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カテゴリ: ソテツ

1月に東京農業大学のバイオリウムという温室で、コーンが出ている立派なZamia integrifoliaを見ました。改めてZ. integrifoliaを調べて見ると、2016年に再分類が提案されており、どうやら最近その考えが採用されたようです。記事にしましたので、以下のリンクをご参照下さい。


さて、Z. integrifoliaの情報をいろいろ漁っていたところ、蘇鉄を食害するシジミチョウに関する論文を見つけました。それは、Melissa R. L. Whitakerらの2020年の論文、『Localized overabundance of an otherwise rate butterfly threatens endangered cycads』です。日本でも蘇鉄を食害するクロマダラソテツシジミ (Chilades pandava、Luthrodes pandava)が北上し関東まで進出してきましたが、論文の主役はアタラマルバネシジミ (Eumaeus atala)です。

シジミチョウの消失と再生
Eumaeus atalaというシジミチョウは、南フロリダやバハマ諸島、キューバ原産で、幼虫はZamia属の蘇鉄を食べます。かつては、フロリダで「もっとも目立つ昆虫」と呼ばれるほど一般的でしたが、唯一の食樹であるZamia integrifoliaの過剰採取が原因で、1900年代初頭に急激に減少し1930年代には絶滅したと考えられてきました。しかし、1959年にマイアミ南部で小規模な個体群が発見されました。それ以来、草の根的な保護活動により、2001年以降はフロリダ州全体で300を超える個体群が記録されています。

E. atalaの激増の謎
フロリダ州にある研究施設であり保護庭園であるMontgomery Botanical Centerには、E. atalaの大規模で永続的な個体群が生息しています。ピークシーズンには49ヘクタールの敷地内に1日で300匹を超えるE. atalaの幼虫が見つかりました。E. atalaの希少性とフロリダ州全体での再導入の進展からすると、ここまで繁殖している理由を調査する必要があります。

モンゴメリー・ボタニカルセンター
Montgomery Botanical Centerでは1932年から蘇鉄が栽培されており、新たな種が追加され続けそのコレクションは豊富で、2020年には235種の蘇鉄を栽培しています。そのうち、55種のZamiaは2838本ありました。
センターのスタッフによると、E. atalaは常に敷地内に少数存在し、季節的な増減のサイクルがあります。しかし、過去約10年間でE. atalaは繰り返し大発生し、繁殖期はより長くより頻繁になっています。E. atalaの卵と幼虫は20種以上の蘇鉄から見つかりました。

E. atalaの幼虫は群れで蘇鉄の葉を食べ、生長の遅い蘇鉄に深刻なダメージを与え、大型の蘇鉄の葉を完全に枯らしてしまうこともあります。センターのスタッフは、Z. integrifoliaを毎日検査し、手作業で卵や幼虫、蛹を取り除いています。その他のZamiaからも定期的に取り除かれます。回収したE. atalaはフロリダの他の場所の教育機関や保護活動、研究者に送られます。2019年にはセンターで2000匹を超えるE. atalaが回収され、1週間で約4〜8時間もの採取作業が必要でした。

爆発的な増殖の謎
Montgomery Botanical CenterにおけるE. atalaの豊富さは、まず敷地内にある宿主植物の豊富さに起因します。2020年、センター内には431本のZ. integrifoliaがあります。不思議なのは、センターの周辺ではE. atalaを沢山見ることがないことです。センターの周辺の住宅や公共の庭園にはZ. integrifoliaはよく見られ、近くの道路の中央分離帯や公園などに大規模に植栽されているからです。Coral Gables公共事業局によると、センターから半径11km圏内の公共スペースには、少なくとも220本のZ. integrifoliaが植栽されています。センターから1km以内にあるFairchild Toropical Gardenには、201本のZ. integrifoliaが植栽されています。E. atalaはこれらの地域でも少数ながら見られますが、センターのように爆発的な増加は聞いたことがありません。よって、宿主植物の豊富さが唯一の要因ではないのかも知れません。

なぜ増えたのか?
E. atalaの幼虫はZ. integrifolia以外の外来蘇鉄も食べるめ、宿主植物の多様性が影響している可能性があります。センターには2020年には55種のZamiaが栽培されており、フロリダ州のどの地域よりも多様性があります。種類の違いにより植物資源が一年中利用可能となるならば、継続的に繁殖出来るかも知れません。E. atalaの一齢幼虫は若くて柔らかい葉を必要とするため、若い葉に優先的に産卵します。ほとんどのZamiaが1年に1回しか葉を出さないことが、歴史的にE. atalaの繁殖周期の制約となってきた可能性がありますが、食草の多様性が高まれば新鮮な若い葉が周年利用可能になるかも知れません。
他の要因としては、成虫の蜜源やねぐら、気候変動、宿主植物の質の不均一性などが挙げられます。しかし、センター付近の家庭菜園や公共スペースには蜜源植物が豊富にあり、蜜源植物の制限が個体数の制約である可能性は低いと言えます。次に低温が与える影響はありますが、フロリダでは最低気温が上昇しています。しかし、センターだけではなく、それはフロリダ全体でも同じはずです。次に灌漑や施肥などは、植物の組織内の水分や栄養素、毒素の比率を変えてしまい、植物の栄養価に劇的な変化をもたらしている可能性があります。おそらく、センターのZamiaは栄養価が高く、化学的な防御力が低いと考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
植物の保護施設で希少なシジミチョウが大発生するという、不可思議な現象についての話でした。その原因は、単純に食草が豊富であるというだけでは片付けられないようです。しかし、希少なシジミチョウが希少な蘇鉄を食害しているわけで、単純な駆除が出来ないのは困りものです。とは言え、蘇鉄も希少なため、センターの役割からして、放置も出来ません。
さて、本題のシジミチョウの爆発的な増加は、センターに特有の現象です。その理由を考察していますが、はっきりしません。まず、食草の多様性による周年性が指摘されていますが、これはある意味ありうる話かも知れません。とは言え、蘇鉄の新葉の展開は種に限らず春先になるでしょうから、種の多様性はあまり関係がないような気がします。論文では新しい葉は1年に1回とありますが、生育環境が良ければ夏〜秋にかけて追加で新葉が出ることもあります。ですから、最後に指摘されている「灌漑や施肥」はいかにも影響がありそうですね。


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フロリダの代表的な蘇鉄と言えば、Zamia floridaです。しかし、フロリダナは実はZamia integrifoliaで、フロリダナは異名であるという話をたびたびしてきました。


さて、最近フロリダナ改めインテグリフォリアの学名を確認したところ、なんとインテグリフォリアが5変種に再分類されていることに気が付きました。ということで、本日ご紹介するのはDaniel B. Wardの2016年の論文、『Key to the flora of Florida - 32, Zamia (Zamiaceae)』です。フロリダに分布するザミアを分類しています。

フロリダのザミア
現在、フロリダには2種類のザミアが分布しています。1つはZamia furfuraceaで、南フロリダでは玄関先や庭に植栽され、「Cardboard Palm」(段ボールヤシ)と呼ばれている外来種です。栽培個体ではないZ. furfuraceaは2000年頃に初めて確認されました。もう1つは様々な時期に複数の学名がつけられており、Zamia pumila、Zamia integrifolia、Zamia floridanaの名前があります。

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Zamia furfuracea

ザミアの歴史
ザミアは17世紀から認識され、17世紀末からオランダで、おそらくはヨーロッパの他の地域でも、栽培されてきました。現在の国際植物命名規約 (I.C.B.N)に基づく学名は、1762年にCarl von Linneにより命名されたZamia pumilaでした。しかし、von Linneのもとに標本はなく、ライデンとアムステルダムで栽培された植物に関する記憶とメモ、他の著者の記述しかありませんでした。von Linneは種自体については、「pumila」あるいは「矮性(dwarf.)」という説明しかしませんでしたが、von Linneがオランダにいた時に知っていた大きな蘇鉄と比較したことは間違いありません。その大きな蘇鉄をvon LinneはZamia frondibus pennatis(1937)と命名し、Linne filius(Linneの息子)はZamia furfuraceaと命名しました。
Z. pumilaという名前は、個人の解釈により様々に使われてきました。1908年にEckenwalderがZ. pumilaを「伝統的に知られている一般的な西インド諸島の蘇鉄」と定義しました。このことにより、西インド諸島の蘇鉄は単一の種ということになってしまいました。タイプはJan Commelijn(1697)の図版により、細長い卵形の先細りの小葉を持つ植物で、先端は鋭く葉縁には間隔の広い鋸歯があるとしています。
しかし、Commelijnの図版に対応する標本は稀で、北米の植物標本館(オンラインによる)では見つかりませんでした。イギリスのキューガーデンにはZ. pumilaと特定される古い標本がありますが、ライデン植物園からきたようです。この標本はCommelijnの図版と特徴がよく一致します。
Commelijnは「Insulae Hispaniolae」(ドミニカ共和国、ハイチ)からきたと述べています。しかし、現在西インド諸島からはそのような特徴の蘇鉄は知られていません。しかし、Eckenwalderによりタイプに指定されたCommelijnの図版は、既知の植物の形態学的な実在により確認されており、フロリダで知られているあらゆる植物とも異なるため、Zamia pumilaという名前は適用不可能です。

インテグリフォリアとフロリダナ
Z. pumilaのタイプがフロリダが起源ではないことは明らかですが、Zamia integrifoliaとZamia floridanaはフロリダの標本に基づいて分類されています。1789年に命名されたZ. integrifoliaはフロリダ半島で栽培された植物に基づき、1868年に命名されたZ. floridanaはフロリダ半島の西海岸で収集された標本に基づいています。この2つのタイプ標本は非常に似ているため、両者の間に違いを見いだせず、単一の種を示しているとされました。
フロリダの蘇鉄に使われる名前には論争があり、先取権の原理により命名がより早いZ. integrifoliaが優先されるように見えます。しかし、Z. integrifoliaはLinne filiusが既存の利用可能な名前であるZ. pumilaを同義語として引用したため、現代の規定においては誤りであると考えられました。命名規約は同義語として引用された古い名前が、新しい分類群に使用されるべきであった場合、新しい名前は不要であり不当と規定しています。さらに、発表時に違法であった名前は、特別な措置がない限りは後に合法とはならないと規定しています。
ただし、命名規約は常設の委員会に訴えることで、規則を無効とすることを許可しています。分類学者であるD. W. Stevenson & J. L. Reveal(2011)は、種子植物特別委員会に請願しZ. integrifoliaという名前を保存するように求めました。その正当性は、Z. integrifoliaはZ. floridanaより頻繁に使用されており、その名前を保存することにより安定性が確保出来るというものでした。委員会は請願を支持し、Z. integrifoliaが正しい名前となりました。


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Zamia integrifolia

インテグリフォリアの多様性
フロリダで観察されるZ. integrifolia sensu lato(広義のインテグリフォリア)には、分類学上の注目を集めるほどの多様性があります。J. K. Small(1933)は、フロリダの蘇鉄をZ. integrifolia sensu stricto(狭義のインテグリフォリア)、Z. angustifolia、Z. silvicola、Z. umbrosaの4種に分けました。
Z. angustifolia(1789)は正当な名前で、バハマ諸島や西インド諸島の蘇鉄に正しく適応されています。しかし、SmallはZ. integrifoliaをフロリダの蘇鉄に使用してしまいました。Z. angustifoliaのコーンは短く尖った頂端を持つ暗褐色から黒色のコーンを持ち、対するZ. integrifoliaは頂端か切形か鈍く赤褐色のコーンを持ちます。Smallはコーンを観察しないで識別したようです。Z. angustifoliaと識別出来る蘇鉄は、フロリダでは知られていません。

著者は観察結果から、形態学的変異は集団内では一貫していることを確信しました。中間種も見られますが、集団全体の大部分は、数個の明確に異なる形態型に割り当てることが出来ます。これらのグループは変種として認識されます。

①変種インテグリフォリア
Zamia integrifolia var. integrifolia
Z. integrifoliaの典型は、1789年にLinne filiusが使用したタイプに基づいているいます。使用した資料(生きた植物)は、26枚の小葉と雄花を持つ1枚の葉で表されています。小葉の幅は狭く約8mmで、一様にわずかにヘラ状です。この形状は広く普及しているフロリダのザミアでは稀です。
キューガーデンの植物の正確な起源は記録されていませんが、推測することは出来ます。入植者のAndrew Turnbullにより、1767年にザミアがCharlestonのアレクサンダー・ガーデンに、後にキューガーデンのAitonに寄贈されました。Turnbullに馴染み深いSt. Augustine近郊は長年に渡る撹乱により植生は痕跡もありません。しかし、New Smyrnaのすぐ西にあるTurnbullが農奴を使って藍を育てていた畑の近くには、薄い砂地の森がありザミアが現在も繁茂しています。この植物はZ. integrifolia var. integrifoliaのtopotype(同地基準標本)として役に立つかも知れません。

②変種ウンブロサ
Zamia integrifolia var. umbrosa
       (J. K. Small) D. B. Ward, comb. nov.

Zamia umbrosa(1921)はフロリダの蘇鉄に命名された正当な名前です。この名前は一般的に無視されるか、Z. integrifoliaの異名とされてきました。
植物のコレクターが、フロリダに2つのザミアが存在することに気がついたのは20世紀初頭でした。H. J. Webber(1901)によると、1つは「フロリダ半島南部」と記載されたZ. floridanaで、もう1つは「フロリダ半島中部、特に東海岸」のZ. pumilaでした。これらは小葉の幅で区別され、3〜7mmと8〜16mmでした。明らかにWebberの分類は、現在のZ. integrifoliaとZ. umbrosaを表しています。
S. J. Newell(1989)による葉の測定による研究では、フロリダのザミアは5つの集団があるとしています。Z. umbrosaの判別は、小葉の先端と突起にあります。突起は「teeth」(歯)または「callous bumps」(角質隆起)と呼ばれています。しかし、この「teeth」は、被子植物で見られる構造とは異なり、葉脈が突出した先端部です。葉脈が葉軸がから出て葉身に入ると、葉脈同士は接続しなくなり葉縁まで平行に続きます。

③変種ブロオメイ
Zamia integrifolia var. broomei
               D . B.  Ward, var. nov.

野生で時々見られるZ. integrifoliaは、より普及している典型的なタイプの半分程度の幅が狭い小葉が特徴です。このタイプは、フロリダ半島北西部のDixie、Gilchrist、Levy、Alachuaの各郡のSuwannee川下流域でよく見られます。幅の狭い小葉をまばらに生やすこのタイプは、栽培されることは稀です。

④変種フロリダナ
Zamia integrifolia var. floridana
    (A. DC.) D. B. Ward, comb. et stat. nov.
フロリダ半島西部ではvar. integrifoliaとは異なる特徴を持つ、おそらく生息地が異なるタイプが見つかりました。より大きな球果を持ち、長さ18cm、直径8cmに達します。このような球果を持つ個体群は、ネイティブ・アメリカンの作った貝塚でのみ発見されています。典型的なZ. integrifoliaが砂地に生えるのとは対照的です。
このタイプを収集したGilbert Hulseは1830年代初頭に、フロリダ半島西海岸のTampa湾の先端にあるFort Brookeに駐在していました。Fort Brookeは牡蠣などの殻からなる広大な貝塚がありました。HulseはJohn Torreyに送った植物について、「カキ殻のベットの上」で発見されたと述べています。
しかし、フロリダ湾岸沿いに巨大な貝塚を築いたCalusa族が、西インド諸島からフロリダでは見られない品種を持ち込んだ可能性を否定するのは困難です。Calusa族はフロリダと西インド諸島の間で交易を行っていました。

この大きな球果を持つタイプに新しい名前をつけるよりも、同じであるかは不明ですが、由来のわかる名前を残し変種floridanaとする方が望ましいと思われます。

⑤変種シルビコラ
Zamia integrifolia var. silvicola
  (J. K. Small) D. B. Ward, comb. et stat. nov.

