当ブログでは多肉植物の分類についてもぼちぼち記事にしていますが、近年では遺伝子解析を用いた分子系統による分類が当たり前となっています。サボテンもまた盛んに遺伝子解析がなされており、サボテンの属分類はだいぶ様変わりしました。さて、マミラリアだのパロディアだのと分類の記事を書いていましたが、私の好きなギムノカリキウムについては記事を書いていないことに気が付きました。論文自体は数年前に読んでいて、たまに引っ張り出しては参考にしていましたが、今更ですが記事にしておこうという次第です。
さて、本日ご紹介するのはPablo H. Demaioらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of Gymnocalycium (Cactaceae): Assessment of alternative infrageneric systems, a new subgenus, and trends in the evolution of the genus』です。割りと有名な論文ですから、あるいは皆さんご存知かも知れませんが、お暇であればしばしお付き合い下さい。
ギムノカリキウム属とは?
Gymnocalycium Pfeiff. ex Mittlerは、球状の生長パターンと、トゲがない花托を持つ昼行性の花を特徴とする、約50種からなる属です。パタゴニア南部を除くボリビア南部、パラグアイ南西部及び北部、ブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチンに分布します。
Gymnocalyciumは栽培しやすく開花も早いため、サボテン愛好家の間でも人気のある属の1つです。分類群の新しい記述は個人の収集家や栽培家により行われてきたため、小さな形態的な差異を過度に強調し新しい分類群として記述する傾向があります。そのため、異名が増加しており、安定した属内の分類システムが必要となりました。
ギムノカリキウム属の分類の歴史
ギムノカリキウム属の属内分類の最初の試みはFrič(1935)によるもので、種子の形質にもとづいて5つのグループからなるシステムを発表しました。しかし、このシステムは非公式で有効に記載されませんでした。
Frič, 1935
1, Ovatiseminae
2, Macroseminae
3, Trichomoseminae
4, Microseminae
5, Muscoseminae
Schütz(1968)はFričの基準に従い、5つの亜属からなる有効なシステムを発表しました。
Schütz, 1968
1, Gymnocalycium
=Ovatiseminae Schütz, nom illeg.
2, Macroseminae Schütz
3, Trichomoseminae Schütz
4, Microseminae Schütz
5, Muscoseminae Schütz
Buxbaum(1968)は、ギムノカリキウムの列(series)、亜列(subseries)を公表しました。また、他にもBackeberg(1941, 1958)やIto(1950, 1957)、Pazout(1964)などは、茎と花の形態に基づき属内分類群を提案しましたが、無効であると判断されています。
Schütz(1968)の分類体系は、Till & Hesse(1985)及びMetzing(1992)により修正され、Till(2001)及びTill et al.(2008)が果実と花、種子の特徴に基づく新しい体系が発表されるまで、ほぼ30年間に渡り研究者や趣味家に広く受け入れられてきました。Tillの分類体系はSchützとは大きく異なりますが、どちらが自然な分類を反映しているのか判断する決定的な証拠はありませんでした。
分子系統解析
ギムノカリキウム属内分類における論争は、形態に基づく方法では分類体系の解決が困難であることを示しています。しかし、形態学的な情報と遺伝子情報を組み合わせて利用したなら、安定した分類が出来ます。
┏━Gymnocalycium
┃
┣━Trichomosemineum
┏┫
┏┫┗━Macrosemineum
┃┃
┃┗━━Scabrosemineum
┫
┃┏━━Muscosemineum
┣┫
┃┗━━Pirisemineum
┃
┗━━━Microsemineum
Microsemineum亜属
G. saglionis
Microsemineumはギムノカリキウムの中でもっとも早く分岐した分類群であることが示唆されます。特徴は茎は大型で、果実は色鮮やかかつジューシーで甘いため、鳥などの脊椎動物を引き寄せます。果実の特徴はPirisemineum亜属と似ています。ジューシーな果実はギムノカリキウム属を含むBCT系統群の多くの属、TrichocereusやStetsonia、Echinopsisと共通します。
G. saglionisはアルゼンチン北西部の山脈に自生します。ギムノカリキウム属の分子系統の基底にあるため、ギムノカリキウムの祖先はアルゼンチン北西部とボリビア南部の山岳地帯が起源であると考えられます。
Pirisemineum亜属+Muscosemineum亜属
Pirisemineum亜属
G. pflanzii ssp. pflanzii, G. pflanzii ssp. zegarrae, G. chacoense
Muscosemineum亜属
G. marsoneri ssp. marsoneri, G. marsoneri ssp. megatae, G. eurypleurum, G. schickendantzii ssp. schickendantzii, G. mihanovichii, G. anisitsii ssp. damsii
