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カテゴリ: アロエ・ハウォルチア

多肉植物の受粉に関する研究を度々ご紹介してきました。その中で気になったのはタイヨウチョウの存在です。タイヨウチョウはアフリカに分布する花蜜専門の鳥です。しかし、過去にご紹介した論文では、タイヨウチョウが花に訪れても受粉に寄与せず、ただの蜜泥棒になっているというのです。それらの論文は主に巨大アロエの受粉についてでした。では、タイヨウチョウにより受粉する植物とは何でしょうか? 気になって調べたところ、タイヨウチョウが受粉に寄与するかを調査した論文を見つけました。それは、A. L. Hargreavesらの2019年の論文、『Narrow entrance of short-tubed Aloe flowers facilitates pollen transfer on long sunbird bills』です。

植物が複数の生態に特化することはほとんどないため、trade-offは生態学的特化の進化における主要要因と考えられています。つまり、特定の花粉媒介者に最適化して受粉効率を高めると、他の花粉媒介者に対する効率は低下します。それは、花粉媒介者により大きさや行動が異なるためです。しかし、2つの花粉媒介者に対する効果的な形態の中間をとる二峰性受粉システムも報告されています。

ミツバチに最適化した花は短い花冠と少量の濃縮された蜜持ち、タイヨウチョウのような蜜食性の鳥に最適化した花は細長い花冠と豊富で希薄な蜜を持ちます。一般的に赤い花の大型アロエは鳥媒花でありミツバチは蜜泥棒となります。白色や薄ピンクの花を持つ小型アロエの花はミツバチの受粉に特化しています。黄色の花を持つ中型のアロエはタイヨウチョウとミツバチにより受粉する可能性があります。

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Aloe kraussii
『Natal plants』(1902年)より。


著者らはAloe kraussiiを研究しました。これまでのフィールドワークでは、A. kraussiiにはマラカイトタイヨウチョウ(Nectarinia famosa)やアメジストタイヨウチョウ(Chalomitra amethystina)と、複数種のミツバチが定期的に訪問していることが確認されています。これらのタイヨウチョウは2.5cmのクチバシを持ち、さらに1cmの舌を伸ばすことが出来ます。
さて、タイヨウチョウが花にアクセス出来ないようにアロエの花をケージで囲むと、ミツバチが盛んに採蜜し効果的に受粉することが確認されています。しかし、ミツバチを排除してタイヨウチョウだけの効果を確認出来ないため、A. kraussiiに対するタイヨウチョウの受粉は不明です。タイヨウチョウの長いクチバシに対してA. kraussiiの花は短く、タイヨウチョウの顔に花粉はつかないことが想定されます。マラカイトタイヨウチョウのクチバシは30〜40mm、アメジストタイヨウチョウのクチバシは25〜35mm、A. kraussiiの花冠の深さは10.7mmですから、タイヨウチョウのクチバシは花の2倍以上の長さがあります。


著者らはマラカイトタイヨウチョウを捕獲し、鳥小屋に入れてA. kraussiiの花を置き採蜜させました。タイヨウチョウが採蜜した後に、花粉を除去したA. kraussiiの花を採蜜させ、柱頭に花粉がついたかを確認しました。すると、柱頭には大量の花粉が付着しており、タイヨウチョウがA. kraussiiの受粉に寄与していることが分かりました。また、A. kraussiiの花は先端がすぼまる形をしていますが、人為的にすぼまる花を開いてから同様の試験を行うと、柱頭への花粉の付着は減少しました。採蜜後のタイヨウチョウから花粉を回収すると、タイヨウチョウのクチバシから207
粒の花粉が付着していました。人為的に開いた花を採蜜したタイヨウチョウからは、85粒の花粉が回収されました。
一般的に鳥の花粉媒介は頭に付着した花粉を研究対象としています。滑らかで硬いクチバシは花粉が付着しにくいと考えられるからです。しかし、A. kraussiiではクチバシによる花粉媒介が出来るようです。A. kraussiiは花の短さによりミツバチによる受粉を可能とし、花の先端がすぼまることによりタイヨウチョウより短い花でも受粉が可能となっているようです。以上のことにより、A. kraussiiはミツバチとタイヨウチョウの二峰性受粉システムであることが確認されました。しかし、ミツバチとタイヨウチョウの受粉への寄与の具合は、この試験では分かりません。

以上が論文の簡単な要約です。
花に様々な動物が訪れても大抵は盗蜜か花粉を食べに来たりしていて、有効な花粉媒介者以外はほとんど受粉には寄与しないことが多いように思われます。それは、花の大きさや色、形、開花時間などにより規定されます。例えば、夜間に咲くカップ状の柱サボテンの白く大きい花はコウモリ媒、筒状で赤いサボテンの花はハチドリ媒という風に、花と花粉媒介者には一定の組み合わせがあります。しかし、論文のような二峰性受粉システムは、本来は異なる受粉システムを両取りしている上手い方法です。花粉媒介者が常に安定とは限りませんから、どちらかが減少しても受粉数の減少を最低限に留めることが可能になるのかも知れませんね。



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花は甘い蜜を分泌しミツバチなどの花粉媒介者を引き寄せ、受粉し結実します。しかし、世界には苦い花蜜も存在すると言うのです。非常に不思議です。なぜ、苦い蜜を出すのでしょうか? さらに気になるのは、その苦い蜜を訪れる花粉媒介者とは何者なのでしょうか?
本日はSteven D. Johnsonらの2006年の論文、『DARK, BITTER-TASTING NECTAR FUNCTION AS A FILTER OF FLOWER VISITORS IN BIRD-POLLINATED PLANT』をご紹介します。


色のついた蜜
Aloe vryheidensisは南アフリカ原産の高さ2mの多肉低木ですが、その花の蜜は暗褐色で苦味があります。花蜜は花粉媒介者を呼び寄せますが、動物種により好む蜜の量と濃度は異なります。そのため、その組み合わせにより好ましい花粉媒介者のみを選別するためのフィルターとして機能します。しかし、蜜の量と濃度の組み合わせは厳密なものではなく、ミツバチは鳥媒花にもよく訪れて採蜜します。色のついた蜜はアルカロイドやフェノールなどの二次化合物を含み、その味が決定的な選別のためのフィルターとして作用を果たしている可能性があります。例えば、ノウゼンカズラ科のCatalpa speciosaの花蜜にはイリドイド配糖体が含まれ、アリや蝶などの蜜泥棒を排除する一方、ミツバチには影響を与えませんでした。二次化合物は外観や味、消化率を変化させる可能性があります。
南アフリカではAloe spicata、Aloe castanea、Aloe vryheidensisの3種類のアロエが、人間にとって独特の苦みがある暗赤褐色の蜜を持ちます。この色と味はフェノール化合物によるものです。


花への訪問者
研究はKwaZulu-Natal州のLouwsberg近くにあるiGwala Gwala動物保護区において、Aloe vryheidensisの開花個体200株からなる個体群が観察されました。観察中に8種類の鳥がA. vryheidensisの花を訪問しました。訪れたのは、主にルリガシライソヒヨ(Cape Rockthrushes)、マミジロサバクヒタキ(Buffstreaked Chats)、ホオグロカナリア(Streaky-headed Canaries)、ケープメジロ(Cape White-eyes)、サンショクヒヨドリ(Dark-capped Bulbuls)でした。これらの鳥はかなりの量の花粉を顔につけていることが確認されました。また、これらの鳥は蜜食専門ではないという共通点があります。逆に蜜食専門のタイヨウチョウは調査地に3種類豊富に生息していますが、A. vryheidensisの花を訪れたのはオオゴシキタイヨウチョウ(Greater Double-collared Sunbird)のみで、しかも観察されたのはわずかに1羽で訪問も短時間でした。
A. vryheidensisの花には複数種のミツバチが頻繁に訪れましたが、採蜜行動は観察されず花粉の採取を行いました。
A. vryheidensisの花にメッシュをかけて鳥が採蜜出来ないようにしたところ、メッシュをかけない花より種子生産数が減少しました。

苦い蜜に対する鳥の反応
飼育環境下の鳥に砂糖水とA. vryheidensisの蜜を与えたところ、鳥の種類により反応が異なりました。ヒヨドリは両者を区別しませんでした。メジロは砂糖水を好みましたが、A. vryheidensisの蜜の73%を消費しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を強く拒否しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を与えると、クチバシを引っ込めて激しく首を振りました。メジロは蜜を吸うと後ずさりして首を振りましたが、その後は蜜を飲み続けました。ヒヨドリは特に反応は示しませんでした。また、ミツバチにA. vryheidensisの蜜を与えたところ、強く拒絶されました。

蜜泥棒を防ぐ
花蜜の主な機能は花粉媒介者を引き寄せることですから、苦い味の蜜は矛盾しているように思えます。しかし、有効な花粉媒介者さえ妨げなければ、受粉に寄与しない花への訪問者を減らすことが出来ます。受粉に寄与しない訪問者は花蜜を枯渇させるだけです。ミツバチやタイヨウチョウといった蜜食専門の訪問者にとっては明らかに不快であり、A. vryheidensisにとっては望ましくないはずです。
花にメッシュをかけて鳥の採蜜を妨害した場合、受粉率が低下することから、A. vryheidensisの有効な花粉媒介者は鳥でしょう。しかも、タイヨウチョウは基本的にA. vryheidensisには訪花せず、剥製を用いたシミュレーションでは、タイヨウチョウはクチバシが長く細いため、花粉媒介者としては適していないと考えられます。また、メッシュにより受粉率は低下しましたが、ある程度の受粉への貢献はあるようです。しかし、これは単純にミツバチが非常に豊富で、訪花回数が鳥の数百倍多かったからだと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本来は甘い蜜が苦いというのは驚きです。苦みで花粉媒介者を選択して、盗蜜を防いでいるのです。しかし、植物の花は蜜に限らず、その形や構造で花粉媒介者を選択することは珍しいことではありません。様々な工夫がある中で、蜜の苦みは非常に優れた方法と言えるでしょう。
今回、蜜食のスペシャリストであるタイヨウチョウは、有効な花粉媒介者とは見なされませんでした。そう言えば、過去の論文ではAloe feroxの花に訪れるタイヨウチョウは雄しべや雌しべにまったく触れないで盗蜜する様子が観察されています。ヒヨドリなどの鳥は、蜜を専門としていないジェネラリストです。このような鳥は、採蜜が洗練されておらず、頭を花に突っこんでしまうため、顔に大量の花粉をつけることになります。おそらくは、A. vryheidensisの盗蜜の排除は、地域に豊富に存在するタイヨウチョウなのでしょう。訪れたミツバチの種類は不明ですが、おそらくは外来種である西洋ミツバチがかなりいたと推測します。西洋ミツバチがいない本来の環境ならば、単独性のミツバチが少し来るくらいだったのではないかと思います。まあ、いずれにせよ、ミツバチはA. vryheidensisからは採蜜しないので、それほどの脅威ではないのかも知れませんね。


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植物にとって花は繁殖のための非常に重要な器官です。さらに、植物の分類は花の形式を基準に発展してきました。ですから、植物にとっても学者にとっても花は重要なものと言えます。花の受粉は植物と花粉媒介者との相互作用により成立しています。植物の種類ごとに受粉形式は異なる可能性があります。しかし、残念ながら植物の受粉形式については、その重要さに関わらず、それほど詳しく調査されているわけではありません。
本日はアロエの受粉についてご紹介しましょう。それは、C. T. Symesらの2009年の論文、『Appearance can be deceiving: Pollination in two sympatric winter-flowering Aloe species』です。アロエの受粉生物学については非常に未熟で、ほとんど明らかとなっておりません。Aloe feroxやAloe marlothiiなどの巨大アロエは鳥媒花であることは判明していますが、その事実が他のアロエにも通用するのでしょうか?


花粉媒介者のタイプを予測するための受粉シンドローム(※1)の信頼性は疑問視されるようになり、多くの植物では複数種の花粉媒介者が関与している可能性があります。

※1 ) 受粉シンドロームとは、花粉媒介者に合わせて花の形式を適応させること。特定の相手との関係が想定される。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


かつて、Aloe feroxは虫媒花であると予測されたことがありました。ミツバチは非常に豊富なためです。しかし、実際にはミツバチはAloe feroxの受粉にはほとんど寄与しないことが明らかとなりました。もし、その花に様々な訪問者が来たとしても、それらの訪問者が重要な花粉媒介者ではないかも知れません。一部のアロエの花粉媒介者が確認されたのは最近のことです。しかし、アフリカ熱帯地域の約450種類のアロエは、未だに花粉媒介者が確認されておりません。野外実験と観察が必要です。

著者らは南アフリカ北部および北東部に生える2種類のアロエに着目しました。調査地は夏に降雨があり、アロエは乾燥した冬に開花します。1つは高さ6mにもなるAloe marlothiiで、岩の多い北向きの斜面に生えます。目立つオレンジ色から赤色の管状花は、様々な鳥を惹きつけます。もう1つは、あまり目立たない斑点のあるAloe greatheadii var. davyanaは、岩だらけの地形や草原で育ちます。サーモンピンクから赤色の花を咲かせます。過放牧地域に密集して生えます。

A. marlothiiの花の蜜は希薄(12%)で多量(250μL)ですが、A. greatheadii var. davyanaの花の蜜はより高い濃度(21%)で少量(33μL)です。一般に蜜の濃度が低い場合(8〜12%)は一般的な日和見な鳥(※2)を惹きつけ、蜜が少量(10〜30μL)、および高濃度(15〜25%)の花はハチドリやタイヨウチョウなどの花蜜専門のスペシャリストが訪れます。一般的な傾向からすると、A. marlothiiには日和見な鳥が訪れ、A. greatheadii var. davyanaはスペシャリストであるタイヨウチョウが訪れることにより受粉することが考えられます。


※2 ) 日和見な鳥とは、花蜜を専門としない様々なエサを食べる鳥のこと。花蜜に特化したタイヨウチョウはスペシャリストであるのに対し、日和見な鳥はジェネラリストと言える。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


著者らは、アロエの花にネットをかけて花粉媒介者を妨害してみました。1つは昆虫は入ることが出来ますが、鳥は入れない網です。もう1つは、ネットをかけていない花を比較のために観察しました。
A. marlothiiの場合、ネットをかけていない花と比較すると、昆虫は入れるネットをかけた花はほとんど受粉しませんでした。つまり、A. marlothiiの花は、昆虫による花粉媒介はほとんどおこらず、主に鳥により受粉することが想定されます。
対してA. greatheadii var. davyanaの場合、ネットをかけていない花と、昆虫は入れるネットをかけた花はほぼ同じくらい受粉しました。つまり、A. greatheadii var. davyanaは、受粉は昆虫により行われ、鳥による受粉はほとんどおきていないことが想定されます。


A. marlothiiの花には、2種類のタイヨウチョウを含む39種類の鳥が訪れました。日和見の鳥は顔や体に花粉が付着しましたが、タイヨウチョウでは花粉はクチバシの先端にのみ付着し、A. marlothiiにおける花粉媒介者としての貢献度は低下していることを示唆します。
A. greatheadii var. davyanaの花には、2種類のタイヨウチョウを含む11種類の鳥が訪れました。花を訪れたほとんどの鳥は、A. greatheadii var. davyanaの垂れ下がった筒状の花よりクチバシが短く、花蜜にアクセスしにくいため花を破壊する行動も見られました。また、花を訪れたタイヨウチョウの顔に花粉は確認されませんでした。

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Aloe davyana
『Jounal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。現在、Aloe greatheadii var. davyanaは、独立種であるAloe davyanaとされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。
A. greatheadii var. davyanaの花には鳥も訪れますが、その受粉への寄与はどうやら低いようです。タイヨウチョウは花蜜に特化しているだけに、雄しべや雌しべに触れないで蜜のみを抜き取る盗蜜を行います。タイヨウチョウで受粉するのは、タイヨウチョウに適応した花だけです。A. feroxの受粉はタイヨウチョウではなく日和見な鳥であるというのもその結果です。もしかしたら、A. marlothiiもタイヨウチョウの受粉への寄与は少ないかも知れません。
最初に述べた通り、アロエの花粉媒介者はまだまだ謎だらけです。同じ地域に生え同じ時期に咲くアロエでも、花粉媒介者は異なるのです。研究が進展したら、未だに知られていない面白い受粉形式が存在するかも知れません。今後が楽しみな研究分野ですね。


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植物の繁殖にとって花は重要です。しかも、花の受粉様式は非常に多様で、花粉媒介者の相互作用など非常に複雑なメカニズムが存在し、その全容が明らかとなっているとは言えません。さらに、受粉後の種子散布については、それ以上に調べられていないように感じられます。最近では私もそのあたりが気になっており、ポツポツと少しずつ記事にしてきました。本日はアロエの種子に関する話です。それは、C. T. Symesの2011年の論文、『Seed dispersal and seed banks in Aloe marlothii (Asphodelaceae)』です。
アロエの種子には羽があって風で運ばれると言われますが、実際にはどうなのでしょうか? また、発芽せずに土壌中で環境が良くなるまで待つ「貯蔵種子」(Seed bank)は存在するでしょうか? 

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Aloe marlothii
『Curtis's botanical magazine』(1913年)より。


Aloe marlothiiは、南アフリカの草原とサバンナに広く分布する、冬に開花する多肉植物です。多くの個体は、岩の多異北向きの斜面や山岳地帯に生えます。A. marlothiiは最大6mに達する大型のアロエで、乾燥した冬に豊富な蜜を出すことから、様々な鳥のエネルギー源として重要です。よって、A.marlothiiは鳥により受粉しますが、その種子の散布についてはほとんど知られていません。
調査地のSuikerbosrand自然保護区は、標高1600〜1700mで、数百から数千のA. marlothiiが生育しています。自然保護区では、落雷などにより火災が発生することがあります。2003年9月におそらく送電線のアーク放電により発火し、自然保護区の西側の一部、約349ヘクタールが焼失しました。自然保護区内のアロエ林は激しく燃え、約1ヘクタールのアロエが死滅しました。その後、焼失地域には4mほどの枯れたアロエの茎が残り、雑草が生い茂りました。この焼失地域で、アロエの再定着を監視しました。
しかし、新しいアロエの苗は、焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後にのみ出現しました。さらに、焼失地域の土壌を採取して温室内で貯蔵種子の発芽試験を行いましたが、貯蔵種子の発芽は1本しかありませんでした。焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後には、焼失地域から採取された土壌の発芽試験では実生が生えて来ました。
つまり、A. marlothiiには貯蔵種子は基本的にないということが分かります。さらに、焼失地域外から種子が運ばれていることが分かります。A. marlothiiに良く似ているA. feroxは、高さ3mの高さから羽のある種子が30mも飛散すると言うことですから、焼失地域の発芽した種子は、ほとんどが焼失地域外から飛散してきたものなのでしょう。アロエの種子は柔らかく保護膜はほとんどなく、発芽は春の最適な環境次第と考えられます。条件が悪ければ発芽しませんが、種子の寿命が短いため翌年に発芽する可能性はほとんどありません。

以上が論文の簡単な要約です。
過去の研究では、他の種類のアロエの種子の寿命は1年とは言えないことが判明しています。しかし、A. marlothiiは貯蔵種子を持ちません。何故なのでしょうか? 少し考えてみます。
A. marlothiiのような巨大アロエは蓄積した資源量が多いため、毎年大量の種子を生産してばらまくことになります。わざわざ、耐久性のある種子を作る意味がないのかも知れません。ところが、火災に見舞われやすい地域であると言うことを考えると、貯蔵種子があった方が有利な気もします。しかし、長距離に拡散可能な種子であることから、わざわざ貯蔵種子を準備する必要はないのかも知れません。

しかし、火災の発生源は送電線のアーク放電による可能性があるとのことで、故意ではないとは言え人為的なものです。しかし、現在A. marlothiiのような巨大アロエの最大の敵は、火災ではないようです。近年、各地の自然保護区では、サイなどの希少動物の再導入が行われています。希少なアフリカゾウやクロサイが増えていることは素晴らしいことですが、まったく問題が起きていないわけではありません。これらの大型草食動物の採食によりA. marlothiiは急激に減少しています。一度崩れた生態系のバランスは、簡単にはもとには戻らないということかも知れませんね。


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Aloe florenceaeが開花しました。マダガスカル中部原産のアロエで、2004年に新種として記載された割と新しい種類です。 
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本体のサイズからしたら、花茎はとても長いですね。

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Aloe florenceaeの花は、花茎の先端に固まってつきます。しかし、なんとも微妙な色合いの花です。アロエは鳥により受粉する鳥媒花と言われますが、アロエ研究は大型アロエが中心で、アロエの受粉には謎が沢山あります。かつて、小型アロエであるAloe minimaとAloe linearifoliaは、ミツバチにより受粉することを明らかにした論文をご紹介したことがあります。
以下な記事をご参照下さい。

では、このAloe florenceaeの花を訪れる花粉媒介者はなんでしょうか? この場合、花が小さい筒状なので、タイヨウチョウが蜜を吸いに来る可能性はあります。しかし、花の色合いは淡く、赤系が多い鳥媒花らしくはありません。
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花の形を見てみましょう。白に緑色のラインがあるのは、ハウォルチアに似ています。ハウォルチアは虫媒花ですから、Aloe florenceaeも虫媒花かも知れません。まあ、サイズはこちらのほうが大きくはあります。問題は花の長さで、Aloe florenceaeの花は長さが2.5cmもあります。しかも、先端がすぼまるため、ミツバチではやや難しそうです。ここで、他の過去記事を見てみましょう。
この記事でご紹介した論文では、Tritoniopsis revolutaという植物は根元が筒状の花を咲かせます。筒状の部分の長さは産地により14〜84mmと差があり、最大71mmに及ぶ口吻を持つナガテングバエが花粉を運ぶと言われていました。しかし、ナガテングバエは数が少なく毎年の発生数は安定しません。詳しく調べると、短い花はミツバチにより受粉していることが分かりました。ミツバチの口吻は最大8.6mmでした。花に頭を潜り込ませれば、なんとか蜜を吸えそうです。
では、Aloe florenceaeはどうかと言うと、長さが2.5cmもあり、先端がすぼまるため頭を潜り込ませることも難しいように思えます。相当口吻が長くないと蜜を吸うことは出来ないでしょう。しかし、ミツバチは種類により口吻の長さが異なるはずです。知っている中では、口吻の長いシタバチという仲間がいますが、調べてみるとアメリカ大陸原産のようです。マダガスカル島に口吻の長いミツバチがいるかは分かりませんが、中々厳しそうです。
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青白く美しいアロエです。小さいため、まだ咲かないと思っていました。

ここで、試しに匂いを嗅いでみました。すると、なんと甘い香りがします。一般的に花の匂いは鳥を呼びません。匂いがあり色が薄い花は蛾が訪れる花の可能性が高いとされています。確かに蛾であるならば長い口吻で蜜を吸うことが可能です。
長い口吻の蛾と言えば、キサントパンスズメガがまず思い起こされます。進化論で知られるかのチャールズ・ダーウィンは、長い距(蜜が溜まる部分)を持つマダガスカル原産の蘭(Angraecum)の標本を見て、この花の蜜を吸える長い口吻を持つ蛾がいることを予言しました。それから、40年以上経ち、なんとマダガスカルから28cmの口吻を持つキサントパンスズメガが発見されたのです。つまり、長い口吻を持つ蛾は存在し、しかもマダガスカルにいるのです。もちろん、キサントパンスズメガは蘭の長い距に対応していますから、Aloe florenceaeの花粉媒介者ではないでしょう。しかし、長い口吻を持つ蛾、それもおそらくホバリング出来るスズメガの仲間がAloe florenceaeの花粉媒介者である可能性があります。
さて、記事を書いているうちに、Aloe florenceaeの新しい花が日が落ちた頃にまた1つ開花しました。夕方以降に開花するというも、夜に訪れる花粉媒介者をターゲットとしているからでしょう。そして、花の香りも昼よりも強くなっています。これは、夜間のほうが香りが強いのか、新しい花ほど香りが強いのかは分かりません。しかし、いずれにせよ、夜に花粉媒介者を呼び寄せていることは明らかでしょう。いよいよ蛾媒である可能性が高まりましたね。
というわけで、根拠のない怪しげな当て推量をダラダラと書き連ねましたが、確認方法はないわけではありません。野外で花を夜の間撮影して、蛾が来るか確かめれば良いのです。まあ、現在は撮影機材がないので出来ませんし、Aloe florenceaeの花の匂いに日本の蛾が引き寄せられるかも分かりません。しかし、最終的にはマダガスカルの自生地でAloe florenceaeの花に来た花粉媒介者を観察し、実際に受粉して種子が出来るかを確認しないとならないでしょう。これは出来そうにありませんから、研究者の頑張りに期待するしかありませんけどね。


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アロエ属は2010年代前半に大幅な改訂が順次行われました。アロエ属からの分離と、アロエ属に近縁な仲間のアロエ属への統合という出来事が行われ、ハウォルチアやガステリアも絡めて整理されたのです。しかし、名前が変わってしまうと、過去に様々な文書に書かれた植物名と矛盾してしまうため、それらの文書は改訂が必要となります。その中でも特に急務なのはワシントン条約(CITES)でしょう。CITESは絶滅が危惧される動植物の国際取引を規制していますから、植物名が変わったことにより混乱をきたす可能性があるからです。そのため、アロエ属の改訂に伴い、研究者からCITESへの勧告が行われてました。それは、Olwen
M. Grace & Ronell R. Klopperの2014年の論文、『Recommendation to the CITES Plants Committee: Name changes affection Aloe and related genera』です。アロエ属の改訂に関しては、当ブログでも度々取り上げてきましたから今更かも知れませんが、その過程や勧告も重要と思い今回ご紹介する次第です。


Aloe L.は、アフリカ大陸、アラビア半島、ソコトラ島、マダガスカル、インド洋のセイシェル、マスカリン、コモロ諸島に約575種類自生します。いくつかのアロエは地中海やインド、南北アメリカの一部、カリブ海、オーストラリアに侵略的、あるいは帰化しています。多くの多肉植物と同様にアロエも愛好家により収集され、園芸的に広く使用され取引されます。

系統学的研究により、アロエ属には変更が加えられました。アロエ属に含まれていた種から、Aloidendron属、Aloiampelos属、Kumara属が独立し、逆にChortolirion属がアロエ属に統合されました。
変更は以下の通り。

1, Aloiampelos ciliaris
 旧学名
    Aloe ciliaris
2, Aloiampelos ciliaris var. redacta
 旧学名
    Aloe ciliaris var. redacta
3, Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii
 旧学名
    Aloe ciliaris var. tidmarshii
    Aloe tidmarshii
4, Aloiampelos commixta
 旧学名
    Aloe commixta
5, Aloiampelos decumbens
 旧学名
    Aloe gracilis var. decumbens
    Aloe decumbens
6, Aloiampelos gracilis
 旧学名
    Aloe gracilis
7, Aloiampelos juddii
 旧学名
    Aloe juddii
8, Aloiampelos striatula
 旧学名
    Aloe striatula
9, Aloiampelos striatula var. caesia
 旧学名
    Aloe striatula var. caesia
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Aloiampelos striatula var. caesia

10, Aloiampelos tenuior
 旧学名
    Aloe tenuior
11, Aloidendron barberae
 旧学名
    Aloe barberae
    Aloe bainesii
12, Aloidendron dichotomum
 旧学名
    Aloe dichotoma
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Aloidendron dichotomum

13, Aloidendron eminens
 旧学名
    Aloe eminens
14, Aloidendron pillansii
 旧学名
    Aloe pillansii
    Aloe dichotoma subsp. pillansii
15, Aloidendron ramosissimum
 旧学名
    Aloe ramosissima
    Aloe dichotoma var. ramosissima
    Aloe dichotoma subsp. ramosissima
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Aloidendron ramosissima

16, Aloidendron tongaensis
 旧学名
    Aloe tongaensis
17, Kumara plicatilis
 旧学名
    Aloe plicatilis
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Kumara plicatilis

18, Aloe welwitschii
 旧学名
    Haworthia angolensis
    Chortolirion angolense
19, Aloe subspicata
 旧学名
    Haworthia subspicata
    Chortolirion subspicatum
20, Aloe barendii
 旧学名
    Haworthia tenuifolia
    Chortolirion tenuifolium
    Aloe tenuifolia
21, Aloe juppeae
 旧学名
    Chortolirion latifolium
    Aloe aestivalis

以上が勧告の内容です。
アロエ属は大きく様変わりしました。しかし、この勧告の後も改訂は続きました。簡単に解説しましょう。
1つは、マダガスカルやマスカリン諸島に分布するLomatophyllum属が、アロエ属に吸収されたことです。現在では、Lomatophyllum属に含まれていた種類同士が必ずしも近縁ではないことが明らかとなっています。
2つ目は、2014年のGonialoe属の独立です。Gonialoe属は旧学名Aloe variegataなど、3方向に葉を揃えて出すほぼトゲのないアロエで、現在3種類が認められています。また、新種が発見されていますが、学術的な検証はこれからでしょう。
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Gonialoe sladeniana

3つ目は、2014年のAristaloe属の独立です。Aristaloe属は旧学名Aloe aristataのみからなる1属1種のアロエです。
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Aristaloe aristata

4つ目は、2019年にAloestrelaが追加されたことです。これは、Aloe suzannaeがAloestrela suzannaeとして独立したものです。しかし、同じく2019年のPanagiota MalakasiらのAloidendron属の遺伝子を解析した論文では、Aloestrela属は明らかにAloidendron属に含まれることが分かりました。まだ、データベースではAloestrela属は健在ですが、いずれAloidendronとされるかも知れません。また、2014年に新規にAloidendron属とされたAloidendron sabaeumは、同論文ではAloidendron属ではなくAloe属であるとしています。こちらもこれから検証されるのでしょう。