Zamia silvicola (1926)は正当な名前ですが、フロリダの蘇鉄に適用されるかは不明です。Smallは正確な出典を明らかとせずにこの種を記述し、Eckenwalderはシトラス郡の「Spanish Mound」(現在のCrystal River考古学州立公園)のコレクションをホロタイプとして特定しました。しかし、Smallは「フロリダでもっとも丈夫なザミア」と述べ、それは長さ12〜17cmと比較的長く、10〜15mmと幅が広い小葉を持ちます。このSmallの説明に一致する植物は野生でも栽培下でも知られています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文はフロリダ半島のザミアの判別を目的としています。フロリダにはインテグリフォリア=フロリダナとフルフラケアという2種類のザミアが見られます。フルフラケアはメキシコ原産で栽培品の逸出ですから、本来の野生のザミアはインテグリフォリア=フロリダナだけということになります。しかし、著者は観察から、フロリダのザミアがいくつかの変種に分けられると主張しています。しかし、外見的特徴や分布からの推察であり、将来的な分子系統解析による確認が望ましいような気がします。また、変種フロリダナが記載されましたが、必ずしも今までZ. floridanaと呼ばれてきたザミアを示しているとは限らないようです。


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先日、オザキフラワーパークにてCycas debaoensisを購入しました。以前から、BBでラフレシアリサーチさんがたまに持ってきていたのは知っていたのですが、他に欲しい多肉植物が沢山あったので購入は見送ってきました。しかし、10月にヨネヤマプランテイションのイベントでC. debaoensisが沢山並んでいるのを見て、どうにも気になるものの、悩んだ挙げ句、結局は購入しませんでした。しかししかし、ついにオザキフラワーパークで我慢出来ませんでした。というわけで、早速情報を集めてみましたが、あまり有用そうな情報は見当たりませんでした。そこで、C. debaoensisの論文を漁って見ることにしました。
ということで、本日はLUO Wenhuaらの2014年の論文、『Ex situ conservation of Cycas debaoensis: a rare and endangered plant』をご紹介します。何とこの論文は中国語で書かれたものです。というか、C. debaoensisが中国原産のためか、中国語の論文がほとんどでした。漢字だと『珍稀瀕危植物徳保蘇鉄迁地保护研究』ですかね? 本文は簡体字ですがよくわからないので、これで合ってるかは不明です。ちなみに、中国語はわからないので、機械翻訳ですから内容に関してはやや不安ではあります。

中国のソテツ
中国にはCycas属のソテツが38種類あります。いずれも、国家第一級重点保護野生植物に指定されています。C. debaoensisは広西チワン族自治区南部に自生する中国の固有種で、二分性で羽状に分かれた美しい葉を持ち高い装飾性があります。深刻な人為的介入や密猟により、その野生個体の数は大幅に減少しており、保護のための効果的な対策が喫緊となっています。

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Cycas debaoensis

C. debaoensisの故郷
C. debaoensisの原産地は、広西チワン族自治区徳宝県から約30km離れた福平郷福平村近くの石灰岩の斜面です。分布地域は南亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温19.5℃、最低気温マイナス2.6℃、最高気温37.0℃です。年間降水量は1461mmで、夏と秋に集中し、冬と春は乾季となります。土壌は石灰岩が風化して出来た土壌で、中性から弱アルカリ性を示します。森林は近隣の村人が放牧や薪の伐採に利用しており、植生は二次的な矮性低木が優勢で、C. debaoensisは植生の中では優勢な種の1つです。植生は乾生性の低木と草本で、樹種の多様性は小さいようです。
生息域外保護区として、桂林市の南の郊外、燕山鎮にある桂林植物園内にもあります。中部亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は19.2℃、最も寒い1月の平均気温は8.4℃、最も暑い7月の平均気温は28.4℃でした。また、最高気温は40℃になり、冬には霜が降りることもあります。土壌はpH4.7〜5.6の酸性の赤土からなります。

最適な種子の保管方法
2010年に広西チワン族自治区徳宝県福平郷上平屯の野生ソテツ個体群から、200個を超える選別した種子を収集しました。収集した種子は外皮を剥ぎ、5% 過マンガン酸カリウム溶液で消毒し、水洗いしました。
C. debaoensisの種子は成熟しても胚は完全に発達しておらず後熟し、約6ヶ月休眠します。種子は①乾燥(常温)、②冷蔵(5℃)、③湿った砂の3条件で6ヶ月以上保管し、70%遮光下で温室内の苗床に播種しました。
①種子を常温保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約50%に低下しました。
②種子を冷蔵保管した場合、保管期間が90日以内ならば発芽率に差は見られず、120日を超えると発芽率は約60%に低下しました。
③種子を湿った砂に保管した場合、保管期間が150日以内ならば発芽率に差は見られず、発芽率は約80%でした。

C. debaoensisの生長
C. debaoensisの生長は遅く、現地調査では何十年も育った植物でも、茎は高さ50cmに満たないことが分かっています。栽培された8年生植物の高さの平均は15.2cm、直径の平均は17.2cmで、高さの年平均生長は1.9cmです。草丈と直径の生長のピークは樹齢4年目から6年目で、年平均生長は高さ3.0cm、幅3.8cmでした。その後の生長は鈍化します。
樹齢8年生のC. debaoensisは、一株あたりの葉の数は平均8枚で、葉の長さは平均302.6cmでした。小葉の長さは平均26.3cmで、枚数の平均は740枚でした。
桂林植物園のC. debaoensisでは、新芽が5〜6月、まれに7月に出ます。新芽の展開には約40日かかります。9月に花が咲き始め、11月中旬から下旬に果実は成熟します。また、原産地と比べると、開花期は1〜2ヶ月遅れ、種子の成熟期は1ヶ月遅れます。これは、場所による積算温度の違いが関係している可能性があります。

C. debaoensisの適応性
C. debaoensisは湿潤な環境に適していますが、乾燥耐性が高く乾燥した石灰岩の環境でもよく育ちます。土壌適応力が高く酸性土壌の桂林植物園でも正常に育ちます。桂林植物園においても開花・結実し、生育や葉色も原産地より優れています。C. debaoensisは耐寒性もあり、マイナス3℃〜マイナス1℃の低温下でも目立った凍害は発生しませんでした。

C. debaoensisの受粉
C. debaoensisの雄花の成熟期は雌花より5〜10日早いため、人工受粉を利用した方が結実量を増やすことが出来ます。雄花が成熟したら花粉を袋に集め、4℃前後の冷蔵庫で保管します。雌花が成熟したら、花粉を取り出し室温に10分以上放置した後に、ブラシで人工受粉します。人工受粉では1株の植物から生産される種子は、250個を超えることもあり、野生の植物より40%以上も多くなります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
近年、にわかに流通し始めたCycas debaoensisという蘇鉄の原産地の情報や育て方、増やし方などについての論文でした。原産地では希少な植物のようで、中国では国家により保護されているようです。希少種であるからには、原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが、ここでは一歩進んで人工受粉や種子の保管についても言及しています。原産地の保護と繁殖方法の確立、さらには地域の人々に対し保護について説明し理解してもらい、場合によっては協力していただければ最良です。まあ、ここまで行くにはかなりの時間と手間がかかりますから、簡単にはいかないでしょう。しかし、この論文のような研究は種の保護に対する端緒としてとても重要なものです。
「原産地や生態を詳しく調査するのは当たり前のことですが」などと調子の良いことを言いましたが、残念ながら植物は動物と比較すると人気がなく、予算すらまともに下りず、絶滅危惧種であっても調査すらされていない場合が多いのが現状です。この植物を軽視する傾向は、植物の自生地の破壊や絶滅に拍車をかけていますが、改善される見込みはありません。莫大な予算が下りている大型哺乳類であっても、生息する環境に植物がなければ存続出来ないことは明らかです。種単体ではなく、生態や環境を含んだ総合的な保護が必要とされているのではないでしょうか。


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蘇鉄(Cycas revoluta)は我々日本人にとっては馴染みが深い植物です。蘇鉄を蘇鉄と認識していない方もおられるかも知れませんが、実は宅地を歩けば何気なく蘇鉄が植えられていたりします。蘇鉄の仲間、いわゆるCycadは世界中に分布しますが、そのほとんどは非常に数が減少し絶滅危惧種となってしまっています。ですから、日本の蘇鉄が日常に溶け込む風景は世界的には珍しい光景と言えるでしょう。しかし、この日本各地に植えられた蘇鉄は移植されたもので、その起源は辿って行けば九州以南の暖地と言うことになります。蘇鉄の葉などをフラワーアレンジメントなどの素材として一般的に流通していますが、本来の自生地での利用はいかなるものなのでしょうか。私などは沖縄で蘇鉄の種子を救荒作物として利用したと言うことぐらいしか知りません。また、一般的に蘇鉄の種子は有毒ですから、アク抜きしないといけないことも分かります。しかし、その方法はどのようなものなのでしょうか。日本では縄文時代からドングリやテンナンショウの芋をアク抜きして食べていたようですが、何か関連はあるのでしょうか。
さて、以上のような疑問に衝き動かされて調べてみたところ、Takako Ankei(安渓貴子)の2023年に論文、『Traditional Methods of Cycad Detoxification in Amami and Okinawa: Historical origins of their biocultural diversity among the island』を見つけました。非常に興味深い内容ですから、少し内容を見てみましょう。

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Cycas revoluta

蘇鉄を食べた症例
1970年代に大学生だったSさんは、初めて西表島を訪れキャンプをしました。蘇鉄の赤い実が沢山なっていたのを見て、島の子供たちに「これ食べていい?」と尋ねたところ、子供たちは「はい!」と答えたそうです。Sさんは、蘇鉄の実を割って白い胚乳を炊飯器で炊いて、夕飯に食べました。炊いた蘇鉄の実は栗のような味がしたといいます。他の食べ物が乏しかったため、Sさんは蘇鉄の実を沢山食べました。真夜中、Sさんは激しい嘔吐に見舞われましたが、幸運にも自力で島の診療所までたどり着くことが出来ました。症状は入院が必要なほど重篤ではありませんでしたが、場合によっては致命的だったかも知れません。島の子供たちに悪意はなく、蘇鉄の実は解毒しないと食べられないと言うことを知らなかったのでしょう。
Sさんはこの事件にめげずに中学校の教師として西表島に永住しました。Sさんの貴重な経験が多くのことを教えてくれます。例えば、蘇鉄の実は煮沸してもその毒性は持続すること、蘇鉄の実の味はそれが有毒であることを教えてくれないこと、症状は摂取から数時間以内に発生することなどです。Sさんは嘔吐により、蘇鉄の実を吐き戻したことから命を救われました。
第2次世界大戦の最中、沖縄諸島では蘇鉄の毒性や解毒方法を知らない日本本土から来た兵士が、蘇鉄中毒で多くの死者を出したと言います。渡嘉敷島や竹富島でそのような事例を聞いたことがあります。

蘇鉄の有毒成分
蘇鉄の有毒成分は、cycasinと言う配糖体です。腸内の微生物の酵素によりcycasinから糖が取り除かれ、methylazoxymethanolと言う生成物が出来ます。methylazoxymethanolは容易に分解し、diazomethaneとホルムアルデヒドとなります。diazomethaneは不安定で、水と二酸化炭素、窒素を分解します。ホルムアルデヒドは摂取すると急性毒性を起こします。また、methylazoxymethanolとdiazomethaneには発ガン性があります。

遺伝的要素
前田芳之は奄美で長年に渡り蘇鉄の研究と販売に携わっていたプロの庭師です。彼が蘇鉄を束ねて出荷する際に、奄美の蘇鉄の葉は曲がりにくく、宮古や八重山など南方の蘇鉄は折れてしまいました。この記述を元に、Kyoda & Setoguchi(2010)は奄美と沖縄の蘇鉄の遺伝子解析を行いました。その結果、遺伝的に2つに分けられることが分かりました。また、台湾の蘇鉄(Cycas taitungensis)と比較するとC. revolutaは遺伝的多様性が低いことが明らかとなりました。これは、第四紀の間氷期に水位の上昇により水没がおきたため、遺伝的多様性が失われたボトルネック効果によるものであると推測されます。

解毒方法
蘇鉄のデンプンの大部分は幹や種子に蓄えられますが、蘇鉄は有毒なので解毒の必要があります。有毒成分のcycasinやホルムアルデヒドは水溶性で、diazomethaneは不安定で加熱すると揮発します。したがって、解毒の手順は、(a)水へのcycasinの滲出、(b)微生物による分解、(c)水への浸出および加熱によるcycasin、ホルムアルデヒド、diazomethaneの分解と除去となります。奄美と沖縄では3種類の蘇鉄の解毒方法があることが分かりました。

①タイプA: 浸出→加熱
②タイプB: 発酵→浸出→加熱
③タイプC: 浸出→発酵→加熱


解毒法: タイプA
この方法は種子の解毒方法です。果実には繊維がほとんどないため、幹よりも粉砕しやすいからです。
解毒の手順は、種子の硬い殻を半分に割り、1〜2日間天日干しします。デンプンは乾燥して縮み殻から取り外しやすくなります。細かく砕き水に浸して有毒成分を滲出させます。水が透明になるまで、水を数回取り替えます。沈殿したデンプンを集め、布袋に入れ水を切ります。天日干ししてから保管します。
また、種子を砕かずに乾燥させてから保存することも出来ます。保管中にカビが生えることが良くありますが、地域によっては気にしません。

解毒法: タイプB
この方法は幹の解毒方法です。幹は硬い繊維と粘着性物質(viscous material)で覆われます。
蘇鉄の幹を切って半日干しとし、真菌の生長を促します。水分が多すぎると細菌が繁殖してしまい解毒出来ません。麻袋や籠に藁やバナナの葉を入れ、蘇鉄を置き葉で蓋をします。温かい条件では3〜4日以内に発酵して発熱します。カビの繁殖と心地よい香りが成功した証です。中身を半日乾燥させ、一度蓋を開けてからまた閉めます。黒カビが生え発熱は止まります。手で割ることが出来るくらい柔らかいなるまで発酵を続けます。この状態で乾燥させて長期間保存することも出来ます。きれいな水で荒い、黒カビを取り除きます。杵を使い潰し、鍋やバケツに移します。網で繊維を漉し、上澄みが透明になるまで水を3回交換します。布袋に入れて水を切り、団子にして天日干しします。タイプBは一部の地域では蘇鉄の果実にも行われています。

解毒法: タイプC
琉球王国の傑出した政治家であった蔡温の農業マニュアルに記された方法で、詳細かつ複雑なプロセスを要します。
蘇鉄の幹の外側をこすり落とし、内側の白く薄い層を削り取り集めます。7〜8日乾燥させ水に浸します。毎日水は交換し、4日ほど経ったら取り出してよく洗い、バナナの葉を敷いて俵に入れ、ススキなどで覆います。3日ほど発酵させると表面に黄色がかった油のようなものが現れます。取り出して半日ほど陽光に当てるか、曇りの場合は風にさらします。再度、俵に戻し、この過程を繰り返しと、やがて完全に腐敗した状態となります。柔らかく簡単に壊せるようになったら、柔らかい部分を集めて煮て食べるか、乾燥させて保存するか、あるいはデンプンを回収します。


救荒作物としての蘇鉄
タイプCは沖縄本島とその近辺、さらに交易路沿いに見られました。蔡温はサツマイモなどが不作の場合、飢饉に対して蘇鉄のデンプンに頼るべく、庶民に対し蘇鉄を植えるように命じました。しかし、蘇鉄中毒の可能性が高まるため、タイプCの解毒法を公的に広めました。しかし、タイプCが採用されなかった地域もあります。理由としては、単純に味の好みに関するものや、良質な鉄刃の入手が難しかった与那国などでは、硬い幹を丁寧に削るタイプCは非常に手間がかかっため、タイプB が採用されたと考えられます。

奄美の場合
奄美は薩摩藩の支配する傀儡政権であり、サトウキビ栽培が強制されました。水田のほとんどがサトウキビ畑に変わり、年貢のあまりの厳しさから住民の約半数は土地を持たないヤンチュ(債務奴隷)に転落しました。平地はサトウキビ畑となったため、斜面にサツマイモが植えられました。ヤンチュの日々の糧は、不毛の土地に生える蘇鉄に限られていました。
しかし、沖縄では非常食としてしか食べられませんが、奄美では薩摩藩からの独立後も蘇鉄が日常的に食べられてきました。そのため、沖縄では解毒方法を知らない人々の間で急性中毒が度々起こりました。

最後に
ミクロネシアではCycas micronesicaが唯一の蘇鉄ですが、グアムの先住民族であるチャモロ族は食料源として蘇鉄を利用してきた長い歴史があります。しかし、長いスペイン支配が終わると、知事は有毒である蘇鉄を食べないように指示しました。その後、住民は蘇鉄を食べなくなり、開発や害虫の侵入によりグアムの蘇鉄は絶滅しました。対して、沖縄や奄美では蘇鉄林が残り、今でも蘇鉄は蘇鉄味噌などに加工され販売されています。この2つを比較すると、消費すると減少し、消費がなければ増加すると言うものではないことが分かります。これは、蘇鉄に対する関心の有無によるものなのでしょう。関心が薄れてしまえば、減少しても失われても興味を引くことがないからです。そのすべてを根こそぎ産業利用のために消費し尽くすのではない限り、蘇鉄に対しある程度の付き合いがあり関心を示すことが、沖縄や奄美の蘇鉄を守ってきたのかも知れませんね。

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去年の3月にソテツにつくカイガラムシが沖縄に侵入したと言う記事を挙げました。すっかり忘れていたのですが、最近になり奄美大島でカイガラムシが猛威をふるっていると言うニュースを目にしました。すでに、かなり危機的な状況のようです。


調べて見ると、世界中でこのカイガラムシが蔓延し、世界中のソテツにダメージを与えていることが分かりました。さて、ではこのカイガラムシに対して、科学者たちはどのようなアプローチをしているのでしょうか? 今回はそのソテツにつくカイガラムシ=Aulacaspis yasumatsuiに対する研究をご紹介します。それは、Ronald D. Caveらの2009年の論文、『Temperature-Dependent Development of the Cycad Aulacaspis Scale, Aulacaspis yasumatsui(Hemiptera: Diaspididae)』です。簡単に見ていきましょう。

害虫あらわる
Aulacaspis yasumatsuiは東南アジア原産のカイガラムシで、フロリダ、テキサス、ハワイ、西インド諸島、コスタリカ、ニュージーランド、コートジボワール、グアムでは侵入害虫です。グアムでは在来ソテツであるCycas micronesicaを枯死させました。
米国では1998年に南フロリダではじめて検出され、すぐに州全体に広がりました。このカイガラムシは数種類のソテツに寄生しますが、人気のある景観植物であるking sago(Cycas revoluta)は特に感受性が高いようでした。1998年以来、南フロリダの多くのking sagoが、A. yasumatsuiにより破壊されてきました。

実験
A. yasumatsuiの卵と幼虫を、18℃、20℃、25℃、30℃、32℃、35℃で育てました。
卵は18℃では孵化しませんでした。また、30℃までは孵化時間が短くなりましたが、30℃以上ではそれ以上短くなりませんでした。30℃の孵化率は84.0%と高く、35℃では62.2%と孵化率は低下しました。
幼虫は18℃でもっとも生育が遅く、35℃でもっとも早くなりました。しかし、18℃と35℃で育てたメスは産卵せずに死亡しました。また、11℃と38℃の環境では幼虫は育ちませんでした。

生存可能な気温
A. yasumatsuiは、20℃未満では1齢幼虫より大きく育つのは非常に困難です。フロリダ南部では11月から4月にかけての平均最低気温が20℃以下になるため、葉に付着したカイガラムシの死亡率するか、増えるとしても非常に遅くなる可能性があります。しかし、大胞子葉や根についたカイガラムシは低温から保護される可能性があります。

