サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。昨日はCereus連のUebelmannia亜連、Aylostera亜連、Rebutia亜連、Gymnocalycium亜連について記事にしました。本日はCereus連のTrichocereus亜連を見ていきます。
Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCereus連の続きを扱います。
┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae
┃
┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
┃┃
┗┫ ┏Fraileeae
┃┏┫
┃┃┗Rhipsalideae
┗┫
┃┏Notocacteae
┗┫
┗Cereeae
Cereus連の分子系統(亜連レベル)
本日はTrichocereus亜連を扱います。
┏Aylosterinae
┃
┫┏Rebutiinae
┃┃
┃┃ ┏Gymnocalyciinae
┗┫┏┫
┃┃┗Cereinae
┗┫
┃┏Reicheocactinae
┗┫
┗Trichocereinae
☆Trichocereus亜連(※1)
※1: Borzicactinae、Echinopsidinae、Eriocereinae、Acanthocalyciinaeを含む。
Trichocereus亜連は系統学的に基底群と3つの非公式群からなります。この系統は強い支持があるわけではありませんが、その構成は一貫しています。
Trichocereus亜連はカリブ海地域やフロリダにも分布するHarrisia以外は、完全に南米に分布します。小型で球形のものから、柱サボテン状まで多様性があります。花の形態も極めて不安定です。Trichocereus亜連は過去に行われた分類により境地に立たされました。それは、多数の分離種を認める一方で、広義のCleistocactusや広義のEchinopsisといったごく少数の属のみを認めるものでした。このアプローチは不十分で、Schlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる解析でも、Trichocereus亜連の全体に適応出来る解決策はまだ見つかっていません。AcanthocalyciumとDenmozaを別属とするAnderson(2001, 2005)や、Denmozaのみを認めるHuntら(2006)が提唱する広義のEchinopsisの概念は、著者らの系統により支持されているクレード1とほぼ一致します。しかし、Anderson(2002, 2005)やHuntら(2006)が提唱する広義のCleistocactusの概念はまったく受け容れられず、著者らの系統ではクレード2とクレード3に散在します。伝統的に認められている多数の属が多系統であるという状況は、繰り返された平行進化による特徴の類似により、北米のCactus亜連に状況が近いものがあります。
Trichocereus亜連の分類の大部分は、弱く支持されているに過ぎませんが、地理的に比較的一貫性がある3つのクレードの姉妹系統を区別することが出来ます。この支持の弱さはSchlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる調査で示された内容は反映していますが、その系統関係は著者らの結果と共有しているのは一部に過ぎません。特にHarrisiaやWeberbauerocereus、広義のEchinopsisを構成する系統群では配置が異なります。Schlumberger & Renner(2012)によると、WeberbauerocereusはVatricania + 狭義のCleistocactusの姉妹群で、Harrisia + Leucosteleは狭義のEchinopsisの姉妹群でした。Arthrocereusはこれらの姉妹群としています。Franckら(2013)はArthrocereusの明確な位置を見つけられませんでした。Romeiro-Britoら(2022)はArthrocereusをHarrisiaとTrichocereus亜連の残りすべての系統群の姉妹群としましたが支持は弱く矛盾する証拠があるため、さらなる研究が必要です。しかし、HarrisiaとArthrocereusは初期に分岐した系統群であり、Romeiro-Britoら(2023)でも単系統です。Leucosteleの分類も未解決で、Schlumberger & Renner(2012)ではCleistocactus-Echinopsisクレードにおいて、LeucosteleをHarrisiaの姉妹群としていますが、Franckら(2013)では単系統を形成しませんでした。また、Romeiro-Britoら(2023)はLeucosteleをEchinopsisクレードにおいて、Soehrensia formosaの姉妹群てしています。以上のような不確実性を考慮し著者らは暫定的にLeucosteleをTrichocereus亜連の初期分岐系統群に位置付けました。
LeucosteleとReicheocactusを除外した広義のEchinopsisは、Schlumberger & Renner(2012)において2つの主要なクレードに広がっています。これらのすべてが単系統のクレード1として裏付けられた著者らの結果と対照的です。しかし、すべての属が非常に近縁であり、属間雑種が人工的に作られていることからも、Trichocereus亜連にいくつかの非公式群が存在するという著者らの見解は過大評価すべきではありません。これらの雑種は異なる属を含んでいても稔性があり、それらの雑種からさらなる複雑な雑種を作ることが出来ます。そのため、Trichocereus亜連全体を便宜上「Echinopsis comparium」と呼ぶことも出来ます。
