はForsskålの死後になされたのです。ここからは、アデニア属の異名(Heterotypic synonyms)を見ていきましょう。
1797年 Modecca Lam.
1820年 Kolbia P.Beauv., nom. illeg.
1821年 Blepharanthes Sm.
1822年 Paschanthus Burch.
1846年 Microblepharis M.Roem.
              Erythrocarpus M.Roem.
1861年 Clemanthus Klotzsch
1867年 Machadoa Welw. ex Benth. & Hook.f.
              Ophiocaulon Hook.f., nom. illeg.
1876年 Keramanthus Hook.f. 
1888年 Jaeggia Schinz
1891年 Echinothamnus Engl. 

このような異名が生まれる原因は様々ですが、おおよそのパターンは決まっています。新種が見つかった時に既存の属としないで新属を作ったり、既に命名されている種に対して改めて命名してしまったり、既存の属から分離させて新属を創設したりです。このように後にまとめられることはよくあります。また、提唱したものの、まったく認められず使用されてこなかったものもあるかも知れません。

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Adenia glauca Schinz, 1892
ボツワナ、南アフリカ北部州の原産。


アデニア研究最前線
さて、近年のアデニア属に対するアカデミアの興味は、どのようなものがあるでしょうか? 調べてみると、アデニアはどうも有毒なようです。その成分については昔から調べられているのですが、近年では何かに使えないかと研究がなされています。毒性があるということは、何かしらの生理活性があるということです。用法用量を工夫すれば、薬となるかも知れません。
例えば、YESSO Bogui Florianらの2022年の論文では、Adenia lobataの抽出物がラットの貧血に有効であったとしています。この抽出物のLD50(半数致死量)は5000mg/kgなので、人体には無害だとしています。
次にPacome Kouadio N' Goらの2021年の論文では、Adenia lobataがコートジボワールで伝統的に様々な慢性疾患や頭痛・歯肉炎の痛みの緩和、分娩の促進のために広く利用されていることが示されています。アデニア抽出物の抗炎症作用が試験され、伝統医学に科学的な根拠を与えました。
ピンポイントな研究もあります。例えば、Shashikala R. Inamdarらの2021年の論文では、Adenia hondala由来の成分が大腸がんと結合し増殖を阻害し、がん細胞にアポトーシス(自死)を引き起こすとしています。

もちろん、毒性も研究されております。例えば、Massimo Bortolottiらの2021年の論文では、Adenia kirkiiよりキルキリンなる植物毒素を分離しています。キルキリンはタンパク質を合成するリボソームに不可逆的な損傷を与え細胞死を引き起こします。
実はこの手の毒性だの薬理作用だのといった論文は山のようにあり、割りと新しいものをチョイスしました。というか、あまりに沢山あるため調べるのを止めました。期待されているということなのでしょう。

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Adenia olaboensis Claverie, 1909
マダガスカル原産。2変種からなり、var. olaboensisとvar. parvaがあります。


150年ぶりの再発見
Neil R. Crouchらの2016年の論文によると、Adenia natalensisが南アフリカのKwaZulu-Natalの、Tugela川下流域で再発見されました。A. natalensisは1860年代初頭に採取され、William Tyrer Gerrardによる2つのコレクションのみが知られており、原産地は「Natal」あるいは「Natal, Zulu-land」とだけ記録されていたものです。実に150年ぶりの再発見でした。しかし、この論文では、知られていないA. natalensisのメス個体は発見されませんでした。
この発見には続報がありました。Neil R. Crouch & David G. A. Stylesの2021年の論文では、Mngeni川水系の3箇所でもA. natalensisを発見し、開花し結実したメス個体を初めて発見しました。これにより、A. natalensisの雌雄異株についての完全な説明が可能となりました。

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Adenia kirkii (Mast.) Engl., 1891
ケニア、タンザニアの原産。1871年にModecca kirkii Mast.と記載され、後にアデニアとされました。キルキリンという毒素を含みます。


新種の発見
アデニア属も新種が発見されています。新しいものだと、Veronicah Mutele Ngumbauの2017年の論文では、ケニアとタンザニアの海岸林に生息する新種のAdenia angulosaについて説明しています。A. gummiferaに似ているとしています。また、Marc Pingnalらの2013年の論文では、コモロ諸島のMayotte島から新種のAdenia barthelatiiを説明しました。マダガスカルのアデニアに近縁なようです。
 
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Adenia globosa Engl., 1891
エチオピア、ソマリア、ケニア、タンザニア原産。現在は3亜種、subsp. globosa、subsp. curvata、subsp. pseudoglobosaに分けられます。


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エピジェネティクスとは簡単に言うと、遺伝子を変えずにその発現を制御し、その制御が次世代に伝わりうる仕組みのことです。最近、そのエピジェネティクスに関心があり、岩波新書から出ている入門書を読み、書評の形で記事にしました。(以下、リンク参照)



しかし、エピジェネティクスのメカニズムはともかくとして、挙げられた実例の多くは動物でした。著者の関心も癌などの疾患との関連に注目しているようですが、植物のエピジェネティクスに関しては軽く触れる程度でした。そこで、改めて植物のエピジェネティクスを調べてみました。すると、近藤洋と竹能清俊の2008年の論文、『花成とエピジェネティクス』が見つかりました。簡単に内容を見ていきましょう。

バーナリゼーション
バーナリゼーション(春化)とは、種子や芽生えの時期の低温の有無が、後に成熟した個体の花成の有無に影響を与えることです。「冬の記憶」とも称されるこの現象は、典型的なエピジェネティクスです。これは、種子や芽生えの時に受けた低温が記憶され保持されることと考えることが出来ます。モデル植物であるシロイヌナズナでは、FLC遺伝子が花成を抑制する因子として働きます。その発現は長期間の低温により抑制され、低温が解除されても維持されます。このことは、FLCの発現がエピジェネティクスのメカニズムであるDNAのメチル化やヒストン修飾により制御されている可能性があります。

脱メチル化による花成
バーナリゼーションがエピジェネティクスの制御を受けているか、まずはDNAのメチル化の観点から検討されました。シロイヌナズナにメチル化を解除する脱メチル化剤を施すと、花成が誘導されることが明らかとなりました。この時、実際にFLC遺伝子の発現が低下していました。つまり、FLC遺伝子がDNAのメチル化により制御されていることが示唆されたのです。シロイヌナズナ以外のバーナリゼーションによる花成がおこる植物でも、脱メチル化剤により花成が誘導されるためある程度は普遍性があるようです。

光周的花成
多くの植物は誘導的光周期(短日、長日)により速やかに花成が誘導され、誘導された花成状態は誘導的光周期以外の環境に置かれると持続しません。そのため、光周的花成にエピジェネティクスによる制御が働くとは考えられていませんでした。しかし、絶対的短日植物であるシソ(紫蘇)の光周的花成においては異なります。短日処理を受けたシソは誘導的光周期以外の環境に置かれても、花芽を形成し続けるなど花成状態が長く続きます。このような安定した花成形成が低温にゆるバーナリゼーションと似ているため、両者に共通する制御機構が想定されることから、著者らは光周的花成にエピジェネティクスが関与するのかを検討しました。

光周的花成とエピジェネティクス
脱メチル化剤をシソの種子あるいは茎頂に処理すると、長日条件でも花成は誘導されました。茎頂に脱メチル化剤を処理した場合に、処理された部位より下の茎にも花芽が形成されました。このことは、脱メチル化剤の作用を受けた部位で、輸送可能な花成刺激が生成されたことを示します。つまり、これらのことからシソの光周的花成にエピジェネティクスが関与することが示唆されました。

次世代に伝わるか?
DNAの脱メチル化により誘導された形質は、次世代に遺伝しうることが知られています。しかし、哺乳類のDNAのメチル化は配偶子形成の時にリセットされるため、メチル化状態は遺伝するとは限りません。対する植物はDNAのメチル化により誘導された形質が遺伝するため、植物にはDNAのメチル化のリセット機構がないとされてきました。しかし、脱メチル化剤で誘導したシロイヌナズナの花成の抑制状態は遺伝しないため、少なくともエピジェネティクスな制御を受ける遺伝子に関してはリセット機構があるものと考えられます。しかし、脱メチル化剤は同時に、シソの栄養生長の抑制をもたらしますが、この栄養生長の抑制は次世代に伝わることが確認されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。とはいえ、論文的には遺伝子の詳細な分析によるメカニズムの話が重要であり、論旨を証明する根拠なのですが、この記事では省きました。気になる方は、J-STAGEで一般にも公開されていますから、PDFをダウンロードしてみて下さい。論文は日本語で書かれた短いものです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/plmorphol1989/19and20/1/19and20_1_15/_article/-char/ja/

さて、今回は植物のエピジェネティクスの例を1つご紹介したのですが、他にも植物のエピジェネティクスに関する論文は沢山出ているようです。まだ、日本語の論文しか検索していませんが、時間があれば海外の論文も検索してみるつもりです。


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以前、CAM植物について簡単にまとめた記事を書いたことがあります。CAMとは光合成の方法の1つで、蒸散を抑えるために夜間に二酸化炭素を取り込み、リンゴ酸に変換して貯蔵する仕組みです。CAMという名前は、ベンケイソウ型有機酸代謝(Crassulacean Acid Metabolism)の略ですから、エケベリアやセダムなどのベンケイソウ科植物に典型的に見られ、乾燥に強いシステムですからパイナップル科植物やサボテンなどに広く見られます。
しかし、その時の記事の内容的は、あくまでも一般的に言われていることをまとめただけに過ぎないものでした。(以下、リンク)


そこで、今回は科学者によるCAMの概観とこれからについて見ていきたいと思います。参照とするのは、Kevin R. Hultineらの2019年の論文、『New perspective on crassulacean acid metabolism biology』です。

CAM植物の特徴
CAMは維管束植物の38科400属以上見つかっており、60以上の独立した進化の起源を持ちます。CAMの起源は、過去に起きた乾燥化と大気中の二酸化炭素の減少に相関しており、地球規模の気候変動に対する進化的対応の代表的な事例です。また、CAMは茎や葉の多肉質化、水の捕捉と貯蔵、厚いクチクラとワックス沈着、低い気孔密度、高い気孔応答性などの共通の適応形質と共に進化し、これらの特徴により水の利用が限られている、あるいは断続的な厳しい環境に生息出来ます。

CAMへの進化
CAMは38科の植物で知られており、その広い系統の中の分布から、CAMは独立して複数回に渡り発生したと考えられています。最古のCAMについては、証拠が化石に残らないためよくわかりません。陸生植物のCAMは乾燥が主な要因と考えられています。それは、日中の高温と相対湿度の低ささらされる砂漠に生える多肉植物でよく見られるからです。ただし、CAMは二酸化炭素を有機酸に変換し、炭素を濃縮するメカニズムですから、利用可能な二酸化炭素が少ない環境に対する適応も想定されます。例えば、Isoetes (ミズニラ属)などの原始的な水生植物はCAM植物なのは、水中の二酸化炭素の拡散係数が低いために、CAMに進化したと考えられます。陸生植物のCAMは、大気中の二酸化炭素濃度が低下し、CAMやC4という光合成経路が有利になった更新世の氷河期に反応したものと考えられます。

CAM研究
CAMの古典的なモデルは、気孔の反転と4段階のガス交換、および生化学的活性により定義されます。しかし、これはCAMの多様性と複雑性を否定するものです。CAMに関する最近の理解の進歩は、「弱い」、「通性」、「中間」のCAM植物の限界に関する研究から得られています。多くのCAM植物がCAMをC3やC4と共に発現し、その発現は発育の段階により変化することが多く、旱魃や塩分にさらされると通性で変化することもあります。

CAMの利用
CAM植物の中でも、旧世界のユーフォルビアと新世界のサボテンの茎が多肉質な種は、密猟や地球規模の気候変動により前列のない脅威にさらされています。しかし、多くのCAM植物は将来的な食料、飼料、繊維、バイオ燃料、医薬品とされる可能性がある高い農業的価値を持ち、しかも乾燥に強い作物です。少数のCAM植物製品は、テキーラ(Agave)やパイナップル、アロエ、バニラ、果実(ウチワサボテン)など、世界的に取り引きされています。しかし、これらの種は伝統的に過小評価されており、農業的改良のための投資はほとんど行われていません。これらのCAMは、遺伝学の進歩により遺伝的改良が促進されることが期待されています。中でもAgaveはバイオ燃料の原料として高く注目されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
一応ですが、CAMについて簡単に解説しましょう。
日中に二酸化炭素を取り込もうと気孔を開くと、高温と乾燥により水分が失われてしまいます。しかし、CAM植物は気温が低い夜間に二酸化炭素を取り込みます。取り込んだ二酸化炭素は、リンゴ酸の形で濃縮・貯蔵されます。気体は貯蔵が難しく場所をとりますから、リンゴ酸という液体に変換するのは理にかなっています。また、貯蔵が出来るため、夜間でも暑い日には、気孔を閉じて二酸化炭素の取り込みをしないこともあります。
論文の内容についてですが、驚くべきことにCAMは複数回、独立して進化したことが示されています。つまり、植物が進化の過程で1回だけCAMを獲得し、その子孫がCAMというわけではないのです。CAMは様々なグループのあちらこちらで、それぞれ獲得されました。それなりに複雑なシステムですから、共通祖先が獲得したわけではないのことに驚かされます。洋蘭の仲間であるDendebiumでは、属内で複数回のCAMの進化があったことが報告されているそうです。
さて、CAMの研究は何をもたらすのでしょうか。まずは、希少植物の保全が挙げられます。その植物の生態や生理などを理解することは、保全計画には欠かせません。詳しい調査もなしに似た環境に植栽しても上手くいかないケースが度々見られます。やはり、事前の研究は必須なようです。次はやはり作物として利用です。CAM植物は乾燥に強いため、通常の作物が育ちにくいような環境でも栽培出来ます。例えば、トウモロコシは主に家畜の飼料として莫大な量が生産されていますが、バイオ燃料への利用がよく言われています。しかし、米国では地下水を汲み上げて強引に生産しているため、地下水の著しく減少を招いているそうです。CAM研究により、地下水を利用しないAgaveなどを利用したバイオ燃料の開発や、CAM回路自体を組み込んだ作物も将来的には可能となるかもしれません。論文では、CAMの進化は①乾燥化、②二酸化炭素の減少、③植物育種となっており、ヒトによる開発を第三のCAMの進化イベントと捉えているようです。CAM利用に関する、その期待の大きさが分かりますね。



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本日はちょっと変わったサボテンの論文を見つけましたので、ご紹介します。それは、N. B. Englishらの2021年の論文、『Age-growth relationships, temperature sensitivity and palaeclimate-archive potential of the threatened Altiplano cactus Echinopsis atacamensis』です。ボリビアに自生する絶滅危惧種である柱サボテン、Echinopsis atacamensis var. pasacanaについて様々な視点から研究を行っています。

pasacanaについて
南部Altiplanoでは、長寿の柱サボテンであるpasacana=Echinopsis atacamensis var. pasacanaが自生します。南Altiplanoのpasacanaは海抜2000〜4000mの、寒く(年間平均気温-0.6〜16.4℃)、乾燥した(年間降水量200mm)生息地に適応しており、地元の木材としての価値もあり絶滅危惧あるいは準絶滅危惧種と考えられています。
サボテンの生長に関して、従来は写真撮影や測定を繰り返し数年〜数十年にわたり行われてきました。しかし、pasacanaの自生地は遠隔地にあるため調査は困難で、その生態などについてほとんど知られておりません。

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Trichocereus pasacana
「The Cactaceae」(1922)より。


棘に刻まれた過去
著者らが開発したサボテンのトゲの放射性炭素同位体の測定手法により、1950年代以降のサボテンの樹齢を正確に判定することが出来ます。また、トゲの中の酸素同位体比はサボテンの茎の水分量と関係します。サボテンの茎の水分の貯蔵は、温度や降水量の変化に反応します。サボテンのトゲは降雨と旱魃による茎の膨張と収縮を記録しています。従って、サボテンのトゲは生長中の気候変動を反映しているのです。

pasacanaの樹齢
ボリビアのウユニ塩湖にあるPescado島に自生する2個体のpasacanaのトゲを解析しました。1個体は約70年にわたり年平均5.8cm生長し、もう1個体は約50年にわたり年平均8.3cm生長しました。Pescado島でもっとも背が高いpasacanaは高さ8.3mでしたが、計算上ではその樹齢は308〜430年と推定されます。また、生長率から生存曲線を描くと、1993年、1965年、1943年、1904年、1862年付近で生存率はピークとなっていました。

Altiplanoの過去
pasacanaのトゲの酸素同位体と放射性炭素同位体の比を測定すると、1953年〜2011年の間の変動は41.6〜62.5%と極端でした。しかし、降水量はその間に約6%の変動しかありませんでした。北米の柱サボテンでは、酸素同位体比は降水量と相関します。しかし、Altiplanoでは南米夏季モンスーン(SAMS)により、水の供給は安定しています。サボテンはCAM植物ですが、水分の蒸発を抑えるために夜間に気孔を開きます。そのため、蒸散は主に夜間に起こり、蒸散速度は夜間の気温と蒸気圧差により制御されます。標高約4000mの夜間の気温は冷涼ですから、気温のわずかな上昇が蒸気圧差に影響を与えます。そのため、夜間気温の高い年には、茎の水分が蒸発しトゲの酸素同位体比が上昇します。

最古のサボテン記録
この研究では462本のpasacanaの高さを測定しましたが、pasacanaが154cm、つまり約50〜60歳に達すると急激に死亡率が低下することが分かりました。降水量の増加や低気温が長く続いたり、深刻な旱魃がなかったりした場合に、新しい実生の加入が起きると考えられます。人口統計学的には、pasacanaは成熟するのに、つまりは腕が追加されるのに約100〜150年かかり、北米の柱サボテンより生長は遅いことが分かりました。また、約400歳に達する非常に長寿なサボテンで、これまでに推定された最古の記録となります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
樹木の放射性炭素同位体による年代測定は盛んに行われていますが、年輪を作らないサボテンの放射性炭素同位体による年代測定は初めて聞きました。トゲは確かに作られた時の環境に影響を受けていますから、言われてみれば納得です。
しかし、推定年齢はなんと400歳に達する可能性があると言うことに驚きます。巨大な柱サボテンであるSaguaro(弁慶柱)などは、あまり背が高くなると倒れるイメージでしたから、樹木のような長寿は予想だにしていませんでした。
さて、論文では古代の海洋気候などと関連付けた壮大な考察が続きますが、そこら辺は私の専門外と言うか、あまり興味がないので割愛させていただきました。
最後になりますが、pasacanaの学名の変遷を簡単におさらいしましょう。Echinopsis atacamensis var. pasacanaは、2021年にLeucostele atacamensis subsp. pasacanaとなっています。このpasacanaの歴史は、1885年のPilosocereus pasacanusから始まり、1894年のCephalocereus pasacanus、1920年のTrichocereus pasacana、1959年のHelianthocereus pasacanus、1974年のEchinopsis pasacana、1980年のTrichocereus atacamensis var. pasacanus、1996年のEchinopsis atacamensis subsp. pasacana、2012年のTrichocereus atacamensis subsp. pasacanusなど沢山の異名があります。複数種だと思われていたのではなく、どの分類群に該当するのかはっきりしなかったようですね。



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サボテンが水を蓄えて多肉質な面白い姿をしているのは、当然ながら乾燥地の厳しい環境に適応した結果です。しかし、環境の厳しさとサボテンに種ごとの特徴との関係性は、あまり詳しくは分かっていないようです。そこで、6種類のギムノカリキウムについて、それぞれの自生地の降水量と形態的な特徴との関係を調査した論文をご紹介しましょう。それは、Solana B. Perottiらの2022年の論文、『Biomass Partitioning and Morphoanatomical Traits of Six Gymnocalycium (Cactaceae) Species Occurring along a Preciptatiom Gradient』です。

ギムノカリキウム属と降水量勾配
ギムノカリキウム属は南アメリカ南部原産のサボテンで、約50種が含まれます。アルゼンチン北西部の山岳地帯にもっとも豊富に生息しています。この地域は気候が非常に不均一で、湿潤した環境から非常に乾燥した環境まで様々な生態系があります。本研究の目的は、降水量勾配に沿って分布する6種のサボテンが、バイオマス分配(茎や根、トゲなどのどこに資源をどの程度分配するか)と、形態・組織学的な特徴の点でどのように異なるのかを分析することです。

生息地域の環境
調査はアルゼンチンのCatamarca州において実施されました。乾燥地帯としてMonte ecoregionから、G. pugionacanthumとG. marianaeを採取しました。半乾燥地帯としてSan Fernando del Valle de Catamarca市近郊から、G. stellatumとG. hybopleurumを採取しました。亜湿潤地帯としてEl Rodeoから、G. oenanthemumとG. baldianumを採取しました。
この乾燥地帯は年間平均降水量は380mmで平均気温は16.3℃、半乾燥地帯の年間平均降水量は460mmで平均気温は19.7℃、亜湿潤地域の
年間平均降水量は500mmで平均気温は17.4℃でした。
属下分類は、乾燥地帯のG. 
pugionacanthumはScabrosemineum亜属、G. marianaeはGymnocalycium亜属で、半乾燥地帯のG. stellatumはTrichomosemiuneum亜属、G. hybopleurumはScabrosemineum亜属で、亜湿潤地帯のG. oenanthemumはScabrosemineum亜属、G. baldianumはGymnocalycium亜属です。

形態学的な特徴
もっとも乾燥した地域に分布するG. pugionacanthumは、非常に粗くて長く太いトゲを持ち、地下茎がもっとも長いと言う特徴がありました。さらに、乾燥地に分布するG. marianaeは高い密度のアレオーレとトゲを持っていました。
半乾燥地に分布する
G. hybopleurumは、全長のほぼ半分に達する長さの紡錘根(napiform root)を持ち、中程度の密度のアレオーレ、多数の大きく幅広いトゲを持つものの、G. pugionacanthumやG. oenanthemumと比較すると少ないものでした。G. stellatumは稜(rib)がもっとも多く、地下茎は地上部の2倍に達し、トゲの数は少なく高密度のアレオーレを有していました。
G. oenanthemumは全長のほぼ半分に達する長さの主根を持ち、長くて幅広いトゲは数が多いものの、アレオーレの密度は低いものでした。G. baldianumも長い主根があり、地上部の方が短く、もっとも高密度のアレオーレを持っています。

環境とバイオマスの分配
以上のようにバイオマスをどこに振り分けるかは異なります。G. baldianumはトゲに対する割り当てが少なく、逆にG. pugionacanthumはより多く割り当てました。特に乾燥した環境に自生するG. pugionacanthumは、主根に多くを割り当てています。しかし、湿潤な環境に自生するG. baldianumは、乾燥した環境に自生するG. marinaeよりも、主根へより多くバイオマスを割り当てていました。

組織学的な特徴
表皮は種の間で、もっとも変化に富んだ組織でした。G. pugionacanthum、G. hybopleurum、G. oenanthemum、G. stellatumは、陥没した気孔と楕円形の肥厚またはクチクラの外縁を示しました。G. pugionacanthumやG. stellatumは大きなイボ状の突起、または乳頭状突起を示しますが、G. hybopleurumやG. oenanthemumはより小さいものでした。対照的に、G. marinaeやG. baldianumでは、気孔は表皮細胞と同レベルであり非常に豊富で、薄いクチクラと表皮を持っています。G. pugionacanthumは最高値の厚いクチクラと表皮、皮下組織を持ち気孔は陥没し、その特徴は乾燥した環境と一致します。

結論
著者らは環境と形態学特徴、あるいは組織学的特徴が関係していることを想定しました。しかし、実際には特徴は系統関係と関連があるように見えます。つまり、同じ亜属内の種は類似しているのです。
皮下組織の層数と細胞壁の厚さは、乾燥に対する形態と考えられています。そのため、G. pugionacanthumとG. stellatumがもっとも乾燥環境に適していると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
著者らの想定した降水量と形態的特徴は、必ずしも相関はありませんでした。むしろ、系統関係が意味を持っているようです。これはなかなか意味深で、各種が各々で乾燥に耐えるべく進化したと言うより、各亜属が別々に乾燥に適応していった可能性を示唆するからです。
また、著者らは乾燥地帯に自生するG. pugionacanthumと、半乾燥地帯に自生するG. stellatumがもっとも乾燥に強い可能性を示しました。これはどう捉えたら良いのでしょうか。例えばですが、各種の自生地は、乾燥に耐えられる極限であるとは言えないとするのはどうでしょう。乾燥に対する耐性は、ある程度の幅があるはずです。ある一定以上の乾燥耐性があれば、割りと場所を選ばない可能性もあります。つまりは、単純に種分化する道筋で様々な環境と出会っただけで、様々な環境に出会ったからその環境に適応したわけではないと考えてはいかがでしょうか? G. pugionacanthumはその環境でもっとも上手くやれる能力があると言うだけのことです。まあ、これはただの思いつきに過ぎません。まだ、分からないことが沢山ありますから、様々な可能性がありそうです。今後の研究に期待しましょう。


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サボテンと言えば、何と言ってもそのトゲが特徴でしょう。トゲのない烏羽玉(Lophophora williamsii)や兜丸(Astrophytum asterias)などもありますが、もっとも原始的なPereskiaやLeuenbergeriaでもトゲがあるのですから、やはりサボテンはそのトゲなくして語れません。このさて、このサボテンのトゲは、やはり研究者も気になるようで、様々な角度から研究が行われています。サボテンのトゲの役割は身を守るためであろうことは直感的に分かりますが、どうもそれだけではないようです。と言うことで、本日はNayla Lujan Aliscioniらの2021年の論文、『Spine function in Cactaceae, a review』をご紹介しましょう。タイトルの通り、過去に行われたサボテンのトゲの研究を調べレビューしています。

棘の種類
サボテンは約1850種類と種数が豊富で、トゲの形態も多様性があります。棘のサイズもばらつきがあり、数mmから20cmまであります。棘は集合しているとより効果的に防御できます。棘のほとんどは針状で、断面は円形で、片側が平らになっていたり鉤状となる場合もあります。また、種により複数種の棘を持つものもあります。例えば、Oreocereus属には通常の防御棘と毛状の棘があります。刺座(アレオーレ)から生える棘の配置はパターンがあり、1つは櫛状の配置で棘は2列に並びすべて同じ大きさです。もう1つは、中心の棘、より長い棘、放射状の棘への分化です。

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Oreocereus celsianus
Pilocereus brunnowiiとして記載。
『The illustrated dictionary of gardening』(1895年)より


棘の機能
サボテンの棘の主たる機能、おそらくはより古いものは植食者に対する防御です。サボテン科は約3000万年前の地球規模の乾燥化に関連して誕生したと考えられています。乾燥した環境では、多肉質な組織は水源となります。そのような状況で、サボテンは物理的な防御として棘を発達させた可能性があります。
現在のサボテンの棘の機能の多様性は、サボテン科の進化的な放散により機能が増加したことをあらわれています。1986年にGibson & Nobelは、防御から体温調節、紫外線からの保護機能を提案しました。


文献探索
サボテンの棘の機能について書かれた論文を調査したところ、24件の研究が見つかり、39種のサボテンが分析されていました。これらの論文において、棘の機能は抗草食防御が5件、抗寄生植物防御が2件、栄養分散が3件、体温調節が11件、集水作用が4件でした。研究のうち9件は野外で実施され、8件は実験室で、7件は野外と実験室の両方で実施されました。
調査されたサボテンはそのほとんどが北米と中米(主に米国とメキシコ)で31種類にのぼり、南米では8種類に過ぎませんでした。南米には非常に過酷な、乾燥した砂漠から熱帯雨林、海抜0mから4000mを超える高さまで生息するサボテンが豊富に存在します。サボテン科はその棘が重要であるにも関わらず、棘の機能を理解するためのモデルとされたのはごく一部に過ぎません。


抗草食防御
草食動物に対する防御は、サボテン科の進化における棘の最初の機能である可能性が高いでしょう。しかし、その機能を分析した研究は少ししかありませんでした。2009年にNassar & Lev-Yadunは、ウチワサボテンの棘密度は、草食動物が食べやすい上部では高いことを発見しました。2018年にCrofts & Andersonは、サボテンの棘が草食獣の皮膚を突き刺すため、草食獣は棘の少ない新しい枝を好むことを観察しました。また、サボテンに限らず棘のある植物は、大型草食動物による採食に長期間さらされると、棘が増えることが知られています。

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ウチワサボテン(筑波実験植物園にて)

