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カテゴリ: その他

近年、サンセヴィエリア属(Sansevieria、サンスベリア、サンセベリア)がドラカエナ属(Dracaena、ドラセナ)に吸収されてしまうという驚くべきニュースを目にしました。当該論文は公開されていないので、残念ながら読めていないのですが、その辺りの話は最近記事にしました。


その関連で少し興味が湧いたので、他にも何か論文はないかと調べてみたところ、Iris van Kleinweeらの2021年の論文、『Plastid phylogeny  of the Sansevieria clade (Dracaena ; Asparagaceae) resolves a rapid evolutionary radiation』を見つけました。ただし、この論文は全文を公開していないため、イントロと方法のみしか示されておりません。しかし、遺伝子解析結果は公開されていましたから、見てみましょう。

取り敢えず、サンセヴィエリアはドラカエナに吸収されてしまいましたが、ドラカエナの中でもサンセヴィエリアはまとまったグループのようです。このグループをSansevieria cladeと呼んでいるようです。しかし、Sansevieria cladeに含まれる種の分類はよく分かっていませんでした。どうやら、現存する旧・Sansevieriaたちは、新しい時代に急速に進化して様々な種類に分かれた可能性があるのです。
遺伝子解析はすべての遺伝子を調べているわけではなく、植物種の違いに関わらずよく使われる遺伝子があります。しかし、それらの遺伝子では、新しい時代に急速に進化した場合は上手く種を分離出来ないのです。ですから、この論文では実に7種類もの遺伝子を解析して、サンセヴィエリアの急速な進化に迫っています。
以下に示す分子系統では、A1、A2、B、C、D、Eの6グループに分かれています。このA~Eまではまとまりがあり、旧・Sansevieriaは近縁です。

                        ┏グループA1
                    ┏┫
                    ┃┗グループA2
                ┏┫
                ┃┗━グループB
            ┏┫
            ┃┃┏━グループC
            ┃┗┫
        ┏┫    ┗━グループD
        ┃┃
    ┏┫┗━━━D. angolensis
    ┃┃
    ┃┗━━━━グループE
┏┫
┃┃┏━━━━D. camerooniana
┃┗┫
┫    ┗━━━━D. sambiranensis
┃ 
┗━━━━━━D. aletriformis

グループA1
A1には、D. zeylanica、D. burmanica、D. roxburghianaが含まれます。インド亜大陸の原産です。
・D. zeylanicaはSansevieria zeylanicaのことです。Sansevieria ensifolia、Sansevieria grandicuspis、Sansevieria indica、Sansevieria pumilaと同種です。Cordyline zeylanicaと呼ばれたこともあります。
・D. burmanicaはSansevieria burmanicaのことです、Sansevieria maduraiensisと同種です。
・D. roxburghianaはSansevieria roxburghianaのことです。また、1805年にはSansevieria zeylanicaという学名もつけられましたが、これはD. zeylanica (Sansevieria zeylanica)とは別につけられたもののまったく同じ学名です。当然ながら認められていない学名です。

グループA2
A2には、D. pinguicula、D. perrotii、D. powellii、D. hanningtonii、D. arborescensが含まれます。
立ち上がり茎が伸びるタイプで、主に東アフリカの原産です。
・D. pinguiculaはSansevieria pinguiculaのことです。
・D. perrotiiはSansevieria perrotiiのことです。Sansevieria robusta、Sansevieria ehrenbergiiと同種です。
・D. powelliiはSansevieria powelliiのことです。
・D. hanningtoniiはPleomele hanningtoniiのことです。Dracaena oldupai、Sansevieria rorida、Sansevieria ehrenbergii、Sansevieria roridaと同種です。ちなみに、D. powelliiの異名の1つにS. ehrenbergiiがあり、D. hanningtoniiとかぶりますが、D. powelliiの異名のS. ehrenbergiiは後から同じく学名を付けてしまったパターンです。
・D. arborescensはSansevieria arborescensのことです。Sansevieria zanzibaricaと同種です。

グループB
Bには、D. raffllii、D. testudinea、D. canaliculata、D. liberica、D. longiflora、D. scimitariformis、D. sinus-simiorum、D. stuckyi、D. subspicata、D. spathulata、D. aethiopica、D. halliiが含まれます。アフリカ南部中心に分布します。
D. raffllii、D. testudinea~D. liberica、D. longiflora~D. haliiの3グループに分けられます。
・D. rafflliiはSansevieria rafflliiのことです。
・D. testudineaはSansevieria brauniiのことです。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena brauniiという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。
・D. canaliculataはSansevieria canaliculataのことです。Sansevieria schimperi、Sansevieria sulcataと同種です。
・D. libericaはSansevieria libericaのことです。Sansevieria chinensis、Sansevieria gentilisと同種です。
・D. longifloraはSansevieria longifloraと同種です。
・D. scimitariformisはSansevieria scimitariformisのことです。
・D. sinus-simiorumはSansevieria sinus-simiorumのことです。
・D. stuckyiはSansevieria stuckyiのことです。Sansevieria andradaeと同種です。
・D. subspicataはSansevieria subspicataのことです。
・D. spathulataはSansevieria cocinnaのことです。Sansevieria subspicata var. cocinnaは同種です。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena cocinnaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。
D. aethiopicaはSansevieria aethiopicaのことです。Sansevieria thunbergii、Sansevieria caespitosa、Sansevieria glauca、Sansevieria scabrifoliaは同種です。
D. halliiはSansevieria halliiのことです。

グループC
Cには、D. parva、D. singularis、D. phillipsiae、D. nilotica、D. dawei、D. bacularis、D. dooneri、D. trifasciata、D. francisii、D. sordida、D. suffruticosa、D. serpenta、D. newtoniana、D. conspicua、D. volkensis、D. hargeisana、D. forskalianaが含まれます。アフリカ大陸に広く分布します。
D. parva~D. trifasciata、D. francisii~D. serpenta、D. newtoniana~D. forskalianaの3グループに分けられます。
・D. parvaはSansevieria parvaのことです。Sansevieria bequaertiiは同種です。
・D. singularisはSansevieria singularisのことです。Sansevieria fischeriは同種です。
・D. phillipsiaeはSansevieria phillipsiaeのことです。
・D. niloticaはSansevieria niloticaのことです。Sansevieria massaeは同種です。
・D. daweiはSansevieria daweiのことです。
・D. bacularisはSansevieria bacularisのことです。
・D. dooneriはSansevieria dooneriのことです。
・D. trifasciataはSansevieria trifasciataのことです。Sansevieria aureovariegata、Sansevieria craigii、Sansevieria jacquinii、Sansevieria laurentii、Sansevieria trifasciata var. laurentii、Sansevieria zeylanica var. laurentiiは同種です。
・D. francisiiはSansevieria francisiiのことです。
・D. sordidaはDracaena variansの異名です。D. variansはSansevieria variansのことです。Sansevieria patens、Sansevieria sordida、Dracaena patensは同種です。
・D. suffruticosaはSansevieria suffruticosaのことです。
・D. serpentaはSansevieria gracilisのことです。種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena gracilisという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。とはいえ、このD. gracilisは問題のある学名で、1796年に命名されたD. gracilisはDracaena reflexa var. angustifoliaの異名で、1808年に命名されたD. gracilisはDracaena ellipticaの異名です。これだけ使い降るされた学名ですから、3回目の使用となれば混乱は必至でしょうから使われないのは当然です。
・D. newtonianaはSansevieria newtonianaのことです。
・D. conspicuaはSansevieria conspicuaのことです。
・D. volkensisはSansevieria volkensisのことです。Sansevieria intermedia、Sansevieria polyrhytis、Sansevieria quarriaは同種です。
・D. hargeisanaはSansevieria hargeisanaのことです。
・D. forskalianaはSansevieria forskalianaのことです。Sansevieria guineensis var. angustior、Sansevieria elliptica、Sansevieria abyssinica、Convallaria racemosaは同種です。

グループD
Dには、D. zebra、D. senegambica、D. petheraが含まれます。D. zebraとD. senegambicaは非常に近縁です。
・D. zebraはSansevieria metallicaのことです。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena metallicaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。ただし、Dracaena metallicaはCordyline fruticosaの異名です。
・D. senegambicaはSansevieria senegambicaのことです。Sansevieria cornuiは同種です。
・D. petheraはSansevieria kirkiiのことです。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena kirkiiという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。

グループE
EにはD. kenyensis、D. dawnsii、D. caulescens、D. pearsoniiが含まれます
・D. kenyensisはデータベースに情報がありませんが、どうやらSansevieria bellaのことのようです。 Sansevieria bellaは現在ではDracaena neobellaとされています。
種小名が変わっていますが、これはもともとDracaena bellaという植物が先に存在したため、同じ学名となってしまうことを避けるための処置です。ただし、このDracaena bellaはCordyline fruticosaの異名です。
・D. dawnsiiはSansevieria dawnsiiのことです。
・D. caulescensはSansevieria caulescensのことです。
・D. pearsoniiはSansevieria pearsoniiのことです。Sansevieria deserti、Sansevieria rhodesianaのことです。



A~Eのグループに入らない種類についてですが、D. angolensisはSansevieria内にありますが、A~Eのグループには入りません。
・D. angolensisはSansevieria angolensisのことです。Sansevieria cylindrica、Sansevieria livingstoniaeと同種です。
・D. cameroonianaはSansevieriaではなく、はじめからDracaenaでしたが、Sansevieriaと近縁のようです。
・D. sambiranensisはSansevieria sambiranensisのことです。他のSansevieriaとは系統が異なります。
・D. aletriformisはSansevieriaではありません。Yucca aletriformisという異名があります。

Sansevieriaの葉の形状は様々で、葉の厚みも様々です。これは、乾燥に対する適応を示しています。しかし、葉の形状はグループごとに似ているわけではないようです。多肉質な葉は近縁ではないあちこちに現れるようです。
また、タイトルにありますように、Sansevieriaは急速に進化して様々な種類に分化したようです。どうやら、Sansevieriaは約500万年前に登場したようです。非常に昔なような気がしますが、新生代新第三紀終盤の鮮新世ですから、歴史年代からすると最近です。しかも、現在の種類が分化し始めたのは、第四紀更新世以降ですから、日本では旧石器時代という新しさです。本当に新しく現れた多肉植物と言えますね。



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新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールに行きました。ラフレシアリサーチさんが様々な多肉植物の種子を販売していましたが、Operculicarya pachypusの種子を3粒購入しました。まだ寒いので種をまく適期ではないでしょうけど、お試し用に1粒まいてみました。ちなみに、先人の知恵は無視して、適当にやってしまいました。一応は持てるだけの科学知識を動員してはみましたが…
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今回はこんな道具を使用。今回は30mLサイズの三角フラスコに種をまきます。

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オーソサイドは種子の殺菌にも使用されます。

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オーソサイドを適当に溶かしました。ピンセットの殺菌用なので、規定の倍率にする必要はありません。

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オペルクリカリア・パキプスの種子を使用。今回はお試し用に1粒だけ。果肉には発芽を抑制するアブシジン酸が含まれていますから、果肉は取り去る必要があります。自然では鳥などの動物に食べられて果肉は消化されます。

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しばらく水に浸け込んで、果肉をふやかします。

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しかし、思うように水を吸いません。果肉も固く中々取れません。

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果肉を取っては水に浸けてふやかしてを繰り返しました。まあ、ティッシュペーパーで擦ってだいたい果肉は落ちましたかね。

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しばらく水に浸けておきます。直ぐに沈んだので、しいな(不捻種子)ではなさそうです。10時間ほど吸水。

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赤玉土と燻炭を混ぜたものです。赤玉土は細粒が良いのでしょうけど、なかったので中粒で代用。熱湯で簡単に消毒。本当は圧力鍋で高温湿圧滅菌した方がベストですが、食品以外で圧力鍋は使いたくありませんからね。

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殺菌剤水溶液にピンセットを浸け込んでおきます。まあ、火炎滅菌の方が手っ取り早くて確実ではあります。ライターの弱い火でも800~900度、火で炙れば完全に滅菌可能ですからね。しかし、ピンセットが酸化して汚くなるので今回はなしの方向です。専用のピンセットが必要でしたか。

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種子はよく水に溶かした滅菌剤に浸けたりしますが、今回は種子に直に殺菌剤をまぶします。殺菌剤の説明書に書かれた希釈倍率は、果実に使った時に残留しないようにするためのものです。ですから、種子粉衣と言って、直に殺菌剤をまぶした方が簡単で効果が期待出来ます。まあ、モヤシやカイワレ大根なんかは、発芽前の種子に殺菌剤をまぶすと、高濃度の殺菌剤を口にすることになりますから止めた方が無難ですけどね。

