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カテゴリ:アロエ・ハウォルチア > アロエ

既知の生物にはすべて学名が付けられています。しかし、この学名の特に種小名は一見して由来が分からないものも沢山あります。学名の基本は属名+種小名です。ヒトの学名はHome sapiens、つまりHomo=ヒト属+sapiens=賢い、となります。植物の種小名を見ていると、①特徴を表したもの、②採取された地名に因むもの、③献名、という3パターンがあります。

①特徴を表したものは、「albiflora=白い花」のように見たままの特徴から来ていたり、「mirabilis=素晴らしい」のように抽象的なものもあります。

②採取された地名に因むものは、「japonica=日本の」、「chinensis=中国の」などは我々の身近な植物にはよくあります。しかし、あくまで採取地点ですから、最も個体数が豊富な分布の中心ではなく、飛び地のように僅かに生える場所に因んでいることも珍しくありません。また、日本には大陸から園芸用に様々な木々が持ち込まれましたが、江戸時代に日本を訪れたヨーロッパ人たちはそれらが日本で採取されたため、本来は分布しないのに日本の地名に因んだ名前を付けたりしました。しかし、実際には種小名はあくまで命名のための記号に過ぎないので、意味を問う必要性は皆無でしょうし、それらが訂正されることはありません。
この問題は①の特徴を表したものにも関係します。例えば、赤系統の花を咲かせる植物に、少しクリーム色の新種が発見された場合、「albiflora」と命名されたとしましょう。しかし、その後により白い花の新種が見つかった時、実態に合わせて種小名を変更したらどうなるでしょうか? おそらくは混乱します。2つの植物が同じ名前で呼ばれていたという事実は、禍根を残します。さらに、最も適した特徴の新種が見つかった場合、その都度学名を変更しなければなりません。これでは学名は不安定すぎて、同じ名前の植物について書かれていても、時代や人により異なる植物を示しているなんてことになりかねません。学名について書かれた論文を読んでいるとよく目にする「学名の安定のため」という文言は思った以上に重大なものなのかも知れません。

③の献名については、実はよく分かりません。論文を読んでいると、発見者や採取者、その分野の著名な研究者から来ていたりしますが、必ずしもそうではないような気がします。

前置きが長くなりましたが、今日の本題はこの献名についてです。献名のルールのようなものがあるのかよく分かりませんが、私は全く知らなかったため、何か参考になる論文はないかと少し調べて見ました。見つけたのが、Estrela Figueiredo & Gideon F. Smithの2011年の論文、『Who's in a name: eponymy of the name Aloe thompsoniae Groenew., with notes on naming species after people』です。論文の趣旨は簡単で、Aloe thompsoniaeというアロエは誰に対する献名なのかという話です。

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Aloe thompsoniae

Aloe thompsoniaeはアフリカ南部の中では最も小さいアロエの1つです。Section Graminaloe Reynoldsに属するグラスアロエです。A. thompsoniae は南アフリカのリンポポ州の標高1500mを超える雲霧帯に分布します。
さて、1936年にGroenewaldがAloe thompsoniae Groenewという学名を発表しました。しかし、この「thompsoniae」が誰に対する献名であるかは混乱しており、Groenewaldも誰に対するものか記していません。しかし、1941年に出版されたGroenewaldのアロエに関する本では、「Mev. Dr. Thompson」、つまりはMrs. Dr. Thompsonという名前を繰り返し使用しています。どうやら、Thompson夫人が様々なアロエを採取したようです。しかし、いつしか「Mev.(=Mrs.)」が忘れ去られて、「Dr. Thompson」だけが独り歩きしたようです。
Reynoldsは献名を誤解した最初の著者で、1946年の著書ではThompson夫人をThompson博士と呼び、「Thompson博士が最初に植物を採取し始めたのは1924年頃」と述べています。しかし、それは実際には「Mev. Dr. Thompson」、つまり医師であったThompson博士の妻であるThompson夫人のことでした。ちなみに、Thompson夫人は博士号は持っていません。

GroenewaldはA. thompsoniaeのタイプ標本を指定しませんでした。後の1995年に、Glen & Smithによりレクトタイプ化されました。選ばれた標本はReynoldsにより示唆された1924年のものではなく、1930年にThompson夫人により収集されたとあります。Glen & SmithはThompsonという姓を「Sheila Clifford Thompson」という名前に関連付けました。これは、Gunn & Coddの1981年の植物収集家のリストにThompson夫人の記載がなかったせいかも知れません。その後、Sheila Clifford ThompsonはLouis Clifford Thompsonの母親であることが分かりました。また、Sheila Clifford Thompsonの娘であるAudrey Thompsonとする場合もありました。

この誤りは文献やインターネットで流布しています。Aloe thompsoniaeに献名されているのは、正しくはEdith Awdry Thompson(旧姓Eastwood)を示しており、Dr. Louis Clifford Thompsonと結婚しています。Sheila Clifford ThompsonはThompson夫人の娘です。

1903年、Awdry Thompsonは子供の頃、南アフリカのリンポポ州にあるHaenertsburg近くにあるWoodbushに到着しました。彼女は植物収集経験がある両親であるArthur Keble EastwoodとJane Mary Emma Eastwoodの影響により植物収集を開始しました。1910年にPaul Ayshford Methuenが訪れ、動植物の収集旅行をしたことにより、より関心が高まりました。彼女の標本から命名されたいくつかの動物には「eastwoodae」と献名されています。彼女の回想において、「私が夫とLowveldの農民であるHarry Whippと共に馬に乗り、放牧されていたHarryの牛を調べていた時、Wolkbergの山頂の平坦な場所でいくつかの岩の間で育っていました。」と、A. thompsoniaeの発見を記しています。

アロエに献名された女性は僅か19人しかいませんが、Awdry Thompsonはその1人です。Carl von Linneの時代から、植物学での業績や新種の発見者を称えるため、献名が行われてきました。例えば、2009年から2011年にかけて12種類のアロエに対し献名がなされましたが、そのすべてが植物学者やアマチュア研究者、採取者に対するものでした。しかし、アロエ以外の植物ではここ数年間で富裕者が献名の権利を購入するという新しい慣行が出現しました。金品と引き換えに名誉を得ようというこの慣行に対し、多くの植物学者は嘆かわしいことであると感じています。

献名は命名に際して一般的ですが、それが誰に対する献名か記載がない場合があります。しかし、それでは献名の持つ、特定の人物を記念するという目的に反します。場合によっては命名者しか知らない無名の人物に対する献名すら存在します。しかし、それらを禁ずる規則はありませんが、誤った人物と関連付けられる可能性に留意が必要です。よって、献名すらならば、献名する人物に対する情報を添付することをお勧めします。また、ラテン語は性別により語尾が変化しますから、性別についても述べる必要があります。A. thompsoniaeも男性にちなんで命名されたと勘違いされ、Aloe thompsoniとされたこともあります。

以上が論文の要約になります。
学名の由来についても記載がある図鑑を読んでいると、由来がはっきりしなかったり、複数の人物のいずれかの可能性があるなど、大変歯切れが悪いものが多くあります。命名は生物を分類することを目的としていますから、本質的には由来は重要ではありません。しかし、1753年以来、数多くの学者が活躍し数えきれないくらいの生物が命名されて来ました。最早、生物の発見や研究、命名ですら歴史となっています。過去の命名や発見に関する論文も、まだ数は少ないものの出て来ています。しかし、このような調査は古い資料の渉猟など、とにかく手間がかかりますから、やはり著書らが主張するように誰に対する献名が明記していただくのが最善なのでしょう。


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先日、ワシントン条約で国際取り引きが規制されているアロエについての記事を書きました。もっとも厳しく規制される附属書Iに記載されたアロエはマダガスカル原産のものばかりです。何故なのでしょうか?

CITES2018のアロエ属についての記事はこちら。

調べたところ、2014年と少し古いのですが、マダガスカルのアロエの保全状況を評価した、Solofo E. Rakotoarisoa, Ronell R. Klopper & Gideon F. Smithの論文、『A preliminary assessment of the conservation status of the genus Aloe L. in Mdagascar』です。早速、見てみましょう。

マダガスカル島には128種類のアロエが自生しますが、すべて固有種であり限られた狭い分布と個体数が少ないことが特徴です。マダガスカルのアロエは、環境破壊と人間の活動の影響を受けやすいとされますが、その保全状況は良く分かっていませんでした。様々な情報を収集し分析すると、マダガスカルのアロエの約39%が何かしらの理由で脅かされており、懸念が少ないのは4%に過ぎませんでした。しかし、最大の問題は、マダガスカルのアロエの約50%は情報が乏しく評価出来ませんでした。つまり、マダガスカルのアロエの半数について、どれだけの種が絶滅の危機に瀕しているのか不明なのです。状況は考えられているよりも悪い可能性もあるのです。

幾つかの種類を除いて、マダガスカルのアロエの分布は非常に狭いことから、山火事や違法採取に対して脆弱です。ちなみに、マダガスカルからの園芸用植物輸出の86%はアロエです。
CITES2014の附属書Iに記載されている21種類のうち、17種類はマダガスカル原産です。その他のアロエも附属書IIに記載されています。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックに記載されているマダガスカルのアロエは、Aloe suzannaeとAloe helenaeで、ともに絶滅危惧種です。しかし、マダガスカルのアロエの保全状況が不明なため、完全なものとは言えません。

それでは、実際のマダガスカルのアロエの保全状況を見てみましょう。ここでは、保全状況を7つに分類しています。危機の度合いは①が高く⑥が低いという並びです。ここに名前がないマダガスカルのアロエは⑦の情報不足に入ります。

①絶滅種(EW)
1, A. oligophylla
2, A. schilliana
3, A. silicicola
 
②絶滅危惧IA類(CR)
ごく近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高いもの。
1, A. acutissima v. fiherenensis
2, A. calcairophila
3, A. descoingsii
4, A. fragilis
5, A. guillaumetii
6, A. helenae
7, A. hoffmannii
8, A. ivakoanyensis
9, A. mandotoensis
10, A. millotii
11, A. mitsioana
12, A. orientalis
13, A. suzannae
14, A. virgineae

③絶滅危惧IB類(EN)
絶滅の可能性が高いもの。
1, A. andringitrensis
2, A. antonii
3, A. antsingyensis
4, A. betsileensis
5, A. capitata v. angavoana
6, A. capitata v. capitata
7, A. capitata v. silvicola
8, A. cipolinicola
9, A. conifera
10, A. delicatifolia
11, A. deltoideodonta v. brevifolia
12, A. deltoideodonta v. intermedia
13, A. edouardii
14, A. erythrophylla
15, A. fievetii
16, A. gneissicola
17, A. isaloensis
18, A. laeta
19, A. leandrii
20, A. newtonii
21, A. parallelifolia
22, A. parvula
23, A. rauhii
24, A. rosea
25, A. sakarahensis
26, A. schomeri
27, suarezensis
28, A. trachyticola
29, A. versicolor
30, A. viguieri

 ④絶滅危惧II類(VU)
絶滅の危機が増大しているもの。
1, A. acutissima v. acutissima
         (ssp. acutissima)
2, A. acutissima v. antanimorensis
3, A. analavelonensis
4, A. bellatula
5, A. compressa
6, A. deltoideodonta v. candicans
7, A. haworthioides
8, A. ibitiensis
9, A. madecassa
10, A. perrieri
11, A. vaotsanda

⑤準絶滅危惧(NT)
現在は絶滅の可能性は少ないが、生息状況の変化によっては絶滅危惧種に移行する可能性があるもの。
1, A. antandroi
2, A. bakeri
3, A. bulbillifera
4, A. capitata v. quartziticola
5, A. deltoideodonta v. deltoideodonta
6, A. macroclada
7, A. socialis


⑥低危険種(LC)
絶滅の懸念は少ない。
1, A. beankaensis
2, A. divaricata ssp. divaricata
3, A. divaricata ssp. vaotsohy
4, A. imalatensis
5, A. occidentalis
6, A. vaombe

⑦情報不足(DD)
評価するための情報がないか少ない。

以上が論文の簡単な要約です。さて、見てお分かりのように、絶滅の可能性がある種がほとんどで、絶滅の懸念が少ない低危険種はたった6種類に過ぎません。マダガスカルのアロエの危機的状況が分かります。しかし、一番の問題は情報不足が半数種に及ぶことです。情報のない種はすでに絶滅、あるいはこの瞬間にも絶滅しかけているかもしれないのです。もし、保全をするにせよ、現在のアロエの詳しい情報が必要です。調査は急務でしょう。
問題はまだあります。マダガスカルのアロエは生息地が非常に狭いため、開発などにより一気に絶滅してしまう可能性があるということです。例えば、2014年のこの論文では、Aloe bakeriは準絶滅危惧種であり、現在は絶滅の可能性は少ないとされています。しかし、2010年のCastillonの報告によると、港湾や空港開発のためにAloe bakeriの分布する岩場が切り出されてしまい、すでに絶滅していたというのです。キュー王立植物園のデータベースでも絶滅したことが示されています。このように、マダガスカルではそれほど危機になかったアロエでも、一瞬で絶滅に追いやられてしまいます。正確な調査と保全が実施されることが望ましいのですが、口で言うほど簡単ではないでしょう。知らない間に、沢山のアロエが絶滅していたなんてことならなければいいのですがね。



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先日、ワシントン条約で規制されるユーフォルビアについての記事を書きました。CITES2018からユーフォルビアの項目を抜粋しましたが、CITESには他にも沢山の多肉植物が記載されています。今日はアロエについて見てみましょう。  

流通
アロエ属はサハラ以南のアフリカ、アラビア半島、マダガスカル及びアフリカ東海岸沖の島々に、様々な環境で500種類以上が自生します。また、多くの種が野生化し帰化植物と化し、一部は侵入種と見なされています。Aloe vera以外のアロエの全種類は、CITESの附属書に記載されています。

判別
小さな多肉植物から背の高い木本までアロエは様々です。花は黄色から赤色が普通です。ほとんどの種は葉の縁に沿って鋭いトゲを持ちますが、リュウゼツランの仲間に見られる葉の先端の鋭いトゲはありません。葉は茎の末端にロゼットを形成し、古い葉が枯れ葉の「スカート」を形成することがあります。葉は簡単に折ることができ、無色のゲル状の物質があります。これは、一部の種類では酸化すると黄褐色からオレンジ色に変わります。

分類学
CITESでは、アロエ属にはAloidendron、Aloiampelos、Kumara、Chortolirionを含んだものを示しています。

用途
アロエは様々な用途に使用されます。まず、観葉植物としての人気があり、乾燥地の造園に使用されます。取り引きされる主要なアロエ製品は、Aloe veraとAloe feroxの葉のゲルで、化粧品やサプリメント、食品、香料、医薬品まで多目的に使用されます。医薬品としては、その抗酸化作用と抗菌性を利用して、皮膚や消化器の病気に使用されます。Aloe veraによる製品の世界市場は130億米ドルに達したと推定されており、取り引き量の増加することにより、Aloe veraと誤って別種のアロエが使われてしまう可能性もあります。
アロエから取れる苦い黄褐色の樹液も国際的に取り引きされ、主にAloe feroxから採取されます。

商業
商業目的の附属書Iのアロエの国際取り引きは禁止されています。ただし、人工繁殖させた植物の商取引は許可されています。
人工繁殖した附属書IIのアロエは米国、中国、ドミニカから輸出され、日本やカナダに輸入されます。Aloe feroxは南アフリカとマダガスカルから輸出され、オランダとドイツに輸入されています。南アフリカのAloe feroxは野生植物が採取されており、過去10年間で560万トンが輸出されています。Aloidendronは日本で人工繁殖され、取り引きされています。

附属書 I
附属書Iは
絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の種類です。

1, Aloe albida

2, Aloe pillansii

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3, Aloe pollyphylla

4, Aloe vossii

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5, Aloe albiflora

6, Aloe alfredii

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7, Aloe bakeri

8, Aloe bellatula

9, Aloe calcairophila

10, Aloe compressa

11, Aloe delphinensis

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12, Aloe descoingsii

13, Aloe fragilis

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14, Aloe haworthioides

15, Aloe helenae

16, Aloe laeta

17, Aloe parallelifolia

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18, Aloe parvula

19, Aloe rauhii

20, Aloe suzannae


以上は附属書Iに記載されたアロエです。しかし、実はアロエのかなりの種類は、実際に調査が行われていないことから、絶滅の可能性があるか判定できていません。そこら辺の話について早速論文を見つけましたので、明日記事にする予定です。


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アロエの多くは、長い管状の橙・赤系統の花を咲かせ、蜜を求めて訪れた鳥により受粉する鳥媒花と考えられています。また、一部のアロエは比較的短い管状の白色かクリーム色の花を咲かせますが、これらは昆虫により受粉する虫媒花とされます。
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Aloe parvula

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Aloe albiflora

しかし、実際に観察や受粉の確認を調査されたアロエは少ないのが現状です。過去の研究は非常に重要な知見ですが、それを証拠に未調査のアロエについて語ることは果たして出来るのでしょうか? 私は一部の結果からすべてを結論付けることは非常に危ういと思います。ですから、花粉媒介のシステムについて何か面白い論文はないか探ってみました。見つけたのが、C. Botes, P. D. Wragg, S. D. Johnsonの2009年の論文、『New evidence for bee-pollination systems in Aloe (Asphodelaceae: Aloideae), a predominantly bird-pollinated genus』です。

一般的にアロエの受粉には鳥が重要であり、蜜蜂はアロエの受粉に寄与しない、いわゆる蜜泥棒(盗蜜者)とされています。しかし、著者らは蜜蜂とアロエの関係を見直しています。論文で観察されたのは、淡いピンクがかったクリーム色の花を咲かせるAloe minimaと、明るい緑がかった黄色の花を咲かせるAloe linearifoliaです。自生地はアロエの蜜を訪れる太陽鳥が複数種分布する地域だそうです。
さて、まずは実験的にこれらのアロエの花を自家受粉させてみましたが、ほとんど種子は出来ませんでした。次にアロエを網で覆い鳥が入れない状態にした場合、蜜蜂は網目から侵入しアロエの蜜を吸いました。この場合は鳥の受粉への影響がない状態ですが、アロエは種子が出来ました。さらに、自家受粉はほとんどしないことも確認済みですから、これらのアロエは蜜蜂により受粉していることが明らかになったのです。
ということで、著者らは考えられていた以上にアロエの受粉には蜜蜂が重要かも知れないとしています。
花の特徴を調べたところ、2種類とも花は紫外線を反射しました。動物は目で捉えられる波長が異なるため、紫外線を見ることが出来る昆虫にとっては、紫外線の反射は意味があるようです。また、これらのアロエの花は揮発性物質を放っており、その香りは人間の鼻でもわかる強さです。香りはテルペノイドとベンゼノイドが主要なものでしたが、A. minimaは6種類、A. linearifoliaは実に17種類の香り物質が検出されました。実際にA. linearifoliaの方が香りは強いそうです。このような花の特徴は虫媒花の特徴とされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。以前にも記事にしましたが、Aloe feroxの花の受粉は主に蜜を吸う専門家である太陽鳥ではなく、蜜を専門としない日和見の鳥が受粉の主体であるという面白い結果でした。この時、蜜蜂は受粉に寄与しないことが確認されています。しかし、Aloe feroxは巨大アロエであり、むしろ特殊な例かもしれません。この論文からは、多くの中型~小型アロエの受粉に蜜蜂が関与している可能性すらあるのです。今後、もっと沢山の種類のアロエの受粉について調査がなされるべきでしょう。
また、論文で調査されたクリーム色や薄い黄色などの淡い色合いで香りがある花には、一般的に蛾が訪れる蛾媒花が多い傾向があります。夜間の調査も必要ではないかと感じました。


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植物の種子はある程度は保存出来るものが多く、種の保存にとって種子の長期保存は有効な手段である可能性があります。種の保存には幾つかの方法がありますが、採取した植物を栽培して維持することは植物園や大学などの研究機関の重要な仕事です。しかし、同じ種類の植物でも遺伝的な多様性があることが本来の姿ですが、このような栽培個体は遺伝的な多様性が低いことが問題です。自生地での野生植物の消滅により栽培植物を移植しようとした場合に、その全てが株分けした遺伝的に均一なクローンだったり、血縁関係にある兄弟ばかりでは、種子が出来なくなりやがて消滅してしまいます。解決策は自生地と同じくらい遺伝的多様性を栽培植物で維持出来れば良いのですが、ただ1種類の植物を維持するだけで大変な労力と場所と資金がかかってしまいます。当然それは専門知識を持つ研究者が行わなければなりませんから、地球上の絶滅の危機に瀕している植物すべてをというのは明らかに無理でしょう。しかし、原産地から種子を回収して保存しておけば、将来の絶滅に備えることが可能です。沢山の種子を採取しておけば遺伝的多様性も保たれますし、人工的に栽培する場合と異なり場所も手間もかかりません。ですから、種子の保存に関しては興味があります。
確か、種の保存を目的として、実際に様々な植物の種子が凍結保存されていると聞いたことがあります。しかし、その凍結種子を撒いて植物が育ったという話は聞いたことがないため、気になっていました。なぜなら、一般的に生物を凍結すると細胞内の水分が凍ってしまい、氷の結晶が出来て細胞が破壊されてしまいます。解凍した肉や魚から赤い汁(ドリップ)が出るのは、これが原因です。種子は水分が少ないので細胞の破壊は免れるのでしょうか? また、凍った水分は凍結した時間が長くなると、やがて液体になる融解を経ずに直接気体になります。これを昇華と呼びますが、凍結種子は大丈夫なのでしょうか?

とまあ前提が長くなりましたが、要するに凍結種子が本当に芽生えるのかが気になっていた訳です。せっかくだから、多肉植物で何か関係がありそうな論文を探してみたところ、面白そうなものを見つけました。S.R.Cousins, E.T.F.Witkowski, D.J.Mycockの2014年の論文、『Seed strage and germinatiom in Kumara plicatilis, a tree aloe endemic to mountain fynbos in the Boland, south-western Cape, South Africa』です。タイトルの通りKumara plicatilisの種子を温度を変えて保存し、生存率を確認しています。ちなみに、このKumara plicatilisとは、いわゆるAloe plicatilisのことで、2013年にアロエ属から分離しクマラ属となりました。日本では「乙姫の舞扇」というあまり使われない名前もあります。

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Kumara plicatilis

まず、実験の基本的な前提から見ていきましょう。K. plicatilisの新鮮な種子は2010年12月にRawsonville/Worcester近くの40個体から採取されました。採取した種子は茶色の紙袋に入れて実験室で3ヶ月保管されました(※1)。空の種子は除かれました。2400個の種子を300個×8に分け、さらにそれぞれを20個を1本の密封容器に入れました。
種子は4つの温度で、4ヶ月及び9ヶ月保管されました。設定された温度は、マイナス80度、4度、25度、研究室内の4つです。期間は12月から2月で、ヨハネスブルグでは夏にあたるそうです。

※1 ) K. plicatilisの種子は種子が出来た後、直ぐに種子を撒くとあまり発芽しません。ある程度の後熟期間を必要としています。

結果を見ていきましょう。
まずは発芽率です。12時間で昼と夜が切り替わる培養機で、日中は25度、夜間は15度に設定して発芽させました。マイナス80度で保存された種子は、保存期間に限らず発芽が早く、平均5.9日でした。逆に研究室内で保存された種子は平均7.8日で発芽しました。
また、18週間の間に発芽しない種子は、種子の生存を確認する試験(テトラゾリウム試験)を実施しました。つまり、試験後の種子は、①発芽した種子、②空になった死亡種子、③テトラゾリウム試験により生存を確認した種子、④テトラゾリウム試験により死亡を確認した種子、の4種類です。重要な①と③、さらには①と③を足した生存率を見ていきましょう。
4ヶ月保存した種子では、マイナス80度で①90.4%+③4.8%=95.2%、4度では①87.6%+③10.0%=97.6%、25度では①78.0%+③14.0%=92.0%、室内では①80.4%+③16.4%=96.8%でした。4ヶ月保存では種子を冷やした方が発芽率は良く、室内保存では種子の生存率は高いものの発芽率は低下しました。
次に9ヶ月
した種子では、マイナス80度で①39.6%+③52.4%=92.0%、4度では①39.2%+③50.0%=89.2%、25度では①79.6%+③15.2%=94.8%、室内では①88.8%+③4.8%=93.6%でした。不思議なことに、9ヶ月の保存では発芽率は種子を冷却した方が発芽率が低下したのです。

さて、著者らは①発芽率+③生存種子を重視しており、長期の低温条件が種子の休眠を誘発する可能性を指摘しています。一般的に秋に出来た種子が直ぐに発芽せず、一度低温にさらされることにより、春に種子が休眠から目覚めるというプロセスがあります。しかし、この場合は逆ですが低温による休眠の可能性も論文になっているようです。著者らは長期冷蔵は種子にとって環境ストレス要因であるとしておきながらも、逆に休眠状態に入ることは種子寿命を伸ばす可能性を上昇させるとしています。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、この論文にはまだ曖昧な部分があります。それは、テトラゾリウム試験で生存しているとは一体どういう意味を持つのかということです。胚乳や子葉が生存していても、幼根や幼芽の原器あるいは胚軸にダメージがあれば生存していても発芽は出来ないでしょう。生存していても発芽出来ないのなら、冷却による長期保存の利点はありません。著者らは種子寿命が伸びると言っていますが、発芽しない種子を一体どうしようというのでしょうか? よくわかりません。種子から胚を摘出して組織培養するのなら、あるいは可能なのかもしれませんが。
さて、論文を読むと実際に行われている種子の凍結保存に対して、ある種の疑念が湧きます。将来のために凍結された種子たちは将来、果たして無事に発芽出来るのでしょうか? もちろん、これはK. plicatilisというと1種類の植物に対してだけの結果です。しかし、凍結保存された種子たちが、その全ての種類で発芽試験が実施されているとは思えません。しかも、種の保存を目的とした場合、4ヶ月や9ヶ月どころではなく、最低でも数十年という保存期間が必要なはずです。種子の冷凍保存は本当に長期保存に最適な方法なのでしょうか? 個人的には組織培養したカルスを液体窒素につけておけば、何十年も保存可能なはずです。確かに組織培養に移行するのは手間がかかりますが、確実性は高い気がします。


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昨日に引き続きAloe of the world: When, where and who?』という論文をご紹介しています。昨日はアロエ属が誕生した1753年から、1930年までの約180年間のアロエの歴史を見てきました。本日は1930年代から、いよいよアロエ属の権威であるReynoldsが登場します。また、2000年以降は現在も活動している研究者の名前が現れます。また、例によって、所々に※印で私が注釈を入れました。では、アロエの歴史を見てみましょう。

1931~1940年
1930年代からアロエ属研究の第一人者であるG. W. Reynoldsが登場します。N. S. PillansやB. H. Groenewaldと共にアフリカ南部から膨大な数のアロエを記載しました。アフリカ南部からReynoldsは24種類、Pillansは9種類(1種類はSchonlandと共著)、Groenewaldは6種類を記載しました。ReynoldsのライバルであったH. B. Christianは南熱帯アフリカから8種類(1種類はE. Milne-Redheadとの共著)のアロエを記載しました。
O. Stapfはグラスアロエのために新属Leptaloeを創設しました(※7)。また、A. LemeeはA. Bergerのアロエの分類におけるSection Aloinellaeを属に格上げし、Aloinella Lemeeを創設しました(※8)。
他には、J. Leandriはマダガスカルの新しいLomatophyllumを、A. A. Bullockは東熱帯アフリカ、L. Bolusはアフリカ南部、I. B. Pole Evansはアフリカ南部、C. L. Lettyはアフリカ南部、A. Guillauminはマダガスカルから、それぞれアロエを1種類記載しました。
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Aloe spectabilis Reynolds (1937年命名)

※7 ) Leptaloe属はAloe myriacanthaを5種類に分けていました。また、Aloe minima、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe albidaが含まれていました。しかし、Leptaloe属は現在では認められていません。

※8 ) Aloinella属はAloe haworthioidesが含まれていましたが、現在では認められていません。
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Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides


1941~1950年
1940年代初頭にB. H. Groenewaldはアフリカ南部のアロエに関する本を出版しました。また、1940年代のReynoldsは、『The Aloes of South Africa』という画期的なアロエの本を出版するために集中したため、アフリカ南部のアロエはあまり記載されませんでした。しかし、1950年に出版されたReynoldsの本はアロエの標準的な教科書となりました。
その間に、H. B. Christianは南熱帯アフリカと東アフリカで活発に活動し、東熱帯アフリカから6種類、南熱帯アフリカから2種類(1種類はI. Verdoornとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。Guillauminはマダガスカルから3種類のアロエと、Lomatophyllumを記載しました。
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Aloe descoingsii Reynolds (1958年命名)

