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カテゴリ:アロエ・ハウォルチア > アロエ

アロエと言えば、美容関係や食品関係で使われるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)が有名ですが、知られていないだけで実はアロエは数百種類もあると言われています。サイズも数cmから十数mと、かなりの幅があります。しかし近年、アロエ属から樹木状のアロエ(Aloidendron)や叢生するアロエ(Aloiampelos)、葉が二列性のアロエ(Kumara)、三列性のアロエ(Gonialoe)、ハウォルチア様のアロエ(Aristaloe)が分離されました。本日は樹木状のアロエ、つまりはアロイデンドロンの話です。
アロイデンドロンは南アフリカに育つディコトムム(Aloidendron dichotomum)が有名です。Aloe dichotomaといった方が、馴染みがあるかも知れません。アロイデンドロン以外にも大型になるアロエは他にもありますが、基本的に単幹で枝分かれせず、頭でっかちな外見となります。しかし、アロイデンドロンは枝の分岐を繰り返して樹冠を作り、樹木状の外見に育ちます。
さて、本日はアロイデンドロンの中でもAloidendron pillansiiについて書かれたColin C. Walkerの2024年の論文、『Aloidendron pillansii (L. Guthrie) Klopper & Gideon F. Sm. - a review of a Critically Endangered southern African tree aloe』を見てみましょう。

ピランシーの発見
Aloe pillansiiは、1928年にGuthrieにより記載されましたが、図解はありませんでした。ピランシーという名前は、南アフリカの著名な植物学者であるNeville Pillansにちなんで命名されました。A. pillansiiはPillansが1924年と1926年に行われたRichtersveld遠征で発見された種の1つです。Guthrieはその分布を、「南アフリカ、Little Namaqualand、Anisfonteinの南西、頂上が平らな丘の西斜面に豊富」としています。GuthrieはA. dichotomaと比較し、枝分かれがまばらで葉が大きく広がり、花序が散在し、雌しべがあまり突き出していないとしました。
Pillansは1935年に以下のように記述しています。「A. pillansiiは1926年10月にNamaqualandのRichtersveldのAnisfonteinの丘で発見されました。当時、ほとんどの植物はカナリア色の円錐花序をつけており、sugarbirdが訪れていました。この種はAnisfonteinからオレンジ川のSendlings Drift付近まで北に広がる狭い地域にのみ生息します。A. dichotoma(Kokerboom)とは、主幹に比べて枝が太く直立し、はるかに幅が広い葉で簡単に区別出来ます。高さ30フィートの植物は珍しくなく、最近少なくとも60フィート(≒18m)の植物の目撃情報があります。」

アロイデンドロンの誕生
2002年にZonneveldは 核DNA量の類似を根拠に、ディコトマの亜種、つまりA. dichotoma subsp. pillansiiとしました。
2013年にDuraらはアロエ属の遺伝子解析による分子系統を行い、A. tongaensis以外の樹木状アロエの系統関係が特定されました。アロエの系統樹でアロイデンドロンは基底群で、アロエの仲間では古い系統であり、A. pillansiiを含む樹木アロエは他のアロエとは異なる系統群を形成しました。この根拠に基づき、2013年にGraceらは6種類の樹木アロエをAloidendron Klopper & Gideon F. Smに分離しました。
2015年にVan Jaasveld & Juddによるアロイデンドロンに関する著作により、Kumara plicatilis(Aloe plicatilis)とともに扱われましたが、これはアロイデンドロンと必ずしも近縁ではありませんでした。

ピランシーの生息域
ピランシーの生息域はPillansが説明したように狭いのですが、ナミビア南部にも分布することが分かりました。3つの亜集団があり、1つはナミビアのRosh Pinah周辺、2つ目はRichtersveldの中央、3つ目はRichtersveld南部のEksteenfontein周辺です。ピランシーの分布に影響を与えている要因は、冬に霧の形で降水があることです。
2022年にSwartらは、ピランシーの生息地と生態についての特徴を要約しています。1〜345株の植物が単独で、あるいは局所的に豊富な小さなグループで発生します。通常はドロマイト、頁岩、砂岩、花崗岩などの様々な地層の露出した岩の多い地形で見つかります。地形は山の斜面から平地まで様々ですが、植物の大部分は東または西に面した斜面に生えます。降水量は年間50〜100mmですが、21世紀の干ばつにより一部の地域では雨が降りません。花は春(10月)に開花し、主にsugarbirdにより受粉しますが、他の鳥や蜂も関与している可能性があります。夏に果実は熟し種子が散布されます。だだし、干ばつの時期には開花しません。ピランシーは夏の気温が50℃を超えることもある厳しい環境に生息するため、耐熱性が顕著です。

ピランシーの減少
MidgleyはCornell's Kopにおけるピランシーの減少について考察しました。Reynoldsが1950年に出版した「The Aloes of South Africa」に記載された1950年以前に撮影された写真と、1997年当時の写真を比較しました。結果、「古い個体の減少と、新しい個体の欠如」が認められました。
2003年にLoots & Mannheimerはナミビアのピランシーの状況を調査しました。5つの集団で1500を超える植物を数えました。これらのうち、最大の集団は近くの採鉱が原因となり状態が悪いことが分かりました。また、すべての集団で新規植物の加入率が低いことが分かりました。
さらなるデータと評価は、Bolusら(2004)やDuncanら(2005, 2006)、Powell(2005)、Swart & Hoffman(2013)により提供されました。2022年にSwartらは、野生のA. pillansiiの状況に関する包括的な評価を行いました。
1, 3つの亜個体群があり、それぞれ気候と生息地の特性が異なります。
2, 野生の個体群の総数は5935個体以上、9000個体未満であることが確認されています。
3, ナミビア南部の北部亜集団の個体群は老化しています。密度が最も高く、個体群全体の46%が生息しています。苗木はなく、幼木もほとんどありません。
4, 中央の亜集団の個体群は約16%を占め、主にRichtersveld国境保護区内及び郊外に分布しています。最も密度が低い亜集団です。
5, 南部の亜集団の個体群は、約38%を占めています。

レッドリストの評価
上記のデータに基づき、Swartら(2022)はIUCNレッドリストで、A. pillansiiを絶滅危惧IA類(CR)としました。Swartらは以下のような脅威を特定しました。
1, 園芸取り引きのための違法な採取の結果として、中央亜集団の減少が報告されています。
2, 北部及び中央亜集団で、採掘活動により生息地の喪失と劣化が進行中です。砂の投棄や砂の採掘による二次的影響は、今後50年間に増加が予想されます。
3, 21世紀の極端な干ばつにより、個体数は減少しています。人為的な気候変動の影響は、現在及び将来的な主たる脅威であると考えられます。
4, 利用可能な餌不足により、ヒヒによる草食が大幅に増加し、特に南部の亜集団で深刻で、2015年から2020年の高い死亡率につながりました。

ワシントン条約(CITES)による規定では、ピランシーは付属書Iに掲載されています。ちなみに、付属書Iに掲載された南アフリカのアロエはわずか4種類です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では発見の経緯から分類や命名の変遷、自生地、生態など、多くの過去の研究による知見が上手くまとめられています。大変、勉強になりますね。しかし、どうやらピランシーは大変な希少種のようで、そもそもの分布が狭く数も少ない上、開発や環境変動によりダメージを受け、新しい個体が育っていないようです。新規加入がなければジリ貧ですから、ピランシーの将来は厳しいと言わざる得ないでしょう。何もできないことがもどかしくはありますが、簡単な解決策もないのが現状です。ピランシーが野生絶滅する前に、有効な保護がなされることを願っております。


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去年はサボテンやアロエ類の新種の情報を記事にしましたが、先日サボテンについては記事を更新しました。あれから1年に見つかった新種の情報と、いくつか抜けていた種を追加しました。
さて、一般的には論文が出た=科学的な証明がなされたと解釈されがちですが、それは正確ではありません。論文の内容はまだ仮説のようなもので、沢山の科学者が読み内容を吟味します。場合によっては試験を再試し確認されることもあります。ですから、新種についても、まだ論文で新種が説明されただけでは駄目で、他の知られている種ではないのか、記載内容は科学的に正確かが吟味されます。
去年の8月に記事を書いた時点では、まだ論文で主張されただけで新種と認められていないものもありました。というわけで、アロエ類についても最新版の記事に改訂します。以下、去年の記事のコピーです。変わった部分は【追記】としています。いくつかの新種には画像リンクを貼りました。

先日、ここ10年ちょいくらいの、サボテンの新種についての記事を書きました。サボテンは巨大なグループで分布も広く、新種が見つかる余地はまだまだありそうです。その他の多肉植物では、何と言ってもアロエは新種が見つかる可能性が高いと言えます。アロエの新種を説明した論文を探してみたので、少し見てみましょう。まあ、サボテンの時と同じく、すべての新種を調べた訳ではなく、簡単に調べて出てきたものだけです。一応、アロエと近縁なAstrolobaやHaworthia、Gasteriaと、GonialoeやAloidendronなどの旧・アロエ属についても一部の情報を追加しました。

2010年
★モザンビークから南アフリカのKwaZulu-Natalにかけての地域より、新種のAloe tongaensisが記載されました。しかし、2013年にAloidendron属に移され、Aloidendron tongaenseとなりました。
https://pza.sanbi.org/aloidendron-tongaense
【追記】南アフリカのKuwaZulu-Natal州中部から、新種のLeptaloeであるAloe nicholsiiが記載されました。
http://redlist.sanbi.org/species.php?species=2206-827

2011年
★エチオピアから4種類の新種のアロエが記載されました。Aloe benishangulanaAloe ghibensisAloe weloensisAloe welmelensisです。
https://powo.science.kew.org/taxon/77110966-1
【追記】ケニアより新種の2種類のアロエが記載されました。ケニア南西部に自生するAloe springatei-neumanniiは、Aloe wallastoniiに近縁なアロエです。ケニア北部の山地よりAloe tegetiformisが記載されました。枝分かれの多い匍匐茎を持ち、岩や土の上に密集したマット状に育ちます。
【追記】ウガンダより新種の2種類のアロエが記載されました。ウガンダ西部のアルバート湖平原に自生するAloe butiabanaと、ウガンダ東部のElgon山の尾根の断崖から下垂するAloe wanalensisです。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1417652-Aloe-butiabana

2012年
★北ソマリアから新種のAloe nugalensisが記載されました。
★マダガスカルから新種の3種類のアロエが記載されました。Aloe beankaensisAloe ivakoanyensisAloe analavelonensisです。
★ナミビアのBaynes山から新種のAloe huntleyanaが記載されました。
https://pza.sanbi.org/aloe-huntleyana
★南アフリカのMpumalngaから新種のAloe condyaeが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1239374-Aloe-condyae
★アンゴラ南西部のナミブ砂漠から新種のAloe mocamedensisが記載されました。

2014年
★マダガスカル北部から新種のAloe gautieriが記載されました。
★南アフリカのMpumalangaから新種のAloe andersoniiが記載されました。
https://pza.sanbi.org/aloe-andersonii
★南アフリカの東ケープ州から新種のAloe liliputanaが記載されました。
★南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria loedolffiaeが記載されました。
https://pza.sanbi.org/gasteria-loedolffiae
★南アフリカの西ケープ州新種のからGasteria barbaeが記載されました。
【追記】エリトリアのナブロ山東斜面とマブラ平原より新種であるAloe montis-nabroが記載されました。散在する低木に守られた軽石上や溶岩の隙間に育ちます。

2015年
★ウガンダから新種のAloe lukeanaが記載されました。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Aloe_lukeana
★南アフリカの西ケープ州から新種のAstroloba cremnophilaが記載されました。

2017年
★マダガスカル北西部から新種のAloe belitsakensisが記載されました。
https://inaturalist.nz/taxa/746185-Aloe-belitsakensis
★マダガスカルから新種のLomatophyllum類である、Aloe maningoryensisAloe alaotrensisが記載されました。
★ケニアから新種のAloe zygorabaiensisAloe uncinataが記載されました。
★南アフリカから新種のAstroloba tenaxAstroloba robustaが記載されました。
https://www.inaturalist.org/taxa/580780-Astroloba-robusta
★南アフリカの西ケープ州から新種のHaworthia grenieriが記載されました。
★南アフリカの西ケープ州から新種のGasteria koelniiが記載されました。
https://www.janvandorpe.be/gasteria/gasteria-koenii
【追記】ケニアより新種のAloe mangeaensisが記載されました。

2018年
★南アフリカのCape Provから新種のHaworthia duraHaworthia ernstiiHaworthia vitrisが記載されました。

2019年
★ソマリランドから新種のAloe sanguinalisが記載されました。
https://www.sci.news/biology/aloe-sanguinalis-06915.html

2020年
★マダガスカル東部の湿潤林から新種のAloe vatovavensisAloe rakotonasoloiが記載されました。
★南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria visseriiGasteria camillaeが記載されました。
https://pza.sanbi.org/gasteria-camillae
【追記】ケニア南東部より新種のAloe ngutwaensisが記載されました。
【追記】インドより新種のAloe trinervisが記載されました。


2021年
★アンゴラ北西部から新種のAloe uigensis が記載されました。

2022年
★南アフリカ北部から新種のLeptaloe類であるAloe hankeyiが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/photos/272064040
【追記】南アフリカ北部州よりAloiampelos temuior  var. erntrtiiが記載されました。オレンジ色の花を咲かせます。

2023年
★アンゴラ南部からの新種としてGonialoe borealisが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。【追記】The International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024. により新種として記載されました。
【追記】ケニアより新種であるAloe nderianaが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。
【追記】ソマリランドのアカシアが優占する乾燥地で、新種であるAloe kayseiが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。


最後に
と言う訳で、近年のアロエ類の新種でした。基本的に調べたのは名前だけで、そのすべてについて画像検索はしていないため、園芸的な重要度は分かりません。ところで、1753年にAloe L.と言う学名がつけられてから270年ほど経ちますが、まだ新種が続々と発見されていることに驚きます。おそらく、これからも沢山の新種が発見されることでしょう。しかし、残念ながら自生地の破壊により絶滅の危機に瀕しているアロエも沢山あります。また、発見される前に自生地の破壊により絶滅するものも出てくるはずで、既に人知れず絶滅しているものも少なくないはずです。新種の記載は不道徳なコレクターや業者による盗掘の危険性を高めてしまいますが、自生地の保護には多少の力が働く可能性もあります。知られていなければ保護の算段すらつかないため、科学者たちの奮闘に期待したいところです。


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最近、Aloe bowieaと言うアロエを植え替えました。なので、A. bowieaについての記事を書いたりしました。


この論文ではA. bowieaを命名したHaworthは、南アフリカで植物を採取しキュー王立植物園に送ったJames Bowieの植物を記載したとありました。しかし、A. bowieaを採取したJames Bowieについての記述はそれだけでした。もとよりJames Bowieはキュー王立植物園が送り込んだ2人目のイギリス人プラントハンターでした。しかし、キュー王立植物園の派遣したプラントハンターと言えば初代のFrancis Massonが有名ですが、何故かJames Bowieについては言及されません。ですから、このJames Bowieの半生を振り返って見ましょう。参照とするのは、Gideon F. Smith & A. E. van Wykの1989年の論文、『Biological Notes on James Bowie and the Discovery of Aloe bowiea Schult. & Schult. (Alooideae: Asphodelaceae)』です。

2代目プラントハンター
Francis Massonは1772年よりキュー王立植物園のガーデナーとして働きはじめました。南アフリカへの派遣はJoseph BanksによりGeorge3世を説得して実現しました。Massonの忍耐力と熱意は誰にも負けないものでした。
James BowieはMassonの後継者として喜望峰に派遣されました。Massonが去ってから22年後のことです。Bowieはロンドンの種苗業者の息子でしたが、21歳近くになったBowieはキュー王立植物園に就職し、4年間ガーデナーとして働きました。1814年、Bowieと同僚のAllan Cunninghamは、植物の収集のためブラジルに派遣されました。その後、Bowieは喜望峰へ、Cunninghumはオーストラリアに派遣されることになったのです。


喜望峰へ
1816年9月28日、Bowieは「Mulgrave Castle」号に乗り、11月にTable湾に到着しました。到着から18ヶ月はケープタウン周辺の収集に専念しました。Bowieは主に園芸的な植物を栽培し、キュー王立植物園に送っていました。Bowieは1818年3月23日に南アフリカ内陸部への最初の収集旅行を開始します。この旅では西はケープタウンとCaledonから、東はKnysnaとPlettenberg湾までを探索し、海岸沿いのコースを通り、10ヶ月後にケープタウンに戻りました。Bowieは1819年1月14日にケープタウンに到着し、おそらくは3ヶ月ほどかけて収集した植物をキュー王立植物園に送るのに費やしました。

2回目の収集旅行
1819年4月9日、BowieはKnysnaに向かい、町の公証人であり開拓者でもあるGeorge Rexのもとに滞在しました。ちなみに、このRexはGeorge王子(後のGeorge3世)の嫡子であると言う根拠のない伝説があります。さて、RexはKnysnaで多くの博物学者を迎えています。BowieがMelkhoutkraalで採取した植物の1つに献名されており、Streptocarpus rexiiがあります。BowieはRexの同行により1820年1月22日にケープタウンに戻りました。

3回目の収集旅行
Bowieの3回目の旅は、Bushmans川、KowieとGrahamstownまで東に向かいました。時期的にはBowieが2回目の旅から戻ってすぐと考えられます。1820年3月9日にはKnysnaに来ていました。RexがケープタウンからKnysnaまで同行しました。約1年間続いた3回目の旅はさらに東へ向かいました。1821年1月15日にAlgoa湾から出航し、1月29日にはTable湾に到着し5月23日まで滞在しました。

4回目の収集旅行
1821年5月24日、Bowieはケープタウンから出航し、6月5日にAlgoa湾に到着しました。当時、あまり知られていなかった植民地の東部と南東部をより徹底的に探索し、North-East Cape州にまで進みColesberg付近で植物を採取しました。
Bowieは1822年6月1日から9月22日までRexと共にKnysnaに住み、やがて陸路でケープタウンに戻りました。

訃報
1820年6月19日、Bowieらを支援していたBanks卿が亡くなりました。その2年後、下院においてBowieのような収集家への支給額を半減させることが決定されました。これにより、CunninghumかBowieのどちらかを呼び戻すこととなりました。どうやら、Bowieの節制を怠る癖と、収集任務に対する忍耐力の無さから、Bowieが呼び戻されることになりました。
1823年5月23日、アフリカ大陸部への4回目の航海から6ヶ月後、「Earl of Egremont」号に乗りケープタウンからイギリスに向け出航しました。St. Helenaで休憩した後、1823年8月15日にロンドンに到着しました。


帰還
Bowieはキュー王立植物園に雇われず、収集した植物標本を作る作業に費やしました。夜はパブでケープやブラジルでの冒険などを自慢したと言います。こうした飲酒のせいで、Bowieはアルコール中毒になってしまいました。イギリスで無為に4年間を過ごした後、自然史標本の収集家になるべく1827年4月に「Jessie」号で南アフリカに向かいました。

再び喜望峰へ
ケープタウンに移住してから約9年後の1836年までに、BowieはKloof StreetのCarl von Ludwig男爵のガーデナー兼収集家として雇われたようです。この契約は5年と続かず、1841年までに園芸指導や検査、集めた植物の販売でわずかな生計を立てていました。
Bowieは南アフリカに戻ってからの42年間、ケープで非生産的な生活を送りました。自然史標本の輸出をしていたVillet and Sonの事業を継ごうとして失敗し、ケープの植物園の学芸員になる希望も叶いませんでした。その後、ケープバルブの販売で生計を立てようとするも失敗し、苗床のための土地取得すら出来ませんでした。
晩年は健康状態が悪化し、慈善活動としてケープタウンのRalph H. Arderneの素晴らしい庭園の庭師として雇われました。James Bowieは1869年7月2日に亡くなり、ケープタウンに埋葬されました。Bowieが収集した標本は、今でも大英博物館とキュー王立植物園に保管されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約となります。論文ではJames Bowieに献名された、Bowiea africana(=Aloe bowiea)の命名に関する議論が展開されますが、今回は割愛しました。
しかし、当時は移動手段も限られており、植物を収集するために僻地に入るプラント・ハンターは命懸けでした。東アジアで活躍した有名・無名のプラント・ハンターたちについて書かれた本を読んだことがありますが、病気で客死したり、中にはトラブルに巻き込まれて殺害されるケースもありました。大抵は道なき道をゆく冒険的なもので、時代的なものを加味すれば大変な辛苦があったでしょう。James Bowieの旅については分かりませんが、舗装された道路を何の苦労もなく自動車で移動したわけではないはずです。その苦労の結果はと言うと、正直あまり明るいものではありませんでした。しかし、Aloe bowieaの学名の中にBowieの名前は残っており、この名前はこれからも使われ続けます。さらに、Bowieの残した標本は貴重な資料として、将来行われる研究を支えるはずです。Bowieの後半生は無念であったかも知れませんが、その名前はいつまでも語られていくでしょう。


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今日は何となくアロエ特集です。小型のアロエが好みなので、コンパクトなものがほとんどです。

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Aloe saundersiae (Reynolds) Reynolds, 1947
シャープな葉のサウンデルシアエです。群生するタイプのようです。最初は1936年にLeptaloeとされたアロエです。湿った草地に生えるそうですが、家畜の踏みつけなどにより減少しているそうです。南アフリカ原産の絶滅危惧種。

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Aloe parvula A.Berger, 1908
女王錦と言う名前もあるパルヴラです。トゲがなくニクイボに覆われますが、何となくクモヒトデを連想させます。ちなみに、異名としてA. sempervivoides、さらにLemeeaとされたこともあります。マダガスカル原産。


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Aloe calcairophila Reynolds, 1960
アロエは子苗のうちは
二列性ですが、育つと回転し始めます。しかし、カルカイロフィラは二列性のまま育つ珍しいアロエです。しかし、せっかくの強いトゲは内向きで、あまり役にたっていなそうです。そう言えば、多肉植物のイベントでカルカイロフィラは最近では割と見かけますね。ちなみに、Guillauminiaとされたこともあります。マダガスカル原産。

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Aloe fragilis Lavranos & Roosli, 1994
美しい斑が入るフラギリスです。ワシントン条約の附属書Iに記載されており、国際取引が規制されています。マダガスカルの小型アロエ。


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Aloe bakeri Scotto Elliot, 1891
バケリはやや生気がありません。強光や暑さにあまり強くない印象です。バケリは野生絶滅種ですが、栽培された個体が維持されています。石材採取のために自生地が破壊されてしまいました。Guillauminiaとされたことがあります。ちなみに、1902年にA. bakeri Hook.f. ex Bakerと言う同名のアロエが記載されましたが、これはA. percrassaの異名となっています。マダガスカル原産の岩性種。


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Aloe florenceae Lavranos & T.A.McCoy, 2004
マダガスカル原産の高地性アロエですが、特別に夏に弱いと言うわけではないようです。青白く均整のとれた姿の美しいアロエです。花は黄色で甘い香りがあります。2004年に記載された割と新しいマダガスカル原産のアロエ。


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Aloe descoingsii Reynolds, 1958
デスコイングシイは最小のアロエと言われていますが、葉が短いだけで幅はありますから何やら寸詰まりに見えます。我が家のデスコイングシイは葉が枯れがちなんですよね。もっと湿っぽくするべきでしょうか。ちなみに、Guillauminiaとされたことがあります。


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Aloe albiflora Guillaumin, 1940
アロエには珍しく白い花を咲かせるアルビフロラです。「雪女王」の名前もあります。このように細長い葉を持つ小型アロエはいくつかありますが、アルビフロラは葉が立ち上がります。
ちなみに、Guillauminiaとされたことがあります。

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Aloe haworthioides Baker, 1887
有名な小型アロエのハウォルチオイデスです。葉の長さではなく1枚あたりの葉の質量では、アロエの中でも最小かも知れません。トゲはなく毛に覆われます。とても丈夫で育てやすい小型アロエです。乾季には完全に乾燥するらしく、かなり乾燥には強いみたいです。
ちなみに、AloinellaあるいはLemeeaとされたことがあります。

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Aloe thompsoniae Groenew., 1936
トンプソニアエはやや萎みがちかも知れません。高地の雲霧林に生えるため、湿気を好む可能性があります。トンプソニアエはトンプソン夫人により発見されたアロエです。極僅かにトゲがありますが、目立たずあまりアロエに見えません。南アフリカ原産。


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Aloe fleuretteana Rauh & Gerold, 2000
フレウレテアナの花茎が伸びて来ました。日を浴びて美しく色付いています。2000年に記載されたマダガスカル原産の小型アロエ。

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Aloe bergerii?
こちらは正体不明の謎のアロエです。A. bergeriiなる聞いたことがない名札がついていました。1番近いのは、多分Aloe bergerianaですけど、これは旧コルトリリオンですから明らかに違いますよね。外見的にはA. albifloraに少しだけ似ていますが、調べるとA. albifloraに似ているアロエとして、Aloe bellatulaが挙げられていました。まあ、私の謎アロエと割と似ています。A. bergeriiはA. bellatulaの誤記かも知れません。しかし、謎アロエは葉の上面が割と平らで溝がほとんど入らないように見えます。まあ、生育環境や個体差がありますから、ちょっと判断が難しいですね。あと、Aloe perrieriも似ています。さらに言えば、A. perrieriに似たAloe aff. perrierはかなりそっくりです。まあ、写真映りが良いだけと言う可能性もあります。とにかく、開花したらわかるかも知れませんね。長々と迷推理を展開してきましたが、結局は交配種かも知れませんから、このような札落ち品に名前をつけてヤフオクとかに流すのはご法度。どれほど詳しくてもシロウトの鑑定なんて当てになりませんからね。


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アロエは種類が多く外見的にも非常に多様です。2010年代に遺伝子解析の結果から、樹木状のアロエであるアロイデンドロンやブッシュ状のアロエであるアロイアンペロス、二葉性アロエのクマラ、三葉性アロエのゴニアロエ、さらにアリスタロエがアロエ属から分離されました。しかし、それでもなお、アロエの多様性は失われておりません。特に小型アロエは非常に独特の形態のものがあり、あまりアロエには見えないものもあります。さて、そんな小型アロエの中でも、独特の進化を果たしたAloe bowieaについてのお話です。参照とするのは、Gideon F. Smithの1990年の論文、『Neotypification of Aloe bowiea (Aspbodelaceae: Alooideae)』です。タイプを巡る論考ですが、A. bowieaの経緯が分かる興味深い論文です。

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Aloe bowieb
一見してアロエには見えない小型のアロエです。強光は苦手でハウォルチアと並べて育てています。

Aloe bowieaの歴史
A. bowieaを初めて命名したのはHaworth(1824年)で、Bowiea africanaと命名されました。しかし、HaworthはB. africanaを記述した際(1824年、1827年)に、標本を引用しておらず、タイプ化されていません。その後、Schultes & Schultes(1829年)によりAloe bowieaと命名されました。さらに、Berger(1905年)は単系属であるChamaealoe africanaとしました。現在では、Aloe bowieaが正しく、B. africanaやC. africanaは異名とされています。

タイプ標本
ICBN(国際命名規約)によれば、科以下のすべての分類群には命名上のタイプが必要です。分類群を命名した著者(命名者)がホロタイプを指定しなかった場合、あるいは後に紛失や破損した場合はレクトタイプあるいはネオタイプを代わりに指定する必要があります。タイプは命名した資料の指定した標本や図版です。
しかし、Haworthの命名したBowiea africanaは、標本の引用や図解に対する記述はありません。さらに、Haworthの記述には、この種を確立した材料にも言及していません。そのため、この論文でAloe bowieaはネオタイプ化されます。

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根は根元が太くゴボウ根です。

資料探索
1700年代後半から1800年代前半にかけて、Adrian Hardy Haworth(1768-1833)はイギリスの多肉植物の第一人者でした。AloeやMesembryanthemumなどで沢山の新種を記載しました。Haworthが亡くなった時、チェルシーにあるコレクションには1000株あまりの多肉植物が栽培されていました。Rowley(1951)はHaworthのコレクションの一部は今日まで残っていると述べています。N.E. BrownとW.W. SaundersはHaworthのコレクションのクローンを多肉植物コレクターのJohn Thomas Batesなどに配布しました。Batesのコレクションは現在は科学的に管理されていますが、これらがHaworthの記述した植物であるかを証明出来ません。また、HaworthはオクスフォードのHenry Barron Fieldingに販売した植物標本についてもまとめられていますが、Fieldingは標本を研究に使用した後にそのほとんどを捨ててしまいました。このHaworth由来の標本はオクスフォード大学のFielding-Druce Herbariumに残っていますが、Aloe bowieaはありませんでした。また、Haworthは記載した植物を必ずしも標本としていたわけではないかも知れません。

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Aloe bowieaの花
アロエには珍しい白花です。大型のアロエの花は橙色系統で蜜を求めて花を訪れる鳥が受粉を担う鳥媒花です。しかし、小型アロエの中には白色や淡いクリーム色などの花を咲かせるものがあり、虫媒花である可能性があります。また、この雄しべが突き出す形状はアロエの中では特異的で、Section GraminialoeのSubsection Bowieaeと言うA. bowieaのみからなるグループに分けられています。


タイプを探す
Haworthはキュー王立植物園のW.T. Aitonの友人で、Haworthの記載した新種の多くはここに由来します。当時、喜望峰からJames Bowieが採取しキュー王立植物園に送った新種を受け取ったはずです。Bowiea africanaがキュー王立植物園に受け入れられた1822年に、エディンバラ王立植物園の若いガーデナーであるThomas Duncansonが、キュー王立植物園でまだ描かれていない植物画を描くことを目的とした画家に任命されました。1822年から1826年にかけて700点以上の植物画を描き、そのうち350点は多肉植物でした。Duncansonの植物画のうち、アロエ類の植物画は70枚以上あり、Bowiea africanaの絵を含んでいました。おそらくDuncansonにより「1822年に喜望峰でBowie氏から受け取った」と言うメモが添えられていました。
多くの場合、キュー王立植物園で受理された新種は記載される前に図版が描かれます。そのため、Haworthは記載前にDuncansonの描いたBowiea africanaの植物画を見た可能性があります。これらのことから、Duncansonの描いたBowiea africanaの植物画をAloe bowieaのネオタイプ(イコノタイプ)として指定します。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
古い時代に命名された植物は、タイプ標本が行方不明だったり、第二次世界大戦で焼失したり、類似種が混入していたり、今回のようにそもそも指定されていない場合もあります。タイプ標本が必要であると命名規約で決められましたが、それ以前のものにはタイプ標本があるかは分からないと言うことになりました。あまりに古いと、タイプ標本が指定されたのか否かから調べなくてはならない羽目になります。この論文もまずはタイプの指定の有無から調査され、タイプが指定されていないことが確認されました。そのため、著者は新たにタイプを指定しました。
しかし、考えてみれば、1753年のCarl von Linneから始まり、恐ろしいほどの種類の植物が記載されたわけで、タイプがあるか否か不明なものばかりでしょう。そのすべてを調査し、指定可能な古い資料が存在するかも調査し、それらをまとめて論文にして公表しなければなりません。非常に地道で時間がかかる作業です。このような論文は地味で退屈に思えますが、生物学的には重要です。私もこのような論文は毎度、頭が下がる思いでおり、積極的に記事にしています。今後も見つけ次第、記事にしていく予定でおります。


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アロエの論文を探していた時に、たまたまアロエを用いた土地の浄化についての論文を見つけました。土壌汚染地域に植物を植えて、植物に汚染物質を吸収させると言う話はたまに聞きます。しかし、実際の結果については聞いたことがありませんでした。しかも、浄化する植物にアロエを用いると言うのは、なかなか興味深く感じましたので、早速読んでみました。と言うことで、本日はJoao Marcelo-Silvaらの2023年の論文、『Phytoremediation and Nurse Potential of Aloe Plants on Mine Tailings』をご紹介します。

有毒な尾鉱
現在、南アフリカの鉱山では激しい採掘活動が行われています。鉱山の尾鉱(採掘の残渣)には有毒な金属(PTM)が豊富に含まれており、環境に対する長期的なリスクがあります。

アロエでPTMを除去出来るのか?
この論文では、植物を用いたPTMの除去、つまりPytoremediationの可能性を探ります。
この研究では、鉱山の尾鉱を用いて栽培された、Aloe burgersfortensisとAloe castaneaを評価しました。試験ではプラチナ鉱山と金鉱山から採取された尾鉱が使用されました。