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種子には発芽に光が必要な明発芽種子と、光があると発芽しない暗発芽種子とがあります。例えば、乾燥地の植物の種子は、光が当たっている環境だと発芽しても暑さや乾燥で枯れてしまうのではないでしょうか。種子が確実に地中に埋まっている時に発芽した方が生き残る可能性が高いでしょう。ですから、多肉植物は暗発芽種子が多いような気もします。というわけで、種子は暗くしておきます。

さて、勢いだけで適当にやってしまいましたが、どうなることやらといった感じです。上手くいけばいいのですが、部屋が普通に10℃以下になるので中々厳しいかもしれませんね。まあ、試しです。種子もかなり安かったので、失敗しても大して懐が痛むわけでもありません。
まあ、とはいえ今回やってみたものの、少しカビに対して神経質過ぎたかなあとは思いました。極端なことを言えば、普通に殺菌せずに種をまいて、カビが生えたら殺菌剤まけばそれで解決なんですよね。今さらですが、ただの徒労だったかもしれません。次回はもっと適当にやってみます。



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サンスベリア、あるいはサンセベリアと呼ばれる植物があります。ラテン語読みなら「サンセヴィエリア」ですかね。まあ、昔からある斑入りのSansevieria trifasciataがすっかり普及しましたが、最近では様々な種類が販売されているようです。そんなサンスベリアですが、私自身はそれほど興味はありません。しかし、ダシリリオンを調べていた時に、また余計な情報を得てしまいました。なんと、サンスベリア属は現在では存在せず、ドラセナ属(Dracaena、ラテン語読みでドラカエナ)に統一されてしまったというのです。その論文では詳細がわかりませんから、その理由を探ってみました。

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ボウチトセランの花

イギリスのキュー王立植物園のデータベースを見てみたところ、サンセヴィエリアはドラカエナの異名とありました。その根拠として、2021年に出された『New nomenclatural and taxonomic adjustments in Dracaena (Asparagaceae)』という論文が指定されていました。しかし、この論文は一般に公開されていませんから概要しかわかりません。しかし、概要を読むと、遺伝子解析の結果から、サンセヴィエリアはドラカエナに含まれてしまうということです。実際の分子系統図を見れないのは残念ですが仕形ありません。
とりあえず、データベースでサンセヴィエリア属の情報を検索してみます。サンセヴィエリア属はCarl von Linneの弟子で鎖国下の日本の出島にも滞在したこともあるCarl Peter Thunbergが1794年に命名したSansevieria Thunb. nom. cons.です。属名は[属名]+[命名者]ですが、通常は命名者を省略して属名だけですが、論文(特に分類学)だと命名者もセットで記入されます。ここでは[属名]+[命名者]+[nom. cons.]となっています。このnom. cons.とは、保存名(保留名)のことです。保存名とは命名規約を厳密に適用すると、今まで使用されてきた学名から変更しなくてはならず、混乱する場合などに維持される学名です。


ただし、サンセヴィエリア属の項目には、'This name is a synonym of Dracaena'とあり、要するにサンセヴィエリアは異名でドラカエナになったということです。実際に最も一般的なサンセヴィエリアであるSansevieria trifasciataを調べてみると、詳細な情報はなくなっており学名はDracaena trifasciataになったからそちらを見るようにとあります。変更後のDracaena trifasciataを見ると、こちらには様々な情報が記載されていました。こちらにはnom. cons.の表記もありませんし、完全にサンセヴィエリアはドラカエナに吸収されてしまったようです。

とりあえず、サンセヴィエリアの有名な種類であるアツバチトセラン、ボウチトセラン、ツツチトセランの3種類について現状がどうなっているのか調べてみました。

①アツバチトセラン
まずは、代表的なサンセヴィエリアであるアツバチトセランです。アツバチトセランは、1903年にSansevieria trifasciata Prain
命名されましたが、2017年にDracaena trifasciata (Prain) Mabb.が提案され現在はこの学名が認められています。また、アツバチトセランには亜種があり、D. trifasciata subsp. trifasciataとD. trifasciata subsp. sikawaeがあり、それぞれに異名があります。

subsp. trifasciataには、1904年に命名されたSansevieria laurentii De Wild.、1911年に命名されたSansevieria jaquinii N.E.Br.、1912年に命名されたSansevieria craigii Anon.、1915年に命名されたSansevieria trifasciata var. laurentii (De wild.) N.E.Br.という異名があります。

subsp. laurentiiは2019年にSansevieria trifasciata var. laurentii R.H.Wbb & Yingerと命名されましたが、2021年にDracaena trifasciata subsp. sikawae (R.H.Wbb & Yinger) Takaw.-Ny. & Thiedeとなりました。


②ボウチトセラン
ボウチトセランは、1859年にSansevieria cylindrica Bojar ex Hook.と命名され、この学名が最も普及しています。しかし、実際には1861年に命名された Sansevieria angolensis Welw. ex Carriereの系統が正しい学名とされているようです。通常は先に命名された学名が優先ですから、S. cylindricaが優先されるはずです。しかし、実際にはS. angolensisが正しいとされる理由は不明です。詳しく調べる必要がありそうです。S. angolensisは命名者がWelw. ex Carriereとなっていますが、これはWelw.が命名したものの正式な命名の要件を満たしていなかったため、1861年にCarriereがWelw.を引用して記載し直したということでしょう。つまりは、Welw.の命名は1861年よりも前ということになりますが、このことがS. angolensisを優先する理由となっているかはわかりません。

さて、ボウチトセランの学名は1861年に命名されたSansevieria angolensis Welw. ex Carriereでしたが、2018年にDracaena angolensis (Welw. ex Carriere) Byng & Christenh.となりました。ボウチトセランには1932年に命名されたSansevieria livingstoniae Rendleという異名もあります。また、異名であるS. cylindricaには、1891年にAcyntha cylindrica (Bojar ex Hook.) Kuntze、1923年に命名されたCordyline cylindrica (Bojar ex Hook.) Brittonなどサンセヴィエリア属ではないという意見もありました。1915年にはSansevieria cylindrica var. patulaという変種も提唱されましたが、現在では認められておりません。

③ツツチトセラン
ツツチトセランは、1903年にSansevieria stuckyi God.-Leb.と命名されましたが、2018年にDracaena stuckyi (God.-Leb.) Byng. & Christenh.となりました。D. stuckyiは、1932年にAcyntha stuckyi (God.-Leb.) Chiov.とする意見もありました。また、S. stuckyiの命名年である1903年に同じ命名者により、Sansevieria andradae God.-Leb.が命名されていますが、現在ではD. stuckyiと同種とされています。ちなみに、この時の記載に問題があったようで、同じく1903年にSansevieria andradae God.-Leb. ex Geromeとなっています。

最後に
さて、このようにサンセヴィエリアについて多少調べてみましたが、サンセヴィエリア属からドラカエナ属に移動するに際して種小名が変わっているものも結構あるみたいです。
それはそうと、今回はキュー王立植物園のデータベースを参照としましたが、それ意外のすべてのデータベースがサンセヴィエリアをドラカエナに変更していないようです。
サンセヴィエリア属はそれなりに種類があるため、かなり大幅な変更でしょうから現在は移行期間中といった感じなのかもしれません。しかし、サンセヴィエリアの名前を残す残さない関係なく、サンセヴィエリアはドラカエナの一部であるであることは覆しようがありません。サンセヴィエリアからドラカエナへの変更の流れは止められないでしょう。


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 昨日に引き続きエケベリアの遺伝子を解析した論文の紹介です。本日が最後です。

エケベリアとセダムなどの遺伝子を解析した結果を以下に示します。それによると、エケベリアは大きく4つに分けられることがわかりました。下の系統図の太字で示したClade I~Clade IVです。

┏━━━━━━━━Lenophyllum acutifolium

┃                                ┏Sedum palmeri
┃                    ┏━━┫
┃                    ┃        ┗Sedum frutescens
┣━━━━━┫
┃                    ┃┏━━Sedum compactum
┃                    ┗┫
┫                        ┃┏━Sedum allantoides
┃                        ┗┫
┃                            ┃┏Villadia cucullata
┃                            ┗┫
┃                                ┗Villadia albiflora

┃┏━━━━━━━━Sedum dendroideum
┗┫
    ┃┏━━━━━━━Clade I
    ┗┫
        ┃┏━━━━━━Clade II
        ┗┫
            ┃┏━━━━━Sedum corynephyllum
            ┗┫
                ┃┏━━━━Clade III 
                ┗┫
                    ┃            ┏Clade IV-①
                    ┗━━━┫
                                    ┗Clade IV-②

_20230109_223316
Clade IV-②はエケベリアのみからなるグループです。series Gibbiflorae、つまりはエケベリア属ギビフロラエ列です。ギビフロラエ列は2つのグループに大別されます。

                            ┏━E. gibbiflora 1
┏━━━━━━┫
┃                        ┃┏E. fulgens 
┃                        ┗┫    v. obtusifolia
┃                            ┗E. gibbiflora 2

┫┏━━━━━━━E. purhepecha
┃┃
┃┃                        ┏E. roseiflora
┃┃                    ┏┫
┃┃                    ┃┗E. nayaritensis
┗┫┏━━━━┫
    ┃┃                ┃┏E. munizii
    ┃┃                ┗┫
    ┃┃                    ┗E. rufiana
    ┃┃
    ┃┃    ┏━━━━E. dactylifera
    ┃┃┏┫
    ┗┫┃┃┏━━━E. michihuacana 1
        ┃┃┗┫
        ┃┃    ┃        ┏E. michihuacana 2
        ┃┃    ┃┏━┫
        ┃┃    ┃┃    ┗E. michihuacana 3
        ┃┃    ┗┫
        ┃┃        ┃┏━E. michihuacana 4
        ┗┫        ┗┫
            ┃            ┃┏E. michihuacana 5
            ┃            ┗┫
            ┃                ┗E. michihuacana 6
            ┃
            ┃┏━━━━E. cante
            ┃┃
            ┃┃        ┏━E. subrigida
            ┗┫┏━┫
                ┃┃    ┃┏E. novogaliciana
                ┃┃    ┗┫
                ┗┫        ┗E. perezcalixii
                    ┃
                    ┃┏━━E. cerrograndensis
                    ┗┫
                        ┃┏━E. sp.
                        ┗┫
                            ┃┏E. marianae
                            ┗┫
                                ┗E. patriotica

                        ┏E. uxorium
┏━━━━━┫
┃                    ┗E. acutifolia

┃                    ┏E. fulgens v. fulgens
┃┏━━━━┫
┃┃                ┗E. guerrerensis
┫┃
┃┃            ┏━E. aff. acutifolia 1
┃┃┏━━┫
┃┃┃        ┃┏E. aff. gigantea
┃┃┃        ┗┫
┗┫┃            ┗E. aff. acutifolia 2
    ┃┃
    ┃┣━━━━E. fulgens
    ┃┃
    ┃┣━━━━E. aff. gibbiflora
    ┃┃
    ┗┫            ┏E. fimbriata 1
        ┣━━━┫
        ┃            ┗E. fimbriata 2
        ┃
        ┣━━━━E. rubromarginata 1
        ┃
        ┃┏━━━E. sp.
        ┃┃
        ┃┃        ┏E. triquiana
        ┃┃┏━┫
        ┃┃┃    ┗E. gigantea
        ┗┫┃
            ┃┣━━E. longiflora
            ┃┃
            ┃┃    ┏E. aff. fulgens 1
            ┃┣━┫
            ┗┫    ┗E. grisea
                ┃
                ┣━━E. crenulata
                ┃
                ┣━━E. rubromarginata 2
                ┃
                ┃┏━E. aff. gibbifor
                ┗┫
                    ┃┏E. prunina
                    ┗┫
                        ┗E. aff. fulgens 2

この4日間に渡る記事の総括は、エケベリア属は単系統ではないということです。複数の系統が入り交じる雑多な寄せ集めと言えます。この状態の解決策は2つあります。1つは、すべてをセダム属としてしまうことです。エケベリアもグラプトペタルムもクレムノフィラもトンプソネラも廃止してしまうのです。おそらく、これが最も簡単かつ分類学的に正しい方法です。もう1つは、グラプトペタルムやクレムノフィラなどを廃止してエケベリアに含んでしまうというものです。この場合、エケベリアは遺伝的には広義セダムの一部ですから、エケベリアを残したい場合にはセダムを細かく分割する必要性が生じてしまいます。あまり現実的ではない提案でしょう。とは言うものの、まだ公的なデータベース上においては旧来の分類方法のままです。どうも、ここ十年くらいでセダムやエケベリアを含むベンケイソウ科植物の遺伝子解析が急激に進行しています。分類体系の再検討はこれからでしょう。かなりホットな話題ですから、これからのことの推移を注視していきたいと思います。


