ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

カテゴリ: ユーフォルビア

サボテン栽培は日本でもそれなりに歴史がありますから、昔からサボテンの本は沢山出版されています。しかし、サボテン以外は単に「多肉植物」と称されがちで、なかなか単体では扱われて来ませんでした。ハウォルチアやエケベリアは近年の多肉植物ブームが起因となって本がでているようですが、私の好きなユーフォルビアについてはまだありませんでした。アガヴェとかエケベリアが好きな人は沢山いますが、ユーフォルビア好きで集めている人は、比べると少し珍しいかも知れません。ユーフォルビアはその種類の多さや多様性の高さなどは、多肉植物の中でも唯一サボテンに匹敵しますが、何故かそれほどの人気がありません。しかし、近年では、沢山の種類のユーフォルビアを見かけますし、珍しいユーフォルビアも流通してきました。これは、ユーフォルビア・ブームが来る前兆でしょうか? と言うことで、全ユーフォルビア・ファン待望のユーフォルビア本が出版されたので、簡単にご紹介しましょう。

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日本中のユーフォルビア・ファンが待ち望んでいたその本は、今年の7月に出版された靍岡秀明 / 著、『12か月栽培ナビNEO 多肉植物 ユーフォルビア』(NHK、趣味の園芸)です。靍岡秀明さんと言えば鶴仙園、私もお世話になっております。
さて、この趣味の園芸のシリーズは月ごとの栽培方法を指南するものですが、ユーフォルビアはどのような栽培が適しているのでしょうか。私などは、何となく試し試しというか、だましだまし栽培してきましたから、俄然プロの栽培方法には興味があります。細かい月ごとの管理が、春秋型、夏型、冬型で示されますが、正直そこまで細かく意識していなかったので、非常に参考になります。さらに、植え替えや挿し木、接ぎ木、受粉から種まき、さらには傷んだ株の仕立て直しまで、初心者が知りたい情報は大抵含んでいると思われます。
やはりと言うか、前半にあるユーフォルビア図鑑の個体の素晴らしさには圧倒されます。しかし、ユーフォルビアは種類も多く、その生活型や形態があまりにも異なるため、そのすべてが同じ属であることに改めて驚きを覚えます。ユーフォルビアを一冊の本にまとめるのは大変ですよね。

サボテンを栽培している人は昔から沢山いて、その栽培方法については割と一般化していると思います。しかし、ユーフォルビアに関しては、昔から普及種は売られていましたが、集めているのは一部の好事家くらいで、栽培方法などは個々で見つけていく雰囲気でした。ウェブ上の情報は割と怪しいものばかりですから、私も探りながらの栽培で困っていました。ですから、本書はすべてのユーフォルビア・ファンにとっての福音となるはずです。私個人としても、ユーフォルビアがより盛り上がって欲しいと考えております。まあ、ユーフォルビア・ブームが来たら珍しい種類も流通するだろうという、棚ぼたを期待してのことですが。まあ、それはさて置き、良書ですからおすすめ致します。


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最近の花キリンの様子です。本日は開花しているもののみ取り上げました。

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Euphorbia primulifolia
プリムリフォリアがいつの間にやら開花していました。プリムリフォリアは葉が大きく茂るため、葉が出てしまうと花が分からなくなります。学名は、葉がプリムラ(サクラソウ属)に似ているため、「プリムラ+葉」です。


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Euphorbia begardii
ベガルディイもよく咲いています。プリムリフォリアの変種とされてきましたが、ベガルディイは葉が小さく光沢があり葉脈が目立ちません。


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Euphorbia subapoda
プリムリフォリアに近縁と思われる花キリンのスバポダです。葉縁が少し波打ちます。

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Euphorbia decaryi
一般的にはEuphorbia francoisiiと呼ばれているデカリイが開花しています。まあ、冬の間もずっと咲いてはいましたが。ちなみに、一般的にE. decaryiと呼ばれている花キリンは、E. boiteauiとされています。


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Euphorbia crassicaulis
クラシカウリスも開花しています。デカリイ同様、咲き続けます。


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Euphorbia tulearensis
ツレアレンシスも周年開花するタイプの花キリンです。


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Euphorbia cylindrifolia
キリンドゥリフォリアもやはり周年開花します。


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Euphorbia delphinensis
デルフィネンシスは冬の間も開花していましたが、花はクリーム色でした。しかし、外に出したところ、花色にやや赤味が増してきました。


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チビ花キリンと言う花キリンがありますが、一般的にはEuphorbia decaryiの名前で流通しています。しかし、このE. decaryiと言う名前は誤りで、本当はEuphorbia boiteauiが正しい名前です。ちなみに、E. decaryiとはEuphorbia francoisiiのことを指しているそうです。
さて、このE. decaryi、改めE. boiteauiは一般に流通しているのは挿し木苗です。E. boiteauiは塊根性ですが、挿し木だと塊根は出来ないとされています。しかし、じっくり育てれば塊根のようなものが出来るかもしれないと言う記事を、2年前に上げました。あれから2年で、地下はどうなっているでしょうか?


↓2年前の記事

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Euphorbia boiteaui
いわゆるE. decaryiとして流通している挿し木苗です。2020年2月にシマムラ園芸にて入手しました。

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鉢から抜いてみました。左側の太い根は地下茎で、あまり細根は出ません。左側の膨れた根が塊根です。

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地下茎は塊根と異なり、根元から先端まで同じ太さです。この地下茎を挿せば簡単に増やすことが出来ます。

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対する右側の塊根は根元が太く、先端は細くなり細根が沢山出ます。

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緑色の線が木質化した主幹あるいは塊根でしょうか。赤い線の主幹ですが、この主幹が木質化してくれると、見目がよいのですがなかなか木質化しません。紫色の線の左側2本は地下茎、右側2本は塊根です。

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植え替え後。地下茎は取り除きました。非常にゆっくりですが、塊根は育っています。これからも、塊根の具合を確認していきたいですね。

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挿し木苗はきれいな塊根にはなりませんが、これはこれで荒れた感じの枝ぶりで面白いですね。

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ちなみに、実生苗は簡単に塊根が出来ます。しかし、実生苗だと枝ぶりも異なりますから、両方とも異なる良さがあります。


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多肉質なユーフォルビアの中心地はアフリカ大陸ですが、南アメリカでも多肉質なユーフォルビアを見ることが出来ます。ただし、南アメリカの多肉質なユーフォルビアは、節を重ねたような不思議な形をしています。普段、南米ユーフォルビアはあまり見かけないでしょうから、あまりピンと来ない方もおられるかも知れません。本日は、そんな南米ユーフォルビアについての論文をご紹介しましょう。それは、Fernanda Hurbathらの2020年の論文、『Biography of succulent spurges from Brazilian Seasonally Dry Tropical Forest(SDTF)』です。

SDTFとは何か
乾燥した熱帯季節林(SDTF)は、メキシコ北西部からアルゼンチン北部、ブラジル南西部及ぶ東部に至る新熱帯地域に点在し、ブラジル東部にはCaatingaとして知られている最大の孤立したSDTFがあります。SDTFは南アメリカの生態系の中でもっとも脅威にさらされており、ほとんど研究されていません。
SDTFは5〜6ヶ月の乾季と非常に低い平均年間降水量が特徴で、植物は長期の水不足に耐えられるように適応しています。

SDTFのユーフォルビア
ユーフォルビアはSDTFの重要な構成要素であるにも関わらず、研究されず無視されてきました。新熱帯地域のユーフォルビア属の中では、多肉質で乾生植物であるのはSection Brasiliensisだけで、Section Euphorbia(ほとんどの多肉質なユーフォルビアを含むグループ)はアフリカの種と比べると強い乾生種はほとんどありません。
Section Brasiliensisに含まれる種、はトゲのない鉛筆状の多肉低木で、光合成をする緑色の茎を持つCAM植物です。このグループはブラジル東部のSDTFの岩の露出した、あるいは浅い土壌に生えます。Section Brasiliensisは、E. attastoma、E. holochlorina、E. phosphorea、E. sipolisii、E. tetrangularisの5種類からなります。

遺伝子解析
南アフリカのユーフォルビアの遺伝子を解析したところ、以下のような分子系統が得られました。

※南北アメリカ大陸で多様化したユーフォルビアの仲間であるNew World Cladeを解析したものです。Sectionで示されていますが、Sectionとは属と種類の間の分類カテゴリーで「節」と訳されます。

※※Section Stacydiumは中南米の原産の草本。Section 
NummulariopsisやSection Portulacastrumは大半が中南米原産の草本です。Section Crepidariaは北米原産で一部は多肉質となりますが、木本になるものが多いようです。

※※※Section 
Euphorbiastrumは中南米原産の木本ですが、多肉質なものもあります。Section Calyculataeはメキシコ原産の木本です。Section Lactifluaeは中南米原産の木本です。Section Tanquahueteはメキシコ原産の木本です。Section Cubanthusはカリブ海地域の島嶼部に分布する木本です。

              ┏━Brasiliensis
          ┏┫
          ┃┗━Stachydium
      ┏┫
      ┃┗━━Nummulariopsis
  ┏┫   +Portulacastrum
  ┃┗━━━Crepidaria
  ┫
  ┃    ┏━━Euphorbiastrum
  ┃┏┫
  ┗┫┗━━Calyculatae
      ┃   +Lactifluae
      ┃   +Tanquahuete
      ┗━━━Cubanthus

多様化の起源
Section BrasiliensisとSection Stacydiumは姉妹群で、分子系統から中新世中期頃に分岐したと考えられます。Section Brasiliensisは鮮新世後期に多様化し、Section Stacydiumは中新世後期に多様化したと考えられます。この推定は、大きな気候変動がこれらのグループの分岐と多様化に大きな影響を与えた可能性がを示します。
New World Cladeのほとんどは中新世の間に多様化しました。中新世は現在の新熱帯地方の地理的特徴の多くが定義されました。これには、アンデス山脈の隆起(約1200〜450万年前)やアマゾン河の起源(約1180万年前〜現在)などのほとんどの地形的変異を含みます。さらに、この時期は世界的に寒冷化と乾燥化し、大気中の二酸化炭素の急激な減少が起こりました。


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Euphorbia weberbaueri
Section Euphorbiastrumに属します。エクアドル、ペルー原産。


SDTFの孤立
ブラジル東部のSection Brasiliensisは、Section Stacydiumから分岐して以来、長く孤立していました。その後、鮮新世後期頃に多様化しました。SDTFの断片化した分布は、種は孤立し多様化は促進されます。ブラジル東部のSDTFは固有種の割合が高く、長い孤立が示唆されます。また、SDTFの孤立は、セラード(ブラジルのサバンナ)やアマゾンの熱帯雨林と隣接することにより起こります。セラードはブラジル中央を占めており、約1000万年前に起源を持つSDTFを隔離する障壁です。セラードは火災に適応した植物が進化しており、一般的に火災に耐性がないSDTFの多肉植物に対する抑止力になります。さらに、Section Brasiliensisのユーフォルビアは種子の分散力が弱く、分布がブラジル東部に限定されます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
アフリカでよく見られる柱サボテンのようなユーフォルビアは、Section Euphorbiaです。しかし、新大陸ではSection Euphorbiaはあまり乾燥に適応出来ていないようです。むしろ、新大陸ではNew World Cladeと言う新たな分類群が進化しました。その中でも、Section Brasiliensisはブラジル東部の乾燥地(SDTF)に良く適応しています。遺伝子を用いた分子系統解析では、種ごとの分岐年代を計算出来ます。南アメリカで起きた地質学的イベントや気候変動と対応させれば、進化の原動力を推測することも可能となるのです。実は論文では、他のNew World CladeのSectionの進化も推測されていましたが、今回は長くなるため割愛しました。興味がありましたら、論文を参照して下さい。


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ユーフォルビアは世界中に分布しますが、サボテンのような多肉質な種類のものは限られた地域に分布します。その多くは乾燥地への適応です。多肉質なユーフォルビアは、南北アメリカ大陸やオーストラリア、アジア地域にも分布しますが、その中心はアフリカ大陸です。特にアフリカ南部やアフリカ大陸東岸には豊富に分布します。しかし、アフリカの角の向岸であるアラビア半島や北アフリカのマカロネシア(Macaronesia)と呼ばれる島々にも多肉質なユーフォルビアは豊富です。普段あまり話題にならないこのような地域のユーフォルビアについて書かれた論文を見つけたのでご紹介しましょう。それは、A. Tahaらの2023年の論文ら『Comprehensive review of morphological adaptations and conservation strategies of cactiform succulents: A case study of Euphorbia species in arid ecosystems』です。

サボテン状ユーフォルビアの分布
稜(rib)を持つサボテン状ユーフォルビアはアフリカ大陸原産です。これらの植物はアフリカとアラビア半島のホットスポットで見られ、「Rand Flora」として知られる大陸全体に共通する古代植物相の生き残りです。これらの種は中新世の乾燥により湿潤地域に移動したため、その分布は2つの地域の境界付近にありました。結果として、マカロネシアと東アフリカ、アラビア半島南部の多肉質のユーフォルビアは、生態学的、地理的、系統学的な特徴を共有しています。

マカロネシアと中央アトラスを含む北西アフリカでは、このサボテン状ユーフォルビアはマカロネシア・グループであると考えられています。アラビア半島地域はSomaliaMasaii固有中央地域(SomaliaMasaii Center of Endemism)の一部でもあり、アラビア、アフリカ、地中海地域の植物が混在します。アラビア半島南西部のサボテン状ユーフォルビアは、約2300万年前の紅海開口後に出現したようです。これらの地域のサボテン状ユーフォルビアは、島、海岸地域、高地や高山など、海洋霧の影響を受ける地域でよく見られます。海洋霧は持続的に水分を供給する水資源です。

マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴
マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴は、腺(Glant)の数は5〜6個で付属器はなく、種子は無鉤形で、茎は柱サボテンのように稜(rib)があり、トゲは対になって互生します。単純な集散花序か緑色の茎につきます。シアチアは3つのセットを形成し、中央のシアチアは通常は雄性で始めに開花し、側方の2つのシアチアは両性です。

マカロネシア近辺のサボテン状ユーフォルビア
①E. resinifera
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。通常は4本のribがあり、葉のない茎があります。主に石灰質カルスト台地に分布します。
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②E. officinarum subsp. beaumieriana
=E. officinarum subsp. officinarum
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。葉のない茎に、8〜13本のribがあります。海抜300mまでの大西洋岸に頻繁に見られます。通常は石灰質台地上に見られます。
※現在、亜種officinarumは、亜種beaumierianaとは区別されています。

③E. officinarum subsp. echinus
分布は非常に広く、モロッコとマカロネシアの飛び地をカバーしています。モロッコ南部の海抜1900m以上で、岩の多い場所で育ちます。


マカロネシアのサボテン状ユーフォルビア
①E. handiensis
カナリア諸島のFuerteventura島の固有種。海抜50〜300mに見られます。トゲのあるサボテン状ユーフォルビアです。葉のない茎には8〜14本のribがあります。崩積土で生育します。E. officinarum ssp. echinusと関係します。
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②E. canariensis
カナリア諸島の固有種で、Lanzarote島を除くすべての島に分布します。海抜900mまでの岩の多い斜面、崖、溶岩に生育します。通常は高さ2〜4mで、4本のribがあります。
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アラビア半島のサボテン状ユーフォルビア
※2000年以降にアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアが複数種の新種が記載されました。せっかくですから、いくつかは画像のリンクを貼りました。

①E. madinahensis
サウジアラビアの固有種。高さ1.5mまでで、茎は3〜5本のribがあります。標高1050〜2350mの降水量の少ない花崗岩地に生えます。2007年に記載された絶滅危惧II(VU)。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/785985-Euphorbia-madinahensis

②E. saudiarabica
サウジアラビア南西部のQunfudhah-Djizan地域の固有種。高さ3mに達することもあり、3〜5本のribがあります。2007年に記載された絶滅危惧IB類(EN)。
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:77084100-1

③E. parciramulosa
イエメンとサウジアラビアの固有種。3〜4つのribがある、マカロネシア・ユーフォルビアの姉妹です。標高400〜2000mの低山の麓の、岩石と花崗岩の砂質土壌に生育します。

④E. taifensis
サウジアラビアの固有種。高さ10mに及び、3〜6(7)のribがあります。標高1700〜2100mのワジ(枯れ川)の石の多い土壌や、岩の多い斜面に見られます。2007年に記載されました。
https://www.inaturalist.org/observations/115071557

⑤E. collenetteae
紅海の島々や海岸沿いに生育します。茎は3〜8本のribを持ち、基部から枝分かれし高さ3〜4mになります。海抜75mまでの玄武岩質の露頭やサンゴ由来の土壌にも生育します。準絶滅危惧種への指定が提案されています。2007年に記載されました。

⑥E. cacturs
エリトリア、エチオピア、アラビア半島を含むSomaliaMasaii地域が分布の中心です。特にFayfa山脈、イエメン、オマーンのDhofar地域に生息します。標高2000mまでの岩の多い斜面や河原の石の堆積物にも生息します。3(まれに4または5)のribがあり、高さ1〜3mになります。

⑦E. inarticulata
アラビア半島の固有種。イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3〜5つのribがあり、高さ2mになります。標高300〜2000mの崖や石の多い場所に生育します。
https://www.inaturalist.org/taxa/1116311-Euphorbia-inarticulata/browse_photos

⑧E. fruticosa
イエメンの固有種。高さ約40cmで、茎は7〜10つのribがあります。ribは時として12本になります。標高1094〜2200mの崖や岩の多い平原に生えます。

⑨E. fractiflexa
イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3つのribを持ち、高さは最大2.5mになります。一般に標高150〜539mの海岸平野の岩の多い砂利や石の土壌に生育します。

https://www.inaturalist.org/taxa/1177654-Euphorbia-fractiflexa

⑩E. ammak
イエメンとサウジアラビアの固有種。高さ10mになる
2007年に記載されました。茎は通常4つのribを持ち、枝先は乱れることがあります。標高1000〜2500mの岩場に生育します。
https://uk.inaturalist.org/taxa/192176-Euphorbia-ammak

⑪E. momccoyae
オマーンのDhofar州の固有種。茎は5〜6つのribがあり、高さ1.25mで主茎から10〜30本の枝を出します。イエメンと国境を接するアラビア湾の海岸沿いの石灰岩の崖に生育します。インド洋の南西モンスーンの影響により、標高1000mまで見られます。2011年に記載されました。

https://www.inaturalist.org/observations/58404648

最後に
モロッコはアフリカ大陸のユーフォルビアの中心を考えると、アフリカ大陸の中では外れに位置します。E. officinarumやE. resiniferaは園芸的には珍しい種ではありませんが、面白いユーフォルビアです。モロッコに近いカナリア諸島を代表する2種のユーフォルビアは、かつて読んだ報告ではE. handiensisはE. officinarumと近縁ですがE. canariensisはアラビア半島経由で入ってきた種ではないかとされていました。さらなる研究が望まれます。
しかし、アラビア半島から沢山の新種が見つかっていることを初めて知りました。調査が未開拓な地域もまだまだあるのでしょう。これからも新種が見つかるホットな地域なのかも知れません。これは目が離せませんね。


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Euphorbia knuthiiと言う塊根性ユーフォルビアがあります。この種小名は人名から来ているとされているみたいです。いわゆる献名ですね。本日はE. knuthiiの名前に関する話ですが、その前にE. knuthiiの簡単な紹介をしましょう。

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Euphorbia knuthii Pax.
狗奴子キリンと言う名前でも呼ばれています。

E. knuthiiの履歴書
E. knuthiiは南アフリカからモザンビークに分布する、多肉質の茎と塊根を持つユーフォルビアです。SchlechterがモザンビークのRessano Garciaで1897年に採取した標本がタイプ標本となっています。ドイツの植物学者であるFerdinand Albin Paxが、1904年にEuphorbia knuthii Pax.と命名しました。
1911年にイギリスの植物学者、分類学者であるNicholas Edward Brownが、Euphorbia johnsonii N.E.Brown.を新種として記載しましたが、後にE. knuthiiの異名扱いされました。しかし、ローデシアの植物分類学者であるLeslie Charles Leachにより、1963年にE. johnsoniiはE. knuthiiの亜種とされました。つまり、Euphorbia knuthii subsp. johnsonii (N.E.Br.) L.C.Leachです。この学名は現在でも有効です。
また、亜種johnsoniiが出来たことにより、今までE. knuthiiと呼ばれていた植物は、Euphorbia knuthii subsp. knuthiiとなりました。よって、E. knuthiiとは、亜種knuthiiと亜種johnsoniiを合わせたものを指しています。


「knuthii」は「Kunth」から?
ここからが、本題です。
某サイトには、「knuthii」とはドイツの植物学者であるCarl Sigismund Kunthに対する献名とありました。そして、何故か「Kunth」が「knuthii」になってしまったのだとありました。初めてその記事を読んだ時は特に疑問に思いませんでした。しかし、最近になり論文を読んでいたら「Knuth」と言う植物学者が登場したため、おやおやと思いました。ようするに、「Kunth」ではなく「Knuth」に対する献名なのではないかと言う、真っ当な疑問が湧いたわけです。


命名者の情報
E. knuthiiの命名者であるPaxは、サクラソウ科、トウダイグサ科、カエデ科を専門としていたようです。Paxは1858年生まれで1942年に没しています。
献名は知り合いか、その分野に貢献した研究者に対するものが多いように思われます。知り合いの場合、研究者なら分かりますが、標本を送ってくれた人に対するものもあり、命名者が本などに誰に対する献名かを記載してくれない限り、由来が分からないものもあります。
さて、ではCarl Sigismund Kunthはどうでしょうか? Kunthは1788年生まれで1850年に没しています。生没年からして、Paxと直接的なつながりはありませんよね。考えられるとしたら、南アフリカのユーフォルビア研究に多大な貢献をしているのかも知れません。しかし、Kunthはチリ、ペルー、ブラジル、ベネズエラ、中央アメリカ、西インド諸島といったアメリカ大陸を専門とした研究者でした。Paxが献名するようには思えません。


海外でも混乱
日本語のサイトでは他には情報がなさそうでしたから、海外の情報を見てみました。
海外では国内とは異なり、情報が直ぐに出てきました。
ただし、困ったことに、サイトにより異なる人物を挙げているのです。それは、以下の3人です。

①Paul Erich Otto Wilhelm Knuth
ドイツの植物学者、生態学者。1854年生まれ1900年没。
②Reinhard Gustav Paul Knuth
ドイツの分類学者、植物学者、昆虫学者。1874年生まれ1957年没。
③Fredrick Marcus Knuth
デンマークの分類学者。サボテンの収集と分類で知られる。1904年生まれ1970年没。

何れにせよ、Carl Sigismund Kunthは関係がなさそうです。

Paxの記載
では、E. knuthiiを初めて記載したPaxの記述を見てみましょう。Adorf Englerの『Botanische Jahrbucher fur Systematik』にPaxの記述があります。
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おそらく、上の段はラテン語で植物の特徴を記しています。下の段はドイツ語の説明でしょう。ラテン語もドイツ語も読めませんが、「knuthii」の語源については、残念ながら記されていないようです。なお、E. schinziiに近縁と書かれているようです。

論文の情報
すっかり、行き詰まってしまいました。仕方がないので、手当たり次第にE. knuthiiの情報を漁ってみました。すると、何やら興味深い論文を発見したのです。それは、Jose Manuel Sanchez de Lorenzo Caceresの2013年の論文、『Eponimos del genero Euphorbia L.』です。この論文はユーフォルビアの名前の由来を解説したものです。早速、E. knuthiiの項目を見て見ましょう。

★Euphorbia knuthii Pax.
「花の生物学の専門家であるドイツの植物学者、Paul Erich Otto Wilhelm Knuth(1854-1900)に因んでつけられました。」


どうやら、3人の候補の①が正しいようです。ついでに、E. johnsoniiについても見てみましょう。

★Euphorbia johnsonii(=E. knuthii)
「植民地資源を搾取し、明らかにこの植物を収集したモザンビーク会社の農業部長William Henry Johnson(1875-?)に捧げられています。」


最後に
ようやく決着です。このような情報は得るのは中々難しいですね。いくつかのサイトで情報が異なっていたように、根拠のないあやふやなものも多いのでしょう。この場合、命名者であるPaxと同年代に活躍したKnuthと言う植物学者が3人もいたことが、混乱のもとでした。さらに、国内のKunthであると言う情報は明らかに根拠のないただの類似にしか思えません。
ただし、誰に献名されたかは、命名者の生前の記述がない場合は、後の時代では当て推量となってしまいます。おそらくそうだろう、その可能性が高いといった根拠レベルのものもあります。今回のE. knuthiiに関しても、論文でもその根拠は示されていません。もしかしたら、PaxとP. Knuthに手紙のやり取りなど、個人的なつながりがあったのかも知れませんけど。
そう言えば、過去にも献名に関する記事を挙げたことがあります。しかし、インターネット上で誤った情報が流布されていることを注意喚起している論文もありました。献名については、私のような素人には基本的に情報が探し出せないと考えています。研究者が大学や博物館に収蔵されている資料を漁って初めて明らかになるものでしょう。似ているからと言って適当に由来をでっち上げるのは、差し控えるべきです。私もインターネット上の情報のあやふやさを思い知った次第です。


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多くの多肉植物は様々な要因によってその生存を脅かされ、生息数が減少し絶滅の危機に瀕しています。しかし、絶滅危惧種は動物より植物の方が圧倒的に多いにも関わらず、動物と比べると植物は保護に関わる研究・調査や保護活動のための資金は圧倒的に少なく、非常に遅れています。現状を把握するために定期的な原産地の調査が必要ですが、絶滅危惧種であってもそのほとんどが調査もされず放置されたままです。調査されないまま、おそらく絶滅したと考えられている種もあり、調査は急務と言えるでしょう。さて、本日はそんな希少植物を危機意識を持って調査した論文をご紹介します。それは、N. N. Mhlongoらの2023年の論文、『Distribution, population structure and microhabitat profile of Euphorbia bupleurifolia』です。

E. bupleurifoliaの特徴
ソテツトウダイグサ(cycad spurge)として知られるEuphorbia bupleurifolia(鉄甲丸)は、高さ20cmほどになる多肉植物です。幾何学的に整った結節状の茎は、通常は分岐せず、直径4〜7cmの球形または亜円筒形の外観です。葉は茎の先端に房状につき、乾季には落葉します。春に新しい葉が出る直前に花が咲きます。

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鉄甲丸 Euphorbia bupleurifolia

分布域の現地調査
E. bupleurifoliaの過去の分布を特定するために、過去採取された標本の産地情報や、撮影された画像の情報、さらには保護活動家にも連絡をとりました。その結果、33箇所の産地が特定され、そのうち31箇所が現地調査されました。2018年8月から9月の30日間に渡る調査により、わずか9箇所しかE. bupleurifoliaは発見されませんでした。うち1箇所は1個体しか見つからず、その地域では事実上の絶滅です。また、調査により発見されたE. bupleurifoliaは、合計1724個体に過ぎませんでした。

年齢分布
一般的に増殖している個体群は新たに加入する若い個体が多く、年齢が高い大型の個体は減少していきます。縦軸を個体数、横軸を年齢としたグラフでは、逆J字型(右肩下がり)になります。個体数が減少している植物は、新たに加入する若い個体が少なくなり、グラフはJ字型(右肩上がり)になります。しかし、E. bupleurifoliaは中間サイズの個体が多く、グラフは釣り鐘型となりました。これは、一般的には植物の寿命が長く、成体の生存率が高いことに起因します。調査では、実生個体は3箇所でしか見つからず、全体として若い個体の加入率は低いものでした。
釣り鐘型のサイズ曲線は、Kumara plicatilisで確認されたパターンで、Haworthiopsis koelmaniorumでも観察されています(※)。違法採取や火事により大型個体が失われると、個体数の減少を招く可能性があります。

※ ) このパターンは、実生の定着率が低くても、寿命が長い成体が種子を蒔き続けることにより維持されています。ですから、種子を生産する親個体の減少は、個体群の崩壊を招きます。


生息地に与える人為的悪影響
E. bupleurifoliaに与えられる悪影響として、もっとも一般的なのは踏みつけです。8箇所で確認されています。しかし、その影響のレベルは大したことはありません。5箇所では火災と採取の痕跡がありました。4箇所ではゴミの投棄が起こっています。3箇所ではバイクやサイクリングによる影響もありました。病気や害虫の被害は少なく、それぞれ4本と3本が影響を受けただけです。また、1個体しか見つからなかった地域、Kwazul-Natalでは農業の拡大のために生息地が消滅していると言う報告があります(Scott-Shaw, 1999)。

火災の功罪
繰り返しおこる火災はE. bupleurifoliaの生存に対する脅威の1つです。しかし、火災が発生しない3つの自然保護区では、E. bupleurifoliaの個体数は非常に少なく、火災が発生することに意味がある可能性があります。
火災が種子の発芽を促進したり(Mbalo & Witkowski, 1997)、生長を刺激すると言われています(Pfab & Witkowski, 1999b)。さらに、火災が開花を刺激している可能性があります。また、適度な火災が日照を遮るイネ科植物を燃やすことにも意味があるかも知れません。