①初期分岐系統群
含まれる属: Arthrocereus(※2)、Harrisia(※3)、Leucostele(※4)、Weberbauerocereus
※2: Chapadocereusを含む。※3: Brasiliharisia、Eriocereus、Estevesiaを含む。※4: 暫定的な分類。
┏Reicheocactus亜連
┃ 初期分岐系統群
┫┏Harrisia tortuosa
┃┃ (=Eriocereus tortuosus)
┃┃
┗┫┏Weberobauerocereus
┃┃ weberbaueri
┗┫┏クレード1
┃┃
┗┫┏クレード2
┗┫
┗クレード3
生物地理的に言うならば、この分類群は謎に包まれています。Eriocereusを含むHarrisiaは、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ、ブラジル北西部に散在し、さらにはカリブ海、北はフロリダまで分布します。一方、Weberbauerocereusはペルーのアンデス山脈西部斜面にのみ分布します。Romeiro-Britoら(2023)はブラジル北東部に分布するH. adscendensが、パラグアイやボリビア、アルゼンチンに分布する2種の姉妹群であることを明らかとしました。Franckら(2013)の系統によると、カリブ海に分布する種は単一の系統を形成し、H. adscendensの姉妹群であるとしました。最近記載された単型のEstevesiaは、中央ブラジルの狭い地域の固有種で、Harrisiaと全体的に類似し種子の特徴も共有するため、暫定的にHarrisiaに含めました。
②クレード1(※5)
含まれる属: Acanthocalycium、Denmoza、Echinopsis(狭義、※6)、Setiechiopsis
※5: 広義のEchinopsis=Echinopsis Clade。※6: Acantholobivia、Chamaecereus、Helianthocereus、Lobivia、Pseudolobivia、Soehrensia、狭義のTrichocereusを含む。
┏Setiechiopsis mirabilis
┏┫ (=Echinopsis mirabilis)
┃┗Acanthocalycium spiniflorum
┃ (=Echinopsis spiniflora)
┫┏Denmoza rhodacantha
┃┃
┗┫┏Lobivia tegeleriana
┃┃(=Echinopsis tegeleriana)
┃┃(=Acantholobivia tegeleriana)
┗┫┏Echinopsis eyriesii
┃┃
┗┫┏Trichocereus macrogonus
┗┫ (=Echinopsis macrogona)
┃┏Chamaecereus silvestrii
┗┫ (=Echinopsis chamaecereus)
┗Soehrensia bruchii
(=Echinopsis bruchii)
このクレードの多様性の大部分は、広義のEchinopsisに属します。ごく少数の種を除き完全に東アンデスに固有です。以前の分派のほとんどは、生育形態と開花時期や花の色や形態、受粉シンドロームなどの花の特徴の組み合わせにより定義されてきました。Acanthocalycium、Denmoza、SetiechiopsisはSchlumberger & Renner(2012)な系統では、裏付けの乏しいDenmozaクレードを構成していました。SetiechiopsisはDenmozaとAcanthocalycium(Echinopsis leucanthaを含む)の姉妹属とされていますが、著者らのAcanthocalyciumとSetiechiopsisがDenmozaとその他のEchinopsisクレードの姉妹属とするよく支持された系統とは異なります。著者らのサンプリングは単純化されています。Schlumberger & Renner(2012)が示した広義のEchinopsisの種間の複雑な関係は、クレード1がどのように多様化したのかまだ明確に分かっていません。

Echinopsis rhodotricha
=Acanthocalycium rhodotrichum
神代植物公園(2023年5月)
③クレード2(※7)
含まれる属: Cephalocleistocactus、Cleistocactus(狭義、※8)、Cremnocereus、Samaipaticereus、Vatricania、Winterocereus(※9)、Yungasocereus
※7: East Andean Clade=Cleistocactus Clade。※8: Bolivicereus、Seticleistocactusを含む。※9:= Hilddwintera
┏Cleistocactus baumannii
┃
┫┏Vatricania guentheri
┃┃
┃┃ ┏Samaipaticereus
┗┫┏┫ corroanus
┃┃┗Cleistocactus winteri
┃┃ (=Winterocereus aureispinus)
┗┫┏Yungasocereus
