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カテゴリ: 多肉植物の論文

変わった見た目をしているドラゴンフルーツの果実を見かけるようになったのは、いつ頃のことだったでしょうか。20年くらい前はかなり珍しい果物だったような気がします。いつでもどこでも販売しているわけではありませんが、今ではドラゴンフルーツ自体はすごい珍しいものではなくなりました。沖縄でも栽培されているみたいですし、あまり見かけないのはあくまで需要と供給の話だからなのでしょう。

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Hylocereus undatus(上)

さて、そんなドラゴンフルーツですが、これはいわゆるサボテンの実ですが、ドラゴンフルーツは我々趣味家にとっては馴染み深いサボテンだったりします。なぜなら、ドラゴンフルーツとはいわゆる「三角柱」と呼ばれているサボテンのことだからです。葉緑体がない緋牡丹を三角柱に接ぎ木したものを皆様も見かけたことがあるはずです。まあ、三角柱は永久台木にはならず、寒さに弱く腐るのであまり台木としては人気がないかも知れません。
本日は原産地であるメキシコにおける、三角柱=ドラゴンフルーツの受粉に関する研究をご紹介したいと思います。それは、A. Valiente-Banuetらの2007年の論文、『Pollination biology of the hemiepiphytic cactus Hylocereus undatus in the Tehuacan Valley, Mexico』です。早速、見ていきましょう。

Hylocereus undatusとは?
メキシコ南部から中米北部に拡がるメソアメリカ文化では、サボテンが栽培されていました。メソアメリカ人が使用した118種類のサボテンのうち、約40種類は様々な程度で家畜化されており、現在でも先住民族により広く栽培されているものもあります。それらの中でも、半着生サボテンであるHylocereus undatusはその装飾的価値と食用となる果実のためにメキシコ全土で高く評価されています。H. undatusはメキシコ、西インド諸島、中米、南米北部の熱帯落葉樹林に自生します。また、カンボジア、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、メキシコ、ニカラグア、ペルー、台湾、ベトナムで、果実生産のために栽培されており、近年ではオーストラリアやイスラエル、日本、ニュージーランド、フィリピン、スペイン、米国でも栽培されています。

Hylocereusの受粉生物学
H. undatusは作物としての重要性のため、園芸学的にあるいは生態生理学的に広く研究されています。HylocereusとSelenicereusの受粉生物学的研究のほとんどは、温室環境下で実施されています。それらの研究によると、花は夜行性で一晩だけ開花し、コウモリや大型のスズメガが訪れます。H. polyrhizusとH. costaricensisは自家不和合性であり、結実には他家受粉が必要です。過去の報告によると、H. undatusは自家受粉では自然と結実はせず、人工的に自家受粉させるとその結実率は50〜79.6%に低下します。ちなみに、他家受粉では100%結実します。一方、Selenicereus megalanthusは自家和合性があり、自然状態でも自家受粉し結実率は60〜73%、人工的に自家受粉させると結実率は100%でした。この2種類の受粉システムの違いは、自動自家受粉(自然状態での自家受粉)を妨げたり可能とする葯や柱頭の位置と形態の違いによるものでしょう。

実験方法
メキシコ中南部のTehuacan渓谷では、現地で「pitahaya」と呼ばれているH. undatusが広く栽培されており、地元の人々によると古くから栽培されてきた作物と言うことです。現在、pitahayaの果実の生産と商品化は重要な経済活動の一部です。pitahayaは茎の一部を樹木の根元に植えるだけで、家庭菜園で沢山の果実がとれます。この地域の果実生産は非常に効率的です。それは、地元の人々による植え付けによる遺伝的な影響のためか、単に自家不和合性があるためであるのかは不明です。
そこで、著者らはこの
Tehuacan渓谷で、果実における自家受粉の役割と、夜行性および昼行性の花粉媒介者の重要性を決定するために調査を実施しました。花を夜間だけあるいは日中だけ袋をかけ、花粉媒介者の訪問を制限しました。さらに、著者らの手による自家受粉させたものと、袋をかけず自由に受粉させたもの、常に袋をかけたものも試験しました。受粉した果実が成熟したら回収し、分析しました。

観察
調査地におけるH. undatusの花は約17時に開き始め、11時頃に閉じ始めました。分析した花のすべてから花蜜は検出されませんでした。花は長さ平均34.5cmで、花の先端部から蜜室までの長さは平均29.95cm、外径は平均13.6cmでした。
野外調査では3種類のコウモリが捕獲され、付着したH. undatusの花粉が調べられました。うち、2種類のコウモリは付着した花粉が豊富でした。日中にはミツバチの訪問が観察されましたが、夜間は昆虫は採取されませんでした。

結果
人工的に受粉させた自家受粉の場合は53.8%の結実率でしたが、常に袋がけした自家受粉の場合は100%の結実率でした。袋をかけない場合は100%結実しましたが、夜間だけ袋を外した場合は76.9%の結実率、日中だけ不安定を外した場合は46%の結実率でした。
人工的に受粉、あるいは袋がけした自家受粉で100%受粉したと言うことは、花粉媒介者がいなくても結実出来ると言うことです。これは、自家受粉では結実せず、人工的な自家受粉では結実率が下がるとしたWeiss et al. , 1994の結果とは異なります。イスラエルにおけるH. undatusの果実の商業生産に関する報告(1999, 2000)では、果実の生産には人工受粉が必要であるとしています。これらの違いはクローンの違いに起因する可能性があり、調査する価値があります。
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、その商業生産にとっては重要です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、明らかにその果実の商業生産にとって福音となるでしょう。しかし、その性質の違い、おそらくはクローンの違いはですが、どのようにしてもたらされたのでしょうか。茎節を挿し木して増やすTehuacan渓谷の人々の長いH. undatus利用の過程で生まれたことは明らかかも知れませんが、あるいは選抜された過去が隠されているのかも知れませんね。
さて、
Tehuacan渓谷のクローンは自家受粉するため必ずしも花粉媒介者は必要ありませんが、一般的には人工受粉させるか花粉媒介者が必要です。今回の調査では夜間に花を訪れるコウモリが主たる花粉媒介者と比定されます。花蜜はないので花粉を食べに来ているのでしょう。また、H. undatusの花は夜間に開花しますが、明け方から11時位までは開いているため、ミツバチも訪れ受粉に寄与していることが分かります。果実の効率的な生産には自家受粉する性質は便利ですが、やはり他家受粉により多様な性質が現れることは、野生のH. undatusには必要なことでしょう。
最後に補足情報で終わりましょう。かつてドラゴンフルーツはHylocereus undatusなる学名で呼ばれておりましたが、近年Selenicereus undatusとなり、HylocereusはSelenicereusに吸収されてしまいました。これはHylocereusが遺伝的にSelenicereusと区別出来ないと言う研究成果に基づいています。



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植物は育てていると、稀に生長点が異常になる「帯化」が起きることがあります。これは石化とも呼ばれますが、サボテンでも綴化と呼ばれ珍重されています。さて、園芸的には帯化は肥料過多が原因なのではないかと言われているようですが、その実態はよく分かりません。帯化の直接の原因は生長点の異常ですが、その異常を引き起こす原因がよく分からないのです。以前、Gymnocalycium vatteriのトゲがアレオーレではない場所から出る突然変異の報告を読んだことがあります。その報告は写真がメインで、特に考察や原因の特定がないため、記事にはしませんでした。しかし、関連論文として、サボテンの生長の異常に関するものがあったため、今回ご紹介することにしました。それは、Vladimir A. Basiukの2013年の論文、『Teratopia in Cactaceae Family: The Effect to Temperature』です。

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Ferocactus wiskizenii forma cristata
『Saguaroland Bulletin』(1954)より。

生長異常を起こすサボテン
著者の約350株のサボテンコレクションを詳しく調べ、どのような種類の生長異常が見られたかを要約しました。著者のサボテンの育成環境は、アルミニウム温室です。場所は北緯18.55°(※1)、標高は約1500mですから日射量は強いことが分かります。温室は遮光率70%のネットにより、特に午後の強い日射から守られます。日中の気温は高く軽く40℃を超え、これは夏でも冬でも起こります。また、温室のサイズが小さいことに加え、動物からサボテンを保護するために、入口は閉じ続けなければなりませんでした。小さな2つの窓は換気にはほとんど意味がありません。

※1 ) 著者はメキシコの大学に所属しています。

化学的、あるいは物理的な異常を誘発する試みは行われず、殺虫剤や肥料の過度の使用は控えられました。以上のことから、著者はサボテンに起こる生育異常を引き起こしているのは、高温の影響ではないかと考えています。

Case 1 稜の変異
約4年前にAstrophytum myriostigmaに出た2つの花芽は開花せず、数ヶ月後に不規則な形の新芽に変わりました。約1cmほどになったタイミングで切り取り、Opuntia compressaに継ぎました。その形状は1つは「複隆」、もう1つは「Lotusland」として知られるものと同じです。
悪い条件で花芽が子株に変換されることは珍しくありませんが、このような複雑な形態になることはほとんどありません。


Case 2 花芽から子株へ
Gymnocalycium baldianumで花芽が子株に変換されました。子株には萼片がありますが、次第にトゲのあるアレオーレが発達します。やがて、子株から花を咲かせました。しかし、中には新たに花芽を付けるのではなく、生長点がそのまま花芽に変化したものもありました。この場合、子株と花芽は一体化しており、はっきりした境界はありません。これは、子株が花芽に回帰し誤りを正そうとした例かも知れません。やがて開花しましたが、柱頭や雄しべの形態には異常が見られました。開花後も子株と一体化した花は落ちずに残りました。

Case 3 モンスト
Copiapoa tenuissimaやCopiapoa lauiのモンスト(monstrose)は古くから知られており、広く商品化されています。これらは接ぎ木により容易に増やせますが、通常のサボテンからどのように出現するのか観察した栽培家は非常に少数です。著者はモンストが一般的ではないEriosyce esmeraldanaでモンストの発生を観察しました。この個体は種子から育てられ、約26年経ちます。すでに2つの子株を作りましたが、3つ目は大量の羊毛状の毛に覆われて分頭を繰り返すようになりました。

Case 4 双結節
著者の育てているAriocarpus retususは、18年前に直径15cmくらいで入手しました。2007年までは異常は見られませんでしたが、それ以降は結節(疣)が2つあるいは3つに分かれています。これは、やがて例外ではなく規則となりました。

Case 5 綴化
Rebutia heliosaやRebutia rauschii、Parodia haselbergiiは生長点が帯化し始めました。

最後に
論文を読んでいて意外に思ったのは、これらの変異が遺伝的な突然変異ではないということです。綴化は物理的な生長点の障害だろうと考えていましたが、複隆やモンストも遺伝的なものではないのです。もちろん、遺伝的な変異でも突然変異体は誕生する可能性はありますから、そのすべてがそうであるとは限らないでしょう。しかし、論文のケースを見るにつけ、おそらくこのような変異体は物理的な障害の方が発生しやすいはずです。さらに、サボテンは接ぎ木により容易に増やせますから、一度変異が発生したならば無限に増やすことが出来ます。と言うことは、このような変異体を交配に用い、新たな変異体を作出することは難しいかも知れませんね。今回の論文は瓢箪から駒のような感じでしたが、サボテンの理解において意外と重要な観察がなされているように感じます。私のような趣味家にとっても非常に関心がある内容でした。


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かねてより、ベンケイソウ科植物の分類について幾度か記事にしてきました。遺伝子解析による分子系統の結果として分かったことは、形態と遺伝子の不一致でした。EcheveriaやGraptopetalumはSedumと分離することができません。ですから、将来的にはエケベリア属がセダム属に吸収されるか、あるいはセダム属が細分化されて新たに命名される可能性があります。さて、本日はベンケイソウ科の仲間であるクラッスラ属を中心とした分類について取り上げます。それは、Hengwa Dingらの2022年の論文、『Ten Plastomes of Crassula (Crassulaceae) and Phylogenetic Impactions』です。内容的には解析方法やゲノムの特徴、進化的な考察も含みますが、今回は分子系統のみを見てみましょう。

分子系統
ベンケイソウ科は大きく3亜科に分けられます。クラッスラ亜科はClade CrassulaからなりCrassulaのみを含みます。カランコエ亜科はClade Kalaochoeからなり、CotyledonとKalanchoeを含みます。センペルビブム亜科はClade Sempervivum、Clade Leucosedum、Clade Acre、Clade Aeonium、Clade Telephiumからなります。

      ┏━━Sempervivum亜科
  ┏┫
  ┃┗━━Kalanchoe亜科
  ┫
  ┗━━━Crassula亜科

クラッスラ亜科
クラッスラ亜科はクラッスラ属からなりますが、2つの亜属に分けられます。また、以下に示す名前は、論文で調べられた種類と言う意味で、以下のものしか含まないと言う意味ではありません。
ちなみに、Tillaeaはクラッスラ属に吸収された模様です。
Crassula亜属
C. alstonii、C. columella、C. dejecta、C. mesembrianthemopsis、C. tecta、C. mesembryanthoides、C. socialis、C. perforataからなります。
Disporocarpa亜属

C. volkensis、C. expansa ssp. fragilis、C. deltoideaからなります。

カランコエ亜科
カランコエ亜科はカランコエ属やコチレドン属からなります。一般的にAdromischusとTylecodonを含みます。

センペルビブム亜科
センペルビブム亜科は5つの分岐群(Clade)に分けられます。

  ┏━━━━Clade Telephium
  ┫
  ┃    ┏━━Clade Aeonium
  ┃┏┫
  ┃┃┃┏━Clade Acre
  ┃┃┗┫
  ┗┫    ┗━Clade Leucosedum
      ┃
      ┗━━━Clade Sempervivum

Clade Telephium
論文ではClade Telephiumは、Rhodiola+Phedimusのグループとそれ以外に分けています。論文ではRhodiolaは28種類、Phedimusは6種類と割と詳しく調べています。分子系統にオロスタキスが2箇所ありますが、①の方が本来のオロスタキスのようです。ここでは、O. minuta、O. japonica、O. fimbriataが調べられています。②の方はO. iwarenge f. magnaですが、論文ではSubsection Appendiculataと表記されていました。

      ┏━━━━Rhodiola
  ┏┫
  ┃┗━━━━Phedimus
  ┫
  ┃            ┏━Orostachys①
  ┃        ┏┫
  ┃        ┃┗━Meterostachys
  ┃    ┏┫
  ┃    ┃┃┏━Hylotelephium
  ┃┏┫┗┫
  ┃┃┃    ┗━Orostachys②
  ┃┃┃
  ┃┃┗━━━Sinocrassula
  ┗┫
      ┗━━━━Umbilicus


Clade Sempervivum
論文では調べられたのはS. tectorumだけです。ちなみに、Jovibarbaはセンペルビブム属に吸収された模様です。

Clade Aeonium
論文ではアエオニウム分岐群はAeoniumが9種類とMonanthesが4種類調べられています。アエオニウムとモナンテスはきれいに分離されているように見えます。しかし、Thibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、モナンテスは一部がAichrysonのグループに紛れ込んでいます。さらに、セダム属が数種類混入していました。

Clade Leucosedum
論文ではレウコセダム分岐群は、Rosularia alpestrisを調べただけのようです。レウコセダム分岐群はアクレ分岐群と共にセダム属の中心です。前述のThibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、セダム属にPrometheumが分離しがたい形で混入しています。ちなみに、Leucosedumはセダム属に吸収された模様です

Clade Acre
アクレ分岐群はアエオニウム分岐群と姉妹群で、レウコセダム分岐群とセンペルビブム分岐群と合わせて、1つのグループを形成します。アクレ分岐群はレウコセダム分岐群と同様にセダム属の中心ですが、論文ではPachyphytumやEcheveria、Graptopetalumがセダムに埋もれるように存在します。
★印がついたグループはセダム属を含んでいますが、レウコセダム分岐群やアエオニウム分岐群にもセダム属が含まれると言う事実は、エケベリア属やパキフィツム属、考え方次第ではアエオニウム属もすべてセダム属に含むべきではないかと言う疑念が浮かびます。もし、エケベリアやアエオニウムの名前を温存したいと考えるならば、セダム属を解体する必要があります。例えば、セダム②を本来のセダム属とし、セダム①やレウコセダム分岐群に含まれるセダム、アエオニウム分岐群に含まれるセダムはセダム属から分離させ、新たに新属とするか近縁属に属を移動する必要性があります。

  ┏━━━━━━Clade Sempervivum
  ┃
  ┫            ┏━━★Sedum①
  ┃        ┏┫
  ┃        ┃┃    ┏Graptopetalum
  ┃        ┃┃┏┫
  ┃    ┏┫┃┃┗Echeveria
  ┃    ┃┃┗┫
  ┃    ┃┃    ┗━Pachyphytum
  ┃    ┃┃
  ┃    ┃┗━━━★Sedum②
  ┃┏┫
  ┃┃┗━━━━★Clade Leucosedum
  ┗┫
      ┗━━━━━★Clade Aeonium


分類学の基本的な考え方として、以下のような3つのグループがあった場合、A、B、Cと言う3属に分けるか、A+BとCの2属に分けるか、A+B+Cで1つの属にまとめるか、いずれかになります。今回の件では、AとCがセダム属でBがエケベリア属となります。つまり、セダム属を解体するか、エケベリア属をセダム属に吸収させるかしか選択肢はないと言うことです。

      ┏━━A
  ┏┫
  ┃┗━━B
  ┫
  ┗━━━C

最後に
すでに過去の論文で、エケベリアの不安定な分類学上の位置やセダムの混乱について判明しています。ですから、今回取り上げた論文で再確認出来たことは、疑念を確証へ私の認識を変えることになりました。さて、ではなぜセダムやエケベリアは分子系統に従い再整理されないのでしょうか? しかし、そのためには変更するすべての種について、学名と異名、その記載論文、新しい名前などを列挙する必要があります。それには、セダム属が混入するベンケイソウ科の分類群についてすべて調べ、そのすべての名前を列挙する羽目になります。相当な大仕事になるでしょうから、なかなか難しいでしょう。現状のベンケイソウ科植物の分類は、喉に刺さった小骨の如く、どうにも収まりが悪く気になります。私の目の黒いうちに解決してくれると助かるのですが難しいですかね?


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蘇鉄(Cycas revoluta)は我々日本人にとっては馴染みが深い植物です。蘇鉄を蘇鉄と認識していない方もおられるかも知れませんが、実は宅地を歩けば何気なく蘇鉄が植えられていたりします。蘇鉄の仲間、いわゆるCycadは世界中に分布しますが、そのほとんどは非常に数が減少し絶滅危惧種となってしまっています。ですから、日本の蘇鉄が日常に溶け込む風景は世界的には珍しい光景と言えるでしょう。しかし、この日本各地に植えられた蘇鉄は移植されたもので、その起源は辿って行けば九州以南の暖地と言うことになります。蘇鉄の葉などをフラワーアレンジメントなどの素材として一般的に流通していますが、本来の自生地での利用はいかなるものなのでしょうか。私などは沖縄で蘇鉄の種子を救荒作物として利用したと言うことぐらいしか知りません。また、一般的に蘇鉄の種子は有毒ですから、アク抜きしないといけないことも分かります。しかし、その方法はどのようなものなのでしょうか。日本では縄文時代からドングリやテンナンショウの芋をアク抜きして食べていたようですが、何か関連はあるのでしょうか。
さて、以上のような疑問に衝き動かされて調べてみたところ、Takako Ankei(安渓貴子)の2023年に論文、『Traditional Methods of Cycad Detoxification in Amami and Okinawa: Historical origins of their biocultural diversity among the island』を見つけました。非常に興味深い内容ですから、少し内容を見てみましょう。

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Cycas revoluta

蘇鉄を食べた症例
1970年代に大学生だったSさんは、初めて西表島を訪れキャンプをしました。蘇鉄の赤い実が沢山なっていたのを見て、島の子供たちに「これ食べていい?」と尋ねたところ、子供たちは「はい!」と答えたそうです。Sさんは、蘇鉄の実を割って白い胚乳を炊飯器で炊いて、夕飯に食べました。炊いた蘇鉄の実は栗のような味がしたといいます。他の食べ物が乏しかったため、Sさんは蘇鉄の実を沢山食べました。真夜中、Sさんは激しい嘔吐に見舞われましたが、幸運にも自力で島の診療所までたどり着くことが出来ました。症状は入院が必要なほど重篤ではありませんでしたが、場合によっては致命的だったかも知れません。島の子供たちに悪意はなく、蘇鉄の実は解毒しないと食べられないと言うことを知らなかったのでしょう。
Sさんはこの事件にめげずに中学校の教師として西表島に永住しました。Sさんの貴重な経験が多くのことを教えてくれます。例えば、蘇鉄の実は煮沸してもその毒性は持続すること、蘇鉄の実の味はそれが有毒であることを教えてくれないこと、症状は摂取から数時間以内に発生することなどです。Sさんは嘔吐により、蘇鉄の実を吐き戻したことから命を救われました。
第2次世界大戦の最中、沖縄諸島では蘇鉄の毒性や解毒方法を知らない日本本土から来た兵士が、蘇鉄中毒で多くの死者を出したと言います。渡嘉敷島や竹富島でそのような事例を聞いたことがあります。

蘇鉄の有毒成分
蘇鉄の有毒成分は、cycasinと言う配糖体です。腸内の微生物の酵素によりcycasinから糖が取り除かれ、methylazoxymethanolと言う生成物が出来ます。methylazoxymethanolは容易に分解し、diazomethaneとホルムアルデヒドとなります。diazomethaneは不安定で、水と二酸化炭素、窒素を分解します。ホルムアルデヒドは摂取すると急性毒性を起こします。また、methylazoxymethanolとdiazomethaneには発ガン性があります。

遺伝的要素
前田芳之は奄美で長年に渡り蘇鉄の研究と販売に携わっていたプロの庭師です。彼が蘇鉄を束ねて出荷する際に、奄美の蘇鉄の葉は曲がりにくく、宮古や八重山など南方の蘇鉄は折れてしまいました。この記述を元に、Kyoda & Setoguchi(2010)は奄美と沖縄の蘇鉄の遺伝子解析を行いました。その結果、遺伝的に2つに分けられることが分かりました。また、台湾の蘇鉄(Cycas taitungensis)と比較するとC. revolutaは遺伝的多様性が低いことが明らかとなりました。これは、第四紀の間氷期に水位の上昇により水没がおきたため、遺伝的多様性が失われたボトルネック効果によるものであると推測されます。

解毒方法
蘇鉄のデンプンの大部分は幹や種子に蓄えられますが、蘇鉄は有毒なので解毒の必要があります。有毒成分のcycasinやホルムアルデヒドは水溶性で、diazomethaneは不安定で加熱すると揮発します。したがって、解毒の手順は、(a)水へのcycasinの滲出、(b)微生物による分解、(c)水への浸出および加熱によるcycasin、ホルムアルデヒド、diazomethaneの分解と除去となります。奄美と沖縄では3種類の蘇鉄の解毒方法があることが分かりました。

①タイプA: 浸出→加熱
②タイプB: 発酵→浸出→加熱
③タイプC: 浸出→発酵→加熱


解毒法: タイプA
この方法は種子の解毒方法です。果実には繊維がほとんどないため、幹よりも粉砕しやすいからです。
解毒の手順は、種子の硬い殻を半分に割り、1〜2日間天日干しします。デンプンは乾燥して縮み殻から取り外しやすくなります。細かく砕き水に浸して有毒成分を滲出させます。水が透明になるまで、水を数回取り替えます。沈殿したデンプンを集め、布袋に入れ水を切ります。天日干ししてから保管します。
また、種子を砕かずに乾燥させてから保存することも出来ます。保管中にカビが生えることが良くありますが、地域によっては気にしません。

解毒法: タイプB
この方法は幹の解毒方法です。幹は硬い繊維と粘着性物質(viscous material)で覆われます。
蘇鉄の幹を切って半日干しとし、真菌の生長を促します。水分が多すぎると細菌が繁殖してしまい解毒出来ません。麻袋や籠に藁やバナナの葉を入れ、蘇鉄を置き葉で蓋をします。温かい条件では3〜4日以内に発酵して発熱します。カビの繁殖と心地よい香りが成功した証です。中身を半日乾燥させ、一度蓋を開けてからまた閉めます。黒カビが生え発熱は止まります。手で割ることが出来るくらい柔らかいなるまで発酵を続けます。この状態で乾燥させて長期間保存することも出来ます。きれいな水で荒い、黒カビを取り除きます。杵を使い潰し、鍋やバケツに移します。網で繊維を漉し、上澄みが透明になるまで水を3回交換します。布袋に入れて水を切り、団子にして天日干しします。タイプBは一部の地域では蘇鉄の果実にも行われています。

解毒法: タイプC
琉球王国の傑出した政治家であった蔡温の農業マニュアルに記された方法で、詳細かつ複雑なプロセスを要します。
蘇鉄の幹の外側をこすり落とし、内側の白く薄い層を削り取り集めます。7〜8日乾燥させ水に浸します。毎日水は交換し、4日ほど経ったら取り出してよく洗い、バナナの葉を敷いて俵に入れ、ススキなどで覆います。3日ほど発酵させると表面に黄色がかった油のようなものが現れます。取り出して半日ほど陽光に当てるか、曇りの場合は風にさらします。再度、俵に戻し、この過程を繰り返しと、やがて完全に腐敗した状態となります。柔らかく簡単に壊せるようになったら、柔らかい部分を集めて煮て食べるか、乾燥させて保存するか、あるいはデンプンを回収します。


救荒作物としての蘇鉄
タイプCは沖縄本島とその近辺、さらに交易路沿いに見られました。蔡温はサツマイモなどが不作の場合、飢饉に対して蘇鉄のデンプンに頼るべく、庶民に対し蘇鉄を植えるように命じました。しかし、蘇鉄中毒の可能性が高まるため、タイプCの解毒法を公的に広めました。しかし、タイプCが採用されなかった地域もあります。理由としては、単純に味の好みに関するものや、良質な鉄刃の入手が難しかった与那国などでは、硬い幹を丁寧に削るタイプCは非常に手間がかかっため、タイプB が採用されたと考えられます。

奄美の場合
奄美は薩摩藩の支配する傀儡政権であり、サトウキビ栽培が強制されました。水田のほとんどがサトウキビ畑に変わり、年貢のあまりの厳しさから住民の約半数は土地を持たないヤンチュ(債務奴隷)に転落しました。平地はサトウキビ畑となったため、斜面にサツマイモが植えられました。ヤンチュの日々の糧は、不毛の土地に生える蘇鉄に限られていました。
しかし、沖縄では非常食としてしか食べられませんが、奄美では薩摩藩からの独立後も蘇鉄が日常的に食べられてきました。そのため、沖縄では解毒方法を知らない人々の間で急性中毒が度々起こりました。

最後に
ミクロネシアではCycas micronesicaが唯一の蘇鉄ですが、グアムの先住民族であるチャモロ族は食料源として蘇鉄を利用してきた長い歴史があります。しかし、長いスペイン支配が終わると、知事は有毒である蘇鉄を食べないように指示しました。その後、住民は蘇鉄を食べなくなり、開発や害虫の侵入によりグアムの蘇鉄は絶滅しました。対して、沖縄や奄美では蘇鉄林が残り、今でも蘇鉄は蘇鉄味噌などに加工され販売されています。この2つを比較すると、消費すると減少し、消費がなければ増加すると言うものではないことが分かります。これは、蘇鉄に対する関心の有無によるものなのでしょう。関心が薄れてしまえば、減少しても失われても興味を引くことがないからです。そのすべてを根こそぎ産業利用のために消費し尽くすのではない限り、蘇鉄に対しある程度の付き合いがあり関心を示すことが、沖縄や奄美の蘇鉄を守ってきたのかも知れませんね。

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一般的に「滝の白糸」と呼ばれているアガヴェがあります。葉縁から糸状の繊維を出す美しい植物で、国内でも昔から栽培されています。私はアガヴェは積極的に集めてはしていませんが、イベントに行った折にオマケでアガヴェの抜き苗をいただきました。名札には「Agave leopoldii」とありました。要するに「滝の白糸」です。調べてみると、Colin C. Walkerの2024年の記事、『Agave × leopoldii』を見つけました。Walkerは育てた植物についてよく記事にしていますが、自身の育てているレオポルディイが開花したため記事にしたようです。少し見てみましょう。

レオポルディイの命名
レオポルディイは1880年代半ば頃に、ロンドンのStamford HillにあるW. B. Kellock博士の自宅の庭で育てられ、キューの著名なビクトリアン・ガーデナーであるWilliam Watsonにより1893年に記載されました。名前は1893年に開催された王立園芸協会の展示会で、この植物を賞賛したベルギー国王レオポルド2世に敬意を表するために命名されました。

Agave princepsの謎
Drummond(1912)によると、Kellock氏はA. filiferaとA. princepsを交配して出来た植物であると信じていたと言います。しかし、Drummondはレオポルディイの開花した花を見て、その特徴からレオポルディイが雑種ではなく独特した種であるとし、Agave disceptataと命名しました。しかし、現在ではAgave ×leopoldiiの異名とされています。

レオポルディイの特徴
レオポルディイは、葉の縁から剥がれ落ちる繊維あるいは糸の生成を特徴とする糸状アガヴェ(filiferous agave)の1つです。これらのアガヴェは葉の縁に目立つ鋸歯を形成しません。レオポルディイは短く鋭い末端トゲを作ります。
糸状アガヴェの作る糸に対する満足するような説明はまだありません。他のアガヴェのような激しい鋸歯や末端トゲとは異なり、糸状アガヴェの繊維が草食動物の採食の妨げになる可能性は低いでしょう。


育ててみた
著者の育てているレオポルディイはかなり早く生長し、直径55cmのロゼットを形成しました。単一のロゼットを維持するために、脇芽は取り除きました。
著者の育てている糸状アガヴェの中でも、レオポルディイは最も細長い葉を持ちます。葉は繊維状で長さは45cmに達しますが、基部の幅はわずか1cmです。
著者の育てているレオポルディは、英国サボテン多肉植物協会グラスゴー支部の2つの展示会で、リュウゼツランの無制限鉢クラスで最優秀賞を受賞したと言うことです。


花の特徴
著者の育てたレオポルディイは、10年間の栽培を経て開花しました。Littaea亜属に典型的な枝分かれするない穂状の花です。花茎は高さがわずか1.35mでした。
花は2つか3つ、4つの房で咲き、最大6cmでした。花は花穂の基部から咲きはじめ、数十個の花が同時に開きます。若い花は淡い緑色で、やがて緑色が淡いピンク色に変わります。中央の縞模様はわずかに濃い緑色です。。古い花はくすんだピンク色で、中央の縞模様は濃い褐色です。
アガヴェは開花すると本体は枯れてしまいますが、長年に渡り沢山の子株を吹きました。


'Hammer Time'
Agave ×leopoldii 'Hammer Time'と言う斑入り品種があり、淡緑色の縁縞があると言うこと以外は典型的なレオポルディイに似ています。
この品種は、メキシコ旅行中にこの品種を発見したと言う、アメリカの著名な園芸家であるGray Hammerに因んで命名されました。しかし、レオポルディイはロンドンの庭園で作出された雑種であるため、メキシコに自生している植物と同じであるはずがありません。この植物は単に、Agave  'Hammer Time'とした方が適切です。


最後に
記事ではレオポルディイは、A. filiferaとA. princepsの雑種とありますが、現在はA. filiferaとA. schidigeraとの雑種とされているようです。しかし、このA. princepsと言うアガヴェが調べてもよく分かりません。由来が不明な学名でも、その旨が記されて一応名前は記載されていたりしますが、A. princepsは名前自体が見当たりません。困りましたね。
そう言えば、葉に覆輪が入るものは格別珍しいわけではありませんが、これはすべて
'Hammer Time'に相当するのでしょうか? Walkerによると'Hammer Time'はレオポルディイの斑入り品種か分からないとしています。単に'Hammer Time'が野生由来株と言う記録が誤りの可能性もあるような気もしますがどうでしょうか?