温度調節
1970年にGibbs & Pattenは、トゲが極端な高温から茎を保護し、日照のエネルギーの多くを反射および吸収していることを発見しました。2017年にDreznerは、温度が上がるとトゲの長さが長くなることを示しました。2002年のNobel & Bobichは、トゲの密度は高度が高いほど増加し、低温から茎を保護していることが分かりました。

霧収集システム
サボテンには効率的な霧収集システムを発達させたものがあります。水分はトゲの先端で凝集し、基部に移動して茎に入り貯蔵されます。いくつかの研究では、水分がトゲを伝い茎に取り込まれることが明らかとなっています。ただし、疎水性のトゲを持つ持つ種もあり、その場合は水分がトゲの表面で凝集することはありません。

抗寄生植物防御
チリにはTrichocereus chiloensisとEulychnia acidaに寄生するヤドリギである、Tristerix aphyllusが知られています。寄生植物の種子はサボテンを止まり木にする鳥の糞により散布されます。T. chiloensisは、鳥が止まり木として利用しにくくするために、大きなトゲを発達させました。現在、サボテンのヤドリギは他に知られておらず、抗寄生植物防御が確認されているのはこれだけです。

サボテンのヤドリギの画像(リンク)
https://chileanendemics.rbge.org.uk/taxa/tristerix-aphyllus-miers-ex-dc-barlow-wiens

栄養分散
ウチワサボテンの中には、トゲが動物の皮膚に引っかかり、動物の移動により分布を広げます。しかし、栄養分散の研究では、トゲを介した分散能力は示しましたが、分散そのものは評価されていません。

考えられる機能
実証されていない機能についても、いくつかの言及があります。2001年にAndersonは、トゲがカモフラージュとして機能し、草食動物から保護される可能性を提案しました。また、トゲは花粉媒介者に簡単に認識されるため、受粉の可能性が高まるかも知れません。

その他のトゲのトピック
資源割り当てと言う観点からトゲを分析した研究は、非常に少ないようです。トゲは光合成組織ではないため、コストがかかります。また、茎に陰を作ることから、光合成能力を低下させます。一部の種では、遮光作用として重要となるものもあります。

未解決なトゲのトピック
トゲがない、あるいはトゲが少ない種を分析した研究は見つかりませんでした。例えばLophophoraやAstrophytumはトゲが減少しています。Lophophoraはアルカロイドを蓄積しており、物理的防御と化学的防御のtrade-offの関係を示しています。

最後に
サボテンと言えば何と言ってもそのトゲが目立ちますが、意外にもその機能はまだ明らかとなっていない部分がまだまだあるようです。むしろ、良いトゲを出させるために心血を注いでいる趣味家の方が詳しい部分もありそうですね。それはそうと、今回の論文は末尾に「a review」とあります通り、過去の論文を探して概観したものです。私がまだ読んでいない面白そうな論文がいくつも取り上げられていましたから、機を見て記事にしたいと思います。


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サボテンの受粉システムは種により様々ですが、本日はアリオカルプス属に焦点を当てます。アリオカルプスの花は雌雄離熟、つまり柱頭と葯の位置が離れており、自家受粉しにくい構造になっています。では、アリオカルプスは自家不和合性なのでしょうか? と言うことで、本日はConcepcion Martinez-Peraltaらの2014年の論文、『Haw common is self-incompatibility across species of the herkogamous genus Ariocarpus?』をご紹介しましょう。

自殖を防ぐシステム
植物の有性生殖システムは花の様々な異系交配を促し、近交弱勢や適応度の低さなど自殖の悪影響を軽減すると考えられています。雌雄離熟(herkogamy)や雌雄異熟(dichogamy)は、性別を空間的・時間的に分離しますが、必ず自殖を防ぐことが出来るわけではありません。
自家不和合性(Self-incompatibility)は、自家花粉の遺伝的な認識と抑制が非常に効果的であり、もっとも効果的な自家受粉を防止するメカニズムです。少なくとも被子植物の約60%は、何らかのタイプの自家不和合性を備えています。もっとも一般的なタイプの自家不和合性は、配偶体自家不和合性(gametophytic self-
incompatibility)=GSIであり、認識は雌蕊と花粉管の相互作用によります。GSIでは花粉管の阻害が起きます。
近年、サボテンの生殖システムに関する研究は増加していますが、自家不和合性などの問題はほとんど注目されていません。自家不和合性が確認されているのは、Schlumbergera、Hatiora、Echinopsis、Hylocereus、およびSelenicereusの一部です。
自家不和合性から自家和合性に移行し自家受粉率が高まる現象は、被子植物の中でもよく見られます。これらの移行は、花粉媒介者や交配相手の不足により促進されます。

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Ariocarpus retusus
『The Cactaceae Vol. III』(1922年)より。


アリオカルプスの受粉試験
著者らは7種のアリオカルプスを、それぞれの自生地で受粉試験を行いました。成り行きに任せた自然受粉と、人工的に他家受粉あるいは自家受粉させた花を、48時間後に回収しました。同様に受粉から5〜6ヶ月後に果実を回収しました。
自然受粉あるいは人工的な他家受粉では子房に到達する花粉管が多く、自家受粉では柱頭の途中で花粉管は阻止されており、アリオカルプス属は自家不和合性であることが示されました。うち、6種類は子房にも花粉管が観察されたため、一部の遺伝子は自家和合性です。1種類は子房に自家受粉の花粉管が観察されませんでしたが、自家受粉でも果実は2%結実しました。A. kotschoubeyanusとA. agavoidesは子房に到達する自家受粉の花粉管の割合が高く、結実率も高いものでした。A. retususおよびA. trigonusは、子房に自家受粉の花粉管が到達する割合が低く、A. scaphirostrisは子房に自家受粉した花粉管はなく厳密な自家不和合性であることが分かりました。

自家不和合性から自家和合性へ
アリオカルプスでは、そのほとんどが自家不和合性であるものの、一部の遺伝子は自家受粉が可能であることが示されました。このパターンは疑似自家不和合性あるいは部分的自家不和合性として説明されます。これは、厳密な自家不和合性から自家和合性への移行を表している可能性もあります。自家和合性をもたらす突然変異は自然の集団でも比較的頻繁に起こるようです。進化論的観点からは、花粉や配偶者が制限されている環境では、部分的な自家和合性が発達する可能性があります。配偶者が少ない環境では種子が減少し、局所的な絶滅のリスクが高まるため、自家和合性が選択されるかも知れません。アリオカルプスの中でも、A. kotschoubeyanusは花粉制限されており、子房に到達する花粉管が多く、部分的自家不和合性が促進されている可能性があります。

最後に
アリオカルプスは基本的には自家不和合性であることが確認されました。自家受粉では花粉管が拒絶されるためですが、厳密な自家不和合性であるA. scaphirostris以外では稀に自家受粉により結実することもあるようです。さらに、A. kotschoubeyanusでは自家受粉による結実率が高く、自家不和合性から自家和合性への移行が起きている可能性があります。

さて、自家不和合性は植物では非常に一般的な性質です。なぜ、自家不和合性と言うシステムが選択されたのでしょうか。これは、「選択」と言う語感とは異なり植物が自身で選んだのではなく、自然選択により自家不和合性の方が有利だったのでより生き残ったと言うだけのことなのでしょう。他家受粉では、異なる遺伝子が混ざることにより遺伝子に多様性が生まれ、より環境や生存に適応的になります。それにより、様々な環境に適応するだけではなく、病原菌に対する耐性が異なる場合もよくあることです。しかし、厳しい環境に自生する植物では、水や栄養などの資源が不足するなど、他の植物では有利なシステムが不利になる、あるいはあまり意味がない場合もあります。本日ご紹介した論文では、A. 
kotschoubeyanusが受粉のシステムが変更される過程を観測しているのかも知れません。しかし、例えばOpuntia macrocentraは、自生地により自家不和合性の個体群と自家和合性の個体群が存在することが明らかとなっています。もしかしたら、アリオカルプスも個体群によっては、より進行した自家和合性への適応を持っていることも考えられます。まだサボテンの自家不和合性に関する研究は少ないようですが、これからの研究の進展を待ちたいと思います。


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植物の繁殖形式は種によって異なりますが、そのすべてが明らかとなっているわけではありません。例えば、園芸的に著名なサボテンですら、実際に調査されたのは極一部です。当ブログにおいても、サボテンの繁殖に関する論文はそれなりの数を取り上げて来ました。しかし、まだ取り上げていない論文が沢山あります。と言うことで、本日はチワワ砂漠に広く分布する紫色のウチワサボテン、Opuntia macrocentraについて見ていきましょう。参照するのは、L. Eder Ortiz-Martinezらの2022年の論文、『Variability in mating strategies in a widespread cactus in the Chihuahuan Desert』です。

繁殖戦略
サボテン科の中ではウチワサボテン属(Opuntia)が最も成功し広範囲に分布する属です。ウチワサボテンはクローン性と多様な有性生殖システムを持ち、高い繁殖能力と分散能力を兼ね備えています。しかし、ウチワサボテン属のうち、繁殖に関する研究がされているようはわずか15%に過ぎず、しかもそのほとんどは1つの個体群のみの結果に基づいています。
多くの植物で自殖あるいは異系交配率が、集団間で大きな変動を示す証拠が増えています。そのため、単一の集団の研究に基づいて繁殖システムを一般化することは問題があります。
花粉媒介者(pollinator)による受粉は、場合によっては不確実で非効率的となることもあります。花粉媒介者の訪問頻度の変化は、花粉媒介者が豊富な状況では異系交配による遺伝的変異が起き、花粉媒介者が貧弱な状況なら自家受粉による生殖の保証との間にtrade-offを引き起こし、植物の交配システムの変異を促進する可能性があります。
花粉の量的あるいは質的な制限は自家不和合性でより起きやすく、自家不和合性から自家和合性への進化などの生殖システムの変化につながる可能性があります。Ariocarpus kotschoubeyanus(黒牡丹)は、厳密な自家不和合性であるAriocarpus属の中で唯一の自家和合性種です。A. 
kotschoubeyanusの自家和合性の進化は、花粉の制限、個体群密度の高さ、花粉媒介者の少なさの相互作用により説明されます。

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Opuntia macrocentra(下)
花はapproach herkogamyではないことに注意。
『The fantastic clan. The cactus family.』(1932)より


紫色のウチワサボテン
紫色のウチワサボテン(purple prickly pear)と呼ばれるOpuntia macrocentraは、チワワ砂漠とソノラ砂漠に広く分布するサボテンです。研究にはチワワ砂漠内で708km離れた2つの個体群を観察しました。1つは米国ニューメキシコ州立大学チワワ砂漠放牧地研究センター(CR)内にあり、もう1つはメキシコのDurango州Mapimi生物圏保護区(MBR)内にあります。この2つの個体群は、個体数が均衡していることが明らかとなっています。
MBRの個体群は密度、種子生産、新規加入率(recruitment rate)が低くなっています。CR個体群は混合交配システムと自律的な自家受粉、花粉媒介者の多様性の低さ(2種の蜂)、花粉媒介者の訪問頻度の低さが特徴です。しかし、MBRのO. macrocentraの生殖システムは不明です。


花への訪問者
MBRのO. macrocentraは昼行性で、ほとんどの花は1日(9:00〜20:00)しか咲かず、12:00〜13:00の間に最も花が開きます。10%未満の花は19:00に開き、夜間は閉じて、翌14:00頃まで咲くものもありました。
O. macrocentraの中から32個体を選び、5日間にわたり開花中の花を訪れる花粉媒介者を調査しました。

22時間の観察中にO. macrocentraの花には、287回の訪問者がありました。訪れたのは、8種類のハチとチョウ、ハエでした。一般に訪問頻度が高いのは、12:00〜15:00の間でした。この内、Diadasia rinconisとLasioglossum sp.の2種類のミツバチは、O. macrocentraの花への訪問の約70%を占めており、花粉媒介者であると考えられました。D. 
rinconisは大量の花粉を付着させる行動が観察されており、主な花粉媒介者であると考えられます。D. rinconisはチワワ砂漠の少なくとも17種類のウチワサボテンの主な花粉媒介者で、このハチはウチワサボテンと共進化したと考えられています。

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Opuntia macrocentra
『Transaction of the Texas Academy opsis Science』(1929-1937)より


異なる交配システム
人工受粉の結果から、MBRのO. macrocentraは絶対的異系交配であり、自家受粉しない自家不和合性であることが示唆されました。自家和合性および自殖性のCRの個体群と異なる交配システムが存在することが明らかとなったのです。
MBRとCRの個体群では、花の特徴が一部異なります。さらに、MBRの花は1日以上開花するものもあります。これは、一部の自家不和合性のサボテンに見られる特徴で、不十分な受粉率によるリスクを最低限とし、交配の機会を増やします。
MBRの個体群には雌雄離熟(※1)が確認されました。これはCRの個体群には存在しません。MBRの個体群では、柱頭が花糸の2倍以上の長さがあり突き出しています。つまり、近接性雌性受粉(※2)です。


※1 ) 雌雄離熟(herkogamy)とは、柱頭と葯の位置が離れていること。
※2 ) 近接性雌性受粉(approach herkogamy)とは、柱頭が葯の高さより上にあること。花を訪問した昆虫は花粉に触れる前に柱頭に接触する。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
同種のウチワサボテンでも、異なる個体群では繁殖システムが異なることが示されました。確かに、過去に読んだ論文では、1つの地域に生える個体群のみを調査したものばかりでした。しかし、この論文を前提とすると、1つの地域の個体群で、その種を代表してよいものか怪しくなってきました。繁殖システムの調査は、純粋に生物学的な資料の積み重ねだけではなく、植物の保護を考える上でも重要です。自生地で減少しているサボテンや多肉植物についての、このような地道な研究が増えることを願っております。


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一般的に植物の生育には適していないであろう乾燥地にも、驚くほど多様な植物が自生しています。これらの乾燥地に生える植物は、何かしらの乾燥への適応が見られます。我々が園芸植物として栽培しているサボテンや多肉植物、あるいは塊茎・塊根植物などは、体内に水分を溜め込むことにより乾燥地に適応しています。さて、このような乾燥地への適応は、どのようにして起きているのでしょうか? 当ブログでも、生態学的な見地から乾燥地への適応に迫った論文は、過去にいくつかご紹介しています。今回は視点を変えて、解剖学的な見地から塊根の成立を考えてみます。ご紹介するのは、Y. V. Aviekin, N. V. Nuzhyna, M. M. Gaidarzhyの2023年の論文、『Metamorphosis differences of caudiciform plants as an adaptation to arid conditions』です。日本では「火星人」の名前でお馴染みの塊根植物、Fockea edulisの多肉化の謎に迫っています。

キョウチクトウ科とCaudex
キョウチクトウ科(Apocynaceae)には約366属5000種以上が含まれ、5亜科に分けられます。多年生の多肉植物のグループは、Asclepiadoideae亜科、その中でもStapeliinae亜族に集中しています。このグループには30属以上が含まれ、Stapelia、Huernia、Hoodia、Pseudolithos、Orbea、Quaquaなどがあります。これらの植物の特徴は多肉質な茎を持つことで、サボテンやユーフォルビアに類似しています。樹木性、あるいはpachycaul(塊根)を持つグループは、Apocynoideae亜科のPachypodium属に代表されます。Pachypodium型のpachycaulは、Adansonia、Cyphostemma、Dendrosicyos、Dorstenia、Fouquieria、Moringaなど他属にもあります。このような多肉植物の形態を、「塊茎様多肉植物」(caudex-like succulents)と呼びます。これは、1948年にG. Rowleyにより初めて使用されました。
これらの植物は、皮層の柔組織(※1, ※2, cortex parenchyma)の生長に加え、形成層(※3)の機能により形成される「多汁質材」(juicy wood)も特徴です。形成層は導管要素(※4, tracheal element)に加え、多数の薄壁木部柔細胞(thin-walled xyleum parenchyma cells)を形成します。これらの柔細胞には皮層の柔細胞と同様に水と栄養が蓄積します。

※1 ) 皮層は茎や根の表皮と中心柱の間にある組織。主に柔細胞からなる。
※2 ) 柔組織は柔細胞からなる組織で、茎や根の皮層や髄、葉肉や果肉、地下茎をなど植物体の多くを占める。
※3 ) 形成層は茎や根の維管束の木部と師部の境にある分裂組織。細胞分裂し内側に木部、外側に師部を作り、茎や根の二次肥大生長を行い年輪を形成する。
※4 ) 導管は維管束の木部の主要部位で、根が吸収した水分を枝葉に送る。

Fockea edulis
Fockea edulisは1794年にC. ThunbergによりPergularia edulis Thunb.として記載され、1893年にK. SchumanによりFockea属が割り当てられました。F. edulisはFockea属6種類のうちの1つで、南アフリカの西ケープ州や東ケープ州の乾燥地帯、レソト王国の南部に分かれて分布します。F. edulisは多肉質な多年生半低木で、高さ0.5m、直径1mになる巨大な塊茎(tuber)を持ちます。塊茎は灰緑色で樹皮が割れて皺や突起があります。

植物のライフサイクル
Vasilivら(1978)によると、植物のライフサイクルは、潜伏期(latent)、前生殖期(pregeneration)、生殖期(generation)、老年期(senile)からなります。さらに、前生殖期は、実生(seedling)、幼植物(juvenile)、未成熟植物(immature)に分けられます。
研究はキエフ大学の植物園のコレクションから育った、F. edulisの実生、幼植物、未成熟植物を使用しました。


実生 seedling
F. edulisの種子は播種後8〜9日に発芽し、11〜13日目に種皮から実生が出てきます。子葉は多肉質ではありませんが、胚軸(※5, hypocotyl)は肥厚し円筒形で目立ちます。葉緑体は表皮に接する柔細胞にあります。
皮層の柔組織の厚みには、維管束(vascular bundles)の隣に不明瞭な乳液管(※6, latex duct)があります。また、F. edulisの実生には二次的な維管束が17〜18本あります。師管部(phloem zones)はあまり発達しておらず、一次木部の真上に位置します。


※5 ) 胚軸とは胚の主根(幼根)原基と子葉の付着部をつなぐ軸の部分。
※6 ) 乳跡(latex trace)は乳液を含んだ樹木、特にキョウチクトウ科の樹木の材に見られる、裂け目状の通路のこと。その起源は葉や脇芽に進入する維管束とされる。誤ってlatex canal、latex ductとも呼ばれることがある。

幼植物 juvenile plants
6〜7週の生長後、幼植物の兆候を示します。茎の上部は直交異方性(※7)で、断面は丸みを帯び草状(grassy)です。表皮層は壁が厚くなった立方体の細胞で、一部の表皮細胞は単純な被覆毛突起を有します。表皮の下には周皮(※12)が見られ、木質化した細胞壁を持つコルク組織細胞(※8, phellem cell)が1層と、単層のコルク形成層(※9, phellogen)、および葉緑体を持つ円筒形で薄壁のコルク皮層細胞(※10, phelloderm cell)の層で構成されます。
断面を見ると二次外皮(secondary integuments)の形成と表皮のほぼ完成な剥離が明確です。茎の基部の周皮は上部と比べて厚みが3倍あり、細胞層の数が多いだけではなく細胞のサイズも大きくなっています。皮層の柔組織はより発達し、10〜12層の大きな薄壁の等直径細胞からなります。実生と比べてサイズが大きい木部導管要素の増加により、維管束の面積が増加しています。維管束には茎の上部と比較してはるかに面積が大きい内部師部(※11)の領域があります。髄は他の部位と比較すると大幅に発達しています。


※7 ) 直交異方性(orthotropic)とは、互いに直交する3つの面に対して、弾性特性が鏡対称であること。
※8 ) コルク組織は細胞壁にコルク質を沈着した組織。
※9 ) コルク形成層は二次肥大生長を行う、茎や根の皮層に出来る後生分裂組織。分裂によりコルク組織を形成する。

※10 ) コルク形成層は、外側にコルク組織、内側にコルク皮層を形成する。
※11 ) 師部は維管束を形成する師管を中心とする部分。師管、師部繊維、師部柔組織、伴細胞からなる。同化物質(光合成産物など)の移動を行う。

未成熟植物 immature plants
F. edulisは発芽後11〜12週で成体と同様の特徴を獲得し未成熟植物に達します。幼植物と比較すると、すべての栄養器官な顕著に発達しています。茎の上部は幼植物と比較して10倍以上増加しますが、直径は2倍に過ぎません。未成熟植物では茎の上部が徐々に生長する多年生の木質部分と、植生サイクルの初めに再生する一年生の草本部分からなります。やがて、茎の木質化した部分が分岐し追加のシュートを形成します。木質化した部分の周皮(※12, periderm)の厚みは、草本部分と比較すると5倍に増加します。これは、木質化した6〜7層の細胞からなるコルク組織によります。
茎の基部は著しく発達し長さは幼植物の約2倍、直径は約4倍以上になります。表面はザラつきますが、これは周皮が厚くなり割れているからです。周皮の構造は変わりませんが、コルク組織は細胞が大きく11〜13層に増えているため厚さほぼ2倍になっています。幼植物と比較すると、皮層の柔組織の厚さは4倍以上なっています。


※12 ) 周皮は木本植物の肥大生長する茎や根の表皮下に形成される組織。コルク層、コルク形成層、コルク皮層からなり、表皮が剥離すると代わりに茎や根を保護する。

他のCaudexとの比較
以前に研究したPetopentia natalensisでは、苗木の胚軸に顕著な肥厚は見られず、活発な発達は発芽後2〜3週間に始まります。胚軸の形態は異なりますが、その発達は皮層と髄の一次肥厚の結果として起こり、同様の構成を示します。
Adenium obesumの実生の胚軸には、F. edulisやP. natalensisとは異なり、二次被覆組織が確認されています。これは、A. obesumがより厳しい環境への適応と考えられます。
これらの3種類の幼植物には、第一胚軸節(first hypocotyl internode)間の皮層と髄が活発に一次肥厚するため、多肉質の基部が形成されます。F. edulisやP. natalensisは多肉質ではない蔓を出しますが、A. obesumは茎の上部はより多肉質です。しかし、まだそれほど顕著ではありません。
未成熟植物では、茎の上部と基部が共に大きくなり、周皮が発達し根系にも顕著な変化が見られます。F. edulisやP. natalensisの茎の上部と基部は、最初の子葉節(cotyledon node)の領域で簡単に判別出来ます。A. obesumでは、維管束形成層(intervascular cambium)により通導要素の連続的なリングが形成されます。
F. edulisの太く多肉質な「ラディッシュ様の根(radish-like root)」は、木部柔組織の生長により形成されますが、P. natalensisは典型的な二次根構造が形成され、中央の大部分が木部導管(vessel xylem)により占められ柱状構造を形成します。強力な木部柔組織により「ラディッシュ様の根」が形成される点において、F. edulisとA. obesumは共通しています。

収斂適応
異なる分類群に属する3種類の植物は、茎の基部と髄の複合的な肥厚と言う形で、乾燥した気候条件への収斂適応(convergent adaptation)が見られます。この適応は多肉質の基部の大部分が土壌により保護され、水の輸送と蓄積にかかるエネルギーコストが削減されます。さらに、F. edulisとA. obesumは多肉質の根も形成します。このような根の変形は多くの多肉植物に見られ、特に原始的なサボテン(Pereskia, Pereskiopsis)で研究されてきました。J. Mauseth & J. Pateによると、研究された多くの多肉質に変形した根は、その水と栄養を貯蔵する機能は発達した木部柔組織によるものです。さらに、このような変形した根を持つ多肉植物は、ほぼすべての大陸の乾燥地域および半乾燥地域で発見されています。よって、主根の変形による多肉質化は、乾燥条件に対する収斂適応であることが分かります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
解剖学的に実生からの生育を観察することにより、植物の多肉質化の様子を解き明かそうと言う意欲的な論文でした。異なる分類群の植物にも類似した形状の塊根・塊根が見られます。それらは、組織の発達の仕組みも基本的には同じです。乾燥した環境に適応するために結果的に類似したのは、組織の構成は同じですから、肥厚させて水分を貯蔵させるには同じ手段を取らざる得ないからなのでしょう。進化とは、何も無いところから何かを新たに生み出すというより、既存の構造を変形・転用させることだったりします。乾燥に対する進化は明らかにパターンがあり、葉や幹、根を肥大させます。ですから、まったく異なる分類群の異なる自生地の植物でも、サボテンとユーフォルビアのように驚くほど類似してくるのです。これらは収斂進化による適応、つまりは収斂適応と言えるでしょう。


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以前※欄でサボテンの根の様々な働きについて、ご指摘いただいたことがあります。実に有り難いことです。しかし、なるほどこれは面白いと思い少し論文を漁ってみました。すると、アリオカルプスの根の働きについて書かれた論文を見つけました。それは、Tadao Y. Garretらの2010年の論文、『Root Contraction Helps the "Living Rock" Cactus Ariocarpus fissuratus from Lethal High Temperatures when Growing in Rocky Soil』です。

砂漠の酷暑と植物
砂漠では直射日光が強く、土壌表面の温度は70℃を超えることもあります。サボテンなどのCAM植物は日中に気孔を閉じるため、蒸散による冷却も最小限です。Lithopsなどのように小型の多肉植物は、大部分が地下に埋まるものがあり、受ける温度は低下します。しかし、サボテンは土壌と同じ高さ高さでははるかに高温となるからです。

「生きた岩」
Ariocarpus fissuratusは「生きた岩」(Living Rock)と言うあだ名が示すように、地面と同じ高さに生えます。このような小さな植物は、特に隠蔽色の場合には草食動物に見つかりにくくなるかも知れません。また、地表より下に体の多くを配置すると、蒸散による水分の損失を減らすことが出来ます。また、植物が地表より下にあると、水分が地表より長く存在する可能性が高くなり、水分の吸収が改善されるかも知れません。

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Ariocarpus fissuratus
『The Cactaceae Vol. III』(1922)より。

収縮根
収縮根はアスパラガス科やリュウゼツラン科など、多くの多肉植物にあります。サボテンではLeuchtenbergia principisやLophophora williamsii、Neomammillaria macdougali、Pediocactusなどで報告されています。A. fissuratusはその生態から収縮根を持つことが推測されますが、明らかとはされていません。

A. fissuratusの場合
A. fissuratusを栽培すると、秋〜冬と夏に主に根の収縮により地中に引き込まれました。根の収縮は夏よりも秋〜冬に大きくなりました。晩冬に90日間水やりを減らした時に最も収縮しました。A. fissuratusの原産地の冬は1.2℃になりますが、実験に使用した温室の最低気温は約5℃でした。低温と乾燥の組み合わせは、収縮のきっかけとなります。

仮説
野外で育つA. fissuratusは、根の収縮により地表面と同じ高さになります。その理由を説明ですために、
つの仮説をたてました。すなわち、より低い位置にあることにより、①水分が良好、②気温がが良好、③隠蔽効果です。

①水分が良好
低い位置にあることにより、水分の損失を減らすことが出来るかを試験しました。しかし、地上に剥き出しであるか、地表面と水平であるかは、水分の損失に関係していませんでした。Lithosでは土壌に埋め込まれている場合の方が水分の損失は少なくなります。これは、Lithosでは根が湿った土壌にあり自由に蒸散していたのに対し、A. fissuratusは乾燥しておりおそらく気孔を閉じていたからからかも知れません。いずれにせよ、A. fissuratusの根の収縮は水分の損失とは無関係です。

②気温が良好
根の収縮により適した温度に出来るかを試験しました。まず低温ですが、冬に最大の根の収縮が起きたことから可能性があります。しかし、ほとんどの場合、植物自体の方が気温より低温であることが分かりました。A. fissuratusは茎に含まれる粘液が低温に耐えるために重要で、根の収縮は関係がないと考えられます。
高温に対する根の収縮の効果は、砂質の土壌で鉢栽培した場合には、根の収縮に利点はありませんでした。つまり、地表面と水平の場合の方が高い温度(60℃)を記録したのです。しかし、岩石質がある用土の場合、わずか(56.5℃)に温度が下がりました。砂質土壌に植えられたA. fissuratusは真夏の8日間の猛暑の後に全て枯死しましたが、岩石土壌の場合は全て生き残りました。野外のA. fissuratusは根の収縮と土壌の岩石の組み合わせにより、芽を致命的な高温に達するのを防ぐことができます。