その他の細々とした変更や追加についても、少し触れておきましょう。1つ目は、2014年にAloe haemanthifoliaがKumara haemanthifoliaとされました。2つ目は、上の一覧のNo. 20のAloe barendiiですが、現在ではAloe bergerianaとされています。ちなみに、Chortolirion tenuifolium、Chortolirion bergerianum、Chortolirion stenophyllumは同種とされ、Aloe bergerianaの異名となっています。3つ目は、上の一覧のNo. 10のAloiampelos tenuiorですが、2022年に変種であるAloiampelos tenuior var. ernstiiが新たに記載されました。
まあ、こんなところでしょうか。これからも新種は発見されるでしょうし、遺伝子解析も進行していくでしょう。しかし、いくらかの追加や変更はあるかも知れませんが、大枠は変わらないかも知れません。アロエ属は気になっているので、これからも注視していきたいと思います。


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「青菜に塩」という言葉があるように、植物は塩分に弱いというのが常識です。しかし、乾燥地の土壌は塩分濃度が高い傾向があります。砂漠などの乾燥地では、雨が降っても水分が川となり流れても海に注がず、途中で干上がってしまうことがあります。この時に、川は周囲の塩分を取り込みながら流れます。川が途中で干からびた場合、溶け込んだ大量の塩分が析出し、塩の結晶がキラキラ光って見えたりします。
例えば、中国の乾燥地に生える植物は耐塩性が高いものが多く、ギョリュウ(御柳、タマリクス、Tamarix chinensis)などは余分な塩分を葉から排出するため、葉に塩の結晶がついています。乾燥地は塩分濃度が高くなりがちですから、生える植物も塩分に耐えられるものが多いはずです。
当然ながら、乾燥地に生えるサボテンや多肉植物も、それなりに耐塩性があるのではないでしょうか? この問題に挑んだM. Derouicheらの2023年の論文、『The effect of salt stress on the growth and development of three Aloe species in eastern Morocco』をご紹介しましょう。


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Aloe vera
Aloe lazaeとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


モロッコ東部では造園あるいは観賞用に何種類かのアロエが植栽されます。この地域は乾燥し地下水は高い濃度の塩分を含みます。そこで、アロエの耐塩性を調査しました。調査したアロエは、Aloe vera、Aloe brevifolia、Aloe arborescensの3種類です。ポットに植え、4種類の塩分濃度の水を4ヶ月与えました。塩分濃度は、3g/L、6g/L、9g/Lの3種類で、塩分を加えていない群も設定しました。一般的に塩分濃度が3g/L以下を非塩水とされています。

栽培4ヶ月後、アロエは枯れずに育ちました。アロエの葉の枚数を比較すると、塩分を加えていない群と比較して1〜2枚の差がありました。A. veraでは塩分なしと低濃度が11枚、中濃度と高濃度が10枚でした。A. brevifoliaは塩分なしと低濃度が29枚、中濃度が28枚、高濃度が26枚でした。A. arborescensは塩分なしが22枚で、低濃度が20枚、中濃度と高濃度が19枚でした。

次に葉の厚みについては、塩分濃度の影響が割と見られました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で86%、中濃度では65%、高濃度では58%でした。A. brevifoliaは低濃度では98%、中濃度と高濃度では85%でした。A. arborescensは低濃度では77%、中濃度で58%、高濃度で53%でした。

相対含水率では減少しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で90%、中濃度では77%、高濃度では75%でした。A. brevifoliaは低濃度では87%、中濃度で82%、高濃度で77%でした。A. arborescensは低濃度では78%、中濃度で70%、高濃度で81%でした。

クロロフィル含量はわずかに増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で106%、中濃度では99%、高濃度では128%でした。A. brevifoliaは低濃度では106%、中濃度で94%、高濃度で118%でした。A. arborescensは低濃度では85%、中濃度で106%、高濃度で105%でした。

ポリフェノール含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で138%、中濃度では157%、高濃度では201%でした。A. brevifoliaは低濃度では109%、中濃度で156%、高濃度で224%でした。A. arborescensは低濃度では121%、中濃度で132%、高濃度で164%でした。

糖分含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で100%、中濃度では119%、高濃度では126%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で180%、高濃度で190%でした。A. arborescensは低濃度では116%、中濃度で164%、高濃度で194%でした。

多糖類含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で94%、中濃度では107%、高濃度では115%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で202%、高濃度で211%でした。A. arborescensは低濃度では114%、中濃度で169%、高濃度で203%でした。

以上が論文の簡単な要約です。
アロエはかなり高い塩分濃度にも耐えられることが明らかとなりました。4ヶ月の試験で枯れた個体はありませんでした。しかし、葉の枚数の減少は微妙ですが、葉の厚みは大幅に減少しています。含水率の低下とも関係があるのかも知れません。いずれにせよ、高濃度の塩分でも耐えられはするものの、生長は遅くなるのでしょう。糖分とポリフェノールが増加しましたが、糖分やポリフェノールは浸透圧調整に働き脱水を軽減するそうです。

3種類のアロエの中では、Aloe brevifoliaが最も耐塩性が高いことが分かりました。葉の含水率は低下しても、葉の厚みはそれほど減少していません。また、ポリフェノールや糖分の上昇が激しく、塩ストレスに対して活発に働いているようです。
読んでいて気になったのは、3種類のアロエのそれぞれの自生地の塩分濃度です。環境への適応という意味では、Aloe brevifoliaの自生地には塩分濃度が高い地域があるのではないでしょうか? 


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なんでも、スペインには野生化したアロエが生えているそうです。当然、外来種ということになります。今まではAloe feroxであると言われてきたそうですが、実は違うのではないかという話があります。それはPere Aymerich & Jordi Lopez-Pujolの2023年の論文、『On the presence of Aloe × caesia Salm-Dyck and A. ferox Mill. in the eartern Iberian Peninsula』です。早速、内容を見てみましょう。

野良アロエの報告
スペインのイベリア半島東部にAloe feroxと思われるアロエが野生化しています。著者らはこのアロエがAloe × caesiaではないかと考えています。Aloe ×caesiaとは、A. feroxとA. arborescensの自然交雑種で、分布が重なる地域で自然発生します。外観はかなり多様性があるようです。A. ×caesiaは地中海地域では園芸用に使用されてきましたが、地中海地域で栽培されるのはA. feroxによく似た姿のものです。ただし、A. feroxのように単幹ではなく、A. arborescensのように複数のロゼットからなります。そのため、密集した集団を作ります。A. × caesiaの花はクリーム-オレンジ色/赤色の2色からなり、A. feroxのようなオレンジ/赤色の単色ではありません。

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Aloe × caesia
Aloe fulgensとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


地中海地域のアロエ
A. × caesiaは、サルデーニャ島では長い間外来植物として知られ、シチリア島では帰化植物と見なされています。南フランスの地中海沿岸のフレンチ・リヴィエラでは、庭から逸出したA. × caesiaが比較的一般的になっています。データベースではA. × caesiaが地中海諸国の大部分で「導入された」としていますが、これは明らかに栽培植物のことを指しています。「Flora iberica Gremes」(2013)では、「Flora Europaea」(1980)でイベリア北東部からの報告があるものの、それが本当に庭からの逸出であるかを疑っています。「Flora Europaea」では、南東フランスまたは北スペインの海岸沿いにA. × caesia、A. spectabilis、A. maculataが見つかると書いています。しかし、この記述は北東イベリアではなく、プロヴァンスで知られていたアロエに由来しているだけかも知れません。
イベリア半島のA. × caesiaの確実な最初のデータは、2017年にAlacant/Alicanteで確認された繁殖個体です。これは、実際にこの区画の所有者により投棄された植物が由来であることが確認されています。他にも確認されていますが、投棄あるいは古い庭の跡地かも知れません。

Aloe × caesia vs. Aloe ferox
A. × caesiaは報告は数年前ですが、以前から見つかっていましたが、誤ってA. feroxとして識別された可能性があります。イベリア半島ではA. feroxの報告は、バルセロナ(2008)、Vinaros(2017)、Reus(2019)だけです。しかし、これらが本当にA. feroxであるか確認されておらず、逆にA. × caesiaである可能性を示唆する証拠があります。
Vinarosの個体は2つのロゼットが接近して育っているため、複数のロゼットからなる1個体である可能性があります。しかし、花序は13〜14本の枝からなり、A. × caesiaにもA. feroxにも該当しない特徴です。また、残念ながら他の2つの報告は画像がないため、詳細を調査しました。
2000年以降、バルセロナの都市部にあるMontjuicの丘では、小さな半帰化集団があります。これは、多くのアロエを含む多肉植物のコレクションがある市立庭園に由来しているようです。一見してA. feroxを彷彿とさせます。ロゼットの密集する傾向がありますが、孤立したものもあります。しかし、著者らはおそらく、これらはA. × caesiaであろうとしています。Montjuicの丘のアロエは急斜面に生えるため、はっきりと確認出来ませんでした。また、A. feroxは自家受粉しないため、種子繁殖している可能性があるMontjuicの丘のアロエには該当しません。また、A. feroxはタイヨウチョウにより受粉する鳥媒花であり、地中海では受粉しません。ただし、ミツバチにより受粉する可能性はあります。また、多くのアーチ型の葉には辺縁歯がありますが、これはA. × caesiaでは一般的がA. feroxでは見られません。
ReusのA. feroxについては2014年に撮影された画像がありましたが、葉はA. × caesiaの特徴である下向きのアーチ型の葉が見られます。この集団は2023年ではなくなっていました。
現在までの情報からはAloe feroxは確認されず、Aloe × caesiaである可能性が高いと言えます。


以上が論文の簡単な要約です。
どうやら地中海地域では、A. × caesiaは園芸的に一般的なようです。ですから、園芸植物の逸出が帰化したアロエが由来なのは共通しているようですね。
日本ではAloe arborescensが昔から好まれていて、一部は逸出して野生化していますが、大抵は種子繁殖しているものは見たことがありません。それは、1個体のみの逸出ばかりで、付近に受粉可能な個体がないからでしょう。まあ、適切な花粉媒介者がいないような気もしますから、個体が複数でも難しく思えます。何と言っても、開花は主に冬ですから、昆虫もいません。沖縄などの暖地ではどうなのか分かりませんが…


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キダチアロエ(Aloe arborescent)は昔から普及しているアロエです。今でこそ健康食品として破竹の勢いのAloe veraに押されていますが、キダチアロエは「医者いらず」などと呼ばれ、丈夫なこともありあちこちで見かけたものです。さて、このような普及種でも、原産地では野生個体は少ないということは珍しくありません。キダチアロエの場合はどうでしょうか? 調べてみると、CITES(いわゆるワシントン条約)に関わるキダチアロエの話があるようです。それは、Gideon F. Smithの2008年の論文、『Aloe arborescens (Asphodelaceae: Alooideae) and CITES』です。早速、見ていきましょう。

CITESのための評価
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)は1975年に設立されました。CITESの附属書Iは国際取引により絶滅の危機に瀕している種、附属書IIは国際取引により脅かされる可能性のある種のためのものです。
著者はCITESの要請により、CITESでの分類のためにAloe arborescensを評価しました。これは、南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)の絶滅危惧プログラム(TPS)の活動の一環として、南アフリカのレッドデータを再評価する機会にもなります。
アロエは1994年にCITESから削除されたAloe vera以外の550種類以上がCITESに記載されています。うち、22種類は附属書Iに、残りは附属書IIに記載されています(2008年)。

類似種と分布
A. arborescensに近縁とされるのは、A. hardyiやA. pluridens、A. mutabilis、A. vanbaleniiです。Glen & Hardy(2000)によると、A. mutabilisをA. arborescensの異名とする考えを示しました。これらの5種類のうち、成熟した植物でA. arborescensと間違える可能性があるのはA. mutabilisだけです。
A. arborescensは、アロエの中でも非常に広い地理的分布を持ちます。南アフリカのケープ半島から、海岸沿いに東に向かいモザンビークに達し、そこから内陸部の山地を迂回しマラウイに向かいます。2004年のGlen & Smithによると、南アフリカでは西ケープ州、東ケープ州、自由州、KwaZulu-Natal州、Mpumalanga州、リンポポ州からA. arborescensは記録されています。しかし、Kesting(2003)やMoll & Scott(1981)は、ケープ半島のA. arborescensは人為的に導入されたものであると主張しています。

判別困難と虚偽取引
さて、Aloe arborescensは分布域が広く個体数は非常に豊富です。しかし、地域によっては開発などにより減少しています。しかし、IUCNを適応すると低危険種(LC)とされており、絶滅の危機にある訳ではありません。
多くのアロエは生長後ならば互いに見分けるのは簡単です。しかし、小さな苗のうちは二葉性(distichous)であり、判別が難しくなります。税関職員が利用出来るCITESの植物ガイドでは、未成熟な苗の識別は出来ません。そのため、偽名で取引される可能性があるため、Aloe arborescensもCITESの附属書IIの記載が保持されるべきであると提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
キダチアロエ自体は特に絶滅の危機に瀕している訳ではありません。しかし、もしキダチアロエがCITESの附属書から削除され国際取引きが解禁された場合、絶滅危惧種の小さな苗をキダチアロエと偽って密輸出来てしまう可能性があるのです。ですから、CITESの附属書に記載され国際取引を制限するべきであるという提案でした。
実は薬用植物としてはAloe feroxの方が有名で、非常に古くから利用されてきたようです。日本でも法律で薬用成分が記載されているのはAloe feroxだけです。しかし、日本では暖地では露地栽培が可能なことなどにより、キダチアロエが研究されてきました。日本でキダチアロエの成分の有効性について、非常に沢山の論文が出ているようです。そのためか、論文ではアロエの違法取引は日本が想定されると言います。これはおそらくキダチアロエを指しているのでしょう。キダチアロエの抽出物を利用した製品は、日本では昔から沢山ありますが国際的には珍しいのかも知れません。
現在では、Aloe veraが非常に注目を浴びており、製品化につながるせいか、成分の有効性についての論文が世界中から出されています。Aloe veraは世界中で栽培されていますから、1994年にCITESの附属書から除外されました。このことによる苗の虚偽取引については、どの程度の影響があったかは評価されていないということです。



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先日、ここ10年ちょいくらいの、サボテンの新種についての記事を書きました。サボテンは巨大なグループで分布も広く、新種が見つかる余地はまだまだありそうです。その他の多肉植物では、何と言ってもアロエは新種が見つかる可能性が高いと言えます。アロエの新種を説明した論文を探してみたので、少し見てみましょう。まあ、サボテンの時と同じく、すべての新種を調べた訳ではなく、簡単に調べて出てきたものだけです。一応、アロエと近縁なAstrolobaやHaworthia、Gasteriaと、旧・アロエ属についても一部の情報を追加しました。

2010年
・モザンビークから南アフリカのKwaZulu-Natalにかけての地域より、新種のAloe tongaensisが記載されました。しかし、2013年にAloidendron属に移され、Aloidendron tongaensisとなりました。

2011年
・エチオピアから4種類の新種のアロエが記載されました。Aloe benishangulanaAloe ghibensisAloe weloensisAloe welmelensisです。

2012年
・北ソマリアから新種のAloe nugalensisが記載されました。
・マダガスカルから新種の3種類のアロエが記載されました。Aloe beankaensisAloe ivakoanyensisAloe analavelonensisです。
・ナミビアのBaynes山から新種のAloe huntleyanaが記載されました。
・南アフリカのMpumalngaから新種のAloe condyaeが記載されました。
・アンゴラ南西部のナミブ砂漠から新種のAloe mocamedensisが記載されました。


2014年
・マダガスカル北部から新種のAloe gautieriが記載されました。
・南アフリカのMpumalangaから新種のAloe andersoniiが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のAloe liliputanaが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria loedolffiaeが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州新種のからGasteria barbaeが記載されました。

2015年
・ウガンダから新種のAloe lukeanaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のAstroloba cremnophilaが記載されました。

2017年
・マダガスカル北西部から新種のAloe belitsakensisが記載されました。
・マダガスカルから新種のLomatophyllum類である、Aloe maningoryensisAloe alaotrensisが記載されました。
・ケニアから新種のAloe zygorabaiensisAloe uncinataが記載されました。
・南アフリカから新種のAstroloba tenaxAstroloba robustaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のHaworthia grenieriが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のGasteria koelniiが記載されました。

2018年
・南アフリカのCape Provから新種のHaworthia duraHaworthia ernstiiHaworthia vitrisが記載されました。

2019年
・ソマリランドから新種のAloe sanguinalisが記載されました。

2020年
・マダガスカル東部の湿潤林から新種のAloe vatovavensisAloe rakotonasoloiが記載されました。
・インドの砂漠から新種のAloe ngutwaensisが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria visseriiGasteria camillaeが記載されました。


2021年
・アンゴラ北西部から新種のAloe ugiensis が記載されました。

2022年
・南アフリカ北部から新種のLeptaloe類であるAloe hankeyiが記載されました。

2023年
・アンゴラ南部からの新種としてGonialoe borealisが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。

と言う訳で、近年のアロエ類の新種でした。基本的に調べたのは名前だけで、画像検索はしていないため、園芸的な重要度は分かりません。しかし、個人的にはゴニアロエの新種が気になります。ゴニアロエは3種類しかありませんから、新種の発見は大変な驚きです。とはいえ、論文が出たばかりですから、正式な学名として認められるかどうかはこれからでしょう。また、Aloe tongaensisは巨大なAloidendronの新種と言うことで、このような目立つ植物が今まで記載されていなかったのは不思議です。あと、Aloe ngutwaensisはインドからの新種と言うことですが、アロエの自然分布がインドまであることに驚きました。アロエの私の持つイメージでは、アフリカ大陸とマダガスカル、アラビア半島に少しあるくらいなものでした。まあ、これは勝手な思い込みで、調べれば簡単に分かることでしたね。


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Aloe glaucaは南アフリカ南西部に分布するアロエで、葉の縁に並ぶ赤褐色のトゲが特徴です。このA. glaucaの名前には何やら曰くがあるようです。まあ、A. glaucaの命名が18世紀という時点ですでに嫌な感じがします。Carl von Linne(Linneaus)が現在のニ名式学名を公表したのは1753年ですが、それからしばらくは種の記載はラテン語で特徴のみ記したようなものも多く、それが現在のどの種類にあたるのか不透明だったりします。そのため、ここらへんはつつくと大変面倒くさい話になります。という訳で、本日はAloe glaucaの学名に関するGideon F. Smithの2018年の提案、『Proposal to conserve the name Aloe glauca (Asphodelaceae: Alooideae) with a conserved type』をご紹介します。

1753年にLinneausがAloe perfoliata var. "κ"の特徴をラテン語で、「κ。アフリカのアロエ、葉は灰色: 背中の縁と上部にトゲがある、花は赤色。Commelijnの図譜(※1)75t. 24. hort. 2. p. 23. t. 12.」と示しました。その後にもリンネによりこのラテン語のフレーズは繰り返し使われましたが、花色については示されませんでした。1701年のCommelijnの図譜には花序が含まれていませんでしたが、1703年に追加された図譜では花が描かれました。これらの植物は現在のA. glaucaと一致します。

(※1) オランダの植物学者のCasper Commelijn。

リンネによるAloe perfoliata var. "κ"の公表から15年後(1768年)、MillerによりAloe glauca Mill.と命名されました。MillerはAloe feroxと解釈されてきたCommelijnの図譜をA. glaucaに含めました。Millerは生きた植物を観察していましたが標本は引用していません。Millerはラテン語で「アロエの茎は短い、葉は2つに分かれトゲは端で曲がる、花は直立」と説明しました。しかし、MillerがA. feroxを引用したため、必然的にA. glaucaとA. feroxは同義語となってしまいます。ただし、Millerのラテン語の説明の、葉の二列性や花が頭頂花序については、A. glaucaもG. feroxも何故か該当しないことには注意が必要です。
ちなみに、1789年にはAitonがAloe perfoliata var. glauca (Mill.) Aitonを、1804年にHaworthがAloe glauca Haw.を命名しています。


A. glaucaはCommelijnの図譜があるため、それがレクトタイプ(※2)です。しかし、Millerの命名したA. glauca Mill.はCommelijnのA. feroxを引用しており、深刻な矛盾をきたす可能性があります。

(※2) 正式な標本がないか行方不明、2種類混じる場合に、改めて選定される標本。


Aloe glaucaという名前が維持されることは望ましく、命名上の安定性のためにも必要です。文献でも一貫してAloe glaucaが使用されています。例えば、Berger(1908年)、Groenewald(1941年)、Reynolds(1969年)、Bornman & Hardy(1971年)、Newton(2000年)、Grace(2011年)、Van Whyk & Smith(2014年)などがあります。
もし、Aloe glaucaという名前が使われない場合、1800年に命名されたAloe rhodacantha DC.が使用されることになります。この名前は使用されておらず、特にBergerやReynoldsによる影響力の強い文献により異名とされてきました。


以上が論文の簡単な要約です。
アロエ・グラウカはその命名は非常に古いものの、タイプ標本がありません。現在使用されている慣れ親しんだ学名を命名したMillerが、誤った図譜を引用してしまったことから、Aloe glaucaの名前が誤った学名として異名に陥る可能性があるのです。その場合、まったく使用されていないAloe rhodacanthaが採用されます。これは、命名規則では命名が早い名前が優先されるからです。
このような、非常に古い時代の誤りは結構あるみたいです。調べるのも中々大変だと思います。しかし、Aloe glaucaのように親しまれた名前の場合、その変更が混乱を招く原因となる可能性もあります。例えば、Euphorbia francoisiiと呼ばれてきた花キリンは、実はEuphorbia decaryiであることが分かりました。しかし、E. decaryiの名前で呼ばれてきた花キリンがすでにあり、こちらはEuphorbia boiteauiが正しい学名であるとされました。おそらくは、2種類が混同されて誤った組み合わせが使われて来たのでしょう。この誤りは、学術的には正されました。とはいえ、過去の論文において、Euphorbia decaryiの名前が出た場合、本来のE. decaryiのことを示しているのか、E. boiteauiとなった旧・E. decaryiを示しているのかがよく分からなくなりました。この場合は明らかな混同ですから、誤った組み合わせを保存出来る可能性はおそらくありません。ただ、その論文(Castillon & Castillon)を読んだ学者のコメントがあり、ややこしいので古い学名は廃棄して、新しく命名し直した方が良いのではないか?という思わぬ感想でした。命名規則上で可能か否かは分かりませんが、混乱の是正と言う意味においては、聞くに値する意見のようにも感じました。



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アロエは高さ5mを越える巨大なものから、株全体が数センチメートルしかない小型なものまで、そのサイズは様々です。しかし、その種類は大型種は少なく小型種は多くあり多様化していることがうかがえます。では、小型であることが進化を促進したのでしょうか? 本日はそんなアロエのサイズと多様性について調査したFlorian C. Boucherらの2020年の論文、『Diversification rate vs. diversification density: Decoupled consequence of plant height for diversification of Alooideae in time and space』をご紹介します。

多様化率と多様化密度
生物多様性はその空間分布では非常に不均一です。生物の種類はホットスポットと呼ばれる非常に生物の多様性が高い地域に集中し、それ以外では比較的少ないと言われます。このホットスポットの起源に関する進化的説明は、伝統的に種の多様化の時間的要素を強調してきました。つまり、多様化とは単位時間あたりの種分化率の上昇や、絶滅率の低下により表されて来ました。しかし、南アフリカのケープ地域の一部では、種が長期間に渡り蓄積し、多様化は適度な速さであるにも関わらず、種は非常に豊富です。ホットスポットの特徴は多様化率の上昇だけではなく、特定地域の種の蓄積と増加に関連するかも知れません。ですから、この論文では時間による多様化と空間による多様化の類似点と違いを探ります。一般的に単位時間あたりの多様化を多様化率と呼びますが、新たに単位面積あたりの多様化を多様化密度と呼ぶことにします。
近年、サイズ、特に植物の背の高さが多様化に与える影響が議論されており、一般的に小型の植物は種分化率が高く絶滅率も低いとされています。これらは単位時間あたりの種分化として議論されますが、単位面積あたりの種分化にもよく当てはまります。小型の植物は分散距離が短いため、大型の植物より狭い面積で地理的隔離が起きやすく、より高い種分化密度となる可能性があります。


アロエ類とは?
論文ではアロエ類を用いて、植物のサイズと多様化密度について研究しました。ここでいうアロエ類とは、Aloe属とそこから分離したAloidendron属、Aloiampelos属、Aristaloe属、Gonialoe属、Kumara属、さらにHaworthia属とそこから分離したHaworthiopsis属、Tulista属、加えてGasteria属とAstroloba属が含まれます。
著者らはアロエ類のうち204種の遺伝子を解析し、系統関係を類推しました。遺伝子を調べた種のサイズを調べ、そのサイズにより単位面積あたりの種が蓄積する傾向があるかどうか、つまりは草丈が多様化密度と相関するかをテストしました。
アロエ類の草丈は小型のものが多く、より小型の種へ進化する傾向があります。計算上のアロエ類の最適な草丈は8cmでした。なぜ、小型化するのか、その理由の推測は困難です。一般的に植物の背の高さは、太陽光をめぐる植物同士の競争に関連します。しかし、乾燥地においては太陽光をめぐる競争は最小限か、まったくない可能性があります。さらに、背の高い植物、特に樹木は、干ばつのストレスを受けやすいとされます。小型種はくぼみなどに生えることにより、ストレスを緩和出来るかも知れません。多くのアロエ類は植物同士の競争や草食動物から、あるいは火災から逃れるために、岩の割れ目などでも育ちます。
結論としては、アロエ類の小型種が優勢な傾向は、小型化する系統の多様化が加速されたのではなく、より小型化する方向へ進化する傾向の結果であるということです。


多様化率は上昇しない
草丈が多様化率に与える影響を2種類の検定により解析しましたが、アロエ類は草丈の低下とともに多様化率を高めるということの証拠を示しませんでした。この結果からは、草丈以外の要因も関係する可能性を排除出来ません。著者らは、調査した204種類が不十分である可能性も指摘しています。
アロエ類の多様化の歴史は2つの代表例があります。1つは、小型種を多く含むHaworthia属におこり、草丈の低下が多様化の加速に関連していました。しかし、最も劇的な多様化率の上昇は、Aloe属のどちらかといえば草丈の高いグループでおきました。その理由は明らかではありませんが、Aloe属はアロエ類の中で唯一アフリカ南部以外に分散し、マダガスカルやアラビア半島にまで分布します。広範囲の分散が草丈の低下よりも重要な要素として多様化率を刺激したと考えられます。


多様化密度は上昇する
アロエ類の草丈は多様化率に影響しませんが、多様化密度はアロエ類の草丈と関連することが分かりました。多様化密度の上昇は、地域全体の遺伝子流動が容易に阻害されるため、生息地の局所的な適応がおこります。小型であることで、生息数が多く密度が高くなり、種分化しやすくなります。
南アフリカは地球上で最も植物が多様化した地域の1つで、フィンボス、草原、砂漠、森林を含みます。ケープのフィンボスはホットスポットであると認識されています。また、カルー植物相(冬季降雨砂漠植物相)は、フィンボスほどの種類はありませんが、単位面積あたりの種とその固有性が異常に高くなっています。そして、カルー植物相には多くの小型多肉植物が生息しています。このカルー植物相の単位面積あたりの多様性は、まさにアロエ類の草丈と多様化密度の関係を物語ります。
著者らはアロエ類だけではなく、他の植物でも調査が必要であるとしています。例えば、Cotyledon、Crassula、Pelargonium、ハマミズナ科(メセン類)なども、多様化密度の研究に適しています。

以上が論文の簡単な要約です。
記事を書いている私自身、妙に分かりにくい論文だとは思いました。多様化率というのは単位時間あたりの多様化と言いますが、よく分かりませんね。アロエ類の遺伝子を解析すると、その変異の度合いから分岐年代が分かります。つまり、調査した204種類のアロエ類が、いつの時代にどの種が種分化したかが計算可能なのです。ですから、今回の論文ではアロエ類の多様化は、短い時間に急激に進化した訳ではないということです。むしろ、アロエ類は種が長く保存され、小型種は絶滅率が低下しているというのです。
まあ、なんのこっちや分からんという方も多いかも知れませんが、申し訳ないのでが私自身これ以上は上手く説明出来ません。ひたすらにややこしい論文を直接読んでいただくしかありませんね。


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Aloe feroxは高さ5mに達する巨大アロエです。開花時には複数本の花茎を伸ばし、大量の花をつけます。一般的に巨大アロエの花の受粉は日和見鳥により行なわれるとされています。日和見鳥とは普段は花の蜜を専門としていない鳥のことで、花の開花時期だけ蜜を吸いに来ます。アフリカにはタイヨウチョウという花の蜜を専門とする鳥がいますが、タイヨウチョウは巨大アロエを訪れても花粉や柱頭に触れないで上手く蜜だけを掠め盗ります。ですから、タイヨウチョウは巨大アロエの受粉には関与していないのです。むしろ、普段は花の蜜を吸わない鳥は、採蜜行動が洗練されていないので花粉だらけになり花粉を運びますから、日和見鳥は巨大アロエの受粉には重要です。
しかし、一般的に花の受粉にはミツバチが重要な働きをしているとされます。それはミツバチ自体の数が多く、そのため花を訪れる数が非常に多いからです。巨大アロエにもミツバチは非常に頻繁に訪れます。巨大アロエの受粉にミツバチはどの程度貢献しているのでしょうか? 本日はそんな巨大アロエの1種であるAloe feroxの受粉にミツバチが寄与するかを調査したCarolina Dillerらの2022年の論文、『Why honeybees are poor pollinators of a mass - flowering Plant: Experimental support for the low pollen quality hypothesis』をご紹介します。