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昨日に引き続きエケベリアの遺伝子を解析した論文の紹介です。Clade I、Clade II、Clade IIIの詳細をお示ししました。本日はClade IV-①です。

エケベリアとセダムなどの遺伝子を解析した結果を以下に示します。それによると、エケベリアは大きく4つに分けられることがわかりました。下の系統図の太字で示したClade I~Clade IVです。

┏━━━━━━━━Lenophyllum acutifolium

┃                                ┏Sedum palmeri
┃                    ┏━━┫
┃                    ┃        ┗Sedum frutescens
┣━━━━━┫
┃                    ┃┏━━Sedum compactum
┃                    ┗┫
┫                        ┃┏━Sedum allantoides
┃                        ┗┫
┃                            ┃┏Villadia cucullata
┃                            ┗┫
┃                                ┗Villadia albiflora

┃┏━━━━━━━━Sedum dendroideum
┗┫
    ┃┏━━━━━━━Clade I
    ┗┫
        ┃┏━━━━━━Clade II
        ┗┫
            ┃┏━━━━━Sedum corynephyllum
            ┗┫
                ┃┏━━━━Clade III 
                ┗┫
                    ┃            ┏Clade IV-①
                    ┗━━━┫
                                    ┗Clade IV-②

_20230109_223219
Clade IVは調査された種類が多いため、2つに分けます。Clade IV-①はEcheveria、Graptopetalum、Sedum、Cremnophila、Reidmorania、Tacitusを含む雑多なクレードです。便宜上、4つのグループに分けました。

┏━━━━①Graptopetalum-1

┃┏━━━②Graptopetalum-2
┃┃
┗┫┏━━③Cremnophila
    ┃┃
    ┗┫┏━④Echeveria
        ┗┫
            ┗━Clade IV-②

①Graptopetalum-1
エケベリアとグラプトペタルムが混雑しており、グラプトペタルムはまとまりのあるグループではないことがわかります。これらは将来的に吸収されて消滅するでしょう。ちなみに、現在G. mendozaeとG. craigiiはセダムとされています。現在、Reidmoraniaはエケベリアに、Tacitusはグラプトペタルムに吸収されてしまいました。

┏━━━━G. mendozae

┣━━━━G. amethystinum

┃        ┏━G. craigii
┣━━┫
┃        ┃┏E. craigiana
┃        ┗┫
┃            ┗E. affinis

┃        ┏━G. grande
┣━━┫
┃        ┃┏G. paraguayense
┃        ┗┫
┃            ┗G. bernalense

┃            ┏R. occidentalis
┃┏━━┫
┃┃        ┗G. pachyphyllum
┃┃
┃┃    ┏━G. bartramii
┣┫┏┫
┃┃┃┃┏G. suaveolens
┃┃┃┗┫
┃┃┃    ┗T. bellus
┃┗┫
┃    ┃    ┏E. valvata
┃    ┃┏┫
┃    ┃┃┗E. calycosa
┃    ┗┫
┃        ┃┏G. saxifragoides
┃        ┗┫
┃            ┗G. pusillum

┃            ┏E. amoena
┣━━━┫
┃            ┗E. microcalyx

┃┏━━━②Graptopetalum-2
┃┃
┗┫┏━━③Cremnophila
    ┃┃
    ┗┫┏━④Echeveria
        ┗┫
            ┗━Clade IV-②


②Graptopetalum-2
③Cremnophila
ここではグラマトペタルムはまとまったグループとなっていますが、セダムが混入しています。クレムノフィラはよくまとまったグループですが、やはりエケベリアやセダムと入れ子状となっています。

┏━━━━━①Graptopetalum-1

┃                ┏G. fruticosum
┃    ┏━━┫
┃    ┃        ┗G. marginatum
┃    ┃
┃    ┃        ┏G. rusbyi
┃    ┣━━┫
┃    ┃        ┗G. filiferum
┃    ┃
┫┏┫        ┏G. macdougallii
┃┃┣━━┫
┃┃┃        ┗S. clavatum
┃┃┃
┃┃┃        ┏G. glassii
┃┃┃    ┏┫
┃┃┃    ┃┗G. pentandrum
┃┃┗━┫
┃┃        ┃┏G. superbum 1
┃┃        ┗┫
┃┃            ┗G. superbum 2
┗┫

    ┃        ┏━C. linguifolia 1
    ┃    ┏┫
    ┃    ┃┃┏C. linguifolia 2
    ┃    ┃┗┫
    ┃    ┃    ┗C. linguifolia 3
    ┃┏┫
    ┃┃┃┏━C. nutans 1
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┃┏C. nutans 2
    ┃┃    ┗┫
    ┗┫        ┗C. nutans 3
        ┃

        ┃        ┏E. humilis
        ┃┏━┫
        ┃┃    ┗E. xichuensis
        ┗┫
            ┃┏━E. trianthina
            ┗┫
                ┃┏④Echeveria
                ┗┫
                    ┗Clade IV-②


④Echeveria
ここではエケベリアがまとまっています。

┏━━━━━━━━━━━E. peacockii

┃┏━━━━━━━━━━E. subalpina
┗┫
    ┃┏━━━━━━━━━E. laui
    ┗┫
        ┃                                ┏E. semivestita 
        ┃                            ┏┫ v. semivestita
        ┃                            ┃┗E. semivestita 
        ┃┏━━━━━━┫     v. floresiana
        ┃┃                        ┃┏E. tamaulipana
        ┃┃                        ┗┫
        ┃┃                            ┗E. runyonii
        ┗┫
            ┃                            ┏E. aff. secunda 1
            ┃┏━━━━━━┫
            ┃┃                        ┗E. aff. secunda 2
            ┃┃
            ┃┃                    ┏━E. minima
            ┗┫┏━━━━┫
                ┃┃                ┃┏E. secunda
                ┃┃                ┗┫
                ┃┃                    ┗E. aff. secunda 3
                ┗┫
                    ┃┏━━━━━E. strictiflora
                    ┃┃
                    ┃┣━━━━━E. shaviana 1
                    ┃┃
                    ┗┫                ┏E. calderoniae
                        ┣━━━━┫
                        ┃                ┗E. shaviana 2
                        ┃
                        ┃┏━━━━E. lutea
                        ┗┫
                            ┃┏━━━E. bifida
                            ┗┫
                                ┃┏━━E. lyonsii
                                ┗┫
                                    ┃┏━E. bifurcata
                                    ┗┫
                                        ┃┏E. rodolfi
                                        ┗┫
                                            ┗E. aff. rodolfi


Clade IV-①は、エケベリア、グラマトペタルム、クレムノフィラ、セダムを含みます。グラマトペタルムはまったくまとまりがありません。Graptopetalum-2はよくまとまっていますが、セダムを含んでいます。Graptopetalum-1はエケベリアが混在しており、グラプトペタルム属の存在自体に疑問符がつきます。
明日に続きます。


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昨日から引き続きまして、エケベリアの遺伝子解析による分類をお示ししています。昨日はClade IとClade IIの詳細をお示ししました。本日はClade IIIです。

エケベリアとセダムなどの遺伝子を解析した結果を以下に示します。それによると、エケベリアは大きく4つに分けられることがわかりました。下の系統図の太字で示したClade I~Clade IVです。


┏━━━━━━━━Lenophyllum acutifolium

┃                                ┏Sedum palmeri
┃                    ┏━━┫
┃                    ┃        ┗Sedum frutescens
┣━━━━━┫
┃                    ┃┏━━Sedum compactum
┃                    ┗┫
┫                        ┃┏━Sedum allantoides
┃                        ┗┫
┃                            ┃┏Villadia cucullata
┃                            ┗┫
┃                                ┗Villadia albiflora

┃┏━━━━━━━━Sedum dendroideum
┗┫
    ┃┏━━━━━━━Clade I
    ┗┫
        ┃┏━━━━━━Clade II
        ┗┫
            ┃┏━━━━━Sedum corynephyllum
            ┗┫
                ┃┏━━━━Clade III 
                ┗┫
                    ┃            ┏Clade IV-①
                    ┗━━━┫
                                    ┗Clade IV-②

_20230109_222553
Clade IIIはThompsonellaを含みます。4つのグループに分けられます。それぞれのグループの詳細を見ると、①Echeveria-1と④Echeveria-4はエケベリアのみからなります。しかし、③Thompsonellaはエケベリアとトンプソネラが混じっています。トンプソネラと近縁なエケベリアをトンプソネラに含めてしまうか、トンプソネラを廃止してエケベリアに含めてしまうか、あるいはエケベリアもトンプソネラも廃止してしまいすべてセダムにするか、3つの選択肢があります。また、②Echeveria-2にはPachyphytum cuicatecanumが含まれます。これは流石にパキフィツムから除外すべきでしょう。

┏━①Echeveria-1

┫┏②Echeveria-2
┃┃
┗╋③Thompsonella
    ┃
    ┗④Echeveria-3


①Echeveria-1

                            ┏E. corynephyllum
┏━━━━━━┫
┃                        ┗E. rosea

┫                        ┏E. chiapensis
┃┏━━━━━┫
┃┃                    ┗E. nuda
┗┫
    ┃┏━━━━━E. nebularum
    ┗┫
        ┃┏━━━━E. globulosa
        ┗┫
            ┃┏━━━E. subcorymbosa
            ┗┫
                ┃┏━━E. megacalyx
                ┗┫
                    ┃┏━E. mondragoniana
                    ┗┫
                        ┃┏E. chazaroi
                        ┗┫
                            ┗E. helmutiana

②Echeveria-2

                            ┏E. rorzaniana
┏━━━━━━┫
┃                        ┗E. carminea

┃    ┏━━━━━E. racemosa
┃    ┃
┃    ┃                ┏E. pinetorum
┃    ┣━━━━┫
┃┏┫                ┗E. mucronata
┃┃┃
┃┃┣━━━━━E. olivacea
┃┃┃
┃┃┃┏━━━━E. penduliflora
┃┃┗┫
┃┃    ┃┏━━━P. cuicatecanum
┃┃    ┗┫
┃┃        ┃┏━━E. alata
┃┃        ┗┫
┗┫            ┃┏━E. viridissima
    ┃            ┗┫
    ┃                ┃┏E. globuliflora
    ┃                ┗┫
    ┃                    ┗E. macdougalii
    ┃
    ┃        ┏━━━E. lurida
    ┃┏━┫
    ┃┃    ┃┏━━E. diffractens
    ┃┃    ┗┫
    ┃┃        ┃┏━E. carnicolor
    ┃┃        ┗┫
    ┃┃            ┃┏E. tencho
    ┃┃            ┗┫
    ┃┃                ┗E. canaliculata
    ┗┫
        ┃        ┏━━E. goldmanii
        ┃┏━┫
        ┃┃    ┃┏━E. aff. bella
        ┃┃    ┗┫
        ┃┃        ┃┏E. bella aff. major
        ┗┫        ┗┫
            ┃            ┗E. sessiliflora
            ┃
            ┃┏━━━E. heterosepata
            ┗┫
                ┃┏━━E. crassicaulis
                ┗┫
                    ┃┏━E. platyphylla
                    ┗┫
                        ┃┏E. longipes
                        ┗┫
                            ┗E. paniculata
                                     v. maculata

③Thompsonella

                    ┏━E. moranii
┏━━━━┫
┃                ┃┏E. pringlei v. parva
┃                ┗┫
┃                    ┗E. pringlei

┃                    ┏T. mixtecana 1
┃┏━━━━┫
┃┃                ┗T. mixtecana 2
┗┫
    ┃            ┏━T. minutiflora 1
    ┃┏━━┫
    ┃┃        ┃┏T. xochipalensis
    ┃┃        ┗┫
    ┃┃            ┗T. minutiflora 2
    ┗┫
        ┃┏━━━T. platyphylla
        ┗┫
            ┃┏━━T. colliculosa
            ┗┫
                ┃┏━T. garcia-mendozae
                ┗┫
                    ┃┏T. spathulata 1
                    ┗┫
                        ┗T. spathulata 2