③隠蔽効果
この仮説は検証していませんが、岩の多い土壌に埋め込まれる利点は明らかです。しかし、A. fissuratusは豊富な粘液を持ち、アルカロイドによる化学的防御がなされているため、根の収縮による隠蔽は防御手段として重要ではないかも知れません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
以前、論文を読んでいた際、鉄甲丸(Euphorbia bupleurifolia)はその特徴的な茎は自生地では地下に埋もれて見えないと言うことを知りました。鉄甲丸は乾燥時には縮んで地中に引っ込むと言うことです。まあ、厳しい環境に耐えるための収斂進化なのでしょう。しかし、その期待される効果は同じではないかも知れません。
さて、論文では根の収縮は温度上昇を抑える働きがあることを明らかとしました。とは言え、対して変わっていないようにも思えます。著者らはA. fissuratusの細胞の半数が死亡する温度(半数致死温度)を実験で確かめており、低温ではマイナス10.2℃、高温では56.8℃でした。すると、岩石土壌ではわずか0.3℃ではありますが、半数致死温度に達していません。逆に砂質土壌では半数致死温度より3.2℃も高く、実際に枯死してしまいました。また、白っぽい明るい色合いの土壌では光を反射しますから、温度が下がります。自生地ではそのような効果もあるかも知れません。
多少の疑問もあります。論文では夏期に高温となる温室内で試験が行われました。しかし、実際の自生地では半数致死温度に達するような環境なのでしょうか? これは自生地で確かめないと分からないでしょう。重要なのは温度の低下だけではなく、根の収縮による引き込みにより、実際にA. fissuratusの生存にどの程度の影響を受けるのかです。もしかしたら、温度の低下は起きていても生存率の向上には寄与しないかも知れません。冬期により収縮することを鑑みれば、単純に水分がないから縮んだだけで、特に意味はない可能性もあります。何かが発見されると何かしらの意味を付加したくなりますが、必ずしも意味があるとは限りません。むしろ、A. fissuratusが縮む乾燥期に水分を求めている動物からの隠蔽効果が一番重要な気もします。


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岩場に生える植物は、乾燥や土壌の不足、それに伴う栄養素の欠乏など、大変厳しい環境に生きています。岩場は基本的に乾燥しますから、生える植物は多肉化するものも多く見られます。多肉植物の代表格であるサボテンも岩場に生えるものがあり、岩のわずかな割れ目に根を伸ばし、岩上に張り付くように生えます。このような生態が可能な理由は何なのでしょうか? 本日は、岩場に生えるMammillaria fraileanaに着目した、Blanca R. Lopez、Yoav Bashan、Macario Bacilioの2011年の論文、『Endophytic bacteria of Mammillaria fraileana, an endemic rock-colonizing cactus of the southern Sonora Desert』を見てみましょう。

先駆植物と内生細菌
Mammillaria fraileanaは、高さ10〜15cm、直径3cmになる細い円筒形のサボテンです。このサボテンはバハ・カリフォルニア半島南部の東海岸沿いの岩場でよく見られます。多くの個体は土壌がなくても岩の割れ目や岩の表面に生育します。
M. fraileanaが岩場に先駆的に定着するサボテンであると仮定するならば、窒素固定し岩を風化させることが出来る内生細菌を有しているはずです。内生細菌は、植物の根に住む細菌で、植物の生育を支えています。内生細菌は大気の窒素ガスを固定し、酸を放出して岩石を溶かします。このような内生細菌の窒素を固定し岩石を風化させる働きは、植物の生長と土壌形成を促進し、M. fraileanaのような先駆植物の定着を助けると考えられます。


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Mammillaria fraileana
2021年にマミラリアから分離され、Cochemiea fraileanaとなりました。


M. fraileanaの採取と内生細菌の確認
メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州、La Paz市の北約2kmにある海岸平野に接する丘陵の尾根に生えるM. fraileanaを採取しました。気候は亜熱帯性で高温で乾燥しています。M. fraileanaが生える岩は、流紋デイサイトや流紋岩からなります。
採取したサボテンの根を消毒し、表面に付着した細菌を除去しました。根を観察すると内部に内生細菌が確認されました。また、種子の内部にも内生細菌が含まれていました。さらに、根から取り出した内生細菌を実生に接種することにより、実生の根に内生細菌の侵入を確認しました。

内生細菌の能力
窒素固定能力
根に含まれる窒素固定細菌は人工的に培養出来なかったため、切断された根の窒素固定能力を試験しました。培地成分を分析しM. fraileanaの根に含まれる内生細菌が窒素固定能力を持つことを確認しました。
リンの可溶化
根から取り出した内生細菌を難溶性の無機リンを含む培地に接種したところ、10の分離株のうち5株はリンを可溶化しました。
岩石の風化作用

粉砕した流紋デイサイトを含む培地に内生細菌を接種したところ、培地に含まれる岩石の小粒子が9%から403%に増加しました。これは岩石の風化を示しますが、培地の酸性化により起こると考えられます。接種1週間後の培地のpHは1.68〜1.86低下しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
乾燥した砂漠地帯の岩場と言う極限環境に生えるMammillaria fraileanaは、内生細菌との共生関係により環境に適応している可能性が示されました。岩場は栄養が不足しますが、窒素固定細菌の働きと、岩石を溶かして風化させリンを可溶化する細菌の働きにより栄養を確保しているのです。また、岩石の風化は土壌の形成を意味しますから、サボテンの生長とともに根域と土壌は増加することになります。岩場に生えるサボテンはただ乾燥に強いのではなく、微生物の力も借りて極限環境を生き抜いているのです。



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サボテンや多肉植物も、自生地では周辺に住む人々の生活のために利用されていたりします。例えば、Bowieaのように薬用植物としての利用は一般的ですが、Euphorbia pulvinataのように多岐にわたる日常的な便利グッズとして日々の生活に溶け込んでいるものもあります。サボテンはその利用が活発で、ペヨーテやサン・ペドロの幻覚作用をシャーマニズムに利用したり、果実を収穫するだけではなく、枯れた柱サボテンの骨格を材として利用するなど様々な利用方法があります。このように、地域ごとに様々な植物を利用して人々は生活しているのです。本日はアフリカ大陸東岸のタンザニアにある、ザンジバル諸島の1つであるペンバ島におけるアロエの利用方法について見ていきましょう。参照とするのは、Salim Khamis Saidらの2023年の論文、『The uses and management of an endemic and endangered species of Aloe pembana in Pemba Island of Zanzibar』です。

ペンバ島のアロエ
ペンバ島(Pemba Island)は、タンザニア本土から役割56キロメートル離れており、40万人ほどの人口があります。ペンバ島にはAloe pembanaと言うペンバ島固有のアロエが自生しています。しかし、保全は行われておらず、絶滅する可能性があります。
海水面の上昇により海岸の侵食が激化し、A. pembanaの海岸沿いの岩場に生えるものが失われています。また、気候変動により降水量の減少や熱波、干ばつなどの異常現象が頻発し、A. pembanaを弱らせています。


人為的な問題
しかし、Aloe pembanaの最大の脅威は人間の活動です。それは、農業開拓や伝統医学のための採取であり、将来の世代のための保全は行われていないため、絶滅の危機に瀕しています。
調査では回答者の97%がA. pembanaを伝統医学に使用していると回答しました。

葉の利用
A. pembanaを外用薬あるいは内服薬として利用する場合、いくつかの調剤方法があります。
主な方法は、A. pembanaの葉を細く切り、煮込んでから冷まします。患者はこの汁を1日3回、伝統医の指示に従って飲みます。A. pembanaの葉は、煮込むか3時間以上水に浸しておく場合もありますが、煮ると苦みが軽減されると言われています。この処方では、マラリア、腹痛、月経、中絶、糖尿病、血圧、ヘルニア、便秘、インポテンツ、出産時の鎮痛などのために使用されます。
A. pembanaの葉を叩いたりすり潰したものを、患部に1日2回、これを1週間から3週間塗布すると、徐々に症状が緩和します。主に炎症の治療に使用されます。また、A. pembanaの葉の樹液を、そのままあるいはココナッツオイルと混ぜてボディーローションとして皮膚病の治療に用いることができます。


花の利用
A. pembanaの花は、コクシジウム症、ニューカッスル病、アスペルギルス症、さらには感染性の気管支炎などのニワトリの急性熱帯病の治療に使用されています。A.pembanaの花を水に浸し、その水をニワトリに飲ませます。

アロエとジェンダー
男女に共通したA. pembanaの利用目的は、腹痛、血圧、便秘、糖尿病、解毒、マラリア、皮膚病、腫れ、潰瘍の治療でした。また、男性はヘルニアやインポテンツ、女性は月経や出産時の痛みに対して使用されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
実に様々な用途にアロエが利用されていることが分かります。実際の薬としての有効性は分かりませんが、生活の中にこれだけ浸透しているからですから、ペンバ島民にとっては重要な植物であることは間違いありません。また、Aloe pembanaと言うより、アロエ自体の効能からして、いくつかの効能は期待できそうではあります。しかし、この手の野生植物の薬効については、あくまで薬草的なポジションですから、劇的な効果は期待すべきではありません。
さて、論文でも指摘されていましたが、葉を採取する時に古い下の葉から取ればまだ良いのですが、新しい葉も無選別に採取してしまっているため、植物へのダメージが強いようです。
Aloe pembanaは島の固有種であり、他に存在しない稀有なアロエです。現在の野放図な利用を続けていれば、やがて絶滅してしまうでしょう。これだけその利用が一般的なら、Bowieaや矢毒キリンのように家の周りで栽培して、必要量を賄う方が良さそうです。果たしてこの貴重なアロエは、将来的な絶滅を避けることが出来るのでしょうか? 


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最近、Aloe bowieaと言うアロエを植え替えました。なので、A. bowieaについての記事を書いたりしました。


この論文ではA. bowieaを命名したHaworthは、南アフリカで植物を採取しキュー王立植物園に送ったJames Bowieの植物を記載したとありました。しかし、A. bowieaを採取したJames Bowieについての記述はそれだけでした。もとよりJames Bowieはキュー王立植物園が送り込んだ2人目のイギリス人プラントハンターでした。しかし、キュー王立植物園の派遣したプラントハンターと言えば初代のFrancis Massonが有名ですが、何故かJames Bowieについては言及されません。ですから、このJames Bowieの半生を振り返って見ましょう。参照とするのは、Gideon F. Smith & A. E. van Wykの1989年の論文、『Biological Notes on James Bowie and the Discovery of Aloe bowiea Schult. & Schult. (Alooideae: Asphodelaceae)』です。

2代目プラントハンター
Francis Massonは1772年よりキュー王立植物園のガーデナーとして働きはじめました。南アフリカへの派遣はJoseph BanksによりGeorge3世を説得して実現しました。Massonの忍耐力と熱意は誰にも負けないものでした。
James BowieはMassonの後継者として喜望峰に派遣されました。Massonが去ってから22年後のことです。Bowieはロンドンの種苗業者の息子でしたが、21歳近くになったBowieはキュー王立植物園に就職し、4年間ガーデナーとして働きました。1814年、Bowieと同僚のAllan Cunninghamは、植物の収集のためブラジルに派遣されました。その後、Bowieは喜望峰へ、Cunninghumはオーストラリアに派遣されることになったのです。


喜望峰へ
1816年9月28日、Bowieは「Mulgrave Castle」号に乗り、11月にTable湾に到着しました。到着から18ヶ月はケープタウン周辺の収集に専念しました。Bowieは主に園芸的な植物を栽培し、キュー王立植物園に送っていました。Bowieは1818年3月23日に南アフリカ内陸部への最初の収集旅行を開始します。この旅では西はケープタウンとCaledonから、東はKnysnaとPlettenberg湾までを探索し、海岸沿いのコースを通り、10ヶ月後にケープタウンに戻りました。Bowieは1819年1月14日にケープタウンに到着し、おそらくは3ヶ月ほどかけて収集した植物をキュー王立植物園に送るのに費やしました。

2回目の収集旅行
1819年4月9日、BowieはKnysnaに向かい、町の公証人であり開拓者でもあるGeorge Rexのもとに滞在しました。ちなみに、このRexはGeorge王子(後のGeorge3世)の嫡子であると言う根拠のない伝説があります。さて、RexはKnysnaで多くの博物学者を迎えています。BowieがMelkhoutkraalで採取した植物の1つに献名されており、Streptocarpus rexiiがあります。BowieはRexの同行により1820年1月22日にケープタウンに戻りました。

3回目の収集旅行
Bowieの3回目の旅は、Bushmans川、KowieとGrahamstownまで東に向かいました。時期的にはBowieが2回目の旅から戻ってすぐと考えられます。1820年3月9日にはKnysnaに来ていました。RexがケープタウンからKnysnaまで同行しました。約1年間続いた3回目の旅はさらに東へ向かいました。1821年1月15日にAlgoa湾から出航し、1月29日にはTable湾に到着し5月23日まで滞在しました。

4回目の収集旅行
1821年5月24日、Bowieはケープタウンから出航し、6月5日にAlgoa湾に到着しました。当時、あまり知られていなかった植民地の東部と南東部をより徹底的に探索し、North-East Cape州にまで進みColesberg付近で植物を採取しました。
Bowieは1822年6月1日から9月22日までRexと共にKnysnaに住み、やがて陸路でケープタウンに戻りました。

訃報
1820年6月19日、Bowieらを支援していたBanks卿が亡くなりました。その2年後、下院においてBowieのような収集家への支給額を半減させることが決定されました。これにより、CunninghumかBowieのどちらかを呼び戻すこととなりました。どうやら、Bowieの節制を怠る癖と、収集任務に対する忍耐力の無さから、Bowieが呼び戻されることになりました。
1823年5月23日、アフリカ大陸部への4回目の航海から6ヶ月後、「Earl of Egremont」号に乗りケープタウンからイギリスに向け出航しました。St. Helenaで休憩した後、1823年8月15日にロンドンに到着しました。


帰還
Bowieはキュー王立植物園に雇われず、収集した植物標本を作る作業に費やしました。夜はパブでケープやブラジルでの冒険などを自慢したと言います。こうした飲酒のせいで、Bowieはアルコール中毒になってしまいました。イギリスで無為に4年間を過ごした後、自然史標本の収集家になるべく1827年4月に「Jessie」号で南アフリカに向かいました。

再び喜望峰へ
ケープタウンに移住してから約9年後の1836年までに、BowieはKloof StreetのCarl von Ludwig男爵のガーデナー兼収集家として雇われたようです。この契約は5年と続かず、1841年までに園芸指導や検査、集めた植物の販売でわずかな生計を立てていました。
Bowieは南アフリカに戻ってからの42年間、ケープで非生産的な生活を送りました。自然史標本の輸出をしていたVillet and Sonの事業を継ごうとして失敗し、ケープの植物園の学芸員になる希望も叶いませんでした。その後、ケープバルブの販売で生計を立てようとするも失敗し、苗床のための土地取得すら出来ませんでした。
晩年は健康状態が悪化し、慈善活動としてケープタウンのRalph H. Arderneの素晴らしい庭園の庭師として雇われました。James Bowieは1869年7月2日に亡くなり、ケープタウンに埋葬されました。Bowieが収集した標本は、今でも大英博物館とキュー王立植物園に保管されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約となります。論文ではJames Bowieに献名された、Bowiea africana(=Aloe bowiea)の命名に関する議論が展開されますが、今回は割愛しました。
しかし、当時は移動手段も限られており、植物を収集するために僻地に入るプラント・ハンターは命懸けでした。東アジアで活躍した有名・無名のプラント・ハンターたちについて書かれた本を読んだことがありますが、病気で客死したり、中にはトラブルに巻き込まれて殺害されるケースもありました。大抵は道なき道をゆく冒険的なもので、時代的なものを加味すれば大変な辛苦があったでしょう。James Bowieの旅については分かりませんが、舗装された道路を何の苦労もなく自動車で移動したわけではないはずです。その苦労の結果はと言うと、正直あまり明るいものではありませんでした。しかし、Aloe bowieaの学名の中にBowieの名前は残っており、この名前はこれからも使われ続けます。さらに、Bowieの残した標本は貴重な資料として、将来行われる研究を支えるはずです。Bowieの後半生は無念であったかも知れませんが、その名前はいつまでも語られていくでしょう。


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アロエは種類が多く外見的にも非常に多様です。2010年代に遺伝子解析の結果から、樹木状のアロエであるアロイデンドロンやブッシュ状のアロエであるアロイアンペロス、二葉性アロエのクマラ、三葉性アロエのゴニアロエ、さらにアリスタロエがアロエ属から分離されました。しかし、それでもなお、アロエの多様性は失われておりません。特に小型アロエは非常に独特の形態のものがあり、あまりアロエには見えないものもあります。さて、そんな小型アロエの中でも、独特の進化を果たしたAloe bowieaについてのお話です。参照とするのは、Gideon F. Smithの1990年の論文、『Neotypification of Aloe bowiea (Aspbodelaceae: Alooideae)』です。タイプを巡る論考ですが、A. bowieaの経緯が分かる興味深い論文です。

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Aloe bowieb
一見してアロエには見えない小型のアロエです。強光は苦手でハウォルチアと並べて育てています。

Aloe bowieaの歴史
A. bowieaを初めて命名したのはHaworth(1824年)で、Bowiea africanaと命名されました。しかし、HaworthはB. africanaを記述した際(1824年、1827年)に、標本を引用しておらず、タイプ化されていません。その後、Schultes & Schultes(1829年)によりAloe bowieaと命名されました。さらに、Berger(1905年)は単系属であるChamaealoe africanaとしました。現在では、Aloe bowieaが正しく、B. africanaやC. africanaは異名とされています。

タイプ標本
ICBN(国際命名規約)によれば、科以下のすべての分類群には命名上のタイプが必要です。分類群を命名した著者(命名者)がホロタイプを指定しなかった場合、あるいは後に紛失や破損した場合はレクトタイプあるいはネオタイプを代わりに指定する必要があります。タイプは命名した資料の指定した標本や図版です。
しかし、Haworthの命名したBowiea africanaは、標本の引用や図解に対する記述はありません。さらに、Haworthの記述には、この種を確立した材料にも言及していません。そのため、この論文でAloe bowieaはネオタイプ化されます。

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根は根元が太くゴボウ根です。

資料探索
1700年代後半から1800年代前半にかけて、Adrian Hardy Haworth(1768-1833)はイギリスの多肉植物の第一人者でした。AloeやMesembryanthemumなどで沢山の新種を記載しました。Haworthが亡くなった時、チェルシーにあるコレクションには1000株あまりの多肉植物が栽培されていました。Rowley(1951)はHaworthのコレクションの一部は今日まで残っていると述べています。N.E. BrownとW.W. SaundersはHaworthのコレクションのクローンを多肉植物コレクターのJohn Thomas Batesなどに配布しました。Batesのコレクションは現在は科学的に管理されていますが、これらがHaworthの記述した植物であるかを証明出来ません。また、HaworthはオクスフォードのHenry Barron Fieldingに販売した植物標本についてもまとめられていますが、Fieldingは標本を研究に使用した後にそのほとんどを捨ててしまいました。このHaworth由来の標本はオクスフォード大学のFielding-Druce Herbariumに残っていますが、Aloe bowieaはありませんでした。また、Haworthは記載した植物を必ずしも標本としていたわけではないかも知れません。

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Aloe bowieaの花
アロエには珍しい白花です。大型のアロエの花は橙色系統で蜜を求めて花を訪れる鳥が受粉を担う鳥媒花です。しかし、小型アロエの中には白色や淡いクリーム色などの花を咲かせるものがあり、虫媒花である可能性があります。また、この雄しべが突き出す形状はアロエの中では特異的で、Section GraminialoeのSubsection Bowieaeと言うA. bowieaのみからなるグループに分けられています。


タイプを探す
Haworthはキュー王立植物園のW.T. Aitonの友人で、Haworthの記載した新種の多くはここに由来します。当時、喜望峰からJames Bowieが採取しキュー王立植物園に送った新種を受け取ったはずです。Bowiea africanaがキュー王立植物園に受け入れられた1822年に、エディンバラ王立植物園の若いガーデナーであるThomas Duncansonが、キュー王立植物園でまだ描かれていない植物画を描くことを目的とした画家に任命されました。1822年から1826年にかけて700点以上の植物画を描き、そのうち350点は多肉植物でした。Duncansonの植物画のうち、アロエ類の植物画は70枚以上あり、Bowiea africanaの絵を含んでいました。おそらくDuncansonにより「1822年に喜望峰でBowie氏から受け取った」と言うメモが添えられていました。
多くの場合、キュー王立植物園で受理された新種は記載される前に図版が描かれます。そのため、Haworthは記載前にDuncansonの描いたBowiea africanaの植物画を見た可能性があります。これらのことから、Duncansonの描いたBowiea africanaの植物画をAloe bowieaのネオタイプ(イコノタイプ)として指定します。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
古い時代に命名された植物は、タイプ標本が行方不明だったり、第二次世界大戦で焼失したり、類似種が混入していたり、今回のようにそもそも指定されていない場合もあります。タイプ標本が必要であると命名規約で決められましたが、それ以前のものにはタイプ標本があるかは分からないと言うことになりました。あまりに古いと、タイプ標本が指定されたのか否かから調べなくてはならない羽目になります。この論文もまずはタイプの指定の有無から調査され、タイプが指定されていないことが確認されました。そのため、著者は新たにタイプを指定しました。
しかし、考えてみれば、1753年のCarl von Linneから始まり、恐ろしいほどの種類の植物が記載されたわけで、タイプがあるか否か不明なものばかりでしょう。そのすべてを調査し、指定可能な古い資料が存在するかも調査し、それらをまとめて論文にして公表しなければなりません。非常に地道で時間がかかる作業です。このような論文は地味で退屈に思えますが、生物学的には重要です。私もこのような論文は毎度、頭が下がる思いでおり、積極的に記事にしています。今後も見つけ次第、記事にしていく予定でおります。


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一見して不毛にも思える崖地にも植物は生えています。かなり厳しい環境であることは想像されますが、意外にも崖に生える植物は世界中で見ることが出来ます。日本でも崖地にはシノブなどの着生性のシダ植物が沢山ついていることは珍しいことではありません。日本の環境だと多雨で湿度も高く、着生シダだけではなく、岩の亀裂や積み重なる苔を土台に様々な植物が生えてきます。海沿いの陽光を遮ることのない崖地にはツメレンゲOrostachys japonicaが生えますが、日本では崖地の乾燥に耐える多肉質な植物は稀と言えます。しかし、海外の乾燥した崖地にも多肉植物は沢山生えています。サボテンでも菊水Strombocactus disciformisなど崖にへばりつくように生えるものもあります。南アフリカではGasteriaなど崖地に生える植物は豊富です。
さて、本日は先ずは序論として、崖地に植物が生えると言うことは一体どういうことなのかを見ていきたいと思います。今回はIsaac Lichter Marckの2022年の論文、『Plant evolution on rock outcrops and cliff: contrasting patterns of diversification following edaphic specialization』を参照にしましょう。

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dadleya arizoniaca
ダドゥレヤは北米の代表的な崖地植物の1つです。

崖地の困難
植物が崖の裸岩上で育つためには、風の曝露、基質の垂直性、紫外線の増加、乾燥、土壌の水分の減少、土壌や主要栄養素の不足など、複数の課題を克服する必要があります。さらに、草食動物の増加、花粉媒介者の減少、菌根の欠如などの生物間の相互作用も生育を困難なものとしています。
裸岩への適応として考えられるのは、ストレスに強い葉(密生した毛、小さく蝋質な葉、葉が少ないなど)、狭葉性、自家和合性への移行、抗草食動物防御の強化などです。


特殊化する種子の散布
崖に生息する植物の多くは、種子散布が低下する選択を受けているようです。これは、種子散布性の喪失により、風で拡散する風散布種子や動物に付着して拡散する付着散布種子に適応しない乾燥した果実が残ります。分散性の低下の極端な例として、北アメリカ西部の岩石特化植物は異なる系統でも、果実が成熟すると花柄が後ろに曲がり、親植物の後ろの岸壁に付着するものがあります。分散性の低下は拡散された種子の生存率が低いことに起因するのかも知れません。

Trade offの関係
裸岩への適応は長い議論の末、その説明としてtrade-offが浮上しました。trade-offはある環境への適応が他の環境における生長にコストをかける場合に発生します。裸岩に生える植物の場合、裸岩における生存に有利な形質に投資したため、エネルギーコストが高く生長が遅いため、裸岩ではない環境では他の植物により排除されます。その間接的な証拠として、裸岩上に生える植物は極めてゆっくりと生長し、驚くほど長生きなものもあります。また、他の生息地では不利なタイプの特殊な根を持ちます。

多様性のパターン
過酷な環境への特化が他の過酷な環境に適応する可能性があることは昔から指摘されてきました。例えば、Daniel Axelrod(1972)はブラジルの大西洋熱帯雨林を訪れ、裸の砂岩の露頭にAcasiaやOpuntiaなどの砂漠特有の干ばつ耐性植物が生えているのを観察しました。この観察に基づいてAxelrodは、北米の砂漠植物相は密集した植生の中の乾燥した微小環境に適応した干ばつ耐性植物から派生したものであると提唱しました。

進化の罠仮説と進化の行き止まり仮説
種レベルの分子系統から、岩石特化植物は主に2つのパターンが示されています。一方では進化的に隔離された、一般的な環境に生える種に近い系統があります。例えば、monkeyflower(ハエドクソウ科)の中には、western great basin(Diplacus rupicola)とコロラド高原(Erythranthe eastwoodiae)で、それぞれ独自に進化した岩石特化植物があります。それらは、近隣に生える通常種に近縁です。これは、進化の罠(evolutionary traps)仮説と一致します。進化の罠仮説は、裸岩への適応には不可逆的な複雑な表現型の変化が必要であるため、その進化は不可逆的となってしまいます。さらに、このパターンは進化の行き止まり(dead-ends)仮説とも一致する可能性があります。岩石への特殊化は、長い時間スケールでは絶滅率が上がる危険な戦略であり、系統学的に孤立します。

群島種分化仮説と生態学的開放
他方では裸岩環境に限定された近縁種を含むものです。例としては南アフリカのマンネングサ類(ハマミズナ科)やPitcarnioid Bromeliads(パイナップル科)、北アメリカ西部のrock daisy、Holarctic温帯環境(temperate enviroment)のユキノシタ属(Saxifraga)が挙げられます。これは、群島種分化(archipelago speciation)仮説と一致します。海洋島の植物で見られる(生殖的隔離の)パターンで、地理的な岩の露頭の断片化により進化が促進されます。さらに、競合しない仮説として、生態学的開放(ecological releare)が考えられます。裸岩の固有の土壌の性質は、過酷な砂漠や冷温帯バイオームなどストレスの多い環境への生態学的移行のための強力な進化的な前触れになる可能性があります。ストレス耐性を得たことにより、競争が少ないため放散の機会が多い、他のストレス環境への移行が可能となるのです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日は崖地に生える植物の基本的な生態のメカニズムをご紹介しました。後半の生態学的開放とは、個体数の増加を制限している要素から開放された場合、爆発的に個体数が増加するパターンを指します。例えばニホンオオカミの絶滅によりシカの個体数の増加に歯止めがかからないといった場合が一般的です。崖地の植物の場合は、崖地の過酷な環境に適応した結果として、その他の過酷な環境への進出が可能になるかも知れません。その他の過酷な環境は、その過酷さゆえ生態的に空白となっており競争が少ないか存在しません。そのため、その空白地に進出することができれば、一気に個体数を増やすことが出来るかも知れないのです。
ただし、あまりに特殊化した場合、後戻りは出来なくなり進化的に袋小路に陥る可能性もあります。栄養や水分などが豊富な植物の生育に適した環境は、激しい競争の世界です。素早い生長や効率的な繁殖戦略が必要となります。この競争に勝ち続けるためには、常に進化の最前線にいなくてはなりません。対して、崖地に適応した植物は、緩やかな生長や特殊化した繁殖戦略をとるため、激しい競争の世界ではあっという間に滅びてしまうでしょう。しかし、激しい競争の世界では、少しの環境の変化で優劣は簡単に入れ替わり、種の構成は猫の目のように変わるかも知れません。対する崖地の植物は、競争の少ない環境で安定したニッチを占めることが出来るのです。


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変わった見た目をしているドラゴンフルーツの果実を見かけるようになったのは、いつ頃のことだったでしょうか。20年くらい前はかなり珍しい果物だったような気がします。いつでもどこでも販売しているわけではありませんが、今ではドラゴンフルーツ自体はすごい珍しいものではなくなりました。沖縄でも栽培されているみたいですし、あまり見かけないのはあくまで需要と供給の話だからなのでしょう。

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Hylocereus undatus(上)