アロエの成分分析
尾鉱で栽培されたアロエの葉の成分を分析しました。尾鉱ではない土壌で栽培されたA. castaneaと比較すると、プラチナ鉱山と金鉱山の尾鉱で栽培されたA. castaneaには高いレベルのニッケルが含まれていました。さらに、プラチナ鉱山の尾鉱ではカドミウム、マンガン、亜鉛、銅が蓄積し、金鉱山の尾鉱ではコバルト、マンガン、亜鉛、銅が蓄積しました。A. bergersfortensisでは、尾鉱ではない土壌で栽培された個体では、A. castaneaよりも亜鉛やニッケル、マンガン、カドミウム濃度は高いものの、尾鉱で栽培すると蓄積濃度が下がる傾向があります。金鉱山の尾鉱では亜鉛濃度が多少上がりました。

最後に
Aloe castaneaは有毒な金属を生物濃縮する可能性が示されました。しかし、そもそも重金属で汚染された土壌では育たない植物も多いわけで、Aloe castaneaが重金属に耐性があることに驚きます。私が思うに、このPytoremediationにおいて重要なのは、固有種の使用だと思います。やはり、外来種ではなくて、自生する植物の使用が望ましいはずです。まあ、南アフリカの乾燥地に適応した植物となれば、自生する多肉植物を用いるのがもっとも有用でしょう。
今回は2種類のアロエを用いましたが、種によって金属の蓄積傾向が異なることが示唆されます。場合によっては、複数種の植物を組み合わせて、効率的に金属を回収することも可能かも知れません。この論文は2023年のものですから最近の話です。アロエを用いたPytoremediationはまったく新しい試みと言えます。今後の進展に期待したいですね。


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しかし、アロエと言う植物は一般的であるにも関わらず意外と奥が深いもので、調べてみると知らないことばかりで驚かされることが多々あります。多肉植物の即売会などでも、見たことがない美しいアロエが何気なく販売されており、ついつい買ってしまい置き場所がなくて困っているくらいです。さて、と言うわけで本日はアロエの話題です。
アロエは似ているものも多く、分類が難しく混乱した経緯がある種も珍しくありません。また、ある種が他種に含まれてしまったりすることは、アロエに限らずですがよくあることです。しかし、そのことが問題を引き起こすこともあるようです。本日は
Gideon F. Smith & Ronell Klopperの2022年の論文、『Conservation status of the recently reinstated Aloe davyana, A. davyana var. subolifera, A. labiaflava (Asphodelaceae subfam. Alooideae), three maculate aloes emdemic to South Africa』を見ていきます。思わぬ問題が起きてしまいました。

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Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。

アロエの保全状況の評価
アロエの保全状況の評価は、1980年、1985年、1994年、1996年、1997年、1998年、2002年、2009年に実施されてきました。しかし、他種の異名に含まれたりして学名が変遷した場合、正確な評価が行われていない可能性があります。ここでは、学名が変遷した3種のアロエ、Aloe davyana var. davyana、Aloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflavaの保全状況の評価を行います。

Aloe davyana var. davyana
Aloe davyanaは、1905年にSchonlandが記載して以来、大幅に変化しました。1987年にはGlen & Hardyが、Aloe greatheadii var. davyanaとしました。また、Reynolds(1950年)などにより、他の黄斑アロエを異名に含めるなど種の概念を拡張しました。
しかし、
2020年にSmithらが独立した種であることを示す証拠を提示しました。その他の黄斑アロエも、それぞれ独立しています。さらに、2021年にSmithらが、Aloe davyana var. suboliferaを復活させたことから、従来のAloe davyanaはAloe davyana var. davyanaとなりました。
しかし、Aloe davyanaは種の概念が変遷したため、これらの調査による種と対応していないものもあります。Aloe davyanaの初めての評価は、Glen & Hardy(1987年、2000年)に従いAloe greatheadii var. davyanaとして、2000年に実施されたRaimondoらのもので、軽度懸念としました。Aloe davyanaの最新の評価(Mtshaliら、2018年)では、異名としてAloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflava、Aloe longibracteataが含まれています。

Aloe davyana var. davyanaは、南アフリカ中北東部の広い地域に分布し、草原とサバンナの低木地帯の両方の生息地の構成要素です。生息地の中心はGauteng州ですが、南アフリカでも人口の多い州です。金とプラチナの採掘により、大量の人口流入がありました。
このアロエは荒地でよく育ち、土壌を安定させて侵食を防ぐため、鉱山の尾鉱などで荒地に植えることが出来ます。
著作らは、Aloe davyana var. davyanaは分布域全体で一般的である、保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では脅威にさらされていません。


Aloe davyana var. subolifera
Aloe davyana var. suboliferaは、1939年にGroenewaldにより記載され、Reynoldsら(1950年)により認められてきました。しかし、1987年にGlen & Hardyにより、Aloe greatheadii var. davyanaの異名とされました。
2020年にAloe davyanaが復活したことから、2021年には
Aloe davyana var. suboliferaも復活しました。Aloe davyana var. suboliferaは、長くAloe greatheadii var. davyanaの異名とされてきたため、保全状況は不明です。
変種suboliferaの分布範囲は、変種davyanaと比べて南アフリカ中北東部により限定されていますが、分布は重なります。非常に密な林分を形成することがあります。メトロポリスを含むShoshanguve市はその全体が変種suboliferaの分布範囲に含まれます。さらに、高速道路に隣接する地域にも生えています。都市化と人間の定住は分布に影響を与えています。また、いくつかの保護区にも分布しますが、狩猟や畜産に焦点を当てており、自然火災は意図的に防がれています。そのような状況では、低木が草原に侵入し生態系や植物の多様性に悪影響があるかも知れません。また、家畜による撹乱や過放牧は変種suboliferaの個体数の増加をもたらす可能性があります。著作らはAloe davyana var. suboliferaは、分布域が狭いにも関わらずその全域でよく見られることを発見しました。保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では絶滅の危機に瀕していません。

Aloe labiaflava
Aloe labiaflavaは、1936年にGroenewaldにより記載されました。Reynolds(1950年)は、「Aloe labiaflavaはAloe davyanaとAloe longibracteaの交雑種である」と結論づけました。1987年のGlen & Hardyは、Aloe labiaflavaはAloe greatheadii var. davyanaの異名としました。
しかし、
2021年にSmith & Klopperは、Aloe labiaflavaは交雑種(nothospecies)ではないことを示し、独立した種として復活しました。Aloe labiaflavaも保全状況は不明です。
Aloe labiaflavaは他の2種より分布範囲が小さく、Mpumalanga西部のGemsbokspruit近くの狭い地域に限定されます。都市の拡大により約200個体が知られているだけです。絶滅危惧種に相当します。


最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
分類学はただ名前をつけるだけではなく、生物の保全のためにも重要です。異なる種が混同されてしまえば、正確な分布や個体数の把握は意味をなさなくなります。実際に論文でも、いくつかの種が混同されており、そのすべてを含めた調査がなされていたことが指摘されています。種の混同は、絶滅危惧種を保護の必要がないものと誤認させてしまいます。A. davyanaは絶滅の可能性はないようですが、A. labiaflavaは絶滅危惧種であるにも関わらずただの雑種として捨て置かれる可能性がありました。種の保全とその把握のためにも、分類学的研究が進展して欲しいものですね。


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多肉植物の受粉に関する研究を度々ご紹介してきました。その中で気になったのはタイヨウチョウの存在です。タイヨウチョウはアフリカに分布する花蜜専門の鳥です。しかし、過去にご紹介した論文では、タイヨウチョウが花に訪れても受粉に寄与せず、ただの蜜泥棒になっているというのです。それらの論文は主に巨大アロエの受粉についてでした。では、タイヨウチョウにより受粉する植物とは何でしょうか? 気になって調べたところ、タイヨウチョウが受粉に寄与するかを調査した論文を見つけました。それは、A. L. Hargreavesらの2019年の論文、『Narrow entrance of short-tubed Aloe flowers facilitates pollen transfer on long sunbird bills』です。

植物が複数の生態に特化することはほとんどないため、trade-offは生態学的特化の進化における主要要因と考えられています。つまり、特定の花粉媒介者に最適化して受粉効率を高めると、他の花粉媒介者に対する効率は低下します。それは、花粉媒介者により大きさや行動が異なるためです。しかし、2つの花粉媒介者に対する効果的な形態の中間をとる二峰性受粉システムも報告されています。

ミツバチに最適化した花は短い花冠と少量の濃縮された蜜持ち、タイヨウチョウのような蜜食性の鳥に最適化した花は細長い花冠と豊富で希薄な蜜を持ちます。一般的に赤い花の大型アロエは鳥媒花でありミツバチは蜜泥棒となります。白色や薄ピンクの花を持つ小型アロエの花はミツバチの受粉に特化しています。黄色の花を持つ中型のアロエはタイヨウチョウとミツバチにより受粉する可能性があります。

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Aloe kraussii
『Natal plants』(1902年)より。


著者らはAloe kraussiiを研究しました。これまでのフィールドワークでは、A. kraussiiにはマラカイトタイヨウチョウ(Nectarinia famosa)やアメジストタイヨウチョウ(Chalomitra amethystina)と、複数種のミツバチが定期的に訪問していることが確認されています。これらのタイヨウチョウは2.5cmのクチバシを持ち、さらに1cmの舌を伸ばすことが出来ます。
さて、タイヨウチョウが花にアクセス出来ないようにアロエの花をケージで囲むと、ミツバチが盛んに採蜜し効果的に受粉することが確認されています。しかし、ミツバチを排除してタイヨウチョウだけの効果を確認出来ないため、A. kraussiiに対するタイヨウチョウの受粉は不明です。タイヨウチョウの長いクチバシに対してA. kraussiiの花は短く、タイヨウチョウの顔に花粉はつかないことが想定されます。マラカイトタイヨウチョウのクチバシは30〜40mm、アメジストタイヨウチョウのクチバシは25〜35mm、A. kraussiiの花冠の深さは10.7mmですから、タイヨウチョウのクチバシは花の2倍以上の長さがあります。


著者らはマラカイトタイヨウチョウを捕獲し、鳥小屋に入れてA. kraussiiの花を置き採蜜させました。タイヨウチョウが採蜜した後に、花粉を除去したA. kraussiiの花を採蜜させ、柱頭に花粉がついたかを確認しました。すると、柱頭には大量の花粉が付着しており、タイヨウチョウがA. kraussiiの受粉に寄与していることが分かりました。また、A. kraussiiの花は先端がすぼまる形をしていますが、人為的にすぼまる花を開いてから同様の試験を行うと、柱頭への花粉の付着は減少しました。採蜜後のタイヨウチョウから花粉を回収すると、タイヨウチョウのクチバシから207
粒の花粉が付着していました。人為的に開いた花を採蜜したタイヨウチョウからは、85粒の花粉が回収されました。
一般的に鳥の花粉媒介は頭に付着した花粉を研究対象としています。滑らかで硬いクチバシは花粉が付着しにくいと考えられるからです。しかし、A. kraussiiではクチバシによる花粉媒介が出来るようです。A. kraussiiは花の短さによりミツバチによる受粉を可能とし、花の先端がすぼまることによりタイヨウチョウより短い花でも受粉が可能となっているようです。以上のことにより、A. kraussiiはミツバチとタイヨウチョウの二峰性受粉システムであることが確認されました。しかし、ミツバチとタイヨウチョウの受粉への寄与の具合は、この試験では分かりません。

以上が論文の簡単な要約です。
花に様々な動物が訪れても大抵は盗蜜か花粉を食べに来たりしていて、有効な花粉媒介者以外はほとんど受粉には寄与しないことが多いように思われます。それは、花の大きさや色、形、開花時間などにより規定されます。例えば、夜間に咲くカップ状の柱サボテンの白く大きい花はコウモリ媒、筒状で赤いサボテンの花はハチドリ媒という風に、花と花粉媒介者には一定の組み合わせがあります。しかし、論文のような二峰性受粉システムは、本来は異なる受粉システムを両取りしている上手い方法です。花粉媒介者が常に安定とは限りませんから、どちらかが減少しても受粉数の減少を最低限に留めることが可能になるのかも知れませんね。



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花は甘い蜜を分泌しミツバチなどの花粉媒介者を引き寄せ、受粉し結実します。しかし、世界には苦い花蜜も存在すると言うのです。非常に不思議です。なぜ、苦い蜜を出すのでしょうか? さらに気になるのは、その苦い蜜を訪れる花粉媒介者とは何者なのでしょうか?
本日はSteven D. Johnsonらの2006年の論文、『DARK, BITTER-TASTING NECTAR FUNCTION AS A FILTER OF FLOWER VISITORS IN BIRD-POLLINATED PLANT』をご紹介します。


色のついた蜜
Aloe vryheidensisは南アフリカ原産の高さ2mの多肉低木ですが、その花の蜜は暗褐色で苦味があります。花蜜は花粉媒介者を呼び寄せますが、動物種により好む蜜の量と濃度は異なります。そのため、その組み合わせにより好ましい花粉媒介者のみを選別するためのフィルターとして機能します。しかし、蜜の量と濃度の組み合わせは厳密なものではなく、ミツバチは鳥媒花にもよく訪れて採蜜します。色のついた蜜はアルカロイドやフェノールなどの二次化合物を含み、その味が決定的な選別のためのフィルターとして作用を果たしている可能性があります。例えば、ノウゼンカズラ科のCatalpa speciosaの花蜜にはイリドイド配糖体が含まれ、アリや蝶などの蜜泥棒を排除する一方、ミツバチには影響を与えませんでした。二次化合物は外観や味、消化率を変化させる可能性があります。
南アフリカではAloe spicata、Aloe castanea、Aloe vryheidensisの3種類のアロエが、人間にとって独特の苦みがある暗赤褐色の蜜を持ちます。この色と味はフェノール化合物によるものです。


花への訪問者
研究はKwaZulu-Natal州のLouwsberg近くにあるiGwala Gwala動物保護区において、Aloe vryheidensisの開花個体200株からなる個体群が観察されました。観察中に8種類の鳥がA. vryheidensisの花を訪問しました。訪れたのは、主にルリガシライソヒヨ(Cape Rockthrushes)、マミジロサバクヒタキ(Buffstreaked Chats)、ホオグロカナリア(Streaky-headed Canaries)、ケープメジロ(Cape White-eyes)、サンショクヒヨドリ(Dark-capped Bulbuls)でした。これらの鳥はかなりの量の花粉を顔につけていることが確認されました。また、これらの鳥は蜜食専門ではないという共通点があります。逆に蜜食専門のタイヨウチョウは調査地に3種類豊富に生息していますが、A. vryheidensisの花を訪れたのはオオゴシキタイヨウチョウ(Greater Double-collared Sunbird)のみで、しかも観察されたのはわずかに1羽で訪問も短時間でした。
A. vryheidensisの花には複数種のミツバチが頻繁に訪れましたが、採蜜行動は観察されず花粉の採取を行いました。
A. vryheidensisの花にメッシュをかけて鳥が採蜜出来ないようにしたところ、メッシュをかけない花より種子生産数が減少しました。

苦い蜜に対する鳥の反応
飼育環境下の鳥に砂糖水とA. vryheidensisの蜜を与えたところ、鳥の種類により反応が異なりました。ヒヨドリは両者を区別しませんでした。メジロは砂糖水を好みましたが、A. vryheidensisの蜜の73%を消費しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を強く拒否しました。タイヨウチョウはA. vryheidensisの蜜を与えると、クチバシを引っ込めて激しく首を振りました。メジロは蜜を吸うと後ずさりして首を振りましたが、その後は蜜を飲み続けました。ヒヨドリは特に反応は示しませんでした。また、ミツバチにA. vryheidensisの蜜を与えたところ、強く拒絶されました。

蜜泥棒を防ぐ
花蜜の主な機能は花粉媒介者を引き寄せることですから、苦い味の蜜は矛盾しているように思えます。しかし、有効な花粉媒介者さえ妨げなければ、受粉に寄与しない花への訪問者を減らすことが出来ます。受粉に寄与しない訪問者は花蜜を枯渇させるだけです。ミツバチやタイヨウチョウといった蜜食専門の訪問者にとっては明らかに不快であり、A. vryheidensisにとっては望ましくないはずです。
花にメッシュをかけて鳥の採蜜を妨害した場合、受粉率が低下することから、A. vryheidensisの有効な花粉媒介者は鳥でしょう。しかも、タイヨウチョウは基本的にA. vryheidensisには訪花せず、剥製を用いたシミュレーションでは、タイヨウチョウはクチバシが長く細いため、花粉媒介者としては適していないと考えられます。また、メッシュにより受粉率は低下しましたが、ある程度の受粉への貢献はあるようです。しかし、これは単純にミツバチが非常に豊富で、訪花回数が鳥の数百倍多かったからだと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本来は甘い蜜が苦いというのは驚きです。苦みで花粉媒介者を選択して、盗蜜を防いでいるのです。しかし、植物の花は蜜に限らず、その形や構造で花粉媒介者を選択することは珍しいことではありません。様々な工夫がある中で、蜜の苦みは非常に優れた方法と言えるでしょう。
今回、蜜食のスペシャリストであるタイヨウチョウは、有効な花粉媒介者とは見なされませんでした。そう言えば、過去の論文ではAloe feroxの花に訪れるタイヨウチョウは雄しべや雌しべにまったく触れないで盗蜜する様子が観察されています。ヒヨドリなどの鳥は、蜜を専門としていないジェネラリストです。このような鳥は、採蜜が洗練されておらず、頭を花に突っこんでしまうため、顔に大量の花粉をつけることになります。おそらくは、A. vryheidensisの盗蜜の排除は、地域に豊富に存在するタイヨウチョウなのでしょう。訪れたミツバチの種類は不明ですが、おそらくは外来種である西洋ミツバチがかなりいたと推測します。西洋ミツバチがいない本来の環境ならば、単独性のミツバチが少し来るくらいだったのではないかと思います。まあ、いずれにせよ、ミツバチはA. vryheidensisからは採蜜しないので、それほどの脅威ではないのかも知れませんね。


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植物にとって花は繁殖のための非常に重要な器官です。さらに、植物の分類は花の形式を基準に発展してきました。ですから、植物にとっても学者にとっても花は重要なものと言えます。花の受粉は植物と花粉媒介者との相互作用により成立しています。植物の種類ごとに受粉形式は異なる可能性があります。しかし、残念ながら植物の受粉形式については、その重要さに関わらず、それほど詳しく調査されているわけではありません。
本日はアロエの受粉についてご紹介しましょう。それは、C. T. Symesらの2009年の論文、『Appearance can be deceiving: Pollination in two sympatric winter-flowering Aloe species』です。アロエの受粉生物学については非常に未熟で、ほとんど明らかとなっておりません。Aloe feroxやAloe marlothiiなどの巨大アロエは鳥媒花であることは判明していますが、その事実が他のアロエにも通用するのでしょうか?


花粉媒介者のタイプを予測するための受粉シンドローム(※1)の信頼性は疑問視されるようになり、多くの植物では複数種の花粉媒介者が関与している可能性があります。

※1 ) 受粉シンドロームとは、花粉媒介者に合わせて花の形式を適応させること。特定の相手との関係が想定される。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


かつて、Aloe feroxは虫媒花であると予測されたことがありました。ミツバチは非常に豊富なためです。しかし、実際にはミツバチはAloe feroxの受粉にはほとんど寄与しないことが明らかとなりました。もし、その花に様々な訪問者が来たとしても、それらの訪問者が重要な花粉媒介者ではないかも知れません。一部のアロエの花粉媒介者が確認されたのは最近のことです。しかし、アフリカ熱帯地域の約450種類のアロエは、未だに花粉媒介者が確認されておりません。野外実験と観察が必要です。

著者らは南アフリカ北部および北東部に生える2種類のアロエに着目しました。調査地は夏に降雨があり、アロエは乾燥した冬に開花します。1つは高さ6mにもなるAloe marlothiiで、岩の多い北向きの斜面に生えます。目立つオレンジ色から赤色の管状花は、様々な鳥を惹きつけます。もう1つは、あまり目立たない斑点のあるAloe greatheadii var. davyanaは、岩だらけの地形や草原で育ちます。サーモンピンクから赤色の花を咲かせます。過放牧地域に密集して生えます。

A. marlothiiの花の蜜は希薄(12%)で多量(250μL)ですが、A. greatheadii var. davyanaの花の蜜はより高い濃度(21%)で少量(33μL)です。一般に蜜の濃度が低い場合(8〜12%)は一般的な日和見な鳥(※2)を惹きつけ、蜜が少量(10〜30μL)、および高濃度(15〜25%)の花はハチドリやタイヨウチョウなどの花蜜専門のスペシャリストが訪れます。一般的な傾向からすると、A. marlothiiには日和見な鳥が訪れ、A. greatheadii var. davyanaはスペシャリストであるタイヨウチョウが訪れることにより受粉することが考えられます。


※2 ) 日和見な鳥とは、花蜜を専門としない様々なエサを食べる鳥のこと。花蜜に特化したタイヨウチョウはスペシャリストであるのに対し、日和見な鳥はジェネラリストと言える。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


著者らは、アロエの花にネットをかけて花粉媒介者を妨害してみました。1つは昆虫は入ることが出来ますが、鳥は入れない網です。もう1つは、ネットをかけていない花を比較のために観察しました。
A. marlothiiの場合、ネットをかけていない花と比較すると、昆虫は入れるネットをかけた花はほとんど受粉しませんでした。つまり、A. marlothiiの花は、昆虫による花粉媒介はほとんどおこらず、主に鳥により受粉することが想定されます。
対してA. greatheadii var. davyanaの場合、ネットをかけていない花と、昆虫は入れるネットをかけた花はほぼ同じくらい受粉しました。つまり、A. greatheadii var. davyanaは、受粉は昆虫により行われ、鳥による受粉はほとんどおきていないことが想定されます。


A. marlothiiの花には、2種類のタイヨウチョウを含む39種類の鳥が訪れました。日和見の鳥は顔や体に花粉が付着しましたが、タイヨウチョウでは花粉はクチバシの先端にのみ付着し、A. marlothiiにおける花粉媒介者としての貢献度は低下していることを示唆します。
A. greatheadii var. davyanaの花には、2種類のタイヨウチョウを含む11種類の鳥が訪れました。花を訪れたほとんどの鳥は、A. greatheadii var. davyanaの垂れ下がった筒状の花よりクチバシが短く、花蜜にアクセスしにくいため花を破壊する行動も見られました。また、花を訪れたタイヨウチョウの顔に花粉は確認されませんでした。

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Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。現在、Aloe greatheadii var. davyanaは、独立種であるAloe davyanaとされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。
A. greatheadii var. davyanaの花には鳥も訪れますが、その受粉への寄与はどうやら低いようです。タイヨウチョウは花蜜に特化しているだけに、雄しべや雌しべに触れないで蜜のみを抜き取る盗蜜を行います。タイヨウチョウで受粉するのは、タイヨウチョウに適応した花だけです。A. feroxの受粉はタイヨウチョウではなく日和見な鳥であるというのもその結果です。もしかしたら、A. marlothiiもタイヨウチョウの受粉への寄与は少ないかも知れません。
最初に述べた通り、アロエの花粉媒介者はまだまだ謎だらけです。同じ地域に生え同じ時期に咲くアロエでも、花粉媒介者は異なるのです。研究が進展したら、未だに知られていない面白い受粉形式が存在するかも知れません。今後が楽しみな研究分野ですね。


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植物の繁殖にとって花は重要です。しかも、花の受粉様式は非常に多様で、花粉媒介者の相互作用など非常に複雑なメカニズムが存在し、その全容が明らかとなっているとは言えません。さらに、受粉後の種子散布については、それ以上に調べられていないように感じられます。最近では私もそのあたりが気になっており、ポツポツと少しずつ記事にしてきました。本日はアロエの種子に関する話です。それは、C. T. Symesの2011年の論文、『Seed dispersal and seed banks in Aloe marlothii (Asphodelaceae)』です。
アロエの種子には羽があって風で運ばれると言われますが、実際にはどうなのでしょうか? また、発芽せずに土壌中で環境が良くなるまで待つ「貯蔵種子」(Seed bank)は存在するでしょうか? 

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Aloe marlothii
『Curtis's botanical magazine』(1913年)より。


Aloe marlothiiは、南アフリカの草原とサバンナに広く分布する、冬に開花する多肉植物です。多くの個体は、岩の多異北向きの斜面や山岳地帯に生えます。A. marlothiiは最大6mに達する大型のアロエで、乾燥した冬に豊富な蜜を出すことから、様々な鳥のエネルギー源として重要です。よって、A.marlothiiは鳥により受粉しますが、その種子の散布についてはほとんど知られていません。
調査地のSuikerbosrand自然保護区は、標高1600〜1700mで、数百から数千のA. marlothiiが生育しています。自然保護区では、落雷などにより火災が発生することがあります。2003年9月におそらく送電線のアーク放電により発火し、自然保護区の西側の一部、約349ヘクタールが焼失しました。自然保護区内のアロエ林は激しく燃え、約1ヘクタールのアロエが死滅しました。その後、焼失地域には4mほどの枯れたアロエの茎が残り、雑草が生い茂りました。この焼失地域で、アロエの再定着を監視しました。
しかし、新しいアロエの苗は、焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後にのみ出現しました。さらに、焼失地域の土壌を採取して温室内で貯蔵種子の発芽試験を行いましたが、貯蔵種子の発芽は1本しかありませんでした。焼失地域の外側に生えるアロエが開花した後には、焼失地域から採取された土壌の発芽試験では実生が生えて来ました。
つまり、A. marlothiiには貯蔵種子は基本的にないということが分かります。さらに、焼失地域外から種子が運ばれていることが分かります。A. marlothiiに良く似ているA. feroxは、高さ3mの高さから羽のある種子が30mも飛散すると言うことですから、焼失地域の発芽した種子は、ほとんどが焼失地域外から飛散してきたものなのでしょう。アロエの種子は柔らかく保護膜はほとんどなく、発芽は春の最適な環境次第と考えられます。条件が悪ければ発芽しませんが、種子の寿命が短いため翌年に発芽する可能性はほとんどありません。

以上が論文の簡単な要約です。
過去の研究では、他の種類のアロエの種子の寿命は1年とは言えないことが判明しています。しかし、A. marlothiiは貯蔵種子を持ちません。何故なのでしょうか? 少し考えてみます。
A. marlothiiのような巨大アロエは蓄積した資源量が多いため、毎年大量の種子を生産してばらまくことになります。わざわざ、耐久性のある種子を作る意味がないのかも知れません。ところが、火災に見舞われやすい地域であると言うことを考えると、貯蔵種子があった方が有利な気もします。しかし、長距離に拡散可能な種子であることから、わざわざ貯蔵種子を準備する必要はないのかも知れません。

しかし、火災の発生源は送電線のアーク放電による可能性があるとのことで、故意ではないとは言え人為的なものです。しかし、現在A. marlothiiのような巨大アロエの最大の敵は、火災ではないようです。近年、各地の自然保護区では、サイなどの希少動物の再導入が行われています。希少なアフリカゾウやクロサイが増えていることは素晴らしいことですが、まったく問題が起きていないわけではありません。これらの大型草食動物の採食によりA. marlothiiは急激に減少しています。一度崩れた生態系のバランスは、簡単にはもとには戻らないということかも知れませんね。


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Aloe florenceaeが開花しました。マダガスカル中部原産のアロエで、2004年に新種として記載された割と新しい種類です。 
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本体のサイズからしたら、花茎はとても長いですね。

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Aloe florenceaeの花は、花茎の先端に固まってつきます。しかし、なんとも微妙な色合いの花です。アロエは鳥により受粉する鳥媒花と言われますが、アロエ研究は大型アロエが中心で、アロエの受粉には謎が沢山あります。かつて、小型アロエであるAloe minimaとAloe linearifoliaは、ミツバチにより受粉することを明らかにした論文をご紹介したことがあります。
以下な記事をご参照下さい。

では、このAloe florenceaeの花を訪れる花粉媒介者はなんでしょうか? この場合、花が小さい筒状なので、タイヨウチョウが蜜を吸いに来る可能性はあります。しかし、花の色合いは淡く、赤系が多い鳥媒花らしくはありません。
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花の形を見てみましょう。白に緑色のラインがあるのは、ハウォルチアに似ています。ハウォルチアは虫媒花ですから、Aloe florenceaeも虫媒花かも知れません。まあ、サイズはこちらのほうが大きくはあります。問題は花の長さで、Aloe florenceaeの花は長さが2.5cmもあります。しかも、先端がすぼまるため、ミツバチではやや難しそうです。ここで、他の過去記事を見てみましょう。
この記事でご紹介した論文では、Tritoniopsis revolutaという植物は根元が筒状の花を咲かせます。筒状の部分の長さは産地により14〜84mmと差があり、最大71mmに及ぶ口吻を持つナガテングバエが花粉を運ぶと言われていました。しかし、ナガテングバエは数が少なく毎年の発生数は安定しません。詳しく調べると、短い花はミツバチにより受粉していることが分かりました。ミツバチの口吻は最大8.6mmでした。花に頭を潜り込ませれば、なんとか蜜を吸えそうです。
では、Aloe florenceaeはどうかと言うと、長さが2.5cmもあり、先端がすぼまるため頭を潜り込ませることも難しいように思えます。相当口吻が長くないと蜜を吸うことは出来ないでしょう。しかし、ミツバチは種類により口吻の長さが異なるはずです。知っている中では、口吻の長いシタバチという仲間がいますが、調べてみるとアメリカ大陸原産のようです。マダガスカル島に口吻の長いミツバチがいるかは分かりませんが、中々厳しそうです。
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青白く美しいアロエです。小さいため、まだ咲かないと思っていました。

ここで、試しに匂いを嗅いでみました。すると、なんと甘い香りがします。一般的に花の匂いは鳥を呼びません。匂いがあり色が薄い花は蛾が訪れる花の可能性が高いとされています。確かに蛾であるならば長い口吻で蜜を吸うことが可能です。
長い口吻の蛾と言えば、キサントパンスズメガがまず思い起こされます。進化論で知られるかのチャールズ・ダーウィンは、長い距(蜜が溜まる部分)を持つマダガスカル原産の蘭(Angraecum)の標本を見て、この花の蜜を吸える長い口吻を持つ蛾がいることを予言しました。それから、40年以上経ち、なんとマダガスカルから28cmの口吻を持つキサントパンスズメガが発見されたのです。つまり、長い口吻を持つ蛾は存在し、しかもマダガスカルにいるのです。もちろん、キサントパンスズメガは蘭の長い距に対応していますから、Aloe florenceaeの花粉媒介者ではないでしょう。しかし、長い口吻を持つ蛾、それもおそらくホバリング出来るスズメガの仲間がAloe florenceaeの花粉媒介者である可能性があります。
さて、記事を書いているうちに、Aloe florenceaeの新しい花が日が落ちた頃にまた1つ開花しました。夕方以降に開花するというも、夜に訪れる花粉媒介者をターゲットとしているからでしょう。そして、花の香りも昼よりも強くなっています。これは、夜間のほうが香りが強いのか、新しい花ほど香りが強いのかは分かりません。しかし、いずれにせよ、夜に花粉媒介者を呼び寄せていることは明らかでしょう。いよいよ蛾媒である可能性が高まりましたね。
というわけで、根拠のない怪しげな当て推量をダラダラと書き連ねましたが、確認方法はないわけではありません。野外で花を夜の間撮影して、蛾が来るか確かめれば良いのです。まあ、現在は撮影機材がないので出来ませんし、Aloe florenceaeの花の匂いに日本の蛾が引き寄せられるかも分かりません。しかし、最終的にはマダガスカルの自生地でAloe florenceaeの花に来た花粉媒介者を観察し、実際に受粉して種子が出来るかを確認しないとならないでしょう。これは出来そうにありませんから、研究者の頑張りに期待するしかありませんけどね。


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アロエ属は2010年代前半に大幅な改訂が順次行われました。アロエ属からの分離と、アロエ属に近縁な仲間のアロエ属への統合という出来事が行われ、ハウォルチアやガステリアも絡めて整理されたのです。しかし、名前が変わってしまうと、過去に様々な文書に書かれた植物名と矛盾してしまうため、それらの文書は改訂が必要となります。その中でも特に急務なのはワシントン条約(CITES)でしょう。CITESは絶滅が危惧される動植物の国際取引を規制していますから、植物名が変わったことにより混乱をきたす可能性があるからです。そのため、アロエ属の改訂に伴い、研究者からCITESへの勧告が行われてました。それは、Olwen
M. Grace & Ronell R. Klopperの2014年の論文、『Recommendation to the CITES Plants Committee: Name changes affection Aloe and related genera』です。アロエ属の改訂に関しては、当ブログでも度々取り上げてきましたから今更かも知れませんが、その過程や勧告も重要と思い今回ご紹介する次第です。


