ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

カテゴリ: ユーフォルビア

トウダイグサ属(Euphorbia)は、最も種数が多い属の1つとされ、基本的に毒性のある乳液があります。種類によっては、皮膚に乳液がつくと激しい炎症を引き起こしたり、目に入ると失明する可能性があると言われています。一般的に植物の毒は草食動物に対する防御策であることが知られていますが、ユーフォルビアはどうでしょうか? 植物が毒を持つと、動物も毒に耐性を持ったものが現れ、さらに異なる毒を植物が産生するようなりに、その毒に対して動物が…、という風に植物と動物で終わりのない軍拡競争が行われます。では、ユーフォルビアの毒性はそのような軍拡競争の末の産物なのでしょうか?

調べてみたところ、M. Ernstらの2018年の論文、『Did a plant-herbivore arms race drive chemical diversity in Euphorbia?』を見つけました。タイトルはズバリ、「植物と草食動物の軍拡競争はユーフォルビアの化学的多様性を促進しましたか?」です。植物と草食動物の軍拡競争により、ユーフォルビアの毒の種類が多様になったのかを検証しています。
ユーフォルビアは約2000種あり、約4800万年前にアフリカで発生したと考えられています。3000万年前と2500万年前の2回に渡り、世界中に分散しアメリカ大陸まで分散が拡大しました。ユーフォルビアの毒は多環ジテルペノイド類によります。論文では43種類のユーフォルビアの遺伝的多様性、分布、毒の成分を調査しています。

ユーフォルビアは、旧世界のユーフォルビア亜属(subgenus Euphorbia)、アティマルス亜属(subgenus Athymalus)、エスラ亜属(subgenus Esula)と、主に新世界のカマエシケ亜属(subgenus Chamaesyce)からなります。
ユーフォルビア亜属は、南アフリカやマダガスカルに分布し、柱サボテン状になるE. cooperiやE. grandicornisのように巨大に育つもの、マダガスカルの花キリン類、飛竜などの塊根性のもの、旧・モナデニウムなどがあります。また、一部は南米原産のものもあります。
アティマルス亜属は南アフリカや西アフリカ、アラビア半島の一部に分布し、E. obesaやE. polygona var. horrida、鉄甲丸(E. bupleurifolia)、群生する笹蟹丸(E. pulvinata)、E. gorgonisなどのタコものなど、よく園芸店で見かけるユーフォルビアが沢山含まれます。
エスラ亜属はヨーロッパ原産のカラフルなカラーリーフとして最近良く目にしますが、アジアにも広く分布します。
カマエシケ亜属は主に南北アメリカの原産です。


さて、当然ながら旧世界から新世界へユーフォルビアは分布を拡大したと考えられますが、4亜属をそれぞれ10種類前後を調べたところ、新世界に分布するカマエシケ亜属のユーフォルビアは含まれる毒性成分が少なく種類も貧弱でした。これは、旧世界にはユーフォルビアを食害する蛾がいますが、新世界にはいないからかも知れません。このHyles属の蛾の幼虫は、ユーフォルビアに特化しています。しかし、南アフリカとマダガスカルでは、Hyles属の蛾がいない地域でも、ユーフォルビア亜属やアティマルス亜属の植物は毒性が高いことが明らかになっています。これは、過去に存在した外敵に対するものだったのかも知れません。例えば、クロサイはユーフォルビア亜属のユーフォルビアを広く食べることが知られています。

以上が論文の簡単な要約となります。
おそらくは、現在のユーフォルビアの毒性は、食害する外敵との軍拡競争の結果としてもたらされた産物なのでしょう。しかし、新世界に渡ったユーフォルビアには、もはや軍拡競争の相手がいないため、毒性がマイルドになっていったのでしょう。


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南アフリカは多肉植物の宝庫ですが、アフリカ東岸やマダガスカルもユーフォルビアの宝庫です。しかし、アフリカ内陸部についてはあまり話題に登らないことが多いように思われます。本日はそんなアフリカ大陸の内陸部にあるジンバブエのユーフォルビアのお話です。

本日ご紹介するのは、『Euphorbia of Matabeleland, Zimbabwe』です。ジンバブエは南アフリカの北部に一部を接する内陸国で、アフリカ大陸南部の東岸にあるモザンビーク、その左隣のジンバブ、その左隣のエボツワナ、西岸のナミビアという並びです。ちょうど、南アフリカの北を4カ国が蓋をしているような形になっています。ジンバブエのMatabeleland州は南アフリカとの国境の一部である南のリンポポ川からボツワナまで、国の西側に沿うようにあります。北部はザンベジ川からザンビアとの国境を形成します。標高は最南端の約400mから北のチザリア高原の1400mまでです。このような多様な環境に自生する、ジンバブエはMatabelelandのユーフォルビアを見ていきましょう。

①Large Tree 
◎Euphorbia ingens E.Meyer ex P.E.Boisser
E. ingensは「巨大」を意味し、高さ10mに達し、Matabelelandで最大クラスのユーフォルビアです。幹は木質化し基部から2〜4mで分岐します。枝は通常4つの稜を持ち、主幹は4〜6の稜を持ちます。柱サボテン状のユーフォルビアは、稜の角が角質化してトゲが繋がっていることがありますが、E. ingensは連続しません。茎は緑色で若い時は斑が入ることがあります。葉は若い時はありますが、基本的に残りません。花は通常黄色で、果実は暗赤色に熟してしばしば鳥に食べられます。E. ingensの乳液は魚毒あるいはトリモチの材料とされます。MatabelelandではE. ingensは岩が多い場所を始め様々な環境で育ちますが、霜が降りない地域に生えます。州全体で見られますが、Bulawayo周辺とBulawayoの南部のMatobo丘陵に集中します。

◎Euphorbia cooperi
      N.E.Brown ex A.Berger var. cooperi

E. cooperiは、N.E.Brownの義父であるThomas Cooperiにちなんで命名されました。高さ約7〜10mになります。枝は基部で肥大し膨らみます。枝は通常4〜6稜で、主幹は5〜8稜です。トゲは連続し、対になった大きいトゲと、ない場合もある小さなトゲが交互にあらわれます。花は黄色で、果実は熟すと赤色になります。E. cooperi var. cooperiの乳液は非常に毒性が高く、皮膚についたり目に入ると危険です。乳液は魚毒あるいはトリモチとして利用されます。E. cooperi var. cooperiは州の中央から南部にかけて分布します。
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Euphorbia cooperi var. cooperi
対になった強いトゲの間に弱いトゲがあります。

◎Euphorbia cooperi N.E.Brown ex A.Berger
     var. calidicola L.C.Leach
「calidicola」は暑く乾燥した場所に生えることを意味します(※)。高さ10mに達し、主幹は3〜4(5)稜、枝は2〜3稜です。非常に多様なくびれがあり、var. cooperiと区別出来ます。花序もvar. cooperiよりわずかに長いようです。花は黄色で大きく、著者の観察では蜂、蝿、蛾、甲虫、蝶、亀虫、蟻など、沢山の昆虫を引き付けるそうです。果実は熟すと赤色になります。乳液は刺激が強く、トリモチとして利用されます。
E. cooperi var. calidicolaはMatabelelandの北西部、北部、北東部の高温になる乾燥地に生え、川沿いでよく見かけますが、それ以外の場所でも自生します。

(※1) ラテン語で「calidus」は熱いという意味です。

◎Euphorbia fortissima L.C.Leach
「fortissima」は非常に角質化した稜が強いことに由来します。高さ7mに達し、大きなトゲがあります。主幹は5〜6稜で枝は最大5mで、時折再分岐し3〜5稜です。狭い楕円形から卵形にくびれます。果実は緑色で熟すと淡い赤色に変わります。
E. fortissimaはMatabeleland北部でのみ見られ、主に非常に暑く乾燥した場所で、時には急斜面に生えます。降水量は不安定で、年間100〜1000mmの範囲で変化します。茎のくびれは1年に1つできますが、降水量の多寡によりサイズが変わります。著者の観察では毛虫が沢山つき、雑菌の二次感染により多くのE. fortissimaが枯死しました。

◎Euphorbia confinalis
     R.A.Dyer subsp. rhodesiaca L.C.Leach

「rhodesiaca」はジンバブエの旧名であるローデシアに因みます。ジンバブエ固有種で、若い時は美しい斑があります。高さは15m以上に達します。主幹は5〜7稜、枝は4〜6稜です。枝は長楕円形から卵形にくびれます。subsp. confinalisは高さ30cmほどで分岐を開始しますが、subsp. rhodesiacaは場合によっては高さ1m以上になってから分岐し始めます。稜の間は連続しており頑丈です。花は黄色で小型です。乳液は非常に有毒と言われています。
MatabelelandではBulawayoの南にあるMatobo丘陵から知られています。この地域では変化に富んでおり、E. cooperiに似た形態も見られます。一部の植物は乳液が透明で、これはE. cooperiとの交雑種である可能性があります。この地域では、個体数が減少しており、何らかのストレスがかかっていることが想定されます。著者の観察では、若い植物がほとんどなく、20年以上のものが大半でした。最も若い植物でも、高さ50cm未満の12年生のものでした。
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Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca 

②Spiny Shrubs
◎Euphorbia persistentifolia L.C.Leach
高さ3mに達する多茎のトゲのある多肉質の低木です。幹と枝は通常4〜5稜で、稜の間は連続します。通常は目立つ対になった強いトゲと、その間の弱いトゲからなります。花は黄色です。
E. persistentifoliaはHwangeの南約150kmの州北部でのみ見られ、さらに100km北のザンベジ川とビクトリアの滝あたりに散在します。通常は浅い土壌で岩や石が多い環境です。


◎Euphorbia malevola L.C.Leach
      subsp. malevola

「malevola」は悪意を意味しますが、トゲに由来する名前です。高さ1〜2mの枝分かれしたトゲのある低木です。茎は灰緑色から青緑色、淡緑色または赤みがかった色まで様々で、直径は最大2.5cmです。枝は時にねじれたり螺旋状になり4〜5稜です。しばしば大理石様の模様があります。稜は不連続です。トゲはメインのトゲの間に弱いトゲがあります。花序と花は鈍いオレンジ色から淡い赤色、あるいは濃い赤色です。
Matabelelandでは、主に北部、北東部、北西部に見られ、Wankie周辺の砂岩と泥岩の土壌に育ちます。南部からの報告もありますが、著者は見たことはないそうです。


◎Euphorbia griseola F.Pax subsp. griseola
「griseola」は灰色がかった色を意味し、角質化した稜の色を指しています。通常は高さ1〜2mのトゲのある多肉質の低木です。基部から分岐し、枝の途中からも再分岐します。茎は4〜6稜で、緑色から黄緑色、斑が入ります。稜の間は連続あるいは準連続です。花序と花は黄色から緑がかる黄色です。
Matabelelandではブラワヨを中心に分布し、ボツワナ国境まで広がっています。Matobo丘陵には沢山のE. griseolaが見られます。

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Euphorbia griseola

③Small spiny shrubs
 ◎Euphorbia schinzii F.Pax
1890年代にスイスの植物学者で植物コレクターのHans Schinz博士に因みます。高さ30cmまでのコンパクトなトゲのある多肉植物です。太いを持ち、沢山の枝を出します。枝はほとんど4稜で、淡いオリーブグリーンから濃いオリーブグリーン、または灰緑色です。花は黄色です。
Matabelelandの南から北に散在します。


④Non-Spiny Shrubs or Small Trees
◎Euphorbia guerichiana Pax
高さ2mに達しますが、トゲのない木質の半多肉質の低木です。通常は多茎で、成熟した茎は黄褐色または淡褐色の樹皮に覆われます。若い茎は緑色ですが、後に灰色がかります。E. guerichianaは降雨量により薄緑色から青緑色の葉を出し、長さ約7〜35mmで短い葉柄があります。花は通常は黄色ですが、緑色や赤色にもなります。
Matabelelandの南部と南西部の、暑く乾燥した低地でのみ自生します。いくつかの点で、続く2種類に似ています。


◎Euphorbia espinosa F.Pax
「espinosa」はトゲがないことを示しています。高さ3mほどのトゲのない低木で、交互に広がる枝を持ち、幹は茶色かわかる樹皮に覆われます。地下に塊根がある半多肉植物です。葉は長さ44mmまでで、明瞭な縞模様があります。葉柄は通常赤みがあります。花は普通は黄色です。
Matabelelandの南から北に散在し、特に中南部から北部に豊富です。岩の多い場所によく見られますが、様々な土壌で生長しているようです。


◎Euphorbia matabelensis F.Pax
高さ4mまでの半多肉植物で、木質の低木です。多数のトゲのある尖った一次枝と二次枝を持ちます。葉は多肉質で線形から披針形です。花は黄色です。
Matabelelandの南から北に見られます。南部ではそれほど豊富ではありません。Bulawayo周辺に近づくにつれて、特にMatobo丘陵の花崗岩の丘の砂質土壌では一般的です。Bulawayoから北に向かうとE. matabelensisは散在し、Hwange国立公園では深いカラハリ砂漠にも落葉広葉樹の下で生長し、さらに北のザンベジ川とビクトリアの滝あたりに分布します。


⑤Small to very small non-spiny herbs
◎Euphorbia monteiri W.J.Hooker
      subsp. monteiri

多年生の多肉植物で、19世紀後半にアンゴラにおいて初めて採取したJ. monteiroに因みます。茎は高さ30cm以上、直径10cmになります。頂点から葉が沢山出ます。ジンバブエでは珍しく、これまでにボツワナ国境のMatabelelandな北西からのみ知られています。

◎Euphorbia transvaalensis R.Schlechter
初めて発見された南アフリカのTransvaalに因みます。高さ1.6mまでのトゲのない低木で、時に密に枝分かれします。しかし、ほとんどの植物は小さく高さ5〜25cmです。地下に塊根を形成します。若い時の枝は草本あるいは亜多肉植物で、やがて木質となります。古い茎は中空となり挿し木に向きません。環境が悪化すると、落葉さらには地上部はすべて枯れますが、やがて地下の塊根から新しい枝を出します。葉は3〜10.5cmで葉柄があります。花は黄色から緑がかった黄色です。Matabeleland全体に分布し、岩や砂が多いばしに散在します。時々、粘土質の土壌にも生えます。

◎Euphorbia davyi N.E.Brown
プレトリアの植物学者であるJ. Burtt  Davy博士に因みます。トゲのない多年生の矮性多肉植物です。いわゆるMedusoid(タコもの)です。Matabelelandでは一般的ではなく、南西部のいくつかの地域でのみ見られます。露出した岩の多い砂利の多い土壌に生えます。

◎Euphorbia trichadenia F.Pax
「trichadenia」とは毛深い腺という意味です。多年生の落葉する草本です。長さ10cmまでの塊根を発達させます。樹皮はコルク状です。枝は3〜10cmです。Matabelelandの最東部にのみ自生し、一般的ではありません。

◎Euphorbia platycephala F.Pax
「platycephala」は広いあるいは平らな頭という意味です。地下の塊根から茎を出す落葉植物です。1本以上の高さ7〜10cmほどの多肉質の茎があります。葉は長さ4.5〜7.5cmで、温室で栽培すると葉や茎は淡い黄緑色ですが、生息地ではより青みがかった緑色です。Matabelelandの最東部からのみ知られています。

◎Euphorbia oatesii Rolfe
1890年代にローデシアを旅したOates氏に因み、ジンバブエにタイプ標本の産地があります。落葉性の塊根のある草本です。根の樹皮は灰色です。根は直径45mm、長さは最大1mになります。枝は高さ20cm以上で一年性です。茎と枝は淡い緑色、黄緑色、黄色がかる赤色、または赤色で、白または黄色がかる毛に密に覆われます。葉は長さ5〜70mmで、線形から披針形、淡緑色から青緑色です。葉の上面には不規則な模様があります。Matabelelandでは北東端にのみ見られ、砂質土壌で育ちます。塊根の露出を嫌うようです。

以上のように、ジンバブエの18種類のユーフォルビアをご紹介しました。しかし、残念ながら私はほとんど未入手なため、写真をお示し出来ないのは非常に残念です。今後、何かしらのジンバブエ・ユーフォルビアを何かの拍子に入手出来ましたら、お示し出来ればと思っております。


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Euphorbia multifoliaは南アフリカ原産のユーフォルビアです。最近、入手しましたが、意外と情報がありません。論文も見つかりませんでした。仕方がないので公的なデータベース含め情報を少し漁ってみました。

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Euphorbia multifolia
種小名は「multi+folia」で、意味は「沢山の+葉」です。


調べて出てくるのは販売サイトばかりで、肝心のE. multifolia自体の情報はあまり得られませんでした。ただし、LLIFLE というサイトに多少の情報がありました。少し見ていきましょう。
南アフリカの西ケープ州、Karoo南部のLadimithとPrince Albert、KleinとGroot SwarbergからLaingsburgの範囲に分布します。5つの個体群がありますが、一般にアクセス出来ない場所に生えるため、さらに多くの生息地がある可能性があります。Nama KarooとSucculent Karooに局地的に生え、高い標高を好み、山の斜面、急な崖、岩上でSenecio haworthiiとともに見られます。夏に葉を落とすこともあれば落とさないこともあります。しかし、干魃がおこると葉を落とします。
E. multifoliaはトゲのない多年生の多肉質な低木で、高さ15cm(〜30cm)くらいでクッション状に育ちます。E. eustaceiとよく似ていますが、E. multifoliaの葉はより細く先端が切断されたかのように見えることから区別できます。

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葉の先端はまるでカットされたようです。

次に、南アフリカ国立生物多様性研究所(Southern African National Biodiversity Institute)の「Red List of South African Plants」を見てみましょう。2007年5月30日のJ.H.Vlok & D.Raimondoの生息地の調査によると、5つの亜集団がありますが、生息地は一般にアクセス出来ないため、さらに多くの亜集団が存在する可能性があります。どうやら、LLIFLEの記述の一部はここから来ているようですね。ちなみに、LLIFLEにある生息地の情報もこのサイトから来ているみたいです。
アクセスしやすい地域に生えるものはコレクターによりすでにかなり失われていますが、個体群の大半は容易に行くことが難しい急な崖に生えるため、違法採取によりE. multifoliaが大幅に減少したり絶滅する可能性は低いということです。

さて、続いてキュー王立植物園のデータベースで検索してみると、1941年にEuphorbia multifolia A.C.white, R.A.Dyer & B.sloaneと命名され、異名はないようです。また、「Succ. & Euphorb.: 962(1941)」において初めて記載されたらしいのですが、残念ながら当該論文を見つけることは出来ませんでした。
しかし、データベースが根拠とした資料になにやら見覚えがあります。P.V.Bruynsの2014年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』です。この論文は、南アフリカのユーフォルビアについて、命名者や命名年、タイプ標本についてなど、学名の根拠となる情報が収集されたものです。私もブログで度々利用させて貰っています。
タイプ標本はHerreが1939年の8月にLaingsburgからLadismithに向かう30マイルで採取したようです。Whiteら(1941年)は、同じ産地でSmithとHerreがE. multifoliaを採取し、Smithの標本をタイプ標本に指定しました。しかし、Smithの標本が失われたため、Herreの標本がレクトタイプ(※)に指定されています。

※ ) 命名される時の基準となるホロタイプが指定されていなかったり失われた際に、新たに指定されるタイプ標本。

では、E. multifoliaの分類はどうでしょうか。とりあえず、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のTaxonony browserで検索してみます。
Euphorbia subgen. Athymalus
Euphorbia sect. Anthacanthae
Euphorbia subsect. Florirpinae
Euphorbia ser. Hystrix
要するに、E. multifoliaは、ユーフォルビア属、アティマルス亜属、アンタカンタ節、フロリスピナ亜節、ヒストリクス列に分類されるということです。
ヒストリクス列にはE. bupleurifolia、E. loricata、E. multifolia、E. oxystegiaが含まれます。意外にも鉄甲丸(E. bupleurifolia)に近縁なようですね。


とまあ、とりあえずはこんなものです。大した情報はありませんでしたが、意外にもかなり厳しい環境に生えるようです。情報はないなりに、一応は調べてみるものですね。


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昨日はマダガスカルのユーフォルビアの形態と乾燥条件などの関係についての論文をご紹介しました。Margaret Evanceらの2014年の論文、「Insights on the Evolution of Plants Succulent from Remarkble Radiation in Madagascar (Euphorbia)」です。実はこの論文ではマダガスカルのユーフォルビアの系統関係についても調べられています。興味深い内容ですので、系統関係を見てみましょう。ちなみに、その植物が生える地域の降水量も添えました。育てる際の参考になるかも知れません。

Section Goniostema
Goniostema節は一般に花キリンと呼ばれ、花卉として様々な園芸品種が流通しています。その多くは木質化した枝から葉を出し、トゲがあるものも多く、塊根性のものもあります。論文では5つのクレードに分けており、それはlophogona clade、milii clade、primurifolia clade、boissieri clade、thuarsiana cladeです。

①lophogona clade
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Euphorbia moratii 降水量1320mm

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Euphorbia didiereoides 降水量856mm

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Euphorbia gottlebei 降水量674mm

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Euphorbia rossii 降水量717mm

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Euphorbia pedilanthoides 降水量1540mm

②milii clade
milii cladeは塊根性花キリンを沢山含みます。なお、E. miliiは命名の由来が不明であり、正確にはどの種類を示しているか分かっていませんでした。しかし、2022年の論文によると、葉の先端を切ったような形の花キリンがE. miliiであるとしています。今までE. miliiとされてきた、様々な色の花を咲かせ楕円形の葉を持つ、よく栽培される花キリンはE. splendensとなっています。

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Euphorbia tulearensis 降水量387mm

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Euphorbia cylindrifolia 降水量874mm

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Euphorbia ambovombensis 降水量559mm

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Euphorbia cap-saintemariensis 降水量422mm

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Euphorbia decaryi 降水量730mm
※現在は、E. boiteauiとなっています。


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Euphorbia francoisii 降水量1607mm
※現在は、E. decaryiとなっています。

③primulifolia clade
この論文では、E. primulifoliaは産地によって、かなり遺伝的に異なることが分かりました。Horombe原産のE. primulifoliaはmilii cladeのE. waringiaeに近縁で、Isalo原産のE. primulifoliaもやはりmilii cladeでした。
E. primulifolia var. primulifoliaは降水量1376mm、Horombe原産のE. primulifoliaは降水量847mm、Isalo原産のE. primulifoliaは降水量792mmとかなりの違いがあります。


④boissieri clade
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Euphorbia viguieri 降水量1324mm

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Euphorbia guillauminiana 降水量1565mm

⑤thuarsiana clade
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Euphorbia neohumbdrtii 降水量1434mm

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Euphorbia ankarensis 降水量1486mm
※=E. denisiana var. ankarensis

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Euphorbia pachypodioides 降水量1627mm

Section Denisoforbia
Denisophorbia節は、葉や茎は多肉質ではなく低木状です。E. hedyotoides(降水量708mm)やE. mahabobokensis(降水量757mm)は塊根を持ちます。 
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Euphorbia bongolavensis 降水量1500mm

Section Deuterocalii
Deuterocalii節は緑色のやや多肉質な茎をもつ棒状の植物です。E. alluaudiiやE. cedrorum(降水量396mm)があります。
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Euphorbia alluaudii 降水量780mm

昨日解説したように、やはり塊根性のものはより乾燥地に生える傾向は確かなようです。私もこの論文は非常に勉強になりました。例えば、E. pachypodioidesはあれほど高度に茎が多肉化しており、大量の水分を貯蔵していますから乾燥に強いと考えていました。しかし、E. pachypodioidesはかなり降水量が多い地域に自生していました。確かに、私はユーフォルビアは乾かし気味に育てていますが、E. pachypodioidesは葉を落としがちでしたし、今年は植え替えましたが思った以上に細根で如何にも乾燥に弱そうでした。これからは、水やりを多めに育てたいと思います。逆を言えば、塊根性のものは乾かし気味にする必要があるかも知れません。


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サボテンは砂漠の象徴であり、サボテンが生える荒野は乾燥した死の大地のように表現されたりもします。乾燥地に生えるサボテンはアメリカ大陸原産ですが、アフリカ大陸にはサボテンにそっくりなユーフォルビアが生えています。共通する水分を貯蔵した多肉質な茎と、トゲに覆われた姿は、乾燥地に適応した結果として類似した姿を取りました。これを収斂進化と言います。さて、サボテンやユーフォルビアなどの乾燥地に生える多肉植物は、当選ながら乾燥に強いと考えられますが、それは本当でしょうか? というのも、意外にもそんな基本的な事柄は今までほとんど調べられて来なかったからです。そんな基本的な事柄を調査したMargaret Evanceらの2014年の論文、「Insights on the Evolution of Plants Succulent from Remarkble Radiation in Madagascar (Euphorbia)」を見てみましょう。

多肉植物は乾燥条件により、葉や茎、根などの器官に水分を貯蔵するために肥大化させています。このような乾燥に対する形態と、気候条件の関係を調査しております。調査はマダガスカルで実施し、多肉質なユーフォルビアを対象にしています。扱われるユーフォルビアは、Goniostema節、Denisophorbia節、Deuterocalii節です。この3グループは近縁で、論文ではそれぞれの頭文字を取って「GDD clade」と呼んでいます。それぞれの節について少し解説します。

①Goniostema節は一般に花キリンと呼ばれ、花卉として様々な園芸品種が流通しています。その多くは木質化した枝から葉を出し、トゲがあるものも多く、塊根性のものもあります。

②Denisophorbia節は、葉や茎は多肉質ではなく低木状です。E. hedyotoidesやE. mahabobokensisは塊根を持ちます。 
③Deuterocalii節は緑色のやや多肉質な茎をもつ棒状の植物です。E. alluaudiiやE. cedrorumがあります。


さて、論文では葉が多肉質になるもの、サボテンのように幹が多肉質になるもの、塊茎や塊根を持つものの3つに区分しています。実際のユーフォルビアの自生地の環境を調べたところ、意外なことが分かりました。サボテン状のユーフォルビアより、塊茎・塊根を持つユーフォルビアの方がより乾燥に適応していたのです。もちろんこれは傾向ですから、すべてがそうではないかも知れません。しかし、なぜ塊茎・塊根植物は乾燥に強いのでしょうか? 著者らによると、塊茎・塊根植物は乾季には葉を落として休眠し、塊茎・塊根に貯蔵した水分で耐えることができるからだとしています。なるほど、サボテン状のものも塊茎・塊根のものも水分を大量に貯蔵出来るところは共通しますが、乾季の休眠という点においては塊茎・塊根植物の方が有利ということなのでしょう。サボテン状ユーフォルビアに貯蓄された水分は光合成に必要であるため1日単位の時間のに対する適応であり、塊茎・塊根ユーフォルビアは季節的な時間に対する適応である可能性があるとしています。

さらに言えば、その分布はサボテン状ユーフォルビアは高温と中程度の乾燥、塊茎・塊根状ユーフォルビアは低温と極度の乾燥が特徴としています。自生地の気候について一例を挙げると、サボテン状のE. pachypodioidesは平均気温25.9度、降水量1627mm、E. neohumbertiiは平均気温25.9度、降水量1434mm、E. viguieriは平均気温26.1度、降水量1324mmでした。対する塊茎・塊根状のE. rossiiは平均気温25.2度、717mm、E. cylindrifoliaは平均気温23.6度、降水量874mm、E. cap-saintemariensisは平均気温23.5度、降水量422mmでした。他の形態では、樹木状となるE. bongolavensisは平均気温26.6度、降水量1500mm、E. guillauminianaは平均気温26.5度、降水量1565mmでした。また、多肉質の棒状のE. alluaudiiは平均気温22.5度、降水量780mm、E. cedrorumは平均気温23.9度、降水量396mmでした。やはり、塊根性花キリンは降水量が少ない地域に生え、幹を太らせるタイプのユーフォルビアは相対的に降水量が多い地域に生える傾向が見受けられます。また、樹木状ユーフォルビアは乾燥にあまり強くないであろうことがわかります。さらに、意外にも棒状ユーフォルビアはかなりの乾燥地に生えるようです。ユーフォルビアはあちこちの分類群で多肉質な棒状の形態のものがあらわれ、世界中の乾燥地帯に分布します。このような形態が乾燥に強い理由は良くわかりませんが…

ただし、例外はあり塊根性ではない花キリンであるE. didiereoidesは平均気温21.0度、降水量856mmと乾燥地に生え、塊根性花キリンのE. francoisii(※)は平均気温22.9度、降水量1607mmと割と湿潤な地域に生えます。しかしその場合、それぞれの地域での何かしらの特殊な環境に適応した結果かも知れません。例えば、降水量は多いものの、土壌が礫質で排水性が極めて高い場合を考えた場合、水分の歩留まりが悪いので塊根が必要かも知れません。ですから、確実性を高めるならば、それぞれの植物の生息状況を詳しく調査する必要性があるかも知れません。

(※) E. francoisiiは現在はE. decaryiとなっています。今までE. decaryiと呼ばれていた植物はE. boiteauiとされています。


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ワシントン条約(CITES)とは、絶滅の可能性がある野生動植物の種の国際取引に関する条約です。主に野生動植物の保護を目的としています。多肉植物は様々な要因により絶滅が危惧される種が多く、ワシントン条約で取り引きが制限されているものもあります。今日はワシントン条約に関わるユーフォルビアについて見てみましょう。ちなみに、2018年発行のCITES2018を参考にしています。

ユーフォルビア属の概要
ユーフォルビア属は約2000種からなり、「spurges」の名前で知られています。草本のspurgesは世界中の温帯・熱帯に分布します。多肉植物であるspurgesは主に南アフリカと東アフリカの乾燥地帯、熱帯アジア、南北アメリカ、マダガスカルに自生します。CITESで規制されているspurgesは多肉植物のみです。

特徴
そのほとんどが1年草か多年草の草本ですが、多肉植物や木本も含まれます。すべての種類は切断すると乳液(latex)を出し、摂取すると毒性があり、皮膚には刺激性があります。多肉植物の葉は通常は少ないか落葉性です。しばしばトゲがあり、通常は対になります。花は色のついた苞葉という葉を含んだ花序からなり、派手ではありません。多くの多肉植物になるユーフォルビアはサボテンに似ています。

