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カテゴリ: 多肉植物の論文

サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。昨日はCereus連のUebelmannia亜連、Aylostera亜連、Rebutia亜連、Gymnocalycium亜連について記事にしました。本日はCereus連のTrichocereus亜連を見ていきます。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCereus連の続きを扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


Cereus連の分子系統(亜連レベル)
本日はTrichocereus亜連を扱います。
 
┏Aylosterinae

┫┏Rebutiinae
┃┃
┃┃    ┏Gymnocalyciinae
┗┫┏┫
    ┃┃┗Cereinae
    ┗┫   
        ┃┏Reicheocactinae
        ┗┫
            ┗Trichocereinae


☆Trichocereus亜連(※1)
※1: Borzicactinae、Echinopsidinae、Eriocereinae、Acanthocalyciinaeを含む。
 
Trichocereus亜連は系統学的に基底群と3つの非公式群からなります。この系統は強い支持があるわけではありませんが、その構成は一貫しています。
Trichocereus亜連はカリブ海地域やフロリダにも分布するHarrisia以外は、完全に南米に分布します。小型で球形のものから、柱サボテン状まで多様性があります。花の形態も極めて不安定です。Trichocereus亜連は過去に行われた分類により境地に立たされました。それは、多数の分離種を認める一方で、広義のCleistocactusや広義のEchinopsisといったごく少数の属のみを認めるものでした。このアプローチは不十分で、Schlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる解析でも、Trichocereus亜連の全体に適応出来る解決策はまだ見つかっていません。AcanthocalyciumとDenmozaを別属とするAnderson(2001, 2005)や、Denmozaのみを認めるHuntら(2006)が提唱する広義のEchinopsisの概念は、著者らの系統により支持されているクレード1とほぼ一致します。しかし、Anderson(2002, 2005)やHuntら(2006)が提唱する広義のCleistocactusの概念はまったく受け容れられず、著者らの系統ではクレード2とクレード3に散在します。伝統的に認められている多数の属が多系統であるという状況は、繰り返された平行進化による特徴の類似により、北米のCactus亜連に状況が近いものがあります。


Trichocereus亜連の分類の大部分は、弱く支持されているに過ぎませんが、地理的に比較的一貫性がある3つのクレードの姉妹系統を区別することが出来ます。この支持の弱さはSchlumberger & Renner(2012)による詳細なサンプリングによる調査で示された内容は反映していますが、その系統関係は著者らの結果と共有しているのは一部に過ぎません。特にHarrisiaやWeberbauerocereus、広義のEchinopsisを構成する系統群では配置が異なります。Schlumberger & Renner(2012)によると、WeberbauerocereusはVatricania + 狭義のCleistocactusの姉妹群で、Harrisia + Leucosteleは狭義のEchinopsisの姉妹群でした。Arthrocereusはこれらの姉妹群としています。Franckら(2013)はArthrocereusの明確な位置を見つけられませんでした。Romeiro-Britoら(2022)はArthrocereusをHarrisiaとTrichocereus亜連の残りすべての系統群の姉妹群としましたが支持は弱く矛盾する証拠があるため、さらなる研究が必要です。しかし、HarrisiaとArthrocereusは初期に分岐した系統群であり、Romeiro-Britoら(2023)でも単系統です。Leucosteleの分類も未解決で、Schlumberger & Renner(2012)ではCleistocactus-Echinopsisクレードにおいて、LeucosteleをHarrisiaの姉妹群としていますが、Franckら(2013)では単系統を形成しませんでした。また、Romeiro-Britoら(2023)はLeucosteleをEchinopsisクレードにおいて、Soehrensia formosaの姉妹群てしています。以上のような不確実性を考慮し著者らは暫定的にLeucosteleをTrichocereus亜連の初期分岐系統群に位置付けました。

LeucosteleとReicheocactusを除外した広義のEchinopsisは、Schlumberger & Renner(2012)において2つの主要なクレードに広がっています。これらのすべてが単系統のクレード1として裏付けられた著者らの結果と対照的です。しかし、すべての属が非常に近縁であり、属間雑種が人工的に作られていることからも、Trichocereus亜連にいくつかの非公式群が存在するという著者らの見解は過大評価すべきではありません。これらの雑種は異なる属を含んでいても稔性があり、それらの雑種からさらなる複雑な雑種を作ることが出来ます。そのため、Trichocereus亜連全体を便宜上「Echinopsis comparium」と呼ぶことも出来ます。


①初期分岐系統群
含まれる属: Arthrocereus(※2)、Harrisia(※3)、Leucostele(※4)、Weberbauerocereus

※2: Chapadocereusを含む。※3: Brasiliharisia、Eriocereus、Estevesiaを含む。※4: 暫定的な分類。

┏Reicheocactus亜連
┃ 初期分岐系統群
┫┏Harrisia tortuosa
┃┃ (=Eriocereus tortuosus)
┃┃
┗┫┏Weberobauerocereus
    ┃┃           weberbaueri
    ┗┫┏クレード1
        ┃┃
        ┗┫┏クレード2
            ┗┫
                ┗クレード3

生物地理的に言うならば、この分類群は謎に包まれています。Eriocereusを含むHarrisiaは、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ、ブラジル北西部に散在し、さらにはカリブ海、北はフロリダまで分布します。一方、Weberbauerocereusはペルーのアンデス山脈西部斜面にのみ分布します。Romeiro-Britoら(2023)はブラジル北東部に分布するH. adscendensが、パラグアイやボリビア、アルゼンチンに分布する2種の姉妹群であることを明らかとしました。Franckら(2013)の系統によると、カリブ海に分布する種は単一の系統を形成し、H. adscendensの姉妹群であるとしました。最近記載された単型のEstevesiaは、中央ブラジルの狭い地域の固有種で、Harrisiaと全体的に類似し種子の特徴も共有するため、暫定的にHarrisiaに含めました。

②クレード1(※5)
含まれる属: Acanthocalycium、Denmoza、Echinopsis(狭義、※6)、Setiechiopsis

※5: 広義のEchinopsis=Echinopsis Clade。※6: Acantholobivia、Chamaecereus、Helianthocereus、Lobivia、Pseudolobivia、Soehrensia、狭義のTrichocereusを含む。

    ┏Setiechiopsis mirabilis
┏┫        (=Echinopsis mirabilis)
┃┗Acanthocalycium spiniflorum
┃            (=Echinopsis spiniflora)
┫┏Denmoza rhodacantha
┃┃ 
┗┫┏Lobivia tegeleriana
    ┃┃(=Echinopsis tegeleriana)
    ┃┃(=Acantholobivia tegeleriana)
    ┗┫┏Echinopsis eyriesii
        ┃┃
        ┗┫┏Trichocereus macrogonus
            ┗┫ (=Echinopsis macrogona)
                ┃┏Chamaecereus silvestrii
                ┗┫ (=Echinopsis chamaecereus)
                    ┗Soehrensia bruchii
                        (=Echinopsis bruchii)
                                  

このクレードの多様性の大部分は、広義のEchinopsisに属します。ごく少数の種を除き完全に東アンデスに固有です。以前の分派のほとんどは、生育形態と開花時期や花の色や形態、受粉シンドロームなどの花の特徴の組み合わせにより定義されてきました。Acanthocalycium、Denmoza、SetiechiopsisはSchlumberger & Renner(2012)な系統では、裏付けの乏しいDenmozaクレードを構成していました。SetiechiopsisはDenmozaとAcanthocalycium(Echinopsis leucanthaを含む)の姉妹属とされていますが、著者らのAcanthocalyciumとSetiechiopsisがDenmozaとその他のEchinopsisクレードの姉妹属とするよく支持された系統とは異なります。著者らのサンプリングは単純化されています。Schlumberger & Renner(2012)が示した広義のEchinopsisの種間の複雑な関係は、クレード1がどのように多様化したのかまだ明確に分かっていません。

DSC_0585
Echinopsis rhodotricha
=Acanthocalycium rhodotrichum
神代植物公園(2023年5月)



③クレード2(※7)
含まれる属: Cephalocleistocactus、Cleistocactus(狭義、※8)、Cremnocereus、Samaipaticereus、Vatricania、Winterocereus(※9)、Yungasocereus


※7: East Andean Clade=Cleistocactus Clade。※8: Bolivicereus、Seticleistocactusを含む。※9:= Hilddwintera
 
┏Cleistocactus baumannii
┃     
┫┏Vatricania guentheri
┃┃
┃┃    ┏Samaipaticereus
┗┫┏┫      corroanus
    ┃┃┗Cleistocactus winteri
    ┃┃ (=Winterocereus aureispinus)
    ┗┫┏Yungasocereus
        ┃┃         inquisiviensis
        ┗┫┏Cleistocactus tarijensis
            ┗┫(=Cephalocleistocactus
                ┃                   tarijensis)
                ┗Cleistocactus 
                                 chrysocephalus
               (=Cephalocleistocactus
                               chrysocephalus)                       


Trichocereus亜連の他のすべての系統群とは対照的に、クレード2は全体的な形態や地理的な特徴が均一です。すべての種は円柱状で肋(rib)があり、東アンデスに分布し、ボリビアのアンデス山脈の麓の低地が中心です。ちなみに、Cleistocactusはアルゼンチン北部まで分布します。不可解にもクレード2のほとんどは種が乏しいか単型です。クレード3に分類されるBorzicactusをCleistocactusから除外した場合でも、多系統とされてしまいます。タイプ種であるCleistocactus baumanniiはクレード2の残りすべてと姉妹種であり、C. baumanniiと近縁とされるCleistocactus tarijensisはCephalocleistocactusの姉妹種として別の系統群とされます。Romeiro-Britoら(2023)は分類を合理化し、Samaipaticereus、Vatricania、Yungasocereusを含む拡張された広義のCleistocactusを提案しています。しかし、クレード2の不確実性を考慮するとこの提案は時期尚早であり、より詳細なサンプリングによる評価がされるまで分離の維持を推奨します。

Vatricaniaは長らくEspostoaの異名と見なされてきましたが、Schlumberger & Renner(2012)により初めて狭義のCleistocactusの直系に属することが確認されました。
近年記載されたボリビア原産の単型であるCremnocereusは、ごく狭い地域に2つの分布が知られています。狭義のCleistocactusといくつかの特徴を共有するだけではなく、花はコウモリ媒(chiropterophilous)であることからOreocereusとも異なります。著者らの分類はまったく暫定的なものです。


④クレード3(※10)
含まれる属: Borzicactus(※11)、Espostoa(※12)、Haageocereus(※13)、Lasiocereus、Matucana(※14)、Mila、Oreocereus(※15)、Oroya、Pygmaeocereus、Rauhocereus(?)

※10: Western Andean and High Andean Clade、Oreocereus Clade。※11: Borzicactellaを含む。※12: Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む。※13: Loxanthocereus、Peruvocereusを含む。※14: Eomatucana、Submatucanaを含む。Anholoniopsis、Perucactusを含む? ※15: Arequipa、Morawetziaを含む。
 
┏Oreocereus pseudofossulatus

┃    ┏Espostoa blossfeldiorum
┫┏┫(=Thrixanthocereus blossfeldiorum)
┃┃┃┏Lasiocereus rupicola
┃┃┗┫
┃┃    ┗Espostoa lanata
┃┃
┗┫┏Haageocereus
    ┃┃       pseudomelanostele
    ┃┃
    ┗┫    ┏Borzicactus
        ┃┏┫     ventimigliae
        ┃┃┗Matucana haynei
        ┗┫
            ┃┏Matucana madisoniorum
            ┗┫ (=Anhaloniopsis madisoniorum)
                ┗Oroya peruviana


クレード3の系統は支持が低いものの、例外的にThrixanthocereusがLasiocereus + Espostoaの姉妹群を形成するクレードは完全に支持されています。2種からなるLasiocereusはペルー北部のRio Maranon流域の狭い地域の固有種です。Ritter(1981)はLasiocereusをTrichocereus亜連に分類しましたが、Nyffeler & Eggli(2010)はRebutia亜連の初期分岐系統の側系統としました。また、Schlumberger & Renner(2012)はLasiocereus fulvusを(Browningia + Sulcorebutia) + (Rebutia + Aylostera)の姉妹群としましたが支持は低いものでした。属のタイプであるLasiocereus rupicolaを狭義のEspostoaの姉妹群とする配置は、新しく裏付けがあります。ペルー北部の原産で共通する形態や花の構造は一致していますが、Lasiocereusは花座(Cephalium)を持ちません。興味深いことに、LasiocereusとThrixanthocereus(=Espostoa)が近縁であることは、Ritter(1981)により既に仮定されていました。

単型のRauhocereusは、Schlumberger & Renner(2012)がEspostoa lanataの姉妹種であることを発見したためクレード3に含めています。

著者らのデータでは上記のクレード3の属以外の類縁関係については、これ以上の結論は出せません。Schlumberger & Renner(2012)はやや詳細にサンプリングしており、MatucanaやBorzicactusは多系統であることが示されています。著者らの解析でも、M. madisoniorumがOroyaの近くで分離されており、多系統である可能性が示されています。

251011100111170
Espostoa ritteri
=Espostoa lanata subsp. lanata
東京農業大学バイオリウム(2025年10月)



251016102909299
Matucana aureiflora
JSS、サボテン・多肉植物展(2025年10月)



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年の遺伝情報に基づく分類では、特にMammillariaの仲間とTrichocereusの仲間が大きな改変に見舞われました。今回取り上げたTrichocereus亜連は、少し前までTrichocereusやRebutia、LobiviaあたりはすべてEchinopsisに統合されてしまいました。その後行われた分子系統においては、肥大化したEchinopsisにまとまりが見られないことから、再分割され現在に至ります。しかし、今回の論文は以前の論文とは必ずしも系統分類が一致せず、系統の分岐の支持も低いものでした。おそらく、急激に種分化したため解析が難しいのでしょう。それでも、著者らは自然分布も考慮に入れているのは新しい観点です。一般的に分布を拡大し移動しながら種分化しますから、進化の経路を考えた場合は自然分布も根拠の1つでしょう。

長々と続いたサボテン科の分類の記事は本日で終了です。2025年に発表されたばかりの最新の研究成果となります。新しく分かったことや、近年の他の分子系統の結果を再確認し裏付けるものもありました。しかし、今回の論文はサボテン科全体の解析のため、沢山の属は解析していますが、各属あたりの種数は少ないものです。どうしても属内分類はこの論文では分かりません。ある属が単系統ではなく多系統である可能性は、さらなる詳細なサンプリングによる解析でなければ分かりません。ですから、これからもサボテン科の分類について、新たな論文が出ましたら記事にしていきたいと考えております。



ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Arthrocereus(4種、Chapadocereusを含む)、Harrisia(18種、Brasiliharisia、Eriocereus、Erythrocereus、Roseocereus)、Leucostele(13種)、Weberbauerocereus(8種、Meyeniaを含む)
Estevesia(→Cereus)

Acanthocalycium(5種)、Denmoza(→Echinopsis)、Echinopsis(21種、Andenea、Aureilobivia、Cosmantha、× Cosmopsis、Denmoza、Echinonyctanthus、Hymenorebutia、Pilopsis、Salpingolobivia、× Salpingolobiviopsisを含む)、Setiechiopsis(1種、Acanthopetalus)
Acantholobivia(→Lobivia)、Chamaecereus(5種)、Helianthocereus(→Soehrensia)、Lobivia(31種、Acanthanthus、Acantholobivia、Cinnabarinea、Furiolobivia、Hymenorebulobivia、Lobiviopsis、Mesechinopsis、Neolobivia、Pseudolobivia、Scoparebutiaを含む)、Pseudolobivia(→Lobivia)、Soehrensia(24種、Helianthocereus、Megalobiviaを含む)、Trichocereus(4種)

Cephalocleistocactus(→Cleistocactus)、Cleistocactus(30種、Akersia、Bolivicereus、Borzicactella、Cephalocleistocactus、Cleistocereus、Clistanthocereus、Hildewintera、Maritimocereus、Samaipaticereus、Seticleistocactus、Varticania、Winteria、Winterocereus、Yungasocereusを含む)、Cremnocereus(1種)、Samaipaticereus(→Cleistocactus)、Vatricania(→Cleistocactus)、Winterocereus(→Cleistocactus)、Yungasocereus(→Cleistocactus)

Borzicactus(10種、Seticereusを含む)、Espostoa(11種、Binghamia、Pseudoespostoa、Thrixanthocereusを含む)、Haageocereus(7種、Floresia、Haageocactus、Peruvocereusを含む)、Lasiocereus(2種)、Matucana(25種、Anhaloniopsis、Eomatucana、Oroya、Perucactusを含む)、Mila(1種)、Oreocereus(8種、Arequipa、Arequipopsis、Moraquipa、Morawetzia、Submatucanaを含む)、Oroya(→Matucana)、Pygmaeocereus(3種)、Rauhocereus(1種)
Loxanthocereus(12種)


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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。昨日はCereus連のUebelmannia亜連、Aylostera亜連、Rebutia亜連、Gymnocalycium亜連について記事にしました。本日はCereus連の残りの、Cereus亜連とReicheocactus亜連を見ていきます。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCereus連の続きを扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


Cereus連の分子系統(亜連レベル)
本日はUebelmannia亜連とCereus亜連、Reicheocactus亜連を扱います。
 
┏Aylosterinae

┫┏Rebutiinae
┃┃
┃┃    ┏Gymnocalyciinae
┗┫┏┫
    ┃┃┗Cereinae
    ┗┫   
        ┃┏Reicheocactinae
        ┗┫
            ┗Trichocereinae


☆Cereus亜連(※1)
※1: Discocactus亜連、Melocactus亜連、Pilosocereus亜連を含む。

南米東部と北東部にほぼ限定された系統群です。ただし、カリブ海地域や中米、メキシコ、フロリダにも分布するものもあります。Cereus亜連の多様性の大部分はブラジル北東部に見られる属により構成されます。いくつかの属には花座(Cephalium)が見られます。CoelocephalocereusやEspostoopsis、Facheiroa、広義のMicranthocereusの花座は側面にあり、DiscocactusやMelocactusは先端、ArrojadoaやStephanocereusは環状につきます。
Cereus亜連のサンプリングは不十分です。解析結果の不確実性や不十分な支持は、急速に多様化した結果であることを示唆します。著者らの結果に、Romeiro-Britoら(2023)のデータを散りばめました。よって、Cereus亜連は未解決なクレードから構成されており、明確な境界があり種の多い非公式なクレードを復元しています。

①初期に分岐した群
含まれる属: Brasilicereus(※2)、Cereus(※3)、Cipocereus(※4)、Facheiroa(※5)、Leocereus、Praecereus、Stetsonia

※2: Bragaiaを含む。※3: Mirabella、Subpilocereusを含む。Serrulatocereusを含む? ※4: Floribundaを含まない。※5: Zehntnerellaを含む。

┏Praecereus euchlorus

┫┏Stetsonia coryne
┃┃
┃┃    ┏Cereus fricii
┗┫┏┫ (=Subpilocereus fricii)
    ┃┃┃┏Cereus hexagonus
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗Cereus jamacaru
    ┗┫   
        ┃     ┏Leocereus bahiensis
        ┃┏ ┫
        ┃┃ ┗Facheiroa ulei
        ┗┫
            ┃┏Brasilicereus phaecanthus
            ┗┫  
                ┗非公式系統群
                

系統的に基底的な群で、Cereusクレード、Facheiroaクレード、Romeiro-Britoら(2023)のStetsoniaとPraecereusに相当します。PraecereusとStetsoniaがこの群の初期分岐に位置付けられていることは花序の構造と一致します。しかし、正確な位置は不明です。著者らのデータと異なり、Francoら(2017)やRomeiro-Britoら(2022, 2023)は、StetsoniaをCereus亜連の残りの属の姉妹群としています。Romeiro-Britoら(2016)の系統分類において、PraecereusはCereus属の2種とクレードを形成しています。しかし、Francoら(2017)やRomeiro-Britoら(2022)では、PraecereusをCereusおよびCipocereusの姉妹群としています。一方、Fantinatiら(2021)は、PraecereusがCereusに深く関係することを示しています。Cereus属の関係性は以前として大部分が未解決であり、カリブ海地域原産の2種のCereusは、Romeiro-Britoら(2023)のデータでは単系統ですが、Francoら(2017)のデータでは単系統ではありません。

Cipocereusの配置も未解決です。Francoら(2017)は、CipocereusをMirabellaの姉妹種とし、さらにPraecereusやCereusを含む他の系統群の姉妹種としました。対照的にAmaralら(2021)とRomeiro-Britoら(2023)は、PraecereusとCipocereusがCereusの連続した姉妹種としており、Romeiro-Britoら(2022)では使用したデータの違いによりCipocereusがCereusに埋め込まれているかMirabellaの姉妹種であるかという矛盾した結果を示しました。後者についてはFantinatiら(2021)でも見られ、これらを合わせるとCipocereusとPraecereusを含むより広いCereusを主張出来る可能性があります。

本研究に見られるLeocereusとFacheiroaの近縁性は、Schlumberger & Renner(2012)により初めて確認されました。この近縁性は花序の構造にも反映されており、周皮には多数の鱗片が密集し、しばしば豊富なフェルト層を有します。歴史的にはBarthlott & Hunt(1993)やTaylor & Zappi(2004)により、Trichocereus亜連に分類されていました。これは、Trichocereus亜連の周皮に毛があることによります。また、Fantinatiら(2021)はLeocereusをBrasiliの姉妹としており、Romeiro-Britoら(2022)はLeocereusは解析していないものFacheiroaをBrasilicereusの姉妹としています。著者らのデータでは、BrasilicereusはFacheiroa + Leocereusのクレードに属しませんが、Cereus亜連の残り(非合法群)と姉妹であるとしましたが根拠は薄いものです。

Romeiro-Britoら(2023)のサンプルにはBragaia estevesiiも含まれています。Bragaiaは形態学的にはBrasilicereusと区別することは困難です。Facheiroa系統群を、狭義のBrasilicereus + (Bragaia + (Facheiroa + Leocereus))とし、側系統となる広義のBrasilicereusを解決するためにBragaiaとBrasilicereus、Leocereusを拡張されたFacheiroaに含めることを提案しました。しかし、形態学的な顕著な違いなどを考慮して、これは時期尚早であると著者らは考えます。

241201101646609
Cereus repandus
夢の島熱帯植物館(2024年12月)



②非公式系統群【Melocactus亜連 + Pilocereus亜連】
含まれる属: Arrojadoa(※6)、Coelocephalocereus(※7)、Discocactus、Espostoopsis、Floribunda、Lagenosocereus、Melocactus、Micranthocereus(※8)、Pierrebraunia、Pilosocereus、Siccobaccatus、Stephanocereus、Xiquexique(※9)

※6: Arrojadoopsisを含む。※7: Buiningia、Mariottiaを含む。※8: Austrocephalocereus、Viridicereusを含む。※9: Caerulocereusを含む?

┏Micranthocereus polyanthus
┫           
┃┏Espostoopsis dybowskii
┃┃
┗┫    ┏Coelocephalocereus aureus
    ┃┏┫ (=Buiningia)
    ┃┃┗Coelocephalocereus
    ┃┃              fluminensis
    ┗┫
        ┃    ┏Discocactus zehntneri
        ┃┏┫          
        ┃┃┗Melocactus oreas
        ┗┫              
            ┃    ┏Xiquexique gounellei
            ┃┏┫(=Pilosocereus gounellei)
            ┃┃┃ 
            ┃┃┗Pilosocereus
            ┗┫           leucocephalus
                ┃
                ┃┏Arrojadoa pusilliflora
                ┗┫ (=Floribunda pusilliflora)
                    ┃ (=Cipocereus pusilliflorus)
                    ┃┏Stephanocereus
                    ┗┫            leucostele
                        ┗Arrojadoa rhodantha


ブラジル北東部原産のEspostoopsisはEspostoaとの表面的な類似により、以前はTrichocereus亜連に含まれると考えられてきました。 著者らの非公式系統群の中では、もっとも初期の分岐枝の中にあります。Schlumberger &  Renner(2012)はEspostoopsisをMicranthocereus densiflorusの姉妹種としましたが、ブラジルにおけるサンプリングは不十分なものでした。初期に分岐した系統群は解析ごとに異なります。著者らのデータでは、狭義のMicranthocereusはCereus亜連の非公式系統群の残りすべての属の姉妹属としましたが、Romeiro-Britoら(2023)はEspostoopsisが狭義のMicranthocereusと残りの属の姉妹属としました。高い支持がなく正当性にかけるため、この系統群には正式な命名をせず、非公式系統群とします。

広義のCoelocephalocereus、すなわちBuiningiaは完全に支持されており、Romeiro-Britoら(2023)もこれを確認しています。DiscocactusとMelocactusとの関係も同様です。両者は通常は分岐せず頂端に花座を持ちます。Discocactusは夜行性でスズメガ媒(sphingophilous)で、Melocactusは昼行性で鳥媒(ornithophilous)です。

StephanocereusとArrojadoaの密接な関係性は、輪状の花座が共通することからも言えます。また、Stephanocereusは夜行性でコウモリ媒(chiropterophilous)、Arrojadoaは昼行性、または薄明薄暮性で鳥媒です。著者らはFloribunda pusilliflora(一般的にはCipocereus)をArrojadoa-Stephanocereusクレードの姉妹種と位置付けましたが、これはRomeiro-Britoら(2023)やFantinatiら(2021)においても確認されています。Romeiro-Britoら(2023)のサンプルの種類が多い解析では、Pierrebraunia bahiensisとStephanocereus luetzelburgiiは、Micranthocereus violaciflorusと共にArrojadoa-Stephanocereusクレードの構成種とされました。Floribunda、Pierrebraunia、Lagenosocereusは花座を形成しませんが、Micranthocereus violaciflorusは側頭に花座を形成し、StephanocereusとArrojadoaは断続的に環状に花座を形成します。Romeiro-Britoら(2023)は大胆にもこれらすべてを拡張されたArrojadoaに含めています。分析されたMicranthocereus violaciflorus以外のすべての系統群が完全に支持されたため、Floribunda + ((Pierrebraunia) + (Lagenosocereus + Stephanocereus) + Arrojadoaと認識した方が進化の分岐をより適切に表すことが出来るとしています。このLagenosocereusとPierrebrauniaの配置は、Fantinatiら(2021)により発見されました。Micranthocereus violaciflorusについては、当面は未解決な孤児として扱う方が最善であり、Guiggi(2024)による単型属Viridicereusとして分離するのは時期尚早です。

広義のPilocereusとMicranthocereusは、Cereus亜連のブラジル原産種に焦点を当てた複数の研究により注目を集めています。Calventeら(2017)やLavorら(2019, 2000)、Fantinatiら(2021)では、Pilosocereusから分離されたXiquexiqueが狭義のPilosocereusとは異なる十分に裏付けられた系統群であることを発見しました。これは、Romeiro-Britoら(2022, 2023)による詳細な研究によっても裏付けられています。さらに、Xiquexiqueを除くPilosocereusはP. bohlei(=X. bohlei)を除いた場合には単系統になります。Romeiro-Britoら(2023)ではP. bohleiはXiquexiqueの姉妹種であるとしていますが、裏付けは限られています。Fantinatiら(2021)やRomeiro-Britoら(2022, 2023)はMicranthocereusを多系統群としました。基準種であるM. polyanthusとその他のAustrocephalocereusを含む数種は、Xiquexiqueの姉妹系統群を形成します。Fantinatiら(2021)はCoelocephalocereus goebelianusの姉妹系統としてM. aurei-azureusを発見しました。Romeiro-Britoら(2023)はMicranthocereusの顕著な多系統性を明らかとしています。MicranthocereusはXiquexiqueの姉妹種ですが、以前はSiccobaccatusとして分離されていた種がCoelocephalocereusの姉妹種とされていました。SiccobaccatusはCoelocephalocereus goebelianusと形態は似ていますが、茎の組織が乾燥させても崩れないという解剖学的な構造が異なります。よって、著者らはこの差異に注目し分離属を認めます。

過去の複数の研究では、ブラジルのBahia中央の狭い地域の固有種であるPilosocereus aureispinusが残りすべての同属の分類群の姉妹種であり、ブラジル国外に分布するPilosocereusはブラジル東部に分布するPilosocereus chrysosteleを姉妹種として狭義のPilosocereusに属し、単一の系統群を形成します。

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Melocactus matanzanus
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



240622110008482
Melocactus bahiensis
筑波実験植物園(2024年6月)


240622105951880
Melocactus zehntneri
筑波実験植物園(2024年6月)


☆Reicheocactus亜連
含まれる属: Reicheocactus


矮性の球形から短い円筒形で、節はなく通常は単生です。塊茎状の主根を持ち、多数の密集した低い肋があります。櫛歯状で弱いトゲがあります。花は昼行性で、外果皮の鱗片には豊富な綿毛と毛があります。

アルゼンチン中部のアンデス山脈東部の斜面に分布するReicheocactusがTrichocereus亜連の姉妹群であり孤立しているという見解は、Schlumberger & Renner(2012)により初めて指摘され十分な裏付けがあります。本研究もこれを裏付けています。単属の亜連を形成しその孤立した位置付けが強調されます。Reicheocactus famatimensisは、長年に渡りEchinopsis densispina やEriosyce odieriに誤認されてきました。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日の中心はCereus亜連でした。系統図を見ればおわかりの通り、非常に複雑で入り組んでいます。解析は不十分であり、著者らも正式な分類は時期尚早と考えています。さて、このグループは、基本的に柱サボテンにより形成されますが、DiscocactusやMelocactusなど球形のものも含まれます。また、Cephaliumと呼ばれる特徴的な花座を持つものもいくつかありますが、基本的にMelocactusくらいしか見たことがありません。あまり一般的ではない属が多いように思われます。
Reicheocactusは1種で亜連を形成します。かつては、RebutiaやLobiviaてされてきましたが、現在ではReicheocactus famatinensisとなっています。しかし、柱サボテン状でもなく肋ではなく結節(イボ)からなる見た目は、分類学的な位置を見るととても不思議です。
さて、長々と続いたサボテンの最新分類についての記事も次回で最後です。分類が混乱して名前がコロコロ変わったTrichocereus亜連の分類となります。


ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Brasilicereus(→Facheiroa)、Cereus(29種、Cirinosum、Estevesia、Mirabella、Piptanthocereus、Praepilocereus、Subpilocereusを含む)、Cipocereus(5種)、Facheiroa(8種、Bragaia、Brasilicereus、Leocereus、Zehntnerellaを含む)、Leocereus(→Facheiroa)、Praecereus(2種、Monvillea、× Prilleaを含む)、Stetsonia(1種)、Serrulatocereus(1種)

Arrojadoa(14種、Arrojadoopsis、Floribunda、Lagenosocereus、Pierrebraunia、Stephanocereus、Viridicereusを含む)、Coelocephalocereus(9種、Buiningia、Mariottia、Siccobaccausを含む)、Discocactus(15種、Neodiscocactusを含む)、Espostoopsis(1種、Gerocephalusを含む)、Floribunda(→Arrojadoa)、Lagenosocereus(→Arrojadoa)、Melocactus(48種)、Micranthocereus(10 種、Austrocephalocereusを含む)、Pierrebraunia(→Arrojadoa)、Pilosocereus(56種、Pseudopilocereusを含む)、Siccobaccatus(→Coelocephalocereus)、Stephanocereus(→Arrojadoa)、Xiquexique(3種、Caerulocereusを含む)

Reicheocactus(1種)


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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。本日はCactus亜科Cereus連の解説と、Cereus亜連のUebelmannia亜連とAylostera亜連、Rebutia亜連、Gymnocalycium亜連を見ていきます。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCereus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae



★Cereus連(※1)
※1: Melocacteae、Harrisieae、Trichocereeae、Brownningieae、Echinopsideae、Acanthocalycieaeをを含む。


Cereus連の分子系統(亜連レベル)
本日はUebelmannia亜連とAylostera亜連、Rebutia亜連、Gymnocalycium亜連を扱います。
 
Aylosterinae

┫┏Rebutiinae
┃┃
┃┃    ┏Gymnocalyciinae
┗┫┏┫
    ┃┃┗Cereinae
    ┗┫   
        ┃┏Reicheocactinae
        ┗┫
            ┗Trichocereinae



ごく稀に着生(Echinopsis arboricola)する、小型で球形の単生から群生、あるいは象徴的な柱状や燭台状まで多種多様です。多くの場合、頭状部が明確に変化し(Cephalium)、花は多様です。

Cereus連は分布がほぼ南米に限定されている単系統のクレードです。CereusやHarrisa 、Melocactus、Pilosocereusの中のごく少数の種が中米やメキシコ、カリブ海地域、米国のフロリダまで広がっています。
Cereus連の種の多様性の大部分は、Cereus亜連とTrichocereus亜連に属します。形態は多様で、矮性の孤立した球形のものから柱サボテンまで連続しています。いくつかの系統では生殖する茎部分(Cephalia)が顕著です。ブラジル原産のCereus亜連では先端あるいは環状のCephaliumが見られ、Cereus亜連やTrichocereus亜連のいくつかの系統では側方にCephaliumが見られます。側方のCephaliumは、MicranthocereusやEspostoaの形態学上の「鍵」である特徴として、繰り返し使用されてきました。しかし、それらは平行進化によるものでしかありません。


著者らのデータでは、Cereus連の最初の分岐はAylostera亜連です。次に分岐するRebutia亜連は謎を抱えており、不確定なものです。これは、円柱状や枝分かれした樹木状のBrowningiaや、小型で球形のRebutiaやWeingartiaといった極端な多様性が関係していると考えられます。

Uebelmanniaはブラジル北東部カンポ・ルペストレ植生に生えます。UebelmanniaはそのタイプであるU. gutmiferaが顕著なゴム道(gum duct)を有する特異的な茎を持ちます。
著者らは解析していませんが、Silvaら(2020)やZappiら(2024)はUebelmanniaをCereus連の早期の分岐における単属のクレードと位置付けており、その根拠とする論文がいくつかあります。歴史的にUebelmanniaは、Barthlott & Hunt(1993)はNotocactus連に、Taylor & Zappi(2004)はTrichocereus連に分類されてきました。

種数が豊富なCereus亜連とTrichocereus亜連は、従来の分類では単一属の最古のクレードのパターンを共有します。Cereus亜連のGymnocalyciumをGymnocalycium亜連とし、Trichocereus亜連のReicheocactusをReicheocactus亜連とすることを提案します。


☆Uebelmannia亜連
含まれる属: Uebelmannia


属のタイプであるU. gutmiferaは黄色の花や球形な姿から、当初はParodiaとして記載されました。分布はブラジルのミナス・ジェライス州中心部に限定されます。


☆Aylostera亜連
含まれる属: Aylostera(※2)

※2: Digitorebutia、Mediolobiviaを含む。


Aylostera亜連、Rebutia亜連の分子系統
 
  Aylostera亜連
    ┏Aylostera einstenii
    ┃    (=Rebutia einstenii)
┏┫┏Aylostera pygmaea
┃┗┫(=Digitorebutia haagei)
┃    ┗Aylostera(Rebutia)fiebrigii
┃          (=Rebutia fiebrigii)
┃      Rebutia亜連
┃    ┏Rebutia minuscula

┫┏┫
┃┃┃┏Browningia candelaris
┃┃┗┫
┃┃    ┃┏Weingartia fidana
┃┃    ┗┫
┃┃        ┃┏Weingartia steinbachii
┃┃        ┗┫(=Sulcorebutia steinbachii)
┃┃            ┃┏Weingartia
┃┃            ┗┫   neocumingii
┃┃                ┗Weingartia neocumingii
┃┃                         subsp. pulquinensis
┃┃                   (=Gymnorebutia pulquinensis)     

┃┃    ┏Gymnocalycium亜連
┗┫┏┫
    ┃┃┗Cereus亜連
    ┗┫   
        ┃┏Reicheocactus亜連
        ┗┫
            ┗Trichocereus亜連

広義のRebutiaの多様性は、Ritzら(2007)により明らかとされており、Mostiら(2011)やRitzら(2016)により裏付けられています。広義のRebutiaとは、Anderson(2001, 2005)ではAylosteraやDigitorebutia、Mediolobiviaを含み、Huntら(2006)ではCintiaやWeingartiaを含むものでした。AylosteraとRebutiaを別の属として認識することは、Aylosteraは6〜8花粉片で狭義のRebutiaは3花粉片であるという花粉の形態の違いと整合性があります。

AylosteraはRitzら(2016)により詳細に研究されており、Aylosteraに合致する3系統群に分けられます。2つの系統はDigitorebutiaとMediolobiviaに相当します。ちなみに、著者らはA. einsteiniiを解析しましたが、Ritzらはこれを属のタイプであるA. aureifloraの異名と見なしました。この結果は著者らの分析により裏付けられています。広義のAylosteraは、Mediolobivia(A. einsteinii) + (狭義のAylostera + Digitorebutia)という分岐となりましたが、サンプル数が多いRitzら(2016)では(Mediolobivia + Aylostera) + Digitorebutiaとされています。


☆Rebutia亜連(※3)
含まれる属: Browningia(※4)、Rebutia(狭義)、Weingartia(※5)

※3: Browningiinaeを含む。※4: Azureocereus、Gymnanthocereus、Gymnocereusを含むが、Leptocereus亜連のCastellanosiaを含まない。※5: Cintia、Gymnorebutia、Sulcorebutiaを含む。

狭義のRebutia、Browningia、WeingartiaからなるRebutia亜連は、もっとも謎めいた系統群です。Lendelら(2006)とRitzら(2007)の暫定的なデータにより初めて明らかとなりましたが、Schlumpberger & Renner(2012)の系統にも見られます。

RebutiaとWeingartiaの矮性で球形の形態と、Browningiaの枝分かれした樹木状の形態との間の相違点は極めて顕著です。著者らの系統やRitzら(2007)の系統の支持が低いのは、BrowningiaがRebutiaやWeingartiaに対し長く孤立して進化したためであると考えられます。GymnanthocereusやAzureocereus、Gymnocereusを含む解析が行われることを期待します。また、Schlumberger + Renner(2012)は、Lasiocereus fulvusをBrowningia-Rebutia-Weingartiaクレードの姉妹種としましたが、著者らは属のタイプであるL. fulvusをTrichocereusに属する種であると特定しました。

広義のWeingartiaの単系統性は、Browningia-Rebutia-Weingartiaクレードの姉妹種としています。これは、Ritzら(2007)やMostiら(2011)の研究とは対照的に、著者らのデータでは裏付けられています。


250427094037626
Rebutia perplexa
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



☆Gymnocalycium亜連
含まれる属: Gymnocalycium(※6)

※6: Brachycalyciumを含む。

Gymnocalyciumはブラジル南部やウルグアイからパラグアイ、ボリビア、南部はパタゴニア地方までアルゼンチンに至る、南米東部の平野およびアンデス山脈斜面に分布します。近年の研究ではGymnocalyciumは単系統であることは一致していますが、属の内部の分類はそれぞれ異なります。また、GymnocalyciumのCereus連内の位置付けは依然として議論が続いています。Ritzら(2007)はGymnocalyciumをTrichocereus亜連の姉妹群としましたが、その根拠は薄いとしています。GymnocalyciumはCereus連の中でも非常に孤立しているため、単属の亜連であるGymnocalycium亜連を提案します。

250831170801616
Gymnocalycium friedrichii LB 2178


250721135142299
Gymnocalycium spegazzinii subsp. cardenasianum


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日はウエベルマンニア(ユーベルマニア)亜連、アイロステラ亜連、レブチア亜連、ギムノカリキウム亜連についてでした。
ウエベルマンニアは外見的な特異性そのままに、分離された亜連としています。しかし、著者らはサンプリングしていないため、分子系統にはありません。
レブチアは分離されてわずか3種からなる小属です。遺伝的に2群に分けられるため、片方はアイロステラになりました。しかも、2属に分けられるだけではなく、亜連レベルで異なるという見解には驚かされます。
ギムノカリキウムはまとまりのある単系統群です。属内分類もある程度は傾向が解析されています。以前、当該論文を記事にしたことがありますので、そちらもご参照下さい。



ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Uebelmannia(4種)

Aylostera(27種、Cylindrorebutia、Digitorebutia、Echinolobivia、Echinorebutia、Mediolobivia、Rebulobivia、Setirebutiaを含む)

Browningia(11種、Azureocereus、Gymnanthocereus、Gymnocereusを含む)、Rebutia(3種、Eurebutiaを含む)、Weingartia(34種、Neogymnantha、Spegazzinia、Bridgesia、Cintia、Gymnantha、Gymnorebutia、Sulcorebutiaを含む)

Gymnocalycium(67種、Brachycalyciumを含む)



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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。本日はCactus亜科のFrailea連、Rhipsalis連、Notocactus連を見ていきます。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はFrailea連、Rhipsalis連、Notocactus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


★Frailea連
含まれる属: Frailea

ブラジル南部、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビア、アルゼンチン北部などの南米東部の、低地の岩場から砂質の草原に自生します。体は埋まる場合と埋まらない場合があります。
Fraileaが孤立下位置付けにあることは、以前から知られており、Nyffeler & Eggli(2010a)は孤児としています。Rhipsalis連の姉妹群に位置付けられていますが、極めて謎めいています。その根拠は限られ、支持も乏しいものでした。


241019164926369
Frailea castanea


Frailea連とRhipsalis連の分子系統

┏Frailea chiquitana

┫┏Rhipsalidopsis rosea
┃┃ (=Hatiola rosea)
┗┫┏Lepismium cruciforme
    ┃┃
    ┗┫┏Schlumbergera
        ┃┃    russelliana
        ┗┫┏Hatiora salicornioides
            ┃┃
            ┗┫┏Rhipsalis baccifera
                ┗┫
                    ┗Rhipsalis teres



★Rhipsalis連
含まれる属: Hatiora(※1)、Lepismium(※2)、Rhipsalidopsis、Rhipsalis(※3)、Schlumbergera(※4)

※1: Rhipsalidopsisを含まない。※2: Acanthocereus、Pfeifferaを含まない。※3: Erythrorhipsalisを含まない。※4: PseudozygocactusとZygocactusを含む。

着生性または稀に岩生性の矮性低木。分節する茎は広がるか垂れ下がり、茎は円錐形または扁平な枝状です。トゲは弱く、時に微細な毛状突起に退縮しています。花は昼行性です。

Rhipsalis連は5属からなる着生性の単系統群です。主に南米に分布しますが、RhipsalisはR. bacciferaがアフリカ、マダガスカル、スリランカまで分布します。広義のHatioraはCalventeら(2011a)やKorotkovaら(2011)と同様に、著者らの解析でも単系統ではありません。また、Rhipsalidopsis(イースターカクタス)は、平らな枝分かれした茎と、赤色からピンク色までの花を持つ種として明確に区別されるべきですが、Hatioraには円錐形でしばしば棍棒状の茎と黄色またはピンク色の花を持つ種を含みます。Hatiora epiphylloidesはかつてPseudozygocactusとして分離されましたが、Calventeら(2011a)やKorotkovaら(2011)により、Schlumbergeraに組み込まれていることが発見されました。しかし、茎の形状はRhipsalis連全体に渡り不安定で、Calventeら(2011a)は円錐形と扁平の茎の遷移を複数回発見しています。

著者らの系統は上記と矛盾していますが、Rhipsalis連の初期の分岐点の支持は弱いものです。著者らはRhipsalidopsisとLepismiumを、Schlumbergera + (Hatiora + Rhipsalis)の連続した姉妹群としましたが、Calventeら(2011a)はRhipsalidopsisをSchlumbergeraの姉妹群としています。Korotkovaら(2011)はH. epiphylloidesを含むSchlumbergeraとHatioraを、Rhipsalidopsis + (Lepismium + Rhipsalis)の連続した姉妹群としています。上述の改定されたLepismiumとRhipsalisは、近年のすべての研究において単系統されており、淡い色の半透明の花を咲かせます。

250118111237951~2
Hatiora salicornoides
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)


★Notocactus連(※5)
含まれる属: Eriosyce(※6)、Neowerdermannia、Parodia(※7)、Yavia

※5: Parodieaeを含む。※6: Diaguita、Guerreroa、Horridocactus、Islaya、Neoporteria、Neotanahashi、Pyrrhocactus、Rimacactus、Thelocephalaを含む。※7: Acanthocephala、Brasiliparodia、Eriocephala、Notocactus、Wigginsiaを含む。

Notocactus連の分子系統

  ┏Eriosyce aurata
 ┏┫
 ┃┗Eriosyce islayensis
┏┫       (=Islaya islayaensis )
┃┃┏Eriosyce strausiana
┃┗┫ (=Pyrrhocactus strausianus)
┃ ┗Eriosyce subgibbosa
┫        (=Neoporteria subgibbosa)
┃    ┏Yavia cryptocarpa
┃┏┫
┃┃┗Neowerdermannia
┃┃            vorwerkii
┃┃ ┏Parodia schumanniana
┗┫┏┫(=Eriocactus schumannianus)
    ┃┃┗ Parodia haselbergii
    ┗┫   (=Brasilicactus graessneri)
        ┃┏Parodia microsperma
        ┗┫
            ┃┏Parodia erinaceus
            ┗┫ (=Wigginsia sellowii)
                ┗Parodia ottonis
                        (=Notocactus ottonis)

   

