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カテゴリ: アロエ・ハウォルチア

既知の生物にはすべて学名が付けられています。しかし、この学名の特に種小名は一見して由来が分からないものも沢山あります。学名の基本は属名+種小名です。ヒトの学名はHome sapiens、つまりHomo=ヒト属+sapiens=賢い、となります。植物の種小名を見ていると、①特徴を表したもの、②採取された地名に因むもの、③献名、という3パターンがあります。

①特徴を表したものは、「albiflora=白い花」のように見たままの特徴から来ていたり、「mirabilis=素晴らしい」のように抽象的なものもあります。

②採取された地名に因むものは、「japonica=日本の」、「chinensis=中国の」などは我々の身近な植物にはよくあります。しかし、あくまで採取地点ですから、最も個体数が豊富な分布の中心ではなく、飛び地のように僅かに生える場所に因んでいることも珍しくありません。また、日本には大陸から園芸用に様々な木々が持ち込まれましたが、江戸時代に日本を訪れたヨーロッパ人たちはそれらが日本で採取されたため、本来は分布しないのに日本の地名に因んだ名前を付けたりしました。しかし、実際には種小名はあくまで命名のための記号に過ぎないので、意味を問う必要性は皆無でしょうし、それらが訂正されることはありません。
この問題は①の特徴を表したものにも関係します。例えば、赤系統の花を咲かせる植物に、少しクリーム色の新種が発見された場合、「albiflora」と命名されたとしましょう。しかし、その後により白い花の新種が見つかった時、実態に合わせて種小名を変更したらどうなるでしょうか? おそらくは混乱します。2つの植物が同じ名前で呼ばれていたという事実は、禍根を残します。さらに、最も適した特徴の新種が見つかった場合、その都度学名を変更しなければなりません。これでは学名は不安定すぎて、同じ名前の植物について書かれていても、時代や人により異なる植物を示しているなんてことになりかねません。学名について書かれた論文を読んでいるとよく目にする「学名の安定のため」という文言は思った以上に重大なものなのかも知れません。

③の献名については、実はよく分かりません。論文を読んでいると、発見者や採取者、その分野の著名な研究者から来ていたりしますが、必ずしもそうではないような気がします。

前置きが長くなりましたが、今日の本題はこの献名についてです。献名のルールのようなものがあるのかよく分かりませんが、私は全く知らなかったため、何か参考になる論文はないかと少し調べて見ました。見つけたのが、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2011年の論文、『Who's in a name: eponymy of the name Aloe thompsoniae Groenew., with notes on naming species after people』です。論文の趣旨は簡単で、Aloe thompsoniaeというアロエは誰に対する献名なのかという話です。

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Aloe thompsoniae

Aloe thompsoniaeはアフリカ南部の中では最も小さいアロエの1つです。Section Graminaloe Reynoldsに属するグラスアロエです。A. thompsoniae は南アフリカのリンポポ州の標高1500mを超える雲霧帯に分布します。
さて、1936年にGroenewaldがAloe thompsoniae Groenewという学名を発表しました。しかし、この「thompsoniae」が誰に対する献名であるかは混乱しており、Groenewaldも誰に対するものか記していません。しかし、1941年に出版されたGroenewaldのアロエに関する本では、「Mev. Dr. Thompson」、つまりはMrs. Dr. Thompsonという名前を繰り返し使用しています。どうやら、Thompson夫人が様々なアロエを採取したようです。しかし、いつしか「Mev.(=Mrs.)」が忘れ去られて、「Dr. Thompson」だけが独り歩きしたようです。
Reynoldsは献名を誤解した最初の著者で、1946年の著書ではThompson夫人をThompson博士と呼び、「Thompson博士が最初に植物を採取し始めたのは1924年頃」と述べています。しかし、それは実際には「Mev. Dr. Thompson」、つまり医師であったThompson博士の妻であるThompson夫人のことでした。ちなみに、Thompson夫人は博士号は持っていません。

GroenewaldはA. thompsoniaeのタイプ標本を指定しませんでした。後の1995年に、Glen & Smithによりレクトタイプ化されました。選ばれた標本はReynoldsにより示唆された1924年のものではなく、1930年にThompson夫人により収集されたとあります。Glen & SmithはThompsonという姓を「Sheila Clifford Thompson」という名前に関連付けました。これは、Gunn & Coddの1981年の植物収集家のリストにThompson夫人の記載がなかったせいかも知れません。その後、Sheila Clifford ThompsonはLouis Clifford Thompsonの母親であることが分かりました。また、Sheila Clifford Thompsonの娘であるAudrey Thompsonとする場合もありました。

この誤りは文献やインターネットで流布しています。Aloe thompsoniaeに献名されているのは、正しくはEdith Awdry Thompson(旧姓Eastwood)を示しており、Dr. Louis Clifford Thompsonと結婚しています。Sheila Clifford ThompsonはThompson夫人の娘です。

1903年、Awdry Thompsonは子供の頃、南アフリカのリンポポ州にあるHaenertsburg近くにあるWoodbushに到着しました。彼女は植物収集経験がある両親であるArthur Keble EastwoodとJane Mary Emma Eastwoodの影響により植物収集を開始しました。1910年にPaul Ayshford Methuenが訪れ、動植物の収集旅行をしたことにより、より関心が高まりました。彼女の標本から命名されたいくつかの動物には「eastwoodae」と献名されています。彼女の回想において、「私が夫とLowveldの農民であるHarry Whippと共に馬に乗り、放牧されていたHarryの牛を調べていた時、Wolkbergの山頂の平坦な場所でいくつかの岩の間で育っていました。」と、A. thompsoniaeの発見を記しています。

アロエに献名された女性は僅か19人しかいませんが、Awdry Thompsonはその1人です。Carl von Linneの時代から、植物学での業績や新種の発見者を称えるため、献名が行われてきました。例えば、2009年から2011年にかけて12種類のアロエに対し献名がなされましたが、そのすべてが植物学者やアマチュア研究者、採取者に対するものでした。しかし、アロエ以外の植物ではここ数年間で富裕者が献名の権利を購入するという新しい慣行が出現しました。金品と引き換えに名誉を得ようというこの慣行に対し、多くの植物学者は嘆かわしいことであると感じています。

献名は命名に際して一般的ですが、それが誰に対する献名か記載がない場合があります。しかし、それでは献名の持つ、特定の人物を記念するという目的に反します。場合によっては命名者しか知らない無名の人物に対する献名すら存在します。しかし、それらを禁ずる規則はありませんが、誤った人物と関連付けられる可能性に留意が必要です。よって、献名すらならば、献名する人物に対する情報を添付することをお勧めします。また、ラテン語は性別により語尾が変化しますから、性別についても述べる必要があります。A. thompsoniaeも男性にちなんで命名されたと勘違いされ、Aloe thompsoniとされたこともあります。

以上が論文の要約になります。
学名の由来についても記載がある図鑑を読んでいると、由来がはっきりしなかったり、複数の人物のいずれかの可能性があるなど、大変歯切れが悪いものが多くあります。命名は生物を分類することを目的としていますから、本質的には由来は重要ではありません。しかし、1753年以来、数多くの学者が活躍し数えきれないくらいの生物が命名されて来ました。最早、生物の発見や研究、命名ですら歴史となっています。過去の命名や発見に関する論文も、まだ数は少ないものの出て来ています。しかし、このような調査は古い資料の渉猟など、とにかく手間がかかりますから、やはり著書らが主張するように誰に対する献名が明記していただくのが最善なのでしょう。


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先日、ワシントン条約で国際取り引きが規制されているアロエについての記事を書きました。もっとも厳しく規制される附属書Iに記載されたアロエはマダガスカル原産のものばかりです。何故なのでしょうか?

CITES2018のアロエ属についての記事はこちら。

調べたところ、2014年と少し古いのですが、マダガスカルのアロエの保全状況を評価した、Solofo E. Rakotoarisoa, Ronell R. Klopper & Gideon F. Smithの論文、『A preliminary assessment of the conservation status of the genus Aloe L. in Mdagascar』です。早速、見てみましょう。

マダガスカル島には128種類のアロエが自生しますが、すべて固有種であり限られた狭い分布と個体数が少ないことが特徴です。マダガスカルのアロエは、環境破壊と人間の活動の影響を受けやすいとされますが、その保全状況は良く分かっていませんでした。様々な情報を収集し分析すると、マダガスカルのアロエの約39%が何かしらの理由で脅かされており、懸念が少ないのは4%に過ぎませんでした。しかし、最大の問題は、マダガスカルのアロエの約50%は情報が乏しく評価出来ませんでした。つまり、マダガスカルのアロエの半数について、どれだけの種が絶滅の危機に瀕しているのか不明なのです。状況は考えられているよりも悪い可能性もあるのです。

幾つかの種類を除いて、マダガスカルのアロエの分布は非常に狭いことから、山火事や違法採取に対して脆弱です。ちなみに、マダガスカルからの園芸用植物輸出の86%はアロエです。
CITES2014の附属書Iに記載されている21種類のうち、17種類はマダガスカル原産です。その他のアロエも附属書IIに記載されています。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックに記載されているマダガスカルのアロエは、Aloe suzannaeとAloe helenaeで、ともに絶滅危惧種です。しかし、マダガスカルのアロエの保全状況が不明なため、完全なものとは言えません。

それでは、実際のマダガスカルのアロエの保全状況を見てみましょう。ここでは、保全状況を7つに分類しています。危機の度合いは①が高く⑥が低いという並びです。ここに名前がないマダガスカルのアロエは⑦の情報不足に入ります。

①絶滅種(EW)
1, A. oligophylla
2, A. schilliana
3, A. silicicola
 
②絶滅危惧IA類(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高いもの。
1, A. acutissima v. fiherenensis
2, A. calcairophila
3, A. descoingsii
4, A. fragilis
5, A. guillaumetii
6, A. helenae
7, A. hoffmannii
8, A. ivakoanyensis
9, A. mandotoensis
10, A. millotii
11, A. mitsioana
12, A. orientalis
13, A. suzannae
14, A. virgineae

③絶滅危惧IB類(EN)
絶滅の可能性が高いもの。
1, A. andringitrensis
2, A. antonii
3, A. antsingyensis
4, A. betsileensis
5, A. capitata v. angavoana
6, A. capitata v. capitata
7, A. capitata v. silvicola
8, A. cipolinicola
9, A. conifera
10, A. delicatifolia
11, A. deltoideodonta v. brevifolia
12, A. deltoideodonta v. intermedia
13, A. edouardii
14, A. erythrophylla
15, A. fievetii
16, A. gneissicola
17, A. isaloensis
18, A. laeta
19, A. leandrii
20, A. newtonii
21, A. parallelifolia
22, A. parvula
23, A. rauhii
24, A. rosea
25, A. sakarahensis
26, A. schomeri
27, suarezensis
28, A. trachyticola
29, A. versicolor
30, A. viguieri

 ④絶滅危惧II類(VU)
絶滅の危機が増大しているもの。
1, A. acutissima v. acutissima
         (ssp. acutissima)
2, A. acutissima v. antanimorensis
3, A. analavelonensis
4, A. bellatula
5, A. compressa
6, A. deltoideodonta v. candicans
7, A. haworthioides
8, A. ibitiensis
9, A. madecassa
10, A. perrieri
11, A. vaotsanda

⑤準絶滅危惧(NT)
現在は絶滅の可能性は少ないが、生息状況の変化によっては絶滅危惧種に移行する可能性があるもの。
1, A. antandroi
2, A. bakeri
3, A. bulbillifera
4, A. capitata v. quartziticola
5, A. deltoideodonta v. deltoideodonta
6, A. macroclada
7, A. socialis


⑥低危険種(LC)
絶滅の懸念は少ない。
1, A. beankaensis
2, A. divaricata ssp. divaricata
3, A. divaricata ssp. vaotsohy
4, A. imalatensis
5, A. occidentalis
6, A. vaombe

⑦情報不足(DD)
評価するための情報がないか少ない。

以上が論文の簡単な要約です。さて、見てお分かりのように、絶滅の可能性がある種がほとんどで、絶滅の懸念が少ない低危険種はたった6種類に過ぎません。マダガスカルのアロエの危機的状況が分かります。しかし、一番の問題は情報不足が半数種に及ぶことです。情報のない種はすでに絶滅、あるいはこの瞬間にも絶滅しかけているかもしれないのです。もし、保全をするにせよ、現在のアロエの詳しい情報が必要です。調査は急務でしょう。
問題はまだあります。マダガスカルのアロエは生息地が非常に狭いため、開発などにより一気に絶滅してしまう可能性があるということです。例えば、2014年のこの論文では、Aloe bakeriは準絶滅危惧種であり、現在は絶滅の可能性は少ないとされています。しかし、2010年のCastillonの報告によると、港湾や空港開発のためにAloe bakeriの分布する岩場が切り出されてしまい、すでに絶滅していたというのです。キュー王立植物園のデータベースでも絶滅したことが示されています。このように、マダガスカルではそれほど危機になかったアロエでも、一瞬で絶滅に追いやられてしまいます。正確な調査と保全が実施されることが望ましいのですが、口で言うほど簡単ではないでしょう。知らない間に、沢山のアロエが絶滅していたなんてことならなければいいのですがね。



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先日、ワシントン条約で規制されるユーフォルビアについての記事を書きました。CITES2018からユーフォルビアの項目を抜粋しましたが、CITESには他にも沢山の多肉植物が記載されています。今日はアロエについて見てみましょう。  

流通
アロエ属はサハラ以南のアフリカ、アラビア半島、マダガスカル及びアフリカ東海岸沖の島々に、様々な環境で500種類以上が自生します。また、多くの種が野生化し帰化植物と化し、一部は侵入種と見なされています。Aloe vera以外のアロエの全種類は、CITESの附属書に記載されています。

判別
小さな多肉植物から背の高い木本までアロエは様々です。花は黄色から赤色が普通です。ほとんどの種は葉の縁に沿って鋭いトゲを持ちますが、リュウゼツランの仲間に見られる葉の先端の鋭いトゲはありません。葉は茎の末端にロゼットを形成し、古い葉が枯れ葉の「スカート」を形成することがあります。葉は簡単に折ることができ、無色のゲル状の物質があります。これは、一部の種類では酸化すると黄褐色からオレンジ色に変わります。

分類学
CITESでは、アロエ属にはAloidendron、Aloiampelos、Kumara、Chortolirionを含んだものを示しています。

用途
アロエは様々な用途に使用されます。まず、観葉植物としての人気があり、乾燥地の造園に使用されます。取り引きされる主要なアロエ製品は、Aloe veraとAloe feroxの葉のゲルで、化粧品やサプリメント、食品、香料、医薬品まで多目的に使用されます。医薬品としては、その抗酸化作用と抗菌性を利用して、皮膚や消化器の病気に使用されます。Aloe veraによる製品の世界市場は130億米ドルに達したと推定されており、取り引き量の増加することにより、Aloe veraと誤って別種のアロエが使われてしまう可能性もあります。
アロエから取れる苦い黄褐色の樹液も国際的に取り引きされ、主にAloe feroxから採取されます。

商業
商業目的の附属書Iのアロエの国際取り引きは禁止されています。ただし、人工繁殖させた植物の商取引は許可されています。
人工繁殖した附属書IIのアロエは米国、中国、ドミニカから輸出され、日本やカナダに輸入されます。Aloe feroxは南アフリカとマダガスカルから輸出され、オランダとドイツに輸入されています。南アフリカのAloe feroxは野生植物が採取されており、過去10年間で560万トンが輸出されています。Aloidendronは日本で人工繁殖され、取り引きされています。

附属書 I
附属書Iは
絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の種類です。

1, Aloe albida

2, Aloe pillansii

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3, Aloe pollyphylla

4, Aloe vossii

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5, Aloe albiflora

6, Aloe alfredii

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7, Aloe bakeri

8, Aloe bellatula

9, Aloe calcairophila

10, Aloe compressa

11, Aloe delphinensis

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12, Aloe descoingsii

13, Aloe fragilis

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14, Aloe haworthioides

15, Aloe helenae

16, Aloe laeta

17, Aloe parallelifolia

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18, Aloe parvula

19, Aloe rauhii

20, Aloe suzannae


以上は附属書Iに記載されたアロエです。しかし、実はアロエのかなりの種類は、実際に調査が行われていないことから、絶滅の可能性があるか判定できていません。そこら辺の話について早速論文を見つけましたので、明日記事にする予定です。


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アロエの多くは、長い管状の橙・赤系統の花を咲かせ、蜜を求めて訪れた鳥により受粉する鳥媒花と考えられています。また、一部のアロエは比較的短い管状の白色かクリーム色の花を咲かせますが、これらは昆虫により受粉する虫媒花とされます。
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Aloe parvula

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Aloe albiflora

しかし、実際に観察や受粉の確認を調査されたアロエは少ないのが現状です。過去の研究は非常に重要な知見ですが、それを証拠に未調査のアロエについて語ることは果たして出来るのでしょうか? 私は一部の結果からすべてを結論付けることは非常に危ういと思います。ですから、花粉媒介のシステムについて何か面白い論文はないか探ってみました。見つけたのが、C. Botes, P. D. Wragg, S. D. Johnsonの2009年の論文、『New evidence for bee-pollination systems in Aloe (Asphodelaceae: Aloideae), a predominantly bird-pollinated genus』です。

一般的にアロエの受粉には鳥が重要であり、蜜蜂はアロエの受粉に寄与しない、いわゆる蜜泥棒(盗蜜者)とされています。しかし、著者らは蜜蜂とアロエの関係を見直しています。論文で観察されたのは、淡いピンクがかったクリーム色の花を咲かせるAloe minimaと、明るい緑がかった黄色の花を咲かせるAloe linearifoliaです。自生地はアロエの蜜を訪れる太陽鳥が複数種分布する地域だそうです。
さて、まずは実験的にこれらのアロエの花を自家受粉させてみましたが、ほとんど種子は出来ませんでした。次にアロエを網で覆い鳥が入れない状態にした場合、蜜蜂は網目から侵入しアロエの蜜を吸いました。この場合は鳥の受粉への影響がない状態ですが、アロエは種子が出来ました。さらに、自家受粉はほとんどしないことも確認済みですから、これらのアロエは蜜蜂により受粉していることが明らかになったのです。
ということで、著者らは考えられていた以上にアロエの受粉には蜜蜂が重要かも知れないとしています。
花の特徴を調べたところ、2種類とも花は紫外線を反射しました。動物は目で捉えられる波長が異なるため、紫外線を見ることが出来る昆虫にとっては、紫外線の反射は意味があるようです。また、これらのアロエの花は揮発性物質を放っており、その香りは人間の鼻でもわかる強さです。香りはテルペノイドとベンゼノイドが主要なものでしたが、A. minimaは6種類、A. linearifoliaは実に17種類の香り物質が検出されました。実際にA. linearifoliaの方が香りは強いそうです。このような花の特徴は虫媒花の特徴とされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。以前にも記事にしましたが、Aloe feroxの花の受粉は主に蜜を吸う専門家である太陽鳥ではなく、蜜を専門としない日和見の鳥が受粉の主体であるという面白い結果でした。この時、蜜蜂は受粉に寄与しないことが確認されています。しかし、Aloe feroxは巨大アロエであり、むしろ特殊な例かもしれません。この論文からは、多くの中型~小型アロエの受粉に蜜蜂が関与している可能性すらあるのです。今後、もっと沢山の種類のアロエの受粉について調査がなされるべきでしょう。
また、論文で調査されたクリーム色や薄い黄色などの淡い色合いで香りがある花には、一般的に蛾が訪れる蛾媒花が多い傾向があります。夜間の調査も必要ではないかと感じました。


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植物の種子はある程度は保存出来るものが多く、種の保存にとって種子の長期保存は有効な手段である可能性があります。種の保存には幾つかの方法がありますが、採取した植物を栽培して維持することは植物園や大学などの研究機関の重要な仕事です。しかし、同じ種類の植物でも遺伝的な多様性があることが本来の姿ですが、このような栽培個体は遺伝的な多様性が低いことが問題です。自生地での野生植物の消滅により栽培植物を移植しようとした場合に、その全てが株分けした遺伝的に均一なクローンだったり、血縁関係にある兄弟ばかりでは、種子が出来なくなりやがて消滅してしまいます。解決策は自生地と同じくらい遺伝的多様性を栽培植物で維持出来れば良いのですが、ただ1種類の植物を維持するだけで大変な労力と場所と資金がかかってしまいます。当然それは専門知識を持つ研究者が行わなければなりませんから、地球上の絶滅の危機に瀕している植物すべてをというのは明らかに無理でしょう。しかし、原産地から種子を回収して保存しておけば、将来の絶滅に備えることが可能です。沢山の種子を採取しておけば遺伝的多様性も保たれますし、人工的に栽培する場合と異なり場所も手間もかかりません。ですから、種子の保存に関しては興味があります。
確か、種の保存を目的として、実際に様々な植物の種子が凍結保存されていると聞いたことがあります。しかし、その凍結種子を撒いて植物が育ったという話は聞いたことがないため、気になっていました。なぜなら、一般的に生物を凍結すると細胞内の水分が凍ってしまい、氷の結晶が出来て細胞が破壊されてしまいます。解凍した肉や魚から赤い汁(ドリップ)が出るのは、これが原因です。種子は水分が少ないので細胞の破壊は免れるのでしょうか? また、凍った水分は凍結した時間が長くなると、やがて液体になる融解を経ずに直接気体になります。これを昇華と呼びますが、凍結種子は大丈夫なのでしょうか?

とまあ前提が長くなりましたが、要するに凍結種子が本当に芽生えるのかが気になっていた訳です。せっかくだから、多肉植物で何か関係がありそうな論文を探してみたところ、面白そうなものを見つけました。S.R.Cousins, E.T.F.Witkowski, D.J.Mycockの2014年の論文、『Seed strage and germinatiom in Kumara plicatilis, a tree aloe endemic to mountain fynbos in the Boland, south-western Cape, South Africa』です。タイトルの通りKumara plicatilisの種子を温度を変えて保存し、生存率を確認しています。ちなみに、このKumara plicatilisとは、いわゆるAloe plicatilisのことで、2013年にアロエ属から分離しクマラ属となりました。日本では「乙姫の舞扇」というあまり使われない名前もあります。

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Kumara plicatilis

まず、実験の基本的な前提から見ていきましょう。K. plicatilisの新鮮な種子は2010年12月にRawsonville/Worcester近くの40個体から採取されました。採取した種子は茶色の紙袋に入れて実験室で3ヶ月保管されました(※1)。空の種子は除かれました。2400個の種子を300個×8に分け、さらにそれぞれを20個を1本の密封容器に入れました。
種子は4つの温度で、4ヶ月及び9ヶ月保管されました。設定された温度は、マイナス80度、4度、25度、研究室内の4つです。期間は12月から2月で、ヨハネスブルグでは夏にあたるそうです。

※1 ) K. plicatilisの種子は種子が出来た後、直ぐに種子を撒くとあまり発芽しません。ある程度の後熟期間を必要としています。

結果を見ていきましょう。
まずは発芽率です。12時間で昼と夜が切り替わる培養機で、日中は25度、夜間は15度に設定して発芽させました。マイナス80度で保存された種子は、保存期間に限らず発芽が早く、平均5.9日でした。逆に研究室内で保存された種子は平均7.8日で発芽しました。
また、18週間の間に発芽しない種子は、種子の生存を確認する試験(テトラゾリウム試験)を実施しました。つまり、試験後の種子は、①発芽した種子、②空になった死亡種子、③テトラゾリウム試験により生存を確認した種子、④テトラゾリウム試験により死亡を確認した種子、の4種類です。重要な①と③、さらには①と③を足した生存率を見ていきましょう。
4ヶ月保存した種子では、マイナス80度で①90.4%+③4.8%=95.2%、4度では①87.6%+③10.0%=97.6%、25度では①78.0%+③14.0%=92.0%、室内では①80.4%+③16.4%=96.8%でした。4ヶ月保存では種子を冷やした方が発芽率は良く、室内保存では種子の生存率は高いものの発芽率は低下しました。
次に9ヶ月
した種子では、マイナス80度で①39.6%+③52.4%=92.0%、4度では①39.2%+③50.0%=89.2%、25度では①79.6%+③15.2%=94.8%、室内では①88.8%+③4.8%=93.6%でした。不思議なことに、9ヶ月の保存では発芽率は種子を冷却した方が発芽率が低下したのです。

さて、著者らは①発芽率+③生存種子を重視しており、長期の低温条件が種子の休眠を誘発する可能性を指摘しています。一般的に秋に出来た種子が直ぐに発芽せず、一度低温にさらされることにより、春に種子が休眠から目覚めるというプロセスがあります。しかし、この場合は逆ですが低温による休眠の可能性も論文になっているようです。著者らは長期冷蔵は種子にとって環境ストレス要因であるとしておきながらも、逆に休眠状態に入ることは種子寿命を伸ばす可能性を上昇させるとしています。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文にはまだ曖昧な部分があります。それは、テトラゾリウム試験で生存しているとは一体どういう意味を持つのかということです。胚乳や子葉が生存していても、幼根や幼芽の原器あるいは胚軸にダメージがあれば生存していても発芽は出来ないでしょう。生存していても発芽出来ないのなら、冷却による長期保存の利点はありません。著者らは種子寿命が伸びると言っていますが、発芽しない種子を一体どうしようというのでしょうか? よくわかりません。種子から胚を摘出して組織培養するのなら、あるいは可能なのかもしれませんが。
さて、論文を読むと実際に行われている種子の凍結保存に対して、ある種の疑念が湧きます。将来のために凍結された種子たちは将来、果たして無事に発芽出来るのでしょうか? もちろん、これはK. plicatilisというと1種類の植物に対してだけの結果です。しかし、凍結保存された種子たちが、その全ての種類で発芽試験が実施されているとは思えません。しかも、種の保存を目的とした場合、4ヶ月や9ヶ月どころではなく、最低でも数十年という保存期間が必要なはずです。種子の冷凍保存は本当に長期保存に最適な方法なのでしょうか? 個人的には組織培養したカルスを液体窒素につけておけば、何十年も保存可能なはずです。確かに組織培養に移行するのは手間がかかりますが、確実性は高い気がします。


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昨日に引き続きAloe of the world: When, where and who?』という論文をご紹介しています。昨日はアロエ属が誕生した1753年から、1930年までの約180年間のアロエの歴史を見てきました。本日は1930年代から、いよいよアロエ属の権威であるReynoldsが登場します。また、2000年以降は現在も活動している研究者の名前が現れます。また、例によって、所々に※印で私が注釈を入れました。では、アロエの歴史を見てみましょう。

1931~1940年
1930年代からアロエ属研究の第一人者であるG. W. Reynoldsが登場します。N. S. PillansやB. H. Groenewaldと共にアフリカ南部から膨大な数のアロエを記載しました。アフリカ南部からReynoldsは24種類、Pillansは9種類(1種類はSchonlandと共著)、Groenewaldは6種類を記載しました。ReynoldsのライバルであったH. B. Christianは南熱帯アフリカから8種類(1種類はE. Milne-Redheadとの共著)のアロエを記載しました。
O. Stapfはグラスアロエのために新属Leptaloeを創設しました(※7)。また、A. LemeeはA. Bergerのアロエの分類におけるSection Aloinellaeを属に格上げし、Aloinella Lemeeを創設しました(※8)。
他には、J. Leandriはマダガスカルの新しいLomatophyllumを、A. A. Bullockは東熱帯アフリカ、L. Bolusはアフリカ南部、I. B. Pole Evansはアフリカ南部、C. L. Lettyはアフリカ南部、A. Guillauminはマダガスカルから、それぞれアロエを1種類記載しました。
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Aloe spectabilis Reynolds (1937年命名)

※7 ) Leptaloe属はAloe myriacanthaを5種類に分けていました。また、Aloe minima、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe albidaが含まれていました。しかし、Leptaloe属は現在では認められていません。

※8 ) Aloinella属はAloe haworthioidesが含まれていましたが、現在では認められていません。
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Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides


1941~1950年
1940年代初頭にB. H. Groenewaldはアフリカ南部のアロエに関する本を出版しました。また、1940年代のReynoldsは、『The Aloes of South Africa』という画期的なアロエの本を出版するために集中したため、アフリカ南部のアロエはあまり記載されませんでした。しかし、1950年に出版されたReynoldsの本はアロエの標準的な教科書となりました。
その間に、H. B. Christianは南熱帯アフリカと東アフリカで活発に活動し、東熱帯アフリカから6種類、南熱帯アフリカから2種類(1種類はI. Verdoornとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。Guillauminはマダガスカルから3種類のアロエと、Lomatophyllumを記載しました。
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Aloe descoingsii Reynolds (1958年命名)

1951~1960年
1950年代、Reynoldsはアフリカ東部と北東部、及びマダガスカルに注意を向けました。以前のReynoldsはリンポポ川の北は調査しないというChristianとの合意によりアフリカ南部に集中していましたが、1950年にChristianが亡くなったため調査範囲が広くなったのです。Reynoldsは42種類もの新種のアロエを記載しました。内訳はアフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから6種類、東熱帯アフリカから9種類、北東熱帯アフリカから17種類(6種類はP. R. O. Ballyとの共著)、西中央熱帯アフリカから7種類でした。
また、Christianの死後に4種類のアロエが記載されました。南熱帯アフリカから1種類、北東熱帯アフリカから1種類、東熱帯アフリカから2種類(I. Verdoornとの共著)でした。
D. M. C. DrutenはUrgineaとされていたAloe alooides (Bolus) Drutenをアロエ属としました(※9)。P. R. O. BallyとI. Verdoornは北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
A. Bertrandはマダガスカルのアロエのために新属Guillauminiaを提唱しました(※10)。


※9 ) Urginea属は現在Drimia属の異名とされています。Drimia、Albuca、Schizocarphus、Fusifilum、Dipcadi、Ledebouria、Prospero、Austronea、Ornithogalum、Trachyandraを含んでいた非常に雑多なグループでした。

※10 ) Guillauminia属には、Aloe albida、Aloe bakeri、Aloe ballatula、Aloe descoingsii、Aloe carcairophila、Aloe rauhiiが含まれていました。しかし、Guillauminiaは現在では認められていません。
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Aloe bakeri
=Guillauminia bakeri


1961~1970年
Reynoldsは熱帯アフリカとマダガスカルで調査を続け、1966年に『The Aloes of Tropical Africa and Madagascar』を出版しました。この本も出版から数十年に渡り標準的なアロエ属の教科書となりました。Reynoldsはマダガスカルから4種類、北東熱帯アフリカから3種類(2種類はP. R. O. Ballyとの共著)、東熱帯アフリカから4種類、南熱帯アフリカ~アフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから7種類、アラビア半島から1種類のアロエを記載しました。
1960年代、J. J. Lavranosはアラビア半島から6種類のアロエを記載しました。
他には、W. Rauhがマダガスカルから1種類、I. Verdoornはアフリカ南部から3種類、(1種類はD. S, Hardyとの共著)、L. C. Leachはまだ南熱帯アフリカから1種類、J. M. Bosserはマダガスカルから3種類、W. Giessはナミビアから1種類のアロエを記載しました。


1971~1980年
J. J. Lavranosはアロエ研究を続け、アフリカ南部から2種類、アラビア半島から3種類(2種類はA. S. Bilaidiと、1種類はL. E. Newtonと共著)、東熱帯アフリカから4種類(3種類はL. E. Newtonとの共著)のアロエを記載しました。
L. C. Leachは南熱帯アフリカで活発に活動し、南熱帯アフリカから10種類、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
W. Maraisは2種類のLomatophyllumを記載しました。
他にはD. S. Hardyはアフリカ南部から2種類、W. Giessはナミビア、アフリカ南部から2種類(1種類はH. Mermullerとの共著)、G. D. Rowleyは北東熱帯アフリカから1種類、G. Cremersはマダガスカルから2種類、B. mathewは西中央熱帯アフリカ(コンゴ)から1種類、I. Verdoornは南部及び南熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから3種類(P. E. Brandhamとの共著)のアロエを記載しました。
また、この10年間でアフリカ南部のアロエに関する本は、例えば1974年のBornman & Hardy、1974年のJeppe、1974年のWest、1975年のJankowitzなどが出版されました。
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Aloe erinacea D. S. Hardy (1971年命名)