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さて、我が家のレオポルディイはまだまだ小さく、その最大の特徴であるフィラメントがほとんど出ていません。見られるように育つまでは、かなりの年数が必要なのでしょう。


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近年、マミラリア属とその近縁属の遺伝子解析が行われ、マミラリア属とその近縁属は大幅な改訂と整理を受けることになりました。過去に記事にしていますから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。

以前の記事の内容を簡単にまとめると、マミラリア属はまとまりがないグループで、まとまりのある単系統のマミラリア属以外のマミラリアは、オルテゴカクタスやネオロイディアと合わせてコケミエア(Cocphemiea)となりました。さらに、エスコバリアとエンケファロカルプス、さらにコリファンタの一部がペレキフォラに吸収されました。
さて、以上のようなマミラリアとその近縁属に近縁なグループとして、ラピカクタスやツルビニカルプス、エピテランサがあります。本日はこのあたりの最新の分類についての論文をご紹介しましょう。それは、Monserrat Vazquez-Sanchezらの2019年の論文、『Polyphyly of the iconic cactus genus Turbinicarpus (Cactaceae) and its generic circumscription』です。

ツルビニカルプスの歴史
①ツルビニカルプス
1937年にTurbinicarpusが新属として記載されました。Buxbaumによると、小型でほとんどが球形または円筒形、アレオーレは疣の先端にあり、短い筒を持つ白あるいはピンク色の花、そのほとんどが裸の果皮、先端が裂ける果実、1.0〜1.9mmで黒色で疣贅状の荒い種子を持つなどの特徴を上げました。

②ギムノカクタス
Turbinicarpusは1938年にBackebergにより分割され、その一部はGymnocactusとされました。BackebergはGymnocactusを、トゲが細かい、種子が軽い、疣が細かい、花はほとんどが紫色でそうでない場合はピンク色または白色であるとしました。Glass & Foster(1977)はTurbinicarpusとGymnocactusの違いに説得力はないと述べました。しかし、現在(2019年当時)でもGymnocactusは健在です。

③ラピカクタス
1942年にBuxbaum & Oehmeにより、GymnocactusからのRapicactusの分離が提案されました。Rapicactusはくびれのある太い根を持ちます。Luthy(2003)は、Rapicactusはその種子の形態に基づく必要があると主張しました。
2000年にMosco & ZanovelloによりTurbinicarpus mandragoraを分離することが提案されましたが採用されませんでした。しかし、Luthy(2001, 2002)による詳細な分類学的研究により、均一な分類群であることが示唆されました。Luthyによると、ガラス質の白っぽい針状のトゲ、種皮が部分的に凸型の「ドーム型または円錐形から乳首状」でありRapicarpusであるとしました。

④ノルマンボケア
1969年にKladiwa & Buxbaumは、Turbinicarpus valdezianusに因んでNormanbokeaと言う属名を提案しました。Bravo-Hollis & Sanchez-Mejarada(1991)は、NormanbokeaはThelocactusと密接な関係があると結論付けました。しかし、近年の分類学ではT. valdezianusはTurbinicarpusとされています。

⑤ブラヴォカクタスとカデニカルプス
1998年にDoweldは、Turbinicarpus horrispilusとTurbinicarpus pseudomacrocheleをそれぞれTurbinicarpusから分離するために、BravocactusとKadenicarpusを提案しました。しかし、後者は採用されていません。

⑥不安定なツルビニカルプス
Turbinicarpusの一部は、NeolloydiaやSclerocactusの一部として扱われたToumeya、およびPediocactusなど他属に移されました。

遺伝子解析
この論文では遺伝子解析による分子系統により、不安定なTurbinicarpusを分析しました。ツルビニカルプス属とされてきた種は大きく3つに分割出来ることが明らかとなりました。ここではツルビニカルプスと近縁属をA、B、Cの3グループに分けて見ていきます。

      ┏━━グループC
  ┏┫
  ┃┗━━グループB
  ┫
  ┗━━━グループA


グループA【Rapicactus・Acharagma】
Turbinicarpus beguinii、T. booleanus、T. mandragora、T. subterraneus、T. zaragozaeの5種類のツルビニカルプスは単系統で、Acharagmaと種子の特徴が共通する姉妹群です。この仲間はRapicactusとしてTurbinicarpusから分離されます。Rapicarpusは種子の微細な模様や、果実が側方で開裂し、果実の粘稠度、皮下組織の同心円状の晶洞の発生など、形態学的な共通点があります。また、このグループにはObregoniaやLophophoraが含まれます。
Buxbaum & Oehme(1942)はRapicactusとNeolloydiaを近縁としましたが、分子系統では支持されません。また、RapicactusにはPediocactusには関連していません


              ┏
━Lophophora
          ┏┫
          ┃┗━Obregonia
      ┏┫
      ┃┗━
━Acharagma
  ┏┫
  ┃┗━━━Turbinicarpus①
  ┫
  ┗━━━━グループB


グループB【Mammillaria・Cochemiea】
このグループにはTurbinicarpusは含まれないため、論文では解説されません。私が最新の情報に基づいて少し補足しましょう。
ここで解析されているCumariniaは、論文ではC. odorataと表記されていましたが、Coryphanthaから分離された種です。Neolloydia odorataとされたこともあります。MammillariaはM. lentaを解析しています。また、EscobariaはE. missouriensisとE. laredoi、PelecyphoraはP. aselliformis、NeolloydiaはN. conoideaが解析されています。しかし、現在ではEscobariaはPelecyphoraに吸収されました。OrtegocactusとNeolloydiaはCochemieaに吸収されました。ちなみに、ここでは登場しないEncephalocarpusもPeclecyphoraに吸収されています。

          ┏━━Cumarinia
      ┏┫
      ┃┗━━Mammillaria
      ┃
      ┃    ┏━Escobaria
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗━Pelecyphora
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Ortegocactus
  ┫
  ┗━━━━Neolloydia


グループC【Turbinicarpus・Kadenicarpus】
Turbinicarpusは1936年にBackebergによりStrombocactusの亜属として命名されたことから始まりましたが、1937年にBuxbaum & Backebergにより独特した属Turbinicarpusとなり、T. schmedickeanusを属の基準種に指定しました。Turbinicarpusの基準種であるT. schmedickeanusは分子系統のTurbinicarpus③に含まれ、本来のTurbinicarpusはTurbinicarpus③で、Ariocarpusの姉妹群です。Turbinicarpus②には、T. horripilusとT. pseudomacrocheleからなります。Kadenicarpusに属する2種は、それぞれDoweldにより提案されたBravocactusとKadenicarpusのタイプです。このTurbinicarpus②をTurbinicarpusから分離し、Kadenicarpusを復活させました。Anderson(1986)は、形態学的特徴からKadenicarpusの2種をNeolloydiaに含めましたが、分子系統ではこの提案を支持しません。また、Kadenicarpusは、関係が深いとされたこともあるMammillariaやNeolloydia、Pediocactus、Thelocactusと近縁ではありません。
                  
              ┏━Turbinicarpus③
          ┏┫
          ┃┗━Ariocarpus
      ┏┫
      ┃┗━━Turbinicarpus②
  ┏┫
  ┃┗━━━Strombocactus
  ┫
  ┗━━━━Epithelantha


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では各属の分岐した年代や、分岐した地理的な拡散を推察していますが、長くなるため割愛させていただきました。
さて、論文ではRapicactusやKadenicarpusの復活を提案していますが、現在(2024年5月)ではそれぞれ独立した属として認められています。近年のツルビニカルプスの仲間の分類をまとめると以下のようになっています。論文の書かれた2019年当時は健在だったGymnocactusもTurbinicarpusに吸収されました。

Gymnocactus→Turbinicarpus
Normanbokea→Turbinicarpus
Bravocactus→Kadenicarpus
Ortegocactus→Cochemiea
Neolloydia→
Cochemiea
Escobaria→Pelecyphora
Encephalocarpus→Pelecyphora


ちなみに、あまり聞き慣れないAcharagmaは以下の3種からなります。ご参考までに。

Acharagma aguirreanum
 =Escobaria 
aguirreana
 =Gymnocactus 
aguirreanus
 =Thelocactus 
aguirreanus

Acharagma galeanense
 =Escobaria roseanum
                  ssp. 
galeanensis
 =Acharagma 
roseanum
                  ssp. galeanense

Acharagma roseanum
 =Escobaria 
roseana
 =Gymnocactus 
roseanus
 =Neolloydia 
roseana
 =Thelocactus 
roseanus
 =Echinocactus 
roseanus
 =Acharagma huasteca


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最近、某匿名掲示板をダラダラ見ていたら、サボテンが霧から水分を得るという仮説に対して、かなり否定的な論調が見受けられました。しかし、実際に色素液をアレオーレに滴下してからサボテンを輪切りにすると、アレオーレから吸収された色素がサボテン内の維管束に拡がる様子が観察出来ます。砂漠は日中と夜間の寒暖差が激しいので、夜間に霧が発生しますから、いわゆる夜露を吸収することは理にかなった生態です。霧を吸収するなら、某匿名掲示板では地面に染み込んだ霧を根から吸収した方がいいと言うような書き込みもありましたが、露は表土を濡らすだけで深く染み込むほどの量はありません。サボテンは深く根を張るものが多く、日中高温になり乾燥しますから露が染み込むほど浅い場所に細根は張らないでしょう。とは言え、すべてのサボテンが露を頼りにしているわけではないようです。露をキャッチするのはトゲで、トゲは表面の微細構造により露をアレオーレに運びます。しかし、サボテンによってはトゲの微細構造が露を運ぶのに適しておらず、露を利用していないと考えられるものもあります。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はトゲを介した吸水の話をしましょう。以前も記事にしましたが、今回は異なる種類のサボテンを対象とした論文です。

以前の記事です。ご参照までに。
本日はYahya S. Masrahiの2020年の論文、『Glochids microstructure and dew harvesting ability in Opuntia stricta (Cactaceae)』をご紹介します。

霧と露
霧と露は空気中の過剰な水蒸気から発生し、水滴として凝縮する浮遊水のもっとも顕著な発生源です。液滴が浮遊する場合を霧と呼びます。霧は空気が露点以下に冷却されて水滴が結露することにより形成されます。多くの乾燥地域や半乾燥地域では、霧と露がその時の気候条件に応じて一定量の水源となります。干ばつが深刻な年には、霧が年間降水量を超えることもあります。そのような厳しい環境では、霧や露が重要な役割を果たします。

疎水性と親水性
個体表面上での液滴形成にとって重要なのは、三相境界で形成される接触角です。ちなみに三相境界とは、液体と蒸気の境界面が固体表面と接する場所のことです。接触角が90°未満の場合は親水性で、これは濡れが発生し広い領域を液滴が覆います。一方、接触角が90°を超えると疎水性となり濡れ性は低くなります。疎水性表面上の液滴はより球形になる傾向があり、小さな領域しか固体表面に触れません。

霧を集めるサボテン
サボテンの中でトゲ(spine)や芒刺(glochid)で霧や露を集めることが知られている種類はほとんどありません。トゲや特に芒刺は表面の微細構造が大きく異なります。結露は気温、湿度、表面の微細構造により制御されるため、結露を集める能力はサボテンのトゲの微細構造次第です。現在までにトゲが水分を集めることが確認されたサボテンはわずか数種類しかありません。

実験
芒刺を持つOpuntia strictaと言うウチワサボテンを実験に使用しました。O. strictaには、長さ10〜25mmのトゲと、微細な毛状突起である芒刺があります。サンプルはサウジアラビアでは侵略的外来種であるO. strictaを野外で採取し使用しました。トゲは表面に目立った構造はなく、ほとんど無毛で露の収集能力を示しませんでした。
芒刺は電子顕微鏡で表面構造を調べました。また、夜霧を想定した人工的な霧がある環境で、トゲと芒刺がついたアレオーレを置き、顕微鏡で液滴の形成を観察しました。


芒刺の微細構造
芒刺はアレオーレに約80本あり、長さは約5mmでした。芒刺の表面は逆向きの扁平で先の尖った突起に覆われていました。突起の先端はほぼ滑らかで、基部には微細な溝があり表面は先端よりも粗くなっていました。芒刺の先端部の頂角は9.25°前後で鋭く、突起の先端部の頂角は41.5°前後で弱く扇形でした。

液滴形成の過程
人工的な霧の中で芒刺の表面に水滴が堆積し始めます。まず、芒刺の先端部にコアが形成され、小さな液滴が芒刺の基部に移動しながら、他の液滴と合体して大きな液滴を形成します。直径約130mm以上となった液滴は芒刺の基部へ移動し合体します。
液滴が表面上を移動している時、液滴の接触角が最大(膨張)になる前進接触角と、最小(収縮)となる後退接触をからなります。芒刺では76.25°前後の前進接触角と、52.5°前後の後退接触角が明らかとなりました。実験で使用した芒刺は垂直か半垂直でしたが、液滴の堆積は水平方向の芒刺でも発生します。

ラプラス圧力勾配
芒刺と芒刺の突起は9.25〜41.5°の円錐頂角を持ちますが、このような形態は表面にラプラス圧力勾配を生じます。この時、基部よりも先端部でより強いラプラス圧力を持ちます。この差は円錐の先端部小さな半径と高い曲率、円錐の基部の大きな半径と低い曲率により生じます。これはラプラスの定理で表すことができます。
円錐に沿った先端部から基部までの間の液滴のラプラス圧力勾配は、液滴の臨界サイズである約130mmに達した場合、液滴の自発的な移動を引き起こす駆動力の1つです。

Wenzel状態
芒刺は基部に向かうにつれ顕著な溝があります。この特徴は芒刺の突起にもあり、基部に向かうほど増加します。これがWenzel状態であるならば、芒刺と芒刺の突起の表面の「粗さ」が基部に向かうほど増大することにより、錐体構造の先端から基部に向かう液滴の移動に推進力が生まれる可能性があります。

表面エネルギー勾配
表面エネルギー勾配の原理では、水滴は低い表面エネルギー(濡れ性が低い)から高い表面エネルギー(濡れ性が高い)まで、濡れ性の勾配に沿って移動する傾向があります。サボテンのトゲと芒刺はクチクラと石細胞により防水性がありますが、芒刺の基部にある毛状突起(アレオーレの毛のようなもの)は湿潤性があります。吸湿性の毛状突起は湿潤性が高く、芒刺と芒刺の突起の先端部は表面エネルギーが低くなります。この表面エネルギー勾配も液滴の移動を引き起こす駆動力の1つであると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
水滴がトゲを伝ってアレオーレに向かって流れ落ちるだけならば、あまり濡れ性は関係ないと思われる方もおられるでしょう。しかし、濡れ性が低いと言うことは、蓮の葉の上の水滴が弾かれて転がるように、トゲに水滴は付着しないと言うことです。濡れ性が低い場合は、水滴は単純に重力により落下しますから、トゲを伝ってではなく垂直方向への自由落下により地面に落ちてしまいます。逆に濡れ性が高い場合は、トゲに水滴が付着し、表面の勾配により水滴は移動します。この時、水滴は単純に重力により落下しているわけではありません。特に水滴が出来る最初のコアは非常に小さな粒子なのですから、勾配がなければただ表面に貼り付くだけで移動しないでしょう。水平方向の芒刺にも水滴の移動が起こるのは、重力よりも表面の微細構造による勾配の力が影響しているからです。
さて、このように芒刺とアレオーレを介した霧からの水分吸収は理屈の上からも、観察した結果からも明らかです。しかし、その吸水量がサボテンの生存や生長にどれだけ貢献しているのかは、実はよく分かりません。論文の中では霧からの吸水が確認されたのは数種類とありますが、これは数種類しかないのではなくて、数種類しか調査されていないと言うことです。例えば、サボテンの種類ごとの生息環境と、霧からの吸水能力の有無を沢山の種類で確認出来た場合、間接的に霧からの吸水が環境に適応した結果であるかを考察出来るかも知れません。また、アレオーレからの吸水の影響を、栽培されたサボテンで試験することも出来るでしょう。根からの吸水とアレオーレからの吸水は、吸水力や吸水量以外にも違いがある可能性もあります。もし、その違いがサボテンの生育に深い関係があるのなら、サボテンの栽培方法にも新たな工夫が出来るかも知れませんね。


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ヒマワリの花は太陽の方向を向くと言われています。私の好きなギムノカリキウムの花は花茎が短く球体に貼り付くように咲きますから、花の向きなどは気にしたことはありませんでした。しかし、花はアレオーレから出ますが、すべての稜(rib)に万遍なく蕾がつくのでしょうか?
調べて見ると、柱サボテンに関してはいくつか論文が出ているようです。本日はその中でも割と有名な武倫柱(Pachycereus pringlei)の花の付き方を調査した、Clara Tinoco-Ojanguren & Francisco Molina-Freanerの2011年の論文、『Flower orientation in Pachycereus pringlei』をご紹介しましょう。

花のつく向き
柱サボテンの花は様々な位置で咲きます。花をつけるアレオーレは頂端や頂端下、あるいは側方にあります。また、Cephalium(※1)や疑似Cehalium(※2)を持つものもあります。Cephalocereus columna-trajaniでは、疑似Cephaliumは太陽の直射を避けています。しかし、温帯砂漠に生息する柱サボテンの中には、太陽に向かって花を咲かせるものもあります。Carnegiea giganteaなど頂端で開花する種では、花は東側あるいは南東の稜に形成されます。側方に花をつける主幹では、主に太陽の方角につきます。南米原産のTrichocereus chilensisでは花は北を向いています。
さて、このように柱サボテンでは花のつく位置に偏りがあります。Johnson(1924年)はC. giganteaの花は花の発育に適した温度になる時間が長い頂端の東側と南東側で発達すると主張しました。

※1 ) メロカクタスのように先端部に出来る羊毛と剛毛からなる構造。
※2 ) Pseudocephalium。CephalocereusやEspostoaに見られる茎の頂端付近にある毛状構造。

Pachycereus pringlei
Pachycereus pringleiはソノラ砂漠に固有の柱サボテンです。この地域で最大のサボテンで高さ15〜20mになり、稜(rib)は10〜15本で幹は直径1.5mに達します。成熟するまでは単幹で、成熟すると枝分かれし始めます。この種はバハ・カリフォルニアの大部分とカリフォルニア湾のほとんどの島に広く分布します。
P. pringleiの花芽は2月に出現し、3月下旬から6月上旬まで咲き続けます。花は主に幹の上部で咲きます。8.7〜10.2cmの白い花は日没直後に開花し、翌時の正午に閉じます。夜には花にコウモリが訪れ、日の出後出しは数種類の鳥やミツバチが訪れます。

測定結果
P. pringleiの花はその70〜77%が90度〜270度の方角に面した稜にありました。P. pringleiの花は主に東、南、西向きの稜につきました。東、南、西向きの稜は周辺温度より5〜8℃温度が上昇しましたが、北向きは周辺温度に近い温度でした。南向きの稜は日中の温度が25℃以上に保たれていました。
また、花の数は枝の長さと相関がありました。長さ1m未満の枝には花は咲かず、長さが1mを超える枝では、長さに依存して花がつきました、

考察
著者らは太陽光が二酸化炭素摂取と幹の温度に影響を与えたことが、P. pringleiの花のつき方の原因である可能性を指摘しています。北向きの稜の太陽光は制限される可能性が高く、炭素の増加は最小限となる可能性があります。柱サボテンでは、方角の異なる稜は炭素増加量に違いが発生することが知られています。よって、花を咲かせるためのアレオーレの誘導が炭水化物の蓄積に依存するならば、花を咲かせることを可能とするために十分な炭水化物を蓄積出来るのは北向き以外の方角の稜であると考えられます。Opuntia ficus-indicaでは、炭水化物の蓄積に加えて、温度周期が新しい器官の形成に影響を与えることが知られています。しかし、柱サボテンでは温度周期の影響は不明です。
また、人工照明を当てたり遮光処理をしたり、炭水化物の注入したりと、実験的に確認することも出来るかも知れません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
花のつき方が日当たりと関係していると言う内容でした。しかし、この現象はすべてのサボテンで見られるわけではないようです。それでも、育てているサボテンの花のつき方と太陽光の向きについては、今後は気になってしうかも知れませんね。


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先日、ケファロケレウスは現在何種類あるのと言う記事を上げました。これはケファロケレウスを調べていた際のある種の副産物で、本来は本日の記事に入れ込むつもりでしたが、ボリューム的に無理なので独立した記事にしたと言う経緯があります。

さて、いくつかの論文をサッと斜め読みしましたが、研究者たちがケファロケレウスにどのような興味を抱いてきたのかが何となく分かりました。と言うわけで、本日はケファロケレウスの面白そうな論文を、私の好みでいくつかピックアップしてみました。簡単に概要のみをご紹介しましょう。

*ケファロケレウスの新種を発見*
2019年のSalvador Ariasらの2019年の論文、『A new species of Cephalocereus (Cactaceae) from southern Mexico』によると、メキシコはオアハカ州のMixtecan地域より、Cephalocereus parvispinusを新種として記載しました。C. parvispinusは高さ8メートルになり、樹枝状で15〜23本の稜(rib)を持ちます。花は長さ3.5〜4センチメートル、果皮にトゲはありません。暗赤色の果実は長さ1.7〜2.2センチメートルで果肉は白く、種子は約1.4×0.6mmで暗褐色でシワがあります。遺伝子解析によると、C. polyophusおよびC. euphorbioidesの姉妹種であることが示されました。

*ケファロケレウスの表皮には結晶がある
ケファロケレウスは表皮組織に結晶構造物があり、種により固有の性質を持つと言います。ここでは、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2015年の論文、『The polymorphic weddellite crystals in three species of Cephalocereus (Cactaceae)』を見てみましょう。
メキシコのテワンテペク地峡に自生するC. apicicepharium、C. nizandensis、C. 
totolapensisの表皮に豊富ある角柱状の結晶を調査しました。種類により異なる水和度を持つウェッデル石を持つことが分かりました。結晶の形態の違いは含まれる元素の組成に関連している可能性があります。

*ケファロケレウスは土質により住み分ける*
同じ地域に生える3種類のケファロケレウスを調査した、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2010年の論文、『Rock-Soil Preferences of Three (Cactaceae) Species of Tropical Dry Forests』を見てみましょう。
メキシコはテワンテペク地峡にて、岩石と土壌の成分と自生するケファロケレウスの種類を調査しました。Cephalocereus apicicephariumは丘の頂上から裏斜面までの石英を含む石灰岩の露頭でのみ育ち、C. nizandensisは丘の肩のメタ石灰岩(metalimestone)の露頭に育ちます。C. totolapensisは安山岩の酸性土壌を好み、丘の肩から斜面のシルト岩や雲母片麻岩でも育ちました。

*ケファロケレウスの自然交雑種*
雑種は不稔であると一般的には言われています。不稔とは種子が出来ない、つまり雑種は有性生殖出来ないと言うことです。しかし、サボテンでは自然交雑による雑種はよく起こることで、雑種にも種子が出来る場合もあるようです。さらに言えば、近年では雑種が進化の原動力の1つではないかと言う意見もあります。さて、そのような自然交雑を観察したGabriel Merinoらの2022年の論文、『Mating systems in a natural hybrid of Cephalocereus (Cactaceae) and comparative seed germination』を見てみましょう。
メキシコのTehuacan-Cuicatlan保護区では、C. columna-trajaniとC. tetetzo、さらには両者の雑種が共存しています。雑種の交配成功率は親よりも高く、種子は親よりも発芽率が高く雑種強勢であると解釈されました。雑種個体間の交配は雑種の生殖が成功した証拠です。雑種の不稔製が反証され、雑種は「進化の終点」を表すと言う見解に異議を唱えることが出来ます。


*なぜケファロケレウスは傾くのか?
Cephalocereus columna-trajaniは自生地では傾いて育つことが多いと言います。研究者たちも不思議に思ったようで、いくつかの論文が出ています。ここでは、Pedro Luis Valverdeらの2007年の論文、『Stem tilting, pseudocephalium orientation, and stem allometry in Cephalocereus columna-trajani along a short latitudinal gradient』を参照としましょう。
メキシコの
Tehuacan-Cuicatlan渓谷に沿った緯度勾配に従い5つの個体群をピックアップしました。サボテンの高さと直径、茎の傾斜角、pseudocephalium(頂端付近にある花が咲く毛状構造)の方角を調査しました。茎の北部ほどより高い傾斜角を持ち、pseudocephaliumの方角は一貫して北北西でした。また、南部の個体群ほど、直径に対してはるかに速く高さが増加することが分かりました。
分かりにくい話ですが、これは太陽の当たる角度とpseudocephaliumの関係を示しています。要するにpseudocephaliumを太陽に当てないようにしているわけです。さらに、Jose Alejandro Zavala-Hurtadoらの1998年の論文を見ると、茎が傾くことにより年間の遮光量が増加するとしています。しかし、その代わり枝分かれが不可能となり、傾斜が激しい個体ほど背の高さに制限があるでしょう。


*分子系統による分類
ケファロケレウス属内の系統関係はどうなっているのでしょうか。Hector J. Tapiaらの2023年の論文、『Phylogenetic and geographic diversification/differentiation as an evolutionary avenue in the genus Cephalocereus (Cactaceae) Evolutionary Avenue in Cephalocereus』を見てみましょう。遺伝子解析による分子系統です。
まず、C. apicicephalium〜C. scopariusのグループと、★〜C. parvispinusのグループに大別出来ます。さらに、後者のグループは★〜C. fulvicepsのグループと、C. euphorbioides〜C. parvispinusのグループに分けられます。ちなみに、★は沢山の種類が含まれるため、★だけでまとめました。

              ┏★
          ┏┫
          ┃┗C. sanchezmejoradae
      ┏┫
      ┃┗━C. fulviceps
      ┃       
      ┃    ┏C. euphorbioides
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗C. polyophus
  ┃┗┫
  ┫    ┗━C. parvispinus
  ┃
  ┃        ┏C. apicicephalium
  ┃    ┏┫
  ┃    ┃┗C. nizandensis
  ┃┏┫
  ┃┃┗━C. totolapensis
  ┗┫
      ┗━━C. scoparius

           ┏━━C. mezcalaensis
           ┃
           ┃    ┏C. multiareolata
       ┏┫┏┫
       ┃┃┃┗C. nudus1
       ┃┗┫
   ┏┫    ┗━C. nudus2,3
   ┃┃
   ┃┗━━━C. macrocephalus
   ┃
  ★┫┏━━━C. tetetzo
   ┃┃
   ┗┫┏━━C. columna-trajani
       ┗┫
           ┗━━C. senilis


見ていただいた通りで特に解説はありませんが、少し補足します。
・現在、ケファロケレウス属は13種類が認められていますが、論文では16種類となっています。まあ、これは便宜上の分け方で、この分け方とすべきであると言うわけではありません。
・C. sanchezmejoradaeは現在ではC. novusの異名となっています。C. novusが論文に登場しないのは、C. novusが2022年にケファロケレウス属とされたため、研究段階ではケファロケレウスではなかったからでしょう。ただ、C. 
sanchezmejoradaeが本当にC. novusと同種であるかは再確認が必要でしょう。
・C. nizandensisとC. totolapensisは、C. apicicephaliumの異名とされています。分子系統では一塊となっており、非常に近縁であることは間違いがないようです。ただし、これら3種が同種か別種かは分子系統からは分かりません。
この3種類は表皮の結晶や自生する土壌は異なるため、別種なのでは? と言う気もします。しかし、遺伝的には非常に近縁ですから、あるいは亜種や変種くらいの立ち位置なのかも知れませんね。
・C. multiareolatusは現在ではC. mezcalaensisの異名とされています。しかし、分子系統ではC. nidusの3個体と区別出来ていません。C. mezcalaensis系統ではなくC. nidus系統であることは間違いないでしょう。
・C. nidusはかつてはC. tetetzo v. nudusとされてきましたから、C. tetetzoと近縁に思えます。しかし、C. nudusはC. tetetzoよりC. mezcalaensisに近縁です。


最後に
何となくケファロケレウスを調べて見ましたが、なかなか興味深い研究が沢山ありました。今回はいくつか見繕って記事にしましたが、まだまだ面白そうな研究はありました。論文はじっくり読むと大変ですが、サッと概要だけなら結構沢山読めます。サボテンは属が沢山ありますから、今後も不定期にボチボチ記事にしていきたいと思っております。


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アロエの論文を探していた時に、たまたまアロエを用いた土地の浄化についての論文を見つけました。土壌汚染地域に植物を植えて、植物に汚染物質を吸収させると言う話はたまに聞きます。しかし、実際の結果については聞いたことがありませんでした。しかも、浄化する植物にアロエを用いると言うのは、なかなか興味深く感じましたので、早速読んでみました。と言うことで、本日はJoao Marcelo-Silvaらの2023年の論文、『Phytoremediation and Nurse Potential of Aloe Plants on Mine Tailings』をご紹介します。

有毒な尾鉱
現在、南アフリカの鉱山では激しい採掘活動が行われています。鉱山の尾鉱(採掘の残渣)には有毒な金属(PTM)が豊富に含まれており、環境に対する長期的なリスクがあります。

アロエでPTMを除去出来るのか?
この論文では、植物を用いたPTMの除去、つまりPytoremediationの可能性を探ります。
この研究では、鉱山の尾鉱を用いて栽培された、Aloe burgersfortensisとAloe castaneaを評価しました。試験ではプラチナ鉱山と金鉱山から採取された尾鉱が使用されました。

アロエの成分分析
尾鉱で栽培されたアロエの葉の成分を分析しました。尾鉱ではない土壌で栽培されたA. castaneaと比較すると、プラチナ鉱山と金鉱山の尾鉱で栽培されたA. castaneaには高いレベルのニッケルが含まれていました。さらに、プラチナ鉱山の尾鉱ではカドミウム、マンガン、亜鉛、銅が蓄積し、金鉱山の尾鉱ではコバルト、マンガン、亜鉛、銅が蓄積しました。A. bergersfortensisでは、尾鉱ではない土壌で栽培された個体では、A. castaneaよりも亜鉛やニッケル、マンガン、カドミウム濃度は高いものの、尾鉱で栽培すると蓄積濃度が下がる傾向があります。金鉱山の尾鉱では亜鉛濃度が多少上がりました。

最後に
Aloe castaneaは有毒な金属を生物濃縮する可能性が示されました。しかし、そもそも重金属で汚染された土壌では育たない植物も多いわけで、Aloe castaneaが重金属に耐性があることに驚きます。私が思うに、このPytoremediationにおいて重要なのは、固有種の使用だと思います。やはり、外来種ではなくて、自生する植物の使用が望ましいはずです。まあ、南アフリカの乾燥地に適応した植物となれば、自生する多肉植物を用いるのがもっとも有用でしょう。
今回は2種類のアロエを用いましたが、種によって金属の蓄積傾向が異なることが示唆されます。場合によっては、複数種の植物を組み合わせて、効率的に金属を回収することも可能かも知れません。この論文は2023年のものですから最近の話です。アロエを用いたPytoremediationはまったく新しい試みと言えます。今後の進展に期待したいですね。


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ここ数年、コピアポアが人気なようでよく目にします。多肉植物のイベントではサボテンはすっかり日陰者であまり見かけませんが、必ずといっていいほどコピアポアはあったりします。さて、そんなコピアポアですが、分類学上の立ち位置は長らく不明でした。しかし、近年では遺伝子解析により大まかな立ち位置は判明しています。さて、そんなコピアポアですが、属内の分類はどうなっているのでしょうか? 本日はIsabel Larridonらの2015年の論文、『An integrative approach to understanding the evolution and diversity of Copiapoa (Cactaceae), a threatened endemic Chilean genus from the Atacama Desert』をご紹介しましょう。

コピアポアの履歴
Copiapoaは32種類と5亜種が含まれています(2015年時点)。30種類は4つの節(Section)と2つの亜節(Subsection)に分類されますが、2種類は未分類のままです。
さて、Copiapoaは1922年にBritton & Roseにより定義されました。つまり、球形または短い円筒形のトゲのあるサボテンで、昼行性の黄色い花を咲かせます。この時に、新属には6種類が含まれ、そのうち5種類はEchinocactusに分類されていた種でした。
1930年代から1980年代にかけて、Backeberg(1966)やRitter(1980)などの著者により新種が記載され、合計46種に達しました。しかし、それ以降の著者の多くは、種数の削減を提案しました。
これまでに発表された分類学的提案と種は、形態学的類似性に基づいています。ただし、サボテン科は重大な同型形質(Homoplasy)があるため問題があります。


240411013440009~2
Copiapoa cinerea

分子系統
遺伝子解析による分子系統では、大き4つに分けられます。Copiapoa属は全体としてはまとまりのあるグループで、単系統でした。分子系統と過去の分類の適合性が低いため、コピアポア属の分類を改訂する必要があります。
分子系統の根元にあるClade PilocopiapoaはC. solarisからなりますが、正式に記載されていないC. australisが近縁です。C. australisはC. humilisの最南端に生えるグループと考えられてきました。次にC. lauiが分岐します。C. lauiはC. hypogaeaの亜種とされることもありますが、C. hypogaeaはClade Copiapoaに含まれ、C. lauiとは近縁ではありません。次に分岐したのはClade Mammillopoaで、C. humilisからなります。論文では亜種humilis、亜種tenuissima、亜種tocopillana、亜種variispinataがまとまりのあるグループであることが分かりました。Clade EchinopoaはC. armata(=C. coquimbana var. armata)とC. fiedlerianaのグループと、C. coquimbanaとC. dealbashi、C. echinoidesを含むグループからなります。
また、コピアポア属のほとんどの種類はClade IIIに含まれます。Clade IIIは2つに分割できます。園芸的に有名なC. cinerea(黒王丸)はCinereiに含まれます。


                  ┏IIIb, Copiapoa
              ┏┫ 
              ┃┗IIIa, Cinerei
          ┏┫
          ┃┗━IV, Echinopoa
      ┏┫
      ┃┗━━II, Mammillopoa
  ┏┫
  ┃┗━━━C. laui
  ┫
  ┗━━━━I, Pilocopiapoa

240411013449850~2
Copiapoa coquimbana

Clade III
Clade IIIはC. longispinaとC. megarhiza以外はコピアポ渓谷の北に分布し、Clade IVはコピアポ渓谷の南に分布します。コピアポ渓谷は地理的な遺伝子流動の障壁として働いています。
Clade IIIaはHuntら(2006)の分類によると、C. cinereaとC. krainzianaが含まれ、C. giganteaはC. cinerea subsp. haseltonianaとしました。しかし、分子系統ではC. 
krainzianaはC. cinereaの中に含まれ、C. giganteaはC. cinereaと区別されます。
Clade IIIbは、まずC. longispina、C. megarhiza、C. conglomerateが分岐し、C. longistaminea〜C. derertorumのグループと、C. taltalensis〜*の2つのグループに分岐しました。*は、C. mollicula〜C. esmeraldianaのグループとC. grandiflora〜C. parvulaのグループに分岐しています。

  ┏━━━━━━C. longispina
  ┃
  ┫┏━━━━━C. megarhiza
  ┗┫
      ┃┏━━━━C. conglomerate
      ┗┫
          ┃    ┏━━C. longistaminea
          ┃┏┫
          ┃┃┃┏━C. rupestris
          ┃┃┗┫
          ┃┃    ┃┏C. aphanes
          ┃┃    ┗┫
          ┃┃        ┗C. desertorum
          ┗┫
              ┃┏━━C. taltalensis
              ┗┫
                  ┣━━C. serpentisulcata
                  ┃
                  ┣━━C. decorticans
                  ┃
                  ┃┏━C. cineraescens
                  ┗┫
                      ┗━*

     ┏━━━C. mollicula
 ┏┫
 ┃┃┏━━C. angustifolia
 ┃┗┫
 ┃    ┗━━C. esmeraldiana
*┫ 
 ┃┏━━━C. grandiflora
 ┗┫ 
     ┃┏━━C. montana
     ┃┃
     ┃┣━━C. calderana
     ┃┃
     ┃┣━━C. marginata
     ┗┫
         ┃┏━C. hypogaea
         ┗┫
             ┃┏C. atacamensis
             ┗┫
                 ┣C. leonensis
                 ┃ 
                 ┗C. parvula

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
コピアポア属内は分類は割と上手く出来ているようです。意外と重要なのが分類と地理的分布の関係で、論文では地理的な拡散と分類の関係を考察しています。それによると、コピアポア属の起源はペルー南部とチリの極北の間にあるとしています。また、コピアポア属は、外見的に類似しているからと言って必ずしも近縁であるとは限らず、生息環境に対する適応の結果として相似しているだけだと述べられていました。
このように、様々な角度からコピアポアが解析されましたが、まだ解明されていない謎も多いでしょう。そうであるならば、コピアポア研究はまだまだ続くはずです。その時にはまた論文をご紹介出来ればと考えております。


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去年の3月にソテツにつくカイガラムシが沖縄に侵入したと言う記事を挙げました。すっかり忘れていたのですが、最近になり奄美大島でカイガラムシが猛威をふるっていると言うニュースを目にしました。すでに、かなり危機的な状況のようです。


調べて見ると、世界中でこのカイガラムシが蔓延し、世界中のソテツにダメージを与えていることが分かりました。さて、ではこのカイガラムシに対して、科学者たちはどのようなアプローチをしているのでしょうか? 今回はそのソテツにつくカイガラムシ=Aulacaspis yasumatsuiに対する研究をご紹介します。それは、Ronald D. Caveらの2009年の論文、『Temperature-Dependent Development of the Cycad Aulacaspis Scale, Aulacaspis yasumatsui(Hemiptera: Diaspididae)』です。簡単に見ていきましょう。

害虫あらわる
Aulacaspis yasumatsuiは東南アジア原産のカイガラムシで、フロリダ、テキサス、ハワイ、西インド諸島、コスタリカ、ニュージーランド、コートジボワール、グアムでは侵入害虫です。グアムでは在来ソテツであるCycas micronesicaを枯死させました。
米国では1998年に南フロリダではじめて検出され、すぐに州全体に広がりました。このカイガラムシは数種類のソテツに寄生しますが、人気のある景観植物であるking sago(Cycas revoluta)は特に感受性が高いようでした。1998年以来、南フロリダの多くのking sagoが、A. yasumatsuiにより破壊されてきました。

実験
A. yasumatsuiの卵と幼虫を、18℃、20℃、25℃、30℃、32℃、35℃で育てました。
卵は18℃では孵化しませんでした。また、30℃までは孵化時間が短くなりましたが、30℃以上ではそれ以上短くなりませんでした。30℃の孵化率は84.0%と高く、35℃では62.2%と孵化率は低下しました。
幼虫は18℃でもっとも生育が遅く、35℃でもっとも早くなりました。しかし、18℃と35℃で育てたメスは産卵せずに死亡しました。また、11℃と38℃の環境では幼虫は育ちませんでした。

生存可能な気温
A. yasumatsuiは、20℃未満では1齢幼虫より大きく育つのは非常に困難です。フロリダ南部では11月から4月にかけての平均最低気温が20℃以下になるため、葉に付着したカイガラムシの死亡率するか、増えるとしても非常に遅くなる可能性があります。しかし、大胞子葉や根についたカイガラムシは低温から保護される可能性があります。