分布は南米に限定されます。球形で矮性から中型で、茎に節はなく花は昼行性です。ブラジル南部のサンタカリーナ高地からアルゼンチン南部と中部、アンデス山脈の高地とチリ中部からペルー中部の乾燥した海岸まで分布します。

著者らの研究では広義のEriosyceが同定されました。それは、Islayaを含む狭義のEriosyceと、HorridocactusとPyrrhocactusを含むNeoporteriaから構成されると推定され、Barcenasら(2011)やHernandez-Hernandezら(2011)による解析、さらにGuerroら(2019)により広義のEriosyceの詳細なサンプリングによる研究と一致します。Eriosyceは西アンデスと東アンデスで繰り返し分離した、複雑な生物地理的な歴史を持つ可能性が高いようです。Guerroら(2019)によると、アルゼンチンに残る分類群であるE. strausiana(Pyrrhocactus)などは、広義のEriosyceの残りのクレードの中に埋もれているとしています。しかし、不可解なことに、チリ北部原産のE. lauiを他の3属により形成されるクレードの一部として、YaviaとNeowerdermanniaの姉妹種としました。これは、単型のRimacactusの分離を裏付けています。アルゼンチン原産のYaviaと、アルゼンチンとボリビア、ペルー、チリ北部原産のNeowerdermanniaは、アンデス山脈の高地に分布しますが、Rimacactusの分布はチリ北部の西アンデスの斜面に限られます。

NotocactusやWigginsiaを含む広義のParodiaは、単系統であることが確認されています。しかし、Acanthocephala (=Brasilicactus)は、分布はブラジル南部に限定され、Eriocephala(=Eriocactus)はブラジル南部やパラグアイ、アルゼンチン北東部に限定され、その分類は十分な裏付けがありません。本研究では確認していないBrasiliparodiaも、同様にブラジル南部に限定して分布します。これらの分類群は分布域が狭く、湿潤な気候の岩場に限定して生息します。これらは、すべてのNotocactus、Wigginsia、狭義のParodiaの、祖先的な孤立した遺存種である可能性があります。


250427094015643
Parodia scopa
=Notocactus rudibuenekeri

春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
Fraileaは1属で1つの連(tribe)となっています。Rhipsalis連の姉妹群とされましたが、分類上の位置はややあやふやなもので、さらなる裏付けが必要です。
Rhipsalis連は着生サボテンが多く特異的な外見のものが多く見られます。Lepismiumなどは一見してPhyllocactus連のHylocereus亜連に属するEpiphyllumなどによく似ています。おそらく、生態学的なニッチの傾向が類似しているため収斂したのでしょう。

Notocactus連は近年、分類が大きく変わった分類群です。NeoporteriaやIslayaがEriosyceに吸収されました。しかし、最大の出来事はParodiaの拡大でしょう。NotocactusやParodia、Wigginsia、Eriocactus、Brasilicactusが分離出来ないことが明らかとなったのです。結果、そのすべてがParodiaとなり、命名上のルールにより巨大なParodiaが誕生しました。これらのことは著者らも再確認しており、概ね正しいと言えるでしょう。


ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Frailea(19種)

Hatiora(3種、Epiphyllopsisを含む)、Lepismium(7種、Acanthorhipsalis、Nothorhipsalis、Ophiorhipsalisを含む)、Rhipsalidopsis(2種)、Rhipsalis(45種、Cassytha、Erythrorhipsalis、Hariota、Hylorhipsalisを含む)、Schlumbergera(7種、Epiphyllanthus、Epiphyllum Pfeiff.、Pseudozygocactus、× Rhipsaphyllopsis、× Schlumbergeranthus、× Schlumbergopsis、Zygocactus、Zygocereusを含む)

※1: Rhipsalidopsisを含まない。※2: Acanthocereus、Pfeifferaを含まない。※3: Erythrorhipsalisを含まない。※

Eriosyce(64種、Chilenia、Chileniopsis、Chileocactus、Chileorebutia、Chiliorebutia、Delaetia、Diaguita、Dracocactus、Euporteria、Friesia、Guerreroa、Hildmannia、Horridocactus、Islaya、Neochilenia、Neomapuchea、Neoporteria、Neotanahashia、Nichelia、Pyrrhocactus、Rodentiophila 、Thelocephalaを含む)、Neowerdermannia(2種)、Parodia(75種、Hickenia、Microspermia、Neohickenia、Acanthocephala、Bolivicactus、Brasilicactus、Brasiliparodia、Brasilocactus、Chrysocactus、Dactylanthocactus、Eriocactus、Eriocephala、Malacocarpus、Notocactus、Peronocactus、Ritterocactus、Sericocactus、Wigginsiaを含む)、Yavia(1種)、Rimacactus(1種)



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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。本日はCactus亜科のPhyllocactus連を見ていきます。Phyllocactus連は森林性サボテンで、熱帯林に分布ししばしば着生しますが、本日扱うEchinocereus亜連は主に大型の柱サボテンからなります。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はPhyllocactus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


Phyllocactus連の分子系統(亜連レベル)
前回はCorryocactus亜連、Leptocereus亜連、Hylocereus亜連についてでしたが、今回は残りのEchinocereus亜連についてです。

┏Corryocactinae

┫┏Leptocereinae
┃┃
┗┫┏Hylocereinae
    ┗┫
        ┗Echinocereinae



☆Echinocereus亜連(※1)
※1: Nyctocereine、Cephalocereinan、Myrtillocactinae、Pachycereinae、Pterocereinae、Stenocereinae、Selenicereinaeを含む。

Echinocereus亜連の分子系統

         ①初期に分岐した系統
┏Nyctocereus serpentinus
┃     (=Peniocereus serpentinus)
┃          
┫┏Echinocereus viridiflorus
┃┃
┗┫┏Deamia testudo
    ┗┫   (=Selenicereus testudo)
        ┃┏Lemaireocereus hollianus
        ┃┃   (=Pachycereus hollianus)
  ┃┃  ②クレード1
        ┗┫  ┏Stenocereus
   ┃  ┃      thurberi
            ┃    ┏┫┏Stenocereus standleyi
   ┃ ┃┗┫(=Ritterocereus standleyi)
   ┃ ┃ ┗Morangaya pensilis
            ┃┏┫       (=Echinocereus pensilis)        
            ┃┃┃┏Isolatocereus dumortieri
            ┗┫┗┫ (=Stenocereus dumortieri)
       ┃ ┃┏Escontria chiotilla
                ┃    ┗┫    
                ┃        ┃┏Myrtillocactus
                ┃        ┗┫    geometrizans
                ┃            ┗Polaskia chichipe
                ┃  ③クレード2
                ┃    ┏Bergerocactus emoryi
                ┃    ┃
                ┃┏┫┏Cephalocereus polylophus
                ┃┃┗┫ (=Neobuxbaumia polylopha)
                ┃┃    ┗Cephalocereus
                ┗┫                    senilis
     ┃ ┏Mitrocereus militaris
                    ┃┏┫ (=Backebergia militaris)
                    ┃┃┗Marshallocereus aragonii
                    ┃┃      (=Stenocereus aragonii)       
                    ┗┫
                        ┃┏Carnegiea gigantea
                        ┃┃
                        ┗┫
                            ┃┏Lophocereus marginatus
                            ┗┫(=Marginatocereus 
                                ┃       marginatus)
                                ┃(=Pachycereus)
                                ┗Lophocereus schottii
                                (=Pachycereus schottii)

多稜で矮性から中型の低木、あるいは燭台状の枝分かれした高木。単独の円柱状か、稀に(半)着生で全長にわたり根を張るDeamiaもあります。茎は通常は節がなく、夜行性の大きな花を咲かせます。しばしば、コウモリ媒(chiropterophilous)です。
Echinocereus亜連はほぼ完全に北米と中米に分布する柱サボテンのグループで、多様性の中心はメキシコにあります。小型のEchinocereusから、巨大な樹木状のCephalocereusやPachycereus、Carnegieaなど多岐にわたります。広義のPachycereus、広義のPeniocereus、広義のStenocereusは明らかに多系統で、複数の系統群にまたがることもあります。本研究においては、Nyctocereusの位置付けに関して、Franco-Estradeら(2021)による最新の研究とかなり異なります。Echinocereus亜連に関する理解は依然として不十分で、これはCactus亜連の状況とほぼ同様です。Echinocereus亜連は明確に単系統ですが、内部の分類は十分に解明されていません。著者らのデータに基づくと、3つのクレードとその姉妹群である種数が少ない系統がありますが、十分な裏付けが不足しているため、これらのグループには名前を付けていません。


①初期に分岐した系統

含まれる属: Deamia(※2)、Echinocereus(狭義、※3)、Lemaireocereus、Nyctocereus(※4)

※2: 以前はHylocereus連のSelenicereusに含まれていた。※3: Wilcoxiaを含み、Morangayaを含まない。※4: 以前はPeniocereusに含まれていた。

EchinocereusはE. pensilisを除いた場合に単系統で、明確にWilcoxiaを含みます。Echinocereusはほぼすべての種で、花芽が表皮を突き破って出てくることで有名です。
狭義のNyctocereus(Cullmannia、Neoevansiaを含む)は、Franco-Estradeら(2021)の系統分類に基づいています。NyctocereusはPachycereusグループ(クレード3相当)の姉妹群とされています。著者らの解析では、Nyctocereusは他のすべてのEchinocereus亜連の姉妹群でした。なお、広義のPeniocereusの多系統性はBarcenasら(2011)により初めて指摘されました。
Lemaireocereusは以前は広義のPachycereusに含まれていました。Lemaireocereusは残りの北米の柱サボテンの姉妹群として孤立した位置にあることは、Ariasら(2003)とArias & Terrazas(2006)により指摘され、著者らのデータとFranco-Estradeら(2021)により裏付けられます。


②クレード1

含まれる属: Escontria、Isolatocereus、Myrtillocactus、Polaskia(※5)、Stenocereus(※6)

※5: Heliabravoaを含む。※6: Griseocereus、Hertrichocereus、Machaerocereus、Morangaya(以前はEchinocereus)、Rathbunia、Ritterocereusを含み、Marshallocereus(→クレード2)を含まない。

Echinocereus(Morangaya) pensilisはバハ・カリフォルニア産で、おそらく鳥媒花で、その正しい位置付けは議論の的となっています。Pradoら(2010)やBarcenasら(2011)、および著者らのデータでは、Stenocereus、Escontria、Machaerocereus、Polaskiaを含む系統群に分類されます。Sanchezら(2014)とFranco-Estradeら(2021)も同様です。Sanchezら(2018)はMorangayaをStenocereus(Rathbunia) alamosensisの姉妹群としており、花は鳥媒花で果実の特徴も共有しています。著者らの系統樹において、Morangayaを認めるとStenocactusは側系統となり、Ritterocereusは別の系統とせざるを得なくなります。Echinocereus (Morangaya) pensilisの位置付けをStenocereusに位置付けるためには、新たな組み合わせが必要となります。著者らはEchinocereus (Morangaya) pensilisを、Stenocereus pensilisとする提案を行いました。

PolaskiaはそのタイプであるP. chichipeについて、Myrtillocactusの姉妹群としての十分な裏付けを得ることが出来ました。これは、Franco-Estradeら(2021)の結果を反映しています。P. chende(Heliabravoa)は、Franco-Estradeら(2021)により、Escontriaの姉妹群とされています。EscontriaとPolaskiaの近縁性は、その自然交雑種である× Polascontriaの存在によっても裏付けられます。

Anderson(2001、2005)やHuntら(2006)が用いた分類におけるStenocereusは、古くからゴルディアスの結び目のようで、時代と共に分離されていきました。著者らの解析にはStenocereusのタイプであるS. stellatusは含まれませんが、S. thurberiはAriasら(2005)により準多系統のStenocereusの一部とされています。著者らが解析した広義のStenocereusの分離群であるIsolatocereus、Marshallocereus、Ritterocereusは配置が相反しているため、Anderson(2001、2005)やHernandez-Ledesmaら(2015)により限定された広義のStenocereusの概念は、極めて多系統的で維持は不可能です。Marshallocereusはこのクレードですらなく、Stenocereus yunckderiと共にクレード2に属します。解決策は見つかっておらず、このクレードに含まれる属は暫定的なものです。

240922101130480
Stenocereus(Ritterocereus) pruinosus
新宿御苑(2024年9月)


③クレード2
含まれる属: Backebergia(※7)、Bergerocactus、Carnegiea、Cephalocereus(※8)、Lophocereus(※7)、Marginatocereus(※7)、Marshallocereus(※9)、Pachycereus(狭義、※10)、Pterocereus

※7: Pachycereusに含まれていた。※8: Neobuxbaumia、Neodawsonia、Pseudomitrocereusを含む。※9: クレード1のStenocereusに含まれる。※10: Lemaireocereus、Lophocereus、Marginatocereus、Marshallocereus、Pterocereusを含まない。

Neobuxbaumia(Pseudomitrocereus、Mitrocereus fulvicepsを含む)は、著者らの系統樹ではCephalocereusの姉妹群として示されており、これは過去の研究と一致します。過去の研究はすべて単系統のクレードに混じったCephalocereusとNeobuxbaumiaの種を発見したため、NeobuxbaumiaはCephalocereusとされます。著者らの系統樹においては、広義のCephalocereus(メキシコ中部原産)をBergerocactus(カリフォルニア州南西部およびバハ・カリフォルニア北西部)の姉妹群とする、生物地理的に謎めいた位置付けとしましたが、Franco-Estradeら(2021)においても同様の結果が得られています。

広義のPachycereusである亜系統群は、広義のPachycereusは、Marshallocereus(旧・Stenocereus)、単型のCarnegieaからなり、過去の研究結果と一致します。

240622105935223
Pachycereus pringlei
筑波実験植物園(2024年6月)


DSC_1244
Carnegiea gigantea
神代植物公園(2022年5月)



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日はEchinocereus亜連についてでした。柱サボテンには三角柱や金紐の仲間と近縁な主に北米に分布するEchinocereus・Pachycereus系と、MelocactusやEchinopsisなどに近縁な主に南米やカリブ海地域に分布するCereus・Trichocereus系の2つがあります。共に柱状になりますが、互いに関係なく似た姿に収斂したということなのでしょう。ただ、Echinocereus亜連の内部の分類については、まだ不確かな部分があるようです。



ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Deamia(4種)、Echinocereus(84種、Wilcoxiaを含む)、Lemaireocereus(2種)、Nyctocereus(1種)

Escontria(1種)、Isolatocereus(1種)、Myrtillocactus(4種、Myrtillocereusを含む)、Polaskia(2種、Chichipia、Heliabravoaを含む)、Stenocereus(22種、Neolemaireocereus、Glandulicereus、Griseocactus、Griseocereus、Hertrichocereus、Machaerocereus、Neogriseocereus、Nigellicereus、Rathbunia、× Rittellicereus、Ritterocereusを含む)、Morangaya(1種)

Backebergia(→Mitrocereusに含まれる、1種)、Bergerocactus(1種)、Carnegiea(1種)、Cephalocereus(13種、Pilocereus、Cephalophorus、Haseltonia、Neobuxbaumia、Neodawsonia、Pseudomitrocereus、Rooksbyaを含む)、Lophocereus(3種、Marginatocereusを含む)、Marginatocereus(→Lophocereusに含まれる)、Marshallocereus(1種)、Pachycereus(5種、Anisocereus、Tribulariaを含む)、Pterocereus(1種)


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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。本日はCactus亜科のPhyllocactus連を見ていきます。Phyllocactus連は森林性サボテンで、熱帯林に分布ししばしば着生します。クジャクサボテンや月下美人、三角柱や金紐などのヒモサボテンが有名です。Echinocereus亜連は次回に扱います。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はPhyllocactus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


★Phyllocactus連(※1)
※1: Echinocereeae、Hylocereeae、Leptocereeae、Pachycereeae、Monvilleeae、Peniocereeaeを含む。

Phyllocactus連の分子系統(亜連レベル)

Corryocactinae

┫┏Leptocereinae
┃┃
┗┫┏Hylocereinae
    ┗┫
        ┗Echinocereinae


Phyllocactus連は長らくHylocereus連(2001, 2005)の名前で知られていましたが、Phyllocactus連(1845)が優先されます。初期の分岐のいくつかは支持が乏しいのですが、多様なPhyllocactus連の複雑な関係性を強調するために4亜連を認めます。Phyllocactus連は多数の独立した着生が見られます。従来型の肋(rib)がある直立した茎から、垂れ下がる葉のような形態まで見られます。


☆Corryocactus亜連(※2)
含まれる属: Austrocactus、Brachycereus、Corryocactus(※3)、Eulychnia、Jasminocereus、Neoraimondia(※4)、Pfeiffera(※5)、Strophocactus(※6)

※2: Pfeifferinae、Eulychniinaeを含む。※3: Erdisia、Eulychnocactusを含む。※4: Neocardenasiaを含む。※5: 狭義のAchanthorhipsalisとBolivihanburyaを含み、Lepismium p.p.とLymanbensoniaを含まない。※6: Pseudoacanthocereusを含む。以前はSelenicereusに含まれていた。

Corryocactus亜連の分子系統

 ┏Pfeiffera ianthothele
┏┫(=Lepismium ianthothele)
┃┗Pfeiffera miyagawae
┃    (=Lepismium miyagawae)
┃    ┏Eulychnia acida
┫┏┫
┃┃┗Austrocactus spiniflorus
┃┃
┃┃    ┏Corryocactus squarrosus
┗┫┏┫(=Erdisia squarrosa)
    ┃┃┃┏Corryocactus brevistylus
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗Corryocactus melanotrichus
    ┗┫     (=Erdisia melanotricha)  
        ┃┏Strophocactus brasiliensis
        ┃┃  (=Pseudoacanthocereus  
        ┗┫         brasiliensis)
            ┃┏Leptocereus亜連
            ┗┫
    ┃┏Hylocereus亜連
                ┗┫
                    ┗Echinocereus亜連


チリ沿岸やパタゴニアのステップ地帯、湿潤なアマゾンの森林に生息する。地上性または着生性で、小型の低木から樹木状まであります。茎は通常は分節し、肋(rib)がありトゲがあるものから平らでやや細い枝を持つものまで多様です。花は非常に変異が多く、昼行性から夜行性で、通常はトゲのある果皮を持ちます。

他のすべてのPhyllocactus連の姉妹群はPfeifferaですが、分類学上の複雑な歴史があります。伝統的にPfeifferaは、着生あるいは岩生のP. ianthotheleと、短い肋がありトゲのある茎を持つ類似したいくつかの分類群に限定されてきました。Barthlott & Taylor(1995)は、PfeifferaをLepismiumに含めました。しかし、Nyffeler(2000)はこの説が妥当ではないことを示し、Huntら(2006)はPfeifferaを独立した属として認めました。Korotkovaら(2010)は、Pfeifferaは多系統であり、一部はLymanbensoniaやLepismiumとして分離されるべきであることを示しました。現在のPfeifferaは、肋骨状のトゲのある柱サボテン状(cereoid)の茎から平行な跛行(cladodia)まで、形態的に連続しています。

Pseudoacanthocereusの2種、P. brasiliensisとP. sicariguensisは分子系統では分離して出現します。かつてはAchanthocereusに分類されていましたが、この2種の種子は非常に大きく共通する特徴を持ちます。PseudoacanthocereusがEchinocereus亜連ではなく、Corryocactus亜連を含む祖先種の一部と位置付けられていることは、Korotkovaら(2017)による分子系統により初めて明らかとなりました。その系統樹では、PseudoacanthocereusはNeoraimondiaおよびLeptocereus亜連の姉妹群として記載されています。また、不思議なことに、StrophocactusのタイプであるS. wittiiがPseudoacanthocereusに組み込まれていることを発見しました。
StrophocactusはAnderson(2001, 2005)などによりSelenicereusの異名として扱われてきました。Huntら(2006)は、Strophocactusを3種、S. wittii、S. testudo(Deamia testudo)、S.chontalensis(Nyctocereus chontalensis)からなる属として認めました。しかし、現在はD. testudoとN. chontalensisがEchinocereus亜連のDeamiaとして認識されていることから、表面的な類似が生じた平行進化の好例です。Pseudoacanthocereusは命名上の優先権を持つStrophocactusに分類するのが望ましい解決策であると思われます。

Neoraimondiaの2種はおそらく同属ではありません。ペルーのアンデス山脈西斜面に分布するN.
arequipensisは、Nyffeler(2002)によるとLeptocereus亜連の一部です。一方、Hernandez-Hernandezら(2011)やKorotkovaら(2017)は、ボリビアのアンデス山脈東斜面に分布するN. herzogiana(=Neocardenasia)をPseudoacanthocereusの姉妹群としています。両種は多数の花を咲かせるアレオーレを持ち、わずかな解剖学的差異しかありません。

BrachycereusとJasminocereusの分類は暫定的なものです。分子生物学的な研究のために採取されたことは著者らの知る限りありません。Barthlott & Hunt(1993)は両者をTrichocereus連とし、Endler & Buxbaum(1958)はBrachycereusをEchinocereus連に分類し後にHylocereus連に、JasminocereusはCereus連に分類しました。


☆Leptocereus亜連
含まれる属: Armatocereus、Castellanosia、Leptocereus(※7)

※7: Dendrocereus、Neoabbottiaを含む。

Leptocereus亜連の分子系統

┏Castellanosia caineana
┃(=Browningia caineana)
┫┏Armatocereus laetus
┃┃(=Lemaireocereus laetus)
┗┫┏Leptocereus quadricostatus
    ┗┫
        ┗Leptocereus nudiflorus
            (=Dendrocereus nudiflorus)


地上性で円柱状の、主に枝分かれの多い低木から高木。茎には節と肋があります。花は夜行性で、Castellanosia以外は外果皮にはトゲがあります。

Leptocereus亜連は、Nyffeler(2002)およびHernandez-Hernandezら(2011)において、漠然と記載されていましたが、支持度は低いものでした。本研究においては、高い支持度を得ています。Leptocereus亜連は形態的にも地理的にも異質です。LeptocereusとArmatocereusの周皮は多数のアレオーレがあり通常は密にトゲが生えていますが、Dendrocereusの周皮はトゲは生えているもののアレオーレの位置が緩く、Castellanosiaの周皮は完全にトゲがありません。地理的には3属は非連続的で、以前はBrowningiaに含まれていたCastellanosiaはボリビアの低地産で、Armatocereusは南米北西部のコロンビア、エクアドル、ペルー産て、Leptocereusはカリブ海地域に分布します。また、Barriosら(2020)は、DendrocereusがLeptocereusに含まれることを示しました。


☆Hylocereus亜連(※8)
含まれる属: Acanthocereus(※9)、Aporocactus、Disocactus(※10)、Epiphyllum(※11)、Hylocereus(※12)、Kimnachia、Pseudorhipsalis(※13)、Selenicereus(※14)、Weberocereus(※15)

※8: Epiphyllinae、Disocactinae、Heliocereinae、Weberocereinae、Achanthocereinaeを含む。※9: Monvillea、Peniocereusを含む。※10: Bonifazia、Chiapasia、Nopalxochiaを含み、Aporocactusを含まない。※11: Marnieraを含む。※12: Wilmatteaを含む。※13: Wittocactus=Wittiaを含む。※14: Cryptocereus、Werckleocereusを含み、Deamia(→Echinocereus亜連)、Strophocactus(→Corryocactus亜連)を含まない。※15: Eccremocactusを含み、Werckleocereusを含まない。

Hylocereus亜連の分子系統

 ┏Acanthocereus tetragonus
┏┫
┃┗Acanthocereus cuixmalensis
┃     (=Peniocereus cuixmalensis)
┫┏Weberocereus frohningiorum
┃┃
┃┃        ┏Selenicereus guatemalensis
┃┃    ┏┫(=Hylocereus guatemalensis)
┃┃    ┃┗Selenicereus undatus
┃┃    ┃     (=Hylocereus undatus)
┗┫┏┫┏Selenicereus grandiflorus
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗Selenicereus tonduzii
    ┗┫         (=Werckleocereus tonduzii)
        ┃         (=Weberocereus tonduzii)
        ┃┏Epiphyllum phyllanthus
        ┃┃
        ┗┫┏Pseudorhipsalis acuminata
            ┃┃(=Pseudorhipsalis horichii)
            ┗┫┏Aporocactus flagelliformis
                ┗┫ (=Disocactus flagelliformis)  
                    ┗Disocactus biformis

斜上または登攀性の肋がある茎を持つ低木が、斜上あるいは匍匐、垂下する茎を持つ半着生から着生植物。茎は節の有無に関わらず肋があり、扁平で枝分かれします。主にメソアメリカ、カリブ海地域および南米北部の熱帯湿潤な地域に分布します。その多くは夜行性でしばしば大きな花を咲かせ、通常はスズメガ媒(sphingophilous)です。
Hylocereus亜連の形態の多様性は驚異的で、従来型の多数の肋がある柱サボテン状(Acanthocereus、Aporocactus、Selenicereus)から、肋が少ない柱サボテン状および斜上するツタ植物(Hylocereus)、平らな茎を持つ低木(Weberocereus frohningiorum、Epiphyllum、Disocactus)まで、あらゆる形態が見られます。また、Hylocereus亜連は栽培において容易に属間雑種が出来ることが知られています。Acanthocereusを除くHylocereus亜連は「Epiphyllum comparium」とも呼ばれ、様々な交雑種に、数十もの学名がついています。

本研究におけるデータでは、HylocereusとSelenicereusを含む亜系統、「hylocereoid clade」(Korotkovaら, 2017)に関しては完全な解明はされません。2属は伝統的に果皮と果実の特徴により区別されてきました。Hylocereusの果皮と果実は鱗状でトゲがなく、Selenicereusの果皮と果実は鱗状ではなく多少なりともトゲがあります。Hernandez-Hernandezら(2011)の非常に少ないサンプルによる解析ではHylocereusとSelenicereusはそれぞれが単系統であり姉妹群であることが示され、Cruzら(2016)はこれらを未解決な多分岐群と見なしました。しかし、Plumeら(2023)やKorotkovaら(2017)による広範囲なサンプルによる解析では、Selenicereus(以前はWerckleocereusとして分離されていたWeberocereusを含むが、Deamiaは含まない)は、Hylocereusの末端系統群に対する側系統群であることが特定されました。それらすべてを広義のSelenicereus(Deamiaは除く)に統合する提案があります。現状ではその提案は時期尚早であると思われます。Deamiaの除外以外は、Echinocereus亜連の基底段階の一部として明示されており、著者らのデータによっても裏付けられています。

狭義のWeberocereus(Werckleocereusを除く)は、Korotkovaら(2017)による解析で比較的よく裏付けられた単系統群です。

PseudorhipsalisはCruzら(2016)により狭義のEpiphyllumの姉妹群とされましたが、Korotkovaら(2017)においては多系統である事が示され、ほとんどの種はEpiphyllum + Disocactusの姉妹群とされています。一方でP. ramulosa(Kimnachia)は、Epiphyllum + Disocactusと多系統を形成します。

Disocactusの分類は長年の問題領域となっています。Anderson(2001, 2005)やHuntら(2006)が用いた広域な範囲はBarthlott(1991)にまで遡ります。Barthlottは茎と花の特徴の組み合わせにより、AporocactusやHeliocereus、Nopalxochiaなどを含めました。この分類では、柱サボテン状のトゲが沢山ある茎を持つものから、トゲの有無に関わらず扁平な枝まで、通常は着生植物として生育する一連のサボテン全体を含んでいました。Cruzら(2016)やKorotkovaら(2017)、Rosas-Reinholdら(2022)は、これらの広義のDisocactusの単系統性に疑問を呈しました。さらに、Aporocactusが独立した系統であること、またはAcanthocereusや残りのHylocereusの位置が未解決であるとしました。Cruzら(2016)やKorotkovaら(2017)は、Epiphyllumの一部、例えばよく知られているE. crenatumがDisocactusとクラスターを形成することを明らかとしており、形態に基づくHylocereus亜連の同定をさらに複雑にしています。しかし、集晶(crystal druses)の有無やクチクラの厚さといった解剖学的形質は、狭義のSelenicereusとWeberocereusを除くすべての属で類縁関係を示します。また、Hylocereus亜連は、Epiphyllum chrysocardiumやWeberocereus imitans、Disocactus anguliger、Selenicereus anthonyanusにおいて、シダの葉を思わせる切り込みのある茎が、平行進化したことは注目します。

AcanthocereusはかつてCorryocactus亜連に分類されていました。しかし、著者らの系統樹では残りのHylocereus亜連と姉妹群であることが確認されており、Korotkovaら(2017)の結果を裏付けています。PeniocereusはAriasら(2005)により多系統であることが示されており、PseudoacanthocereusはAcanthocereusに対応する系統群の一部です。


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クジャクサボテン Epiphyllum cv.
東京都薬用植物園(2025年5月)



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ドラゴンフルーツ
Hylocereus undatus=Selenicereus undatus

新宿御苑(2024年9月)


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日はPhyllocactus連についてでした。今回はたった3亜連についてだけなのに解説はやたらに長いものでした。これは、Phyllocactus連に含まれる種が、分類学上ややこしいものが多いからでしょう。着生したり扁平だったり紐状だったりという特徴は、Rhipsalis連でも見られる特徴です。しかし、この共通点は似た環境で似た生態であることから、形態的に収斂しただけにも思えます。さらに、Phyllocactus連の内部分類も、はっきりしない部分があるように思えます。本論文では解析していない属もありますから、今後に期待しましょう。次回はPhyllocactus連の残りのEchinocereus亜連についてですが、また来週となります。

ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Austrocactus(11種)、Brachycereus(1種)、Corryocactus(15種、Corryocereus、Erdisia、Eulychnocactusを含む)、Eulychnia(9種、Philippicereusを含む)、Jasminocereus(1種)、Neoraimondia(2種、Neocardenasiaを含む)、Pfeiffera(6種、Bolivihanburyaを含む)、Strophocactus(4種、Strophocereus、Pseudoacanthocereusを含む)

Armatocereus(7種)、Castellanosia(1種)、Leptocereus(19種、Dendrocereus、Neoabbottiaを含む)

Acanthocereus(17種)、Aporocactus(2種)、Disocactus(18種、Aporocereus、Bonifazia、Chiapasia、Disisocactus、Disisorhipsalis、Heliocereus、Lobeira、Mediocactus、Mediocereus、Nopalxochia、Pseudonopalxochia、Trochilocactus)、Epiphyllum(10種、Athrophyllum、Phyllocereus、Marniera、Phyllocactus)、Hylocereus(→Selenicereusに含まれる)、Kimnachia(1種)、Pseudorhipsalis(5種、Wittia、Wittiocactusを含む)、Selenicereus(32種、Cereaster、Chiapasophyllum、Cladoblasia、Cryptocereus、Hylocereus、Werckleocereus、Wilmattea)、Weberocereus(6種、Eccremocactus、Eccremocereus)、Monvillea(→Praecereusに含まれる)、Peniocereus(8種、Cullmannia、Neoevansiaを含む)


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サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。
本日はCactus亜科のCactus連を見ていきます。Cactus連は、有星類やEchinocactusにAztekiumやGeohintoniaを含むEchinocactus亜連と、FerocactusやThelocactus、Kroenleinia(金鯱)、Stenocactus (Echinofossulocactus)を含むFerocactus亜連、Mammillaria科代表するイボサボテンからなるCactus亜連からなります。



Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はCactus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae



★Cactus連(※1)
※1: EchinocacteaeとMammillarieaeを含む。

球形から短円筒形で、単独からクッション状となります。茎に節はなく、結節(疣)または稀に肋(稜、rib)を持ちます。稀に地下茎が肥大したり、多肉質な主根を持つものもあります。
Cactus連は純粋に北米に分布する系統で、中米と南米北部にはごく少数の例外(MammillariaやEscobariaなど)が見られます。よって、北米の球形サボテンの多様性は、Cactus連の放散による結果です。Cactus連はCactus亜科の祖先系統であるという立場は、Walkerら(2018)により裏付けられています。本解析では、Ferocactus亜連およびCactus亜連(「Core Cacteae」と言われていた)の姉妹群として、側系統にEchinocactus亜連を分類しますが、その支持は低いものです。


✩Echinocactus亜連(※2)
含まれる属: Astrophytum(※3)、Aztekium、Echinocactus(※4)、Geohintonia、Sclerocactus(※5)

※2: Astrophytinae、Sclerocactonaeを含む。※3: Digitostigmaを含む。※4: Homalocephalaを含み、Kroenleiniaを含まない。※5: Ancistrocactus、Echinomastus、Papyrocactusを含み、Glandulicactusを含まない。

Echinocactus亜連の分子系統
    ┏Aztekium ritteri
┏┫    
┃┗Geohintonia mexicana

┃    ┏Sclerocactus scheeri
┃    ┃(=Ancistrocactus scheeri)
┃┏┫┏Sclerocactus spinosior
┃┃┗┫
┃┃    ┗Sclerocactus whipplei
┃┃
┃┃    ┏Echinocactus platyacanthus
┗┫┏┫
    ┃┃┗Astrophytum myriostigma
    ┃┃
    ┗┫┏Ferocactus亜連
        ┗┫
            ┗Cactus亜連


Echinocactus亜連は、3つのサブクレードからなる側系統群です、複数の属が非単系統なので複雑です。Ferocactus亜連とCactus亜連の姉妹群です。すべての研究において、Geohintonia + Aztekiumのクレードは他のグループの姉妹群です。また、Echinocactus + AstrophytumとSclerocactusは、Ferocactus亜連やMammilloidクレードの姉妹群であることは意見が一致しています。Echinocactusは単系統ではなく、「Golden Barrel」ことEchinocactus grusonii(金鯱)はEchinocactusから区別され、Ferocactusクレードと近縁で単型のKroenleiniaとして分離されました。さらに、Vargas-Lunaら(2018)は、HomalocephalaがAstrophytum + 狭義のEchinocactusの姉妹群とされるため、Homalocephalaの分離を提案しています。広義のSclerocactusも多系統で、狭義のSclerocactus (AncistrocactusとEchinomastusを含む)とFerocactus系統のGlandulicactusは区別されます。


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Echinocactus horizonthalonius
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



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Astrophytum myriostigma
神代植物公園(2022年5月)



✩Ferocactus亜連(※6)
含まれる属: Ferocactus(※7)、Glandulicactus、Kroenleinia、Leuchtenbergia、Stenocactus、Thelocactus(※8)

※6: Thelocactinaeを含む。※7: Bisnagaを含む。 ※8: Hamatocactus、Torreycactusを含む。

この系統群は、Leuchtenbergia以外では明瞭な縦溝に特徴付けられます。本研究ではFerocactusはThelocactusと同格でした。かなり複雑で部分的に解明が不十分です。Ferocactusは極めて側系統的です。含まれる属の近縁性は、属間雑種が得られることにより証明されています。この系統群は便宜的に「Ferocactus comparium」と呼び、複数の独立した属に分割するのではなく、これらの属を広義のFerocactusとして統合することを検討するべきでしょう。

Ferocactus亜連の分子系統

    ┏Stenocactus obvallatus
┏┫ 
┃┃┏Leuchtenbergia principis
┃┗┫
┃ ┗Ferocactus uncinatus
┃        (=Glandulicactus uncinatus)
┃         (=Sclerocactus uncinatus)
┃┏Ferocactus wislizeni
┃┃
┗┫┏Ferocactus haematacanthus
    ┃┃
    ┗┫┏Thelocactus hexaedrophorus
        ┗┫
            ┗Thelocactus rinconensis
                (=Thelocactus freudenbergeri)



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Kroenleinia grusonii
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)


250118111744104
Leuchtenbergia principis
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)



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Thelocactus hexaedrophorus var. fossulatus
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



250224100603017~2
Ferocactus stainesii
神代植物公園(2025年2月)



✩Cactus亜連(※9)
含まれる属: Acharagma 、Ariocarpus(※10)、Cochemiea(※11)、Coryphantha(※12)、Cumarinia、Epithelantha、Escobaria、Kadenicarpus(※13)、Lophophora、Mammillaria(※14)、Mammilloydia、Neolloydia、Obregonia、Oehmea、Ortegocactus、Pediocactus(※15)、Pelecyphora(※16)、Rapicactus(※17)、Strombocactus(※18)、Turbinicarpus(※19)

※9: Coryphanthinae、Bravocactinae、Pediocactinae、Turbinicarpinae、Cochemieinad、Epithelanthinae、Escobariinae、Pelecyphorinae、Mammillariinaeを含む。※10: Neogomesia、Roseocactusを含む。※11: Bartschella、Chilita、Phellospermaを含む。※12: Escobrittonia、Lepidocoryphanthaを含む。※13: 狭義のTurbinicarpusを除く。※14: Dolichothele、Escobariopsis、Leptocladodia、Mammillopsisを含み、MammilloydiaとOehmea、Cochemieaを含まない。本研究では解析していないCryptocarpocactus、Fimbriatocactus、Klainzia、Porfiria、Pseudomammillaria、Solisiaについては暫定的にMammillaria に含める。※15: Navajoa、Puebloa、Utahiaを含む。※16: Encephalocarpusを含む。※17: Lodiaを含む。※18: Chichimecactusを含む。※19: Gymnocactus、Normanbokeaを含み、KadenicarpusとRapicactusを含まない。

Cactus亜連の分子系統

    ┏Ariocarpus retusus
┏┫ 
┃┃┏Strombocactus disciformis
┃┃┃
┃┗┫┏Turbinicarpus
┃ ┗┫         schmiedickeanus
┃        ┗Kadenicarpus horripilus
┃            (=Gymnocactus horripilus)
┃    ┏Lophophora williamsii
┃┏┫
┃┃┃┏Acharagma roseanum
┃┃┗┫
┃┃    ┗Rapicactus subterraneus
┃┃     (=Turbinicarpus subterraneus)
┃┃   
┗┫┏Mammillaria mammillaris
    ┃┃
    ┃┃    ┏Cochemiea conoidea
    ┗┫┏┫(=Neolloydia conoidea)
        ┃┃┗Coryphantha sulcata
        ┗┫
            ┃┏Mammillaria candida
            ┃┃(=Mammilloydia candida)
            ┗┫┏Pelecyphora macromeris
                ┃┃(=Lepidocoryphantha
                ┗┫        macromeris)
                    ┃(=Coryphantha
                    ┃         macromeris)
                    ┗Pelecyphora aselliformis


これは、Butterworthら(2002)による「mammilloid clade」で、北米の放散の大部分を含みます。縦肋(longitudinal ribs)ではなく、明確な結節(疣、tubercles)を特徴としています。
本研究の標本抽出法では系統群の多様性の全体像は明らかにはなりませんが、広義のTurbinicarpus、広義のCoryphantha、広義のMammillariaは単系統ではないことが過去の報告により示されています。
Epithelanthaの位置付けは研究により異なります。「mammilloid clade」全体の姉妹群であったり、狭義のTurbinicarpusを含むクレードの近祖的な位置付けだったり、狭義のTurbinicarpusの姉妹群となっていたりします。
Pediocactusは過去にP. simpsoniiのみが分析されており、「mammilloid clade」全体の姉妹群とされましたが、かつては大きく異なる分類体系に属していたことも考慮すると、現在の状況では暫定的な分類と見なすべきでしょう。

「mammilloid clade」の残りの系統群の姉妹群となる1つ目の亜系統群は、Ariocarpus、Strombocactus、狭義のTurbinicarpusです。Vazquez-Sanchezら(2013)によると、Turbinicarpusの一部はKadenicarpusとして分離されます。Barcenasら(2021)によると、Strombocactus corregidoraeは単型のChichimecactusとして分離されるべきであるとしています。

2番目の亜系統群は、Lophophora + Acharagma + Rapicactusからなります。Hernandez-Hernandezら(2011)やVazquez-Sanchezら(2013)によると、ObregoniaはLophophoraの姉妹群としています。広義のTurbinicarpusとRapicactusの分離は、Vazquez-Sanchezら(2013)により初めて支持され、後に生息環境の好みの違いや幹の解剖学的特徴からも提唱されます。

3つ目の亜系統群は、「mammilloid clade」の残りすべての属を含み、顕著なのは二型性のアレオーレを持つことです。これは、トゲの形成部と花の形成部が空間的に分離されており、EscobariaやNeolloydia、Ortegocactus、Pelecyphoraに存在します。広義のMammilliaの非単系統性は初期の分子系統でも確認されており、CochemieaがMammillaria節のAncistracanthae やPhellosperma、狭義のMammillariaのいくつかとクラスターを形成し、NeolloydiaやOrtegocactusともクラスターを形成しています。このことにより、広義のCochemieaが狭義のMammillariaより分離されました。これは、その後の研究でも確認されていますが、NeolloydiaとOrtegocactusの位置は異なります。広義のCoryphanthaから単型的に分離するCumariniaも、狭義のMammillariaや広義のCoryphanthaを含む系統と同列に位置付けられています。最新の「mammilloid clade」の解析であるSanchezら(2022)やChincoya ら(2023)においては、NeolloydiaやOrtegocactusを広義のCochemieaの連続した姉妹群としました。広義のCochemieaは狭義のCoryphantha + Escobaria系統群の姉妹群です。ちなみに、CoryphanthaはLepidocoryphanthaを除外した場合にのみ単系統となります。EscobariaはLepidocoryphanthaと形態がまったく異なるPelecyphoraを包含した場合は単系統となります。Sanchezら(2022)はこれらの要素を含めPelecyphoraを再定義しましたが、近年の分子系統では部分的にしか支持されず、サンプルに不足があります。サンプルはより多くの系統を含める必要があります。なぜなら、全体的に極めて多系統的であり、見られる特徴は並行して繰り返し進化して来たように見えるからです。
Mammillaria sphacelataは、以前は孤立した系統とは考えられていませんでした。Butterworthら(2004)によると、狭義のMammillariaの基底近くのクレードの一部として示されました。一方、Breslinら(2021)によると、広義のCoryphantha + 広義のCochemieaの姉妹群として示されました。Sanchezら(2022)やChincoyaら(2023)では、狭義のMammillariaの一部ではなく、Mammillaria(Oehmea) beneckeiと同じクレードとしています。この時、Mammilloydia + Mammillaria albiflora、およびOehmea + Mammillaria sphacelataは、狭義のMammillariaの連続した姉妹群です。同様にCoryphantha macromeris (Lepidocoryphanthaのタイプ)が組み込まれたため、Breslinら(2021)とは大きく異なる系統となりました。

謎めいたクレードとして、Chincoyaら(2023)の示す「クレード4」があります。これは、Mammillaria theresaeやM.barbata、M. wrightiiから構成され、Neolloydia、Ortegocactus、広義のCochemieaの姉妹群として現れました。Breslinら(2021)はM. wrightiiを別属とし、Neolloydiaの姉妹群としました。この意外な分類と低い支持を考慮すると、BreslinらのEscobariaを広義のCoryphanthaに含めNeolloydiaとOrtegocactusをCochemieaに含める大胆な分類、あるいはSanchezらのEscobariaをPelecyphoraに含める分類は時期尚早であると判断し、上記の分類を提案します。



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Epitherantha bokei
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



250427094045440
Escobaria leei
現在はPelecyphora sneedii subp. sneediiの異名
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



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Mammillaria humboldtii
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



250427093902963
Ariocarpus furfuraceus
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)


最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
今回はカクタス連についてでしたが、まあわかりにくい話です。特にマミラリアの仲間はややこしいですね。この論文は1属のサンプルが1種か2種、かつ解析していない属もあり、属内分類が不確定なマミラリア系統の解析には向いておりません。論文内では暫定的に分類していますが、おそらく分離されるか統合されるかという部分については、ただの予想なのでそれほどの信頼性はないと思います。この論文の重要性は、サボテン科の各分類群間の関係性だと思いますから、各論については今後のさらなる研究を期待したいところです。しかし、マミラリア系統は種か多くかなり混乱しているため、今後分類が大きく変わる可能性があります。今もかなり変わりましたが、現在は過渡期と言ったところでしょうか。


ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。
調べてみて少し驚いたのですが、縮玉などの非常に多くの稜を持つサボテンは昔はEchinofossulocactusと呼ばれていましたが、近年ではStenocactusに変わりました。しかし、EchinofossulocactusはEchinocactusに含まれるというのが最近の見解のようです。これは、縮玉などがEchinocactusになったわけではなく、EchinofossulocactusがStenocactusの異名ではなくEchinocactusの異名となったというだけの話です。Echinofossulocactusが命名時にEchinocactusやFerocactus、さらにはAstrophytumまで含んだ雑多な分類群だったからでしょう。

Astrophytum(6種、Digitostigma、Maierocactusを含む)、Aztekium(2種)、Echinocactus(2種、Brittonrosea、Echinofossulocactus、Efossus、Emorycactus、Meyerocactusを含む)、Geohintonia(1種)、Sclerocactus(27種、Ancistrocactus、Coloradoa、Echinomastus、Papyrocactus、Roseia、Toumeya、Utahiaを含む)、Homalocephala(3種)

Ferocactus(30種、Bisnaga、Brittonia、Glandulicactus、Parrycactusを含む※7)、Glandulicactus(→Ferocactus)、Kroenleinia(1種)、Leuchtenbergia(1種)、Stenocactus(9種)、Thelocactus(13種、Hamatocactus、Napina、Thelomastus、Torreycactusを含む)