Aloe L.は、アフリカ大陸、アラビア半島、ソコトラ島、マダガスカル、インド洋のセイシェル、マスカリン、コモロ諸島に約575種類自生します。いくつかのアロエは地中海やインド、南北アメリカの一部、カリブ海、オーストラリアに侵略的、あるいは帰化しています。多くの多肉植物と同様にアロエも愛好家により収集され、園芸的に広く使用され取引されます。

系統学的研究により、アロエ属には変更が加えられました。アロエ属に含まれていた種から、Aloidendron属、Aloiampelos属、Kumara属が独立し、逆にChortolirion属がアロエ属に統合されました。
変更は以下の通り。

1, Aloiampelos ciliaris
 旧学名
    Aloe ciliaris
2, Aloiampelos ciliaris var. redacta
 旧学名
    Aloe ciliaris var. redacta
3, Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii
 旧学名
    Aloe ciliaris var. tidmarshii
    Aloe tidmarshii
4, Aloiampelos commixta
 旧学名
    Aloe commixta
5, Aloiampelos decumbens
 旧学名
    Aloe gracilis var. decumbens
    Aloe decumbens
6, Aloiampelos gracilis
 旧学名
    Aloe gracilis
7, Aloiampelos juddii
 旧学名
    Aloe juddii
8, Aloiampelos striatula
 旧学名
    Aloe striatula
9, Aloiampelos striatula var. caesia
 旧学名
    Aloe striatula var. caesia
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Aloiampelos striatula var. caesia

10, Aloiampelos tenuior
 旧学名
    Aloe tenuior
11, Aloidendron barberae
 旧学名
    Aloe barberae
    Aloe bainesii
12, Aloidendron dichotomum
 旧学名
    Aloe dichotoma
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Aloidendron dichotomum

13, Aloidendron eminens
 旧学名
    Aloe eminens
14, Aloidendron pillansii
 旧学名
    Aloe pillansii
    Aloe dichotoma subsp. pillansii
15, Aloidendron ramosissimum
 旧学名
    Aloe ramosissima
    Aloe dichotoma var. ramosissima
    Aloe dichotoma subsp. ramosissima
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Aloidendron ramosissima

16, Aloidendron tongaensis
 旧学名
    Aloe tongaensis
17, Kumara plicatilis
 旧学名
    Aloe plicatilis
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Kumara plicatilis

18, Aloe welwitschii
 旧学名
    Haworthia angolensis
    Chortolirion angolense
19, Aloe subspicata
 旧学名
    Haworthia subspicata
    Chortolirion subspicatum
20, Aloe barendii
 旧学名
    Haworthia tenuifolia
    Chortolirion tenuifolium
    Aloe tenuifolia
21, Aloe juppeae
 旧学名
    Chortolirion latifolium
    Aloe aestivalis

以上が勧告の内容です。
アロエ属は大きく様変わりしました。しかし、この勧告の後も改訂は続きました。簡単に解説しましょう。
1つは、マダガスカルやマスカリン諸島に分布するLomatophyllum属が、アロエ属に吸収されたことです。現在では、Lomatophyllum属に含まれていた種類同士が必ずしも近縁ではないことが明らかとなっています。
2つ目は、2014年のGonialoe属の独立です。Gonialoe属は旧学名Aloe variegataなど、3方向に葉を揃えて出すほぼトゲのないアロエで、現在3種類が認められています。また、新種が発見されていますが、学術的な検証はこれからでしょう。
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Gonialoe sladeniana

3つ目は、2014年のAristaloe属の独立です。Aristaloe属は旧学名Aloe aristataのみからなる1属1種のアロエです。
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Aristaloe aristata

4つ目は、2019年にAloestrelaが追加されたことです。これは、Aloe suzannaeがAloestrela suzannaeとして独立したものです。しかし、同じく2019年のPanagiota MalakasiらのAloidendron属の遺伝子を解析した論文では、Aloestrela属は明らかにAloidendron属に含まれることが分かりました。まだ、データベースではAloestrela属は健在ですが、いずれAloidendronとされるかも知れません。また、2014年に新規にAloidendron属とされたAloidendron sabaeumは、同論文ではAloidendron属ではなくAloe属であるとしています。こちらもこれから検証されるのでしょう。

その他の細々とした変更や追加についても、少し触れておきましょう。1つ目は、2014年にAloe haemanthifoliaがKumara haemanthifoliaとされました。2つ目は、上の一覧のNo. 20のAloe barendiiですが、現在ではAloe bergerianaとされています。ちなみに、Chortolirion tenuifolium、Chortolirion bergerianum、Chortolirion stenophyllumは同種とされ、Aloe bergerianaの異名となっています。3つ目は、上の一覧のNo. 10のAloiampelos tenuiorですが、2022年に変種であるAloiampelos tenuior var. ernstiiが新たに記載されました。
まあ、こんなところでしょうか。これからも新種は発見されるでしょうし、遺伝子解析も進行していくでしょう。しかし、いくらかの追加や変更はあるかも知れませんが、大枠は変わらないかも知れません。アロエ属は気になっているので、これからも注視していきたいと思います。


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「青菜に塩」という言葉があるように、植物は塩分に弱いというのが常識です。しかし、乾燥地の土壌は塩分濃度が高い傾向があります。砂漠などの乾燥地では、雨が降っても水分が川となり流れても海に注がず、途中で干上がってしまうことがあります。この時に、川は周囲の塩分を取り込みながら流れます。川が途中で干からびた場合、溶け込んだ大量の塩分が析出し、塩の結晶がキラキラ光って見えたりします。
例えば、中国の乾燥地に生える植物は耐塩性が高いものが多く、ギョリュウ(御柳、タマリクス、Tamarix chinensis)などは余分な塩分を葉から排出するため、葉に塩の結晶がついています。乾燥地は塩分濃度が高くなりがちですから、生える植物も塩分に耐えられるものが多いはずです。
当然ながら、乾燥地に生えるサボテンや多肉植物も、それなりに耐塩性があるのではないでしょうか? この問題に挑んだM. Derouicheらの2023年の論文、『The effect of salt stress on the growth and development of three Aloe species in eastern Morocco』をご紹介しましょう。


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Aloe vera
Aloe lazaeとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


モロッコ東部では造園あるいは観賞用に何種類かのアロエが植栽されます。この地域は乾燥し地下水は高い濃度の塩分を含みます。そこで、アロエの耐塩性を調査しました。調査したアロエは、Aloe vera、Aloe brevifolia、Aloe arborescensの3種類です。ポットに植え、4種類の塩分濃度の水を4ヶ月与えました。塩分濃度は、3g/L、6g/L、9g/Lの3種類で、塩分を加えていない群も設定しました。一般的に塩分濃度が3g/L以下を非塩水とされています。

栽培4ヶ月後、アロエは枯れずに育ちました。アロエの葉の枚数を比較すると、塩分を加えていない群と比較して1〜2枚の差がありました。A. veraでは塩分なしと低濃度が11枚、中濃度と高濃度が10枚でした。A. brevifoliaは塩分なしと低濃度が29枚、中濃度が28枚、高濃度が26枚でした。A. arborescensは塩分なしが22枚で、低濃度が20枚、中濃度と高濃度が19枚でした。

次に葉の厚みについては、塩分濃度の影響が割と見られました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で86%、中濃度では65%、高濃度では58%でした。A. brevifoliaは低濃度では98%、中濃度と高濃度では85%でした。A. arborescensは低濃度では77%、中濃度で58%、高濃度で53%でした。

相対含水率では減少しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で90%、中濃度では77%、高濃度では75%でした。A. brevifoliaは低濃度では87%、中濃度で82%、高濃度で77%でした。A. arborescensは低濃度では78%、中濃度で70%、高濃度で81%でした。

クロロフィル含量はわずかに増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で106%、中濃度では99%、高濃度では128%でした。A. brevifoliaは低濃度では106%、中濃度で94%、高濃度で118%でした。A. arborescensは低濃度では85%、中濃度で106%、高濃度で105%でした。

ポリフェノール含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で138%、中濃度では157%、高濃度では201%でした。A. brevifoliaは低濃度では109%、中濃度で156%、高濃度で224%でした。A. arborescensは低濃度では121%、中濃度で132%、高濃度で164%でした。

糖分含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で100%、中濃度では119%、高濃度では126%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で180%、高濃度で190%でした。A. arborescensは低濃度では116%、中濃度で164%、高濃度で194%でした。

多糖類含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で94%、中濃度では107%、高濃度では115%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で202%、高濃度で211%でした。A. arborescensは低濃度では114%、中濃度で169%、高濃度で203%でした。

以上が論文の簡単な要約です。
アロエはかなり高い塩分濃度にも耐えられることが明らかとなりました。4ヶ月の試験で枯れた個体はありませんでした。しかし、葉の枚数の減少は微妙ですが、葉の厚みは大幅に減少しています。含水率の低下とも関係があるのかも知れません。いずれにせよ、高濃度の塩分でも耐えられはするものの、生長は遅くなるのでしょう。糖分とポリフェノールが増加しましたが、糖分やポリフェノールは浸透圧調整に働き脱水を軽減するそうです。

3種類のアロエの中では、Aloe brevifoliaが最も耐塩性が高いことが分かりました。葉の含水率は低下しても、葉の厚みはそれほど減少していません。また、ポリフェノールや糖分の上昇が激しく、塩ストレスに対して活発に働いているようです。
読んでいて気になったのは、3種類のアロエのそれぞれの自生地の塩分濃度です。環境への適応という意味では、Aloe brevifoliaの自生地には塩分濃度が高い地域があるのではないでしょうか? 


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なんでも、スペインには野生化したアロエが生えているそうです。当然、外来種ということになります。今まではAloe feroxであると言われてきたそうですが、実は違うのではないかという話があります。それはPere Aymerich & Jordi Lopez-Pujolの2023年の論文、『On the presence of Aloe × caesia Salm-Dyck and A. ferox Mill. in the eartern Iberian Peninsula』です。早速、内容を見てみましょう。

野良アロエの報告
スペインのイベリア半島東部にAloe feroxと思われるアロエが野生化しています。著者らはこのアロエがAloe × caesiaではないかと考えています。Aloe ×caesiaとは、A. feroxとA. arborescensの自然交雑種で、分布が重なる地域で自然発生します。外観はかなり多様性があるようです。A. ×caesiaは地中海地域では園芸用に使用されてきましたが、地中海地域で栽培されるのはA. feroxによく似た姿のものです。ただし、A. feroxのように単幹ではなく、A. arborescensのように複数のロゼットからなります。そのため、密集した集団を作ります。A. × caesiaの花はクリーム-オレンジ色/赤色の2色からなり、A. feroxのようなオレンジ/赤色の単色ではありません。

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Aloe × caesia
Aloe fulgensとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


地中海地域のアロエ
A. × caesiaは、サルデーニャ島では長い間外来植物として知られ、シチリア島では帰化植物と見なされています。南フランスの地中海沿岸のフレンチ・リヴィエラでは、庭から逸出したA. × caesiaが比較的一般的になっています。データベースではA. × caesiaが地中海諸国の大部分で「導入された」としていますが、これは明らかに栽培植物のことを指しています。「Flora iberica Gremes」(2013)では、「Flora Europaea」(1980)でイベリア北東部からの報告があるものの、それが本当に庭からの逸出であるかを疑っています。「Flora Europaea」では、南東フランスまたは北スペインの海岸沿いにA. × caesia、A. spectabilis、A. maculataが見つかると書いています。しかし、この記述は北東イベリアではなく、プロヴァンスで知られていたアロエに由来しているだけかも知れません。
イベリア半島のA. × caesiaの確実な最初のデータは、2017年にAlacant/Alicanteで確認された繁殖個体です。これは、実際にこの区画の所有者により投棄された植物が由来であることが確認されています。他にも確認されていますが、投棄あるいは古い庭の跡地かも知れません。

Aloe × caesia vs. Aloe ferox
A. × caesiaは報告は数年前ですが、以前から見つかっていましたが、誤ってA. feroxとして識別された可能性があります。イベリア半島ではA. feroxの報告は、バルセロナ(2008)、Vinaros(2017)、Reus(2019)だけです。しかし、これらが本当にA. feroxであるか確認されておらず、逆にA. × caesiaである可能性を示唆する証拠があります。
Vinarosの個体は2つのロゼットが接近して育っているため、複数のロゼットからなる1個体である可能性があります。しかし、花序は13〜14本の枝からなり、A. × caesiaにもA. feroxにも該当しない特徴です。また、残念ながら他の2つの報告は画像がないため、詳細を調査しました。
2000年以降、バルセロナの都市部にあるMontjuicの丘では、小さな半帰化集団があります。これは、多くのアロエを含む多肉植物のコレクションがある市立庭園に由来しているようです。一見してA. feroxを彷彿とさせます。ロゼットの密集する傾向がありますが、孤立したものもあります。しかし、著者らはおそらく、これらはA. × caesiaであろうとしています。Montjuicの丘のアロエは急斜面に生えるため、はっきりと確認出来ませんでした。また、A. feroxは自家受粉しないため、種子繁殖している可能性があるMontjuicの丘のアロエには該当しません。また、A. feroxはタイヨウチョウにより受粉する鳥媒花であり、地中海では受粉しません。ただし、ミツバチにより受粉する可能性はあります。また、多くのアーチ型の葉には辺縁歯がありますが、これはA. × caesiaでは一般的がA. feroxでは見られません。
ReusのA. feroxについては2014年に撮影された画像がありましたが、葉はA. × caesiaの特徴である下向きのアーチ型の葉が見られます。この集団は2023年ではなくなっていました。
現在までの情報からはAloe feroxは確認されず、Aloe × caesiaである可能性が高いと言えます。


以上が論文の簡単な要約です。
どうやら地中海地域では、A. × caesiaは園芸的に一般的なようです。ですから、園芸植物の逸出が帰化したアロエが由来なのは共通しているようですね。
日本ではAloe arborescensが昔から好まれていて、一部は逸出して野生化していますが、大抵は種子繁殖しているものは見たことがありません。それは、1個体のみの逸出ばかりで、付近に受粉可能な個体がないからでしょう。まあ、適切な花粉媒介者がいないような気もしますから、個体が複数でも難しく思えます。何と言っても、開花は主に冬ですから、昆虫もいません。沖縄などの暖地ではどうなのか分かりませんが…


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キダチアロエ(Aloe arborescent)は昔から普及しているアロエです。今でこそ健康食品として破竹の勢いのAloe veraに押されていますが、キダチアロエは「医者いらず」などと呼ばれ、丈夫なこともありあちこちで見かけたものです。さて、このような普及種でも、原産地では野生個体は少ないということは珍しくありません。キダチアロエの場合はどうでしょうか? 調べてみると、CITES(いわゆるワシントン条約)に関わるキダチアロエの話があるようです。それは、Gideon F. Smithの2008年の論文、『Aloe arborescens (Asphodelaceae: Alooideae) and CITES』です。早速、見ていきましょう。

CITESのための評価
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)は1975年に設立されました。CITESの附属書Iは国際取引により絶滅の危機に瀕している種、附属書IIは国際取引により脅かされる可能性のある種のためのものです。
著者はCITESの要請により、CITESでの分類のためにAloe arborescensを評価しました。これは、南アフリカ国立生物多様性研究所(SANBI)の絶滅危惧プログラム(TPS)の活動の一環として、南アフリカのレッドデータを再評価する機会にもなります。
アロエは1994年にCITESから削除されたAloe vera以外の550種類以上がCITESに記載されています。うち、22種類は附属書Iに、残りは附属書IIに記載されています(2008年)。

類似種と分布
A. arborescensに近縁とされるのは、A. hardyiやA. pluridens、A. mutabilis、A. vanbaleniiです。Glen & Hardy(2000)によると、A. mutabilisをA. arborescensの異名とする考えを示しました。これらの5種類のうち、成熟した植物でA. arborescensと間違える可能性があるのはA. mutabilisだけです。
A. arborescensは、アロエの中でも非常に広い地理的分布を持ちます。南アフリカのケープ半島から、海岸沿いに東に向かいモザンビークに達し、そこから内陸部の山地を迂回しマラウイに向かいます。2004年のGlen & Smithによると、南アフリカでは西ケープ州、東ケープ州、自由州、KwaZulu-Natal州、Mpumalanga州、リンポポ州からA. arborescensは記録されています。しかし、Kesting(2003)やMoll & Scott(1981)は、ケープ半島のA. arborescensは人為的に導入されたものであると主張しています。

判別困難と虚偽取引
さて、Aloe arborescensは分布域が広く個体数は非常に豊富です。しかし、地域によっては開発などにより減少しています。しかし、IUCNを適応すると低危険種(LC)とされており、絶滅の危機にある訳ではありません。
多くのアロエは生長後ならば互いに見分けるのは簡単です。しかし、小さな苗のうちは二葉性(distichous)であり、判別が難しくなります。税関職員が利用出来るCITESの植物ガイドでは、未成熟な苗の識別は出来ません。そのため、偽名で取引される可能性があるため、Aloe arborescensもCITESの附属書IIの記載が保持されるべきであると提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
キダチアロエ自体は特に絶滅の危機に瀕している訳ではありません。しかし、もしキダチアロエがCITESの附属書から削除され国際取引きが解禁された場合、絶滅危惧種の小さな苗をキダチアロエと偽って密輸出来てしまう可能性があるのです。ですから、CITESの附属書に記載され国際取引を制限するべきであるという提案でした。
実は薬用植物としてはAloe feroxの方が有名で、非常に古くから利用されてきたようです。日本でも法律で薬用成分が記載されているのはAloe feroxだけです。しかし、日本では暖地では露地栽培が可能なことなどにより、キダチアロエが研究されてきました。日本でキダチアロエの成分の有効性について、非常に沢山の論文が出ているようです。そのためか、論文ではアロエの違法取引は日本が想定されると言います。これはおそらくキダチアロエを指しているのでしょう。キダチアロエの抽出物を利用した製品は、日本では昔から沢山ありますが国際的には珍しいのかも知れません。
現在では、Aloe veraが非常に注目を浴びており、製品化につながるせいか、成分の有効性についての論文が世界中から出されています。Aloe veraは世界中で栽培されていますから、1994年にCITESの附属書から除外されました。このことによる苗の虚偽取引については、どの程度の影響があったかは評価されていないということです。



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先日、ここ10年ちょいくらいの、サボテンの新種についての記事を書きました。サボテンは巨大なグループで分布も広く、新種が見つかる余地はまだまだありそうです。その他の多肉植物では、何と言ってもアロエは新種が見つかる可能性が高いと言えます。アロエの新種を説明した論文を探してみたので、少し見てみましょう。まあ、サボテンの時と同じく、すべての新種を調べた訳ではなく、簡単に調べて出てきたものだけです。一応、アロエと近縁なAstrolobaやHaworthia、Gasteriaと、旧・アロエ属についても一部の情報を追加しました。

2010年
・モザンビークから南アフリカのKwaZulu-Natalにかけての地域より、新種のAloe tongaensisが記載されました。しかし、2013年にAloidendron属に移され、Aloidendron tongaensisとなりました。

2011年
・エチオピアから4種類の新種のアロエが記載されました。Aloe benishangulanaAloe ghibensisAloe weloensisAloe welmelensisです。

2012年
・北ソマリアから新種のAloe nugalensisが記載されました。
・マダガスカルから新種の3種類のアロエが記載されました。Aloe beankaensisAloe ivakoanyensisAloe analavelonensisです。
・ナミビアのBaynes山から新種のAloe huntleyanaが記載されました。
・南アフリカのMpumalngaから新種のAloe condyaeが記載されました。
・アンゴラ南西部のナミブ砂漠から新種のAloe mocamedensisが記載されました。


2014年
・マダガスカル北部から新種のAloe gautieriが記載されました。
・南アフリカのMpumalangaから新種のAloe andersoniiが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のAloe liliputanaが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria loedolffiaeが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州新種のからGasteria barbaeが記載されました。

2015年
・ウガンダから新種のAloe lukeanaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のAstroloba cremnophilaが記載されました。

2017年
・マダガスカル北西部から新種のAloe belitsakensisが記載されました。
・マダガスカルから新種のLomatophyllum類である、Aloe maningoryensisAloe alaotrensisが記載されました。
・ケニアから新種のAloe zygorabaiensisAloe uncinataが記載されました。
・南アフリカから新種のAstroloba tenaxAstroloba robustaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のHaworthia grenieriが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のGasteria koelniiが記載されました。

2018年
・南アフリカのCape Provから新種のHaworthia duraHaworthia ernstiiHaworthia vitrisが記載されました。

2019年
・ソマリランドから新種のAloe sanguinalisが記載されました。

2020年
・マダガスカル東部の湿潤林から新種のAloe vatovavensisAloe rakotonasoloiが記載されました。
・インドの砂漠から新種のAloe ngutwaensisが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria visseriiGasteria camillaeが記載されました。


2021年
・アンゴラ北西部から新種のAloe uigensis が記載されました。

2022年
・南アフリカ北部から新種のLeptaloe類であるAloe hankeyiが記載されました。

2023年
・アンゴラ南部からの新種としてGonialoe borealisが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。

と言う訳で、近年のアロエ類の新種でした。基本的に調べたのは名前だけで、画像検索はしていないため、園芸的な重要度は分かりません。しかし、個人的にはゴニアロエの新種が気になります。ゴニアロエは3種類しかありませんから、新種の発見は大変な驚きです。とはいえ、論文が出たばかりですから、正式な学名として認められるかどうかはこれからでしょう。また、Aloe tongaensisは巨大なAloidendronの新種と言うことで、このような目立つ植物が今まで記載されていなかったのは不思議です。あと、Aloe ngutwaensisはインドからの新種と言うことですが、アロエの自然分布がインドまであることに驚きました。アロエの私の持つイメージでは、アフリカ大陸とマダガスカル、アラビア半島に少しあるくらいなものでした。まあ、これは勝手な思い込みで、調べれば簡単に分かることでしたね。

※追記
アロエの新種についての2024年バージョンの記事をあげました。そちらもご参照下さい。
https://euphorbia-obesa.com/archives/26670219.html


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Aloe glaucaは南アフリカ南西部に分布するアロエで、葉の縁に並ぶ赤褐色のトゲが特徴です。このA. glaucaの名前には何やら曰くがあるようです。まあ、A. glaucaの命名が18世紀という時点ですでに嫌な感じがします。Carl von Linne(Linneaus)が現在のニ名式学名を公表したのは1753年ですが、それからしばらくは種の記載はラテン語で特徴のみ記したようなものも多く、それが現在のどの種類にあたるのか不透明だったりします。そのため、ここらへんはつつくと大変面倒くさい話になります。という訳で、本日はAloe glaucaの学名に関するGideon F. Smithの2018年の提案、『Proposal to conserve the name Aloe glauca (Asphodelaceae: Alooideae) with a conserved type』をご紹介します。

1753年にLinneausがAloe perfoliata var. "κ"の特徴をラテン語で、「κ。アフリカのアロエ、葉は灰色: 背中の縁と上部にトゲがある、花は赤色。Commelijnの図譜(※1)75t. 24. hort. 2. p. 23. t. 12.」と示しました。その後にもリンネによりこのラテン語のフレーズは繰り返し使われましたが、花色については示されませんでした。1701年のCommelijnの図譜には花序が含まれていませんでしたが、1703年に追加された図譜では花が描かれました。これらの植物は現在のA. glaucaと一致します。

(※1) オランダの植物学者のCasper Commelijn。

リンネによるAloe perfoliata var. "κ"の公表から15年後(1768年)、MillerによりAloe glauca Mill.と命名されました。MillerはAloe feroxと解釈されてきたCommelijnの図譜をA. glaucaに含めました。Millerは生きた植物を観察していましたが標本は引用していません。Millerはラテン語で「アロエの茎は短い、葉は2つに分かれトゲは端で曲がる、花は直立」と説明しました。しかし、MillerがA. feroxを引用したため、必然的にA. glaucaとA. feroxは同義語となってしまいます。ただし、Millerのラテン語の説明の、葉の二列性や花が頭頂花序については、A. glaucaもG. feroxも何故か該当しないことには注意が必要です。
ちなみに、1789年にはAitonがAloe perfoliata var. glauca (Mill.) Aitonを、1804年にHaworthがAloe glauca Haw.を命名しています。


A. glaucaはCommelijnの図譜があるため、それがレクトタイプ(※2)です。しかし、Millerの命名したA. glauca Mill.はCommelijnのA. feroxを引用しており、深刻な矛盾をきたす可能性があります。

(※2) 正式な標本がないか行方不明、2種類混じる場合に、改めて選定される標本。


Aloe glaucaという名前が維持されることは望ましく、命名上の安定性のためにも必要です。文献でも一貫してAloe glaucaが使用されています。例えば、Berger(1908年)、Groenewald(1941年)、Reynolds(1969年)、Bornman & Hardy(1971年)、Newton(2000年)、Grace(2011年)、Van Whyk & Smith(2014年)などがあります。
もし、Aloe glaucaという名前が使われない場合、1800年に命名されたAloe rhodacantha DC.が使用されることになります。この名前は使用されておらず、特にBergerやReynoldsによる影響力の強い文献により異名とされてきました。


以上が論文の簡単な要約です。
アロエ・グラウカはその命名は非常に古いものの、タイプ標本がありません。現在使用されている慣れ親しんだ学名を命名したMillerが、誤った図譜を引用してしまったことから、Aloe glaucaの名前が誤った学名として異名に陥る可能性があるのです。その場合、まったく使用されていないAloe rhodacanthaが採用されます。これは、命名規則では命名が早い名前が優先されるからです。
このような、非常に古い時代の誤りは結構あるみたいです。調べるのも中々大変だと思います。しかし、Aloe glaucaのように親しまれた名前の場合、その変更が混乱を招く原因となる可能性もあります。例えば、Euphorbia francoisiiと呼ばれてきた花キリンは、実はEuphorbia decaryiであることが分かりました。しかし、E. decaryiの名前で呼ばれてきた花キリンがすでにあり、こちらはEuphorbia boiteauiが正しい学名であるとされました。おそらくは、2種類が混同されて誤った組み合わせが使われて来たのでしょう。この誤りは、学術的には正されました。とはいえ、過去の論文において、Euphorbia decaryiの名前が出た場合、本来のE. decaryiのことを示しているのか、E. boiteauiとなった旧・E. decaryiを示しているのかがよく分からなくなりました。この場合は明らかな混同ですから、誤った組み合わせを保存出来る可能性はおそらくありません。ただ、その論文(Castillon & Castillon)を読んだ学者のコメントがあり、ややこしいので古い学名は廃棄して、新しく命名し直した方が良いのではないか?という思わぬ感想でした。命名規則上で可能か否かは分かりませんが、混乱の是正と言う意味においては、聞くに値する意見のようにも感じました。



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アロエは高さ5mを越える巨大なものから、株全体が数センチメートルしかない小型なものまで、そのサイズは様々です。しかし、その種類は大型種は少なく小型種は多くあり多様化していることがうかがえます。では、小型であることが進化を促進したのでしょうか? 本日はそんなアロエのサイズと多様性について調査したFlorian C. Boucherらの2020年の論文、『Diversification rate vs. diversification density: Decoupled consequence of plant height for diversification of Alooideae in time and space』をご紹介します。

多様化率と多様化密度
生物多様性はその空間分布では非常に不均一です。生物の種類はホットスポットと呼ばれる非常に生物の多様性が高い地域に集中し、それ以外では比較的少ないと言われます。このホットスポットの起源に関する進化的説明は、伝統的に種の多様化の時間的要素を強調してきました。つまり、多様化とは単位時間あたりの種分化率の上昇や、絶滅率の低下により表されて来ました。しかし、南アフリカのケープ地域の一部では、種が長期間に渡り蓄積し、多様化は適度な速さであるにも関わらず、種は非常に豊富です。ホットスポットの特徴は多様化率の上昇だけではなく、特定地域の種の蓄積と増加に関連するかも知れません。ですから、この論文では時間による多様化と空間による多様化の類似点と違いを探ります。一般的に単位時間あたりの多様化を多様化率と呼びますが、新たに単位面積あたりの多様化を多様化密度と呼ぶことにします。
近年、サイズ、特に植物の背の高さが多様化に与える影響が議論されており、一般的に小型の植物は種分化率が高く絶滅率も低いとされています。これらは単位時間あたりの種分化として議論されますが、単位面積あたりの種分化にもよく当てはまります。小型の植物は分散距離が短いため、大型の植物より狭い面積で地理的隔離が起きやすく、より高い種分化密度となる可能性があります。


アロエ類とは?
論文ではアロエ類を用いて、植物のサイズと多様化密度について研究しました。ここでいうアロエ類とは、Aloe属とそこから分離したAloidendron属、Aloiampelos属、Aristaloe属、Gonialoe属、Kumara属、さらにHaworthia属とそこから分離したHaworthiopsis属、Tulista属、加えてGasteria属とAstroloba属が含まれます。
著者らはアロエ類のうち204種の遺伝子を解析し、系統関係を類推しました。遺伝子を調べた種のサイズを調べ、そのサイズにより単位面積あたりの種が蓄積する傾向があるかどうか、つまりは草丈が多様化密度と相関するかをテストしました。
アロエ類の草丈は小型のものが多く、より小型の種へ進化する傾向があります。計算上のアロエ類の最適な草丈は8cmでした。なぜ、小型化するのか、その理由の推測は困難です。一般的に植物の背の高さは、太陽光をめぐる植物同士の競争に関連します。しかし、乾燥地においては太陽光をめぐる競争は最小限か、まったくない可能性があります。さらに、背の高い植物、特に樹木は、干ばつのストレスを受けやすいとされます。小型種はくぼみなどに生えることにより、ストレスを緩和出来るかも知れません。多くのアロエ類は植物同士の競争や草食動物から、あるいは火災から逃れるために、岩の割れ目などでも育ちます。
結論としては、アロエ類の小型種が優勢な傾向は、小型化する系統の多様化が加速されたのではなく、より小型化する方向へ進化する傾向の結果であるということです。


多様化率は上昇しない
草丈が多様化率に与える影響を2種類の検定により解析しましたが、アロエ類は草丈の低下とともに多様化率を高めるということの証拠を示しませんでした。この結果からは、草丈以外の要因も関係する可能性を排除出来ません。著者らは、調査した204種類が不十分である可能性も指摘しています。
アロエ類の多様化の歴史は2つの代表例があります。1つは、小型種を多く含むHaworthia属におこり、草丈の低下が多様化の加速に関連していました。しかし、最も劇的な多様化率の上昇は、Aloe属のどちらかといえば草丈の高いグループでおきました。その理由は明らかではありませんが、Aloe属はアロエ類の中で唯一アフリカ南部以外に分散し、マダガスカルやアラビア半島にまで分布します。広範囲の分散が草丈の低下よりも重要な要素として多様化率を刺激したと考えられます。


多様化密度は上昇する
アロエ類の草丈は多様化率に影響しませんが、多様化密度はアロエ類の草丈と関連することが分かりました。多様化密度の上昇は、地域全体の遺伝子流動が容易に阻害されるため、生息地の局所的な適応がおこります。小型であることで、生息数が多く密度が高くなり、種分化しやすくなります。
南アフリカは地球上で最も植物が多様化した地域の1つで、フィンボス、草原、砂漠、森林を含みます。ケープのフィンボスはホットスポットであると認識されています。また、カルー植物相(冬季降雨砂漠植物相)は、フィンボスほどの種類はありませんが、単位面積あたりの種とその固有性が異常に高くなっています。そして、カルー植物相には多くの小型多肉植物が生息しています。このカルー植物相の単位面積あたりの多様性は、まさにアロエ類の草丈と多様化密度の関係を物語ります。
著者らはアロエ類だけではなく、他の植物でも調査が必要であるとしています。例えば、Cotyledon、Crassula、Pelargonium、ハマミズナ科(メセン類)なども、多様化密度の研究に適しています。