④Echeveria-3

                    ┏E. setosa v. ciliata
┏━━━━┫
┃                ┃┏E. coccinea 1
┃                ┗┫
┃                    ┗E. coccinea 2

┃                    ┏E. montana
┃    ┏━━━┫
┃    ┃            ┗E. aff. longissima
┫┏┫
┃┃┃┏━━━E. chapalensis
┃┃┗┫
┃┃    ┃┏━━E. derenbergii
┃┃    ┗┫
┃┃        ┃┏━E. gracilis
┃┃        ┗┫
┃┃            ┃┏E. pulvinata 1
┗┫            ┗┫
    ┃                ┗E. pulvinata 2
    ┃
    ┃            ┏━E. amphoralis
    ┃        ┏┫
    ┃        ┃┗━E. sp.
    ┣━━┫
    ┃        ┃┏━E. uhlii
    ┃        ┗┫
    ┃            ┃┏E. setosa v. deminuta
    ┃            ┗┫
    ┃                ┗E. setosa
    ┃
    ┃┏━━━━E. multicaulis
    ┗┫
        ┃┏━━━E. brachetii
        ┗┫
            ┃┏━━E. aff. setosa
            ┗┫
                ┃┏━E. purpusorum
                ┗┫
                    ┃┏E. longissima 
                    ┗┫     v. aztatlensis
                        ┗E. longissima
                                 v. brachyantha


エケベリアの中に埋もれているPachyphytum corynephyllumは、初めはエケベリアとして命名されました。現在はパキフィツムですが、エケベリアとした方が正しいのでしょう。また、Thompsonellaは未だに現在です。Thompsonellaには妥当性がないように思われます。ここいらへんも、将来整理されるかもしれません。
明日に続きます。



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かつて、というか去年の12月初めに珍しくエケベリアについての記事を書きました。実はエケベリアについて調べていたわけではなく、庭に野良セダムが生えてきたのでセダムSedumについて調べていたのです。しかし、見つけた論文のタイトルは"Linnaeus's folly"、「リンネの愚かさ」という大胆なもので、内容もエケベリアがセダムに吸収されてしまうという衝撃的なものでした。その論文の紹介記事はこちらをご一読下さい。
さて、とは言うものの、論文はセダムを広く解析したもので、エケベリアは少し調べただけでした。そこで、エケベリアについてもっと詳細に調べた論文はないかと調べていたところ、参考になりそうな論文を見つけました。2019年の論文、『Phylogenetics relationships of Echeveria (Crassulaceae) and related genera from Mexico, based on DNA barcoding loci』です。非常に長い論文で、詳細を書いていると大変な長さになりますから、実際の遺伝子解析結果のみを示します。
まずは、エケベリアとセダムなどの遺伝子を解析した結果を以下に示します。それによると、エケベリアは大きく4つに分けられることがわかりました。下の系統図の太字で示したClade I~Clade IVです。VilladiaがSedumに含まれてしまうなど、以前ご紹介した論文と傾向は同じです。そして、Clade IIとClade IIIの間に
Sedum corynephyllumが入るなど、エケベリアにはまとまりがありません。

┏━━━━━━━━Lenophyllum acutifolium

┃                                ┏Sedum palmeri
┃                    ┏━━┫
┃                    ┃        ┗Sedum frutescens
┣━━━━━┫
┃                    ┃┏━━Sedum compactum
┃                    ┗┫
┫                        ┃┏━Sedum allantoides
┃                        ┗┫
┃                            ┃┏Villadia cucullata
┃                            ┗┫
┃                                ┗Villadia albiflora

┃┏━━━━━━━━Sedum dendroideum
┗┫
    ┃┏━━━━━━━Clade I
    ┗┫
        ┃┏━━━━━━Clade II
        ┗┫
            ┃┏━━━━━Sedum corynephyllum
            ┗┫
                ┃┏━━━━Clade III 
                ┗┫
                    ┃            ┏Clade IV-①
                    ┗━━━┫
                                    ┗Clade IV-②


_20230109_221046
では、各クレードの詳細を見ていきましょう。Clade Iはパキフィツム(Pachyphytum)です。詳しくはわかりませんが、この論文ではパキフィツムはエケベリアの一部をなすと考えているようです。パキフィツムは非常にまとまりのあるグループですが、残念ながらこの論文では分離が悪く、種同士の関係性は不明です。横並びの18種類は、本来なら遠近があるはずですが、解析が上手くいかなかったようです。

    ┏P. fittkaui
┏┫
┃┗P. kimnachii

┃┏P. compactum
┃┣P. brevifolium
┫┣P. viride
┃┣P. brachetii
┃┣P. glutinicaule
┃┣P. sp.
┃┣P. rzedowskii
┃┣P. viride
┗╋P. hookeri
    ┣P. oviferum
    ┣P. bracteosum
    ┣P. longifolium
    ┣P. caesium
    ┣P. werdermannii
    ┣P. machucae
    ┣P. contrerasii
    ┣P. saltense
    ┗P. garciae

_20230109_222317
次はClade IIです。Clade IIはすべてエケベリアからなります。Series Urbiniaeとありますが、属の下の分類でウルビニア列です。著者はこのウルビニア列をエケベリアからの独立を提案しているようです。しかし、やはりセダムが入れ子状に混じりますから、中々難しいところです。解決策は非常に細分化して新しい属を作りまくるか、すべてをセダムとしてしまうかです。

        ┏━━━E. cuspidata var. cuspidata
    ┏┫
    ┃┗━━━E. cuspidata var. zaragozae
┏┫
┃┃┏━━━E. chihuahuensis
┃┗┫
┃    ┃┏━━E. lilacina
┃    ┗┫
┃        ┗━━E. unguiculata

┃    ┏━━━E. pulidonis
┃┏┫
┫┃┃┏━━E. elegans
┃┃┗┫
┃┃    ┃┏━E. potosina
┃┃    ┗┫
┃┃        ┃┏E. halbingeri var. halbingeri
┃┃        ┗┫
┃┃            ┗E. simulns
┗┫
    ┃    ┏━━E. juliana
    ┃┏┫
    ┃┃┃┏━E. tobarensis
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗━E. turgida
    ┗┫
        ┃┏━━E. tolimanensis
        ┗┫
            ┃┏━E. agavoides
            ┗┫
                ┃┏E. colorata f. colorata
                ┗┫
                    ┗E. colorata


現在の学術的なデータベースではどうなっているでしょうか? イギリスのキュー王立植物園のデータベースでは、Villadia、Pachyphytumはまだ健在です。立ち位置の怪しいSedum corynephyllumもそのままです。ただし、Urbiniaeはエケベリアの異名扱いで正式に認められた属ではありません。今後、このあたりはダイナミックに変わる可能性があります。
続きます。


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亀甲竜は南アフリカ原産のヤマノイモの仲間です。ヤマノイモ?と思うかもしれませんが、亀甲竜の学名はDioscorea elephantipesで日本のヤマノイモはDioscorea  japonica、ナガイモはDioscorea D. polystachya(異名Dioscorea batatas)と同じヤマノイモ属です。みな、同じように蔓を伸ばし、非常に良く似た葉をつけます。違いは芋にコルク層が出来るか否かでしょう。さて、アフリカには亀甲竜以外のDioscoreaも分布しますが、それらの遺伝子を解析した論文を見つけました。Olivier Maurin, A. Muthama Muasya, Pilar Catalan, Eugene Z. Shongwe, Juan Viruel, Paul Wilkin & Michelle van der Bankの2016年の論文、『Diversification into novel habitats in the Africa clade of Dioscorea (Dioscoreaceae) : erect habit and elephant's foot tubers』です。

Dioscoreaは熱帯域を中心に世界中に分布し、600種類以上あるとされています。Dioscoreaは芋(根茎・塊茎、perennating organs)を持ち、茎はツル性です。そのほとんどは雌雄異株で翼のある種子があります。単位面積あたりの種の多様性が高い地域は、ブラジル南部、メキシコの一部、大アンティル諸島、マダガスカル西部、中国南部からタイまでです。
過去の知見によると、Dioscoreaは10の主要cladeに分けられることが明らかになっています。この10の主要cladeのうち、3cladeはサハラ以南のアフリカに分布します。African cladeはアフリカでのみ多様化しており、13種類が知られています。そのうち、9種類が南アフリカの固有種です。
African cladeの特徴はその「象の足」のようなコルク層が発達した芋にあります。論文では"pachycaul"と表現しています。この"pachycaul"とはラテン語で"pachy + caulis"、つまりは「ずんぐりした + 茎」という意味の合成語です。要するに塊根・塊茎植物(caudex)のことを示しています。このpachycaul構造はメキシコ亀甲竜Dioscorea mexicanaなど新大陸でも希に見られます。

以下に世界各地の28種類のDioscoreaの遺伝子を解析した分子系統を示します。Stenophora cladeはヒマラヤからネパール、バングラデシュ、タイ、ベトナム、マレーシア原産のD. prazeri、New World clade IIはアルゼンチン、チリ原産のD. brachybotrya、New World clade IIはメキシコ原産のD. galeottiana、Mediterranean cladeはヨーロッパ、北アフリカ、トルコからイラン原産のD. communis、レバノン、シリア原産のD. orientalis、スペイン原産のD. chouardii、フランス、スペイン原産のD. pyrenaicaを調べています。Tamus edulisはD. communisとD. orientalisと近縁で、独立したTamus属ではなくDioscorea属に含まれることがわかりました。現在ではT. edulisはD. communisと同種とされており、Tamus属自体がDioscorea属に吸収されて存在しない属になりました。また、D. tentaculigeraは中国からタイに分布します。それ以外はアフリカ原産種です。

                ┏━━━African clade
                ┃
                ┃        ┏Compound Leaved clade
                ┃    ┏┫
            ┏┫    ┃┗Dioscorea sansibarensis
            ┃┃┏┫
            ┃┃┃┗━Enantiophyllum clade
            ┃┗┫
            ┃    ┗━━Dioscorea tentaculigera
        ┏┫
        ┃┗━━━━Mediterranean clade
    ┏┫
    ┃┗━━━━━New World clade II
┏┫
┃┗━━━━━━New World clade I

┗━━━━━━━Stenophora clade

①African clade
African cladeは4つのサブクレードに分けられます。
        ┏━Pachycaul subclade
    ┏┫
    ┃┗━Cape subclade
┏┫
┃┗━━East Africa subclade

┗━━━D. buchananii subclade

・Pachycaul subclade
このサブクレードは、5種類13個体を調べています。名前の通り、"pachycaul"構造を持つ主に南アフリカ原産のグループです。代表種は亀甲竜D. elephantipesで、非常に肥厚したコルク層がある芋があり、ひび割れてゴツゴツした姿になります。芋は形よく育ち、観賞用によく栽培されます。D. sylvaticaは葉裏が白く、表面が滑らかな芋があり観賞用に栽培されます。南アフリカからモザンビーク、スワジランド、ザンビア、ジンバブエ原産です。D. hemicryptaは表面がガサガサした不定形の芋があります。D. strydomianaは非常に肌が荒れたゴツゴツした芋があり、やや立ち上がって育ち樹木の幹のように見えます。
遺伝子を調べると、外見上は似ていて同種とされていたものの実は近縁ではないとか、外見上は違いがあり別種とされていたものの実は同種というパターンも珍しくありませんが、Dioscoreaは従来区分の種によるまとまりがあります。D. elephantipesとD. sylvatica、D. hemicryptaとD. strydomianaはそれぞれ姉妹群です。

                    ┏━D. elephantipes 1
            ┏━┫
            ┃    ┗━D. elephantipes 2
        ┏┫
        ┃┗━━━D. elephantipes 3
        ┃
    ┏┫        ┏━D. sylvatica 1
    ┃┃┏━┫
    ┃┃┃    ┗━D. sylvatica 2
    ┃┗┫
    ┃    ┗━━━D. sylvatica 3
    ┃
    ┃            ┏━D. hemicrypta 1
┏┫        ┏┫
┃┃        ┃┗━D. hemicrypta 2
┃┃    ┏┫
┃┃    ┃┗━━D. hemicrypta 3
┃┃┏┫
┃┃┃┗━━━D. hemicrypta 4
┫┗┫
┃    ┃        ┏━D. strydomiana 1
┃    ┗━━┫
┃                ┗━D. strydomiana 2

┗━━━━━━D. brownii

・Cape subclade
このサブクレードは南アフリカ原産です。D. burchelliiは2つの個体でやや遺伝的に距離があるようです。

            ┏━D. stipulosa 1
    ┏━┫
    ┃    ┗━D. stipulosa 2
    ┃
┏┫    ┏━D. mundii 1
┃┣━┫
┃┃    ┗━D. mundii 2
┫┃
┃┗━━━D. burchellii 1