天敵
フロリダではA. yasumatsuiの天敵となる可能性のある昆虫は、寄生蜂であるCoccobius fulvus、テントウムシの1種であるRhyzobius lophanthae、キムネタマキスイと言うカイガラムシを捕食する甲虫であるCybocepalus nipponicusです。
Unaspis yanosisと言うカイガラムシに寄生するC. fulvusの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で52日、25℃で27日、30℃で26日です。R. lophanthaeの卵から次の卵までの発生時間は、Aspidiotus neriiを捕食した場合では20℃で44日、25℃で32日、30℃で24日、
Chrysomphalus aonidumを捕食した場合では20℃で48日、25℃で34日、30℃で27日かかります。対するA. yasumatsuiの卵から次の卵までの発生時間は、19℃で50日、25℃で31日、30℃で28日です。これらの天敵はカイガラムシより世代交代が早いか同等です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
気温と生育を害虫と天敵で比較しましたが、データ上では有効性が示されたようです。しかし、テントウムシでは食べた餌により生育に差があることからも分かる通り、それが適した餌であるかが重要です。不適な餌では天敵の生育や増殖が抑制されてしまうことは珍しいことではありません。これらの天敵候補が実際にA. yasumatsuiを捕食してどう増えるのかを見ないと本当のところは分からないでしょう。
さて、しかし低気温ではA. yasumatsuiの生育に影響があることが分かりました。問題となっている奄美大島は、冬でも最低気温は10℃以下になることはあまりないと言うことです。10℃は卵が孵化したり幼虫が育たない温度ですが、定着していることからすると成虫は耐寒性があるのか、あるいは鱗片などに隠れて防寒しているのかは分かりませんが、とにかく冬を越してしまっています。気温だけでは決定打にならないと言うことです。むしろ、A. yasumatsuiの原産地で有効な天敵を探した方が有意義かも知れません。一般的に天敵の導入で害虫を根絶することは困難ですが、害虫の増殖を抑え植物の生存率や繁殖率を上げる効果があります。
論文の中で出てくるking sagoとは日本の蘇鉄のことですが、特にA. yasumatsuiに弱いようです。A. yasumatsuiはソテツを枯らしてしまう危険な害虫です。奄美大島のソテツ原生林が崩壊する前に、有効な手立てを見つけ出す必要があるでしょう。しかし、このA. yasumatsuiは日本列島を北上するのでしょうか? 同じようにソテツの害虫であるソテツシジミと言う蝶は南方系ですが、あれよという間に日本列島を北上し、関東でもしばしば報告されています。私の居住地は冬はマイナス5℃を下回りますから、一見してA. yasumatsuiは冬を越せそうにありません。ただ、DioonやZamiaは室内に取り込みます。これらに付いて冬越ししてしまい、暖かくなって外に出したら日本のソテツで大量に増えてしまうと言うサイクルも想定されます。何れにせよ、これ以上の被害の拡大はないように、願わくは何らかの対策により奄美大島のソテツの被害が収束して欲しいものです。


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ソテツは海外では希少で、その保護が強く叫ばれています。しかし、日本においてソテツはあまりに身近な存在ですから、そう言われてもピンと来ないかも知れません。日本に生えるソテツであるCycas revolutaは耐寒性が強いため、多少の降雪がある地域でも庭に植栽が可能です。そのため、日本中に植栽されているわけですが、本来の自生地は九州以南の暖地です。野性植物はその自生地では、人々に上手く利用されて来ました。ソテツはどのように利用されてきたのでしょうか? 本日はソテツ利用の1つ例をご紹介します。それは、Truyoshi Hashimoto & Jin Ishiiの2021年の論文、『Microclimate in the Fields with Cycas Hedges in Amami Oshima, Japan』です。奄美大島の島民がソテツとどのように付き合ってきたのか、そしてその関係性が崩れ行く現実を捉えています。

日本の農村では住宅の周囲に防風林がよく見られ、それぞれの地域の気候に適応して作られていると言われています。一方で耕作地の保護のための防風林もよく見られます。奄美諸島ではソテツが防風林として利用され、ソテツの生け垣のある畑と言う意味で、「ソテツ畑」と呼ばれています。昭和20年代に撮影された航空写真を見ると、斜面の段々畑にソテツ畑が多く見られます。しかし、現在は機械化や農地拡大が困難であることなどから放棄され、平野部のものだけが残存しています。ソテツの生け垣は高さ約2〜3mで、畑にはサトウキビ(約40%)、玉ねぎ、サツマイモ、ニンニクなどが植えられます。
アメダス(地域気象観測システム)と気象台による観測データにより気温や水蒸気圧、日照量を、また風速や風向きを計測しました。すると、ソテツ畑は約20%の防風効果が確認されました。海からの季節風による強風と塩害を防ぐために、海岸のアダンによる海岸防風林とソテツ畑による防風林に効果が認められました。しかし、幹線道路の拡張工事により、幹線道路沿いに強風が吹くようになりました。その結果、幹線道路沿いのソテツ畑からは防風効果は失われてしまいました。

以上が論文の簡単な要約です。
実はこの論文の結論は意外なもので、夏のソテツ畑は気温が上昇し高温となるため、健康に対する危険を避けるために、ソテツ畑での作業は控えたほうが良いと言うものでした。防風効果により気温や湿度が高くなりやすく、日当たりの良いソテツ畑は夏には体感温度で38〜46℃にも達すると言うことです。しかし、長くソテツ畑と付き合ってきた地元の人々からしたら、そんなことは当たり前のことであり、必要だからやっているだけですよと笑われてしまいそうですけどね。


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ソテツは地球上で最も危機に瀕している植物グループと言われます。しかし、日本では国内産のソテツ(Cycas revoluta)が庭木や鉢植えとして一般的に利用されていますから、珍しいという感覚は持ちにくいかも知れませんが、海外では自生地の都市開発や違法採取によりソテツは急激に数を減らしています。本日は国際自然保護連合(IUCN)のソテツに対する評価と保護計画について書かれた2003年の『Status Survey and Conservation Action Plan, Cycad』より、ソテツの貿易と持続可能な利用についてまとめられた第7章、J. S. Donaldsonらの「Cycads in Trade and Sustainable Use of Cycad Population」をご紹介しましょう。

ソテツの利用
ソテツは各地で伝統的に利用されてきました。いくつかの文化では、おそらく先史時代からソテツは利用されています。また、有毒のソテツから食品を調製する技術を、異なる文化がそれぞれ独自に開発しました。
19世紀から20世紀にかけて、ソテツを取り巻く環境は激変しました。例えば、1845年頃からZamia integrifoliaからデンプンを抽出するために、フロリダに製粉所が設立され、週に8000〜12000本のZ. integrifoliaが採取されました。都市化による生息地の破壊と相まってZ. integrifoliaは激減し、ソテツの製粉産業は1925年までに完成に崩壊しました。同様にオーストラリアで1921年にMacrozamia communisを用いて操業を開始しましたが、こちらは技術的な理由で失敗しました。

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Zamia integrifolia
(=Zamia floridana)


伝統医学や呪術のためのソテツの利用は様々な地域で続いており、人口増加により採取が激化しています。1994年の報告によると、南アフリカの2つの市場では毎月3000以上のStangeria eriopusが取引されていると言います。本来、農村部の人々は近隣に生えるソテツを利用しており、それは持続的に利用可能なものでした。しかし、ソテツを都市部に供給するために、人々が遠距離から採取に訪れるようになりました。

園芸植物としてのソテツ
1983年から1999年までに大量のCycasとBoweniaの葉が取引されました。これはフラワーアレンジメントでの使用で、主要な輸出国は日本でした。しかし、これは栽培植物由来のもので、野生植物に対する悪影響の証拠はありません。
20世紀のソテツの貿易パターンの劇的な変化は、園芸植物としての需要によりもたらされました。Cycas revolutaなどCycas属のソテツは、日本、中国、ベトナム、インドなどの国で、装飾用植物として何世紀にも渡り使用されてきました。しかし、都市造園やコレクターに由来する大規模な採取は、20世紀後半に発生しました。野生のソテツの採取が個体数の減少の主要な原因の1つと考えられていますが、その取引や野生植物への影響は分析されていません。

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Cycas revoluta

造園用としてのソテツ
都市造園用として利用されるソテツは少なく、利用されるのは主にCycas revolutaとZamia furfuraceaです。C. revolutaは広く栽培されており、野生植物の採取はありません。Z. furfuraceaはメキシコで大量に採取され、月に40トンが米国に輸入されたという報告があります。しかし、現在はZ. furfuraceaはメキシコと米国で広く栽培されており、野生植物の採取は不必要かつ違法採取は逆に不経済となっています。また、Cycas taitungensisなどの種は、大規模な植栽により人気が高まっています。
ソテツは造園用植物として優れていますが、植栽用にはある程度の大きさある植物が求められます。栽培植物では需要に答えられないため、野生植物の市場が生まれています。中国では多数のCycas panzhihuaensisとCycas hongheensisが採取され、タイではCycas litoralisが採取されています。南アフリカではカジノ開発のために、植栽用に300本を超えるEncephalartos altensteiniiが採取されました。
また、都市部の庭師は必ずしも特定の種を探しているわけではないため、野生植物を採取したり、わざわざ野生由来の植物を探したりはしません。

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Zamia furfuracea

ソテツ愛好家
植物のコレクターは、苗床から植物を購入し、他のコレクターと植物を交換し、愛好会などに入り植物や情報を交換します。コレクターはアクセス可能な地域のソテツの種子を採取したり、野生由来植物の可能性のある希少種を購入することはあるかも知れません。しかし、一般的にコレクターが珍しいソテツを探すために、それほどの時間とお金を費やすことはほとんどありません。
ただ、コレクションに多大な投資をしているコレクターもおり、野生由来の植物の取引に手を出していることもあります。しかし、野生植物の市場は犯罪シンジケートが関与しており、結果として組織犯罪に加担していることになります。


ソテツと貿易
1983年から1999年の貿易データによると、この期間中に5000万を超えるソテツの種子と、1300万の生きたソテツが、ワシントン条約(CITES)締結国から輸出されました。日本は最も重要なソテツの輸出国で、ソテツの種子輸出の90%近くを、生きたソテツの65%を占めています。C. revolutaとZ. furfuracea以外のソテツの取引は少ないものの、これは報告がされていないことによります。また、野生植物の少なさから考えると、かなり多くのEncephalartosが取引されています。現在でも絶滅危惧種のソテツが違法取引が続いており、CITESだけでは違法取引を食い止めることが出来ません。そのため、CITESは保全ツールの1つに過ぎないと見なさなければならず、合法的な取引のためにソテツの需要を満たすための行動が必要です。

ソテツの人工繁殖
ソテツを人工繁殖による大規模な商業生産することが可能ならば、ソテツの需要を人工繁殖したソテツで埋めることが出来るかも知れません。現在、種子繁殖が最も実用的な方法です。しかし、人工繁殖の場合、ソテツは雌雄異株であるため花の時期が合わなかったり、特定の花粉媒介者がいることなどから、種子が勝手に出来ません。最近の研究では、花粉は0℃で最大2年間は50%の生存率が維持出来ることが判明しており、雌雄の花が揃わなくても受粉が可能かも知れません。

最後に
以上が第7章の簡単な要約です。
ソテツはその減少が進行してしまっており、対策が急務です。すでに悠長にCITESに頼る段階ではないようです。サボテンや多肉植物では、趣味家たちはCITESは必要としながらも、CITESに物足りなさを感じているようです。趣味家たちは、珍しいサボテンや多肉植物の人工繁殖を積極的に行い、市場の需要を満たすことにより、野生植物の違法取引を減らせると考えています。しかし、ソテツでは趣味家ではなくIUCNが人工繁殖の推進を提唱しています。よくよく考えて見れば、この人工繁殖の推進はソテツの研究者により考えられたもののような気がします。なぜなら、ソテツの育て方や増やし方に関する論文がいくつも出されているからです。これは植物の研究としては珍しい部類ですね。
さて、ソテツの輸出の大半が日本からということでした。日本でCycas revolutaが庭木とされるのは、近年の流行ではなく、かなり昔からの話です。古い民家では、玄関先に背丈よりも高いC. revolutaが植えてあったりしますが、野生植物由来ではなく何十年もかけて大きくなったものです。そもそも、植木屋にはかなりの大きさのC. revolutaが植えられていますからね。ソテツはある程度のサイズになると脇芽が吹いてきますから、脇芽を発根させた鉢植えが沢山流通しています。日本ではC. revolutaはどこにでもあり、誰でも簡単に入手出来ますが、世界のソテツの希少性からすると珍しいことかも知れません。


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近年、海外のソテツが販売されているのを、たまに目にします。よく見るのは、メキシコ周辺に分布するZamiaやDioonです。しかし、多肉植物の即売会ではEncephalartosも販売されていたりすることもあります。Encephalartosは希少かつ高額で、販売に制限があり、取引には国の許可が必要なソテツです。それほど一般的なソテツではないでしょう。国内で販売されるEncephalartosはE. horridusですが、Encephalartosは実は沢山の種類があります。本日はそんなEncephalartosの進化と分布について見てみましょう。参考とするのは、Ledile T. Mankgaらの2020年の論文、『On the origin and diversification history of the African genus Encephalartos』です。

Encephalartosは約65種類からなるアフリカの固有種です。しかし、Encephalartosのうち45種類はアフリカ南部に分布し、中央アフリカで5種類、西アフリカは1種類、北アフリカには分布しないなど、その分布には偏りがあります。この謎を解決するために、遺伝子解析と地理的な拡散の経路の分析を行いました。

以下の系統図は、遺伝子解析の結果から近縁な9グループの関係性を示します。ある程度、分布地域ごとにまとまりがあることが分かります。ちなみに、論文ではアフリカ西部とはベナン、ガーナ、ナイジェリアのギニア湾沿いの国で、アフリカ中央部とはコンゴ共和国、アフリカ東部とはタンザニア、ケニア、ウガンダ、スーダン、アフリカ南部とはザンビア、南アフリカ、モザンビーク、スワジランド、マラウイを指しています。


                        ┏━━A
                          ┏┫ (アフリカ中央部)
                          ┃┗━━B
                      ┏┫  (アフリカ東部等)
                      ┃┗━━━C
                  ┏┫ (アフリカ東部・南部)
                  ┃┗━━━━D
              ┏┫  (アフリカ東部・南部)
              ┃┗━━━━━E(アフリカ南部)
          ┏┫
          ┃┗━━━━━━F(アフリカ南部)
      ┏┫
      ┃┗━━━━━━━G
  ┏┫      (アフリカ東部・南部)
  ┃┗━━━━━━━━H(アフリカ南部)
  ┫
  ┗━━━━━━━━━I(アフリカ南部)

それぞれのグループに含まれる、解析されたEncephalartosを示します。

グループA(アフリカ中央部原産)
E. marunguensis、E. schmitzii、E. poggei、E. schanijesii、E. laurentianus

グループB(アフリカ東部・西部・中央部原産)
E. equatorianus(アフリカ東部原産)、E. bubalinus(アフリカ東部原産)、E. barteri(アフリカ西部原産)、E. macrostrobilus(アフリカ東部原産)、E. ituriensis(アフリカ中央部原産)、E.whitelockii(アフリカ東部原産)、E. tegulaneus(アフリカ東部原産)、E. septentrionalis(アフリカ東部原産)

グループC(アフリカ東部・南部原産)
E. hildebrandtii(アフリカ東部原産)、E. sclavoi(アフリカ東部原産)、E. kisambo(アフリカ東部原産)、E. turneri(アフリカ南部原産)、E. gratus(アフリカ南部原産)
 
グループD(アフリカ東部・南部原産)
E. ferox(アフリカ南部原産)、E. mackenziei(アフリカ東部原産)

グループE(アフリカ南部原産)
E. manikensis、E. concinnus、E. chimanimaniensis、E. pterogonus、E. munchii、E. dolomiticus、E. nubimontanus、E. eugene-maraisii、E. dyerianus、E. cupidus、E. middleburgensis、E. cerinus

グループF(アフリカ南部原産)
E. inopinus、E. umbeluziensis、E. villosus、E. aplanatus、E. caffer、E.ngoyanus
231009203902593~2
Encephalartos caffer
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos brachyphyllusとして記載。


グループG(アフリカ南部・東部原産)
E. hirsutus(アフリカ南部原産)、E. delucanus(アフリカ東部原産原産)

グループH(アフリカ南部原産)
E. paucidentatus、E. heenanii、E. lebomboensis、E. aemulans、E. senticosus、E. relictus、E. transvenosus、E. natalensis、E. msinganus、E. woodii、E. altensteinii、E. lehmannii、E. latifrons、E. arenarius、E. horridus、E. trispinosus、E. princeps、E. longifolius
231009203849709~2
Encephalartos horridus(左下)
「Tijdschrift voor natuurlijke geschiedenis en physiologie」(1838年)より。Encephalartos nanusとして記載。


 グループI(アフリカ南部原産)
E. ghellinckii、E. humillis、E. leavifolius、E. brevifoliolatus(絶滅種)、E. lanatus、E. friederici-guilielm、E. cycadifolius


以上が論文の簡単な要約となります。
実際に論文では、分岐年代などを考察していますが、ここでは割愛させていただきます。
さて、系統図を見ると、アフリカ南部がEncephalartosの起源地に見えます。アフリカ南部からアフリカ東部、アフリカ東部からアフリカ中央部とアフリカ西部という道筋をたどりながら進化したのかも知れません。
過去の遺伝子解析の結果からは、不思議なことにEncephalartosは同じアフリカ大陸原産のStangeriaに近縁ではありません。むしろ、Encephalartosはオーストラリア原産のLepidozamia、Macrozamia、Boweniaに近縁です。おそらく、アフリカ大陸とオーストラリアが繋がっていた時に、共通祖先が伝播したのでしょう。ペルム紀から三畳紀にかけて存在したパンゲア大陸では、南極大陸をはさんでアフリカ大陸とオーストラリアがありました。南極大陸からも植物の化石が見つかっていますが、Encephalartosとオーストラリアのソテツの共通祖先の化石が見つかっているのか気になるところです。それはそうと、アフリカ大陸と南極大陸の結合部は、現在のアフリカ南部であることも何やら意味深です。
ソテツの進化と伝播はどのような筋道を辿ったのでしょうか? これからも関係ありそうな論文を読んでいくつもりです。良い論文がありましたら、ご紹介出来ればと考えております。


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今年の正月明けに開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、珍しく多肉植物の種子が色々と販売されていました。面白いので、ついついソテツの種子を購入しましたが、すっかり忘れていて播種したのは3月に入ってからでした。その後、中々芽が出ない中、水やりも忘れがちになっていましたが、なんと5月に入ってようやく根が出て来ました。それから葉が出るまで、さらに時間がかかりましたが、無事に葉が展開して一安心していました。
赤玉単用で播種したので、来年は植え替える必要があるかと考えていましたが、鉢底から根がはみ出してしまいぐらつくため、急遽植え替えることにしました。


230930163320385
Cycas nongnoochiae
発芽するまではラップを張って乾かさないようにしたため、種子のサイズを考慮して用土は浅く敷いてありましたが、これが後に問題となります。


230930163324925
太い根がはみ出しており、安定感がありません。

230930163347763
しかし、鉢底のスリットより根が太いため、鉢を壊しましたが、スリットに根が食い込んでくびれていたため、根が裂けてしまい結局は切断する羽目になりました。

230930163733756
切断された根のすぐ上に細根がありました。しかし、位置的には、鉢底用の石粒の層に伸びていました。栄養や水分を吸うのは細根ですから、これでは困るわけです。まあ、しばらくは種子からの養分で育つのかも知れませんけど。

230930164055761
植え替え後。用土を赤玉単用から配合用土に変え、鉢の上まで入れました。以前よりやや浅植えしています。
播種1年目ですから、まだまだこれからです。どう育っていくのか楽しみにしています。しかし、根太いを切断したダメージが影響しなければ良いのですがね。


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花と言えば、色とりどりの美しい姿を思い浮かべますが、それらは被子植物の花です。被子植物の多くは蜜などの報酬を与え、目立つ花弁で昆虫などの花粉媒介者を引き寄せ、花粉媒介者があちこちの花をめぐることにより受粉し種子が出来ます。被子植物より早い時代に誕生した裸子植物は、針葉樹などその多くが風媒花です。この裸子植物から被子植物への進化の過程で、古い時代に花粉媒介者により受粉する植物が誕生したのでしょう。近年、ソテツ類が昆虫により受粉する虫媒花であるという論文が出ており、様々な種類と分類のソテツで虫媒が確認されています。もしかしたら、ソテツが地球上で初めて花粉媒介者により受粉した植物かも知れません。当然、現在のソテツの花粉媒介者たちの祖先が、初めて花粉媒介者となった動物である可能性があります。ソテツの花粉媒介者は甲虫がよく知られていますが、アザミウマも関与するという話も聞いたことがあります。
さて、という訳で本日のお題は花粉媒介者の誕生についてです。本日ご紹介するのは、Irene Terryの2002年の論文、『Thrips: the primeval pollinators?』です。この「Thrips」とは「アザミウマ」のことです。アザミウマは原始的な昆虫で、一般的には作物や園芸植物につく害虫として知られていますが、実際にはカビや胞子を食べるものや、肉食のものもあります。アザミウマは非常に古い時代に生まれた昆虫ですが、地球で最初の花粉媒介者なのでしょうか?