Pirisemineum亜属とMuscosemineum亜属は、分布域がアルゼンチン中央部まで広がるG. schickendantziiを除き、ほとんどの種はアルゼンチン北部、ボリビア南部、パラグアイ西部のグラン・チャコ森林に生息します。Pirisemineum亜属はジューシーな果実とムール貝のような形の種子を特徴としています。果実はMicrosemineum亜属と似ていますが、主にアリにより散布されます。
Scabrosemineum亜属
G. hossei, G. glaucum ssp. glaucum, G. glaucum ssp. ferrarii, G. castellasonii ssp. castellasonii, G. castellasonii ssp. ferocius, G. oenanthemum, G. bayrianum, G. monvillei, G. ritterianum, G. mostii ssp. valnicekianum, G. mostii ssp. mostii, G. horridispinum ssp. horridispinum, G. horridispinum ssp. achirasense, G. rhodanthemum, G. spegazzinii
このグループは広義(sensu lato)のMicrosemineum亜属で、Schütz(1968)より分類されました。Tillら(2008)はMicrosemineum亜属のSection Saglionia(節)に、Microsemineum亜節を分類しました。しかし、分子系統では分離されたグループを作っています。そのため、著者らはGymnocalycium subgen. Scabrosemineum Demaio, Barfusr, R. Kiesling and Chiapella, subgen. nov.を新亜属として記載しました。このグループのほとんどが、アルゼンチン中西部の山岳地帯の温帯亜湿潤気候に分布します。自生地は背の高い草むらが優勢で、岩の露頭が点在します。
Macrosemineum亜属
G. denudatum, G. horstii ssp. horstii, G. paraguayense, G. hyptiacanthum ssp. netrelianum, G. hyptiacanthum ssp. uruguayense, G. mesopotamicum, G. reductum ssp. leeanum
従来、Macrosemineum亜属(Macrosemineum亜節)に分類されていた種は分子系統では単系統とは見なされません。ブラジル南部に分布するG. horstiiとG. denudatumは、Trichomosemineum亜属やGymnocalycium亜属と姉妹関係にあり、まとまりがあります。解析方法によっては、G. hypticanthumはGymnocalycium亜属とされる場合もあります。Kiesling(1980)は、G. mesopotamicumの種子がTrichomosemineum亜属とG. hypticanthumの中間形態を示すことを指摘しました。分子系統でもG. mesopotamicumの位置はTrichomosemineum亜属と密接な関係があることを裏付けています。
Macrosemineum亜属のほとんどの種は形態的に類似しており、地理的に分布は限定されています。分布は、ウルグアイ、南中央パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン東部の、岩の露頭などに自生します。
Trichomosemineum亜属
G. bodenbenderianum, G. quehlianum
Trichomosemineum亜属は、アルゼンチン西部から中央部の山岳地帯と乾燥した谷間に生息しまTrichomosemineum亜属の命名はSchütz(1968)によるものですが、Buxbaum(1968)はSeries Quehliana(列)、Tillら(2008)はMicrosemineum亜属、Section Saglionia(節)、Subsection Pilesperma(亜節)に分類しました。分子系統はこれらのグループを支持しており、形態学的な過去の研究内容とも一致します。ただし、Tillら(2008)のPilespermaの位置は一致していません。
Gymnocalycium亜属
G. bruchii, G. calochlorum, G. baldianum var. baldianum, G. schroederianum, G. robustum, G. gibbosum ssp. gibbosum, G. fischeri, G. kieslingii, stringlianum, G. uebelmannianum, G. andreae, G. reductum ssp. reductum, G. erinaceum, G. amerhauseri