ユーフォルビアの利用
ユーフォルビアは世界中で利用されています。しかし、毒性があることから、食品や医薬品としての利用は制限される可能性があります。多肉植物となるユーフォルビアは、乾燥地の造園や観葉植物てして取り引きされます。各地の伝統医学である中医学、アーユルヴェーダ、ホメオパシーなどで利用されます。イボに対する薬、あるいは利尿・下剤としてE. antisyphilitica、E. candelabrum、E. lathyris、E. neriifolia、E. resinifera、E. tirucalli、E. trigonaなど、狩猟用としてE. cooperi、E. tirucalli、E. trigona、E. unispina、生きた柵(※1)としてE. tirucalli、E. miliiなどが利用されます。E. antisyphilitica(※2)から採取されるキャンデリラワックスは、ガムベース、インク、染料、接着剤、エマルジョン、ポリッシュ及び医薬品の製造に利用されます。観葉植物としてE. pulcherrima(ポインセチア)は一般的ですが、CITESでは規制されていません。
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Euphorbia resinifera

(※1) おそらくは家畜を囲う柵としての利用。例えば、E. poissoniiはギニア湾沿いで家畜の囲いとして広く利用されます。

(※2) キャンデリラソウ。北米原産で鉛筆状の茎を持ち叢生します。

取り引き
CITESのデータベースによると、ほとんどの取り引きは人工繁殖させた植物であり、E. lacteaとE. miliiはタイ、オランダ、中国から輸出されています。マダガスカルの野生のユーフォルビア属(Euphorbia spp.)とE. primulifoliaは、主にフランス、米国、ドイツに輸出されています。タイと米国は人工繁殖させた附属書Iのユーフォルビアの最大の輸出国であり、最大の輸出品はE. francoisii(※3)です。抽出物などの取り引きはメキシコ原産のE.antisyphiliticaで、過去10年間で3100万kgを超えます。

(※3) 現在はE. francoisiiはE. decaryiです。今までE. decaryiと呼ばれていた植物はE. boiteauiとされています。

多肉植物のコレクターはマダガスカルから多くの矮性種、東アフリカからは新種を含む希少種を求めています。現在、コレクターに人気な種は、E. horwoodii、E. longituberculosa(※4)、E. susannae-marnierae、E. waringiae、E. bupleurifolia、E. bongalavensis(※5)、E. knuthii、E. hydrotoides、E. kondoi、E. mahabobokensis、E. razafindratsirae(※6)が含まれます。

(※4) 正式にはEuphorbia longetuberculosa。誤った学名が流通しています。
DSC_1985
Euphorbia longetuberculosa

(※5) Euphorbia bongolavensisを指していると思われます。
DSC_1833
Euphorbia bongolavensis

(※6) この名前は現在異名とされ、Euphorbia mangokyensisとなっています。
DSC_1763
Euphorbia mangokyensis

附属書 I
附属書 Iがもっとも絶滅の可能性が高く規制が厳しい種です。主にマダガスカル原産の花キリンばかりです。
附属書 Iは絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の10種類です。

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1, E. ambovombensis

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2, E. cap-saintemariensis

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3, E. cylindrifolia
(ssp. tuberiferaを含む)

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4, E. decaryi(※3)
(var. ampanihyensis, var. robinsonii, var. spirostichaを含む)

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5, E. francoisii(※3)

DSC_0102
6, E. moratii
(var. antsingiensis, var. bemarahensis, var. multifloraを含む)

7, E. parvicyathophora

8, E. quartzicola

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9, E. tulearensis

10, E. cremersii
(f. viridifolia, var. rakotozafyiを含む)

以上がCITESのユーフォルビアについてのページです。マダガスカル原産の花キリンばかりです。
しかし、現時点なことを言うと、この10種類がもっとも絶滅の可能性が高いというわけではないかもしれません。何故なら、多肉ユーフォルビアは自生地の調査がなされていないものが多く、情報不足な種も多いこからです。
さらにいえば、花キリンはコレクターに好まれるため多く取り引きされるため、ワシントン条約で規制されます。しかし、多くの多肉ユーフォルビアは原産地の開発などにより数を減らしているため、国際的な取り引きに制限をかけるワシントン条約では、その絶滅を防ぐことは出来ません。例えば、南アフリカ国内で絶滅危惧種に指定されている種などは、ワシントン条約で規制されていませんが非常に希少です。CITESのみが希少性あるいは絶滅危惧種を指し示しているわけではないことは知っておく必要があります。


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本日は「金輪際」なる奇妙な名前もあるEuphorbia gorgonisをご紹介します。いわゆる「タコもの」と呼ばれるユーフォルビアの中では普及種ですが、枝が短くタコものの中でも特に奇妙な姿となります。このようなタコものユーフォルビアは、海外では「Medusoid Euphorbia」と呼ばれます。ただ、日本のサイトではどういうわけか、「Medusoid」を「クラゲ」と訳すパターンが多いことが以前から気になっていました。いや、「Medusoid」はギリシャ神話の「メデューサ」から来てるのでは?という当たり前の感想が浮かびました。どうやら、「Medusoid」には確かに「クラゲ」という意味もあるようですが、ギリシャ神話から派生したもので、クラゲが本来の意味ではないでしょう。どうも、機械翻訳では文脈を無視して「クラゲ」と訳してしまいがちなようです。あるサイトによると、ギリシャ神話を訳したらメデューサがペルセウスにより討ち取られた場面が、ペルセウスがクラゲを討ち取ったと訳されてしまったという面白いエピソードが書いてありました。なんか間抜けですね。当然、「gorgonis」とはギリシャ神話のゴルゴン3姉妹から来ているのでしょう。ちなみに、メデューサはゴルゴン3姉妹の3女をさします。

DSC_1911
Euphorbia gorgonis A.Berger, 1910

さて、ゴルゴニスの学名は1910年に命名されたEuphorbia gorgonis A.Bergerです。異名はないようです。タコものの中でも特徴的ですからね。ちなみに、A.Bergerは、ドイツの植物学者であるAlwin Bergerのことです。BergerはAgaveの分類で著名なようです。
ゴルゴニスは南アフリカの固有種で、東ケープ州のSunday RiverとZwartkops Riverの間の丘に生えます。Uniondale、Port Elizabeth、Albany Div、Grahamstownあたりのようです。
ゴルゴニスは礫だらけの丘陵に、Boophone disticha、Pachypodium succulentum、Gasteria armstrongii、Bergeranthus glenensis、Freesia alba、Crassula tetragona subsp. acutifoliaなどと共に生えるそうです。冬に乾燥する傾向があり、最低気温は平均12℃です。


2012年のP. V. Bruynsの論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』によると、E. gorgonisはE. procumbensの異名扱いされています。しかし、現在はE. gorgonisとE. procumbensとは別種とされています。問題はなぜBruynsが異名と考えたのかです。ただE. gorgonisとE. procumbensが似ているという訳ではなさそうです。Bruynsによると種の基準となるタイプ標本が行方不明で、Carter(※1)はBurtt-Davyの標本をタイプ標本として引用していますが、これは存在しないということです。どうやら、Burtt-Davyの採取した植物を基にBergerがE. gorgonisを記載したとしていますが、1910年のBergerの論文ではE. davyiの基になった植物をBurtt-Davyから入手した経緯しか書かれていないといいます。つまり、E. gorgonisはタイプ標本が存在しないため、正確にはどの植物を指しているのか分からないということです。

(※1) 2002年の図鑑、『Illustrated Handbook of Succulent Plants, Dicotyledons』のSusan Carterの論考。
(※2) Burtt-Davyはイギリスの植物学者である、Joseph Burtt-Davyのこと。

では、E. gorgonisが初めて記載された論文を見てみましょう。まだ、Euphorbia gorgonis n. sp.とあります。「nova species」、つまりは新種という意味です。外見はEuphorbia procumbentisとあります。E. procumbentisとありますが、E. procumbensの誤記でしょう。
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E. gorgonisの特徴の羅列があり、続いて「同じセクションの別の新種はE. davyiで、最近Paxにより記載されました。(※3)」という文の先に、「この種は、1908年の8月から9月に開花しました。これは、Burtt-Davy教授がPretoria周辺から私に送ってくれたおかげです。」とあります。一見して、後半の文はE. davyiについて言っているように見えます。しかし、そもそもE. gorgonisについての解説ですから、E. davyiについては前半の一文だけで、後半はE. gorgonisについて語っているような気もします。BruynsはE. davyiについての記述と捉え、CarterはE. gorgonisについての記述と捉えました。解釈が難しいところです。

(※3) Euphorbia davyiの命名者はFerdinand Albin Paxではなく、Nicholas Edward Brownが1915年に命名しています。しかし、E. davyi N.E.Br.はこの論文の出版後に命名されています。つまり、Paxの命名したE. davyiとは別種かもしれません。

という訳で、E. gorgonisについて少し調べてみました。とはいえ、Bruynsの指摘については判断に迷うところです。ここいらの詳しい事情が分かる良い論文でもあればいいのですが、中々難しいかもしれません。もう少し探ってみます。何か新しい情報が見つかりましたら、また記事にしたいと思います。


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今年の3月にEuphorbia heterodoxaなるユーフォルビアを入手しました。棒状の奇妙な多肉植物です。しかし、調べて見ると特徴が今一つ符合しません。さらに言うならば、このような棒状のユーフォルビアは1つの種類を調べても、ネット上の画像では明らかに複数種と思われるものが出て来てしまいます。これは一体どういうことなのでしょうか?
DSC_2310

DSC_2311 
ご覧の通りあまり特徴がありません。いや、棒状で特徴的ではないかと思われるかもしれませんが、そう上手くはいかないのです。実はユーフォルビアはこのような棒状の形態のものが沢山あり、アフリカ大陸、マダガスカル、カナリア諸島、オーストラリア、南アメリカなど、それぞれの地域で異なる種類の棒状ユーフォルビアが自生しているのです。
その中でも有名なのはTirucalli節のEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)やDeuterocalli節のEuphorbia alluaudiiなどでしょう。しかし、それらはツルッとした見た目で、このような縦に筋が入るものはそれほど多くはありません。見た瞬間に南アメリカ原産、つまりはユーフォルビア亜属New World Cladeだと思いました。さらに、ただ棒状なだけではなく、縦に筋状の角(rib)があることが特徴的です。とりあえずは、Euphorbia heterodoxaを調べてみましょう。

E. heterodoxaはユーフォルビア亜属New World CladeのStaciydium節です。E. comosaなど基本的に草本で、E. heterodoxaだけは多肉質になります。しかし、E. heterodoxaには特徴的なribがありません。これは明らかに別種です。よく調べると、ある国内の販売サイトでは、ribある棒状ユーフォルビアにE. heterodoxaの名前を付けて販売しているようです。どこかで混同があったのかもしれません。

外見的にはEuphorbia phosphorea(夜光キリン)によく似ています。しかし、E. phosphoreaの仲間は皆よく似ています。E. phosphoreaはユーフォルビア亜属New World CladeのBrasilienses節に分類されます。しかし、Brasilienses節は皆ribがある棒状の多肉植物で、ネットの画像からは違いがいまいち分かりません。また、数種類が混同されているようで、まったく信頼がおけません。
困った時の論文頼みということで、論文を漁ってみたところ、Brasiliense節の新種と、既存種を説明した論文を見つけました。2018年の『A new species molecular phylogeny of Brazilian succulent Euphorbia sect. Brasilienses』です。
論文には分かりやすく、茎を切断した断面と花の写真がありました。見分けるポイントのようです。とりあえず、ribの数が少ないE. sipolisii、E. tetrangularisは異なります。残るはE. phosphoreaとE. attastoma、E. holochlorinaです。せっかくですから、Brasiliense節5種類の見分け方を記します。
① ribは4つ
    1 ) Cynthiumと腺(glands)は赤色で付属物がある。
          →Euphorbia sipolisii
    2 ) Cynthiumと腺は緑色で直立した付属物がある。
          →Euphorbia tetrangularis
②ribは6~8つ
    1 ) 明るい緑色の枝。1~2つのcyathiaがある。
          壺型の総苞。
          →Euphorbia holochlorina
    2 ) 緑色または黄色がかった枝。
          2つ以上のcyathia。釣り鐘型の総苞。
        Ⅰ, ribは6~8。通常5つ以上のcyathia。
          →Euphorbia phosphorea
        Ⅱ, ribは6つ。通常は2~4のcyathia。
          →Euphorbia attastoma
とまあ、こんな感じにまとめられていましたが、少し分かりにくいですね。ちなみに、私の入手したユーフォルビアのribは8つですから、Brasilienses節ではE. phosphoreaが該当します。cyathiaは1つの節に10個はついています。ただし、枝の色は深い緑色で少しイメージが異なります。しかし、日照により変わりそうですから、あまり当てに出来る指標ではないようにも思えます。

続けてRichard Riinaらの2015年の論文、『Euphorbia from Brazil: the succulent section Brasilienses』を見てみましょう。まだ、2015年にはE. tetrangularisは発見される前ですから記述はありませんが、他の4種類については詳しい説明があります。
・E. attastoma
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから節が生じ、同じ節に到達する。
    古い枝は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色/緑色。
・E. holochlorina
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから生じ、同じ節に到達。
    木化しない。
    総苞茎は壺型。
    子房はほぼ緑色。
・E. phosphorea
    ribは8~9面で表面は少し凹む。
    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    主幹は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色、赤色/黄色か赤色/緑色。
・E. sipolisii
    ribは4面で表面は凹まない。

    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    木化しない。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色。
おやおや、先の論文と異なりE. phosphoreaのribは8~9となっています。しかし、その場合でも一番近いのはE. phosphoreaですね。ribと節の関係の説明が分かりにくいので、実際の写真で見てみます。
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下の矢印の節から3本のribが上に伸びていますが、そのうち1本が上の矢印の節に合流しています。

実はEuphorbia weberbaueriもよく似ています。
E. weberbaueriはユーフォルビア亜属New World CladeのEuphorbiastrum節ですが、基本的には木本が多いようです。ribがあり棒状のものは、E. pteroneuraとE. weberbaueriがありますが、E. pteroneuraは短い枝が連なり特徴が異なります。
しかし、E. weberbaueriについてはあまり情報がありません。仕方がないので、E. weberbaueriが新種として記載された1931年の『Repertorium specierum novarum regni vegetabilis』を見てみましょう。
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内容は前半がラテン語、後半はドイツ語ですからよく分かりません。古い雑誌ですから文字のかすれや黄ばみ、汚損が激しくPDFをWordに上手く変換出来ず、コピペも文字化けしてしまい機械翻訳が出来ませんでした。ただ、最後に類似種の判別の仕方が記載されていました。それによると、E. weberbaueriとE. phosphoreaは似ているが、E. phosphoreaには腺に2つの角のある付属肢がある、とあります。これが何を指しているのかよく分かりませんが、キュー王立植物園のデータベースにあるE. phosphoreaの写真には、確かに節には突起物があります。花茎の跡でしょうか? やはりよく分かりません。
しかし、私が入手したユーフォルビアの枝の深い緑色はE. weberbaueriに似ていますが、E. phosphoreaほど細かい特徴が分かりません。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)に示されたペルーで撮影された写真を見ると、「
3つのribのうち2つが、次の節に到達する。3番目のribが異なる節に集まる。」というEuphorbia phosphoreaと同じ特徴があるようです。E. phosphoreaはブラジル原産ですから、ペルーで撮影されたからにはE. weberbaueriである確実性の高い情報です。おそらく間違いないでしょう。

ということで、調べきれませんでした。それでも、一応はE. phosphoreaとE. weberbaueriのどちらかだろうとあたりはつけました。しかし、花が咲けば見分けられるかもしれません。E. phosphoreaは赤色と緑色、あるいは赤色と黄色といった2色だったりしますが、赤色単色のものもあります。対してE.weberbaueriは赤褐色です。花の形は異なるでしょうから、咲けば分かるでしょう。しかし、今年中の開花は難しそうですから、はっきりするのはしばらく先になりそうです。
しかし、棒状ユーフォルビアは調べて出てくる画像は様々でかなり混乱しているようです。一度、その他の棒状ユーフォルビアについても調べてみたいと思っています。



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Euphorbia flanaganiiは南アフリカ原産の多肉質なユーフォルビアです。日本では「孔雀丸」の名前があります。一般にタコもの、海外ではMedusoid Euphorbiasと呼ばれるタイプのユーフォルビアで、主頭から一過性の枝を放射状に出します。E. flanaganiiはタコものでは小型で、丈夫で育てやすい入門種となっています。タコものは基本的に普及しておらず、ある程度コンスタントに流通しているのはE. flanaganiiとE. gorgonisくらいですが、E. gorgonisはそれなりに高価なので、安価なE. flanaganiiは初めてのタコものユーフォルビアとしてはうってつけです。そんなE. flanaganiiの情報を少し調べて見ました。

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通常はこのように枝が細長く伸びます。

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一枚目と同じ株ですが、良く日に当てて締めて育てると、このように太く短い枝が出ます。

さて、まずは学名から見ていきましょう。学名は1915年の命名で、Euphorbia flanaganii N.E.Br.です。異名として、1915年に命名されたEuphorbia discreta N.E.Br.、Euphorbia passa N.E.Br.があります。この2つの異名はすべてN.E.Brownにより記載されましたが、どうやらE. flanaganiiと同じ論文で公表されています。BrownはE. flanaganiiを3種類に分けて、それぞれを別種と考えたようです。しかし、3つの名前の中で、E. flanaganiiが正統な学名とされたのは何故なのでしょうか?
国際命名規約によると、学名は早く命名された名前を優先する「先取権の原理」により正統性が決定されます。しかし、E. flanaganiiのように同時に記載された場合、その論文を引用して記述された最初の名前を正統とする「第一校訂者の原理」により決定された可能性があります。残念ながら、調べた限りではその校訂者は分かりませんでした。あるいは、単に学術的な混乱が起きかねないので、論文などで最も良く使われている学名を正統とする、というパターンもあるにはあります。


ここで、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』を見てみましょう。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. flanaganiiについてはどう書かれているでしょうか?
E. flanaganii N.E.Br., Flora capensis 5(2): 314(1915).
Type: South Africa, Cape, grassy slopes near Kei Mouth, 100' , June 1893, Flanagan…(以下略)
一行目は、E. flanaganiiは「Flora capensis」という雑誌の1915年の5号の2の314ページで、N.E.Br.により初めて記載されたことが書かれています。N.E.Br.はイギリスの植物学者であるNicholas Edward Brownのことで、特にMesembryanthemumをはじめとした南アフリカの多肉植物の研究で有名です。
以降はタイプ標本の話で詳細は割愛しましたが、「南アフリカケープのKei Mouthの近く草地の斜面100フィート」で、「1893年の6月にFlanaganが」採取したとあります。Flanaganは南アフリカの植物収集家のHenry George Flanagan(1861-1919)のことでしょうか? すると、種小名の"flanaganii"とは、Brownが標本を記載の22年前に採取したFlanaganに対して献名したということなのでしょう。

ここで、BruynsはE. flanaganiiとその類似種についてまとめています。それによると、1915年のBrownは、E. discreta、E. ernestii、E. flanaganii、E. flanksiae、E. gatbergensis、E. passa、E. woodiiを別種として認識しました。1941年のWhiteらは、E. discreta、E. passaをE. woodiiの異名としました。Brownはこれらの植物がサイズや枝の数が大きく変動することを観察しました。それにも関わらず、BrownはE. flanaganiiはE. woodiiより「はるかに短い枝」という特徴により区別しました。Whiteらは個体ごとの大きさの変動があることから、それは意味をなさないと考えました。E. woodiiは子房に長い毛がありますが、E. flanaganiiには毛がないか短いので分けられるという考え方もあります。しかし、Bruynsは毛のある個体とない個体がいるだけなので、区別する方法としては不適切であるとしています。そのため、BruynsはこれらのタコものユーフォルビアをすべてE. flanaganiiと同一種と判断しました。
しかし、以上の論考は現在認められておらず、Whiteらの主張通りE. passaとE. discreta以外はE. flanaganiiの異名となり、それ以外は独立種とされています。このBruynsの論文は便利なためかよく引用されていますが、基本的に類似した種を1つにまとめる傾向があるため、異名に関しては注意して読む必要があります。

次に「LLIFLE」というサイトの情報を見てみます。それによると、原産地は南アフリカの東ケープ州、旧・Transkeiとの境界、あるいはEast London、Komgha districts、Kei Mouth、Mazeppa Bayなどの砂地の草原に局在します。Jellyfish Head Euphorbia、Medusa's Head、Medusahoved、Green Crown、Medusa Headなどと呼ばれます。


最後に1976年の「Kakteen und andere Sukkuleten」から、David V. BrewertonによるE. flanaganiiの解説を見てみましょう。
Euphorbia flanaganiiは南アフリカに由来します。ヤコブセン博士はグループ13、PseudomedusaeのE. gorgonis、E. pugniformis、E. woodiiの仲間としました。
円錐円筒形の主幹は高さ約5cmで、イボ状で多数の枝が伸び長さ10cm、太さ6~8mm になります。
E. flanaganiiの世話はそれほど難しくありません。通常の温室で十分です。生長期は年の初めに始まります。豊富な散水を許容し、よく生長します。冬は約10℃に保ちます。しかし、あまり長い間完全に乾燥させてはなりません。枝が縮小してしまいます。もし、完全に乾燥させたなら、2~3℃あるいはそれ以下まで耐えられますが、枝は死にます。枯れ枝は鋭いナイフで取り除くことが出来ますが、保護手袋やゴーグル、作業後の手洗いをおすすめします。
自然の植物の説明やイラストはありません。光が弱く細長く育ち勝ちですが、出来るだけ日当たりのよい場所に置くべきです。また、E. flanaganiiはEuphorbia cap-medusaeと誤ってラベルされてものが頻繁に販売されています。E. flanaganiiは真夏の遮光と、冬の暖かさを必要としています。


とまあ、こんなところです。いかがでしょうか? 日本のブログでは海外の有名なサイトの翻訳をそのまま張ったものが散見されますが、今回はちょっとマニアックな情報を集めてみました。E. flanaganiiという普及種でも調べるとなかなか面白いものです。
また、E. passaとE. discretaをE. flanaganiiの異名としたWhiteらの論文が、1915年に同時に命名された3種類の中でE. flanaganiiを正統な学名とした根拠かなあとも思いましたが、確かめる術がありませんでした。それには、E. flanaganiiの名前が出てくる論文を1915年以降すべて調べなければなりませんから、素人の私には土台からして無理な話でしたね。


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今年の3月にザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションで開催された多肉植物BIG即売会に行って参りました。家からは遠いのですが、たった1回の乗り換えで行けて、横浜市営地下鉄ブルーラインの新羽駅から降りて直ぐにありますから大変楽チンです。今年の即売会は例年より規模を拡大しており、あちこちから仕入れたようで、数だけではなく割と珍しいラインナップでした。
そこで入手したのがEuphorbia bubalina、いわゆる「昭和キリン」と呼ばれるユーフォルビアです。決してレアな種類ではありませんが、やや面白味の欠ける見た目のせいか、基本的に園芸店には並びません。

DSC_0103
Euphorbia bubalina

さて、何か情報はないかと調べてみましたが、役に立ちそうなものはほとんどありませんでしたね。販売サイトはまあまああるのですが、一番知りたい原産地の情報などは残念ながら見つけられませんでした。アフリカの多肉植物となるユーフォルビアに関しては、何故か論文も非常に少ないので、こういう時困ってしまいます。

とりあえず、学名について見てみましょう。学名は1860年に命名されたEuphorbia bubalina Boiss.です。異名として、1898年に命名されたEuphorbia laxiflora Kuntze、1915年に命名されたEuphorbia tugelensis N.E.Br.があります。
E. bubalinaの命名者のPierre Edmond Boisserは、スイスの植物学者で探検家でした。19世紀最大のコレクターの一人で、ヨーロッパ、北アフリカ、中東を旅して、膨大な分類学的な成果をあげました。Boisserは著名な植物学者であるde Candolleに師事していたということです。
そのBoisserが1860年の出版した『Centuria Euphorbium』を入手したので見てみました。なんと、ラテン語で植物の特徴を羅列しただけの昔ながらの記載方法でした。一応、翻訳をかけてみましたが、「直立、細長い、多肉質、円筒形…」というような形式で淡々と書かれているだけで正直よく分かりませんでした。"bubalina"という種小名の由来を知りたかったのですが、特に記載はありませんでした。残念。
ちなみに、Boisserの1860年の論文以外にも、E. bubalinaの根拠となる論文があります。それは、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』です。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. bubalinaについてはどう書かれているでしょうか?

Centuria Euphorbium: 26(1860).
Type: South Africa, Cape, among thorn-bushes near Buffelsriver, Drege 4615 (P, holo.). [Boisser(1860) cited a specimen in 'h. Bunge', so this sheet is taken as the holotype.]

一行目はBoisserが初めて記載した論文の名前と、ページと記載年ですね。二行目からは種を記載する基準となる標本(ホロタイプ)の情報です。採取地点が「Buffelsriver」なんて書いてありますね。要するに「バッファロー川」という意味でしょう。すると、「bubalina」とはバッファローを表すラテン語の「bubal」から来ているのではないでしょうか?

ちなみに、E. bubalinaは、この論文では「Euphorbia subg. Rhizanthium」とされています。要するに「Rhizanthium亜属」ですが、論文によっては「Athymalus亜属」だったりします。さて、このRhizanthium亜属(Athymalus亜属)には様々なユーフォルビアを含みます。少し詳しく見てみましょう。

2013年に発表された『
A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文では、Athymalus亜属の遺伝子を解析しています。その論文では、E. bubalinaはAnthacantha節(Section Anthacanthae)のFlorispina亜節(Subsection Florispinae)に分類されます。Florispina亜節には、E. obesa、E. polygona(E. horridaを含む)、E. pulvinata(笹蟹丸)、E. susannae(瑠璃晃)、E. stellispina(群星冠)、E. ferox(勇猛閣)、E. heptagona(=E. enopla, 紅彩閣)、E. bupleurifolia(鉄甲丸)などの有名種を含みます。E. bubalina自体はE. clava(式部)に近縁なようです。また、Anthacantha節には他にもMedusea亜節(Subsection Medusea)があり、名前の通りタコものユーフォルビアが含まれます。

そう言えば、キュー王立植物園のデータベースには、「Native to: Cape Provine, KwaZulu-Natal, New Zealand North」なんて書いてありました。前の2つは南アフリカの州ですが、何故かニュージーランドとあります。いや、さすがにニュージーランドは自生地ではなくて移入種ですよね。E. bubalinaを含むFlorispina亜節はどれも南アフリカ原産ですから、さすがに誤記だと思います。


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近年、花キリン類の分類が見直されつつあります。というのも、花キリン類は外見上の判別が難しく、非常に混乱したグループとされているからです。恐らく、これから花キリン類は大胆に整理されていくことになるのでしょう。さて、本日はそんな花キリンからEuphorbia cap-saintemariensisをご紹介します。
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Euphorbia cap-saintemariensis

まずは学名の話から始めましょう。初めて命名されたのは1970年のEuphorbia cap-saintemariensis Rauhでした。しかし、1984年にEuphorbia decaryi var. cap-saintemariensis (Rauh) Cremersとする意見もありました。しかし、E. cap-saintemariensisをE. decaryiの変種とすることは、Rauh & Buchlohにより批判され、一般にも認められませんでした。しかし、様々なサイトでは今でもE. decaryi var. cap-saintemariensisと呼ばれることもあるとされ勝ちですが、真相はただそう言う意見もあったというだけです。
しかし、ここで1つ解説が必要でしょう。E. decaryiの名前はどうやら混乱があったようで、現在E. decaryiと呼ばれる植物はE. boiteauiを指し、本来のE. decaryiとは現在E. francoisiiと呼ばれている植物のことなんだそうです。つまり、E. decaryi var. cap-saintemariensisという名前は、現在のE. francoisiiに対してではなく、本来のE. boiteauiに相当する植物に対する変種とされたということになります。
このように、E. decaryi、E. boiteaui、E. francoisiiを整理したのは、2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonでした。しかし、CastillonらはE. decaryi var. cap-saintemariensisをE. boiteauiと関連付けることはせず、E. cap-saintemariensisとして独立する考え方を支持しました。2021年にはE. decaryiの近縁種を整理した
Haevermans & Hetterscheidも、E. cap-saintemariensisを独立種とする考え方を支持しています。
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Euphorbia boiteaui

2013年に発表されたBrian L.Dorseyらのユーフォルビアの遺伝子を解析した論文では、E. cap-saintemariensisはE. rossii、E. tulearensis、E. beharensisと同じグループとされています。また、E. ambovombensis、E. decaryi(=E. boiteaui)、E. cylindrifolia、E. francoisii(=E. decaryi)は同じグループで、E. cap-saintemariensisのグループとは姉妹群です。ということで、どうやらE. cap-saintemariensisは言うほどE. boiteauiに近縁ではないようです。
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Euphorbia tulearensis

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Euphorbia rossii

次に原産地の情報ですが、花キリンですから当時ながらマダガスカル原産です。E. cap-saintemariensisはマダガスカル島の最南端の岬にあるCap Sainte-Marie保護区に特有ですが、種小名が地名に由来することが分かります。生息地域は約0.9km2と非常に狭く、絶滅の危機に瀕しています。生息地は平らな石灰岩の台地で、風が吹きすさぶ嵐の多い地域です。E. cap-saintemariensisは完全な直射日光か、他の植物にまだらに覆われた半日陰で育ちます。Alluaudia comosa、Alluaudiopsis fiherensis、Aloe millotii、Crassula humbertiなどと共に育ちます。生息環境を見ると、Euphorbia decaryiより日照を好むことが分かります。
育て方を調べていたところ、面白いことが書かれていました。植え替え後もE. cap-saintemariensisが休眠状態だった場合、植え替えのダメージが回復する2週間程度経った後、40~50℃のお湯を与えると通常2~7日で休眠から覚めると言います。ショック療法みたいなものかもしれませんが、結構乱暴な方法ですね。