┃┃ inquisiviensis
┗┫┏Cleistocactus tarijensis
┗┫(=Cephalocleistocactus
┃ tarijensis)
┗Cleistocactus
chrysocephalus
(=Cephalocleistocactus
chrysocephalus)
Trichocereus亜連の他のすべての系統群とは対照的に、クレード2は全体的な形態や地理的な特徴が均一です。すべての種は円柱状で肋(rib)があり、東アンデスに分布し、ボリビアのアンデス山脈の麓の低地が中心です。ちなみに、Cleistocactusはアルゼンチン北部まで分布します。不可解にもクレード2のほとんどは種が乏しいか単型です。クレード3に分類されるBorzicactusをCleistocactusから除外した場合でも、多系統とされてしまいます。タイプ種であるCleistocactus baumanniiはクレード2の残りすべてと姉妹種であり、C. baumanniiと近縁とされるCleistocactus tarijensisはCephalocleistocactusの姉妹種として別の系統群とされます。Romeiro-Britoら(2023)は分類を合理化し、Samaipaticereus、Vatricania、Yungasocereusを含む拡張された広義のCleistocactusを提案しています。しかし、クレード2の不確実性を考慮するとこの提案は時期尚早であり、より詳細なサンプリングによる評価がされるまで分離の維持を推奨します。
Vatricaniaは長らくEspostoaの異名と見なされてきましたが、Schlumberger & Renner(2012)により初めて狭義のCleistocactusの直系に属することが確認されました。
近年記載されたボリビア原産の単型であるCremnocereusは、ごく狭い地域に2つの分布が知られています。狭義のCleistocactusといくつかの特徴を共有するだけではなく、花はコウモリ媒(chiropterophilous)であることからOreocereusとも異なります。著者らの分類はまったく暫定的なものです。
④クレード3(※10)
含まれる属: Borzicactus(※11)、Espostoa(※12)、Haageocereus(※13)、Lasiocereus、Matucana(※14)、Mila、Oreocereus(※15)、Oroya、Pygmaeocereus、Rauhocereus(?)
※10: Western Andean and High Andean Clade、Oreocereus Clade。※11: Borzicactellaを含む。※12: Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む。※13: Loxanthocereus、Peruvocereusを含む。※14: Eomatucana、Submatucanaを含む。Anholoniopsis、Perucactusを含む? ※15: Arequipa、Morawetziaを含む。
┏Oreocereus pseudofossulatus
┃
┃ ┏Espostoa blossfeldiorum
┫┏┫(=Thrixanthocereus blossfeldiorum)
┃┃┃┏Lasiocereus rupicola
┃┃┗┫
┃┃ ┗Espostoa lanata
┃┃
┗┫┏Haageocereus
┃┃ pseudomelanostele
┃┃
┗┫ ┏Borzicactus
┃┏┫ ventimigliae
┃┃┗Matucana haynei
┗┫
┃┏Matucana madisoniorum
┗┫ (=Anhaloniopsis madisoniorum)
┗Oroya peruviana
クレード3の系統は支持が低いものの、例外的にThrixanthocereusがLasiocereus + Espostoaの姉妹群を形成するクレードは完全に支持されています。2種からなるLasiocereusはペルー北部のRio Maranon流域の狭い地域の固有種です。Ritter(1981)はLasiocereusをTrichocereus亜連に分類しましたが、Nyffeler & Eggli(2010)はRebutia亜連の初期分岐系統の側系統としました。また、Schlumberger & Renner(2012)はLasiocereus fulvusを(Browningia + Sulcorebutia) + (Rebutia + Aylostera)の姉妹群としましたが支持は低いものでした。属のタイプであるLasiocereus rupicolaを狭義のEspostoaの姉妹群とする配置は、新しく裏付けがあります。ペルー北部の原産で共通する形態や花の構造は一致していますが、Lasiocereusは花座(Cephalium)を持ちません。興味深いことに、LasiocereusとThrixanthocereus(=Espostoa)が近縁であることは、Ritter(1981)により既に仮定されていました。
単型のRauhocereusは、Schlumberger & Renner(2012)がEspostoa lanataの姉妹種であることを発見したためクレード3に含めています。
著者らのデータでは上記のクレード3の属以外の類縁関係については、これ以上の結論は出せません。Schlumberger & Renner(2012)はやや詳細にサンプリングしており、MatucanaやBorzicactusは多系統であることが示されています。著者らの解析でも、M. madisoniorumがOroyaの近くで分離されており、多系統である可能性が示されています。