Gymnocalycium亜属は、ほとんどが中央アルゼンチンの山岳地帯に自生し、他にはパタゴニア北部、アルゼンチン東部、ウルグアイ西部に少数の種が分断されて自生します。すべての種は、Schütz(1968)、Till(2001)、Tillら(2008)のGymnocalycium亜属に相当します。ただし、Tillら(2008)のさらなる分類は現在のところ支持されません。過去10年間に発見されたギムノカリキウム属の新種はほとんどがこのグループに属し、形態学的に非常に類似しています。分子系統でもほとんどの配列が同じであり、顕著な均質性を示しました。この解像度の低さは既存のDNA配列データによる解決は難しい可能性があります。これは、急速に新しい時代に種が放散したことを反映しているのかも知れません。
ギムノカリキウムの形態学
Nyffeler(2005)が説明したBCT clade(※1)の祖先分類群は、おそらくbarrel cacti(Ferocactus, Echinocactus)でした。BCT cladeのGymnocalycium属の祖先は、おそらく樽状(Barrel)の生長形態か球状で単独の生長形態であることが示唆されます。G. saglionisはこの属唯一の樽状生長形態を持つ種であり、おそらくはGymnocalycium属の祖先に似ています。他の種はサイズが徐々に縮小し、球状となる傾向を示します。円柱状あるいは樽状のサボテンの分布は低温により厳しく制限されていますが、球状のサボテンは寒さに強いようです。Gymnocalycium属のサイズが小さくなったのは、温暖な気候からより涼しい条件下へ適応した結果かも知れません。
かぶら状の根は水とデンプンの貯蔵に関係しています。かぶら状の根は高度の脱水に耐える能力があり、干ばつ時の水分損失を防ぎます。特にTrichomosemineum亜属とGymnocalycium亜属は、独特な多肉質の根を発達させる傾向があります。
基底系統であるMicrosemineum亜属、Pirisemineum亜属、Muscosemineum亜属は種子が小さく、果実はジューシーで色鮮やかです。この特徴は、endozoochory(※2)と関連があります。Macrosemineum亜属、Trichomosemineum亜属、Gymnocalycium亜属は乾燥した緑色の果実を持ち、これはアリ散布(myrmecochory)と関連があります。また、これらのグループは種子が大きいものもありますが、このような種子は散布されにくいものの発芽など活発な苗木を生み出す可能性があります。
※1 ) BCT caldeは、主に柱サボテンからなる巨大なグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。
※2 ) endozoochoryとは、果実が動物に食べられて体内で種子が運搬されること。被食散布される。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
注意事項としては、各亜属に書かれた学名は、論文が書かれた2011年当時のものであるため現在とは異なる部分があるかもしれません。また、書かれた学名は研究に用いた種を指しているだけで、すべての種を調査しているわけではありません。
さて、一応はギムノカリキウム属内の分類が科学的になされたわけですが、論文がやや古いためより精度の高い解析が望まれます。今回は割愛しましたが、論文では種ごとの関係まで解析されています。ただし、特にGymnocalycium亜属などは種ごとの関係性はあまり上手く解析出来ていないようです。おそらく、分散しながら急速に進化したため、既存の方法では上手くいかないのでしょう。さらなる研究が待たれます。
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さて、本日ご紹介するのはPablo H. Demaioらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of Gymnocalycium (Cactaceae): Assessment of alternative infrageneric systems, a new subgenus, and trends in the evolution of the genus』です。割りと有名な論文ですから、あるいは皆さんご存知かも知れませんが、お暇であればしばしお付き合い下さい。
ギムノカリキウム属とは?
Gymnocalycium Pfeiff. ex Mittlerは、球状の生長パターンと、トゲがない花托を持つ昼行性の花を特徴とする、約50種からなる属です。パタゴニア南部を除くボリビア南部、パラグアイ南西部及び北部、ブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチンに分布します。
Gymnocalyciumは栽培しやすく開花も早いため、サボテン愛好家の間でも人気のある属の1つです。分類群の新しい記述は個人の収集家や栽培家により行われてきたため、小さな形態的な差異を過度に強調し新しい分類群として記述する傾向があります。そのため、異名が増加しており、安定した属内の分類システムが必要となりました。
ギムノカリキウム属の分類の歴史
ギムノカリキウム属の属内分類の最初の試みはFrič(1935)によるもので、種子の形質にもとづいて5つのグループからなるシステムを発表しました。しかし、このシステムは非公式で有効に記載されませんでした。
Frič, 1935
1, Ovatiseminae
2, Macroseminae
3, Trichomoseminae
4, Microseminae
5, Muscoseminae
Schütz(1968)はFričの基準に従い、5つの亜属からなる有効なシステムを発表しました。
Schütz, 1968
1, Gymnocalycium
=Ovatiseminae Schütz, nom illeg.