さて、種小名は「cap-saintemariensis」な訳ですが、「capsaintemariensis」とハイフンを入れない表記もよく見られます。正式にはハイフンを入れるようです。名前の由来である「Cap Saint Marie」は、「Cap Saint-Marie」とも表記されることもあります。学名とは逆のような気がしますが、この場合は「Cap」+「Saint-Marie」を表しています。 ですから学名では「cap」+「saintmarie」となっているのでしょう。まあ、意味的には「聖Marieの岬」ですから、分けるなら「聖Marie」と「岬」ですよね。ずいぶんとつまらないことを言ったかもしれません。


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Euphorbia resiniferaはモロッコ原産のサボテンに似た多肉質のユーフォルビアです。日本では「白角キリン」の名前があります。アフリカのユーフォルビアの中では、それほど特徴的ではないためか人気があるとは言い難く、あまり見かけない多肉植物ではあります。しかし、多肉質なユーフォルビアの多くは南アフリカを中心に、アフリカ東岸を北上してソマリアやエチオピアの高地、紅海の向こう岸のアラビア半島、さらにはマダガスカル島に分布するものが大半です。その点で言えば、北アフリカのモロッコに分布する多肉質のユーフォルビアは珍しくはあります。同じモロッコ原産の「大正キリン」が何故か普及種となっていますが、そちらの方が不思議な感じがします。大正キリンもそれほどインパクトのある見た目とは言えませんからね。さて、実は個人的にE. resiniferaについては興味があったので、2月に池袋の鶴仙園に行った際、たまたま見かけたのですが、迷わず購入しました。

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白角キリン Euphorbia resinifera

さて、E. resiniferaですが、調べてみると思わぬ記述に遭遇しました。なんでも、「紀元前25世紀頃に東方の王により発見された、おそらくは最初にユーフォルビアと名付けられた植物である可能性がある」というのです。「東方の王」が誰を指すのかは分かりませんが、気になる記述です。
もう少し調べて見ると、最も古い薬用植物の書物の中に、「Euphorbium」と呼ばれるラテックスを含む抽出物についての記述がありました。また、Numidiaの王であるJuba2世の侍医であったEuphorbusへの言及により大プリニウスにより注目されたとあります。つまりは、Euphorbusという医者がE. resiniferaの乳液を薬として使用していて、それが後にEuphorbiumと呼ばれていたということですかね? Euphorbiaという属名自体がここら辺から来たのでしょう。
Numidiaは北アフリカの地中海沿岸部に存在した王国です。現在のモロッコは、かつてのNumidiaのちょうど隣にありますから、E. resiniferaがNumidiaで知られていたことは不思議ではありません。


さて、私が気になっていたのは、アフリカのユーフォルビアの遺伝子解析の結果です。2013年に発表された論文によると、E. resiniferaはE. venefica(E. venenificaは異名)の仲間であるというのです。E. veneficaの仲間として、E. sapinii、E. sudanica、E. unispinaがあげられていますが、この仲間は木質化する幹の先端から葉を出すタイプです。論文では調べられていませんが、E. poissoniiもこの仲間でしょう。さて、何が不思議かと言うと、1つはあまりに形状が異なることです。E. resiniferaはあまり背が高くならず、地際で分岐してクッション状に育ちます。多肉質でサボテンのようなE. resiniferaとE. veneficaの仲間はあまりに異なります。とりあえず、論文の遺伝子解析の結果を見てみましょう。

             ┏━━E. sudanica
         ┏┫ (モーリタニア~東アフリカ)
         ┃┗━━E. venefica
     ┏┫            (東アフリカ)
     ┃┗━━━E. unispina
 ┏┫   (ギニア湾~チャド、スーダン)
 ┃┗━━━━E. sapinii
 ┫                   (アフリカ中央部)
 ┗━━━━━E. resinifera     
                         (モロッコ)


どうやら、E. resiniferaはE. veneficaの仲間の根元にある植物のようです。E. resiniferaに一番近縁なのはE. sapiniiです。もちろん、これはE. resiniferaからE. sapiniiが進化したという訳ではなく、E. resiniferaとE. sapiniiの共通祖先からそれぞれが進化したという意味です。しかも、共通祖先から分かれた時からE. resiniferaが存在したとは限らず、そこから再び分岐した結果の1つがE. resiniferaであるかもしれないのです。
何故かと言うと、絶滅した植物がかつては存在したかもしれないからです。化石では基本的に遺伝子は調べられませんし、そもそも化石になる植物はほんの一握りであり、そのほとんどは朽ちてしまい化石にはなりません。よく、進化論への反論として、進化の空白を指摘する「ミッシング・リンク」という考え方がありますが、これは生き物が死んだら必ず化石になるという素朴な勘違いがあるように思えます。例えば、庭の植木が秋に紅葉し、やがて葉が落ちたとしましょう。その落ち葉は、やがて腐って腐葉土になり土に還ります。では、庭の落ち葉が腐らずに化石になる可能性はどれくらいあるでしょうか? 考えてみたら、直ぐに庭の落ち葉が化石になる可能性はまったくないことに気が付きます。実は化石になるには、腐る前に無酸素状態に置かれるなど、かなり特殊な条件が必要です。植物の化石はある種の奇跡的な偶然の産物なのです。
という訳で、かつて存在したかもしれない祖先はまったく分かりません。どうしたら、近縁であるはずのE. resiniferaとE. sapiniiの間に、このような形状の違いが生まれるのでしょうか? 大変不思議です。かつて存在した、E. resiniferaとE. sapinpiiの共通祖先から分岐したE. sapinpiiの祖先は、E. resiniferaとE. sapiniiの中間的な形状だったのでしょうか? 無論、共通祖先がどのような形状であったかすら分からないのですが…

DSC_1909
Euphorbia sapinii

次に分布にはそれなりの謎があります。E. resiniferaはモロッコ原産ですが、近縁なはずのE. sapiniiはカメルーン中央アフリカ、チャド、ガボン、ザイール原産であり、あまりに地理的に距離がありすぎます。かつては分布が異なりお互いに隣接していたとか、中間を埋める絶滅種がいた可能性もあります。さらに言えば、かつては共通祖先が広く分布しており、西部はE. resiniferaとなり東部ではE. sapiniiとなったというシナリオも考えられます。
しかし、不思議なのはE. sapiniiの分布するモロッコの隣国である、モーリタニアまで分布するE. sudanicaとは遺伝的に一番距離があるということです。とは言え、E. sudanicaは東アフリカまで分布が非常に広いので、現在の分布は単純に分布域が拡大しただけかもしれません。

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Euphorbia poissonii
 
最後に学名について見てみましょう。学術的に認められた学名は、1863年に命名されたEuphorbia resinifera O.C.Berg & C.F.Schmidtです。1882年にはTithymalus resinifera (O.C.Berg) H.Karst.とする意見もありましたが、認められていません。また、1942年には、Euphorbia resinifera var. typica CroizatEuphorbia resinifera var. chlorosoma Croizatという2つの変種が提唱されましたが、やはり現在は認められていない学名です。

まあ、以上のように長々と語ってきた訳ですが、実はこの仲間の遺伝子解析にはやや問題があります。論文はE. veneficaの仲間だけを調べたのではなく、様々なユーフォルビアを解析した中の1つに過ぎません。全体の関係を見る事が目的ですから、細かい部分の精度が低い様子がうかがえます。E. veneficaの仲間だけで新たに解析して欲しいところです。なんだかんだで、だいぶ妄想を語ってしまった訳で、何かしらの確証が欲しいですね。


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花キリンとはユーフォルビアに属するマダガスカル原産の低木です。赤や白、ピンクなどのユーフォルビアにしては目立つ花(実際には花弁ではなくて苞)を持つEuphorbia milii系(※1)は、園芸店で様々な品種が販売されています。 しかし、花キリンにはE. milii系だけではなく、様々なタイプがあります。その中には小型で、多肉質の時に縮れた葉を持つ塊根性のものもあります。その代表的な種類は、Euphorbia decaryiやEuphorbia francoisiiでしょう。しかし、E. decaryiやE. francoisiiという名前は間違っているのだというJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文が出ています。しかし、J.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文はフランス語で書かれており、残念ながらフランス語が分からない私には読むことが出来ませんでした。一応、機械翻訳をかけてはみたのですが、学名や専門用語が多いせいかは分かりませんが実に酷いもので、何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。一文一文を丁寧に単語から翻訳していけば、おそらくは理解出来るのでしょうけど、あまりに面倒臭いので見て見ぬふりをして放置していました。

(※1) 2021年に定義が曖昧だったE. miliiは再定義され、流通している良く目にする花キリンはEuphorbia splendensとされています。本来のE. miliiは先端をカットしたような葉を持つものに限定されるとのことです。まだ論文の要約しか読んでいませんから、そのうち詳細をご紹介出来ればと考えております。

さて、本日ご紹介するのは、2021年のTiomas Haevermans & Wilbert Hetterscheidの論文、『Taxonomy decisions and novelties in the informal Euphorbia decaryi group from Madagascar』です。なんと、J.-P.Castillon & J.-B. Castillonの論文の内容を踏まえて、Euphorbia decaryiと関連のある仲間をE. decaryiグループとして、新たに再構成しています。私が読むことが出来なかった論文の内容も英語で解説されており、非常に助かりました。

①E. decaryiとE. francoisii
まず、2016年にJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonにより、いくつかの名前が混乱したユーフォルビアについて、標本などの資料から正しい学名を明らかにしました。一般的にEuphorbia francoisiiと呼ばれている花キリンは実はEuphorbia decaryiのことで、今までEuphorbia decaryiと呼ばれていた花キリンはEuphorbia boiteauiだというのです。
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一般的にE. francoisiiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. decaryiでした。つまり、E. francoisiiという学名は異名となります。(※2)

(※2)とはいえ、市販されるE. francoisiiは複雑に交配されており、様々な種類が混じっている可能性があります。

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一般的にE. decaryiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. boiteauiとのことです。

②E. decaryiの変種についての概要
次にE. decaryiには3つの変種がありましたが、2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、2つの変種をE. boiteauiの変種としました。つまり、E. decaryi var. spirosticha →E. boiteaui var. spirosticha、E. decaryi var. ampanihyensis →E. boiteaui var. ampanihyensisという変更です。しかし、3つ目の変種であるE. decaryi var. robinsoniiは、これが「真の」E. decaryi(本来のE. decaryi)であるのか、E. suzanneae-marnieraeのことを示しているのか曖昧なため、学名は現状維持で変更されませんでした。著者らはJ.-P.Castillon &  J.-B.Castillonの意見に基本的には同意しますが、異なる意見も持っています。著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisはE. boiteaui var. spirostichaと同種であり、独立種であるEuphorbia spirostichaであるとしています。
また、旧・E. francoisii系(本物のE. decaryi)の変種であるE. francoisii var. crassicaulisをJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは本来のE. decaryiの変種としてE. decaryi var. crassicaulisとしました。しかし、著者らは独立種であるEuphorbia crassicaulisとしています。

③E. cap-saintemariensisは独立
さて、1984年にCremersはE. decaryiグループについて記載しました。それが、E. decaryi var. ampanihyensis、E. decaryi var. robinsonii、E. decaryi var. cap-saintemariensisです。しかし、var. cap-saintemariensisをE. decaryiの変種とすることはRauh & Buchlohにより批判され認められた学名ではありません。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var.cap-saintemariensisをE. boiteauiとせずに、独立種たる特徴があるとして1970年に命名された最初の名前であるE. cap-saintemariensisを受け入れました。

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Euphorbia cap-saintemariensis

④var. spirostichaとvar. ampanihyensis
E. decaryi var. ampanihyensisはE. boiteaui var. ampanihyensisとされましたが、Cremersの言うところのvar. ampanihyensisの茎や葉が小さいなどの特徴はE. boiteauiと一致しません。Cremersにより強調されたvar. ampanihyensisは、葉と杯状花序苞(※3)の至るところに「腺」が存在するということです。この「腺」は、実際には腺機能はない肥大した円錐形の乳頭様の細胞です(※4)。確かに、その「腺」はE. decaryi var. ampanihyensisのパリにあるホロタイプ(模式標本)と、Boisser自身が作製したカラースライドで見ることが出来ます。
E. decaryiグループのいくつかでは、葉や茎、杯状花序苞の表面に「乳頭細胞」が見られます。「乳頭細胞」が多いE. tulearensisや、数が少なくしばしばより小さく面積が狭いE. boiteauiやE. suzannae-marnieraeがあります。これらの観察から、著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisの匍匐根系(※5)、「乳頭細胞」の形態と分布、茎、斑点、葉、杯状花序苞のサイズと形態は、E. spirostichaとの密接な関係を示しているように見えます。E. spirostichaの現生植物の特徴はE. decaryi var. ampanihyensisと一致しますが、一見すると茎の形に違いがあるようです。E. spirostichaの茎は大抵は丸みがあり、葉の落ちた跡は螺旋状に並び、古い茎には跡が残らず滑らかです(※6)。しかし、1984年のCremersの記述ではE. decaryi var. ampanihyensisの茎は角張っているが、跡は残らないとしています。とはいえ、実際の生きた標本は角ばり、また様々な段階の茎があり、強い螺旋状から弱い螺旋状、あるいは直線的なものもあります。このように、E. spirostichaは言われているよりも多様であることが分かります。結論として、1984年のCremersの示すE. decaryi var. ampanihyensisは、1986年のRauh & Buchlohの示すE. decaryi var. spirostichaは同じであるということが示唆されます。また、本来ならば先に命名された名前が優先されますが、var. ampanihyensis(1984年)よりもvar. spirosticha(1986年)の方が広く知られているため、著者らは敢えてvar. spirostichaを優先し、E. spirostichaと命名しました。

(※3)ユーフォルビアの花には花弁がなく、一見して花弁に見えるのは苞。Cyathophyll.
(※4)「腺」とは一般的に液体を分泌する構造を示します。
(※5)stoloniferous roots system. 
下の写真は鉢から抜いたE. boiteauiですが、太く白いものは根ではなく地下茎です。

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(※6)E. boiteauiは角張った茎を持ち、葉の落ちた跡は直線的で、古い茎には跡が残ります。下の写真のE. boiteauiは、分岐の根元まで突起や葉の落ちた跡が残っています。
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⑤var. robinsoniiとは?
1984年にCremersはE. decaryi var. robinsoniiを報告しました。2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var. robinsoniiに関してはE. boiteauiあるいはその他の種に移動させませんでした。Cremersの示したvar. robinsoniiの分布地域をJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonが数回訪れましたが見つけることが出来ませんでした。著者らはCremersの標本を探しましたが残念ながら追跡出来ませんでした。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、この曖昧な状況と、E. decaryi、E. suzannae-marnierae、E. waringiaeとの類似性がありはっきりと判断出来ないことから、E. decaryi var. robinsoniiの名前は維持されることになりました。
しかし、著者らは地理的な不確実性にも関わらず、var. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると考えています。1984年のCremersの記述に手がかりがあります。ホロタイプのE. decaryi var. robinsoniiは、塊根と長い葉柄があり、縁が波状の幅の狭い披針楕円形から狭菱形の葉には特に上面に「腺」があるとしています。
類似性があるとされるEuphorbia waringiaeは、菱形の葉ではなく狭披針形から線状であり、托葉全体に縁があるため除外出来ます。しかし、CremersのE. decaryi var. robinsoniiは縁全体に托葉があります。いわゆるE. francoisii(本当のE. decaryi)は様々な形状の葉があり、Cremersの言うvar. robinsoniiの披針形や菱形のものもありますが、葉には乳頭はなく滑らかで光沢があります。また、Cremersはvar. decaryiは典型的なE. decaryiよりもかなり小さいと述べています。CremersはE. francoisii var. francoisiiの名前も使用していますが、これはおそらくEuphorbia crassicaulisに基づいています。
以上からvar. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると著者らは考えています。乳頭状の葉の上面と葉柄が狭く菱形で基部が短く、狭く長い葉などの特徴など、E. suzannae-marnieraeと一致します。栽培するとE. suzannae-marnieraeは匍匐根を持ち直立する傾向があります。


⑥新種E. decaryi var. durispina
近年、Euphorbia decaryi var. durispinaというラベルがついた植物が導入されています。導入元はドイツのExoticaでしたが、そのデータベースでは"Heidelberg74941"に対応するとあります。しかし、残念ながらハイデルベルク植物園にvar. durispinaを示すものはありませんでした。var. durispinaという名前は正式な学名ではなく園芸名です。著者らは過去に知られている種類ではないと感じましたが、由来が不明なため正式な記載を控えました。
ところが最近、Petr Pavelka氏から送られてきたマダガスカルのユーフォルビアの写真を調べたところ、Amboasaryの北にvar. durispinaが分布することが分かりました。また、同じ特徴の標本も発見しています。
著者らはvar. durispinaを独立種と考えています。形態学的に近縁なE. boiteauiの短い4mmの托葉とは異なり、var. durispinaはより長い7mmなどいくつかの特徴が異なります。また、E. spirostichaに似ますが、はるかに短い托葉突起(2mm)があり、しばらくすると消え、葉は非常に小さな結節(1mm)があります。
以上のことから、著者らはvar. durispinaを新種と考え、Euphorbia durispinaとしました。E. durispinaは高さは最大5cmで非常に小さく、匍匐根を持ちます。


⑦用語について
この論文では、かなり特殊な用語が使われています。正直、どう訳したものか悩みました。著者らによると、「podarium」とは、Rauh & Buchlohにより葉柄の周辺領域と定義されました。私は「托葉」と訳しましたが、一般的に定義される托葉とはまったく異なります。「podarium」は著者らが「podarium appendages」(=托葉突起と訳した)と呼ぶ、鱗片のような突起が融合した基部で構成されるそうです。また、E. decaryiグループの中で本来のトゲを発達させたのは、E. tulearensisとE. parvicyathophoraのみだそうです。

⑧キュー王立植物園のデータベース
さて、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、E. decaryiグループはどのような分類となっていますでしょうか。論文に出てきた名前を調べてみました。以下に示します。

1, E. boiteaui Leandri
   ①E. boiteaui var. boiteaui
   ②E. boiteaui var. ampanihyensis
      (Cremers) J.-P.Castillon & J.-B.Castillon 
       =E. decaryi var. ampanihyensis Cremers
   ③E. boiteaui var. spirosticha
      (Rauh & Buchloh) 
 
        J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
       =E. decaryi var. spirosticha
                 Rauh & Buchloh
2, E. crassicaulis (Rauh) Heav. & Hett.
       =E. francoisii var. crassicaulis Rauh
       =E. decaryi var. crassicaulis (Rauh)
              J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
3, E. decaryi Guillaumin
    ①E. decaryi var. decaryi
        =E. francoisii Leandri
        =E. francoisii var. rubrifolia Rauh
    ②E. decaryi var. robinsonii Cremers
4, E. cap-saintemariensis Rauh
       =E. decaryi var. cap-saintemariensis
            (Rauh) Cremers
5, E. suzannae-marnierae Rauh & Petignat
6, E. waringiae Rauh & Gerold


見てお分かりのように、著者らの主張が認められているのは、E. crassicaulisの独立についてのみです。var. ampanihyensis=var. spirosticha、あるいはE. spirostichaの独立は認められておりません。さらに、var. robinsonii=E. susannae-marnieraeや、新種E. durispinaも認められていないようです。しかし、これは「現在は」という保留が付きます。まだ、論文が出たばかりですから、今後の変更は十分あり得るでしょう。
それはそうと、花キリンは非常に混乱した分類群ですが、最近整理され始めました。非常に気になるところです。E. decaryiグループも含め、まだ整理は続くのでしょう。今後も注視していきたいと考えております。


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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産のユーフォルビアです。現在地の情報については、論文を参照に割と詳しい解説をしたことがあります。

原産地の情報についてはこちらの記事をご参照下さい。
冬に入手したこともあり完全に休眠状態でしたが、最近は日中暖かいせいか新しいトゲが出てきました。春がやって来ているという実感を感じます。

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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産ですが、分布はカナリア諸島で2番目に大きいFuerteventura島のハンディア(Jandia)半島にあるハンディア自然公園の保護区域内の2箇所しか知られておりません。非常に狭い範囲に生える固有種です。火山の堆積谷に育ち、気候は非常に乾燥し暑く強風が吹きます。Euphorbia canariensisやAeonium sp.と共に生育します。ハエ(greenbottle flies)により受粉するそうです。
剣光閣の学名は、1912年に命名されたEuphorbia handiensis Burchardです。種小名は自生地のハンディア半島から来たのでしょう。


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多肉植物で交配種と言えばエケベリアが大変盛んですが、難易度で言うならばユーフォルビアの交配は非常に簡単です。しかし、何故かそれほど盛んでもないようです。私もたまたま入手した交配種、あるいは自然交雑種が幾つかあります。鉄甲丸系交配種の蘇鉄キリンや峨眉山は割と見かけますが、それ以外もあるにはあります。交配種を集めている訳ではありませんから少しですがご紹介します。

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蘇鉄キリン
蘇鉄キリンは怪魔玉と鉄甲丸(E. bupleurifolia)の交配種と言われていますが、たいした違いはないのでわざわざ見分ける必要はないような気もします。

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怪魔玉
鉄甲丸(E. bupleurifolia)と鱗宝(E. mammillaris)の交配種と言われています。しかし、鉄甲丸と峨眉山の交配種と言っている人もいるようです。

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峨眉山
峨眉山は鉄甲丸(E. bupleurifolia)と瑠璃晃(E. susannae)の交配種とされています。一番有名かつ大変優れた交配種ですが、日本で作出された品種ということです。海外では、Euphorbia ×japonica、あるいはEuphorbia cv. Cockleburと呼ばれています。まあ、E. japonicaと言うと、ノウルシ(E. adenochlora)やイワタイゲキ(E. jolkinii)の異名ですから、ややこしいので使わないことに越したことはありません。

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グロエネフィカ
Euphorbia groenewaldii × Euphorbia venefica(異名E. venenifica)らしいです。なんと言うか、全く思い付かない組み合わせです。どうやら、海外で作出されたもののようです。


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混迷閣 Euphorbia ×inconstantia
Euphorbia heptagona(異名E. enopla、紅彩閣) × Euphorbia polygonaらしいです。E. heptagonaと異なり、トゲに小さなささくれ状の小さなトゲが見られ、ホリダ・ポリゴナ系の影響が見受けられます。野生状態で生まれた自然交雑種かもしれません。


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紅彩ロリカ
Euphorbia heptagona × Euphorbia loricataらしいです。なぜか親のE. heptagonaよりトゲが強くなっています。E. loricataの葉が沢山出る特徴も受け継いだ良い交配種です。

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紅彩ホリダ(紅ホリダ)
Euphorbia heptagona × Euphorbia polygona var. horridaらしいです。ホリダほどではないですが、E. heptagonaより太く育ちます。E. ×inconstantiaと似た交配ですが、外見はよりホリダ・ポリゴナ系に寄ります。うっすら白い粉に覆われます。

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Euphorbia ×curvirama
Euphorbia caerulescens × Euphorbia triangularisらしいです。こちらは意外な組み合わせですが、自然交雑種ということです。いかにも野生種といった雰囲気で、交雑種には見えません。


とまあ、こんなところです。私が知らないだけで、他にも沢山の交配種がありそうですが、集めている訳ではないので詳しくはありません。しかし、今後イベントで何か面白い品種を見つけたら購入するかもしれません。


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私の好きな多肉植物の産地は、大抵は南アフリカ、マダガスカル、メキシコあたりです。まあ、この辺りは多肉植物の宝庫ですから、実際に種類も豊富です。さて、私もそれなりに多肉植物が増えてきましたが、カナリア諸島やモロッコなど、多肉植物の産地としては少々変わった地域のものもちらほら入手しています。そんなおり、タンザニア原産のユーフォルビアを入手したので色々調べていたら、タンザニアのユーフォルビアについての記事を見つけました。それは、2008年のSusan Carterによる『Euphorbia in Tanzania』です。また、記事ではMonadeniumをEuphorbiaに含める考え方もあると注記がありましたが、現在ではMonadeniumは完全にEuphorbiaとされています。ですから、Monadeniumの学名の後にEuphorbiaとしての学名を追記しました。

タンザニアはケニアと比較すると、ユーフォルビアの多様化は低く、種類も少なくなっています。しかし、人口密度が高い沿岸地域から離れた中央高原は広大で、茂みに覆われツェツェバエ(アフリカ睡眠病を媒介する蝿)が蔓延していることからあまり探索されていません。

北部の草原地帯のSerengetiは、ケニアのMaasai Mara国立保護区よりはるかに広大です。ここでは、巨大な塊根を持つEuphorbia graciliramea PaxとEuphorbia similiramea S.Carter、さらに叢生するEuphorbia uhligiana Paxが見られます。この場所とNgorongoroの火山盆地の間には、2種類の局所的な分布のユーフォルビアが見られます。1つはEyassi湖のほとりのEuphorbia eyassiana P.R.O.Bally & S.Carterで、高さ80cmほどの多肉質の茎は紫がかります。もう1つはManyara湖のRift Valleyの断崖の斜面に見られるEuphorbia elegantissima P.R.O.Bally & S.Carterです。細長い多肉質の茎がブッシュ状となり3mほどになります。

ケニアとの国境沿いを南東に行きキリマンジャロを通り過ぎた北東のParesとUsambarasを横切る丘に到着します。海岸に近いのでよく調査されており、有名なユーフォルビアが生えます。北端にはEuphorbia robecchii Paxが生えます。苗のうちはトゲのある柱サボテン状ですが、大型になると幹は木質化し一見して樹木のように見えます。丘の麓には深い砂質土壌の開けた茂みがあり、Euphorbia heterochroma Paxが生えます。四角柱の柱サボテン状のユーフォルビアで、特徴的な規則的な緑色の斑紋があります。19世紀後半にドイツの博物学者により東アフリカ沿岸部が調査された時に発見された最初の種の一つです。Usambarasの急斜面のさらに南には、高さ15mになるEuphorbia quadrialata Paxが生えます。
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Euphorbia robecchii Paxの苗。Euphorbia robechchiiの名前で流通しているようです。

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大型のEuphorbia robecchiiは樹木状となります。
(P.R.O.Bally, 1954)

ケニアへ広がるこの沿岸地域には、樹木状で沢山の稜があるEuphorbia bussei Paxが見られます。また、3稜のEuphorbia nyikae Paxは、海からの湿気を利用しています。海岸から離れると、1本の幹から無数の枝を密につける有名なEuphorbia candelabrum Kotschyが見られます。

Great Ruaha川を内陸に辿ると、急な断崖のある渓谷に到着します。険しい断崖は植物を保護し、多くのユーフォルビアが生える理想的な生息地です。バオバブの木とともに、Euphorbia quadrangularis Paxは正方形の頑丈でまばらに枝分かれした茎を持ち、その高さは最大3.5mとなります。枝は主茎から直角に広がり、灰色がかった緑色の斑入りです。これはEuphorbia cooperi var. ussanguensis (N.E.Br.) L.C.Leachの分布の北東の限界でもあります。高さ10mとなります。さらに、断崖に沿って行くと、固有種のEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally &S.Carterが生えます。高さは30cmで暗赤色のトゲと青みがかる斑入りの茎が特徴です。
さらに、6種類以上の非常に異なったモナデニウムが生え、そのうち4種類はこの地域から固有です。急斜面の丘の中腹には高さ3.5mになる樹木、Monadenium elegans S.Carter=Euphorbia biselegans Bruynsが生えます。美しい紫がかる褐色のフレーク状の樹皮を持ち、明るい色の葉を持ちます。高さ4mになり、まばらに枝分かれした低木であるMonadenium arborescens P.R.O.Bally=Euphorbia neoarborescens Bruynsは、太い多肉質の緑色の茎と25cmになる大型で多肉質の葉をつけます。この種は、関連するMonadenium spectabile S.Carter=Euphorbia spectabilis (S.Carter) Bruynsと同様に谷底に生え、高さ3mで多肉質の大きなは木質葉があります。この地域の4つ目の固有種はMonadenium magnificum E.A.Bruce=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruynsです。丘の麓のブッシュランドのさらに北で見つかりました。高さ1.5mほどの低木で、15cmの多肉質の葉を出します。

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Euphorbia greenwayi P.R.O.Bally

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Monadenium magnificum E.A.Bruce
=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruyns


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茎や葉の裏に沢山のトゲをつけます。

他の地域にも分布するモナデニウムは2種類で、丘の間の低木地帯で見られます。Monadenium goetzei Pax=Euphorbia neogoetzei Bruynsは3種類の固有種と関連しています。草本性の多年草で、茂みの中から75cmまで育ちます。長さ17cmの多肉質の葉を持ちます。また、下草の中にはMonadenium schubei (Pax) N.E.Br.=Euphorbia schubei Paxがマット状に育ちます。時に高さ1m近く育ちます。

開けた茂みを南西に進むと、Euphorbia quadrangularisが豊富です。しかし、しばしば家畜が放牧されており、環境は渓谷とは異なります。緑がかる褐色の茎と1cmを超えるトゲを持つEuphorbia reclinata P.R.O.Bally & S.Carterが自生します。マラウイとザンビアに隣接する山の麓には、塊根を持つEuphorbia tetracanthoides Paxが見られます。

タンガニーカ湖の東岸に沿う低い丘を北に向かうと、Euphorbia grantii Oliv.が見られます。小さく枝分かれした樹木で多肉植物ではありません。葉は長さ30cmにもなります。関連する種としては、高さ3mの低木であるEuphorbia goetzei Paxがあります。ザンビアとマラウイにも分布します。多肉植物ではありません。同じく、関連するEuphorbia matabelensis Paxは鋭く尖った枝を持つ低木で、多肉植物ではありません。分布は南アフリカまで広がっています。
この丘には多肉質のユーフォルビアもあり、Euphorbia angustiflora Paxなどトゲのある種が知られています。マット状に育つこともあります。また、Euphorbia rubrispinosa S.Carterは明るい緑色で、4稜の茎と暗赤色のトゲを持ちます。


以上が記事の要約です。
タンザニアの多肉植物はあまり聞きませんが、非常に魅力的なユーフォルビアが沢山自生していることが分かります。しかし、それだけではなく、タンザニアの西部にはまだ未調査な部分があると言いますから、まだ知られていない未知のユーフォルビアが存在するかもしれません。今後に期待しましょう。



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本日は2022年のColin C.Walkerの記事、『Euphorbia evolution and taxonomy』をご紹介します。タイトルは「ユーフォルビアの進化と分類学」ですが、内容的には2021年に発表されたユーフォルビアに関する論文の紹介記事です。記事は3つのパートからなっています。早速、記事を見てみましょう。

①ユーフォルビアの分類
遺伝子解析の発達は、長い歴史を誇る植物分類学を一新してしまいました。特にここ10年と少しで急速に普及・発展し、その精度も高くなっています。全世界の植物学者が協力して植物の分類を決定しようとしたAPGというプロジェクトがあり、分類体系は様変わりしました。遺伝子解析によりユーフォルビアの分類も大きな影響を受けることになりました。

さて、ユーフォルビアは種類も多く姿も多様ですが、近年の遺伝子解析においてまとまりのあるグループであることが明らかとなっています。今までユーフォルビアから分離されてきたグループも、ユーフォルビアに合併される傾向があります。
2021年の論文、『Plastome evolution in the hyperdiverse genus Euphorbia (Euphorbiaceae) using phylogenomic and comparative analysis : large - scale expansion and contraction of the inverted repeat region』では、ユーフォルビア属は単系統です。Chamaesyce、Cubanthus、Eleophorbia、Endadenium、Monadenium、Pedilanthus、Poinsettia、Synadeniumは、ユーフォルビア属内で他のユーフォルビアと入れ子状となっていることが示されています。ユーフォルビア属の4つの亜属である、Athymalus、Chamaesyce、Esula、Euphorbiaは単系統でした。

次にやはり2021年の論文、『Euphorbia mbuinzauensis, a new succulent species in Kenya from the Synadenium group in Euphorbia sect. Monadenium (Euphorbiaceae) 』では、わずか14種類のグループであるシナデニウム属に焦点を当てています。シナデニウムは以前は熱帯アフリカの東部と南部のみに分布する、高さ18mまでの樹木です。既知の植物と一致しない種が発見されたので、分子生物学的研究が行われました。この新種はEuphorbia mbuinzauensisと命名されました。ケニア原産の高さ4mほどの低木です。この研究によりシナデニウム属がユーフォルビア亜属の構成員であることを確認しました。

②マダガスカル・ユーフォルビアの学名の改定
2番目はマダガスカルのユーフォルビアについての論文です。2021年の2本の論文、『Novelties in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』と『Taxonomic change and new species in Malagasy Euphorbia』です。

マダガスカルには200以上のユーフォルビアがあり、多様性があります。この2つの論文ではその分類法と命名法を再評価しています。マダガスカルのユーフォルビア48種類を評価しており、これらの論文の種名の変更を基に、将来的に学名が大きく改定される可能性があります。

1つ目の論文の焦点は、花キリンEuphorbia miliiの分類方法の再検討です。E. miliiの由来は1826年の命名以来謎のままであり、この名前は園芸業界で様々な品種に対して総称として使用されています。Euphorbia milii Des Moul.の名前は、先端を切ったような葉の種類に限定されます。楕円形の葉を持つ、赤色や黄色の花(苞)を持つ良く栽培される種類をEuphorbia splendens Bojer ex Hookerの名前で復元されています。
他のE. milii複合体については以外の通りに改定されております。
E. milii var. longifolia→E. betrokana
E. splendens var. bevilaniensis→E. bevilaniensis
E. splendens var. hislopii→E. hislopii
E. milii var. imperatae→E. imperatae
E. milii var. bosseri→E. neobosseri
E. milii var. roseana→E. roseana
E. splendens var. tananarivae→E.tananarivae
E. milii var. tenuispina→E. tenuispina


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Euphorbia imperatae cv. 