1951~1960年
1950年代、Reynoldsはアフリカ東部と北東部、及びマダガスカルに注意を向けました。以前のReynoldsはリンポポ川の北は調査しないというChristianとの合意によりアフリカ南部に集中していましたが、1950年にChristianが亡くなったため調査範囲が広くなったのです。Reynoldsは42種類もの新種のアロエを記載しました。内訳はアフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから6種類、東熱帯アフリカから9種類、北東熱帯アフリカから17種類(6種類はP. R. O. Ballyとの共著)、西中央熱帯アフリカから7種類でした。
また、Christianの死後に4種類のアロエが記載されました。南熱帯アフリカから1種類、北東熱帯アフリカから1種類、東熱帯アフリカから2種類(I. Verdoornとの共著)でした。
D. M. C. DrutenはUrgineaとされていたAloe alooides (Bolus) Drutenをアロエ属としました(※9)。P. R. O. BallyとI. Verdoornは北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
A. Bertrandはマダガスカルのアロエのために新属Guillauminiaを提唱しました(※10)。


※9 ) Urginea属は現在Drimia属の異名とされています。Drimia、Albuca、Schizocarphus、Fusifilum、Dipcadi、Ledebouria、Prospero、Austronea、Ornithogalum、Trachyandraを含んでいた非常に雑多なグループでした。

※10 ) Guillauminia属には、Aloe albida、Aloe bakeri、Aloe ballatula、Aloe descoingsii、Aloe carcairophila、Aloe rauhiiが含まれていました。しかし、Guillauminiaは現在では認められていません。
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Aloe bakeri
=Guillauminia bakeri


1961~1970年
Reynoldsは熱帯アフリカとマダガスカルで調査を続け、1966年に『The Aloes of Tropical Africa and Madagascar』を出版しました。この本も出版から数十年に渡り標準的なアロエ属の教科書となりました。Reynoldsはマダガスカルから4種類、北東熱帯アフリカから3種類(2種類はP. R. O. Ballyとの共著)、東熱帯アフリカから4種類、南熱帯アフリカ~アフリカ南部から1種類、南熱帯アフリカから7種類、アラビア半島から1種類のアロエを記載しました。
1960年代、J. J. Lavranosはアラビア半島から6種類のアロエを記載しました。
他には、W. Rauhがマダガスカルから1種類、I. Verdoornはアフリカ南部から3種類、(1種類はD. S, Hardyとの共著)、L. C. Leachはまだ南熱帯アフリカから1種類、J. M. Bosserはマダガスカルから3種類、W. Giessはナミビアから1種類のアロエを記載しました。


1971~1980年
J. J. Lavranosはアロエ研究を続け、アフリカ南部から2種類、アラビア半島から3種類(2種類はA. S. Bilaidiと、1種類はL. E. Newtonと共著)、東熱帯アフリカから4種類(3種類はL. E. Newtonとの共著)のアロエを記載しました。
L. C. Leachは南熱帯アフリカで活発に活動し、南熱帯アフリカから10種類、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。
W. Maraisは2種類のLomatophyllumを記載しました。
他にはD. S. Hardyはアフリカ南部から2種類、W. Giessはナミビア、アフリカ南部から2種類(1種類はH. Mermullerとの共著)、G. D. Rowleyは北東熱帯アフリカから1種類、G. Cremersはマダガスカルから2種類、B. mathewは西中央熱帯アフリカ(コンゴ)から1種類、I. Verdoornは南部及び南熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから3種類(P. E. Brandhamとの共著)のアロエを記載しました。
また、この10年間でアフリカ南部のアロエに関する本は、例えば1974年のBornman & Hardy、1974年のJeppe、1974年のWest、1975年のJankowitzなどが出版されました。
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Aloe erinacea D. S. Hardy (1971年命名)

1981~1990年
H. F. GlenとD. S. Hardyはアフリカ南部のアロエ研究を開始しました。
W. Rauhはマダガスカルから2種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から1種類と北東熱帯アフリカから1種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類(2種類は
H. J. Beentjeと、2種類はJ. J. Lavranosとの共著)、S. CarterとP. E. Brandhamは北東アフリカから1種類とアフリカ南部から1種類、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(1種類はK. Kritzingerとの共著)、J.R. I. Woodはアラビア半島で1種類、D. C. H. Plowesはアフリカ南部で1種類のアロエを記載しました。

1991~2000年
1990年代にはアフリカ南部のアロエに関する本が2冊出版(2000年のGlen & Hardyと、1996年のVan Wyk & Smith )されましたが、アフリカ南部からは新しいアロエは記載されませんでした。しかし、東アフリカのアロエ研究は増加しました。L. E. Newtonは東熱帯アフリカから8種類、北東熱帯アフリカから1種類、S. Carterは東熱帯アフリカから6種類(1種類はNewtonとの共著)、北東熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。また、Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから12種類(1種類はP. E. Brandham、1種類はM. G. Gilbert、1種類はM. Dioliとの共著)、J. J. Lavranosは北東アフリカから3種類(1種類はS. Carterとの共著)、マダガスカルから5種類(1種類はW. Röösliとの共著)、アラビア半島から9種類(7種類はS. Collenetteとの共著)のアロエを記載しました。
W. Rauhはマダガスカルの4種類(1種類はR. Hebding、1種類はA. Razafindratsira、1種類はR. Geroldとの共著)のLomatophyllumについて紹介しました。さらに、マダガスカルから4種類(1種類はR. D. Mangelsdorff、2種類はR. Geroldとの共著)のアロエを記載しました。

P. V. HeathはGuillauminiaを支持し、新属Leemea P. V. Heathを提唱しました(※11)。
他には、A. F. N. Ellertは南熱帯アフリカから1種類、P. FavellとM. B. MillerとA. N. Al Gifriはアラビア半島から1種類、J-B. Castillonはマダガスカルから2種類のアロエを記載している。

※11 ) LeemeaではなくLemeeaの誤記です。Aloe boiteaui、Aloe haworthioides、Aloe parvulaが含まれていました。Lemeea属は現在では認められていません。
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Aloe parvula
=Lemeea parvula


2001~2010年
L. E. Newtonは東熱帯アフリカから4種類と北東熱帯アフリカから1種類、J. J. Lavranosはアラビア半島から7種類(1種類はB. A. Mies、2種類はT. A. McCoy、1種類はT. A. McCoyとA. N. Al Gifri との共著)、北東熱帯アフリカから8種類(すべてMcCoyとの共著)、東熱帯アフリカから6種類(すべてMcCoyとの共著)、マダガスカルから17種類(8種類はMcCoy、1種類はM. Teissier、5種類はMcCoyとB. Rakouthとの共著)のアロエを記載しました。
G. F. Smithはアフリカ南部から5種類(2種類はN. R. Crouch、2種類はR. R. Klopper)を説明しました。E.
 J. van Jaasveldは8種類のアロエを説明しました。1種類はA. B. Low、3種類はA. E. van Wyk、1種類はW. Swanepoelとの共著です。

この10年最大のアロエ研究の貢献は、J-B. CastillonとJ-P. Castillonの親子でした。マダガスカルのアロエの21種類の組み合わせを説明し、5種類のアロエを記載しました。
他には、S. S. Laneは南熱帯アフリカから1種類、P. I. Forsterはマダガスカルから1種類、S. J. ChristieとD. P. HannonとN. A. Oakmanは北東熱帯ですから1種類、A. F. N. Ellertはコモロ諸島から1種類と南熱帯アフリカから2種類、S. Carterは北東熱帯アフリカから1種類と南熱帯アフリカから1種類、N. Rebmannはマダガスカルから4種類、S. J. Maraisはアフリカ南部から1種類のアロエが記載しました。B. J. M. Zonneveldはアフリカ南部から4種類のアロエを記載し、2種類は一部の研究者に認められています。
この10年間に出版されたアロエの本は、2001年のCarter、2004年のLane、2004年のSmith、2004年のRothmann、2008年のSmith & Van Wyk、2010年のCastillon & Castillonがあります。


2011年以降
2011~2013年の間には15種類のアロエが説明されています。Sebsebe Demissewは北東熱帯アフリカから4種類(1種類はTesfaye Awas、1種類はI. FriisとI. Nordalとの共著)、E. J. van Jaasveldはアフリカ南部から3種類(2種類はW. Swanepoel、1種類はP. nelとの共著)、南熱帯アフリカから1種類のアロエを記載しました。M. DioliとG. Powysは東熱帯アフリカから新種を説明しました。J-B. Castillonはマダガスカルから1種類、J-P. Castillonはマダガスカルから2種類、L. E. Newtonは東熱帯アフリカから2種類、G. F. Smithと
E. Figueiredoはアフリカ南部から2種類(1種類はN. R. Crouchとの共著)の組み合わせを公表しました。
アロエ研究の重要な2冊の本が出版されました。2011年の『The Aloe Names Book』はアロエの学名と異名につえて解説しており、同じく2011年のCarterの『Aloes: the Definitive Guide』はReynolds以来はじめて全種類のアロエを一冊の本にまとめたものです。


以上が論文の内容となります。個人的には学名関連の話が好きなので、大変面白い論文でした。しかし、この論文の後、遺伝子解析の結果によりアロエ属は解体されることになりました。2013年の論文を根拠とするAloidendron (A. Berger) Klopper & Gideon F. Sm.、Aloiampelos Klopper & Gideon F. Sm.、2014年の論文を根拠とするGonialoe (Baker) Boatwr. & J. C. Manning、Aristaloe Boatwr. & J. C. Manningがアロエ属から分離しました。また、2013年にはG. D. Rowleyにより1786年に命名されたKumara Medik.が復活しました。当然ながら、アロエ属から分離したのはごく一部でありほとんどのアロエは未だにアロエ属のままです。また、2019年に命名された新属Aloestrela Molteno & Gideon F. Sm.は、遺伝的にはどうやらAloidendronに含まれるようですが、現在はまだAloestrelaのままです。今後変わる可能性はあるのでしょうか?
このように、この論文と同時期に出た論文により、その後のアロエは一変しました。2011~2020年のアロエ属は思いもよらぬ激変を経験しました。2021年以降のアロエはどうなっていくのでしょうか?



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Carl von Linneにより1753年に二項式の学名の記述方法が提案されアロエ属が誕生しました。つまり、Aloe L.です。しかし、実際にはそれ以前からアロエの仲間はヨーロッパで知られていましたが、ラテン語による特徴の羅列により記述されていました。von Linneによる1753年の『Species Plantarum』では、GasteriaやHaworthiaもアロエ属として記載されていました。これが、アロエ属の誕生に関する話ですが、それから270年ほど経ちアロエ属も激変しました。そのアロエ属の歴史を紐解いたRonell R. Klopper & Gideon F. Smithの2014年の論文、『Aloe of the world: When, where and who?』を見つけました。アロエの歴史を見てみましょう。ちなみに、2014年以降に学名が変更されたものもありますから、※印で私が注釈を入れました。

1753~1760年
von Linneが初めてAloe L.を記載しました。この中では、Aloe variegata L.のみが現在でもアロエ属として残されています。

1761~1770年
アロエ研究に貢献した最初の人物は、1768年に『Garden Dictionary』の第8版を出版したP. Millerでした。Millerは主に南アフリカから来た新しいアロエについて説明しました。
この時期に出版されたものとしては、N. L. Burmanによる『a new combination for Aloe vera (L.) Burm.f.』と、R. Westonによる南アフリカの1種類のアロエについてでした。

1771~1780年
1761~1763年にArabia Felix(現在のイエメン)でデンマークの遠征があり、同行したP. Forsskal
により初めてアラビア半島のアロエについて説明されました。しかし、1880年代後半までアラビア半島のアロエについては何もありませんでした。
この時期には、P. Miller、C. Allioni、F. Massonにより、南アフリカのアロエがそれぞれ1種類記載されました。
また、F. K. MedikusによりKumara Medik.が記載されました。(※1)

※1 ) Aloe plicatilisは、初めvon LinneによりAloe disticha var. plicatilisとされました。しかし、Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。このことが後に問題を引き起こします。MedikusがAloe plicatilisをKumara distichaと命名してしまったのです。正しく引用するならば、Kumara plicatilisとすべきでした。MedikusはAloe plicatilisをKumara属としたつもりでしたが、規約上ではGasteria distichaをKumaraとしてしまったのです。困ったことにGasteria属の創設よりもKumara distichaの方が命名が早かったため、規約上では現在のGasteria属はKumara属とする必要があります。ただし、規約に従うと大きな混乱を招くため、変更は行わず現状維持が提言され認められています。ちなみに、Aloe plicatilisはアロエ属から独立し、Kumara plicatilisとなりました。Medikusの提唱したKumara属が正しい引用により復活したのです。
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Kumara plicatilis
=Aloe plicatilis
=Aloe disticha var. plicatilis


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Gasteria disticha
=Aloe disticha


1781~1790年
J. B. A. P. M. C. de Lamarckはモーリシャス、東アフリカ、北東アフリカから1種類ずつのアロエを記載しました。また、C. Linnaeus jnr.(von Linneの息子=Linne filius)とA. Aitonは、アフリカ南部からそれぞれ新種のアロエを1種類記載しました。

1791~1800年
アフリカ南部ではC. P. Thunberg、R. A. Salibusy、C. L. Willdenow、A. P. de Candolleが新種を記載しました。de Candolleはアフリカ南部だけではなく、熱帯アフリカ北東部やアラビア半島、モーリシャスも記載しています。しかし、この1790年代に発表された10種類のアロエは、現在では使用されていないものです。

1801~1810年
1804年にA. H. Haworthはアロエ属の新しい分類を発表しました。また、Haworthはアフリカ南部から幾つかの新種を記載しましたが、現在ではそのうち2種類だけが認められています。
de Candolle、J. B. Ker Gawler、J. A. Schultesがアフリカ南部で、Willdenowはアフリカ南部とモーリシャスで新種を記載しましたが、現在では異名扱いとなり認められていません。

1811~1820年
Haworthはアフリカ南部から2種類、Reunion島から1種類のアロエを記載しました。Willdenowはアフリカ南部とモーリシャス、W. T. Aitonはアフリカ南部、Ker Gawlerはアフリカ南部とモーリシャス、Prince J. M. F. A. H. I. von Salm-Rifferscheid-Dick (Salm-Dick)はアフリカ南部で新種を記載しましたが、これは現在認められていません。
Willdenowは新属Lomatophyllum Willd.を提唱しました。Lomatophyllum(※2)はマダガスカルとマスカレン諸島に固有の液果を持つアロエです。
Medikusは樹木状のアロエであるRhipidodendron Medik.を提唱しました(※3)。
Ker Gawlerは主にマスカレン諸島の液果アロエをPhylloma Ker Gawlとして記載しました(※4)。現在、これらの新属はアロエ属とされています。

※2 )Lomatophyllum属は現在アロエ属に含まれることになりました。遺伝子を解析したところ、Lomatophyllumとされてきた種類同士が近縁ではなかったのです。離島で進化したアロエの収斂進化ということなのでしょう。

※3 )Rhipidodendron属は、Aloe dichotomaとAloe plicatilisを含むものでした。しかし、現在では認められていません。ちなみに、Aloe dichotomaはアロエ属から独立し、Aloidendron dichotomumとなりました。Aloe plicatilisは(※1)を参照。
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Aloidendron dichotomum
=Aloe dichotoma


※4 ) Phylloma属はLomatophyllumとされていたアロエのうち2種類が該当します。Aloe purpurea(=L. purpureum)をP. aloiflorumなど3種類に分けていました。また、Aloe macra(=L. macrum)はP. macrumとされました。

1821~1830年
Haworthはアロエの重要な研究をしており、アフリカ南部から10種類の新種を記載しました。さらに、Pachydendron Haw.を提唱しました(※5)。
W. J. BurchellとSalm-Dickは、それぞれアフリカ南部から1種類の新種を記載しました。J. A. SchultesとJ. H. Schultesは共同で2つのアフリカ南部のアロエの新しい名前と新しい組み合わせを発表しました。
H. F. Link、L. A. Colla、K. Sprengelはアフリカ南部、R. Sweetはマスカレン諸島、J. A. SchultesとJ. H. Schultesはアフリカ全域で、様々な新種を記載しましたが、その多くは現在使用されていないものです。

※5 ) Pachydendronはサンゴの化石につけられた学名ですからこれは誤りです。正しくはPachidendronです。Aloe feroxとAloe africanaが含まれていました。

1831~1840年
1830年代にはアロエに関する研究や出版物はあまりありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部、H. W. Bojerはマダガスカルとマスカレン諸島、E. G. von Steudelはアラビア半島とアフリカ南部で新種を記載しましたが、現在は異名とされています。1837年に出版されたBojerの『Hartus Mauritianus』は、マダガスカルとマスカレン諸島のアロエを記載した初めての記録です。

1841~1870年
この30年間はアロエ属はあまり変化がありませんでした。Salm-Dickがアフリカ南部から2種類の新種を記載しました。von SteudelはPhylloma属について整理しました。R. A. Salisburyは新属Busipho Salisb.を創設しました。BusiphoにはAloe feroxが含まれていましたが、現在では認められていません。

1871~1900年
この30年間はJ. G. Bakerがアロエ研究を独占しました。Bakerは生涯に42種類の新種と20の異名を記載しました。Bakerによりソコトラ島とマダガスカルのアロエの正式な説明がなされました。アロエ研究はアフリカ南部から始まり、東アフリカから北東の熱帯アフリカにまで及びました。アロエに関する沢山の著作として、1883年の『Contribution to the Flora of Madagascar』、1896年の『Aloe to the Flora Capensis』、1898年の『Flora of Tropical Africa』などが知られています。
A. Todaroは1880年代後半から1890年初頭にかけて、熱帯アフリカの北東部と西部の4種類のアロエを説明しました。1888年から1895年の間にH. G. A. Englerは、アフリカ南部から1種類、東熱帯アフリカから4種類のアロエを記載しました。
他には、W.T. Thiselton Dyerがアフリカ南部から1種類、I. B. Balfourがマダガスカルから1種類、G. F. Scott-Elliotがマダガスカルから1種類、A. B. Rendleが東熱帯アフリカから1種類、C. E. O. Kuntzeがアフリカ南部から1種類、W. Watsonが北東熱帯アフリカから1種類を記載しています。
A. Deflersは1885年から1894年の間にアラビア半島を探検しました。Forsskal以来120年ぶりにアラビア半島でアロエが調査されました。Deflersはイエメンとサウジアラビア南部に遠征し、Aloe tomentosa Deflersを記載しました。この間にG. A. Schweinfurthは熱帯アフリカ北東部から3種類、アラビア半島から2種類のアロエを記載しました。
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Aloe somaliensis C. H. Wright ex W. Watson
(1899年命名)


1901~1910年
この10年間の最も著名なアロエ研究者はA. Bergerで、アロエ属の新しい体系とモノグラフを含む研究を行いました。Bergerはアフリカ南部から9種類(うち2種類はH. W. R. Marlothとの共著)、南熱帯アフリカから2種類、東熱帯アフリカから5種類、北東熱帯アフリカから3種類、西部及び西中央熱帯アフリカから1種類、マダガスカルから3種類、コモロ諸島から1種類のアロエを記載しました。また、Bergerは新属Chamaealoe A.Bergerを提唱しました(※6)。
S. Schonlandは1900年代にアフリカ南部のアロエを研究し、9種類の新種を記載しました。
その他には、J. G. Bakerは、H. G. A. EnglerとE. G. Gilgは南熱帯アフリカ、I. B. Balfourはソコトラ島、G. KarstenとH. Schenckは北東熱帯アフリカ、A. B. Rendleは東及び西中央熱帯アフリカ、Marlothはアフリカ南部から新種のアロエを記載しました。

※6 ) Chamaealoe属はChamaealoe africanaからなる属でした。これは現在のAloe bowieaのことです。A. bowieaは初めは1824年にBowiea africana Haw.と命名されました。しかし、Bowiea属からアロエ属に移る際に、すでにAloe africana Mill.というアロエが1768年から存在したため、Bowiea africana→Aloe africanaという移行が出来ませんでした。そのため、1829年にAloe bowiea Schult. & Schult.f.と命名されました。Chamaealoe africana (Haw.) A.Bergerは1905年に命名されましたが、現在では認められていません。
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Aloe bowiea
=Chamaealoe africana


1911~1920年
I. B. Pole Evansはアフリカ南部から14種類のアロエを記載しました。他には、S. Schonlandがアフリカ南部、A. Bergerは南部及び南熱帯アフリカ、A. B. Rendleは南熱帯アフリカから2種類、J. DecorseとH. -L. Poissonはマダガスカルから、それぞれアロエを記載しました。

1921~1930年
R. Decaryはマダガスカルから3種類のアロエと、後にアロエ属に移されたガステリアを記載しました。
1926年にマダガスカルのアロエとLomatophyllumに関する重要な本がJ. M. H. A. Perrier de la Bathieにより出版され、22種類のアロエが新たに記載されました。また、Decaryによりガステリアとされたアロエは、Aloe antandroi (Decary) Perrierとされました。Perrier de la BathieはLomatophyllumの6種類の新種を記載しました。
他には、P. Danguyがマダガスカル、E. Chiovendaは北東熱帯アフリカから2種類、E. A. J. de Willdermanは西中央熱帯アフリカ、A. Bergerはアフリカ南部、M. K. Dinterはアフリカ南部、N. S. Pillansはアフリカ南部、L. Guthrieはアフリカ南部からアロエを記載しました。

さて、記事が長くなってしまったので、一度ここで切ります。内容的にもアロエ属の権威であるReynoldsが1930年代から登場します。明日に続きます。


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雪女王Aloe albifloraが開花しました。アロエの花言えば赤~橙~黄色ですから、白い花は珍しい花色です。まさかの開花でした。まさに、albi(=白)flora(=花)ですね。
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雪女王 Aloe albiflora

雪女王は今年の正月明けに世田谷ボロ市で購入しました。いかにも休眠中といった色合いで、外側の葉は枯れ混んでいました。そのため、今年は植え替えをしてしっかり株を充実させて、来年花を拝めればという腹図もりでしたから、まさかの開花です。
一般的に赤系統の花はアフリカでは鳥媒花で、アロエの花には様々な鳥蜜を求めて訪れます。ガステリアのように、赤系統で小型の花だと太陽鳥が訪れます。日本だと赤系統の花にはマルハナバチが来ますが、白花には蛾やハエが訪れます。
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女王錦 Aloe parvula

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Gasteria baylissiana

アロエ類では広義のハウォルチア(Haworthia, Haworthiopsis, Tulista)は白花で蛾が訪れます。ハウォルチアは筒状の花の形からして、蜂が訪れることはなさそうです。
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Haworthiopsis glauca var. herrei

では、肝心の雪女王はどうでしょうか? 緑色の筋が入るところなどハウォルチアに似た部分もあります。しかし、ハウォルチアより花が開くので、蜂やハエも来るだけのスペースはありそうです。とは言え、実際には匂いなどで特定の昆虫を呼び寄せる機構があったりもしますから、実際に花を訪れる昆虫を観察する必要があるでしょう。
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雪女王 Aloe albiflora


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樹木状となるアロエは、アロエ属から分離しアロイデンドロン属(Aloidendron)となりました。アロイデンドロン属で一番有名な種類はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたアロエです。現在はAloidendron dichotomumとなっています。アロイデンドロン属は7種類あるとされています。つまり、A. dichotomum、A. ramosissimum、A. pillansii、A. barberae、A. tongaensis、A. eminens、A. sabaeumです。しかし、2019年に出たアロイデンドロン属の遺伝子を解析した論文によると、A. sabaeumはアロイデンドロン属ではなくアロエ属であることが分かりました。さらに、アロエ属から分離されたAloestrela suzannaeが、実はアロイデンドロン属に含まれてしまうことも明らかになりました。今後、公的データベースの情報も改定されていくかもしれません。

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さて、そんなアロイデンドロン属ですが、A. dichotomum以下はほとんど見かけません。最近、ようやくA. dichotomumの実生苗が流通し始めたばかりですから、さもありなんと言ったところです。私はたまたま千葉のイベントでA. ramosissimumを入手しましたから、本日はA. ramosissimumについて少し調べてみました。
とは言うものの、思ったより良い情報はありませんでした。しかし、あちこちのサイトを見たところ、どうもどれも似た内容ばかりであることに気が付きました。おそらく、南アフリカ生物多様性研究所(SANBI)が主宰している「PlantZAfrica」というサイトから来ているようですね。私も「PlantZAfrica」の記述を参照します。その前に、キュー王立植物園のデータベースを確認しておきましょう。なぜなら、A. ramosissimumがディコトマの亜種であるとしているサイトが割と目についたからです。

まず、始めは1939年にAloe ramosissima Pillansと命名されました。この名前が一番使われてきた馴染みがあるものでしょう。2000年にディコトマの変種であるとするAloe dichotoma var. ramosissima (Pillans) Glen & D.S.Hardyや、2002年にはディコトマの亜種とするAloe dichotoma subsp. ramosissima (Pillans) Zonn.とする意見がありました。この意見を参照としているサイトはまだあります。2013年にアロエ属ではなくアロイデンドロン属とするAloidendron ramosissimum (Pillans) Klopper & Gideon F.Sm.とされました。その後の遺伝子解析結果からも、アロエ属ではないことが確認されています。属内の関係では、A. dichotomumやA. pillansiiと近縁ということです。

さて、「PlantZAfrica」の内容に移ります。
A. dichotomumとA. ramosissimumとの最大の違いは、枝の分岐の仕方です。A. dichotomumは直立した太い幹の上部で枝分かれしますが、A. ramosissimumは根元から枝分かれを始め球状に育ちます。A. dichotomumは高さ10mを越えますが、A. ramosissimumは高さ2mほどです。
A. ramosissimumの分布は南アフリカのRichtersveldとナミビア南部に限定されます。A. ramosissimum非常に乾燥した岩場に生え、年間110mm以下の冬の降雨に依存しています。この地域では気温が46℃にもなります。
英名は「maiden's quiver tree」、つまり「乙女の矢筒の木」と呼ばれますが。「quiver tree」はA. dichotomumのことですから、A. ramosissimumが小型なことや枝振りからそう呼ばれているのかもしれませんね。ちなみに、「矢筒の木」とは、A. dichotomumの枝を矢筒を入れるために使用したと言われているためです。そういえば種小名の「ramosissimum」は、ラテン語で「ramosis」が「枝」で、「ssima」が「とても」という意味ですから、「最も分岐した」という意味になります。A. ramosissimumの特徴を良く表している名前です。

A. ramosissimumの花は鮮やかな黄色ですが、sugarbirdや蟻、ミツバチが蜜を求めて訪れます。翼のある種子は風で運ばれ、他の植物の近くで発芽します。これをナース植物と言って、日陰を作るので実生の生育にとって重要です。しかし、やがてA. ramosissimumはナース植物より巨大になり、結果的にナース植物は枯れてしまいます。

「PlantZAfrica」の記事は、まあだいたいこんな感じです。他のサイトでは、生長は遅く開花する1~1.5mになるまでに10~15年ほどかかると言います。どうやら、私が花を拝めるまで長い時間が必要なようです。また、若いツボミは食用となり、アスパラガスに似た味ということです。しかし、流石に10年以上かけて育てたA. ramosissimumを、開花前に食べてしまうのは憚られますね。とにもかくにも、このA. ramosissimumとは長い付き合いになるのでしょう。


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2013年頃からアロエの仲間の遺伝子が本格的に調べられはじめ、それ以降アロエの仲間は激変しました。AloeはAloe、Aloidendron、Aloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeに分割され、HaworthiaはHaworthiaとHaworthiopsis、Tulistaに分割されました。逆にChortolirionやLomatophyllumはアロエに含まれることが明らかとなりました。他のアロエ類である、Gasteria、Astrolobaについても命名規約上の問題があり議論されています。

さて、Bruce Bayerが2014年にアロエ類についての意見をコラム欄で簡潔に述べています。それが、Aloe striatula(現在はAloiampelos)の葉の配置について述べた、『Leaf arrangement in Aloe striatula』です。興味深い
内容ですから見てみましょう。
A. striatulaを上から見て、葉の配置が二列性あるいは三列性であることを示しています。Bayerは二列性なら1、3、5、7、9枚目あるいは2、4、6、8、10枚目の葉がセットで、三列性なら1、4、7、10枚目、2、5、8枚目、3、6、9枚目がセットであるとしています。
しかし、この説明は非常に分かりにくいので、私の育てているAloiampelos striatula var. caesiaを例に、別の表現で解説しましょう。

