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カテゴリ:アロエ・ハウォルチア > ツリスタ

ここのところ2日続けて、旧・アロエ属についてゴニアロエ(Gonialoe)とアロイアンペロス(Aloiampelos)の記事を書きました。個人的に旧・アロエ属を含むアロエ類は気になっており、アロエ(Aloe sensu stricto)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス、(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア(Haworthia)、ハウォルチオプシス(Haworthiopsis)、ツリスタ(Tuesday)、ガステリア(Gasteria)、アストロロバ(Astroloba)についてぼちぼち集めたりしています。
このアロエとハウォルチアの分割は中々の衝撃でしたが、私は
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文でアロエ類の遺伝子解析結果を見て、割と納得してしまってそれ以上調べませんでした。しかし、アロエやハウォルチアが分割された根拠となる論文がそれぞれにあるはずで、それらの論文を読んでいないのは片落ちではないかと今更ながら思った次第です。

2014年の論文の記事①
2014年の論文の記事②

さて、以前から学名を調べていると、ハウォルチオプシスやツリスタの命名者にやたらとG.D.Rowleyが出てくるなあと思っていました。実はハウォルチオプシスやツリスタはG.D.Rowleyがハウォルチアから分離させたことが原因でした。
その論文はGordon D. Rowleyの 2013年の、『HAWORTHIOPSIS AND TULISTA - OLD WINE IN NEW BOTTLE』です。「新しいボトルに入った古いワイン」という副題が面白かったので、記事のタイトルにしました。この論文の主題はツリスタ属とハウォルチオプシス属です。かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスは、この論文で16種が命名されました。
現在、ハウォルチオプシスは19種類が認められていますが、G.D.Rowleyはそのうち16種類をハウォルチオプシスとしています。G.D.RowleyはHaworthiopsis koelmaniorum、Haworthiopsis pungensはツリスタ属としました。また、Haworthiopsis 
henriquesiiは新しく2019年に命名されたため、この論文には登場しません。

ハウォルチオプシス19種類の情報は以外の3つの記事をご参照ください。


ツリスタ属はG.D.Rowleyが命名した訳ではなく、1840年にRafinesqueが命名した属名です。Rafinesqueは当時Aloe pumilaと呼ばれていた植物にTulista margariferaと命名しましたが認められませんでした。しかし、この忘れ去られていたツリスタ属をG.D.Rowleyが復活させたということです。どうも、副題の「新しいボトルに入った古いワイン」とはツリスタ属のことのようです。確かに論文が書かれた2013年から遡ること73年前の命名ですから、73年もののワインを新たな装いで出したようなものかもしれませんね。
さて、この論文におけるツリスタ属は、現在とは結構異なります。現在のツリスタ属の正式メンバーである、Tulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingianaはすでに含まれていますが、Tulista minorはいませんね。ちなみに、Aloe kingianaをG.D.Rowleyがはじめてツリスタ属としてTulista kingianaとした訳ですが、これは認められずに2017年に
Gideon F.Sm. & MoltenoによってTulista kingianaと命名され直しました。これは、Von PoellnitzがHaworthia kingianaと命名した論文を引用しなければなりませんが、G.D.Rowleyはその引用元を間違えていたため認められませんでした。
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Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

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Tulista kingiana (Poelln.)
                       Gideon F.Sm. & Molteno


また、この論文ではTulistaは13種類がリストアップされていますが、Astrolobaが7種、後のHaworthiopsisが2種、Aristaloeが1種が含まれていました。現在Astrolobaは10種類が認められていますが、この論文の後に命名された3種類、Astroloba cremnophila、Astroloba robusta、Astroloba tenaxは含まれていません。

Astrolobaについては過去に記事としたまとめています。

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Aristaloe aristata

以上が論文の内容です。
結局、G.D.Rowleyの主張はすべて認められているわけではありませんが、Haworthiopsisの創設とTulistaの復活を含む非常に重要な論文です。アロエ類が命名された論文はまだありますから、これから少しずつ読んでいくつもりです。


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かつて硬葉系ハウォルチアなどと呼ばれていたHaworthiopsisやTulistaには、イボに覆われているものがあります。そもそもこのイボが何のためにあるのかすら良くわかりませんが、結節などと呼ばれることが多いようです。遺伝的には、このイボの有無は分類には関係ないみたいです。要するに、イボのある種同士が近縁というわけではないため、イボのあるグループとないグループで分けることは出来ないのです。
さて、このイボにも種類があり様々です。今日はそんなハウォルチア系のめくるめくイボの世界へご案内しましょう。

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九輪塔 Haworthiopsis coarctata IB5850
九輪塔H. coarctataと鷹の爪H. reinwardtiiは同種とされることもありますが、現在は別種とされています。私の所有株はイボが控え目です。九輪塔のイボはまるでイボの先に着色したように見えます。


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星の林 Haworthiopsis reinwardtii var. archibaldiae
鷹の爪H. reinwardtiiの変種ですが、現在は認められていない学名です。鷹の爪系のイボは横長で大型です。

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Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis
コンパクトなf. kaffirdriftensisですが、イボは密に並びます。


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天守閣 × Astrolista bicarinata
AstrolobaとTulistaの自然交雑種。少し透き通るイボは、イボの由来がTulistaだと教えてくれます。


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Tulista pumila
Tulistaの代表種プミラ。Tulistaはよく見るとイボが半透明です。このプミラはイボが小さく密なタイプ。


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Tulista pumila
イボが白くないタイプのプミラ。イボは大型。


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Tulista pumila var. sparsa
プミラの変種スパルサ。イボはまばらですが、赤みを帯びた大型のイボが美しい。

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Tulista pumila var. ohkuwae
プミラの変種オウクワエ。白く大型のイボが密につき非常に目立ちます。

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Tulista kingiana
あまり見かけないキンギアナですが、イボは小さくて地味ですね。


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Tulista minor
Tulista minimaと呼ばれることもありますが、Tulista minorが正式な学名です。イボは横長で密につきます。


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Tulista minor swellense
有名な産地の個体。イボが立体的でよく目立ちます。


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Tulista marginata
マルギナタのイボは大型でたまにつながったりします。透き通った感じが好きですね。