また、Euphorbia bosseri Leandriの分類方法も改定され、一般的なE. platycladaは異名となります。E. platyclada var. hardyiはEuphorbia hardyiとして変種から独立種に昇格しました。

他にも、いくつかの低木種の分類も改定されました。
E. primulifolia var. begardii→E. begardii
E. francoisii var. crassicaulis→E. crassicaulis
E. perrieri var. elongata→E. paulianii
E. berevoensis(E. nicaiseiを含む)
E. delphinensis
E. fanjahiraensis(E. isalensisを含む)
E. guillemetii(E. beharensisを含む)
E. leandriana(E. horombensisを含む)
E. mangokyensis(E. razafindratsiraeを含む)
E. pachyspina
E. perrieri
E. psammiticolia
E. werneri


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Euphorbia begardii

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Euphorbia mangokyensis

2番目の論文では、14種類ものマダガスカルの新種ユーフォルビアが記載され、近縁な種類と比較しています。その14種は、E. agatheae、E. atimovatae、E. fuscoclada、E. graciliramulosa、E. kalambatitrensis、E. linguiformis、E. mahaboana、E. makayensis、E. multibrachiata、E. parvimedusae、E. perrierioides、E. rigidispina、E. spannringii、E. tsihombensisです。
また、非公式なE. rubrostriataグループの新しい組み合わせが提案されています。E. itampolensis(E. neobosseri var. itampolensis)、再評価されているのはE. mahafalensis、E. rubrostriata(E. mainianaを含む)、E. xanthadenia(E. croizatii、E. ebeloensis、E. emiliennaeを含む)です。
さらに、新しい異名と新しい組み合わせが提案されています。
E. moratii var. antsingiensis→E. antsingiensis
E. enterophora subsp. crassa→E. crassa
E. rangovalensis(E. castilloniを含む)
E. enterophora→E. xylophylloides

③Euphorbia susannaeの調査
3つ目は、日本ではすっかり普及種となったEuphorbia susannaeについてです。その論文は2021年の『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。著者らはE. susannaeの分布と環境を調査し、野生のE. susannaeの個体数が非常に少数であることを報告しています。
実はこの論文は既に記事にしています。詳細は以下のリンクをどうぞ。


最後に
以上が最新のユーフォルビアのニュースとなります。ユーフォルビアは種類が多い割に論文が少なく、園芸的に人気があるアフリカの多肉質なユーフォルビアとなると、残念ながらほとんどない状態です。しかし、ユーフォルビア属自体は大変動の最中で、モナデニウム属などがユーフォルビア属に吸収合併されました。ユーフォルビア属内の大まかな分類も概ね解決しており、後は詳細な種の所属を明らかにすることや、種同士の関係性が気になるところです。次にマダガスカルのユーフォルビアについてですが、これは非常に大きな改定です。これからの分類が刷新される可能性もあり、重要な論文かもしれません。時間があれば一度読んでみたいと思っています。最後にEuphorbia susannaeについてですが、これは思いの外重要な論文です。多肉植物は、環境破壊や違法採取などにより、個体数を減らしたり絶滅が危惧されているものも沢山あります。しかし、希少植物を保護するにせよ現地調査は欠かせません。まずは知るところからがスタート地点です。しかし、残念ながらアフリカのユーフォルビアは、減少している可能性があるといった曖昧な情報が多く調査もなされていないため、仮に絶滅していてもそのことすら感知されない可能性があります。大変悲しいことです。


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昨年の夏頃に安価なミニ多肉として販売されていたE. リカルドシアエという名前のユーフォルビアを購入しました。このリカルドシアエは、マラウイ原産のEuphorbia richardsiaeのことですが、画像検索すると外見が異なるものが出てくるので、以前から気になっていました。取り敢えず、リカルドシアエの情報をまとめた記事がこちらです。
しかし、最近ユーフォルビアの画像を色々漁っていた時に、我が家のリカルドと似た画像が偶然見つかりました。それが、グリセオラ、つまりはEuphorbia griseolaです。龍尾閣という名前もあるようです。
我が家の謎のユーフォルビアの特徴を見てみましょう。

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トゲとトゲの間がつながっており、直線的に育ちます。E. richardsiaeはトゲが繋がらず、グネグネと歪曲しながら育ちますから明らかに特徴が異なります。どうにも、E. griseolaと特徴が符合します。

グリセオラの学名は1904年に命名されたEuphorbia griseola Paxです。亜種としてE. griseola subsp. griseola、E. griseola subsp. mashonica、E. griseola subsp. zambiensisがあります。
分布はかなり広く、ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、ザイールの原産です。原産地や育て方の情報はありませんが、育てた感想としてかなり生長が早く育てやすいと思います。
Dolomite euphoriaなる名前も出てきましたが、ドロマイトは苦灰石のことです。苦灰石を加工したものが苦土石灰ですから、アルカリ土壌に生えるのでしょうか?

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Euphorbia griseola Pax

ついていたラベルの名前が間違えているというのは、非常に困ったことです。特にユーフォルビアは類似したものも多く種類も多いので、似た種類をすべてピックアップして比較するということは非常に困難です。しかし、これは生産者が勝手に適当なラベルを挿した訳ではないと思います。生産者がうっかり間違った可能性もありますが、おそらくは購入した種子の名前が間違っているのでしょう。基本的に生産者は種子に書いてあった名前を、そのままラベルに記入しています。実際に、海外の種子で2種類の植物が混同されていたり、実生苗の学名のスペル・ミスがあちこちの生産者で共通していることが結構あります。ですから、この名前の誤りはそう簡単には解決しない問題と言えるでしょう。


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1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を見つけたのですが、残念ながらドイツ語はまったく分かりません。しかし、索引を眺めていたら、なんとユーフォルビアについて書かれた記事があるみたいです。これは内容が非常に気になります。仕方なく機械翻訳にかけてみました。若干、怪しい翻訳文ですが、86年前に書かれた実に興味深い記事です。
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記事のタイトルはVon Paul Stephanの『Einige wenig bekannte Euphorbia』、つまりはポール・ステファンによる「幾つかのあまり知られていないユーフォルビア」です。おそらく、Paul Stephanはハンブルク植物園で多肉植物のコレクションの管理をした植物コレクターのことでしょう。Paul Stephanは1929年にConophytum stephaniiの種小名に献名されていますね。この記事ではポール・ステファン氏が自慢のユーフォルビア・コレクションを写真付きで紹介しています。

Euphorbia stellata Willd.
ポール・ステファン氏の解説 : 太くて短い円筒形の幹の上から多数の枝が出ます。幹の樹皮は灰褐色で棘はありません。枝は暗い緑色で褐色の棘があります。枝は上部が凹み、幅は最大2cmで一対の棘で強化されています。棘は赤褐色で長さは2~3mmです。Euph. stellataは「Berger」ではEuph. uncinata DCとされていますが、これは古い名前で有効な名前であるstellataと呼ぶ必要があります。古くから知られていますが、コレクションには滅多に見られません。
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ポール・ステファン氏のコレクションの写真。何故か写真の学名は、Eu. uncinnataとなっていました。本来はstellataです。しかも、uncinataをuncinnataと誤植されています。枝が短いせいか、あまりE. stellataらしく見えませんね。むしろ、Euphorbia tortiramaに見えてしまいます。水を少なく遮光しないで育てているのかもしれません。

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E. stellataは日本では飛竜の名前で知られています。E. stellata Willd.は1799年の命名、E. uncinata DC.は1805年の命名です。数年前は日本でも割と珍しいユーフォルビアで、思いの外高額でした。現在は苗が出回っており、だいぶお値段も落ち着きました。

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Euphorbia tortirama

Euphorbia inermis Mill.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. inermis Mill.はEuph. caput-medusae L.の近縁種ですが、はるかに強力な側枝が異なる点です。caput-medusaeにある若い芽は失われています。枝の肋とこぶははるかに顕著です。幹は緑色で下部に向かうほど灰色になります。
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ポール・ステファン氏のコレクション。下の私の所有している個体と良く似ています。

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E. inermisは日本では九頭竜と呼ばれています。E. inermisは1768年の命名です。日本では量産されており、入手しやすいタコものユーフォルビアです。あまり強光を好まないみたいです。

Euphorbia valida N.E.Br.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. meloformisに最も近縁ですが色が異なります。花の残骸が残っていないため無防備です。それ以外はほぼ同じ植物で、Marlothによるとmeloformisの生長形態が異なるだけに過ぎないと言います。
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ポール・ステファン氏のコレクション。花柄は残っていません。かなり大型の個体のようです。

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Euphorbia validaとされる個体。花柄はあまり出ません。縞模様がよく目立ちます。現在、E. valida N.E.Br.、あるいはE. meloformis subsp. valida (N.E.Br.) G.D.Rowleyは、E. meloformis Aitonと同種とされています。原産地では、E. meloformisともE. validaともつかない中間個体が多いようです。要するに、多様な個体の中で特徴的なものをピックアップして命名されただけかもしれないのです。

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縞模様がほとんどない個体。花柄は長く伸びます。validaとは、ラテン語で「validus=強い」から来ています。

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Euphorbia infausta N.E.Br.は、現在はE. meloformisと同一種とされています。花柄は弱く残りにくいタイプです。

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貴青玉
E. meloformisのことを貴青玉と呼んでいたみたいですが、最近ではE. meloformis系交配種のことを貴青玉と言っているみたいです。


Euphorbia Suzannae  Marl.
ポール・ステファン氏の解説 : ほぼ球形で複数の稜があります。長さ10mmまでのイボがあり、マミラリアのような外見です。灰緑色。若い時は単頭で、やがて枝分かれします。
※誤植があります。種小名は本来は小文字で、さらにsuzannaeではなくsusannaeです。

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ポール・ステファン氏のコレクション。こちらには、Euph. Susannae Marl.と表記されていました。良くしまった美しい個体です。イボが長くて尖るタイプ。

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E. susannaeは日本では瑠璃晃と呼ばれることもありますが、あまり使われないかもしれません。私の所有個体はイボが短く丸味があるタイプです。そういえば、命名者のHermann Wilhelm Rudolf Marloth(ドイツ出身で南アフリカで活動した植物学者)の略はMarl.となっていますが、正式な学名の表記ではMarlothです。まあ、1937年の命名規約がどうなっていたかは分かりませんが。

以上がポール・ステファン氏のユーフォルビア・コレクションの紹介でした。しかし、まさか80年以上前のドイツのユーフォルビア・コレクションを写真で見られるとは思っておりませんでしたから、私も感銘を受けました。こういう記事をもっと書きたいと思うものの、中々古い時代の出版物は探しても見つからないことが多く難しいですね。一応は少しずつ探索を継続する予定です。


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今年の正月明けに五反田TOCで開催された新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Euphorbia greenwayiというユーフォルビアを入手しました。赤いトゲと蒼白い肌色が大変美しいですね。どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。

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Euphorbia greenwayi

調べてわかったこととして、E. greenwayiはあまり情報がないということです。とは言うものの、実は論文が1報出ているのですが、何故かE. greenwayiの成分の殺菌作用について調べたものでした。ユーフォルビアは毒性のある乳液を出しますから、その成分を調べた論文は沢山出ています。ですから、この手の論文は珍しくはありませんが、研究者がヨーロッパに多いこともありヨーロッパのユーフォルビア、あるいは世界中に移植されているEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)が一般的で、わざわざE. greenwayiを使うのは珍しいと言えば珍しいですね。とはいえ、化学的な内容のものも多いため、あまり読む気にはなりません。というわけで、一般的な情報について記していきます。
E. greenwayiはタンザニア原産の希少なユーフォルビアです。というのも、分布するのはIringa断崖のみの1箇所で、推定される生息範囲はたった3km2に過ぎないと言います。海抜は1000~1250mほどです。

E. greenwayiの学名は1974年に命名されたEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally & S.Carterです。E. greenwayiを命名したP.R.O.Ballyとは、スイスの植物学者、植物画のイラストレーターであるPeter Rene Oscar Ballyのことです。S.Carterとはユーフォルビアとモナデニウムの専門家で、キュー王立植物園のSusan Carter Holmesのことです。国立ユーフォルビア協会の会長です。ちなみに、種小名はイギリスの植物学者で、タンザニアやケニアで研究したPercy (Peter) J.Greenwayに対する献名です。1987年には亜種のEuphorbia greenwayi subsp. breviaculeata S.CarterEuphorbia greenwayi subsp. greenwayiが命名されています。

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我が家に来てからまだ1ヶ月ですが、根元から新芽が吹いてきました。1月は氷点下にもなりましたが、最近は0℃以上の日が続いてますね。とはいえ、まだまだ寒い日が続いています。それでも、E. greenwayiは一足早く春の気配を感じているのかもしれません。

アフリカのユーフォルビアは素晴らしいものが多いのですが、環境破壊などにより絶滅を危惧されている種が沢山あります。E. greenwayiは生息域が狭く限られています。しかも、薪や炭焼きのために生息域の森林が伐採されており、環境が悪化し個体数を減らしているということです。非常に美しい植物ですから、自生地で絶滅してしまわないことを願っております。


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去年の春先に、異常な暑さと信じがたい日射しが我が家の多肉植物を襲いました。例年真夏でも無遮光で耐える強者揃いでしたが、室内から出してまだ慣れていないこともあり、一部は焼けたり焦げたり萎れたりして大変なことになりました。そんな中、Euphorbia cylindrifoliaは顔色1つ変えることなく平然としていましたが、近縁なEuphorbia ambovombensisは葉を完全にやられてしまいました。

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古い葉は全滅。何ともみすぼらしい姿に…
しかし、E. ambovombensisも花キリンの端くれですから、直ぐに強光に耐えられる新しい葉を沢山出すはずです。根に問題があれば別ですが、根張りがしっかりしていたので遮光はしませんでした。別に特別強光に弱いわけではないのですから平気なはず。

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現在のE. ambovombensis。葉はすっかり生え揃いました。しかし、我が家のE. ambovombensisは他の塊根性花キリンと比べて、生長が非常に遅く中々育ちません。新しい葉もあまり出ないのですが、葉がなくなったので流石にあわてて葉を出したみたいです。

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相変わらず枝は地を這うが如くです。厳しく育てているせいか枝が増えませんが、甘やかすと間延びしてしまいそうで怖くはあります。そういえば、去年は植え替えましたが、塊根が太るというよりずいぶん伸びたので少し浅植えしました。この時際が少しくびれているのは、何が原因なんでしょうね? Pachypodium succulentumもそんな感じでした。すべての塊根がそうだという訳ではありませんが少し不思議です。


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グロエネワルディ(Euphorbia groenewaldii)は南アフリカのレッドデータブックで、絶滅危惧種に指定されている希少な植物です。そんなグロエネワルディを保護していくにはどのようなことが必要でしょうか? その参考となるMarula Triumph Rasethe & Sebua Silas Semenyaの2019年の論文、『Community's Knowledge on Euphorbia groenewaldii: Its Populations, Threats and Conservation in Limpopo Province, South Africa』をご紹介します。この現地調査をどう捉え、如何なる保全をしたら良いでしょうか?

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Euphorbia groenewaldii

E. groenewaldiiは南アフリカのLimpopo州、Porokwane自治区のDalmada(準都市部)とGa-Mothiba(農村)の2つの地域に固有で、6つの集団が確認されています。その生息域の狭さから、南アフリカでは絶滅危惧種(A2ac)とされています。さらに、E. groenewaldiiは開発や違法伐採、採掘、踏みつけなどにより、個体数が減少しています。E. groenewaldiiは2003年及び2004年の法制定により採取や許可なしの取引を禁止され、保全計画の推奨を謳っています。
しかし、著者はE. groenewaldiiの生息著者の地域社会が、E. groenewaldiiに対してどのように考え、その保護についてどのように捉えているのかが重要かもしれないとしています。なぜなら、生息域の住人こそが、保全や法に対する利害関係者だからです。という訳で、著者は農村であるGa-Mothibaにおいて、E. groenewaldiiに対する意識調査を実施しました。

ランダムに抽選された参加者たちは、残念ながらE. groenewaldiiが保護されている絶滅危惧種であることを知りませんでした。しかし、調査の参加者はE. groenewaldiiの保全に対する関心は高く、E. groenewaldiiを脅かす可能性があると思われる要因とは何かをインタビューしたところ、降雨不足・干魃、土壌侵食などによる生息地の劣化、農村集落の拡大、種の保全に対する知識の欠如、採掘活動、人為的火災など、かなり正確に問題点を捉えていることが明らかとなりました。
とは言うものの、農村の拡大は住民の望みでもあり、舗装された道路の施設など開発が進むことを望んでいます。採掘活動も村の経済と雇用機会にとって重要ですが、石灰岩の間などに生えるE. groenewaldiiは採掘により根こそぎ破壊されてしまいます。人為的火災は枯れ草を燃やすことにより、牧畜のための新しい牧草の育成に必要な作業です。また、家畜による踏みつけについては懸念としては浮かんでこない項目でした。

以上が論文の簡単な要約です。
まず言えるのは、保護を法律で定めても周知させなければ意味がないということです。保全活動に関係していない農村の住民にも、正しく伝えれば問題を理解し鋭く考えることはインタビュー結果からも明らかです。
次に保護活動は学者や保護活動家だけが関わるものではなく、地域住民にも知識や理念、活動の趣旨を理解してもらい、住民も参加することが望ましいということです。保護活動は明らかに住民の経済活動の利害に反し、強硬に推し進めれば反発を招き保護活動も頓挫するでしょう。また、開発は住民の権利ですから、我々が文句を言うことは出来ません。先進国に住む人々が、低開発国の発展を阻害するのは実に傲慢なことです。
経済活動に伴う環境やグロエネワルディそのものに対する損害に対しては、代替手段を用意すべきです。やり方を工夫しダメージが最小となる手段を考えたり、あるいは村に別の雇用機会を設けるなどです。実際に動物の保護活動では、密猟者をレンジャーとして雇用することもあります。なぜなら、密猟は欧米人のするようなゲームハンティングではなく、あくまでも経済活動だからです。雇用があり賃金が払われるならば、わざわざ密猟などしないのです。
私が思い付くのは所詮はこの程度で、何一つとして有効な解決策を提示出来てはいません。まあ、世界中の学者や保護活動家の頭を悩ませる問題を、私が簡単に解決出来ないのは当たり前かもしれません。
皆様はこの調査結果をどう捉えたでしょうか? 市販されている多肉植物でも、原産地では絶滅の危機に瀕しているものも珍しくありません。多肉植物を栽培する皆様にも是非、一度考えていただきたい問題です。


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ユーフォルビア・モラティイはマダガスカル原産の花キリンです。去年、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手しましたが、早くも花が咲きました。花キリンとは言ってもよく見るEuphorbia milii系ではなく、花や葉を見る限りEuphorbia cylindrifoliaやEuphorbia tulearensisの仲間でしょうから花は地味ですけどね。良い機会ですからどのような多肉植物なのか調べてみました。

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Euphorbia moratii

モラティイの学名は1970年に命名されたEuphorbia moratii Rauhです。モラティイは国際的に著名な生物学者、植物学者、作家のドイツのWerner Rauhが命名しました。種小名はモラティイを発見したフランス国立自然史博物館の植物学者Philippe Moratに対する献名ということです。
モラティイには3変種、Euphorbia moratii var. moratii、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. bemarahensis Cremers、1991年に命名されたEuphorbia moratii var. multiflora Rauhが認められています。
また、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. antsingiensis Cremersは、2021年に種として独立しEuphorbia antsingiensis (Cremers) Haev. & Hett.となり、モラティイの変種ではなくなりました。


E. moratiiはワシントン条約(CITES)の附属書 I に掲載されています。ワシントン条約は国際的な動植物の取引を規制していますが、附属書 I は絶滅の恐れがありる最も厳しい規制がなされており基本的に取引は禁止されています。これはすべてのワシントン条約登録種の3%、約1000種類の動植物のみと言いますから、珍しい花キリンですね。

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花は塊根性花キリンに典型的な雰囲気。

モラティイはマダガスカルのMahajanga州に分布するということです。調べると、マダガスカル北西部のようです。また、inselbergの岩の多い斜面に生えると言います。'inselberg'は孤立した丘である残丘の1種で、定義は「なだらかな斜面を持つ周囲の地形から飛び出した、急な斜面を持つ丘」のことで、特にアフリカの乾燥地帯に典型的な地形とのことです。

以上がモラティイの情報ですが、調べても情報がほとんど出てきません。何か良い論文が出てくれると嬉しいのですが。
塊根が出来るようですが、私のモラティイはまだ塊根は出来ていないでしょう。まあどちらにせよモラティイはコンパクトな小型種です。焦らずゆっくり育てていきます。



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昨年の秋のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、「ユーフォルビア・ペディラントイデス」という名前の花キリンを入手しました。調べてみましたが、海外や論文を含めたいした情報はありませんでした。仕方がないので、学名について調べてみました。

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Euphorbia pedilanthoides

ペディラントイデスの学名は、1921年に命名されたEuphorbia pedilanthoides Denisです。しかし、実は最初に命名されたのは1887年で、Pedilanthus lycioides Bakerでした。Pedilanthusはユーフォルビア属と同じトウダイグサ科の植物で、すぼまった形のほとんど開かない花が咲きます。代表的な種類は「ダイギンリュウ」の名前で知られています。ペディラントイデスは最初Pedilanthusとされたのは、特徴的な花の形状がよく似ているからでしょう。しかし、それ以下の特徴はあまりにも花キリンです。
ここで一つ疑問がわきます。Pedilanthus lycioidesがユーフォルビア属に移動したならば、学名はEuphorbia lycioidesとなるのが通常でしょう。しかし、何故かEuphorbia pedilanthoidesとされているのです。もしやと思って、試しにEuphorbia lycioidesを調べてみたら、なんとEuphorbia lycioides Boiss.というブラジル原産のユーフォルビアが出てきました。ペディラントイデスは花キリンですから、当然ながらマダガスカル原産です。つまりはまったくの別種です。しかも、このEuphorbia lycioidesは1860年の命名で、なんとPedilanthus lycioidesよりも命名が早いのです。命名が早い方が優先されますから、Euphorbia lycioidesを使うわけにはいかなかったのです。というわけで、ユーフォルビアとなるにあたり新たに命名し直したということなのでしょう。ちなみに、種小名の'pedilanthoides'とは、「Pedilanthusに似た」という意味ですね。

ペディラントイデスには「痩花キリン」という名前もあります。枝が細い所から来ているのでしょうか。読み方ですが、幾つかのサイトでは「ソウカキリン」とありました。しかし、「痩せた」+「花キリン」でしょうから、「痩花+キリン」は読み方としては少しおかしな気もしますが、まあ所詮は園芸名なので問題がないと言えば問題がないのでしょう。
そういえば、根元の幹が少し太ってやや塊茎状となるようですが、小さく目立ちませんね。本来は枝が枝分かれして長く伸び灌木状になりますから、盆栽のような枝を切り詰めながら育てればコーデックスとして扱えるかもしれません。

ペディラントイデスは花キリンですが、花キリンはユーフォルビア属ユーフォルビア亜属Old world  Clade IIのSection Goniostemaに所属します。花キリンにも幾つかのグループがありますが、ペディラントイデスはE. horombensis、E. didiereoides、E. croizatii、E. lophogona、E. milliiなどと近縁です。

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昨年末に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、低木状のユーフォルビアであるバルサミフェラ(Euphorbia balsamifera)を購入しました。バルサミフェラはあまり見かけないユーフォルビアでしたが、最近のイベントではポツポツ見かけるようになりました。国内ではあまり流通していませんから、割と高価です。しかし、私のバルサミフェラは現在室内栽培しているとは言うものの、明け方はかなり冷え込むにも関わらず新しい葉を盛んに出しています。思ったより丈夫みたいですから、値段も徐々に落ち着いていくでしょうね。

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Euphorbia balsamifera

そんなバルサミフェラですが、非常に分布が広く生息域が分断されて距離があることが知られています。そのため、伝統的にアフリカ北部に広く分布するE. balsamifera subsp. balsamiferaと、アフリカの角~アラビア半島原産のE. balsamifera subsp. adenensisに分けられてきました。しかし、実際にはsubsp. adenensisは種として独立し、Euphorbia adenensisとなりました。

実はここからが本題です。どうやら、バルサミフェラにはまだ謎が隠されているようなのです。というわけで、本日ご紹介するのはRichard Riinaの2020年の論文、『Three sweet tabaibas instead of one : splitting former Euphorbia balsamifera s. l. and resurrecting the forgotten Euphorbia sepium』です。
論文のタイトルの後半は、「広義のEuphorbia balsamiferaを分割し、忘れられたEuphorbia sepiumを復活させる」ということですから、バルサミフェラからE. sepiumを分離するということです。さて、この「広義(s.l.=sensu lato)のバルサミフェラ」とは何かですが、ここではE. adenensisやE. sepiumを含んだバルサミフェラを示しています。逆にE. adenensisやE. sepiumを含まないバルサミフェラは「狭義(s.s.=sensu stricto)のバルサミフェラ」と呼んでいます。

一度述べていますが、広義のバルサミフェラはアフリカの角~アラビア半島はアフリカ北西部~西部などの個体群と分布に距離がありました。そのため、広義のバルサミフェラについて、各地からサンプリングして遺伝子を解析しました。その結果を示します。

┏━━━━E. sepium

┃            ┏E. adenensis
┗━━━┫
                ┗E. balsamifera s.s.