アザミウマ媒花の発見
アザミウマには花粉食の種類が沢山おり、受粉に影響を与える可能性があります。しかし、学術的には見過ごされてきました。それは、アザミウマが効率的な花粉媒介者の特徴を欠いているからです。まず、アザミウマは非常に小さいため花粉が付着する数も少なく、花粉が付着するような構造もありませんし、移動性もあまりないと言われてきました。しかし、Gottsberger(1995)はアマゾンのシソ科植物2種類で、花粉を運ぶアザミウマを発見しました。花は小さく直径4mm以下でした。その後も、トウダイグサ科のMacaranga属の2種類など、熱帯地方の小型の花を咲かせる植物でアザミウマによる花粉媒介が報告されています。

ソテツと虫媒
さて、ソテツは古生代に生まれた雌雄異株の植物で、現存する裸子植物の中では最も古い植物です。長い間、ソテツは風媒花と考えられて来ました。しかし、Norstogら(1986)はメキシコ原産のソテツであるZamia furfuraceaはゾウムシにより受粉ことを観察し、ゾウムシの除去により種子生産が大幅に減少することを報告しました。それ以降、ゾウムシの仲間と様々なソテツとの共生関係が報告されています。

ソテツとアザミウマの関係
オーストラリアのソテツであるMacrozamia macdonnelliiは、1994年のFosterらの報告によりゾウムシにより媒介されることが明らかになりました。そのため、Macrozamiaはゾウムシか風により受粉すると考えられて来ました。しかし、Mound(1991)やChadwick(1993)によりMacrozamia communisで、Mound(1998)によりMacrozamia riedleの花でアザミウマが見つかりました。また、Terry(2001)によりMacrozamia communisのアザミウマの花粉媒介を試験しました。風の効果を除外したりゾウムシを除外しても、種子生産は減少しませんでした。

アザミウマの重要性
著者らは、複数のMacrozamia macdonnellii群で、1つの雄花で5万匹ものアザミウマ(Cycadothrips albrechti)を確認しました。雄花は10m離れた場所でも分かる強烈な臭気を発し、アザミウマは午後には一斉に臭気を発する雌花に移動しました。アザミウマ1匹あたり平均20粒の花粉をついていました。1日で胚珠あたり5700粒もの花粉が運搬されました。著者はC. albrechtiというアザミウマがM. macdonnelliiの唯一の花粉媒介者であると考えています。
Macrozamiaのうち4種類はアザミウマでのみ花粉媒介され、8種類はゾウムシでのみ花粉媒介され、3種類はアザミウマとゾウムシにより花粉媒介されます。また、20種類以上のMacrozamiaはまだ調査されていません。今まではアザミウマが花粉媒介する可能性を考慮していませんでしたから、今後の調査次第ではアザミウマ媒花のソテツは増えるかも知れません。

アザミウマ媒花は新しい?
Macrozamia属は化石による記録では、少なくとも白亜紀後期には誕生しています。しかし、ソテツのアザミウマ媒はオーストラリアでのみ見つかっています。アザミウマとソテツの関係は新しい時代に出来た可能性もあります。化石記録は不足しており、化石からの推定は困難です。
著者はオーストラリアの地理とソテツの分布から、アザミウマ媒の起源を考察しています。Macrozamiaは大陸全体に分布していましたが、現在はいくつかの地域に残されているだけです。対するCycadothrips属のアザミウマはすべての地域で見られ、他の植物には見られませんでした。さらには白亜紀の大規模な海洋侵入は大陸を島々に分裂しましたが、この島々はMacrozamiaとCycadothripsが対応していました。このことから、白亜紀の海洋侵入前にソテツとアザミウマは関係を結んでいたと考えることも出来ます。


化石記録からの推定
ソテツは少なくともペルム紀には存在し、初期のMacrozamiaは6500万年前の化石で、8500万年前にオーストラリアから分離したニュージーランドで発見されました。ゾウムシの祖先はジュラ紀後期に、現存するゾウムシ類は白亜紀前期から見つかっていますが、ソテツの受粉に関わるゾウムシの仲間は新生代まで進化しませんでした。現在、ソテツに関与するゾウムシは、木材に穿孔するタイプの祖先に由来すると考えられています。現在のソテツは各大陸に分布しますが、ゾウムシの花粉媒介はそれぞれ独立に進化したと考えられています。この仮説が正しければ、ソテツの花粉媒介者はゾウムシの進化の前に存在していたことになります。

アザミウマの起源
アザミウマの祖先グループは古生代に誕生し、被子植物と現代のソテツの属の誕生前から存在しています。Cycadothrips属はアザミウマの系統解析が結果からは被子植物の誕生前から存在すると考えられています。著者はアザミウマが植物の最も古い花粉媒介者であると考えています。

2億8000万年前  石炭紀
  →ソテツ誕生?
2億4400万年前  ペルム紀
  →アザミウマ誕生
2億1300万年前  三畳紀
  →ソテツ優勢、甲虫誕生
1億4400万年前  ジュラ紀
  →被子植物誕生?、ゾウムシ誕生
6500万年前  白亜紀
  →現代のソテツ科の誕生、Macrozamia誕生、
   現代のゾウムシ科の誕生
5500万年前  暁新世
  →現代のゾウムシ属の台頭?
3800万年前  始新世
  →ソテツと関係するゾウムシ属の誕生

以上が論文の簡単な要約です。
マクロザミアとアザミウマの関係から、始原の花粉媒介者の存在まで推定していますが、やや飛躍し過ぎている気もします。しかし、ソテツが一番古い虫媒花であるならば、それが絶滅した今は存在しない分類群の昆虫でない限りは、アザミウマかゾウムシが最も古い花粉媒介者である可能性があることは確かでしょう。だだし、著者に抜けているのは、風媒花の視点です。古代のソテツは、アザミウマやゾウムシが誕生してもまだ風媒花であり、虫媒を開始したのは最近かも知れません。化石記録が見つかるまではその可能性も除外出来ないのではないでしょうか?

しかし、それはそうと、最近は販売されるソテツも増えて来ましたが、まったくソテツは流行りませんでしたね。今は新葉が展開するソテツ栽培にとって素晴らしい時期にも関わらず、ネット掲示板のソテツスレも閑散としており、まったく悲しい限りです。私のソテツ関連記事も非常に不人気です。本当はもっとソテツが流行って、様々な種類が販売されるようになれば私も嬉しいのですが…


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ソテツは起源の古い植物で、針葉樹やイチョウと同じ裸子植物です。針葉樹は風で花粉を運ぶ風媒花ですから、裸子植物は概ね風媒花と考えられて来ました。しかし、20世紀中頃くらいからソテツの仲間は風媒花ではなく、アザミウマやゾウムシにより受粉する虫媒花であると言われるようになりました。しかし、ソテツには昆虫にアピールするための目立つ花弁や苞はありませんし、昆虫に対する報酬である花の蜜もありません。いかなる手段で昆虫を引き寄せているのでしょうか?
調べてみたところ、2021年の割と新しい論文が見つかりました。それは、Shayla Salzmanらの論文、『Cycad-Weevil Pollination Symbiosis Is Characterized by Rapidly Evolving and Highly Specific Plant-Insect Chemical Communication』です。早速、内容を見ていきましょう。

Zamia属のソテツは、Rhopalotriaというゾウムシにより受粉が行われる虫媒花です。ゾウムシはソテツの雌花(corn)を食べて繁殖します。Zamiaはゾウムシに受粉を依存し、ゾウムシもまたZamiaに依存しています。要するに、これは共進化であり、お互いがお互いに適応して進化したと考えられます。例えば、Zamia furfuracea(※1)にはRhopalotria furfuraceaというゾウムシが、Zamia integrifolia(※2)にはRhopalotria slossoniというゾウムシという風に、ソテツとゾウムシの決まった組み合わせが出来ているのです。

(※1) Zamia furfuracea
日本ではZamia pumilaの名前で販売されることが多いようですが、Z. furfuraceaとはまったくの別種です。Z. furfuraceaは葉の幅が広く厚みがありますが、Z. pumilaの葉は細長く国内ではまったく流通していません。
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Zamia furfuracea

(※2) Zamia integrifolia
一般的にはZamia floridanaの名前で販売されています。古い論文でも、Z. floridanaの名前が使われていましたが、Z. floridanaより命名の古い名前が複数あることが判明し、最も命名が古いZ. integrifoliaが正しい学名とされました。このZ. integrifoliaが正しくZ. floridanaにあたる植物に相当するかは議論もあるようですが、その場合においてもZ. floridanaより古い他の名前が採用されるため、Z. floridanaが今後学術的に使用されることはありません。
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Zamia integrifolia

ゾウムシはソテツの発する揮発性物質に誘引されていると言います。論文ではZ. integrifoliaの雌花から揮発性物質を採取し、含まれる物質にゾウムシが反応するかを試験しました。ゾウムシを誘引する物質はサリチル酸メチルである、Z. furfuraceaのゾウムシを誘引する物質とは異なっていました。実際にZ. furfuraceaに誘引されるゾウムシは、サリチル酸メチルに反応しませんでした。逆にZ. furfuraceaから放出される1,3-オクタジエンは、Z. integrifoliaに誘引されるゾウムシは反応しませんでした。やはり、決まった相手と深く関係を結んでいることが明らかになりました。

また、論文ではZamiaの遺伝子を解析し、系統関係を調べています。さらに、Zamia各種の雌花から揮発性物質を採取し、そちらも分析して種類による違いを調べています。まず、
Zamiaの遺伝子の遠近と葉の形などの外見には、あまり相関が見られませんでした。要するに、葉の形が似ているからと言って近縁とは限らないということです。しかし、雌花から放出される物質は、外見よりも遺伝的遠近に関係が見られました。

以上が論文の簡単な要約です。
これは、大変興味深い結果だと私は思いました。ソテツとゾウムシが一対一の関係を結び、さらにはソテツの揮発性物質に系統関係と相関するならば、ソテツに来るゾウムシの系統関係を調べるべきでしょう。おそらくは、ソテツの遺伝子の分岐の仕方と、ゾウムシの遺伝子の分岐の仕方は、ある程度は相関があるはずだからです。仮にソテツAにゾウムシAが関係している時、ソテツAからソテツBが分岐したとしましょう。この時に、ゾウムシAと無関係のゾウムシXがソテツBと関係するようになる訳ではなく、ゾウムシAからソテツBに反応するゾウムシBが分岐する可能性が高いと考えられます。このような関係は、実際に様々な生物間で発見されています。
例えば、新型コロナはコウモリが由来ではないかという説があります。その真偽は兎も角として、コウモリの種分化と、感染するコロナウイルスの種分化には相関が見られます。他の例では、カメムシとカメムシの腸内細菌でも、この関係が見られます。カメムシはストロー状の口で植物の汁を吸いますが、植物の汁は糖分ばかりでタンパク質など様々な栄養素がほぼ含まれておりません。そのため、カメムシは腸内に種類ごとに特有の細菌がいて、植物の汁の糖分から様々な栄養素を作り出します。カメムシと腸内細菌の分子系統は驚くほどよく似ています。

実はソテツの受粉に関する話は過去に記事にしたことがあります。それは、日本のソテツに対する研究の話です。日本のソテツであるCycas revolutaは基本的に風媒花ですが、それは近くにある個体同士だけの話であり、ケシキスイという昆虫が花粉媒介に関わっているというものです。日本のソテツは風媒も虫媒もしていますから、まさに風媒花から虫媒花への移行の途中段階を目の当たりにしているのかも知れませんね。


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3月後半から毎週コツコツ多肉植物の植え替えをしてきましたが、あっという間に1ヶ月が経ってしまいました。なんと今回で今年の植え替えは100鉢目のアニバーサリーです。いや、別に目出度いという訳ではありませんが、ちょうどいい区切りなので我が家の大物を植え替えることにしました。

記念すべき(?)100鉢目はZamia furfuraceaというメキシコ原産のソテツです。昔ホームセンターにたまたま入荷した小さな実生苗でした。ろくに植え替えもしていないのに(※2回位はした)、いつの間にやら大きくなって、去年ははじめて花を咲かせました。日本では「ザミア・プミラ」の名前で販売されていますがこれは誤りです。ここいら辺の話は記事にしていますから、以下の記事をどうぞ。

さて、それでは早速植え替えを開始します。まずは、Zamia furfuraceaから。
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冬の間は室内に取り込みましたが、葉が広がり邪魔なので縛っていました。今日から紐を取り去り自由になります。
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縛っていた紐を取りました。
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塊茎は大分大きくなりました。しかし、何故か斜めに育ってしまいます。
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花殻がまだありました。種が入っていない「しいな」があったので、どうやら雌株のようです。
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抜くのが大変そうですが、駄温鉢は底の穴を押すだけで簡単に抜けます。しかし、これは大変な根の詰まり具合。9号の朱泥鉢でも狭い感じがします。
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盆栽用のレーキでほぐしていきます。
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根が渦巻いています。長い間植え替えていないのがばれてしまいますね。
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浅い部分にサンゴ根がありました。藍藻と共生しています。Dioonの丸っこいサンゴ根と異なり、よりサンゴっぽい形です。
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根の量がすごいので、駄温鉢では少し浅いような気がします。
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縦長の10号鉢に植えることにしました。
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植え替え後。真っ直ぐに植えました。
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ぐらつきそうですから、少し深植えしました。
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今年も葉を沢山出してほしいですね。ソテツシジミにやられなければいいんですけどね。ソテツシジミは関東地方でも定着しているようですから、かなり
ビビっています。沖縄では海外のソテツにつくカイガラムシが蔓延して、ソテツが結構枯れているみたいですが、北上しないか心配です。


ソテツの害虫の記事はこちらをご参照下さい。

さて、ついでに同じザミアのZamia integrifoliaも植え替えてしまいましょう。すごい斜めに育ちました。どうにもザミアを真っ直ぐ育てるのが苦手です。ちなみに、こちらも「ザミア・フロリダーナ」という名前です販売されていますが、やはりこれも誤りで記事にしていますからご参照下さい。

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Zamia integrifolia
こちらも斜めに育ってしまいます。冬の間、植物用ランプに当てていましたが、それが原因みたいです。

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しかし、一冬でここまで斜めになるのが不思議。
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根はかなり狭い感じで、見た目より大きい鉢に植えた方が良さそうです。
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サンゴ根も出来ていました。やや青みがかっていますね。藍藻が植物用ランプで光合成していたのでしょう。
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植え替え後。真っ直ぐ植えました。取り敢えずプレステラ120に植えました。地上部よりも根が強いので、ちょっと小さいかも。

大物の植え替えが済んでほっとしました。後は小さいものばかりです。そろそろ長い長い植え替えも終わりの気配です。多肉植物の置き場所を増設予定ですが、全く進んでいません。早いところどうにかしないと、さすがに手狭です。植え替えも終わりますし何とかそちらも片付けたいと思っています。


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ソテツの根にはサンゴ根と呼ばれる不思議な形状の根があります。これは何かと言えば、細菌(バクテリア)がソテツと共生関係を結んだものです。植物と細菌の共生と言えば、マメ科植物の根粒が有名です。マメ科植物の根粒は、大気中の窒素ガスを固定してアンモニアに変換することが出来ます。植物は大気中の窒素を利用出来ませんが、アンモニア態窒素は栄養分として利用可能なのです。
さて、このソテツのサンゴ根は古くから研究されてきたようですが、最新の研究成果をまとめた論文を見つけました。Aimee Caye G. Chang, Tao Chen, Nan Li & Jun Duanによる2019年の論文、『Perspectives on Endosymbiosis in Coralloid Roots : Association of Cycas and Cyanobacteria』です。なるほど、サンゴ根はそのまま「Coralloid Roots」なんですね。というより、サンゴ根という言葉自体が英語から来ているのかもしれません。
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Dioon spinulosumのサンゴ根は地際に形成されていました。

ソテツのサンゴ根と共生する細菌は、意外にも光合成をする細菌です。いわゆる、藍藻(藍色細菌、シアノバクテリア)と呼ばれている細菌で、一見して藻のように見えます。しかし、遺伝子が核膜に包まれておらず、細胞質中に浮かんでいる状態です。これを一般的に原核生物と呼び、藍藻は葉緑体の元になった細菌であると考えています。一昔前には日本でも河川や湖沼に生活排水が処理されずに垂れ流した結果、富栄養化によりアオコと呼ばれる藍藻が増殖し腐敗して異臭を放ったりしました。まあ、この富栄養化は洗剤にリンが含まれていたことが原因だったようで、現在では洗剤にリンはほぼ含まれなくなりました。
さて、わざわざ地中にある根に共生する細菌が光合成できても意味がないような気がしますが、個人的な感想ではサンゴ根は浅いところに出来やすいように思われます。なお、ソテツと共生する藍藻は主にネンジュモです。ネンジュモは緑色の珠を数珠繋ぎに連ねたような藻です。実際にサンゴ根を切って断面を見るとと外皮側に薄く緑色の層があり、藍藻が存在することが分かります。