さて、そんなドラゴンフルーツですが、これはいわゆるサボテンの実ですが、ドラゴンフルーツは我々趣味家にとっては馴染み深いサボテンだったりします。なぜなら、ドラゴンフルーツとはいわゆる「三角柱」と呼ばれているサボテンのことだからです。葉緑体がない緋牡丹を三角柱に接ぎ木したものを皆様も見かけたことがあるはずです。まあ、三角柱は永久台木にはならず、寒さに弱く腐るのであまり台木としては人気がないかも知れません。
本日は原産地であるメキシコにおける、三角柱=ドラゴンフルーツの受粉に関する研究をご紹介したいと思います。それは、A. Valiente-Banuetらの2007年の論文、『Pollination biology of the hemiepiphytic cactus Hylocereus undatus in the Tehuacan Valley, Mexico』です。早速、見ていきましょう。

Hylocereus undatusとは?
メキシコ南部から中米北部に拡がるメソアメリカ文化では、サボテンが栽培されていました。メソアメリカ人が使用した118種類のサボテンのうち、約40種類は様々な程度で家畜化されており、現在でも先住民族により広く栽培されているものもあります。それらの中でも、半着生サボテンであるHylocereus undatusはその装飾的価値と食用となる果実のためにメキシコ全土で高く評価されています。H. undatusはメキシコ、西インド諸島、中米、南米北部の熱帯落葉樹林に自生します。また、カンボジア、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、メキシコ、ニカラグア、ペルー、台湾、ベトナムで、果実生産のために栽培されており、近年ではオーストラリアやイスラエル、日本、ニュージーランド、フィリピン、スペイン、米国でも栽培されています。

Hylocereusの受粉生物学
H. undatusは作物としての重要性のため、園芸学的にあるいは生態生理学的に広く研究されています。HylocereusとSelenicereusの受粉生物学的研究のほとんどは、温室環境下で実施されています。それらの研究によると、花は夜行性で一晩だけ開花し、コウモリや大型のスズメガが訪れます。H. polyrhizusとH. costaricensisは自家不和合性であり、結実には他家受粉が必要です。過去の報告によると、H. undatusは自家受粉では自然と結実はせず、人工的に自家受粉させるとその結実率は50〜79.6%に低下します。ちなみに、他家受粉では100%結実します。一方、Selenicereus megalanthusは自家和合性があり、自然状態でも自家受粉し結実率は60〜73%、人工的に自家受粉させると結実率は100%でした。この2種類の受粉システムの違いは、自動自家受粉(自然状態での自家受粉)を妨げたり可能とする葯や柱頭の位置と形態の違いによるものでしょう。

実験方法
メキシコ中南部のTehuacan渓谷では、現地で「pitahaya」と呼ばれているH. undatusが広く栽培されており、地元の人々によると古くから栽培されてきた作物と言うことです。現在、pitahayaの果実の生産と商品化は重要な経済活動の一部です。pitahayaは茎の一部を樹木の根元に植えるだけで、家庭菜園で沢山の果実がとれます。この地域の果実生産は非常に効率的です。それは、地元の人々による植え付けによる遺伝的な影響のためか、単に自家不和合性があるためであるのかは不明です。
そこで、著者らはこの
Tehuacan渓谷で、果実における自家受粉の役割と、夜行性および昼行性の花粉媒介者の重要性を決定するために調査を実施しました。花を夜間だけあるいは日中だけ袋をかけ、花粉媒介者の訪問を制限しました。さらに、著者らの手による自家受粉させたものと、袋をかけず自由に受粉させたもの、常に袋をかけたものも試験しました。受粉した果実が成熟したら回収し、分析しました。

観察
調査地におけるH. undatusの花は約17時に開き始め、11時頃に閉じ始めました。分析した花のすべてから花蜜は検出されませんでした。花は長さ平均34.5cmで、花の先端部から蜜室までの長さは平均29.95cm、外径は平均13.6cmでした。
野外調査では3種類のコウモリが捕獲され、付着したH. undatusの花粉が調べられました。うち、2種類のコウモリは付着した花粉が豊富でした。日中にはミツバチの訪問が観察されましたが、夜間は昆虫は採取されませんでした。

結果
人工的に受粉させた自家受粉の場合は53.8%の結実率でしたが、常に袋がけした自家受粉の場合は100%の結実率でした。袋をかけない場合は100%結実しましたが、夜間だけ袋を外した場合は76.9%の結実率、日中だけ不安定を外した場合は46%の結実率でした。
人工的に受粉、あるいは袋がけした自家受粉で100%受粉したと言うことは、花粉媒介者がいなくても結実出来ると言うことです。これは、自家受粉では結実せず、人工的な自家受粉では結実率が下がるとしたWeiss et al. , 1994の結果とは異なります。イスラエルにおけるH. undatusの果実の商業生産に関する報告(1999, 2000)では、果実の生産には人工受粉が必要であるとしています。これらの違いはクローンの違いに起因する可能性があり、調査する価値があります。
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、その商業生産にとっては重要です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、明らかにその果実の商業生産にとって福音となるでしょう。しかし、その性質の違い、おそらくはクローンの違いはですが、どのようにしてもたらされたのでしょうか。茎節を挿し木して増やすTehuacan渓谷の人々の長いH. undatus利用の過程で生まれたことは明らかかも知れませんが、あるいは選抜された過去が隠されているのかも知れませんね。
さて、
Tehuacan渓谷のクローンは自家受粉するため必ずしも花粉媒介者は必要ありませんが、一般的には人工受粉させるか花粉媒介者が必要です。今回の調査では夜間に花を訪れるコウモリが主たる花粉媒介者と比定されます。花蜜はないので花粉を食べに来ているのでしょう。また、H. undatusの花は夜間に開花しますが、明け方から11時位までは開いているため、ミツバチも訪れ受粉に寄与していることが分かります。果実の効率的な生産には自家受粉する性質は便利ですが、やはり他家受粉により多様な性質が現れることは、野生のH. undatusには必要なことでしょう。
最後に補足情報で終わりましょう。かつてドラゴンフルーツはHylocereus undatusなる学名で呼ばれておりましたが、近年Selenicereus undatusとなり、HylocereusはSelenicereusに吸収されてしまいました。これはHylocereusが遺伝的にSelenicereusと区別出来ないと言う研究成果に基づいています。



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植物は育てていると、稀に生長点が異常になる「帯化」が起きることがあります。これは石化とも呼ばれますが、サボテンでも綴化と呼ばれ珍重されています。さて、園芸的には帯化は肥料過多が原因なのではないかと言われているようですが、その実態はよく分かりません。帯化の直接の原因は生長点の異常ですが、その異常を引き起こす原因がよく分からないのです。以前、Gymnocalycium vatteriのトゲがアレオーレではない場所から出る突然変異の報告を読んだことがあります。その報告は写真がメインで、特に考察や原因の特定がないため、記事にはしませんでした。しかし、関連論文として、サボテンの生長の異常に関するものがあったため、今回ご紹介することにしました。それは、Vladimir A. Basiukの2013年の論文、『Teratopia in Cactaceae Family: The Effect to Temperature』です。

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Ferocactus wiskizenii forma cristata
『Saguaroland Bulletin』(1954)より。

生長異常を起こすサボテン
著者の約350株のサボテンコレクションを詳しく調べ、どのような種類の生長異常が見られたかを要約しました。著者のサボテンの育成環境は、アルミニウム温室です。場所は北緯18.55°(※1)、標高は約1500mですから日射量は強いことが分かります。温室は遮光率70%のネットにより、特に午後の強い日射から守られます。日中の気温は高く軽く40℃を超え、これは夏でも冬でも起こります。また、温室のサイズが小さいことに加え、動物からサボテンを保護するために、入口は閉じ続けなければなりませんでした。小さな2つの窓は換気にはほとんど意味がありません。

※1 ) 著者はメキシコの大学に所属しています。

化学的、あるいは物理的な異常を誘発する試みは行われず、殺虫剤や肥料の過度の使用は控えられました。以上のことから、著者はサボテンに起こる生育異常を引き起こしているのは、高温の影響ではないかと考えています。

Case 1 稜の変異
約4年前にAstrophytum myriostigmaに出た2つの花芽は開花せず、数ヶ月後に不規則な形の新芽に変わりました。約1cmほどになったタイミングで切り取り、Opuntia compressaに継ぎました。その形状は1つは「複隆」、もう1つは「Lotusland」として知られるものと同じです。
悪い条件で花芽が子株に変換されることは珍しくありませんが、このような複雑な形態になることはほとんどありません。


Case 2 花芽から子株へ
Gymnocalycium baldianumで花芽が子株に変換されました。子株には萼片がありますが、次第にトゲのあるアレオーレが発達します。やがて、子株から花を咲かせました。しかし、中には新たに花芽を付けるのではなく、生長点がそのまま花芽に変化したものもありました。この場合、子株と花芽は一体化しており、はっきりした境界はありません。これは、子株が花芽に回帰し誤りを正そうとした例かも知れません。やがて開花しましたが、柱頭や雄しべの形態には異常が見られました。開花後も子株と一体化した花は落ちずに残りました。

Case 3 モンスト
Copiapoa tenuissimaやCopiapoa lauiのモンスト(monstrose)は古くから知られており、広く商品化されています。これらは接ぎ木により容易に増やせますが、通常のサボテンからどのように出現するのか観察した栽培家は非常に少数です。著者はモンストが一般的ではないEriosyce esmeraldanaでモンストの発生を観察しました。この個体は種子から育てられ、約26年経ちます。すでに2つの子株を作りましたが、3つ目は大量の羊毛状の毛に覆われて分頭を繰り返すようになりました。

Case 4 双結節
著者の育てているAriocarpus retususは、18年前に直径15cmくらいで入手しました。2007年までは異常は見られませんでしたが、それ以降は結節(疣)が2つあるいは3つに分かれています。これは、やがて例外ではなく規則となりました。

Case 5 綴化
Rebutia heliosaやRebutia rauschii、Parodia haselbergiiは生長点が帯化し始めました。

最後に
論文を読んでいて意外に思ったのは、これらの変異が遺伝的な突然変異ではないということです。綴化は物理的な生長点の障害だろうと考えていましたが、複隆やモンストも遺伝的なものではないのです。もちろん、遺伝的な変異でも突然変異体は誕生する可能性はありますから、そのすべてがそうであるとは限らないでしょう。しかし、論文のケースを見るにつけ、おそらくこのような変異体は物理的な障害の方が発生しやすいはずです。さらに、サボテンは接ぎ木により容易に増やせますから、一度変異が発生したならば無限に増やすことが出来ます。と言うことは、このような変異体を交配に用い、新たな変異体を作出することは難しいかも知れませんね。今回の論文は瓢箪から駒のような感じでしたが、サボテンの理解において意外と重要な観察がなされているように感じます。私のような趣味家にとっても非常に関心がある内容でした。


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かねてより、ベンケイソウ科植物の分類について幾度か記事にしてきました。遺伝子解析による分子系統の結果として分かったことは、形態と遺伝子の不一致でした。EcheveriaやGraptopetalumはSedumと分離することができません。ですから、将来的にはエケベリア属がセダム属に吸収されるか、あるいはセダム属が細分化されて新たに命名される可能性があります。さて、本日はベンケイソウ科の仲間であるクラッスラ属を中心とした分類について取り上げます。それは、Hengwa Dingらの2022年の論文、『Ten Plastomes of Crassula (Crassulaceae) and Phylogenetic Impactions』です。内容的には解析方法やゲノムの特徴、進化的な考察も含みますが、今回は分子系統のみを見てみましょう。

分子系統
ベンケイソウ科は大きく3亜科に分けられます。クラッスラ亜科はClade CrassulaからなりCrassulaのみを含みます。カランコエ亜科はClade Kalaochoeからなり、CotyledonとKalanchoeを含みます。センペルビブム亜科はClade Sempervivum、Clade Leucosedum、Clade Acre、Clade Aeonium、Clade Telephiumからなります。

      ┏━━Sempervivum亜科
  ┏┫
  ┃┗━━Kalanchoe亜科
  ┫
  ┗━━━Crassula亜科

クラッスラ亜科
クラッスラ亜科はクラッスラ属からなりますが、2つの亜属に分けられます。また、以下に示す名前は、論文で調べられた種類と言う意味で、以下のものしか含まないと言う意味ではありません。
ちなみに、Tillaeaはクラッスラ属に吸収された模様です。
Crassula亜属
C. alstonii、C. columella、C. dejecta、C. mesembrianthemopsis、C. tecta、C. mesembryanthoides、C. socialis、C. perforataからなります。
Disporocarpa亜属

C. volkensis、C. expansa ssp. fragilis、C. deltoideaからなります。

カランコエ亜科
カランコエ亜科はカランコエ属やコチレドン属からなります。一般的にAdromischusとTylecodonを含みます。

センペルビブム亜科
センペルビブム亜科は5つの分岐群(Clade)に分けられます。

  ┏━━━━Clade Telephium
  ┫
  ┃    ┏━━Clade Aeonium
  ┃┏┫
  ┃┃┃┏━Clade Acre
  ┃┃┗┫
  ┗┫    ┗━Clade Leucosedum
      ┃
      ┗━━━Clade Sempervivum

Clade Telephium
論文ではClade Telephiumは、Rhodiola+Phedimusのグループとそれ以外に分けています。論文ではRhodiolaは28種類、Phedimusは6種類と割と詳しく調べています。分子系統にオロスタキスが2箇所ありますが、①の方が本来のオロスタキスのようです。ここでは、O. minuta、O. japonica、O. fimbriataが調べられています。②の方はO. iwarenge f. magnaですが、論文ではSubsection Appendiculataと表記されていました。

      ┏━━━━Rhodiola
  ┏┫
  ┃┗━━━━Phedimus
  ┫
  ┃            ┏━Orostachys①
  ┃        ┏┫
  ┃        ┃┗━Meterostachys
  ┃    ┏┫
  ┃    ┃┃┏━Hylotelephium
  ┃┏┫┗┫
  ┃┃┃    ┗━Orostachys②
  ┃┃┃
  ┃┃┗━━━Sinocrassula
  ┗┫
      ┗━━━━Umbilicus


Clade Sempervivum
論文では調べられたのはS. tectorumだけです。ちなみに、Jovibarbaはセンペルビブム属に吸収された模様です。

Clade Aeonium
論文ではアエオニウム分岐群はAeoniumが9種類とMonanthesが4種類調べられています。アエオニウムとモナンテスはきれいに分離されているように見えます。しかし、Thibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、モナンテスは一部がAichrysonのグループに紛れ込んでいます。さらに、セダム属が数種類混入していました。

Clade Leucosedum
論文ではレウコセダム分岐群は、Rosularia alpestrisを調べただけのようです。レウコセダム分岐群はアクレ分岐群と共にセダム属の中心です。前述のThibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、セダム属にPrometheumが分離しがたい形で混入しています。ちなみに、Leucosedumはセダム属に吸収された模様です

Clade Acre
アクレ分岐群はアエオニウム分岐群と姉妹群で、レウコセダム分岐群とセンペルビブム分岐群と合わせて、1つのグループを形成します。アクレ分岐群はレウコセダム分岐群と同様にセダム属の中心ですが、論文ではPachyphytumやEcheveria、Graptopetalumがセダムに埋もれるように存在します。
★印がついたグループはセダム属を含んでいますが、レウコセダム分岐群やアエオニウム分岐群にもセダム属が含まれると言う事実は、エケベリア属やパキフィツム属、考え方次第ではアエオニウム属もすべてセダム属に含むべきではないかと言う疑念が浮かびます。もし、エケベリアやアエオニウムの名前を温存したいと考えるならば、セダム属を解体する必要があります。例えば、セダム②を本来のセダム属とし、セダム①やレウコセダム分岐群に含まれるセダム、アエオニウム分岐群に含まれるセダムはセダム属から分離させ、新たに新属とするか近縁属に属を移動する必要性があります。

  ┏━━━━━━Clade Sempervivum
  ┃
  ┫            ┏━━★Sedum①
  ┃        ┏┫
  ┃        ┃┃    ┏Graptopetalum
  ┃        ┃┃┏┫
  ┃    ┏┫┃┃┗Echeveria
  ┃    ┃┃┗┫
  ┃    ┃┃    ┗━Pachyphytum
  ┃    ┃┃
  ┃    ┃┗━━━★Sedum②
  ┃┏┫
  ┃┃┗━━━━★Clade Leucosedum
  ┗┫
      ┗━━━━━★Clade Aeonium


分類学の基本的な考え方として、以下のような3つのグループがあった場合、A、B、Cと言う3属に分けるか、A+BとCの2属に分けるか、A+B+Cで1つの属にまとめるか、いずれかになります。今回の件では、AとCがセダム属でBがエケベリア属となります。つまり、セダム属を解体するか、エケベリア属をセダム属に吸収させるかしか選択肢はないと言うことです。

      ┏━━A
  ┏┫
  ┃┗━━B
  ┫
  ┗━━━C

最後に
すでに過去の論文で、エケベリアの不安定な分類学上の位置やセダムの混乱について判明しています。ですから、今回取り上げた論文で再確認出来たことは、疑念を確証へ私の認識を変えることになりました。さて、ではなぜセダムやエケベリアは分子系統に従い再整理されないのでしょうか? しかし、そのためには変更するすべての種について、学名と異名、その記載論文、新しい名前などを列挙する必要があります。それには、セダム属が混入するベンケイソウ科の分類群についてすべて調べ、そのすべての名前を列挙する羽目になります。相当な大仕事になるでしょうから、なかなか難しいでしょう。現状のベンケイソウ科植物の分類は、喉に刺さった小骨の如く、どうにも収まりが悪く気になります。私の目の黒いうちに解決してくれると助かるのですが難しいですかね?


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蘇鉄(Cycas revoluta)は我々日本人にとっては馴染みが深い植物です。蘇鉄を蘇鉄と認識していない方もおられるかも知れませんが、実は宅地を歩けば何気なく蘇鉄が植えられていたりします。蘇鉄の仲間、いわゆるCycadは世界中に分布しますが、そのほとんどは非常に数が減少し絶滅危惧種となってしまっています。ですから、日本の蘇鉄が日常に溶け込む風景は世界的には珍しい光景と言えるでしょう。しかし、この日本各地に植えられた蘇鉄は移植されたもので、その起源は辿って行けば九州以南の暖地と言うことになります。蘇鉄の葉などをフラワーアレンジメントなどの素材として一般的に流通していますが、本来の自生地での利用はいかなるものなのでしょうか。私などは沖縄で蘇鉄の種子を救荒作物として利用したと言うことぐらいしか知りません。また、一般的に蘇鉄の種子は有毒ですから、アク抜きしないといけないことも分かります。しかし、その方法はどのようなものなのでしょうか。日本では縄文時代からドングリやテンナンショウの芋をアク抜きして食べていたようですが、何か関連はあるのでしょうか。
さて、以上のような疑問に衝き動かされて調べてみたところ、Takako Ankei(安渓貴子)の2023年に論文、『Traditional Methods of Cycad Detoxification in Amami and Okinawa: Historical origins of their biocultural diversity among the island』を見つけました。非常に興味深い内容ですから、少し内容を見てみましょう。

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Cycas revoluta

蘇鉄を食べた症例
1970年代に大学生だったSさんは、初めて西表島を訪れキャンプをしました。蘇鉄の赤い実が沢山なっていたのを見て、島の子供たちに「これ食べていい?」と尋ねたところ、子供たちは「はい!」と答えたそうです。Sさんは、蘇鉄の実を割って白い胚乳を炊飯器で炊いて、夕飯に食べました。炊いた蘇鉄の実は栗のような味がしたといいます。他の食べ物が乏しかったため、Sさんは蘇鉄の実を沢山食べました。真夜中、Sさんは激しい嘔吐に見舞われましたが、幸運にも自力で島の診療所までたどり着くことが出来ました。症状は入院が必要なほど重篤ではありませんでしたが、場合によっては致命的だったかも知れません。島の子供たちに悪意はなく、蘇鉄の実は解毒しないと食べられないと言うことを知らなかったのでしょう。
Sさんはこの事件にめげずに中学校の教師として西表島に永住しました。Sさんの貴重な経験が多くのことを教えてくれます。例えば、蘇鉄の実は煮沸してもその毒性は持続すること、蘇鉄の実の味はそれが有毒であることを教えてくれないこと、症状は摂取から数時間以内に発生することなどです。Sさんは嘔吐により、蘇鉄の実を吐き戻したことから命を救われました。
第2次世界大戦の最中、沖縄諸島では蘇鉄の毒性や解毒方法を知らない日本本土から来た兵士が、蘇鉄中毒で多くの死者を出したと言います。渡嘉敷島や竹富島でそのような事例を聞いたことがあります。

蘇鉄の有毒成分
蘇鉄の有毒成分は、cycasinと言う配糖体です。腸内の微生物の酵素によりcycasinから糖が取り除かれ、methylazoxymethanolと言う生成物が出来ます。methylazoxymethanolは容易に分解し、diazomethaneとホルムアルデヒドとなります。diazomethaneは不安定で、水と二酸化炭素、窒素を分解します。ホルムアルデヒドは摂取すると急性毒性を起こします。また、methylazoxymethanolとdiazomethaneには発ガン性があります。

遺伝的要素
前田芳之は奄美で長年に渡り蘇鉄の研究と販売に携わっていたプロの庭師です。彼が蘇鉄を束ねて出荷する際に、奄美の蘇鉄の葉は曲がりにくく、宮古や八重山など南方の蘇鉄は折れてしまいました。この記述を元に、Kyoda & Setoguchi(2010)は奄美と沖縄の蘇鉄の遺伝子解析を行いました。その結果、遺伝的に2つに分けられることが分かりました。また、台湾の蘇鉄(Cycas taitungensis)と比較するとC. revolutaは遺伝的多様性が低いことが明らかとなりました。これは、第四紀の間氷期に水位の上昇により水没がおきたため、遺伝的多様性が失われたボトルネック効果によるものであると推測されます。

解毒方法
蘇鉄のデンプンの大部分は幹や種子に蓄えられますが、蘇鉄は有毒なので解毒の必要があります。有毒成分のcycasinやホルムアルデヒドは水溶性で、diazomethaneは不安定で加熱すると揮発します。したがって、解毒の手順は、(a)水へのcycasinの滲出、(b)微生物による分解、(c)水への浸出および加熱によるcycasin、ホルムアルデヒド、diazomethaneの分解と除去となります。奄美と沖縄では3種類の蘇鉄の解毒方法があることが分かりました。

①タイプA: 浸出→加熱
②タイプB: 発酵→浸出→加熱
③タイプC: 浸出→発酵→加熱


解毒法: タイプA
この方法は種子の解毒方法です。果実には繊維がほとんどないため、幹よりも粉砕しやすいからです。
解毒の手順は、種子の硬い殻を半分に割り、1〜2日間天日干しします。デンプンは乾燥して縮み殻から取り外しやすくなります。細かく砕き水に浸して有毒成分を滲出させます。水が透明になるまで、水を数回取り替えます。沈殿したデンプンを集め、布袋に入れ水を切ります。天日干ししてから保管します。
また、種子を砕かずに乾燥させてから保存することも出来ます。保管中にカビが生えることが良くありますが、地域によっては気にしません。

解毒法: タイプB
この方法は幹の解毒方法です。幹は硬い繊維と粘着性物質(viscous material)で覆われます。
蘇鉄の幹を切って半日干しとし、真菌の生長を促します。水分が多すぎると細菌が繁殖してしまい解毒出来ません。麻袋や籠に藁やバナナの葉を入れ、蘇鉄を置き葉で蓋をします。温かい条件では3〜4日以内に発酵して発熱します。カビの繁殖と心地よい香りが成功した証です。中身を半日乾燥させ、一度蓋を開けてからまた閉めます。黒カビが生え発熱は止まります。手で割ることが出来るくらい柔らかいなるまで発酵を続けます。この状態で乾燥させて長期間保存することも出来ます。きれいな水で荒い、黒カビを取り除きます。杵を使い潰し、鍋やバケツに移します。網で繊維を漉し、上澄みが透明になるまで水を3回交換します。布袋に入れて水を切り、団子にして天日干しします。タイプBは一部の地域では蘇鉄の果実にも行われています。

解毒法: タイプC
琉球王国の傑出した政治家であった蔡温の農業マニュアルに記された方法で、詳細かつ複雑なプロセスを要します。
蘇鉄の幹の外側をこすり落とし、内側の白く薄い層を削り取り集めます。7〜8日乾燥させ水に浸します。毎日水は交換し、4日ほど経ったら取り出してよく洗い、バナナの葉を敷いて俵に入れ、ススキなどで覆います。3日ほど発酵させると表面に黄色がかった油のようなものが現れます。取り出して半日ほど陽光に当てるか、曇りの場合は風にさらします。再度、俵に戻し、この過程を繰り返しと、やがて完全に腐敗した状態となります。柔らかく簡単に壊せるようになったら、柔らかい部分を集めて煮て食べるか、乾燥させて保存するか、あるいはデンプンを回収します。


救荒作物としての蘇鉄
タイプCは沖縄本島とその近辺、さらに交易路沿いに見られました。蔡温はサツマイモなどが不作の場合、飢饉に対して蘇鉄のデンプンに頼るべく、庶民に対し蘇鉄を植えるように命じました。しかし、蘇鉄中毒の可能性が高まるため、タイプCの解毒法を公的に広めました。しかし、タイプCが採用されなかった地域もあります。理由としては、単純に味の好みに関するものや、良質な鉄刃の入手が難しかった与那国などでは、硬い幹を丁寧に削るタイプCは非常に手間がかかっため、タイプB が採用されたと考えられます。

奄美の場合
奄美は薩摩藩の支配する傀儡政権であり、サトウキビ栽培が強制されました。水田のほとんどがサトウキビ畑に変わり、年貢のあまりの厳しさから住民の約半数は土地を持たないヤンチュ(債務奴隷)に転落しました。平地はサトウキビ畑となったため、斜面にサツマイモが植えられました。ヤンチュの日々の糧は、不毛の土地に生える蘇鉄に限られていました。
しかし、沖縄では非常食としてしか食べられませんが、奄美では薩摩藩からの独立後も蘇鉄が日常的に食べられてきました。そのため、沖縄では解毒方法を知らない人々の間で急性中毒が度々起こりました。

最後に
ミクロネシアではCycas micronesicaが唯一の蘇鉄ですが、グアムの先住民族であるチャモロ族は食料源として蘇鉄を利用してきた長い歴史があります。しかし、長いスペイン支配が終わると、知事は有毒である蘇鉄を食べないように指示しました。その後、住民は蘇鉄を食べなくなり、開発や害虫の侵入によりグアムの蘇鉄は絶滅しました。対して、沖縄や奄美では蘇鉄林が残り、今でも蘇鉄は蘇鉄味噌などに加工され販売されています。この2つを比較すると、消費すると減少し、消費がなければ増加すると言うものではないことが分かります。これは、蘇鉄に対する関心の有無によるものなのでしょう。関心が薄れてしまえば、減少しても失われても興味を引くことがないからです。そのすべてを根こそぎ産業利用のために消費し尽くすのではない限り、蘇鉄に対しある程度の付き合いがあり関心を示すことが、沖縄や奄美の蘇鉄を守ってきたのかも知れませんね。

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一般的に「滝の白糸」と呼ばれているアガヴェがあります。葉縁から糸状の繊維を出す美しい植物で、国内でも昔から栽培されています。私はアガヴェは積極的に集めてはしていませんが、イベントに行った折にオマケでアガヴェの抜き苗をいただきました。名札には「Agave leopoldii」とありました。要するに「滝の白糸」です。調べてみると、Colin C. Walkerの2024年の記事、『Agave × leopoldii』を見つけました。Walkerは育てた植物についてよく記事にしていますが、自身の育てているレオポルディイが開花したため記事にしたようです。少し見てみましょう。

レオポルディイの命名
レオポルディイは1880年代半ば頃に、ロンドンのStamford HillにあるW. B. Kellock博士の自宅の庭で育てられ、キューの著名なビクトリアン・ガーデナーであるWilliam Watsonにより1893年に記載されました。名前は1893年に開催された王立園芸協会の展示会で、この植物を賞賛したベルギー国王レオポルド2世に敬意を表するために命名されました。

Agave princepsの謎
Drummond(1912)によると、Kellock氏はA. filiferaとA. princepsを交配して出来た植物であると信じていたと言います。しかし、Drummondはレオポルディイの開花した花を見て、その特徴からレオポルディイが雑種ではなく独特した種であるとし、Agave disceptataと命名しました。しかし、現在ではAgave ×leopoldiiの異名とされています。

レオポルディイの特徴
レオポルディイは、葉の縁から剥がれ落ちる繊維あるいは糸の生成を特徴とする糸状アガヴェ(filiferous agave)の1つです。これらのアガヴェは葉の縁に目立つ鋸歯を形成しません。レオポルディイは短く鋭い末端トゲを作ります。
糸状アガヴェの作る糸に対する満足するような説明はまだありません。他のアガヴェのような激しい鋸歯や末端トゲとは異なり、糸状アガヴェの繊維が草食動物の採食の妨げになる可能性は低いでしょう。


育ててみた
著者の育てているレオポルディイはかなり早く生長し、直径55cmのロゼットを形成しました。単一のロゼットを維持するために、脇芽は取り除きました。
著者の育てている糸状アガヴェの中でも、レオポルディイは最も細長い葉を持ちます。葉は繊維状で長さは45cmに達しますが、基部の幅はわずか1cmです。
著者の育てているレオポルディは、英国サボテン多肉植物協会グラスゴー支部の2つの展示会で、リュウゼツランの無制限鉢クラスで最優秀賞を受賞したと言うことです。


花の特徴
著者の育てたレオポルディイは、10年間の栽培を経て開花しました。Littaea亜属に典型的な枝分かれするない穂状の花です。花茎は高さがわずか1.35mでした。
花は2つか3つ、4つの房で咲き、最大6cmでした。花は花穂の基部から咲きはじめ、数十個の花が同時に開きます。若い花は淡い緑色で、やがて緑色が淡いピンク色に変わります。中央の縞模様はわずかに濃い緑色です。。古い花はくすんだピンク色で、中央の縞模様は濃い褐色です。
アガヴェは開花すると本体は枯れてしまいますが、長年に渡り沢山の子株を吹きました。


'Hammer Time'
Agave ×leopoldii 'Hammer Time'と言う斑入り品種があり、淡緑色の縁縞があると言うこと以外は典型的なレオポルディイに似ています。
この品種は、メキシコ旅行中にこの品種を発見したと言う、アメリカの著名な園芸家であるGray Hammerに因んで命名されました。しかし、レオポルディイはロンドンの庭園で作出された雑種であるため、メキシコに自生している植物と同じであるはずがありません。この植物は単に、Agave  'Hammer Time'とした方が適切です。


最後に
記事ではレオポルディイは、A. filiferaとA. princepsの雑種とありますが、現在はA. filiferaとA. schidigeraとの雑種とされているようです。しかし、このA. princepsと言うアガヴェが調べてもよく分かりません。由来が不明な学名でも、その旨が記されて一応名前は記載されていたりしますが、A. princepsは名前自体が見当たりません。困りましたね。
そう言えば、葉に覆輪が入るものは格別珍しいわけではありませんが、これはすべて
'Hammer Time'に相当するのでしょうか? Walkerによると'Hammer Time'はレオポルディイの斑入り品種か分からないとしています。単に'Hammer Time'が野生由来株と言う記録が誤りの可能性もあるような気もしますがどうでしょうか?