┗━━━━D. burchellii 2

・East Africa subclade
このサブクレードは東アフリカ原産です。D. gillettiiはエチオピア、ケニア原産、D. kituiensisはケニア原産です。

        ┏━D. gillettii 1
┏━┫
┃    ┗━D. gillettii 2

┗━━━D. kituiensis

・D. burchellii subclade
このサブクレードは主に南アフリカ原産です。D. rupicolaは不定形の芋を持ちます。D. buchananiiは分布が広く、南アフリカ、アンゴラ、マラウイ、モザンビーク、タンザニア、ザンビア、ザイール、ジンバブエ原産です。"Bitter Yam"と呼ばれ食用とされます。

        ┏━D. multiloba
┏━┫
┃    ┗━D. rupicola

┗━━━D. burchellii


②Compound Leaves clade
このクレードは熱帯アフリカ原産のものと、アジア~オーストラリア原産のものがあります。D. dregeanaは南アフリカ、モザンビーク、スワジランド原産、D. dumetorumはチャド、コンゴ、赤道ギニア、エチオピア、ガボン、ガーナ、アンゴラ、ベナン、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ、ギニア、ギニアビサウ原産です。D. bulbiferaはニガカシュウの名前で知られています。アフリカからアジア、オーストラリアまで広く分布します。

                ┏━D. dregeana 1
            ┏┫
            ┃┗━D. dregeana 2
        ┏┫
        ┃┗━━D. dregeana 3
    ┏┫
    ┃┗━━━D. dregeana 4
┏┫
┃┃        ┏━D. dumetorum 1
┫┗━━┫
┃            ┗━D. dumetorum 2

┗━━━━━D. bulbifera

③Enantiophyllum clade
このクレードはアフリカ原産です。D. cotinifoliaは南アフリカ、モザンビーク、スワジランド原産で、不定形な滑らかな表面を持つ芋があります。D. schimperianaはアフリカ大陸に広く分布します。

        ┏━D. cotinifolia 1
        ┃
┏━╋━D. cotinifolia 2
┃    ┃
┃    ┗━D. cotinifolia 3

┃    ┏━D. schimperiana 1
┗━┫
        ┗━D. schimperiana 2

African cladeは始新世に始まった旧世界のクレードの一部をなしています。漸新世の間、アフリカは湿潤で密な森林に覆われており、多年草の塊茎とわずかに翼があり滑空する種子が特徴です。中新世の気候変動により、アフリカ東部の草原と南アフリカの地中海性気候、及びケープ植物相が出現しました。乾燥した草原でおきる火事への適応で、コルク質の樹皮が発達したと考えられています。東アフリカでは種子に翼がなく、エライオソームがあることからアリにより運ばれる可能性があります。エライオソームとはアリに運んでもらうための種子についている栄養分で、アリはエライオソームがついた種子ごと巣穴に持ち込みます。アリの巣は地表より湿っていて涼しいので発芽に適しています。しかし、なぜ東アフリカでは風による種子の拡散ではなくなったのかは不明です。ただし、アリによる拡散は他の地域でもおきていることから、割とおきやすい変異なのかもしれません。

DSC_1923
亀甲竜 Dioscorea elephantipes

以上が論文の簡単な要約です。この論文は遺伝子解析結果から種の分岐年代を推定しています。ですから、アフリカにおけるDioscoreaの進化をかつての環境の変動と照らし合わせて、どのように進化したのかを推察しているのです。実は論文の内容は盛り沢山なのですが、様々な議論がされているため要約しきれませんでした。記事があまりにも長くなるためかなり割愛しています。内容が気になる方は、実際の論文を読んだ方が面白いかもしれませんね。


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ベンケイソウ科の最新の遺伝子解析結果を示した2020年の論文、Linnaeus's folly -phylogeny, evolution and classification of Sedum (Crassulaceae) and Crassulaceae subfamily Sempervivoides』を昨日に引き続き解説します。
DSC_1996
昨日の記事に載せた庭の野良セダムとは別種のセダム。こちらもいつの間にか生えてきた野良セダムです。一体どこからやってくるのでしょうか?

ベンケイソウ科は、クラッスラ亜科、カランコエ亜科、センペルビブム亜科に分けられます。
センペルビブム亜科は、まずTelephium cladeがあり、Orostachys, Hylotelephium, Meterostachys, Sinocrassula, Kungia, Phedimus, Rhodiola, Umbilicusが含まれます。次にSempervivumとJovibarbaはひとつのグループをなします。主にヨーロッパ原産です。昨日はAcre cladeについて詳細を解説しました。Acre cladeはほぼセダム属からなりますが、エケベリアやグラプトペタルムが含まれるという驚くべき結果でした。本日は②Leucosedum cladeと③Aeonium cladeの詳細を見てみましょう。


ベンケイソウ科の分子系統
                ┏①Acre clade
            ┏┫
            ┃┗②Leucosedum clade
            ┃
            ┣━③Aeonium clade
        ┏┫
        ┃┗━Sempervivum/Jovibarba
    ┏┫
    ┃┗━━Telephium clade
┏┫
┃┗━━━Kalanchoe亜科

┗━━━━Crassula亜科

②Leucosedum cladeの分子系統
    ┏━━━北米原産種
    ┃
┏┫        ┏Sedum mucizonia
┃┃        ┃※北米・ヨーロッパ原産種
┃┗━━╋Sedum wilczekianum
┫            ┃※北米原産種
┃            ┗Sedum dasyphyllum
┃                      var. glanduliferum
┃                ※北米・ヨーロッパ原産種
┗━━━━ユーラシア大陸原産種


Leucosedum cladeは、Acre cladeとともにセダム属を形成しています。
北米原産種は、Sedum spathulifolium, Sedum spathulifolium subsp. purdyi, Sedum oregonensis, Sedum oreganum, Sedum debile, Sedum pumilaが含まれます。
ユーラシア大陸原産種には、ヨーロッパと北アフリカ原産のSedum brevifolium, Sedum gypsicola, Sedum hirsutum subsp. hirsutum、ヨーロッパとアジアと北アフリカ原産のSedum dasyphyllum, Sedum rubens, Sedum cepaea、ヨーロッパとアジア原産のSedum pallidum, Sedum magellense、ヨーロッパ原産のSedum stefcoが含まれます。
Leucosedum clade最大の問題はユーラシア原産種にPrometheumが含まれていることです。問題部分の分子系統を見てみましょう。

            ┏Prometheum chrysanthum
        ┏┫※アジア原産種
        ┃┗Prometheum serpentinicum
    ┏┫    ※アジア原産種
    ┃┣━Prometheum sempervivoides
    ┃┃    ※アジア原産種
┏┫┗━Prometheum thymphaeum
┃┃        ※ヨーロッパ原産種
┫┗━━Sedum hispanicum
┃            ※ヨーロッパ・アジア原産種
┗━━━Sedum microcarpum
                ※ヨーロッパ・アジア原産種

ご覧の通り、Prometheumは完全にセダムの一部です。もし、エケベリア属やプロメテウム属を温存しようとすると、Acre cladeやLeucosedum cladeは非常に細分化されてしまい、収拾がつかなくなるでしょう。要するにPrometheumはセダムに吸収されるということです。

③Aeonium clade
Aeonium cladeはまとまりのあるグループです。しかし、驚くべきことにここにもセダムが紛れ込んでしまっているのです。分子系統を見てみましょう。
Monanthesはまとまりがまったくないので、Aeoniumに吸収されるか、一部がAichrysonに吸収され種類が減ることになるでしょう。しかし、最大の問題はセダムが混入していることです。


                            ┏Aeonium nobile
                        ┏┫
                        ┃┗Aeonium  decorum
                    ┏┫
                    ┃┗━Aeonium aureum
                ┏┫
                ┃┃┏━Monanthes anagensis
                ┃┗┫
                ┃    ┗━Monanthes polyphylla 
            ┏┫              
subsp. amydros
            ┃┃    ┏━Aichryson palmense
            ┃┃┏┫
            ┃┃┃┗━Aichryson punctatum
        ┏┫┗┫
        ┃┃    ┗━━Monanthes icterica
        ┃┃
        ┃┃        ┏━Sedum jaccardianum
        ┃┗━━┫
    ┏┫            ┗━Sedum surculosum 
    ┃┃                               
var. luteum
    ┃┃            ┏━Sedum pubescens
┏┫┗━━━┫
┃┃                ┗━Sedum caeruleum
┃┃
┫┗━━━━━━Sedum modestum

┗━━━━━━━Hypagophytum
                                       abyssinicum


分類学の属は、まとまりがあることが重要です。Aeonium cladeのセダムを温存するならばエオニウムはセダムに吸収されてしまいますし、エオニウムを温存するならばAeonium clade内のセダムはセダムを名乗ることは出来なくなります。しかし、センペルビブム亜科は、①Acre clade+Leucosedum clade、②Aeonium clade、③Sempervivum+Jovibarba、④Telephium cladeの4つに分かれているように見えます。①Acre clade+Leucosedum cladeがセダム属として、②Aeonium cladeはセダム属ではないとする方が自然に感じます。その場合、Aeonium cladeに含まれるセダムは別の属に移動するか新しい属を新設する必要があります。

さて、以上で論文の簡単な解説は終了です。著者は論文に挑戦的な「リンネの愚かさ」というタイトルをつけました。セダム属は現在の生物の分類体系と学名のシステムを造り上げたCarl  von Linneが1753年に命名しました。しかし、当時のリンネが記載したセダムは現在の分類のあちこちの種類を含んだものでした。これを持って「リンネの愚かさ」であるとしているのです。
しかし、セダムがまとまりのないグループであり、エケベリアなどいくつもの属がセダムに吸収されてしまうかもしれない可能性が出て参りました。これは大変な驚きです。とはいえ、調べられたエケベリアは1種類に過ぎません。少し気になったので調べてみたところ、エケベリアについて調べた論文を見つけましたから、そのうちご紹介したいと思います。


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ベンケイソウ科の植物は手軽な多肉植物として、昔から栽培されてきました。ベンケイソウと言われてもぴんとこないかもしれませんが、ベンケイソウ科にはここ数年大人気のエケベリア属Echeveriaをはじめ、クラッスラ属Crassula、センペルビブム属Sempervivum、セダム属Sedum、カランコエ属Kalanchoe、エオニウム属Aeonium、オロスタキス属Orostachys、アドロミスクス属Adromischus、コチレドン属Cotyledonなどが含まれます。
この内、セダムはベンケイソウ科最大のグループで、約470種が知られています。セダムは日本ではマンネングサなどと呼ばれ昔から栽培されてきましたが、丈夫で耐寒性が高いので屋外で野生化しています。私の自宅にも得体の知れないセダムがいつの間にか生えてきました。本日はそんなセダムを含むベンケイソウ科植物の現在の分類に一石を投じる内容の論文をご紹介します。

論文の経緯として、以下に示す流れがあります。近年の遺伝子解析技術の進展により、多肉植物の分類にも遺伝子解析が応用されるようになりました。最近では多肉植物を遺伝子解析した沢山の論文が出されています。それはベンケイソウ科植物も同様で、沢山の種類があるセダムもデータが蓄積されてきました。

DSC_1997
庭に蔓延る謎のセダム

ご紹介するのは、Thibaud F. E. Messerschmid, Johannes T. Klein, Gudrun Kadereit & Joachim W. Kadereitの2020年の論文、『Linnaeus's folly -phylogeny, evolution and classification of Sedum (Crassulaceae) and Crassulaceae subfamily Sempervivoides』です。論文のタイトルは「リンネの愚かさ」というとんでもないものですが、当たり前ですが内容と関係があります。

論文の内容に入る前に一般的なベンケイソウ科の分類を示します。3つの亜科に分かれており、ほとんどはセンペルビブム亜科に含まれます。
①クラッスラ亜科
    Classula, Tillaea
②カランコエ亜科
    Adromischus, Cotyledon, Kalanchoe, Tylecodon
③センペルビブム亜科
    Aeonium, Sempervivum, Orostachys,
    Sedum, Dudleya, Echeveria, Graptopetalum
    など28属