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十二の巻 Haworthiopsis attenuata cv.
何故かH. fasciataと言われる十二の巻ですが、H. attenuata系の交配種です。白いイボはつながりバンド状になります。


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特アルバ Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが目立つ選抜交配種。


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松の雪 Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが小さく密につくタイプ。


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Haworthiopsis fasciata DMC05265
本物のファスキアタですが、普通の園芸店で入手は困難です。十二の巻とそっくりですが、アテヌアタとファスキアタは、遺伝子解析結果では近縁ではないようです。


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Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
ファスキアタの特殊なタイプ。イボは小さくまばらで縦に5列あります。

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Haworthiopsis glauca var. herrei RIB0217
グラウカの変種ヘレイの葉が短いタイプ。変種ヘレイとしてはイボがはっきりしています。

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Haworthiopsis glauca var. herrei
グラウカの変種ヘレイの葉の長いタイプ。イボは目立ちませんが、よく見ると縦にイボが並んでいます。


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紫翠 Haworthiopsis recendeana
現在は九輪塔H. coarctataと同種とされている
紫翠ですが、イボが白くないので目立ちません。イボ自体は非常に密につきます。

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Haworthiopsis scabra
これ以上イボが小さいとイボではなくザラ肌と呼んだほうが良さそうです。H. sordidaやH. nigraはイボではなくザラ肌ですよね。


イボの世界はいかがでしたか? 意外とイボにも色々あることがお分かりいただけたと思います。
個人的にはイボイボ系は大好物なのですが、あまり人気がないみたいで残念です。この記事を起点にイボイボ系のファンが増えて、買う人が増えたことにより園芸店にもイボイボ系が並ぶようになれば私も嬉しいのですが、そんなバタフライ・エフェクトみたいなことは難しいですかね? 今こそ、イボの復権をと密かに願っている次第。


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かつてのHaworthia sensu lato(広義のハウォルチア属)は2013年に分割され、Haworthia sensu stricto(狭義のハウォルチア属)、Haworthiopsis、Tulistaになりました。その中でもツリスタ属はたった4種類から構成されています。その4種類とはTulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingiana、Tulista minorです。ただし、Tulista minorはTulista minimaと呼ばれることもあります。
ここからが本題です。私には以前から疑問に思っていたことがあります。それは、T. minorとT. minimaのどちらを選択するべきかということです。どうやら、近年ではT. minorで統一する流れのようですが、その根拠が今一つわからなかったのです。なぜならば、T. minorもT. minimaも、1789年にAloe margaritiferaの変種として、スコットランドのWilliam Aitonにより命名されました。本来ならば、先に命名された種小名が優先されますが、この場合は同時に命名されています。どちらを優先すべきなのでしょうか? なぜ、T. minorが認めているのでしょうか?
しかし、なんとその答えが書かれた論文を見つけました。是非ご紹介したいのですが、その前にT. minorとT. minimaの命名年表を下記に示します。


1789年 Aloe margaritifera var. minor Aiton
              Aloe margaritifera var. minima Aiton
1809年 Haworthia minor (Aiton) Duval
1812年 
Haworthia minima (Aiton) Haw.
1821年 Apicra minor (Aiton) Steud.
1829年 Aloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.
1891年 
Catevala minima (Aiton) Kuntze
1997年 
Haworthia pumila subsp. minima
                                     (Aiton) Halda
2014年 
Tulista minima
              (Aiton) Boatwr. & J.C.Manning

2018年 Tulista minor
              (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno

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Tulista minor

さて、今日ご紹介する論文は、Gideon F. Smith, Estrela Figueiredo & Steven Moltenoによる2018年の『A new combination in Tulista, T. minor (Alooideae, Asphodelaceae)』です。
1789年にAloe margaritifera var. minorとAloe margaritifera var. minimaを命名したAitonは"minor"と"minima"を別種と認識していました。しかし、どうやら同じ論文の中で命名されたようです。この場合、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」ではどちらを優先すべきか判断出来ません。フランスのHenri August Duvalが"minor"をハウォルチアとしたのは1809年、イギリスのAdrian Hardy Haworthが"minima"をハウォルチアとしたのは1812年ですから、ハウォルチアへの移行は3年の差があります。著者はこの事を重視しているようです。調べたところ、どちらかに正式な学名とすることを初めて公表した著者の意見が優先されるそうです。これは「第一校訂者の原理」と呼ばれます。"minor"の場合はDuvalが第一校訂者となります。よって、ツリスタ属に変更する場合でも、その基礎となる種小名は"minor"となります。

話をまとめます。著者らが主張する学名に使われる種小名"minor"は、1789年にAitonによりAloe margaritifera var. minor Aiton(※Basionym)と命名されました。1809年にDuvalによりHaworthia minor (Aiton) Duval(※Homotypic synonym)とされましたが、著者らはDuvalを第一校訂者として、H. minorを根拠とする
Tulista minor (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno, comb. nov.(※comb. nov.=所属が変更された)としました。ちなみに、他にも種小名"minor"を使用した異名(Homotypic synonym)として、1821年のApicra minor (Aiton) Steudel、1829年の Aloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.が知られています。
また、正統性がなく無効とされる異名(Heterotypic synonym)として、1789年の
Aloe margaritifera var. minima Aiton、 1812年のHaworthia minima (Aiton) Haworth、2014年のTulista minima (Aiton) Boatwright & J.C.Manningが知られています。

補記1 : 同じ著者らの2017年の論文では、ツリスタ属はT. opalinaを含め5種類としていました。しかし、今回ご紹介した2018年の論文ではツリスタ属は4種類とし、T. opalinaを認めるかは議論のあるところであるとしています。T. opalinaを認めるか否か、2017年から2018年の1年で情勢が変わったのかもしれませんね。

補記2 : "minor"は「ミノー」と読むことが一般的ですが、ラテン語の読み方では「ミノル」です。個人的な好みでラテン語読みにこだわっている関係上、「ミノル」と読ませていただきました。
そういえば、"minima"は「小さな」、"minor"は「より小さな」という意味です。初めに"minor"と"minima"を命名したAitonは、大小2つの個体を見て、大きい個体は他種より小さいから"minima"として、それより小さい個体を"minor"と命名したのでしょうかね? 名前のミステリーはまだ未解決かもしれません。