天敵
フロリダではA. yasumatsuiの天敵となる可能性のある昆虫は、寄生蜂であるCoccobius fulvus、テントウムシの1種であるRhyzobius lophanthae、キムネタマキスイと言うカイガラムシを捕食する甲虫であるCybocepalus nipponicusです。
Unaspis yanosisと言うカイガラムシに寄生するC. fulvusの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で52日、25℃で27日、30℃で26日です。R. lophanthaeの卵から次の卵までの発生時間は、Aspidiotus neriiを捕食した場合では20℃で44日、25℃で32日、30℃で24日、
Chrysomphalus aonidumを捕食した場合では20℃で48日、25℃で34日、30℃で27日かかります。対するA. yasumatsuiの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で50日、25℃で31日、30℃で28日です。これらの天敵はカイガラムシより世代交代が早いか同等です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
気温と生育を害虫と天敵で比較しましたが、データ上では有効性が示されたようです。しかし、テントウムシでは食べた餌により生育に差があることからも分かる通り、それが適した餌であるかが重要です。不適な餌では天敵の生育や増殖が抑制されてしまうことは珍しいことではありません。これらの天敵候補が実際にA. yasumatsuiを捕食してどう増えるのかを見ないと本当のところは分からないでしょう。
さて、しかし低気温ではA. yasumatsuiの生育に影響があることが分かりました。問題となっている奄美大島は、冬でも最低気温は10℃以下になることはあまりないと言うことです。10℃は卵が孵化したり幼虫が育たない温度ですが、定着していることからすると成虫は耐寒性があるのか、あるいは鱗片などに隠れて防寒しているのかは分かりませんが、とにかく冬を越してしまっています。気温だけでは決定打にならないと言うことです。むしろ、A. yasumatsuiの原産地で有効な天敵を探した方が有意義かも知れません。一般的に天敵の導入で害虫を根絶することは困難ですが、害虫の増殖を抑え植物の生存率や繁殖率を上げる効果があります。
論文の中で出てくるking sagoとは日本の蘇鉄のことですが、特にA. yasumatsuiに弱いようです。A. yasumatsuiはソテツを枯らしてしまう危険な害虫です。奄美大島のソテツ原生林が崩壊する前に、有効な手立てを見つけ出す必要があるでしょう。しかし、このA. yasumatsuiは日本列島を北上するのでしょうか? 同じようにソテツの害虫であるソテツシジミと言う蝶は南方系ですが、あれよという間に日本列島を北上し、関東でもしばしば報告されています。私の居住地は冬はマイナス5℃を下回りますから、一見してA. yasumatsuiは冬を越せそうにありません。ただ、DioonやZamiaは室内に取り込みます。これらに付いて冬越ししてしまい、暖かくなって外に出したら日本のソテツで大量に増えてしまうと言うサイクルも想定されます。何れにせよ、これ以上の被害の拡大はないように、願わくは何らかの対策により奄美大島のソテツの被害が収束して欲しいものです。


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ベンケイソウ科植物の中にオロスタキス属(Orostachys)と言う分類群があります。多肉植物として一般的に栽培されますが、国内にもイワレンゲやツメレンゲなど自生するオロスタキスがあります。さて、このオロスタキスですが、その名前を命名したのは一体誰なのか、何やら議論のあるところだと言うのです。Vjaceslav V. Byalt & Irina V. Sokolovaの1999年の論文、『Who is the author of the name Orostachys (Crassulaceae)?』を見ていきます。

名前の謎
Orostachysと言う名前は、その命名者として様々な人物が取り上げられてきました。例えば、Borisova(1939, 1970)やOhba(1978, 1995)は、基本名はAugustin Pyramus de Candolleに、属名としてはFischerを挙げています。Webbの『Flora europaea』の両方の版(1964, 1993)では、基本名はde Candolleに属名はFischer ex Sweetとされています。他のいくつかの研究では、属名をFischer単独のものとしています。さらに、Eggliら(1995)はFischer ex Bergerとして著者を引用しています。

命名の経緯
Orostachysと言う名前に結びつく最初の名前は、Carl von Linne(1753)により命名されたCotyledon spinosa L.であり、後のOrostachys spinosa (L.) Sweetでした。一般名Orostachysは、1808年にFischerによりはじめて使用されました。しかし、この属の説明をしなかったため、検証出来ませんでした。リストされている種は、名前が有効に公開されていないため、新しい名前として有効ではありません。
Orostachysの詳細な説明は翌年、つまり1809年にFischerにより発表されました。Fischerは、Orostachysの雄しべの数は花弁の数と等しくはなく、その2倍である10本であることを証明しました(※まれに8本、あるいは12本)。このような花の特徴から、FischerはOrostachysをCrassula L.やCotyledon L.よりも、Sedum L.に密接に関連しているとしました。

この時に記載されたのは以下の種でした。
①O. chloracantha
②O. thyrsiflora
③O. malacophyalla
④O. libanotica

de Candolleの分類
1828年にde Candolleは、ベンケイソウ科を扱った2つの重要な著作を出版しました。知られている世界中のベンケイソウ科植物の全種を扱い、19属に整理しました。この時、CandolleはOrostachys Fisch.を独立した属とせず、4つの節(Section)の1つUmbilicus DC.に含めました。Candolleは1808年のFischerを引用し、Orostachys Fisch.に言及していますが、1809年のFischerに基づく誤った引用による組み合わせを発表しました。

正しい引用
Orostachysの著者を正しく引用した最初の分類学者はCerepanov(1973)でした。しかし、Candolleの引用が間違っていたため、その後の多くの植物学者は、CandolleがOrostachysと言う新しい節の名前を有効に発表したと考えていました。
Orostachysは正式には以下のように引用されます。


Orostachys Fisch, in Mem. Soc. Imp. Naturalistes Moscou 2: 270. 1808.
Type: O. malacophyalla (Pall.) Fisch. (=Cotyledon malacophyalla Pall.)

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
de Candolleの引用に誤りがあったため、de Candolleの分類群は命名規約上では採用されないと言うことです。ですから、de Candolleをオロスタキスの命名者とすることは、多くの植物学者の考えとは裏腹に誤りなのです。
さて、せっかくですから、現在認められているオロスタキス12種類を示して終わります。

①O. boehmeri (Makino) H.Hara
②O. cartilaginea Boriss.
③O. chanetii (H.Lev.) A.Berger
④O. fimbriata (Turcz.) A.Berger
⑤O. gorovoii Dudkin & S.B.Gontch
⑥O. japonica (Maxim.) A.Berger
⑦O. malacophyalla (Pall.) Fisch.
⑧O. maximowiczii V.V.Byalt.
⑨O. minuta (Kom.) A.Berger
⑩O. paradoxa (A.P.Khokhr. & Vorosch.) Czerep.
⑪O. spinosa (L.) Sweet
⑫O. thyrsiflora Fisch.


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。本日で最後になります。

サボテン科の進化と分子系統①
サボテン科の進化と分子系統②

Core Cactoideae II
Core Cactoideae IIの分子系統を以下に示します。詳細を見てみましょう。

        ┏━Pachycerinae
    ┏┫
    ┃┃┏Stenocerinae
┏┫┗┫
┃┃    ┗Echinocereus
┃┃
┃┣━━Leptocereusなど
┃┃
┃┗━━Hylocereeae
┫ 
┣━━━Coryocactus

┣━━━Eulychnia, Austrocactus
┃    
┗━━━Pfeiffera

240330082045256~2
Nyctocereus serpentinus(左)
Stenocereus dumortieri(右上)
Eulychnia iquiquensis


パキケレウスの仲間
Pachycerinaeはパキケレウスの仲間です。ここでは、PachycereusとStenocereus、Echinocereusを分けていますが、これらはすべてPachycereenaeとしてまとめられていたりします。ここでは、Salvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではPachycereinaeとEchinocereeae + Stenocereinaeと言う2つのグループに大別しています。まずはPachycereinaeの分子系統を示します。AはPachycereusとCarnegiaeからなります。BはLophocereusとMarshallocereus、Pterocereusからなります。CはPeniocereus、DはNyctocereus、EはCephalocereusとNeobuxbaumia、FはLemaireocereusからなります。

                  ┏A
              ┏┫ 
              ┃┗B
          ┏┫
          ┃┗━C
      ┏┫
      ┃┗━━D
  ┏┫
  ┃┗━━━E
  ┫
  ┗━━━━F


240330081847811~2
Pachycereus militaris
Pachycereus chrysomallusとして記載。

240330081934192~2
Peniocereus greggi

240330081841864~2
Cephalocereus macrocephalus

エキノケレウスの仲間
次にEchinocereeae + Stenocereinaeを見てみます。同じくSalvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではEchinocereus + Stenocereus + Myrtillcactusが、Pachycereusの姉妹群となっています。

   ┏━━Pachycereus
  ┏┫
  ┃┃┏━Echinocereus
  ┃┗┫
  ┫    ┃┏Stenocereus
  ┃    ┗┫
  ┃        ┗Myrtillocactus
  ┃
  ┗━━━Pseudoacanthocereus

240330082138987~2
Myrtillocactus

240330081903838~2
Echinocereus poselgeri
Wilcoxia poselgeriとして記載。


レプトケレウスの仲間
Core Cactoideae IIの分子系統では、「Leptocereusなど」と書きましたが、論文ではLeptocereus、Dendrocereus、Armatocereus、Neoraimondia、Pseudoacanthocereusと書かれていました。さて、Salvador Ariasらの2005年の論文では、Pseudoacanthocereusはパキケレウスやエキノケレウスの姉妹群で、LeptocereusとArmatocereus、Neoraimondiaは1つのグループで、Pseudoacanthocereusに近い仲間です。

ヒロケレウスの仲間
Hylocereeaeは論文ではHylocereus、Selenicereus、Acanthocereus、Disocactusが含まれています。さて、ここでもSalvador Ariasらの2005年の論文を見ていきます。分子系統を見ると、不思議なことにAcanthocereusとPeniocereusが入り乱れています。ちなみに、Acanthocereus①には2種類、Acanthocereus②には3種類、Peniocereus①には10種類、Acanthocereus②には1種類を含みます。実はPeniocereusは上の「パキケレウスの仲間」でも登場しています。パキケレウスの近縁のPeniocereusは2系統あり、1つは分子系統のCにあたるものでこれが正統なPeniocereusです。もう1つは分子系統のDにあたるもので、現在はNyctocereusとなっています。さて、肝心の「ヒロケレウスの仲間」に現れたPeniocereusですが、これは「パキケレウスの仲間」のPeniocereusとは遺伝的に異なるため、Peniocereusから分離されます。さらに、Acanthocereusとも遺伝的に区別出来ないため、Peniocereus①とPeniocereus②はAcanthocereusに吸収されました。また、分子系統ではSelenicereusとHylocereusは非常に近縁ですが、現在HylocereusはSelenicereusに統合されています。

          ┏━Acanthocereus①
      ┏┫
      ┃┗━Peniocereus①
  ┏┫
  ┃┃┏━Acanthocereus②
  ┃┗┫
  ┃    ┗━Peniocereus②
  ┫
  ┃┏━━Disocactus
  ┗┫
      ┃┏━Weberocereus
      ┗┫
          ┃┏Selenicereus
          ┗┫
              ┗Hylocereus

240330082109669~3
Acanthocereus tetragona

240330082116171~2
Disocactus speciosus(上、下)
Heliocereus speciosa、Heliocereus elegantissimusとして記載。
Harrisia portoricensis(中)


240330082145560~2
Selenicereus ocamponis
=Hylocereus ocampoins


最後に
3回に分けて記事にしてきました。元の論文の分子系統はかなり大雑把なので、ある程度は補完する情報を追加しました。しかし、流石に種まで書き込むことはできなかったので、属レベルで表記させていただきました。
本日の記事なのですが、実はトラブルがありました。属名が変更されたりすることはよくあることですから、事前にある程度は下調べをします。私は主にキュー王立植物園のデータベースを参照とするのですが、今回はそれが出来ていません。と言うのも、この記事を書いているのは昨日なのですが、昨日はキュー王立植物園にアクセス出来ませんでした。どうやら、サーバーが落ちているようです。仕方がないので、信頼性は落ちますが、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)で学名を確認しました。しかし、GBIFは情報が古かったりしますから、本当は使いたくなかったのですけどね。後ほど訂正するかも知れませんが、ご容赦のほどお願いします。
ところで、未だスッキリしない部分やあやふやな部分もそれなりにあります。そもそも、私が調査した論文のチョイスがどれほど妥当であったかは分かりません。本来ならば、複数の論文の情報を総合的に判断すべきなのでしょう。しかし、そこはただのドシロウトの悲しいところで、時間も知識も能力も足りていないため、なかなか難しいところです。それでも、また内容を補完するような、あるいは新しい論文が見つかりましたら、懲りずにまたご紹介出来ればと考えております。


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。昨日は原始的なサボテンであるコノハサボテンやウチワサボテン、マイフエニアに加え、玉サボテンや柱サボテンを含むサボテン亜科の一部の系統関係をご紹介しました。本日はサボテン亜科の残り、Core Cactoideaeについて解説します。

サボテン科の進化と分子系統①は以下のリンクから。

                     ┏━━Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫
         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━━Leunenbergerioideae


Core Cactoideae
Core CactoideaeはCore Cactoideae IとCore Cactoideae II、さらにCopiapoaやFraileaからなります。しかし、分子系統を見ると分岐していません。これは、上手く分離出来ていないためです。そのため、Core Cactoideae I・IIとCopiapoa、Calymmanthium、Fraileaの関係性はよく分かりません。しかし、おおよその立ち位置としては、おそらくこのあたりなのでしょう。
さて、ではCore Cactoideaeの内容を見てみましょう。

    ┏━━Core Cactoideae I
┏┫
┃┗━━Core Cactoideae II
┫ 
┣━━━Copiapoa

┣━━━Calymmanthium
┃    
┗━━━Frailea
 
Core Cactoideae I
Core Cactoideae Iは、Rhipsalidae、Core Notocacteae、BCT cladeからなります。BCT cladeとはCereeaeやTrichocereeaeからなる巨大なグループです。

      ┏━━BCT clade
  ┏┫
  ┃┗━━Core Notocacteae
  ┫
  ┗━━━Rhipsalidae

リプサリスの仲間
Rhipsalidaeは森林サボテンの仲間ですが、岩や樹木に着生するものがあります。Rhipsalidaeには、RhipsalisやLepismium、Hatiora、Schlumbergera、Rhipsalidopsisが含まれます。

230911215654071~2
Hatiola

230911221604543~2
Rhipsalis

230911220651285~2
Lepismium

ノトカクタスの仲間
Core NotocacteaeはParodiaやEriosyceの仲間です。 NotocacteaeはParodia、Eriosyce、Neowerdermannia、Yaviaからなります。
YaviaはY. cryptocarpaからなる2001年に記載された単形属ですが、Blossfeldiaとされたこともあります。
ParodiaやEriosyceは、まとめられる傾向があり、沢山の属が吸収合併されました。NotocactusやEriocactus、Brasilcactus、Malacocarpus、WigginsiaはすべてParodiaに吸収されてしまいました。また、NeoporteriaやNeochilenia、Islaya、Horridocactusは、すべてEriosyceに吸収されてしまいました。

トリコケレウスの仲間
BCT cladeは、Reto Nyffelerの2002年の論文やRolando T. Barcenasらの2011年の論文を見ると、主に柱サボテンからなるグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。近年にその特徴の共通点からTrichocereusやLobiviaがEchinopsisに吸収され、Echinopsisは巨大化しました。しかし、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文では、遺伝的にEchinopsisがTrichocereeaeの柱サボテンの中のあちこちに現れることを明らかにしました。つまり、巨大化したEchinopsisはまとまりがないグループだったのです。現在、このあたりは整理中といった雰囲気がありますが、多少は改訂されているようです。この論文では大きく4つに分けられています。
1つ目のグループはReicheocereusで、かつてはEchinopsisやLobiviaとされてきました。2つ目のグループは狭義のEchinopsisを含みます。Echinopsis、Cleistocereus、Harrisia、Leucosteleなどからなります。3つ目のグループはOreocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucana、Espostoa、Loxanthocereus、Borzicactusなどからなります。このグループはやや混乱しており、将来的に改訂される可能性もあります。4つ目のグループは旧Echinopsisですが、かつてのTrichocereusやLobiviaからなるグループです。Denmoza、Acanthocalycium、Trichocereus、Chamaecereus、Soehrensia、Lobiviaなどからなります。

230911222043822~2
Arrojadoa(右上)、Borzicactus(右下)、Stenocereus(左)

ケレウスの仲間
BCT cladeのCereeaeは基本的には柱サボテンです。2011年のRolando T. Barcenasの論文では、CereusとMicrothocereusは近縁ですが、Pilosocereus、Coleophalocereus、Uebermannia、Browningia、Stetosoniaは上手く互いの系統関係を解析出来ていません。CereinaeとRebutiinaeに分ける場合、RebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、WeingartiaなどはRebutiinaeに含まれるようです。この場合のCereinaeはCereusやMelocactus、Arrojadoa、Cipocereus、Pilosocereus、Leocereus、Coleocephalocereus、Micranthocereusなどからなります。ここで、Mariana R. Fantinatiらの2021年の論文を見てみましょう。この論文の分子系統を以下に示します。若干、解析が甘い部分もありますが、大まかな傾向は分かります。ただ、この論文ではRebutiinaeはUebelmannia以外は含まれていません。Gymnocalyciumなどは、TrichocereenaeとされたりRebutiinaeとされたり論文により立ち位置が違います。

                      ┏
Arrojadoa
                  ┏┫
                  ┃┗━
Stephanocereus
                  ┃                  
                  ┃┏━Melocactus
                  ┣┫
                  ┃┗━Discocactus
              ┏┫
              ┃┃┏━Pilosocereus
              ┃┣┫
              ┃┃┗━Coleocephalocereus
              ┃┃
              ┃┗━━Microthocereus1
              ┃
          ┏┫┏━━Microthocereus2
          ┃┗┫
          ┃    ┗━━Xiquexique
          ┃
          ┃    ┏━━Cipocereus
      ┏┫┏┫
      ┃┃┃┗━━Mirabella
  ┏┫┗┫
  ┃┃    ┗━━━Cereus
  ┃┃
  ┃┃┏━━━━Brasilicereus
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━━━Leocereus
  ┫
  ┗━━━━━━Uebelmannia


230911214051537~2
Coleocephalocereus

230911214539161~2
Pilosocereus

レブチアの仲間
ここまで登場しなかったRebutiaやGymnocalycium、つまりRebutiinaeを見ていきます。RebutiinaeはRebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、Weingartiaなどからなるとされています。ここでは、Stefano Mostiらの2011年の論文を参加に見ていきます。見てお分かりのように、ケレウスの仲間が2つに分かれていたりさしますから、やや不確実かも知れません。しかし、そもそもこの論文は、Rebutiaを解析することを目的としていますから、まずはその点を見てみます。さて、この論文では、Rebutiaは2つに分けられるとしています。Rebutia①ではWeingartiaやSulcorebutia、Cintiaと入り乱れており、これらを区別することが出来ません。ですから、現在ではWeingartiaやSulcorebutia、CintiaはRebutiaに統合されました。また、Rebutia②は明らかにRebutia①と近縁ではありません。これは、Rebutiaに吸収されていたAylosteraで、現在ではRebutiaから分離されています。
さて、やや不確実な解析結果ではありますが、大まかな傾向は分かります。GymnocalyciumやAylosteraはトリコケレウスやケレウスの仲間と近縁であると言うことです。また、RebutiaとBrowningiaは姉妹群のようです。


          ┏━━Rebutia①
      ┏┫
      ┃┗━━Browningia
      ┃
  ┏┫        ┏Rebutia②
  ┃┃    ┏┫
  ┃┃    ┃┗Cereeae①
  ┃┃┏┫
  ┫┃┃┗━Gymnocalycium
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Trichocereeae
  ┃
  ┗━━━━Cereeae②

最後に
本日はサボテン亜科のCore Cactoideae Iをご紹介しました。Core Cactoideae Iは多くの柱サボテンを含む巨大なグループです。完全に解明されたわけではありませんが、大まかな分類は分かります。思うに、かつては形態学的な類似のみが分類の指標でした。そのため、外見的に共通点があるエキノプシスやトリコケレウス、ロビビアなどが統合されたこともあります。しかし、遺伝子工学の発達により、現在では遺伝子解析による分類が当たり前のように行われ認められております。そのため、巨大化したエキノプシスは解体されることになりました。

さて、明日はCore Cactoideae IIをご紹介します。これで、サボテン科の分類は最後です。PachycereusやHylocereusが登場します。


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サボテンはサボテン科(Cactaceae)に分類されますが、大変種類が多く非常に多様です。樹木状のサボテンに見えないサボテンであるPereskiaなどは原始的な特徴を残しているのだろうと何となく予想しますが、柱サボテンや玉サボテンの関係などはまったく分かりません。現在、サボテンの分類はどうなっているのでしょうか。ここでは、過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として見ていきます。ただし、大まかな分類が示されているだけなので、詳細は随時私の知っている論文から情報を追加しました。

分子系統
以下に示す分子系統を見てみます。一番根元にあるのは樹木状サボテンです。そこからOpuntioideae、(ウチワサボテン亜科)、Maihuenioideae(マイフエニア亜科)が順次分岐しました。オプンチア亜科とマイフエニア亜科以外は、Cactoideae(サボテン亜科)です。サボテン亜科は柱サボテンや玉サボテン、リプサリスやクジャクサボテンまで含む巨大なグループです。
さらにサボテン亜科は、Aztekium + Geohintonia + CacteaeとCore Cactoideaeに分かれます。ここからは、それぞれについて見てみましょう。

                     ┏━
Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫

         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━Leunenbergerioideae 

樹木状サボテン(コノハサボテン)
樹木状サボテンは一般的にPereskiaとされてきましたが、Leunenbergeriaが分離されました。2属で1つのグループを形成しているのではなく、それぞれ単独のグループを形成します。それぞれ、Leunenbergerioideae(レウネンベルゲリア亜科)と、Pereskioideae(コノハサボテン亜科)に大別されます。
Joel Lodeの2019年の論文では、そのあたりについてよくまとめられています。Leunenbergeriaは茎気孔が発達せず比較的急速に樹皮を形成しますが、Pereskiaは茎気孔が発達し樹皮形成は緩やかです。Pereskiaは茎で光合成をして茎から二酸化炭素を取り込んでいるわけですから、サボテン科の多肉植物化の始まりが示されていると言えます。分布も異なりLeunenbergeriaはメキシコ以北、Pereskiaは南米原産です。
また、コノハサボテン亜科はPereskiaからRhodocactusに4種類が移されました。


231018043113470~2
Leunenbergeria zinniiflora

Opuntioideae
いわゆるウチワサボテンの仲間ですが、Cylindropuntieae、Opuntieae、Tephrocacteaeからなります。ウチワサボテンは分布が近い種類同士で自然交雑しており、絡まり合うように遺伝子が混ざっています。Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文では、ウチワサボテンは複雑に絡み合うように交雑している網状進化の様子が示されています。ウチワサボテンの種類の多さや分布の広さ、その多様性は盛んにおきている自然交雑によるものなのかも知れません。CylinderopuntieaeにはPereskiopsisのような大きな葉を持つ古いタイプのサボテンを含みます。
Opuntieaeはウチワサボテンの中でもっとも多様で広範囲に分布するグループです。約230種類のうち、約200種類からなるOpuntia属は、カナダからアルゼンチンまで分布します。OpuntieaeにはTacingaやConsolea、Salmonopuntia、Miqueliopuntia、Brasiliopuntiaを含みます。
Cylindropuntieaeは約70種類からなり、一般的に「chollas」と呼ばれる仲間です。このグループは、Cylindropuntia、Corynopuntia、Grusonia、Micropuntia、Pereskiopsis、Quiabentiaからなります。PereskiopsisやQuiabentiaは葉が多いサボテンです。
TephrocacteaeはTephrocactusやAustrocylindropuntia、Cumulopuntia、Maihueniopsis、Peterocactus、Punotiaからなります。

240202231910199~2
Cylindropuntia fulgida

Maihuenioideae
マイフエニア亜科はチリ、アルゼンチンの寒冷で半乾燥したパタゴニアに生える低木で、2種類が知られています。MaihueniaはC3植物であり、気孔はアレオーレに限定されるなど、サボテンの典型的な特徴を持ちません。

Cacteae
論文ではCacteaeは以下の分子系統のように分類されています。アストロフィツムとエキノカクタスは非常に近縁で、フェロカクタスも近いですね。マミラリア類(Mammilloyd)とラピカクタス、ツルビニカルプス、エピテランサは近縁です。Cacteaeは、Aztekium + Geohintoniaと姉妹群です。

              ┏━Mammilloyd
          ┏┫
          ┃┗━Rapicactus
          ┃
      ┏┫┏━Turbinicarpus
      ┃┗┫
      ┃    ┗━Epithelantha
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Ferocactus
  ┫
  ┗━━━━Astrophytum,
                      Echinocactus
                     
さて、まずはAstrophytumからFerocactusあたりを見ていきます。これは、Mario Daniel Vargas-Lunaらの2018年の論文を参照しましょう。やはりここでも、AstrophytumとEchinocactusは近縁です。ただし、Echinocactusは分割されHomalocephalaが復活しています。さらに、金鯱(E. grusonii)はKroenleinia属として独立しましたが、遺伝的にはFerocactusに含まれます。ちなみに、GlandulicactusはFerocactusへ、EchinomastusはSclerocactusに分類されているようです。

次にフェロカクタスとマミラリア類をつなぐグループを見ていきます。このグループは、Rolando T. Barcenasらの2011年の論文を参照とします。TurbinicarpusはAriocarpusと非常に近縁で、Strombocactusも近縁です。さらに、EpithelanthaとThelocactusは近縁です。他にも、RapicactusやPediocactus、Lophophoraも近縁です。

次にマミラリア類を見ていきます。このグループは、Cristian R. Cervantesらの2021年の論文を参照とします。マミラリアの仲間はMammillaria、Ortegocactus、Neolloydia、Coryphantha、Escobaria、Pelecyphora、Encephalocarpusあたりが含まれます。しかし、マミラリア属は再編され大きく変わりました。実は遺伝的に見るとこれらの属は種類により入れ子状となっており、属ごとにまとまっていません。ですから、改めて近縁なグループごとに分ける必要があったのです。
Coryphanthaは分割され一部はPelecyphoraに吸収されました。EscobariaやEncephalocarpusは消滅し、やはりPelecyphoraに吸収されました。本来のMammillaria属とPelecyphora属をつなぐグループはCochemieaとしてまとめられました。Cochemieaは、Mammillariaの一部とOrtegocactus、Neolloydiaを含みます。
現在ではEncephalocarpus strobiliformis(松毬玉)はPelecyphora strobiliformisへ、Ortegocactus
macdougalliiはCochemiea macdougalliiとなっています。ちなみに、一部のCoryphanthaがPelecyphoraになりましたが、C. viviparaやC. hesteriなどのEscobariaとされることもあった微妙なラインのものです。

また、いくつかの論文を見たところ、LeuchtenbergiaやSclerocactusはおそらくCacteaeですが、立ち位置は論文によりやや違いがあります。


最後に
まだ途中ですが、記事が長くなったので本日はここまでとしましょう。と言うわけで、明日に続きます。
しかし、球状のサボテンではBlossferdiaが原始的な位置にあったことに驚きました。また、マミラリアの仲間はかなり改訂が進んでいます。今後はEchinocactusやFerocactusの改訂があるかも知れません。このように、サボテンもその分類は急速に整理されつつあります。それは、ここ20年くらいの遺伝子工学の発展によるものです。とはいえ、まだすべてが解析されたわけではありませんから、まだ分からない部分もあります。しかし、それも時間の問題でしょう。これからは、サボテンの名前は大幅な改訂を受けるはずです。長い間親しんだ名前は変わってしまい、属レベルですら消滅を免れないでしょう。



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日本では「菊水」の名前でお馴染みのStrombocactus disciformisは渋いサボテンですが、今でも人気種です。今ではすっかり普及種となっていますから、育てておられる方も多いでしょう。
このS. disciformisの由来は古く、はじめて命名されたのは1828年のことで、Mammillaria disciformisと命名されましたが、1922年にストロンボカクタスになりました。1924年にはStrombocactus turbiniformis、1996年にはStrombocactus jarmilaeが命名されましたが、現在はS. disciformisの同種とされています。さらに、1996年にはStrombocactus pulcherrimusが命名されましたが、現在はS. disciformisの亜種であるsubsp. esperanzaeとされています。このように、ストロンボカクタスの新種は記載されるものの、異名扱いかせいぜい亜種とされてきました。ところが、2010年に待望の新種であるStrombocactus corregidoraeが記載されました。明らかに菊水とは別種でしたから、実に182年ぶりの新種でした。
さて、本日はこの新種のストロンボカクタスについての話です。参照とするのは、Rolando T. Barcenasらの2021年の論文、『Chichimecactus (Cactoideae, Cactaceae), a new genus based on molecular characterisation of highly endangered Strombocactus species』です。

分子系統
論文の分子系統を見てみましょう。
まず驚くのは、ツルビニカルプスが2つに分かれることです。よく見たらTurbinicarpus②は、RapicactusとされるT. beguinii、T. subterraneus、T. mandragoraの3種でした。本来のツルビニカルプスはTurbinicarpus①ですね。
次に、アリオカルプスとツルビニカルプスは近縁で、S. disciformisその2属と近縁でした。ちなみに、ssp. disciformisとssp. esperanzaeは遺伝的にはきれいに分離されています。本題のS. 
corregidoraeは、興味深いことにS. disciformisと近縁ではあるものの、思ったより距離があり、同属とするのは困難に見えます。

                      ┏Ariocarpus
                  ┏
      ┃┗Turbinicarpus①
              ┏┫
              ┃┗━Strombocactus
              ┃            disciformis
          ┏┫
          ┃┗━━Strombocactus
          ┃                corregidorae
          ┃
      ┏┫┏━━Epithelantha
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━Thelocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━━Lophophora
  ┫                   
  ┗━━━━━Turbinicarpus②

特徴
Strombocactus corregidoraeは、S. disciformisより長く(18〜21cm)、幅があり(8〜13cm)、やや縦長になります。以下に①S. corregidorae、②亜種disciformis、③亜種esperanzaeで、それぞれの特徴を示します。

        ①   ②    ③

最大サイズ(cm) 
21×13 12×9   4.5×3.5
トゲ      持続的 脱落   脱落
トゲの数                 3~5        1~5       1~2

トゲの長さ(cm) 1.8~3.5  1.5     0.8~1.1
種阜       無           有          有


以上のようにS. corregidoraeの特徴はまとめられます。特に脱落しにくいトゲや、種阜がないことはS. disciformisと比較した時に特徴的です。種阜(strophile)とはエライオソームの1種で、種子に栄養分がついており、アリは種阜目当てで種子を運搬します。

良い図版がなかったので、原産地の画像のリンクを貼っておきます。

Strombocactus disciformis ssp. disciformis

https://www.inaturalist.org/photos/349020628

Strombocactus disciformis ssp. esperanzae
https://www.inaturalist.org/photos/59472790

Chichimecactus corregidorae
https://www.inaturalist.org/photos/334800540
円筒形に育つ様子
https://www.inaturalist.org/photos/275414627

新属の提案
著者らは、米国南西部からメキシコ北部の乾燥地に住んでいたChichimeca族にちなみ、新属Chichimecactusを提案しました。そして、Strombocactus corregidoraeをChichimecactus corregidoraeとして配置しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
著者らは新属
Chichimecactusを提案しましたが、これは現在学術的に認められています。つまり、Strombocactus corregidoraeは正式にストロンボカクタスから分離されました。この論文は2021年の掲載ですから、実に最近のことでした。
さて、華々しく新属が記載されましたが、ストロンボカクタス待望の新種は幻に終わりました。結局、ストロンボカクタスは1属1種のままです。いつか、菊水以外のストロンボカクタスも発見される時が来るのでしょうか?