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二列性の配置
まず、二列性の配置ですが、向かい合う葉が対になります。つまり、1+2、3+4、5+6、7+8、9+10です。軸が回転するように、葉が重ならない配置となります。

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三列性の配置
三列性の配置では3枚が1セットとなります。つまり、1+2+3、4+5+6、7+8+9がセットとなります。

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葉の根元は鞘があり、茎を覆っています。A. striatulaの次の葉は前の鞘のすぐ下に挿入されています。葉は左右に交互に出ますから、螺旋状に葉は配置されます。また、Aloe broomiiは葉の挿入は連続的で、茎から全ての葉を剥がすことが出来ます。

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Aloe broomii

ほとんどのHaworthiaでは葉は不規則ですが、常に螺旋状の順序になっています。Haworthia wittebergensisには完全に挿入された葉があり、恐らくHaworthia blackbeardiana(現在のH. bolusii var. blackbeardiana)、Haworthia viscosa(現在のHaworthiopsis viscosa)にも当てはまります。

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Haworthiopsis viscosaは典型的な三列性

以上がコラムの内容となります。
2014年はまだアロエ類の分類についての議論が華やかなりし頃でしたから、このような論考があった訳です。とはいえ、単純な外見的特徴から遠近を判断するのは困難ですよね。
AloeやGasteriaは苗の頃は二列性ですが、やがて回転していきます。アロエ類は基本的には向かい合う2枚の葉が回転していきます。アロエ類の葉が回転するのは、全ての葉に効率的に太陽光線を当てるための仕組みです。アロエは茎が伸びて行くものが多いですが、Haworthiaは茎が伸びずにロゼット型となります。

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Aloe spectabilisの苗。左右に葉が向かい合う典型的な二列性です。

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現在のAloe spectabilis。ある程度育つと葉が回転し始めます。

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Haworthia arachnoidea。回転する葉が密について茎が伸びないと、ロゼット型になります。


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fan aloe(扇アロエ)と呼ばれる多肉植物があります。蒼白い上向きの葉が左右に分かれて綺麗に並ぶことから、そのように呼ばれているのでしょう。以前は珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っています。一般的にはAloe plicatilisという名前で販売されています。しかし、2013年にGordon D.Rowleyによりアロエ属からクマラ属に移されました。つまりは、Kumara plicatilisです。しかし、この過程にも何やらややこしい事情が見え隠れしているようです。非常に面倒臭い話ですからご注意のほどを。書いている私もうんざりする内容です。

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Kumara plicatilis

事の発端は1753年まで遡ります。現在の学名の仕組みを作り出したCarl von Linneが、fan aloeを命名しました。この最初の学名は、Aloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe distichaとは現在のGasteria distichaのことです。というのも、von Linneの時代はまだガステリア属はなく、当時のアロエ属には現在のガステリアやハウォルチアを含んでいたのです。ですから、Gasteria distichaも最初はアロエ属でした。そして、fan aloeは、何故かAloe disticha=Gasteria distichaの変種とされたのです。
1768年にfan aloeは独立し、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.とされました。しかし、1786年にKumara disticha Medik.という学名も提案されました。問題はここまでの経緯と、この先のクマラ属に移行する際の混乱です。この混乱についての論文は、Ronell R.Klopper, Gideon F.Smith & Abraham E. van Wykの2013年6月の論文『(2144) Proposal to conserve the name Kumara (Asphodelaceae) with a conserved type』、及び7月でた同著者らの論文である『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara (Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』に書かれています。

1786年にMedikusはKumara Medik.を創設し、Kumara disticha Medik.という1種類を命名しました。その時の図を見ると、Kumara distichaがfan aloeを指していることが分かります。また、1784年に命名されたAloe tripetata Medik.という異名は、Commelijnの1701年の銅版画に基づくものです。Commelijnの銅版画は明らかにfan aloeを描いています。これは、本来はAloe disticha var. plicatilis L.である必要があります。また、この時にMedikusは、Aloe disticha var. δ(※1)についても言及していますが、これは誤りでGasteria carinata (Mill.) Duval=Gasteria excavata (Willd.) Haw.を示しているようです。MedikusはAloe linguiformis Medik.をAloe disticha var. αに基づいており、Aloe verrucosa(※2)をAloe disticha var. γに基づき命名し、後の1786年にはAloe tristichaをAloe disticha var. βに基づいていました。

(※1)Aloe disticha L.は、現在のGasteria disticha (L.) Haw.を指しているとされていますが、Aloe distichaは他の種類のガステリアを含んだものだったようです。ですから、この場合は異なる種の混合であるAloe distichaを参照としており、仮にAloe distichaの変種δと表現しています。この後に出てくる変種αや変種βも同様です。

(※2)これは1768年に命名されたAloe verrucosa Mill.を示すため誤りで、正しくは1784年に命名されたAloe verrucula Medik.のことを指す。A. verruculaとは現在のGasteria carinata var. verrucosaのこと。

実際にはfan aloeはKumara distichaとは呼ばれずAloe plicatilisの名前が使用されてきました。しかし、遺伝子解析の結果からは、fan aloeがアロエではなくハウォルチアに近縁な仲間であることが分かりました。そうなると、fan aloeをアロエから独立させる時に、忘れ去られていたKumara distichaが浮かび上がって来るのです。
ここで問題が生じます。Kumara distichaは1786年の命名であり、Gasteria Duvalは1809年の命名ですから、もしAloe distichaがKumara plicatilisやGasteria carinataなどの様々な種を含んでいた場合、Aloe distichaはKumaraのバシオニム(基になった名前)となります。つまり、Aloe distichaを現在のGasteria distichaとした場合、GasteriaよりもKumaraの方が命名が早いので、現在のGasteriaは全種類Kumaraにしなければなりません。GasteriaはKumaraの異名となります。当然、Kumara plicatilisはKumara属を旧・Gasteriaに取られてしまったので、新たな命名が必要となります。これは、命名規約を厳密に適応するならば避けられない事態ですが、適応された場合の混乱は必至でしょう。
しかし、著者はKumara plicatilisを保存して、Gasteriaを現在のままにしておくことを提案しています。なぜなら、Gasteriaは200年以上に渡り使用されてきた学名であり、命名法の深刻な混乱を引き起こすからです。そして、Aloe plicatilis (L.) Burm.f.の新たな命名としてKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.を提唱しています。
 
以上が論文の内容となります。内容が込み入っているため、適切に要約出来ているか怪しい部分もあります。しかし、話はこれで終わりではありません。まだ続くのです。やはり、同著者らの2013年8月の論文、『The correct name of Aloe plicatilis, the fan aloe, in the genus Kumara (Asphodelaceae), again』を見てみましょう。
Kumara Medik.がfan aloeであるAloe plicatilis (L.) Burm.f.のために復活した時に、7月の論文で著者らはKumara plicatilisに修正しました。この時に著者らはKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Sm.と命名しました。しかし、2013年の4月にGordon D.Rowleyが『Alsterworthia』のSpecial Issueで、すでにKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyと命名していました。よって、著者らが命名したKumara plicatilis (L.) Klopper & Gideon F.Smは不適切な名前であり、G.D.Rowleyの命名が優先されます。
また、Aloe plicatilisの引用元は1768年の3/1~4/6の出版物で命名されたAloe plicatilis (L.) Burm.f.であり、同年の4/16に命名されたAloe plicatilis (L.) Mill.は採用されません。

以上が論文の簡単な要約です。しかし、Kumara plicatilisのややこしすぎる経緯は、何ともすっきりしない感じがあります。この問題は結局のところ、Aloe distichaの曖昧さと、Aloe distichaに対するMedikusの引用の不確かさが招いた混乱と言えるでしょう。また、Aloe plicatilisやKumara plicatilisの命名にも混乱があり、どちらも同じ年に同じ名前が命名されていますが、タッチの差で採用される名前が決まってしまいます。学術世界も競争の世界なんですね。
この異名の処理については文献学的な資料探索と、実際の多肉植物の学術的な知識が必要ですから、それほど進んでいないのかもしれません。私のブログでもこの手の記事を幾つか書きましたが、まだまだこれからも出てくるのでしょう。見つけましたら、また記事にしたいと思います。



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雪女王(Aloe albiflora)はマダガスカル原産の白い花を咲かせるアロエです。アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせますから、白い花のアロエは珍しいと言えます。しかし、なぜ白い花を咲かせるのでしょうか? とても不思議です。少し考えてみました。

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Aloe rubriflora
今年の1月に開催された世田谷ボロ市の出店で購入したばかりですから、まだ花は拝めていません。

アロエの多くは赤~橙系統の花を咲かせます。まず、この点から見ていきましょう。
花に様々な美しい色があるのは、何も我々の目を楽しませるためではありません。ポリネーター(花粉媒介者)にアピールするためです。植物が花を咲かせるのは、花を訪れる動物に花粉を運んでもらい、受粉して種子を作るためです。そのための報酬が甘い蜜で、目立つ色のついた花びらを標識として動物を呼び寄せるのです。日本では一般的に花の受粉は昆虫により行われます。しかし、世界にはハチドリ、ミツスイ、タイヨウチョウなど花の蜜を専門とする鳥も存在しますし、花の蜜を専門としていない鳥でも花の蜜を吸うことは珍しくありません。日本でも梅の花にメジロが訪れ花の蜜を吸っている姿を見ることが出来ます。
アロエが自生するアフリカにはタイヨウチョウが分布し、大型アロエの花にはタイヨウチョウ以外の様々な鳥が訪れ受粉に寄与しています。もちろん、アロエの花にはミツバチやネズミなども訪れますが、受粉のメインは鳥であると考えられており、アロエは鳥媒花とされています。大型アロエは大きな花と大量の蜜が出るため、様々な鳥を呼び寄せます。実は、タイヨウチョウは小型で頭が小さくクチバシが細長いため花の蜜だけを掠め取ってしまい、あまり受粉には寄与していないことが分かっています。そのため、大型アロエはある程度の大きさのある、花の蜜を専門としていない鳥に受粉してもらっているのです。大型アロエの場合、ターゲットは鳥ですから、その赤~橙系の花色は鳥に対するアピールと考えられます。他のアロエ類(アロエに近縁な仲間)を見てみると、GasteriaやAstroloba rubriflora(異名Poellnitzia rubriflora)は赤~橙系統の花を咲かせ、やはり鳥媒花であることが確認されています。
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Aloe arborescensの花

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Gasteria distichaの花

アロエ類は赤~橙系統の花だけではなく、白い花のものも沢山あります。例えばHaworthiaやHaworthiopsis、Astrolobaは白く小さな花を咲かせます。これらは花が小さいため、明らかに虫媒花です。しかも、その細長くすぼまった形から、鱗翅目(チヨウやガ)やハエ目(ハエやアブ)がターゲットなのでしょう。
実はカラフルな花の色はミツバチやマルハナバチを呼び寄せることが明らかとなっています。高山の森林限界を超えると、樹木はほとんど生えることが出来ませんが、様々な草本が花を咲かせ一般的に「お花畑」と呼ばれています。日本の高山のお花畑は非常にカラフルですが、海外の高山ではほとんど白一色のお花畑も存在します。これは、ミツバチやマルハナバチなどの蜜を集める膜翅目昆虫の不在が原因と考えられています。このように、花の色により虫媒花でも引き寄せる昆虫が異なる可能性があるのです。

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Haworthiopsis scabraの花

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Haworthiopsis glauca var. herreiの花

ではAloe albifloraはどうでしょうか? まだ開花していないので花を提示できませんが、アロエらしく釣り鐘型の花です。白く緑色のラインが入っており、花に膨らみが無いこと以外はハウォルチアの花に似ています。どうやら、Aloe albifloraは虫媒花、しかも鱗翅目やハエ目がターゲットのようです。ハウォルチアの花は細長いので、ターゲットはおそらく小型の蛾でしょう。しかし、Aloe albifloraの花はハウォルチアより大きく、しかも少し膨らんだ形です。蜜を吸うために小型のハエなども潜り込めるかもしれません。

とまあ、以上が雪女王について少し考えたことです。大した話ではありませんし、特に根拠のある訳ではありません。所詮は私の狭い知識の内での妄想です。本来はAloe albifloraを調査した論文があればよかったのですが、今のところ見つかっていません。何か面白い情報がありましたら、また記事にします。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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今年の正月明けに五反田TOCで開催された、新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。今回のビッグバザールは、アロエがいつもより多く珍しいものも沢山ありました。悩みましたが、マダガスカル原産の小型アロエであるバケリ(Aloe bakeri)を購入しました。バケリはアロエにしては葉は薄くて非常に硬く、まるでディッキア(Dyckia)のようです。

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Aloe bakeri

バケリは園芸店では見かけないアロエですが、どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。取り敢えず論文を当たってみましたが、2019年のColin C. Walkerの論文、『Aloe bakeri - a critically endangered highly localized Madagascan endemic』が見つかりました。早速内容を見ていきましょう。

イギリスの植物学者であるGeorge Francis Scott-Elliotは1888年から1890年にかけてマダガスカルを訪れました。マダガスカル最南東にあるFort Dauphin (Taolagnaro, Tolanaro, Tolagnaro)での採取で、Aloe bakeriは発見されました。Scott-Elliotはキュー王立植物園のアロエの専門家であるJohn Gilbert Bakerに対する献名として、1891年にマダガスカルで採取した新しいアロエにAloe bakeri Scott-Elliotと命名しました。
 
1994年にA. bakeriをGuillauminiaとする、つまりはGuillauminia bakeri (Scott-Elliot) P.V.Heathがありました。このGuillauminiaは、Guillauminia albiflora(Aloe albiflora)のために、1956年にBertrandにより提唱された属です。Heathは1種類しかなかったGuillauminiaを拡大し、マダガスカルの矮性アロエであるA. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiを含ませましたが、それまではGuillauminiaが注目を浴びることはなく無視されてきました。しかし、アロエの権威であったReynoldsはGuillauminiaを採用しないなど、浸透したとは言いがたいようです。しかも、1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』ではGuillauminiaを詳細に分析し、アロエ属とは異なりGuillauminiaのみに共通する特徴がないことなどが指摘され、Guillauminiaは明確に否定されています。さらに、近年の遺伝子解析の結果では、Guillauminiaの所属種同士が必ずしも近縁ではなく、アロエ属の中に埋没してしまうことが明らかとなりました。よって、現在Guillauminiaは認められておりません。
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Aloe albiflora

次に自生地を調査した植物学者たちの報告を見てみましょう。Gilberd Reynoldsは1955年の6月から10月まで、マダガスカルでアロエを探して、自動車で4000マイル(6437km)以上の距離を運転しました。ReynoldsはFort Dauphinの近くでAloe bakeriを大量に見つけました。それは、50から100の密集したグループで生長していました。
次いで、Werner Rauhはマダガスカルに9回旅行しました。Rauhの1964年の報告では、Fort Dauphin付近でA. bakeriを観察しています。A. bakeriはTolanaro北西にあるVinanibe付近のまばらな花崗岩の露頭の腐植土が溜まった岩の亀裂で育つとしています。

CormanとMaysは2008年の報告で、去年(2007年)にマダガスカル南部を訪れたNorbert RebmannとPhilippe Cormanは、Euphorbia millii var. imperataeとともに生育するFort Dauphin付近のA. bakeriを見つけました。しかし、近くの港の開発に必要な石材採取のために、A. bakeriの生息地が破壊されていました。CormanはかつてRauhが観察した岩場で、A. bakeriは4個体しか見つかりませんでした。A. bakeriを発見したScott-Elliotは砂丘にも生息するとしていましたが、RebmannもCormanも砂丘ではA. bakeriを見つけることは出来ませんでした。
Castillon & Castillonは2010年の報告で、Taolagnaro付近の岩だらけの丘は、商業港と都市部の産業開発のため2年前に消滅したため、野生のA. bakeriは絶滅してしまったとしています。


以上が論文の簡単な要約となります。そういえば、1902年に命名されたAloe bakeri Hook.f. ex Bakerというアロエもありますが、こちらはAloe percrassa Tod.の異名です。A. percrassaは大型アロエですから、まったく似ていませんから間違いようはありませんね。
著者は絶滅したかは断言していませんが、キュー王立植物園のデータベースではA. bakeriは「絶滅」と表記されています。栽培は難しくないようですから、栽培品の維持はされています。しかし、自然環境に自生する多肉植物は非常に美しいものですから、大変悲しいことです。これ以上、多肉植物が絶滅してしまうことが起きてほしくありません。


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アロイデンドロンは樹木状となるアロエの仲間です。代表種はかつてアロエ・ディコトマ(Aloe dichotoma)と呼ばれていたAloidendron dichotomumです。アロイデンドロン属は近年の遺伝子解析の結果によりアロエ属から分離されました。現在アロイデンドロン属は7種類あるとされています。その点についてはかつて記事にしたことがあります。ご参照下さい。
アロエ属とアロイデンドロン属の関係は遺伝子解析により判明していますが、アロイデンドロン属内の分類はわかっていませんでした。そんな中、アロイデンドロン属の遺伝子を解析して近縁関係を解明した論文を見つけました。Panagiota Malakasi, Sidonie Bellot, Richard Dee & Olwen Graceの2019年の論文、『Museomics Clarifies the Classification of Aloidendron (Asphodelaceae), the Iconic African Tree Aloe』です。

アロイデンドロン属はアフリカ南部の砂漠を象徴する植物です。しかし、アロイデンドロン属内の進化関係は不明でした。そこで、アロイデンドロン属を遺伝子解析することにより、属内の系統関係を類推しています。ここでは、Aloestrela suzannaeというアロエ類が出てきますが、お恥ずかしい話ですが私はこのアロエストレラ属の存在を知りませんでした。アロエストレラ属は2019年に創設されましたが、Aloestrela suzannaeだけの1属1種の属です。しかし、新種というわけではなく、1921年に命名されたAloe suzannaeが2019年にAloestrela suzannaeとなりました。

アロイデンドロン属の分子系統
┏━━━━━━Aloe
┃     (Aloidendron sabaeumを含む)


┃    ┏━━━━Aloidendron ramossimum
┃    ┃
┃┏┫         ┏━Aloidendron dichotomum 1
┃┃┃     ┏┫
┃┃┃     ┃┗━Aloidendron dichotomum 2
┃┃┃┏ ┫
┃┃┃┃ ┗━━Aloidendron pillansii 1
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━Aloidendron pillansii 2
┃┃
┗┫            ┏━Aloidendron barberae 1
    ┃        ┏┫
    ┃        ┃┗━Aloidendron barberae 2
    ┃   ? ┫
    ┃        ┗━━Aloidendron barberae 3
    ┃
    ┃    ┏━━━Aloestrela suzannae 1
    ┃┏┫
    ┃┃┗━━━Aloestrela suzannae 2
    ┗┫
        ┃┏━━━Aloidendron eminens 1
        ┗┫
            ┗━━━Aloidendron eminens 2


アロイデンドロン属の系統関係は、Aloidendron sabaeum以外はまとまりのあるグループでした。しかし、論文ではA. barberaeが、A. ramossimum系統なのかA. eminens系統なのかは不明瞭でした。さらに、Aloestrela suzannaeは独立したアロエストレラ属ではなくA. eminensと近縁であり完全にアロイデンドロン属に含まれてしまうことがわかりました。また、驚くべきことにA. sabaeumはアロエ属に含まれてしまい、アロイデンドロン属とは近縁ではないことが明らかとなりました。よって、今後アロエストレラ属は消滅してアロイデンドロン属となり、A. sabaeumはアロエ属に復帰するかもしれません。しかし、論文ではAloidendron tongaensisが調べられていないようです。今後の研究が待たれます。また、A. pillansiiは2個体調べていますが、この2個体は近縁ではあるもののやや遺伝的に距離があるようです。この点も注視していく必要がありそうです。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、私が知らない間に創設されたアロエストレラ属を知らない間に否定する論文が出ていたということで、己の無知を思い知るとともにアロエ類の研究が盛んに行われていることを嬉しく思います。また、A. sabaeumの遺伝子解析の結果からは、アロエが樹木状となること=アロイデンドロンではないということを示唆しています。アロエ属であっても環境に対する適応により樹木状の形態をとる可能性があるのでしょう。そうなると、樹木状とならないというか草本に回帰したアロイデンドロン属も存在するかもしれませんね。今後の研究結果が非常に楽しみになります。


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「親しみやすさは軽蔑を生む」(familiarity breeds contempt)とは中々含蓄のあることわざです。このことわざはイソップ童話の「キツネとライオン」という話に出てくるフレーズなんだそうです。多肉植物に当てはめれば、普及種が親しみやすさとともに軽視される傾向があるのではないでしょうか?
個人的には普及種も好きで面白いと感じていますが、どうも世の中的には異なるようで、普及種の多肉植物が手入れもされずにカリカリになっていたりするのは大変悲しいことです。安くいつでもどこでも入手可能とあらば、扱いが荒くなるのもやむ無しかも知れません。まあ、普及種はお値段的にもお手軽ですからね。
しかし、そんな普及種であっても良いものは良いのだという熱い論考に出会いました。それは、イギリスのキュー王立植物園のPeter Brandhamの1981年の『Aloe aristata : an underrated species』です。


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Aristaloe aristata=Aloe aristata

著者にとって「親しみやすさは軽蔑を生む」ということわざはAloe aristataに当てはまるとしています。日本ではあまり見かけることがないAloe aristata(現在はAristaloe aristata, 綾錦)ですが、イギリスでは昔から知られている園芸植物です。イギリスではチェーン店や園芸用品店で入手可能で、多肉植物のコレクターはわざわざ栽培する価値はないと考えています。

Aloe albiflora, Aloe bakeri, Aloe bellatula, Aloe deltoideodonta, Aloe descoingsii, Aloe dumetorum, Aloe erensii, Aloe forbesii, Aloe haworthioides, Aloe humilis, Aloe jucunda, Aloe juvenna, Aloe myriacantha, Aloe polyphylla, Aloe rauhii, somaliensis, Aloe variegataなど魅力的な小型~中型のアロエは沢山ありますが、栽培が難しいものが多いとしています。これらは根を失いやすく、入手が難しく、開花しないと言います(※)。対して、A. aristataは良く子を吹き、入手は容易です。冬は乾燥させれば良く、直径6cm程度になると定期的に開花します。花は植物に対して大きいと言います。

※私も上記の1/3の種類くらいしか育てたことはありませんが、栽培はそれほど難しくありませんでした。しかし、晴れが少なく寒冷なイギリスの気候では難しい部分もあるのでしょう。

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Aloe descoingsii

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Aloe somaliensis

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Aloe haworthioides

A. aristataの花はピンク~鈍い赤色と淡黄色~クリーム色の2色からなる、アロエ属でも独特の花を咲かせます。これを著者は"bicolor"、つまりは「二色」と表現していますが、このラテン語は種小名で良く見かけますね。
A. aristataの葉は非常に多いことが特徴です。小型種のA. haworthioidesよりも多いとしています。葉の縁には柔らかいトゲがあり、葉の先端には長い毛のような芒があります。葉の表面には斑があり、葉裏により多くあります。

A. aristataは南アフリカ原産で、東ケープ州、オレンジ自由州、レソトなど非常に広い範囲に分布します。変種としてvar. leiophyllaとvar. parvifoliaが知られていました。しかし、アロエ研究の権威であったReynoldsによりA. aristataの範囲内と見なされ、認められていません。ただ、A. aristataには起源が不明の栽培種があり、分かりやすい4つのバリエーションを以下に示します。
1, 「典型的」なフォルム。自由に子を吹く最も一般的なタイプです。狭い灰緑色の葉を持ち、葉裏にはトゲと斑点が通常はランダムに、時には縦方向へ列となります。
2, 「単純」なフォルム。直径30cm以上となる可能性があり、滅多に子を吹きません。葉は「典型的」なフォルムより長く狭く、葉裏のトゲは縦に並ぶ傾向がより顕著です。
3, 'crisp'フォルム。非常に良く子を吹くタイプで、著者は最も魅力的と表現しています。葉は短く幅広で、トゲが多く葉裏では2~3列となります。
4, 'Cathedral Peak'フォルム。葉には斑点がほとんどなく、トゲも少数です。適度に子を吹きます。このフォルムは、南アフリカのDrakensberg山脈のCathedral Peak由来のものです。典型的なA. aristataの花を咲かせるにも関わらず、ヨーロッパでは× Gastrolea bedinghausii(
A. aristata × Gasteria sp.)という誤った名前で長年栽培されています。

A. aristataはGasteriaと容易に交雑可能で、著者は沢山の交配種を作ったそうです。ガステリアとの交配種の特徴は、両親の中間的な花を咲かせることだそうです。ただし、この交配種は花粉の受粉能力に乏しいのですが、× Gastrolea bedinghausiiは花粉の受粉能力が常に90%を越え、A. aristataと変わりません。ですから、× Gastrolea bedinghausiiは交配種ではないと考えられるのです。

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A. aristata × Gasteria sp.