以上が論文の簡単な要約です。
記事を書いている私自身、妙に分かりにくい論文だとは思いました。多様化率というのは単位時間あたりの多様化と言いますが、よく分かりませんね。アロエ類の遺伝子を解析すると、その変異の度合いから分岐年代が分かります。つまり、調査した204種類のアロエ類が、いつの時代にどの種が種分化したかが計算可能なのです。ですから、今回の論文ではアロエ類の多様化は、短い時間に急激に進化した訳ではないということです。むしろ、アロエ類は種が長く保存され、小型種は絶滅率が低下しているというのです。
まあ、なんのこっちや分からんという方も多いかも知れませんが、申し訳ないのでが私自身これ以上は上手く説明出来ません。ひたすらにややこしい論文を直接読んでいただくしかありませんね。


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Aloe feroxは高さ5mに達する巨大アロエです。開花時には複数本の花茎を伸ばし、大量の花をつけます。一般的に巨大アロエの花の受粉は日和見鳥により行なわれるとされています。日和見鳥とは普段は花の蜜を専門としていない鳥のことで、花の開花時期だけ蜜を吸いに来ます。アフリカにはタイヨウチョウという花の蜜を専門とする鳥がいますが、タイヨウチョウは巨大アロエを訪れても花粉や柱頭に触れないで上手く蜜だけを掠め盗ります。ですから、タイヨウチョウは巨大アロエの受粉には関与していないのです。むしろ、普段は花の蜜を吸わない鳥は、採蜜行動が洗練されていないので花粉だらけになり花粉を運びますから、日和見鳥は巨大アロエの受粉には重要です。
しかし、一般的に花の受粉にはミツバチが重要な働きをしているとされます。それはミツバチ自体の数が多く、そのため花を訪れる数が非常に多いからです。巨大アロエにもミツバチは非常に頻繁に訪れます。巨大アロエの受粉にミツバチはどの程度貢献しているのでしょうか? 本日はそんな巨大アロエの1種であるAloe feroxの受粉にミツバチが寄与するかを調査したCarolina Dillerらの2022年の論文、『Why honeybees are poor pollinators of a mass - flowering Plant: Experimental support for the low pollen quality hypothesis』をご紹介します。

著者らはミツバチの花粉媒介者としての能力を測るために、まずミツバチが運搬する花粉の量を測定しました。その結果、花粉の運搬量はミツバチより日和見鳥のほうが多く、一度に大量の花粉を運びます。しかし、ミツバチは非常に頻繁に花を訪れるため、運ばれる花粉の総量はそれほど劣ってはいませんでした。この事実からすると、ミツバチはA. feroxの重要な花粉媒介者に思えます。しかし、一般的に巨大アロエの受粉にはミツバチの寄与は小さいとされています。それはなぜでしょうか?
A. feroxは自家不和合性で自分の花粉では受粉せず、他個体の花粉により受粉するとされます。著者らはこれはミツバチが同じ花を訪れるため自家不和合性により受粉しないのではないかという仮説を立てました。この仮説を検証するためには、柱頭についた花粉を見分ける必要があります。ただし、花の柱頭についた花粉が自家か他家かを直接見分ける手段はありません。基本的に種子が出来たかを見て間接的に判断されます。直接らは、ミツバチが訪れた花が受粉したかに加え、花を訪れたミツバチを捕獲し、花粉がついていない花に人工的に受粉させました。この時、半分は自家受粉させ、残りの半分は他家受粉させました。

結果は、ミツバチが訪れた花の受粉率は非常に低いものでした。そして、自家不和合性の試験でも、やはりA. feroxは自家受粉しないことが明らかとなりました。

著者らは、受粉に寄与しないミツバチが花に頻繁に訪れることにより、植物は蜜や花粉を盗まれて受粉を阻害されている可能性を指摘します。
ミツバチは様々な栽培果物の受粉に利用されて来ましたが、近年ではミツバチの花粉媒介の効率に疑問を生じさせています。ミツバチは同じリンゴの木を訪れることが多いという報告が50年以上前の1966年(Free)になされていましたが、まったく重要視されてきませんでした。しかし、近年では農業においても自然環境においても、ミツバチは以前に考えれてきた程には重要ではないことを示す証拠が増えて来ています。
セイヨウミツバチ(Apis mellifera)の本来の分布はヨーロッパ、アフリカ、中東ですが、養蜂のために世界中で飼育されています。ミツバチが蜜泥棒であるならば、本来は分布しない地域で飼育されるセイヨウミツバチが、自然環境中の植物の受粉に悪影響を及ぼす可能性が懸念されます。

以上が論文の簡単な要約です。
驚くべきことに、巨大アロエはミツバチが受粉にあまり寄与しないというものでした。さらに、果樹でもミツバチの受粉に疑問符がついていることが分かります。しかし、これらの結果は、1個体の植物が沢山の花を咲かせる場合の話だと私は受け取りました。というのも、ミツバチは花の場所を覚えていて採蜜した場所に再び帰ってきますが、これは必ず採蜜出来る可能性が高いからです。新たな花を探すより、沢山の花が咲いている場所に行けば、花を探すための時間と労力を省略出来ますから、最適化された行動と言えます。では、野原に一面に生える草の花ならば、どうでしょうか? この場合もミツバチは同じ場所を訪れるはずですが、草花は1個体で大量の花を果樹ほどはつけませんから、ミツバチは同じ花ばかり訪れることはないはずです。ミツバチは周囲の花を順繰りに訪れるでしょうから、受粉への寄与は非常に高そうです。
ただし、この場合においても、野生のミツバチではない養蜂によるセイヨウミツバチは環境に悪影響があるかも知れません。私が思うに養蜂されるミツバチが沢山いる場合、花粉や蜜を競合する野生のミツバチなどの他の昆虫に対する悪影響は考えなければならないでしょう。当たり前のように利用されているセイヨウミツバチの利用も、その効果や環境への影響について、改めて調査し考え直す必要があるのかも知れません。


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かつて、Aloeに近縁と考えられていた、HaworthiaやGasteria、Astrolobaは、近年の遺伝的解析の結果においてもやはり近縁であることが判明しました。アロエ属自体が分解されたこともあり、このAloeに近縁な仲間をまとめてアロエ類と呼んでいます。このアロエ類の増やし方と言えば、種子をまくか葉挿しが一般的でしょう。Haworthiaは割と増えやすいので株分け出来ますし、葉挿しも容易です。Gasteriaは小型種は良く子を吹くので株分けで増やせますが、大型種は中々増えにくいものです。また、Gasteriaは葉挿しも出来ますが、難しいものもあるようです。Aloeは葉挿しは出来ません。小型種は容易に子を吹くものが多く、中型種でも割と子を吹きます。茎が伸びるものは、茎を切って挿し穂に出来ます。しかし、Aloeには子を吹かず、茎も伸びないような種もあるため、繁殖は種子によるしかないものもあります。
さて、このような増やし方をされているアロエ類ですが、バイオテクノロジー分野での培養技術についても検討がされています。本日ご紹介するのは、Arthur M. Richwineの1995年の論文、『Establishment of Aloe, Gasteria, and Haworthia Shoot Culture from Inflorescence Explants』です。この論文は、人工的な培地上でアロエ類を培養して増やすことを目的としています。早速内容を見ていきましょう。

今回、実験に使用したのはAloe 、Gasteria、Haworthiaというアロエ類です。種類としては、Aloe  barbadensis、Aloe  harlana、Gasteria liliputiana、Gasteria species(不明種)、Haworthia attenuata、Haworthia coarctata、Haworthia limifoliaでした。
人工培養では、不定形の細胞塊を作るカルス培養が一般的ですが、著者はシュート培養に挑んでいます。シュート培養は培養上で植物組織を培養し、茎と葉がついたシュートが出来て伸長します。シュート培養は、著者により確立した、red yucca (Hesperaloe parviflora)の花序を用いた方法を適応しています。zeatin ribosideという物質を含んだ培地に、アロエ類の未熟な花序を1cmの長さに切断して培養します。切断した花序は、薄めた塩素系漂白剤と界面活性剤に浸けて表面を滅菌しています。25℃で白色蛍光灯を当て、6週間ごとに新しい培地に移しました。

結果は8週間以内に、Aloe 2種、Haworthia3種、G. liliputianaでは、苞葉の窪みからシュートが出て来ました。12週までにG. speciesからシュートが出て来ました。
シュートは長期維持が可能で、8ヶ月維持されました。シュートは通常培地に移すだけで、植物ホルモンの添加なしでも容易に発根し、その後に土壌に植栽されました。

以上が論文の簡単な要約です。
シュート培養について、私は詳しくは知らないのですが、花茎から増やす面白い方法だと思いました。一般的に植物を増やすバイオ技術としては、カルス培養があります。このカルス培養は、葉も根もない細胞の塊を増やし、植物ホルモンを添加することにより葉や根を形成させる方法です。簡単に増やすことが出来ない洋蘭では、昔から使用されてきました。カルス培養はほぼ無限に増やせますから、非常に効率の良い方法です。しかし、不定形の細胞を爆発的に増やすせいか突然変異が起きやすく、増やせば増やすほど変異が蓄積していきます。しかし、シュート培養は大量生産には向きませんが、突然変異を起こしにくい方法です。園芸目的の生産より、希少な野生植物の増殖においてより有効な増殖方法ではないでしょうか。
そう言えば、胡蝶蘭は稀に花茎から子を吹くことがありますが、私の育てている多肉植物でも花茎から子を吹くことがありました。そもそも、花茎は子を作る能力がはじめからあるのでしょう。

DSC_0290
Gasteria distichaですが、花茎から芽が出ています。
DSC_0293
拡大するとちゃんと葉があります。これを挿し木すれば増やすことが出来ます。

DSC_1806
Euphorbia globosaの花茎の先端(左上)からも、子が出来ています。


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既知の生物にはすべて学名が付けられています。しかし、この学名の特に種小名は一見して由来が分からないものも沢山あります。学名の基本は属名+種小名です。ヒトの学名はHome sapiens、つまりHomo=ヒト属+sapiens=賢い、となります。植物の種小名を見ていると、①特徴を表したもの、②採取された地名に因むもの、③献名、という3パターンがあります。

①特徴を表したものは、「albiflora=白い花」のように見たままの特徴から来ていたり、「mirabilis=素晴らしい」のように抽象的なものもあります。

②採取された地名に因むものは、「japonica=日本の」、「chinensis=中国の」などは我々の身近な植物にはよくあります。しかし、あくまで採取地点ですから、最も個体数が豊富な分布の中心ではなく、飛び地のように僅かに生える場所に因んでいることも珍しくありません。また、日本には大陸から園芸用に様々な木々が持ち込まれましたが、江戸時代に日本を訪れたヨーロッパ人たちはそれらが日本で採取されたため、本来は分布しないのに日本の地名に因んだ名前を付けたりしました。しかし、実際には種小名はあくまで命名のための記号に過ぎないので、意味を問う必要性は皆無でしょうし、それらが訂正されることはありません。
この問題は①の特徴を表したものにも関係します。例えば、赤系統の花を咲かせる植物に、少しクリーム色の新種が発見された場合、「albiflora」と命名されたとしましょう。しかし、その後により白い花の新種が見つかった時、実態に合わせて種小名を変更したらどうなるでしょうか? おそらくは混乱します。2つの植物が同じ名前で呼ばれていたという事実は、禍根を残します。さらに、最も適した特徴の新種が見つかった場合、その都度学名を変更しなければなりません。これでは学名は不安定すぎて、同じ名前の植物について書かれていても、時代や人により異なる植物を示しているなんてことになりかねません。学名について書かれた論文を読んでいるとよく目にする「学名の安定のため」という文言は思った以上に重大なものなのかも知れません。

③の献名については、実はよく分かりません。論文を読んでいると、発見者や採取者、その分野の著名な研究者から来ていたりしますが、必ずしもそうではないような気がします。

前置きが長くなりましたが、今日の本題はこの献名についてです。献名のルールのようなものがあるのかよく分かりませんが、私は全く知らなかったため、何か参考になる論文はないかと少し調べて見ました。見つけたのが、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2011年の論文、『Who's in a name: eponymy of the name Aloe thompsoniae Groenew., with notes on naming species after people』です。論文の趣旨は簡単で、Aloe thompsoniaeというアロエは誰に対する献名なのかという話です。

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Aloe thompsoniae

Aloe thompsoniaeはアフリカ南部の中では最も小さいアロエの1つです。Section Graminaloe Reynoldsに属するグラスアロエです。A. thompsoniae は南アフリカのリンポポ州の標高1500mを超える雲霧帯に分布します。
さて、1936年にGroenewaldがAloe thompsoniae Groenewという学名を発表しました。しかし、この「thompsoniae」が誰に対する献名であるかは混乱しており、Groenewaldも誰に対するものか記していません。しかし、1941年に出版されたGroenewaldのアロエに関する本では、「Mev. Dr. Thompson」、つまりはMrs. Dr. Thompsonという名前を繰り返し使用しています。どうやら、Thompson夫人が様々なアロエを採取したようです。しかし、いつしか「Mev.(=Mrs.)」が忘れ去られて、「Dr. Thompson」だけが独り歩きしたようです。
Reynoldsは献名を誤解した最初の著者で、1946年の著書ではThompson夫人をThompson博士と呼び、「Thompson博士が最初に植物を採取し始めたのは1924年頃」と述べています。しかし、それは実際には「Mev. Dr. Thompson」、つまり医師であったThompson博士の妻であるThompson夫人のことでした。ちなみに、Thompson夫人は博士号は持っていません。

GroenewaldはA. thompsoniaeのタイプ標本を指定しませんでした。後の1995年に、Glen & Smithによりレクトタイプ化されました。選ばれた標本はReynoldsにより示唆された1924年のものではなく、1930年にThompson夫人により収集されたとあります。Glen & SmithはThompsonという姓を「Sheila Clifford Thompson」という名前に関連付けました。これは、Gunn & Coddの1981年の植物収集家のリストにThompson夫人の記載がなかったせいかも知れません。その後、Sheila Clifford ThompsonはLouis Clifford Thompsonの母親であることが分かりました。また、Sheila Clifford Thompsonの娘であるAudrey Thompsonとする場合もありました。

この誤りは文献やインターネットで流布しています。Aloe thompsoniaeに献名されているのは、正しくはEdith Awdry Thompson(旧姓Eastwood)を示しており、Dr. Louis Clifford Thompsonと結婚しています。Sheila Clifford ThompsonはThompson夫人の娘です。

1903年、Awdry Thompsonは子供の頃、南アフリカのリンポポ州にあるHaenertsburg近くにあるWoodbushに到着しました。彼女は植物収集経験がある両親であるArthur Keble EastwoodとJane Mary Emma Eastwoodの影響により植物収集を開始しました。1910年にPaul Ayshford Methuenが訪れ、動植物の収集旅行をしたことにより、より関心が高まりました。彼女の標本から命名されたいくつかの動物には「eastwoodae」と献名されています。彼女の回想において、「私が夫とLowveldの農民であるHarry Whippと共に馬に乗り、放牧されていたHarryの牛を調べていた時、Wolkbergの山頂の平坦な場所でいくつかの岩の間で育っていました。」と、A. thompsoniaeの発見を記しています。

アロエに献名された女性は僅か19人しかいませんが、Awdry Thompsonはその1人です。Carl von Linneの時代から、植物学での業績や新種の発見者を称えるため、献名が行われてきました。例えば、2009年から2011年にかけて12種類のアロエに対し献名がなされましたが、そのすべてが植物学者やアマチュア研究者、採取者に対するものでした。しかし、アロエ以外の植物ではここ数年間で富裕者が献名の権利を購入するという新しい慣行が出現しました。金品と引き換えに名誉を得ようというこの慣行に対し、多くの植物学者は嘆かわしいことであると感じています。

献名は命名に際して一般的ですが、それが誰に対する献名か記載がない場合があります。しかし、それでは献名の持つ、特定の人物を記念するという目的に反します。場合によっては命名者しか知らない無名の人物に対する献名すら存在します。しかし、それらを禁ずる規則はありませんが、誤った人物と関連付けられる可能性に留意が必要です。よって、献名すらならば、献名する人物に対する情報を添付することをお勧めします。また、ラテン語は性別により語尾が変化しますから、性別についても述べる必要があります。A. thompsoniaeも男性にちなんで命名されたと勘違いされ、Aloe thompsoniとされたこともあります。

以上が論文の要約になります。
学名の由来についても記載がある図鑑を読んでいると、由来がはっきりしなかったり、複数の人物のいずれかの可能性があるなど、大変歯切れが悪いものが多くあります。命名は生物を分類することを目的としていますから、本質的には由来は重要ではありません。しかし、1753年以来、数多くの学者が活躍し数えきれないくらいの生物が命名されて来ました。最早、生物の発見や研究、命名ですら歴史となっています。過去の命名や発見に関する論文も、まだ数は少ないものの出て来ています。しかし、このような調査は古い資料の渉猟など、とにかく手間がかかりますから、やはり著書らが主張するように誰に対する献名が明記していただくのが最善なのでしょう。


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先日、ワシントン条約で国際取り引きが規制されているアロエについての記事を書きました。もっとも厳しく規制される附属書Iに記載されたアロエはマダガスカル原産のものばかりです。何故なのでしょうか?

CITES2018のアロエ属についての記事はこちら。

調べたところ、2014年と少し古いのですが、マダガスカルのアロエの保全状況を評価した、Solofo E. Rakotoarisoa, Ronell R. Klopper & Gideon F. Smithの論文、『A preliminary assessment of the conservation status of the genus Aloe L. in Mdagascar』です。早速、見てみましょう。

マダガスカル島には128種類のアロエが自生しますが、すべて固有種であり限られた狭い分布と個体数が少ないことが特徴です。マダガスカルのアロエは、環境破壊と人間の活動の影響を受けやすいとされますが、その保全状況は良く分かっていませんでした。様々な情報を収集し分析すると、マダガスカルのアロエの約39%が何かしらの理由で脅かされており、懸念が少ないのは4%に過ぎませんでした。しかし、最大の問題は、マダガスカルのアロエの約50%は情報が乏しく評価出来ませんでした。つまり、マダガスカルのアロエの半数について、どれだけの種が絶滅の危機に瀕しているのか不明なのです。状況は考えられているよりも悪い可能性もあるのです。

幾つかの種類を除いて、マダガスカルのアロエの分布は非常に狭いことから、山火事や違法採取に対して脆弱です。ちなみに、マダガスカルからの園芸用植物輸出の86%はアロエです。
CITES2014の附属書Iに記載されている21種類のうち、17種類はマダガスカル原産です。その他のアロエも附属書IIに記載されています。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックに記載されているマダガスカルのアロエは、Aloe suzannaeとAloe helenaeで、ともに絶滅危惧種です。しかし、マダガスカルのアロエの保全状況が不明なため、完全なものとは言えません。

それでは、実際のマダガスカルのアロエの保全状況を見てみましょう。ここでは、保全状況を7つに分類しています。危機の度合いは①が高く⑥が低いという並びです。ここに名前がないマダガスカルのアロエは⑦の情報不足に入ります。

①絶滅種(EW)
1, A. oligophylla
2, A. schilliana
3, A. silicicola
 
②絶滅危惧IA類(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高いもの。
1, A. acutissima v. fiherenensis
2, A. calcairophila
3, A. descoingsii
4, A. fragilis
5, A. guillaumetii
6, A. helenae
7, A. hoffmannii
8, A. ivakoanyensis
9, A. mandotoensis
10, A. millotii
11, A. mitsioana
12, A. orientalis
13, A. suzannae
14, A. virgineae

③絶滅危惧IB類(EN)
絶滅の可能性が高いもの。
1, A. andringitrensis
2, A. antonii
3, A. antsingyensis
4, A. betsileensis
5, A. capitata v. angavoana
6, A. capitata v. capitata
7, A. capitata v. silvicola
8, A. cipolinicola
9, A. conifera
10, A. delicatifolia
11, A. deltoideodonta v. brevifolia
12, A. deltoideodonta v. intermedia
13, A. edouardii
14, A. erythrophylla
15, A. fievetii
16, A. gneissicola
17, A. isaloensis
18, A. laeta
19, A. leandrii
20, A. newtonii
21, A. parallelifolia
22, A. parvula
23, A. rauhii
24, A. rosea
25, A. sakarahensis
26, A. schomeri
27, suarezensis
28, A. trachyticola
29, A. versicolor
30, A. viguieri

 ④絶滅危惧II類(VU)
絶滅の危機が増大しているもの。
1, A. acutissima v. acutissima
         (ssp. acutissima)
2, A. acutissima v. antanimorensis
3, A. analavelonensis
4, A. bellatula
5, A. compressa
6, A. deltoideodonta v. candicans
7, A. haworthioides
8, A. ibitiensis
9, A. madecassa
10, A. perrieri
11, A. vaotsanda

⑤準絶滅危惧(NT)
現在は絶滅の可能性は少ないが、生息状況の変化によっては絶滅危惧種に移行する可能性があるもの。
1, A. antandroi
2, A. bakeri
3, A. bulbillifera
4, A. capitata v. quartziticola
5, A. deltoideodonta v. deltoideodonta
6, A. macroclada
7, A. socialis


⑥低危険種(LC)
絶滅の懸念は少ない。
1, A. beankaensis
2, A. divaricata ssp. divaricata
3, A. divaricata ssp. vaotsohy
4, A. imalatensis
5, A. occidentalis
6, A. vaombe

⑦情報不足(DD)
評価するための情報がないか少ない。

以上が論文の簡単な要約です。さて、見てお分かりのように、絶滅の可能性がある種がほとんどで、絶滅の懸念が少ない低危険種はたった6種類に過ぎません。マダガスカルのアロエの危機的状況が分かります。しかし、一番の問題は情報不足が半数種に及ぶことです。情報のない種はすでに絶滅、あるいはこの瞬間にも絶滅しかけているかもしれないのです。もし、保全をするにせよ、現在のアロエの詳しい情報が必要です。調査は急務でしょう。
問題はまだあります。マダガスカルのアロエは生息地が非常に狭いため、開発などにより一気に絶滅してしまう可能性があるということです。例えば、2014年のこの論文では、Aloe bakeriは準絶滅危惧種であり、現在は絶滅の可能性は少ないとされています。しかし、2010年のCastillonの報告によると、港湾や空港開発のためにAloe bakeriの分布する岩場が切り出されてしまい、すでに絶滅していたというのです。キュー王立植物園のデータベースでも絶滅したことが示されています。このように、マダガスカルではそれほど危機になかったアロエでも、一瞬で絶滅に追いやられてしまいます。正確な調査と保全が実施されることが望ましいのですが、口で言うほど簡単ではないでしょう。知らない間に、沢山のアロエが絶滅していたなんてことならなければいいのですがね。



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先日、ワシントン条約で規制されるユーフォルビアについての記事を書きました。CITES2018からユーフォルビアの項目を抜粋しましたが、CITESには他にも沢山の多肉植物が記載されています。今日はアロエについて見てみましょう。  

流通
アロエ属はサハラ以南のアフリカ、アラビア半島、マダガスカル及びアフリカ東海岸沖の島々に、様々な環境で500種類以上が自生します。また、多くの種が野生化し帰化植物と化し、一部は侵入種と見なされています。Aloe vera以外のアロエの全種類は、CITESの附属書に記載されています。

判別
小さな多肉植物から背の高い木本までアロエは様々です。花は黄色から赤色が普通です。ほとんどの種は葉の縁に沿って鋭いトゲを持ちますが、リュウゼツランの仲間に見られる葉の先端の鋭いトゲはありません。葉は茎の末端にロゼットを形成し、古い葉が枯れ葉の「スカート」を形成することがあります。葉は簡単に折ることができ、無色のゲル状の物質があります。これは、一部の種類では酸化すると黄褐色からオレンジ色に変わります。

分類学
CITESでは、アロエ属にはAloidendron、Aloiampelos、Kumara、Chortolirionを含んだものを示しています。

用途
アロエは様々な用途に使用されます。まず、観葉植物としての人気があり、乾燥地の造園に使用されます。取り引きされる主要なアロエ製品は、Aloe veraとAloe feroxの葉のゲルで、化粧品やサプリメント、食品、香料、医薬品まで多目的に使用されます。医薬品としては、その抗酸化作用と抗菌性を利用して、皮膚や消化器の病気に使用されます。Aloe veraによる製品の世界市場は130億米ドルに達したと推定されており、取り引き量の増加することにより、Aloe veraと誤って別種のアロエが使われてしまう可能性もあります。
アロエから取れる苦い黄褐色の樹液も国際的に取り引きされ、主にAloe feroxから採取されます。

商業
商業目的の附属書Iのアロエの国際取り引きは禁止されています。ただし、人工繁殖させた植物の商取引は許可されています。
人工繁殖した附属書IIのアロエは米国、中国、ドミニカから輸出され、日本やカナダに輸入されます。Aloe feroxは南アフリカとマダガスカルから輸出され、オランダとドイツに輸入されています。南アフリカのAloe feroxは野生植物が採取されており、過去10年間で560万トンが輸出されています。Aloidendronは日本で人工繁殖され、取り引きされています。

附属書 I
附属書Iは
絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の種類です。

1, Aloe albida

2, Aloe pillansii

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3, Aloe pollyphylla

4, Aloe vossii

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5, Aloe albiflora

6, Aloe alfredii

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7, Aloe bakeri

8, Aloe bellatula

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9, Aloe calcairophila

10, Aloe compressa

11, Aloe delphinensis

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12, Aloe descoingsii

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13, Aloe fragilis

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14, Aloe haworthioides

15, Aloe helenae

16, Aloe laeta

17, Aloe parallelifolia

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18, Aloe parvula

19, Aloe rauhii

20, Aloe suzannae


以上は附属書Iに記載されたアロエです。しかし、実はアロエのかなりの種類は、実際に調査が行われていないことから、絶滅の可能性があるか判定できていません。そこら辺の話について早速論文を見つけましたので、明日記事にする予定です。


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アロエの多くは、長い管状の橙・赤系統の花を咲かせ、蜜を求めて訪れた鳥により受粉する鳥媒花と考えられています。また、一部のアロエは比較的短い管状の白色かクリーム色の花を咲かせますが、これらは昆虫により受粉する虫媒花とされます。
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Aloe parvula

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Aloe albiflora

しかし、実際に観察や受粉の確認を調査されたアロエは少ないのが現状です。過去の研究は非常に重要な知見ですが、それを証拠に未調査のアロエについて語ることは果たして出来るのでしょうか? 私は一部の結果からすべてを結論付けることは非常に危ういと思います。ですから、花粉媒介のシステムについて何か面白い論文はないか探ってみました。見つけたのが、C. Botes, P. D. Wragg, S. D. Johnsonの2009年の論文、『New evidence for bee-pollination systems in Aloe (Asphodelaceae: Aloideae), a predominantly bird-pollinated genus』です。

一般的にアロエの受粉には鳥が重要であり、蜜蜂はアロエの受粉に寄与しない、いわゆる蜜泥棒(盗蜜者)とされています。しかし、著者らは蜜蜂とアロエの関係を見直しています。論文で観察されたのは、淡いピンクがかったクリーム色の花を咲かせるAloe minimaと、明るい緑がかった黄色の花を咲かせるAloe linearifoliaです。自生地はアロエの蜜を訪れる太陽鳥が複数種分布する地域だそうです。
さて、まずは実験的にこれらのアロエの花を自家受粉させてみましたが、ほとんど種子は出来ませんでした。次にアロエを網で覆い鳥が入れない状態にした場合、蜜蜂は網目から侵入しアロエの蜜を吸いました。この場合は鳥の受粉への影響がない状態ですが、アロエは種子が出来ました。さらに、自家受粉はほとんどしないことも確認済みですから、これらのアロエは蜜蜂により受粉していることが明らかになったのです。
ということで、著者らは考えられていた以上にアロエの受粉には蜜蜂が重要かも知れないとしています。
花の特徴を調べたところ、2種類とも花は紫外線を反射しました。動物は目で捉えられる波長が異なるため、紫外線を見ることが出来る昆虫にとっては、紫外線の反射は意味があるようです。また、これらのアロエの花は揮発性物質を放っており、その香りは人間の鼻でもわかる強さです。香りはテルペノイドとベンゼノイドが主要なものでしたが、A. minimaは6種類、A. linearifoliaは実に17種類の香り物質が検出されました。実際にA. linearifoliaの方が香りは強いそうです。このような花の特徴は虫媒花の特徴とされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。以前にも記事にしましたが、Aloe feroxの花の受粉は主に蜜を吸う専門家である太陽鳥ではなく、蜜を専門としない日和見の鳥が受粉の主体であるという面白い結果でした。この時、蜜蜂は受粉に寄与しないことが確認されています。しかし、Aloe feroxは巨大アロエであり、むしろ特殊な例かもしれません。この論文からは、多くの中型~小型アロエの受粉に蜜蜂が関与している可能性すらあるのです。今後、もっと沢山の種類のアロエの受粉について調査がなされるべきでしょう。
また、論文で調査されたクリーム色や薄い黄色などの淡い色合いで香りがある花には、一般的に蛾が訪れる蛾媒花が多い傾向があります。夜間の調査も必要ではないかと感じました。


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植物の種子はある程度は保存出来るものが多く、種の保存にとって種子の長期保存は有効な手段である可能性があります。種の保存には幾つかの方法がありますが、採取した植物を栽培して維持することは植物園や大学などの研究機関の重要な仕事です。しかし、同じ種類の植物でも遺伝的な多様性があることが本来の姿ですが、このような栽培個体は遺伝的な多様性が低いことが問題です。自生地での野生植物の消滅により栽培植物を移植しようとした場合に、その全てが株分けした遺伝的に均一なクローンだったり、血縁関係にある兄弟ばかりでは、種子が出来なくなりやがて消滅してしまいます。解決策は自生地と同じくらい遺伝的多様性を栽培植物で維持出来れば良いのですが、ただ1種類の植物を維持するだけで大変な労力と場所と資金がかかってしまいます。当然それは専門知識を持つ研究者が行わなければなりませんから、地球上の絶滅の危機に瀕している植物すべてをというのは明らかに無理でしょう。しかし、原産地から種子を回収して保存しておけば、将来の絶滅に備えることが可能です。沢山の種子を採取しておけば遺伝的多様性も保たれますし、人工的に栽培する場合と異なり場所も手間もかかりません。ですから、種子の保存に関しては興味があります。
確か、種の保存を目的として、実際に様々な植物の種子が凍結保存されていると聞いたことがあります。しかし、その凍結種子を撒いて植物が育ったという話は聞いたことがないため、気になっていました。なぜなら、一般的に生物を凍結すると細胞内の水分が凍ってしまい、氷の結晶が出来て細胞が破壊されてしまいます。解凍した肉や魚から赤い汁(ドリップ)が出るのは、これが原因です。種子は水分が少ないので細胞の破壊は免れるのでしょうか? また、凍った水分は凍結した時間が長くなると、やがて液体になる融解を経ずに直接気体になります。これを昇華と呼びますが、凍結種子は大丈夫なのでしょうか?