240321033228836
さて、我が家のレオポルディイはまだまだ小さく、その最大の特徴であるフィラメントがほとんど出ていません。見られるように育つまでは、かなりの年数が必要なのでしょう。


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近年、マミラリア属とその近縁属の遺伝子解析が行われ、マミラリア属とその近縁属は大幅な改訂と整理を受けることになりました。過去に記事にしていますから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。

以前の記事の内容を簡単にまとめると、マミラリア属はまとまりがないグループで、まとまりのある単系統のマミラリア属以外のマミラリアは、オルテゴカクタスやネオロイディアと合わせてコケミエア(Cocphemiea)となりました。さらに、エスコバリアとエンケファロカルプス、さらにコリファンタの一部がペレキフォラに吸収されました。
さて、以上のようなマミラリアとその近縁属に近縁なグループとして、ラピカクタスやツルビニカルプス、エピテランサがあります。本日はこのあたりの最新の分類についての論文をご紹介しましょう。それは、Monserrat Vazquez-Sanchezらの2019年の論文、『Polyphyly of the iconic cactus genus Turbinicarpus (Cactaceae) and its generic circumscription』です。

ツルビニカルプスの歴史
①ツルビニカルプス
1937年にTurbinicarpusが新属として記載されました。Buxbaumによると、小型でほとんどが球形または円筒形、アレオーレは疣の先端にあり、短い筒を持つ白あるいはピンク色の花、そのほとんどが裸の果皮、先端が裂ける果実、1.0〜1.9mmで黒色で疣贅状の荒い種子を持つなどの特徴を上げました。

②ギムノカクタス
Turbinicarpusは1938年にBackebergにより分割され、その一部はGymnocactusとされました。BackebergはGymnocactusを、トゲが細かい、種子が軽い、疣が細かい、花はほとんどが紫色でそうでない場合はピンク色または白色であるとしました。Glass & Foster(1977)はTurbinicarpusとGymnocactusの違いに説得力はないと述べました。しかし、現在(2019年当時)でもGymnocactusは健在です。

③ラピカクタス
1942年にBuxbaum & Oehmeにより、GymnocactusからのRapicactusの分離が提案されました。Rapicactusはくびれのある太い根を持ちます。Luthy(2003)は、Rapicactusはその種子の形態に基づく必要があると主張しました。
2000年にMosco & ZanovelloによりTurbinicarpus mandragoraを分離することが提案されましたが採用されませんでした。しかし、Luthy(2001, 2002)による詳細な分類学的研究により、均一な分類群であることが示唆されました。Luthyによると、ガラス質の白っぽい針状のトゲ、種皮が部分的に凸型の「ドーム型または円錐形から乳首状」でありRapicarpusであるとしました。

④ノルマンボケア
1969年にKladiwa & Buxbaumは、Turbinicarpus valdezianusに因んでNormanbokeaと言う属名を提案しました。Bravo-Hollis & Sanchez-Mejarada(1991)は、NormanbokeaはThelocactusと密接な関係があると結論付けました。しかし、近年の分類学ではT. valdezianusはTurbinicarpusとされています。

⑤ブラヴォカクタスとカデニカルプス
1998年にDoweldは、Turbinicarpus horrispilusとTurbinicarpus pseudomacrocheleをそれぞれTurbinicarpusから分離するために、BravocactusとKadenicarpusを提案しました。しかし、後者は採用されていません。

⑥不安定なツルビニカルプス
Turbinicarpusの一部は、NeolloydiaやSclerocactusの一部として扱われたToumeya、およびPediocactusなど他属に移されました。

遺伝子解析
この論文では遺伝子解析による分子系統により、不安定なTurbinicarpusを分析しました。ツルビニカルプス属とされてきた種は大きく3つに分割出来ることが明らかとなりました。ここではツルビニカルプスと近縁属をA、B、Cの3グループに分けて見ていきます。

      ┏━━グループC
  ┏┫
  ┃┗━━グループB
  ┫
  ┗━━━グループA


グループA【Rapicactus・Acharagma】
Turbinicarpus beguinii、T. booleanus、T. mandragora、T. subterraneus、T. zaragozaeの5種類のツルビニカルプスは単系統で、Acharagmaと種子の特徴が共通する姉妹群です。この仲間はRapicactusとしてTurbinicarpusから分離されます。Rapicarpusは種子の微細な模様や、果実が側方で開裂し、果実の粘稠度、皮下組織の同心円状の晶洞の発生など、形態学的な共通点があります。また、このグループにはObregoniaやLophophoraが含まれます。
Buxbaum & Oehme(1942)はRapicactusとNeolloydiaを近縁としましたが、分子系統では支持されません。また、RapicactusにはPediocactusには関連していません


              ┏
━Lophophora
          ┏┫
          ┃┗━Obregonia
      ┏┫
      ┃┗━
━Acharagma
  ┏┫
  ┃┗━━━Turbinicarpus①
  ┫
  ┗━━━━グループB


グループB【Mammillaria・Cochemiea】
このグループにはTurbinicarpusは含まれないため、論文では解説されません。私が最新の情報に基づいて少し補足しましょう。
ここで解析されているCumariniaは、論文ではC. odorataと表記されていましたが、Coryphanthaから分離された種です。Neolloydia odorataとされたこともあります。MammillariaはM. lentaを解析しています。また、EscobariaはE. missouriensisとE. laredoi、PelecyphoraはP. aselliformis、NeolloydiaはN. conoideaが解析されています。しかし、現在ではEscobariaはPelecyphoraに吸収されました。OrtegocactusとNeolloydiaはCochemieaに吸収されました。ちなみに、ここでは登場しないEncephalocarpusもPeclecyphoraに吸収されています。

          ┏━━Cumarinia
      ┏┫
      ┃┗━━Mammillaria
      ┃
      ┃    ┏━Escobaria
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗━Pelecyphora
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Ortegocactus
  ┫
  ┗━━━━Neolloydia


グループC【Turbinicarpus・Kadenicarpus】
Turbinicarpusは1936年にBackebergによりStrombocactusの亜属として命名されたことから始まりましたが、1937年にBuxbaum & Backebergにより独特した属Turbinicarpusとなり、T. schmedickeanusを属の基準種に指定しました。Turbinicarpusの基準種であるT. schmedickeanusは分子系統のTurbinicarpus③に含まれ、本来のTurbinicarpusはTurbinicarpus③で、Ariocarpusの姉妹群です。Turbinicarpus②には、T. horripilusとT. pseudomacrocheleからなります。Kadenicarpusに属する2種は、それぞれDoweldにより提案されたBravocactusとKadenicarpusのタイプです。このTurbinicarpus②をTurbinicarpusから分離し、Kadenicarpusを復活させました。Anderson(1986)は、形態学的特徴からKadenicarpusの2種をNeolloydiaに含めましたが、分子系統ではこの提案を支持しません。また、Kadenicarpusは、関係が深いとされたこともあるMammillariaやNeolloydia、Pediocactus、Thelocactusと近縁ではありません。
                  
              ┏━Turbinicarpus③
          ┏┫
          ┃┗━Ariocarpus
      ┏┫
      ┃┗━━Turbinicarpus②
  ┏┫
  ┃┗━━━Strombocactus
  ┫
  ┗━━━━Epithelantha


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では各属の分岐した年代や、分岐した地理的な拡散を推察していますが、長くなるため割愛させていただきました。
さて、論文ではRapicactusやKadenicarpusの復活を提案していますが、現在(2024年5月)ではそれぞれ独立した属として認められています。近年のツルビニカルプスの仲間の分類をまとめると以下のようになっています。論文の書かれた2019年当時は健在だったGymnocactusもTurbinicarpusに吸収されました。

Gymnocactus→Turbinicarpus
Normanbokea→Turbinicarpus
Bravocactus→Kadenicarpus
Ortegocactus→Cochemiea
Neolloydia→
Cochemiea
Escobaria→Pelecyphora
Encephalocarpus→Pelecyphora


ちなみに、あまり聞き慣れないAcharagmaは以下の3種からなります。ご参考までに。

Acharagma aguirreanum
 =Escobaria 
aguirreana
 =Gymnocactus 
aguirreanus
 =Thelocactus 
aguirreanus

Acharagma galeanense
 =Escobaria roseanum
                  ssp. 
galeanensis
 =Acharagma 
roseanum
                  ssp. galeanense

Acharagma roseanum
 =Escobaria 
roseana
 =Gymnocactus 
roseanus
 =Neolloydia 
roseana
 =Thelocactus 
roseanus
 =Echinocactus 
roseanus
 =Acharagma huasteca


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最近、某匿名掲示板をダラダラ見ていたら、サボテンが霧から水分を得るという仮説に対して、かなり否定的な論調が見受けられました。しかし、実際に色素液をアレオーレに滴下してからサボテンを輪切りにすると、アレオーレから吸収された色素がサボテン内の維管束に拡がる様子が観察出来ます。砂漠は日中と夜間の寒暖差が激しいので、夜間に霧が発生しますから、いわゆる夜露を吸収することは理にかなった生態です。霧を吸収するなら、某匿名掲示板では地面に染み込んだ霧を根から吸収した方がいいと言うような書き込みもありましたが、露は表土を濡らすだけで深く染み込むほどの量はありません。サボテンは深く根を張るものが多く、日中高温になり乾燥しますから露が染み込むほど浅い場所に細根は張らないでしょう。とは言え、すべてのサボテンが露を頼りにしているわけではないようです。露をキャッチするのはトゲで、トゲは表面の微細構造により露をアレオーレに運びます。しかし、サボテンによってはトゲの微細構造が露を運ぶのに適しておらず、露を利用していないと考えられるものもあります。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はトゲを介した吸水の話をしましょう。以前も記事にしましたが、今回は異なる種類のサボテンを対象とした論文です。

以前の記事です。ご参照までに。
本日はYahya S. Masrahiの2020年の論文、『Glochids microstructure and dew harvesting ability in Opuntia stricta (Cactaceae)』をご紹介します。

霧と露
霧と露は空気中の過剰な水蒸気から発生し、水滴として凝縮する浮遊水のもっとも顕著な発生源です。液滴が浮遊する場合を霧と呼びます。霧は空気が露点以下に冷却されて水滴が結露することにより形成されます。多くの乾燥地域や半乾燥地域では、霧と露がその時の気候条件に応じて一定量の水源となります。干ばつが深刻な年には、霧が年間降水量を超えることもあります。そのような厳しい環境では、霧や露が重要な役割を果たします。

疎水性と親水性
個体表面上での液滴形成にとって重要なのは、三相境界で形成される接触角です。ちなみに三相境界とは、液体と蒸気の境界面が固体表面と接する場所のことです。接触角が90°未満の場合は親水性で、これは濡れが発生し広い領域を液滴が覆います。一方、接触角が90°を超えると疎水性となり濡れ性は低くなります。疎水性表面上の液滴はより球形になる傾向があり、小さな領域しか固体表面に触れません。

霧を集めるサボテン
サボテンの中でトゲ(spine)や芒刺(glochid)で霧や露を集めることが知られている種類はほとんどありません。トゲや特に芒刺は表面の微細構造が大きく異なります。結露は気温、湿度、表面の微細構造により制御されるため、結露を集める能力はサボテンのトゲの微細構造次第です。現在までにトゲが水分を集めることが確認されたサボテンはわずか数種類しかありません。

実験
芒刺を持つOpuntia strictaと言うウチワサボテンを実験に使用しました。O. strictaには、長さ10〜25mmのトゲと、微細な毛状突起である芒刺があります。サンプルはサウジアラビアでは侵略的外来種であるO. strictaを野外で採取し使用しました。トゲは表面に目立った構造はなく、ほとんど無毛で露の収集能力を示しませんでした。
芒刺は電子顕微鏡で表面構造を調べました。また、夜霧を想定した人工的な霧がある環境で、トゲと芒刺がついたアレオーレを置き、顕微鏡で液滴の形成を観察しました。


芒刺の微細構造
芒刺はアレオーレに約80本あり、長さは約5mmでした。芒刺の表面は逆向きの扁平で先の尖った突起に覆われていました。突起の先端はほぼ滑らかで、基部には微細な溝があり表面は先端よりも粗くなっていました。芒刺の先端部の頂角は9.25°前後で鋭く、突起の先端部の頂角は41.5°前後で弱く扇形でした。

液滴形成の過程
人工的な霧の中で芒刺の表面に水滴が堆積し始めます。まず、芒刺の先端部にコアが形成され、小さな液滴が芒刺の基部に移動しながら、他の液滴と合体して大きな液滴を形成します。直径約130mm以上となった液滴は芒刺の基部へ移動し合体します。
液滴が表面上を移動している時、液滴の接触角が最大(膨張)になる前進接触角と、最小(収縮)となる後退接触をからなります。芒刺では76.25°前後の前進接触角と、52.5°前後の後退接触角が明らかとなりました。実験で使用した芒刺は垂直か半垂直でしたが、液滴の堆積は水平方向の芒刺でも発生します。

ラプラス圧力勾配
芒刺と芒刺の突起は9.25〜41.5°の円錐頂角を持ちますが、このような形態は表面にラプラス圧力勾配を生じます。この時、基部よりも先端部でより強いラプラス圧力を持ちます。この差は円錐の先端部小さな半径と高い曲率、円錐の基部の大きな半径と低い曲率により生じます。これはラプラスの定理で表すことができます。
円錐に沿った先端部から基部までの間の液滴のラプラス圧力勾配は、液滴の臨界サイズである約130mmに達した場合、液滴の自発的な移動を引き起こす駆動力の1つです。

Wenzel状態
芒刺は基部に向かうにつれ顕著な溝があります。この特徴は芒刺の突起にもあり、基部に向かうほど増加します。これがWenzel状態であるならば、芒刺と芒刺の突起の表面の「粗さ」が基部に向かうほど増大することにより、錐体構造の先端から基部に向かう液滴の移動に推進力が生まれる可能性があります。

表面エネルギー勾配
表面エネルギー勾配の原理では、水滴は低い表面エネルギー(濡れ性が低い)から高い表面エネルギー(濡れ性が高い)まで、濡れ性の勾配に沿って移動する傾向があります。サボテンのトゲと芒刺はクチクラと石細胞により防水性がありますが、芒刺の基部にある毛状突起(アレオーレの毛のようなもの)は湿潤性があります。吸湿性の毛状突起は湿潤性が高く、芒刺と芒刺の突起の先端部は表面エネルギーが低くなります。この表面エネルギー勾配も液滴の移動を引き起こす駆動力の1つであると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
水滴がトゲを伝ってアレオーレに向かって流れ落ちるだけならば、あまり濡れ性は関係ないと思われる方もおられるでしょう。しかし、濡れ性が低いと言うことは、蓮の葉の上の水滴が弾かれて転がるように、トゲに水滴は付着しないと言うことです。濡れ性が低い場合は、水滴は単純に重力により落下しますから、トゲを伝ってではなく垂直方向への自由落下により地面に落ちてしまいます。逆に濡れ性が高い場合は、トゲに水滴が付着し、表面の勾配により水滴は移動します。この時、水滴は単純に重力により落下しているわけではありません。特に水滴が出来る最初のコアは非常に小さな粒子なのですから、勾配がなければただ表面に貼り付くだけで移動しないでしょう。水平方向の芒刺にも水滴の移動が起こるのは、重力よりも表面の微細構造による勾配の力が影響しているからです。
さて、このように芒刺とアレオーレを介した霧からの水分吸収は理屈の上からも、観察した結果からも明らかです。しかし、その吸水量がサボテンの生存や生長にどれだけ貢献しているのかは、実はよく分かりません。論文の中では霧からの吸水が確認されたのは数種類とありますが、これは数種類しかないのではなくて、数種類しか調査されていないと言うことです。例えば、サボテンの種類ごとの生息環境と、霧からの吸水能力の有無を沢山の種類で確認出来た場合、間接的に霧からの吸水が環境に適応した結果であるかを考察出来るかも知れません。また、アレオーレからの吸水の影響を、栽培されたサボテンで試験することも出来るでしょう。根からの吸水とアレオーレからの吸水は、吸水力や吸水量以外にも違いがある可能性もあります。もし、その違いがサボテンの生育に深い関係があるのなら、サボテンの栽培方法にも新たな工夫が出来るかも知れませんね。


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ヒマワリの花は太陽の方向を向くと言われています。私の好きなギムノカリキウムの花は花茎が短く球体に貼り付くように咲きますから、花の向きなどは気にしたことはありませんでした。しかし、花はアレオーレから出ますが、すべての稜(rib)に万遍なく蕾がつくのでしょうか?
調べて見ると、柱サボテンに関してはいくつか論文が出ているようです。本日はその中でも割と有名な武倫柱(Pachycereus pringlei)の花の付き方を調査した、Clara Tinoco-Ojanguren & Francisco Molina-Freanerの2011年の論文、『Flower orientation in Pachycereus pringlei』をご紹介しましょう。

花のつく向き
柱サボテンの花は様々な位置で咲きます。花をつけるアレオーレは頂端や頂端下、あるいは側方にあります。また、Cephalium(※1)や疑似Cehalium(※2)を持つものもあります。Cephalocereus columna-trajaniでは、疑似Cephaliumは太陽の直射を避けています。しかし、温帯砂漠に生息する柱サボテンの中には、太陽に向かって花を咲かせるものもあります。Carnegiea giganteaなど頂端で開花する種では、花は東側あるいは南東の稜に形成されます。側方に花をつける主幹では、主に太陽の方角につきます。南米原産のTrichocereus chilensisでは花は北を向いています。
さて、このように柱サボテンでは花のつく位置に偏りがあります。Johnson(1924年)はC. giganteaの花は花の発育に適した温度になる時間が長い頂端の東側と南東側で発達すると主張しました。

※1 ) メロカクタスのように先端部に出来る羊毛と剛毛からなる構造。
※2 ) Pseudocephalium。CephalocereusやEspostoaに見られる茎の頂端付近にある毛状構造。

Pachycereus pringlei
Pachycereus pringleiはソノラ砂漠に固有の柱サボテンです。この地域で最大のサボテンで高さ15〜20mになり、稜(rib)は10〜15本で幹は直径1.5mに達します。成熟するまでは単幹で、成熟すると枝分かれし始めます。この種はバハ・カリフォルニアの大部分とカリフォルニア湾のほとんどの島に広く分布します。
P. pringleiの花芽は2月に出現し、3月下旬から6月上旬まで咲き続けます。花は主に幹の上部で咲きます。8.7〜10.2cmの白い花は日没直後に開花し、翌時の正午に閉じます。夜には花にコウモリが訪れ、日の出後出しは数種類の鳥やミツバチが訪れます。

測定結果
P. pringleiの花はその70〜77%が90度〜270度の方角に面した稜にありました。P. pringleiの花は主に東、南、西向きの稜につきました。東、南、西向きの稜は周辺温度より5〜8℃温度が上昇しましたが、北向きは周辺温度に近い温度でした。南向きの稜は日中の温度が25℃以上に保たれていました。
また、花の数は枝の長さと相関がありました。長さ1m未満の枝には花は咲かず、長さが1mを超える枝では、長さに依存して花がつきました、

考察
著者らは太陽光が二酸化炭素摂取と幹の温度に影響を与えたことが、P. pringleiの花のつき方の原因である可能性を指摘しています。北向きの稜の太陽光は制限される可能性が高く、炭素の増加は最小限となる可能性があります。柱サボテンでは、方角の異なる稜は炭素増加量に違いが発生することが知られています。よって、花を咲かせるためのアレオーレの誘導が炭水化物の蓄積に依存するならば、花を咲かせることを可能とするために十分な炭水化物を蓄積出来るのは北向き以外の方角の稜であると考えられます。Opuntia ficus-indicaでは、炭水化物の蓄積に加えて、温度周期が新しい器官の形成に影響を与えることが知られています。しかし、柱サボテンでは温度周期の影響は不明です。
また、人工照明を当てたり遮光処理をしたり、炭水化物の注入したりと、実験的に確認することも出来るかも知れません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
花のつき方が日当たりと関係していると言う内容でした。しかし、この現象はすべてのサボテンで見られるわけではないようです。それでも、育てているサボテンの花のつき方と太陽光の向きについては、今後は気になってしうかも知れませんね。


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先日、ケファロケレウスは現在何種類あるのと言う記事を上げました。これはケファロケレウスを調べていた際のある種の副産物で、本来は本日の記事に入れ込むつもりでしたが、ボリューム的に無理なので独立した記事にしたと言う経緯があります。

さて、いくつかの論文をサッと斜め読みしましたが、研究者たちがケファロケレウスにどのような興味を抱いてきたのかが何となく分かりました。と言うわけで、本日はケファロケレウスの面白そうな論文を、私の好みでいくつかピックアップしてみました。簡単に概要のみをご紹介しましょう。

*ケファロケレウスの新種を発見*
2019年のSalvador Ariasらの2019年の論文、『A new species of Cephalocereus (Cactaceae) from southern Mexico』によると、メキシコはオアハカ州のMixtecan地域より、Cephalocereus parvispinusを新種として記載しました。C. parvispinusは高さ8メートルになり、樹枝状で15〜23本の稜(rib)を持ちます。花は長さ3.5〜4センチメートル、果皮にトゲはありません。暗赤色の果実は長さ1.7〜2.2センチメートルで果肉は白く、種子は約1.4×0.6mmで暗褐色でシワがあります。遺伝子解析によると、C. polyophusおよびC. euphorbioidesの姉妹種であることが示されました。

*ケファロケレウスの表皮には結晶がある
ケファロケレウスは表皮組織に結晶構造物があり、種により固有の性質を持つと言います。ここでは、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2015年の論文、『The polymorphic weddellite crystals in three species of Cephalocereus (Cactaceae)』を見てみましょう。
メキシコのテワンテペク地峡に自生するC. apicicepharium、C. nizandensis、C. 
totolapensisの表皮に豊富ある角柱状の結晶を調査しました。種類により異なる水和度を持つウェッデル石を持つことが分かりました。結晶の形態の違いは含まれる元素の組成に関連している可能性があります。

*ケファロケレウスは土質により住み分ける*
同じ地域に生える3種類のケファロケレウスを調査した、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2010年の論文、『Rock-Soil Preferences of Three (Cactaceae) Species of Tropical Dry Forests』を見てみましょう。
メキシコはテワンテペク地峡にて、岩石と土壌の成分と自生するケファロケレウスの種類を調査しました。Cephalocereus apicicephariumは丘の頂上から裏斜面までの石英を含む石灰岩の露頭でのみ育ち、C. nizandensisは丘の肩のメタ石灰岩(metalimestone)の露頭に育ちます。C. totolapensisは安山岩の酸性土壌を好み、丘の肩から斜面のシルト岩や雲母片麻岩でも育ちました。

*ケファロケレウスの自然交雑種*
雑種は不稔であると一般的には言われています。不稔とは種子が出来ない、つまり雑種は有性生殖出来ないと言うことです。しかし、サボテンでは自然交雑による雑種はよく起こることで、雑種にも種子が出来る場合もあるようです。さらに言えば、近年では雑種が進化の原動力の1つではないかと言う意見もあります。さて、そのような自然交雑を観察したGabriel Merinoらの2022年の論文、『Mating systems in a natural hybrid of Cephalocereus (Cactaceae) and comparative seed germination』を見てみましょう。
メキシコのTehuacan-Cuicatlan保護区では、C. columna-trajaniとC. tetetzo、さらには両者の雑種が共存しています。雑種の交配成功率は親よりも高く、種子は親よりも発芽率が高く雑種強勢であると解釈されました。雑種個体間の交配は雑種の生殖が成功した証拠です。雑種の不稔製が反証され、雑種は「進化の終点」を表すと言う見解に異議を唱えることが出来ます。


*なぜケファロケレウスは傾くのか?
Cephalocereus columna-trajaniは自生地では傾いて育つことが多いと言います。研究者たちも不思議に思ったようで、いくつかの論文が出ています。ここでは、Pedro Luis Valverdeらの2007年の論文、『Stem tilting, pseudocephalium orientation, and stem allometry in Cephalocereus columna-trajani along a short latitudinal gradient』を参照としましょう。
メキシコの
Tehuacan-Cuicatlan渓谷に沿った緯度勾配に従い5つの個体群をピックアップしました。サボテンの高さと直径、茎の傾斜角、pseudocephalium(頂端付近にある花が咲く毛状構造)の方角を調査しました。茎の北部ほどより高い傾斜角を持ち、pseudocephaliumの方角は一貫して北北西でした。また、南部の個体群ほど、直径に対してはるかに速く高さが増加することが分かりました。
分かりにくい話ですが、これは太陽の当たる角度とpseudocephaliumの関係を示しています。要するにpseudocephaliumを太陽に当てないようにしているわけです。さらに、Jose Alejandro Zavala-Hurtadoらの1998年の論文を見ると、茎が傾くことにより年間の遮光量が増加するとしています。しかし、その代わり枝分かれが不可能となり、傾斜が激しい個体ほど背の高さに制限があるでしょう。


*分子系統による分類
ケファロケレウス属内の系統関係はどうなっているのでしょうか。Hector J. Tapiaらの2023年の論文、『Phylogenetic and geographic diversification/differentiation as an evolutionary avenue in the genus Cephalocereus (Cactaceae) Evolutionary Avenue in Cephalocereus』を見てみましょう。遺伝子解析による分子系統です。
まず、C. apicicephalium〜C. scopariusのグループと、★〜C. parvispinusのグループに大別出来ます。さらに、後者のグループは★〜C. fulvicepsのグループと、C. euphorbioides〜C. parvispinusのグループに分けられます。ちなみに、★は沢山の種類が含まれるため、★だけでまとめました。

              ┏★
          ┏┫
          ┃┗C. sanchezmejoradae
      ┏┫
      ┃┗━C. fulviceps
      ┃       
      ┃    ┏C. euphorbioides
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗C. polyophus
  ┃┗┫
  ┫    ┗━C. parvispinus
  ┃
  ┃        ┏C. apicicephalium
  ┃    ┏┫
  ┃    ┃┗C. nizandensis
  ┃┏┫
  ┃┃┗━C. totolapensis
  ┗┫
      ┗━━C. scoparius