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2014年に金鯱(Echinocactus grusonii)がエキノカクタスから独立し、新属であるKroenleinia属に分類されました。つまり、Kroenleinia grusoniiです。しかし、2018年に行われたホマロケファラとエキノカクタス、フェロカクタスの遺伝的解析の結果では意外な事実が明らかとなっています。当該論文である2018年のMario Daniel vargas-Lunaらの『Homalocephala as a distinct genus in the Cacteae』を見てみましょう。参照とするのは分子系統だけで、以下の解説は私の考えなので悪しからず。

240317223044640~2
Homalocephala texensis
『The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。


遺伝的解析
この論文は、ホマロケファラ(Homalocephala)の分類をはっきりさせることを目的としているようですが、近縁と考えられるエキノカクタスやフェロカクタスなどとの比較がなされています。
ホマロケファラ、つまり綾波(Homalocephala texensis)は、1842年にEchinocactus texensisと命名され、1922年に新設されたホマロケファラ属となり独立しました。しかし、現在はエキノカクタス属に戻されています。
下の分子系統を見ると、ホマロケファラはエキノカクタスから明確に分離されています。意外にもエキノカクタスはホマロケファラやフェロカクタスより、アストロフィツムに近縁であることが明らかとなりました。もし、ホマロケファラをエキノカクタスに含めると言うのならば、アストロフィツムもエキノカクタスに含める必要がありますが、あまりに非現実的です。やはり、エキノカクタスからのホマロケファラの分離が好ましいようです。


          ┏━━Astrophytum
      ┏┫
      ┃┗━━Echinocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Homalocephala
  ┫
  ┗━━━━Ferocactus

240317224257576~2
Echinocactus platyacanthus
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus ingensとして記載。


エキノカクタスの解体
エキノカクタス属そのものの範囲も論文では異なります。この論文では、エキノカクタスに含まれるのはE. platyacanthus(広刺丸)とE. horizonthalonius(太平丸)だけです。E. parryi(神竜玉)やE. polycephalus ssp. polycephalus(大竜冠)、E. polycephalus ssp. xeranthemoides(竜女冠)はホマロケファラに含まれてしまいます。気になるE. grusonii(金鯱)はフェロカクタスに含まれることが明らかになっています。遺伝的に見ると、エキノカクタスはわずか2種類に縮小することになります。
また、論文では太平丸(E. horizonthalonius)は、ニコリー太平丸(ssp. nicholii)も調べていますが、ssp. horizonthaloniusとそれほど上手く分離出来ていません。外見上は異なっていても、遺伝的にはそれほどの違いはないと言うことかも知れません。ちなみに、現在ssp. nicholiiはssp. horizonthaloniusに含まれてしまいました。逆にssp. australisが2022年に新亜種として記載されています。

240317224234334~2
Echinocactus polycephalus ssp. xeranthemoides
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus 
xeranthemoidesとして記載。

現在の分類
現在の学術分類では、この2018年の論文の成果は反映されていません。しかし、将来的には大きく整理されるかも知れません。とりあえず、キュー王立植物園のデータベースを見てみます。

①Echinocactus

1, E. × diabolicus
2, E. horizonthalonius
3, E. parryi
4, E. platyacanthus
5, E. polycephalus
6, E. texensis

E. × diabolicusは、2006年にE. horizonthaloniusの亜種として記載されましたが、これはE. horizonthaloniusとE. platyacanthusの自然交雑種であるとされました。そのため、2020年に交雑種であることを示す「×」がつけられました。
分子系統でエキノカクタスに含まれるのは、E. horizonthaloniusとE. platyacanthusだけです。残りの3種類はホマロケファラです。

②Kroenleinia
1, K. grusonii

金鯱は2014年にクロエンレイニア属とされましたが、分子系統ではフェロカクタスです。ちなみに、金鯱をフェロカクタスとする意見も2021年に提出されています。

DSC_0579
Kroenleinia grusonii

最後に
この論文ではホマロケファラの立ち位置を確定させるためのものですが、思わぬ結果が示されています。ホマロケファラはエキノカクタスから分離されますが、エキノカクタス自体が分解されることが明らかとなったのです。また、副産物でKroenleiniaがフェロカクタスであることも判明しました。しかし、ホマロケファラは、エキノカクタス→ホマロケファラ→エキノカクタスと来て、遺伝的にはホマロケファラと行ったり来たりしています。この論文の結果を持って最終的な回答となるのでしょうか。しばらくは経緯を見守りたいと思います。


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多肉植物は水分を溜め込んでおり、大変みずみずしいので、一見して食べられそうな気もします。実際にウチワサボテンやアロエ、アイスプラントなどは食べられています。しかし、EuphorbiaやBoophone(=Boophane)には毒性があり注意が必要です。また、Pachypodiumはキョウチクトウの仲間ですから強い毒性がありますが、あまり知られていないかも知れません。さて、それ以外の多肉植物と言えば、食べられるかどうか、あるいは毒性があるか否かはあまり聞きません。
本日は南アフリカで野生の多肉植物を食べた家畜におこる謎の疾患「Krimpsiekte」を引き起こす原因に迫ります。参照とするのは、Christo J. Bothaの2013年の論文、『Krimpsiekte in South Africa: Historical perspectives』です。早速、見てみましょう。

Krimpsiekteと言う病
Krimpsiekteは1775年以来、家畜の病気として認識されてきました。症状は麻痺で南アフリカで最初に記録された家畜の病気の1つで、植物中毒が原因と考えられていました。Krimpsiekteはnentaあるいはritaなどと呼ばれてきました。正式な記録は1864年のBrowneのものが最初でした。
1884年にHutcheonはKrimpsiekteのヤギの第一胃液を濾して2頭のヤギに投与し、Krimpsiekteを発症することを確認しました。1887年には植物学者のMacOwanはマメ科植物のLesserita annularisがヤギのrita=Krimpsiekteの原因であると述べました。また、1899年にHutcheonはKrimpsiekteのヤギの肝臓を犬に与えてみました。ヤギの肝臓を食べた犬は2日以内にKrimpsiekteの急性症状を引き起こしました。これは、Krimpsiekteにより引き起こされた二次中毒のはじめての報告でした。

原因はチレコドンか?
1891年に獣医師のSogaが、ヤギにTylecodon ventricosusの葉を与えると、Krimpsiekteの症状を引き起こすことを発見しました。わずか2オンス(56.7g)の細断した葉をヤギに3日間与えると、4日以内に疾患の症状を引き起こし、6日以内に死亡しました。T. ventricosusを与えたヤギは8頭すべてがKrimpsiekteを発症し、うち6頭が死亡しました。1891年は、南アフリカではじめて家畜に対して有毒な植物を実験的に証明した、歴史的に重要な年です。

再現実験
しかし、Sogaの実験結果には懐疑的な見方もありました。なぜなら、実験がKrimpsiekteが起こる地域のヤギを使用して行われたことと、それまで毒性のあるベンケイソウ科の植物は知られていなかったからです。
その後、獣医外科のTomlinson、Borthwick、Dixonは、Krimpsiekteの起きていない地域のヤギにT. 
ventricosusを与えることにより、Krimpsiekteの発症を確認しました。nentaあるいはKrimpsiekteになったヤギの歴史的な写真を、1898年にBorthwickが撮影しました。

第二の犯人はコチレドン
1908年に政府の農学者・植物学者であるBurtt Davyと、植物標本館助手のMiss Stentは、Cotyledon orbiculataによる家禽中毒の疑いについて報告しました。Miss Stentは庭でC. orbiculataを間引き、刻んだ葉を家禽に与えました。翌日、6羽の雌鳥が死亡しました。また、Burtt Davyは、Arnold Theiler公も鶏の麻痺と死亡を確認したことを報告しました。Kehoeは1912年に、アンゴラ山羊にC. orbiculataを240g与えました。その後、ヤギはKrimpsiekteを思わせる症状を引き起こし、10日後に死亡しました。Tustinらの1984年の報告では、C. orbiculataを摂取した16頭のアンゴラ山羊の群れで中毒が発生し、そのうち6頭が死亡しました。
ナミビアのMaltahohe近くの農場でヒツジにKrimpsiekteと似た症状が起きました。1965年にTerblance & Adelaarは、
C. orbiculataをヒツジに与えその毒性を確認しました。C. orbiculataの半乾燥状態の茎と葉は、わずか1.0g/kgでヒツジにとっては致命的でした。蓄積効果もあり、1日あたり50mg/kgと言う少量の摂取でも、中毒を引き起こしました。

第二のチレコドン
1920年にCursonは、Tylecodon wallichii (Cotyledon wallichii)の毒性を証明しました。1926年にHenningは、T. wallichiiがヤギやヒツジ、馬、家禽に対して、非常に有毒であることを確認しました。体重36kgのヤギにT. wallichiiの葉7gを2回与え、これは0.39g/kgと言う少量でしたが、摂取4日後に症状があらわれ、その2日後に死亡しました。Henningは家畜が比較的短期間に大量の植物を摂取すると急性中毒を引き起こし、現場では「opblaas」と呼ばれることもあると指摘しました。長期的な摂取はよりKrimpsiekteらしい症状を引き起こします。また、Krimpsiekteのヤギや馬の肝臓や馬肉を犬に与えると二次中毒を引き起こすことを確認しました。

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Tylecodon wallichii『Carnegie Institution of Washington publication』(1924年)より。Cotyledon wallichiiとして記載。

新たなKrimpsiekte
その後、Kalanchoe lanceolataによりKrimpsiekteが引き起こされることが明らかとなりました。1983年にAndersonらがヒツジで、1997年にMasvingwe & Mavenyengwaは牛でKrimpsiekteの発症を確認しました。
冬季降雨地帯では、Tylecodon grandiflorusによるとされる牛の中毒が起きていました。1983年にAndersonらはT. grandiflorusをヒツジに与え、Krimpsiekteを再現しました。

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Kalanchoe lanceolata
『Carnegie Institution of Washington publication』(1924年)より。Kalanchoe paniculataとして記載。


毒性の正体
HenningはC. orbiculataの有毒成分は熱に安定で、30分間煮ても、120℃で15分間処理しても破壊されないことを指摘しました。1936年にSepeikaは、神経毒であるcotyledontoxinとジギタリス様作用を持つ配糖体が含まれることを示唆しました。それから約40年後、bufadienolide強心配糖体であるcotyledosideがT. wallichiiから単離されました。cotyledosideの投与は家畜にKrimpsiekteを引き起こすことが確認されています。
1985年にAndersonらは、C. orbiculataから4つの
bufadienolideを単離しました。tyledoside Cと、orbicuside A、B、Cでした。orbicuside Aをヒツジと投与すると麻痺や横臥を誘発しました。
T. grandiflorusはAndersonらによって徹底的に研究されました。6つの
bufadienolideが単離され、tyledoside A、B、C、D、E、F、Gでした。
K. lanceolataからは3つの
bufadienolideが単離されました。3-O-acetylhellebrigeninと、lanceotoxin A,Bです。

最後に
意外にもティレコドンやコティレドン、さらにはカランコエからも家畜に麻痺や死亡をもたらす強力な毒性を有していることが明らかになりました。少量でも作用しますから、草食のペット、例えばハムスターやモルモット、ウサギなどは危険かも知れません。カランコエなどは一般的に普及していますから、落ちた葉には気を付ける必要がありそうです。まあ、すべてのカランコエに毒性があるかは分かりませんけどね。
よく毒性を表す指標として、LD50なるものがあります。これは、半数致死量と言って、その量を与えたら半数は死ぬ量です。これを例えば体重60kgの人に当てはまると、Krimpsiekteを引き起こす成分は6〜
22mg程度とかなり強烈な毒性です。こんな身近に毒性植物があったことに驚きました。私もユーフォルビア以外の多肉植物も危ないかも知れないと警戒することにしました。


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当ブログでは、多肉植物の名前についての話題がちょくちょく議題に上がります。ある種が分割されたり統合されたり、属名が変更になったりと言ったことはよくあることです。しかし、それだけではなく、命名規約上の問題もあります。現在の二名式学名は1753年のCarl von Linneから始まりますが、命名が古い種は基準となるタイプ標本がない場合があります。長い年月で行方不明になったり、第二次世界大戦により消失してしまったりと理由は様々です。このような場合、新たにタイプ標本を指定し直す必要があります。本日はそんなタイプ標本の再指定=レクトタイプ化に関するお話です。参照とするのは、D. L. Koutnik & Mary O'Connor-Fentonの1985年の論文、『Lectotypification of the genus Delosperma (Mesembryanthemumaceae)』です。早速、見てみましょう。

Mesembryanthemumの誕生
von Linneが1753年に「Species Plantarum」を出版した時、Mesembryanthemum属はわずか35種でした。1862年のSonderの「Capensis」では、293種に増加しました。現在、von Linneの言うところのMesembryanthemumは推定1200種あります。

※von Linneの言うところのMesembryanthemumは、後に分割されたため、現在のMesembryanthemumが1200種あるわけではありません。

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「Species Plantarum」

分離が始まる
N. E. Brownは、多くの種を集中的に研究した最初の現代的な研究者でした。1920年、1921年に、巨大なMesembryanthemum複合体から、別属に分離するプロセスを開始しました。属の分割は種子鞘(seed capsule)に基づいたものです。この分離するプロセスは現在も続いており、現在は100属以上となっています。
これらの属のほとんどは、1958年以前にはタイプ標本が指定されていませんでした。そのため、タイプ標本の再指定=レクトタイプ化が必要です。Delospermaもそのようなレクトタイプ化を必要としています。Delospermaは約163種からなり、現在著者により改訂中です。

タイプを再指定
1925年にBrownがMesembryanthemumからDelospermaをはじめて分離しました。しかし、この時にどの種がDelospermaに含まれるのかをBrownは示しませんでした。そこで、1925年以前にBrownにより記載され、Delospermaの最初の扱いでBrownに言及され、総称名の後に新属と印刷された3種類に限定しました。それは、D. herbeum、D. macellum、D. mahoniiです。このうち、D. herbeumは線状披針形の葉や小さな花からなる集散花序を持ち、雄しべは花の中心に集められるなど、典型的なDelospermaです。そのため、D. herbeumを代表的なDelospermaと判断します。また、D. herbeumはタイプ標本がBrownにより発見され、資料の一部として引用されています。

レクトタイプの混乱要素
Delospermaがレクトタイプ化されたかは、若干の混乱があります。Lavisは1967年にSection Delosperma(デロスペルマ節)と言う分類群を作りました。これは、「Delosperma属」と混同してはならず、Sectionの確立のためにレクトタイプと言う単語を使用することは明らかな間違いです。Section Delospermaのタイプは、Delosperma echinatum (Aiton) Schwantesですが、タイプとして問題があります。D. echinatumは1789年に命名されたMesembryanthemum echinatm Aitonに基づいており、これは1786年に命名されたD. echinatum Lam.と同名です。この種の正しい名前は、Delosperma pruinosum (Tunb.) Ingramですから、Delosperma echinatum Schwantesは非合法名です。

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Delosperma echinatum
『Monographia geneum aloes et mesembryanthemi』(1836年)より。Mesembryanthemum echinatumとして記載。


最後に
ややこしい話ですが、これはMesembryanthemumからDelospermaが分離された時に、属のタイプがないと言う問題を解決するための提案です。デロスペルマは日本では「マツバギク」の名前で知られていますが、ずいぶんと面倒くさい話があるものですね。
さて、この提案が採用されたか否かは、実はよく分かりません。まあ、これはただ調べられていないだけです。ただし、読んでいてよく分からない部分もあり、そちらの方が気になってしまいました。それは、Delosperma echinatumの学名についてです。著者らはD. echinatumをAitonの命名によるM. echinatum Aitonが由来である、Delosperma echinatum (Aiton) Schwantesとしています。そして、それは誤りで正しくはDelosperma pruinosum (Thunb.) Ingramとしました。しかし、現在のD. echinatumはAitonではなく、LamarkによるMesembryanthemum echinatum Lam.に由来するとされています。そもそも、Aitonの命名したD. echinatumがよく分からないため、どう解釈したものか悩みます。ちなみに、D. pruinosumは1791年に命名されたMesembryanthemum pruinosum Thunb.に由来します。対するD. echinatumは、1788年に命名されたMesembryanthemum echinatum Lam.に由来します。命名年を見れば、M. echinatumが優先されることが分かります。ということで、Delosperma echinatumが現在の正しい学名とされています。


 
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チレコドン(Tylecodon)と言う多肉植物がありますが、コチレドン(Cotyledon)と名前が似ており、私個人としてはどっちだったか分からなくなったりしたこともあります。ずいぶんややこしい名前だと思っていましたが、その理由が書かれた記事を見つけました。なんでも、TylecodonはCotyledonのアナグラムだと言うのです。ただ似ているのではなく故意だったわけです。面白い話ですね。実に遊び心があります。それはさておき、その記事の主題はチレコドンの花粉媒介者(ポリネーター)を探ると言うものです。そちらの内容をご紹介しましょう。それは、Sarah Gessらの1998年の記事である『BIRDS, WASPS AND TYLECODON』です。Gess夫婦が息子さんを連れて調査に赴いたようです。

チレコドンは鳥媒花
TylecodonはCotyledonのアナグラムで、1978年にTolkenによりCotyledonから分離されたグループです。Tylecodonには約28種があり、そのうち16種がNamaqualandに分布します。Namaqualandの岩だらけの丘陵地帯でもっともよく知られているのは、「botterboom」と呼ばれているT. paniculatusです。この低木は高さ1mになり、紙のように剥ける樹皮と多肉質な葉を持ちます。花は晩春から夏にかけて咲きますが、緋色でしっかりとしており鳥により受粉する植物の特徴を持ちます。花の長さは約20mmで、蜜は雄しべの基部にある毛の房で守られており、鳥が蜜を吸うために毛の房を押し退ける必要があります。著者らはGoegap自然保護区で、数羽のタイヨウチョウが花を訪れるところを観察しています。

Tylecodon hallii
あまり馴染みがない種としては、Richtersveld北部とナミビアの隣接地域の固有種であるT. hallimiがあります。この植物はbotterboomの1/3以下のコンパクトな多肉低木です。黄色い釣り鐘型の直立した花を沢山咲かせます。花は約22mmですが、明らかに鳥を誘引するように設計されていません。著者らは1995年の9月に、Richtersveld国立公園を訪れ、この地域のミツバチとジガバチ(wasps)を調査しました。Gess夫妻は乾いた水路の土手沿いの植物を採取するのに熱中していましたが、息子のRobertは丘の斜面に惹かれました。息子からの電話により、T. halliiに小型のハナドロバチ(pollen wasp)が沢山訪れていました。その後に、夫のFredによりMasarina tylecodoniと命名された未記載種であることが明らかとなりました。Tylecodonの花に昆虫が訪れたと言う記録はないようですから、この発見は大変興味深いものでした。

花粉媒介の仕組み
T. halliiはハナドロバチに豊富な蜜と花粉を提供します。しかし、蜜は圧迫された花糸の下に隠されているため、容易に蜜にアクセスすることは出来ません。ハナドロバチは花冠と雄蕊の間に侵入し、ピッタリと押し付けられた形で、長い舌を伸ばして花の根元にある蜜を吸います。ハナドロバチは強引に花に侵入する際に、葯を押してしまい背中に大量の花粉を受け取ります。花粉を沢山つけたハナドロバチが、柱頭が外側に湾曲した花に入ると、背中についた花粉を柱頭で拭き取る形になります。従って、M. tylecodoniはT. halliiの花粉媒介者として適しています。
また、ハナドロバチは意図的に花粉を集めますが、それは葯から直接回収します。背中についた花粉から集めるわけではありません。

信頼出来る花粉媒介者
調査地で花を咲かせている植物は13科32種が採取され、28種のミツバチとドロバチが訪問していることが明らかになりました。しかし、T. halliiにはM. tylecodoniのみが訪問し、M. tylecodoniはT. halliiのみを訪れました。著者は1997年9月に再訪し、T. halliiとM. tylecodoniの間の特別な相利関係を観察しました。ハナドロバチは少数の近縁な植物だけに訪問することが多いのですが、これまでは単一の植物とのみ関連付けられたことがないので、M. tylecodoniが他の植物を訪問する可能性はあります。しかし、T. halliiはRichtersveldで最初に開花する植物であるため、M. tylecodoniは非常に信頼出来る花粉媒介者であることに変わりはありません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
チレコドンは鳥媒花ですが、Tylecodon halliiは虫媒花だったと言うことです。多肉植物の受粉生物学は調べられていないものが多く、このような思わぬ発見はつきものです。受粉のメカニズムも中々巧妙です。ハナドロバチとの相利共生の歴史を感じます。
しかし、多肉植物の受粉については、調べられていないだけではなく、あまり記事にもなっていません。私は今後も多肉植物の受粉生物学について話題にしていきたいと思っています。


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生物は基本的にトレード・オフです。例えば、卵は大きなものほど子供の生存率が高く、小さい卵ほど子供の生存率は低くなります。これは、生まれてくる子供のサイズが異なり、卵が大きいほど1匹の子供に使われる栄養が多いことが原因です。しかし、実際のところ、大きい卵は少なく産卵され、小さい卵は沢山産卵されます。これは、少数の生存率を上げるのか、生存率が低くても数を揃えるのかと言うトレード・オフの関係にあります。一見して生存率が高い方が有利な気もしますが、生存率が低くくても数が多ければ最終的には生き残ることが出来るため、どちら一方が優れているわけではありません。
生物はアレもコレもと言うわけにはいきません。大きい卵を沢山生めば良いような気もしますが、生物の利用出来る資源や産卵に振り分けられるエネルギーは有限です。仮に100の栄養があった時に、栄養50の卵を2つ生むのか(50×2=100)、栄養2の卵を50個生むのか(2×50=100)と言う選択肢はありますが、栄養50の卵を50個生むこと(50×50=2500)は出来ないのです。ニワトリが鶏卵を一度に何十個も産むことを考えたら、非現実的な意見であることが分かるでしょう。これを、一般的にトレード・オフと言います。アレもコレもではなく、アレかコレかを選ばなくてはなりません。
植物でも資源をどの程度振り分けるのかは問題となります。特に生長と繁殖のバランスは重要でしょう。例えば、生長を優先するのか、繁殖(開花)を優先させるのかです。本日はサボテンのトレード・オフを検証したM. A. Lorenzaniらの2024年の論文、『Growing or reproducing? Assessing the existence of a trade-off in the globose cactus Gymnocalycium monvillei』をご紹介しましょう。

植物のサイズと資源分配
サボテンにおいて、トレード・オフについては調べられていませんが、サイズと繁殖の関係を調べた研究は行われています。いくつかのサボテンではサイズが大きくなるほど種子の数が増えることが確認されています。例えば、Pterocereus gaumeriやStenocereus thunberi、Lophocereus schottii、Escobaria robbinsorum、Ferocactus wislizeni、Coryphantha werdermannii、Lophophora diffusaなどで確認されています。

Gymnocalycium monvillei
著者らはアルゼンチンのコルドバのGymnocalycium monvilleiを調査しました。調査地の標高は1600mで、年間平均気温は13.9℃、年間降水量は800mmでした。雨は9月から4月の温暖な時期に集中します。G. monvilleiは自家不和合性で、ミツバチにより受粉します。花は1〜10個で雌雄同体です。
著者らは、G. monvilleiが生長する時期である9月から4月の生長を測定し、生産された果実を数えました。


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Gymnocalycium monvillei
Gymnocalycium multiflorumとして記載。
『Adissonia』(1918年)より。


サイズと種子を測定
G. monvilleiの直径は、2018年から2019年の1回目の調査では5.4〜17.9cm、2019年から2020年の2回目の調査では6.1〜17.9cmでした。生長率は0%〜27.8%で、25%は生長しませんでした。すべての個体は開花しましたが、1回目では5%、2回目では6.7%が種子を生産しませんでした。
G. monvilleiの直径は種子生産量および総種子重量に関係がありました。しかし、直径と平均種子重量には関係がありませんでした。さらに、生長と種子の数、平均重量、総重量とも関係がありませんでした。また、種子の平均発芽時間も直径や生長とは関係がありませんでした。


トレード・オフはない
結果として、G. monvilleiは生長と種子生産量の間にトレード・オフの関係はないことが分かりました。過去の報告では、植物の種類によりトレード・オフがある場合とない場合があります。サイズと種子量の相関は、Opuntia engelmanniiやMammillaria magnimamma、Harrisia portoricensis、Astrophytum ornatumで確認されています。Wigginsia sessilifloraはサイズの増加に伴い種子生産が減少すると言う報告もあります。サボテンでも種によりトレード・オフの関係があるものとないものがある可能性があります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. monvilleiにおいては、生長と種子生産の間にトレード・オフの関係はありませんでした。個人的には個体ごとのコンディションに左右されているような気もしますが、はっきりしたことは言えません。ただ、あくまでも余力で賄えるだけの開花を行っているはずですから、やはりアレもコレもと言うわけには行かないのでしょう。
さて、論文中でWigginsiaの話がありましたが、過去に当ブログでも取り上げたことがあります。種子生産量は中型個体が多く、大型個体は種子生産が減少すると言う結果でした。ただし、大型個体の種子由来の実生ほど背が高いなど、異なる利点もあるようですから、単純に種子生産数だけで考えるべきではないのかも知れませんね。




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多肉質なユーフォルビアの中心地はアフリカ大陸ですが、南アメリカでも多肉質なユーフォルビアを見ることが出来ます。ただし、南アメリカの多肉質なユーフォルビアは、節を重ねたような不思議な形をしています。普段、南米ユーフォルビアはあまり見かけないでしょうから、あまりピンと来ない方もおられるかも知れません。本日は、そんな南米ユーフォルビアについての論文をご紹介しましょう。それは、Fernanda Hurbathらの2020年の論文、『Biography of succulent spurges from Brazilian Seasonally Dry Tropical Forest(SDTF)』です。

SDTFとは何か
乾燥した熱帯季節林(SDTF)は、メキシコ北西部からアルゼンチン北部、ブラジル南西部及ぶ東部に至る新熱帯地域に点在し、ブラジル東部にはCaatingaとして知られている最大の孤立したSDTFがあります。SDTFは南アメリカの生態系の中でもっとも脅威にさらされており、ほとんど研究されていません。
SDTFは5〜6ヶ月の乾季と非常に低い平均年間降水量が特徴で、植物は長期の水不足に耐えられるように適応しています。

SDTFのユーフォルビア
ユーフォルビアはSDTFの重要な構成要素であるにも関わらず、研究されず無視されてきました。新熱帯地域のユーフォルビア属の中では、多肉質で乾生植物であるのはSection Brasiliensisだけで、Section Euphorbia(ほとんどの多肉質なユーフォルビアを含むグループ)はアフリカの種と比べると強い乾生種はほとんどありません。
Section Brasiliensisに含まれる種、はトゲのない鉛筆状の多肉低木で、光合成をする緑色の茎を持つCAM植物です。このグループはブラジル東部のSDTFの岩の露出した、あるいは浅い土壌に生えます。Section Brasiliensisは、E. attastoma、E. holochlorina、E. phosphorea、E. sipolisii、E. tetrangularisの5種類からなります。

遺伝子解析
南アフリカのユーフォルビアの遺伝子を解析したところ、以下のような分子系統が得られました。

※南北アメリカ大陸で多様化したユーフォルビアの仲間であるNew World Cladeを解析したものです。Sectionで示されていますが、Sectionとは属と種類の間の分類カテゴリーで「節」と訳されます。

※※Section Stacydiumは中南米の原産の草本。Section 
NummulariopsisやSection Portulacastrumは大半が中南米原産の草本です。Section Crepidariaは北米原産で一部は多肉質となりますが、木本になるものが多いようです。

※※※Section 
Euphorbiastrumは中南米原産の木本ですが、多肉質なものもあります。Section Calyculataeはメキシコ原産の木本です。Section Lactifluaeは中南米原産の木本です。Section Tanquahueteはメキシコ原産の木本です。Section Cubanthusはカリブ海地域の島嶼部に分布する木本です。

              ┏━Brasiliensis
          ┏┫
          ┃┗━Stachydium
      ┏┫
      ┃┗━━Nummulariopsis
  ┏┫   +Portulacastrum
  ┃┗━━━Crepidaria
  ┫
  ┃    ┏━━Euphorbiastrum
  ┃┏┫
  ┗┫┗━━Calyculatae
      ┃   +Lactifluae
      ┃   +Tanquahuete
      ┗━━━Cubanthus

多様化の起源
Section BrasiliensisとSection Stacydiumは姉妹群で、分子系統から中新世中期頃に分岐したと考えられます。Section Brasiliensisは鮮新世後期に多様化し、Section Stacydiumは中新世後期に多様化したと考えられます。この推定は、大きな気候変動がこれらのグループの分岐と多様化に大きな影響を与えた可能性がを示します。
New World Cladeのほとんどは中新世の間に多様化しました。中新世は現在の新熱帯地方の地理的特徴の多くが定義されました。これには、アンデス山脈の隆起(約1200〜450万年前)やアマゾン河の起源(約1180万年前〜現在)などのほとんどの地形的変異を含みます。さらに、この時期は世界的に寒冷化と乾燥化し、大気中の二酸化炭素の急激な減少が起こりました。


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Euphorbia weberbaueri
Section Euphorbiastrumに属します。エクアドル、ペルー原産。


SDTFの孤立
ブラジル東部のSection Brasiliensisは、Section Stacydiumから分岐して以来、長く孤立していました。その後、鮮新世後期頃に多様化しました。SDTFの断片化した分布は、種は孤立し多様化は促進されます。ブラジル東部のSDTFは固有種の割合が高く、長い孤立が示唆されます。また、SDTFの孤立は、セラード(ブラジルのサバンナ)やアマゾンの熱帯雨林と隣接することにより起こります。セラードはブラジル中央を占めており、約1000万年前に起源を持つSDTFを隔離する障壁です。セラードは火災に適応した植物が進化しており、一般的に火災に耐性がないSDTFの多肉植物に対する抑止力になります。さらに、Section Brasiliensisのユーフォルビアは種子の分散力が弱く、分布がブラジル東部に限定されます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
アフリカでよく見られる柱サボテンのようなユーフォルビアは、Section Euphorbiaです。しかし、新大陸ではSection Euphorbiaはあまり乾燥に適応出来ていないようです。むしろ、新大陸ではNew World Cladeと言う新たな分類群が進化しました。その中でも、Section Brasiliensisはブラジル東部の乾燥地(SDTF)に良く適応しています。遺伝子を用いた分子系統解析では、種ごとの分岐年代を計算出来ます。南アメリカで起きた地質学的イベントや気候変動と対応させれば、進化の原動力を推測することも可能となるのです。実は論文では、他のNew World CladeのSectionの進化も推測されていましたが、今回は長くなるため割愛しました。興味がありましたら、論文を参照して下さい。


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かつて、Sarcocaulonと言う多肉植物がありました。しかし、いつの間にやらSarcocaulonはMonsoniaに吸収されてしまったといいます。ですから、ネット上のブログや販売サイトでは、Sarcocaulonだった植物はMonsoniaの名前で呼ばれています。しかし、本当にSarcocaulonとMonsoniaは分けることが出来ないのでしょうか?

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Sarcocaulon rigidum
『The Flowering Plants of South Africa』(1921年)より。S. rigidumとは、現在のS. 
patersonii (=M. patersonii)のことです。

履歴書
先ずはモンソニアとサルコカウロンの命名の経緯を見てみましょう。
Monsoniaは1767年にCarl von Linneにより命名されました。つまり、Monsonia L.です。対するSarcocaulonは1826年にSweetにより命名されました。つまり、Sarcocaulon (DC.) Sweetです。始めはSarcocaulonに含まれていた種はMonsoniaとされましたが、Sarcocaulonが出来てからは、新種はSarcocaulonとして命名されました。1824年にDe CandlleがSarcocaulonをMonsoniに含むとする提案を行ったこともありました。最終的には、1996年にAlbersの提案によりSarcocaulonは一斉にMonsoniaに含まれることとなりました。

1996年の提案
調べてみると、1996年のF.Albersの論文、『The taxonomy status of Sarcocaulon (Geraniaceae)』により、SarcocaulonはMonsoniaに吸収されたことが分かりました。内容的には雄蕊群の個体発生や核型、化学成分の分析に基いています。さらに、SarcocaulonとMonsoniaの形態学的な違いは、Peralgonium属内でも見られる程度の違いに過ぎないと述べています。

違いはあるか?
1996年のAlbersの提案はそれなりに妥当性はあったようですが、反対意見もあります。1997年にR.O.Moffettは、『The taxonomy status of Sarcocaulon』と言う論文で、SarcocaulonとMonsoniaの違いを指摘しています。Sarcocaulonの特徴として、可燃性のワックスと樹脂が染み込んだ硬くて光沢がある樹皮を持つと言うことです。含まれる樹脂とワックスの量が非常に多く、乾かさないでも松明のように燃えるため、S. burmanniは「candle bush」、S. rigidumは「bushman's candle」と呼ばれています。

南アフリカ国立標本館
南アフリカ国立標本館のコレクションとそのデータベースであるPRECISは、1996年のAlbersの提案を採用しませんでした。L.L.Dreyerらの1997年のAlbersの提案に対する回答である『Sarcocaulon: genus or section of Monsonia (Geraniaceae)?』を見てみます。
国立標本館では、Albersの提案に対する科学的妥当性を認めますが、コレクションやPRECISに対し導入しないことを決定しました。その理由は以下の通りです。
①歴史的にSweet(1826年)に続いてKnuth(1912年)により、2つの個別の属であることと言う認識が広く受け入れられてきました。別属として維持することで、混乱を避けることが出来ます。
②Sarcocaulonは主にアフリカ南部の砂漠や半砂漠地域に限定されています。対照的にMonsoniaはアフリカ南部からアラビア半島およびインドまで、はるかに広く分布しています。
③SarcocaulonとPelargoniumに見られる多肉質でトゲのある茎は、環境により誘発された特徴である可能性があります。しかし、この特徴はMonsoniaでは見られず、Sarcocaulonの分布域に生えるMonsoniaにおいても見られません。
④SarcocaulonをMonsoniaの姉妹群として保存することにより、命名上の安定性が促進されます。

2003年のチェックリスト
一般的にはSarcocaulonは消滅して久しい扱いですが、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、Sarcocaulonは復活しています。そして、その根拠としているのは、2003年に南アフリカ国立標本館による南部アフリカの植物種のチェックリストである『Plants of Southern Africa an annotated checklist. Strelitzia』です。Sarcocaulonの消滅は実は短い期間だけだったのかも知れません。

遺伝子解析
2017年にSara Garcia-Aloyらの論文、『Opposite trends in the genus Monsonia (Geraniaceae): specialization in the African deserts and range expantions throughout eastern Africa』により、MonsoniaとSarcocaulonの分子系統が考察されました。ちなみに、この論文ではSarcocaulonはMonsoniaに含まれるものとして解析しています。
解析結果はMonsoniaは7グループに分けられると言うことです。Sarcocaulonに相当するグループは非常にまとまりがあります。むしろ、Monsoniaは思いの外まとまりがありません。Sarcocaulonを含んだ大きなMonsoniaとするか、7グループを別属に分割するかと言うことになるような気がします。

サルコカウロンは何種類か
現在の復活したSarcocaulonの一覧を示して終わります。

1. S. camdeboense
 =M. 
camdeboensis
2. S. ciliatum
 =M. ciliata
3. S. flavescens
 =M. 
flavescens
4. S. herrei
 =M. herrei
5. S. inerme
 =M. inermis
6. S. marlothii
 =M. 
marlothii
7. S. mossamedense
 =M. 
mossamedensis
8. S. multifidum
 =M. multifida
9. S. patersonii
 =M. patersonii
 =S. rigidum
 =S. rigidum ssp. glabrum
 =S. rigidum f. parviflorum
10. S. peniculinum
 =M. peniculina
 =S. ernii
11. S. salmoniflorum
 =M. 
salmoniflora
 =M. apiculate
 =M. macilenta
    =S. lheritieri v. brevimucronatum
 =S. patersonii ssp. badium
 =S. patersonii ssp. curvatum
12. S. spinosum
 =Geranium spinosum
 =M. burmanni
 =S. 
burmanni
 =M. classicaulis
 =S. 
classicaule
 =S. 
spinosum v. hirsutum
13. S. vanderietiae
 =M. 
vanderietiae


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バハ・カリフォルニア半島はサボテンが非常に豊富なことで知られています。しかし、バハ・カリフォルニア沿岸に散在する小島にも、サボテンが沢山生えていることは、一般的にはあまり知られていないようです。さて、このような海洋に浮かぶ小島は、大抵は海鳥の繁殖地となっていることが多く、海鳥の糞が堆積しています。この蓄積して固まった鳥の糞を「グアノ」と呼び、かつては肥料の成分とするために、盛んにリン鉱石として採掘されました。と言うわけで、本日はこのグアノとサボテンの関係についてのお話です。本日、ご紹介しますのは、Benjamin T. Wilderらの2022年の論文、『Marine subsides produce cactus forests on desert islands』です。

グアノと鳥島
カリフォルニア湾には、オグロカモメやユウガアジサシ、アオアシカツオドリ、アメリカオオセグロカモメなどの海鳥が多く生息しています。場所によってはグアノが岩上に10cmも堆積しています。そのため、このような鳥島では、窒素やリンの濃度が高いため多くの植物は生えることが出来ないようで、植物の多様性は大幅に減少します。北アメリカ南西部では、エルニーニョやハリケーンにより降水量が多い年はグアノから窒素が流入し、土壌中の窒素は元の100倍に増加する可能性があります。しかし、カリフォルニア湾の鳥島では、サボテンが豊富で多様性が高くなっています。いくつかの島では、cardonと呼ばれるサボテンが高密度で生息します。cardonとはPachycereus pringleiのことで、カリフォルニア半島とソノラ本土のソノラ砂漠に広く分布する柱サボテンです。

240226012127846~2
Cardon
『Proceedings of the California Academy of Sciences』(1960-1968年)より。


同位体窒素の変動
グアノにはアンモニア態や硝酸態、あるいは尿酸の形で窒素が含まれます。これらは異なる速度で分解されます。窒素の原子量は14ですが、極わずかに原子量が15の同位体が存在します。グアノからはアンモニアが揮発し原子量14の窒素(14N)が多少失われるため、グアノは原子量15の同位体窒素(15N)の割合が増加します。自然環境下では、窒素同位体比が+25%を超えることは稀です。従って、植物そのものの15Nの割合を調べれば、グアノを栄養として取り込んだか否かが分かります。

鳥島のcardonは15N値が高い
San Pedro Martir島では、魚の15N値は平均+17.7%、海鳥の羽は平均19.7%でした。新鮮なグアノの15N値は平均14.8%でしたが、分解されて土壌中に残ったグアノの15N値は平均+32.4%に達しました。San Pedro Martir島のcardonは、15N値の平均は+30.3%でした。
また、鳥島ではないメキシコ湾の島の土壌の15N値は平均+15.0%、cardonでは+11.7%でした。バハ・カリフォルニア半島に生えるcardonの15N値は+8.13%、ソノラ本土に生えるcardonでは+11.2%でした。