ここからは論文の内容に移ります。まずは遺伝子解析の結果を示します。クラッスラ亜科とカランコエ亜科は系統の根本にあり、センペルビブム亜科とは分離できています。
センペルビブム亜科は、まずTelephium cladeがあり、Orostachys, Hylotelephium, Meterostachys, Sinocrassula, Kungia, Phedimus, Rhodiola, Umbilicusが含まれます。アジア原産のものが多いようです。ただし、OrostachysとHylotelephium、Meterostachysは明らかに同属です。将来的に統合される可能性が高いでしょう。
次にSempervivumとJovibarbaはひとつのグループをなします。主にヨーロッパ原産です。
Aeonium cladeとLeucosedum clade、Acre cladeについては主題に関わることなので、詳細を見ていきましょう。
ベンケイソウ科の分子系統
                ┏①Acre clade
            ┏┫
            ┃┗②Leucosedum clade
            ┃
            ┣━③Aeonium clade
        ┏┫
        ┃┗━Sempervivum/Jovibarba
    ┏┫
    ┃┗━━Telephium clade
┏┫
┃┗━━━Kalanchoe亜科

┗━━━━Crassula亜科

まずはAcre cladeから見てみましょう。
Acre cladeは世界中に分布します。原産地ごとにグループを作る傾向がありますが、アジア原産種でも2系統あったりします。基本的にAcre cladeはLeucosedumとともに、セダム属のグループです。

Acre cladeの分子系統
            ┏━━北米原産種
        ┏┫
        ┃┗━━Macaronesia原産種
    ┏┫
    ┃┃        ┏Sedum farinosum
    ┃┗━━┫    ※Macaronesia原産
┏┫            ┗Sedum anglicum
┃┃                    ※ヨーロッパ原産
┃┗━━━━ヨーロッパ原産種

┣━━━━━アジア原産種①

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━ユーラシア原産種

┣━━━━━アフリカ原産種

┣━━━━━Sedum multiceps
┃                     ※北米原産
┣━━━━━アジア原産種②

┗━━━━━Sedum acre
     ※ヨーロッパ、アジア、北米原産


アメリカ原産種37種類、Macaronesia原産種2種を調べていますが、Macaronesiaとはヨーロッパや北アフリカに近い大西洋の島々のことです。Macaronesia原産種として、Sedum lancerottense, Sedum nudumが調べられています。
ここはSedumとVilladiaが入れ子状となっています。Sedum①にはSedum plicatum, Sedum reniforme, Sedum andinum, Sedum jurgensenii, Sedum goldmanii, Villadia albifloraが含まれ、Villadia①にはVilladia imbricata, Villadia recurva, Villadia nelsonii, Villadia minutifloraが含まれます。Sedum①とVilladia①は姉妹群で近縁です。しかし、V. albifloraは完全にSedum①に含まれてしまっています。
Villadia②はVilladia①と近縁ではありません。Villadia②はVilladia aristata, Villadia misera, Villadia pringleiが含まれます。つまり、Villadiaはまったくまとまりがない属ですから、おそらくはSedumに吸収されてなくなる可能性が高い属です。
Sedum②はSedum hemsleyanum, Sedum oxypetalum, Sedum guatemalense, Sedum greggiiが含まれます。
EcheveriaとGraptopetalumは近縁ですが、ともにSedumの中に埋め込まれてしまっています。LeucosedumやThompsonellaとともに、Sedumに吸収されてしまう可能性が大です。

Acre clade, 北米原産種の分子系統
                ┏━Sedum①
            ┏┫
            ┃┗━Villadia①
            ┃
            ┃┏━Sedum chloropetalum
            ┣┫
        ┏┫┗━Sedum quevae
        ┃┃
        ┃┣━━Sedum bourgaei
        ┃┃
        ┃┗━━Sedum retusum
    ┏┫
    ┃┣━━━Villadia②
    ┃┃
    ┃┃        ┏Sedum trichromum
    ┃┣━━┫
    ┃┃        ┗Sedum alamosanum
    ┃┃
┏┫┗━━━Sedum alexanderi
┃┃
┃┃            ┏Sedum compactum
┃┣━━━┫
┃┃            ┗Sedum obcordatum
┃┃
┃┗━━━━Sedum oxacanum

┣━━━━━Sedum②

┣━━━━━Sedum palmeri

┣━━━━━Lenophyllum acutifolium

┣━━━━━Sedum versadense

┃            ┏━Echeveria fulgens
┃        ┏┫
┃        ┃┗━Graptopetalum bellum
┃        ┃
┃        ┣━━Sedum clavatum
┃    ┏┫
┃    ┃┣━━Sedum commixtum
┃    ┃┃
┣━┫┗━━Thompsonella minutiflora
┃    ┃
┃    ┗━━━Sedum corynephyllum

┣━━━━━Sedum fuscum

┗━━━━━Macaronesia原産種

その他の地域で調べられた種は以下の通りです。
ヨーロッパ原産種は、Sedum sexangulare, Sedum alpestre, Sedum grisebachii var. horakiiが含まれます。
アジア原産種①は、Sedum erythrospermum, Sedum morrisonense, Sedum nokoense, Sedum formosanum, Sedum alfredii, Sedum emarginatum, Sedum polytrichoides, Sedum makinoi, Sedum baileyi, Sedum bulbiferum, Sedum sarmentosum, Sedum lineare, Sedum triactina, Sedum trullipetalum, Sedum obtrullatum, Sedum oreades, Sedum multicauleが含まれます。
アジア原産種②は、Sedum uniflorum subsp. oryzifolium, Sedum uniflorum subsp. Japonicum, Sedum zentaro-tashiroi, Sedum tosaense, Sedum mexicanum(アメリカにも分布)が含まれます。
アフリカ原産種は、Sedum ruwenzoriense, Sedum mdyeri-johannisが含まれます。
ユーラシア大陸原産種は、Sedum tuberiferum, Sedum borissovae, Sedum apoleiponはヨーロッパ原産、Sedum ursiはアジア原産、Sedum urvillei, Sedum annuum, Sedum laconicumはヨーロッパとアジア原産です。

取り敢えず、Acre cladeについては以上となります。しかし、驚くべきことに、エケベリアがセダムに吸収される可能性が指摘されています。この2020年の論文の意見が採用された場合、センペルビブム亜科は大幅な改変を受けることになるでしょう。おそらくは、Acre cladeはすべてセダム属とされてしまうのではないでしょうか。なぜなら、学名は先に命名された名前を優先とする「先取権の原理」があるからです。
1828年に命名されたEcheveria D.C.より、1753年に命名されたSedum L.が優先されます。将来的にエケベリアという名前は学術的に消滅し、園芸でしか用いられない俗名に零落してしまうのでしょうか?
記事が
長くなってしまいましたので、明日に続きます。


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Uncarinaというマダガスカル島原産の塊根植物が最近販売されるようになりました。Uncarinaはゴマ科の植物で、多くの種類は黄色い花を咲かせます。趣味の園芸の「多肉植物 コーデックス」の巻を購入して読んでいたところ、Uncarinaの交配と採種についての解説があり、初めてUncarinaの不思議な形の果実を知りました。



本の写真ではUncarinaの果実は、返しのついたトゲだらけのやたらに攻撃的なフォルムでした。なぜ、Uncarinaはこのようなトゲだらけの果実を持っているのでしょうか?
一般的に 果実や種子のトゲは動物の毛に付着して運ばれるためにあります。私も子供のころは、オナモミやヌスビトハギの種子が知らない間に服に付いていたこともありました。では、Uncarinaの果実を運ぶ動物はなんでしょうか? この疑問に答える論文が見つかりました。それが、2009年のJeremy J. Midgley & Nicola Illingの『Were Malagasy Uncarina fruits dispersed by the extinct elephant bird?』です。

トゲに被われた果実や種子は2種類あり、体毛に付着する粘着イガと、踏みつけることにより蹄や足に刺さる踏みつけイガとがあります。昔私の服についたオナモミは粘着イガでしょう。では、踏みつけイガとはどういうものでしょうか。知られている例では、Uncarinaに近縁とされるHarpagophytumの果実があります。HarpagophytumはUncarinaとよく似た果実を持ち、その特徴から果実はライオンゴロシ、英語で"devils claw"と呼ばれます。Harpagophytumの果実はダチョウに踏まれてその足につき、ダチョウが走る度に少しずつ壊れて、種子が少しずつこぼれていくそうです。Harpagophytumの果実は丈夫なため、ダチョウの踏みつけがないと種子が出てきません。

実際のUncarinaの果実を観察してみましょう。Uncarinaの果実は熟すと地面に落ちますが、ここが重要です。普通、動物の毛に付着する場合は、地面ではなくてある程度高い場所、つまりは生った状態が好ましいはずです。その場合は植物の近くを動物が通って体が植物に触れれば、果実が自然と付着するはずです。しかし、果実が地面に落ちた場合、踏まれることはあったとしても、自然と毛に付着するのは難しいのではないでしょうか。
また、著者はUncarinaのトゲが大きくてトゲ同士が離れすぎているため、毛に付着するのは難しいのではないかと推察しています。実際に毛に付着する果実や種子は、トゲは小さくてトゲに生えるさらに細かいトゲや毛があるといいます。しかし、Uncarinaの種子は無毛です。
これらの情報から、Uncarinaは粘着イガではないと考えられるのです。

Uncarinaの果実は踏みつけイガである可能性が高いとして、想定される動物像はどんなものでしょうか。まずは、頑丈なUncarinaの果実を破壊できる体重がないといけません。想定される動物は、ある程度大型である必要があります。
現在、マダガスカル島に生息する動物で可能性があるのはキツネザルだけですが、最大のキツネザルであるインドリ(Indri indri)は6~7kgで体重が軽すぎます。大型キツネザルとしては、紀元前に絶滅したArchaeoindris fontoynontiiはゴリラサイズで、体重は200kgに達したと考えられています。ただし、キツネザルは足の裏が柔らかいので、Uncarinaの種子を踏むつけても大丈夫な硬さはないと考えられます。そして、硬い足の裏で踏みつけて、果実が壊されなくてはならないことも重要です。また、巨大キツネザルの化石はUncarinaの分布域からは発見されていません。

著者はUncarinaの果実を運んだのは、"elephant bird"ではないかと考えています。では、
"elephant bird"とはなんでしょうか? 直訳だと「象の鳥」ですが、これは調べてみるとエピオルニス(Aepyornis)という絶滅した鳥のことでした。エピオルニスは高さ3~4m、体重400~500kgになる巨大な飛べない鳥でした。17世紀までは生存していた可能性があるようです。Harpagophytumとダチョウの関係のように、Uncarinaの果実を踏みつけて運んだ可能性があるのはエピオルニスしか候補がありません。

類似した果実を持つUncarinaとHarpagophytumは、ともに巨鳥による踏みつけイガによる種子の分散がおきます。しかし、Harpagophytumはアフリカ大陸原産で、しかもマダガスカルに近いアフリカ東岸には分布しておりません。ですから、踏みつけイガを持つUncarinaとHarpagophytumの共通祖先がアフリカ大陸とマダガスカルに拡散し、アフリカ大陸ではHarpagophytum、マダガスカルではUncarinaに進化したという筋書きは難しいかもしれません。むしろ、アフリカ大陸とマダガスカルで、それぞれ個別に踏みつけイガを進化させただけかもしれません。このように、別々に同じ機能を獲得した場合の進化を、一般に収斂進化と呼びます。

また、Uncarinaは種類によってトゲのサイズが異なります。問題となるのは、Uncarina  leandriiの極端に短いトゲです。7.5mm以下という短さですから、エピオルニスをターゲットとした可能性は低そうです。おそらくは、絶滅したゾウガメにより運ばれた可能性を著者は指摘しています。

というわけで、Uncarinaの種子をばらまく可能性が高い動物はエピオルニスやゾウガメなど、絶滅してしまっていることが明らかになりました。踏みつけ果実は踏みつけられないと頑丈な果実が壊れずに種子がこぼれないため、そもそも種子は発芽しません。運搬者がいないと繁殖が出来ませんから、将来的に絶滅する可能性があります。確かに、Uncarinaの野生個体はそのほとんどが大型個体に片寄っています。しかし、地域によっては、小型の若いUncarinaも確認されています。エピオルニスは絶滅したのにどうしてでしょうか。
わかったこととして、若いUncarinaが見られる地域では、大型のUncarinaは家畜の通り道沿いに点在していることです。そして、牛がUncarinaの果実を踏みつけて運んでいるらしいことがわかりました。自然環境が保全されている地域では果実の運搬者がいないために増えることができず、開発されている撹乱した環境では増えることができるという皮肉な状況と言えます。