とまあ前提が長くなりましたが、要するに凍結種子が本当に芽生えるのかが気になっていた訳です。せっかくだから、多肉植物で何か関係がありそうな論文を探してみたところ、面白そうなものを見つけました。S.R.Cousins, E.T.F.Witkowski, D.J.Mycockの2014年の論文、『Seed strage and germinatiom in Kumara plicatilis, a tree aloe endemic to mountain fynbos in the Boland, south-western Cape, South Africa』です。タイトルの通りKumara plicatilisの種子を温度を変えて保存し、生存率を確認しています。ちなみに、このKumara plicatilisとは、いわゆるAloe plicatilisのことで、2013年にアロエ属から分離しクマラ属となりました。日本では「乙姫の舞扇」というあまり使われない名前もあります。

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Kumara plicatilis

まず、実験の基本的な前提から見ていきましょう。K. plicatilisの新鮮な種子は2010年12月にRawsonville/Worcester近くの40個体から採取されました。採取した種子は茶色の紙袋に入れて実験室で3ヶ月保管されました(※1)。空の種子は除かれました。2400個の種子を300個×8に分け、さらにそれぞれを20個を1本の密封容器に入れました。
種子は4つの温度で、4ヶ月及び9ヶ月保管されました。設定された温度は、マイナス80度、4度、25度、研究室内の4つです。期間は12月から2月で、ヨハネスブルグでは夏にあたるそうです。

※1 ) K. plicatilisの種子は種子が出来た後、直ぐに種子を撒くとあまり発芽しません。ある程度の後熟期間を必要としています。

結果を見ていきましょう。
まずは発芽率です。12時間で昼と夜が切り替わる培養機で、日中は25度、夜間は15度に設定して発芽させました。マイナス80度で保存された種子は、保存期間に限らず発芽が早く、平均5.9日でした。逆に研究室内で保存された種子は平均7.8日で発芽しました。
また、18週間の間に発芽しない種子は、種子の生存を確認する試験(テトラゾリウム試験)を実施しました。つまり、試験後の種子は、①発芽した種子、②空になった死亡種子、③テトラゾリウム試験により生存を確認した種子、④テトラゾリウム試験により死亡を確認した種子、の4種類です。重要な①と③、さらには①と③を足した生存率を見ていきましょう。
4ヶ月保存した種子では、マイナス80度で①90.4%+③4.8%=95.2%、4度では①87.6%+③10.0%=97.6%、25度では①78.0%+③14.0%=92.0%、室内では①80.4%+③16.4%=96.8%でした。4ヶ月保存では種子を冷やした方が発芽率は良く、室内保存では種子の生存率は高いものの発芽率は低下しました。
次に9ヶ月
した種子では、マイナス80度で①39.6%+③52.4%=92.0%、4度では①39.2%+③50.0%=89.2%、25度では①79.6%+③15.2%=94.8%、室内では①88.8%+③4.8%=93.6%でした。不思議なことに、9ヶ月の保存では発芽率は種子を冷却した方が発芽率が低下したのです。

さて、著者らは①発芽率+③生存種子を重視しており、長期の低温条件が種子の休眠を誘発する可能性を指摘しています。一般的に秋に出来た種子が直ぐに発芽せず、一度低温にさらされることにより、春に種子が休眠から目覚めるというプロセスがあります。しかし、この場合は逆ですが低温による休眠の可能性も論文になっているようです。著者らは長期冷蔵は種子にとって環境ストレス要因であるとしておきながらも、逆に休眠状態に入ることは種子寿命を伸ばす可能性を上昇させるとしています。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文にはまだ曖昧な部分があります。それは、テトラゾリウム試験で生存しているとは一体どういう意味を持つのかということです。胚乳や子葉が生存していても、幼根や幼芽の原器あるいは胚軸にダメージがあれば生存していても発芽は出来ないでしょう。生存していても発芽出来ないのなら、冷却による長期保存の利点はありません。著者らは種子寿命が伸びると言っていますが、発芽しない種子を一体どうしようというのでしょうか? よくわかりません。種子から胚を摘出して組織培養するのなら、あるいは可能なのかもしれませんが。
さて、論文を読むと実際に行われている種子の凍結保存に対して、ある種の疑念が湧きます。将来のために凍結された種子たちは将来、果たして無事に発芽出来るのでしょうか? もちろん、これはK. plicatilisというと1種類の植物に対してだけの結果です。しかし、凍結保存された種子たちが、その全ての種類で発芽試験が実施されているとは思えません。しかも、種の保存を目的とした場合、4ヶ月や9ヶ月どころではなく、最低でも数十年という保存期間が必要なはずです。種子の冷凍保存は本当に長期保存に最適な方法なのでしょうか? 個人的には組織培養したカルスを液体窒素につけておけば、何十年も保存可能なはずです。確かに組織培養に移行するのは手間がかかりますが、確実性は高い気がします。


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昨日に引き続きAloe of the world: When, where and who?』という論文をご紹介しています。昨日はアロエ属が誕生した1753年から、1930年までの約180年間のアロエの歴史を見てきました。本日は1930年代から、いよいよアロエ属の権威であるReynoldsが登場します。また、2000年以降は現在も活動している研究者の名前が現れます。また、例によって、所々に※印で私が注釈を入れました。では、アロエの歴史を見てみましょう。

1931~1940年
1930年代からアロエ属研究の第一人者であるG. W. Reynoldsが登場します。N. S. PillansやB. H. Groenewaldと共にアフリカ南部から膨大な数のアロエを記載しました。アフリカ南部からReynoldsは24種類、Pillansは9種類(1種類はSchonlandと共著)、Groenewaldは6種類を記載しました。ReynoldsのライバルであったH. B. Christianは南熱帯アフリカから8種類(1種類はE. Milne-Redheadとの共著)のアロエを記載しました。
O. Stapfはグラスアロエのために新属Leptaloeを創設しました(※7)。また、A. LemeeはA. Bergerのアロエの分類におけるSection Aloinellaeを属に格上げし、Aloinella Lemeeを創設しました(※8)。
他には、J. Leandriはマダガスカルの新しいLomatophyllumを、A. A. Bullockは東熱帯アフリカ、L. Bolusはアフリカ南部、I. B. Pole Evansはアフリカ南部、C. L. Lettyはアフリカ南部、A. Guillauminはマダガスカルから、それぞれアロエを1種類記載しました。
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Aloe spectabilis Reynolds (1937年命名)

※7 ) Leptaloe属はAloe myriacanthaを5種類に分けていました。また、Aloe minima、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe albidaが含まれていました。しかし、Leptaloe属は現在では認められていません。

※8 ) Aloinella属はAloe haworthioidesが含まれていましたが、現在では認められていません。
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Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides


1941~1950年
1940年代初頭にB. H. Groenewaldはアフリカ南部のアロエに関する本を出版しました。また、1940年代のReynoldsは、『The Aloes of South Africa』という画期的なアロエの本を出版するために集中したため、アフリカ南部のアロエはあまり記載されませんでした。しかし、1950年に出版されたReynoldsの本はアロエの標準的な教科書となりました。
その間に、H. B. Christianは南熱帯アフリカと東アフリカで活発に活動し、東熱帯アフリカから6種類、南熱帯アフリカから2種類(1種類はI. Verdoornとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。Guillauminはマダガスカルから3種類のアロエと、Lomatophyllumを記載しました。
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Aloe descoingsii Reynolds (1958年命名)

1951~1960年
1950年代、Reynoldsはアフリカ東部と北東部、及びマダガスカルに注意を向けました。以前のReynoldsはリンポポ川の北は調査しないというChristianとの合意によりアフリカ南部に集中していましたが、1950年にChristianが亡くなったため調査範囲が広くなったのです。Reynoldsは42種類もの新種のアロエを記載しました。内訳はアフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから6種類、東熱帯アフリカから9種類、北東熱帯アフリカから17種類(6種類はP. R. O. Ballyとの共著)、西中央熱帯アフリカから7種類でした。
また、Christianの死後に4種類のアロエが記載されました。南熱帯アフリカから1種類、北東熱帯アフリカから1種類、東熱帯アフリカから2種類(I. Verdoornとの共著)でした。
D. M. C. DrutenはUrgineaとされていたAloe alooides (Bolus) Drutenをアロエ属としました(※9)。P. R. O. BallyとI. Verdoornは北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
A. Bertrandはマダガスカルのアロエのために新属Guillauminiaを提唱しました(※10)。


※9 ) Urginea属は現在Drimia属の異名とされています。Drimia、Albuca、Schizocarphus、Fusifilum、Dipcadi、Ledebouria、Prospero、Austronea、Ornithogalum、Trachyandraを含んでいた非常に雑多なグループでした。

※10 ) Guillauminia属には、Aloe albida、Aloe bakeri、Aloe ballatula、Aloe descoingsii、Aloe carcairophila、Aloe rauhiiが含まれていました。しかし、Guillauminiaは現在では認められていません。
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Aloe bakeri
=Guillauminia bakeri


1961~1970年
Reynoldsは熱帯アフリカとマダガスカルで調査を続け、1966年に『The Aloes of Tropical Africa and Madagascar』を出版しました。この本も出版から数十年に渡り標準的なアロエ属の教科書となりました。Reynoldsはマダガスカルから4種類、北東熱帯アフリカから3種類(2種類はP. R. O. Ballyとの共著)、東熱帯アフリカから4種類、南熱帯アフリカ~アフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから7種類、アラビア半島から1種類のアロエを記載しました。
1960年代、J. J. Lavranosはアラビア半島から6種類のアロエを記載しました。
他には、W. Rauhがマダガスカルから1種類、I. Verdoornはアフリカ南部から3種類、(1種類はD. S, Hardyとの共著)、L. C. Leachはまだ南熱帯アフリカから1種類、J. M. Bosserはマダガスカルから3種類、W. Giessはナミビアから1種類のアロエを記載しました。


1971~1980年
J. J. Lavranosはアロエ研究を続け、アフリカ南部から2種類、アラビア半島から3種類(2種類はA. S. Bilaidiと、1種類はL. E. Newtonと共著)、東熱帯アフリカから4種類(3種類はL. E. Newtonとの共著)のアロエを記載しました。
L. C. Leachは南熱帯アフリカで活発に活動し、南熱帯アフリカから10種類、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
W. Maraisは2種類のLomatophyllumを記載しました。
他にはD. S. Hardyはアフリカ南部から2種類、W. Giessはナミビア、アフリカ南部から2種類(1種類はH. Mermullerとの共著)、G. D. Rowleyは北東熱帯アフリカから1種類、G. Cremersはマダガスカルから2種類、B. mathewは西中央熱帯アフリカ(コンゴ)から1種類、I. Verdoornは南部及び南熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから3種類(P. E. Brandhamとの共著)のアロエを記載しました。
また、この10年間でアフリカ南部のアロエに関する本は、例えば1974年のBornman & Hardy、1974年のJeppe、1974年のWest、1975年のJankowitzなどが出版されました。
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Aloe erinacea D. S. Hardy (1971年命名)

1981~1990年
H. F. GlenとD. S. Hardyはアフリカ南部のアロエ研究を開始しました。
W. Rauhはマダガスカルから2種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から1種類と北東熱帯アフリカから1種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類(2種類は
H. J. Beentjeと、2種類はJ. J. Lavranosとの共著)、S. CarterとP. E. Brandhamは北東アフリカから1種類とアフリカ南部から1種類、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(1種類はK. Kritzingerとの共著)、J.R. I. Woodはアラビア半島で1種類、D. C. H. Plowesはアフリカ南部で1種類のアロエを記載しました。

1991~2000年
1990年代にはアフリカ南部のアロエに関する本が2冊出版(2000年のGlen & Hardyと、1996年のVan Wyk & Smith )されましたが、アフリカ南部からは新しいアロエは記載されませんでした。しかし、東アフリカのアロエ研究は増加しました。L. E. Newtonは東熱帯アフリカから8種類、北東熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから6種類(1種類はNewtonとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。また、Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから12種類(1種類はP. E. Brandham、1種類はM. G. Gilbert、1種類はM. Dioliとの共著)、J. J. Lavranosは北東アフリカから3種類(1種類はS. Carterとの共著)、マダガスカルから5種類(1種類はW. Röösliとの共著)、アラビア半島から9種類(7種類はS. Collenetteとの共著)のアロエを記載しました。
W. Rauhはマダガスカルの4種類(1種類はR. Hebding、1種類はA. Razafindratsira、1種類はR. Geroldとの共著)のLomatophyllumについて紹介しました。さらに、マダガスカルから4種類(1種類はR. D. Mangelsdorff、2種類はR. Geroldとの共著)のアロエを記載しました。

P. V. HeathはGuillauminiaを支持し、新属Leemea P. V. Heathを提唱しました(※11)。
他には、A. F. N. Ellertは南熱帯アフリカから1種類、P. FavellとM. B. MillerとA. N. Al Gifriはアラビア半島から1種類、J-B. Castillonはマダガスカルから2種類のアロエを記載している。

※11 ) LeemeaではなくLemeeaの誤記です。Aloe boiteaui、Aloe haworthioides、Aloe parvulaが含まれていました。Lemeea属は現在では認められていません。
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Aloe parvula
=Lemeea parvula


2001~2010年
L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類と北東熱帯アフリカから1種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から7種類(1種類はB. A. Mies、2種類はT. A. McCoy、1種類はT. A. McCoyとA. N. Al Gifri との共著)、北東熱帯アフリカから8種類(すべてMcCoyとの共著)、東熱帯アフリカから6種類(すべてMcCoyとの共著)、マダガスカルから17種類(8種類はMcCoy、1種類はM. Teissier、5種類はMcCoyとB. Rakouthとの共著)のアロエを記載しました。
G. F. Smithはアフリカ南部から5種類(2種類はN. R. Crouch、2種類はR. R. Klopper)を説明しました。E.
 J. van Jaasveldは8種類のアロエを説明しました。1種類はA. B. Low、3種類はA. E. van Wyk、1種類はW. Swanepoelとの共著です。

この10年最大のアロエ研究の貢献は、J-B. CastillonとJ-P. Castillonの親子でした。マダガスカルのアロエの21種類の組み合わせを説明し、5種類のアロエを記載しました。
他には、S. S. Laneは南熱帯アフリカから1種類、P. I. Forsterはマダガスカルから1種類、S. J. ChristieとD. P. HannonとN. A. Oakmanは北東熱帯ですから1種類、A. F. N. Ellertはコモロ諸島から1種類と南熱帯アフリカから2種類、S. Carterは北東熱帯アフリカから1種類と南熱帯アフリカから1種類、N. Rebmannはマダガスカルから4種類、S. J. Maraisはアフリカ南部から1種類のアロエが記載しました。B. J. M. Zonneveldはアフリカ南部から4種類のアロエを記載し、2種類は一部の研究者に認められています。
この10年間に出版されたアロエの本は、2001年のCarter、2004年のLane、2004年のSmith、2004年のRothmann、2008年のSmith & Van Wyk、2010年のCastillon & Castillonがあります。


2011年以降
2011~2013年の間には15種類のアロエが説明されています。Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから4種類(1種類はTesfaye Awas、1種類はI. FriisとI. Nordalとの共著)、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(2種類はW. Swanepoel、1種類はP. nelとの共著)、南熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。M. DioliとG. Powysは東熱帯アフリカから新種を説明しました。J-B. Castillonはマダガスカルから1種類、J-P. Castillonはマダガスカルから2種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから2種類、G. F. Smithと
E. Figueiredoはアフリカ南部から2種類(1種類はN. R. Crouchとの共著)の組み合わせを公表しました。
アロエ研究の重要な2冊の本が出版されました。2011年の『The Aloe Names Book』はアロエの学名と異名につえて解説しており、同じく2011年のCarterの『Aloes: the Definitive Guide』はReynolds以来はじめて全種類のアロエを一冊の本にまとめたものです。


以上が論文の内容となります。個人的には学名関連の話が好きなので、大変面白い論文でした。しかし、この論文の後、遺伝子解析の結果によりアロエ属は解体されることになりました。2013年の論文を根拠とするAloidendron (A. Berger) Klopper & Gideon F. Sm.、Aloiampelos Klopper & Gideon F. Sm.、2014年の論文を根拠とするGonialoe (Baker) Boatwr. & J. C. Manning、Aristaloe Boatwr. & J. C. Manningがアロエ属から分離しました。また、2013年にはG. D. Rowleyにより1786年に命名されたKumara Medik.が復活しました。当然ながら、アロエ属から分離したのはごく一部でありほとんどのアロエは未だにアロエ属のままです。また、2019年に命名された新属Aloestrela Molteno & Gideon F. Sm.は、遺伝的にはどうやらAloidendronに含まれるようですが、現在はまだAloestrelaのままです。今後変わる可能性はあるのでしょうか?
このように、この論文と同時期に出た論文により、その後のアロエは一変しました。2011~2020年のアロエ属は思いもよらぬ激変を経験しました。2021年以降のアロエはどうなっていくのでしょうか?



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Carl von Linneにより1753年に二項式の学名の記述方法が提案されアロエ属が誕生しました。つまり、Aloe L.です。しかし、実際にはそれ以前からアロエの仲間はヨーロッパで知られていましたが、ラテン語による特徴の羅列により記述されていました。von Linneによる1753年の『Species Plantarum』では、GasteriaやHaworthiaもアロエ属として記載されていました。これが、アロエ属の誕生に関する話ですが、それから270年ほど経ちアロエ属も激変しました。そのアロエ属の歴史を紐解いたRonell R. Klopper & Gideon F. Smithの2014年の論文、『Aloe of the world: When, where and who?』を見つけました。アロエの歴史を見てみましょう。ちなみに、2014年以降に学名が変更されたものもありますから、※印で私が注釈を入れました。

1753~1760年
von Linneが初めてAloe L.を記載しました。この中では、Aloe variegata L.のみが現在でもアロエ属として残されています。

1761~1770年
アロエ研究に貢献した最初の人物は、1768年に『Garden Dictionary』の第8版を出版したP. Millerでした。Millerは主に南アフリカから来た新しいアロエについて説明しました。
この時期に出版されたものとしては、N. L. Burmanによる『a new combination for Aloe vera (L.) Burm.f.』と、R. Westonによる南アフリカの1種類のアロエについてでした。

1771~1780年
1761~1763年にArabia Felix(現在のイエメン)でデンマークの遠征があり、同行したP. Forsskal
により初めてアラビア半島のアロエについて説明されました。しかし、1880年代後半までアラビア半島のアロエについては何もありませんでした。
この時期には、P. Miller、C. Allioni、F. Massonにより、南アフリカのアロエがそれぞれ1種類記載されました。
また、F. K. MedikusによりKumara Medik.が記載されました。(※1)

※1 ) Aloe plicatilisは、初めvon LinneによりAloe disticha var. plicatilisとされました。しかし、Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。このことが後に問題を引き起こします。MedikusがAloe plicatilisをKumara distichaと命名してしまったのです。正しく引用するならば、Kumara plicatilisとすべきでした。MedikusはAloe plicatilisをKumara属としたつもりでしたが、規約上ではGasteria distichaをKumaraとしてしまったのです。困ったことにGasteria属の創設よりもKumara distichaの方が命名が早かったため、規約上では現在のGasteria属はKumara属とする必要があります。ただし、規約に従うと大きな混乱を招くため、変更は行わず現状維持が提言され認められています。ちなみに、Aloe plicatilisはアロエ属から独立し、Kumara plicatilisとなりました。Medikusの提唱したKumara属が正しい引用により復活したのです。
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Kumara plicatilis
=Aloe plicatilis
=Aloe disticha var. plicatilis


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Gasteria disticha
=Aloe disticha


1781~1790年
J. B. A. P. M. C. de Lamarckはモーリシャス、東アフリカ、北東アフリカから1種類ずつのアロエを記載しました。また、C. Linnaeus jnr.(von Linneの息子=Linne filius)とA. Aitonは、アフリカ南部からそれぞれ新種のアロエを1種類記載しました。

1791~1800年
アフリカ南部ではC. P. Thunberg、R. A. Salibusy、C. L. Willdenow、A. P. de Candolleが新種を記載しました。de Candolleはアフリカ南部だけではなく、熱帯アフリカ北東部やアラビア半島、モーリシャスも記載しています。しかし、この1790年代に発表された10種類のアロエは、現在では使用されていないものです。

1801~1810年
1804年にA. H. Haworthはアロエ属の新しい分類を発表しました。また、Haworthはアフリカ南部から幾つかの新種を記載しましたが、現在ではそのうち2種類だけが認められています。
de Candolle、J. B. Ker Gawler、J. A. Schultesがアフリカ南部で、Willdenowはアフリカ南部とモーリシャスで新種を記載しましたが、現在では異名扱いとなり認められていません。

1811~1820年
Haworthはアフリカ南部から2種類、Reunion島から1種類のアロエを記載しました。Willdenowはアフリカ南部とモーリシャス、W. T. Aitonはアフリカ南部、Ker Gawlerはアフリカ南部とモーリシャス、Prince J. M. F. A. H. I. von Salm-Rifferscheid-Dick (Salm-Dick)はアフリカ南部で新種を記載しましたが、これは現在認められていません。
Willdenowは新属Lomatophyllum Willd.を提唱しました。Lomatophyllum(※2)はマダガスカルとマスカレン諸島に固有の液果を持つアロエです。
Medikusは樹木状のアロエであるRhipidodendron Medik.を提唱しました(※3)。
Ker Gawlerは主にマスカレン諸島の液果アロエをPhylloma Ker Gawlとして記載しました(※4)。現在、これらの新属はアロエ属とされています。

※2 )Lomatophyllum属は現在アロエ属に含まれることになりました。遺伝子を解析したところ、Lomatophyllumとされてきた種類同士が近縁ではなかったのです。離島で進化したアロエの収斂進化ということなのでしょう。

※3 )Rhipidodendron属は、Aloe dichotomaとAloe plicatilisを含むものでした。しかし、現在では認められていません。ちなみに、Aloe dichotomaはアロエ属から独立し、Aloidendron dichotomumとなりました。Aloe plicatilisは(※1)を参照。
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Aloidendron dichotomum
=Aloe dichotoma


※4 ) Phylloma属はLomatophyllumとされていたアロエのうち2種類が該当します。Aloe purpurea(=L. purpureum)をP. aloiflorumなど3種類に分けていました。また、Aloe macra(=L. macrum)はP. macrumとされました。

1821~1830年
Haworthはアロエの重要な研究をしており、アフリカ南部から10種類の新種を記載しました。さらに、Pachydendron Haw.を提唱しました(※5)。
W. J. BurchellとSalm-Dickは、それぞれアフリカ南部から1種類の新種を記載しました。J. A. SchultesとJ. H. Schultesは共同で2つのアフリカ南部のアロエの新しい名前と新しい組み合わせを発表しました。
H. F. Link、L. A. Colla、K. Sprengelはアフリカ南部、R. Sweetはマスカレン諸島、J. A. SchultesとJ. H. Schultesはアフリカ全域で、様々な新種を記載しましたが、その多くは現在使用されていないものです。

※5 ) Pachydendronはサンゴの化石につけられた学名ですからこれは誤りです。正しくはPachidendronです。Aloe feroxとAloe africanaが含まれていました。

1831~1840年
1830年代にはアロエに関する研究や出版物はあまりありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部、H. W. Bojerはマダガスカルとマスカレン諸島、E. G. von Steudelはアラビア半島とアフリカ南部で新種を記載しましたが、現在は異名とされています。1837年に出版されたBojerの『Hartus Mauritianus』は、マダガスカルとマスカレン諸島のアロエを記載した初めての記録です。

1841~1870年
この30年間はアロエ属はあまり変化がありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部から2種類の新種を記載しました。von SteudelはPhylloma属について整理しました。R. A. Salisburyは新属Busipho Salisb.を創設しました。BusiphoにはAloe feroxが含まれていましたが、現在では認められていません。

1871~1900年
この30年間はJ. G. Bakerがアロエ研究を独占しました。Bakerは生涯に42種類の新種と20の異名を記載しました。Bakerによりソコトラ島とマダガスカルのアロエの正式な説明がなされました。アロエ研究はアフリカ南部から始まり、東アフリカから北東の熱帯アフリカにまで及びました。アロエに関する沢山の著作として、1883年の『Contribution to the Flora of Madagascar』、1896年の『Aloe to the Flora Capensis』、1898年の『Flora of Tropical Africa』などが知られています。
A. Todaroは1880年代後半から1890年初頭にかけて、熱帯アフリカの北東部と西部の4種類のアロエを説明しました。1888年から1895年の間にH. G. A. Englerは、アフリカ南部から1種類、東熱帯アフリカから4種類のアロエを記載しました。
他には、W.T. Thiselton Dyerがアフリカ南部から1種類、I. B. Balfourがマダガスカルから1種類、G. F. Scott-Elliotがマダガスカルから1種類、A. B. Rendleが東熱帯アフリカから1種類、C. E. O. Kuntzeがアフリカ南部から1種類、W. Watsonが北東熱帯アフリカから1種類を記載しています。
A. Deflersは1885年から1894年の間にアラビア半島を探検しました。Forsskal以来120年ぶりにアラビア半島でアロエが調査されました。Deflersはイエメンとサウジアラビア南部に遠征し、Aloe tomentosa Deflersを記載しました。この間にG. A. Schweinfurthは熱帯アフリカ北東部から3種類、アラビア半島から2種類のアロエを記載しました。
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Aloe somaliensis C. H. Wright ex W. Watson
(1899年命名)


1901~1910年
この10年間の最も著名なアロエ研究者はA. Bergerで、アロエ属の新しい体系とモノグラフを含む研究を行いました。Bergerはアフリカ南部から9種類(うち2種類はH. W. R. Marlothとの共著)、南熱帯アフリカから2種類、東熱帯アフリカから5種類、北東熱帯アフリカから3種類、西部及び西中央熱帯アフリカから1種類、マダガスカルから3種類、コモロ諸島から1種類のアロエを記載しました。また、Bergerは新属Chamaealoe A.Bergerを提唱しました(※6)。
S. Schonlandは1900年代にアフリカ南部のアロエを研究し、9種類の新種を記載しました。
その他には、J. G. Bakerは、H. G. A. EnglerとE. G. Gilgは南熱帯アフリカ、I. B. Balfourはソコトラ島、G. KarstenとH. Schenckは北東熱帯アフリカ、A. B. Rendleは東及び西中央熱帯アフリカ、Marlothはアフリカ南部から新種のアロエを記載しました。

※6 ) Chamaealoe属はChamaealoe africanaからなる属でした。これは現在のAloe bowieaのことです。A. bowieaは初めは1824年にBowiea africana Haw.と命名されました。しかし、Bowiea属からアロエ属に移る際に、すでにAloe africana Mill.というアロエが1768年から存在したため、Bowiea africana→Aloe africanaという移行が出来ませんでした。そのため、1829年にAloe bowiea Schult. & Schult.f.と命名されました。Chamaealoe africana (Haw.) A.Bergerは1905年に命名されましたが、現在では認められていません。
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Aloe bowiea
=Chamaealoe africana


1911~1920年
I. B. Pole Evansはアフリカ南部から14種類のアロエを記載しました。他には、S. Schonlandがアフリカ南部、A. Bergerは南部及び南熱帯アフリカ、A. B. Rendleは南熱帯アフリカから2種類、J. DecorseとH. -L. Poissonはマダガスカルから、それぞれアロエを記載しました。

1921~1930年
R. Decaryはマダガスカルから3種類のアロエと、後にアロエ属に移されたガステリアを記載しました。
1926年にマダガスカルのアロエとLomatophyllumに関する重要な本がJ. M. H. A. Perrier de la Bathieにより出版され、22種類のアロエが新たに記載されました。また、Decaryによりガステリアとされたアロエは、Aloe antandroi (Decary) Perrierとされました。Perrier de la BathieはLomatophyllumの6種類の新種を記載しました。
他には、P. Danguyがマダガスカル、E. Chiovendaは北東熱帯アフリカから2種類、E. A. J. de Willdermanは西中央熱帯アフリカ、A. Bergerはアフリカ南部、M. K. Dinterはアフリカ南部、N. S. Pillansはアフリカ南部、L. Guthrieはアフリカ南部からアロエを記載しました。

さて、記事が長くなってしまったので、一度ここで切ります。内容的にもアロエ属の権威であるReynoldsが1930年代から登場します。明日に続きます。


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雪女王Aloe albifloraが開花しました。アロエの花言えば赤~橙~黄色ですから、白い花は珍しい花色です。まさかの開花でした。まさに、albi(=白)flora(=花)ですね。
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雪女王 Aloe albiflora

雪女王は今年の正月明けに世田谷ボロ市で購入しました。いかにも休眠中といった色合いで、外側の葉は枯れ混んでいました。そのため、今年は植え替えをしてしっかり株を充実させて、来年花を拝めればという腹図もりでしたから、まさかの開花です。
一般的に赤系統の花はアフリカでは鳥媒花で、アロエの花には様々な鳥蜜を求めて訪れます。ガステリアのように、赤系統で小型の花だと太陽鳥が訪れます。日本だと赤系統の花にはマルハナバチが来ますが、白花には蛾やハエが訪れます。
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女王錦 Aloe parvula

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Gasteria baylissiana

アロエ類では広義のハウォルチア(Haworthia, Haworthiopsis, Tulista)は白花で蛾が訪れます。ハウォルチアは筒状の花の形からして、蜂が訪れることはなさそうです。
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Haworthiopsis glauca var. herrei

では、肝心の雪女王はどうでしょうか? 緑色の筋が入るところなどハウォルチアに似た部分もあります。しかし、ハウォルチアより花が開くので、蜂やハエも来るだけのスペースはありそうです。とは言え、実際には匂いなどで特定の昆虫を呼び寄せる機構があったりもしますから、実際に花を訪れる昆虫を観察する必要があるでしょう。
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雪女王 Aloe albiflora


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樹木状となるアロエは、アロエ属から分離しアロイデンドロン属(Aloidendron)となりました。アロイデンドロン属で一番有名な種類はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたアロエです。現在はAloidendron dichotomumとなっています。アロイデンドロン属は7種類あるとされています。つまり、A. dichotomum、A. ramosissimum、A. pillansii、A. barberae、A. tongaensis、A. eminens、A. sabaeumです。しかし、2019年に出たアロイデンドロン属の遺伝子を解析した論文によると、A. sabaeumはアロイデンドロン属ではなくアロエ属であることが分かりました。さらに、アロエ属から分離されたAloestrela suzannaeが、実はアロイデンドロン属に含まれてしまうことも明らかになりました。今後、公的データベースの情報も改定されていくかもしれません。

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さて、そんなアロイデンドロン属ですが、A. dichotomum以下はほとんど見かけません。最近、ようやくA. dichotomumの実生苗が流通し始めたばかりですから、さもありなんと言ったところです。私はたまたま千葉のイベントでA. ramosissimumを入手しましたから、本日はA. ramosissimumについて少し調べてみました。
とは言うものの、思ったより良い情報はありませんでした。しかし、あちこちのサイトを見たところ、どうもどれも似た内容ばかりであることに気が付きました。おそらく、南アフリカ生物多様性研究所(SANBI)が主宰している「PlantZAfrica」というサイトから来ているようですね。私も「PlantZAfrica」の記述を参照します。その前に、キュー王立植物園のデータベースを確認しておきましょう。なぜなら、A. ramosissimumがディコトマの亜種であるとしているサイトが割と目についたからです。

まず、始めは1939年にAloe ramosissima Pillansと命名されました。この名前が一番使われてきた馴染みがあるものでしょう。2000年にディコトマの変種であるとするAloe dichotoma var. ramosissima (Pillans) Glen & D.S.Hardyや、2002年にはディコトマの亜種とするAloe dichotoma subsp. ramosissima (Pillans) Zonn.とする意見がありました。この意見を参照としているサイトはまだあります。2013年にアロエ属ではなくアロイデンドロン属とするAloidendron ramosissimum (Pillans) Klopper & Gideon F.Sm.とされました。その後の遺伝子解析結果からも、アロエ属ではないことが確認されています。属内の関係では、A. dichotomumやA. pillansiiと近縁ということです。

さて、「PlantZAfrica」の内容に移ります。
A. dichotomumとA. ramosissimumとの最大の違いは、枝の分岐の仕方です。A. dichotomumは直立した太い幹の上部で枝分かれしますが、A. ramosissimumは根元から枝分かれを始め球状に育ちます。A. dichotomumは高さ10mを越えますが、A. ramosissimumは高さ2mほどです。
A. ramosissimumの分布は南アフリカのRichtersveldとナミビア南部に限定されます。A. ramosissimum非常に乾燥した岩場に生え、年間110mm以下の冬の降雨に依存しています。この地域では気温が46℃にもなります。
英名は「maiden's quiver tree」、つまり「乙女の矢筒の木」と呼ばれますが。「quiver tree」はA. dichotomumのことですから、A. ramosissimumが小型なことや枝振りからそう呼ばれているのかもしれませんね。ちなみに、「矢筒の木」とは、A. dichotomumの枝を矢筒を入れるために使用したと言われているためです。そういえば種小名の「ramosissimum」は、ラテン語で「ramosis」が「枝」で、「ssima」が「とても」という意味ですから、「最も分岐した」という意味になります。A. ramosissimumの特徴を良く表している名前です。

A. ramosissimumの花は鮮やかな黄色ですが、sugarbirdや蟻、ミツバチが蜜を求めて訪れます。翼のある種子は風で運ばれ、他の植物の近くで発芽します。これをナース植物と言って、日陰を作るので実生の生育にとって重要です。しかし、やがてA. ramosissimumはナース植物より巨大になり、結果的にナース植物は枯れてしまいます。

「PlantZAfrica」の記事は、まあだいたいこんな感じです。他のサイトでは、生長は遅く開花する1~1.5mになるまでに10~15年ほどかかると言います。どうやら、私が花を拝めるまで長い時間が必要なようです。また、若いツボミは食用となり、アスパラガスに似た味ということです。しかし、流石に10年以上かけて育てたA. ramosissimumを、開花前に食べてしまうのは憚られますね。とにもかくにも、このA. ramosissimumとは長い付き合いになるのでしょう。