Espostoa ritteri
=Espostoa lanata subsp. lanata
東京農業大学バイオリウム(2025年10月)

Matucana aureiflora
JSS、サボテン・多肉植物展(2025年10月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年の遺伝情報に基づく分類では、特にMammillariaの仲間とTrichocereusの仲間が大きな改変に見舞われました。今回取り上げたTrichocereus亜連は、少し前までTrichocereusやRebutia、LobiviaあたりはすべてEchinopsisに統合されてしまいました。その後行われた分子系統においては、肥大化したEchinopsisにまとまりが見られないことから、再分割され現在に至ります。しかし、今回の論文は以前の論文とは必ずしも系統分類が一致せず、系統の分岐の支持も低いものでした。おそらく、急激に種分化したため解析が難しいのでしょう。それでも、著者らは自然分布も考慮に入れているのは新しい観点です。一般的に分布を拡大し移動しながら種分化しますから、進化の経路を考えた場合は自然分布も根拠の1つでしょう。
長々と続いたサボテン科の分類の記事は本日で終了です。2025年に発表されたばかりの最新の研究成果となります。新しく分かったことや、近年の他の分子系統の結果を再確認し裏付けるものもありました。しかし、今回の論文はサボテン科全体の解析のため、沢山の属は解析していますが、各属あたりの種数は少ないものです。どうしても属内分類はこの論文では分かりません。ある属が単系統ではなく多系統である可能性は、さらなる詳細なサンプリングによる解析でなければ分かりません。ですから、これからもサボテン科の分類について、新たな論文が出ましたら記事にしていきたいと考えております。
ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。
Arthrocereus(4種、Chapadocereusを含む)、Harrisia(18種、Brasiliharisia、Eriocereus、Erythrocereus、Roseocereus)、Leucostele(13種)、Weberbauerocereus(8種、Meyeniaを含む)
Estevesia(→Cereus)
Acanthocalycium(5種)、Denmoza(→Echinopsis)、Echinopsis(21種、Andenea、Aureilobivia、Cosmantha、× Cosmopsis、Denmoza、Echinonyctanthus、Hymenorebutia、Pilopsis、Salpingolobivia、× Salpingolobiviopsisを含む)、Setiechiopsis(1種、Acanthopetalus)
Acantholobivia(→Lobivia)、Chamaecereus(5種)、Helianthocereus(→Soehrensia)、Lobivia(31種、Acanthanthus、Acantholobivia、Cinnabarinea、Furiolobivia、Hymenorebulobivia、Lobiviopsis、Mesechinopsis、Neolobivia、Pseudolobivia、Scoparebutiaを含む)、Pseudolobivia(→Lobivia)、Soehrensia(24種、Helianthocereus、Megalobiviaを含む)、Trichocereus(4種)
Cephalocleistocactus(→Cleistocactus)、Cleistocactus(30種、Akersia、Bolivicereus、Borzicactella、Cephalocleistocactus、Cleistocereus、Clistanthocereus、Hildewintera、Maritimocereus、Samaipaticereus、Seticleistocactus、Varticania、Winteria、Winterocereus、Yungasocereusを含む)、Cremnocereus(1種)、Samaipaticereus(→Cleistocactus)、Vatricania(→Cleistocactus)、Winterocereus(→Cleistocactus)、Yungasocereus(→Cleistocactus)
Borzicactus(10種、Seticereusを含む)、Espostoa(11種、Binghamia、Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む)、Haageocereus(7種、Floresia、Haageocactus、Peruvocereusを含む)、Lasiocereus(2種)、Matucana(25種、Anhaloniopsis、Eomatucana、Oroya、Perucactusを含む)、Mila(1種)、Oreocereus(8種、Arequipa、Arequipopsis、Moraquipa、Morawetzia、Submatucanaを含む)、Oroya(→Matucana)、Pygmaeocereus(3種)、Rauhocereus(1種)
Loxanthocereus(12種)