サンゴ根の形成に先立って、プレ・サンゴ根(precoralloid roots)を形成します。この段階では藍藻は存在しないのにプレ・サンゴ根は形成されます。このプレ・サンゴ根が藍藻との共生のために形成されるものかどうかは、実はよく分かりません。他に何か機能がある可能性もあります。しかし、現実的にプレ・サンゴ根にネンジュモが感染することにより、サンゴ根が形成されるのです。
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Dioon eduleの根に形成されたサンゴ根ですが、プレ・サンゴ根あるいはサンゴ根の初期段階と思われます。

しかし、窒素ガスというのは利用しようと思うと、大変厄介な存在です。なぜなら、窒素ガスは窒素原子が2つ結合したものですが三重結合によりがっちり連結しており、様々な物質に反応を示さない不活発な分子だからです。ですから、窒素は大気の78%を占めるにも関わらず安定しており、我々が呼吸のために大量に吸い込んでも何も起こりません。しかし、ネンジュモは空気中の窒素ガスをニトロゲナーゼという酵素で、三重結合を解離させ水素と結合させて生物が利用可能な形とするのです。

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Zamia furfuraceaのサンゴ根はDioonとは形が異なります。

藍藻はいつでもニトロゲナーゼを使うわけではなく、通常は周囲に栄養分が不足している場合に使われます。この時、藍藻は普段の細胞よりわずかに大きいヘテロシスト(heterocysts)という形態になります。ニトロゲナーゼは酸素で不活性化してしまうため、細胞に厚い壁を持ったヘテロシストにより酸素を遮断出来るようです。しかし、サンゴ根ではソテツとの共生関係のためだけに、藍藻はヘテロシストを形成します。
また、藍藻はヘテロシスト以外にもいくつかの形態に変化します。運動性がありソテツの出す化学物質に反応して感染に関与すると言われているhormogoniumや、環境の悪化によりakinetesと呼ばれる胞子になります。akinetesは寒さや乾燥に強く、60年以上耐えることが出来ると言います。

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Zamia integrifolia(異名Zamia floridana)のサンゴ根は青みがかり、藍藻がいることが分かります。

2019年にはソテツ(Cycas revoluta)の根から、hormogoniumを誘導する因子(
diacylglycerol 1-palmitoyl-2-linoleoyl-sn-glycerol)を単離することに成功しているそうです。そこで、考えられるサンゴ根が形成される筋書きは以下の通りです。まず、ソテツはプレ・サンゴ根を形成し、誘導因子を分泌し移動性があるhormogoniumを誘引します。hormogoniumはプレ・サンゴ根に感染しますが、このままだと取り込まれた藍藻は窒素固定を行いません。なぜなら、窒素固定は藍藻がヘテロシストとなる必要があるからです。そこで、藍藻が感染したらhormogonium誘導因子の放出を停止し、取り込まれた藍藻はヘテロシストの形態へ移行し窒素固定を開始するのです。ちなみに、hormogonium誘導因子の放出を抑制する遺伝子が1997年に発見されているそうです。
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Cycas revoluta

以上のように様々なことが分かりつつあります。しかし、サンゴ根形成のメカニズムはいまだに分かっておらず、ソテツとネンジュモの関係も明らかとなっていない部分が沢山あります。著者らはこれらの研究には限界があるとしています。まず、感染実験が必要ですが、ソテツの生長を考えると非常に長期に渡る試験となる可能性があります。では、in vitro(試験管内)で実験するにせよ、サンゴ根の組織培養の方法を構築することから始めなければならないでしょう。
この論文自体がソテツのサンゴ根研究の成果をまとめた、ある種の一里塚のようなものです。ここから論文に記された研究の道筋をゆっくりと進展していくのか、それとも革新的な技術の開発で一気に解決してしまうのか、まあそれは都合の良すぎる話ですが、今後の研究を私もゆっくり待ちたいと思います。


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最近、沖縄で海外のソテツにつく害虫が見つかりました。Aulacaspis yasumatsuiというカイガラムシの一種です。昨日、ニュースで初めて知ったのですが、沖縄は2例目で実は昨年の10月に奄美大島で発見されており、すでに700本のソテツに拡がってしまっているそうです。その増殖の早さから思いの外、大事になる可能性があります。

ニュースの元記事はこちら。
A. yasumatsuiはタイなどの東南アジア原産のカイガラムシです。繁殖力が強く世界中の温暖地に拡散してしまっています。野生ソテツの宝庫であるメキシコではA. yasumatsuiをかなり警戒しているようです。今までA. yasumatsuiが確認されたソテツはCycasだけではなく、Zamia、Dioon、Stangeria、Macrozamia、Bowenia、Encephalartosで見つかっていますから、ソテツの仲間はすべて被害に合うと考えた方が良いようです。

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Dioon spinulosum

カイガラムシはカメムシの仲間で植物の汁を吸いますが、吸われた部位は白く細胞が死んだ状態となります。大量に増えればやがて光合成が出来なくなります。葉についたA. yasumatsuiは葉をすべて取ってしまえば済みますが、幹の鱗片の間や地下部位についたA. yasumatsuiを除去するのは大変な困難でしょう。

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もし、A. yasumatsuiが鱗片の隙間に入ってしまったらと考えると、とても除去しきれる気がしません。

A. yasumatsuiがついて何もしなければ1年ほどでソテツは枯死する可能性があると言います。対策は、見える範囲にいるものは取り除くか、カイガラムシ用の殺虫剤をまくしかありません。それでも、地下部位などすべてを取り去るのは至難の技かもしれません。また、もし本土にA. yasumatsuiが定着してしまった場合、除去しても野外の他のソテツから新たなA. yasumatsuiがやって来るかもしれません。


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Zamia furfuracea

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Cycas revoluta

A. yasumatsuiは東南アジア原産ですから、寒さに弱いような気もしますがよく分かりません。そもそも、私は熱帯原産のソテツを冬は室内に取り込んでいます。温室で育てている人もいるでしょう。そうなると、もしA. yasumatsuiが寒さに弱かったとしても、冬に生き残るでしょうからA. yasumatsuiの耐寒性の有無に意味はないかもしれません。また、屋外にあったとしても、土壌中は暖かいので地下で生き残るものもあるかもしれませんし、一般的に耐寒性が高い卵で冬を越す可能性もあります。沖縄は離れているからなどと楽観視は出来ないでしょう。近年、ソテツシジミという、ソテツを食害する南方系の蝶が、1992年に沖縄で確認されてから、現在では関東地方各地で確認されるに至りました。この蝶も日本列島をじわじわ北上して来たわけです。地球温暖化により気温も上昇してきていますから、A. yasumatsuiが本土に上陸するのも時間の問題でしょう。

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Dioon edule

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Zamia integrifolia(=Z. floridana)

ソテツシジミが関東地方のあちこちで発見されているニュースを見て、まあいざとなれば芋虫を捕殺するだけなので、それほどの脅威は感じませんでした。しかし、Aulacaspis yasumatsuiは初期に気が付かず蔓延してしまうと、手に負えなくなる可能性が大です。私もソテツを何種類か育てていますから、注意しないといけませんね。


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花粉を運ぶのは誰か? 植物のポリネーター(花粉媒介者)については個人的に気になっており、過去にはアロエやアガヴェについて論文を調べて記事にしました。しかし、陸上植物のライフサイクルを考えた時、ポリネーターの働きにより種子が出来るだけでは駄目で、その種子が散布される必要があります。果実を動物に食べてもらい、あちこちで糞をして糞中の種子がばらまかれるタイプのものが多いでしょう。また、オナモミのようにトゲなどにより動物の体に付着して運ばれるものも割とあります。エライオソームという栄養分が着いている種子は、蟻に巣穴に運搬してもらうタイプです。また、Uncarinaは踏みつけ種子で、果実が脚に絡み付いて踏まれる度に種子がこぼれるなんていうタイプもあります。逆に動物を利用しない植物は多くは羽があり風で散布されます。また、ユーフォルビアは種子を弾け飛ばしますが、散布すると言っても対して距離ではありません。
このように、種子の散布は様々な方法があり、植物によって様々な工夫が見受けられます。最近はこの種子の散布が気になるところです。ということで、本日はその一例を調査した論文をご紹介します。それはLaura Yanez-Espinosa, Felipe Barragan-Torres, Alejandra Berenice Ibarra & Jaime Ivan Moralesの2019年の論文、『Dispersal of Dioon edule cycad seeds by rodents in tropical oak forest in Mexico』です。この論文ではメキシコのサンルイスポトシ州の熱帯オーク林でDioon eduleというソテツの種子の行方を追跡しています。

ソテツは中生代に豊富で多様性があり、コーンごと種子を草食恐竜が食べることにより、糞として種子を拡散したと言われています。恐竜は絶滅しましたが、現在のソテツの種子は誰が運んでいるのでしょうか?
まず、実際のソテツの種子は1~3cmと大きいので、重力で落下し親植物の近くに留まります。しかし、雨により分散し、または小川の流れに乗ることもあります。とはいえ、基本的に分散力は低い種子と言えるでしょう。論文では自動撮影により種子を運ぶ動物を観察しました。結果は4種類のネズミが、Dioon eduleの種子を持ち去りました。しかし、ソテツの種子には毒があると言われています。
実際にマウスにDioon eduleの種子を与えると、神経系にダメージがあり7日後に死亡したそうです。しかし、この実験はDioon eduleの種子のみを餌とした場合です。実際に様々なものを食べている場合には、それほど問題にはならないようです。ネズミの巣穴にファイバースコープを入れて、巣穴の内部に貯蔵された種子を観察しましたが、やはり齧られて食用とされていることが分かります。
さて、せっかくの種子が食べられてしまっては意味がないような気もしますが、実際にはあちこちに貯蔵した種子のほとんどは放置される運命のようです。日本でもリスやネズミがドングリをやはりあちこちに貯蔵しますが、そのほとんどは利用されません。巣穴は地上より湿り気があり発芽に適した環境です。しかも、ネズミの糞などで周辺環境は富んでいます。何より、親株から離れた場所に移動できるメリットは計り知れません。

ネズミの種類により種子に対する行動に差があります。小型のネズミより中型のネズミの方が、Dioon eduleの種子を積極的に巣穴に運びます。これは、どういう理由でしょうか? 単純にとらえるならば、小さいネズミは大きい種子を運ぶのが大変だからです。エネルギー効率を考えた場合、大きすぎる種子は運搬にかかるコストが高くなりすぎて非効率的です。自身のサイズに見合ったより小型の種子を運搬する方が良いということになります。逆に中型のネズミにとっては、Dioon eduleの種子を運搬することは大したコストがかからないのでしょう。しかし、論文では他の可能性にも言及しています。それは、種子の毒性についてです。今さら種子の毒性について蒸し返すのかと思われるかもしれませんが、ちゃんと理由があります。小型のネズミにとっては、Dioon eduleの種子は毒性が高すぎるのかもしれません。なぜなら、Dioon eduleの種子を同じ量食べた場合、体重の重い中型のネズミにとっては許容量ですが、体重の軽い小型のネズミにとっては致命的かもしれないからです。小型のネズミにとっては、運ぶのが大変な割にほんの少しずつしか食べられない効率の悪い食べ物です。

以上が論文の簡単な要約と言うより、一部を抜粋したものです。実は論文にはオークのドングリと比較したりとか様々な要素が含まれますが、今回は敢えて省きました。それは、種子が運ばれることのメリット・デメリットと、種子を運ぶ動物のメリット・デメリットについて重視したからです。
ネズミは何もソテツのために種子を運んでいるわけではありませんが、結果的に種子は拡散されます。しかし、そのネズミもサイズによりメリット・デメリットを天秤にかけて、自身のためだけに種子を運ぶのです。自然の中に何とも言えない絶妙なバランスが存在することに、大変驚かされますね。


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昨日はメキシコ原産のソテツであるDioon eduleの情報についての記事を書きましたが、本日はD. eduleの論文をご紹介したいと思います。D. eduleはDioonの代表種であり、様々な角度から研究がなされています。非常に面白そうな論文が沢山あります。しかし、最近ではやや忙しく中々思ったように論文を読めていないのが悩みです。

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Dioon edule

そんな中、読んだ論文はAndrew P. Vovidesの1990年の論文、『Spatial Distribution, Survival, and Fecundity of Dioon edule (Zamiaceae) in a Tropical Deciduous Forest in Veracuruz, Mexico, with Notes on Its Habitat』です。

著者は野生のD. eduleが集中するメキシコのVeracuruz州中央の熱帯林で、その生長と繁殖に関するデータを4年間にわたり収集しました。
まずは実生の定着具合を見てみましょう。調査によると、高さ10cm以下の若い苗はほぼ枯れてしまうことが分かりました。やはり、小さな内は環境の変化や乾燥に耐えられないのでしょう。しかし、高さ40~50cmくらいに生長すると枯れてしまう個体は5%以下でした。ある程度生長できれば環境の変化にも対応出来るのでしょう。
次に樹齢を見てみましょう。調査した区域の139個体のD. eduleの中で最高齢は2001~2250歳と見られる個体が1本ありました。1501~2000歳の個体は0本、1251~1500歳の個体が1本、1001~1250歳の個体が2本、751~1000歳の個体が2本、501~750歳の個体が11本、251~500歳の個体が13本、0~250歳の個体が109本ありました。ここで分かることは、D. eduleは非常に寿命が長いということだけではありません。0~250歳の個体が109本ということは、この250年の間に生き残った実生は109本しかないということでもあります。この0~250歳の死亡率は88%にもなるようです。

種子を人工的に発芽させた場合、発芽率は98%と非常に高いことが分かりました。しかし、野生状態だとネズミ(Peromyscus mexicanus)に種子を食べられてしまうことが明らかとなっています。しかし、一般的にソテツには毒があり、ラットにD. eduleの種子を砕いて与えると24時間以内に死亡してしまいます。つまり、D. eduleの種子を食べるP. mexicanusはソテツの毒に耐性があるということです。
また、新しく葉は柔らかく、Eumaeus deboraという蝶の幼虫により食害されます。
実生が枯死する最大の要因は、おそらく極端な乾燥です。1983年の乾季には1~2歳のD. eduleはほぼ死滅しました。さらに、D. eduleの実生を人工的に2年間育てた後に2週間の乾燥させたことにより、20個体中18個体が枯死しました。やはり、若い個体にとって乾燥は大敵のようです。
D. eduleの生息地は山火事が起きやすく、大型の個体は耐えられますが、苗は耐えられないでしょう。しかし、山火事により一時期に土壌中に窒素が増加することにより、開花に寄与しているということです。結果的に種子の生産が増加するということです。


生育環境を見てみましょう。土壌の深さを測定すると、D. eduleの84%はたった6~20cmしかない浅い土壌に生えていることが分かりました。多くの場合、岩場に生えていました。土壌はカリウムとリン酸が貧弱であり、かなりの貧栄養のようです。pHは7.7でした。この岩場に育つことにより、種子が岩の隙間に入りネズミに食べられてしまう可能性は低くなるようです。
D. eduleには菌根が確認されているそうです。あまり知られていませんが、野生の樹木の根はキノコの菌糸で被われており、樹木とキノコの間で養分のやり取りがあり共生関係にあります。これを菌根と呼びます。菌根はまれな現象ではなく、森林には普遍的に存在し非常に重要な仕組みであることが分かってきました。D. eduleも共生している菌根から水分や栄養をもらい、乾燥し栄養の少ない過酷な環境に耐えているのでしょう。

以上が論文の簡単な要約となります。D. eduleが尋常ではない寿命を持つこと、あまりに過酷な環境ゆえに実生苗がほとんど死滅してしまうこと、そしてその過酷な環境に耐える仕組みがあることが分かりました。このような調査は単にD. eduleの科学的な知見が増えるだけではなく、将来保護を行うための基本的な下地にもなります。しかし、このような地味な研究には資金が中々出ない現状のため、多くの植物が調査すらされずに人知れず開発や違法採取で絶滅していることは大変悲しいことです。著者はD. eduleの繁殖にも関わっているようですから、そこら辺の活動についてもそのうち記事に出来たらと思っておりません。


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3年前くらい前のことですが、大型の園芸店にDioon eduleという海外のソテツの苗が販売されていることに気が付きました。冬だったこともあり葉が黄色く変色していたりして、購入を躊躇う状態でした。その後、2~3の園芸店やホームセンターで見かけましたが、基本的に状態は悪く入荷からそれなりに時間が経っていることがうかがえます。流石に復活可能かわからないので購入しませんでしたが、その後はDioon eduleを見かけることはありませんでした。おそらくは、Dioon eduleの種子をある程度の数輸入した一過性の実生苗だったようです。しかし、去年のクリスマスに千葉で開催された木更津Cactus & Succulentフェアで、なんとDioon eduleを販売していたので購入しました。 ということで、Dioon eduleとは一体どのようなソテツなのでしょうか?

DSC_2195
Dioon edule

D. eduleの学名は、1843年に命名されたDioon edule Lindl.です。D. eduleはまあまあ異名が多いため、以下に年表で示しました。
1844年 Zamia maelenii Miq.
1845年 Platyzamia rigida Zucc.
1848年 Dioon imbricatum Miq.
1855年 Dioon aculeatum Lem.
1861年 Dioon edule f. imbricatum
                  (Miq.) Miq.
1863年 Dioon strobilaceum Lem.
1868年 Dioon edule var. imbricatum
                  (Miq.) Miq.
1884年 Macrozamia littoralis
                   Liebm. ex Dyer
              Macrozamia pectinata 
                   Liebm. ex Dyer
1899年 Dioon edule var. lanuginosum
                  (J.Schust.) Wittm.
1932年 Dioon edule f. lanuginosum
                   J.Schust.
              Zamia rigida Karw. ex J.Schust.

