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カテゴリ: 多肉植物の論文

ソテツは海外では希少で、その保護が強く叫ばれています。しかし、日本においてソテツはあまりに身近な存在ですから、そう言われてもピンと来ないかも知れません。日本に生えるソテツであるCycas revolutaは耐寒性が強いため、多少の降雪がある地域でも庭に植栽が可能です。そのため、日本中に植栽されているわけですが、本来の自生地は九州以南の暖地です。野性植物はその自生地では、人々に上手く利用されて来ました。ソテツはどのように利用されてきたのでしょうか? 本日はソテツ利用の1つ例をご紹介します。それは、Truyoshi Hashimoto & Jin Ishiiの2021年の論文、『Microclimate in the Fields with Cycas Hedges in Amami Oshima, Japan』です。奄美大島の島民がソテツとどのように付き合ってきたのか、そしてその関係性が崩れ行く現実を捉えています。

日本の農村では住宅の周囲に防風林がよく見られ、それぞれの地域の気候に適応して作られていると言われています。一方で耕作地の保護のための防風林もよく見られます。奄美諸島ではソテツが防風林として利用され、ソテツの生け垣のある畑と言う意味で、「ソテツ畑」と呼ばれています。昭和20年代に撮影された航空写真を見ると、斜面の段々畑にソテツ畑が多く見られます。しかし、現在は機械化や農地拡大が困難であることなどから放棄され、平野部のものだけが残存しています。ソテツの生け垣は高さ約2〜3mで、畑にはサトウキビ(約40%)、玉ねぎ、サツマイモ、ニンニクなどが植えられます。
アメダス(地域気象観測システム)と気象台による観測データにより気温や水蒸気圧、日照量を、また風速や風向きを計測しました。すると、ソテツ畑は約20%の防風効果が確認されました。海からの季節風による強風と塩害を防ぐために、海岸のアダンによる海岸防風林とソテツ畑による防風林に効果が認められました。しかし、幹線道路の拡張工事により、幹線道路沿いに強風が吹くようになりました。その結果、幹線道路沿いのソテツ畑からは防風効果は失われてしまいました。

以上が論文の簡単な要約です。
実はこの論文の結論は意外なもので、夏のソテツ畑は気温が上昇し高温となるため、健康に対する危険を避けるために、ソテツ畑での作業は控えたほうが良いと言うものでした。防風効果により気温や湿度が高くなりやすく、日当たりの良いソテツ畑は夏には体感温度で38〜46℃にも達すると言うことです。しかし、長くソテツ畑と付き合ってきた地元の人々からしたら、そんなことは当たり前のことであり、必要だからやっているだけですよと笑われてしまいそうですけどね。


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サボテンのトゲは鋭いので、うっかり触ってしまいトゲが手に刺さってしまうこともあります。普通は簡単に抜けますし、細かいトゲならとげ抜き、バニーカクタスならガムテープを使った方が早いかも知れません。しかし、これは我々趣味家がちょっとだけ、ホンの数本、バニーカクタスなら数十本刺さった程度の話です。わざわざ、病院に赴く必要はないでしょう。しかし、小さい子供や、大人でもあまりに沢山のトゲが刺さったら、流石に病院で見てもらった方が良いでしょう。
さて、たまたまサボテンのトゲについて調べていたら、サボテンのトゲの抜き方についての論文があるこあとに気が付きました。しかも、生物学関連の論文ではなく、医師が実際に診た患者についての報告のようです。少し見てみましょう。

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Opuntia microdasys
『The Cactaceae』(1919年)より。


報告①
まずは、「American Journal of Diseases of Children」(アメリカ小児疾患ジャーナル)の1987年の12月号の報告である、Terry T. Martinezらの報告、『Removal of Cactus Spines From the skin』から。
「非常に細かいサボテンのトゲを皮膚から除去することは、小児患者にとって非常に苦痛です。最も効率的なのは、ピンセットでトゲの塊を取り除き、ガーゼで覆った接着剤を乾燥してから剥がしてトゲを取る方法でした。」
この報告は概要しか読めませんでしたが、接着剤は乾かすのに時間がかかりますから、子供に大人しくしてもらうのはやや難儀しそうです。

報告②
面白いのはこの報告に対する返信が、他の医師よりあったことです。それは、1988年の6月にHalim Hennesによるものです。
「Martinezらの記事を興味深く読みました。著者らはトゲを取り除く効果的な方法を発見しました。しかし、幼く大人しくしていない子供に対してピンセットの使用は難しい場合があり、接着剤の塗布と乾燥には時間がかかります。2才の女児が展示されているサボテンの上に落ちて、救急外来を訪れました。患者は左手と左前腕の1/3に複数のサボテンのトゲが刺さっていました。患者は動揺して泣き両親からの慰めも効果がありませんでした。動いてしまうため、ピンセットによるトゲの除去は失敗しました。」
残念ながら有料の論文で、概要だけで実際にどのようなに除去したのかは分かりませんでした。如何にして大人しくしてくれない子供を上手く処置したのでしょうか?

報告③
しかし、さらにこの報告に対する返信がありました。それは、1988年12月のLouis I. COOPERによるものです。
「Hennesの報告を読みました。約20年前にサンルイスオビスポ伝道所の修道女が私に勧めた治療法を提案します。粘着テープやセロハンテープを貼り付けて剥がすだけです。安全で痛みなく必要に応じて繰り返すことが出来ます。」
これは簡単です。細かいトゲならやはり粘着テープと言うのは、今もそうでしょう。


報告④
面白いことに、サボテンのトゲの抜き方については、アメリカ小児疾患ジャーナル紙の議論と同じ1988年に「The American Journal of Emergency」(アメリカ救急医学ジャーナル)に記載がありました。それは、Douglas Lindsey & Wally E. Lindseyによる『Cactus spine injuries』です。
「サボテンのトゲは損傷を引き起こし、その臨床的重要性はトゲの寸法に反比例します。SaguaroやBarrel cactusの長いトゲの場合は、トゲの破片が埋め込まれることはほとんどありません。破片が埋め込まれた場合、見つけて取り除くのは困難です。ウチワサボテンやChollaの中程度のトゲは厄介なものですが、引き抜くことで簡単に取り除くことが出来ます。Bunny ear cactusやBeavertail cactusの非常に小さなトゲは非常に厄介ですが、プロ仕様のフェイシャルジェルの乾燥膜を剥がすことで除去出来ます。」
ここでは、サボテンによりトゲが異なることも考慮されています。Saguaro(弁慶柱、Carnegiea gigantea)やBarrel cactus(Echinocactus、Ferocactus)のトゲは粘着テープよりピンセット、Bunny ear cactus(金烏帽子、Opuntia microdasys)の芒刺はピンセットより粘着テープの方が良さそうです。論文ではフェイシャルジェルを利用しています。
ちなみに、Beavertail cactusとはOpuntia basilaris、ChollaとはCylindropuntiaを指します。

報告⑤
サボテンのトゲの抜き方についての医療界隈の報告は一段落したようですが、なんと2019年に新しくサボテンのトゲの抜き方についての論文が出ました。それは、Andrew M. Fordらの『Novel Method for Remove Embedded Cactus Spines in the Emergency Department』です。簡単に見ていきます。
「低機能自閉症と先天性運動機能障害を持つ22歳の患者が、沢山のサボテンのトゲが刺さった状態で救急科を受診しました。患者は胴体と腕と下肢全体にトゲが刺さっていました。患者は意思の疎通が困難であり、患者の両親によると過去に医療関係者に対する抵抗が激しかったため、麻酔による鎮静を行いました。医療用脱毛ミットにより4人がかりでサボテンのトゲを除去しました。15分後には、脱毛ミットでは除去出来ない深さのトゲも除去しました。患者は破傷風予防薬を投与され退院しました。患者は2週間後に検査され紅斑が認められましたが、紅斑は4週間後には消失しており、追加のトゲの除去は必要ありませんでした。
刺さったトゲが少数ならピンセットで除去出来ますが、多い場合は家庭用接着剤が有効ですが乾くのに35分ほどかかります。また、粘着テープはトゲの28〜30%しか除去出来ないことが知られています。これらの方法は従順な患者ならば十分ですが、今回のケースのように好戦的な患者には不十分であることが判明しました。興奮した患者が暴れてトゲが逆により深く刺さってしまうかも知れません。」
このケースでは意思の疎通が難しく暴れる患者を対象としています。麻酔をかけていますが、それも長時間は無理でしょう。素早く取り除く必要があります。ピンセットでチマチマやるわけにはいきません。使用した医療用脱毛ミットとは、手袋のようにして使用する粘着質の道具です。粘着テープは張って剥がしてと言う一連の操作に時間がかかりますが、手袋のようにはめて使えるため、軽く手の平で叩くようにするだけで簡単にトゲが除去出来ます。

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Opuntia microdasys
『Illustrated catalog』(1934年)より。


最後に
以上が医療分野におけるサボテンのトゲの除去方法の報告です。サボテンのトゲを抜きに病院に来る人は珍しいでしょうから、標準的な治療法はなかったのでしょう。最初の話は小児に関するものでした。やはり、子供はいたずらしたりしてサボテンにぶつかったりする事故も大人よりは多そうですし、大人しくトゲを抜かしてくれないでしょう。刺さったのが1本2本ならともかく、数十本となると時間がかかりますし、化膿してしまうかも知れません。病院に診てもらうのは妥当な判断と言えます。2019年のケースは医師にとってはかなり厄介な患者ですが、医療用脱毛ミットと言う新しい武器が活躍したようです。
私などは面倒臭がって素手で植え替えをするもので、手は穴だらけで、折れたトゲが沢山皮膚に残りますが基本的に放置してしまいます。そのうち新陳代謝でいつの間にやら出て来ますから、特に問題となったことはありませんでした。しかし、化膿したり破傷風だなんて考えたこともありませんでしたね。そりゃあ、刺さらないなら刺さらない方が良いだろうと言う、当たり前の感想です。


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アフリカの乾燥地にはアフリカゾウやクロサイなど、巨大な草食動物が分布します。クロサイは柱サボテン状のユーフォルビアを食べるためになぎ倒してしまうため、クロサイを保護するために導入した地域ではユーフォルビアが激減しています。アフリカゾウも木をなぎ倒してしまいますから、乾燥地の貧弱な植生にはかなりの負担がありそうです。本日はそんなアフリカゾウとバオバブの関係に焦点を当てた、Amanda Khosaらの2023年の論文、『The impact of elephants (Loxodonta africana) on the Baobab (Adansonia digitata) in a semi-arid savanna』をご紹介します。

バオバブとアフリカゾウ
アフリカゾウは樹木の生存に多大な悪影響を与えてます。樹皮を剥いだり、枝を折ったり、根こそぎにしたりします。アフリカゾウに傷付けられると、菌に感染しやすくなり、火事被害に遭いやすくなったり、シロアリなどの昆虫の被害に遭いやすくなります。バオバブの幹は柔らかいため、アフリカゾウによる被害を受けやすい樹木です。バオバブは膨大な水分を貯蔵しており、特に干ばつや乾季にはアフリカゾウが利用します。

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Baobab(Adansonia digitata)
『Field Museum news』(1936年)より。


アフリカゾウによる損傷
ジンバブエ南東部のlowveldにある2つの自然保護区を比較しました。1つはアフリカゾウがいるエリアで、もう片方はアフリカゾウがいないエリアです。アフリカゾウのいないエリアでは、バオバブの損傷は見られませんでした。しかし、アフリカゾウがいるエリアでは、損傷のないバオバブは3%に過ぎませんでした。
ただ、バオバブの単位面積当たりの個体数は、アフリカゾウのいるエリアの方が多いのですが、これはアフリカゾウとは関係がないと考えられます。バオバブは標高が低い地域に生えますが、アフリカゾウがいないエリアはいるエリアより標高が高いため必ずしも適した環境とは言えません。また、果実を食べて種子を運搬するヒヒがいないため、新たな実生が少ないことも原因である可能性はあります。ただ、バオバブの寿命の長さを考えた場合、新たな実生の少なさはそれほど問題ではないのかも知れません。

損傷の具合
観察からは、幹周りが5m(幹の直径が1.59m)以上では、アフリカゾウによる樹皮の剥ぎ取りが起きています。小さなバオバブは枝が食べられていました。しかし、大きなバオバブほどアフリカゾウの被害に遭いやすいことから、アフリカゾウは意図的に選択している可能性があります。これは、効率的に摂取するための最適化を意味します。
アフリカゾウのいるエリアでは、バオバブは食害にあっていましたが、枯死したバオバブには遭遇しませんでした。これは、バオバブの損傷に対する回復力があるためです。しかし、これはたまたま調査地域内での話しで、調査地域外ではバオバブがアフリカゾウに倒される様子を目撃しています。正しいバオバブの枯死率を知るためには、個々のバオバブの長期的なモニタリングが必要です。

アフリカゾウの影響
今回観察したアフリカゾウのいる地域のアフリカゾウの生息密度は1.5頭/平方キロメートルであり、ジンバブエ政府が推奨する0.75頭/平方キロメートルを超えています。過去の報告でも、アフリカゾウの生息密度の上昇は、森林の構造と組成を大きく変えてしまうことが知られています。バオバブの損傷跡からは、アフリカゾウの被害は過去5年間が最も被害が大きかったことと、古い時代から累積的に被害に遭っていることが分かりました。これは、1981年から2010年にかけての降雨量の平均が460mmであったのに対し、2019年は50〜200mmと少雨であったことに起因しているのかも知れません。また、アフリカゾウのいないエリアのバオバブは、幹の面積が33%大きく、樹冠が48%大きく、樹木の高さが24%高いことが分かりました。アフリカゾウによりバオバブは生長が抑制されている可能性が高いことを示しています。ジンバブエ政府は過密なアフリカゾウを移送する計画を開始しました。400頭が移送される計画で、現在101頭がザンベジ渓谷下流域に移送されています。

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Adansonia digitata
『Flora de Madagascar et des Comores』(1955年)より。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文ではアフリカゾウの被害にあったバオバブの写真が掲載されていますが、少し齧られているでは済みません。幹の周囲をぐるりと一周、綺麗に樹皮が剥ぎ取られています。樹皮は乾燥に耐えるためにも必要でしょうから、よくもまあ枯死しなかったものです。どれも巨大なバオバブでしたから、貯め込んだ水分で耐えたのでしょう。
しかし、アフリカゾウの数のコントロールとは難しいものなのでしょうか。本来的には増えたり減ったりしながら、適正数になるような気もしますが、何故増え過ぎてしまったりするのか、よく分かりません。近年の干ばつでバオバブに対する被害が拡大している様子ですが、それならアフリカゾウは数を減らして適正密度になるような気がします。とても不思議です。


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多肉植物は様々なグループがありますが、高度に多肉化した植物はサボテンやユーフォルビアなど限られたものグループだけです。私が育てていないグループでは、旧ガガイモ科(今はキョウチクトウ科)の多肉植物があります。旧ガガイモ科は詳しくないため、とりあえず思いついたHoodiaの論文を少し見てみました。すると、Hoodia gordoniiと言う種類の旧ガガイモ科植物について、何やら成分についてあれこれ調べているようでした。

植物は薬にならない
実は地元の植物に何らかの薬効成分があるのではと調べた論文と言うのは沢山あります。しかし、有効成分が含まれていたとしても、精製した成分そのものならともかく、基本的に植物自体はまったく薬にはならないものです。極微量に含まれる成分を抽出するのは非効率で、しかも大抵は化学合成薬に比べると効果はイマイチです。ですから、この手の研究は世界中で沢山行われていますが、実になったものはほとんどありません。古来より利用されてきた漢方薬のようなものならともかく、新たに薬草を探そうと言う試みは得てして上手くいかないものです。

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Hoodia gordonii
『Curtis's botanical magazine』(1878年)より。Hoodia bainiiとして記載。


Hoodiaと痩身効果
始めはHoodiaもそうだろうと思いましたが、ちょっと様相が異なるのです。普通は薬効成分がありますくらいで終わるのですが、Hoodia gordoniiについては同じような論文がいくつもあるのです。妙に思って見てみたら、何やらHoodia gordoniiには痩身効果があるかも知れないと言われているようです。そして、それがかなり期待されている様子が分かります。どういうことなのでしょうか?

誇大広告に踊らされる人々
ちょうど、その経緯を記したThomas Brendleの2020年の論文、『The Rise and Fall of Hoodia: A Lesson on the Art and Science of Nature Product Commercialization』を見つけました。概要を読むと大まかな経緯が分かりました。曰く以下の如くです。
「Hoodiaは1997年から2007年にかけて、名声が悪名に変わりました。減量効果について研究開発中であるにも関わらず、深妙な薬とされ熱心な信者に販売するビジネスが横行しました。Hoodiaを巡る誇大広告は、医薬品開発者がプロジェクトを中止し、販売業者に対する訴訟で誇大広告が何の根拠もないことが明らかになり止まりました。一方、研究開発には数百万ドルを費やされ、偽の主張を信じて多額のお金を払った人もいます。」
どうやら、Hoodia gordoniiには痩身効果は認められなかったようです。しかし、販売業者は飛びついて、痩せ薬として販売したことが分かります。

薬効はなし
Hoodia gordoniiの薬理効果を確認はなされており、例えばChrystian Araujo Pereiraらの2011年の論文、『Efficacy and toxicity of Hoodia gordonii commercial powder used to combat obesit』を流し見ると、以下のような内容でした。
「Hoodia gordoniiから配糖体P57が単離され、食欲の抑制効果について関心が高まっています。しかし、そのような効果は、市販品のH. gordonii粉末については評価も証明もされておらず、有効性や安全性を保証する科学的根拠はありません。それらを確認するために、ラットにH. gordoniiを4週間に渡り飲ませました。血液をはじめとした様々な検査の結果、期待した食欲抑制や肥満治療につながる効果は確認されませんでした。」
結局はHoodia gordoniiには痩身効果はないようです。薬として販売するためには、薬理効果や安全性を科学的に確認する必要があります。ですから、この時点で販売されていたHoodia gordonii粉末は、製剤ではなく健康食品のようなものだったのでしょう。だとしても、安全性のあやふやなものを販売してしまうことに驚きますが、そのような怪しげなものに手を出してしまう人々にも驚かされます。やはり、「痩身効果」と言う言葉は飽食の現代人を引き寄せる魔力があるようです。

Hoodia gordonii製品の氾濫
Hoodia gordoniiの流行の具合については、M. Neelika Jayawardaneの2011年の論文、『Impenetrable Bodies/Disappearing Bodies: Fat American Celebrities, Lean Indigenous People, and Multinational Pharmaceuticals in the Battle to Claim Hoodia gordonii』に詳しいので見てみましょう。
「Hoodia gordoniiを含むと言う製品は、2000年代に米国市場に氾濫しました。数十のブランドの広告は、何百万人ものアメリカ人を引き締まった魅力的な体に変えることを約束しています。Hoodiaの食欲を奪うと言う主張は、過剰な食糧爆撃が蔓延する米国の状況において、死に対する解毒剤と同じくらい強力です。」
米国においてHoodia gordonii製品が爆発的に流行したことがうかがえます。この論文のタイトルは面白くて、「Hoodia gordoniiの権利を争う太った米国のセレブ、痩せた原住民、そして多国籍製薬企業」と言うものです。有料の論文なので概要しかわかりませんが、肥え太った先進国の人間のために、痩せた原住民が収奪され、先進国の多国籍製薬企業が肥え太ると言う構図が透けて見えます。


不平等な世界
では、Hoodiaの原産地の人々はどう関わっているのでしょうか? ここでは、Saskia Vermeylenの2007年の論文、『Comtextualizing 'Fair' and 'Equitable': The San's Reflections on the Hoodia Benefit-Sharing Agreement』を見てみましょう。
「生物多様性条約(CBD)は、生物多様性の利用による利益の平等な分配を要求していますが、公平性(Fair)と平等性(Equitable)の定義はしていません。サン族が伝統的に利用してきたHoodiaについて、企業は何の事前の同意もなく特許を取得しましたが、遅ればせながら利益分配協定が締結されました。先住民族と企業の間の知識と権力の重大な不平等があり、生物多様性条約の深刻な弱点があります。」
これはよくある話です。先進国の巨大多国籍企業が開発途上国で相手が読めない契約書にサインさせて、実質的な奴隷労働をさせたりと言うことが実際にありました。そこまでいかなくても、相手は相場も知りませんし、企業側は意図的に詳細を隠すためそもそも平等な話し合いにはならないのです。また、自然物に特許を取ることは随分と図々しい話にも思えますが、例えば巨大多国籍企業が開発途上国の河に覆いをしてしまい、もともと暮らしていた住民から河の水の使用料を徴収することすらありますから、それほど驚くべきことでもないでしょう。


最後に
Hoodia gordoniiに含まれる成分に痩身効果が期待されましたが、結局は痩身効果はなかったわけです。しかし、問題は薬理効果どころか安全性すら未確認なものを誇大広告をかけて売り捌いたことです。数十のブランドがあったようですから、相当にHoodia熱が加熱したのでしょう。ある種の馬鹿騒ぎであり実に愚かな感じがしてしまいます。
しかし、このような時に流行の熱に浮かされないようにしないと、意味がないものに投資して懐が寒くなるだけではなく、健康に害がおこる可能性もあったのです。日本でも怪しげな健康食品やサプリメントがありますが、実際に何が入っていて期待される効果があるのかは確認されていないものばかりです。怪しげなサプリメントを服用したことによる肝機能障害は頻繁していますし、ステロイドなどの強力な薬品が成分に記載されずに入っているケースもよくあります。これをもって他山の石とし、よくよく考えて騙されないようにしたいものです。



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多肉植物は葉挿しで増やすことが出来るものが多くあります。葉挿しする時に、エケベリアなどは用土に挿さないでそのまま置いておくだけで発根したりします。この時に、霧吹きで湿らすこともありますが、葉の表面から水分を吸収するのだと言う人もいます。個人的には発根のために空中湿度を高くする意味合いが強いような気もします。しかし、その程度はどうあれ、葉からの水分吸収はありそうなことです。実際にはどうなのでしょうか? 少し調べてみました。見つけたのは、Marc Fradera-Solerらの2023年の論文、『Revisiting an ecophysiological oddity: Hydathode mediated foliar water uptake in Crassula species from southern Africa』です。

FWUとは?
植物の根以外からの大気中の水分の取り込みについては、長年の議論がありました。しかし、現在では様々な植物の葉や茎からの水分吸収が報告されています。葉面からの水分吸収(FWU)は、水ポテンシャル勾配が減少する、一般的に空中湿度が高い場合の現象とされて来ました。しかし、急な水ポテンシャル勾配は、季節的な降雨や定期的に空中湿度が高まる乾燥した塩分の高い地域などで発生する可能性があります。

FWUの可能性
乾燥地に生える多肉植物の自生地の多くは土壌水分は極端に少ないものの、海洋の影響により空中湿度が高くなり霧や露を発生させます。このような環境は、アタカマ砂漠やソノラ砂漠の一部をなすバハ・カリフォルニア、アフリカ南部のKarooなどが知られてします。サボテンはアレオーレを介した水分摂取が疑われており、おそらくトゲや毛が霧を集めることにより促進されます。アフリカ南部ではAnacampseros科やハマミズナ科(ツルナ科、メセン科、マツバギク科)の多肉植物がFWUを疑われており、その表面には特殊な毛状突起や鱗片を持っています。また、特に注目を集めているのは、アフリカ南部のCrassula属で、長年に渡りFWUを疑われてきました。Crassulaはアフリカ南部の様々な環境に適応してきました。

クラッスラ属研究
初期の研究では、Crassulaに特有な葉の表面の毛状突起や非常に豊富な水孔を介してFWUが発生する可能性が推測されています。Tolken(1974年、1977年)は、Crassulaは十分に乾燥し脱水した条件では、葉の表面から水分(色素液)を吸収することを観察しました。Martin & von Willert(2000年)は、Crassulaは葉の表面を湿らせた後の葉の厚みを計測することにより、FWUが可能であることを示しました。しかし、湿潤の直接的な影響と蒸散の減少による間接的な影響を区別していないため、水孔を介したFWUであるかは分かりませんでした。

研究されたクラッスラ
著者らは、CrassulaのFWUの能力は、葉の表面の構造に強く影響されるのではないかと言う仮説を立てました。この研究では南アフリカ原産のCrassula属9種類を使用しました。使用したのは、アフリカ南部の南西および西海岸に沿って分布するコンパクトな6種類のCrassulaであるC. ausensis subsp. titanopsis、C. deceptor、C. fragarioides、C. plegmatoides、C. sericea var. sericea、C. tectaと、冬に降雨量が多いKarooのコンパクトではない3種類のCrassulaであるC. ovata、C. multicava subsp. multicava、C. perforata subsp. perforataです。

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Crassula deceptor
『Mitteilungen der Botanischen Staatssammlung Munchen』(1966-1968年)より、Crassula artaとして記載。「稚児姿」と呼ばれています。


FWUの確認試験
植物を乾燥させた状態で、蛍光色素が葉の水孔から吸収されるか顕微鏡で観察したところ、C. perforata以外の8種類は水孔を介したFWUの可能性が示されました。

FWUの理由
Kalanchoe、Aichryson、Sedumなどのベンケイソウ科植物は、一般に辺縁の毛状突起あるいは単一の毛状突起しか持ちません。しかし、Crassulaは層状の毛状突起を持ち多肉植物である数少ない例となっています。Crassulaの分布するKarooは湿度が高く、夜間と早朝の霧や露に依存している可能性があります。実際にCrassulaは海沿いの斜面に生え、湿度の高い海からの風が遮断されることにより、霧や露が発生します。

FWUしない理由
C. perforataではFWUは確認されませんでしたが、Tolken(1974年、1977年)の報告ではC. rupestrisとC. macowaniana、C. brevifoliaはFWUの兆候を示しませんでした。これらの種には共通点があり、無毛で疎水性のワックス状の葉を持ち、比較的大型となり低木状となります。大型であることから広域な根系を持ちます。

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Crassula ausensis
『Mitteilungen der Botanischen Staatssammlung Munchen』(1966-1968年)より、Crassula littlewoodiiとして記載。

葉の表面構造
葉の表面構造は非常に多様でした。C. ovataとC. multicavaの葉の表面は無毛で、まばらに白色の結晶の堆積が見られました。C. perforataは、無毛ですが葉の縁に沿って円錐形の毛状突起が見られました。C. deceptorとC. fragarioides、C. plegmatoidesは乳頭状の突起を持ち、C. sericeaは長い毛状突起がありました。C. ausensisとC. tectaは、鎖骨毛状突起と大型水孔細胞特異的芽細胞を有していました。また、C. ausensisやC. deceptor、C. tectaは結節(隆起)と窪みが存在しました。C. ausensisとC. tectaは、結節は毛状突起の集合部位と一致しました。

葉の湿潤性
Crassulaには、葉に多様な彫刻が見られます。これらは、過度の日射量を反射し、蒸散による水分損失を低減させます。しかし、これらの構造は露の形成にも関与している可能性があります。ただし、葉の表面は親水性から疎水性まで様々でした。例えば、C. tectaでは粗い親水性の葉の表面で、水分は毛細管現象により急速に広がります。一方、C. ausensisはかなる緩やかで目立ちませんでした。逆に水を弾く「ロータス効果」が見られるC. deceptorとC. plegmatoidesは超疎水性です。

葉の湿潤性とFWU
葉の湿潤性はFWUには、厳密には関係がありません。一般により高い湿潤性を持つ場合はより高いFWUの能力があるとされ、疎水性の葉はFWUの恩恵が少ないとされます。著者らの研究結果からは、一見して疎水性の葉を持っていても、水孔を介したFWUが可能でした。しかし、実験では典型的な雨粒のサイズである直径約2mm程度の水滴により行いましたが、自然条件下で発生する直径0.5mm程度の霧では湿潤性は異なるのかも知れません。いずれにせよ、Crassulaの葉に見られる複雑な表面構造は水孔のFWUへの仲介を促進し、一見して疎水性の種でもFWUが促進される可能性があります。

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Crassula perforata
『Drought resistant plants』(1942年)より。「十字星」、「南十字星」、「早乙女」などと呼ばれているようです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
Crassulaはすべてではありませんが、葉からの水分吸収が可能であるという結果でした。しかし、まだ問題も残されています。論文にもあったように、疎水性で水を弾く場合、なぜ水を弾いてしまうのに水分吸収が可能であるかが分かりません。著者らの考えである水滴のサイズによるとしたら、葉挿しに霧吹きしてもあまり沢山かけると意味がないということになります。

また、私が一番疑問に思ったのは水分の吸収量です。植物の質量に対してどれほど吸収されるのか、実際に生存するために有用なだけの水分を得ることが出来るのかということです。葉からの水分吸収が可能であるということと、そのことが本当に意義があるのかどうかはまったく別の話でしょう。本当に意味があるのでしょうか? 疎水性の高い場合は、水分吸収が可能であっても極少量で、実際には役に立っていない可能性も否定出来ません。さらなる研究が望まれます。


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基本的に植物は受粉のために花粉媒介者を必要とします。しかし、共通する花粉媒介者に頼った場合、花粉媒介者が競合してしまう可能性があります。しかし、ある論文では3種類の開花期の異なるサボテンが、上手く花粉媒介者の競合を避け、花粉媒介者に1年中資源を提供し支えていることが示されています。その論文の解説は以下の記事をご参照下さい。

さて、本日はギムノカリキウムの開花期について詳しく調べた研究をご紹介します。それは、Melisa A. Giorgisらの2015年の論文、『Flowering phenology, fruit set and seed mass and number of five coexising Gymnocalycium (Cactaceae) species from Cordoba mountain, Argentina』です。