2, Macroseminae Schütz
3, Trichomoseminae Schütz
4, Microseminae Schütz
5, Muscoseminae Schütz
Buxbaum(1968)は、ギムノカリキウムの列(series)、亜列(subseries)を公表しました。また、他にもBackeberg(1941, 1958)やIto(1950, 1957)、Pazout(1964)などは、茎と花の形態に基づき属内分類群を提案しましたが、無効であると判断されています。
Schütz(1968)の分類体系は、Till & Hesse(1985)及びMetzing(1992)により修正され、Till(2001)及びTill et al.(2008)が果実と花、種子の特徴に基づく新しい体系が発表されるまで、ほぼ30年間に渡り研究者や趣味家に広く受け入れられてきました。Tillの分類体系はSchützとは大きく異なりますが、どちらが自然な分類を反映しているのか判断する決定的な証拠はありませんでした。
分子系統解析
ギムノカリキウム属内分類における論争は、形態に基づく方法では分類体系の解決が困難であることを示しています。しかし、形態学的な情報と遺伝子情報を組み合わせて利用したなら、安定した分類が出来ます。
┏━Gymnocalycium
┃
┣━Trichomosemineum
┏┫
┏┫┗━Macrosemineum
┃┃
┃┗━━Scabrosemineum
┫
┃┏━━Muscosemineum
┣┫
┃┗━━Pirisemineum
┃
┗━━━Microsemineum
Microsemineum亜属
G. saglionis
Microsemineumはギムノカリキウムの中でもっとも早く分岐した分類群であることが示唆されます。特徴は茎は大型で、果実は色鮮やかかつジューシーで甘いため、鳥などの脊椎動物を引き寄せます。果実の特徴はPirisemineum亜属と似ています。ジューシーな果実はギムノカリキウム属を含むBCT系統群の多くの属、TrichocereusやStetsonia、Echinopsisと共通します。
G. saglionisはアルゼンチン北西部の山脈に自生します。ギムノカリキウム属の分子系統の基底にあるため、ギムノカリキウムの祖先はアルゼンチン北西部とボリビア南部の山岳地帯が起源であると考えられます。
Pirisemineum亜属+Muscosemineum亜属
Pirisemineum亜属
G. pflanzii ssp. pflanzii, G. pflanzii ssp. zegarrae, G. chacoense
Muscosemineum亜属
G. marsoneri ssp. marsoneri, G. marsoneri ssp. megatae, G. eurypleurum, G. schickendantzii ssp. schickendantzii, G. mihanovichii, G. anisitsii ssp. damsii
Pirisemineum亜属とMuscosemineum亜属は、分布域がアルゼンチン中央部まで広がるG. schickendantziiを除き、ほとんどの種はアルゼンチン北部、ボリビア南部、パラグアイ西部のグラン・チャコ森林に生息します。Pirisemineum亜属はジューシーな果実とムール貝のような形の種子を特徴としています。果実はMicrosemineum亜属と似ていますが、主にアリにより散布されます。
Scabrosemineum亜属
G. hossei, G. glaucum ssp. glaucum, G. glaucum ssp. ferrarii, G. castellasonii ssp. castellasonii, G. castellasonii ssp. ferocius, G. oenanthemum, G. bayrianum, G. monvillei, G. ritterianum, G. mostii ssp. valnicekianum, G. mostii ssp. mostii, G. horridispinum ssp. horridispinum, G. horridispinum ssp. achirasense, G. rhodanthemum, G. spegazzinii
このグループは広義(sensu lato)のMicrosemineum亜属で、Schütz(1968)より分類されました。Tillら(2008)はMicrosemineum亜属のSection Saglionia(節)に、Microsemineum亜節を分類しました。しかし、分子系統では分離されたグループを作っています。そのため、著者らはGymnocalycium subgen. Scabrosemineum Demaio, Barfusr, R. Kiesling and Chiapella, subgen. nov.を新亜属として記載しました。このグループのほとんどが、アルゼンチン中西部の山岳地帯の温帯亜湿潤気候に分布します。自生地は背の高い草むらが優勢で、岩の露頭が点在します。
Macrosemineum亜属
G. denudatum, G. horstii ssp. horstii, G. paraguayense, G. hyptiacanthum ssp. netrelianum, G. hyptiacanthum ssp. uruguayense, G. mesopotamicum, G. reductum ssp. leeanum