最後に
鉄甲丸の自生地の調査により個体数が減少していることが確認されました。おそらく、鉄甲丸の場合は開発や違法採取によるダメージが大きいような気がします。場所によっては1個体のみでしたが、鉄甲丸は多くのユーフォルビアがそうであるように雌雄異株ですから、もはや種子を作ることが出来ません。ですから、その場所においては事実上の絶滅とされるのです。さらに、個体数が減少した場所では、やがて遺伝的に均一になってしまうでしょう。遺伝子の多様性が失われた場合、環境変動や病害虫に脆弱となる可能性もあります。現状においては野生の鉄甲丸に明るい未来を描くことは困難です。しかし、このように学術調査がなされたことは大変な僥倖です。保護のための第一歩としては大変重要と言えるでしょう。
さて、論文を読んでいて気になったのは、鉄甲丸の自生地での生え方です。意外にも鉄甲丸は地中に埋まりがちなようです。ほぼ頭だけを出して花を咲かせている個体もよく観察されたと言うことです。特に乾季には地中に潜り込む性質があるようです。このような生態は、E. pseudoglobosaやE. susannaeでも観察されているみたいですが、厳しい環境に対する適応なのでしょう。非常に面白い生態ですね。



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何時ぞやか、Euphorbia sp. nova. somalia hordioと言う名前のユーフォルビアを入手しました。「sp. nova.」は新種と言う意味ですが、実際に学術的に記載されていませんから、少し違うような気がします。どちらかと言えば、裸名(nom. nud.)じゃないの? と言う疑問もあったりします。また、情報が非常に乏しく、調べてもコピペみたいな文章ばかりで何も分かりませんでした。そこで、記事内で情報を呼びかけてみたところ、有り難いことにコメント欄に有益な情報が寄せられました。何でも試しにやってみるものですね。さて、とは言え一応は調べてみたものの、決定的に何かが分かったわけではありません。あくまでも、備忘録として現在の知り得た情報を記録しておこうと言うだけのことです。

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謎のユーフォルビア

コメントによりますと、Euphorbia sp. nova. somalia hordioは、産地に誤りがあると言われているそうです。さらに、モザンビーク原産のEuphorbia unicornisとされることもあるそうです。ただ、名前にuniがつくことが個人的に疑問であるとのことでした。確かに、uni=1つの+cornis=角ですから、これはトゲが1本であることを示しています。somalia hordioはトゲが2本ありますからね。しかし、E. unicornisはsomalia hordioに非常によく似ています。

Euphorbia unicornisの画像は以下のリンクから。

そもそも、今まで
somalia hordioに似たユーフォルビアを見たことがなかったので驚きました。E. unicornisとsomalia hordioが同一種ではないとしても、近縁であろうことは何となく分かります。E. unicornisはモザンビーク北東部の原産ですから、somalia hordioはやはりモザンビークあたりの原産なのではないかと予想されるのです。
さて、ではE. unicornisとはどのような植物であるのか調べていたのですが、そこには興味深いことが書かれていました。E. unicornisはE. corniculataに似ていると言うのです。

Euphorbia corniculataの画像は以下のリンクから。

E. corniculataはモザンビーク北部中央に分布します。E. unicornisに似ていますがトゲは2本あります。ここで、キュー王立植物園の提供する情報を見てみましょう。高さ15cmまでのトゲのある多肉質な低木で、基部から密に枝分かれして直径80cmまでの塊になります。枝は直径10-15mmで、6-8個の溝に区切られた稜を持ちます。トゲは8mmまでで可変し、spine shieldは結合し、幅5mmの連続し曲がりくねる角質の隆起があり溝で仕切られています。葉は0.75mm×0.75mmで脱落性です。


こちらは特徴がよく分かる画像です。

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Euphorbia sp. nova. somalia hordio

ユーフォルビアのトゲとトゲの間をつなぐ角質化した構造をspine shieldと呼びます。somalia hordioは色合いが派手なせいで、spine shieldが分かりにくい感じがします。この暗い色の部分がspine shieldにあたるのでしょうか。まあ、そもそもE. corniculataもspine shieldは画像ではよく分かりませんけど。

こちらは、E. corniculataの絵ですが、しなりながら育つ様子はsomalia hordioに良く似ています。

ことさら確証もなくダラダラ書いてきましたが、残念ながら良く似ている止まりです。花が明るい紅色で非常に特徴的ですから、花が咲けば何か言えるかも知れませんが、花が咲くのはいつになるやら…
これは個人的な意見ですが、somalia hordioはE. corniculataのコントラストが強いだけの個体にも見えます。どうでしょうかね? 現状では手詰まりですから、他に何か情報をお持ちの方はコメントしていただけますと助かります。


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去年の年末にシマムラ園芸で、Euphorbia antisyphiliticaと言うユーフォルビアを入手しました。いわゆる、キャンデリラソウと呼ばれる植物で、かつてはロウをとるために乱獲されていました。その後には、石油ベースのロウがメインになり、キャンデリラソウはお役御免となったわけです。しかし、現在では化粧品や食品関係でキャンデリラのロウが使用されているそうです。さて、そんなキャンデリラソウですが、ロウだけではなく、様々な用途での利用が期待されているようです。果たして近年のキャンデリラソウ研究はどうなっているのか、いくつか論文を見繕ってみたので簡単に見ていきましょう。

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キャンデリラソウ Euphorbia antisyphilitica

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ロウが点々と付着します。

活性物質の同定
キャンデリラソウの学名は「抗梅毒」と言う意味らしく、かつては性病の薬として利用されてきたようです。その実際の効果の程は不明ですが、古くから利用されてきたことだけは分かります。Shailendra Sarafらの1994年の記事、「Antihepatotoxic principles of Euphorbia antisyphilitica」によると、インドのJhabua地区の部族の間では、E. antisyphiliticaが肝疾患の治療に使用されているとあります。キャンデリラソウは米国からメキシコの原産ですから、恐らく古くから移植されていたと言うことなのでしょう。この記事では、キャンデリラソウの成分を分析して、エラグ酸とジメチルエラグ酸を抗肝毒性のある活性物質として同定しています。また、近年ではキャンデリラソウからはエラジタンニンと言う新しい抗真菌活性物質も分離されています(J. A. Ascacio-Valdes et.al., 2013)。

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Euphorbia antisyphilitica
『Madrono; a West American journal of botany』(1955-1956年)より。サン・アンドレス山脈で撮影されました。


エラグ酸とは何か
エラグ酸は非常に期待される成分のようで、沢山の論文が出ています。例えば、メタボリックシンドロームに対するエラグ酸の効果についての総説(K. Naraki et.al., 2023)や、癌に対する効果が期待出来ると言う論文(M. Cizmarikova et.al., 2023: M. Golmohammadi et.al., 2023)も豊富です。それに留まらず、エラグ酸とその加水分解物は、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、抗炎症、抗高脂血症、抗鬱薬様活性があると言います(D. D. Evtyugin et.al., 2020)。
さて、エラグ酸は野菜や果物やナッツに含まれるようです。しかし、これらの食糧作物からエラグ酸を抽出することは、あまり良いアイディアとは思えません。食糧作物は食糧として利用したほうが良いことは明らかだからです。出来るならば、食糧にならない専用の作物が良いと言うことになるでしょう。キャンデリラソウからのエラグ酸抽出が非常に優れていると言う論文(J. A. Ascacio-Valdes et.al., 2010)も出ています。果物や野菜のエラグ酸は含まれる量が少ないのかも知れませんね。そのため、キャンデリラソウはエラグ酸抽出のための作物として有効なのでしょう。


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Candelilla
『Saguaroland Bulletin』(1975年)より。庭に移植されたもののようです。


何故、キャンデリラソウなのか
キャンデリラソウが他の作物より優れているのは、何も有用成分を含んでいるからだけではありません。例え有用成分を沢山含んでいても、病害虫に弱かったり、常に灌水して乾かないように気を付けなければならなかったり、生長が遅かったりした場合、実用には至らないでしょう。その点、キャンデリラソウは非常に丈夫ですから、産業化しやすい作物と言えます。
その観点から言えば、如何にもバイオ燃料の原料としても使えそうです。何故ならバイオ燃料は単純に大量のバイオマスが必要だからです。ある論文(S. Johari & A. Kumar, 2013)では、キャンデリラソウの利点として、食糧作物と燃料が競合すべきではないという点と、普通の作物が育てにくい乾燥地で栽培できるという点を挙げています。また、キャンデリラソウが非常に丈夫である点から、本来は作物に不適な乾燥地にある劣化した石灰質土壌で、何と水がないからと塩水を撒いて育てた論文(J. C. Dagar et.al., 2012)もあります。耕作不適地を有効利用出来るメリットは計り知れません。

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Candelilla
『Breves apuntes de botanica』(1930年)より。


キャンデリラソウの収量を増やす
キャンデリラソウは割と手がかからず、乾燥地に植えっぱなしでも育ちますが、それでも出来るだけ収量は増やしたいものです。とは言え、頻繁に水や肥料を撒かなくてはならないのなら、わざわざキャンデリラソウを育てる利点はあまりないでしょう。簡単な方法としては、鉄分を多く与えるとキャンデリラソウから回収出来るロウとバイオ燃料の収量が改善されると言います(N. K. Mehrotra & S. R. Ansari, 1999)。手間がかからず、収量が上がる良い方法です。

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Candelilla
『Proceeding of the United State National Museum』(1967年)より。Euphorbia ceriferaとして記載されました。


食品分野への応用
キャンデリラソウは薬用植物、あるいはバイオ燃料としてだけではなく、食品分野にも応用が考えられています。利用するのはキャンデリラソウから採れるロウで、キャンデリラ・ワックスと呼ばれています。キャンデリラ・ワックスは可食可能なフィルムや食品のコーティング、あるいは食品添加物を含む様々な用途への利用が期待されています(N. E. Aranda-Ledesma et.al., 2022)。また、食品のコーティングと言う観点からは、キャンデリラ・ワックスにより果物の保存に使うと言う例もあります。例えば、鮮度が直ぐに落ちてしまうため、取引量が少ないパッションフルーツをキャンデリラ・ワックスでコーティングすると保存性が上がるとか(E. Sanchez-Loredo et.al., 2023)、直ぐに腐ってしまうブラックベリーをキャンデリラ・ワックスによりコーティングしようと言う研究(A. Ascencio-Arteaga et.al., 2022)や、トマトの品質をキャンデリラ・ワックスによる食品コーティングにより保とうと言う研究(J. Ruiz-Martinez et.al., 2020)など、盛んに研究が行われています。

最後に
キャンデリラソウは、ユーフォルビア属の中ではカマエシケ亜属(Subgenus Chamaesyce)に含まれます。カマエシケ亜属のユーフォルビアは一年草が多く、例えばニシキソウの仲間は日本を含め世界中に分布します。その他にはポインセチアやハツユキソウ、カラーリーフとして花壇に植栽されるE. cotinifoliaなどの多肉植物ではないユーフォルビアが知られています。カマエシケ亜属では、多肉植物であるキャンデリラソウは珍しい部類と言えるでしょう。
さて、キャンデリラソウは様々な有用成分を含み、様々な用途での産業利用が考えられています。今までの長い利用の歴史から、その安全性と利便性が分かっているということも大きいのかも知れません。しかし、キャンデリラソウは本日ご紹介した以外にも沢山の用途が研究されています。ワックスを抽出した後の残渣から、異なる成分を抽出する方法など、キャンデリラソウの用途可能性は無限にあるかのようです。現在はおそらくキャンデリラ・ワックスが主たる用途ですが、他にも産業利用出来そうなネタが沢山あるのです。今後のキャンデリラソウの動向から目が離せませんね。今後は、何気ない手に取った商品に、キャンデリラソウの名前がさり気なく書かれているかも知れません。


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ユーフォルビアは傷付くと乳液を出しますが、この乳液には毒があると言われています。しかし、実際にその毒の被害にあった人の話は聞いたことがありません。古い論文を読むと、大型の柱サボテン状になるユーフォルビアの乳液は、皮膚に着くと水膨れを引き起こすなどと書かれています。しかし、実例は依然として分かりません。過去にも調べたことはありましたが、中々良い論文を見つけ出せませんでした。論文では、どうしても化学的な話となってしまい、含まれる化合物の特定や構造式の解明など、単純な毒性は分かりませんでした。最近、サボテンのトゲを抜く方法を調べた時、医師からの報告が論文として存在することに気が付きました。なるほど、実際の症例を探せば良いのです。探し方が間違っていましたね。
と言うわけで、症例報告を見てみましょう。本日ご紹介するのは、TSK Lamらの2009年の論文、『A case report of ocular injury by Euphorbia plant sap』です。香港からの報告のようです。

乳液が目に入る事故
2008年9月にユーフォルビアの乳液が右目に入った52歳の男性が、激しい痛みのために事故救急部門を受診しました。患者は学校の庭師でしたが、Euphorbia trigonaの剪定作業中に誤って乳液が目に入ってしまいました。目は水で洗いましたが、1時間半後に持続的な痛みを訴えて病院を受診しました。

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Euphorbia trigona
『Beknopt leerboek der  plantkunde voor Nederlandsch-Indie』(1923年)より。


病院での処置
病院では直ちに局所麻酔下で生理食塩水で目を洗浄しました。右目は結膜が充血していましたが、光への反応や瞳孔のサイズ、視力には問題がありませんでした。検査では角膜びらんは見られませんでした。細菌の二次感染や合併症を防ぐために抗生物質が処方され、さらなる治療のために眼科クリニックが紹介されました。眼科クリニックでは合成副腎皮質ホルモンと抗菌剤が処方されましたが、患者は激しい痛みに2日間苦しみました。しかし、1週間後の検査では、角膜の傷跡や視力障害などの深刻な後遺症もなく、完全に回復しました。

過去の症例
ユーフォルビアの乳液により引き起こされる眼毒性は、灼熱痛、流涙、羞明、結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、角膜潰瘍、角膜浮腫、角膜剥離、失明に至るまで様々な重症度があります。
過去の症例では、炎症の程度は乳液への曝露量とユーフォルビアの種類によります。E. peplusの乳液は線維性ぶどう膜炎を伴うユーフォルビア角膜炎を引き起こします。E. lathyrisの乳液ではぶどう膜炎は軽度であり、フィブリン(線維)は見られません。E. tirucalliやE. lacteaは、様々な程度のぶどう膜炎を伴う角膜炎を引き起こします。E. characiasとその亜種wulfeniiはぶどう膜炎を伴わない軽度の角膜炎のみを引き起こします。今回の症例からすると、E. trigonaは結膜損傷のみを引き起こしました。しかし、眼の炎症の重症度は、乳液の濃度と接触時間も関係しています。
一般に早期に診察と治療が行われた場合、重篤な合併症、つまり視覚障害が発生することは稀です。服薬の遵守と経過観察がしっかりと行われていれば、臨床経過は良好ですから安心して下さい。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユーフォルビアの乳液には毒性がありますから、扱いには注意する必要があります。特に大型のユーフォルビアを剪定する際は気をつける必要があるでしょう。しかし、小さなユーフォルビアであっても、指に乳液が少しついたりして、気付かないで目をこすってしまったりという事故は十分考えられることです。我が家にあるユーフォルビアは小さなものばかりですが、その数は10や20では済まないので、十分に気を付けたいものです。多肉植物好きとして考えさせられる事故の報告でした。


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植物にとって花を咲かせることは、受粉し種子を作るために重要です。しかも、受粉は非常に多様で様々な工夫があり、植物の進化を考える上でも非常に面白い対象です。さらに、受粉について調べることは、希少植物の生態を理解し、保護のための基礎知識を与えます。ですから、花の受粉については割と詳しく研究されています。多肉植物の受粉についても調べられていますが、残念ながら調査対象に偏りがあります。例えば、サボテンは割と詳しく研究されており、種により受粉形式にかなりの違いがあることが明らかとなっています。アロエの受粉形式はごく一部が研究されているに限り、その少ない研究を見ただけで、非常に多様で知られていない生態がいくらでもあることが分かります。しかし、アフリカに分布する多肉質のユーフォルビアに関しては、ほとんど論文がありません。ユーフォルビアの研究と言えば、ヨーロッパ原産の草本が主なのです。しかしそんな中、珍しいことにアフリカの多肉ユーフォルビアに関する受粉を扱った論文を見つけました。それは、Dino J. Martinsの2010年の論文、『Pollination and Seed Dispersal in the Endangered Succulent Euphorbia brevitorta』です。

矮性のEuphorbia brevitortaは、ケニア固有の多肉植物です。その分布は局所的かつ分散しており、潜在的に絶滅の危機に瀕している植物として保全の対象となっています。過去に行われたE. brevitortaの研究は、ナイロビ近くの主要な生息地が人為的に撹乱されたことに端を発し、その分類学や生物地理、および保全状況に焦点が当てられて来ました。この研究は、E. brevitortaの花を訪れる花粉媒介者を記録し、その種子散布を観察することです。トウダイグサ科植物はそのほとんどが昆虫による受粉と考えられています。しかし、トカゲにより受粉するEuphorbia dendroidesなど珍しい花粉媒介者の例もあります。結実と種子の散布は絶滅危惧種の植物にとっては重要で、適切な受粉が行われなければ絶滅する可能性があります。

E. brevitortaの花の観察においては、ハエと複数種のミツバチ、スズメバチが最も多くの花粉を運びました。アリや甲虫類は花粉を運ぶ量が少ないことが分かりました。
ユーフォルビアの種子はカプセルが弾けて飛散します。E. brevitortaの種子の拡散は5cmから2mと幅があり、平均で69.84cm 拡散されました。
種子は丸く滑らかで、拡散された後で地面をさらに転がる可能性があります。アリによる二次的な散布を調べるために、種子をアリに与えたところ、50個中38個は無視されました。10個の種子はアリに食べられ、2個は運ばれたものの巣に運ばれる前に捨てられました。


以上が論文の簡単な要約となります。
著者はE. brevitortaは特定の花粉媒介者に頼らないため、環境が撹乱されて昆虫相が変化しても受粉出来る可能性があるかも知れないと述べています。要するに、花粉媒介者に関しては環境変動に強い可能性があるのです。1種類の花粉媒介者に頼る場合(スペシャリスト)、花粉媒介者もその植物の花に適応しているため、受粉の可能性は高くなります。しかし、このような一対一の関係は、片方がいなくなるともう片方も存在出来なくなります。対して、広く浅く花粉媒介者を集める場合(ジェネラリスト)、花粉媒介者は数も種類も安定しないため、受粉も不安定になりかねません。ところが、1種類の花粉媒介者に対する依存性が希薄なため、花粉媒介者がまったく変わってしまっても問題が少ないのです。
種子の散布はどうでしょうか。ユーフォルビアの種子は、熟すと弾き飛ばされるため、ある程度は拡散されます。しかし、論文にあるように親株からそれほど遠くには行けません。他の植物種子の拡散戦略では、動物に食べられたり、動物の体毛に付着したり、風で飛ばされたりと、親株とはまったく異なる場所に散布されます。散布方法としては最大2mはいかにも貧相です。アリによる散布もわずか2%に過ぎません。ところで、E. brevitortaが乾燥地の植物であることを考えた場合、種子が遠くに拡散されてもまったく育たない可能性があります。なぜなら、乾燥地では実生が育つのに適した場所は少ないからです。逆に考えた場合、親株が存在する場所は実生が育つのに適した環境かも知れません。なぜなら、親株がその場所で育っている以上は、親株は実生からその場所で育っていることが明らかだからです。ですから、親株の近くに飛ばされた種子は、遠く拡散された場合よりも生存率が高くなる可能性があるのです。



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以前、テレビを見ていたら、アフリカの砂漠に謎の円形の模様が沢山出来る不思議な現象に迫っていました。この、通称「フェアリーサークル」は、シロアリが形成しているもののようです。しかし、謎のサークルは必ずしもシロアリが原因とは言えないようです。「フェアリーサークル」はサークルの縁に草が生えることにより形成されますが、そうではないサークルもあります。岩がごろごろしている地域に、細かな砂のサークルが点在しており、それは多肉植物が原因であると言います。本日は、謎の「サンドサークル(砂の輪)」を調査し、原因を特定したJ. J. Marion Meyerらの2020年の論文、『Sand circle in story landscapes of Namibia are caused by large Euphorbia schrubs』をご紹介しましょう。

ナミビアに隣接する南アフリカ北西部には、石だらけの地形の中に砂で出来た円形の「サンドサークル」が何千も見られます。サークルにはほとんど草は生えません。サークルの内側には多肉植物の残骸が見つかることもあります。この残骸は付近に分布するユーフォルビアである可能性があります。
砂漠のサークルではナミビアの「フェアリーサークル」に似ています。「フェアリーサークル」は草に囲まれた植生のない砂地のサークルです。「フェアリーサークル」はEuphorbia gummiferaの枯れた跡であると考えられています。ユーフォルビアが枯れると、跡地には有毒で粘着性な乳液が残り、裸地の再植生を妨げます。南アフリカの「サンドサークル」もユーフォルビアが生えていた跡地かも知れません。
「サンドサークル」の周囲に生えるEuphorbia gregariaを観察すると、周囲に砂が蓄積していました。E. gregariaの枝は非常に緻密で、風により飛来する砂をキャッチします。著者らはこの「サンドサークル」がE. gregariaが原因で形成された可能性について検証しました。

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Euphorbia gregaria
『Transactions of the Royal Society of South Africa』(1912年)より。


まず、サークルの内側にあった多肉植物の残骸を正式に鑑定したところ、E. gregariaであることが確認されました。次に、サークルの砂から有機溶媒を用いて成分を抽出しました。抽出物を分析したところ、E. gregariaと同一と考えられる物質が検出されました。ちなみに、E. gregariaの生えていない土壌では同成分は検出されませんでした。

気候変動により多肉植物の急速な枯死が報告されています。巨大な樹木アロエであるAloe dichotoma(=Aloidendron dichotomum)は、気温上昇や降雨量の減少により近年急速に枯死しています。「サンドサークル」は衛星写真により数と分布を数えることが出来ます。「サンドサークル」はユーフォルビアの枯れた跡なのですから、気候変動の指標として利用出来るかも知れません。


以上が論文の簡単な要約です。
テレビで見た「フェアリーサークル」はシロアリが原因ではなく、E. gummiferaの生えていた跡であるという驚きの事実がさらりと語られました。さらに、「サンドサークル」もユーフォルビアの生えていた跡であるというのです。まったく意外な帰結でした。このように一般に知られていない不思議な現象は沢山あり、まだ解明されていないものも沢山あるのでしょう。しかし、気候変動により多肉植物はダメージを受けており、この「サンドサークル」のような跡のみを残して絶滅してしまう種も出てくるかも知れません。跡のみしかない場合、その現象の原因は永久に分からなくなるでしょう。その前に、不明な現象の解明を、そして出来ることなら多肉植物が絶滅しないように出来れば良いのですがね。


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サボテンは古い根元の方が褐色になり硬くなってしまいます。これは、太陽光が原因で樹皮が形成されているということのようです。ただ、樹皮形成はサボテンにはよろしくないことのようで、樹皮形成が多くなり過ぎるとサボテンは枯れてしまいます。この太陽光による樹皮形成は柱サボテン状になるユーフォルビアにも見られる現象です。本日は、南アフリカのユーフォルビアの樹皮形成について研究した、Lance S. Evans & Lauren Scelsaの2014年の論文、『Sunlight-induced bark formation on current-year stem of Euphorbia plants from South Africa』をご紹介します。

2011年のEvans & Abelaは、南アフリカの20種類のユーフォルビアで、サボテンに起きるものと同一に見える樹皮形成を確認しました。ただ、サボテンは古い茎に樹皮が形成されるのに対し、ユーフォルビアでは新しい茎でも形成されます。この研究は樹皮形成の仕組みを理解し、なぜ種類により樹皮形成の度合いが異なるのかを解明することを目的としています。
南アフリカに自生する15種類のユーフォルビアを調査した結果、樹皮形成率は高い順から、E. enopla(12.0%)、E. clandenstina(10.0%)、E. schoenlandii(10.0%)、E. clava(9.0%)、E. heptagona(8.9%)、E. tuberculata(7.8%)、E. fimbriata(6.2%)、E. horrida(6.2%)、E. knobelii(6.1%)、E. hottentota(5.5%)、E. tetragona(5.0%)、E. triangularis(4.6%)、E. avasmontana(0.0%)、E. virosa(0.0%)、E. cooperi(0.0%)でした。

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Euphorbia enopla(樹皮形成率12.0%)

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Euphorbia schoenlandii(樹皮形成率10.0%)

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Euphorbia virosa(樹皮形成稜0.0%)

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Euphorbia cooperi(樹皮形成率0.0%)

樹皮形成は太陽光がより当たる側で発生しました。調査したユーフォルビアを比較すると、樹皮形成率が高い種は稜(rib)がなく、樹皮形成率がなかった種は強い稜がありました。これは、稜があるとくぼんだ谷間が出来ることから、陰が形成されます。そのため、稜がある種類は樹皮形成が起きにくいと考えられます。
また、表面のクチクラの厚みを調査しましたが、種類によるクチクラの厚みの違いは、樹皮形成のしやすさとは相関がありませんでした。

ユーフォルビアの太陽光による樹皮形成は、表面組織の損傷により誘発されます。ただし、E. tetragonaやE. triangularisの幹に形成されるコルク層は、古い茎に形成されるもので、太陽光による樹皮形成とは関係がないようです。太陽光による樹皮形成は表皮細胞が関わりますが、コルクを形成したりはしません。

以上が論文の簡単な要約です。
内容としては、深い稜がある場合には、山と谷が出来て陰が出来ることから、樹皮は形成されにくい傾向があるというものでした。この場合の樹皮とは、大型になる柱サボテン状ユーフォルビアの、古い幹が木質化していく過程とは異なります。しかし、この太陽光による樹皮形成は、どうやらサボテンとメカニズムは同じようなのですが、サボテンは古い組織に出来るのにユーフォルビアは新しい組織に出来るのは何故でしょうか? また、太陽光による樹皮形成は表面細胞の損傷が原因ですから、要するに樹皮形成しにくい種はより強い太陽光に耐えられるということです。では、樹皮形成しにくい種は強い太陽光を浴びていて、樹皮形成しやすい種は陰になるような場所に生えるのでしょうか? 最適環境が異なるように思えます。実際の自生地の環境との比較が見てみたいところです。


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先日開催された「9月のサボテン・多肉植物のビッグバザール」にて、Euphorbia hedyotoidesという塊根植物を入手しました。私が入手したのは非常に小さな実生苗ですが、育つと塊根から伸びる細長い枝と、細長い葉が面白い多肉植物です。E. hedyotoidesを詳しく調べてみようとしましたが、中々調べる時間が取れないため安直に論文を探したところ簡単に見つかったので、では記事にしようということになりました。その論文は、Wernner Rauhの1992年の論文、『The growth-form of Euphorbia hedyotoides N.E.Br. (syn. E. deceriana Croiz.)』です。

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Euphorbia hedyotoides N.E.Br.