1981~1990年
H. F. GlenとD. S. Hardyはアフリカ南部のアロエ研究を開始しました。
W. Rauhはマダガスカルから2種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から1種類と北東熱帯アフリカから1種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類(2種類は
H. J. Beentjeと、2種類はJ. J. Lavranosとの共著)、S. CarterとP. E. Brandhamは北東アフリカから1種類とアフリカ南部から1種類、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(1種類はK. Kritzingerとの共著)、J.R. I. Woodはアラビア半島で1種類、D. C. H. Plowesはアフリカ南部で1種類のアロエを記載しました。

1991~2000年
1990年代にはアフリカ南部のアロエに関する本が2冊出版(2000年のGlen & Hardyと、1996年のVan Wyk & Smith )されましたが、アフリカ南部からは新しいアロエは記載されませんでした。しかし、東アフリカのアロエ研究は増加しました。L. E. Newtonは東熱帯アフリカから8種類、北東熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから6種類(1種類はNewtonとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。また、Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから12種類(1種類はP. E. Brandham、1種類はM. G. Gilbert、1種類はM. Dioliとの共著)、J. J. Lavranosは北東アフリカから3種類(1種類はS. Carterとの共著)、マダガスカルから5種類(1種類はW. Röösliとの共著)、アラビア半島から9種類(7種類はS. Collenetteとの共著)のアロエを記載しました。
W. Rauhはマダガスカルの4種類(1種類はR. Hebding、1種類はA. Razafindratsira、1種類はR. Geroldとの共著)のLomatophyllumについて紹介しました。さらに、マダガスカルから4種類(1種類はR. D. Mangelsdorff、2種類はR. Geroldとの共著)のアロエを記載しました。

P. V. HeathはGuillauminiaを支持し、新属Leemea P. V. Heathを提唱しました(※11)。
他には、A. F. N. Ellertは南熱帯アフリカから1種類、P. FavellとM. B. MillerとA. N. Al Gifriはアラビア半島から1種類、J-B. Castillonはマダガスカルから2種類のアロエを記載している。

※11 ) LeemeaではなくLemeeaの誤記です。Aloe boiteaui、Aloe haworthioides、Aloe parvulaが含まれていました。Lemeea属は現在では認められていません。
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Aloe parvula
=Lemeea parvula


2001~2010年
L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類と北東熱帯アフリカから1種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から7種類(1種類はB. A. Mies、2種類はT. A. McCoy、1種類はT. A. McCoyとA. N. Al Gifri との共著)、北東熱帯アフリカから8種類(すべてMcCoyとの共著)、東熱帯アフリカから6種類(すべてMcCoyとの共著)、マダガスカルから17種類(8種類はMcCoy、1種類はM. Teissier、5種類はMcCoyとB. Rakouthとの共著)のアロエを記載しました。
G. F. Smithはアフリカ南部から5種類(2種類はN. R. Crouch、2種類はR. R. Klopper)を説明しました。E.
 J. van Jaasveldは8種類のアロエを説明しました。1種類はA. B. Low、3種類はA. E. van Wyk、1種類はW. Swanepoelとの共著です。

この10年最大のアロエ研究の貢献は、J-B. CastillonとJ-P. Castillonの親子でした。マダガスカルのアロエの21種類の組み合わせを説明し、5種類のアロエを記載しました。
他には、S. S. Laneは南熱帯アフリカから1種類、P. I. Forsterはマダガスカルから1種類、S. J. ChristieとD. P. HannonとN. A. Oakmanは北東熱帯ですから1種類、A. F. N. Ellertはコモロ諸島から1種類と南熱帯アフリカから2種類、S. Carterは北東熱帯アフリカから1種類と南熱帯アフリカから1種類、N. Rebmannはマダガスカルから4種類、S. J. Maraisはアフリカ南部から1種類のアロエが記載しました。B. J. M. Zonneveldはアフリカ南部から4種類のアロエを記載し、2種類は一部の研究者に認められています。
この10年間に出版されたアロエの本は、2001年のCarter、2004年のLane、2004年のSmith、2004年のRothmann、2008年のSmith & Van Wyk、2010年のCastillon & Castillonがあります。


2011年以降
2011~2013年の間には15種類のアロエが説明されています。Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから4種類(1種類はTesfaye Awas、1種類はI. FriisとI. Nordalとの共著)、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(2種類はW. Swanepoel、1種類はP. nelとの共著)、南熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。M. DioliとG. Powysは東熱帯アフリカから新種を説明しました。J-B. Castillonはマダガスカルから1種類、J-P. Castillonはマダガスカルから2種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから2種類、G. F. Smithと
E. Figueiredoはアフリカ南部から2種類(1種類はN. R. Crouchとの共著)の組み合わせを公表しました。
アロエ研究の重要な2冊の本が出版されました。2011年の『The Aloe Names Book』はアロエの学名と異名につえて解説しており、同じく2011年のCarterの『Aloes: the Definitive Guide』はReynolds以来はじめて全種類のアロエを一冊の本にまとめたものです。


以上が論文の内容となります。個人的には学名関連の話が好きなので、大変面白い論文でした。しかし、この論文の後、遺伝子解析の結果によりアロエ属は解体されることになりました。2013年の論文を根拠とするAloidendron (A. Berger) Klopper & Gideon F. Sm.、Aloiampelos Klopper & Gideon F. Sm.、2014年の論文を根拠とするGonialoe (Baker) Boatwr. & J. C. Manning、Aristaloe Boatwr. & J. C. Manningがアロエ属から分離しました。また、2013年にはG. D. Rowleyにより1786年に命名されたKumara Medik.が復活しました。当然ながら、アロエ属から分離したのはごく一部でありほとんどのアロエは未だにアロエ属のままです。また、2019年に命名された新属Aloestrela Molteno & Gideon F. Sm.は、遺伝的にはどうやらAloidendronに含まれるようですが、現在はまだAloestrelaのままです。今後変わる可能性はあるのでしょうか?
このように、この論文と同時期に出た論文により、その後のアロエは一変しました。2011~2020年のアロエ属は思いもよらぬ激変を経験しました。2021年以降のアロエはどうなっていくのでしょうか?



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Carl von Linneにより1753年に二項式の学名の記述方法が提案されアロエ属が誕生しました。つまり、Aloe L.です。しかし、実際にはそれ以前からアロエの仲間はヨーロッパで知られていましたが、ラテン語による特徴の羅列により記述されていました。von Linneによる1753年の『Species Plantarum』では、GasteriaやHaworthiaもアロエ属として記載されていました。これが、アロエ属の誕生に関する話ですが、それから270年ほど経ちアロエ属も激変しました。そのアロエ属の歴史を紐解いたRonell R. Klopper & Gideon F. Smithの2014年の論文、『Aloe of the world: When, where and who?』を見つけました。アロエの歴史を見てみましょう。ちなみに、2014年以降に学名が変更されたものもありますから、※印で私が注釈を入れました。

1753~1760年
von Linneが初めてAloe L.を記載しました。この中では、Aloe variegata L.のみが現在でもアロエ属として残されています。

1761~1770年
アロエ研究に貢献した最初の人物は、1768年に『Garden Dictionary』の第8版を出版したP. Millerでした。Millerは主に南アフリカから来た新しいアロエについて説明しました。
この時期に出版されたものとしては、N. L. Burmanによる『a new combination for Aloe vera (L.) Burm.f.』と、R. Westonによる南アフリカの1種類のアロエについてでした。

1771~1780年
1761~1763年にArabia Felix(現在のイエメン)でデンマークの遠征があり、同行したP. Forsskal
により初めてアラビア半島のアロエについて説明されました。しかし、1880年代後半までアラビア半島のアロエについては何もありませんでした。
この時期には、P. Miller、C. Allioni、F. Massonにより、南アフリカのアロエがそれぞれ1種類記載されました。
また、F. K. MedikusによりKumara Medik.が記載されました。(※1)

※1 ) Aloe plicatilisは、初めvon LinneによりAloe disticha var. plicatilisとされました。しかし、Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。このことが後に問題を引き起こします。MedikusがAloe plicatilisをKumara distichaと命名してしまったのです。正しく引用するならば、Kumara plicatilisとすべきでした。MedikusはAloe plicatilisをKumara属としたつもりでしたが、規約上ではGasteria distichaをKumaraとしてしまったのです。困ったことにGasteria属の創設よりもKumara distichaの方が命名が早かったため、規約上では現在のGasteria属はKumara属とする必要があります。ただし、規約に従うと大きな混乱を招くため、変更は行わず現状維持が提言され認められています。ちなみに、Aloe plicatilisはアロエ属から独立し、Kumara plicatilisとなりました。Medikusの提唱したKumara属が正しい引用により復活したのです。
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Kumara plicatilis
=Aloe plicatilis
=Aloe disticha var. plicatilis


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Gasteria disticha
=Aloe disticha


1781~1790年
J. B. A. P. M. C. de Lamarckはモーリシャス、東アフリカ、北東アフリカから1種類ずつのアロエを記載しました。また、C. Linnaeus jnr.(von Linneの息子=Linne filius)とA. Aitonは、アフリカ南部からそれぞれ新種のアロエを1種類記載しました。

1791~1800年
アフリカ南部ではC. P. Thunberg、R. A. Salibusy、C. L. Willdenow、A. P. de Candolleが新種を記載しました。de Candolleはアフリカ南部だけではなく、熱帯アフリカ北東部やアラビア半島、モーリシャスも記載しています。しかし、この1790年代に発表された10種類のアロエは、現在では使用されていないものです。

1801~1810年
1804年にA. H. Haworthはアロエ属の新しい分類を発表しました。また、Haworthはアフリカ南部から幾つかの新種を記載しましたが、現在ではそのうち2種類だけが認められています。
de Candolle、J. B. Ker Gawler、J. A. Schultesがアフリカ南部で、Willdenowはアフリカ南部とモーリシャスで新種を記載しましたが、現在では異名扱いとなり認められていません。

1811~1820年
Haworthはアフリカ南部から2種類、Reunion島から1種類のアロエを記載しました。Willdenowはアフリカ南部とモーリシャス、W. T. Aitonはアフリカ南部、Ker Gawlerはアフリカ南部とモーリシャス、Prince J. M. F. A. H. I. von Salm-Rifferscheid-Dick (Salm-Dick)はアフリカ南部で新種を記載しましたが、これは現在認められていません。
Willdenowは新属Lomatophyllum Willd.を提唱しました。Lomatophyllum(※2)はマダガスカルとマスカレン諸島に固有の液果を持つアロエです。
Medikusは樹木状のアロエであるRhipidodendron Medik.を提唱しました(※3)。
Ker Gawlerは主にマスカレン諸島の液果アロエをPhylloma Ker Gawlとして記載しました(※4)。現在、これらの新属はアロエ属とされています。

※2 )Lomatophyllum属は現在アロエ属に含まれることになりました。遺伝子を解析したところ、Lomatophyllumとされてきた種類同士が近縁ではなかったのです。離島で進化したアロエの収斂進化ということなのでしょう。

※3 )Rhipidodendron属は、Aloe dichotomaとAloe plicatilisを含むものでした。しかし、現在では認められていません。ちなみに、Aloe dichotomaはアロエ属から独立し、Aloidendron dichotomumとなりました。Aloe plicatilisは(※1)を参照。
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Aloidendron dichotomum
=Aloe dichotoma


※4 ) Phylloma属はLomatophyllumとされていたアロエのうち2種類が該当します。Aloe purpurea(=L. purpureum)をP. aloiflorumなど3種類に分けていました。また、Aloe macra(=L. macrum)はP. macrumとされました。

1821~1830年
Haworthはアロエの重要な研究をしており、アフリカ南部から10種類の新種を記載しました。さらに、Pachydendron Haw.を提唱しました(※5)。
W. J. BurchellとSalm-Dickは、それぞれアフリカ南部から1種類の新種を記載しました。J. A. SchultesとJ. H. Schultesは共同で2つのアフリカ南部のアロエの新しい名前と新しい組み合わせを発表しました。
H. F. Link、L. A. Colla、K. Sprengelはアフリカ南部、R. Sweetはマスカレン諸島、J. A. SchultesとJ. H. Schultesはアフリカ全域で、様々な新種を記載しましたが、その多くは現在使用されていないものです。

※5 ) Pachydendronはサンゴの化石につけられた学名ですからこれは誤りです。正しくはPachidendronです。Aloe feroxとAloe africanaが含まれていました。

1831~1840年
1830年代にはアロエに関する研究や出版物はあまりありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部、H. W. Bojerはマダガスカルとマスカレン諸島、E. G. von Steudelはアラビア半島とアフリカ南部で新種を記載しましたが、現在は異名とされています。1837年に出版されたBojerの『Hartus Mauritianus』は、マダガスカルとマスカレン諸島のアロエを記載した初めての記録です。

1841~1870年
この30年間はアロエ属はあまり変化がありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部から2種類の新種を記載しました。von SteudelはPhylloma属について整理しました。R. A. Salisburyは新属Busipho Salisb.を創設しました。BusiphoにはAloe feroxが含まれていましたが、現在では認められていません。

1871~1900年
この30年間はJ. G. Bakerがアロエ研究を独占しました。Bakerは生涯に42種類の新種と20の異名を記載しました。Bakerによりソコトラ島とマダガスカルのアロエの正式な説明がなされました。アロエ研究はアフリカ南部から始まり、東アフリカから北東の熱帯アフリカにまで及びました。アロエに関する沢山の著作として、1883年の『Contribution to the Flora of Madagascar』、1896年の『Aloe to the Flora Capensis』、1898年の『Flora of Tropical Africa』などが知られています。
A. Todaroは1880年代後半から1890年初頭にかけて、熱帯アフリカの北東部と西部の4種類のアロエを説明しました。1888年から1895年の間にH. G. A. Englerは、アフリカ南部から1種類、東熱帯アフリカから4種類のアロエを記載しました。
他には、W.T. Thiselton Dyerがアフリカ南部から1種類、I. B. Balfourがマダガスカルから1種類、G. F. Scott-Elliotがマダガスカルから1種類、A. B. Rendleが東熱帯アフリカから1種類、C. E. O. Kuntzeがアフリカ南部から1種類、W. Watsonが北東熱帯アフリカから1種類を記載しています。
A. Deflersは1885年から1894年の間にアラビア半島を探検しました。Forsskal以来120年ぶりにアラビア半島でアロエが調査されました。Deflersはイエメンとサウジアラビア南部に遠征し、Aloe tomentosa Deflersを記載しました。この間にG. A. Schweinfurthは熱帯アフリカ北東部から3種類、アラビア半島から2種類のアロエを記載しました。
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Aloe somaliensis C. H. Wright ex W. Watson
(1899年命名)


1901~1910年
この10年間の最も著名なアロエ研究者はA. Bergerで、アロエ属の新しい体系とモノグラフを含む研究を行いました。Bergerはアフリカ南部から9種類(うち2種類はH. W. R. Marlothとの共著)、南熱帯アフリカから2種類、東熱帯アフリカから5種類、北東熱帯アフリカから3種類、西部及び西中央熱帯アフリカから1種類、マダガスカルから3種類、コモロ諸島から1種類のアロエを記載しました。また、Bergerは新属Chamaealoe A.Bergerを提唱しました(※6)。
S. Schonlandは1900年代にアフリカ南部のアロエを研究し、9種類の新種を記載しました。
その他には、J. G. Bakerは、H. G. A. EnglerとE. G. Gilgは南熱帯アフリカ、I. B. Balfourはソコトラ島、G. KarstenとH. Schenckは北東熱帯アフリカ、A. B. Rendleは東及び西中央熱帯アフリカ、Marlothはアフリカ南部から新種のアロエを記載しました。

※6 ) Chamaealoe属はChamaealoe africanaからなる属でした。これは現在のAloe bowieaのことです。A. bowieaは初めは1824年にBowiea africana Haw.と命名されました。しかし、Bowiea属からアロエ属に移る際に、すでにAloe africana Mill.というアロエが1768年から存在したため、Bowiea africana→Aloe africanaという移行が出来ませんでした。そのため、1829年にAloe bowiea Schult. & Schult.f.と命名されました。Chamaealoe africana (Haw.) A.Bergerは1905年に命名されましたが、現在では認められていません。
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Aloe bowiea
=Chamaealoe africana


1911~1920年
I. B. Pole Evansはアフリカ南部から14種類のアロエを記載しました。他には、S. Schonlandがアフリカ南部、A. Bergerは南部及び南熱帯アフリカ、A. B. Rendleは南熱帯アフリカから2種類、J. DecorseとH. -L. Poissonはマダガスカルから、それぞれアロエを記載しました。

1921~1930年
R. Decaryはマダガスカルから3種類のアロエと、後にアロエ属に移されたガステリアを記載しました。
1926年にマダガスカルのアロエとLomatophyllumに関する重要な本がJ. M. H. A. Perrier de la Bathieにより出版され、22種類のアロエが新たに記載されました。また、Decaryによりガステリアとされたアロエは、Aloe antandroi (Decary) Perrierとされました。Perrier de la BathieはLomatophyllumの6種類の新種を記載しました。
他には、P. Danguyがマダガスカル、E. Chiovendaは北東熱帯アフリカから2種類、E. A. J. de Willdermanは西中央熱帯アフリカ、A. Bergerはアフリカ南部、M. K. Dinterはアフリカ南部、N. S. Pillansはアフリカ南部、L. Guthrieはアフリカ南部からアロエを記載しました。

さて、記事が長くなってしまったので、一度ここで切ります。内容的にもアロエ属の権威であるReynoldsが1930年代から登場します。明日に続きます。


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雪女王Aloe albifloraが開花しました。アロエの花言えば赤~橙~黄色ですから、白い花は珍しい花色です。まさかの開花でした。まさに、albi(=白)flora(=花)ですね。
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雪女王 Aloe albiflora

雪女王は今年の正月明けに世田谷ボロ市で購入しました。いかにも休眠中といった色合いで、外側の葉は枯れ混んでいました。そのため、今年は植え替えをしてしっかり株を充実させて、来年花を拝めればという腹図もりでしたから、まさかの開花です。
一般的に赤系統の花はアフリカでは鳥媒花で、アロエの花には様々な鳥蜜を求めて訪れます。ガステリアのように、赤系統で小型の花だと太陽鳥が訪れます。日本だと赤系統の花にはマルハナバチが来ますが、白花には蛾やハエが訪れます。
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女王錦 Aloe parvula

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Gasteria baylissiana

アロエ類では広義のハウォルチア(Haworthia, Haworthiopsis, Tulista)は白花で蛾が訪れます。ハウォルチアは筒状の花の形からして、蜂が訪れることはなさそうです。
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Haworthiopsis glauca var. herrei

では、肝心の雪女王はどうでしょうか? 緑色の筋が入るところなどハウォルチアに似た部分もあります。しかし、ハウォルチアより花が開くので、蜂やハエも来るだけのスペースはありそうです。とは言え、実際には匂いなどで特定の昆虫を呼び寄せる機構があったりもしますから、実際に花を訪れる昆虫を観察する必要があるでしょう。
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雪女王 Aloe albiflora


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樹木状となるアロエは、アロエ属から分離しアロイデンドロン属(Aloidendron)となりました。アロイデンドロン属で一番有名な種類はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたアロエです。現在はAloidendron dichotomumとなっています。アロイデンドロン属は7種類あるとされています。つまり、A. dichotomum、A. ramosissimum、A. pillansii、A. barberae、A. tongaensis、A. eminens、A. sabaeumです。しかし、2019年に出たアロイデンドロン属の遺伝子を解析した論文によると、A. sabaeumはアロイデンドロン属ではなくアロエ属であることが分かりました。さらに、アロエ属から分離されたAloestrela suzannaeが、実はアロイデンドロン属に含まれてしまうことも明らかになりました。今後、公的データベースの情報も改定されていくかもしれません。

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さて、そんなアロイデンドロン属ですが、A. dichotomum以下はほとんど見かけません。最近、ようやくA. dichotomumの実生苗が流通し始めたばかりですから、さもありなんと言ったところです。私はたまたま千葉のイベントでA. ramosissimumを入手しましたから、本日はA. ramosissimumについて少し調べてみました。
とは言うものの、思ったより良い情報はありませんでした。しかし、あちこちのサイトを見たところ、どうもどれも似た内容ばかりであることに気が付きました。おそらく、南アフリカ生物多様性研究所(SANBI)が主宰している「PlantZAfrica」というサイトから来ているようですね。私も「PlantZAfrica」の記述を参照します。その前に、キュー王立植物園のデータベースを確認しておきましょう。なぜなら、A. ramosissimumがディコトマの亜種であるとしているサイトが割と目についたからです。

まず、始めは1939年にAloe ramosissima Pillansと命名されました。この名前が一番使われてきた馴染みがあるものでしょう。2000年にディコトマの変種であるとするAloe dichotoma var. ramosissima (Pillans) Glen & D.S.Hardyや、2002年にはディコトマの亜種とするAloe dichotoma subsp. ramosissima (Pillans) Zonn.とする意見がありました。この意見を参照としているサイトはまだあります。2013年にアロエ属ではなくアロイデンドロン属とするAloidendron ramosissimum (Pillans) Klopper & Gideon F.Sm.とされました。その後の遺伝子解析結果からも、アロエ属ではないことが確認されています。属内の関係では、A. dichotomumやA. pillansiiと近縁ということです。

さて、「PlantZAfrica」の内容に移ります。
A. dichotomumとA. ramosissimumとの最大の違いは、枝の分岐の仕方です。A. dichotomumは直立した太い幹の上部で枝分かれしますが、A. ramosissimumは根元から枝分かれを始め球状に育ちます。A. dichotomumは高さ10mを越えますが、A. ramosissimumは高さ2mほどです。
A. ramosissimumの分布は南アフリカのRichtersveldとナミビア南部に限定されます。A. ramosissimum非常に乾燥した岩場に生え、年間110mm以下の冬の降雨に依存しています。この地域では気温が46℃にもなります。
英名は「maiden's quiver tree」、つまり「乙女の矢筒の木」と呼ばれますが。「quiver tree」はA. dichotomumのことですから、A. ramosissimumが小型なことや枝振りからそう呼ばれているのかもしれませんね。ちなみに、「矢筒の木」とは、A. dichotomumの枝を矢筒を入れるために使用したと言われているためです。そういえば種小名の「ramosissimum」は、ラテン語で「ramosis」が「枝」で、「ssima」が「とても」という意味ですから、「最も分岐した」という意味になります。A. ramosissimumの特徴を良く表している名前です。

A. ramosissimumの花は鮮やかな黄色ですが、sugarbirdや蟻、ミツバチが蜜を求めて訪れます。翼のある種子は風で運ばれ、他の植物の近くで発芽します。これをナース植物と言って、日陰を作るので実生の生育にとって重要です。しかし、やがてA. ramosissimumはナース植物より巨大になり、結果的にナース植物は枯れてしまいます。

「PlantZAfrica」の記事は、まあだいたいこんな感じです。他のサイトでは、生長は遅く開花する1~1.5mになるまでに10~15年ほどかかると言います。どうやら、私が花を拝めるまで長い時間が必要なようです。また、若いツボミは食用となり、アスパラガスに似た味ということです。しかし、流石に10年以上かけて育てたA. ramosissimumを、開花前に食べてしまうのは憚られますね。とにもかくにも、このA. ramosissimumとは長い付き合いになるのでしょう。


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最近、1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を入手し、その中のPaul Stephan氏のユーフォルビア・コレクションをご紹介しました。せっかく珍しい古い文献ですから、他にも何か面白い記事はないか索引を眺めていたところ、私の興味ある多肉植物であるガステリアについての記事がありました。

さて、本日は『Kakteenkunde』のガステリアに関する2つの記事をご紹介します。記事の執筆者はドイツの植物学者であるKarl Joseph Leopold Arndt von Poellnitzです。多肉植物を広く研究しましたが、特にHaworthiaの分類で著名です。Poellnitzia rubrifloraに献名されていることからご存知の方もおられるでしょう。
先ずは11月号の「Zwei neue Gasteria-Arten」から見ていきましょう。どうも、2種類のガステリアの新種を発表しているみたいです。植物の特徴は何とラテン語で記載されていました。全く読めませんから、機械翻訳の不細工な怪文書を解読してみました。

・Gasteria caespitosa von Poellnitz spec.nov.
根元から非常に多く増殖します。葉は完全に円柱状で、直立し長さ10~14cm、基部の幅は2cmです。両端には結節状の鋸歯があります。葉には光沢があり斑点があります。この先はさらなる詳細と花の特徴が続いているようですが、残念ながらかなり翻訳文が怪しいのでここまでとしましょう。
ここから先はドイツ語の翻訳です。どうやら、van der Bijl夫人が1929年にケープランドのSomerset Eastで採取したものを、von Poellnitzに贈ったものということです。von Poellnitzはこのガステリアを、育ったらGasteria maculata (Thunb.) Haw.、あるいはその類似種となると考えていたようです。しかし、その予想は外れて、葉のサイズは変わらずに良く花を咲かせているということです。von Poellnitzはこのガステリアを、Gasteria subnigricans Haw.やGasteria fasciata (Salm) Haw.と関係するが、それらと区別されるため新種と考えているようです。

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Gasteria caespitosa von Poellnitz spec. nov.
さて、ではこの種は現在どうなっているでしょうか?
取り敢えず、G. caespitosaから見てみましょう。
Gasteria caespitosa Poelln., First published in Kakteenkunde 1937 : 165

ちゃんと『Kakteenkunde』の165ページに載ってると書かれていますね。いや、当たり前の話ですが、何となく嬉しく思います。しかし、残念ながらこのG. caespitosaは現在認められている学名ではありません。現在はGasteria obliquaの異名扱いです。また、von PoellnitzがG. maculataと似ていると思った直感は正しく、Gasteria maculata Haw.も現在ではGasteria obliquaの異名ですから、同じ種を示していた訳です。ちなみに、G. subnigricansはGasteria brachyphylla var. brachyphylla、G. fasciataは何とまたもやGasteria obliquaの異名となっています。

・Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
無茎またはほぼ無茎で、非常に早く生長し増殖します。若い苗は尖った2列の葉を持ち、成熟すると葉は渦巻き状の密なロゼットとなり、直径12~14cmです。横向きの縞模様があります。
やはり、このガステリアもvan der Bijl夫人によるもので、種小名は夫人に対する献名です。種小名が大文字なので単純に誤植かと思いましたが、写真の方の学名も同様なのであえてそうしているような気もしました。献名なのでとか何か理由があるのか、本当にただの誤植がは分かりません。von Poellnitzが7年育てましたが、未だに花は咲いていないということです。von Poellnitzもまだ生長しきっていないため、確実に新種とも言い切れないようで、やや歯切れの悪い言い方をしています。

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Gasteria Bijliae von Poellnitz spec.nov.
G. bijliaeは、現在ではGasteria carinata var. carinataの異名となっています。

では続けて10月号のvon Poellnitzによる「Gasteria humilis v.P.」を見てみましょう。G. humilisは1929年にvan der Bijl夫人がケープランドのGreat Brak川付近で採取した植物で、同年にvon Poellnitzにより新種として記載されました。密に螺旋状となり直径12~14cmとなります。8~12枚の葉は若い時は直立し古い葉はやや広がります。葉は三角形で先端はごく僅かに内側に曲がり、鈍く尖ります。葉は滑らかで光沢があり、濃い緑色で斑点があります。
G. humilisは確かにG. decipiens Haw.やG. parvifolia Bak.、G. gracilis Bak.、G. Beckeri 
Schönlandに関連しています。しかし、これらとは異なり葉の縁がトリミングされます。また、G. obtuse (Salm) Haw.はキールが上部で曲がり葉縁を形成しますが、G. humilisでは目立ちません。
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Gasteria humilis v.P
名前が出てきた中では、G. humilisとG. parvifoliaはGasteria carinata var. carinataの異名、G. decipiensとG. BeckeriはGasteria nitida var. nitidaの異名です。G. gracilisは何に相当するのかが不明な種です。


以上が論文の簡単な要約です。1937年にvon Poellnitzにより命名された2種類のガステリアは、残念ながら現在は認められておりません。過去に命名したG. humilisもG. carinata var. carinataの異名になってしまいました。学名は一度決まったら不変なものではなく、結構ダイナミックに変更され続けるものですから、昔の学名と異なるのは差程珍しいことではありません。しかし、ガステリア属はかなり特殊で、「分類学者の悪夢」と呼ばれるくらい異名だらけでした。個体差や地域変異がすべて別種として命名されてきたのでしょう。まあ、そもそもが外見的に区別するのが難しいグループなのかもしれません。たしか、1990年代くらいからvan Jaarsveldにより、ガステリア属は大幅に整理されました。現在、ガステリア属は26種類に集約されました。とは言うものの、そのうち9種類は2000年以降に発見されていますから、種類が少ないのに新種が次々と発見されているホットなグループでもあります。また、現在では遺伝子解析によりある程度は近縁関係が分かってきましたから、細かい修正は続くかもしれません。

さて、個人的にはこのような昔の記事が面白いので、是非とも記事にしたいのですが、中々古いものは入手が難しいものです。記事の内容を一応紹介していますが、どちらかと言うと1937年当時の画像を見ていただきたいだけだったりします。しかし、サボテンについての(恐らくは)貴重な記事もあるようですが、残念ながらサボテンはギムノカリキウム属以外はよく分かりません。私では何もコメント出来ませんから記事化は断念しました。もう少し色々な多肉植物に詳しければ良いのですが、こういうものは一朝一夕には身に付かないものです。少しずつ勉強していくつもりです。



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2013年頃からアロエの仲間の遺伝子が本格的に調べられはじめ、それ以降アロエの仲間は激変しました。AloeはAloe、Aloidendron、Aloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeに分割され、HaworthiaはHaworthiaとHaworthiopsis、Tulistaに分割されました。逆にChortolirionやLomatophyllumはアロエに含まれることが明らかとなりました。他のアロエ類である、Gasteria、Astrolobaについても命名規約上の問題があり議論されています。

さて、Bruce Bayerが2014年にアロエ類についての意見をコラム欄で簡潔に述べています。それが、Aloe striatula(現在はAloiampelos)の葉の配置について述べた、『Leaf arrangement in Aloe striatula』です。興味深い
内容ですから見てみましょう。
A. striatulaを上から見て、葉の配置が二列性あるいは三列性であることを示しています。Bayerは二列性なら1、3、5、7、9枚目あるいは2、4、6、8、10枚目の葉がセットで、三列性なら1、4、7、10枚目、2、5、8枚目、3、6、9枚目がセットであるとしています。
しかし、この説明は非常に分かりにくいので、私の育てているAloiampelos striatula var. caesiaを例に、別の表現で解説しましょう。

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二列性の配置
まず、二列性の配置ですが、向かい合う葉が対になります。つまり、1+2、3+4、5+6、7+8、9+10です。軸が回転するように、葉が重ならない配置となります。

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三列性の配置
三列性の配置では3枚が1セットとなります。つまり、1+2+3、4+5+6、7+8+9がセットとなります。

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葉の根元は鞘があり、茎を覆っています。A. striatulaの次の葉は前の鞘のすぐ下に挿入されています。葉は左右に交互に出ますから、螺旋状に葉は配置されます。また、Aloe broomiiは葉の挿入は連続的で、茎から全ての葉を剥がすことが出来ます。

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Aloe broomii

ほとんどのHaworthiaでは葉は不規則ですが、常に螺旋状の順序になっています。Haworthia wittebergensisには完全に挿入された葉があり、恐らくHaworthia blackbeardiana(現在のH. bolusii var. blackbeardiana)、Haworthia viscosa(現在のHaworthiopsis viscosa)にも当てはまります。

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Haworthiopsis viscosaは典型的な三列性

以上がコラムの内容となります。
2014年はまだアロエ類の分類についての議論が華やかなりし頃でしたから、このような論考があった訳です。とはいえ、単純な外見的特徴から遠近を判断するのは困難ですよね。
AloeやGasteriaは苗の頃は二列性ですが、やがて回転していきます。アロエ類は基本的には向かい合う2枚の葉が回転していきます。アロエ類の葉が回転するのは、全ての葉に効率的に太陽光線を当てるための仕組みです。アロエは茎が伸びて行くものが多いですが、Haworthiaは茎が伸びずにロゼット型となります。

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Aloe spectabilisの苗。左右に葉が向かい合う典型的な二列性です。

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現在のAloe spectabilis。ある程度育つと葉が回転し始めます。

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Haworthia arachnoidea。回転する葉が密について茎が伸びないと、ロゼット型になります。