           ┏━━C. mezcalaensis
           ┃
           ┃    ┏C. multiareolata
       ┏┫┏┫
       ┃┃┃┗C. nudus1
       ┃┗┫
   ┏┫    ┗━C. nudus2,3
   ┃┃
   ┃┗━━━C. macrocephalus
   ┃
  ★┫┏━━━C. tetetzo
   ┃┃
   ┗┫┏━━C. columna-trajani
       ┗┫
           ┗━━C. senilis


見ていただいた通りで特に解説はありませんが、少し補足します。
・現在、ケファロケレウス属は13種類が認められていますが、論文では16種類となっています。まあ、これは便宜上の分け方で、この分け方とすべきであると言うわけではありません。
・C. sanchezmejoradaeは現在ではC. novusの異名となっています。C. novusが論文に登場しないのは、C. novusが2022年にケファロケレウス属とされたため、研究段階ではケファロケレウスではなかったからでしょう。ただ、C. 
sanchezmejoradaeが本当にC. novusと同種であるかは再確認が必要でしょう。
・C. nizandensisとC. totolapensisは、C. apicicephaliumの異名とされています。分子系統では一塊となっており、非常に近縁であることは間違いがないようです。ただし、これら3種が同種か別種かは分子系統からは分かりません。
この3種類は表皮の結晶や自生する土壌は異なるため、別種なのでは? と言う気もします。しかし、遺伝的には非常に近縁ですから、あるいは亜種や変種くらいの立ち位置なのかも知れませんね。
・C. multiareolatusは現在ではC. mezcalaensisの異名とされています。しかし、分子系統ではC. nidusの3個体と区別出来ていません。C. mezcalaensis系統ではなくC. nidus系統であることは間違いないでしょう。
・C. nidusはかつてはC. tetetzo v. nudusとされてきましたから、C. tetetzoと近縁に思えます。しかし、C. nudusはC. tetetzoよりC. mezcalaensisに近縁です。


最後に
何となくケファロケレウスを調べて見ましたが、なかなか興味深い研究が沢山ありました。今回はいくつか見繕って記事にしましたが、まだまだ面白そうな研究はありました。論文はじっくり読むと大変ですが、サッと概要だけなら結構沢山読めます。サボテンは属が沢山ありますから、今後も不定期にボチボチ記事にしていきたいと思っております。


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アロエの論文を探していた時に、たまたまアロエを用いた土地の浄化についての論文を見つけました。土壌汚染地域に植物を植えて、植物に汚染物質を吸収させると言う話はたまに聞きます。しかし、実際の結果については聞いたことがありませんでした。しかも、浄化する植物にアロエを用いると言うのは、なかなか興味深く感じましたので、早速読んでみました。と言うことで、本日はJoao Marcelo-Silvaらの2023年の論文、『Phytoremediation and Nurse Potential of Aloe Plants on Mine Tailings』をご紹介します。

有毒な尾鉱
現在、南アフリカの鉱山では激しい採掘活動が行われています。鉱山の尾鉱(採掘の残渣)には有毒な金属(PTM)が豊富に含まれており、環境に対する長期的なリスクがあります。

アロエでPTMを除去出来るのか?
この論文では、植物を用いたPTMの除去、つまりPytoremediationの可能性を探ります。
この研究では、鉱山の尾鉱を用いて栽培された、Aloe burgersfortensisとAloe castaneaを評価しました。試験ではプラチナ鉱山と金鉱山から採取された尾鉱が使用されました。

アロエの成分分析
尾鉱で栽培されたアロエの葉の成分を分析しました。尾鉱ではない土壌で栽培されたA. castaneaと比較すると、プラチナ鉱山と金鉱山の尾鉱で栽培されたA. castaneaには高いレベルのニッケルが含まれていました。さらに、プラチナ鉱山の尾鉱ではカドミウム、マンガン、亜鉛、銅が蓄積し、金鉱山の尾鉱ではコバルト、マンガン、亜鉛、銅が蓄積しました。A. bergersfortensisでは、尾鉱ではない土壌で栽培された個体では、A. castaneaよりも亜鉛やニッケル、マンガン、カドミウム濃度は高いものの、尾鉱で栽培すると蓄積濃度が下がる傾向があります。金鉱山の尾鉱では亜鉛濃度が多少上がりました。

最後に
Aloe castaneaは有毒な金属を生物濃縮する可能性が示されました。しかし、そもそも重金属で汚染された土壌では育たない植物も多いわけで、Aloe castaneaが重金属に耐性があることに驚きます。私が思うに、このPytoremediationにおいて重要なのは、固有種の使用だと思います。やはり、外来種ではなくて、自生する植物の使用が望ましいはずです。まあ、南アフリカの乾燥地に適応した植物となれば、自生する多肉植物を用いるのがもっとも有用でしょう。
今回は2種類のアロエを用いましたが、種によって金属の蓄積傾向が異なることが示唆されます。場合によっては、複数種の植物を組み合わせて、効率的に金属を回収することも可能かも知れません。この論文は2023年のものですから最近の話です。アロエを用いたPytoremediationはまったく新しい試みと言えます。今後の進展に期待したいですね。


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ここ数年、コピアポアが人気なようでよく目にします。多肉植物のイベントではサボテンはすっかり日陰者であまり見かけませんが、必ずといっていいほどコピアポアはあったりします。さて、そんなコピアポアですが、分類学上の立ち位置は長らく不明でした。しかし、近年では遺伝子解析により大まかな立ち位置は判明しています。さて、そんなコピアポアですが、属内の分類はどうなっているのでしょうか? 本日はIsabel Larridonらの2015年の論文、『An integrative approach to understanding the evolution and diversity of Copiapoa (Cactaceae), a threatened endemic Chilean genus from the Atacama Desert』をご紹介しましょう。

コピアポアの履歴
Copiapoaは32種類と5亜種が含まれています(2015年時点)。30種類は4つの節(Section)と2つの亜節(Subsection)に分類されますが、2種類は未分類のままです。
さて、Copiapoaは1922年にBritton & Roseにより定義されました。つまり、球形または短い円筒形のトゲのあるサボテンで、昼行性の黄色い花を咲かせます。この時に、新属には6種類が含まれ、そのうち5種類はEchinocactusに分類されていた種でした。
1930年代から1980年代にかけて、Backeberg(1966)やRitter(1980)などの著者により新種が記載され、合計46種に達しました。しかし、それ以降の著者の多くは、種数の削減を提案しました。
これまでに発表された分類学的提案と種は、形態学的類似性に基づいています。ただし、サボテン科は重大な同型形質(Homoplasy)があるため問題があります。


240411013440009~2
Copiapoa cinerea

分子系統
遺伝子解析による分子系統では、大き4つに分けられます。Copiapoa属は全体としてはまとまりのあるグループで、単系統でした。分子系統と過去の分類の適合性が低いため、コピアポア属の分類を改訂する必要があります。
分子系統の根元にあるClade PilocopiapoaはC. solarisからなりますが、正式に記載されていないC. australisが近縁です。C. australisはC. humilisの最南端に生えるグループと考えられてきました。次にC. lauiが分岐します。C. lauiはC. hypogaeaの亜種とされることもありますが、C. hypogaeaはClade Copiapoaに含まれ、C. lauiとは近縁ではありません。次に分岐したのはClade Mammillopoaで、C. humilisからなります。論文では亜種humilis、亜種tenuissima、亜種tocopillana、亜種variispinataがまとまりのあるグループであることが分かりました。Clade EchinopoaはC. armata(=C. coquimbana var. armata)とC. fiedlerianaのグループと、C. coquimbanaとC. dealbashi、C. echinoidesを含むグループからなります。
また、コピアポア属のほとんどの種類はClade IIIに含まれます。Clade IIIは2つに分割できます。園芸的に有名なC. cinerea(黒王丸)はCinereiに含まれます。


                  ┏IIIb, Copiapoa
              ┏┫ 
              ┃┗IIIa, Cinerei
          ┏┫
          ┃┗━IV, Echinopoa
      ┏┫
      ┃┗━━II, Mammillopoa
  ┏┫
  ┃┗━━━C. laui
  ┫
  ┗━━━━I, Pilocopiapoa

240411013449850~2
Copiapoa coquimbana

Clade III
Clade IIIはC. longispinaとC. megarhiza以外はコピアポ渓谷の北に分布し、Clade IVはコピアポ渓谷の南に分布します。コピアポ渓谷は地理的な遺伝子流動の障壁として働いています。
Clade IIIaはHuntら(2006)の分類によると、C. cinereaとC. krainzianaが含まれ、C. giganteaはC. cinerea subsp. haseltonianaとしました。しかし、分子系統ではC. 
krainzianaはC. cinereaの中に含まれ、C. giganteaはC. cinereaと区別されます。
Clade IIIbは、まずC. longispina、C. megarhiza、C. conglomerateが分岐し、C. longistaminea〜C. derertorumのグループと、C. taltalensis〜*の2つのグループに分岐しました。*は、C. mollicula〜C. esmeraldianaのグループとC. grandiflora〜C. parvulaのグループに分岐しています。

  ┏━━━━━━C. longispina
  ┃
  ┫┏━━━━━C. megarhiza
  ┗┫
      ┃┏━━━━C. conglomerate
      ┗┫
          ┃    ┏━━C. longistaminea
          ┃┏┫
          ┃┃┃┏━C. rupestris
          ┃┃┗┫
          ┃┃    ┃┏C. aphanes
          ┃┃    ┗┫
          ┃┃        ┗C. desertorum
          ┗┫
              ┃┏━━C. taltalensis
              ┗┫
                  ┣━━C. serpentisulcata
                  ┃
                  ┣━━C. decorticans
                  ┃
                  ┃┏━C. cineraescens
                  ┗┫
                      ┗━*

     ┏━━━C. mollicula
 ┏┫
 ┃┃┏━━C. angustifolia
 ┃┗┫
 ┃    ┗━━C. esmeraldiana
*┫ 
 ┃┏━━━C. grandiflora
 ┗┫ 
     ┃┏━━C. montana
     ┃┃
     ┃┣━━C. calderana
     ┃┃
     ┃┣━━C. marginata
     ┗┫
         ┃┏━C. hypogaea
         ┗┫
             ┃┏C. atacamensis
             ┗┫
                 ┣C. leonensis
                 ┃ 
                 ┗C. parvula

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
コピアポア属内は分類は割と上手く出来ているようです。意外と重要なのが分類と地理的分布の関係で、論文では地理的な拡散と分類の関係を考察しています。それによると、コピアポア属の起源はペルー南部とチリの極北の間にあるとしています。また、コピアポア属は、外見的に類似しているからと言って必ずしも近縁であるとは限らず、生息環境に対する適応の結果として相似しているだけだと述べられていました。
このように、様々な角度からコピアポアが解析されましたが、まだ解明されていない謎も多いでしょう。そうであるならば、コピアポア研究はまだまだ続くはずです。その時にはまた論文をご紹介出来ればと考えております。


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去年の3月にソテツにつくカイガラムシが沖縄に侵入したと言う記事を挙げました。すっかり忘れていたのですが、最近になり奄美大島でカイガラムシが猛威をふるっていると言うニュースを目にしました。すでに、かなり危機的な状況のようです。


調べて見ると、世界中でこのカイガラムシが蔓延し、世界中のソテツにダメージを与えていることが分かりました。さて、ではこのカイガラムシに対して、科学者たちはどのようなアプローチをしているのでしょうか? 今回はそのソテツにつくカイガラムシ=Aulacaspis yasumatsuiに対する研究をご紹介します。それは、Ronald D. Caveらの2009年の論文、『Temperature-Dependent Development of the Cycad Aulacaspis Scale, Aulacaspis yasumatsui(Hemiptera: Diaspididae)』です。簡単に見ていきましょう。

害虫あらわる
Aulacaspis yasumatsuiは東南アジア原産のカイガラムシで、フロリダ、テキサス、ハワイ、西インド諸島、コスタリカ、ニュージーランド、コートジボワール、グアムでは侵入害虫です。グアムでは在来ソテツであるCycas micronesicaを枯死させました。
米国では1998年に南フロリダではじめて検出され、すぐに州全体に広がりました。このカイガラムシは数種類のソテツに寄生しますが、人気のある景観植物であるking sago(Cycas revoluta)は特に感受性が高いようでした。1998年以来、南フロリダの多くのking sagoが、A. yasumatsuiにより破壊されてきました。

実験
A. yasumatsuiの卵と幼虫を、18℃、20℃、25℃、30℃、32℃、35℃で育てました。
卵は18℃では孵化しませんでした。また、30℃までは孵化時間が短くなりましたが、30℃以上ではそれ以上短くなりませんでした。30℃の孵化率は84.0%と高く、35℃では62.2%と孵化率は低下しました。
幼虫は18℃でもっとも生育が遅く、35℃でもっとも早くなりました。しかし、18℃と35℃で育てたメスは産卵せずに死亡しました。また、11℃と38℃の環境では幼虫は育ちませんでした。

生存可能な気温
A. yasumatsuiは、20℃未満では1齢幼虫より大きく育つのは非常に困難です。フロリダ南部では11月から4月にかけての平均最低気温が20℃以下になるため、葉に付着したカイガラムシの死亡率するか、増えるとしても非常に遅くなる可能性があります。しかし、大胞子葉や根についたカイガラムシは低温から保護される可能性があります。

天敵
フロリダではA. yasumatsuiの天敵となる可能性のある昆虫は、寄生蜂であるCoccobius fulvus、テントウムシの1種であるRhyzobius lophanthae、キムネタマキスイと言うカイガラムシを捕食する甲虫であるCybocepalus nipponicusです。
Unaspis yanosisと言うカイガラムシに寄生するC. fulvusの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で52日、25℃で27日、30℃で26日です。R. lophanthaeの卵から次の卵までの発生時間は、Aspidiotus neriiを捕食した場合では20℃で44日、25℃で32日、30℃で24日、
Chrysomphalus aonidumを捕食した場合では20℃で48日、25℃で34日、30℃で27日かかります。対するA. yasumatsuiの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で50日、25℃で31日、30℃で28日です。これらの天敵はカイガラムシより世代交代が早いか同等です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
気温と生育を害虫と天敵で比較しましたが、データ上では有効性が示されたようです。しかし、テントウムシでは食べた餌により生育に差があることからも分かる通り、それが適した餌であるかが重要です。不適な餌では天敵の生育や増殖が抑制されてしまうことは珍しいことではありません。これらの天敵候補が実際にA. yasumatsuiを捕食してどう増えるのかを見ないと本当のところは分からないでしょう。
さて、しかし低気温ではA. yasumatsuiの生育に影響があることが分かりました。問題となっている奄美大島は、冬でも最低気温は10℃以下になることはあまりないと言うことです。10℃は卵が孵化したり幼虫が育たない温度ですが、定着していることからすると成虫は耐寒性があるのか、あるいは鱗片などに隠れて防寒しているのかは分かりませんが、とにかく冬を越してしまっています。気温だけでは決定打にならないと言うことです。むしろ、A. yasumatsuiの原産地で有効な天敵を探した方が有意義かも知れません。一般的に天敵の導入で害虫を根絶することは困難ですが、害虫の増殖を抑え植物の生存率や繁殖率を上げる効果があります。
論文の中で出てくるking sagoとは日本の蘇鉄のことですが、特にA. yasumatsuiに弱いようです。A. yasumatsuiはソテツを枯らしてしまう危険な害虫です。奄美大島のソテツ原生林が崩壊する前に、有効な手立てを見つけ出す必要があるでしょう。しかし、このA. yasumatsuiは日本列島を北上するのでしょうか? 同じようにソテツの害虫であるソテツシジミと言う蝶は南方系ですが、あれよという間に日本列島を北上し、関東でもしばしば報告されています。私の居住地は冬はマイナス5℃を下回りますから、一見してA. yasumatsuiは冬を越せそうにありません。ただ、DioonやZamiaは室内に取り込みます。これらに付いて冬越ししてしまい、暖かくなって外に出したら日本のソテツで大量に増えてしまうと言うサイクルも想定されます。何れにせよ、これ以上の被害の拡大はないように、願わくは何らかの対策により奄美大島のソテツの被害が収束して欲しいものです。


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ベンケイソウ科植物の中にオロスタキス属(Orostachys)と言う分類群があります。多肉植物として一般的に栽培されますが、国内にもイワレンゲやツメレンゲなど自生するオロスタキスがあります。さて、このオロスタキスですが、その名前を命名したのは一体誰なのか、何やら議論のあるところだと言うのです。Vjaceslav V. Byalt & Irina V. Sokolovaの1999年の論文、『Who is the author of the name Orostachys (Crassulaceae)?』を見ていきます。

名前の謎
Orostachysと言う名前は、その命名者として様々な人物が取り上げられてきました。例えば、Borisova(1939, 1970)やOhba(1978, 1995)は、基本名はAugustin Pyramus de Candolleに、属名としてはFischerを挙げています。Webbの『Flora europaea』の両方の版(1964, 1993)では、基本名はde Candolleに属名はFischer ex Sweetとされています。他のいくつかの研究では、属名をFischer単独のものとしています。さらに、Eggliら(1995)はFischer ex Bergerとして著者を引用しています。

命名の経緯
Orostachysと言う名前に結びつく最初の名前は、Carl von Linne(1753)により命名されたCotyledon spinosa L.であり、後のOrostachys spinosa (L.) Sweetでした。一般名Orostachysは、1808年にFischerによりはじめて使用されました。しかし、この属の説明をしなかったため、検証出来ませんでした。リストされている種は、名前が有効に公開されていないため、新しい名前として有効ではありません。
Orostachysの詳細な説明は翌年、つまり1809年にFischerにより発表されました。Fischerは、Orostachysの雄しべの数は花弁の数と等しくはなく、その2倍である10本であることを証明しました(※まれに8本、あるいは12本)。このような花の特徴から、FischerはOrostachysをCrassula L.やCotyledon L.よりも、Sedum L.に密接に関連しているとしました。

この時に記載されたのは以下の種でした。
①O. chloracantha
②O. thyrsiflora
③O. malacophyalla
④O. libanotica

de Candolleの分類
1828年にde Candolleは、ベンケイソウ科を扱った2つの重要な著作を出版しました。知られている世界中のベンケイソウ科植物の全種を扱い、19属に整理しました。この時、CandolleはOrostachys Fisch.を独立した属とせず、4つの節(Section)の1つUmbilicus DC.に含めました。Candolleは1808年のFischerを引用し、Orostachys Fisch.に言及していますが、1809年のFischerに基づく誤った引用による組み合わせを発表しました。

正しい引用
Orostachysの著者を正しく引用した最初の分類学者はCerepanov(1973)でした。しかし、Candolleの引用が間違っていたため、その後の多くの植物学者は、CandolleがOrostachysと言う新しい節の名前を有効に発表したと考えていました。
Orostachysは正式には以下のように引用されます。


Orostachys Fisch, in Mem. Soc. Imp. Naturalistes Moscou 2: 270. 1808.
Type: O. malacophyalla (Pall.) Fisch. (=Cotyledon malacophyalla Pall.)

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
de Candolleの引用に誤りがあったため、de Candolleの分類群は命名規約上では採用されないと言うことです。ですから、de Candolleをオロスタキスの命名者とすることは、多くの植物学者の考えとは裏腹に誤りなのです。
さて、せっかくですから、現在認められているオロスタキス12種類を示して終わります。

①O. boehmeri (Makino) H.Hara
②O. cartilaginea Boriss.
③O. chanetii (H.Lev.) A.Berger
④O. fimbriata (Turcz.) A.Berger
⑤O. gorovoii Dudkin & S.B.Gontch
⑥O. japonica (Maxim.) A.Berger
⑦O. malacophyalla (Pall.) Fisch.
⑧O. maximowiczii V.V.Byalt.
⑨O. minuta (Kom.) A.Berger
⑩O. paradoxa (A.P.Khokhr. & Vorosch.) Czerep.
⑪O. spinosa (L.) Sweet
⑫O. thyrsiflora Fisch.


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。本日で最後になります。

サボテン科の進化と分子系統①
サボテン科の進化と分子系統②

Core Cactoideae II
Core Cactoideae IIの分子系統を以下に示します。詳細を見てみましょう。

        ┏━Pachycerinae
    ┏┫
    ┃┃┏Stenocerinae
┏┫┗┫
┃┃    ┗Echinocereus
┃┃
┃┣━━Leptocereusなど
┃┃
┃┗━━Hylocereeae
┫ 
┣━━━Coryocactus

┣━━━Eulychnia, Austrocactus
┃    
┗━━━Pfeiffera

240330082045256~2
Nyctocereus serpentinus(左)
Stenocereus dumortieri(右上)
Eulychnia iquiquensis


パキケレウスの仲間
Pachycerinaeはパキケレウスの仲間です。ここでは、PachycereusとStenocereus、Echinocereusを分けていますが、これらはすべてPachycereenaeとしてまとめられていたりします。ここでは、Salvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではPachycereinaeとEchinocereeae + Stenocereinaeと言う2つのグループに大別しています。まずはPachycereinaeの分子系統を示します。AはPachycereusとCarnegiaeからなります。BはLophocereusとMarshallocereus、Pterocereusからなります。CはPeniocereus、DはNyctocereus、EはCephalocereusとNeobuxbaumia、FはLemaireocereusからなります。

                  ┏A
              ┏┫ 
              ┃┗B
          ┏┫
          ┃┗━C
      ┏┫
      ┃┗━━D
  ┏┫
  ┃┗━━━E
  ┫
  ┗━━━━F


240330081847811~2
Pachycereus militaris
Pachycereus chrysomallusとして記載。

240330081934192~2
Peniocereus greggi

240330081841864~2
Cephalocereus macrocephalus

エキノケレウスの仲間
次にEchinocereeae + Stenocereinaeを見てみます。同じくSalvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではEchinocereus + Stenocereus + Myrtillcactusが、Pachycereusの姉妹群となっています。

   ┏━━Pachycereus
  ┏┫
  ┃┃┏━Echinocereus
  ┃┗┫
  ┫    ┃┏Stenocereus
  ┃    ┗┫
  ┃        ┗Myrtillocactus
  ┃
  ┗━━━Pseudoacanthocereus

240330082138987~2
Myrtillocactus

240330081903838~2
Echinocereus poselgeri
Wilcoxia poselgeriとして記載。


レプトケレウスの仲間
Core Cactoideae IIの分子系統では、「Leptocereusなど」と書きましたが、論文ではLeptocereus、Dendrocereus、Armatocereus、Neoraimondia、Pseudoacanthocereusと書かれていました。さて、Salvador Ariasらの2005年の論文では、Pseudoacanthocereusはパキケレウスやエキノケレウスの姉妹群で、LeptocereusとArmatocereus、Neoraimondiaは1つのグループで、Pseudoacanthocereusに近い仲間です。

ヒロケレウスの仲間
Hylocereeaeは論文ではHylocereus、Selenicereus、Acanthocereus、Disocactusが含まれています。さて、ここでもSalvador Ariasらの2005年の論文を見ていきます。分子系統を見ると、不思議なことにAcanthocereusとPeniocereusが入り乱れています。ちなみに、Acanthocereus①には2種類、Acanthocereus②には3種類、Peniocereus①には10種類、Acanthocereus②には1種類を含みます。実はPeniocereusは上の「パキケレウスの仲間」でも登場しています。パキケレウスの近縁のPeniocereusは2系統あり、1つは分子系統のCにあたるものでこれが正統なPeniocereusです。もう1つは分子系統のDにあたるもので、現在はNyctocereusとなっています。さて、肝心の「ヒロケレウスの仲間」に現れたPeniocereusですが、これは「パキケレウスの仲間」のPeniocereusとは遺伝的に異なるため、Peniocereusから分離されます。さらに、Acanthocereusとも遺伝的に区別出来ないため、Peniocereus①とPeniocereus②はAcanthocereusに吸収されました。また、分子系統ではSelenicereusとHylocereusは非常に近縁ですが、現在HylocereusはSelenicereusに統合されています。

          ┏━Acanthocereus①
      ┏┫
      ┃┗━Peniocereus①
  ┏┫
  ┃┃┏━Acanthocereus②
  ┃┗┫
  ┃    ┗━Peniocereus②
  ┫
  ┃┏━━Disocactus
  ┗┫
      ┃┏━Weberocereus
      ┗┫
          ┃┏Selenicereus
          ┗┫
              ┗Hylocereus

240330082109669~3
Acanthocereus tetragona

240330082116171~2
Disocactus speciosus(上、下)
Heliocereus speciosa、Heliocereus elegantissimusとして記載。
Harrisia portoricensis(中)


240330082145560~2
Selenicereus ocamponis
=Hylocereus ocampoins


最後に
3回に分けて記事にしてきました。元の論文の分子系統はかなり大雑把なので、ある程度は補完する情報を追加しました。しかし、流石に種まで書き込むことはできなかったので、属レベルで表記させていただきました。
本日の記事なのですが、実はトラブルがありました。属名が変更されたりすることはよくあることですから、事前にある程度は下調べをします。私は主にキュー王立植物園のデータベースを参照とするのですが、今回はそれが出来ていません。と言うのも、この記事を書いているのは昨日なのですが、昨日はキュー王立植物園にアクセス出来ませんでした。どうやら、サーバーが落ちているようです。仕方がないので、信頼性は落ちますが、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)で学名を確認しました。しかし、GBIFは情報が古かったりしますから、本当は使いたくなかったのですけどね。後ほど訂正するかも知れませんが、ご容赦のほどお願いします。
ところで、未だスッキリしない部分やあやふやな部分もそれなりにあります。そもそも、私が調査した論文のチョイスがどれほど妥当であったかは分かりません。本来ならば、複数の論文の情報を総合的に判断すべきなのでしょう。しかし、そこはただのドシロウトの悲しいところで、時間も知識も能力も足りていないため、なかなか難しいところです。それでも、また内容を補完するような、あるいは新しい論文が見つかりましたら、懲りずにまたご紹介出来ればと考えております。


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。昨日は原始的なサボテンであるコノハサボテンやウチワサボテン、マイフエニアに加え、玉サボテンや柱サボテンを含むサボテン亜科の一部の系統関係をご紹介しました。本日はサボテン亜科の残り、Core Cactoideaeについて解説します。

サボテン科の進化と分子系統①は以下のリンクから。

                     ┏━━Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫
         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━━Leunenbergerioideae


Core Cactoideae
Core CactoideaeはCore Cactoideae IとCore Cactoideae II、さらにCopiapoaやFraileaからなります。しかし、分子系統を見ると分岐していません。これは、上手く分離出来ていないためです。そのため、Core Cactoideae I・IIとCopiapoa、Calymmanthium、Fraileaの関係性はよく分かりません。しかし、おおよその立ち位置としては、おそらくこのあたりなのでしょう。
さて、ではCore Cactoideaeの内容を見てみましょう。

    ┏━━Core Cactoideae I
┏┫
┃┗━━Core Cactoideae II
┫ 
┣━━━Copiapoa

┣━━━Calymmanthium
┃    
┗━━━Frailea
 
Core Cactoideae I
Core Cactoideae Iは、Rhipsalidae、Core Notocacteae、BCT cladeからなります。BCT cladeとはCereeaeやTrichocereeaeからなる巨大なグループです。

      ┏━━BCT clade
  ┏┫
  ┃┗━━Core Notocacteae
  ┫
  ┗━━━Rhipsalidae

リプサリスの仲間
Rhipsalidaeは森林サボテンの仲間ですが、岩や樹木に着生するものがあります。Rhipsalidaeには、RhipsalisやLepismium、Hatiora、Schlumbergera、Rhipsalidopsisが含まれます。

230911215654071~2
Hatiola

230911221604543~2
Rhipsalis

230911220651285~2
Lepismium

ノトカクタスの仲間
Core NotocacteaeはParodiaやEriosyceの仲間です。 NotocacteaeはParodia、Eriosyce、Neowerdermannia、Yaviaからなります。
YaviaはY. cryptocarpaからなる2001年に記載された単形属ですが、Blossfeldiaとされたこともあります。
ParodiaやEriosyceは、まとめられる傾向があり、沢山の属が吸収合併されました。NotocactusやEriocactus、Brasilcactus、Malacocarpus、WigginsiaはすべてParodiaに吸収されてしまいました。また、NeoporteriaやNeochilenia、Islaya、Horridocactusは、すべてEriosyceに吸収されてしまいました。