鳥島の異様なサボテン密度
San Pedro Martir島のサボテン林の密度は、約2700本/haで、隣接する鳥島であるCholludo島では約23500本/haと言う桁違いに多くのcardonが生えています。バハ・カリフォルニアで約150本/ha、ソノラでは約60本/haですから、鳥島のサボテン密度は非常に高いものです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文中のcardonとは
Pachycereus pringleiのことですが、日本では「武倫柱」の名前で知られている柱サボテンです。この論文では、武倫柱に対する鳥島のグアノの影響を調査しました。
鳥島であるSan Pedro Martir島の武倫柱の密度は1坪あたり0.9本、Cholludo島では1坪あたり8本にもなります。バハ・カリフォルニア半島の武倫柱は1坪あたり0.05本、ソノラ本土の
武倫柱は1坪あたり0.02本にしかなりませんから、いかにグアノが武倫柱の生育に影響を与えているかが分かります。
グアノに含まれる同位体窒素の割合により、
武倫柱はグアノ由来の窒素を大量に取り込んだことは明らかです。一般的に畑作では、肥料は与え過ぎると肥料焼けをおこして根をやられてしまうことが知られています。ですから、グアノの過剰な窒素やリン酸は植物には有害です。しかし、武倫柱は過剰な栄養素を取り込んで、異常な密度で生育することが出来るのです。


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しかし、アロエと言う植物は一般的であるにも関わらず意外と奥が深いもので、調べてみると知らないことばかりで驚かされることが多々あります。多肉植物の即売会などでも、見たことがない美しいアロエが何気なく販売されており、ついつい買ってしまい置き場所がなくて困っているくらいです。さて、と言うわけで本日はアロエの話題です。
アロエは似ているものも多く、分類が難しく混乱した経緯がある種も珍しくありません。また、ある種が他種に含まれてしまったりすることは、アロエに限らずですがよくあることです。しかし、そのことが問題を引き起こすこともあるようです。本日は
Gideon F. Smith & Ronell Klopperの2022年の論文、『Conservation status of the recently reinstated Aloe davyana, A. davyana var. subolifera, A. labiaflava (Asphodelaceae subfam. Alooideae), three maculate aloes emdemic to South Africa』を見ていきます。思わぬ問題が起きてしまいました。

231108225005782~2
Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。

アロエの保全状況の評価
アロエの保全状況の評価は、1980年、1985年、1994年、1996年、1997年、1998年、2002年、2009年に実施されてきました。しかし、他種の異名に含まれたりして学名が変遷した場合、正確な評価が行われていない可能性があります。ここでは、学名が変遷した3種のアロエ、Aloe davyana var. davyana、Aloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflavaの保全状況の評価を行います。

Aloe davyana var. davyana
Aloe davyanaは、1905年にSchonlandが記載して以来、大幅に変化しました。1987年にはGlen & Hardyが、Aloe greatheadii var. davyanaとしました。また、Reynolds(1950年)などにより、他の黄斑アロエを異名に含めるなど種の概念を拡張しました。
しかし、
2020年にSmithらが独立した種であることを示す証拠を提示しました。その他の黄斑アロエも、それぞれ独立しています。さらに、2021年にSmithらが、Aloe davyana var. suboliferaを復活させたことから、従来のAloe davyanaはAloe davyana var. davyanaとなりました。
しかし、Aloe davyanaは種の概念が変遷したため、これらの調査による種と対応していないものもあります。Aloe davyanaの初めての評価は、Glen & Hardy(1987年、2000年)に従いAloe greatheadii var. davyanaとして、2000年に実施されたRaimondoらのもので、軽度懸念としました。Aloe davyanaの最新の評価(Mtshaliら、2018年)では、異名としてAloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflava、Aloe longibracteataが含まれています。

Aloe davyana var. davyanaは、南アフリカ中北東部の広い地域に分布し、草原とサバンナの低木地帯の両方の生息地の構成要素です。生息地の中心はGauteng州ですが、南アフリカでも人口の多い州です。金とプラチナの採掘により、大量の人口流入がありました。
このアロエは荒地でよく育ち、土壌を安定させて侵食を防ぐため、鉱山の尾鉱などで荒地に植えることが出来ます。
著作らは、Aloe davyana var. davyanaは分布域全体で一般的である、保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では脅威にさらされていません。


Aloe davyana var. subolifera
Aloe davyana var. suboliferaは、1939年にGroenewaldにより記載され、Reynoldsら(1950年)により認められてきました。しかし、1987年にGlen & Hardyにより、Aloe greatheadii var. davyanaの異名とされました。
2020年にAloe davyanaが復活したことから、2021年には
Aloe davyana var. suboliferaも復活しました。Aloe davyana var. suboliferaは、長くAloe greatheadii var. davyanaの異名とされてきたため、保全状況は不明です。
変種suboliferaの分布範囲は、変種davyanaと比べて南アフリカ中北東部により限定されていますが、分布は重なります。非常に密な林分を形成することがあります。メトロポリスを含むShoshanguve市はその全体が変種suboliferaの分布範囲に含まれます。さらに、高速道路に隣接する地域にも生えています。都市化と人間の定住は分布に影響を与えています。また、いくつかの保護区にも分布しますが、狩猟や畜産に焦点を当てており、自然火災は意図的に防がれています。そのような状況では、低木が草原に侵入し生態系や植物の多様性に悪影響があるかも知れません。また、家畜による撹乱や過放牧は変種suboliferaの個体数の増加をもたらす可能性があります。著作らはAloe davyana var. suboliferaは、分布域が狭いにも関わらずその全域でよく見られることを発見しました。保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では絶滅の危機に瀕していません。

Aloe labiaflava
Aloe labiaflavaは、1936年にGroenewaldにより記載されました。Reynolds(1950年)は、「Aloe labiaflavaはAloe davyanaとAloe longibracteaの交雑種である」と結論づけました。1987年のGlen & Hardyは、Aloe labiaflavaはAloe greatheadii var. davyanaの異名としました。
しかし、
2021年にSmith & Klopperは、Aloe labiaflavaは交雑種(nothospecies)ではないことを示し、独立した種として復活しました。Aloe labiaflavaも保全状況は不明です。
Aloe labiaflavaは他の2種より分布範囲が小さく、Mpumalanga西部のGemsbokspruit近くの狭い地域に限定されます。都市の拡大により約200個体が知られているだけです。絶滅危惧種に相当します。


最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
分類学はただ名前をつけるだけではなく、生物の保全のためにも重要です。異なる種が混同されてしまえば、正確な分布や個体数の把握は意味をなさなくなります。実際に論文でも、いくつかの種が混同されており、そのすべてを含めた調査がなされていたことが指摘されています。種の混同は、絶滅危惧種を保護の必要がないものと誤認させてしまいます。A. davyanaは絶滅の可能性はないようですが、A. labiaflavaは絶滅危惧種であるにも関わらずただの雑種として捨て置かれる可能性がありました。種の保全とその把握のためにも、分類学的研究が進展して欲しいものですね。


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ユーフォルビアは世界中に分布しますが、サボテンのような多肉質な種類のものは限られた地域に分布します。その多くは乾燥地への適応です。多肉質なユーフォルビアは、南北アメリカ大陸やオーストラリア、アジア地域にも分布しますが、その中心はアフリカ大陸です。特にアフリカ南部やアフリカ大陸東岸には豊富に分布します。しかし、アフリカの角の向岸であるアラビア半島や北アフリカのマカロネシア(Macaronesia)と呼ばれる島々にも多肉質なユーフォルビアは豊富です。普段あまり話題にならないこのような地域のユーフォルビアについて書かれた論文を見つけたのでご紹介しましょう。それは、A. Tahaらの2023年の論文ら『Comprehensive review of morphological adaptations and conservation strategies of cactiform succulents: A case study of Euphorbia species in arid ecosystems』です。

サボテン状ユーフォルビアの分布
稜(rib)を持つサボテン状ユーフォルビアはアフリカ大陸原産です。これらの植物はアフリカとアラビア半島のホットスポットで見られ、「Rand Flora」として知られる大陸全体に共通する古代植物相の生き残りです。これらの種は中新世の乾燥により湿潤地域に移動したため、その分布は2つの地域の境界付近にありました。結果として、マカロネシアと東アフリカ、アラビア半島南部の多肉質のユーフォルビアは、生態学的、地理的、系統学的な特徴を共有しています。

マカロネシアと中央アトラスを含む北西アフリカでは、このサボテン状ユーフォルビアはマカロネシア・グループであると考えられています。アラビア半島地域はSomaliaMasaii固有中央地域(SomaliaMasaii Center of Endemism)の一部でもあり、アラビア、アフリカ、地中海地域の植物が混在します。アラビア半島南西部のサボテン状ユーフォルビアは、約2300万年前の紅海開口後に出現したようです。これらの地域のサボテン状ユーフォルビアは、島、海岸地域、高地や高山など、海洋霧の影響を受ける地域でよく見られます。海洋霧は持続的に水分を供給する水資源です。

マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴
マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴は、腺(Glant)の数は5〜6個で付属器はなく、種子は無鉤形で、茎は柱サボテンのように稜(rib)があり、トゲは対になって互生します。単純な集散花序か緑色の茎につきます。シアチアは3つのセットを形成し、中央のシアチアは通常は雄性で始めに開花し、側方の2つのシアチアは両性です。

マカロネシア近辺のサボテン状ユーフォルビア
①E. resinifera
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。通常は4本のribがあり、葉のない茎があります。主に石灰質カルスト台地に分布します。
230715093946951

②E. officinarum subsp. beaumieriana
=E. officinarum subsp. officinarum
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。葉のない茎に、8〜13本のribがあります。海抜300mまでの大西洋岸に頻繁に見られます。通常は石灰質台地上に見られます。
※現在、亜種officinarumは、亜種beaumierianaとは区別されています。

③E. officinarum subsp. echinus
分布は非常に広く、モロッコとマカロネシアの飛び地をカバーしています。モロッコ南部の海抜1900m以上で、岩の多い場所で育ちます。


マカロネシアのサボテン状ユーフォルビア
①E. handiensis
カナリア諸島のFuerteventura島の固有種。海抜50〜300mに見られます。トゲのあるサボテン状ユーフォルビアです。葉のない茎には8〜14本のribがあります。崩積土で生育します。E. officinarum ssp. echinusと関係します。
230916135410420

②E. canariensis
カナリア諸島の固有種で、Lanzarote島を除くすべての島に分布します。海抜900mまでの岩の多い斜面、崖、溶岩に生育します。通常は高さ2〜4mで、4本のribがあります。
230617081132372

アラビア半島のサボテン状ユーフォルビア
※2000年以降にアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアが複数種の新種が記載されました。せっかくですから、いくつかは画像のリンクを貼りました。

①E. madinahensis
サウジアラビアの固有種。高さ1.5mまでで、茎は3〜5本のribがあります。標高1050〜2350mの降水量の少ない花崗岩地に生えます。2007年に記載された絶滅危惧II(VU)。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/785985-Euphorbia-madinahensis

②E. saudiarabica
サウジアラビア南西部のQunfudhah-Djizan地域の固有種。高さ3mに達することもあり、3〜5本のribがあります。2007年に記載された絶滅危惧IB類(EN)。
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:77084100-1

③E. parciramulosa
イエメンとサウジアラビアの固有種。3〜4つのribがある、マカロネシア・ユーフォルビアの姉妹です。標高400〜2000mの低山の麓の、岩石と花崗岩の砂質土壌に生育します。

④E. taifensis
サウジアラビアの固有種。高さ10mに及び、3〜6(7)のribがあります。標高1700〜2100mのワジ(枯れ川)の石の多い土壌や、岩の多い斜面に見られます。2007年に記載されました。
https://www.inaturalist.org/observations/115071557

⑤E. collenetteae
紅海の島々や海岸沿いに生育します。茎は3〜8本のribを持ち、基部から枝分かれし高さ3〜4mになります。海抜75mまでの玄武岩質の露頭やサンゴ由来の土壌にも生育します。準絶滅危惧種への指定が提案されています。2007年に記載されました。

⑥E. cacturs
エリトリア、エチオピア、アラビア半島を含むSomaliaMasaii地域が分布の中心です。特にFayfa山脈、イエメン、オマーンのDhofar地域に生息します。標高2000mまでの岩の多い斜面や河原の石の堆積物にも生息します。3(まれに4または5)のribがあり、高さ1〜3mになります。

⑦E. inarticulata
アラビア半島の固有種。イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3〜5つのribがあり、高さ2mになります。標高300〜2000mの崖や石の多い場所に生育します。
https://www.inaturalist.org/taxa/1116311-Euphorbia-inarticulata/browse_photos

⑧E. fruticosa
イエメンの固有種。高さ約40cmで、茎は7〜10つのribがあります。ribは時として12本になります。標高1094〜2200mの崖や岩の多い平原に生えます。

⑨E. fractiflexa
イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3つのribを持ち、高さは最大2.5mになります。一般に標高150〜539mの海岸平野の岩の多い砂利や石の土壌に生育します。

https://www.inaturalist.org/taxa/1177654-Euphorbia-fractiflexa

⑩E. ammak
イエメンとサウジアラビアの固有種。高さ10mになる
2007年に記載されました。茎は通常4つのribを持ち、枝先は乱れることがあります。標高1000〜2500mの岩場に生育します。
https://uk.inaturalist.org/taxa/192176-Euphorbia-ammak

⑪E. momccoyae
オマーンのDhofar州の固有種。茎は5〜6つのribがあり、高さ1.25mで主茎から10〜30本の枝を出します。イエメンと国境を接するアラビア湾の海岸沿いの石灰岩の崖に生育します。インド洋の南西モンスーンの影響により、標高1000mまで見られます。2011年に記載されました。

https://www.inaturalist.org/observations/58404648

最後に
モロッコはアフリカ大陸のユーフォルビアの中心を考えると、アフリカ大陸の中では外れに位置します。E. officinarumやE. resiniferaは園芸的には珍しい種ではありませんが、面白いユーフォルビアです。モロッコに近いカナリア諸島を代表する2種のユーフォルビアは、かつて読んだ報告ではE. handiensisはE. officinarumと近縁ですがE. canariensisはアラビア半島経由で入ってきた種ではないかとされていました。さらなる研究が望まれます。
しかし、アラビア半島から沢山の新種が見つかっていることを初めて知りました。調査が未開拓な地域もまだまだあるのでしょう。これからも新種が見つかるホットな地域なのかも知れません。これは目が離せませんね。


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エキノプシスは割と庶民的なサボテンで、短毛丸などは庭先に放置された鉢でも花を咲かせていたりします。さて、どうもエキノプシスと言えばそのようなイメージだったわけですが、神代植物公園の大温室に行った時に意外な事実に遭遇しました。益荒丸と言う巨大な柱サボテンが植えられており、ネームプレートには「Echinopsis rhodotricha」とありました。驚くべきことに、この巨大な柱サボテンがエキノプシスだったのです。

DSC_0585
益荒丸 Echinopsis rhodotricha
エキノプシスに見えませんが、ネームプレートにはそうありました。


いつの間にやら全部Echinopsis
また、トリコケレウス属を調べていた時に、いくつかの種類がエキノプシスとされたことがあることを知りました。これは一体どういうことなのでしょうか? まず、トリコケレウスがエキノプシスに含まれるとした考え方に対する、いくつかのサイトの説明を見てみましょう。

「問題は1974年にH. friedrichが、EchinopsisとTrichocereusは種子や花により区別出来る違いはなく、区別して分類すべきではないことを発見しました。そして、Echinopsisの方が(命名が)早いため、TrichocereusはEchinopsisに折り畳まれます。サン・ペドロ(=Trichocereus)をEchinopsisの一部には呼ぶことも正しいのでしょう。」

「1974年にH. FriedrichはTrichocereusとEchinopsisの花は同じ種類であると結論付けました。彼の主張では、子房と花管にトゲはないが毛があり、開放型あるいは散在型の蜜腺と、2連の雄しべがあると言うものでした。結論は、Echinopsisが古い属であると言う事実により、Trichocereusのすべての種はEchinopsisに再分類されました。」


遺伝子解析
以上のように、1974年にTrichocereusはEchinopsisの一部であると言う意見が出されました。もし、サイズ以外の違いがないのなら、それは正しい意見と言うことになります。では、外見上の違いではなく、遺伝的な違いはどうでしょうか? ここでは、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文、『Molecular Phylogenetics of Echinopsis (Cactaceae): Polyphyly at all levels and convergent evolution of pollination modes and growth forms』を見てみましょう。内容は省略して、遺伝子解析の結果だけ見てみましょう。

遺伝子を解析して分子系統を作成しています。とりあえず、Echinopsisを含むグループは4つに大きく分けられるようです。ここでは仮にA、B、C、Dとしました。また、現在のキュー王立植物園のデータベースの情報も加えました。

          ┏━━D
      ┏┫
      ┃┗━━C
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B
  ┫
  ┗━━━━A

グループA
グループAは、E. famatimensisとE. bonnieaeが含まれます。
実はグループBとグループDにもEchinopsisが含まれるため、グループAに含まれる種はEchinopsisとすべきではありません。この2種はかつてはLobiviaとされてきましたが、本来のLobiviaとも系統的に遠い種です。現在はReicheocactusに分類されています。


グループB
グループBは非常に複雑ですから、以下に分子系統を示します。

          ┏━━B4
      ┏┫
      ┃┗━━B3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B2
  ┫
  ┗━━━━B1

B1はArthrocereusです。

B2はCleistocactus(C. bmaumannii、C. smaragdiflorus)、Espostoa、Weberbauerocereus、Yungasocereus、Cephalocleistocactus、Samaipaticereusからなります。
ただし、現在はCephalocleistocactusはCleistocactusに吸収されました。また、B2に含まれるEspostoa(E. guentheri)はVatricaniaとなっています。

B3はHarrisiaと、E. terscheckii、E. atacamensisからなります。
B3に含まれるEchinopsisは、現在では
Leucosteleとされています。

B4はすべてEchinopsisです。E. tubiflora、E. aurea、E. oxygona、E. calochloa、E. densispina、E. haematantha、E. chrysantha、E. breviflora、E. jajoana、E. marsoneriからなります。かつてLobiviaとされたものが多いようです。

Echinopsisと呼ばれる種は、この時点でB3とB4に含まれています。属は近縁でまとまりのあるグループですから、B4のみをEchinopsisとするか、B3とB4を合わせてEchinopsisとするかしかありません。後者の場合、HarrisiaはEchinopsisに吸収されてしまいます。著者らは前者の立場です。つまり、B4に含まれる種のみをEchinopsisと考えるのです。また、Harrisiaは遺伝的にまとまりがありますから、Harrisia以外のB3に含まれるEchinopsisにも新たな名前が必要となります。著者の
SchlumpbergerはLeucosteleを提唱し、現在は認められています。

グループC
グループCはOreocereusの仲間です。Oreocereus、Pygmaeocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucanaが含まれます。ただし、B2に含まれていたCleistocactusやEspostoaも含みます。つまり、CleistocactusとEspostoaは近縁ではない種で構成されていたと言うことになります。また、グループCのCleistocactusとMatucanaは単系統ではなく、まとまりがありません。グループC全体の見直しが必要です。
現在、PygmaeocereusはHaageocereusに吸収されました。グループCに含まれているCleistocactusは、Loxanthocereus(C. sextonianus)やBorzicactus(C. sepium)となっています。CleistocactusはグループBに含まれる方を指します。しかし、これでも整理が中途に思えます。


グループD
グループDも非常に複雑です。

              ┏━D5
          ┏┫
          ┃┗━D4
      ┏┫
      ┃┗━
━D3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━D2
  ┫
  ┗━━━━D1


D1はDenmozaとAcanthocalycium、E. mirabilis、E. leucanthaからなります。しかし、B4を本来のEchinopsisとした場合、D1に含まれる種はEchinopsisではありません。
現在、E. 
mirabilisはSetiechinopsisとなり、E. leucanthaはAcanthocalyciumとなっています。私が植物園で見た巨大なEchinopsisはD1に含まれ、現在はAcanthocalyciumとされています。

D2はE. pachanoiとE. lageniformisからなります。旧Trichocereusです。
現在、E. pachanoiはTrichocereus macrogonus var. pachanoiとなっています。E. lageniformisはTrichocereus bridgesiiと呼ばれていましたが、データベース上ではEchinopsisのままです。

D3のE. saltensisやE. chamaecereus、E. schreiteriは、かつてLobiviaとされたこともありますが、現在は著者によりChamaecereusとされています。また、E. formosaやE. warteri、E. huascha、E. strgona、E. rowleyi、E. lobivioides、E. bruchii、E. candidens、E. angelesiae、E. hahnianaは、LobiviaやTrichocereusとされたこともありますが、現在は著者によりSoehrensiaとされています。
D3は本来のEchinopsisとは近縁ではなく、Lobiviaの姉妹群です。

D4にはE. pereziensis、E. bridgesii、E. sucrensis、E. caineana、E. mamillosaが含まれます。D4は元よりEchinopsisとされて来ましたが、本来のEchinopsisとは近縁ではなく、著者によりLobiviaとされています。
D5にはE. rojasii、E. calorubra、E. obrepanda、E. calliantholiacina、E. coronata、E. pojoensis、E. callichroma、E oligotricha、E. boyuibensis、E. subdenudata、E. cardenasiana、E. ancistrophora、E. chrysochete、E. schieliana、E. maximiliana、E. tegeleriana、E. hertrichiana、E. arachnacantha、E. tiegeliana、E. pentlandii、E. cinnabarina、E. ferox、E. lateritia、E. pugionacantha、E. backebergii、E. tacaquirensis、E. yuquinaが含まれます。D5はもともとLobiviaとされてきたグループです。
D4はよくまとまったグループであるため、D4とD5を別属とすることも可能なような気もしますが、著者らは合わせてLobiviaとしています。


最後に
よく見てみると、Echinopsisとされる種は、他の柱サボテンの属のあちこちに散在することが分かります。つまり、現在Echinopsisと言われている種は、まとまりがない雑多な寄せ集めでしかないと言うことです。また、グループDはEchinopsisと近縁ではなく、外見的類似により統合されてしまったことは明らかです。明確にLobiviaやTrichocereusは分離可能です。一方で、あちこちに現れるEchinopsisは、著者により新属とされました。
論文はすべてのEchinopsisとされる種の遺伝子を確認したわけではありませんから、名前がないものも多いでしょう。さらに、この論文の結果がすべて分類学的に反映されているわけでもありません。しかし、形態学的な分類が難しいEchinopsisが、分けられることが明らかとなりました。消滅したTrichocereusも復活し、Echinopsisとよく似た近縁ではない種も独立し、Echinopsisは大幅に縮小しました。最盛期は100〜150種と目されていたEchinopsisも、今や20種しかありません。
せっかくですから一覧を示して終わります。

Echinopsis albispinosa
Echinopsis aurea
Echinopsis breviflora
Echinopsis calochlora
Echinopsis chalaensis
Echinopsis chrysantha
Echinopsis clavata
Echinopsis cuzcoensis
Echinopsis densispina
Echinopsis haematantha
Echinopsis jajoana
Echinopsis lageniformis
Echinopsis marsoneri
Echinopsis oligotricha
Echinopsis oxygona
Echinopsis rauschii
Echinopsis rojasii
Echinopsis tacaquirensis
Echinopsis torrefluminensis
Echinopsis werdermannii



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最近、トリコケレウスの誕生やその経緯について記事にしました。内容的にはSofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』を参照としました。しかし、この論文には続きがあり、Trichocereus peruvianusやTrichocereus pachanoiはTrichocereus macrogonusに含まれるというのです。一体どういうことなのか、内容を見て見ましょう。
ちなみに、トリコケレウスは、始めはケレウス属でトリコケレウス属とされ、最終的にエキノプシスとされました。ですから、同じ種でも複数の名前が出て来ますから、ご注意下さい。

Trichocereus macrogonus
=Cereus macrogonus
=Echinopsis macrogona

Trichocereus pachanoi
=Echinopsis pachanoi

Trichocereus peruvianus
=Cereus peruvianus
=Echinopsis peruviana

また、Trichocereusの命名の経緯を記事にしていますから、こちらを先に読んだ方が理解がしやすいと思います。


T. peruvianusとT. pachanoi
Britton & Rose(1920年)は、Trichocereus peruvianusとTrichocereus pachanoiという2種類の新種のトリコケレウスを記載しました。
T. macrogonusとT. peruvianusの密接な関係は、Backeberg & Knuth(1936年)を含む数人の著者により言及されていますが、Backebergの一部の著書ではこの意見を支持していません。Ritter(1981年)は、野外観察に基づきT. peruvianusをT. pachanoiの1種であることを提案しました。ただし、RitterはT. macrogonusには言及していません。
Madsen(1989年)は、E. pachanoiを詳細に説明し、T. peruvianusを異名として挙げています。この時のE. pachanoiの図は非常に明瞭で、その説明は、Cereus macrogonusを記載したSalm-DyckのC. macrogonusの説明と一致しています。


T. macrogonusとは?
Huntら(2006年)は、E. peruvianaとE. pachanoiを種として認識していましたが、E. macrogonaは「元の用途が不明または議論の余地がある名前」のカテゴリーにリストアップしました。Huntらによると、「E. macrogonaの現代の記述は、オリジナルから逸脱しており、その名前は誤って適用されている可能性がある」としています。しかし、その根拠は示されませんでした。もっともらしい仮説として、この判断がアマチュアの温室で栽培された植物を観察したものではないかというものです。つまり、栽培されている植物がSalm-Dyckの記述に対応していないだけではないかと言うのです。

トゲが異なると言う記述
トゲの有無とサイズが、T. peruvianusとT. pachanoiを区別する主な特徴であるとされています。しかし、T. pachanoiの最初の記述はタイプ標本で見られるように、トゲのないものから長さ1〜2cmで3〜7本まで多様性があります。Schultes & Hoffman(1979年)は、栽培されたT. pachanoiにはトゲはありませんが、野生条件下ではトゲが発達すると指摘しました。著者らも、T. pachanoiを比較的暗い場所から直射光が当たる場所に移動した際、同じ経験をしました。
標本や写真、参考文献、Britton & Roseの説明などを見ると、T. peruvianusは高さ2〜4m(最大5m)で、T. pachanoiは高さ3〜6m(最大7m)です。特徴を以下に示します。

T. macrogonus v. macrogonus
=T. peruvianus
古いアレオーレにもトゲは18〜20本あり、そのうち3〜4本はより強く頑丈で長さ約5cmになります。枝は直立あるいは斜上し、幹は太く直径16〜20cmになります。

240213214531251~3
Trichocereus peruvianus Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. peruvianusはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonus v. pachanoi
=T. pachanoi
古いアレオーレにはトゲがないか少なく場合があり、3〜7本です。トゲは同じサイズで長さ約1〜2cmです。茎は直立し互いに平行になります。 茎は細く直径6〜11(〜15)cmとなります。

240213214523597~2
Trichocereus pachanoi Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. pachanoiはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonusに含まれる
種が初めて記載された時の記述と、実際のTrichocereusを比較した結果、C. macrogonusはT. peruvianusと同種です。T. pachanoiは同種ではあるが、区別可能です。形態学的および遺伝的証拠による分類学的分析により、T. peruvianusとT. pachanoiとの間に密接な関係があることが確認されています(Albesiano & Terrazas, 2012年)。
一方でフィールドで植物を広く観察したRitter(1981年)やMadsen(1989年)が、それぞれT. peruvianusとT. pachanoiを認識していたことは注目に値します。これらは、別の2種ではなく、同一種内の変種としました。

T. macrogonusの履歴書
以上が論文の簡単な要約です。
初めてC. macrogonus=T. macrogonusを記載したSalm-Dyckの記述は、T. peruvianusの特徴とよく符合します。著者らはT. macrogonus=T. peruvianusであると主張します。さらに、T. pachanoiは形態学的にも遺伝的にもT. peruvianusと近縁ではあるものの、はっきりと判別出来ることからT. macrogonusの変種としました。ここで、T. macrogonusの異名についてまとめてみましょう。

T. macrogonus系
1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
               (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


T. pachanoi系
1920年 T. pachanoi
1931年 C. pachanoi
1956年 T. santaensis
              (publ. 1957)
1958年 T. schoenii
1974年 E. pachanoi
              E. santaensis
              E. schoenii
1981年 T. torataensis
2012年 T. macrogonus v. pachanoi
2022年 T. macrogonus ssp. sanpedro


現在の分類は著者らの主張通りとなっています。見てお分かりのように、エキノプシスに統合する動きがありました。現在はエキノプシスではなくトリコケレウスとされています。しかし、現在はトリコケレウス属自体が縮小しています。具体的には、T. macrogonus、T. spinibarbis、T. uyupampensis(=E. glauca=T. glaucus)のわずか3種類です。エキノプシスと言う肥大化したグループについても、気になっていますから、そのうち記事にする予定です。


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Euphorbia knuthiiと言う塊根性ユーフォルビアがあります。この種小名は人名から来ているとされているみたいです。いわゆる献名ですね。本日はE. knuthiiの名前に関する話ですが、その前にE. knuthiiの簡単な紹介をしましょう。

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Euphorbia knuthii Pax.
狗奴子キリンと言う名前でも呼ばれています。

E. knuthiiの履歴書
E. knuthiiは南アフリカからモザンビークに分布する、多肉質の茎と塊根を持つユーフォルビアです。SchlechterがモザンビークのRessano Garciaで1897年に採取した標本がタイプ標本となっています。ドイツの植物学者であるFerdinand Albin Paxが、1904年にEuphorbia knuthii Pax.と命名しました。
1911年にイギリスの植物学者、分類学者であるNicholas Edward Brownが、Euphorbia johnsonii N.E.Brown.を新種として記載しましたが、後にE. knuthiiの異名扱いされました。しかし、ローデシアの植物分類学者であるLeslie Charles Leachにより、1963年にE. johnsoniiはE. knuthiiの亜種とされました。つまり、Euphorbia knuthii subsp. johnsonii (N.E.Br.) L.C.Leachです。この学名は現在でも有効です。
また、亜種johnsoniiが出来たことにより、今までE. knuthiiと呼ばれていた植物は、Euphorbia knuthii subsp. knuthiiとなりました。よって、E. knuthiiとは、亜種knuthiiと亜種johnsoniiを合わせたものを指しています。


「knuthii」は「Kunth」から?
ここからが、本題です。
某サイトには、「knuthii」とはドイツの植物学者であるCarl Sigismund Kunthに対する献名とありました。そして、何故か「Kunth」が「knuthii」になってしまったのだとありました。初めてその記事を読んだ時は特に疑問に思いませんでした。しかし、最近になり論文を読んでいたら「Knuth」と言う植物学者が登場したため、おやおやと思いました。ようするに、「Kunth」ではなく「Knuth」に対する献名なのではないかと言う、真っ当な疑問が湧いたわけです。


命名者の情報
E. knuthiiの命名者であるPaxは、サクラソウ科、トウダイグサ科、カエデ科を専門としていたようです。Paxは1858年生まれで1942年に没しています。
献名は知り合いか、その分野に貢献した研究者に対するものが多いように思われます。知り合いの場合、研究者なら分かりますが、標本を送ってくれた人に対するものもあり、命名者が本などに誰に対する献名かを記載してくれない限り、由来が分からないものもあります。
さて、ではCarl Sigismund Kunthはどうでしょうか? Kunthは1788年生まれで1850年に没しています。生没年からして、Paxと直接的なつながりはありませんよね。考えられるとしたら、南アフリカのユーフォルビア研究に多大な貢献をしているのかも知れません。しかし、Kunthはチリ、ペルー、ブラジル、ベネズエラ、中央アメリカ、西インド諸島といったアメリカ大陸を専門とした研究者でした。Paxが献名するようには思えません。


海外でも混乱
日本語のサイトでは他には情報がなさそうでしたから、海外の情報を見てみました。
海外では国内とは異なり、情報が直ぐに出てきました。
ただし、困ったことに、サイトにより異なる人物を挙げているのです。それは、以下の3人です。

①Paul Erich Otto Wilhelm Knuth
ドイツの植物学者、生態学者。1854年生まれ1900年没。
②Reinhard Gustav Paul Knuth
ドイツの分類学者、植物学者、昆虫学者。1874年生まれ1957年没。
③Fredrick Marcus Knuth
デンマークの分類学者。サボテンの収集と分類で知られる。1904年生まれ1970年没。

何れにせよ、Carl Sigismund Kunthは関係がなさそうです。

Paxの記載
では、E. knuthiiを初めて記載したPaxの記述を見てみましょう。Adorf Englerの『Botanische Jahrbucher fur Systematik』にPaxの記述があります。
240210210930326~2
おそらく、上の段はラテン語で植物の特徴を記しています。下の段はドイツ語の説明でしょう。ラテン語もドイツ語も読めませんが、「knuthii」の語源については、残念ながら記されていないようです。なお、E. schinziiに近縁と書かれているようです。

論文の情報
すっかり、行き詰まってしまいました。仕方がないので、手当たり次第にE. knuthiiの情報を漁ってみました。すると、何やら興味深い論文を発見したのです。それは、Jose Manuel Sanchez de Lorenzo Caceresの2013年の論文、『Eponimos del genero Euphorbia L.』です。この論文はユーフォルビアの名前の由来を解説したものです。早速、E. knuthiiの項目を見て見ましょう。

★Euphorbia knuthii Pax.
「花の生物学の専門家であるドイツの植物学者、Paul Erich Otto Wilhelm Knuth(1854-1900)に因んでつけられました。」


どうやら、3人の候補の①が正しいようです。ついでに、E. johnsoniiについても見てみましょう。

★Euphorbia johnsonii(=E. knuthii)
「植民地資源を搾取し、明らかにこの植物を収集したモザンビーク会社の農業部長William Henry Johnson(1875-?)に捧げられています。」


最後に
ようやく決着です。このような情報は得るのは中々難しいですね。いくつかのサイトで情報が異なっていたように、根拠のないあやふやなものも多いのでしょう。この場合、命名者であるPaxと同年代に活躍したKnuthと言う植物学者が3人もいたことが、混乱のもとでした。さらに、国内のKunthであると言う情報は明らかに根拠のないただの類似にしか思えません。
ただし、誰に献名されたかは、命名者の生前の記述がない場合は、後の時代では当て推量となってしまいます。おそらくそうだろう、その可能性が高いといった根拠レベルのものもあります。今回のE. knuthiiに関しても、論文でもその根拠は示されていません。もしかしたら、PaxとP. Knuthに手紙のやり取りなど、個人的なつながりがあったのかも知れませんけど。
そう言えば、過去にも献名に関する記事を挙げたことがあります。しかし、インターネット上で誤った情報が流布されていることを注意喚起している論文もありました。献名については、私のような素人には基本的に情報が探し出せないと考えています。研究者が大学や博物館に収蔵されている資料を漁って初めて明らかになるものでしょう。似ているからと言って適当に由来をでっち上げるのは、差し控えるべきです。私もインターネット上の情報のあやふやさを思い知った次第です。


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以前、トリコケレウスを調べていた時に、その立ち位置の微妙さであるとか、分類の混乱を感じました。果たしてトリコケレウスとは何者なのか、調べてもよく分からないのが現状です。本日は、トリコケレウス属のタイプであるTrichocereus macrogonusの歴史を少し見て見ましょう。参照とするのは、Sofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』です。
Trichocereusは基本的にアンデスに分布し、エクアドルならペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン南東部を経て大西洋きしまで広がっています。Trichocereusは円筒形の茎を持ち、丈夫で稜(rib)があり、根本から枝分かれしています。20世紀初頭まではTrichocereusはCereusに含まれていました。

始まりはCereus
Cereus macrogonusと言う学名は、Salm-Dyck(1850年)により記述されました。花や原産地の情報はまったくありませんでしたが、種を特定出来るいくつかの特徴が記されています。
K. Schumann(1890年, 1897〜1898年)は、現在Pilosocereusとされているブラジル原産種にCereus macrogonusの名前を使用しました。Schumannはベルリン植物園に在籍し、Salm-Dyckから標本を受け取ったとされているため、オリジナルのC. macrogonusを持っていた可能性があります。ただし、Schumannの著作ではSalm-Dyckの説明とは特徴が異なります。このSchumannの誤認はBerger(1904年)により否定されました。Bergerは現在のTrichocereusにあたる植物に対する完全な説明を行いました。

トリコケレウス属の誕生
Berger(1905年)は、いくつかの亜属を作ることにより、後に行われたCereusの分離に重要な役割を果たしました。BergerはTrichocereus亜属として14種を認識しました。そのうちの1つが、Cereus macrogonus(=T. macrogonus)です。
Riccobono(1909年)は、Bergerの亜属の中でもTrichocereusを属レベルまで引き上げました。この時のTrichocereusには、T. macrogonusとT. spachianusからなっていました。
Britton & Rose(1920年)はTrichocereusを属として採用し、19種類に拡大し、C. macrogonus=T. macrogonusを属のタイプとして指定しました。この指定は以降のすべての著者に踏襲されています。同時に、T. pervianusとT. pachanoiについても記載しました。さらに、Schumannの説明するC. macrogonusとは、Cephalocereus arabidae(=Pilosocereus arabidae)を指していると指摘しました。Werdermann(1942年)も同様の見解を示しています。

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Cereus macrogonus
『Flora Brasiliensis v.4, pt.2』(1893年)より。
この図譜は正しいマクロゴヌスを示しているのでしょうか?