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Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCereus連の続きを扱います。
┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae
┃
┫┏Cacteae
┃┃
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┃┃
┗┫ ┏Fraileeae
┃┏┫
┃┃┗Rhipsalideae
┗┫
┃┏Notocacteae
┗┫
┗Cereeae
Cereus連の分子系統(亜連レベル)
本日はTrichocereus亜連を扱います。
┏Aylosterinae
┃
┫┏Rebutiinae
┃┃
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┃┃┗Cereinae
┗┫
┃┏Reicheocactinae
┗┫
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☆Trichocereus亜連(※1)
※1: Borzicactinae、Echinopsidinae、Eriocereinae、Acanthocalyciinaeを含む。
Trichocereus亜連は系統学的に基底群と3つの非公式群からなります。この系統は強い支持があるわけではありませんが、その構成は一貫しています。
Trichocereus亜連はカリブ海地域やフロリダにも分布するHarrisia以外は、完全に南米に分布します。小型で球形のものから、柱サボテン状まで多様性があります。花の形態も極めて不安定です。Trichocereus亜連は過去に行われた分類により境地に立たされました。それは、多数の分離種を認める一方で、広義のCleistocactusや広義のEchinopsisといったごく少数の属のみを認めるものでした。このアプローチは不十分で、Schlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる解析でも、Trichocereus亜連の全体に適応出来る解決策はまだ見つかっていません。AcanthocalyciumとDenmozaを別属とするAnderson(2001, 2005)や、Denmozaのみを認めるHuntら(2006)が提唱する広義のEchinopsisの概念は、著者らの系統により支持されているクレード1とほぼ一致します。しかし、Anderson(2002, 2005)やHuntら(2006)が提唱する広義のCleistocactusの概念はまったく受け容れられず、著者らの系統ではクレード2とクレード3に散在します。伝統的に認められている多数の属が多系統であるという状況は、繰り返された平行進化による特徴の類似により、北米のCactus亜連に状況が近いものがあります。
Trichocereus亜連の分類の大部分は、弱く支持されているに過ぎませんが、地理的に比較的一貫性がある3つのクレードの姉妹系統を区別することが出来ます。この支持の弱さはSchlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる調査で示された内容は反映していますが、その系統関係は著者らの結果と共有しているのは一部に過ぎません。特にHarrisiaやWeberbauerocereus、広義のEchinopsisを構成する系統群では配置が異なります。Schlumberger & Renner(2012)によると、WeberbauerocereusはVatricania + 狭義のCleistocactusの姉妹群で、Harrisia + Leucosteleは狭義のEchinopsisの姉妹群でした。Arthrocereusはこれらの姉妹群としています。Franckら(2013)はArthrocereusの明確な位置を見つけられませんでした。Romeiro-Britoら(2022)はArthrocereusをHarrisiaとTrichocereus亜連の残りすべての系統群の姉妹群としましたが支持は弱く矛盾する証拠があるため、さらなる研究が必要です。しかし、HarrisiaとArthrocereusは初期に分岐した系統群であり、Romeiro-Britoら(2023)でも単系統です。Leucosteleの分類も未解決で、Schlumberger & Renner(2012)ではCleistocactus-Echinopsisクレードにおいて、LeucosteleをHarrisiaの姉妹群としていますが、Franckら(2013)では単系統を形成しませんでした。また、Romeiro-Britoら(2023)はLeucosteleをEchinopsisクレードにおいて、Soehrensia formosaの姉妹群てしています。以上のような不確実性を考慮し著者らは暫定的にLeucosteleをTrichocereus亜連の初期分岐系統群に位置付けました。
LeucosteleとReicheocactusを除外した広義のEchinopsisは、Schlumberger & Renner(2012)において2つの主要なクレードに広がっています。これらのすべてが単系統のクレード1として裏付けられた著者らの結果と対照的です。しかし、すべての属が非常に近縁であり、属間雑種が人工的に作られていることからも、Trichocereus亜連にいくつかの非公式群が存在するという著者らの見解は過大評価すべきではありません。これらの雑種は異なる属を含んでいても稔性があり、それらの雑種からさらなる複雑な雑種を作ることが出来ます。そのため、Trichocereus亜連全体を便宜上「Echinopsis comparium」と呼ぶことも出来ます。