トリコケレウスの仲間
BCT cladeは、Reto Nyffelerの2002年の論文やRolando T. Barcenasらの2011年の論文を見ると、主に柱サボテンからなるグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。近年にその特徴の共通点からTrichocereusやLobiviaがEchinopsisに吸収され、Echinopsisは巨大化しました。しかし、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文では、遺伝的にEchinopsisがTrichocereeaeの柱サボテンの中のあちこちに現れることを明らかにしました。つまり、巨大化したEchinopsisはまとまりがないグループだったのです。現在、このあたりは整理中といった雰囲気がありますが、多少は改訂されているようです。この論文では大きく4つに分けられています。
1つ目のグループはReicheocereusで、かつてはEchinopsisやLobiviaとされてきました。2つ目のグループは狭義のEchinopsisを含みます。Echinopsis、Cleistocereus、Harrisia、Leucosteleなどからなります。3つ目のグループはOreocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucana、Espostoa、Loxanthocereus、Borzicactusなどからなります。このグループはやや混乱しており、将来的に改訂される可能性もあります。4つ目のグループは旧Echinopsisですが、かつてのTrichocereusやLobiviaからなるグループです。Denmoza、Acanthocalycium、Trichocereus、Chamaecereus、Soehrensia、Lobiviaなどからなります。

230911222043822~2
Arrojadoa(右上)、Borzicactus(右下)、Stenocereus(左)

ケレウスの仲間
BCT cladeのCereeaeは基本的には柱サボテンです。2011年のRolando T. Barcenasの論文では、CereusとMicrothocereusは近縁ですが、Pilosocereus、Coleophalocereus、Uebermannia、Browningia、Stetosoniaは上手く互いの系統関係を解析出来ていません。CereinaeとRebutiinaeに分ける場合、RebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、WeingartiaなどはRebutiinaeに含まれるようです。この場合のCereinaeはCereusやMelocactus、Arrojadoa、Cipocereus、Pilosocereus、Leocereus、Coleocephalocereus、Micranthocereusなどからなります。ここで、Mariana R. Fantinatiらの2021年の論文を見てみましょう。この論文の分子系統を以下に示します。若干、解析が甘い部分もありますが、大まかな傾向は分かります。ただ、この論文ではRebutiinaeはUebelmannia以外は含まれていません。Gymnocalyciumなどは、TrichocereenaeとされたりRebutiinaeとされたり論文により立ち位置が違います。

                      ┏
Arrojadoa
                  ┏┫
                  ┃┗━
Stephanocereus
                  ┃                  
                  ┃┏━Melocactus
                  ┣┫
                  ┃┗━Discocactus
              ┏┫
              ┃┃┏━Pilosocereus
              ┃┣┫
              ┃┃┗━Coleocephalocereus
              ┃┃
              ┃┗━━Microthocereus1
              ┃
          ┏┫┏━━Microthocereus2
          ┃┗┫
          ┃    ┗━━Xiquexique
          ┃
          ┃    ┏━━Cipocereus
      ┏┫┏┫
      ┃┃┃┗━━Mirabella
  ┏┫┗┫
  ┃┃    ┗━━━Cereus
  ┃┃
  ┃┃┏━━━━Brasilicereus
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━━━Leocereus
  ┫
  ┗━━━━━━Uebelmannia


230911214051537~2
Coleocephalocereus

230911214539161~2
Pilosocereus

レブチアの仲間
ここまで登場しなかったRebutiaやGymnocalycium、つまりRebutiinaeを見ていきます。RebutiinaeはRebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、Weingartiaなどからなるとされています。ここでは、Stefano Mostiらの2011年の論文を参加に見ていきます。見てお分かりのように、ケレウスの仲間が2つに分かれていたりさしますから、やや不確実かも知れません。しかし、そもそもこの論文は、Rebutiaを解析することを目的としていますから、まずはその点を見てみます。さて、この論文では、Rebutiaは2つに分けられるとしています。Rebutia①ではWeingartiaやSulcorebutia、Cintiaと入り乱れており、これらを区別することが出来ません。ですから、現在ではWeingartiaやSulcorebutia、CintiaはRebutiaに統合されました。また、Rebutia②は明らかにRebutia①と近縁ではありません。これは、Rebutiaに吸収されていたAylosteraで、現在ではRebutiaから分離されています。
さて、やや不確実な解析結果ではありますが、大まかな傾向は分かります。GymnocalyciumやAylosteraはトリコケレウスやケレウスの仲間と近縁であると言うことです。また、RebutiaとBrowningiaは姉妹群のようです。


          ┏━━Rebutia①
      ┏┫
      ┃┗━━Browningia
      ┃
  ┏┫        ┏Rebutia②
  ┃┃    ┏┫
  ┃┃    ┃┗Cereeae①
  ┃┃┏┫
  ┫┃┃┗━Gymnocalycium
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Trichocereeae
  ┃
  ┗━━━━Cereeae②

最後に
本日はサボテン亜科のCore Cactoideae Iをご紹介しました。Core Cactoideae Iは多くの柱サボテンを含む巨大なグループです。完全に解明されたわけではありませんが、大まかな分類は分かります。思うに、かつては形態学的な類似のみが分類の指標でした。そのため、外見的に共通点があるエキノプシスやトリコケレウス、ロビビアなどが統合されたこともあります。しかし、遺伝子工学の発達により、現在では遺伝子解析による分類が当たり前のように行われ認められております。そのため、巨大化したエキノプシスは解体されることになりました。

さて、明日はCore Cactoideae IIをご紹介します。これで、サボテン科の分類は最後です。PachycereusやHylocereusが登場します。


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サボテンはサボテン科(Cactaceae)に分類されますが、大変種類が多く非常に多様です。樹木状のサボテンに見えないサボテンであるPereskiaなどは原始的な特徴を残しているのだろうと何となく予想しますが、柱サボテンや玉サボテンの関係などはまったく分かりません。現在、サボテンの分類はどうなっているのでしょうか。ここでは、過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として見ていきます。ただし、大まかな分類が示されているだけなので、詳細は随時私の知っている論文から情報を追加しました。

分子系統
以下に示す分子系統を見てみます。一番根元にあるのは樹木状サボテンです。そこからOpuntioideae、(ウチワサボテン亜科)、Maihuenioideae(マイフエニア亜科)が順次分岐しました。オプンチア亜科とマイフエニア亜科以外は、Cactoideae(サボテン亜科)です。サボテン亜科は柱サボテンや玉サボテン、リプサリスやクジャクサボテンまで含む巨大なグループです。
さらにサボテン亜科は、Aztekium + Geohintonia + CacteaeとCore Cactoideaeに分かれます。ここからは、それぞれについて見てみましょう。

                     ┏━
Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫

         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━Leuenbergerioideae 

樹木状サボテン(コノハサボテン)
樹木状サボテンは一般的にPereskiaとされてきましたが、Leuenbergeriaが分離されました。2属で1つのグループを形成しているのではなく、それぞれ単独のグループを形成します。それぞれ、Leuenbergerioideae(レウエンベルゲリア亜科)と、Pereskioideae(コノハサボテン亜科)に大別されます。
Joel Lodeの2019年の論文では、そのあたりについてよくまとめられています。Leuenbergeriaは茎気孔が発達せず比較的急速に樹皮を形成しますが、Pereskiaは茎気孔が発達し樹皮形成は緩やかです。Pereskiaは茎で光合成をして茎から二酸化炭素を取り込んでいるわけですから、サボテン科の多肉植物化の始まりが示されていると言えます。分布も異なりLeuenbergeriaはメキシコ以北、Pereskiaは南米原産です。
また、コノハサボテン亜科はPereskiaからRhodocactusに4種類が移されました。


231018043113470~2
Leuenbergeria zinniiflora

Opuntioideae
いわゆるウチワサボテンの仲間ですが、Cylindropuntieae、Opuntieae、Tephrocacteaeからなります。ウチワサボテンは分布が近い種類同士で自然交雑しており、絡まり合うように遺伝子が混ざっています。Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文では、ウチワサボテンは複雑に絡み合うように交雑している網状進化の様子が示されています。ウチワサボテンの種類の多さや分布の広さ、その多様性は盛んにおきている自然交雑によるものなのかも知れません。CylinderopuntieaeにはPereskiopsisのような大きな葉を持つ古いタイプのサボテンを含みます。
Opuntieaeはウチワサボテンの中でもっとも多様で広範囲に分布するグループです。約230種類のうち、約200種類からなるOpuntia属は、カナダからアルゼンチンまで分布します。OpuntieaeにはTacingaやConsolea、Salmonopuntia、Miqueliopuntia、Brasiliopuntiaを含みます。
Cylindropuntieaeは約70種類からなり、一般的に「chollas」と呼ばれる仲間です。このグループは、Cylindropuntia、Corynopuntia、Grusonia、Micropuntia、Pereskiopsis、Quiabentiaからなります。PereskiopsisやQuiabentiaは葉が多いサボテンです。
TephrocacteaeはTephrocactusやAustrocylindropuntia、Cumulopuntia、Maihueniopsis、Peterocactus、Punotiaからなります。

240202231910199~2
Cylindropuntia fulgida

Maihuenioideae
マイフエニア亜科はチリ、アルゼンチンの寒冷で半乾燥したパタゴニアに生える低木で、2種類が知られています。MaihueniaはC3植物であり、気孔はアレオーレに限定されるなど、サボテンの典型的な特徴を持ちません。

Cacteae
論文ではCacteaeは以下の分子系統のように分類されています。アストロフィツムとエキノカクタスは非常に近縁で、フェロカクタスも近いですね。マミラリア類(Mammilloyd)とラピカクタス、ツルビニカルプス、エピテランサは近縁です。Cacteaeは、Aztekium + Geohintoniaと姉妹群です。

              ┏━Mammilloyd
          ┏┫
          ┃┗━Rapicactus
          ┃
      ┏┫┏━Turbinicarpus
      ┃┗┫
      ┃    ┗━Epithelantha
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Ferocactus
  ┫
  ┗━━━━Astrophytum,
                      Echinocactus
                     
さて、まずはAstrophytumからFerocactusあたりを見ていきます。これは、Mario Daniel Vargas-Lunaらの2018年の論文を参照しましょう。やはりここでも、AstrophytumとEchinocactusは近縁です。ただし、Echinocactusは分割されHomalocephalaが復活しています。さらに、金鯱(E. grusonii)はKroenleinia属として独立しましたが、遺伝的にはFerocactusに含まれます。ちなみに、GlandulicactusはFerocactusへ、EchinomastusはSclerocactusに分類されているようです。

次にフェロカクタスとマミラリア類をつなぐグループを見ていきます。このグループは、Rolando T. Barcenasらの2011年の論文を参照とします。TurbinicarpusはAriocarpusと非常に近縁で、Strombocactusも近縁です。さらに、EpithelanthaとThelocactusは近縁です。他にも、RapicactusやPediocactus、Lophophoraも近縁です。

次にマミラリア類を見ていきます。このグループは、Cristian R. Cervantesらの2021年の論文を参照とします。マミラリアの仲間はMammillaria、Ortegocactus、Neolloydia、Coryphantha、Escobaria、Pelecyphora、Encephalocarpusあたりが含まれます。しかし、マミラリア属は再編され大きく変わりました。実は遺伝的に見るとこれらの属は種類により入れ子状となっており、属ごとにまとまっていません。ですから、改めて近縁なグループごとに分ける必要があったのです。
Coryphanthaは分割され一部はPelecyphoraに吸収されました。EscobariaやEncephalocarpusは消滅し、やはりPelecyphoraに吸収されました。本来のMammillaria属とPelecyphora属をつなぐグループはCochemieaとしてまとめられました。Cochemieaは、Mammillariaの一部とOrtegocactus、Neolloydiaを含みます。
現在ではEncephalocarpus strobiliformis(松毬玉)はPelecyphora strobiliformisへ、Ortegocactus
macdougalliiはCochemiea macdougalliiとなっています。ちなみに、一部のCoryphanthaがPelecyphoraになりましたが、C. viviparaやC. hesteriなどのEscobariaとされることもあった微妙なラインのものです。

また、いくつかの論文を見たところ、LeuchtenbergiaやSclerocactusはおそらくCacteaeですが、立ち位置は論文によりやや違いがあります。


最後に
まだ途中ですが、記事が長くなったので本日はここまでとしましょう。と言うわけで、明日に続きます。
しかし、球状のサボテンではBlossferdiaが原始的な位置にあったことに驚きました。また、マミラリアの仲間はかなり改訂が進んでいます。今後はEchinocactusやFerocactusの改訂があるかも知れません。このように、サボテンもその分類は急速に整理されつつあります。それは、ここ20年くらいの遺伝子工学の発展によるものです。とはいえ、まだすべてが解析されたわけではありませんから、まだ分からない部分もあります。しかし、それも時間の問題でしょう。これからは、サボテンの名前は大幅な改訂を受けるはずです。長い間親しんだ名前は変わってしまい、属レベルですら消滅を免れないでしょう。



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日本では「菊水」の名前でお馴染みのStrombocactus disciformisは渋いサボテンですが、今でも人気種です。今ではすっかり普及種となっていますから、育てておられる方も多いでしょう。
このS. disciformisの由来は古く、はじめて命名されたのは1828年のことで、Mammillaria disciformisと命名されましたが、1922年にストロンボカクタスになりました。1924年にはStrombocactus turbiniformis、1996年にはStrombocactus jarmilaeが命名されましたが、現在はS. disciformisの同種とされています。さらに、1996年にはStrombocactus pulcherrimusが命名されましたが、現在はS. disciformisの亜種であるsubsp. esperanzaeとされています。このように、ストロンボカクタスの新種は記載されるものの、異名扱いかせいぜい亜種とされてきました。ところが、2010年に待望の新種であるStrombocactus corregidoraeが記載されました。明らかに菊水とは別種でしたから、実に182年ぶりの新種でした。
さて、本日はこの新種のストロンボカクタスについての話です。参照とするのは、Rolando T. Barcenasらの2021年の論文、『Chichimecactus (Cactoideae, Cactaceae), a new genus based on molecular characterisation of highly endangered Strombocactus species』です。

分子系統
論文の分子系統を見てみましょう。
まず驚くのは、ツルビニカルプスが2つに分かれることです。よく見たらTurbinicarpus②は、RapicactusとされるT. beguinii、T. subterraneus、T. mandragoraの3種でした。本来のツルビニカルプスはTurbinicarpus①ですね。
次に、アリオカルプスとツルビニカルプスは近縁で、S. disciformisその2属と近縁でした。ちなみに、ssp. disciformisとssp. esperanzaeは遺伝的にはきれいに分離されています。本題のS. 
corregidoraeは、興味深いことにS. disciformisと近縁ではあるものの、思ったより距離があり、同属とするのは困難に見えます。

                      ┏Ariocarpus
                  ┏
      ┃┗Turbinicarpus①
              ┏┫
              ┃┗━Strombocactus
              ┃            disciformis
          ┏┫
          ┃┗━━Strombocactus
          ┃                corregidorae
          ┃
      ┏┫┏━━Epithelantha
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━Thelocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━━Lophophora
  ┫                   
  ┗━━━━━Turbinicarpus②

特徴
Strombocactus corregidoraeは、S. disciformisより長く(18〜21cm)、幅があり(8〜13cm)、やや縦長になります。以下に①S. corregidorae、②亜種disciformis、③亜種esperanzaeで、それぞれの特徴を示します。

        ①   ②    ③

最大サイズ(cm) 
21×13 12×9   4.5×3.5
トゲ      持続的 脱落   脱落
トゲの数                 3~5        1~5       1~2

トゲの長さ(cm) 1.8~3.5  1.5     0.8~1.1
種阜       無           有          有


以上のようにS. corregidoraeの特徴はまとめられます。特に脱落しにくいトゲや、種阜がないことはS. disciformisと比較した時に特徴的です。種阜(strophile)とはエライオソームの1種で、種子に栄養分がついており、アリは種阜目当てで種子を運搬します。

良い図版がなかったので、原産地の画像のリンクを貼っておきます。

Strombocactus disciformis ssp. disciformis

https://www.inaturalist.org/photos/349020628

Strombocactus disciformis ssp. esperanzae
https://www.inaturalist.org/photos/59472790

Chichimecactus corregidorae
https://www.inaturalist.org/photos/334800540
円筒形に育つ様子
https://www.inaturalist.org/photos/275414627

新属の提案
著者らは、米国南西部からメキシコ北部の乾燥地に住んでいたChichimeca族にちなみ、新属Chichimecactusを提案しました。そして、Strombocactus corregidoraeをChichimecactus corregidoraeとして配置しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
著者らは新属
Chichimecactusを提案しましたが、これは現在学術的に認められています。つまり、Strombocactus corregidoraeは正式にストロンボカクタスから分離されました。この論文は2021年の掲載ですから、実に最近のことでした。
さて、華々しく新属が記載されましたが、ストロンボカクタス待望の新種は幻に終わりました。結局、ストロンボカクタスは1属1種のままです。いつか、菊水以外のストロンボカクタスも発見される時が来るのでしょうか?


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2014年に金鯱(Echinocactus grusonii)がエキノカクタスから独立し、新属であるKroenleinia属に分類されました。つまり、Kroenleinia grusoniiです。しかし、2018年に行われたホマロケファラとエキノカクタス、フェロカクタスの遺伝的解析の結果では意外な事実が明らかとなっています。当該論文である2018年のMario Daniel vargas-Lunaらの『Homalocephala as a distinct genus in the Cacteae』を見てみましょう。参照とするのは分子系統だけで、以下の解説は私の考えなので悪しからず。

240317223044640~2
Homalocephala texensis
『The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。


遺伝的解析
この論文は、ホマロケファラ(Homalocephala)の分類をはっきりさせることを目的としているようですが、近縁と考えられるエキノカクタスやフェロカクタスなどとの比較がなされています。
ホマロケファラ、つまり綾波(Homalocephala texensis)は、1842年にEchinocactus texensisと命名され、1922年に新設されたホマロケファラ属となり独立しました。しかし、現在はエキノカクタス属に戻されています。
下の分子系統を見ると、ホマロケファラはエキノカクタスから明確に分離されています。意外にもエキノカクタスはホマロケファラやフェロカクタスより、アストロフィツムに近縁であることが明らかとなりました。もし、ホマロケファラをエキノカクタスに含めると言うのならば、アストロフィツムもエキノカクタスに含める必要がありますが、あまりに非現実的です。やはり、エキノカクタスからのホマロケファラの分離が好ましいようです。


          ┏━━Astrophytum
      ┏┫
      ┃┗━━Echinocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Homalocephala
  ┫
  ┗━━━━Ferocactus

240317224257576~2
Echinocactus platyacanthus
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus ingensとして記載。


エキノカクタスの解体
エキノカクタス属そのものの範囲も論文では異なります。この論文では、エキノカクタスに含まれるのはE. platyacanthus(広刺丸)とE. horizonthalonius(太平丸)だけです。E. parryi(神竜玉)やE. polycephalus ssp. polycephalus(大竜冠)、E. polycephalus ssp. xeranthemoides(竜女冠)はホマロケファラに含まれてしまいます。気になるE. grusonii(金鯱)はフェロカクタスに含まれることが明らかになっています。遺伝的に見ると、エキノカクタスはわずか2種類に縮小することになります。
また、論文では太平丸(E. horizonthalonius)は、ニコリー太平丸(ssp. nicholii)も調べていますが、ssp. horizonthaloniusとそれほど上手く分離出来ていません。外見上は異なっていても、遺伝的にはそれほどの違いはないと言うことかも知れません。ちなみに、現在ssp. nicholiiはssp. horizonthaloniusに含まれてしまいました。逆にssp. australisが2022年に新亜種として記載されています。

240317224234334~2
Echinocactus polycephalus ssp. xeranthemoides
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus 
xeranthemoidesとして記載。

現在の分類
現在の学術分類では、この2018年の論文の成果は反映されていません。しかし、将来的には大きく整理されるかも知れません。とりあえず、キュー王立植物園のデータベースを見てみます。

①Echinocactus

1, E. × diabolicus
2, E. horizonthalonius
3, E. parryi
4, E. platyacanthus
5, E. polycephalus
6, E. texensis

E. × diabolicusは、2006年にE. horizonthaloniusの亜種として記載されましたが、これはE. horizonthaloniusとE. platyacanthusの自然交雑種であるとされました。そのため、2020年に交雑種であることを示す「×」がつけられました。
分子系統でエキノカクタスに含まれるのは、E. horizonthaloniusとE. platyacanthusだけです。残りの3種類はホマロケファラです。

②Kroenleinia
1, K. grusonii

金鯱は2014年にクロエンレイニア属とされましたが、分子系統ではフェロカクタスです。ちなみに、金鯱をフェロカクタスとする意見も2021年に提出されています。

DSC_0579
Kroenleinia grusonii

最後に
この論文ではホマロケファラの立ち位置を確定させるためのものですが、思わぬ結果が示されています。ホマロケファラはエキノカクタスから分離されますが、エキノカクタス自体が分解されることが明らかとなったのです。また、副産物でKroenleiniaがフェロカクタスであることも判明しました。しかし、ホマロケファラは、エキノカクタス→ホマロケファラ→エキノカクタスと来て、遺伝的にはホマロケファラと行ったり来たりしています。この論文の結果を持って最終的な回答となるのでしょうか。しばらくは経緯を見守りたいと思います。


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多肉植物は水分を溜め込んでおり、大変みずみずしいので、一見して食べられそうな気もします。実際にウチワサボテンやアロエ、アイスプラントなどは食べられています。しかし、EuphorbiaやBoophone(=Boophane)には毒性があり注意が必要です。また、Pachypodiumはキョウチクトウの仲間ですから強い毒性がありますが、あまり知られていないかも知れません。さて、それ以外の多肉植物と言えば、食べられるかどうか、あるいは毒性があるか否かはあまり聞きません。
本日は南アフリカで野生の多肉植物を食べた家畜におこる謎の疾患「Krimpsiekte」を引き起こす原因に迫ります。参照とするのは、Christo J. Bothaの2013年の論文、『Krimpsiekte in South Africa: Historical perspectives』です。早速、見てみましょう。

Krimpsiekteと言う病
Krimpsiekteは1775年以来、家畜の病気として認識されてきました。症状は麻痺で南アフリカで最初に記録された家畜の病気の1つで、植物中毒が原因と考えられていました。Krimpsiekteはnentaあるいはritaなどと呼ばれてきました。正式な記録は1864年のBrowneのものが最初でした。
1884年にHutcheonはKrimpsiekteのヤギの第一胃液を濾して2頭のヤギに投与し、Krimpsiekteを発症することを確認しました。1887年には植物学者のMacOwanはマメ科植物のLesserita annularisがヤギのrita=Krimpsiekteの原因であると述べました。また、1899年にHutcheonはKrimpsiekteのヤギの肝臓を犬に与えてみました。ヤギの肝臓を食べた犬は2日以内にKrimpsiekteの急性症状を引き起こしました。これは、Krimpsiekteにより引き起こされた二次中毒のはじめての報告でした。

原因はチレコドンか?
1891年に獣医師のSogaが、ヤギにTylecodon ventricosusの葉を与えると、Krimpsiekteの症状を引き起こすことを発見しました。わずか2オンス(56.7g)の細断した葉をヤギに3日間与えると、4日以内に疾患の症状を引き起こし、6日以内に死亡しました。T. ventricosusを与えたヤギは8頭すべてがKrimpsiekteを発症し、うち6頭が死亡しました。1891年は、南アフリカではじめて家畜に対して有毒な植物を実験的に証明した、歴史的に重要な年です。

再現実験
しかし、Sogaの実験結果には懐疑的な見方もありました。なぜなら、実験がKrimpsiekteが起こる地域のヤギを使用して行われたことと、それまで毒性のあるベンケイソウ科の植物は知られていなかったからです。
その後、獣医外科のTomlinson、Borthwick、Dixonは、Krimpsiekteの起きていない地域のヤギにT. 
ventricosusを与えることにより、Krimpsiekteの発症を確認しました。nentaあるいはKrimpsiekteになったヤギの歴史的な写真を、1898年にBorthwickが撮影しました。

第二の犯人はコチレドン
1908年に政府の農学者・植物学者であるBurtt Davyと、植物標本館助手のMiss Stentは、Cotyledon orbiculataによる家禽中毒の疑いについて報告しました。Miss Stentは庭でC. orbiculataを間引き、刻んだ葉を家禽に与えました。翌日、6羽の雌鳥が死亡しました。また、Burtt Davyは、Arnold Theiler公も鶏の麻痺と死亡を確認したことを報告しました。Kehoeは1912年に、アンゴラ山羊にC. orbiculataを240g与えました。その後、ヤギはKrimpsiekteを思わせる症状を引き起こし、10日後に死亡しました。Tustinらの1984年の報告では、C. orbiculataを摂取した16頭のアンゴラ山羊の群れで中毒が発生し、そのうち6頭が死亡しました。
ナミビアのMaltahohe近くの農場でヒツジにKrimpsiekteと似た症状が起きました。1965年にTerblance & Adelaarは、
C. orbiculataをヒツジに与えその毒性を確認しました。C. orbiculataの半乾燥状態の茎と葉は、わずか1.0g/kgでヒツジにとっては致命的でした。蓄積効果もあり、1日あたり50mg/kgと言う少量の摂取でも、中毒を引き起こしました。

第二のチレコドン
1920年にCursonは、Tylecodon wallichii (Cotyledon wallichii)の毒性を証明しました。1926年にHenningは、T. wallichiiがヤギやヒツジ、馬、家禽に対して、非常に有毒であることを確認しました。体重36kgのヤギにT. wallichiiの葉7gを2回与え、これは0.39g/kgと言う少量でしたが、摂取4日後に症状があらわれ、その2日後に死亡しました。Henningは家畜が比較的短期間に大量の植物を摂取すると急性中毒を引き起こし、現場では「opblaas」と呼ばれることもあると指摘しました。長期的な摂取はよりKrimpsiekteらしい症状を引き起こします。また、Krimpsiekteのヤギや馬の肝臓や馬肉を犬に与えると二次中毒を引き起こすことを確認しました。

240317212850032~2
Tylecodon wallichii『Carnegie Institution of Washington publication』(1924年)より。Cotyledon wallichiiとして記載。

新たなKrimpsiekte
その後、Kalanchoe lanceolataによりKrimpsiekteが引き起こされることが明らかとなりました。1983年にAndersonらがヒツジで、1997年にMasvingwe & Mavenyengwaは牛でKrimpsiekteの発症を確認しました。
冬季降雨地帯では、Tylecodon grandiflorusによるとされる牛の中毒が起きていました。1983年にAndersonらはT. grandiflorusをヒツジに与え、Krimpsiekteを再現しました。

240317213044413~2
Kalanchoe lanceolata
『Carnegie Institution of Washington publication』(1924年)より。Kalanchoe paniculataとして記載。


毒性の正体
HenningはC. orbiculataの有毒成分は熱に安定で、30分間煮ても、120℃で15分間処理しても破壊されないことを指摘しました。1936年にSepeikaは、神経毒であるcotyledontoxinとジギタリス様作用を持つ配糖体が含まれることを示唆しました。それから約40年後、bufadienolide強心配糖体であるcotyledosideがT. wallichiiから単離されました。cotyledosideの投与は家畜にKrimpsiekteを引き起こすことが確認されています。
1985年にAndersonらは、C. orbiculataから4つの
bufadienolideを単離しました。tyledoside Cと、orbicuside A、B、Cでした。orbicuside Aをヒツジと投与すると麻痺や横臥を誘発しました。
T. grandiflorusはAndersonらによって徹底的に研究されました。6つの
bufadienolideが単離され、tyledoside A、B、C、D、E、F、Gでした。
K. lanceolataからは3つの
bufadienolideが単離されました。3-O-acetylhellebrigeninと、lanceotoxin A,Bです。

最後に
意外にもティレコドンやコティレドン、さらにはカランコエからも家畜に麻痺や死亡をもたらす強力な毒性を有していることが明らかになりました。少量でも作用しますから、草食のペット、例えばハムスターやモルモット、ウサギなどは危険かも知れません。カランコエなどは一般的に普及していますから、落ちた葉には気を付ける必要がありそうです。まあ、すべてのカランコエに毒性があるかは分かりませんけどね。
よく毒性を表す指標として、LD50なるものがあります。これは、半数致死量と言って、その量を与えたら半数は死ぬ量です。これを例えば体重60kgの人に当てはまると、Krimpsiekteを引き起こす成分は6〜
22mg程度とかなり強烈な毒性です。こんな身近に毒性植物があったことに驚きました。私もユーフォルビア以外の多肉植物も危ないかも知れないと警戒することにしました。