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個人的にツリスタ属が好みでチマチマ集めていますが、現在ツリスタ属は4種類なので全種類簡単に集まりました。あとは変種やフィールドナンバー付きを集めるくらいです。Haworthia pumilaとHaworthia marginataは、2013年にGordon Douglas RowleyによりTulista pumilaとTulista marginataとされました。しかしその後にGideon F.Sm & Moltenoにより2017年にはTulista kingiana、2018年にはTulista minorがツリスタ属に追加されました。そのため、海外のサイトではT. marginataやT. pumilaはツリスタ属としていても
、T. minorやT. kingianaはハウォルチア属としていることもあります。国内では残念ながらツリスタ属自体に対する認識がそもそもあまり無いのが現状で、4種類すべてがハウォルチア属としていることが多いように思われます。

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Tulista kingiana

さてそんな中、今年の7月初めにT.kingianaを入手したことにより全4種類が集まりましたが、その都度学名などの情報を調べて記事にしました。この時、学名の情報はイギリス王立植物園のデータベースを参考としましたが、その根拠は特に意識していませんでした。しかし、最近多肉植物の論文を漁っているため、キンギアナをツリスタ属とした論文を見つけました。早速読んでみたところ、何やら意外なことが書かれており、単純に属名の変更というどちらかと言えば地味な論文にしては面白い内容でしたのでご紹介します。

ご紹介する論文は2017年のGideon F. Smith, Estrela Figueiredo & Steven Moltenoによる『A new combination in Tulista, T. kingiana (Asphodeloideae, Xanthorrhoeaceae / Alooideae, Asphodelaceae)』です。早速簡単にご紹介しましょう。
2003年のTreulein et al.や2013年のGrace et al.、2014年のManning et al.によるアロエ類の系統発生研究により、Haworthia s.l.(sensu lato=広義の)は3分割されることが示されました。Haworthiaは、Haworthia s.s.(sensu stricto=狭義の)、Haworthiopsis G.D.Rowley、Tulista Rafinesqueの3グループが確立され広く受け入れられました。
このうち、Tulistaは5種類を含むと考えられています。つまり、T. marginata (Lamarck, 1783) G.D.Rowley, 2013、T. minima (Aiton, 1789) Boatwr. & J.C.Manning, 2014、T. opalina (Hayashi, 2001) Breuer, 2016、T. pumila (Linnaeus, 1753) G.D.Rowley, 2013です。しかし、5番目の種であるHaworthia kingiana Von Poellnitz, 1936については、ツリスタ属として命名はされていますが、その学名が有効ではないと言います。どういうことなのでしょうか?
2013年のG.D.Rowleyや2016年のBreuerの論文では、H. kingianaをツリスタ属としました。しかし、これらはVon Poellnitzの1936年の報告を引用してそれを基に命名しました。しかし、Von Poellnitzの1936年の報告は国際命名規約(ICN)に乗っ取ったものではありませんでした。つまり、G.D.RowleyやBreuerにより命名されたTulista kingianaは、引用元に誤りがあるため正式には認められないというのです。これは、ICNの第41.5条に基づいて有効ではないとされるそうです。
そこで著者はHaworthia kingianaが規約に乗っ取り正式に報告されたVon Poellnitz, 1937を引用して、Tulista kingiana (Poelln.) Gideon F.Sm. & Molteno, comb. nov.として新たに記載しました。
※comb.nov.=combination nova、他の所属になったことを示す。
学名の根拠となった元になった学名(Basionym)は、Haworthia kingiana Von Poellnitz, 1937で、Tulista kingiana (Poelln.) G.D.Rowley, 2013やTulista kingiana (Poelln.) Breuer, 2016は規約に従わない無効名です。

ここまでが論文の内容です。私はG.D.Rowleyが2013年にツリスタ属を復活させた時に、T. kingianaは含まれていなかったものだと勘違いしていましたが、実は命名自体はされていたわけです。しかし、このような経緯は学名を調べただけではわかりませんから、個人的には非常に面白い話でした。


補記 : 論文ではツリスタ属は5種類としていますが、現在学術的に認められているツリスタ属は4種類です。T. opalinaはT.minorの異名とされています。しかし、将来的にT. opalinaが認められる可能性はあります。
また、T. minimaは現在ではT. minorが正しい学名となっています。これについては個人的に前々から頭を悩ます問題でした。T. minorが正式な学名であることは知っていますが、その理由や根拠となると全く説明出来ないのです。そんな中、そこら辺について書かれた論文を見つけましたので、私が何にそんなに悩んでいたのかを含め明日ご紹介したいと思います。



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ツリスタ属は2016年に認められた、割と新しい分類群です。遺伝子解析の結果からは、ツリスタ属はアストロロバ属やアロエ属から別れたアリスタロエ属・ゴニアロエ属と近縁である事がわかりました。さらに、ガステリア属やハウォルチオプシス属も近縁で、ここら辺も含めと私は好きでチマチマ集めています。そんな中でもツリスタ属は4種類と少なく、産地ごとの個体差が大きくコレクションする楽しみがあります。
本日は今年の五反田TOCで開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手したプミラの変種オウクワエについてです。


DSC_1759
Tulista pumila(ohkuwai) GM 602
Vrede, NW of Anysberg
非常にイボ(結節)が発達しているタイプです。プミラ系の最優美種です。ラベルにはohkuwaiとありますが、正確にはohkuwaeですね。


学名の後の"GM602"は採取情報がわかるフィールド・ナンバーというもので、「採取人+採取番号」の組み合わせからなっています。早速調べてみました。

Field number : GM 602
Collector : Gregorz Matuszewski
Species : Mammillaria meiacantha
Locality : Mexico, Coahuilauila
                          (Huachichil, 2050m)
Date : 2002

なんと、サボテンの情報が出て来てしまいました。ちなみに、"GM 602.1"と"GM 602.2"もありますが、やはり情報はサボテンでした。ただし、採取人のGregorz Matuszewskiは主に北米で活動しているみたいですから、南アフリカ原産のツリスタの採取人としては違和感があります。
とりあえず、"GM"と"Haworthia"で調べると新たな情報が出てきました。