この研究はアルゼンチンのCordoba州、Sierras Chicas山脈の標高1200メートルの東斜面で実施されました。Cordoba州の山々には約17種類のギムノカリキウムが生息しそのほとんどが固有種です。山脈には5種類のギムノカリキウムが局所的には共存しています。

Gymnocalycium亜属
①G. bruchii
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『Latest news from cactus land』(1953年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


②G. capillense

Trichomosemineum亜属
③G. quehlianum
231122224232259~2
『Succulent news』(1956年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


Scabrosemineum亜属
④G. monvillei
231122222742430~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

⑤G. mostii

231122222755698~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

以上のギムノカリキウムは自家不和合性で自家受粉しません。主な花粉媒介者はミツバチです。花の寿命は2〜3日です。種子は約5週間で成熟し、Elaiosomeにより蟻に運ばれます。
開花が最も早いのはG. bruchiiでした。G. bruchiiの開花が減り始める頃に、入れ替わるようにG. quehlianumが開花のピークを迎えました。G. quehlianumの開花期は長く、他のギムノカリキウムの開花期の最後まで緩やかに減少しながら開花し続けました。G. quehlianumの次は、G. monvilleiとG. mostiiの開花のピークを迎えます。G. monvilleiは急激なピークを迎え、短期間で開花を終えました。対するG. mostiiは、ピークはG. monvilleiと同時期でしたが、一度下がってからやや盛り返し、最後まで咲き続けました。最後にG. capillenseが咲きましたが、開花数は少ないものでした。G. capillaenseの開花のピークは、G. monvilleiの花が急激に減少している頃で、G. mostiiの開花の谷間にあたります。G. capillenseの開花期は短く、花が減少し始めるとG. mostiiの開花が盛り返し、G. quehlianumの開花も少ないものの続きます。

種子の成熟期間を考慮すると、開花が早い種類は種子が大きく、開花が遅い種類は種子が小さいと考えられます。しかし、実際には開花が最も早いG. bruchiiと開花が最も遅いG. capillenseの種子が大型でした。
しかし、開花が遅いG. capillenseは結実率が低く、時期的に生育期の終わりであることから、気温の低下により成熟期間が短かすぎる可能性があります。また、生育期の始まりと終わりの時期は、気候条件により花粉媒介者の活動が低下していることも考慮する必要があります。
また、開花期が2番目に早く長い期間開花するG. quehlianumは、開花数が最も多く結実数も非常に多いものでした。しかし、G. quehlianumは出来る種子の数に比べ、個体数は他のギムノカリキウムよりも少ないものでした。これは、実生の生存率などによるものかも知れません。

以上が論文の簡単な要約です。
5種類のギムノカリキウムは、開花時期は多少重なるものの、そのピークは基本的には遷り変わるものでした。ある程度、花粉媒介者の競合を避けるメカニズムがあるようです。しかし、G. monvilleiとG. mostiiの開花期のピークはほぼ重なりますが、G. monvilleiは短い時期に大量開花することにより、花粉媒介者を独占的に引き寄せているのかも知れません。対するG. mostiiは開花期間が長く、他のギムノカリキウムと競合しながらも、トータルでは必要な結実数を確保しているのかも知れません。
開花時期が早いG. bruchiiや開花時期が遅いG. capillenseは、競合を避ける戦略ですが、花粉媒介者が少ないというリスクを背負うことになります。生態系は基本的に全部取りは出来ず、常にtrade-offの関係にあります。あれもこれもは難しいのです。


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昨日の記事で、Ceraria属がPoutulacaria属に吸収されて消滅したという論文をご紹介しました。Poutulacariaは2種に旧Ceraria5種が加わり、合計7種となりました。その見分けが論文にまとめられていたのでご紹介します。昨日に引き続き2014年の論文、『Phylogenetic relationships in the Didiereaceae with special reference to subfamily Portulacarioideae』からの引用です。


・高さ30cmまでの矮性亜低木。
 枝は広がり枝垂れる。
 →P. pygmaea
・高さ0.3〜5mまでの低木から小高木。
 生長すると枝は直立する傾向がある。
 →②


・葉は平らで、円形から倒卵形。
 →③
・葉は円筒形や円柱状。落葉樹。
 →⑥


・葉は30〜70mm × 30〜40mm。
 花序は高さ1〜5m。
 →P. armiana
・葉は4〜25(56)mm × 4〜25(68)mm。
 花序は枝や短枝から10cm。
 →④


・密に枝分かれし葉が茂る。
 高さ1〜4m。常緑で明るい緑色。
 →P. afra
・まばらに枝分かれし葉は少ない。
 高さ0.3〜3m。落葉し灰緑色。
 →⑤


・葉は4〜8mm × 3〜8mm。
 葉は幅よりやや長いことが多い。
 花序は花柄がない。
 →P. fruticulosa
・葉は10〜35(56)mm × 10〜30(68)mm。
 葉の幅と長さが同じくらい。
 花には花柄がある。
 →P. carrissoana


・枝は太く二股に分かれる。
 先端の枝では太さ3〜5mm。
 葉の長さは3〜5mm。
 花序は1〜15mm。
 →P. namaquensis
・枝は細い不規則に分岐。
 先端の枝では太さ2〜3mm。
 葉は長さ6〜15mm。
 花序は10〜40mm。
 →P. longipedunculata

231119142047431
Poutulacaria namaquensis
=Ceraria namaquensis


さて、Ceraria属がPoutulacaria属に吸収されてしまったわけですが、Poutulacaria属は現在7種類が記載されています。せっかくですから、新しい学名と異名と記載年の一覧を示しましょう。
※PoutulacariaとCeraria以外の異名は省きました。

1, Poutulacaria afra, 1787
 異名:
    Poutulacaria portulacaria, 1915
2, Poutulacaria namaquensis, 1862
 異名:
    Ceraria namaquensis, 1912
    Ceraria gariepina, 1912
3, Poutulacaria fruticulosa, 2014
    異名:
    Ceraria fruticulosa, 1912
    Ceraria schaeferi, 1915
4, Poutulacaria pygmaea, 1928
 異名:
    Ceraria pygmaea, 1996
5, Poutulacaria carrissoana, 2014
 異名:
    Ceraria carrissoana, 1939
    Ceraria kuneneana, 2008
6, Poutulacaria longipedunculata, 2014
 異名:
    Ceraria longipedunculata, 1961
    Ceraria kaokoensis, 2007
7, Poutulacaria armiana, 1984


先のビッグバザールでP. namaquensisを入手したわけですが、調べてある程度詳しくなるとついつい欲しくなってしまうのは困ったことです。Poutulacariaはディディエレア科に含まれますから、Alluaudiaも近縁です。今回のビッグバザールではAlluaudiaも複数種見かけました。しかし、この仲間を集め始めると大変というか、手を広げ過ぎるためしばらくは自重します。


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近年、小型のコーデックスであるCeraria pygmaeaが結構人気があるようです。見た感じからして、いかにもスベリヒユ科ですが、その後整理されディディエレア科ポルツラカリア亜科とされています。これは、Alluaudia、Didierea、Poutulacaria、Ceraria、Decaryaなどが非常に近縁であるということを受けてのことです。その根拠となったのは、Peter V. Bruynsらの2014年の論文、『Phylogenetic relationships in the Didiereaceae with special reference to subfamily Portulacarioideae』です。遺伝子解析の結果を見てみましょう。私が少し解説を加えます。ちなみに、ディディエレア科はサボテン科に近縁で、3つの亜科に分けられます。

          ┏━━ディディエレア亜科
      ┏┫
      ┃┗━━カリプトロテカ亜科
  ┏┫      
  ┃┗━━━ポルツラカリア亜科
  ┫
  ┗━━━━サボテン科


ディディエレア亜科
カリプトテカ亜科

ディディエレア亜科は、Alluaudia属、Didierea属、Decarya属、Alluaudiopsis属からなります。それぞれ単系統で綺麗に分かれていますが、Decarya属だけはDidierea属に組みこまれています。DidiereaとDecaryaが非常に近縁であることは意外でした。Alluaudia属は、A. comosa(Didierea comosa)、A. dumosa(Didierea dumosa)、A. ascdndens(Didierea ascendens)、A. humberii(Alluaudia decaryi)、A. procera(Didierea procera)、A. montagmaciiからなります。Didierea属は2種類あり、D. madagascariensis(D. mirabilis)とD. trolliiからなります。Decarya属はD.madagarcariensis(Alluaudia geayi)のみの単型属です。Alluaudiopsis属は、A. marnierianaとA. fiherenensisからなります。
また、カリプトテカ亜科のCalyptrotheca属もここに示しました。Calyptrotheca属は2種類あり、C. somalensisとC. taitensis(C. stuhlmannii)からなります。


                     Alluaudia
                        ┏A. comosa 
                          ┏┫ 
                          ┃┗A. dumosa 
                      ┏┫  
                      ┃┗━A. ascendens
                  ┏┫ 
                  ┃┗━━A. humbertii
                  ┃
              ┏┫┏━━A. procera
              ┃┗┫
              ┃    ┗━━A. montagnacii
              ┃    Didierea
              ┃    ┏━━D. madagasacriensis
          ┏┫┏┫
          ┃┃┃┗━━D. trollii
          ┃┗┫   Decarya
          ┃    ┗━━━D. madagascariensis
          ┃     Alluaudiopsis
      ┏┫┏━━━━A. marnieriana
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━━━A. fiherenensis
  ┏┫    カリプトテカ亜科
  ┃┗━━━━━━C. somalensis
  ┫
  ┗━━━ポルツラカリア亜科

231120005023100
Alluaudiaの葉の比較
『Adansonia』(1961年)より。
上段がA. procera、中段かA. ascendens、下段がA. motagnacii。


231120004853621~2
Alluaudia ascdendens
231120004836459~2
Alluaudia humbertii
231120004911588~2
Alluaudia procera
『Flora de Madagascar et des Comores』(1963年)より。


231120004934450~2
Calyptrotheca(右)
『Die Vegetation de Erde』(1915年)より。
右上はC. somalensis、右下はC. stuhlmannii(C. taitensisの異名)。


231120004955458~2
Didierea trollii
『Adansonia』(1961年)より。


ポルツラカリア亜科
ポルツラカリア亜属はPoutulacaria属とCeraria属からなります。以下に見るように、Poutulacaria属とCeraria属が分離出来ません。実はCeraria pygmaeaはもともとはPoutulacaria pygmaeaとして記載され、その後に殊更の根拠もなくCeraria属に移された経緯があります。分離の基準はそれほどはっきりしていなかったのかも知れません。ちなみに、C. namaquensisも初めはPoutulacariaとして記載されています。

                  ┏━P. armiana
              ┏┫
              ┃┗━C. namaquensis
          ┏┫
          ┃┗━━C. longipedunculata
          ┃
      ┏┫┏━━C. fruticulosa      
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━C. pygmaea
  ┏┫
  ┃┗━━━━C. carrissoana 
  ┫
  ┗━━━━━P. afra

231120005112793~2
Poutulacaria afra(上)
『The flora of South Africa with synoptical tables of the genera of the higher plants』(1913年)より。


231120004950662~2
Poutulacaria namaquensis
=Ceraria namaquensis
『Annals of botany』(1912年)より。
Ceraria gariepinaとして記載。


Poutulacaria属とCeraria属を分離出することが出来なず、明らかに1つのまとまりのあるグループとなっています。つまり、Poutulacaria、あるいはCerariaに統一する必要があるのです。学名は先に命名された方が優先されるという「先取権の原理」に従います。この場合は、1912年に命名されたCeraria H.Pearson & Stephansより、1787年に命名されたPoutulacaria Jack.が優先されるのです。つまり、今までCeraria属とされてきた5種類はPoutulacaria属となります。キュー王立植物園のデータベースでも、すでにCeraria属はPoutulacaria属の異名とされています。Ceraria属は消滅してしまいました。Ceraria pygmaeaもPoutulacaria pygmaeaに変更されています。
ちなみに、ポルツラカリア亜科はアンゴラから南アフリカに分布していますが、カリプトテカ亜科は東アフリカ原産、ディディエレア亜科はマダガスカル原産です。系統樹の分岐を見ると、アフリカ南西部からアフリカ東部、そしてマダガスカルに到達したように見えます。サボテン科との近縁性からは、アフリカ大陸と南アメリカがかつて1つだったころまで、共通祖先は遡るのかも知れませんね。
さて、このような属レベルの変更は、遺伝子解析が発展したため、これからも続くのでしょう。今後も出来る限りこのような変更について、ご紹介出来ればと考えております。


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多肉植物の受粉に関する研究を度々ご紹介してきました。その中で気になったのはタイヨウチョウの存在です。タイヨウチョウはアフリカに分布する花蜜専門の鳥です。しかし、過去にご紹介した論文では、タイヨウチョウが花に訪れても受粉に寄与せず、ただの蜜泥棒になっているというのです。それらの論文は主に巨大アロエの受粉についてでした。では、タイヨウチョウにより受粉する植物とは何でしょうか? 気になって調べたところ、タイヨウチョウが受粉に寄与するかを調査した論文を見つけました。それは、A. L. Hargreavesらの2019年の論文、『Narrow entrance of short-tubed Aloe flowers facilitates pollen transfer on long sunbird bills』です。

植物が複数の生態に特化することはほとんどないため、trade-offは生態学的特化の進化における主要要因と考えられています。つまり、特定の花粉媒介者に最適化して受粉効率を高めると、他の花粉媒介者に対する効率は低下します。それは、花粉媒介者により大きさや行動が異なるためです。しかし、2つの花粉媒介者に対する効果的な形態の中間をとる二峰性受粉システムも報告されています。

ミツバチに最適化した花は短い花冠と少量の濃縮された蜜持ち、タイヨウチョウのような蜜食性の鳥に最適化した花は細長い花冠と豊富で希薄な蜜を持ちます。一般的に赤い花の大型アロエは鳥媒花でありミツバチは蜜泥棒となります。白色や薄ピンクの花を持つ小型アロエの花はミツバチの受粉に特化しています。黄色の花を持つ中型のアロエはタイヨウチョウとミツバチにより受粉する可能性があります。

231117224514647~2
Aloe kraussii
『Natal plants』(1902年)より。


著者らはAloe kraussiiを研究しました。これまでのフィールドワークでは、A. kraussiiにはマラカイトタイヨウチョウ(Nectarinia famosa)やアメジストタイヨウチョウ(Chalomitra amethystina)と、複数種のミツバチが定期的に訪問していることが確認されています。これらのタイヨウチョウは2.5cmのクチバシを持ち、さらに1cmの舌を伸ばすことが出来ます。
さて、タイヨウチョウが花にアクセス出来ないようにアロエの花をケージで囲むと、ミツバチが盛んに採蜜し効果的に受粉することが確認されています。しかし、ミツバチを排除してタイヨウチョウだけの効果を確認出来ないため、A. kraussiiに対するタイヨウチョウの受粉は不明です。タイヨウチョウの長いクチバシに対してA. kraussiiの花は短く、タイヨウチョウの顔に花粉はつかないことが想定されます。マラカイトタイヨウチョウのクチバシは30〜40mm、アメジストタイヨウチョウのクチバシは25〜35mm、A. kraussiiの花冠の深さは10.7mmですから、タイヨウチョウのクチバシは花の2倍以上の長さがあります。


著者らはマラカイトタイヨウチョウを捕獲し、鳥小屋に入れてA. kraussiiの花を置き採蜜させました。タイヨウチョウが採蜜した後に、花粉を除去したA. kraussiiの花を採蜜させ、柱頭に花粉がついたかを確認しました。すると、柱頭には大量の花粉が付着しており、タイヨウチョウがA. kraussiiの受粉に寄与していることが分かりました。また、A. kraussiiの花は先端がすぼまる形をしていますが、人為的にすぼまる花を開いてから同様の試験を行うと、柱頭への花粉の付着は減少しました。採蜜後のタイヨウチョウから花粉を回収すると、タイヨウチョウのクチバシから207
粒の花粉が付着していました。人為的に開いた花を採蜜したタイヨウチョウからは、85粒の花粉が回収されました。
一般的に鳥の花粉媒介は頭に付着した花粉を研究対象としています。滑らかで硬いクチバシは花粉が付着しにくいと考えられるからです。しかし、A. kraussiiではクチバシによる花粉媒介が出来るようです。A. kraussiiは花の短さによりミツバチによる受粉を可能とし、花の先端がすぼまることによりタイヨウチョウより短い花でも受粉が可能となっているようです。以上のことにより、A. kraussiiはミツバチとタイヨウチョウの二峰性受粉システムであることが確認されました。しかし、ミツバチとタイヨウチョウの受粉への寄与の具合は、この試験では分かりません。

以上が論文の簡単な要約です。
花に様々な動物が訪れても大抵は盗蜜か花粉を食べに来たりしていて、有効な花粉媒介者以外はほとんど受粉には寄与しないことが多いように思われます。それは、花の大きさや色、形、開花時間などにより規定されます。例えば、夜間に咲くカップ状の柱サボテンの白く大きい花はコウモリ媒、筒状で赤いサボテンの花はハチドリ媒という風に、花と花粉媒介者には一定の組み合わせがあります。しかし、論文のような二峰性受粉システムは、本来は異なる受粉システムを両取りしている上手い方法です。花粉媒介者が常に安定とは限りませんから、どちらかが減少しても受粉数の減少を最低限に留めることが可能になるのかも知れませんね。



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最近、般若(Astrophytum ornatum)の受粉に関する論文をご紹介しました。論文では般若の受粉率は低く、同じ時期に咲き、共通した花粉媒介者を持つ他の種類のサボテンと競合している可能性を指摘していました。実際にそのようなことがあるのか気になったので、関連する論文を探してみました。そこで見つけたのが、Erica Arroyo-Perezらの2021年の論文、『Shared pollinators and sequential flowering phenologies in two sympatric cactus species』です。この論文では、開花時期が重複しないメリットについて書かれています。

調査地はメキシコのQueretaro州中西部で、チワワ砂漠の最南端です。標高は1400mで、Queretaro-Hidalguense半乾燥地域に含まれるSierra Madre東部地域に属します。調査したのは、Ariocarpus kotschoubeyanusとNeolloydia conoideaで、それぞれ200個体以上を1年間観察し、花への訪問者などの繁殖システムを記録しました。この2種類のサボテンは開花期が重なりませんが、同じ色と形状の花を咲かせます。2種類は共にミツバチによる受粉(melittophily)とされています。ちなみに、2種類とも絶対的他家受粉で自家受粉はしません。

231115055805469~2
Ariocarpus kotschoubeyanus(中段右)
『The Cactaceae』(1922年)より。


調査の結果、2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。Ariocarpusは最も乾燥する季節の始まりである10月から12月まで開花し、Neolloydiaは春から夏にかけて咲き、最も温暖で湿気が多い5月に多くの花を咲かせます。両者共に9時〜10時に開花し14時〜15時に閉じました。また、開花してから2日間は雌雄同株で、やがて雌雄離熟を示しました。
2種類のサボテンの最も多い花への訪問者はミツバチとアリでした。訪問者のうち共通するのは60%でした。ただし、花における行動を観察したところ、両者を訪れる有効な花粉媒介者はミツバチであることが分かりました。ちなみに、ミツバチの共有種は75%でした。

231115055838634~2
Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。
Neolloydia conoideaは2021年にCochemiea conoideaとされています。


2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。興味深いのはこの2種類が開花しない時期には、Mammillaria parkinsoniiが開花し、3種類のサボテンで花資源の年間サイクルが出来ていたことです。このことは、異なる種のサボテンの共存を促進する重要な要素かも知れません。そのためには、花粉媒介者の共有が必要です。

231115055845208~2
Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のサボテンは類似した花を持ちますが、花の時期が異なることで花粉媒介者の競合を防いでいます。さらに、類似した花を持ち有効な花粉媒介者が共通するということは、1年を通して有効な花粉媒介者を複数種の植物で支えているとも言えるでしょう。
このような複雑なサボテンと花粉媒介者の関係性は、非常に驚くべきものでした。しかし、ある意味では繊細なバランスの下にあり、1種類のサボテンがその地域で絶滅しただけで、花粉媒介者の採蜜の年間サイクルが崩れてしまうかも知れません。場合によっては花粉媒介者の組成や絶滅により、他のサボテンの受粉に悪影響が出る可能性もあるでしょう。
N. conoideaは分布が広く個体数も多いため問題なさそうですが、A. kotschoubeyanusは分布が限られており、国際自然保護連合(IUCN)は準絶滅危惧種に指定し、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに記載され国際取引は禁止されています。しかし、絶滅危惧種に指定されても格別の保護がなされるわけではないので、絶滅の可能性はつきまといます。そのようなことはないと良いですが、希少サボテンの環境や個体数が増えて絶滅の危機から脱したという話は聞かないので、いつかは起きてしまうかも知れません。


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多肉植物のみならず植物を栽培するに際して、日照や灌水に並ぶ重要な要素は用土でしょう。多肉植物の培養土は市販品もありますが、自身で配合するという方もおられるでしょう。多肉植物の用土の組み合わせはどのようなものご良いのでしょうか? 本日は多肉植物の培養土の組み合わせの良し悪しを調べた、Vishal Lodhiらの2021年の論文、『Influence of potting media on growth of succulent under shade net condition』を見てみましょう。

231108230429700~2
Crassula ovata
『The botanist's repository』(1797-1811年)より。Crassula obliquaとして記載。

試験は2020年12月から2021年3月まで、インドのSHUATS園芸局園芸研究所で実施されました。50%遮光下で、5種類の多肉植物を3種類の培養土で栽培しました。用いた多肉植物は、Crassula ovata(※1)、Pachyphytum hookeri、Senecio rowleyanus(※2)、Sedum rubrotinctum(※3)、Crassula capitella(※4)です。用いた培養土の組み合わせは、
①土+砂+ミミズ堆肥、
②土+砂+ミミズ堆肥+木炭、
③ココピート+パーライト+FYM(※5)
を試験しました。

※ 1 ) 「金のなる木」。
※ 2 ) 「緑の鈴」、「グリーンネックレス」。現在の学名は、Curio rowleyanus。
※ 3 ) 「虹の玉」。現在の学名は、Sedum ×rubrotinctum。
※ 4 ) 「火祭り」。
※ 5 ) FYMとは堆肥などの有機物資材。

栽培90日後の多肉植物の背の高さと葉の枚数、葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域面積、根の本数を測定しました。
C. ovataは、①は背の高さと葉の枚数、根の長さが優位、②は葉の厚さと葉の面積、子株の数、根の本数が優位、③は葉の面積と子株の数、根域面積、根の本数が優位でした。
P. hookeriは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の枚数と葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域面積、根の本数で優位、③は葉の数と葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根域面積、根の本数で優位でした。
S. rowleyanusは、①は背の高さと葉の枚数で優位、②は背の高さと葉の厚さ、葉の面積、子株の数、根の長さ、根域が優位、③は葉の枚数と根域面積、根の本数で優位でした。
S. rubrotinctumは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の面積と子株の数、根の長さで優位、③は葉の厚さと葉の面積、根域面積で優位でした。
C. capitellaは、①は特に優位な項目はなく、②は葉の面積と子株の数で優位、③は葉の枚数と葉の厚さ、子株の数、根の長さ、根の本数で優位でした。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文の結論は5種類の多肉植物の生長具合を比較していますが、今ひとつ私にはピンときません。異なる種の多肉植物は生長も異なりますから、直接の比較はナンセンスです。単純に生産性を見ているようですが…。では、同じ植物で異なる培養土で生長が変わるかを見るべきです。その視点で見てみると、どうでしょうか?
*Crassula ovata(金のなる木)
5種類の中では最も大型で、唯一木質化した幹を持ちます。①は背の高さと葉が枚数は多いものの、子株は少なくなっています。逆に②や③は背の高さや葉の枚数は少なく、子株は多いものでした。背の高さや葉の枚数と子株の数はtrade-offの関係にあるのでしょう。金のなる木は木質化し大型であることから、子株を作るためのコストが高いということかも知れません。おそらく、金のなる木の培養土は③が最も適した資材なのでしょう。②は全体的に高いものの、葉の枚数や根の長さがかなり低いため、どうしても③に劣ります。
*Pachyphytum hookeri
P. hookeriは非常に多肉質な丸い葉を持つ、やや立ち上がるロゼットを作ります。こちらは圧倒的に②が優れており、葉の枚数は①の1.9倍、子株の数も①の1.75倍と、かなりの差がありました。③も①よりも高いのですが、全体的に②より劣り、根の長さが低めでした。
*Senecio rowleyanus(緑の鈴)
緑の鈴は長く垂れ下がる茎に球状の多肉質の葉がつきます。緑の鈴は、③の培養土が非常に良好です。③は葉の厚さと葉の面積が高い代わりに、葉の枚数が少ないものでした。これは、球状の葉の1つ1つが大きく充実しているためではないでしょうか。逆に①や②の培養土では、小さな葉が沢山ついているようです。
*Sedum rubrotinctum(虹の玉)
虹の玉は葉の丸いセダムですが、培養土の違いによる差が非常に少ないのが特徴です。全体的に誤差範囲レベルの違いしかありません。ただ、②は葉の面積と子株の数、根の長さが良好です。
*Crassula capitella(火祭り)
火祭りは多肉質の平たい葉を持ちロゼットを作ります。火祭りは培養土の違いによる差が最も小さかったようです。ただ、③は培養の枚数や葉の厚さで、微妙に優勢でした。

次に培養土の特徴を見てみましょう。①の培養土は土と砂とミミズ堆肥からなります。ミミズ堆肥は養分が豊富で団粒構造を作り、微生物が増えやすく排水にも寄与します。②は①に木炭を加えたものです。木炭は通気性と保肥、排水に寄与します。通気性や栄養の持ちが良くなるでしょう。③はココ椰子の実の繊維を発酵させたもので、ピートモスと異なりpH調整の必要はありません。保水力や透水性、通気性に寄与します。パーライトも加えられていますが、これはよく分かりません。というのも、パーライトには黒曜石から作られるものと、真珠岩から作られるものとがあり、それぞれ排水性と保水性という真逆の作用があるからです。まあ、いずれせよ透水性は高まるでしょう。

園芸店やホームセンターには、様々な培養土が販売されており、その内容物は見た目からして異なります。個人ブログなどで使用した感想を見ることは出来ますが、生育環境が異なることもあり、最終的な良し悪しは自身で確かめてみるしかありません。既製品は販売中止や、いつも行く園芸店での取り扱いを止めてしまったりもします。個人的には自分で配合したほうが安上がりで、かつ生育環境に合わせられるのでおすすめです。多肉植物の栽培は排水性が重要ですが、これは水やりの間隔に合わせる必要があります。少し保水力を高め乾きにくくして水やりの回数を減らすのか、排水性を重視して乾きやすくして水やりの回数を増やすのか、個々人のライフスタイルや好みによるでしょう。この論文はあくまで地元で入手しやすい資材を用いた園芸生産性に関するものですから、あまり我々の参考にはならないかも知れません。しかし、すべての多肉植物に適した培養土はないであろうことを教えてくれます。


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花は甘い蜜を分泌しミツバチなどの花粉媒介者を引き寄せ、受粉し結実します。しかし、世界には苦い花蜜も存在すると言うのです。非常に不思議です。なぜ、苦い蜜を出すのでしょうか? さらに気になるのは、その苦い蜜を訪れる花粉媒介者とは何者なのでしょうか?
本日はSteven D. Johnsonらの2006年の論文、『DARK, BITTER-TASTING NECTAR FUNCTION AS A FILTER OF FLOWER VISITORS IN BIRD-POLLINATED PLANT』をご紹介します。


色のついた蜜
Aloe vryheidensisは南アフリカ原産の高さ2mの多肉低木ですが、その花の蜜は暗褐色で苦味があります。花蜜は花粉媒介者を呼び寄せますが、動物種により好む蜜の量と濃度は異なります。そのため、その組み合わせにより好ましい花粉媒介者のみを選別するためのフィルターとして機能します。しかし、蜜の量と濃度の組み合わせは厳密なものではなく、ミツバチは鳥媒花にもよく訪れて採蜜します。色のついた蜜はアルカロイドやフェノールなどの二次化合物を含み、その味が決定的な選別のためのフィルターとして作用を果たしている可能性があります。例えば、ノウゼンカズラ科のCatalpa speciosaの花蜜にはイリドイド配糖体が含まれ、アリや蝶などの蜜泥棒を排除する一方、ミツバチには影響を与えませんでした。二次化合物は外観や味、消化率を変化させる可能性があります。
南アフリカではAloe spicata、Aloe castanea、Aloe vryheidensisの3種類のアロエが、人間にとって独特の苦みがある暗赤褐色の蜜を持ちます。この色と味はフェノール化合物によるものです。


花への訪問者
研究はKwaZulu-Natal州のLouwsberg近くにあるiGwala Gwala動物保護区において、Aloe vryheidensisの開花個体200株からなる個体群が観察されました。観察中に8種類の鳥がA. vryheidensisの花を訪問しました。訪れたのは、主にルリガシライソヒヨ(Cape Rockthrushes)、マミジロサバクヒタキ(Buffstreaked Chats)、ホオグロカナリア(Streaky-headed Canaries)、ケープメジロ(Cape White-eyes)、サンショクヒヨドリ(Dark-capped Bulbuls)でした。これらの鳥はかなりの量の花粉を顔につけていることが確認されました。また、これらの鳥は蜜食専門ではないという共通点があります。逆に蜜食専門のタイヨウチョウは調査地に3種類豊富に生息していますが、A. vryheidensisの花を訪れたのはオオゴシキタイヨウチョウ(Greater Double-collared Sunbird)のみで、しかも観察されたのはわずかに1羽で訪問も短時間でした。
A. vryheidensisの花には複数種のミツバチが頻繁に訪れましたが、採蜜行動は観察されず花粉の採取を行いました。
A. vryheidensisの花にメッシュをかけて鳥が採蜜出来ないようにしたところ、メッシュをかけない花より種子生産数が減少しました。