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2013年頃からアロエの仲間の遺伝子が本格的に調べられはじめ、それ以降アロエの仲間は激変しました。AloeはAloe、Aloidendron、Aloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeに分割され、HaworthiaはHaworthiaとHaworthiopsis、Tulistaに分割されました。逆にChortolirionやLomatophyllumはアロエに含まれることが明らかとなりました。他のアロエ類である、Gasteria、Astrolobaについても命名規約上の問題があり議論されています。

さて、Bruce Bayerが2014年にアロエ類についての意見をコラム欄で簡潔に述べています。それが、Aloe striatula(現在はAloiampelos)の葉の配置について述べた、『Leaf arrangement in Aloe striatula』です。興味深い
内容ですから見てみましょう。
A. striatulaを上から見て、葉の配置が二列性あるいは三列性であることを示しています。Bayerは二列性なら1、3、5、7、9枚目あるいは2、4、6、8、10枚目の葉がセットで、三列性なら1、4、7、10枚目、2、5、8枚目、3、6、9枚目がセットであるとしています。
しかし、この説明は非常に分かりにくいので、私の育てているAloiampelos striatula var. caesiaを例に、別の表現で解説しましょう。

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二列性の配置
まず、二列性の配置ですが、向かい合う葉が対になります。つまり、1+2、3+4、5+6、7+8、9+10です。軸が回転するように、葉が重ならない配置となります。

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三列性の配置
三列性の配置では3枚が1セットとなります。つまり、1+2+3、4+5+6、7+8+9がセットとなります。

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葉の根元は鞘があり、茎を覆っています。A. striatulaの次の葉は前の鞘のすぐ下に挿入されています。葉は左右に交互に出ますから、螺旋状に葉は配置されます。また、Aloe broomiiは葉の挿入は連続的で、茎から全ての葉を剥がすことが出来ます。

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Aloe broomii

ほとんどのHaworthiaでは葉は不規則ですが、常に螺旋状の順序になっています。Haworthia wittebergensisには完全に挿入された葉があり、恐らくHaworthia blackbeardiana(現在のH. bolusii var. blackbeardiana)、Haworthia viscosa(現在のHaworthiopsis viscosa)にも当てはまります。

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Haworthiopsis viscosaは典型的な三列性

以上がコラムの内容となります。
2014年はまだアロエ類の分類についての議論が華やかなりし頃でしたから、このような論考があった訳です。とはいえ、単純な外見的特徴から遠近を判断するのは困難ですよね。
AloeやGasteriaは苗の頃は二列性ですが、やがて回転していきます。アロエ類は基本的には向かい合う2枚の葉が回転していきます。アロエ類の葉が回転するのは、全ての葉に効率的に太陽光線を当てるための仕組みです。アロエは茎が伸びて行くものが多いですが、Haworthiaは茎が伸びずにロゼット型となります。

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Aloe spectabilisの苗。左右に葉が向かい合う典型的な二列性です。

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現在のAloe spectabilis。ある程度育つと葉が回転し始めます。

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Haworthia arachnoidea。回転する葉が密について茎が伸びないと、ロゼット型になります。


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fan aloe(扇アロエ)と呼ばれる多肉植物があります。蒼白い上向きの葉が左右に分かれて綺麗に並ぶことから、そのように呼ばれているのでしょう。以前は珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っています。一般的にはAloe plicatilisという名前で販売されています。しかし、2013年にGordon D.Rowleyによりアロエ属からクマラ属に移されました。つまりは、Kumara plicatilisです。しかし、この過程にも何やらややこしい事情が見え隠れしているようです。非常に面倒臭い話ですからご注意のほどを。書いている私もうんざりする内容です。

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Kumara plicatilis

事の発端は1753年まで遡ります。現在の学名の仕組みを作り出したCarl von Linneが、fan aloeを命名しました。この最初の学名は、Aloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。というのも、von Linneの時代はまだガステリア属はなく、当時のアロエ属には現在のガステリアやハウォルチアを含んでいたのです。ですから、Gasteria distichaも最初はアロエ属でした。そして、fan aloeは、何故かAloe disticha=Gasteria distichaの変種とされたのです。
1768年にfan aloeは独立し、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.とされました。しかし、1786年にKumara disticha Medik.という学名も提案されました。問題はここまでの経緯と、この先のクマラ属に移行する際の混乱です。この混乱についての論文は、Ronell R.Klopper, Gideon F.Smith & Abraham E. van Wykの2013年6月の論文『(2144) Proposal to conserve the name Kumara (Asphodelaceae) with a conserved type』、及び7月でた同著者らの論文である『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara (Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』に書かれています。

1786年にMedikusはKumara Medik.を創設し、Kumara disticha Medik.という1種類を命名しました。その時の図を見ると、Kumara distichaがfan aloeを指していることが分かります。また、1784年に命名されたAloe tripetata Medik.という異名は、Commelijnの1701年の銅版画に基づくものです。Commelijnの銅版画は明らかにfan aloeを描いています。これは、本来はAloe disticha var. plicatilis L.である必要があります。また、この時にMedikusは、Aloe disticha var. δ(※1)についても言及していますが、これは誤りでGasteria carinata (Mill.) Duval=Gasteria excavata (Willd.) Haw.を示しているようです。MedikusはAloe linguiformis Medik.をAloe disticha var. αに基づいており、Aloe verrucosa(※2)をAloe disticha var. γに基づき命名し、後の1786年にはAloe tristichaをAloe disticha var. βに基づいていました。

(※1)Aloe disticha L.は、現在のGasteria disticha (L.) Haw.を指しているとされていますが、Aloe distichaは他の種類のガステリアを含んだものだったようです。ですから、この場合は異なる種の混合であるAloe distichaを参照としており、仮にAloe distichaの変種δと表現しています。この後に出てくる変種αや変種βも同様です。

(※2)これは1768年に命名されたAloe verrucosa Mill.を示すため誤りで、正しくは1784年に命名されたAloe verrucula Medik.のことを指す。A. verruculaとは現在のGasteria carinata var. verrucosaのこと。

実際にはfan aloeはKumara distichaとは呼ばれずAloe plicatilisの名前が使用されてきました。しかし、遺伝子解析の結果からは、fan aloeがアロエではなくハウォルチアに近縁な仲間であることが分かりました。そうなると、fan aloeをアロエから独立させる時に、忘れ去られていたKumara distichaが浮かび上がって来るのです。
ここで問題が生じます。Kumara distichaは1786年の命名であり、Gasteria Duvalは1809年の命名ですから、もしAloe distichaがKumara plicatilisやGasteria carinataなどの様々な種を含んでいた場合、Aloe distichaはKumaraのバシオニム(基になった名前)となります。つまり、Aloe distichaを現在のGasteria distichaとした場合、GasteriaよりもKumaraの方が命名が早いので、現在のGasteriaは全種類Kumaraにしなければなりません。GasteriaはKumaraの異名となります。当然、Kumara plicatilisはKumara属を旧・Gasteriaに取られてしまったので、新たな命名が必要となります。これは、命名規約を厳密に適応するならば避けられない事態ですが、適応された場合の混乱は必至でしょう。
しかし、著者はKumara plicatilisを保存して、Gasteriaを現在のままにしておくことを提案しています。なぜなら、Gasteriaは200年以上に渡り使用されてきた学名であり、命名法の深刻な混乱を引き起こすからです。そして、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.の新たな命名としてKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.を提唱しています。
 
以上が論文の内容となります。内容が込み入っているため、適切に要約出来ているか怪しい部分もあります。しかし、話はこれで終わりではありません。まだ続くのです。やはり、同著者らの2013年8月の論文、『The correct name of Aloe plicatilis, the fan aloe, in the genus Kumara (Asphodelaceae), again』を見てみましょう。
Kumara Medik.がfan aloeであるAloe plicatilis (L.) Burm.f.のために復活した時に、7月の論文で著者らはKumara plicatilisに修正しました。この時に著者らはKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.と命名しました。しかし、2013年の4月にGordon D.Rowleyが『Alsterworthia』のSpecial Issueで、すでにKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyと命名していました。よって、著者らが命名したKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Smは不適切な名前であり、G.D.Rowleyの命名が優先されます。
また、Aloe plicatilisの引用元は1768年の3/1~4/6の出版物で命名されたAloe plicatilis (L.) Burm.f.であり、同年の4/16に命名されたAloe plicatilis (L.) Mill.は採用されません。

以上が論文の簡単な要約です。しかし、Kumara plicatilisのややこしすぎる経緯は、何ともすっきりしない感じがあります。この問題は結局のところ、Aloe distichaの曖昧さと、Aloe distichaに対するMedikusの引用の不確かさが招いた混乱と言えるでしょう。また、Aloe plicatilisやKumara plicatilisの命名にも混乱があり、どちらも同じ年に同じ名前が命名されていますが、タッチの差で採用される名前が決まってしまいます。学術世界も競争の世界なんですね。
この異名の処理については文献学的な資料探索と、実際の多肉植物の学術的な知識が必要ですから、それほど進んでいないのかもしれません。私のブログでもこの手の記事を幾つか書きましたが、まだまだこれからも出てくるのでしょう。見つけましたら、また記事にしたいと思います。



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雪女王(Aloe albiflora)はマダガスカル原産の白い花を咲かせるアロエです。アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせますから、白い花のアロエは珍しいと言えます。しかし、なぜ白い花を咲かせるのでしょうか? とても不思議です。少し考えてみました。

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Aloe rubriflora
今年の1月に開催された世田谷ボロ市の出店で購入したばかりですから、まだ花は拝めていません。

アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせます。まず、この点から見ていきましょう。
花に様々な美しい色があるのは、何も我々の目を楽しませるためではありません。ポリネーター(花粉媒介者)にアピールするためです。植物が花を咲かせるのは、花を訪れる動物に花粉を運んでもらい、受粉して種子を作るためです。そのための報酬が甘い蜜で、目立つ色のついた花びらを標識として動物を呼び寄せるのです。日本では一般的に花の受粉は昆虫により行われます。しかし、世界にはハチドリ、ミツスイ、タイヨウチョウなど花の蜜を専門とする鳥も存在しますし、花の蜜を専門としていない鳥でも花の蜜を吸うことは珍しくありません。日本でも梅の花にメジロが訪れ花の蜜を吸っている姿を見ることが出来ます。
アロエが自生するアフリカにはタイヨウチョウが分布し、大型アロエの花にはタイヨウチョウ以外の様々な鳥が訪れ受粉に寄与しています。もちろん、アロエの花にはミツバチやネズミなども訪れますが、受粉のメインは鳥であると考えられており、アロエは鳥媒花とされています。大型アロエは大きな花と大量の蜜が出るため、様々な鳥を呼び寄せます。実は、タイヨウチョウは小型で頭が小さくクチバシが細長いため花の蜜だけを掠め取ってしまい、あまり受粉には寄与していないことが分かっています。そのため、大型アロエはある程度の大きさのある、花の蜜を専門としていない鳥に受粉してもらっているのです。大型アロエの場合、ターゲットは鳥ですから、その赤~橙系の花色は鳥に対するアピールと考えられます。他のアロエ類(アロエに近縁な仲間)を見てみると、GasteriaやAstroloba rubriflora(異名Poellnitzia rubriflora)は赤~橙系統の花を咲かせ、やはり鳥媒花であることが確認されています。
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Aloe arborescensの花

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Gasteria distichaの花

アロエ類は赤~橙系統の花だけではなく、白い花のものも沢山あります。例えばHaworthiaやHaworthiopsis、Astrolobaは白く小さな花を咲かせます。これらは花が小さいため、明らかに虫媒花です。しかも、その細長くすぼまった形から、鱗翅目(チヨウやガ)やハエ目(ハエやアブ)がターゲットなのでしょう。
実はカラフルな花の色はミツバチやマルハナバチを呼び寄せることが明らかとなっています。高山の森林限界を超えると、樹木はほとんど生えることが出来ませんが、様々な草本が花を咲かせ一般的に「お花畑」と呼ばれています。日本の高山のお花畑は非常にカラフルですが、海外の高山ではほとんど白一色のお花畑も存在します。これは、ミツバチやマルハナバチなどの蜜を集める膜翅目昆虫の不在が原因と考えられています。このように、花の色により虫媒花でも引き寄せる昆虫が異なる可能性があるのです。

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Haworthiopsis scabraの花

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Haworthiopsis glauca var. herreiの花

ではAloe albifloraはどうでしょうか? まだ開花していないので花を提示できませんが、アロエらしく釣り鐘型の花です。白く緑色のラインが入っており、花に膨らみが無いこと以外はハウォルチアの花に似ています。どうやら、Aloe albifloraは虫媒花、しかも鱗翅目やハエ目がターゲットのようです。ハウォルチアの花は細長いので、ターゲットはおそらく小型の蛾でしょう。しかし、Aloe albifloraの花はハウォルチアより大きく、しかも少し膨らんだ形です。蜜を吸うために小型のハエなども潜り込めるかもしれません。

とまあ、以上が雪女王について少し考えたことです。大した話ではありませんし、特に根拠のある訳ではありません。所詮は私の狭い知識の内での妄想です。本来はAloe albifloraを調査した論文があればよかったのですが、今のところ見つかっていません。何か面白い情報がありましたら、また記事にします。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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今年の正月明けに五反田TOCで開催された、新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。今回のビッグバザールは、アロエがいつもより多く珍しいものも沢山ありました。悩みましたが、マダガスカル原産の小型アロエであるバケリ(Aloe bakeri)を購入しました。バケリはアロエにしては葉は薄くて非常に硬く、まるでディッキア(Dyckia)のようです。

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Aloe bakeri

バケリは園芸店では見かけないアロエですが、どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。取り敢えず論文を当たってみましたが、2019年のColin C. Walkerの論文、『Aloe bakeri - a critically endangered highly localized Madagascan endemic』が見つかりました。早速内容を見ていきましょう。

イギリスの植物学者であるGeorge Francis Scott-Elliotは1888年から1890年にかけてマダガスカルを訪れました。マダガスカル最南東にあるFort Dauphin (Taolagnaro, Tolanaro, Tolagnaro)での採取で、Aloe bakeriは発見されました。Scott-Elliotはキュー王立植物園のアロエの専門家であるJohn Gilbert Bakerに対する献名として、1891年にマダガスカルで採取した新しいアロエにAloe bakeri Scott-Elliotと命名しました。
 
1994年にA. bakeriをGuillauminiaとする、つまりはGuillauminia bakeri (Scott-Elliot) P.V.Heathがありました。このGuillauminiaは、Guillauminia albiflora(Aloe albiflora)のために、1956年にBertrandにより提唱された属です。Heathは1種類しかなかったGuillauminiaを拡大し、マダガスカルの矮性アロエであるA. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiを含ませましたが、それまではGuillauminiaが注目を浴びることはなく無視されてきました。しかし、アロエの権威であったReynoldsはGuillauminiaを採用しないなど、浸透したとは言いがたいようです。しかも、1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』ではGuillauminiaを詳細に分析し、アロエ属とは異なりGuillauminiaのみに共通する特徴がないことなどが指摘され、Guillauminiaは明確に否定されています。さらに、近年の遺伝子解析の結果では、Guillauminiaの所属種同士が必ずしも近縁ではなく、アロエ属の中に埋没してしまうことが明らかとなりました。よって、現在Guillauminiaは認められておりません。
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Aloe albiflora

次に自生地を調査した植物学者たちの報告を見てみましょう。Gilberd Reynoldsは1955年の6月から10月まで、マダガスカルでアロエを探して、自動車で4000マイル(6437km)以上の距離を運転しました。ReynoldsはFort Dauphinの近くでAloe bakeriを大量に見つけました。それは、50から100の密集したグループで生長していました。
次いで、Werner Rauhはマダガスカルに9回旅行しました。Rauhの1964年の報告では、Fort Dauphin付近でA. bakeriを観察しています。A. bakeriはTolanaro北西にあるVinanibe付近のまばらな花崗岩の露頭の腐植土が溜まった岩の亀裂で育つとしています。

CormanとMaysは2008年の報告で、去年(2007年)にマダガスカル南部を訪れたNorbert RebmannとPhilippe Cormanは、Euphorbia millii var. imperataeとともに生育するFort Dauphin付近のA. bakeriを見つけました。しかし、近くの港の開発に必要な石材採取のために、A. bakeriの生息地が破壊されていました。CormanはかつてRauhが観察した岩場で、A. bakeriは4個体しか見つかりませんでした。A. bakeriを発見したScott-Elliotは砂丘にも生息するとしていましたが、RebmannもCormanも砂丘ではA. bakeriを見つけることは出来ませんでした。
Castillon & Castillonは2010年の報告で、Taolagnaro付近の岩だらけの丘は、商業港と都市部の産業開発のため2年前に消滅したため、野生のA. bakeriは絶滅してしまったとしています。


以上が論文の簡単な要約となります。そういえば、1902年に命名されたAloe bakeri Hook.f. ex Bakerというアロエもありますが、こちらはAloe percrassa Tod.の異名です。A. percrassaは大型アロエですから、まったく似ていませんから間違いようはありませんね。
著者は絶滅したかは断言していませんが、キュー王立植物園のデータベースではA. bakeriは「絶滅」と表記されています。栽培は難しくないようですから、栽培品の維持はされています。しかし、自然環境に自生する多肉植物は非常に美しいものですから、大変悲しいことです。これ以上、多肉植物が絶滅してしまうことが起きてほしくありません。


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アロイデンドロンは樹木状となるアロエの仲間です。代表種はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたAloidendron dichotomumです。アロイデンドロン属は近年の遺伝子解析の結果によりアロエ属から分離されました。現在アロイデンドロン属は7種類あるとされています。その点についてはかつて記事にしたことがあります。ご参照下さい。
アロエ属とアロイデンドロン属の関係は遺伝子解析により判明していますが、アロイデンドロン属内の分類はわかっていませんでした。そんな中、アロイデンドロン属の遺伝子を解析して近縁関係を解明した論文を見つけました。Panagiota Malakasi, Sidonie Bellot, Richard Dee & Olwen Graceの2019年の論文、『Museomics Clarifies the Classification of Aloidendron (Asphodelaceae), the Iconic African Tree Aloe』です。

アロイデンドロン属はアフリカ南部の砂漠を象徴する植物です。しかし、アロイデンドロン属内の進化関係は不明でした。そこで、アロイデンドロン属を遺伝子解析することにより、属内の系統関係を類推しています。ここでは、Aloestrela suzannaeというアロエ類が出てきますが、お恥ずかしい話ですが私はこのアロエストレラ属の存在を知りませんでした。アロエストレラ属は2019年に創設されましたが、Aloestrela suzannaeだけの1属1種の属です。しかし、新種というわけではなく、1921年に命名されたAloe suzannaeが2019年にAloestrela suzannaeとなりました。

アロイデンドロン属の分子系統
┏━━━━━━Aloe
┃     (Aloidendron sabaeumを含む)


┃    ┏━━━━Aloidendron ramossimum
┃    ┃
┃┏┫         ┏━Aloidendron dichotomum 1
┃┃┃     ┏┫
┃┃┃     ┃┗━Aloidendron dichotomum 2
┃┃┃┏ ┫
┃┃┃┃ ┗━━Aloidendron pillansii 1
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━Aloidendron pillansii 2
┃┃
┗┫            ┏━Aloidendron barberae 1
    ┃        ┏┫
    ┃        ┃┗━Aloidendron barberae 2
    ┃   ? ┫
    ┃        ┗━━Aloidendron barberae 3
    ┃
    ┃    ┏━━━Aloestrela suzannae 1
    ┃┏┫
    ┃┃┗━━━Aloestrela suzannae 2
    ┗┫
        ┃┏━━━Aloidendron eminens 1
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            ┗━━━Aloidendron eminens 2


アロイデンドロン属の系統関係は、Aloidendron sabaeum以外はまとまりのあるグループでした。しかし、論文ではA. barberaeが、A. ramossimum系統なのかA. eminens系統なのかは不明瞭でした。さらに、Aloestrela suzannaeは独立したアロエストレラ属ではなくA. eminensと近縁であり完全にアロイデンドロン属に含まれてしまうことがわかりました。また、驚くべきことにA. sabaeumはアロエ属に含まれてしまい、アロイデンドロン属とは近縁ではないことが明らかとなりました。よって、今後アロエストレラ属は消滅してアロイデンドロン属となり、A. sabaeumはアロエ属に復帰するかもしれません。しかし、論文ではAloidendron tongaensisが調べられていないようです。今後の研究が待たれます。また、A. pillansiiは2個体調べていますが、この2個体は近縁ではあるもののやや遺伝的に距離があるようです。この点も注視していく必要がありそうです。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、私が知らない間に創設されたアロエストレラ属を知らない間に否定する論文が出ていたということで、己の無知を思い知るとともにアロエ類の研究が盛んに行われていることを嬉しく思います。また、A. sabaeumの遺伝子解析の結果からは、アロエが樹木状となること=アロイデンドロンではないということを示唆しています。アロエ属であっても環境に対する適応により樹木状の形態をとる可能性があるのでしょう。そうなると、樹木状とならないというか草本に回帰したアロイデンドロン属も存在するかもしれませんね。今後の研究結果が非常に楽しみになります。


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「親しみやすさは軽蔑を生む」(familiarity breeds contempt)とは中々含蓄のあることわざです。このことわざはイソップ童話の「キツネとライオン」という話に出てくるフレーズなんだそうです。多肉植物に当てはめれば、普及種が親しみやすさとともに軽視される傾向があるのではないでしょうか?
個人的には普及種も好きで面白いと感じていますが、どうも世の中的には異なるようで、普及種の多肉植物が手入れもされずにカリカリになっていたりするのは大変悲しいことです。安くいつでもどこでも入手可能とあらば、扱いが荒くなるのもやむ無しかも知れません。まあ、普及種はお値段的にもお手軽ですからね。
しかし、そんな普及種であっても良いものは良いのだという熱い論考に出会いました。それは、イギリスのキュー王立植物園のPeter Brandhamの1981年の『Aloe aristata : an underrated species』です。


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Aristaloe aristata=Aloe aristata

著者にとって「親しみやすさは軽蔑を生む」ということわざはAloe aristataに当てはまるとしています。日本ではあまり見かけることがないAloe aristata(現在はAristaloe aristata, 綾錦)ですが、イギリスでは昔から知られている園芸植物です。イギリスではチェーン店や園芸用品店で入手可能で、多肉植物のコレクターはわざわざ栽培する価値はないと考えています。

Aloe albiflora, Aloe bakeri, Aloe bellatula, Aloe deltoideodonta, Aloe descoingsii, Aloe dumetorum, Aloe erensii, Aloe forbesii, Aloe haworthioides, Aloe humilis, Aloe jucunda, Aloe juvenna, Aloe myriacantha, Aloe polyphylla, Aloe rauhii, somaliensis, Aloe variegataなど魅力的な小型~中型のアロエは沢山ありますが、栽培が難しいものが多いとしています。これらは根を失いやすく、入手が難しく、開花しないと言います(※)。対して、A. aristataは良く子を吹き、入手は容易です。冬は乾燥させれば良く、直径6cm程度になると定期的に開花します。花は植物に対して大きいと言います。

※私も上記の1/3の種類くらいしか育てたことはありませんが、栽培はそれほど難しくありませんでした。しかし、晴れが少なく寒冷なイギリスの気候では難しい部分もあるのでしょう。

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Aloe descoingsii

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Aloe somaliensis

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Aloe haworthioides

A. aristataの花はピンク~鈍い赤色と淡黄色~クリーム色の2色からなる、アロエ属でも独特の花を咲かせます。これを著者は"bicolor"、つまりは「二色」と表現していますが、このラテン語は種小名で良く見かけますね。
A. aristataの葉は非常に多いことが特徴です。小型種のA. haworthioidesよりも多いとしています。葉の縁には柔らかいトゲがあり、葉の先端には長い毛のような芒があります。葉の表面には斑があり、葉裏により多くあります。

A. aristataは南アフリカ原産で、東ケープ州、オレンジ自由州、レソトなど非常に広い範囲に分布します。変種としてvar. leiophyllaとvar. parvifoliaが知られていました。しかし、アロエ研究の権威であったReynoldsによりA. aristataの範囲内と見なされ、認められていません。ただ、A. aristataには起源が不明の栽培種があり、分かりやすい4つのバリエーションを以下に示します。
1, 「典型的」なフォルム。自由に子を吹く最も一般的なタイプです。狭い灰緑色の葉を持ち、葉裏にはトゲと斑点が通常はランダムに、時には縦方向へ列となります。
2, 「単純」なフォルム。直径30cm以上となる可能性があり、滅多に子を吹きません。葉は「典型的」なフォルムより長く狭く、葉裏のトゲは縦に並ぶ傾向がより顕著です。
3, 'crisp'フォルム。非常に良く子を吹くタイプで、著者は最も魅力的と表現しています。葉は短く幅広で、トゲが多く葉裏では2~3列となります。
4, 'Cathedral Peak'フォルム。葉には斑点がほとんどなく、トゲも少数です。適度に子を吹きます。このフォルムは、南アフリカのDrakensberg山脈のCathedral Peak由来のものです。典型的なA. aristataの花を咲かせるにも関わらず、ヨーロッパでは× Gastrolea bedinghausii(
A. aristata × Gasteria sp.)という誤った名前で長年栽培されています。

A. aristataはGasteriaと容易に交雑可能で、著者は沢山の交配種を作ったそうです。ガステリアとの交配種の特徴は、両親の中間的な花を咲かせることだそうです。ただし、この交配種は花粉の受粉能力に乏しいのですが、× Gastrolea bedinghausiiは花粉の受粉能力が常に90%を越え、A. aristataと変わりません。ですから、× Gastrolea bedinghausiiは交配種ではないと考えられるのです。

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A. aristata × Gasteria sp.

著者はA. aristataはきちんと育てればそれ自体が魅力的であり、交配種の作成が容易なので交配の入門としても適すると主張します。A. aristataの異なるフォルムはコレクションに値するものであり、「温室にはこれ以上植物を入れる余裕がない」という使いふるされた言い訳は使うことは出来ないと絶賛しています。著者の住むSurreyでは非常に丈夫で、過去3年間庭の明るい日陰で育ち、1978/9年の非常に厳しい冬にも耐えてきました。毎年、夏に開花します。

以上が論考の簡単な要約です。
日本では人気がないせいか、園芸店ではほとんど見られませんが、イギリス(1981年の)では一般的なようです。しかし、著者が絶賛するようにA. aristataは非常に美しい植物です。さらに、私は形態的にアロエ的ではない感じが非常に面白く思います。A. aristataが命名されたのは1825年のことで、Aloe aristata Haw.が長年正式名称でした。しかし、遺伝子解析の結果から、2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningとなり、アロエ属から分離しました。現在、アリスタロエ属は1属1種の珍種ですから、その点においてもコレクションするに値する多肉植物でしょう。


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マダガスカルには沢山の小型アロエが分布します。その中でも最小と言われるのが、Aloe descoingsiiです。一般的には「アロエ・ディスコインシー」と呼ばれたりしているみたいですが、普通にそのままラテン語読みで「アロエ・デスコイングシイ」で良いような気がします。学名は1930年から30年以上に渡りアロエ属の権威だったGilbert Westacott Reynoldsにより1958年に命名されました。つまりは、Aloe descoingsii Reynoldsです。種小名は1956年にA. descoingsiiを発見したフランスの植物学者であるBernard Descoingsに対する献名です。また、1994年には新設されたGuillauminia属とする意見があり、Guillauminia descoingsii P.V.Heathという学名がつけられましたが、翌1995年にGideon F.Smithらにより新属を提唱するに値する根拠がないとして斥けられています。

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Aloe descoingsii

A. descoingsiiは最小のアロエと言われますが、正しくは葉の長さが最も短いアロエでしょう。A. descoingsiiの主軸は意外にも太く、葉の幅は全体のサイズの割には広く、Aloe haworthioidesなど他のマダガスカル原産の小型アロエの方が非常に葉の幅は狭いものが沢山あります。A. descoingsiiは直径5cmまでで、葉は3~6cm程です。

A. descoingsiiはマダガスカル南西部のToliaraのFiherenana渓谷に分布します。標高は350mと言われます。A. descoingsiiは石灰岩の崖上の浅い土壌で育ちます。絶滅の危機に瀕していられる希少なアロエです。
しかし、このA. descoingsiiは園芸店でもまったく見かけたことがありません。希少種だからかと思いきや、何故かA. descoingsii系交配種は何度か見かけたことがあります。見た目の美しさ以外にも、増やしやすさであるとか育てやすさも関係しますから、理由は定かではありません。ただし、調べてみると、A. descoingsiiは非常に交配が盛んに行われたらしく、海外の園芸サイトでも「数えきれない程の雑種」があると書かれているくらいですから、単純に交配種が普及しているだけかも知れませんね。



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クマラをご存知ですか? かつて、アロエとされていたAloe plicatilisやAloe haemanthifoliaは、2013年にアロエ属から独立してクマラ属(Kumara)となりました。よって、Aloe plicatilisとAloe haemanthifoliaは、それぞれKumara plicatilisとKumara haemanthifoliaとなりました。ここらへんの学名の経緯は過去に記事にしたことがあります。以下のリンクをご参照下さい。
さらに、Kumara plicatilisの生態について書かれた論文をご紹介した記事もあります。
そんな中、A. plicatilisがクマラ属へ移動した際の学名の混乱について正しい学名に訂正すべきであると主張している論文を見つけました。その論文は、2013年のRonell R. Klopper, Gideon F. Smith & Abraham E. Van Wykによる『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara(Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』です。しかし、この論文はことの経緯を無駄なく簡潔に述べていますが、説明がないので経緯を知らない人間にはよく分からない内容となっています。そこで、私が調べた情報を加味して、内容を再構成して解説します。最初に簡単に言ってしまうと、著者の主張はKumara distichaという学名が使われているが、これは正しい学名ではないというものです。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

一番最初にK. plicatilisが命名されたのは、1753年にCarl von LinneによるAloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe disticha L.つまりは後のGasteria disticha (L.) Haw.の変種として命名されたのです。
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Gasteria disticha

1786年にドイツのFriedrich Kasimir MedikusはKumara Medik.を創設し、A. disticha var. plicatilisをKumara disticha Medik.としました。しかし、Aloe distichaは後のGasteria distichaなのですから、Kumara distichaというのはおかしな名前です。
実は1768年にA. disticha var. plicatilisはA. distichaの変種ではなく独立種であるとして、オランダのNicolaas Laurens BurmanがAloe plicatilis (L.) Burm.f.と命名しましたが、これが正しい種小名です。

ですから、最初A. disticha var. plicatilisであった植物が、アロエ属から独立した際に引き継ぐべき種小名は"disticha"ではなく"plicatilis"なのです。要するに、1786年に命名されたKumara disticha (L.) Medik.は使用されるべきではなく、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.を引き継いでいる、2013年に英国のGordon Douglas Rowleyにより命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyが正しい学名であるというのが著者の主張です。

Kumara Medik.には非常に深刻な問題点があります。1976年にRowleyによりKumaraのタイプをKumara distichaとして指定してしまったので、KumaraとGasteriaは同義語となってしまいました。学名は先に命名された方を優先する「先取権の原理」がありますから、1809年に命名されたGasteria Duvalよりも、1786年に命名されたKumara Medik.が優先されてしまいます。要するにGasteriaのすべてをKumaraに変更しなくてはならなくなり、命名上の混乱の観点からは深刻な問題と言わざるをえません。そのため、2世紀にわたり使用されてきたGasteriaという属を保存するべきでしょう。ですから、Kumaraをガステリアの同義語とせずに、Aloe plicatilisに使用される属名とすることが重要です。

以上が論文の簡単な解説となります。
現在認められている学名はKumara plicatilisですから、著者の主張が採用されていることがわかります。
思うこととして、学名は学者の主張によりコロコロ変わりますから、その都度、我々趣味家は振り回されてしまいます。しかし、現在は遺伝的解析により、近縁関係がはっきりしてきましたから、以前ほど、思い悩まされることはなくなりました。とは言うものの、まだ学名は変わる可能性があります。すべての多肉植物の遺伝子が調べられたわけではありませんし、近縁関係が判明したところでどこで区切ってわけるべきかは議論のあるところです。しばらくは試行錯誤が続くでしょう。しかし、現在は遺伝子解析は過渡期ですから、学名も流動的で変わりやすい時代と言えます。個人的にはこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方がありません。