著者はA. aristataはきちんと育てればそれ自体が魅力的であり、交配種の作成が容易なので交配の入門としても適すると主張します。A. aristataの異なるフォルムはコレクションに値するものであり、「温室にはこれ以上植物を入れる余裕がない」という使いふるされた言い訳は使うことは出来ないと絶賛しています。著者の住むSurreyでは非常に丈夫で、過去3年間庭の明るい日陰で育ち、1978/9年の非常に厳しい冬にも耐えてきました。毎年、夏に開花します。

以上が論考の簡単な要約です。
日本では人気がないせいか、園芸店ではほとんど見られませんが、イギリス(1981年の)では一般的なようです。しかし、著者が絶賛するようにA. aristataは非常に美しい植物です。さらに、私は形態的にアロエ的ではない感じが非常に面白く思います。A. aristataが命名されたのは1825年のことで、Aloe aristata Haw.が長年正式名称でした。しかし、遺伝子解析の結果から、2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningとなり、アロエ属から分離しました。現在、アリスタロエ属は1属1種の珍種ですから、その点においてもコレクションするに値する多肉植物でしょう。


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マダガスカルには沢山の小型アロエが分布します。その中でも最小と言われるのが、Aloe descoingsiiです。一般的には「アロエ・ディスコインシー」と呼ばれたりしているみたいですが、普通にそのままラテン語読みで「アロエ・デスコイングシイ」で良いような気がします。学名は1930年から30年以上に渡りアロエ属の権威だったGilbert Westacott Reynoldsにより1958年に命名されました。つまりは、Aloe descoingsii Reynoldsです。種小名は1956年にA. descoingsiiを発見したフランスの植物学者であるBernard Descoingsに対する献名です。また、1994年には新設されたGuillauminia属とする意見があり、Guillauminia descoingsii P.V.Heathという学名がつけられましたが、翌1995年にGideon F.Smithらにより新属を提唱するに値する根拠がないとして斥けられています。

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Aloe descoingsii

A. descoingsiiは最小のアロエと言われますが、正しくは葉の長さが最も短いアロエでしょう。A. descoingsiiの主軸は意外にも太く、葉の幅は全体のサイズの割には広く、Aloe haworthioidesなど他のマダガスカル原産の小型アロエの方が非常に葉の幅は狭いものが沢山あります。A. descoingsiiは直径5cmまでで、葉は3~6cm程です。

A. descoingsiiはマダガスカル南西部のToliaraのFiherenana渓谷に分布します。標高は350mと言われます。A. descoingsiiは石灰岩の崖上の浅い土壌で育ちます。絶滅の危機に瀕していられる希少なアロエです。
しかし、このA. descoingsiiは園芸店でもまったく見かけたことがありません。希少種だからかと思いきや、何故かA. descoingsii系交配種は何度か見かけたことがあります。見た目の美しさ以外にも、増やしやすさであるとか育てやすさも関係しますから、理由は定かではありません。ただし、調べてみると、A. descoingsiiは非常に交配が盛んに行われたらしく、海外の園芸サイトでも「数えきれない程の雑種」があると書かれているくらいですから、単純に交配種が普及しているだけかも知れませんね。



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クマラをご存知ですか? かつて、アロエとされていたAloe plicatilisやAloe haemanthifoliaは、2013年にアロエ属から独立してクマラ属(Kumara)となりました。よって、Aloe plicatilisとAloe haemanthifoliaは、それぞれKumara plicatilisとKumara haemanthifoliaとなりました。ここらへんの学名の経緯は過去に記事にしたことがあります。以下のリンクをご参照下さい。
さらに、Kumara plicatilisの生態について書かれた論文をご紹介した記事もあります。
そんな中、A. plicatilisがクマラ属へ移動した際の学名の混乱について正しい学名に訂正すべきであると主張している論文を見つけました。その論文は、2013年のRonell R. Klopper, Gideon F. Smith & Abraham E. Van Wykによる『The correct name of Aloe plicatilis in Kumara(Xanthorrhoeaceae : Asphodeloideae)』です。しかし、この論文はことの経緯を無駄なく簡潔に述べていますが、説明がないので経緯を知らない人間にはよく分からない内容となっています。そこで、私が調べた情報を加味して、内容を再構成して解説します。最初に簡単に言ってしまうと、著者の主張はKumara distichaという学名が使われているが、これは正しい学名ではないというものです。

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Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

一番最初にK. plicatilisが命名されたのは、1753年にCarl von LinneによるAloe disticha var. plicatilis L.でした。Aloe disticha L.つまりは後のGasteria disticha (L.) Haw.の変種として命名されたのです。
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Gasteria disticha

1786年にドイツのFriedrich Kasimir MedikusはKumara Medik.を創設し、A. disticha var. plicatilisをKumara disticha Medik.としました。しかし、Aloe distichaは後のGasteria distichaなのですから、Kumara distichaというのはおかしな名前です。
実は1768年にA. disticha var. plicatilisはA. distichaの変種ではなく独立種であるとして、オランダのNicolaas Laurens BurmanがAloe plicatilis (L.) Burm.f.と命名しましたが、これが正しい種小名です。

ですから、最初A. disticha var. plicatilisであった植物が、アロエ属から独立した際に引き継ぐべき種小名は"disticha"ではなく"plicatilis"なのです。要するに、1786年に命名されたKumara disticha (L.) Medik.は使用されるべきではなく、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.を引き継いでいる、2013年に英国のGordon Douglas Rowleyにより命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyが正しい学名であるというのが著者の主張です。

Kumara Medik.には非常に深刻な問題点があります。1976年にRowleyによりKumaraのタイプをKumara distichaとして指定してしまったので、KumaraとGasteriaは同義語となってしまいました。学名は先に命名された方を優先する「先取権の原理」がありますから、1809年に命名されたGasteria Duvalよりも、1786年に命名されたKumara Medik.が優先されてしまいます。要するにGasteriaのすべてをKumaraに変更しなくてはならなくなり、命名上の混乱の観点からは深刻な問題と言わざるをえません。そのため、2世紀にわたり使用されてきたGasteriaという属を保存するべきでしょう。ですから、Kumaraをガステリアの同義語とせずに、Aloe plicatilisに使用される属名とすることが重要です。

以上が論文の簡単な解説となります。
現在認められている学名はKumara plicatilisですから、著者の主張が採用されていることがわかります。
思うこととして、学名は学者の主張によりコロコロ変わりますから、その都度、我々趣味家は振り回されてしまいます。しかし、現在は遺伝的解析により、近縁関係がはっきりしてきましたから、以前ほど、思い悩まされることはなくなりました。とは言うものの、まだ学名は変わる可能性があります。すべての多肉植物の遺伝子が調べられたわけではありませんし、近縁関係が判明したところでどこで区切ってわけるべきかは議論のあるところです。しばらくは試行錯誤が続くでしょう。しかし、現在は遺伝子解析は過渡期ですから、学名も流動的で変わりやすい時代と言えます。個人的にはこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方がありません。



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千代田錦は日本国内でも昔から流通しているアロエの仲間です。しかし、最近は人気がないためかあまり見かけませんでした。ところが、何やらどこかのファームが大量に実生したみたいで、大型の千代田錦が園芸店に並んでいました。私も今年の3月に購入して育てています。千代田錦は葉が三方向に綺麗に並び、斑が非常に美しい多肉植物です。もっと人気が出ても良いような気がします。

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千代田錦 Gonialoe variegata

それはそうと、千代田錦は遺伝子解析の結果、2014年にアロエ属ではなくなりました。じゃあなんだと言われたらゴニアロエ属Gonialoeだということになります。やはりアロエに近縁ではありますが、アストロロバ属Astrolobaや新設されたツリスタ属Tulistaやアリスタロエ属Aristaloeとグループを形成します。

さて、そんな千代田錦ですが、何か情報はないかと論文を漁っていたところ、2003年に出されたPaul I. Forsterの『Variations on Aloe variegata, the partridge-breast Aloe』という論文を見つけました。表題の"partridge"とは「ヤマウズラ」のことですが、羽の模様からの連想でしょうか? タイガーアロエとも呼ばれます。

論文の内容に移りましょう。この論文が出された時点ではまだGonialoeではありませんから、論文の時の学名であるAloe variegataで解説します。
A. variegataは1685年にSimon van der Stelが南アフリカのNamaqualandに遠征した時に発見されました。Simonはオランダのケープ植民地の総督でした。どうやら、A. variegataは西洋で知られているアロエの最初の種類のひとつでした。この時の資料にA. variegataのイラストがありましたが、1932年まで出版されませんでした。

※補足説明 : van der Stelの調査の詳しい事情は、私も過去に調べたことがあります。Aloidendron dichotomumの最初の発見に関する記事でした。その記事では以下のような経緯を説明しています。
1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。

A. variegataを学術的に記載したの1753年のCarl von Linneですが、リンネ以前の最も初期の引用は1690年で、1689年には粗雑な図解がありました。A. variegataの園芸への導入は、1700年にアフリカ南部のコレクターから種子を受け取ったCasper Commelinであると考えられています。A. variegataは1753年にリンネにより記載されましたが、その種の基本となるタイプ標本※は指定されず、いくつかの引用からなっています。CommelinのA. variegataの図解や説明の中で、1706年の「Plantae Rariores et Exotica」の図をA. variegataのレクトタイプ※※として選択しました。この図は、2000年にGlen & hardyにより、イコノタイプ※※※として誤用され、2001年のNewtonはA. variegataはタイプ化されていないと誤って述べています。

※タイプ標本 : 新種を記載する際の、その生物を定義する標本(ホロタイプ)。
※※レクトタイプ : ホロタイプが失われたり、指定されていない場合に指定された標本。

※※※イコノタイプ : 新種指定の基準となった図のこと。

Aloe variegataの異名として、1804年に命名されたAloe punctata Haw.、1908年に命名されたAloe variegata var. haworthii A. Berger、1928年に命名されたAloe ausana Dinterが知られています。このA. ausanaは特に優れたタイプとされていたようで、葉がより直立して斑が大きいとされていたようです。しかし、このタイプが現在でも栽培されているかは定かではありません。

A. variegataはナミビア南部と南アフリカの西ケープ州、東ケープ州、自由州、北ケープ州に分布します。分布が広いため、様々な生息地で見かけることが出来ます。生育環境は主に粘土や花崗岩由来の土壌の低木地で見られます。雨は夏と冬に降り、気温は氷点下近くから夏には38℃を超えることもあります。

A. variegataは他のアロエとの交配種は少なく、1998年にForster & CummingによるAloe 'lysa'(A. variegata × A. bakeri)やAloe 'Versad'(A. variegata × 不明)が作出されています。また、オーストラリアのAtilla Kapitanyにより、生息地由来の種子より斑のない個体が得られ、Rudolf Schulzにより'Splash'の名前で販売されましたが、子株は斑入りに戻る可能性があります。
A. variegataはガステリアの交配親として利用されてきました。その多くは名前がなく、交配親もわかりません。主な品種は以下のものが知られています。
× Gasteria 'Orella'(A. variegata × G. batesiana)
× Gasteria 'Agate Chips'(A. variegata × G. bicolor var. bicolor)
× Gasteria mortolensis(A. variegata × G. acinacifolia)
× Gasteria pethamensis(A. variegata × G. carinata var. verrucosa)
× Gasteria pfrimmeri(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria radlii(A. variegataあるいはA. serrulata × 不明)
× Gasteria rebutii(A. variegata × G. sp.)
× Gasteria sculptilis(A. variegata × G. ×cheilophylla)
× Gasteria smaragdina(A. variegata × G. ? candicans)


以上が論文の簡単な要約となります。
アロエよりガステリアとの交配が盛んなのは何故でしょうか。思うに、千代田錦はアロエ属よりもガステリア属の方が近縁なので、交配がスムーズなのかも知れませんね。
しかし、千代田錦の登場は18世紀から19世紀のヨーロッパの園芸界に、それなりのインパクトを与えたようです。1801年にSimsは「このアロエには非常に望ましい点が結合している」と述べ、1976年にはNobleが「おそらく英国で最も有名なアロエ」と見なし、非常に高い評価を受けています。久しぶりに千代田錦が流通したのですから、せっかくですから日本でも千代田錦の美しさを見直す時が来ているのではないでしょうか。


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最近、Aloe aristataという名前の多肉植物を入手しました。綾錦の名前でも知られています。近年、アロエ属からAristaloe属になりました。
グランカクタスの佐藤さんの図鑑では2つのタイプの写真が掲載され、交配種の可能性が指摘されていました。ひとつはトゲがないタイプで、もうひとつは
ハウォルチアの禾を思わせるトゲがあるタイプでした。私が過去に入手したのは、トゲがないタイプで非常に葉が硬いものでした。最新の遺伝子解析による分類では、AristaloeはAstrolobaやTulista、千代田錦(Gonialoe variegata=Aloe variegata)に近縁ですから、葉は硬いということは当たり前のことだと思っていました。逆にトゲがあるタイプは柔らかそうですから、ハウォルチア系との交配種かもしれないなんて思ったりもしました。
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綾錦?
トゲがなく葉が硬いタイプ。


しかし、自生地の写真を幾つか見てみると、どの写真を見てもややハウォルチアに似た姿で、トゲがあるタイプの方でした。思い込みはいけませんね。ちゃんと調べるべきでした。そんな折、先日開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールでAloe aristataが販売されていましたので購入しました。
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綾錦 
Aloe aristata=Aristaloe aristata

葉はしなやかでトゲがあります。特徴的に綾錦で間違いないでしょう。では、先に入手していた葉が硬いタイプのアロエは何者なのでしょうか? 綾錦と無関係とも思えませんが、何者かとの交配種である可能性が高いように思われます。そこで、まずはAristaloe aristataを調べてみることにしました。取り敢えずは、論文を探して見ました。出てきたのは、Colin C. Walkerの2021年の論文、『Aristaloe aristata : a unique, monotypic species』です。内容の簡単に要約します。

植物学者というよりはプラントハンターであったイギリスのJames Bowieにより初めて採取された植物は、1825年にイギリスのAdrian Hardy HaworthによりAloe aristata Haw.と命名されました。他にも、1829年にAloe longiaristata  Schult. & Schult.f.、1934年にAloe ellenbergii Guillauminと命名されましたが、これらは異名となっています。
2013年にはAstrolobaやGonialoe variegata(Aloe variegata, 千代田錦)とともにTulista属とされ、Tulista aristata(Haw.) G.D.Rowleyとする意見もありましたが、現在では認められておりません。
2014年にAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningと命名され、これが現在の綾錦の学名です。Aristata属はA. aristata1種類のみを含む属です。


 A. aristataは南アフリカ原産とレソトで、西ケープ州の東、南北ケープ、東ケープ、オレンジ自由州、KwaZulu-Natal南西部に至るまで、アフリカ南部に広く分布します。「暑く乾燥したカルー地域の砂質土壌、川沿いの森林の腐食質に富んだ日陰、レソトの高原にある草原など様々(Glen & Hardy, 2000)」であり、「標高は200mから2200m」かつ「アフリカ南部の最も寒い幾つかの地域にも発生(van Wyk & Smith, 2014)」ということですから、かなり環境の変化に対応できる様子が伺えます。
A. aristataの耐寒性が高いことは明らかですから、イングランド南部では屋外栽培も可能との報告があるそうです。著者はスコットランド中部で屋外栽培を試みましたが失敗した模様です。どうも、冬の雨がよろしくないみたいですね。

A. aristataは交配親としても使用されてきました。実は意外にもガステリア属との交配種があり、2013年にはG.D.Rowleyにより×Gastulistaとして19種類がリスト化されています。これは現在ではAristaloe × Gasteriaと見なされています。

簡単な論文の要約は以上です。
綾錦は非常に耐寒性があるとのことですが、私の交配系綾錦は氷点下でも耐えることが出来ます。ちゃんと親の性質を受け継いでいるのですね。そう言えば、私の所有する綾錦のようなものは論文にあるようにガステリア交配種なのでしょうか? 葉が硬くなる特徴はまさにガステリアの血を受け継いでいるからかもしれません。しかし、論文からヒントは貰いました。
ヒントを元にデータベースを調べ直しました。おそらくは、私の交配系綾錦は1931年に命名された× Gasteraloe Guillauminでしょう。キュー王立植物園のデータベースの× Gasteraloeは、なんと私の所有している綾錦系交配種とそっくりな画像が貼られていました。ただし、この× GasteraloeはGasteria × Aloe sensu lato(広義)であり、Aristaloeを分離出来ていない広義のアロエ属を示しています。論文で述べられていた× Gastulista G.D.RowleyはGasteria × Tulista sensu lato(広義)ですが、G.D. Rowleyの言うところのTulistaはAristaloeやGonialoeも含んだ広義のTulistaでしょう。確かに広義のTulistaにはAristaloeも含まれますが、G.D.Rowleyの主張する広義のTulista自体が認められておらず、本来は
Gasteria × Tulista sensu stricto(狭義)にのみ使用されるべきです。ですから、Gasteria × Aristaloeについての適切な学名が必要でしょう。


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「乙姫の舞扇」ことKumara plicatilisは、かつてAloe plicatilisと呼ばれていました。現在でも販売されている苗はAloe plicatilisの名札が付いています。以前、ネットに転がっているような情報については調べてまとめました。
しかし、それもイギリス王立植物園のデータベースと、南アフリカの生物に関する公的データベースを参照としましたから、情報量は国内とは比較にならないほど大きいものでした。しかし、最近では学者論文も参照にしていますから、Kumara plicatilisについても何かないか調べてみました。そんなこんなで見つけたのが、S. R. Cousins, E. T. F. Witkowski, M. F. Pfab, R. E. Reddles, D. J. Mycockの2013年の論文、『Reproductive ecology of Aloe plicatilis, a fynbos tree aloe endemic to the Cape Winelands, South Africa』です。論文のタイトルにはAloe plicatilisとありますが、Kumara plicatilisという学名が提唱されたのは2013年ですから、タイミング的にAloe plicatilisはこの時は正しい学名でした。まあ、AloeからKumaraに名前は変わっても、植物自体が変わったわけではありません。論文ではまだAloeですから、解説もA. plicatilisの表記でいきます。

DSC_1617
Kumara plicatilis=Aloe plicatilis

さて、論文の内容ですが、A. plicatilisの繁殖について調査したものです。まずは、アロエの繁殖に関する研究について振り返ります。
調査が行われた南アフリカにはアロエが約140種確認されており、最もアロエの多様性が高い地域です。アロエは管状の鮮やかな花を咲かせる傾向があり、一般的に自家受粉しないため受粉は花粉媒介者(ポリネーター, pollinator)に依存します。多くのアロエは冬に開花して蜜を出すため、食糧の不足する冬の食糧源として重要です。アロエは鳥をポリネーターとする鳥媒花とする種類については複数の研究があります。長い管状の花を咲かせるアロエは濃い蜜を少な目に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥をポリネーターとしています。対して、短い花のアロエは薄い蜜を大量に出し、花の蜜を専門とする太陽鳥ではなく、専門ではない鳥をポリネーターとしています。
この時、なぜ太陽鳥が受粉に寄与しないかを調べた論文については、過去に記事にしたことがあります。

アロエの種子は通常は長さ3~5mmで、2つの翼(一部の種は3翼)を持つものは風で散布されます。しかし、翼がない種は親植物の近くで育ちます。アロエは豊富に種子を生産しますが、発芽は雨に依存しており新しい苗は希です。アロエの種子は通常3週間以内に発芽し、1年後では大幅に発芽力が低下することがあるそうです。アロエの苗は、強光や暑さ、乾燥、霜、食害から保護してくれる他の植物が重要です。

A. plicatilisはケープのフィンボスに自生する唯一の樹木アロエです。A. plicatilisはケープ南西部のWinelandsの山岳地帯に分布が制限されています。標高は200~950mです。この地域は地中海性気候で、乾燥した夏(平均気温15~25℃)と雨の多い冬(平均気温7~15℃)がある環境です。自生地は急な岩だらけの斜面で、水捌けのよい酸性土壌です。10~3年間隔で夏に火災が発生します。
A. plicatilisは生長が遅く、2つに分岐する枝を持ち、葉は扇形になり12~16枚です。茎の直径は15cmまで、高さは80cmほどで成熟します。成体の高さの平均は1.5mほどですが、最大で5mに達する可能性があります。
花は円筒形で長さ5cm程度で、15~25cmの総状花序に25~30個の緋色の花が咲きます。A. plicatilisは8~10月(時に11月)に開花し、11月上旬に結実します。実は12~1月に裂開し、種子には翼があります。


著者はA. plicatilisのポリネーターを調査しました。方法は一部の花に網をかけて鳥や小型哺乳類を排除し、結実する季節に観察を実施するという割とアバウトなものです。結実は①排除なし、②鳥や小型哺乳類の排除、③すべてのポリネーターの排除という3パターンです。結果は、①>②>③の順番でした。A. plicatilisの場合、鳥や小型哺乳類の排除は結実にあまり影響を与えていないことが示されており、A. plicatilisの主たるポリネーターは昆虫である可能性があります。おそらくは、主要なポリネーターはミツバチと考えられます。
しかし、①の排除なしは②より高いため、昆虫だけではなく鳥も重要かもしれません。A. plicatilisの花を訪れた鳥は太陽鳥ですが、筒状の花の形状から太陽鳥以外の鳥は採蜜が難しいので、太陽鳥が受粉の効率を高める効果があるのかもしれません。

さらに、種子がどれくらい散布されるのかを確認しています。方法は実際の自生地で0.8mの高さから種子を落として、どの程度種子が拡散するかを計測しています。結果は、平均風速が遅い地域では1.3m、早い地域では15.3mに達しました。
この種子散布の1年後に土壌を採取し、温室で水を与えましたが、実生は生えてきませんでした。種子の寿命は1年もないことになります。散布後6ヶ月では少数の発芽があっただけで、種子は土壌中で長く生存しないことがわかりました。


採取した種子を、室内の冷暗所に保存した場合に発芽するかを試験しました。やはり、温室で水を与えましたが、発芽までの期間は3ヶ月保存では0.8週、18ヶ月保存では2.5週、24ヶ月保存では2.3週かかりました。
ここで面白いことがわかりました。6週間保存した新しい種子は発芽率が28%と非常に低いというのです。しかし、種子を調べると(種子の活性を調べるテトラゾリウム試験)、発芽能力があることがわかりました。どうやら、種子は散布された後に熟成される必要があるようです。また、室内で管理した種子は長期保存しても発芽したため、自生地の環境が種子の保存に適していないことが考えられます。

論文の簡単な要約は以上となります。
このように生態を詳しく調査することにより、植物の保護に対する重要な情報を提供します。例えば、今回のA. plicatilisの場合、種子の保存安定性があまり良くないことがわかりました。もし、植物の保護や繁殖を考えた時に、種子の保存は必然的です。事前に参照可能な情報があるとないとでは、大きな違いがあります。このような地道な研究が貴重な生物の未来を支える礎となるかもしれないのです。



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花は受粉のために動物を利用しますが、その報酬として蜜を用意しています。実はこの花の蜜は、種類ごとに成分が異なるという論文を以前紹介しました。

以前の記事では、HaworthiaやAstroloba、Chortolirionについて調べたGideon F. Smith, Ben-Erik van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』をご紹介しました。
実はここ10年でアロエやハウォルチアなどを含むアロエ類は、遺伝子解析により大幅に変更されました。そのため、アロエ類のメンバー全体についての情報が欲しかったのです。しかし、よく調べたところ、1993年に
Ben-Erik van Wyk, Charles S. Whitehead, Hugh F. Glen, David S. Hardy, Ernst J. van Jaarsveld & Gideon F. Smithの『Nectar Sugar Composition in Subfamily Alooideae (Asphodelaceae)』というが出ていたことに気がつきました。2001年の論文では調べていないアロエ属や個人的に懸案のPoellnitzia rubrifloraについても解析しています。
まずは、近年の遺伝子解説によるアロエ類の分子系統を示します。アロエ属(広義)はAloe(狭義)、Kumara、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoeに分割され、逆にLomatophyllumとChortolirionがアロエ属に統合されました。さらに、ハウォルチア属(広義)は軟葉系はHaworthia(狭義)に、硬葉系はHaworthiopsisとTulistaに分割されました。なお、PoellnitziaはAstrolobaに含むものとされています。
さて、ではこれらの分類と蜜の組成には関連があるのでしょうか?


アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

論文は1993年と当時の分類に従っています。しかし、現在では分類体系は大きく変わりました。
最新の遺伝子解析の結果に従って、論文の内容を再構成します。学名の後に、蜜に含まれる糖の組成を以下の順に示します。

【Fructose, Glucose, Sucrose】Fructoseは果糖、Glucoseはブドウ糖、Sucroseはショ糖のことです。
分子系統に示された分類群を、上から順番に見ていきましょう。


まずは、アロエ類の中で一番祖先的な"Tree Aloe"、つまりはAloidendronから。論文ではAloe ramosissimaとなっていますが、現在はAloidendron ramosissimumとなりました。
糖の組成はアロエ属(狭義)に近い値です。しかし、アロエ属(狭義)と比較すると、果糖がやや高くブドウ糖がやや低いことに気がつきます。たいした違いではないように思えますが、アロエ属(狭義)は39種類47検体も調べていますから、その値から多少とは言え逸脱していることには何か意味があるような気がします。
A. ramosissimum【55%, 45%, -%】


DSC_1221
Aloidendron dichotomum

次にKumaraとHaworthia(狭義)は近縁ですが、残念ながらKumaraはデータがありません。Haworthia(狭義)は5種類を調べています。
Haworthia(狭義)は割と組成がばらつきます。果糖は少なめですが、H. herbaceaは19%とやや高めです。これはアロエ属(狭義)とはかなり異なる組成ですが、これを鳥媒花のアロエ属(狭義)と虫媒花のハウォルチア属(狭義)の違いと見ることはできるのでしょうか。
H. arachnoidea【13%, 51%, 36%】
H. bolusii【6%, 39%, 55%】
H. comptoniana【4%, 54%, 42%】
H. cooperi【5%, 39%, 56%】
H. herbacea【19%, 46%, 35%】
DSC_1945
Haworthia arachnoidea

次にアロエ属(狭義)とAloiampelosについて見てみましょう。論文で分析されたアロエ属は47検体ですが、6検体は重複、2検体は変種です。また、現在はAloe ramosissimaはAloidendron ramosissimumに、Aloe variegataはGonialoe variegataとなっていますから、この一覧からは除外しました。また、現在はアロエ属とされるLomatophyllumは1種類2検体、Chortolirionは1種類3検体を調べています。Chortolirion angolensisは、現在ではAloe welwitschiiとされています。
Aloe37種類2変種の糖の組成は【40~51%, 47~60%,  - ~4%】でした。アロエ属はショ糖の割合が少ないことが特徴です。果糖とブドウ糖は半々くらいで、種類の違いによる変動幅は小さいと言えます。気になるのは、小型種であるA. bowieaが中型~大型種と糖の組成が変わらないことです。大型アロエは鳥媒花で、小型アロエは虫媒花なのではないかと思われますが、蜜の組成に違いはないのは不思議です。A. haworthioidesなどの他の小型種についてどうなのか知りたいところです。
Lomatophyllumの蜜の組成は完全にアロエ属の範囲内でした。形態的に特殊化したLomatophyllumが蜜の組成では変わっていないのは意外です。しかし、Chortolirionはショ糖の比率が70%を超えており、明らかアロエ属から逸脱しています。私はChortolirionについては知識がないため、その理由を推測出来ません。
Aloe ciliarisは現在ではAloiampelosとなっています。Aloiampelosの糖の組成は、アロエ属(狭義)の組成の幅に収まります。

A. abyssinica【47%, 49%, 4%】
A. aculeata【45%, 55%, - %】
A. affinis【46%, 53%, 1%】
A. arborescens①【45%, 55%, -%】
A. arborescens②【46%, 53%, 1%】
A. asperifolia【46%, 51%, 3%】
A. bellatula【49%, 51%, -%】
A. bowiea①【51%, 49%, - %】
A. bowiea②
【49%, 51%, - %】
A. branddraaiensis【40%, 60%, - %】
A. capitata
【47%, 53%, - %】
A. castanea
【46%, 52%, 2%】
A. citrina
【49%, 47%, 4%】
A. dewinteri
【48%, 49%, 3%】
A. divaricata
【46%, 54%, - %】
A. erinacea
【46%, 54%, - %】
A. fourei【47%, 50%, 3%】
A. gariepensis【49%, 51%, -%】
A. greatheadii
     var. greatheadii【48%, 50%, 2%】
A. greatheadii
     var. davyana【49%, 49%, 2%】
A. hardyi【46%, 54%, - %】
A. hereroensis
     var. hereroensis【47%, 52%, 1%】

A. humilis【47%, 53%, - %】
A. littoralis【46%, 50%, 4%】
A. lutescens【47%, 52%, 1%】
A. massawana【46%, 53%, 1%】
A. melanacantha【47%, 52%, 1%】
A. meyeri【49%, 50%, 1%】
A. microstigma【50%, 50%, - %】
A. monotropa【47%, 52%, 1%】
A. mutabilis【44%, 56%, - %】
A. nubigena【48%, 51%, 1%】
A. pachygaster【49%, 51%, - %】
A. parvibracteata【45%, 55%, - %】
A. pearsonii(赤花)【47%, 51%, 2%】
A. pearsonii(黄花)【50%, 50%, - %】
A. perfoliata【48%, 49%, 3%】
A. petricola【48%, 52%, - %】
A. pictifolia【48%, 52%, - %】
A. sinkata【42%, 57%, 1%】
A. speciosa【48%, 52%, - %】
A. suprafoliata【49%, 50%, 1%】
A. thompsoniae【48%, 49%, 3%】
A. tricosantha①【46%, 53%, 1%】
A. tricosantha②【47%, 52%, 1%】
A. tricosantha③【46%, 53%, 1%】
A. vanbalenii【45%, 55%, - %】
A. vaombe【45%, 55%, - %】
A. vera【46%, 54%, - %】
A. verecunda【48%, 52%, - %】

DSC_0066
Aloe arborescens

旧・Lomatophyllum
A. purpurea①【51%, 49%, - %】
A. purpurea②【50%, 50%, - %】

旧・Chortolirion
A. welwitschii①【8%, 21%, 71%】
A. welwitschii②【8%, 19%, 73%】
A. welwitschii③【7%, 20%, 73%】

Aloiampelos
A. ciliaris【49%, 49%, 2%】


記事が長くなってしまいました。Astroloba以下については、明日続きをご紹介します。


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多肉植物たちも1年経てば、それぞれの速度で生長していきます。私の育てている多肉たちも、生長が早いもの遅いもの、去年はいまいちでも今年はよく生長したもの、逆に去年はよく生長したのに今年はいまいちだったものなど、一株一株皆異なり様々です。
最近、寒くなり室内に多肉植物たちを取り込みましたから、毎日じっくり見る時間が出来ました。普段は帰宅すると暗くてよく見えず、休日に見るくらいですが、暑いわ蚊は出るわで中々じっくり多肉植物たちを見られませんでしたから。
寒さによって生長は鈍り、種類によっては完全に生長が止まったものもあるでしょう。この1年の生長を振り返る良い機会です。本日は我が家のアロエについて、少し振り返ります。まあ、それほど沢山のアロエを育てているわけではありませんが、アロエは丈夫なものが多く生長も早いので、なんと行っても目に見えて大きくなりますから育てる喜びがあります。そんな我が家のアロエたちを少しご紹介しましょう。

DSC_0663
2021年の12月に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで購入したAloe pegleraeです。まだ若く葉の枚数が少ないため、A. pegleraeらしさはありません。

DSC_1864
最近のAloe peglerae。見違えるように葉が増えました。葉の枚数が増えたので、葉がやや内側に巻いてきて、少しA. pegleraeらしくなってきました。トゲも強くなり、赤味が増して荒々しさが出ています。

DSC_0662
同じく2021年の12月のCactus & Succulentフェアで入手したAloe spectabilisです。A. pegleraeを購入したオマケでいただいた抜き苗です。真冬に植え込みましたから少し心配でした。
二列性と言って、アロエは苗の頃は葉が左右に並びますが、ご覧の通り見事な二列性の苗でした。