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fan aloe(扇アロエ)と呼ばれる多肉植物があります。蒼白い上向きの葉が左右に分かれて綺麗に並ぶことから、そのように呼ばれているのでしょう。以前は珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っています。一般的にはAloe plicatilisという名前で販売されています。しかし、2013年にGordon D.Rowleyによりアロエ属からクマラ属に移されました。つまりは、Kumara plicatilisです。しかし、この過程にも何やらややこしい事情が見え隠れしているようです。非常に面倒臭い話ですからご注意のほどを。書いている私もうんざりする内容です。

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Kumara plicatilis

事の発端は1753年まで遡ります。現在の学名の仕組みを作り出したCarl von Linneが、fan aloeを命名しました。この最初の学名は、Aloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。というのも、von Linneの時代はまだガステリア属はなく、当時のアロエ属には現在のガステリアやハウォルチアを含んでいたのです。ですから、Gasteria distichaも最初はアロエ属でした。そして、fan aloeは、何故かAloe disticha=Gasteria distichaの変種とされたのです。
1768年にfan aloeは独立し、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.とされました。しかし、1786年にKumara disticha Medik.という学名も提案されました。問題はここまでの経緯と、この先のクマラ属に移行する際の混乱です。この混乱についての論文は、Ronell R.Klopper, Gideon F.Smith & Abraham E. van Wykの2013年6月の論文『(2144) Proposal to conserve the name Kumara (Asphodelaceae) with a conserved type』、及び7月でた同著者らの論文である『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara (Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』に書かれています。

1786年にMedikusはKumara Medik.を創設し、Kumara disticha Medik.という1種類を命名しました。その時の図を見ると、Kumara distichaがfan aloeを指していることが分かります。また、1784年に命名されたAloe tripetata Medik.という異名は、Commelijnの1701年の銅版画に基づくものです。Commelijnの銅版画は明らかにfan aloeを描いています。これは、本来はAloe disticha var. plicatilis L.である必要があります。また、この時にMedikusは、Aloe disticha var. δ(※1)についても言及していますが、これは誤りでGasteria carinata (Mill.) Duval=Gasteria excavata (Willd.) Haw.を示しているようです。MedikusはAloe linguiformis Medik.をAloe disticha var. αに基づいており、Aloe verrucosa(※2)をAloe disticha var. γに基づき命名し、後の1786年にはAloe tristichaをAloe disticha var. βに基づいていました。

(※1)Aloe disticha L.は、現在のGasteria disticha (L.) Haw.を指しているとされていますが、Aloe distichaは他の種類のガステリアを含んだものだったようです。ですから、この場合は異なる種の混合であるAloe distichaを参照としており、仮にAloe distichaの変種δと表現しています。この後に出てくる変種αや変種βも同様です。

(※2)これは1768年に命名されたAloe verrucosa Mill.を示すため誤りで、正しくは1784年に命名されたAloe verrucula Medik.のことを指す。A. verruculaとは現在のGasteria carinata var. verrucosaのこと。

実際にはfan aloeはKumara distichaとは呼ばれずAloe plicatilisの名前が使用されてきました。しかし、遺伝子解析の結果からは、fan aloeがアロエではなくハウォルチアに近縁な仲間であることが分かりました。そうなると、fan aloeをアロエから独立させる時に、忘れ去られていたKumara distichaが浮かび上がって来るのです。
ここで問題が生じます。Kumara distichaは1786年の命名であり、Gasteria Duvalは1809年の命名ですから、もしAloe distichaがKumara plicatilisやGasteria carinataなどの様々な種を含んでいた場合、Aloe distichaはKumaraのバシオニム(基になった名前)となります。つまり、Aloe distichaを現在のGasteria distichaとした場合、GasteriaよりもKumaraの方が命名が早いので、現在のGasteriaは全種類Kumaraにしなければなりません。GasteriaはKumaraの異名となります。当然、Kumara plicatilisはKumara属を旧・Gasteriaに取られてしまったので、新たな命名が必要となります。これは、命名規約を厳密に適応するならば避けられない事態ですが、適応された場合の混乱は必至でしょう。
しかし、著者はKumara plicatilisを保存して、Gasteriaを現在のままにしておくことを提案しています。なぜなら、Gasteriaは200年以上に渡り使用されてきた学名であり、命名法の深刻な混乱を引き起こすからです。そして、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.の新たな命名としてKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.を提唱しています。
 
以上が論文の内容となります。内容が込み入っているため、適切に要約出来ているか怪しい部分もあります。しかし、話はこれで終わりではありません。まだ続くのです。やはり、同著者らの2013年8月の論文、『The correct name of Aloe plicatilis, the fan aloe, in the genus Kumara (Asphodelaceae), again』を見てみましょう。
Kumara Medik.がfan aloeであるAloe plicatilis (L.) Burm.f.のために復活した時に、7月の論文で著者らはKumara plicatilisに修正しました。この時に著者らはKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.と命名しました。しかし、2013年の4月にGordon D.Rowleyが『Alsterworthia』のSpecial Issueで、すでにKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyと命名していました。よって、著者らが命名したKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Smは不適切な名前であり、G.D.Rowleyの命名が優先されます。
また、Aloe plicatilisの引用元は1768年の3/1~4/6の出版物で命名されたAloe plicatilis (L.) Burm.f.であり、同年の4/16に命名されたAloe plicatilis (L.) Mill.は採用されません。

以上が論文の簡単な要約です。しかし、Kumara plicatilisのややこしすぎる経緯は、何ともすっきりしない感じがあります。この問題は結局のところ、Aloe distichaの曖昧さと、Aloe distichaに対するMedikusの引用の不確かさが招いた混乱と言えるでしょう。また、Aloe plicatilisやKumara plicatilisの命名にも混乱があり、どちらも同じ年に同じ名前が命名されていますが、タッチの差で採用される名前が決まってしまいます。学術世界も競争の世界なんですね。
この異名の処理については文献学的な資料探索と、実際の多肉植物の学術的な知識が必要ですから、それほど進んでいないのかもしれません。私のブログでもこの手の記事を幾つか書きましたが、まだまだこれからも出てくるのでしょう。見つけましたら、また記事にしたいと思います。



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去年の秋のことです。神奈川県川崎市にあるタナベフラワーで、謎の多肉植物を入手しました。とても変わっていて、見た瞬間頭が疑問符だらけになりました。その多肉植物が「ハオルチア・トリアングラリス」です。名札にはそう書かれていました。しかし、聞いたことがない名前です。Haworthiopsis(硬葉系)であることは見て直ぐにわかりましたが、2022年時点で19種類あるHaworthiopsisにはこの学名はなかったはずです。おかしいなあとは思いつつ、外見的な面白さもあり購入に至った訳です。

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Haworthia triangularis?
三方向に葉を広げます。種小名の「トリアングラリス」とはそのまま「トライアングル」のことですから、外見の特徴から来ていることが分かります。大型で葉の表面にはイボやざらつきはなく、滑らかで艶があります。また、日を浴びると黄色くなります。

さて、帰宅して「ハオルチア・トリアングラリス」を調べてみました。まあ、この場合はHaworthia triangularisですね。Euphorbia triangularisを知っていたので、種少名のスペルも直ぐに分かりましたね。早速検索してみると、何故かほとんど出てきません。海外のあるサイトでは、Haworthia triangularis (Lamarck)とあります。ああ、これは正式な命名規約に乗っとった学名ではないようです。括弧がある場合、属名が変更になったり亜種や変種が独立種になったりと、何かしらの変更があったことを示しています。括弧の中は以前の名前の命名者で、括弧の次に変更後の学名の命名者が来るはずですが、それがないのは実におかしなことだからです。
これは、おそらくはAloe triangularis Lamarckから来ているはずです。なぜなら、1809年にフランスのHenri August DuvalによりHaworthia Duvalが命名されるまでは、大抵のハウォルチアはアロエ属だったからです。ということで、Aloe triangularisを調べると、出てきました。1783年に命名されたAloe triangularis Lam., nom.superfl.です。やはり、推測は正しかったようです。命名者の後の'nom.superfl.'は、既に命名された同じタイプに別の名前がつけられたということですから、そもそも無効ではあります。では、このAloe triangularisは何者かというと、2016年に命名されたHaworthiopsis viscosa (L.) Gildenh. & Klopperのことです。
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Haworthiopsis viscosa
Haworthiopsis viscosaは長い間Haworthiaでしたし、今でもHaworthia viscosaとして販売されています。その学名は1812年に命名されたHaworthia viscosa (L.) Haw.ですから、実に200年以上Haworthiaだった訳です。なるほど、新しい学名が浸透しない訳です。
しかし、初めて命名されたのは、1753年のAloe viscosa L.でした。これは、Aloe triangularisよりも30年早く命名されていますから、このAloe viscosa→Haworthia viscosa→Haworthiopsis viscosaの種小名の系統が正当な学名とされてきた訳です。Aloe triangularisは学術的には継承されず、園芸上はHaworthia triangularisとして使用されてきたということなのでしょう。

さて、ここまで学名を追って来ましたが、重大な問題が浮かび上がります。それは、Aloe triangularisがHaworthiopsis viscosaを指しているのならば、Aloe triangularisは典型的なHaworthiopsis viscosa(当時はAloe viscosa)に対して命名されたのではないかというものです。つまりは、私の所有している"Haworthia triangularis"は、1873年に命名されたAloe triangularisとは別物である可能性もあるのです。
そもそも、私の所有する"Haworthia triangularis"は由来がわからない多肉植物です。野生由来の個体なのか、栽培する中で生まれた突然変異株なのかすら不明です。学名の命名者達がどんな個体を見て命名したのかが分かりませんから、何とも言いようがありません。そもそも、古い論文は探しても見つからないことが多いので、それを確認することは中々困難です。もし、論文を見つけても、その命名の根拠となった標本は海外の大学や博物館にあるわけで、私にはその標本にアクセスする手段がありません。完全に手詰まりです。

ここで、私の所有する"Haworthia triangularis"(以下、引用符で囲った"Haworthia triangularis"は、私の所有する個体を表します)とHaworthiopsis viscosaを比較してみましょう。結構異なる部分があります。サイズが非常に大きく葉も長いことから、葉の重なり具合も異なります。また、Haworthiopsis viscosaの濃い緑色と比べて"Haworthia triangularis"は非常に明るい色です。葉の表面はざらつかず滑らかです。かなりの差があるように思えます。
しかし、自生地のHaworthiopsis viscosaの画像を検索してみると、思いの外その姿に多様性があり驚かされます。サイズや葉の重なり具合だけではなく、葉の表面のざらつき具合すら、かなりの幅があるようです。こうなると、"Haworthia triangularis"は、Haworthiopsis viscosaの変異幅の範疇に収まってしまう可能性が大です。
さて、これで一件落着かと思いきや、まだ続きがあります。Haworthiopsis viscosaには変種があり、Haworthiopsis viscosa var. 
variabilis (Breuer) Gildenh. & KlopperHaworthiopsis viscosa var. viscosaがあります。Haworthiopsis viscosa var. variabilisは、Haworthia variabilis (Breuer) Breuerの方が通りがいいかもしれませんが。さて、この変種variabilisは葉の長さが異なるようですが、幾つかの画像を見た限りではかなりの多様性があるみたいです。もしかしたら、私の"Haworthia triangularis"は、変種variabilisである可能性もあります。しかし、正確な見分け方がわからないので、可能性以上のことは言えません。

長々と書いてきましたが、まだ続きます。というのも、私の所有する"Haworthia triangularis"はAloe triangularis Lam.であるかのように書きましたが、実はAloe triangularisは2種類あるのです。それは、1784年に命名されたAloe triangularis Medik., nom.illeg.です。命名者、命名年、論文が記載された雑誌が異なります。要するに、Aloe triangularisという学名は2回命名されているのです。末尾の'nom. illeg.'は、命名規約の誤用が見られる名前という意味です。Aloe triangularis Medik.は、Haworthiopsis viscosa var. viscosaの異名です。
Aloe triangularis Lam.とAloe triangularis Medik.の違いに気付きましたか? 実はAloe triangularis Lam.はHaworthiopsis viscosaの異名で、Aloe triangularis Medik.は変種viscosaの異名なのです。同じように見えますが全く異なります。なぜなら、Haworthiopsis viscosaとは、変種viscosaと変種variabilisを合わせた名前だからです。つまりは、もし私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Lam.とされた植物由来ならば、変種viscosaであるか変種variabilisであるかはわからないということになります。しかし、私の"Haworthia triangularis"がAloe triangularis Medik.由来であるならば、それはつまり変種viscosaということになるからです。とはいえ、それを確かめる手段はありませんから、虚しい空論かもしれません。

さて、Haworthiopsis viscosa自体は、Haworthiopsis scabraに近縁と言われているようです。ここで1つ思い浮かんだことがあります。それは、Haworthiopsis scabraとその変種starkianaの関係です。Haworthiopsis scabraというか変種scabraは、実にHaworthiopsisらしく、表面はざらざらしており全体的に暗い色合いです。しかし、変種starkianaは表面はツルツルで明るい色合いです。この関係は何やら私の"Haworthia triangularis"とHaworthiopsis viscosaとの関係に似ているような気がしたからです。こういう変異はよくあるパターンなのかもしれませんね。
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Haworthiopsis scabra var. scabra

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Haworthiopsis scabra var. starkiana

そういえば、Haworthiopsis pungensは、上から見るとちょっと似ていますね。
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Haworthiopsis pungens


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雪女王(Aloe albiflora)はマダガスカル原産の白い花を咲かせるアロエです。アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせますから、白い花のアロエは珍しいと言えます。しかし、なぜ白い花を咲かせるのでしょうか? とても不思議です。少し考えてみました。

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Aloe rubriflora
今年の1月に開催された世田谷ボロ市の出店で購入したばかりですから、まだ花は拝めていません。

アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせます。まず、この点から見ていきましょう。
花に様々な美しい色があるのは、何も我々の目を楽しませるためではありません。ポリネーター(花粉媒介者)にアピールするためです。植物が花を咲かせるのは、花を訪れる動物に花粉を運んでもらい、受粉して種子を作るためです。そのための報酬が甘い蜜で、目立つ色のついた花びらを標識として動物を呼び寄せるのです。日本では一般的に花の受粉は昆虫により行われます。しかし、世界にはハチドリ、ミツスイ、タイヨウチョウなど花の蜜を専門とする鳥も存在しますし、花の蜜を専門としていない鳥でも花の蜜を吸うことは珍しくありません。日本でも梅の花にメジロが訪れ花の蜜を吸っている姿を見ることが出来ます。
アロエが自生するアフリカにはタイヨウチョウが分布し、大型アロエの花にはタイヨウチョウ以外の様々な鳥が訪れ受粉に寄与しています。もちろん、アロエの花にはミツバチやネズミなども訪れますが、受粉のメインは鳥であると考えられており、アロエは鳥媒花とされています。大型アロエは大きな花と大量の蜜が出るため、様々な鳥を呼び寄せます。実は、タイヨウチョウは小型で頭が小さくクチバシが細長いため花の蜜だけを掠め取ってしまい、あまり受粉には寄与していないことが分かっています。そのため、大型アロエはある程度の大きさのある、花の蜜を専門としていない鳥に受粉してもらっているのです。大型アロエの場合、ターゲットは鳥ですから、その赤~橙系の花色は鳥に対するアピールと考えられます。他のアロエ類(アロエに近縁な仲間)を見てみると、GasteriaやAstroloba rubriflora(異名Poellnitzia rubriflora)は赤~橙系統の花を咲かせ、やはり鳥媒花であることが確認されています。
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Aloe arborescensの花

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Gasteria distichaの花

アロエ類は赤~橙系統の花だけではなく、白い花のものも沢山あります。例えばHaworthiaやHaworthiopsis、Astrolobaは白く小さな花を咲かせます。これらは花が小さいため、明らかに虫媒花です。しかも、その細長くすぼまった形から、鱗翅目(チヨウやガ)やハエ目(ハエやアブ)がターゲットなのでしょう。
実はカラフルな花の色はミツバチやマルハナバチを呼び寄せることが明らかとなっています。高山の森林限界を超えると、樹木はほとんど生えることが出来ませんが、様々な草本が花を咲かせ一般的に「お花畑」と呼ばれています。日本の高山のお花畑は非常にカラフルですが、海外の高山ではほとんど白一色のお花畑も存在します。これは、ミツバチやマルハナバチなどの蜜を集める膜翅目昆虫の不在が原因と考えられています。このように、花の色により虫媒花でも引き寄せる昆虫が異なる可能性があるのです。

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Haworthiopsis scabraの花

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Haworthiopsis glauca var. herreiの花

ではAloe albifloraはどうでしょうか? まだ開花していないので花を提示できませんが、アロエらしく釣り鐘型の花です。白く緑色のラインが入っており、花に膨らみが無いこと以外はハウォルチアの花に似ています。どうやら、Aloe albifloraは虫媒花、しかも鱗翅目やハエ目がターゲットのようです。ハウォルチアの花は細長いので、ターゲットはおそらく小型の蛾でしょう。しかし、Aloe albifloraの花はハウォルチアより大きく、しかも少し膨らんだ形です。蜜を吸うために小型のハエなども潜り込めるかもしれません。

とまあ、以上が雪女王について少し考えたことです。大した話ではありませんし、特に根拠のある訳ではありません。所詮は私の狭い知識の内での妄想です。本来はAloe albifloraを調査した論文があればよかったのですが、今のところ見つかっていません。何か面白い情報がありましたら、また記事にします。


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去年の秋頃のことでしたか、休日出勤でヘロヘロになりながら、帰りに池袋の鶴仙園に立ち寄りました。鶴仙園は毎度凄まじい量のハウォルチアがありますが、かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれたHaworthiopsisは少数派です。十二の巻あたりはいつでもありますが、それ以外は入荷次第な部分もあります。その時はなんとフィールドナンバー付きのHaworthiopsisがあったので購入しました。Haworthiopsis coarctata、つまりはいわゆる九輪塔です。

フィールドナンバー
フィールドナンバーは採取した場所などの情報が記載されています。フィールドナンバーが異なれば採取された地点が異なりますから、フィールドナンバーごとに特徴が異なります。
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Haworthia coarctata DMC06356 IB5850
ラベルはフィールドナンバーの情報に基づくため、Haworthiopsisにはなっていません。IBはIngo Breuer、DMCはDavid M. Cummingの略です。後ろの2つがフィールドナンバーですが、2つあるのはおかしな気もします。しかし、IBナンバーは他のフィールドナンバーから来ていることもあるようですから、この場合はIB5850=DMC06356なのでしょう。
さて、採取地点はFarm Begelly, 12km S of Grahamstownということです。グレアムズタウンは南アフリカの南東部です。グレアムズタウンの南に12kmですから、ポート・エリザベスとポート・アルフレッドの中間くらいかもしれないですね。


H. coarctataの分布
H. coarctataの分布は、西側はPort Erizabethで東側はGreat Fish Riverまでです。東側のさらに先にはHaworthiopsis fasciataが自生します。H. coarctataの分布は良く似たHaworthiopsis reinwardtiiと隣接するようです。
混同されがちなH. reinwardtiiとの見分け方は中々難しいところがあるようです。H. coarctataの結節は滑らかで丸味があり、H. reinwardtiiの結節は偏平で大型と言われます。しかし、実際に自生地で野生のH. coarctataとH. reinwardtiiを見分けるのは、大変難しいようです。

H. coarctataの学名の変遷
H. coarctataはやはりH. reinwardtiiと関連付けられがちで、H. reinwardtiiの変種とされたりして来たようです。1824年にはじめて命名された時は、Haworthia coarctata Haw.でしたが、1997年にはHaworthia reinwardtii subsp. coarctata (Haw.) HaldaHaworthia reinwardtii var. coarctata (Haw.) Haldaとされたこともあります。異名として、1829年に命名されたAloe coarctata (Haw.) Schult. & Schult.f.や、1891年に命名されたCatevala coarctata (Haw.) Kuntze.もあります。2013年にハウォルチアから独立しHaworthiopsisとなり、Haworthiopsis coarctata (Haw.) G.D.Rowleyとなり、これが現在認められている学名です。また、2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. coarctata (Haw.) Breuerが命名されており、やはりH. coarctataをH. reinwardtiiと関連付ける考え方は健在のようです。
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Haworthiopsis reinwardtii

変種アデライデンシスの学名の変遷
さて、H. coarctataには3つの変種があります。1つ目の変種は最初はやはりH. reinwardtiiの変種とされ、1940年にHaworthia reinwardtii var. adelaidensis Poelln.とされました。1973年にはHaworthia coarctata subsp. adelaidensis (Poelln.) M.B.Bayer、1999年にはHaworthia coarctata var. adelaidensis (Poelln.) M.B.BayerというH. coarctataの変種や亜種とする意見も出てきました。2010年には独立種であるHaworthia adelaidensis (Poelln.) Breuerも命名されました。最終的には2013年にHaworthiopsis coarctata var. adelaidensis (Poelln.) G.D.Rowleyと命名されています。他の異名として、1944年に命名されたHaworthia reinwardtii var. riebeekensis G.G.Sm.、1945年に命名されたHaworthia reinwardtii var. bellula G.G.Sm.、1983年に命名されたHaworthia coarctata f. bellula (G.G.Sm.) Pilbeamがあります。

変種テヌイス
2つ目の変種は、やはりH. reinwardtiiの変種とされ、1948年にHaworthia reinwardtii var. tenuis G.G.Sm.と命名されました。1973年にはHaworthia coarctataの変種とされHaworthia coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) M.B.Bayerとなりました。2010年には独立種とするHaworthia tenuis (G.G.Sm.) Breuerもありました。最終的に2013年にHaworthiopsis coarctata var. tenuis (G.G.Sm.) G.D.Rowleyと命名されました。2016年にはHaworthiopsis reinwardtii var. tenuis (G.G.Sm.) Breuerという学名も命名されています。

変種コアルクタタの異名
ちなみに、変種アデライデンシスと変種テヌイスが出来たことにより、自動的に変種コアルクタタ、つまりHaworthiopsis coarctata var. coarctataが出来ました。というのも、H. coarctataとは、変種アデライデンシス+変種テヌイス+変種コアルクタタのことだからです。変種アデライデンシスと変種テヌイスが命名された時点で、変種アデライデンシスと変種テヌイスではないH. coarctataにも命名が必要となるのです。
しかし、変種コアルクタタには恐ろしいほどの異名があります。面倒なので年表形式で示しましょう。
1880年 Haworthia greenii Baker
              Haworthia peacockii Baker
1891
年 Catevala greenii (Baker) Kuntze
              Catevala peacockii (Baker) Kuntze
1906年 Haworthia chalwinii
                         Marloth & A.Berger
1932年 Haworthia fallax Poelln., orth.var.

1937年 Apicra bicarinata
                         Resende, nom.illeg.
              Haworthia reinwardtii
                         var. conspicua Poelln.
1938年 Haworthia resendeana Poelln.
1940年 Haworthia reinwardtii
                         var. pseudocoarctata Poelln.
1943年 Haworthia coarctata var. haworthii
                          Resende
              Haworthia coarctata
                          var. krausii Resende
              Haworthia coarctata
                          f. major Resende
              Haworthia coarctata
                          f. pseudocoarctata Resende
              Haworthia reinwardtii var. chalwinii
                       (Marloth & A.Berger) Resende
              Haworthia reinwardtii
                       var. committeesensis G.G.Sm.
              Haworthia greenii f. bakeri Resende
              Haworthia greenii f. minor Resende
              Haworthia greenii var. silvicola
                               G.G.Sm.
              Haworthia fulva G.G.Sm.
1944年 Haworthia baccata G.G.Sm.
              Haworthia reinwardtii
                         var. huntsdriftensis G.G.Sm.
1948年 Haworthia coarctatoides Resende
              Haworthia musculina G.G.Sm.
1973年 Haworthia coarctata var. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
1983年 Haworthia coarctata f. chalwinii
                         (Marloth & A.Berger) Pilbeam
              Haworthia coarctata f. conspicua
                         (Poelln.) Pilbeam
1997年 Haworthia reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Halda
1999年 Haworthia coarctata f. greenii
                         (Baker) M.B.Bayer
2016年 Haworthiopsis resendeana
                         (Poelln.) Gildenh. &Klopper
              Haworthiopsis reinwardtii
                          var. greenii (Baker) Breuer

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Haworthiopsis resendeana
残念ながら変種コアルクタタの異名となり、吸収されてしまいました。

最後に
ここ数年来のエケベリアや近年のアガヴェ・ブームと比べれば細やかですが、透明な窓が美しい交配系の軟葉系ハウォルチアを中心にハウォルチアも流行の兆しがあります。しかし、硬葉系ハウォルチア=ハウォルチオプシス人気は今一つです。硬葉系は肌がざらつき暗い色合いだったり渋い存在ですから、好きな人は好きなんですけど、園芸店はおろかビッグバザールなどの販売イベントですら中々販売していないのが悩みどころです。そんな中でも、鶴仙園さんはハウォルチアに対する期待値は高いのですが、硬葉系が有るか否かは運次第です。頻繁に通いたいところですがそうも行かないのが悩みです。


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去年、鶴仙園西武池袋店でPlant's Workさんとのコラボイベントがあり、沢山の珍しいハウォルチアが並びました。私も参戦してフィールドナンバー付きのHaworthiopsis woolleyiを入手しました。H. woolleyiを見たのははじめてのことでしたから、非常に嬉しかったのを覚えています。本日はそんなH. woolleyiについて調べてみました。

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購入時のH. woolleyi。ラベルには'H. venosa ssp. wooleyi GM079 South of Kleinpoort'とありました。これは古い学名ですが、Plant's Workさんが間違えている訳ではありません。フィールドナンバーは採取された時点の情報で登録されていますから、フィールドナンバーの登録情報が現在と異なることは珍しいことではありません。そして、フィールドナンバーの情報を記載するのが普通です。なぜなら、最新の学名はまたいつか変更されるかもしれないからです。とはいえ、よく見ると'woolleyi'ではなく'wooleyi'となっており、間違いがありますが、これは元のフィールドナンバーの登録情報の誤りのようです。

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現在のH. woolleyi。我が家に来てわずか5ヶ月程度ですが、一回り大きくなった気がします。

H. woolleyiは、1937年に年にHaworthia woolleyi Poelln.と命名されました。さらに、1997年にはHaworthia venosa subsp. woolleyi (Poelln.) Haldaとなりヴェノサの亜種とされました。しかし、最終的にはGordon D.Rowleyにより2013年にハウォルチオプシス属とされ、ヴェノサの亜種ではなく独立種に戻りました。現在はHaworthiopsis woolleyi (Poelln.) G.D.Rowleyが認められた学名です。また、2016年にはHaworthiopsis venosa var. woolleyi (Poelln.) Breuerも提唱されており、H. venosaと関係があるという考え方は一貫しています。
そういえば、H. woolleyiがはじめて命名された1937年のKarl von Poellnitzの論文、『Vier ndue Haworthia-Arten』を読むことが出来ました。非常に簡素で、図はなく特徴を羅列している無駄のない論文です。この論文では、ハウォルチアの新種を4種類命名しています。1つ目はHaworthia gordonianaで、これは現在のHaworthia cooperi var. gordonianaのことです。2つ目はHaworthia woolleyiですが、何故かHaworthia woolleyiiとiが重複しています。このHaworthia woolleyiiが採用されていない理由は分かりませんが、語尾の形式は決まっているため訂正があったのかもしれません。3つ目はHaworthia stayneriiで、これは現在のHaworthia cooperi var. piliferaのことです。4つ目はHaworthia emelyaeです。ちなみに、H. woolleyiの種小名はStapelia収集家のC.H.F.Woolleyに対する献名ということです。


最後にフィールドナンバーの情報を見てみましょう。やはり、H. woolleyiではなくH. wooleyiとなっています。Plant's Workさんの情報は正確ですね。
Field number : GM 79
Collector : J. Gerhard Marx
Species : Haworthia venosa ssp. wooleyi
Locality : South of Kleinpoort, Eastern Cape, South Africa


残念ながら採取年は分かりません。採取地のKleinpoortはポート・エリザベスの近くですね。私の所有するHaworthiopsis fasciata DMC 05265の採取地はN. Hankey(ハンキー北部)とありますから、South of Kleinpoort(クレイン・プアトル南部)は非常に近いか可能性があります。フィールドナンバーがついていると、このようなこともわかり面白いですね。
そういえば、収集者のGerhard Marxは南アフリカの著名な芸術家で、ハウォルチアのコレクションでも有名です。自ら素晴らしい野生のハウォルチアの絵を書いており、幾つかの新種の多肉植物を発見しています。このH. woolleyiのように、Gerhard Marxにより採取されたフィールドナンバー付きのハウォルチアも沢山あります。



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ここのところ2日続けて、旧・アロエ属についてゴニアロエ(Gonialoe)とアロイアンペロス(Aloiampelos)の記事を書きました。個人的に旧・アロエ属を含むアロエ類は気になっており、アロエ(Aloe sensu stricto)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス、(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア(Haworthia)、ハウォルチオプシス(Haworthiopsis)、ツリスタ(Tuesday)、ガステリア(Gasteria)、アストロロバ(Astroloba)についてぼちぼち集めたりしています。
このアロエとハウォルチアの分割は中々の衝撃でしたが、私は
2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文でアロエ類の遺伝子解析結果を見て、割と納得してしまってそれ以上調べませんでした。しかし、アロエやハウォルチアが分割された根拠となる論文がそれぞれにあるはずで、それらの論文を読んでいないのは片落ちではないかと今更ながら思った次第です。

2014年の論文の記事①
2014年の論文の記事②

さて、以前から学名を調べていると、ハウォルチオプシスやツリスタの命名者にやたらとG.D.Rowleyが出てくるなあと思っていました。実はハウォルチオプシスやツリスタはG.D.Rowleyがハウォルチアから分離させたことが原因でした。
その論文はGordon D. Rowleyの 2013年の、『HAWORTHIOPSIS AND TULISTA - OLD WINE IN NEW BOTTLE』です。「新しいボトルに入った古いワイン」という副題が面白かったので、記事のタイトルにしました。この論文の主題はツリスタ属とハウォルチオプシス属です。かつて硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシスは、この論文で16種が命名されました。
現在、ハウォルチオプシスは19種類が認められていますが、G.D.Rowleyはそのうち16種類をハウォルチオプシスとしています。G.D.RowleyはHaworthiopsis koelmaniorum、Haworthiopsis pungensはツリスタ属としました。また、Haworthiopsis 
henriquesiiは新しく2019年に命名されたため、この論文には登場しません。

ハウォルチオプシス19種類の情報は以外の3つの記事をご参照ください。


ツリスタ属はG.D.Rowleyが命名した訳ではなく、1840年にRafinesqueが命名した属名です。Rafinesqueは当時Aloe pumilaと呼ばれていた植物にTulista margariferaと命名しましたが認められませんでした。しかし、この忘れ去られていたツリスタ属をG.D.Rowleyが復活させたということです。どうも、副題の「新しいボトルに入った古いワイン」とはツリスタ属のことのようです。確かに論文が書かれた2013年から遡ること73年前の命名ですから、73年もののワインを新たな装いで出したようなものかもしれませんね。
さて、この論文におけるツリスタ属は、現在とは結構異なります。現在のツリスタ属の正式メンバーである、Tulista marginata、Tulista pumila、Tulista kingianaはすでに含まれていますが、Tulista minorはいませんね。ちなみに、Aloe kingianaをG.D.Rowleyがはじめてツリスタ属としてTulista kingianaとした訳ですが、これは認められずに2017年に
Gideon F.Sm. & MoltenoによってTulista kingianaと命名され直しました。これは、Von PoellnitzがHaworthia kingianaと命名した論文を引用しなければなりませんが、G.D.Rowleyはその引用元を間違えていたため認められませんでした。
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Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

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Tulista kingiana (Poelln.)
                       Gideon F.Sm. & Molteno


また、この論文ではTulistaは13種類がリストアップされていますが、Astrolobaが7種、後のHaworthiopsisが2種、Aristaloeが1種が含まれていました。現在Astrolobaは10種類が認められていますが、この論文の後に命名された3種類、Astroloba cremnophila、Astroloba robusta、Astroloba tenaxは含まれていません。

Astrolobaについては過去に記事としたまとめています。

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Aristaloe aristata

以上が論文の内容です。
結局、G.D.Rowleyの主張はすべて認められているわけではありませんが、Haworthiopsisの創設とTulistaの復活を含む非常に重要な論文です。アロエ類が命名された論文はまだありますから、これから少しずつ読んでいくつもりです。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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硬葉系ハウォルチア(Haworthiopsis)は人気がなく、昔から国内で流通しているにも関わらずあまり見かけません。私もちまちま集めていますが、中々集まりません。去年の10月に神奈川県川崎市のタナベフラワーで多肉植物のイベントががあり訪れましたが、珍しいことに硬葉系ハウォルチアがけっこうあり、Haworthiopsis venosaを購入しました。
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Haworthiopsis venosa

ハウォルチアは南アフリカ原産ですが、H. venosaは南アフリカだけではなくナミビアにも分布する可能性があり、非常に広範囲に分布します。厳しい環境ですが、茂みの中や岩の隙間などの陰に生えます。自生地にはEuphorbia aggregata、Crassula obvallata、Cotyledon toxicarina、Mesembrhanthemum saxicolum、Stapelia flavirostrisなどが生えます。

さて、H. venosaが最初に命名されたのは1783年のことで、実に200年以上前のことです。この時はアロエ属とされており、Aloe venosa Lam.でした。ハウォルチア属が創設されたのは1809年ですから、1809年より前に命名されたハウォルチアはすべてアロエ属でした。1821年にはHaworthia venosa (Lam.) Haw.とされました。この学名が一番良く使用されており、国内では園芸的にも未だにこの名前で販売されています。その後、1891年にCatevala venosa (Lam.) Kuntzeも提唱されましたが、このカテバラ属自体が現在は存在しない属ですから認められていません。2013年には硬葉系ハウォルチアがHaworthiopsisとされましたが、H. venosaもハウォルチア属からハウォルチオプシス属とされました。つまり、Haworthiopsis venosa (Lam.) G.D.Rowleyです。残念ながら国内ではハウォルチオプシスの使用は少ないのが現状です。しかし、遺伝子解析の結果からも、ハウォルチア属とハウォルチオプシス属の分離はまず間違いがないでしょう。H. venosaには他にも異名がありますから年表で示します。

1804年 Aloe anomala Haw.
              Aloe recurva Haw.
              Aloe tricolor Haw.
1811年 Apicra anomala (Haw.) Willd.
              Apicra recurva (Haw.) Willd.
              Apicra tricolor (Haw.) Willd.
1812年 Haworthia recurva (Willd.) Haw.
1876年 Haworthia distincta N.E.Br.
1891年 Catevala recurva (Willd.) Kuntze
1943年 Haworthia venosa var. oertendahlii Hjelmq.