Acharagma(3種) 、Ariocarpus(7種、Anhalonium、Neogomesia、Roseocactus、Stromatocactusを含む)、Cochemiea(40種、Fimbriatocactus、Neolloydia、Ortegocactusを含む)、Coryphantha(43種、Escobrittonia、Glanduliferaを含む)、Cumarinia(1種)、Epithelantha(10種、Cephalomamillariaを含む)、Escobaria(→Pelecyphora)、Kadenicarpus(3種、Bravocactusを含む)、Lophophora(4種、Peyotlを含む)、Mammillaria(147種、Bartschella、Cactus、Chilita、Cryptocarpocactus、Dolichothele、Ebnerella、Escobariopsis、Haagea、Krainzia、Lactomamillaria、Leptocladia、Leptocladodia、Mamillopsis、Mammariella、Mammilloydia、Melocactus Boehm.、Neomammillaria、Oehmea、Phellosperma、Porfiria、Pseudomammillaria、Solisia)、Mammilloydia(→Mammillaria)、Neolloydia(→Cochemiea)、Obregonia(1種)、Oehmea(→Mammillaria)、Ortegocactus(→Cochemiea)、Pediocactus(4種、Navajoa、Neonavajoa、Pilocanthus、Puebloaを含む)、Pelecyphora(21種、Cochiseia、Encephalocarpus、Escobaria、Escobesseya、Escocoryphantha、Fobea、Lepidocoryphantha、Neobesseyaを含む)、Rapicactus(5種)、Strombocactus(1種)、Turbinicarpus(14種、Gymnocactus、Lodia、Normanbokea、Pseudosolisiaを含む)、Utahia(→Sclerocactus)、Chichimecactus(1種)、Fimbriatocactus(→Cochemiea)


さて、実は私のブログでも、論文内で根拠とされている論文をいくつかご紹介しています。論文内の各論はややこしいので、それぞれの根拠論文を個別に読んだ方が分かりやすいでしょう。ということで、過去の記事のリンクを貼っておきます。ご参照下さい。


EchinocactusやFerocactusについて

Mammilloid cladeについて


StrombocactusからのChichimecactusの分離について


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さて、サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。


まずは、サボテン科の大まかな分子系統を示します。
本日はMaihuenia亜科とBlossfeldia亜科、さらにCactus亜科の一部を扱います。

    ┏Leuenbergerioideae
┏┫    
┃┗Pereskioideae

┃┏Opuntioideae
┃┃
┗┫┏Maihuenioideae
    ┃┃
    ┗┫┏Blossfeldioideae
        ┗┫
            ┗Cactoideae


④Maihuenia亜科
含まれる属: Maihuenia
多肉質の主根を持つ矮性低木で、大きく平らなクッション状の茎を形成します。多肉質でやや分節した円柱状の茎を持ちます。顕著な長命の円柱状の葉を持ちます。
アルゼンチン南部とチリにのみ分布する2種のMaihueniaは、塊根はPereskia humboldtiiとよく類似します。茎の表皮には気孔は少なく、直ぐに樹皮に変わります。茎と葉には粘液質が豊富に含まれ、「派生した南部のPereskia」と解釈されています。


⑤Blossfeldia亜科
含まれる属: Blossfeldia
単独で扁平化した小型の、あるいは互いに重なり合い密集したクッション状となります。目に見える葉はなく、痕跡程度まで縮小し、アレオーレは短く目立たないフェルト状の毛が数本生える程度となっています。
Nyffeler(2002)によると、「真の」サボテン=Cactoideaeの多様性全体の姉妹群です。系統的に孤立していることは、すべての研究において裏付けられています。他のサボテンと比較すると、特徴の組み合わせが独特で、単型属であるBlossfeldiaを単属亜科に分類することが正当化されます。

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Blossfeldia liliputana 
JSS、サボテン・多肉植物展(2025年10月)


⑥Cactus亜科(※1)
※1: Rhipsalidoideae、Cereoideae、Calymmanthioideaeを含む。
矮性から小型、大型の低木から樹木状で、単独で分岐しないものや枝分かれして樹冠を持つものもあります。稀に大きな塊茎を持つものや、湿潤な森林地帯では半着生となるものもあります。葉は顕微鏡的な痕跡まで縮小し、アレオーレを持ちます。花のサイズは侍様々で、直径40cmに達するものもあります。花は昼行性または夜行性です。
これは「真の」サボテンであり、目立った葉を持たない球形から円柱形で、サボテンの生育形態の多様性のすべてを含みます。Cactoideae(Cactus亜科)は伝統的にCereoideaeという誤った名称で知られていました。Blossfeldiaを除けば、Cactus亜科の範囲は異論なく分類されてきましたが、やがて分子系統によりBlossfeldiaは除外されました。Cactus亜科の初期に分岐したLymanbensoniaとCopiapoaは系統学的な位置が長らく不明で、Nyffeler & Eggli(2007)により「孤児」と表現されました。

Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はLymanbensonia連とCopiapoa連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃

    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae



★Lymanbensonia連(※2)
含まれる属: Calymmanthium、Lymanbensonia(※3)

※2: Calymmantheaeを含む。※3: Acanthorhipsalisを含む。

高さ8mに達する小高木、あるいは着生で広がり垂れ下がります。茎は扁平または3〜4 本の細い翼状の鋸歯があります。
Buxbaum(1969)はCalymmanthiumを亜科の中でもっとも原始的な属の1つと解釈しました。(解析した)遺伝子が少ないWallace(2002)の分子生物学的研究でも裏付けられ、CalymmanthiumをCactus亜科の他のすべての属の姉妹群としました。Calymmanthiumを発見したRitter(1981)は、Calymmanthiumを特殊化した高度な系統と見なしていました。Korotkovaら(2010)は、AcanthorhipsalisまたはPfeifferaに分類されていた4種を、単型属Calymmanthiumの姉妹群として発見しました。したがって、Lymanbensoniaは独立した属として分類されるべきです。



★Copiapoa連
含まれる属: Copiapoa(※4)

※4: Pilocopiapoaを含む。

球形から短円柱形の単独からクッション状の低木。一部は地下に塊茎を持ち、地上部は小さく草食動物の捕食時に脱落します。茎は節で分かれていません。花は昼行性で黄色で、稀にピンク色を帯びます。果実は成熟すると乾燥し上部が開きます。
約30種からなるこの謎めいた属は、すべてチリ中部から北部にかけてアタカマ山脈西端および海岸線とコルディリェラ山脈沿岸部に固有です。Copiapoaの分類は長らく論争の的になってきました。頂端付近に黄色い花を沢山咲かせることから、伝統的にNotocactusに分類されてきました。しかし、すべての分子生物学的研究では、CopiapoaをNotocactus連に分類することは誤りであることを示しています。Copiapoaは解析により多様で、未分類の孤児種として扱われていました。本研究では、Cactus亜科の中ではCopiapoa連は孤立しています。まだ完全に解明されていない位置付けを強調するために独自の単属種としました。


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Copiapoa cinerea
春の多肉植物・サボテン展示会、川口緑地センター樹里庵(2025年4月)



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Copiapoa dealbata
神代植物公園(2022年5月)


最後に
昨日に引き続き最新のサボテン科の分子系統を見ています。本日扱ったMaihueniaは2種、Blossfeldiaは1種と、小さな属ですが、それぞれが亜科を担っています。それだけ、独特で遺伝的に異なるということがわかります。さらに、Cactus亜科のLymanbensonia連とCopiapoa連についても解説されました。Lymanbensonia連のLymanbensoniaは5種、Calymmanthiumは1種からなる小さな分類群ですが、いずれも一般的に馴染みがあるサボテンではありません。逆にCopiapoa連のCopiapoaは有名ですが、昔から分類学者を悩ませてきたサボテンです。独自性が高いことから、ほとんどのCactus亜科の姉妹群となる配置となっています。
記事を書くのに思ったより時間がかかり、続けてすべて書くのは難しいので、続きはまた来週となります。


ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しして終わります。

Blossfeldia(1種)
Calymmanthium(1種、Diploperianthiumを含む)、Lymanbensonia(5種)、Acanthorhipsalis(→Lepismiumに含まれる)
Copiapoa(39種、Pilocopiapoaを含む)



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サボテンはその高い多様性にも関わらず、すべての種がサボテン科に分類されますが、その分類に関しては紆余曲折ありました。しかし、近年の遺伝子工学の発展により、サボテンに関しても遺伝子の違いを根拠とした分子系統が盛んに行われる様になりました。私もそれらの論文を読んでは、その都度ポツポツと記事にしてきましたが、ついには調子に乗ってサボテン科の分類についてまとめた記事を書いたりもしました。しかし、私のしたことは既存の論文の内容をツギハギしただのパッチワークに過ぎず、継ぎ目が怪しくなってしまうものでした。どうしても、論文の年代により解析の精度が異なるだとか、扱うサンプルの妥当性だとか、そこら辺は考慮していないというか、私の力量ではそもそも出来なかったのです。ややモヤモヤしてはいましたが、何と新たにサボテン科全体を分子系統により分類した論文が出たのです。というわけで、本日はJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。


分子系統分類
170種、属分類の90%を種の遺伝子を分子系統解析しました。サボテン科という分類の境界は安定していますが、その内部分類はDNA時代以前も以後も不安定なものでした。まず、サボテン科は形態が多様であり、しばしば直感的に「傾向」(trends)として認識されてきており、より極端な形態に向かう傾向があるとされました。しかし、分子生物学的な研究により、かつて分類に用いられた多くの形質は高い相同性を示すことが明らかとなりつつあります。形態とDNAの不一致は、形態学的収斂と並行性の高さを示す証拠であり、種間関係や進化の理解を難しくしています。良い例の1つはAstrophypumで、A. caputmedusaeは細長い疣(tubercles、結節)を持ち、他4種は稜(rib)を持ちます。また、Leuchtenbergiaは長い疣を持ちますが、稜を持つStenocactusやFerocactusと近縁です。さらに、伝統的にFerocactus(広義)とされてきた種は、形態的には一貫性があるにも関わらず、比較的大きな分子的な多様性を示します。
サボテン科の分類が不安定なもう1つの理由は、分子的に急速な放散を示すことです。サボテン科は若いグループで種の多様性が高く、すべての植物の中でも科レベルの多様率は上位5位に入ります。この急速な放散の結果、種間のDNAの分岐は非常に低く、分子系統では成功と失敗が混在します。

【解説】
この部分はわかりにくいため、少し解説します。これはサボテンの分類の難しさについての話です。1つは形態が似ていても遺伝的に近縁とは限らず、遺伝的に近縁であっても形態が似ているとは限らないということです。2つ目は、サボテン科は割りと新しい時代に急速に種分化したため、遺伝子解析をした時に上手く解析出来ない場合もあるということです。


  
サボテン科の分子系統
サボテン科の分子系統の根元にあるのは、Leuenbergeria亜科とPereskia亜科です。この2亜科は似ていますが、茎は木質化し葉は多肉質ではないなど、想定されるサボテン科の原始的な姿を表しているように見えます。しかし、高度に派生した分類群と考えられていたMaihueniaやBlossfeldiaは、考えられていたよりもサボテン科の基部系統に近かかったため、低木状あるいは樹木状であることがサボテン科の祖先であるという考えに疑問を投げかけます。また、サボテン科に近縁な他の科も、主に小型の草本で構成されており、多肉質な主根を持つことが多いも理由の1つです。

【解説】
論文中では他にも系統解析の妥当性などを議論していますが、割りと難解かつ分子遺伝学や解析プログラムの話など、あまり私の興味を惹かない話題でしたので割愛します。気になる方は論文をご確認下さい。ということで、以下にサボテン科の分子系統を示します。
まずはサボテン科の分子系統と、各亜科の解説を見ていきます。


サボテン科の分子系統(亜科レベル)

    ┏Leuenbergerioideae
┏┫    
┃┗Pereskioideae

┃┏Opuntioideae
┃┃
┗┫┏Maihuenioideae
    ┃┃
    ┗┫┏Blosfeldioideae
        ┗┫
            ┗Cactoideae

    

①Leuenbergeria亜科
含まれる属: Leuenbergeria
低木から高木で、幹はわずかに多肉質かまったく多肉質ではありません。トゲのあるアレオーレを持ちます。茎には気孔がなく、早期に周皮(periderm)が形成されて表皮(epidermis)は急速に消失します。葉は時にやや多肉質で羽状脈があり、落葉性です。
Leuenbergeriaは伝統的にPereskiaに含まれてきましたが、分子系統学的研究により2012年に記載されました。差異は2002年より指摘されてきましたが、近年の大規模な研究でも概ね同様の結果を得ています。Leuenbergeriaはブラジル原産のL. aureifloraを除き、主にカリブ海に分布します。



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Leuenbergeria guamacho
筑波実験植物園(2024年6月)



②Pereskia亜科(狭義)
まれる属: Pereskia(※1)
※1: Rhodocactusを含む。Leuenbergeriaを含まない。
低木から高木で、幹はほぼ多肉質ではありません。トゲのあるアレオーレを持ちます。P. aculeata以外では周皮の形成は遅れ、茎には気孔があります。葉は時に多肉質で羽状脈があり、落葉性です。Leuenbergeriaを含まない狭義のPereskiaは、完全に南米の原産です。


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Pereskia aculeata
筑波実験植物園(2024年6月)


③Opuntia亜科(※2)
※2: Pereskiopsis亜科を含む。
矮性から大型の低木から高木。茎は分節し、円筒形または扁平で、トゲのあるアレオーレを持ちます。葉は円錐形で退化しており短命ですが、QuiabentiaやPereskiopsisでは扁平で平行脈があり、わずかに多肉質で長命です。球果を持ち、種子は比較的大型です。
本データは、過去の報告と同様にOpuntia亜科が単系統であることを明確に示しています。3つのサブクレードについて認めたが、互いの関係は完全には明らかとなっていません。著者らはCylindropuntia連をより狭い範囲に限定し、南米原産の種の大部分をPterocactus連として認めました。


Opuntia亜科の分子系統(連、属レベル)
3つの連(tribe)に分けられます。

          Tribe Opuntieae
    ┏Salmonopuntia salmiana
    ┃
    ┃    ┏Airampoa soehrensii

┏┫┏┫
┃┃┗Opuntia ficus-indica
┃┗┫
┃    
┃┏Tacinga funalis
┃    ┗┫
┃        ┗Brasiliopuntia brasiliensis
┃       Tribe Cylindropuntieae
┃        ┏Micropuntia pulchella
┃    ┏┫      (=Grusonia pulchella)
┃    ┃┗Pereskiopsis porteri
┃┏┫
┃┃┃
┏Cylindropuntia imbricata
┃┗┫
┃┃    
┃┏Grusonia bradtiana
┃┃    ┗┫
┃┃        
┃┏Grusonia clavata
┃┃        ┗┫(=Corynopuntia clavata)
┃┃            ┗Grusonia marenae
┃┃              (=Marenopuntia marenae)
┃┃    Tribe Pterocacteae
┗┫┏Maihuenopsis glomerata
    ┃┃
    ┗┫┏Pterocactus tuberosus
  ┃┃
  ┃
┃ ┏Tephrocactus articulatus
        ┗┫┏┫
            ┃
┃┗Tephrocactus verschaffeltii
   ┃┃    (=Banfiopuntia verschaffeltii)
            ┗┫ ┏Austrocylindropuntia
                ┃    ┃     lagopus
                ┃┏┫(=Punotia lagopus)
    ┃┃┗Austrocylindropuntia
                ┗┫           exaltata

                    ┃┏Cumulopuntia sphaerica
                    ┗┫(=Sphaeropuntia 
                        ┃       sphaerica)
                        ┗Cumulopuntia
                                    boliviana



★Opuntia連
含まれる属: Brasiliopuntia、Consolea、Opuntia(※3)、Miqueliopuntia、Salmonopuntia(※4 )、Tacinga、Airampoa(※5)

※3: Nopaleaを含む。狭義。※4: =Salmiopuntia、Mortolopuntiaを含む。※5: =Tunilla

矮性低木から高木。幹や樹冠が明瞭に区別出来ることは稀で、茎は分節し円錐形あるいは扁平です。葉は短命で退化しています。

伝統的に単型のSalmonopuntiaは、2つの亜系統に分類される残りの属の姉妹群です。1つ目の亜系統はAirampoa(南米アンデス)とOpuntia(カナダ南部からアルゼンチン中部)からなり、扁平化した枝を持ちます。2つ目の亜系統は、南米東部(主にブラジル)に限定され、TacingaとBrasiliopuntiaからなります。この両者は花糸の基部に毛があります。Brasiliopuntiaは、樹木のような構造を持ち、円柱状の分節しない主幹を形成し、枝は分節し円柱状からやや扁平まで様々です。Tacingaは中間型で、ブラジル東部およびカリブ海諸島という謎めいた分離した分布を示しますが、これはLeuenbergeriaやPseudocanthocerus(=Strophocactus)も同様の傾向があります。

本研究ではチリ原産で全体が円柱状のMiqueliopuntiaと、カリブ海諸島原産で成体は円柱状の主幹を持つConsoleaを解析していません。Consoleaを広義のOpuntiaに含める意見もありますが、狭義のOpuntiaとは明確に異なります。Consoleaは倍数体種のみ知られ、系統解析ではTacinga+Brasiliopuntia+Opuntiaの姉妹群であることは判明しています。Nopaleaは鳥媒花(ornithophilous flower)であるため、伝統的に分離されてきました。しかし、遺伝的には狭義のOpuntiaに含まれることが明らかとなっています。



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Opuntia tuna
筑波実験植物園(2024年6月)


★Cylindropuntia連(※6)
含まれる属: Cylindropuntia、Grusonia(※7)、Micropuntia、Pereskiopsis、Quiabentia

※6: Pereskiopsis連を含む。※7CorynopuntiaとMarenopuntiaを含み、Micropuntiaを含まない。

矮性から大型の低木で、稀に地下に塊茎を持ちます。茎は円錐形で節があり、稀に節がないものもあります。葉はわずかに多肉質あるいはやや多肉質で、平らで平行脈があり長命です。
Nyffeler & Eggli(2010)によりCylindropuntia連に分類された南米原産の属は、独立しPterocactus連に分類します。このことにより、Cylindropuntia連は節のある円錐形の茎を持つ、ほぼ北米原産の系統群となります。
広義のGrusoniaは支持されず、単一型で米国のモハーベ砂漠に分布するMicropuntiaを分離します。逆にCorynopuntiaとMarenopuntiaをGrusoniaに含めることが妥当であることが分かりました。不可解なことに、Micropuntiaはメキシコとグアテマラ原産のPereskiopsisと姉妹群です。Majureら(2019, 2023)によると、南米原産のQuiabentiaとPereskiopsis、Micropuntiaは、残りのCylindropuntia連(広義のGrusonia + Cylindropuntia)の姉妹群であることを特定しています。
QuiabentiaとPereskiopsisは、節のない主茎と扁平で平行脈を持つ多肉質の葉を持ちます。また、これらの葉は、Pereskiaの葉とは相同性がありません。



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Pereskiopsis diguetii
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)



★Pterocactus連(※8)
含まれる属: Austrocylindropuntia(※9)、Cumulopuntia(※10)、Maihueniopsis(※11)、Pterocactus、Tephrocactus(※12) 

※8: Tephrocactus連、Austrocylindropuntia連を含む。※9: AndinopuntiaとPunotiaを含む。※10: Sphaeropuntiaを含む。※11: Punaを含む。※12: Banfiopuntiaを含み、Pseudotephrocactusを含まない。

矮性低木で、肥大した主根または多肉質の塊茎を持つ。しばしばコンパクトなクッションを形成します。茎には節があり円錐形です。葉は円錐形で短命です。
Austrocylindropuntia連とTephrocactus連を含みます。最近、系統分類の論文で使用されるTephrocactus連より、Pterocactus連の方が命名上の優先権があります。Maihueniopsisは他属の姉妹群で、次にPterocactusと残りの属が続きます。この2属の支持は低く議論の余地がありますが、過去の論文の解析結果とまったく同じです。
最近分離された単型属であるPunotiaは非常に高い裏付けによりAustrocylindropuntiaの姉妹群です。過去の報告ではAustrocylindropuntia + Cumulopuntiaの姉妹群とされましたが、裏付けに乏しくデータも限られています。かつてAustrocylindropuntiaに分類されていた単型のBanfiopuntiaは、Tephrocactusの初期分岐段階の一部として示されており、Sphaeropuntiaとして分離された種はCumulopuntiaに属します。


DSC_0587
Pterocactus tuberosus
神代植物公園(2023年5月)



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Tephrocactus articulatus
筑波実験植物園(2025年2月)



最後に
以上が論文の簡単な要約です。記事が長くなったので、本日は3亜科のみです。記事はまだまだ続きます。
さて、以前サボテンの分類を記事にしましたが、大まかな分類ではそれほどの違いはなさそうです。過去記事は以下になります。






今回の記事のポイントの1つは、Leuenbergeriaでしょう。Pereskiaとの違いは以前から指摘されてきましたが、伝統的に樹木状のサボテンとしてまとめられてきました。しかし、近年Leuenbergeriaをより原始的な特徴を持つ分類群としてPereskiaから独立する意見が立ち続けに出されました。今回ご紹介した論文においてもその正当性が確認されています。外見はPereskiaと似ていますが、論文ではLeuenbergeriaは亜科レベルで異なる分類群であるとしています。


Leuenbergeriaの分離を提案した論文の記事はこちら。


今回の記事のメインはOpuntia亜科=ウチワサボテン亜科でしょう。私自身がウチワサボテンに疎いため、その分類を調べたことがありませんでした。しかし、論文では3つの群に綺麗に分かれており、かなり整理された感じがします。論文では解析していない属もあるため、完全なものではありませんが、基本的にはこの分子系統がこれからの研究の基調となっていくのではないでしょうか。

ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しして終わります。

Leuenbergeria(8種)、Pereskia(10種、Carpophillus、Peirescia、Rhodocactusを含む)

Brasiliopuntia(1種、Mortolopuntiaを含む)、Consolea(8種)、Opuntia(152種.Cactodendron、Chaffeyopuntia、Clavarioidia、Ficindica、Nopal、Nopalea、Phyllarthus、Platyopuntia、Plutonopuntia、Subulatopuntia、Tunasを含む)、Miqueliopuntia(1種)、Salmonopuntia(2種、Salmiopuntiaを含む )、Tacinga(12種)、Airampoa(4種、Tunillaを含む)
Cylindropuntia(41種)、Grusonia(19種、CorynopuntiaとMarenopuntiaを含む)、Micropuntia(1種)、Pereskiopsis(6種)、Quiabentia(2種)
Austrocylindropuntia(7種、Andinopuntia、Banfiopuntia、Peruviopuntia、Pseudotephrocactus、Trichopuntiaを含む)、Cumulopuntia(14種、Sphaeropuntiaを含む)、Maihueniopsis(20種、Punaを含む)、Pterocactus(10種)、Tephrocactus(12種、Pseudomaihueniopsis、Ursopuntia、Weberiopuntiaを含む)、 Punotia(1種)



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植物の中には樹液にゴム質を含むものもあり、植物を傷つけるとやや粘着質な白い乳液を出します。一般的に乳液が白いのはゴムの色によるものでしょう。一部、白色ではない乳液を持つ植物もありますが、やはり白色の乳液が圧倒的多数です。多肉植物で乳液と言えばユーフォルビアですが、Fockea edulisなども乳液を出します。ということで、本日は乳液の色についての論考を取り上げましょう。参照とするのはSimcha Lev-Yudunの2014年の論文、『Why is latex usually white and only sometimes yellow, orange or red? Simultaneous visual and chemical plant defense』です。


植物の乳液とは何か
乳液は植物の化学的・物理的な防御手段として広く用いられ、傷がつくと乳管から分泌されます。乳液は複数回に渡り誕生しており、乳液を持つ植物は40科以上、2万種以上が知られています。
植物の乳液は草食動物、特に昆虫の食害から防御します。さらに、真菌や細菌からも植物を守ります。さらに、乳液は傷を塞ぐ役目もあります。乳液にはアルカロイドや強心配糖体、テルペン、消化タンパク質などの様々な生理活性物質を含みます。一般的に乳液に含まれる物質は草食動物を忌避させますが、特定の食性の節足動物などの草食動物を引き寄せることもあります。乳液は毒性だけではなく、(乳液の粘着力により)付着させて(身動き出来ずに)死滅させたり、口器を塞いで摂食を阻害したりすることはよく知られています。様々な昆虫が植物を食べる前に乳液を排出させるという事実は、乳液の防御的な役割りを示しています。この毒性と機械的防御の組み合わせにより、乳液を出す植物は多くの昆虫にとって、有毒あるいは口に合わない、さらには致命的です。特にキョウチクトウ(Nerium oleander)のような強毒性の植物は、様々な大型の草食獣に対しても毒性を示します。


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キョウチクトウ(夾竹桃) Nerium oleander
毒性の高さで有名な夾竹桃。2025年7月、小石川植物園にて。


乳液は白色が一般的
黄色やオレンジ色の乳液のCroton lechleriや、赤色の乳液のNerium indicumも存在しますが、ケシ属(Papaver spp.)やインドゴムノキ(Ficus elastica)、トウダイグサ属(Euphorbia spp.)、Calotropis proceaなどの乳液は白色です。乳液が白色なのは乳液中に分散したゴム粒子によるもので、乳液の粘着性の由来の一部でもあります。
乳液が白色であることについて、その機能に関して3つの論理的な選択肢があります。

①乳液が白色であることには意味はなく、色に由来する機能はない。
②白色以外の乳液を生産するには化学的な制約がある。
③乳液が白色であることには視覚的な利点がある。


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ケシ(芥子) Papaver somniferum
麻薬の原料となるケシも乳液を出します。芥子坊主を傷つけて出てくる乳液を集めたものが生阿片です。2025年5月、東京都薬用植物園にて。


なぜ乳液は白色なのか
乳液が黄色や赤色のものも存在するという事実は、乳液は白色に生産する固有の理由がないことを示唆します。しかし、白色の乳液は様々な植物の分類学的な系統で、何度も独立して進化してきたことから、乳液が白色であること進化の中で強く選択されてきたはずです。
乳液が白色なのは、明るい環境下である林冠部や、色盲の動物に対して、白色が視覚的な警告色として最適であるからです。白色は葉や未熟果実、茎や枝といった典型的な背景に対して視覚的に目立ちます。また、乳液は化学的防御と物理的防御のシグナルとなるため、乳液を持つ植物はミュラー型擬態の擬態環が存在する可能性もあります。

白色のシグナルは暗い色と対比すると、色盲の動物にも見ることが出来るため、色鮮やかな色彩より視覚的に有利であると考えられます。さらに、白色のシグナルは、日の出間近や日没間近、暗い林床、密林、曇り空の下など、低照度であったり様々なスペクトル環境下でも視認することが出来ます。(視覚的効果からして)多くの道路標識が白色であるは驚くべきことではありません。


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Euphorbia unispina
毒性の高さで有名なユーフォルビアの中でも、特に毒性が高いE. poissonii、E. unispina、E. veneficaは、猛毒三兄弟の名で知られます。2025年3月、筑波実験植物園にて。


乳液の物理的防御
植物の樹脂や乳液などは、昆虫をトラップし、付着した昆虫やその死骸が警告となり植物を防御する可能性があります。このような「延長された表現型」(extended phenotype)である間接的な警告行動は、草食動物に視覚的に知らせることと、その危険性を腐敗した死骸やトラップされた昆虫がストレスにより放つ揮発性物質により警告します。


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冲天閣 Euphorbia ingens 
大型のユーフォルビアは毒性が高いと言われています。2025年1月、東京農業大学バイオリウムにて。



ユーフォルビアのベイツ型擬態
ベイツ型擬態は毒がない蝶が毒蝶に擬態する擬態として提唱されました。Euphorbiaに属する多肉植物の多くは、白い乳液により保護されます。理論的には乳液による擬態も考えられます。
Euphorbiaに属する多肉植物は、緑色の組織の一部に白い色素沈着が見られ、目立つ斑入りとなります。これは、乳液が滲み出ているように見えます。


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Euphorbia robecchii
アフリカの柱サボテン状のユーフォルビアでは、このような乳液が垂れたような斑が入る種が沢山あります。


結論
乳液は主に白色であり、それは様々な光条件下で視認性を高めるためです。そのため、白い乳液は植物の防御特性に関する視覚的な警告シグナルとして機能します。乳液を防御に用いる植物は非常に多く、地理的に重複するため草食動物に対するミュラー型擬態の擬態環を提案します。また、ミュラー型擬態の擬態環同士が地理的に重複する場合、ミュラー型擬態が連鎖する可能性があります。また、様々な植物が様々なレベルの毒性を示す乳液を持つことから、乳液の嗅覚的および視覚的な警告に関して、準ミュラー型擬態、あるいは準ベイツ型擬態の擬態環がモザイク状になったネットワークが存在すると考えられます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユーフォルビアに顕著な植物の乳液は、毒性とともに粘着性にも意味があるとしています。実際に鱗翅目の幼虫の口器に乳液がついて乾いたら、おそらく自力で取り除くことは難しいでしょう。これは私にとって新しい視点でした。
ミュラー型擬態に関しては、乳液=毒という図式が成り立つならば、種の違いや分類群の違いを超えて擬態環が成立するのかも知れません。また、本文のベイツ型擬態の話はわかりにくいのですが、乳液を持つ植物は様々でその毒性の強さも多様であることが想定されますが、その場合において弱毒性の乳液を持つ植物はベイツ型擬態の擬態環に守護されることになります。そして、ユーフォルビアに有りがちな白斑が、乳液を模しているという意見には驚かされました。実際に草食動物が白斑を嫌う傾向があるという報告があるため、本当に乳液を模しているかは分かりませんが、何らかの意味合いがあるのは確実でしょう。


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動物は種により食べるものが異なりますから、当たり前ですが食べられないものも沢山あります。しかし、ペットに人間の食べものを分け与えてしまう人もいますが、本来食べるべきものではありませんから、そのような行為はペットの寿命を縮めるだけです。これは、人間は動物の中でも例外的に割りと何でも食べられるため、感覚が甘くなっているのだと思います。さて、犬のタマネギ中毒は有名ですが、ペットにはチョコレートやアボカド、さらにはブドウやナッツ類などもよろしくないとのことです。しかし、飼い主が不要なものを与えずとも、観葉植物などをペットが齧ってしまうこともあります。一般的に観葉植物はペットにとって害があるか否か不明ですから、これはよろしいことではありません。さて、本日はペットが多肉植物を食べてしまったという報告をみてみましょう。参照とするのは、Amir Rostami & Bijan Ziaie Ardestani & Shahabedin Mohyediniの2011年の論文、『Poisoning by Beaucarnea recurvata (Nolina recurvata) in a pet rabbit: a new case report』です。


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トックリラン Beaucarnea recurvata
新宿御苑(2024年10月)



トックリランの葉を食べたペットの症状
生後3カ月のウサギ(Oryctolagus cuniculus)が、急性流涎症(acute ptyalism)、無力症(lethargy)、食欲不振、被毛状態の悪化、頻呼吸の症状を呈して、テヘラン大学小動物教育病院に搬送されました。搬送される3時間前にウサギは観葉植物であるトックリラン(Beaucarnea recurvata)の葉を2枚摂取し、病状は徐々に進行しました。


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Beaucarnea recurvata
筑波実験植物園(2024年6月)


診察と処置
診察では病態学的所見は認められてませんでした。血液検査ではストレス性白血球増多が認められましたが、X線検査では胃腸障害の兆候はありませんでした。植物の毒性による症状であると暫定的に診断されました。臨床症状をコントロールするために、以下のような保存療法が行われました。
食欲不振によるケトアシドーシスをコントロールするために、乳酸リンゲル液による静脈内輸液療法と、スルファジアジン/トリメトプリム懸濁液、唾液過多のために硫酸アトロピンを投与しました。2日間の治療後に完全に回復しました。



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Beaucarnea  recurvata
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)



ウサギと植物中毒
ウサギの治療において最も一般的な疾患の1つは中毒で、植物中毒と鉛中毒に分けられます。ウサギは他の動物にとって有毒な植物も含めて、ほとんどの植物を食べてしまいます。大抵の毒性化合物には苦味があり、大量に摂取される可能性は低いため、必ずしも死亡するとは限りません。
ウサギはragwortやcomfrey(ヒレハリソウ)などの植物に含まれるピロリジデンアルカロイドの毒に抵抗性があります。しかし、対照的にアマランサスはレモンイエローの漿液を伴う腹水が溜まります。また、トウワタの1種(Aslepias eriocarpa)により「ヘッドダウン病」(head down disease)が引き起こされます。罹患した場合、首の筋肉の麻痺や協調運動障害、低体温、流涎、荒れた毛並みが見られます。他には観葉植物のDieffenbachiaがウサギに対して有毒であることが知られています。



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神代植物公園(2025年8月)


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
基本的にペットには決まったエサ以外は与えるべきではないと私は考えています、何故なら、中毒の報告がない=安全ではないからです。人間の食べものをペットに与えた場合、一見して元気そうにしていても、肝臓や腎臓にダメージがあるかも知れません。同様に多肉植物はペットへの影響が不明なものが多いため、基本的にペットの触れる場所に多肉植物を置くべきではないでしょう。毒性の点ではユーフォルビアが有名ですが、キョウチクトウ科のパキポディウムにも強い毒性があります。私が読んだ論文ではアデニア、蘇鉄、Boophoneの毒性が確認されています。しかし、一般的に毒性がないと思われてきたベンケイソウ科の多肉植物にも、カランコエなどで毒性があるものが確認されています。ベンケイソウ科の多肉植物にはエケベリアやセダム、クラッスラ、アオエニウムなど人気のある多肉植物を沢山含みます。しかし、ペットに対する毒性は基本的に不明なため、気を付けるに越したことはありません。ペットが多肉植物をかじってしまったという話はブログやSNSなどでもたまに目にしますが、これはただの不注意では済まないでしょう。場合によっては重篤な後遺症や死亡してしまう可能性もありますし、目に見えない臓器障害が起きている可能性もあります。それらの報告はペットの心配をしている様子は薄く、あまりに軽く考えていることに驚きます。一見して何も症状がなかったとしても、ペットは苦痛を感じているかも知れません。知らなかったから仕方がないというのなら、そもそもペットを飼う資格はないでしょう。


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私はサボテンやユーフォルビアなどトゲのある植物を沢山育てていますから、時としてうっかり刺されてしまうこともあります。花キリンの木質のトゲやサボテンの太いトゲならば刺さっても穴が開くだけですが、細かいトゲは途中で折れて皮膚の中に残ってしまうこともあります。私は特に化膿したという経験もありませんが、場合によっては化膿してしまうこともあるのかも知れません。さて、本日は植物のトゲに刺されてしまうことによる感染症についての話題です。参照とするのは、Simcha Lev-Yudun & Malka Halpernの2019年の論文、『Extended phenotype in action. Two possible roles for silica needles in plants: not just injuring herbivores but also inserting pathogens into their tissues』です。


トゲによる感染症とは?
植物のトゲは視覚的に警戒を喚起し草食動物が忌避する可能性があります。さらに、Halpernらは鋭利な構造を持つトゲには病原性の細菌が生息しており、そのことが草食動物から身を守る上で特別な役割りを果たしている可能性を発見しました。
イスラエルのナツメヤシの農園では、労働者の間でトゲの刺し傷に由来する細菌感染症が頻繁に発生しており、重篤なため治癒が非常に困難です。多くの農園で数百万本のトゲを電動ノコギリですべて切除する、大変費用のかかる作業が必要となりました。


トゲにいる病原菌
ナツメヤシ(デーツ、Phoenix dactylifera)の下葉から出るトゲや、common hawthorn(サンザシの仲間、Crataegus aronia)のトゲ、トゲのある低木であるthorny burnet(Sarcopoterium spinosum)とmanna tree(Alhagi graecorum)のトゲを採取し、細菌の検出を行いました。結果として、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、炭疽菌(Bacillis anthracis)、パントエア菌(Pantaea agglomerans)など、病原性が高い細菌が特定されました。
ウェルシュ菌はガス壊疽と呼ばれる筋肉の壊死を引き起こすことから、食肉細菌(flesh-eater)として知られます。炭疽菌は炭疽病を引き起こし、家畜や野生動物、そして人間にとっても急性で致命的な感染症として悪名高いものです。破傷風菌(Clostridium tetani)は破傷風を引き起こし、人間と他の動物にとって深刻な病気となります。米国やエチオピア、トルコなどの多くの国で、トゲによる障害が破傷風を引き起こしています。
また、植物のトゲによる損傷により引き起こされる化膿性炎症は、細菌だけではなく病原性真菌によっても引き起こされることを発見しました。皮下真菌症を引き起こす皮膚糸状菌は皮膚を貫通出来ませんが、トゲにより皮下組織に侵入します。



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Euphorbia lophogonaの翼状の刺塊。


トゲの病原性細菌叢
特定の植物や植物器官の表面には、微生物の生存の可能性を低下させたり上昇させたりする、化学的あるいは構造が存在する可能性があります。微生物は植物表面のバイオフィルム内で増殖します。バイオフィルムとは付着した細菌の集合体で、細菌が分泌する粘着性多糖類に囲まれています。バイオフィルムの基質内には嫌気性細菌が存在可能な無酸素状態の空隙など、様々な異なる微小環境が存在する可能性があります。Halpernらの研究結果を考慮するならば、好気性細菌だけではなく嫌気性細菌もバイオフィルム内に存在していることは明らかです。また、Halpernらの研究では、ワシントンヤシ(Washingtonia filifera)において、色鮮やかなトゲと、葉では細菌叢の構成に大きな違いがありました。


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Gymnocalycium pungensの刺は非常に鋭く皮膚を簡単に貫通します。


延長された表現型 Extended Phenotype
「延長された表現型」(拡張された表現型)とは、Dawkinsにより導入された概念です。動物の行動はその行動をとる動物の体内にある遺伝子があるかないかに関わらず、あるいは表現型が体外で発現しているか否かに関わらず、遺伝子の存在を最大化する傾向があります。例えば、Rothschildは有毒な警告色を持つ昆虫が有毒植物に集まることにより、植物のaposematism(警告するシグナル)な香りが強まり、場合によってはaposematismな色彩も強まることを説明しました。この例では、aposematismな装置は植物の部位に基づき作られたものではなく、有毒昆虫により作られた「延長された表現型」でした。
植物が微生物により草食動物から守られる場合、それは延長された表現型であると言えます。様々な病原性微生物が草食動物に感染することにより、植物は防御的な利益を得ます。このことは植物自身の延長された表現型であるだけではありません。病原性微生物は増殖と拡散のために植物を利用していることになります。植物は微生物による防御を、微生物は感染する草食動物に感染する機会を、それぞれが享受することが出来る相利共生的なシステムです。


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Aloe spectabilisの刺は派手な警告色で草食動物に己の危険性をアピールします。


同時嗅覚警告作用
細菌が感染した植物で、同時嗅覚警告作用(警告のための不快な臭いなど。simultaneous olfactory aposematism)が関与しているかは検討されてきませんでした。また、病原性微生物のバイオフィルムが誘引物質を放出することにより草食動物が訪れて病原性微生物に感染し、結果的に草食動物が減少し植物に利益をもたらす可能性もあります。
微生物の臭いに関する例では、以下のような報告があります。セイヨウハコヤナギ(Populus nigra)に感染したポプラさび病菌は、草食動物が誘引されるような香りを減少させ、草食動物の嗜好に影響を与えます。トウモロコシに感染したトウモロコシ萎黄斑ウイルスが、ウイルスを媒介するタバココナジラミを誘引する揮発性物質を放出していることが明らかとなっています。さらに、カリフォルニアの野生植物の花蜜に生息する微生物が花蜜の揮発性成分の組成を変え、花を訪れる蜂の誘引力に影響を与えることが判明しています。これらの事例から、トゲのある植物の表面に生息する微生物が、草食動物に影響を与える可能性を示唆します。


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Dasylirion seratifoliumの恐ろしい逆刺。長い葉は触れたものに絡みつきます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
野生植物のトゲには様々な病原性微生物が生息しており、トゲに刺された草食動物に感染をもたらすであろうという驚きの内容でした。恐ろしい話ではありますが、流石に我々の身近な植物のトゲにはこれほど重大な病原性細菌はいなそうです。しかし、何らかの細菌は存在するでしょうから、植物のトゲに刺されたら患部の洗浄と消毒はやはり行った方が良いでしょう。放置した場合には患部が化膿するかも知れません。あと、皮膚にいる糸状菌が植物のトゲで体内に挿入されるという話は盲点でした。これは、糸状菌だけではなく皮膚の常在菌も挿入されることになりますから、免疫力が落ちている時は要注意かも知れませんね。
また、「延長された表現型」の概念はわかりにくいのですが、これは植物自身の有する毒やトゲなどの防御機構から範囲を拡張し、植物自身ではない微生物が防御機構に関与しているということです。外部を利用していることを以て「延長された」と言っているわけです。
さて、実は論文ではシリカ針の議論がされていましたが、割愛させていただきました。シリカ針とは植物の葉や茎に見られる珪酸質の毛のような微細な針で、キュウリの茎やオクラの実など、様々な身近な植物に見られるものです。論文のタイトルにも「
silica needles in plants」とあるからには、新規に提案された重要なものなのでしょう。しかし、論文中で検証されているわけではなく、細菌を検出したのは通常のトゲであってシリカ針ではありません。この論文では可能性を示唆しているだけです。いずれ、何らかの報告がなされるでしょうから、またその時に詳細をご紹介しましょう。


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生物には何かに擬態するものもいます。とは言え、擬態と言っても様々な種類があります。分かりやすい例では、目立たないように環境に擬態(隠蔽擬態)することは一般的です。それは捕食者の目を逃れるだけではなく、環境に溶け込んで待ち伏せ型の狩りをする捕食者(攻撃擬態)もいます。複雑な擬態としては、有毒生物に似た姿となり捕食を免れるベイツ型擬態や、毒や不味などの捕食者に対し不快となるような特徴を共通した生物群が互いに似た姿をとることをミュラー型擬態と呼びます。ミュラー型擬態において似た姿をとる生物群を、擬態環(mimicry rings)と呼びます。さて、本日はトゲを持つサボテンなどの植物が、ミュラー型擬態を行っている可能性を指摘した、Simcha Lev-Yadunの2009年の論文、『Mullerian mimicry in aposematic spiny plants』をご紹介しましょう。


トゲは警告する
警告色とは、有毒あるいは危険な、不快な要素を持つ生物が、他の動物に視覚的にそれを知らせる現象です。警告色の進化は、敵が警告色の視覚シグナルを、危険である、損害を生じる、または関わることに利益がないことと関連付け、獲物として回避する能力に基づきます。警告色を持つ動物の典型的な色合いは、黄色、オレンジ色、赤色、紫色、褐色、黒色、白色の組み合わせです。多くのトゲのある植物は、防御構造であるトゲが通常はカラフルであり目立つため、それが警告色であることが提案されています。


ミュラー型擬態
視覚的に警告を示すトゲを有する植物は、ミュラー型擬態の擬態環を形成することを提唱します。擬態環の存在を考察するには、類似したシグナルと、捕食者や植物に対する草食動物の縄張りの重複の2つの要素が必要です。
ミュラー型擬態は旧世界と新世界にあり、サボテン科、リュウゼツラン(Agave)属、アロエ属、ユーフォルビア属、白いトゲを持つアカシアなどが良く研究されています。これらの植物には非常に強い形態学的類似性が見られます。サボテンには共通する2種類のトゲの目立ち方があります。1つは色鮮やかなトゲ、もう1つは茎のトゲに伴う白い斑点や、白色あるいは色鮮やかな縞模様です。これらの警告色は、アガヴェ、アロエ、ユーフォルビアのトゲにも顕著に見られます。このうち、アガヴェやアロエ、ユーフォルビアには有毒のものが含まれ、これらの種はミュラー型擬態の擬態環を形成する可能性があることを示唆します。


4つの擬態環
分布域が重複し、少なくとも一部の草食動物と分布を共有する一部のグループはミュラー型擬態の擬態環を形成します。
1つ目は北米の広い地域で分布域が重複する、サボテンとアガヴェによるものです。2つ目はアフリカのアロエやユーフォルビア、そして非常に目立つ白いトゲのアカシアによるものです。3つ目はオハイオ州南東部のトゲのある植物に共通する警告色に見られます。4つ目は近東に分布するトゲのあるキク科植物で、共通する黄色のトゲを持つ29種が発見されています。この黄色のトゲを持つ植物の一部は南ヨーロッパにも分布することから、ミュラー型擬態の擬態環は南ヨーロッパでも広く見られることは明らかです。
これらのことから、ミュラー型擬態の擬態環は植物にとって一般的であり、研究されていない多くのトゲを持つ植物もミュラー型擬態を形成している可能性が高いと結論付けました。このような擬態環は類似した色や臭気を持つ有毒植物でも形成される可能性があります。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
最近、続けてトゲの警告色についての論考をご紹介しています。サボテンやユーフォルビアの新しいトゲは派手で目立ちますが、わざわざコストをかけて色素を作っている以上は、何らかの利点がある可能性が高いでしょう。さて、そうなると、問題はミュラー型擬態です。共通して派手な目立つトゲを持つ植物群は、草食動物に対して警告色としての作用が強化される可能性があります。鮮やかなトゲを種や分類群の違いに関わらず、草食動物が鮮やかなトゲをリスクとして避ける傾向があるのならば似ていることにも意味が出てきます。1種ではなく、複数の種において共通する草食動物にネガティブな要素があれば、草食動物の教育効果も高いのでしょう。
トゲのある植は沢山ありますが、必ずしもそれらがミュラー型擬態であるわけではないでしょう。しかし、北米のサボテンやアフリカのユーフォルビアは、同じ分布域に共通する要素がある植物が集中しているのは、なかなかに面白い事実ですね。