まずは、広義のバルサミフェラが3つに分割できるということが分かります。狭義のバルサミフェラはモロッコ、西サハラ、カナリア諸島の原産です。驚くべきことに、アフリカ北西部に分布する狭義のバルサミフェラに近縁なのは、分布の離れたE. adenensisでした。しかし、最大の驚きは狭義のバルサミフェラやアデネンシスと遺伝的に距離がある種があったのです。論文ではこの種を、昔命名されたものの忘れ去られていたE. sepiumを適用しました。実はこのセピウムは、アルジェリア、ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ、チャド、コンゴ、ガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、トーゴ、西サハラと非常に分布が広く、かつて広義のバルサミフェラの分布の大半を占めています。

ここで疑問が浮かびます。広義のバルサミフェラは三分割されたとは言うものの、非常に近縁であることは間違いありません。では、どのような道筋で進化したのでしょうか。通常ならば、狭義のバルサミフェラ→セピウム→アデネンシスか、アデネンシス→セピウム→狭義のバルサミフェラが一番分かりやすいでしょう。または、広義のバルサミフェラの広い分布域から、徐々に3種類に分かれたというシナリオもあるでしょう。しかし、予想外にも狭義のバルサミフェラとアデネンシスが近縁ですから、上のシナリオはすべてご破算です。例えば、昔は狭義のバルサミフェラあるいはアデネンシスの分布が今より広く隣接していたとか、狭義のバルサミフェラとアデネンシスの間の空白に絶滅した未知の種が存在したとか、考えられるシナリオは沢山あります。

バルサミフェラの学名についてまとめましょう。
バルサミフェラは、1789年にEuphorbia balsamifera Aitonと命名されました。1887年に命名されたEuphorbia adenensis Deflersは、1965年にはEuphorbia balsamifera subsp. adenensis (Deflers) P.R.O.Bally、つまりはバルサミフェラの亜種とされましたが、地理的な隔離などによりやがて独立種により戻されました。また、1911年に命名されたEuphorbia rogeri N.E.Br.は、1938年にEuphorbia balsamifera var. rogeri (N.E.Br.) Maire1948年にはEuphorbia balsamifera subsp. rogeri (N.E.Br.) Guinea とする意見もありましたが、E. rogeriはE. balsamiferaと同種とされています。しかし、1911年に命名されたEuphorbia sapium N.E.Br.は、1938年にEuphorbia balsamifera subsp. sepium (N.E.Br.) Maireとされてきましたが、再びEuphorbia sepiumに戻り、広義のバルサミフェラは3種類に分割されることになったのです。


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昨年末に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、Euphorbia ellenbeckiiという名前のユーフォルビアを入手しました。どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。

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Euphorbia ellenbeckii

Monadenium ellenbeckii
取り敢えず「エレンベッキー」で検索すると、出てくるのはMonadenium ellenbeckiiですね。正直、これは中々面白いことになったと感じました。というのも、遺伝子解析の結果からモナデニウムはユーフォルビアに吸収されてしまいました。ということは、Monadenium ellenbeckiiはEuphorbia ellenbeckiiになるのかというと、おそらくは違うでしょう。何故なら、すでにユーフォルビアには同じ種小名のEuphorbia ellenbeckiiがいるからです。データベースを見てみると、M. ellenbeckiiは2006年にEuphorbia bisellenbeckiiに変更されました。やはり、同姓同名は許されないということです。新しい種小名は、ellenbeckiiに'bis'を追加しただけではあります。この'bis'は「2回」とか「2度」という意味ですから、すでに存在するEuphorbia ellenbeckiiに2を追加した「エレンベッキー2」みたいな割と安直な名前です。
しかし、海外のサイトではすでにこのE. bisellenbeckiiは普通に使われていますが、日本国内ではほぼ流通していない名前です。以前から思っていましたが、日本は情報が遅いですよね。こういう部分でもガラパゴス化しているのは困ったものです。私の弱小ブログではじめて日本で紹介された情報がかなりあるということに、若干うんざりしてしまいます。


Euphorbia ellenbeckii
愚痴はほどほどにして、E. ellenbeckiiを見てみましょう。エレンベッキーは1903年に命名されたEuphorbia ellenbeckii Paxです。特に異名などはないみたいです。原産地はエチオピア、ケニア、ソマリアですから、ちょうどアフリカの角にあたる部分ですね。
E. ellenbeckiiがはじめて記載された論文はPax in A. Engler, Botanische Jahrbücher für Systematik, Pflanzengeschichte und Pflanzengeographie 33 : 285 (1903)ということです。古いので探してもないでしょうけど、一応は探してみます。ごく稀に、古い論文を画像データとして公開されていることもあるからです。
どうやら、E. ellenbeckiiは根元から叢生するタイプみたいですが、枝は再分岐せずに15cmくらいになるようです。トゲは螺旋状につき、最大1.5cmくらいでサイズは様々ということです。花は黄色がかったピンク。ソマリアやタンザニアの原産と聞いて高地産と思いましたが、標高150mに分布するといいますからそれほど育て方に難はないかもしれませんね。


さて、現在得られる情報はこの程度です。正直、情報不足は否めません。日本国内の情報はほぼゼロに近いのですが、海外の情報もどうにも今一つですね。ヒットするのは販売サイトばかりです。育て方もよくわかりませんが、取り敢えず分布が近いソマリア原産のEuphorbia phillipsioidesを参照にして育てるつもりです。E. phillipsioidesはソマリアものですが暑さにも強く、強光にも割と耐えます。もし、日焼けの徴候があれば遮光を強目にすれば良いだけです。間延びした姿にはしたくありませんから、なるべく日に当てて水も絞って詰まった株に育てたいものです。


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紅彩閣というユーフォルビアがありますが、本日はその紅彩閣についてのお話です。まあ、たいした話ではありませんが。
この紅彩閣はホームセンターでも売っている普及種で、昔から国内で流通しています。いわゆるサボテンもどきの扱いでした。多肉ユーフォルビアはだいたいそんな扱いでしたけどね。よく枝が出ますが、その枝を挿し木すれば簡単に増やせます。
さて、そんな紅彩閣は園芸店では「エノプラ」という名札が付いていることが多いようです。これは、学名のEuphorbia enoplaから来ています。しかし、このE. enoplaは園芸界では使われていますが、学術的にはほとんど使用されていないことをご存知でしたか?
例えば、地球規模生物多様性情報機構に登録された標本や画像といった学術情報において、E. enoplaの使用はわずか6.4%しかありません。では、どのような名前が使われているかと言うと、Euphorbia heptagonaです。このE. heptagonaは学術情報の実に91.4%を占めています。
他のソースも見てみましょう。まず、原産国である南アフリカの絶滅危惧種のリスト(Red List)では、E. enoplaではなくてE. heptagonaでした。さらに、アメリカ国立生物工学情報センターのデータベースを見ても、やはりE. heptagonaとなっています。もはや、エノプラの名前はただの俗称、良くて園芸名でしかありません。

では、なぜE. enoplaではなくてE. heptagonaとされているのでしょうか? その理由を解説しましょう。まず大事なこととして、生物の学名にはルールがあるということです。各々が勝手に名前をつけて勝手に使用していいものではありません。すべては国際命名規約の定めたルールに従っています。
E. heptagonaの場合は、
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」で簡単に説明がつきます。紅彩閣は過去に複数の学名がつけられてきました。年表をお示ししましょう。

1753年 E. heptagona L.
1858年 E. desmetiana Lem.
1860年 E. enopla Boiss.
1907年 E. morinii A.Berger
1915年 E. atrispina N.E.Br.


以上のように、E. enoplaの前に2回命名されています。一番早いのはE. heptagonaですね。E. enoplaより100年以上前に命名されたEuphorbia heptagona L.こそが正しい学名なのです。ここいら辺の情報は、2012年に出されたP.V. Bruynsの論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』をご参照下さいませ。

というわけで、紅彩閣の正式な名前はE. heptagonaでありE. enoplaは誤りです。また、最初に命名された学名があまり使用されずに忘れ去られていて、別の学名が使用されてきた場合もあります。その場合は名前を本来の正しい学名に戻すと混乱のもとになりますから、よく使われる学名を保存名(保留名、nom.cons.)として正式な学名とし、使われない本来の学名を廃棄名(nom.rej.)として使わない処置をしたりします。しかし、E. enoplaに関しては、あくまでも園芸上の使用でしかなく、学術的に使用されてきたという経緯はありません。ですから、今後学術的にEuphorbia enoplaが使用されることはないとお考え下さい。

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紅彩閣 Euphorbia heptagona L.



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現代医学が幅を利かせているように思われる昨今ですが、未だに世界中で薬草が現役で使用されています。先端医療が行き届いていないという事実もありますが、それだけではないでしょう。伝統的な風習にも関係があります。多肉植物も医療目的で使われることがありますが、なんと驚くべきことに毒があることで有名なユーフォルビアが薬草として利用されていると言うのです。特に世界中で帰化しているEuphorbia tirucalliは薬草として世界中で栽培されています。また、アフリカでも様々なユーフォルビアが薬草として使われていますが、猛毒の矢毒キリンすら薬草なのですから驚かされます。

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矢毒キリン Euphorbia virosa

さて、本日はその矢毒キリンのベナン共和国における薬草としての利用方法について調査した、Gbodja Houehanou, Francois Gbesso, Jhonn Logbo, Jacques EvrardCharles Aguia Dahoによる『Variability between Socio-culture Groups and Generations of Traditional Knowledge of Euphorbia poissonii Pax in Benin』という論文です。

世界保健機関(WHO)によると、発展途上国の世界人口の約65~80%は、貧困と現代医学へのアクセスの困難から薬草に依存しているとしています。アフリカでは薬草は先祖代々の慣習であり、人口の80%近くが薬草を利用しています。薬草の知識は主に口伝による世代間の伝承によります。
この調査はベナン共和国のSavalou市において、Mahi族とNago族のE. virosaの利用方法を調査しました。調査は112人に対する個別インタビューによるものです。Savalouはスーダン - ギニアのサバンナ植生と湿潤熱帯の移行帯に位置しています。岩の多い土壌はE. virosaの生育には適した環境です。現地ではE. virosaは庭や畑で栽培されます。
調査の結果によると、成人のMahiや若いNagoはE. virosaを単純に毒として利用し、成人と老人のNagoは薬用とする傾向があります。また、老人のMahiはE. virosaを魔術的な医療として利用する傾向があります。しかし、統計学的には薬用あるいは毒としての利用が重要でした。調査ではE. virosaの21の用途が明らかとなりました。葉、樹皮、茎、乳液が特定の病気や症状に対して治療目的で使用されました。体の一部あるいは創傷による腫れ、麻疹、サソリ刺されなどの治療においてMahi社会では重要な用途でした。また、成人女性及び老人(女性)、若い男性のMahiは葉を使用する傾向があり、成人男性のNagoと老人Mahiは乳液、老人Nagoと若い女性Mahiは樹皮をより使用する傾向があります。


以上が論文の簡単な要約となります。
矢毒キリンの名前の通りE. virosaは毒性が高いことで知られています。しかし、それはベナンにおいても同様で、E. virosaは毒性が高いと正しく認識されているようです。それでも薬用に用いるのは、強力に人体に作用するからでしょう。それは必ずしも良い作用ばかりではないかも知れませんが…。とはいえ、E. virosaの乳液にはおそらくは未知の化合物も含まれているはずで、すでに抽出された化合物であっても薬理作用は完全に解明されてはいないはずです。このような伝統医療の解明と活用法については、まだ様々な可能性を秘めているように思えます。


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南アフリカは多肉植物の宝庫で、その多様はアフリカでも他の追随を許しません。ユーフォルビアやアロエと言えば南アフリカかマダガスカルですし、ガステリアやハウォルアと言えば断然南アフリカでしょう。そんな多肉植物の楽園である南アフリカですが、大型の樹木のようなユーフォルビアがあちらこちらに生えています。そんな樹木状ユーフォルビアについて書かれた記事を見つけました。

本日ご紹介するのは、Sean Gildenhuysの2006年の記事、『The three most abundant tree Euphorbia species of Transvaal (South Africa)』です。
表題にあるTransvaalとは南アフリカの北部4州であるLimpopo州、Mpumalanga州、Gauteng州、North-West州にあたる地域をかつてはそう呼んでいました。このTransvaal原産のユーフォルビアは割と希少なものが多く、Euphorbia barnardii、Euphorbia clivicola、Euphorbia knoblii、Euphorbia waterbergensis、Euphorbia zoutpansbergensisは分布域が狭く個体数も少ないことが知られています。しかし、記事では分布が広く個体数が非常に多い3種類のユーフォルビアが取り上げられています。その3種類とは、Euphorbia cooperi var. cooperi、Euphorbia ingens、Euphorbia tirucalliで、どこにでも生えるためこの3種類で構成された地域もあります。この3種類は樹木状で大型となります。


Euphorbia cooperi var. cooperi
日本では瑠璃塔の名前で知られているユーフォルビアです。
学名はE. cooperiを英国に紹介した植物収集家・栽培家のThomas Cooperに対する献名です。1900年にThomas Cooperの義理の息子であるN.E.Brownは、王立植物園で栽培されている双子葉植物リストに適切な説明もなくE. cooperiを命名しました。1907年にA.Bergerは多肉ユーフォルビアのハンドブックを出版し、E. cooperiについて適切な説明を付加しました。そのため、現在の学名はE. cooperi N.E.Br. ex A. Bergerとなっています。N.E.Brownが最初に命名したものの、命名規約の要件を満たしていないため、要件を満たしたA.Bergerの名前も入っているわけです。しかし、残念ながらA.BergerのハンドブックのE. cooperiのイラストは間違っていてE. ingensが書かれています。また、Thomas Cooper自体がE. ingensとE. cooperiを混同していたようです。

さて、E. cooperi var. cooperiは約10mほどの高さになります。根元から分岐せずに、枝は上部に固まってつきます。枝は分節構造が積み重なるため、クビレが生じます。
E. cooperi var. cooperiは南アフリカに広く分布し、KwaZulu-Natal、スワジランド、North-West州、Mpumalanga、Limpopo州からモザンビーク、ジンバブエ、ボツワナまで見られます。Limpopo州のPenge地区に固有のE. grandialataと混同される可能性がありますが、E. grandialataの方がトゲが長く、E. cooperiとは異なり花序に柄があります。
E. cooperi var. cooperiの乳液は非常に毒性が高く、皮膚に触れるだけで激しい痛みを引き起こし、水ぶくれや失明の可能性すらあります。E. cooperiの原産地では、E. cooperiの乳液を加熱して「鳥もち」を作り水辺の枝に塗って鳥を捕まえます。また、漁にも使われるそうです。

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瑠璃塔 Euphorbia cooperi

Euphorbia ingens
日本では沖天閣の名前で知られているユーフォルビアです。
E. cooperi var. cooperiと時折見られるのが、Euphorbia ingensです。種小名は「巨大な」という意味で、枝が頑丈で重いことを差します。E. ingensは1831年にJ.F.Dregeにより発見され、1843年にE.Mayerにより記載されました。
E. ingensは高さ10mになり多くの枝を持つ樹木状ユーフォルビアです。E. ingensはKwaZulu-Natal、スワジランド、Mpumalanga、Gauteng、North-West州、Limpopo州、モザンビーク、ジンバブエに自生します。南アフリカにはE. ingensの近縁種はいませんが、より北部ではE. candelabrum、E. kamerunicaなどの近縁種が数種類あります。E. ingensは非常に広範囲に分布するため変動に幅があり、変種あるいは新種が分離される可能性もあります。
Transvaalのユーフォルビアの中でもE. ingensの乳液は非常に毒性が高く、皮膚への刺激性が高く火傷を引き起こします。目に入ると失明の危険性があります。ただし、地元の人は下剤(※)として利用していると言います。また、乳液は潰瘍や癌に効果があるとされているそうです。

E. ingensは材木としても利用されます。E. ingensは生長が早く干魃に強く、Limpopo州ではよく使われます。また、E. ingensは非常に頑丈な生垣として植栽されます。

※記事には詳しく書いてありませんが、おそらくは駆虫薬でしょう。砂糖を入れると書いてありましたが、おそらくかなり希釈するはずです。

Euphorbia tirucalli
日本ではミルクブッシュや緑サンゴなどの名前で知られているユーフォルビアです。
E. tirucalliは樹木状ユーフォルビアの中でも最も有名で、おそらく最も普及しています。E. tirucalliは世界中で帰化しており、その起源は定かではありません。南アフリカでは、東ケープ州からMpumalanga、North-West州、Limpopo州に分布します。E. tirucalliはトゲのない円筒形の枝が分岐する独特のフォルムの植物で、近縁種の多くはマダガスカル原産です。

E. tirucalliは1753年にCarl von Linneにより命名されましたが、タイプはインドで栽培されていた個体から作成されました。このインドのE. tirucalliはモザンビークに立ち寄った初期のポルトガル人によりもたらされた可能性があります。ただ、それ以前にすでに導入済みだったのかもしれません。種小名はインドの住民の呼び方から来ています。
E. tirucalliは低木状から高さ10mに達することもあります。E. tirucalliの乳液はやはり危険ですが、アフリカやインドでは生垣にされてきました。虫の駆除や矢毒、E. tirucalliの乳液を米と煮て鳥もちを作ります。また、乳液は不妊症やインポテンツに効果があるとされ飲まれることがありますが、これは流石に危険性が高く致命的となりかねないようです。さらに、多くの病気(淋病、梅毒など)や癌、イボなどの治療に役立つとされています。
E. tirucalliの乳液の抽出物は石油の代替品として研究され肯定的な結果が得られているそうです。また、乳液をゴムの代用品として使用されましたが低品質です。
E. tirucalliは様々な美しい園芸品種が作られており、挿し木で簡単に増やせることもあり南アフリカでは造園用として盛んに利用されています。


以上が簡単な要約となります。
しかし、毒性の高いユーフォルビアの乳液を薬としようというだけでとんでもないなあと思ってしまいます。しかし、現代の薬自体が毒から作られてきたという事実があります。毒というのは人体に強く作用していることから、作用が分かれば用法容量次第で薬となるのです。E. tirucalliは世界中に生えているせいか、乳液の中の有効成分を解析した沢山の論文が出ています。しかし、逆を言えばユーフォルビアは化学成分の論文ばかりで、植物自体についての論文が少ないのは残念です。知りたいことは山程あるわけですが…



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多肉植物好きとして以前から気になっていることがあります。それはホリダ(Euphorbia polygona var. horrida)が、自生地では寄生植物に寄生されているというのです。現在、ホリダはポリゴナ(Euphorbia polygona)の変種とされていますが、やはりポリゴナも同じ寄生植物に寄生されると言いますから、やはりホリダとポリゴナは近縁なのだろうと感じました。しかし、論文を探ってみると購入しないと読めないものしかなく、半ば諦めかけていました。しかし、最近ホリダについて色々調べていた際、多肉ユーフォルビアに寄生する寄生植物について書かれた論文を見つけました。今まで調べて読めなかった論文とは異なり、ホリダについて書かれた部分は極僅かでしたが、しかし貴重な情報を得られることは大変な僥倖です。

本日ご紹介するのはMaik  Vesteの2007年の論文、『Parasitic flowering plants on Euphorbia in South Africa and Namibia』です。早速内容に入りましょう。
南アフリカとナミビアには67種類の寄生植物が知られており、23種類は茎に寄生し、44種類は根に寄生します。主に樹木を寄生先(宿主)としていますが、Aloidendron dichotomumやCotyledon、Lampranthusなどの多肉植物を宿主とするものもあります。多肉植物ではユーフォルビアの寄生植物で高い多様性が見られます。

まずは根に寄生する寄生植物から見ていきましょう。
ヒドノラ属はアフリカ南部ではHydnora africanaとHydnora tricepsが見られ、ユーフォルビアだけを宿主としています。Hydnora africanaはケープ半島からナミビアのNama Karoo、東は東ケープ州まで広く分布します。対してHydnora tricepsは希少です。植物学者のJohann F. Dregeは1830年にNamaqualandのOkip近くでH. tricepsを発見し標本を採取しました。しかし、Johann Visserが1988年にNamaqualandで再発見するまで忘れ去られていました。分布はNamaqualandとナミビア南部の狭い地域からのみ知られています。H. tricepsはEuphorbia dregeanaに寄生し、他のユーフォルビアが近くに生えていてもE. dregeanaにのみ寄生します。Namaqualandの北西にあるPort NollothではE. dregeanaの10%、ナミビア南部では0.5%以下の寄生率であると推定されています。
Hydnoraは地下で育ち葉がないため、見つけることは中々困難です。しかし、腐敗臭を放つ異様な姿の肉質な花が、地面から地上に出て来て咲きます。悪臭は受粉のためにハエを呼んでいるのかもしれません。果実は食用となり甘味があり、南アフリカ北部のKhoi族は伝統的に利用しています。

次に茎に寄生する寄生植物を見てみましょう。
樹木の枝に寄生するヤドリギはアフリカ南部の乾燥地帯でも一般的です。寄生植物は決まった宿主に寄生しますが、中には相手をあまり選ばない種類もあります。Tapinanthus oleifoliusはAcacia、Aloe、Citrus、Ficus、Rhus、Tamarixや他の種類の寄生植物にすら寄生します。このT. oleifoliusは矢毒キリン(Euphorbia virosa)にも寄生することが知られています。

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矢毒キリン Euphorbia virosa

最小のヤドリギはViscum minimumで、2~3枚の葉を持ち数ミリメートルしかありません。Little Karooから東ケープまで分布します。
1981年にVisserはV. minimumが、ほぼ独占的にEuphorbia polygonaとEuphorbia polygona var. horridaに寄生することを報告しました。実験レベルでは他の28種類のユーフォルビアにも寄生させることに成功しています。しかし、野生状態では分かりません。


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ホリダ
Euphorbia polygona var. horrida(神代植物公園)

以上が論文の簡単な要約です。
ホリダに寄生する植物がいるという話を聞いた時に、驚くとともに非常に興味深く感じました。私は何故かホリダの根に寄生するのだろうと、勝手に思い込んでいました。それがまさか幹に数ミリメートルのゴミみたいなヤドリギがゴマを散らしたようにくっついているとは、予想値にしませんでした。
このように、論文を読むたびに新鮮な驚きがあります。多肉植物の意外性は、私の想像を上回るものがあります。これからも多肉植物の謎を調べて行きたいと思います。



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最近、ムランジーナという名前のユーフォルビアが多肉植物に力を入れている園芸店などに並ぶようになりました。巨大な塊根のようなものから細い枝が複数伸びる不思議な姿です。
実はこのムランジーナを見た時に、これが何なのかよく分かりませんでした。というのも、大型の多肉ユーフォルビアは幹が樹木のように硬くなりますが、ムランジーナはどうもそのようには見えません。胴切りして頭から子を吹かせたわけでもなく、木質化した幹から緑の枝を伸ばしています。どうすればこのような姿に育つのか疑問でした。ですから、初見では塊根だと勘違いしたわけです。しかし、論文を調べてみると、どうも塊根ではなく幹ということで、しかもその異様な幹が形成される理由がわかりました。というわけで、ムランジーナとは一体何者なのか論文を見てみましょう。

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Euphorbia mlanjeana
おそらく挿し木苗ですので、特徴的な幹は見られません。

本日ご紹介するのはJoachim Thiede, Pastor Theo Peter Campbell-Barker, Philip E. Downs & Bruce J. Hargreavesの2016年の論文、『A review of Euphorbia mlanjeana L.C.Leach (Euphorbiaceae) : its habitats on Mount Mulanje(Malawi) and new localities in Mozambique』です。

論文の内容はマラウイのMulanje山に分布するE. mlanjeanaが、モザンビークにも分布していますというものです。新たな産地の報告ですね。しかし、それだけではなく、E. mlanjeanaの命名の経緯や生態も詳しく述べられています。詳しく見てみましょう。

マラウイはマラウイ湖から西に伸びるアフリカ南東部の内陸国です。タンザニア、ザンビア、モザンビークと隣接しています。マラウイの多肉植物は約120種類が知れていますが、ジンバブエの約318種類やケニアの約380種類と比較するとかはり少なく感じます。単純に国土面積が狭いからではなく、国の大部分が標高1500m以上に位置し、気温は低く降雨量もかなり多いということです。
マラウイの植生で興味深いのはMulanje山塊で、植物の多様性が高く約69の固有分類群が知れています。E. mlanjeanaもMulanje山に分布します。"mlanjeana"はMulanje山に由来しますが、よく見ると"u"が抜けています。これは、イギリスの植民地時代の綴りの誤りで、E. mlanjeana命名当時は"u"がないMlanje山と呼ばれていたことが原因です。
E. mlanjeanaは標高1000~1980mの露出した花崗岩の斜面や平らな岩肌に生えます。

E. mlanjeanaのは1973年にL.C.Leachにより命名されましたが、不思議な幹の謎がその時点で言及されていました。どうやら、E. mlanjeanaの自生地は乾燥した草が頻繁に山火事を起こし、E. mlanjeanaは数年しか枝が存続しないように見えると述べています。要するに、家火事により幹の表面は焼け焦げて枝は枯れますが、そのうち細い枝がまた出て来て、しかしまた火事が起きて…、という繰り返しがあの異様な姿を作り出したのです。思いもよらぬ自然現象によるものでした。実生からの栽培では火事に合いませんから、現地球のような姿には育たないそうです。

長い間、E. mlanjeanaはMulanje山でのみ知られる固有種でしたが、Bruynsは2003, 2005, 2006年に2種類の新種の報告の中で、モザンビークの2つの山岳地帯に生えるE. mlanjeanaについてさりげなく言及しました。モザンビークのRibaue山脈とNamuli山塊です。

さて、以上が簡単な論文の要約です。
まさか山火事が関係しているとは思いもよらず、大変な驚きでした。しかし、最近急に輸入されるようになりましたが、もともと個体数がそれほど多くなかったかわけで、これだけの野生株が山掘りされていることはかなり不安です。タンザニアからも輸入があると聞きますから、さらに新産地が見つかったのかも知れません。しかし、山火事という偶然が長い時間をかけて作り出した自生株が急激に失われていくのかも知れません。大変悲しいことです。


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サボテンや多肉植物は乾燥に耐えるために、水分を蓄えるために厚みのある葉、太い根、太い幹など様々な適応が見られます。その中でも高度に多肉化したものとして、サボテン科が非常に有名です。そのため、サボテンは、特に大型の柱サボテンの幹の構造と光合成や貯水の関係性については研究が行われています。
しかし、その種類の多さや多様性ではサボテンと双璧をなすトウダイグサ(ユーフォルビア)科については、その手の研究は行われて来ませんでした。アフリカには沢山の種類の柱サボテン状の巨大なユーフォルビアが自生しますが、ユーフォルビアの幹の構造についての研究した論文を見つけました。それは、2018年のP. W. Rundel, K. J. Esler, T. W. Rundelによる『Canopy architecture and PAR absorption of Euphorbia cooperi in the Matobo Hills, Zimbabwe』という論文です。今回の論文で調査しているEuphorbia cooperiは、日本では「瑠璃塔」の名前で知られています。私も苗を入手して育てています。

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瑠璃塔 Euphorbia cooperi

大型の柱サボテンは、幹にひだ(稜)があります。一般的に水分を貯蔵するだけなら断面は円に近い方が有利でしょう。しかし、乾燥地に生えるサボテンが常に過不足なく水分を貯めているわけではありません。乾季が続けば水分が抜けていき縮み、雨が降ればパンパンに水分を吸収して膨れるわけです。この時に、水分の増減による収縮と膨張を稜が、アコーディオンのように柔軟に調整しているとされています。良く似た姿のユーフォルビアはどうでしょうか?