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当ブログでは、多肉植物の名前についての話題がちょくちょく議題に上がります。ある種が分割されたり統合されたり、属名が変更になったりと言ったことはよくあることです。しかし、それだけではなく、命名規約上の問題もあります。現在の二名式学名は1753年のCarl von Linneから始まりますが、命名が古い種は基準となるタイプ標本がない場合があります。長い年月で行方不明になったり、第二次世界大戦により消失してしまったりと理由は様々です。このような場合、新たにタイプ標本を指定し直す必要があります。本日はそんなタイプ標本の再指定=レクトタイプ化に関するお話です。参照とするのは、D. L. Koutnik & Mary O'Connor-Fentonの1985年の論文、『Lectotypification of the genus Delosperma (Mesembryanthemumaceae)』です。早速、見てみましょう。

Mesembryanthemumの誕生
von Linneが1753年に「Species Plantarum」を出版した時、Mesembryanthemum属はわずか35種でした。1862年のSonderの「Capensis」では、293種に増加しました。現在、von Linneの言うところのMesembryanthemumは推定1200種あります。

※von Linneの言うところのMesembryanthemumは、後に分割されたため、現在のMesembryanthemumが1200種あるわけではありません。

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「Species Plantarum」

分離が始まる
N. E. Brownは、多くの種を集中的に研究した最初の現代的な研究者でした。1920年、1921年に、巨大なMesembryanthemum複合体から、別属に分離するプロセスを開始しました。属の分割は種子鞘(seed capsule)に基づいたものです。この分離するプロセスは現在も続いており、現在は100属以上となっています。
これらの属のほとんどは、1958年以前にはタイプ標本が指定されていませんでした。そのため、タイプ標本の再指定=レクトタイプ化が必要です。Delospermaもそのようなレクトタイプ化を必要としています。Delospermaは約163種からなり、現在著者により改訂中です。

タイプを再指定
1925年にBrownがMesembryanthemumからDelospermaをはじめて分離しました。しかし、この時にどの種がDelospermaに含まれるのかをBrownは示しませんでした。そこで、1925年以前にBrownにより記載され、Delospermaの最初の扱いでBrownに言及され、総称名の後に新属と印刷された3種類に限定しました。それは、D. herbeum、D. macellum、D. mahoniiです。このうち、D. herbeumは線状披針形の葉や小さな花からなる集散花序を持ち、雄しべは花の中心に集められるなど、典型的なDelospermaです。そのため、D. herbeumを代表的なDelospermaと判断します。また、D. herbeumはタイプ標本がBrownにより発見され、資料の一部として引用されています。

レクトタイプの混乱要素
Delospermaがレクトタイプ化されたかは、若干の混乱があります。Lavisは1967年にSection Delosperma(デロスペルマ節)と言う分類群を作りました。これは、「Delosperma属」と混同してはならず、Sectionの確立のためにレクトタイプと言う単語を使用することは明らかな間違いです。Section Delospermaのタイプは、Delosperma echinatum (Aiton) Schwantesですが、タイプとして問題があります。D. echinatumは1789年に命名されたMesembryanthemum echinatm Aitonに基づいており、これは1786年に命名されたD. echinatum Lam.と同名です。この種の正しい名前は、Delosperma pruinosum (Tunb.) Ingramですから、Delosperma echinatum Schwantesは非合法名です。

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Delosperma echinatum
『Monographia geneum aloes et mesembryanthemi』(1836年)より。Mesembryanthemum echinatumとして記載。


最後に
ややこしい話ですが、これはMesembryanthemumからDelospermaが分離された時に、属のタイプがないと言う問題を解決するための提案です。デロスペルマは日本では「マツバギク」の名前で知られていますが、ずいぶんと面倒くさい話があるものですね。
さて、この提案が採用されたか否かは、実はよく分かりません。まあ、これはただ調べられていないだけです。ただし、読んでいてよく分からない部分もあり、そちらの方が気になってしまいました。それは、Delosperma echinatumの学名についてです。著者らはD. echinatumをAitonの命名によるM. echinatum Aitonが由来である、Delosperma echinatum (Aiton) Schwantesとしています。そして、それは誤りで正しくはDelosperma pruinosum (Thunb.) Ingramとしました。しかし、現在のD. echinatumはAitonではなく、LamarkによるMesembryanthemum echinatum Lam.に由来するとされています。そもそも、Aitonの命名したD. echinatumがよく分からないため、どう解釈したものか悩みます。ちなみに、D. pruinosumは1791年に命名されたMesembryanthemum pruinosum Thunb.に由来します。対するD. echinatumは、1788年に命名されたMesembryanthemum echinatum Lam.に由来します。命名年を見れば、M. echinatumが優先されることが分かります。ということで、Delosperma echinatumが現在の正しい学名とされています。


 
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チレコドン(Tylecodon)と言う多肉植物がありますが、コチレドン(Cotyledon)と名前が似ており、私個人としてはどっちだったか分からなくなったりしたこともあります。ずいぶんややこしい名前だと思っていましたが、その理由が書かれた記事を見つけました。なんでも、TylecodonはCotyledonのアナグラムだと言うのです。ただ似ているのではなく故意だったわけです。面白い話ですね。実に遊び心があります。それはさておき、その記事の主題はチレコドンの花粉媒介者(ポリネーター)を探ると言うものです。そちらの内容をご紹介しましょう。それは、Sarah Gessらの1998年の記事である『BIRDS, WASPS AND TYLECODON』です。Gess夫婦が息子さんを連れて調査に赴いたようです。

チレコドンは鳥媒花
TylecodonはCotyledonのアナグラムで、1978年にTolkenによりCotyledonから分離されたグループです。Tylecodonには約28種があり、そのうち16種がNamaqualandに分布します。Namaqualandの岩だらけの丘陵地帯でもっともよく知られているのは、「botterboom」と呼ばれているT. paniculatusです。この低木は高さ1mになり、紙のように剥ける樹皮と多肉質な葉を持ちます。花は晩春から夏にかけて咲きますが、緋色でしっかりとしており鳥により受粉する植物の特徴を持ちます。花の長さは約20mmで、蜜は雄しべの基部にある毛の房で守られており、鳥が蜜を吸うために毛の房を押し退ける必要があります。著者らはGoegap自然保護区で、数羽のタイヨウチョウが花を訪れるところを観察しています。

Tylecodon hallii
あまり馴染みがない種としては、Richtersveld北部とナミビアの隣接地域の固有種であるT. hallimiがあります。この植物はbotterboomの1/3以下のコンパクトな多肉低木です。黄色い釣り鐘型の直立した花を沢山咲かせます。花は約22mmですが、明らかに鳥を誘引するように設計されていません。著者らは1995年の9月に、Richtersveld国立公園を訪れ、この地域のミツバチとジガバチ(wasps)を調査しました。Gess夫妻は乾いた水路の土手沿いの植物を採取するのに熱中していましたが、息子のRobertは丘の斜面に惹かれました。息子からの電話により、T. halliiに小型のハナドロバチ(pollen wasp)が沢山訪れていました。その後に、夫のFredによりMasarina tylecodoniと命名された未記載種であることが明らかとなりました。Tylecodonの花に昆虫が訪れたと言う記録はないようですから、この発見は大変興味深いものでした。

花粉媒介の仕組み
T. halliiはハナドロバチに豊富な蜜と花粉を提供します。しかし、蜜は圧迫された花糸の下に隠されているため、容易に蜜にアクセスすることは出来ません。ハナドロバチは花冠と雄蕊の間に侵入し、ピッタリと押し付けられた形で、長い舌を伸ばして花の根元にある蜜を吸います。ハナドロバチは強引に花に侵入する際に、葯を押してしまい背中に大量の花粉を受け取ります。花粉を沢山つけたハナドロバチが、柱頭が外側に湾曲した花に入ると、背中についた花粉を柱頭で拭き取る形になります。従って、M. tylecodoniはT. halliiの花粉媒介者として適しています。
また、ハナドロバチは意図的に花粉を集めますが、それは葯から直接回収します。背中についた花粉から集めるわけではありません。

信頼出来る花粉媒介者
調査地で花を咲かせている植物は13科32種が採取され、28種のミツバチとドロバチが訪問していることが明らかになりました。しかし、T. halliiにはM. tylecodoniのみが訪問し、M. tylecodoniはT. halliiのみを訪れました。著者は1997年9月に再訪し、T. halliiとM. tylecodoniの間の特別な相利関係を観察しました。ハナドロバチは少数の近縁な植物だけに訪問することが多いのですが、これまでは単一の植物とのみ関連付けられたことがないので、M. tylecodoniが他の植物を訪問する可能性はあります。しかし、T. halliiはRichtersveldで最初に開花する植物であるため、M. tylecodoniは非常に信頼出来る花粉媒介者であることに変わりはありません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
チレコドンは鳥媒花ですが、Tylecodon halliiは虫媒花だったと言うことです。多肉植物の受粉生物学は調べられていないものが多く、このような思わぬ発見はつきものです。受粉のメカニズムも中々巧妙です。ハナドロバチとの相利共生の歴史を感じます。
しかし、多肉植物の受粉については、調べられていないだけではなく、あまり記事にもなっていません。私は今後も多肉植物の受粉生物学について話題にしていきたいと思っています。


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生物は基本的にトレード・オフです。例えば、卵は大きなものほど子供の生存率が高く、小さい卵ほど子供の生存率は低くなります。これは、生まれてくる子供のサイズが異なり、卵が大きいほど1匹の子供に使われる栄養が多いことが原因です。しかし、実際のところ、大きい卵は少なく産卵され、小さい卵は沢山産卵されます。これは、少数の生存率を上げるのか、生存率が低くても数を揃えるのかと言うトレード・オフの関係にあります。一見して生存率が高い方が有利な気もしますが、生存率が低くくても数が多ければ最終的には生き残ることが出来るため、どちら一方が優れているわけではありません。
生物はアレもコレもと言うわけにはいきません。大きい卵を沢山生めば良いような気もしますが、生物の利用出来る資源や産卵に振り分けられるエネルギーは有限です。仮に100の栄養があった時に、栄養50の卵を2つ生むのか(50×2=100)、栄養2の卵を50個生むのか(2×50=100)と言う選択肢はありますが、栄養50の卵を50個生むこと(50×50=2500)は出来ないのです。ニワトリが鶏卵を一度に何十個も産むことを考えたら、非現実的な意見であることが分かるでしょう。これを、一般的にトレード・オフと言います。アレもコレもではなく、アレかコレかを選ばなくてはなりません。
植物でも資源をどの程度振り分けるのかは問題となります。特に生長と繁殖のバランスは重要でしょう。例えば、生長を優先するのか、繁殖(開花)を優先させるのかです。本日はサボテンのトレード・オフを検証したM. A. Lorenzaniらの2024年の論文、『Growing or reproducing? Assessing the existence of a trade-off in the globose cactus Gymnocalycium monvillei』をご紹介しましょう。

植物のサイズと資源分配
サボテンにおいて、トレード・オフについては調べられていませんが、サイズと繁殖の関係を調べた研究は行われています。いくつかのサボテンではサイズが大きくなるほど種子の数が増えることが確認されています。例えば、Pterocereus gaumeriやStenocereus thunberi、Lophocereus schottii、Escobaria robbinsorum、Ferocactus wislizeni、Coryphantha werdermannii、Lophophora diffusaなどで確認されています。

Gymnocalycium monvillei
著者らはアルゼンチンのコルドバのGymnocalycium monvilleiを調査しました。調査地の標高は1600mで、年間平均気温は13.9℃、年間降水量は800mmでした。雨は9月から4月の温暖な時期に集中します。G. monvilleiは自家不和合性で、ミツバチにより受粉します。花は1〜10個で雌雄同体です。
著者らは、G. monvilleiが生長する時期である9月から4月の生長を測定し、生産された果実を数えました。


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Gymnocalycium monvillei
Gymnocalycium multiflorumとして記載。
『Adissonia』(1918年)より。


サイズと種子を測定
G. monvilleiの直径は、2018年から2019年の1回目の調査では5.4〜17.9cm、2019年から2020年の2回目の調査では6.1〜17.9cmでした。生長率は0%〜27.8%で、25%は生長しませんでした。すべての個体は開花しましたが、1回目では5%、2回目では6.7%が種子を生産しませんでした。
G. monvilleiの直径は種子生産量および総種子重量に関係がありました。しかし、直径と平均種子重量には関係がありませんでした。さらに、生長と種子の数、平均重量、総重量とも関係がありませんでした。また、種子の平均発芽時間も直径や生長とは関係がありませんでした。


トレード・オフはない
結果として、G. monvilleiは生長と種子生産量の間にトレード・オフの関係はないことが分かりました。過去の報告では、植物の種類によりトレード・オフがある場合とない場合があります。サイズと種子量の相関は、Opuntia engelmanniiやMammillaria magnimamma、Harrisia portoricensis、Astrophytum ornatumで確認されています。Wigginsia sessilifloraはサイズの増加に伴い種子生産が減少すると言う報告もあります。サボテンでも種によりトレード・オフの関係があるものとないものがある可能性があります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. monvilleiにおいては、生長と種子生産の間にトレード・オフの関係はありませんでした。個人的には個体ごとのコンディションに左右されているような気もしますが、はっきりしたことは言えません。ただ、あくまでも余力で賄えるだけの開花を行っているはずですから、やはりアレもコレもと言うわけには行かないのでしょう。
さて、論文中でWigginsiaの話がありましたが、過去に当ブログでも取り上げたことがあります。種子生産量は中型個体が多く、大型個体は種子生産が減少すると言う結果でした。ただし、大型個体の種子由来の実生ほど背が高いなど、異なる利点もあるようですから、単純に種子生産数だけで考えるべきではないのかも知れませんね。




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多肉質なユーフォルビアの中心地はアフリカ大陸ですが、南アメリカでも多肉質なユーフォルビアを見ることが出来ます。ただし、南アメリカの多肉質なユーフォルビアは、節を重ねたような不思議な形をしています。普段、南米ユーフォルビアはあまり見かけないでしょうから、あまりピンと来ない方もおられるかも知れません。本日は、そんな南米ユーフォルビアについての論文をご紹介しましょう。それは、Fernanda Hurbathらの2020年の論文、『Biography of succulent spurges from Brazilian Seasonally Dry Tropical Forest(SDTF)』です。

SDTFとは何か
乾燥した熱帯季節林(SDTF)は、メキシコ北西部からアルゼンチン北部、ブラジル南西部及ぶ東部に至る新熱帯地域に点在し、ブラジル東部にはCaatingaとして知られている最大の孤立したSDTFがあります。SDTFは南アメリカの生態系の中でもっとも脅威にさらされており、ほとんど研究されていません。
SDTFは5〜6ヶ月の乾季と非常に低い平均年間降水量が特徴で、植物は長期の水不足に耐えられるように適応しています。

SDTFのユーフォルビア
ユーフォルビアはSDTFの重要な構成要素であるにも関わらず、研究されず無視されてきました。新熱帯地域のユーフォルビア属の中では、多肉質で乾生植物であるのはSection Brasiliensisだけで、Section Euphorbia(ほとんどの多肉質なユーフォルビアを含むグループ)はアフリカの種と比べると強い乾生種はほとんどありません。
Section Brasiliensisに含まれる種、はトゲのない鉛筆状の多肉低木で、光合成をする緑色の茎を持つCAM植物です。このグループはブラジル東部のSDTFの岩の露出した、あるいは浅い土壌に生えます。Section Brasiliensisは、E. attastoma、E. holochlorina、E. phosphorea、E. sipolisii、E. tetrangularisの5種類からなります。

遺伝子解析
南アフリカのユーフォルビアの遺伝子を解析したところ、以下のような分子系統が得られました。

※南北アメリカ大陸で多様化したユーフォルビアの仲間であるNew World Cladeを解析したものです。Sectionで示されていますが、Sectionとは属と種類の間の分類カテゴリーで「節」と訳されます。

※※Section Stacydiumは中南米の原産の草本。Section 
NummulariopsisやSection Portulacastrumは大半が中南米原産の草本です。Section Crepidariaは北米原産で一部は多肉質となりますが、木本になるものが多いようです。

※※※Section 
Euphorbiastrumは中南米原産の木本ですが、多肉質なものもあります。Section Calyculataeはメキシコ原産の木本です。Section Lactifluaeは中南米原産の木本です。Section Tanquahueteはメキシコ原産の木本です。Section Cubanthusはカリブ海地域の島嶼部に分布する木本です。

              ┏━Brasiliensis
          ┏┫
          ┃┗━Stachydium
      ┏┫
      ┃┗━━Nummulariopsis
  ┏┫   +Portulacastrum
  ┃┗━━━Crepidaria
  ┫
  ┃    ┏━━Euphorbiastrum
  ┃┏┫
  ┗┫┗━━Calyculatae
      ┃   +Lactifluae
      ┃   +Tanquahuete
      ┗━━━Cubanthus

多様化の起源
Section BrasiliensisとSection Stacydiumは姉妹群で、分子系統から中新世中期頃に分岐したと考えられます。Section Brasiliensisは鮮新世後期に多様化し、Section Stacydiumは中新世後期に多様化したと考えられます。この推定は、大きな気候変動がこれらのグループの分岐と多様化に大きな影響を与えた可能性がを示します。
New World Cladeのほとんどは中新世の間に多様化しました。中新世は現在の新熱帯地方の地理的特徴の多くが定義されました。これには、アンデス山脈の隆起(約1200〜450万年前)やアマゾン河の起源(約1180万年前〜現在)などのほとんどの地形的変異を含みます。さらに、この時期は世界的に寒冷化と乾燥化し、大気中の二酸化炭素の急激な減少が起こりました。


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Euphorbia weberbaueri
Section Euphorbiastrumに属します。エクアドル、ペルー原産。


SDTFの孤立
ブラジル東部のSection Brasiliensisは、Section Stacydiumから分岐して以来、長く孤立していました。その後、鮮新世後期頃に多様化しました。SDTFの断片化した分布は、種は孤立し多様化は促進されます。ブラジル東部のSDTFは固有種の割合が高く、長い孤立が示唆されます。また、SDTFの孤立は、セラード(ブラジルのサバンナ)やアマゾンの熱帯雨林と隣接することにより起こります。セラードはブラジル中央を占めており、約1000万年前に起源を持つSDTFを隔離する障壁です。セラードは火災に適応した植物が進化しており、一般的に火災に耐性がないSDTFの多肉植物に対する抑止力になります。さらに、Section Brasiliensisのユーフォルビアは種子の分散力が弱く、分布がブラジル東部に限定されます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
アフリカでよく見られる柱サボテンのようなユーフォルビアは、Section Euphorbiaです。しかし、新大陸ではSection Euphorbiaはあまり乾燥に適応出来ていないようです。むしろ、新大陸ではNew World Cladeと言う新たな分類群が進化しました。その中でも、Section Brasiliensisはブラジル東部の乾燥地(SDTF)に良く適応しています。遺伝子を用いた分子系統解析では、種ごとの分岐年代を計算出来ます。南アメリカで起きた地質学的イベントや気候変動と対応させれば、進化の原動力を推測することも可能となるのです。実は論文では、他のNew World CladeのSectionの進化も推測されていましたが、今回は長くなるため割愛しました。興味がありましたら、論文を参照して下さい。


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かつて、Sarcocaulonと言う多肉植物がありました。しかし、いつの間にやらSarcocaulonはMonsoniaに吸収されてしまったといいます。ですから、ネット上のブログや販売サイトでは、Sarcocaulonだった植物はMonsoniaの名前で呼ばれています。しかし、本当にSarcocaulonとMonsoniaは分けることが出来ないのでしょうか?

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Sarcocaulon rigidum
『The Flowering Plants of South Africa』(1921年)より。S. rigidumとは、現在のS. 
patersonii (=M. patersonii)のことです。

履歴書
先ずはモンソニアとサルコカウロンの命名の経緯を見てみましょう。
Monsoniaは1767年にCarl von Linneにより命名されました。つまり、Monsonia L.です。対するSarcocaulonは1826年にSweetにより命名されました。つまり、Sarcocaulon (DC.) Sweetです。始めはSarcocaulonに含まれていた種はMonsoniaとされましたが、Sarcocaulonが出来てからは、新種はSarcocaulonとして命名されました。1824年にDe CandlleがSarcocaulonをMonsoniに含むとする提案を行ったこともありました。最終的には、1996年にAlbersの提案によりSarcocaulonは一斉にMonsoniaに含まれることとなりました。

1996年の提案
調べてみると、1996年のF.Albersの論文、『The taxonomy status of Sarcocaulon (Geraniaceae)』により、SarcocaulonはMonsoniaに吸収されたことが分かりました。内容的には雄蕊群の個体発生や核型、化学成分の分析に基いています。さらに、SarcocaulonとMonsoniaの形態学的な違いは、Peralgonium属内でも見られる程度の違いに過ぎないと述べています。

違いはあるか?
1996年のAlbersの提案はそれなりに妥当性はあったようですが、反対意見もあります。1997年にR.O.Moffettは、『The taxonomy status of Sarcocaulon』と言う論文で、SarcocaulonとMonsoniaの違いを指摘しています。Sarcocaulonの特徴として、可燃性のワックスと樹脂が染み込んだ硬くて光沢がある樹皮を持つと言うことです。含まれる樹脂とワックスの量が非常に多く、乾かさないでも松明のように燃えるため、S. burmanniは「candle bush」、S. rigidumは「bushman's candle」と呼ばれています。

南アフリカ国立標本館
南アフリカ国立標本館のコレクションとそのデータベースであるPRECISは、1996年のAlbersの提案を採用しませんでした。L.L.Dreyerらの1997年のAlbersの提案に対する回答である『Sarcocaulon: genus or section of Monsonia (Geraniaceae)?』を見てみます。
国立標本館では、Albersの提案に対する科学的妥当性を認めますが、コレクションやPRECISに対し導入しないことを決定しました。その理由は以下の通りです。
①歴史的にSweet(1826年)に続いてKnuth(1912年)により、2つの個別の属であることと言う認識が広く受け入れられてきました。別属として維持することで、混乱を避けることが出来ます。
②Sarcocaulonは主にアフリカ南部の砂漠や半砂漠地域に限定されています。対照的にMonsoniaはアフリカ南部からアラビア半島およびインドまで、はるかに広く分布しています。
③SarcocaulonとPelargoniumに見られる多肉質でトゲのある茎は、環境により誘発された特徴である可能性があります。しかし、この特徴はMonsoniaでは見られず、Sarcocaulonの分布域に生えるMonsoniaにおいても見られません。
④SarcocaulonをMonsoniaの姉妹群として保存することにより、命名上の安定性が促進されます。

2003年のチェックリスト
一般的にはSarcocaulonは消滅して久しい扱いですが、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、Sarcocaulonは復活しています。そして、その根拠としているのは、2003年に南アフリカ国立標本館による南部アフリカの植物種のチェックリストである『Plants of Southern Africa an annotated checklist. Strelitzia』です。Sarcocaulonの消滅は実は短い期間だけだったのかも知れません。

遺伝子解析
2017年にSara Garcia-Aloyらの論文、『Opposite trends in the genus Monsonia (Geraniaceae): specialization in the African deserts and range expantions throughout eastern Africa』により、MonsoniaとSarcocaulonの分子系統が考察されました。ちなみに、この論文ではSarcocaulonはMonsoniaに含まれるものとして解析しています。
解析結果はMonsoniaは7グループに分けられると言うことです。Sarcocaulonに相当するグループは非常にまとまりがあります。むしろ、Monsoniaは思いの外まとまりがありません。Sarcocaulonを含んだ大きなMonsoniaとするか、7グループを別属に分割するかと言うことになるような気がします。

サルコカウロンは何種類か
現在の復活したSarcocaulonの一覧を示して終わります。

1. S. camdeboense
 =M. 
camdeboensis
2. S. ciliatum
 =M. ciliata
3. S. flavescens
 =M. 
flavescens
4. S. herrei
 =M. herrei
5. S. inerme
 =M. inermis
6. S. marlothii
 =M. 
marlothii
7. S. mossamedense
 =M. 
mossamedensis
8. S. multifidum
 =M. multifida
9. S. patersonii
 =M. patersonii
 =S. rigidum
 =S. rigidum ssp. glabrum
 =S. rigidum f. parviflorum
10. S. peniculinum
 =M. peniculina
 =S. ernii
11. S. salmoniflorum
 =M. 
salmoniflora
 =M. apiculate
 =M. macilenta
    =S. lheritieri v. brevimucronatum
 =S. patersonii ssp. badium
 =S. patersonii ssp. curvatum
12. S. spinosum
 =Geranium spinosum
 =M. burmanni
 =S. 
burmanni
 =M. classicaulis
 =S. 
classicaule
 =S. 
spinosum v. hirsutum
13. S. vanderietiae
 =M. 
vanderietiae


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バハ・カリフォルニア半島はサボテンが非常に豊富なことで知られています。しかし、バハ・カリフォルニア沿岸に散在する小島にも、サボテンが沢山生えていることは、一般的にはあまり知られていないようです。さて、このような海洋に浮かぶ小島は、大抵は海鳥の繁殖地となっていることが多く、海鳥の糞が堆積しています。この蓄積して固まった鳥の糞を「グアノ」と呼び、かつては肥料の成分とするために、盛んにリン鉱石として採掘されました。と言うわけで、本日はこのグアノとサボテンの関係についてのお話です。本日、ご紹介しますのは、Benjamin T. Wilderらの2022年の論文、『Marine subsides produce cactus forests on desert islands』です。

グアノと鳥島
カリフォルニア湾には、オグロカモメやユウガアジサシ、アオアシカツオドリ、アメリカオオセグロカモメなどの海鳥が多く生息しています。場所によってはグアノが岩上に10cmも堆積しています。そのため、このような鳥島では、窒素やリンの濃度が高いため多くの植物は生えることが出来ないようで、植物の多様性は大幅に減少します。北アメリカ南西部では、エルニーニョやハリケーンにより降水量が多い年はグアノから窒素が流入し、土壌中の窒素は元の100倍に増加する可能性があります。しかし、カリフォルニア湾の鳥島では、サボテンが豊富で多様性が高くなっています。いくつかの島では、cardonと呼ばれるサボテンが高密度で生息します。cardonとはPachycereus pringleiのことで、カリフォルニア半島とソノラ本土のソノラ砂漠に広く分布する柱サボテンです。

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Cardon
『Proceedings of the California Academy of Sciences』(1960-1968年)より。


同位体窒素の変動
グアノにはアンモニア態や硝酸態、あるいは尿酸の形で窒素が含まれます。これらは異なる速度で分解されます。窒素の原子量は14ですが、極わずかに原子量が15の同位体が存在します。グアノからはアンモニアが揮発し原子量14の窒素(14N)が多少失われるため、グアノは原子量15の同位体窒素(15N)の割合が増加します。自然環境下では、窒素同位体比が+25%を超えることは稀です。従って、植物そのものの15Nの割合を調べれば、グアノを栄養として取り込んだか否かが分かります。

鳥島のcardonは15N値が高い
San Pedro Martir島では、魚の15N値は平均+17.7%、海鳥の羽は平均19.7%でした。新鮮なグアノの15N値は平均14.8%でしたが、分解されて土壌中に残ったグアノの15N値は平均+32.4%に達しました。San Pedro Martir島のcardonは、15N値の平均は+30.3%でした。
また、鳥島ではないメキシコ湾の島の土壌の15N値は平均+15.0%、cardonでは+11.7%でした。バハ・カリフォルニア半島に生えるcardonの15N値は+8.13%、ソノラ本土に生えるcardonでは+11.2%でした。

鳥島の異様なサボテン密度
San Pedro Martir島のサボテン林の密度は、約2700本/haで、隣接する鳥島であるCholludo島では約23500本/haと言う桁違いに多くのcardonが生えています。バハ・カリフォルニアで約150本/ha、ソノラでは約60本/haですから、鳥島のサボテン密度は非常に高いものです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文中のcardonとは
Pachycereus pringleiのことですが、日本では「武倫柱」の名前で知られている柱サボテンです。この論文では、武倫柱に対する鳥島のグアノの影響を調査しました。
鳥島であるSan Pedro Martir島の武倫柱の密度は1坪あたり0.9本、Cholludo島では1坪あたり8本にもなります。バハ・カリフォルニア半島の武倫柱は1坪あたり0.05本、ソノラ本土の
武倫柱は1坪あたり0.02本にしかなりませんから、いかにグアノが武倫柱の生育に影響を与えているかが分かります。
グアノに含まれる同位体窒素の割合により、
武倫柱はグアノ由来の窒素を大量に取り込んだことは明らかです。一般的に畑作では、肥料は与え過ぎると肥料焼けをおこして根をやられてしまうことが知られています。ですから、グアノの過剰な窒素やリン酸は植物には有害です。しかし、武倫柱は過剰な栄養素を取り込んで、異常な密度で生育することが出来るのです。


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