苦い蜜に対する鳥の反応
飼育環境下の鳥に砂糖水とA. vryheidensisの蜜を与えたところ、鳥の種類により反応が異なりました。ヒヨドリは両者を区別しませんでした。メジロは砂糖水を好みましたが、A. vryheidensisの蜜の73%を消費しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を強く拒否しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を与えると、クチバシを引っ込めて激しく首を振りました。メジロは蜜を吸うと後ずさりして首を振りましたが、その後は蜜を飲み続けました。ヒヨドリは特に反応は示しませんでした。また、ミツバチにA. vryheidensisの蜜を与えたところ、強く拒絶されました。

蜜泥棒を防ぐ
花蜜の主な機能は花粉媒介者を引き寄せることですから、苦い味の蜜は矛盾しているように思えます。しかし、有効な花粉媒介者さえ妨げなければ、受粉に寄与しない花への訪問者を減らすことが出来ます。受粉に寄与しない訪問者は花蜜を枯渇させるだけです。ミツバチやタイヨウチョウといった蜜食専門の訪問者にとっては明らかに不快であり、A. vryheidensisにとっては望ましくないはずです。
花にメッシュをかけて鳥の採蜜を妨害した場合、受粉率が低下することから、A. vryheidensisの有効な花粉媒介者は鳥でしょう。しかも、タイヨウチョウは基本的にA. vryheidensisには訪花せず、剥製を用いたシミュレーションでは、タイヨウチョウはクチバシが長く細いため、花粉媒介者としては適していないと考えられます。また、メッシュにより受粉率は低下しましたが、ある程度の受粉への貢献はあるようです。しかし、これは単純にミツバチが非常に豊富で、訪花回数が鳥の数百倍多かったからだと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本来は甘い蜜が苦いというのは驚きです。苦みで花粉媒介者を選択して、盗蜜を防いでいるのです。しかし、植物の花は蜜に限らず、その形や構造で花粉媒介者を選択することは珍しいことではありません。様々な工夫がある中で、蜜の苦みは非常に優れた方法と言えるでしょう。
今回、蜜食のスペシャリストであるタイヨウチョウは、有効な花粉媒介者とは見なされませんでした。そう言えば、過去の論文ではAloe feroxの花に訪れるタイヨウチョウは雄しべや雌しべにまったく触れないで盗蜜する様子が観察されています。ヒヨドリなどの鳥は、蜜を専門としていないジェネラリストです。このような鳥は、採蜜が洗練されておらず、頭を花に突っこんでしまうため、顔に大量の花粉をつけることになります。おそらくは、A. vryheidensisの盗蜜の排除は、地域に豊富に存在するタイヨウチョウなのでしょう。訪れたミツバチの種類は不明ですが、おそらくは外来種である西洋ミツバチがかなりいたと推測します。西洋ミツバチがいない本来の環境ならば、単独性のミツバチが少し来るくらいだったのではないかと思います。まあ、いずれにせよ、ミツバチはA. vryheidensisからは採蜜しないので、それほどの脅威ではないのかも知れませんね。


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般若(Astrophytum ornatum)は、Astrophytumの中でも大型のサボテンです。野生のAstrophytumは減少していますが、それは般若も同じことのようです。希少生物の保護を考える場合、まずは現在の分布と個体数の調査に加えて、その生態を詳しく知る必要があります。例えば、人工的に増やした植物を砂漠に移植した時に、その植物の適切な花粉媒介者がその周囲に分布していないと、せっかく移植した植物は実を結ばず自力で増えることが出来なくなります。他の例では、花粉媒介者が減少した結果、植物は沢山生えているものの新しい実生がほとんどなくなってしまい、将来的に絶滅の可能性が出てきたということもあります。
本日はA. ornatumの受粉形式を調査したMaria Loraine Matias-Palafoxらの2017年の論文、『Reproductive ecology of the threatened "star cactus" Astrophytum ornatum (Cactaceae): A strategy of continuous reproduction with low success』をご紹介しましょう。

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Astrophytum ornatum
『Malayan garden plants, Botanic Gardens』(1949-1952年)より。

Astrophytum ornatumとは
Astrophytum ornatumは、高さ160cmに達する短円筒形のサボテンです。5〜8本の稜(rib)を持ち、アレオーレには1つか2つの中央棘と10本の放射状棘があります。花は昼行性です。A. ornatumはチワワ砂漠高地の石灰質土壌の急斜面に生育します。メキシコでは絶滅危惧種に指定されており、ワシントン条約では附属書IIに記載され国際取引は規制されています。

開花は年間4回
調査はCactus Sanctuary Gardenの標高1294m地点で実施されました。
花芽は一年中あるにも関わらず、1年間の観察で開花したのは4回でした。著者らは複数の花が咲いた時を開花と見なし、これを「開花イベント」と呼びました。開花イベントはすべて乾季におこり、2010年11月、2011年3月、2011年4月、2011年5月でした。開花した個体は、11月で全体の15%、3月で88%、4月で91%、5月で33%でした。11月の開花は2日間続きましたが、他の月の開花イベントは1日で終了しました。ちなみに、6月に開花した個体もありましたが、1つのみの開花で受粉しなかったため、これを開花イベントとは見なしませんでした。

花の情報
個体あたりの花芽の生産数は平均46個、開花した花は平均4個、結実は平均3.5個でした。個体の生長と花芽の生産数には関係があり、花芽の数は前の月の最低気温に反比例しました。開花は9時30分から10時に始まり17時頃に終わりました。著者らは花蜜の採取を試みましたが失敗しました。花を訪れた花粉媒介者の行動からも、花蜜は非常に少量であると考えられます。

青般若
Astrophytum ornatum

花粉媒介者
花を1時間半観察したところ、32匹の花への訪問者が確認されました。その内訳は、4属のミツバチが全体の91%を占め、甲虫は6%、バッタは3%で花粉と花被を食べていました。
A. ornatumは日中開花し、豊富で目立つ黄色の花粉を持つことから、花蜜の少なさを考慮すると、花粉が花粉媒介者を引き寄せていることが示唆されます。

絶え間ない花芽の謎
年間46個ものツボミをつけるにも関わらず、平均して4個しか開花しません。これは、花芽の89.2%が出現後2〜3週間で中止されるからです。A. ornatumの継続的な花芽生産は他のサボテンでは報告されていない珍しい現象です。この絶え間ない花芽の生産は、高いエネルギーコストが必要でしょう。
一般的に単一の大きな開花期を持つほうが、繁殖率を上がることが予測されます。しかし、乾燥した環境下においては、決まった開花期に開花に適した環境になるとは限らないため、リスクを分散させている可能性があります。

受粉率の低さ
A. ornatumの開花は1〜2日と短いにも関わらず、群落内で同調して開花することは注目に値します。おそらく、A. ornatumは自家受粉しない自家不和合性であると考えられるため、集団で咲くことに意味があるからです。
ただ、実際の結実は少ないと言えます。これは、Astrophytum asteriasでは人工的に受粉させた場合より自然に受粉する率が低いことが判明していることと同じかも知れません。つまり、有効な花粉媒介者が不足しているのです。可能性としては、外来のミツバチが多いからかも知れません。外来ミツバチApis melliferaはA. ornatumの花への訪問者の47%を占めていました。
さらに、同時期に開花する他のサボテンと花粉媒介者が競合しているからかも知れません。例えば、4月にはTurbinicarpus horripilusも開花のピークを迎えます。共通する花粉媒介者がいた場合、花粉媒介者を巡る競争が起きる可能性があります。


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Astrophytum ornatum(下)
『Herman Tobusch』(1932年)より。Seed & Nursery Catalogです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
受粉生物学を扱った論文では、花粉媒介者の種類や割合を調査してそこで終わりというパターンが多いように思われます。中には受粉率を調べ有効な花粉媒介者を探し出すこともありますが、本日ご紹介した論文のように詳細に開花について調査されることは稀でしょう。
絶え間なく出来続けるツボミの謎は大変興味深いものでした。環境によく適応した結果と言えるでしょう。問題は現実的には受粉率は低いことです。他のサボテンとの花粉媒介者の競合であるならば、それが本来的な姿であるから問題はないでしょう。しかし、外来のミツバチが受粉率を下げていた場合、外来ミツバチは受粉妨害をしていることになります。果たして、般若の本来的な受粉のあり方とはどのようなものだったのでしょうか? 外来ミツバチが幅を利かせる現状では、それを窺い知ることは難しいかも知れません。

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地球規模の気候変動が問題となっています。原因の1つとされる大気中の二酸化炭素の増加による地球温暖化については異論もあるようです。しかし、その原因はともかくとして、現実問題として様々な異常がおきている事実は覆すことは出来ません。さて、気候変動は多肉植物が自生する乾燥地にも影響しており、サボテンが高温により枯死したり、雨が降らなくてアフリカの多肉植物が枯死するなどの報告があります。
本日は2011年に開催されたThe Ecological Society of Americaという国際会議において発表された会議資料を見てみましょう。本日ご紹介するのは、Sarah Chambliss & Elizabeth G. Kingの『Plants  behaving badly: Proliferation of a native succulent in Kenyan drylands』です。「悪い行動をとる植物」とは、どういう意味なのでしょうか?

ケニア中北部の乾燥地帯の固有種であるSansevieria volkensiiは、 ここ数十年で劇的に増加しました。このような植物群落の構造が変化は、放牧地の生態系と生産性を変化させ、牧畜民の生計を脅かす可能性があります。実際にS. volkensiiの密集した群落は、家畜や人の移動を妨げ、家畜の飼料としても価値が低く、牧畜民にとって望ましいものではありません。しかし、S. volkensiiの増殖の動態は調査されておりませんでした。

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Sansevieria volkensii
『Bulletin of miscellaneous information』(1915年)より。Sansevieria intermediaとして記載。ちなみに、Sansevieria属はDracaena属に吸収されたことから、2018よりDracaena volkensiiとなっています。

干ばつだった2009年に樹冠下(※1)のS. volkensiiは開けた場所の個体より健全であることに気が付きました。大雨が続いた2010年の再調査では、平均して30%多いramets(※2)と葉が見つかりました。樹冠下の群落は大きかったのですが、新しい葉の割合は開けた場所の群落でより大きいものでした。

※1 ) 樹冠とは樹木の枝の広がった、枝と葉が密集した部分のこと。
※2 ) rametsとはいわゆる子株のことで、株分け出来る各個体のこと。同一クローン分球体。


以上が会議資料の要約です。
簡単な報告といった感じですが、気候変動が問題とされる昨今、固有種が増えると言う思わぬ現象について述べています。内容的には樹冠の陰になった部分にS. volkensiiは生えやすいようですが、大雨のあった年は開けた場所の群落も拡大していたことから、より重要な条件は水分であることが分かります。
それはそうと、S. volkensiiの増加を問題視していますが、何が問題なのでしょうか? 移入種ではない固有種の増加は、一見して望ましいものに思えます。著者らの言う牧畜民の利便性について述べていますが、それだけではありません。生物は有限のリソースを糧に競争しているのですから、何かが増えれば代わりに何かが減ることになります。要するに、生態系のバランスが崩れてしまうということです。しかし、本来的に生態系は変化し続けるものですから、必ずしもおかしなことではないかも知れません。報告は気候変動によるものであるとは明言されていませんから、S. volkensiiの増加が自然のサイクルの一部に過ぎないのか、あるいは自然のサイクルを逸脱した異常な事態であるかは不明です。ただ、著者らはこれを良くないこととして捉えているようです。確実な事を言うには、過去を含めた気象データとS. volkensiiの分布の関係を長期に渡り監視する必要があるでしょう。



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植物にとって花は繁殖のための非常に重要な器官です。さらに、植物の分類は花の形式を基準に発展してきました。ですから、植物にとっても学者にとっても花は重要なものと言えます。花の受粉は植物と花粉媒介者との相互作用により成立しています。植物の種類ごとに受粉形式は異なる可能性があります。しかし、残念ながら植物の受粉形式については、その重要さに関わらず、それほど詳しく調査されているわけではありません。
本日はアロエの受粉についてご紹介しましょう。それは、C. T. Symesらの2009年の論文、『Appearance can be deceiving: Pollination in two sympatric winter-flowering Aloe species』です。アロエの受粉生物学については非常に未熟で、ほとんど明らかとなっておりません。Aloe feroxやAloe marlothiiなどの巨大アロエは鳥媒花であることは判明していますが、その事実が他のアロエにも通用するのでしょうか?


花粉媒介者のタイプを予測するための受粉シンドローム(※1)の信頼性は疑問視されるようになり、多くの植物では複数種の花粉媒介者が関与している可能性があります。

※1 ) 受粉シンドロームとは、花粉媒介者に合わせて花の形式を適応させること。特定の相手との関係が想定される。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


かつて、Aloe feroxは虫媒花であると予測されたことがありました。ミツバチは非常に豊富なためです。しかし、実際にはミツバチはAloe feroxの受粉にはほとんど寄与しないことが明らかとなりました。もし、その花に様々な訪問者が来たとしても、それらの訪問者が重要な花粉媒介者ではないかも知れません。一部のアロエの花粉媒介者が確認されたのは最近のことです。しかし、アフリカ熱帯地域の約450種類のアロエは、未だに花粉媒介者が確認されておりません。野外実験と観察が必要です。

著者らは南アフリカ北部および北東部に生える2種類のアロエに着目しました。調査地は夏に降雨があり、アロエは乾燥した冬に開花します。1つは高さ6mにもなるAloe marlothiiで、岩の多い北向きの斜面に生えます。目立つオレンジ色から赤色の管状花は、様々な鳥を惹きつけます。もう1つは、あまり目立たない斑点のあるAloe greatheadii var. davyanaは、岩だらけの地形や草原で育ちます。サーモンピンクから赤色の花を咲かせます。過放牧地域に密集して生えます。

A. marlothiiの花の蜜は希薄(12%)で多量(250μL)ですが、A. greatheadii var. davyanaの花の蜜はより高い濃度(21%)で少量(33μL)です。一般に蜜の濃度が低い場合(8〜12%)は一般的な日和見な鳥(※2)を惹きつけ、蜜が少量(10〜30μL)、および高濃度(15〜25%)の花はハチドリやタイヨウチョウなどの花蜜専門のスペシャリストが訪れます。一般的な傾向からすると、A. marlothiiには日和見な鳥が訪れ、A. greatheadii var. davyanaはスペシャリストであるタイヨウチョウが訪れることにより受粉することが考えられます。


※2 ) 日和見な鳥とは、花蜜を専門としない様々なエサを食べる鳥のこと。花蜜に特化したタイヨウチョウはスペシャリストであるのに対し、日和見な鳥はジェネラリストと言える。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


著者らは、アロエの花にネットをかけて花粉媒介者を妨害してみました。1つは昆虫は入ることが出来ますが、鳥は入れない網です。もう1つは、ネットをかけていない花を比較のために観察しました。
A. marlothiiの場合、ネットをかけていない花と比較すると、昆虫は入れるネットをかけた花はほとんど受粉しませんでした。つまり、A. marlothiiの花は、昆虫による花粉媒介はほとんどおこらず、主に鳥により受粉することが想定されます。
対してA. greatheadii var. davyanaの場合、ネットをかけていない花と、昆虫は入れるネットをかけた花はほぼ同じくらい受粉しました。つまり、A. greatheadii var. davyanaは、受粉は昆虫により行われ、鳥による受粉はほとんどおきていないことが想定されます。


A. marlothiiの花には、2種類のタイヨウチョウを含む39種類の鳥が訪れました。日和見の鳥は顔や体に花粉が付着しましたが、タイヨウチョウでは花粉はクチバシの先端にのみ付着し、A. marlothiiにおける花粉媒介者としての貢献度は低下していることを示唆します。
A. greatheadii var. davyanaの花には、2種類のタイヨウチョウを含む11種類の鳥が訪れました。花を訪れたほとんどの鳥は、A. greatheadii var. davyanaの垂れ下がった筒状の花よりクチバシが短く、花蜜にアクセスしにくいため花を破壊する行動も見られました。また、花を訪れたタイヨウチョウの顔に花粉は確認されませんでした。

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Aloe davyana
『Jounal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。現在、Aloe greatheadii var. davyanaは、独立種であるAloe davyanaとされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。
A. greatheadii var. davyanaの花には鳥も訪れますが、その受粉への寄与はどうやら低いようです。タイヨウチョウは花蜜に特化しているだけに、雄しべや雌しべに触れないで蜜のみを抜き取る盗蜜を行います。タイヨウチョウで受粉するのは、タイヨウチョウに適応した花だけです。A. feroxの受粉はタイヨウチョウではなく日和見な鳥であるというのもその結果です。もしかしたら、A. marlothiiもタイヨウチョウの受粉への寄与は少ないかも知れません。
最初に述べた通り、アロエの花粉媒介者はまだまだ謎だらけです。同じ地域に生え同じ時期に咲くアロエでも、花粉媒介者は異なるのです。研究が進展したら、未だに知られていない面白い受粉形式が存在するかも知れません。今後が楽しみな研究分野ですね。


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Fockea属はアフリカに6種類分布するキョウチクトウ科の植物です。塊根や塊茎と落葉するツルを持ち、火星人(Fockea edulis)に代表されます。4種類は南アフリカとナミビアにのみ分布しますが、F. multifloraとF. angustifoliaはアフリカ南部から東アフリカまで広く分布します。問題はF. multifloraは南のザンベジ川渓谷と北のタンザニア中央部の間に分布の空白地帯があることです。その空白地帯とはマラウイのことです。
本日はJoachid Thiedeらの2010年の論文、『FILLING THE GAP: FOCKEA MULTIFLORA K.SCHUM. (APOCYNACEAE) IN MALAWI』をご紹介します。F. multifloraの分布のギャップを埋めるべく、過去のマラウイにおける調査記録を探し出し検討しました。

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Fockea multiflora
『Kunene Sambesi expedition』(1903年)より。


マラウイにおける現地調査は、1965〜1968年および1976〜1981年のBruce J. Hargreavesと、1991年のJoachim Thiedeにより実施されました。また、2つの標本がMontfort L. Mwanyamboによりマラウイ国立標本館に収蔵されています。これらの情報を精査しました。

①Joachim Thiede, 1991年
マラウイ南部Blantyre地区Blantyre-Mwanza道路の東のinselberg(残丘の1種)。花崗岩のinselbergの亀裂に、葉のないF. multifloraがいくつか生えていました。また、いくつかの乾性植物や小さなバオバブなどが伴っていました。F. multifloraにはCissus quadrangularisが巻き付いていました。

②Bruce J. Hargreaves, 1977年

マラウイ南部Phalombe地区Phalombe平原。

Bruce J. Hargreaves, 1977-1978年
マラウイ南部Machinga地区、Liwonde国立公園。Euphorbia espinosaに巻き付いたり、Adenium obesumやTalinum portulacifoliumと共に見られました。
Dudley(1994, 1997, 2001)は、Liwonde国立公園へのクロサイの再導入に関連し公園の植生を詳細に調査しました。F. multifloraは、Mopane(Colophospermum mopane)の群生するサバンナ、あるいはMopaneの森林の茂みで見られました。
また、1983年と1984年にマラウイ南部Machinga地区のLiwonde国立公園から標本が採取されています。採取地点は、1983年の標本はChinguni丘陵の麓で、1984年の標本はLikwenu川付近で採取されました。

④Scholes, 1982年
マラウイ南部のMonkey BayとNkopola Lodgeの間にあるSpearhead社のタバコ農園内。
乾燥したアカシアとバオバブの低木地帯で、F. multifloraが「支木の上に元気に生長」しているとしました。

⑤Bruce J. Hargreaves, 1978年
マラウイ中央州Dedza地区Golomoti近くで見られました。

Bruce J. Hargreaves, 1978年
マラウイ北部州Rumphi地区Njakwa峡谷において、F. multifloraは岩の露出部に生育していました。岩の亀裂に根を張り、周囲の低木に絡みついていました。
Thiede(2009年)によると、この峡谷は多肉植物に富み、Aloe、Ceropegia、Cyanotis、Dorstenia、Euphorbia、Kalanchoe、Kedrostis、Plectanthus、Sansevieria、Sarcostemmaに属する16種が含まれます。


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Fockea multiflora
『Die Pflanzenwelt Afrikas』(1910年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
論文ではマラウイの6つの地域からのF. multifloraの分布を確認しました。つまり、ザンビア南部、ジンバブエ北部、モザンビーク西部という国境沿いのF. multifloraの分布と、タンザニアの分布の中間にあたるマラウイにおける分布を確認したということです。これにより、分布の空白地帯は目出度くなくなったわけです。F. multifloraのように分布が広い場合、調査の如何により空白地帯が生じたり、飛び地状の分布になってしまいます。この論文では過去の記録を精査して、情報を正したと言ったほうが適切かも知れません。しかし、新たに調査したとしても、残念ながらすでに開発等で生息地が消失している可能性もあります。F. multifloraのように古い調査記録がそれなりに残っていることは、実に幸いなことです。


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多肉植物を増やす方法はいくつかあります。種子を採ったり、株分けしたり、挿し木したりというのは何も多肉植物に限った話ではなく、他の植物でも出来なくはないでしょう。しかし、葉挿しに関しては多肉植物特有の増やし方と言えます。例えば、エケベリアやカランコエ、ハウォルチア、ガステリアなどは葉挿しが可能ですが、庭木の桜や椿、鉢植えの草花は葉挿しが出来ません。なぜ、多肉植物は葉挿しが可能なのでしょうか? ここで、Root Gorelickの2015年の論文、『WHY VEGETATIVE PROPAGATION OF LEAF CUTTING IS POSSIBLE IN SUCCULENT AND SEMI-SUCCULENT PLANTS』を参考にその謎に迫ってみましょう。

イントロダクション
通常、植物の葉は新しい根や芽を作ることが出来ない末端器官です。雑草であっても葉挿しで発根させることは出来ません。しかし、必ずしも近縁ではない複数の科にまたがる多肉質の葉を持つ植物の葉は、この規則に反します。アロエや一部のウチワサボテンを除いて、多肉質あるいは半多肉質の葉を持つ植物は葉挿しが簡単に出来るのです。多肉植物の葉挿しは如何にして可能であるのでしょうか?

葉は生長が終わった器官?
葉の終末生長の性質が、ほとんどの植物が葉挿し出来ない理由かも知れません。根や新芽には脇芽などの休眠分裂組織が含まれています。例えば、サボテンのアレオーレは、新しい枝や花を生長させたり、トゲを生長させたりする短枝に過ぎません。維管束形成層は別の維管束形成層に接ぎ木出来ます。根や新芽とは異なり、葉には休眠中の頂端分裂組織(※1)がありません。シュートはシュートを生長させ(※2)、葉や花、根を生長させることが出来ますが、葉は終生しているため追加の葉やシュート、根や花を生長させることは出来ません。同じ議論は他のすべての維管束植物(裸子植物、大葉シダ植物※3、小葉植物※4)の末端器官にも当てはまります。したがって、Agnes Arber(1950年)は、葉を「部分芽」(partial shoots)と呼びました。葉の終末性は、単純な葉の場合に特に当てはまります。単純な葉では、小さく短命である周縁分裂組織(※5)を介して葉身が生長します。

※1 ) 頂端分裂組織とは、維管束植物の茎葉部あるいは根の先端にある分裂組織で、一般的には生長点と呼ばれる。
※2 ) 1本の茎とその茎につく葉をまとめてシュート(shoot)と呼ぶ。
※3 ) 大葉シダ植物は小葉植物を除くシダ植物。
※4 ) 小葉植物はシダ植物のうち、ヒカゲノカズラ、ミズニラ、イワヒバからなるヒカゲノカズラ亜門。
※5 ) 周縁分裂組織とは、周縁部に存在する分裂組織で、器官面積を増やす生長を行う。

多肉質であることが重要
多くの多肉植物、特にベンケイソウ科植物は葉挿しが容易です。いくつかのカランコエ(Kalanchoe  Adans)は、葉の縁に新しい個体が生長します。なぜ、一部の葉だけが新しい根や芽を伸ばすことが出来るのでしょうか。カランコエ属Bryophyllum亜属(※6)とセントポーリア(Saintpaulia H.Wendl., ※7)に関する1930年代の研究があります。葉の一次維管束(※8)には未分化な柔組織(※9)が含まれており、葉が落ちたり切断された時に新しい分裂組織を形成する可能性があります。未分化組織はイポメア(Ipomoea arborescens)やホホバ(Jojoba, Simmondsia chilensis)、ブーゲンビレア(Bougainvillea spectabilis)のように、師部(※10)を含む多くの乾性植物の茎の二次生長で顕著です。つまりは、木部柔組織から分化する師部です。葉は終末器官かも知れませんが、葉の維管束組織内および周囲の未分化柔組織は、根とシュートの頂端分裂組織を新たに生長させることが出来ます。これらの葉が多肉質であることから、おそらく新たに頂端分裂組織を生長させるのに必要な期間、葉が生きていられることが必要なのでしょう。Kerner & Oliver(1902年)は、「Bryophyllum calyciumの葉は厚く多肉質なため、成熟すると蓄えられる養分と水分が豊富に含まれ、外部からの養分の吸収は不要となる」(※11)と述べています。逆に非多肉質の葉は、初期の頂端分裂組織の発達するために必要な期間までに枯れてしまう可能性があります。

※6 ) Bryophyllum亜属を独立属とする意見もある。
※7 ) Saintpaulia属は現在はStreptocarpus Lindl.の異名となっている。
※8 ) 単純な形の葉は二次生長しない。
※9 ) 柔組織は細胞壁が木質化されていない組織で、地下茎や球根、種子などを含む貯蔵組織と、光合成を行う同化組織に大別される。
※10 ) 師部とは維管束を構成する組織の1つで、師管や師細胞組織、師部繊維組織、師部柔組織からなる。師部の主な機能は光合成産物の輸送。
※11 ) Bryophyllum calyciumとは、いわゆるセイロンベンケイのこと。現在はKalanchoe pinnataあるいはBryophyllum pinnataと呼ばれる。


分裂組織は師部組織から
新しい根とシュートの分裂組織は、おそらく葉から切り離された師部組織から発達します。これは、新しい頂端分裂組織が葉の脈管構造を利用していることが想定されます。被子植物の葉の中の一次師管は、師管要素(sieve-tube element, ※12)、伴細胞(※13)、師部柔組織、師部繊維で構成されます。Event(2006年)によると、被子植物の葉の師部組織からの頂端分裂組織の発生は、師部柔組織や伴細胞であるとしています。なぜなら、成熟した師管には核がなく、師管繊維には細胞分裂を妨げるほどの厚みがある細胞壁があるためです。葉には介在分裂組織活性(※14)があり、新しい根とシュートの頂端分裂組織が形成されるため、多肉植物の葉挿しはそれほど驚くべきことではないのかも知れません。介在分裂組織には機能的な師部と木部が含まれます。

※12 ) 師管要素とは師管を構成する生細胞で、篩状の板を縦に連結した構造をとる。
※13 ) 伴細胞は師管細胞に隣接する生理活性の高い柔組織で、師管細胞の通道を助けている。
※14 ) 介在分裂組織とは、分化が進んだ部分に挟まれた位置に存在する分裂組織。タケノコやトクサの節間を伸ばしたり、花茎の急激な伸長などが知られる。


異なる意見
多肉植物が葉挿し出来る理由としては異なる意見もありますが、これらは誤りです。1つは、葉の基底分裂組織(basal meristem, ※15)から形成されるというものです。セイロンベンケイは葉の縁に沿って小さな個体を生産し、ほかの多肉植物では葉柄や葉身を切り取っても、また新しい植物を得ることが出来ます。イワタバコ(Streptocarpus Lindl.)の葉挿しは、葉が葉脈に対して並行に切断されたか垂直に切断されたかに関係なく、新しい根とシュートを出すことが出来ます。ほとんどの植物は、葉に基底分裂組織を持たず代わりに介在分裂組織を持ちます。
もう1つは、脇芽が離層(※16)の反対側、あるいは離層の両側に形成されるというものです。ベンケイソウ科植物の滑らかな幹は初めの考えを説明しているようにも見えます。しかし、茎に脇芽がついているように見えますが、実際には脇芽は深く埋まっており、高度に休眠しています。これは、シュートの頂端分裂組織を除去することで、休眠中だった下部の頂端分裂組織が生長し始めることで確認出来ます。後者の考え方は、(仮想の)2つの脇芽の間に関連性がある証拠はありません。さらに、葉柄が脱落した後も葉から発根出来るということは、葉挿しして出てくる新しい根とシュートが脇芽由来ではないことを示しています。

※15 ) 基底分裂組織とは、維管束以外の基本組織に分化する細胞群。
※16 ) 離層とは、葉などが脱落する際に器官と植物との接点に出来る薄い細胞壁を持つ特殊な細胞層。