さらに、現在は独立種とされているDioon angustifoliumは、かつてDioon edule f. angustifolium、Dioon edule var. angustifolium、Dioon edule subsp. angustifoliumなどと呼ばれていました。幾つかのサイトでD. eduleの情報を収集しましたが、あるサイトではD. eduleはD. merolaeやD. holmgeniiと関連があるなどと書かれていましたが、遺伝子解析の結果ではD. eduleはD. angustifoliumと近縁です。分布が近い種は遺伝子も近縁な傾向があり、D. eduleとD. angustifoliumは分布が近いと言えます。
他にも現在は認められていないD. eduleの変種があります。Dioon edule var. latipinniumはDioon pectinatumに、Dioon edule var. sonorenseはDioon sonorenseとして現在ではそれぞれ独立種とされています。

さて、一般的なD. eduleの情報を探したところ、D. eduleはメキシコの海抜1500mにまで見られるということです。D. eduleは中型のソテツで、高さ1~1.5(~3)mで、直径は20~30cmになります。成熟した葉は15~20枚で、長さ0.7~1.6mとなり、小葉は片側120~160にもなります。Dioonの中でも小葉の縁にトゲがないことが、D. eduleの特徴とされているようです。D. eduleは乾燥した森林地帯に生え、浅い土壌の過酷な地域です。

Dioon eduleは大変美しいソテツで、育つほど葉は長くなり小葉の数も増えていきます。小葉は細長く隙間なく整然と並び、ある程度育ったD. eduleの葉は涼しげで非常に美しいものです。しかし、Dioon eduleは環境の悪化などにより個体数の減少が指摘されている貴重なソテツです。輸入種子由来の実生の流通が望ましく、違法採取株由来かもしれない現地球の販売はあまり望ましくありません。正規のルートで輸入された個体でも、違法採取株がファームを転々として日本に輸入された可能性も捨てきれません。
Dioon eduleはDioonの代表種です。異名が多くE. eduleから分離された種類があることからも、それはうかがえます。そのため、Dioonの中ではD. eduleは割と研究されており、論文も多少は出されています。明日はそんなD. eduleについて調査した論文をご紹介しましょう。


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ザミア・フルフラケア(Zamia furfuracea)はメキシコ原産のソテツの仲間です。日本でザミア・プミラ(Zamia pumila)の名前で販売されているのは、基本的にフルフラケアです。プミラとフルフラケアが混同されているのはおそらく日本だけで、海外の園芸サイトでは明確に別種とされています。まあ、実際のところそれほど似ているわけではないので、実際に見て間違うことはないでしょう。
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Zamia furfuracea(神代植物公園)
①葉の幅が広い、②葉の先端が丸い、③葉は皮質でぶ厚い、④黄色~褐色の短い毛がある、という特徴があればフルフラケアです。逆を言えば、プミラは葉の幅が狭く、葉の先端が尖り、葉は薄く、毛はないということになります。見分け方は簡単ですね。
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毛に被われたフルフラケアの新葉

さて、そんなフルフラケアですが、原産地のメキシコでは個体数の減少により絶滅が危惧されているそうです。そのあたりについて詳しく調べた2022年の論文、『Genetic diversity and differentiation in Zamia furfuracea (Zamiaceae) : an endangered, endemic and restricted Mexican Cycad』を本日はご紹介します。
Z. furfuraceaはメキシコ南東部の沿岸に固有のソテツで、生態的および園芸的に非常に重要です。主に牧畜地の拡大、都市開発、環境の悪化などにより減少しています。論文では6つの集団の遺伝子の多様性を確認しました。

Z. furfuraceaは世界の園芸市場で2番目に多く取引されているソテツです。そのため、違法採取にさらされてきました。さらに、開発なども影響し、過去40年で35%の減少を引き起こしました。なぜこのような調査を行う必要があるのかを説明しましょう。自生地の環境や個体数の調査は保護のための最低限の情報ですが、遺伝的多様性の調査は将来を見据えた研究と言えます。なぜなら、個体数の減少と個体群の分断が合わさると、遺伝的多様性が減少し様々な弊害が引き起こされる可能性があるからです。遺伝的多様性が失われると、やがて個体群の遺伝子が均一化してしまい、近親交配に近い状態となります。実際に野生のフルフラケアの実生の発芽率が低下している地域もあるという報告があります。
論文には述べられていませんでしたが、遺伝子が均一化してしまうと、その個体群が特定の病気に対して抵抗力がない場合、絶滅してしまいます。遺伝的多様性が豊富であれば、ある個体は病気に弱くても他の個体は抵抗性があれば問題はないわけです。実際に遺伝的に均一であったことで、危機に陥った有名な植物があります。それは、バナナです。種子ではなくて親株から出てくる子株で増やしているバナナは、遺伝的にクローンですから過去に病気の流行により壊滅的なダメージを受けてしまいました。現在我々が食べているバナナはその病気に対して耐性のある品種で、実は昔と異なる品種です。現在のバナナの品種は耐病性と輸送中の傷みにくさにより選ばれたため、以前と比べたら味や食感はあまり良くないとされているようです。とはいえ、現在のバナナもクローンで増やされていますから、やはり新たな病原菌の登場により最近では壊滅的なダメージを受ける農園も出てきてしまいました。現在、新たな耐病性品種を見つけることに躍起になっているそうです。

DSC_1557
Zamia furfuracea

脱線してしまったので、話を戻しましょう。
もともとフルフラケアは他のソテツと比較して遺伝子の多様性が高いとされています。しかし、都市開発などにより自生地も侵食され個体数も減少し、各個体群は孤立してしまいました。個体数は1つの個体群に100個体程度とされているようです。実際に創始者効果(※)やボトルネック効果(※※)が遺伝子解析により判明しており、遺伝的多様性は低下しています。個体群により遺伝的多様性は異なり、遺伝的多様性が高い群と低い群がありました。著者は遺伝的多様性の高い群をまずは重点的に保護すべきではないかと主張しています。

※創始者効果 : 祖先となった少数個体の遺伝子頻度の偏りに影響を受けること。
※※ボトルネック効果 : 個体数の激減により遺伝的多様性の低い集団が出来ること。


以上が論文の簡単な要約となります。
最近ではそれほど珍しくないフルフラケアですが、自生地では絶滅が危惧される希少種となってしまっています。大変悲しいことです。
しかし、研究者もなんとかしようと行動しています。例えば、Zamia integrifolia(異名Z. floridana)やZ. furfuraceaをモデルとして用いて、その繁殖効率を高めることを目的とした研究がなされています。これは、野生個体の違法採取を防ぐために、人工繁殖を確立して実生が流通してしまえは良いという考え方です。現実問題として違法採取を取り締まるだけでは効果が薄いということもあり、考えだされた現実的な方法です。このように研究者もソテツの保護に貢献していますが、自生地の破壊に対しては対策のしようがない状態です。とはいえ、保護のための情報を得るための研究は、保護活動を開始するための根拠となりますから、このような研究が行われることは非常に有用です。フルフラケアが絶滅しないことを切に願っております。

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フルフラケアの花。小さな実生苗から育てていますが、ようやく花が咲きました。


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Dioonは中米からメキシコまでに分布する大型のソテツです。その涼しげで優美な葉から、日本でもDioon eduleなどはまれに栽培されることがあります。私も世界最大のソテツと言われるDioon spinulosumの苗を育てています。このDioon spinulosumについては、発見されたばかりで情報が少なかったため研究者が現地を訪れて調査したという記事を書きました。なんと1909年の論文でした。
DSC_2037
Dioon spinulosum

ソテツ自体は古代から存在する起源の古い植物です。ソテツの分類について記事にしましたが、Dioonは微妙な立ち位置にいるようです。

さて、ソテツについては何度か記事に書いてきましたが、Dioonの分類についての論文を見つけました。しかも、ただの分類ではなく、その進化と地理的な分布について考察する壮大な内容の論文です。Brian L. Dorsey, Timothy J. Gregory, Chodon Sass & Chelsea D. Spechtの2018年の論文、『Pleistocene diversification in an ancient lineage : a role for glacial cycles in the evolutionary history of Dioon Lindl.(Zamiaceae)』です。
Dioonの遺伝子を解析することにより、4つのグループにわけられることがわかりました。ソテツは古い時代から存在するにも関わらず、このグループは割と新しい時代に急速に進化したことが推測されます。

Dioonの分子系統
Dioonはメキシコの太平洋側に広く分布するWestern Clade、メキシコ南部のくびれ部分の太平洋側に固まって分布するSouthern Clade、メキシコのメキシコ湾沿いに分布するEdule Clade、Edule Cladeより南のメキシコ湾南部に分布するSpinulosum Cladeにわけられます。
下のDioonの分子系統を見ると、種分化の方向はSpinulosum Clade→Edule Clade→Southern Clade→Western Cladeとなっています。つまり、もともとメキシコ南部が起源で、北上しメキシコ湾沿いだけではなくて、やがて太平洋側にも分布が拡がったように見えます。

Dioonの分子系統
        ┏Westrn Clade
    ┏┫
    ┃┗Southern Clade
┏┫
┃┗━Edule Clade

┗━━Spinulosum Clade

Western Clade
                ┏D. sonorense1
┏━━━┫
┃            ┗D. sonorense2

┫            ┏━━━D. tomasellii1
┃┏━━┫
┃┃        ┗D. tomasellii2
┗┫
    ┃    ┏━D. stevensonii1
    ┗━┫
            ┗━━D. stevensonii2

Southern Clade
        ┏━━D. planifolium1
        ┃
┏━┫    ┏D. caputoi1
┃    ┗━┫
┃            ┗D. caputoi2

┃    ┏━D. holmgrenii1
┃    ┃
┃┏┫    ┏D. holmgrenii2
┃┃┗━┫
┃┃        ┗━━D. holmgrenii3
┃┃
┃┃┏━━━D. merolae1
┃┃┃
┣┫┃┏━━━D. merolae2
┃┃┃┃
┃┃┃┃        ┏━D. merolae3
┃┃┣┫┏━┫
┫┃┃┃┃    ┗━D. merolae4
┃┗┫┗┫
┃    ┃    ┃┏D. merolae5
┃    ┃    ┗┫
┃    ┃        ┗━D. merolae6
┃    ┃
┃    ┗━━━━D. planifolium2

┃        ┏━━D. purpusii1
┃    ┏┫
┃    ┃┗━━━━D. argenteum
┃┏┫
┃┃┗━D. purpusii2
┗┫
    ┃        ┏━━━━D. califanoi1
    ┃┏━┫
    ┗┫    ┗━D. califanoi2
        ┃
        ┗━━━━D. purpusii3

Edule Clade
┏━━━D. edule1

┃┏━━━━━D. angustifolium1
┫┃
┃┃┏━━━━━━D. angustifolium2
┗┫┃
    ┃┃┏━━━━D. edule2
    ┗┫┃
        ┃┃    ┏━━━D. edule3
        ┗┫┏┫
            ┃┃┗━━━D. edule4
            ┃┃
            ┗┫        ┏━D. edule5
                ┃    ┏┫
                ┃    ┃┗━━━━D. edule6
                ┗━┫
                        ┃┏━━D. edule7
                        ┗┫
                            ┗D. edule8

Spinulosum Clade
                        ┏D. rzedowskii1
            ┏━━┫
            ┃        ┗D. rzedowskii2
┏━━┫
┃        ┃    ┏━D. spinulosum1
┃        ┗━┫
┫                ┗━━D. spinulosum2

┃            ┏━━D. mejiae1
┗━━━┫
                ┗━D. mejiae2


更新世の進化
遺伝子解析は遺伝子の変化の速度を計算することにより、どのくらい前に種同士が分かれたのかを推測することも出来ます。その推測によると、中新世後期にSpinulosum Cladeと他3Cladeが分かれ、更新世に各Cladeは急激に種類が増えたことが示唆されています。これは、一体どういうことなのでしょう?
更新世は新生代第四紀の約258万年前から約1万年前までの時代です。更新世は氷期と氷期の間の暖かい間氷期を15回繰り返しました。どうやら、この氷期の繰り返しがDioonの急激な進化に関係があるようです。
気温の急激な上昇は植物層の標高を上げます。分かりにくいので、日本の植物で例えましょう。例えば、氷期で寒かった時期に、本州に寒帯~亜寒帯の植物が分布を拡大しました。しかし、やがて温暖な間氷期が訪れると、寒帯~亜寒帯の植物は育つことが出来なくなり、山を登りはじめます。山は標高が高くなるほど気温が低下しますから、適した低い気温の標高に分布するようになります。これらの植物を私達は高山植物と呼んでいるのです。この時、高山植物はもはや平地では育ちませんから、違う山同士の植物で交配出来なくなります。つまり、それぞれの山で孤立し交わらないため、山ごとに異なる進化をして別種になっていくのです。
どうやらDioonも同じで、氷期と間氷期の繰り返しにより、標高が上がると孤立し、標高が下がると分布を拡げるということが、急速な種類の増加に繋がっていると考えられるのです。Dioonは高山植物ではありませんが、育つのに適した気温があります。暖かくなりすぎれば、最適な気温帯を求めて山を登りはじめるのです。
ソテツは生きた化石と呼ばれますが、Dioonに関しては非常に新しい種類ばかりであることがわかりました。更新世は258万年前からですから、あるいはすごい昔のような気もしてしまいますが、数億年前に誕生したソテツからみたら最近の話です。まあ、
人類誕生が600~700万年前と考えられていますから、人類よりもDioonの方が新顔です。もちろん、Dioonの祖先の誕生はさらに古い時代ですけど、生きた化石の急激な進化は意外性があります。ただの遺伝子解析による種類の遠近だけではなく、進化の理由まで考察する大変面白い論考でした。こういう良い論文があると紹介しがいがありますね。



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フロリダソテツあるいはフロリダザミアは名前の通りフロリダに分布するソテツです。一般的にはZamia floridanaの学名で苗が販売されています。しかし、現在のところ学術的に認められているフロリダソテツの学名はZamia integrifoliaです。これはイギリス王立植物園のデータベースを根拠としています。そして、私もことあるごとにそう主張してきました。ただし、そう言うのもイギリス王立植物園がそう主張しているからというだけではなく、ちゃんとその理由もあります。それは、国際命名規約にある、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」をもとにしています。
簡単に結論だけまとめると、Z. floridanaの命名よりZ. integrifoliaの命名の方が早いというだけの話です。しかし、このことについて過去に疑義が提出されていることに気が付きました。しかも、その疑義に対する回答を提案している論文まで見つけました。果たして、一体何が問題だったのでしょうか? また、それに対する回答案とはどのようなものだったのでしょうか?

DSC_1976
Zamia floridanaか?Zamia integrifoliaか?

先ずは、Z. integrifoliaに対する疑義を提出した2009年のDaniel B. Wardの論文、『ZAMIA FLORIDANA (ZAMIACEAE), THE CORRECT NAME OF THE FLORIDA CYCAD』を見てみましょう。

著者は主張するところによると、Zamia integrifoliaはZamia pumilaの同義語として引用されたため違法な学名であり、Zamia floridanaが正しい学名であるとしています。ことの経緯を説明しましょう。
論文では解説もされず詳細は不明ですが、ニュアンス的にどうやらZ. integrifoliaはZ. pumilaと混同されてきたようです。Stevensonの1987年、1991年の西インド諸島のソテツのレビューでは6種類が区別されており、Z. integrifoliaの学名を採用しているようです。また、Landryの1993年の論文でもZ. integrifoliaの学名をを採用し、Z. pumilaと区別しました。

ここからは、話が少しややこしくなるため、論文の内容に進む前にフロリダソテツの学名について少しまとめます。
フロリダソテツが初めて記載されたのは、1789年のことです。記載はWilliam Aitonによるものです。著者が主張するZ. floridanaは1868年にA. DeCandolleにより記載されました。命名には79年の差があります。

Zamia integrifolia L. f., 1789
Zamia floridana A. DC., 1868

Z. integrifoliaを命名したのは現在の学名のシステムを考案したCarl von Linneの息子のLinne filiusです。この"filius"は名前ではなくて息子という意味ですから、"Linne filius"は「リンネの息子」という意味です。実は親子で同じ名前なのでこのような表現となっています。

さて、論文の内容に戻ります。
どうやら著者はZ. integrifolia=Z. pumilaと捉えているようで、Linne filiusがZ. integrifoliaについて同義語であるZ. pumilaを引用している誤りを犯しているといいます。詳しい経過を追って見てみましょう。
1763年にCarl von LinneがZ. pumilaを命名しました。Linneはラテン語の"Spadix more fructus Cupressi divisus in floscules"という語句を付けました。ラテン語はわからないのですが、「小さく分割された肉質花序、ヒノキより大きい球果」という意味でしょうか?
一方、Linne filiusは父親とは独立してZamiaを研究したようです。Linne filiusはロンドンでWilliam Aitonと仕事をし、執筆の手伝いもしました。Z. integrifoliaが初めて公表されたAitonの1789年の出版「Iortus Kewemis」では、Zamiaの説明はLinne filiusによるものです。Linne filiusはZ. integlifoliaにラテン語で"foliolis subintegerrimis obtusiusciilis miidcis rectis nitidis, stipites inermi"と記しました。ここで重要なのは、"stipites inermi"=「除外された異名」です。Linne filiusはZ. pumilaのみを参照として引用し、これを「除外された異名」と述べました。この除外された異名という文言がフロリダソテツの命名に関する不確実性の起源であると著者は述べています。
著者はフロリダソテツの命名に関する質疑応答を、国際命名規約の特派員とメールでやり取りしました。このあたりのやり取りは、規約に関する話ですから、私にはよく理解できない部分もあります。 しかし、内容的には、Linne filiusの「除外された異名」というワードについての議論が重要なようです。

ここで、また一旦立ち止まってデータベースの資料を漁ってみます。Aitonの1789年の書籍でLinne filiusはZ. integlifolia、Z. furfuracea、Z. debilisを命名しましたが、これらはZ. pumilaから分離されたものかもしれません。ちなみに、この内Z. debilisは現在ではZ. pumilaの異名とされています。


論文の内容に戻ります。どうやら、Linne filiusはZ. pumilaに複数の種が含まれていると考えていたようです。そして、著者はZ. integlifoliaからZ. pumilaが完全に除外出来ていないと考えているようです。しかし、特派員は除外出来ていると捉えており、Z. integlifoliaを異名とすることに慎重な姿勢です。

以上が論文の簡単な要約となります。国際命名規約の特派員とのやりとりは、実際には規約を巡る長い応報や、Linneが実際に植物を見たどうかといった細かい話が長々と続きますが、詳細は割愛させていただきました。最後に著者は、Z. integlifoliaを廃した場合でも、Z. floridana以外の命名もされているため注意が必要であるとして締めています。