E. cooperiは10mに達する、沢山の枝が出る樹木状ユーフォルビアです。分布も広く、南アフリカのKwaZulu-Natal、スワジランド、North-West州、Mpumalanga、Limpopo州からモザンビーク、ジンバブエ、ボツワナ、ザンビア、タンザニアにまで及びます。
E. cooperiは幹の上部で沢山枝分かれします。著者が観察したE. cooperiは4稜でしたが、5稜の集団もありました。断面は四角形ではなく、稜の間が凹んだ形でした。E. cooperiは段を重ねるように育ち、円錐形を重ねたような珍しい形になります。
柱サボテン
と柱状ユーフォルビアの違いは、ユーフォルビアの強く木質化した幹と柔軟性のなさです。また、サボテンは稜が浅く断面は円に近くなりますが、ユーフォルビアは稜が深く3~6稜と多様性があります。また、調査したE. cooperiの枝の平均年齢は15歳で、大型の個体では28年ものの枝もありました。

調査はジンバブエ西部のMatobo丘陵の標高1199m地点で行われました。E. cooperiには変種がありますが、調査したのはE. cooperi var. cooperiです。現地はMatobos Batholithと呼ばれる隆起した地形で、ジンバブエと南アフリカの古代の花こう岩からなります。E. cooperiは他の樹木が生えない岩だらけの斜面を好みますが、開けた落葉樹林でも見かけます。E. cooperiは、E. confinalis、E. griseola、Combretum imberbe、Commiphora marlothii、Ficus thonningiなどと共に自生します。
Matobo丘陵は、夏に雨季があり冬は乾燥します。雨季は11月から翌5月まで続き、その間に年間降水量の87%の雨が降ります。雨季の平均最高気温は10月と11月に29~30℃、平均気温は14~15℃です。冬は日中の平均最高気温は21℃ですが、夜は4℃まで下がります。

E. cooperiの幹は木質化するため光合成出来ません。しかし、大型の個体は多くの枝があるために、光合成出来る表面積は非常に大きくなります。調査した133個体の中で最大のものは、合計120mの枝長と43.5m2の光合成面積がありました。E. cooperiはサイズが大きいほど表面積も大きく、表面積が大きい分だけ水分損失が大きくなります。しかし、サイズが大きいほど体積が増すことから貯水量が大きくなり、水分損失をカバーしていることが考えられます。
次に稜がある意味です。枝の周囲の長さと断面積の比率をモデル化して、計算上の水分損失と光合成面積を算出しました。もし稜がない場合、つまり枝の断面が四角形だと、生長により貯水量は増えますが光合成面積は増えませんでした。しかし、稜がある場合は生長により体積あたりの表面積が増加しました。
若いE. cooperiは干魃に敏感である可能性がありますが、生長に従い体積が増して蒸散による水分損失率が最小となり干魃に非常に強くなります。

以上が論文の簡単な要約となります。
理屈は少し分かりにくく、大変申し訳なく思います。これでもかなり要点だけの抽出で簡素化していますが、私の理解力と文章力の限界が原因です。
さて、E. cooperiは古い幹は木質化しますが、この木質化した幹は当然ながら光合成には寄与しません。しかも、大型になるにつれ木質化は進行します。一見して大型化は光合成の効率を下げますが、E. cooperiは沢山の枝を出すことにより光合成の効率を高めているのです。しかも、稜を持つことにより表面積を増加させて、さらに光合成の効率を上昇させています。
しかし、表面積の増加は蒸散による水分損失の増加を招きます。この場合、断面が円に近いほうが貯水量が増加し水分損失率は減少しますから、稜の溝が深いと水分損失率は上昇するでしょう。ただし、これは光合成効率と水分損失率のバランスの話であって、ゼロか百かというものではないでしょう。E. cooperiの場合は、生長につれ太くなる幹は木質化しますから光合成せず蒸散も起こらないでしょう。ですから、木質化した幹は水分の貯蔵という意味では優れています。

乾燥地に生える植物は環境に適応するために、様々な戦略を取っています。その中でも、乾燥への適応度が特に高いサボテンとユーフォルビアで、その大型化に伴い柱状の類似した形状と稜による光合成効率の上昇など、非常に似ていることは不思議です。サボテンはアメリカ大陸で多肉ユーフォルビアはアフリカ大陸と地理的にも離れており、分類も近縁ではありません。それでも、これだけの共通点があるのは、サボテンやユーフォルビアの選んだ道が乾燥に対する最適解であったということを示しているのかも知れません。


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最近、Euphorbia handiensisという珍しいユーフォルビアを入手しました。E. handiensisはカナリア諸島のごく限られた地域でしか見ることが出来ません。しかし、カナリア諸島と言えばEuphorbia canariensisというユーフォルビアが有名です。普及種ですし、名前にカナリアと入っているくらいですから、カナリア諸島を代表する植物の一つでしょう。
日本では「墨キリン」なる名前もつけられているよう。私も墨キリンの苗を入手して3年になりますが、墨キリンは丈夫で育てやすいユーフォルビアです。


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墨キリン Euphorbia canariensis

本日ご紹介するのは、論文ではなくてポスターです。この場合におけるポスターとは何か、説明が必要でしょう。あらゆる学問には学術誌と学会があります。論文は学術誌に載りますが、学会では舞台上の発表とポスター発表とがあります。ポスター発表はポスターが並んだ会場で、ポスターの前で他の研究者に説明したり質問に答えたりします。というわけで、本日はそんなポスターを解説していきます。2021年に発表された、Albert J. Coello, Pablo Vargas, Emilio Cano, Richard Riina & Mario Fernandez-Mazuecosの『Biogeography and phylogeography of Euphorbia canariensis reveal alternative colonization patterns in the Canary Island』です。

E. canariensisはカナリア諸島に広く自生します。カナリア諸島は海底火山の噴火により出来た、7つの島からなる群島です。東側の島が古く、ハワイのように新しい島が次々と出来て海底プレートに乗って移動し、やがて海底に沈むというサイクルがあるようです。カナリア諸島の海底に沈んだ島は白亜紀に形成されたようです。

E. canariensisの遺伝子を解析したところ、意外なことがわかりました。E. canariensisは、同じくカナリア諸島に分布するE. handiensisや、カナリア諸島に地理的に近いモロッコ原産のE. officinarum(大正キリン、異名E. echinus)とは遺伝的に近縁ではありませんでした。E. handiensisはE. officinarumに近縁であることが確認され、アフリカ大陸からの伝播が行われたことが想定されます。
面白いのは、E. canariensisは東南アジア原産のE. epiphylloidesとE. sessilifroraに近縁でした。もちろん、これは東南アジアからカナリア諸島にダイレクトに伝播したことを示しているわけではありません。E. canariensisはE. officinarumからではなく、アジアと共通する祖先から進化したと考えるほうが妥当で、著者はアフリカやアラビア半島を経由していることを想定しています。ただし、調べた種類が少ないので、これ以上の想定は困難でしょう。
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剣光閣 Euphorbia handiensis

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大正キリン Euphorbia officinarum

以上がポスターの主な内容でした。ポスターなので内容は簡潔です。まだまだ詳細はわかりませんが、指針は得られたのではないでしょうか。
さて、個人的には色々と気になることはあります。例えば、E. canariensisはカナリア諸島に広く分布しているのに、E. handiensisは1つの島の狭い地域にしか生えないのは何故でしょうか? また、ユーフォルビア自体が種子を動物に運んでもらう機構はありませんが、それでもE. canariensisはあちこちの島に分布していることは少し不思議です。火山の噴火により出来た島ですから、昔は陸続きで伝播したというわけでもありません。ユーフォルビアの種子が風で島を渡ることはないでしょうから、例えば泥ごと鳥の足についたまま移動することはあるかもしれません。しかし、そうなるとE. handiensisの分布の謎がより難題になってしまいます。まったく、謎はつきません。


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先日、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Euphorbia handiensisという園芸店では見かけないユーフォルビアを入手しました。
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Euphorbia handiensis

早速、何か良い論文はないか調べてみました。
最近では多肉植物の論文をよく読んでいるのですが、残念ながら多肉ユーフォルビアについてはほとんどありません。やはり、多肉ユーフォルビアは南アフリカ原産のものが多いです。南アフリカの多肉植物を研究する学者は、アロエやガステリアについては研究していますが、不思議なことにユーフォルビアの論文はあまり書きません。そんな傾向がありましたから、あまり期待せずに調べたところ、論文があっさりと見つかりました。カナリア諸島がスペイン領でヨーロッパの学者がアクセスしやすいからでしょうか?

さて、まずは研究者が書いた植物の簡単な紹介といった体の記事を見てみましょう。2004年のManuel V. Marrero GomezとEduardo Carque Alamoの『Euphorbia handiensis Burchard』です。
E. handiensisは多肉質な低木で、トゲのあるサボテン状の外観で、高さ1mほどになります。トゲは2~4cmで、8~14本の稜があります。花は黄緑色で赤みがかります。カナリア諸島の原産です。
E. handiensisはFuerteventura島の固有種ですが、南部のJandia半島に追いやられています。
個体群は構成も良く、比較的豊富に幼苗があります。伝統的に危機的とされてきましたが、ここ数年は安定して増加しています。しかし、部分的には家畜による被害と、違法採取が行われています。

次に2022年のMarco Critiniの論文、『Euphorbia handiensis in Barranco de Gran Valle : an endangered Fuerteventura endemic』をご紹介します。
E. handiensisは1912年にOscar Burchardにより記載されました。当時、E. handiensisは非常に一般的でしたが、植物の違法採取と海岸付近の急速な都市化で減少しました。現在、約9の地域に分布します。2004年に
Manuel V. Marrero GomezとEduardo Carque Alamoは回復していると報告(※1本目の解説の記事)がありましたが、少なくとも1つの地域では異なるようです。
著者は2021年8月にBarranco de Gran Valleを訪れました。標高100~150mの谷の下部で沢山のE. handiensisを観察しました。しかし、平行して走る2本の道路沿いには、E. handiensisがありませんでした。道路脇のE. handiensisは悪質な植物泥棒が、車で来て簡単に盗むことが出来ます。また、外来種のリスが種子を食べている可能性と、放牧されているヤギが環境を荒らしている可能性もあります。また、種子に寄生する昆虫の存在により、再生が行われないことも考えられます。
Barranco de Gran ValleのE. handiensisは先行きが不透明です。自然公園内にも関わらず、違法採取とヤギの過放牧が行われています。自然公園内のヤギの放牧の禁止と、違法採取を減らすためにトラックの侵入禁止などの措置を講じる必要があります。

以上がE. handiensisについての情報です。
2004年の報告の楽観的な調子と比べて、それから18年後の報告はやや悲観的です。違法採取は日本でも山野草や高山植物でも大変な問題となっており、世界中で貴重植物を悩ませる難題です。家畜の被害もやはり世界中で砂漠化や貴重な植物の食害がおきていて大問題となっています。日本でも小笠原諸島などで野生化したヤギが小笠原の固有の植物を食害し、それらの植物を食べる動物が激減しています。また、植物がなくなり土壌がむき出しになり、土が海に流出してサンゴ礁が枯死する被害も出ています。これらは中々うまい解決策がないため、基本的に後手後手になりがちです。
いずれにせよ、E. handiensisは世界でもカナリア諸島の1つの島の一部地域でしか見られない大変貴重なユーフォルビアです。E. handiensisが野生で群生する素晴らしい光景は世界で1つしかないのですから、失われてしまわないことを願っております。


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マカレンシス(Euphorbia makallensis)はエチオピア原産のユーフォルビアです。マカレンシスは安価なミニ多肉が園芸店に並ぶこともある普及種ですが、どういうわけがほとんど情報がありません。元より国内のサイトにはたいした情報はないのですが、割と海外のサイトでは詳しい情報が得られることが多いと感じています。しかし、マカレンシスはそれも見つけられませんでした。以前、情報がないということと、学名についてのみの薄い記事を書いたことがあります。
しかし、ネットの情報がダメなら論文を読めばいいのです。しかし、意外とユーフォルビアの論文ってないんです。いや、検索すると沢山出てくるのですが、多肉植物ではないユーフォルビアの論文がほとんどです。しかも、大抵はヨーロッパのユーフォルビアの化学成分についてのもので、アフリカ原産のユーフォルビアは有名な種類について調べても、出てくる論文がない場合が多いと感じています。
そんな中、マカレンシスについて書かれた論文を見つけました。Trevor Wilson & Neil Munroによる2019年の論文、『Euphorbia makallensis Carter, a northern Ethiopia cushion-forming Euphorbia of very limited distribution』です。

1973年、エチオピアのTigray州は繰り返される干魃と飢饉に見舞われました。エチオピア皇帝Haile Selassieの甥である州知事のRas Mengesha Seyoum殿下は、イギリス大使を通じて財政的・技術的な支援を求めました。先ずはイギリスのコンサルタント会社により、Tigrayの植生、土壌、地形が調査されました。農地の開発のためには情報が必要だったのでしょう。
1974年から1975年にエチオピアの開発調査の過程で、小規模な農地の近くにクッション状の植物が発見されました。これが後のマカレンシスです。マカレンシスはトラックで移動する際にはただの岩だと思われていましたが、突如として花を咲かせました。植物は採取され、Addis Ababaの国立植物標本館に持ち込まれました。採取されたのは標高2293m地点でした。数週間後、キュレーターにより新種と判断されました。
標本はイギリスのキュー王立植物園にも送られ、採取地点の調査や、研究のために栽培も行われました。
マカレンシスはIgre Hariba村の近くの約4平方kmの狭い範囲に限定されていました。自生地は標高2260~2385mのAcacia etbaicaと希にEuclea schimperiが疎らに生える、石灰岩を含む玄武岩の岩場と急な丘の中腹でした。

マカレンシスの1975年の栽培の試みは失敗しましたが、キュー王立植物園では成功し、1981年に新種Euphorbia makallensis S. Carterとして記載されました。Carterはマカレンシスは、ソマリア北部とアラビア半島に自生するクッション状ユーフォルビアに関連性があるように見えると述べました。マカレンシスは4稜(希に5稜)で、一見してモロッコ原産のE. resinifera(白角キリン)に似ています。
マカレンシスはTigray中央に限定的と考えられていましたが、2011年に著者のN. Munroは標高2323mにあるHawzenの南、元のグループから北に75kmで、新たな野生のマカレンシスを発見しました。このグループは砂岩由来の土壌に育っていました。

2018年11月初旬、著者の二人はマカレンシスの2つの自生地に赴きました。Igre Hariba村の近くのグループはその分布やサイズに変化はないようでした。Hawzenのグループは開花しているものもありました。マカレンシスの自生地では5月と6月に乾季が終わり、11月の降雨の後に開花します。
マカレンシスは限られた自生地に生えますが、減少している様子はありませんでした。付近の農地とも分かれており、どうやら邪魔にはならないため、農地開発の影響は考えなくても良さそうです。

以上が論文の簡単な解説です。
一般の情報が少ないマカレンシスですが、少し情報が得られました。瓢箪から駒ではありませんが、農地の調査から新種の発見というやや珍しい経緯でした。しかし、マカレンシスは原産地がエチオピア高地ですから、夏の暑さを嫌うのかもしれません。エチオピア高地産と言えばEuphorbia gymnocalycioidesですが、難物として知られています。マカレンシスはE. gymnocalycioidesほどではないにしろ、注意が必要である可能性もあります。普及種ではありますが、思ったより趣深いユーフォルビアなのかもしれません。


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先日、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールへ行って来ました。ビッグバザールでは安目のユーフォルビアやらアロエやらを購入したわけですが、調べてもよく分からないユーフォルビアがありました。以外の記事に書きましたが、公的なデータベースに記載がなかったのです。
そのユーフォルビアの名前は、Euphorbia longituberculosaと言います。ネットで検索すると、国内外のE. longituberculosaの、まあ多くは販売サイトですが割と出てきます。しかし、イギリスのキュー王立植物園のデータベースを検索すると、何故かヒットしません。何かおかしいと思い、E. longituberculosaの論文を検索したところ、『New Euphorbia species Related to E. longituberculosa Boiss』という論文が出てきました。しかし、残念なことに有料の雑誌ですから内容はわかりません。とはいえ、E. longituberculosaという学名が論文で使用されたものであることは確かです。

取り敢えず、データベースに"Euphorbia long"と入れてみます。すると、学名の候補が出てきました。上から、Euphorbia longecornuta、Euphorbia longepetiolata、Euphorbia longeramosa、Euphorbia longetuberculosa…、はいありましたね。どうやら、Euphorbia longituberculosaではなく、Euphorbia longetuberculosaが正しい学名のようです。"longi"ではなく、"longe"でした。
なんでこんなことをしたかと言うと、以前カタカナで書かれた名札がついたユーフォルビアを購入した際、カタカナの名前ではネット検索にすら引っ掛からないので、先ずはスペルを調べるところから始めました。その時の方法がうまくいきました。

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Euphorbia longetuberculosa

しかし、ネット検索では"longi"の方の学名だと沢山ヒットしますが、"longe"の方の学名ではあまりヒットしません。"longi"の学名の方が一般的なようです。しかも、学術論文ですら間違えているとなると、単純な販売業者の記入ミスではないのでしょう。
まあ、論文で誤った学名が使用された挙げ句、その誤った学名が流通してしまった例(Euphorbia venenificaは誤りで、正しくはEuphorbia venefica)もありますから、研究者でも間違うことはあるのでしょう。しかし面白いのは、この論文がKew Bulletinというキュー王立植物園の雑誌で、しかも著者は国立ユーフォルビア協会(IES)の会長であるSusan Carterという事実でしょう。

学名は1862年に記載されたEuphorbia longetuberculosa Hochst. ex Boiss.です。Titymalus braunii Schweinf.という異名もありますが、記載は1863年と1年遅い命名でした。命名規約は命名は早い方が優先しますから、実に惜しかったですね。
命名者はFerdinand von HochstetterとPierre Edmond Boissierです。
E. longetuberculosaはジブチ、エチオピア、ケニア、オマーン、ソマリア、イエメンの原産です。


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ユーフォルビアが好きでチマチマ集めていますが、一鉢一鉢をじっくり見る機会も少なく、いつの間にか育っていたりします。私は基本的に放任栽培で、週1回の水やり以外なにもしません。寒くなってきて多肉植物たちを室内に取り込みましたから、ここぞとばかりにじっくり観察しています。購入時に撮影した画像があったので、生長の具合を比べて見ました。

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2020年2月、鶴仙園西武池袋店にて購入。
墨キリン Euphorbia canariensis
多肉ユーフォルビアでは珍しいカナリア諸島原産。多肉ユーフォルビアは南アフリカからアフリカ東側が多く、北西部の原産種は少ないですよね。とはいえ、墨キリンは普及品ですから国内では珍しくありませんが。


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現在の墨キリン。すっかり大きくなりました。姿が乱れにくいことが墨キリンの特徴です。しかし、渋い色合いです。

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2020年1月、コーナン港北インター店にて購入。
勇猛閣 Euphorbia ferox
トゲが強いユーフォルビアです。普及種ですが美しい種類。しかし、普及種ゆえ軽視されているのか、あまり育てている人の報告を聞かないことは少し残念です。


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現在の勇猛閣。トゲも強さを増し、枝も増えて良い仕上がりです。ちゃんと育てれば普及種だって良いものはあります。

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2020年1月、オザキフラワーパークにて購入。
白樺キリン Euphorbia mammillaris cv.
鱗宝の斑入り品種。ミルクトロンの名前で販売されています。ご覧の通り小さいミニ多肉でした。

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現在の白樺キリン。だいぶ育ちました。白樺キリンにしてはまあまあ太く育ったのではないでしょうか? これだけ斑が入っているにも関わらず、強光に強いので遮光しません。ヒョロヒョロした姿には育てたくありませんからね。

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2020年3月、コーナン港北インター店にて購入。
Euphorbia 
 submamillaris f.pfersdorfii
ホームセンターの環境では限界といった雰囲気でした。

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現在のプフェルスドルフィイ。
すっかり生長して復活しました。下部はかさぶた状でこれ以上は太らないので、ある程度伸びたら切り返して挿し木しますかね。仕立て直しです。


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2020年6月、鶴仙園西武池袋店にて購入。
Euphorbia tulearensis
葉が少なく、薄く縮れが弱い感じです。


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現在のトゥレアレンシス。葉の枚数が増えて、厚みを増し縮れが激しくなっています。枝を伸ばさないで、こんもりと育てたいものです。

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2020年6月、鶴仙園西武池袋店
貴青玉錦 Euphorbia meloformis cv.
非常に美しい斑入り。すごい珍しいというわけでもないのに、非常にお高いユーフォルビアです。


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現在の貴青玉錦。子を吹きました。だいぶ大きくなっときたので、子ははずしても良いかもしれません。非常に丈夫です。

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2020年1月、オザキフラワーパーク
紅彩ホリダ E. heptagona × E. horrida
ホリダと紅彩閣の交配種。ミニ多肉として苗を購入しました。


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現在の紅彩ホリダ。太く育ちましたが、子に埋もれ勝ちになっています。

いやぁ、だいぶ育ちましたね。せいぜい2年くらいですから、たいしたことはありませんが…
ただ大きくするだけではなく、そろそろ仕立て直し必要があるかもしれませんね。



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Euphorbia susannaeは南アフリカ原産のユーフォルビアです。日本では実生苗が大量に出回っているため、すでに普及種として安価で入手可能です。瑠璃晃なる名前も付けられており、園芸店で販売されているE. susannaeに差してある名札によく書かれています。
しかし、驚くべきことに、E. susannaeは絶滅が危惧されている希少な植物であるというのです。
E. susannaeを普及種だと思っている我々日本人からすると、実に意外な話です。

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瑠璃晃 Euphorbia susannae
強い日照を浴びて赤みが増しています。E. susannaeは栽培下では子を盛んに吹いて群生します。しかし、私は栽培条件を厳しくしているため、あまり子を吹きません。現在、直径6cmですが、偏平な形を維持しています。


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子株に花が咲いています。下の葉は雑草なので気にしないように。

さて、本日ご紹介するのはLaaiqah Jabar, Stefan John Siebert, Michele Franziska Pfab, Dirk Petrus Cilliersの2021年の論文、『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。

論文は南アフリカのE. susannaeの自生地を調査することにより、生息環境と個体数の把握を目的としています。南アフリカの希少植物はあまり調査がなされていないため、先ずはその実態を把握するための研究と言えます。
調査によると、E. susannaeはLangebergの北麓に8亜集団が確認されました。分布の東西の幅は、わずか32kmでした。また、集団が道路などのインフラにより分断されてしまっている自生地もありました。調査では野生のE. susannaeの全個体数をカウントしておりますが、なんとE. susannaeの野生株はわずか1845個体に過ぎないことが明らかになりました。保護区域内は良いてして、人が立ち入りやすい区域では盗掘による被害が以前より知られていたそうです。また、牛の踏みつけによる損傷も観察されました。

E. susannaeの自生地は石英からなる砂利と石からなる白い土壌です。何でも、太陽光線を反射することにより土壌の温度を下げる効果があるそうです。
また、E. susannaeの3/4は日陰で生長していることが明らかになりました。その多くは低木の下で、Haworthia arachnoideaとともに育ちます。低木は茂みを作るキク科のDicerothamnus(Elytropappus) rhinocerotisが多いようです。


E. susannaeの花に訪れるのは、その86%はアリでした。E. susannaeはアリにより受粉する虫媒花である可能性が高いとされているようです。また、甲虫類(7%)やハエ(7%)もE. susannaeの花に訪れていました。少し気になったのは、ここでいう「ハエ」はハナアブを含むのかどうかです。論文では、ただ"flies"とあるだけですが、こういう英語の機微はよくわかりません。
ユーフォルビアは一般的に種子が成熟すると、種子を遠くに撥ね飛ばします。それはE. susannaeも同様で、0.6~2.5m以内に種子を飛散させるそうです。しかし、種子に綿毛をつけて風で飛ばしたり、鳥などの動物に運んでもらう他の植物の戦略と比較すると、E. susannaeの種子の分散距離は短いと言えます。これは、親株の近くの方が生育できる環境である確率が高いからかもしれません。乾燥地域の厳しく環境では、例えば低木の下の日陰以外では実生が育たない可能性が大きいでしょう。要するに、種子の落ちる場所はどこでもいいわけではないということです。
また、種子にはelaiosome(種子に着いている栄養分でアリはelaiosome欲しさに種子ごと巣に運ぶ)がないとされていることから、myrmecochory(アリによる二次散布)の可能性は低いと言われていますが確認はされていないようです。アリが地下にある巣に運んでくれると、自動的に地中に埋められることとなり、地上よりも涼しく湿った環境で発芽することができる可能性が高くなります。


どうやら、カナダとアメリカからE. susannaeが大量に世界市場への大量輸出があったようです。これは、あまりに大規模だったため、著者は組織培養による増殖の可能性があるとしています。他の方法ではここまで急激な増殖は難しいとしています。そのため、ここ10年で違法採取は緩和したと見られています。やはり、実生にしろ組織培養にしろ、大量に生産されて普及してしまえば、わざわざ違法採取株を購入する必要がなくなります。市場価格も低下しますから、違法採取の旨味も減じることでしょう。

論文の内容は以上です。今回の調査で、野生での絶滅が危惧されるE. susannaeは2000個体を切る危機的な状況であることが明らかとなりました。しかも、保護されている環境にあるのは、わずか20%に過ぎないこともわかりました。野生生物が現在置かれている状況を先ずは把握しないと、効果的な保護活動は難しいものとなります。そのため、非常に精度の高いこの調査は大変価値が高いものでしょう。貴重な野生のE. susannaeが絶滅しないことを切に願っております。


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Euphorbia apparicianaは今年の9月に開催された秋のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入しましたが、その時の記事で「見た瞬間、南米産のユーフォルビアであることがわかりました。独特の雰囲気があります。おそらくは、ユーフォルビア亜属New World Cladeのブラジリエンセス節なのでしょう。」だなんていい加減なことを言いました。しかし、E. apparicianaの画像を検索すると、まるでリプサリスのように枝分かれしながら横に拡がって育つ姿となることがわかりました。私は購入時の姿のまま直立して育つと早合点してしまったので、ユーフォルビア亜属だと思ってしまったわけです。しかし、この育ちかたからするとユーフォルビア亜属ではありません。では、E. apparicianaは分類学上どの位置にいるとされているのでしょうか?

DSC_1882
Euphorbia appariciana

調べてみると、どうやらChamaesyce亜属のようです。しかし、困ったことに私はChamaesyce亜属に詳しくありません。過去に調べて記事にしたのは、柱サボテン状のユーフォルビアや花キリンなど、多肉ユーフォルビアの大半を含むEuphorbia亜属と、タコものやオベサ、ホリダなどを含むRhizanthium亜属でした。残りのEsula亜属やChamaesyce亜属の大半は多肉植物ではない草本で、雑草や山野草が多いため論文は見つけていたものの、読んでいませんでした。
その論文は2012年のYa Yang, Ricarda Riina, Jeffery J. Morawetz, Thomas Haevermans, Xavier Aubriot & Paul E. Berryの『Molecular phylogenetics and classification of Euphorbia subgenus Chamaesyce (Euphorbiaceae)』です。Chamaesyce亜属のユーフォルビアは学名を見ても馴染みがないので、よくわかりません。というわけで、内容は詳しく読んでいないのですが、とりあえずChamaesyce亜属の遺伝子解析による系統図では、E. apparicianaはChamaesyce亜属Section Crossadenia(クロサデニア節)、Subsection Apparicianae(アパリキアナ亜節)とのことです。Crossadenia節の分子系統を示しましょう。


Section Crossadenia 
    ┏━━☆Subsection Appariciana
━┫
    ┃┏━◇Subsection Gueinziae
    ┗┫
        ┗━▽Subsection Sarcodes

        ┏━━━━☆E. flaviana
    ┏┫
    ┃┗━☆E. appariciana
    ┃
━┫    ┏━━━◇E. gueinzii
    ┃    ┃
    ┃    ┃        ┏━▽E. gymnoclada
    ┗━┫        ┃
            ┃    ┏┫        ┏▽E. sarcodes
            ┃    ┃┗━━┫
            ┗━┫            ┗▽E. goyazensis
                    ┃
                    ┃    ┏▽E. lycioides
                    ┗━┫
                            ┃    ┏━▽E. sessilifolia
                            ┗━┫
                                    ┗▽E. crossadenia

Gueinziae亜節のE. gueinziiだけは南アフリカ原産の塊根植物ですが、それ以外はブラジル原産です。Crossadenia節はE. appariciana以外も面白そうな種類がありそうです。気になったので調べてみるとCrossadenia節について書かれた論文を見つけました。2016年のOtávia Marques, Inês Cordeiro & Ricarda Riinaの『Lovers of sandy habitats and rocky outcrops : Euphorbia section Crossadenia』です。

論文のタイトルにありますように、Crossadenia節は砂質あるいは岩質の過酷な環境を好みます。まずは、このCrossadenia節の話から始めましょう。
Crossadenia節はスイスのPierre Edmond Boissierが1862年に提案しました。この時、E. gymnocladaをタイプ種(分類群を作るための代表種)として確立しました。この時のCrossadenia節は5種類で、E. goyazensis、E. gymnoclada、E. lycioides、E. sarcodes、E. sessilifoliaでした。このうち、E. goyazensis、E. gymnoclada、E. lycioides、E. sarcodesはBoissierが1860年に命名されました。E. sasessilifoliaはBoissierが1862年に命名しています。ただ、命名者はKlotzsch ex Boissとなっており、はじめドイツのJohann Friedrich 
Klotzschにより発表されたが、何かしらの要件を満たしていなかったために、BoissierによりKlotzschを引用して正式に発表したということなのでしょう。
その後、1923年にドイツのFerdinand Albin PaxとKäthe HoffmannによりE. crossadeniaが、1989年にブラジルのCarlos Toledo RizziniによりE. apparicianaが命名されました。さらに、2008年にはM. Machado & HofackerによりE. teresが、そして2012年にはE. flavianaがCarn-Torres & Cordeiroにより命名されました。2013年にV. W. SteinmによりE. riinaeが命名されています。E. riinaeはボリビア原産ですが、それ以外はブラジル原産です。

Appariciana亜節は3種(E. appariciana, E. flaviana, E. teres)、Ephedropeplus亜節は7種(E. crossadenia, E. goyazensis, E. gymnoclada, E. lycioides, E. sarcodes, E. sessilifolia, E. riinae)です。Ephedropeplus亜節とはSarcodes亜節の同義語です。Ephedropeplus亜節は1874年の命名、Sarcodes亜節は2012年の命名ですから、Ephedropeplus亜節が優先されます。

Crossadenia節の特徴はPencil-stem、つまりは棒状の茎を持ちます。Appariciana亜節は脱落性の葉と鋸歯状付属体、5つのシアチアル腺があります。Ephedropeplus亜節はよく発達した葉と4つのシアチアル腺、線毛付属体があります。ただし、E. gymnocladaはEphedropeplus亜節ですが、例外的に5つのシアチアル腺を持ちます。
Crossadenia節の中でE. apparicianaだけはリブ付きの茎を持ちます。つまりは、茎の断面が歯車状となっているのです。
DSC_1884
Euphorbia apparicianaの特殊な茎

ブラジルのセラード(Cerrado、熱帯サバンナ、強酸性の赤土地帯)やCaating地域(トゲのある低木が生える半乾燥熱帯林)に自生するCrossadenia節は3種類(E. appariciana, E. crossadenia, E. gymnoclada)です。E. apparicianaとE. crossadeniaは絶滅危惧種、E. gymnocladaは危急種です。このうち、一般に栽培されているのはE. apparicianaだけです。


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ユーフォルビア属は傷付くと乳液を出しますが、この乳液には毒性があります。この乳液が肌につくと炎症、ひどいと水ぶくれを引き起こすと言われています。ただし、ユーフォルビアの毒性は種類により異なります。ユーフォルビアの中でも特に毒性が強いと言われるのが、Euphorbia poissonii、Euphorbia venenifica、Euphorbia unispinaの、誰が呼んだか「猛毒三兄弟」です。猛毒三兄弟は円筒形の木質化するもあまり太くならない茎を持ち、先端から多肉質の葉を出します。海外では"Cylindrical Euphorbia"なんて呼ばれています。しかし、このEuphorbia venenificaという学名と、Euphorbia unispinaとの関係性については議論があるようです。

DSC_1865
Euphorbia poissonii

本日ご紹介するのは、2020年にOdile Weber、Ergua Atinafe、Tesfaye Awas & Ib Friisの発表した『Euphorbia venefica Tremaux ex Kotschy (Euphorbiaceae) and other shrub-like cylindrically stemmed Euphorbia with spirally arranged single spines』です。
まず、エチオピアを調査してE. venenificaを探しました。さらに、世界中の大学や博物館に収蔵されている標本や資料を調査しました。
資料によると、フランスの写真家、建築家のPierre Tr
émauxがスーダンでE. venenificaと思われるユーフォルビアを発見し、1853年にEuphorbia mamillaris Trémauxと命名しました。しかし、E. venenificaは適切に命名されずかなりの混乱を経験したようです。Euphorbia mamillarisは1753年に命名されたEuphorbia mammillaris L.とmが入らないだけの同名であり混同される可能性があります。1857年にKotschyはE. venenificaに対する新しい情報と説明を提供しました。この時のドイツ語の説明では、Euphorbia veneficaという学名がつけられていました。これは命名規約の要件を満たしたものであり、Euphorbia venenificaと呼ばれている植物は、Euphorbia venefica Trémaux ex Kotschyが正しい学名であるとしています。しかし、その後はSchweinfurth(1862 & 1867, 1873)やBrown(1911)は、E. veneficaではなくE. venenificaと表記しています。
国際命名規約ではタイプミスや正書法の誤りの修正を除いて、元の綴りを保持する必要があるとしています。E. veneficaもE. venenificaも、毒を表す"venenum"というラテン語に基づいています。
ただし、E. veneficaに綴り上の誤りはなく、E. venenificaへの変更は命名規約上は認められないということです。上記のことからE. venenificaについては、ここからはE. veneficaと呼ぶことにします。