いくつかの情報
Schelle(1926年)は、C. macrogonusを説明し図を示しました。写真の解像度は低いのですが、5本程度の鈍い肋と頂端に花が咲く栽培された円柱状のサボテンで、Trichocereusの特徴を示しています。Borg(1937年, 1951年)は、T. macrogonusについての長い解説を行いました。その原産地はアルゼンチンとボリビアであるとしています。BorgはTrichocereusを接ぎ木の素材としての利用に注目していました。Rauh(1958年)は、ペルーのサボテンに関する著作でT. macrogonusについては言及していませんが、近縁種類をいくつか記載しています。

不鮮明なマクロゴヌス
Backeberg & Knuth(1936年)は、T. macrogonusについて言及していますが、以前から知られている情報だけでした。Backeberg(1966年)は、1941年のメモではペルーの野生のT. macrogonusを発見し1ページ以上の文書と鮮明な写真を報告したと述べています。しかし、奇妙なことに、同時にT. macrogonus=T. peruvianusという明確な異名を作りました。
さらに、Backeberg(1959年)は、Werner Rauhがペルー中央で見つけた植物の図を、T. macrogonusの野生型として示しました。栽培植物よりも強力なトゲがあります。また、ペルー北部産のT. santaensisや、ペルー南部産のT. chalaensis、T. peruvianus、T. pachanoiなどよく似た種が示されています。しかし、1941年のメモや、ペルーでの調査や野生のT. macrogonusの発見についての言及は見当たりません。

Krainz(1975年)は、T. macrogonusを説明し、栽培されたトリコケレウスの花の写真を示しました。しかし、同時にスペインの庭園で育てられている他の2枚の写真も掲載しましたが、その果実の特徴からするとPilosocereusに相当します。Schumannのように、様々なサボテンを混同していた可能性があります。さらに、KrainzはSchumannの情報に従い、Trichocereusをブラジル原産としました。

その後のマクロゴヌス
Cereus macrogonusと言う名前は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて一貫して使用されてきました。最近では、Trichocereus macrogonusやEchinopsis macrogonaと言う名前が、植物学者により使用され続けています。Schelle(1929年)やBabkeberg(1959年)、Anderson(2001年, 2005年)などの出版物にはイラストも掲載されています。Hunt(1989年)はHausteinのイラスト(1983年)に言及しました。ブラジル原産と記されている以外は、著者らの種の同定と一致しています。参考文献のほとんどが、著しく光沢のある表皮と、優れた接ぎ木材料としての使用を強調しています。
Ostolaza(2011年)は、E. pachanoiとE. peruvianaを認識し、その違いはE. peruvianaのより強力なトゲと、含まれるアルカロイド濃度が高いことにより区別されます。

エキノプシス?
Friedrich(1974年)がTrichocereusをEchinopsisに含めました。しかし、Friedrichの意見は後の研究者たちに必ずしも共有されませんでした。
TrichocereusとEchinopsisは近縁ですが、ほとんどの種は形態学的に明確かつ明瞭に分けることが出来ます。

Trichocereus
高さ0.5〜12mで、枝の高さは中央の茎とほぼ同じです。茎は円筒形です。花は夜行性あるいは昼行性で、釣鐘状です。果実は果汁質です。幹は繊維質で硬く、エクアドルからアルゼンチン、チリにかけてアンデス山脈に生えます。

Echinopsis
高さ0.1〜0.3mです。茎は球形で円筒形にはなりません。ただし、E. leucantha complexとE. ayopayanaは通常1m、稀に1.5mに達し、茎は円筒形になります。花は主に夜行性で、漏斗状です。果実は半乾燥状態です。幹は繊維がなく、主に南アメリカ東部、一部はアルゼンチンとボリビアのアンデス山脈に生えます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
トリコケレウスのタイプであるマクロゴヌスの混乱が見て取れます。
気になって、キュー王立植物園のデータベースを調べてみましたが、T. macrogonusは以下のような名前の変遷があったとしています。

1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
              (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


Trichocereus macrogonusが現在の正式な学名で、Cereus macrogonusは現在の学名のもとになったバシオニムです。さらに、Echinopsis macrogonaは、Homotypic Synonymです。
それ以外の学名は、Trichocereus macrogonus var. macrogonusのHeterotypic Synonymとなります。よく見るとT. peruvianusはT. macrogonus var. macrogonusの異名扱いです。変種macrogonusがあると言うことは、当然ながら他にも変種があると言うことになります。それは、Trichocereus macrogonus var. pachanoiとなります。
しかし、T. peruvianusやT. pachanoiがT. macrogonusと関連して整理されていますが、これは一体どういうことなのでしょうか? 実は本日の内容は論文の前半部分だけで、TperuvianusやT. pachanoiの話は後半に出て来ます。記事が長くなったので、続きはまたの機会としましょう。


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本日は少し緩い話をします。当ブログでは今まで250本を超える学術論文の要約を記事にしてきました。しかし、一般に論文を読むことは、かなりハードルが高いようにも思われています。論文のほとんどは英語で書かれていますから、外国語の苦手な日本人には向いていないと言う面もあるでしょう。とは言え、私も格別に英語が得意なわけではなく、割と分からない単語も多く、調べ調べしながら訳しています。

専門用語が分からない
論文を読むにあたり、私にとって最大の問題は専門用語です。論文には日本語でも分からない用語が頻出しますから、用語の意味やニュアンスと言うか使い所が分からないと、文の意味が中々掴めません。前後の文脈にも影響しますから、いつも四苦八苦しています。

英語じゃないと分からない
サボテンや多肉植物の原産地は必ずしも英語圏ではないため、気になる論文が英語以外の場合もあります。例えば、マダガスカルはフランス語圏、メキシコはスペイン語圏なので、フランス語やスペイン語の論文もそれなりにあったりします。しかし、残念ながらフランス語やスペイン語はさっぱりなので、基本的に諦めています。機械翻訳を試してみたりもしましたが、どうも専門用語との相性が悪く、正しく訳せていないようです。ただ専門用語を誤訳しているだけではなく、前後の文脈も可怪しくなっていたりしますから、これは使えませんね。スペルを1つずつ訳していけば何とかなるかも知れませんが、流石に手間がかかり過ぎます。

論文は無料が好き
私は基本的に無料で公開された論文を読んでいます。これは、何も不正にダウンロードしたわけではなく、論文には有料のものと無料のものとがあると言うだけの話です。とは言え、有料のものは1本で数千円しますから、中々手が出ません。もしかしたら、著作権を思い浮かべ、ケチケチするなと思われるかも知れません。しかし、一般的には著作権者=執筆者ですが、学術論文ではまったく異なります。学術論文では出版社が著作権者なので、論文が売れても論文を執筆した研究者には一銭も支払われません。なぜなら、文芸雑誌は出版社が作家に依頼して書いてもらいますが、論文は研究者が出版社に載せていただけるようにお願いするからものだからです。研究者は学術雑誌に研究成果が掲載されることが絶対的な評価基準ですから、立場的には弱いのです。出版社は沢山送られてくる論文の中から良いものだけを選び掲載します。この時点で論文には競争があるのです。ちなみに、論文掲載が決まっても、研究者はかなりの額の掲載料を出版社に支払う必要があります。日本国内の研究では、1年に掲載料だけで23億円に達すると言う新聞記事を見たことがあります。研究とは実に金にならないものなのです。

公益性とインパクト・ファクター
論文が無料で公開されていることにも意味があります。特に医学系の論文では、広く公知されることが公共益になりますから、無料で公開されることは重要です。個人的には、大学や研究には公金=税金が投入されているのですから、研究成果を広く公開して欲しいと思っています。
さらに言えば、論文はできるだけレベルの高い雑誌に掲載されることが目指されます。一般にも有名なのは、ネイチャーやサイエンスですが、これらの雑誌のレベルはインパクト・ファクターにより決まります。インパクト・ファクターとは、掲載した論文がどれだけ他の論文で引用されたかを示す数字です。これは、その分野を研究するにあたり、根拠として引用した重要な内容を含むと判断された論文なわけです。

有料論文の高騰
学術世界は常に新しい知識でアップデートする必要がある、厳しい競争の世界です。大学院生や若手研究者も関連する分野の論文を沢山読む必要がありますが、有料論文が問題となります。読まなくてはならない重要な論文が有料だと、実験より論文に資金を吸い取られてしまいます。近年、論文の有料化とその高額化が進んでおり、若手研究者からは悲鳴があがっています。この点はかなり問題となっているようです。これからの時代は研究者個人ではなく、大学や国のサポートが必要となるのではないでしょうか。

最後に
学術論文は敷居が高く感じますが、内容は様々で必ずしも難解なものではありません。単純に生態や分布を調査したような論文は、誰でも割と読みやすい部類です。私はなるべく多肉植物全般を記事にしようとしていますが、論文の選択はやはり私の好みに左右されます。気になる多肉植物があるならば、ぜひ論文を読んでみることをお勧めします。
ちなみに、有料の論文はそれぞれの掲載誌ごとに購入するものもありますが、様々な雑誌の論文を購入出来るプラットフォームのようなサイトもあります。あるサイトでは論文1本の価格は10ドルか20ドル、あるサイトでは4980円となっていました。読んだだけで記事にしない論文もありますから、月に10本購入するだけで年間数十万円になってしまうでしょう。これは、ちょっと無理ですかね。また、掲載誌を定期購読したら論文1本あたりの単価は下がりますが、学術誌の種類が増えたため、あちこちの雑誌に掲載されますから、読みたい論文がその雑誌に掲載されるとは限りません。読みたい論文は山のようにあるのに、読めないものが多くフラストレーションが溜まります。これ以上、論文の有料化が進まないことを願っております。


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サボテンはリプサリスなど一部を除き、南北アメリカ大陸およびその周囲の島嶼部に分布します。しかし、サボテンは乾燥地に良く適応した植物であるため、世界中の乾燥地域に侵入し外来種として猛威を振るっています。もちろん、これは初めは人間が移動させたものですが、競争がないことや天敵がいないなど有利な環境であっという間に増殖して手に負えなくなってしまったのです。砂漠の緑化になるような気もしますが、競合する元来自生していた他の植物やそれらを頼って生きている他の生物にとっては、サボテンはある種の災害のようなものです。
さて、現実問題として外来サボテンを駆除しようと言う動きはありますが、あまり上手くいってはおりません。特にウチワサボテンは厄介で、トゲがあるため重機で駆除したりします。しかし、節がバラけてしまい、バラけた節が根を張って直ぐに再生してしまいます。では一体どうしたら良いのでしょうか?

本日はアフリカに侵入したサボテンの駆除を目指した、I. D. Patersonらの2011年の論文、『Biological control of Cactaceae in South Africa』をご紹介します。如何なる成果が得られたのでしょうか。

①Pererkia aculeata
Pererkia aculeataはよく発達した葉と木質の茎と枝を持つ原始的な匍匐性サボテンです。P. aculeataは中央アメリカとカリブ海地域の一部、並びにブラジル南東部とアルゼンチン北部に自生します。

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Pererkia aculeata
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Pererkia pereskiaとして記載。

アフリカへの侵入
1858年に南アフリカのケープタウン植物園で初めて記録され、ケープタウン周辺とGauteng州、Mpumalanga州、Limpopo州に帰化しました。また、東ケープ州とKwaZulu-Natal州の東海岸沿いにも帰化し、非常に侵入性が高く森林や海岸植生に豊富に生息しています。P. aculeataは繁殖しすぎて、固有の植生を消滅させています。1983年には農業資源保護法により雑草に指定され、2004年の生物多様性法により侵略的外来植物とされています。

防除方法
P. aculeataは在来の植生に絡み合って育つため、機械的に除去することは困難です。さらに、P. aculeataは千切れた破片からも再生するため、これは有効な方法ではありません。よって、生物学的防除がP. aculeataを防除する唯一の、経済的に実行可能かつ持続可能な方法です。

ハムシの放出
Phenrica gueriniと言うハムシの仲間を天敵として、KwaZulu-Natalでは少数を放出しましたが、P. aculeataの目立つ減少は見られませんでした。最近、より多くのハムシが放出されたことにより、KwaZulu-Natalの一部ではハムシが定着しました。

新たな天敵の発見
1984年から2007年までに、P. aculeataの自生地であるブラジル南部やアルゼンチン北部、ベネズエラ、ドミニカ共和国で8回の現地調査が実施されました。調査中に43種の昆虫がP. aculeata上で発見され、この内6種は一般的に見かけました。
・Loxomorpha cambogialisや、未記載種のPorphyrosela sp.と言う蛾は、宿主範囲が広く他の植物にも影響があるため使用出来ませんでした。
・Maracayia chlorisalisと言う蛾は非常に有効な天敵ですが、ドラゴン・フルーツが採れるHylocereusの害虫です。ドラゴン・フルーツはアフリカでも有望な新作物であり、この蛾の導入は利益相反を引き起こす可能性があります。しかし、効果が期待出来る天敵です。
・未記載のハチが発見されましたが、類似した幼虫が他の植物でも観察されたため、確認が必要です。
・Bruchophagus sp.と言うハバチは虫瘤を作りますが、必ずしもP. aculeataに強いダメージを与えているわけではないようです。
・ゾウムシの幼虫がブラジルで見つかりましたが、成虫が同定されておらず、宿主範囲も不明です。

今後
発見されたP. aculeataの天敵を採取し研究する必要があります。同時に新たな天敵の探索も行われる必要があります。また、南アフリカで栽培されるドラゴン・フルーツに対するM. chlorisalisの影響も調査するべきでしょう。また、一部地域ではP. gueriniが定着し、P. aculeataに対する大規模な被害が発生しています。P. guerini放出の評価を行う必要があります。


②Opuntia stricta
南アフリカにおけるOpuntia strictaの生物学的防除では、蛾とカイガラムシにより個体数を抑制することに成功しています。

240202231924264~2
Opuntia stricta(左上)
『The Cactaceae I』(1919年)より。


コチニールカイガラムシ
クルーガー国立公園では、O. strictaのバイオマスが、Dactylopius opuntiae(コチニールカイガラムシ)の放出から6年で約90%減少しました。それ以来、サボテンの生息数は低いままです。ただ、雨が多い年にはコチニールカイガラムシは減少し、一時的にO. strictaは増加しました。しかし、コチニールカイガラムシは、サボテンの個体数を減らすだけではなく、平均サイズの大幅な減少を引き起こし、2005年以降はO. strictaの結実が見られませんでした。よって、O. strictaはコチニールカイガラムシにより完全に封じ込めることが出来ます。


③Cylindropuntia fulgida
Cylindropuntia fulgida var. fulgidaは、直立しよく枝分かれしたサボテンです。末枝は簡単に外れ、通る動物や人の服に付着します。果実のアレオーレから新しい花を咲かせるため、連結した果実が形成されます。この種はアリゾナ州のソノラ砂漠や、シナロア州ソノラ、バハ・カリフォルニア北部に自生します。一般には「chain-fruit cholla」あるいは「jumping cholla」と呼ばれています。

240202231910199~2
Cylindropuntia fulgida
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Opuntia fulgidaとして記載。


chain-fruit chollaの蔓延
chain-fruit chollaは、少なくとも1940年代には南アフリカに観賞用として輸入されました。現在は牧草地や自然保護区にも侵入し、家畜や小型アンテロープ、その他の小型哺乳類や鳥に至るまでに危害を与えています。時としてそれらの動物の死を招くこともあります。北ケープ州のダグラス周辺やLimpopo州などで蔓延しています。
農務省の補助金による防除は1970年代後半から実施されていますが、あまり成果がありません。侵入が多い特に価値の低い土地では、かかる費用は法外に高くなります。

分類上の疑義
このサボテンは分類上の混乱がおきており、最適な天敵の探索や使用を妨げています。長年に渡りC. rosea(=C. pallida)とされてきましたし、それ以前はC. tunicataと混同されてきました。
C. roseaにつくDactylopius tomentosusと言うカイガラムシを放出したものの、小型の植物を枯らすことはありましたが、大型の植物には効果はありませんでした。この時、このサボテンの正体について若干の疑問が生じたため、メキシコや米国のサボテンの分類学者と協議した結果、C. fulgida var. fulgidaであることが確認されました。これは、ダグラス近郊では化学物質による防除が行われていたため、連結する特徴的な果実が見られなかったからです。しかし、ジンバブエ近くでは管理されていないサボテンがあり、特徴的な連結する果実が確認されました。また、ダグラス近郊の古い写真からも、その連結する果実が確認されています。


生物型の違い
D. tomentosusを調査し、C. fulgida var. fulgida、C. fulgida var. mamillata、C. chollaから採取しました。コチニールカイガラムシは異なる生物型を持つものがあります。生物型の違いにより、成熟にかかる時間などが異なります。C. chollaから採取した「cholla」タイプが一番上手く定着しました。
「cholla」タイプのカイガラムシはダグラス近郊の農場で大規模なや放出されました。しかし、サボテンに対する被害は予想されたほどではありませんでした。カイガラムシの大量飼育中にC. imbricataにつくカイガラムシが混入した可能性があるため、新たに「cholla」タイプのカイガラムシを採取し、大量飼育が開始されました。


効果あり
2008年には大量放出され、4ヶ月後には大量のカイガラムシが定着し、サボテンの枝は落ちて小さいサボテンは枯死しました。放出場所から最大5mまでの拡散が確認されました。2009年には多くのサボテンが枯れ、その地域でカイガラムシがいないサボテンを見つかることは困難となりました。2010年にはカイガラムシは87ヘクタールを拡散しました。小さいサボテンは枯死し、大型のサボテンも枝が枯れ落ちました。現在、除草剤を撒く代わりにカイガラムシの散布が行われることが決定されました。C. fulgida var. fulgidaは完全に制御されていると考えられます。


④Cereus jamacaru
「queen of the night cactus」として知られるCereus jamacaru(ヤマカル柱)は、コナカイガラムシの仲間であるHypogeococcus pungensと、幼虫が茎に穿孔するカミキリムシの仲間であるNealcidion cereicolaを生物学的防除として利用しました。これらは、Harrisia martinii由来ですが、C. jamacaruに直ぐに定着しました。

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Cereus jamacaru
『The Cactaceae II』(1920年)より。


天敵の効果
カミキリムシは少数の場所でしか定着しませんでしたが、個体数が多くなると非常に効果的です。サボテンの構造組織が弱くなり植物全体が倒れたりします。
コナカイガラムシは南アフリカのC. jamacaruの分布域全体に広がり、ほとんどの地域では生物学的防除として効果的です。このコナカイガラムシは植物の異常生長を引き起こし、特に茎の先端が腫れてしまいます。節間が短くなりトゲの間隔が狭くなり、シュートが細くねじれながら増殖します。このコナカイガラムシに寄生された植物は、何れ枯れてしまいます。若い個体は開花するサイズに達する前に枯れますが、高さ数メートルになってからコナカイガラムシに寄生されると、枯れるまで最大4年かかる場合もあります。しかし、コナカイガラムシは蕾に集まるため、果実の生産量は著しく減少します。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
天敵を利用した生物学的防除は、思いの外効果的なようです。すべての植物には、その植物に特有の害虫がいると言う発想による外来サボテンの防除が目指されています。しかし、Pererkiaのように適切な害虫の選定段階のものもあります。コチニールカイガラムシのように実績のある害虫とは異なり、他の植物に対する悪影響も考慮する必要があります。
また、論文に取り上げられた例では、非常に上手くいっていますが、これからは少し注意が必要な場面も考えられます。これはマダガスカルの例なのですが、ウチワサボテンが蔓延してしまったことから、害虫のカイガラムシを放出しました。ウチワサボテンはほぼ壊滅状態になりましたが、ウチワサボテンが減少したためカイガラムシも減少しいなくなってしまいました。やがて、害虫がいなくなったことでウチワサボテンは再増殖をしてしまったのです。この話の教訓は、害虫を温存しておいて、外来植物が減少してきた時に害虫の再散布による追い打ちをかける必要があると言うことです。また、外来植物の再増殖に備える体制も必要です。常に監視し必要ならば介入すべきです。今後の外来サボテンの同行は注視していきたいですね。


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Mesembryanthemumは由来の古い属名ですが、かつては巨大なグループでした。しかし、徐々に分割され、LampranthusやDelosperma 、Ruschiaを始めとしたグループとなり、現在は100種類程度になっているようです。私はまったくメセンに詳しくはないのですが、Mesembryanthemumの学名に関係する論文を見つけたのでご紹介します。メセンと言うより学名について興味があるのです。
と言うわけで、本日はGideon F. Smithの2020年の論文、『(274 5) Proposal to conserve the name Mesembryanthemum vanputtenii (Lampranthus vanputtenii) (Aizoaceae) with that spelling』をご紹介します。

Mesembryanthemum pittenii L.Bolusは1929年に発表された南アフリカ原産の多肉植物です。L.Bolus(1929)は「Compton(N.B.G. 916/22)」と「van Pitten(N.B.G. 1045/25)」と言うタイプ標本(シンタイプ)を挙げています。翌年、この種は新たに創設されたLampranthusに移され、L. pittenii (L.Bolus) N.E.Br.とされました。

1967年にL.Bolusは、コレクターの名前が正しく記載されていなかったと述べ、種小名を「vanputtenii」に変更しました。採取者はJoost van Puttenで、Lambert's湾の海岸近く住んでおり、彼の所有地はVan Putten's Vleiと呼ばれていました。

「pittenii」を正書法的に修正すると、「i」を「u」に変更されます。さらに、Brummit & Powell(1992)は、「van」を含む南アフリカの姓は、姓の不可欠な部分とみなすのが一般的であるため、この単語を保持すべきであると指摘しています。

L.Bolusが1967年の修正に続いて、修正された名前であるL. vanputteniiが、南アフリカのAizoa科の種の編集に採用されました。過去50年に渡り、L. vanputteniiと言う名前が広く採用されてきたことを考慮し、そのバシオニムであるM. vanputteniiを保存することを提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
バシオニムとは正式に認められた学名のもとになった名前のことです。いわゆる異名の1つですが、実は異名にも2種類あります。例えば、緋花玉を例に取ると、正しい学名はGymnocalycium baldianumですが、これは1925年に命名されたものです。しかし、緋花玉は初めは1905年にEchinocactus baldianusと命名されているのです。これは、現在の学名に繋がる学名ですから、バシオニムにあたります。異名の種類としてはHomotypic Synonymと呼ばれます。
また、現在の学名に繋がらないものもあり、これをHeterotypic Synonymと呼びます。緋花玉では、1932年に命名されたEchinocactus sanguiniflorusや1995年に命名されたGymnocalycium rosea、2009年に命名されたGymnocalycium schreiteriなど、11のHeterotypic Synonymがあります。これらは、新種として記載されたものの、G. baldianumと同種であるとして異名になったものです。
何やら面倒くさい話ですが、命名法は重要です。しかし、種を分けるか否かは研究者だけではなく、我々趣味家からも批判がある不完全なものです。それでも、最新の研究成果を吸収しながら、徐々に積み上げられるものが学名です。近年、遺伝子解析による分子系統が盛んに行われていますから、過去にないスピードで分類が改訂される時代になりました。遺伝子解析は過去の分類法と比較すると非常に客観的ですから、研究の進んだグループでは、やがて分類とその学名は固定的となっていくでしょう。このように、Carl von Linneが2名式学名を考案してから約250年経って初めて機械的に種を決定可能となったわけですから、我々は非常に面白い時代に生きていると言えるでしょう。これからも、最新の研究成果を記事にしていこうと考えております。


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多肉植物ブームが長く続き、即売会などでは変わった植物も見かけるようになりました。最近は乾燥地の灌木であるコミフォラもたまに見かけます。聖書に出て来る没薬とはコミフォラの樹脂を固めたものですから、分布も中東や北アフリカが中心です。流通量が少なく生長が遅いこともあり、一般的に大変高価です。本日はこのコミフォラのお話です。と言うわけで、Emiru Birhaneらの2023年の論文、『Arbuscular mycorrhizal fungi improve nutrient status of Commiphora myrrha seedlings under drought』をご紹介します。

乾燥地の植物
没薬(Myrrh)の原料であるCommiphora myrrhaは、高さ4mになるトゲのある樹木で、主に標高250〜1300mのアカシアとコミフォラからなる低木地帯で見られます。このような乾燥地に生える樹木の苗木は、水分含量の低下や光合成速度の低下など、水不足により様々な反応を示します。植物の干魃への適応は、アーバスキュラー菌根菌(AMF)などの土壌微生物との相互作用や支援により強化されます。

菌根菌
アーバスキュラー菌根菌(AMF)は、リン酸塩や他の栄養素が不足している場合に、植物の生長を促します。AMFの共生は、乾燥条件下での植物組織内のリン、ケイ素、窒素、亜鉛、マグネシウム、銅、カルシウムの濃度を増加させ、実生の生長を促進します。また、AMFは気孔コンダクタンスと光化学系IIの効率を維持することにより、光合成効率を高めます。つまり、AMFは水と栄養素の獲得を増加させることで、樹木の苗木の定着を改善します。しかし、C. myrrhaに対するAMFの影響はまだほとんど知られていません。

実験
著者らはエチオピア北部のMekelle大学で、C. myrrhaの苗木を用いた試験を温室で実施しました。温室内の気温は、日中で平均27℃、夜間で平均22℃でした。
種子はエチオピア北西部の低地より採取され、20%過酸化水素水不足により殺菌され、その後に冷水に12時間浸漬されました。プラスチックトレイに滅菌した川砂を敷き種子を播種したところ、種子すべてが5〜15日で発芽しました。発芽後、個別にプラスチックポットに移植しました。
菌根菌はエチオピア北西部の乾燥したアカシア・コミフォラ林で、乾季に採取されました。菌根菌の種類は特定出来ませんでしたが、乾燥土壌100g中には約76個の胞子を含んでいました。この土壌をモロコシ(ソルガム)に与え増やしました。モロコシの根への菌根菌の定着率は60〜95%でした。
試験はAMFの有無と、与える水分量を4段階に分けて実施されました。


干魃耐性の強化
AMFの添加によりバイオマスの増加が認められました。細根はAMFにより長くなりました。AMFの効果は水分が少ないほど顕著でした。また、新芽と根の窒素濃度は、AMF接種により増加しましたが、水分量は影響を与えませんでした。リン濃度とカリウム濃度は、AMFと水分量が大きく影響を与えました。リンやカリウムなどの栄養素摂取量が強化されると、干魃耐性が高まります。菌根が植物の根が到達出来ない微細な土壌細孔にアクセス可能であり、水分や栄養素の取り込みを強化出来ます。
AMFの効果として葉の面積の維持が確認されました。より乾燥した環境では葉が小さくなる傾向がありますが、AMFの接種により葉があまり小さくならず大きい葉を展開出来るのです。このことにより、AMFは光合成効率の改善にも寄与していることが分かります。

最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
論文ではAMFを採取したアカシア・コミフォラ林の表土と下層土を用いた試験も行っていましたが、今回は割愛させていただきました。
さて、当ブログはサボテンや多肉植物を中心としていますが、それらに留まらず植物学に関わる広範な記事もポツポツと書いていたりします。植物学ネタでは、植物にとって菌根菌は重要であると言うことを何度か記事にしています。ほとんどの植物は菌根菌と共生関係にあり菌と根の複合体である菌根を形成し、お互いに栄養素のやり取りをしています。
多肉植物でもWelwitschiaは菌根菌と共生関係を結んでいることが確認されており、Gymnocalyciumでは菌根菌と共生関係にあるとよく育ち、フザリウムと言う寄生カビの感染予防にもなっていることが確認されています。しかし、ほとんどの植物は菌根菌との関係について詳しいことは分かっていません。乾燥と菌根の関係は非常に興味深いもので、菌根菌の能力を計る意味でも有用だと感じます。今後も、多肉植物と菌根菌との関係についての研究がなされることを望みます。


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乾燥地には剥き出しの岩石が見られたりしますが、岩の割れ目に多肉植物が育ったりすることは、世界中の乾燥地で知られています。通常、岩石の風化は風や雨により、それこそ万単位の時間をかけて緩やかに進行します。しかし、植物の存在により岩石は強い作用を受けることになります。その例として、メキシコのバハ・カリフォルニアの溶岩に生える象の木(Pachycormus discolor)を取りあげましょう。本日はYoav Bashanらの2006年の論文、『Primary colonization and breakdown of ingneous rocks by endemic, succulent elephant trees (Pachycormus discolor) of the deserts in Baja California, Mexico』をご紹介します。

調査地域
著者らは2002年と2005年に、ソノラ砂漠のバハ・カリフォルニア半島の中央にある2箇所を調査しました。この地域は夏の高温が特徴で、晴れた日は35〜40℃になり、良く日が当たる場所は45℃を超えます。冬は夜間の気温が3℃まで低下することがあります。植生はIdria columnaris(=Fouquieria columnaris、観峰玉) やPachycereus pringlei(cardon cacti )などが生えます。

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Pachycormus discolor
『Contribution from the United States National Herbarium』(1912-1916年)より


岩上で育つ象の木
花崗岩や玄武岩で出来た冷えた溶岩流の上で、象の木が生長していることが確認されました。岩上には他の植生は確認されませんでした。花崗岩の地域は、大きな木が岩を挟み込んでおり、1平方キロメートルあたり3.86本が生えていました。玄武岩の地域では、岩に亀裂はなく象の木は岩の中で生長し、小さな木でも引き抜くことは出来ませんでした。高さ20〜30mになる玄武岩の岩上には、高さ3m以上の成木が1平方キロメートルあたり平均8.83本生えていました。

岩石の風化
cardon cactusに関する最新の研究では、根に関係する微生物が岩石を風化させサボテンに栄養素を供給しており、裸岩上におけるサボテンの生長を可能としていることが示されました。これらの微生物が象の木の根にも存在するのかは不明です。

最後に
岩を貫通しながら育つ象の木の姿は、実に奇妙なものです。著者らは最後に微生物の存在を匂わせましたが、これは根圏にいる細菌などの微生物のことのようです。確かに根圏が発達した場合、様々な微生物が増殖し岩石にも作用することは考えられることです。しかし、私は菌根菌が重要なのではないかと考えます。植物の根と共生関係を結んだ菌根菌は、酸を出して周囲のものを溶かします。以前は菌根菌は一部の植物だけに見られるもののように言われたりもしましたが、現在ではほとんどの植物は菌根菌と共生関係を結んでいることが確認されています。当然ながら象の共生関係もまた菌根菌と共生関係にあるはずです。
象の木は岩を穿ちながら育ち、岩は侵食されて行きます。それは、わずか数十年で岩に大きな穴が開くわけですから、自然風化と比較したら大変なスピードです。象の木はやがて寿命などで枯れるものもあるかも知れませんが、象の木があった穴には象の木と微生物が作った腐食質が残り、枯れた象の木自体も腐食質となるでしょう。そこには、岩上では育たなかった植物が生えることが出来るはずです。象の木は不毛の岩上にオアシスを作り出す植物と言えるのではないでしょうか。


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多くの多肉植物は様々な要因によってその生存を脅かされ、生息数が減少し絶滅の危機に瀕しています。しかし、絶滅危惧種は動物より植物の方が圧倒的に多いにも関わらず、動物と比べると植物は保護に関わる研究・調査や保護活動のための資金は圧倒的に少なく、非常に遅れています。現状を把握するために定期的な原産地の調査が必要ですが、絶滅危惧種であってもそのほとんどが調査もされず放置されたままです。調査されないまま、おそらく絶滅したと考えられている種もあり、調査は急務と言えるでしょう。さて、本日はそんな希少植物を危機意識を持って調査した論文をご紹介します。それは、N. N. Mhlongoらの2023年の論文、『Distribution, population structure and microhabitat profile of Euphorbia bupleurifolia』です。

E. bupleurifoliaの特徴
ソテツトウダイグサ(cycad spurge)として知られるEuphorbia bupleurifolia(鉄甲丸)は、高さ20cmほどになる多肉植物です。幾何学的に整った結節状の茎は、通常は分岐せず、直径4〜7cmの球形または亜円筒形の外観です。葉は茎の先端に房状につき、乾季には落葉します。春に新しい葉が出る直前に花が咲きます。

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鉄甲丸 Euphorbia bupleurifolia

分布域の現地調査
E. bupleurifoliaの過去の分布を特定するために、過去採取された標本の産地情報や、撮影された画像の情報、さらには保護活動家にも連絡をとりました。その結果、33箇所の産地が特定され、そのうち31箇所が現地調査されました。2018年8月から9月の30日間に渡る調査により、わずか9箇所しかE. bupleurifoliaは発見されませんでした。うち1箇所は1個体しか見つからず、その地域では事実上の絶滅です。また、調査により発見されたE. bupleurifoliaは、合計1724個体に過ぎませんでした。

年齢分布
一般的に増殖している個体群は新たに加入する若い個体が多く、年齢が高い大型の個体は減少していきます。縦軸を個体数、横軸を年齢としたグラフでは、逆J字型(右肩下がり)になります。個体数が減少している植物は、新たに加入する若い個体が少なくなり、グラフはJ字型(右肩上がり)になります。しかし、E. bupleurifoliaは中間サイズの個体が多く、グラフは釣り鐘型となりました。これは、一般的には植物の寿命が長く、成体の生存率が高いことに起因します。調査では、実生個体は3箇所でしか見つからず、全体として若い個体の加入率は低いものでした。
釣り鐘型のサイズ曲線は、Kumara plicatilisで確認されたパターンで、Haworthiopsis koelmaniorumでも観察されています(※)。違法採取や火事により大型個体が失われると、個体数の減少を招く可能性があります。

※ ) このパターンは、実生の定着率が低くても、寿命が長い成体が種子を蒔き続けることにより維持されています。ですから、種子を生産する親個体の減少は、個体群の崩壊を招きます。