著者らはミツバチの花粉媒介者としての能力を測るために、まずミツバチが運搬する花粉の量を測定しました。その結果、花粉の運搬量はミツバチより日和見鳥のほうが多く、一度に大量の花粉を運びます。しかし、ミツバチは非常に頻繁に花を訪れるため、運ばれる花粉の総量はそれほど劣ってはいませんでした。この事実からすると、ミツバチはA. feroxの重要な花粉媒介者に思えます。しかし、一般的に巨大アロエの受粉にはミツバチの寄与は小さいとされています。それはなぜでしょうか?
A. feroxは自家不和合性で自分の花粉では受粉せず、他個体の花粉により受粉するとされます。著者らはこれはミツバチが同じ花を訪れるため自家不和合性により受粉しないのではないかという仮説を立てました。この仮説を検証するためには、柱頭についた花粉を見分ける必要があります。ただし、花の柱頭についた花粉が自家か他家かを直接見分ける手段はありません。基本的に種子が出来たかを見て間接的に判断されます。直接らは、ミツバチが訪れた花が受粉したかに加え、花を訪れたミツバチを捕獲し、花粉がついていない花に人工的に受粉させました。この時、半分は自家受粉させ、残りの半分は他家受粉させました。

結果は、ミツバチが訪れた花の受粉率は非常に低いものでした。そして、自家不和合性の試験でも、やはりA. feroxは自家受粉しないことが明らかとなりました。

著者らは、受粉に寄与しないミツバチが花に頻繁に訪れることにより、植物は蜜や花粉を盗まれて受粉を阻害されている可能性を指摘します。
ミツバチは様々な栽培果物の受粉に利用されて来ましたが、近年ではミツバチの花粉媒介の効率に疑問を生じさせています。ミツバチは同じリンゴの木を訪れることが多いという報告が50年以上前の1966年(Free)になされていましたが、まったく重要視されてきませんでした。しかし、近年では農業においても自然環境においても、ミツバチは以前に考えれてきた程には重要ではないことを示す証拠が増えて来ています。
セイヨウミツバチ(Apis mellifera)の本来の分布はヨーロッパ、アフリカ、中東ですが、養蜂のために世界中で飼育されています。ミツバチが蜜泥棒であるならば、本来は分布しない地域で飼育されるセイヨウミツバチが、自然環境中の植物の受粉に悪影響を及ぼす可能性が懸念されます。

以上が論文の簡単な要約です。
驚くべきことに、巨大アロエはミツバチが受粉にあまり寄与しないというものでした。さらに、果樹でもミツバチの受粉に疑問符がついていることが分かります。しかし、これらの結果は、1個体の植物が沢山の花を咲かせる場合の話だと私は受け取りました。というのも、ミツバチは花の場所を覚えていて採蜜した場所に再び帰ってきますが、これは必ず採蜜出来る可能性が高いからです。新たな花を探すより、沢山の花が咲いている場所に行けば、花を探すための時間と労力を省略出来ますから、最適化された行動と言えます。では、野原に一面に生える草の花ならば、どうでしょうか? この場合もミツバチは同じ場所を訪れるはずですが、草花は1個体で大量の花を果樹ほどはつけませんから、ミツバチは同じ花ばかり訪れることはないはずです。ミツバチは周囲の花を順繰りに訪れるでしょうから、受粉への寄与は非常に高そうです。
ただし、この場合においても、野生のミツバチではない養蜂によるセイヨウミツバチは環境に悪影響があるかも知れません。私が思うに養蜂されるミツバチが沢山いる場合、花粉や蜜を競合する野生のミツバチなどの他の昆虫に対する悪影響は考えなければならないでしょう。当たり前のように利用されているセイヨウミツバチの利用も、その効果や環境への影響について、改めて調査し考え直す必要があるのかも知れません。


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私はハウォルチアをいくつか育てていますが、基本的に硬葉系、つまりは現在のHaworthiopsisばかりです。硬葉系ハウォルチアのイボイボした連中が好みです。しかし、相変わらず本物のファスキアタ(H. fasciata)は見かけず、アテヌアタ(H. attenuata)系統ばかりです。まあ、アテヌアタはアテヌアタで改良が進み、コレクションするのにうってつけです。何だかんだで、私もアテヌアタを見かけるとついつい買ってしまいます。さて、そっくりさんとして有名なファスキアタとアテヌアタが、まあまあ集まりましたから、箸休め的な軽い記事にしてみました。

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十二の巻
日本では昔からありますが、有名な割に由来がよく分からない多肉植物です。日本で作出された園芸品種と言われています。葉の内側にイボがある特徴からは、十二の巻がアテヌアタ系とするのが妥当でしょう。しかし、純粋なアテヌアタとも考えにくいため、アテヌアタ系としておくのが穏当かも知れません。十二の巻は若干外見が異なるいくつかのタイプがあることから、おそらくは交配種なのでしょう。最近は大柄の荒々しいバンドの品種も十二の巻の名前で販売されていますが(次の十二の巻)、交配種を十二の巻と称しているだけで、本来の十二の巻ではない気がします。

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十二の巻
バンドが荒々しく入るタイプ。実は従来の十二の巻の方が、均整がとれて美しい姿となります。最近はこちらのタイプも十二の巻として販売されています。

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松の雪
アテヌアタのバンドがつながらず、細かく散るタイプ。私の手持ち個体は、やや均整が乱れた姿です。

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アテヌアタ 特アルバ
アテヌアタの選抜品で、バンドは太く強いのですが、どうにも姿が乱れてしまいます。

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スーパーゼブラ
バンドが太いアテヌアタ系の品種です。通常の十二の巻に一番近いバランスの良い姿です。ラベルにはH. fasciataとありますが、葉の内側にもイボがあるためアテヌアタ系でしょう。純粋なアテヌアタではなく十二の巻の選抜品種なのでしょう。

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Haworthiopsis attenuata f. tanba
アテヌアタの矮性品種。品種改良されたものではなく、野生の個体が由来です。

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Haworthiopsis fasciata DMC05265
次はファスキアタです。フィールドナンバー付き。バンドはよく見るとつながっていません。

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Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
ファスキアタの矮性品種。野生の個体が由来みたいですが、あまり情報がありません。イボは小さくまばらです。

思うこととして、本来のアテヌアタは葉が開いた形なのではないかということです。私の手持ちでは、特アルバと松の雪、f. tanbaは純粋なアテヌアタですが、葉は開きます。しかし、十二の巻は葉があまり開かないため、あるいはファスキアタの血も入っているのかも知れません。ただ、特徴的には葉の内側にイボがあるため、アテヌアタ系のように見えます。単純に良型の個体を選抜しただけの可能性もありますが、なにせ十二の巻の誕生は非常に昔のことですから真相は誰にも分からないでしょう。しかし、由来が分からないにも関わらず、十二の巻は非常に優れた園芸品種です。丈夫でちゃんと育てれば大変美しいものですが、その丈夫さ故に室内でインテリア代わりにされて徒長していたり、野外で放置されてカリカリに干上がっている十二の巻を見るのは悲しくもあります。

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去年、神代植物公園で開催された多肉植物展へ行きましたが、素晴らしい仕上がりの十二の巻がありました。普及種であっても、ちゃんと育てればこれだけの貫禄が出るのです。このような素晴らしい十二の巻を育てられるようになりたいものです。


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暑い日もあり、まったくハウォルチアの季節ではありませんが、いくつか花が咲いたのでご紹介します。まあ、ほとんど硬葉系ですけどね。

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Haworthiopsis fasciata DMC05265
フィールドナンバー付きのファスキアタが開花中です。

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花茎は非常に長く伸びます。
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花はこんな感じ。

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Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
矮性のファスキアタです。花茎が初めて出て来ました。

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スーパーゼブラ Haworthiopsis attenuata cv.
アテヌアタ系です。おそらくは、十二の巻の選抜タイプです。花はまだですが、大分育ってきました。


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松の雪 Haworthiopsis attenuata
松の雪はアテヌアタの白いバンドがつながらないタイプです。

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花茎が伸びています。
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開花中。

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Haworthiopsis scabra JDV 95/17
フィールドナンバー付きのスカブラです。初めて開花しました。
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花茎が伸びています。
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開花中です。

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Tulista pumila var. sparsa
スパルサも花茎が伸びてきました。

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Haworthia arachnoidea
アラクノイデアにも花茎が出て来ました。

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Aloe bowiea
アロエ感のないアロエのボウィエアですが、大分株が充実してきました。去年は花茎は出ましたが枯れてしまったので、咲けば初めての開花です。


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かつてハウォルチアと呼ばれていた植物は現在では3分割され、Haworthia、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。これらは、花の特徴が似ていたため一つのグループとされていましたが、花以外の特徴は異なり、遺伝的にもそれほど近縁ではありません。Haworthiopsisは日本では硬葉系ハウォルチアと呼ばれていましたが、まだハウォルチア属だった頃はHexanglaris亜属とされていました。HaworthiopsisとTulista以外のハウォルチアを日本では軟葉系ハウォルチアと呼び、Haworthia亜属とされていました。
さて、本日はまだハウォルチアの分割が一般化していない2015年のNatalia Volodymyrivna Nuzhyna, Maryna Mykolaivna Gaydarzhyの論文、『Comparative characteristics of anatomical and morphological adaptations of plants of two subgenera Haworthia Duval to arid enviromental conditions』をご紹介します。論文では、Haworthia亜属とHexanglaris亜属の、乾燥への適応について、その形態と構造から検討しております。

この論文で調べられたのは、Haworthia亜属はH. angustifolia、H. blackburniae、H. chloracantha、H. cooperi、H. cymbiformis、H. marumiana、H. parksiana、H. pygmaea、H. retusaの9種類。Hexanglaris亜属はH. attenuata、H. coarctata、H. fasciata、H. glabrata、H. glauca、H. limifolia、H. pungens、H. reinwardtii、H. viscosaの9種類です。

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Haworthia cooperi cv.

Haworthia亜属のロゼットは直径5〜6cmを超えることはあまりありません。H. parksianaやH. blackburniaeなどの葉は細長く幅は5mmを超えません。葉はしばしば光沢があり滑らかで、しばしば透明の「窓」や毛状突起があります。
Hexanglaris亜属は濃い緑色で、
窓と毛状突起がありません(※)。葉の表面は厚くしばしばイボや突起があります。この特徴はH. limifoliaに典型的で、H. glaucaとH. coarctataでは適度にありますが、H. pungensとH. viscosaにはありません。しかし、H. viscosaは非常に厚いクチクラを持ちます。最小の葉はH. glaucaやH. reinwardtii、H. viscosaで、葉の幅はH. glaucaやH. reinwardtii、H. pungensが狭いようです。

(※) H. pungensには毛状突起があり、H. koelmaniorumには「窓」があります。

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Haworthiopsis limifolia

葉の気孔はHaworthia亜属は多く、Hexanglaris亜属は少ない傾向があります。全体として向軸(Adaxial side)より背軸(Abaxial side)に多く見られます。しかし、1mm×1mmの面積内の気孔は、Haworthia亜属のH. retusaは非常に多く向軸は23.9個、背軸で36.7個でしたが、H. chloracanthaは向軸で2.6個、背軸で5.3個で少ないものでした。また、Hexanglaris亜属のH. glaucaは向軸で2.6個、背軸で3.6個でしたが、H. reinwardtiiは向軸で14.5個、背軸で13.1個と多いものでした。

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Haworthiopsis coarctata

葉の水分含有率を調べたところ、Haworthia亜属のほとんどが90%以上でしたが、Hexanglaris亜属は多くは87〜89%でした。Haworthia亜属の例外はH. parksianaで、水分含有率は87%でした。また、Hexanglaris亜属のH. glaucaの水分含有率は84%以下でした。

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Haworthiopsis viscosa

以上の結果から、以下のことが言えるそうです。Hexanglaris亜属に見られる様々な付属物やクチクラの発達は、強い日光を分散します。逆に滑らかな表面を持つHaworthia亜属は水分の放出が大きくなっています。
気孔が向軸より背軸に見られるのは、太陽光が向軸にあたるからではないかとしています。

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Haworthiopsis pungens

以上が論文の簡単な要約です。
私は旧ハウォルチアを構成していたHaworthiopsisやTulistaは好きで集めていますが、軟葉系ハウォルチアには詳しくないため、論文を読んでいても今ひとつピンとこない感があります。しかし、硬葉系ハウォルチアの方が乾燥に強いのは、言われるまでもなくまあなんとなくわかりますよね。軟葉系ハウォルチアは窓以外は地中に埋まって育ったりしますから、強光や乾燥に耐えるための分厚いクチクラ層は必要ないのでしょう。今にして思えば、花以外の特徴は軟葉系ハウォルチアと硬葉系ハウォルチアで結構異なっていたわけですね。遺伝子解析の結果では、軟葉系ハウォルチアはKumara属(旧Aloe plicatilisなど)と近縁で、硬葉系ハウォルチアのTulista属はGonialoe属(旧Aloe variegataなど)、Aristaloe属(旧Aloe aristataなど)、Astroloba属に近縁とされており、
Tulista属以外の硬葉系ハウォルチアはGasteria属と近縁とされています。この論文のように花以外の特徴で、遺伝子解析の結果で近縁なもの同士を比較したらどうなるでしょうか? どうにも気になりますね。


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Haworthia koelmaniorumは、葉の上面に透明な窓があるハウォルチアです。しかし、硬葉系ハウォルチアはHaworthiaから分離しHaworthiopsisとなったことから、コエルマニオルムもHaworthiopsis koelmaniorumとなりました。さて、このコエルマニオルムですが、原産地の南アフリカでは減少しており、保護の対象となる希少な多肉植物であるとされています。本日はコエルマニオルムの生息地を調査したE.T.F.Witkowski & R.J.Listonの1997年の論文、『Population structure, habitat profile and regeneration of Haworthia koelmaniorum, a vulnerable dwarf succulent, endemic to Mpumalanga, South Africa』を参考に見ていきましょう。

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Haworthiopsis koelmaniorum
透き通っている様子が良く分かります。

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夏場は遮光していても、ストレスで赤くなり透明な窓が分かりにくくなります。

コエルマニオルムは珪岩で出来た尾根の斜面に7個体群が存在しますが、すべて自然保護区外です。1994年のBoydによる保全報告書では1800〜2000個体が自生すると推定されました。コエルマニオルムの知られている脅威は、コレクターによる収集や、伝統医学の医薬品としての採取があります。また、近年では特に日本のコレクターがハウォルチアに対して非常に熱心です。
この7つの個体群は、すべてMpumalanga州のGroblesdal地区(標高900〜1100m)に位置します。25年間の年間降水量の平均は720mmであり、その84%は10月から3月にかけて降ります。平均気温は暑い月で37.1℃、寒い月で3.1℃でした。冬には霜が下ります。また、コエルマニオルムの分布する尾根の間の低地が麦畑となったたことで、畑にならなかった高地のコエルマニオルムだけが飛び地状に残った可能性もあるそうです。


さて、実際の調査の結果、全体で1591個体のコエルマニオルムを確認しました。個体群は場所により25〜588個体までと幅がありました。また、火災により67%が被害を受けていました。種子を採取して発芽させたところ、湿らせてから7〜9日で発芽しました。発芽率は79〜89%でした。コエルマニオルムに近縁とされるH. limifoliaの種子の寿命は約5〜7ヶ月であるため、コエルマニオルムは貯蔵種子(seed bank)は持たない可能性が高いと考えられます。
コエルマニオルムの生える尾根と、尾根と尾根の間のコエルマニオルムが生えていない地域の土壌も比較されています。それによると、どこの土壌も砂質でほぼ同じでしたが、小さな違いはあったようです。分布域の土壌はほぼ同質でしたが、コエルマニオルムが生えていない土壌はやや粘土質が多い傾向がありました。
コエルマニオルムは岩の亀裂に生える傾向がありました。ただ、岩の亀裂がコエルマニオルムの生育に適しているかは分かりません。例えば、通常の場所に生えたコエルマニオルムは牛の踏みつけにより破壊されていることが報告されています。さらに、そういう場所は他の草も生えていることから、火災があった時に枯れ草を燃料として強く燃え上がり、コエルマニオルムに強いダメージを与えた可能性があります。
自生地のコエルマニオルムは、成熟した植物はありましたが苗は見られませんでした。これは、発芽はするもののすべて枯れてしまっているようです。苗にとって非常に好ましい特殊な環境がある程度長く続いた時のみ、苗は定着可能であると考えられます。そのため、自生するコエルマニオルムは分結して増えているものも多いと推定され、遺伝的多様性は低いと考えられます。
コエルマニオルムは寿命が長い植物と考えられており、分結と稀に訪れる苗の生育可能な時まで種子を作り続けることにより維持されてきたようです。ですから、家畜の踏みつけや違法採取により親植物が失われると、非常にダメージが大きいと考えられます。その生長の遅さもあり、回復には大変な時間が必要でしょう。

火災のダメージについては、多肉植物を対象とした2つの仮説があります。
①多肉植物は火に耐性はなく、燃えやすい他の植物が生えない岩場や砂場、たまたま火災が起きていない場所でのみ生きられる。
②多くの多肉植物は生長点が十分に保護されており、火災に強い。
コエルマニオルムは火災が起きない岩場の破れ目に生えることにより、火災から身を守っているようにも見えます。しかし、コエルマニオルムは火災によりダメージを受けても、生き残ることも確認されています。上記の2つの仮説はコエルマニオルムに関して、両方とも当てはまると言えます。岩の破れ目付近には、燃料となる植物が少なく、火災が起きても強い火力で焼かれにくいことは明らかだからです。さらに、他の植物より火災に強いコエルマニオルムは、火災により他の植物が失われることにより、他の植物との競争を有利なものとしている可能性もあります。

コエルマニオルムは自然な種子繁殖はあまり期待出来ないため、種子由来の苗を人工的に育てて移植するなどの方法により、保護活動を行う必要があります。牛の放牧を減らしことにより、踏みつけによる被害を減少させることが出来ます。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、野生のコエルマニオルムはたった1591個体しか存在しないというのは、中々衝撃でした。現在、国内で売りに出されているコエルマニオルムは1500株ではすまないでしょうし、趣味家が育てているコエルマニオルムはそれ以上でしょうから、野生のコエルマニオルムがいかに少ないかが分かります。我々趣味家としては、野生の多肉植物の減少は悲しむべきことでしょう。
しかし、論文の中で日本のコレクターの台頭が軽く触れられておりますが、これは何を意味するでしょうか? さすがに日本人が南アフリカまで頻繁に行って、違法採取を繰り返しているという訳ではないでしょう。違法採取は現地の人たちの収入源になっていたりしますが、これはその違法採取した植物を欲しがる人がいるから行われているのです。
現在の日本の状況は、正直あまり褒められたものではありません。輸入されてきたベアルートがイベントや専門店だけではなく、基本的に管理が出来ない大型園芸店などにも並べられており、どれだけの野生株が違法採取により失われたのかを考えると胸が痛みます。違法採取された植物は正規ルートでは買えませんが、あちこち回って採取情報がロンダリングされてしまうため、結局は市場に出回ることになります。これは種子の売買以外を禁止することでしか防ぐ方法はありません。その他の取り組みとしては、例えばソテツは市場に流通量が増えれば違法採取は減ると考えて、効率の良い増やし方や育て方が研究されています。また、Euphorbia susannaeは原産地では非常に希少な多肉植物ですが、どうやらアメリカで組織培養による大量生産がされたようで、市場流通量が激増して一気に安価な普及種となり、もはや違法採取されまものをわざわざ購入する必要はなくなりました。日本でもE. susannaeは、種子によるものと考えられますが、大手業者により大量生産されており、流通量も多く安価な普及種となっています。
現地株ではなく種子由来の苗が出回れば良いわけですが、現在日本国内に流通しているのは小型の苗ですから国内実生なのでしょう。コエルマニオルムは日本では人気種ではありませんが、軟葉系ハウォルチアなどは人気です。しかし、日本ではきらびやかな交配種が人気で、ハウォルチアの現地球を求めている人はほとんどいないでしょう。とはいえ、我々趣味家も野生の多肉植物の保全に対して、もう少し興味を持っても良いように思います。


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かつて、Aloeに近縁と考えられていた、HaworthiaやGasteria、Astrolobaは、近年の遺伝的解析の結果においてもやはり近縁であることが判明しました。アロエ属自体が分解されたこともあり、このAloeに近縁な仲間をまとめてアロエ類と呼んでいます。このアロエ類の増やし方と言えば、種子をまくか葉挿しが一般的でしょう。Haworthiaは割と増えやすいので株分け出来ますし、葉挿しも容易です。Gasteriaは小型種は良く子を吹くので株分けで増やせますが、大型種は中々増えにくいものです。また、Gasteriaは葉挿しも出来ますが、難しいものもあるようです。Aloeは葉挿しは出来ません。小型種は容易に子を吹くものが多く、中型種でも割と子を吹きます。茎が伸びるものは、茎を切って挿し穂に出来ます。しかし、Aloeには子を吹かず、茎も伸びないような種もあるため、繁殖は種子によるしかないものもあります。
さて、このような増やし方をされているアロエ類ですが、バイオテクノロジー分野での培養技術についても検討がされています。本日ご紹介するのは、Arthur M. Richwineの1995年の論文、『Establishment of Aloe, Gasteria, and Haworthia Shoot Culture from Inflorescence Explants』です。この論文は、人工的な培地上でアロエ類を培養して増やすことを目的としています。早速内容を見ていきましょう。

今回、実験に使用したのはAloe 、Gasteria、Haworthiaというアロエ類です。種類としては、Aloe  barbadensis、Aloe  harlana、Gasteria liliputiana、Gasteria species(不明種)、Haworthia attenuata、Haworthia coarctata、Haworthia limifoliaでした。
人工培養では、不定形の細胞塊を作るカルス培養が一般的ですが、著者はシュート培養に挑んでいます。シュート培養は培養上で植物組織を培養し、茎と葉がついたシュートが出来て伸長します。シュート培養は、著者により確立した、red yucca (Hesperaloe parviflora)の花序を用いた方法を適応しています。zeatin ribosideという物質を含んだ培地に、アロエ類の未熟な花序を1cmの長さに切断して培養します。切断した花序は、薄めた塩素系漂白剤と界面活性剤に浸けて表面を滅菌しています。25℃で白色蛍光灯を当て、6週間ごとに新しい培地に移しました。

結果は8週間以内に、Aloe 2種、Haworthia3種、G. liliputianaでは、苞葉の窪みからシュートが出て来ました。12週までにG. speciesからシュートが出て来ました。
シュートは長期維持が可能で、8ヶ月維持されました。シュートは通常培地に移すだけで、植物ホルモンの添加なしでも容易に発根し、その後に土壌に植栽されました。

以上が論文の簡単な要約です。
シュート培養について、私は詳しくは知らないのですが、花茎から増やす面白い方法だと思いました。一般的に植物を増やすバイオ技術としては、カルス培養があります。このカルス培養は、葉も根もない細胞の塊を増やし、植物ホルモンを添加することにより葉や根を形成させる方法です。簡単に増やすことが出来ない洋蘭では、昔から使用されてきました。カルス培養はほぼ無限に増やせますから、非常に効率の良い方法です。しかし、不定形の細胞を爆発的に増やすせいか突然変異が起きやすく、増やせば増やすほど変異が蓄積していきます。しかし、シュート培養は大量生産には向きませんが、突然変異を起こしにくい方法です。園芸目的の生産より、希少な野生植物の増殖においてより有効な増殖方法ではないでしょうか。
そう言えば、胡蝶蘭は稀に花茎から子を吹くことがありますが、私の育てている多肉植物でも花茎から子を吹くことがありました。そもそも、花茎は子を作る能力がはじめからあるのでしょう。

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Gasteria distichaですが、花茎から芽が出ています。
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拡大するとちゃんと葉があります。これを挿し木すれば増やすことが出来ます。

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Euphorbia globosaの花茎の先端(左上)からも、子が出来ています。


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既知の生物にはすべて学名が付けられています。しかし、この学名の特に種小名は一見して由来が分からないものも沢山あります。学名の基本は属名+種小名です。ヒトの学名はHome sapiens、つまりHomo=ヒト属+sapiens=賢い、となります。植物の種小名を見ていると、①特徴を表したもの、②採取された地名に因むもの、③献名、という3パターンがあります。

①特徴を表したものは、「albiflora=白い花」のように見たままの特徴から来ていたり、「mirabilis=素晴らしい」のように抽象的なものもあります。

②採取された地名に因むものは、「japonica=日本の」、「chinensis=中国の」などは我々の身近な植物にはよくあります。しかし、あくまで採取地点ですから、最も個体数が豊富な分布の中心ではなく、飛び地のように僅かに生える場所に因んでいることも珍しくありません。また、日本には大陸から園芸用に様々な木々が持ち込まれましたが、江戸時代に日本を訪れたヨーロッパ人たちはそれらが日本で採取されたため、本来は分布しないのに日本の地名に因んだ名前を付けたりしました。しかし、実際には種小名はあくまで命名のための記号に過ぎないので、意味を問う必要性は皆無でしょうし、それらが訂正されることはありません。
この問題は①の特徴を表したものにも関係します。例えば、赤系統の花を咲かせる植物に、少しクリーム色の新種が発見された場合、「albiflora」と命名されたとしましょう。しかし、その後により白い花の新種が見つかった時、実態に合わせて種小名を変更したらどうなるでしょうか? おそらくは混乱します。2つの植物が同じ名前で呼ばれていたという事実は、禍根を残します。さらに、最も適した特徴の新種が見つかった場合、その都度学名を変更しなければなりません。これでは学名は不安定すぎて、同じ名前の植物について書かれていても、時代や人により異なる植物を示しているなんてことになりかねません。学名について書かれた論文を読んでいるとよく目にする「学名の安定のため」という文言は思った以上に重大なものなのかも知れません。

③の献名については、実はよく分かりません。論文を読んでいると、発見者や採取者、その分野の著名な研究者から来ていたりしますが、必ずしもそうではないような気がします。

前置きが長くなりましたが、今日の本題はこの献名についてです。献名のルールのようなものがあるのかよく分かりませんが、私は全く知らなかったため、何か参考になる論文はないかと少し調べて見ました。見つけたのが、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2011年の論文、『Who's in a name: eponymy of the name Aloe thompsoniae Groenew., with notes on naming species after people』です。論文の趣旨は簡単で、Aloe thompsoniaeというアロエは誰に対する献名なのかという話です。

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Aloe thompsoniae

Aloe thompsoniaeはアフリカ南部の中では最も小さいアロエの1つです。Section Graminaloe Reynoldsに属するグラスアロエです。A. thompsoniae は南アフリカのリンポポ州の標高1500mを超える雲霧帯に分布します。
さて、1936年にGroenewaldがAloe thompsoniae Groenewという学名を発表しました。しかし、この「thompsoniae」が誰に対する献名であるかは混乱しており、Groenewaldも誰に対するものか記していません。しかし、1941年に出版されたGroenewaldのアロエに関する本では、「Mev. Dr. Thompson」、つまりはMrs. Dr. Thompsonという名前を繰り返し使用しています。どうやら、Thompson夫人が様々なアロエを採取したようです。しかし、いつしか「Mev.(=Mrs.)」が忘れ去られて、「Dr. Thompson」だけが独り歩きしたようです。
Reynoldsは献名を誤解した最初の著者で、1946年の著書ではThompson夫人をThompson博士と呼び、「Thompson博士が最初に植物を採取し始めたのは1924年頃」と述べています。しかし、それは実際には「Mev. Dr. Thompson」、つまり医師であったThompson博士の妻であるThompson夫人のことでした。ちなみに、Thompson夫人は博士号は持っていません。

GroenewaldはA. thompsoniaeのタイプ標本を指定しませんでした。後の1995年に、Glen & Smithによりレクトタイプ化されました。選ばれた標本はReynoldsにより示唆された1924年のものではなく、1930年にThompson夫人により収集されたとあります。Glen & SmithはThompsonという姓を「Sheila Clifford Thompson」という名前に関連付けました。これは、Gunn & Coddの1981年の植物収集家のリストにThompson夫人の記載がなかったせいかも知れません。その後、Sheila Clifford ThompsonはLouis Clifford Thompsonの母親であることが分かりました。また、Sheila Clifford Thompsonの娘であるAudrey Thompsonとする場合もありました。

この誤りは文献やインターネットで流布しています。Aloe thompsoniaeに献名されているのは、正しくはEdith Awdry Thompson(旧姓Eastwood)を示しており、Dr. Louis Clifford Thompsonと結婚しています。Sheila Clifford ThompsonはThompson夫人の娘です。

1903年、Awdry Thompsonは子供の頃、南アフリカのリンポポ州にあるHaenertsburg近くにあるWoodbushに到着しました。彼女は植物収集経験がある両親であるArthur Keble EastwoodとJane Mary Emma Eastwoodの影響により植物収集を開始しました。1910年にPaul Ayshford Methuenが訪れ、動植物の収集旅行をしたことにより、より関心が高まりました。彼女の標本から命名されたいくつかの動物には「eastwoodae」と献名されています。彼女の回想において、「私が夫とLowveldの農民であるHarry Whippと共に馬に乗り、放牧されていたHarryの牛を調べていた時、Wolkbergの山頂の平坦な場所でいくつかの岩の間で育っていました。」と、A. thompsoniaeの発見を記しています。

アロエに献名された女性は僅か19人しかいませんが、Awdry Thompsonはその1人です。Carl von Linneの時代から、植物学での業績や新種の発見者を称えるため、献名が行われてきました。例えば、2009年から2011年にかけて12種類のアロエに対し献名がなされましたが、そのすべてが植物学者やアマチュア研究者、採取者に対するものでした。しかし、アロエ以外の植物ではここ数年間で富裕者が献名の権利を購入するという新しい慣行が出現しました。金品と引き換えに名誉を得ようというこの慣行に対し、多くの植物学者は嘆かわしいことであると感じています。

献名は命名に際して一般的ですが、それが誰に対する献名か記載がない場合があります。しかし、それでは献名の持つ、特定の人物を記念するという目的に反します。場合によっては命名者しか知らない無名の人物に対する献名すら存在します。しかし、それらを禁ずる規則はありませんが、誤った人物と関連付けられる可能性に留意が必要です。よって、献名すらならば、献名する人物に対する情報を添付することをお勧めします。また、ラテン語は性別により語尾が変化しますから、性別についても述べる必要があります。A. thompsoniaeも男性にちなんで命名されたと勘違いされ、Aloe thompsoniとされたこともあります。

以上が論文の要約になります。
学名の由来についても記載がある図鑑を読んでいると、由来がはっきりしなかったり、複数の人物のいずれかの可能性があるなど、大変歯切れが悪いものが多くあります。命名は生物を分類することを目的としていますから、本質的には由来は重要ではありません。しかし、1753年以来、数多くの学者が活躍し数えきれないくらいの生物が命名されて来ました。最早、生物の発見や研究、命名ですら歴史となっています。過去の命名や発見に関する論文も、まだ数は少ないものの出て来ています。しかし、このような調査は古い資料の渉猟など、とにかく手間がかかりますから、やはり著書らが主張するように誰に対する献名が明記していただくのが最善なのでしょう。


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先日、ワシントン条約で国際取り引きが規制されているアロエについての記事を書きました。もっとも厳しく規制される附属書Iに記載されたアロエはマダガスカル原産のものばかりです。何故なのでしょうか?