Field number : GM 408
Collecter : J. Gerhard Marx
Species : Haworthia pumila
Locality : Western Cape, South Africa

もちろん、これは"GM 602"の情報ではありませんが、単に「GM」と言った場合にはGregorz Matuszewskiの場合とJ. Gerhard Marxの場合がある事がわかりました。残念ながら"GM 602"の情報は見つかりませんでした。まあ、単純に探し方が悪いだけという可能性もあります。しかし、そもそもフィールド・ナンバーを検索できるサイトは、フィールド・ナンバーを収集しているだけで、すべてのフィールド・ナンバーが登録されているわけではありません。普通に見つからないこともあります。
また、このフィールド・ナンバーからは、他の情報も読み取れます。植物の学名が"Haworthia pumila"となっていますね。当然ながら現在では"Tulista pumila"です。間違っているようにも思えますが、フィールド・ナンバーは採取時点での学名で登録されますから、これで問題ありません。むしろ、学名が変わる度に登録情報を訂正するのは、あまりにも大変です。


さて、では後半の"Vrede, NW of Anythberg"を調べてみましょう。Anythbergは南アフリカ南西部にある地名です。NWはNorth Westですから、Anythbergの町から北西部が採取地名です。北西部にはAnythberg国自然公園がありますが、Vredeは良くわかりません。

さて、ではGM 602を採取したJ. Gerhard Marxとは何者なのでしょうか? 調べてみると、どうやら南アフリカの芸術家とのことです。しかも、ハウォルチアのコレクターで、原産地に自生するハウォルチアの美しい図版を書いています。Gerhard Marxの作出した交配種もあるようです。また、Euphorbia suppressa MarxやEuphorbia audissoui Marxの命名者としても知られています。

さて、ツリスタ属ははじめて命名された時はアロエ属で、やがてハウォルチア属が創設されるとそちらに移り、最終的にツリスタ属となった経緯がありますから、学名(異名)は最低でも3つはあることになります。しかし、産地による個体差が激しいこともあり、それらを別種として命名したりしたこともあり、沢山の異名が付けられてきました。
先ずはプミラの来歴を見てみましょう。これは、変種を含んだプミラ全体の学名です。やはり、アロエ→ハウォルチア→ツリスタという経緯です。しかし、アピクラ属とする意見もありましたが、このアピクラ属は現在は存在しない属名です。また、Aloe arachnoidesの変種とする意見もありましたが、これは現在のHaworthia arachnoideaのことです。また、マキシマという種小名が出てきますが、プミラをマキシマと呼ぶことが結構あります。しかし、マキシマの初命名はプミラの命名の51年後です。学名は先に命名された種小名が優先されるルールですから、当然ながらマキシマは認められません。

1753年 Aloe pumila L.
1789年 Aloe arachnoides var. pumila (L.) Aiton
1804年 Aloe margaritifera var. maxima Haw.
1809年 Haworthia pumila (L.) Duval
              Haworthia maxima (Haw.) Duval
1821年 Apicra maxima (Haw.) Steud.
2013年 Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

いよいよ、変種オウクワエの登場です。2016年にHaworthia sparsaとHaworthia ohkuwaeが、プミラの変種とされました。これにより、変種スパルサ、変種オウクワエ、変種プミラが誕生しました。変種プミラは変種スパルサと変種オウクワエが出来たことにより、その2変種と区別するために出来た名前です。これはプミラに限らず、変種が出来ると自動的に区別するための変種が出来る決まりとなっています。
先ずは基調種である変種プミラの来歴を見てみましょう。いや、先程プミラの学名は見たじゃないかと思われるかもしれませんが、3変種を含んだプミラ全体に対する学名でした。変種プミラは他の変種を含まないため、Tulista pumilaとTulista pumila var. pumilaは同じではないということです。変種プミラの異名は私が確認しただけで23もありました。さすがにすべて書くのも意味がなさそうですから、代表的な異名であるマルガリティフェラ系のみの来歴を見てみましょう。
1840年にはツリスタ属を提唱した
Constantine Samuel Rafinesqueの名前が見えます。この時、ツリスタ属は認められませんでしたが、2013年にGordon Dougles Rowleyがツリスタ属を復活させました。また、この他にも、semimargaritifera系、granata系、semiglabrata系、subalbicans系、papillosa系、corallina系が存在しました。

1753年 Aloe pumila var. margaritifera L.
1768年 Aloe margaritifera (L.) Burm.f.
1811年 Apicra margaritifera (L.) Willd.
1819年 Haworthia margaritifera (L.) Haw.
1840年 Tulista margaritifera (L.) Raf.
1891年 Catevala margaritifera (L.) Kuntze

変種スパルサと変種オウクワエの学名は、最初はハウォルチア属の独立種でしたが、やがてツリスタ属となりプミラの変種とされました。

2006年 Haworthia sparsa M.Hayashi
              Haworthia ohkuwae M.Hayashi
2016年 Tulista pumila var. sparsa
                             (M.Hayashi) Breuer
              Tulista pumila var. ohkuwae
                             (M.Hayashi) Breuer

そう言えば、入手時の名札には"Tulista ohkuwai"とありました。オウクワ"エ"ではなく、オウクワ"イ"です。ネットで検索しても、販売されているものはオウクワイが多いようです。これは、種小名が人名から来ていた場合、語尾が男性なら「-i」、女性なら「-ae」をつけるためです。しかし、人名の末尾が「-a」で終わる場合は、男女関係なく「-e」をつけることになっているため、"ohkuwai"は間違いで"ohkuwae"が正しい学名となります。



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ツリスタ属については割としつこく記事にしていますが、ついに全種類コンプリートしました。あまり販売されていないので、あちこち探し回ってようやくのことです。とはいっても、たったの4種類なんですけどね。結局、最後に入手したのがキンギアナでした。
ツリスタ属はハウォルチア属から分離したグループで、アロエ属から独立したGonialoe(千代田錦)やAristaloe(綾錦)、さらにAstrolobaと近縁です。