長くなりましたが、続いてDaniel B. Wardの主張に対する返答をお示ししましょう。2011年のDennis W. Stevenson & James L. Revealの『(2004) Proposal to conserve the name Zamia integrifolia (Cycadaceae) with conserved type』という論文です。

この論文はZ. integlifoliaからZ. pumilaが排除出来ていることを示しています。特にLinne filiusの「除外された異名」というワードに対して、これをZ. pumilaと分ける重要な情報と捉えているようです。しかし、著者はWardの意見を尊重し、解釈の検討を提案しています。ただし、著者はZ. integlifoliaが長く使用された一般的な名前であり、保存されるべきであると考えています。
もし、Z. integlifoliaが廃された場合、Z. floridanaではなく、Z. media、Z. tenuis、Z. dentataといった学名が優先される可能性があります。しかし、最も古く一般的に使用されるZ. integlifoliaという名前を保存する事により、命名法上の安定性が最大となるとしています。

さて、論文の内容は以上ですが、解説が必要でしょう。実はZ. floridanaの命名より前に幾つかの学名が提案されています。以下に示します。2本目の論文にも出てきたZ. mediaやZ. tenuisがあります。Encephalartos pruniferは関係なさそうですが、Z. integlifoliaと同じ植物に対して命名されているため、この学名も候補です。その場合、Zamia pruniferという名前に変更されます。現在命名されているZamiaの学名と被らなければ有効でしょう。
Zamia integrifolia L. f., 1789
Zamia media Jacq., 1798
Zamia tenuis Willd., 1806
Encephalartos prunifer Sweet, 1839
Zamia floridana A. DC., 1868
 
ちなみに、論文に出てきたZ. dentataは、現在ではZ. pumilaの異名とされているようです。ですから、Z. integlifoliaの代わりにはなりません。
Zamia pumila L., 1763
Zamia dentata Voigt, 1828


さて、現在の学名はどうなっているのかというと、イギリス王立植物園のデータベースでは、Z. floridanaではなくZ. integlifoliaが正式な学名とされています。しかし、注意が必要なのは、学名の後ろに"nom.cons."という表記があることです。
nom.cons.とはラテン語でnomen conservandumの略で、英訳するとconserved nameで、いわゆる保存名(保留名)のことです。保存名とは命名規約によると「広く使用される名前が先取権によりsynonym(異名)として処理されると学名が混乱する場合」に適応される名前です。この場合は、学名がZ. integlifoliaではなくZ. mediaやZ. tenuisとされた場合に混乱が生じかねないとの判断でしょう。

Z. integlifoliaはどうやら、海外でも園芸的にはZ. floridanaの名前で流通しており、それは日本でも同じです。おそらくは、輸入種子もZ. floridanaの名前で輸入されているのでしょう。論文でもZ. integlifoliaとZ. floridanaが混雑しており、好ましいとは言えない状況です。しかし、Z. integlifoliaには疑義があったとしても、Z. floridanaは「流通している名前である」こと以外に使用される必然性がありません。しかし、命名規約上は「先取権の原理」が優先事項ですから、Z. floridanaが今後、正式な学名として採用される可能性は基本的にないと言えます。


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ソテツは起源の古い植物で、同じ裸子植物であるイチョウとともに生きた化石と呼ばれることがあります。このソテツの分類ははっきりせず、図鑑ごとに違ったりもします。細かく分類を分ける場合もありますが、最近は日本のソテツ(蘇鉄)を含むCycas属をソテツ科、Cycas属以外のZamia属などをザミア科とする分類方法もあります。
さて、それでは遺伝的にはどのように分類されるのでしょうか? また、ソテツにはCycas、Zamia、Encephalartos、Macrozamia、Dioon、Stangeriaなど沢山の属がありますが、それぞれの関係性はどのようになっているのでしょう?
本日ご紹介するのは、ソテツの遺伝子を解析して系統関係を探ったK. D. Hill, M. W. Chase, D. W. Stevenson, H. D. Hills & B. Schutzmanによる2003年の論文、『THE FAMILIES AND GENERA OF CYCAD : A MOLECULAR PHYLOGENETIC ANALYSIS OF CYCADOPHYTA BASED ON NUCLEAR AND PLASTID DNA SEQUENCES』です。

論文ではまずソテツについての経緯を示しています。現在の学名のシステムを作ったLinneは、Cycas circinalisとZamia pumilaを記載しましたが、その後は調査の進展により1800年までに7種、1850年までに33種、1900年までに85種が記載されました。 ソテツはソテツ目という単一の目にすべて含まれ、(この論文が書かれた2003年の時点で)3~5科、10~12属、約300種とされています。
分類は変遷を繰り返してきました。ソテツは1789年にde Jussieuによりシダとされましたが、1809年にRichardによりシダとヤシの間にある分類群とされました。1827年のBrownと1829年のBrongniartにより針葉樹との類似性が観察され、これが1830年のLindleyや1843年のLehmannによりより高次の分類群の確立に繋がりました。1837年にRichenbachによりソテツ科からザミア科を分離しましたが、当時は受け入れられなかったようです。1868年にde Candolleはすべてのソテツを1科にまとめました。1959年および1961年にJohnsonはStangeria科を創設し、ソテツ科、ザミア科とあわせて3科とし、後続の研究者もこれに従いました。1981年にStevensonはBowenia科を創設し、StangeriaとBoweniaの間に関連性があるとしました。
その後、1990年にChigua、1998年にEpicycasが新たに記載され、その分類については議論の余地があります。

ソテツ目の分子系統
                                        Bowenia
                                ┏━B. serrulata
                ┏━━━┫
                ┃            ┗━B. spectabilis
                ┃                    Encephalartos
                ┃        ┏━━E. leavifolius
                ┃        ┃
                ┃    ┏┫┏━E. ghellinkii
                ┃    ┃┗┫
            ┏┫    ┃    ┗━E. arenarius
            ┃┃┏┫            Lepidozamia
            ┃┃┃┃    ┏━L. hopei
            ┃┃┃┗━┫
            ┃┃┃        ┗━L. peroffskyana
            ┃┃┃                Macrozamia
        ┏┫┃┃            ┏M. moorei
        ┃┃┗┫        ┏┫
        ┃┃    ┃        ┃┗M. communis
        ┃┃    ┃    ┏┫
        ┃┃    ┃    ┃┗━M. elegans
        ┃┃    ┃┏┫
        ┃┃    ┃┃┗━━M. pauliguilielmi
        ┃┃    ┗┫
        ┃┃        ┗━━━M. fraseri
        ┃┃                        Dioon
        ┃┃                ┏━D. edule
    ┏┫┗━━━━┫
    ┃┃                    ┗━D. tomasellii
    ┃┃                           Ceratozamia
    ┃┃                        ┏━C. miqueliana
    ┃┃┏━━━━━┫
    ┃┃┃                    ┗━C. norstogii
    ┃┃┃                       Chigua
    ┃┃┃            ┏━━━C. restrepoi
    ┃┃┃            ┃       Zamia
    ┃┃┃        ┏┫    ┏━Z. lindenii
┏┫┗┫        ┃┗━┫
┃┃    ┃        ┃        ┗━Z. skinneri
┃┃    ┃    ┏┫
┃┃    ┃    ┃┃        ┏━Z. floridana
┃┃    ┃    ┃┗━━┫
┃┃    ┃┏┫            ┗━Z. pseudo
┃┃    ┃┃┃                     parasitica
┃┃    ┃┃┃
┃┃    ┗┫┗━━━━━Z. paucijuga
┫┃        ┃                   Microcycas
┃┃        ┗━━━━━━M. calocoma
┃┃                               Stangeria
┃┗━━━━━━━━━S. eriopus
┃                                   Cycas
┃                                ┏━C. circinalis
┃                        ┏━┫
┃                        ┃    ┗━C. furfuracea
┗━━━━━━┫
                            ┃    ┏━C. revoluta
                            ┗━┫Epicycas
                                    ┗━E. miquelii


上に示しました分子系統を見ますと、Chigua属はZamia属に、Epicycas属はCycas属に含まれるということです。
①Cycas属
Cycas属は分岐の根元にあり、他のソテツから離れています。分類学的にはCycasとその他のソテツという分け方が妥当かもしれません。Cycas属はインド洋から南アジア、東南アジア、東アジア、ニューギニア島を含まないオセアニアの島嶼部に分布します。

②Stangeria属
Stangeria属はCycasの後に分岐したグループです。しかし、Bowenia属はBowenia属との類似性をStevensonに指摘されていましたが、遺伝子解析ではStangeria属に近縁ではありませんでした。Stangeria属はアフリカに分布します。

③オーストラリアのソテツ
Macrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属は南半球Cladeです。形態学により指摘されてきたLepidozamia属とMacrozamia属の近縁性より、Lepidozamia属とEncephalartos属の方が近縁でした。ただし、Macrozamia属とLepidozamia属はオーストラリアに分布し、Encephalartos属はアフリカに分布します。Encephalartos属は地理的にはかなりの距離がありますから、系統関係にはやや疑問があります。

④アメリカ大陸のソテツ
Microcycas属はZamia属の姉妹群ですが、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属の明確な姉妹群ではありませんが、分析結果では他の属よりは近縁なようです。しかし、形態学的な系統関係の想定よりも、Ceratozamia属はMicrocycas属+Zamia属と遺伝的な違いは大きいようです。しかし、Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属はすべて中央アメリカ周辺に分布します。

⑤Bowenia属、Dioon属
Bowenia属はオーストラリアに分布し、③のMacrozamia属、Lepidozamia属、Encephalartos属に関連性があります。Dioon属はアメリカ大陸に分布しますが、Bowenia属を含むグループの姉妹群としました。
しかし、著者はBowenia属、Stangeria属、Dioon属は、遺伝子解析でもややあやふやな部分があるため、さらなる解析が必要であるとしています。


分かりにくいのでまとめます。

            ┏━━Bowenia
            ┃       (オーストラリア)
        ┏┫    ┏Encephalartos
        ┃┃┏┫(アフリカ大陸)
        ┃┃┃┗Lepidozamia
        ┃┗┫    (オーストラリア)
        ┃    ┗━Macrozamia
        ┃            (オーストラリア)
        ┣━━━Dioon
    ┏┫            (アメリカ大陸)
    ┃┃     ┏━Ceratozamia
    ┃┃     ┃   (アメリカ大陸)
    ┃┗ ━┫┏Microcycas
┏┫         ┗┫(アメリカ大陸)
┃┃             ┗Zamia
┃┃                 (アメリカ大陸)
┫┗━━━━Stangeria
┃                     (アフリカ大陸)
┗━━━━━Cycas
                         (アジアなど)


以上が論文の簡単な要約です。ここからは、私の軽い感想を述べます。
ソテツ目の中で最も祖先的なのはCycas属で、おそらくは熱帯アジアが起源なのでしょう。もちろん、もともと広く地域に分布していて、やがて分布域が減少して残ったのが現在の分布である可能性はあります。化石記録については知らないので、なんとも言えません。
Cycas属の次に現れるStangeria属はアフリカ大陸原産ですが、Cycas属がマダガスカルまで到達していることを考えたらそこまで奇妙な結果ではないのかもしれません。
ここからは2~3グループに別れます。まず、アメリカ大陸に分布するCeratozamia属、Microcycas属、Zamia属は近縁です。アフリカ原産のStangeria属からどのように伝播したのでしょうか。南アメリカ東岸とアフリカ大陸西岸はパズルのようにピッタリ合わせられることが知られていますが、両者はもともと1つでした。ですから、大陸が分離する前にStangeria属あるいはStangeria属の祖先が広く分布しており、分離後にアメリカ大陸で
Ceratozamia属、Microcycas属、Zamia属が進化したのかもしれません。
Dioon属はやや立ち位置が微妙なのでグループを分けました。Dioonも他のアメリカ大陸原産属と同じように進化したのでしょう。
最後にMacrozamia属、
Lepidozamia属、Encephalartos属、Bowenia属ですが、Lepidozamia属、Bowenia属はオーストラリアに分布していますから、近縁なのも分かります。しかし、Encephalartos属がアフリカ原産なのはなぜでしょうか? しかも都合の悪いことに、Bowenia → Macrozamia → Lepidozamia・Encephalartosのように見えますから、まるでオーストラリアからアフリカに派生したかのようです。おそらくは、オーストラリアとアフリカ大陸が1つだった時代の共通祖先が2つに別れたのかもしれませんが判然としません。
どうにもあやふやな部分や伝播が気になります。後続の研究がないか調べてみます。


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Dioon spinulosumは最近販売されるようになったソテツの仲間です。種子のついた苗をたまに園芸店で見かけます。私も苗を園芸店で購入しましたが、以前にD. spinulosumについての記事を書いた際、意外と情報がないことに気が付きました。

とりあえず、D. spinulosumが命名された1883年の論文を探してみましたが、残念ながら見つかりませんでした。まあ、140年近く前の古い論文ですから仕方がないことです。しかし、代わりに1909年に書かれたD. spinulosumについての論文を見つけました。Charles J. Chamberlainの『Dioon spinulosum』です。いや、こちらも100年以上前の古い論文ですけどね。
論文を読むと、当時はDioonはまだ3種類しか見つかっていなかったようです。D. edule、D. spinulosum、D. purpusiiですが、D. purpusiiはほんの数ヶ月前に記載されたばかりで、D. eduleとよく似ていたために間違われてきたとあります。

論文の中では1883年のDioon spinulosumを公表したEichlerの記述について書かれております。しかし、どうやら記載時のD. spinulosumの葉は最大65cmしかないため、まだ若い苗だったのかもしれません。D. spinulosumはメキシコのVera Cruz州Cordobaの苗床由来で、そこのガーデナーによるとTuxtla近くに自生しているとのことです。ただ、この時は球果が見つからなかったので、Dioonであるか疑わしいと思われるかもしれないとEichlerは述べています。
D. spinulosumははじめはDyerにより発見されたようで、産地はProgresoとされています。おそらくは栽培された個体から標本が作られたようです。

補足 : この時(1909年)の学名はDioon spinulosum Dyerとされていることから、EichlerはD. spinulosumをはじめて記載したのはDyerだと考えていたようです。しかし、現在ではDioon spinulosum Dyer ex Eichlerとなっていることから、どうやらDyerの記述は学名を命名する際の要件を満たしていなかったのでしょう。それを、Eichlerが正式に記載したという形になっています。

著者は1906年のメキシコへの旅行中、Vera Cruzの公園でD. spinulosumの小さな個体を見つけましたが、野生個体であるかはわかりませんでした。州捜査局のAlexander M. GawはそのD. spinulosumがVera Cruzの南東部の町Tlacotalpamに由来していることを突き止めました。また、ほとんどの人がD. spinulosumとD. eduleを区別していないことにも気が付きました。

1908年に著者はD. spinulosumを採集するためにメキシコ南部を訪れました。Tuxtepecに向かう途中のTierra Blanca付近でD. spinulosumを沢山見かけるらしく、実際にTierra Blancaの西部と少し北にある山でD. spinulosumを見つけました。南に行くほど沢山生えているという情報があり、実際にTierra Blancaから離れ、Vera Cruzの南約60マイルには非常に豊富で巨大なD. spinulosumが見られました。土地は石灰岩地でD. spinulosumは日陰を好むようです。

Tierra Blancaの南西部約40マイルのPapaloapam川沿いの町Tuxtepecから、半日ほど馬に乗ると豊富なD. spinulosumがある山に着きました。場所によってはD. spinulosumが唯一の大型植物であり、Dioonの森と言っても過言ではありませんでした。今回の調査では高さ12mのD. spinulosumを発見しましたが、BarnesとLandは著者の数ヶ月後にTierra Blancaを訪れ高さ16mのD. spinulosumを発見したということです。著者は、「細い幹と優雅な曲線を描く葉は、Dioon eduleのずんぐりした幹と堅くまっすぐ上の伸びる葉とは対照的」と称します。
DSC_1964
Dioon spinulosum
(1909, C. J. Chamberlain)


幹の表面の畝模様は樹冠により形成されるため、樹齢を推測する根拠となります。これは、D. eduleは明瞭で樹冠が2年持つことがすでに明らかであるため、幹を見ればD. eduleの樹齢がわかるというものです。しかし、D. spinulosumは幹の表面の畝模様が不明瞭でありそもそもはっきりしないだけではなく、D. eduleのように樹冠が2年持つのか不明ですから、D. spinulosumの樹齢の根拠にはならないかもしれません。それでも、D. eduleよりもD. spinulosumは生長が早い可能性があり、最大個体でも樹齢400年は超えないのではないかと著者は考えております。著者はD. spinulosumの10mの個体は、D. eduleの1mの個体より若いのではないかと感じているようです。

D. spinulosumは急峻な崖地に生えるものは、根が岩に沿って垂れ下がり、12m以上地上に露出することもあります。
幹はD. eduleほど硬くないとのことです。
Eichlerの観察では長さ65cmの葉では小葉は片側で38枚、Dyerの観察では1mの葉で小葉は片側で70枚でした。高さ2m以上で葉のサイズは最大になりますが、フルサイズの葉は2.2mとなり片側117枚の小葉があります。
DSC_1965
Dioon spinulosumの小葉とトゲ
(1909, C. J. Chamberlain)

DSC_1971
我が家のDioon spinulosum
小葉はまだ片側17枚に過ぎません。


_20221115_144233
Dioon spinulosumの巨大な球果
(1909, B. J. Chamberlain)
球果は裸子植物最大で、3月頃に最大15kgに達します。

以上が論文の簡単な要約となります。まだ、Dioon spinulosumの報告から年月が経っていないこともあり、著者も確かめながらの探索的な内容となっています。「半日馬に乗って」という表現を見ると、そのような時代の論文かと改めて思いました。しかし、このような古い論文が残っていること、さらにはPDF化して保存と公開をしてくれた方には多大な感謝を述べなくてはならないでしょう。


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日本に生えるソテツ(蘇鉄、Cycas revoluta)は、針葉樹やイチョウなどと同じく裸子植物です。身近な針葉樹と言えば杉や桧ですが、花粉症の原因となり問題となっています。これは杉や桧が風媒花であることが重要です。風媒花は文字通りの風任せなため、数打ちゃ当たるの戦法で大量の花粉を撒き散らす必要があるのです。
DSC_1416
Cycas revoluta