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先週はサボテンやアガヴェ、アロエ、ユーフォルビアの色のついたトゲが、草食動物に対する警告色として働いているという論文をご紹介しました。本日は同じ著者によりトゲの色の変化に関する論文を見ていきます。それは、Simcha Lev-Yadun & Gidi Ne'emanの2006年の論文、『Color changes in old aposematic thorns, spines, and prickles』です。


トゲの警告色については、以下リンクをご参照下さい。


トゲの変化とコスト
保護器官の成熟に伴いトゲの色は変化し、目立たなくなります。例えばバラ属の植物では、枝が若く緑色の時は、黄色やオレンジ色、赤色、褐色、黒色のトゲは目立ちます。しかし、枝が緑色から褐色あるいは灰色に変わると、トゲは元の色を喪失し目立たなくなります。
このようなトゲの色の変化は一般的ですが、必須ではありません。薄い着色層が一時的であるのは、必要なのはより少ない資源であるため、トゲへの着色に対する投資の削減となります。トゲを長期間に渡りカラフルに保つためにはその分だけコストがかかります。単純にトゲを構成する素材が最初からカラフルであるという考え方もありますが、トゲは変色してもトゲの機能を失いませんし、そもそも着色層はトゲの鋭さに寄与しません。



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Euphorbia poissoniiの赤く美しいトゲも、やがて退色し目立たなくなります。


色の変化は適応的
植物が有色器官を生み出すためのコストには3種類あります。
①色素合成のための資源割り当ての必要性。
②光合成と生産性の低下。
③目立つ事による草食動物の誘引。
しかし、トゲの色の変化は適応的であり、何らかの利点をもたらしているはずです。防御対象の器官の生長や成熟に伴い、草食動物に対する脆弱性は低下します。このような、防御コストの低減は一般的です。例えば、アカシアなどの木本は、低い位置の枝のトゲは高い位置のトゲよりも長くなります。また、幼木のみ大きなトゲがあり、成熟するとトゲを失うものもあります。さらに、草食動物の食害後にトゲのサイズと数が増加することも知られています。
これらのトゲの色の変化は、広範囲な分類学的分布を示すことから、この形質は裸子植物と被子植物の両方で、おそらく視覚指向性を持つ草食動物による淘汰に応じ、繰り返し進化してきたことを示唆しています。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文で主張されていることは実にシンプルで、要するに古いトゲが変色して元のカラフルな色彩を失うのは、理に適っているというだけの話です。カラフルな色彩を維持するためには、トゲの形成後も色素を合成して補充し続ける必要があります。カラフルなトゲは警告色として草食動物にアピールすることを考えたら、カラフルなトゲの維持にも意味があるような気もしてしまいます。しかし、変色したトゲは古い幹や枝にあるわけですから、木質化していて硬く葉もないか少ないでしょう。守るべき新しい枝先には生長点があり新しい葉がつきますから、カラフルなトゲで警告を発することに意味があります。古いトゲのカラフルな色彩を維持するためにもコストがかかりますから、新しいトゲだけにコストを割くのは合理的でしょう。
そういえば、サボテンでも若い苗のうちはトゲが強く、生長するとトゲが弱くなるものもありますね。これは、草食動物の食害を受けやすいうちは強いトゲで防御し、草食動物の食害を受けにくいサイズになったらコストがかかるトゲに資源を割かなくなるということでしょう。
トゲの運用にはコストがかかり、それは食害に対するリスクとベネフィットとの関係により、最適化されて進化してきたのでしょう。


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サボテンや多肉植物の共通点と言えば、乾燥地への適応やその結果としての多肉質な葉や茎、塊茎や塊根があります。さらに、不思議と乾燥地にはトゲで武装した植物が多いような気がします。新大陸の代表はサボテンですが、AgaveやFouquieria、Dyckiaにもトゲがあります。アフリカにはサボテン様のEuphorbiaやPachypodium、Aloe、Alluaudiaなどがあります。恐らく水分が少ない乾燥地では、水分を豊富に含む多肉植物は優れた餌でしょう。ですから、草食動物からの食害を防ぐために、トゲで武装したり毒を溜め込んだりするのでしょう。
さて、多肉植物好きとしては、サボテンや多肉植物のトゲは気になる存在です。それは研究者も同様で、サボテンのトゲについては幾つもの論文が出ています。私もサボテンのトゲの機能についての研究や、トゲを介した霧の水分の集積の論文について、過去に記事にしています。しかし、トゲそのものや草食動物との関係について考察したものはありませんでした。そこで、本日は植物のトゲそのものが動物に対して警告を発している可能性を指摘したSimcha Lev-Yadunの2001年の論文、『Aposematic (Warning) Coloration Associated with Thorns in Higher Plants』をご紹介しましょう。


植物は警告するか?
動物ではよく知られた現象である警告色は、植物ではほとんど注目されてきませんでした。橙色や黄色、白地に黒い模様などの動物は、捕食者にとって危険な存在です。それは、捕食者がその色を不快な性質と関連付けて学習するからです。しかし、植物の目立つトゲの役割りについては報告がありません。植物の警告色については、シロツメクサ(Trifolium repens)を食べるヒツジが、白紋のある葉より無紋の葉を好むことを明らかとした報告(Cahn & Harper, 1976)があるくらいです。


サボテンのトゲの様々な色
サボテン科の多くの種においてカラフルなトゲが見られ、その多くは多色です。通常のトゲ(thorn)は褐色、黄色、赤色、白色、灰色、ピンク色、黒色、黄褐色です。
Benson(1982)は174種のサボテンをリストアップしました。そのうち、80.5%にあたる140種が色のついたトゲを持ち、33.9%にあたる59種が色のついた芒刺(glochid)を持つとしています。トゲが1色であるのは8種、2色は39種、3色は48種、4色は24種、5色は14種、6色は5種、7色は2種でした。芒刺は、褐色もものが13種、赤色が7種、黄色が28種、黄褐色が10種、灰色が1種でした。
Preston-Mafham(1994)は973種のサボテンを掲載しており、そのうち862種には白い模様が、6種には褐色/黒色の模様がありました。トゲはカラフルな縞模様や白い縞模様により目立つことはよくあります。


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刈穂玉(Ferocactus gracilis)
刈穂玉の鮮烈な紅色の強刺。
筑波実験植物園にて(2025年2月)。



アガヴェのトゲの様々な色
アガヴェ属(Agave)の葉には、尖端にトゲがあるもの(※)と、葉縁に鋸歯があるものの2種類のトゲがあります。多くのアガヴェの葉には、鋸歯に加えてトゲや鋸歯の視認性を高める縞模様があります。葉縁の鋸歯は褐色、赤みがかった色、灰色、黒色、白色、黄色のいずれかでした。
Gentry(1982)は194種のアガヴェをリストアップしました。そのうち、112種が葉の頂端にトゲを持ち、86種は葉縁にトゲを持っていました。47種は葉縁に縞模様がありました。



(※) 葉の尖端にのみトゲがある吹上のようなアガヴェは、Echinoagaveとして独立しアガヴェから分離されました。


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Agave utahensis var. eborispina
ウタヘンシス変種エボリスピナの飴色の強刺。
神代植物公園の多肉植物展示にて(2022年5月)。


アロエのトゲの様々な色
アロエ属(Aloe)のトゲは、白色、赤色、黒色、黄色など色彩豊かです。多くのアロエは白色の模様を持ち、多くの種は色彩豊かです。Reynolds(1969)は137種のアロエを取り上げており、そのうち133種は葉縁にトゲを持っています。さらに、94種には色のついたトゲを持ち、37種は葉縁に白色のトゲを持っていました。13種は葉縁にトゲはあるものの葉に白色の斑点はなく、50種には葉に葉縁に色のついたトゲがあり白色の斑点を持ち、3種には葉に白色の斑点はあるものの葉縁にトゲはなく、42種には葉縁に色のついたトゲはあるものの葉に白色の斑点はなく、2種には葉縁に色のついたトゲを持ち葉には色のついた斑点を持ちます。


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Aloe flutteana
白色のトゲと斑点がよく目立ちます。


ユーフォルビアのトゲの様々な色
ユーフォルビアは色鮮やかなトゲや、トゲな付随する白色や白っぽい斑点、あるいは白色の模様は一般的です。Sajeva
& Costanzo(1994)は80種のユーフォルビアをリストアップしており、そのうちの60%にあたる48種が色のついたトゲを有しています。13種はトゲの縁に白色の模様を持ち、9種はトゲの縁に他の色の模様があります。



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Euphorbia 
ユーフォルビアはこのような斑が全体的に入るものも珍しくありません。


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Euphorbia poissonii
ユーフォルビアの新トゲは鮮やかな赤色のものは一般的です。



トゲの色はベネフィットするか?
植物のトゲの色彩や模様は広範囲に見られ、おそらくは中立的あるいはランダムな現象ではありません。動物の警告色と同様に適応的価値があると著者は考えます。
目立つトゲは草食動物がその記号を記憶し、その記号を有した植物を避ける傾向があるため、植物にとって警告色は有益であると考えられます。目立つトゲの生成と維持にかかるコストが、草食動物の食害の減少のコストより低いならば、そのような突然変異の選択に有利に働きます。草食動物が警告色を示す個体を避けて警告色がない個体を食べるならば、警告色のある個体とそうではない個体との間の競争が減少します。
色鮮やかなトゲや模様を生み出すにはコストがかかりますが、それが複数の目的を果たす場合はそのコストは低減するでしょう。例えば、サボテンで白い毛やフェルトが日中の極端な温度変化を制御し生長点を保護する役割りを果たしています。
生物学的なシグナル伝達の評価は複雑です。植物の鮮やかな色が非警告的な記号を果たしている場合、例えば花粉媒介者や果実食動物へのサインであったり、植物の温度低下などにも利用されているからです。したがって、植物の色やトゲはそれを有することを示すだけではなく、「注意を向けている」を示すことも出来ます。警告色は植物を食べる草食動物により維持されます。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この論文はトゲの色についての調査結果を参照しているだけで、実際にそれが草食動物に対して如何なる作用を及ぼすのかについては明らかではありません。あくまでも仮説であり、実証する必要があります。しかし、考え方としては面白く、わざわざコストをかけている以上は何らかの効果がある可能性は高いでしょう。
さて、著者である
Simcha Lev-Yadunの植物の警告色に関する一連の論文は面白いので、しばらくは年代順にご紹介する予定です。


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2021年の新種の花キリンであるEuphorbia spannringiiとEuphorbia fuscocladaを最近ご紹介しました。参照したのはThomas Haevermans & Wilbert L. A. Hetterscheidの2021年の論文、『Taxonomic changes and new species in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』です。論文中では13種の花キリンの新種の記載と、レクトタイプを1種、ネオタイプを2種、エピタイプを1種、さらには複数の異名(Synonym)を提案しています。さて、本日はその中からEuphorbia makayensisについて見ていきます


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Euphorbia makayensis
2023年の5月に開催された木更津Cactus & Succulentフェアにて購入しました。



新種・マカイエンシス
Euphorbia makayensis Haev. & Hett., sp. nov.
Euphorbia亜属Goniostema節に属し、E. psammiticolaおよびE. leandrianaに類似します。しかし、E. makayensisは、若いトゲの上の部分が非常に細く柔軟ですぐに消失する点において、類似の2種とは異なります。さらに、E. makayensisの花被片の先端は丸みを帯び内壁は滑らかですが、E. psammiticolaでは花被片の先端が鋭角で内壁には5列の針状毛が垂直に並ぶ点が異なります。また、E. makayensisは花序の花被片が最大8個ですが、E. leandrianaでは2〜32個です。


特徴
高さ50〜100cmの低木で、幹は多肉質で雌雄同株です。主茎は直径4cmまでで、樹皮は灰褐色で滑らかです。まばらに枝分かれし、枝は直径2〜3cmでトゲに覆われます。葉は落葉性で全縁、樹齢によりサイズが異なります。葉柄は短く(1mm)赤みを帯びています。
葉身は4〜10cm × 1〜3cmで倒披針形です。基部は細長く、先端は亜鋭形〜円形ですが尖端は尖ります。辺縁は赤みを帯び無毛です。一次脈および二次脈は表側で目立ち、主脈は葉裏に顕著です。葉は緑色かわずかに灰白色で、若い時は鮮やかな赤色を帯びる。
托葉刺(stipular spines)は単純で基部は膨らみ、あるいは葉の基部の下に1本の短い副刺(
accesory spines)があります。
花序は二叉花序で長さ約10cmで、1つの枝に3〜4個の花序が同時につきます。亜頂生で3回二叉に分岐し、花序あたり4〜8個のCyathiaが出来ます。花柄の表面には粘着性があり、鮮やかな赤みがかるピンク色です。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
花は咲き始めで苞が開ききっていないため、残念ながら記事には載せられませんでした。過去の写真は探す手間がかかりすぎるため断念しました。というわけで、花の写真はありません。悪しからず。


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2021年の新種の花キリンであるEuphorbia spannringiiを最近ご紹介しました。参照したのはThomas Haevermans & Wilbert L. A. Hetterscheidの2021年の論文、『Taxonomic changes and new species in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』です。論文中では13種の花キリンの新種の記載と、レクトタイプを1種、ネオタイプを2種、エピタイプを1種、さらには複数の異名(Synonym)を提案しています。さて、本日はその中からEuphorbia fuscocladaについて見ていきます。


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Euphorbia fuscoclada Haev. & Hett.
2023年10月にタナベフラワーにて購入しました。


新種・フスコクラダ
Euphorbia fuscoclada Haev. & Hett., sp. nov.
Euphorbia亜属Goniostema節に属します。枝の直径が1.5 cmになるE. splendensより強健で、枝の直径は2.5cmになります。樹皮は光沢のある暗赤褐色で、枝の上部に短芽が発達しています。葉は無柄または半無柄です。対するE. splendensの樹皮は灰色で、短芽は欠如しているか極めて稀で、葉柄があり区別出来ます。


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深い紅色のトゲがあります。


特徴
高さ1m、直径2mまで生長する低く茂ったトゲのある植物で、雌雄同株です。主に主枝の基部から分岐し、上部はそれほど多く分岐しません。枝は半直立しますが、まれに直立して周囲の植物に支えられます。樹皮は半光沢から鈍く、暗褐色で古い部分は灰色がかってきます。葉は主枝の先端と短芽に集まり、無柄から準無柄です。主枝の先端の葉は1〜3cm × 2〜7cmで、広倒卵形から長楕円形です。トゲは目立たない列をなすかランダムで、長さ10〜15mmで頑丈、基部はわずかに膨らみ、若い時は暗黒褐色ですがすぐに灰色になります。花序は通常は枝先に単独でつき、長さ10cmほどになり、2〜4回二叉に分岐し、4〜16個の花を咲かせます。花軸は赤褐色です。


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幹は次第に灰色がかってきます。


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しかし、水に濡れると内部の鮮やかな暗赤褐色が透けて現れます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。今回も花の特徴などは割愛しています。
さて、Euphorbia fuscocladaは割りと新しく命名された花キリンですが、命名からわずか2年で私が入手していますから、かなり流通が早いですね。しかも、現地球ではなく実生で、それなりの量が流通したようですから、既に栽培品が大量に栽培されているということでしょう。これは大変良いことです。なぜなら、実生由来の栽培品が大量に出回れば、密輸品などの現地球の価値も低下するため、密輸組織の旨味がなくなるため密輸そのものが減少するからです。密輸組織とは大げさなと思われるかも知れませんが、実際に国際的な密輸シンジケートが存在し、それらの組織はマフィアが絡んでいたりします。現地球を購入することで、間接的にマフィアに資金提供をしていることになりますからご注意下さい。



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最近、多肉植物のイベントでEuphorbia spannringiiという名前の花キリン苗が流通するようになりました。私は本格的に流通する前の先触れを、去年の秋にBBで入手しました。さて、私が驚いたのは、これが由来不明の塊根性花キリンである「フィッシュボーン」と呼ばれるものに見えたからです。葉の葉脈がはっきりと白く筋状となっており、名前の通り「魚の骨」のように見えます。しかし、いつの間にやら学名がついたのかと驚きましたが、どうやら2021年の論文によるものであることが分かりました。その論文は、Thomas Haevermans & Wilbert L. A. Hetterscheidの2021年の論文、『Taxonomic changes and new species in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』です。論文中では13種の花キリンの新種の記載と、レクトタイプを1種、ネオタイプを2種、エピタイプを1種、さらには複数の異名(Synonym)を提案しています。さて、本日はその中からEuphorbia spannringiiについて見ていきます。


新種スパンリンギイ
★Euphorbia spannringii Haev. & Hett., sp. nov.
E. spannringiiは少なくとも10年前から栽培されており、「Fishbone euphorbia」とも呼ばれてきました。ホロタイプとパラタイプを作成するための植物が発見されるまで、野生個体は見つかっていませんでした。
E.spannringiiはEuphorbia亜属Goniostema節に属し、広範囲な明るく白い斑入りの葉により他の種と際立って異なります。このような斑入りの葉は、E. cremersiiやE. razafindratsira、E. moratiiの変異の範疇でも見られます。E. 
spannringiiは葉が亜皮質で短く、葉が細長く楕円形〜披針形であるE. cremersiiとは異なります。また、E. spannringiiは葉が直立し葉裏が白いのに対し、E. cremersiiは葉が頷き型で葉裏はくすんだ紅褐色です。E. moratiiは葉身が狭く尖りくすんだ紅褐色である点で異なります。


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Euphorbia spannrigii Haev. & Hett.
2024年9月に開催された、サボテン・多肉植物のビッグバザールにて購入しました。


特徴
葉身のみが地上から出ています。根は多肉質で房状の主根から、多肉質な枝を伸ばします。雌雄同株です。葉は落葉性で全縁、葉柄は細長く葉身のみが地上から出ます。葉柄は無毛で基部に翼があり、地下にある時は白く露出すると赤緑になります。
葉は45〜60mm × 15〜30mmで、倒披針形で基部は鈍形で先端は鋭形から鈍形で無毛です。葉縁は赤みを帯び平らかわずかに波打ちます。通常は一次脈と二次脈が白色で、時に二次脈の間に白斑が入ります。
花序は二叉に分かれ長さ10cm以下、1つの枝に同時に5個以下の花序がつきます。花柄から脇芽が出て蕾になることもあります。



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まだ若い実生苗ですが、塊根が出来ています。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。花の詳細な特徴や、タイプの産地なども記載されていましたが、今回は割愛しました。
さて、マダガスカルでは未だに新種の多肉植物が見つかります。しかし、E. spannringiiのように先に未記載種として流通してから、後に新種として記載されるのは珍しいですね。マダガスカルは種が非常に多様化しており、分布が狭い地域に限定されがちです。そのため、原産地の特定は困難を極めます。開発により未調査地が消滅していることも珍しくありません。産地が特定され、正式に命名されたことは僥倖でした。


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ユーフォルビアは有毒で、傷つけると出てくる乳液は皮膚につくとかぶれたり、種類によっては水ぶくれが出来たりします。ところが、ユーフォルビアは様々な用途で利用されており、Euphorbia resiniferaなどは蜜蜂の蜜源植物として有名で、その蜂蜜はモロッコの特産品となっているそうです。しかし、同じアフリカの多肉質なユーフォルビアである矢毒キリン(Euphorbia virosa)は蜜にも毒があり、矢毒キリンの花蜜由来の蜂蜜は食べると口内や喉が焼けるように痛むと言いますから、毒性は種類によっても異なるのでしょう。


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Euphorbia resinifera


さて、本日はそんなユーフォルビアの蜜源植物としての側面にスポットライトを向けましょう。参照とするのは、Nihad Sahriらの2023年の論文、『Euphorbia honey: a comprehensive compile of its traditional use, quality parameters, authenticity, adulteration, and therapeutic merits』です。


蜂蜜とは何か
蜂蜜はセイヨウミツバチ(Apis mellifera)が生産する甘味料でありあるいは栄養補助食品として、さらには治療目的で世界中で消費・取り引きされています。その成分は、乾燥重量の約95%を占める主成分である炭水化物(ブドウ糖、果糖)を始め、ビタミン、酵素、有機酸、アミノ酸、タンパク質、VOC(揮発性有機化合物)、各種ポリフェノール、ミネラル、花粉などを含みます。蜂蜜は栄養価が高いだけではなく、抗酸化作用や抗菌作用、抗炎症作用、創傷治療作用、抗変異原性作用、抗発癌作用、酵素阻害能があります。蜂蜜の物理化学的パラメーターや化学成分、その期待出来る治療効果は、産地や蜜源植物の種類、収穫時期、処理工程、保存期間により異なります。


単花蜜と多花蜜
蜂蜜の分類の1つとして、単花蜜(モノフローラル)と多花蜜(マルチフローラル)があります。後者は複数の種類花蜜からなり、特定の種類の花蜜が優勢ではない蜂蜜を指します。単花蜜は単一の種類の花蜜が主成分であり、他の種類の花由来の花蜜はわずかです。多花蜜は一般的に入手出来ますが、単花蜜はその洗練された味や読独特の風味、健康効果、及び植物由来の特性により市場における需要が高まっています。


ユーフォルビアの蜂蜜
ユーフォルビアの蜂蜜は、種類によっては「Daghmous honey」、あるいは「Zakoum honey」とも呼ばれ、地中海地域で一般的な産物です。モロッコは養蜂業への関心の高さと、固有のユーフォルビアの存在により、ユーフォルビアの蜂蜜の最大の生産国となっています。
ユーフォルビアの蜂蜜はもっとも高価な蜂蜜の1つで、モロッコやレバノン、トルコでは貴重品とみなされています。ユーフォルビアの蜂蜜は、甘味料というより医薬品と認識されており、特に喘息や嚢胞、癌などの治療において用いられます。



蜂蜜の歴史
歴史的に蜂蜜は健康維持のための自然療法に用いられてきました。エジプトやギリシャ、ローマでは、多くの病気の治療に蜂蜜が使われたという記録が残されています。古代ギリシャで人気があった非発酵の葡萄と蜂蜜の飲料である「Oenomel」は、痛風や様々な神経疾患の治療に民間療法として時に用いられました。医学の父として有名なヒポクラテスは、「oxymel」(酢と蜂蜜)を鎮痛に、「hydromel」(水と蜂蜜)を喉ね渇きに、蜂蜜水を他の治療薬と混合して急性の発熱用いるといった、シンプルな食生活を推奨しました。また、局所的な消毒、避妊、喉の痛み、咳、脱毛症、創傷治癒、下剤、眼疾患にも用いました。蜂蜜には豊かな薬効の歴史があり、西洋医学だけではなく、アーユルヴェーダや中国医学でも認められています。


モロッコの蜂蜜
モロッコの民間療法では、特にユーフォルビアの蜂蜜が広く利用されています。モロッコはEuphorbia resiniferaとEuphorbia officinarum、Euphorbia regis-judaeの3種類の蜂蜜を生産しており、機能性食品あるいは栄養補助食品とみなされています。これらの蜂蜜は、力強く際立つ味と刺激的な風味、穏やかな苦味、喉に残る胡椒のような後味が特徴です。伝統医学により、喘息や気管支炎、嚢胞を伴う腎盂腎炎、癌などの治療に頻繁に使用されます。


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Euphorbia officinalum


花粉学
電子顕微鏡により花粉を分析することで、種間の差異を区別することが出来ます。単花蜜の主要な花粉比率に関する基準が確立されましたが、一般的に単一の植物種の花粉頻度が45%以上のものは単花由来であると考えられます。また、花粉粒の含有量には過小と過剰があり、柑橘類の蜂蜜は最低10%以上の花粉含有量が求められ、菜種の蜂蜜には45%以上の菜種花粉の含有が義務付けられています。同様にユーカリの蜂蜜は90%以上のユーカリ花粉が必要です。アルジェリアやモロッコなどの北アフリカ諸国における調査では、最低25%の花粉がEuphorbia spp.に由来することが報告されています。


蜂蜜の成分
蜂蜜の主成分は炭水化物であり、乾燥重量の約95%を占めています。蜂蜜に含まれる糖類の大部分は単糖類で、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)で糖含有量の約75%を占めます。さらに、イソマルトース、マルトース(麦芽糖)、ツラノースなどの二糖類が約10〜15%を占めます。また、エルロースやテアンデロース、マルトトリオースなどの糖類は極わずかです。ユーフォルビアの蜂蜜では、スクロース(ショ糖)やマルトース(麦芽糖)、ツラノース、トレハロース、メレジトースが検出されましたが、データは不均一でした。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
実は論文は非常に長く、様々な成分について検討しています。しかし、ユーフォルビアの蜂蜜については、まだデータが少ないようです。成分分析は品質や純正品であるかを見極める重要なファクターのようですから、これから分析が進んでいくのでしょう。
しかし、ユーフォルビアの蜂蜜は北アフリカの特産品であることは知っていましたが、その用途が薬用であることは初めて知りました。そして、苦味や胡椒のような後味などの表現を見ると、やはりユーフォルビアの蜂蜜は普通の蜂蜜ではないことが分かります。
成分分析では、含まれるフラボノイドの種類により産地などが分かると言いますが、ユーフォルビアの蜂蜜にも多種類のフラボノイドが含まれているようです。しかし、その成分や効果については、まだまだこれからといったところのようです。



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顕花植物の多くは、風媒花ではない限りは受粉に花粉媒介者を必要とします。植物と花粉媒介者との関係において、非常に特殊化した例として有名なのはイチジクとイチジクコバチでしょう。お互いに特殊化した関係性を持ち、これを絶対送粉共生と言います。イチジクコバチの例はよく植物関連の書籍でも取り上げられています。イチジク以外の例としては、コミカンソウとハナホソガや、ユッカとユッカガも稀に取り上げられることもあります。これらは非常に面白く気になっていたので、今回少し調べてみることにしました。
しかし、当ブログは広義には植物ブログであり、記事は必ずしも多肉植物に限らないわけですが、出来る限りは多肉植物を中心としておりますわけで、一応は多肉植物の範疇とされることもあるユッカについて取り上げげさせていただきます。まあ、イチジクとイチジクコバチについては、あまりに有名で今更ですからね。

さて、というわけで本日ご紹介するのは、Yaron Ziv & Judith L. Bronsteinの1996年の論文、『Infertile seeds of Yucca schottii: a beneficial role for the plant in the yucca-yucca moth mutualism?』です。

ユッカ・スコッティイ
Yucca schottiiはアリゾナ州の山岳地帯、標高1200〜2400mに自生する森林植物で、オーク林の低地から松林に生えます。Y. schottiiは多年生かつ多結実性で、花序は6月中旬頃に芽が出現し、花茎は12〜14日で急激に伸びて開花します。受粉後は25〜30日で果実は生長しますが、種子の成熟にはさらに1ヶ月かかります。

ユッカ蛾
Y. schottiiにはTegeticula yuccasellaとParategeticula polleniferaという2種類の蛾が共生しています。T. yuccasellaはほぼすべてのユッカと共生しますが、P. polleniferaはY. schottiiとY. elephantipesのみと共生します。
この研究が行われた場所では、T. yuccasellaが圧倒的に多く見られます。T. 
yuccasellaはユッカの開花期にユッカの近くの地中にある蛹から羽化し、ユッカの花の中で交尾をします。雌は開花したばかりの花で花粉を集めてから、別の花に行き子房に産卵し、集めた花粉を柱頭に付けます。
幼虫は6つある子房の房の1つで生育し、近くの種子を食べます。約4週間後に幼虫は果実から出て地中に繭を作り、翌年の夏まで地中に留まります

相利共生のベネフィット
ある種が単独で存在するよりも、他種と共存する方が利益が高い場合、その2種間の関係性は相利共生であるとみなされます。2種が完全に相互に依存し合う場合を絶対相利共生と言い、典型的な例としてユッカとユッカ蛾の関係性が挙げられます。
相利共生を維持するためには、互いが互いに対して報奨を与える必要があります。通常はエネルギーと栄養素の分配が必要であるため、何らかのコストを伴います。純コストと利益のバランスが、それぞれの純利益を決定します。よって、相利共生の関係性を評価するためには、それぞれの種のコストと利益を調べる必要があります。
コストをかけて花蜜を生産することにより、利益として花粉媒介者に花粉の散布と運搬を行う一般的な相利共生では、コストと利益が比較的無関係です。しかし、ユッカとユッカ蛾の関係性では、ユッカの種子がユッカ蛾の幼虫の食糧となるため、コストと利益は密接に関係しています。ユッカ蛾による受粉により生産される種子は増えますが、一方で幼虫が食べる種子が多いほど種子は減少します。これは、相利共生者間の根本的な葛藤を示しています。


調査
著者らはアリゾナ州ツーソンで、Y. schottiiのユッカ蛾の幼虫の脱出口のある果実を集めました。果実を解剖し、6つある小室の配置を調べました。つまり、ユッカ蛾に食害された種子と食害されなかった種子、受粉した種子(稔性種子)と受粉していない種子(不妊種子、infertile seeds)です。受粉した種子は厚みがあり黒く、受粉していない種子は薄くて白いため容易に区別がつきます。食害された種子は穴が空いています。また、他の昆虫の影響により枯れたり虫癭が出来た小室は解析から除外されました。採取した年によっては甲虫による食害が盛んだったため、ほとんどのデータを除外せざるを得ませんでした。さらに、見られたのはほとんどがT. yuccasellaであり、P. polleniferaは極わずかで、しかも甲虫による食害との区別が難しく正確に評価出来ませんでした。

稔性種子と不妊種子

ユッカ蛾の幼虫は別の小室に移動することは稀(約2%)であったため、データは小室ごとに分析しました。
ユッカ蛾が寄生と不妊種子は関係があるか調査しました。幼虫がいる小室といない小室で、不妊種子の割合を比較しました。結果、1992年の調査では有意差は見られず、1993年の調査では有意差が見られました。よって、ユッカ蛾の寄生により、不妊種子の割合は寄生されていない種子と同程度か、あるいはより多く見られるということです。
次にユッカ蛾の幼虫が、稔性種子と不妊種子のどちらを好むかを調査しましたが、不妊種子を好む傾向は見られませんでした。また、幼虫による不妊種子への損傷が稔性種子より大きいか調査しましたが、稔性種子をより多く食害しました。


不妊種子の意義
不妊種子の存在は、ユッカ蛾の幼虫が食べる種子の数を減らすのでしょうか。幼虫が稔性種子を好む、あるいは不妊種子を避ける場合、食害される種子の数は不妊種子の存在により左右される可能性があります。
幼虫に食害された種子の総数は、不妊種子が増えるほど減少しましたが、稔性種子が増えても減少しませんでした。このことから、不妊種子は幼虫の食害を阻害し、食害される種子の数を制限する役割があることが分かります。ただし、食害は減少しますが阻止しているわけではありません。
この、相利共生の根底にある「パートナーシップの葛藤」、つまりはパートナーが課すコストを削減すると、相利共生者の方がより利益を得られる可能性があり、この相互作用を安定化させるのかも知れません。こうした形質は、特に資源が限定され、消費により相利共生者の利益が減少する可能性がある場合には不可欠です。不妊種子の存在は食害される稔性種子を減らすことにより、Y. schottiiに有利かも知れません。

不妊種子の発生原因
不妊種子の発生原因はよく分かっていません。3つの仮説があります。Riley(1892)はユッカ蛾の産卵管が胚珠を傷つけたり、種子の発育を妨げることで、産卵部位の果実が狭窄する可能性を示唆しました。実際に狭窄部の両側に不妊種子が頻繁に見られましたが、全体的に見られる不妊種子とは明確に異なります。次に、Powell(1984)とAddicott(1986)は、花粉の輸送が不十分だと胚珠が発育しない可能性を述べています。しかし、Powell(1984)によると、ユッカ蛾の密度が高い場合でも不妊種子があるため、花粉が受粉の制限要因ではないのかも知れません。最後にもっとも可能性が高いAddicott(1986)の指摘で、種子の発育に必要な資源が不足するため発育が阻害される可能性です。

相利共生と進化
著者らは不妊種子がユッカ蛾の食害を避けるために進化したと主張しているわけではありません。しかし、不妊種子の発生原因が何であれ、不妊種子が散在することがユッカにとって有利になる可能性があります。さらに言えば、有益な効果を発揮するために、不妊種子が発生するならば無秩序に散在するように進化した可能性もあります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユッカとユッカ蛾の関係についての内容ですが、相利共生における互いのコストと利益について深掘りしています。相利共生は一見して互いに協力関係を結んでいるように見えますが、進化論的に見るならばこれはたまたま互いに利益になるから偶然そうなっているだけでしょう。ですから、互いに相手を出し抜こうとし、最大限自身に有利な関係性を指向するのです。もちろん、片方が有利になり過ぎれば関係性が破綻してしまう可能性もあるでしょうし、場合によっては相手に従属を強いるかも知れません。共生関係は平和に見えますが、実は互いに競争があるかも知れません。このような視点から見れば、また世界が違った姿で見えることでしょう。非常に面白い論文でした。


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蘇鉄は「生きた化石」と呼ばれることもあるように、起源が古く原始的な特徴を残した植物です。分類的には基本的に風媒花である裸子植物の一員です。しかし、蘇鉄類に関しては虫媒も行われていることが複数種で報告されています。日本に自生する蘇鉄(Cycas revoluta)は、雄株と雌株が近くにあれば風媒でも受粉しますが、驚くべきことにゾウムシが受粉に関与することがわかりました。風媒と言ってもせいぜい2mとのことですから、風媒花としてはあまり意味がないように思われます。本来的に風媒花は広い範囲に大量の花粉をばらまくことに意味があるわけですから、蘇鉄の花粉は拡散能力が低く、飛散する花粉の量も大したことがないのでしょう。さらに、ゾウムシは蘇鉄の花(=Corne)に産卵し、ゾウムシの幼虫は蘇鉄を食べながら育ちます。蜜や花粉で花粉媒介者を呼ぶ被子植物とは異なり、未熟な虫媒です。この中途半端は風媒と未熟な虫媒は、蘇鉄が風媒から虫媒へ移行しようとした最初の植物の1つなのではないかと想像させます。

さて、このように、植物と花粉媒介者が互いになくてはならない関係を結ぶことを送粉共生と呼びます。本日は日本の蘇鉄だけではなく、海外の蘇鉄、フロリダソテツ(Zamia integrifolia)について、送粉共生の様子を見てみましょう。ご紹介するのは、Avi Simonらの2023年の論文、『Behavior and feeding of two beetle pollinators of Zamia integrifolia (Cycadales): Rhopalotria slossoni (Coleoptera: Belidae) and Pharaxanotha floridana (Coleoptera: Erotylidae)』です。

花粉媒介者と偽装受粉
Zamia integrifolia(以下、フロリダソテツ)はフロリダ唯一のソテツ類で、国際自然保護連合連合(IUCN)のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されています。フロリダソテツは雌雄異株で、雄株と雌株のCorneが別の個体に出来るため、花粉媒介者が必要です。
フロリダソテツは2種類の甲虫、Rhopalotria slossoni(ゾウムシの仲間)とPharaxanotha floridana(オオキノコムシの仲間)に受粉を依存しています。花粉媒介者は雄株のCorneを訪れ産卵し、幼虫は雄株のCorneを食べて育ちます。受粉が起きるには、花粉媒介者は雌株のCorneも訪れる必要がありますが、雌株のCorneの胚珠は食物や幼虫の餌としては意味がないと考えられてきました。そのため、これは偽装受粉(deceptive pollination)であるという仮説があります。


なぜ雌株のCorneは拒否されるのか?
雌株のCorneに対する拒否は、β-Nmethylamino-L-alanine(BMAA)に対する毒素への回避行動である可能性が示唆されていました。雄株のCorneの場合はBMAAは特殊な異形細胞に隔離されており、異形細胞は昆虫の胃をそのまま通過しますが、雌株のCorneでは発達中の異形細胞が破裂しBMAAが組織内に分散します。近年の研究では、BMAAは鱗翅目昆虫の摂食障害物質にはならない可能性も示唆されています。しかし、実際の野外調査では雌株のCorneは2種類の花粉媒介者である甲虫に忌避されます。

実験
雄株のCorneと雌株のCorneの鱗片を用意し、2種類の花粉媒介者の成虫を放ちました。
ゾウムシは雄株の鱗片でより長い時間を過ごしましたが、3Dプリンタで作製した偽の鱗片を用いた場合、雄株や雌株の鱗片との有意差はありませんでした。また、ゾウムシが鱗片を食べた量においては、雄株と雌株に有意差はありませんでした。しかし、雌株の鱗片を食べた方が、実験終了時(30時間)に生存している個体が多く見られました。
オオキノコムシの場合は、鱗片上で過ごす時間に差はありませんでした。しかし、オオキノコムシは雄株の鱗片より雌株の鱗片をより多く食べていました。オオキノコムシは柔組織ではなく、鱗片表面の細かい毛を食べていました。雌株の方が摂取量が多いのは、雌株の鱗片の方がより毛が多いためかも知れません。


結論
試験結果からはフロリダソテツの花粉媒介者は雌株のCorneを利用しないという仮説に疑問を投げかけます。ゾウムシは雌株より雄株のCorneに多くの時間を費やしており、野外の行動観察の結果を裏付けています。しかし、雄株のCorneと雌株のCorneの消費量に違いはなく、野外での観察結果からの予想と矛盾します。
ゾウムシの生存率やオオキノコムシの消費量を見ると、フロリダソテツの雌株のCorneを食べることに利点があるようにも考えられます。フロリダソテツの受粉が欺瞞のみで成立するという仮説に疑問を投げかけます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
フロリダソテツは雌雄異株で花粉媒介者による受粉が必要であるということですが、これは送粉共生にあたるということでしょう。日本の蘇鉄と同じですね。しかし、釈然としないのは雌株のCorneではなく、雄株のCorneに産卵するのかということです。なぜなら、花粉媒介者が欺瞞により雄株のCorneに行き花粉が体に付着し、さらに雌株のCorneに行くことにより受粉が完了するという流れが良さそうに思えるからです。種子にならない花粉が詰まっているだけの雄株のCorneが食べられた方が、無駄がなくて良さそうな気もしますが、かと言って雌株のCorneが忌避されているため受粉の効率があまりにも悪い気もします。実験結論のやや曖昧な感じも含め、何やらモヤモヤしますね。さらに突っ込んだ研究が望まれます。



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マダガスカルは多肉植物の宝庫で、固有種も多く種類も豊富です。花キリンはマダガスカル固有のユーフォルビアですし、ディディエレア科植物やアロエも固有種ばかりです。コーデックスも豊富で、オペルクリカリアやパキポディウムは日本でも非常に人気があります。しかし、残念ながらマダガスカルの多肉植物の多くは自生地の破壊とともに急激に失われています。
本日はマダガスカルの12種類の多肉植物について、その保全状況を調査したBako H. Ravaomanalinaらの2011年の論文、『Conservation status of some commercialized succulent species of Madagascar』をご紹介します。

多肉植物の宝庫・マダガスカル
マダガスカルの南部と南西部には多くの多肉植物が生息し、Didierea科-Euphorbiaが優勢ですが他にも様々な植物があります。生息する維管束植物の約90%は、固有種であり、その多くは希少種で、特定の狭い分布を持ちますが、植生の急速な破壊の影響によりIUCNレッドリストでは絶滅危惧種に分類されます。多肉植物はその多様性と魅力的な形から、例えばSenna meridionalisやOperculicarya属は盆栽(bonsai tree)として世界中の植物愛好家に人気があります。マダガスカルの多肉植物の国際取引は、市場の高い需要により深刻な脅威となっています。

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Operculicarya decaryi
筑波実験植物園にて。(2024年6月)

国際貿易需要植物
この研究には、国際貿易需要の高い12種類のマダガスカル固有種が選ばれました。
①Adenia firealavensis
②Adenia olaboensis
③Adenia subsessifolia
④Senna meridionalis
⑤Cyphostemma elephantopus
⑥Cyphostemma laza
⑦Cyphostemma montagnacii
⑧Operculicarya decaryi
⑨Operculicarya hyphaenoides
Operculicarya pachypus
⑪Zygosicyos pubescens
⑫Zygosicyos tripartitus

この12種類はすべて鑑賞用植物として利用されており、地元の村民が野生植物を採取し、採取人や仲買人に販売しています。その植物は地元の市場で商品化されるか、海外に輸出される前に輸送され、そのまま保管されるか業者の苗床に植えられます。採取人によると、村民はこれらの植物の鑑賞用としての価値を理解しておらず、日銭稼ぎに非常に安価で販売しているそうです。また、鑑賞用以外では、Operculicarya属は薬用植物としてや木炭としても利用されています。

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Cyphostemma laza
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)


個体数と再生数
単位面積あたりの個体数はO. pachypusがもっとも豊富でした。これは、伐採されても萌芽する能力が高いからです。O. decaryiも豊富で広く分布していました。C. elephantopusの個体数は少なく、生息地が居住地として開拓されたためです。落葉樹林に生えるC. lazaは成木が優勢で実生が少なく、新たな個体の加入に問題があります。
植物の再生能力は繁殖能力でもあります。最大の再生率はZ. pubescensの488%でした。調査した他の種の大部分は100%程度の再生率で、比較的良好でした。しかし、C. lazaで4%、C. elephantopusで19%、A. olaboensisで86%の再生率でした。これは、調査地周辺でかなりの生息地の劣化が起きているためです。


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Operculicarya pachypus
神代植物公園にて。(2023年5月)

希少植物の脅威
マダガスカルの乾燥林の主たる脅威は焼畑農業です。さらに、森林火災や過放牧は植物の再生の可能性を低下させ、残る自然林に負荷をかけています。さらに、採取された植物数と、政府が発行する収集許可証による最大数には大きな違いがあります。採取者は損傷した植物を補うためにより多くの植物を採取する傾向があり、政府による現地での管理は不十分です。
伐採や過剰な採取は、Ekodidaの落葉樹林の1カ所でのみ発見されたZ. pubescensにとって最大の脅威です。さらに、森林火災などによる人為的撹乱により生息地は大幅に減少しています。
Toliara南部のLa Table地域は深刻な撹乱を受けた地域です。調査対象のほとんどの種が分布していますが、木炭生産のための伐採など、広範囲の人為的撹乱により自然植生は大幅に減少しています。適切な地域保全政策が欠如していることが問題です。
O. decaryiやC. laza、A. olaboensisは広く分布しますが、伐採などの脅威には敏感です。A. firealavensisやZ. tripartitusは拠水林に分布しますが、このタイプの森林は急速に伐採が進んでおり、マダガスカル南部でもっとも危機に瀕している植生の1つです。


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Adenia olaboensis
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
マダガスカルは固有の動植物の宝庫ですが、乱開発に歯止めがかからない状況です。分布が狭い小型アロエなどは、いくつかはすでに絶滅してしまっている可能性が指摘されているくらいです。しかし、調査もされずに消失する森林があることが残念でなりません。なぜなら、マダガスカルでは未だに新種が次々と発見されており、人知れず未知の新種が絶滅している可能性があるからです。
もどかしくはありますが、現地の人たちが炭焼きのために伐採したり、放牧のために森を焼き払うことを、我々は責めることは出来ません。なぜなら、現地の人たちは、その時を生きていくのに精一杯で、食べていくためには仕方のないことだからです。それが、将来の自身やその子供やその先の子孫の未来を食いつぶすものであってもです。
この論文は2011年ですから、書かれた時点からもう14年経ちます。状況は改善しないし悪化し続けているでしょう。果たして、有効な解決策はあるのでしょうか? 