DSC_1900
最近のA. spectabilis。葉が旋回を始めました。葉の幅がかなり広くなり、A. spectabilisらしさが出てきました。まあ、A. spectabilisは高さ5メートルになる巨大アロエですから、まだまだ赤ちゃんみたいなものでしょうけど。

DSC_0779
2022年の2月に鶴仙園池袋店で購入したAloe somaliensis。冬なので乾かしぎみ、あるいは断水管理なのかもしれません。カリカリに乾いて、葉が巻いています。

DSC_1666
夏のA. somaliensis。あまりの強光に焦げて外側の葉をやられてしまいました。

DSC_1906
最近のA. somaliensis。焦がしてから遮光して、ようやく落ちつきました。来年は葉の枚数を増やしたいものです。

DSC_0022
2020年の1月に埼玉のシマムラ園芸で購入したAloe aristata。今は属が変更されてArirtaloe aristataです。カチカチに硬いタイプです。
※おそらくはGasteriaとの交配種の可能性あり。

DSC_1921
最近のA. aristata。すっかり葉が増えて同じ種類には見えません。隠れていますが、根元から幾つか小さい子を吹いています。

DSC_0971
2022年の4月に五反田で開催された春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入したAloe parvula。寒さにすっかり赤くなっていました。写真ではわかりませんが、葉先はだいぶ枯れ込んでいました。凍みてしまう一歩手前に見えましたが、さてどうなるやら。

DSC_1816
最近のA. parvula。中々、赤味が抜けなくて苦労しましたが、ご覧の通り葉も増えて美しい緑色を取り戻しました。こういうしなやかな葉のアロエは気に入っています。

DSC_0204
2020年の3月に横浜のコーナン港北インター店で購入したAloe haworthioides。柔らかい小型アロエです。この時点では3株でした。

DSC_1815
最近のA. haworthioides。8株に増えました。

室内に取り込んだ多肉植物を眺めていると、ああ随分生長したなあと思います。今回、あまり変わっていなように見えても、昔の写真と比較すると思いの外生長していて驚いたりもしました。
そういえば、我が家の多肉植物に冬型はほとんどありません。ですから、基本的に冬はお休みの季節です。ブログも論文の紹介などがメインになるかもしれません。 

論文の紹介は私の記事としてはあまり人気はありませんが、重要なことが書かれており、私は個人的に面白くて仕方がないので是非内容を共有したいと考えています。学術論文だからと言って真面目に構えて読む必要はなく、流し読む位の気楽なものと捉えてほしいのです。科学研究は研究者だけの独占物ではなく、社会に還元することが求められます。それは、必ずしも実社会で実用的である必要はなく、書籍や大学のホームページなどで研究成果を説明していただくだけでも意味があると思います。しかし、すべての研究者の業績が書籍となるわけではなく、若手研究者や海外の研究については学術論文以外では知る術がないのが現状です。といったところで、学術論文を検索するのはハードルが高いかもしれません。ですから、あくまで私の興味のある部分だけではありますが、多肉植物の論文をこれからも紹介していきたいと考えております。



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Aloidendron dichotomumは代表的な木性アロエです。原産地では巨大に育つことで有名です。現在はアロイデンドロン属とされていますが、かつてはAloe dichotomaと呼ばれていました。
本日はA. dichotomumの発見と命名の経緯について書かれたColin C. Walkerによる2021年の論文『Aloidendron dichotomum The archetypal tree aloe』をご紹介します。私の所感や他の著者の論文による遺伝子解析の情報も追加しました。


DSC_1866
Aloidendron dichotomum

オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。その中には、A. dichotomumの絵も含まれていました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。van der Stelの日記には、A. dichotomumに対する記述があります。時に12フィートとなり、樹皮は硬いが中は柔らかく軽くスポンジ状つ、原住民は矢筒として利用されていることが記されています。これが、おそらくは最も古いA. dichotomumに対する記述でしょう。


次に南アフリカのA. dichotomumを訪れて記述したのは、Francis Massonです。MassonはJoseph Banks卿の命により、イギリス王立植物園のコレクションを強化するために南アフリカに派遣されたプラント・ハンターでした。Massonは数多くの新種の植物を発見しました。Massonは1774年にZwart Doon渓谷で新種のアロエを発見し、Aloe dichotomaと命名しました。 これが、A. dichotomumの最初の命名でしたが、Massonは当時の分類体系に正しく分類したことになります。

さて、A. dichotomumは初めて命名されて以来、200年以上A. dichotomaという学名でした。Aloidendronに移されたのが2013年のことでしたから、まだ10年も経っていないことになります。過去に出た図鑑もAloe dichotomaと表記していますし、販売される時にもAloe dichotomaの名札だったりしますから、Aloe dichotomaの方が馴染みがあります。ただし、現在のアロエ類の分類は、外見上の特徴ではなくて遺伝子解析の結果によりますから、より精度が高いものとなっています。ちなみに、Aloidendronとは、そのままTree Aloeという意味ですからわかりやすいですね。

アロエ類の分子系統図
┏━━━━━━━━★Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

Aloidendronはイギリス王立植物園のデータベースでは7種類が登録されておりますが、論文では6種類について述べられています。
Aloidendronのうち、A. dichotomumに最も近縁と考えられているのが、Aloidendron ramosissimumです。そのため、2000年にはA. dichotomaの変種、2002年には亜種とする考え方も提案されました。しかし、現在ではそれぞれ別種とされております。両種ともに南アフリカのケープ州からナミビアにかけて分布します。A. ramosissimumは枝分かれして高さ3mほどのブッシュ状となり主幹を持たないため、A. dichotomumとは異なり樹木というよりは低木とした方が正しいようです。
同じく南アフリカのケープ州からナミビアに分布するのが、絶滅の危機に瀕しているAloidendron pillansiiです。やはり、2002年にはAloe dichotomaの亜種とする意見もありました。A. pillansiiは幹は直立しますが、枝は少ないようです。また、花序は水平方向に伸びるらしく、花序が直立するA. dichotomumとの区別は簡単です。
他のAloidendronはA. dichotomumとは地理的に離れています。アフリカ南東部にはAloidendron barberaeとAloidendron tongaensisが分布します。A.tongaensisは南アフリカのKwaZulu-Natal州からモザンビークまで、A. barberaeは南アフリカの東ケープ州からKwaZulu-Natal州、北部州、スワジランド、モザンビークまで広く分布します。しかし、論文では2015年のvan Jaarsveldはモザンビークの分布を主張しましたが、2019年のWalkerの報告ではモザンビークでのA. barberaeの存在を確認出来ませんでした。A. barberaeは高さ18mになり、花のサイズとピンクがかった花色でA. dichotomumと区別されます。2010年に発見されたばかりのAloidendron tongaensisは、A.barberaeに似ていますが高さは8mほどです。黄色がかったオレンジ色の花が特徴です。
他のAloidendronとさらに地理的に隔離されているのが、Aloidendron eminensです。A. eminensはソマリアの固有種で分布は非常に狭いと言います。高さは15mまでの直立した幹を持ち、赤色の花を咲かせます。
最後に論文には記載がない7種類目は、Aloidendron sabaeumです。発見は1894年ですがAloidendronとされたのは2014年のことです。驚くべきことにA. sabaeumはアフリカ原産ではなく、サウジアラビアとイエメンに分布します。高さは5mほどで、垂れ下がる葉を持ちます。花は赤色から赤褐色です。ここまではカタログ・データですが、A. sabaeumの画像がいまいち見つかりません。ひょろひょろと細長く伸びて枝分かれしないミニチュアのヤシのような画像は出てきます。生長しても分岐せずに、姿は変わらないのでしょうか?

論文の内容は以上です。多少情報を追加しましたが、Aloidendron dichotomumの発見の経緯などはまったく知らなかったので、私は非常に面白く論文を読みました。こういう話はデータベースを漁るだけでは得られませんから、著者には感謝ですね。
また、この他にもA. dichotomumの絵が書かれた経緯などもありましたが割愛しております。悪しからず。



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草花の花は美しく私達の目を楽しませてくれますが、植物達は私達を楽しませるために花を咲かせているわけではありません。受粉のために昆虫や鳥などを呼び寄せる際の目印として、目立つ花を咲かせているのです。もちろん、植物は花粉を運んでもらう報酬として、甘い蜜を準備しています。花に集まる昆虫や鳥もタダ働きは御免でしょうから、働きに見合う甘い蜜は必要なのです。
最近は多肉植物の花の受粉に関する論文を記事としてご紹介してきました。これまでの記事は花粉を運ぶポリネーターについての話でした。少し視点を変えて、本日はこの甘い蜜のお話をしましょう。

DSC_1640
Haworthiopsis scabra

よく考えてみると、花の話題はあっても、花の蜜の話題はあまり聞かない気がします。まあ、我々が直に花の蜜を吸うわけではないので、花の蜜と言えば蜂蜜くらいなものですからね。
ポリネーター(花粉媒介者)に対するアピールとして重要なのは、花の色や大きさ、形状です。花の色によって反応するポリネーターは異なります。しかし、花の蜜の成分はどうでしょうか。植物により異なるのでしょうか。あるいは、その成分とポリネーターの種類には相関があるのでしょうか。
とりあえず、多肉植物の蜜に関する論文を漁ってみたところ見つけたのが、G. F. Smith, B-E. van Wyk, E. M. A. Steyn & I. Breuerの2001年の論文、『Infrageneric classification of Haworthia (Aloaceae) : perspectives from nectar sugar analysis』です。

DSC_1631
Haworthiopsis attenuata

まず、アロエ類についておさらいしましょう。アロエ類とは、古典的な分類ではAloe(広義)、Haworthia(広義)、Gasteria、Astrolobaからなる植物です。しかし、最近では遺伝子解析の進展により、Aloe(広義)は解体されてAloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Gonialoe、Arirtaloeとなり、Haworthia(広義)も、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなりました。しかし、この論文が出た時点ではここら辺の話はまだ出て来ておりませんでした。むしろ当時の問題点は、球根様のChortolirionや液果を持つLomatophyllumはAloeか否かとか、花が異なるPoellnitziaがAstrolobaか否かということでした。これらは研究者によって見解が異なるため、かなりの議論があったようです。現在では、遺伝子解析により、ChortolirionやLomatophyllumはAloeの、PoellnitziaはAstrolobaの特殊化したものに過ぎないことがわかりました。さて、前提はここまでにして、論文の内容に移りましょう。花の蜜を分析して、蜜に含まれる糖の種類の割合を算出しています。蜜に含まれる糖は、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ショ糖(スクロース)です。以下の一覧は、2001年当時ですから学名が現在と一部異なります。括弧の中は【フルクトース, グルコース, スクロース】の割合(%)を示しています。

Haworthia亜属(=狭義のHaworthia)
1   H. angustifolia             【 4, 48, 48】
2   H. angustifolia
       fa. baylissii                 【10, 25, 65】
3   H. arachnoidea①        【13, 51, 36】
4   H. arachnoidea②        【  5, 50, 45】
5   H. blackburniae           【24, 43, 33】
6   H. bolusii                      【  6, 39, 55】
7   H. comptoniana          【  4, 54, 42】
8   H. cooperi                    【  5, 39, 56】
9   H. cymbiformis
     var. cymbiformis          【14, 55, 31】
10 H. decipiens①             【  7, 51, 42】
11 H. decipiens②             【  9, 61, 30】
12 H. divergens                 【16, 52, 32】
13 H. emelyae①               【  8, 54, 38】
14 H. emelyae②               【12, 59, 29】
15 H. habdomadis
       var. morrisiae              【  2, 48, 50】
16 H. herbacea                  【19, 46, 35】
17 H. maculata①              【17, 49, 34】
18 H. maculata②              【16, 58, 26】
19 H. margnifica
       var. maraisii                 【  1, 50, 49】
20 H. marumiana               【16, 54, 30】
21 H. maughanii                 【  7, 58, 35】
22 H. nortierii                      【20, 60, 20】
23 H. pubescens                【11, 46, 43】
24 H. retusa                        【  4, 44, 52】
25 H. retusa
       var. dekenahii              【10, 39, 51】
26 H. rycroftiana                【  6, 57, 37】
27 H. semiviva                    【16, 52, 32】
28 H. truncata                     【  7, 47, 46】
29 H. unicolor                      【  5, 45, 50】
30 H. xiphiophylla               【25, 48, 27】
31 H. glauca                         【  1, 19, 80】

いわゆる軟葉系ハウォルチア、狭義のHaworthiaはグルコースあるいはスクロースが主成分です。フルクトースは少ないのですが、多いものでも25%程度です。

Hexangulares亜属(=Haworthiopsis)
32 H. koelmaniorum①    【  5, 23, 72】
33 H. koelmaniorum②    【  8, 28, 64】
34 H. limifolia
        var. limifolia①           【  4, 41, 55】
35 H. limifolia
        var. limifolia②           【  3, 24, 73】
36 H. limifolia
        var. limifolia③           【11, 29, 60】
37 H. limifolia
        var. gigantea             【  4, 34, 62】
38 H. longiana①              【  3, 20, 77】
39 H. longiana②              【  7, 19, 74】
40 H. nigra                        【   - , 25, 75】
41 H. venosa
     subsp. granulata①     【  5, 25, 70】
42 H. venosa
     subsp. granulata②     【  4, 24, 72】
43 H. venosa
     subsp. granulata③     【  8, 30, 62】
44 H. venosa
     subsp. tessellata①    【  1, 29, 70】
45 H. venosa
     subsp. tessellata②    【  2, 24, 74】
46 H. viscosa①               【  2, 32, 66】
47 H. viscosa②               【  4, 33, 63】
48 H. woolley                   【  1, 22, 77】

硬葉系ハウォルチア、つまりはHaworthiopsisはスクロースが主成分です。狭義のHaworthiaとの違いが目立ちます。
Haworthiopsisの中でもH. koelmaniorumやH. limifoliaは遺伝子解析の結果では、やや位置が異なると見られていますが、蜜の成分はHaworthiopsisとしては普通です。

Robustipeduculares亜属(=Tulista)
49 H. minima                  【  7, 24, 69】
50 H. pumila①               【  1, 14, 85】
51 H. pumila②               【  3 , 17, 80】
52 H. pumila③               【  7, 19, 74】

Tulistaはサンプルが少ないのが残念ですが、スクロースの比率が非常に高いようです。実はTulistaは狭義のHaworthiaやHaworthiopsisより、AstrolobaやArirtaloeと近縁です。
ちなみに、H. minimaは現在ではTulista minorとされています。

交配種など
53 H. woolley
         × H. sordida           【  4, 29, 67】
54 H. viscosa
         × H. longiana         【  8, 27, 65】
55 H. subg.
   Haworthia sp. nov.     【  6, 55, 39】
56 H. tortuosa                【11, 31, 58】
57 H. mcmurtryi             【  7, 26, 67】

Astroloba
58 A. bullulata                【20, 46, 34】
59 A. spiralis
      subsp. spiralis          【  2, 13, 85】
60 A. spiralis
      subsp. foliolosa①   【  4, 16, 80】
61 A. spiralis
      subsp. foliolosa②   【  7, 29, 64】
62 A. spiralis
      subsp. foliolosa③   【  9, 32, 64】

Astrolobaはスクロースの比率が高いようです。A. bullulataは異なります。
ちなみに、A. spiralis subsp. foliolosaはA. foliolosaとして独立種とされています。

Chortolirion
63 C. angolense①        【  8, 21, 71】
64 C. angolense②        【  8, 19, 73】
65 C. angolense③        【  7, 20, 73】

Chortolirionはスクロースの比率が高いようです。Chortolirionは現在はAloeとされていますが、Aloeの蜜の成分と比較したいところです。

蜜の糖の成分がこれ程、属ごとに異なるとは思いませんでした。むしろ、種類ごとにバラバラでもおかしくはないと思っていました。意外です。
蜜の成分とポリネーター(花粉媒介者)との関係性はどうなのでしょうか? 大型アロエは鳥媒花ですが、Chortolirionはわかりませんが同じ鳥媒花だとしたらスクロース比率が高いのでしょうか。しかし、Haworthia、Haworthiopsis、Astrolobaは虫媒花ですが、割と成分の比率は異なります。ただし、ターゲットの昆虫が異なる可能性はあり、蜜の成分の違いと花に集まる昆虫の関係性も気になります。
最大の疑問はAstroloba rubrifloraの蜜の成分でしょう。A. rubrifloraはかつてPoellnitziaとされていました。これは、白花で虫媒花であるAstrolobaに対し、赤い花で鳥媒花のPoellnitzia rubrifloraという違いがあったためです。ポリネーターが異なることと蜜の関係性が一番わかりやすい例でしょう。
どうにも知りたいことが多すぎて困ってしまいます。他に論文がないかさらに詳しく調べてみます。


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本日のお話に関係するAloe pegleraeは南アフリカ原産の絶滅が危惧されているアロエです。原産地では非常に整った美しい姿をしており、違法採取や環境破壊により数を減らしており、保護の対象とされています。しかし、A. pegleraeは増やすことが難しいわけではないため、実生苗は入手が容易で普及種に近い状況となっております。ただし、A. pegleraeは生長が遅く大型になるまでに時間がかかるため、高額な現地球を欲しがる人もいるのでしょう。とはいえ、現在アロエは、Aloe veraと園芸用の交配系アロエ以外の輸出入に関して制限がかかっており、簡単には輸入出来なくなっているようです。

さて、最近アロエの受粉に関わる鳥について調査した論文の内容について記事にしました。
しかし、論文ではAloe feroxの受粉に関与する鳥を調査することが目的であり、昆虫や哺乳類を排除した内容でした。そこで、何か良い論文はないかと調べていたら見つけたのが、南アフリカのStephanie L. Payne、Craig T. Symes and ED T. F. Witkowskiが2016年に発表した『Of feathers and fur : Differential pollinator roles of birds and small mammals in the grassland succulent Aloe peglerae』です。

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Aloe peglerae

アロエは一般的に赤系統の花を咲かせますが、これは鳥に対するアピールと考えられています。しかし、ネズミなどの小型哺乳類が夜間にアロエの花を訪れることは知られていましたが、その受粉への関与についてはあまりわかっておりません。この論文では草原性のアロエであるAloe pegleraeの花を訪れる動物を記録し、受粉により出来た種子を調べました。
A. pegleraeの開花は7~8月で、主にルリガシライソヒヨ(Monticola rupestris)という鳥により受粉が行われ、昆虫の貢献はわずかと言われています。過去の知見ではA. pegleraeの花を訪れた動物は、ヒガシイワハネジネズミ(Elephantulus myurus)、ナマクアロックマウス(Micaelamys namaquensis)、チャクマヒヒ(Papio hamadryas ursinus)、ホソマングース(Galerella sanguinea)、four striped grass mouse(※4本の縞模様があるネズミ、Rhabdomys pumilio)が知られています。

研究は南アフリカのPretoriaの西部にあるMagaliesberg山脈にあるPeglerae Conservancyで行われました。A. pegleraeは知られている個体群は3箇所のみです。A. pegleraeは直径20cm以上で成体となり、冬(7~8月)に毎年開花します。A. pegleraeの花は薄い蜜を大量に分泌するということです。

さて、観察の結果、日中はルリガシライソヒヨ、夜間はナマクアロックマウスが最も頻繁なA. pegleraeの花への訪問者でした。チャクマヒヒやネズミが花自体を食べてしまった様子も観察されました。アロエの花に来ることが報告されているアカハラケビタキ(Thamnolaea cinnamomeiventris)は周囲に沢山いたにも関わらず、観察期間中にA. pegleraeの花を訪れませんでした。また、シロハラセッカ(Cisticola lais)、ハシナガビンズイ(Anthus similis)、アカバネテリムク(Onychognathus morio)、ケープメジロ(Zosterops virens)、ヒガシイワハネジネズミがA. pegleraeの花を訪れました。 
A. pegleraeの花への訪問、はルリガシライソヒヨが約60%を占めていることから、A. pegleraeの受粉にとって重要です。ルリガシライソヒヨが冬にわざわざ寒いMagaliesberg山脈を訪れるのは、餌の少ない冬にA. pegleraeの蜜を求めてではないかと著者は考察しています。

ネズミなどの小型哺乳類による受粉は、幾つかの植物で報告があります。今回の観察でA. pegleraeを訪れたのはナマクアロックマウスとヒガシイワハネジネズミでしたが、やはり餌の少ない冬に蜜を求めてやってくる可能性があります。しかし、ナマクアロックマウスは花を食べてしまうため、受粉の有効性は疑問視されてきました。ただし、今回の観察では食害があっても、種子が出来たということです。
鳥と小型哺乳類の受粉に対する貢献度は正確にはわかりません。その違いは移動距離で、鳥と比較すると小型哺乳類の移動範囲は狭くなります。しかし、小型哺乳類は採餌に時間をかけるため、鳥よりも多くの花粉を体に付着させます。花粉の移動する量という側面からは、小型哺乳類が有効と言えます。高さ数メートルになる大型アロエと比較して、A. pegleraeは背が低いため、小型哺乳類をより引き寄せやすいと言えるかもしれません。
A. pegleraeは自家不和合性、つまりは自分の花では受粉しない可能性が高いとされています。今回の観察では、出来た種子の発芽試験を行われました。その結果、鳥による受粉でも小型哺乳類による受粉でも、種子の発芽率に違いはないとのことです。つまりは、移動範囲が狭い小型哺乳類でも、ちゃんと花粉を他の個体へ運んでいるのです。

以上で論文の簡単な要約は終了です。著者はAloe pegleraeの受粉は鳥だけではなく、小型哺乳類によっても行われるということを主張しています。Aloe pegleraeにとっては両者ともに重要なポリネーター(花粉媒介者)なのです。
植物の受粉と言えば、以前はミツバチやマルハナバチなどの昆虫が重要で、一部ハチドリやタイヨウチョウなどの鳥も関与するくらいの認識でした。しかし、
Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文では、Aloe feroxの受粉は花の蜜を餌とすることに特化したスペシャリストであるタイヨウチョウはほとんど関与せず、主に専門ではない他の餌も食べるジェネラリストにより受粉するというのです。スペシャリストの受粉への貢献度の低さにも驚きましたが、何より鳥が主たるポリネーターであることは、私の植物の受粉に対する認識を大きく変えられることになりました。さらに、今回ご紹介した論文で、小型哺乳類による受粉への関与という、ほとんど聞いたことがない行動を知るにつけ、思いの外植物と動物の関係は複雑で柔軟に出来ていることを改めて認識し直しました。



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マダガスカル島は多肉植物の宝庫で、マダガスカル固有種のDidiereaやAlluaudiaの林があり、島の全域にPachypodiumが自生します。私の好きなEuphorbiaも豊富で、花キリン類はマダガスカルを象徴する植物ですね。  
Aloeはアフリカ大陸に豊富ですが、マダガスカル島にも沢山の固有種が存在します。問題なのはアフリカ大陸からマダガスカル島にAloeが進出した際に、1種類が侵入して様々な種類に進化したのか、最初から様々な種類が侵入してそこから進化を開始したのかということです。
というわけで、本日ご紹介する論文は2018年のRichard J. Dee、Panagiota Malakasi、Solofo E. Rakotoarisoa & Olwen M. Graceが発表した『A phylogenetic analysis of the genus Aloe (Asphodelaceae) in Madagascar and the Mascarene Island』です。論文ではマダガスカル島とマダガスカル島のすぐ東にあるマスカレン諸島のアロエの遺伝子を解析しています。マスカレン諸島は、モーリシャス島、レユニオン島、ロドリゲス島からなります。

マダガスカル島には132種類のアロエが自生し、そのすべてが固有種です。マスカレン諸島では、Aloe lomatophylloides(=Lomatophyllum lomatophylloides)がロドリゲス島の固有種で、Aloe purpurea(=Lomatophyllum purpureum)、Aloe tormentorii(=Lomatophyllum tormentorii)はモーリシャス島の固有種、Aloe macra(=Lomatophyllum macrum)はレユニオン島の固有種です。マスカレン諸島の固有種はかつてロマトフィルム属とされてきました。

さて、マダガスカル島は深海に囲まれた島で、モザンビーク海峡の深さは500~1000mくらいです。地質調査により、氷河期に一部モザンビーク海峡を横断できる陸橋が出来た可能性があります。ですから、アロエも最後の氷河期にマダガスカル島に移入したのかもしれません。

アロエ研究の権威であったG.W.Reynoldsは、マダガスカル島のアロエをその形態から9グループに分けました。著者はさらに、Reynoldsがアロエを分類した時はアロエ属ではなくLomatophyllumだったグループを10番目に入れました。

Group
①小型あるいは超小型のアロエ
    旧・Guillauminia, Lemeea, Aloinella
②葉は二列性、A. compressa
③葉は長さ50cm幅5cm。花序は単生か枝分かれは少ない。
    A. schomeri, A. buchlohii

④葉は卵型。A. deltoideodonta
⑤大型のロゼット。無茎性で葉は70cmまで。
    A. bulbillifera
⑥密に花を咲かせる。総状花序は短い。
    A. capitata, A. trachyticola
⑦総状花序は密集して多花性。
    A. conifera,A. macroclada

⑧低木状。A. acutissima
⑨2~3mで太く直立し、葉は頂点に密に輪生。
    A. vaombe, A. cipolinicola

⑩液果ができる。旧・Lomatophyllum

次に、マダガスカルとマスカレン諸島、アフリカ大陸のアロエの遺伝子解析による分子系統です。マダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエは太字としており、数字は上記の10個のグループに相当します。比較対象としてアフリカ大陸原産のアロエも同時に解析されています。
以降は私の感想を記していきます。

まず、Clade AとClade Mに大別されますが、驚くべきことに、Aloe susannaeは他のアロエと系統が大きく離れたKumara haemanthifoliaと他のアロエより近縁でした。この時点で、様々なというよりかなり異なる系統のアロエがマダガスカルに入ってきたことがわかります。

    ┏━Kumara haemanthifolia
┏┫
┃┗━⑦Aloe susannae

┃┏━Clade A
┗┫
    ┗━Clade M

次にClade Aですが、マダガスカルの旧・Lomatophyllumである3種はまとまりがあります。また、マダガスカルの小型アロエ2週は近縁ですが、旧・LomatophyllumのA. citreaも近縁でした。東アフリカのエチオピアやソマリアといったいわゆる"アフリカの角"辺りに分布するアロエが、Clade Aのマダガスカル原産のアロエと近縁でした。マダガスカルに地理的に近いアロエが近縁であるという合理的な結果が得られました。逆に南アフリカ原産のアロエはやや距離があります。私が思ったこととして、アロエの地理的な拡散は、南アフリカ→マダガスカルへの渡航地点→マダガスカル・東アフリカである可能性はないでしょうか。

Clade A

┏━━━━━Aloe ecklonis
┃                (南アフリカ原産)
┃┏━━━━Aloidendron dichotomum
┃┃            (南アフリカ原産)
┣┫┏━━━Aloiampelos ciliaris
┃┗┫        (南アフリカ原産)
┃    ┗━━━Aloe ellenbeckii
┃                (東アフリカ原産)
┃┏━━━━①Aloe albiflora
┫┃             (=Guillauminia)
┃┣━━━━⑩Aloe propagulifera
┃┃             (=L. propaguliferum)
┃┃┏━━━⑩Aloe citrea
┃┣┫         (=L. citreum)
┃┃┃┏━━①Aloe haworthioides
┃┃┗┫(=Aloinella, =Lemeea)
┗┫    ┗━━①Aloe parvula
    ┃        (=Lemeea)
    ┃┏━━━⑩Aloe pembana
    ┣┫         (=L. pembanum)
    ┃┃┏━━⑩Aloe macra
    ┃┗┫     (=L. macrum)
    ┃    ┗━━⑩Aloe occidentalis
    ┃             (=L. occidentale)
    ┃┏━━━Aloe ankoberensis
    ┃┃         (Ethiopia原産)
    ┃┃    ┏━Aloe jucunda
    ┗┫┏┫ (Somalia原産)
        ┃┃┗━Aloe secundiflora
        ┗┫      (東アフリカ原産)
            ┃┏━Aloe trichosantha
            ┗┫  (東アフリカ原産)
                ┗━Aloe vera
                      (Oman原産)

Clade Mはすべてマダガスカル島とマスカレン諸島原産のアロエです。見てすぐにわかるのは、Reynoldsの分類が機能していないことです。要するに、アロエ属は外的な特徴は環境等によりその都度進化して、近縁ではなくても類似した姿をとることがあるということでしょう。それは、旧・Lomatophyllumも同様で、A. purpureaとA. tormentoriiは近縁ですが、A. anivoranoensisは近縁ではありません。さらに言えば、Clade Aに所属する旧・LomatophyllumはClade Mとかなりの遺伝的な距離があります。マダガスカル島のLomatophyllumが、マスカレン諸島に伝播して独自に進化したという、大変わかりやすいシナリオは却下しなければならないようです。要するに、Lomatophyllumはアロエ属の島嶼部への適応形態なので、分類群の中であちこちに出現するということなのかもしれません。