アロエ類の系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━★Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

キンギアナは南アフリカ原産ですが、非常に稀な植物で絶滅危惧種に指定されています。キンギアナの分布はMossel湾付近の狭い範囲で、岩の多い丘や斜面あるいは草原に生えます。違法採取や過放牧、農地開発など生息地の破壊により減少しています。

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遮光強目なので、本来の明るい色は出ていません。今年は日差しが強すぎるため、加減が難しい感じがあります。

キンギアナの特徴はなんと言っても、その明るい葉色です。ツリスタ属は強光で赤くなる傾向がありますが、キンギアナは明るい黄緑色です。キンギアナはツリスタ属らしく大型になり、18cm位になるそうです。
キンギアナは「king」+「-iana」ですが、king=王ではありません。「-iana」は人名につける女性詞ですから、この場合はKing夫人に献名されたということです。

キンギアナの学名は2017年に命名されたTulista kingiana (Poelln.) Gideon F.Sm. & Moltenoです。キンギアナは初めて命名されたのは1937年のHaworthia kingiana Poelln.ですが、1997年にはプミラの変種とされHaworthia pumila var. kingiana (Poelln.) Haldaとする意見がありました。
また、2001年に命名されたHaworthia zenigata M.Hayashi、2016年にツリスタ属とされたTulista opalina var. zenigata (M.Hayashi) Breuerの系統も現在はキンギアナと同種とされているようです。



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ツリスタをご存知ですか?
ツリスタ属Tulistaは2013年にハウォルチアから分離されて出来ました。かつてはハウォルチアの中でも硬葉系ハウォルチアと呼ばれる仲間の一員でした。しかし、ツリスタ属自体が新しいこともあり、それほど浸透しておりません。今でもハウォルチアとして販売されています。そんな、ツリスタについて調べてみましたので、ご紹介します。

DSC_0790
Tulista minor 
      (Aiton) Gideon F.Sm. & Molteno
※swellens


ツリスタ収集中
そんなツリスタですが、ツリスタ属自体が有名ではないのと、ハウォルチア時代から元々人気があったわけではないので、ネット検索してもあまり情報はありません。「ツリスタ」で検索すると、まず釣りのゲームが出て来てしまうほどです。むしろ、"Tulista"で検索して海外のサイトを見た方が情報が出て来ます。
私はかつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスHaworthiopsisとツリスタTulistaは個人的に大好きで、じわじわ集めています。特に渋いツリスタはあまり販売していないこともあって、出会ったら優先的に購入するようにしています。
しかし、ツリスタは残念ながら大人気というわけではないので、入手が中々困難です。まあ、ネットで探せば入手可能でしょうが、私はあえてネットでの多肉植物の購入に制限をかけていて、イベントや園芸店で直接見て手にしたものだけを購入することにしています。これは、実際に見ないと品質がとかネット詐欺がとかではなく、ネット通販に手を出したら際限なく買ってしまいそうだからです。そうでなくても置き場が狭いのに、買うだけ買って育てられないでは困りますから。とはいえ、イベントで実物を手にとって見るのがとても楽しくて好きだからということも大事な理由ですけどね。

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Tulista marginata
                (Lam.) G.D.Rowley


ツリスタの復活
ツリスタは基本的にはじめに命名された時はアロエで、次はハウォルチアとされ、最後にツリスタという経緯をたどってきました。それぞれの属の創設年は以下の通りです。
1753年 Aloe L.
1809年 Haworthia Duval
1840年 Tulista Raf.
では、1840年にツリスタが誕生したのかというと、実のところ異なります。ツリスタ属の命名者であるRaf.は、オスマン帝国生まれでアメリカで活動し、独学で多くの動植物を命名したConstantine Samuel Rafinesqueのことです。しかし、Rafinesqueの業績は生前アカデミアで評価されませんでした。ですから、ツリスタ属は1840年に提唱されたものの、認められていなかったのです。この忘れ去られたツリスタを復活させたのが、ハウォルチオプシスをハウォルチアから独立させたGordon Dougles Rowleyです。Rowleyはサボテン・多肉植物を専門とする、イギリスの植物学者兼作家です。Rowleyは2013年にハウォルチアからハウォルチオプシスとツリスタを分けましたが、Rafinesqueが命名されたものの認められなかったツリスタを復活させました。
Rafinesqueがツリスタを命名した時に、どのような種を含んでいたのかはよくわかりませんが、Tulista margaritifera=Tulista pumilaは確認しています。ただ、Rowleyはツリスタ属をかなり幅広く採用したようで、旧アロエ属であるGonialoe3種とAristaloe1種、さらにHaworthiopsis(当時はHaworthia)7種、Astroloba7種を含んでいました。しかし、当時ツリスタとされたハウォルチオプシスのうち2種類と後に追加された2種類だけが、現在では正当なツリスタ属所属とされております。

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Tulista pumila var. ohkuwae
                       (M.Hayashi) Breuer


ツリスタの遺伝子解析
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文では、アロエやハウォルチアの遺伝子解析を行っています。論文によると、ツリスタ属はゴニアロエ属(千代田錦)、アリスタロエ属(綾錦)、アストロロバ属に近いとされています。G.D.Rowleyがツリスタ属にゴニアロエやアリスタロエ、アストロロバを入れたのは、それほど検討違いではなかったというか、どの範囲までがツリスタ属かというどこで線を引くかという問題に過ぎないのかもしれません。
この論文ではツリスタはまだハウォルチアとして扱われていますが、T. marginata、T. kingiana、T. pumilaはよくまとまったグループとなっています。ツリスタはハウォルチア(軟葉系ハウォルチア)とはそれほど遺伝的に近くはなく、Tulista + Gonialoe + Aristaloe + Astrolobaというグループと、Gasteria + Haworthiopsis(硬葉系ハウォルチア)のグループが姉妹群を形成しています。この論文自体、なかなか面白い内容なので、そのうち記事にしてご紹介できればと考えております。


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Tulista pumila
                 (L.) G.D.Rowley