CITES2018のアロエ属についての記事はこちら。

調べたところ、2014年と少し古いのですが、マダガスカルのアロエの保全状況を評価した、Solofo E. Rakotoarisoa, Ronell R. Klopper & Gideon F. Smithの論文、『A preliminary assessment of the conservation status of the genus Aloe L. in Mdagascar』です。早速、見てみましょう。

マダガスカル島には128種類のアロエが自生しますが、すべて固有種であり限られた狭い分布と個体数が少ないことが特徴です。マダガスカルのアロエは、環境破壊と人間の活動の影響を受けやすいとされますが、その保全状況は良く分かっていませんでした。様々な情報を収集し分析すると、マダガスカルのアロエの約39%が何かしらの理由で脅かされており、懸念が少ないのは4%に過ぎませんでした。しかし、最大の問題は、マダガスカルのアロエの約50%は情報が乏しく評価出来ませんでした。つまり、マダガスカルのアロエの半数について、どれだけの種が絶滅の危機に瀕しているのか不明なのです。状況は考えられているよりも悪い可能性もあるのです。

幾つかの種類を除いて、マダガスカルのアロエの分布は非常に狭いことから、山火事や違法採取に対して脆弱です。ちなみに、マダガスカルからの園芸用植物輸出の86%はアロエです。
CITES2014の附属書Iに記載されている21種類のうち、17種類はマダガスカル原産です。その他のアロエも附属書IIに記載されています。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックに記載されているマダガスカルのアロエは、Aloe suzannaeとAloe helenaeで、ともに絶滅危惧種です。しかし、マダガスカルのアロエの保全状況が不明なため、完全なものとは言えません。

それでは、実際のマダガスカルのアロエの保全状況を見てみましょう。ここでは、保全状況を7つに分類しています。危機の度合いは①が高く⑥が低いという並びです。ここに名前がないマダガスカルのアロエは⑦の情報不足に入ります。

①絶滅種(EW)
1, A. oligophylla
2, A. schilliana
3, A. silicicola
 
②絶滅危惧IA類(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高いもの。
1, A. acutissima v. fiherenensis
2, A. calcairophila
3, A. descoingsii
4, A. fragilis
5, A. guillaumetii
6, A. helenae
7, A. hoffmannii
8, A. ivakoanyensis
9, A. mandotoensis
10, A. millotii
11, A. mitsioana
12, A. orientalis
13, A. suzannae
14, A. virgineae

③絶滅危惧IB類(EN)
絶滅の可能性が高いもの。
1, A. andringitrensis
2, A. antonii
3, A. antsingyensis
4, A. betsileensis
5, A. capitata v. angavoana
6, A. capitata v. capitata
7, A. capitata v. silvicola
8, A. cipolinicola
9, A. conifera
10, A. delicatifolia
11, A. deltoideodonta v. brevifolia
12, A. deltoideodonta v. intermedia
13, A. edouardii
14, A. erythrophylla
15, A. fievetii
16, A. gneissicola
17, A. isaloensis
18, A. laeta
19, A. leandrii
20, A. newtonii
21, A. parallelifolia
22, A. parvula
23, A. rauhii
24, A. rosea
25, A. sakarahensis
26, A. schomeri
27, suarezensis
28, A. trachyticola
29, A. versicolor
30, A. viguieri

 ④絶滅危惧II類(VU)
絶滅の危機が増大しているもの。
1, A. acutissima v. acutissima
         (ssp. acutissima)
2, A. acutissima v. antanimorensis
3, A. analavelonensis
4, A. bellatula
5, A. compressa
6, A. deltoideodonta v. candicans
7, A. haworthioides
8, A. ibitiensis
9, A. madecassa
10, A. perrieri
11, A. vaotsanda

⑤準絶滅危惧(NT)
現在は絶滅の可能性は少ないが、生息状況の変化によっては絶滅危惧種に移行する可能性があるもの。
1, A. antandroi
2, A. bakeri
3, A. bulbillifera
4, A. capitata v. quartziticola
5, A. deltoideodonta v. deltoideodonta
6, A. macroclada
7, A. socialis


⑥低危険種(LC)
絶滅の懸念は少ない。
1, A. beankaensis
2, A. divaricata ssp. divaricata
3, A. divaricata ssp. vaotsohy
4, A. imalatensis
5, A. occidentalis
6, A. vaombe

⑦情報不足(DD)
評価するための情報がないか少ない。

以上が論文の簡単な要約です。さて、見てお分かりのように、絶滅の可能性がある種がほとんどで、絶滅の懸念が少ない低危険種はたった6種類に過ぎません。マダガスカルのアロエの危機的状況が分かります。しかし、一番の問題は情報不足が半数種に及ぶことです。情報のない種はすでに絶滅、あるいはこの瞬間にも絶滅しかけているかもしれないのです。もし、保全をするにせよ、現在のアロエの詳しい情報が必要です。調査は急務でしょう。
問題はまだあります。マダガスカルのアロエは生息地が非常に狭いため、開発などにより一気に絶滅してしまう可能性があるということです。例えば、2014年のこの論文では、Aloe bakeriは準絶滅危惧種であり、現在は絶滅の可能性は少ないとされています。しかし、2010年のCastillonの報告によると、港湾や空港開発のためにAloe bakeriの分布する岩場が切り出されてしまい、すでに絶滅していたというのです。キュー王立植物園のデータベースでも絶滅したことが示されています。このように、マダガスカルではそれほど危機になかったアロエでも、一瞬で絶滅に追いやられてしまいます。正確な調査と保全が実施されることが望ましいのですが、口で言うほど簡単ではないでしょう。知らない間に、沢山のアロエが絶滅していたなんてことならなければいいのですがね。



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先日、ワシントン条約で規制されるユーフォルビアについての記事を書きました。CITES2018からユーフォルビアの項目を抜粋しましたが、CITESには他にも沢山の多肉植物が記載されています。今日はアロエについて見てみましょう。  

流通
アロエ属はサハラ以南のアフリカ、アラビア半島、マダガスカル及びアフリカ東海岸沖の島々に、様々な環境で500種類以上が自生します。また、多くの種が野生化し帰化植物と化し、一部は侵入種と見なされています。Aloe vera以外のアロエの全種類は、CITESの附属書に記載されています。

判別
小さな多肉植物から背の高い木本までアロエは様々です。花は黄色から赤色が普通です。ほとんどの種は葉の縁に沿って鋭いトゲを持ちますが、リュウゼツランの仲間に見られる葉の先端の鋭いトゲはありません。葉は茎の末端にロゼットを形成し、古い葉が枯れ葉の「スカート」を形成することがあります。葉は簡単に折ることができ、無色のゲル状の物質があります。これは、一部の種類では酸化すると黄褐色からオレンジ色に変わります。

分類学
CITESでは、アロエ属にはAloidendron、Aloiampelos、Kumara、Chortolirionを含んだものを示しています。

用途
アロエは様々な用途に使用されます。まず、観葉植物としての人気があり、乾燥地の造園に使用されます。取り引きされる主要なアロエ製品は、Aloe veraとAloe feroxの葉のゲルで、化粧品やサプリメント、食品、香料、医薬品まで多目的に使用されます。医薬品としては、その抗酸化作用と抗菌性を利用して、皮膚や消化器の病気に使用されます。Aloe veraによる製品の世界市場は130億米ドルに達したと推定されており、取り引き量の増加することにより、Aloe veraと誤って別種のアロエが使われてしまう可能性もあります。
アロエから取れる苦い黄褐色の樹液も国際的に取り引きされ、主にAloe feroxから採取されます。

商業
商業目的の附属書Iのアロエの国際取り引きは禁止されています。ただし、人工繁殖させた植物の商取引は許可されています。
人工繁殖した附属書IIのアロエは米国、中国、ドミニカから輸出され、日本やカナダに輸入されます。Aloe feroxは南アフリカとマダガスカルから輸出され、オランダとドイツに輸入されています。南アフリカのAloe feroxは野生植物が採取されており、過去10年間で560万トンが輸出されています。Aloidendronは日本で人工繁殖され、取り引きされています。

附属書 I
附属書Iは
絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の種類です。

1, Aloe albida

2, Aloe pillansii

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3, Aloe pollyphylla

4, Aloe vossii

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5, Aloe albiflora

6, Aloe alfredii

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7, Aloe bakeri

8, Aloe bellatula

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9, Aloe calcairophila

10, Aloe compressa

11, Aloe delphinensis

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12, Aloe descoingsii

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13, Aloe fragilis

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14, Aloe haworthioides

15, Aloe helenae

16, Aloe laeta

17, Aloe parallelifolia

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18, Aloe parvula

19, Aloe rauhii

20, Aloe suzannae


以上は附属書Iに記載されたアロエです。しかし、実はアロエのかなりの種類は、実際に調査が行われていないことから、絶滅の可能性があるか判定できていません。そこら辺の話について早速論文を見つけましたので、明日記事にする予定です。


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アロエの多くは、長い管状の橙・赤系統の花を咲かせ、蜜を求めて訪れた鳥により受粉する鳥媒花と考えられています。また、一部のアロエは比較的短い管状の白色かクリーム色の花を咲かせますが、これらは昆虫により受粉する虫媒花とされます。
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Aloe parvula

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Aloe albiflora

しかし、実際に観察や受粉の確認を調査されたアロエは少ないのが現状です。過去の研究は非常に重要な知見ですが、それを証拠に未調査のアロエについて語ることは果たして出来るのでしょうか? 私は一部の結果からすべてを結論付けることは非常に危ういと思います。ですから、花粉媒介のシステムについて何か面白い論文はないか探ってみました。見つけたのが、C. Botes, P. D. Wragg, S. D. Johnsonの2009年の論文、『New evidence for bee-pollination systems in Aloe (Asphodelaceae: Aloideae), a predominantly bird-pollinated genus』です。

一般的にアロエの受粉には鳥が重要であり、蜜蜂はアロエの受粉に寄与しない、いわゆる蜜泥棒(盗蜜者)とされています。しかし、著者らは蜜蜂とアロエの関係を見直しています。論文で観察されたのは、淡いピンクがかったクリーム色の花を咲かせるAloe minimaと、明るい緑がかった黄色の花を咲かせるAloe linearifoliaです。自生地はアロエの蜜を訪れる太陽鳥が複数種分布する地域だそうです。
さて、まずは実験的にこれらのアロエの花を自家受粉させてみましたが、ほとんど種子は出来ませんでした。次にアロエを網で覆い鳥が入れない状態にした場合、蜜蜂は網目から侵入しアロエの蜜を吸いました。この場合は鳥の受粉への影響がない状態ですが、アロエは種子が出来ました。さらに、自家受粉はほとんどしないことも確認済みですから、これらのアロエは蜜蜂により受粉していることが明らかになったのです。
ということで、著者らは考えられていた以上にアロエの受粉には蜜蜂が重要かも知れないとしています。
花の特徴を調べたところ、2種類とも花は紫外線を反射しました。動物は目で捉えられる波長が異なるため、紫外線を見ることが出来る昆虫にとっては、紫外線の反射は意味があるようです。また、これらのアロエの花は揮発性物質を放っており、その香りは人間の鼻でもわかる強さです。香りはテルペノイドとベンゼノイドが主要なものでしたが、A. minimaは6種類、A. linearifoliaは実に17種類の香り物質が検出されました。実際にA. linearifoliaの方が香りは強いそうです。このような花の特徴は虫媒花の特徴とされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。以前にも記事にしましたが、Aloe feroxの花の受粉は主に蜜を吸う専門家である太陽鳥ではなく、蜜を専門としない日和見の鳥が受粉の主体であるという面白い結果でした。この時、蜜蜂は受粉に寄与しないことが確認されています。しかし、Aloe feroxは巨大アロエであり、むしろ特殊な例かもしれません。この論文からは、多くの中型~小型アロエの受粉に蜜蜂が関与している可能性すらあるのです。今後、もっと沢山の種類のアロエの受粉について調査がなされるべきでしょう。
また、論文で調査されたクリーム色や薄い黄色などの淡い色合いで香りがある花には、一般的に蛾が訪れる蛾媒花が多い傾向があります。夜間の調査も必要ではないかと感じました。


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植物の種子はある程度は保存出来るものが多く、種の保存にとって種子の長期保存は有効な手段である可能性があります。種の保存には幾つかの方法がありますが、採取した植物を栽培して維持することは植物園や大学などの研究機関の重要な仕事です。しかし、同じ種類の植物でも遺伝的な多様性があることが本来の姿ですが、このような栽培個体は遺伝的な多様性が低いことが問題です。自生地での野生植物の消滅により栽培植物を移植しようとした場合に、その全てが株分けした遺伝的に均一なクローンだったり、血縁関係にある兄弟ばかりでは、種子が出来なくなりやがて消滅してしまいます。解決策は自生地と同じくらい遺伝的多様性を栽培植物で維持出来れば良いのですが、ただ1種類の植物を維持するだけで大変な労力と場所と資金がかかってしまいます。当然それは専門知識を持つ研究者が行わなければなりませんから、地球上の絶滅の危機に瀕している植物すべてをというのは明らかに無理でしょう。しかし、原産地から種子を回収して保存しておけば、将来の絶滅に備えることが可能です。沢山の種子を採取しておけば遺伝的多様性も保たれますし、人工的に栽培する場合と異なり場所も手間もかかりません。ですから、種子の保存に関しては興味があります。
確か、種の保存を目的として、実際に様々な植物の種子が凍結保存されていると聞いたことがあります。しかし、その凍結種子を撒いて植物が育ったという話は聞いたことがないため、気になっていました。なぜなら、一般的に生物を凍結すると細胞内の水分が凍ってしまい、氷の結晶が出来て細胞が破壊されてしまいます。解凍した肉や魚から赤い汁(ドリップ)が出るのは、これが原因です。種子は水分が少ないので細胞の破壊は免れるのでしょうか? また、凍った水分は凍結した時間が長くなると、やがて液体になる融解を経ずに直接気体になります。これを昇華と呼びますが、凍結種子は大丈夫なのでしょうか?

とまあ前提が長くなりましたが、要するに凍結種子が本当に芽生えるのかが気になっていた訳です。せっかくだから、多肉植物で何か関係がありそうな論文を探してみたところ、面白そうなものを見つけました。S.R.Cousins, E.T.F.Witkowski, D.J.Mycockの2014年の論文、『Seed strage and germinatiom in Kumara plicatilis, a tree aloe endemic to mountain fynbos in the Boland, south-western Cape, South Africa』です。タイトルの通りKumara plicatilisの種子を温度を変えて保存し、生存率を確認しています。ちなみに、このKumara plicatilisとは、いわゆるAloe plicatilisのことで、2013年にアロエ属から分離しクマラ属となりました。日本では「乙姫の舞扇」というあまり使われない名前もあります。

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Kumara plicatilis

まず、実験の基本的な前提から見ていきましょう。K. plicatilisの新鮮な種子は2010年12月にRawsonville/Worcester近くの40個体から採取されました。採取した種子は茶色の紙袋に入れて実験室で3ヶ月保管されました(※1)。空の種子は除かれました。2400個の種子を300個×8に分け、さらにそれぞれを20個を1本の密封容器に入れました。
種子は4つの温度で、4ヶ月及び9ヶ月保管されました。設定された温度は、マイナス80度、4度、25度、研究室内の4つです。期間は12月から2月で、ヨハネスブルグでは夏にあたるそうです。

※1 ) K. plicatilisの種子は種子が出来た後、直ぐに種子を撒くとあまり発芽しません。ある程度の後熟期間を必要としています。

結果を見ていきましょう。
まずは発芽率です。12時間で昼と夜が切り替わる培養機で、日中は25度、夜間は15度に設定して発芽させました。マイナス80度で保存された種子は、保存期間に限らず発芽が早く、平均5.9日でした。逆に研究室内で保存された種子は平均7.8日で発芽しました。
また、18週間の間に発芽しない種子は、種子の生存を確認する試験(テトラゾリウム試験)を実施しました。つまり、試験後の種子は、①発芽した種子、②空になった死亡種子、③テトラゾリウム試験により生存を確認した種子、④テトラゾリウム試験により死亡を確認した種子、の4種類です。重要な①と③、さらには①と③を足した生存率を見ていきましょう。
4ヶ月保存した種子では、マイナス80度で①90.4%+③4.8%=95.2%、4度では①87.6%+③10.0%=97.6%、25度では①78.0%+③14.0%=92.0%、室内では①80.4%+③16.4%=96.8%でした。4ヶ月保存では種子を冷やした方が発芽率は良く、室内保存では種子の生存率は高いものの発芽率は低下しました。
次に9ヶ月
した種子では、マイナス80度で①39.6%+③52.4%=92.0%、4度では①39.2%+③50.0%=89.2%、25度では①79.6%+③15.2%=94.8%、室内では①88.8%+③4.8%=93.6%でした。不思議なことに、9ヶ月の保存では発芽率は種子を冷却した方が発芽率が低下したのです。

さて、著者らは①発芽率+③生存種子を重視しており、長期の低温条件が種子の休眠を誘発する可能性を指摘しています。一般的に秋に出来た種子が直ぐに発芽せず、一度低温にさらされることにより、春に種子が休眠から目覚めるというプロセスがあります。しかし、この場合は逆ですが低温による休眠の可能性も論文になっているようです。著者らは長期冷蔵は種子にとって環境ストレス要因であるとしておきながらも、逆に休眠状態に入ることは種子寿命を伸ばす可能性を上昇させるとしています。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文にはまだ曖昧な部分があります。それは、テトラゾリウム試験で生存しているとは一体どういう意味を持つのかということです。胚乳や子葉が生存していても、幼根や幼芽の原器あるいは胚軸にダメージがあれば生存していても発芽は出来ないでしょう。生存していても発芽出来ないのなら、冷却による長期保存の利点はありません。著者らは種子寿命が伸びると言っていますが、発芽しない種子を一体どうしようというのでしょうか? よくわかりません。種子から胚を摘出して組織培養するのなら、あるいは可能なのかもしれませんが。
さて、論文を読むと実際に行われている種子の凍結保存に対して、ある種の疑念が湧きます。将来のために凍結された種子たちは将来、果たして無事に発芽出来るのでしょうか? もちろん、これはK. plicatilisというと1種類の植物に対してだけの結果です。しかし、凍結保存された種子たちが、その全ての種類で発芽試験が実施されているとは思えません。しかも、種の保存を目的とした場合、4ヶ月や9ヶ月どころではなく、最低でも数十年という保存期間が必要なはずです。種子の冷凍保存は本当に長期保存に最適な方法なのでしょうか? 個人的には組織培養したカルスを液体窒素につけておけば、何十年も保存可能なはずです。確かに組織培養に移行するのは手間がかかりますが、確実性は高い気がします。


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昨日に引き続きAloe of the world: When, where and who?』という論文をご紹介しています。昨日はアロエ属が誕生した1753年から、1930年までの約180年間のアロエの歴史を見てきました。本日は1930年代から、いよいよアロエ属の権威であるReynoldsが登場します。また、2000年以降は現在も活動している研究者の名前が現れます。また、例によって、所々に※印で私が注釈を入れました。では、アロエの歴史を見てみましょう。

1931~1940年
1930年代からアロエ属研究の第一人者であるG. W. Reynoldsが登場します。N. S. PillansやB. H. Groenewaldと共にアフリカ南部から膨大な数のアロエを記載しました。アフリカ南部からReynoldsは24種類、Pillansは9種類(1種類はSchonlandと共著)、Groenewaldは6種類を記載しました。ReynoldsのライバルであったH. B. Christianは南熱帯アフリカから8種類(1種類はE. Milne-Redheadとの共著)のアロエを記載しました。
O. Stapfはグラスアロエのために新属Leptaloeを創設しました(※7)。また、A. LemeeはA. Bergerのアロエの分類におけるSection Aloinellaeを属に格上げし、Aloinella Lemeeを創設しました(※8)。
他には、J. Leandriはマダガスカルの新しいLomatophyllumを、A. A. Bullockは東熱帯アフリカ、L. Bolusはアフリカ南部、I. B. Pole Evansはアフリカ南部、C. L. Lettyはアフリカ南部、A. Guillauminはマダガスカルから、それぞれアロエを1種類記載しました。
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Aloe spectabilis Reynolds (1937年命名)

※7 ) Leptaloe属はAloe myriacanthaを5種類に分けていました。また、Aloe minima、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe albidaが含まれていました。しかし、Leptaloe属は現在では認められていません。

※8 ) Aloinella属はAloe haworthioidesが含まれていましたが、現在では認められていません。
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Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides


1941~1950年
1940年代初頭にB. H. Groenewaldはアフリカ南部のアロエに関する本を出版しました。また、1940年代のReynoldsは、『The Aloes of South Africa』という画期的なアロエの本を出版するために集中したため、アフリカ南部のアロエはあまり記載されませんでした。しかし、1950年に出版されたReynoldsの本はアロエの標準的な教科書となりました。
その間に、H. B. Christianは南熱帯アフリカと東アフリカで活発に活動し、東熱帯アフリカから6種類、南熱帯アフリカから2種類(1種類はI. Verdoornとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。Guillauminはマダガスカルから3種類のアロエと、Lomatophyllumを記載しました。
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Aloe descoingsii Reynolds (1958年命名)

1951~1960年
1950年代、Reynoldsはアフリカ東部と北東部、及びマダガスカルに注意を向けました。以前のReynoldsはリンポポ川の北は調査しないというChristianとの合意によりアフリカ南部に集中していましたが、1950年にChristianが亡くなったため調査範囲が広くなったのです。Reynoldsは42種類もの新種のアロエを記載しました。内訳はアフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから6種類、東熱帯アフリカから9種類、北東熱帯アフリカから17種類(6種類はP. R. O. Ballyとの共著)、西中央熱帯アフリカから7種類でした。
また、Christianの死後に4種類のアロエが記載されました。南熱帯アフリカから1種類、北東熱帯アフリカから1種類、東熱帯アフリカから2種類(I. Verdoornとの共著)でした。
D. M. C. DrutenはUrgineaとされていたAloe alooides (Bolus) Drutenをアロエ属としました(※9)。P. R. O. BallyとI. Verdoornは北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
A. Bertrandはマダガスカルのアロエのために新属Guillauminiaを提唱しました(※10)。


※9 ) Urginea属は現在Drimia属の異名とされています。Drimia、Albuca、Schizocarphus、Fusifilum、Dipcadi、Ledebouria、Prospero、Austronea、Ornithogalum、Trachyandraを含んでいた非常に雑多なグループでした。

※10 ) Guillauminia属には、Aloe albida、Aloe bakeri、Aloe ballatula、Aloe descoingsii、Aloe carcairophila、Aloe rauhiiが含まれていました。しかし、Guillauminiaは現在では認められていません。
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Aloe bakeri
=Guillauminia bakeri


1961~1970年
Reynoldsは熱帯アフリカとマダガスカルで調査を続け、1966年に『The Aloes of Tropical Africa and Madagascar』を出版しました。この本も出版から数十年に渡り標準的なアロエ属の教科書となりました。Reynoldsはマダガスカルから4種類、北東熱帯アフリカから3種類(2種類はP. R. O. Ballyとの共著)、東熱帯アフリカから4種類、南熱帯アフリカ~アフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから7種類、アラビア半島から1種類のアロエを記載しました。
1960年代、J. J. Lavranosはアラビア半島から6種類のアロエを記載しました。
他には、W. Rauhがマダガスカルから1種類、I. Verdoornはアフリカ南部から3種類、(1種類はD. S, Hardyとの共著)、L. C. Leachはまだ南熱帯アフリカから1種類、J. M. Bosserはマダガスカルから3種類、W. Giessはナミビアから1種類のアロエを記載しました。


1971~1980年
J. J. Lavranosはアロエ研究を続け、アフリカ南部から2種類、アラビア半島から3種類(2種類はA. S. Bilaidiと、1種類はL. E. Newtonと共著)、東熱帯アフリカから4種類(3種類はL. E. Newtonとの共著)のアロエを記載しました。
L. C. Leachは南熱帯アフリカで活発に活動し、南熱帯アフリカから10種類、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
W. Maraisは2種類のLomatophyllumを記載しました。
他にはD. S. Hardyはアフリカ南部から2種類、W. Giessはナミビア、アフリカ南部から2種類(1種類はH. Mermullerとの共著)、G. D. Rowleyは北東熱帯アフリカから1種類、G. Cremersはマダガスカルから2種類、B. mathewは西中央熱帯アフリカ(コンゴ)から1種類、I. Verdoornは南部及び南熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから3種類(P. E. Brandhamとの共著)のアロエを記載しました。
また、この10年間でアフリカ南部のアロエに関する本は、例えば1974年のBornman & Hardy、1974年のJeppe、1974年のWest、1975年のJankowitzなどが出版されました。
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Aloe erinacea D. S. Hardy (1971年命名)

1981~1990年
H. F. GlenとD. S. Hardyはアフリカ南部のアロエ研究を開始しました。
W. Rauhはマダガスカルから2種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から1種類と北東熱帯アフリカから1種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類(2種類は
H. J. Beentjeと、2種類はJ. J. Lavranosとの共著)、S. CarterとP. E. Brandhamは北東アフリカから1種類とアフリカ南部から1種類、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(1種類はK. Kritzingerとの共著)、J.R. I. Woodはアラビア半島で1種類、D. C. H. Plowesはアフリカ南部で1種類のアロエを記載しました。

1991~2000年
1990年代にはアフリカ南部のアロエに関する本が2冊出版(2000年のGlen & Hardyと、1996年のVan Wyk & Smith )されましたが、アフリカ南部からは新しいアロエは記載されませんでした。しかし、東アフリカのアロエ研究は増加しました。L. E. Newtonは東熱帯アフリカから8種類、北東熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから6種類(1種類はNewtonとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。また、Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから12種類(1種類はP. E. Brandham、1種類はM. G. Gilbert、1種類はM. Dioliとの共著)、J. J. Lavranosは北東アフリカから3種類(1種類はS. Carterとの共著)、マダガスカルから5種類(1種類はW. Röösliとの共著)、アラビア半島から9種類(7種類はS. Collenetteとの共著)のアロエを記載しました。
W. Rauhはマダガスカルの4種類(1種類はR. Hebding、1種類はA. Razafindratsira、1種類はR. Geroldとの共著)のLomatophyllumについて紹介しました。さらに、マダガスカルから4種類(1種類はR. D. Mangelsdorff、2種類はR. Geroldとの共著)のアロエを記載しました。

P. V. HeathはGuillauminiaを支持し、新属Leemea P. V. Heathを提唱しました(※11)。
他には、A. F. N. Ellertは南熱帯アフリカから1種類、P. FavellとM. B. MillerとA. N. Al Gifriはアラビア半島から1種類、J-B. Castillonはマダガスカルから2種類のアロエを記載している。

※11 ) LeemeaではなくLemeeaの誤記です。Aloe boiteaui、Aloe haworthioides、Aloe parvulaが含まれていました。Lemeea属は現在では認められていません。
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Aloe parvula
=Lemeea parvula


2001~2010年
L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類と北東熱帯アフリカから1種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から7種類(1種類はB. A. Mies、2種類はT. A. McCoy、1種類はT. A. McCoyとA. N. Al Gifri との共著)、北東熱帯アフリカから8種類(すべてMcCoyとの共著)、東熱帯アフリカから6種類(すべてMcCoyとの共著)、マダガスカルから17種類(8種類はMcCoy、1種類はM. Teissier、5種類はMcCoyとB. Rakouthとの共著)のアロエを記載しました。
G. F. Smithはアフリカ南部から5種類(2種類はN. R. Crouch、2種類はR. R. Klopper)を説明しました。E.
 J. van Jaasveldは8種類のアロエを説明しました。1種類はA. B. Low、3種類はA. E. van Wyk、1種類はW. Swanepoelとの共著です。

この10年最大のアロエ研究の貢献は、J-B. CastillonとJ-P. Castillonの親子でした。マダガスカルのアロエの21種類の組み合わせを説明し、5種類のアロエを記載しました。
他には、S. S. Laneは南熱帯アフリカから1種類、P. I. Forsterはマダガスカルから1種類、S. J. ChristieとD. P. HannonとN. A. Oakmanは北東熱帯ですから1種類、A. F. N. Ellertはコモロ諸島から1種類と南熱帯アフリカから2種類、S. Carterは北東熱帯アフリカから1種類と南熱帯アフリカから1種類、N. Rebmannはマダガスカルから4種類、S. J. Maraisはアフリカ南部から1種類のアロエが記載しました。B. J. M. Zonneveldはアフリカ南部から4種類のアロエを記載し、2種類は一部の研究者に認められています。
この10年間に出版されたアロエの本は、2001年のCarter、2004年のLane、2004年のSmith、2004年のRothmann、2008年のSmith & Van Wyk、2010年のCastillon & Castillonがあります。


2011年以降
2011~2013年の間には15種類のアロエが説明されています。Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから4種類(1種類はTesfaye Awas、1種類はI. FriisとI. Nordalとの共著)、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(2種類はW. Swanepoel、1種類はP. nelとの共著)、南熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。M. DioliとG. Powysは東熱帯アフリカから新種を説明しました。J-B. Castillonはマダガスカルから1種類、J-P. Castillonはマダガスカルから2種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから2種類、G. F. Smithと
E. Figueiredoはアフリカ南部から2種類(1種類はN. R. Crouchとの共著)の組み合わせを公表しました。
アロエ研究の重要な2冊の本が出版されました。2011年の『The Aloe Names Book』はアロエの学名と異名につえて解説しており、同じく2011年のCarterの『Aloes: the Definitive Guide』はReynolds以来はじめて全種類のアロエを一冊の本にまとめたものです。


以上が論文の内容となります。個人的には学名関連の話が好きなので、大変面白い論文でした。しかし、この論文の後、遺伝子解析の結果によりアロエ属は解体されることになりました。2013年の論文を根拠とするAloidendron (A. Berger) Klopper & Gideon F. Sm.、Aloiampelos Klopper & Gideon F. Sm.、2014年の論文を根拠とするGonialoe (Baker) Boatwr. & J. C. Manning、Aristaloe Boatwr. & J. C. Manningがアロエ属から分離しました。また、2013年にはG. D. Rowleyにより1786年に命名されたKumara Medik.が復活しました。当然ながら、アロエ属から分離したのはごく一部でありほとんどのアロエは未だにアロエ属のままです。また、2019年に命名された新属Aloestrela Molteno & Gideon F. Sm.は、遺伝的にはどうやらAloidendronに含まれるようですが、現在はまだAloestrelaのままです。今後変わる可能性はあるのでしょうか?
このように、この論文と同時期に出た論文により、その後のアロエは一変しました。2011~2020年のアロエ属は思いもよらぬ激変を経験しました。2021年以降のアロエはどうなっていくのでしょうか?