Clade M

┏━━━━━━━━④Aloe laeta

┃    ┏━━━━━━④Aloe deltoideodonta
┃┏┫
┃┃┗━━━━━━⑧Aloe millotii
┣┫
┃┃┏━━━━━━Aloe suarezensis
┃┗┫
┃    ┃┏━━━━━⑩Aloe purpurea
┃    ┗┫                   (=L. purpureum)
┃        ┗━━━━━⑩Aloe tormentorii
┫                               (=L. tormentorii)
┃┏━━━━━━━①Aloe rauhii
┃┃                           (=Guillauminia)
┃┃    ┏━━━━━Aloe divaricata
┃┃    ┃
┃┃    ┣━━━━━④Aloe madecassa
┃┃    ┃
┃┃    ┃┏━━━━④Aloe imalotensis
┗┫┏╋┫
    ┃┃┃┗━━━━④Aloe viguieri
    ┃┃┃
    ┃┃┃    ┏━━━⑧Aloe acutissima
    ┃┃┃┏┫
    ┃┃┃┃┗━━━⑦Aloe conifera
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┃┏━━━⑥Aloe capitata
    ┃┃    ┗┫
    ┗┫        ┗━━━⑨Aloe cipolinicola
        ┃
        ┃    ┏━━━━⑩Aloe anivoranoensis
        ┃    ┃              (=L. anivoranoense)
        ┃    ┃┏━━━②Aloe compressa
        ┃┏╋┫
        ┃┃┃┗━━━①Aloe descoingsii
        ┃┃┃              (=Guillauminia)
        ┃┃┃┏━━━④Aloe ibitiensis
        ┗┫┗┫
            ┃    ┗━━━⑥Aloe trachyticola
            ┃
            ┃┏━━━━⑤Aloe bulbillifera
            ┃┃
            ┗┫    ┏━━①Aloe calcairophila
                ┃┏┫        (=Guillauminia)
                ┃┃┗━━Aloe hoffmannii
                ┗┫
                    ┃┏━━⑦Aloe macroclada
                    ┗┫
                        ┃┏━①Aloe bakeri
                        ┗┫     (=Guillauminia)
                            ┗━⑨Aloe vaombe

以上が論文の内容となります。遺伝子解析の結果では、マダガスカル島のアロエは多系統であることが判明しました。最低でも、Aloe susannae、Clade A、Clade Mの3系統です。しかし、調べたアロエの種類が少ないため、マダガスカルにはまだ他の系統のアロエも存在するかもしれません。例えば、今回の研究ではAloe susannaeだけがかなり異なる系統だったように、場合によっては1種類だけ別系統というパターンもありうることがわかります。つまりは、マダガスカル島のアロエをすべて調べないとわからないということです。ただし、アフリカ大陸のアロエについての遺伝子解析がそれほど進んでいない感じがありますから、総合的な評価はまだ難しいのかもしれません。著者も完全解明を目論んだわけではなく、調査の規模からして予備検討的な研究であると本文で述べています。しかし、それでも予想を上回る重要な結果が得られています。個人的には大変意義のある良い論文だと思いました。


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アロエは巨大に育つものがあります。Aloe feroxやAloe marlothiiなどは高さ数メートルに育ち、数十センチメートルの花序を沢山出します。しかも、このような巨大アロエは蜜の量も非常に多く、蜜を求めて様々な生き物が訪れます。当然ながらアロエは受粉をしてもらうために蜜を求める生き物を利用するわけですが、この蜜は他の生き物にとっても重要です。アロエは大抵は赤・橙・黄色系統の花を咲かせる種類が多く、色で花を探す鳥類や赤系統の花を好むミツバチやマルハナバチに対するアピールなのかもしれません。蜜の量が多ければ、ネズミなどの小型の哺乳類も蜜を舐めに来るかもしれません。
アフリカには花の蜜を専門として生きるタイヨウチョウ(sunbird)が分布します。アメリカ大陸にはやはり花の蜜で生きるハチドリがいますが、タイヨウチョウもハチドリと同じく非常にカラフルで美しい鳥として知られています。そして、アロエにもタイヨウチョウが訪れることが知られていますが、その受粉への貢献度について詳しくはわかっていませんでした。

本日ご紹介するのは、Aloe feroxの受粉に貢献する鳥について調査した、Carolina Diller, Miguel Castaneda-Zarate and Steven D.Johnsonの『Generalist birds outperform specialist sunbirds as pollinators of an African Aloe』という論文です。論文は2019年と最近のものです。
内容に入る前に少し用語の解説をします。生物の世界では、何かに対し専門的に特化したスペシャリスト(specialist)と、様々なものに浅く広く対応したジェネラリスト(generalist)が存在します。例えば、ある食物Xを食べることに特化したスペシャリストに対して、ジェネラリストはスペシャリストほど上手くXを食べることが出来ないということは良くあります。ただし、スペシャリストはX以外の食物も食べることが出来ます。スペシャリストとジェネラリスト、どちらが有利かはわかりません。なぜなら、スペシャリストもジェネラリストも存在するからです。環境次第ではないでしょうか。また、スペシャリストと一口に言っても、必ずしもジェネラリストよりも効率的に上手く出来るとは限らず、単純にそのXに依存しているだけの場合もあります。
次に受粉を行う生物を花粉媒介者と言いますが、一般的にはポリネーター(pollinator)と呼びます。アロエには様々なポリネーターが訪れます。

論文ではAloe feroxを観察し、アロエにポリネーターが訪れたあとに
花の柱頭に着いた花粉を数えました。Aloe feroxは高さ5mになるアロエで、最大13本の総状花序を出し、1本の総状花序には約280個の花が咲きます。調査は2017年の開花期にあたる、8月の乾季に南アフリカのLower Mpushini Valley自然保護区において、Aloe feroxの大規模な500以上の大群落において実施されました。
Aloe feroxを訪れた鳥は、スペシャリストとしてアメジストタイヨウチョウ(Chalcomitra amethystina)、ジェネラリストとしてサンショクヒヨドリ(Pycnonotus tricolor)、ハタオリドリ(Ploceus spp.)、アカガタテリムク(Lamprotornis nitens)でした。ハタオリドリはフィールドの観察では種類の特定までは出来なかったようです。
観察期間中、アメジストタイヨウチョウが4回で24個の花に、サンショクヒヨドリは10回で92個の花に、ハタオリドリは5回で45個の花、アカガタテリムクは6回で69個の花に訪れました。
観察期間の12日間にAloe feroxを訪れたスペシャリストは77羽、ジェネラリストは242羽でした。スペシャリストはアメジストタイヨウチョウが71回、シロハラタイヨウチョウが6回訪れました。ジェネラリストはハタオリドリが79回、アカガタテリムクが65回、サンショクヒヨドリが60回、クロオウチュウ(Dicrurus adsimilis)が20回、チャイロネズミドリ(Colius striatus)で18回でした。


さて、実際にAloe feroxの柱頭に付着した花粉を調べると、面白い結果が得られました。スペシャリストが訪れてもAloe feroxにはあまり花粉は付かないというのです。ポリネーターが入らないように網を被せた花と違いが見られなかったのです。ポリネーターが訪れなくても、多少は自分の花粉が付いてしまうこともあるのですが、スペシャリストはそのレベルあったということです。逆にジェネラリストの訪れた花は、スペシャリストの訪れた花の倍以上の花粉が付いていました。つまりは、Aloe feroxにとって、スペシャリストであるタイヨウチョウよりもジェネラリストの方が優れたポリネーターであるということです。

スペシャリストの嘴は長く、ジェネラリストの嘴は短いからであると言われることがあるようです。しかし、今回の観察期間中の鳥を調べると、スペシャリストとジェネラリストの嘴の長さに差はありませんでした。違いは嘴の太さで、スペシャリストの嘴は細くジェネラリストの嘴は太いということです。今回の観察期間中では、ジェネラリストはスペシャリストよりも大型でした。ジェネラリストは蜜を吸うために、顔を花に突っ込みその時に頭で雄しべを押し広げていることが観察されました。逆にスペシャリストのタイヨウチョウは、小さい頭に細い嘴、長い舌を持つため、雄しべに触れないで蜜を吸うことが出来るのです。よって、Aloe feroxに対してタイヨウチョウは蜜泥棒ということになります。

以上が論文の内容となります。
蜜を餌とする専門のタイヨウチョウが、受粉に寄与しないという驚くべき論文でした。2点ほど補足説明をしましょう。
まず1つ目は、Aloe feroxとタイヨウチョウの目的が異なることです。Aloe feroxはポリネーターに受粉してもらうために蜜を準備しているわけですが、タイヨウチョウは受粉を助けるために花を訪れているわけではありません。タイヨウチョウからすれば、いかに効率的に蜜を得られるかが重要なのであって、Aloe feroxが受粉するか否かはどうでも良いことです。邪魔な雄しべに触れないで、素早く嘴を花に差し込んで蜜だけを抜き取る。正にスペシャリストの技です。この場合、タイヨウチョウの方が一枚上手と言えます。対して、ジェネラリストはタイヨウチョウのようにスマートに蜜を得られません。しかし、下手だから頭を花粉だらけにして、上手いことAloe feroxに利用されて、知らずに受粉の手助けをしているのです。
2つ目は、これはAloe feroxに対するタイヨウチョウのポリネーターとしての能力がないと言っているだけで、他の植物の花では異なるかもしれないということです。例えば、Gasteriaはタイヨウチョウをポリネーターとしています。この場合、タイヨウチョウは花の蜜に特化したスペシャリストですが、Gasteriaはタイヨウチョウに特化した一段レベルの高いスペシャリストです。不特定多数の花の蜜を利用するタイヨウチョウは、自分をターゲットにしたGasteriaに上手く利用されているのです。
野生の生き物は何も相手を思いやって行動しているわけではなく、あくまで自分の利益のために行動しています。ですから、Aloe feroxとタイヨウチョウの関係は、上手く噛み合わなかっただけで、Aloe feroxがへまをしたわけでもタイヨウチョウが上手く出し抜いたわけでもありません。この関係は偶然の産物と言えます。
実はスペシャリストの訪問を妨げたりジェネラリストを呼ぶ算段を用意している植物もあります。ではAloe feroxが無策であるのは何故なのか気になります。考えたこととして、小型のアロエは花の数が少ないため受粉は確実性が欲しいでしょうから、蜜泥棒対策は必要でしょう。しかし、数えきれないほどの花を咲かせるAloe feroxは、そのすべての花が受粉しなくても十分なのかもしれません。無駄が多いようにも感じられますが、スペシャリストを妨げたりすることにも相応のコストがかかります。要するに戦略が異なるだけではないでしょうか。大型だからコストをかけて花を沢山咲かせる戦略、小型だから花は少ないけれど蜜泥棒対策にコストをかける戦略という、サイズに合わせた現実的な戦略を講じているわけです。

植物とポリネーターの関係は非常に複雑で面白く感じます。この論文では蜂の影響を避けるため、蜂が活発に活動する時間帯は花に網を被せていました。では、蜂の受粉に対する貢献度はいかほどでしょうか? また、このような大型アロエでは、ネズミなどの小型哺乳類も蜜を求めて訪れます。小型哺乳類の多くは夜行性ですから、昼行性の鳥類とは競合しないでしょう。では、小型哺乳類はアロエとどのような関係を築いているのでしょうか? どうにも気になることが沢山出て来てしまいました。最近は忙しく中々じっくりと論文を探す時間が取れませんが、少しずつ調べていくつもりです。


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最近、アロエ属についてアロエ属から分離したり統合されたりした経緯を簡単にまとめました。その記事の中でも触れましたが、Aloe bowieaについてはBowiea africanaやChamaealoe africanaとも呼ばれたことがあります。BowieaやChamaealoeからアロエ属に統合されても、アロエ属の中で独特の地位を占めるとされることがあります。

本日、ご紹介する論文はGideon F. Smithが1990年に発表した『Nomenclature notes on the subsection Bowiea in Aloe (Asphodelaceae : Alooideae)』です。早速、内容に入りましょう。

Chamaealoe A.BergerはAloe L.の異名です。つまり、かつてChamaealoe africana (Haw.) A.Bergerと呼ばれた種は現在Aloe bowiea Schult. & Schult.f.とされており、Aloe section Graminialoe Reynolds(=アロエ属グラミニアロエ節)に含まれるとされています。 

DSC_1607
Aloe bowiea
=Chamaealoe africana
=Bowiea africana


現代のアロエ属の分類に関しては、アフリカとマダガスカルのアロエ研究を生涯の仕事としたG. W. Reynoldsに負うところが大です。その後、アロエ属の属下分類は、Reynoldsの分類を基礎として改訂されていきました。アフリカ南部のアロエ属は、H. F. GlenとD. S. Hardyにより改訂されています。
Aloe bowieaはChamaealoeからアロエ属に移されましたが、Aloe bowieaのアロエ属内の分類はまだ明らかではありません。著者はAloe bowieaをSection Graminialoe Subsection Bowieae(グラミニアロエ節ボウィエアエ亜節)としてアロエ属の分類に組み込むことを目指しております。

アロエ属(Aloe L.)は1753年にCarl von Linneが設立しましたが、1786年にMedikusが細分化に失敗(Catevala Medik., Kumara Medik.)した後、1804年にHaworthがより自然な単位に分ける試みを行いました。Haworthは現在のHaworthiaやGasteriaに相当するグループに、アロエ属の属以下の分類としてGrandiflora、Parviflora、Curvifloraを考えました。その5年後の1809年に、DuvalはHaworthiaとGasteriaをアロエ属から分離しました。
1834年にSalm-Dyckは栽培した植物のカタログを出版しました。その中ではHaworthの考え方を支持し、アロエ属の属下分類としてParvifloraとGrandifloraを説明しました。GrandifloraはTubo recto(=アロエ)とTubo curvato(=ガステリア)に分類しました。Parvifloraは14節(Section)に分け、ボウィエアエ節(Section Bowieae)は、Aloe bowieaが初めてBowiea africanaとしてですが記載されました。これは、1824年のBowiea Haw.に基づきます。Bowiea Haw.の2種類目は1827年にHaworthによりBowiea myriacanthaと記載されました。しかし、1829年にこのBowiea Haw.の2種はアロエ属に移されました。
1836年にSalm-DyckはBowiea Haw.を支持し、Aloe myriacanthaも含めるべきであると主張しました。しかし、Baker(1880年, 1896年)はBowieaをアロエ属の同義語としてDuvalの分類を受け入れ、Salm-Dyckの節(Section)を亜属(Subgenus)に置き換えました。Aloe bowieaとAloe myriacanthaはアロエ属Eualoe亜属の中の1グループであるAcaulesに含めました。
Aloe bowieaとAloe myriacanthaは明らかに関連性はありますが、しかし互いの特徴は異なります。そのため、Aloe bowieaは1905年にChamaealoe africana、Aloe myriacanthaは1933年にLeptaloe myriacanthaとする意見もありました。Leptaloeは短命な属名で、1947年にReynoldsはアロエ属の同義語としました。しかし、1915年のMarloth、1941年のGroenewald、1950年のReynoldsはChamaealoeを支持しました。ただし、その後は1973年のObermeyer、1983年のSmithはChamaealoe africanaはAloe bowieaの同義語であるとしています。


Aloe bowieaは1973年のObermeyerや1981年のCourtによると、Anguialoe節との花の形態学的な類似性を示します。しかし、この節のアロエはAloe vryheidensis以外は木質化しますが、Aloe bowieaは非常に小型です。
Aloe bowieaは形態的にはGraminialoe節と類似します。Graminialoe節とAloe bowieaは、細い線形の直立した多肉質の葉を持ちます。Aloe bowieaは密集したロゼットを作り、他のGraminialoeと同様に肉質の根を持ちます。しかし、グラスアロエの中でもAloe bowieaの花は独特の緑がかる白色花で、総状花序に分散します。葯と花柱の配置も異なります。このように、Aloe bowieaは既存の属下分類に当てはまらないため、Graminialoe節の中でも独立したBowieae亜節(Subsection Bowieae)を提案しています。Graminialoe節Graminialoe亜節(Section Graminialoe Subsection Graminialoe)との相違点は上記以外にもあり、私の記事では示しませんが論文では一覧表をあげています。


Reynoldsのアロエ属の分類が示された後、Graminialoe節であるAloe modestaとAloe ioconspicuaが記載されました。しかし、それらとAloe bowieaは緩く細長い総状花序と、地下の球根状の膨らみがないことで区別出来ます。Aloe modestaはAloe bowieaよりも短い総状花序を持ち、小花柄が密集します。Aloe ioconspicuaは密集した円筒形の総状花序と無柄の花を持ちます。
上記のように、Bowiea亜節とGraminialoe亜節は肉眼でも容易に区別可能です。

以上が論文の簡単な内容紹介となります。やはり、アロエ属とされたとは言え、Aloe bowieaはアロエ属の中でも独立した存在と考える向きがあるようですね。グラスアロエを含む小型アロエはあまり詳しくないため、これから少しずつ調べていくつもりです。


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先日、「解体と統合のアロエ属」と称しまして、アロエ属から分離独立したり吸収統合された多肉植物が沢山あるという記事を書きました。
しかし、それは公的なデータベースを漁っただけですから、細かい事情やことの経緯はよくわかりません。特に気になっているのは、Aloe albifloraとAloe bowieaです。双方ともアロエ属ではないとされていた時期があります。A. albifloraはGuillauminia albifloraとされていましたが、現在はアロエ属とされています。いかなる経緯があったのか気になりましたので、少し調べてみました。本日、ご紹介する論文は1995年にGideon F. Smithらにより発表された『The taxonomy of Aloinella, Guillauminia and Lemeea (Aloacaea)』です。

アロエ属には14の異名(※1995年当時)があり、そのうち2属はマダガスカル原産種に対するものでした。それは、AloinellaGuillauminiaです。どちらの属名も広く受け入れられているとは言えず、世界規模で属を改訂したGilbert Westacott Reynolds(1958, 1966年)によりアロエに含まれることとなり、AloinellaとGuillauminiaは異名となりました。Reynoldsは1930年から1966年までの30年以上に渡りアロエ属の権威でした。

しかし、Heath(1993, 1994年)は、特に裏付けもなくAloinellaとGuillauminiaを復活させました。Aloinellaは同属として、Lemeea P.V.Heathと命名されました。A. haworthioides、A. boiteaui、A. parvulaをLemeeaに、A. bakeri、A. bellatula、A. calcairophylla、A. descoingsii、A. rauhiiはGuillauminiaとされました。

DSC_1815
Aloe haworthioides
=Aloinella haworthioides
=Lemeea haworthioides


DSC_1816
Aloe parvula
=Lemeea parvula


著者らはHealthの意見には反対です。なぜなら、属はその他の種よりもお互いに共通する多くの特徴を有している必要があるためです。この場合は、LemeeaやGuillauminiaがアロエ属とは明確に分離出来る特徴を持つ、つまりはLemeea内やGuillauminia内で共通する特徴を多く持ち、それがアロエ属とは共通していないことが求められているわけです。しかし、LemeeaやGuillauminiaはその特徴を抽出すると、アロエ属に含まれてしまう特徴ばかりでした。それぞれ固有と考えられている特徴も、調べてみると同じ特徴を有するアロエが見つかりました。

これらのことから、著者らはLemeea(incl. Aloinella)とGuillauminiaをアロエ属から分離することを認めません。もし、Healthの主張が認められるならば、アロエ属は細かい特徴ごとに非常に細分化されてしまい、LemeeaやGuillauminia以外の属の復活と、新たに沢山の新属を設けなければならなくなります。アロエ属という分類群の安定のためにも好ましくないとしています。

以上が論文の内容となりますが、結局はHealthの主張は認められておりません。しかし、近年の遺伝子解析の進歩により、結局アロエ属は解体されることになりました。それでも、アロエ属から独立したのはA. aristataやA. variegata、A. dichotomaなどであり、LemeeaやGuillauminiaではありませんでした。つまりはGideon F. Smithらの主張通り、LemeeaやGuillauminiaはアロエ属に含まれてしまうことが確定的となりました。



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女王錦Aloe parvulaはマダガスカル島に固有の小型アロエです。A. parvulaは1908年にドイツの植物学者であるAlwin Bergerにより命名されました。
2004年にイギリス王立植物園が発行している『Curtis's Botanical Magazine』にある「505. ALOE PARVULA : Aloacaea」という論文というか報告書を見つけましたのでご紹介します。生息環境について記されておりますから、栽培のヒントになるかもしれません。著者は王立植物園のDavid Du Puyです。

DSC_1817
Aloe parvula

早速、内容を紹介します。
Aloe parvulaは絶滅危惧種で、マダガスカルの中央台地の標高1400~1800mの、より乾燥した西部に位置するItremo山塊に限定的に分布します。この山塊にはロゼットを形成する小型アロエが3種類自生していますが、A. parvulaはその1種です。他の2種はAloe bellatula ReynoldsとAloe haworthioides Bakerです。これらのアロエは剛毛や結節で覆われた柔らかい多肉植物で、むしろHaworthiaに似ています。A. parvulaは生長が遅い種ですが、黄色の色素を欠くためサンゴのような真っ赤な美しい花を咲かせます。また、A. parvulaは自生地では種子が出来にくく、増殖が良くありません。

A. parvulaは石英の岩だらけで、酸性石英砂利の浅い土壌が蓄積する岩のくぼみや隙間、あるいは泥炭質土壌が蓄積する苔むした草地で頻繁に発生します。A. parvulaの生える土壌はXerophytaやAngraecum、Pachypodiumなどの他の多肉植物の根により固定されています。岩の隙間には水分が集まるものの、冬の乾季には雨は降りませんが標高が高いため時々雲からの水分で結露します。冬には10℃を下回ることがあります。乾季は5月から11月にかけて7~8ヶ月続きます。花は雨季の間の、特に1月から3月に頻繁に開花します。また、雨季でも泥炭が乾燥する期間があります。自生地には低木も生えないため、直射日光にさらされています。

A. parvulaは嫌石灰植物(calcifuge)で、堆肥や水の石灰を嫌います。論文では雨水を与えるべきであるとしていますが、これは雨ざらしにするという意味ではなく、水道水が硬水でありカルシウムが多いヨーロッパを念頭に言っているのでしょう。ヨーロッパでも雨水は弱酸性です。また、日本ではほとんどの地域は軟水ですから、普通に水道水をあげても問題はないでしょう。
冬季は乾燥させて、月に1度くらい水をあげれば、水分不足で過度に縮むことを防ぐことができると言います。また、最低気温は約10℃までですが、乾燥させれば5℃程度までは耐えられます。しかし、耐霜性は弱いみたいです。



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アロエ属は現在使用されている二名式学名の創始者であるCarl von Linneにより、1753年に命名された由緒正しき属名です。しかし、アロエ属の歴史を辿ると、アロエ属だったものがアロエ属ではなくなったり、逆にアロエ属ではなかったものがアロエ属となったりと、アロエ属はかなりの変化を経験して来ました。ただし、全種類のアロエを調べたわけではありませんし、一時的にアロエ属だったものに関してはほとんど調べられておりません。しかし、それでも思いもよらぬ種類がアロエとされたり、アロエ属から分離したものの後に消失した属名の多さなど、その多様な有り様にめまいがするほどです。

先ずは、アロエ属と関係する属名の年表を示します。
1753年 Aloe L.
              Agave L.
1767年 Dracaena Vand. ex L. 
1786年 Catevala Medik.
              Kumara Medik.
1809年 Haworthia Duval
              Gasteria Duval
1811年 Lomatophyllum Willd.
              Rhipidodendrum Willd.
1813年 Phylloma Ker Gawl.
1821年 Pachidendron Haw.
1824年 Bowiea Haw.
1834年 Urginea Steinh.
1838年 Drakaina Raf.
1840年 Tulista Raf.
1866年 Busipho Salib.
1883年 Notosceptrum Benth.
1905年 Chamaealoe A.Berger
1908年 Chortolirion A.Berger
1933年 Leptaloe Stapf
1939年 Aloinella (A.Berger) Lemee
1947年 Astroloba Uitewaal
1956年 Guillauminia A. Bertrand
1993年 Lemeea P.V.Heath
2013年 Aloidendron (A.Berger)
                         Klopper & Gideon F.Sm.
              Aloiampelos
                         Klopper & Gideon F.Sm.
              Haworthiopsis G.D.Rowley
2014年 Gonialoe (Baker) 
                          Boatwr. & J.C.Manning
              Aristaloe Boatwr. & J.C.Manning

アロエ属の分離と吸収にはいくつかのパターンがありますから、いくつかの種類を例に挙げて解説します。
①古典的なアロエ類
1753年にアロエ属は誕生しましたが、この時アロエ属はあれもこれもといった状態で、様々な特徴を持つ多様な種を含むグループでした。しかし、アロエ属があまりにも様々なグループを含んでいたため、1809年に広義のHaworthiaとGasteria、1947年にはAstrolobaが独立し、アロエ属から分離しました。これらは、形態的にも生態的にも異なり、しかもHaworthia、Gasteria、Astrolobaはそれぞれの属内において非常によくまとまったグループでした。後に遺伝子解析でも支持された、妥当性のある自然な分離と言えます。
また、2013年にはHaworthiaが、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaに分割されました。

DSC_0848
Aloe herbacea→Haworthia herbacea

DSC_1804
Aloe viscosa→Haworthiopsis viscosa

DSC_0788
Aloe pumila→Tulista pumila

DSC_1420
Aloe carinata→Gasteria carinata

DSC_1644
Aloe foliolosa→Astroloba foliolosa

②遺伝子解析によるアロエ属の分解
2013年に広義のアロエ属からAloidendronとAloiampelosが分離しました。さらに、翌2014年にはGonialoeとAristaloeが分離しました。AristaloeやGonialoeはAstrolobaやTulistaに近縁で、Kumaraは狭義のHaworthiaと近縁です。狭義のアロエはAloiampelosとは近縁ですが、他の旧アロエ属とはそれほど近縁ではありませんでした。

┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属

DSC_0145
Aloe broomii 

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Aloe plicatilis→Kumara plicatilis

DSC_0900
Aloe variegata→Gonialoe variegata

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Aloe aristata→Aristaloe aristata

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Aloe striatula→Aloiampelos striatula

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Aloe dichotoma→Aloidendron dichotomum

Lomatophyllum
Lomatophyllumは1811年に命名された昔からある属で、アロエ属に似た多肉植物です。一般的なアロエ属とは異なり、果肉のある果実をつけます。ただし、LomatophyllumにはDracaenaの一部が含まれていました。それらはやがてDracaenaとされ、本来のLomatophyllumのみとなりました。しかし、Lomatophyllumは種類が統合される傾向があり、例えばLomatophyllum purpureum=Lomatophyllum saundersii=Lomatophyllum rufocinctum=Lomatophyllum aloiflorum=Lomatophyllum marginatum=Lomatophyllum borbonicumとなっています。さらに、L. purpureumはDracaena marginata、Dracaena dentata、Dracaena foetidaなど、ドラセナ属とされることもありました。
しかし、Lomatophyllumは遺伝子解析の結果から、狭義のアロエ属に含まれてしまうことがわかりました。L. purpureumも現在ではAloe purpureaとされているようです。

④Chortolirion
一見して球根植物のような見た目の、Chortolirionも実はアロエ属に含まれることになりました。Lomatophyllumと同様に遺伝子解析の結果、狭義のアロエ属の一員となりました。Chortolirionは、初め広義のHaworthiaでしたがやがてChortolirionとなり、最終的にアロエ属となる経緯をたどりました。

⑤議論があったアロエ
アロエ属は一般的に赤・橙・黄色系統の花を咲かせます。しかし、Aloe albifloraは白い花を咲かせます。このことから、Aloe albifloraはアロエではない可能性があるとして、Guillauminia albifloraという学名がつけられたことがあります。Guillauminiaは6種類あるとされました。しかし、Guillauminiaは現在認められておらず、今は存在しない属名です。Guillauminiaはアロエ属6種からなる小さなグループでした。

Aloe bowieaは、Chamaealoe africanaあるいはBowiea africanaと呼ばれたことがあります。現在ではアロエ属となり、Chamaealoeは存在しない属名です。しかし、Bowieaは蒼角殿Bowiea volubilisとして属名が残っています。ただし、気を付けなければならないのは、Bowiea africanaのBowieaは1824年にHaworthが命名した属名ですが、Bowiea volubilisのBowieaは1867年にHarv. ex Hook.f.の命名した属名ですから実は起源が異なるはずですが、何故か混同されているように見えます。
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Aloe bowiea
=Chamaealoe africana
=Bowiea africana