生息地に与える人為的悪影響
E. bupleurifoliaに与えられる悪影響として、もっとも一般的なのは踏みつけです。8箇所で確認されています。しかし、その影響のレベルは大したことはありません。5箇所では火災と採取の痕跡がありました。4箇所ではゴミの投棄が起こっています。3箇所ではバイクやサイクリングによる影響もありました。病気や害虫の被害は少なく、それぞれ4本と3本が影響を受けただけです。また、1個体しか見つからなかった地域、Kwazul-Natalでは農業の拡大のために生息地が消滅していると言う報告があります(Scott-Shaw, 1999)。

火災の功罪
繰り返しおこる火災はE. bupleurifoliaの生存に対する脅威の1つです。しかし、火災が発生しない3つの自然保護区では、E. bupleurifoliaの個体数は非常に少なく、火災が発生することに意味がある可能性があります。
火災が種子の発芽を促進したり(Mbalo & Witkowski, 1997)、生長を刺激すると言われています(Pfab & Witkowski, 1999b)。さらに、火災が開花を刺激している可能性があります。また、適度な火災が日照を遮るイネ科植物を燃やすことにも意味があるかも知れません。

最後に
鉄甲丸の自生地の調査により個体数が減少していることが確認されました。おそらく、鉄甲丸の場合は開発や違法採取によるダメージが大きいような気がします。場所によっては1個体のみでしたが、鉄甲丸は多くのユーフォルビアがそうであるように雌雄異株ですから、もはや種子を作ることが出来ません。ですから、その場所においては事実上の絶滅とされるのです。さらに、個体数が減少した場所では、やがて遺伝的に均一になってしまうでしょう。遺伝子の多様性が失われた場合、環境変動や病害虫に脆弱戸なる可能性もあります。現状においては野生の鉄甲丸に明るい未来を描くことは困難です。しかし、このように学術調査がなされたことは大変な僥倖です。保護のための第一歩としては大変重要と言えるでしょう。
さて、論文を読んでいて気になったのは、鉄甲丸の自生地での生え方です。意外にも鉄甲丸は地中に埋まりがちなようです。ほぼ頭だけを出して花を咲かせている個体もよく観察されたと言うことです。特に乾季には地中に潜り込む性質があるようです。このような生態は、E. pseudoglobosaやE. susannaeでも観察されているみたいですが、厳しい環境に対する適応なのでしょう。非常に面白い生態ですね。



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植物は種類により様々な受粉システムをとりますが、サボテンもまた種類により様々な受粉システムがあります。しかし、サボテンの多くは雌雄同株で、1つの花に雄しべと雌しべがセットになった花を咲かせます。ところが、その常識を覆す論文を見つけました。それは、Alicia Callejas-Chaveroらの2021年の論文、『Breeding system in a population of the globose cactus Mammillaria magnimamma at Valle del Mezquital, Mexico』です。サボテンの大変特殊な受粉システムを明らかとしました。

サボテンの祖先は雌雄同株
雌雄異株はサボテン科では非常に稀です。既知の1438種のうち、24種のみが雌雄異株(dioecy)、あるいは不完全異株(subdioecy)、雌性雌雄異株・雄性雌雄異株(gynodioecy)、三雌異性体(trioecy)を示します。
雌雄異株はサボテン科の中でいくつか独立に進化しています。しかし、原始的なPererkiaにも両性花を持ち、単性花を持つConsolea、Cylindropuntia、Opuntia、Echinocereus、Pachycereusなどでも雌雄同株の痕跡が見られるため、サボテン科の祖先は雌雄同株と見られています。


M. magnimammaの花
古典的な著作であるBravo-Hallis & Sanchez-Mejorada(1991)では、Mammillaria magnimamma Haw.の花について説明しています。「雌雄同株で、雌しべが雄しべより長い。」しかし、2018年に著者らは雌雄同株ではないと思われるM. magnimammaを発見しました。

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Mammillaria magnimamma
『The Cactaceae』(1923年)より。Neomammillaria magnimammaとして記載。


調査地
調査地はHidalgo州Valle del Mezquitalの標高2358mで、Acacia fernesiana、Coryphantha cornifera、C. octacantha、Cylindropuntia imbricata、Echinocereus cinerascens、Ferocactus latispinus、Myrtillocactus geometrizans、Opuntia engelmannii、O. hyptiacantha、O. lasiacantha、O. robusta、Yucca filiferaと共に乾生低木を形成します。

雄性不稔個体の発見
2018年の調査では、M. magnimammaは雌雄同株である個体とそうではない個体が混在していることが明らかとなりました。調査した107個体中、94個体は雌雄同株で、13個体は雄性不稔個体でした。雄性不稔個体は雄蕊群が機能していない状態となっていました。また、2019年の再調査においても、性的状態は年ごとに変化しないことが確認されました。
電子顕微鏡による観察では、雄性不稔個体の葯は開裂せず、花粉は奇形を示しました。花のサイズも異なり、雌雄同株の花は平均14.0mmの長さであるのに対し、雄性不稔個体の花は平均2.2mmと著しく短いものでした。

受粉数と発芽率
また、著者らの観察によると、M. magnimammaは主にミツバチにより受粉されるようです。さらに、雌雄同株の花も雄性不稔個体の花も結実することが確認されたため、雄性不稔でも雌性機能は正常であることを示しています。ただし、雌雄同株の花は平均97.5個の種子を生産したのに対し、雄性不稔個体の花は平均120.0個の種子を生産しました。種子のサイズも異なり、雄性不稔個体の種子はより大きい傾向が認められました。これらの種子を採取し播種したところ、雄性不稔個体の種子の方が発芽率が高いことが確認されました。

雄性不稔種子の優位
花粉媒介者は、雄性不稔個体の花より約2倍の頻度で雌雄同株の花を訪れました。しかし、出来た種子は雄性不稔個体の方が多いものでした。雄性不稔個体の花は生殖能力が高いと考えられます。また、雄性不稔個体の種子の方が大きく発芽率が高いことから、種子の品質が非常に高いことが分かります。対する雌雄同株の花は、一部では自家受粉している可能性もあり、その場合は種子の発芽能力が低下することも考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
雌雄同株とされてきたM. magnimammaの野生個体群において、驚くべきことに雄しべや花粉が機能していない雄性不稔個体が見つかったと言うのです。さらに、雄性不稔個体は種子の数や品質において、雌雄同株個体より優れていることが分かりました。しかし、優位に見える雄性不稔個体は全体の12%に過ぎませんでした。これが何を指すのかは難しいところです。もしかしたら、雌雄同株から雌雄異株への進化の過程を、我々は目撃しているのかも知れませんね。



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塊茎・塊根植物をコーデックスと呼びますが、近年の多肉植物ブームの一旦はコーデックスの奇妙な姿が目を引いたと言うこともあるでしょう。コーデックスでは、初期はパキポディウムが、最近はオペルクリカリアが人気のようです。そんな中、ドルステニアもメインストリームにはなりませんが、割りかし人気があるようで、多肉植物の販売イベントがあれば苗がかなりの割合で見られます。Dorstenia foetidaなどは、もはや普及種と呼んでも良いかも知れません。さて、本日はそんなドルステニアについてのお話です。長きに渡り正式の記載されず、裸名で呼ばれていたドルステニアがあると言います。その発見の経緯などを辿った、Alain Rzepeckyの2016年の論文、『Dorstenia horwoodii Rzepecky sp. nov. from nudum to novum, a fortyish year hiatus』をご紹介します。

70年代後半以来、小さく装飾的な葉を持つドルステニアが一部の愛好家にコレクションされて来ました。このドルステニアは、ドルステニア研究に貢献した故Frank (Francis) K. Horwood(1924-1987年)に因み、一般的にはDorstenia horwoodiiとして知られています。Horwoodはは1974年に2本の論文を提出し、片方は1970年にJohn J. LavranosとRenato Bavazzanoが収集した資料を用い、D. horwoodiiを描いています。この植物は、ソマリア北東部のNugaal州Eylの北東約5kmの石灰岩の台地で、岩の割れ目に生えているのが見つかりました。

1973年には、Horwoodは友人であるLavranosに同行し、現地で新しい植物を得て栽培することに成功しました。1985年にも、Lavranosに加え、Susan Carter、Seymour Lindenと共にEyl東の高原で観察を行いました。しかし、L. E. Newtonにより行われた植物標本の整理により、1959年にイギリスの昆虫学者であるChristopher Francis Hemmingにより同地域での収集がなされたことがわかりました。次のような注記がありました。「俗名Bogoh-uched。巨大な岩の上の小さな穴や隙間に生える、2インチまでの小さな植物。」HemmingのコレクションはDorstenia crista Englとして寄託されました。D. cristaは1989年にBerg & HijimanによりD. foetidaの異名とされました。


D. horwoodiiはD. foetidaを思い起こしますが、特徴は異なります。D. horwoodiiは高さ6cmで直径8cmの半球状の茂みを作ります。枝は短く、時間経過と共に灰色となり、密集し幅は5〜6mmです。葉は直ぐに落葉し、数は少なく枝先に集まります。

以上が論文の内容となります。
D. horwoodiiは古くに発見されていたにも関わらず学術的に正式な記載をされず、裸名として長きに渡りコレクターに知られて来ました。しかし、2016年のこの論文により正式に記載がなされました。そして、D. horwoodiiの名前は認められました。キュー王立植物園のデータベースにも名前があり、以下のように記されています。


Dorstenia horwoodii Rzepecky
First published in Cact. Succ. J. (Los Angeles) 88: 68 (2016)
This species is accepted
The native range of this species is Somalia. It grows primarily in the desert or dry shrubland biome.

D. horwoodiiのように裸名で呼ばれる多肉植物も沢山ありますが、このように正式に記載されるケースは稀なような気がします。しかも、発見の経緯まで丁寧に追っています。一般的に裸名がついた多肉植物は園芸目的の違法採取や栽培植物が起源であるため、自生地が不明なものが多く、学術的な記載が困難なのでしょう。


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ここ2回に渡りIpomoea属のタイプの変更を巡る論争を記事にしてきましたが、本日で終わります。事の経緯を簡単に振り返ってみましょう。
まず、2020年にEsermanらがIpomoea属のタイプを変更することを提案しました。属のタイプとはその属を代表する種を示しています。Ipomoea属は遺伝子解析により他属とされていた植物を含むものでした。そのため、旧来のIpomoea属だけを1つのグループとすることが不可能となったため、それらの属をIpomoea属が吸収して巨大に拡大したIpomoea属となったのです。Esermanらは巨大化したIpomoea属が将来的に分割された場合、Ipomoea属のタイプになっているI. pes-tigridis(キクザアサガオ)に近縁な種のみがIpomoea属となり、その他の種は新たに命名し直す必要が生じます。特にI. butatas、つまりサツマイモは作物として重要であり、名前の変更は混乱をもたらすかも知れません。そのため、サツマイモに近縁なI. triloba(ホシアサガオ)をIpomoea属の新たなタイプとした場合、Ipomoea属が分割されたとしてもサツマイモはIpomoea属として名前を変更する必要がなくなります。


次にMunoz- Rodriguezらの2023年の論文をご紹介しました。これは、Esermanらの提案に反対し、Ipomoea属のタイプの変更は必要がないとしています。それは、Ipomoea属の解析が進んでおらず、分割される見込みがないためです。


反論に対する返答
Munoz-Rodriguezらの反論に対し、Esermanらのグループからの返答がなされております。それは、2023年の論文、『Towards a collaborative approach to the systematics of Ipomoea: A response to the "Rebuttal to (2786) Proposal to change the conserved type of Ipomoea, nom. cons. (Convolvulaceae)"』です。

専門家ではない?
☆反論
Munoz-Rodriguezらは、著者グループについて、「(著者の)大多数はIpomoeaに関する分類学や体系的な研究の経験がほとんどない」と述べています。しかし、著者らはサツマイモとその近縁種についての数十年に渡る、Ipomoeaとヒルガオ科の系統学と分類学への貢献を否定するものです。著者らはIpomoeaやサツマイモに関する様々な分類スケールでの分類学と系統学に関する100以上の出版物を生み出してきました。
★感想
Munoz-Rodriguezの論文は非常に攻撃的なものでした。Esermanらのグループは40人を超える共著者からなりますが、遺伝学や生態学など様々な研究分野の研究者からなり、多方面からIpomoea属を捉えようとしました。ですから、Munoz-Rodriguezの主張は言いがかりに過ぎません。そもそも、他分野の専門家と協力して研究することは一般的です。仮にEsermanのグループにIpomoeaを専門としていない研究者がいたとしても、非難される謂れはないのです。


分割可能性について
☆反論
Munoz-Rodriguezらは「Ipomoea属内で分離された属を認識すると言うこれまでの試みはすべて失敗に終わっているため、この提案は不要である。」とし、「この提案は数百種類のIpomoea属の中に組み込まれた非単系統群の継続的な受け入れと拡張を意味している。」としています。Esermanらはこの主張に全面的に反対しています。Ipomoea属内から単系統属を分離する今までの試みの失敗が、将来的な科学的進歩の可能性を制限するべきではありません。Esermanらがここで強調しているのは、非単系統群を受け入れることはしていないと言うことです。Esermanらの提案は、研究者が複雑なIpomoeaに取り組み続け、将来的な研究をサポートすることにあります。さらに、Ipomoea属に分離可能なグループが提案されており、これからの研究により別属として復活する可能性もあります。それらを「不可能」と主張することは、入手可能なIpomoeaの重要な文献を無視する単純化した見解です。
★感想
Munoz-Rodriguezらが主張する「著者らはIpomoeaの入れ子状に非単系統の属が含まれている場合に、拡張されたIpomoea属を拒否することで、より安定した論理的か達成可能であると言う主張を裏付ける証拠や議論を何も提供していません。」としていました。しかし、Esermanらは拡張されたIpomoea属を受け入れており、否定はしていません。とは言え、確かに(将来的に)分離する可能性があるからタイプを変更するわけであり、分離する可能性がないのなら不必要な処置でしょう。ここで互いに認識の齟齬が生まれているような気がします。
Esermanらは将来的に分離可能性があるからタイプを変更する提案をし、Munoz-Rodriguezらは分離可能性があるのなら根拠を示すべきだとしているのです。そして、Esermanらは逆にMunoz-Rodriguezらが将来的な分離可能性を否定する考え方であるとしています。
基本的に水掛け論ですから、まったく噛み合いません。しかし、Munoz-Rodriguezらの主張するように、将来的な話であったとしても根拠を示すべきでしょう。Esermanらは「将来的な研究」の可能性について述べていますが、分離を提案する研究はあるにせよやや古く、Ipomoeaの系統解析の現状を踏まえてのものとは思えません。この部分はやや強い言い方をしていますが、Esermanらが主張するほど確かなものなのでしょうか?

事実誤認について
☆反論
Munoz-Rodriguezらの反論には事実誤認があります。Ipomoeaをアストリポモエア亜連とアルギレイア亜連に分けていますが、Esermanらの2014年のサンプリング数を減らした系統解析に基づいていると主張しています。しかし、この名前は2003年のStefanovicらの研究により初めて示されました。「アルギレイア亜連を含まない広義のIpomoeaが不適切にサンプリングされ、人為的に厳選された系統を使用し、誤解するように描かれている可能性があります。」とありますが、Simoesらの2022年の研究はIpomoea連内部の関係を評価することを目的としておらず、ヒルガオ科全体の系統を見るためでした。また、この2つのグループ分けは最近の結論ではなく、以前から繰り返し発見されてきたものです。また、Munoz-Rodriguezらは単一の巨大なIpomoea属を主張し、分割された属の認識を却下することを支持する先行文献として2001年のManosらの論文を引用しています。しかし、Manosらは単一の巨大なIpomoeaを主張したことはなく、Ipomoeaが単系統ではないことを実証しました。

★感想
先行文献を私は読んでいないため、ここいら辺はいまいち判断がつかないところです。ただ、Munoz-Rodriguezらは「拡大した単系統のIpomoeaを認識すること」として、1999年のWilkin、2001年のManosら、2019年・2022年・2023年のMunoz-Rodriguezらを挙げていますから、Esermanらの指摘が正しいのならManosに関しては誤りかも知れません。ただし、実例の1つの誤りを指摘しただけにも思えますが、実は文献のうち3つはMunoz-Rodriguez自身のグループなのですから、何やら手前味噌に過ぎない気もします。
ここでついでに指摘しますが、Esermanらは旧世界のアルギレイア亜連から新世界のアストリポモエア亜連にタイプを変更するための根拠の1つとして、種類の多いアストリポモエア亜連の学名の変更は大変である旨を主張しました。しかし、Munoz-Rodriguezらは、アルギレイア亜連に属するIpomoeaの方が種類が多いと反論しました。この反論に対しEsermanらが言及しないのは、私には不誠実に見えます。


将来の研究を妨げているか?
☆反論
Munoz-Rodriguezらは、EsermanらがIpomoea連の新しい分類を提供していないと主張しています。しかし、それはIpomoeaのタイプの変更に関する提案の前提ではなく、それを妨げるものであってはなりません。Esermanらが主張しているのは、将来の研究のための強固な基盤を提供するための簡単な修正であり、サツマイモの名前の変更など、望ましくない命名上の影響を与えることなく再分類を可能とします。
★感想
EsermanらはMunoz-Rodriguezらの反論に対し、直接的に返答していません。分割されると言う根拠は何でしょうか? 私としては研究が進めば、Ipomoea属が分割される可能性は普通にありそうだと思っています。しかし、それはMunoz-Rodriguezらが「将来そのような分類が作成される場合、その時が命名法の問題に対処する適切な時期となるでしょう。」と述べたように今じゃなくても良いわけです。ですから、Esermanらが主張する「妨げ」と言う主張には根拠がありません。ただし、Munoz-Rodriguezらが論文中で幾度か述べている「すべての出版物で単系統の分類群を特定することは不可能かつ不要であり失敗する運命にあると主張してきました。」などと言う言い回しは、将来的にもIpomoea属の分類が出来ないかのように受け取られても仕方がないと思われます。Esermanらの返答で、Ipomoea属の分類についてMunoz-Rodriguezらが「自信がないのかも知れませんが」などと余計な煽り文句で締めていますが、それはMunoz-Rodriguezらの消極的な姿勢から来ているのでしょう。

240106203550103~2
Ipomoea angustisecta
『Die Vegetation der Erde』(1910年)より。
現在はI. bolusianaの異名とされています。塊根性のIpomoeaですが、将来的にIpomoea属から分割されてしまうのでしょうか?


最後に
この議論は2020年から始まりましたが、どうやら2023年にEsermanらの主張が受け入れられたようです。そのため、Munoz-Rodriguezらが反論し、それに対しEsermanらが反論したと言う流れになります。ですから、2023年に議論された話題で、まだ議論は続くかも知れません。私ですらEsermanらの主張の一部には瑕疵があるように見えますから、Munoz-Rodriguezらのグループからの再反論がなされるでしょう。しかし、言った言わないと言う部分は水掛け論となるだろうことが容易に想像され、その点は生産性がないので勘弁してほしいところです。現状においては、はっきりしないことが多いように思われ、素人の私には総合的な判断がつきかねると言ったところです。サツマイモの将来の運命は一体どうなるのでしょうか?
3回に渡り追ってきたIpomoea属のタイプの変更を巡る議論ですが、本日で取り敢えずは終わります。再反論がなされたり、新たな系統解析の結果が発表されたなら、また改めて記事にしようと考えております。


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昨日はサツマイモを含むIpomoea属のタイプを変更する提案がなされたと言う話をご紹介しました。


それは、将来的にIpomoea属が分割された時に、サツマイモ=Ipomoea butatasがIpomoea属でいられるようにと言うことでした。しかし、この提案には反論がなされています。反論があること自体は学術的に有意義なことと言えるでしょう。ただし、内容的にやや問題があるように思われます。本日はその内容を見てみましょう。


提案に対する反論
2020年に出されたIpomoeaのタイプを変更すると言う提案に対し、反論がなされています。それは、Pablo Munoz- Rodriguezらの2023年の論文、『Rebuttal to "(2786) Proposal to change the conserved type of Ipomoea, nom. cons. (Convolvulaceae)"』です。一体、何を問題としたのでしょうか?

提案の確認
まずは、反論を受けているLauren A. Esermanらの2020年の論文の内容から確認しましょう。
1. Ipomoeaは2つのグループからなり、大半を占める新世界のアストリポモエア亜連と、旧世界のアルギレイア亜連からなります。
2. Ipomoea属のタイプであるI. pes-tigridisはアルギレイア亜属に含まれます。
3. 商業的に重要なサツマイモ(I. butatas)を含むアストリポモエア亜連の種(=I.triloba)にタイプを変更するべきです。
4. 将来的にIpomoeaが分割された時に、サツマイモがIpomoeaその内に残されるために必要なことです。

提案に根拠はないと言う主張
☆主張
Ipomoea属内の分離属を認識する試みはすべて失敗に終わっています。これまで不可能であったIpomoeaの満足のいく自然な再分類が可能であると言う、この署名者グループ(その大部分はIpomoeaに関する分類学上または系統的研究の経験がほとんどない)による主張に懐疑的です。そのような分類や根拠を提出していません。
★感想
ここは正直なところ私は首を傾げました。その学術的な内容以外の部分についてです。まず、Ipomoeaの研究者以外は意見を述べてはならない、あるいは意見に重みがないかのような主張がなされています。しかし、これは誤りであると断言出来ます。ある種の権威主義であり、それは科学ではありません。あくまで、その内容に意味があり、誰が主張したかは関係がありません。実際には未だに学術世界においても権威主義は大手を振っていますが、表向きに主張するのはあまりにも馬鹿げています。

また、「署名者グループ」とは何でしょうか? Esermanらの2020年の論文では、40名を超える共著者からなるものでした。それを「署名者」と言うのは、ただ名前を貸しただけのように揶揄する目的しか見いだせません。反論はあくまでも内容で示せば良いだけの話です。


不道徳な幻想とは?
☆主張
提案を拒否する2つめの理由は、命名規則の安定性です。IpomoeaのタイプをI. trilobaに変更しても、既存のタイプであるI. pes-tigridisよりも命名上の安定性は得られません。これはMainitz(1976)により提案され、命名上の安定性を理由に数十年に渡り受け入れられています。旧世界のIpomoeaにはすべての分離属を合わせたよりも多くの種を含みます。アルギレイア亜連を含まない広義のIpomoeaが不適切にサンプリングされ、人為的に厳選された系統を使用し、誤解するように描かれている可能性があります。Esermanらの言及したアストリポモエア亜連とアルギレイア亜連は、800種以上あるIpomoeaから27種のみを含む初期の系統解析(Eserman et.al., 2014)に基づいていることに注意して下さい。したがって、拡大された単系統のIpomoeaを認識すること以外の再整理は、Munoz-Rodriguez et. al., 2019により行われたよりも沢山あり、命名上の変更が必要となることに注意することが重要です。さらに、サツマイモが「名前を失う」危険にさらされていると言う示唆は、分類学的に不安定であると言う不道徳な幻想を生み出しています。
★感想

またもや感情論が登場しました。系統に関する内容は私は確認していないため、判断出来かねます。しかし、「不道徳な幻想」とは何でしょうか? 不満があるのは分かりますが、個人のSNSではないのですからいい加減勘弁して欲しいものです。
ただし、命名法上の安定性には注意が必要です。長く使用された名前が重視されるのは著者らの指摘通りです。さらに、Esermanらの主張では新世界のアストリポモエア亜連の方が種類が多いため、アストリポモエア亜連に含まれる種をタイプとすべきであるとしています。しかし、著者らは旧世界のアルギレイア亜連の方が種類が多いと主張しています。この点は私には判断がつかない部分です。また、系統解析についてですが、Esermanらは2014年の論文による少数の解析結果に依存しているとし、その点を問題としています。私には、Esermanらが2014年の論文にのみ準拠しているようには思えませんが、いずれにせよ系統解析は道半ばで断言出来る段階ではなさそうです。


240106203535688~2
Sweet Potato
『The sweet potato in Hawaii』(1923年)より。


引用の誤り
☆主張
著者らはIpomoeaのタイプを変更することを相談されておらず、Esermanらは誤って研究を引用しています。「アルギレイア亜連はIpomoea連における再境界の最も有用な更新に向けた障害であると考えられています…」 著者らはIpomoea連の分割を主張したことはなく、すべての出版物で単系統の分類群(属、亜属、節)を特定することは不可能かつ不要であり失敗する運命にあると主張してきました。
★感想
学術論文は協力しても良いのですが、通常は自由競争です。一々お伺いを立てる必要はありません。ですから、Esermanらは著者らのグループに相談してもしなくても構いません。
正直、言った言わないの話はどうでも良いのですが、まあとにかく著者らはIpomoea属を分割せず、と言うか事実上は出来ないので、拡張されたIpomoeaの維持を主張していることは理解出来ます。


タイプの変更は時期尚早
☆主張
署名者(Esermanら)はさらに次のように続けてもいます。「命名法がより安定した論理的な分類の発展を妨げるべきではないと考えており、Ipomoeaのタイプをアストリポモエア亜連に含まれる種に置き換えることを提案します。」 著者らはIpomoeaの入れ子状に非単系統の属が含まれている場合に、拡張されたIpomoea属を拒否することで、より安定した論理的か達成可能であると言う主張を裏付ける証拠や議論を何も提供していません。タイプの変更は、Ipomoeaの分類学と系統発生の研究が行われ、Ipomoeaの生物学、進化、形態が何らかの形で異なることが実証された後にのみ考慮されるべきです。
★感想
煩わしいので著者らの煽りは無視して進めます。実はこの部分は非常に重要な話です。確かに現状において、Ipomoeaの分類はあまりにも分からないことばかりです。ですから、Ipomoea属を分割すると言う話が近々で起きるとはとても思えず、今やらなくてはならないことかと聞かれると微妙な気もします。将来的に詳細が明らかとなってから考慮したら良いと言う著者らの主張は、私には正論に思えました。


まとめ
この論文の要点は、単純にIpomoea属のタイプを変更する必要はないと言うことです。まず、現状において、Ipomoea属が現時点においては分割される可能性は低いため、分割される可能性を考慮してタイプを変更するのは意味がないとしています。これらの著者らの主張は、傾聴に値するもののように思われます。しかし、Ipomoea属が将来的には分割される運命にあるような気もしています。この反論を受けて、Ipomoea属のタイプの変更を主張したEsermanらが反論に返答しています。記事がまたもや長くなりすぎたため、ここで切ります。明日がこの一連の記事の締めになります。


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塊根植物にイポメアと言うものがあります。綴りは「Ipomoea」なので正確にはイポモエアですが、それはともかくこれは分類的にはヒルガオ科植物です。ですから、塊根性のIpomoeaも朝顔のような花を咲かせます。そして、Ipomoeaの代表種と言えば、何と言ってもSweet potato、つまりはサツマイモでしょう。サツマイモの学名はIpomoea butatasですからね。考えるに、多年生で芋が生長し続けるのが塊根性Ipomoeaで、1年ごとに芋を新しく作り直すのがサツマイモと言うことになるのでしょうか。と言うことで、本日はサツマイモを含めたIpomoeaの話です。調べてみると、近年Ipomoeaを巡って研究者たちが何やら激論を交わしているようです。そして、話の中心にサツマイモがいるのです。一体、どういうことなのでしょうか? これは、サツマイモに限らずすべての植物の分類に関わる重要な話です。長くなりますが、ぜひご一読下さい。

Ipomoeaのタイプを変更する提案
事の発端となったのは、Lauren A. Esermanらの2020年の論文、『(2786) Proposal to change the conserved type Ipomoea, nom. cons. (Convolvulaceae)』です。実に総勢41人の研究者の連名による論文です。話が複雑なので適宜私の解説を交えながら、簡単に要約していきます。

Ipomoeaのタイプはルコウソウ
Ipomoeaはヒルガオ科最大の属で、650〜900種程度があります。Ipomoeaは形態的に明確な違いがないため、その分類と命名には問題があり、長い議論の歴史があります。現在の学名のシステムを作ったvon Linneは17種のIpomoeaを記載しましたが、Ipomoea quamoclit(ルコウソウ)だけが1737年のvon Linneの初期の記述と一致します。現在の二名式学名は1753年にvon Linneが発表しましたから、それ以前の話になりますね。そのため、最も早いIpomoeaの記述として、ルコウソウは理想的なIpomoea属のタイプとなります。属のタイプは、その属を代表する種を指し示すものです。

Quamoclitの分離
その後にIpomoeaからQuamoclit属を分離させる提案がなされ、何百種類ものIpomoeaの名前を組み替えられる羽目になりました(Roberty, 1952)。詳しくは分かりませんが、Ipomoea属のタイプであるルコウソウがQuamoclit属になってしまったので、Ipomoea属は廃棄されてしまったのかも知れません。そうなると、ルコウソウと近縁ではない膨大な種は新たな命名が必要となってしまいます。
しかし、MainitzがI. pes-tigridis(キクザアサガオ)と共にIpomoea属を保存することを提案し受け入れられましたため、混乱は収まりました(1981, 1982)。近縁種が少ないルコウソウをIpomoea属のタイプとする危険性からの措置と思われます。


Ipomoeaの遺伝子解析
近年では分子系統解析の成果により、より安定した分類法が確立されつつあります。Ipomoea属内で、狭義のIpomoeaは側系統であり、その中に10属が入れ子状になっていました。その10属とは、Argyreia(オオバアサガオ属)、Astripomoea、Blinkworthia、Lepistemon、Lepistemonopsis、Mina、Paralepistemon、Rivea、Stictocardia、Turbinaです。つまり、これらの10属はIpomoeaに組み込まれてしまっており、分離することが出来ないのです。
これらの成果により、Ipomoeaの正体に関する議論は、さらに深まりました。Wilkinはイポモエア連(※連とは科の下、属の上の分類群、Ipomoeeae)のすべてを狭義のIpomoea属に含めることを提案しました。これは2019年には、Munoz-Rodriguezらにより取り上げられました。属を超えた分類を提案せず、Ipomoea属を約900種まで増加させました。


2つのIpomoea
遺伝子解析から、イポモエア連は2つのグループに分割可能です。ここでは、仮の名前として、非公式名「Astripomoeinae」(アストリポモエア亜連)と「Argyreiinae」(アルギレイア亜連)としています。前者は新熱帯のIpomoeaで、後者は旧世界に分布するIpomoeaです。ここで問題が生じます。それは、Ipomoeaのタイプであるキクザアサガオが、アルギレイア亜連に含まれてしまうと言うことです。

サツマイモの危機
Ipomoeaのタイプであるキクザアサガオがアルギレイア亜連に含まれるならば、もしIpomoea属が分割された場合、Ipomoea属はアルギレイア亜連に含まれる種だけになり、アストリポモエア亜連に含まれる種はIpomoea属ではなくなります。その場合、約600種もの名前の変更が必要となります。アストリポモエア亜連には観賞価値の高い種も含み、経済的に重要な作物であるサツマイモ(I. butatas)の名前も変更しなくてはならないのです。サツマイモは数千〜数万の品種があり、年間9000万トン以上生産される重要な作物です。サツマイモの名前の変更は、混乱を招き、生産する企業などに無駄な出費を強いるかも知れません。

240106203514626~2
Sweet Potato
『Sweet Potato Culture for profit.』(1896年)より。


タイプの変更の提案
この問題は、Ipomoeaのタイプであるキクザアサガオがアルギレイア亜連であることが原因です。膨大な名前の変更を避けるため、アルギレイア亜連もアストリポモエア亜連も、巨大なIpomoea属に含めることを支持します。また、Ipomoea属のタイプをアストリポモエア亜連に含まれる種に置き換えることを提案します。将来的にIpomoeaが分割される場合でも、アストリポモエア亜連に含まれる種がタイプならば、より種類が少ないアルギレイア亜連に含まれる種の名前を変更するだけで済みます。そして、サツマイモの名前の変更を避けることが出来るのです。

新しいタイプはホシアサガオ
Ipomoeaのタイプであったキクザアサガオは、遺伝子解析により他のIpomoeaの大部分と遠縁であることが示唆されています。ここでは、キクザアサガオの代わりにI. triloba(ホシアサガオ)をIpomoea属のタイプとすることを提案します。Woodらの分子系統学的研究により、ホシアサガオがサツマイモに近縁であることが判明しています。したがって、この提案されたタイプにより、経済的に最も重要な種の命名法の不安定化を避け、将来的にIpomoeaの分類を再評価することが可能となります。
ここで、なぜサツマイモをIpomoea属のタイプとしないかと言えば、それは命名年が早いものが優先されるからです。サツマイモの命名は1753年のConvolvulus butatas L.でありかなり早いのですが、初めはIpomoea属ではありませんでした。ちなみに、サツマイモがIpomoea属とされたのは1793年のことで、Ipomoea butatas (L.) Lam.です。対するホシアサガオは、1753年に命名された、Ipomoea triloba L.です。


何故、分割される可能性があるのか?
属の分割の話は分かりにくいでしょうから、解説します。まず、伝統的に植物の分類は花の構造を指標としてきました。ですから、花を見ればどの分類群に入るか分かるのです。遺伝子解析の結果でも、基本的には花の構造による分類は正しいことが確認されています。ただし、花の構造による分類にも問題があります。
1つは、分類群同士の関係が分からないことです。あるグループ内で共通する構造があると言うところまでは分かります。しかし、異なるグループ間で比較しようとすると、何を基準として採用して良いのかが分からないのです。これは、植物がどのように進化したかが分からない限り、当て推量とならざる得ません。ですから、遺伝子解析により伝統的な植物の分類は否定され、基本的に一新されたのです。
2つめは、花の特徴が共通する分類群内の分類が難しいことです。花の構造が同じである以上は、何かしらの共通した形質を新たな指標とする必要があります。しかし、その形質は共通祖先から始まるものなのか、種ごとに個別に獲得したものなのかが判別出来ません。例を挙げれば、植物ではないのですが、イタチで見てみましょう。イタチの仲間は骨格を見れば、直ぐに分かります。そして、伝統的な分類では、魚食性の種は歯や頭蓋の特徴が共通する1つのグループとされていました。しかし、それは各グループで魚食性の種類が、似た特徴をそれぞれ進化させただけだったのです。いわゆる収斂進化と呼ばれるもので、最適化されると類似してくると言うだけの話です。つまり、植物も収斂進化なのかどうかが見た目では判別出来ませんから、花の特徴が共通する分類群内の分類はとても難しいのです。
以上のことを踏まえれば、Ipomoea属内の分類は困難であることが分かります。遺伝子解析により属内分類が明らかとなりつつありますが、あまりにもIpomoea属は種類が多すぎて、そのすべてを明らかとすることは難しいかも知れません。しかし、将来的には分かりません。いつか肥大化したIpomoea属は分割されるかも知れません。その時に、サツマイモを含むグループだけがIpomoea属となるのでしょう。


まとめ
ややこしい話でしたが、これは分類群の安定に関する話です。遺伝子解析によりIpomoea属は他属とされてきた複数のグループと区別出来ないことが判明しました。そのため、それらのグループをIpomoea属に加入させることにより、Ipomoea属は巨大に膨れ上がったのです。そして、膨れ上がったIpomoea属は将来的に分割される可能性があります。その場合、Ipomoea属のタイプがキクザアサガオであるため、キクザアサガオを含むグループが真のIpomoea属となり、サツマイモを含むグループはIpomoea属ではなくなってしまうのです。それを避けるために、Ipomoea属のタイプを変更しましょうと言う提案でした。
さて、この提案には反論がなされています。とは言え、記事があまりにも長くなってしまったので、続きは明日にしましょう。