ツリスタの学名
現在認められているツリスタ属に所属する種は、4種類です。命名が早い順に見ていきましょう。

プミラ Tulista pumila
プミラの学名は1753年に命名されたAloe pumila L.から始まります。最初はアロエ属とされました。まあ、しかしツリスタ、ハウォルチオプシス、アストロロバあたりは、属が創設されるまではアロエ属の所属されるのというのは良くある話です。アロエ属の創設が1753年ですから、プミラはアロエの創設メンバーでした。1789年には、Aloe arachnoides var. pumila (L.) Aitonという学名もありましたが、どの程度浸透して認められた学名であるかはわかりません。ちなみに、Aloe arachnoidesとは、現在のHaworthia arachnoideaのことです。
さらに、1809年にはHaworthia pumila (L.) Duvalとされました。アロエからハウォルチアに移動しましたが、なんと1809年はハウォルチア属の創設の年です。プミラはアロエ属に続いて、ハウォルチア属の創設メンバーでもあるわけです。
そして、2013年にはついにTulista pumila (L.) G.D.Rowleyと命名されました。お察しのように、プミラはツリスタ属でもその創設メンバーです。

ちなみに、プミラには2つの変種が認められております。2006年に命名されたHaworthia sparsa M.HayashiHaworthia ohkuwae M.Hayashiがあり、現在ではいずれもプミラの変種とされています。つまり、2016年に命名されたTulista pumila var. sparsa (M.Hayashi) BreuerTulista pumila var. ohkuwae (M.Hayashi) Breuerです。
 
プミラには異名が沢山あり、代表的なものとしてマルガリティフェラ系とセミグラブラタ系、セミマルガリティフェラ系があります。
マルガリティフェラ系は、1753年にAloe pumila var. margaritifera L.としてプミラの変種とされました。しかし、1768年にはAloe margaritifera (L.) Burm.f.とされ独立しましたが、1811年にApicra margaritifera (L.) Willd.、1819年にはHaworthia margaritifera (L.) Haw.、1840年にTulista margaritifera (L.) Raf.、1891年にはCatevala margaritifera (L.) Kuntzeとされましたが、現在ではプミラと同一種とされています。


②マルギナータ Tulista marginata
マルギナータの学名は1783年に命名されたAloe marginata Lam.から始まります。1891年にはCatevala marginata (Lam.) Kuntze、1938年にはHaworthia marginata (Lam.) Stern、そして最終的には2013年命名のTulista marginata (Lam.) G.D.Rowleyとなりました。

マルギナータには異名があり、代表的なものとしてアルビカンス系とヴィレスケンス系があります。アルビカンス系は、1804年のAloe albicans Haw.、1811年のApicra albicans (Haw.) Willd.、1812年のHaworthia albicans (Haw.) Haw.です。ヴィレスケンス系は1821年のHaworthia virescence Haw.、1829年のAloe virescence (Haw.) Schult. & Schult.f.です。


③ミノル(ミノー) Tulista minor
ミノルの学名は1789年に命名されたマルガリティフェラ(=プミラ)の3つの変種として始まりました。つまり、1789年に命名されたAloe margaritifera var. minor AitonAloe margaritifera var. minima AitonAloe margaritifera var. majorです。
ミノル系は1809年にはHaworthia minor (Aiton) Duval、1821年にはApicra minor (Aiton) Steud.1829年に命名されたAloe minor (Aiton) Schult. & Schult.f.、そして2018年にTulista minor (Aiton) Gideon F.Sm & Moltenoとされました。

実はミノル以外もしばらくは独立種として、ミノルと平行して学名は変遷しました。
ミニマは1812年にはHaworthia minima (Aiton) Haw.、1891年にはCatevala minima (Aiton) Kuntze
1997年にはHaworthia pumila subsp. minima (Aiton) Halda
2014年にはTulista minima (Aiton) Boatwr. & J.C.Manningとされました。
マイヨル(マジョール)は1809年には、Haworthia major (Aiton) Duvalとされたました。しかし、ミニマもマイヨルも、ミノルと同種であるとして異名となりました。

ミノルにはその他にも沢山異名がありますが、有名な所ではマキシマとオパリナがあります。
マキシマは1804年にAloe margaritifera var. maxima Haw.、1809年にはHaworthia maxima (Haw.) Duval、1821年にApicra maxima (Haw.) Steud.となりました。
オパリナは2001年にHaworthia opalina M.Hayashi、2016年にはTulista opalina (M.Hayashi) Breuerとなりました。

※ミノルとかマイヨルとか読み方に違和感があるかもしれませんが、学名はラテン語ですからラテン語読みしています。悪しからず。

④キンギアナ Tulista kingiana
キンギアナは1937年に命名されたHawortha kingiana Poelln.から始まりました。1997年にはプミラの変種とするHaworthia pumila var. kingiana (Poelln.) Halda、そして2017年にTulista kingiana (Poelln.) Gideon F.Sm & Moltenoとなりました。

ちなみに、2001年に命名されたHaworthia zenigata M.Hayashiは、2016年にTulista opalina var. zenigata (M.Hayashi) Breuerとされましたが、現在ではゼニガタはキンギアナに含まれると考えられているようです。

旧・ツリスタの構成員
2013年にG.D.Rowleyがツリスタ属を復活させた時、アストロロバやハウォルチオプシスも混じっていました。今ではツリスタの所属ではありませんが、その時の構成員を紹介します。
2013年 
Astroloba rubriflora, Astroloba bullulata, Astroloba congesta, Astroloba corrugata, Astroloba foliolosa, Astroloba herrei, Astroloba spiralis, Haworthiopsis koelmaniorum, Haworthiopsis pungens, Haworthiopsis viscosa, Aristaloe aristata
2014年 ゴニアロエを追加
Gonialoe variegata, Gonialoe dinteri, Gonialoe sladeniana


終わりに
いかがでしょうか。たった4種類のツリスタ属にもこれだけの歴史があるのです。それを沢山の研究者たちが、長い年月意見を戦わせてきたわけです。
ちなみに、学名の中でアピクラ属やカテバラ属という属名が出て来ますが、これらは現在は使用されない幻の学名です。学術史に埋もれた旧学名にも様々なドラマがあったのかもしれません。
地味で人気があるとは言えない多肉植物でも、調べると思う以上に色々なことがわかります。こういう多肉植物の楽しみかたもあるのです。ホームセンターや百均で買ったミニ多肉にも、長く複雑な研究史があるのかもしれません。皆さんも一つ調べてみてはいかがでしょうか?