さて、Cylindrical Euphorbiaには、E. venefica、E. unispina、E. poissonii、E. sapinii、E. darbandensisが知られています。このうち、E. sapiniiとE. darbandensisは資料が不十分なため、論文では扱われておりません。また、E. veneficaに一見類似したE. sudanicaとE. pagonumは、茎のコルク質があまり発達しないなど、E. veneficaと明らかに特徴が異なります。著者は特徴が一致するE. venefica、E. unispina、E. poissoniiについて、その違いを詳しく調べています。

まず、E. veneficaとE. unispinaは、葉の形に違いがあるとされています。しかし、著者の調べた限りでは、どうやら葉の形の違いはE. veneficaの個体ごとの変異幅の範囲に収まってしまうと言います。E. veneficaは東アフリカ、E. unispinaはギニア湾沿いから東アフリカまで広く分布します。しかし、どちらかと言えば東アフリカと西アフリカで葉の形が異なるのではないかと述べています。つまりは、今まで言われてきたE. veneficaとE. unispinaの特徴は、どうやら当てはまらないということになります。よって、E. veneficaとE. unispinaは区別出来ない以上は、これらは同種であるというのが著者の主張です。

では、E. veneficaとE. poissoniiの関係はどうでしょうか。E. poissoniiの際立った特徴として、トゲがないことがあげられます。また、若い苗ではまれにトゲが見られることもあるそうです。ただし、1992年のNewtonのレビューでは、トゲの有無によるものではなく、大きい緑色のCyathia(Euphorbia特有の杯状の花)を持つものをE. poissonii、小さく赤色のCyathiaを持つものをE. unispinaとしました。ところが、Cyathiaの色は乾燥標本にすると色褪せてしまうため、過去の標本で確認出来ませんでした。
また、雄花が赤くなることがあると趣味家に指摘されることがあるそうです。また、実際の植物のCyathiaの観察では、種類ごとの共通した特徴は見られませんでした。
さて、やや混沌としてきましたが、E. poissoniiに関する歴史を振り返ります。1969年にRauhは植物園で行われた発生形態学的研究により、E. poissonii、E. venefica、E. unispina、E. sapinii、E. darbandensisは、同一種内であっても葉の形状とトゲの形成にはバリエーションがあるとしています。したがって、これらをE. venenifica(=E. venefica)の変種と見なすことを提案しました。2004年にArbonnierはRauhの結論に同意して、E. venefica、E. unispinaをE. poissoniiと同種であるとしました。しかし、
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」からすると、これは誤りです。E. veneficaは1857年、E. unispinaは1911年、
E. poissoniiは1902年の命名ですから、命名が一番早いE. veneficaとされるべきです。
ただし、著者は詳細にE. veneficaとE. poissoniiの特徴を比較検討した結果、特徴が異なることを明らかにしました。よって、E. veneficaとE. poissoniiは別種とすべきとしております。

E. venefica
・トゲはよく発達し長さ8mmまで。
・果実の小花柄は5mm以内。

E. poissonii
・トゲは若い苗の時はあるが、成体では全くないか未発達。
・果実の小花柄は5mm以上。

以上が論文の内容となります。著者の主張をまとめますと、E. venenificaという学名は誤りで、正しくはE. venefica、②E. veneficaとE. unispinaは同種であり、E. veneficaとすべきである、③E. veneficaとE. poissoniiは別種、ということになります。このうち、①と③は認められていますが、②はこれからかもしれません。イギリス王立植物園のデータベースでは以下のようになっていました。


Euphorbia venefica
                  Trémaux ex Kotschy, 1857
    異名 : Euphorbia mamillaris 
                   Trémaux, 1853
               ※nomen illegitimum
・Euphorbia unispina N.E.Br., 1911
・Euphorbia poissonii Pax, 1902

ちゃんと、E. venenificaはE. veneficaとなっていますが、E. unispinaは健在です。また、E. mamillarisは
nomen illegitimum=非合法名とされております。

最後にE. poissoniiについて、私の所有苗を観察してみます。
DSC_1875
葉の付け根に2~3mmの小さなトゲがありますが、脆くて直ぐに脱落してしまいます。生長すると出なくなるのでしょうか。

DSC_1877
若い葉は先端が平らで、頂点は少し尖ります。

DSC_1878
成熟した葉は先端がやや凹みます。

まとめ : 猛毒三兄弟の長男はE. venenificaと呼ばれがちでしたが、本名はE. veneficaでした。次男はE. poissoniiです。三男E. unispinaは長男E. veneficaと同一人物でした。


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Euphorbia robecchiiはエチオピア、ケニア、ソマリア、タンザニア原産のユーフォルビアです。
購入時だけ何故か名札にはEuphorbia robechchiiとありました。少し検索すると"robechchii"という名前で販売されていることが多いようです。どうやら、販売されている種子に"Euphorbia robechchii"とラベルされているようで、生産者さんも種子の情報通りに名前を書いているのでしょう。
さて、学名は1897年に命名されたEuphorbia robecchii Paxです。Paxはドイツの植物学者のFerdinand Albin Paxのことです。異名としては、1911年(publ. 1912)に命名されたEuphorbia pimeleodendron Paxや、1916年に命名されたEuphorbia ruspolii Chiov.が知られています。
DSC_1459
Euphorbia robecchii

しかし、Euphorbia robecchiiを調べてもあまり情報がありません。まあ、園芸的に重要ではないので仕方がないことです。要するに流行りではないのでしょう。とは言うものの、これだけの内容だと記事としてはあまりにも寂しい気がしますから、論文を漁ってみました。すると、いつもとは毛色の異なる面白い論文がありました。
本日ご紹介するのは、スイスのP.R.O.Ballyの1954年の論文『TREE-EUPHORBIA AS TIMBER TREES』です。今から70年近く前の貴重な写真もありましたから、せっかくなので掲載しました。

早速内容に移りましょう。
熱帯アフリカに自生する大型のユーフォルビアは、幹が木質化して樹木のように育ちます。このような大型のユーフォルビアはいわゆる「燭台の木」(Candelabrum Trees)と呼ばれますが、経済的な価値はないと考えられています。

しかし、現地では昔からユーフォルビアを様々な用途で利用されてきました。乾燥させた枝は火を運ぶのに使われました。「燭台の木」の枝は一度火が着くと、何時間もくすぶり続けるということです。また、キクユ族(Kikuyu)は「燭台の木」の髄を強壮剤や肥育剤として利用します。乳液は水で薄めて人や牛の駆虫薬として使用されます。ただし、ユーフォルビアの乳液には大なり小なり毒性がありますから、危険性は当然ながらあります。その毒性を利用して、実際に矢毒や漁にも利用されているくらいです。

乳液にはゴムの原料となるラテックスが含まれています。第二次世界大戦中、日本のアジア侵攻によりヨーロッパではゴム不足となりました。そのため、代替品としてユーフォルビアからゴムを得ようと分析されたことがあります。しかし、ゴムの含量には問題ありませんでしたが、ゴムだけを分離する事が当時は技術的に困難だったとのことです。

しかし、経済的に重要なユーフォルビアが2種類あります。ひとつはエリトリアに膨大な個体数を誇るEuphorbia abyssinicaです。
DSC_1823
Euphorbia abyssinica
アビシニカは高さ40フィート(約12.2m)に達し、太く真っ直ぐな材が取れます。イタリア人は「柔軟で平行な繊維」を持つE. abyssinicaの材がマッチ製造に適していることを発見し、国内消費用だけではなく、輸出用のマッチも製造していました。また、材の削りかすやおが屑などの廃棄物をパルプ化して、強い茶色の紙が作られています。
ただし、残念なことにE. abyssinicaは非常に生長が遅く、伐採後の植樹がなされていないため、いずれ資源が枯渇するのは時間の問題です。

ソマリアの沿岸地域では背が高くなるEuphorbia robecchiiが豊富に生えています。幹は木質化しますが、上部で枝分かれした枝も木質化するため、一見して普通の樹木のように見えます。
DSC_1820
Euphorbia robecchii

川のほとりに沿ってイタリア人の運営する巨大なバナナのプランテーションがあり、その運搬のために木箱が必要でした。しかし、アフリカで木材を得るのは困難でしたから、E. robecchiiの材が用いられました。


DSC_1821
切り出されたE. robecchiiの幹

Euphorbia robecchiiの乳液は刺激性が高く毒性が強いことが知られています。極少量でも炎症を引き起こし、皮膚に水ぶくれが出来ると言います。そのため、E. robecchiiを伐採する前に火で樹皮を焦がして、乳液を取り除く必要があります。


DSC_1822
E. robecchiiの材から作られた木箱

E. robecchiiの材は乾燥させてからカットし、木箱を作ってバナナを詰めます。木箱に入ったバナナは船で運ばれて行きます。
E. robecchiiはソマリアだけではなく、ソマリランドやタンザニアにも広く分布する事から、資源として有望です。

以上が論文の要約となります。もちろん、現在はこのような使われ方はしていないでしょう。しかし、現地の古くからの民間利用は今でもなされているのでしょう。
この論文は著者の意図したことではないでしょうが、結局はヨーロッパ諸国が植民地でいかに金を儲けるか、産業利用の可能性についての内容となっています。まあ、著者はあくまで研究者ですから、ただありのままを報告しているに過ぎませんから、実際にはプランテーション経営やユーフォルビアの産業利用とは縁がないとも言えます。
しかし、これは実際にあったことで、小さなことですが歴史の1ページであることは間違いありません。この論文が電子ファイルとして保存されていることを今は喜ぶべきなのでしょう。


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ギムノカリキオイデスはエチオピア原産のユーフォルビアです。名前の通りまるでサボテンのGymnocalyciumの様な姿をしています。一般に栽培難易度は高く、自根での栽培は困難とされているようです。ですから、一般的には他のユーフォルビアに継木して育てます。ギムノカリキオイデスは継木で育てると、生育は良く普通に育てることが出来ます。
私の入手したギムノカリキオイデスは、おそらくは継木株由来のカキコで、干からびた貧弱な根しかありませんでした。今年の6月の五反田TOCのビッグバザールで購入しましたが、しばらくは発根管理していて最近ようやく根が多少張ったかな? くらいの感覚です。おそらくは、これからは根の状態に右往左往させられる予感がないではないと言ったところでしょうか。


DSC_1819
Euphorbia gymnocalycioides

しかし、ギムノカリキオイデスは何故そこまで難易度が高いのか気になります。とりあえずは、ギムノカリキオイデスに関する論文を漁ってみました。というわけで本日ご紹介するのは、ギムノカリキオイデスを新種として初めて報告したM. G. Gilbert & Susan Carterの1984年の論文『A Cactus-like Euphorbia from Ethiopia』です。

1929年にChiovendaは、Euphorbia turbiniformisを記述する際に、2つの標本を引用しました。それは、ソマリアの北東海岸近くと、もうひとつはエチオピア南部のSidamo地方です。ソマリアの標本は1966年にBallyがレクトタイプ(正模式標本が指定されていない、正模式標本が行方不明、正模式標本が複数種含まれていた場合に選出される選定基準標本)としたものと特徴はほぼ一致します。レクトタイプの標本は1924年の採取でしたが、1969年にタイプ標本の採取地の南南西150km地点でLarvanosにより再発見されて1971年に報告されました。Ballyがソマリアの標本をE. turbiniformisのレクトタイプとして指定しましたが、エチオピアの標本(=後のE. gymnocalycioides)には名前がありませんでした。しかし、1982年にエチオピアの植物収集のための遠征隊により再発見されましたが、残念ながら持ち帰った植物は枯れてしまいました。1年後、別の遠征隊が同じ地域を訪れ4個体の植物を持ち帰りました。それらはすべて栽培に成功し、そのうち1個体が開花しました。その開花個体の情報に基づいて論文は書かれたとのことです。

 E. gymnocalycioidesは標高1350mのAcacia-Commiphoraのブッシュがある地域で発見され、開けたキツネノゴマ科の特にBarleriaの低木の下で育ちます。同じような環境でEuphorbia actinocladaがみられ、ブッシュのある地域ではEuphorbia glochidiataがみられました。
この地域の降水量は4~5月と11~12月にピークがあるはっきりとした二峰性でした。栽培するにあたっては、春・秋型として扱うのが最善かもしれません。多くの東アフリカの多肉植物と同様に、夏に休眠期間があります。

E. gymnocalycioidesはE. turbiniformisとは明らかな別種ですが、この2種は特徴から見て近縁と考えられます。また、E. gymnocalycioidesはアフリカ北東部やソマリアに、特徴の類似したユーフォルビアが分布します。Euphorbia columnarisやEuphorbia phillipsiae、Euphorbia mosaica、Euphorbia horwoodiiはE. gymnocalycioidesと特徴に連続性があるとしています。つまり、似ている部分と異なる部分があり、上記の種の間で遠近があるということです。E. gymnocalycioidesはトゲを失う方向性に向かったものということになります。

さて、とりあえず論文を読んだ感想てしては、ギムノカリキオイデスは高地性で、夏に暑がるタイプのようです。ソマリアものと同じ扱いということでしょう。しかし、私もソマリアものはE. columnarisやE. phillipsiae、E. phillipsioidesなどはなんだかんだで育てていますが、実のところ育て方はよく分かりません。日本で夏に涼しくというのは難しいので断水したくなりますが、ユーフォルビアは完全断水をすると根にダメージがあるため、断水はしたくないですね。E. phillipsiaeあたりは少し遮光するだけで夏を越しますし、E. phillipsioidesは遮光し過ぎると形が崩れやすいのであまり遮光しない方が良いみたいです。このように、一口にソマリアものと言えど結構育て方に違いがありますから、ギムノカリキオイデスについても悩みどころです。とりあえずは、真夏だけ強目に遮光する形にしようと考えています。


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玉鱗宝Euphorbia globosaは南アフリカ原産のユーフォルビアです。玉を重ねるように育ち独特の姿となります。先月五反田TOCで開催された秋のサボテン・多肉植物のビッグバザールで購入しましたが、ユーフォルビアの中ではやや珍しい部類と言えます。しかし、玉鱗宝自体を見たのは初めてではなく、何度か園芸店で見かけていました。しかし、どうも玉鱗宝は徒長しやすいらしく、新しい球が針のように細長くなってしまっていました。そのため、なかなか手が出せずにいたのですが、ようやく徒長していない玉鱗宝を入手することが出来ました。
DSC_1807
玉鱗宝
Euphorbia globosa

そういえば、Euphorbia pseudoglobosaという玉鱗宝と似た育ち方をする種類もあります。"pseudo-"はラテン語で「偽の」という意味ですから、玉鱗宝Euphorbia globosaに似ているという意味ですね。しかし、E. pseudoglobosaは、玉鱗宝ほどきれいな球形にはなりません。表面に凹凸が少なくツルツルした玉鱗宝と比べて、E. pseudoglobosaはイボが目立ちます。見分けるのは難しくありません。
DSC_1323
Euphorbia pseudoglobosa

玉鱗宝の学名は、1826年に命名されたEuphorbia globosa (Haw.) Simsです。玉鱗宝はユーフォルビアでは珍しく、初めて命名された時はユーフォルビアではありませんでした。初めて命名された時は、1823年のDactylanthes globosa Haw.でした。このDactylanthesは現存しない属名ですが、Dactylanthes hamata(=Euphorbia hamata)、Dactylanthes patula(=Euphorbia patula)、Dactylanthes tuberculata(=Euphorbia tuberculata)を含んでいました。また、1859年にはMedusea globosa (Haw.) Klotzsch & Garcheという学名がつけられたこともあります。Meduseaもまた現存しない属名で、主にタコものユーフォルビア(メドゥソイド)を含んだグループでした。
DSC_1767
花は特徴的です。

1906年にはEuphorbia glomerata A.Bergerと命名されましたが、これは認められておりません。しかし、属名の変更ならいざ知らず、A.Bergerの命名より83年も前に命名された玉鱗宝にわざわざ新たに学名をつけたのは何故なのでしょうか? 今から100年以上前の話でインターネットもありませんから情報が得にくかったのかもしれません。この場合、最低1959年のMedusea globosaとした論文を読んでいる必要がありますが、印刷された関係論文をすべて集めるのは中々困難だったことは想像に固くありません。まあ、単純に別種と考えて新たに命名しただけの可能性もありますが、このような経緯は学名からだけではわかりませんからどうにも気になってしまいます。1906年のA.Bergerの論文を読めばいいだけなのですが、古いもの故に誰かが紙の印刷物を電子ファイルにして公開してくれていないと読むことは出来ません。

E. 
glomerataの情報はイギリス王立植物園によるもので、その記載は"Sukkul. Euphorb.:104(1906)"によるものです。一応、期待しないで探してみたところ、なんと当該論文が画像ファイルでアップされていました。親切な人ありがとう。学術誌のタイトルは"Sukkulenta Euphorbien"で、Alwin Bergerが執筆しているもののようです。内容はドイツ語なので良くわかりませんが、とりあえず104ページを見てみます。すると、何故か見出しは太字で"E. globosa Sims"とあります。なんだ、A.Bergerは玉鱗宝についてよく知っているじゃあないですか。しかも、その後ろに"Dactylanthes globosa Haw."、"E. glomerata Hort."とありました。学名の変遷までばっちり抑えています。しかし、良く見るとE. glomerata Hort.とあります。これは、Hort.が命名したE. glomerataを異名として、A.Bergerが記載したように見えます。では、なぜ一般的にはE. glomera Hort.ではなく、E. glomera A.Bergerとされているのでしょうか。大変不思議です。もしかしたら、Hort.の記載に何か問題があったのでしょうか? わかりませんが、A.Bergerがこの学術誌を正式な形で報告したということに意味があるのかもしれませんが、憶測ばかりで何もわかりません。私はここでギブアップです。

さて、当該論文には1906年当時の玉鱗宝の写真が記載されています。こういうものは滅多に目にするものではないでしょう。せっかくですから当時の写真を掲載してみました。

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Sukkulenta Euphorbien,1906 : Alwin Berger
大型の株です。100年以上前の現地球でしょうか?




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私はユーフォルビアをチマチマ集めたりしていますが、ユーフォルビア属と近縁とされるモナデニウム属にはあまり興味がありませんでした。というのも、ユーフォルビア属自体があまりにも多様で種類が多いため、モナデニウム属まで手が回らないためです。そのため、モナデニウムを調べたりもしないので、あまりイメージがありませんでした。しかし、2013年に発表された『Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文を紹介する記事を書いた時に、モナデニウム属がユーフォルビア属に含まれているということを書きました。私も論文を読んで初めて知ったのですが、その際に論文に出てくる旧モナデニウム属の種類を調べたところ、その多様な姿に驚かされました。

以前の記事はこちら。
しかし、その時の論文が初めてモナデニウム属がユーフォルビア属に含まれることを明らかにした論文であるかはわかりません。まだちゃんと読んでいないのですが、2006年のPeter Burynsらの『A New Subgeneric Classhfication for Euphorbia (Euphorbiaceae) in Southern Africa Based on ITS and psbA-trnH Sequence Data』において既に述べられているみたいです。他にも根拠論文はあるかもしれませんから、もう少し調べてみるつもりです。

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幹だけではなく、葉裏の葉脈にもトゲがあるのは面白く感じます。

以前、園芸店に鉢を買いに行った際、変わった多肉植物を見つけました。手に取ると、なんとモナデニウムで、ラベルには"Monadenium magnificum"とありました。私の古いイメージではモナデニウムはM. schubeiの様な姿を想定していたので、なにやら驚いた記憶があります。私にとっては初めてのモナデニウムですが、これは非常に面白い植物だと思いました。

2013年の『Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』では、E. magnificaの遺伝子解析による分子系統は以下の通りです。近縁種はタンザニア原産です。

            ┏━E. magnifica
        ┏┫
        ┃┗━E. neoarborescens 2
    ┏┫
    ┃┗━━E. neoarborescens 1
┏┫
┃┗━━━E. spectabilis

┗━━━━E. neococcinea


E. magnificaは高さ1.5~2メートルくらいになるそうですから、旧モナデニウムの中ではかなり大型になります。一応は低木扱いとなるみたいです。塊根性。

さて、上の方で述べた通りモナデニウム属はユーフォルビア属に変更となりました。学名は1940年にMonadenium magnificum E.A.Bruceでしたが、2006年にはEuphorbia magnifica Burynsとなりました。良く見ると種小名の語尾も変更されています。ラテン語では、"-um"は単数形で"-a"は複数形らしいのですが、文法上のことでしょうから残念ながら私にはさっぱりわかりません。
しかし、モナデニウム属は個性的ですから、学術的にはユーフォルビア属でもやはり区別しておきたい思いがあります。ラベルには"Monadenium magnificum"の学名を記入しています。まあ、ユーフォルビア属に変更となったことを理解していればいいことだけですから、ラベルはわかりやすさ優先です。
しかし、学名は統合したり分離したりすることもありますから、元のラベルの表記は残しておかないと、後々訳がわからなくなるかもしれません。


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以前、笹蟹丸と紅キリンの関係について記事にしました。

この記事では、笹蟹丸Euphorbia pulvinataと紅キリンEuphorbia aggregataは同種であり、E. aggregataという学名はE. pulvinataの異名であるというものでした。
これは、海外のサイトを色々探った時に出てきた情報です。園芸サイトだけではなく、学術的な植物のデータを収集しているような幾つかのサイトでも、やはり2種は同種であるとありました。最終的には、『GBIF』(Global Biodiversity Information Facility)という学術的な情報に基いて、学名を収集しているサイトの情報を確認しました。
しかし、『World Checklist of Vascular Plants』というイギリス王立植物園が主宰するサイトの情報においては、E. pulvinataとE. aggregataはそれぞれ別種とされています。このサイトの情報は、正式な学名と異名について、出されている学術論文を参考にして検討する学術雑誌を出しており、新しい情報があれば改定されたりします。GBIFもWorld Checklist of Vascular Plantsを根拠としていますから、GBIFは情報が古いのかもしれません。

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笹蟹丸
Euphorbia pulvinata Marloth, 1910

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紅キリン
Euphorbia aggregata A.Berger, 1907 publ. 1906


ここで、疑問が湧きます。では、E. pulvinataとE. aggregataが同種であるという情報はどこから来たのでしょうか? 調べたところ、2012年に南アフリカの植物学者であるPeter Vincent Bruynsによる『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』という論文から来ているようです。驚いたことに、実は既に読んだことがある論文でした。World Checklist of Vascular Plantsでもこの論文を根拠としているユーフォルビアもありますから、内容をチェックしたことがあったのです。この論文の内容は、南アフリカに分布するユーフォルビアの種類と学名の妥当性を検討するというものです。問題のE. aggregataは"除外された名前"とされています。一体どういう意味なのでしょうか?
この論文においてE. aggregataは、E. pulvinataやE. feroxと同種ではないかを確認する必要があるとあります。あるいは、E. aggregataはカルー東部の広い範囲に分布し、E. pulvinataやE. feroxとの中間体である懸念を指摘しています。果たしてこの擬義が如何にして解消されたのかは私にはわかりませんが、とにかくこの論文のE. aggregataに関する記述は認められていません。その根拠を探して論文を探してみましたが、残念ながら見つけられませんでした。様々なサイトではE. aggregataについて異名の疑いを示してはいるものの、現在ではE. aggregataを承認する形となっています。

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勇猛閣
Euphorbia ferox Marloth, 1913

それでも気になるのは、やはりその根拠です。Bruynsの論文の当該部分を否定するならば、当然ながら議論があるはずです。しかし、よくよく考えて見ると、Bruynsの"懸念"が何らかの根拠に基づいているのか、その考え方の妥当性自体に誤りがないのかはわかりません。そもそもこの懸念が議論に値するものであるのかどうかすらわかりません。単純に妥当性なしとされただけのことかもしれません。とはいえ、それも確証はないため気になっている部分ですから、今後も論文の調査は行っていくつもりです。



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逆鱗竜は南アフリカ原産の非常に丈夫なユーフォルビアです。ただし、引き締まった美しい姿を維持するのは中々困難なように思えます。
逆鱗竜はとにかく生長が早く、冬でも日中暖かいと生長を始めてしまいます。しかし、冬は日照が不足勝ちなので、節が伸びたようなだらしない姿になってしまいます。それだけならいいのですが、日照の多い真夏でも徒長してしまうので困っています。
一応、ホリダと同じように育てていますから、割と厳しめなはずなんですけどね。

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逆鱗竜の実生苗。こちらは真夏に徒長してしまいました。
幹の下部と比べて上部の鱗片が縦長になっています。無遮光で雨に当てない栽培ですが、週1回の水やりでもこうなってしまいました。それこそ、用土が完全に乾いたらではなく、限界まで水をやらない方がいいのかもしれません。


逆鱗竜の学名は1804年に命名されたEuphorbia clandestina Jacq.です。
分類学的には、ユーフォルビア属(Euphorbia)、アティマルス亜属(Subgenus Athymalus)、アンタカンタ節(Section Anthacanthae)、フロリスピナ亜節(Subsection Florispinae)、トレイシア列(Series Treisia)ということになります。トレイシア列と言えば、逆鱗竜
に良く似たE. bubalina(昭和キリン)、E. pubiplans、E. clava(式部)などが含まれます。

フロリスピナ亜節の分子系統(抜粋)
    ┏━━━━━━━━Series Meleuphorbia
    ┃
    ┃        ┏━━━━━E. pillansii
    ┃    ┏┫
    ┃    ┃┗━━━━━E. pseudoglobosa 2
    ┃┏┫
    ┃┃┃┏━━━━━E. pseudoglobosa 1
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗━━━━━E. mammillaris 2
    ┃┃
    ┣┫    ┏━━━━━E. heptagona 2
    ┃┃┏┫
    ┃┃┃┗━━━━━E. heptagona 1
    ┃┣┫
┏┫┃┗━━━━━━E. susannae
┃┃┃
┃┃┃┏━━━━━━E. clandestina
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━━━━E. pubiglans
┃┃
┃┃┏━━━━━━━E. bubalina 2
┃┃┃
┃┣╋━━━━━━━E. bubalina 1
┃┃┃
┃┃┗━━━━━━━E. clava
┃┃
┃┗━━━━━━━━Series Rhizanthium

┗━━━━━━━━━Series Hystrix

メレウフォルビア列(Series Meleuphorbia)とされた、E. heptagona(紅彩閣)、E. susannae(瑠璃晃)、E. pillansii、E. pseudoglobosa(稚児キリン)も分子系統では近縁であるように見えます。とても不思議です。



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2013年に発表された『A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文の紹介の続きです。今日はアンタカンタ節の残り3亜節、メデュセア、ブセウデウフォルビウム、ダクティランテスを紹介します。メデュセア亜節はいわゆる「タコもの」で、ユーフォルビアの中でも特に変わった姿をしています。

Subgenus Athymalusの分子系統
            ┏━━★Section Anthacanthae
        ┏┫
        ┃┗━━Section Balsamis
        ┃
    ┏┫┏━━Section Somalica
    ┃┃┃
    ┃┗┫┏━Section Crotonoides
┏┫    ┗┫
┃┃        ┗━Section Lyciopsis
┃┃
┫┗━━━━Section Pseudacalypha

┗━━━━━Section Antso

Section Anthacanthaeの分子系統

    ┏━━★①Subsection Medusea
    ┃
┏┫┏━★②Subsection Pseudeuphorbium
┃┗┫
┫    ┗━★③Subsection Dactylanthes

┃┏━━Subsection Florispinae
┗┫
    ┗━━Subsection Platycephalae

①Subsection Medusea
分子系統を見て感じるのは、種数の割に分岐が少ないことです。これは、メデュセア亜節が最近分岐したからかもしれません。論文はアティマルス亜属のそれぞれ節の関係性、あるいはアンタカンタ節の中の亜節の関係性を見ることを目的としていますから、種ごとの分離はいまいちとなることもあります。例えるなら、大きい定規で測ってみるものの、目盛りが大きすぎて細かい部分は測れないようなものです。
メデュセア亜節は、その姿から「タコもの」とか「メデュソイド」などと呼ばれます。

E. namaquensisは南アフリカ原産の亜低木で
太い幹から短い枝が伸びて枯れて残ります。E. namibensisはナミビア原産で、「蛮童子」と呼ばれます。太い幹から多肉質の枝を伸ばします。E. filiferaは南アフリカ原産で、「魔女の簪」と呼ばれます。太い幹から多肉質の枝を伸ばし、先端からは細長い葉を出します。E. caput-medusaeは南アフリカ原産で、「天荒竜」と呼ばれます。大型のタコもので、太く長い多肉質の枝を伸ばします。
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荒天竜 Euphorbia caput-medusae

E. restitutaは南アフリカ原産で、縦長に育ち細い多肉質の枝を伸ばします。E. fasciculataは南アフリカ原産で、「歓喜天」と呼ばれます。「闘牛角」と似ていますが、枯れ枝はやがて脱落します。E. schoenlandiiは南アフリカ原産で、「闘牛角」と呼ばれます。棍棒状に育ち、枯れた枝が長く残ります。
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闘牛角 Euphorbia schoenlandii

E. braunsiiは南アフリカ、ナミビア原産で、「仏面キリン」と呼ばれます。塊根から卵型の多肉質の枝が群生し、枯れた花柄が残ります。E. crassipesは南アフリカ原産で、「倶利伽羅玉」と呼ばれます。縦長に育つタコものです。E. deceptaは南アフリカ原産で、「緑鬼王」と呼ばれます。枝の短いタコものです。E. flanaganiiは南アフリカ原産で、「孔雀丸」と呼ばれます。細い多肉質の枝を伸ばす小型のタコものです。
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孔雀丸 Euphorbia flanaganii