E. hedyotoidesの発見
マダガスカル南部のAmbosaryとFort Dauphinの、Didierea科の茂みには、Euphorbia hedyotoidesが見られます。1934年にL. Croizat によりEuphorbia decarianaとした記載されましたが、Leandri(1962)によると1909年にN. E. BrownによりEuphorbia hedyotoidesとしてすでに記載されていると言うことです。Euphorbia hedyotoidesはアフリカではゴム用(caoutchouc)植物として栽培されており、N. E. Brownは旧ドイツ領東アフリカのAmaniにあるManboの植物に因んでいると説明しています。

塊根と異形根
E. hedyotoidesは、高さ1〜1.5mの低木で、大きな塊根が地下にありサッカーボールくらいの大きさになる可能性があります。塊根は胚軸と一次根が膨れたものです。E. hedyotoidesは異形根性(※1)で、塊根は水を貯蔵し、塊根の上部にある側根は水を吸収します。側根は地表から数ミリメートル下に広がっています。

(※1) 異形根性(heterorhizy): 同じ個体で明らかに形態の異なる根を持つこと。

短枝と長枝
若い段階では、一次枝が高さ20〜30cmほど長く伸びます。枝の先端は短枝(brachyblast)となり、そこから放射状に新たな長枝が出て来ます。短枝は徐々に生長し、数年で3〜5cmとなります。葉は一番若い短枝から出ます。


E. hedyotoidesの花は雌雄異株ですが、稀に雌雄同株も見られます。
E. hedyotoidesの花(cyathia)は非常に小さく、ほとんどが単独につきます。花には短い葉柄があり、2つの緑がかる苞葉(cyathophyll)に包まれています。総苞(involucrum)は非常に小さく高さと厚みは2mmで、緑色の腺(grand)は直立し1mmほどです。


分類
E. hedyotoidesの分類は不明です。Leandri(1962)は、E. neohumbertiiやE. viguieriを含むEuphorbia lophogoraグループに分類しましたが、これは間違いです。著者はE. hedyotoidesをE. elliotiiと共に同じ新しいグループとすることを提案します。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
E. hedyotoidesは奇妙な枝分かれをするようですが、Rauhはこれを「hedyotoides型分岐」と呼んでいるようです。しかし、E. hedyotoidesの短枝の画像を見ていたら、何やら見覚えがあることに気が付きました。E. bongolavensisの短枝と良く似ているのです。
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Euphorbia bongolavensisの短枝(枝の先端の模様が入った部分)

Thomas Haevermansの2006年の論文では、E. hedyotoidesやE. bongolavensisを含むグループを、「pyrifoliaグループ」としており、狭義のsection Denisophorbiaに含まれるとしています。やはり、E. millotiiやE. bongolavensisも同じグループに含まれるようです。

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Euphorbia bongolavensisの「hedyotoides型分岐」
短枝から数本の長枝が出て、その長枝の先端には新しい短枝が形成されます。


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ユーフォルビアは世界中に分布し、雑草だったり樹木だったり、あるいは多肉植物や塊根植物だったりと非常に多様性があります。しかし、傷つけると乳液が出るという特徴は共通します。さて、ユーフォルビアの乳液は大なり小なり毒性がありますが、その高い生理活性を薬として利用出来ないかという試みは、近年でも盛んに行われています。ヨーロッパ原産の草本種が使われることが多いのですが、日本ではミドリサンゴあるいはミルクブッシュと呼ばれるEuphorbia tirucalliもよく使われます。これは、E. tirucalliが世界中で帰化しており、各地で実際に利用されていることも関係があるのでしょう。しかし、さらに調べると、意外にもEuphorbia neriifoliaという多肉植物について、その利用が様々に研究されていることに気が付きました。ちょうど、E. neriifoliaについて整理した論文を見つけましたので、ご紹介しましょう。それは、Chinmayi Upadhyaya & Sathish Sの2017年の論文、『A Review on Euphorbia neriifolia Plant』です。

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『Species Plantarum』(1753年)の表紙
植物の学名の歴史はここから始まりました。この書籍においてEuphorbia neriifolia L.が記載されました。つまり、最初に現在の命名システムを適応して命名された最初のユーフォルビアの1つがE. neriifoliaなのです。


Euphorbia neriifoliaの特徴
Euphorbia neriifoliaは南アジア原産の多肉植物で、インドトウダイグサの木(Indian spurge tree)などと呼ばれます。インドのデカン半島全体に見られ、乾燥した岩の多い丘陵地帯で良く見かけます。現在はインド、スリランカ、ミャンマー、バングラディシュ、タイ、ボルネオを除くマレーシア地域で地元住民により栽培され帰化しています。
E. neriifoliaは直立したトゲのある多肉植物です。枝分かれした低木で、高さ2〜6m、あるいはそれ以上に育つこともあります。モンスーンの時期を除いて、1年の大半は葉がありませんが、葉は通常10〜18cmと大きく30cmに達することもあります。

一般的にユーフォルビアの乳液は有毒であり、皮膚に水疱を引き起こしたり、目に入ると重度の浮腫を引き起こす可能性があります。また、ユーフォルビアの葉や根は漁に魚毒としつ利用されることもあります。乳液が付いてしまったら、流水で洗い流すことが有効です。

伝統的な用途
古代のvaidhya(アーユルヴェーダの医師)は、E. neriifoliaの乳液を利用しました。耳痛、肝臓、脾臓、梅毒、水疱瘡、ハンセン病などに使用されました。
E. neriifoliaの乳液はアーユルヴェーダにおいて喘息の薬とされており、乳液と蜂蜜の混合液は喘息薬として家庭薬として利用されています。また、ギー(バターオイルの1種)と乳液を混ぜ、梅毒、内臓閉塞、長期間続く熱帯による脾臓と肝臓の肥大に対して与えられます。バターとともに使えば、潰瘍や疥癬、腺腫脹の化膿防止になります。マルゴサ油(インドセンダンからとれる油)と混合したものはリウマチに使用されます。
黒胡椒と混ぜた根はサソリ刺されや蛇咬傷に、内外から使用されます。茎は灰で焼かれ、蜂蜜とホウ砂を含む飲み物は去痰に使用されます。

薬学的な用途
下剤や駆風剤(ガス抜き)として使用し、食欲を改善し、腹部のトラブル、気管支炎、腫瘍、白斑、痔、炎症、脾臓の肥大、貧血、潰瘍、発熱、慢性呼吸疾患に有用です。
ある研究ではE. neriifoliaの葉の抽出物は、免疫を刺激し、強力な鎮痛剤、抗炎症剤、軽度をCNS(中枢神経)抑制剤、創傷治癒活性があることが分かりました。
乳液は関節炎に対する経口の有効性と安全性を確認しました。
E. neriifolia抽出物をモルモットの創傷治癒活性について評価したところ、コラーゲンおよびDNA量の増加を示し、上皮および血管の増加を示しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
E. neriifoliaはインドでは伝統的にアーユルヴェーダで利用されてきたようです。近年では薬理学的な研究も行われています。しかし、E. neriifoliaはインド以外でも広く南アジア周辺でも栽培されていると言います。単純にインドのアーユルヴェーダの知識が伝わっただけなのか、それぞれの場所により固有の利用方法が発達したのか気になります。
また、論文中の毒性の話はあくまでユーフォルビア全般の話であり、E. neriifoliaの毒性ではないことも気になります。書かれている毒性は、アフリカ原産の柱サボテン状のユーフォルビアについての症状だろうとは思います。様々に利用されていた経緯から、その毒性についても知りたいところです。
E. neriifoliaは伝統医学により利用されて来ましたが、科学的な研究はそれほど進んでいないような印象は受けます。将来的には薬学的作用も詳しく解析されるでしょう。


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マダガスカルは様々な動植物の宝庫で、非常に多くの固有種が知られています。特にユーフォルビア属の多様性には目を見張るものがあり、非常に沢山の種類の花キリンはマダガスカル原産のユーフォルビアの代表です。しかし、マダガスカルには花キリン以外のユーフォルビアも沢山ありますが、森林地帯に生える樹木型のユーフォルビアはあまり知名度がなく育てている人もあまりいないでしょう。本日はそんな非多肉植物のユーフォルビアの分類を提案したThomas Haevermansの2006年の論文、『Taxnomy of the Euphorbia pyrifolia clade』をご紹介します。

Euphorbia L.は2 番目に大きな属であり、約2000種類が知られています。しかし、1862年のBoisser以降は世界的な改訂はなく、それ以降は園芸的に重要な多肉植物のグループを扱ったものばかりです。非多肉植物あるいは半多肉植物は、「ユーフォルビア学者」(Euphorbiologists)からは無視されており、Euphorbia hedyotoidesに近い分類群の大部分もそうです。E. hedyotoidesの仲間は非公式な「Euphorbia pyrifolia group」を形成し、コレクションされる有名な種類もごくわずかです。このグループはマスカレン諸島とマダガスカルに固有です。このグループの多くは記載されておらず、この論文は命名上の知識と問題を整理するよい機会です。

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Euphorbia bongolavensis

このグループは、新しく芽の根元には葉がないかほとんどなく、葉は枝の先端に集まります。翌年、節間が極端に減少した短枝になり花を咲かせます。新しい芽は脇芽によります。このグループの生長を、Rauh(1992)は「hedyotoides型分岐」と呼んでいます。
葉は通常は落葉性で、E. elliotii以外の葉は多肉質ではありません。花は様々な形態を取ります。
このグループは、狭義のsection Denisophorbiaで、花キリン仲間(section Goniostema)の姉妹群です。

最後にpyrifoliaグループの一覧を示します。
1, E. abotii Baker, 1894
2, E. ankaranae Leandri, 1945
3, E. aprica Baill., 1886
4, E. betacea Baill., 1886
5, E. boivinii Boiss., 1849
 ・E. boivinii v. boivinii
 ・E. boivinii v. minor Leandri, 1945
 ・E. boivinii v. oreades Leandri, 1945
6, E. bongolavensis Rauh, 1993
7, E. elliotii Leandri, 1945
8, E. erythroxyloides Baker, 1883
9, E. hedyotoides N. E. Br., 1911
  =E. decaryiana Croizat., 1934
10, E. mahabobokensis Rauh, nom inv., 1995
11, E. mangorensis Leandri, 1945
12, E. martinae Rauh, 1999
13, E. physoclada Boiss., 1860
14, E. pyrifolia Lam., 1796
  =E. gracilipes Baill., 1861
15, E. rangovalensis Leandri, 1945
  =E. castillonii Lavranos, 2002
16, E. umbraculiformis Rauh, nom nud., 1994
17, E. zakamenae Leandri, 1945

以上が論文の簡単な要約です。
このpyrifoliaグループはsection Denisophorbiaの一部をなすようですが、section Denisophorbia自体は遺伝子解析によりsection Deuterocalliに近縁であることが判明しています。section Deuterocalliは、E. alluaudiiやE. cedrorumなどを含む、緑色の棒状のユーフォルビアです。そして、section Denisophorbiaとsection Deuterocalliは、花キリンの仲間であるsection Goniostemaに近縁です。3つのグループは外見こそまったく異なりますが、マダガスカル原産であり起源が同じ植物であることが分かります。
しかし、このタイプのユーフォルビアは、基本的に見かけませんし、しかも分類や命名は遅れているようです。この仲間は、現在どうなっているのでしょうか? おそらくは種類は増えていそうですが、簡単には確認出来なさそうです。なにか、まとめてくれている良い論文が出てくれていると助かるのですが…


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Euphorbia resiniferaはサボテンに似た多肉質なユーフォルビアで、多肉質なユーフォルビアでは珍しくアフリカ北西部に分布します。日本では「白角キリン」という名前もあります。このE. resiniferaはその樹液を薬としていたと言われています。かつて北アフリカに存在したNumidiaの王の従医であるEuphorbusがE. resiniferaを薬として使用したことから、Euphorbiaという名前がついたらしいのです。
さて、このE. resiniferaはその分布により表現型(姿形)に違い(=多形)があると言われています。本日はそのE. resiniferaの多形について調査したHassane Abd-dadaらの2023年の論文、『Phenotypeic diversity of population of an endemic Moroccan plant (Euphorbia resinifera O.Berg)』をご紹介します。

E. resiniferaはモロッコ原産のユーフォルビアで、高さ1mほどに育ち、枝が密につき直径0.5〜2mのマット状の茂みを作ります。そのため、土壌侵食を防ぐ働きがあるようです。また、小さな黄色い花はミツバチを引き寄せます。E. resiniferaの蜜は付加価値が高く、養蜂業が営まれ年間300トンの蜂蜜を生産しています。
しかし、近年では開発の影響によりE. resiniferaの数が減少しています。E. resiniferaはモロッコ固有種ですから、保護のために対策を講じる必要がありますが、まずはその多様性についての調査が不可欠です。著者らはE. resiniferaの表現型について調査しました。

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Euphorbia resinifera

2019年にモロッコに分布する12箇所のE. resiniferaが調査されました。様々な17部位の表現型が測定されました。例えば、トゲの長さは1.95mm〜3.88mm、ブッシュの直径は83〜196.6cm、果実は0.05〜0.17gなど、表現型に差がありました。
表現型に基づく分析により、E. resiniferaは3つのグループに分けられることが分かりました。ただし、特徴が近いものが分布が近いとは限りませんでした。調査地はいくつか山脈がありますが、山ごとに表現型が似ているということもなく、その違いは標高、降水量、気温に関係性がありませんでした。

以上が論文の簡単な要約です。
調査の結果は思わぬもので、これといった傾向がありませんでした。例えば日本は南北に長いため、同じ種類でも分布の最北端と最南端では、かなり表現型が異なることがあります。しかし、この場合はその中間はグラデーションのように特徴が移り変わります。また、気温や降水量により、表現型が局地的に変わることも観察されています。
しかし、不思議なことに、E.resiniferaでは様相が異なります。山頂から麓まで生えていない限り、基本的に好ましいある一定の範囲の標高に生えるため、山同士で植物は行き来が出来ません。つまり、
山は自然の障壁で、山ごとに特徴が異なったりもしますが、それもありません。大変不思議です。
ただ、もとより多様性が高く、様々なタイプが生えてくるだけかも知れません。つまり、様々な環境に適応するために、最初から多様になっているとしたらどうでしょうか? 例えば、乾いた環境でも様々なタイプの実生が生えますが、生き残るのは乾燥に強いものだけが生き残るという場合です。異なる環境では、その環境に最も適したものだけが生き残るのです。論文では環境と表現型の関係を否定していますが、表現型と環境適応は必ずしも関連があるとは限りません。最終的には遺伝子解析を行い、その結果と表現型と環境適応を照らし合わせて、総合的に理解する必要があるでしょう。


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アフリカの乾燥地には多肉植物となった沢山の種類のユーフォルビアが分布します。これらのユーフォルビアの外敵は、害虫以外では開発やら違法採取やらをやらかす人間くらいな気もします。しかし、以前に毒性が高いと言われる矢毒キリン(Euphorbia virosa)について調べていた時に、クロサイは矢毒キリンを食べるらしいと聞いて大変驚いたことを覚えています。最近、たまたまクロサイとユーフォルビアについて書かれた論文を見つけましたので、本日はご紹介したいと思います。それはLinda C. Heilmannらの2006年の論文、『Will tree euphorbias (Euphorbia tetragona and Euphorbia triangularis) survive under the impact of black rhinoceros (Bicornis diceros minor) browsing in the Great Fish River Reserve, South Africa?』です。

この研究は南アフリカのGreat Fish River保護区で、クロサイがユーフォルビアに与える影響を調査したものです。クロサイはCITESの附属書I類の絶滅危惧種です。調査されたEuphorbia tetragonaとEuphorbia triangularisも附属書II類で取り引きが規制されています。クロサイは非常に減少しましたが、保護のために1986年にこの保護区に約70頭のクロサイが再導入されましたが、最近は数が急速に増加しています。クロサイはユーフォルビアを食べますが、クロサイは植物を押し倒してしまうため、大きなユーフォルビアを枯死させてしまいます。クロサイの増加はユーフォルビアにどのような影響を与えたのでしょうか?

一般的に動物は採餌に用する消費エネルギーを最小にすると言われています。そのため、クロサイは押し倒しやすい小さなユーフォルビアを好む可能性があります。また、草食動物があまり訪れない「避難所」がある場合があります。実際に斜面のアカシアはキリンに採餌されずに生き残りやすいことが分かっています。
このような大型草食動物による食害は、すでに過去に沢山の報告があります。バオバブ(Adansonia digitata)はアフリカゾウにより食害され、タンザニアの国立公園では2.7%が枯死し、ジンバブエのザンベジ渓谷では4.9%が枯死しています。ケニアではクロサイがEuphorbia tirucalliを押し倒し、動物保護区ではそうとうな被害があったようです。

2ヶ月の調査で、高さ2m以上の2本のE. tetragonaと11本のE. triangularisが押し倒されました。これは、4日に1本、全体の6.7%に達する数字です。現在の死亡率から計算すると、E. tetragonaはあと8年、E. triangularisは1.5年で調査地から消滅する可能性があります。
もちろん、倒されたからと言ってそのすべてがクロサイによるものとは限らないでしょう。しかし、クロサイがいない地域も同期間観察しましたが、倒木は全体の1.2%に過ぎませんでした。
また、クロサイ以外の動物の食害も過去に報告されています。1つはヒヒ(Papio ursinus)で、若い芽を食べることがあるそうですが、これは大したダメージにはなりません。2つ目はヤマアラシ(Hystrix africaeaustralis)が樹皮を齧ることがあり、これは茎が腐敗する可能性があります。しかし、調査中にヤマアラシの食害跡は観察されませんでした。

ただ、Goddard(1968)やDudley(1997)によると、E. tirucalliやE. ingensは主に乾季に押し倒されると言います。つまり、水資源が枯渇する乾季にのみ、ユーフォルビアを水分を摂取するために食べているのかも知れません。ただし、年間を通して被害が続く訳ではなくても、現在の破壊りつからすると今年の残りの期間に被害がなかったとしても、いずれE. tetragonaとE. triangularisは消滅すると考えられます。

以上が論文の簡単な要約です。
クロサイが消費エネルギーを最小にするという話がありましたが、どうやら2mほどのユーフォルビアがターゲットのようです。それ以上のサイズだと押し倒すのが大変でしょうし、あまり小さいとクロサイの巨体からしたら食べ甲斐がないのでしょう。
しかし、なぜクロサイは猛毒のユーフォルビアを食べても平気なのかは分かりません。とても不思議です。
最後に。クロサイはもはや非常に稀になった希少種ですから、その保護は当たり前のことです。しかし、その保護活動が他の希少種にダメージを与えるという、大変残念な結果となりました。調査地は元々はクロサイが生息していたものの現在は絶滅し、再び導入された地域です。しかし、クロサイとユーフォルビアのバランスは取れていないようです。本来あるべきクロサイとユーフォルビアの関係とはどのようなものでしょうか。保護活動の難しさを実感します。


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Euphorbia pulvinataは、日本では笹蟹丸の名前でお馴染みの多肉植物です。普及種ですから非常に安価で購入出来ます。育てやすく見た目も面白いので、ユーフォルビアの入門種と言えます。たまたまですが、そんなE. pulvinataを題材とした論文を見つけたので、ご紹介します。それは、Luambo Jeffrey Ramarumoらの2019年の論文、『Euphorbia pulvinata Marloth: A useful succulent plant species in Vhembe Biosphere Resesve. Limpopo Province, South Africa』 です。

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笹蟹丸 Euphorbia pulvinata

この研究は南アフリカのLimpopo州Vhembe生物圏保護区の、Nzhelele地域のVhulaudziと隣接する村で実施されました。調査エリア内の人口は30683人でした。調査はEuphorbia pulvinataの利用方法について、30歳以上の無作為に選ばれた120人で実施されました。その内訳は、伝統医9人、薬草師21人、ハンター11人、農民31人、その他一般人48人でした。アンケートした120人全員がE. pulvinataを利用していました。

アンケートの結果として、まずは住民のE. pulvinataの利用方法から見ていきます。参加者の35.8%がトリモチを作るため、25%は家畜の薬として、17.5%は昆虫のトラップ、9.2%は観賞用、6.7%は儀式や魔術目的、5.8%が接着剤としてE. pulvinataを利用しました。アンケートによるとたまたまではなく、積極的にE. pulvinataを利用しており、内容は創造的かつ動的なものでした。
次に利用部位を見てみると、乳液は59%で利用され重要でした。乳液はトリモチや接着剤として利用されます。他には、家畜の薬に根が利用されました。また、トゲや花はあまり利用されませんでした。

以上が論文の簡単な要約です。
内容的には民族学的な調査でした。しかし、このような自生地における利用方法は、希少植物の保護を考える上での基本的な情報として重要です。著者らもその点を言及しています。
多肉植物は様々な要因で数が減少しており、保護が必要なものが多くあります。しかし、保護区を設定して、取引を法律で規制してもあまり意味はありません。保護活動に従事する人材や、違法採取や違法取引の取り締まりも必要です。さらには、この論文のように地元で植物を利用している人たちとの折り合いも必要です。この場合は、単に禁止するのではなく、地元の人を保護活動に従事するための人材として採用したり、なるべく野生個体を使わなくて良いように栽培を支援する活動など考えられることは沢山あります。
E. pulvinataは園芸用途としては普及種ですから、違法採取は問題とはならないかも知れません。自生地に住む人たちの利用もそれほどの脅威ではないかも知れませんが、今後の人口増による開拓、家畜の踏みつけなどが起きるかも知れません。このような調査は今後も実施されるこが望まれます。


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花キリンはマダガスカル原産の、乾燥地に生える灌木です。分類的にはユーフォルビア属ゴニオステマ節に含まれます。塊根性花キリンはまあそれなりに人気がありますが、塊根がではない多くの花キリンは今ひとつ良く知られていないように思われます。本日は「MEMOIRES DE L' INSTITUT SCIENTIFIQUE DE MADAGASCAR」という書籍シリーズの第5巻、1954年に出版されたE. VRSCH et J. Leandriによる「LES EUPHORBES  MALGACHES EPINEUSES ET CHARNUES DU JARDIN BOTANIQUE DE TSIMAZAZA」を見てみましょう。なんと言っても、豊富な花キリンの図譜があり、眺めるだけでも楽しい本です。ちなみに、この図譜は植物園の植物を描いたもののようです。興味深いのは、Euphorbia viguieriの分類は今でもこの本が根拠となっていることです。まあ、内容はフランス語でまったく読めませんから、図譜だけ私の興味のあるものだけ見てみます。

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Euphorbia viguieri
これは我が家のE. viguieriですが、現在5つの変種がありすべてがこの本により定義されています。ちなみに、1954年のUrsch & Leandriにより4変種が分類され、それ以外は自動的にE. viguieri var. viguieriとなりました。ですから、単にE. viguieriと言った場合は、5変種を含んだ名前だったりします。とはいえ、我が家のE. viguieriは変種viguieriでしょう。


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Euphorbia viguieri var. tsimbazazae

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Euphorbia viguieri var. vilanandrensis

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Euphorbia viguieri var. ankarafantsiensis

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Euphorbia viguieri var. caproniana

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Euphorbia neohumbertii

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Euphorbia lophogona
このようなE. viguieriに似たタイプの花キリンは沢山ありますが、あまり見かけませんね。


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Euphorbia francoisii
現在、フランコイシイは存在しませんが、この花キリンは何者でしょうか? 一応、フランコイシイは現在E. decaryiとされていますが、この図譜は似ていません。かつて、E. decaryiと呼ばれていたE. boiteauiを指しているのかも知れません。

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Euphorbia didiereoides

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Euphorbia pedilanthoides

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Euphorbia finarantsoae

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Euphorbia ankarensis
現在はE. denisiana var. ankarensisとされています。


他にも気になる花キリンはありますが、まだ勉強中です。E. milii系の花キリンは最近整理されて、学名も変更されているみたいです。花キリン自体が現在でも整理中ですから、今後も変わっていく可能性が高いでしょう。学術的な動向には目が離せませんね。


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ユーフォルビアは世界中に分布し、ポインセチアやハツユキソウのように多肉植物ではないものも沢山ありますが、乾燥地に生えるものは多肉質でサボテンによく似た種類もあります。基本的にユーフォルビアはシアチウム(Cyathium)と呼ばれる特殊な形状の花序により特徴付けられます。花の特徴は植物分類学では最も重要な因子で、植物分類学者ならば花の構造を見れば未知の植物でも大体の分類群が分かります。しかし、ユーフォルビアの小さな花序の特徴を肉眼で観察するのは、我々アマチュアには中々困難です。また、ユーフォルビアにはかなりの大きさにならないと開花しないものもありますから、趣味でユーフォルビアを栽培している場合、ユーフォルビアの花序を見ることはあまりに時間がかかるでしょう。ですから、我々のような趣味家は、花の特徴ではなくトゲなどの他の特徴をもって種類を特定しています。今日は、そんなユーフォルビアの花序以外のお話です。
本日、ご紹介するのは
Camelie IFRIMの2018年の論文、『STUDIES ON EPIDERMAL APPENDAGES FROM VEGETATIVE ORGANS AT EUPHORBIA SPECIES CULTIVATED IN BOTANICAL GARDEN IASSY』です。ルーマニアの大学からの論文のようです。植物園で栽培されるユーフォルビアの花序以外の外見的な特徴を取り上げています。やはり、論文中でも形態学的研究は非常に稀で、しかも北半球のユーフォルビア(おそらくは多肉植物ではない種類)についてです。南アフリカなどのユーフォルビアはトゲなどの付属物は研究されてきませんでした。著者はトゲと毛状突起、葉の跡について調査しました。
アフリカのユーフォルビアは多肉質でトゲがあり、サボテンによく似ています。これは、収斂進化のよく知られた例です。ユーフォルビアのトゲはサボテンのトゲ(※1)とは異なり、茎が起源(※2)であり「トゲの盾(※3)」(spine shield)があります。


(※1) 一般的にサボテンのトゲは葉が由来と言われます。しかし、木の葉サボテンには葉とトゲの両方がありますから、少しおかしいような気もします。確かにサボテンのトゲは葉が由来ですが、一般的に芽を守るために生える鱗片葉が由来ではないかと言われているようです。

(※2) 柱サボテン状のユーフォルビア(ユーフォルビア亜属)は、確かに角が硬質化してトゲが出来ているように見えます。しかし、ホリダやバリダなどのアティマルス亜属は花茎がトゲになっています。
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トゲは花茎由来です。花茎の先端に花が咲きます。

(※3) 柱サボテン状のユーフォルビアは、トゲとトゲの間が硬質化してつながるものがあります。
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『Flora capensis』(Brownら、1925)では、アフリカのユーフォルビアのトゲには、3つのタイプがあるとしています。
1. 枝の頂点がトゲに変わった
  →E. stenoclada
2. 花序の茎がトゲに変わった。
  →E. ferox
3. 「托葉棘」と呼ばれる対のトゲ。葉の痕跡に向かって異なる位置にある。
  →E. caerulecens 

3種類目のトゲは托葉ではないことにBrownは気付きましたが、この用語はユーフォルビア属の専門文献(Carter, 2002)においても使用されています。

spine shield(トゲの盾)はアフリカのユーフォルビアの種の同定に重要かも知れません。しかし、Beentje & Chee, 2014では、spine shieldはほとんど使用されず、「トゲが突き出した角質パッド」(horney pad from which the spines stick out)として定義されています。Dorseyら(2013)は、spine shieldは「通常、2つか4つのトゲの生長をもたらす」と指摘しています。これは、Carter(1994)により「トゲとして修正された1対のトゲと1対の托葉」であると解釈されています。

論文においてはspine shieldの他に、葉の痕跡、毛状突起が、特徴として挙げられます。論文では最後に植物園のユーフォルビアの特徴を羅列していますが、これは意外と冗長でそれほど重要な事は書いていないので割愛します。その代わり、私の育てているユーフォルビアを例にして、ユーフォルビアの持つ外見的特徴を見てみましょう。
論文は割と大雑把な分け方で、あまり分類を意識していないようです。ここでは、せっかくなので遺伝子解析の結果から得られた分類に則って見ていきます。ユーフォルビア属は4亜属に分けられます。そのうちEsula亜属やChamaesyce亜属は多肉植物ではないものがほとんどです。ここでは、多肉質のユーフォルビアの大半を占めるEuphorbia亜属と、園芸用によく栽培されるAthymalus(Rhizanthium)亜属を扱います。

①New World clade
Euphorbia亜属はアジア・アフリカ・ヨーロッパなどの旧世界のものと、南北アメリカ大陸の新世界のものに分けられます。夜光キリン(E. phosphorea)など一部のものは、南米原産ですがNew World cladeではありません。
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Euphorbia weberbaueri
ウェベルバウエリの茎の断面は歯車状ですが、ribは葉の跡から3本出ます。葉は非常に小さくすぐに脱落します。

②Goniostema節
Euphorbia亜属のOld World cladeは非常に多様で種類が多いので、節(section)ごとに見ていきます。
Section Goniostemaはいわゆる花キリンの仲間で、マダガスカル原産です。茎はトゲのあるものが多く、基本的に木質化します。多肉質なユーフォルビアの葉は脱落性のものが多いのですが、花キリンの葉は長期間脱落せずに残り、葉が脱落した跡が非常に目立ちます。また、塊根性のものが多くあります。花が美しいので鑑賞用に園芸品種が盛んに栽培されます。
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Euphorbia viguieri
ヴィグイエリは葉と幹で光合成する花キリンでは珍しいタイプです。葉は大きく長く残ります。幹はサボテンのように太りトゲがあります。葉の跡は小さく目立ちません。


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Euphorbia neohumbertii
ヴィグイエリとは他人の空似で、それほど近縁ではありません。幹は緑色ですが、ヴィグイエリと比べると光合成にあまり寄与していないように思えます。葉の跡は非常に目立ち、特徴的な縞模様になります。


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Euphorbia didiereoides
大型の花キリンで幹は木質化します。トゲは強く葉の跡は目立ちません。


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Euphorbia boiteaui
ボイテアウイははっきりしたトゲはありませんが、少し毛羽立ったような小さな突起があります。葉の跡は割と目立ちます。


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Euphorbia ramena
ラメナはトゲではなく毛のようなものが出て来ます。


③Deuterocalli節
Old World cladeです。Section Deuperocalliは、マダガスカル原産の棒状の多肉植物です。同じマダガスカル原産のGoniostema節の姉妹群です。
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Euphorbia alluaudii
アルアウディイは葉の跡が枝に沢山残ります。葉は非常に小さくすぐに脱落します。

④Momadenium節
Old World cladeです。かつては、Momadenium属でしたが、近年ユーフォルビア属とされました。そのため、学名が変更されています。
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Euphorbia magnifica
かつてのMonadenium magnificumです。特徴的なトゲと、まばらな葉の跡が目立ちます。葉は硬く丈夫で長く残ります。

⑤Euphorbia節
Old World cladeです。柱サボテン状で大半がアフリカ大陸原産ですが、一部はアジア原産です。トゲとトゲの間が角質化してつながるものがあります。大型の多肉質のユーフォルビアはSection Euphorbiaと考えて間違いありません。
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Euphorbia canariensis
多くのユーフォルビアは生長点に葉を持ちます。トゲが出る時に一緒に葉が出て、その葉はいずれ脱落します。しかし、カナリエンシスは葉がまったく出ません。