従来、Macrosemineum亜属(Macrosemineum亜節)に分類されていた種は分子系統では単系統とは見なされません。ブラジル南部に分布するG. horstiiとG. denudatumは、Trichomosemineum亜属やGymnocalycium亜属と姉妹関係にあり、まとまりがあります。解析方法によっては、G. hypticanthumはGymnocalycium亜属とされる場合もあります。Kiesling(1980)は、G. mesopotamicumの種子がTrichomosemineum亜属とG. hypticanthumの中間形態を示すことを指摘しました。分子系統でもG. mesopotamicumの位置はTrichomosemineum亜属と密接な関係があることを裏付けています。
Macrosemineum亜属のほとんどの種は形態的に類似しており、地理的に分布は限定されています。分布は、ウルグアイ、南中央パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン東部の、岩の露頭などに自生します。
Trichomosemineum亜属
G. bodenbenderianum, G. quehlianum
Trichomosemineum亜属は、アルゼンチン西部から中央部の山岳地帯と乾燥した谷間に生息しまTrichomosemineum亜属の命名はSchütz(1968)によるものですが、Buxbaum(1968)はSeries Quehliana(列)、Tillら(2008)はMicrosemineum亜属、Section Saglionia(節)、Subsection Pilesperma(亜節)に分類しました。分子系統はこれらのグループを支持しており、形態学的な過去の研究内容とも一致します。ただし、Tillら(2008)のPilespermaの位置は一致していません。
Gymnocalycium亜属
G. bruchii, G. calochlorum, G. baldianum var. baldianum, G. schroederianum, G. robustum, G. gibbosum ssp. gibbosum, G. fischeri, G. kieslingii, stringlianum, G. uebelmannianum, G. andreae, G. reductum ssp. reductum, G. erinaceum, G. amerhauseri
Gymnocalycium亜属は、ほとんどが中央アルゼンチンの山岳地帯に自生し、他にはパタゴニア北部、アルゼンチン東部、ウルグアイ西部に少数の種が分断されて自生します。すべての種は、Schütz(1968)、Till(2001)、Tillら(2008)のGymnocalycium亜属に相当します。ただし、Tillら(2008)のさらなる分類は現在のところ支持されません。過去10年間に発見されたギムノカリキウム属の新種はほとんどがこのグループに属し、形態学的に非常に類似しています。分子系統でもほとんどの配列が同じであり、顕著な均質性を示しました。この解像度の低さは既存のDNA配列データによる解決は難しい可能性があります。これは、急速に新しい時代に種が放散したことを反映しているのかも知れません。
ギムノカリキウムの形態学
Nyffeler(2005)が説明したBCT clade(※1)の祖先分類群は、おそらくbarrel cacti(Ferocactus, Echinocactus)でした。BCT cladeのGymnocalycium属の祖先は、おそらく樽状(Barrel)の生長形態か球状で単独の生長形態であることが示唆されます。G. saglionisはこの属唯一の樽状生長形態を持つ種であり、おそらくはGymnocalycium属の祖先に似ています。他の種はサイズが徐々に縮小し、球状となる傾向を示します。円柱状あるいは樽状のサボテンの分布は低温により厳しく制限されていますが、球状のサボテンは寒さに強いようです。Gymnocalycium属のサイズが小さくなったのは、温暖な気候からより涼しい条件下へ適応した結果かも知れません。
かぶら状の根は水とデンプンの貯蔵に関係しています。かぶら状の根は高度の脱水に耐える能力があり、干ばつ時の水分損失を防ぎます。特にTrichomosemineum亜属とGymnocalycium亜属は、独特な多肉質の根を発達させる傾向があります。
基底系統であるMicrosemineum亜属、Pirisemineum亜属、Muscosemineum亜属は種子が小さく、果実はジューシーで色鮮やかです。この特徴は、endozoochory(※2)と関連があります。Macrosemineum亜属、Trichomosemineum亜属、Gymnocalycium亜属は乾燥した緑色の果実を持ち、これはアリ散布(myrmecochory)と関連があります。また、これらのグループは種子が大きいものもありますが、このような種子は散布されにくいものの発芽など活発な苗木を生み出す可能性があります。
※1 ) BCT caldeは、主に柱サボテンからなる巨大なグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。
※2 ) endozoochoryとは、果実が動物に食べられて体内で種子が運搬されること。被食散布される。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
注意事項としては、各亜属に書かれた学名は、論文が書かれた2011年当時のものであるため現在とは異なる部分があるかもしれません。また、書かれた学名は研究に用いた種を指しているだけで、すべての種を調査しているわけではありません。
さて、一応はギムノカリキウム属内の分類が科学的になされたわけですが、論文がやや古いためより精度の高い解析が望まれます。今回は割愛しましたが、論文では種ごとの関係まで解析されています。ただし、特にGymnocalycium亜属などは種ごとの関係性はあまり上手く解析出来ていないようです。おそらく、分散しながら急速に進化したため、既存の方法では上手くいかないのでしょう。さらなる研究が待たれます。
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