①初期分岐系統群
含まれる属: Arthrocereus(※2)、Harrisia(※3)、Leucostele(※4)、Weberbauerocereus
※2: Chapadocereusを含む。※3: Brasiliharisia、Eriocereus、Estevesiaを含む。※4: 暫定的な分類。
┏Reicheocactus亜連
┃ 初期分岐系統群
┫┏Harrisia tortuosa
┃┃ (=Eriocereus tortuosus)
┃┃
┗┫┏Weberobauerocereus
┃┃ weberbaueri
┗┫┏クレード1
┃┃
┗┫┏クレード2
┗┫
┗クレード3
生物地理的に言うならば、この分類群は謎に包まれています。Eriocereusを含むHarrisiaは、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ、ブラジル北西部に散在し、さらにはカリブ海、北はフロリダまで分布します。一方、Weberbauerocereusはペルーのアンデス山脈西部斜面にのみ分布します。Romeiro-Britoら(2023)はブラジル北東部に分布するH. adscendensが、パラグアイやボリビア、アルゼンチンに分布する2種の姉妹群であることを明らかとしました。Franckら(2013)の系統によると、カリブ海に分布する種は単一の系統を形成し、H. adscendensの姉妹群であるとしました。最近記載された単型のEstevesiaは、中央ブラジルの狭い地域の固有種で、Harrisiaと全体的に類似し種子の特徴も共有するため、暫定的にHarrisiaに含めました。
②クレード1(※5)
含まれる属: Acanthocalycium、Denmoza、Echinopsis(狭義、※6)、Setiechiopsis
※5: 広義のEchinopsis=Echinopsis Clade。※6: Acantholobivia、Chamaecereus、Helianthocereus、Lobivia、Pseudolobivia、Soehrensia、狭義のTrichocereusを含む。
┏Setiechiopsis mirabilis
┏┫ (=Echinopsis mirabilis)
┃┗Acanthocalycium spiniflorum
┃ (=Echinopsis spiniflora)
┫┏Denmoza rhodacantha
┃┃
┗┫┏Lobivia tegeleriana
┃┃(=Echinopsis tegeleriana)
┃┃(=Acantholobivia tegeleriana)
┗┫┏Echinopsis eyriesii
┃┃
┗┫┏Trichocereus macrogonus
┗┫ (=Echinopsis macrogona)
┃┏Chamaecereus silvestrii
┗┫ (=Echinopsis chamaecereus)
┗Soehrensia bruchii
(=Echinopsis bruchii)
このクレードの多様性の大部分は、広義のEchinopsisに属します。ごく少数の種を除き完全に東アンデスに固有です。以前の分派のほとんどは、生育形態と開花時期や花の色や形態、受粉シンドロームなどの花の特徴の組み合わせにより定義されてきました。Acanthocalycium、Denmoza、SetiechiopsisはSchlumberger & Renner(2012)な系統では、裏付けの乏しいDenmozaクレードを構成していました。SetiechiopsisはDenmozaとAcanthocalycium(Echinopsis leucanthaを含む)の姉妹属とされていますが、著者らのAcanthocalyciumとSetiechiopsisがDenmozaとその他のEchinopsisクレードの姉妹属とするよく支持された系統とは異なります。著者らのサンプリングは単純化されています。Schlumberger & Renner(2012)が示した広義のEchinopsisの種間の複雑な関係は、クレード1がどのように多様化したのかまだ明確に分かっていません。

Echinopsis rhodotricha
=Acanthocalycium rhodotrichum
神代植物公園(2023年5月)
③クレード2(※7)
含まれる属: Cephalocleistocactus、Cleistocactus(狭義、※8)、Cremnocereus、Samaipaticereus、Vatricania、Winterocereus(※9)、Yungasocereus
※7: East Andean Clade=Cleistocactus Clade。※8: Bolivicereus、Seticleistocactusを含む。※9:= Hilddwintera
┏Cleistocactus baumannii
┃
┫┏Vatricania guentheri
┃┃
┃┃ ┏Samaipaticereus
┗┫┏┫ corroanus
┃┃┗Cleistocactus winteri
┃┃ (=Winterocereus aureispinus)
┗┫┏Yungasocereus
┃┃ inquisiviensis
┗┫┏Cleistocactus tarijensis