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Bowiea volubilis

⑥現存しない一時的な学名
アロエ属にかつて命名されていたCatevala、Pachidendron、Urginea、Drakaina、Busipho、Notosceptrum、Leptaloe、Aloinella、Lemeeaといった属名がありますが、どれも現在では使用されておりません。

女王錦Aloe parvulaは、Lemeea parvulaと命名されたこともあります。
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Aloe parvula=Lemeea parvula

Aloe alooidesは、初めはUrginea alooidesと命名された後にNotosceptrum alooidesとなり、最終的にアロエ属となりました。実はこのUrgineaは160種類程度を含んだかなり大きな属でした。しかし、現在このUrgineaはほとんどがDrimiaとなり、その他にもAloe、Albuca、Schizocarphus、Fusifilum、Austroneaなどを含んだ雑多なグループでした。NotosceptrumはAloeやKniphofiaからなる小さなグループでした。

Aloe myriacanthaは、初めはBowiea myriacanthaと命名された後にアロエ属となり、最終的にLeptaloe myriacanthaとされましたが、結局はアロエ属とされています。Leptaloeは10種類ほどのグループで、すべてアロエ属からなっています。

Aloe purpureumはLomatophyllum purpureumとされていたこと、あるいはDracaenaとする意見があったことを示しました。しかしA. purpureumは、さらにPhyllomaやDrakainaといった属名とされたこともあります。Phyllomaはアロエ属4種類からなる小さなグループでした。Drakainaというドラセナに似た属名は、Aloe purpureumとDracaena dracoの2種類からなる奇妙なグループでした。

Aloe haworthioidesは、Lemeea haworthioidesやAloinella haworthioidesと命名されたこともあります。AloinellaはA. haworthioidesのためだけに創設されたグループでした。
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Aloe haworthioides
=Lemeea haworthioides
=Aloinella haworthioides


Aloe feroxは、Pachidendron feroxやBushipho feroxと呼ばれたこともあります。Pachidendronはアロエ属5種類からなる小さなグループでした。BushiphoはA. feroxのためだけに創設されたグループでした。

Aloe humilisはCatevala humilisと命名されたことがあります。Catevalaは約60種類程度を含むグループで、アロエ属や広義のハウォルチアが混ざっていました。
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Aloe humilis=Catevala humilis

Aloe dichotomaはAloidendron dichotomumとなりアロエ属から分離しましたが、広義のアロエ属だった1811年にRhipidodendrum dichotomumとされたことがあります。Rhipidodendrumは現在のKumaraとA. dichotomumの3種類からなるグループでした。
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Aloidendron dichotomum
=Aloe dichotoma
=Rhipidodendrum dichotomum


⑦アロエとされたことがあるアガヴェ
Agave americana、つまりはあの巨大に育つことで有名なアオノリュウゼツランですが、実に不思議なことにAloe americanaと命名されたことがあります。
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アオノリュウゼツラン
Agave americana
=Aloe americana


⑧存在しないアロエ
詳細は不明ですが、「廃止」となったアロエも存在します。他のアロエなどの異名ですらなく、学名自体が廃止となったAloe asperaやAloe browniiといったものがあります。詳しい調べていませんが、廃止となった学名はこの他にもけっこうありそうです。
もしかしたら、記載情報から実際の植物にたどり着けない場合というのはまず第一に考えられます。古い記載では情報が曖昧で標本もなく、スケッチのみというパターンは実際に存在します。まあ、他にも理由はあるのかもしれません。


⑨交雑種
かつてはアロエ属であった自然交雑種も存在します。例えば、Aloe × bicarinataは現在、× Astrolista bicarinataとされています。× AstrolistaはAstroloba × Tulistaを示しています。
DSC_1805
× Astrolista bicarinata
=Aloe × bicarinata

 
のブログは多肉植物がメインですが、内容的には学名の来歴を追った部分が他サイトとの違いかなあと思っています。実のところ大した情報ではありませんが、そんなことでも続けていれば色々と見えてくるものがあります。例えば、ハウォルチアは昔アロエだったものが多いこととか、アロエは意外に現在無効な属名があることとか、そんなことです。これからも、論文を含め気になることが出てきましたら記事にする予定です。


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スペクタビリスは非常に大型になるアロエです。しかし、スペクタビリスは昔から他のアロエと混同されてきました。その経緯について調べましたので、ひとつ記事とさせていただきます。2010年のKlopper & Gideon F.Sm.『Asphodelaceae : Alooideae : Reinstatement of Aloe spectabilis Reynolds』と、2021年のColin C.Walker『Aloe spectabilis - a splend South African species』というスペクタビリスについてのレビューを参照にして、ことの経緯を見てみましょう。

著名な植物学者であるAlwin Bergerは、1908年に権威のあるアロエについてのモノグラフを出版しました。これは、数十年にわたりアロエの分類の標準的な作品でした。Bergerはスペクタビリスを、Aloe ferox Mill.に含めました。しかし、1937年にGilbert Westacott Reynoldsはスペクタビリスを識別し、Bergerの見解は間違いであること、そして新種としました。つまり、Aloe spectabilis Reynoldsです。

それからなんと63年後の2000年にGlen & D.S.Hardyは、スペクタビリスをAloe marlothiiと同種であるとしました。確かにスペクタビリスはマルロシイによく似ており、分布も類似します。スペクタビリスはこのまま吸収されて消えてしまうのでしょうか?

しかし、2010年にRonell R. Klopper & Gideon F. Smithが『アロエ・スペクタビリスの復活』と称して、Aloe marlothiiとAloe spectabilisの特徴を比較しています。Klopper & Gideon F.Sm.と言えば、Aloianpelos属やAloidendron属を創設した研究者ですね。スペクタビリスとマルロシイの特徴を比較すると以下のようになります。

Aloe marlothii
花序 : 斜めから水平、30-50cm、20-30本
花柄の色 : 緑色から赤褐色
内側の花被片の頂点 : 淡~深紫色
フィラメントの伸長部 : 淡~深紫色

Aloe spectabilis
花序 : ほぼ直立、25cm前後、10-14本
花柄の色 : 暗褐色からほぼ黒色
内側の花被片の頂点 : くすんだ光沢のある黒色
フィラメントの伸長部 : オレンジ色

 花が咲かないと、マルロシイとスペクタビリスは区別出来ないと言われていますが、確かに花の特徴が決め手なようです。

DSC_0662
昨年の12月に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、例によってラフレシア・リサーチさんで激安のAloe pegleraeを購入した際、おまけでいただいたAloe spectabilisの抜き苗です。アロエを買っておまけでアロエを貰うというのも、何やら不思議な感じがします。
直ぐ
に植え付けましたが非常に丈夫で、真冬に植えたにも関わらずあっという間に根が張ったことには驚きました

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2022年8月。葉が旋回を始めました。アロエは若い時は葉は二列性(左右に葉が並ぶ)ですが、生長すると葉はぐるぐる回りながら生えます。

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トゲはかなり強いみたいです。そういえば、マルロシイは「鬼切丸」と呼ばれますが、スペクタビリスは「鬼王錦」という名前もあるそうです。サボテンでは名前に「錦」とついた場合は斑入り品種を指しますが、アロエでは斑入り品種のことではなく、斑入り品種ではなくても普通に「○○錦」という名前がつきます。

スペクタビリスは巨大アロエで、高さ5mに達します。幹は木質となりますが、有名な巨大アロエであるAloidendron属とは異なり、枝分かれせず単幹で葉は巨大になり頭でっかちな見た目になります。花は枝分かれして巨大で、鳥や昆虫の蜜源として重要です。
スペクタビリスはKwaZulu-Natalの固有種です。冬は氷点下まで下がる可能性があるそうです。面白いことに、1900年に自由州の農場にスペクタビリスが3本植えられたそうですが、現在では3万本以上に増えてしまったそうです。

今回の記事に出てくる3種類のアロエの学名と記載年について一応記しておきます。
1768年 Aloe ferox Mill.
1905年 Aloe marlothii A.Berger
1937年 Aloe spectabilis Reynolds



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アロエ・ペグレラエは南アフリカ原産のアロエです。葉の枚数が増えると、葉が内側に巻いた様な独特の非常に美しい姿となります。

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昨年の冬、千葉のイベントで入手しました。アロエ苗が投げ売りされていたので、せっかくだから一鉢購入。
右下の葉は二列生(葉が左右に並ぶ)の痕跡があります。まだ若い個体です。


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2022年8月の姿。だいぶ葉の枚数が増えてきました。生長は遅いと言われますが、苗の頃は早いみたいです。

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まだ、葉が少ないので、ペグレラエらしさはありません。

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トゲは強いので注意が必要です。

ペグレラエは南アフリカのNorth West州のMagaliesbergとWitwatersbergに分布します。斜面に生えるらしいです。自生地では、Aloe marlothiiやAloe davyanaと自然交雑が起きているようです。
野生の株は非常に美しく生長が遅いため、違法採取が行われており、また開発に伴う環境破壊により急速に個体数を減らしています。絶滅危惧種に指定されており、Witwatersrand国立植物園では絶滅危惧植物プログラムの優先事項として、ペグレラエの保護活動が行われているそうです。
日本国内ではペグレラエは、実生苗がある程度は販売されているみたいですから、入手困難とまではいかないでしょう。しかし、違法採取かも知れない現地球には手を出さないことも重要です。

ペグレラエの学名は1904年に命名されたAloe peglerae 
Schönlandです。ペグレラエの名前は植物学者・自然学者のAlice Marguerite Peglerに対する献名です。Schönlandはドイツ出身のSelmar Schönlandのことです。かのPole Evansが始めた南アフリカの植物調査で主導的役割を果たしました。ちなみに、南アフリカ科学振興協会の創設メンバーとのことです。
また、Schönlandは、Euphorbia schoenlandiiやBrachystelma schonlandianumなどの植物に献名されています。


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最近、「アロエ・プリカティリス」の名前で、まったくトゲがなく青白いアロエを目にします。"乙姫の舞扇"の名前もありますが、その名前の通り、葉は旋回しないで左右にきれいに別れて並びます。国内では割りと珍しい多肉植物でしたが、最近では実生苗が出回っていて入手は容易になってきました。
プリカティリスは2013年にアロエ属から独立し、クマラ属Kumaraとなりました。クマラ属はKumara plicatilis(乙姫の舞扇)とKumara haemanthifolia(眉刷毛錦)の2種類のみからなる分類群です。プリカティリスがアロエから分離した経緯は以下の記事をご参照下さい。

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Kumara plicatilis

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"fun aloe"の名前の通り扇状。"plicatilis"も「折り畳むことが出来る」という意味ですから、扇の様な見た目から来ているみたいですね。

プリカティリスは南アフリカの西ケープ州のいくつかの山に自生し、幹は高さ3~5mになります。プリカティリスの自生地はFranschhoekとElandskloofの間の地域に限定され、17の個体群がそれぞれ10km以上離れて点在するそうです。プリカティリスは水はけの良い弱酸性の岩の多い斜面に生えます。
プリカティリスはフィンボス(南アフリカの灌木植生地域。地中海性気候で冬に雨が多い海岸から山岳までの地域)に生えますが、プリカティリス以外のアロエはほとんど生えません。例外はAloiampelos commixtaやKumara haemanthifoliaです。また、海外の松やアカシアが侵入しているそうですが、それほど増えておらず現状においては、問題になってはいないようです。プリカティリスの最大の脅威は園芸用の採取ですが、それほど盛んではないのか個体数の減少は見られていません。
フィンボスではどうやら山火事が起きるみたいですが、プリカティリスの幹は燃えにくいとされています。環境に対応しているということなのでしょう。

そういえば、プリカティリスは挿し木で増やせるらしいのですが、その事と関連して面白い報告があります。Werner Voigtが2009年に、Goudiniのプリカティリスがケープハイラックスという動物による食害を受けている事を報告しています。ハイラックスはプリカティリスの幹に登り、枝を噛み砕いて水分の豊富な中を食べるそうです。この時に地面に落ちた先端部分は直ぐに根付くそうです。

プリカティリスの花には蜂や甲虫などの昆虫、さらにはタイヨウチョウが蜜を吸いにきて受粉します。昆虫とタイヨウチョウという組み合わせは、アロエ属とクマラ属の共通点ですね。

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いつの間にやら根がはみ出していました。来年は植え替えしないといけませんね。

育てた感想としては、プリカティリスは非常に丈夫で、遮光しなくても日焼けしないし、乾燥にも恐ろしく強い植物だということです。調べたところ、pH5.5~6.5という酸性土壌で育つという情報もありました。普通、酸性土壌と言った場合でも実際は弱酸性のpH6.5から中性が普通ですから、ここまで酸性に耐えられることは珍しく感じます。しかし、私は何も考えないで、適当な用土で植えていて実際に育っているわけですから、そこまでうるさくはないのでしょう。

プリカティリスの学名は2013年に命名されたKumara plicatilis (L.) G.D.Rowleyです。プリカティリスがはじめて命名されたのは1753年に命名されたAloe disticha var. plicatilis L.でした。A. distichaは現在のGasteria distichaのことです。しかし、1768年にAloe plicatilis (L.) Burm.f.と独立しました。つまりは、クマラ属になるまで200年以上アロエ属だったわけです。
これはまったくの余談ですが、Aloe distichaと命名された多肉植物は3種類あります。一つ目は1753年のAloe disticha L.で現在のGasteria disticha (L.) Haw.、二つ目は1768年のAloe disticha Mill.で現在のAloe maculata All.、最後に1785年のAloe disticha Thunb.で現在のGasteria carinata var. thunbergii (N.E.Br.) van Jaarsv.です。混乱の元なので、一応記しておきました。
プリカティリスは異名が沢山ありますが、アロエ属とされた異名は1782年にAloe linguiformis L.f.、1784年にAloe tripetala Medik.、1785年にAloe lingua Thunb.、1796年にAloe flabelliformis Salisb.が命名されています。ここでもややこしいことに、Aloe linguiformis Mill.がGasteria distichaの異名だったり、Aloe linguiformis DCがGasteria carinataの異名だったり、Gasteria distichaやGasteria carinataがかつてはAloe linguaの別の変種扱いされてきたり、なんとも複雑な経緯を辿っています。
また、プリカティリスは現在は存在しないリピドデンドルム属とされたことがあります。1811年に命名されたRhipidodendrum distichum Willd.あるいは1821年に命名されたRhipidodendrum plicatile (L.) Haw.です。リピドデンドルム属はそもそもは、Rhipidodendrum dichotomumつまりはAloidendron dichotomum(=Aloe dichotoma)とプリカティリスのために創設された属名だったりします。



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アロエ・ボウィエアは南アフリカ原産のアロエです。あまりアロエっぽさがない外見のボウィエアですが、記事を遡って調べてみたら、ちょうど2年前の今頃に入手したようです。入手した頃に一度記事にしておりますが、実際に栽培した所感を含め、改めて記事にしてみました。

かつてのボウィエアの記事はこちら。

アロエ・ボウィエアは一見して球根植物というか、最近流行りのケープバルブのように見えなくもありません。私もはじめて見た時に、根元はずんぐりして葉は先端が細長く伸びる姿を見て、まるでエアープランツ(Tillandsia)の様だと思いました。
それから2年間育てた結果わかったことは、強光や乾燥には耐えられるものの、そういう育て方では綺麗に育たないということです。どうもあまり強光に当てると細い葉先が枯れ混んで、アロエ・ボウィエアらしいアロエとしては風変わりな姿を観賞出来なくなります。去年はそれで失敗しましたから、今年はハウォルチアやガステリアと同じ棚で遮光気味に管理しております。葉は完全回復とはまだ言えませんが、大分良くなりつつあります。


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2022年1月。
葉先が枯れてしまいました。ボウィエアは細い葉が長く伸びるのが特徴なので、ややみすぼらしく見えます。


DSC_1607
2022年7月。
4月に外に出して、ハウォルチアやガステリアと並べて育ててきました。たった3ヶ月ですが、長い葉が伸びてきて少し見られるようになってきました。


アロエ・ボウィエアの学名は1829年に命名されたAloe bowiea Schult. & Schult.f.です。
最初に命名された学名はBowiea africana Haw.でした。ボウィエア属からアロエ属に移動する際、普通は種小名は引き継ぎますが、何故かAloe africanaにはなりませんでした。これは、1768年にAloe africana Mill.というアロエがすでに命名されていたからです。同じ名前は認められませんから、新たにbowieaという種小名がつけられたわけです。


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かねてより、私のブログでことあるごとに、アロエ属やらハウォルチア属やらが再編されて、ゴニアロエ属だのクマラ属だのハウォルチオプシス属だのツリスタ属が分離して云々と聞かれてもいないのにうるさく書いてきました。しかし、いったい何の根拠があってそんなことを言っているのか疑問に思う方も、もしかしたらおられるかもしれません。まあ、どうでも良いと言われてしまいそうですが…

遺伝子を調べる
私がその根拠としているのは、2014年に出た『A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae : A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?』という論文です。適当に訳すと「ツルボラン科アロエ亜科の分子系統学と一般分類 : アロエ類における多系統の厄介な問題の最終的な解決?」といったところでしょうか。要するにアロエ類(アロエやハウォルチア、ガステリアなどの仲間の総称)の遺伝子を調べて、その近縁を解析しているわけです。

内容について見てみましょう。冒頭は解析した遺伝子について述べられています。遺伝子解析というと全ての遺伝子を調べる様に思えますが、実はそうではなくて特定の遺伝子の配列のみを調べるのです。この論文では、光合成に関わる葉緑体の4つの遺伝子と、細胞核の1つの遺伝子を解析しているようです。1つの遺伝子では不確実ですが、複数の遺伝子解析の結果が符合すれば確実性が増します。もしかしたら、調べる対象の得手不得手をカバーする目的もあるのかも知れません。


吸収された分類群
アロエ類は伝統的にアロエ属、ハウォルチア属、ガステリア属、アストロロバ属に分けられてきました。さらに、ロマトフィルム属とコルトリリオン属、さらにポエルニッチア属を認める考え方もあります。

1, ロマトフィルム Lomatophyllum
ロマトフィルムは1811年に命名されました。マダガスカル周囲の島嶼部に分布し、果実が多肉質であることでアロエから区別されました。調べた限りではロマトフィルム属とされたことがあるのは28種類でした。しかし、そのうち3種類はドラセナ(Dracaena)で、6種類は同一種とされています。現在ではアロエ属とされています。


2, コルトリリオン Chortolirion
コルトリリオンが最初に命名されたのは1908年です。コルトリリオンは一見して球根植物の様な外見をしています。花はハウォルチアに良く似ていて、19世紀に命名された種は、実際にハウォルチアとされました。
が確認したコルトリリオンは6種ですが、現在は全てアロエ属とされています。調べた限りではChortolirion angolenseはAloe welwitschii、Chortolirion subspicatumはAloe subspicata、Chortolirion latifoliumはAloe jeppeae、Chortolirion bergerianum=Chortolirion stenophyllum=Chortolirion tenuifoliumはAloe bergerianaとされているようです。

アロエの分子系統
ロマトフィルムやコルトリリオンは、アロエ属の中に組み込まれています。L. anivoranoensisのとなりにA. haworthioidesがありますが、となりに書いてあるから、より近縁というわけではありません。A. haworthioidesなどは兄弟姉妹みたいなもので、今はまだ誰が兄で誰が弟かは分かりません。さらに細かく調べれば、それも分かるかもしれません。アロエ属に絞って解析した論文があるかもしれませんから、見つけたらまた記事にします。
※アロエ属全種類を調べてはいません。
                        ┏ ━Aloe nubigena
                        ┃
                    ┏╋━Aloe kniphofioides
                    ┃┃
                    ┃┗━Aloe ecklonis
                    ┃
                    ┣━━Aloe fouriei
                    ┃
                    ┣━━Aloe challisii
                    ┃
                    ┣━━Aloe vossii
                    ┃
                ┏╋━━Aloe verecunda  
                ┃┃
                ┃┣━━Aloe ferox
                ┃┃
                ┃┣━━Aloe thraskii
                ┃┃
            ┏┫┣━━Aloe excelsa
            ┃┃┃
            ┃┃┣━━Aloe arborescens
            ┃┃┃
            ┃┃┗━━Aloe saundersii
            ┃┃
            ┃┗━━━Aloe petricola
            ┃
            ┃┏━━━Aloe reynoldsii
            ┃┃
            ┃┣━━━Aloe striata
            ┣┫
            ┃┣━━━Aloe kouebokkeveldensis
            ┃┃
            ┃┗━━━Aloe buhrii
            ┃
            ┃    ┏━━Aloe brevifolia
            ┃┏┫
            ┃┃┗━━Aloe lineata
            ┣┫
            ┃┗━━━Aloe chabaudii
            ┃
            ┃┏━━━Aloe succotrina
            ┃┃
        ┏╋┫┏━━Aloe glauca
        ┃┃┃┃
        ┃┃┗┫┏━Aloe microstigma
        ┃┃    ┗┫
        ┃┃        ┗━Aloe pictifolia
        ┃┃
        ┃┃┏━━━Aloe spicata
        ┃┣┫
        ┃┃┗━━━Aloe lutescent
        ┃┃
    ┏┫┣━━━━Lomatophyllum anivoranoensis
    ┃┃┃                  (=Aloe anivoranoensis)

    ┃┃┣━━━━Aloe haworthioides
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━━Aloe comosa
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━━Aloe rupestris
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━━Aloe angelica
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━━Aloe vryheidensis
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━━Aloe hereroensis
    ┃┃┃
    ┃┃┗━━━━Aloe munchii
    ┃┃
┏┫┗━━━━━Chortolirion angolense
┃┃                                  (=Aloe angolense)

┃┃┏━━━━━Aloe chortolirioides
┃┃┃
┃┃┣━━━━━Aloe propagulifera
┃┃┃
┃┃┣━━━━━Aloe alooides
┃┃┃
┃┣╋━━━━━Aloe albida
┫┃┃
┃┃┣━━━━━Aloe perfoliata
┃┃┃
┃┃┣━━━━━Aloe dewinteri
┃┃┃
┃┃┗━━━━━Aloe arenicola
┃┃
┃┗━━━━━━Aloe melanacantha

┗━━━━━━━Aloe pearsonii

3, ポエルニッチア Poellnitzia
ポエルニッチアは最初に命名されたのは1940年です。ポエルニッチアはただ1種類のPoellnitzia rubrifloraがあり、赤系統の花を咲かせます。アストロロバに良く似ていますが、アストロロバはみな白花ですから、ルブリフロラ(rubri=赤い、flora=花)は特異的です。2000年にルブリフロラをアストロロバとする意見があり、現在ではルブリフロラはAstroloba rubrifloraが正式な学名です。しかし、未だにポエルニッチアを認める立場の研究者もいるそうです。
この論文ではルブリフロラはアストロロバに吸収されています。何でも、ルブリフロラは鳥が受粉を行っており、花はそれに合わせて変化したもののようです。

DSC_0982
Poellnitzia rubriflora
=Astroloba rubriflora


アストロロバの分子系統
アストロロバはポエルニッチアを含め、非常によくまとまったグループです。アストロロバはツリスタ+アリスタロエ+ゴニアロエと姉妹群を形成します。
    ┏━━━Gonialoe
    ┃
┏┫┏━━Tulista
┃┗┫
┃    ┗━━
Aristaloe
┃       
┫        ┏━Astroloba corrugata
┃    ┏┫
┃┏┫┗━Astroloba herrei
┃┃┃
┗┫┗━━Astroloba foliolosa
    ┃
    ┗━━━Poellnitzia rubriflora
                   (=Astroloba rubriflora)


分離した分類群
既存の分類群に吸収されたというか、元の鞘に戻ったものがいる一方、分離されたものもあります。先ずはアロエ属から分離した、アリスタロエ属、ゴニアロエ属、クマラ属、アロイアンペロス属、アロイデンドロン属です。さらに、ハウォルチア属から分離したハウォルチオプシス属とツリスタ属があります。
近縁関係でいうと、クマラ属とハウォルチア属、アストロロバ属とアリスタロエ属とゴニアロエ属とツリスタ属、ハウォルチオプシス属とガステリア属はそれぞれグループを形成しています。
私が思うに、アロエ類の進化は葉が柔らかいアロイデンドロン属からアロエ属までと、葉が硬いアストロロバ属からガステリア属があるという風に理解しています。アロエ属には葉が柔らかいものと硬いものとがあり、アロエ属から別れたグループ(アストロロバ、アリスタロエ、ゴニアロエ、ツリスタ、ハウォルチオプシス、ガステリア)の葉はみな硬いということに、進化的な意味があるような気がします。

アロエ類の系統図
┏━━━━━━━━Aloidendron属

┫    ┏━━━━━━
Kumara属
┃┏┫
┗┫┗━━━━━━Haworthia属
    ┃
    ┃┏━━━━━━Aloiampelos属
    ┃┃
    ┗┫┏━━━━━Aloe属
        ┃┃
        ┗┫    ┏━━━Astroloba属
            ┃    ┃
            ┃┏┫┏━━Aristaloe属
            ┃┃┃┃
            ┃┃┗┫┏━Gonialoe属
            ┃┃    ┗┫
            ┗┫        ┗━
Tulista属
                ┃
                ┃┏━━━Haworthiopsis属
                ┗┫
                    ┗━━━Gasteria属


クマラ属とハウォルチア属
クマラ属とハウォルチア属は近縁です。ここでいうハウォルチアは軟葉系ハウォルチアのことで、硬葉系ハウォルチアと呼ばれたハウォルチオプシス属とツリスタ属を含みません。クマラ属はかつてアロエ属でしたが、アロエ属とは系統的に離れています。クマラ属とハウォルチア属はともにイボやトゲがないグループです。
顕花植物の分類は基本的に花の構造により行われてきました。しかし、ハウォルチア型の花はハウォルチア属、ハウォルチオプシス属、コルトリリオン属(=アロエ属)で共通していますから、これらは系統的に近縁と考えられてきました。しかし、分子系統解析の結果から、ハウォルチア型の花はそれぞれ独立して進化したことが分かりました。花の蜜成分の含有量においても、異なるという報告もあり、花の類似は収斂進化の結果なのかもしれません。ハウォルチア型の花は昆虫媒花の結果として進化したようです。
クマラ属はKumara plicatilis(=Aloe plicatilis)とKumara haemanthifolia(=Aloe haemanthifolia)がありますが、この2種を比較するとやや離れています。とは言うものの、
他のアロエ属と比較した場合には近縁ですから、この2種がまとまったグループであることは間違いないのでしょう。もしかしたら、過去に2種の間を埋めるような絶滅種がいたのかもしれません。

ハウォルチア属の分子系統
                    ┏━Haworthia bayeri
                    ┃
                ┏╋━Haworthia cymbiformis
                ┃┃
                ┃┗━Haworthia cooperi
                ┃
                ┃┏━Haworthia semiviva
                ┃┃
            ┏┫┣━Haworthia mucronata
            ┃┃┃
            ┃┗╋━Haworthia lockwoodii
            ┃    ┃
        ┏┫    ┣━Haworthia arachnoidea
        ┃┃    ┃
        ┃┃    ┗━Haworthia decipiens
        ┃┃
        ┃┗━━━Haworthia marxii
        ┃
        ┃┏━━━Haworthia mirabilis
        ┃┃
        ┃┣━━━Haworthia herbacea
        ┃┃
        ┣╋━━━Haworthia reticulata
        ┃┃
        ┃┣━━━Haworthia retusa
        ┃┃
        ┃┣━━━Haworthia mutica
        ┃┃
        ┃┗━━━Haworthia maculata
        ┃
        ┃┏━━━Haworthia truncata
        ┃┃
        ┣╋━━━Haworthia zantneriana
        ┃┃
        ┃┣━━━Haworthia vlokii
        ┃┃
    ┏┫┗━━━Haworthia outeniquensis
    ┃┃
    ┃┃┏━━━Haworthia chloracantha
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━Haworthia pygmaea
    ┃┃┃
    ┃┣╋━━━Haworthia variegata
    ┃┃┃
    ┃┃┣━━━Haworthia floribunda
    ┃┃┃
    ┃┃┗━━━Haworthia emelyae
    ┃┃
    ┃┗━━━━Haworthia wittebergensis
    ┃
    ┗━━━━━Haworthia blackburniae


DSC_0889
Haworthia mucronata

DSC_0848
Haworthia herbacea

DSC_0767
Haworthia arachnoidea

DSC_1423
Haworthia cooperi

DSC_0621
Kumara plicatilis
=Aloe plicatilis


記事が長くなったので、2つに分けます。


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私のメイン多肉植物であるユーフォルビアについて、その学名の命名者を調べてみたりしました。多肉ユーフォルビアと同様に、ハウォルチアやアロエの仲間はアフリカ原産なので、命名者も古いものは重なる部分があります。
そこで、最近気になって集めているアロエ類についても、学名の命名者を調べて見ようということになりました。ここで言うアロエ類とは、アロエ属Aloe・ハウォルチア属Haworthia・ガステリア属Gasteria・アストロロバ属Astrolobaのことです。これらは遺伝子解析の結果から、近縁なグループと認められました。
さらに言うと、アロエ属Aloeとハウォルチア属Haworthiaは細分化されて、それぞれの属の近縁性も再編されています。アロエ属Aloeは、アロエ属Aloe、アロイデンドロン属Aloidendron、アロイアンペロス属Aloiampelos、ゴニアロエ属Gonialoe、アリスタロエ属Aristaloe、クマラ属Kumaraに分けられました。ハウォルチア属Haworthiaも、ハウォルチア属Haworthiaとハウォルチオプシス属Haworthiopsis、さらにツリスタ属Tulistaに分けられました。よって、これにガステリア属Gasteriaとアストロロバ属Astrolobaを含めた11属がアロエ類のメンバーということになります。

アロエ類の系統図
┏Aloidendron属
┃    ┏Kumara属
┃┏┃
┗┃┗Haworthia属
    ┃┏Aloiampelos属
    ┗┃┏Aloe属
        ┗┃    ┏Astroloba属
            ┃┏┃┏  Aristaloe属
            ┃┃┗┃┏Gonialoe属
            ┗┃    ┗┃
                ┃        ┗Tulista属
                ┃┏Haworthiopsis属
                ┗┃
                    ┗Gasteria属


①アロエ属 Aloe
アロエ属は1753年に命名された
Aloe L.です。LはスウェーデンのCarl von Linneのことです。現在の二名式学名は1753年にリンネが「Species Plantarum」を出版し提唱しました。ですから、その1753年に命名されたアロエ属は実に由緒正しき属名と言えます。
アロエ属から分かれた属の命名年と命名者は以下の通り。クマラ属Kumaraだけ命名が古いのですが、これはアロエ属が解体された時に、過去に命名されて認められなかった属であるクマラ属Kumaraを引っ張り出してきたからです。

1753年 Aloe L.
1786年 
Kumara Medik.
2013年 Aloidendron (A.Berger)
                       Klopper & Gideon F.Sm.