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Carl von Linneにより1753年に二項式の学名の記述方法が提案されアロエ属が誕生しました。つまり、Aloe L.です。しかし、実際にはそれ以前からアロエの仲間はヨーロッパで知られていましたが、ラテン語による特徴の羅列により記述されていました。von Linneによる1753年の『Species Plantarum』では、GasteriaやHaworthiaもアロエ属として記載されていました。これが、アロエ属の誕生に関する話ですが、それから270年ほど経ちアロエ属も激変しました。そのアロエ属の歴史を紐解いたRonell R. Klopper & Gideon F. Smithの2014年の論文、『Aloe of the world: When, where and who?』を見つけました。アロエの歴史を見てみましょう。ちなみに、2014年以降に学名が変更されたものもありますから、※印で私が注釈を入れました。

1753~1760年
von Linneが初めてAloe L.を記載しました。この中では、Aloe variegata L.のみが現在でもアロエ属として残されています。

1761~1770年
アロエ研究に貢献した最初の人物は、1768年に『Garden Dictionary』の第8版を出版したP. Millerでした。Millerは主に南アフリカから来た新しいアロエについて説明しました。
この時期に出版されたものとしては、N. L. Burmanによる『a new combination for Aloe vera (L.) Burm.f.』と、R. Westonによる南アフリカの1種類のアロエについてでした。

1771~1780年
1761~1763年にArabia Felix(現在のイエメン)でデンマークの遠征があり、同行したP. Forsskal
により初めてアラビア半島のアロエについて説明されました。しかし、1880年代後半までアラビア半島のアロエについては何もありませんでした。
この時期には、P. Miller、C. Allioni、F. Massonにより、南アフリカのアロエがそれぞれ1種類記載されました。
また、F. K. MedikusによりKumara Medik.が記載されました。(※1)

※1 ) Aloe plicatilisは、初めvon LinneによりAloe disticha var. plicatilisとされました。しかし、Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。このことが後に問題を引き起こします。MedikusがAloe plicatilisをKumara distichaと命名してしまったのです。正しく引用するならば、Kumara plicatilisとすべきでした。MedikusはAloe plicatilisをKumara属としたつもりでしたが、規約上ではGasteria distichaをKumaraとしてしまったのです。困ったことにGasteria属の創設よりもKumara distichaの方が命名が早かったため、規約上では現在のGasteria属はKumara属とする必要があります。ただし、規約に従うと大きな混乱を招くため、変更は行わず現状維持が提言され認められています。ちなみに、Aloe plicatilisはアロエ属から独立し、Kumara plicatilisとなりました。Medikusの提唱したKumara属が正しい引用により復活したのです。
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Kumara plicatilis
=Aloe plicatilis
=Aloe disticha var. plicatilis


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Gasteria disticha
=Aloe disticha


1781~1790年
J. B. A. P. M. C. de Lamarckはモーリシャス、東アフリカ、北東アフリカから1種類ずつのアロエを記載しました。また、C. Linnaeus jnr.(von Linneの息子=Linne filius)とA. Aitonは、アフリカ南部からそれぞれ新種のアロエを1種類記載しました。

1791~1800年
アフリカ南部ではC. P. Thunberg、R. A. Salibusy、C. L. Willdenow、A. P. de Candolleが新種を記載しました。de Candolleはアフリカ南部だけではなく、熱帯アフリカ北東部やアラビア半島、モーリシャスも記載しています。しかし、この1790年代に発表された10種類のアロエは、現在では使用されていないものです。

1801~1810年
1804年にA. H. Haworthはアロエ属の新しい分類を発表しました。また、Haworthはアフリカ南部から幾つかの新種を記載しましたが、現在ではそのうち2種類だけが認められています。
de Candolle、J. B. Ker Gawler、J. A. Schultesがアフリカ南部で、Willdenowはアフリカ南部とモーリシャスで新種を記載しましたが、現在では異名扱いとなり認められていません。

1811~1820年
Haworthはアフリカ南部から2種類、Reunion島から1種類のアロエを記載しました。Willdenowはアフリカ南部とモーリシャス、W. T. Aitonはアフリカ南部、Ker Gawlerはアフリカ南部とモーリシャス、Prince J. M. F. A. H. I. von Salm-Rifferscheid-Dick (Salm-Dick)はアフリカ南部で新種を記載しましたが、これは現在認められていません。
Willdenowは新属Lomatophyllum Willd.を提唱しました。Lomatophyllum(※2)はマダガスカルとマスカレン諸島に固有の液果を持つアロエです。
Medikusは樹木状のアロエであるRhipidodendron Medik.を提唱しました(※3)。
Ker Gawlerは主にマスカレン諸島の液果アロエをPhylloma Ker Gawlとして記載しました(※4)。現在、これらの新属はアロエ属とされています。

※2 )Lomatophyllum属は現在アロエ属に含まれることになりました。遺伝子を解析したところ、Lomatophyllumとされてきた種類同士が近縁ではなかったのです。離島で進化したアロエの収斂進化ということなのでしょう。

※3 )Rhipidodendron属は、Aloe dichotomaとAloe plicatilisを含むものでした。しかし、現在では認められていません。ちなみに、Aloe dichotomaはアロエ属から独立し、Aloidendron dichotomumとなりました。Aloe plicatilisは(※1)を参照。
DSC_1221
Aloidendron dichotomum
=Aloe dichotoma


※4 ) Phylloma属はLomatophyllumとされていたアロエのうち2種類が該当します。Aloe purpurea(=L. purpureum)をP. aloiflorumなど3種類に分けていました。また、Aloe macra(=L. macrum)はP. macrumとされました。

1821~1830年
Haworthはアロエの重要な研究をしており、アフリカ南部から10種類の新種を記載しました。さらに、Pachydendron Haw.を提唱しました(※5)。
W. J. BurchellとSalm-Dickは、それぞれアフリカ南部から1種類の新種を記載しました。J. A. SchultesとJ. H. Schultesは共同で2つのアフリカ南部のアロエの新しい名前と新しい組み合わせを発表しました。
H. F. Link、L. A. Colla、K. Sprengelはアフリカ南部、R. Sweetはマスカレン諸島、J. A. SchultesとJ. H. Schultesはアフリカ全域で、様々な新種を記載しましたが、その多くは現在使用されていないものです。

※5 ) Pachydendronはサンゴの化石につけられた学名ですからこれは誤りです。正しくはPachidendronです。Aloe feroxとAloe africanaが含まれていました。

1831~1840年
1830年代にはアロエに関する研究や出版物はあまりありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部、H. W. Bojerはマダガスカルとマスカレン諸島、E. G. von Steudelはアラビア半島とアフリカ南部で新種を記載しましたが、現在は異名とされています。1837年に出版されたBojerの『Hartus Mauritianus』は、マダガスカルとマスカレン諸島のアロエを記載した初めての記録です。

1841~1870年
この30年間はアロエ属はあまり変化がありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部から2種類の新種を記載しました。von SteudelはPhylloma属について整理しました。R. A. Salisburyは新属Busipho Salisb.を創設しました。BusiphoにはAloe feroxが含まれていましたが、現在では認められていません。

1871~1900年
この30年間はJ. G. Bakerがアロエ研究を独占しました。Bakerは生涯に42種類の新種と20の異名を記載しました。Bakerによりソコトラ島とマダガスカルのアロエの正式な説明がなされました。アロエ研究はアフリカ南部から始まり、東アフリカから北東の熱帯アフリカにまで及びました。アロエに関する沢山の著作として、1883年の『Contribution to the Flora of Madagascar』、1896年の『Aloe to the Flora Capensis』、1898年の『Flora of Tropical Africa』などが知られています。
A. Todaroは1880年代後半から1890年初頭にかけて、熱帯アフリカの北東部と西部の4種類のアロエを説明しました。1888年から1895年の間にH. G. A. Englerは、アフリカ南部から1種類、東熱帯アフリカから4種類のアロエを記載しました。
他には、W.T. Thiselton Dyerがアフリカ南部から1種類、I. B. Balfourがマダガスカルから1種類、G. F. Scott-Elliotがマダガスカルから1種類、A. B. Rendleが東熱帯アフリカから1種類、C. E. O. Kuntzeがアフリカ南部から1種類、W. Watsonが北東熱帯アフリカから1種類を記載しています。
A. Deflersは1885年から1894年の間にアラビア半島を探検しました。Forsskal以来120年ぶりにアラビア半島でアロエが調査されました。Deflersはイエメンとサウジアラビア南部に遠征し、Aloe tomentosa Deflersを記載しました。この間にG. A. Schweinfurthは熱帯アフリカ北東部から3種類、アラビア半島から2種類のアロエを記載しました。
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Aloe somaliensis C. H. Wright ex W. Watson
(1899年命名)


1901~1910年
この10年間の最も著名なアロエ研究者はA. Bergerで、アロエ属の新しい体系とモノグラフを含む研究を行いました。Bergerはアフリカ南部から9種類(うち2種類はH. W. R. Marlothとの共著)、南熱帯アフリカから2種類、東熱帯アフリカから5種類、北東熱帯アフリカから3種類、西部及び西中央熱帯アフリカから1種類、マダガスカルから3種類、コモロ諸島から1種類のアロエを記載しました。また、Bergerは新属Chamaealoe A.Bergerを提唱しました(※6)。
S. Schonlandは1900年代にアフリカ南部のアロエを研究し、9種類の新種を記載しました。
その他には、J. G. Bakerは、H. G. A. EnglerとE. G. Gilgは南熱帯アフリカ、I. B. Balfourはソコトラ島、G. KarstenとH. Schenckは北東熱帯アフリカ、A. B. Rendleは東及び西中央熱帯アフリカ、Marlothはアフリカ南部から新種のアロエを記載しました。

※6 ) Chamaealoe属はChamaealoe africanaからなる属でした。これは現在のAloe bowieaのことです。A. bowieaは初めは1824年にBowiea africana Haw.と命名されました。しかし、Bowiea属からアロエ属に移る際に、すでにAloe africana Mill.というアロエが1768年から存在したため、Bowiea africana→Aloe africanaという移行が出来ませんでした。そのため、1829年にAloe bowiea Schult. & Schult.f.と命名されました。Chamaealoe africana (Haw.) A.Bergerは1905年に命名されましたが、現在では認められていません。
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Aloe bowiea
=Chamaealoe africana


1911~1920年
I. B. Pole Evansはアフリカ南部から14種類のアロエを記載しました。他には、S. Schonlandがアフリカ南部、A. Bergerは南部及び南熱帯アフリカ、A. B. Rendleは南熱帯アフリカから2種類、J. DecorseとH. -L. Poissonはマダガスカルから、それぞれアロエを記載しました。

1921~1930年
R. Decaryはマダガスカルから3種類のアロエと、後にアロエ属に移されたガステリアを記載しました。
1926年にマダガスカルのアロエとLomatophyllumに関する重要な本がJ. M. H. A. Perrier de la Bathieにより出版され、22種類のアロエが新たに記載されました。また、Decaryによりガステリアとされたアロエは、Aloe antandroi (Decary) Perrierとされました。Perrier de la BathieはLomatophyllumの6種類の新種を記載しました。
他には、P. Danguyがマダガスカル、E. Chiovendaは北東熱帯アフリカから2種類、E. A. J. de Willdermanは西中央熱帯アフリカ、A. Bergerはアフリカ南部、M. K. Dinterはアフリカ南部、N. S. Pillansはアフリカ南部、L. Guthrieはアフリカ南部からアロエを記載しました。

さて、記事が長くなってしまったので、一度ここで切ります。内容的にもアロエ属の権威であるReynoldsが1930年代から登場します。明日に続きます。


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雪女王Aloe albifloraが開花しました。アロエの花言えば赤~橙~黄色ですから、白い花は珍しい花色です。まさかの開花でした。まさに、albi(=白)flora(=花)ですね。
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雪女王 Aloe albiflora

雪女王は今年の正月明けに世田谷ボロ市で購入しました。いかにも休眠中といった色合いで、外側の葉は枯れ混んでいました。そのため、今年は植え替えをしてしっかり株を充実させて、来年花を拝めればという腹図もりでしたから、まさかの開花です。
一般的に赤系統の花はアフリカでは鳥媒花で、アロエの花には様々な鳥蜜を求めて訪れます。ガステリアのように、赤系統で小型の花だと太陽鳥が訪れます。日本だと赤系統の花にはマルハナバチが来ますが、白花には蛾やハエが訪れます。
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女王錦 Aloe parvula

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Gasteria baylissiana

アロエ類では広義のハウォルチア(Haworthia, Haworthiopsis, Tulista)は白花で蛾が訪れます。ハウォルチアは筒状の花の形からして、蜂が訪れることはなさそうです。
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Haworthiopsis glauca var. herrei

では、肝心の雪女王はどうでしょうか? 緑色の筋が入るところなどハウォルチアに似た部分もあります。しかし、ハウォルチアより花が開くので、蜂やハエも来るだけのスペースはありそうです。とは言え、実際には匂いなどで特定の昆虫を呼び寄せる機構があったりもしますから、実際に花を訪れる昆虫を観察する必要があるでしょう。
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雪女王 Aloe albiflora


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樹木状となるアロエは、アロエ属から分離しアロイデンドロン属(Aloidendron)となりました。アロイデンドロン属で一番有名な種類はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたアロエです。現在はAloidendron dichotomumとなっています。アロイデンドロン属は7種類あるとされています。つまり、A. dichotomum、A. ramosissimum、A. pillansii、A. barberae、A. tongaensis、A. eminens、A. sabaeumです。しかし、2019年に出たアロイデンドロン属の遺伝子を解析した論文によると、A. sabaeumはアロイデンドロン属ではなくアロエ属であることが分かりました。さらに、アロエ属から分離されたAloestrela suzannaeが、実はアロイデンドロン属に含まれてしまうことも明らかになりました。今後、公的データベースの情報も改定されていくかもしれません。

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さて、そんなアロイデンドロン属ですが、A. dichotomum以下はほとんど見かけません。最近、ようやくA. dichotomumの実生苗が流通し始めたばかりですから、さもありなんと言ったところです。私はたまたま千葉のイベントでA. ramosissimumを入手しましたから、本日はA. ramosissimumについて少し調べてみました。
とは言うものの、思ったより良い情報はありませんでした。しかし、あちこちのサイトを見たところ、どうもどれも似た内容ばかりであることに気が付きました。おそらく、南アフリカ生物多様性研究所(SANBI)が主宰している「PlantZAfrica」というサイトから来ているようですね。私も「PlantZAfrica」の記述を参照します。その前に、キュー王立植物園のデータベースを確認しておきましょう。なぜなら、A. ramosissimumがディコトマの亜種であるとしているサイトが割と目についたからです。

まず、始めは1939年にAloe ramosissima Pillansと命名されました。この名前が一番使われてきた馴染みがあるものでしょう。2000年にディコトマの変種であるとするAloe dichotoma var. ramosissima (Pillans) Glen & D.S.Hardyや、2002年にはディコトマの亜種とするAloe dichotoma subsp. ramosissima (Pillans) Zonn.とする意見がありました。この意見を参照としているサイトはまだあります。2013年にアロエ属ではなくアロイデンドロン属とするAloidendron ramosissimum (Pillans) Klopper & Gideon F.Sm.とされました。その後の遺伝子解析結果からも、アロエ属ではないことが確認されています。属内の関係では、A. dichotomumやA. pillansiiと近縁ということです。

さて、「PlantZAfrica」の内容に移ります。
A. dichotomumとA. ramosissimumとの最大の違いは、枝の分岐の仕方です。A. dichotomumは直立した太い幹の上部で枝分かれしますが、A. ramosissimumは根元から枝分かれを始め球状に育ちます。A. dichotomumは高さ10mを越えますが、A. ramosissimumは高さ2mほどです。
A. ramosissimumの分布は南アフリカのRichtersveldとナミビア南部に限定されます。A. ramosissimum非常に乾燥した岩場に生え、年間110mm以下の冬の降雨に依存しています。この地域では気温が46℃にもなります。
英名は「maiden's quiver tree」、つまり「乙女の矢筒の木」と呼ばれますが。「quiver tree」はA. dichotomumのことですから、A. ramosissimumが小型なことや枝振りからそう呼ばれているのかもしれませんね。ちなみに、「矢筒の木」とは、A. dichotomumの枝を矢筒を入れるために使用したと言われているためです。そういえば種小名の「ramosissimum」は、ラテン語で「ramosis」が「枝」で、「ssima」が「とても」という意味ですから、「最も分岐した」という意味になります。A. ramosissimumの特徴を良く表している名前です。

A. ramosissimumの花は鮮やかな黄色ですが、sugarbirdや蟻、ミツバチが蜜を求めて訪れます。翼のある種子は風で運ばれ、他の植物の近くで発芽します。これをナース植物と言って、日陰を作るので実生の生育にとって重要です。しかし、やがてA. ramosissimumはナース植物より巨大になり、結果的にナース植物は枯れてしまいます。

「PlantZAfrica」の記事は、まあだいたいこんな感じです。他のサイトでは、生長は遅く開花する1~1.5mになるまでに10~15年ほどかかると言います。どうやら、私が花を拝めるまで長い時間が必要なようです。また、若いツボミは食用となり、アスパラガスに似た味ということです。しかし、流石に10年以上かけて育てたA. ramosissimumを、開花前に食べてしまうのは憚られますね。とにもかくにも、このA. ramosissimumとは長い付き合いになるのでしょう。


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最近、1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を入手し、その中のPaul Stephan氏のユーフォルビア・コレクションをご紹介しました。せっかく珍しい古い文献ですから、他にも何か面白い記事はないか索引を眺めていたところ、私の興味ある多肉植物であるガステリアについての記事がありました。

さて、本日は『Kakteenkunde』のガステリアに関する2つの記事をご紹介します。記事の執筆者はドイツの植物学者であるKarl Joseph Leopold Arndt von Poellnitzです。多肉植物を広く研究しましたが、特にHaworthiaの分類で著名です。Poellnitzia rubrifloraに献名されていることからご存知の方もおられるでしょう。
先ずは11月号の「Zwei neue Gasteria-Arten」から見ていきましょう。どうも、2種類のガステリアの新種を発表しているみたいです。植物の特徴は何とラテン語で記載されていました。全く読めませんから、機械翻訳の不細工な怪文書を解読してみました。

・Gasteria caespitosa von Poellnitz spec.nov.
根元から非常に多く増殖します。葉は完全に円柱状で、直立し長さ10~14cm、基部の幅は2cmです。両端には結節状の鋸歯があります。葉には光沢があり斑点があります。この先はさらなる詳細と花の特徴が続いているようですが、残念ながらかなり翻訳文が怪しいのでここまでとしましょう。
ここから先はドイツ語の翻訳です。どうやら、van der Bijl夫人が1929年にケープランドのSomerset Eastで採取したものを、von Poellnitzに贈ったものということです。von Poellnitzはこのガステリアを、育ったらGasteria maculata (Thunb.) Haw.、あるいはその類似種となると考えていたようです。しかし、その予想は外れて、葉のサイズは変わらずに良く花を咲かせているということです。von Poellnitzはこのガステリアを、Gasteria subnigricans Haw.やGasteria fasciata (Salm) Haw.と関係するが、それらと区別されるため新種と考えているようです。

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Gasteria caespitosa von Poellnitz spec. nov.
さて、ではこの種は現在どうなっているでしょうか?
取り敢えず、G. caespitosaから見てみましょう。
Gasteria caespitosa Poelln., First published in Kakteenkunde 1937 : 165

ちゃんと『Kakteenkunde』の165ページに載ってると書かれていますね。いや、当たり前の話ですが、何となく嬉しく思います。しかし、残念ながらこのG. caespitosaは現在認められている学名ではありません。現在はGasteria obliquaの異名扱いです。また、von PoellnitzがG. maculataと似ていると思った直感は正しく、Gasteria maculata Haw.も現在ではGasteria obliquaの異名ですから、同じ種を示していた訳です。ちなみに、G. subnigricansはGasteria brachyphylla var. brachyphylla、G. fasciataは何とまたもやGasteria obliquaの異名となっています。

・Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
無茎またはほぼ無茎で、非常に早く生長し増殖します。若い苗は尖った2列の葉を持ち、成熟すると葉は渦巻き状の密なロゼットとなり、直径12~14cmです。横向きの縞模様があります。
やはり、このガステリアもvan der Bijl夫人によるもので、種小名は夫人に対する献名です。種小名が大文字なので単純に誤植かと思いましたが、写真の方の学名も同様なのであえてそうしているような気もしました。献名なのでとか何か理由があるのか、本当にただの誤植がは分かりません。von Poellnitzが7年育てましたが、未だに花は咲いていないということです。von Poellnitzもまだ生長しきっていないため、確実に新種とも言い切れないようで、やや歯切れの悪い言い方をしています。

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Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
G. bijliaeは、現在ではGasteria carinata var. carinataの異名となっています。

では続けて10月号のvon Poellnitzによる「Gasteria humilis v.P.」を見てみましょう。G. humilisは1929年にvan der Bijl夫人がケープランドのGreat Brak川付近で採取した植物で、同年にvon Poellnitzにより新種として記載されました。密に螺旋状となり直径12~14cmとなります。8~12枚の葉は若い時は直立し古い葉はやや広がります。葉は三角形で先端はごく僅かに内側に曲がり、鈍く尖ります。葉は滑らかで光沢があり、濃い緑色で斑点があります。
G. humilisは確かにG. decipiens Haw.やG. parvifolia Bak.、G. gracilis Bak.、G. Beckeri 
Schönlandに関連しています。しかし、これらとは異なり葉の縁がトリミングされます。また、G. obtuse (Salm) Haw.はキールが上部で曲がり葉縁を形成しますが、G. humilisでは目立ちません。
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Gasteria humilis v.P
名前が出てきた中では、G. humilisとG. parvifoliaはGasteria carinata var. carinataの異名、G. decipiensとG. BeckeriはGasteria nitida var. nitidaの異名です。G. gracilisは何に相当するのかが不明な種です。


以上が論文の簡単な要約です。1937年にvon Poellnitzにより命名された2種類のガステリアは、残念ながら現在は認められておりません。過去に命名したG. humilisもG. carinata var. carinataの異名になってしまいました。学名は一度決まったら不変なものではなく、結構ダイナミックに変更され続けるものですから、昔の学名と異なるのは差程珍しいことではありません。しかし、ガステリア属はかなり特殊で、「分類学者の悪夢」と呼ばれるくらい異名だらけでした。個体差や地域変異がすべて別種として命名されてきたのでしょう。まあ、そもそもが外見的に区別するのが難しいグループなのかもしれません。たしか、1990年代くらいからvan Jaarsveldにより、ガステリア属は大幅に整理されました。現在、ガステリア属は26種類に集約されました。とは言うものの、そのうち9種類は2000年以降に発見されていますから、種類が少ないのに新種が次々と発見されているホットなグループでもあります。また、現在では遺伝子解析によりある程度は近縁関係が分かってきましたから、細かい修正は続くかもしれません。

さて、個人的にはこのような昔の記事が面白いので、是非とも記事にしたいのですが、中々古いものは入手が難しいものです。記事の内容を一応紹介していますが、どちらかと言うと1937年当時の画像を見ていただきたいだけだったりします。しかし、サボテンについての(恐らくは)貴重な記事もあるようですが、残念ながらサボテンはギムノカリキウム属以外はよく分かりません。私では何もコメント出来ませんから記事化は断念しました。もう少し色々な多肉植物に詳しければ良いのですが、こういうものは一朝一夕には身に付かないものです。少しずつ勉強していくつもりです。



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2013年頃からアロエの仲間の遺伝子が本格的に調べられはじめ、それ以降アロエの仲間は激変しました。AloeはAloe、Aloidendron、Aloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeに分割され、HaworthiaはHaworthiaとHaworthiopsis、Tulistaに分割されました。逆にChortolirionやLomatophyllumはアロエに含まれることが明らかとなりました。他のアロエ類である、Gasteria、Astrolobaについても命名規約上の問題があり議論されています。

さて、Bruce Bayerが2014年にアロエ類についての意見をコラム欄で簡潔に述べています。それが、Aloe striatula(現在はAloiampelos)の葉の配置について述べた、『Leaf arrangement in Aloe striatula』です。興味深い
内容ですから見てみましょう。
A. striatulaを上から見て、葉の配置が二列性あるいは三列性であることを示しています。Bayerは二列性なら1、3、5、7、9枚目あるいは2、4、6、8、10枚目の葉がセットで、三列性なら1、4、7、10枚目、2、5、8枚目、3、6、9枚目がセットであるとしています。
しかし、この説明は非常に分かりにくいので、私の育てているAloiampelos striatula var. caesiaを例に、別の表現で解説しましょう。

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二列性の配置
まず、二列性の配置ですが、向かい合う葉が対になります。つまり、1+2、3+4、5+6、7+8、9+10です。軸が回転するように、葉が重ならない配置となります。

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三列性の配置
三列性の配置では3枚が1セットとなります。つまり、1+2+3、4+5+6、7+8+9がセットとなります。

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葉の根元は鞘があり、茎を覆っています。A. striatulaの次の葉は前の鞘のすぐ下に挿入されています。葉は左右に交互に出ますから、螺旋状に葉は配置されます。また、Aloe broomiiは葉の挿入は連続的で、茎から全ての葉を剥がすことが出来ます。

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Aloe broomii

ほとんどのHaworthiaでは葉は不規則ですが、常に螺旋状の順序になっています。Haworthia wittebergensisには完全に挿入された葉があり、恐らくHaworthia blackbeardiana(現在のH. bolusii var. blackbeardiana)、Haworthia viscosa(現在のHaworthiopsis viscosa)にも当てはまります。

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Haworthiopsis viscosaは典型的な三列性

以上がコラムの内容となります。
2014年はまだアロエ類の分類についての議論が華やかなりし頃でしたから、このような論考があった訳です。とはいえ、単純な外見的特徴から遠近を判断するのは困難ですよね。
AloeやGasteriaは苗の頃は二列性ですが、やがて回転していきます。アロエ類は基本的には向かい合う2枚の葉が回転していきます。アロエ類の葉が回転するのは、全ての葉に効率的に太陽光線を当てるための仕組みです。アロエは茎が伸びて行くものが多いですが、Haworthiaは茎が伸びずにロゼット型となります。

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Aloe spectabilisの苗。左右に葉が向かい合う典型的な二列性です。

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現在のAloe spectabilis。ある程度育つと葉が回転し始めます。

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Haworthia arachnoidea。回転する葉が密について茎が伸びないと、ロゼット型になります。


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fan aloe(扇アロエ)と呼ばれる多肉植物があります。蒼白い上向きの葉が左右に分かれて綺麗に並ぶことから、そのように呼ばれているのでしょう。以前は珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っています。一般的にはAloe plicatilisという名前で販売されています。しかし、2013年にGordon D.Rowleyによりアロエ属からクマラ属に移されました。つまりは、Kumara plicatilisです。しかし、この過程にも何やらややこしい事情が見え隠れしているようです。非常に面倒臭い話ですからご注意のほどを。書いている私もうんざりする内容です。