┗┫(=Cephalocleistocactus
┃ tarijensis)
┗Cleistocactus
chrysocephalus
(=Cephalocleistocactus
chrysocephalus)
Trichocereus亜連の他のすべての系統群とは対照的に、クレード2は全体的な形態や地理的な特徴が均一です。すべての種は円柱状で肋(rib)があり、東アンデスに分布し、ボリビアのアンデス山脈の麓の低地が中心です。ちなみに、Cleistocactusはアルゼンチン北部まで分布します。不可解にもクレード2のほとんどは種が乏しいか単型です。クレード3に分類されるBorzicactusをCleistocactusから除外した場合でも、多系統とされてしまいます。タイプ種であるCleistocactus baumanniiはクレード2の残りすべてと姉妹種であり、C. baumanniiと近縁とされるCleistocactus tarijensisはCephalocleistocactusの姉妹種として別の系統群とされます。Romeiro-Britoら(2023)は分類を合理化し、Samaipaticereus、Vatricania、Yungasocereusを含む拡張された広義のCleistocactusを提案しています。しかし、クレード2の不確実性を考慮するとこの提案は時期尚早であり、より詳細なサンプリングによる評価がされるまで分離の維持を推奨します。
Vatricaniaは長らくEspostoaの異名と見なされてきましたが、Schlumberger & Renner(2012)により初めて狭義のCleistocactusの直系に属することが確認されました。
近年記載されたボリビア原産の単型であるCremnocereusは、ごく狭い地域に2つの分布が知られています。狭義のCleistocactusといくつかの特徴を共有するだけではなく、花はコウモリ媒(chiropterophilous)であることからOreocereusとも異なります。著者らの分類はまったく暫定的なものです。
④クレード3(※10)
含まれる属: Borzicactus(※11)、Espostoa(※12)、Haageocereus(※13)、Lasiocereus、Matucana(※14)、Mila、Oreocereus(※15)、Oroya、Pygmaeocereus、Rauhocereus(?)
※10: Western Andean and High Andean Clade、Oreocereus Clade。※11: Borzicactellaを含む。※12: Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む。※13: Loxanthocereus、Peruvocereusを含む。※14: Eomatucana、Submatucanaを含む。Anholoniopsis、Perucactusを含む? ※15: Arequipa、Morawetziaを含む。
┏Oreocereus pseudofossulatus
┃
┃ ┏Espostoa blossfeldiorum
┫┏┫(=Thrixanthocereus blossfeldiorum)
┃┃┃┏Lasiocereus rupicola
┃┃┗┫
┃┃ ┗Espostoa lanata
┃┃
┗┫┏Haageocereus
┃┃ pseudomelanostele
┃┃
┗┫ ┏Borzicactus
┃┏┫ ventimigliae
┃┃┗Matucana haynei
┗┫
┃┏Matucana madisoniorum
┗┫ (=Anhaloniopsis madisoniorum)
┗Oroya peruviana
クレード3の系統は支持が低いものの、例外的にThrixanthocereusがLasiocereus + Espostoaの姉妹群を形成するクレードは完全に支持されています。2種からなるLasiocereusはペルー北部のRio Maranon流域の狭い地域の固有種です。Ritter(1981)はLasiocereusをTrichocereus亜連に分類しましたが、Nyffeler & Eggli(2010)はRebutia亜連の初期分岐系統の側系統としました。また、Schlumberger & Renner(2012)はLasiocereus fulvusを(Browningia + Sulcorebutia) + (Rebutia + Aylostera)の姉妹群としましたが支持は低いものでした。属のタイプであるLasiocereus rupicolaを狭義のEspostoaの姉妹群とする配置は、新しく裏付けがあります。ペルー北部の原産で共通する形態や花の構造は一致していますが、Lasiocereusは花座(Cephalium)を持ちません。興味深いことに、LasiocereusとThrixanthocereus(=Espostoa)が近縁であることは、Ritter(1981)により既に仮定されていました。
単型のRauhocereusは、Schlumberger & Renner(2012)がEspostoa lanataの姉妹種であることを発見したためクレード3に含めています。
著者らのデータでは上記のクレード3の属以外の類縁関係については、これ以上の結論は出せません。Schlumberger & Renner(2012)はやや詳細にサンプリングしており、MatucanaやBorzicactusは多系統であることが示されています。著者らの解析でも、M. madisoniorumがOroyaの近くで分離されており、多系統である可能性が示されています。