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Euphorbia griseola
グリセオラはトゲとトゲの間の稜が角質化してつながります。この特徴はEuphorbia節には良く見られる構造で、苗のころはつながっていない種類もあります。

⑥Florispina亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。Subgenus Athymalusはいくつかの節(section)からなりますが、その大半は多肉植物ではなく樹木となります。多肉質なものはSection Anthacanthaに固まっており、その中でもSubsection Florispinaは中心的です。
Subsection Florispinaは園芸用に有名な種類が多く含まれ、いくつかの種類は大量生産されています。トゲは花茎由来ですが、花が咲かないとトゲが出ないものと、花が咲かなくてもトゲ(花茎)が出るものがあります。
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Euphorbia meloformis
バリダはメロフォルミスに含まれています。枯れた花茎が残ってトゲのように見えます。メロフォルミスは花が咲かないとトゲは出ません。


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Euphorbia polygona var. horrida
ホリダのトゲは花が咲かなくても出ます。しかし、花茎由来なので、よく見ると表面は滑らかではなく苞葉の残骸のような構造が見えます。


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Euphorbia ferox
フェロクスのトゲは非常に強いのですが、やはりホリダと同じくトゲは花茎由来ですから苞葉の残骸のようなものが見えます。


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Euphorbia bubalina
ブバリナはトゲはありませんが、葉は長く残ります。葉の跡が残ります。


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Euphorbia bupleurifolia
ブプレウリフォリアはブバリナと似たような育ち方ですが、イボが鱗状になります。イボの先端が葉の跡なので、葉の跡が下を向きます。


⑦Dacthylanthes亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。塊根から多肉質の枝を出すものがあります。
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Euphorbia globosa
クロボサは脱落性の小さな葉の跡が点のように残ります。


⑧Medusea亜節
Athymalus亜属、Anthacantha節に分類されます。いわゆるタコもの(Medusoid)で、多肉質の幹からトゲのない枝を沢山伸ばします。枝は再分岐せず、いずれ脱落します。
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Euphorbia gorgonis
ゴルゴニスは本体が扁平に育ちますが、枝は非常に短く育ちます。枝には脱落性の小さな葉の跡があります。

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Euphorbia schoenlandii
スコエンランディイは本体が縦に伸びるタイプです。枝は短く、枯れた枝が長く残りトゲのように見えます。

⑨Balsamis節
Athymalus亜属に分類されます。半多肉植物くらいの位置づけの乾燥地の灌木で、幹は水分を貯めるためにやや太りますが塊茎とまではいきません。
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Euphorbia balsamifera
バルサミフェラは樹木状に育ちます。トゲはなく、幹は全体的にやや太くなります。

一般的に論文ではユーフォルビアの特徴として、花序(Cyathium)の詳細な解剖学的特徴が記されます。しかし、それ以外の特徴となると意外と曖昧で、大雑把すぎて近縁種との違いが分からないこともしばしばです。わざわざ、近縁種との見分け形を記述したような論文はあまりなく、入手したユーフォルビアの名札と本当に同じ種類か確かめるのも中々困難です。この論文はあくまでも基本的な情報と問題提起程度の内容ですから、今後発展させた論文が出てきて欲しいところです。


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バルサミフェラ(Euphorbia balsamifera)は、アフリカ北部に広く分布していると考えられていた灌木状のユーフォルビアです。しかし、遺伝子を解析すると、何とバルサミフェラと思われていたユーフォルビアは、3種類に分割されることになりました。ギニア湾沿いに広く分布している集団は、バルサミフェラとは別種のEuphorbia sepiumとして独立しました。また、アフリカ北東部に分布する集団は、以前はバルサミフェラの亜種とされがちでしたが、Euphorbia adenensisとして独立しています。では、肝心のバルサミフェラはというと、モロッコ、西サハラ、カナリア諸島にのみ分布する集団を指すようになりました。
さて、バルサミフェラはアフリカ大陸原産のユーフォルビアには珍しく、割と研究されており論文もそこそこ出ているようです。しかし、残念なことにユーフォルビア研究は毒性のある乳液の化学成分の解析が盛んで、その生態を調べたような論文は非常に稀です。やはり、毒性がある=何らかの強い活性を示す物質がある、という図式なのでしょう。そんな中、バルサミフェラの利用法について実験をした、 S.Y.Mudi & Y.Dattiによる2014年の論文、『REPELLENT EFFECT OF THE LEAF EXTRACTS OF EUPHORBIA BALSAMIFERA (AIT) AGAINST ANOPHELES GAMBIA』を見つけました。

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Euphorbia balsamifera

昆虫により媒介される伝染病には、マラリア、西ナイル熱、デング熱、ライム病など公衆衛生上、深刻なものが多くあります。その多くが虫刺されが原因ですから、病気の蔓延を防ぐための取り組みが必要です。これらは開発途上国、特に熱帯地方の最も重要な公衆衛生問題、および社会・経済的発展の障害の1つです。WHOの1997年の公表によると、マラリアだけで年間1.5〜270万人の感染死亡者と、3〜5億件の感染患者を出しています。
主に熱帯諸国の20億人以上の人がデング熱、マラリア、フィラリア症などの蚊媒介性疾患のリスクにさらされています。蚊による虫刺されを防止するには忌避剤の使用が実用的とされますが、化学合成された忌避剤はやや毒性が高いことが知られています。さらに、合成忌避剤は非分解性であり、環境負荷が高いことも問題です。最近では、バジル、クローブ、タイムなどの植物から蚊ご忌避する成分を抽出する試みがなされています。
論文ではバルサミフェラの葉を乾燥させて粉砕したものを、90%のエタノールに浸けて成分を抽出しました。これをろ過・濃縮し、メタノールに溶解しました。このメタノール溶解物を、石油エーテル、クロロホルム、酢酸エチルでそれぞれ再抽出し、抽出液を乾燥させました。この作業により、それぞれの有機溶媒に溶解する異なる成分が分離されてくるわけです。
これらの成分が蚊を忌避されるかを調べるために、腕にエタノールに溶かした抽出物を塗布し、蚊が忌避するかを確認しました。ただのエタノールのみを塗布した場合と比較して、効果を確認しています。使用した蚊は、ハマダラカの1種(Anopheles gambiae)で、大学が飼育しているものです。
では、忌避実験の結果を見ていきましょう。

抽出物名   12.5%含有 25%含有
エタノール   90.9%   96.9% 
石油エーテル  41.0%   30.7%
クロロホルム  97.2%   100%
酢酸エチル   32.4%   21.6%
メタノール   53.6%   46.3%

12.5%と25%含有したものを使用しています。%は蚊の忌避率です。最初のエタノール抽出物には様々な成分が入っているはずで、忌避効果のない物質も沢山あるはずです。それでも、非常に高い蚊の忌避率でした。クロロホルムで再抽出したものは、さらに高い蚊の忌避率でしたから、クロロホルムで抽出される分画に忌避作用のある物質が含まれているのでしょう。

以上が論文の簡単な要約になります。著者はクロロホルム分画に含まれている物質を特定したいと結んでいます。
さて、この論文は珍しく薬ではありませんでしたが、多肉植物の論文を読んでいると、植物から薬効成分を分離しようという試みは一般的です。私はそういうタイプの論文を記事にはしないのですが、あまり知られていないように思えますから、少しこの点について解説しましょう。
植物から薬効成分を分離し、やがては薬にといった論調の論文は沢山あります。しかし、現実には成分を分析して、効果を試してみて、有効成分を特定して、そこで終わりです。基本的に現代では生物から薬は作られません。どうしてでしょうか?
昔は科学の程度が低かったので、抗生物質を始めとした生物から薬効成分を探していました。しかし、現代では科学の進歩に伴い、薬の開発は様変わりしました。例えば、ある病気に対する薬を開発する場合、昔は様々な生物の抽出成分や化合物を、反応させて薬効を確認していました。しかし、今では病気の分子構造を分析し、そこにピッタリ結合する分子構造を考えだして、合成専門のプロが合成方法を考案し、実際に合成された物質を用いて薬効を試験します。自然物質はその多くが偶然効果のある部分が多少ある程度ですが、合成物質は始めから効果があることがわかっているのです。ですから、植物由来成分が薬になる可能性はほとんどありません。実際に日本の大学でも盛んに生物由来の薬効成分探しはされていますが、その探し出された薬効成分に対して興味を示す製薬会社は基本的にありません。せいぜいが健康食品になる程度です。
では、植物由来成分には意味はないかと言うと、必ずしもそうとも言えないと思います。化学合成による製薬は、あくまで製薬会社の理論です。化学合成薬は欧米諸国では流通しますが、貧しい国の人々には手が届きません。製薬会社は開発費用を回収しなければ赤字になってしまいますから、基本的に新薬は高価です。現実を見ると、貧しい国には現代医療が圧倒的に不足しており、未だに民間療法が中心です。中には毒性が高いものもあり、処方を誤ると非常に危険です。民間療法で使用される植物から薬効成分を抽出出来れば、地産の素材で安価な薬剤を作り出すことが出来るかも知れません。当然、薬効は合成薬より弱いかも知れませんが、現状を変える可能性はあります。
さて、この論文のように、その土地に生える植物を利用するというのは良いアイディアです。環境の合わない外国産の植物を環境破壊しながら無理をして育てるより、元々自生する植物を栽培した方が良いでしょう。特に乾燥地で無理な灌漑農業をすると、地下水が毛細管現象で引っ張られてしまい、土壌中の塩分が地表に析出してしまいます。もし、外国産の植物が乾燥に強かった場合では、逆に野外に逸出する可能性があるためやらないに越したことはありません。現代は少数のメガファーマが医薬品業界を牛耳っていますが、地産地消の医薬があっても良いのではないかと思います。


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最近、Euphorbia confinalis subsp. rhodesiacaという、柱サボテン状のユーフォルビアを少しに見かけるようになりました。このユーフォルビアは大変美しい模様が入ります。しかし、ついこの間、川崎市にあるタナベフラワーさんで開催された多肉植物のイベントで、奈良からお越しのたにっくん工房さんからEuphorbia confinalisを購入しました。subsp. rhodesiacaと書かない以上は、これはsubsp. confinalisのことなのでしょう。これはまだ若い個体で、特徴が完全に明らかではない可能性もあり、比較は難しいかも知れません。しかし、中々情報が少なくやや難儀しましたが、多少は情報が集まりましたから列挙してみましょう。

とりあえずは、キュー王立植物園のデータベースで、現在認められている正しい学名を調べてみましょう。というのも、インターネットで検索すると「rhodesiaca」だったり「rhodesica」、あるいは「rhodesia」だったりと様々だからです。
E. confinalisの命名は割と遅く、1951年のEuphorbia confinalis R.A.Dyerです。R.A.Dyerとは、南アフリカの植物学者、分類学者であるRobert Allen Dyerのことです。ヒガンバナ科植物と多肉植物を専門としていました。
1966年には亜種rhodesiacaが命名されました。Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca L.C.Leachです。亜種rhodesiacaはジンバブエに分布します。L.C.Leachとは、ローデシアのアマチュア出身の植物学者であるLeslie Charles "Larry" Leachのことです。自費でスタペリア、ユーフォルビア、アロエを収集し研究しました。
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Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca

亜種rhodesiacaが命名されたことにより、亜種rhodesiaca以外のE. confinalisはEuphorbia confinalis subsp. confinalisとなりました。亜種confinalisはモザンビーク、ジンバブエ、南アフリカ北部州に分布します。
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Euphorbia confinalis subsp. confinalis

JSTORという論文などの電子ファイルを提供するサイトに、特徴が記されていたので見てみましょう。ただし、ここでいうE. confinalisが、亜種コンフィナリスを指しているかは不明です。もしかしたら、亜種ロデシアカを含んだ解説かも知れません。
◎E. confinalisは高さ4.5〜8(9.5)mの多肉質でトゲのある高木です。幹は単頭か数本の主枝から上向きの枝を出します。枝は長さ1〜1.5mで、3〜5稜です。稜の盾(稜の硬い部分)は、若い時は隣と離れており、やがてつながるようになります。トゲは0.5〜12mmで、すぐに脱落する葉は1mm×1mmくらいです。集散花序はトゲの2〜5mm上に水平に1〜3個あり、Cyathiaは垂直にあります。花柄は長さ2mm、集散花序の枝は長さ3mmほどです。Cyathiaは4.5〜6.5mmでカップ状の総苞があります。腺(glands)は幅2〜2.5mmで緑がかる黄色で、裂片(lobes)は1.5mm×1.5mmで丸く、深い鋸歯があります。雄花の苞葉の長さは3mmで葉状で、雄しべの長さは4〜5mmです。雌花の花被は三角形で直径3mm、花柱は長さ1.5〜3mmで途中で結合し頂端は二裂します。蒴果は深く裂け5mm×8mmで、長さ5〜8mmの反り返った枝があります。
◎Euphorbia confinalis subsp. rhodesiacaの幹は5〜6稜で、通常は枝がいくつもあります。末端の枝は4〜5稜です。トゲは強固で、長さ12mmまでです。

World of Succulentというサイトに、Euphorbia confinalis subsp. confinalisの情報があったので見てみます。サイトによると、「Labombo Euphorbia」という名前もあるようです。ここでは、両性花が指摘されています。
◎高さ9.5mまで生長するトゲのある多肉植物です。枝は単純かいくつかの枝があり、それぞれに湾曲した上向きの枝の冠があります。枝は3〜5稜で、淡い緑色から青緑色で、長さは最大1.5mmになります。トゲは対になっており、最大0.8mmです。花は小さく淡黄色で、トゲのすぐ上に3個のグループで咲きます。中央が雄花で、他2つは両性花です。

Flora of Zimbabweというサイトに亜種ロデシアカについての記述がありました。
◎多肉質のトゲのある木で、主幹はいくつかの幹のような枝に分かれており、それぞれの枝には湾曲した上向きの枝が冠されています。この亜種は5〜6本の稜、より多くの主枝、連続的なトゲにより亜種コンフィナリスと区別されます。

いくつかのサイトを見てみましたが、なにやら似たような文言が並びます。おそらくは、共通した元ネタがあるのでしょう。とはいえ、元の文章がどこから来ているのかは分かりませんが…

さて、次いでE. confinalisの分類を確認しておきましょう。まずは
アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のTaxonony browserで検索してみます。
subgenus Euphorbia
section Euphorbia
つまりは、ユーフォルビア属(トウダイグサ属)、ユーフォルビア亜属、ユーフォルビア節ということです。ユーフォルビア節は、柱サボテン状の多肉質なユーフォルビアのほとんどが含まれる巨大なグループです。

次に2013年に発表された『Phylogenetics, morphological evolution, and classification of Euphorbia subgenus Euphorbia』という論文を見てみましょう。この論文ではユーフォルビアの遺伝子を解析しています。論文によると、E. confinalisに近縁なユーフォルビアは、E. evansii、E. grandidens、E. ramipressa、E. tanaensis、E. tetragonaあたりのようです。

2012年の『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』という論文では、E. confinalisは1951年の『Bothalia』という雑誌の6号222ページにおいて記載されたとあります。タイプ標本は南アフリカのTransvaal、Krunger国立公園は「The Gorge Camp」において、1949年の5月20日にCodd & De Winterにより採取されたものだそうです。

まあ、こんなところでしょうか。結局、大した情報はありませんでしたね。それはそうと、柱サボテン状のユーフォルビアはE. confinalisのように斑入りのものが多いのですが、この模様は種類ごとに決まったパターンがあるわけではありません。同じ模様でも異なる種類かも知れませんし、逆に異なる模様でも同じ種類かも知れません。一番重要なポイントは花ですが柱サボテン状ユーフォルビアはある程度のサイズにならないと開花しないものもありますから、トゲや稜、幹の形などの特徴で見分ける必要があります。


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トウダイグサ属(Euphorbia)は、最も種数が多い属の1つとされ、基本的に毒性のある乳液があります。種類によっては、皮膚に乳液がつくと激しい炎症を引き起こしたり、目に入ると失明する可能性があると言われています。一般的に植物の毒は草食動物に対する防御策であることが知られていますが、ユーフォルビアはどうでしょうか? 植物が毒を持つと、動物も毒に耐性を持ったものが現れ、さらに異なる毒を植物が産生するようなりに、その毒に対して動物が…、という風に植物と動物で終わりのない軍拡競争が行われます。では、ユーフォルビアの毒性はそのような軍拡競争の末の産物なのでしょうか?

調べてみたところ、M. Ernstらの2018年の論文、『Did a plant-herbivore arms race drive chemical diversity in Euphorbia?』を見つけました。タイトルはズバリ、「植物と草食動物の軍拡競争はユーフォルビアの化学的多様性を促進しましたか?」です。植物と草食動物の軍拡競争により、ユーフォルビアの毒の種類が多様になったのかを検証しています。
ユーフォルビアは約2000種あり、約4800万年前にアフリカで発生したと考えられています。3000万年前と2500万年前の2回に渡り、世界中に分散しアメリカ大陸まで分散が拡大しました。ユーフォルビアの毒は多環ジテルペノイド類によります。論文では43種類のユーフォルビアの遺伝的多様性、分布、毒の成分を調査しています。

ユーフォルビアは、旧世界のユーフォルビア亜属(subgenus Euphorbia)、アティマルス亜属(subgenus Athymalus)、エスラ亜属(subgenus Esula)と、主に新世界のカマエシケ亜属(subgenus Chamaesyce)からなります。
ユーフォルビア亜属は、南アフリカやマダガスカルに分布し、柱サボテン状になるE. cooperiやE. grandicornisのように巨大に育つもの、マダガスカルの花キリン類、飛竜などの塊根性のもの、旧・モナデニウムなどがあります。また、一部は南米原産のものもあります。
アティマルス亜属は南アフリカや西アフリカ、アラビア半島の一部に分布し、E. obesaやE. polygona var. horrida、鉄甲丸(E. bupleurifolia)、群生する笹蟹丸(E. pulvinata)、E. gorgonisなどのタコものなど、よく園芸店で見かけるユーフォルビアが沢山含まれます。
エスラ亜属はヨーロッパ原産のカラフルなカラーリーフとして最近良く目にしますが、アジアにも広く分布します。
カマエシケ亜属は主に南北アメリカの原産です。


さて、当然ながら旧世界から新世界へユーフォルビアは分布を拡大したと考えられますが、4亜属をそれぞれ10種類前後を調べたところ、新世界に分布するカマエシケ亜属のユーフォルビアは含まれる毒性成分が少なく種類も貧弱でした。これは、旧世界にはユーフォルビアを食害する蛾がいますが、新世界にはいないからかも知れません。このHyles属の蛾の幼虫は、ユーフォルビアに特化しています。しかし、南アフリカとマダガスカルでは、Hyles属の蛾がいない地域でも、ユーフォルビア亜属やアティマルス亜属の植物は毒性が高いことが明らかになっています。これは、過去に存在した外敵に対するものだったのかも知れません。例えば、クロサイはユーフォルビア亜属のユーフォルビアを広く食べることが知られています。

以上が論文の簡単な要約となります。
おそらくは、現在のユーフォルビアの毒性は、食害する外敵との軍拡競争の結果としてもたらされた産物なのでしょう。しかし、新世界に渡ったユーフォルビアには、もはや軍拡競争の相手がいないため、毒性がマイルドになっていったのでしょう。


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南アフリカは多肉植物の宝庫ですが、アフリカ東岸やマダガスカルもユーフォルビアの宝庫です。しかし、アフリカ内陸部についてはあまり話題に登らないことが多いように思われます。本日はそんなアフリカ大陸の内陸部にあるジンバブエのユーフォルビアのお話です。

本日ご紹介するのは、『Euphorbia of Matabeleland, Zimbabwe』です。ジンバブエは南アフリカの北部に一部を接する内陸国で、アフリカ大陸南部の東岸にあるモザンビーク、その左隣のジンバブ、その左隣のエボツワナ、西岸のナミビアという並びです。ちょうど、南アフリカの北を4カ国が蓋をしているような形になっています。ジンバブエのMatabeleland州は南アフリカとの国境の一部である南のリンポポ川からボツワナまで、国の西側に沿うようにあります。北部はザンベジ川からザンビアとの国境を形成します。標高は最南端の約400mから北のチザリア高原の1400mまでです。このような多様な環境に自生する、ジンバブエはMatabelelandのユーフォルビアを見ていきましょう。

①Large Tree 
◎Euphorbia ingens E.Meyer ex P.E.Boisser
E. ingensは「巨大」を意味し、高さ10mに達し、Matabelelandで最大クラスのユーフォルビアです。幹は木質化し基部から2〜4mで分岐します。枝は通常4つの稜を持ち、主幹は4〜6の稜を持ちます。柱サボテン状のユーフォルビアは、稜の角が角質化してトゲが繋がっていることがありますが、E. ingensは連続しません。茎は緑色で若い時は斑が入ることがあります。葉は若い時はありますが、基本的に残りません。花は通常黄色で、果実は暗赤色に熟してしばしば鳥に食べられます。E. ingensの乳液は魚毒あるいはトリモチの材料とされます。MatabelelandではE. ingensは岩が多い場所を始め様々な環境で育ちますが、霜が降りない地域に生えます。州全体で見られますが、Bulawayo周辺とBulawayoの南部のMatobo丘陵に集中します。

◎Euphorbia cooperi
      N.E.Brown ex A.Berger var. cooperi

E. cooperiは、N.E.Brownの義父であるThomas Cooperiにちなんで命名されました。高さ約7〜10mになります。枝は基部で肥大し膨らみます。枝は通常4〜6稜で、主幹は5〜8稜です。トゲは連続し、対になった大きいトゲと、ない場合もある小さなトゲが交互にあらわれます。花は黄色で、果実は熟すと赤色になります。E. cooperi var. cooperiの乳液は非常に毒性が高く、皮膚についたり目に入ると危険です。乳液は魚毒あるいはトリモチとして利用されます。E. cooperi var. cooperiは州の中央から南部にかけて分布します。
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Euphorbia cooperi var. cooperi
対になった強いトゲの間に弱いトゲがあります。

◎Euphorbia cooperi N.E.Brown ex A.Berger
     var. calidicola L.C.Leach
「calidicola」は暑く乾燥した場所に生えることを意味します(※)。高さ10mに達し、主幹は3〜4(5)稜、枝は2〜3稜です。非常に多様なくびれがあり、var. cooperiと区別出来ます。花序もvar. cooperiよりわずかに長いようです。花は黄色で大きく、著者の観察では蜂、蝿、蛾、甲虫、蝶、亀虫、蟻など、沢山の昆虫を引き付けるそうです。果実は熟すと赤色になります。乳液は刺激が強く、トリモチとして利用されます。
E. cooperi var. calidicolaはMatabelelandの北西部、北部、北東部の高温になる乾燥地に生え、川沿いでよく見かけますが、それ以外の場所でも自生します。

(※1) ラテン語で「calidus」は熱いという意味です。

◎Euphorbia fortissima L.C.Leach
「fortissima」は非常に角質化した稜が強いことに由来します。高さ7mに達し、大きなトゲがあります。主幹は5〜6稜で枝は最大5mで、時折再分岐し3〜5稜です。狭い楕円形から卵形にくびれます。果実は緑色で熟すと淡い赤色に変わります。
E. fortissimaはMatabeleland北部でのみ見られ、主に非常に暑く乾燥した場所で、時には急斜面に生えます。降水量は不安定で、年間100〜1000mmの範囲で変化します。茎のくびれは1年に1つできますが、降水量の多寡によりサイズが変わります。著者の観察では毛虫が沢山つき、雑菌の二次感染により多くのE. fortissimaが枯死しました。

◎Euphorbia confinalis
     R.A.Dyer subsp. rhodesiaca L.C.Leach

「rhodesiaca」はジンバブエの旧名であるローデシアに因みます。ジンバブエ固有種で、若い時は美しい斑があります。高さは15m以上に達します。主幹は5〜7稜、枝は4〜6稜です。枝は長楕円形から卵形にくびれます。subsp. confinalisは高さ30cmほどで分岐を開始しますが、subsp. rhodesiacaは場合によっては高さ1m以上になってから分岐し始めます。稜の間は連続しており頑丈です。花は黄色で小型です。乳液は非常に有毒と言われています。
MatabelelandではBulawayoの南にあるMatobo丘陵から知られています。この地域では変化に富んでおり、E. cooperiに似た形態も見られます。一部の植物は乳液が透明で、これはE. cooperiとの交雑種である可能性があります。この地域では、個体数が減少しており、何らかのストレスがかかっていることが想定されます。著者の観察では、若い植物がほとんどなく、20年以上のものが大半でした。最も若い植物でも、高さ50cm未満の12年生のものでした。
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Euphorbia confinalis subsp. rhodesiaca 

②Spiny Shrubs
◎Euphorbia persistentifolia L.C.Leach
高さ3mに達する多茎のトゲのある多肉質の低木です。幹と枝は通常4〜5稜で、稜の間は連続します。通常は目立つ対になった強いトゲと、その間の弱いトゲからなります。花は黄色です。
E. persistentifoliaはHwangeの南約150kmの州北部でのみ見られ、さらに100km北のザンベジ川とビクトリアの滝あたりに散在します。通常は浅い土壌で岩や石が多い環境です。


◎Euphorbia malevola L.C.Leach
      subsp. malevola

「malevola」は悪意を意味しますが、トゲに由来する名前です。高さ1〜2mの枝分かれしたトゲのある低木です。茎は灰緑色から青緑色、淡緑色または赤みがかった色まで様々で、直径は最大2.5cmです。枝は時にねじれたり螺旋状になり4〜5稜です。しばしば大理石様の模様があります。稜は不連続です。トゲはメインのトゲの間に弱いトゲがあります。花序と花は鈍いオレンジ色から淡い赤色、あるいは濃い赤色です。
Matabelelandでは、主に北部、北東部、北西部に見られ、Wankie周辺の砂岩と泥岩の土壌に育ちます。南部からの報告もありますが、著者は見たことはないそうです。


◎Euphorbia griseola F.Pax subsp. griseola
「griseola」は灰色がかった色を意味し、角質化した稜の色を指しています。通常は高さ1〜2mのトゲのある多肉質の低木です。基部から分岐し、枝の途中からも再分岐します。茎は4〜6稜で、緑色から黄緑色、斑が入ります。稜の間は連続あるいは準連続です。花序と花は黄色から緑がかる黄色です。
Matabelelandではブラワヨを中心に分布し、ボツワナ国境まで広がっています。Matobo丘陵には沢山のE. griseolaが見られます。

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Euphorbia griseola

③Small spiny shrubs
 ◎Euphorbia schinzii F.Pax
1890年代にスイスの植物学者で植物コレクターのHans Schinz博士に因みます。高さ30cmまでのコンパクトなトゲのある多肉植物です。太いを持ち、沢山の枝を出します。枝はほとんど4稜で、淡いオリーブグリーンから濃いオリーブグリーン、または灰緑色です。花は黄色です。
Matabelelandの南から北に散在します。


④Non-Spiny Shrubs or Small Trees
◎Euphorbia guerichiana Pax
高さ2mに達しますが、トゲのない木質の半多肉質の低木です。通常は多茎で、成熟した茎は黄褐色または淡褐色の樹皮に覆われます。若い茎は緑色ですが、後に灰色がかります。E. guerichianaは降雨量により薄緑色から青緑色の葉を出し、長さ約7〜35mmで短い葉柄があります。花は通常は黄色ですが、緑色や赤色にもなります。
Matabelelandの南部と南西部の、暑く乾燥した低地でのみ自生します。いくつかの点で、続く2種類に似ています。


◎Euphorbia espinosa F.Pax
「espinosa」はトゲがないことを示しています。高さ3mほどのトゲのない低木で、交互に広がる枝を持ち、幹は茶色かわかる樹皮に覆われます。地下に塊根がある半多肉植物です。葉は長さ44mmまでで、明瞭な縞模様があります。葉柄は通常赤みがあります。花は普通は黄色です。
Matabelelandの南から北に散在し、特に中南部から北部に豊富です。岩の多い場所によく見られますが、様々な土壌で生長しているようです。


◎Euphorbia matabelensis F.Pax
高さ4mまでの半多肉植物で、木質の低木です。多数のトゲのある尖った一次枝と二次枝を持ちます。葉は多肉質で線形から披針形です。花は黄色です。
Matabelelandの南から北に見られます。南部ではそれほど豊富ではありません。Bulawayo周辺に近づくにつれて、特にMatobo丘陵の花崗岩の丘の砂質土壌では一般的です。Bulawayoから北に向かうとE. matabelensisは散在し、Hwange国立公園では深いカラハリ砂漠にも落葉広葉樹の下で生長し、さらに北のザンベジ川とビクトリアの滝あたりに分布します。


⑤Small to very small non-spiny herbs
◎Euphorbia monteiri W.J.Hooker
      subsp. monteiri

多年生の多肉植物で、19世紀後半にアンゴラにおいて初めて採取したJ. monteiroに因みます。茎は高さ30cm以上、直径10cmになります。頂点から葉が沢山出ます。ジンバブエでは珍しく、これまでにボツワナ国境のMatabelelandな北西からのみ知られています。