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セダムやエケベリアを含むベンケイソウ科は、遺伝子を解析するとかなり入り組んだ様相を示し、旧・分類体系が通用しない可能性が出てきました。しかし、ベンケイソウ科は種類が多く、完全な系統分類を確定させることは恐ろしく困難でしょう。そんな中、新たに分離された新属も誕生しています。2016年に提唱されたChaloupkaea、2023年のJeronimoa、Chazaroa、Quetzalcoatliaといったベンケイソウ科の新属です。実は2023年の3属はすでに記事にしています。ということで、本日は残りのChaloupkaeaについて見ていきましょう。ちなみに、Chaloupkaeaは主にトルコに分布する小型のベンケイソウ科植物です。

新属・ジェロニモアについては以下の記事をどうぞ。

新属・チャザロア、ケツァルコアトリアについては以下の記事をどうぞ。

本日、参照とするのはJosef Niederleの2016年の論文、『Chaloupkaea (Crassulaceae)』です。非常に簡潔な内容、というかあまりにも説明がなく簡潔すぎるので、私の解説というか感想も併記します。まあ、私にも経緯がよくわからないため、理解出来ているのは怪しい気もしますが…


進化が完全な単系統ではなく、本質的に側系統的です。よって、't Hart(1995)が、Rosularia属の黄色い花を咲かせる小アジア種について、Prometheum属に組み換えた単系統的なアプローチを拒否します。Chrysanthae Eggli, 1988は、Sedum L.に属する分類群から分離されます。

(解説): この段落は非常に分かりにくい話です。理解出来る範囲ですと、1988年に提唱されたRosularia属内分類のSection Chrysanthae Eggliについて、独立属としますということです。さらに、このSectionのタイプであるRosularia chrysanthaについて、1995年に't HartがPrometheum chrysanthaとしましたが、著者はその提案を拒否しました。なぜなら、それは単系統的なアプローチであり、側系統的に理解すべきだからです。


よく引用されるRosularia chrysantha (Boiss.) Takht, 1953は出版されておらず、Rosularia chrysantha (Boiss. & Heldr.) Mulkidzhanjan, 1953を適切に引用する必要があります。第二に、有効な出版場所が参照に含まれていませんでした。よって、この組み合わせは命名規約に従っていません。1958年に発行されたTakhtadjianの出版物のみが有効です。

(解説): これは命名規約の話です。属名を変更する際は必ず最初に命名された名前と、命名された時の文献を引用する必要があります。その際に、異なる文献を引用してしまった場合、命名の変更は認められません。そもそも、Rosularia chrysanthaは初めて命名されたのは1849年で、Umbilicus chrysanthus Boiss. & Heldr.でした。1958年にRosularia chrysantha (Boiss. & Heldr.) Takht.とされました。Rosularia chrysantha (Boiss.) Takhtは誤りで、誤引用ということになります。ただ、1958年のTakhtadjianが有効という意味と、Mulkidzhanjanについてはよく分かりません。


Takhtajian(1958)によりRosularia chrysanthaと特定された植物は、無毛のロゼットと、細長い釣鐘型の黄色い花を持ちます。それは、Rosularia lipskyiだったかも知れません。EggilihoがRosularia aizoonを決定したのは、ありそうもないことのように思えます。

(解説): この段落の始めの文は、私には判断できかねますが、そのままの意味です。しかし、後半はよく分かりません。脈絡もなくRosularia aizoonが急に出てきたのも困りますが、命名者でもないEggilihoの決定とは何かが分かりません。しかし、調べるとRosularia aizoonは、1995年に't HartがPrometheum aizoon (Fenzl) 't Hartを提唱しましたが、これを発表した出版物の発行者がH. 't Hart & Eggliということでした。つまり、発表したのは't Hartですが、共同出版者のEggliが決定したのはありそうもないということでしょうか。ただし、それがなぜありそうもないのかは釈然とはしません。
しかし、よくよく見ると、「Takhtajian(1958)によりRosularia chrysanthaと特定された植物」をRosularia aizoonとしたことに、Section Chrysanthaeを提唱したEggliが賛成しないだろうという意味かも知れません。この場合はどうでしょうか。著者が疑うRosularia lipskyiは現在もRosulariaです。これは、果たしてSection Chrysanthaeを提唱したEggliが誤るだろうか?という疑問でしょうか。

最後に
以上が論文の内容です。
あまりに簡潔過ぎて、私にもイマイチよく意味が分からない部分がありました。また、これはチェコの論文で英語ではないため機械翻訳にかけただけですから、精度もなかなか怪しいところです。
この論文は新属を提唱していますが、何故かその旨を示す文章がありません。最後に新属による新しい組み合わせの一覧が示されるだけです。本当に簡略というか省エネ論文ですね。一応、新しい組み合わせの名前を示しておきましょう。


Chaloupkaea aizoon (Fenzl) Niederle, 2016
Basionym: Umbilicus aizoon Fenzl, 1842
≡Rosularia aizoon (Fenzl) A.Berger, 1930
≡Prometheum aizoon (Fenzl) 't Hart, 1995

https://inaturalist.lu/taxa/962952-Chaloupkaea-aizoon/browse_photos

Chaloupkaea bonorum-hominum (Niederle) Niederle, 2016
Basionym: Rosularia bonorum-hominum Niederle, 2015

Chaloupkaea chrysantha (Boiss. & Heldr.) Niederle. 2016
Basionym: Umbilicus chrysantha Boiss. & Heldr., 1849
≡Rosularia chrysantha (Boiss. & Heldr.) Takht., 1958
※Rosularia chrysantha (Boiss. & Heldr.) Takht., 1953, no basyonim ref.
≡Prometheum chrysanthum (Boiss. & Heldr.) 't Hart, 1995

https://mexico.inaturalist.org/taxa/962949-Chaloupkaea-chrysantha

Chaloupkaea gigantea (Eggli) Niederle, 2016
Basionym: Rosularia serpenticum (Wederm.) Muirhead var. gigantea Eggli, 1987
≡Prometheum serpenticum (Wederm.) 't Hart var. giganteum (Eggli) 't Hart, 1999
≡Rosularia gigantea (Eggli) Niederle, 2015

Chaloupkaea muratdaghensis (Kit Tan) Niederle, 2016
Basionym: Rosularia muratdaghensis Kit Tan, 1989
≡Prometheum muratdaghense (Kit Tan) 't Hart, 1999

Chaloupkaea pisidica (Niederle) Niederle, 2016
Basionym: Rosularia pisidica Niederle, 2015

Chaloupkaea rechingeri (C. -A. Jansson) Niederle, 2016
Basionym: Rosularia rechingeri C. -A. Jansson, 1966
≡Prometheum rechingeri (C. -A. Jansson) 't Hart, 1995

Chaloupkaea serpentinica (Werderm.) Niederle, 2016
Basionym: Umbilicus serpentinicus Werderm.,  1939
≡Rosularia serpentinica (Werderm.) Muirhead, 1972
≡Prometheum serpentinicum (Werderm.) 't Hart, 1995


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1月に東京農業大学のバイオリウムという温室で、コーンが出ている立派なZamia integrifoliaを見ました。改めてZ. integrifoliaを調べて見ると、2016年に再分類が提案されており、どうやら最近その考えが採用されたようです。記事にしましたので、以下のリンクをご参照下さい。


さて、Z. integrifoliaの情報をいろいろ漁っていたところ、蘇鉄を食害するシジミチョウに関する論文を見つけました。それは、Melissa R. L. Whitakerらの2020年の論文、『Localized overabundance of an otherwise rate butterfly threatens endangered cycads』です。日本でも蘇鉄を食害するクロマダラソテツシジミ (Chilades pandava、Luthrodes pandava)が北上し関東まで進出してきましたが、論文の主役はアタラマルバネシジミ (Eumaeus atala)です。

シジミチョウの消失と再生
Eumaeus atalaというシジミチョウは、南フロリダやバハマ諸島、キューバ原産で、幼虫はZamia属の蘇鉄を食べます。かつては、フロリダで「もっとも目立つ昆虫」と呼ばれるほど一般的でしたが、唯一の食樹であるZamia integrifoliaの過剰採取が原因で、1900年代初頭に急激に減少し1930年代には絶滅したと考えられてきました。しかし、1959年にマイアミ南部で小規模な個体群が発見されました。それ以来、草の根的な保護活動により、2001年以降はフロリダ州全体で300を超える個体群が記録されています。

E. atalaの激増の謎
フロリダ州にある研究施設であり保護庭園であるMontgomery Botanical Centerには、E. atalaの大規模で永続的な個体群が生息しています。ピークシーズンには49ヘクタールの敷地内に1日で300匹を超えるE. atalaの幼虫が見つかりました。E. atalaの希少性とフロリダ州全体での再導入の進展からすると、ここまで繁殖している理由を調査する必要があります。

モンゴメリー・ボタニカルセンター
Montgomery Botanical Centerでは1932年から蘇鉄が栽培されており、新たな種が追加され続けそのコレクションは豊富で、2020年には235種の蘇鉄を栽培しています。そのうち、55種のZamiaは2838本ありました。
センターのスタッフによると、E. atalaは常に敷地内に少数存在し、季節的な増減のサイクルがあります。しかし、過去約10年間でE. atalaは繰り返し大発生し、繁殖期はより長くより頻繁になっています。E. atalaの卵と幼虫は20種以上の蘇鉄から見つかりました。

E. atalaの幼虫は群れで蘇鉄の葉を食べ、生長の遅い蘇鉄に深刻なダメージを与え、大型の蘇鉄の葉を完全に枯らしてしまうこともあります。センターのスタッフは、Z. integrifoliaを毎日検査し、手作業で卵や幼虫、蛹を取り除いています。その他のZamiaからも定期的に取り除かれます。回収したE. atalaはフロリダの他の場所の教育機関や保護活動、研究者に送られます。2019年にはセンターで2000匹を超えるE. atalaが回収され、1週間で約4〜8時間もの採取作業が必要でした。

爆発的な増殖の謎
Montgomery Botanical CenterにおけるE. atalaの豊富さは、まず敷地内にある宿主植物の豊富さに起因します。2020年、センター内には431本のZ. integrifoliaがあります。不思議なのは、センターの周辺ではE. atalaを沢山見ることがないことです。センターの周辺の住宅や公共の庭園にはZ. integrifoliaはよく見られ、近くの道路の中央分離帯や公園などに大規模に植栽されているからです。Coral Gables公共事業局によると、センターから半径11km圏内の公共スペースには、少なくとも220本のZ. integrifoliaが植栽されています。センターから1km以内にあるFairchild Toropical Gardenには、201本のZ. integrifoliaが植栽されています。E. atalaはこれらの地域でも少数ながら見られますが、センターのように爆発的な増加は聞いたことがありません。よって、宿主植物の豊富さが唯一の要因ではないのかも知れません。

なぜ増えたのか?
E. atalaの幼虫はZ. integrifolia以外の外来蘇鉄も食べるめ、宿主植物の多様性が影響している可能性があります。センターには2020年には55種のZamiaが栽培されており、フロリダ州のどの地域よりも多様性があります。種類の違いにより植物資源が一年中利用可能となるならば、継続的に繁殖出来るかも知れません。E. atalaの一齢幼虫は若くて柔らかい葉を必要とするため、若い葉に優先的に産卵します。ほとんどのZamiaが1年に1回しか葉を出さないことが、歴史的にE. atalaの繁殖周期の制約となってきた可能性がありますが、食草の多様性が高まれば新鮮な若い葉が周年利用可能になるかも知れません。
他の要因としては、成虫の蜜源やねぐら、気候変動、宿主植物の質の不均一性などが挙げられます。しかし、センター付近の家庭菜園や公共スペースには蜜源植物が豊富にあり、蜜源植物の制限が個体数の制約である可能性は低いと言えます。次に低温が与える影響はありますが、フロリダでは最低気温が上昇しています。しかし、センターだけではなく、それはフロリダ全体でも同じはずです。次に灌漑や施肥などは、植物の組織内の水分や栄養素、毒素の比率を変えてしまい、植物の栄養価に劇的な変化をもたらしている可能性があります。おそらく、センターのZamiaは栄養価が高く、化学的な防御力が低いと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
植物の保護施設で希少なシジミチョウが大発生するという、不可思議な現象についての話でした。その原因は、単純に食草が豊富であるというだけでは片付けられないようです。しかし、希少なシジミチョウが希少な蘇鉄を食害しているわけで、単純な駆除が出来ないのは困りものです。とは言え、蘇鉄も希少なため、センターの役割からして、放置も出来ません。
さて、本題のシジミチョウの爆発的な増加は、センターに特有の現象です。その理由を考察していますが、はっきりしません。まず、食草の多様性による周年性が指摘されていますが、これはある意味ありうる話かも知れません。とは言え、蘇鉄の新葉の展開は種に限らず春先になるでしょうから、種の多様性はあまり関係がないような気がします。論文では新しい葉は1年に1回とありますが、生育環境が良ければ夏〜秋にかけて追加で新葉が出ることもあります。ですから、最後に指摘されている「灌漑や施肥」はいかにも影響がありそうですね。


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フロリダの代表的な蘇鉄と言えば、Zamia floridaです。しかし、フロリダナは実はZamia integrifoliaで、フロリダナは異名であるという話をたびたびしてきました。


さて、最近フロリダナ改めインテグリフォリアの学名を確認したところ、なんとインテグリフォリアが5変種に再分類されていることに気が付きました。ということで、本日ご紹介するのはDaniel B. Wardの2016年の論文、『Key to the flora of Florida - 32, Zamia (Zamiaceae)』です。フロリダに分布するザミアを分類しています。

フロリダのザミア
現在、フロリダには2種類のザミアが分布しています。1つはZamia furfuraceaで、南フロリダでは玄関先や庭に植栽され、「Cardboard Palm」(段ボールヤシ)と呼ばれている外来種です。栽培個体ではないZ. furfuraceaは2000年頃に初めて確認されました。もう1つは様々な時期に複数の学名がつけられており、Zamia pumila、Zamia integrifolia、Zamia floridanaの名前があります。

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Zamia furfuracea

ザミアの歴史
ザミアは17世紀から認識され、17世紀末からオランダで、おそらくはヨーロッパの他の地域でも、栽培されてきました。現在の国際植物命名規約 (I.C.B.N)に基づく学名は、1762年にCarl von Linneにより命名されたZamia pumilaでした。しかし、von Linneのもとに標本はなく、ライデンとアムステルダムで栽培された植物に関する記憶とメモ、他の著者の記述しかありませんでした。von Linneは種自体については、「pumila」あるいは「矮性(dwarf.)」という説明しかしませんでしたが、von Linneがオランダにいた時に知っていた大きな蘇鉄と比較したことは間違いありません。その大きな蘇鉄をvon LinneはZamia frondibus pennatis(1937)と命名し、Linne filius(Linneの息子)はZamia furfuraceaと命名しました。
Z. pumilaという名前は、個人の解釈により様々に使われてきました。1908年にEckenwalderがZ. pumilaを「伝統的に知られている一般的な西インド諸島の蘇鉄」と定義しました。このことにより、西インド諸島の蘇鉄は単一の種ということになってしまいました。タイプはJan Commelijn(1697)の図版により、細長い卵形の先細りの小葉を持つ植物で、先端は鋭く葉縁には間隔の広い鋸歯があるとしています。
しかし、Commelijnの図版に対応する標本は稀で、北米の植物標本館(オンラインによる)では見つかりませんでした。イギリスのキューガーデンにはZ. pumilaと特定される古い標本がありますが、ライデン植物園からきたようです。この標本はCommelijnの図版と特徴がよく一致します。
Commelijnは「Insulae Hispaniolae」(ドミニカ共和国、ハイチ)からきたと述べています。しかし、現在西インド諸島からはそのような特徴の蘇鉄は知られていません。しかし、Eckenwalderによりタイプに指定されたCommelijnの図版は、既知の植物の形態学的な実在により確認されており、フロリダで知られているあらゆる植物とも異なるため、Zamia pumilaという名前は適用不可能です。

インテグリフォリアとフロリダナ
Z. pumilaのタイプがフロリダが起源ではないことは明らかですが、Zamia integrifoliaとZamia floridanaはフロリダの標本に基づいて分類されています。1789年に命名されたZ. integrifoliaはフロリダ半島で栽培された植物に基づき、1868年に命名されたZ. floridanaはフロリダ半島の西海岸で収集された標本に基づいています。この2つのタイプ標本は非常に似ているため、両者の間に違いを見いだせず、単一の種を示しているとされました。
フロリダの蘇鉄に使われる名前には論争があり、先取権の原理により命名がより早いZ. integrifoliaが優先されるように見えます。しかし、Z. integrifoliaはLinne filiusが既存の利用可能な名前であるZ. pumilaを同義語として引用したため、現代の規定においては誤りであると考えられました。命名規約は同義語として引用された古い名前が、新しい分類群に使用されるべきであった場合、新しい名前は不要であり不当と規定しています。さらに、発表時に違法であった名前は、特別な措置がない限りは後に合法とはならないと規定しています。
ただし、命名規約は常設の委員会に訴えることで、規則を無効とすることを許可しています。分類学者であるD. W. Stevenson & J. L. Reveal(2011)は、種子植物特別委員会に請願しZ. integrifoliaという名前を保存するように求めました。その正当性は、Z. integrifoliaはZ. floridanaより頻繁に使用されており、その名前を保存することにより安定性が確保出来るというものでした。委員会は請願を支持し、Z. integrifoliaが正しい名前となりました。


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Zamia integrifolia

インテグリフォリアの多様性
フロリダで観察されるZ. integrifolia sensu lato(広義のインテグリフォリア)には、分類学上の注目を集めるほどの多様性があります。J. K. Small(1933)は、フロリダの蘇鉄をZ. integrifolia sensu stricto(狭義のインテグリフォリア)、Z. angustifolia、Z. silvicola、Z. umbrosaの4種に分けました。
Z. angustifolia(1789)は正当な名前で、バハマ諸島や西インド諸島の蘇鉄に正しく適応されています。しかし、SmallはZ. integrifoliaをフロリダの蘇鉄に使用してしまいました。Z. angustifoliaのコーンは短く尖った頂端を持つ暗褐色から黒色のコーンを持ち、対するZ. integrifoliaは頂端か切形か鈍く赤褐色のコーンを持ちます。Smallはコーンを観察しないで識別したようです。Z. angustifoliaと識別出来る蘇鉄は、フロリダでは知られていません。

著者は観察結果から、形態学的変異は集団内では一貫していることを確信しました。中間種も見られますが、集団全体の大部分は、数個の明確に異なる形態型に割り当てることが出来ます。これらのグループは変種として認識されます。

①変種インテグリフォリア
Zamia integrifolia var. integrifolia
Z. integrifoliaの典型は、1789年にLinne filiusが使用したタイプに基づいているいます。使用した資料(生きた植物)は、26枚の小葉と雄花を持つ1枚の葉で表されています。小葉の幅は狭く約8mmで、一様にわずかにヘラ状です。この形状は広く普及しているフロリダのザミアでは稀です。
キューガーデンの植物の正確な起源は記録されていませんが、推測することは出来ます。入植者のAndrew Turnbullにより、1767年にザミアがCharlestonのアレクサンダー・ガーデンに、後にキューガーデンのAitonに寄贈されました。Turnbullに馴染み深いSt. Augustine近郊は長年に渡る撹乱により植生は痕跡もありません。しかし、New Smyrnaのすぐ西にあるTurnbullが農奴を使って藍を育てていた畑の近くには、薄い砂地の森がありザミアが現在も繁茂しています。この植物はZ. integrifolia var. integrifoliaのtopotype(同地基準標本)として役に立つかも知れません。

②変種ウンブロサ
Zamia integrifolia var. umbrosa
       (J. K. Small) D. B. Ward, comb. nov.

Zamia umbrosa(1921)はフロリダの蘇鉄に命名された正当な名前です。この名前は一般的に無視されるか、Z. integrifoliaの異名とされてきました。
植物のコレクターが、フロリダに2つのザミアが存在することに気がついたのは20世紀初頭でした。H. J. Webber(1901)によると、1つは「フロリダ半島南部」と記載されたZ. floridanaで、もう1つは「フロリダ半島中部、特に東海岸」のZ. pumilaでした。これらは小葉の幅で区別され、3〜7mmと8〜16mmでした。明らかにWebberの分類は、現在のZ. integrifoliaとZ. umbrosaを表しています。
S. J. Newell(1989)による葉の測定による研究では、フロリダのザミアは5つの集団があるとしています。Z. umbrosaの判別は、小葉の先端と突起にあります。突起は「teeth」(歯)または「callous bumps」(角質隆起)と呼ばれています。しかし、この「teeth」は、被子植物で見られる構造とは異なり、葉脈が突出した先端部です。葉脈が葉軸がから出て葉身に入ると、葉脈同士は接続しなくなり葉縁まで平行に続きます。

③変種ブロオメイ
Zamia integrifolia var. broomei
               D . B.  Ward, var. nov.

野生で時々見られるZ. integrifoliaは、より普及している典型的なタイプの半分程度の幅が狭い小葉が特徴です。このタイプは、フロリダ半島北西部のDixie、Gilchrist、Levy、Alachuaの各郡のSuwannee川下流域でよく見られます。幅の狭い小葉をまばらに生やすこのタイプは、栽培されることは稀です。

④変種フロリダナ
Zamia integrifolia var. floridana
    (A. DC.) D. B. Ward, comb. et stat. nov.
フロリダ半島西部ではvar. integrifoliaとは異なる特徴を持つ、おそらく生息地が異なるタイプが見つかりました。より大きな球果を持ち、長さ18cm、直径8cmに達します。このような球果を持つ個体群は、ネイティブ・アメリカンの作った貝塚でのみ発見されています。典型的なZ. integrifoliaが砂地に生えるのとは対照的です。
このタイプを収集したGilbert Hulseは1830年代初頭に、フロリダ半島西海岸のTampa湾の先端にあるFort Brookeに駐在していました。Fort Brookeは牡蠣などの殻からなる広大な貝塚がありました。HulseはJohn Torreyに送った植物について、「カキ殻のベットの上」で発見されたと述べています。
しかし、フロリダ湾岸沿いに巨大な貝塚を築いたCalusa族が、西インド諸島からフロリダでは見られない品種を持ち込んだ可能性を否定するのは困難です。Calusa族はフロリダと西インド諸島の間で交易を行っていました。

この大きな球果を持つタイプに新しい名前をつけるよりも、同じであるかは不明ですが、由来のわかる名前を残し変種floridanaとする方が望ましいと思われます。

⑤変種シルビコラ
Zamia integrifolia var. silvicola
  (J. K. Small) D. B. Ward, comb. et stat. nov.

Zamia silvicola (1926)は正当な名前ですが、フロリダの蘇鉄に適用されるかは不明です。Smallは正確な出典を明らかとせずにこの種を記述し、Eckenwalderはシトラス郡の「Spanish Mound」(現在のCrystal River考古学州立公園)のコレクションをホロタイプとして特定しました。しかし、Smallは「フロリダでもっとも丈夫なザミア」と述べ、それは長さ12〜17cmと比較的長く、10〜15mmと幅が広い小葉を持ちます。このSmallの説明に一致する植物は野生でも栽培下でも知られています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文はフロリダ半島のザミアの判別を目的としています。フロリダにはインテグリフォリア=フロリダナとフルフラケアという2種類のザミアが見られます。フルフラケアはメキシコ原産で栽培品の逸出ですから、本来の野生のザミアはインテグリフォリア=フロリダナだけということになります。しかし、著者は観察から、フロリダのザミアがいくつかの変種に分けられると主張しています。しかし、外見的特徴や分布からの推察であり、将来的な分子系統解析による確認が望ましいような気がします。また、変種フロリダナが記載されましたが、必ずしも今までZ. floridanaと呼ばれてきたザミアを示しているとは限らないようです。


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今年の1月に東京農業大学のバイオリウムという施設に行って参りました。沢山の植物が見られましたが、何気なくリプサリスが開花していました。リプサリスは小型の着生サボテンですが、その小さな花を見た時に花粉媒介者が気になりました。たぶん虫媒花、まあ蜜蜂だろうとは思いました。しかし、所詮は私の憶測などは意味がありませんから、調べてみることにしました。
というわけで、本日はリプサリスの花粉媒介者を調べたCristiane Martins & Leandro Freitasの2018年の論文、『Functional specialization and phenotypic generalization in the pollination system of an epiphytic cactus』をご紹介しましょう。その前に簡単に用語を解説しておきます。生態学にはジェネラリストとスペシャリストという概念があります。植物の受粉に関する場合なら、ジェネラリストは様々な花粉媒介者の訪問を受けて受粉する植物や、様々な種類の花を訪問する花粉媒介者を指します。スペシャリストは特定の花粉媒介者に対して特殊化した花を持つ植物や、特定の植物に特化した花粉媒介者がそれにあたります。


ジェネラリストはスペシャリストに向かうか?
受粉システムがスペシャリストに向かう傾向があるという見解がありますが、ジェネラリストが一般的であるという研究から異議を唱えられてきました。植物と花粉媒介者の相互作用は、植物と花粉媒介者の一対一の関係による絶対的スペシャリストという極端の場合から、特定の花粉媒介者に依存しない条件的ジェネラリストまで勾配があるという理解に至っております。

サボテンの受粉生物学と着生サボテン
サボテン科には約1500種が含まれ、その花序や受粉システムも多岐に渡ります。サボテンの受粉には、蜂や蝶、蛾、コウモリ、ハチドリなど、様々な動物と関係を結んでいます。サボテン科のほとんどは他家受粉であり、有性生殖のために花粉媒介者に依存しています。
「サボテン」と聞くと砂漠や半乾燥地帯の柱サボテンを思い浮かべますが、新熱帯の湿潤林では着生サボテンが重要な構成要素となっています。着生サボテンはサボテン科の約10%を占め、ヒロケレウス連(Hylocereeae)とリプサリス連(Rhipsalideae)に限定されています。着生サボテンの受粉生物学に関する知識は乏しく、逸話的な報告や、Weberocereus tunillaのコウモリによる受粉(Tschapka et.al. 1999)に限られています。

リプサリスについて
リプサリスは37種から構成され、86%がブラジルの固有種です。リプサリスには3つの亜属、Rhipsalis、Erytrorhipsalis、Calamorhipsalisからなります。Rhipsalis neves-armondiiはブラジルの太平洋岸森林に生息するCalamorhipsalis亜属の着生種で、花はリプサリスで最大ですが長さ2cm未満です。果実は紫色の液果で様々な鳥を引き寄せます。

R. neves-armondiiの調査
この研究は、2014年の3月と4月に、ブラジル南東部のSerra dos Orgaos国立公園(PARNASO)の大西洋岸森林の標高約1000mの残存地において実施されました。PARNASOはリプサリスの多様性がもっとも高く少なくとも18種類が確認されている大西洋岸森林の中にあります。気候は熱帯性中温帯で、夏は穏やかで、冬の乾季は短いものです。R. neves-armondiiの開花は雨季の終わりの3月と4月におこり、周囲で確認された10種類のリプサリスのうちこの時期に咲いたのはR. neves-armondiiだけでした。

Rhipsalis neves-armondiiの花(外部リンク、rhipsalis.com)
https://www.rhipsalis.com/species/neves-armondii.htm

花粉媒介者
R. neves-armondiiの花を訪れたのは主に蜂で、3科14種の蜂が確認されました。R. neves-armondiiの花にはアンドレニアエ科、ミツバチ科、ハナバチ科の蜂が訪花したため、ジェネラリストによる受粉システムが示唆されます。R. neves-armondiiの花の表現型は花粉や蜜に容易にアクセス出来るため、様々な花粉媒介者が収集可能であると考えた場合はジェネラリストとして分類されます。しかし、その訪問頻度はそれを裏付けているわけではありません。柱頭と葯に触れたのは3種類の在来性の小型ハチとセイヨウミツバチ(Apis millifera)のみで、その訪問頻度の高さから少数種類のハチに依存しており、生態的、機能的に特殊化を伴う受粉システムを示しています。花の資源にアクセスするための障壁がないことが、ジェネラリストとしての指標ではない可能性を示唆しています。

自家受粉
花にネットをかけて花粉媒介者から断絶したり、人工的に自家受粉させたりしましたが、R. neves-armondiiは自家不稔性で絶対的他家受粉でした。人工的な自家受粉による種子は、無視できるほど少ないものでした。ネットをかけた自発的な自家受粉では種子は出来ませんでした。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
自家受粉しないための仕組みとして、例えば雄蕊と雌蕊の高さが違う(雌雄離熟)、雄蕊より雌蕊の成熟時期が異なる(雌雄異熟)、雄花と雌花がある(雌雄異花)など様々な段階があります。しかし、R. neves-armondiiの花は雄蕊も雌花も短く、両性花であり、雌雄同熟です。非常に単純な形態の花ですから、形態学的な自家受粉の回避ではないようです。内部に何かしらの仕組みがあるのでしょう。

メインのジェネラリストとスペシャリストの話はわかりにくいのですが、この場合は絶対的ではないためどうしても相対的な説明になってしまうからでしょう。絶対的なスペシャリストでは、花の形状が特殊化し特定の花粉媒介者しか訪問出来ません。対するR. neves-armondiiの花はあまりにも一般的な形状です。サイズや日中に開花することから、蜂をターゲットにしていることは分かりやすい話です。ただし、一般的な形状であるからこそ、受粉に関与しない、あるいは非効率的な花粉媒介者も訪問することになります。論文を読む限りは、絶対的ではないもののスペシャリストの傾向はあるようですが、特殊化していないがゆえにスペシャリストであることがマスクされてしまっているのかも知れませんね。


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植物は程度の差はあれど、そのほとんどが有毒です。なぜならば、植物は動けないため、昆虫やカビなどの外敵と戦うために有毒な化学物質を作るからです。そのため、野生の植物は苦味や渋味が強いことが一般的です。一部の植物は幻覚作用を持ち、大麻やケシ、コカノキなどが知られています。そして、それらの植物は宗教的儀式などで古代から使用されてきました。この幻覚作用をもたらす物質もまた、害虫に対するものであるとされるものがあります。
さて、前置きが長くなりましたが、本日は幻覚作用で有名なペヨーテ(Lophophnra williamsii)、日本では烏羽玉の名前で知られるサボテンの話題です。参照とするのは、S. Sreeremyaの2019年の論文、『Spineless Cactus as Hallucinogen』です。難解さがまったくない割りと気軽な内容ですから、さらっと読んでましょう。

ペヨーテとは?
Lophophora williamsiiは「peyote」あるいは「peyotl」として知られるサボテンの1種で、メキシコ中部から米国のテキサス北部の砂漠に自生します。伝統的な利用は古く、5700年以上に渡りインフルエンザや関節痛、歯痛、腸疾患、糖尿病、蛇やサソリの毒、皮膚病、失明、神経衰弱、ヒステリー、喘息の治療に広く利用されてきました。ペヨーテはメスカリンの幻覚作用により、ネイティブ・アメリカン教会の儀式でも使用されています。

※ネイティブ・アメリカン教会(アメリカ先住民教会)とペヨーテの関係については以下の過去記事をご参照下さい。

その利用
ペヨーテは米国では宗教的目的以外では禁止されていますが、英国では生体、あるいは乾燥した植物が合法的に販売されています。主に生、あるいは乾燥した植物をカプセルやお茶として摂取されます。ペヨーテの摂取でほとんどの使用者が経験するのは、幻覚、意識と知覚の変化、「呼吸圧」や筋肉の緊張などの身体的反応、苦味による吐き気や嘔吐です。
使用方法を詳しく見てみましょう。根から切り離された「ボタン」(peyote button)を乾燥させます。ボタンは噛むか、水に浸して液体を摂取することもできます。ボタンは粉末に挽いて、大麻やタバコなどの葉と一緒に吸うこともあります。
成分のメスカリンは、粉末や錠剤、カプセル、あるいは液体として経口摂取されます。使用者は300〜600mg(ボタン3〜6個分)を摂取します。効果は投与後、1〜3時間以内に現れ、10〜12時間で徐々に消えていきます。
メスカリンはサイズ、環境、来期感、性格、薬物使用歴により、使用者間で異なる知覚、認知、感情を生み出します。メスカリンの唯一の長期的効果は、妄想性統合失調症に類似した長期精神病状態です。

身体的影響
①しびれ、緊張、不安、反射神経の急速化、筋肉の痙攣と脱力、運動協調障害、めまい、震え、瞳孔の拡大。
②血圧と心拍数の上昇。
③激しい吐き気と暴力。
④食欲不振。
⑤体温の上昇と発汗。
⑥悪寒と発汗。

心理的影響
①鮮明な心象とぼやけた歪んた視界。
②共感覚。音楽を見たり、色を聞いたりする。
③空間と時間の知覚の変化。
④喜び、高揚感、パニック、極度の不安、恐怖。
⑤身体感覚の歪み。体が重く感じたり、無重力感がある。
⑥感覚の強調。より明るい色彩、より鮮明な視覚、増強された聴覚、際立つ味覚。
⑦集中や注意力の維持。集中や思考の困難。
⑧現実感の喪失、過去の経験と現在の融合。
⑨些細な考えや経験、物への執着。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
過去の情報をまとめた非常に読みやすい論文でした。ペヨーテを摂取した時の詳しい状態が述べられています。ペヨーテの使用による副作用や後遺症についてはよくわかっていません。これは副作用や後遺症が少ないからではなく、一般的に流通しているドラッグより流通量や患者数が少なく、研究されることも稀だからでしょう。大抵の向精神薬は何らかの副作用や後遺症がありますから、ペヨーテもまた何かしらの副作用や後遺症があるはずです。ネイティブ・アメリカン教会もペヨーテを使用していますが、使い方も慣れているでしょうし、麻薬中毒患者のように常習していない儀式的な使用だからそれほどの問題は起きないのかも知れません。使い方を誤れば怖いのは、ペヨーテもその他のドラッグと同じです。以下の過去記事では、ペヨーテにより急性中毒により救急搬送された例を取り上げています。



日本ではペヨーテの成分であるメスカリンは違法ですが、植物自体は違法ではありません。園芸目的で一般的に栽培されています。いくら栽培されているとは言え、大量生産されているわくではありませんから、継続的な摂取は非常に困難でしょう。まあ、日本で危険をおかしてまでペヨーテを摂取しようとする人はいないでしょう。


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サボテンの中でも小型で着生するリプサリスは特殊な存在です。サボテンは基本的に南北アメリカ大陸の原産ですが、リプサリスはそれすら逸脱していますから、サボテンの進化や生態を考える上でも面白い存在です。
さて、今年の1月に東京農業大学のバイオリウムに行った際、リプサリスやハティオラが吊り鉢で吊るされていました。しかし、皆よく似ており、一見しただけでその分類が厄介なことは容易に察せられます。さらに言うならば、リプサリスの進化や近縁属との関係が気になります。ということで、リプサリスについて少し調べて見ました。本日はその分類について見ていきましょう。参照とするのは、Alice Calventeらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of tribe Rhipsalideae (Cactaceae) and taxonomic implications for Schlumbergera and Hatiora』です。リプサリスとその近縁属を遺伝子解析による分子系統を示しています。

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Rhipsalis

リプサリスの旧分類
サボテン亜科内の分類は長年にわたり大幅な変更がなされており、リプサリス連(Rhipsalideae)にも影響を及ぼしています。リプサリス連とヒロケレウス連(Hylocereeae)には絶対着生サボテンが含まれるため、密接に関係していると考えられてきました。そのため、リプサリス連だったいくつかの属がヒロケレウス連の属に統合されたため、属レベルの分類に不確実性が生じてしまいました。いくつかの属はその分類をめぐり議論となっています。ここで、過去の代表的なリプサリスの分類を見ていきます。

①Britton and Rose(1923)
すべての着生サボテンを、玉サボテンや柱サボテンとともにケレウス族(Cereeae)としました。リプサリス亜族(Rhipsalidanae)にはErythrorhipsalis、Rhipsalidopsis、Pfeiffera、Acanthorhipsalis、Pseudorhipsalis、Lepismium、Hatiora、Rhipsalisが含まれ、エピフィルム亜族(Epiphyllanae)にはZygocactus、Epighyllanthus、Schlumbergera、Epiphyllum、Disocactus、Chiapasia、Eccremocactus、Nopalxochia、Wittiaが含まれます。

②Buxbaum(1970)
リプサリスの仲間を、NyctocerinaeやHylocereina、Epiphyllinae、Disocactinaeと共にヒロケレウス族(Hylocereeae)に配置しました。リプサリス亜族をPfeifferae(Pfeiffera、Acanthorhipsalis)、Schlumbergerae(Erythrorhipsalis、Hatiora、Rhipsalidopsis、Schlumbergera、Zygocactus)、Rhipsales(Rhipsalis、Lepismium)に分割しました。

③Barthlott and Taylor(1995)
Rhipsalis属(Rhipsalis亜属、Erythrorhipsalis亜属、Calamorhipsalis亜属、Epallagogonium亜属、Phyllarthrorhipsalis亜属)、Hatiora属(Hatiora亜属、Rhipsalidopsis亜属)、Schlumbergera属、Lepismium属(Lepismium亜属、Pfeiffera亜属、Ophiorhipsalis亜属、Acanthorhipsalis亜属、Lymanbensonia亜属、Houlletia亜属)からなります。


④Doweld(2001)
Rhipsalidanaeを2つの亜族で分けます。

RhipsalidinaeはNothorhipsalis(=Houlletia)、Lepismium、Erythrorhipsalis、Rhipsalis(Calamorhipsalis亜属、Phyllarthrorhipsalis亜属、Cereorhipsalis亜属、Rhipsalis亜属)、Hatioraからなります。
RhipsalidopsidinaeはEpiphyllanthus、Rhipsalidopsis、Epiphyllopsis、Rhipsaphyllopsisからかなります。
さらに、Barthlott and Taylor(1995)によりRhipsalideaeに分類されていたいくつかの仲間をHylocereeaeに移動し、3亜属に分けました。それは、Pfeifferinae(Pfeiffra、Acanthorhipsalis、Lymanbensonia)、Schlumbergerinae(Schlumbergera、Schlumbergopsis、Pseudozygocactus、Schlumbergeranthus、Schlumberphyllum、Schlumsocactus)、Hylorhipsalidinae(Ophiorhipsalis、Hylorhipsalis)です。

⑤Huntら(2006)
Barthlott and Taylor(1995)と同じ分類を採用しましたが、Lepismium亜属のPfeiffraやAcanthorhipsalis、Lymanbensonia、さらにはHoulletiaの一部をRhipsalideaeから除外しました。

⑥Nyffeler(2002)
サボテン科全体の分子系統(Nyffeler, 2002)では、RhipsalideaeとHylocereeaeは分けられることが示唆されました。この枠組みは。Hylocereeaeの近縁種として出現したPfeiffra(Acanthorhipsalisを含む)を除き、Barthlott and Taylor(1995)によるRhipsalideaeの構成を裏付けています。

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Hatiora

分子系統による分類
分子系統による分類では、Rhipsalideaeの単系統性が裏付けられました。また、これらの属分類はHuntら(2006)の分類と概ね一致しています。違いは側系統が示唆されていたHatioraとSchlumbergeraです。かつてRhipsalidopsisに含まれていたHatiora①はSchlumbergeraに移され(※1)、HatioraはHatiora②の3種類に縮小されます。
 
━━Calymmanthium substerile

┣━━━Pfeiffra

┃  ┏Hatiora①
┃    ┏┫
┃ 
┃┗Schlumbergera
┫    
   
┃    ┣━Hatiora②

┃┏┫
┃┗━Lepismium
┗┫
 ┗━━Rhipsalis

※1 ) ハティオラ①(H. rosea、H. gaertneri)は現在ではRhipsalidopsisに相当します。スクラムベルゲラにはHatiora epiphylloidesが含まれますが、現在ではSchlumbergera luteaとされています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
リプサリスやハティオラ、スクラムベルゲラ(シュルンベルゲラ)、レピスミウムの遺伝子解析を分子系統しました。この論文以前は外見的特徴による分類であり、分子系統もサボテン科全体の分類を明らかとするためのものでした。各属の関係性が明らかとなっただけではなく、リプサリスの属内分類も明らかとしています。
リプサリスは主に5群からなるようです。分子系統の根元にある起源的な「floccosa group」は、R. dissimilis、R. floccosa、R. trigonaからなります。次に分岐したのはCalamorhipsalis亜属で、R. puniceodiscus、R. neves-armondiiからなります。次に3つの群に分岐しています。1つはR. paradoxa、2つ目はErythrorhipsalis亜属でR. cereuscula、R. pulchra、R. pilocarpa、R. clavataからなります。3つ目は「Core Rhipsalis」でR. lindbergiana、R. olivifera、R. crispata、R. micrantha、R. elliptica、R. russellii、R. cereoides、R. pachyptera、R. teres、R.

baccifera、R. mesembryanthemoidesからなります。とはいえ、全種類を解析したわけではないでしょう。属内分類はまだすべてが明らかになったとは言えないかも知れませんね。


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高度に多肉質となる多肉植物と言えばサボテンやユーフォルビアが代表的ですが、現在はキョウチクトウ科に含まれることとなった旧・ガガイモ科植物もサボテン様の外見となるものがあります。現状、私はコレクションという意味合いではあまり興味がないのですが、その存在自体は気になります。というわけで、本日は旧・ガガイモ科の中からスタペリアを取り上げましょう。参照とするのは、Colin C. Walkerの2020年の記事、『Stapelia engleriana the "iceberg" species from southern Africa』です。著者が育てているStapelia englerianaについて解説しています。

Stapeliaについて
スタペリア属はアフリカに28種類があります。アンゴラ南部、ザンビア南部、モザンビークにも分布しますが、特にナミビアと南アフリカ、ボツワナ、ジンバブエは多様性が高くなっています。広く分布する種もありますが、ほとんどは非常に限られた地域に自生します。
スタペリアの特徴は、多肉質な4稜の茎を持ち、普通は直立し、細かい毛が生えていますが稀に毛がないものもあります。スタペリアの花は直径2cmのS. similisから、巨大なS. giganteaまであります。S. giganteaの中には最大40cmに達する巨大な花を咲かせるものもあり、すべての顕花植物の中でも大きな部類です。

Stapelia englerianaの履歴
Stapelia englerianaは、ドイツのコレクターであるRudolf Schlecher(1872-1925)が、ベルリンのDahlemにある植物園・博物館で見つけた生きた植物に基づいて初めて記述されました。S. englerianaの名前は、当時の館長であるAdorf Englerに捧げたものです。Schlecherはアフリカを広く旅しましたが、野生のS. englerianaを採取していないようです。現在、S. englerianaは南アフリカの西ケープ州に広く分布していることが知られています。

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Stapelia engleriana
『The Flowering plants of South Africa』(1932)より。


Stapelia englerianaの特徴
S. englerianaは開花していない時でも、確実に判別出来る特徴的な種です。茎はかなり太く断面は短い結節のある4角形です。この植物に特有なのは、茎が匍匐性から根茎性であることです。この特徴は同じ旧・ガガイモ科のStapeliopsis saxatilisにのみ見られます。この特徴から、著者は「iceberg」(氷山)のスタペリアと表現しました。これは、植物の大部分が地下に隠されているという意味です。花もスタペリアの中では特有です。花は直径2cmと小型ですが、下向きの花の裂片が折り畳まれているため、ボタンのように見えます。このような特徴の花の花粉媒介者は何者で、どのように受粉するのか気になりますが、今のところ文献上では不明です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
スタペリアと言えば、星型の奇妙な毒々しい花が特徴です。しかし、S. englerianaは花弁が反り返り、スタペリアの中でも独特の花を咲かせます。著者が言うように、この独特の形状は受粉に何らかの影響があるのでしょうか? そもそも、スタペリアの基本的な受粉様式も私は知らないので、少しずつ調べていきたいと思います。

最後にS. englerianaの名前の変遷に触れておきましょう。1905年に初めて命名された名前がStapelia engleriana Schltr.でした。1982年にはTromotriche engleriana (Schltr.) L. C. Leach、2017年にCeropegia engleriana (Schltr.) Bruynsという名前も提案されています。


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アロエはその多くの種が赤色〜黄色の花を咲かせます。それは鳥に対するアピールであり、実際にアロエの花には蜜を吸いに沢山の鳥が訪れます。つまり、アロエは鳥により花粉が運ばれて受粉する鳥媒花であるということです。しかし、小型のアロエの中には、地味で目立たない花を咲かせるものもあり、一見して鳥媒花には見えません。私の育てているAloe bowieaも緑色の小さな花をつけますから、とても気になっています。さて、アロエの受粉生物学はAloe feroxやAloe marlothiiなど大型のアロエを中心に行われており、小型アロエについてはまだまだ研究が不足しているように思われます。そこで、小型アロエの受粉生物学の嚆矢である、A. L. Hargreavesらの2008年の論文、『Aloe inconspicua: The first record of an exclusively insect-pollinated aloe』をご紹介しましょう。

アロエは花粉媒介者
アロエの多くは鳥媒花ですが、アロエの花には様々な昆虫が訪れます。もっとも一般的なのは蜂で、その一部は鳥媒花であるアロエの受粉にも貢献していますが、受粉には関係しない花粉泥棒もいます。これまでの研究では、ミツバチはアロエの花粉媒介者としては不十分であることが分かっています。しかし、過去の研究は鮮やかで大きな花を持つ「典型的」なアロエのみが対象とされてきました。
一部のアロエには、昆虫による受粉を示唆する形態学的な特徴があります。それは、Aloe albida、Aloe bowiea、Aloe minima、Aloe myriacantha、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe inconspicua、Chortolirion angolense(=A. welwitschii)です。これらの種は高さ50cm 以下と小型で目立たず、長さ2cm未満の小さな淡い色の単花序をつけます。

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Aloe bowiea
ボウィエアの花は緑色で目立ちません。

Aloe inconspicuaの特徴
Aloe inconspicuaはKwaZulu-Natal州中部のいくつかの地域でのみ知られる小型のアロエです。高さ15cmになり、葉は多肉質ではありますが、周囲の草との区別は容易ではありません。花は高さ8〜12cmの単一の花序で、最大50個の白緑色の花が下から咲いていきます。花は雄蕊が長く、6つの葯が裂開するまで柱頭は開きません。また、花に香りはありません。

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Haworthiopsis limifolia var. glaucophylla
ハウォルチアやハウォルチオプシスの花は、小型で白色系です。