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Kumara plicatilis

事の発端は1753年まで遡ります。現在の学名の仕組みを作り出したCarl von Linneが、fan aloeを命名しました。この最初の学名は、Aloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。というのも、von Linneの時代はまだガステリア属はなく、当時のアロエ属には現在のガステリアやハウォルチアを含んでいたのです。ですから、Gasteria distichaも最初はアロエ属でした。そして、fan aloeは、何故かAloe disticha=Gasteria distichaの変種とされたのです。
1768年にfan aloeは独立し、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.とされました。しかし、1786年にKumara disticha Medik.という学名も提案されました。問題はここまでの経緯と、この先のクマラ属に移行する際の混乱です。この混乱についての論文は、Ronell R.Klopper, Gideon F.Smith & Abraham E. van Wykの2013年6月の論文『(2144) Proposal to conserve the name Kumara (Asphodelaceae) with a conserved type』、及び7月でた同著者らの論文である『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara (Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』に書かれています。

1786年にMedikusはKumara Medik.を創設し、Kumara disticha Medik.という1種類を命名しました。その時の図を見ると、Kumara distichaがfan aloeを指していることが分かります。また、1784年に命名されたAloe tripetata Medik.という異名は、Commelijnの1701年の銅版画に基づくものです。Commelijnの銅版画は明らかにfan aloeを描いています。これは、本来はAloe disticha var. plicatilis L.である必要があります。また、この時にMedikusは、Aloe disticha var. δ(※1)についても言及していますが、これは誤りでGasteria carinata (Mill.) Duval=Gasteria excavata (Willd.) Haw.を示しているようです。MedikusはAloe linguiformis Medik.をAloe disticha var. αに基づいており、Aloe verrucosa(※2)をAloe disticha var. γに基づき命名し、後の1786年にはAloe tristichaをAloe disticha var. βに基づいていました。

(※1)Aloe disticha L.は、現在のGasteria disticha (L.) Haw.を指しているとされていますが、Aloe distichaは他の種類のガステリアを含んだものだったようです。ですから、この場合は異なる種の混合であるAloe distichaを参照としており、仮にAloe distichaの変種δと表現しています。この後に出てくる変種αや変種βも同様です。

(※2)これは1768年に命名されたAloe verrucosa Mill.を示すため誤りで、正しくは1784年に命名されたAloe verrucula Medik.のことを指す。A. verruculaとは現在のGasteria carinata var. verrucosaのこと。

実際にはfan aloeはKumara distichaとは呼ばれずAloe plicatilisの名前が使用されてきました。しかし、遺伝子解析の結果からは、fan aloeがアロエではなくハウォルチアに近縁な仲間であることが分かりました。そうなると、fan aloeをアロエから独立させる時に、忘れ去られていたKumara distichaが浮かび上がって来るのです。
ここで問題が生じます。Kumara distichaは1786年の命名であり、Gasteria Duvalは1809年の命名ですから、もしAloe distichaがKumara plicatilisやGasteria carinataなどの様々な種を含んでいた場合、Aloe distichaはKumaraのバシオニム(基になった名前)となります。つまり、Aloe distichaを現在のGasteria distichaとした場合、GasteriaよりもKumaraの方が命名が早いので、現在のGasteriaは全種類Kumaraにしなければなりません。GasteriaはKumaraの異名となります。当然、Kumara plicatilisはKumara属を旧・Gasteriaに取られてしまったので、新たな命名が必要となります。これは、命名規約を厳密に適応するならば避けられない事態ですが、適応された場合の混乱は必至でしょう。
しかし、著者はKumara plicatilisを保存して、Gasteriaを現在のままにしておくことを提案しています。なぜなら、Gasteriaは200年以上に渡り使用されてきた学名であり、命名法の深刻な混乱を引き起こすからです。そして、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.の新たな命名としてKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.を提唱しています。
 
以上が論文の内容となります。内容が込み入っているため、適切に要約出来ているか怪しい部分もあります。しかし、話はこれで終わりではありません。まだ続くのです。やはり、同著者らの2013年8月の論文、『The correct name of Aloe plicatilis, the fan aloe, in the genus Kumara (Asphodelaceae), again』を見てみましょう。
Kumara Medik.がfan aloeであるAloe plicatilis (L.) Burm.f.のために復活した時に、7月の論文で著者らはKumara plicatilisに修正しました。この時に著者らはKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.と命名しました。しかし、2013年の4月にGordon D.Rowleyが『Alsterworthia』のSpecial Issueで、すでにKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyと命名していました。よって、著者らが命名したKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Smは不適切な名前であり、G.D.Rowleyの命名が優先されます。
また、Aloe plicatilisの引用元は1768年の3/1~4/6の出版物で命名されたAloe plicatilis (L.) Burm.f.であり、同年の4/16に命名されたAloe plicatilis (L.) Mill.は採用されません。

以上が論文の簡単な要約です。しかし、Kumara plicatilisのややこしすぎる経緯は、何ともすっきりしない感じがあります。この問題は結局のところ、Aloe distichaの曖昧さと、Aloe distichaに対するMedikusの引用の不確かさが招いた混乱と言えるでしょう。また、Aloe plicatilisやKumara plicatilisの命名にも混乱があり、どちらも同じ年に同じ名前が命名されていますが、タッチの差で採用される名前が決まってしまいます。学術世界も競争の世界なんですね。
この異名の処理については文献学的な資料探索と、実際の多肉植物の学術的な知識が必要ですから、それほど進んでいないのかもしれません。私のブログでもこの手の記事を幾つか書きましたが、まだまだこれからも出てくるのでしょう。見つけましたら、また記事にしたいと思います。



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去年の秋のことです。神奈川県川崎市にあるタナベフラワーで、謎の多肉植物を入手しました。とても変わっていて、見た瞬間頭が疑問符だらけになりました。その多肉植物が「ハオルチア・トリアングラリス」です。名札にはそう書かれていました。しかし、聞いたことがない名前です。Haworthiopsis(硬葉系)であることは見て直ぐにわかりましたが、2022年時点で19種類あるHaworthiopsisにはこの学名はなかったはずです。おかしいなあとは思いつつ、外見的な面白さもあり購入に至った訳です。

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Haworthia triangularis?
三方向に葉を広げます。種小名の「トリアングラリス」とはそのまま「トライアングル」のことですから、外見の特徴から来ていることが分かります。大型で葉の表面にはイボやざらつきはなく、滑らかで艶があります。また、日を浴びると黄色くなります。

さて、帰宅して「ハオルチア・トリアングラリス」を調べてみました。まあ、この場合はHaworthia triangularisですね。Euphorbia triangularisを知っていたので、種少名のスペルも直ぐに分かりましたね。早速検索してみると、何故かほとんど出てきません。海外のあるサイトでは、Haworthia triangularis (Lamarck)とあります。ああ、これは正式な命名規約に乗っとった学名ではないようです。括弧がある場合、属名が変更になったり亜種や変種が独立種になったりと、何かしらの変更があったことを示しています。括弧の中は以前の名前の命名者で、括弧の次に変更後の学名の命名者が来るはずですが、それがないのは実におかしなことだからです。
これは、おそらくはAloe triangularis Lamarckから来ているはずです。なぜなら、1809年にフランスのHenri August DuvalによりHaworthia Duvalが命名されるまでは、大抵のハウォルチアはアロエ属だったからです。ということで、Aloe triangularisを調べると、出てきました。1783年に命名されたAloe triangularis Lam., nom.superfl.です。やはり、推測は正しかったようです。命名者の後の'nom.superfl.'は、既に命名された同じタイプに別の名前がつけられたということですから、そもそも無効ではあります。では、このAloe triangularisは何者かというと、2016年に命名されたHaworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopperのことです。
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Haworthiopsis viscosa
Haworthiopsis viscosaは長い間Haworthiaでしたし、今でもHaworthia viscosaとして販売されています。その学名は1812年に命名されたHaworthia viscosa (L.) Haw.ですから、実に200年以上Haworthiaだった訳です。なるほど、新しい学名が浸透しない訳です。
しかし、初めて命名されたのは、1753年のAloe viscosa L.でした。これは、Aloe triangularisよりも30年早く命名されていますから、このAloe viscosa→Haworthia viscosa→Haworthiopsis viscosaの種小名の系統が正当な学名とされてきた訳です。Aloe triangularisは学術的には継承されず、園芸上はHaworthia triangularisとして使用されてきたということなのでしょう。

さて、ここまで学名を追って来ましたが、重大な問題が浮かび上がります。それは、Aloe triangularisがHaworthiopsis viscosaを指しているのならば、Aloe triangularisは典型的なHaworthiopsis viscosa(当時はAloe viscosa)に対して命名されたのではないかというものです。つまりは、私の所有している"Haworthia triangularis"は、1873年に命名されたAloe triangularisとは別物である可能性もあるのです。
そもそも、私の所有する"Haworthia triangularis"は由来がわからない多肉植物です。野生由来の個体なのか、栽培する中で生まれた突然変異株なのかすら不明です。学名の命名者達がどんな個体を見て命名したのかが分かりませんから、何とも言いようがありません。そもそも、古い論文は探しても見つからないことが多いので、それを確認することは中々困難です。もし、論文を見つけても、その命名の根拠となった標本は海外の大学や博物館にあるわけで、私にはその標本にアクセスする手段がありません。完全に手詰まりです。

ここで、私の所有する"Haworthia triangularis"(以下、引用符で囲った"Haworthia triangularis"は、私の所有する個体を表します)とHaworthiopsis viscosaを比較してみましょう。結構異なる部分があります。サイズが非常に大きく葉も長いことから、葉の重なり具合も異なります。また、Haworthiopsis viscosaの濃い緑色と比べて"Haworthia triangularis"は非常に明るい色です。葉の表面はざらつかず滑らかです。かなりの差があるように思えます。
しかし、自生地のHaworthiopsis viscosaの画像を検索してみると、思いの外その姿に多様性があり驚かされます。サイズや葉の重なり具合だけではなく、葉の表面のざらつき具合すら、かなりの幅があるようです。こうなると、"Haworthia triangularis"は、Haworthiopsis viscosaの変異幅の範疇に収まってしまう可能性が大です。
さて、これで一件落着かと思いきや、まだ続きがあります。Haworthiopsis viscosaには変種があり、Haworthiopsis viscosa var. 
variabilis (Breuer) Gildenh. & KlopperHaworthiopsis viscosa var. viscosaがあります。Haworthiopsis viscosa var. variabilisは、Haworthia variabilis (Breuer) Breuerの方が通りがいいかもしれませんが。さて、この変種variabilisは葉の長さが異なるようですが、幾つかの画像を見た限りではかなりの多様性があるみたいです。もしかしたら、私の"Haworthia triangularis"は、変種variabilisである可能性もあります。しかし、正確な見分け方がわからないので、可能性以上のことは言えません。

長々と書いてきましたが、まだ続きます。というのも、私の所有する"Haworthia triangularis"はAloe triangularis Lam.であるかのように書きましたが、実はAloe triangularisは2種類あるのです。それは、1784年に命名されたAloe triangularis Medik., nom.illeg.です。命名者、命名年、論文が記載された雑誌が異なります。要するに、Aloe triangularisという学名は2回命名されているのです。末尾の'nom. illeg.'は、命名規約の誤用が見られる名前という意味です。Aloe triangularis Medik.は、Haworthiopsis viscosa var. viscosaの異名です。
Aloe triangularis Lam.とAloe triangularis Medik.の違いに気付きましたか? 実はAloe triangularis Lam.はHaworthiopsis viscosaの異名で、Aloe triangularis Medik.は変種viscosaの異名なのです。同じように見えますが全く異なります。なぜなら、Haworthiopsis viscosaとは、変種viscosaと変種variabilisを合わせた名前だからです。つまりは、もし私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Lam.とされた植物由来ならば、変種viscosaであるか変種variabilisであるかはわからないということになります。しかし、私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Medik.由来であるならば、それはつまり変種viscosaということになるからです。とはいえ、それを確かめる手段はありませんから、虚しい空論かもしれません。

さて、Haworthiopsis viscosa自体は、Haworthiopsis scabraに近縁と言われているようです。ここで1つ思い浮かんだことがあります。それは、Haworthiopsis scabraとその変種starkianaの関係です。Haworthiopsis scabraというか変種scabraは、実にHaworthiopsisらしく、表面はざらざらしており全体的に暗い色合いです。しかし、変種starkianaは表面はツルツルで明るい色合いです。この関係は何やら私の"Haworthia triangularis"とHaworthiopsis viscosaとの関係に似ているような気がしたからです。こういう変異はよくあるパターンなのかもしれませんね。
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Haworthiopsis scabra var. scabra

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Haworthiopsis scabra var. starkiana

そういえば、Haworthiopsis pungensは、上から見るとちょっと似ていますね。
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Haworthiopsis pungens


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雪女王(Aloe albiflora)はマダガスカル原産の白い花を咲かせるアロエです。アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせますから、白い花のアロエは珍しいと言えます。しかし、なぜ白い花を咲かせるのでしょうか? とても不思議です。少し考えてみました。

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Aloe rubriflora
今年の1月に開催された世田谷ボロ市の出店で購入したばかりですから、まだ花は拝めていません。

アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせます。まず、この点から見ていきましょう。
花に様々な美しい色があるのは、何も我々の目を楽しませるためではありません。ポリネーター(花粉媒介者)にアピールするためです。植物が花を咲かせるのは、花を訪れる動物に花粉を運んでもらい、受粉して種子を作るためです。そのための報酬が甘い蜜で、目立つ色のついた花びらを標識として動物を呼び寄せるのです。日本では一般的に花の受粉は昆虫により行われます。しかし、世界にはハチドリ、ミツスイ、タイヨウチョウなど花の蜜を専門とする鳥も存在しますし、花の蜜を専門としていない鳥でも花の蜜を吸うことは珍しくありません。日本でも梅の花にメジロが訪れ花の蜜を吸っている姿を見ることが出来ます。
アロエが自生するアフリカにはタイヨウチョウが分布し、大型アロエの花にはタイヨウチョウ以外の様々な鳥が訪れ受粉に寄与しています。もちろん、アロエの花にはミツバチやネズミなども訪れますが、受粉のメインは鳥であると考えられており、アロエは鳥媒花とされています。大型アロエは大きな花と大量の蜜が出るため、様々な鳥を呼び寄せます。実は、タイヨウチョウは小型で頭が小さくクチバシが細長いため花の蜜だけを掠め取ってしまい、あまり受粉には寄与していないことが分かっています。そのため、大型アロエはある程度の大きさのある、花の蜜を専門としていない鳥に受粉してもらっているのです。大型アロエの場合、ターゲットは鳥ですから、その赤~橙系の花色は鳥に対するアピールと考えられます。他のアロエ類(アロエに近縁な仲間)を見てみると、GasteriaやAstroloba rubriflora(異名Poellnitzia rubriflora)は赤~橙系統の花を咲かせ、やはり鳥媒花であることが確認されています。
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Aloe arborescensの花

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Gasteria distichaの花

アロエ類は赤~橙系統の花だけではなく、白い花のものも沢山あります。例えばHaworthiaやHaworthiopsis、Astrolobaは白く小さな花を咲かせます。これらは花が小さいため、明らかに虫媒花です。しかも、その細長くすぼまった形から、鱗翅目(チヨウやガ)やハエ目(ハエやアブ)がターゲットなのでしょう。
実はカラフルな花の色はミツバチやマルハナバチを呼び寄せることが明らかとなっています。高山の森林限界を超えると、樹木はほとんど生えることが出来ませんが、様々な草本が花を咲かせ一般的に「お花畑」と呼ばれています。日本の高山のお花畑は非常にカラフルですが、海外の高山ではほとんど白一色のお花畑も存在します。これは、ミツバチやマルハナバチなどの蜜を集める膜翅目昆虫の不在が原因と考えられています。このように、花の色により虫媒花でも引き寄せる昆虫が異なる可能性があるのです。

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Haworthiopsis scabraの花

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Haworthiopsis glauca var. herreiの花

ではAloe albifloraはどうでしょうか? まだ開花していないので花を提示できませんが、アロエらしく釣り鐘型の花です。白く緑色のラインが入っており、花に膨らみが無いこと以外はハウォルチアの花に似ています。どうやら、Aloe albifloraは虫媒花、しかも鱗翅目やハエ目がターゲットのようです。ハウォルチアの花は細長いので、ターゲットはおそらく小型の蛾でしょう。しかし、Aloe albifloraの花はハウォルチアより大きく、しかも少し膨らんだ形です。蜜を吸うために小型のハエなども潜り込めるかもしれません。

とまあ、以上が雪女王について少し考えたことです。大した話ではありませんし、特に根拠のある訳ではありません。所詮は私の狭い知識の内での妄想です。本来はAloe albifloraを調査した論文があればよかったのですが、今のところ見つかっていません。何か面白い情報がありましたら、また記事にします。


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去年の秋頃のことでしたか、休日出勤でヘロヘロになりながら、帰りに池袋の鶴仙園に立ち寄りました。鶴仙園は毎度凄まじい量のハウォルチアがありますが、かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれたHaworthiopsisは少数派です。十二の巻あたりはいつでもありますが、それ以外は入荷次第な部分もあります。その時はなんとフィールドナンバー付きのHaworthiopsisがあったので購入しました。Haworthiopsis coarctata、つまりはいわゆる九輪塔です。

フィールドナンバー
フィールドナンバーは採取した場所などの情報が記載されています。フィールドナンバーが異なれば採取された地点が異なりますから、フィールドナンバーごとに特徴が異なります。
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Haworthia coarctata DMC06356 IB5850
ラベルはフィールドナンバーの情報に基づくため、Haworthiopsisにはなっていません。IBはIngo Breuer、DMCはDavid M. Cummingの略です。後ろの2つがフィールドナンバーですが、2つあるのはおかしな気もします。しかし、IBナンバーは他のフィールドナンバーから来ていることもあるようですから、この場合はIB5850=DMC06356なのでしょう。
さて、採取地点はFarm Begelly, 12km S of Grahamstownということです。グレアムズタウンは南アフリカの南東部です。グレアムズタウンの南に12kmですから、ポート・エリザベスとポート・アルフレッドの中間くらいかもしれないですね。


H. coarctataの分布
H. coarctataの分布は、西側はPort Erizabethで東側はGreat Fish Riverまでです。東側のさらに先にはHaworthiopsis fasciataが自生します。H. coarctataの分布は良く似たHaworthiopsis reinwardtiiと隣接するようです。
混同されがちなH. reinwardtiiとの見分け方は中々難しいところがあるようです。H. coarctataの結節は滑らかで丸味があり、H. reinwardtiiの結節は偏平で大型と言われます。しかし、実際に自生地で野生のH. coarctataとH. reinwardtiiを見分けるのは、大変難しいようです。

H. coarctataの学名の変遷
H. coarctataはやはりH. reinwardtiiと関連付けられがちで、H. reinwardtiiの変種とされたりして来たようです。1824年にはじめて命名された時は、Haworthia coarctata Haw.でしたが、1997年にはHaworthia reinwardtii subsp. coarctata (Haw.) HaldaHaworthia reinwardtii var. coarctata (Haw.) Haldaとされたこともあります。異名として、1829年に命名されたAloe coarctata (Haw.) Schult. & Schult.f.や、1891年に命名されたCatevala coarctata (Haw.) Kuntze.もあります。2013年にハウォルチアから独立しHaworthiopsisとなり、Haworthiopsis coarctata (Haw.) G.D.Rowleyとなり、これが現在認められている学名です。また、2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. coarctata (Haw.) Breuerが命名されており、やはりH. coarctataをH. reinwardtiiと関連付ける考え方は健在のようです。
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Haworthiopsis reinwardtii

変種アデライデンシスの学名の変遷
さて、H. coarctataには3つの変種があります。1つ目の変種は最初はやはりH. reinwardtiiの変種とされ、1940年にHaworthia reinwardtii var. adelaidensis Poelln.とされました。1973年にはHaworthia coarctata subsp. adelaidensis (Poelln.) M.B.Bayer、1999年にはHaworthia coarctata var. adelaidensis (Poelln.) M.B.BayerというH. coarctataの変種や亜種とする意見も出てきました。2010年には独立種であるHaworthia adelaidensis (Poelln.) Breuerも命名されました。最終的には2013年にHaworthiopsis coarctata var. adelaidensis (Poelln.) G.D.Rowleyと命名されています。他の異名として、1944年に命名されたHaworthia reinwardtii var. riebeekensis G.G.Sm.、1945年に命名されたHaworthia reinwardtii var. bellula G.G.Sm.、1983年に命名されたHaworthia coarctata f. bellula (G.G.Sm.) Pilbeamがあります。

変種テヌイス
2つ目の変種は、やはりH. reinwardtiiの変種とされ、1948年にHaworthia reinwardtii var. tenuis G.G.Sm.と命名されました。1973年にはHaworthia coarctataの変種とされHaworthia coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) M.B.Bayerとなりました。2010年には独立種とするHaworthia tenuis (G.G.Sm.) Breuerもありました。最終的に2013年にHaworthiopsis coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) G.D.Rowleyと命名されました。2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. tenuis (G.G.Sm.) Breuerという学名も命名されています。

変種コアルクタタの異名
ちなみに、変種アデライデンシスと変種テヌイスが出来たことにより、自動的に変種コアルクタタ、つまりHaworthiopsis coarctata var. coarctataが出来ました。というのも、H. coarctataとは、変種アデライデンシス+変種テヌイス+変種コアルクタタのことだからです。変種アデライデンシスと変種テヌイスが命名された時点で、変種アデライデンシスと変種テヌイスではないH. coarctataにも命名が必要となるのです。
しかし、変種コアルクタタには恐ろしいほどの異名があります。面倒なので年表形式で示しましょう。
1880年 Haworthia greenii Baker
              Haworthia peacockii Baker
1891
年 Catevala greenii (Baker) Kuntze
              Catevala peacockii (Baker) Kuntze
1906年 Haworthia chalwinii
                         Marloth & A.Berger
1932年 Haworthia fallax Poelln., orth.var.

1937年 Apicra bicarinata
                         Resende, nom.illeg.
              Haworthia reinwardtii
                         var. conspicua Poelln.
1938年 Haworthia resendeana Poelln.
1940年 Haworthia reinwardtii
                         var. pseudocoarctata Poelln.
1943年 Haworthia coarctata var. haworthii
                          Resende
              Haworthia coarctata
                          var. krausii Resende
              Haworthia coarctata
                          f. major Resende
              Haworthia coarctata
                          f. pseudocoarctata Resende
              Haworthia reinwardtii var. chalwinii
                       (Marloth & A.Berger) Resende
              Haworthia reinwardtii
                       var. committeesensis G.G.Sm.
              Haworthia greenii f. bakeri Resende
              Haworthia greenii f. minor Resende
              Haworthia greenii var. silvicola
                               G.G.Sm.
              Haworthia fulva G.G.Sm.
1944年 Haworthia baccata G.G.Sm.
              Haworthia reinwardtii
                         var. huntsdriftensis G.G.Sm.
1948年 Haworthia coarctatoides Resende
              Haworthia musculina G.G.Sm.
1973年 Haworthia coarctata var. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
1983年 Haworthia coarctata f. chalwinii
                         (Marloth & A.Berger) Pilbeam
              Haworthia coarctata f. conspicua
                         (Poelln.) Pilbeam
1997年 Haworthia reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Halda
1999年 Haworthia coarctata f. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
2016年 Haworthiopsis resendeana
                         (Poelln.) Gildenh. &Klopper
              Haworthiopsis reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Breuer

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Haworthiopsis resendeana
残念ながら変種コアルクタタの異名となり、吸収されてしまいました。

最後に
ここ数年来のエケベリアや近年のアガヴェ・ブームと比べれば細やかですが、透明な窓が美しい交配系の軟葉系ハウォルチアを中心にハウォルチアも流行の兆しがあります。しかし、硬葉系ハウォルチア=ハウォルチオプシス人気は今一つです。硬葉系は肌がざらつき暗い色合いだったり渋い存在ですから、好きな人は好きなんですけど、園芸店はおろかビッグバザールなどの販売イベントですら中々販売していないのが悩みどころです。そんな中でも、鶴仙園さんはハウォルチアに対する期待値は高いのですが、硬葉系が有るか否かは運次第です。頻繁に通いたいところですがそうも行かないのが悩みです。


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去年、鶴仙園西武池袋店でPlant's Workさんとのコラボイベントがあり、沢山の珍しいハウォルチアが並びました。私も参戦してフィールドナンバー付きのHaworthiopsis woolleyiを入手しました。H. woolleyiを見たのははじめてのことでしたから、非常に嬉しかったのを覚えています。本日はそんなH. woolleyiについて調べてみました。

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購入時のH. woolleyi。ラベルには'H. venosa ssp. wooleyi GM079 South of Kleinpoort'とありました。これは古い学名ですが、Plant's Workさんが間違えている訳ではありません。フィールドナンバーは採取された時点の情報で登録されていますから、フィールドナンバーの登録情報が現在と異なることは珍しいことではありません。そして、フィールドナンバーの情報を記載するのが普通です。なぜなら、最新の学名はまたいつか変更されるかもしれないからです。とはいえ、よく見ると'woolleyi'ではなく'wooleyi'となっており、間違いがありますが、これは元のフィールドナンバーの登録情報の誤りのようです。

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現在のH. woolleyi。我が家に来てわずか5ヶ月程度ですが、一回り大きくなった気がします。

H. woolleyiは、1937年に年にHaworthia woolleyi Poelln.と命名されました。さらに、1997年にはHaworthia venosa subsp. woolleyi (Poelln.) Haldaとなりヴェノサの亜種とされました。しかし、最終的にはGordon D.Rowleyにより2013年にハウォルチオプシス属とされ、ヴェノサの亜種ではなく独立種に戻りました。現在はHaworthiopsis woolleyi (Poelln.) G.D.Rowleyが認められた学名です。また、2016年にはHaworthiopsis venosa var. woolleyi (Poelln.) Breuerも提唱されており、H. venosaと関係があるという考え方は一貫しています。
そういえば、H. woolleyiがはじめて命名された1937年のKarl von Poellnitzの論文、『Vier ndue Haworthia-Arten』を読むことが出来ました。非常に簡素で、図はなく特徴を羅列している無駄のない論文です。この論文では、ハウォルチアの新種を4種類命名しています。1つ目はHaworthia gordonianaで、これは現在のHaworthia cooperi var. gordonianaのことです。2つ目はHaworthia woolleyiですが、何故かHaworthia woolleyiiとiが重複しています。このHaworthia woolleyiiが採用されていない理由は分かりませんが、語尾の形式は決まっているため訂正があったのかもしれません。3つ目はHaworthia stayneriiで、これは現在のHaworthia cooperi var. piliferaのことです。4つ目はHaworthia emelyaeです。ちなみに、H. woolleyiの種小名はStapelia収集家のC.H.F.Woolleyに対する献名ということです。


最後にフィールドナンバーの情報を見てみましょう。やはり、H. woolleyiではなくH. wooleyiとなっています。Plant's Workさんの情報は正確ですね。
Field number : GM 79
Collector : J. Gerhard Marx
Species : Haworthia venosa ssp. wooleyi
Locality : South of Kleinpoort, Eastern Cape, South Africa


残念ながら採取年は分かりません。採取地のKleinpoortはポート・エリザベスの近くですね。私の所有するHaworthiopsis fasciata DMC 05265の採取地はN. Hankey(ハンキー北部)とありますから、South of Kleinpoort(クレイン・プアトル南部)は非常に近いか可能性があります。フィールドナンバーがついていると、このようなこともわかり面白いですね。
そういえば、収集者のGerhard Marxは南アフリカの著名な芸術家で、ハウォルチアのコレクションでも有名です。自ら素晴らしい野生のハウォルチアの絵を書いており、幾つかの新種の多肉植物を発見しています。このH. woolleyiのように、Gerhard Marxにより採取されたフィールドナンバー付きのハウォルチアも沢山あります。



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ここのところ2日続けて、旧・アロエ属についてゴニアロエ(Gonialoe)とアロイアンペロス(Aloiampelos)の記事を書きました。個人的に旧・アロエ属を含むアロエ類は気になっており、アロエ(Aloe sensu stricto)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス、(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア(Haworthia)、ハウォルチオプシス(Haworthiopsis)、ツリスタ(Tuesday)、ガステリア(Gasteria)、アストロロバ(Astroloba)についてぼちぼち集めたりしています。
このアロエとハウォルチアの分割は中々の衝撃でしたが、私は
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文でアロエ類の遺伝子解析結果を見て、割と納得してしまってそれ以上調べませんでした。しかし、アロエやハウォルチアが分割された根拠となる論文がそれぞれにあるはずで、それらの論文を読んでいないのは片落ちではないかと今更ながら思った次第です。

2014年の論文の記事①
2014年の論文の記事②

さて、以前から学名を調べていると、ハウォルチオプシスやツリスタの命名者にやたらとG.D.Rowleyが出てくるなあと思っていました。実はハウォルチオプシスやツリスタはG.D.Rowleyがハウォルチアから分離させたことが原因でした。
その論文はGordon D. Rowleyの 2013年の、『HAWORTHIOPSIS AND TULISTA - OLD WINE IN NEW BOTTLE』です。「新しいボトルに入った古いワイン」という副題が面白かったので、記事のタイトルにしました。この論文の主題はツリスタ属とハウォルチオプシス属です。かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスは、この論文で16種が命名されました。
現在、ハウォルチオプシスは19種類が認められていますが、G.D.Rowleyはそのうち16種類をハウォルチオプシスとしています。G.D.RowleyはHaworthiopsis koelmaniorum、Haworthiopsis pungensはツリスタ属としました。また、Haworthiopsis 
henriquesiiは新しく2019年に命名されたため、この論文には登場しません。

ハウォルチオプシス19種類の情報は以外の3つの記事をご参照ください。


ツリスタ属はG.D.Rowleyが命名した訳ではなく、1840年にRafinesqueが命名した属名です。Rafinesqueは当時Aloe pumilaと呼ばれていた植物にTulista margariferaと命名しましたが認められませんでした。しかし、この忘れ去られていたツリスタ属をG.D.Rowleyが復活させたということです。どうも、副題の「新しいボトルに入った古いワイン」とはツリスタ属のことのようです。確かに論文が書かれた2013年から遡ること73年前の命名ですから、73年もののワインを新たな装いで出したようなものかもしれませんね。
さて、この論文におけるツリスタ属は、現在とは結構異なります。現在のツリスタ属の正式メンバーである、Tulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingianaはすでに含まれていますが、Tulista minorはいませんね。ちなみに、Aloe kingianaをG.D.Rowleyがはじめてツリスタ属としてTulista kingianaとした訳ですが、これは認められずに2017年に
Gideon F.Sm. & MoltenoによってTulista kingianaと命名され直しました。これは、Von PoellnitzがHaworthia kingianaと命名した論文を引用しなければなりませんが、G.D.Rowleyはその引用元を間違えていたため認められませんでした。
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Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

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Tulista kingiana (Poelln.)
                       Gideon F.Sm. & Molteno


また、この論文ではTulistaは13種類がリストアップされていますが、Astrolobaが7種、後のHaworthiopsisが2種、Aristaloeが1種が含まれていました。現在Astrolobaは10種類が認められていますが、この論文の後に命名された3種類、Astroloba cremnophila、Astroloba robusta、Astroloba tenaxは含まれていません。

Astrolobaについては過去に記事としたまとめています。

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Aristaloe aristata

以上が論文の内容です。
結局、G.D.Rowleyの主張はすべて認められているわけではありませんが、Haworthiopsisの創設とTulistaの復活を含む非常に重要な論文です。アロエ類が命名された論文はまだありますから、これから少しずつ読んでいくつもりです。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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硬葉系ハウォルチア(Haworthiopsis)は人気がなく、昔から国内で流通しているにも関わらずあまり見かけません。私もちまちま集めていますが、中々集まりません。去年の10月に神奈川県川崎市のタナベフラワーで多肉植物のイベントががあり訪れましたが、珍しいことに硬葉系ハウォルチアがけっこうあり、Haworthiopsis venosaを購入しました。
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Haworthiopsis venosa

ハウォルチアは南アフリカ原産ですが、H. venosaは南アフリカだけではなくナミビアにも分布する可能性があり、非常に広範囲に分布します。厳しい環境ですが、茂みの中や岩の隙間などの陰に生えます。自生地にはEuphorbia aggregata、Crassula obvallata、Cotyledon toxicarina、Mesembrhanthemum saxicolum、Stapelia flavirostrisなどが生えます。

さて、H. venosaが最初に命名されたのは1783年のことで、実に200年以上前のことです。この時はアロエ属とされており、Aloe venosa Lam.でした。ハウォルチア属が創設されたのは1809年ですから、1809年より前に命名されたハウォルチアはすべてアロエ属でした。1821年にはHaworthia venosa (Lam.) Haw.とされました。この学名が一番良く使用されており、国内では園芸的にも未だにこの名前で販売されています。その後、1891年にCatevala venosa (Lam.) Kuntzeも提唱されましたが、このカテバラ属自体が現在は存在しない属ですから認められていません。2013年には硬葉系ハウォルチアがHaworthiopsisとされましたが、H. venosaもハウォルチア属からハウォルチオプシス属とされました。つまり、Haworthiopsis venosa (Lam.) G.D.Rowleyです。残念ながら国内ではハウォルチオプシスの使用は少ないのが現状です。しかし、遺伝子解析の結果からも、ハウォルチア属とハウォルチオプシス属の分離はまず間違いがないでしょう。H. venosaには他にも異名がありますから年表で示します。

1804年 Aloe anomala Haw.
              Aloe recurva Haw.
              Aloe tricolor Haw.
1811年 Apicra anomala (Haw.) Willd.
              Apicra recurva (Haw.) Willd.
              Apicra tricolor (Haw.) Willd.
1812年 Haworthia recurva (Willd.) Haw.
1876年 Haworthia distincta N.E.Br.
1891年 Catevala recurva (Willd.) Kuntze
1943年 Haworthia venosa var. oertendahlii Hjelmq.