              Aloiampelos
                       Klopper & Gideon F.Sm.
2014年 Gonialoe (Baker) 
                        Boatwr. & J.C.Manning

              Aristaloe Boatwr. & J.C.Manning

新しく別れた属に所属する種は、すべて新しく命名され直されました。ですから、命名者もそれぞれの属の創設者になっているため、単純でやや面白みがありません。

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Aloe arborescens Mill.

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Gonialoe variegata
          (L.) Boatwr. & J.C.Manning


DSC_0870
Aloiampelos striatula 
        (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm. 

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Aloidendron dichotomum
          (Masson) Klopper & Gideon F.Sm.


DSC_0621
Kumara pulicatilis (L.) G.D.Rowley

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Aloe parvula (A.Berger) P.V.Heath

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Aloe polyphylla Pillans

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Aristaloe aristata
         (Haw.) Boatwr. & J.C.Manning


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Aloe erinacea D.S.Hardy

DSC_0105
Aloe humilis (L.) Mill. 

②アストロロバ属 Astroloba
アストロロバ属は1947年に命名された
Astroloba Uitewaalです。Uitewaalはオランダの植物学者である、Adrian Joseph Antoon Uitewaalのことです。アストロロバ自体がアロエだったりハウォルチアだったりハウォルチオプシスだったりしたため、基本的にはアストロロバ属創設者のUitewaalが命名者となっています。

1947年 Astroloba Uitewaal

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Astroloba rubriflora
       (L.Bolus) Gideon F.Sm. & J.C.Manning


DSC_0983
Astroloba spiralis (L.) Uitewaal

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Astroloba foliolosa (Haw.) Uitewaal


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マダガスカル原産のアロエ・ハウォルチオイデス(Aloe haworthioides)の花が咲きました。
ハウォルチオイデスは小型で華奢、トゲもなくて毛に覆われていて、アロエと言うよりも一見してハウォルチア(Haworthia, ハオルシア)と勘違いしそうになりますが、立派なアロエの仲間です。
2020年に購入。


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DSC_0602
小さくて分かりにくいですが、一応咲いています

前から気にはなっていたのですが、ネット販売されているハウォルチオイデスにはアロエ・デスコイングシィ(Aloe descoingsii)との交配種が混在している様です。交配種は葉の幅が広く多肉で、アロエ感が強いのですぐに分かります。
交配種であると表示して販売するならまだしも、交配種をハウォルチオイデスとして販売するのは大問題です。偽物を掴まされない様に気を付けたいものです。


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Aloe haworthioides

ハウォルチオイデスは非常に丈夫で、弱々しい見た目に反して乾燥にも強いアロエです。マダガスカルでは完全に雨が降らない乾期がある地域に分布しますから、乾燥に強いのも納得です。逆にあまり頻繁に水をやると根腐れの原因にもなりますから、気を付けなければなりません。
ハウォルチアとは異なりそこはやはりアロエ、遮光なしの強光線にも耐えます。
ハウォルチオイデスはあまり耐霜性がないようですから、冬は室内栽培です。
ハウォルチオイデスは、根本から仔を次々と吹きます。あまり混むようなら株分けするか、面積のある鉢に植え替えします。


ハウォルチオイデスの学名は1887年に命名された、Aloe haworthioides Bakerです。
一見してアロエに見えないこともあり、アロエ属ではないという考え方もあります。1939年に命名されたAloinella haworthioides (Baker)  Lemee、1993年に命名されたLemeea haworthioides (Baker) P.V.Heathがありますが、現在学術的に認められている学名ではありません。
よって、ハウォルチオイデスは命名されて130年以上たった今もアロエ属の一員です。


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女王錦は昔から知られている有名なアロエです。しかし、園芸店やホームセンターではあまり販売していません。
女王錦はアロエではやや珍しいマダガスカル原産です。

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女王錦 Aloe parvula
柔らかくしなやかなアロエで、トゲは触っても柔らかく、どちらかと言えば肉イボです。
そういえば、こういうソフト系のアロエは寒さに弱い傾向があり、霜にあたると氷ってしまい駄目になりやすいので注意が必要です。

学名は1908年に命名されたAloe parvula A.Bergerです。異名として1926年に命名されたAloe semperviroides H.Perrierがありますが、女王錦と同種として認められていません。また、アロエらしさがないせいか、女王錦は1994年にLemeea属とされ、Lemeea parvula (A.Berger) P.V.Heathとする考え方もありますが、現在では認められていません。


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アロエ属は2014年に解体され、アロエ属、アロイアンペロス属、アロイデンドロン属、アリスタロエ属、ゴニアロエ属、クマラ属に別れました。アロエ属以外は詳しくないので、アロイデンドロン属、クマラ属、アリスタロエ属を入手して調べてきました。やはり、画像だけではダメで、実際に手にとって育ててみないとわからないことが沢山あります。そこで、次はゴニアロエ属を知りたいという訳です。

ゴニアロエ属では千代田錦が有名で、日本でも昔から知られています。昔は小さな花屋さんにもミニ観葉植物として苗がよく売っていたものです。しかし、最近はあまり目にすることはありません。多肉ブームにも関わらず、まあ人気がないということなのでしょう。

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千代田錦
昔はこんな立派な千代田錦は見た記憶がありません。デカイ。
ゴニアロエ属は3種類が認められていますが、みな葉が三方向に伸びます。ゴニアロエの「goni」は「角度」を示しています。千代田錦の葉の固さはアリスタロエ属に雰囲気が似ています。
ゴニアロエ属は実際の分類学では、硬葉系ハウォルチアの一部であったツリスタ属、旧アロエ属のアリスタロエ属、そしてアストロロバ属が一つのまとまったグループを作ります。

千代田錦は1753年にAloe variegata L.から始まります。アロエ属はリンネにより1753年に設立されたので、千代田錦はアロエ属の設立メンバーです。
その他にも1804年に命名されたAloe punctata Haw.、1928年に命名されたAloe ausana Dintrがありますが、現在では千代田錦と同種とされています。
さらに、2014年にGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manning、さらにはTulista variegata (L.) G.D.Rowleyが命名されました。しかし、現在の学術的に認められている学名は、Gonialoe variegataとなっております。


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アロエ・ポリフィラは珍しいレソト産のアロエです。レソト王国は南アフリカ共和国の国内に存在する山岳国家です。アロエ・ポリフィラは「ソロモン王の碧玉扇」という、あまり使われない名前もあります。
アロエ・ポリフィラは"Spiral aloe"の英名の様に、生長すると葉が螺旋状に並ぶ様に育ちます。
また、"Basutoland aloe"の呼び名もありますが、こちらはレソトの独立前の名前から来ています。

アロエ・ポリフィラは海抜2000~2500m、場合により3000m以上に自生します。自生地の冬は雪に覆われるため寒さには強いのですが、暑さは苦手としているようです。海外の園芸サイトを見ていても、腐りやすいとあります。特に葉の間に水が溜まることが、腐敗の原因になるようです。

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購入時には葉で鉢の用土が全く見えない状態でした。当然、水やりをするときに上からかけることになるので、このままでは腐ってしまいます。また、用土が見えないので、乾きにくい状態です。要するに風通しが最悪。すぐに植え替えました。
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根は沢山あるようですが…
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枯れた根を取り除くと、たったこれだけ。
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植え替え後の状態。用土が見えるように大きめの鉢に植えました。用土が多いと乾きにくい様な気もしますが、風通しが良ければ購入時よりも湿気が溜まらないので、こちらのほうがいいはず…

アロエ・ポリフィラの学名は、1934年に命名されたAloe polyphylla Pillansです。Pillansは南アフリカの植物学者であるNeville Stuart Pillansのことです。



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綾錦はかつてアロエ属とされていましたが、現在はアリスタロエ属となりました。アリスタロエ属は綾錦ただ1種だけの、1属1種の分類群です。硬葉系ハウォルチアと呼ばれていた種は、現在ではハウォルチオプシス属とツリスタ属になりましたが、アリスタロエ属はゴニアロエ属、ツリスタ属、アストロロバ属と近縁です。
ホソバキダチロカイという現在では使われることのない古の名前もあります。

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綾錦

綾錦の学名は1825年に命名された、Aloe aristata Haw.から始まります。
1829年にAloe longiaristata Schult. & Schult.f.、1934年にはAloe ellenbergeri Guillaminという学名もつきましたが、これはAloe aristataと同種であるとして認められておりません。
旧アロエ属が、アロエ属・ゴニアロエ属・アリスタロエ属・アロインペロス属・アロイデンドロン属・クマラ属に分かれました。その時、つまりは2014年に綾錦はAristaloe aristata (Haw.) Boatwr. & J.C.Manningとなりました。
なんと、初めて命名されてから189年もアロエ属だった訳です。
ちなみに、2013年にはTulista aristata (Haw.) G.D.Rowleyも提唱されていますが、現状認められておりません。他のツリスタ属とは著しく特徴が異なりますが…

海外のサイトを見ていると、綾錦は南アフリカ・レソト原産で、マイナス7℃まで耐えられるとあります。私も綾錦は基本的に冬でも屋上栽培ですが、氷点下にも耐えています。やはり、かなり寒さには強い様です。しかも、夏の暑さにも強いので大変丈夫で育てやすい多肉植物です。



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APG分類体系
アロエとハウォルチアは昔から近縁であるとされてきました。実際に植物分類学では花の構造を重視しますが、それによるとアロエ、ガステリア、ハウォルチア、アストロロバは良く似ています。
アロエの仲間はユリ科、アロエ科、ススキノキ科と変遷しました。
しかし、遺伝子解析により植物を分類しようというプロジェクトが世界中の植物学者の協力の元、APG分類体系という形で結実しました。データを蓄積しバージョンアップを重ね、1998年にAPG l、2003年にAPG ll、2009年にAPG lll、2016年にAPG lVが公表されています。

アロエはツルボラン科
APG分類体系(APG lll)によると、アロエはツルボラン科に含まれます。ツルボラン科はキスゲ亜科、ススキノキ亜科、ツルボラン亜科に別れます。
このうち、アロエはツルボラン亜科に分類されます。
キスゲ亜科はカンゾウを含むヘメロカリスが代表です。ススキノキ亜科はブラックボーイが有名です。ツルボラン類には多肉植物のブルビネや、球根植物でアロエに良く似た花をつけるシャグマユリが知られます。
ツルボラン科全体では、オーストラリア固有種が非常に多いことが特徴です。それ以外の種はアフリカ原産が主で、アロエ類もアフリカ原産です。

ツルボラン科の系統図
    ┏キスゲ亜科
┏┃
┃┗ススキノキ亜科

┃                                 ┏ツルボラン類
┗ツルボラン亜科 ━┃
                                     ┗アロエ類

アロエ類の誕生
このAPG分類体系により、やはりアロエとハウォルチアは近縁であることがわかりました。しかし、アロエ属の中でも木質の茎を持ち大型になるものはアロイデンドロン属Aloidendron、トゲがなくロゼット型にならないクマラ属Kumara、トゲはなく硬く平たいロゼットをつくるアリスタロエ属Aristaloe、トゲはなく硬く三角形のゴニアロエ属Gonialoe、茎がひょろひょろと伸びて分岐し草むら状態となるアロイアンペロス属Aloiampelosとなり、アロエ属から分離し独立しました。
ハウォルチア属はかつて園芸上では、軟葉系と硬葉系が区別されていました。このうち軟葉系をハウォルチア属として、硬葉系は分離・独立しました。硬葉系はほとんどがハウォルチオプシス属Haworthiopsisとなり、一部がツリスタ属Tulistaとされました。
この旧アロエ属6属、旧ハウォルチア属3属、アストロロバ属Astroloba、ガステリア属Gasteriaを含めて、これを『アロエ類』と呼んでいます。

アロエ類の系統図
┏アロイデンドロン属(旧アロエ属)
┃    ┏クマラ属(旧アロエ属)
┃┏┃
┗┃┗ハウォルチア属(旧ハウォルチア属)
    ┃┏アロイアンペロス属(旧アロエ属)
    ┗┃┏アロエ属(旧アロエ属)
        ┗┃    ┏アストロロバ属
            ┃┏┃┏  アリスタロエ属(旧アロエ属)
            ┃┃┗┃┏ゴニアロエ属(旧アロエ属)
            ┗┃    ┗┃
                ┃        ┗ツリスタ属(旧ハウォルチア属)
                ┃┏ハウォルチオプシス属(旧ハウォルチア属)
                ┗┃
                    ┗ガステリア属


葉の硬さと進化
アロエ類の系統を見ていて最初に気付くのは、葉の硬さです。系統図の根元に近いアロイデンドロン属、クマラ属、ハウォルチア属、アロイアンペロス属は葉が柔らかく、アロエ属は葉が柔らかいものと硬いものがいます。
アストロロバ属、ゴニアロエ属、ツリスタ属、ハウォルチオプシス属、ガステリア属は葉が硬く、系統図でも一つのグループとしてまとまっています。
アロエ属が系統図の葉の柔らかいグループと硬いグループの中間にあり、葉の柔らかい種類と硬い種類を含むことは進化を考える上で重要な気もします。この葉の硬さは、アロエ属から出てきた形質なのでしょう。

トゲとイボの進化
アロエ類ではトゲやイボ、ノギ(禾)があるものが多いことも特徴です。クマラ属はトゲなどはなく、ハウォルチア属にもトゲはありません。クマラ属とハウォルチア属はトゲを失う進化をしたグループなのかもしれません。ハウォルチアはトゲのかわりにノギと呼ばれる柔らかい突起がありますが(全くないものもある)、これは恐らくはトゲの変形なのでしょう。毛の様に長くなるノギもあり、ハウォルチア属はトゲを特殊化したグループと言えます。
葉が硬いアストロロバ属、ゴニアロエ属、ツリスタ属、ハウォルチオプシス属、ガステリア属にはトゲがありません。明らかにひとまとまりのグループを形成しています。ツリスタ属とハウォルチオプシス属は肉イボを持ちますが、それぞれが独自に進化して手に入れた形質のようです。ツリスタ属は半透明のイボで、ハウォルチオプシス属は白い不透明なイボを持ちます。

ロゼットの進化
APG分類体系を知るまでは、ガステリア属の様な形からロゼット型のアロエが進化したのではないかと考えていました。なぜなら、アロエ属は小さく若いうちはロゼットを形成せず、ある程度大きくなってから葉が旋回し始めて、ロゼット型となります。これは進化の道筋を繰り返している様に見えたのです。「個体発生は進化を繰り返す」みたいな話と思ったりしましたが、残念ながら異なるようです。
そもそも、系統的に近いツルボラン類やススキノキ亜科は、ガステリアの様な形ではないのですから、当たり前の話と言えばそうです。

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アロエ・ソマリエンシスを入手しました。
1月に鶴仙園池袋店に行った時に、たまたまアロエ・ソマリエンシスが目に入ったものの購入しませんでした。しかし、どうしても気になって家でソマリエンシスを調べている内に、ああ買えばよかったと後悔しました。
そんなこんなで、鶴仙園池袋店で1ヶ月ぶりにアロエ・ソマリエンシスと再会を果たした訳です。まあ、別個体なんですけどね。
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アロエ・ソマリエンシス
冬なので縮んで葉が丸まっています。春になってその美しい葉を楽しめる日が楽しみです。
そう言えば、ホームセンターでもソマリエンシスの名前で売られているアロエがあるみたいなんですけど、若干の怪しさがあるようです。どうやら、ホームセンターのソマリエンシスらしきアロエは、白斑がまばらで白色というより半透明で、茎があって縦長に育つみたいですね。なるほど、それはアロエ・ソマリエンシスではないですね。交配種なのでしょう。

さて、そんなアロエ・ソマリエンシスですが、名前の通りソマリア原産です。ソマリア原産の多肉植物は、一般的にソマリアものと呼ばれ、難易度が高いと言われています。アロエ・ソマリエンシスも、アロエの中では夏の直射日光を避けたほうが安全と言われています。しかし、そこは丈夫なアロエ属だけあって暑さでへたることはなさそうです。
原産地では海抜700~1700mの、岩場の斜面やアカシア-コミフォラ低木地帯に生えているそうです。ソマリアのコミフォラとか、恐ろしくて育てられませんね。

学名は1899年に命名された、Aloe somaliensis C.H.Wright ex W.Watsonです。W.Watsonはイギリスの植物学者・園芸家であるWilliam Watsonのことですが、C.H.Wrightはイギリスの植物学者であることしかわかりません。あまり情報がないみたいです。


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アロエ・エリナケアは南アフリカ原産のアロエです。非常に生長が遅く、開花するサイズまで育てるのはなかなか大変です。


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2020年2月

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2022年2月。生長は遅い。
ストレスがあると赤くなります。低温や乾燥、強光線などですが、こういうストレスを与えないときれいな形に育ちません。
根がはみ出して来たので、今年植えかえる予定です。


アロエ・エリナケアの学名は1971年に命名され、Aloe erinacea D.S.Hardyとなっています。
また、1980年に唐錦Aloe melanacantha A.Bergerの変種としてAloe melanacantha var. erinacea (D.S.Hardy) G.D.Rowleyとする意見もあるようです。
国内外の趣味サイトでは、アロエ・エリナケアは唐錦の変種とされていることが多い様です。しかし、NCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)やGbif(地球規模生物多様性情報機構)という公的機関のデータベースでは、Aloe erinaceaとされています。PubMedでエリナケアを検索すると、2021年末にアロエ属の遺伝子解析方法について検討している論文が出ていますが、そこでもAloe erinaceaと表記されています。 
生物は外見が似ているから近縁種であるとは限らないということは、近年の遺伝子解析により判明してきた事実です。しかし、唐錦とエリナケアは明らかに近縁だとは思いますが、現時点においては唐錦の変種ではなく、独立種としても良いのではないでしょうか。当然、研究が進み単独種と見なされなくなる可能性もありますが、あくまでも可能性の話です。


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アロエ・ディコトマ
かつて、最大のアロエと言えばアロエ・ディコトマでした。アロエ・ディコトマは樹齢80年以上生きて、高さ7mを越えて育ちます。まさに、世界最大のアロエです。
ただし、現在はアロエ属は分割されて、アロエ・ディコトマはアロイデンドロン属の所属となりました。それでも、旧・アロエ属と旧・ハウォルチア属、アストロロバ属、ガステリア属をまとめたアロエ類のなかでは、やはり最大種であることには変わりありません。

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2020年11月。小苗を購入しました。名札はアロエ・ディコトマでした。まだ、ディコトマらしさはありませんね。
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2022年1月末。特徴である幹が少しだけ見えてきました。力強い根張りにも目が行きます。

和名は?
そう言えば、アロエは○○錦という名前が多くあります。サボテンでは最後に「錦」がつくと斑入り品種のことなんですけど、アロエでは斑入りとは関係なく「錦」が使われています。アロエ・ディコトマも、皇滋錦なる名前もありますが、まったく使われていませんね。同様に矢筒の木タカロカイも流通していない名前です。
英語ではQuiver treeで「震えの木」の意味で、サン族が矢筒を作るからだという説明がされていますが、何でそれが「震えの木」に繋がるのかは良くわかりません。

学名の変遷
アロエ・ディコトマは、1776年にAloe dichotoma Massonとして命名されました。ちなみに、1804年に命名されたAloe ramosa Haw.は、ディコトマと同種であるとして、この学名は使用されておりません。
また、1811年にRhipidodendrum dichotomum  (Masson) Willd.とする考え方もありました。学名はラテン語なので、rhipidoは扇、dendrumは樹木のことです。つまり、「扇状の樹木」の意味です。割りと特徴をとらえていますが、ディコトマをアロエ属から独立させる意見は主流派にはならなかった様です。使われていない学名です。
最終的には、2013年に遺伝子解析により、アロエ・ディコトマはアロエ属から独立し、Aloidendron dichotomum (Masson) Klopper & Gideon F.Sm.となりました。

生態
ディコトマの自生地はナミビアから南アフリカにかけてです。
花穂は巨大で、鳥やヒヒが蜜を求めて訪れるそうです。自生地ではハタオリドリがディコトマに巣を作って、異様な見た目になります。
若いツボミは食べられるそうで、アスパラガスの様な味らしいのですが、果たして本当なのか気になります。確かめようがないので、どうしようもないのですが。私のディコトマに花芽が着くのは、果たして何十年後の話なのか…。まあ、無理でしょうけど。


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アロエ・フミリスは昔から知られていたアロエです。日本では帝王錦と呼ばれ、英語ではDwarf hedgehog aloe(小さいハリネズミアロエ)だとかSpider aloe(蜘蛛アロエ)と呼ばれているようです。
栽培の歴史が古いためか、アロエ・フミリスは様々な名前で呼ばれてきました。あまり流通しなかったローカルな学名を含めると20以上の学名がつけられてきたようです。そんな、アロエ・フミリスの歴史を少しだけたどってみました。

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帝王錦 Aloe humilis

アロエ・フミリスに学名がついたのは、実に1753年に遡ります。現在のすべての生物につけられる二名式の学名を作った、かのカール・フォン・リンネが命名しました。その時の学名が、Aloe perfoliata var. humilis L.でした。この時点では、アロエ・フミリスはアロエ・ペルフォリアタの変種とされました。
さらに、1771年にスコットランドの植物学者であるフィリップ・ミラーにより、Aloe humilis (L.)Mill.として独立しました。この学名が現在の正式な名称として認定されています。

しかし、その間にアロエ・フミリスは様々な研究者によって異なる学名が与えられることになりました。
主なものを挙げると以下の通りです。情報があまりないものもあります。
Aloe verrucosospinosa All.(1773年)
Aloe virens Haw.(1804年)
Aloe echinata Willd.(1809年)
Aloe incurva
Aloe macilenta
Aloe subtuberculata
Aloe suberecta (Aiton)Haw.
Aloe tuberculata
この他にも、様々な変種や亜種が提案されましたが、現在ではすべて認められておりません。

さらに、過去にはCatevala humilisという学名がつけられています。このCatevala属は硬葉系ハウォルチア、現在ではハウォルチオプシスと呼ばれる群につけられていた学名です。つまり、アロエ・フミリスは硬葉系ハウォルチアに分類されたこともあったのです。確かに、トゲというには弱々しく柔らかい肉イボは、現在のハウォルチオプシス属やツリスタ属によく似ています。
また、アロエ・フミリスはハウォルチア属に所属したこともあります。ひとつはHaworthia fasciata var. armataです。Haworthia fasciataの変種とされたのです。全体の形や大きさ、増えて群生するなど共通点が多いというのは確かです。Haworthia feroxと命名されたこともあったようです。

そう言えば、Aloe humilis Blankoという学名が、1837年に現在のアロエ・ベラにつけられたこともあったようです。しかし、アロエ・フミリスのAloe humilis (L.)Mill.は1771年と早いため、重複する後でつけられたアロエ・ベラのAloe humilis Blankoは却下されています。

この様に複数の名前がつけられてしまう理由は、いくつかあります。アロエ・フミリスに限らず、こうしたことはあることなので、一般論として解説します。
まず、同じ種類をいろんな人が新種として報告してしまうことがあります。この場合、発表の早い名前が優先となりますが、それらが同じものを示しているのか中々わからないことも多いようです。産地に簡単にいけないような場合や、個体数が少なくて採取か難しい場合に特に起こりやすいパターンです。しかも、産地ごとに個体差があれば、余計に判別が困難となります。
次に、個体差が大きい場合、それぞれのタイプが別種とされることがあります。同様に個体差を変種、あるいは亜種としてしまうこともあります。しかし、ある産地の1個体から採取した種子を蒔いたときに、かなりの個体差が出ることもよくあります。ですから、見た目の違いが即、別種であるとは言えませんし、変種や亜種であるとは限りません。
最後に所属があやふやな場合があります。ある仲間の中でも特殊な形態や生態である場合、他の分類群に入れられたり、独立した群として扱われることもあります。

どうでしたか? アロエ・フミリスにも初めて学名がつけられてから、200年以上の歴史があるのです。その後の紆余曲折は、まさにアロエ・フミリスにも歴史あり、でしょう。アロエ・フミリスは現在では遺伝子解析によりアロエ属であることが確定しましたが、アロエ・フミリスの様な一般的なアロエのイメージから逸脱した種類は植物学者たちも頭を悩ませてきたのです。
以上、アロエ・フミリスの歴史でした。


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アロエ・ボウィエアはアロエ感が薄い南アフリカ原産のアロエです。一見してチランドシアの様な、あるいはランの塊茎の様な不思議な形状をしています。トゲも弱々しい肉イボが少しありますが、アロエっぽさはあまりありません。

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Aloe bowiea(2020年7月、購入時)
ホームセンターで買いましたが、3980円と超高価でした。丈夫で簡単に仔を吹くだろうに…

アロエ・ボウィエアはもともとアロエとは考えられていませんでした。最初は1824年にBowiea africanaとされて登録されました。Bowieaといえば蒼角殿が1867年にBowiea volubilisとして登録されました。アロエ・ボウィエアが蒼角殿と同じ仲間とされていたというのは面白いですね。

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蒼角殿 Bowiea volubilis

その後、1829年にAloe bowieaとする考え方が出ました。この時点で、アロエかアロエではないか、という議論があったのでしょう。

1905年にBowiea africanaを正当として、Chamaealoe africanaに変更されました。これは、アロエ属ではないけれど、アロエに近いという立ち位置になったのでしょう。ちなみに、Chamaealoeの「chamae」は、「小さい」、「低い」という意味です。英訳するとドワーフ・アロエと言ったところでしょうか。

その後、結局のところAloe bowieaが正式な学名となりました。似た特徴のものをまとめる傾向があり、同じ花の特徴があればすべてアロエ属とされました。

しかし、遺伝子解析の結果を元に、アロエ属は解体される運びになりました。
綾錦がAristaloe、乙姫の舞扇がKumara、千代田錦がGonialoe、ディコトマがAloidendronになりアロエ属ではなくなったので、ボウィエアは?と思いましたが、相変わらずアロエ属のままのようです。アロエ・ボウィエアは何だかんだと変遷をたどったものの、結局のところアロエ属で落ち着きました。

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