ベンケイソウ科植物の場合
ベンケイソウ科のBryophyllum亜属は、まだ茎についている葉に、新しい脇芽と粘着性の原基がある点において独特です。葉がシュートについている間は原基はホルモン的に阻害されます。これは、頂端分裂組織が頂端以外の頂端分裂組織の生長を抑制するホルモンを生成していることと同じです。カランコエ以外のベンケイソウ科では、Crassula ovataやCrassula multicava、Echeveria elegans、Sedum stahliiの葉挿しからの繁殖は報告があります。これらの種では、明確な休眠中の根やシュートの頂端分裂組織がないにも関わらず、葉の一部は葉全体と同じくらい容易に再生します。葉を垂直あるいは水平に切断したかに関わらず、新しい根とシュートは葉柄がついていた側に近い部分に形成されました。要するに極性(方向性)があり、葉の根元に近い場合に頂端分裂組織が形成されやすいということです。新しい分裂組織は維管束鞘(※17)などの生きた維管束内の師部細胞および、おそらく周囲の柔組織から生じます。海綿状組織(※18)からは生じません。したがって、クラッスラ、エケベリア、セダムの切断された葉の新しい分裂組織は、師部柔組織や伴細胞から生じることを示しています。ベンケイソウ科植物の葉挿しは、他の植物と同様に傷が治癒する過程を経ているようです。まず、疑似葉痕(pseudocicatrices)を形成します。傷口の組織は崩壊し表皮層が折りたたまれて、切断面が病原菌や乾燥から保護されます。次に葉痕が形成され、カルス(※19)が出来ます。新しい根とシュートの頂端分裂組織は、葉痕直下の柔組織から生じます。

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Kalanchoe sp.
葉の縁から新しい植物が出来ます。


※17 ) 維管束鞘とは、維管束の外側を鞘状に取り囲む1層からなる細胞。
※18 ) 海綿状組織は普通は葉の裏にある不揃いな細胞。細胞間隙が多く、間隙は気孔を通じて外界とつながる。
※19 ) カルスとは傷口を覆う癒傷組織のこと。

葉脈と再生能力
典型的な双子葉植物は網状脈(※20)を持つため、切断方向に対する感受性は単子葉植物より低いはずです。Kerner & Oliver(1902年)によるとベゴニア(Begonia L.)の栽培者は、葉の切り口を出来るだけ太い葉脈と交差するようにしているということを指摘しました。根やシュートを再生する能力があるという点において、網状脈を持つ少数の単子葉植物は切断方向に対して鈍感であるはずです。網状脈を持つ単子葉植物としては、ヤマノイモ属(Dioscorea L.)やアンスリウム属(Anthurium Scotto.)、シオデ属(Salix L.)などが知られていますが、葉挿し出来るほど多肉質な葉は持たないようです。
新しい分裂組織が師部組織、つまりは師部柔組織と伴細胞から切り出された葉に由来する場合、葉脈の密度とパターンが重要です。葉脈が密集している葉は発根しやすいかも知れません。

※20 ) 単子葉植物の多くは葉脈が主脈に並行に並ぶ並行脈で、双子葉植物の多くは葉脈が網状に広がる網状脈を持つ。


複葉と葉挿し
複葉(※21)は小葉や羽軸(※22)を生長させる能力など、茎に似た性質を持つように見えます。しかし、複葉は単純な葉よりも葉挿しは難しいようです。理由ははっきり分かりませんが、複葉を持つ多肉植物が少ないからかも知れません。複葉を持ち葉挿しが可能な植物は、わずかに多肉質な葉を持つクサノオウ属(Chelidonium L.)、Clianthus Sol. ex Lindl.(マメ科)、Atherurus Blume(サトイモ科、※23)、コンニャク属(Amorphophallus Blume ex Decne)だけです。複葉の葉身および小葉は通常は多肉質ではありませんが、葉柄はコンニャクイモ(voodoo lily)のように多肉質になることがあります。葉身そのものの挿し木より、葉柄の挿し木の方が発根は容易であることから、挿し木する組織が十分な養分と水分を持っていることが重要であることを示しています。

※21 ) 複葉とは葉軸に小葉がつくタイプの葉。
※22 ) 葉身全体の葉軸を中軸といい、そこから分岐した軸を羽軸と呼ぶ。
※23 ) Atherurus属は現在ではハンゲ属Pinellia Ten.の異名。


硬い組織を持つ植物の葉挿し
より分厚い細胞壁を持つ厚角細胞(※24)や厚壁細胞(※25)は分裂能力がないため、新しい分裂組織を作ることが出来ません。したがって、Yucca L.やZamia L.(メキシコのソテツ)のように高度に木質化した植物の葉は、多肉質であったとしても発根することは困難です。しかし、Luz(1903年)はアツバキミガヨラン(Yucca gloriosa)は葉挿し出来ると主張しましたが、その後確認されていません。

※24 ) 厚角細胞は不均一に厚い一次壁を持つ細胞。植物の身体を機械的に支えている。葉の中肋など角の部分によく見られる。
※25 ) 厚壁細胞はリグニンが蓄積し木質化した死細胞からなり、植物の身体を機械的に支えている。木本の表面近くに見られるが、木部繊維組織など維管束にも存在する。


最後に
以上が論文の要約です。
重要な話が多く互いに関連していたりするせいで、あまり要約出来ませんでした。おかげですっかり疲れてしまいました。さらに、専門用語が頻出するため、脚注を付けまくりました。
まあ、色々と難しい話が続きましたが、結局は多肉植物の葉は水分がたっぷり入っているから、根やら芽やらが出るまで干からびませんというだけの話です。後は、いったいどのような根やら芽やらが出るのかという理屈の話でした。



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植物にとって花を咲かせることは、受粉し種子を作るために重要です。しかも、受粉は非常に多様で様々な工夫があり、植物の進化を考える上でも非常に面白い対象です。さらに、受粉について調べることは、希少植物の生態を理解し、保護のための基礎知識を与えます。ですから、花の受粉については割と詳しく研究されています。多肉植物の受粉についても調べられていますが、残念ながら調査対象に偏りがあります。例えば、サボテンは割と詳しく研究されており、種により受粉形式にかなりの違いがあることが明らかとなっています。アロエの受粉形式はごく一部が研究されているに限り、その少ない研究を見ただけで、非常に多様で知られていない生態がいくらでもあることが分かります。しかし、アフリカに分布する多肉質のユーフォルビアに関しては、ほとんど論文がありません。ユーフォルビアの研究と言えば、ヨーロッパ原産の草本が主なのです。しかしそんな中、珍しいことにアフリカの多肉ユーフォルビアに関する受粉を扱った論文を見つけました。それは、Dino J. Martinsの2010年の論文、『Pollination and Seed Dispersal in the Endangered Succulent Euphorbia brevitorta』です。

矮性のEuphorbia brevitortaは、ケニア固有の多肉植物です。その分布は局所的かつ分散しており、潜在的に絶滅の危機に瀕している植物として保全の対象となっています。過去に行われたE. brevitortaの研究は、ナイロビ近くの主要な生息地が人為的に撹乱されたことに端を発し、その分類学や生物地理、および保全状況に焦点が当てられて来ました。この研究は、E. brevitortaの花を訪れる花粉媒介者を記録し、その種子散布を観察することです。トウダイグサ科植物はそのほとんどが昆虫による受粉と考えられています。しかし、トカゲにより受粉するEuphorbia dendroidesなど珍しい花粉媒介者の例もあります。結実と種子の散布は絶滅危惧種の植物にとっては重要で、適切な受粉が行われなければ絶滅する可能性があります。

E. brevitortaの花の観察においては、ハエと複数種のミツバチ、スズメバチが最も多くの花粉を運びました。アリや甲虫類は花粉を運ぶ量が少ないことが分かりました。
ユーフォルビアの種子はカプセルが弾けて飛散します。E. brevitortaの種子の拡散は5cmから2mと幅があり、平均で69.84cm 拡散されました。
種子は丸く滑らかで、拡散された後で地面をさらに転がる可能性があります。アリによる二次的な散布を調べるために、種子をアリに与えたところ、50個中38個は無視されました。10個の種子はアリに食べられ、2個は運ばれたものの巣に運ばれる前に捨てられました。


以上が論文の簡単な要約となります。
著者はE. brevitortaは特定の花粉媒介者に頼らないため、環境が撹乱されて昆虫相が変化しても受粉出来る可能性があるかも知れないと述べています。要するに、花粉媒介者に関しては環境変動に強い可能性があるのです。1種類の花粉媒介者に頼る場合(スペシャリスト)、花粉媒介者もその植物の花に適応しているため、受粉の可能性は高くなります。しかし、このような一対一の関係は、片方がいなくなるともう片方も存在出来なくなります。対して、広く浅く花粉媒介者を集める場合(ジェネラリスト)、花粉媒介者は数も種類も安定しないため、受粉も不安定になりかねません。ところが、1種類の花粉媒介者に対する依存性が希薄なため、花粉媒介者がまったく変わってしまっても問題が少ないのです。
種子の散布はどうでしょうか。ユーフォルビアの種子は、熟すと弾き飛ばされるため、ある程度は拡散されます。しかし、論文にあるように親株からそれほど遠くには行けません。他の植物種子の拡散戦略では、動物に食べられたり、動物の体毛に付着したり、風で飛ばされたりと、親株とはまったく異なる場所に散布されます。散布方法としては最大2mはいかにも貧相です。アリによる散布もわずか2%に過ぎません。ところで、E. brevitortaが乾燥地の植物であることを考えた場合、種子が遠くに拡散されてもまったく育たない可能性があります。なぜなら、乾燥地では実生が育つのに適した場所は少ないからです。逆に考えた場合、親株が存在する場所は実生が育つのに適した環境かも知れません。なぜなら、親株がその場所で育っている以上は、親株は実生からその場所で育っていることが明らかだからです。ですから、親株の近くに飛ばされた種子は、遠く拡散された場合よりも生存率が高くなる可能性があるのです。



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以前、テレビを見ていたら、アフリカの砂漠に謎の円形の模様が沢山出来る不思議な現象に迫っていました。この、通称「フェアリーサークル」は、シロアリが形成しているもののようです。しかし、謎のサークルは必ずしもシロアリが原因とは言えないようです。「フェアリーサークル」はサークルの縁に草が生えることにより形成されますが、そうではないサークルもあります。岩がごろごろしている地域に、細かな砂のサークルが点在しており、それは多肉植物が原因であると言います。本日は、謎の「サンドサークル(砂の輪)」を調査し、原因を特定したJ. J. Marion Meyerらの2020年の論文、『Sand circle in story landscapes of Namibia are caused by large Euphorbia schrubs』をご紹介しましょう。

ナミビアに隣接する南アフリカ北西部には、石だらけの地形の中に砂で出来た円形の「サンドサークル」が何千も見られます。サークルにはほとんど草は生えません。サークルの内側には多肉植物の残骸が見つかることもあります。この残骸は付近に分布するユーフォルビアである可能性があります。
砂漠のサークルではナミビアの「フェアリーサークル」に似ています。「フェアリーサークル」は草に囲まれた植生のない砂地のサークルです。「フェアリーサークル」はEuphorbia gummiferaの枯れた跡であると考えられています。ユーフォルビアが枯れると、跡地には有毒で粘着性な乳液が残り、裸地の再植生を妨げます。南アフリカの「サンドサークル」もユーフォルビアが生えていた跡地かも知れません。
「サンドサークル」の周囲に生えるEuphorbia gregariaを観察すると、周囲に砂が蓄積していました。E. gregariaの枝は非常に緻密で、風により飛来する砂をキャッチします。著者らはこの「サンドサークル」がE. gregariaが原因で形成された可能性について検証しました。

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Euphorbia gregaria
『Transactions of the Royal Society of South Africa』(1912年)より。


まず、サークルの内側にあった多肉植物の残骸を正式に鑑定したところ、E. gregariaであることが確認されました。次に、サークルの砂から有機溶媒を用いて成分を抽出しました。抽出物を分析したところ、E. gregariaと同一と考えられる物質が検出されました。ちなみに、E. gregariaの生えていない土壌では同成分は検出されませんでした。

気候変動により多肉植物の急速な枯死が報告されています。巨大な樹木アロエであるAloe dichotoma(=Aloidendron dichotomum)は、気温上昇や降雨量の減少により近年急速に枯死しています。「サンドサークル」は衛星写真により数と分布を数えることが出来ます。「サンドサークル」はユーフォルビアの枯れた跡なのですから、気候変動の指標として利用出来るかも知れません。


以上が論文の簡単な要約です。
テレビで見た「フェアリーサークル」はシロアリが原因ではなく、E. gummiferaの生えていた跡であるという驚きの事実がさらりと語られました。さらに、「サンドサークル」もユーフォルビアの生えていた跡であるというのです。まったく意外な帰結でした。このように一般に知られていない不思議な現象は沢山あり、まだ解明されていないものも沢山あるのでしょう。しかし、気候変動により多肉植物はダメージを受けており、この「サンドサークル」のような跡のみを残して絶滅してしまう種も出てくるかも知れません。跡のみしかない場合、その現象の原因は永久に分からなくなるでしょう。その前に、不明な現象の解明を、そして出来ることなら多肉植物が絶滅しないように出来れば良いのですがね。


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新種の記載や訂正、種を分けたり統合したりと、分類学により植物は命名され分類されます。近年では遺伝子解析が盛んに行われ、思わぬ植物同士が近縁だったり、外見上はそっくりで見分けがつかない隠蔽種が明らかとなったりと、分類学は非常に隆盛を極める分野となっています。そんな分類学ですが、種の登録に際しては、その植物の基準を示すためのタイプ標本を指定する必要があります。タイプ標本は博物館や大学に収蔵され、他の種と比較したり分類のために活用されます。
さて、本日ご紹介するのはGideon F. Smithらの2023年の論文、『Plant poaching in southern African is aided by taxonomy: Is a return to Caput bonae spei inevitable?』です。学術的に重要なタイプ標本ですが、悪用され多肉植物を危機に曝す原因となっているというのです。いったい、どういうことなのでしょうか?

密猟者の情報源
1970年代に南アフリカ国立植物研究所の前身である植物研究所で、植物標本のラベル情報が電子ファイルとして配布され始めました。やがて、データベースは拡張され、研究者は大規模なデータベースに容易にアクセス可能となり、計り知れない恩恵をもたらしました。また、一部の出版物はオープンアクセスにより、誰でも閲覧可能となりました。しかし、このような多肉植物の自生地の情報を、密猟者も閲覧し容易に自生地を見つけ出し収奪することも可能となりました。この予期せぬ出来事に対し、議論し抵抗するための提案を行います。

違法採取の急増
南アフリカの多肉植物は何世紀にも渡り植物愛好家を魅了してきました。最も注目すべきは、Aloe、Haworthia、Euphorbia、Crassula、Aizoaceae(メセン)で、園芸取引のために栽培されて来ました。しかし、栽培には時間がかかり、正規の繁殖方法では国際市場の需要を満たすことが出来ない場合もあります。
新型コロナの流行はロックダウンなど、人々の生活に様々な影響を与えました。一部の地域ではパンデミック中に趣味としてガーデニングや造園が流行り、植物の需要が増加しました。同時にロックダウン中は植物の密猟の増加がおきました。密猟者はソーシャルメディアを通じて植物の自生地付近の住民に連絡し、植物の入手を依頼することがあります。雇用機会が限られた田舎の失業者は、安価な報酬で密猟に手を貸してしまいます。南アフリカの多肉植物の違法採取、つまり密猟は巨大な違法産業に発展しており、押収された植物の数は毎年250%以上増加しています。過去3年間で150万本以上の野生植物が違法に密猟されたと推定されます。近年の例では、2022年11月に163万点もの植物を所持していた外国人が逮捕されています。

情報の秘匿
正確な産地情報を広めないことで植物の保全を支援する取り組みが実施されています。南アフリカ生物多様性研究所(SANBI)のデータベースでは、希少な植物については情報が隠蔽されており、研究者などが学術的な用途で申請し許可を受けた場合のみ情報を得ることが出来ます。しかし、密猟者が自由にアクセス可能な、タイプ標本のラベルや文献に記載された産地情報は依然として存在しています。

「CAPUT BONAE SPEI」への回帰
初期の南アフリカの植物の採取者は、採取地を単純に「Cput bonae spei」あるいは「Cpu. b. spei」、「Cabo bona spei」、「CBS」などと表記しました。これらはすべて「喜望峰」を意味します。初期の探検家たちは地図や地名の情報が少ない中で採取されたためです。後にこれらの古い情報の精査には時間がかかり、2世紀以上経てもわかっていない部分があります。
新種が公表されると直ちに密猟されてしまいます。違法採取による多肉植物の危機に際して、新種の発見を隠す傾向が出て来ました。植物が希少であるほど、絶滅に瀕しているほど、植物は価値が上がり密猟者の利益になります。「原産地: 喜望峰」という大昔の地理情報の記載方法へ回帰するしかないのでしょうか?


提案
密猟者の視線を躱すためには、産地情報が秘匿される必要があります。正確な産地情報は標本ラベルには記載せず、データベース上で管理し標本と関連付けられます。また、オンラインで入手可能であるラベルのスキャン画像は、地域情報はブロックします。さらに、正確な産地情報はオンラインではオープンアクセス出来ません。
しかし、これらの措置は分類学を始めとする多くの研究者の研究能力に悪影響を与えるでしょう。それでも、自然遺産が消失しないように、このような措置は免れません。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
最近の論文では、GPSで得た非常に精度の高い位置情報が記載されることも珍しいことではありません。現状、産地情報の秘匿はほとんどの論文では行われておらず、学術データを介した違法採取は引き続き拡大し続けるのでしょう。研究者たちの地道な学術的な努力が、卑しい密猟者の違法な金儲けに使われてしまうのは、大変皮肉でかつ悲しいことです。



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植物の繁殖にとって花は重要です。しかも、花の受粉様式は非常に多様で、花粉媒介者の相互作用など非常に複雑なメカニズムが存在し、その全容が明らかとなっているとは言えません。さらに、受粉後の種子散布については、それ以上に調べられていないように感じられます。最近では私もそのあたりが気になっており、ポツポツと少しずつ記事にしてきました。本日はアロエの種子に関する話です。それは、C. T. Symesの2011年の論文、『Seed dispersal and seed banks in Aloe marlothii (Asphodelaceae)』です。
アロエの種子には羽があって風で運ばれると言われますが、実際にはどうなのでしょうか? また、発芽せずに土壌中で環境が良くなるまで待つ「貯蔵種子」(Seed bank)は存在するでしょうか? 

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Aloe marlothii
『Curtis's botanical magazine』(1913年)より。


Aloe marlothiiは、南アフリカの草原とサバンナに広く分布する、冬に開花する多肉植物です。多くの個体は、岩の多異北向きの斜面や山岳地帯に生えます。A. marlothiiは最大6mに達する大型のアロエで、乾燥した冬に豊富な蜜を出すことから、様々な鳥のエネルギー源として重要です。よって、A.marlothiiは鳥により受粉しますが、その種子の散布についてはほとんど知られていません。
調査地のSuikerbosrand自然保護区は、標高1600〜1700mで、数百から数千のA. marlothiiが生育しています。自然保護区では、落雷などにより火災が発生することがあります。2003年9月におそらく送電線のアーク放電により発火し、自然保護区の西側の一部、約349ヘクタールが焼失しました。自然保護区内のアロエ林は激しく燃え、約1ヘクタールのアロエが死滅しました。その後、焼失地域には4mほどの枯れたアロエの茎が残り、雑草が生い茂りました。この焼失地域で、アロエの再定着を監視しました。
しかし、新しいアロエの苗は、焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後にのみ出現しました。さらに、焼失地域の土壌を採取して温室内で貯蔵種子の発芽試験を行いましたが、貯蔵種子の発芽は1本しかありませんでした。焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後には、焼失地域から採取された土壌の発芽試験では実生が生えて来ました。
つまり、A. marlothiiには貯蔵種子は基本的にないということが分かります。さらに、焼失地域外から種子が運ばれていることが分かります。A. marlothiiに良く似ているA. feroxは、高さ3mの高さから羽のある種子が30mも飛散すると言うことですから、焼失地域の発芽した種子は、ほとんどが焼失地域外から飛散してきたものなのでしょう。アロエの種子は柔らかく保護膜はほとんどなく、発芽は春の最適な環境次第と考えられます。条件が悪ければ発芽しませんが、種子の寿命が短いため翌年に発芽する可能性はほとんどありません。

以上が論文の簡単な要約です。
過去の研究では、他の種類のアロエの種子の寿命は1年とは言えないことが判明しています。しかし、A. marlothiiは貯蔵種子を持ちません。何故なのでしょうか? 少し考えてみます。
A. marlothiiのような巨大アロエは蓄積した資源量が多いため、毎年大量の種子を生産してばらまくことになります。わざわざ、耐久性のある種子を作る意味がないのかも知れません。ところが、火災に見舞われやすい地域であると言うことを考えると、貯蔵種子があった方が有利な気もします。しかし、長距離に拡散可能な種子であることから、わざわざ貯蔵種子を準備する必要はないのかも知れません。

しかし、火災の発生源は送電線のアーク放電による可能性があるとのことで、故意ではないとは言え人為的なものです。しかし、現在A. marlothiiのような巨大アロエの最大の敵は、火災ではないようです。近年、各地の自然保護区では、サイなどの希少動物の再導入が行われています。希少なアフリカゾウやクロサイが増えていることは素晴らしいことですが、まったく問題が起きていないわけではありません。これらの大型草食動物の採食によりA. marlothiiは急激に減少しています。一度崩れた生態系のバランスは、簡単にはもとには戻らないということかも知れませんね。


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多肉植物の生息地は、開発によりその生息が脅かされています。多肉植物は分布が狭く、特殊な環境にのみ生えるものも多いことから、多くの多肉植物が絶滅の危機に瀕しています。保護活動によりこれらの多肉植物を救うことは出来るのでしょうか?
本日は希少な多肉植物を救うための保護活動に目を向けます。Stefan Siebert & Frances Siebertの2022年の報告である、『Beating the boom: The fight to save a tiny succulent』をご紹介しましょう。小型のメセンであり、野生では非常に希少なFrithia humilisの保護活動の顛末です。


妖精の象の足
「妖精の象の足」(Faily elephant feet)と呼ばれるFrithia humilisは、南アフリカの固有種です。Gauteng州とMpumalanga州の境界にまたがる約600平方キロメートルの範囲の、岩盤上に乗った砂利の隙間にのみ生えます。非常に特殊な土壌条件が必要です。乾燥しわずか2cmしかない浅い土壌は、珪岩砂と腐植質からなり、0.5cmの珪岩砂利に覆われている必要があります。しかし、残念なことに南アフリカの発電所に供給される石炭が採掘される石炭鉱床は、F. humilisの分布と重なります。すでに、鉱山開発などによりF. humilisは生息地の半分以上を失っています。

救出作戦
新しい石炭鉱山の開発予定地に、4000個体に及ぶF. humilisが発見されました。しかし、南アフリカの政策により、この希少植物を他の土地に移植しなくてはなりませんでした。そのため、時間が限られる中、適切な代替地を探し出し、2009年に移植が敢行されました。移植が終わると、本来の自生地は採掘のため、すぐに爆破されてしまいました。

挫折と行き詰まり
救出活動以来、移植先を定期的に監視しました。当初、移植したF. humilisの生存と繁殖は有望に見えました。確かに、移植当初はネズミによる減少がありました。ところが、個体数が大幅に減少し始めたのは、2017年以降でした。著者らはこれは個体数が少ないことから、遺伝的多様性の低下により自家受粉が増えたからではないかと考えました。
著者らは移植先における花粉媒介者の数や訪問頻度、開花や結実について調査しましたが、これらの指標は他の自生地と変わりがありませんでした。つまり、種子や実生の数が少ないわけではないということです。

保護の難しさ
F. humilisは土壌ごと移植されたため、貯蔵種子(Seed bank)からの発芽が期待されました。実際に移植後に実生が出現し、それは2013年まで続きました。そして、干ばつ後の2017年以降、減少が始まりました。それ以降、観察により花の数、成体の植物数、実生苗の数は減少し続けています。
F. humilisのような特殊な土壌に生える植物は、数十億年かけて形成された生息地に、数百万年かけて適応してきました。単純に移動させたら、新しい生息地で繁栄することを期待することは出来ません。一度介入したならば、監視を続け生息地の維持のために投資する必要があります。最終的には、自生地には手を加えずに残しておく必要があります。


最後に
以上が報告の簡単な要約です。
保護活動は失敗に終わりました。これだけ文明が発達した現代においても、未だ自然とはあまりに未知であり、まったくコントロールが効かない存在であることを改めて実感しました。
しかし、F. humilisを育てるのはそれほど難しくないと思った方もおられるでしょう。これは、当然ながら自然環境下は栽培環境とはまったく異なるからです。自然環境下では植え替えも施肥も、水やりや遮光も出来ないのですから、自然と育って増えてくれるのを期待するしかありません。まったく同じ自然環境を用意することはあまりに難しいでしょう。やはり、自然環境ごと保全することが肝要ということなのでしょう。


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サボテンは古い根元の方が褐色になり硬くなってしまいます。これは、太陽光が原因で樹皮が形成されているということのようです。ただ、樹皮形成はサボテンにはよろしくないことのようで、樹皮形成が多くなり過ぎるとサボテンは枯れてしまいます。この太陽光による樹皮形成は柱サボテン状になるユーフォルビアにも見られる現象です。本日は、南アフリカのユーフォルビアの樹皮形成について研究した、Lance S. Evans & Lauren Scelsaの2014年の論文、『Sunlight-induced bark formation on current-year stem of Euphorbia plants from South Africa』をご紹介します。

2011年のEvans & Abelaは、南アフリカの20種類のユーフォルビアで、サボテンに起きるものと同一に見える樹皮形成を確認しました。ただ、サボテンは古い茎に樹皮が形成されるのに対し、ユーフォルビアでは新しい茎でも形成されます。この研究は樹皮形成の仕組みを理解し、なぜ種類により樹皮形成の度合いが異なるのかを解明することを目的としています。
南アフリカに自生する15種類のユーフォルビアを調査した結果、樹皮形成率は高い順から、E. enopla(12.0%)、E. clandenstina(10.0%)、E. schoenlandii(10.0%)、E. clava(9.0%)、E. heptagona(8.9%)、E. tuberculata(7.8%)、E. fimbriata(6.2%)、E. horrida(6.2%)、E. knobelii(6.1%)、E. hottentota(5.5%)、E. tetragona(5.0%)、E. triangularis(4.6%)、E. avasmontana(0.0%)、E. virosa(0.0%)、E. cooperi(0.0%)でした。

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Euphorbia enopla(樹皮形成率12.0%)

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Euphorbia schoenlandii(樹皮形成率10.0%)

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Euphorbia virosa(樹皮形成稜0.0%)

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Euphorbia cooperi(樹皮形成率0.0%)

樹皮形成は太陽光がより当たる側で発生しました。調査したユーフォルビアを比較すると、樹皮形成率が高い種は稜(rib)がなく、樹皮形成率がなかった種は強い稜がありました。これは、稜があるとくぼんだ谷間が出来ることから、陰が形成されます。そのため、稜がある種類は樹皮形成が起きにくいと考えられます。
また、表面のクチクラの厚みを調査しましたが、種類によるクチクラの厚みの違いは、樹皮形成のしやすさとは相関がありませんでした。

ユーフォルビアの太陽光による樹皮形成は、表面組織の損傷により誘発されます。ただし、E. tetragonaやE. triangularisの幹に形成されるコルク層は、古い茎に形成されるもので、太陽光による樹皮形成とは関係がないようです。太陽光による樹皮形成は表皮細胞が関わりますが、コルクを形成したりはしません。

以上が論文の簡単な要約です。
内容としては、深い稜がある場合には、山と谷が出来て陰が出来ることから、樹皮は形成されにくい傾向があるというものでした。この場合の樹皮とは、大型になる柱サボテン状ユーフォルビアの、古い幹が木質化していく過程とは異なります。しかし、この太陽光による樹皮形成は、どうやらサボテンとメカニズムは同じようなのですが、サボテンは古い組織に出来るのにユーフォルビアは新しい組織に出来るのは何故でしょうか? また、太陽光による樹皮形成は表面細胞の損傷が原因ですから、要するに樹皮形成しにくい種はより強い太陽光に耐えられるということです。では、樹皮形成しにくい種は強い太陽光を浴びていて、樹皮形成しやすい種は陰になるような場所に生えるのでしょうか? 最適環境が異なるように思えます。実際の自生地の環境との比較が見てみたいところです。


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以前、Gymnocalycium esperanzaeを調べていた時に、論文に面白いことが書かれていました。G. esperanzaeは、G. castellanosiiとG. bodenbenderianumとの自然交雑種である可能性があるというのです。その時の記事は以下のリンクをご参照下さい。


問題はG. esperanzaeは一時的に出来た雑種ではなく、すでに交雑親から独立しているように見えることです。論文でも、植物は自然交雑による種分化は珍しいことではなく、進化の原動力の1つであると書かれていました。交雑が進化に関係するということは、私も気になってはいたのですが、中々調べるところまでは行きませんでした。しかし、最近になりサボテンの自然交雑種に関する論文を見つけました。それは、Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文、『Unraveling Reticulate Evolution in Opuntia (Cactaceae) From Southern Mexico』です。タイトルは訳すと、「メキシコ南部のウチワサボテンの網状進化の解明」となります。「網状進化」とは何なのでしょうか?