1976年 venosa subsp. recurva (Haw.) M.B.Bayer

H. venosaはよく見ると、葉の上面は透き通っています。ハウォルチオプシス属ではこのような「窓」があるものはあまりありませんが、しかも窓に葉脈のような模様が入るのは、H. venosa、H. tessellata、H. woolleyi、H. granulataくらいです。これらの共通する特徴を持つハウォルチオプシスは、H. venosaの亜種あるいは変種とされたこともあります。H. venosaとの関連だけをピックアップして見てみましょう。          DSC_1797
Haworthiopsis woolleyi
              (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia woolleyi Poelln., 1937
→Haworthia venosa subsp. woolleyi
                     (Poelln.) Halda, 1997
→Haworthiopsis venosa var. woolleyi
                    (Poelln.) Breuer, 2016


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Haworthiopsis tessellata
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia tessellata Haw., 1824
→Aloe tessellata
         (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Haworthia venosa subsp. tessellata
                                 (Haw.) M.B.Bayer, 1982
→Haworthia venosa var. tessellata
                                        (Haw.) Halda, 1997


Haworthiopsis granulata
           (Marloth) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia granulata Marloth, 1912
→Haworthia venosa subsp. granulata
                     (Marloth) M.B.Bayer, 1976


ちなみに、何故か共通した特徴のないように見えるニグラもH. venosaの亜種とされたことがあるようです。一応、情報を記載します。
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Haworthiopsis nigra
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Apicra nigra Haw., 1824
→Aloe nigra (Haw.)
               Schult. & Schult.f., 1829 
→Haworthia nigra (Haw.) Baker, 1880
→Haworthia venosa subsp. nigra
                                (Haw.) Halda, 1997




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今年の正月明けに五反田TOCで開催された、新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。今回のビッグバザールは、アロエがいつもより多く珍しいものも沢山ありました。悩みましたが、マダガスカル原産の小型アロエであるバケリ(Aloe bakeri)を購入しました。バケリはアロエにしては葉は薄くて非常に硬く、まるでディッキア(Dyckia)のようです。

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Aloe bakeri

バケリは園芸店では見かけないアロエですが、どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。取り敢えず論文を当たってみましたが、2019年のColin C. Walkerの論文、『Aloe bakeri - a critically endangered highly localized Madagascan endemic』が見つかりました。早速内容を見ていきましょう。

イギリスの植物学者であるGeorge Francis Scott-Elliotは1888年から1890年にかけてマダガスカルを訪れました。マダガスカル最南東にあるFort Dauphin (Taolagnaro, Tolanaro, Tolagnaro)での採取で、Aloe bakeriは発見されました。Scott-Elliotはキュー王立植物園のアロエの専門家であるJohn Gilbert Bakerに対する献名として、1891年にマダガスカルで採取した新しいアロエにAloe bakeri Scott-Elliotと命名しました。
 
1994年にA. bakeriをGuillauminiaとする、つまりはGuillauminia bakeri (Scott-Elliot) P.V.Heathがありました。このGuillauminiaは、Guillauminia albiflora(Aloe albiflora)のために、1956年にBertrandにより提唱された属です。Heathは1種類しかなかったGuillauminiaを拡大し、マダガスカルの矮性アロエであるA. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiを含ませましたが、それまではGuillauminiaが注目を浴びることはなく無視されてきました。しかし、アロエの権威であったReynoldsはGuillauminiaを採用しないなど、浸透したとは言いがたいようです。しかも、1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』ではGuillauminiaを詳細に分析し、アロエ属とは異なりGuillauminiaのみに共通する特徴がないことなどが指摘され、Guillauminiaは明確に否定されています。さらに、近年の遺伝子解析の結果では、Guillauminiaの所属種同士が必ずしも近縁ではなく、アロエ属の中に埋没してしまうことが明らかとなりました。よって、現在Guillauminiaは認められておりません。
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Aloe albiflora

次に自生地を調査した植物学者たちの報告を見てみましょう。Gilberd Reynoldsは1955年の6月から10月まで、マダガスカルでアロエを探して、自動車で4000マイル(6437km)以上の距離を運転しました。ReynoldsはFort Dauphinの近くでAloe bakeriを大量に見つけました。それは、50から100の密集したグループで生長していました。
次いで、Werner Rauhはマダガスカルに9回旅行しました。Rauhの1964年の報告では、Fort Dauphin付近でA. bakeriを観察しています。A. bakeriはTolanaro北西にあるVinanibe付近のまばらな花崗岩の露頭の腐植土が溜まった岩の亀裂で育つとしています。

CormanとMaysは2008年の報告で、去年(2007年)にマダガスカル南部を訪れたNorbert RebmannとPhilippe Cormanは、Euphorbia millii var. imperataeとともに生育するFort Dauphin付近のA. bakeriを見つけました。しかし、近くの港の開発に必要な石材採取のために、A. bakeriの生息地が破壊されていました。CormanはかつてRauhが観察した岩場で、A. bakeriは4個体しか見つかりませんでした。A. bakeriを発見したScott-Elliotは砂丘にも生息するとしていましたが、RebmannもCormanも砂丘ではA. bakeriを見つけることは出来ませんでした。
Castillon & Castillonは2010年の報告で、Taolagnaro付近の岩だらけの丘は、商業港と都市部の産業開発のため2年前に消滅したため、野生のA. bakeriは絶滅してしまったとしています。


以上が論文の簡単な要約となります。そういえば、1902年に命名されたAloe bakeri Hook.f. ex Bakerというアロエもありますが、こちらはAloe percrassa Tod.の異名です。A. percrassaは大型アロエですから、まったく似ていませんから間違いようはありませんね。
著者は絶滅したかは断言していませんが、キュー王立植物園のデータベースではA. bakeriは「絶滅」と表記されています。栽培は難しくないようですから、栽培品の維持はされています。しかし、自然環境に自生する多肉植物は非常に美しいものですから、大変悲しいことです。これ以上、多肉植物が絶滅してしまうことが起きてほしくありません。


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ガステリアは実に面白い多肉植物ですが、何故か人気がありません。どうしても、マニアックな印象がつきまといます。もしかしたら、臥牛が古典植物のように扱われ、微妙な姿の違いを観賞する傾向があるからかもしれません。ということですから、あまり人気がないのであまり販売されていません。ガステリア自体は昔から国内に流通していますから、レアとは言えない種類も多いはずですけどね。私も極々稀に販売されていたりしますから、機を逃さずにチマチマ集めて記事を書いてきました。また、現在、学術的に認められているガステリア属を異名を含めまとめた記事があります。
本日ご紹介するのはGasteria distichaです。「青竜刀」あるいは「無憂華」という名前もあるようですが、ネットの販売サイトでしか見たことがない名前です。実際に使われているのかは不明です。

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Gasteria disticha

G. distichaの学名は、1827年に命名されたGasteria disticha (L.) Haw.ですが、これは1753年にCarl von Linneが命名したAloe disticha L.から来ています。ガステリア属は1809年にGasteria Duvalが創設されるまではアロエ属とされていました。実はG. distichaは最初に命名されたガステリアです。また、1866年にはPtyas disticha (L.) Salib. not validly publ.も知られます。末尾に''not validly publ.とありますが、これは有効な公表ではないということですから、正式なものとは認められていないのでしょう。

G. distichaには変種が認められています。2007年にGasteria disticha var. robusta van Jaarsv.Gasteria disticha var. langebergensis van Jaarsv.が命名されたことに従い、基本種はGasteria disticha var. distichaとなりました。この内、変種ランゲベルゲンシスは独立種とされ、2019年にGasteria langebergensis (van Jaarsv.) van Jaarsv.となり、Gasteria distichaではなくなりました。さらに、2022年にはGasteria disticha var. marxiiがE. J. van JaarsveldとD. V. Tribbleにより提唱されていますが、まだ審議中といったところでしょうか。データベース上ではvar. marxiiの名前はまだ確認出来ません。


さて、ここからは異名を見ていきましょう。ガステリアは「分類学者の悪夢」と言われるくらい分類が混乱していた経緯があり、19世紀にはやたらめったらに学名が命名されました。そのため、うんざりする程に異名が沢山あります。というわけで、変種ディスティカの異名を命名年順に列挙します。

1768 Aloe linguiformis Mill.
1789 Aloe lingua var. angustifolia Aiton
          Aloe lingua var. crassifolia Aiton
1804 Aloe lingua var. latifolia Haw.
          Aloe lingua var. longifolia Haw.
          Aloe nigricans Haw.
          Aloe obliqua Jacq., nom. illeg.    
1809 Gasteria angustifolia (Aiton) Duval
          Gasteria longifolia (Haw.) Duval
          Gasteria nigricans (Haw.) Duval

1811 Aloe obscura Willd., nom. illeg.
1812 Aloe longifolia (Haw.) Haw., nom. illeg.
          Gasteria latifolia (Haw.) Haw.
1817 Aloe nigricans var. crassifolia Salm-Dyck
1819 Gasteria denticulata Haw.
1821 Aloe angustifolia
                     (Aiton) Salm-Dyck, nom. illeg.
          Aloe conspurcata Salm-Dyck
          Aloe obtusifolia Salm-Dyck, nom. illeg.
          Gasteria mollis Haw.
          Gasteria nigricans var. crassifolia
                            (Aiton) Haw.
1827 Gasteria conspurcata (Salm-Dyck) Haw.
          Gasteria crassifolia (Salm-Dyck) Haw.
          Gasteria disticha var. major Haw.
          Gasteria disticha var. minor Haw.
          Gasteria obtusifolia Haw.
1829 Aloe crassifolia
                         (Salm-Dyck) Schult. & Schult.f.
          Aloe mollis (Haw.) Schult. & Schult.f.
1840 Aloe retusifolia Haw. ex Steud.
1880 Gasteria disticha var. angustifolia Baker
          Gasteria disticha var. conspurcata
                                         (Salm-Dyck) Baker
          Gasteria platyphylla Baker

アロエだったりガステリアだったりしますが、とにかく様々な名前が付けられてきました。しかも、所々に'nom. illeg.'、つまりは非合法名が見受けられます。
そういえば、G. distichaははじめて命名されたガステリアだと述べましたが、ヨーロッパにはじめてもたらされたガステリアでもあります。G. distichaはCarl von LinneがAloe distichaと命名する前から知られていました。1689年にケープタウンの東でHendrik Oldenlandが採取し、'Aloe africana flore rubro folia maculis ab utraque parte albicantibus notata'という特徴の羅列で表記されました。その後、Carl von Linneにより、Aloe distichaと命名されましたが、この'disticha'とは葉が左右に分かれる二列性の特徴から、分配を意味するラテン語由来の種小名です。

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さて、タイトルにあります通り、Gasteria distichaにはじめて花が咲きました。Gasteriaはgaster=胃からきた名前ですが、名前の如く胃袋のような形の花を咲かせます。ガステリアの花には細長いタイプと短いタイプかありますが、G. distichaの花は短いタイプですね。丸みがあってかわいらしい花です。


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アロイデンドロンは樹木状となるアロエの仲間です。代表種はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたAloidendron dichotomumです。アロイデンドロン属は近年の遺伝子解析の結果によりアロエ属から分離されました。現在アロイデンドロン属は7種類あるとされています。その点についてはかつて記事にしたことがあります。ご参照下さい。
アロエ属とアロイデンドロン属の関係は遺伝子解析により判明していますが、アロイデンドロン属内の分類はわかっていませんでした。そんな中、アロイデンドロン属の遺伝子を解析して近縁関係を解明した論文を見つけました。Panagiota Malakasi, Sidonie Bellot, Richard Dee & Olwen Graceの2019年の論文、『Museomics Clarifies the Classification of Aloidendron (Asphodelaceae), the Iconic African Tree Aloe』です。

アロイデンドロン属はアフリカ南部の砂漠を象徴する植物です。しかし、アロイデンドロン属内の進化関係は不明でした。そこで、アロイデンドロン属を遺伝子解析することにより、属内の系統関係を類推しています。ここでは、Aloestrela suzannaeというアロエ類が出てきますが、お恥ずかしい話ですが私はこのアロエストレラ属の存在を知りませんでした。アロエストレラ属は2019年に創設されましたが、Aloestrela suzannaeだけの1属1種の属です。しかし、新種というわけではなく、1921年に命名されたAloe suzannaeが2019年にAloestrela suzannaeとなりました。

アロイデンドロン属の分子系統
┏━━━━━━Aloe
┃     (Aloidendron sabaeumを含む)


┃    ┏━━━━Aloidendron ramossimum
┃    ┃
┃┏┫         ┏━Aloidendron dichotomum 1
┃┃┃     ┏┫
┃┃┃     ┃┗━Aloidendron dichotomum 2
┃┃┃┏ ┫
┃┃┃┃ ┗━━Aloidendron pillansii 1
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━Aloidendron pillansii 2
┃┃
┗┫            ┏━Aloidendron barberae 1
    ┃        ┏┫
    ┃        ┃┗━Aloidendron barberae 2
    ┃   ? ┫
    ┃        ┗━━Aloidendron barberae 3
    ┃
    ┃    ┏━━━Aloestrela suzannae 1
    ┃┏┫
    ┃┃┗━━━Aloestrela suzannae 2
    ┗┫
        ┃┏━━━Aloidendron eminens 1
        ┗┫
            ┗━━━Aloidendron eminens 2


アロイデンドロン属の系統関係は、Aloidendron sabaeum以外はまとまりのあるグループでした。しかし、論文ではA. barberaeが、A. ramossimum系統なのかA. eminens系統なのかは不明瞭でした。さらに、Aloestrela suzannaeは独立したアロエストレラ属ではなくA. eminensと近縁であり完全にアロイデンドロン属に含まれてしまうことがわかりました。また、驚くべきことにA. sabaeumはアロエ属に含まれてしまい、アロイデンドロン属とは近縁ではないことが明らかとなりました。よって、今後アロエストレラ属は消滅してアロイデンドロン属となり、A. sabaeumはアロエ属に復帰するかもしれません。しかし、論文ではAloidendron tongaensisが調べられていないようです。今後の研究が待たれます。また、A. pillansiiは2個体調べていますが、この2個体は近縁ではあるもののやや遺伝的に距離があるようです。この点も注視していく必要がありそうです。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、私が知らない間に創設されたアロエストレラ属を知らない間に否定する論文が出ていたということで、己の無知を思い知るとともにアロエ類の研究が盛んに行われていることを嬉しく思います。また、A. sabaeumの遺伝子解析の結果からは、アロエが樹木状となること=アロイデンドロンではないということを示唆しています。アロエ属であっても環境に対する適応により樹木状の形態をとる可能性があるのでしょう。そうなると、樹木状とならないというか草本に回帰したアロイデンドロン属も存在するかもしれませんね。今後の研究結果が非常に楽しみになります。


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「親しみやすさは軽蔑を生む」(familiarity breeds contempt)とは中々含蓄のあることわざです。このことわざはイソップ童話の「キツネとライオン」という話に出てくるフレーズなんだそうです。多肉植物に当てはめれば、普及種が親しみやすさとともに軽視される傾向があるのではないでしょうか?
個人的には普及種も好きで面白いと感じていますが、どうも世の中的には異なるようで、普及種の多肉植物が手入れもされずにカリカリになっていたりするのは大変悲しいことです。安くいつでもどこでも入手可能とあらば、扱いが荒くなるのもやむ無しかも知れません。まあ、普及種はお値段的にもお手軽ですからね。
しかし、そんな普及種であっても良いものは良いのだという熱い論考に出会いました。それは、イギリスのキュー王立植物園のPeter Brandhamの1981年の『Aloe aristata : an underrated species』です。


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Aristaloe aristata=Aloe aristata

著者にとって「親しみやすさは軽蔑を生む」ということわざはAloe aristataに当てはまるとしています。日本ではあまり見かけることがないAloe aristata(現在はAristaloe aristata, 綾錦)ですが、イギリスでは昔から知られている園芸植物です。イギリスではチェーン店や園芸用品店で入手可能で、多肉植物のコレクターはわざわざ栽培する価値はないと考えています。

Aloe albiflora, Aloe bakeri, Aloe bellatula, Aloe deltoideodonta, Aloe descoingsii, Aloe dumetorum, Aloe erensii, Aloe forbesii, Aloe haworthioides, Aloe humilis, Aloe jucunda, Aloe juvenna, Aloe myriacantha, Aloe polyphylla, Aloe rauhii, somaliensis, Aloe variegataなど魅力的な小型~中型のアロエは沢山ありますが、栽培が難しいものが多いとしています。これらは根を失いやすく、入手が難しく、開花しないと言います(※)。対して、A. aristataは良く子を吹き、入手は容易です。冬は乾燥させれば良く、直径6cm程度になると定期的に開花します。花は植物に対して大きいと言います。

※私も上記の1/3の種類くらいしか育てたことはありませんが、栽培はそれほど難しくありませんでした。しかし、晴れが少なく寒冷なイギリスの気候では難しい部分もあるのでしょう。

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Aloe descoingsii

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Aloe somaliensis

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Aloe haworthioides

A. aristataの花はピンク~鈍い赤色と淡黄色~クリーム色の2色からなる、アロエ属でも独特の花を咲かせます。これを著者は"bicolor"、つまりは「二色」と表現していますが、このラテン語は種小名で良く見かけますね。
A. aristataの葉は非常に多いことが特徴です。小型種のA. haworthioidesよりも多いとしています。葉の縁には柔らかいトゲがあり、葉の先端には長い毛のような芒があります。葉の表面には斑があり、葉裏により多くあります。

A. aristataは南アフリカ原産で、東ケープ州、オレンジ自由州、レソトなど非常に広い範囲に分布します。変種としてvar. leiophyllaとvar. parvifoliaが知られていました。しかし、アロエ研究の権威であったReynoldsによりA. aristataの範囲内と見なされ、認められていません。ただ、A. aristataには起源が不明の栽培種があり、分かりやすい4つのバリエーションを以下に示します。
1, 「典型的」なフォルム。自由に子を吹く最も一般的なタイプです。狭い灰緑色の葉を持ち、葉裏にはトゲと斑点が通常はランダムに、時には縦方向へ列となります。
2, 「単純」なフォルム。直径30cm以上となる可能性があり、滅多に子を吹きません。葉は「典型的」なフォルムより長く狭く、葉裏のトゲは縦に並ぶ傾向がより顕著です。
3, 'crisp'フォルム。非常に良く子を吹くタイプで、著者は最も魅力的と表現しています。葉は短く幅広で、トゲが多く葉裏では2~3列となります。
4, 'Cathedral Peak'フォルム。葉には斑点がほとんどなく、トゲも少数です。適度に子を吹きます。このフォルムは、南アフリカのDrakensberg山脈のCathedral Peak由来のものです。典型的なA. aristataの花を咲かせるにも関わらず、ヨーロッパでは× Gastrolea bedinghausii(
A. aristata × Gasteria sp.)という誤った名前で長年栽培されています。

A. aristataはGasteriaと容易に交雑可能で、著者は沢山の交配種を作ったそうです。ガステリアとの交配種の特徴は、両親の中間的な花を咲かせることだそうです。ただし、この交配種は花粉の受粉能力に乏しいのですが、× Gastrolea bedinghausiiは花粉の受粉能力が常に90%を越え、A. aristataと変わりません。ですから、× Gastrolea bedinghausiiは交配種ではないと考えられるのです。

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A. aristata × Gasteria sp.

著者はA. aristataはきちんと育てればそれ自体が魅力的であり、交配種の作成が容易なので交配の入門としても適すると主張します。A. aristataの異なるフォルムはコレクションに値するものであり、「温室にはこれ以上植物を入れる余裕がない」という使いふるされた言い訳は使うことは出来ないと絶賛しています。著者の住むSurreyでは非常に丈夫で、過去3年間庭の明るい日陰で育ち、1978/9年の非常に厳しい冬にも耐えてきました。毎年、夏に開花します。

以上が論考の簡単な要約です。
日本では人気がないせいか、園芸店ではほとんど見られませんが、イギリス(1981年の)では一般的なようです。しかし、著者が絶賛するようにA. aristataは非常に美しい植物です。さらに、私は形態的にアロエ的ではない感じが非常に面白く思います。A. aristataが命名されたのは1825年のことで、Aloe aristata Haw.が長年正式名称でした。しかし、遺伝子解析の結果から、2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningとなり、アロエ属から分離しました。現在、アリスタロエ属は1属1種の珍種ですから、その点においてもコレクションするに値する多肉植物でしょう。


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マダガスカルには沢山の小型アロエが分布します。その中でも最小と言われるのが、Aloe descoingsiiです。一般的には「アロエ・ディスコインシー」と呼ばれたりしているみたいですが、普通にそのままラテン語読みで「アロエ・デスコイングシイ」で良いような気がします。学名は1930年から30年以上に渡りアロエ属の権威だったGilbert Westacott Reynoldsにより1958年に命名されました。つまりは、Aloe descoingsii Reynoldsです。種小名は1956年にA. descoingsiiを発見したフランスの植物学者であるBernard Descoingsに対する献名です。また、1994年には新設されたGuillauminia属とする意見があり、Guillauminia descoingsii P.V.Heathという学名がつけられましたが、翌1995年にGideon F.Smithらにより新属を提唱するに値する根拠がないとして斥けられています。

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Aloe descoingsii

A. descoingsiiは最小のアロエと言われますが、正しくは葉の長さが最も短いアロエでしょう。A. descoingsiiの主軸は意外にも太く、葉の幅は全体のサイズの割には広く、Aloe haworthioidesなど他のマダガスカル原産の小型アロエの方が非常に葉の幅は狭いものが沢山あります。A. descoingsiiは直径5cmまでで、葉は3~6cm程です。

A. descoingsiiはマダガスカル南西部のToliaraのFiherenana渓谷に分布します。標高は350mと言われます。A. descoingsiiは石灰岩の崖上の浅い土壌で育ちます。絶滅の危機に瀕していられる希少なアロエです。
しかし、このA. descoingsiiは園芸店でもまったく見かけたことがありません。希少種だからかと思いきや、何故かA. descoingsii系交配種は何度か見かけたことがあります。見た目の美しさ以外にも、増やしやすさであるとか育てやすさも関係しますから、理由は定かではありません。ただし、調べてみると、A. descoingsiiは非常に交配が盛んに行われたらしく、海外の園芸サイトでも「数えきれない程の雑種」があると書かれているくらいですから、単純に交配種が普及しているだけかも知れませんね。



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バナナは放っておくと、皮に黒い点々が出てきます。これは、スウィート・スポットと呼ばれ、甘く熟した食べ頃のサインと言われています。これは、バナナの皮に含まれるポリフェノールが酸化したものなんだそうです。しかし、困ったことに多肉植物にも黒いスポットが出来てしまうことがあります。当然これはポリフェノールではないし、食べ頃のサインでもありません。何かしらの不調のサインです。観葉植物の本を紐解くと、黒い点の原因は様々です。栽培環境が悪いせいでおこる生理障害の場合もありますが、黒星病や炭疽病などの病原菌、場合によってはカメムシなどの害虫の被害の場合もあります。
本日はこの黒い点についてのお話です。具体的にはアロエやガステリアに黒い点が出てしまうことが割とあり、これは一体何が原因なのだろう?というものです。その論考は2001年のHarry Maysによる『All that is known about Black Spot』です。早速、内容を見てみましょう。

黒い点の原因や対処法は、基本的に趣味家の経験則によるもので人により意見は異なり、科学的な見地からのものではありませんでした。著者ははじめから原因は1つではないかもしれないので、様々な可能性を探り意見をまとめてみたということを述べています。

①ストレス
日本語でストレスと言うと精神的なイメージがありますが、本来ストレスは圧力という意味もあります。植物も高温や乾燥などは植物にストレスを与えます。ただし、黒点の発生については可能性の話で確証はありません。

②環境
強光に当てて換気が不十分だと植物表面が痛むことがあります。さらに、高窒素肥料と水をあげすぎると、軟弱になり病原菌に弱くなる可能性があります。しかし、必ずしもこれらの条件で黒点があらわれるとは言えず、出ない場合もあります。

③土壌不足
長年植え替えをしていないと、栄養が不足して黒点があらわれると言われています。しかし、植え替えをしていなくても黒点が出ない場合も確認されており、むしろ堆肥を与えることで黒点が出るという意見もあります。

④湿度
温室内でも温度は場所や高さにより均一ではありません。また、場所によっては結露することもあります。実際に黒点の原因として過湿があげられることが多いようで、移動させて乾燥させることが推奨されています。しかし、残念ながら著者には、乾燥期に若いGasteria distichaに黒点があらわれた経験があります。逆に光に乏しく湿気の多い環境では何故か黒点は発生しませんでした。

⑤病原菌
湿度が高くなると、細菌やカビの活動は活発になります。しかし、ヨーロッパで多肉植物は冬は暗く湿った環境に置かれることになりますが、必ずしも黒点はあらわれません。

⑥種類
ガステリアでは種類により黒点が出やすい種類、出にくい種類があるという意見もあります。しかし、それも人によって傾向が異なりました。しかも、同じ種類を育てていても、黒点が出るものと出ないものがあるという報告もあります。中には株分けした片方にだけ黒点があらわれたりします。この場合の黒点は伝染性がないようです。

⑦野生株
南アフリカの東ケープ州の西部やオレンジ川北部では、野生のガステリアに黒点は滅多に見られませんでした。Hells Kloof地域のGasteria pillansiiは数ヶ月に渡り非常に乾燥した年に数個の黒点が観察されました。同じ地域で非常に雨が多かった年に、Gasteria pillansiiは水分を吸収し過ぎて膨れ上がり、裂けてしまうものもありました。腐ってしまったものもありましたが、黒点はまれにしか見られませんでした。

⑧David Cumming
より信頼性の高い情報を求めて、南アフリカの調査経験が豊富なDavid Cummingに連絡しました。Cummingは「特に東ケープ州で広い地域で一般的であると思われます。アストロロバは最も多く、ガステリアが続きます。」Cummingは黒点はストレスによるもので、それが黒点の主な原因ではなく、日和見感染の可能性があるとしています。

⑨Ernst van Jaarsveld
南アフリカの多肉植物の研究者であるvan Jaarsveldは、黒点はMontagnella(真菌=カビ)により引き起こされるとしています。3~6ヶ月ごとにオキシ塩化銅あるいはCaptanを噴霧しますが、定期的な噴霧を行っても黒点はあらわれます。

⑩Doug McClymont
ジンバブエのDoug McClymontは研究者としてではなく、半分趣味のアロエ栽培の経験を語ってくれました。アロエの黒点は、高湿度で曇天、気温18度以上、毎日雨が降るなどの条件で発生すると言います。また、昆虫による被害も加算されるようです。
Montagnella maximaやPlacoasterella rehmiiはbenzimidazolesやtriazolesといった浸透性殺菌剤は効果がありませんが、cyproconazoleとdisulphotonの混合顆粒により昆虫の害を防ぎ黒点か出来ません。しかし、非常に湿った環境では昆虫がいなくても黒点は出来てしまいます。しかし、オキシ塩化銅または水酸化第二銅の噴霧で高い効果があったようです。ただ、老化した葉は黒点が出来やすく薬剤でも効果がありません。

⑪王立園芸協会
科学的証拠を得るために、王立園芸協会の植物病理学部門に連絡しました。黒点のあるGasteria distichaの葉と根、土壌を調査してもらいました。黒点は日射、灌水、肥料などの生理的なものではないと結論付けました。ただし、黒点の周囲の組織を培養しても病原菌は見つかりませんでした。これは病原菌がいないことの証明にはならず、ただ培養が困難な病原菌だったからかもしれません。王立園芸協会の提案する最良の案は、広範囲の植物の葉の斑点に効果がある殺菌剤mancozebの使用です。

謎は深まるばかり…
冬に寒さからガステリアを守るために一切の通気を遮断して非常に湿った状態で育てている人もいますが、何故か全く黒点は出来ないそうです。
これまで見てきた意見は、全く以て相反する内容が噴出していますが、著者は黒点の原因は1つではないからだろうと考えています。結局、我々の出来ることは、殺菌剤の散布以外では、硬く締まった最適な育て方をして、ちゃんと植え替えしましょうという常識的なことくらいなものです。
黒点の謎は解明されたとは言えませんが、全く対処不能というわけでもないように思えます。もし、黒点があらわれた時には、その多肉植物は何かしらの問題を抱えているのかも知れませんね。

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アロエの古い葉にあるこの黒いスポットの原因は何でしょうか?