以上が論文の簡単な要約となります。
UncarinaとHarpagophytumの収斂進化は、たまたま似ていただけだという結論は、やや唐突な感じがします。しかし、UncarinaとHarpagophytumは近縁ですから、元々果実にトゲなどの装飾が発達しやすい下地は共通していたのかもしれません。そして、巨大な鳥が生息する環境も共通しています。収斂する要素はそれなりにあるのでしょう。
しかし、人の手が入ったことにより個体数を増やすことが可能となった珍しい例です。しかし、農業や牧畜、さらには資源開発が進めば、Uncarinaが育つこともやがて難しくなるでしょう。そもそも、エピオルニスが絶滅したのは人が原因なのですから、Uncarinaからしたら今さらありがたい話でもないでしょうけどね。


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最近、Bowiea volubilisについて少しずつ調べています。Bowieaは葉のないモジャモジャした蔓を伸ばす緑色の玉葱のような球根植物です。アフリカでは薬草として利用されてきたことや、現在はB. volubilisの亜種とされているsubsp. gariepensisについても記事にしました。実際の薬理作用についても気になるところで、良さげな論文がありましたら記事にしてご紹介出来ればと考えております。
Bowieaにはもうひとつ、Bowiea kilimandscharicaという小型種があります。しかし、このB. kilimandscharicaは現在ではB. volubilisと同種とされ、B. kilimandscharicaという学名は異名とされています。しかし、小型であること位しか情報がありません。何か情報はないかと調べても、B. kilimandscharicaについては、何故かよくわかりません。せめて、B. kilimandscharicaが初めて記載された論文を探してはみたものの、1934年に出版されたドイツ語の「Notizblatt des Botanischen Gartens und Museums zu Berlin-Dahlem.」という雑誌らしいのですが、PDF化されていないのか見つかりません。まあ、探し方が悪いだけかもしれませんが…
 
しかし、調べる過程でBowieaを含むアフリカの球根植物の分類に挑戦した論文を発見しました。B. kilimandscharicaの調査は続行するとして、本日はアフリカの球根植物についての論文をご紹介します。

ご紹介するのは、Mario Martine-Azorin, Manuel B. Crespo, Maria Angeles-Vargas, Michael Pinter, Neil R. Crouch, Anthony P. Dold, Ladislav Mucina, Martin Pfosser & Wolfgang Wetschnigの2022年の7月に出たばかりの論文『Molecular phylogenetics of subfamily Urgineoideae (Hyacinthaceae) : Toward a coherent generic circumscription informed by molecular, morphological, and dirtributional data』です。
内容はキジカクシ科Urginea亜科(ヒヤシンス亜科)植物の遺伝子解析による分子系統を構築し、今後の分類の改訂を提案してあるようです。大変力が入った研究で、内容や議論されている内容をつぶさに検討すると、大変なボリュームとなってしまいますから、私の記事では分子系統を示すに留めたいと思います。まあ、球根類には詳しくないので、よく分からないという部分も大なのですが…

Urginea亜科の分子系統
                            ┏Austronea
                        ┏┫
                        ┃┗Fusifilum
                        ┃
                    ┏┫    ┏Boosia
                    ┃┃┏┫
                    ┃┃┃┃┏Fusifilum magnifium
                    ┃┗┫┗┫
                    ┃    ┃    ┗Urginea revoluta
                    ┃    ┃
                ┏┫    ┗Geschollia
                ┃┃
                ┃┣Urgineopsis
                ┃┃
                ┃┣Drimia
                ┃┃
                ┃┣Litanthus
                ┃┃
                ┃┣Schizobasis
                ┃┃
                ┃┣Rhadamanthopsis
                ┃┃
                ┃┃┏Rhadamanthopsis
                ┃┣┫          namibiensis
                ┃┃┗Aulostemon
                ┃┃
                ┃┣Squilla
                ┃┃
                ┃┣Tenicroa
                ┃┃
                ┃┗Rhodocodon
                ┃
                ┃    ┏Ebertia
                ┃┏┫
                ┃┃┗Vera-duthiea
                ┃┃
                ┃┃        ┏Indurgia
                ┣┫        ┃
                ┃┃    ┏┫┏Spirophyllos
                ┃┃    ┃┗┫
            ┏┫┃┏┫    ┗Urginea
            ┃┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┗Iosanthus
            ┃┃    ┃
            ┃┃    ┃┏Sekanama
            ┃┃    ┗┫
            ┃┃        ┗Zulusia
            ┃┃
            ┃┃        ┏Ledurgia
            ┃┃        ┃
            ┃┃    ┏╋Thuranthos
        ┏┫┃    ┃┃
        ┃┃┃┏┫┗Zingela
        ┃┃┃┃┃
        ┃┃┗┫┗Urginavia
        ┃┃    ┃
    ┏┫┃    ┗Sagittanthera
    ┃┃┃
    ┃┃┗Striatula
┏┫┃
┃┃┗Mucinaea
┫┃
┃┗Rhadamanthus

┗Bowiea


馴染みがない名前が多いのですが、南アフリカなどのアフリカの冬型球根としては、Drimia、Urginea、Schizobasisあたりは辛うじて知られています。最近ではケープバルブも見かけるようになってきましたから、聞いたことがあるものもあるかもしれません。しかし、ケープバルブと言っても、要するに南アフリカの冬型球根の総称ですから、分類すると特に近縁ではないいくつものグループが含まれています。この論文では扱われていない種類も沢山あります。

気になるBowieaについてですが、この論文ではB. gariepensisもB. kilimandscharicaも独立種とされています。分子系統を見ると、B. volubilisとB. kilimandscharicaは近縁で、B. gariepensisの2株は少し離れています。現在のところは、B. kilimandscharicaはB. volubilisに含まれてしまい、B. gariepensisはB. volubilisの亜種とされていますが、3種類の関係性は分子系統の結果と符合します。特徴や分布が異なり、生殖隔離もあるようですから、3種は別種としても良いのでないかと思います。そもそも、Bowieaの種の認定を左右する根拠は1987年のBruynsの論文によるものでしょうから、遺伝子解析が発達した近年の研究により改訂されるべきでしょう。この論文は2022年の最新のものですから、今後学名の変更の可能性はあります。ただし、そのためには様々な地域のB. volubilisとB. kilimandscharicaを比較して、B. kilimandscharicaがB. volubilis集団から明瞭に分離できるということが求められるかもしれません。

Bowieaの分子系統
                    ┏B. gariepensis 1
┏━━━━┫
┃                ┗━━B. gariepensis 2

┃    ┏━B. kilimandscharica
┗━┫
        ┗━━━━B. volubilis


以上が論文の内容ですが、本当に一部のみの抜粋です。論文では様々な議論が展開されています。著者は分類群を統合する分類学の流れに対し、意義を唱えています。例えば、一塊の分類群は「教育目的にはより実用的」(Chase et al., 2009)であるとか、分類群は「数が少ないほど扱いがより安定する」(Manning et al., 2004, 2009)と述べられています。しかし、その議論はあまりに推測的で不当ではないか、科学的根拠に欠けるのではないかと、著者は考えているようです。


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ガリエペンシスは蒼角殿の仲間です。学名に関する経緯は以下の通りです。まず、1867年に蒼角殿Bowiea volubilisが命名されました。その後、白花の種類が見つかり、1983年にvan JaarsveldによりBowiea gariepensis van Jaarsv.と命名されました。しかし、1987年(publ. 1988)に蒼角殿の亜種とするBowiea volubilis subsp. gariepensis (van Jaarsv.) Bruyns.とされました。しかし、ガリエペンシスは白花であるだけではなく蔓の色合いなど全体的に違いがあり、一見して別種に思えます。
そんな中、ガリエペンシスを発見したvan Jaarsveldの短いレビューを見つけましたのでご紹介します。2015年に
Ernst Jacobus van Jaarsveldが執筆したBowiea HYACINTHACEAE』です。

内容的にはB. volubilisとB. gariepensisの詳細な特徴を列挙しています。B. volubilisの球根は最大16cmほどで茎は3-4m(最大10m)で、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエ、マラウイ、アンゴラ、南アフリカに分布します。B. gariepensisの球根は最大14cmほどで茎は1.2m程度で、ナミビア南部と南アフリカ北西部に分布します。それ以外にも花の細かい特徴が記載されていますが割愛します。

これは論文ではなく、植物図鑑の解説のようなものですから、記述は短くこの程度の簡単なものです。しかし、van JaarsveldはガリエペンシスがBowiea volubilisの亜種とする意見も示しつつ、本文ではBowiea gariepensisで通しています。学名は一度決まったら不変なものではなく、新たな研究の進展により変わることが度々あります。実際にB. gariepensisがB. volubilisの亜種とされたことを見てもそれはわかります。ですから、ガリエペンシスもいつか亜種ではなく、いつの日か独立種とされる可能性はあるのでしょう。個人的には、単純に外見的な違いだけではなく、分布の隔たりを見るに生殖隔離が既に起きているように見受けられます。何を持って亜種とされたのかわかりませんが、その根拠が気になります。当該論文を上手いこと見つけられればいいのですが…



おまけ

DSC_1842
1984年の『Veld & Flora』に記載されたガリエペンシス。絵自体は1983年に描かれたものですから、初記載時の絵かもしれません。ちなみに、まだこの時は"Bowiea gariepensis Van Jaarsveld, sp. nov."と表記されています。


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蒼角殿は南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、タンザニア、ウガンダ、ケニア、モザンビーク、マラウイ、アンゴラ原産の、モジャモジャしたつるを持つ球根植物です。1867年にHarv. ex Hook.f.により命名されました。

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蒼角殿 Bowiea volubilis Harv. ex hook.f.

蒼角殿には強心作用があるとされていますが、原産地ではある種の薬草として利用されてきた歴史があります。蒼角殿に含まれる有効成分を調べた論文もあるようですが、本日は蒼角殿の薬草としての利用について調査した論文をご紹介します。

本日ご紹介するのは、南アフリカの研究者であるL.J. Ramarumo、A. Maroyi & M.P. Tshisikhaweの『Bowiea volubilis Harv. ex Hook.f. subsp. volubilis : A therapeutic plant species used by the traditional healers in the Soutpansberg Region, Vhembe Biosphere Reserve, Limpopo Province, South Africa』です。2019年に発表された新しい論文です。

論文は南アフリカのLimpopo州Vhembe自然保護区、Soutpansberg地域の伝統的なヒーラーによるB. volubilisの治療への利用を調査したものです。調査はヒーラー133人に対するインタビューにより収集されました。
身近にある植物を薬草として利用は、太古の昔から行われています。世界の人口の80%以上、特に農村地域では健康のために薬草に依存しています。アフリカ南部では4000種類以上の植物が、病気に対して治療薬として利用されているそうです。

B. volubilisは発疹、幼児の駆虫薬。肝感染症、骨盤痛、幼児の黄疸などに使用されました。その薬草としての加工方法も目的により異なります。例えば、発疹にB. volubilisを使用する際は、新鮮な球根をみじん切りにして汁を絞り、これをボディーローションとして1日2回、5日間患部に使用します。肝感染症には、新鮮なB. volubilisの全体を茹でて、Momordica(M. boivinii、M. balsamica、M. cardiospermoides、M. foetida、M. repens)の新鮮な根と一緒に煎じます。これは、1日3回、2ヶ月間薬湯として飲まれます。骨盤痛には、茹でて刻んだ新鮮な球根と、Artabotrys monteiroaeの煎じ薬をトウモロコシ粉と混ぜて粥を作ります。粥として1日2回を1週間食べます。

このように、B. volubilisの利用法についての調査により、薬草としての可能性はあります。しかし、残念ながらB. volubilisの持つ薬理作用に関してはあまりわかっていません。抽出された個別成分の研究はあるようですが、植物そのものが漢方薬のように効果があるかは検証されていません。しかし、B. volubilisが様々な生理活性物質を含んでいることは確かなので、今後の研究に期待したいところです。


最後に、問題はB. volubilisがこのように生薬として様々な用途で利用されるため、個体数が減少して将来的に野生状態での絶滅の可能性があるということです。著者らは栽培の必要性を訴えています。

以上が論文の内容となります。
個人的に驚いたのは、意外にも用途に合わせて加工方法が異なり、他の薬草と合わせて調合されるなど調合方法が複雑なことです。薬草としての長い歴史的な経緯を感じさせます。
また、著者らは栽培の必要性を訴えていますが、栽培した時に野生株と比較して薬効成分が減少しないかは気になるところです。実際にその点を重視して調べた論文もあるようです。Bowiea volubilisの実際の薬理作用についても気になります。今後も注視して行きたいと考えております。


おまけ
DSC_1840
1867年の『Botanical Magazine』に掲載されたBowiea volubilisの図表。この論文によりB. volubilisは正式に新種として記載されました。



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あれは確か2020年のことだったと思いますが、園芸店でたまたま火星人を見かけました。「火星人」とは塊根植物の名前で、本当に火星人が出没したわけではありません。私が見た火星人は、水で膨らむタイプの種まきポットに植えられていて、3cmくらいの鉢に植えられていました。火星人自体はそれほど珍しくありませんが、火星人は巨大に育ちますから、塊根が1cmくらいの小苗は初めてだったので購入しました。まあ、ワンコインだったこともありますが…
まあ、とにかく種まきポットは水はけ等もろもろ良くないので、直ぐに植え替えました。しかし、何故か大量のネジラミが蔓延っており辟易しました。

DSC_0809
今年、植え替えましたが、これは植え替え前。何故か斜めに傾いてます。

DSC_0811
根詰まりの度合いが激しく、鉢を破壊しないと抜くことが出来ませんでした。抜く時に塊根を痛めて乳液が出てしまいました。しかし、塊根が太るのが早い。
あと、ネジラミは根絶していました。


DSC_1707
現在の様子。蔓が暴れていますが、あまり勢いはありません。もう少し遮光強めにした方がいいのでしょうか?