◎Euphorbia transvaalensis R.Schlechter
初めて発見された南アフリカのTransvaalに因みます。高さ1.6mまでのトゲのない低木で、時に密に枝分かれします。しかし、ほとんどの植物は小さく高さ5〜25cmです。地下に塊根を形成します。若い時の枝は草本あるいは亜多肉植物で、やがて木質となります。古い茎は中空となり挿し木に向きません。環境が悪化すると、落葉さらには地上部はすべて枯れますが、やがて地下の塊根から新しい枝を出します。葉は3〜10.5cmで葉柄があります。花は黄色から緑がかった黄色です。Matabeleland全体に分布し、岩や砂が多いばしに散在します。時々、粘土質の土壌にも生えます。

◎Euphorbia davyi N.E.Brown
プレトリアの植物学者であるJ. Burtt  Davy博士に因みます。トゲのない多年生の矮性多肉植物です。いわゆるMedusoid(タコもの)です。Matabelelandでは一般的ではなく、南西部のいくつかの地域でのみ見られます。露出した岩の多い砂利の多い土壌に生えます。

◎Euphorbia trichadenia F.Pax
「trichadenia」とは毛深い腺という意味です。多年生の落葉する草本です。長さ10cmまでの塊根を発達させます。樹皮はコルク状です。枝は3〜10cmです。Matabelelandの最東部にのみ自生し、一般的ではありません。

◎Euphorbia platycephala F.Pax
「platycephala」は広いあるいは平らな頭という意味です。地下の塊根から茎を出す落葉植物です。1本以上の高さ7〜10cmほどの多肉質の茎があります。葉は長さ4.5〜7.5cmで、温室で栽培すると葉や茎は淡い黄緑色ですが、生息地ではより青みがかった緑色です。Matabelelandの最東部からのみ知られています。

◎Euphorbia oatesii Rolfe
1890年代にローデシアを旅したOates氏に因み、ジンバブエにタイプ標本の産地があります。落葉性の塊根のある草本です。根の樹皮は灰色です。根は直径45mm、長さは最大1mになります。枝は高さ20cm以上で一年性です。茎と枝は淡い緑色、黄緑色、黄色がかる赤色、または赤色で、白または黄色がかる毛に密に覆われます。葉は長さ5〜70mmで、線形から披針形、淡緑色から青緑色です。葉の上面には不規則な模様があります。Matabelelandでは北東端にのみ見られ、砂質土壌で育ちます。塊根の露出を嫌うようです。

以上のように、ジンバブエの18種類のユーフォルビアをご紹介しました。しかし、残念ながら私はほとんど未入手なため、写真をお示し出来ないのは非常に残念です。今後、何かしらのジンバブエ・ユーフォルビアを何かの拍子に入手出来ましたら、お示し出来ればと思っております。


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Euphorbia multifoliaは南アフリカ原産のユーフォルビアです。最近、入手しましたが、意外と情報がありません。論文も見つかりませんでした。仕方がないので公的なデータベース含め情報を少し漁ってみました。

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Euphorbia multifolia
種小名は「multi+folia」で、意味は「沢山の+葉」です。


調べて出てくるのは販売サイトばかりで、肝心のE. multifolia自体の情報はあまり得られませんでした。ただし、LLIFLE というサイトに多少の情報がありました。少し見ていきましょう。
南アフリカの西ケープ州、Karoo南部のLadimithとPrince Albert、KleinとGroot SwarbergからLaingsburgの範囲に分布します。5つの個体群がありますが、一般にアクセス出来ない場所に生えるため、さらに多くの生息地がある可能性があります。Nama KarooとSucculent Karooに局地的に生え、高い標高を好み、山の斜面、急な崖、岩上でSenecio haworthiiとともに見られます。夏に葉を落とすこともあれば落とさないこともあります。しかし、干魃がおこると葉を落とします。
E. multifoliaはトゲのない多年生の多肉質な低木で、高さ15cm(〜30cm)くらいでクッション状に育ちます。E. eustaceiとよく似ていますが、E. multifoliaの葉はより細く先端が切断されたかのように見えることから区別できます。

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葉の先端はまるでカットされたようです。

次に、南アフリカ国立生物多様性研究所(Southern African National Biodiversity Institute)の「Red List of South African Plants」を見てみましょう。2007年5月30日のJ.H.Vlok & D.Raimondoの生息地の調査によると、5つの亜集団がありますが、生息地は一般にアクセス出来ないため、さらに多くの亜集団が存在する可能性があります。どうやら、LLIFLEの記述の一部はここから来ているようですね。ちなみに、LLIFLEにある生息地の情報もこのサイトから来ているみたいです。
アクセスしやすい地域に生えるものはコレクターによりすでにかなり失われていますが、個体群の大半は容易に行くことが難しい急な崖に生えるため、違法採取によりE. multifoliaが大幅に減少したり絶滅する可能性は低いということです。

さて、続いてキュー王立植物園のデータベースで検索してみると、1941年にEuphorbia multifolia A.C.white, R.A.Dyer & B.sloaneと命名され、異名はないようです。また、「Succ. & Euphorb.: 962(1941)」において初めて記載されたらしいのですが、残念ながら当該論文を見つけることは出来ませんでした。
しかし、データベースが根拠とした資料になにやら見覚えがあります。P.V.Bruynsの2014年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』です。この論文は、南アフリカのユーフォルビアについて、命名者や命名年、タイプ標本についてなど、学名の根拠となる情報が収集されたものです。私もブログで度々利用させて貰っています。
タイプ標本はHerreが1939年の8月にLaingsburgからLadismithに向かう30マイルで採取したようです。Whiteら(1941年)は、同じ産地でSmithとHerreがE. multifoliaを採取し、Smithの標本をタイプ標本に指定しました。しかし、Smithの標本が失われたため、Herreの標本がレクトタイプ(※)に指定されています。

※ ) 命名される時の基準となるホロタイプが指定されていなかったり失われた際に、新たに指定されるタイプ標本。

では、E. multifoliaの分類はどうでしょうか。とりあえず、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)のTaxonony browserで検索してみます。
Euphorbia subgen. Athymalus
Euphorbia sect. Anthacanthae
Euphorbia subsect. Florirpinae
Euphorbia ser. Hystrix
要するに、E. multifoliaは、ユーフォルビア属、アティマルス亜属、アンタカンタ節、フロリスピナ亜節、ヒストリクス列に分類されるということです。
ヒストリクス列にはE. bupleurifolia、E. loricata、E. multifolia、E. oxystegiaが含まれます。意外にも鉄甲丸(E. bupleurifolia)に近縁なようですね。


とまあ、とりあえずはこんなものです。大した情報はありませんでしたが、意外にもかなり厳しい環境に生えるようです。情報はないなりに、一応は調べてみるものですね。


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昨日はマダガスカルのユーフォルビアの形態と乾燥条件などの関係についての論文をご紹介しました。Margaret Evanceらの2014年の論文、「Insights on the Evolution of Plants Succulent from Remarkble Radiation in Madagascar (Euphorbia)」です。実はこの論文ではマダガスカルのユーフォルビアの系統関係についても調べられています。興味深い内容ですので、系統関係を見てみましょう。ちなみに、その植物が生える地域の降水量も添えました。育てる際の参考になるかも知れません。

Section Goniostema
Goniostema節は一般に花キリンと呼ばれ、花卉として様々な園芸品種が流通しています。その多くは木質化した枝から葉を出し、トゲがあるものも多く、塊根性のものもあります。論文では5つのクレードに分けており、それはlophogona clade、milii clade、primurifolia clade、boissieri clade、thuarsiana cladeです。

①lophogona clade
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Euphorbia moratii 降水量1320mm

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Euphorbia didiereoides 降水量856mm

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Euphorbia gottlebei 降水量674mm

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Euphorbia rossii 降水量717mm

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Euphorbia pedilanthoides 降水量1540mm

②milii clade
milii cladeは塊根性花キリンを沢山含みます。なお、E. miliiは命名の由来が不明であり、正確にはどの種類を示しているか分かっていませんでした。しかし、2022年の論文によると、葉の先端を切ったような形の花キリンがE. miliiであるとしています。今までE. miliiとされてきた、様々な色の花を咲かせ楕円形の葉を持つ、よく栽培される花キリンはE. splendensとなっています。

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Euphorbia tulearensis 降水量387mm

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Euphorbia cylindrifolia 降水量874mm

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Euphorbia ambovombensis 降水量559mm

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Euphorbia cap-saintemariensis 降水量422mm

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Euphorbia decaryi 降水量730mm
※現在は、E. boiteauiとなっています。


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Euphorbia francoisii 降水量1607mm
※現在は、E. decaryiとなっています。

③primulifolia clade
この論文では、E. primulifoliaは産地によって、かなり遺伝的に異なることが分かりました。Horombe原産のE. primulifoliaはmilii cladeのE. waringiaeに近縁で、Isalo原産のE. primulifoliaもやはりmilii cladeでした。
E. primulifolia var. primulifoliaは降水量1376mm、Horombe原産のE. primulifoliaは降水量847mm、Isalo原産のE. primulifoliaは降水量792mmとかなりの違いがあります。


④boissieri clade
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Euphorbia viguieri 降水量1324mm

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Euphorbia guillauminiana 降水量1565mm

⑤thuarsiana clade
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Euphorbia neohumbdrtii 降水量1434mm

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Euphorbia ankarensis 降水量1486mm
※=E. denisiana var. ankarensis

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Euphorbia pachypodioides 降水量1627mm

Section Denisoforbia
Denisophorbia節は、葉や茎は多肉質ではなく低木状です。E. hedyotoides(降水量708mm)やE. mahabobokensis(降水量757mm)は塊根を持ちます。 
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Euphorbia bongolavensis 降水量1500mm

Section Deuterocalii
Deuterocalii節は緑色のやや多肉質な茎をもつ棒状の植物です。E. alluaudiiやE. cedrorum(降水量396mm)があります。
DSC_0309
Euphorbia alluaudii 降水量780mm

昨日解説したように、やはり塊根性のものはより乾燥地に生える傾向は確かなようです。私もこの論文は非常に勉強になりました。例えば、E. pachypodioidesはあれほど高度に茎が多肉化しており、大量の水分を貯蔵していますから乾燥に強いと考えていました。しかし、E. pachypodioidesはかなり降水量が多い地域に自生していました。確かに、私はユーフォルビアは乾かし気味に育てていますが、E. pachypodioidesは葉を落としがちでしたし、今年は植え替えましたが思った以上に細根で如何にも乾燥に弱そうでした。これからは、水やりを多めに育てたいと思います。逆を言えば、塊根性のものは乾かし気味にする必要があるかも知れません。


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サボテンは砂漠の象徴であり、サボテンが生える荒野は乾燥した死の大地のように表現されたりもします。乾燥地に生えるサボテンはアメリカ大陸原産ですが、アフリカ大陸にはサボテンにそっくりなユーフォルビアが生えています。共通する水分を貯蔵した多肉質な茎と、トゲに覆われた姿は、乾燥地に適応した結果として類似した姿を取りました。これを収斂進化と言います。さて、サボテンやユーフォルビアなどの乾燥地に生える多肉植物は、当選ながら乾燥に強いと考えられますが、それは本当でしょうか? というのも、意外にもそんな基本的な事柄は今までほとんど調べられて来なかったからです。そんな基本的な事柄を調査したMargaret Evanceらの2014年の論文、「Insights on the Evolution of Plants Succulent from Remarkble Radiation in Madagascar (Euphorbia)」を見てみましょう。

多肉植物は乾燥条件により、葉や茎、根などの器官に水分を貯蔵するために肥大化させています。このような乾燥に対する形態と、気候条件の関係を調査しております。調査はマダガスカルで実施し、多肉質なユーフォルビアを対象にしています。扱われるユーフォルビアは、Goniostema節、Denisophorbia節、Deuterocalii節です。この3グループは近縁で、論文ではそれぞれの頭文字を取って「GDD clade」と呼んでいます。それぞれの節について少し解説します。

①Goniostema節は一般に花キリンと呼ばれ、花卉として様々な園芸品種が流通しています。その多くは木質化した枝から葉を出し、トゲがあるものも多く、塊根性のものもあります。

②Denisophorbia節は、葉や茎は多肉質ではなく低木状です。E. hedyotoidesやE. mahabobokensisは塊根を持ちます。 
③Deuterocalii節は緑色のやや多肉質な茎をもつ棒状の植物です。E. alluaudiiやE. cedrorumがあります。


さて、論文では葉が多肉質になるもの、サボテンのように幹が多肉質になるもの、塊茎や塊根を持つものの3つに区分しています。実際のユーフォルビアの自生地の環境を調べたところ、意外なことが分かりました。サボテン状のユーフォルビアより、塊茎・塊根を持つユーフォルビアの方がより乾燥に適応していたのです。もちろんこれは傾向ですから、すべてがそうではないかも知れません。しかし、なぜ塊茎・塊根植物は乾燥に強いのでしょうか? 著者らによると、塊茎・塊根植物は乾季には葉を落として休眠し、塊茎・塊根に貯蔵した水分で耐えることができるからだとしています。なるほど、サボテン状のものも塊茎・塊根のものも水分を大量に貯蔵出来るところは共通しますが、乾季の休眠という点においては塊茎・塊根植物の方が有利ということなのでしょう。サボテン状ユーフォルビアに貯蓄された水分は光合成に必要であるため1日単位の時間のに対する適応であり、塊茎・塊根ユーフォルビアは季節的な時間に対する適応である可能性があるとしています。

さらに言えば、その分布はサボテン状ユーフォルビアは高温と中程度の乾燥、塊茎・塊根状ユーフォルビアは低温と極度の乾燥が特徴としています。自生地の気候について一例を挙げると、サボテン状のE. pachypodioidesは平均気温25.9度、降水量1627mm、E. neohumbertiiは平均気温25.9度、降水量1434mm、E. viguieriは平均気温26.1度、降水量1324mmでした。対する塊茎・塊根状のE. rossiiは平均気温25.2度、717mm、E. cylindrifoliaは平均気温23.6度、降水量874mm、E. cap-saintemariensisは平均気温23.5度、降水量422mmでした。他の形態では、樹木状となるE. bongolavensisは平均気温26.6度、降水量1500mm、E. guillauminianaは平均気温26.5度、降水量1565mmでした。また、多肉質の棒状のE. alluaudiiは平均気温22.5度、降水量780mm、E. cedrorumは平均気温23.9度、降水量396mmでした。やはり、塊根性花キリンは降水量が少ない地域に生え、幹を太らせるタイプのユーフォルビアは相対的に降水量が多い地域に生える傾向が見受けられます。また、樹木状ユーフォルビアは乾燥にあまり強くないであろうことがわかります。さらに、意外にも棒状ユーフォルビアはかなりの乾燥地に生えるようです。ユーフォルビアはあちこちの分類群で多肉質な棒状の形態のものがあらわれ、世界中の乾燥地帯に分布します。このような形態が乾燥に強い理由は良くわかりませんが…

ただし、例外はあり塊根性ではない花キリンであるE. didiereoidesは平均気温21.0度、降水量856mmと乾燥地に生え、塊根性花キリンのE. francoisii(※)は平均気温22.9度、降水量1607mmと割と湿潤な地域に生えます。しかしその場合、それぞれの地域での何かしらの特殊な環境に適応した結果かも知れません。例えば、降水量は多いものの、土壌が礫質で排水性が極めて高い場合を考えた場合、水分の歩留まりが悪いので塊根が必要かも知れません。ですから、確実性を高めるならば、それぞれの植物の生息状況を詳しく調査する必要性があるかも知れません。

(※) E. francoisiiは現在はE. decaryiとなっています。今までE. decaryiと呼ばれていた植物はE. boiteauiとされています。


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ワシントン条約(CITES)とは、絶滅の可能性がある野生動植物の種の国際取引に関する条約です。主に野生動植物の保護を目的としています。多肉植物は様々な要因により絶滅が危惧される種が多く、ワシントン条約で取り引きが制限されているものもあります。今日はワシントン条約に関わるユーフォルビアについて見てみましょう。ちなみに、2018年発行のCITES2018を参考にしています。

ユーフォルビア属の概要
ユーフォルビア属は約2000種からなり、「spurges」の名前で知られています。草本のspurgesは世界中の温帯・熱帯に分布します。多肉植物であるspurgesは主に南アフリカと東アフリカの乾燥地帯、熱帯アジア、南北アメリカ、マダガスカルに自生します。CITESで規制されているspurgesは多肉植物のみです。

特徴
そのほとんどが1年草か多年草の草本ですが、多肉植物や木本も含まれます。すべての種類は切断すると乳液(latex)を出し、摂取すると毒性があり、皮膚には刺激性があります。多肉植物の葉は通常は少ないか落葉性です。しばしばトゲがあり、通常は対になります。花は色のついた苞葉という葉を含んだ花序からなり、派手ではありません。多くの多肉植物になるユーフォルビアはサボテンに似ています。

ユーフォルビアの利用
ユーフォルビアは世界中で利用されています。しかし、毒性があることから、食品や医薬品としての利用は制限される可能性があります。多肉植物となるユーフォルビアは、乾燥地の造園や観葉植物てして取り引きされます。各地の伝統医学である中医学、アーユルヴェーダ、ホメオパシーなどで利用されます。イボに対する薬、あるいは利尿・下剤としてE. antisyphilitica、E. candelabrum、E. lathyris、E. neriifolia、E. resinifera、E. tirucalli、E. trigonaなど、狩猟用としてE. cooperi、E. tirucalli、E. trigona、E. unispina、生きた柵(※1)としてE. tirucalli、E. miliiなどが利用されます。E. antisyphilitica(※2)から採取されるキャンデリラワックスは、ガムベース、インク、染料、接着剤、エマルジョン、ポリッシュ及び医薬品の製造に利用されます。観葉植物としてE. pulcherrima(ポインセチア)は一般的ですが、CITESでは規制されていません。
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Euphorbia resinifera

(※1) おそらくは家畜を囲う柵としての利用。例えば、E. poissoniiはギニア湾沿いで家畜の囲いとして広く利用されます。

(※2) キャンデリラソウ。北米原産で鉛筆状の茎を持ち叢生します。

取り引き
CITESのデータベースによると、ほとんどの取り引きは人工繁殖させた植物であり、E. lacteaとE. miliiはタイ、オランダ、中国から輸出されています。マダガスカルの野生のユーフォルビア属(Euphorbia spp.)とE. primulifoliaは、主にフランス、米国、ドイツに輸出されています。タイと米国は人工繁殖させた附属書Iのユーフォルビアの最大の輸出国であり、最大の輸出品はE. francoisii(※3)です。抽出物などの取り引きはメキシコ原産のE.antisyphiliticaで、過去10年間で3100万kgを超えます。

(※3) 現在はE. francoisiiはE. decaryiです。今までE. decaryiと呼ばれていた植物はE. boiteauiとされています。

多肉植物のコレクターはマダガスカルから多くの矮性種、東アフリカからは新種を含む希少種を求めています。現在、コレクターに人気な種は、E. horwoodii、E. longituberculosa(※4)、E. susannae-marnierae、E. waringiae、E. bupleurifolia、E. bongalavensis(※5)、E. knuthii、E. hydrotoides、E. kondoi、E. mahabobokensis、E. razafindratsirae(※6)が含まれます。

(※4) 正式にはEuphorbia longetuberculosa。誤った学名が流通しています。
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Euphorbia longetuberculosa

(※5) Euphorbia bongolavensisを指していると思われます。
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Euphorbia bongolavensis

(※6) この名前は現在異名とされ、Euphorbia mangokyensisとなっています。
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Euphorbia mangokyensis

附属書 I
附属書 Iがもっとも絶滅の可能性が高く規制が厳しい種です。主にマダガスカル原産の花キリンばかりです。
附属書 Iは絶滅の恐れのある種で、取り引きによる影響を受けている、あるいは受ける可能性があるものです。学術研究を目的とした取り引きは可能ですが、輸出国・輸入国双方の許可証が必要となります。以下の10種類です。

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1, E. ambovombensis

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2, E. cap-saintemariensis

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3, E. cylindrifolia
(ssp. tuberiferaを含む)

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4, E. decaryi(※3)
(var. ampanihyensis, var. robinsonii, var. spirostichaを含む)

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5, E. francoisii(※3)

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6, E. moratii
(var. antsingiensis, var. bemarahensis, var. multifloraを含む)

7, E. parvicyathophora

8, E. quartzicola

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9, E. tulearensis

10, E. cremersii
(f. viridifolia, var. rakotozafyiを含む)

以上がCITESのユーフォルビアについてのページです。マダガスカル原産の花キリンばかりです。
しかし、現時点なことを言うと、この10種類がもっとも絶滅の可能性が高いというわけではないかもしれません。何故なら、多肉ユーフォルビアは自生地の調査がなされていないものが多く、情報不足な種も多いこからです。
さらにいえば、花キリンはコレクターに好まれるため多く取り引きされるため、ワシントン条約で規制されます。しかし、多くの多肉ユーフォルビアは原産地の開発などにより数を減らしているため、国際的な取り引きに制限をかけるワシントン条約では、その絶滅を防ぐことは出来ません。例えば、南アフリカ国内で絶滅危惧種に指定されている種などは、ワシントン条約で規制されていませんが非常に希少です。CITESのみが希少性あるいは絶滅危惧種を指し示しているわけではないことは知っておく必要があります。


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本日は「金輪際」なる奇妙な名前もあるEuphorbia gorgonisをご紹介します。いわゆる「タコもの」と呼ばれるユーフォルビアの中では普及種ですが、枝が短くタコものの中でも特に奇妙な姿となります。このようなタコものユーフォルビアは、海外では「Medusoid Euphorbia」と呼ばれます。ただ、日本のサイトではどういうわけか、「Medusoid」を「クラゲ」と訳すパターンが多いことが以前から気になっていました。いや、「Medusoid」はギリシャ神話の「メデューサ」から来てるのでは?という当たり前の感想が浮かびました。どうやら、「Medusoid」には確かに「クラゲ」という意味もあるようですが、ギリシャ神話から派生したもので、クラゲが本来の意味ではないでしょう。どうも、機械翻訳では文脈を無視して「クラゲ」と訳してしまいがちなようです。あるサイトによると、ギリシャ神話を訳したらメデューサがペルセウスにより討ち取られた場面が、ペルセウスがクラゲを討ち取ったと訳されてしまったという面白いエピソードが書いてありました。なんか間抜けですね。当然、「gorgonis」とはギリシャ神話のゴルゴン3姉妹から来ているのでしょう。ちなみに、メデューサはゴルゴン3姉妹の3女をさします。

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Euphorbia gorgonis A.Berger, 1910

さて、ゴルゴニスの学名は1910年に命名されたEuphorbia gorgonis A.Bergerです。異名はないようです。タコものの中でも特徴的ですからね。ちなみに、A.Bergerは、ドイツの植物学者であるAlwin Bergerのことです。BergerはAgaveの分類で著名なようです。
ゴルゴニスは南アフリカの固有種で、東ケープ州のSunday RiverとZwartkops Riverの間の丘に生えます。Uniondale、Port Elizabeth、Albany Div、Grahamstownあたりのようです。
ゴルゴニスは礫だらけの丘陵に、Boophone disticha、Pachypodium succulentum、Gasteria armstrongii、Bergeranthus glenensis、Freesia alba、Crassula tetragona subsp. acutifoliaなどと共に生えるそうです。冬に乾燥する傾向があり、最低気温は平均12℃です。


2012年のP. V. Bruynsの論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』によると、E. gorgonisはE. procumbensの異名扱いされています。しかし、現在はE. gorgonisとE. procumbensとは別種とされています。問題はなぜBruynsが異名と考えたのかです。ただE. gorgonisとE. procumbensが似ているという訳ではなさそうです。Bruynsによると種の基準となるタイプ標本が行方不明で、Carter(※1)はBurtt-Davyの標本をタイプ標本として引用していますが、これは存在しないということです。どうやら、Burtt-Davyの採取した植物を基にBergerがE. gorgonisを記載したとしていますが、1910年のBergerの論文ではE. davyiの基になった植物をBurtt-Davyから入手した経緯しか書かれていないといいます。つまり、E. gorgonisはタイプ標本が存在しないため、正確にはどの植物を指しているのか分からないということです。

(※1) 2002年の図鑑、『Illustrated Handbook of Succulent Plants, Dicotyledons』のSusan Carterの論考。
(※2) Burtt-Davyはイギリスの植物学者である、Joseph Burtt-Davyのこと。

では、E. gorgonisが初めて記載された論文を見てみましょう。まだ、Euphorbia gorgonis n. sp.とあります。「nova species」、つまりは新種という意味です。外見はEuphorbia procumbentisとあります。E. procumbentisとありますが、E. procumbensの誤記でしょう。
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E. gorgonisの特徴の羅列があり、続いて「同じセクションの別の新種はE. davyiで、最近Paxにより記載されました。(※3)」という文の先に、「この種は、1908年の8月から9月に開花しました。これは、Burtt-Davy教授がPretoria周辺から私に送ってくれたおかげです。」とあります。一見して、後半の文はE. davyiについて言っているように見えます。しかし、そもそもE. gorgonisについての解説ですから、E. davyiについては前半の一文だけで、後半はE. gorgonisについて語っているような気もします。BruynsはE. davyiについての記述と捉え、CarterはE. gorgonisについての記述と捉えました。解釈が難しいところです。

(※3) Euphorbia davyiの命名者はFerdinand Albin Paxではなく、Nicholas Edward Brownが1915年に命名しています。しかし、E. davyi N.E.Br.はこの論文の出版後に命名されています。つまり、Paxの命名したE. davyiとは別種かもしれません。

という訳で、E. gorgonisについて少し調べてみました。とはいえ、Bruynsの指摘については判断に迷うところです。ここいらの詳しい事情が分かる良い論文でもあればいいのですが、中々難しいかもしれません。もう少し探ってみます。何か新しい情報が見つかりましたら、また記事にしたいと思います。


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今年の3月にEuphorbia heterodoxaなるユーフォルビアを入手しました。棒状の奇妙な多肉植物です。しかし、調べて見ると特徴が今一つ符合しません。さらに言うならば、このような棒状のユーフォルビアは1つの種類を調べても、ネット上の画像では明らかに複数種と思われるものが出て来てしまいます。これは一体どういうことなのでしょうか?
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DSC_2311 
ご覧の通りあまり特徴がありません。いや、棒状で特徴的ではないかと思われるかもしれませんが、そう上手くはいかないのです。実はユーフォルビアはこのような棒状の形態のものが沢山あり、アフリカ大陸、マダガスカル、カナリア諸島、オーストラリア、南アメリカなど、それぞれの地域で異なる種類の棒状ユーフォルビアが自生しているのです。
その中でも有名なのはTirucalli節のEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)やDeuterocalli節のEuphorbia alluaudiiなどでしょう。しかし、それらはツルッとした見た目で、このような縦に筋が入るものはそれほど多くはありません。見た瞬間に南アメリカ原産、つまりはユーフォルビア亜属New World Cladeだと思いました。さらに、ただ棒状なだけではなく、縦に筋状の角(rib)があることが特徴的です。とりあえずは、Euphorbia heterodoxaを調べてみましょう。

E. heterodoxaはユーフォルビア亜属New World CladeのStaciydium節です。E. comosaなど基本的に草本で、E. heterodoxaだけは多肉質になります。しかし、E. heterodoxaには特徴的なribがありません。これは明らかに別種です。よく調べると、ある国内の販売サイトでは、ribある棒状ユーフォルビアにE. heterodoxaの名前を付けて販売しているようです。どこかで混同があったのかもしれません。

外見的にはEuphorbia phosphorea(夜光キリン)によく似ています。しかし、E. phosphoreaの仲間は皆よく似ています。E. phosphoreaはユーフォルビア亜属New World CladeのBrasilienses節に分類されます。しかし、Brasilienses節は皆ribがある棒状の多肉植物で、ネットの画像からは違いがいまいち分かりません。また、数種類が混同されているようで、まったく信頼がおけません。
困った時の論文頼みということで、論文を漁ってみたところ、Brasiliense節の新種と、既存種を説明した論文を見つけました。2018年の『A new species molecular phylogeny of Brazilian succulent Euphorbia sect. Brasilienses』です。
論文には分かりやすく、茎を切断した断面と花の写真がありました。見分けるポイントのようです。とりあえず、ribの数が少ないE. sipolisii、E. tetrangularisは異なります。残るはE. phosphoreaとE. attastoma、E. holochlorinaです。せっかくですから、Brasiliense節5種類の見分け方を記します。
① ribは4つ
    1 ) Cynthiumと腺(glands)は赤色で付属物がある。
          →Euphorbia sipolisii
    2 ) Cynthiumと腺は緑色で直立した付属物がある。
          →Euphorbia tetrangularis
②ribは6~8つ
    1 ) 明るい緑色の枝。1~2つのcyathiaがある。
          壺型の総苞。
          →Euphorbia holochlorina
    2 ) 緑色または黄色がかった枝。
          2つ以上のcyathia。釣り鐘型の総苞。
        Ⅰ, ribは6~8。通常5つ以上のcyathia。
          →Euphorbia phosphorea
        Ⅱ, ribは6つ。通常は2~4のcyathia。
          →Euphorbia attastoma
とまあ、こんな感じにまとめられていましたが、少し分かりにくいですね。ちなみに、私の入手したユーフォルビアのribは8つですから、Brasilienses節ではE. phosphoreaが該当します。cyathiaは1つの節に10個はついています。ただし、枝の色は深い緑色で少しイメージが異なります。しかし、日照により変わりそうですから、あまり当てに出来る指標ではないようにも思えます。