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ソルディダは一般的に硬葉系ハウォルチアと呼ばれる多肉植物です。ざらざらした暗い色の肌と、生長が遅いことが特徴です。ちなみに、ソルディダは生長の遅さ故か硬葉系の中では割と高価で、コエルマニオルムとソルディダは中々手が出せません。まあ、普通の園芸店では見かけることはありませんが…
さて、そんなソルディダですが、初めて学名が命名されたのは1821年と約200年前のことでした。そのため、これまでに様々な学名がつけられてきました。今日はそんなソルディダの履歴を辿ってみます。


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Haworthiopsis sordida

ソルディダが初めて命名されたのは、1821年のHaworthia sordida Haw.です。その後、1829年にAloe sordida (Haw.) Schult. & Schult.f.、1891年のCatevala sordida (Haw.) Kuntzeが知られています。また、ソルディダはスカブラと近縁と考えられ、1997年にHaworthia scabra var. sordida (Haw.) HaldaHaworthia scabra subsp. sordida (Haw.) Haldaも命名されています。しかし、結局はソルディダは独立種とされて、基本的にHaworthia sordida Haw.で呼ばれてきました。しかし、近年の遺伝子解析により、硬葉系ハウォルチアは軟葉系ハウォルチアとあまり近縁ではないことがわかってきました。硬葉系ハウォルチアはHaworthiaから分離され、HaworthiopsisとTulistaとなりました。Tulistaは現在4種からなる小さなグループですが、それ以外の硬葉系ハウォルチアはHaworthiopsisに分類されています。ソルディダも2013年にHaworthiopsis sordida (Haw.) G.D.Rowleyとされました。現在もこの学名が学術的に正式なものですが、実際に販売される場合は未だにHaworthia sordidaの名前で流通しています。
そう言えば、ソルディダには変種がありますが、ついでに見てみましょう。


1981年にソルディダの変種としてラブラニが命名されました。Haworthia sordida var. lavrani C.L.Scottです。一時期提案されたソルディダをスカブラの変種とする考え方から、その提案者により1997年にHaworthia scabra var. lavrani (C.L.Scott) Haldaと命名されたこともあります。また、2010年には変種ラブラニを独立種とするHaworthia lavrani (C.L.Scott) Breuerもありました。しかし、やはり最終的にはソルディダの変種ということになり、ソルディダがHaworthiopsisとなったことに合わせて2013年にHaworthiopsis sordida var. lavrani (C.L.Scott) G.D.Rowleyとなりました。

変種ラブラニが命名されたことにより、ラブラニではないソルディダは区別されることになりました。単純にHaworthiopsis sordidaと言った場合、変種ラブラニとそれ以外を含んだ名前となるからです。つまり、変種ソルディダです。これは命名されたわけではなく、変種が出来たことにより自動的に出来た学名です。つまり、Haworthiopsis sordida var. sordidaです。
この、変種ラブラニ以外のソルディダは変種ソルディダになる前から、異名がつけられてきました。いわゆるHeperotypic synonymです。Homotypic synonymとは異なり、Heperotypic synonymはその種小名が受け継がれなかった学名です。それは1938年に命名されたHaworthia agavoides Zantner & Poelln.です。このアガヴォイデスはやがてソルディダの変種とされ、1950年にHaworthia sordida var. agavoides (Zantner & Poelln.)となりました。さらに、ソルディダがHaworthiopsisとなったことを受けて、2016年にはHaworthiopsis sordida var. agavoides (Zantner & Poelln.) Breuerとされましたが、現在では変種ソルディダの異名扱いとされています。


以上がソルディダの学名の変遷です。ハウォルチオプシスは異名が恐ろしく多いものがあり、その一覧を見てうんざりすることもありますが、ソルディダはやはり特徴的な外見なせいか見た目の変異が少ないためかは分かりませんが、異名はほとんどありません。いや、それでも結構あるだろうと思われるかも知れませんが、種小名が同じHomotypic synonymばかりですから非常にすっきりしています。他のHaworthiopsisは1種類に対して、別種としていくつもの学名がつけられていたりして非常に混乱してきたことがうかがえます。
個人的にはこのざらざらした肌と暗い色合いは好きですが、イベントで立派な株が万単位の価格て販売されていて中々手が出せませんでした。しかし、最近のビッグバザールでは小さな実生苗が安価で入手可能です。どうやら、一度に沢山実生したみたいです。これは今しか入手出来ないものかもしれません。ソルディダが安く入手出来る中々ないチャンスです。あまり売れている雰囲気はありませんでしたが、皆さんもこの機にソルディダに手を出してみてはいかがでしょうか?


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かつて硬葉系ハウォルチアなどと呼ばれていたHaworthiopsisやTulistaには、イボに覆われているものがあります。そもそもこのイボが何のためにあるのかすら良くわかりませんが、結節などと呼ばれることが多いようです。遺伝的には、このイボの有無は分類には関係ないみたいです。要するに、イボのある種同士が近縁というわけではないため、イボのあるグループとないグループで分けることは出来ないのです。
さて、このイボにも種類があり様々です。今日はそんなハウォルチア系のめくるめくイボの世界へご案内しましょう。

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九輪塔 Haworthiopsis coarctata IB5850
九輪塔H. coarctataと鷹の爪H. reinwardtiiは同種とされることもありますが、現在は別種とされています。私の所有株はイボが控え目です。九輪塔のイボはまるでイボの先に着色したように見えます。


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星の林 Haworthiopsis reinwardtii var. archibaldiae
鷹の爪H. reinwardtiiの変種ですが、現在は認められていない学名です。鷹の爪系のイボは横長で大型です。

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Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis
コンパクトなf. kaffirdriftensisですが、イボは密に並びます。


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天守閣 × Astrolista bicarinata
AstrolobaとTulistaの自然交雑種。少し透き通るイボは、イボの由来がTulistaだと教えてくれます。


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Tulista pumila
Tulistaの代表種プミラ。Tulistaはよく見るとイボが半透明です。このプミラはイボが小さく密なタイプ。


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Tulista pumila
イボが白くないタイプのプミラ。イボは大型。


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Tulista pumila var. sparsa
プミラの変種スパルサ。イボはまばらですが、赤みを帯びた大型のイボが美しい。

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Tulista pumila var. ohkuwae
プミラの変種オウクワエ。白く大型のイボが密につき非常に目立ちます。

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Tulista kingiana
あまり見かけないキンギアナですが、イボは小さくて地味ですね。


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Tulista minor
Tulista minimaと呼ばれることもありますが、Tulista minorが正式な学名です。イボは横長で密につきます。


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Tulista minor swellense
有名な産地の個体。イボが立体的でよく目立ちます。


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Tulista marginata
マルギナタのイボは大型でたまにつながったりします。透き通った感じが好きですね。


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十二の巻 Haworthiopsis attenuata cv.
何故かH. fasciataと言われる十二の巻ですが、H. attenuata系の交配種です。白いイボはつながりバンド状になります。


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特アルバ Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが目立つ選抜交配種。


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松の雪 Haworthiopsis attenuata
アテヌアタのイボが小さく密につくタイプ。


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Haworthiopsis fasciata DMC05265
本物のファスキアタですが、普通の園芸店で入手は困難です。十二の巻とそっくりですが、アテヌアタとファスキアタは、遺伝子解析結果では近縁ではないようです。


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Haworthiopsis fasciata fa.vanstaadenensis
ファスキアタの特殊なタイプ。イボは小さくまばらで縦に5列あります。

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Haworthiopsis glauca var. herrei RIB0217
グラウカの変種ヘレイの葉が短いタイプ。変種ヘレイとしてはイボがはっきりしています。

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Haworthiopsis glauca var. herrei
グラウカの変種ヘレイの葉の長いタイプ。イボは目立ちませんが、よく見ると縦にイボが並んでいます。


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紫翠 Haworthiopsis recendeana
現在は九輪塔H. coarctataと同種とされている
紫翠ですが、イボが白くないので目立ちません。イボ自体は非常に密につきます。

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Haworthiopsis scabra
これ以上イボが小さいとイボではなくザラ肌と呼んだほうが良さそうです。H. sordidaやH. nigraはイボではなくザラ肌ですよね。


イボの世界はいかがでしたか? 意外とイボにも色々あることがお分かりいただけたと思います。
個人的にはイボイボ系は大好物なのですが、あまり人気がないみたいで残念です。この記事を起点にイボイボ系のファンが増えて、買う人が増えたことにより園芸店にもイボイボ系が並ぶようになれば私も嬉しいのですが、そんなバタフライ・エフェクトみたいなことは難しいですかね? 今こそ、イボの復権をと密かに願っている次第。


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クマラをご存知ですか? かつて、アロエとされていたAloe plicatilisやAloe haemanthifoliaは、2013年にアロエ属から独立してクマラ属(Kumara)となりました。よって、Aloe plicatilisとAloe haemanthifoliaは、それぞれKumara plicatilisとKumara haemanthifoliaとなりました。ここらへんの学名の経緯は過去に記事にしたことがあります。以下のリンクをご参照下さい。
さらに、Kumara plicatilisの生態について書かれた論文をご紹介した記事もあります。
そんな中、A. plicatilisがクマラ属へ移動した際の学名の混乱について正しい学名に訂正すべきであると主張している論文を見つけました。その論文は、2013年のRonell R. Klopper, Gideon F. Smith & Abraham E. Van Wykによる『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara(Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』です。しかし、この論文はことの経緯を無駄なく簡潔に述べていますが、説明がないので経緯を知らない人間にはよく分からない内容となっています。そこで、私が調べた情報を加味して、内容を再構成して解説します。最初に簡単に言ってしまうと、著者の主張はKumara distichaという学名が使われているが、これは正しい学名ではないというものです。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

一番最初にK. plicatilisが命名されたのは、1753年にCarl von LinneによるAloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe disticha L.つまりは後のGasteria disticha (L.) Haw.の変種として命名されたのです。
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Gasteria disticha

1786年にドイツのFriedrich Kasimir MedikusはKumara Medik.を創設し、A. disticha var. plicatilisをKumara disticha Medik.としました。しかし、Aloe distichaは後のGasteria distichaなのですから、Kumara distichaというのはおかしな名前です。
実は1768年にA. disticha var. plicatilisはA. distichaの変種ではなく独立種であるとして、オランダのNicolaas Laurens BurmanがAloe plicatilis (L.) Burm.f.と命名しましたが、これが正しい種小名です。

ですから、最初A. disticha var. plicatilisであった植物が、アロエ属から独立した際に引き継ぐべき種小名は"disticha"ではなく"plicatilis"なのです。要するに、1786年に命名されたKumara disticha (L.) Medik.は使用されるべきではなく、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.を引き継いでいる、2013年に英国のGordon Douglas Rowleyにより命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyが正しい学名であるというのが著者の主張です。

Kumara Medik.には非常に深刻な問題点があります。1976年にRowleyによりKumaraのタイプをKumara distichaとして指定してしまったので、KumaraとGasteriaは同義語となってしまいました。学名は先に命名された方を優先する「先取権の原理」がありますから、1809年に命名されたGasteria Duvalよりも、1786年に命名されたKumara Medik.が優先されてしまいます。要するにGasteriaのすべてをKumaraに変更しなくてはならなくなり、命名上の混乱の観点からは深刻な問題と言わざるをえません。そのため、2世紀にわたり使用されてきたGasteriaという属を保存するべきでしょう。ですから、Kumaraをガステリアの同義語とせずに、Aloe plicatilisに使用される属名とすることが重要です。

以上が論文の簡単な解説となります。
現在認められている学名はKumara plicatilisですから、著者の主張が採用されていることがわかります。
思うこととして、学名は学者の主張によりコロコロ変わりますから、その都度、我々趣味家は振り回されてしまいます。しかし、現在は遺伝的解析により、近縁関係がはっきりしてきましたから、以前ほど、思い悩まされることはなくなりました。とは言うものの、まだ学名は変わる可能性があります。すべての多肉植物の遺伝子が調べられたわけではありませんし、近縁関係が判明したところでどこで区切ってわけるべきかは議論のあるところです。しばらくは試行錯誤が続くでしょう。しかし、現在は遺伝子解析は過渡期ですから、学名も流動的で変わりやすい時代と言えます。個人的にはこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方がありません。



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ガステリア・エクセルサは19世紀に記載された、昔から知られているガステリアです。他のガステリアと同じく南アフリカの原産です。
私も小指の先ほどの苗を園芸店で購入して育てています。まだ、エクセルサらしさはありませんが、苗から育てていますから愛着がありますし、これからの生長が非常に楽しみです。


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Gasteria excelsa

そんな、エクセルサに関する情報を探ったところ、論文を見つけました。それは、2003年のDavid Cummingの論文、『A matter of recruiment in Gasteria excelsa Baker』です。早速、論文の内容に移りましょう。

G. excelsaはほとんどの場合、川の近くに自生します。Port Alfredの南に約50kmのAlexandria付近から、Transkeiまで見られます。
BathurstのLuthington川のほとりに沿ってG. excelsaは個体数が多く、著者はG. excelsaの種子を採取していました。この時、大量の種子が供給されているにも関わらず、芽生えがほとんどない状態でした。詳細を観察するために、Langholmeに向かって隔離された地域にあるG.excelsaの小集団が対象に選ばれました。

ここでは、狭いエリアに2つの異なる環境に、それぞれの集団があります。
1つ目は北東斜面と対応する南西斜面を持つ高さ1mの小さな尾根で、22個体の成熟したG. excelsaが見られました。G. excelsaは北東の斜面の高さ30cmの茂みの中に生えます。この場所のG. excelsaのサイズは直径37~79cm、葉の幅は8~13cm、葉の長さは23~41cmでした。幼体は3本のみで、1本は2~3才、2本は3~4才と推定しました。この場所には、Crassula muscosa var. polpodaceaとCynanchum gerrardiiが見られました。
2つ目は南西の高さ25mの急な川岸で、27の成熟したG. excelsaが見られました。それほど過酷な環境ではないにも関わらず、G. excelsaは小型でした。この場所のG. excelsaのサイズは直径37~45cm、葉の幅は7~8cm、葉の長さは20~30cmでした。この場所には背の高い茂みとまばらにある背の低い茂み、さらには3~4mの低木がある環境です。1才が3本、1~2才が3本、2~3才が4本、3~4才が3本と、幼体は豊富でした。
この場所には、Euphorbia pentagona、Euphorbia grandidens、Crassula lactea、Crassula muscosa var. polpodacea、Kalanchoe rotundifolia、Othonna dentata、Sansevieria hyacinthoides、Haemanthus albiflosが見られました。

著者は個体数と、1個体の1年に生産される種子の数から計算して、この地域内では1113万2275個の種子が生産されているとしました。この地域では、1年間に4個体の実生が生えているので、育つのは約30万種子に1つ程度であるとしています。
著者は湿った濾紙に100個のG. excelsaの種子を置いて、片隅を水に浸して発芽率を試験しました。すると、発芽しなかったのは2個だけでした。さらに、この2個はどうも置いた場所が悪く水分が足りていないようでした。つまり、発芽率はほぼ100%ではないかと推測しています。
種子が熟成する時期は湿潤期にあたり、発芽に適しています。しかし、人工的に種子を湿らせたら発芽するのに、野生では実生が見られないことを訝しんでいます。


以上が論文の簡単な要約となります。
大変申し訳ないのですが、私には英文の細かいニュアンスがいまいち捉えきれていないせいか、著者の疑問を今一つ理解出来かねる部分があります。私は野生環境では、実生が生えてもその後の乾燥などの要因でほとんどが枯死するだろうと割と安直に考えました。しかし、著者はそうではなくて、発芽自体がおこらないというような意味で言っているような気もします。その場合はどう考えたらよいのでしょうか? 
貯蔵種子という考え方もあります。すべての種子が一斉に発芽した場合、たまたま環境が悪化すると全滅してしまいます。しかし、発芽がばらつくことにより、良いタイミングで育つものも出て来ます。というように、実生よりも耐久性のある種子で環境の悪化をやり過ごす植物もあるのです。しかし、著者は発芽率を試験して、ほぼすべてが一斉に発芽することを確認しています。貯蔵種子ではないようにも思えますが、そう単純ではありません。種子の発芽を促す引き金は水だけではないからです。さらに、水が発芽の引き金である場合でも、水分をある一定以上吸わないと発芽しないなどの条件があるかもしれません。取り敢えずは、光や水分量などの条件を変えて、種子の発芽率が変わるかは見る必要があるでしょう。また、貯蔵種子の有効性を見るために、G. excelsaの自生地の土壌を採取して実験室で発芽するか、種子を様々な環境で保管しどのくらいの期間まで発芽能力があるかを調べることも重要です。
しかし、現状では情報が少な過ぎて良くわかりません。他にも情報がないか、もう少し調べてみるつもりです。


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千代田錦は日本国内でも昔から流通しているアロエの仲間です。しかし、最近は人気がないためかあまり見かけませんでした。ところが、何やらどこかのファームが大量に実生したみたいで、大型の千代田錦が園芸店に並んでいました。私も今年の3月に購入して育てています。千代田錦は葉が三方向に綺麗に並び、斑が非常に美しい多肉植物です。もっと人気が出ても良いような気がします。

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千代田錦 Gonialoe variegata

それはそうと、千代田錦は遺伝子解析の結果、2014年にアロエ属ではなくなりました。じゃあなんだと言われたらゴニアロエ属Gonialoeだということになります。やはりアロエに近縁ではありますが、アストロロバ属Astrolobaや新設されたツリスタ属Tulistaやアリスタロエ属Aristaloeとグループを形成します。

さて、そんな千代田錦ですが、何か情報はないかと論文を漁っていたところ、2003年に出されたPaul I. Forsterの『Variations on Aloe variegata, the partridge-breast Aloe』という論文を見つけました。表題の"partridge"とは「ヤマウズラ」のことですが、羽の模様からの連想でしょうか? タイガーアロエとも呼ばれます。

論文の内容に移りましょう。この論文が出された時点ではまだGonialoeではありませんから、論文の時の学名であるAloe variegataで解説します。
A. variegataは1685年にSimon van der Stelが南アフリカのNamaqualandに遠征した時に発見されました。Simonはオランダのケープ植民地の総督でした。どうやら、A. variegataは西洋で知られているアロエの最初の種類のひとつでした。この時の資料にA. variegataのイラストがありましたが、1932年まで出版されませんでした。

※補足説明 : van der Stelの調査の詳しい事情は、私も過去に調べたことがあります。Aloidendron dichotomumの最初の発見に関する記事でした。その記事では以下のような経緯を説明しています。
1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。

A. variegataを学術的に記載したの1753年のCarl von Linneですが、リンネ以前の最も初期の引用は1690年で、1689年には粗雑な図解がありました。A. variegataの園芸への導入は、1700年にアフリカ南部のコレクターから種子を受け取ったCasper Commelinであると考えられています。A. variegataは1753年にリンネにより記載されましたが、その種の基本となるタイプ標本※は指定されず、いくつかの引用からなっています。CommelinのA. variegataの図解や説明の中で、1706年の「Plantae Rariores et Exotica」の図をA. variegataのレクトタイプ※※として選択しました。この図は、2000年にGlen & hardyにより、イコノタイプ※※※として誤用され、2001年のNewtonはA. variegataはタイプ化されていないと誤って述べています。

※タイプ標本 : 新種を記載する際の、その生物を定義する標本(ホロタイプ)。
※※レクトタイプ : ホロタイプが失われたり、指定されていない場合に指定された標本。

※※※イコノタイプ : 新種指定の基準となった図のこと。

Aloe variegataの異名として、1804年に命名されたAloe punctata Haw.、1908年に命名されたAloe variegata var. haworthii A. Berger、1928年に命名されたAloe ausana Dinterが知られています。このA. ausanaは特に優れたタイプとされていたようで、葉がより直立して斑が大きいとされていたようです。しかし、このタイプが現在でも栽培されているかは定かではありません。

A. variegataはナミビア南部と南アフリカの西ケープ州、東ケープ州、自由州、北ケープ州に分布します。分布が広いため、様々な生息地で見かけることが出来ます。生育環境は主に粘土や花崗岩由来の土壌の低木地で見られます。雨は夏と冬に降り、気温は氷点下近くから夏には38℃を超えることもあります。

A. variegataは他のアロエとの交配種は少なく、1998年にForster & CummingによるAloe 'lysa'(A. variegata × A. bakeri)やAloe 'Versad'(A. variegata × 不明)が作出されています。また、オーストラリアのAtilla Kapitanyにより、生息地由来の種子より斑のない個体が得られ、Rudolf Schulzにより'Splash'の名前で販売されましたが、子株は斑入りに戻る可能性があります。
A. variegataはガステリアの交配親として利用されてきました。その多くは名前がなく、交配親もわかりません。主な品種は以下のものが知られています。
× Gasteria 'Orella'(A. variegata × G. batesiana)
× Gasteria 'Agate Chips'(A. variegata × G. bicolor var. bicolor)
× Gasteria mortolensis(A. variegata × G. acinacifolia)
× Gasteria pethamensis(A. variegata × G. carinata var. verrucosa)
× Gasteria pfrimmeri(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria radlii(A. variegataあるいはA. serrulata × 不明)
× Gasteria rebutii(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria sculptilis(A. variegata × G. ×cheilophylla)
× Gasteria smaragdina(A. variegata × G. ? candicans)


以上が論文の簡単な要約となります。
アロエよりガステリアとの交配が盛んなのは何故でしょうか。思うに、千代田錦はアロエ属よりもガステリア属の方が近縁なので、交配がスムーズなのかも知れませんね。
しかし、千代田錦の登場は18世紀から19世紀のヨーロッパの園芸界に、それなりのインパクトを与えたようです。1801年にSimsは「このアロエには非常に望ましい点が結合している」と述べ、1976年にはNobleが「おそらく英国で最も有名なアロエ」と見なし、非常に高い評価を受けています。久しぶりに千代田錦が流通したのですから、せっかくですから日本でも千代田錦の美しさを見直す時が来ているのではないでしょうか。


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最近、Aloe aristataという名前の多肉植物を入手しました。綾錦の名前でも知られています。近年、アロエ属からAristaloe属になりました。
グランカクタスの佐藤さんの図鑑では2つのタイプの写真が掲載され、交配種の可能性が指摘されていました。ひとつはトゲがないタイプで、もうひとつは
ハウォルチアの禾を思わせるトゲがあるタイプでした。私が過去に入手したのは、トゲがないタイプで非常に葉が硬いものでした。最新の遺伝子解析による分類では、AristaloeはAstrolobaやTulista、千代田錦(Gonialoe variegata=Aloe variegata)に近縁ですから、葉は硬いということは当たり前のことだと思っていました。逆にトゲがあるタイプは柔らかそうですから、ハウォルチア系との交配種かもしれないなんて思ったりもしました。
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綾錦?
トゲがなく葉が硬いタイプ。


しかし、自生地の写真を幾つか見てみると、どの写真を見てもややハウォルチアに似た姿で、トゲがあるタイプの方でした。思い込みはいけませんね。ちゃんと調べるべきでした。そんな折、先日開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールでAloe aristataが販売されていましたので購入しました。
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綾錦 
Aloe aristata=Aristaloe aristata

葉はしなやかでトゲがあります。特徴的に綾錦で間違いないでしょう。では、先に入手していた葉が硬いタイプのアロエは何者なのでしょうか? 綾錦と無関係とも思えませんが、何者かとの交配種である可能性が高いように思われます。そこで、まずはAristaloe aristataを調べてみることにしました。取り敢えずは、論文を探して見ました。出てきたのは、Colin C. Walkerの2021年の論文、『Aristaloe aristata : a unique, monotypic species』です。内容の簡単に要約します。

植物学者というよりはプラントハンターであったイギリスのJames Bowieにより初めて採取された植物は、1825年にイギリスのAdrian Hardy HaworthによりAloe aristata Haw.と命名されました。他にも、1829年にAloe longiaristata  Schult. & Schult.f.、1934年にAloe ellenbergii Guillauminと命名されましたが、これらは異名となっています。
2013年にはAstrolobaやGonialoe variegata(Aloe variegata, 千代田錦)とともにTulista属とされ、Tulista aristata(Haw.) G.D.Rowleyとする意見もありましたが、現在では認められておりません。
2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningと命名され、これが現在の綾錦の学名です。Aristata属はA. aristata1種類のみを含む属です。


 A. aristataは南アフリカ原産とレソトで、西ケープ州の東、南北ケープ、東ケープ、オレンジ自由州、KwaZulu-Natal南西部に至るまで、アフリカ南部に広く分布します。「暑く乾燥したカルー地域の砂質土壌、川沿いの森林の腐食質に富んだ日陰、レソトの高原にある草原など様々(Glen & Hardy, 2000)」であり、「標高は200mから2200m」かつ「アフリカ南部の最も寒い幾つかの地域にも発生(van Wyk & Smith, 2014)」ということですから、かなり環境の変化に対応できる様子が伺えます。
A. aristataの耐寒性が高いことは明らかですから、イングランド南部では屋外栽培も可能との報告があるそうです。著者はスコットランド中部で屋外栽培を試みましたが失敗した模様です。どうも、冬の雨がよろしくないみたいですね。

A. aristataは交配親としても使用されてきました。実は意外にもガステリア属との交配種があり、2013年にはG.D.Rowleyにより×Gastulistaとして19種類がリスト化されています。これは現在ではAristaloe × Gasteriaと見なされています。

簡単な論文の要約は以上です。
綾錦は非常に耐寒性があるとのことですが、私の交配系綾錦は氷点下でも耐えることが出来ます。ちゃんと親の性質を受け継いでいるのですね。そう言えば、私の所有する綾錦のようなものは論文にあるようにガステリア交配種なのでしょうか? 葉が硬くなる特徴はまさにガステリアの血を受け継いでいるからかもしれません。しかし、論文からヒントは貰いました。
ヒントを元にデータベースを調べ直しました。おそらくは、私の交配系綾錦は1931年に命名された× Gasteraloe Guillauminでしょう。キュー王立植物園のデータベースの× Gasteraloeは、なんと私の所有している綾錦系交配種とそっくりな画像が貼られていました。ただし、この× GasteraloeはGasteria × Aloe sensu lato(広義)であり、Aristaloeを分離出来ていない広義のアロエ属を示しています。論文で述べられていた× Gastulista G.D.RowleyはGasteria × Tulista sensu lato(広義)ですが、G.D. Rowleyの言うところのTulistaはAristaloeやGonialoeも含んだ広義のTulistaでしょう。確かに広義のTulistaにはAristaloeも含まれますが、G.D.Rowleyの主張する広義のTulista自体が認められておらず、本来は
Gasteria × Tulista sensu stricto(狭義)にのみ使用されるべきです。ですから、Gasteria × Aristaloeについての適切な学名が必要でしょう。


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「乙姫の舞扇」ことKumara plicatilisは、かつてAloe plicatilisと呼ばれていました。現在でも販売されている苗はAloe plicatilisの名札が付いています。以前、ネットに転がっているような情報については調べてまとめました。
しかし、それもイギリス王立植物園のデータベースと、南アフリカの生物に関する公的データベースを参照としましたから、情報量は国内とは比較にならないほど大きいものでした。しかし、最近では学者論文も参照にしていますから、Kumara plicatilisについても何かないか調べてみました。そんなこんなで見つけたのが、S. R. Cousins, E. T. F. Witkowski, M. F. Pfab, R. E. Reddles, D. J. Mycockの2013年の論文、『Reproductive ecology of Aloe plicatilis, a fynbos tree aloe endemic to the Cape Winelands, South Africa』です。論文のタイトルにはAloe plicatilisとありますが、Kumara plicatilisという学名が提唱されたのは2013年ですから、タイミング的にAloe plicatilisはこの時は正しい学名でした。まあ、AloeからKumaraに名前は変わっても、植物自体が変わったわけではありません。論文ではまだAloeですから、解説もA. plicatilisの表記でいきます。

DSC_1617
Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

さて、論文の内容ですが、A. plicatilisの繁殖について調査したものです。まずは、アロエの繁殖に関する研究について振り返ります。
調査が行われた南アフリカにはアロエが約140種確認されており、最もアロエの多様性が高い地域です。アロエは管状の鮮やかな花を咲かせる傾向があり、一般的に自家受粉しないため受粉は花粉媒介者(ポリネーター, pollinator)に依存します。多くのアロエは冬に開花して蜜を出すため、食糧の不足する冬の食糧源として重要です。アロエは鳥をポリネーターとする鳥媒花とする種類については複数の研究があります。長い管状の花を咲かせるアロエは濃い蜜を少な目に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥をポリネーターとしています。対して、短い花のアロエは薄い蜜を大量に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥ではなく、専門ではない鳥をポリネーターとしています。
この時、なぜ太陽鳥が受粉に寄与しないかを調べた論文については、過去に記事にしたことがあります。

アロエの種子は通常は長さ3~5mmで、2つの翼(一部の種は3翼)を持つものは風で散布されます。しかし、翼がない種は親植物の近くで育ちます。アロエは豊富に種子を生産しますが、発芽は雨に依存しており新しい苗は希です。アロエの種子は通常3週間以内に発芽し、1年後では大幅に発芽力が低下することがあるそうです。アロエの苗は、強光や暑さ、乾燥、霜、食害から保護してくれる他の植物が重要です。

A. plicatilisはケープのフィンボスに自生する唯一の樹木アロエです。A. plicatilisはケープ南西部のWinelandsの山岳地帯に分布が制限されています。標高は200~950mです。この地域は地中海性気候で、乾燥した夏(平均気温15~25℃)と雨の多い冬(平均気温7~15℃)がある環境です。自生地は急な岩だらけの斜面で、水捌けのよい酸性土壌です。10~3年間隔で夏に火災が発生します。
A. plicatilisは生長が遅く、2つに分岐する枝を持ち、葉は扇形になり12~16枚です。茎の直径は15cmまで、高さは80cmほどで成熟します。成体の高さの平均は1.5mほどですが、最大で5mに達する可能性があります。
花は円筒形で長さ5cm程度で、15~25cmの総状花序に25~30個の緋色の花が咲きます。A. plicatilisは8~10月(時に11月)に開花し、11月上旬に結実します。実は12~1月に裂開し、種子には翼があります。


著者はA. plicatilisのポリネーターを調査しました。方法は一部の花に網をかけて鳥や小型哺乳類を排除し、結実する季節に観察を実施するという割とアバウトなものです。結実は①排除なし、②鳥や小型哺乳類の排除、③すべてのポリネーターの排除という3パターンです。結果は、①>②>③の順番でした。A. plicatilisの場合、鳥や小型哺乳類の排除は結実にあまり影響を与えていないことが示されており、A. plicatilisの主たるポリネーターは昆虫である可能性があります。おそらくは、主要なポリネーターはミツバチと考えられます。
しかし、①の排除なしは②より高いため、昆虫だけではなく鳥も重要かもしれません。A. plicatilisの花を訪れた鳥は太陽鳥ですが、筒状の花の形状から太陽鳥以外の鳥は採蜜が難しいので、太陽鳥が受粉の効率を高める効果があるのかもしれません。

さらに、種子がどれくらい散布されるのかを確認しています。方法は実際の自生地で0.8mの高さから種子を落として、どの程度種子が拡散するかを計測しています。結果は、平均風速が遅い地域では1.3m、早い地域では15.3mに達しました。
この種子散布の1年後に土壌を採取し、温室で水を与えましたが、実生は生えてきませんでした。種子の寿命は1年もないことになります。散布後6ヶ月では少数の発芽があっただけで、種子は土壌中で長く生存しないことがわかりました。


採取した種子を、室内の冷暗所に保存した場合に発芽するかを試験しました。やはり、温室で水を与えましたが、発芽までの期間は3ヶ月保存では0.8週、18ヶ月保存では2.5週、24ヶ月保存では2.3週かかりました。
ここで面白いことがわかりました。6週間保存した新しい種子は発芽率が28%と非常に低いというのです。しかし、種子を調べると(種子の活性を調べるテトラゾリウム試験)、発芽能力があることがわかりました。どうやら、種子は散布された後に熟成される必要があるようです。また、室内で管理した種子は長期保存しても発芽したため、自生地の環境が種子の保存に適していないことが考えられます。

論文の簡単な要約は以上となります。
このように生態を詳しく調査することにより、植物の保護に対する重要な情報を提供します。例えば、今回のA. plicatilisの場合、種子の保存安定性があまり良くないことがわかりました。もし、植物の保護や繁殖を考えた時に、種子の保存は必然的です。事前に参照可能な情報があるとないとでは、大きな違いがあります。このような地道な研究が貴重な生物の未来を支える礎となるかもしれないのです。



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Gasteria baylissianaは群生する小型のガステリアです。学名は1977年にRauhにより記載されました。しかし、このG. baylissianaの発見と命名には多少の前日譚があるようです。 そのことについて書かれたGideon F. Smith, Elsie M. A. Steyn & E. van Wykによる1999年の報告書、『359. GASTERIA BAYLISSIANA』をご紹介します。

DSC_1954
Gasteria baylissiana

Gasteria baylissianaは1960年にJohn Truterにより発見されました。Truterは南アフリカの東ケープ州、Suurberg山脈近くの農家で、多肉植物愛好家でした。Truterは偶然Suurbergの斜面でG. baylissianaを見つけ、Brand van Bredeに識別のために送りましたが、残念ながら命名はなされませんでした。
1965年に熱心な植物探検家のRoy Douglas Abott Bayliss大佐は、Suurberg付近で10種類ほどの植物を採集しました。1972年頃、Bayliss大佐は生きた植物をドイツのWerner Rauhに送りました。この中にG. baylissianaが含まれており、1977年に正式に記載され、Bayliss大佐にちなんでGasteria baylissiana Rauhと命名されました。

ガステリア属は著者曰く「分類学者の悪夢」と言わしめるほどの混乱ぶりで、一握りの種類に対して100以上の学名がつけられていました。しかし、南アフリカの植物学者であるErnst van Jaarsveldにより、1992年にガステリア属の概要についての出版がなされ、以降はvan Jaarsveldによりガステリア属の整理が行われました。

G. baylissianaはBayliss大佐の努力により栽培法は確立されましたが、Suurbergでは野生個体は非常に稀となりました。van JaarsveldはTruterの助けを借りて、1986年にSuurbergでG. baylissianaを4個体採集しました。van Jaarsveldは採集した4個体とBayliss採集個体の子孫を組み合わせて他家受粉による種子を取ることに成功しました。最終的に英国のサボテン・多肉植物協会(BCSS)による援助により、1993年にvan JaarsveldはG. baylissianaの自生地に210個体の繁殖したG. baylissianaを移植しました。

G. baylissianaは9~11月(春~初夏)に開花し、10月にピークを迎えます。
G. baylissianaは種子、挿し木、葉からでも簡単に増やすことが出来ます。葉は1週間ほどで容易に発根します。
G. baylissianaは非常に干魃に強いにも関わらず、日陰を好みます。


以上が簡単な要約となります。
Gasteria baylissianaの命名にもそれなりのドラマがありました。発見されたものの命名されず、17年後に第一発見者ではない採集個体から命名されるという数奇な運命をたどりました。また、自生地の野生個体の減少から、研究者自らG. baylissianaの保護が行われたことも印象的です。G. baylissianaの保護のための援助を行った英国のサボテン・多肉植物協会(BCSS)は、趣味家を対象とした民間団体ですから、イギリスは趣味家の力が強いですね。見習いたものです。



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昨日はアロエ類の蜜の組成について記事にしましたが、今日はその続きです。具体的には1993年のNectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』と、一部は2001年のInfrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』のデータをご紹介します。
まずは近年のアロエ類の遺伝子解析の結果を示します。今回の論文は遺伝子解析前のものなので、古い分類となっています。私の記事では気が付いたものは最新の分類に修正しています。


分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文では蜜に含まれる糖の組成を解析しています。【Fructose, Glucose, Sucrose】の順番に糖の比率を示しています。Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。

Astroloba、Aristaloe、Gonialoe、Tulistaは近縁なグループです。
Astrolobaは虫媒花ですが、基本的に白花です。蜂は色のついた花に来ますから、Astrolobaに来るのは蛾あるいは蝿や虻なのかもしれません。
また、遺伝子解析の結果からPoellnitziaはAstrolobaに含まれることになりました。しかし、Poellnitziaは赤い花が咲かせ、鳥媒花とされているようです。論文によると、Astrolobaは果糖の比率は低くショ糖の比率が高い傾向がありますが、Poellnitziaはショ糖はなく果糖とブドウ糖の比率が高くなっています。よく見ると、Poellnitziaの蜜の組成はAloe(狭義)によく似ています。Aloeは鳥媒花ですから鳥が好む糖の組成なのかもしれません。
Aristaloeはデータがありません。GonialoeはAstrolobaに組成はよく似ています。Gonialoeも赤花です。
Tulistaは典型的なHaworthia型の花で目立たない白花です。蜜の組成は果糖が少なくショ糖が多くなっています。しかし、Haworthia(狭義)と比較するとブドウ糖が低く、成分はAstrolobaに近縁です。

Astroloba
A. congesta【4%, 32%, 64%】
A. foliolosa【4%, 16%, 80%】
A. spiralis【2%, 13%, 85%】

旧・Poellnitzia
A. rubriflora①【48%, 52%, - %】
A. rubriflora②【47%, 53%, - %】

DSC_1835
Poellnitzia rubriflora
=Astroloba rubriflora


Gonialoe
G. variegata【45%, 55%, - %】

Tulista
T. minima【7%, 24%, 69%】
T. pumila① 【1%, 14%, 85%】
T. pumila② 【3 %, 17%, 80%】
T. pumila③ 【7%, 19%, 74%】


DSC_0900
Gonialoe variegata

DSC_0788
Tulista pumila

HaworthiopsisとGasteriaは姉妹群です。Haworthiopsisはややまとまりがありませんが、Gasteriaはよくまとまった分類群です。
Gasteriaは分布と分類がリンクしています。Gasteriaは南アフリカの原産で、西部→南西部→南部→南東部→北東部という風に、分布を広げながら進化したようです。論文で扱われたGasteriaは、西部にはG. pillansii、南西部にはG. vlokii、G. brachyphylla、G. carinata、G. disticha、南部にはG. rawlinsonii、南東部にはG. excelsa、G. actinacifoliaがあります。また、G. maculataは現在ではG. oliquaのことです。
西部と南西部のGasteriaはショ糖が低く、南部と南東部のGasteriaはショ糖がやや低めの傾向です。まあ、調べた種類が少ないので断言出来ませんが…
Gasteria全体としてはAstrolobaに近縁ですが、ブドウ糖の比率は低い傾向があります。ショ糖に特化したグループと言えます。ただし、Gasteriaは鳥媒花ですが、ショ糖の比率が低いAloe(狭義)やPoellnitziaとは異なる組成です。糖の組成は花粉媒介者の好みを反映していないのでしょうか? ただの系統関係の遠近を示すだけなのでしょうか?