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硬葉系ハウォルチアとされていたプミラとマキシマは同種とされていて、どちらが正式名称なのかを巡って論争があったそうです。とあるブログによると、プミラではなく、マキシマが正式名称とのことです。その根拠は、マキシマが先に命名されたからだそうです。
私が入手したプミラについて調べている最中だったので、興味深く読ませていただきました。しかし、疑問点も浮かびました。

プミラが先かマキシマが先か
まず、プミラとマキシマがハウォルチア属とされたのは、1809年のことでした。
Haworthia pumila (L.) Duval
Haworthia maxima (Haw.) Duval
勘のいい人はすでにお気付きになったと思いますが、これって「プミラのほうが命名早くない?」ということです。

解説します。学名は「属名」+「種小名」から成り立ちますが、そのあとに「命名者の略号」をつけます。命名者を書かないことも多く、略しても構いません。ここから少しややこしいのですが、「属名」が変更になることが割りとあります。実は違う仲間だったとか、新しい属として独立したりという場合です。この時、「種小名」は基本的に変わらずに継承されます。この時の命名者はどうなるでしょうか? 正解は併記する、です。つまり、「(種小名の命名者)+属名変更者」という風に、種小名の命名者を括弧で表記するのです。

プミラの場合は、はじめての命名においては、アロエ属とされました。これは、硬葉系ハウォルチアにおいては良くあることです。なぜなら、この時点でハウォルチア属は存在しないからです。アロエ属は1753年に創設、ハウォルチア属は1809年に創設されました。
さて、種小名の命名者に注目してみましょう。プミラの命名者は(L.)、学名の仕組み自体を作ったCarl von Linneのことです。つまりは、Aloe pumila L.ですが、これは1753年に命名されましたが、これはLinne自身によりアロエ属が創設された年です。よって、プミラの命名は考えうる限り、最も早いものでしょう。

では、マキシマはどうでしょうか。マキシマはHaworthia maxima (Haw.) Duvalです。マキシマはHaw.、つまりはAdrian Hardy Haworthが命名しています。もとをたどると、Aloe margaritifera var. maxima Haw.のようで、これは1804年の命名です。ちなみに、Aloe margaritiferaプミラの異名(シノニム)です。

まとめると、命名年はプミラが1753年、マキシマは1804年であり、プミラのほうが先に命名されました。よって、正統性ならマキシマではなくプミラとなります。Haworthの命名がLinneよりも早いことがあり得ないことを知っていれば、マキシマよりプミラのほうが命名が早いこともまた明白という訳です。
ただし、これで終わらないのが、なんとも厄介な話です。

プミラとマキシマは別種
プミラとマキシマは同一種と見なされてきたので、プミラ・マキシマ論争があったわけです。しかし、近年の研究では、マキシマはプミラ系ではなく、minor系であることが判明しました。つまり、Tulista minor(=Haworthia minor)です。そうであるとすると、今度はミニマ・マキシマ論争となってしまいます。
しかし、以下の記事により、マキシマではなくminorが正式名称です。

ツリスタ属の誕生
さらに、硬葉系ハウォルチアは、ハウォルチオプシス属とツリスタ属になりました。ツリスタ属は、Tulista kingianaTulista pumilaTulista minorTulista marginataの4種類が提唱されています。現状において、オパリナやマキシマは正式な学名として認められておらず、ともにT. minorと同一種とされます。まあ、今後変わっていく可能性はありますが。


個別のツリスタ属の記事はこちら。


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プミラは最大のツリスタで、高さ25cm以上となります。しかし、面白いことにプミラはラテン語ですが、英訳すると"dwarf"、つまりは矮性という意味です。矮性はあまり大きくならない性質のことですが、大きく育つのに不思議な命名です。なぜ、プミラの名前がついたのでしょう?
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Tulista pumila

始まりはアロエ属
プミラがはじめて命名されたのは1753年のことで、Aloe pumila L.とされました。L. は学名の創設者のCarl von Linneですから、プミラは実に由緒正しい学名と言えます。さらに、1753年はアロエ属の創設された年ですから、プミラはアロエ属の創設メンバーだったのです。プミラは最初はアロエに分類されていた訳です。ですから、命名された時にアロエにしては小さいということで、プミラと命名されたのでしょう。

ハウォルチア属からツリスタ属へ
プミラはとにかく様々な学名がつけられたことが知られています。現在では存在しないApicraCatevala属とされたりもしました。しかし、正統性のある学名は、アロエ属→ハウォルチア属→ツリスタ属の系統です。まず、1809年にHaworthia pumila (L.) Duvalとなりました。1809年はDuvalがハウォルチア属を創設した年ですから、プミラはアロエ属だけではなく、ハウォルチア属の創設メンバーでもあったわけです。この時点で、その名前によらずプミラは巨大ハウォルチアとなってしまいました。
最終的には、2013年にプミラはツリスタ属となりました。Tulista pumila (L.) G.D.Rowleyが現在認められている学術的に正式な学名です。
ツリスタ属4種類の中では、やはり最大の種ということですから、やはり大きいのに小さいというちぐはぐな学名ではあります。


変種margaritiferaとは?
1753年にAloe pumila var. margaritifera L.という変種が命名されています。しかし、1768年には独立種となり、Aloe margaritifera (L.) Burm. f. とされました。そして、最終的には1819年にHaworthia margaritifera (L.) Haw. となりました。
しかし、margaritiferaは現在ではプミラと同一種とされて、使用されていない学名です。プミラのタイプの一つに名前がつけられただけだったのでしょう。

変種minorとは?
1789年にAloe margaritifera var. minor Aitonが命名されました。しかし、後にこちらはプミラとは別種とされました。1809年のHaworthia minor (Aiton) Duval 、2018年にはTulista minor (Aiton) Gideon F.Sm & Moltenoとされました。
ミノー(マイナー)に関する詳細は以下の記事をどうぞ。