Aloe inconspicuaは自家不和合性か?
A. inconspicuaの自家不和合性の程度と、花粉媒介者への依存度を評価するため、花を布で遮断しました。実験は、①1m以上離れた植物の花粉による人工受粉、②自家花粉による人工受粉、③布で遮断し人工受粉なし(自然な自家受粉)の3群を行いました。
結果は③の人工受粉しない自家受粉では結実は見られませんでした。②の人工受粉による自家受粉ではわずか4%の結実率で、①の他家受粉では72%の結実率でした。また、自家受粉による果実には平均4個の種子がありましたが、他家受粉による果実には平均15個の種子が見られました。A. inconspicuaは大部分のアロエと同じく、自家不和合性であると考えられます。

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Aloe saundersiae
淡い色合いのサウンデルシアエの花。

花粉媒介者を探る
A. inconspicuaは開花より3日間咲き続けます。観察によると、採蜜性の鳥であるタイヨウチョウは訪花しませんでした。また、夕方に蛾を観察しましたが、やはりA. inconspicuaの花を訪れませんでした。観察期間中、A. inconspicuaの花を訪れたのは、ミツバチ(Amegilla fallax)がほとんどであり、稀に小型の蜂の訪花も観察されました。ミツバチや小型の蜂の体には大量の花粉の付着を観察しました。
観察結果からA. inconspicuaの有効な花粉媒介者はミツバチであると考えられます。A. inconspicuaが鳥媒花ではないことは、観察によるものだけではなく、花蜜量が平均0.097μLと極めて少量であることからもうかがえます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
鳥媒花とされてきたアロエの中で、初めて虫媒花であるアロエの存在を証明した重要な論文です。アロエ類の進化を考えた場合、もっとも起源的なグループは樹木状のアロエであるAloidendronとされています。このAloidendronからAloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeといったアロエ属から独立したグループとGasteriaは、おそらく鳥媒花でしょう。つまり、アロエ類の起源は鳥媒花であり、虫媒花はそこからの派生であると考えられます。虫媒花はHaworthia、Haworthiopsis、Tulista、Astroloba(A. rubrifloraは鳥媒花)ですが、アロエ属はその一部の種が虫媒花へ移行したのでしょう。分子系統的に見た場合、虫媒花へ移行したグループ同士は必ずしも近縁ではなく、それぞれ独立して進化したことがうかがえます。個人的な感想ですが、アロエ類の小型化が鳥媒花から虫媒花への移行をもたらしているような気がします。アロエ属は属内があまりに多様であるため、鳥媒花と虫媒花を内包しているのでしょう。


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植物は自生地に住む人々と無関係に存在するのではなく、常に関わり合いながら存在してきました。特にその地域を象徴するような植物には、民族学的な関係の歴史や伝説があるものです。本日は「cardon」こと、Trichocereus atacamensisを取りあげます。一般に「cardon」と言えばメキシコに自生するPachycereus plingreiを指しますが、アルゼンチンのある地域では「cardon」と言えばTrichocereus atacamensisを指すということです。T. atacamensisの自生地における伝承をみてみます。ということで、参照とするのはMaria F. Barbarich & Marie E. Suarezの2018年の論文、『LOS GUARDIANES SILENCIOSOS DE LA QUEBRADA DE HUMAHUACA: ETNOBOTANICA DEL "CARDON" (TRCHOCEREUS ATACAMENSIS, CACTACEAE) ENTRE POBLADORES ORIGINARIOS EN DEPARTAMENTO TILCARA, JUJUY, ARGENTINA』です。

Humahuaca渓谷の自然と民族
「cardon」あるいは「pasacana」と呼ばれる柱サボテン、Trichocereus atacamensis(Echinopsis atacamensis)はアンデス地方の原産で、アルゼンチン北西部、ボリビア南西部、チリ北部を含むprepuna州に限定されます。アルゼンチンのJujuy州にあるHumahuaca渓谷では「cardon」は特徴的な要素で、東西の山脈により形成される南北に走る狭い回廊により構成されます。この地域は多様な民族があり、スペイン人が到着する数十年前にはインカ帝国の南端の一部でした。Humahuaca渓谷は草原と低木が優勢で、点在する低木と豊富な柱サボテンからなります。Jujuy州ではKolla族に属していると認識している人々は、先住民族の52.5%を占めています。

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Trichocereus pasacana
『The Cactaceae II』(1920)より。
T. pasacana=Leucostele atacamensis ssp. pasacana

Humahuaca渓谷のカルドン
Kolla族の協力者たちは、「cardon」という言葉を様々な意味で使用しました。「cardon」とはこの州に生息する直立あるいは燭台状の茎を持ち、大型の3種類の柱サボテンを指します。つまり、Trichocereus atacamensis、Trichocereus tarijensis 、Trichocereus terschekiiです。T. tarijensisは「cardon poco」、あるいは「poco」、「poco-poco」、T. terschekiiは「cardon de los valles」あるいは「pocoto」と呼ばれます。また、同様の生態や形態を持つ他の小型種を「cardonctions」と呼んでいます。逆にTrichocereus schickendgntziiやOreocereus trolliiは固有名詞がありません。地元住民は3種類のカルドンを明確に区別しています。T. atacamensisは直立しており、その大きさにより区別され、花が白いことからより優れているとされます。T. tarijensisはよりサイズが小さく赤い花を咲かせます。T. terschekiiは様々な場所で育ち、より多くの枝を持ちます。住民たちはT. atacamensisのトゲはより太く長いと述べています。また、標高や気候条件の違う産地ごとに特徴に違いが見られることを認識していました。

カルドンの物語
「cardon」には、人間の起源を持つという物語があります。その物語の大まかな概要は以下の如くです。Humahuaca族の王女とTukma(Tukman)の族長が恋に落ち、しかしそれはHumahuacaの社会には受け入れられませんでした。その時、族長は王女を探すために軍隊とともにHumahuaca渓谷にいました。しかし、呪いにより彼らは棒に変えられてしまい、その棒からcardonが芽生え聖地の守護者となり、その花の美しさは聖地の愛の美しさを表しています。
物語には複数のバリエーションがあり、呪いは王女の部族が族長に対して抱いていた憎しみから生じたという主張や、不適切な恋愛に対するPachamama (アンデスの古い神話の女神)からの罰であると主張する人もいます。また、これは呪いではなく、敵対した関係の中で、主人公たちを長命の植物に変えることにより、その愛を永続させることが出来たのだと信じている人もいます。さらに、改宗中に族長が王女を抱きしめたために、王女は花に族長はcardonの体になり、彼らの子供が渓谷のcardonになったという話もあります。族長が登場しない話もあります。それは、王女とその民が征服軍の脅威にさらされ、その土地から逃れPachamamaが、王女らをcardonに変えて守ったという話もあります。王女は年に1度だけ美しい花の姿で現れて世界を見つめます。


聖域の守護者
地元住民の語る物語の中でcardonは象徴的な役割を果たしています。太古の昔から今日に至るまで、その守護者としての役割は「antigales」など、神聖さを持つ場所で強調されます。「antigales」は先祖が住んでいた集落で、現在は遺跡がありその子孫たちにとって非常に重要です。この守護者としての主導的な神話や聖域だけにとどまりません。アルゼンチンからの独立のための戦いでcardonが重要であったと地元住民は誇らしげに語ります。

カルドンと自然
cardonはまだ幼植物の頃は、「churquis」(Prosopsis sp.、マメ科の樹木)や「airampos」(Opuntia spp.、ウチワサボテン)、または岩により守られます。逆にcardonは動物に隠れ場所を提供します。「choschori」(Octodontomys gliroides、マウンテン・デグー)のようなげっ歯類は巣穴を作り、果実を食べ、場合によっては茎も食べます。鳥も枝や枝と枝の間に巣を作ります。鳥はcardonの種子を運び、害虫を食べるため肯定的に捉えられています。家畜もcardonに関連しています。食糧や水が足りていない時には、ヤギやヒツジが小さなcardonを食べます。
cardon蛾(Cactoblastis bucyrus)は幼虫がcardonを食べる蛾で、過去20年で大幅に増加しています。都市化や大気汚染、農薬の使用の増加により鳥が減少によるものです。地元住民はcardonの健康状態は環境の状態を反映していると考えています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
cardonは地元住民にとって馴染み深い植物であると同時に、自分たちの出自や信仰に関わる重要かつシンボリックな植物です。記事で紹介した他にも、異なるバージョンの物語もあり、大変興味深いフォークロアでした。多肉植物は人と関わりながら文化となっている例もありますから、今後も多肉植物との関わりについても調べてもいきたいと考えております。
最後に蛇足ですが、Trichocereus atacamensisの学名が変更されているようですから少し触れておきます。2012年にT. atacamensisは意外にもLeucosteleに移されました。さらに、2021年に亜種であるL. atacamensis ssp. pasacanaが命名されています。


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昨日はアロエの命名について調査した、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2010年の論文、『What's in name: epithets in Aloe L. (Asphodelaceae) and what to call the next new species』をご紹介しました。その中では、末尾にアロエの種小名の一覧があり、名前の由来が記載されていました。ということで、せっかくですから我が家のアロエたちの由来をみてみました。

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Aloe tenuior Haw., 1825
=Aloiampelos tenuior (Haw.)
       Klopper & Gideon F. Sm. 2013
細い枝から。ラテン語の「tenuis」(細い)にちなむ。
藪状に育つアロエはアロイアンペロス属となりましたが、ヒョロヒョロと伸びるため茎は貧弱です。正に名前の通りです。


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Aloe gracilis Haw., 1825
=Aloiampelos gracilis (Haw.)
     Klopper & Gideon F. Sm. 2013

細い茎から。ラテン語の「gracilis」(細い)にちなむ。
やはりアロイアンペロスになったグリキリスですが、テヌイオルと同じく細い茎からの命名です。近縁種で同じ意味の名前は芸がありませんね。

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Aloe striatula var. caesia Reynolds, 1936
=Aloiampelos striatula var. caesia
   (Reynolds) Klopper & Gideon F. Sm. 2013

葉鞘に細い緑色の平行な線があることから。ラテン語の「striatus」(縞模様)にちなむ。

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Aloe albiflora Guillaumin, 1940
白い花が咲くことから。ラテン語の「albus」(白い)と「florus」(花が咲く)にちなむ。

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正に名前の通り白い花が咲くアロエです。アロエは暖色系が基本ですから、真白な花は珍しい部類です。

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Aloe aristata Haw., 1825
=Aristaloe aristata (Haw.)
     Boatwr. & J. C. Manning, 2014
禾のような葉の尖端から。ラテン語の「aristatus」(禾のある)ちなむ。
アリスタタはアリスタロエ属となりました。アリスタロエは1属1種の単系属です。葉は柔らかくトゲは禾状となるため、実にハウォルチア的です。


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Aloe bowiea Schult. & Schult. f., 1829
南アフリカのイギリス人園芸家で植物収集家であるJames Bowie(1789-1869)に対する献名。A. bowieaはBowieが収集しました。
James Bowieについては過去に記事にしておりますので、そちらもご参照下さい。


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Aloe pratensis Baker, 1880
牧草地にも生えることから。ラテン語の「pratensis」(牧草地に生える)にちなむ。
別に牧草地にだけ生えるわけではないみたいです。日本で流通しているプラテンシスは何だか雑種っぽい感じがします。


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Aloe thompsoniae Groenew., 1936
1924年にこの植物を採取した南アフリカのSheila Thompson博士(1930年代に活躍)にちなむ。
こちらは誤りで、著者らは後にトンプソニアエの由来を調べた論文を書いています。トンプソニアエの名前はThompson博士ではなく、動植物の収集家であるThompson夫人にちなみます。なお、Sheila ThompsonはThompson夫人の娘。過去に記事にしていますから、そちらもご参照下さい。


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Aloe fleuretteana Rauh & Gerold, 2000
マダガスカルの森林計画部長Fleurette Andriantsjlavo夫人にちなむ。


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Aloe sladeniana Pole-Evans, 1920
=Gonialoe sladeniana (Pole-Evans)
     Boatwr. & J. C. Manning, 2014

このアロエを発見した探検隊の財政的な支援者であり、イギリスの博物学者のWilliam Percy Sladen(1849-1900)にちなむ。
ゴニアロエとなったスラデニアナです。


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Aloe florenceae Lavranos & T. A. McCoy, 2004
発見者であるAlfred Razafindratsiraの妻Florence Razafindratsiraちなむ。
Razafindratsiraのファームから新種のパキポディウムであるP. enigmaticumが見つかったことがあります。


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Aloe calcairophila Reynolds, 1960
石灰地を好むことから。フランス語の「calcaire」(石灰)とギリシャ語の「philos」(友人)にちなむ。
アロエといっても様々で、A. parvulaなど嫌石灰植物もありますが、石灰岩地に生えるアロエもあります。


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Aloe haworthioides Baker, 1887
近縁であるハウォルチアに似ているから。ギリシャ語の「-oides」(似ている)に由来する。
A. aristataと同じくハウォルチア・ライクなアロエです。非常に小型で華奢なアロエです。


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Aloe humilis (L.) Mill., 1771
低成長の生息地から。ラテン語の「humilis」(適度に低い)にちなむ。
フミリスの名前の意味はよく分かりません。humilis自体は低いという意味ですから、標高とか海抜が低いということでしょうか? ニュアンスがイマイチ掴めません。


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Aloe dichotoma Masson, 1776
=Aloidendron dichotomum (Masson)
     Klopper & Gideon F. Sm. 2013

枝分かれを表す。ラテン語の「dichotomus」(二分法、二股)にちなむ。
ディコトマはアロエから独立しアロイデンドロン属となりました。A. feroxなどの巨大アロエは単頭で数メートルになりますが、アロイデンドロンは枝分かれして樹木状となります。


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Aloe variegata L., 1753
=Gonialoe variegata (L.)
      Boatwr. & J. C. Manning, 2014
斑入りの葉から。ラテン語の「variegatus」(斑入り)にちなむ。
非常に命名の起源が古いヴァリエガタですが、ヨーロッパでもっとも古くから知られているアロエの1つです。


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Aloe peglerae Schönland, 1904
南アフリカの植物学者・博物学者、植物と昆虫の収集家であったAlice M. Pegler(1861-1929)にちなむ。
ペグレラエは薄い蜜を大量に分泌することが知られており、多くのアロエと同様に鳥媒花です。しかし、ペグレラエはあまり背が高くならないせいか、鳥だけではなくネズミも蜜を舐めにくるそうです。


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Aloe plicatilis (L.) Burm. f., 1768
=Kumara plicatilis (L.) G. D. Rowley, 2013

扇形のロゼットから。ラテン語の「plicatilis」(折り畳める)にちなむ。
アロエからクマラ属となったプリカティリスですが、その名前には複雑な歴史があります。一言で説明するのは難しいので、以下の記事をご参照下さい。


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Aloe fragilis Lavranos & Röösli, 1994
傷みやすいロゼットから。ラテン語の「fragilis」(壊れやすい)にちなむ。
これは何を意味するのかはよく分かりません。葉が少し傷みやすい感じはしますか、わざわざロゼットというからには違うのでしょう。フラギリスには微妙に茎がありやや伸びながら育つため、綺麗なロゼットを維持出来ないということでしょうか?


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Aloe descoingsii Reynolds, 1958
フランスの植物学者でマダガスカルの植物多様性の専門家であるBernard M. Descoings博士(1931-)にちなむ。
最小クラスのアロエ。


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Aloe spectabilis Reynolds, 1937
外見的特徴から。ラテン語の「spectabilis」(派手な)にちなむ。
言うほど派手には見えませんが、何をもって派手と命名されたのでしょうか。スペクタビリスは高さ5mと巨大に育つからか、あるいは沢山の花を咲かせるからかも知れません。


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Aloe erinacea D. S. Hardy, 1971
トゲのある外観から。ラテン語の「erinaceus」(ハリネズミ)にちなむ。
見たまんまですね。エリナケアのトゲは硬いものの、見た目ほど痛くないトゲです。そういえば、Gymnocalycium erinaceaも同じ由来ですが、あちらはギムノカリキウムにしてはということでしょうか。


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Aloe parvula A. Berger, 1908
サイズが小さいことから。ラテン語の「parvus」(小さい)にちなむ。
小型アロエではありますが、アロエの中で格別に小さいわけではありません。

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Aloe pseudoparvula J. -B. Castillon, 2004
Aloe parvulaに似ていることから。ギリシャ語の「pseudo-」(偽の)にちなむ。
この「偽の」という名前を嫌う人もいますが、そっくりさんであることが分かりやすくて分類学的には良い名前のように感じます。


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Aloe saundersiae (Reynolds) Reynolds, 1947
Katherine Saunders(1824-1901)に対する献名。Katherine Saundersは、南アフリカのイギリス人コレクターで植物画家、ローデシアとモザンビークを探検したCharles James Renault Saunders(1857-1935)の母。
サウンデルシアエあまり多肉質ではないアロエです。献名だと名前に対するコメントが難しいですね。


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Aloe ramosissima Pillans, 1939
=Aloidendron ramosissimum
    (Pillans) Klopper & Gideon F. Sm. 2013

枝分かれが多いことから。ラテン語の「ramosus」(枝分かれした)の最上級の名詞。
ディコトマと同じくアロイデンドロンとなったラモシシマは、分岐が低い位置から始まります。


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Aloe bakeri Scott Elliott, 1891
キュー王立植物園のイギリス人植物学者、John G. Baker(1834-1920)にちなむ。
バケリは野生絶滅種のアロエです。開発により生息地ごと消滅しました。


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Aloe davyana Schönland, 1905
イギリスの植物学者で南アフリカで活動したJoseph Burtt Davy(1870-1940)にちなむ。

新宿御苑にて。

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Aloe branddraaiensis Groenew., 1940
南アフリカMpumalanga州のBranddraaiにちなむ。
神代植物公園にて。


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Aloe dorotheae A. Berger, 1906
ロンドンのMiss Dorothy Westheadにちなむ。
神代植物公園にて。


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Aloe arborescens Mill., 1768
樹木のようになることから。ラテン語の「arbor」(樹木)にちなむ。
こちらは我が家のアロエではなく、夢の島熱帯植物館の入り口近くのキダチアロエです。キダチアロエは「医者いらず」などと呼ばれ、昔から日本でも流通しているアロエです。Aloe veraが流行するまでは、アロエと言えばキダチアロエでした。屋外でも育ちますので、街路樹の根元などで野良キダチアロエはたまに見かけます。

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サボテンや多肉植物だけではなく、生物の分類やすべての研究分野において、学名というものは非常に重要なものです。野放図に各々が命名してしまえば、いったい何について研究しているのか誰にも分からなくなってしまいます。それは、我々趣味家も同じです。サボテンや多肉植物は希少なものが多く、将来的にあるいはすでに原産地では絶滅してしまった植物も、趣味家により維持されているものも少なくありません。希少な植物であるという意識と、正確な名前を維持する努力は必要でしょう。
さて、私も学名の命名法とその安定については興味があり、かなりの数の関係する記事を書いてきました。しかし、学名の由来となるとさっぱりで、単純にラテン語で特徴を示したものは分かりやすいのですが、人名由来となるとさっぱり分かりません。命名者が由来を記述していてくれたら分かりやすいのですが、学者でもない親戚に献名されていたりしたらお手上げです。というわけで、本日は学名の話です。取り上げるのは、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2010年の論文、『What's in name: epithets in Aloe L. (Asphodelaceae) and what to call the next new species』です。アロエの名前の由来について調査しています。

Aloe succotrinaの場合
学名は植物の過去と現在の分類や記述者の情報を反映しています。多くの場合、形態や地理などの情報も名前から得ることが出来ます。もちろん、その植物に常に適した名前であるとは限りません。しかし、不適切であっても名前を破棄する理由にはならず、その名前は維持される必要があります。
名前が分類学上、さらには地理的な混乱を引き起こした典型的な例として、Aloe succotrinaが挙げられます。この名前は混乱した複雑な歴史があり、200年以上にわたり誤った(由来による)名前が使われてきました。「succo trina」はソコトラ島に生息することを指すと考えられて来ましたが、実際には南アフリカにのみ自生する固有種です。「succotrina」、あるいは「socotrina」という名前は異名は、ソコトラ島固有種であるAloe perryiの葉から作られる「socotrine aloes」という薬の原料と考えられてきたから、あるいは汁が乾くと黄色くなることから「succus」(樹液)と「citrinus」(レモンイエロー)を組み合わせた合成語かも知れません。いずれにせよ、何人もの著者がA. succotrinaを誤った種と結びつけてきました。


Aloeの命名の傾向
収集したアロエの学名は933種あり、これは255年(※2010年時点)の期間に渡り命名されたものです。1851〜1860年はアロエの命名は少なく、発表された名前は1つだけ(A. microstigma)でした。最近の期間(2001〜2008年)と第一次世界大戦(1901〜1910年)および第二次世界大戦(1931〜1940年)の前の数十年はもっとも多く発表され、約300の名前が命名されました。
種小名は338がラテン語で78がギリシャ語、6がラテン語とギリシャ語の合成語でした。もっとも頻繁に使用されたのは、7回使用された「major」で、33の名前が複数回使用されています。残りのほとんどは地名や人名から派生したラテン語化されたものでした。
傾向としては、形態を示した名前がもっとも多く使用されていました。しかし、近年では形態学的特徴が使用されることは少なくなっています。これは、ラテン語の知識が失われつつあり人名や地名に基づき簡単に命名されがちであることや、外見的な特徴を示す名前がすでに使用されているからかも知れません。

生息地による名前
地理的な命名は3番目に多く、増えている命名法です。アロエ研究はヨーロッパに送られた資料に基づいていたため、標本には原産地の情報が欠けていることがよくありました。そのため、18世紀に使用された地理的な命名では、「africana」や「abbyssinica」、「arabica」など漠然としたものでした。過去10年間には地理的な命名の45%がマダガスカルに関連した名前です。

様々な名前
次のカテゴリーは他の分類群との関係性や類似性、分類群のステータスに基づく名前です。このカテゴリーで始めに登場したのは、1753年に発表された「vera」で、「真のアロエ」、つまりは商業的に真のアロエという意味でした。

16種類のアロエはその美しさ優雅さから命名されています。「amoena」、「bella」、「bellatula」、「coccinna」、「decora」、「elegans」、「elegantissima」、「grata」、「insignis」、「jucunda」、「lepida」、「pulcherrima」、「pulchra」、「speciosa」、「spectabilis」があります。ただ、このカテゴリーで利用可能な形容詞が不足している可能性があり、過去10年間で1つしか命名されていません。

アロエのアフリカでの呼び方は豊富であるのに対し、それが学名になることはほとんどありません。そのような一般名に基づく学名は6つしかなく、しかもアフリカ大陸由来のものは1つ(Aloe eru)しかありません。


形態以外の特徴による命名は少なく、過去30年記録されていません。例として、味を示すものや薬用(officinalis)、食用(edulis、esculenta)、有毒(venenosa)、石鹸(sapnaria)などです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
種小名は植物では外見的な特徴や採取地からとられることが多いような気がしていました。しかし、africanaだのasiaticaだの大雑把な名前が古い時代のものだと気が付かされました。あと、外見的は特徴は、まあ被りますから使える名前が減っていくのは仕方がありませんね。しかも、「小さい」の意で命名したのに、後にさらに小さい種が発見されたりしますから、学名は必ずしもその特徴を効果的に示しているとは言えません。命名時には有意味であっても、やがて識別のための記号と化してしまうのでしょう。
さて、明日は実際のアロエの名前とその意味を見てみましょう。


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エケベリアやセダムなどの多肉植物はベンケイソウ科に含まれます。そんなベンケイソウ科を調べて見ると、聞いたことがない属がいくつかありました。うち、3属は2023年に新設された新属でした。1つは、エケベリアともパキフィツムともつかない不思議な植物を、新属ジェロニモア(Jeronimoa)として独立させました。ジェロニモアについてはすでに記事にしていますから、以下のリンクをご参照下さい。


というわけで、本日は2023年に新設された残りの2属について、Jose Antonio Vázquez-Garciaらの2023年の論文、『Chazaroa Y Quetzalcotilia, DOS GENEROS NEVOS SEGREGADOS RESPECTIVAMENTE DE Echeveria Y Graptopetalum (Crassulaceae, Saxifragales)』を見ていきます。

エケベリア属の分解
近年の分子研究はエケベリアが単系統ではないことを明らかにしています。これは、系統発生学的なアプローチを含む、再検討と再定義が必要です。Cruz-Ropez(2019)らは、Urbinia属を再確立し、
OccidentalesやPaniculatae、Valvataeなどのエケベリアの列(Series)がGraptopetalumとより近縁であることを示しました。このことは、Moran (1963)の観察を裏付けものです。E. valvataはValvata列を代表する種ですが、重花弁ではない弁つきの花弁と萼片を持つため、エケベリアとは区別されると主張しています。さらに、直立した萼片や孤立したCincino花序(※1)、密に重なり合う苞葉など、Pachyphytumに近縁です。
以上のことにより、系統発生学的、形態学的、地理的証拠に基づき、分子系統的に分離が高い支持を得ているクレード、さらに非常に特徴的な形態を示す2つの分類群を新属として分離することが適切であると考えています。

※1 ) 集散花序で、枝が同じ平面上に配置されず螺旋状となる。

新属チャザロア
Chazaroaはエケベリア属とは形態的に異なります。エケベリアの属内分類であるNudaeやSpicatae、Racemosae、Mucronataeは0か1個の小苞に囲まれ独立したCincinoを持つ芯花(※2)がありますが、Chazaroaは各花が2つの苞小節で囲まれた穂状花序または総状花序を持ちます。エケベリア属内分類のCiliataeは無毛のものがありますが、Chazaroaは有毛です。エケベリア属内分類のUrceolataeやLongistylaeは五角形の花冠の側面は平らか溝がありますが、Chazaroaは五角形あるいは円筒形の花冠の側面は少し丸みを帯びています。エケベリア属内分類のSecundaeやChloranthae、Pruinosae、Angulatae、Occidentales、Thyrsiflorae、Gibbifloraeとは花弁が弁状か非弁状かが異なります。
Chazaroaはリュウゼツランなどの研究者であるMiguel J. Chazaro-Basanezに献名されます。


※2 ) 花の中央部分。雌蘂と雄蕊を合わせた部分。

Chazaroaには以下の3種類が含まれます。
①Chazaroa calycosa
 =Echeveria calycosa
https://inaturalist.lu/taxa/1494950-Chazaroa-calycosa

②Chazaroa valvata
 =Echeveria valvata
https://inaturalist.lu/taxa/1494948-Chazaroa-valvata

③Chazaroa yalmanantlanensis
 =Echeveria yalmanantlanensis
https://www.inaturalist.org/taxa/1494949-Chazaroa-yalmanantlanensis

新属ケツァルコアトリア
Quetzalcoatliaはメキシコ西部に集中して分布し、全種が半径101km以内の範囲にあります。
Quetzalcoatliaは複雄性(通常は10雄花)であり、単雄性(5雄花、まれに4雄花、6雄花、8雄花)であるGraptopetalumとは異なります。また、Quetzalcoatliaは葉がピンク色か紫色であることが多いことなどが異なります。Quetzalcoatliaに含まれる3種類は、分子系統解析では高度に支持された系統群を示し、Graptopetalumとは弱く関連があります。


Quetzalcoatliaには以下の6種類が含まれます。
①Quetzalcoatlia glassii
 =Graptopetalum glassii
https://www.inaturalist.org/taxa/1496056-Quetzalcoatlia-glassii

②Quetzalcoatlia kristenii
 =Graptopetalum kristenii
https://www.inaturalist.org/taxa/1496057-Quetzalcoatlia-kristenii

③Quetzalcoatlia pentandra
 =Graptopetalum pentandrum
https://www.inaturalist.org/taxa/1496059-Quetzalcoatlia-pentandra

④Quetzalcoatlia rosanevadoensis
 =Graptopetalum rosanevadoense

⑤Quetzalcoatlia superba
 =Graptopetalum superbum
https://www.inaturalist.org/taxa/1496062-Quetzalcoatlia-superba

⑥Quetzalcoatlia trujilloi
 =Graptopetalum trujilloi
https://www.inaturalist.org/taxa/1496063-Quetzalcoatlia-trujilloi

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
EcheveriaからChazaroaを、GraptopetalumからQuetzalcoatliaを分離・独立させました。この論文にしろ、Jeronimoaにしろ2023年に同じグループによる研究です。いずれも論文内でエケベリアなどのベンケイソウ科植物の再編の必要性を指摘しています。これは、ベンケイソウ科植物の遺伝子を解析した複数の研究結果に基づいており、やはりエケベリアやセダムが単系統ではないという結果は共通しています。私も過去に記事にしていますから、以下のリンクをご参照下さい。



以上のようにベンケイソウ科植物の再編は必然ですが、著者らの新設した3属はその始まりなのかもしれません。しかし、本丸であるセダムの膨大な種の整理にはどれだけの時間が必要なのか分かりません。少しずつ整理されていくのでしょうか。また、何か進展がありましたら記事にしたいと思います。


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Euphorbia francoisiiと呼ばれる花キリンがありますが、現在はEuphorbia decaryiとされていま。しかし、Euphorbia decaryiという名前で流通している花キリンが他にあり、それはEuphorbia boiteauiとされているようです。このあたりの話は気にはなっていたのですが、当該論文は見つかったものの放置していました。というのも、論文がフランス語で書かれていたため、まったく読めなかったからです。一応、機械翻訳に掛けてはみましたが、専門用語や学名がどうもよろしくないようで、相当怪し気な文になってしまい記事にするのは断念しました。あれからだいぶ経ちますが、重い腰を上げて分からないなりにチャレンジしてみることにしました。
その論文はJean-Philippe Castillon & Jean-Bernard Castillonの2016年の論文、『A propos de quelques noms oublies dans le genere Euphorbia L. (Euphorbiaceae) a Madagascar』です。

誤りを正す
標本や元の情報にアクセスすることの難しさや、以前の植物学者により確立された結論への過信が後続により採用されてしまい、誤りが永続している場合があります。マダガスカルのユーフォルビアの場合、標本の古さと貧弱さ、既存の異名、元の説明の簡潔さ、さらに乾燥標本から分類群を認識することが難しいためより重大です。ユーフォルビアの改定は、Haevermans (2006)やHaevermansら(2009)により行われています。

Euphorbia subapodaの独立
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Euphorbia primulifolia Baker, 1881

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Euphorbia subapoda Baill., 1887
 =Euphorbia quartziticola Leandri, 1946

Denis(1921)はBaillonにより1887年に記載されたEuphorbia subapodaは、1881年に記載されたEuphorbia primulifoliaの異名とみなしました。それ以来、この主張に異議が唱えられることはありませんでした。Denisは2つの植物の花(Cyathophyll)の色や葉の形の違いには気がついていましたが、それをマダガスカルの産地による個体差と考えました。
Leandri(1946)はEuphorbia quartziticolaについて説明しましたが、それはBaillonの説明と完全に一致します。共に同じ丸く黄色いCyathophyllと、滑らかで多肉質な丸い葉を持ちます。葉が薄く縁が波打つ楕円形で白みがかるピンク色、三角形の
Cyathophyllを持つEuphorbia primulifoliaとは異なります。さらに、E. subapodaとE. quartziticolaはE. primulifoliaが生息しないItremoの珪岩山塊に由来します。したがって、DenisによりE. subapodaはE. primulifoliaの異名であるというのは誤りで、E. subapodaとE. quartziticolaは同義語であることを提案します。

Euphorbia decaryiとは何者か?
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★Euphorbia decaryi Guillaumin, 1934
 =Euphorbia francoisii Leandri, 1946

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★Euphorbia decaryi var. crassicaulis
   (Rauh) J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia francoisii var. crassicaulis
      Rauh, 1996


Guillaumin(1934)はFort Dauphinに近いVinanibe砂丘で採取された断片サンプルに基づき、Euphorbia decaryiと命名されたユーフォルビアを説明しています。後に同種とされるサンプルを収集したMarnier-Lepostolle(1961)、Cremers(1984)、Rauh(1998)は、形態学的な変異に基づいて説明してきました。そのE. decaryiの特徴は、AndroyとMahafay高原の植物に典型的な、葉柄がなく、灰色の縁が波打つ1〜2cmの小さな太った葉を持ち、5角に角張った茎を持つとしています。これを仮にE. decaryi auct.と呼びます。
しかし、これらの特徴はGuillauminが説明したE. decaryiではないことが分かります。E. decaryiのタイプ標本は断片的ですが、茎の上部の毛に似た多数の托葉など、特定の特徴が見て取れます。RauhやCremersがE. decaryiを誤解していたことが明らかです。タイプ標本では小柄で細長い菱形の葉があり、E. decaryi auct.の葉とは異なります。
興味深いことに、Rauhは1987年と1998年に、「E. decaryiはTolanaro近郊のVinanibeという典型的な産地では二度と発見されていない。」と書いています。しかし、現在でもE. decaryiはVinanibeに広く生息していますが、それはLeandri(1946)によりE. francoisiiという名前で別種として再記述されたため認識されませんでした。E. francoisiiのタイプ標本は、Guillauminにより記述されたE. decaryiの特徴を示しています。つまり、托葉は茎の上部に多数あり、細く柔軟で茎の下部にはなく、葉には葉柄があります。これは明らかにE.
decaryiの特徴を示しており、E. francoisiiはE. decaryiの異名です。さらに、Rauh(1996)により記載されたE. francoisii var. crassicaulisをE. decaryiに移し、E. decaryi var. crassicaulisとすることを提案します。


実際にはEuphorbia boiteauiだった
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★Euphorbia boiteaui Leandri, 1946
 =Euphorbia decaryi auct.
      (≠Euphorbia decaryi Guillaumin)

★Euphorbia boiteaui var. ampanihyensis
      (Rauh & Buchloh) 
       J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia decaryi var. ampanihyensis
      Rauh & Buchloh, 1984

★Euphorbia boiteaui var. spirosticha
    (Rauh & Buchloh) 
      J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia decaryi var. 
spirosticha
      Rauh & Buchloh, 1986


E. decaryiという名前が広く使われている植物は、Leandri(1946)によりEuphorbia boiteauiという名前で記載されています。E. boiteauiのタイプ標本とLeandriの説明は、5つの角がある茎、トゲや葉柄のない葉、花序の特徴はE. decaryi auct.に完全に一致します。さらに、E. decaryi var. ampanihyensisとE. decaryi var. spirostichaをE. boiteauiの変種に移します。

変種robinsoniiの謎
★Euphorbia decaryi var. robinsonii Cremers, 1984

著者は意図的にEuphorbia decaryi var. robinsonii Cremersを移しませんでした。そのタイプ産地はTuleaに由来すると考えられていますが、それは近くにあるTulear地域なのか、以前はFort Dauphinを含んでいたTulear県を指しているのかが分かりません。Tulearのテーブル・マウンテン付近で行われた数多くの探索では、E. tulearensis以外のE. boiteauiグループのユーフォルビアを見つけることが出来ませんでした。E. decaryi var. robinsoniiを観察すると、茎の上部にあるトゲの束や丸いCyathophyll、細長い葉柄のある葉など、E. decaryi(=E. francoisii)によく似ています。したがって、著者らはE. decaryi var. robinsoniiの起源と正当性について懸念があり、これを「認識されていない」ものと考え、当面はE. decaryiの変種としておきます。

変種cap-saintemariensis
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★Euphorbia cap-saintemariensis Rauh, 1970
 =Euphorbia decaryi var. cap-saintemariensis
  (Rauh) Cremers, 1984

Euphorbia decaryi var. cap-saintemariens (Rauh) Cremersも移しませんでした。Cap Sainte-Marie産のこの植物の分類学的位置は不明です。Rauhにより独立種として記載されましたが、CremersはE. decaryiの変種としました。Cremersの組み合わせは不適切である一方、変種とする根拠は依然として有効であり、E. decaryi var. cap-saintemariensとなる可能性があります。しかし、この種は変種としてより独立種として広く引用されており、合理的な理由がないか限りRauhの記載した名前を保持することとします。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。一応はまあそれなりに訳せたような気がします。
さて、いくつかの論点がありますが、1つ目はE. subapodaのE. primulifoliaからの独立です。これは、Denisの主張が十分に検討されないまま基準になってしまった例ですが、それを著者らが再検討しました。ちなみに、E. primulifoliaと言えば、変種begardiiが2021年に独立種となっています。

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Euphorbia begardii (Cremers) Haev. & Hett., 2021
 =Euphorbia primlifolia var. begardii
       Cremers, 1984


次はE. physocladaの分布についての議論でしたが、今回は割愛しました。
次に今回私が気になっていたE. decaryiに関する話です。E. decaryiとE. francoisiiの名前が誤りであることは知っていましたが、その経緯や詳細な内容は知りませんでした。ですから、今回知ることが出来て良かったですね。また、
2021年のHaevermansらの論文では、Castillonらの今回の論文を受けてさらにE. decaryiグループについて考察を深めています。去年、記事にしましたから、以下のリンクをご覧下さい。

結局のところ、E. decaryiグループに関する著者らの主張は概ね認められています。しかし、後に上記リンクの論文にて、E. boiteaui var. spirostichaは独立種であるE. spirosticha (Rauh & Buchloh) Heav. & Hett., 2021とされています。

という訳で、長年の懸念だったCastillonらの論文を記事にすることが出来きてホッとしました。胸のつかえがとれたような気分です。そういえば、これが2024年最後の論文のご紹介記事となります。さて、来年も面白い論文をご紹介していきたいものですね。



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今年の多肉植物のニュースはいくつかありますが、その重大な1つはEchinoagaveのAgaveからの独立の提案でしょう。最近、記事にしましたから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。


さて、論文を読んだこともあり、早速11月の五反田BBでEchinoagaveとされた12種のアガヴェの1つ、Agave albopilosa=Echinoagave albopilosaを入手しました。調べて見ると、A. albopilosaは2007年に記載された割と新しい種だということです。では、何か情報はないかと調べて見たら、A. albopilosaの発見の経緯について書かれた記事を見つけました。それは、Joel Lobeの2011年のレポート、『
The True Story of Agave albopilosa』です。

メキシコへ
多くの多肉植物愛好家と同じく、著者も最近発見されたこの神秘的な植物=Agave albopilosaについて聞いていましたが、その場所は秘密にされていました。何人かの植物学者は見つける事が出来ましたが、正確な場所を教えてくれる人はいませんでした。それでも、著者は諦めませんでしたが、現地はハリケーンAlexにより道路は寸断され、橋は崩壊し、山は崩れ、洪水に見舞われていました。

自然の猛威
Huasteca渓谷への最初の訪問は失敗に終わりました。著者が到着した時には、ショベルカーが何台もの壊された車の残骸を運び始めていました。やがて雨が降り出し水位が上がってきたため、急いで引き返しました。車は滑り岩に接触しましたが、何とか通り抜ける事が出来ました。Monterreyから出るのはかなりの苦労でした。
滞在中、著者は渓谷を何度も訪れましたが、困難ばかりで何もありませんでした。崖を苦労して登るものの、Agave lechuguillaやHechtia texanaと共存する、トゲがあり激しい痛みを伴うCnidoscolus multilobus(トウダイグサ科)が自生し侵入不可能でした。石灰岩の割れ目には、Portulaca pilosaやEchinocereus reichenbachii、Mammillaria formosa、Mammillaria proliferaも見かけました。
頂上付近にはYucca rostrataの見事な群落が見えました。しかし、Agave albopilosaはありませんでした。危険な下り坂の途中では、渓谷の底にHesperaloe funiferaを見つけました。
翌日、最後の試みとして徒歩で下りました。切り立った崖の上に、Agave bracteosaやAgave victoria-regiaeなどの豊かな植生が見えました。谷にはAcanthocereus tetragonusやCylindropuntia kleiniaeを見かけました。また、Dasylirion berlandieriの赤みがかった茎は容易に判別出来ました。望遠鏡で観察したいくつかの植物は、おそらくAgave victoria-regiaeのAgave albopilosaに似た変形か、ただの交雑種でした。

241216015632451
Echinoagave albopilosa
=Agave albopilosa
尖端の鉛筆の芯のようなトゲは、やがて裂けていきます。


予想外の発見者
Monterrey大学ではMarcela Goonzales Alvarez博士が生物学科の植物標本室を担当していますが、Agave albopilosaを生息地で見たことがなく、標本もありませんでした。発見者であるIsmael Cabralの記事によると、タイプ標本(Isotype)を寄贈しているはずです。Marcelaは植物標本室用の標本収集のために同行することになりましたが、A. albopilosaがHuasteca渓谷で発見されたこと以外の情報は知りませんでした。
彼女は生息地を知っているであろう研究者を紹介してくれました。その理由は、彼自身がAgave albopilosaの発見者だったからです。これには著者も当惑させられました。なぜなら、一般的に発見者とされるIsmael Cabralではなく、Agaveの分子遺伝子型判定法の発明者であるJorge Armando Verduzcoだからです。
誰もが
Ismael CabralがA. albopilosaを発見したと言いますが、VerduzcoはCabralが引用した文献には登場しません。なぜなら、Cabralは自分がA. albopilosaを発見したと言っているからです。Verduzcoを引用することは、Cabralが真の発見者ではないことを認めることになるからです。このようなことは、植物学や動物学の世界ではよく見られることで、最初の発見者になりたいということは、倫理的ではないかも知れませんが非常に人間的なことです。
Verduzcoは10年以上前に現地調査中にA. albopilosaに気が付きました。
Verduzcoはこの時、写真付きの短い記事を書き、正式な説明なしで「Victoria-montana」と名付けました。この時、若いCabralはMonterrey大学におり、博士論文に忙しくしていました。彼はVerduzcoに会い、A. albopilosaを見せてもらいました。

生長すると、尖端のトゲ部分が裂けて花が咲いたような見た目になります。(以下リンク)
http://www.llifle.com/Encyclopedia/SUCCULENTS/Family/Agavaceae/184/Agave_albopilosa

繁殖のすすめ
メキシコ人が密輸業者にすら知られている場所を秘密にしていることを不思議に思うかもしれません。さらに言えば、Agave albopilosaは主に手が届かない場所で育ち、繁殖力はかなり強く、差し迫った危険にさらされているわけではありません。いったい何が問題なのでしょうか?
A. albopilosaが知られてから10年以上経ちますが、コレクターが欲しがり入手するであろうことは当然です。なぜ、繁殖を試みなかったのでしょうか。その方が仮想的な保護より効果的です。もし、市場が密売人にとってそれほど儲かるのであれば、なぜオランダやチェコ、日本、ドイツの種苗業者のように温室を建て、種を蒔き、市場を満たさないのでしょうか。メキシコには種子や気候、土地、すべてが有利です。中国人はEchinocactus grusonii(=Kroenleinia grusonii)を幸運のサボテンと呼び、何百万本もの個体が市場に出回っています。E. grusoniiはメキシコからいつか消えるかもしれないサボテンですが、地球上から消えることはありません。万里の長城と同じように、中国には月から見えるくらい沢山のE. grusoniiがあるはずです。

最後に
以上が記事の簡単な要約です。
著者は謎めいた新種のアガヴェであるAgave albopilosaを探すために、メキシコを訪問しました。しかし、ハリケーンの到来により、著者が思わぬ苦労をする羽目になります。ハリケーンの影響と、詳細は自生地の秘匿により、結局著者はAgave albopilosaを見つけることができませんでした。
さて、この自生地の秘匿自体は、意味があることです。論文の情報を元に違法採取が行われることが明らかとなり、近年では詳細な自生地の情報は秘匿されることは珍しくありません。ただし、著者の言い分もよく分かります。CITESなどの保護政策は基本的に採取や国際的な取り引きの制限は行いますが、園芸市場における不足に対しては無力です。違法取り引きの原因は、市場において需要と供給のバランスが崩れ、飢餓感が生まれることにあります。そのことにより、違法取り引きに旨味が生まれるのです。積極的な流通が違法取り引きの旨味を潰すのは、Euphorbia susannaeなどでも確認済であり、ソテツ類では一般への流通により違法取り引きを減じる対策が進行中です。
元記事のタイトルにあるように、Agave albopilosaの記載者と発見者が実は異なるという趣旨でした。そのことはまあいいとして、気になるのは発見者のVerduzcoです。
Verduzcoはアガヴェの遺伝子についての専門家で、アガヴェには交配種が多く見られると考えているようです。Agave albopilosaも自然交雑種と考えているようですが、まだ証明されたわけではないようです。交雑種というとただの雑種のような気がしますが、実は植物にとっては進化の重要な要素の1つとされています。ウチワサボテンでは複数種が混じり合い新しい種が生まれており、これを網状進化と呼んでいるそうです。Agave albopilosaに関しては種子で繁殖していることからして、すでに独立種としての要件は満たしているのでしょう。


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多肉植物ブームが続いていますが、明らかにその柱の1つはエケベリアでしょう。多肉植物のイベントでは必ず専門店が出店しますし、エケベリアのオンリーイベントも沢山開催されています。さて、そんな人気があるエケベリアですが、分類学的にはベンケイソウ科(Crassulaceae)に属します。ベンケイソウ科には人気のEcheveriaや、寄せ植えや花壇を賑わせるSedumやCrassula、Aeonium、Kalanchoe、Sempervivum、Graptopetalum、個性的なDudleyaやAdromischus、塊根塊茎好きにも愛されるCotyledonやTylecodonなど39属からなります。しかし、うち4属は近年出来た属のようで、私も聞いたことがない分類群でした。ということで、本日はそのうちの1つ、ジェロニモア属を取り上げましょう。参照とするのは、Jose Antonio Vázquez-Garciaらの2023年の論文、『Jeronimoa(Crassulaceae, Saxifragales), UN NUEVO GENERO ENDEMICO DE CUICATLAN, OAXACA, MEXICO Y SU, CORRESPONDIENTE COMBINATCION NUEVA, Jeronimoa cuicatecana: UN CASO DE CONVERGENCIA EVOLUTIVA CON Pachyphyum』です。

ベンケイソウ科の困難
ベンケイソウ科及びエケベリア属は、50を超える異なる染色体が関与する倍数体の存在や、形態学的な同型性のため、歴史的にその分類は困難でした。最近の分子研究によりエケベリア属が単系統ではないことが明らかとなっています。これらのグループは系統ゲノミクスを含む様々なアプローチで検討し再定義する必要があります。

謎めいた新種の記載
2004年にTehuacán-Cuicatlán生物圏保護区内で発見されたベンケイソウ科植物の新種の記載は、Echeveria lauiとの類似性とPachyphytum属との花序の類似性により著者らの注目を集めました。当初はEcheveria cuicatecanaとして記載されましたが、後にPachyphytum cuicatecanumとされました。しかし、分子系統によると、この種はPachyphytum属に属さず、形態学的な特徴はEcheveria属にも当てはまりません。

新属・Jeronimoa
著者らはPachyphytum cuicatecanumを新属であるJeronimoaに移します。垂れ下がる花茎や花冠に付く萼片などPachyphytum属との高度な進化的収斂を示します。ただし、Pachyphytumには花弁の内側に付属物がありますが、Jeronimoaでは膨らみだけです。Echeveriaとの違いは外観的なものと、萼片が多肉質で押すと花冠を覆うことが挙げられます。また、花筒がありません。新属に移されたPachyphytum cuicatecanumの学名は以下の通りです。
Jeronimoa cuicatecana (J. Reyes, Joel Pérez & Brachet) B. Vázquez, Islas &  Rosales, comb. nov.