Espostoa ritteri
=Espostoa lanata subsp. lanata
東京農業大学バイオリウム(2025年10月)

Matucana aureiflora
JSS、サボテン・多肉植物展(2025年10月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年の遺伝情報に基づく分類では、特にMammillariaの仲間とTrichocereusの仲間が大きな改変に見舞われました。今回取り上げたTrichocereus亜連は、少し前までTrichocereusやRebutia、LobiviaあたりはすべてEchinopsisに統合されてしまいました。その後行われた分子系統においては、肥大化したEchinopsisにまとまりが見られないことから、再分割され現在に至ります。しかし、今回の論文は以前の論文とは必ずしも系統分類が一致せず、系統の分岐の支持も低いものでした。おそらく、急激に種分化したため解析が難しいのでしょう。それでも、著者らは自然分布も考慮に入れているのは新しい観点です。一般的に分布を拡大し移動しながら種分化しますから、進化の経路を考えた場合は自然分布も根拠の1つでしょう。
長々と続いたサボテン科の分類の記事は本日で終了です。2025年に発表されたばかりの最新の研究成果となります。新しく分かったことや、近年の他の分子系統の結果を再確認し裏付けるものもありました。しかし、今回の論文はサボテン科全体の解析のため、沢山の属は解析していますが、各属あたりの種数は少ないものです。どうしても属内分類はこの論文では分かりません。ある属が単系統ではなく多系統である可能性は、さらなる詳細なサンプリングによる解析でなければ分かりません。ですから、これからもサボテン科の分類について、新たな論文が出ましたら記事にしていきたいと考えております。
ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。
Arthrocereus(4種、Chapadocereusを含む)、Harrisia(18種、Brasiliharisia、Eriocereus、Erythrocereus、Roseocereus)、Leucostele(13種)、Weberbauerocereus(8種、Meyeniaを含む)
Estevesia(→Cereus)
Acanthocalycium(5種)、Denmoza(→Echinopsis)、Echinopsis(21種、Andenea、Aureilobivia、Cosmantha、× Cosmopsis、Denmoza、Echinonyctanthus、Hymenorebutia、Pilopsis、Salpingolobivia、× Salpingolobiviopsisを含む)、Setiechiopsis(1種、Acanthopetalus)
Acantholobivia(→Lobivia)、Chamaecereus(5種)、Helianthocereus(→Soehrensia)、Lobivia(31種、Acanthanthus、Acantholobivia、Cinnabarinea、Furiolobivia、Hymenorebulobivia、Lobiviopsis、Mesechinopsis、Neolobivia、Pseudolobivia、Scoparebutiaを含む)、Pseudolobivia(→Lobivia)、Soehrensia(24種、Helianthocereus、Megalobiviaを含む)、Trichocereus(4種)
Cephalocleistocactus(→Cleistocactus)、Cleistocactus(30種、Akersia、Bolivicereus、Borzicactella、Cephalocleistocactus、Cleistocereus、Clistanthocereus、Hildewintera、Maritimocereus、Samaipaticereus、Seticleistocactus、Varticania、Winteria、Winterocereus、Yungasocereusを含む)、Cremnocereus(1種)、Samaipaticereus(→Cleistocactus)、Vatricania(→Cleistocactus)、Winterocereus(→Cleistocactus)、Yungasocereus(→Cleistocactus)
Borzicactus(10種、Seticereusを含む)、Espostoa(11種、Binghamia、Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む)、Haageocereus(7種、Floresia、Haageocactus、Peruvocereusを含む)、Lasiocereus(2種)、Matucana(25種、Anhaloniopsis、Eomatucana、Oroya、Perucactusを含む)、Mila(1種)、Oreocereus(8種、Arequipa、Arequipopsis、Moraquipa、Morawetzia、Submatucanaを含む)、Oroya(→Matucana)、Pygmaeocereus(3種)、Rauhocereus(1種)
Loxanthocereus(12種)
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