続けてRichard Riinaらの2015年の論文、『Euphorbia from Brazil: the succulent section Brasilienses』を見てみましょう。まだ、2015年にはE. tetrangularisは発見される前ですから記述はありませんが、他の4種類については詳しい説明があります。
・E. attastoma
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから節が生じ、同じ節に到達する。
    古い枝は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色/緑色。
・E. holochlorina
    ribは6面で表面は凹む。
    3つのribから生じ、同じ節に到達。
    木化しない。
    総苞茎は壺型。
    子房はほぼ緑色。
・E. phosphorea
    ribは8~9面で表面は少し凹む。
    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    主幹は木化する。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色、赤色/黄色か赤色/緑色。
・E. sipolisii
    ribは4面で表面は凹まない。

    3つのribのうち2つが、次の節に到達する。
    3番目のribが異なる節に集まる。
    木化しない。
    総苞茎は釣り鐘型。
    子房は赤色か赤色/黄色。
おやおや、先の論文と異なりE. phosphoreaのribは8~9となっています。しかし、その場合でも一番近いのはE. phosphoreaですね。ribと節の関係の説明が分かりにくいので、実際の写真で見てみます。
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下の矢印の節から3本のribが上に伸びていますが、そのうち1本が上の矢印の節に合流しています。

実はEuphorbia weberbaueriもよく似ています。
E. weberbaueriはユーフォルビア亜属New World CladeのEuphorbiastrum節ですが、基本的には木本が多いようです。ribがあり棒状のものは、E. pteroneuraとE. weberbaueriがありますが、E. pteroneuraは短い枝が連なり特徴が異なります。
しかし、E. weberbaueriについてはあまり情報がありません。仕方がないので、E. weberbaueriが新種として記載された1931年の『Repertorium specierum novarum regni vegetabilis』を見てみましょう。
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内容は前半がラテン語、後半はドイツ語ですからよく分かりません。古い雑誌ですから文字のかすれや黄ばみ、汚損が激しくPDFをWordに上手く変換出来ず、コピペも文字化けしてしまい機械翻訳が出来ませんでした。ただ、最後に類似種の判別の仕方が記載されていました。それによると、E. weberbaueriとE. phosphoreaは似ているが、E. phosphoreaには腺に2つの角のある付属肢がある、とあります。これが何を指しているのかよく分かりませんが、キュー王立植物園のデータベースにあるE. phosphoreaの写真には、確かに節には突起物があります。花茎の跡でしょうか? やはりよく分かりません。
しかし、私が入手したユーフォルビアの枝の深い緑色はE. weberbaueriに似ていますが、E. phosphoreaほど細かい特徴が分かりません。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)に示されたペルーで撮影された写真を見ると、「
3つのribのうち2つが、次の節に到達する。3番目のribが異なる節に集まる。」というEuphorbia phosphoreaと同じ特徴があるようです。E. phosphoreaはブラジル原産ですから、ペルーで撮影されたからにはE. weberbaueriである確実性の高い情報です。おそらく間違いないでしょう。

ということで、調べきれませんでした。それでも、一応はE. phosphoreaとE. weberbaueriのどちらかだろうとあたりはつけました。しかし、花が咲けば見分けられるかもしれません。E. phosphoreaは赤色と緑色、あるいは赤色と黄色といった2色だったりしますが、赤色単色のものもあります。対してE.weberbaueriは赤褐色です。花の形は異なるでしょうから、咲けば分かるでしょう。しかし、今年中の開花は難しそうですから、はっきりするのはしばらく先になりそうです。
しかし、棒状ユーフォルビアは調べて出てくる画像は様々でかなり混乱しているようです。一度、その他の棒状ユーフォルビアについても調べてみたいと思っています。



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Euphorbia flanaganiiは南アフリカ原産の多肉質なユーフォルビアです。日本では「孔雀丸」の名前があります。一般にタコもの、海外ではMedusoid Euphorbiasと呼ばれるタイプのユーフォルビアで、主頭から一過性の枝を放射状に出します。E. flanaganiiはタコものでは小型で、丈夫で育てやすい入門種となっています。タコものは基本的に普及しておらず、ある程度コンスタントに流通しているのはE. flanaganiiとE. gorgonisくらいですが、E. gorgonisはそれなりに高価なので、安価なE. flanaganiiは初めてのタコものユーフォルビアとしてはうってつけです。そんなE. flanaganiiの情報を少し調べて見ました。

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通常はこのように枝が細長く伸びます。

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一枚目と同じ株ですが、良く日に当てて締めて育てると、このように太く短い枝が出ます。

さて、まずは学名から見ていきましょう。学名は1915年の命名で、Euphorbia flanaganii N.E.Br.です。異名として、1915年に命名されたEuphorbia discreta N.E.Br.、Euphorbia passa N.E.Br.があります。この2つの異名はすべてN.E.Brownにより記載されましたが、どうやらE. flanaganiiと同じ論文で公表されています。BrownはE. flanaganiiを3種類に分けて、それぞれを別種と考えたようです。しかし、3つの名前の中で、E. flanaganiiが正統な学名とされたのは何故なのでしょうか?
国際命名規約によると、学名は早く命名された名前を優先する「先取権の原理」により正統性が決定されます。しかし、E. flanaganiiのように同時に記載された場合、その論文を引用して記述された最初の名前を正統とする「第一校訂者の原理」により決定された可能性があります。残念ながら、調べた限りではその校訂者は分かりませんでした。あるいは、単に学術的な混乱が起きかねないので、論文などで最も良く使われている学名を正統とする、というパターンもあるにはあります。


ここで、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』を見てみましょう。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. flanaganiiについてはどう書かれているでしょうか?
E. flanaganii N.E.Br., Flora capensis 5(2): 314(1915).
Type: South Africa, Cape, grassy slopes near Kei Mouth, 100' , June 1893, Flanagan…(以下略)
一行目は、E. flanaganiiは「Flora capensis」という雑誌の1915年の5号の2の314ページで、N.E.Br.により初めて記載されたことが書かれています。N.E.Br.はイギリスの植物学者であるNicholas Edward Brownのことで、特にMesembryanthemumをはじめとした南アフリカの多肉植物の研究で有名です。
以降はタイプ標本の話で詳細は割愛しましたが、「南アフリカケープのKei Mouthの近く草地の斜面100フィート」で、「1893年の6月にFlanaganが」採取したとあります。Flanaganは南アフリカの植物収集家のHenry George Flanagan(1861-1919)のことでしょうか? すると、種小名の"flanaganii"とは、Brownが標本を記載の22年前に採取したFlanaganに対して献名したということなのでしょう。

ここで、BruynsはE. flanaganiiとその類似種についてまとめています。それによると、1915年のBrownは、E. discreta、E. ernestii、E. flanaganii、E. flanksiae、E. gatbergensis、E. passa、E. woodiiを別種として認識しました。1941年のWhiteらは、E. discreta、E. passaをE. woodiiの異名としました。Brownはこれらの植物がサイズや枝の数が大きく変動することを観察しました。それにも関わらず、BrownはE. flanaganiiはE. woodiiより「はるかに短い枝」という特徴により区別しました。Whiteらは個体ごとの大きさの変動があることから、それは意味をなさないと考えました。E. woodiiは子房に長い毛がありますが、E. flanaganiiには毛がないか短いので分けられるという考え方もあります。しかし、Bruynsは毛のある個体とない個体がいるだけなので、区別する方法としては不適切であるとしています。そのため、BruynsはこれらのタコものユーフォルビアをすべてE. flanaganiiと同一種と判断しました。
しかし、以上の論考は現在認められておらず、Whiteらの主張通りE. passaとE. discreta以外はE. flanaganiiの異名となり、それ以外は独立種とされています。このBruynsの論文は便利なためかよく引用されていますが、基本的に類似した種を1つにまとめる傾向があるため、異名に関しては注意して読む必要があります。

次に「LLIFLE」というサイトの情報を見てみます。それによると、原産地は南アフリカの東ケープ州、旧・Transkeiとの境界、あるいはEast London、Komgha districts、Kei Mouth、Mazeppa Bayなどの砂地の草原に局在します。Jellyfish Head Euphorbia、Medusa's Head、Medusahoved、Green Crown、Medusa Headなどと呼ばれます。


最後に1976年の「Kakteen und andere Sukkuleten」から、David V. BrewertonによるE. flanaganiiの解説を見てみましょう。
Euphorbia flanaganiiは南アフリカに由来します。ヤコブセン博士はグループ13、PseudomedusaeのE. gorgonis、E. pugniformis、E. woodiiの仲間としました。
円錐円筒形の主幹は高さ約5cmで、イボ状で多数の枝が伸び長さ10cm、太さ6~8mm になります。
E. flanaganiiの世話はそれほど難しくありません。通常の温室で十分です。生長期は年の初めに始まります。豊富な散水を許容し、よく生長します。冬は約10℃に保ちます。しかし、あまり長い間完全に乾燥させてはなりません。枝が縮小してしまいます。もし、完全に乾燥させたなら、2~3℃あるいはそれ以下まで耐えられますが、枝は死にます。枯れ枝は鋭いナイフで取り除くことが出来ますが、保護手袋やゴーグル、作業後の手洗いをおすすめします。
自然の植物の説明やイラストはありません。光が弱く細長く育ち勝ちですが、出来るだけ日当たりのよい場所に置くべきです。また、E. flanaganiiはEuphorbia cap-medusaeと誤ってラベルされてものが頻繁に販売されています。E. flanaganiiは真夏の遮光と、冬の暖かさを必要としています。


とまあ、こんなところです。いかがでしょうか? 日本のブログでは海外の有名なサイトの翻訳をそのまま張ったものが散見されますが、今回はちょっとマニアックな情報を集めてみました。E. flanaganiiという普及種でも調べるとなかなか面白いものです。
また、E. passaとE. discretaをE. flanaganiiの異名としたWhiteらの論文が、1915年に同時に命名された3種類の中でE. flanaganiiを正統な学名とした根拠かなあとも思いましたが、確かめる術がありませんでした。それには、E. flanaganiiの名前が出てくる論文を1915年以降すべて調べなければなりませんから、素人の私には土台からして無理な話でしたね。


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今年の3月にザ・ガーデン本店ヨネヤマプランテイションで開催された多肉植物BIG即売会に行って参りました。家からは遠いのですが、たった1回の乗り換えで行けて、横浜市営地下鉄ブルーラインの新羽駅から降りて直ぐにありますから大変楽チンです。今年の即売会は例年より規模を拡大しており、あちこちから仕入れたようで、数だけではなく割と珍しいラインナップでした。
そこで入手したのがEuphorbia bubalina、いわゆる「昭和キリン」と呼ばれるユーフォルビアです。決してレアな種類ではありませんが、やや面白味の欠ける見た目のせいか、基本的に園芸店には並びません。

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Euphorbia bubalina

さて、何か情報はないかと調べてみましたが、役に立ちそうなものはほとんどありませんでしたね。販売サイトはまあまああるのですが、一番知りたい原産地の情報などは残念ながら見つけられませんでした。アフリカの多肉植物となるユーフォルビアに関しては、何故か論文も非常に少ないので、こういう時困ってしまいます。

とりあえず、学名について見てみましょう。学名は1860年に命名されたEuphorbia bubalina Boiss.です。異名として、1898年に命名されたEuphorbia laxiflora Kuntze、1915年に命名されたEuphorbia tugelensis N.E.Br.があります。
E. bubalinaの命名者のPierre Edmond Boisserは、スイスの植物学者で探検家でした。19世紀最大のコレクターの一人で、ヨーロッパ、北アフリカ、中東を旅して、膨大な分類学的な成果をあげました。Boisserは著名な植物学者であるde Candolleに師事していたということです。
そのBoisserが1860年の出版した『Centuria Euphorbium』を入手したので見てみました。なんと、ラテン語で植物の特徴を羅列しただけの昔ながらの記載方法でした。一応、翻訳をかけてみましたが、「直立、細長い、多肉質、円筒形…」というような形式で淡々と書かれているだけで正直よく分かりませんでした。"bubalina"という種小名の由来を知りたかったのですが、特に記載はありませんでした。残念。
ちなみに、Boisserの1860年の論文以外にも、E. bubalinaの根拠となる論文があります。それは、P.V.Bruynsの2012年の論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』です。この論文は南アフリカに分布するユーフォルビアのリストを、ひたすらに列挙した面白味のないものです。ただ、初めて命名された論文、タイプ標本の情報、異名について調べられており、大変便利なものです。E. bubalinaについてはどう書かれているでしょうか?

Centuria Euphorbium: 26(1860).
Type: South Africa, Cape, among thorn-bushes near Buffelsriver, Drege 4615 (P, holo.). [Boisser(1860) cited a specimen in 'h. Bunge', so this sheet is taken as the holotype.]

一行目はBoisserが初めて記載した論文の名前と、ページと記載年ですね。二行目からは種を記載する基準となる標本(ホロタイプ)の情報です。採取地点が「Buffelsriver」なんて書いてありますね。要するに「バッファロー川」という意味でしょう。すると、「bubalina」とはバッファローを表すラテン語の「bubal」から来ているのではないでしょうか?

ちなみに、E. bubalinaは、この論文では「Euphorbia subg. Rhizanthium」とされています。要するに「Rhizanthium亜属」ですが、論文によっては「Athymalus亜属」だったりします。さて、このRhizanthium亜属(Athymalus亜属)には様々なユーフォルビアを含みます。少し詳しく見てみましょう。

2013年に発表された『
A molecular phylogeny and classification of the largely succulent and mainly African Euphorbia subg. Athymalus (Euphorbiaceae)』という論文では、Athymalus亜属の遺伝子を解析しています。その論文では、E. bubalinaはAnthacantha節(Section Anthacanthae)のFlorispina亜節(Subsection Florispinae)に分類されます。Florispina亜節には、E. obesa、E. polygona(E. horridaを含む)、E. pulvinata(笹蟹丸)、E. susannae(瑠璃晃)、E. stellispina(群星冠)、E. ferox(勇猛閣)、E. heptagona(=E. enopla, 紅彩閣)、E. bupleurifolia(鉄甲丸)などの有名種を含みます。E. bubalina自体はE. clava(式部)に近縁なようです。また、Anthacantha節には他にもMedusea亜節(Subsection Medusea)があり、名前の通りタコものユーフォルビアが含まれます。

そう言えば、キュー王立植物園のデータベースには、「Native to: Cape Provine, KwaZulu-Natal, New Zealand North」なんて書いてありました。前の2つは南アフリカの州ですが、何故かニュージーランドとあります。いや、さすがにニュージーランドは自生地ではなくて移入種ですよね。E. bubalinaを含むFlorispina亜節はどれも南アフリカ原産ですから、さすがに誤記だと思います。


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近年、花キリン類の分類が見直されつつあります。というのも、花キリン類は外見上の判別が難しく、非常に混乱したグループとされているからです。恐らく、これから花キリン類は大胆に整理されていくことになるのでしょう。さて、本日はそんな花キリンからEuphorbia cap-saintemariensisをご紹介します。
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Euphorbia cap-saintemariensis

まずは学名の話から始めましょう。初めて命名されたのは1970年のEuphorbia cap-saintemariensis Rauhでした。しかし、1984年にEuphorbia decaryi var. cap-saintemariensis (Rauh) Cremersとする意見もありました。しかし、E. cap-saintemariensisをE. decaryiの変種とすることは、Rauh & Buchlohにより批判され、一般にも認められませんでした。しかし、様々なサイトでは今でもE. decaryi var. cap-saintemariensisと呼ばれることもあるとされ勝ちですが、真相はただそう言う意見もあったというだけです。
しかし、ここで1つ解説が必要でしょう。E. decaryiの名前はどうやら混乱があったようで、現在E. decaryiと呼ばれる植物はE. boiteauiを指し、本来のE. decaryiとは現在E. francoisiiと呼ばれている植物のことなんだそうです。つまり、E. decaryi var. cap-saintemariensisという名前は、現在のE. francoisiiに対してではなく、本来のE. boiteauiに相当する植物に対する変種とされたということになります。
このように、E. decaryi、E. boiteaui、E. francoisiiを整理したのは、2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonでした。しかし、CastillonらはE. decaryi var. cap-saintemariensisをE. boiteauiと関連付けることはせず、E. cap-saintemariensisとして独立する考え方を支持しました。2021年にはE. decaryiの近縁種を整理した
Haevermans & Hetterscheidも、E. cap-saintemariensisを独立種とする考え方を支持しています。
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Euphorbia boiteaui

2013年に発表されたBrian L.Dorseyらのユーフォルビアの遺伝子を解析した論文では、E. cap-saintemariensisはE. rossii、E. tulearensis、E. beharensisと同じグループとされています。また、E. ambovombensis、E. decaryi(=E. boiteaui)、E. cylindrifolia、E. francoisii(=E. decaryi)は同じグループで、E. cap-saintemariensisのグループとは姉妹群です。ということで、どうやらE. cap-saintemariensisは言うほどE. boiteauiに近縁ではないようです。
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Euphorbia tulearensis

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Euphorbia rossii

次に原産地の情報ですが、花キリンですから当時ながらマダガスカル原産です。E. cap-saintemariensisはマダガスカル島の最南端の岬にあるCap Sainte-Marie保護区に特有ですが、種小名が地名に由来することが分かります。生息地域は約0.9km2と非常に狭く、絶滅の危機に瀕しています。生息地は平らな石灰岩の台地で、風が吹きすさぶ嵐の多い地域です。E. cap-saintemariensisは完全な直射日光か、他の植物にまだらに覆われた半日陰で育ちます。Alluaudia comosa、Alluaudiopsis fiherensis、Aloe millotii、Crassula humbertiなどと共に育ちます。生息環境を見ると、Euphorbia decaryiより日照を好むことが分かります。
育て方を調べていたところ、面白いことが書かれていました。植え替え後もE. cap-saintemariensisが休眠状態だった場合、植え替えのダメージが回復する2週間程度経った後、40~50℃のお湯を与えると通常2~7日で休眠から覚めると言います。ショック療法みたいなものかもしれませんが、結構乱暴な方法ですね。

さて、種小名は「cap-saintemariensis」な訳ですが、「capsaintemariensis」とハイフンを入れない表記もよく見られます。正式にはハイフンを入れるようです。名前の由来である「Cap Saint Marie」は、「Cap Saint-Marie」とも表記されることもあります。学名とは逆のような気がしますが、この場合は「Cap」+「Saint-Marie」を表しています。 ですから学名では「cap」+「saintmarie」となっているのでしょう。まあ、意味的には「聖Marieの岬」ですから、分けるなら「聖Marie」と「岬」ですよね。ずいぶんとつまらないことを言ったかもしれません。


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Euphorbia resiniferaはモロッコ原産のサボテンに似た多肉質のユーフォルビアです。日本では「白角キリン」の名前があります。アフリカのユーフォルビアの中では、それほど特徴的ではないためか人気があるとは言い難く、あまり見かけない多肉植物ではあります。しかし、多肉質なユーフォルビアの多くは南アフリカを中心に、アフリカ東岸を北上してソマリアやエチオピアの高地、紅海の向こう岸のアラビア半島、さらにはマダガスカル島に分布するものが大半です。その点で言えば、北アフリカのモロッコに分布する多肉質のユーフォルビアは珍しくはあります。同じモロッコ原産の「大正キリン」が何故か普及種となっていますが、そちらの方が不思議な感じがします。大正キリンもそれほどインパクトのある見た目とは言えませんからね。さて、実は個人的にE. resiniferaについては興味があったので、2月に池袋の鶴仙園に行った際、たまたま見かけたのですが、迷わず購入しました。

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白角キリン Euphorbia resinifera

さて、E. resiniferaですが、調べてみると思わぬ記述に遭遇しました。なんでも、「紀元前25世紀頃に東方の王により発見された、おそらくは最初にユーフォルビアと名付けられた植物である可能性がある」というのです。「東方の王」が誰を指すのかは分かりませんが、気になる記述です。
もう少し調べて見ると、最も古い薬用植物の書物の中に、「Euphorbium」と呼ばれるラテックスを含む抽出物についての記述がありました。また、Numidiaの王であるJuba2世の侍医であったEuphorbusへの言及により大プリニウスにより注目されたとあります。つまりは、Euphorbusという医者がE. resiniferaの乳液を薬として使用していて、それが後にEuphorbiumと呼ばれていたということですかね? Euphorbiaという属名自体がここら辺から来たのでしょう。
Numidiaは北アフリカの地中海沿岸部に存在した王国です。現在のモロッコは、かつてのNumidiaのちょうど隣にありますから、E. resiniferaがNumidiaで知られていたことは不思議ではありません。


さて、私が気になっていたのは、アフリカのユーフォルビアの遺伝子解析の結果です。2013年に発表された論文によると、E. resiniferaはE. venefica(E. venenificaは異名)の仲間であるというのです。E. veneficaの仲間として、E. sapinii、E. sudanica、E. unispinaがあげられていますが、この仲間は木質化する幹の先端から葉を出すタイプです。論文では調べられていませんが、E. poissoniiもこの仲間でしょう。さて、何が不思議かと言うと、1つはあまりに形状が異なることです。E. resiniferaはあまり背が高くならず、地際で分岐してクッション状に育ちます。多肉質でサボテンのようなE. resiniferaとE. veneficaの仲間はあまりに異なります。とりあえず、論文の遺伝子解析の結果を見てみましょう。

             ┏━━E. sudanica
         ┏┫ (モーリタニア~東アフリカ)
         ┃┗━━E. venefica
     ┏┫            (東アフリカ)
     ┃┗━━━E. unispina
 ┏┫   (ギニア湾~チャド、スーダン)
 ┃┗━━━━E. sapinii
 ┫                   (アフリカ中央部)
 ┗━━━━━E. resinifera     
                         (モロッコ)


どうやら、E. resiniferaはE. veneficaの仲間の根元にある植物のようです。E. resiniferaに一番近縁なのはE. sapiniiです。もちろん、これはE. resiniferaからE. sapiniiが進化したという訳ではなく、E. resiniferaとE. sapiniiの共通祖先からそれぞれが進化したという意味です。しかも、共通祖先から分かれた時からE. resiniferaが存在したとは限らず、そこから再び分岐した結果の1つがE. resiniferaであるかもしれないのです。
何故かと言うと、絶滅した植物がかつては存在したかもしれないからです。化石では基本的に遺伝子は調べられませんし、そもそも化石になる植物はほんの一握りであり、そのほとんどは朽ちてしまい化石にはなりません。よく、進化論への反論として、進化の空白を指摘する「ミッシング・リンク」という考え方がありますが、これは生き物が死んだら必ず化石になるという素朴な勘違いがあるように思えます。例えば、庭の植木が秋に紅葉し、やがて葉が落ちたとしましょう。その落ち葉は、やがて腐って腐葉土になり土に還ります。では、庭の落ち葉が腐らずに化石になる可能性はどれくらいあるでしょうか? 考えてみたら、直ぐに庭の落ち葉が化石になる可能性はまったくないことに気が付きます。実は化石になるには、腐る前に無酸素状態に置かれるなど、かなり特殊な条件が必要です。植物の化石はある種の奇跡的な偶然の産物なのです。
という訳で、かつて存在したかもしれない祖先はまったく分かりません。どうしたら、近縁であるはずのE. resiniferaとE. sapiniiの間に、このような形状の違いが生まれるのでしょうか? 大変不思議です。かつて存在した、E. resiniferaとE. sapinpiiの共通祖先から分岐したE. sapinpiiの祖先は、E. resiniferaとE. sapiniiの中間的な形状だったのでしょうか? 無論、共通祖先がどのような形状であったかすら分からないのですが…

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Euphorbia sapinii

次に分布にはそれなりの謎があります。E. resiniferaはモロッコ原産ですが、近縁なはずのE. sapiniiはカメルーン中央アフリカ、チャド、ガボン、ザイール原産であり、あまりに地理的に距離がありすぎます。かつては分布が異なりお互いに隣接していたとか、中間を埋める絶滅種がいた可能性もあります。さらに言えば、かつては共通祖先が広く分布しており、西部はE. resiniferaとなり東部ではE. sapiniiとなったというシナリオも考えられます。
しかし、不思議なのはE. sapiniiの分布するモロッコの隣国である、モーリタニアまで分布するE. sudanicaとは遺伝的に一番距離があるということです。とは言え、E. sudanicaは東アフリカまで分布が非常に広いので、現在の分布は単純に分布域が拡大しただけかもしれません。

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Euphorbia poissonii
 
最後に学名について見てみましょう。学術的に認められた学名は、1863年に命名されたEuphorbia resinifera O.C.Berg & C.F.Schmidtです。1882年にはTithymalus resinifera (O.C.Berg) H.Karst.とする意見もありましたが、認められていません。また、1942年には、Euphorbia resinifera var. typica CroizatEuphorbia resinifera var. chlorosoma Croizatという2つの変種が提唱されましたが、やはり現在は認められていない学名です。

まあ、以上のように長々と語ってきた訳ですが、実はこの仲間の遺伝子解析にはやや問題があります。論文はE. veneficaの仲間だけを調べたのではなく、様々なユーフォルビアを解析した中の1つに過ぎません。全体の関係を見る事が目的ですから、細かい部分の精度が低い様子がうかがえます。E. veneficaの仲間だけで新たに解析して欲しいところです。なんだかんだで、だいぶ妄想を語ってしまった訳で、何かしらの確証が欲しいですね。


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花キリンとはユーフォルビアに属するマダガスカル原産の低木です。赤や白、ピンクなどのユーフォルビアにしては目立つ花(実際には花弁ではなくて苞)を持つEuphorbia milii系(※1)は、園芸店で様々な品種が販売されています。 しかし、花キリンにはE. milii系だけではなく、様々なタイプがあります。その中には小型で、多肉質の時に縮れた葉を持つ塊根性のものもあります。その代表的な種類は、Euphorbia decaryiやEuphorbia francoisiiでしょう。しかし、E. decaryiやE. francoisiiという名前は間違っているのだというJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文が出ています。しかし、J.-P.Castillon & J.-B.Castillonの論文はフランス語で書かれており、残念ながらフランス語が分からない私には読むことが出来ませんでした。一応、機械翻訳をかけてはみたのですが、学名や専門用語が多いせいかは分かりませんが実に酷いもので、何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。一文一文を丁寧に単語から翻訳していけば、おそらくは理解出来るのでしょうけど、あまりに面倒臭いので見て見ぬふりをして放置していました。

(※1) 2021年に定義が曖昧だったE. miliiは再定義され、流通している良く目にする花キリンはEuphorbia splendensとされています。本来のE. miliiは先端をカットしたような葉を持つものに限定されるとのことです。まだ論文の要約しか読んでいませんから、そのうち詳細をご紹介出来ればと考えております。

さて、本日ご紹介するのは、2021年のTiomas Haevermans & Wilbert Hetterscheidの論文、『Taxonomy decisions and novelties in the informal Euphorbia decaryi group from Madagascar』です。なんと、J.-P.Castillon & J.-B. Castillonの論文の内容を踏まえて、Euphorbia decaryiと関連のある仲間をE. decaryiグループとして、新たに再構成しています。私が読むことが出来なかった論文の内容も英語で解説されており、非常に助かりました。

①E. decaryiとE. francoisii
まず、2016年にJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonにより、いくつかの名前が混乱したユーフォルビアについて、標本などの資料から正しい学名を明らかにしました。一般的にEuphorbia francoisiiと呼ばれている花キリンは実はEuphorbia decaryiのことで、今までEuphorbia decaryiと呼ばれていた花キリンはEuphorbia boiteauiだというのです。
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一般的にE. francoisiiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. decaryiでした。つまり、E. francoisiiという学名は異名となります。(※2)

(※2)とはいえ、市販されるE. francoisiiは複雑に交配されており、様々な種類が混じっている可能性があります。

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一般的にE. decaryiの名前で販売されているこの花キリンは、実はE. boiteauiとのことです。

②E. decaryiの変種についての概要
次にE. decaryiには3つの変種がありましたが、2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、2つの変種をE. boiteauiの変種としました。つまり、E. decaryi var. spirosticha →E. boiteaui var. spirosticha、E. decaryi var. ampanihyensis →E. boiteaui var. ampanihyensisという変更です。しかし、3つ目の変種であるE. decaryi var. robinsoniiは、これが「真の」E. decaryi(本来のE. decaryi)であるのか、E. suzanneae-marnieraeのことを示しているのか曖昧なため、学名は現状維持で変更されませんでした。著者らはJ.-P.Castillon &  J.-B.Castillonの意見に基本的には同意しますが、異なる意見も持っています。著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisはE. boiteaui var. spirostichaと同種であり、独立種であるEuphorbia spirostichaであるとしています。
また、旧・E. francoisii系(本物のE. decaryi)の変種であるE. francoisii var. crassicaulisをJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは本来のE. decaryiの変種としてE. decaryi var. crassicaulisとしました。しかし、著者らは独立種であるEuphorbia crassicaulisとしています。