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千代田錦は日本国内でも昔から流通しているアロエの仲間です。しかし、最近は人気がないためかあまり見かけませんでした。ところが、何やらどこかのファームが大量に実生したみたいで、大型の千代田錦が園芸店に並んでいました。私も今年の3月に購入して育てています。千代田錦は葉が三方向に綺麗に並び、斑が非常に美しい多肉植物です。もっと人気が出ても良いような気がします。

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千代田錦 Gonialoe variegata

それはそうと、千代田錦は遺伝子解析の結果、2014年にアロエ属ではなくなりました。じゃあなんだと言われたらゴニアロエ属Gonialoeだということになります。やはりアロエに近縁ではありますが、アストロロバ属Astrolobaや新設されたツリスタ属Tulistaやアリスタロエ属Aristaloeとグループを形成します。

さて、そんな千代田錦ですが、何か情報はないかと論文を漁っていたところ、2003年に出されたPaul I. Forsterの『Variations on Aloe variegata, the partridge-breast Aloe』という論文を見つけました。表題の"partridge"とは「ヤマウズラ」のことですが、羽の模様からの連想でしょうか? タイガーアロエとも呼ばれます。

論文の内容に移りましょう。この論文が出された時点ではまだGonialoeではありませんから、論文の時の学名であるAloe variegataで解説します。
A. variegataは1685年にSimon van der Stelが南アフリカのNamaqualandに遠征した時に発見されました。Simonはオランダのケープ植民地の総督でした。どうやら、A. variegataは西洋で知られているアロエの最初の種類のひとつでした。この時の資料にA. variegataのイラストがありましたが、1932年まで出版されませんでした。

※補足説明 : van der Stelの調査の詳しい事情は、私も過去に調べたことがあります。Aloidendron dichotomumの最初の発見に関する記事でした。その記事では以下のような経緯を説明しています。
1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。

A. variegataを学術的に記載したの1753年のCarl von Linneですが、リンネ以前の最も初期の引用は1690年で、1689年には粗雑な図解がありました。A. variegataの園芸への導入は、1700年にアフリカ南部のコレクターから種子を受け取ったCasper Commelinであると考えられています。A. variegataは1753年にリンネにより記載されましたが、その種の基本となるタイプ標本※は指定されず、いくつかの引用からなっています。CommelinのA. variegataの図解や説明の中で、1706年の「Plantae Rariores et Exotica」の図をA. variegataのレクトタイプ※※として選択しました。この図は、2000年にGlen & hardyにより、イコノタイプ※※※として誤用され、2001年のNewtonはA. variegataはタイプ化されていないと誤って述べています。

※タイプ標本 : 新種を記載する際の、その生物を定義する標本(ホロタイプ)。
※※レクトタイプ : ホロタイプが失われたり、指定されていない場合に指定された標本。

※※※イコノタイプ : 新種指定の基準となった図のこと。

Aloe variegataの異名として、1804年に命名されたAloe punctata Haw.、1908年に命名されたAloe variegata var. haworthii A. Berger、1928年に命名されたAloe ausana Dinterが知られています。このA. ausanaは特に優れたタイプとされていたようで、葉がより直立して斑が大きいとされていたようです。しかし、このタイプが現在でも栽培されているかは定かではありません。

A. variegataはナミビア南部と南アフリカの西ケープ州、東ケープ州、自由州、北ケープ州に分布します。分布が広いため、様々な生息地で見かけることが出来ます。生育環境は主に粘土や花崗岩由来の土壌の低木地で見られます。雨は夏と冬に降り、気温は氷点下近くから夏には38℃を超えることもあります。

A. variegataは他のアロエとの交配種は少なく、1998年にForster & CummingによるAloe 'lysa'(A. variegata × A. bakeri)やAloe 'Versad'(A. variegata × 不明)が作出されています。また、オーストラリアのAtilla Kapitanyにより、生息地由来の種子より斑のない個体が得られ、Rudolf Schulzにより'Splash'の名前で販売されましたが、子株は斑入りに戻る可能性があります。
A. variegataはガステリアの交配親として利用されてきました。その多くは名前がなく、交配親もわかりません。主な品種は以下のものが知られています。
× Gasteria 'Orella'(A. variegata × G. batesiana)
× Gasteria 'Agate Chips'(A. variegata × G. bicolor var. bicolor)
× Gasteria mortolensis(A. variegata × G. acinacifolia)
× Gasteria pethamensis(A. variegata × G. carinata var. verrucosa)
× Gasteria pfrimmeri(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria radlii(A. variegataあるいはA. serrulata × 不明)
× Gasteria rebutii(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria sculptilis(A. variegata × G. ×cheilophylla)
× Gasteria smaragdina(A. variegata × G. ? candicans)


以上が論文の簡単な要約となります。
アロエよりガステリアとの交配が盛んなのは何故でしょうか。思うに、千代田錦はアロエ属よりもガステリア属の方が近縁なので、交配がスムーズなのかも知れませんね。
しかし、千代田錦の登場は18世紀から19世紀のヨーロッパの園芸界に、それなりのインパクトを与えたようです。1801年にSimsは「このアロエには非常に望ましい点が結合している」と述べ、1976年にはNobleが「おそらく英国で最も有名なアロエ」と見なし、非常に高い評価を受けています。久しぶりに千代田錦が流通したのですから、せっかくですから日本でも千代田錦の美しさを見直す時が来ているのではないでしょうか。


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最近、Aloe aristataという名前の多肉植物を入手しました。綾錦の名前でも知られています。近年、アロエ属からAristaloe属になりました。
グランカクタスの佐藤さんの図鑑では2つのタイプの写真が掲載され、交配種の可能性が指摘されていました。ひとつはトゲがないタイプで、もうひとつは
ハウォルチアの禾を思わせるトゲがあるタイプでした。私が過去に入手したのは、トゲがないタイプで非常に葉が硬いものでした。最新の遺伝子解析による分類では、AristaloeはAstrolobaやTulista、千代田錦(Gonialoe variegata=Aloe variegata)に近縁ですから、葉は硬いということは当たり前のことだと思っていました。逆にトゲがあるタイプは柔らかそうですから、ハウォルチア系との交配種かもしれないなんて思ったりもしました。
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綾錦?
トゲがなく葉が硬いタイプ。


しかし、自生地の写真を幾つか見てみると、どの写真を見てもややハウォルチアに似た姿で、トゲがあるタイプの方でした。思い込みはいけませんね。ちゃんと調べるべきでした。そんな折、先日開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールでAloe aristataが販売されていましたので購入しました。
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綾錦 
Aloe aristata=Aristaloe aristata

葉はしなやかでトゲがあります。特徴的に綾錦で間違いないでしょう。では、先に入手していた葉が硬いタイプのアロエは何者なのでしょうか? 綾錦と無関係とも思えませんが、何者かとの交配種である可能性が高いように思われます。そこで、まずはAristaloe aristataを調べてみることにしました。取り敢えずは、論文を探して見ました。出てきたのは、Colin C. Walkerの2021年の論文、『Aristaloe aristata : a unique, monotypic species』です。内容の簡単に要約します。

植物学者というよりはプラントハンターであったイギリスのJames Bowieにより初めて採取された植物は、1825年にイギリスのAdrian Hardy HaworthによりAloe aristata Haw.と命名されました。他にも、1829年にAloe longiaristata  Schult. & Schult.f.、1934年にAloe ellenbergii Guillauminと命名されましたが、これらは異名となっています。
2013年にはAstrolobaやGonialoe variegata(Aloe variegata, 千代田錦)とともにTulista属とされ、Tulista aristata(Haw.) G.D.Rowleyとする意見もありましたが、現在では認められておりません。
2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningと命名され、これが現在の綾錦の学名です。Aristata属はA. aristata1種類のみを含む属です。


 A. aristataは南アフリカ原産とレソトで、西ケープ州の東、南北ケープ、東ケープ、オレンジ自由州、KwaZulu-Natal南西部に至るまで、アフリカ南部に広く分布します。「暑く乾燥したカルー地域の砂質土壌、川沿いの森林の腐食質に富んだ日陰、レソトの高原にある草原など様々(Glen & Hardy, 2000)」であり、「標高は200mから2200m」かつ「アフリカ南部の最も寒い幾つかの地域にも発生(van Wyk & Smith, 2014)」ということですから、かなり環境の変化に対応できる様子が伺えます。
A. aristataの耐寒性が高いことは明らかですから、イングランド南部では屋外栽培も可能との報告があるそうです。著者はスコットランド中部で屋外栽培を試みましたが失敗した模様です。どうも、冬の雨がよろしくないみたいですね。

A. aristataは交配親としても使用されてきました。実は意外にもガステリア属との交配種があり、2013年にはG.D.Rowleyにより×Gastulistaとして19種類がリスト化されています。これは現在ではAristaloe × Gasteriaと見なされています。

簡単な論文の要約は以上です。
綾錦は非常に耐寒性があるとのことですが、私の交配系綾錦は氷点下でも耐えることが出来ます。ちゃんと親の性質を受け継いでいるのですね。そう言えば、私の所有する綾錦のようなものは論文にあるようにガステリア交配種なのでしょうか? 葉が硬くなる特徴はまさにガステリアの血を受け継いでいるからかもしれません。しかし、論文からヒントは貰いました。
ヒントを元にデータベースを調べ直しました。おそらくは、私の交配系綾錦は1931年に命名された× Gasteraloe Guillauminでしょう。キュー王立植物園のデータベースの× Gasteraloeは、なんと私の所有している綾錦系交配種とそっくりな画像が貼られていました。ただし、この× GasteraloeはGasteria × Aloe sensu lato(広義)であり、Aristaloeを分離出来ていない広義のアロエ属を示しています。論文で述べられていた× Gastulista G.D.RowleyはGasteria × Tulista sensu lato(広義)ですが、G.D. Rowleyの言うところのTulistaはAristaloeやGonialoeも含んだ広義のTulistaでしょう。確かに広義のTulistaにはAristaloeも含まれますが、G.D.Rowleyの主張する広義のTulista自体が認められておらず、本来は
Gasteria × Tulista sensu stricto(狭義)にのみ使用されるべきです。ですから、Gasteria × Aristaloeについての適切な学名が必要でしょう。


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「乙姫の舞扇」ことKumara plicatilisは、かつてAloe plicatilisと呼ばれていました。現在でも販売されている苗はAloe plicatilisの名札が付いています。以前、ネットに転がっているような情報については調べてまとめました。
しかし、それもイギリス王立植物園のデータベースと、南アフリカの生物に関する公的データベースを参照としましたから、情報量は国内とは比較にならないほど大きいものでした。しかし、最近では学者論文も参照にしていますから、Kumara plicatilisについても何かないか調べてみました。そんなこんなで見つけたのが、S. R. Cousins, E. T. F. Witkowski, M. F. Pfab, R. E. Reddles, D. J. Mycockの2013年の論文、『Reproductive ecology of Aloe plicatilis, a fynbos tree aloe endemic to the Cape Winelands, South Africa』です。論文のタイトルにはAloe plicatilisとありますが、Kumara plicatilisという学名が提唱されたのは2013年ですから、タイミング的にAloe plicatilisはこの時は正しい学名でした。まあ、AloeからKumaraに名前は変わっても、植物自体が変わったわけではありません。論文ではまだAloeですから、解説もA. plicatilisの表記でいきます。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

さて、論文の内容ですが、A. plicatilisの繁殖について調査したものです。まずは、アロエの繁殖に関する研究について振り返ります。
調査が行われた南アフリカにはアロエが約140種確認されており、最もアロエの多様性が高い地域です。アロエは管状の鮮やかな花を咲かせる傾向があり、一般的に自家受粉しないため受粉は花粉媒介者(ポリネーター, pollinator)に依存します。多くのアロエは冬に開花して蜜を出すため、食糧の不足する冬の食糧源として重要です。アロエは鳥をポリネーターとする鳥媒花とする種類については複数の研究があります。長い管状の花を咲かせるアロエは濃い蜜を少な目に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥をポリネーターとしています。対して、短い花のアロエは薄い蜜を大量に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥ではなく、専門ではない鳥をポリネーターとしています。
この時、なぜ太陽鳥が受粉に寄与しないかを調べた論文については、過去に記事にしたことがあります。

アロエの種子は通常は長さ3~5mmで、2つの翼(一部の種は3翼)を持つものは風で散布されます。しかし、翼がない種は親植物の近くで育ちます。アロエは豊富に種子を生産しますが、発芽は雨に依存しており新しい苗は希です。アロエの種子は通常3週間以内に発芽し、1年後では大幅に発芽力が低下することがあるそうです。アロエの苗は、強光や暑さ、乾燥、霜、食害から保護してくれる他の植物が重要です。

A. plicatilisはケープのフィンボスに自生する唯一の樹木アロエです。A. plicatilisはケープ南西部のWinelandsの山岳地帯に分布が制限されています。標高は200~950mです。この地域は地中海性気候で、乾燥した夏(平均気温15~25℃)と雨の多い冬(平均気温7~15℃)がある環境です。自生地は急な岩だらけの斜面で、水捌けのよい酸性土壌です。10~3年間隔で夏に火災が発生します。
A. plicatilisは生長が遅く、2つに分岐する枝を持ち、葉は扇形になり12~16枚です。茎の直径は15cmまで、高さは80cmほどで成熟します。成体の高さの平均は1.5mほどですが、最大で5mに達する可能性があります。
花は円筒形で長さ5cm程度で、15~25cmの総状花序に25~30個の緋色の花が咲きます。A. plicatilisは8~10月(時に11月)に開花し、11月上旬に結実します。実は12~1月に裂開し、種子には翼があります。


著者はA. plicatilisのポリネーターを調査しました。方法は一部の花に網をかけて鳥や小型哺乳類を排除し、結実する季節に観察を実施するという割とアバウトなものです。結実は①排除なし、②鳥や小型哺乳類の排除、③すべてのポリネーターの排除という3パターンです。結果は、①>②>③の順番でした。A. plicatilisの場合、鳥や小型哺乳類の排除は結実にあまり影響を与えていないことが示されており、A. plicatilisの主たるポリネーターは昆虫である可能性があります。おそらくは、主要なポリネーターはミツバチと考えられます。
しかし、①の排除なしは②より高いため、昆虫だけではなく鳥も重要かもしれません。A. plicatilisの花を訪れた鳥は太陽鳥ですが、筒状の花の形状から太陽鳥以外の鳥は採蜜が難しいので、太陽鳥が受粉の効率を高める効果があるのかもしれません。

さらに、種子がどれくらい散布されるのかを確認しています。方法は実際の自生地で0.8mの高さから種子を落として、どの程度種子が拡散するかを計測しています。結果は、平均風速が遅い地域では1.3m、早い地域では15.3mに達しました。
この種子散布の1年後に土壌を採取し、温室で水を与えましたが、実生は生えてきませんでした。種子の寿命は1年もないことになります。散布後6ヶ月では少数の発芽があっただけで、種子は土壌中で長く生存しないことがわかりました。


採取した種子を、室内の冷暗所に保存した場合に発芽するかを試験しました。やはり、温室で水を与えましたが、発芽までの期間は3ヶ月保存では0.8週、18ヶ月保存では2.5週、24ヶ月保存では2.3週かかりました。
ここで面白いことがわかりました。6週間保存した新しい種子は発芽率が28%と非常に低いというのです。しかし、種子を調べると(種子の活性を調べるテトラゾリウム試験)、発芽能力があることがわかりました。どうやら、種子は散布された後に熟成される必要があるようです。また、室内で管理した種子は長期保存しても発芽したため、自生地の環境が種子の保存に適していないことが考えられます。

論文の簡単な要約は以上となります。
このように生態を詳しく調査することにより、植物の保護に対する重要な情報を提供します。例えば、今回のA. plicatilisの場合、種子の保存安定性があまり良くないことがわかりました。もし、植物の保護や繁殖を考えた時に、種子の保存は必然的です。事前に参照可能な情報があるとないとでは、大きな違いがあります。このような地道な研究が貴重な生物の未来を支える礎となるかもしれないのです。



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花は受粉のために動物を利用しますが、その報酬として蜜を用意しています。実はこの花の蜜は、種類ごとに成分が異なるという論文を以前紹介しました。

以前の記事では、HaworthiaやAstroloba、Chortolirionについて調べたGideon F. Smith, Ben-Erik van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』をご紹介しました。
実はここ10年でアロエやハウォルチアなどを含むアロエ類は、遺伝子解析により大幅に変更されました。そのため、アロエ類のメンバー全体についての情報が欲しかったのです。しかし、よく調べたところ、1993年に
Ben-Erik van Wyk, Charles S. Whitehead, Hugh F. Glen, David S. Hardy, Ernst J. van Jaarsveld & Gideon F. Smithの『Nectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』というが出ていたことに気がつきました。2001年の論文では調べていないアロエ属や個人的に懸案のPoellnitzia rubrifloraについても解析しています。
まずは、近年の遺伝子解説によるアロエ類の分子系統を示します。アロエ属(広義)はAloe(狭義)、Kumara、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoeに分割され、逆にLomatophyllumとChortolirionがアロエ属に統合されました。さらに、ハウォルチア属(広義)は軟葉系はHaworthia(狭義)に、硬葉系はHaworthiopsisとTulistaに分割されました。なお、PoellnitziaはAstrolobaに含むものとされています。
さて、ではこれらの分類と蜜の組成には関連があるのでしょうか?


アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文は1993年と当時の分類に従っています。しかし、現在では分類体系は大きく変わりました。
最新の遺伝子解析の結果に従って、論文の内容を再構成します。学名の後に、蜜に含まれる糖の組成を以下の順に示します。

【Fructose, Glucose, Sucrose】Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。


まずは、アロエ類の中で一番祖先的な"Tree Aloe"、つまりはAloidendronから。論文ではAloe ramosissimaとなっていますが、現在はAloidendron ramosissimumとなりました。
糖の組成はアロエ属(狭義)に近い値です。しかし、アロエ属(狭義)と比較すると、果糖がやや高くブドウ糖がやや低いことに気がつきます。たいした違いではないように思えますが、アロエ属(狭義)は39種類47検体も調べていますから、その値から多少とは言え逸脱していることには何か意味があるような気がします。
A. ramosissimum【55%, 45%, -%】


DSC_1221
Aloidendron dichotomum

次にKumaraとHaworthia(狭義)は近縁ですが、残念ながらKumaraはデータがありません。Haworthia(狭義)は5種類を調べています。
Haworthia(狭義)は割と組成がばらつきます。果糖は少なめですが、H. herbaceaは19%とやや高めです。これはアロエ属(狭義)とはかなり異なる組成ですが、これを鳥媒花のアロエ属(狭義)と虫媒花のハウォルチア属(狭義)の違いと見ることはできるのでしょうか。
H. arachnoidea【13%, 51%, 36%】
H. bolusii【6%, 39%, 55%】
H. comptoniana【4%, 54%, 42%】
H. cooperi【5%, 39%, 56%】
H. herbacea【19%, 46%, 35%】
DSC_1945
Haworthia arachnoidea

次にアロエ属(狭義)とAloiampelosについて見てみましょう。論文で分析されたアロエ属は47検体ですが、6検体は重複、2検体は変種です。また、現在はAloe ramosissimaはAloidendron ramosissimumに、Aloe variegataはGonialoe variegataとなっていますから、この一覧からは除外しました。また、現在はアロエ属とされるLomatophyllumは1種類2検体、Chortolirionは1種類3検体を調べています。Chortolirion angolensisは、現在ではAloe welwitschiiとされています。
Aloe37種類2変種の糖の組成は【40~51%, 47~60%,  - ~4%】でした。アロエ属はショ糖の割合が少ないことが特徴です。果糖とブドウ糖は半々くらいで、種類の違いによる変動幅は小さいと言えます。気になるのは、小型種であるA. bowieaが中型~大型種と糖の組成が変わらないことです。大型アロエは鳥媒花で、小型アロエは虫媒花なのではないかと思われますが、蜜の組成に違いはないのは不思議です。A. haworthioidesなどの他の小型種についてどうなのか知りたいところです。
Lomatophyllumの蜜の組成は完全にアロエ属の範囲内でした。形態的に特殊化したLomatophyllumが蜜の組成では変わっていないのは意外です。しかし、Chortolirionはショ糖の比率が70%を超えており、明らかアロエ属から逸脱しています。私はChortolirionについては知識がないため、その理由を推測出来ません。
Aloe ciliarisは現在ではAloiampelosとなっています。Aloiampelosの糖の組成は、アロエ属(狭義)の組成の幅に収まります。

A. abyssinica【47%, 49%, 4%】
A. aculeata【45%, 55%, - %】
A. affinis【46%, 53%, 1%】
A. arborescens①【45%, 55%, -%】
A. arborescens②【46%, 53%, 1%】
A. asperifolia【46%, 51%, 3%】
A. bellatula【49%, 51%, -%】
A. bowiea①【51%, 49%, - %】
A. bowiea②
【49%, 51%, - %】
A. branddraaiensis【40%, 60%, - %】
A. capitata
【47%, 53%, - %】
A. castanea
【46%, 52%, 2%】
A. citrina
【49%, 47%, 4%】
A. dewinteri
【48%, 49%, 3%】
A. divaricata
【46%, 54%, - %】
A. erinacea
【46%, 54%, - %】
A. fourei【47%, 50%, 3%】
A. gariepensis【49%, 51%, -%】
A. greatheadii
     var. greatheadii【48%, 50%, 2%】
A. greatheadii
     var. davyana【49%, 49%, 2%】
A. hardyi【46%, 54%, - %】
A. hereroensis
     var. hereroensis【47%, 52%, 1%】

A. humilis【47%, 53%, - %】
A. littoralis【46%, 50%, 4%】
A. lutescens【47%, 52%, 1%】
A. massawana【46%, 53%, 1%】
A. melanacantha【47%, 52%, 1%】
A. meyeri【49%, 50%, 1%】
A. microstigma【50%, 50%, - %】
A. monotropa【47%, 52%, 1%】
A. mutabilis【44%, 56%, - %】
A. nubigena【48%, 51%, 1%】
A. pachygaster【49%, 51%, - %】
A. parvibracteata【45%, 55%, - %】
A. pearsonii(赤花)【47%, 51%, 2%】
A. pearsonii(黄花)【50%, 50%, - %】
A. perfoliata【48%, 49%, 3%】
A. petricola【48%, 52%, - %】
A. pictifolia【48%, 52%, - %】
A. sinkata【42%, 57%, 1%】
A. speciosa【48%, 52%, - %】
A. suprafoliata【49%, 50%, 1%】
A. thompsoniae【48%, 49%, 3%】
A. tricosantha①【46%, 53%, 1%】
A. tricosantha②【47%, 52%, 1%】
A. tricosantha③【46%, 53%, 1%】
A. vanbalenii【45%, 55%, - %】
A. vaombe【45%, 55%, - %】
A. vera【46%, 54%, - %】
A. verecunda【48%, 52%, - %】

DSC_0066
Aloe arborescens

旧・Lomatophyllum
A. purpurea①【51%, 49%, - %】
A. purpurea②【50%, 50%, - %】

旧・Chortolirion
A. welwitschii①【8%, 21%, 71%】
A. welwitschii②【8%, 19%, 73%】
A. welwitschii③【7%, 20%, 73%】

Aloiampelos
A. ciliaris【49%, 49%, 2%】


記事が長くなってしまいました。Astroloba以下については、明日続きをご紹介します。


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多肉植物たちも1年経てば、それぞれの速度で生長していきます。私の育てている多肉たちも、生長が早いもの遅いもの、去年はいまいちでも今年はよく生長したもの、逆に去年はよく生長したのに今年はいまいちだったものなど、一株一株皆異なり様々です。
最近、寒くなり室内に多肉植物たちを取り込みましたから、毎日じっくり見る時間が出来ました。普段は帰宅すると暗くてよく見えず、休日に見るくらいですが、暑いわ蚊は出るわで中々じっくり多肉植物たちを見られませんでしたから。
寒さによって生長は鈍り、種類によっては完全に生長が止まったものもあるでしょう。この1年の生長を振り返る良い機会です。本日は我が家のアロエについて、少し振り返ります。まあ、それほど沢山のアロエを育てているわけではありませんが、アロエは丈夫なものが多く生長も早いので、なんと行っても目に見えて大きくなりますから育てる喜びがあります。そんな我が家のアロエたちを少しご紹介しましょう。

DSC_0663
2021年の12月に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで購入したAloe pegleraeです。まだ若く葉の枚数が少ないため、A. pegleraeらしさはありません。

DSC_1864
最近のAloe peglerae。見違えるように葉が増えました。葉の枚数が増えたので、葉がやや内側に巻いてきて、少しA. pegleraeらしくなってきました。トゲも強くなり、赤味が増して荒々しさが出ています。

DSC_0662
同じく2021年の12月のCactus & Succulentフェアで入手したAloe spectabilisです。A. pegleraeを購入したオマケでいただいた抜き苗です。真冬に植え込みましたから少し心配でした。
二列性と言って、アロエは苗の頃は葉が左右に並びますが、ご覧の通り見事な二列性の苗でした。

DSC_1900
最近のA. spectabilis。葉が旋回を始めました。葉の幅がかなり広くなり、A. spectabilisらしさが出てきました。まあ、A. spectabilisは高さ5メートルになる巨大アロエですから、まだまだ赤ちゃんみたいなものでしょうけど。

DSC_0779
2022年の2月に鶴仙園池袋店で購入したAloe somaliensis。冬なので乾かしぎみ、あるいは断水管理なのかもしれません。カリカリに乾いて、葉が巻いています。

DSC_1666
夏のA. somaliensis。あまりの強光に焦げて外側の葉をやられてしまいました。

DSC_1906
最近のA. somaliensis。焦がしてから遮光して、ようやく落ちつきました。来年は葉の枚数を増やしたいものです。

DSC_0022
2020年の1月に埼玉のシマムラ園芸で購入したAloe aristata。今は属が変更されてArirtaloe aristataです。カチカチに硬いタイプです。
※おそらくはGasteriaとの交配種の可能性あり。

DSC_1921
最近のA. aristata。すっかり葉が増えて同じ種類には見えません。隠れていますが、根元から幾つか小さい子を吹いています。

DSC_0971
2022年の4月に五反田で開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入したAloe parvula。寒さにすっかり赤くなっていました。写真ではわかりませんが、葉先はだいぶ枯れ込んでいました。凍みてしまう一歩手前に見えましたが、さてどうなるやら。

DSC_1816
最近のA. parvula。中々、赤味が抜けなくて苦労しましたが、ご覧の通り葉も増えて美しい緑色を取り戻しました。こういうしなやかな葉のアロエは気に入っています。

DSC_0204
2020年の3月に横浜のコーナン港北インター店で購入したAloe haworthioides。柔らかい小型アロエです。この時点では3株でした。

DSC_1815
最近のA. haworthioides。8株に増えました。

室内に取り込んだ多肉植物を眺めていると、ああ随分生長したなあと思います。今回、あまり変わっていなように見えても、昔の写真と比較すると思いの外生長していて驚いたりもしました。
そういえば、我が家の多肉植物に冬型はほとんどありません。ですから、基本的に冬はお休みの季節です。ブログも論文の紹介などがメインになるかもしれません。 

論文の紹介は私の記事としてはあまり人気はありませんが、重要なことが書かれており、私は個人的に面白くて仕方がないので是非内容を共有したいと考えています。学術論文だからと言って真面目に構えて読む必要はなく、流し読む位の気楽なものと捉えてほしいのです。科学研究は研究者だけの独占物ではなく、社会に還元することが求められます。それは、必ずしも実社会で実用的である必要はなく、書籍や大学のホームページなどで研究成果を説明していただくだけでも意味があると思います。しかし、すべての研究者の業績が書籍となるわけではなく、若手研究者や海外の研究については学術論文以外では知る術がないのが現状です。といったところで、学術論文を検索するのはハードルが高いかもしれません。ですから、あくまで私の興味のある部分だけではありますが、多肉植物の論文をこれからも紹介していきたいと考えております。



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Aloidendron dichotomumは代表的な木性アロエです。原産地では巨大に育つことで有名です。現在はアロイデンドロン属とされていますが、かつてはAloe dichotomaと呼ばれていました。
本日はA. dichotomumの発見と命名の経緯について書かれたColin C. Walkerによる2021年の論文『Aloidendron dichotomum The archetypal tree aloe』をご紹介します。私の所感や他の著者の論文による遺伝子解析の情報も追加しました。


DSC_1866
Aloidendron dichotomum

オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。van der Stelの日記には、A. dichotomumに対する記述があります。時に12フィートとなり、樹皮は硬いが中は柔らかく軽くスポンジ状つ、原住民は矢筒として利用されていることが記されています。これが、おそらくは最も古いA. dichotomumに対する記述でしょう。


次に南アフリカのA. dichotomumを訪れて記述したのは、Francis Massonです。MassonはJoseph Banks卿の命により、イギリス王立植物園のコレクションを強化するために南アフリカに派遣されたプラント・ハンターでした。Massonは数多くの新種の植物を発見しました。Massonは1774年にZwart Doon渓谷で新種のアロエを発見し、Aloe dichotomaと命名しました。 これが、A. dichotomumの最初の命名でしたが、Massonは当時の分類体系に正しく分類したことになります。

さて、A. dichotomumは初めて命名されて以来、200年以上A. dichotomaという学名でした。Aloidendronに移されたのが2013年のことでしたから、まだ10年も経っていないことになります。過去に出た図鑑もAloe dichotomaと表記していますし、販売される時にもAloe dichotomaの名札だったりしますから、Aloe dichotomaの方が馴染みがあります。ただし、現在のアロエ類の分類は、外見上の特徴ではなくて遺伝子解析の結果によりますから、より精度が高いものとなっています。ちなみに、Aloidendronとは、そのままTree Aloeという意味ですからわかりやすいですね。

アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━★Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

Aloidendronはイギリス王立植物園のデータベースでは7種類が登録されておりますが、論文では6種類について述べられています。
Aloidendronのうち、A. dichotomumに最も近縁と考えられているのが、Aloidendron ramosissimumです。そのため、2000年にはA. dichotomaの変種、2002年には亜種とする考え方も提案されました。しかし、現在ではそれぞれ別種とされております。両種ともに南アフリカのケープ州からナミビアにかけて分布します。A. ramosissimumは枝分かれして高さ3mほどのブッシュ状となり主幹を持たないため、A. dichotomumとは異なり樹木というよりは低木とした方が正しいようです。
同じく南アフリカのケープ州からナミビアに分布するのが、絶滅の危機に瀕しているAloidendron pillansiiです。やはり、2002年にはAloe dichotomaの亜種とする意見もありました。A. pillansiiは幹は直立しますが、枝は少ないようです。また、花序は水平方向に伸びるらしく、花序が直立するA. dichotomumとの区別は簡単です。
他のAloidendronはA. dichotomumとは地理的に離れています。アフリカ南東部にはAloidendron barberaeとAloidendron tongaensisが分布します。A.tongaensisは南アフリカのKwaZulu-Natal州からモザンビークまで、A. barberaeは南アフリカの東ケープ州からKwaZulu-Natal州、北部州、スワジランド、モザンビークまで広く分布します。しかし、論文では2015年のvan Jaarsveldはモザンビークの分布を主張しましたが、2019年のWalkerの報告ではモザンビークでのA. barberaeの存在を確認出来ませんでした。A. barberaeは高さ18mになり、花のサイズとピンクがかった花色でA. dichotomumと区別されます。2010年に発見されたばかりのAloidendron tongaensisは、A.barberaeに似ていますが高さは8mほどです。黄色がかったオレンジ色の花が特徴です。
他のAloidendronとさらに地理的に隔離されているのが、Aloidendron eminensです。A. eminensはソマリアの固有種で分布は非常に狭いと言います。高さは15mまでの直立した幹を持ち、赤色の花を咲かせます。
最後に論文には記載がない7種類目は、Aloidendron sabaeumです。発見は1894年ですがAloidendronとされたのは2014年のことです。驚くべきことにA. sabaeumはアフリカ原産ではなく、サウジアラビアとイエメンに分布します。高さは5mほどで、垂れ下がる葉を持ちます。花は赤色から赤褐色です。ここまではカタログ・データですが、A. sabaeumの画像がいまいち見つかりません。ひょろひょろと細長く伸びて枝分かれしないミニチュアのヤシのような画像は出てきます。生長しても分岐せずに、姿は変わらないのでしょうか?