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Opuntia pilifera
『The Cactaceae』(1919年)より。


交雑は植物の約40%で発生し、その中でもウチワサボテンなど特定のグループにより頻繁に発生します。この論文では、ウチワサボテンの約12%が分布するにも関わらず、ほとんど調査されていないメキシコ南部のTehuacan-Cuicatlan渓谷において、ウチワサボテンの交雑種を遺伝子解析により調査しました。著者らの研究グループは、Opuntia tehuacanaはOpuntia piliferaとOpuntia huajuapensisの中間的な特徴を持つことから、交雑種ではないかと考えていますが、仮説が検証されたことはありませんでした。

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Opuntia velutina(右上)
『The Cactaceae』(1919年)より。

著者らはTehuacan-Cuicatlan渓谷とその周辺地域から、9種類のウチワサボテンを採取しました。複数の遺伝子を解析したところ、以下のような交雑が推測されました。

O. pilifera①=O. decumbens+O. depressa
O. pilifera②=O. decumbens+O. velutina
O. tehuacana=O. decumbens+O. huajuapensis
O. decumbens=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina①=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina②=O. tehuantepecana+O. decumbens

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Opuntia decumbens
『The Cactaceae』(1919年)より。


ウチワサボテンは生殖障壁が弱いため、自然交雑種は一般的です。研究に用いたウチワサボテンの開花期は春で、地理的に近い種の間では交雑が起きる可能性があります。一般的に受粉は主にミツバチにより行われますが、Tehuacan-Cuicatlan渓谷ではミツバチより長距離を移動するハチドリも受粉に関与している可能性があります。
さて、肝心のO. tehuacanaに関してですが、交雑親と考えられるO. huajuapensisは開花期が重なります。ハチドリが両方の種に訪れるため、受粉の可能性があります。しかし、共通の特徴はあるものの、交雑により予想されるような中間形質は確認されませんでした。もう片方の交雑親と当初は考えられていたのはO. piliferaですが、遺伝子解析では交雑の証拠はありませんでした。共通する特徴より異なる特徴が多く、中間形質もないため、O. piliferaが交雑親であるというシナリオは破棄されます。交雑の仕方からは、交雑親はO. decumbensが疑われます。しかし、すべてのO. tehuacanaからO. decumbensが関与しているわけではないことが判明しており、特定の遺伝子のみが移入しており、雑種種分化は発生していないことが推測されます。

以上が論文の簡単な要約です。
論文中に出てきた生殖障壁とは、交雑してしまう可能性のある近縁種同士が受粉しないような仕組みのことです。例えば、簡単な例では花の時期が異なるだとか、地形的に隔離されているとかです。やや複雑になると、花の色や形が異なり、訪れる花粉媒介者が異なる場合には交雑は起きません。しかし、Tehuacan-Cuicatlan渓谷では、ウチワサボテンが20m四方に4種類も存在するという高密度な状態でした。しかも、開花期も重なり花粉媒介者も共通します。
著者らは調べた遺伝子が少ないため、すべての交雑を検出出来たわけではないとしています。しかし、遺伝子情報からの推測方法については私には良くわからなかったため、上手く解説出来ませんでした。どうも、「網状進化」とは単純な交雑ではなく、複数種の遺伝子が混じり合って形成される、正に網状の交雑が起きているようです。しかし、論文自体は網状進化の一部を解明しただけで、すべてを解明したわけではなさそうです。実際には本当に網の目のように複雑に絡むような進化を辿ったのかも知れませんね。


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ソテツは地球上で最も危機に瀕している植物グループと言われます。しかし、日本では国内産のソテツ(Cycas revoluta)が庭木や鉢植えとして一般的に利用されていますから、珍しいという感覚は持ちにくいかも知れませんが、海外では自生地の都市開発や違法採取によりソテツは急激に数を減らしています。本日は国際自然保護連合(IUCN)のソテツに対する評価と保護計画について書かれた2003年の『Status Survey and Conservation Action Plan, Cycad』より、ソテツの貿易と持続可能な利用についてまとめられた第7章、J. S. Donaldsonらの「Cycads in Trade and Sustainable Use of Cycad Population」をご紹介しましょう。

ソテツの利用
ソテツは各地で伝統的に利用されてきました。いくつかの文化では、おそらく先史時代からソテツは利用されています。また、有毒のソテツから食品を調製する技術を、異なる文化がそれぞれ独自に開発しました。
19世紀から20世紀にかけて、ソテツを取り巻く環境は激変しました。例えば、1845年頃からZamia integrifoliaからデンプンを抽出するために、フロリダに製粉所が設立され、週に8000〜12000本のZ. integrifoliaが採取されました。都市化による生息地の破壊と相まってZ. integrifoliaは激減し、ソテツの製粉産業は1925年までに完成に崩壊しました。同様にオーストラリアで1921年にMacrozamia communisを用いて操業を開始しましたが、こちらは技術的な理由で失敗しました。

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Zamia integrifolia
(=Zamia floridana)


伝統医学や呪術のためのソテツの利用は様々な地域で続いており、人口増加により採取が激化しています。1994年の報告によると、南アフリカの2つの市場では毎月3000以上のStangeria eriopusが取引されていると言います。本来、農村部の人々は近隣に生えるソテツを利用しており、それは持続的に利用可能なものでした。しかし、ソテツを都市部に供給するために、人々が遠距離から採取に訪れるようになりました。

園芸植物としてのソテツ
1983年から1999年までに大量のCycasとBoweniaの葉が取引されました。これはフラワーアレンジメントでの使用で、主要な輸出国は日本でした。しかし、これは栽培植物由来のもので、野生植物に対する悪影響の証拠はありません。
20世紀のソテツの貿易パターンの劇的な変化は、園芸植物としての需要によりもたらされました。Cycas revolutaなどCycas属のソテツは、日本、中国、ベトナム、インドなどの国で、装飾用植物として何世紀にも渡り使用されてきました。しかし、都市造園やコレクターに由来する大規模な採取は、20世紀後半に発生しました。野生のソテツの採取が個体数の減少の主要な原因の1つと考えられていますが、その取引や野生植物への影響は分析されていません。

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Cycas revoluta

造園用としてのソテツ
都市造園用として利用されるソテツは少なく、利用されるのは主にCycas revolutaとZamia furfuraceaです。C. revolutaは広く栽培されており、野生植物の採取はありません。Z. furfuraceaはメキシコで大量に採取され、月に40トンが米国に輸入されたという報告があります。しかし、現在はZ. furfuraceaはメキシコと米国で広く栽培されており、野生植物の採取は不必要かつ違法採取は逆に不経済となっています。また、Cycas taitungensisなどの種は、大規模な植栽により人気が高まっています。
ソテツは造園用植物として優れていますが、植栽用にはある程度の大きさある植物が求められます。栽培植物では需要に答えられないため、野生植物の市場が生まれています。中国では多数のCycas panzhihuaensisとCycas hongheensisが採取され、タイではCycas litoralisが採取されています。南アフリカではカジノ開発のために、植栽用に300本を超えるEncephalartos altensteiniiが採取されました。
また、都市部の庭師は必ずしも特定の種を探しているわけではないため、野生植物を採取したり、わざわざ野生由来の植物を探したりはしません。

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Zamia furfuracea

ソテツ愛好家
植物のコレクターは、苗床から植物を購入し、他のコレクターと植物を交換し、愛好会などに入り植物や情報を交換します。コレクターはアクセス可能な地域のソテツの種子を採取したり、野生由来植物の可能性のある希少種を購入することはあるかも知れません。しかし、一般的にコレクターが珍しくソテツを探すために、それほどの時間とお金を費やすことはほとんどありません。
ただ、コレクションに多大な投資をしているコレクターもおり、野生由来の植物の取引に手を出していることもあります。しかし、野生植物の市場は犯罪シンジケートが関与しており、結果として組織犯罪に加担していることになります。


ソテツと貿易
1983年から1999年の貿易データによると、この期間中に5000万を超えるソテツの種子と、1300万の生きたソテツが、ワシントン条約(CITES)締結国から輸出されました。日本は最も重要なソテツの輸出国で、ソテツの種子輸出の90%近くを、生きたソテツの65%を占めています。C. revolutaとZ. furfuracea以外のソテツの取引は少ないものの、これは報告がされていないことによります。また、野生植物の少なさから考えると、かなり多くのEncephalartosが取引されています。現在でも絶滅危惧種のソテツが違法取引が続いており、CITESだけでは違法取引を食い止めることが出来ません。そのため、CITESは保全ツールの1つに過ぎないと見なさなければならず、合法的な取引のためにソテツの需要を満たすための行動が必要です。

ソテツの人工繁殖
ソテツを人工繁殖による大規模な商業生産することが可能ならば、ソテツの需要を人工繁殖したソテツで埋めることが出来るかも知れません。現在、種子繁殖が最も実用的な方法です。しかし、人工繁殖の場合、ソテツは雌雄異株であるため花の時期が合わなかったり、特定の花粉媒介者がいることなどから、種子が勝手に出来ません。最近の研究では、花粉は0℃で最大2年間は50%の生存率が維持出来ることが判明しており、雌雄の花が揃わなくても受粉が可能かも知れません。

最後に
以上が第7章の簡単な要約です。
ソテツはその減少が進行してしまっており、対策が急務です。すでに悠長にCITESに頼る段階ではないようです。サボテンや多肉植物では、趣味家たちはCITESは必要としながらも、CITESに物足りなさを感じているようです。趣味家たちは、珍しいサボテンや多肉植物の人工繁殖を積極的に行い、市場の需要を満たすことにより、野生植物の違法取引を減らせると考えています。しかし、ソテツでは趣味家ではなくIUCNが人工繁殖の推進を提唱しています。よくよく考えて見れば、この人工繁殖の推進はソテツの研究者により考えられたもののような気がします。なぜなら、ソテツの育て方や増やし方に関する論文がいくつも出されているからです。これは植物の研究としては珍しい部類ですね。
さて、ソテツの輸出の大半が日本からということでした。日本でCycas revolutaが庭木とされるのは、近年の流行ではなく、かなり昔からの話です。古い民家では、玄関先に背丈よりも高いC. revolutaが植えてあったりしますが、野生植物由来ではなく何十年もかけて大きくなったものです。そもそも、植木屋にはかなりの大きさのC. revolutaが植えられていますからね。ソテツはある程度のサイズになると脇芽が吹いてきますから、脇芽を発根させた鉢植えが沢山流通しています。日本ではC. revolutaはどこにでもあり、誰でも簡単に入手出来ますが、世界のソテツの希少性からすると珍しいことかも知れません。


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Pereskia属はサボテンらしからぬ姿のサボテンで、通常の樹木状で葉があり、全体的に特に多肉質ではありません。ただ、強い棘と美しい花がサボテンとの繋がりを感じさせます。Pereskiaは一般的には杢キリンだとかコノハサボテンと呼ばれますが、サボテン愛好家にもあまり人気はなさそうです。
さて、このPereskiaはサボテン科の進化を考える上で重要とされます。というのも、サボテンは本来は多肉質ではなく、Pereskiaのような多肉植物ではない姿から多肉質に進化したと考えられるからです。
そんなPereskiaはどうも単系統ではないと考えられているようです。2013年にPereskiaは単系統ではないという考えが示され、新属Leunenbergeriaが提唱されました。そこら辺の事情をまとめたJoel Lodeの2019年の論文、『Leunenbergeria, a new genus in Cactaceae』をご紹介しましょう。しかし、新種どころではなく、新属とは驚かされます。

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Leunenbergeria autumnalis(左右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia tititachaとして記載。


PereskiaはSchumann(1890)とBuxbaum(1969)によりサボテン科の最も祖先的な分類群と考えられました。2002年のNyffelerの分析でも、Pereskiaはサボテン科の基底であることは示されましたが、単系統ではないとされました。2005年のButterworth & Wallaceの分子解析では、Pereskiaは単系統ではなく側系統群であることが示されました。2005年にEdwardsらは、Pereskiaの遺伝子解析を行いました。Pereskiaでは唯一コスタリカに分布するP. lychnidifloraと、Pereskia属のタイプ種であるP. aculeataとは、Pereskia属を分けなければならないレベルで遺伝的に距離がありました。2005年のCrozierの分子研究では、Pereskia属は急速に分岐した可能性を指摘しました。2007年にMarlon Machadoは、形態学的および解剖学的な特徴から、Pereskiaは2つのグループに分割出来るとしました。2008年にButterworth & Edwardsは、Pereskiaが側系統群であることを確認しましたが、GorelickはPereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており、混乱し続けていることを指摘しました。

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Leunenbergeria zinniiflora(右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia zinniaefloraとして記載。

そして、2008年のNyffelerらと2010年のNyffeler & Eggliは、Pereskiaは南アメリカ北部からメキシコまでの北部クレードと、ブラジル南部から南方の熱帯および亜熱帯南アメリカの南部クレードに分けることが出来ることを示しました。南部クレードは樹皮の形成が遅れており、茎に気孔があります。北部クレードは樹皮が早く形成され茎に気孔があります。

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Leunenbergeria gamacho
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia gamachoとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
論文中の用語ですが、単系統とは系統的な子孫からなるまとまりがあるグループです。側系統とは簡単に言えばまとまりのないグループです。論文ではPereskiaを2分割しました。名前のなかった南部クレードには、著者が2013年にLeunenbergeria属を提唱しました。属名はPereskiaの著名な研究者であったLeunenbergerから来ているようです。
また、本文中に「Pereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており…」とありますが、分かりにくいため簡単に説明します。例えば、2005年のEdwardsの『Basal cactus phylogeny: implications of Pereskia (Cactaceae) paraphyly for transition to the cactus life form』では、以下のような分子系統が示されました。

              ┏━カクタス亜科
          ┏┫
    ┃┗━Maihuenia
      ┏┫
      ┃┗━━
ウチワサボテン亜科
  ┏┫     
  ┃┗━━
Pereskia
  ┫
  ┗━━━
Leunenbergeria

カクタス亜科は柱サボテンや玉サボテンを含む巨大なグループです。見方としては、カクタス亜科とMaihueniaは姉妹群で、カクタス亜科+Maihueniaとウチワサボテン亜科は姉妹群、それらとPereskiaは姉妹群なのです。つまり、カクタス亜科からPereskiaまでを一塊と捉えることも可能なため、そのような表現となっているのです。

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Leunenbergeria zinniiflora
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia cubensisとして記載。


Pereskiaから独立してLeunenbergeriaとなったのは8種類です。以下に示します。
①L. aureiflora
②L. bleo
③L. gamacho
④L. lychnidiflora
⑤L. marcanoi
⑥L. portulacifolia
⑦L. quisqueyana
⑧L. zinniiflora


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最近は基本的にサボテンと多肉植物の論文をご紹介してきましたが、花と受粉に関する話題に興味があり積極的に取り上げてきました。しかし、最近は種子の行方にも興味が出て来ました。論文を漁っていたところ、「Serotiny」なる用語に出会いました。「Serotiny」とは、成熟した種子がすぐに散布されず、親個体に長く残る現象を指します。有名な植物はオーストラリアのバンクシアで、種子は火事により加熱されないと出て来ません。調べると、一部のサボテンも「Serotiny」であると言うのです。一体どういうことなのでしょうか?
本日はそんな「Serotiny」であるサボテンについて調査した、Edward M. Petersの2009年の論文、『The adaptive value of cued seed dispersal in desert plants: Seed retention and release in Mammillaria pectinifera (Cactaceae), a small globose ca cactus』をご紹介しましょう。

Mammillaria pectiniferaは直径3〜4cmの球形のサボテンで、メキシコのPuebla州Tehuacan Valleyの固有種です。土壌は保水力が高くアルカリ性です。M. pectiniferaは環境破壊や違法取引などにより絶滅が危惧されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに含まれ国際取引が制限されています。メキシコ政府の絶滅危惧種リストにも記載されています。

M. pectiniferaの櫛状のアレオーレには白い棘があり、日照を和らげています。果実は白っぽい液果で、すぐに果実ごと種子が放出されることもあれば、サボテンのイボの中に埋め込まれたまま7〜8年かけて徐々に種子を放出する場合もあります。
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Mammillaria pectinifera(右)
『The Cactaceae』(1922年)より。Solisia pectiniferaとして記載。


著者らは、M. pectiniferaを2年間観察しました。1年目はエルニーニョ現象の影響により非常に乾燥し、2年目はラニーニャ現象により比較的雨が多い時期でした。乾燥した1年目は果実が放出されることはなく、埋め込まれた果実から種子がこぼれました。雨が多かった2年目は、新しい果実の21.5%は放出されました。2年目は実生が増え、苗の定着率も1年目の5倍に達しました。
また、温室内で水やりの量をコントロールすると、与えた水が多いほど果実の放出が多くなりました。年間降水量1000mm以上を想定したシミュレーションでは、ほぼすべての果実が放出されました。
M. pectiniferaの保持される種子の存在は、これが貯蔵種子(seed bank)として機能していることを示唆します。苗の死亡率が高い植物では、乾燥などの悪質な環境を避ける戦略かも知れません。それは、乾燥した年と雨が多い年の比較や、降水量をシミュレーションした実験からも伺えます。

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥していたら種子をなるべく放出せず、雨が多ければ種子を放出するという賢い戦略です。雨が多い年には実生の生存率は上がります。乾燥した年に種子を放出するリスクを減らす意味もあります。M. pectiniferaは降水量をスイッチとしたSerotinyと言えるでしょう。
さて、論文ではサボテンのSerotinyは小型の球形サボテンで、現在25種類が確認されているそうです。Serotinyとされたのは、Mammillaria、Coryphantha、Dolichothele、Neobesseya、Echinocactus、Aztekium、Lophophora、Obregonia、Ariocarpus、Pelecyphoraに含まれていました。Serotinyはサボテンの中に、割と広く存在するようです。Mammillaria、Coryphantha、Obregonia、Pelecyphoraは遺伝的にも非常に近縁なため何となく分かりますが、それほど近縁ではなさそうなものもあります。乾燥に対する戦略として有効なため、分類群のあちこちで進化したのでしょうか? サボテン科全体の遺伝子解析は調べていないため断言出来ません。また、調べないといけないことが増えてしまいました。


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近年、プラスチックごみの残留が環境問題となっています。特にマイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチックが動物に大量に摂取されており、その影響が心配されています。環境問題に関心がなくても、マイクロプラスチックを食べた動物を食べているであろう我々人類への影響がまだ分からないことから、この問題には無関心ではいられないはずです。
さて、論文を検索していたら、たまたまマクロプラスチックなる言葉に出会いました。マイクロプラスチックの「マイクロ」はその微小なサイズを表しているわけですが、マクロプラスチックの「マクロ」とはなんでしょうか? 一般的にはマクロは「巨大な」と言った意味合いですが、「巨大なプラスチック」とはなんでしょうか? というわけで、本日はLuca Gallitelli & Massimiliano Scaliciの2023年の論文、『Can macroplastics affect riparian vegetation blooming and pollination? First observations from a temperate South-European river』をご紹介しましょう。

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セイヨウニワトコ Sambucus nigra
ニワトコ属。薬草として知られているようです。
『Illustriertes Handbuch der Laubholzkunde』(1907年)より。


著者らはイタリア中部を流れるAniene川の河畔で、マクロプラスチックの植物の受粉に対する影響を観察しました。論文では、マクロプラスチックとは、0.5cm以上のサイズのプラスチックを指しています。
河川は都市部から来るプラスチックを海へ運びます。しかし、河畔の植生がプラスチックの一部を捕まえて閉じ込めてしまうと考えられています。このようなプラスチックの影響は今まで調べてられて来ませんでした。

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トネリコバノカエデ Acer negundo
Acerとはカエデ属のことです。沢山の品種(form)があると考えられて来ました。生長が早く丈夫なので世界中で街路樹として利用されますが、見栄えはイマイチ。
『Gartenflora』(1893年)より。


著者らは、冬の終わりの河畔植生の開花期間中に調査を実施しました。また、この時期は大雨と冬の洪水が起きるため、河畔植生にプラスチックごみがより集積します。調査地の代表的な河畔植生として、Sambucus nigra、Acer negundo、Robinia pseudoacaciaを選択しました。調査地では河畔植生の枝に434個ものプラスチックごみが付着し、芽や花の生長を許さない状態でした。観察では、ミツバチやマルハナバチなど58匹の花粉媒介者が、13本のS. nigra、24本のA. negundo、21本のR. pseudoacaciaの花を訪れました。全体としては、52個(18.6%)の花がマクロプラスチックごみにより覆われていたため、花粉媒介者が利用出来ませんでした。プラスチックごみに覆われていた割合は、S. nigraで28%、A. negundoで19%、R. pseudoacaciaで13%でした。

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ニセアカシア Robinia pseudoacacia
ハリエンジュ属。日本でもハリエンジュの名前で街路樹として利用されています。ちなみにマメ科なので豆がなります。
『Illustriertes Handbuch der Laubholzkunde』(1907年)より。


以上が論文の簡単な要約となります。
さて、これらのことから何が言えるでしょうか? 著者らは、まず河畔の生態系に対する影響を挙げます。河畔植生は、水質に対する改善効果などがあるとされます。プラスチックが芽を覆い、植物の生長に悪影響を及ぼします。また、花が減ることにより植生だけではなく、花を訪れる花粉媒介者にも影響が出る可能性もあるのです。
また、マイクロプラスチックが花とハチミツが検出されたという報告があります。マイクロプラスチックはマクロプラスチックごみが発生源の1つでしょう。しかし、これはミツバチにも、それを食べる人間にも何かしらの影響があるかも知れません。
しかし、驚いたのは論文に掲載された河畔の写真です。河畔の樹木の枝に大量のゴミがぶら下がる光景は、まるでゴミで作った汚いクリスマスツリーのようです。ここまで大量にゴミが河川に流されているとは思いませんでした。まあ、日本の都市部の河川はヘドロが溜まった小汚いドブと化していますから、偉そうなことは言えませんけどね。



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Elaiosomeとは種子についた栄養分のことですが、その栄養分を目的にアリが種子を巣穴に運ぶことが知られています。このようなアリにより拡散される種子を、Myrmecochory種子と呼びます。このような、MyrmecochoryやElaiosomeについて興味があったのですが、中々良い論文が見つかりませんでした。しかし、CaatingaのMyrmecochoryについて書かれた論文を見つけました。それは、Inara R. Lealらの2007年の論文、『Seed Dispersal by Ants in the Semi-arid Caatinga of North-east Brazil』です。
生物の多様性が高い地域をホットスポットと呼びますが、サボテンにもホットスポットが存在します。ブラジルの半乾燥地域にあるCaatingaの森も、サボテンのホットスポットの1つです。この論文ではサボテンだけではなく、様々なMyrmecochory植物について調査されています。

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Jatropha mutabilis
「Das Pflanzreich」(1910年)より。J. obtusifoliaとして記載。


著者らはCaatingaのXingo'地域でアリにより散布される種子を3年間にわたり調査しました。アリによる種子の散布は、Xingo'地域の樹木の1/4を占めていましたが、Elaiosomeがついた「真のMyrmecochory」は樹木の12.8%でした。
Myrmecochoryは、Elaiosomeを持つ種子を含み、仮種皮(Aril)や偽仮種皮(Arillode)、種枕(Caruncle)を持つ種子からなります。Elaiosomeのついた種子はアリにより巣穴に運ばれ、Elaiosomeは取り除かれ種子はゴミ捨て場や巣穴の入口に捨てられます。Myrmecochoryは、火災が多かったり、土壌の栄養が貧弱な地域に良く見られるとされます。アリの巣穴は栄養分が蓄積し、火災から守られるためです。

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Opuntia palmadora(右上)
「The Cactaceae」(1919年)より。


アリにより運搬された種子は、2つのタイプがありました。1 つは核果(Drupe)や液果(Berry)などの肉質の果実を持つタイプで、非Myrmecochoryです。つまりは、アリによる種子の運搬に特化していないものです。このタイプの植物は14種類が確認されました。2つめは仮種皮や種枕、肉質種皮(Sarcotesta)を含む、13種類のMyrmecochory種子でした。真のMyrmecochoryはトウダイグサ科植物の種枕を持つ11種でした。トウダイグサ科のJatropha mollissimaやCnidoscolus quercifoliusの種子は、ほとんどのアリ(10種類)を引き付けました。種子を運搬する主要なアリは7種類が確認されましたが、その平均分散距離は409.2〜538cmであり、自然に種子が落下したよりも広く拡散されます。
Myrmecochory種子はアリの運搬に特化していますが、非Myrmecochory種子でもアリにより運搬されます。非Myrmecochory種子は、本来運搬する動物が運搬して落とした種子も、二次的にアリが運搬しています。よって、Caatingaの森ではアリが種子散布者として重要な役割を果たしていることを示唆しています。

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Manihot carthagensis subsp. glayiovii
「Rubber and rubber planting」(1879-1915年)より。M. glazioviiとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
種子をアリに運搬された植物は27種類ありましたが、うち11種類がトウダイグサ科と圧倒的です。やはり、真のMyrmecochory種子はアリに特化しているということなのでしょう。今回観察されたトウダイグサ科植物は、Cnldoscolus属、Croton属、Jatropha属、Manihot属でした。次に多いのが、サボテン科で液果をつけます。観察されたサボテン科はCereus jamacaru、Melocactus bahiensis、Opuntia palmadora、Pilosoceus gounelleiの4種類でした。
果実には種類があり、何かしらの方法で動物を引き寄せ、種子の拡散を手伝わせます。例えば、液果は動物に食べられて消化管で果肉が除去され、糞の中に種子だけが残ります。果肉にはアブシシン酸など発芽を抑制する植物ホルモンが含まれるため、果実を動物に食べられることが重要です。親木の近くに果実が落ちただけでは発芽せず、動物により食べられて運搬された時に初めて発芽可能となるという上手い仕組みです。どうやら、Elaiosomeを持つ種子も、Elaiosomeの除去が発芽率を上昇させるようで、やはりアリにより運搬されElaiosomeを取り除かれる必要があります。論文中ではメロカクタスの果実もアリにより運搬されたようですが、メロカクタスの本来の種子散布者はトカゲです。トカゲに食べられなかった果実は地面に落ちて、アリにより運搬されるのです。
植物を栽培したり鑑賞する最大の目的は、おそらく花でしょう。植物にとっても花は繁殖のための要ですから重要です。ですから、花の受粉は生態学的にも重要で、沢山の論文が出ており私も度々記事にしています。しかし、受粉後の種子の拡散も、植物にとっては重要なイベントであるはずです。以上のように、種子の拡散は植物により種類があり、その拡散方法も様々です。私も興味がありますから、少しずつ調べてみるつもりです。

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Cereus jamacaru
「The Cactaceae」(1920年)より。


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最近、とても気になっていることがあります。以前購入したOperculicarya borealisの実生苗ですが、それが本当にO. borealisであるか良くわからなかったのです。ネットで検索すると何やらそれらしい情報は出てきますが、個人ブログの情報がどこまで正しいか良く分かりません。しかも、オペルクリカリア全種類の見分け方はまったく分からないため、ある種と特徴の一部が一致していても、同じ特徴を他の種も持っている可能性があります。具体的に言うと、O. borealisの葉には毛が生えていると言われますが、私の株にはありません。では、何かと言われると良くわからないのです。

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Operculicarya borealis?