③E. cap-saintemariensisは独立
さて、1984年にCremersはE. decaryiグループについて記載しました。それが、E. decaryi var. ampanihyensis、E. decaryi var. robinsonii、E. decaryi var. cap-saintemariensisです。しかし、var. cap-saintemariensisをE. decaryiの変種とすることはRauh & Buchlohにより批判され認められた学名ではありません。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var.cap-saintemariensisをE. boiteauiとせずに、独立種たる特徴があるとして1970年に命名された最初の名前であるE. cap-saintemariensisを受け入れました。

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Euphorbia cap-saintemariensis

④var. spirostichaとvar. ampanihyensis
E. decaryi var. ampanihyensisはE. boiteaui var. ampanihyensisとされましたが、Cremersの言うところのvar. ampanihyensisの茎や葉が小さいなどの特徴はE. boiteauiと一致しません。Cremersにより強調されたvar. ampanihyensisは、葉と杯状花序苞(※3)の至るところに「腺」が存在するということです。この「腺」は、実際には腺機能はない肥大した円錐形の乳頭様の細胞です(※4)。確かに、その「腺」はE. decaryi var. ampanihyensisのパリにあるホロタイプ(模式標本)と、Boisser自身が作製したカラースライドで見ることが出来ます。
E. decaryiグループのいくつかでは、葉や茎、杯状花序苞の表面に「乳頭細胞」が見られます。「乳頭細胞」が多いE. tulearensisや、数が少なくしばしばより小さく面積が狭いE. boiteauiやE. suzannae-marnieraeがあります。これらの観察から、著者らはE. boiteaui var. ampanihyensisの匍匐根系(※5)、「乳頭細胞」の形態と分布、茎、斑点、葉、杯状花序苞のサイズと形態は、E. spirostichaとの密接な関係を示しているように見えます。E. spirostichaの現生植物の特徴はE. decaryi var. ampanihyensisと一致しますが、一見すると茎の形に違いがあるようです。E. spirostichaの茎は大抵は丸みがあり、葉の落ちた跡は螺旋状に並び、古い茎には跡が残らず滑らかです(※6)。しかし、1984年のCremersの記述ではE. decaryi var. ampanihyensisの茎は角張っているが、跡は残らないとしています。とはいえ、実際の生きた標本は角ばり、また様々な段階の茎があり、強い螺旋状から弱い螺旋状、あるいは直線的なものもあります。このように、E. spirostichaは言われているよりも多様であることが分かります。結論として、1984年のCremersの示すE. decaryi var. ampanihyensisは、1986年のRauh & Buchlohの示すE. decaryi var. spirostichaは同じであるということが示唆されます。また、本来ならば先に命名された名前が優先されますが、var. ampanihyensis(1984年)よりもvar. spirosticha(1986年)の方が広く知られているため、著者らは敢えてvar. spirostichaを優先し、E. spirostichaと命名しました。

(※3)ユーフォルビアの花には花弁がなく、一見して花弁に見えるのは苞。Cyathophyll.
(※4)「腺」とは一般的に液体を分泌する構造を示します。
(※5)stoloniferous roots system. 
下の写真は鉢から抜いたE. boiteauiですが、太く白いものは根ではなく地下茎です。

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(※6)E. boiteauiは角張った茎を持ち、葉の落ちた跡は直線的で、古い茎には跡が残ります。下の写真のE. boiteauiは、分岐の根元まで突起や葉の落ちた跡が残っています。
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⑤var. robinsoniiとは?
1984年にCremersはE. decaryi var. robinsoniiを報告しました。2016年のJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、var. robinsoniiに関してはE. boiteauiあるいはその他の種に移動させませんでした。Cremersの示したvar. robinsoniiの分布地域をJ.-P.Castillon & J.-B.Castillonが数回訪れましたが見つけることが出来ませんでした。著者らはCremersの標本を探しましたが残念ながら追跡出来ませんでした。J.-P.Castillon & J.-B.Castillonは、この曖昧な状況と、E. decaryi、E. suzannae-marnierae、E. waringiaeとの類似性がありはっきりと判断出来ないことから、E. decaryi var. robinsoniiの名前は維持されることになりました。
しかし、著者らは地理的な不確実性にも関わらず、var. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると考えています。1984年のCremersの記述に手がかりがあります。ホロタイプのE. decaryi var. robinsoniiは、塊根と長い葉柄があり、縁が波状の幅の狭い披針楕円形から狭菱形の葉には特に上面に「腺」があるとしています。
類似性があるとされるEuphorbia waringiaeは、菱形の葉ではなく狭披針形から線状であり、托葉全体に縁があるため除外出来ます。しかし、CremersのE. decaryi var. robinsoniiは縁全体に托葉があります。いわゆるE. francoisii(本当のE. decaryi)は様々な形状の葉があり、Cremersの言うvar. robinsoniiの披針形や菱形のものもありますが、葉には乳頭はなく滑らかで光沢があります。また、Cremersはvar. decaryiは典型的なE. decaryiよりもかなり小さいと述べています。CremersはE. francoisii var. francoisiiの名前も使用していますが、これはおそらくEuphorbia crassicaulisに基づいています。
以上からvar. robinsoniiはE. suzannae-marnieraeであると著者らは考えています。乳頭状の葉の上面と葉柄が狭く菱形で基部が短く、狭く長い葉などの特徴など、E. suzannae-marnieraeと一致します。栽培するとE. suzannae-marnieraeは匍匐根を持ち直立する傾向があります。

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Euphorbia waringiae

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Euphorbia suzannae-marnierae

⑥新種E. decaryi var. durispina
近年、Euphorbia decaryi var. durispinaというラベルがついた植物が導入されています。導入元はドイツのExoticaでしたが、そのデータベースでは"Heidelberg74941"に対応するとあります。しかし、残念ながらハイデルベルク植物園にvar. durispinaを示すものはありませんでした。var. durispinaという名前は正式な学名ではなく園芸名です。著者らは過去に知られている種類ではないと感じましたが、由来が不明なため正式な記載を控えました。
ところが最近、Petr Pavelka氏から送られてきたマダガスカルのユーフォルビアの写真を調べたところ、Amboasaryの北にvar. durispinaが分布することが分かりました。また、同じ特徴の標本も発見しています。
著者らはvar. durispinaを独立種と考えています。形態学的に近縁なE. boiteauiの短い4mmの托葉とは異なり、var. durispinaはより長い7mmなどいくつかの特徴が異なります。また、E. spirostichaに似ますが、はるかに短い托葉突起(2mm)があり、しばらくすると消え、葉は非常に小さな結節(1mm)があります。
以上のことから、著者らはvar. durispinaを新種と考え、Euphorbia durispinaとしました。E. durispinaは高さは最大5cmで非常に小さく、匍匐根を持ちます。


⑦用語について
この論文では、かなり特殊な用語が使われています。正直、どう訳したものか悩みました。著者らによると、「podarium」とは、Rauh & Buchlohにより葉柄の周辺領域と定義されました。私は「托葉」と訳しましたが、一般的に定義される托葉とはまったく異なります。「podarium」は著者らが「podarium appendages」(=托葉突起と訳した)と呼ぶ、鱗片のような突起が融合した基部で構成されるそうです。また、E. decaryiグループの中で本来のトゲを発達させたのは、E. tulearensisとE. parvicyathophoraのみだそうです。

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Euphorbia tulearensis

⑧キュー王立植物園のデータベース
さて、現在のキュー王立植物園のデータベースでは、E. decaryiグループはどのような分類となっていますでしょうか。論文に出てきた名前を調べてみました。以下に示します。

1, E. boiteaui Leandri
   ①E. boiteaui var. boiteaui
   ②E. boiteaui var. ampanihyensis
      (Cremers) J.-P.Castillon & J.-B.Castillon 
       =E. decaryi var. ampanihyensis Cremers
   ③E. boiteaui var. spirosticha
      (Rauh & Buchloh) 
 
        J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
       =E. decaryi var. spirosticha
                 Rauh & Buchloh
2, E. crassicaulis (Rauh) Heav. & Hett.
       =E. francoisii var. crassicaulis Rauh
       =E. decaryi var. crassicaulis (Rauh)
              J.-P.Castillon & J.-B.Castillon
3, E. decaryi Guillaumin
    ①E. decaryi var. decaryi
        =E. francoisii Leandri
        =E. francoisii var. rubrifolia Rauh
    ②E. decaryi var. robinsonii Cremers
4, E. cap-saintemariensis Rauh
       =E. decaryi var. cap-saintemariensis
            (Rauh) Cremers
5, E. suzannae-marnierae Rauh & Petignat
6, E. waringiae Rauh & Gerold


見てお分かりのように、著者らの主張が認められているのは、E. crassicaulisの独立についてのみです。var. ampanihyensis=var. spirosticha、あるいはE. spirostichaの独立は認められておりません。さらに、var. robinsonii=E. susannae-marnieraeや、新種E. durispinaも認められていないようです。しかし、これは「現在は」という保留が付きます。まだ、論文が出たばかりですから、今後の変更は十分あり得るでしょう。
それはそうと、花キリンは非常に混乱した分類群ですが、最近整理され始めました。非常に気になるところです。E. decaryiグループも含め、まだ整理は続くのでしょう。今後も注視していきたいと考えております。


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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産のユーフォルビアです。現在地の情報については、論文を参照に割と詳しい解説をしたことがあります。

原産地の情報についてはこちらの記事をご参照下さい。
冬に入手したこともあり完全に休眠状態でしたが、最近は日中暖かいせいか新しいトゲが出てきました。春がやって来ているという実感を感じます。

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剣光閣はスペインのカナリア諸島原産ですが、分布はカナリア諸島で2番目に大きいFuerteventura島のハンディア(Jandia)半島にあるハンディア自然公園の保護区域内の2箇所しか知られておりません。非常に狭い範囲に生える固有種です。火山の堆積谷に育ち、気候は非常に乾燥し暑く強風が吹きます。Euphorbia canariensisやAeonium sp.と共に生育します。ハエ(greenbottle flies)により受粉するそうです。
剣光閣の学名は、1912年に命名されたEuphorbia handiensis Burchardです。種小名は自生地のハンディア半島から来たのでしょう。


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多肉植物で交配種と言えばエケベリアが大変盛んですが、難易度で言うならばユーフォルビアの交配は非常に簡単です。しかし、何故かそれほど盛んでもないようです。私もたまたま入手した交配種、あるいは自然交雑種が幾つかあります。鉄甲丸系交配種の蘇鉄キリンや峨眉山は割と見かけますが、それ以外もあるにはあります。交配種を集めている訳ではありませんから少しですがご紹介します。

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蘇鉄キリン
蘇鉄キリンは怪魔玉と鉄甲丸(E. bupleurifolia)の交配種と言われていますが、たいした違いはないのでわざわざ見分ける必要はないような気もします。

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怪魔玉
鉄甲丸(E. bupleurifolia)と鱗宝(E. mammillaris)の交配種と言われています。しかし、鉄甲丸と峨眉山の交配種と言っている人もいるようです。

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峨眉山
峨眉山は鉄甲丸(E. bupleurifolia)と瑠璃晃(E. susannae)の交配種とされています。一番有名かつ大変優れた交配種ですが、日本で作出された品種ということです。海外では、Euphorbia ×japonica、あるいはEuphorbia cv. Cockleburと呼ばれています。まあ、E. japonicaと言うと、ノウルシ(E. adenochlora)やイワタイゲキ(E. jolkinii)の異名ですから、ややこしいので使わないことに越したことはありません。

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グロエネフィカ
Euphorbia groenewaldii × Euphorbia venefica(異名E. venenifica)らしいです。なんと言うか、全く思い付かない組み合わせです。どうやら、海外で作出されたもののようです。


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混迷閣 Euphorbia ×inconstantia
Euphorbia heptagona(異名E. enopla、紅彩閣) × Euphorbia polygonaらしいです。E. heptagonaと異なり、トゲに小さなささくれ状の小さなトゲが見られ、ホリダ・ポリゴナ系の影響が見受けられます。野生状態で生まれた自然交雑種かもしれません。


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紅彩ロリカ
Euphorbia heptagona × Euphorbia loricataらしいです。なぜか親のE. heptagonaよりトゲが強くなっています。E. loricataの葉が沢山出る特徴も受け継いだ良い交配種です。

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紅彩ホリダ(紅ホリダ)
Euphorbia heptagona × Euphorbia polygona var. horridaらしいです。ホリダほどではないですが、E. heptagonaより太く育ちます。E. ×inconstantiaと似た交配ですが、外見はよりホリダ・ポリゴナ系に寄ります。うっすら白い粉に覆われます。

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Euphorbia ×curvirama
Euphorbia caerulescens × Euphorbia triangularisらしいです。こちらは意外な組み合わせですが、自然交雑種ということです。いかにも野生種といった雰囲気で、交雑種には見えません。


とまあ、こんなところです。私が知らないだけで、他にも沢山の交配種がありそうですが、集めている訳ではないので詳しくはありません。しかし、今後イベントで何か面白い品種を見つけたら購入するかもしれません。


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私の好きな多肉植物の産地は、大抵は南アフリカ、マダガスカル、メキシコあたりです。まあ、この辺りは多肉植物の宝庫ですから、実際に種類も豊富です。さて、私もそれなりに多肉植物が増えてきましたが、カナリア諸島やモロッコなど、多肉植物の産地としては少々変わった地域のものもちらほら入手しています。そんなおり、タンザニア原産のユーフォルビアを入手したので色々調べていたら、タンザニアのユーフォルビアについての記事を見つけました。それは、2008年のSusan Carterによる『Euphorbia in Tanzania』です。また、記事ではMonadeniumをEuphorbiaに含める考え方もあると注記がありましたが、現在ではMonadeniumは完全にEuphorbiaとされています。ですから、Monadeniumの学名の後にEuphorbiaとしての学名を追記しました。

タンザニアはケニアと比較すると、ユーフォルビアの多様化は低く、種類も少なくなっています。しかし、人口密度が高い沿岸地域から離れた中央高原は広大で、茂みに覆われツェツェバエ(アフリカ睡眠病を媒介する蝿)が蔓延していることからあまり探索されていません。

北部の草原地帯のSerengetiは、ケニアのMaasai Mara国立保護区よりはるかに広大です。ここでは、巨大な塊根を持つEuphorbia graciliramea PaxとEuphorbia similiramea S.Carter、さらに叢生するEuphorbia uhligiana Paxが見られます。この場所とNgorongoroの火山盆地の間には、2種類の局所的な分布のユーフォルビアが見られます。1つはEyassi湖のほとりのEuphorbia eyassiana P.R.O.Bally & S.Carterで、高さ80cmほどの多肉質の茎は紫がかります。もう1つはManyara湖のRift Valleyの断崖の斜面に見られるEuphorbia elegantissima P.R.O.Bally & S.Carterです。細長い多肉質の茎がブッシュ状となり3mほどになります。

ケニアとの国境沿いを南東に行きキリマンジャロを通り過ぎた北東のParesとUsambarasを横切る丘に到着します。海岸に近いのでよく調査されており、有名なユーフォルビアが生えます。北端にはEuphorbia robecchii Paxが生えます。苗のうちはトゲのある柱サボテン状ですが、大型になると幹は木質化し一見して樹木のように見えます。丘の麓には深い砂質土壌の開けた茂みがあり、Euphorbia heterochroma Paxが生えます。四角柱の柱サボテン状のユーフォルビアで、特徴的な規則的な緑色の斑紋があります。19世紀後半にドイツの博物学者により東アフリカ沿岸部が調査された時に発見された最初の種の一つです。Usambarasの急斜面のさらに南には、高さ15mになるEuphorbia quadrialata Paxが生えます。
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Euphorbia robecchii Paxの苗。Euphorbia robechchiiの名前で流通しているようです。

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大型のEuphorbia robecchiiは樹木状となります。
(P.R.O.Bally, 1954)

ケニアへ広がるこの沿岸地域には、樹木状で沢山の稜があるEuphorbia bussei Paxが見られます。また、3稜のEuphorbia nyikae Paxは、海からの湿気を利用しています。海岸から離れると、1本の幹から無数の枝を密につける有名なEuphorbia candelabrum Kotschyが見られます。

Great Ruaha川を内陸に辿ると、急な断崖のある渓谷に到着します。険しい断崖は植物を保護し、多くのユーフォルビアが生える理想的な生息地です。バオバブの木とともに、Euphorbia quadrangularis Paxは正方形の頑丈でまばらに枝分かれした茎を持ち、その高さは最大3.5mとなります。枝は主茎から直角に広がり、灰色がかった緑色の斑入りです。これはEuphorbia cooperi var. ussanguensis (N.E.Br.) L.C.Leachの分布の北東の限界でもあります。高さ10mとなります。さらに、断崖に沿って行くと、固有種のEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally &S.Carterが生えます。高さは30cmで暗赤色のトゲと青みがかる斑入りの茎が特徴です。
さらに、6種類以上の非常に異なったモナデニウムが生え、そのうち4種類はこの地域から固有です。急斜面の丘の中腹には高さ3.5mになる樹木、Monadenium elegans S.Carter=Euphorbia biselegans Bruynsが生えます。美しい紫がかる褐色のフレーク状の樹皮を持ち、明るい色の葉を持ちます。高さ4mになり、まばらに枝分かれした低木であるMonadenium arborescens P.R.O.Bally=Euphorbia neoarborescens Bruynsは、太い多肉質の緑色の茎と25cmになる大型で多肉質の葉をつけます。この種は、関連するMonadenium spectabile S.Carter=Euphorbia spectabilis (S.Carter) Bruynsと同様に谷底に生え、高さ3mで多肉質の大きなは木質葉があります。この地域の4つ目の固有種はMonadenium magnificum E.A.Bruce=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruynsです。丘の麓のブッシュランドのさらに北で見つかりました。高さ1.5mほどの低木で、15cmの多肉質の葉を出します。

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Euphorbia greenwayi P.R.O.Bally

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Monadenium magnificum E.A.Bruce
=Euphorbia magnifica (E.A.Bruce) Bruyns


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茎や葉の裏に沢山のトゲをつけます。

他の地域にも分布するモナデニウムは2種類で、丘の間の低木地帯で見られます。Monadenium goetzei Pax=Euphorbia neogoetzei Bruynsは3種類の固有種と関連しています。草本性の多年草で、茂みの中から75cmまで育ちます。長さ17cmの多肉質の葉を持ちます。また、下草の中にはMonadenium schubei (Pax) N.E.Br.=Euphorbia schubei Paxがマット状に育ちます。時に高さ1m近く育ちます。

開けた茂みを南西に進むと、Euphorbia quadrangularisが豊富です。しかし、しばしば家畜が放牧されており、環境は渓谷とは異なります。緑がかる褐色の茎と1cmを超えるトゲを持つEuphorbia reclinata P.R.O.Bally & S.Carterが自生します。マラウイとザンビアに隣接する山の麓には、塊根を持つEuphorbia tetracanthoides Paxが見られます。

タンガニーカ湖の東岸に沿う低い丘を北に向かうと、Euphorbia grantii Oliv.が見られます。小さく枝分かれした樹木で多肉植物ではありません。葉は長さ30cmにもなります。関連する種としては、高さ3mの低木であるEuphorbia goetzei Paxがあります。ザンビアとマラウイにも分布します。多肉植物ではありません。同じく、関連するEuphorbia matabelensis Paxは鋭く尖った枝を持つ低木で、多肉植物ではありません。分布は南アフリカまで広がっています。
この丘には多肉質のユーフォルビアもあり、Euphorbia angustiflora Paxなどトゲのある種が知られています。マット状に育つこともあります。また、Euphorbia rubrispinosa S.Carterは明るい緑色で、4稜の茎と暗赤色のトゲを持ちます。


以上が記事の要約です。
タンザニアの多肉植物はあまり聞きませんが、非常に魅力的なユーフォルビアが沢山自生していることが分かります。しかし、それだけではなく、タンザニアの西部にはまだ未調査な部分があると言いますから、まだ知られていない未知のユーフォルビアが存在するかもしれません。今後に期待しましょう。



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本日は2022年のColin C.Walkerの記事、『Euphorbia evolution and taxonomy』をご紹介します。タイトルは「ユーフォルビアの進化と分類学」ですが、内容的には2021年に発表されたユーフォルビアに関する論文の紹介記事です。記事は3つのパートからなっています。早速、記事を見てみましょう。

①ユーフォルビアの分類
遺伝子解析の発達は、長い歴史を誇る植物分類学を一新してしまいました。特にここ10年と少しで急速に普及・発展し、その精度も高くなっています。全世界の植物学者が協力して植物の分類を決定しようとしたAPGというプロジェクトがあり、分類体系は様変わりしました。遺伝子解析によりユーフォルビアの分類も大きな影響を受けることになりました。

さて、ユーフォルビアは種類も多く姿も多様ですが、近年の遺伝子解析においてまとまりのあるグループであることが明らかとなっています。今までユーフォルビアから分離されてきたグループも、ユーフォルビアに合併される傾向があります。
2021年の論文、『Plastome evolution in the hyperdiverse genus Euphorbia (Euphorbiaceae) using phylogenomic and comparative analysis : large - scale expansion and contraction of the inverted repeat region』では、ユーフォルビア属は単系統です。Chamaesyce、Cubanthus、Eleophorbia、Endadenium、Monadenium、Pedilanthus、Poinsettia、Synadeniumは、ユーフォルビア属内で他のユーフォルビアと入れ子状となっていることが示されています。ユーフォルビア属の4つの亜属である、Athymalus、Chamaesyce、Esula、Euphorbiaは単系統でした。

次にやはり2021年の論文、『Euphorbia mbuinzauensis, a new succulent species in Kenya from the Synadenium group in Euphorbia sect. Monadenium (Euphorbiaceae) 』では、わずか14種類のグループであるシナデニウム属に焦点を当てています。シナデニウムは以前は熱帯アフリカの東部と南部のみに分布する、高さ18mまでの樹木です。既知の植物と一致しない種が発見されたので、分子生物学的研究が行われました。この新種はEuphorbia mbuinzauensisと命名されました。ケニア原産の高さ4mほどの低木です。この研究によりシナデニウム属がユーフォルビア亜属の構成員であることを確認しました。

②マダガスカル・ユーフォルビアの学名の改定
2番目はマダガスカルのユーフォルビアについての論文です。2021年の2本の論文、『Novelties in Malagasy Euphorbia (Euphorbiaceae)』と『Taxonomic change and new species in Malagasy Euphorbia』です。

マダガスカルには200以上のユーフォルビアがあり、多様性があります。この2つの論文ではその分類法と命名法を再評価しています。マダガスカルのユーフォルビア48種類を評価しており、これらの論文の種名の変更を基に、将来的に学名が大きく改定される可能性があります。

1つ目の論文の焦点は、花キリンEuphorbia miliiの分類方法の再検討です。E. miliiの由来は1826年の命名以来謎のままであり、この名前は園芸業界で様々な品種に対して総称として使用されています。Euphorbia milii Des Moul.の名前は、先端を切ったような葉の種類に限定されます。楕円形の葉を持つ、赤色や黄色の花(苞)を持つ良く栽培される種類をEuphorbia splendens Bojer ex Hookerの名前で復元されています。
他のE. milii複合体については以外の通りに改定されております。
E. milii var. longifolia→E. betrokana
E. splendens var. bevilaniensis→E. bevilaniensis
E. splendens var. hislopii→E. hislopii
E. milii var. imperatae→E. imperatae
E. milii var. bosseri→E. neobosseri
E. milii var. roseana→E. roseana
E. splendens var. tananarivae→E.tananarivae
E. milii var. tenuispina→E. tenuispina


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Euphorbia imperatae cv. 

また、Euphorbia bosseri Leandriの分類方法も改定され、一般的なE. platycladaは異名となります。E. platyclada var. hardyiはEuphorbia hardyiとして変種から独立種に昇格しました。

他にも、いくつかの低木種の分類も改定されました。
E. primulifolia var. begardii→E. begardii
E. francoisii var. crassicaulis→E. crassicaulis
E. perrieri var. elongata→E. paulianii
E. berevoensis(E. nicaiseiを含む)
E. delphinensis
E. fanjahiraensis(E. isalensisを含む)
E. guillemetii(E. beharensisを含む)
E. leandriana(E. horombensisを含む)
E. mangokyensis(E. razafindratsiraeを含む)
E. pachyspina
E. perrieri
E. psammiticolia
E. werneri


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Euphorbia begardii

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Euphorbia mangokyensis

2番目の論文では、14種類ものマダガスカルの新種ユーフォルビアが記載され、近縁な種類と比較しています。その14種は、E. agatheae、E. atimovatae、E. fuscoclada、E. graciliramulosa、E. kalambatitrensis、E. linguiformis、E. mahaboana、E. makayensis、E. multibrachiata、E. parvimedusae、E. perrierioides、E. rigidispina、E. spannringii、E. tsihombensisです。
また、非公式なE. rubrostriataグループの新しい組み合わせが提案されています。E. itampolensis(E. neobosseri var. itampolensis)、再評価されているのはE. mahafalensis、E. rubrostriata(E. mainianaを含む)、E. xanthadenia(E. croizatii、E. ebeloensis、E. emiliennaeを含む)です。
さらに、新しい異名と新しい組み合わせが提案されています。
E. moratii var. antsingiensis→E. antsingiensis
E. enterophora subsp. crassa→E. crassa
E. rangovalensis(E. castilloniを含む)
E. enterophora→E. xylophylloides

③Euphorbia susannaeの調査
3つ目は、日本ではすっかり普及種となったEuphorbia susannaeについてです。その論文は2021年の『Population biology and ecology of the endangered Euphorbia susannae Marloth, an endemic to the Little Karoo, South Africa』です。著者らはE. susannaeの分布と環境を調査し、野生のE. susannaeの個体数が非常に少数であることを報告しています。
実はこの論文は既に記事にしています。詳細は以下のリンクをどうぞ。


最後に
以上が最新のユーフォルビアのニュースとなります。ユーフォルビアは種類が多い割に論文が少なく、園芸的に人気があるアフリカの多肉質なユーフォルビアとなると、残念ながらほとんどない状態です。しかし、ユーフォルビア属自体は大変動の最中で、モナデニウム属などがユーフォルビア属に吸収合併されました。ユーフォルビア属内の大まかな分類も概ね解決しており、後は詳細な種の所属を明らかにすることや、種同士の関係性が気になるところです。次にマダガスカルのユーフォルビアについてですが、これは非常に大きな改定です。これからの分類が刷新される可能性もあり、重要な論文かもしれません。時間があれば一度読んでみたいと思っています。最後にEuphorbia susannaeについてですが、これは思いの外重要な論文です。多肉植物は、環境破壊や違法採取などにより、個体数を減らしたり絶滅が危惧されているものも沢山あります。しかし、希少植物を保護するにせよ現地調査は欠かせません。まずは知るところからがスタート地点です。しかし、残念ながらアフリカのユーフォルビアは、減少している可能性があるといった曖昧な情報が多く調査もなされていないため、仮に絶滅していてもそのことすら感知されない可能性があります。大変悲しいことです。


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昨年の夏頃に安価なミニ多肉として販売されていたE. リカルドシアエという名前のユーフォルビアを購入しました。このリカルドシアエは、マラウイ原産のEuphorbia richardsiaeのことですが、画像検索すると外見が異なるものが出てくるので、以前から気になっていました。取り敢えず、リカルドシアエの情報をまとめた記事がこちらです。
しかし、最近ユーフォルビアの画像を色々漁っていた時に、我が家のリカルドと似た画像が偶然見つかりました。それが、グリセオラ、つまりはEuphorbia griseolaです。龍尾閣という名前もあるようです。
我が家の謎のユーフォルビアの特徴を見てみましょう。

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トゲとトゲの間がつながっており、直線的に育ちます。E. richardsiaeはトゲが繋がらず、グネグネと歪曲しながら育ちますから明らかに特徴が異なります。どうにも、E. griseolaと特徴が符合します。

グリセオラの学名は1904年に命名されたEuphorbia griseola Paxです。亜種としてE. griseola subsp. griseola、E. griseola subsp. mashonica、E. griseola subsp. zambiensisがあります。
分布はかなり広く、ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、南アフリカ、ジンバブエ、ザンビア、ザイールの原産です。原産地や育て方の情報はありませんが、育てた感想としてかなり生長が早く育てやすいと思います。
Dolomite euphoriaなる名前も出てきましたが、ドロマイトは苦灰石のことです。苦灰石を加工したものが苦土石灰ですから、アルカリ土壌に生えるのでしょうか?