1976年 venosa subsp. recurva (Haw.) M.B.Bayer

H. venosaはよく見ると、葉の上面は透き通っています。ハウォルチオプシス属ではこのような「窓」があるものはあまりありませんが、しかも窓に葉脈のような模様が入るのは、H. venosa、H. tessellata、H. woolleyi、H. granulataくらいです。これらの共通する特徴を持つハウォルチオプシスは、H. venosaの亜種あるいは変種とされたこともあります。H. venosaとの関連だけをピックアップして見てみましょう。          DSC_1797
Haworthiopsis woolleyi
              (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia woolleyi Poelln., 1937
→Haworthia venosa subsp. woolleyi
                     (Poelln.) Halda, 1997
→Haworthiopsis venosa var. woolleyi
                    (Poelln.) Breuer, 2016


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Haworthiopsis tessellata
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia tessellata Haw., 1824
→Aloe tessellata
         (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Haworthia venosa subsp. tessellata
                                 (Haw.) M.B.Bayer, 1982
→Haworthia venosa var. tessellata
                                        (Haw.) Halda, 1997


Haworthiopsis granulata
           (Marloth) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia granulata Marloth, 1912
→Haworthia venosa subsp. granulata
                     (Marloth) M.B.Bayer, 1976


ちなみに、何故か共通した特徴のないように見えるニグラもH. venosaの亜種とされたことがあるようです。一応、情報を記載します。
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Haworthiopsis nigra
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Apicra nigra Haw., 1824
→Aloe nigra (Haw.)
               Schult. & Schult.f., 1829 
→Haworthia nigra (Haw.) Baker, 1880
→Haworthia venosa subsp. nigra
                                (Haw.) Halda, 1997




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今年の正月明けに五反田TOCで開催された、新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。今回のビッグバザールは、アロエがいつもより多く珍しいものも沢山ありました。悩みましたが、マダガスカル原産の小型アロエであるバケリ(Aloe bakeri)を購入しました。バケリはアロエにしては葉は薄くて非常に硬く、まるでディッキア(Dyckia)のようです。

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Aloe bakeri

バケリは園芸店では見かけないアロエですが、どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。取り敢えず論文を当たってみましたが、2019年のColin C. Walkerの論文、『Aloe bakeri - a critically endangered highly localized Madagascan endemic』が見つかりました。早速内容を見ていきましょう。

イギリスの植物学者であるGeorge Francis Scott-Elliotは1888年から1890年にかけてマダガスカルを訪れました。マダガスカル最南東にあるFort Dauphin (Taolagnaro, Tolanaro, Tolagnaro)での採取で、Aloe bakeriは発見されました。Scott-Elliotはキュー王立植物園のアロエの専門家であるJohn Gilbert Bakerに対する献名として、1891年にマダガスカルで採取した新しいアロエにAloe bakeri Scott-Elliotと命名しました。
 
1994年にA. bakeriをGuillauminiaとする、つまりはGuillauminia bakeri (Scott-Elliot) P.V.Heathがありました。このGuillauminiaは、Guillauminia albiflora(Aloe albiflora)のために、1956年にBertrandにより提唱された属です。Heathは1種類しかなかったGuillauminiaを拡大し、マダガスカルの矮性アロエであるA. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiを含ませましたが、それまではGuillauminiaが注目を浴びることはなく無視されてきました。しかし、アロエの権威であったReynoldsはGuillauminiaを採用しないなど、浸透したとは言いがたいようです。しかも、1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』ではGuillauminiaを詳細に分析し、アロエ属とは異なりGuillauminiaのみに共通する特徴がないことなどが指摘され、Guillauminiaは明確に否定されています。さらに、近年の遺伝子解析の結果では、Guillauminiaの所属種同士が必ずしも近縁ではなく、アロエ属の中に埋没してしまうことが明らかとなりました。よって、現在Guillauminiaは認められておりません。
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Aloe albiflora

次に自生地を調査した植物学者たちの報告を見てみましょう。Gilberd Reynoldsは1955年の6月から10月まで、マダガスカルでアロエを探して、自動車で4000マイル(6437km)以上の距離を運転しました。ReynoldsはFort Dauphinの近くでAloe bakeriを大量に見つけました。それは、50から100の密集したグループで生長していました。
次いで、Werner Rauhはマダガスカルに9回旅行しました。Rauhの1964年の報告では、Fort Dauphin付近でA. bakeriを観察しています。A. bakeriはTolanaro北西にあるVinanibe付近のまばらな花崗岩の露頭の腐植土が溜まった岩の亀裂で育つとしています。

CormanとMaysは2008年の報告で、去年(2007年)にマダガスカル南部を訪れたNorbert RebmannとPhilippe Cormanは、Euphorbia millii var. imperataeとともに生育するFort Dauphin付近のA. bakeriを見つけました。しかし、近くの港の開発に必要な石材採取のために、A. bakeriの生息地が破壊されていました。CormanはかつてRauhが観察した岩場で、A. bakeriは4個体しか見つかりませんでした。A. bakeriを発見したScott-Elliotは砂丘にも生息するとしていましたが、RebmannもCormanも砂丘ではA. bakeriを見つけることは出来ませんでした。
Castillon & Castillonは2010年の報告で、Taolagnaro付近の岩だらけの丘は、商業港と都市部の産業開発のため2年前に消滅したため、野生のA. bakeriは絶滅してしまったとしています。


以上が論文の簡単な要約となります。そういえば、1902年に命名されたAloe bakeri Hook.f. ex Bakerというアロエもありますが、こちらはAloe percrassa Tod.の異名です。A. percrassaは大型アロエですから、まったく似ていませんから間違いようはありませんね。
著者は絶滅したかは断言していませんが、キュー王立植物園のデータベースではA. bakeriは「絶滅」と表記されています。栽培は難しくないようですから、栽培品の維持はされています。しかし、自然環境に自生する多肉植物は非常に美しいものですから、大変悲しいことです。これ以上、多肉植物が絶滅してしまうことが起きてほしくありません。


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ガステリアは実に面白い多肉植物ですが、何故か人気がありません。どうしても、マニアックな印象がつきまといます。もしかしたら、臥牛が古典植物のように扱われ、微妙な姿の違いを観賞する傾向があるからかもしれません。ということですから、あまり人気がないのであまり販売されていません。ガステリア自体は昔から国内に流通していますから、レアとは言えない種類も多いはずですけどね。私も極々稀に販売されていたりしますから、機を逃さずにチマチマ集めて記事を書いてきました。また、現在、学術的に認められているガステリア属を異名を含めまとめた記事があります。
本日ご紹介するのはGasteria distichaです。「青竜刀」あるいは「無憂華」という名前もあるようですが、ネットの販売サイトでしか見たことがない名前です。実際に使われているのかは不明です。

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Gasteria disticha

G. distichaの学名は、1827年に命名されたGasteria disticha (L.) Haw.ですが、これは1753年にCarl von Linneが命名したAloe disticha L.から来ています。ガステリア属は1809年にGasteria Duvalが創設されるまではアロエ属とされていました。実はG. distichaは最初に命名されたガステリアです。また、1866年にはPtyas disticha (L.) Salib. not validly publ.も知られます。末尾に''not validly publ.とありますが、これは有効な公表ではないということですから、正式なものとは認められていないのでしょう。

G. distichaには変種が認められています。2007年にGasteria disticha var. robusta van Jaarsv.Gasteria disticha var. langebergensis van Jaarsv.が命名されたことに従い、基本種はGasteria disticha var. distichaとなりました。この内、変種ランゲベルゲンシスは独立種とされ、2019年にGasteria langebergensis (van Jaarsv.) van Jaarsv.となり、Gasteria distichaではなくなりました。さらに、2022年にはGasteria disticha var. marxiiがE. J. van JaarsveldとD. V. Tribbleにより提唱されていますが、まだ審議中といったところでしょうか。データベース上ではvar. marxiiの名前はまだ確認出来ません。


さて、ここからは異名を見ていきましょう。ガステリアは「分類学者の悪夢」と言われるくらい分類が混乱していた経緯があり、19世紀にはやたらめったらに学名が命名されました。そのため、うんざりする程に異名が沢山あります。というわけで、変種ディスティカの異名を命名年順に列挙します。

1768 Aloe linguiformis Mill.
1789 Aloe lingua var. angustifolia Aiton
          Aloe lingua var. crassifolia Aiton
1804 Aloe lingua var. latifolia Haw.
          Aloe lingua var. longifolia Haw.
          Aloe nigricans Haw.
          Aloe obliqua Jacq., nom. illeg.    
1809 Gasteria angustifolia (Aiton) Duval
          Gasteria longifolia (Haw.) Duval
          Gasteria nigricans (Haw.) Duval

1811 Aloe obscura Willd., nom. illeg.
1812 Aloe longifolia (Haw.) Haw., nom. illeg.
          Gasteria latifolia (Haw.) Haw.
1817 Aloe nigricans var. crassifolia Salm-Dyck
1819 Gasteria denticulata Haw.
1821 Aloe angustifolia
                     (Aiton) Salm-Dyck, nom. illeg.
          Aloe conspurcata Salm-Dyck
          Aloe obtusifolia Salm-Dyck, nom. illeg.
          Gasteria mollis Haw.
          Gasteria nigricans var. crassifolia
                            (Aiton) Haw.
1827 Gasteria conspurcata (Salm-Dyck) Haw.
          Gasteria crassifolia (Salm-Dyck) Haw.
          Gasteria disticha var. major Haw.
          Gasteria disticha var. minor Haw.
          Gasteria obtusifolia Haw.
1829 Aloe crassifolia
                         (Salm-Dyck) Schult. & Schult.f.
          Aloe mollis (Haw.) Schult. & Schult.f.
1840 Aloe retusifolia Haw. ex Steud.
1880 Gasteria disticha var. angustifolia Baker
          Gasteria disticha var. conspurcata
                                         (Salm-Dyck) Baker
          Gasteria platyphylla Baker

アロエだったりガステリアだったりしますが、とにかく様々な名前が付けられてきました。しかも、所々に'nom. illeg.'、つまりは非合法名が見受けられます。
そういえば、G. distichaははじめて命名されたガステリアだと述べましたが、ヨーロッパにはじめてもたらされたガステリアでもあります。G. distichaはCarl von LinneがAloe distichaと命名する前から知られていました。1689年にケープタウンの東でHendrik Oldenlandが採取し、'Aloe africana flore rubro folia maculis ab utraque parte albicantibus notata'という特徴の羅列で表記されました。その後、Carl von Linneにより、Aloe distichaと命名されましたが、この'disticha'とは葉が左右に分かれる二列性の特徴から、分配を意味するラテン語由来の種小名です。

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さて、タイトルにあります通り、Gasteria distichaにはじめて花が咲きました。Gasteriaはgaster=胃からきた名前ですが、名前の如く胃袋のような形の花を咲かせます。ガステリアの花には細長いタイプと短いタイプかありますが、G. distichaの花は短いタイプですね。丸みがあってかわいらしい花です。


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アロイデンドロンは樹木状となるアロエの仲間です。代表種はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたAloidendron dichotomumです。アロイデンドロン属は近年の遺伝子解析の結果によりアロエ属から分離されました。現在アロイデンドロン属は7種類あるとされています。その点についてはかつて記事にしたことがあります。ご参照下さい。
アロエ属とアロイデンドロン属の関係は遺伝子解析により判明していますが、アロイデンドロン属内の分類はわかっていませんでした。そんな中、アロイデンドロン属の遺伝子を解析して近縁関係を解明した論文を見つけました。Panagiota Malakasi, Sidonie Bellot, Richard Dee & Olwen Graceの2019年の論文、『Museomics Clarifies the Classification of Aloidendron (Asphodelaceae), the Iconic African Tree Aloe』です。

アロイデンドロン属はアフリカ南部の砂漠を象徴する植物です。しかし、アロイデンドロン属内の進化関係は不明でした。そこで、アロイデンドロン属を遺伝子解析することにより、属内の系統関係を類推しています。ここでは、Aloestrela suzannaeというアロエ類が出てきますが、お恥ずかしい話ですが私はこのアロエストレラ属の存在を知りませんでした。アロエストレラ属は2019年に創設されましたが、Aloestrela suzannaeだけの1属1種の属です。しかし、新種というわけではなく、1921年に命名されたAloe suzannaeが2019年にAloestrela suzannaeとなりました。

アロイデンドロン属の分子系統
┏━━━━━━Aloe
┃     (Aloidendron sabaeumを含む)


┃    ┏━━━━Aloidendron ramossimum
┃    ┃
┃┏┫         ┏━Aloidendron dichotomum 1
┃┃┃     ┏┫
┃┃┃     ┃┗━Aloidendron dichotomum 2
┃┃┃┏ ┫
┃┃┃┃ ┗━━Aloidendron pillansii 1
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━Aloidendron pillansii 2
┃┃
┗┫            ┏━Aloidendron barberae 1
    ┃        ┏┫
    ┃        ┃┗━Aloidendron barberae 2
    ┃   ? ┫
    ┃        ┗━━Aloidendron barberae 3
    ┃
    ┃    ┏━━━Aloestrela suzannae 1
    ┃┏┫
    ┃┃┗━━━Aloestrela suzannae 2
    ┗┫
        ┃┏━━━Aloidendron eminens 1
        ┗┫
            ┗━━━Aloidendron eminens 2


アロイデンドロン属の系統関係は、Aloidendron sabaeum以外はまとまりのあるグループでした。しかし、論文ではA. barberaeが、A. ramossimum系統なのかA. eminens系統なのかは不明瞭でした。さらに、Aloestrela suzannaeは独立したアロエストレラ属ではなくA. eminensと近縁であり完全にアロイデンドロン属に含まれてしまうことがわかりました。また、驚くべきことにA. sabaeumはアロエ属に含まれてしまい、アロイデンドロン属とは近縁ではないことが明らかとなりました。よって、今後アロエストレラ属は消滅してアロイデンドロン属となり、A. sabaeumはアロエ属に復帰するかもしれません。しかし、論文ではAloidendron tongaensisが調べられていないようです。今後の研究が待たれます。また、A. pillansiiは2個体調べていますが、この2個体は近縁ではあるもののやや遺伝的に距離があるようです。この点も注視していく必要がありそうです。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、私が知らない間に創設されたアロエストレラ属を知らない間に否定する論文が出ていたということで、己の無知を思い知るとともにアロエ類の研究が盛んに行われていることを嬉しく思います。また、A. sabaeumの遺伝子解析の結果からは、アロエが樹木状となること=アロイデンドロンではないということを示唆しています。アロエ属であっても環境に対する適応により樹木状の形態をとる可能性があるのでしょう。そうなると、樹木状とならないというか草本に回帰したアロイデンドロン属も存在するかもしれませんね。今後の研究結果が非常に楽しみになります。


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「親しみやすさは軽蔑を生む」(familiarity breeds contempt)とは中々含蓄のあることわざです。このことわざはイソップ童話の「キツネとライオン」という話に出てくるフレーズなんだそうです。多肉植物に当てはめれば、普及種が親しみやすさとともに軽視される傾向があるのではないでしょうか?
個人的には普及種も好きで面白いと感じていますが、どうも世の中的には異なるようで、普及種の多肉植物が手入れもされずにカリカリになっていたりするのは大変悲しいことです。安くいつでもどこでも入手可能とあらば、扱いが荒くなるのもやむ無しかも知れません。まあ、普及種はお値段的にもお手軽ですからね。
しかし、そんな普及種であっても良いものは良いのだという熱い論考に出会いました。それは、イギリスのキュー王立植物園のPeter Brandhamの1981年の『Aloe aristata : an underrated species』です。


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Aristaloe aristata=Aloe aristata

著者にとって「親しみやすさは軽蔑を生む」ということわざはAloe aristataに当てはまるとしています。日本ではあまり見かけることがないAloe aristata(現在はAristaloe aristata, 綾錦)ですが、イギリスでは昔から知られている園芸植物です。イギリスではチェーン店や園芸用品店で入手可能で、多肉植物のコレクターはわざわざ栽培する価値はないと考えています。

Aloe albiflora, Aloe bakeri, Aloe bellatula, Aloe deltoideodonta, Aloe descoingsii, Aloe dumetorum, Aloe erensii, Aloe forbesii, Aloe haworthioides, Aloe humilis, Aloe jucunda, Aloe juvenna, Aloe myriacantha, Aloe polyphylla, Aloe rauhii, somaliensis, Aloe variegataなど魅力的な小型~中型のアロエは沢山ありますが、栽培が難しいものが多いとしています。これらは根を失いやすく、入手が難しく、開花しないと言います(※)。対して、A. aristataは良く子を吹き、入手は容易です。冬は乾燥させれば良く、直径6cm程度になると定期的に開花します。花は植物に対して大きいと言います。

※私も上記の1/3の種類くらいしか育てたことはありませんが、栽培はそれほど難しくありませんでした。しかし、晴れが少なく寒冷なイギリスの気候では難しい部分もあるのでしょう。

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Aloe descoingsii

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Aloe somaliensis

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Aloe haworthioides

A. aristataの花はピンク~鈍い赤色と淡黄色~クリーム色の2色からなる、アロエ属でも独特の花を咲かせます。これを著者は"bicolor"、つまりは「二色」と表現していますが、このラテン語は種小名で良く見かけますね。
A. aristataの葉は非常に多いことが特徴です。小型種のA. haworthioidesよりも多いとしています。葉の縁には柔らかいトゲがあり、葉の先端には長い毛のような芒があります。葉の表面には斑があり、葉裏により多くあります。

A. aristataは南アフリカ原産で、東ケープ州、オレンジ自由州、レソトなど非常に広い範囲に分布します。変種としてvar. leiophyllaとvar. parvifoliaが知られていました。しかし、アロエ研究の権威であったReynoldsによりA. aristataの範囲内と見なされ、認められていません。ただ、A. aristataには起源が不明の栽培種があり、分かりやすい4つのバリエーションを以下に示します。
1, 「典型的」なフォルム。自由に子を吹く最も一般的なタイプです。狭い灰緑色の葉を持ち、葉裏にはトゲと斑点が通常はランダムに、時には縦方向へ列となります。
2, 「単純」なフォルム。直径30cm以上となる可能性があり、滅多に子を吹きません。葉は「典型的」なフォルムより長く狭く、葉裏のトゲは縦に並ぶ傾向がより顕著です。
3, 'crisp'フォルム。非常に良く子を吹くタイプで、著者は最も魅力的と表現しています。葉は短く幅広で、トゲが多く葉裏では2~3列となります。
4, 'Cathedral Peak'フォルム。葉には斑点がほとんどなく、トゲも少数です。適度に子を吹きます。このフォルムは、南アフリカのDrakensberg山脈のCathedral Peak由来のものです。典型的なA. aristataの花を咲かせるにも関わらず、ヨーロッパでは× Gastrolea bedinghausii(
A. aristata × Gasteria sp.)という誤った名前で長年栽培されています。

A. aristataはGasteriaと容易に交雑可能で、著者は沢山の交配種を作ったそうです。ガステリアとの交配種の特徴は、両親の中間的な花を咲かせることだそうです。ただし、この交配種は花粉の受粉能力に乏しいのですが、× Gastrolea bedinghausiiは花粉の受粉能力が常に90%を越え、A. aristataと変わりません。ですから、× Gastrolea bedinghausiiは交配種ではないと考えられるのです。

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A. aristata × Gasteria sp.

著者はA. aristataはきちんと育てればそれ自体が魅力的であり、交配種の作成が容易なので交配の入門としても適すると主張します。A. aristataの異なるフォルムはコレクションに値するものであり、「温室にはこれ以上植物を入れる余裕がない」という使いふるされた言い訳は使うことは出来ないと絶賛しています。著者の住むSurreyでは非常に丈夫で、過去3年間庭の明るい日陰で育ち、1978/9年の非常に厳しい冬にも耐えてきました。毎年、夏に開花します。

以上が論考の簡単な要約です。
日本では人気がないせいか、園芸店ではほとんど見られませんが、イギリス(1981年の)では一般的なようです。しかし、著者が絶賛するようにA. aristataは非常に美しい植物です。さらに、私は形態的にアロエ的ではない感じが非常に面白く思います。A. aristataが命名されたのは1825年のことで、Aloe aristata Haw.が長年正式名称でした。しかし、遺伝子解析の結果から、2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningとなり、アロエ属から分離しました。現在、アリスタロエ属は1属1種の珍種ですから、その点においてもコレクションするに値する多肉植物でしょう。


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マダガスカルには沢山の小型アロエが分布します。その中でも最小と言われるのが、Aloe descoingsiiです。一般的には「アロエ・ディスコインシー」と呼ばれたりしているみたいですが、普通にそのままラテン語読みで「アロエ・デスコイングシイ」で良いような気がします。学名は1930年から30年以上に渡りアロエ属の権威だったGilbert Westacott Reynoldsにより1958年に命名されました。つまりは、Aloe descoingsii Reynoldsです。種小名は1956年にA. descoingsiiを発見したフランスの植物学者であるBernard Descoingsに対する献名です。また、1994年には新設されたGuillauminia属とする意見があり、Guillauminia descoingsii P.V.Heathという学名がつけられましたが、翌1995年にGideon F.Smithらにより新属を提唱するに値する根拠がないとして斥けられています。

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Aloe descoingsii

A. descoingsiiは最小のアロエと言われますが、正しくは葉の長さが最も短いアロエでしょう。A. descoingsiiの主軸は意外にも太く、葉の幅は全体のサイズの割には広く、Aloe haworthioidesなど他のマダガスカル原産の小型アロエの方が非常に葉の幅は狭いものが沢山あります。A. descoingsiiは直径5cmまでで、葉は3~6cm程です。

A. descoingsiiはマダガスカル南西部のToliaraのFiherenana渓谷に分布します。標高は350mと言われます。A. descoingsiiは石灰岩の崖上の浅い土壌で育ちます。絶滅の危機に瀕していられる希少なアロエです。
しかし、このA. descoingsiiは園芸店でもまったく見かけたことがありません。希少種だからかと思いきや、何故かA. descoingsii系交配種は何度か見かけたことがあります。見た目の美しさ以外にも、増やしやすさであるとか育てやすさも関係しますから、理由は定かではありません。ただし、調べてみると、A. descoingsiiは非常に交配が盛んに行われたらしく、海外の園芸サイトでも「数えきれない程の雑種」があると書かれているくらいですから、単純に交配種が普及しているだけかも知れませんね。



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バナナは放っておくと、皮に黒い点々が出てきます。これは、スウィート・スポットと呼ばれ、甘く熟した食べ頃のサインと言われています。これは、バナナの皮に含まれるポリフェノールが酸化したものなんだそうです。しかし、困ったことに多肉植物にも黒いスポットが出来てしまうことがあります。当然これはポリフェノールではないし、食べ頃のサインでもありません。何かしらの不調のサインです。観葉植物の本を紐解くと、黒い点の原因は様々です。栽培環境が悪いせいでおこる生理障害の場合もありますが、黒星病や炭疽病などの病原菌、場合によってはカメムシなどの害虫の被害の場合もあります。
本日はこの黒い点についてのお話です。具体的にはアロエやガステリアに黒い点が出てしまうことが割とあり、これは一体何が原因なのだろう?というものです。その論考は2001年のHarry Maysによる『All that is known about Black Spot』です。早速、内容を見てみましょう。

黒い点の原因や対処法は、基本的に趣味家の経験則によるもので人により意見は異なり、科学的な見地からのものではありませんでした。著者ははじめから原因は1つではないかもしれないので、様々な可能性を探り意見をまとめてみたということを述べています。

①ストレス
日本語でストレスと言うと精神的なイメージがありますが、本来ストレスは圧力という意味もあります。植物も高温や乾燥などは植物にストレスを与えます。ただし、黒点の発生については可能性の話で確証はありません。

②環境
強光に当てて換気が不十分だと植物表面が痛むことがあります。さらに、高窒素肥料と水をあげすぎると、軟弱になり病原菌に弱くなる可能性があります。しかし、必ずしもこれらの条件で黒点があらわれるとは言えず、出ない場合もあります。

③土壌不足
長年植え替えをしていないと、栄養が不足して黒点があらわれると言われています。しかし、植え替えをしていなくても黒点が出ない場合も確認されており、むしろ堆肥を与えることで黒点が出るという意見もあります。

④湿度
温室内でも温度は場所や高さにより均一ではありません。また、場所によっては結露することもあります。実際に黒点の原因として過湿があげられることが多いようで、移動させて乾燥させることが推奨されています。しかし、残念ながら著者には、乾燥期に若いGasteria distichaに黒点があらわれた経験があります。逆に光に乏しく湿気の多い環境では何故か黒点は発生しませんでした。

⑤病原菌
湿度が高くなると、細菌やカビの活動は活発になります。しかし、ヨーロッパで多肉植物は冬は暗く湿った環境に置かれることになりますが、必ずしも黒点はあらわれません。

⑥種類
ガステリアでは種類により黒点が出やすい種類、出にくい種類があるという意見もあります。しかし、それも人によって傾向が異なりました。しかも、同じ種類を育てていても、黒点が出るものと出ないものがあるという報告もあります。中には株分けした片方にだけ黒点があらわれたりします。この場合の黒点は伝染性がないようです。

⑦野生株
南アフリカの東ケープ州の西部やオレンジ川北部では、野生のガステリアに黒点は滅多に見られませんでした。Hells Kloof地域のGasteria pillansiiは数ヶ月に渡り非常に乾燥した年に数個の黒点が観察されました。同じ地域で非常に雨が多かった年に、Gasteria pillansiiは水分を吸収し過ぎて膨れ上がり、裂けてしまうものもありました。腐ってしまったものもありましたが、黒点はまれにしか見られませんでした。

⑧David Cumming
より信頼性の高い情報を求めて、南アフリカの調査経験が豊富なDavid Cummingに連絡しました。Cummingは「特に東ケープ州で広い地域で一般的であると思われます。アストロロバは最も多く、ガステリアが続きます。」Cummingは黒点はストレスによるもので、それが黒点の主な原因ではなく、日和見感染の可能性があるとしています。

⑨Ernst van Jaarsveld
南アフリカの多肉植物の研究者であるvan Jaarsveldは、黒点はMontagnella(真菌=カビ)により引き起こされるとしています。3~6ヶ月ごとにオキシ塩化銅あるいはCaptanを噴霧しますが、定期的な噴霧を行っても黒点はあらわれます。

⑩Doug McClymont
ジンバブエのDoug McClymontは研究者としてではなく、半分趣味のアロエ栽培の経験を語ってくれました。アロエの黒点は、高湿度で曇天、気温18度以上、毎日雨が降るなどの条件で発生すると言います。また、昆虫による被害も加算されるようです。
Montagnella maximaやPlacoasterella rehmiiはbenzimidazolesやtriazolesといった浸透性殺菌剤は効果がありませんが、cyproconazoleとdisulphotonの混合顆粒により昆虫の害を防ぎ黒点か出来ません。しかし、非常に湿った環境では昆虫がいなくても黒点は出来てしまいます。しかし、オキシ塩化銅または水酸化第二銅の噴霧で高い効果があったようです。ただ、老化した葉は黒点が出来やすく薬剤でも効果がありません。

⑪王立園芸協会
科学的証拠を得るために、王立園芸協会の植物病理学部門に連絡しました。黒点のあるGasteria distichaの葉と根、土壌を調査してもらいました。黒点は日射、灌水、肥料などの生理的なものではないと結論付けました。ただし、黒点の周囲の組織を培養しても病原菌は見つかりませんでした。これは病原菌がいないことの証明にはならず、ただ培養が困難な病原菌だったからかもしれません。王立園芸協会の提案する最良の案は、広範囲の植物の葉の斑点に効果がある殺菌剤mancozebの使用です。

謎は深まるばかり…
冬に寒さからガステリアを守るために一切の通気を遮断して非常に湿った状態で育てている人もいますが、何故か全く黒点は出来ないそうです。
これまで見てきた意見は、全く以て相反する内容が噴出していますが、著者は黒点の原因は1つではないからだろうと考えています。結局、我々の出来ることは、殺菌剤の散布以外では、硬く締まった最適な育て方をして、ちゃんと植え替えしましょうという常識的なことくらいなものです。
黒点の謎は解明されたとは言えませんが、全く対処不能というわけでもないように思えます。もし、黒点があらわれた時には、その多肉植物は何かしらの問題を抱えているのかも知れませんね。

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アロエの古い葉にあるこの黒いスポットの原因は何でしょうか?