論文の内容は以上です。多少情報を追加しましたが、Aloidendron dichotomumの発見の経緯などはまったく知らなかったので、私は非常に面白く論文を読みました。こういう話はデータベースを漁るだけでは得られませんから、著者には感謝ですね。
また、この他にもA. dichotomumの絵が書かれた経緯などもありましたが割愛しております。悪しからず。



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草花の花は美しく私達の目を楽しませてくれますが、植物達は私達を楽しませるために花を咲かせているわけではありません。受粉のために昆虫や鳥などを呼び寄せる際の目印として、目立つ花を咲かせているのです。もちろん、植物は花粉を運んでもらう報酬として、甘い蜜を準備しています。花に集まる昆虫や鳥もタダ働きは御免でしょうから、働きに見合う甘い蜜は必要なのです。
最近は多肉植物の花の受粉に関する論文を記事としてご紹介してきました。これまでの記事は花粉を運ぶポリネーターについての話でした。少し視点を変えて、本日はこの甘い蜜のお話をしましょう。

DSC_1640
Haworthiopsis scabra

よく考えてみると、花の話題はあっても、花の蜜の話題はあまり聞かない気がします。まあ、我々が直に花の蜜を吸うわけではないので、花の蜜と言えば蜂蜜くらいなものですからね。
ポリネーター(花粉媒介者)に対するアピールとして重要なのは、花の色や大きさ、形状です。花の色によって反応するポリネーターは異なります。しかし、花の蜜の成分はどうでしょうか。植物により異なるのでしょうか。あるいは、その成分とポリネーターの種類には相関があるのでしょうか。
とりあえず、多肉植物の蜜に関する論文を漁ってみたところ見つけたのが、G. F. Smith, B-E. van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』です。

DSC_1631
Haworthiopsis attenuata

まず、アロエ類についておさらいしましょう。アロエ類とは、古典的な分類ではAloe(広義)、Haworthia(広義)、Gasteria、Astrolobaからなる植物です。しかし、最近では遺伝子解析の進展により、Aloe(広義)は解体されてAloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Gonialoe、Arirtaloeとなり、Haworthia(広義)も、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。しかし、この論文が出た時点ではここら辺の話はまだ出て来ておりませんでした。むしろ当時の問題点は、球根様のChortolirionや液果を持つLomatophyllumはAloeか否かとか、花が異なるPoellnitziaがAstrolobaか否かということでした。これらは研究者によって見解が異なるため、かなりの議論があったようです。現在では、遺伝子解析により、ChortolirionやLomatophyllumはAloeの、PoellnitziaはAstrolobaの特殊化したものに過ぎないことがわかりました。さて、前提はここまでにして、論文の内容に移りましょう。花の蜜を分析して、蜜に含まれる糖の種類の割合を算出しています。蜜に含まれる糖は、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ショ糖(スクロース)です。以下の一覧は、2001年当時ですから学名が現在と一部異なります。括弧の中は【フルクトース, グルコース, スクロース】の割合(%)を示しています。

Haworthia亜属(=狭義のHaworthia)
1   H. angustifolia             【 4, 48, 48】
2   H. angustifolia
       fa. baylissii                 【10, 25, 65】
3   H. arachnoidea①        【13, 51, 36】
4   H. arachnoidea②        【  5, 50, 45】
5   H. blackburniae           【24, 43, 33】
6   H. bolusii                      【  6, 39, 55】
7   H. comptoniana          【  4, 54, 42】
8   H. cooperi                    【  5, 39, 56】
9   H. cymbiformis
     var. cymbiformis          【14, 55, 31】
10 H. decipiens①             【  7, 51, 42】
11 H. decipiens②             【  9, 61, 30】
12 H. divergens                 【16, 52, 32】
13 H. emelyae①               【  8, 54, 38】
14 H. emelyae②               【12, 59, 29】
15 H. habdomadis
       var. morrisiae              【  2, 48, 50】
16 H. herbacea                  【19, 46, 35】
17 H. maculata①              【17, 49, 34】
18 H. maculata②              【16, 58, 26】
19 H. margnifica
       var. maraisii                 【  1, 50, 49】
20 H. marumiana               【16, 54, 30】
21 H. maughanii                 【  7, 58, 35】
22 H. nortierii                      【20, 60, 20】
23 H. pubescens                【11, 46, 43】
24 H. retusa                        【  4, 44, 52】
25 H. retusa
       var. dekenahii              【10, 39, 51】
26 H. rycroftiana                【  6, 57, 37】
27 H. semiviva                    【16, 52, 32】
28 H. truncata                     【  7, 47, 46】
29 H. unicolor                      【  5, 45, 50】
30 H. xiphiophylla               【25, 48, 27】
31 H. glauca                         【  1, 19, 80】

いわゆる軟葉系ハウォルチア、狭義のHaworthiaはグルコースあるいはスクロースが主成分です。フルクトースは少ないのですが、多いものでも25%程度です。

Hexangulares亜属(=Haworthiopsis)
32 H. koelmaniorum①    【  5, 23, 72】
33 H. koelmaniorum②    【  8, 28, 64】
34 H. limifolia
        var. limifolia①           【  4, 41, 55】
35 H. limifolia
        var. limifolia②           【  3, 24, 73】
36 H. limifolia
        var. limifolia③           【11, 29, 60】
37 H. limifolia
        var. gigantea             【  4, 34, 62】
38 H. longiana①              【  3, 20, 77】
39 H. longiana②              【  7, 19, 74】
40 H. nigra                        【   - , 25, 75】
41 H. venosa
     subsp. granulata①     【  5, 25, 70】
42 H. venosa
     subsp. granulata②     【  4, 24, 72】
43 H. venosa
     subsp. granulata③     【  8, 30, 62】
44 H. venosa
     subsp. tessellata①    【  1, 29, 70】
45 H. venosa
     subsp. tessellata②    【  2, 24, 74】
46 H. viscosa①               【  2, 32, 66】
47 H. viscosa②               【  4, 33, 63】
48 H. woolley                   【  1, 22, 77】

硬葉系ハウォルチア、つまりはHaworthiopsisはスクロースが主成分です。狭義のHaworthiaとの違いが目立ちます。
Haworthiopsisの中でもH. koelmaniorumやH. limifoliaは遺伝子解析の結果では、やや位置が異なると見られていますが、蜜の成分はHaworthiopsisとしては普通です。

Robustipeduculares亜属(=Tulista)
49 H. minima                  【  7, 24, 69】
50 H. pumila①               【  1, 14, 85】
51 H. pumila②               【  3 , 17, 80】
52 H. pumila③               【  7, 19, 74】

Tulistaはサンプルが少ないのが残念ですが、スクロースの比率が非常に高いようです。実はTulistaは狭義のHaworthiaやHaworthiopsisより、AstrolobaやArirtaloeと近縁です。
ちなみに、H. minimaは現在ではTulista minorとされています。

交配種など
53 H. woolley
         × H. sordida           【  4, 29, 67】
54 H. viscosa
         × H. longiana         【  8, 27, 65】
55 H. subg.
   Haworthia sp. nov.     【  6, 55, 39】
56 H. tortuosa                【11, 31, 58】
57 H. mcmurtryi             【  7, 26, 67】

Astroloba
58 A. bullulata                【20, 46, 34】
59 A. spiralis
      subsp. spiralis          【  2, 13, 85】
60 A. spiralis
      subsp. foliolosa①   【  4, 16, 80】
61 A. spiralis
      subsp. foliolosa②   【  7, 29, 64】
62 A. spiralis
      subsp. foliolosa③   【  9, 32, 64】

Astrolobaはスクロースの比率が高いようです。A. bullulataは異なります。
ちなみに、A. spiralis subsp. foliolosaはA. foliolosaとして独立種とされています。

Chortolirion
63 C. angolense①        【  8, 21, 71】
64 C. angolense②        【  8, 19, 73】
65 C. angolense③        【  7, 20, 73】

Chortolirionはスクロースの比率が高いようです。Chortolirionは現在はAloeとされていますが、Aloeの蜜の成分と比較したいところです。

蜜の糖の成分がこれ程、属ごとに異なるとは思いませんでした。むしろ、種類ごとにバラバラでもおかしくはないと思っていました。意外です。
蜜の成分とポリネーター(花粉媒介者)との関係性はどうなのでしょうか? 大型アロエは鳥媒花ですが、Chortolirionはわかりませんが同じ鳥媒花だとしたらスクロース比率が高いのでしょうか。しかし、Haworthia、Haworthiopsis、Astrolobaは虫媒花ですが、割と成分の比率は異なります。ただし、ターゲットの昆虫が異なる可能性はあり、蜜の成分の違いと花に集まる昆虫の関係性も気になります。
最大の疑問はAstroloba rubrifloraの蜜の成分でしょう。A. rubrifloraはかつてPoellnitziaとされていました。これは、白花で虫媒花であるAstrolobaに対し、赤い花で鳥媒花のPoellnitzia rubrifloraという違いがあったためです。ポリネーターが異なることと蜜の関係性が一番わかりやすい例でしょう。
どうにも知りたいことが多すぎて困ってしまいます。他に論文がないかさらに詳しく調べてみます。


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本日のお話に関係するAloe pegleraeは南アフリカ原産の絶滅が危惧されているアロエです。原産地では非常に整った美しい姿をしており、違法採取や環境破壊により数を減らしており、保護の対象とされています。しかし、A. pegleraeは増やすことが難しいわけではないため、実生苗は入手が容易で普及種に近い状況となっております。ただし、A. pegleraeは生長が遅く大型になるまでに時間がかかるため、高額な現地球を欲しがる人もいるのでしょう。とはいえ、現在アロエは、Aloe veraと園芸用の交配系アロエ以外の輸出入に関して制限がかかっており、簡単には輸入出来なくなっているようです。

さて、最近アロエの受粉に関わる鳥について調査した論文の内容について記事にしました。
しかし、論文ではAloe feroxの受粉に関与する鳥を調査することが目的であり、昆虫や哺乳類を排除した内容でした。そこで、何か良い論文はないかと調べていたら見つけたのが、南アフリカのStephanie L. Payne、Craig T. Symes and ED T. F. Witkowskiが2016年に発表した『Of feathers and fur : Differential pollinator roles of birds and small mammals in the grassland succulent Aloe peglerae』です。

DSC_1864
Aloe peglerae

アロエは一般的に赤系統の花を咲かせますが、これは鳥に対するアピールと考えられています。しかし、ネズミなどの小型哺乳類が夜間にアロエの花を訪れることは知られていましたが、その受粉への関与についてはあまりわかっておりません。この論文では草原性のアロエであるAloe pegleraeの花を訪れる動物を記録し、受粉により出来た種子を調べました。
A. pegleraeの開花は7~8月で、主にルリガシライソヒヨ(Monticola rupestris)という鳥により受粉が行われ、昆虫の貢献はわずかと言われています。過去の知見ではA. pegleraeの花を訪れた動物は、ヒガシイワハネジネズミ(Elephantulus myurus)、ナマクアロックマウス(Micaelamys namaquensis)、チャクマヒヒ(Papio hamadryas ursinus)、ホソマングース(Galerella sanguinea)、four striped grass mouse(※4本の縞模様があるネズミ、Rhabdomys pumilio)が知られています。

研究は南アフリカのPretoriaの西部にあるMagaliesberg山脈にあるPeglerae Conservancyで行われました。A. pegleraeは知られている個体群は3箇所のみです。A. pegleraeは直径20cm以上で成体となり、冬(7~8月)に毎年開花します。A. pegleraeの花は薄い蜜を大量に分泌するということです。

さて、観察の結果、日中はルリガシライソヒヨ、夜間はナマクアロックマウスが最も頻繁なA. pegleraeの花への訪問者でした。チャクマヒヒやネズミが花自体を食べてしまった様子も観察されました。アロエの花に来ることが報告されているアカハラケビタキ(Thamnolaea cinnamomeiventris)は周囲に沢山いたにも関わらず、観察期間中にA. pegleraeの花を訪れませんでした。また、シロハラセッカ(Cisticola lais)、ハシナガビンズイ(Anthus similis)、アカバネテリムク(Onychognathus morio)、ケープメジロ(Zosterops virens)、ヒガシイワハネジネズミがA. pegleraeの花を訪れました。 
A. pegleraeの花への訪問、はルリガシライソヒヨが約60%を占めていることから、A. pegleraeの受粉にとって重要です。ルリガシライソヒヨが冬にわざわざ寒いMagaliesberg山脈を訪れるのは、餌の少ない冬にA. pegleraeの蜜を求めてではないかと著者は考察しています。

ネズミなどの小型哺乳類による受粉は、幾つかの植物で報告があります。今回の観察でA. pegleraeを訪れたのはナマクアロックマウスとヒガシイワハネジネズミでしたが、やはり餌の少ない冬に蜜を求めてやってくる可能性があります。しかし、ナマクアロックマウスは花を食べてしまうため、受粉の有効性は疑問視されてきました。ただし、今回の観察では食害があっても、種子が出来たということです。
鳥と小型哺乳類の受粉に対する貢献度は正確にはわかりません。その違いは移動距離で、鳥と比較すると小型哺乳類の移動範囲は狭くなります。しかし、小型哺乳類は採餌に時間をかけるため、鳥よりも多くの花粉を体に付着させます。花粉の移動する量という側面からは、小型哺乳類が有効と言えます。高さ数メートルになる大型アロエと比較して、A. pegleraeは背が低いため、小型哺乳類をより引き寄せやすいと言えるかもしれません。
A. pegleraeは自家不和合性、つまりは自分の花では受粉しない可能性が高いとされています。今回の観察では、出来た種子の発芽試験を行われました。その結果、鳥による受粉でも小型哺乳類による受粉でも、種子の発芽率に違いはないとのことです。つまりは、移動範囲が狭い小型哺乳類でも、ちゃんと花粉を他の個体へ運んでいるのです。

以上で論文の簡単な要約は終了です。著者はAloe pegleraeの受粉は鳥だけではなく、小型哺乳類によっても行われるということを主張しています。Aloe pegleraeにとっては両者ともに重要なポリネーター(花粉媒介者)なのです。
植物の受粉と言えば、以前はミツバチやマルハナバチなどの昆虫が重要で、一部ハチドリやタイヨウチョウなどの鳥も関与するくらいの認識でした。しかし、
Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文では、Aloe feroxの受粉は花の蜜を餌とすることに特化したスペシャリストであるタイヨウチョウはほとんど関与せず、主に専門ではない他の餌も食べるジェネラリストにより受粉するというのです。スペシャリストの受粉への貢献度の低さにも驚きましたが、何より鳥が主たるポリネーターであることは、私の植物の受粉に対する認識を大きく変えられることになりました。さらに、今回ご紹介した論文で、小型哺乳類による受粉への関与という、ほとんど聞いたことがない行動を知るにつけ、思いの外植物と動物の関係は複雑で柔軟に出来ていることを改めて認識し直しました。



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マダガスカル島は多肉植物の宝庫で、マダガスカル固有種のDidiereaやAlluaudiaの林があり、島の全域にPachypodiumが自生します。私の好きなEuphorbiaも豊富で、花キリン類はマダガスカルを象徴する植物ですね。  
Aloeはアフリカ大陸に豊富ですが、マダガスカル島にも沢山の固有種が存在します。問題なのはアフリカ大陸からマダガスカル島にAloeが進出した際に、1種類が侵入して様々な種類に進化したのか、最初から様々な種類が侵入してそこから進化を開始したのかということです。
というわけで、本日ご紹介する論文は2018年のRichard J. Dee、Panagiota Malakasi、Solofo E. Rakotoarisoa & Olwen M. Graceが発表した『A phylogenetic analysis of the genus Aloe (Asphodelaceae) in Madagascar and the Mascarene Island』です。論文ではマダガスカル島とマダガスカル島のすぐ東にあるマスカレン諸島のアロエの遺伝子を解析しています。マスカレン諸島は、モーリシャス島、レユニオン島、ロドリゲス島からなります。

マダガスカル島には132種類のアロエが自生し、そのすべてが固有種です。マスカレン諸島では、Aloe lomatophylloides(=Lomatophyllum lomatophylloides)がロドリゲス島の固有種で、Aloe purpurea(=Lomatophyllum purpureum)、Aloe tormentorii(=Lomatophyllum tormentorii)はモーリシャス島の固有種、Aloe macra(=Lomatophyllum macrum)はレユニオン島の固有種です。マスカレン諸島の固有種はかつてロマトフィルム属とされてきました。

さて、マダガスカル島は深海に囲まれた島で、モザンビーク海峡の深さは500~1000mくらいです。地質調査により、氷河期に一部モザンビーク海峡を横断できる陸橋が出来た可能性があります。ですから、アロエも最後の氷河期にマダガスカル島に移入したのかもしれません。

アロエ研究の権威であったG.W.Reynoldsは、マダガスカル島のアロエをその形態から9グループに分けました。著者はさらに、Reynoldsがアロエを分類した時はアロエ属ではなくLomatophyllumだったグループを10番目に入れました。

Group
①小型あるいは超小型のアロエ
    旧・Guillauminia, Lemeea, Aloinella
②葉は二列性、A. compressa
③葉は長さ50cm幅5cm。花序は単生か枝分かれは少ない。
    A. schomeri, A. buchlohii

④葉は卵型。A. deltoideodonta
⑤大型のロゼット。無茎性で葉は70cmまで。
    A. bulbillifera
⑥密に花を咲かせる。総状花序は短い。
    A. capitata, A. trachyticola
⑦総状花序は密集して多花性。
    A. conifera,A. macroclada

⑧低木状。A. acutissima
⑨2~3mで太く直立し、葉は頂点に密に輪生。
    A. vaombe, A. cipolinicola

⑩液果ができる。旧・Lomatophyllum

次に、マダガスカルとマスカレン諸島、アフリカ大陸のアロエの遺伝子解析による分子系統です。マダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエは太字としており、数字は上記の10個のグループに相当します。比較対象としてアフリカ大陸原産のアロエも同時に解析されています。
以降は私の感想を記していきます。

まず、Clade AとClade Mに大別されますが、驚くべきことに、Aloe susannaeは他のアロエと系統が大きく離れたKumara haemanthifoliaと他のアロエより近縁でした。この時点で、様々なというよりかなり異なる系統のアロエがマダガスカルに入ってきたことがわかります。

    ┏━Kumara haemanthifolia
┏┫
┃┗━⑦Aloe susannae

┃┏━Clade A
┗┫
    ┗━Clade M

次にClade Aですが、マダガスカルの旧・Lomatophyllumである3種はまとまりがあります。また、マダガスカルの小型アロエ2週は近縁ですが、旧・LomatophyllumのA. citreaも近縁でした。東アフリカのエチオピアやソマリアといったいわゆる"アフリカの角"辺りに分布するアロエが、Clade Aのマダガスカル原産のアロエと近縁でした。マダガスカルに地理的に近いアロエが近縁であるという合理的な結果が得られました。逆に南アフリカ原産のアロエはやや距離があります。私が思ったこととして、アロエの地理的な拡散は、南アフリカ→マダガスカルへの渡航地点→マダガスカル・東アフリカである可能性はないでしょうか。

Clade A

┏━━━━━Aloe ecklonis
┃                (南アフリカ原産)
┃┏━━━━Aloidendron dichotomum
┃┃            (南アフリカ原産)
┣┫┏━━━Aloiampelos ciliaris
┃┗┫        (南アフリカ原産)
┃    ┗━━━Aloe ellenbeckii
┃                (東アフリカ原産)
┃┏━━━━①Aloe albiflora
┫┃             (=Guillauminia)
┃┣━━━━⑩Aloe propagulifera
┃┃             (=L. propaguliferum)
┃┃┏━━━⑩Aloe citrea
┃┣┫         (=L. citreum)
┃┃┃┏━━①Aloe haworthioides
┃┃┗┫(=Aloinella, =Lemeea)
┗┫    ┗━━①Aloe parvula
    ┃        (=Lemeea)
    ┃┏━━━⑩Aloe pembana
    ┣┫         (=L. pembanum)
    ┃┃┏━━⑩Aloe macra
    ┃┗┫     (=L. macrum)
    ┃    ┗━━⑩Aloe occidentalis
    ┃             (=L. occidentale)
    ┃┏━━━Aloe ankoberensis
    ┃┃         (Ethiopia原産)
    ┃┃    ┏━Aloe jucunda
    ┗┫┏┫ (Somalia原産)
        ┃┃┗━Aloe secundiflora
        ┗┫      (東アフリカ原産)
            ┃┏━Aloe trichosantha
            ┗┫  (東アフリカ原産)
                ┗━Aloe vera
                      (Oman原産)

Clade Mはすべてマダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエです。見てすぐにわかるのは、Reynoldsの分類が機能していないことです。要するに、アロエ属は外的な特徴は環境等によりその都度進化して、近縁ではなくても類似した姿をとることがあるということでしょう。それは、旧・Lomatophyllumも同様で、A. purpureaとA. tormentoriiは近縁ですが、A. anivoranoensisは近縁ではありません。さらに言えば、Clade Aに所属する旧・LomatophyllumはClade Mとかなりの遺伝的な距離があります。マダガスカル島のLomatophyllumが、マスカレン諸島に伝播して独自に進化したという、大変わかりやすいシナリオは却下しなければならないようです。要するに、Lomatophyllumはアロエ属の島嶼部への適応形態なので、分類群の中であちこちに出現するということなのかもしれません。

Clade M

┏━━━━━━━━④Aloe laeta

┃    ┏━━━━━━④Aloe deltoideodonta
┃┏┫
┃┃┗━━━━━━⑧Aloe millotii
┣┫
┃┃┏━━━━━━Aloe suarezensis
┃┗┫
┃    ┃┏━━━━━⑩Aloe purpurea
┃    ┗┫                   (=L. purpureum)
┃        ┗━━━━━⑩Aloe tormentorii
┫                               (=L. tormentorii)
┃┏━━━━━━━①Aloe rauhii
┃┃                           (=Guillauminia)
┃┃    ┏━━━━━Aloe divaricata
┃┃    ┃
┃┃    ┣━━━━━④Aloe madecassa
┃┃    ┃
┃┃    ┃┏━━━━④Aloe imalotensis
┗┫┏╋┫
    ┃┃┃┗━━━━④Aloe viguieri
    ┃┃┃
    ┃┃┃    ┏━━━⑧Aloe acutissima
    ┃┃┃┏┫
    ┃┃┃┃┗━━━⑦Aloe conifera
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┃┏━━━⑥Aloe capitata
    ┃┃    ┗┫
    ┗┫        ┗━━━⑨Aloe cipolinicola
        ┃
        ┃    ┏━━━━⑩Aloe anivoranoensis
        ┃    ┃              (=L. anivoranoense)
        ┃    ┃┏━━━②Aloe compressa
        ┃┏╋┫
        ┃┃┃┗━━━①Aloe descoingsii
        ┃┃┃              (=Guillauminia)
        ┃┃┃┏━━━④Aloe ibitiensis
        ┗┫┗┫
            ┃    ┗━━━⑥Aloe trachyticola
            ┃
            ┃┏━━━━⑤Aloe bulbillifera
            ┃┃
            ┗┫    ┏━━①Aloe calcairophila
                ┃┏┫        (=Guillauminia)
                ┃┃┗━━Aloe hoffmannii
                ┗┫
                    ┃┏━━⑦Aloe macroclada
                    ┗┫
                        ┃┏━①Aloe bakeri
                        ┗┫     (=Guillauminia)
                            ┗━⑨Aloe vaombe

以上が論文の内容となります。遺伝子解析の結果では、マダガスカル島のアロエは多系統であることが判明しました。最低でも、Aloe susannae、Clade A、Clade Mの3系統です。しかし、調べたアロエの種類が少ないため、マダガスカルにはまだ他の系統のアロエも存在するかもしれません。例えば、今回の研究ではAloe susannaeだけがかなり異なる系統だったように、場合によっては1種類だけ別系統というパターンもありうることがわかります。つまりは、マダガスカル島のアロエをすべて調べないとわからないということです。ただし、アフリカ大陸のアロエについての遺伝子解析がそれほど進んでいない感じがありますから、総合的な評価はまだ難しいのかもしれません。著者も完全解明を目論んだわけではなく、調査の規模からして予備検討的な研究であると本文で述べています。しかし、それでも予想を上回る重要な結果が得られています。個人的には大変意義のある良い論文だと思いました。


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アロエは巨大に育つものがあります。Aloe feroxやAloe marlothiiなどは高さ数メートルに育ち、数十センチメートルの花序を沢山出します。しかも、このような巨大アロエは蜜の量も非常に多く、蜜を求めて様々な生き物が訪れます。当然ながらアロエは受粉をしてもらうために蜜を求める生き物を利用するわけですが、この蜜は他の生き物にとっても重要です。アロエは大抵は赤・橙・黄色系統の花を咲かせる種類が多く、色で花を探す鳥類や赤系統の花を好むミツバチやマルハナバチに対するアピールなのかもしれません。蜜の量が多ければ、ネズミなどの小型の哺乳類も蜜を舐めに来るかもしれません。
アフリカには花の蜜を専門として生きるタイヨウチョウ(sunbird)が分布します。アメリカ大陸にはやはり花の蜜で生きるハチドリがいますが、タイヨウチョウもハチドリと同じく非常にカラフルで美しい鳥として知られています。そして、アロエにもタイヨウチョウが訪れることが知られていますが、その受粉への貢献度について詳しくはわかっていませんでした。

本日ご紹介するのは、Aloe feroxの受粉に貢献する鳥について調査した、Carolina Diller, Miguel Castaneda-Zarate and Steven D.Johnsonの『Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文です。論文は2019年と最近のものです。
内容に入る前に少し用語の解説をします。生物の世界では、何かに対し専門的に特化したスペシャリスト(specialist)と、様々なものに浅く広く対応したジェネラリスト(generalist)が存在します。例えば、ある食物Xを食べることに特化したスペシャリストに対して、ジェネラリストはスペシャリストほど上手くXを食べることが出来ないということは良くあります。ただし、スペシャリストはX以外の食物も食べることが出来ます。スペシャリストとジェネラリスト、どちらが有利かはわかりません。なぜなら、スペシャリストもジェネラリストも存在するからです。環境次第ではないでしょうか。また、スペシャリストと一口に言っても、必ずしもジェネラリストよりも効率的に上手く出来るとは限らず、単純にそのXに依存しているだけの場合もあります。
次に受粉を行う生物を花粉媒介者と言いますが、一般的にはポリネーター(pollinator)と呼びます。アロエには様々なポリネーターが訪れます。

論文ではAloe feroxを観察し、アロエにポリネーターが訪れたあとに
花の柱頭に着いた花粉を数えました。Aloe feroxは高さ5mになるアロエで、最大13本の総状花序を出し、1本の総状花序には約280個の花が咲きます。調査は2017年の開花期にあたる、8月の乾季に南アフリカのLower Mpushini Valley自然保護区において、Aloe feroxの大規模な500以上の大群落において実施されました。
Aloe feroxを訪れた鳥は、スペシャリストとしてアメジストタイヨウチョウ(Chalcomitra amethystina)、ジェネラリストとしてサンショクヒヨドリ(Pycnonotus tricolor)、ハタオリドリ(Ploceus spp.)、アカガタテリムク(Lamprotornis nitens)でした。ハタオリドリはフィールドの観察では種類の特定までは出来なかったようです。
観察期間中、アメジストタイヨウチョウが4回で24個の花に、サンショクヒヨドリは10回で92個の花に、ハタオリドリは5回で45個の花、アカガタテリムクは6回で69個の花に訪れました。
観察期間の12日間にAloe feroxを訪れたスペシャリストは77羽、ジェネラリストは242羽でした。スペシャリストはアメジストタイヨウチョウが71回、シロハラタイヨウチョウが6回訪れました。ジェネラリストはハタオリドリが79回、アカガタテリムクが65回、サンショクヒヨドリが60回、クロオウチュウ(Dicrurus adsimilis)が20回、チャイロネズミドリ(Colius striatus)で18回でした。


さて、実際にAloe feroxの柱頭に付着した花粉を調べると、面白い結果が得られました。スペシャリストが訪れてもAloe feroxにはあまり花粉は付かないというのです。ポリネーターが入らないように網を被せた花と違いが見られなかったのです。ポリネーターが訪れなくても、多少は自分の花粉が付いてしまうこともあるのですが、スペシャリストはそのレベルあったということです。逆にジェネラリストの訪れた花は、スペシャリストの訪れた花の倍以上の花粉が付いていました。つまりは、Aloe feroxにとって、スペシャリストであるタイヨウチョウよりもジェネラリストの方が優れたポリネーターであるということです。

スペシャリストの嘴は長く、ジェネラリストの嘴は短いからであると言われることがあるようです。しかし、今回の観察期間中の鳥を調べると、スペシャリストとジェネラリストの嘴の長さに差はありませんでした。違いは嘴の太さで、スペシャリストの嘴は細くジェネラリストの嘴は太いということです。今回の観察期間中では、ジェネラリストはスペシャリストよりも大型でした。ジェネラリストは蜜を吸うために、顔を花に突っ込みその時に頭で雄しべを押し広げていることが観察されました。逆にスペシャリストのタイヨウチョウは、小さい頭に細い嘴、長い舌を持つため、雄しべに触れないで蜜を吸うことが出来るのです。よって、Aloe feroxに対してタイヨウチョウは蜜泥棒ということになります。

以上が論文の内容となります。
蜜を餌とする専門のタイヨウチョウが、受粉に寄与しないという驚くべき論文でした。2点ほど補足説明をしましょう。
まず1つ目は、Aloe feroxとタイヨウチョウの目的が異なることです。Aloe feroxはポリネーターに受粉してもらうために蜜を準備しているわけですが、タイヨウチョウは受粉を助けるために花を訪れているわけではありません。タイヨウチョウからすれば、いかに効率的に蜜を得られるかが重要なのであって、Aloe feroxが受粉するか否かはどうでも良いことです。邪魔な雄しべに触れないで、素早く嘴を花に差し込んで蜜だけを抜き取る。正にスペシャリストの技です。この場合、タイヨウチョウの方が一枚上手と言えます。対して、ジェネラリストはタイヨウチョウのようにスマートに蜜を得られません。しかし、下手だから頭を花粉だらけにして、上手いことAloe feroxに利用されて、知らずに受粉の手助けをしているのです。
2つ目は、これはAloe feroxに対するタイヨウチョウのポリネーターとしての能力がないと言っているだけで、他の植物の花では異なるかもしれないということです。例えば、Gasteriaはタイヨウチョウをポリネーターとしています。この場合、タイヨウチョウは花の蜜に特化したスペシャリストですが、Gasteriaはタイヨウチョウに特化した一段レベルの高いスペシャリストです。不特定多数の花の蜜を利用するタイヨウチョウは、自分をターゲットにしたGasteriaに上手く利用されているのです。
野生の生き物は何も相手を思いやって行動しているわけではなく、あくまで自分の利益のために行動しています。ですから、Aloe feroxとタイヨウチョウの関係は、上手く噛み合わなかっただけで、Aloe feroxがへまをしたわけでもタイヨウチョウが上手く出し抜いたわけでもありません。この関係は偶然の産物と言えます。
実はスペシャリストの訪問を妨げたりジェネラリストを呼ぶ算段を用意している植物もあります。ではAloe feroxが無策であるのは何故なのか気になります。考えたこととして、小型のアロエは花の数が少ないため受粉は確実性が欲しいでしょうから、蜜泥棒対策は必要でしょう。しかし、数えきれないほどの花を咲かせるAloe feroxは、そのすべての花が受粉しなくても十分なのかもしれません。無駄が多いようにも感じられますが、スペシャリストを妨げたりすることにも相応のコストがかかります。要するに戦略が異なるだけではないでしょうか。大型だからコストをかけて花を沢山咲かせる戦略、小型だから花は少ないけれど蜜泥棒対策にコストをかける戦略という、サイズに合わせた現実的な戦略を講じているわけです。

植物とポリネーターの関係は非常に複雑で面白く感じます。この論文では蜂の影響を避けるため、蜂が活発に活動する時間帯は花に網を被せていました。では、蜂の受粉に対する貢献度はいかほどでしょうか? また、このような大型アロエでは、ネズミなどの小型哺乳類も蜜を求めて訪れます。小型哺乳類の多くは夜行性ですから、昼行性の鳥類とは競合しないでしょう。では、小型哺乳類はアロエとどのような関係を築いているのでしょうか? どうにも気になることが沢山出て来てしまいました。最近は忙しく中々じっくりと論文を探す時間が取れませんが、少しずつ調べていくつもりです。


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