ということで、オペルクリカリアの特徴を記述した論文を見つけましたから、ご紹介しましょう。それは、Armand Randrianasolo & Porter P. Lowry IIの2006年の論文、『Operculicarya (Anacardiaceae) revisited: an updated taxonomic treatment for Madagascar and Comoro Island, with description of two new species』です。この論文では、2種類の新種を説明するために、既存の種の見分け方が記述されています。


①葉軸の翼
 1. 葉軸に翼がある→②へ
 2. 葉軸に翼がない→⑦へ
②小葉の最大の長さ
 1. 小葉の長さは最大20mm以上
         →O. capuronii
 2. 小葉の長さは最大10(-15)mm
  →③へ
③葉に生えた毛
 1. 葉軸上に密な毛がある→④へ
 2. 葉はほぼ無毛。若い葉ではまばらに
  細かい毛がある。→⑥へ
④小葉の葉脈
 1. 葉脈がわずかに残る
  →O. hirsutissima
 2. 葉脈は顕著で裏面で隆起→⑤へ
⑤葉の形
 1. 小葉の先端は平らで、小葉は縁が
  丸まる、葉脈の間に深い空洞
  →O. hyphaenoides
 2. 小葉は楕円から倒卵形、小葉の縁は
  丸まらない、葉脈の間に深い空洞はない
  →O. borealis
⑥枝の形
 1. ジグザグの枝→O. pachypus
 2. 枝はまっすぐ→O. decaryi
⑦葉柄の長さ
 1. 葉柄は0.5mm以下→O. multijuga
 2. 葉柄は1〜4mm→O. gummifera
 
では、実際に謎のオペルクリカリアの特徴を見てみましょう。
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葉軸に羽がありますから②です。小葉は5〜6mmで、最大でも10mmですから③になります。さらに、葉に毛はほとんどないように見えますから⑥です。

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葉の裏面にも毛がありません。葉脈も目立ちません。葉脈が目立つO. hyphaenoidesやO. borealisではないようです。

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茎はジグザグにつきます。以上の特徴からは、O. pachypusということになります。どうやら、O. borealisではないようですね。GBIFの画像データでは、O. pachypusの葉脈は目立ず、O. decaryiの葉脈は主脈が目立ち、O. borealisの葉脈は側脈まではっきりとしていました。
また、O. hirsutissimaは良い画像データがないため、乾燥標本だけでは細かい特徴は良く分かりません。O. hyphaenoidesは葉が巻いて非常に特徴的です。葉軸に翼がないO. multijugaとO. gummiferaは、小葉の先端が尖ります。


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Operculicarya gummifera
『Flora de Madagascar et des Comores』(1946年)より。Poupartia gummiferaとして記載。


ちなみに、2015年には同じArmand Randrianasolo & Porter P. Lowry IIによる『A new species of Operculicarya H. Perrier (Anacardiaceae) from western dry forests of Madagascar』では、9種類目となるオペルクリカリアの新種、Operculicarya calcicolaが説明されました。O. calcicolaは葉軸に羽はなく、小葉は11〜13cmで葉柄は2〜5mmです。O. gummiferaと似ていますが、小葉は3〜6.3cmです。O. calcicolaは小葉や果実、花序軸など、全体的に大型です。

Operculicarya pachypusは爪楊枝くらいの細さの苗でも非常に高額で、今まで買う気になりませんでした。しかし、安いからと何となく購入したO. borealisが、どうやらO. pachypusだったようです。まあ、多肉植物をやるならばオペルクリカリアの1つくらいは育てたいと思っていただけで、O. borealisが欲しかったというわけでもないため、逆に良かったような気もします。
ところで、このオペルクリカリアは異なった名前で販売されていたわけですが、これは名札を間違えたからではなく、おそらくは輸入種子の名札がO. borealisだったのでしょう。このように、異なる名前で多肉植物が販売されるのは珍しいことではなく、私も度々こういう多肉植物に遭遇しています。ネット販売されている多肉植物でも、名前が間違っている場合はそのほとんどが同じ間違いをしていたりしますから、供給元が同じなのかも知れません。
さて、おそらくはO. pachypusであろうという結論に至りましたが、懸念というか心残りはO. hirsutissimaです。葉軸に密な毛がないため、私のオペルクリカリアとは異なる気がしますが、確かな画像データがないのは残念です。とはいえ、基本的に流通していないO. hirsutissimaである可能性はなさそうですけどね。


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近年、海外のソテツが販売されているのを、たまに目にします。よく見るのは、メキシコ周辺に分布するZamiaやDioonです。しかし、多肉植物の即売会ではEncephalartosも販売されていたりすることもあります。Encephalartosは希少かつ高額で、販売に制限があり、取引には国の許可が必要なソテツです。それほど一般的なソテツではないでしょう。国内で販売されるEncephalartosはE. horridusですが、Encephalartosは実は沢山の種類があります。本日はそんなEncephalartosの進化と分布について見てみましょう。参考とするのは、Ledile T. Mankgaらの2020年の論文、『On the origin and diversification history of the African genus Encephalartos』です。

Encephalartosは約65種類からなるアフリカの固有種です。しかし、Encephalartosのうち45種類はアフリカ南部に分布し、中央アフリカで5種類、西アフリカは1種類、北アフリカには分布しないなど、その分布には偏りがあります。この謎を解決するために、遺伝子解析と地理的な拡散の経路の分析を行いました。

以下の系統図は、遺伝子解析の結果から近縁な9グループの関係性を示します。ある程度、分布地域ごとにまとまりがあることが分かります。ちなみに、論文ではアフリカ西部とはベナン、ガーナ、ナイジェリアのギニア湾沿いの国で、アフリカ中央部とはコンゴ共和国、アフリカ東部とはタンザニア、ケニア、ウガンダ、スーダン、アフリカ南部とはザンビア、南アフリカ、モザンビーク、スワジランド、マラウイを指しています。


                        ┏━━A
                          ┏┫ (アフリカ中央部)
                          ┃┗━━B
                      ┏┫  (アフリカ東部等)
                      ┃┗━━━C
                  ┏┫ (アフリカ東部・南部)
                  ┃┗━━━━D
              ┏┫  (アフリカ東部・南部)
              ┃┗━━━━━E(アフリカ南部)
          ┏┫
          ┃┗━━━━━━F(アフリカ南部)
      ┏┫
      ┃┗━━━━━━━G
  ┏┫      (アフリカ東部・南部)
  ┃┗━━━━━━━━H(アフリカ南部)
  ┫
  ┗━━━━━━━━━I(アフリカ南部)

それぞれのグループに含まれる、解析されたEncephalartosを示します。

グループA(アフリカ中央部原産)
E. marunguensis、E. schmitzii、E. poggei、E. schanijesii、E. laurentianus

グループB(アフリカ東部・西部・中央部原産)
E. equatorianus(アフリカ東部原産)、E. bubalinus(アフリカ東部原産)、E. barteri(アフリカ西部原産)、E. macrostrobilus(アフリカ東部原産)、E. ituriensis(アフリカ中央部原産)、E.whitelockii(アフリカ東部原産)、E. tegulaneus(アフリカ東部原産)、E. septentrionalis(アフリカ東部原産)

グループC(アフリカ東部・南部原産)
E. hildebrandtii(アフリカ東部原産)、E. sclavoi(アフリカ東部原産)、E. kisambo(アフリカ東部原産)、E. turneri(アフリカ南部原産)、E. gratus(アフリカ南部原産)
 
グループD(アフリカ東部・南部原産)
E. ferox(アフリカ南部原産)、E. mackenziei(アフリカ東部原産)

グループE(アフリカ南部原産)
E. manikensis、E. concinnus、E. chimanimaniensis、E. pterogonus、E. munchii、E. dolomiticus、E. nubimontanus、E. eugene-maraisii、E. dyerianus、E. cupidus、E. middleburgensis、E. cerinus

グループF(アフリカ南部原産)
E. inopinus、E. umbeluziensis、E. villosus、E. aplanatus、E. caffer、E.ngoyanus
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Encephalartos caffer
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos brachyphyllusとして記載。


グループG(アフリカ南部・東部原産)
E. hirsutus(アフリカ南部原産)、E. delucanus(アフリカ東部原産原産)

グループH(アフリカ南部原産)
E. paucidentatus、E. heenanii、E. lebomboensis、E. aemulans、E. senticosus、E. relictus、E. transvenosus、E. natalensis、E. msinganus、E. woodii、E. altensteinii、E. lehmannii、E. latifrons、E. arenarius、E. horridus、E. trispinosus、E. princeps、E. longifolius
231009203849709~2
Encephalartos horridus(左下)
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos nanusとして記載。


 グループI(アフリカ南部原産)
E. ghellinckii、E. humillis、E. leavifolius、E. brevifoliolatus(絶滅種)、E. lanatus、E. friederici-guilielm、E. cycadifolius


以上が論文の簡単な要約となります。
実際に論文では、分岐年代などを考察していますが、ここでは割愛させていただきます。
さて、系統図を見ると、アフリカ南部がEncephalartosの起源地に見えます。アフリカ南部からアフリカ東部、アフリカ東部からアフリカ中央部とアフリカ西部という道筋をたどりながら進化したのかも知れません。
過去の遺伝子解析の結果からは、不思議なことにEncephalartosは同じアフリカ大陸原産のStangeriaに近縁ではありません。むしろ、Encephalartosはオーストラリア原産のLepidozamia、Macrozamia、Boweniaに近縁です。おそらく、アフリカ大陸とオーストラリアが繋がっていた時に、共通祖先が伝播したのでしょう。ペルム紀から三畳紀にかけて存在したパンゲア大陸では、南極大陸をはさんでアフリカ大陸とオーストラリアがありました。南極大陸からも植物の化石が見つかっていますが、Encephalartosとオーストラリアのソテツの共通祖先の化石が見つかっているのか気になるところです。それはそうと、アフリカ大陸と南極大陸の結合部は、現在のアフリカ南部であることも何やら意味深です。
ソテツの進化と伝播はどのような筋道を辿ったのでしょうか? これからも関係ありそうな論文を読んでいくつもりです。良い論文がありましたら、ご紹介出来ればと考えております。


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メロカクタスは育てたことはありませんが、発達した花座が非常に特徴的なため、ひと目見たら忘れられないサボテンです。私もそれなりに興味があり、メロカクタスの論文を記事にしたことがあります。その論文では、地面に落ちたメロカクタスの果実は、アリが巣に運んだりと、アリが種子の拡散に関与しているというものでした。しかし、論文では何やら気になることが書いてあり、とても気になっていました。曰く、「メロカクタスの果実はトカゲが食べるが…」と、話の前置きとしてさらりと書かれていたのです。どうにもトカゲとサボテンの実が頭の中で結びつかず、長らく疑問に思っていました。そこで、本日はその宿題を片付けるために、メロカクタスの実を食べるトカゲについて書かれた論文を見てみましょう。それは、Vanessa Gabrielle Nobrega Gomesらの2021年の論文、『Endangered globose cactus Melocactus lanssensianus P. J. Braun depends on lizards for effective seed dispersal in the Brazilian Caatinga』です。

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Melocactus spp.
花座から飛び出した果実に注目。

『The Cactaceae』(1922年)より。

Melocactus lanssensianusはブラジルのCaatingaの花崗岩の露頭に固有のサボテンです。M. lanssensianumは国際自然保護連合(IUCN)レッドリストで、絶滅危惧種(EN)に分類されています。また、違法取引が大きな脅威であり、ブラジルのレッドリストでも絶滅危惧種に指定されています。そのため、M. lanssensianumの生態を研究することは、その保護活動のために重要です。
M. lanssensianumはすべての月で果実をつくりました。果実生産のピークは、乾季と雨季の双方でありました。


著者らの観察では、M. lanssensianumには2種類のトカゲが訪れ、果実を食べました。訪れたのは雑食のトカゲである、全長20cmになるTropidurus semitaeniatusと、全長35cmになるTropidurus hispidusでした。T. semitaeniatusはサボテンを登るか、果実めがけてジャンプして、果実を食べました。また、T. semitaeniatus同士で果実を求めて争いが観察されました。T. hispidusは二足歩行で直立し、サボテンに登らずに果実を食べました。
著者らはサボテンの周囲5mに落ちたトカゲの糞を集め、中の種子を数えました。T. semitaeniatusの20個の糞から122個の種子を、T. hispidusの9個の糞から10個の種子が見つかりました。種子の散布は、75%以上がT. semitaeniatus、24%がT. hispidusにより行われてました。
T. semitaeniatusの糞から採取された種子は約85%の発芽率を示しました。これは、実験的に果肉を除去しなかった種子の発芽率41%よりも高い確率でした。


Melocactusは一般に管状の花を咲かせ、ハチドリにより受粉します。しかし、M. lanssensianumは観察期間中で一度も開花せずに結実しました。これは、閉花受粉(Cleistogamy)であり、未開花のまま自家受粉します。この繁殖戦略は、環境ストレスが高い場合や花粉媒介者が少ない生息地に対する適応である可能性があります。

以上が論文の簡単な要約です。
トカゲがメロカクタスの種子散布者であるというのは、中々面白い事実です。閉花受粉が環境や花粉媒介者に関係するかも知れないことも分かりました。一年中果実が生産されるのは、閉花受粉するからであることが分かります。気になっていたことを調べただけですが、大変勉強になる論文でした。


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サボテンの外敵とはなんでしょうか? ほとんどのサボテンはトゲに覆われており、簡単には草食動物に食べられることはないでしょう。アフリカでは、トゲだらけのアカシアの枝をキリンが食べたり、やはりトゲだらけのユーフォルビアをサイが食べたりしています。しかし、アメリカ大陸には大型の草食動物は少なく、ある程度のサイズがあるのは、ヘラジカ、バイソン、リャマ、アルパカ、グアナコ、カピバラ、マーラくらいなものでしょうか。
サボテンの分布を考えると、可能性があるのはグアナコくらいかも知れませんが、サボテンをむしゃむしゃ食べられる感じはしません。ラクダはサボテンを食べたりするらしいので、ラクダの仲間であるグアナコは食べるかも知れません。ちなみに、ラクダは中央アジアの砂漠にフタコブラクダが、アフリカから中東にはヒトコブラクダが分布します。いずれにせよ、ラクダが食べるサボテンは野生化したもので、おそらくはウチワサボテンでしょう。流石にラクダでもFerocactusを食べることは難しいような気もします。
話が脱線しました。サボテンを食べる動物については後で論文をあたるとして、本日の話題はサボテンを食べる外来種が観察されたという論文についてです。その論文は、Felipe S. Carevic & Ermindo Barrientosの2022年の論文、『Efectos de la introduction de fauna aloctona (Canis familiaris) en ecosistenmas aridos: estudio de caso en cactaceae endemics』です。


チリ北部の固有の植物相では、外来動物の影響はあまり評価されていません。著者らはAtacama州のFreirinaにあるサボテン集団に対する外来動物の被害を評価しました。自生するサボテンのうち調査したのは、Copiapoa coquimbanaとEriosyce napina、Eriosyce subgibbosaの3種類です。この論文で問題とされる外来動物とは、まさかの野良犬です。何が起こっているのでしょうか。

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Copiapoa coquimbana(下)
『The Cactaceae』(1922年)より。

著者らの観察により、驚くべきことに野良犬がサボテンを齧っていることが分かりました。もちろん、頭から齧りついたわけではなく、掘り返して根の方からサボテンの内側を上手く齧っているようです。3種類のサボテンでは、そのほとんどでC. coquimbanaが野良犬による被害を受けました。調査期間に被害を受けたサボテンは、VeranoではC. coquimbanaが12個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体、InviernoではC. coquimbanaが15個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体でした。
以前の研究では、Copiapoaは水分と糖分が他のサボテンよりも豊富であるとされており、水分の補給源としてより魅力的なのかも知れません。また、著者らはEriosyceは斜面や岩の隙間に生えるため、野良犬がアクセス出来ない可能性もあるとしています。


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Eriosyce napina(右)
『The Cactaceae』(1922年)より、Malacocarpus napinaとして記載。

以上が論文の簡単な要約です。
犬がサボテンを齧るという思わぬ出来事が発見されたわけですが、それ以上にトゲをこのような形で克服していることにも驚きました。そして、当然ながら野良犬は野生のサボテンにかなりの悪影響を与える新しいファクターとなってしまいました。非常に残念なことです。ただし、サボテンの保護を考えた時に、このような地道な知見が役に立つはずですから、今後に繋げていけたら素晴らしいですね。


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ここ数年、日本ではAgaveがブームとなっています。多肉植物の販売イベントでも、今やAgaveはあちこちのブースで取り扱われるマストアイテムと化しているようです。何が流行るか分からないものです。私は多肉植物の販売イベントで、おまけにもらったAgaveを2種類育てているくらいです。調べてみると、Agaveを中心とした小規模なイベントも、あちこちで開催されているようです。どうやら、ブームはしばらく続きそうですね。
しかし、Agaveを含むリュウゼツラン科植物は乾燥に強く、海外では暖地で野生化して増えてしまい、場合によっては手に負えない外来種となっているようです。そう言えば、リュウゼツラン科のアツバキミガヨラン(Yucca gloriosa)は寒さに強く、日本各地の砂浜で増えてしまい困っているというニュースを見たことを思い出しました。調べてみると、小笠原諸島や奄美群島などの暖地では巨大Agaveであるアオノリュウゼツラン(Agave americana)が野生化しているようです。
さて、本日は場合によっては厄介者と化すリュウゼツラン科植物の野生化の例として、Filip Verlooveらの2019年の論文、『A synopsis of feral Agave and Furcraea (Agavaceae, Asparagaceae, s. lat.) in the Canary Island (Spain)』をご紹介しましょう。

この研究は著者らのカナリア諸島のFuerteventura島、Gran Canaria島、Lanzarote島、Tenerife島での長年に渡るフィールドワークに基づいています。カナリア諸島ではリュウゼツラン科のAgaveとFurcraeaが野生化しています。観察された野生化したAgaveとFurcraeaを以下に示します。

Agave属
Agave亜属
①Section Agave 
 Agave americana
 Agave franzosinii

②Section Ditepalae
 Agave murpheyi
③Section Rigidae
 Agave angustifolia
 Agave fourcroydes
 Agave macroacantha
 Agave sisalana
 Agave aff. tequilana
④Section Salmian 

 Agave salmiana var. salmiana
 Agave salmiana var. ferox
⑨Section Vivipara

 Agave vivipara

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アオノリュウゼツラン Agave americana
カナリア諸島ではすべての島から知られています。


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Agave angustifolia
『Botanical Museum leaflet』(1974-1976年)より、Agave pacificaとして記載。
A. angustifoliaは最も普及したアガヴェで、原産地はメキシコ北部からパナマまでです。非常に簡単に野外に逸出することで知られています。例えば、フロリダ州、南アフリカ、インド、西オーストラリア、スペイン、イタリアなどで記録されています。


Littaea亜属
①Section Heteracantha
 Agave lechuguilla
 Agave oteroi
②Section Inermes

 Agave attenuata
④Section Littaea

 Agave filifera

Furcraea属
Furcraea亜属

 Furcraea foetida
 Furcraea hexapetala
 Furcraea selloana


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Furcraea foetida
『Gartenflora』(1852年)より、Furcraea giganteaとして記載。
F. foetidaは暖地で広く栽培され帰化しています。ハワイ、マダガスカル、ニュージーランド、レユニオン島など島嶼部だけではなく南アフリカやブラジルでも報告されています。

以上が論文の簡単の要約です。
論文ではカナリア諸島で見つかったアガヴェとフルクラリアの詳細な解説があり、非常に長いものです。長すぎてすべて記事には出来ませんでした。しかし、随分な種類が逸出してしまっているようです。
カナリア諸島は温暖なためか、アガヴェが簡単に野生化してしまうようです。野外でのアガヴェ栽培が中々困難な日本からしたら羨ましいようにも思えます。ところが、アガヴェは簡単に野生化して環境に悪影響を与えてしまうため、世界中の温暖地で問題となっています。カナリア諸島では簡単にドライガーデンでアガヴェを育てられそうですが、逸出を考えたら気軽にアガヴェを育てるのも考えものかも知れませんね。


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サボテンは強烈な日照や厳しい乾燥など、様々な環境ストレスに耐え忍んでいます。しかし、その特徴や仕組みについては、意外にもあまり研究されていないようです。そんな中、ギムノカリキウムの環境ストレスへの耐性についての、今年出たばかりの論文を見つけました。それは、Maria E. Soto Acostaらの2023年の論文、『Adaptative Strategie in Gymnocalycium species (Cactaceae) and the Prerence of Ectomycorrhizae Associated with Survival in Arid Environments』です。早速、見ていきましょう。

Gymnocalyciumについて
Gymnocalycium属はパラグアイ、ブラジル、ボリビア、ウルグアイ、アルゼンチンに分布しており、7亜属約60種が知られています。アルゼンチンのCatamarca州には約14種のGymnocalyciumが分布しています。その中でも、Gymnocalycium亜属のG. baldianumとG. marianae、Trchomosemineum亜属のG. stellatum、Microsemineum亜属のG. oenanthemumの4種類は固有種です。研究では自生する標高と降雨量が異なるG. marianaeとG. oenanthemumを用いました。解析のために、自生地のサボテンの根を採取しました、また、2種類のサボテンの種子を採取し、播種して3.5年生植物を研究に用いました。

G. marianae
G. marianaeはAndalgalaの標高1600〜1800mに分布します。Sierra de Ambatoの北斜面に育ち、水と風による侵食を受ける起伏のある丘にあります。年間の平均降水量は約380mmで、5〜9月は乾季となり月間降水量は10mm以下です。年間平均気温は約9.5℃で、4月から10月、あるいは11月に霜が発生します。この地域の植生は乏しいようです。この地域には16世紀半ばまでインカ人が住んでいました。
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Gymnocalycium venturianum
『Cactus handbook, 1876-1951』(1951年)より。
現在、G. marianaeはG. baldianumの異名となっているようです。G. venturianumはG. baldianumの異名の1つ。


G. oenanthemum
G. oenanthemumはAmbato、San Fernando、Capayan、Catamarcaの標高500〜1000mに分布します。研究ではAmbatoのSierra de Ambatoの東斜面から採取されました。年間の平均降水量は約670mmで、4〜9月に乾季があります。
年間平均気温は15℃で4月から10月には霜が発生します。この地域は豊富な植生と野良牛がいます。G. oenanthemumは低木や草により日照から保護されることがあります。

サボテンの外生菌根
サボテンは根の内部に侵入する内生菌根と共生することが、知られています。内生菌根はアーバスキュラー菌という非常に多くの植物と共生可能な共生菌です。しかし、本研究においてサボテンでは初めて外生菌根が発見されました。また、G. marianaeの方が高い菌根菌着生率でした。
アーバスキュラー菌とは異なり、外生菌根をつくる菌類は大型のキノコをつくる担子菌や子嚢菌からなります。菌根菌は一般的に植物の水分と養分の収集、および植物の環境ストレスへの耐性が指摘されます。Gymnocalyciumで発見された外生菌根は、乾性環境への耐性に適応するために意味があるのかも知れません。

構造と成分分析
植物の表面で水分の蒸発を防ぐクチクラ層は、G. oenanthemumよりG. marianaeの方が、密度も高く厚みがありました。また、環境ストレスに耐性が上がるフラボノイドやカロテノイドも、やはりG. oenanthemumよりもG. marianaeの方が高いことが分かりました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. marianaeはG. oenanthemumと比較すると、日照や気温、乾燥などより厳しい環境に生えることが分かります。G. marianaeは環境ストレスに耐えるために、厚いクチクラや含有成分の高さだけではなく、外生菌根に適正を示し、より高い環境ストレス耐性を獲得しているようです。サボテンも環境に適応するために、様々な工夫をしていることが伺えますね。そう言えば、菌根についてはあまり話題とならず、残念ながらその重要度と比べてそれほど周知されていないように思います。当ブログではいくつか菌根関連の記事を書いてきましたが、これからも何か面白い論文がありましたら取り上げていきたいと思っております。


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美しい花は我々を楽しませてくれますが、中には地味で奇妙な花を咲かせる植物も存在します。基本的に花は昆虫などの花粉媒介者へのアピールですから、それなりに目立つものが多いのです。では、地味は色合いの花にはどのような意味があるのでしょうか?
日があまり当たらない森林の林床には、肉色(腐肉)と評される、赤黒い花を咲かせる植物がいくつかあります。代表的なのはラフレシアで、腐臭を出してハエを誘っていると言われています。ラフレシアは割と明るい色合いですが、Bulbophyllum属(着生ラン)、Brachystelma属(ガガイモ科の塊根植物)、Aristolochia属(ウマノスズクサ属、ツル性)の中には、暗い色合いの花を咲かせるものが多いようです。神代植物公園に行った折、大温室でAristolochiaの不思議な花を見ることが出来ました。このAristolochiaはやはりハエを呼び受粉するタイプの植物で、中には訪れたハエを閉じ込める罠を持つものもあるそうです。しかし、調べるうちに、ハエと面白い関係を結んだAristolochiaがあるという論文を見つけました。それは、Shoko Skaiの2002年の論文、『Aristolochia spp. (Aristolochiaceae) Pollinated by files breeding on decomposting flower in Panama』です。

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Aristolochia gigantea(神代植物公園)
人の顔くらいある巨大の花です。例によって肉色の花。Aristolochiaは、種類によって柑橘系だったり腐敗臭だったりと、様々な臭いで昆虫を呼びます。


この研究はパナマの乾季の森林で実施されました。観察したのは、Aristolochia maximaとAristolochia inflataです。A. maximaはフロリダ南部からパナマまで、A. infataはメキシコ南部からパナマまでに分布します。調査地では高さ10〜30mの高さで開花しました。A. maximaの花の一部は低い幹にもつきました。

A. maximaの花に訪れる昆虫の53%がMegaselia sakaieというハエで、そのうち99.7%がメスでした。19%は数種類のショウジョウバエで、そのうち58%はメスでした。訪れたハエは、花の蜜をなめる様子が観察されました。A. inflataを訪れたハエはM. sakaieのみで、すべてメスでした。ハエが花に訪れて数日後にM. sakaieの幼虫が現れ、腐った花を食べながら育ちました。

A. inflataの主要な花粉媒介者はM. sakaieですが、A. maximaは異なるようです。A. maximaの花を訪れたM. sakaieを調べると、非常に少数の花粉しか付着していませんでした。これは、M. sakaieの花を訪れてからの行動の違いによると考えられます。A. maximaの花粉媒介者はショウジョウバエである可能性がありますが、少数ですが花に来る甲虫も受粉に関与するかも知れません。

花粉媒介者はA. maximaやA. inflataの花を訪れるのは、おそらくは臭いと花の色によると思われます。Aristolochiaに関する研究のほとんどが、Aristolochiaは腐肉臭や糞便臭、キノコ臭などを模倣し、花粉媒介者のハエが騙されて花を訪れると説明しています。ハエに対するA. maximaやA. inflataの報酬は、蜜と繁殖場所の提供です。他の種類のAristolochiaでは、ハエを閉じ込めるものもあり、場合によってハエは閉じ込められたまま死んでしまうこともあります。この場合の花の蜜は花の外にあり、閉じ込められたハエの食糧にはなりません。蜜はハエをおびき寄せるためのものだからです。しかし、A. maximaやA. inflataは、ハエを閉じ込めずに蜜を与えます。これは、ハエの産卵に必要である可能性があります。ほぼメスしか訪れないM. sakaieとは対照的に、ショウジョウバエはオスも訪れます。これは、A. maximaの花が産卵だけではなく、交尾の場所でもあるからかも知れません。ハエを罠に掛けるAristolochiaより、A. maximaやA. inflataはより進んだ共生関係を示しているのかも知れません。


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Aristolochia spp.
『Monatsberichte der Koniglichen Preussische Akademie des Wissenschaften zu Berlin』(1859年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
ハエは報酬の蜜と産卵場所のために、2種類のAristolochiaの花を訪れます。Aristolochiaからしたら、蜜だけではなく産卵行動まで含めて、滞在時間を増やして受粉率を上げているのかも知れません。特にA. inflataは、花にM. sakaieしか訪れていないことから、より深く共生関係を結んでいるようです。このような関係が進めば、やがて植物と花粉媒介者が互いに不可欠な存在となる絶対共生となるのかも知れませんね。
しかし、花を食べさせるという特殊な関係が結ばれていることに改めて驚かされます。しかし、
A.maximaの花は赤褐色でいかにもハエを呼び寄せそうな花色ですが、A. inflataの花は黄色です。個人的にはこの点が気になります。M. sakaieは黄色に強く引き寄せられたりするのでしょうか? とても不思議です。


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先日開催された「9月のサボテン・多肉植物のビッグバザール」にて、Euphorbia hedyotoidesという塊根植物を入手しました。私が入手したのは非常に小さな実生苗ですが、育つと塊根から伸びる細長い枝と、細長い葉が面白い多肉植物です。E. hedyotoidesを詳しく調べてみようとしましたが、中々調べる時間が取れないため安直に論文を探したところ簡単に見つかったので、では記事にしようということになりました。その論文は、Wernner Rauhの1992年の論文、『The growth-form of Euphorbia hedyotoides N.E.Br. (syn. E. deceriana Croiz.)』です。

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Euphorbia hedyotoides N.E.Br.