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ソルディダは一般的に硬葉系ハウォルチアと呼ばれる多肉植物です。ざらざらした暗い色の肌と、生長が遅いことが特徴です。ちなみに、ソルディダは生長の遅さ故か硬葉系の中では割と高価で、コエルマニオルムとソルディダは中々手が出せません。まあ、普通の園芸店では見かけることはありませんが…
さて、そんなソルディダですが、初めて学名が命名されたのは1821年と約200年前のことでした。そのため、これまでに様々な学名がつけられてきました。今日はそんなソルディダの履歴を辿ってみます。


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Haworthiopsis sordida

ソルディダが初めて命名されたのは、1821年のHaworthia sordida Haw.です。その後、1829年にAloe sordida (Haw.) Schult. & Schult.f.、1891年のCatevala sordida (Haw.) Kuntzeが知られています。また、ソルディダはスカブラと近縁と考えられ、1997年にHaworthia scabra var. sordida (Haw.) HaldaHaworthia scabra subsp. sordida (Haw.) Haldaも命名されています。しかし、結局はソルディダは独立種とされて、基本的にHaworthia sordida Haw.で呼ばれてきました。しかし、近年の遺伝子解析により、硬葉系ハウォルチアは軟葉系ハウォルチアとあまり近縁ではないことがわかってきました。硬葉系ハウォルチアはHaworthiaから分離され、HaworthiopsisとTulistaとなりました。Tulistaは現在4種からなる小さなグループですが、それ以外の硬葉系ハウォルチアはHaworthiopsisに分類されています。ソルディダも2013年にHaworthiopsis sordida (Haw.) G.D.Rowleyとされました。現在もこの学名が学術的に正式なものですが、実際に販売される場合は未だにHaworthia sordidaの名前で流通しています。
そう言えば、ソルディダには変種がありますが、ついでに見てみましょう。


1981年にソルディダの変種としてラブラニが命名されました。Haworthia sordida var. lavrani C.L.Scottです。一時期提案されたソルディダをスカブラの変種とする考え方から、その提案者により1997年にHaworthia scabra var. lavrani (C.L.Scott) Haldaと命名されたこともあります。また、2010年には変種ラブラニを独立種とするHaworthia lavrani (C.L.Scott) Breuerもありました。しかし、やはり最終的にはソルディダの変種ということになり、ソルディダがHaworthiopsisとなったことに合わせて2013年にHaworthiopsis sordida var. lavrani (C.L.Scott) G.D.Rowleyとなりました。

変種ラブラニが命名されたことにより、ラブラニではないソルディダは区別されることになりました。単純にHaworthiopsis sordidaと言った場合、変種ラブラニとそれ以外を含んだ名前となるからです。つまり、変種ソルディダです。これは命名されたわけではなく、変種が出来たことにより自動的に出来た学名です。つまり、Haworthiopsis sordida var. sordidaです。
この、変種ラブラニ以外のソルディダは変種ソルディダになる前から、異名がつけられてきました。いわゆるHeperotypic synonymです。Homotypic synonymとは異なり、Heperotypic synonymはその種小名が受け継がれなかった学名です。それは1938年に命名されたHaworthia agavoides Zantner & Poelln.です。このアガヴォイデスはやがてソルディダの変種とされ、1950年にHaworthia sordida var. agavoides (Zantner & Poelln.)となりました。さらに、ソルディダがHaworthiopsisとなったことを受けて、2016年にはHaworthiopsis sordida var. agavoides (Zantner & Poelln.) Breuerとされましたが、現在では変種ソルディダの異名扱いとされています。


以上がソルディダの学名の変遷です。ハウォルチオプシスは異名が恐ろしく多いものがあり、その一覧を見てうんざりすることもありますが、ソルディダはやはり特徴的な外見なせいか見た目の変異が少ないためかは分かりませんが、異名はほとんどありません。いや、それでも結構あるだろうと思われるかも知れませんが、種小名が同じHomotypic synonymばかりですから非常にすっきりしています。他のHaworthiopsisは1種類に対して、別種としていくつもの学名がつけられていたりして非常に混乱してきたことがうかがえます。
個人的にはこのざらざらした肌と暗い色合いは好きですが、イベントで立派な株が万単位の価格て販売されていて中々手が出せませんでした。しかし、最近のビッグバザールでは小さな実生苗が安価で入手可能です。どうやら、一度に沢山実生したみたいです。これは今しか入手出来ないものかもしれません。ソルディダが安く入手出来る中々ないチャンスです。あまり売れている雰囲気はありませんでしたが、皆さんもこの機にソルディダに手を出してみてはいかがでしょうか?


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かつて硬葉系ハウォルチアなどと呼ばれていたHaworthiopsisやTulistaには、イボに覆われているものがあります。そもそもこのイボが何のためにあるのかすら良くわかりませんが、結節などと呼ばれることが多いようです。遺伝的には、このイボの有無は分類には関係ないみたいです。要するに、イボのある種同士が近縁というわけではないため、イボのあるグループとないグループで分けることは出来ないのです。
さて、このイボにも種類があり様々です。今日はそんなハウォルチア系のめくるめくイボの世界へご案内しましょう。

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九輪塔 Haworthiopsis coarctata IB5850
九輪塔H. coarctataと鷹の爪H. reinwardtiiは同種とされることもありますが、現在は別種とされています。私の所有株はイボが控え目です。九輪塔のイボはまるでイボの先に着色したように見えます。


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星の林 Haworthiopsis reinwardtii var. archibaldiae
鷹の爪H. reinwardtiiの変種ですが、現在は認められていない学名です。鷹の爪系のイボは横長で大型です。

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Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis
コンパクトなf. kaffirdriftensisですが、イボは密に並びます。


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天守閣 × Astrolista bicarinata
AstrolobaとTulistaの自然交雑種。少し透き通るイボは、イボの由来がTulistaだと教えてくれます。


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Tulista pumila
Tulistaの代表種プミラ。Tulistaはよく見るとイボが半透明です。このプミラはイボが小さく密なタイプ。


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Tulista pumila
イボが白くないタイプのプミラ。イボは大型。


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Tulista pumila var. sparsa
プミラの変種スパルサ。イボはまばらですが、赤みを帯びた大型のイボが美しい。

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Tulista pumila var. ohkuwae
プミラの変種オウクワエ。白く大型のイボが密につき非常に目立ちます。

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Tulista kingiana
あまり見かけないキンギアナですが、イボは小さくて地味ですね。


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Tulista minor
Tulista minimaと呼ばれることもありますが、Tulista minorが正式な学名です。イボは横長で密につきます。


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Tulista minor swellense
有名な産地の個体。イボが立体的でよく目立ちます。


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Tulista marginata
マルギナタのイボは大型でたまにつながったりします。透き通った感じが好きですね。


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十二の巻 Haworthiopsis attenuata cv.
何故かH. fasciataと言われる十二の巻ですが、H. attenuata系の交配種です。白いイボはつながりバンド状になります。


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特アルバ Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが目立つ選抜交配種。


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松の雪 Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが小さく密につくタイプ。


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Haworthiopsis fasciata DMC05265
本物のファスキアタですが、普通の園芸店で入手は困難です。十二の巻とそっくりですが、アテヌアタとファスキアタは、遺伝子解析結果では近縁ではないようです。


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Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
ファスキアタの特殊なタイプ。イボは小さくまばらで縦に5列あります。

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Haworthiopsis glauca var. herrei RIB0217
グラウカの変種ヘレイの葉が短いタイプ。変種ヘレイとしてはイボがはっきりしています。

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Haworthiopsis glauca var. herrei
グラウカの変種ヘレイの葉の長いタイプ。イボは目立ちませんが、よく見ると縦にイボが並んでいます。


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紫翠 Haworthiopsis recendeana
現在は九輪塔H. coarctataと同種とされている
紫翠ですが、イボが白くないので目立ちません。イボ自体は非常に密につきます。

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Haworthiopsis scabra
これ以上イボが小さいとイボではなくザラ肌と呼んだほうが良さそうです。H. sordidaやH. nigraはイボではなくザラ肌ですよね。


イボの世界はいかがでしたか? 意外とイボにも色々あることがお分かりいただけたと思います。
個人的にはイボイボ系は大好物なのですが、あまり人気がないみたいで残念です。この記事を起点にイボイボ系のファンが増えて、買う人が増えたことにより園芸店にもイボイボ系が並ぶようになれば私も嬉しいのですが、そんなバタフライ・エフェクトみたいなことは難しいですかね? 今こそ、イボの復権をと密かに願っている次第。


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クマラをご存知ですか? かつて、アロエとされていたAloe plicatilisやAloe haemanthifoliaは、2013年にアロエ属から独立してクマラ属(Kumara)となりました。よって、Aloe plicatilisとAloe haemanthifoliaは、それぞれKumara plicatilisとKumara haemanthifoliaとなりました。ここらへんの学名の経緯は過去に記事にしたことがあります。以下のリンクをご参照下さい。
さらに、Kumara plicatilisの生態について書かれた論文をご紹介した記事もあります。
そんな中、A. plicatilisがクマラ属へ移動した際の学名の混乱について正しい学名に訂正すべきであると主張している論文を見つけました。その論文は、2013年のRonell R. Klopper, Gideon F. Smith & Abraham E. Van Wykによる『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara(Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』です。しかし、この論文はことの経緯を無駄なく簡潔に述べていますが、説明がないので経緯を知らない人間にはよく分からない内容となっています。そこで、私が調べた情報を加味して、内容を再構成して解説します。最初に簡単に言ってしまうと、著者の主張はKumara distichaという学名が使われているが、これは正しい学名ではないというものです。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

一番最初にK. plicatilisが命名されたのは、1753年にCarl von LinneによるAloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe disticha L.つまりは後のGasteria disticha (L.) Haw.の変種として命名されたのです。
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Gasteria disticha

1786年にドイツのFriedrich Kasimir MedikusはKumara Medik.を創設し、A. disticha var. plicatilisをKumara disticha Medik.としました。しかし、Aloe distichaは後のGasteria distichaなのですから、Kumara distichaというのはおかしな名前です。
実は1768年にA. disticha var. plicatilisはA. distichaの変種ではなく独立種であるとして、オランダのNicolaas Laurens BurmanがAloe plicatilis (L.) Burm.f.と命名しましたが、これが正しい種小名です。

ですから、最初A. disticha var. plicatilisであった植物が、アロエ属から独立した際に引き継ぐべき種小名は"disticha"ではなく"plicatilis"なのです。要するに、1786年に命名されたKumara disticha (L.) Medik.は使用されるべきではなく、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.を引き継いでいる、2013年に英国のGordon Douglas Rowleyにより命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyが正しい学名であるというのが著者の主張です。

Kumara Medik.には非常に深刻な問題点があります。1976年にRowleyによりKumaraのタイプをKumara distichaとして指定してしまったので、KumaraとGasteriaは同義語となってしまいました。学名は先に命名された方を優先する「先取権の原理」がありますから、1809年に命名されたGasteria Duvalよりも、1786年に命名されたKumara Medik.が優先されてしまいます。要するにGasteriaのすべてをKumaraに変更しなくてはならなくなり、命名上の混乱の観点からは深刻な問題と言わざるをえません。そのため、2世紀にわたり使用されてきたGasteriaという属を保存するべきでしょう。ですから、Kumaraをガステリアの同義語とせずに、Aloe plicatilisに使用される属名とすることが重要です。

以上が論文の簡単な解説となります。
現在認められている学名はKumara plicatilisですから、著者の主張が採用されていることがわかります。
思うこととして、学名は学者の主張によりコロコロ変わりますから、その都度、我々趣味家は振り回されてしまいます。しかし、現在は遺伝的解析により、近縁関係がはっきりしてきましたから、以前ほど、思い悩まされることはなくなりました。とは言うものの、まだ学名は変わる可能性があります。すべての多肉植物の遺伝子が調べられたわけではありませんし、近縁関係が判明したところでどこで区切ってわけるべきかは議論のあるところです。しばらくは試行錯誤が続くでしょう。しかし、現在は遺伝子解析は過渡期ですから、学名も流動的で変わりやすい時代と言えます。個人的にはこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方がありません。



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ガステリア・エクセルサは19世紀に記載された、昔から知られているガステリアです。他のガステリアと同じく南アフリカの原産です。
私も小指の先ほどの苗を園芸店で購入して育てています。まだ、エクセルサらしさはありませんが、苗から育てていますから愛着がありますし、これからの生長が非常に楽しみです。


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Gasteria excelsa

そんな、エクセルサに関する情報を探ったところ、論文を見つけました。それは、2003年のDavid Cummingの論文、『A matter of recruiment in Gasteria excelsa Baker』です。早速、論文の内容に移りましょう。

G. excelsaはほとんどの場合、川の近くに自生します。Port Alfredの南に約50kmのAlexandria付近から、Transkeiまで見られます。
BathurstのLuthington川のほとりに沿ってG. excelsaは個体数が多く、著者はG. excelsaの種子を採取していました。この時、大量の種子が供給されているにも関わらず、芽生えがほとんどない状態でした。詳細を観察するために、Langholmeに向かって隔離された地域にあるG.excelsaの小集団が対象に選ばれました。

ここでは、狭いエリアに2つの異なる環境に、それぞれの集団があります。
1つ目は北東斜面と対応する南西斜面を持つ高さ1mの小さな尾根で、22個体の成熟したG. excelsaが見られました。G. excelsaは北東の斜面の高さ30cmの茂みの中に生えます。この場所のG. excelsaのサイズは直径37~79cm、葉の幅は8~13cm、葉の長さは23~41cmでした。幼体は3本のみで、1本は2~3才、2本は3~4才と推定しました。この場所には、Crassula muscosa var. polpodaceaとCynanchum gerrardiiが見られました。
2つ目は南西の高さ25mの急な川岸で、27の成熟したG. excelsaが見られました。それほど過酷な環境ではないにも関わらず、G. excelsaは小型でした。この場所のG. excelsaのサイズは直径37~45cm、葉の幅は7~8cm、葉の長さは20~30cmでした。この場所には背の高い茂みとまばらにある背の低い茂み、さらには3~4mの低木がある環境です。1才が3本、1~2才が3本、2~3才が4本、3~4才が3本と、幼体は豊富でした。
この場所には、Euphorbia pentagona、Euphorbia grandidens、Crassula lactea、Crassula muscosa var. polpodacea、Kalanchoe rotundifolia、Othonna dentata、Sansevieria hyacinthoides、Haemanthus albiflosが見られました。

著者は個体数と、1個体の1年に生産される種子の数から計算して、この地域内では1113万2275個の種子が生産されているとしました。この地域では、1年間に4個体の実生が生えているので、育つのは約30万種子に1つ程度であるとしています。
著者は湿った濾紙に100個のG. excelsaの種子を置いて、片隅を水に浸して発芽率を試験しました。すると、発芽しなかったのは2個だけでした。さらに、この2個はどうも置いた場所が悪く水分が足りていないようでした。つまり、発芽率はほぼ100%ではないかと推測しています。
種子が熟成する時期は湿潤期にあたり、発芽に適しています。しかし、人工的に種子を湿らせたら発芽するのに、野生では実生が見られないことを訝しんでいます。


以上が論文の簡単な要約となります。
大変申し訳ないのですが、私には英文の細かいニュアンスがいまいち捉えきれていないせいか、著者の疑問を今一つ理解出来かねる部分があります。私は野生環境では、実生が生えてもその後の乾燥などの要因でほとんどが枯死するだろうと割と安直に考えました。しかし、著者はそうではなくて、発芽自体がおこらないというような意味で言っているような気もします。その場合はどう考えたらよいのでしょうか? 
貯蔵種子という考え方もあります。すべての種子が一斉に発芽した場合、たまたま環境が悪化すると全滅してしまいます。しかし、発芽がばらつくことにより、良いタイミングで育つものも出て来ます。というように、実生よりも耐久性のある種子で環境の悪化をやり過ごす植物もあるのです。しかし、著者は発芽率を試験して、ほぼすべてが一斉に発芽することを確認しています。貯蔵種子ではないようにも思えますが、そう単純ではありません。種子の発芽を促す引き金は水だけではないからです。さらに、水が発芽の引き金である場合でも、水分をある一定以上吸わないと発芽しないなどの条件があるかもしれません。取り敢えずは、光や水分量などの条件を変えて、種子の発芽率が変わるかは見る必要があるでしょう。また、貯蔵種子の有効性を見るために、G. excelsaの自生地の土壌を採取して実験室で発芽するか、種子を様々な環境で保管しどのくらいの期間まで発芽能力があるかを調べることも重要です。
しかし、現状では情報が少な過ぎて良くわかりません。他にも情報がないか、もう少し調べてみるつもりです。


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千代田錦は日本国内でも昔から流通しているアロエの仲間です。しかし、最近は人気がないためかあまり見かけませんでした。ところが、何やらどこかのファームが大量に実生したみたいで、大型の千代田錦が園芸店に並んでいました。私も今年の3月に購入して育てています。千代田錦は葉が三方向に綺麗に並び、斑が非常に美しい多肉植物です。もっと人気が出ても良いような気がします。

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千代田錦 Gonialoe variegata

それはそうと、千代田錦は遺伝子解析の結果、2014年にアロエ属ではなくなりました。じゃあなんだと言われたらゴニアロエ属Gonialoeだということになります。やはりアロエに近縁ではありますが、アストロロバ属Astrolobaや新設されたツリスタ属Tulistaやアリスタロエ属Aristaloeとグループを形成します。

さて、そんな千代田錦ですが、何か情報はないかと論文を漁っていたところ、2003年に出されたPaul I. Forsterの『Variations on Aloe variegata, the partridge-breast Aloe』という論文を見つけました。表題の"partridge"とは「ヤマウズラ」のことですが、羽の模様からの連想でしょうか? タイガーアロエとも呼ばれます。

論文の内容に移りましょう。この論文が出された時点ではまだGonialoeではありませんから、論文の時の学名であるAloe variegataで解説します。
A. variegataは1685年にSimon van der Stelが南アフリカのNamaqualandに遠征した時に発見されました。Simonはオランダのケープ植民地の総督でした。どうやら、A. variegataは西洋で知られているアロエの最初の種類のひとつでした。この時の資料にA. variegataのイラストがありましたが、1932年まで出版されませんでした。

※補足説明 : van der Stelの調査の詳しい事情は、私も過去に調べたことがあります。Aloidendron dichotomumの最初の発見に関する記事でした。その記事では以下のような経緯を説明しています。
1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。

A. variegataを学術的に記載したの1753年のCarl von Linneですが、リンネ以前の最も初期の引用は1690年で、1689年には粗雑な図解がありました。A. variegataの園芸への導入は、1700年にアフリカ南部のコレクターから種子を受け取ったCasper Commelinであると考えられています。A. variegataは1753年にリンネにより記載されましたが、その種の基本となるタイプ標本※は指定されず、いくつかの引用からなっています。CommelinのA. variegataの図解や説明の中で、1706年の「Plantae Rariores et Exotica」の図をA. variegataのレクトタイプ※※として選択しました。この図は、2000年にGlen & hardyにより、イコノタイプ※※※として誤用され、2001年のNewtonはA. variegataはタイプ化されていないと誤って述べています。

※タイプ標本 : 新種を記載する際の、その生物を定義する標本(ホロタイプ)。
※※レクトタイプ : ホロタイプが失われたり、指定されていない場合に指定された標本。

※※※イコノタイプ : 新種指定の基準となった図のこと。

Aloe variegataの異名として、1804年に命名されたAloe punctata Haw.、1908年に命名されたAloe variegata var. haworthii A. Berger、1928年に命名されたAloe ausana Dinterが知られています。このA. ausanaは特に優れたタイプとされていたようで、葉がより直立して斑が大きいとされていたようです。しかし、このタイプが現在でも栽培されているかは定かではありません。

A. variegataはナミビア南部と南アフリカの西ケープ州、東ケープ州、自由州、北ケープ州に分布します。分布が広いため、様々な生息地で見かけることが出来ます。生育環境は主に粘土や花崗岩由来の土壌の低木地で見られます。雨は夏と冬に降り、気温は氷点下近くから夏には38℃を超えることもあります。

A. variegataは他のアロエとの交配種は少なく、1998年にForster & CummingによるAloe 'lysa'(A. variegata × A. bakeri)やAloe 'Versad'(A. variegata × 不明)が作出されています。また、オーストラリアのAtilla Kapitanyにより、生息地由来の種子より斑のない個体が得られ、Rudolf Schulzにより'Splash'の名前で販売されましたが、子株は斑入りに戻る可能性があります。
A. variegataはガステリアの交配親として利用されてきました。その多くは名前がなく、交配親もわかりません。主な品種は以下のものが知られています。
× Gasteria 'Orella'(A. variegata × G. batesiana)
× Gasteria 'Agate Chips'(A. variegata × G. bicolor var. bicolor)
× Gasteria mortolensis(A. variegata × G. acinacifolia)
× Gasteria pethamensis(A. variegata × G. carinata var. verrucosa)
× Gasteria pfrimmeri(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria radlii(A. variegataあるいはA. serrulata × 不明)
× Gasteria rebutii(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria sculptilis(A. variegata × G. ×cheilophylla)
× Gasteria smaragdina(A. variegata × G. ? candicans)


以上が論文の簡単な要約となります。
アロエよりガステリアとの交配が盛んなのは何故でしょうか。思うに、千代田錦はアロエ属よりもガステリア属の方が近縁なので、交配がスムーズなのかも知れませんね。
しかし、千代田錦の登場は18世紀から19世紀のヨーロッパの園芸界に、それなりのインパクトを与えたようです。1801年にSimsは「このアロエには非常に望ましい点が結合している」と述べ、1976年にはNobleが「おそらく英国で最も有名なアロエ」と見なし、非常に高い評価を受けています。久しぶりに千代田錦が流通したのですから、せっかくですから日本でも千代田錦の美しさを見直す時が来ているのではないでしょうか。


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最近、Aloe aristataという名前の多肉植物を入手しました。綾錦の名前でも知られています。近年、アロエ属からAristaloe属になりました。
グランカクタスの佐藤さんの図鑑では2つのタイプの写真が掲載され、交配種の可能性が指摘されていました。ひとつはトゲがないタイプで、もうひとつは
ハウォルチアの禾を思わせるトゲがあるタイプでした。私が過去に入手したのは、トゲがないタイプで非常に葉が硬いものでした。最新の遺伝子解析による分類では、AristaloeはAstrolobaやTulista、千代田錦(Gonialoe variegata=Aloe variegata)に近縁ですから、葉は硬いということは当たり前のことだと思っていました。逆にトゲがあるタイプは柔らかそうですから、ハウォルチア系との交配種かもしれないなんて思ったりもしました。
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綾錦?
トゲがなく葉が硬いタイプ。


しかし、自生地の写真を幾つか見てみると、どの写真を見てもややハウォルチアに似た姿で、トゲがあるタイプの方でした。思い込みはいけませんね。ちゃんと調べるべきでした。そんな折、先日開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールでAloe aristataが販売されていましたので購入しました。
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綾錦 
Aloe aristata=Aristaloe aristata

葉はしなやかでトゲがあります。特徴的に綾錦で間違いないでしょう。では、先に入手していた葉が硬いタイプのアロエは何者なのでしょうか? 綾錦と無関係とも思えませんが、何者かとの交配種である可能性が高いように思われます。そこで、まずはAristaloe aristataを調べてみることにしました。取り敢えずは、論文を探して見ました。出てきたのは、Colin C. Walkerの2021年の論文、『Aristaloe aristata : a unique, monotypic species』です。内容の簡単に要約します。

植物学者というよりはプラントハンターであったイギリスのJames Bowieにより初めて採取された植物は、1825年にイギリスのAdrian Hardy HaworthによりAloe aristata Haw.と命名されました。他にも、1829年にAloe longiaristata  Schult. & Schult.f.、1934年にAloe ellenbergii Guillauminと命名されましたが、これらは異名となっています。
2013年にはAstrolobaやGonialoe variegata(Aloe variegata, 千代田錦)とともにTulista属とされ、Tulista aristata(Haw.) G.D.Rowleyとする意見もありましたが、現在では認められておりません。
2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningと命名され、これが現在の綾錦の学名です。Aristata属はA. aristata1種類のみを含む属です。


 A. aristataは南アフリカ原産とレソトで、西ケープ州の東、南北ケープ、東ケープ、オレンジ自由州、KwaZulu-Natal南西部に至るまで、アフリカ南部に広く分布します。「暑く乾燥したカルー地域の砂質土壌、川沿いの森林の腐食質に富んだ日陰、レソトの高原にある草原など様々(Glen & Hardy, 2000)」であり、「標高は200mから2200m」かつ「アフリカ南部の最も寒い幾つかの地域にも発生(van Wyk & Smith, 2014)」ということですから、かなり環境の変化に対応できる様子が伺えます。
A. aristataの耐寒性が高いことは明らかですから、イングランド南部では屋外栽培も可能との報告があるそうです。著者はスコットランド中部で屋外栽培を試みましたが失敗した模様です。どうも、冬の雨がよろしくないみたいですね。

A. aristataは交配親としても使用されてきました。実は意外にもガステリア属との交配種があり、2013年にはG.D.Rowleyにより×Gastulistaとして19種類がリスト化されています。これは現在ではAristaloe × Gasteriaと見なされています。

簡単な論文の要約は以上です。
綾錦は非常に耐寒性があるとのことですが、私の交配系綾錦は氷点下でも耐えることが出来ます。ちゃんと親の性質を受け継いでいるのですね。そう言えば、私の所有する綾錦のようなものは論文にあるようにガステリア交配種なのでしょうか? 葉が硬くなる特徴はまさにガステリアの血を受け継いでいるからかもしれません。しかし、論文からヒントは貰いました。
ヒントを元にデータベースを調べ直しました。おそらくは、私の交配系綾錦は1931年に命名された× Gasteraloe Guillauminでしょう。キュー王立植物園のデータベースの× Gasteraloeは、なんと私の所有している綾錦系交配種とそっくりな画像が貼られていました。ただし、この× GasteraloeはGasteria × Aloe sensu lato(広義)であり、Aristaloeを分離出来ていない広義のアロエ属を示しています。論文で述べられていた× Gastulista G.D.RowleyはGasteria × Tulista sensu lato(広義)ですが、G.D. Rowleyの言うところのTulistaはAristaloeやGonialoeも含んだ広義のTulistaでしょう。確かに広義のTulistaにはAristaloeも含まれますが、G.D.Rowleyの主張する広義のTulista自体が認められておらず、本来は
Gasteria × Tulista sensu stricto(狭義)にのみ使用されるべきです。ですから、Gasteria × Aristaloeについての適切な学名が必要でしょう。


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