DSC_1706
しかし、火星人の画像を検索すると、塊根の形が縦長に育ったものと、丸く育ったものとがあります。この違いは何が原因でしょうか? 良くわかりません。

火星人はかつてはガガイモ科とされていましたが、現在はキョウチクトウ科に吸収されました。科以下については良くわかりません。NCBI Taxonomy browserでは、Asclepiadoidead、Asclepiadeae、Fockeeaeとされているみたいです。これは、果たしてガガイモ亜科、ガガイモ連、フォッケア(フォクケア)亜連でいいのでしょうか? いまいち自信がありません…
ちなみに、FockeeaeはFockea属とCibirhiza属からなります。

火星人の学名は1895年に命名されたFockea edulis (Thunb.) K.Schum.です。K.Schum.はドイツの植物学者でサボテンの研究で知られるKarl Moritz Schumannのことです。サボテン同好学会(後のドイツ・サボテン学会)の会長でした。
Fockea属とされるまでの経過は以外の通りです。

1794年 Pergularia edulis Thunb.
1819年 Echites edulis (Thunb.) Thunb.
1842年 Chymocormus edulis (Thunb.) Harv.
1895年 Fockea edulis (Thunb.) K.Schum.


ちなみに、火星人には他にも異名があります。
1838年 Brachystelma macrorrhizum E.Mey.
1844年 Fockea cylindrica R.A.Dyer
1933年 Fockea glabra Decne.


Fockea属は1839年に創設されました。Chymocormus属も提唱されましたが、わずか3年差で早く命名されたFockea属が正式な属名となりました。
1839年 Fockea Endl.
1842年 Chymocormus Harv.
かつてFockea属と命名された種は18種類あるとされていたみたいですが、どんどん種が統合されて現在では6種類になりました。F. edulisは南アフリカ原産ですが、ほかの5種は南アフリカからケニアやタンザニアなどのアフリカ大陸東側に分布します。

一応、Fockea属の全種類の命名年と学名のリストを示します。
1839年 Fockea capensis Endl.
1893年 Fockea angustifolia K.Schum.
              Fockea multiflora K.Schum.
1895年 Fockea edulis (Thunb.) K.Schum.
1908年 Fockea comaru (E.Mey.) N.E.Br.
1916年 Fockea sinuata (E.Mey.) Druce




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緑の太鼓(Green drum)はマダガスカル原産のツル植物です。葉が多肉質でコインの様な形をしており、Silver Dollar PlantとかDollar vineなどと呼ばれています。
ツルが増えて鉢が明らかに小さいので、植え替えました。


DSC_1288
ツルが暴れています。鉢が小さいのでバランスが悪く、風が吹くと鉢ごと転がってしまいます。

DSC_1289
抜くと根が回っていました。

DSC_1290
朱泥鉢に植え替えました。プラ鉢より重いので、多少は倒れにくいはず。

そういえば、緑の太鼓はウリ科植物です。ウリ科の多肉植物といえば、大きな塊根を持つGerrardantus やIbervilleaなどがあります。ここいらへんも好きなのですが、あえて買わないことにしています。なぜなら、緑の太鼓のツルは垂れ下がるだけなので場所を取りませんが、GerrardantusやIbervilleaはツルが長く伸びて絡まりつくので、それなりの置場所が必要だからです。残念ながらそんなスペースはありません。

緑の太鼓の分類は、ウリ科Cucurbitaceae、ザノニア亜科Zanonioideae、ザノニア族Zanonieaeです。
ザノニア族にはGerrardantusやZygosicyosも含まれます。ザノニア族は基本的にツル植物です。
ザノニア族は5属が含まれます。XerosicyosとZygosicyosはマダガスカル原産、Gerrardantusは南アフリカや熱帯アフリカ原産です。Zanoniaはインドからニューギニア原産でアジア域に分布します。Siolmatraは南米原産です。


緑の太鼓の学名は1939年に命名された、Xerosicyos danguyi Humbertです。Humbertはフランスの植物学者であるHenri Jean Humbertのことです。


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カンガルーポケットはマレーシアからオーストラリア原産のツル植物です。葉は多肉質で乾燥に耐性があります。乾燥への耐性は、着生植物の特徴です。着生植物は樹木の幹に根で張り付いて育ちます。注意が必要なのは、着生植物は寄生しているわけではないので、樹木から栄養を貰っているわけではないことです。
じゃあなんで着生するのかというと、これは熱帯林に適応するためです。熱帯林は数十メートルの高い木がひしめき合って生えています。そのため、熱帯林の中は非常に暗く、日中でも日が差しません。日本の森林では、下生えで笹なんかが生えていますが、熱帯林は下生えがなく雑草すら生えることが出来ないのです。樹木の幹に着生すれば、地面と異なり日を浴びることが出来るのです。ですから、熱帯林の草本は着生植物が非常に多いのが特徴です。
着生植物は沢山あります。例えばランの仲間、胡蝶蘭をはじめとした洋ランのほとんどの種類は着生植物です。ラン科の約15000種のほとんどが着生植物です。他にもパイナップル科の植物、例えばチランドシアやフリーセア、ネオレゲリアなどが着生植物として有名です。また、熱帯林に生えるリプサリスや孔雀サボテンなどのサボテンも着生植物です。熱帯林ではオオタニワタリやビカクシダなど着生シダも多く見られます。


DSC_0913
やや多肉質の葉を持つ。

DSC_0914
中が中空の大きな袋状の葉も持ちます。袋の中には根が生えています。

ネットでカンガルーポケットを検索したところ、気になる記述が割と目につきました。それは、中空の袋を"貯水嚢"と呼んで、水を貯めるとかいい加減なことが書いてあることです。カンガルーポケットの袋に水を貯める機能はありません。育てている人も、水が溜まっている所を見たことはないはずなんですけどね。不思議です。
この袋の機能は、アリに巣を提供するためのものです。アリが袋の中に巣を作って、アリの出す老廃物から袋内の根で栄養を吸収します。また、アリは巣を守るために、カンガルーポケットの葉を食べる毛虫などの昆虫を攻撃します。熱帯林の着生植物では割とアリと共生するアリ植物は普通に見られます。
カンガルーポケットはアリ植物ですが、日本のアリは入りませんから、そこは安心です。


カンガルーポケットはフクロカズラという名前もあります。海外ではKangaroo pouch、Bladder vineなどの呼び方があります。ポケットではなくポーチですが、やはり袋状の葉からきた名前です。Bladder vineは膀胱のツタという意味ですが、ラグビーボールが豚の膀胱から出来ていた様に、膀胱は生活に利用されてきたことから付いた名前でしょう。日本人にはぴんとこないでしょうけど。

カンガルーポケットの学名は1886年に命名された、Dischidia vidalii Becc.です。学名はペクチノイデスと呼ばれ勝ちですか、これは1912年に命名されたDischidia pectinoides H.Pearsonから来ていますが、こちらは異名で正式に認められている学名ではありません。

そういえば、Dischidiaはガガイモ科とされて来ましたが、遺伝子解析による最新の分類体系であるAPG分類体系では、ガガイモ科はキョウチクトウ科となりました。ですから、現在Dischidiaはキョウチクトウ科に分類されます。


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ソフォラ・プロストラタはニュージーランド原産の低木です。
枝がジグザグに伸びるので、ジグザグの木(マダガスカルのディデイエレア科植物)に似ていますが、ソフォラはマメ科植物です。

DSC_0747
Sophora prostrata Buchanan, 1883 publ. 1884
DSC_0748
数年育てていますが、幹はなかなか太くなりません。まあ、元々つまようじくらいの細さだったので、だいぶ太くなったとも言えます。
これは、‘Little Baby’の名前で売られていたものです。わざわざ品種を作る必要もなさそうですが、ただの商品名かもしれません。

海外の趣味家はかなり肥培しているみたいなので、堆肥をてんこ盛りにして水多目で育てたほうがいいかもしれません。
戸外で越冬できるか試してみましたが、枝先がだいぶ枯れてしまいました。完全戸外栽培はなかなか厳しい模様です。大きくなれば耐寒性もあがるかもしれませんが。

ソフォラ属=クララ属です。クララとはクサエンジュのことで、結構毒性が高いようです。ソフォラ・プロストラタはどうなんでしょうかね?


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英語でSea onion、日本では子持ちオーニソガラムの名前で知られているバルブを紹介します。

子持ちオーニソガラムはバルブ類、つまりは球根植物です。ただし、チューリップなどの球根と異なり球根は土に埋まらず、親球根から仔球根が出来てそれがポロポロ落ちて増えます。薄皮の内側に仔が出来て、薄皮が剥がれると仔球根が出てくる様子から、Pregnant Onion、つまり妊娠中のタマネギと言われることもあるようです。
何故かネットではヨーロッパ原産と書かれることもありますが、南アフリカ原産です。一応、ケープバルブと呼べないこともない気がします。

DSC_0736
上の写真の様に、仔球根が親球根からポロポロ落ちます。

DSC_0738
落ちた仔球根は転がった先で、根と芽を出して育ちます。乾燥に強いので、生着率は高いようです。

DSC_0737
転がった先で育ち、また仔球根を出して増えます。

さて、育て方ですが、これは物凄く簡単です。
地植えして放置でOK。霜に強く、雪が積もっても平気です。
以前は鉢栽培していたのですが、生長が早くよく増えるので、根詰まりを起こしやすいためやや面倒でした。
ただ、路地栽培は簡単で良いのですが、どんどん増えて手に終えなくなる感じはあります。

DSC_0735
増えすぎて困ります。

最後に学名についてです。
Ornithogalum caudatumとされがちですが、正式な学名は異なります。その経緯を解説します。
まず、1777年にオランダのニコラウス・フォン・ジャカンが、Ornithogalum longibracteatumと命名したのが最初のようです。ジャカンは神聖ローマ皇帝のフランツ1世により西インド諸島の調査を行った人物で、モーツァルトの友人とのことです。ちなみに、グランカクタスの佐藤勉さんが書いた『世界の多肉 3070種』ではこの学名を採用しているみたいで、和名は海ネギとなっています。ただし学名はOrnithogalum lonqibracfcatumと盛大な誤植があります。
1789年にジャカンにより、学名はOrnithogalum caudatumに変更されました。同年、スコットランドの植物学者であるウィリアム・エイトンにより、やはりO. caudatumとされました。
その後、1794年にスウェーデンの植物学者・博物学者・医学者であるカール・ペーテル・ツンベルクにより、Ornithogalum bracteatumとされました。ツンベルクは二名式学名の提唱者であり現代分類学の祖であるカール・フォン・リンネの弟子であり、鎖国下の日本にも来て出島に滞在しました。ツンベルクに献名されて命名された日本の植物の学名も沢山あり、種小名がthunbergiiとあるユキヤナギ、ハルリンドウ、タブノキ、クロマツ、ユウスゲなどがあります。
2009年に遺伝子解析の結果を踏まえ、Ornithogalum属からAlbuca属に移動となりました。つまり、Albuca bracteataです。この学名は、ツンベルクの学名を正当として命名されました。ですから表記上、Albuca bracteata (Thunb.) J.C.Manning & Goldblattが正式名称です。J.C.Manning & Goldblattは、南アフリカの植物学者であるジョン・チャールズ・マニングとピーター・ゴールドブラットのことです。


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