Gasteria
G. acinacifolia【10%, 14%, 76%】
G. baylissiana【2%, 4%, 94%】
G. brachyphylla【1, 1, 98】
G. carinata【5,% 8%, 87%】
G. disticha【2%, 4%, 94%】
G. excelsa【7%, 9%, 84%】
G. maculata
   var. maculata【2%, 2%, 96%】
G. maculata
   var. liliputana①【7%, 8%, 85%】
G. maculata
   var. liliputana②【6%, 7%, 87%】
G. pillansii【2%, 3%, 95%】
G. pulchra【6%, 8%, 86%】
G. rawlinsonii【12%, 13%, 75%】
G. vlokii【5%, 9%, 86%】
DSC_1954
Gasteria baylissiana

HaworthiopsisはGasteriaと蜜の組成の傾向は似ていますが、どちらかと言えばAstrolobaに似ています。Haworthiopsis自体は虫媒花でしょう。同じ虫媒花であるAstrolobaやTulistaのグループとHaworthiopsis+Gasteriaのグループが別れた時の祖先的な蜜の組成が残存しているのかもしれません。
H. koelmaniorumはややHaworthiopsisからやや遺伝的距離が離れています。しかし、糖の組成はHaworthiopsisとしては普通です。

Haworthiopsis
H. glauca【1%, 19%, 80%】
H. granulata①【5%, 25%, 70%】
H. granulata②【4%, 24%, 72%】
H. koelmaniorum【5%, 23%, 72%】
H. limifolia①【4%, 41%, 55%】
H. limifolia②【3%, 24%, 73%】
H. longiana【3%, 20%, 77%】
 H. nigra【 - %, 25%, 75%】
H. tessellata①【1%, 29%, 70%】
H. tessellata②【2%, 24%, 74%】
H. viscosa【2%, 32%, 66%】
H. woolley【1%, 22%, 77%】
DSC_1948
Haworthiopsis koelmaniorum

DSC_1796
Haworthiopsis nigra

以上が論文に示されたデータの結果です。解説は私の個人的な考えですから、論文の著者の考えではありませんからご注意下さい。
しかし、かねてよりの懸案であったAloeとPoellnitziaについての蜜の組成が示すことができてすっきりしました。逆にGasteriaについては、鳥媒花なのに糖の組成が同じ鳥媒花であるAloeやPoellnitziaとは異なる結果でしたが、この謎に対する答えを私は持ち合わせておりません。引き続き調査が必要でしょう。



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花は受粉のために動物を利用しますが、その報酬として蜜を用意しています。実はこの花の蜜は、種類ごとに成分が異なるという論文を以前紹介しました。

以前の記事では、HaworthiaやAstroloba、Chortolirionについて調べたGideon F. Smith, Ben-Erik van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』をご紹介しました。
実はここ10年でアロエやハウォルチアなどを含むアロエ類は、遺伝子解析により大幅に変更されました。そのため、アロエ類のメンバー全体についての情報が欲しかったのです。しかし、よく調べたところ、1993年に
Ben-Erik van Wyk, Charles S. Whitehead, Hugh F. Glen, David S. Hardy, Ernst J. van Jaarsveld & Gideon F. Smithの『Nectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』というが出ていたことに気がつきました。2001年の論文では調べていないアロエ属や個人的に懸案のPoellnitzia rubrifloraについても解析しています。
まずは、近年の遺伝子解説によるアロエ類の分子系統を示します。アロエ属(広義)はAloe(狭義)、Kumara、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoeに分割され、逆にLomatophyllumとChortolirionがアロエ属に統合されました。さらに、ハウォルチア属(広義)は軟葉系はHaworthia(狭義)に、硬葉系はHaworthiopsisとTulistaに分割されました。なお、PoellnitziaはAstrolobaに含むものとされています。
さて、ではこれらの分類と蜜の組成には関連があるのでしょうか?


アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文は1993年と当時の分類に従っています。しかし、現在では分類体系は大きく変わりました。
最新の遺伝子解析の結果に従って、論文の内容を再構成します。学名の後に、蜜に含まれる糖の組成を以下の順に示します。

【Fructose, Glucose, Sucrose】Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。


まずは、アロエ類の中で一番祖先的な"Tree Aloe"、つまりはAloidendronから。論文ではAloe ramosissimaとなっていますが、現在はAloidendron ramosissimumとなりました。
糖の組成はアロエ属(狭義)に近い値です。しかし、アロエ属(狭義)と比較すると、果糖がやや高くブドウ糖がやや低いことに気がつきます。たいした違いではないように思えますが、アロエ属(狭義)は39種類47検体も調べていますから、その値から多少とは言え逸脱していることには何か意味があるような気がします。
A. ramosissimum【55%, 45%, -%】


DSC_1221
Aloidendron dichotomum

次にKumaraとHaworthia(狭義)は近縁ですが、残念ながらKumaraはデータがありません。Haworthia(狭義)は5種類を調べています。
Haworthia(狭義)は割と組成がばらつきます。果糖は少なめですが、H. herbaceaは19%とやや高めです。これはアロエ属(狭義)とはかなり異なる組成ですが、これを鳥媒花のアロエ属(狭義)と虫媒花のハウォルチア属(狭義)の違いと見ることはできるのでしょうか。
H. arachnoidea【13%, 51%, 36%】
H. bolusii【6%, 39%, 55%】
H. comptoniana【4%, 54%, 42%】
H. cooperi【5%, 39%, 56%】
H. herbacea【19%, 46%, 35%】
DSC_1945
Haworthia arachnoidea

次にアロエ属(狭義)とAloiampelosについて見てみましょう。論文で分析されたアロエ属は47検体ですが、6検体は重複、2検体は変種です。また、現在はAloe ramosissimaはAloidendron ramosissimumに、Aloe variegataはGonialoe variegataとなっていますから、この一覧からは除外しました。また、現在はアロエ属とされるLomatophyllumは1種類2検体、Chortolirionは1種類3検体を調べています。Chortolirion angolensisは、現在ではAloe welwitschiiとされています。
Aloe37種類2変種の糖の組成は【40~51%, 47~60%,  - ~4%】でした。アロエ属はショ糖の割合が少ないことが特徴です。果糖とブドウ糖は半々くらいで、種類の違いによる変動幅は小さいと言えます。気になるのは、小型種であるA. bowieaが中型~大型種と糖の組成が変わらないことです。大型アロエは鳥媒花で、小型アロエは虫媒花なのではないかと思われますが、蜜の組成に違いはないのは不思議です。A. haworthioidesなどの他の小型種についてどうなのか知りたいところです。
Lomatophyllumの蜜の組成は完全にアロエ属の範囲内でした。形態的に特殊化したLomatophyllumが蜜の組成では変わっていないのは意外です。しかし、Chortolirionはショ糖の比率が70%を超えており、明らかアロエ属から逸脱しています。私はChortolirionについては知識がないため、その理由を推測出来ません。
Aloe ciliarisは現在ではAloiampelosとなっています。Aloiampelosの糖の組成は、アロエ属(狭義)の組成の幅に収まります。

A. abyssinica【47%, 49%, 4%】
A. aculeata【45%, 55%, - %】
A. affinis【46%, 53%, 1%】
A. arborescens①【45%, 55%, -%】
A. arborescens②【46%, 53%, 1%】
A. asperifolia【46%, 51%, 3%】
A. bellatula【49%, 51%, -%】
A. bowiea①【51%, 49%, - %】
A. bowiea②
【49%, 51%, - %】
A. branddraaiensis【40%, 60%, - %】
A. capitata
【47%, 53%, - %】
A. castanea
【46%, 52%, 2%】
A. citrina
【49%, 47%, 4%】
A. dewinteri
【48%, 49%, 3%】
A. divaricata
【46%, 54%, - %】
A. erinacea
【46%, 54%, - %】
A. fourei【47%, 50%, 3%】
A. gariepensis【49%, 51%, -%】
A. greatheadii
     var. greatheadii【48%, 50%, 2%】
A. greatheadii
     var. davyana【49%, 49%, 2%】
A. hardyi【46%, 54%, - %】
A. hereroensis
     var. hereroensis【47%, 52%, 1%】

A. humilis【47%, 53%, - %】
A. littoralis【46%, 50%, 4%】
A. lutescens【47%, 52%, 1%】
A. massawana【46%, 53%, 1%】
A. melanacantha【47%, 52%, 1%】
A. meyeri【49%, 50%, 1%】
A. microstigma【50%, 50%, - %】
A. monotropa【47%, 52%, 1%】
A. mutabilis【44%, 56%, - %】
A. nubigena【48%, 51%, 1%】
A. pachygaster【49%, 51%, - %】
A. parvibracteata【45%, 55%, - %】
A. pearsonii(赤花)【47%, 51%, 2%】
A. pearsonii(黄花)【50%, 50%, - %】
A. perfoliata【48%, 49%, 3%】
A. petricola【48%, 52%, - %】
A. pictifolia【48%, 52%, - %】
A. sinkata【42%, 57%, 1%】
A. speciosa【48%, 52%, - %】
A. suprafoliata【49%, 50%, 1%】
A. thompsoniae【48%, 49%, 3%】
A. tricosantha①【46%, 53%, 1%】
A. tricosantha②【47%, 52%, 1%】
A. tricosantha③【46%, 53%, 1%】
A. vanbalenii【45%, 55%, - %】
A. vaombe【45%, 55%, - %】
A. vera【46%, 54%, - %】
A. verecunda【48%, 52%, - %】

DSC_0066
Aloe arborescens

旧・Lomatophyllum
A. purpurea①【51%, 49%, - %】
A. purpurea②【50%, 50%, - %】

旧・Chortolirion
A. welwitschii①【8%, 21%, 71%】
A. welwitschii②【8%, 19%, 73%】
A. welwitschii③【7%, 20%, 73%】

Aloiampelos
A. ciliaris【49%, 49%, 2%】


記事が長くなってしまいました。Astroloba以下については、明日続きをご紹介します。


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多肉植物たちも1年経てば、それぞれの速度で生長していきます。私の育てている多肉たちも、生長が早いもの遅いもの、去年はいまいちでも今年はよく生長したもの、逆に去年はよく生長したのに今年はいまいちだったものなど、一株一株皆異なり様々です。
最近、寒くなり室内に多肉植物たちを取り込みましたから、毎日じっくり見る時間が出来ました。普段は帰宅すると暗くてよく見えず、休日に見るくらいですが、暑いわ蚊は出るわで中々じっくり多肉植物たちを見られませんでしたから。
寒さによって生長は鈍り、種類によっては完全に生長が止まったものもあるでしょう。この1年の生長を振り返る良い機会です。本日は我が家のアロエについて、少し振り返ります。まあ、それほど沢山のアロエを育てているわけではありませんが、アロエは丈夫なものが多く生長も早いので、なんと行っても目に見えて大きくなりますから育てる喜びがあります。そんな我が家のアロエたちを少しご紹介しましょう。

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2021年の12月に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで購入したAloe pegleraeです。まだ若く葉の枚数が少ないため、A. pegleraeらしさはありません。

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最近のAloe peglerae。見違えるように葉が増えました。葉の枚数が増えたので、葉がやや内側に巻いてきて、少しA. pegleraeらしくなってきました。トゲも強くなり、赤味が増して荒々しさが出ています。

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同じく2021年の12月のCactus & Succulentフェアで入手したAloe spectabilisです。A. pegleraeを購入したオマケでいただいた抜き苗です。真冬に植え込みましたから少し心配でした。
二列性と言って、アロエは苗の頃は葉が左右に並びますが、ご覧の通り見事な二列性の苗でした。

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最近のA. spectabilis。葉が旋回を始めました。葉の幅がかなり広くなり、A. spectabilisらしさが出てきました。まあ、A. spectabilisは高さ5メートルになる巨大アロエですから、まだまだ赤ちゃんみたいなものでしょうけど。

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2022年の2月に鶴仙園池袋店で購入したAloe somaliensis。冬なので乾かしぎみ、あるいは断水管理なのかもしれません。カリカリに乾いて、葉が巻いています。

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夏のA. somaliensis。あまりの強光に焦げて外側の葉をやられてしまいました。

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最近のA. somaliensis。焦がしてから遮光して、ようやく落ちつきました。来年は葉の枚数を増やしたいものです。

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2020年の1月に埼玉のシマムラ園芸で購入したAloe aristata。今は属が変更されてArirtaloe aristataです。カチカチに硬いタイプです。
※おそらくはGasteriaとの交配種の可能性あり。

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最近のA. aristata。すっかり葉が増えて同じ種類には見えません。隠れていますが、根元から幾つか小さい子を吹いています。

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2022年の4月に五反田で開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入したAloe parvula。寒さにすっかり赤くなっていました。写真ではわかりませんが、葉先はだいぶ枯れ込んでいました。凍みてしまう一歩手前に見えましたが、さてどうなるやら。

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最近のA. parvula。中々、赤味が抜けなくて苦労しましたが、ご覧の通り葉も増えて美しい緑色を取り戻しました。こういうしなやかな葉のアロエは気に入っています。

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2020年の3月に横浜のコーナン港北インター店で購入したAloe haworthioides。柔らかい小型アロエです。この時点では3株でした。

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最近のA. haworthioides。8株に増えました。

室内に取り込んだ多肉植物を眺めていると、ああ随分生長したなあと思います。今回、あまり変わっていなように見えても、昔の写真と比較すると思いの外生長していて驚いたりもしました。
そういえば、我が家の多肉植物に冬型はほとんどありません。ですから、基本的に冬はお休みの季節です。ブログも論文の紹介などがメインになるかもしれません。 

論文の紹介は私の記事としてはあまり人気はありませんが、重要なことが書かれており、私は個人的に面白くて仕方がないので是非内容を共有したいと考えています。学術論文だからと言って真面目に構えて読む必要はなく、流し読む位の気楽なものと捉えてほしいのです。科学研究は研究者だけの独占物ではなく、社会に還元することが求められます。それは、必ずしも実社会で実用的である必要はなく、書籍や大学のホームページなどで研究成果を説明していただくだけでも意味があると思います。しかし、すべての研究者の業績が書籍となるわけではなく、若手研究者や海外の研究については学術論文以外では知る術がないのが現状です。といったところで、学術論文を検索するのはハードルが高いかもしれません。ですから、あくまで私の興味のある部分だけではありますが、多肉植物の論文をこれからも紹介していきたいと考えております。



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Aloidendron dichotomumは代表的な木性アロエです。原産地では巨大に育つことで有名です。現在はアロイデンドロン属とされていますが、かつてはAloe dichotomaと呼ばれていました。
本日はA. dichotomumの発見と命名の経緯について書かれたColin C. Walkerによる2021年の論文『Aloidendron dichotomum The archetypal tree aloe』をご紹介します。私の所感や他の著者の論文による遺伝子解析の情報も追加しました。


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Aloidendron dichotomum

オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。van der Stelの日記には、A. dichotomumに対する記述があります。時に12フィートとなり、樹皮は硬いが中は柔らかく軽くスポンジ状つ、原住民は矢筒として利用されていることが記されています。これが、おそらくは最も古いA. dichotomumに対する記述でしょう。


次に南アフリカのA. dichotomumを訪れて記述したのは、Francis Massonです。MassonはJoseph Banks卿の命により、イギリス王立植物園のコレクションを強化するために南アフリカに派遣されたプラント・ハンターでした。Massonは数多くの新種の植物を発見しました。Massonは1774年にZwart Doon渓谷で新種のアロエを発見し、Aloe dichotomaと命名しました。 これが、A. dichotomumの最初の命名でしたが、Massonは当時の分類体系に正しく分類したことになります。

さて、A. dichotomumは初めて命名されて以来、200年以上A. dichotomaという学名でした。Aloidendronに移されたのが2013年のことでしたから、まだ10年も経っていないことになります。過去に出た図鑑もAloe dichotomaと表記していますし、販売される時にもAloe dichotomaの名札だったりしますから、Aloe dichotomaの方が馴染みがあります。ただし、現在のアロエ類の分類は、外見上の特徴ではなくて遺伝子解析の結果によりますから、より精度が高いものとなっています。ちなみに、Aloidendronとは、そのままTree Aloeという意味ですからわかりやすいですね。

アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━★Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

Aloidendronはイギリス王立植物園のデータベースでは7種類が登録されておりますが、論文では6種類について述べられています。
Aloidendronのうち、A. dichotomumに最も近縁と考えられているのが、Aloidendron ramosissimumです。そのため、2000年にはA. dichotomaの変種、2002年には亜種とする考え方も提案されました。しかし、現在ではそれぞれ別種とされております。両種ともに南アフリカのケープ州からナミビアにかけて分布します。A. ramosissimumは枝分かれして高さ3mほどのブッシュ状となり主幹を持たないため、A. dichotomumとは異なり樹木というよりは低木とした方が正しいようです。
同じく南アフリカのケープ州からナミビアに分布するのが、絶滅の危機に瀕しているAloidendron pillansiiです。やはり、2002年にはAloe dichotomaの亜種とする意見もありました。A. pillansiiは幹は直立しますが、枝は少ないようです。また、花序は水平方向に伸びるらしく、花序が直立するA. dichotomumとの区別は簡単です。
他のAloidendronはA. dichotomumとは地理的に離れています。アフリカ南東部にはAloidendron barberaeとAloidendron tongaensisが分布します。A.tongaensisは南アフリカのKwaZulu-Natal州からモザンビークまで、A. barberaeは南アフリカの東ケープ州からKwaZulu-Natal州、北部州、スワジランド、モザンビークまで広く分布します。しかし、論文では2015年のvan Jaarsveldはモザンビークの分布を主張しましたが、2019年のWalkerの報告ではモザンビークでのA. barberaeの存在を確認出来ませんでした。A. barberaeは高さ18mになり、花のサイズとピンクがかった花色でA. dichotomumと区別されます。2010年に発見されたばかりのAloidendron tongaensisは、A.barberaeに似ていますが高さは8mほどです。黄色がかったオレンジ色の花が特徴です。
他のAloidendronとさらに地理的に隔離されているのが、Aloidendron eminensです。A. eminensはソマリアの固有種で分布は非常に狭いと言います。高さは15mまでの直立した幹を持ち、赤色の花を咲かせます。
最後に論文には記載がない7種類目は、Aloidendron sabaeumです。発見は1894年ですがAloidendronとされたのは2014年のことです。驚くべきことにA. sabaeumはアフリカ原産ではなく、サウジアラビアとイエメンに分布します。高さは5mほどで、垂れ下がる葉を持ちます。花は赤色から赤褐色です。ここまではカタログ・データですが、A. sabaeumの画像がいまいち見つかりません。ひょろひょろと細長く伸びて枝分かれしないミニチュアのヤシのような画像は出てきます。生長しても分岐せずに、姿は変わらないのでしょうか?

論文の内容は以上です。多少情報を追加しましたが、Aloidendron dichotomumの発見の経緯などはまったく知らなかったので、私は非常に面白く論文を読みました。こういう話はデータベースを漁るだけでは得られませんから、著者には感謝ですね。
また、この他にもA. dichotomumの絵が書かれた経緯などもありましたが割愛しております。悪しからず。



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草花の花は美しく私達の目を楽しませてくれますが、植物達は私達を楽しませるために花を咲かせているわけではありません。受粉のために昆虫や鳥などを呼び寄せる際の目印として、目立つ花を咲かせているのです。もちろん、植物は花粉を運んでもらう報酬として、甘い蜜を準備しています。花に集まる昆虫や鳥もタダ働きは御免でしょうから、働きに見合う甘い蜜は必要なのです。
最近は多肉植物の花の受粉に関する論文を記事としてご紹介してきました。これまでの記事は花粉を運ぶポリネーターについての話でした。少し視点を変えて、本日はこの甘い蜜のお話をしましょう。

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Haworthiopsis scabra

よく考えてみると、花の話題はあっても、花の蜜の話題はあまり聞かない気がします。まあ、我々が直に花の蜜を吸うわけではないので、花の蜜と言えば蜂蜜くらいなものですからね。
ポリネーター(花粉媒介者)に対するアピールとして重要なのは、花の色や大きさ、形状です。花の色によって反応するポリネーターは異なります。しかし、花の蜜の成分はどうでしょうか。植物により異なるのでしょうか。あるいは、その成分とポリネーターの種類には相関があるのでしょうか。
とりあえず、多肉植物の蜜に関する論文を漁ってみたところ見つけたのが、G. F. Smith, B-E. van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』です。

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Haworthiopsis attenuata

まず、アロエ類についておさらいしましょう。アロエ類とは、古典的な分類ではAloe(広義)、Haworthia(広義)、Gasteria、Astrolobaからなる植物です。しかし、最近では遺伝子解析の進展により、Aloe(広義)は解体されてAloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Gonialoe、Arirtaloeとなり、Haworthia(広義)も、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。しかし、この論文が出た時点ではここら辺の話はまだ出て来ておりませんでした。むしろ当時の問題点は、球根様のChortolirionや液果を持つLomatophyllumはAloeか否かとか、花が異なるPoellnitziaがAstrolobaか否かということでした。これらは研究者によって見解が異なるため、かなりの議論があったようです。現在では、遺伝子解析により、ChortolirionやLomatophyllumはAloeの、PoellnitziaはAstrolobaの特殊化したものに過ぎないことがわかりました。さて、前提はここまでにして、論文の内容に移りましょう。花の蜜を分析して、蜜に含まれる糖の種類の割合を算出しています。蜜に含まれる糖は、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ショ糖(スクロース)です。以下の一覧は、2001年当時ですから学名が現在と一部異なります。括弧の中は【フルクトース, グルコース, スクロース】の割合(%)を示しています。

Haworthia亜属(=狭義のHaworthia)
1   H. angustifolia             【 4, 48, 48】
2   H. angustifolia
       fa. baylissii                 【10, 25, 65】
3   H. arachnoidea①        【13, 51, 36】
4   H. arachnoidea②        【  5, 50, 45】
5   H. blackburniae           【24, 43, 33】
6   H. bolusii                      【  6, 39, 55】
7   H. comptoniana          【  4, 54, 42】
8   H. cooperi                    【  5, 39, 56】
9   H. cymbiformis
     var. cymbiformis          【14, 55, 31】
10 H. decipiens①             【  7, 51, 42】
11 H. decipiens②             【  9, 61, 30】
12 H. divergens                 【16, 52, 32】
13 H. emelyae①               【  8, 54, 38】
14 H. emelyae②               【12, 59, 29】
15 H. habdomadis
       var. morrisiae              【  2, 48, 50】
16 H. herbacea                  【19, 46, 35】
17 H. maculata①              【17, 49, 34】
18 H. maculata②              【16, 58, 26】
19 H. margnifica
       var. maraisii                 【  1, 50, 49】
20 H. marumiana               【16, 54, 30】
21 H. maughanii                 【  7, 58, 35】
22 H. nortierii                      【20, 60, 20】
23 H. pubescens                【11, 46, 43】
24 H. retusa                        【  4, 44, 52】
25 H. retusa
       var. dekenahii              【10, 39, 51】
26 H. rycroftiana                【  6, 57, 37】
27 H. semiviva                    【16, 52, 32】
28 H. truncata                     【  7, 47, 46】
29 H. unicolor                      【  5, 45, 50】
30 H. xiphiophylla               【25, 48, 27】
31 H. glauca                         【  1, 19, 80】

いわゆる軟葉系ハウォルチア、狭義のHaworthiaはグルコースあるいはスクロースが主成分です。フルクトースは少ないのですが、多いものでも25%程度です。

Hexangulares亜属(=Haworthiopsis)
32 H. koelmaniorum①    【  5, 23, 72】
33 H. koelmaniorum②    【  8, 28, 64】
34 H. limifolia
        var. limifolia①           【  4, 41, 55】
35 H. limifolia
        var. limifolia②           【  3, 24, 73】
36 H. limifolia
        var. limifolia③           【11, 29, 60】
37 H. limifolia
        var. gigantea             【  4, 34, 62】
38 H. longiana①              【  3, 20, 77】
39 H. longiana②              【  7, 19, 74】
40 H. nigra                        【   - , 25, 75】
41 H. venosa
     subsp. granulata①     【  5, 25, 70】
42 H. venosa
     subsp. granulata②     【  4, 24, 72】
43 H. venosa
     subsp. granulata③     【  8, 30, 62】
44 H. venosa
     subsp. tessellata①    【  1, 29, 70】
45 H. venosa
     subsp. tessellata②    【  2, 24, 74】
46 H. viscosa①               【  2, 32, 66】
47 H. viscosa②               【  4, 33, 63】
48 H. woolley                   【  1, 22, 77】

硬葉系ハウォルチア、つまりはHaworthiopsisはスクロースが主成分です。狭義のHaworthiaとの違いが目立ちます。
Haworthiopsisの中でもH. koelmaniorumやH. limifoliaは遺伝子解析の結果では、やや位置が異なると見られていますが、蜜の成分はHaworthiopsisとしては普通です。

Robustipeduculares亜属(=Tulista)
49 H. minima                  【  7, 24, 69】
50 H. pumila①               【  1, 14, 85】
51 H. pumila②               【  3 , 17, 80】
52 H. pumila③               【  7, 19, 74】

Tulistaはサンプルが少ないのが残念ですが、スクロースの比率が非常に高いようです。実はTulistaは狭義のHaworthiaやHaworthiopsisより、AstrolobaやArirtaloeと近縁です。
ちなみに、H. minimaは現在ではTulista minorとされています。

交配種など
53 H. woolley
         × H. sordida           【  4, 29, 67】
54 H. viscosa
         × H. longiana         【  8, 27, 65】
55 H. subg.
   Haworthia sp. nov.     【  6, 55, 39】
56 H. tortuosa                【11, 31, 58】
57 H. mcmurtryi             【  7, 26, 67】

Astroloba
58 A. bullulata                【20, 46, 34】
59 A. spiralis
      subsp. spiralis          【  2, 13, 85】
60 A. spiralis
      subsp. foliolosa①   【  4, 16, 80】
61 A. spiralis
      subsp. foliolosa②   【  7, 29, 64】
62 A. spiralis
      subsp. foliolosa③   【  9, 32, 64】

Astrolobaはスクロースの比率が高いようです。A. bullulataは異なります。
ちなみに、A. spiralis subsp. foliolosaはA. foliolosaとして独立種とされています。

Chortolirion
63 C. angolense①        【  8, 21, 71】
64 C. angolense②        【  8, 19, 73】
65 C. angolense③        【  7, 20, 73】

Chortolirionはスクロースの比率が高いようです。Chortolirionは現在はAloeとされていますが、Aloeの蜜の成分と比較したいところです。

蜜の糖の成分がこれ程、属ごとに異なるとは思いませんでした。むしろ、種類ごとにバラバラでもおかしくはないと思っていました。意外です。
蜜の成分とポリネーター(花粉媒介者)との関係性はどうなのでしょうか? 大型アロエは鳥媒花ですが、Chortolirionはわかりませんが同じ鳥媒花だとしたらスクロース比率が高いのでしょうか。しかし、Haworthia、Haworthiopsis、Astrolobaは虫媒花ですが、割と成分の比率は異なります。ただし、ターゲットの昆虫が異なる可能性はあり、蜜の成分の違いと花に集まる昆虫の関係性も気になります。
最大の疑問はAstroloba rubrifloraの蜜の成分でしょう。A. rubrifloraはかつてPoellnitziaとされていました。これは、白花で虫媒花であるAstrolobaに対し、赤い花で鳥媒花のPoellnitzia rubrifloraという違いがあったためです。ポリネーターが異なることと蜜の関係性が一番わかりやすい例でしょう。
どうにも知りたいことが多すぎて困ってしまいます。他に論文がないかさらに詳しく調べてみます。


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本日のお話に関係するAloe pegleraeは南アフリカ原産の絶滅が危惧されているアロエです。原産地では非常に整った美しい姿をしており、違法採取や環境破壊により数を減らしており、保護の対象とされています。しかし、A. pegleraeは増やすことが難しいわけではないため、実生苗は入手が容易で普及種に近い状況となっております。ただし、A. pegleraeは生長が遅く大型になるまでに時間がかかるため、高額な現地球を欲しがる人もいるのでしょう。とはいえ、現在アロエは、Aloe veraと園芸用の交配系アロエ以外の輸出入に関して制限がかかっており、簡単には輸入出来なくなっているようです。