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去年の年末にシマムラ園芸で、Euphorbia antisyphiliticaと言うユーフォルビアを入手しました。いわゆる、キャンデリラソウと呼ばれる植物で、かつてはロウをとるために乱獲されていました。その後には、石油ベースのロウがメインになり、キャンデリラソウはお役御免となったわけです。しかし、現在では化粧品や食品関係でキャンデリラのロウが使用されているそうです。さて、そんなキャンデリラソウですが、ロウだけではなく、様々な用途での利用が期待されているようです。果たして近年のキャンデリラソウ研究はどうなっているのか、いくつか論文を見繕ってみたので簡単に見ていきましょう。

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キャンデリラソウ Euphorbia antisyphilitica

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ロウが点々と付着します。

活性物質の同定
キャンデリラソウの学名は「抗梅毒」と言う意味らしく、かつては性病の薬として利用されてきたようです。その実際の効果の程は不明ですが、古くから利用されてきたことだけは分かります。Shailendra Sarafらの1994年の記事、「Antihepatotoxic principles of Euphorbia antisyphilitica」によると、インドのJhabua地区の部族の間では、E. antisyphiliticaが肝疾患の治療に使用されているとあります。キャンデリラソウは米国からメキシコの原産ですから、恐らく古くから移植されていたと言うことなのでしょう。この記事では、キャンデリラソウの成分を分析して、エラグ酸とジメチルエラグ酸を抗肝毒性のある活性物質として同定しています。また、近年ではキャンデリラソウからはエラジタンニンと言う新しい抗真菌活性物質も分離されています(J. A. Ascacio-Valdes et.al., 2013)。

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Euphorbia antisyphilitica
『Madrono; a West American journal of botany』(1955-1956年)より。サン・アンドレス山脈で撮影されました。


エラグ酸とは何か
エラグ酸は非常に期待される成分のようで、沢山の論文が出ています。例えば、メタボリックシンドロームに対するエラグ酸の効果についての総説(K. Naraki et.al., 2023)や、癌に対する効果が期待出来ると言う論文(M. Cizmarikova et.al., 2023: M. Golmohammadi et.al., 2023)も豊富です。それに留まらず、エラグ酸とその加水分解物は、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、抗炎症、抗高脂血症、抗鬱薬様活性があると言います(D. D. Evtyugin et.al., 2020)。
さて、エラグ酸は野菜や果物やナッツに含まれるようです。しかし、これらの食糧作物からエラグ酸を抽出することは、あまり良いアイディアとは思えません。食糧作物は食糧として利用したほうが良いことは明らかだからです。出来るならば、食糧にならない専用の作物が良いと言うことになるでしょう。キャンデリラソウからのエラグ酸抽出が非常に優れていると言う論文(J. A. Ascacio-Valdes et.al., 2010)も出ています。果物や野菜のエラグ酸は含まれる量が少ないのかも知れませんね。そのため、キャンデリラソウはエラグ酸抽出のための作物として有効なのでしょう。


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Candelilla
『Saguaroland Bulletin』(1975年)より。庭に移植されたもののようです。


何故、キャンデリラソウなのか
キャンデリラソウが他の作物より優れているのは、何も有用成分を含んでいるからだけではありません。例え有用成分を沢山含んでいても、病害虫に弱かったり、常に灌水して乾かないように気を付けなければならなかったり、生長が遅かったりした場合、実用には至らないでしょう。その点、キャンデリラソウは非常に丈夫ですから、産業化しやすい作物と言えます。
その観点から言えば、如何にもバイオ燃料の原料としても使えそうです。何故ならバイオ燃料は単純に大量のバイオマスが必要だからです。ある論文(S. Johari & A. Kumar, 2013)では、キャンデリラソウの利点として、食糧作物と燃料が競合すべきではないという点と、普通の作物が育てにくい乾燥地で栽培できるという点を挙げています。また、キャンデリラソウが非常に丈夫である点から、本来は作物に不適な乾燥地にある劣化した石灰質土壌で、何と水がないからと塩水を撒いて育てた論文(J. C. Dagar et.al., 2012)もあります。耕作不適地を有効利用出来るメリットは計り知れません。

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Candelilla
『Breves apuntes de botanica』(1930年)より。


キャンデリラソウの収量を増やす
キャンデリラソウは割と手がかからず、乾燥地に植えっぱなしでも育ちますが、それでも出来るだけ収量は増やしたいものです。とは言え、頻繁に水や肥料を撒かなくてはならないのなら、わざわざキャンデリラソウを育てる利点はあまりないでしょう。簡単な方法としては、鉄分を多く与えるとキャンデリラソウから回収出来るロウとバイオ燃料の収量が改善されると言います(N. K. Mehrotra & S. R. Ansari, 1999)。手間がかからず、収量が上がる良い方法です。

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Candelilla
『Proceeding of the United State National Museum』(1967年)より。Euphorbia ceriferaとして記載されました。


食品分野への応用
キャンデリラソウは薬用植物、あるいはバイオ燃料としてだけではなく、食品分野にも応用が考えられています。利用するのはキャンデリラソウから採れるロウで、キャンデリラ・ワックスと呼ばれています。キャンデリラ・ワックスは可食可能なフィルムや食品のコーティング、あるいは食品添加物を含む様々な用途への利用が期待されています(N. E. Aranda-Ledesma et.al., 2022)。また、食品のコーティングと言う観点からは、キャンデリラ・ワックスにより果物の保存に使うと言う例もあります。例えば、鮮度が直ぐに落ちてしまうため、取引量が少ないパッションフルーツをキャンデリラ・ワックスでコーティングすると保存性が上がるとか(E. Sanchez-Loredo et.al., 2023)、直ぐに腐ってしまうブラックベリーをキャンデリラ・ワックスによりコーティングしようと言う研究(A. Ascencio-Arteaga et.al., 2022)や、トマトの品質をキャンデリラ・ワックスによる食品コーティングにより保とうと言う研究(J. Ruiz-Martinez et.al., 2020)など、盛んに研究が行われています。

最後に
キャンデリラソウは、ユーフォルビア属の中ではカマエシケ亜属(Subgenus Chamaesyce)に含まれます。カマエシケ亜属のユーフォルビアは一年草が多く、例えばニシキソウの仲間は日本を含め世界中に分布します。その他にはポインセチアやハツユキソウ、カラーリーフとして花壇に植栽されるE. cotinifoliaなどの多肉植物ではないユーフォルビアが知られています。カマエシケ亜属では、多肉植物であるキャンデリラソウは珍しい部類と言えるでしょう。
さて、キャンデリラソウは様々な有用成分を含み、様々な用途での産業利用が考えられています。今までの長い利用の歴史から、その安全性と利便性が分かっているということも大きいのかも知れません。しかし、キャンデリラソウは本日ご紹介した以外にも沢山の用途が研究されています。ワックスを抽出した後の残渣から、異なる成分を抽出する方法など、キャンデリラソウの用途可能性は無限にあるかのようです。現在はおそらくキャンデリラ・ワックスが主たる用途ですが、他にも産業利用出来そうなネタが沢山あるのです。今後のキャンデリラソウの動向から目が離せませんね。今後は、何気ない手に取った商品に、キャンデリラソウの名前がさり気なく書かれているかも知れません。


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タイトルだけ見ると熱狂的な烏羽玉ファンの話かと勘違いしてしまいますが、残念ながら今回は異なります。烏羽玉はPeyoteと呼ばれ、宗教的に古くから利用されてきました。Peyoteにはメスカリンと言う幻覚成分が入っているからです。Peyoteの利用はその合法性を巡って、米国ではあれやこれやといったいざこざがありましたが、過去に記事にしたことがあります。さて、日本では烏羽玉の栽培や販売は違法ではありませんが、その成分自体は違法です。しかし、海外では烏羽玉自体が違法だったりします。と言うことで、今回は烏羽玉の幻覚作用に関する話です。ご紹介するのは、Cengiz CENGiSiZらの2016年の論文、『Mescaline abuse via peyote cactus: the first case report in Turkey』です。トルコで初めてのPeyoteの乱用に関するものです。

ある症例
症例は18歳男性患者によるものでした。患者は大麻使用のために3ヶ月の保護観察処分となり、外来病院で治療を受けていました。しかし、患者は強い不安、パニック発作、幻視の症状を訴えて入院しました。患者には活性炭の投与と腸洗浄が施され、抗不安薬が使用されました。

Peyoteの摂取
患者の状態が安定してから、詳しいアンケートを実施しました。すると、保護観察所が実施している大麻の尿検査に引っかからないように、Peyoteを摂取したと語りました。患者はシリアから持ち込んだPeyoteを粉末にして、お茶にして煎じたり巻煙草にして摂取していました。その後、インターネットで購入するようになり、Peyoteを噛んで使い始めました。
これら、トルコにおけるPeyoteを介した初めてののメスカリン乱用です。Peyoteは米国南西部とメキシコ原産地で、収穫出来るサイズに育つまでに20年程度かかる可能性があります。しかし、トルコは原産地から遠く離れ、Peyoteの栽培にも適しておらず、その使用は考えにくい薬物と言えます。

Peyoteの作用
Peyoteの誤用があった場合、激しいめまい、嘔吐、瞳孔拡張、心拍上昇、血圧上昇、激しい発汗、発熱、頭痛、筋肉の弛緩などに悩まされる可能性があります。ほとんどの場合、幻視の症状が認められます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
トルコでまさかの烏羽玉を摂取して中毒に陥る患者が出現しました。インターネットから入手したとありますが、様々な違法薬物がインターネットを介して取引されていることが分かります。もはや、物理的距離など意味をなさない時代です。なお、論文中ではシリアの内戦と関連付けられていました。曰く、シリアの内戦により大量の難民がトルコに移住し、若者同士の交流により薬物が広まったと推測しています。これは何もシリアから違法薬物が入って来たと言うことではなく、シリアとトルコの違法薬物に興味があったり違法薬物を摂取している若者たちが、交流することにより情報が交換されたと言うことなのでしょう。

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Lophophora williamsii
『Hallucinogenic plants』(1976年)より。


さて、日本では烏羽玉の栽培や販売は違法ではありません。しかし、国内の烏羽玉の成分を調べた論文では、烏羽玉や大型烏羽玉、子吹き烏羽玉からはメスカリンが検出されました。要するに、国内の烏羽玉にも幻覚成分は含まれているのです(※翠冠玉や銀冠玉からはメスカリンは検出されず)。しかし、その量が多いのか少ないのかはよく分かりません。どうもメスカリンは生長に伴い蓄積していくものらしく、ある程度大型にならないと利用には適さないようです。メスカリンが蓄積していない烏羽玉はただ苦いだけとも言われています。まあ、麻薬は駄目だよと言うことだけではなく、伝統的な利用法を知らない我々日本人は手を出さない方が良いのは間違いありません。トルコのこの若者のように病院に担ぎ込まれて、腸内洗浄される羽目に陥るかも知れませんからね。


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自生地のサボテンは様々な形で利用されており、コチニール色素をとるためにカイガラムシをウチワサボテンで育てたり、様々に利用しているようです。自生地ではありませんが、マダガスカルでは増えたウチワサボテンのトゲを焼いてから家畜に与えているという話を聞いたことがあります。また、ウチワサボテンの中でも、Opuntia ficus-indicaなどは産業利用出来ないかと、様々な分野から研究されているようです。さて、本日はサボテンと家畜の関係について、1つの報告を見つけましたのでご紹介します。それは、Walter H. C. Pequenoの2021年の論文、『Ocular and oral lesions caused by Tacinga inamoena in sheep and goats in Northeart Brazil』です。

サボテンと家畜
ブラジル北東部にはサボテンが多数生息しており、飼料が減少する干ばつの時期には、これらのサボテンを飼料とすることは一般的です。しかし、飼料とされるサボテンは飼料に適しているか研究されておらずに、家畜の健康に与える影響は確認されていませんでした。

Tacinga inamoena
Tacingaはブラジルの半乾燥地域の固有種です。Tacingaという名前はCaatingaという地名が変形したものです。Tacinga inamoenaは高さ20〜100cmまで生長する低木です。茎は長さ8〜9cm、幅は4.5〜5.5cm、厚さ1.0〜1.2cmの楕円形です。植物は緑色からわずかに灰色がかる色合いで、直径4〜5cmの昼行性のオレンジ色の花を咲かせます。T. inamoenaにはトゲはなく、ほぼ結晶質のセルロースの小さく鋭いgloquids(芒刺)の束があります。この「微小トゲ」は、容易に剥がれてしまい、皮膚に刺さると炎症を引き起こす可能性があります。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。
Tacinga inamoenaは、1890年にOpuntiaとして記載され、1979年にはPlatyopuntia、そして2002年にTacingaとされました。


症例①
2019年にPocinhos市で70頭のヤギと羊が飼育されていますが、飼い主が言うには少なくとも過去5年に渡り、家畜には重篤な目の合併症が発生していたということです。これらの問題は年間を通じて観察されましたが、乾季にはより顕著になる傾向がありました。飼い主により眼病治療用の抗生物質と抗炎症薬による治療を受けていましたが効果はありませんでした。他にも、一部の家畜は過剰な唾液分泌と摂食困難が認められました。
調査したところ、21.4%の家畜に眼の病変があり、顔面、眼瞼、結膜、耳介に芒刺が確認されました。検査をすると、過剰の流涙、眼瞼炎、羞明、角膜混濁、涙液腫、角膜血管新生、角膜潰瘍が見られました。口腔病変がある個体もおり、流血、摂食困難、口臭、歯肉および舌の潰瘍がありました。
放牧地にはT. inamoenaが存在し、飼い主によると家畜はT. inamoenaの果実を食べる姿がよく見られたということです。
潰瘍性角膜炎をおこした動物には抗生物質の点眼薬を潰瘍が治癒するまで処方し、口腔病変を示した動物には、治癒するまで柔らかい飼料を与えました。

症例②
2020年にBarra de Santa Rosa市にて、ヤギと羊を含む約100頭の家畜が飼育され、飼い主は羊たちの口内炎に悩まされてきました。動物は不快な口臭があり、摂食困難になり死亡する個体もありました。やはり、乾季に重篤な症状が出るということです。
1頭は動物病院に運ばれました。食欲不振により痩せ、ボディスコア(※)は1.5でした。被毛全体から芒刺が見つかりました。口臭、過剰な唾液分泌、広範な出血性潰瘍、および触診で痛みがある圧痛がありました。舌や頬、歯茎から液体の漏出が認められました。血液検査では、貧血や低アルブミン血症が確認されました。検査では結果から見た症状の重症度から、この個体は予後が好ましくないことが考えられるため安楽死となりました。剖検では、潰瘍とびらんを伴う潰瘍性丘疹病変が上下の唇、口腔粘膜、舌、口蓋で確認されました。これらは隆起し硬く不規則で、黄色から淡褐色まで様々な色と紅斑による壊死の跡に覆われていました。病理組織学的検査により、芒刺は真皮より深い筋肉層にまで浸潤していました。

※ ) Body Condition Scoreとは、動物の脂肪の蓄積具合を数値化したもので、動物の栄養状態を把握することができる。5段階評価で3が標準で、値が小さいほど痩せており、大きいほど太っている。例えば、ボディスコア=2は、骨が浮いて見える状態。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ラクダがトゲだらけのウチワサボテンを食べる姿をテレビで見たことがありますから、草食獣は強いなあと思っていました。しかし、ヤギや羊はウチワサボテンを食べて体調不良に陥っていますから、必ずしも平気と言うわけではないようです。この場合、芒刺が良くないようですが、普通のトゲなら問題ないとも言えません。と言うのも、Opuntia strictaと言う芒刺ではない、世界中で侵略的に増えているウチワサボテンは、ヤギの眼や消化管に障害を引き起こしているそうです。サボテンは乾燥地にあっては、水分を大量に含みますから、草食動物にとっては魅力的な植物でしょう。ですから、サボテンはトゲで身を守っているわけです。サボテンのトゲが防御に役に立っていると言う実例を知ることが出来ました。


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ユーフォルビアは傷付くと乳液を出しますが、この乳液には毒があると言われています。しかし、実際にその毒の被害にあった人の話は聞いたことがありません。古い論文を読むと、大型の柱サボテン状になるユーフォルビアの乳液は、皮膚に着くと水膨れを引き起こすなどと書かれています。しかし、実例は依然として分かりません。過去にも調べたことはありましたが、中々良い論文を見つけ出せませんでした。論文では、どうしても化学的な話となってしまい、含まれる化合物の特定や構造式の解明など、単純な毒性は分かりませんでした。最近、サボテンのトゲを抜く方法を調べた時、医師からの報告が論文として存在することに気が付きました。なるほど、実際の症例を探せば良いのです。探し方が間違っていましたね。
と言うわけで、症例報告を見てみましょう。本日ご紹介するのは、TSK Lamらの2009年の論文、『A case report of ocular injury by Euphorbia plant sap』です。香港からの報告のようです。

乳液が目に入る事故
2008年9月にユーフォルビアの乳液が右目に入った52歳の男性が、激しい痛みのために事故救急部門を受診しました。患者は学校の庭師でしたが、Euphorbia trigonaの剪定作業中に誤って乳液が目に入ってしまいました。目は水で洗いましたが、1時間半後に持続的な痛みを訴えて病院を受診しました。

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Euphorbia trigona
『Beknopt leerboek der  plantkunde voor Nederlandsch-Indie』(1923年)より。


病院での処置
病院では直ちに局所麻酔下で生理食塩水で目を洗浄しました。右目は結膜が充血していましたが、光への反応や瞳孔のサイズ、視力には問題がありませんでした。検査では角膜びらんは見られませんでした。細菌の二次感染や合併症を防ぐために抗生物質が処方され、さらなる治療のために眼科クリニックが紹介されました。眼科クリニックでは合成副腎皮質ホルモンと抗菌剤が処方されましたが、患者は激しい痛みに2日間苦しみました。しかし、1週間後の検査では、角膜の傷跡や視力障害などの深刻な後遺症もなく、完全に回復しました。

過去の症例
ユーフォルビアの乳液により引き起こされる眼毒性は、灼熱痛、流涙、羞明、結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、角膜潰瘍、角膜浮腫、角膜剥離、失明に至るまで様々な重症度があります。
過去の症例では、炎症の程度は乳液への曝露量とユーフォルビアの種類によります。E. peplusの乳液は線維性ぶどう膜炎を伴うユーフォルビア角膜炎を引き起こします。E. lathyrisの乳液ではぶどう膜炎は軽度であり、フィブリン(線維)は見られません。E. tirucalliやE. lacteaは、様々な程度のぶどう膜炎を伴う角膜炎を引き起こします。E. characiasとその亜種wulfeniiはぶどう膜炎を伴わない軽度の角膜炎のみを引き起こします。今回の症例からすると、E. trigonaは結膜損傷のみを引き起こしました。しかし、眼の炎症の重症度は、乳液の濃度と接触時間も関係しています。
一般に早期に診察と治療が行われた場合、重篤な合併症、つまり視覚障害が発生することは稀です。服薬の遵守と経過観察がしっかりと行われていれば、臨床経過は良好ですから安心して下さい。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユーフォルビアの乳液には毒性がありますから、扱いには注意する必要があります。特に大型のユーフォルビアを剪定する際は気をつける必要があるでしょう。しかし、小さなユーフォルビアであっても、指に乳液が少しついたりして、気付かないで目をこすってしまったりという事故は十分考えられることです。我が家にあるユーフォルビアは小さなものばかりですが、その数は10や20では済まないので、十分に気を付けたいものです。多肉植物好きとして考えさせられる事故の報告でした。


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多肉植物の分布域は大抵は砂漠など、あまり人が住んでいないような場所です。しかし、近年では開発により生息地が破壊される速度が加速しています。本日はそんな開発により生息地を失った、とある多肉植物の救出作戦についてご紹介します。それは、Herta Kolbergの2014年の論文、『Relocation of Adenia pechuelii (Passifloraceae) -a viable rescue option?』です。Adenia pechueliiというアデニア属の塊茎植物の移転とその後の経過についての報告です。アデニア属と言えば、Adenia glaucaやAdenia globosaなど、緑色の塊茎からつるを伸ばす植物が稀に販売されています。

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Adenia pechuelii
『Die Pflanzenwelt Afrikas, insbesondere seiner propischen Gebiete』(1910年)より。

ウラン開発の余波
世界的なエネルギー危機と市場価格の高騰により、ナミビアにおけるウラン探査と採掘が増加しています。その計画の1つとして、カナダの企業がナミブ砂漠の東端にある農場でウラン採掘が行われることになりました。予定地の環境影響評価と環境管理計画では、一般的にElephant's Footと呼ばれるAdenia pechueliiの大規模な個体群が見つかりました。1994年のIUCN基準ではA. pechueliiは絶滅危惧IB(EN)として評価されていました。A. pechueliiはナミビアの固有種で西海岸沿いの霧が発生する地域に生えます。その生態はあまり良く知られていません。

移植試験
2008年にA. pechueliiの移植が可能であるかが試験されました。掘削機で植物の周囲を掘り、その後はスコップやバールを用いて丁寧に掘り上げ、なるべく根の損傷がないように深く掘り下げました。今回の試験では無作為に60本のA. pechueliiが選ばれ、様々な処理をして採掘予定地以外でA. pechueliiが生える地域に移植されました。移植は、ただ移植しただけの場合と、殺菌剤で処理したもの、発根ホルモンで処理したもの、定期的に水やりしたものなど、複数の条件が試されました。

移植後の経過観察
移植後は定期的な経過観察を行いましたが、移植から1年後にはすべての個体が生存していました。移植から4年後においても80%にあたる48個体が生存していました。枯死した個体のほとんどは移植によるダメージではなく、野生動物による食害によるものでした。移植しなかった個体も比較のために観察していましたが、やはり野生動物による食害により枯死するものが観察されています。また、食害による枯死は小型の個体が受けやすいようです。
これは、湿潤な年が続いた後で、干ばつが起こったことにより、野生動物による食害が発生しやすくなった可能性があります。野生動物の食害を受けないで枯死した個体は、わずか1個体でした。移植によるダメージを受けた可能性のある個体だけを考慮すると、移植後の生存率は98.5%にもなります。移植は有効であると判断されました。
移植時に様々な処理を試みましたが、これらは移植後の生存率や生長量には影響がありませんでした。ただ、定期的な水やりについては、移植した年は湿潤でよく雨が降ったため、その影響を推測することが出来ませんでした。しかし、移植時の水やりは、根の安定や発根の刺激のために必要であると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
A. pechueliiに関しては移植は有効なようです。移植先の環境が異なると上手くいかない場合もありますが、A. pechueliiの場合は自生地が広く、移植先が豊富にあったことが幸いしたようです。とは言え、開発が進めばA. pechueliiの生息地は減少し続けるでしょう。その時に、有効な移植先がなかったり、残された自生地に過密に移植されるようなことがなければ良いのですけどね。


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多肉植物には有毒なものもあります。しかし、毒性があると言うことは、人体に対して生理作用を及ぼすと言うことでもあり、民間薬として利用される可能性があります。毒性と言えばまずユーフォルビアが思いつきますが、実はBoophoneと言う巨大な球根植物も有毒であり、民間で利用されているらしいのです。詳細は知りませんでしたが、調べてみるとBoophoneが原因と思われる事件が発生しているようです。それは、Wj du Plooyらの2001年の論文、『Poisoning with Boophane disticha: a forensic case』です。タイトルではBoophaneとなっていますが、現在はBoophoneが正しい表記です。しかし、論文中では元の表記であるBoophaneですから、そのように呼びましょう。さて、Boophoneにより引き起こされた事件とは一体何なのでしょうか?

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Boophone disticha
『Curtis's botanical magazine』(1825年)より。


Boophane distichaの球根を食べると、鎮静、鎮痛、幻覚、意識喪失、非合理な行動、多弁、昏睡などの症状を引き起こします。Boophaneは悪霊を追い払い、幸運をもたらし、雨乞いに利用する目的で小屋の近くで栽培されます。
さて、事の経緯はこうです。南アフリカのヒーラー(伝統的医術者)が、ある人に魔術がかけられていると思い、魔術をかけた人物を突き止めようとしました。ヒーラーはその人にBoophane調合液150mLを飲ませました。しかし、Boophane調合液を飲んだ人は自身が襲われているという幻覚に見舞われ、拳銃を抜き無差別に発砲しました。発砲により1名が死亡し、数名が負傷しました。発砲した人物は逮捕され、Boophane調合液は分析のために南アフリカ警察法医学局に送られました。
クロマトグラフや質量分析によりBoophane調合液に含まれる化合物が同定されました。同定されたのは、アルカロイドであるBuphanidrin、Buphanine、Crinamidine、Undulatine、さらに揮発性油であるEugenolでした。さて、Buphanineにはスコポラミン同様の作用があり、制御不能な行動、幻覚、興奮、昏睡を引き起こします。Buphanidrineには麻薬性があり、幻覚作用があります。Eugenolには鎮痛作用があります。被告の不合理な行動は、Boophaneに含まれるBuphanineとBuphanidrineの摂取によるものと考えられます。ただ、この場合のEugenolの影響は不明です。


以上が論文の簡単な要約です。
伝統医学には魔術的要素があります。薬草を治療に用いるだけではなく、占いや呪術にも利用されるのです。今回の事件もまじない的な利用方法でした。
即死するような毒性ではないとはいえ、Boophoneには非常に強い作用があることが分かりました。この論文に取りあげられた事件は、Boophoneによる異常行動、興奮作用、幻覚作用が強く出た結果なのでしょう。とは言え、わざわざ球根から汁を搾らなければならないため、事故でうっかり搾り汁を飲んでしまうことはないでしょう。ですから、ただ園芸植物として栽培する分には、特に問題となるようなことは考えにくいはずです。むしろ、ユーフォルビアの方が厄介かも知れませんね。


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ソテツは海外では希少で、その保護が強く叫ばれています。しかし、日本においてソテツはあまりに身近な存在ですから、そう言われてもピンと来ないかも知れません。日本に生えるソテツであるCycas revolutaは耐寒性が強いため、多少の降雪がある地域でも庭に植栽が可能です。そのため、日本中に植栽されているわけですが、本来の自生地は九州以南の暖地です。野性植物はその自生地では、人々に上手く利用されて来ました。ソテツはどのように利用されてきたのでしょうか? 本日はソテツ利用の1つ例をご紹介します。それは、Truyoshi Hashimoto & Jin Ishiiの2021年の論文、『Microclimate in the Fields with Cycas Hedges in Amami Oshima, Japan』です。奄美大島の島民がソテツとどのように付き合ってきたのか、そしてその関係性が崩れ行く現実を捉えています。

日本の農村では住宅の周囲に防風林がよく見られ、それぞれの地域の気候に適応して作られていると言われています。一方で耕作地の保護のための防風林もよく見られます。奄美諸島ではソテツが防風林として利用され、ソテツの生け垣のある畑と言う意味で、「ソテツ畑」と呼ばれています。昭和20年代に撮影された航空写真を見ると、斜面の段々畑にソテツ畑が多く見られます。しかし、現在は機械化や農地拡大が困難であることなどから放棄され、平野部のものだけが残存しています。ソテツの生け垣は高さ約2〜3mで、畑にはサトウキビ(約40%)、玉ねぎ、サツマイモ、ニンニクなどが植えられます。
アメダス(地域気象観測システム)と気象台による観測データにより気温や水蒸気圧、日照量を、また風速や風向きを計測しました。すると、ソテツ畑は約20%の防風効果が確認されました。海からの季節風による強風と塩害を防ぐために、海岸のアダンによる海岸防風林とソテツ畑による防風林に効果が認められました。しかし、幹線道路の拡張工事により、幹線道路沿いに強風が吹くようになりました。その結果、幹線道路沿いのソテツ畑からは防風効果は失われてしまいました。

以上が論文の簡単な要約です。
実はこの論文の結論は意外なもので、夏のソテツ畑は気温が上昇し高温となるため、健康に対する危険を避けるために、ソテツ畑での作業は控えたほうが良いと言うものでした。防風効果により気温や湿度が高くなりやすく、日当たりの良いソテツ畑は夏には体感温度で38〜46℃にも達すると言うことです。しかし、長くソテツ畑と付き合ってきた地元の人々からしたら、そんなことは当たり前のことであり、必要だからやっているだけですよと笑われてしまいそうですけどね。


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サボテンのトゲは鋭いので、うっかり触ってしまいトゲが手に刺さってしまうこともあります。普通は簡単に抜けますし、細かいトゲならとげ抜き、バニーカクタスならガムテープを使った方が早いかも知れません。しかし、これは我々趣味家がちょっとだけ、ホンの数本、バニーカクタスなら数十本刺さった程度の話です。わざわざ、病院に赴く必要はないでしょう。しかし、小さい子供や、大人でもあまりに沢山のトゲが刺さったら、流石に病院で見てもらった方が良いでしょう。
さて、たまたまサボテンのトゲについて調べていたら、サボテンのトゲの抜き方についての論文があるこあとに気が付きました。しかも、生物学関連の論文ではなく、医師が実際に診た患者についての報告のようです。少し見てみましょう。

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Opuntia microdasys
『The Cactaceae』(1919年)より。


報告①
まずは、「American Journal of Diseases of Children」(アメリカ小児疾患ジャーナル)の1987年の12月号の報告である、Terry T. Martinezらの報告、『Removal of Cactus Spines From the skin』から。
「非常に細かいサボテンのトゲを皮膚から除去することは、小児患者にとって非常に苦痛です。最も効率的なのは、ピンセットでトゲの塊を取り除き、ガーゼで覆った接着剤を乾燥してから剥がしてトゲを取る方法でした。」
この報告は概要しか読めませんでしたが、接着剤は乾かすのに時間がかかりますから、子供に大人しくしてもらうのはやや難儀しそうです。

報告②
面白いのはこの報告に対する返信が、他の医師よりあったことです。それは、1988年の6月にHalim Hennesによるものです。
「Martinezらの記事を興味深く読みました。著者らはトゲを取り除く効果的な方法を発見しました。しかし、幼く大人しくしていない子供に対してピンセットの使用は難しい場合があり、接着剤の塗布と乾燥には時間がかかります。2才の女児が展示されているサボテンの上に落ちて、救急外来を訪れました。患者は左手と左前腕の1/3に複数のサボテンのトゲが刺さっていました。患者は動揺して泣き両親からの慰めも効果がありませんでした。動いてしまうため、ピンセットによるトゲの除去は失敗しました。」
残念ながら有料の論文で、概要だけで実際にどのようなに除去したのかは分かりませんでした。如何にして大人しくしてくれない子供を上手く処置したのでしょうか?

報告③
しかし、さらにこの報告に対する返信がありました。それは、1988年12月のLouis I. COOPERによるものです。
「Hennesの報告を読みました。約20年前にサンルイスオビスポ伝道所の修道女が私に勧めた治療法を提案します。粘着テープやセロハンテープを貼り付けて剥がすだけです。安全で痛みなく必要に応じて繰り返すことが出来ます。」
これは簡単です。細かいトゲならやはり粘着テープと言うのは、今もそうでしょう。


報告④
面白いことに、サボテンのトゲの抜き方については、アメリカ小児疾患ジャーナル紙の議論と同じ1988年に「The American Journal of Emergency」(アメリカ救急医学ジャーナル)に記載がありました。それは、Douglas Lindsey & Wally E. Lindseyによる『Cactus spine injuries』です。
「サボテンのトゲは損傷を引き起こし、その臨床的重要性はトゲの寸法に反比例します。SaguaroやBarrel cactusの長いトゲの場合は、トゲの破片が埋め込まれることはほとんどありません。破片が埋め込まれた場合、見つけて取り除くのは困難です。ウチワサボテンやChollaの中程度のトゲは厄介なものですが、引き抜くことで簡単に取り除くことが出来ます。Bunny ear cactusやBeavertail cactusの非常に小さなトゲは非常に厄介ですが、プロ仕様のフェイシャルジェルの乾燥膜を剥がすことで除去出来ます。」
ここでは、サボテンによりトゲが異なることも考慮されています。Saguaro(弁慶柱、Carnegiea gigantea)やBarrel cactus(Echinocactus、Ferocactus)のトゲは粘着テープよりピンセット、Bunny ear cactus(金烏帽子、Opuntia microdasys)の芒刺はピンセットより粘着テープの方が良さそうです。論文ではフェイシャルジェルを利用しています。
ちなみに、Beavertail cactusとはOpuntia basilaris、ChollaとはCylindropuntiaを指します。

報告⑤
サボテンのトゲの抜き方についての医療界隈の報告は一段落したようですが、なんと2019年に新しくサボテンのトゲの抜き方についての論文が出ました。それは、Andrew M. Fordらの『Novel Method for Remove Embedded Cactus Spines in the Emergency Department』です。簡単に見ていきます。
「低機能自閉症と先天性運動機能障害を持つ22歳の患者が、沢山のサボテンのトゲが刺さった状態で救急科を受診しました。患者は胴体と腕と下肢全体にトゲが刺さっていました。患者は意思の疎通が困難であり、患者の両親によると過去に医療関係者に対する抵抗が激しかったため、麻酔による鎮静を行いました。医療用脱毛ミットにより4人がかりでサボテンのトゲを除去しました。15分後には、脱毛ミットでは除去出来ない深さのトゲも除去しました。患者は破傷風予防薬を投与され退院しました。患者は2週間後に検査され紅斑が認められましたが、紅斑は4週間後には消失しており、追加のトゲの除去は必要ありませんでした。
刺さったトゲが少数ならピンセットで除去出来ますが、多い場合は家庭用接着剤が有効ですが乾くのに35分ほどかかります。また、粘着テープはトゲの28〜30%しか除去出来ないことが知られています。これらの方法は従順な患者ならば十分ですが、今回のケースのように好戦的な患者には不十分であることが判明しました。興奮した患者が暴れてトゲが逆により深く刺さってしまうかも知れません。」
このケースでは意思の疎通が難しく暴れる患者を対象としています。麻酔をかけていますが、それも長時間は無理でしょう。素早く取り除く必要があります。ピンセットでチマチマやるわけにはいきません。使用した医療用脱毛ミットとは、手袋のようにして使用する粘着質の道具です。粘着テープは張って剥がしてと言う一連の操作に時間がかかりますが、手袋のようにはめて使えるため、軽く手の平で叩くようにするだけで簡単にトゲが除去出来ます。

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Opuntia microdasys
『Illustrated catalog』(1934年)より。


最後に
以上が医療分野におけるサボテンのトゲの除去方法の報告です。サボテンのトゲを抜きに病院に来る人は珍しいでしょうから、標準的な治療法はなかったのでしょう。最初の話は小児に関するものでした。やはり、子供はいたずらしたりしてサボテンにぶつかったりする事故も大人よりは多そうですし、大人しくトゲを抜かしてくれないでしょう。刺さったのが1本2本ならともかく、数十本となると時間がかかりますし、化膿してしまうかも知れません。病院に診てもらうのは妥当な判断と言えます。2019年のケースは医師にとってはかなり厄介な患者ですが、医療用脱毛ミットと言う新しい武器が活躍したようです。
私などは面倒臭がって素手で植え替えをするもので、手は穴だらけで、折れたトゲが沢山皮膚に残りますが基本的に放置してしまいます。そのうち新陳代謝でいつの間にやら出て来ますから、特に問題となったことはありませんでした。しかし、化膿したり破傷風だなんて考えたこともありませんでしたね。そりゃあ、刺さらないなら刺さらない方が良いだろうと言う、当たり前の感想です。


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