E. hedyotoidesの発見
マダガスカル南部のAmbosaryとFort Dauphinの、Didierea科の茂みには、Euphorbia hedyotoidesが見られます。1934年にL. Croizat によりEuphorbia decarianaとした記載されましたが、Leandri(1962)によると1909年にN. E. BrownによりEuphorbia hedyotoidesとしてすでに記載されていると言うことです。Euphorbia hedyotoidesはアフリカではゴム用(caoutchouc)植物として栽培されており、N. E. Brownは旧ドイツ領東アフリカのAmaniにあるManboの植物に因んでいると説明しています。

塊根と異形根
E. hedyotoidesは、高さ1〜1.5mの低木で、大きな塊根が地下にありサッカーボールくらいの大きさになる可能性があります。塊根は胚軸と一次根が膨れたものです。E. hedyotoidesは異形根性(※1)で、塊根は水を貯蔵し、塊根の上部にある側根は水を吸収します。側根は地表から数ミリメートル下に広がっています。

(※1) 異形根性(heterorhizy): 同じ個体で明らかに形態の異なる根を持つこと。

短枝と長枝
若い段階では、一次枝が高さ20〜30cmほど長く伸びます。枝の先端は短枝(brachyblast)となり、そこから放射状に新たな長枝が出て来ます。短枝は徐々に生長し、数年で3〜5cmとなります。葉は一番若い短枝から出ます。


E. hedyotoidesの花は雌雄異株ですが、稀に雌雄同株も見られます。
E. hedyotoidesの花(cyathia)は非常に小さく、ほとんどが単独につきます。花には短い葉柄があり、2つの緑がかる苞葉(cyathophyll)に包まれています。総苞(involucrum)は非常に小さく高さと厚みは2mmで、緑色の腺(grand)は直立し1mmほどです。


分類
E. hedyotoidesの分類は不明です。Leandri(1962)は、E. neohumbertiiやE. viguieriを含むEuphorbia lophogoraグループに分類しましたが、これは間違いです。著者はE. hedyotoidesをE. elliotiiと共に同じ新しいグループとすることを提案します。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
E. hedyotoidesは奇妙な枝分かれをするようですが、Rauhはこれを「hedyotoides型分岐」と呼んでいるようです。しかし、E. hedyotoidesの短枝の画像を見ていたら、何やら見覚えがあることに気が付きました。E. bongolavensisの短枝と良く似ているのです。
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Euphorbia bongolavensisの短枝(枝の先端の模様が入った部分)

Thomas Haevermansの2006年の論文では、E. hedyotoidesやE. bongolavensisを含むグループを、「pyrifoliaグループ」としており、狭義のsection Denisophorbiaに含まれるとしています。やはり、E. millotiiやE. bongolavensisも同じグループに含まれるようです。

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Euphorbia bongolavensisの「hedyotoides型分岐」
短枝から数本の長枝が出て、その長枝の先端には新しい短枝が形成されます。


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アロエ属は2010年代前半に大幅な改訂が順次行われました。アロエ属からの分離と、アロエ属に近縁な仲間のアロエ属への統合という出来事が行われ、ハウォルチアやガステリアも絡めて整理されたのです。しかし、名前が変わってしまうと、過去に様々な文書に書かれた植物名と矛盾してしまうため、それらの文書は改訂が必要となります。その中でも特に急務なのはワシントン条約(CITES)でしょう。CITESは絶滅が危惧される動植物の国際取引を規制していますから、植物名が変わったことにより混乱をきたす可能性があるからです。そのため、アロエ属の改訂に伴い、研究者からCITESへの勧告が行われてました。それは、Olwen
M. Grace & Ronell R. Klopperの2014年の論文、『Recommendation to the CITES Plants Committee: Name changes affection Aloe and related genera』です。アロエ属の改訂に関しては、当ブログでも度々取り上げてきましたから今更かも知れませんが、その過程や勧告も重要と思い今回ご紹介する次第です。


Aloe L.は、アフリカ大陸、アラビア半島、ソコトラ島、マダガスカル、インド洋のセイシェル、マスカリン、コモロ諸島に約575種類自生します。いくつかのアロエは地中海やインド、南北アメリカの一部、カリブ海、オーストラリアに侵略的、あるいは帰化しています。多くの多肉植物と同様にアロエも愛好家により収集され、園芸的に広く使用され取引されます。

系統学的研究により、アロエ属には変更が加えられました。アロエ属に含まれていた種から、Aloidendron属、Aloiampelos属、Kumara属が独立し、逆にChortolirion属がアロエ属に統合されました。
変更は以下の通り。

1, Aloiampelos ciliaris
 旧学名
    Aloe ciliaris
2, Aloiampelos ciliaris var. redacta
 旧学名
    Aloe ciliaris var. redacta
3, Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii
 旧学名
    Aloe ciliaris var. tidmarshii
    Aloe tidmarshii
4, Aloiampelos commixta
 旧学名
    Aloe commixta
5, Aloiampelos decumbens
 旧学名
    Aloe gracilis var. decumbens
    Aloe decumbens
6, Aloiampelos gracilis
 旧学名
    Aloe gracilis
7, Aloiampelos juddii
 旧学名
    Aloe juddii
8, Aloiampelos striatula
 旧学名
    Aloe striatula
9, Aloiampelos striatula var. caesia
 旧学名
    Aloe striatula var. caesia
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Aloiampelos striatula var. caesia

10, Aloiampelos tenuior
 旧学名
    Aloe tenuior
11, Aloidendron barberae
 旧学名
    Aloe barberae
    Aloe bainesii
12, Aloidendron dichotomum
 旧学名
    Aloe dichotoma
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Aloidendron dichotomum

13, Aloidendron eminens
 旧学名
    Aloe eminens
14, Aloidendron pillansii
 旧学名
    Aloe pillansii
    Aloe dichotoma subsp. pillansii
15, Aloidendron ramosissimum
 旧学名
    Aloe ramosissima
    Aloe dichotoma var. ramosissima
    Aloe dichotoma subsp. ramosissima
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Aloidendron ramosissima

16, Aloidendron tongaensis
 旧学名
    Aloe tongaensis
17, Kumara plicatilis
 旧学名
    Aloe plicatilis
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Kumara plicatilis

18, Aloe welwitschii
 旧学名
    Haworthia angolensis
    Chortolirion angolense
19, Aloe subspicata
 旧学名
    Haworthia subspicata
    Chortolirion subspicatum
20, Aloe barendii
 旧学名
    Haworthia tenuifolia
    Chortolirion tenuifolium
    Aloe tenuifolia
21, Aloe juppeae
 旧学名
    Chortolirion latifolium
    Aloe aestivalis

以上が勧告の内容です。
アロエ属は大きく様変わりしました。しかし、この勧告の後も改訂は続きました。簡単に解説しましょう。
1つは、マダガスカルやマスカリン諸島に分布するLomatophyllum属が、アロエ属に吸収されたことです。現在では、Lomatophyllum属に含まれていた種類同士が必ずしも近縁ではないことが明らかとなっています。
2つ目は、2014年のGonialoe属の独立です。Gonialoe属は旧学名Aloe variegataなど、3方向に葉を揃えて出すほぼトゲのないアロエで、現在3種類が認められています。また、新種が発見されていますが、学術的な検証はこれからでしょう。
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Gonialoe sladeniana

3つ目は、2014年のAristaloe属の独立です。Aristaloe属は旧学名Aloe aristataのみからなる1属1種のアロエです。
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Aristaloe aristata

4つ目は、2019年にAloestrelaが追加されたことです。これは、Aloe suzannaeがAloestrela suzannaeとして独立したものです。しかし、同じく2019年のPanagiota MalakasiらのAloidendron属の遺伝子を解析した論文では、Aloestrela属は明らかにAloidendron属に含まれることが分かりました。まだ、データベースではAloestrela属は健在ですが、いずれAloidendronとされるかも知れません。また、2014年に新規にAloidendron属とされたAloidendron sabaeumは、同論文ではAloidendron属ではなくAloe属であるとしています。こちらもこれから検証されるのでしょう。

その他の細々とした変更や追加についても、少し触れておきましょう。1つ目は、2014年にAloe haemanthifoliaがKumara haemanthifoliaとされました。2つ目は、上の一覧のNo. 20のAloe barendiiですが、現在ではAloe bergerianaとされています。ちなみに、Chortolirion tenuifolium、Chortolirion bergerianum、Chortolirion stenophyllumは同種とされ、Aloe bergerianaの異名となっています。3つ目は、上の一覧のNo. 10のAloiampelos tenuiorですが、2022年に変種であるAloiampelos tenuior var. ernstiiが新たに記載されました。
まあ、こんなところでしょうか。これからも新種は発見されるでしょうし、遺伝子解析も進行していくでしょう。しかし、いくらかの追加や変更はあるかも知れませんが、大枠は変わらないかも知れません。アロエ属は気になっているので、これからも注視していきたいと思います。


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外来種は日本でも問題となっていますが、この問題は国内のみならず世界中で起きています。昔から木材やコンテナに紛れて害虫が侵入したり、ペットとして持ち込まれたアライグマやミシシッピアカミミガメが捨てられて野外で繁殖してしまっているケースなどがあります。しかし、近年ではオンライン取引により、個人的に植物を輸入するケースが増えて来ました。しかし、その中には違法なものも含まれている可能性があります。現状ではオンライン取引に対する監視の目がゆるいため、違法取引の最大の懸念点となっています。ということで、本日は植物のオンライン取引について調査した、Jacob Maherらの2023年の論文、『Weed wide web: characterising illegal online trade of invasive plants in Australia』をご紹介します。

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ホテイアオイ Pontederia crassipes
一般的にはEichhornia属とされますが、現在はPontederia属とされているようです。
『Nova genera et species plantarum』(1823年)より。


オーストラリアはすでに29000種以上に及ぶ外来植物が導入されており、在来植物は深刻な影響を受けています。そのため、オーストラリア政府は厳格な輸入措置とリスク評価を実施しています。管理措置は州政府が行い、管轄区域におけるその分類群の取引の禁止を「宣言」します。宣言された植物は、供給、販売、輸送が禁止され、違反に対しては罰金が科せられます。しかし、ウェブ取引では実店舗がなくでも良く、簡単に郵送されたりと、従来の措置を回避する可能性があります。国際郵送はあまりにも多いため、すべてを調べることは困難です。

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Orbea variegata(上)
ガガイモ科の多肉植物で、スタペリアと同様に星型の花を咲かせます。
『Hortus botanicus panormitanus』(1877年)より、Stapelia atrataとして記載。

著者らはウェブサイトの植物取引広告を1年間監視し、植物の取引を記録しました。結果、1年間で235162件の植物広告を収集し、10000件はいずれかの州で取引が禁止されている種類でした。最も収集された違法植物は、ウチワサボテンと水草でした。ウチワサボテンは、Opuntia microdasys(金烏帽子)やOpuntia monacantha(単刺団扇)、Opuntia ficus-indica(大型宝剣)、あるいは他のウチワサボテンも取引されました。水草は、Eichhornia crassipes(ホテイアオイ)やLimnobium laevigatum(アマゾントチカガミ、アマゾンフロッグビット、現在の学名はHydrocharis laevigata)が一般的でした。また、頻繁に検出された侵入植物は、Zantedeschia aethiopica(オランダカイウ、Calla)やGazania、Hedera helix(セイヨウキヅタ、アイビー)、Lavandula stoechas(フレンチラベンダー)、Rubus fruticosus(ブラックベリー)、Orbea variegata、Azadirachta indica(インドセンダン、neem)でした。

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大型宝剣 Opuntia ficus-indica(左)
『The illustrated dictionary of gardening』(1884-1888年)より。


ウチワサボテンは簡単に増やすことが出来ますが、トゲがやっかいなため、増えすぎると最終的には処分に困ることになります。その結果、ウチワサボテンは投棄されることがあるようです。また、ウチワサボテンの処分に困り、売却したいと思っている人もいるようです。

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Calla(左上)
『Beautiful flowers』(1890年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
オーストラリアは有袋類など固有種の宝庫です。同じように植物も固有種が多く、独自の生態系があります。オーストラリア政府も固有種を守るために、規制はかなり厳しくしているようですが、現実問題として違法な植物の取引は行われてしまっています。ウチワサボテンなどは鉢に植えていなくても、節で切ってお手軽に発送可能です。簡単に挿し木で発根しますし、乾燥地のオーストラリアでは野外でもよく育ちます。実際にオーストラリアでウチワサボテンが増えすぎて、対応に困っているという報道を見たことがあります。1年中野外でサボテンを育てられるというのは羨ましい話ですが、環境が合いすぎるというのも、それはそれで困ったことのようです。

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金烏帽子 Opuntia microdasys(右下)
しかし、刺さって抜けない芒刺のせいで、増えすぎた金烏帽子を取り除くのは大変そうです。
『The Cactaceae: description and illustrations of the catus family』(1919年)より。


さて、この違法オンライン取引はオーストラリア特有の問題ではないでしょう。インターネットは世界中のあらゆる国を結んでいますから、違法オンライン取引はすべての国で行われているのものと考えても良いかも知れません。日本ではどうでしょうか? 私にはその実態は分かりませんが、法的な問題は別にして、風潮としては違法取引に対する問題意識は薄いように感じられます。外国語の苦手な日本人は海外との取引は少ないような気もしますが、実際は分かりません。
最後に蛇足ですが、論文のタイトルの「Weed wide web」はURLのwww、つまり「world wide wide」をもじったものでしょう。wwwは世界中のウェブサイトをハイパーテキストでつなぐシステムのことらしいのですが、実質これはインターネットと同義となっているようです。ですから、「Weed wide web」は、インターネットを介したオンライン取引を示唆しています。しかし、この「Weed」とは雑草のことですが、実際には取引されるのは観賞用の植物であり、実態に合わないような気もします。よく調べると、「Weed」には雑草から転じて、庭や畑の望ましくない植物を指す意味もあるようです。ウチワサボテンは庭に植えられている時は好ましくても、敷地から逸出してしまえば生態系を脅かす「望ましくない植物」になってしまうということでしょう。


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植物の花は受粉し種子を作るための器官です。豊富な蜜や花粉は、花粉を運び受粉を手伝ってくれる受粉媒介者への報酬です。しかし、中には花そのものを食べてしまったりして、受粉を妨害してしまうような動物もいます。これを、とりあえず「送粉系撹乱」と呼ぶことにしましょう。さて、そんな送粉系撹乱の例を探してみたところ、Lophophoraを調査した論文が見つかりました。それは、Maria Isabel Briseno-Sanchezらの2022年の論文、『Biotic interaction prior to seed dispersal determine recruitment probability of peyote (Lophophora diffusa, Cactaceae), a threatened species polmllinator-dependent』です。Lophophoraは受粉にとって重要な蜜や花粉が少ない植物と言われています。報酬が少ない場合、送粉系撹乱を受けやすいような気もしますが実際はどうなのでしょうか?

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Lophophora williamsii
L. diffusaの良い図がなかったのでL. williamsiiで代用。
Echinocactus williamsiiとして記載。
『Gesambescheibung der Kakteen』(1898年)より


Lophophora diffusaはチワワ砂漠の固有種です。L. diffusaは自家受粉せず、必ず相手が必要な他家受粉花です。開花期間は長く、甲虫やバッタ、ミツバチが訪れます。果実は小さく受粉後2ヶ月ほどで成熟しますが、種子は少なく1つの果実に40個未満です。種子はエライオソーム(蟻に運んでもらうための栄養)があるため、蟻により拡散しているようです。また、種子は水が染み込まず水に浮くため、雨により流される可能性もあります。

試験はメキシコの標高1438mにあるQueretaro州Penamillerで実施されました。植生はLarrea tridentata、Fouquieria splendens、Mimosa sp.、Bursera sp.などの低木が優勢です。
L. diffusaの花の蜜量を測定しましたが、22%の花は蜜がありませんでした。最も蜜量が多い花でも0.36μL(0.00036mL)に過ぎず、平均は0.054μLであり0.1μLを超えることはほとんどありませんでした。
花には甲虫(Acmaeodera=フナガタタマムシ属)と数種類のミツバチ(Macrotera、Lasioglossum、Ashmeadiellaなど)が訪れました。観察した年により甲虫が優勢の場合もミツバチが優勢な場合もありました。また、受粉率は年により変動が激しいものの、結実はほとんどが開花した花の半分以下でした。


乾燥地では水の少なさがストレスとなり、蜜の生産に悪影響を及ぼします。蜜の減少は花と花粉媒介者の相互作用を減らし、受粉率を低下差させる可能性があります。また、L. diffusaの花粉媒介者の訪問率は非常に低く、訪問者の少なさが受粉率の低さの原因かも知れません。他とは研究では、L. diffusaの花に人工的に花粉をつけると、種子が20%も増えることが示されています。

以上が論文の簡単な要約です。
L. diffusaは蜜の量が少なく、蜜がない花まであることが分かりました。そのことが花粉媒介者である昆虫にとって魅力的ではないことは明白で、訪問者の少なさは種子生産に悪影響を及ぼしています。論文では水の少なさがストレスとなるとありますが、水の量と蜜の量には相関があるのでしょうか。そうであるならば、栽培している個体は蜜量が豊富ということになります。しかし、本来L. diffusaは乾燥地に適応しているはずです。乾燥化が進み蜜生産量が減少したというのなら分かりますが、環境に適応した結果がただ示されただけのような気がします。要するに、沢山の種子を作れない代わりに、蜜の生産を最小限にしているのかも知れません。蜜が少なかったりなかったりしても、花が咲いていればとりあえず昆虫は訪れるでしょう。群体性のミツバチなら蜜がなければ仲間を呼びませんが、単独性のミツバチなら花が咲いていれば騙されて花を訪れるでしょう。花粉を目当てに訪れることも考えられますが、花粉媒介者とは基本的に一過性の付き合いなのかも知れませんね。



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最近、イベントや園芸店でウチワサボテンを以前より目にするようになりました。流通の兆しでしょうか? 思うにゲオメトリクスや武蔵野などのテフロカクタスが先鞭をつけたような気もします。しかし、ウチワサボテンの仲間はよく似ており、見分けるのは中々困難です。ただし、新しい枝を重ねる特徴から一目でウチワサボテンと分かります。
ウチワサボテンはOpuntia属とされてきましたが、やがていくつかの属が独立しました。しかし、ここいら辺の事情はよく分かりませんから、少しずつ調べてみることにしました。本日はウチワサボテンの分類について書かれた、Matias Kohlerらの2021年の論文、『"That's Opuntia, that was!", again: a new combination for an old and enigmatic Opuntia s. l. (Cactaceae)』をご紹介します。

Opuntia schickendantziiは、Catamarca & Tucumanの資料に基づいて1898年に記載された古くて謎めいた種で、Cylindropuntia亜属とされました。種の説明は、アルゼンチン北西部の山岳地帯とボリビアに沿って分布している、緑色で光沢のある枝、トゲのあるアレオーレ、エメラルドグリーンの柱頭を持つ黄色の花などの特徴で示されました。命名後は形態学的特徴から、Cylindropuntia属、Austrocylindropuntia属、Salmiopuntia属で暫定的に扱われました。しばしば、「地位が不確定(incertae sedis)」とされました。

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Opuntia schickendantzii
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


2012年に遺伝子解析によりO. schickendantziiがBrasiliopuntiaのグループであることが示され、2014年にBrasiliopuntia schickendantziiが提案されました。しかし、地理的にO. schickendantziiとBrasiliopuntiaを結びつける形態学的特徴はありません。さらに、研究で使用された資料は、アリゾナのBoyce Thompson樹木園の「Lion's Tongue」と呼ばれる栽培された個体由来であることが判明しました。

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Brasiliopuntia brasiliensis
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


著者らは2006年から2019年にかけて、南アメリカ南部の主要な生態地域を網羅するフィールドワークを実施しました。採取されたウチワサボテンの遺伝子を解析しました。解析結果を以下に示します。

               ┏━━━━Opuntia spp.
               ┃
           ┏┫        ┏━Tacinga spp.

           ┃┗━━┫

           ┃            ┗━Brasiliopuntia brasiliensis
           ┃
           ┃                ┏S. salminiana1
           ┃            ┏┫
           ┃            ┃┗S. salminiana2
           ┃        ┏┫
           ┃        ┃┗━S. salminiana3
           ┃       

           ┃    ┏┫┏━O. schickendantzii
           ┃   
┃┗┫
           ┃   
┃    ┗━S. salminiana4
           ┃
┏┫
       ┏┫┃┗━━━Tunilla spp.           
       ┃┗┫
       ┃    ┗━━━━Miquelliopuntia miquelii
   ┏┫
   ┃┗━━━━━━Consolea
   ┫ 
   ┗━━━━━━━Out group


※「spp.」とは複数種を含むという意味です。

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Salmiopuntia salminiana
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より

遺伝子解析の結果から分かったことは、O. schickendantziiはSalmiopuntiaに含まれるということです。さらに、4つの産地から採取したSalmiopuntia salminianaは3個体はまとまりがありましたが、1つの個体はO. schickendantziiと近縁でした。
ちなみに、2012年に解析された「Lion's Tongue」は、Brasiliopuntiaに含まれることが分かりました。このBoyce Thompson樹木園のウチワサボテンは野生のO. schickendantziiと比較した結果、特徴がまったく異なることが明らかになりました。このタイプのウチワサボテンは栽培されたものが世界中で野生化しており、オーストラリアやスペインなどでも誤ってO. schickendantziiの名前で報告されています。このウチワサボテンは「Lion's Tongue」という名前で市販されていますが、起源は不明であり交配種である可能性もあります。


以上が論文の簡単な要約です。
この論文は、あまり情報がないOpuntia schickendantziiがSalmiopuntiaに属するということを示したものです。このように、少しずつ研究は進んでいます。形態学的な分類から遺伝学的な分類に徐々に移行しつつあります。Opuntiaは分解され、現在のウチワサボテンはOpuntia sensu stricto(狭義のOpuntia)となっています。ウチワサボテンの仲間全体は今どうなっているのでしょうか? これからも、徐々に調べていくつもりです。



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常々、サボテンや多肉植物の原産地の環境を詳しく知ることができたら、栽培する上で何かしらの参考になるのではないかと考えたりもします。しかし、残念ながらサボテンや多肉植物の原産地の情報というものは、調べてもよくわからないものが多いように思われます。原産地の環境を再現出来るでもなし、試行錯誤するしかないと言われてしまえば、それまでかも知れませんけどね。まあ、純粋な興味からも知りたいとは思います。とは言うものの、よくよく考えたてみると、乾燥地が原産のサボテンや多肉植物が、まったく異なる環境の日本で育つというのも不思議な話です。サボテンや多肉植物は、どの程度の環境の違いならば許容出来るのでしょうか? その回答になるかは分かりませんが、メロカクタスの本来生える環境とは異なる土壌で栽培してその影響を調べた、Maxlene Maria Fernandes & Jefferson Rodrigues Macielの2023年の論文、『Adaptive potential of Melocactus violaceus Pffeiff (Cactaceae) to clay soils』をご紹介しましょう。

現在、地球温暖化による海面上昇が懸念されており、まず起こることとして海岸線の破壊が挙げられています。海岸線に近い沿岸地域の植物の生息地が短時間で減少してしまうかも知れません。例えば、ブラジル沿岸のrestingaと呼ばれる砂地の沿岸植物が危機にさらされる可能性があります。restingaの植物群落は、草本から森林まで、いくつかの植物相からなります。restingaは海との距離に大きく影響され、高い塩分、高温、強光、強風、栄養不足、貧者な水などに対処するために、植物は適応を示します。Melocactus violaceus Pffeiffは、restingaの絶滅危惧種の1つです。M. violaceusはrestingaと川の砂丘、つまりは砂地に生えるサボテンです。特定のタイプの土壌に適応した植物は、分散力が限られます。しかし、沿岸地域の都市化に伴い、砂地の環境を失った樹木が粘土質の土壌に進出していることが観察されています。同じrestingaの白い砂地に生えるM. violaceusはどうでしょうか?

230911215119678~3
Melocactus violaceus
Cactus melocactoidesとして記載(1923年)。


著者らはM. violaceusの種子を採取し発芽させました。発芽180日後、3種類の土壌で育てました。1つ目は砂と堆肥を等量、2つ目は粘土と堆肥を等量、3つ目は砂が1/4と粘土が1/4と堆肥が1/2とした中間のものです。栽培は180日間行われ、苗のサイズが測定されました。
栽培の結果、M. violaceusの苗の生長は、砂≧砂+粘土>粘土でした。砂質土壌がM. violaceusの実生にどって理想であることが分かります。粘土質土壌でも定着する可能性はありますが、実生の初期生長に制限を課します。砂質土壌は一般的に栄養素に乏しく、生える植物は根系が特殊化しています。M. violaceusも砂粒に強く付着する非常に発達した根系を持っています。
このような根の特殊化はDiscocactus placentiformisなどの他の種類のサボテンでも見られ、根が砂粒との付着と吸収面積を増加させる物質の放出がおきる「砂結合」と呼ばれる機能を持ちます。砂結合という適応を示す植物は、リンの取り込みに不可欠なカルボキシラーゼやホスファターゼを大量に放出します。砂結合は窒素ではなく、砂質土壌ではリンの制限に適応しています。


以上が論文の簡単な要約です。
単に環境の違いだけではなく、根の特性が環境適応の結果として異なるのですから、土壌の違いはクリティカルに生長に響くというのは納得のいく話です。とはいえ、著者らの試験では粘土質土壌でもまったく育たないわけでもありませんでした。これは、環境破壊による生息地の減少に対し、M. violaceusの環境適応への可能性を示したという趣旨なのでしょう。しかし、残念ながらそう上手くは行かないかも知れません。M. violaceusが本来の砂質土壌から追い出されて、砂質土壌ではない地域への移動をしようとしたとしましょう。その場所には環境適応した生態系がすでに存在するはずですから、後から入り込むM. violaceusは元来環境適応した植物と競争しなければなりません。果たして、出来上がった生態系に入り込むことが出来るでしょうか? 



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サボテンに限らずですが、育てている鉢植えの植物の名前というものは、我々趣味家を悩ませるものです。札落ちで名前が分からないという悩みだけではなく、純血種か雑種かすら判別が難しいことがあります。ギムノカリキウムなどは、雑種が蔓延しすぎて国内の種や品種が信頼出来ない状況に陥ったこともあります。今でも、LB2178は雑種が盛んに作られ、それらがホームセンターで堂々と「LB2178」の名前で販売されてしまっています。もはや、国内のLB2178は信頼性が皆無な状態であり、趣味家が育てている個体が本物かどうかは誰にも分からないでしょう。
混乱の元は考えなしの雑な交配と、正しい名札をつける意識の薄さがあります。サボテンは原産地では希少なものが多く、ワシントン条約で国際取引が制限されています。サボテン栽培は希少植物の保存という意味もありますから、正しい名前も保存されなくては意味がありません。本日はそんな趣味家とサボテンの名前について考察したTristan J. Davisの論文、『Don't tell me, show me: the importance of maintaining data in cultivated plants』をご紹介します。

情報は大事
多くの科学的分野と異なり、サボテンと多肉植物の学術的進歩は愛好家に依存してきました。そのため、正確な情報が含まれたコレクションには、植物の分類学や保全にとって意味があります。しかし、サボテンや多肉植物の愛好家と話すと、所有する植物の情報を保存していない様々な言い訳をよく耳にします。植物の名前のような基本的な情報さえ、負担が重すぎると考える人もいます。このような考えは、植物を純粋に審美的なものとして育てたい人には受け入れられますが、それらの人が希少植物に手を出し始めると問題が生じます。個体数を減らしている希少植物に対しては、その情報を取得して保存することに責任を感じるべきです。

学名の変更
植物の学名は変わることがあるため、愛好家は分類学者を非難したりします。とはいえ、元来分類学は絶えず変化する可能性があるものです。しかし、名前が変わる度に最新の学名に名札を変更する必要はありません。なぜなら、分類学には変更の文書化がなされているためです。植物に適切な名前が書かれている限り、いつでもその後に変更された名前を知ることが出来ます。学名が変更される度に名札を変更することを好む人もいますが、必要ではありません。学名が変更される度に名札を書き換えるなら、元々の名前も併記するべきです。ある植物が亜種だとか変種とされたり、後に独立種となったりすることはよくあります。この時に、元の情報が失われるとその植物が本来何を指していたのか分からなくなってしまいます。

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Loxanthocereus(右下)

学名の誤り
そもそも名前に誤りがある場合もあります。例えば、Karel Knizeの種子コレクションではペルーのSamneから採取されたBorzicactus samnensis F. Ritterとされる植物が配布されてきました。B. samnensisは紫色の花を咲かせます。しかし、著者が育てたところ、赤橙色の花を咲かせました。特徴的にはLoxanthocereusです。産地情報から調べると、SamneからはLoxanthocereus parvitesselatus F. Ritterが分布していることが分かりました。Knizeは同じ地域から採取された他の植物とコレクションを混同した可能性があります。

入手経路とコミュニティ
どこで、いつ、誰から入手したのか、という情報はあまり評価されていません。しかし、これは最も簡単に入手可能な情報です。
また、愛好家同士のコミュニケーションの促進にも役立ちます。植物の情報は愛好家による植物に対する理解を高め、関心を持つ愛好家コミュニティによる教育にも役立ちます。


疑わしい名前
著者は誤った名前で販売されている珍しいサボテンを見つけました。Siccobacatus estevesii、Pilosocereus chrysostele、Spephanocereus leucostele、Browningia hertlingiana、Oroya peruvianaなどです。
さらに、一見して正しい種に見えたとしても、似たような特徴の別種があるのかも知れません。基本的に重要な特徴は花ですから、未開花個体を適切に識別出来たと確信することは出来ません。また、栽培環境は自然環境とは異なるため、姿が異なることもあります。

インターネット上の怪しい情報
ウェブ上の情報は不正確で誤解に満ちているため、役に立たず混乱を招くだけです。オンラインコミュニティで「専門家」とされるような人たちは、正当な理由もなく古い考えや反証された識別法に固執しています。

サボテン愛好家と研究者
情報の維持は保全にとっても重要です。正確な情報を持つ植物園の植物たちは貴重です。適切な産地情報がある植物は、植物の原産地への再導入の取り込みにも使用可能です。
また、愛好家の育てているサボテンを用いた研究もあります。例えば、Copiapoaの産地情報から気候変動にどのように反応するのかを評価する研究が知られています。
サボテン愛好家の育てている植物の情報の保存は、絶滅が危惧されている植物にとって明らかに重要です。また、資金不足に悩ませられている科学者たちにとっても、重要な研究対象となります。サボテンの大多数が気候変動、環境破壊、密猟により重大な危険にさらされていることを考えると、情報を維持する努力をするべきでしょう。


最後に
学名は常に変わる可能性があります。私のブログでは、学名の変遷を扱った記事がかなり多いのですが、経験上1種類の植物に数十もの異名があることは珍しくありません。情報が増えたり、新たに詳細な研究がなされれば、これからも学名は変更されるでしょう。我々趣味家からしたら、学名は外見上はとても不安定なものです。しかし、新基準の学名が提唱された場合、過去に命名された学名と同一でありそれらは異名である旨が記載されます。ですから、分類学者は学名がどう変更されようが、その情報に簡単にアクセス出来るため、我々趣味家のように惑わされることはないのです。
対して我々趣味家は、論文の情報を追跡するのは中々ハードルが高いように思われます。論文は公的な意味合いもあり基本的に無料で一般公開されているものがほとんどです。しかし、最近は有料の論文が多くなってしまっています。私も相当な数の論文を諦めました。しかも悪いことに、ウェブ上の情報は入り乱れており、誤りが目立ちます。信頼のおけるサイトを探すのも一苦労です。何か学名が気になる、分からない、最新情報にアップデートしたいと考えられている方も多いでしょう。

この論文では情報の重要性を語っていますが、私の管理方法は3つからなります。1 つはラベルです。ラベルには購入時に記載された学名と、あれば和名、さらに入手年月日を記入しています。2つ目はノートへの記録です。ノートにイベントや園芸店の名前と訪れた日、購入した植物の名札に記入された名前、現在認められている学名を記入します。3つ目はこのブログです。ラベルの日付を見れば、ブログやノートから入手したイベントが割り出せる仕組みとなっています。手っ取り早いのは、ブログで日付で検索したら簡単に情報が出て来ます。ブログは写真つきなので便利です。とはいえ、電子データは消えてしまう可能性がありますから、一応はノートも予備として記録しています。ご参考までに。



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マダガスカルと言えば、花キリンなどの固有のユーフォルビア、固有種のアロエ、パキポディウム、DidiereaやAlluaudia、着生ランなど、とにかく珍しい植物の宝庫というイメージです。しかし、一般的にマダガスカルと言えばキツネザルをイメージするかも知れません。私もDidierea-Alluaudia林に住むキツネザルは、果たしてあのトゲトゲの幹に掴まって平気なんだろうかと、余計な心配をしたりもしました。さて、そんな中、キツネザルと植物の関係について書かれた興味深い論文を見つけましたのでご紹介します。それは、Jen Tinsmanらの2017年の論文、『Scent marking preferences of ring-tailed lemurs (Lemur catta) in spiny forest at Berexty Reserve』です。

キツネザルのマーキング行動
キツネザルはすべての霊長類の中で、最も複雑なマーキング行動を行います。群れのナワバリや、配偶者へのアピール、同じ性別の中での順位など、様々な社会状況に香りを使用します。過去にワオキツネザルで実施された研究では、マーキングをする際の特定の植物に対する選好は見られませんでしたが、垂直な茎に対する強い選好が見られました。しかし、観察されたのは雨季の森林内で、樹上での行動でした。ワオキツネザルは乾季には、乾燥しトゲだらけのDidierea-Alluaudia林に移動します。乾季ではマーキングする植物に選好はあるのでしょうか? 