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Euphorbia griseola Pax

ついていたラベルの名前が間違えているというのは、非常に困ったことです。特にユーフォルビアは類似したものも多く種類も多いので、似た種類をすべてピックアップして比較するということは非常に困難です。しかし、これは生産者が勝手に適当なラベルを挿した訳ではないと思います。生産者がうっかり間違った可能性もありますが、おそらくは購入した種子の名前が間違っているのでしょう。基本的に生産者は種子に書いてあった名前を、そのままラベルに記入しています。実際に、海外の種子で2種類の植物が混同されていたり、実生苗の学名のスペル・ミスがあちこちの生産者で共通していることが結構あります。ですから、この名前の誤りはそう簡単には解決しない問題と言えるでしょう。


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1937年にドイツで出版された『Kakteenkunde』を見つけたのですが、残念ながらドイツ語はまったく分かりません。しかし、索引を眺めていたら、なんとユーフォルビアについて書かれた記事があるみたいです。これは内容が非常に気になります。仕方なく機械翻訳にかけてみました。若干、怪しい翻訳文ですが、86年前に書かれた実に興味深い記事です。
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記事のタイトルはVon Paul Stephanの『Einige wenig bekannte Euphorbia』、つまりはポール・ステファンによる「幾つかのあまり知られていないユーフォルビア」です。おそらく、Paul Stephanはハンブルク植物園で多肉植物のコレクションの管理をした植物コレクターのことでしょう。Paul Stephanは1929年にConophytum stephaniiの種小名に献名されていますね。この記事ではポール・ステファン氏が自慢のユーフォルビア・コレクションを写真付きで紹介しています。

Euphorbia stellata Willd.
ポール・ステファン氏の解説 : 太くて短い円筒形の幹の上から多数の枝が出ます。幹の樹皮は灰褐色で棘はありません。枝は暗い緑色で褐色の棘があります。枝は上部が凹み、幅は最大2cmで一対の棘で強化されています。棘は赤褐色で長さは2~3mmです。Euph. stellataは「Berger」ではEuph. uncinata DCとされていますが、これは古い名前で有効な名前であるstellataと呼ぶ必要があります。古くから知られていますが、コレクションには滅多に見られません。
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ポール・ステファン氏のコレクションの写真。何故か写真の学名は、Eu. uncinnataとなっていました。本来はstellataです。しかも、uncinataをuncinnataと誤植されています。枝が短いせいか、あまりE. stellataらしく見えませんね。むしろ、Euphorbia tortiramaに見えてしまいます。水を少なく遮光しないで育てているのかもしれません。

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E. stellataは日本では飛竜の名前で知られています。E. stellata Willd.は1799年の命名、E. uncinata DC.は1805年の命名です。数年前は日本でも割と珍しいユーフォルビアで、思いの外高額でした。現在は苗が出回っており、だいぶお値段も落ち着きました。

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Euphorbia tortirama

Euphorbia inermis Mill.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. inermis Mill.はEuph. caput-medusae L.の近縁種ですが、はるかに強力な側枝が異なる点です。caput-medusaeにある若い芽は失われています。枝の肋とこぶははるかに顕著です。幹は緑色で下部に向かうほど灰色になります。
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ポール・ステファン氏のコレクション。下の私の所有している個体と良く似ています。

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E. inermisは日本では九頭竜と呼ばれています。E. inermisは1768年の命名です。日本では量産されており、入手しやすいタコものユーフォルビアです。あまり強光を好まないみたいです。

Euphorbia valida N.E.Br.
ポール・ステファン氏の解説 : Euph. meloformisに最も近縁ですが色が異なります。花の残骸が残っていないため無防備です。それ以外はほぼ同じ植物で、Marlothによるとmeloformisの生長形態が異なるだけに過ぎないと言います。
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ポール・ステファン氏のコレクション。花柄は残っていません。かなり大型の個体のようです。

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Euphorbia validaとされる個体。花柄はあまり出ません。縞模様がよく目立ちます。現在、E. valida N.E.Br.、あるいはE. meloformis subsp. valida (N.E.Br.) G.D.Rowleyは、E. meloformis Aitonと同種とされています。原産地では、E. meloformisともE. validaともつかない中間個体が多いようです。要するに、多様な個体の中で特徴的なものをピックアップして命名されただけかもしれないのです。

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縞模様がほとんどない個体。花柄は長く伸びます。validaとは、ラテン語で「validus=強い」から来ています。

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Euphorbia infausta N.E.Br.は、現在はE. meloformisと同一種とされています。花柄は弱く残りにくいタイプです。

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貴青玉
E. meloformisのことを貴青玉と呼んでいたみたいですが、最近ではE. meloformis系交配種のことを貴青玉と言っているみたいです。


Euphorbia Suzannae  Marl.
ポール・ステファン氏の解説 : ほぼ球形で複数の稜があります。長さ10mmまでのイボがあり、マミラリアのような外見です。灰緑色。若い時は単頭で、やがて枝分かれします。
※誤植があります。種小名は本来は小文字で、さらにsuzannaeではなくsusannaeです。

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ポール・ステファン氏のコレクション。こちらには、Euph. Susannae Marl.と表記されていました。良くしまった美しい個体です。イボが長くて尖るタイプ。

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E. susannaeは日本では瑠璃晃と呼ばれることもありますが、あまり使われないかもしれません。私の所有個体はイボが短く丸味があるタイプです。そういえば、命名者のHermann Wilhelm Rudolf Marloth(ドイツ出身で南アフリカで活動した植物学者)の略はMarl.となっていますが、正式な学名の表記ではMarlothです。まあ、1937年の命名規約がどうなっていたかは分かりませんが。

以上がポール・ステファン氏のユーフォルビア・コレクションの紹介でした。しかし、まさか80年以上前のドイツのユーフォルビア・コレクションを写真で見られるとは思っておりませんでしたから、私も感銘を受けました。こういう記事をもっと書きたいと思うものの、中々古い時代の出版物は探しても見つからないことが多く難しいですね。一応は少しずつ探索を継続する予定です。


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今年の正月明けに五反田TOCで開催された新年のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Euphorbia greenwayiというユーフォルビアを入手しました。赤いトゲと蒼白い肌色が大変美しいですね。どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。

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Euphorbia greenwayi

調べてわかったこととして、E. greenwayiはあまり情報がないということです。とは言うものの、実は論文が1報出ているのですが、何故かE. greenwayiの成分の殺菌作用について調べたものでした。ユーフォルビアは毒性のある乳液を出しますから、その成分を調べた論文は沢山出ています。ですから、この手の論文は珍しくはありませんが、研究者がヨーロッパに多いこともありヨーロッパのユーフォルビア、あるいは世界中に移植されているEuphorbia tirucalli(ミルクブッシュ、緑珊瑚)が一般的で、わざわざE. greenwayiを使うのは珍しいと言えば珍しいですね。とはいえ、化学的な内容のものも多いため、あまり読む気にはなりません。というわけで、一般的な情報について記していきます。
E. greenwayiはタンザニア原産の希少なユーフォルビアです。というのも、分布するのはIringa断崖のみの1箇所で、推定される生息範囲はたった3km2に過ぎないと言います。海抜は1000~1250mほどです。

E. greenwayiの学名は1974年に命名されたEuphorbia greenwayi P.R.O.Bally & S.Carterです。E. greenwayiを命名したP.R.O.Ballyとは、スイスの植物学者、植物画のイラストレーターであるPeter Rene Oscar Ballyのことです。S.Carterとはユーフォルビアとモナデニウムの専門家で、キュー王立植物園のSusan Carter Holmesのことです。国立ユーフォルビア協会の会長です。ちなみに、種小名はイギリスの植物学者で、タンザニアやケニアで研究したPercy (Peter) J.Greenwayに対する献名です。1987年には亜種のEuphorbia greenwayi subsp. breviaculeata S.CarterEuphorbia greenwayi subsp. greenwayiが命名されています。

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我が家に来てからまだ1ヶ月ですが、根元から新芽が吹いてきました。1月は氷点下にもなりましたが、最近は0℃以上の日が続いてますね。とはいえ、まだまだ寒い日が続いています。それでも、E. greenwayiは一足早く春の気配を感じているのかもしれません。

アフリカのユーフォルビアは素晴らしいものが多いのですが、環境破壊などにより絶滅を危惧されている種が沢山あります。E. greenwayiは生息域が狭く限られています。しかも、薪や炭焼きのために生息域の森林が伐採されており、環境が悪化し個体数を減らしているということです。非常に美しい植物ですから、自生地で絶滅してしまわないことを願っております。


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去年の春先に、異常な暑さと信じがたい日射しが我が家の多肉植物を襲いました。例年真夏でも無遮光で耐える強者揃いでしたが、室内から出してまだ慣れていないこともあり、一部は焼けたり焦げたり萎れたりして大変なことになりました。そんな中、Euphorbia cylindrifoliaは顔色1つ変えることなく平然としていましたが、近縁なEuphorbia ambovombensisは葉を完全にやられてしまいました。

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古い葉は全滅。何ともみすぼらしい姿に…
しかし、E. ambovombensisも花キリンの端くれですから、直ぐに強光に耐えられる新しい葉を沢山出すはずです。根に問題があれば別ですが、根張りがしっかりしていたので遮光はしませんでした。別に特別強光に弱いわけではないのですから平気なはず。

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現在のE. ambovombensis。葉はすっかり生え揃いました。しかし、我が家のE. ambovombensisは他の塊根性花キリンと比べて、生長が非常に遅く中々育ちません。新しい葉もあまり出ないのですが、葉がなくなったので流石にあわてて葉を出したみたいです。

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相変わらず枝は地を這うが如くです。厳しく育てているせいか枝が増えませんが、甘やかすと間延びしてしまいそうで怖くはあります。そういえば、去年は植え替えましたが、塊根が太るというよりずいぶん伸びたので少し浅植えしました。この時際が少しくびれているのは、何が原因なんでしょうね? Pachypodium succulentumもそんな感じでした。すべての塊根がそうだという訳ではありませんが少し不思議です。


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グロエネワルディ(Euphorbia groenewaldii)は南アフリカのレッドデータブックで、絶滅危惧種に指定されている希少な植物です。そんなグロエネワルディを保護していくにはどのようなことが必要でしょうか? その参考となるMarula Triumph Rasethe & Sebua Silas Semenyaの2019年の論文、『Community's Knowledge on Euphorbia groenewaldii: Its Populations, Threats and Conservation in Limpopo Province, South Africa』をご紹介します。この現地調査をどう捉え、如何なる保全をしたら良いでしょうか?

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Euphorbia groenewaldii

E. groenewaldiiは南アフリカのLimpopo州、Porokwane自治区のDalmada(準都市部)とGa-Mothiba(農村)の2つの地域に固有で、6つの集団が確認されています。その生息域の狭さから、南アフリカでは絶滅危惧種(A2ac)とされています。さらに、E. groenewaldiiは開発や違法伐採、採掘、踏みつけなどにより、個体数が減少しています。E. groenewaldiiは2003年及び2004年の法制定により採取や許可なしの取引を禁止され、保全計画の推奨を謳っています。
しかし、著者はE. groenewaldiiの生息著者の地域社会が、E. groenewaldiiに対してどのように考え、その保護についてどのように捉えているのかが重要かもしれないとしています。なぜなら、生息域の住人こそが、保全や法に対する利害関係者だからです。という訳で、著者は農村であるGa-Mothibaにおいて、E. groenewaldiiに対する意識調査を実施しました。

ランダムに抽選された参加者たちは、残念ながらE. groenewaldiiが保護されている絶滅危惧種であることを知りませんでした。しかし、調査の参加者はE. groenewaldiiの保全に対する関心は高く、E. groenewaldiiを脅かす可能性があると思われる要因とは何かをインタビューしたところ、降雨不足・干魃、土壌侵食などによる生息地の劣化、農村集落の拡大、種の保全に対する知識の欠如、採掘活動、人為的火災など、かなり正確に問題点を捉えていることが明らかとなりました。
とは言うものの、農村の拡大は住民の望みでもあり、舗装された道路の施設など開発が進むことを望んでいます。採掘活動も村の経済と雇用機会にとって重要ですが、石灰岩の間などに生えるE. groenewaldiiは採掘により根こそぎ破壊されてしまいます。人為的火災は枯れ草を燃やすことにより、牧畜のための新しい牧草の育成に必要な作業です。また、家畜による踏みつけについては懸念としては浮かんでこない項目でした。

以上が論文の簡単な要約です。
まず言えるのは、保護を法律で定めても周知させなければ意味がないということです。保全活動に関係していない農村の住民にも、正しく伝えれば問題を理解し鋭く考えることはインタビュー結果からも明らかです。
次に保護活動は学者や保護活動家だけが関わるものではなく、地域住民にも知識や理念、活動の趣旨を理解してもらい、住民も参加することが望ましいということです。保護活動は明らかに住民の経済活動の利害に反し、強硬に推し進めれば反発を招き保護活動も頓挫するでしょう。また、開発は住民の権利ですから、我々が文句を言うことは出来ません。先進国に住む人々が、低開発国の発展を阻害するのは実に傲慢なことです。
経済活動に伴う環境やグロエネワルディそのものに対する損害に対しては、代替手段を用意すべきです。やり方を工夫しダメージが最小となる手段を考えたり、あるいは村に別の雇用機会を設けるなどです。実際に動物の保護活動では、密猟者をレンジャーとして雇用することもあります。なぜなら、密猟は欧米人のするようなゲームハンティングではなく、あくまでも経済活動だからです。雇用があり賃金が払われるならば、わざわざ密猟などしないのです。
私が思い付くのは所詮はこの程度で、何一つとして有効な解決策を提示出来てはいません。まあ、世界中の学者や保護活動家の頭を悩ませる問題を、私が簡単に解決出来ないのは当たり前かもしれません。
皆様はこの調査結果をどう捉えたでしょうか? 市販されている多肉植物でも、原産地では絶滅の危機に瀕しているものも珍しくありません。多肉植物を栽培する皆様にも是非、一度考えていただきたい問題です。


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ユーフォルビア・モラティイはマダガスカル原産の花キリンです。去年、五反田TOCで開催された冬のサボテン・多肉植物のビッグバザールで入手しましたが、早くも花が咲きました。花キリンとは言ってもよく見るEuphorbia milii系ではなく、花や葉を見る限りEuphorbia cylindrifoliaやEuphorbia tulearensisの仲間でしょうから花は地味ですけどね。良い機会ですからどのような多肉植物なのか調べてみました。

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Euphorbia moratii

モラティイの学名は1970年に命名されたEuphorbia moratii Rauhです。モラティイは国際的に著名な生物学者、植物学者、作家のドイツのWerner Rauhが命名しました。種小名はモラティイを発見したフランス国立自然史博物館の植物学者Philippe Moratに対する献名ということです。
モラティイには3変種、Euphorbia moratii var. moratii、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. bemarahensis Cremers、1991年に命名されたEuphorbia moratii var. multiflora Rauhが認められています。
また、1984年に命名されたEuphorbia moratii var. antsingiensis Cremersは、2021年に種として独立しEuphorbia antsingiensis (Cremers) Haev. & Hett.となり、モラティイの変種ではなくなりました。


E. moratiiはワシントン条約(CITES)の附属書 I に掲載されています。ワシントン条約は国際的な動植物の取引を規制していますが、附属書 I は絶滅の恐れがありる最も厳しい規制がなされており基本的に取引は禁止されています。これはすべてのワシントン条約登録種の3%、約1000種類の動植物のみと言いますから、珍しい花キリンですね。

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花は塊根性花キリンに典型的な雰囲気。

モラティイはマダガスカルのMahajanga州に分布するということです。調べると、マダガスカル北西部のようです。また、inselbergの岩の多い斜面に生えると言います。'inselberg'は孤立した丘である残丘の1種で、定義は「なだらかな斜面を持つ周囲の地形から飛び出した、急な斜面を持つ丘」のことで、特にアフリカの乾燥地帯に典型的な地形とのことです。

以上がモラティイの情報ですが、調べても情報がほとんど出てきません。何か良い論文が出てくれると嬉しいのですが。
塊根が出来るようですが、私のモラティイはまだ塊根は出来ていないでしょう。まあどちらにせよモラティイはコンパクトな小型種です。焦らずゆっくり育てていきます。



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昨年の秋のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、「ユーフォルビア・ペディラントイデス」という名前の花キリンを入手しました。調べてみましたが、海外や論文を含めたいした情報はありませんでした。仕方がないので、学名について調べてみました。

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Euphorbia pedilanthoides

ペディラントイデスの学名は、1921年に命名されたEuphorbia pedilanthoides Denisです。しかし、実は最初に命名されたのは1887年で、Pedilanthus lycioides Bakerでした。Pedilanthusはユーフォルビア属と同じトウダイグサ科の植物で、すぼまった形のほとんど開かない花が咲きます。代表的な種類は「ダイギンリュウ」の名前で知られています。ペディラントイデスは最初Pedilanthusとされたのは、特徴的な花の形状がよく似ているからでしょう。しかし、それ以下の特徴はあまりにも花キリンです。
ここで一つ疑問がわきます。Pedilanthus lycioidesがユーフォルビア属に移動したならば、学名はEuphorbia lycioidesとなるのが通常でしょう。しかし、何故かEuphorbia pedilanthoidesとされているのです。もしやと思って、試しにEuphorbia lycioidesを調べてみたら、なんとEuphorbia lycioides Boiss.というブラジル原産のユーフォルビアが出てきました。ペディラントイデスは花キリンですから、当然ながらマダガスカル原産です。つまりはまったくの別種です。しかも、このEuphorbia lycioidesは1860年の命名で、なんとPedilanthus lycioidesよりも命名が早いのです。命名が早い方が優先されますから、Euphorbia lycioidesを使うわけにはいかなかったのです。というわけで、ユーフォルビアとなるにあたり新たに命名し直したということなのでしょう。ちなみに、種小名の'pedilanthoides'とは、「Pedilanthusに似た」という意味ですね。

ペディラントイデスには「痩花キリン」という名前もあります。枝が細い所から来ているのでしょうか。読み方ですが、幾つかのサイトでは「ソウカキリン」とありました。しかし、「痩せた」+「花キリン」でしょうから、「痩花+キリン」は読み方としては少しおかしな気もしますが、まあ所詮は園芸名なので問題がないと言えば問題がないのでしょう。
そういえば、根元の幹が少し太ってやや塊茎状となるようですが、小さく目立ちませんね。本来は枝が枝分かれして長く伸び灌木状になりますから、盆栽のような枝を切り詰めながら育てればコーデックスとして扱えるかもしれません。

ペディラントイデスは花キリンですが、花キリンはユーフォルビア属ユーフォルビア亜属Old world  Clade IIのSection Goniostemaに所属します。花キリンにも幾つかのグループがありますが、ペディラントイデスはE. horombensis、E. didiereoides、E. croizatii、E. lophogona、E. milliiなどと近縁です。

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昨年末に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、低木状のユーフォルビアであるバルサミフェラ(Euphorbia balsamifera)を購入しました。バルサミフェラはあまり見かけないユーフォルビアでしたが、最近のイベントではポツポツ見かけるようになりました。国内ではあまり流通していませんから、割と高価です。しかし、私のバルサミフェラは現在室内栽培しているとは言うものの、明け方はかなり冷え込むにも関わらず新しい葉を盛んに出しています。思ったより丈夫みたいですから、値段も徐々に落ち着いていくでしょうね。

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Euphorbia balsamifera

そんなバルサミフェラですが、非常に分布が広く生息域が分断されて距離があることが知られています。そのため、伝統的にアフリカ北部に広く分布するE. balsamifera subsp. balsamiferaと、アフリカの角~アラビア半島原産のE. balsamifera subsp. adenensisに分けられてきました。しかし、実際にはsubsp. adenensisは種として独立し、Euphorbia adenensisとなりました。

実はここからが本題です。どうやら、バルサミフェラにはまだ謎が隠されているようなのです。というわけで、本日ご紹介するのはRichard Riinaの2020年の論文、『Three sweet tabaibas instead of one : splitting former Euphorbia balsamifera s. l. and resurrecting the forgotten Euphorbia sepium』です。
論文のタイトルの後半は、「広義のEuphorbia balsamiferaを分割し、忘れられたEuphorbia sepiumを復活させる」ということですから、バルサミフェラからE. sepiumを分離するということです。さて、この「広義(s.l.=sensu lato)のバルサミフェラ」とは何かですが、ここではE. adenensisやE. sepiumを含んだバルサミフェラを示しています。逆にE. adenensisやE. sepiumを含まないバルサミフェラは「狭義(s.s.=sensu stricto)のバルサミフェラ」と呼んでいます。

一度述べていますが、広義のバルサミフェラはアフリカの角~アラビア半島はアフリカ北西部~西部などの個体群と分布に距離がありました。そのため、広義のバルサミフェラについて、各地からサンプリングして遺伝子を解析しました。その結果を示します。

┏━━━━E. sepium

┃            ┏E. adenensis
┗━━━┫
                ┗E. balsamifera s.s.

まずは、広義のバルサミフェラが3つに分割できるということが分かります。狭義のバルサミフェラはモロッコ、西サハラ、カナリア諸島の原産です。驚くべきことに、アフリカ北西部に分布する狭義のバルサミフェラに近縁なのは、分布の離れたE. adenensisでした。しかし、最大の驚きは狭義のバルサミフェラやアデネンシスと遺伝的に距離がある種があったのです。論文ではこの種を、昔命名されたものの忘れ去られていたE. sepiumを適用しました。実はこのセピウムは、アルジェリア、ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ、チャド、コンゴ、ガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、トーゴ、西サハラと非常に分布が広く、かつて広義のバルサミフェラの分布の大半を占めています。

ここで疑問が浮かびます。広義のバルサミフェラは三分割されたとは言うものの、非常に近縁であることは間違いありません。では、どのような道筋で進化したのでしょうか。通常ならば、狭義のバルサミフェラ→セピウム→アデネンシスか、アデネンシス→セピウム→狭義のバルサミフェラが一番分かりやすいでしょう。または、広義のバルサミフェラの広い分布域から、徐々に3種類に分かれたというシナリオもあるでしょう。しかし、予想外にも狭義のバルサミフェラとアデネンシスが近縁ですから、上のシナリオはすべてご破算です。例えば、昔は狭義のバルサミフェラあるいはアデネンシスの分布が今より広く隣接していたとか、狭義のバルサミフェラとアデネンシスの間の空白に絶滅した未知の種が存在したとか、考えられるシナリオは沢山あります。

バルサミフェラの学名についてまとめましょう。
バルサミフェラは、1789年にEuphorbia balsamifera Aitonと命名されました。1887年に命名されたEuphorbia adenensis Deflersは、1965年にはEuphorbia balsamifera subsp. adenensis (Deflers) P.R.O.Bally、つまりはバルサミフェラの亜種とされましたが、地理的な隔離などによりやがて独立種により戻されました。また、1911年に命名されたEuphorbia rogeri N.E.Br.は、1938年にEuphorbia balsamifera var. rogeri (N.E.Br.) Maire1948年にはEuphorbia balsamifera subsp. rogeri (N.E.Br.) Guinea とする意見もありましたが、E. rogeriはE. balsamiferaと同種とされています。しかし、1911年に命名されたEuphorbia sapium N.E.Br.は、1938年にEuphorbia balsamifera subsp. sepium (N.E.Br.) Maireとされてきましたが、再びEuphorbia sepiumに戻り、広義のバルサミフェラは3種類に分割されることになったのです。


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昨年末に千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、Euphorbia ellenbeckiiという名前のユーフォルビアを入手しました。どのような多肉植物なのでしょうか? 少し調べてみました。

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Euphorbia ellenbeckii

Monadenium ellenbeckii
取り敢えず「エレンベッキー」で検索すると、出てくるのはMonadenium ellenbeckiiですね。正直、これは中々面白いことになったと感じました。というのも、遺伝子解析の結果からモナデニウムはユーフォルビアに吸収されてしまいました。ということは、Monadenium ellenbeckiiはEuphorbia ellenbeckiiになるのかというと、おそらくは違うでしょう。何故なら、すでにユーフォルビアには同じ種小名のEuphorbia ellenbeckiiがいるからです。データベースを見てみると、M. ellenbeckiiは2006年にEuphorbia bisellenbeckiiに変更されました。やはり、同姓同名は許されないということです。新しい種小名は、ellenbeckiiに'bis'を追加しただけではあります。この'bis'は「2回」とか「2度」という意味ですから、すでに存在するEuphorbia ellenbeckiiに2を追加した「エレンベッキー2」みたいな割と安直な名前です。
しかし、海外のサイトではすでにこのE. bisellenbeckiiは普通に使われていますが、日本国内ではほぼ流通していない名前です。以前から思っていましたが、日本は情報が遅いですよね。こういう部分でもガラパゴス化しているのは困ったものです。私の弱小ブログではじめて日本で紹介された情報がかなりあるということに、若干うんざりしてしまいます。


Euphorbia ellenbeckii
愚痴はほどほどにして、E. ellenbeckiiを見てみましょう。エレンベッキーは1903年に命名されたEuphorbia ellenbeckii Paxです。特に異名などはないみたいです。原産地はエチオピア、ケニア、ソマリアですから、ちょうどアフリカの角にあたる部分ですね。
E. ellenbeckiiがはじめて記載された論文はPax in A. Engler, Botanische Jahrbücher für Systematik, Pflanzengeschichte und Pflanzengeographie 33 : 285 (1903)ということです。古いので探してもないでしょうけど、一応は探してみます。ごく稀に、古い論文を画像データとして公開されていることもあるからです。
どうやら、E. ellenbeckiiは根元から叢生するタイプみたいですが、枝は再分岐せずに15cmくらいになるようです。トゲは螺旋状につき、最大1.5cmくらいでサイズは様々ということです。花は黄色がかったピンク。ソマリアやタンザニアの原産と聞いて高地産と思いましたが、標高150mに分布するといいますからそれほど育て方に難はないかもしれませんね。


さて、現在得られる情報はこの程度です。正直、情報不足は否めません。日本国内の情報はほぼゼロに近いのですが、海外の情報もどうにも今一つですね。ヒットするのは販売サイトばかりです。育て方もよくわかりませんが、取り敢えず分布が近いソマリア原産のEuphorbia phillipsioidesを参照にして育てるつもりです。E. phillipsioidesはソマリアものですが暑さにも強く、強光にも割と耐えます。もし、日焼けの徴候があれば遮光を強目にすれば良いだけです。間延びした姿にはしたくありませんから、なるべく日に当てて水も絞って詰まった株に育てたいものです。


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紅彩閣というユーフォルビアがありますが、本日はその紅彩閣についてのお話です。まあ、たいした話ではありませんが。
この紅彩閣はホームセンターでも売っている普及種で、昔から国内で流通しています。いわゆるサボテンもどきの扱いでした。多肉ユーフォルビアはだいたいそんな扱いでしたけどね。よく枝が出ますが、その枝を挿し木すれば簡単に増やせます。
さて、そんな紅彩閣は園芸店では「エノプラ」という名札が付いていることが多いようです。これは、学名のEuphorbia enoplaから来ています。しかし、このE. enoplaは園芸界では使われていますが、学術的にはほとんど使用されていないことをご存知でしたか?
例えば、地球規模生物多様性情報機構に登録された標本や画像といった学術情報において、E. enoplaの使用はわずか6.4%しかありません。では、どのような名前が使われているかと言うと、Euphorbia heptagonaです。このE. heptagonaは学術情報の実に91.4%を占めています。
他のソースも見てみましょう。まず、原産国である南アフリカの絶滅危惧種のリスト(Red List)では、E. enoplaではなくてE. heptagonaでした。さらに、アメリカ国立生物工学情報センターのデータベースを見ても、やはりE. heptagonaとなっています。もはや、エノプラの名前はただの俗称、良くて園芸名でしかありません。

では、なぜE. enoplaではなくてE. heptagonaとされているのでしょうか? その理由を解説しましょう。まず大事なこととして、生物の学名にはルールがあるということです。各々が勝手に名前をつけて勝手に使用していいものではありません。すべては国際命名規約の定めたルールに従っています。
E. heptagonaの場合は、
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」で簡単に説明がつきます。紅彩閣は過去に複数の学名がつけられてきました。年表をお示ししましょう。

1753年 E. heptagona L.
1858年 E. desmetiana Lem.
1860年 E. enopla Boiss.
1907年 E. morinii A.Berger
1915年 E. atrispina N.E.Br.


以上のように、E. enoplaの前に2回命名されています。一番早いのはE. heptagonaですね。E. enoplaより100年以上前に命名されたEuphorbia heptagona L.こそが正しい学名なのです。ここいら辺の情報は、2012年に出されたP.V. Bruynsの論文、『Nomenclature and typification of southern African species of Euphorbia』をご参照下さいませ。

というわけで、紅彩閣の正式な名前はE. heptagonaでありE. enoplaは誤りです。また、最初に命名された学名があまり使用されずに忘れ去られていて、別の学名が使用されてきた場合もあります。その場合は名前を本来の正しい学名に戻すと混乱のもとになりますから、よく使われる学名を保存名(保留名、nom.cons.)として正式な学名とし、使われない本来の学名を廃棄名(nom.rej.)として使わない処置をしたりします。しかし、E. enoplaに関しては、あくまでも園芸上の使用でしかなく、学術的に使用されてきたという経緯はありません。ですから、今後学術的にEuphorbia enoplaが使用されることはないとお考え下さい。

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紅彩閣 Euphorbia heptagona L.



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