さて、最近アロエの受粉に関わる鳥について調査した論文の内容について記事にしました。
しかし、論文ではAloe feroxの受粉に関与する鳥を調査することが目的であり、昆虫や哺乳類を排除した内容でした。そこで、何か良い論文はないかと調べていたら見つけたのが、南アフリカのStephanie L. Payne、Craig T. Symes and ED T. F. Witkowskiが2016年に発表した『Of feathers and fur : Differential pollinator roles of birds and small mammals in the grassland succulent Aloe peglerae』です。

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Aloe peglerae

アロエは一般的に赤系統の花を咲かせますが、これは鳥に対するアピールと考えられています。しかし、ネズミなどの小型哺乳類が夜間にアロエの花を訪れることは知られていましたが、その受粉への関与についてはあまりわかっておりません。この論文では草原性のアロエであるAloe pegleraeの花を訪れる動物を記録し、受粉により出来た種子を調べました。
A. pegleraeの開花は7~8月で、主にルリガシライソヒヨ(Monticola rupestris)という鳥により受粉が行われ、昆虫の貢献はわずかと言われています。過去の知見ではA. pegleraeの花を訪れた動物は、ヒガシイワハネジネズミ(Elephantulus myurus)、ナマクアロックマウス(Micaelamys namaquensis)、チャクマヒヒ(Papio hamadryas ursinus)、ホソマングース(Galerella sanguinea)、four striped grass mouse(※4本の縞模様があるネズミ、Rhabdomys pumilio)が知られています。

研究は南アフリカのPretoriaの西部にあるMagaliesberg山脈にあるPeglerae Conservancyで行われました。A. pegleraeは知られている個体群は3箇所のみです。A. pegleraeは直径20cm以上で成体となり、冬(7~8月)に毎年開花します。A. pegleraeの花は薄い蜜を大量に分泌するということです。

さて、観察の結果、日中はルリガシライソヒヨ、夜間はナマクアロックマウスが最も頻繁なA. pegleraeの花への訪問者でした。チャクマヒヒやネズミが花自体を食べてしまった様子も観察されました。アロエの花に来ることが報告されているアカハラケビタキ(Thamnolaea cinnamomeiventris)は周囲に沢山いたにも関わらず、観察期間中にA. pegleraeの花を訪れませんでした。また、シロハラセッカ(Cisticola lais)、ハシナガビンズイ(Anthus similis)、アカバネテリムク(Onychognathus morio)、ケープメジロ(Zosterops virens)、ヒガシイワハネジネズミがA. pegleraeの花を訪れました。 
A. pegleraeの花への訪問、はルリガシライソヒヨが約60%を占めていることから、A. pegleraeの受粉にとって重要です。ルリガシライソヒヨが冬にわざわざ寒いMagaliesberg山脈を訪れるのは、餌の少ない冬にA. pegleraeの蜜を求めてではないかと著者は考察しています。

ネズミなどの小型哺乳類による受粉は、幾つかの植物で報告があります。今回の観察でA. pegleraeを訪れたのはナマクアロックマウスとヒガシイワハネジネズミでしたが、やはり餌の少ない冬に蜜を求めてやってくる可能性があります。しかし、ナマクアロックマウスは花を食べてしまうため、受粉の有効性は疑問視されてきました。ただし、今回の観察では食害があっても、種子が出来たということです。
鳥と小型哺乳類の受粉に対する貢献度は正確にはわかりません。その違いは移動距離で、鳥と比較すると小型哺乳類の移動範囲は狭くなります。しかし、小型哺乳類は採餌に時間をかけるため、鳥よりも多くの花粉を体に付着させます。花粉の移動する量という側面からは、小型哺乳類が有効と言えます。高さ数メートルになる大型アロエと比較して、A. pegleraeは背が低いため、小型哺乳類をより引き寄せやすいと言えるかもしれません。
A. pegleraeは自家不和合性、つまりは自分の花では受粉しない可能性が高いとされています。今回の観察では、出来た種子の発芽試験を行われました。その結果、鳥による受粉でも小型哺乳類による受粉でも、種子の発芽率に違いはないとのことです。つまりは、移動範囲が狭い小型哺乳類でも、ちゃんと花粉を他の個体へ運んでいるのです。

以上で論文の簡単な要約は終了です。著者はAloe pegleraeの受粉は鳥だけではなく、小型哺乳類によっても行われるということを主張しています。Aloe pegleraeにとっては両者ともに重要なポリネーター(花粉媒介者)なのです。
植物の受粉と言えば、以前はミツバチやマルハナバチなどの昆虫が重要で、一部ハチドリやタイヨウチョウなどの鳥も関与するくらいの認識でした。しかし、
Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文では、Aloe feroxの受粉は花の蜜を餌とすることに特化したスペシャリストであるタイヨウチョウはほとんど関与せず、主に専門ではない他の餌も食べるジェネラリストにより受粉するというのです。スペシャリストの受粉への貢献度の低さにも驚きましたが、何より鳥が主たるポリネーターであることは、私の植物の受粉に対する認識を大きく変えられることになりました。さらに、今回ご紹介した論文で、小型哺乳類による受粉への関与という、ほとんど聞いたことがない行動を知るにつけ、思いの外植物と動物の関係は複雑で柔軟に出来ていることを改めて認識し直しました。



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マダガスカル島は多肉植物の宝庫で、マダガスカル固有種のDidiereaやAlluaudiaの林があり、島の全域にPachypodiumが自生します。私の好きなEuphorbiaも豊富で、花キリン類はマダガスカルを象徴する植物ですね。  
Aloeはアフリカ大陸に豊富ですが、マダガスカル島にも沢山の固有種が存在します。問題なのはアフリカ大陸からマダガスカル島にAloeが進出した際に、1種類が侵入して様々な種類に進化したのか、最初から様々な種類が侵入してそこから進化を開始したのかということです。
というわけで、本日ご紹介する論文は2018年のRichard J. Dee、Panagiota Malakasi、Solofo E. Rakotoarisoa & Olwen M. Graceが発表した『A phylogenetic analysis of the genus Aloe (Asphodelaceae) in Madagascar and the Mascarene Island』です。論文ではマダガスカル島とマダガスカル島のすぐ東にあるマスカレン諸島のアロエの遺伝子を解析しています。マスカレン諸島は、モーリシャス島、レユニオン島、ロドリゲス島からなります。

マダガスカル島には132種類のアロエが自生し、そのすべてが固有種です。マスカレン諸島では、Aloe lomatophylloides(=Lomatophyllum lomatophylloides)がロドリゲス島の固有種で、Aloe purpurea(=Lomatophyllum purpureum)、Aloe tormentorii(=Lomatophyllum tormentorii)はモーリシャス島の固有種、Aloe macra(=Lomatophyllum macrum)はレユニオン島の固有種です。マスカレン諸島の固有種はかつてロマトフィルム属とされてきました。

さて、マダガスカル島は深海に囲まれた島で、モザンビーク海峡の深さは500~1000mくらいです。地質調査により、氷河期に一部モザンビーク海峡を横断できる陸橋が出来た可能性があります。ですから、アロエも最後の氷河期にマダガスカル島に移入したのかもしれません。

アロエ研究の権威であったG.W.Reynoldsは、マダガスカル島のアロエをその形態から9グループに分けました。著者はさらに、Reynoldsがアロエを分類した時はアロエ属ではなくLomatophyllumだったグループを10番目に入れました。

Group
①小型あるいは超小型のアロエ
    旧・Guillauminia, Lemeea, Aloinella
②葉は二列性、A. compressa
③葉は長さ50cm幅5cm。花序は単生か枝分かれは少ない。
    A. schomeri, A. buchlohii

④葉は卵型。A. deltoideodonta
⑤大型のロゼット。無茎性で葉は70cmまで。
    A. bulbillifera
⑥密に花を咲かせる。総状花序は短い。
    A. capitata, A. trachyticola
⑦総状花序は密集して多花性。
    A. conifera,A. macroclada

⑧低木状。A. acutissima
⑨2~3mで太く直立し、葉は頂点に密に輪生。
    A. vaombe, A. cipolinicola

⑩液果ができる。旧・Lomatophyllum

次に、マダガスカルとマスカレン諸島、アフリカ大陸のアロエの遺伝子解析による分子系統です。マダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエは太字としており、数字は上記の10個のグループに相当します。比較対象としてアフリカ大陸原産のアロエも同時に解析されています。
以降は私の感想を記していきます。

まず、Clade AとClade Mに大別されますが、驚くべきことに、Aloe susannaeは他のアロエと系統が大きく離れたKumara haemanthifoliaと他のアロエより近縁でした。この時点で、様々なというよりかなり異なる系統のアロエがマダガスカルに入ってきたことがわかります。

    ┏━Kumara haemanthifolia
┏┫
┃┗━⑦Aloe susannae

┃┏━Clade A
┗┫
    ┗━Clade M

次にClade Aですが、マダガスカルの旧・Lomatophyllumである3種はまとまりがあります。また、マダガスカルの小型アロエ2週は近縁ですが、旧・LomatophyllumのA. citreaも近縁でした。東アフリカのエチオピアやソマリアといったいわゆる"アフリカの角"辺りに分布するアロエが、Clade Aのマダガスカル原産のアロエと近縁でした。マダガスカルに地理的に近いアロエが近縁であるという合理的な結果が得られました。逆に南アフリカ原産のアロエはやや距離があります。私が思ったこととして、アロエの地理的な拡散は、南アフリカ→マダガスカルへの渡航地点→マダガスカル・東アフリカである可能性はないでしょうか。

Clade A

┏━━━━━Aloe ecklonis
┃                (南アフリカ原産)
┃┏━━━━Aloidendron dichotomum
┃┃            (南アフリカ原産)
┣┫┏━━━Aloiampelos ciliaris
┃┗┫        (南アフリカ原産)
┃    ┗━━━Aloe ellenbeckii
┃                (東アフリカ原産)
┃┏━━━━①Aloe albiflora
┫┃             (=Guillauminia)
┃┣━━━━⑩Aloe propagulifera
┃┃             (=L. propaguliferum)
┃┃┏━━━⑩Aloe citrea
┃┣┫         (=L. citreum)
┃┃┃┏━━①Aloe haworthioides
┃┃┗┫(=Aloinella, =Lemeea)
┗┫    ┗━━①Aloe parvula
    ┃        (=Lemeea)
    ┃┏━━━⑩Aloe pembana
    ┣┫         (=L. pembanum)
    ┃┃┏━━⑩Aloe macra
    ┃┗┫     (=L. macrum)
    ┃    ┗━━⑩Aloe occidentalis
    ┃             (=L. occidentale)
    ┃┏━━━Aloe ankoberensis
    ┃┃         (Ethiopia原産)
    ┃┃    ┏━Aloe jucunda
    ┗┫┏┫ (Somalia原産)
        ┃┃┗━Aloe secundiflora
        ┗┫      (東アフリカ原産)
            ┃┏━Aloe trichosantha
            ┗┫  (東アフリカ原産)
                ┗━Aloe vera
                      (Oman原産)

Clade Mはすべてマダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエです。見てすぐにわかるのは、Reynoldsの分類が機能していないことです。要するに、アロエ属は外的な特徴は環境等によりその都度進化して、近縁ではなくても類似した姿をとることがあるということでしょう。それは、旧・Lomatophyllumも同様で、A. purpureaとA. tormentoriiは近縁ですが、A. anivoranoensisは近縁ではありません。さらに言えば、Clade Aに所属する旧・LomatophyllumはClade Mとかなりの遺伝的な距離があります。マダガスカル島のLomatophyllumが、マスカレン諸島に伝播して独自に進化したという、大変わかりやすいシナリオは却下しなければならないようです。要するに、Lomatophyllumはアロエ属の島嶼部への適応形態なので、分類群の中であちこちに出現するということなのかもしれません。

Clade M

┏━━━━━━━━④Aloe laeta

┃    ┏━━━━━━④Aloe deltoideodonta
┃┏┫
┃┃┗━━━━━━⑧Aloe millotii
┣┫
┃┃┏━━━━━━Aloe suarezensis
┃┗┫
┃    ┃┏━━━━━⑩Aloe purpurea
┃    ┗┫                   (=L. purpureum)
┃        ┗━━━━━⑩Aloe tormentorii
┫                               (=L. tormentorii)
┃┏━━━━━━━①Aloe rauhii
┃┃                           (=Guillauminia)
┃┃    ┏━━━━━Aloe divaricata
┃┃    ┃
┃┃    ┣━━━━━④Aloe madecassa
┃┃    ┃
┃┃    ┃┏━━━━④Aloe imalotensis
┗┫┏╋┫
    ┃┃┃┗━━━━④Aloe viguieri
    ┃┃┃
    ┃┃┃    ┏━━━⑧Aloe acutissima
    ┃┃┃┏┫
    ┃┃┃┃┗━━━⑦Aloe conifera
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┃┏━━━⑥Aloe capitata
    ┃┃    ┗┫
    ┗┫        ┗━━━⑨Aloe cipolinicola
        ┃
        ┃    ┏━━━━⑩Aloe anivoranoensis
        ┃    ┃              (=L. anivoranoense)
        ┃    ┃┏━━━②Aloe compressa
        ┃┏╋┫
        ┃┃┃┗━━━①Aloe descoingsii
        ┃┃┃              (=Guillauminia)
        ┃┃┃┏━━━④Aloe ibitiensis
        ┗┫┗┫
            ┃    ┗━━━⑥Aloe trachyticola
            ┃
            ┃┏━━━━⑤Aloe bulbillifera
            ┃┃
            ┗┫    ┏━━①Aloe calcairophila
                ┃┏┫        (=Guillauminia)
                ┃┃┗━━Aloe hoffmannii
                ┗┫
                    ┃┏━━⑦Aloe macroclada
                    ┗┫
                        ┃┏━①Aloe bakeri
                        ┗┫     (=Guillauminia)
                            ┗━⑨Aloe vaombe

以上が論文の内容となります。遺伝子解析の結果では、マダガスカル島のアロエは多系統であることが判明しました。最低でも、Aloe susannae、Clade A、Clade Mの3系統です。しかし、調べたアロエの種類が少ないため、マダガスカルにはまだ他の系統のアロエも存在するかもしれません。例えば、今回の研究ではAloe susannaeだけがかなり異なる系統だったように、場合によっては1種類だけ別系統というパターンもありうることがわかります。つまりは、マダガスカル島のアロエをすべて調べないとわからないということです。ただし、アフリカ大陸のアロエについての遺伝子解析がそれほど進んでいない感じがありますから、総合的な評価はまだ難しいのかもしれません。著者も完全解明を目論んだわけではなく、調査の規模からして予備検討的な研究であると本文で述べています。しかし、それでも予想を上回る重要な結果が得られています。個人的には大変意義のある良い論文だと思いました。


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Haworthiaはアフリカ原産の多肉植物です。自生地は当然ながら非常に暑くなります。ですから、その高温に耐える力がHaworthiaにはあるはずです。 本日ご紹介する論文は、2017年にウクライナのN.V.Nyzhyna、M.M.Gaidarzhy、Y.V.Aviekinにより発表された『Species-specific response to acute hyperthermal stress of Haworthia (Asphodelaceae) plants』です。なんと、Haworthiaを40℃と50℃に加熱してその反応を調べるというものです。

DSC_1832~2
これは論文のイメージに合わせて私が適当に加工して作った画像です。現実にこういう色のオブツーサはないので悪しからず。

論文で使用されたHaworthiaは、H. cymbiformis、H. parksiana、H. attenuata、H. limifoliaの4種類です。ただし、この内H. attenuataとH. limifoliaは、現在ではHaworthiopsisとされています。
研究方法は実生2年のHaworthiaの中間の葉(中心の新しい若い葉と外側の古い葉の間)を使用し、25℃の条件を比較対象として、40℃と50℃の条件にした葉を化学的に分析しました。加熱時間は3時間です。

植物もストレスを受けると活性酸素を生じます。活性酸素は細胞に対して毒性がありますから、生物の体には活性酸素を除去する働きがあります。主にスーパーオキシドジムスターゼやカタラーゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素により活性酸素は不活化されます。H. cymbiformisやH. attenuataはスーパーオキシドジムスターゼが加熱により上昇しましたが、H. parksianaとH. limifoliaは上昇しませんでした。
さらに、成分を分析すると、フラボノイド(ポリフェノールの1種)がおそらくは破壊されたために、大幅に減少しました。しかし、フラボノイドは温度ストレスを受けた初期に働いて、植物を保護していると考えられます。H. parksianaでは40℃より50℃でよりフラボノイドが増加したことは、フラボノイドがストレス下の植物の保護に重要である可能性を示します。

H. attenuataは40℃でクロロフィル(光合成に必要な緑色の色素)とカロテノイド(強い抗酸化作用を持つ黄色や赤色の色素)が増加しました。さらに、50℃ではカロテノイドのみが増加しました。これはH. attenuataが高温下でもカロテノイドを増やすことにより環境に対応出来ていることがわかります。
逆にH. limifoliaは40℃ではややクロロフィルが減少し、光合成の効率が低下しました。50℃ではカロテノイドも減少したことから、H. limifoliaは高温環境には耐えられていないことが想定されます。
H. cymbiformisは40℃でも既にカロテノイドが減少する傾向があり、高温に耐える力が小さい可能性があります。

次に高温により失われた水分量の測定が行われました。加熱1時間の水分喪失量はH. attenuataは7.53%、H. limifoliaは4.32%、H. parksianaは7.44%、H. cymbiformisは22.29%でした。干魃耐性はH. limifoliaでやや高く、H. cymbiformisでは著しく低いことがわかりました。

以上が論文の内容となります。
ただし、この論文は英語ではなく、ウクライナ語で書かれたものです。キリル文字で書かれていますから、私は全く読めません。仕方がないので機械翻訳してみましたが、意外にも割とよく分かる日本語に翻訳されていました。というのも、例えばマダガスカルはフランスの植民地だったせいか、フランス語の論文が多くあります。同様にメキシコではスペイン語の論文が書かれています。マダガスカルもメキシコも多肉植物の宝庫ですから、沢山の多肉植物の論文が書かれています。タイトルに引かれて見てみると内容はフランス語やスペイン語で書かれていて全く読めないので試しに機械翻訳をかけてみますが、大抵は読むに耐えないひどい日本語になってしまいます。文字化けも多く、語尾がYesかNoかも怪しい悪質なもので、一応は日本語に翻訳されているのに全く内容が理解出来ず断念した論文が幾つもありました。機械翻訳は専門用語が多い学術論文には不向きです。最近では英語以外の論文は初めから除外していましたが、この論文はどうしても気になったので無理をして機械翻訳された文章を読んで見ました。しかし、ところどころで不明瞭な翻訳があり、よく理解出来ないために省いた部分もありました。ですから、大変申し訳ないのですが、不正確な部分もあるかもしれません。今回は無理をしたものの、正直懲りましたので今後はこれはというものではない限り、英語論文以外は訳さない方針で行こうかと思います。


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アロエは巨大に育つものがあります。Aloe feroxやAloe marlothiiなどは高さ数メートルに育ち、数十センチメートルの花序を沢山出します。しかも、このような巨大アロエは蜜の量も非常に多く、蜜を求めて様々な生き物が訪れます。当然ながらアロエは受粉をしてもらうために蜜を求める生き物を利用するわけですが、この蜜は他の生き物にとっても重要です。アロエは大抵は赤・橙・黄色系統の花を咲かせる種類が多く、色で花を探す鳥類や赤系統の花を好むミツバチやマルハナバチに対するアピールなのかもしれません。蜜の量が多ければ、ネズミなどの小型の哺乳類も蜜を舐めに来るかもしれません。
アフリカには花の蜜を専門として生きるタイヨウチョウ(sunbird)が分布します。アメリカ大陸にはやはり花の蜜で生きるハチドリがいますが、タイヨウチョウもハチドリと同じく非常にカラフルで美しい鳥として知られています。そして、アロエにもタイヨウチョウが訪れることが知られていますが、その受粉への貢献度について詳しくはわかっていませんでした。

本日ご紹介するのは、Aloe feroxの受粉に貢献する鳥について調査した、Carolina Diller, Miguel Castaneda-Zarate and Steven D.Johnsonの『Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文です。論文は2019年と最近のものです。
内容に入る前に少し用語の解説をします。生物の世界では、何かに対し専門的に特化したスペシャリスト(specialist)と、様々なものに浅く広く対応したジェネラリスト(generalist)が存在します。例えば、ある食物Xを食べることに特化したスペシャリストに対して、ジェネラリストはスペシャリストほど上手くXを食べることが出来ないということは良くあります。ただし、スペシャリストはX以外の食物も食べることが出来ます。スペシャリストとジェネラリスト、どちらが有利かはわかりません。なぜなら、スペシャリストもジェネラリストも存在するからです。環境次第ではないでしょうか。また、スペシャリストと一口に言っても、必ずしもジェネラリストよりも効率的に上手く出来るとは限らず、単純にそのXに依存しているだけの場合もあります。
次に受粉を行う生物を花粉媒介者と言いますが、一般的にはポリネーター(pollinator)と呼びます。アロエには様々なポリネーターが訪れます。

論文ではAloe feroxを観察し、アロエにポリネーターが訪れたあとに
花の柱頭に着いた花粉を数えました。Aloe feroxは高さ5mになるアロエで、最大13本の総状花序を出し、1本の総状花序には約280個の花が咲きます。調査は2017年の開花期にあたる、8月の乾季に南アフリカのLower Mpushini Valley自然保護区において、Aloe feroxの大規模な500以上の大群落において実施されました。
Aloe feroxを訪れた鳥は、スペシャリストとしてアメジストタイヨウチョウ(Chalcomitra amethystina)、ジェネラリストとしてサンショクヒヨドリ(Pycnonotus tricolor)、ハタオリドリ(Ploceus spp.)、アカガタテリムク(Lamprotornis nitens)でした。ハタオリドリはフィールドの観察では種類の特定までは出来なかったようです。
観察期間中、アメジストタイヨウチョウが4回で24個の花に、サンショクヒヨドリは10回で92個の花に、ハタオリドリは5回で45個の花、アカガタテリムクは6回で69個の花に訪れました。
観察期間の12日間にAloe feroxを訪れたスペシャリストは77羽、ジェネラリストは242羽でした。スペシャリストはアメジストタイヨウチョウが71回、シロハラタイヨウチョウが6回訪れました。ジェネラリストはハタオリドリが79回、アカガタテリムクが65回、サンショクヒヨドリが60回、クロオウチュウ(Dicrurus adsimilis)が20回、チャイロネズミドリ(Colius striatus)で18回でした。


さて、実際にAloe feroxの柱頭に付着した花粉を調べると、面白い結果が得られました。スペシャリストが訪れてもAloe feroxにはあまり花粉は付かないというのです。ポリネーターが入らないように網を被せた花と違いが見られなかったのです。ポリネーターが訪れなくても、多少は自分の花粉が付いてしまうこともあるのですが、スペシャリストはそのレベルあったということです。逆にジェネラリストの訪れた花は、スペシャリストの訪れた花の倍以上の花粉が付いていました。つまりは、Aloe feroxにとって、スペシャリストであるタイヨウチョウよりもジェネラリストの方が優れたポリネーターであるということです。

スペシャリストの嘴は長く、ジェネラリストの嘴は短いからであると言われることがあるようです。しかし、今回の観察期間中の鳥を調べると、スペシャリストとジェネラリストの嘴の長さに差はありませんでした。違いは嘴の太さで、スペシャリストの嘴は細くジェネラリストの嘴は太いということです。今回の観察期間中では、ジェネラリストはスペシャリストよりも大型でした。ジェネラリストは蜜を吸うために、顔を花に突っ込みその時に頭で雄しべを押し広げていることが観察されました。逆にスペシャリストのタイヨウチョウは、小さい頭に細い嘴、長い舌を持つため、雄しべに触れないで蜜を吸うことが出来るのです。よって、Aloe feroxに対してタイヨウチョウは蜜泥棒ということになります。

以上が論文の内容となります。
蜜を餌とする専門のタイヨウチョウが、受粉に寄与しないという驚くべき論文でした。2点ほど補足説明をしましょう。
まず1つ目は、Aloe feroxとタイヨウチョウの目的が異なることです。Aloe feroxはポリネーターに受粉してもらうために蜜を準備しているわけですが、タイヨウチョウは受粉を助けるために花を訪れているわけではありません。タイヨウチョウからすれば、いかに効率的に蜜を得られるかが重要なのであって、Aloe feroxが受粉するか否かはどうでも良いことです。邪魔な雄しべに触れないで、素早く嘴を花に差し込んで蜜だけを抜き取る。正にスペシャリストの技です。この場合、タイヨウチョウの方が一枚上手と言えます。対して、ジェネラリストはタイヨウチョウのようにスマートに蜜を得られません。しかし、下手だから頭を花粉だらけにして、上手いことAloe feroxに利用されて、知らずに受粉の手助けをしているのです。
2つ目は、これはAloe feroxに対するタイヨウチョウのポリネーターとしての能力がないと言っているだけで、他の植物の花では異なるかもしれないということです。例えば、Gasteriaはタイヨウチョウをポリネーターとしています。この場合、タイヨウチョウは花の蜜に特化したスペシャリストですが、Gasteriaはタイヨウチョウに特化した一段レベルの高いスペシャリストです。不特定多数の花の蜜を利用するタイヨウチョウは、自分をターゲットにしたGasteriaに上手く利用されているのです。
野生の生き物は何も相手を思いやって行動しているわけではなく、あくまで自分の利益のために行動しています。ですから、Aloe feroxとタイヨウチョウの関係は、上手く噛み合わなかっただけで、Aloe feroxがへまをしたわけでもタイヨウチョウが上手く出し抜いたわけでもありません。この関係は偶然の産物と言えます。
実はスペシャリストの訪問を妨げたりジェネラリストを呼ぶ算段を用意している植物もあります。ではAloe feroxが無策であるのは何故なのか気になります。考えたこととして、小型のアロエは花の数が少ないため受粉は確実性が欲しいでしょうから、蜜泥棒対策は必要でしょう。しかし、数えきれないほどの花を咲かせるAloe feroxは、そのすべての花が受粉しなくても十分なのかもしれません。無駄が多いようにも感じられますが、スペシャリストを妨げたりすることにも相応のコストがかかります。要するに戦略が異なるだけではないでしょうか。大型だからコストをかけて花を沢山咲かせる戦略、小型だから花は少ないけれど蜜泥棒対策にコストをかける戦略という、サイズに合わせた現実的な戦略を講じているわけです。

植物とポリネーターの関係は非常に複雑で面白く感じます。この論文では蜂の影響を避けるため、蜂が活発に活動する時間帯は花に網を被せていました。では、蜂の受粉に対する貢献度はいかほどでしょうか? また、このような大型アロエでは、ネズミなどの小型哺乳類も蜜を求めて訪れます。小型哺乳類の多くは夜行性ですから、昼行性の鳥類とは競合しないでしょう。では、小型哺乳類はアロエとどのような関係を築いているのでしょうか? どうにも気になることが沢山出て来てしまいました。最近は忙しく中々じっくりと論文を探す時間が取れませんが、少しずつ調べていくつもりです。


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白雪姫というかわいらしい名前をつけられたガステリアがあります。その学名をガステリア・グロメラタ(Gasteria glomerata)と言います。最近ガステリア属について詳しく調べたこともあり、ガステリアについて書かれた論文を少しずつ読んでいます。白雪姫については以前記事にしていますが、白雪姫の発見に関する論文を見つけましたのでご紹介します。

本日ご紹介するのは、南アフリカのErnst van Jaarsveldによる『Gasteria glomerata van Jaarsveld sp. nov.』という1991年の論文です。この論文により白雪姫がはじめて学術的に記載されました。白雪姫が発見された際の環境がわかる興味深い論文です。

早速内容に入りましょう。
Gasteria glomerataは南アフリカのKougaダム地域に固有のガステリアで、Kougaダムでは2種類目のガステリアです※。自生地の地形は険しく環境は良くありません。わずかに酸性(pH6.4)の石英質砂岩土壌で栄養価は低く、標高500~700mの垂直な崖に生えます。G. glomerataは他の低木などの陰で育ち、密集した状態で群生します。ちなみに、自生地が同じG. ellaphieaeとの雑種は確認されておりません。

※Kougaダムで最初に発見された新種のガステリアは、Gasteria ellaphieaeです。G. glomerataと同じ1991年にやはりvan Jaarsveldにより先に記載されました。

 G. glomerataの自生地には多肉植物を中心とした他の植物も豊富です。例えばCrassula(C. cordata, C. cultrata, C. lactea, C. muscosa var. parvula, C. orbicularis)、Delosperma laxipetalum、Adromirchus(A. crirtatus var. schonlandii, A. inamoenus)、Cotyledon(C. tomentosa, C. velutina, C. woodii)、Aloe pictifolia、Haworthia(H. translucens, H. turgida)、Bulbine latifolia、Othonna(O. carnosa, O. lobata)、Senecio scaposusHaemanthus albiflosなどがあげられます。また、低木あるいはブッシュを作るPelargonium zonale、Portulacaria afra、Ficus burt-davyiiなどが自生します。

G. glomerataは二列性の矮性種で、密に群生します。花は明るい赤桃色です。論文ではG. glomerataはG. rawlinsoniiとG. baylissianaと関係があるのではないかとしています。この3種はロゼットを形成しない二列性で、春に花を咲かせ、ともに厳しい断崖に生え、ケープに特有の石英質砂岩土壌に限定的に分布します。G. baylissianaは密に群生する育ち方も同じ矮性ガステリアです。また、著者はG. nitida var. armstrongiiと一部類似性があるものの、生息環境が異なるとしています。

最後に著者は、G. glomerataは明るい日陰で腐食質が豊富な土壌で最もよく育ち、分枝しよく増えると述べています。

以上がはじめて白雪姫が新種として命名された論文の要約した内容となります。詳細な形態学的な内容は割愛させていただきました。
さて、白雪姫の学名が命名されて既に30年以上経ちましたが、その間にガステリア研究も進展が見られます。2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、遺伝子解析によりガステリア属の系統関係を調べています。以下が白雪姫G. glomerataと近縁なガステリアとの系統関係です。

     ┏━━━━G. excelsa
 ┏┫
 ┃┗━━━━G. pulchra
 ┃
 ┫ ┏━━━━G. ellaphieae                         
 ┃ ┃ 
 ┃ ┃    ┏━━G. polita
 ┗ ┫┏┫
      ┃┃┃┏━G. acinacifolia
      ┃┃┗┫
      ┗┫    ┗━G. barbae
          ┃
          ┃┏━━G. armstrongii
          ┗┫
              ┃┏━G. glauca
              ┗┫
                  ┗━★G. glomerata

この論文では残念ながらG. baylissianaは解析されていないため、G. glomerataとの関係はわかりません。しかし、意外な事実が見えてきます。
例えば、G. glomerataはG. rawlinsoniiとは特に近縁ではありません。最も近縁なのはG. glaucaとG. armstrongiiです。この論文ではG. nitidaとG. nitida var. armstrongiiは近縁ではないことが判明したため、G. armstrongiiとして独立しています。G. glomerataと異なり、G. armstrongiiは平地に分布します。ガステリア属では生息環境の類似性は、種の近縁性とは無関係である可能性が高いのでしょう。
また、面白いことに、同じ地域に分布しているG. ellaphieaeは、G. glomerataと割と近縁でした。
あと、上の系統図のガステリアは、おおよそ南アフリカ南西部の原産でした。分布が近い種類は近縁種であるという、考えてみれば当たり前の話がわかったのです。

DSC_1834
Gasteria glomerata

DSC_1592
Gasteria ellaphieae

DSC_0916
Gasteria baylissiana


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いよいよ、ガステリア属の種類についての記事は、19世紀篇、20世紀篇と来て本日の21世紀篇で終了です。21世紀に入ると、南アフリカのvan Jaarsveldの一強時代となります。驚くべきことに、20年間に9種類の新種のガステリアが命名されており、そのすべてにvan Jaarsveldが関わっているのです。では、21世紀に命名されたガステリア属を見ていきましょう。

①Gasteria polita van Jaarsv., 2001

②Gasteria doreeniae
        van Jaarsv. & A.E.van Wyk, 2004


③Gasteria tukhelensis
                             van Jaarsv., 2005


④Gasteria barbae van Jaarsv., 2014

⑤Gasteria loedolffiae
                        van Jaarsv., 2014


⑥Gasteria koenii van Jaarsv., 2017

⑦Gasteria langebergensis
                   (van Jaarsv.)
              van Jaarsv. & Zonn., 2019