E. hypogaeaは南アフリカ原産で、「螺髪竜」と呼ばれます。細長いイボに被われた縦長の多肉植物で、先端から葉を出します。E. procumbensは南アフリカ原産で、枝が長く伸びるタコものです。E. anbipolliniferaは南アフリカ原産で、小型のタコものです。E. breviramaは南アフリカ原産で、小型で枝が短いタコものです。E. haliiは南アフリカ原産で、縦長に育つ鱗片状の幹を持ちたす。葉は細長い鞭のようです。E. aridaは南アフリカ原産で、「白仏塔」と呼ばれます。タコものですが、下部が木質化して縦長に育ちます。E. davyiは南アフリカ原産で、「蛇鱗丸」と呼ばれます。小型のタコもので、塊根性です。E. esculentaは南アフリカ原産で、「閻魔キリン」と呼ばれます。太く枝を出す大型のタコものです。E. friedrichiaeは南アフリカ、ナミビア原産で、「白鬼塔」と呼ばれます。棍棒状の幹から尖った短い枝を伸ばし、枯れた後残ります。E. melanohydrataは南アフリカ、ナミビア原産で、「多宝塔」と呼ばれます。短い枝が密につきます。E. multicepsは南アフリカ原産で、「多頭キリン」と呼ばれます。本体が見えないほど丸い枝が密につきます。E. dregeanaは南アフリカ原産で、棒状で枝分かれしてブッシュ状となります。

                ┏━E. namaquensis 2
            ┏┫
            ┃┗━E. namibensis
        ┏┫
        ┃┗━━E. filiflora
    ┏┫
    ┃┗━━━E. caput-medusae 2
    ┃
    ┃┏━━━E. caput-medusae 1
┏╋┫
┃┃┗━━━E. restituta
┃┃
┃┃┏━━━E. fasciculata
┃┗┫
┃    ┗━━━E. schoenlandii

┃        ┏━━E. braunsii
┃    ┏┫
┃    ┃┗━━E. crassipes 1
┃┏┫
┃┃┗━━━E. decepta 2
┃┃
┃┃┏━━━E. flanaganii
┣┫┃
┃┣╋━━━E. hypogaea 2
┃┃┃
┃┃┗━━━E. procumbens
┃┃
┃┗━━━━E. albipollinifera

┃┏━━━━E. brevirama
┣┫
┃┗━━━━E. crassipes 2

┃┏━━━━E. hallii
┣┫
┃┗━━━━E. namaquensis 1

┣━━━━━E. arida

┣━━━━━E. braunsii

┣━━━━━E. clavarioides

┣━━━━━E. davyi 2

┣━━━━━E. davyi 1

┣━━━━━E. esculenta

┣━━━━━E. friedrichiae

┣━━━━━E. hypogaea 1

┣━━━━━E. melanohydrata

┣━━━━━E. multiceps 2

┃┏━━━━E. multiceps 1
┗┫
    ┃┏━━━E. decepta 1
    ┗┫
        ┗━━━E. dregeana

②Subsection Pseudeuphorbia
③Subsection Dactylanthes

プセウデウフォルビア亜節は高度に多肉化した低木です。
E. celataは南アフリカ、ナミビア原産で、塊根性でわずかに地上に枝を出します。E. quadrataは南アフリカ、ナミビア原産で、やや幹が太る低木です。E. hamataは南アフリカ、ナミビア原産で、「鬼棲木」と呼ばれます。幹が太り、多肉質の枝を伸ばす低木です。E. pedemontanaは南アフリカ原産です。E. gariepinaは南アフリカ、ナミビア、アンゴラ原産で、「鬼ヶ島」と呼ばれます。多肉質の枝は枝分かれしてブッシュ状となります。E. indurescensはアンゴラ原産です。E. monteiroiは南アフリカ、ナミビア、アンゴラ、ジンバブエ、ボツワナ原産で、「柳葉キリン」と呼ばれ、棍棒状の幹を持ち細長い葉を出します。
E. lignosaは南アフリカ、アンゴラ、ナミビア原産で、多肉質の枝は叢生します。

ダクティランテス亜節は、塊根あるいは地下根茎です。
E. bruynsiiは南アフリカ原産です。E. patulaは南アフリカ原産で、短い多肉質の枝が密集します。E. polycephalaは南アフリカ原産で、塊根から多肉質の枝を伸ばします。E. globosaは南アフリカ原産で、球状の多肉質の枝を重ねます。E. wilmaniaeは南アフリカ原産で、現在ではE. patula subsp. wilmaniaeとされています。「海蜘蛛」と呼ばれることもあります。E. pseudotuberosaは南アフリカ、ボツワナ原産で、やや多肉質の葉を出します。E. trichadeniaは南アフリカ、ナミビア、アンゴラ、ボツワナ、スワジランド、ジンバブエ原産で、塊根から葉を出します。
  
                ┏━━E. celata 1
            ┏┫
            ┃┗━━E. quadrata
        ┏┫
        ┃┃┏━━E. hamata 1
        ┃┗┫
        ┃    ┗━━E. pedemontana
        ┃
        ┃    ┏━━E. gariepina
        ┃    ┃
┏②┫┏╋━━E. indurescens
┃    ┃┃┃
┃    ┣┫┗━━E. monteiroi
┃    ┃┃
┃    ┃┗━━━E. lignosa
┃    ┃
┃    ┃┏━━━E. celata 2
┃    ┗┫
┃        ┗━━━E. hamata 2

┃                ┏━E. bruynsii
┃                ┃
┫            ┏╋━E. patula
┃            ┃┃
┃            ┃┗━E. polycephala
┃            ┃
┃        ┏╋━━E. globosa
┃        ┃┃
┃        ┃┣━━E. wilmaniae 1
┃    ┏┫┃
┃    ┃┃┗━━E. wilmaniae 2
┃    ┃┃
┗③┫┗━━━E. pseudotuberosa
        ┃
        ┗━━━━E. trichadenia


最近、ユーフォルビアの系統分類①~⑨という記事を書きましたが、情報が不足していました。その不満があった部分について、ユーフォルビアの系統分類⑩~⑫という形で追加で記事にすることが出来て、モヤモヤとしていた心残りが消えました。一安心です。しかし、また論文を見つけてしまったら記事にするかも知れないなんて考えていたら、なんと情報が少なかったカマエシケ亜属の系統分類について書かれた論文を見つけてしまいました。しかし、カマエシケ亜属は基本的に草本で多肉植物ではありません。世界中に分布しますが、主に雑草とされるものが多く、記事を書く私も楽しくありませんが、記事を読む方々もおそらくは楽しくはないでしょう。というわけで、カマエシケ亜属についての記事化は断念しました。
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日本の代表的なカマエシケ亜属のユーフォルビアであるコニシキソウ。コンクリートの隙間やひび割れから生えてくる、踏みつけに強い雑草。

多肉植物については、最近パキポディウム属とアロエ類(アロエ属、ハウォルチア属、ガステリア属等)、ユーフォルビア属の系統分類を調べた論文を紹介してきました。しかし、多肉植物はまだまだ沢山の種類があり所属する分類群も多岐にわたります。論文もそれぞれの分類群を調べたものがあります。もし、面白い論文を見つけましたら、また記事にしていきたいと思います。



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2013年に発表された『A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文紹介の続きです。今日は、アンタカンタ節についてですが、記事が長くなりすぎるため、2つに分けました。フロリスピナ亜節とプラティケファラ亜節についてですが、この2つは姉妹群である程度まとまったグループのようです。

Subgenus Athymalusの分子系統
            ┏━━★Section Anthacanthae
        ┏┫
        ┃┗━━Section Balsamis
        ┃
    ┏┫┏━━Section Somalica
    ┃┃┃
    ┃┗┫┏━Section Crotonoides
┏┫    ┗┫
┃┃        ┗━Section Lyciopsis
┃┃
┫┗━━━━Section Pseudacalypha

┗━━━━━Section Antso

Section Anthacanthaeの分子系統
    ┏━━Subsection Medusea
    ┃
┏┫┏━Subsection Pseudeuphorbium
┃┗┫
┫    ┗━Subsection Dactylanthes

┃┏━━★Subsection Florispinae
┗┫
    ┗━━★Subsection Platycephalae

Subsection Florispinaeの分子系統
Subsection Florispinaeは有名な多肉ユーフォルビアが沢山含まれます。ホリダや紅彩閣のようにトゲのあるもの、花柄が残りトゲのように見えるバリダ、トゲがなく高度に多肉化したオベサ、多肉化した茎から大きな葉を伸ばす鉄甲丸、塊根から多肉質の茎を出す稚子キリン、塊根から多肉質ではない葉を出すシレニフォリアなど形態は様々です。基本的には南アフリカ原産で、乾燥に耐えるために高度に多肉化しています。

E. pentagonaは「大王閣」と呼ばれ、南アフリカ原産です。トゲのあるサボテンのような多肉植物で、高さ3mになり叢生します。E. pulvinataは「笹蟹丸」と呼ばれ、レソト、スワジランド原産です。高さ1.5mの叢生してクッション状となります。紅キリンE. aggregataと笹蟹丸は同種とされる向きもありましたが、現在ではそれぞれ独立種とされているようです。
DSC_1726
笹蟹丸 Euphorbia pulvinata

E. meloformisは南アフリカ原産の、枯れた花柄が残りトゲのように見える球状の多肉植物です。E. meloformisの亜種あるいは変種として、有名なバリダはE. meloformisに吸収されました。ちなみに、「貴青玉」はE. meloformis系と言われる由来不明の交配種です。
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Euphorbia meloformis

E. cumulataは南アフリカ原産で、トゲのあるサボテンのような多肉植物で叢生します。E. mammillarisは「鱗宝」と呼ばれ、南アフリカ原産です。まばらにトゲのあるサボテンのような多肉植物で叢生します。ちなみに、鱗宝の白化個体を「白樺キリン(ミルクトロン)」と呼び、こちらの方がよく見かけます。
DSC_0671
白樺キリン(ミルクトロン) Euphorbia mammillaris cv.

E. obesa subsp. symmetricaは南アフリカの球状の多肉植物で、現在はオベサの亜種ではなくE. symmetricaとして独立しました。E. obesa subsp. obesaは南アフリカ原産の多肉植物です。この場合のsubsp. obesaはsubsp. symmetricaと区別するための名前ですが、subsp. symmetricaが亜種ではなくなった以上はsubsp. obesaも役目を終えました。現在はただのE. obesaです。
DSC_1387
Euphorbia obesa

E. feroxは「勇猛閣」あるいは「金碧塔」と呼ばれ、南アフリカ原産です。トゲのあるサボテンのような多肉植物ですが、トゲが強いことが特徴です。
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勇猛閣 Euphorbia ferox

E. jansenvillensisは南アフリカ原産で、トゲはありませんが、多肉質で叢生します。E. tubiglansと同種とされることもあるようです。E. polygonaは南アフリカ原産で、変種ホリダE. polygona var. horridaの方が有名です。大なり小なり白い粉に被われ、トゲのある太い幹を持つ多肉植物です。
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ホリダ Euphorbia polygona var. horrida

E. stellispinaは「群星冠」と呼ばれ、南アフリカ原産です。独特の先端が星形の花柄が特徴です。
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群星冠 Euphorbia stellispina

E. pillansiiは南アフリカ原産の多肉植物で、E. meloformis系交配種と呼ばれる「貴青玉」によく似ています。枯れた花柄が残りますが、先端で分岐します。E. pseudoglobosaは「稚児キリン」と呼ばれ、南アフリカ原産です。楕円を重ねたように育ち、塊根性です。
DSC_1323
稚児キリン Euphorbia pseudoglobosa

E. heptagonaは「紅彩閣」と呼ばれ、南アフリカ原産です。一般的にはE. enoplaと呼ばれていますが、E. heptagonaが正式な学名です。トゲがあり、叢生します。
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紅彩閣 Euphorbia heptagona

E. susannaeは「瑠璃晃」と呼ばれ、南アフリカ原産です。トゲはなく球状でやがて群生します。
DSC_1620
瑠璃晃 Euphorbia susannae

E. clandestineは「逆鱗竜」と呼ばれ、南アフリカ原産です。棍棒状のトゲのない多肉植物で、頂点から細長い葉を出します。E. pubiplans、E. bubalina(昭和キリン)、E. clava(式部)、E. multifolia、E. loricata(炉裡火)は共に南アフリカ原産で、逆鱗竜によく似ています。
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逆鱗竜 Euphorbia clandestine

E. bupleurifoliaは「鉄甲丸」と呼ばれ、南アフリカ原産です。鱗片状の多肉質の茎から葉を出します。
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鉄甲丸 Euphorbia bupleurifolia

E. tuberosaは「鬼縮」あるいは「羊玉」と呼ばれる塊根性植物で、南アフリカ原産です。E. sileniforiaは南アフリカの塊根植物で、細長い葉を出します。
DSC_0824
Euphorbia sileniforia

                                ┏━E. pentagona
                            ┏┫
                            ┃┗━E. pulvinata
                        ┏┫
                        ┃┗━━E. meloformis 1
                    ┏┫
                    ┃┣━━━E. cumulata
                ┏┫┃
                ┃┃┗━━━E. mammillaris 1
                ┃┃
                ┃┗━━━━E. meloformis 2
                ┃
                ┃┏━━━━E. obesa
                ┣┫                     subsp. obesa
                ┃┗━━━━E. obesa 
            ┏┫                          subsp. symmetrica
            ┃┗━━━━━E. ferox
        ┏┫
        ┃┗━━━━━━E. jansenvillensis 1
        ┃
    ┏┫        ┏━━━━E. polygona 2
    ┃┃    ┏┫
    ┃┃    ┃┗━━━━E. polygona 1
    ┃┃┏┫
    ┃┃┃┗━━━━━E. stellispina
    ┃┗┫
    ┃    ┗━━━━━━E. jansenvillensis 2
    ┃
    ┃        ┏━━━━━E. pillansii
    ┃    ┏┫
    ┃    ┃┗━━━━━E. pseudoglobosa 2
    ┃┏┫
    ┃┃┃┏━━━━━E. pseudoglobosa 1
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗━━━━━E. mammillaris 2
    ┃┃
    ┣┫    ┏━━━━━E. heptagona 2
    ┃┃┏┫
    ┃┃┃┗━━━━━E. heptagona 1
    ┃┣┫
┏┫┃┗━━━━━━E. susannae
┃┃┃
┃┃┃┏━━━━━━E. clandestina
┃┃┗┫
┃┃    ┗━━━━━━E. pubiglans
┃┃
┃┃┏━━━━━━━E. bubalina 2
┃┃┃
┃┣╋━━━━━━━E. bubalina 1
┃┃┃
┃┃┗━━━━━━━E. clava
┃┃
┃┃    ┏━━━━━━E. tuberosa 2
┃┃┏┫
┃┃┃┗━━━━━━E. tuberosa 1
┫┗┫
┃    ┗━━━━━━━E. silenifolia

┃    ┏━━━━━━━E. multifolia
┃┏┫
┃┃┗━━━━━━━E. loricata 2
┣┫
┃┗━━━━━━━━E. loricata 1

┣━━━━━━━━━E. bupleurifolia

┗━━━━━━━━━E. oxystegia

系統の分岐を見ていると、思いもよらぬことがあります。例えば、勇猛閣E. ferox、大王閣E. pentagona、笹蟹丸E. pulvinataはトゲがあり叢生する生態の共通性から、近縁であることはわかります。しかし、やはり良く似た紅彩閣E. heptagonaとは特に近縁ではなく、E. obesaやE. meloformisの方が近縁という驚くべき結果でした。また、紅彩閣E. heptagonaは瑠璃晃E. susannaeと近縁というのも不思議ですね。

そう言えば、E. jansenvillensisは2個体を調べていて、それぞれの位置は離れているように見えます。しかし、良く見ると両個体とも分岐の根元にあり、実は近縁であることがわかります。これはむしろ図の配置とか書き方の問題です。
困惑するのは鱗宝E. mammillarisの立ち位置です。鱗宝も2個体を調べていますが、完全に異なる枝に乗っています。これは大変な驚きで、解析の分離が良くなかったという理由でなければ、鱗宝は2種類あることになります。

E. pillansiiはバリダというか、E. meloformis系交配種と言われる貴青玉に良く似ていますが、なんと稚児キリンと近縁とあります。共通点がないようにも思えますから、面白い結果です。


Subsection Platycephalaeの分子系統
半多肉植物で高さ9mまでの低木、あるいは塊根植物です。ボツワナとジンバブエから西アフリカとエチオピアまで、サハラ以南に分布します。
E. omarianaはエチオピア原産で、塊根性(?)です。E. platycephalaはマラウイ、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の塊根植物です。E. grantiiはブルンジ、ルワンダ、タンザニア、ウガンダ、ザイール、ザンビア原産の樹木です。

    ┏━E. omariana
┏┫
┃┗━E. platycephala

┗━━E. grantii


そう言えば、フロリスピナ亜節は形態的に4グループに分けられてきました。E. multifolia、E. loricata、E. bupleurifolia、E. oxystegiaはSeries Hystrixとされてきましたが、分子系統でもまとまったグループです。塊根性のE. tuberosaとE. sileniforiaはSeries Rhizanthiumですが、分子系統でも近縁です。外見的に良く似たE. clandestine、E. bubalina、E. pubiplans、E. clavaはSeries Treisiaですが、特徴の異なる旧来はSeries MeleuphorbiaとされたE. heptagona、E. susannae、E. pillansii、E. pseudoglobosaも分子系統では近縁です。それ以外の種はSeries Meleuphorbiaですが、同じ枝に乗っており、ある程度まとまったグループです。
というわけで、旧分類はおおよそは正しいみたいですが、異なる部分も出て来ているようです。

本日はここまでです。明日はタコものと呼ばれるSubsection Meduseaを中心にご紹介します。



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私はユーフォルビアが好きでチマチマ集めていますが、とにかくユーフォルビアは種類が多く多様なので、今一つ掴み所がないような気がしていました。ではユーフォルビアとは何かと聞かれると、具体的な種類を挙げてみだり、毒があります位しか言えないことに気が付きました。そこで、最近ではユーフォルビアについた書かれた論文を少しずつ読んだりしています。
先週、というか8月22日から30日までの9日間に渡り、ユーフォルビアについての論文の長い紹介をしました。この時紹介したのは、2013年に発表された『
Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文でした。

ただし、この論文はユーフォルビア節(柱サボテン状のユーフォルビア)を中心としたものでしたから、園芸店でよく目にするホリダE. polygona var. horridaや瑠璃晃E. susannae、オベサE. obesa、孔雀丸E. flanaganiiなどのユーフォルビアについては、わずか4種類を調べただけでした。ですからこの部分、つまりはリザンチウム亜属について調べた論文を探していました。
それが、2013年に発表された『A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文です。調べているのは、Subgenus Athymalus、つまりアティマルス亜属です。この場合のSubgenus Athymalus=Subgenus Rhizanthiumのことです。学者によりAthymalusだったりRhizanthiumだったりしますが、この論文ではAthymalusを採用しています。
さて、今日からこの論文の内容を何回かに分けて紹介しようと思います。「ユーフォルビアの系統分類」はその⑨の続きとして、その⑩というナンバリングから開始したいと思います。

では、実際の論文の内容を見てみましょう。
Subgenus Athymalusは約150種で、ほとんどが多肉植物ですが樹木もあります。旧世界の乾燥地に限定して分布します。ほとんどがサハラ以南のアフリカ原産で、マカロネシアと西アフリカ、いくつかはアラビア半島、マダガスカル、23種はアフリカの角付近に固有、72種は南部アフリカ原産です。そのうち、60種は南アフリカの固有種ということです。この論文では、Subgenus Athymalusのうち88種類について、核リボソームITSと葉緑体のndhF領域を分析しました。

Subgenus Athymalusの分子系統
            ┏━━Section Anthacanthae
        ┏┫
        ┃┗━━★⑥Section Balsamis
        ┃
    ┏┫┏━━★⑤Section Somalica
    ┃┃┃
    ┃┗┫┏━★④Section Crotonoides
┏┫    ┗┫
┃┃        ┗━★③Section Lyciopsis
┃┃
┫┗━━━━★②Section Pseudacalypha

┗━━━━━★①Section Antso

一応、用語を説明しておきますが、"Subgenus"は「亜属」のことで、ユーフォルビア属はEsula亜属、Athymalus(=Rhizanthium)亜属、Chamaesyce亜属、Euphorbia亜属にわかれます。"Section"とは「節」をあらわしますが、属の下には亜属、節、亜節、列、亜列と小分類があります。「列」は"Series"ですが、今回の論文では出てきません。

系統図を見るとわかりますが、Section Antsoが根元にあります。Section Somalica、Section Crotonoides、Section Lyciopsisは一つのグループを形成します。Section Anthacanthaeは非常に多様で、5亜節からなります。本日はAnthacanthae節以外について解説させていただきます。


            ┏━━━━━Section Anthacanthae
            ┃
            ┃                ┏E. larica
            ┃            ┏┫
            ┃            ┃┗E. masirahensis
        ┏┫        ┏┫
        ┃┃        ┃┗━E. rubrisemminalis
        ┃┃    ┏┫
        ┃┃    ┃┃┏━E. balsamifera
        ┃┃    ┃┗┫            subsp. adenensis
        ┃┗⑥┫    ┗━E. balsamifera
        ┃        ┃                    subsp. balsamifera
        ┃        ┗━━━E. meuleniana
        ┃
    ┏┫            ┏━━E. hamaderoensis
    ┃┃            ┃
    ┃┃        ┏╋━━E. marie-cladieae
    ┃┃        ┃┃
    ┃┃┏⑤┫┗━━E. socotrana
    ┃┃┃    ┃
    ┃┃┃    ┗━━━E. scheffleri
    ┃┃┃
    ┃┃┃            ┏━E. benthamii
    ┃┗┫        ┏┫
    ┃    ┃        ┃┗━E. crotonoides
    ┃    ┃┏④┫
    ┃    ┃┃    ┣━━E. caperonioides
    ┃    ┃┃    ┃
    ┃    ┃┃    ┗━━E. insarmentosa
    ┃    ┃┃
    ┃    ┗┫        ┏━E. cuneata
    ┃        ┃    ┏┫
    ┃        ┃    ┃┗━E. smithii
┏┫        ┃    ┃
┃┃        ┗③┫┏━E. bongensis
┃┃                ┃┃
┃┃                ┗╋━E. matabelensis
┃┃                    ┃
┃┃                    ┗━E. oatesii
┃┃
┃┃            ┏━━━E. acalyphoides
┫┃        ┏┫
┃┃        ┃┗━━━E. species
┃┃    ┏┫
┃┃    ┃┗━━━━E. hadramautica
┃┗②┫
┃        ┗━━━━━E. longituberculosa

┗━━━━━━①━E. antso


①Section Antso
E. antsoはマダガスカル原産の、半多肉質の樹木です。高さ4-15mとなり、時にわずかに塊茎状となります。

②Section Pseudocalypha
Section Pseudocalyphaはほとんどの種が北東アフリカとアラビア半島原産です。多肉植物を含みます。
E. acalyphoidesはアンゴラ、チャド、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、タンザニア、イエメンの原産です。一年草または亜低木ということです。E. speciesは何のことを言っているのか良くわかりません。"species"はそのまま「種」という意味ですから種小名としては違和感があります。E. hadramauticaはエチオピア、オマーン、ソマリア、ソマリア、イエメンの原産です。ケニアには移入された可能性があります。多肉質の亜低木で、多肉質の幹から波打つ葉を出し、まるでドルステニアのようです。E. longituberculosaは、確かにその名前で流通していますが、『World Checklist of Vascular Plants』ではヒットしません。おそらくは、E. longetuberculosaのことを言っているものと推測します。E. longetuberculosaはジブチ、エチオピア、ケニア、オマーン、ソマリア、イエメンの原産です。多肉質の茎から枝分かれする細い枝を伸ばします。

③Section Lyciopsis
Section Lyciopsisは高さ0.1-5mの低木が多く、北東アフリカとアラビア半島に分布します。
E. cuneataはベナン、チャド、ジブチ、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、ギニア、モザンビーク、ナイジェリア、オマーン、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、タンザニア、トーゴ、イエメンの原産です。細い幹の樹木ですが、塊根があります。E. smithiiはオマーン原産の樹木です。E. bongensisはケニア、ルワンダ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビアの原産の塊根植物です。E. matabelensisはアンゴラ、ボツワナ、ケニア、マラウイ、モザンビーク、ソマリア、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の樹木です。E. oatesiiはザンビア、ジンバブエ原産の塊根植物です。

④Section Crotonoides
Section Crotonoidesは高さ0.5-1.5mの一年草で、茎はたまに木質またはわずかに多肉質です。東アフリカ原産です。
E. benthamiiはアンゴラ、マラウイ、ナミビア、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の一年草です。E. crotonoidesはアンゴラ、ボツワナ、エチオピア、ケニア、マラウイ、モザンビークナミビア、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ原産の一年草です。E. caperonioidesとE. insarmentosaはナミビア原産ですが、情報がありません。

⑤Section Somalica
0.2-8mの樹木で、東アフリカ原産です。
E. hamaderoensisはソコトラ原産ですが、情報がありません。E. marie-cladieaeはソコトラ原産の樹木です。E. socotranaはソコトラ原産の樹木です。E. scheffleriはエチオピア、ケニア、タンザニア、原産の樹木です。ソマリアでは移入された可能性があります。

⑥Section Balsamis
E. laricaはイラン、オマーン、イエメンの原産で、多肉質の棒状の茎を持つ植物(Pencil-stem)で、枝分かれして叢生します。E. masirahensisは調べたところ、現在ではE. laricaと同種とされているようです。E. rubrisemminalisはイエメンの亜低木で、Pencil-stemとされています。E. balsamifera subsp. adenensisは現在では、E. adenensisとして独立しました。オマーン、サウジアラビア、ソコトラ、ソマリア、スーダン、イエメン原産の半多肉植物です。幹が太る。E. balsamifera subsp. balsamiferaはカナリア諸島、モロッコ、西サハラ原産で幹が太る。E. meulenianaはイエメン原産の低木です。E. laricaとE. rubrisemminalisは良く似たPencil-stemですが、非常に系統的に近縁です。葉は非常に小さいのですが、葉の大きいE. balsamiferaやE. meulenianaから進化した可能性があります。

前の論文では園芸店で見る有名種がなかったことから、今回の論文はそこを紹介すると言っておきながら、今日の内容はどうにもそぐわない感じになってしまいました。しかし、切のいいところでまとめようとすると、どうしてもこうなってしまいます。どうか、ご容赦の程を。
明日はオベサやホリダ、バリダ、笹蟹丸などのお馴染みのユーフォルビアが登場します。



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ギラウミニアナはマダガスカル原産の花キリンの仲間です。花は地味で花キリン感は薄いのですが、木質の幹からトゲが出るあたりはいかにも花キリンです。私は入手してからまだ2年ですが、いまだに育て方に迷いがあります。ネットの情報では、ギラウミニアナの育て方と言いながら多肉植物の基本的な育て方が記載されており、ギラウウミニアナの育て方ではないように見受けられます。

そういえば、私は"guillauminiana"を「グイラウミニアナ」とラテン語読みしてしまいますが、なんで「ギラウミニアナ」と呼ばれているのでしょう? この種小名はフランスの植物学者であるAndré Louis Joseph Edmond Armand Guillauminに対する献名ですが、このGuillauminはフランス語ではおそらく「ギヨマン」と読むみたいですから、名前の読みかたならば「ギヨマニアナ」ですね。まあ、読み方なんて本来はどうでもいい話ですから、なんと読んでも一緒なんですけどね。以降、個人的なこだわりで、例によってラテン語読みのグイラウミニアナでいかせていただきます。

DSC_0202
2020年3月。園芸店で冬を越した苗で、根鉢が崩れて用土が半分くらいしかない状態でした。しかし、大特価の半額お値引き品という札に釣られて、ついつい購入してしまいました。今にして思えば危険な賭けでした。グイラウミニアナは寒さに弱いと聞きますから、そのままお亡くなりになる可能性も大でしたからね。

DSC_0324
2020年6月。購入時、すぐに植え替えましたが、それからわずか3ヶ月で開花しました。葉色も良く順調です。

DSC_1702
2022年8月。2年経って枝分かれしていますが、葉色の薄さが気になります。今年は異常な暑さで日差しが強すぎて多肉たちにもダメージがありましたが、おそらくはグイラウミニアナもその影響があったのでしょう。

DSC_1703
ただし、水やりについては良くわかりません。花キリンはやや水多めの方がいいような気もしますが、グイラウミニアナはどうでしょうか? 枝のつまった形の良いグイラウミニアナにするためには、あまりじゃぶじゃぶ水やりしない方がいいような気もしますが…

そういえば、グイラウミニアナは花キリンEuphorbia miliiの仲間と言われています。2013年にユーフォルビア属の遺伝子解析したPhylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文では、花キリン類はゴニアステマ節に分類されています。そこでは20種類ほど花キリン類を調べているようですが、残念ながらグイラウミニアナは調べていません。一応の証拠が欲しいので、マダガスカルのユーフォルビアを調べた2014年の『Insights on the Evolution of Plant Succulence from a Remarkable in Madagascar (Euphorbia)』という論文では、グイラウミニアナは噴火竜Euphorbia viguieriと近縁とあります。むしろ、近縁に見えるEuphorbia milii系とはそれほど近縁ではないようです。面白いですね。しかし、いずれにせよグイラウミニアナは花キリン類=ゴニオステマ節であることは間違いないと言えます。

グイラウミニアナの学名は1942年に命名されたEuphorbia guillauminiana Boiteauです。Boiteauはフランスの植物学者であるPierre Louis Boiteauのことです。Boiteauはマダガスカルのハンセン病療養所で働いていましたが、やがて現地語を学んだことにより、現地の伝統医療を知り薬草を研究しました。やがて、かつてマダガスカルに存在したメリナ王国の女王の親類の植物学者であるAlbert Rakoto Ratsimamangaと協力し、マダガスカルの薬草の研究所であるIMRAを設立しました。Boiteauは戦乱によりフランスに帰国しましたが、IMRAは現在も活動しているそうです。



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