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ワオキツネザル  Lemur catta
『Histoire phyrique: naturelle et politique de Madagascar』(1890年)より


ワオキツネザルに好みあり
ワオキツネザルが出産する乾季に、Berenty保護区で観察されました。雌6頭、雄7頭、若い雄2頭の計15頭の群れを追跡しました。著者らはマーキングの跡の調査と、100例の実際のマーキング行動を観察しました。
調査では1534属の植物を確認しましたが、最も頻繁にマーキングしたのはUncarinaでした。Uncarinaは調査地域の植物の6%を占めるに過ぎませんが、マーキングされた植物の65%を占めました。Albizia、Azadiractha、Catharanthus、Celtis、Fernandoa、Moringaも、よりマーキングされました。逆に、Alluaudia、Commiphora、Euphorbiaは個体数に比較してマーキングされませんでした。

選ばれる理由・選ばれない理由
実際のマーキング行動の観察では、その65%が分岐した植物を選んでいました。Uncarinaの85%は二股に分岐しているため、ワオキツネザルに好まれているのかも知れません。
AlluaudiaやCommiphoraはトゲがあるため、避けているのかも知れません。また、ユーフォルビアはトゲがない滑らかな外見上はマーキングに適した植物でも、ワオキツネザルは避けました。ユーフォルビアの刺激のある乳液を嫌がっているのかも知れません。
興味深いことにUncarinaはの樹液は独特の臭気があります。Uncarinaの臭気がマーキングの効果に影響を与えている可能性もあります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
乾季のワオキツネザルは、マーキングする植物に好みがあることが明らかになりました。また、著者らは、ワオキツネザルが片手で枝を掴んでバランスを取りながらマーキングする行動を観察しており、それが二股の植物が選ばれる理由かも知れないと述べています。しかし、なぜUncarinaなのかは、化学的な研究と、ワオキツネザルに対する行動試験をして、確かめる必要がありそうです。



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サボテンは主に北米から南米まで広く分布しますが、その分布は均一ではなく、沢山の種類のサボテンが集まるホットスポットが存在します。メキシコにはホットスポットがありますが、南米にはサボテンと聞いてイメージするのとは異なる森林性サボテンのホットスポットが存在します。本日はそんな南米の森林性サボテンを調査した、Weverson Cavalcante Cardosaらの2018年の論文、『Anthropic pressure on the diversity of Cactaceae in a region of Atlantic Forest in Eastern Brazil』をご紹介しましょう。

Espirito Santo州はサボテンのホットスポットの1つで、13属41種のサボテンが自生します。これは、ブラジルのサボテンの31%を占めています。この41種類の在来種のうち約69%はブラジル大西洋岸森林の固有種です。さらに、その63%は着生植物であり、森林環境に依存しています。
この研究は、詳細な調査によりサボテンの分布を正確に把握し、人為的脅威が与える影響を分析することにあります。

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Brasiliopuntia brasiliensis(右上)
Opuntia brasiliensisとして記載(1919年)。


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Coelocephalocereus fluminensis
Cephalocereus melocactusとして記載(1890年)。


調査によりEspirito Santo州では、38種類のサボテンが確認されました。一部の地域では、予想よりもサボテンが減少していました。
生物多様性の優先地域であるForno Grande、Santa Lucia、Augusto Ruschi、Domingos Martins東部は、Espirito Santoの中央山岳地帯にあります。しかし、優先地域の約25%を占める山岳地帯は依然として過小評価されています。同じく優先度の高いGrande Vitoriaにある保護地域もサボテンの種類が豊富です。しかし、Espirito Santoの経済の中心地であるVitoria、Vila Velha、Serraの各自治体には大きな人為的圧力があり、森林は12%しか残っていません。

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Pilosocereus arrabidae(上)
Cephalocereus arrabidaeとして記載(1920年)。

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Melocactus violaceus(右下)
Cactus melocactoidesとして記載(1923年)。


Espirito Santoにおいては、サボテンに悪影響を与える様々な要因があります。第一に岩上性のサボテンは常に牛、山羊、馬の踏みつけに苦しんでおり、固有種の衰退に繋がっている可能性があります。さらに、Espirito Santoはブラジルの装飾用石材の主要な産地で、ブラジルの採掘のほぼ半分を占めています。Cachoeiro de ItapemirimやNova Veneciaは装飾用石材加工の中心地であり、サボテンの多様性の高いあるいは中程度の地域です。また、大規模なユーカリのプランテーションに加え、コーヒーやココア、果実など、単一栽培により、州から多くの植生が失われたました。Rhipsalisの多くは着生性で樹木に着生するため、悪影響が考えられます。さらに、鉄鉱石の輸出のための港湾ネットワークの拡大は、地上性のサボテンに圧力を加えます。生物多様性の優先地域や保護地域は違法な砂の採取が行われており、希少なブラジル固有種であるPilosocereus arrabidaeは大幅な生息地の喪失に見舞われています。

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Hatiora cylindrica(左上), 1923年
Hatiora salicornioides(右下)

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Lepismium houlletianum
Rhipsalis houlletianaとして記載(1923年)。


以上が論文の簡単な要因です。
特に解説することはありませんが、やはりと言うか、中々厳しい状況に置かれていることが分かります。開発との折り合いをどうつけるのかは、未だに解決し難い問題と言えます。
さて、せっかくですから、調査で見つかった38種類のサボテンを以下に示しましょう。

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Rhipsalis pachyptera(左), 1923年

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Rhipsalis lindbergiana(赤花), 1923年

230911222250984~2
Peleskia grandiflora(中央), 1923年

低危険種(LC)
Brasiliopuntia brasiliensis(岩生性・地上性)
Cereus fernambucensis(岩生性・地上性)
Coleocephalocereus fluminensis(岩生性)
Epiphyllum phyllanthus(着生性)
Hatiora salicornioides(着生性)
Hylocereus setaceus(岩生性・着生性・地上性)
Lepismium cruciforme(岩生性)
Lepismium houlletianum(着生性)
Lepismium warmingianum(着生性)
Opuntia monacantha(岩生性・地上性)
Pereskia aculeata(岩生性・地上性)
Pereskia grandiflora(岩生性・着生性)
Pilosocereus brasiliensis(岩生性)
Rhipsalis elliptica(着生性)
Rhipsalis floccosa(着生性)
Rhipsalis juengeri(岩生性)
Rhipsalis lindbergiana(着生性)
Rhipsalis neves-armondii(着生性)
Rhipsalis pachyptera(着生性)
Rhipsalis paradoxa(着生性)
Rhipsalis pulchra(着生性)
Rhipsalis puniceodiscus(着生性)
Rhipsalis teres(着生性)

準絶滅危惧種(NT)
Pilosocereus arrabidae(岩生性・地上性)
Rhipsalis clavata(着生性)
Rhipsalis cereoides(着生性)

絶滅危惧II類(VU)
Melocactus violaceus(地上性)
Rhipsalis pilocarpa(着生性)
Rhipsalis russellii(着生性)

絶滅危惧IB類(EN)
Coelocephalocereus pluricostatus(岩生性)
Hatiora cylindrica(着生性)
Rhipsalis pacheco-leonis(着生性)
Schlumbergera kautskyi(着生性)

絶滅危惧IA類(CR)
Coelocephalocereus braunii(岩生性)
Coelocephalocereus diersianus(岩生性)

情報不足(DD)
Rhipsalis hoelleri(着生性)
Rhipsalis sulcata(着生性)

評価されていない(NE)
Coleocephalocereus decumbens(岩生性)


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Rhipsalisというサボテンがありますが、サボテンファンにはあまり人気がないかも知れません。Rhipsalisは熱帯性のサボテンで、多湿な環境で樹木に着生して垂れ下がるように育ったりします。栽培環境からすると、洋蘭や食虫植物の栽培と相性が良いかも知れません。私も沢山の種類があることくらいは知っていますが、イマイチ興味が持てないでいました。しかし、詳細不明であったRhipsalisの1種が近年再発見されたと知り、それ自体が大変喜ばしいことですから、ぜひご紹介したいと思った次第です。ご紹介したいのは、Weverson Cavalcante Cardosoらの2021年の論文、『Rediscovering Rhipsalis hoelleri (Cactaceae), a Critically Endangered species from Brazilian Atlantic Forest』です。

1995年に記載
Rhipsalis hoelleriはブラジルのEspirito Santo州に固有の着生サボテンです。カーマインの花により他のRhipsalisとは区別されます。R. hoelleriは1987年に採取され、ドイツのボン大学の植物園に収容された栽培標本に基づき1995年に記載されました。しかし、その正確な生息地などの情報は不明であり、保全状況は評価出来ませんでした。

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Rhipsalis

新しい分布地域
著者らの調査により、R. hoelleriの分布地域を拡大することが出来ました。観察されたのは、CasteloのForno Grande州立公園、Domingos MartinsのPedra Azul州立公園、Santana Maria de JetibaのPedra do Garrafao、Santa Lucia Biological Station、Augusto Ruschi生物保護区、Santa Teresaの私有地内の森林、Morro de Sao Carlos、Vergem Altaの保護されていない地域でした。

多様性
新種として記載された情報と、新しく発見された地域の個体を比較すると、ある程度のばらつきがあり多様性があることが分かりました。花の直径は10mmとされていましたが、観察された個体は8.5〜15mmでした。この変異は、他のRhipsalisでも確認されている一般的な特徴です。花色にも変化があり、カーマインから鮮紅色(Cerise)、深紅色まで様々でした。果実の色は濃いトマトレッドで不透明とされてきましたが、ピンク色で光沢のある果実も観察されました。また、栽培していると、トマトレッドからオレンジ色まで変化することが報告されており、果実の色では種の判別は出来ない可能性があります。

生態
R. hoelleriはブラジルの春である9月から11月の間に咲きます。ヨーロッパでも同じ季節に開花することが報告されています。また、夏にあたる2月下旬に稀に開花することもあるようです。果実は成熟に6ヶ月かかると言われています。

保全状況
R. hoelleriは多くの場合、inselberg(※)に関連する特異性の高い小さな亜集団からなります。発生範囲(EOO)は1578平方キロメートルと推定され、占有面積(AOO)は36平方キロメートルであり、どちらも絶滅危惧種の閾値を下回ります。亜集団は5〜7で個体数ら少なく、観察された個体数から250個体未満と推定されました。成熟個体は多くても10個体、多くは5個体未満で、集団がひどく断片化されてしまっています。IUCNレッドリストでは絶滅危惧IA(CR)に相当します。

(※) inselbergとは、地形の侵食により露出した花崗岩や片麻岩などでできた孤立した岩の丘のことです。

以上が論文の簡単な要約です。
このような分布が狭く個体数が少ない植物は、絶滅の可能性について評価される前に、開発などで絶滅してしまうことは珍しいことではありません。保全活動において、植物は動物と比べて軽視される傾向があり、保全状況や個体数などの基本的な情報すら不明なものが大半です。しかし、そのための資金も動物に偏っており、希少な植物の調査は難しい現状があります。動物並みに調査や保全が行われて欲しいところです。でもまあ、調査が実施されただけ良かったとは思います。



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乾燥地ではほとんど雨が降らない地域もありますが、地形や立地、風向きなどにより霧が発生する場合があります。例えば、山地や海に近い場合などです。霧が発生すると、植物や土壌表面には露がつきます。植物についた露は、植物を伝って根元に集められますから、乾燥地の植物にとっては大変貴重な水分となります。では、サボテンはどうでしょうか? サボテンは葉はありませんが、代わりにトゲがあります。トゲを伝って露を集めることは可能でしょうか? というわけで、本日はサボテンと露の関係を試験した、F. T. Malikらの2016年の論文、『Hierarchical structures of cactus spines that aid in the directional movement of dew droplets』をご紹介しましょう。

アタカマ砂漠は地球上で最も乾燥した場所です。アタカマ砂漠にはCopiapoa cinerea var. haseltoniana(=C. gigantea)が自生していますが、Copiapoaのトゲが露を集めることが観察されています。また、他の地域からも露を集めるサボテンの報告があり、報告されたMammillaria columbiana subsp. yucatanensisとParodia mammulosa、さらにC. cinerea var. haseltonianaの露とトゲの関係を詳しく調べました。また、そのトゲが露を集めないと言われるFerocactus wislizeniiを比較のためにともに調べました。

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Mammillaria columbiana subsp. yucatanensis
Neomammillaria yucatanensisとして記載(上)。
Neomammillaris graessnerianaとして記載(中)。

Neomammillaria woburnensisとして記載(下)。
『The Cactaceae vol. 4』(1923年)より

サボテンを野外に置き、夜露が発生する様子をタイムラプスで撮影しました。また、トゲで集められた露がどのように吸収されるかを知るために、蛍光剤を水に混ぜた蛍光標識水にトゲを浸しました。また、MRIで断面を撮影しました。さらに、トゲの表面の微細構造を電子顕微鏡で観察しました。

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Parodia mammulosus(左上)
Malacocarpus mammulosusとして記載。
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より


Copiapoaのトゲは、重力に逆らっても水滴は基部に向かうことが分かりました。また、蛍光標識水はアレオーレを通って吸収されたことが分かりました。
電子顕微鏡の観察では、CopiapoaとMammillaria、Parodiaではトゲの表面は繊維状の溝からなっていました。溝は先端と基部近くでは溝の深さや細かさが異なり、粗さの勾配により水を輸送している可能性があります。F. wislizeniiのトゲの表面は、大きな逆剥けのような突起に密に覆われており、水の輸送を妨げているようです。Copiapoaのトゲの表面にも突起は観察されましたが、小さく数も少ないため、水の輸送を妨げていないことが分かります。この突起はMammillariaとParodiaでもわずかに見られましたが、トゲの表面に水滴を形成する働きが予想されます。CopiapoaとMammillaria、Parodiaのトゲは親水性で濡れ性が高く、Ferocactusのトゲは疎水性で濡れ性が低いことが分かります。


230907222313074~3
Ferocactus wislizenii(下)
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥地に生えるサボテンは、根からだけではなく、トゲを利用してアレオーレから水分を吸収する仕組みがあることが分かりました。サボテンが工学的な発想で研究されることは珍しく、非常に面白い論文でした。しかし、アレオーレからの吸水を知ってしまうと、その効果を試してみたくなります。どなたか、試してみたいという方はいらっしゃいませんかね? 


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「青菜に塩」という言葉があるように、植物は塩分に弱いというのが常識です。しかし、乾燥地の土壌は塩分濃度が高い傾向があります。砂漠などの乾燥地では、雨が降っても水分が川となり流れても海に注がず、途中で干上がってしまうことがあります。この時に、川は周囲の塩分を取り込みながら流れます。川が途中で干からびた場合、溶け込んだ大量の塩分が析出し、塩の結晶がキラキラ光って見えたりします。
例えば、中国の乾燥地に生える植物は耐塩性が高いものが多く、ギョリュウ(御柳、タマリクス、Tamarix chinensis)などは余分な塩分を葉から排出するため、葉に塩の結晶がついています。乾燥地は塩分濃度が高くなりがちですから、生える植物も塩分に耐えられるものが多いはずです。
当然ながら、乾燥地に生えるサボテンや多肉植物も、それなりに耐塩性があるのではないでしょうか? この問題に挑んだM. Derouicheらの2023年の論文、『The effect of salt stress on the growth and development of three Aloe species in eastern Morocco』をご紹介しましょう。


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Aloe vera
Aloe lazaeとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


モロッコ東部では造園あるいは観賞用に何種類かのアロエが植栽されます。この地域は乾燥し地下水は高い濃度の塩分を含みます。そこで、アロエの耐塩性を調査しました。調査したアロエは、Aloe vera、Aloe brevifolia、Aloe arborescensの3種類です。ポットに植え、4種類の塩分濃度の水を4ヶ月与えました。塩分濃度は、3g/L、6g/L、9g/Lの3種類で、塩分を加えていない群も設定しました。一般的に塩分濃度が3g/L以下を非塩水とされています。

栽培4ヶ月後、アロエは枯れずに育ちました。アロエの葉の枚数を比較すると、塩分を加えていない群と比較して1〜2枚の差がありました。A. veraでは塩分なしと低濃度が11枚、中濃度と高濃度が10枚でした。A. brevifoliaは塩分なしと低濃度が29枚、中濃度が28枚、高濃度が26枚でした。A. arborescensは塩分なしが22枚で、低濃度が20枚、中濃度と高濃度が19枚でした。

次に葉の厚みについては、塩分濃度の影響が割と見られました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で86%、中濃度では65%、高濃度では58%でした。A. brevifoliaは低濃度では98%、中濃度と高濃度では85%でした。A. arborescensは低濃度では77%、中濃度で58%、高濃度で53%でした。

相対含水率では減少しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で90%、中濃度では77%、高濃度では75%でした。A. brevifoliaは低濃度では87%、中濃度で82%、高濃度で77%でした。A. arborescensは低濃度では78%、中濃度で70%、高濃度で81%でした。

クロロフィル含量はわずかに増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で106%、中濃度では99%、高濃度では128%でした。A. brevifoliaは低濃度では106%、中濃度で94%、高濃度で118%でした。A. arborescensは低濃度では85%、中濃度で106%、高濃度で105%でした。

ポリフェノール含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で138%、中濃度では157%、高濃度では201%でした。A. brevifoliaは低濃度では109%、中濃度で156%、高濃度で224%でした。A. arborescensは低濃度では121%、中濃度で132%、高濃度で164%でした。

糖分含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で100%、中濃度では119%、高濃度では126%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で180%、高濃度で190%でした。A. arborescensは低濃度では116%、中濃度で164%、高濃度で194%でした。

多糖類含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で94%、中濃度では107%、高濃度では115%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で202%、高濃度で211%でした。A. arborescensは低濃度では114%、中濃度で169%、高濃度で203%でした。

以上が論文の簡単な要約です。
アロエはかなり高い塩分濃度にも耐えられることが明らかとなりました。4ヶ月の試験で枯れた個体はありませんでした。しかし、葉の枚数の減少は微妙ですが、葉の厚みは大幅に減少しています。含水率の低下とも関係があるのかも知れません。いずれにせよ、高濃度の塩分でも耐えられはするものの、生長は遅くなるのでしょう。糖分とポリフェノールが増加しましたが、糖分やポリフェノールは浸透圧調整に働き脱水を軽減するそうです。

3種類のアロエの中では、Aloe brevifoliaが最も耐塩性が高いことが分かりました。葉の含水率は低下しても、葉の厚みはそれほど減少していません。また、ポリフェノールや糖分の上昇が激しく、塩ストレスに対して活発に働いているようです。
読んでいて気になったのは、3種類のアロエのそれぞれの自生地の塩分濃度です。環境への適応という意味では、Aloe brevifoliaの自生地には塩分濃度が高い地域があるのではないでしょうか? 


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ユーフォルビアは世界中に分布し、雑草だったり樹木だったり、あるいは多肉植物や塊根植物だったりと非常に多様性があります。しかし、傷つけると乳液が出るという特徴は共通します。さて、ユーフォルビアの乳液は大なり小なり毒性がありますが、その高い生理活性を薬として利用出来ないかという試みは、近年でも盛んに行われています。ヨーロッパ原産の草本種が使われることが多いのですが、日本ではミドリサンゴあるいはミルクブッシュと呼ばれるEuphorbia tirucalliもよく使われます。これは、E. tirucalliが世界中で帰化しており、各地で実際に利用されていることも関係があるのでしょう。しかし、さらに調べると、意外にもEuphorbia neriifoliaという多肉植物について、その利用が様々に研究されていることに気が付きました。ちょうど、E. neriifoliaについて整理した論文を見つけましたので、ご紹介しましょう。それは、Chinmayi Upadhyaya & Sathish Sの2017年の論文、『A Review on Euphorbia neriifolia Plant』です。

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『Species Plantarum』(1753年)の表紙
植物の学名の歴史はここから始まりました。この書籍においてEuphorbia neriifolia L.が記載されました。つまり、最初に現在の命名システムを適応して命名された最初のユーフォルビアの1つがE. neriifoliaなのです。


Euphorbia neriifoliaの特徴
Euphorbia neriifoliaは南アジア原産の多肉植物で、インドトウダイグサの木(Indian spurge tree)などと呼ばれます。インドのデカン半島全体に見られ、乾燥した岩の多い丘陵地帯で良く見かけます。現在はインド、スリランカ、ミャンマー、バングラディシュ、タイ、ボルネオを除くマレーシア地域で地元住民により栽培され帰化しています。
E. neriifoliaは直立したトゲのある多肉植物です。枝分かれした低木で、高さ2〜6m、あるいはそれ以上に育つこともあります。モンスーンの時期を除いて、1年の大半は葉がありませんが、葉は通常10〜18cmと大きく30cmに達することもあります。

一般的にユーフォルビアの乳液は有毒であり、皮膚に水疱を引き起こしたり、目に入ると重度の浮腫を引き起こす可能性があります。また、ユーフォルビアの葉や根は漁に魚毒としつ利用されることもあります。乳液が付いてしまったら、流水で洗い流すことが有効です。

伝統的な用途
古代のvaidhya(アーユルヴェーダの医師)は、E. neriifoliaの乳液を利用しました。耳痛、肝臓、脾臓、梅毒、水疱瘡、ハンセン病などに使用されました。
E. neriifoliaの乳液はアーユルヴェーダにおいて喘息の薬とされており、乳液と蜂蜜の混合液は喘息薬として家庭薬として利用されています。また、ギー(バターオイルの1種)と乳液を混ぜ、梅毒、内臓閉塞、長期間続く熱帯による脾臓と肝臓の肥大に対して与えられます。バターとともに使えば、潰瘍や疥癬、腺腫脹の化膿防止になります。マルゴサ油(インドセンダンからとれる油)と混合したものはリウマチに使用されます。
黒胡椒と混ぜた根はサソリ刺されや蛇咬傷に、内外から使用されます。茎は灰で焼かれ、蜂蜜とホウ砂を含む飲み物は去痰に使用されます。

薬学的な用途
下剤や駆風剤(ガス抜き)として使用し、食欲を改善し、腹部のトラブル、気管支炎、腫瘍、白斑、痔、炎症、脾臓の肥大、貧血、潰瘍、発熱、慢性呼吸疾患に有用です。
ある研究ではE. neriifoliaの葉の抽出物は、免疫を刺激し、強力な鎮痛剤、抗炎症剤、軽度をCNS(中枢神経)抑制剤、創傷治癒活性があることが分かりました。
乳液は関節炎に対する経口の有効性と安全性を確認しました。
E. neriifolia抽出物をモルモットの創傷治癒活性について評価したところ、コラーゲンおよびDNA量の増加を示し、上皮および血管の増加を示しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
E. neriifoliaはインドでは伝統的にアーユルヴェーダで利用されてきたようです。近年では薬理学的な研究も行われています。しかし、E. neriifoliaはインド以外でも広く南アジア周辺でも栽培されていると言います。単純にインドのアーユルヴェーダの知識が伝わっただけなのか、それぞれの場所により固有の利用方法が発達したのか気になります。
また、論文中の毒性の話はあくまでユーフォルビア全般の話であり、E. neriifoliaの毒性ではないことも気になります。書かれている毒性は、アフリカ原産の柱サボテン状のユーフォルビアについての症状だろうとは思います。様々に利用されていた経緯から、その毒性についても知りたいところです。
E. neriifoliaは伝統医学により利用されて来ましたが、科学的な研究はそれほど進んでいないような印象は受けます。将来的には薬学的作用も詳しく解析されるでしょう。


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なんでも、スペインには野生化したアロエが生えているそうです。当然、外来種ということになります。今まではAloe feroxであると言われてきたそうですが、実は違うのではないかという話があります。それはPere Aymerich & Jordi Lopez-Pujolの2023年の論文、『On the presence of Aloe × caesia Salm-Dyck and A. ferox Mill. in the eartern Iberian Peninsula』です。早速、内容を見てみましょう。

野良アロエの報告
スペインのイベリア半島東部にAloe feroxと思われるアロエが野生化しています。著者らはこのアロエがAloe × caesiaではないかと考えています。Aloe ×caesiaとは、A. feroxとA. arborescensの自然交雑種で、分布が重なる地域で自然発生します。外観はかなり多様性があるようです。A. ×caesiaは地中海地域では園芸用に使用されてきましたが、地中海地域で栽培されるのはA. feroxによく似た姿のものです。ただし、A. feroxのように単幹ではなく、A. arborescensのように複数のロゼットからなります。そのため、密集した集団を作ります。A. × caesiaの花はクリーム-オレンジ色/赤色の2色からなり、A. feroxのようなオレンジ/赤色の単色ではありません。

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Aloe × caesia
Aloe fulgensとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


地中海地域のアロエ
A. × caesiaは、サルデーニャ島では長い間外来植物として知られ、シチリア島では帰化植物と見なされています。南フランスの地中海沿岸のフレンチ・リヴィエラでは、庭から逸出したA. × caesiaが比較的一般的になっています。データベースではA. × caesiaが地中海諸国の大部分で「導入された」としていますが、これは明らかに栽培植物のことを指しています。「Flora iberica Gremes」(2013)では、「Flora Europaea」(1980)でイベリア北東部からの報告があるものの、それが本当に庭からの逸出であるかを疑っています。「Flora Europaea」では、南東フランスまたは北スペインの海岸沿いにA. × caesia、A. spectabilis、A. maculataが見つかると書いています。しかし、この記述は北東イベリアではなく、プロヴァンスで知られていたアロエに由来しているだけかも知れません。
イベリア半島のA. × caesiaの確実な最初のデータは、2017年にAlacant/Alicanteで確認された繁殖個体です。これは、実際にこの区画の所有者により投棄された植物が由来であることが確認されています。他にも確認されていますが、投棄あるいは古い庭の跡地かも知れません。

Aloe × caesia vs. Aloe ferox
A. × caesiaは報告は数年前ですが、以前から見つかっていましたが、誤ってA. feroxとして識別された可能性があります。イベリア半島ではA. feroxの報告は、バルセロナ(2008)、Vinaros(2017)、Reus(2019)だけです。しかし、これらが本当にA. feroxであるか確認されておらず、逆にA. × caesiaである可能性を示唆する証拠があります。
Vinarosの個体は2つのロゼットが接近して育っているため、複数のロゼットからなる1個体である可能性があります。しかし、花序は13〜14本の枝からなり、A. × caesiaにもA. feroxにも該当しない特徴です。また、残念ながら他の2つの報告は画像がないため、詳細を調査しました。
2000年以降、バルセロナの都市部にあるMontjuicの丘では、小さな半帰化集団があります。これは、多くのアロエを含む多肉植物のコレクションがある市立庭園に由来しているようです。一見してA. feroxを彷彿とさせます。ロゼットの密集する傾向がありますが、孤立したものもあります。しかし、著者らはおそらく、これらはA. × caesiaであろうとしています。Montjuicの丘のアロエは急斜面に生えるため、はっきりと確認出来ませんでした。また、A. feroxは自家受粉しないため、種子繁殖している可能性があるMontjuicの丘のアロエには該当しません。また、A. feroxはタイヨウチョウにより受粉する鳥媒花であり、地中海では受粉しません。ただし、ミツバチにより受粉する可能性はあります。また、多くのアーチ型の葉には辺縁歯がありますが、これはA. × caesiaでは一般的がA. feroxでは見られません。
ReusのA. feroxについては2014年に撮影された画像がありましたが、葉はA. × caesiaの特徴である下向きのアーチ型の葉が見られます。この集団は2023年ではなくなっていました。
現在までの情報からはAloe feroxは確認されず、Aloe × caesiaである可能性が高いと言えます。


以上が論文の簡単な要約です。
どうやら地中海地域では、A. × caesiaは園芸的に一般的なようです。ですから、園芸植物の逸出が帰化したアロエが由来なのは共通しているようですね。
日本ではAloe arborescensが昔から好まれていて、一部は逸出して野生化していますが、大抵は種子繁殖しているものは見たことがありません。それは、1個体のみの逸出ばかりで、付近に受粉可能な個体がないからでしょう。まあ、適切な花粉媒介者がいないような気もしますから、個体が複数でも難しく思えます。何と言っても、開花は主に冬ですから、昆虫もいません。沖縄などの暖地ではどうなのか分かりませんが…


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