Homotypic synonym
Gasteria disticha var. langebergensis
                                van Jaarsv., 2007


⑧Gasteria visserii van Jaarsv., 2020

⑨Gasteria camillae
              van Jaarsv. & Molteno, 2020



ここ3日間の記事で、ガステリア属全26種の学名を、その命名年ごとに19世紀8種、20世紀9種、21世紀9種についてまとめてみました。18世紀はガステリア属はまだありませんからアロエ属とされており、1809年にDuvalによりガステリア属が創設されてからは19世紀はアロエ属かガステリア属かという駆け引きがあった模様です。しかし、20世紀前半は無風状態でしたが、後半はvan Jaarsveldの独断場と化します。1753年に後のGasteria disticha、つまりはAloe distichaが命名されていますからそこから数えて約270年、ガステリア属が1809年に創設されてからと考えても200年以上の歴史があります。そう考えるとここ30年あまりのvan Jaarsveldの活躍には目を見張るものがあります。
そのvan Jaarsveldは1987年にGasteria vlokiiを命名して以来、実に12種2亜種6変種を命名し認められています。ガステリア属26種類のうち12種類ですから、半分近くがvan Jaarsveldの命名しました。大変な速さで新種が見つかっています。

しかし、これだけ古くから知られており、しかも南アフリカに固有という条件で、21世紀に入ってから新種が発見されるペースが加速することは珍しく感じます。考えてみればガステリア属は急な崖に生えるものが多く、いまだに調査が及んでいない地域は沢山ありそうです。しかも、何故かガステリアは内陸部や隣国では見つからず、南アフリカにU字型に分布します。これからも、新種が発見される可能性が高いのではないでしょうか? 引き続きvan Jaarsveldの活躍と、21世紀の新世代の植物学者たちの研究に期待したいですね。



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昨日は19世紀に命名されたガステリア属についてまとめました。本日は20世紀篇です。
19世紀のガステリアは異名が非常に多く、それなりに混乱していたことがうかがえます。ガステリア属を採用するか、それとも今まで通りアロエ属のままにしていくのかという論争もあったのでしょう。しかし、20世紀に入るとガステリア属は定着し、もはやアロエ属の所属と考える学者は現れません。

20世紀に命名されたガステリア属は9種類です。19世紀と比較すると異名が少なく、異名が多いのは19世紀にアロエ属として命名されているGasteria brachyphyllaだけです。
では、20世紀に命名されたガステリア属を見ていきましょう。


①Gasteria pillansii Kensit, 1910

変種ピランシイ
Gasteria pillansii var. pillansii
Heterotypic synonym
Gasteria neliana Poelln., 1929

変種エルネスティ-ルスキイ
Gasteria pillansii var. ernesti-ruschii
        (Dinter & Poelln.) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Gasteria ernesti-ruschii
                Dinter & Poelln., 1938

変種ハリイ
Gasteria pillansii var. halii
                    van Jaarsv., 2007


②Gasteria rawlinsonii
                      Oberm., 1976


③Gasteria baylissiana
                           Rauh, 1977


④Gasteria vlokii
                   van Jaarsv., 1987


⑤Gasteria ellaphieae
                    van Jaarsv., 1991


⑥Gasteria glomerata
                    van Jaarsv., 1991


⑦Gasteria brachyphylla
      (Salm-Dyck) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Aloe brachyphylla Salm-Dyck, 1840

変種ブラキフィラ
Gasteria brachyphylla
                     var. brachyphylla
Heterotypic synonym
Aloe pseudonigricans Salm-Dyck, 1817
Gasteria nigricans
                 var. marmorata Haw., 1821
Aloe subnigricans Spreng., 1825
Gasteria subnigricans Haw., 1827
Gasteria subnigricans
                      var. glabrior Haw., 1827
Gasteria fasciata var. laxa Haw., 1827
Aloe subnigricans
       var. canaliculata Salm-Dyck, 1840
Gasteria nigricans
                  var. platyphylla Baker, 1880
Gasteria nigricans
                     var. polyspila Baker, 1880
Gasteria transvaalensis Baker, 1889
Gasteria angustiarum Poelln., 1937
Gasteria triebneriana Poelln., 1938
Gasteria joubertii Poelln., 1940
Gasteria vlaaktensis Poelln., 1940

変種バイエリ
Gasteria brachyphylla
                  var. bayeri van Jaarsv., 1992


⑧Gasteria batesiana
                     G.D.Rowley, 1995


変種バテシアナ
Gasteria batesiana var. batesiana

変種ドロミティカ
Gasteria batesiana var. dolomitica
        van Jaarsv. & A.E.van Wyk, 1999


⑨Gasteria glauca
                          van Jaarsv., 1998



時代が変わりガステリアの研究者も代わりました。もはや、19世紀を主導した研究者たちは見られません。
さらに、19世紀は8種類が命名されているのに対し、20世紀は9種類が命名されていますから、一見してガステリア研究は活発に見えますが、それは実のところ見かけだけのことです。なぜなら、20世紀前半で命名されたのはGasteria pillansiiのみで、しかも活動していたのはPoellnitz、
Schönland、Alwin Bergerくらいで、命名された学名の数も少なく19世紀ほどの熱気は感じられません。
しかし、20世紀後半はその様相はガラリと変わります。1976年から1995年までの19年間に残りの8種類が命名されているのです。このガステリアの命名ラッシュを主導したのはvan Jaarsveldです。1990年代以降はまさにvan Jaarsveldの時代と言えます。21世紀になってもvan Jaarsveldは活発に研究し、20世紀以上のペースでガステリアの新種を発見していくのです。

明日はいよいよ21世紀篇です。もはやガステリア属の第一人者となったvan Jaarsveldが大活躍します。

20世紀のガステリア属に関する代表的な命名者たちは以下の通り。

☆Poelln.=Karl von Poellnitz(1896-1945年)ドイツの植物学者。
Schönland.=Selmar Schonland(1860-1940年)ドイツ出身で南アフリカで活躍した植物学者。
☆A.Berger=Alwin Berger(1871-1931年)ドイツの植物学者・園芸家。
☆Kensit=Harrit Margaret Louisa Bolus née Kensit(1877-1970年)南アフリカの植物学者。L.Bolusと表記されることが多い。
☆Oberm.=Anna Amelia Mauve、旧姓Obermeyer(1907-2001)南アフリカの植物学者。
☆Rauh=Werner Rauh(1913-2000年)ドイツの植物学者・生物学者・作家。
☆G.D.Rowley=Gordon Douglas Rowley(1921-2019年)イギリスの植物学者。
☆van Jaarsv.=Ernst Jacobus van Jaarsveld(1953- )南アフリカの植物学者。



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ガステリアは赤系統の特徴的な花を咲かせるアロエ類(アロエ属やハウォルチア属などをまとめたグループ)です。属名のガステリア(Gasteria)は胃(garter)から来た名前で、花がちょうど胃袋のような形をしています。ガステリアは花の蜜を求めて訪れるタイヨウチョウにより受粉する鳥媒花です。
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ガステリアの花

ガステリアは1753年に設立されたアロエ属(Aloe L.)に含まれていましたが、1809年にDuvalによりガステリア属(Gasteria Duval)として独立しました。1866年にはプティアス属(Ptyas Salib.)も提唱されましたが、これは現在認められていない属名です。
2022年現在、学術的に認められているガステリアは26種類です。

本日は19世紀にガステリア属として命名された8種類について、異名を含め一覧としました。ガステリア属が創設される前はアロエ属でしたから、初命名は18世紀だったりしますが、ガステリア属が19世紀はじめに創設されましたからガステリア属としての命名は19世紀からということになります。しかし、19世紀に命名されたガステリアは異名が非常に多いですね。
異名は現在の正式な学名につながるHomotypic synonymと、正統性が認められないHeterotypic synonymがあります。
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」がありますから、一番はじめに命名された学名の種小名に正統性があります。ですから、もし属が変更になっても、種小名は基本的にはじめに命名されたものが受け継がれます。
しかし、19世紀のガステリア属の命名者を見てみると、Duval、Haworth、Bakerとアロエ属やハウォルチア属でもお馴染みの学者ばかりですね。

①Gasteria carinata
                (Mill.) Duval, 1809

Homotypic synonym
Aloe carinata Mill., 1768

変種カリナタ
Gasteria carinata var. carinata 

Heterotypic synonym
Aloe tristicha Medik., 1786
Aloe linguiformis DC, 1801
Aloe lingua var. angulata Haw., 1804
Aloe lingua var. multifaria Haw., 1804
Aloe carinata var. subglabra Haw., 1804
Gasteria angulata (Haw.) Duval, 1809
Aloe carinata Kew Gawl., 1810
Aloe excavata Willd., 1811
Aloe angulata Willd., 1811
Aloe angulata var. truncata Willd., 1811
Gasteria glabra Haw., 1812
Aloe leavis Salm-Dyck, 1817
Aloe pseudoangulata Salm-Dyck, 1817
Aloe subcarinata Salm-Dyck, 1817
Gasteria subcarinata
               (Salm-Dyck) Haw., 1819 
Aloe sulcata Salm-Dyck, 1821
Aloe glabra (Haw.) Salm-Dyck, 1821
Gasteria laetepunctata Haw., 1827
Gasteria parva Haw., 1827
Gasteria strigata Haw., 1827
Gasteria undata Haw., 1827
Gasteria sulcata
                (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria angulata (Willd.) Haw., 1827
Gasteria leavis (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria excavata (Willd.) Haw., 1827
Gasteria humilis Poelln., 1829 
Aloe pusilla Schult. & Schult.f., 1829
Aloe umdata Schult. & Schult.f., 1829
Aloe laetepunctata
         (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Gasteria pallescens Baker, 1880
Gasteria porphyrophylla Baker, 1880
Gasteria parviflora Baker, 1880
Gasteria disticha var. angulata
                        (Willd.) Baker, 1880
Gasteria carinata var. parva
                       (Haw.) Baker, 1896
Gasteria carinata var. strigata
                       (Haw.) Baker, 1896
Gasteria trigona var. kewensis
                        A.Berger, 1908
Gasteria carinata var. falcata
                        A.Berger, 1908
Gasteria carinata var. latifolia
                        A.Berger, 1908
Gasteria bijliae Poelln., 1937
Gasteria schweickerdtiana
                             Poelln., 1938
Gasteria patentissima Poelln., 1940
Gasteria carinata var. glabra
          (Salm-Dyck) van Jaarsv., 1998


変種レツサ
Gasteria carinata var. retusa
                         van Jaarsv., 1992

Homotypic synonym
Gasteria retusa
       (van Jaarsv.) van Jaarsv., 2007

変種ヴェルコサ
Gasteria carinata var. verrucosa
                (Mill.) van Jaarsv., 1992

Homotypic synonym
Aloe verrucosa Mill., 1768
Gasteria verrucosa (Mill.) Duval, 1809

Heterotypic synonym
Aloe acuminata Lam., 1783
Aloe recemosa Lam., 1783
Aloe verrucula Medik., 1784
Aloe carinata DC., 1801
Aloe intermedia Haw., 1804
Aloe lingua Kew Gawl., 1810
Gasteria intermedia
               (Haw.) Haw., 1812
Aloe verrucosa var. striata
                     Salm-Dyck, 1817
Gasteria repens Haw., 1821
Gasteria intermedia var. asperrima
                               Haw., 1821
Aloe verrucosa var. latifolia
                      Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa var. grandipunctata
                               Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa var. parvipunctata
                               Salm-Dyck, 1821
Aloe intermedia var. asperrima
                               Salm-Dyck, 1821
Gasteria subverrucosa
                  (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria intermedia var. laevior Haw., 1827
Gasteria intermedia var. longior Haw., 1827
Aloe repens Schult. & Schult.f., 1829
Aloe scaberrima Salm-Dyck, 1834
Gasteria var. intermedia
                           (Haw.) Baker, 1880
Gasteria subverrucosa var. marginata
                                 Baker, 1880
Gasteria radulosa Baker, 1889
Gasteria verrucosa var. scaberrima
                     (Salm-Dyck) Baker, 1896


②Gasteria obliqua
               (Aiton) Duval, 1809

Homotypic synonym
Aloe maculata var. obliqua
                     Aiton, 1789
Aloe obliqua (Aiton) Haw., 1804

Heterotypic synonym
Aloe maculata Thunb., 1785
Aloe lingua Kew Gawl., 1806
Aloe nigricans var. fasciata
                      Salm-Dyck, 1821
Gasteria bicolor Haw., 1826 publ. 1827
Gasteria picta Haw., 1827
Gasteria retata Haw., 1827
Gasteria maculata Haw., 1827
Gasteria formosa Haw., 1827
Gasteria maculata var. fallax
                         Haw., 1827
Gasteria fasciata
                      (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe formosa
           (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe dictyodes Schult. & Schult.f., 1829
Aloe boureana Schult. & Schult.f., 1829
Aloe bicolor 
            (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe vittata Schult. & Schult.f., 1829
Aloe guttata Salm-Dyck, 1834
Aloe quadrangularis Da Pare, 1835
Aloe macchiata Da Pare, 1835
Aloe zeyheri Salm-Dyck, 1836
Aloe marmorata Steud., 1840
Aloe planifolia Baker, 1869
Gasteria variolosa Baker, 1873
Gasteria colubrina N.E.Br., 1877
Gasteria planifolia (Baker) Baker, 1880
Gasteria marmorata Baker, 1880
Gasteriazeyheri (Salm-Dyck) Baker, 1880
Gasteria spiralis Baker, 1880
Gasteria spiralis var. tortulata Baker, 1880
Gasteria maculata var. dregeana
                A.Berger, 1908
Gasteria lingua
            (Kew Gawl.) A.Berger, 1908
Gasteria caespitosa Poelln., 1937
Gasteria chamaegigas Poelln., 1938
Gasteria salmdyckiana Poelln., 1938
Gasteria liliputana Poelln., 1938
Gasteria longiana Poelln., 1938
Gasteria longibracteata Poelln., 1938
Gasteria herreana Poelln., 1938
Gasteria kirsteana Poelln., 1940
Gasteria loeriensis Poelln., 1940
Gasteria multiplex Poelln., 1940
Gasteria biformis Poelln., 1940
Gasteria bicolor var. liliputana
              (Poelln.) van Jaarsv., 1992
Gasteria bicolor var. fallax
               (Haw.) van Jaarsv., 2007


③Gasteria pulchra
               (Aiton) Haw., 1812

Homotypic synonym
Aloe pulchra (Aiton) Jacq., 1804

Heterotypic synonym
Aloe obliqua DC, 1802
Gasteria poellnitziana
                 H.Jacobsen, 1954


④Gasteria acinacifolia
                  (J.Jacq.) Haw., 1819

Homotypic synonym
Aloe acinacifolia J.Jacq., 1813


Heterotypic synonym
Aloe acinacifolia J.Jacq., 1813
Aloe acinacifolia var. minor
                         Salm-Dyck, 1817
Gasteria nitens Haw., 1819
Aloe acinacifolia var. nitens
                         (Haw.) Haw., 1821
Gasteria venusta Haw., 1827
Gasteria ensifolia Haw., 1825
Gasteria candicans Haw., 1827
Gasteria pluripunctata Haw., 1827
Gasteria  linita Haw., 1827
Aloe ensifolia
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe candicans
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe venusta
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe nitens
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe pluripunctata
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Gasteria fuscopunctata Baker, 1880
Gasteria acinacifolia var. nitens
                            (Haw.) Baker, 1880
Gasteria acinacifolia var. ensifolia
                        (Haw.) Baker, 1880
Gasteria acinacifolia
     var. pluripunctata (Haw.) Baker, 1896
Gasteria acinacifolia
              var. venusta (Haw.) Baker, 1896
Gasteria huttoniae N.E.Br., 1908
Gasteria lutziii Poelln., 1933
Gasteria inexpectata Poelln., 1938


⑤Gasteria disticha (L.) Haw., 1827
Homotypic synonym
Aloe disticha L., 1753
Ptyas disticha (L.) Salib., 1866


変種ディスティカ
Gasteria disticha var. disticha

Heterotypic synonym
Aloe linguiformis Mill., 1768
Aloe lingua var. crassifolia Aiton, 1789
Aloe lingua var. angustifolia Aiton, 1789
Aloe nigricans Haw., 1804
Aloe obliqua Jacq., 1804
Aloe lingua var. latifolia Haw., 1804
Aloe lingua var. longifolia Haw., 1804
Gasteria nigricans (Haw.) Duval, 1809
Gasteria longifolia (Haw.) Duval, 1809
Gasteria angustifolia (Aiton) Duval, 1809
Aloe obscura Willd., 1811
Aloe longifolia (Haw.) Haw., 1812
Gasteria latifolia (Haw.) Haw., 1812
Aloe nigricans
           var. crassifolia Salm-Dyck, 1817
Gasteria denticulata Haw., 1819
Aloe obtusifolia Salm-Dyck, 1821
Aloe conspurcata Salm-Dyck, 1821
Aloe angustifolia
           (Aiton) Salm-Dyck, 1821
Gasteria mollis Haw., 1821
Gasteria nigricans
        var. crassifolia (Aiton) Haw., 1821
Gasteria disticha var. major Haw., 1827
Gasteria disticha var. minor Haw., 1827
Gasteria obtusifolia Haw., 1827
Gasteria conspurcata
           (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria crassifolia
           (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe mollis
      (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe crassifolia
   (Salm-Dyck) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe retusifolia Haw. ex Steud., 1840
Gasteria disticha var. angustifolia
                        Baker, 1880
Gasteria disticha var. conspurcata
                  (Salm-Dyck) Baker, 1880
Gasteria platyphylla Baker, 1880

変種ロブスタ
Gasteria disticha var. robusta
                        van Jaarsv., 2007


⑥Gasteria nitida
          (Salm-Dyck) Haw., 1827

Homotypic synonym
Aloe nitida Salm-Dyck, 1817
Haworthia nitida
            (Salm-Dyck) G.Don, 1830

変種ニティダ
Gasteria nitida var. nitida

Heterotypic synonym
Aloe nitida var. major Salm-Dyck, 1817
Aloe nitida var. minor Salm-Dyck, 1817
Aloe nitida var. obtusa Salm-Dyck, 1817
Aloe trigona Salm-Dyck, 1821
Haworthia nigricans Haw., 1824
Gasteria obtusa (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe decipiens (Haw.)
              Schult. & Schult.f. 1829
Gasteria beckeri 
Schönland, 1908
Gasteria stayneri Poelln., 1938


変種アルムストロンギイ
Gasteria nitida var. armstrongii
        (
Schönland) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Gasteria armstrongii 
Schönland, 1912

⑦Gasteria croucheri
              (Hook.f.) Baker, 1880

Homotypic synonym
Aloe croucheri Hook.f., 1869

亜種クロウケリ
Gasteria croucheri subsp. croucheri

Heterotypic synonym
Gasteria disticha var. natalensis
                     Baker, 1880

亜種ポンドエンシス
Gasteria croucheri subsp. pondoensis
           N.R.Croch, Gideon F.Sm.
                       & D.G.A.Styles, 2011

亜種ペンドゥリフォリア
Gasteria croucheri subsp. pendulifolia 
             (van Jaarsv.) Zonn.

Homotypic synonym
Gasteria pendulifolia van Jaarsv., 2001


⑧Gasteria excelsa Baker, 1880


本日は19世紀に命名されたガステリア属をご紹介しました。明日は20世紀に命名されたガステリア属をご紹介します。
しかし、19世紀と一口に言っても実に長く、命名者も様々です。19世紀初頭はHaworthやDuvalが活躍しています。Haworthは当初はガステリアをアロエ属としていますが、Duvalがガステリア属を創設すると、歩調を合わせるようにHaworthもガステリア属を使用し始めます。しかし、1920年代から活躍するSalm-DyckやSchult. & Schult.f.は、ガステリア属を認めずアロエ属としています。19世紀中頃はSteudやBakerが、やはりアロエ属とする立場です。しかし、Bakerは19世紀後半ではガステリア属を認める立場となっています。結局のところ、19世紀のガステリア属の正式に認められている学名の命名者は、Duval、Haworth、Bakerの3人だけでした。ガステリア属を認めるか否かが重要な分岐点でしたね。

19世紀のガステリア属に関する代表的な命名者たちは以下の通り。

☆Haw.→Adrian Hardy Haworth (1767-1833年)イギリスの昆虫学者・植物学者・甲殻類学者。
☆Duval→Henri August Duval(1777-1814年)フランスの植物学者。
☆Salm-Dyck→Joseph Franz Maria Anton Hubert Ignatz Furst und Altgraf zu Salm-Reifferscheidt-Dyck(1773-1861年)ドイツのアマチュア植物学者。
☆Schult.→Joseph August Schultes(1773-1831年)オーストリアの医師・博物学者。
☆Schult.f.→Julius Hermann Schultes(1804-1840年)オーストリアの植物学者。Joseph August Schultesの息子。
☆Kew Gawl.→John Bellenden Kew、元John Gawler(1764-1842年)イギリスの植物学者。
☆Steud→Ernst Gottlieb von Steudel(1783-1856年)ドイツの医師・植物学者。
☆Baker→John Gilbert Baker(1834-1920年)イギリスの植物学者。


ちなみに、G. nitida var. armstrongiiについては、armstrongiiはG. nitidaの変種ではない可能性が出てきました。2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、遺伝子解析により別種とすべき結果が得られています。今後、armstrongiiは独立するかもしれません。



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最近、アロエ属についてアロエ属から分離したり統合されたりした経緯を簡単にまとめました。その記事の中でも触れましたが、Aloe bowieaについてはBowiea africanaやChamaealoe africanaとも呼ばれたことがあります。BowieaやChamaealoeからアロエ属に統合されても、アロエ属の中で独特の地位を占めるとされることがあります。

本日、ご紹介する論文はGideon F. Smithが1990年に発表した『Nomenclature notes on the subsection Bowiea in Aloe (Asphodelaceae : Alooideae)』です。早速、内容に入りましょう。

Chamaealoe A.BergerはAloe L.の異名です。つまり、かつてChamaealoe africana (Haw.) A.Bergerと呼ばれた種は現在Aloe bowiea Schult. & Schult.f.とされており、Aloe section Graminialoe Reynolds(=アロエ属グラミニアロエ節)に含まれるとされています。 

DSC_1607
Aloe bowiea
=Chamaealoe africana
=Bowiea africana


現代のアロエ属の分類に関しては、アフリカとマダガスカルのアロエ研究を生涯の仕事としたG. W. Reynoldsに負うところが大です。その後、アロエ属の属下分類は、Reynoldsの分類を基礎として改訂されていきました。アフリカ南部のアロエ属は、H. F. GlenとD. S. Hardyにより改訂されています。
Aloe bowieaはChamaealoeからアロエ属に移されましたが、Aloe bowieaのアロエ属内の分類はまだ明らかではありません。著者はAloe bowieaをSection Graminialoe Subsection Bowieae(グラミニアロエ節ボウィエアエ亜節)としてアロエ属の分類に組み込むことを目指しております。

アロエ属(Aloe L.)は1753年にCarl von Linneが設立しましたが、1786年にMedikusが細分化に失敗(Catevala Medik., Kumara Medik.)した後、1804年にHaworthがより自然な単位に分ける試みを行いました。Haworthは現在のHaworthiaやGasteriaに相当するグループに、アロエ属の属以下の分類としてGrandiflora、Parviflora、Curvifloraを考えました。その5年後の1809年に、DuvalはHaworthiaとGasteriaをアロエ属から分離しました。
1834年にSalm-Dyckは栽培した植物のカタログを出版しました。その中ではHaworthの考え方を支持し、アロエ属の属下分類としてParvifloraとGrandifloraを説明しました。GrandifloraはTubo recto(=アロエ)とTubo curvato(=ガステリア)に分類しました。Parvifloraは14節(Section)に分け、ボウィエアエ節(Section Bowieae)は、Aloe bowieaが初めてBowiea africanaとしてですが記載されました。これは、1824年のBowiea Haw.に基づきます。Bowiea Haw.の2種類目は1827年にHaworthによりBowiea myriacanthaと記載されました。しかし、1829年にこのBowiea Haw.の2種はアロエ属に移されました。
1836年にSalm-DyckはBowiea Haw.を支持し、Aloe myriacanthaも含めるべきであると主張しました。しかし、Baker(1880年, 1896年)はBowieaをアロエ属の同義語としてDuvalの分類を受け入れ、Salm-Dyckの節(Section)を亜属(Subgenus)に置き換えました。Aloe bowieaとAloe myriacanthaはアロエ属Eualoe亜属の中の1グループであるAcaulesに含めました。
Aloe bowieaとAloe myriacanthaは明らかに関連性はありますが、しかし互いの特徴は異なります。そのため、Aloe bowieaは1905年にChamaealoe africana、Aloe myriacanthaは1933年にLeptaloe myriacanthaとする意見もありました。Leptaloeは短命な属名で、1947年にReynoldsはアロエ属の同義語としました。しかし、1915年のMarloth、1941年のGroenewald、1950年のReynoldsはChamaealoeを支持しました。ただし、その後は1973年のObermeyer、1983年のSmithはChamaealoe africanaはAloe bowieaの同義語であるとしています。


Aloe bowieaは1973年のObermeyerや1981年のCourtによると、Anguialoe節との花の形態学的な類似性を示します。しかし、この節のアロエはAloe vryheidensis以外は木質化しますが、Aloe bowieaは非常に小型です。
Aloe bowieaは形態的にはGraminialoe節と類似します。Graminialoe節とAloe bowieaは、細い線形の直立した多肉質の葉を持ちます。Aloe bowieaは密集したロゼットを作り、他のGraminialoeと同様に肉質の根を持ちます。しかし、グラスアロエの中でもAloe bowieaの花は独特の緑がかる白色花で、総状花序に分散します。葯と花柱の配置も異なります。このように、Aloe bowieaは既存の属下分類に当てはまらないため、Graminialoe節の中でも独立したBowieae亜節(Subsection Bowieae)を提案しています。Graminialoe節Graminialoe亜節(Section Graminialoe Subsection Graminialoe)との相違点は上記以外にもあり、私の記事では示しませんが論文では一覧表をあげています。


Reynoldsのアロエ属の分類が示された後、Graminialoe節であるAloe modestaとAloe ioconspicuaが記載されました。しかし、それらとAloe bowieaは緩く細長い総状花序と、地下の球根状の膨らみがないことで区別出来ます。Aloe modestaはAloe bowieaよりも短い総状花序を持ち、小花柄が密集します。Aloe ioconspicuaは密集した円筒形の総状花序と無柄の花を持ちます。
上記のように、Bowiea亜節とGraminialoe亜節は肉眼でも容易に区別可能です。

以上が論文の簡単な内容紹介となります。やはり、アロエ属とされたとは言え、Aloe bowieaはアロエ属の中でも独立した存在と考える向きがあるようですね。グラスアロエを含む小型アロエはあまり詳しくないため、これから少しずつ調べていくつもりです。


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先日、「解体と統合のアロエ属」と称しまして、アロエ属から分離独立したり吸収統合された多肉植物が沢山あるという記事を書きました。
しかし、それは公的なデータベースを漁っただけですから、細かい事情やことの経緯はよくわかりません。特に気になっているのは、Aloe albifloraとAloe bowieaです。双方ともアロエ属ではないとされていた時期があります。A. albifloraはGuillauminia albifloraとされていましたが、現在はアロエ属とされています。いかなる経緯があったのか気になりましたので、少し調べてみました。本日、ご紹介する論文は1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』です。

アロエ属には14の異名(※1995年当時)があり、そのうち2属はマダガスカル原産種に対するものでした。それは、AloinellaGuillauminiaです。どちらの属名も広く受け入れられているとは言えず、世界規模で属を改訂したGilbert Westacott Reynolds(1958, 1966年)によりアロエに含まれることとなり、AloinellaとGuillauminiaは異名となりました。Reynoldsは1930年から1966年までの30年以上に渡りアロエ属の権威でした。

しかし、Heath(1993, 1994年)は、特に裏付けもなくAloinellaとGuillauminiaを復活させました。Aloinellaは同属として、Lemeea P.V.Heathと命名されました。A. haworthioides、A. boiteaui、A. parvulaをLemeeaに、A. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiはGuillauminiaとされました。

DSC_1815
Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides
=Lemeea haworthioides


DSC_1816
Aloe parvula
=Lemeea parvula


著者らはHealthの意見には反対です。なぜなら、属はその他の種よりもお互いに共通する多くの特徴を有している必要があるためです。この場合は、LemeeaやGuillauminiaがアロエ属とは明確に分離出来る特徴を持つ、つまりはLemeea内やGuillauminia内で共通する特徴を多く持ち、それがアロエ属とは共通していないことが求められているわけです。しかし、LemeeaやGuillauminiaはその特徴を抽出すると、アロエ属に含まれてしまう特徴ばかりでした。それぞれ固有と考えられている特徴も、調べてみると同じ特徴を有するアロエが見つかりました。

これらのことから、著者らはLemeea(incl. Aloinella)とGuillauminiaをアロエ属から分離することを認めません。もし、Healthの主張が認められるならば、アロエ属は細かい特徴ごとに非常に細分化されてしまい、LemeeaやGuillauminia以外の属の復活と、新たに沢山の新属を設けなければならなくなります。アロエ属という分類群の安定のためにも好ましくないとしています。

以上が論文の内容となりますが、結局はHealthの主張は認められておりません。しかし、近年の遺伝子解析の進歩により、結局アロエ属は解体されることになりました。それでも、アロエ属から独立したのはA. aristataやA. variegata、A. dichotomaなどであり、LemeeaやGuillauminiaではありませんでした。つまりはGideon F. Smithらの主張通り、LemeeaやGuillauminiaはアロエ属に含まれてしまうことが確定的となりました。



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女王錦Aloe parvulaはマダガスカル島に固有の小型アロエです。A. parvulaは1908年にドイツの植物学者であるAlwin Bergerにより命名されました。
2004年にイギリス王立植物園が発行している『Curtis's Botanical Magazine』にある「505. ALOE PARVULA : Aloacaea」という論文というか報告書を見つけましたのでご紹介します。生息環境について記されておりますから、栽培のヒントになるかもしれません。著者は王立植物園のDavid Du Puyです。

DSC_1817
Aloe parvula

早速、内容を紹介します。
Aloe parvulaは絶滅危惧種で、マダガスカルの中央台地の標高1400~1800mの、より乾燥した西部に位置するItremo山塊に限定的に分布します。この山塊にはロゼットを形成する小型アロエが3種類自生していますが、A. parvulaはその1種です。他の2種はAloe bellatula ReynoldsとAloe haworthioides Bakerです。これらのアロエは剛毛や結節で覆われた柔らかい多肉植物で、むしろHaworthiaに似ています。A. parvulaは生長が遅い種ですが、黄色の色素を欠くためサンゴのような真っ赤な美しい花を咲かせます。また、A. parvulaは自生地では種子が出来にくく、増殖が良くありません。

A. parvulaは石英の岩だらけで、酸性石英砂利の浅い土壌が蓄積する岩のくぼみや隙間、あるいは泥炭質土壌が蓄積する苔むした草地で頻繁に発生します。A. parvulaの生える土壌はXerophytaやAngraecum、Pachypodiumなどの他の多肉植物の根により固定されています。岩の隙間には水分が集まるものの、冬の乾季には雨は降りませんが標高が高いため時々雲からの水分で結露します。冬には10℃を下回ることがあります。乾季は5月から11月にかけて7~8ヶ月続きます。花は雨季の間の、特に1月から3月に頻繁に開花します。また、雨季でも泥炭が乾燥する期間があります。自生地には低木も生えないため、直射日光にさらされています。

A. parvulaは嫌石灰植物(calcifuge)で、堆肥や水の石灰を嫌います。論文では雨水を与えるべきであるとしていますが、これは雨ざらしにするという意味ではなく、水道水が硬水でありカルシウムが多いヨーロッパを念頭に言っているのでしょう。ヨーロッパでも雨水は弱酸性です。また、日本ではほとんどの地域は軟水ですから、普通に水道水をあげても問題はないでしょう。
冬季は乾燥させて、月に1度くらい水をあげれば、水分不足で過度に縮むことを防ぐことができると言います。また、最低気温は約10℃までですが、乾燥させれば5℃程度までは耐えられます。しかし、耐霜性は弱いみたいです。



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