変種maximaとは?
Aloe margaritiferaに対して変種マキシマが命名されました。1804年に命名されたAloe margaritifera var. maxima Haw. です。しかし、1809年にハウォルチア属が創設されたことにより、Haworthia maxima (Haw.) Duval となり、margaritiferaの変種ではなくなりました。
ここからがややこしいのですが、マキシマとプミラが同一種であるという考え方が出てきました。ここは何やら論争があったようですが、最終的にはマキシマはプミラではなく、ミノー(マイナー)と同一種とされるに至りました。
プミラ・マキシマ論争についてはこちらをどうぞ。


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他のツリスタ属の記事はこちら。






ミニマを入手しましたので、少し調べてみました。
ラベルには「T. ミニマ」とあります。このTはツリスタ(Tulista)を示します。ただし、このツリスタ属を巡ってはややこしい問題があり、未解決な部分があります。

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ミニマ

ミニマはAloe margaritiferaの変種、Aloe margaritifera var. minor Aitonとして、1789年に命名されました。硬葉系ハウォルチアではお馴染みの、アロエ→ハウォルチア→ハウォルチオプシスorツリスタという定番の型を踏襲しています。このAloe margaritiferaとは、現在のTulista pumilaのことです。
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Tulista pumila

ここから、ミニマの学名は2系統に分かれます。上に挙げたminor系統とこれから述べるminima系統です。minima系統は、1812年にHaworthia minima (Aiton) Haw.と命名されました。minor系統も1809年に、Haworthia minor (Aiton) Duvalとハウォルチアとされました。
さらに、21世紀になり硬葉系ハウォルチアの内、数種類が新設のツリスタ属に移動しました。当初はTulista pumilaの変種として命名された位ですから、ミニマもツリスタ属とされました。つまり、Tulista minima (Aiton) Boatwr. & J.C.Manningは2014年、Tulista minor (Aiton) Gideon F.Sm & Moltenoは2018年の命名です。

ちなみに、Haworthia maximaTulista pumilaと同種であるとされておりましたが、正しい学名の提供を目的としてイギリスのキュー王立植物園が中心となって進められている「World checklist of Selected Plant Families」によると、プミラではなくminorと同一種とされています。マキシマがはじめて命名されたのは、1804年にAloe margaritifera var. maximaでした。ですから、1789年の命名であるminorが優先されます。
さらに、Tulista opalina (M. Hayashi) Breuerは、やはりminorに含まれるとされています。こちらも、2001年にHaworthia opalina M. Hayashiとして2001年の命名ですから、やはりminorが優先されます。

ここまで経緯を説明しておいて何ですが、現在認められているミニマの学名は、Haworthia minor (Aiton) Duvalとされています。しかし、どう見てもハウォルチア(軟葉系ハウォルチア)には見えません。ミニマも今後はツリスタ属とされていくのでしょう。

2022年6月追記。
未だにH. minorとされているとしましたが、古い情報が更新されていなかっただけのようです。2018年にTulista minor (Aiton) Gideon F.Sm. & Moltenoとされており、晴れてツリスタ属の一員となりました。めでたしめでたし。



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1月9日に鶴仙園に行って来ましたが、その購入品の紹介。マルギナータはずっと欲しかった種類で、特に肉イボが強目な個体を探していました。ですから今回見つけた時は、物凄く嬉しかったです。

さて、ラベルにはH. マルギナータ マリアッチーとあります。調べると、Haworthia marginata v. mariattiらしいです。これはマルギナータ変種マリアッチーという意味です。しかし、それ以外にあまり情報はありませんね。困った…
マルギナータは瑞鶴と呼ばれているみたいですが、白点というか肉イボはあったりなかったりするみたいです。マリアッチーは肉イボが密につくタイプなようです。この、肉イボが場所によりつながる感じがたまりません。

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Tulista marginata var. mariatti

マルギナータは硬葉系ハウォルチアとされてきましたが、最近はツリスタ属になりました。そこで、マルギナータの来歴を振り返ります。

そもそも、マルギナータは最初はアロエとされていました。1783年にAloe marginata Lam.とされたのが、おそらく初命名でしょう。硬葉系ハウォルチア、特に大型のものはアロエ属とされがちでした。

面白いことに、このマルギナータ系以外にも複数の別名がつけられました。イボの有無など変異が大きいので、様々なタイプごとに名前がつけられたのかもしれません。主要な異名は、アルビカンス、ヴィレスケンス、ラミフェラ、レアヴィスです。現在は認められていないこれらの学名についても、簡単に書いてみます。
アルビカンス系は1804年に命名されたAloe albicans Haw.から始まり、1811年にApicra albicans (Haw.) Willd.、1812年にHaworthia albicans (Haw.) Haw.となりました。ヴィレスケンス系は1821年に命名されたHaworthia virescens Haw.から始まり、1829年のAloe virescens (Haw.) Schult. & Schult.f.、1839年のHaworthia marginata var. virescens (Haw.) Uitewaalがあります。ラミフェラ系は1821年に命名されたHaworthia ramifera Haw.1960年のHaworthia marginata var. ramifera (Haw.) H.Jacobsenがあります。レアヴィス系は1821年に命名されたHaworthia leavis Haw.、1960年のHaworthia marginata var. leavis (Haw.) H.Jacobsenがあります。また、1938年にはヴィレスケンスをアルビカンスの変種とするHaworthia albicans var. virescens (Haw.) Bakerもありました。

Aloe marginata Lam.を正当として、1938年にHaworthia marginata (Lam.) Stearnとされました。今でも基本的にハウォルチアとして流通しています。今回も、ラベルは「H. 」、つまりはHaworthiaの略名でした。
1891年にCatevala marginata (Lam.) Kuntzeもありました。
そして、2013年にマルギナータはツリスタ属としてハウォルチア属から独立しました。Tulista marginata (Lam.) G.D.Rowleyが最新の学名です。

ツリスタ属は基本的に大型です。マルギナータも高さ20cmになるそうです。私はTulista pumilaも栽培中ですが、こちらは高さ25cmと巨大に育つとのこと。
他には、T. kingianaやT. minorがあるみたいです。


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