系統分類学
Jeronimoaはその形態に基づき、花序が完全に対応していないものの、主に茎や葉の多肉性によりSeries Purinosae内のEcheveria属に分類されました。Jeronimoa cuicatecanaの注目すべき点は、葉や苞により簡単に繁殖でき、似ているE. lauiではできません。 Cruzら(2019)の分子系統により、Series PuinosaeはClade IVに属することが判明しました。しかし、JeronimoaはClade IVではなく、Clade IIIに属することが明らかとなりました。

            ┏Clade IV
        ┏┫
    ┏┫┗Clade III
    ┃┃
┏┫┗━Clade II
┃┃
┫┗━━Clade I

┗━━━Outgroup

Outgroup: Dudleya、Lenophyllum、Sedum①、Villadia

Clade I: Pachyphytum

Clade II: Urbiniae

Clade III: Chloranthae、Ciliatae、Echeveria①、Racemosea、spicatae、Thompsonella、Thyrsiflorae、Jeronimoa

Clade IV: Angulatae、Cremnophila、Echeveria②、Gibbiflorae、Graptopetalum、Occidentales、Paniculatae、Pruinosae、Reidmorania、Secundae、Sedum②、Tacitus、Urbiniae、Valvatae

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
エケベリアあるいはパキフィツムとされた新種を新属ジェロニモアとして分離・独立させました。形態学的にはパキフィツムですが、遺伝的にはパキフィツムとは近縁ではありません。どちらかと言えばエケベリアに近縁なのでしょう。
しかし、分子系統を見ていただければ分かりますが、セダムやエケベリアは異なる枝に出現します。エケベリアは単系統ではないということがさらっと述べられていますが、事はさらに重大です。膨大な種類があるセダムが単系統ではなく、あちこちのグループで進化した「セダム的」な外見の種をセダム属としていた事が判明したのです。セダム属は膨大な種類がありますから、今後のベンケイソウ科植物の分類は、非常に困難なものとなるでしょう。おそらく、細分化される流れのような気がしますが、どう分けたら良いのかかなりの難問です。まあ、すべてが明らかとなるのはだいぶ先の話でしょう。
それはそうと、冒頭で4つの新属があると述べましたが、ジェロニモア以外の新属についても調べていますから、そのうち記事にする予定です。



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当ブログでは多肉植物の分類についてもぼちぼち記事にしていますが、近年では遺伝子解析を用いた分子系統による分類が当たり前となっています。サボテンもまた盛んに遺伝子解析がなされており、サボテンの属分類はだいぶ様変わりしました。さて、マミラリアだのパロディアだのと分類の記事を書いていましたが、私の好きなギムノカリキウムについては記事を書いていないことに気が付きました。論文自体は数年前に読んでいて、たまに引っ張り出しては参考にしていましたが、今更ですが記事にしておこうという次第です。
さて、本日ご紹介するのはPablo H. Demaioらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of Gymnocalycium (Cactaceae): Assessment of alternative infrageneric systems, a new subgenus, and trends in the evolution of the genus』です。割りと有名な論文ですから、あるいは皆さんご存知かも知れませんが、お暇であればしばしお付き合い下さい。

ギムノカリキウム属とは?
Gymnocalycium Pfeiff. ex Mittlerは、球状の生長パターンと、トゲがない花托を持つ昼行性の花を特徴とする、約50種からなる属です。パタゴニア南部を除くボリビア南部、パラグアイ南西部及び北部、ブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチンに分布します。
Gymnocalyciumは栽培しやすく開花も早いため、サボテン愛好家の間でも人気のある属の1つです。分類群の新しい記述は個人の収集家や栽培家により行われてきたため、小さな形態的な差異を過度に強調し新しい分類群として記述する傾向があります。そのため、異名が増加しており、安定した属内の分類システムが必要となりました。

ギムノカリキウム属の分類の歴史
ギムノカリキウム属の属内分類の最初の試みはFrič(1935)によるもので、種子の形質にもとづいて5つのグループからなるシステムを発表しました。しかし、このシステムは非公式で有効に記載されませんでした。

Frič, 1935
1, Ovatiseminae
2, Macroseminae
3, Trichomoseminae
4, Microseminae
5, Muscoseminae

Schütz(1968)はFričの基準に従い、5つの亜属からなる有効なシステムを発表しました。

Schütz, 1968
1, Gymnocalycium
  =Ovatiseminae Schütz, nom illeg.
2, Macroseminae Schütz
3, Trichomoseminae Schütz
4, Microseminae Schütz
5, Muscoseminae Schütz

Buxbaum(1968)は、ギムノカリキウムの列(series)、亜列(subseries)を公表しました。また、他にもBackeberg(1941, 1958)やIto(1950, 1957)、Pazout(1964)などは、茎と花の形態に基づき属内分類群を提案しましたが、無効であると判断されています。

Schütz(1968)の分類体系は、Till & Hesse(1985)及びMetzing(1992)により修正され、Till(2001)及びTill et al.(2008)が果実と花、種子の特徴に基づく新しい体系が発表されるまで、ほぼ30年間に渡り研究者や趣味家に広く受け入れられてきました。Tillの分類体系はSchützとは大きく異なりますが、どちらが自然な分類を反映しているのか判断する決定的な証拠はありませんでした。

分子系統解析
ギムノカリキウム属内分類における論争は、形態に基づく方法では分類体系の解決が困難であることを示しています。しかし、形態学的な情報と遺伝子情報を組み合わせて利用したなら、安定した分類が出来ます。

  ┏━Gymnocalycium
  ┃
  ┣━Trichomosemineum
 ┏┫
┏┫┗━Macrosemineum
┃┃
┃┗━━Scabrosemineum

┃┏━━Muscosemineum
┣┫
┃┗━━Pirisemineum

┗━━━Microsemineum

Microsemineum亜属
G. saglionis

Microsemineumはギムノカリキウムの中でもっとも早く分岐した分類群であることが示唆されます。特徴は茎は大型で、果実は色鮮やかかつジューシーで甘いため、鳥などの脊椎動物を引き寄せます。果実の特徴はPirisemineum亜属と似ています。ジューシーな果実はギムノカリキウム属を含むBCT系統群の多くの属、TrichocereusやStetsonia、Echinopsisと共通します。
G. saglionisはアルゼンチン北西部の山脈に自生します。ギムノカリキウム属の分子系統の基底にあるため、ギムノカリキウムの祖先はアルゼンチン北西部とボリビア南部の山岳地帯が起源であると考えられます。

Pirisemineum亜属+Muscosemineum亜属
Pirisemineum亜属
G. pflanzii ssp. pflanzii, G. pflanzii ssp. zegarrae, G. chacoense
Muscosemineum亜属
G. marsoneri ssp. marsoneri, G. marsoneri ssp. megatae, G. eurypleurum, G. schickendantzii ssp. schickendantzii, G. mihanovichii, G. anisitsii ssp. damsii

Pirisemineum亜属とMuscosemineum亜属は、分布域がアルゼンチン中央部まで広がるG. schickendantziiを除き、ほとんどの種はアルゼンチン北部、ボリビア南部、パラグアイ西部のグラン・チャコ森林に生息します。Pirisemineum亜属はジューシーな果実とムール貝のような形の種子を特徴としています。果実はMicrosemineum亜属と似ていますが、主にアリにより散布されます。

Scabrosemineum亜属
G. hossei, G. glaucum ssp. glaucum, G. glaucum ssp. ferrarii, G. castellasonii ssp. castellasonii, G. castellasonii ssp. ferocius, G. oenanthemum, G. bayrianum, G. monvillei, G. ritterianum, G. mostii ssp. valnicekianum, G. mostii ssp. mostii, G. horridispinum ssp. horridispinum, G. horridispinum ssp. achirasense, G. rhodanthemum, G. spegazzinii

このグループは広義(sensu lato)のMicrosemineum亜属で、Schütz(1968)より分類されました。Tillら(2008)はMicrosemineum亜属のSection Saglionia(節)に、Microsemineum亜節を分類しました。しかし、分子系統では分離されたグループを作っています。そのため、著者らはGymnocalycium subgen. Scabrosemineum Demaio, Barfusr, R. Kiesling and Chiapella, subgen. nov.を新亜属として記載しました。このグループのほとんどが、アルゼンチン中西部の山岳地帯の温帯亜湿潤気候に分布します。自生地は背の高い草むらが優勢で、岩の露頭が点在します。

Macrosemineum亜属
G. denudatum, G. horstii ssp. horstii, G. paraguayense, G. hyptiacanthum ssp. netrelianum, G. hyptiacanthum ssp. uruguayense, G. mesopotamicum, G. reductum ssp. leeanum

従来、Macrosemineum亜属(Macrosemineum亜節)に分類されていた種は分子系統では単系統とは見なされません。ブラジル南部に分布するG. horstiiとG. denudatumは、Trichomosemineum亜属やGymnocalycium亜属と姉妹関係にあり、まとまりがあります。解析方法によっては、G. hypticanthumはGymnocalycium亜属とされる場合もあります。Kiesling(1980)は、G. mesopotamicumの種子がTrichomosemineum亜属とG. hypticanthumの中間形態を示すことを指摘しました。分子系統でもG. mesopotamicumの位置はTrichomosemineum亜属と密接な関係があることを裏付けています。
Macrosemineum亜属のほとんどの種は形態的に類似しており、地理的に分布は限定されています。分布は、ウルグアイ、南中央パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン東部の、岩の露頭などに自生します。

Trichomosemineum亜属
G. bodenbenderianum, G. quehlianum

Trichomosemineum亜属は、アルゼンチン西部から中央部の山岳地帯と乾燥した谷間に生息しまTrichomosemineum亜属の命名はSchütz(1968)によるものですが、Buxbaum(1968)はSeries Quehliana(列)、Tillら(2008)はMicrosemineum亜属、Section Saglionia(節)、Subsection Pilesperma(亜節)に分類しました。分子系統はこれらのグループを支持しており、形態学的な過去の研究内容とも一致します。ただし、Tillら(2008)のPilespermaの位置は一致していません。

Gymnocalycium亜属
G. bruchii, G. calochlorum, G. baldianum var. baldianum, G. schroederianum, G. robustum, G. gibbosum ssp. gibbosum, G. fischeri, G. kieslingii, stringlianum, G. uebelmannianum, G. andreae, G. reductum ssp. reductum, G. erinaceum, G. amerhauseri

Gymnocalycium亜属は、ほとんどが中央アルゼンチンの山岳地帯に自生し、他にはパタゴニア北部、アルゼンチン東部、ウルグアイ西部に少数の種が分断されて自生します。すべての種は、Schütz(1968)、Till(2001)、Tillら(2008)のGymnocalycium亜属に相当します。ただし、Tillら(2008)のさらなる分類は現在のところ支持されません。過去10年間に発見されたギムノカリキウム属の新種はほとんどがこのグループに属し、形態学的に非常に類似しています。分子系統でもほとんどの配列が同じであり、顕著な均質性を示しました。この解像度の低さは既存のDNA配列データによる解決は難しい可能性があります。これは、急速に新しい時代に種が放散したことを反映しているのかも知れません。

ギムノカリキウムの形態学
Nyffeler(2005)が説明したBCT clade(※1)の祖先分類群は、おそらくbarrel cacti(Ferocactus, Echinocactus)でした。BCT cladeのGymnocalycium属の祖先は、おそらく樽状(Barrel)の生長形態か球状で単独の生長形態であることが示唆されます。G. saglionisはこの属唯一の樽状生長形態を持つ種であり、おそらくはGymnocalycium属の祖先に似ています。他の種はサイズが徐々に縮小し、球状となる傾向を示します。円柱状あるいは樽状のサボテンの分布は低温により厳しく制限されていますが、球状のサボテンは寒さに強いようです。Gymnocalycium属のサイズが小さくなったのは、温暖な気候からより涼しい条件下へ適応した結果かも知れません。
かぶら状の根は水とデンプンの貯蔵に関係しています。かぶら状の根は高度の脱水に耐える能力があり、干ばつ時の水分損失を防ぎます。特にTrichomosemineum亜属とGymnocalycium亜属は、独特な多肉質の根を発達させる傾向があります。
基底系統であるMicrosemineum亜属、Pirisemineum亜属、Muscosemineum亜属は種子が小さく、果実はジューシーで色鮮やかです。この特徴は、endozoochory(※2)と関連があります。Macrosemineum亜属、Trichomosemineum亜属、Gymnocalycium亜属は乾燥した緑色の果実を持ち、これはアリ散布(myrmecochory)と関連があります。また、これらのグループは種子が大きいものもありますが、このような種子は散布されにくいものの発芽など活発な苗木を生み出す可能性があります。

※1 ) BCT caldeは、主に柱サボテンからなる巨大なグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。

※2 ) endozoochoryとは、果実が動物に食べられて体内で種子が運搬されること。被食散布される。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
注意事項としては、各亜属に書かれた学名は、論文が書かれた2011年当時のものであるため現在とは異なる部分があるかもしれません。また、書かれた学名は研究に用いた種を指しているだけで、すべての種を調査しているわけではありません。
さて、一応はギムノカリキウム属内の分類が科学的になされたわけですが、論文がやや古いためより精度の高い解析が望まれます。今回は割愛しましたが、論文では種ごとの関係まで解析されています。ただし、特にGymnocalycium亜属などは種ごとの関係性はあまり上手く解析出来ていないようです。おそらく、分散しながら急速に進化したため、既存の方法では上手くいかないのでしょう。さらなる研究が待たれます。


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アロエと言えば、美容関係や食品関係で使われるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)が有名ですが、知られていないだけで実はアロエは数百種類もあると言われています。サイズも数cmから十数mと、かなりの幅があります。しかし近年、アロエ属から樹木状のアロエ(Aloidendron)や叢生するアロエ(Aloiampelos)、葉が二列性のアロエ(Kumara)、三列性のアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア様のアロエ(Aristaloe)が分離されました。本日は樹木状のアロエ、つまりはアロイデンドロンの話です。
アロイデンドロンは南アフリカに育つディコトムム(Aloidendron dichotomum)が有名です。Aloe dichotomaといった方が、馴染みがあるかも知れません。アロイデンドロン以外にも大型になるアロエは他にもありますが、基本的に単幹で枝分かれせず、頭でっかちな外見となります。しかし、アロイデンドロンは枝の分岐を繰り返して樹冠を作り、樹木状の外見に育ちます。
さて、本日はアロイデンドロンの中でもAloidendron pillansiiについて書かれたColin C. Walkerの2024年の論文、『Aloidendron pillansii (L. Guthrie) Klopper & Gideon F. Sm. - a review of a Critically Endangered southern African tree aloe』を見てみましょう。

ピランシーの発見
Aloe pillansiiは、1928年にGuthrieにより記載されましたが、図解はありませんでした。ピランシーという名前は、南アフリカの著名な植物学者であるNeville Pillansにちなんで命名されました。A. pillansiiはPillansが1924年と1926年に行われたRichtersveld遠征で発見された種の1つです。Guthrieはその分布を、「南アフリカ、Little Namaqualand、Anisfonteinの南西、頂上が平らな丘の西斜面に豊富」としています。GuthrieはA. dichotomaと比較し、枝分かれがまばらで葉が大きく広がり、花序が散在し、雌しべがあまり突き出していないとしました。
Pillansは1935年に以下のように記述しています。「A. pillansiiは1926年10月にNamaqualandのRichtersveldのAnisfonteinの丘で発見されました。当時、ほとんどの植物はカナリア色の円錐花序をつけており、sugarbirdが訪れていました。この種はAnisfonteinからオレンジ川のSendlings Drift付近まで北に広がる狭い地域にのみ生息します。A. dichotoma(Kokerboom)とは、主幹に比べて枝が太く直立し、はるかに幅が広い葉で簡単に区別出来ます。高さ30フィートの植物は珍しくなく、最近少なくとも60フィート(≒18m)の植物の目撃情報があります。」

アロイデンドロンの誕生
2002年にZonneveldは 核DNA量の類似を根拠に、ディコトマの亜種、つまりA. dichotoma subsp. pillansiiとしました。
2013年にDuraらはアロエ属の遺伝子解析による分子系統を行い、A. tongaensis以外の樹木状アロエの系統関係が特定されました。アロエの系統樹でアロイデンドロンは基底群で、アロエの仲間では古い系統であり、A. pillansiiを含む樹木アロエは他のアロエとは異なる系統群を形成しました。この根拠に基づき、2013年にGraceらは6種類の樹木アロエをAloidendron Klopper & Gideon F. Smに分離しました。
2015年にVan Jaasveld & Juddによるアロイデンドロンに関する著作により、Kumara plicatilis(Aloe plicatilis)とともに扱われましたが、これはアロイデンドロンと必ずしも近縁ではありませんでした。

ピランシーの生息域
ピランシーの生息域はPillansが説明したように狭いのですが、ナミビア南部にも分布することが分かりました。3つの亜集団があり、1つはナミビアのRosh Pinah周辺、2つ目はRichtersveldの中央、3つ目はRichtersveld南部のEksteenfontein周辺です。ピランシーの分布に影響を与えている要因は、冬に霧の形で降水があることです。
2022年にSwartらは、ピランシーの生息地と生態についての特徴を要約しています。1〜345株の植物が単独で、あるいは局所的に豊富な小さなグループで発生します。通常はドロマイト、頁岩、砂岩、花崗岩などの様々な地層の露出した岩の多い地形で見つかります。地形は山の斜面から平地まで様々ですが、植物の大部分は東または西に面した斜面に生えます。降水量は年間50〜100mmですが、21世紀の干ばつにより一部の地域では雨が降りません。花は春(10月)に開花し、主にsugarbirdにより受粉しますが、他の鳥や蜂も関与している可能性があります。夏に果実は熟し種子が散布されます。だだし、干ばつの時期には開花しません。ピランシーは夏の気温が50℃を超えることもある厳しい環境に生息するため、耐熱性が顕著です。

ピランシーの減少
MidgleyはCornell's Kopにおけるピランシーの減少について考察しました。Reynoldsが1950年に出版した「The Aloes of South Africa」に記載された1950年以前に撮影された写真と、1997年当時の写真を比較しました。結果、「古い個体の減少と、新しい個体の欠如」が認められました。
2003年にLoots & Mannheimerはナミビアのピランシーの状況を調査しました。5つの集団で1500を超える植物を数えました。これらのうち、最大の集団は近くの採鉱が原因となり状態が悪いことが分かりました。また、すべての集団で新規植物の加入率が低いことが分かりました。
さらなるデータと評価は、Bolusら(2004)やDuncanら(2005, 2006)、Powell(2005)、Swart & Hoffman(2013)により提供されました。2022年にSwartらは、野生のA. pillansiiの状況に関する包括的な評価を行いました。
1, 3つの亜個体群があり、それぞれ気候と生息地の特性が異なります。
2, 野生の個体群の総数は5935個体以上、9000個体未満であることが確認されています。
3, ナミビア南部の北部亜集団の個体群は老化しています。密度が最も高く、個体群全体の46%が生息しています。苗木はなく、幼木もほとんどありません。
4, 中央の亜集団の個体群は約16%を占め、主にRichtersveld国境保護区内及び郊外に分布しています。最も密度が低い亜集団です。
5, 南部の亜集団の個体群は、約38%を占めています。

レッドリストの評価
上記のデータに基づき、Swartら(2022)はIUCNレッドリストで、A. pillansiiを絶滅危惧IA類(CR)としました。Swartらは以下のような脅威を特定しました。
1, 園芸取り引きのための違法な採取の結果として、中央亜集団の減少が報告されています。
2, 北部及び中央亜集団で、採掘活動により生息地の喪失と劣化が進行中です。砂の投棄や砂の採掘による二次的影響は、今後50年間に増加が予想されます。
3, 21世紀の極端な干ばつにより、個体数は減少しています。人為的な気候変動の影響は、現在及び将来的な主たる脅威であると考えられます。
4, 利用可能な餌不足により、ヒヒによる草食が大幅に増加し、特に南部の亜集団で深刻で、2015年から2020年の高い死亡率につながりました。

ワシントン条約(CITES)による規定では、ピランシーは付属書Iに掲載されています。ちなみに、付属書Iに掲載された南アフリカのアロエはわずか4種類です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では発見の経緯から分類や命名の変遷、自生地、生態など、多くの過去の研究による知見が上手くまとめられています。大変、勉強になりますね。しかし、どうやらピランシーは大変な希少種のようで、そもそもの分布が狭く数も少ない上、開発や環境変動によりダメージを受け、新しい個体が育っていないようです。新規加入がなければジリ貧ですから、ピランシーの将来は厳しいと言わざる得ないでしょう。何もできないことがもどかしくはありますが、簡単な解決策もないのが現状です。ピランシーが野生絶滅する前に、有効な保護がなされることを願っております。


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先日、オザキフラワーパークにてCycas debaoensisを購入しました。以前から、BBでラフレシアリサーチさんがたまに持ってきていたのは知っていたのですが、他に欲しい多肉植物が沢山あったので購入は見送ってきました。しかし、10月にヨネヤマプランテイションのイベントでC. debaoensisが沢山並んでいるのを見て、どうにも気になるものの、悩んだ挙げ句、結局は購入しませんでした。しかししかし、ついにオザキフラワーパークで我慢出来ませんでした。というわけで、早速情報を集めてみましたが、あまり有用そうな情報は見当たりませんでした。そこで、C. debaoensisの論文を漁って見ることにしました。
ということで、本日はLUO Wenhuaらの2014年の論文、『Ex situ conservation of Cycas debaoensis: a rare and endangered plant』をご紹介します。何とこの論文は中国語で書かれたものです。というか、C. debaoensisが中国原産のためか、中国語の論文がほとんどでした。漢字だと『珍稀瀕危植物徳保蘇鉄迁地保护研究』ですかね? 本文は簡体字ですがよくわからないので、これで合ってるかは不明です。ちなみに、中国語はわからないので、機械翻訳ですから内容に関してはやや不安ではあります。

中国のソテツ
中国にはCycas属のソテツが38種類あります。いずれも、国家第一級重点保護野生植物に指定されています。C. debaoensisは広西チワン族自治区南部に自生する中国の固有種で、二分性で羽状に分かれた美しい葉を持ち高い装飾性があります。深刻な人為的介入や密猟により、その野生個体の数は大幅に減少しており、保護のための効果的な対策が喫緊となっています。

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Cycas debaoensis

C. debaoensisの故郷
C. debaoensisの原産地は、広西チワン族自治区徳宝県から約30km離れた福平郷福平村近くの石灰岩の斜面です。分布地域は南亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温19.5℃、最低気温マイナス2.6℃、最高気温37.0℃です。年間降水量は1461mmで、夏と秋に集中し、冬と春は乾季となります。土壌は石灰岩が風化して出来た土壌で、中性から弱アルカリ性を示します。森林は近隣の村人が放牧や薪の伐採に利用しており、植生は二次的な矮性低木が優勢で、C. debaoensisは植生の中では優勢な種の1つです。植生は乾生性の低木と草本で、樹種の多様性は小さいようです。
生息域外保護区として、桂林市の南の郊外、燕山鎮にある桂林植物園内にもあります。中部亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は19.2℃、最も寒い1月の平均気温は8.4℃、最も暑い7月の平均気温は28.4℃でした。また、最高気温は40℃になり、冬には霜が降りることもあります。土壌はpH4.7〜5.6の酸性の赤土からなります。

最適な種子の保管方法
2010年に広西チワン族自治区徳宝県福平郷上平屯の野生ソテツ個体群から、200個を超える選別した種子を収集しました。収集した種子は外皮を剥ぎ、5% 過マンガン酸カリウム溶液で消毒し、水洗いしました。
C. debaoensisの種子は成熟しても胚は完全に発達しておらず後熟し、約6ヶ月休眠します。種子は①乾燥(常温)、②冷蔵(5℃)、③湿った砂の3条件で6ヶ月以上保管し、70%遮光下で温室内の苗床に播種しました。
①種子を常温保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約50%に低下しました。
②種子を冷蔵保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約60%に低下しました。
③種子を湿った砂に保管した場合、保管期間が150日以内ならば発芽率に差は見られず、発芽率は約80%でした。

C. debaoensisの生長
C. debaoensisの生長は遅く、現地調査では何十年も育った植物でも、茎は高さ50cmに満たないことが分かっています。栽培された8年生植物の高さの平均は15.2cm、直径の平均は17.2cmで、高さの年平均生長は1.9cmです。草丈と直径の生長のピークは樹齢4年目から6年目で、年平均生長は高さ3.0cm、幅3.8cmでした。その後の生長は鈍化します。
樹齢8年生のC. debaoensisは、一株あたりの葉の数は平均8枚で、葉の長さは平均302.6cmでした。小葉の長さは平均26.3cmで、枚数の平均は740枚でした。
桂林植物園のC. debaoensisでは、新芽が5〜6月、まれに7月に出ます。新芽の展開には約40日かかります。9月に花が咲き始め、11月中旬から下旬に果実は成熟します。また、原産地と比べると、開花期は1〜2ヶ月遅れ、種子の成熟期は1ヶ月遅れます。これは、場所による積算温度の違いが関係している可能性があります。

C. debaoensisの適応性
C. debaoensisは湿潤な環境に適していますが、乾燥耐性が高く乾燥した石灰岩の環境でもよく育ちます。土壌適応力が高く酸性土壌の桂林植物園でも正常に育ちます。桂林植物園においても開花・結実し、生育や葉色も原産地より優れています。C. debaoensisは耐寒性もあり、マイナス3℃〜マイナス1℃の低温下でも目立った凍害は発生しませんでした。

C. debaoensisの受粉
C. debaoensisの雄花の成熟期は雌花より5〜10日早いため、人工受粉を利用した方が結実量を増やすことが出来ます。雄花が成熟したら花粉を袋に集め、4℃前後の冷蔵庫で保管します。雌花が成熟したら、花粉を取り出し室温に10分以上放置した後に、ブラシで人工受粉します。人工受粉では1株の植物から生産される種子は、250個を超えることもあり、野生の植物より40%以上も多くなります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年、にわかに流通し始めたCycas debaoensisという蘇鉄の原産地の情報や育て方、増やし方などについての論文でした。原産地では希少な植物のようで、中国では国家により保護されているようです。希少種であるからには、原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが、ここでは一歩進んで人工受粉や種子の保管についても言及しています。原産地の保護と繁殖方法の確立、さらには地域の人々に対し保護について説明し理解してもらい、場合によっては協力していただければ最良です。まあ、ここまで行くにはかなりの時間と手間がかかりますから、簡単にはいかないでしょう。しかし、この論文のような研究は種の保護に対する端緒としてとても重要なものです。
「原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが」などと調子の良いことを言いましたが、残念ながら植物は動物と比較すると人気がなく、予算すらまともに下りず、絶滅危惧種であっても調査すらされていない場合が多いのが現状です。この植物を軽視する傾向は、植物の自生地の破壊や絶滅に拍車をかけていますが、改善される見込みはありません。莫大な予算が下りている大型哺乳類であっても、生息する環境に植物がなければ存続出来ないことは明らかです。種単体ではなく、生態や環境を含んだ総合的な保護が必要とされているのではないでしょうか。


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植物の名前は混乱しているものが多く、1つの植物に沢山の異名があることは珍しいことではありません。古い時代に記載された種では、そもそもそれが何を指していたのかがよくわからないケースもあります。これは、国際命名規約が整備される前のもので必要な情報が足りていなかったり、古いため記述された標本が戦争などで失われてしまい現存しないなど、種の判別のために必要な情報が不足しているためです。多肉植物の記載された時の情報を知りたいため、古い時代の記述を調べることがありますが、図譜はなく標本の指定もなく、ラテン語による2〜3行の簡素な特徴の説明があるだけだったりします。このように、古い時代の記述は混乱しており、それが何を指しているのかは植物学者が丹念に調査しないとわからないものばかりです。ですから、古い記述が実はある植物を指していたことが判明し、より古いというか先に命名された名前に修正されることも珍しくありません。
ということで、本日は命名に関する内容ということで、Detlev Metzing & Roberto Kieslingの2007年の論文、『Winterocereus (Cactaceae) is the corred name for Hildewintera』をご紹介します。

Hildewinteraの歴史
Borzicactus族は球状から円柱状になるサボテンのグループで、ボリビア、ペルー、アルゼンチンに分布し、主に鳥媒花です。その中で、二重花被という特徴を持つものが、1962年にWinteria aureispina F. Ritterとして記載されました。しかし、これは1784年に記載されたWintera Murrayと同名(parahomonymy)、1878年に記載されたWinteria Saccardoと同名(Homonymy)であるため、属名を変更する必要がありました。
1966年にWinterocereus Backebergと、それより3〜4ヶ月早くHildewintera F. ritterに変更する提案がなされました。(先取権により)Hildewinteraとなり、その妥当性については疑問視されたことはありませんでした。

Hildewinteraは非合法
2003年にHildewinteraの新種が記載された論文が出されました。その論文に対するコメントとして、W. Greuter(私信)はING(Index Nominum Genericorum)において、Hildewinteraの項目に「タイプ種に対する不完全な参照」が記されていることを気が付かせてくれました。
著者らはRitter(1966)による学名への参照のページ番号が省略されているため、「完全かつ直接的」ではなかったことを見逃していました。これは属名にも当てはまり、よってHildewinteraは有効に公表されなかった(not validly published)ことが判明しました。その結果、Backeberg(1966)が公表したWinteriocereusは、規約の要件をすべてみたし、もっとも古い利用可能な名前です。Rowley(1968)による索引への記載により、Hildewinteraは有効に公表されましたが、そこでもWinteriocereus Backeberg 1966が異名として記載されているため、Hildewinteraは非合法名です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
特に疑問もなく一般的に使用されてきたHildewinteraが実は有効に公表されていない非合法名であり、これを有効に公表されているWinterocereusとしましょうという提案でした。しかし、現在はWinterocereusはCleistocactus Lem.に吸収されてしまいました。著者らもCleistocactusに含める意見については承知しており、別属とすべきであることを改めて主張していますが、結局のところCleistocactusに統廃合されつしまったわけで、この論文の提案を無駄ではないかと思われるかも知れません。とはいえ、この論文は分類学的に意味があり、特定の分類群の命名に対する正しい知識を与えてくれます。ですから、データベース上でもこの論文の知見は活用されており、将来の分類学に対する有効な資料となっています。例えば、キュー王立植物園のデータベースでCleistocactusを見てみましょう。

Cleistocactus Lem., 1861.
Heterotypic Synonyms
Winteria F. Ritter, 1962, nom illeg.
Winterocereus Backeb., 1966.
Hildewintera F. Ritter ex G. D. Rowley, nom illeg.

以上のように、論文の知見が活用されています。WinteriaやHildewinteraが非合法名であることや、HildewinteraがRowleyにより再び記載されたことなどです。また、将来的にCleistocactusの再編が行われる可能性もあるため、その時にこの論文は重大な意味を持つことになるかも知れません。


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アガヴェは専門外なのですが、イベントでオマケでいただいた苗を2つ育てています。そんな縁もあり、たまにアガヴェについても記事にしています。そんなこんなで本日はアガヴェについての記事です。何でも、ネイティブアメリカンがかつてアガヴェを作物として栽培していたらしいのです。詳しく見てみましょう。本日ご紹介するのは、Wendy C. Hodsonらの2018年の論文、『Hohokam Lost Crop Found: A New Agave (Agavaceae) Species Only Known from Largescale pre-Columbian Agricultural Field in Southern Arizona』です。

アガヴェ栽培と考古学
考古学者は南アリゾナの先コロンブス期の居住者であるHohokam族が、大規模なアガヴェ栽培を行っていたことを提唱してきました。数千エーカーに及ぶ岩石や岩の配列や、アガヴェの収穫と加工に用いられた特徴的な石器、アガヴェを調理するための大きな焙煎穴などの証拠があります。1500年代半ばにスペイン人がアリゾナに到着したころには、1350年頃から始まる深刻な人口減少により、Hohokamの文化や農地利用のパターンは消滅していました。

Hohokam族と農業
Hohokam族は、現在のアリゾナ州中部と南部のソノラ砂漠で農業を営んでいました。Hohokamの社会は古代の狩猟採集集団から発展し、少なくとも4000年前からトウモロコシを栽培していました。Hohokam族は紀元後300年から1450年にかけて、Gila川、Salt川、San Pedro川、Santa Cruz川、Verde川とその支流に沿って、洗練された集約的な農業システムを開発しました。
数百マイルに及ぶ大規模で複雑な灌漑用水路と溝が、氾濫原と隣接する段丘で栽培される作物に水を供給しました。段丘ではトウモロコシ、tepary beans(Phaseolus acutifolius var. acutifolius)、ヒョウタン、アマランサス、綿花を栽培していました。西暦800年までにSan Pedro川などの川沿いに儀式用の舞踏場や土塁などの公共施設を備えた大規模なHohokamの竪穴式住居の村落が広がっていました。Salt川とGila川の流域では、Hohokamの人口は灌漑用水路の延長上に広がり、川の取水口から何マイルも離れていることも珍しくありませんでした。考古学者の推定によれば、西暦1300年までにHohokamの人口は約4万人に達しており、先史時代のアメリカ南西部ではもっとも人口が集中していた地域の1つでした。

先史時代の遺構
考古学者は、アガヴェはいくつかの河川沿いの畑の乾燥した地域で栽培されていたと推測しています。しかし、先史時代の灌漑氾濫原が沖積土に埋もれたため、アガヴェが栽培されていた証拠は山岳地帯のbajada(※1)とterrace(※2)でした見られません。bajadaとterraceは遠目には自然地形に見えますが、実際には重ねた岩や整列した岩により構築されており、乾燥農業用に修正され管理された人工的な景観を示します。

(※1)bajadaは、山の正面に沿い合体した一連の扇状地から構築される。

(※2)terraceは階段状の地形のこと。

アガヴェの痕跡
平板状の石ナイフや鋭角なパルプ加工用かんな、石鎚などの特殊な石器、焙煎穴の存在は、栽培されていた作物を特定するための重要な手がかりです。これらの道具は、先史時代を通じてアガヴェの食品あるいは飲料、繊維加工のために使用されていたからです。アリゾナ州中央部と南部のHohokam遺跡からは炭化したアガヴェが発見されており、葉の基部や繊維、葉柄の断片が含まれています。植物学的に見ると2種類以上のアガヴェが栽培されていたことが示唆されます。残念ながらアガヴェの残骸は断片的すぎて種の特定はできません。研究者は、Agave murpheyiやアリゾナ州のアガヴェ、またはメキシコ原産の栽培品種のいずれかが栽培されたと考えています。さらに、これらの先史時代の遺構や道具は、A. chrysanthaやA. deserti subsp. simplex、A. palmeri、A. parryiなどのアリゾナ州南東部及び中央部に分布する野生アガヴェの自生地より低い標高で発見されています。

先コロンブス期の栽培アガヴェ
1980年代初頭、Hodgson氏ら植物学者たちはアリゾナ州とメキシコのソノラ州北部で、先史時代の栽培アガヴェを突き止めるために現地調査を開始しました。アリゾナ州中部では先史時代の畑に残存するアガヴェの個体群を発見し、A. murpheyiとA. delamateriが先コロンブス期の栽培種であることを示しました。両種は種子をほとんど生成せず、根茎を介して容易に無性生殖するなど、栽培植物に共通する特徴を持っています。形態学的変異はほとんど見られず、自然環境ではないterraceなどの考古学的な環境に関連して生育しています。2007年にParkerらによる研究では、両種ともに野生のアガヴェより遺伝的多様性が低いことがわかりました。これは、作物に期待される特徴です。

未知の栽培アガヴェ
Clark & Lyons(2012)は、San Pedro川の考古学研究書において、完新世の氾濫原を見下ろすアリゾナ州南部にあるHohokamの乾性耕作地の段丘に、生きたアガヴェが存在することを明らかにしました。農地のいくつかは60ヘクタールを超えていました。畑に生えるアガヴェの写真は注目を集めましたが、種の同定はできませんでした。HodgsonとSalywonは現地を訪れ、そのアガヴェが未記載種であることを突き止めました。

新種アガヴェの情報
Agave sanpedroensis W. C. Hodgson & A. M. Salywon sp. nov.
タイプ: アメリカ合衆国、アリゾナ州Pima郡、標高914m、ソノラ砂漠上部の低木地帯、多数の先コロンブス期のbajadaとterrace。

自生地はTortolita山脈近くの1か所で、12以下の個体群が知られています。人工的な先コロンブス期の農地でのみ発生し、自然環境には見られません。分布域には、Calliandra eriophylla(緋合歓)、Carnegiea gigantea(弁慶柱、Saguaro)、Cylindropuntia fulgida(cholla)、Ferocactus wislizeni、Fouquieria splendens、Opuntia engelmannii、Opuntia phaeacantha、Parkinsonia microphylla、Prosopis velutina(ベルベットメスキート)、Eragrostis lehmannianaが自生します。
花色はA. phillipsianaおよびA. palmeriに類似しています。A. sanpedroensisのS字型の曲がりくねった細い花序と大きく厚みのある花は、A. phillipsianaに似ています。これは側枝のある頑丈な花序があるA. palmeriとは異なります。A. sanpedroensisの厚みのある基部と芽の形の刻印がある灰緑色の葉を持ち、目立って厚みがなく芽の形の刻印がなく、より濃い緑色のA. phillipsianaおよびA. palmeriとは異なります。
高さ及び幅は50〜70cmで、ロゼットは開き、根茎は自由に分離しクローンを形成する。葉は線状披針形から線状倒披針形で、長さ44〜49cmで縁は波打ちます。縁歯は強く反り返り、時々直立または上向きになります。花は7月下旬から8月で、果実は発育初期に枯れるらしく、知られていません。
著者らは開花した花を2個体観察しましたが、果実はありませんでした。不稔のように見えますが、根茎により容易に無性生殖するため、放棄されてから何世紀にも渡り畑で生き残ってきました。A. sanpedroensisが不稔である理由はわかりません。おそらく自家和合性がなく、野生個体の分布域外で育ったため、環境が着果に合わないであるとか、人為的選択の結果として遺伝的不適合があるのかも知れません。または、無性生殖のために意図的に選抜された可能性もあります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
驚くべきことに、先史時代に栽培されていたと思しきアガヴェの新種について述べられています。おそらく不稔で種子が出来ず、シュートなどの栄養繁殖で増える特徴はいかにも栽培植物です。 気になるのはAgave sanpedroensisの出自です。栽培された元の種は何だったのでしょうか? 近隣のアガヴェの交配種でしょうか? あるいはメキシコなど他所からの移入も考えられます。単に原種は絶滅して栽培植物だけ生き残っただけかもしれません。詳細は遺伝子解析が行われていないため、わかりませんが著者らも気にしているようですから、何れ解明されるでしょう。 さて、最後にアガヴェ栽培を行う意味について考えてみましょう。アガヴェは育つのに時間がかかりますから、日常的な生活を支える栽培作物とは言えないでしょう。ある程度の生活的余剰があることが見て取れます。そして、その文化が失われたのは、Hohokamの衰退ともに失われていったのでしょう。著者らは他地域からの侵入など、外圧を示唆しています。考古学とリンクした面白い研究ですが、この研究を受けて考古学者たちがどのような考えを持つのか気になりますね。


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先日、ここ10年あまりのアガヴェの新種について、記事を書きました。その中で、今年出た論文でアガヴェから新属を分離するという話がありました。これは、一体どういうことなのでしょうか? 詳細が知りたいため、当該論文を読んでみることにしました。
ということで、本日はJ. Anthonio Vazquez-Garciaらの2024年の論文、『NEW GENERA AND NEW COMBINATIONS IN AGAVACEAE (ASPARAGALES)』をご紹介しましょう。

アガヴェの歴史
Agave属(Agave L.、リュウゼツラン属)の分類学上の位置づけと、リュウゼツラン科(Agavaceae)は歴史的に変化してきました。Bentham & Hooker(1883)およびEngler & Prantl(1988)の分類体系では、主に子房下位の特徴からアガヴェは他のユリ科植物と共にアマリリス亜綱(Amaryllidae)に分類されました。Hutchinson(1934)と長く使われてきたCronquist(1981)の分類体系では、子房の位置に関係なく多かれ少なかれ繊維状の葉を持つリュウゼツラン科に含まれてていました。しかし、YuccaとAgaveだけが独自の核型を共有していることが分かり、Agaveのような核型を持つギボウシ(Hosta)をリュウゼツラン科とする解釈や、それをただの収斂進化と見る研究者もいました。Dahlgrenら(1985)の分類体系では、化学的特徴を追加しリュウゼツラン科をYucca族(Yucceae)とAgave族(Agaveae)により減らしましたが、これは後の遺伝子解析により裏付けられています。遺伝子解析による国際的な植物分類の研究の成果であるAPGシステムでは、APG II(2003)まではリュウゼツラン科は認識されていましたが、以降はキジカクシ科(Asparagaceae)という大きな科に含まれることになりました(APG III, 2009、APG IV, 2016)。同様にAgave属はManfredaやPolianthes、Prochnyanthesなど、伝統的に形態が異なる属を含むように拡大しました(Thiede et al., 2020)。

Choritepalae節の誕生
Gentry(1982)はAgave bracteosaとAgave ellemeetianaが、トゲのない葉と明確な花冠節を持つ円盤状の花托という際立った特徴を共有していることを指摘しました。2015年にはChoritepalae節として公式化されました。Gentryはその特徴からこのグループをAgave属から分離する提案を行いました。最近の遺伝子解析では、約618万年前にA. bracteosaが広義のAgaveから早期に分離し、約425万年前にA. ellemeetianaがJuncineae節から分離したと推定されます。Juncineae節はかつてStrictaグループと呼ばれていました。

新属の分離
以前の著者らは、Agave属を単系統群として、Manfreda、Polianthes、ProchnyanthesをAgave属に含めることを提案しました。しかし、この分類では形態が異常に多様になっています。遺伝的(Jamez-Barron et.al. 2020)、形態学的、推定分岐年代の証拠から、Agave属のより正確な範囲を指定し、Echinoagave、Paraagave、Paleoagaveの3つの新属を分離します。

Agave sensu lato(広義のアガヴェ)の系統解析

          ┏━━Agave sensu stricto 
      ┏┫   (狭義のアガヴェ)
      ┃┃┏━Polianthes
      ┃┗┫ (incl. Prochnyanthes)
  ┏┫    ┗━Manfreda
  ┃┃
  ┃┃┏━━Echinoagave
  ┃┗┫
  ┫    ┗━━Paraagave
  ┃
  ┗━━━━Paleoagave


新属をAgave属から分離する目的は、より自然なあるいは単系統群に基づき、正確な分類を提供することです。また、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesからなる系統群は狭義のAgave属(Agave sensu stricto)とは分けられます。分類群の特徴とサンプル数を増やすことで、Manfreda、Polianthes、Prochnyanthesの間の関係をより明確に出来る可能性があります。

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Agave striata=Echinoagave striata
筑波実験植物園(2024年7月)


Agaveの分類
①Echinoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線があり先端はカールせずにトゲがある。花は交互に均等な融合花被片を持ち筒状。
1. E. albopilosa (A. albopilosa)
2. E. cryptica (A. cryptica)
3. E. cremnophila (A. cremnophila)
4. E. dasylirioides (A. dasylirioides)
5. E. gracielae (A. gracielae)
6. E. kavandivi (A. kavandivi)
7. E. lexii (A. lexii)
8. E. petrophila (A. petrophila)
9. E. rzedowskiana (A. rzedowskiana)
10. E. strata (A. strata)
11. E. stricta (A. stricta)
12. E. tenuifolia (A. tenuifolia)

②Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状。葉は条線がなく先端はカールしトゲはない。花は交互に不均等な自由花被片を持つ。
1. P. bracteosa (A. bracteosa)

③Paleoagave
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲはなく、先端は硬い。
1. P. ellemeetiana (A. ellemeetiana) 

④Agave sensu stricto
葉縁は微細な鋸歯状ではない。葉の先端にトゲがある。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
趣旨としてはアガヴェから、3つの属を分離する提案です。割りとはっきりした結果ですので、認められまる可能性は高いように思われます。個人的にはこの提案には驚きました。というのも、分離されるのがManfredaやPolianthesといったアガヴェらしからぬグループではなかったからです。Manfredaなどはアガヴェとはかなり外見上の特徴は異なりますから、アガヴェ属への統廃合には違和感を覚える人も多いでしょう。しかし、狭義のAgaveとManfreda、Polianthesは非常に近縁で、新属Echinoagaveなどと遺伝的にかなり距離があるようです。要するに、EchinoagaveやParaagave、Paleoagaveの方がManfredaなどよりも分離の要件を満たしているということです。ただ、今年発表されたばかりの論文ですから、まだ3つの新属は認められていません。今後、審査されていくでしょう。来年、「The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2025. 」において新属として記載されるか、私も注視していきたいと思います。

ManfredaとPolianthes
次に気になるのはManfredaやPolianthesの今後でしょう。著者らのグループは、かつて古い時代の遺伝子解析結果を元に、ManfredaやPolianthesがアガヴェから分離出来ないことを指摘し、結果としてManfredaやPolianthesはアガヴェ属に統廃合されていきました。しかし、新しい遺伝子解析結果では、
ManfredaやPolianthesは明確に狭義のアガヴェから分離されているように見えます。ただ、サンプル数が少ないためManfredaやPolianthesとされる種のすべてで明瞭に分離が可能であるかは、まだわかりません。著者らもその点を明らかにする必要性を指摘しています。思うこととして、古い時代の遺伝子解析は精度が甘いので、大まかな傾向としては正しくても、細かい部分の信頼性には疑問がある場合もあることは薄々感じていました。といったわけで、ManfredaやPolianthesはアガヴェから分離される可能性もありますが、現時点でははっきりとしたことは言えないように思われます。今後の研究に期待しましょう。


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最近Yahooニュースで、イスラエルの洞窟からおよそ1000年前のコミフォラの種子が発見され、播種したところ発芽したという記事があがりました。日本でも古代蓮の例がありますが、古い時代の埋蔵種子の復活はなかなかロマンがあります。コミフォラ自体は日本人にはあまり馴染みがありませんが、近年では多肉植物ブームにより非常に高価ではありますがチラホラ見かけるようになりました。コミフォラは日本では観葉植物の域を出ませんが、海外では意味合いが異なります。何せ聖書に出てくる没薬とは、コミフォラやボスウェリアの樹脂のことだからです。

しかし、記事を読んでみても、どうも今ひとつ頭に内容が入ってきませんでした。例えば、「学者による種レベルの解析に必要な繁殖物質がつくられていないからだ」とか、何やら不自然な文章でよく意味がわかりません。これはおそらく、植物の分類や種の同定は花が基準になっていますから、未開花だと種の同定が難しいですよという意味でしょうか。わかりにくいので、元の論文をよんでみることにしました。ということで、Sarah Sallonらの2024年の論文、『Characterization and analysis of a Commiphora species germinated from an ancient seed suggests a possible connection to species mentioned in the Bible』をご紹介しましょう。

コミフォラとは
Commiphoraは乳香(Frankincense)や没薬(Myrrh)が豊富なブルセラ科の仲間で、主にアフリカ、マダガスカル、アラビア半島に分布します。この仲間の生産する芳香性樹脂やオレオレジンのために、経済的および民族植物学の観点から評価されてきました。オレオレジンが民族医療に用いられている25種のコミフォラのうち、C. gileadensisは「ユダヤバルサム(Judean Balsam)」または「ユダヤの香油(Balm of Gilead)」の候補であると考えられてきました。ユダヤバルサムは死海流域のオアシスで少なくとも1000年以上に渡り独占的に栽培されてきました。古代ユダヤのもっとも重要な輸出品であり、その芳香性と経済的な意味合いで高く評価されてきました。しかし、ユダヤバルサムは9世紀までに姿を消し、その正体について論争が続いています。候補であるC. gileadensisは記述された形態との違いや、南レバント(イスラエル、パレスチナ、ヨルダン)にコミフォラが発見された遺跡がなく、今日においても在来のコミフォラは存在しないことから、異論の余地があります。

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Balsamodendrum opobalsamum
 =Commiphora gileadensis
「Medical plants.」(1880年)より。


古代の種子の復活
1986年から1987年にかけて実施されたユダヤ砂漠北部の洞窟の考古学調査の際に、正体不明の種子が発見されました。種子の放射性炭素年代では、西暦993年から1202年と推定されます。種子は大学に保管され、2010年に温室で播種されました。謎の種子は播種より約5週間後に発芽しました。
「Sheba」というあだ名をもらった苗は、コミフォラ属に典型的な形態学的特徴を示しました。現在は実生より14年経ち、高さは約3mになりました。樹皮は淡い緑がかった褐色で薄くシート状に剥がれ、その下は濃い緑色です。また、12月から4月までの涼しい時期には落葉し、樹皮を傷つけると透明のオレオレジンが少量出ます。しかし、葉や樹皮、樹脂からは、香りはほとんどありませんでした。「Sheba」はまだ開花していないため、現時点では種を判別する材料がありません。


遺伝子解析
「Sheba」と他のコミフォラ属109種との分子系統解析を行いました。「Sheba」は種が多く広範囲に分布するSpinescens cladeに含まれる、南アフリカ原産のコミフォラであるC. angolensis、C. neglecta、C. tenuipetiolataの姉妹種であることが判明しました。Spinescens cladeにはトゲのあるタイプと、商業的にオレオレジンが採取されるコミフォラのほとんどを含みます。
しかし、約200種知られるコミフォラのうち109種しか解析していないため、既存種と一致するものがあるかわかりません。そのため、ラテン語の学名を決定することができません。

仮説1 Judean Balsam
著者らは「Sheba」は古代に栽培されていた「ユダヤバルサム」あるいは「ユダヤの香油」の候補なのではないかと考えました。ユダヤバルサムのオレオレジンは古代ユダヤのもっとも貴重な商品であり、ローマ帝国に輸出されたオレオレジンは香水やお香、白内障の治療、防腐剤、解毒剤、儀式に用いられました。
死海地域のオアシスで栽培されていたユダヤバルサムは、古代ユダヤ特有のものとされています。しかし、その原産地であるとは考えられておりません。StrabonやJosephus Flaviusなどの古代の評論家は、その起源をエチオピア、エリトリア、南アラビアの一部を含む、古代Saba王国としています。古代Saba王国は香木やスパイス貿易への関与が知られています。南アラビアとイスラエル王国の交易は年代的にこの時代まで遡ることができます。ユダヤバルサムがユダヤに導入されたのは、紀元前10世紀、または紀元前8世紀のアッシリアによるイスラエル征服後であることが示唆されます。しかし、その経済的重要性にもかかわらず、ユダヤバルサムは「真のバルサム」(true Balsam)と共に9世紀までには姿を消しています。エジプトのヘリオポリスにあるAyn Shams (Matariyya)の庭園にのみ残り、ユダヤ原産とされる不稔株(sterile strain)が16世紀まで栽培されていたと言われています。

Judean Balsamとは?
ユダヤバルサムの同定は長い間、議論の的となってきました。18世紀以来、C. gileadensisがユダヤバルサムのもっとも有力な候補と考えられてきました。C. gileadensisは一般的に「ギレアドの香油」として知られ、アラビア半島と北東熱帯アフリカ原産の低木です。古代からユダヤバルサムの画像はほぼ残っていませんが、6世紀に描かれたモザイク画では、3葉の低木状の茂みがユダヤバルサムのプランテーションを表していると考えられています。しかし、Balanites aegypticaを含むいくつかの樹脂を生産する樹木もユダヤバルサムの候補です。また、C. gileadensis以外にも芳香性樹脂を目的に栽培されるC. africana、C. schimperi、C. habessinica、C. wightiiも候補です。
「Sheba」の葉や樹脂の化学成分の分析ではコミフォラの主要な芳香成分は検出されず、燃やしても揮発性の芳香成分は検出されませんでした。よって、「Sheba」は商業的な利用はされておらず、ユダヤバルサムではないと考えられます。

仮説2 "tsuori"
「Sheba」の成分分析では、創傷治癒や抗炎症、抗菌、抗ウイルス、肝臓保護、抗腫瘍活性があるとされる化学成分が検出されており、「Sheba」がその芳香目的ではなく医療などに利用されていた可能性があります。聖書には樹脂の抽出物である「tsuori」が記載されており、治癒に関連する貴重な物質であると考えられています。ちなみに、「tsuori」には芳香性があるという記述はありません。
聖書の「tsuori」は、紀元前18〜16世紀(中期青銅時代)の聖書資料(創世記)と、紀元前7〜6世紀(鉄器時代II)の文献(エレミア書)で言及されており、長い間議論の的となってきました。「tsuori」をユダヤバルサムと同一視する意見もありますが、それを証明する証拠は不十分です。聖書に登場する「tsuori」はおそらくは地元に分布し、死海・ヨルダン地溝帯のGilead地域と関連付けられます。古代のGilead地域は山岳の豊かな森林で、その下には肥沃は谷なあり、歴史を通じて集中的に耕作されてきました。「Sheba」もまた死海・ヨルダン地溝帯の洞窟で発見されています。
薬効成分のうち、五環性トリテルペノイドはC. confusaとC. holziannaで検出されています。「Sheba」の葉や茎には、皮膚軟化作用、抗酸化作用、保湿作用、抗腫瘍作用などが確認されている多価不飽和脂肪酸であるスクアレンが高濃度(30%)に含まれています。「Sheba」の樹脂から検出された糖脂質化合物は他には報告がありません。


「Sheba」の謎
著者らは「Sheba」が聖書に記述された「tsuori」である可能性を指摘しました。さらに、著者らは何故「Sheba」がユダヤ砂漠の洞窟に埋もれていたのかを考察しています。
コミフォラの果実を鳥が食べたり、種子を小型のげっ歯類が埋めて備蓄することが分かっています。発見された種子が少ないことからも、動物により運ばれ埋蔵された可能性は否定できません。しかし、人為的に種子が洞窟に保管されていた可能性も依然として存在します。
西暦9世紀にこの地域からユダヤバルサムが姿を消してしばらく経った時期には、かなりの政治的、社会的動乱が起こりました。動乱は初期ファーティマ朝とセルジューク朝の争い、1099年の第1回十字軍の到来、12世紀初頭に建国されたエルサレム王国の領土拡大のための戦争を経て、1289年のエルサレム王国の崩壊まで続きました。地元住民と支配者との戦闘や経済的困難から、この時期のユダヤ砂漠のいくつかの洞窟を織物など地元の物品の安全な保管場所として利用していた考古学的な証拠があります。しかし、他の遺物がほとんどないことから、住居としては使用されていなかったことが示唆されます。
おそらく商業と関係があった「Sheba」の生き残りから採れた種子は、洞窟に隠すほど貴重だったのかも知れません。この遺跡からは、銅器時代(紀元前5千年紀)の人骨、紀元前1世紀から4世紀のナツメヤシの種子、ローマ時代の遺跡などが見つかっています。


再びのJudean Balsam
もし、外来種とされるユダヤバルサムがコミフォラ属であったならば、在来の「Sheba」などを台木として接ぎ木されていた可能性もあります。その場合、C. gileadensisとの違いや、時代ごとにユダヤバルサムの記述が変化する謎が説明できます。例えば、「ザクロに似た背の高い木」(紀元前4世紀、テオプラストス)、「小さな低木サイズの木」(1世紀、ストラボン)などです。これらの変化は、何世紀にもわたる栽培化によるC. gileadensisの栽培品種であると説明されてきましたが、接ぎ木による穂木の活力低下により矮性化が引き起こされた可能性があります。接ぎ木は台木による種子中絶(abortion)や種無し果実を引き起こす単為結果(parthenocarpy)と関連するため、ユダヤバルサム栽培に関連する発掘現場からコミフォラの種子が発見されない理由かも知れません。接ぎ木は、紀元前1800年頃に開発され、紀元前5世紀までにギリシャに定着し、ローマ時代には一般化しており、紀元前4世紀からその支配下にあったユダヤ農民には馴染みがあった可能性が高いと言えます。接ぎ木の利点として、死海地域のストレスの多い乾燥貧栄養状態への適応、土壌の病原菌、土壌のpH、塩分、干ばつ、洪水などのストレスへの耐性の向上が挙げられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
聖書が啓典宗教にとって重要な意味を持つことは、皆様よくご存知のことと思いますが、対するこだわりは思った以上です。例えば、聖書に登場する植物だけをまとめたマニアックな本ですら昔から沢山出版されているくらいです。古代の洞窟から発見された種子「Sheba」がコミフォラとわかった時は、研究者たちも色めき立ったことでしょう。「Sheba」は重要かつ謎多きユダヤバルサムの可能性すらありましたが、残念ながら「Sheba」からは芳香成分は検出されませんでした。著者らは治癒に関連する「tsuori」である可能性を考えています。しかし、直接的な証拠はなく、今後の発掘調査に期待する感じでしょうか。
さて、論文では遺伝子解析をしていますが、種の同定にまで至っておりません。現実的にすべての種との比較はなかなか難しいでしょう。この論文で外見的特徴による同定がなされていないのは、葉や茎だけでは種の判別が難しいからということのようです。植物の同定は花が重要なため、「Sheba」は未だに開花していないため同定できません。「Sheba」の開花のニュースを待つしかなさそうです。


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烏羽玉の仲間、つまりはペヨーテは幻覚作用を持つアルカロイドを含み、アメリカでは先住民が宗教的な意味合いで古くから利用してきました。南米ではTrichocereusの仲間をSan Pedroと呼び、やはりその幻覚作用を利用してきました。しかし、San Pedroはペヨーテほど一般的ではないせいか、あまり良い論文を見つけ出せずにいましたが、ようやく見つけ出せたので記事にします。
本日ご紹介するのは、Marlene Dobkinの1968年の論文、『Trichocereus pachanoi -A Mescaline Cactus Used in Folk Healing in Peru』です。ペルーの民間療法を調査した民族学的な研究です。言い訳になりますが、論文の出版が1968年と非常に古く、文字が掠れてよく読めない部分が多々ありましたので、内容的に不正確な訳があるやもしれないということはご了承いただきたいところです。

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San Pedro (Trichocereus pachanoi) at Cataluco, near Huancabamba.
「Botanical Museum leaflets, Harvard University v.29」(1983年)


魔術的治療の調査
著者は1967年の夏に、リマの北約500マイルにある沿岸のメスティソの村で調査を行いました。Lambayeque県にある小さな農業コミュニティでは、100人以上の男性と3人の女性が、Trichocereus pachanoiの使用により病気の診断と治療に取り組んでいます。著者は病気に対する信念体系と、薬物と魔術について調査しました。

魔術的な治療
ペルーの沿岸農民は病気について、その経験則的な病因は認識しているものの、病気の根本原因を超自然的なものとしています。なので、経験的な治療は評価されていますが、魔術や祈祷が優先しあくまでも補助的なものです。病気の原因は聖地や墓、遺跡から発せられる蒸気や空気によると信じられます。
医療施設やバランスの取れた食事がなく、衛生設備も劣悪なため、病気からくる不安を抱えた住民は民間療法士(folk healer)であるmesaに相談します。夜通しの治療の儀式で、療法士と患者はSan Pedroで作った薬を飲みます。薬の作用がある間に療法士は病気の原因を占い、病人に投与する薬草を処方します。患者は村内だけではなく、友人や親戚から紹介され、遠く離れた地域からも訪れます。

処方
すべての療法士は治療の儀式でTrichocereus pachanoiを利用しますが、添加物や儀式にはバリエーションがあります。療法士の中には、下剤作用と不眠効果を高めるCondorillo(Lycopodium sp.、ヒカゲノカズラ類)、Misha(Datura arborea、キダチチョウセンアサガオ)、Hornamo(未確認)を加える場合もあります。ある療法士によると、Mishaは特に衰弱している患者に大量に与えると死に至る可能性があるということです。San Pedroとその添加物は吐気および激しい嘔吐を引き起こしますが、これは病人から不純物を取り除き浄化させるために重要であると考えられています。療法士は患者の体の大きさや病気の性質、罹患期間の長さに基づいて投薬量を決定します。一般的にサボテンは細かく切り刻まれ、水に入れてエッセンスだけが残るまで数時間煮られます。治癒の力は療法士が使用する物質に宿ると信じられています。

儀式
以下は著者がVallesecoで観察したある治療儀式の様子です。
バスで4時間ほど離れた町から3人の患者がやって来ました。儀式は夜間に行われ、人工的な照明は一切使われませんでした。
助手を務める治療師の弟子は、タバコと水の混合物を嗅ぎタバコとして吸い込みました。治療師はスペイン語で主の祈りに始まる、かなりメロディアスで心地良いな歌を歌い始めました。その後は、ラテン語とケチュア語の混じる自然な詩が続きました。歌にはガラガラの役目を果たすヒョウタンによるリズミカルな伴奏がありました。約1時間の歌唱の後に、San Pedroのエッセンスがカップに注がれ、その効果を高めるためにカップは石や剣、磨かれた棒により軽く叩かれました。
時折、患者と治療師、助手は外に出て催吐作用のある薬を吐き出しました。聖母マリアと神に祈りを捧げながら、さらに歌は続きました。時折、歌は治療師が病人に与えるであろう助けを朗読しました。患者は順番に立ち上がり、助手は装飾のある剣を患者の足の間に置き、患者に柄をつかませました。助手は嗅ぎタバコとして鼻にタバコをくわえ、剣を患者の体のあちこちに、十字を描くように擦り付けられました。
治療師は患者の症状とその問題について話し合い、完了すると歌を再開しました。やがて、助手が立ち上がり、空中に水を撒き、剣で空気を切り、「悪霊」(evil spirits)を追い払いました。別のタイミングで治療師は磨かれた石のいくつかを擦り合わせ、夜の暗闇の中に火花を飛ばしました。夜が明け、最後に一連の歌が歌われ儀式は終了しました。


その解釈
治療師たちはサボテンの効果が続くと、患者を苦しめている病気の性質についての洞察が得られると主張しています。石(herbal stone)を打つことで刺激されるビジョンは治療師たちの誇りであり、処方のための情報源です。治療師たちは病気を取り除く象徴として、病人にかける何らかの物体、あるいは小さなモルモット(cuye)を使用します。
治療師たちが用いる儀式の多くはローマ・カトリックの信仰と融合しており、実際の儀式にもカトリックの典礼がそのまま取り込まれています。カトリック教徒が多数を占めるこの土地では、馴染みのあるラテン語の祈りも唱えられます。祈りは様々なカトリックの聖人に向けられ、病人のためにとりなしてくれるように懇願されます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
普段あまり読まない内容ですから、割りと新鮮な気分で読めました。しかし、San Pedroは激しい嘔吐を伴うため、その使用は極めて宗教的な目的に限定せざる得ないようにも思われます。ペヨーテはドラッグとして法的に規制されている国もありますが、San Pedroはどうでしょうか? 抽出成分ならいざ知らず、サボテンを食べたり煮出した汁を飲んだけでは、ただただ苦しいだけでしょう。やはり、その豪華で美しい花を楽しむのが一番ですよね。


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トリコケレウスには幻覚作用があり、古来よりシャーマンが儀式に使用してきたと言われています。その成分や効果、あるいは使用について調べていたのですが、思わぬ論文を見つけました。それは、Cristian Corioらの2013年の論文、『An alkaloid fraction extracted from the cactus Trichocereus terscheckii affects fitness in the cactophilic fly Drosophila buzzatii (Diptera: Drosophilidae)』です。私はトリコケレウスは何故そのような成分を有しているのかは考えたことがありませんでしたが、論文では実験によりその謎を考察しています。

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Trichocereus terscheckii
『The Cactaceae II』(1920)より。

好サボテン性害虫
南米の好サボテン性のショウジョウバエであるDrosophila buzzatiiは、ウチワサボテンの腐った枝葉に好んで卵を産みますが、CereusやEchinopsisといった柱サボテンかにも見られます。しかし、柱サボテンで飼育したハエは、生存率の低下や、サイズの小型化、発育に時間がかかるなどの特徴が見られました。ウチワサボテンと異なり柱サボテンはアルカロイドや中鎖脂肪酸、ステロールジオール、トリテルペン配糖体などの毒性化合物を生成します。
ショウジョウバエはアルゼンチンのSan Juan州で、発酵させたバナナを用いて集められました。採取地ではD. buzzatiiが繁殖し、主にOpuntia sulphureaの腐った茎につきます。次いでT. terscheckiiにもつきます。

Trichocereus terscheckiiのアルカロイド
Trichocereus terscheckiiの化学的性質については、ほとんど知られていません。そこで、T. terscheckiiの抽出物の、好サボテン性ショウジョウバエのDrosophila buzzatiiへの影響を調べました。
T. terscheckiiはショウジョウバエの採取地で採取され、成分を分析しました。分析すると
T. terscheckiiの組織には、≒0.33mg/gのアルカロイドが含まれていました。これは、T. terscheckiiには0.25〜1.2%のアルカロイドが含まれている可能性を示した過去の研究内容と一致します。

アルカロイドの影響
T. terscheckiiの成分をアルカロイドと非アルカロイドに分離し、サボテンに含まれる濃度に調製し、D. buzzatiiに与えました。T. terscheckii由来成分を与えていないコントロールと比較すると、T. terscheckiiのアルカロイドを与えたショウジョウバエの生存率は低くなりました。また、T. terscheckiiの非アルカロイド成分を与えたショウジョウバエは、コントロールより生存率が高くなりました。また、幼虫の生存率には違いが見られず、生存率の差は蛹になって以降に生じているようです。
ショウジョウバエの羽を分析したところ、アルカロイドを与えたハエの多くは羽の展開に失敗したか、異常な羽脈パターンを示しました。また、アルカロイドを与えたハエは羽が小型化していました。


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Trichocereus terscheckiiの花と果実

最後に
ウチワサボテンの害虫であるDrosophila buzzatiiに対するTrichocereus terscheckiiの影響は、幼虫の成長遅延と生存率の低下でした。蛹化後に生存率が下がることから、羽化に失敗していることが考えられます。羽の小型化や異常からも、T. terscheckiiはD. buzzatiiの適した餌ではないのでしょう。ただし、ショウジョウバエの生存率が下がると言っても、それは蛹化後なのですからハエの幼虫が育ちきった後の話です。ハエは周囲のウチワサボテンからやって来ますから、生存率が低下しても食害が減少するようには思えません。ハエがT. terscheckiiを好まず産卵数が少ないなどの現象があるかなど、T. terscheckiiに有利な適応であると言えるのかを確認する必要があるかも知れません。

さて、これは蛇足なのですが、最後に少しだけ
T. terscheckiiについての話をします。他の柱サボテンと同様に、はじめに記載された時はCereusでした。1837年のことです。次いで、1920年にBritton & RoseによりTrichocereusとされました。おそらく一番使用されてきた名前でしょう。その後、TrichocereusやLobiviaをEchinopsisに統合すると言う動きがあり、T. terscheckiiも1974年にはEchinopsisとされました。しかし、近年の遺伝子解析技術により、巨大化したEchinopsis属は外見的な特徴が似ているだけで、近縁ではないものも含んだ雑多なグループであることが明らかとなったのです。肥大化したEchinopsisは徹底的に分解され、わずか20種類の小属におさまりました。T. terscheckiiも2012年にLeucosteleに分類されました。


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サボテンも生物である以上は繁殖する必要があり、そのために花を咲かせます。しかし、一口にサボテンと言ってもその繁殖戦略は様々で、花粉媒介者も昆虫だけではなくハチドリやコウモリにより受粉するサボテンもあります。当ブログでは度々サボテンの受粉様式=受粉生物学をご紹介してきました。参照とするのは、Bruno Henrique dos Santos Ferreiraらの2020年の論文、『Flowering and pollination ecology of Cleistocactus baumannii (Cactaceae) in the Brazilian Chaco: pollinator dependence and floral larceny』です。本日の主役はブラジルとその周囲に分布するヒモ状のサボテン、Cleistocactus baumanniiです。

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Cleistocactus baumannii(右)
筒状の花に注目。
『The Cactaceae II』(1920年)より。


C. baumanniiは鳥媒?
サボテンはブラジルのCaatingaやChaco植生の重要な要素の1つです。サボテン科の中でも、南米のサボテンでは様々な系統で鳥媒が想定されています。Cleistocactusは鳥による受粉に極端に特化した例として挙げられますが、それは花の特徴から推測されたものでした。Cleistocactusの受粉の評価は2016年(Gorostiague & Ortega-Baes, 2016)に行われ、C. baumanniiはハチドリによってのみ受粉し、C. smaradigoflorusはハチドリとミツバチにより受粉する可能性が示されました。
C. baumanniiはアルゼンチンやブラジルでは、アオムネヒメエメラルドハチドリ(Chlorostilbon lucidus)だけが花粉媒介者であると考えられています。しかし、花を訪問する昆虫による盗蜜の影響を調査する必要があります。


盗蜜
盗蜜者(nectar robbers)は、受粉せずに花の資源(花蜜や花粉)を集める花への訪問者ですが、花を噛んだりして傷付けるなどイリーガルな方法を用います。この花の損傷は、本来の花粉媒介者の行動や、花粉の飛散距離に影響を及ぼし、結実や種子数、種子の発芽率を低下させる可能性があります。しかし、盗蜜により蜜が減少するため、本来の花粉媒介者が訪れなければならない花の数が増えるため、他家受粉が促進される可能性もあります。
花への訪問者は次のように分類されます。
①潜在的な花粉媒介者(potential pollinators)
②非花粉媒介者(non-pollinators)
③泥棒(thieves)
④強盗(robbers)
泥棒は花粉や柱頭に触れることなく、花に損傷を与えない訪問者を指します。強盗は花に損傷を与える訪問者でこれを一次強盗、一次強盗のつけた傷口を利用する訪問者を二次強盗としました。


C. baumanniiの開花
C. baumanniiは円柱柱状のサボテンで、約1.5mの枝分かれした枝を持ちますが、他の植物に支えられている場合はより高くなることもあります。明るいオレンジがかった赤い花を沢山咲かせます。研究地域ではC. baumanniiは雨期に激しく開花します。花は両性花で、昼行性、匂いはありません。花は自家不稔で、自家不和合性です。花筒の長さは平均48.19mm、直径の平均は9.25mmでした。花は1年を通じて開花し続けます。
C. baumanniiの花の寿命は約48時間です。午前6時には花冠と葯は既に開いているものの、柱頭はまだ受容性はありません。つまり、開花開始時には花は機能的に雄蕊的です。午前8時から柱頭は一部が受容状態となります。午前10時頃には葯に花粉はほとんどなくなり、翌日まで雌性期です。翌日の午後には柱頭は萎れはじめ、翌日には完全に閉じます。
C. baumanniiの花は葯と柱頭が同じ高さで並び、雌雄離熟(herkogamy)ではありません。柱頭が受容前に花粉が放出されることから部分的雄性先熟で、自家受粉を減らし柱頭が詰まるのを防ぐと考えられます。

花への訪問者
ブラジルのChacoにおいて、C. baumanniiの花には5種のハチ、2種のアリ、1種のチョウ、1種のハチドリ(C. lucidus)が訪れました。この内、ハチドリと2種のハチは頻繁に訪花し、ほとんどの月で見られました。
観察すると、ハチドリは花の前でホバリングし、クチバシを花筒に入れて、クチバシ上部と頭が葯と柱頭に接触させて採蜜していました。採蜜は2秒間続き、1つの植物につき1つの花だけを採蜜しました。
3種のハチは花粉を集めるために葯に着地し、葯と柱頭に接触しましたが、基本的に花粉泥棒でした。さらに、Xylocopa splendulaというハチは、すべての訪花で花筒に口器を突き刺して盗蜜しました。このハチは同じ植物の別の花を訪れるため、主要な蜜泥棒です。X. splendulaの残した穴には、他の種類のハチやアリが訪れ、二次的な蜜泥棒となっていました。また、このような盗蜜を受けた花は、柱頭に付着した花粉が少ないことが分かりました。さらに、X. splendulaは自家受粉と隣花受粉(geitonogamy)を促進し柱頭を詰まらせ、盗蜜により有効な花粉媒介者であるハチドリの訪問を減らしている可能性があります。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
観察によりC. baumanniiの花の花粉媒介者はハチドリであることが確認されました。さらに、ハチは有効な花粉媒介者ではなく、それどころか花粉泥棒であり蜜泥棒でもあると判明しました。自家受粉や同じ植物個体の別の花からの受粉を受ける隣花受粉も、ハチにより引き起こされ、蜜の減少によりハチドリの訪花も減ってしまいいいことがありません。論文中で柱頭が詰まると言っているのは、柱頭に沢山の自家受粉、あるいは隣花受粉してしまうと、花粉から花粉管が花柱に伸びて行きますが自家受粉はしないので受粉はせず、後に他家受粉の花粉がついても花粉管を伸ばす隙間がないということでしょう。
まとめると、
本来ならば植物の受粉が期待さるハチが、受粉を阻害する要因になっている可能性があるのです。植物と昆虫との関係も非常に複雑です。今後もサボテンや多肉植物の受粉生物学を見つけ次第取り上げていくつもりです。


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アデニアは割りと古くから塊茎植物として有名ですが、一般的に知られているのはAdenia glaucaやAdenia globosaなど一部に限られます。多肉植物ブームの昨今でもあまり見かけないのは、どちらかと言えば希少だからというより、それほど人気があるわけではないからでしょう。しかし、最近アデニアも面白いと思うようになり、少し調べてみようということになりました。以前、開発に伴いアデニアを移植しようという試みを記事にしてご紹介したことがありますので、そちらもご参照下さい。


アデニアの履歴書
アデニアは主に旧世界の熱帯や亜熱帯に分布するトケイソウ科植物です。塊茎や塊根を持ち、蔓性が一般的なようです。2024年8月時点で認められているアデニア属は105種類です。
アデニア属の経歴を見てみましょう。アデニア属が初めて命名されたのは1775年のことで、スウェーデンの探検家、博物学者、東洋学者であるPeter Forsskålによるものです。つまり、Adenia Forssk.です。Forsskålはvon Linneの弟子であり、アラビア探検中にイエメンでマラリアに罹患し客死しました。31歳でした。Forsskålの原稿は植物についてはForsskålの死から12年にあたる1775年に「Flora Aegyptico-Arabica」として出版され、その中でAdeniaは新属として記載されました。ですから、アデニア属の成立はForsskålの死後になされたのです。ここからは、アデニア属の異名(Heterotypic synonyms)を見ていきましょう。
1797年 Modecca Lam.
1820年 Kolbia P.Beauv., nom. illeg.
1821年 Blepharanthes Sm.
1822年 Paschanthus Burch.
1846年 Microblepharis M.Roem.
              Erythrocarpus M.Roem.
1861年 Clemanthus Klotzsch
1867年 Machadoa Welw. ex Benth. & Hook.f.
              Ophiocaulon Hook.f., nom. illeg.
1876年 Keramanthus Hook.f. 
1888年 Jaeggia Schinz
1891年 Echinothamnus Engl. 

このような異名が生まれる原因は様々ですが、おおよそのパターンは決まっています。新種が見つかった時に既存の属としないで新属を作ったり、既に命名されている種に対して改めて命名してしまったり、既存の属から分離させて新属を創設したりです。このように後にまとめられることはよくあります。また、提唱したものの、まったく認められず使用されてこなかったものもあるかも知れません。

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Adenia glauca Schinz, 1892
ボツワナ、南アフリカ北部州の原産。


アデニア研究最前線
さて、近年のアデニア属に対するアカデミアの興味は、どのようなものがあるでしょうか? 調べてみると、アデニアはどうも有毒なようです。その成分については昔から調べられているのですが、近年では何かに使えないかと研究がなされています。毒性があるということは、何かしらの生理活性があるということです。用法用量を工夫すれば、薬となるかも知れません。
例えば、YESSO Bogui Florianらの2022年の論文では、Adenia lobataの抽出物がラットの貧血に有効であったとしています。この抽出物のLD50(半数致死量)は5000mg/kgなので、人体には無害だとしています。
次にPacome Kouadio N' Goらの2021年の論文では、Adenia lobataがコートジボワールで伝統的に様々な慢性疾患や頭痛・歯肉炎の痛みの緩和、分娩の促進のために広く利用されていることが示されています。アデニア抽出物の抗炎症作用が試験され、伝統医学に科学的な根拠を与えました。
ピンポイントな研究もあります。例えば、Shashikala R. Inamdarらの2021年の論文では、Adenia hondala由来の成分が大腸がんと結合し増殖を阻害し、がん細胞にアポトーシス(自死)を引き起こすとしています。

もちろん、毒性も研究されております。例えば、Massimo Bortolottiらの2021年の論文では、Adenia kirkiiよりキルキリンなる植物毒素を分離しています。キルキリンはタンパク質を合成するリボソームに不可逆的な損傷を与え細胞死を引き起こします。
実はこの手の毒性だの薬理作用だのといった論文は山のようにあり、割りと新しいものをチョイスしました。というか、あまりに沢山あるため調べるのを止めました。期待されているということなのでしょう。

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Adenia olaboensis Claverie, 1909
マダガスカル原産。2変種からなり、var. olaboensisとvar. parvaがあります。


150年ぶりの再発見
Neil R. Crouchらの2016年の論文によると、Adenia natalensisが南アフリカのKwaZulu-Natalの、Tugela川下流域で再発見されました。A. natalensisは1860年代初頭に採取され、William Tyrer Gerrardによる2つのコレクションのみが知られており、原産地は「Natal」あるいは「Natal, Zulu-land」とだけ記録されていたものです。実に150年ぶりの再発見でした。しかし、この論文では、知られていないA. natalensisのメス個体は発見されませんでした。
この発見には続報がありました。Neil R. Crouch & David G. A. Stylesの2021年の論文では、Mngeni川水系の3箇所でもA. natalensisを発見し、開花し結実したメス個体を初めて発見しました。これにより、A. natalensisの雌雄異株についての完全な説明が可能となりました。

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Adenia kirkii (Mast.) Engl., 1891
ケニア、タンザニアの原産。1871年にModecca kirkii Mast.と記載され、後にアデニアとされました。キルキリンという毒素を含みます。


新種の発見
アデニア属も新種が発見されています。新しいものだと、Veronicah Mutele Ngumbauの2017年の論文では、ケニアとタンザニアの海岸林に生息する新種のAdenia angulosaについて説明しています。A. gummiferaに似ているとしています。また、Marc Pingnalらの2013年の論文では、コモロ諸島のMayotte島から新種のAdenia barthelatiiを説明しました。マダガスカルのアデニアに近縁なようです。
 
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Adenia globosa Engl., 1891
エチオピア、ソマリア、ケニア、タンザニア原産。現在は3亜種、subsp. globosa、subsp. curvata、subsp. pseudoglobosaに分けられます。


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エピジェネティクスとは簡単に言うと、遺伝子を変えずにその発現を制御し、その制御が次世代に伝わりうる仕組みのことです。最近、そのエピジェネティクスに関心があり、岩波新書から出ている入門書を読み、書評の形で記事にしました。(以下、リンク参照)



しかし、エピジェネティクスのメカニズムはともかくとして、挙げられた実例の多くは動物でした。著者の関心も癌などの疾患との関連に注目しているようですが、植物のエピジェネティクスに関しては軽く触れる程度でした。そこで、改めて植物のエピジェネティクスを調べてみました。すると、近藤洋と竹能清俊の2008年の論文、『花成とエピジェネティクス』が見つかりました。簡単に内容を見ていきましょう。

バーナリゼーション
バーナリゼーション(春化)とは、種子や芽生えの時期の低温の有無が、後に成熟した個体の花成の有無に影響を与えることです。「冬の記憶」とも称されるこの現象は、典型的なエピジェネティクスです。これは、種子や芽生えの時に受けた低温が記憶され保持されることと考えることが出来ます。モデル植物であるシロイヌナズナでは、FLC遺伝子が花成を抑制する因子として働きます。その発現は長期間の低温により抑制され、低温が解除されても維持されます。このことは、FLCの発現がエピジェネティクスのメカニズムであるDNAのメチル化やヒストン修飾により制御されている可能性があります。

脱メチル化による花成
バーナリゼーションがエピジェネティクスの制御を受けているか、まずはDNAのメチル化の観点から検討されました。シロイヌナズナにメチル化を解除する脱メチル化剤を施すと、花成が誘導されることが明らかとなりました。この時、実際にFLC遺伝子の発現が低下していました。つまり、FLC遺伝子がDNAのメチル化により制御されていることが示唆されたのです。シロイヌナズナ以外のバーナリゼーションによる花成がおこる植物でも、脱メチル化剤により花成が誘導されるためある程度は普遍性があるようです。

光周的花成
多くの植物は誘導的光周期(短日、長日)により速やかに花成が誘導され、誘導された花成状態は誘導的光周期以外の環境に置かれると持続しません。そのため、光周的花成にエピジェネティクスによる制御が働くとは考えられていませんでした。しかし、絶対的短日植物であるシソ(紫蘇)の光周的花成においては異なります。短日処理を受けたシソは誘導的光周期以外の環境に置かれても、花芽を形成し続けるなど花成状態が長く続きます。このような安定した花成形成が低温にゆるバーナリゼーションと似ているため、両者に共通する制御機構が想定されることから、著者らは光周的花成にエピジェネティクスが関与するのかを検討しました。

光周的花成とエピジェネティクス
脱メチル化剤をシソの種子あるいは茎頂に処理すると、長日条件でも花成は誘導されました。茎頂に脱メチル化剤を処理した場合に、処理された部位より下の茎にも花芽が形成されました。このことは、脱メチル化剤の作用を受けた部位で、輸送可能な花成刺激が生成されたことを示します。つまり、これらのことからシソの光周的花成にエピジェネティクスが関与することが示唆されました。

次世代に伝わるか?
DNAの脱メチル化により誘導された形質は、次世代に遺伝しうることが知られています。しかし、哺乳類のDNAのメチル化は配偶子形成の時にリセットされるため、メチル化状態は遺伝するとは限りません。対する植物はDNAのメチル化により誘導された形質が遺伝するため、植物にはDNAのメチル化のリセット機構がないとされてきました。しかし、脱メチル化剤で誘導したシロイヌナズナの花成の抑制状態は遺伝しないため、少なくともエピジェネティクスな制御を受ける遺伝子に関してはリセット機構があるものと考えられます。しかし、脱メチル化剤は同時に、シソの栄養生長の抑制をもたらしますが、この栄養生長の抑制は次世代に伝わることが確認されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。とはいえ、論文的には遺伝子の詳細な分析によるメカニズムの話が重要であり、論旨を証明する根拠なのですが、この記事では省きました。気になる方は、J-STAGEで一般にも公開されていますから、PDFをダウンロードしてみて下さい。論文は日本語で書かれた短いものです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/plmorphol1989/19and20/1/19and20_1_15/_article/-char/ja/

さて、今回は植物のエピジェネティクスの例を1つご紹介したのですが、他にも植物のエピジェネティクスに関する論文は沢山出ているようです。まだ、日本語の論文しか検索していませんが、時間があれば海外の論文も検索してみるつもりです。


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以前、CAM植物について簡単にまとめた記事を書いたことがあります。CAMとは光合成の方法の1つで、蒸散を抑えるために夜間に二酸化炭素を取り込み、リンゴ酸に変換して貯蔵する仕組みです。CAMという名前は、ベンケイソウ型有機酸代謝(Crassulacean Acid Metabolism)の略ですから、エケベリアやセダムなどのベンケイソウ科植物に典型的に見られ、乾燥に強いシステムですからパイナップル科植物やサボテンなどに広く見られます。
しかし、その時の記事の内容的は、あくまでも一般的に言われていることをまとめただけに過ぎないものでした。(以下、リンク)


そこで、今回は科学者によるCAMの概観とこれからについて見ていきたいと思います。参照とするのは、Kevin R. Hultineらの2019年の論文、『New perspective on crassulacean acid metabolism biology』です。

CAM植物の特徴
CAMは維管束植物の38科400属以上見つかっており、60以上の独立した進化の起源を持ちます。CAMの起源は、過去に起きた乾燥化と大気中の二酸化炭素の減少に相関しており、地球規模の気候変動に対する進化的対応の代表的な事例です。また、CAMは茎や葉の多肉質化、水の捕捉と貯蔵、厚いクチクラとワックス沈着、低い気孔密度、高い気孔応答性などの共通の適応形質と共に進化し、これらの特徴により水の利用が限られている、あるいは断続的な厳しい環境に生息出来ます。

CAMへの進化
CAMは38科の植物で知られており、その広い系統の中の分布から、CAMは独立して複数回に渡り発生したと考えられています。最古のCAMについては、証拠が化石に残らないためよくわかりません。陸生植物のCAMは乾燥が主な要因と考えられています。それは、日中の高温と相対湿度の低ささらされる砂漠に生える多肉植物でよく見られるからです。ただし、CAMは二酸化炭素を有機酸に変換し、炭素を濃縮するメカニズムですから、利用可能な二酸化炭素が少ない環境に対する適応も想定されます。例えば、Isoetes (ミズニラ属)などの原始的な水生植物はCAM植物なのは、水中の二酸化炭素の拡散係数が低いために、CAMに進化したと考えられます。陸生植物のCAMは、大気中の二酸化炭素濃度が低下し、CAMやC4という光合成経路が有利になった更新世の氷河期に反応したものと考えられます。

CAM研究
CAMの古典的なモデルは、気孔の反転と4段階のガス交換、および生化学的活性により定義されます。しかし、これはCAMの多様性と複雑性を否定するものです。CAMに関する最近の理解の進歩は、「弱い」、「通性」、「中間」のCAM植物の限界に関する研究から得られています。多くのCAM植物がCAMをC3やC4と共に発現し、その発現は発育の段階により変化することが多く、旱魃や塩分にさらされると通性で変化することもあります。

CAMの利用
CAM植物の中でも、旧世界のユーフォルビアと新世界のサボテンの茎が多肉質な種は、密猟や地球規模の気候変動により前列のない脅威にさらされています。しかし、多くのCAM植物は将来的な食料、飼料、繊維、バイオ燃料、医薬品とされる可能性がある高い農業的価値を持ち、しかも乾燥に強い作物です。少数のCAM植物製品は、テキーラ(Agave)やパイナップル、アロエ、バニラ、果実(ウチワサボテン)など、世界的に取り引きされています。しかし、これらの種は伝統的に過小評価されており、農業的改良のための投資はほとんど行われていません。これらのCAMは、遺伝学の進歩により遺伝的改良が促進されることが期待されています。中でもAgaveはバイオ燃料の原料として高く注目されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
一応ですが、CAMについて簡単に解説しましょう。
日中に二酸化炭素を取り込もうと気孔を開くと、高温と乾燥により水分が失われてしまいます。しかし、CAM植物は気温が低い夜間に二酸化炭素を取り込みます。取り込んだ二酸化炭素は、リンゴ酸の形で濃縮・貯蔵されます。気体は貯蔵が難しく場所をとりますから、リンゴ酸という液体に変換するのは理にかなっています。また、貯蔵が出来るため、夜間でも暑い日には、気孔を閉じて二酸化炭素の取り込みをしないこともあります。
論文の内容についてですが、驚くべきことにCAMは複数回、独立して進化したことが示されています。つまり、植物が進化の過程で1回だけCAMを獲得し、その子孫がCAMというわけではないのです。CAMは様々なグループのあちらこちらで、それぞれ獲得されました。それなりに複雑なシステムですから、共通祖先が獲得したわけではないのことに驚かされます。洋蘭の仲間であるDendebiumでは、属内で複数回のCAMの進化があったことが報告されているそうです。
さて、CAMの研究は何をもたらすのでしょうか。まずは、希少植物の保全が挙げられます。その植物の生態や生理などを理解することは、保全計画には欠かせません。詳しい調査もなしに似た環境に植栽しても上手くいかないケースが度々見られます。やはり、事前の研究は必須なようです。次はやはり作物として利用です。CAM植物は乾燥に強いため、通常の作物が育ちにくいような環境でも栽培出来ます。例えば、トウモロコシは主に家畜の飼料として莫大な量が生産されていますが、バイオ燃料への利用がよく言われています。しかし、米国では地下水を汲み上げて強引に生産しているため、地下水の著しく減少を招いているそうです。CAM研究により、地下水を利用しないAgaveなどを利用したバイオ燃料の開発や、CAM回路自体を組み込んだ作物も将来的には可能となるかもしれません。論文では、CAMの進化は①乾燥化、②二酸化炭素の減少、③植物育種となっており、ヒトによる開発を第三のCAMの進化イベントと捉えているようです。CAM利用に関する、その期待の大きさが分かりますね。



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