植物の進化は陸上に上陸後、コケ植物→シダ植物→裸子植物→被子植物という順番でした。被子植物の登場により、昆虫に受粉してもらうための目立つ花が登場しました。針葉樹の花が目立たないのは、昆虫にアピールする必要がないからです。同じように、イネ科やカヤツリグサ科の植物の花も風媒花なため、非常に目立たない地味な花です。ですから、裸子植物は虫媒花ではなく、風媒花とされてきました。
しかし、1986年に海外のソテツであるZamia furfuraceaがゾウムシにより受粉されることが報告されました。それ以来、1987年にZamia pumilaがゾウムシとアザミウマにより受粉されるとし、1993年にはMacrozamia、1995年にはEncephalartos、2002年にはBowenia、2004年にはLepidozamiaについて昆虫による受粉が確認されました。
ソテツ類の分類は、裸子植物ソテツ綱ソテツ目です。科は2つか3つとするのがスタンダードですが、今回はソテツ科とザミア科の2つに分ける分類を採用します。ソテツ科はソテツ属(Cycas)の1属で約100種類からなり、ザミア科は9~10属で約200種類からなります。1986年以来のソテツの虫媒花の発見は、すべてザミア科によるものでした。ソテツ科は虫媒花の可能性について指摘されることはありましたが、確実性のある研究はこれまでありませんでした。日本に生えるCycas revolutaについては風媒花と考えられて来ました。

今回ご紹介するのは、Cycas revolutaの虫媒花の可能性を探った2007年の『IS CYCAS REVOLUTA (CYCADACEAE) WIND- OR INSECT-POLLINATED?』です。著者は京都大学のMasumi Kono & Hiroshi Tobeです。
まず、最近の研究によるとCycas revolutaの自然の自生地では受粉は雨季であり、風媒花にとっては不利です。また、受粉時に花から揮発性の強い臭いが放出されることが知られています。
研究は沖縄県与那国島において行われました。Cycas revolutaは雌雄異株で、雄株は1~2年、雌株は2~3年ごとに開花します。観察は2004年の5~6月で、頻繁に雨が降っていたにも関わらず受粉しました。
Cycas revolutaの花で採取された昆虫は、雄株ではカネタタキ(Ornebius kanetataki)、フタスジシュロゾウムシ(Derelomus bicarinatus)、アミメヒラタゴキブリ(Onychostylus notulatus)でした。雌株ではクロハナケシキスイ(Carpophilus chalybeus)、キバナガヒラタケシキスイ(Epuraea mandibularis)、オキナワゴボウゾウムシ(Larinus latissimus)が豊富でした。
受粉の1ヶ月後、雌の花にはクロハナケシキスイ、キバナガヒラタケシキスイ、オキナワゴボウゾウムシが頻繁に観察されました。ゴキブリやダンゴムシ、ヨコバイ、ムカデ、クモ、サソリ、トカゲも見られましたが、隠れるための一時的なものであると見なされました。自然に受粉した18個体中の15個体にはケシキスイが繁殖し幼虫も見られました。
ケシキスイの幼虫に最大10.5%が食害されていましたが、この場合でも146個の種子を作りました。
捕獲したケシキスイを電子顕微鏡で観察したところ、Cycas revolutaの花粉が付着していることが確認されました。

昆虫が訪れるのを網で防いだ場合でも、雄株と雌株の距離が2m以内の場合では約100個の種子を作りました。ですから、風媒により受粉するのは間違いありません。しかし、距離が2mを超えると受粉効率は著しく減少しました。つまりは、距離が近い場合には風媒が有効ですが、距離が遠い場合は虫媒により受粉するということです。

以上が論文の内容となります。著者はCycas revolutaが虫媒の初期段階にある可能性を指摘しています。風媒花から虫媒花へ、その両方へ跨がる受粉形式は例をみない奇妙なものです。昆虫に対する報酬も、蜜や花粉ではなく、花(胚)自体が食害によりダメージを受けるという不完全なものです。しかし、花の進化というものを考えた時に、Cycas revolutaの奇妙な受粉形式はその過渡期にあるものとして重要な意味を持つのかもしれませんね。


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最近、ザミアZamiaという名前のソテツが園芸店に出回るようになりました。主に見かけるのは、Zamia pumilaとZamia floridanaです。しかし、実はこの学名は間違っており、Zamia pumilaは国内では基本的に販売されておりません。Z. pumilaの名前で販売されている、葉か肉厚で判別の先端が丸みを帯びているソテツはZamia furfuraceaです。このことについて書いた記事は、私の書いた記事の中では人気があります。たまに、正しいフルフラケアの名前で売られることもありますから、混乱している人も多いのでしょう。記事では海外のサイト等を参照としていましたが、最近フルフラケアについて書かれたいくつかの論文で写真を確認しましたから、やはり私の推測は正しかったようです。
お次はZ. floridanaですが、こちらもやはり学名は誤りです。Zamia integrifoliaが正しい学名です。学名は国際命名規約により、先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」があります。Z. integrifoliaはZ. floridanaの79年前に既に命名されていますから、どう考えてもZ. integrifoliaが正しい学名です。詳しくは以下の記事をご参照ください。
さて、実はというわけではないのですが、私はフロリダナ、ではなくインテグリフォリアの苗を育てています。ところが、遮光せずに外に出したところ、1枚しかない葉が日焼けして丸坊主になってしまいました。仕方がないので、ハウォルチアの棚に避難させていたところ、立て続けに3枚の葉が伸びてきました。葉をやられたからでしょうけど、春から夏にかけて新葉を出さなかったのにとは思いましたけど。しかし、やはり日照が足りない様にも感じました。というのも、新しい葉が、以前より大きくなったからです。葉が大きくなると生長しただけに思えますが、それだけではありません。一般論ですが、日向で植物を育てると葉は厚く小さくなり、日陰では葉は薄く大きくなる傾向があります。これは一応理屈があり、強い光が当たると厚みのある葉でも内部まで光が入ってくるので、葉の内部でも光合成出来ますから葉は分厚くなります。逆に弱い光では厚みのある葉では内部まで光が到達しないので、葉の内部では光合成が出来ません。そうなると、厚みのある葉は無駄が多いので薄い葉を出すことになりますが、光合成できる細胞が減ってしまいますから、葉の面積を大きくする事で対応するのです。ですから、葉が大きくなったので日照不足を心配してしまうのです。

DSC_1787
Zamia integrifolia

そんな悩みを抱えていた昨今、何気なくザミアの論文を検索してみたところ、なんとザミアの育て方に関する論文を発見しました。いやはや、なんでも探せばあるものですね。さて、そんなことで、本日ご紹介する論文は2004年に発表されたF. C. Almira, A. E. Dudeck, and B. Schutzmanの『Effects of Varying Shade and Fertilizer on the Growth of Zamia floridana A. DC. B. Dehgan』です。タイトルを見ておや?と思った方もおられるでしょうが、この論文ではZamia floridanaとなっています。まあ、古い論文では異名がまかり通ることは割とある話です。しかし、イギリス王立植物園が主宰する『
Plants of the World Online』ではZamia integrifoliaが正しい学名であるその根拠を、ニューヨーク植物園が2012年に出版した『The world list of Cycad.』をもって承認しています。論文が出された2004年当時はZamia floridanaとされることがポピュラーだったのかもしれませんね。さて、前置きが長くなりましたが、早速内容を見てみましょう。

ソテツ類は世界中で絶滅の危機にさらされています。当然、開拓や開発による自生地の消滅も問題ですが、残念なことに盗掘による個体の減少も頭の痛い問題となっております。ですから、環境保護だけではソテツ類の野生個体の減少を止めることは難しいと考えられています。そのため、ソテツが簡単に入手可能となって採取の被害を抑えるという考え方は昔から繰り返し主張されており、ソテツの人工繁殖を効率的に行い大量に流通させることが目指されており、実際にそのような論文も出されているようです。しかし、増やすことは研究されているものの、増やしたソテツをどのように育てるかは研究されて来ませんでした。流通させるためには繁殖だけでは駄目で、園芸農場で育成する必要がある以上は育て方も重要です。
若い
ソテツは自然状態では親植物などの陰で育つ個体が多く、直射日光が当たるオープンな環境では実生を見かけません。若い苗のうちは遮光が必要である可能性があります。また、ソテツの栄養要求性はまったくの不明です。このような背景があるため、論文ではZ. floridana(=Z. integrifolia)をモデルとして使用し、遮光と肥料の効果について検証しています。

ザミアは1歳の苗木を用い、条件を揃えるために根を切除してから新たに出根させた後、3ヶ月育成しました。遮光の条件は30%と50%と無遮光です。苗木には隔週で、20-20-20の液肥(Peters溶液)、あるいは18-6-12の置肥(Osmocote顆粒)、16-8-12の置肥(Sierraタブレット)を与えられました。この3つの数字の組み合わせは、肥料の成分比で、一般的にN-P-K、つまりは窒素-リン-カリウムを示します。園芸店で販売している化成肥料にも、この構成比は書かれています。試験の評価方法は、試験開始から8ヶ月後、冬が始まる前に葉のサイズや枚数、塊根のサイズ、地上部と根の重量が測定されました。
結果として遮光は効果的です。ただし、50%遮光は葉の長さは最大でしたが、葉の枚数は30%遮光が最大でした。葉のサイズは日陰への適応ですから、あまり好ましい結果ではないでしょう。しかし、葉の枚数は生長に従い増えますから、30%遮光が条件としては最適ということになります。
肥料はその種類に関わらず効果的でした。個人的にはソテツ類は生長が遅いため、それほど肥料の恩恵は受けないのではないかと考えていました。しかも、ソテツ類はマメ科植物と同様に根粒があり、空気中の窒素を固定して栄養源にできますから、肥料要らずと勘違いしていました。下手に肥料なんてあげたら腐るかもしれないなんて思っていましたが、どうやら肥培に努めた方が良いみたいです。



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ザミア・フルフラケアZamia furfuraceaの花芽があがってきました。花芽が伸びはじめてから咲くまでを記事にしようと思っていましたが、中々咲かないのでまだ咲きませんが記事にします。

DSC_1557
フラッシュも一段落し、新葉が美しい季節です。良く見ると塊根の先端が膨らんでいます。まさか、また新芽かと思いきや…

DSC_1555
これは蕾ですね。小苗を入手してから10年以上育てていますが、初めてのことです。植え替えした方が生長が早いのは知っていますが、5年おきくらいのタイミングでしか植え替えをしないので生長は遅いでしょうけど。

DSC_1556
7月16日。まだまだ小さい。

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7月24日

DSC_1655
8月6日。だいぶ膨らんで、茎が伸びてきました。
しかし、茎はまだ伸びる感じですから、まだまだ咲きません。とは言うものの、交配相手がいないので咲いても種は取れませんけどね。

そういえば、ソテツと言えばクロマダラソテツシジミという名前の、ソテツの若葉を食害するシジミ蝶がいます。もともとは東南アジア原産でしたが、2007年くらいから関西でも定着したみたいです。しかし、温暖化の影響かいつの間にやら、最近では神奈川、東京、埼玉、千葉あたりでも発見されています。私の所有ソテツたちもいつかやられないか心配です。
しかし、昆虫マニアの人達がその蝶を探しているみたいですが、どうやらソテツとヤシの区別がついていないらしく、近所のソテツ(どう見てもヤシ)では見られないとか書いてありました。まあ、そりゃあヤシにはつかないでしょうね。興味がない人には同じようなものなのでしょうか?




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日本産のソテツがフラッシュしました。Zamia furfuraceaとDioon spinulosumに続いてのフラッシュです。しかし、海外産のソテツの方が早いとは…。


DSC_1364
5月28日。
フラッシュ開始。

DSC_1390
2022年6月4日
一気に新芽が伸びてきました。

DSC_1416
2022年6月12日
柔らかく美しい新葉。


日本産のソテツは九州が北限ですが、雪が降ることもある地域でも鑑賞用に植栽されます。ソテツの仲間は熱帯~亜熱帯気候に多いため、温帯域にも自生する日本のソテツはソテツの仲間でもトップクラスの耐寒性を持つと言えます。

ソテツの学名は1782年に命名されたCycas revoluta Thunb.です。thunbはスウェーデンのCarl Peter Thunbergのことです。ThunbergはCarl von Linneの弟子で、鎖国期の日本に滞在したことで有名です。
ソテツの異名は、1867年に命名されたCycas inermis Oudem.、1900年に命名されたCycas miquelii Warb.、1998年に命名されたEpicycas miquelii (Warb.) de Laub.が知られています。

過去に書いたソテツの記事はこちら。

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蘇鉄のすべて
栄 喜久元


我が家のソテツでは、ザミア・フルフラケアが今年初のフラッシュを開始しています。そして、ザミア・フルフラケアに続いて、ディオーン・スピヌロスムがフラッシュを開始しました。

ディオーン・スピヌロスムはメキシコ原産のソテツの一種です。Giant dioonという英語名が示す様に、最大10mを越える高さとなる世界最大のソテツです。日本でも最近はたまに園芸店で販売していたりします。同じくメキシコ原産のザミアフルフラケアやザミア・インテグリフォリアが流通しつつあり、もしかしたらソテツ・ブームが来つつあるのかもしれません。

DSC_0539
2021年9月
購入時。葉は光沢がありますが、新しい葉は白い粉で保護されています。

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白い粉がとれた光沢のある葉。

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2022年5月22日
フラッシュが始まりました。
右下の丸いものは種子。

DSC_1361
2022年5月28日
ゆっくり展開中。
小葉の数は15枚位ありそうです。

DSC_1384
2022年6月4日

しかし、ディオーン・スピヌロスムは情報が少なく、しかも情報の質が良くないですね。
例えばディオーン・スピヌロスムで検索すると、モルッカソテツとか書いてあります。では、逆にモルッカソテツで検索すると、ディオーン・スピヌロスムがそこそこヒットします。しかし、モルッカソテツのモルッカは、インドネシアのモルッカ諸島のことですから、メキシコ原産のディオーン・スピヌロスムとは関係がありません。東南アジアのソテツ類をナンヨウソテツとかモルッカソテツと呼んだことから、それがやがて海外産のソテツの総称として使われて、いつの間にかディオーン・スピヌロスムを示すという勘違いが一般化したのではないでしょうか。

育て方は良くわかりません。販売サイトの言うところの"レースのカーテンごし"であるとか、"霧吹きで葉水"という、植物種に関係なくまったく同じ文言だったりする育て方は、まったく信用出来ません。
では、原産地の情報を見てみましょう。調べてみると、熱帯雨林だが石灰岩地の崖や岩の丘陵地帯に自生するとあります。ようするに礫地に生えるわけで、排水が良い土壌が良さそうです。しかし、熱帯雨林に生えますから、水を好むような気もします。水捌けの良い用土で植えて、極端に乾かしすぎない様に、といったところでしょうか?

原産地の写真を見ていると、大概はジャングルの中に生えており、他の樹木の陰になっている雰囲気があります。しかし、写真だけではでは、はっきりとはわかりません。崖に生えるものは強光線を浴びている可能性もあります。実際の日照条件はどうでしょうか。
一般的に広葉樹は、深い色合いの葉を持つ植物は日陰向きで、明るい葉色なら明るい場所に生えるという傾向があります。ディオーン・スピヌロスムは濃い緑色の葉を持ちますから、直射日光に当てない方がいい様な気もします。しかし、日本のソテツ(Cycas revoluta)などは、やはり崖地に自生しており強光線に耐えますが、葉は深い緑色です。ソテツは裸子植物ですから、広葉樹の傾向は当てはまらないのかもしれません。
次にディオーン・スピヌロスムの新しい葉は、白い粉に被われています。こうしたものは強い日照に耐えるためであったりします。ディオーン・スピヌロスムもそうなのでしょうか。まだ弱い新葉を保護するためのものであることは間違いありません。
ちなみに、温暖地の庭に植栽されたディオーン・スピヌロスムは、特に日よけもなく周囲に何もない芝地で育てられていたりします。日照を好むのかどうかとか、最適条件は何かはわかりませんが、強光線に耐性があることは間違いないようです。実際に私も遮光はしていません。

耐寒性については、これまた難しいところです。マイナス5℃までと書いてあるサイトもあり、結構耐寒性はありそうです。私が育てているディオーン・スピヌロスムは、明らかに苗なので、耐寒性は期待出来ないでしょう。植物は基本的に大なり小なり大型の方が耐寒性が上がります。逆に苗は耐寒性がなくてすぐにやられてしまいがちです。
海外のサイトの情報ではアメリカのhardiness zoneが書いてありました。hardiness zoneは農作物の育つ気温を地図上に落としこんだものですが、非常に便利なので観葉植物を育てる時の指標としても盛んに使われています。アメリカのhardiness zoneであるUSDA zoneよると、ディオーン・スピヌロスムは9B~11とのことです。9Bはマイナス3.9℃からマイナス1.1℃ですから、耐霜性はありそうです。しかし、私の住む地域はマイナス5℃以下になりますから、なかなか厳しいかもしれません。いずれにせよ、冬は家の中に取り込みます。

ディオーン・スピヌロスムの学名は1883年に命名された、Dioon spinulosum Dyer ex Eichlerです。
Dyerはイギリスの植物学者であるSir William Turner Thiselton Dyerのことで、キュー王立植物園の3代目の園長です。Eichlerはドイツの植物学者であるAugust Wilhelm Eichlerのことで、裸子植物と被子植物、単子葉と双子葉をわけたことで知られています。"ex"が付きますが、この場合はDyerが命名したものの正式に発表されていないだとか、命名の要件を満たしていないだとか何らかの事情があったのでしょう。そこで、Eichlerが正式に発表したということになります。


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ソテツの仲間は、一年に1~2回しか新芽を出しません。場合によっては新芽が出ない年もあると聞きます。ですから、ソテツが新芽を吹く今の時期は、ソテツファンにとっては最も喜ばしいのです。そこで、ソテツ業界ではソテツが新芽を吹くことを、"フラッシュ"と呼んで祝福するのです。
私の育てているソテツの中ではザミア・フルフラケアが、今年で一番早い初フラッシュが始まりました。


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4月30日。美しい黄金の毛に覆われた新芽。

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5月15日。ゆっくり展開中。

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ザミア・プミラZamia pumilaとザミア・フルフラケアZamia furfuraceaはよく混同されますが、国内で流通しているのはフルフラケアです。残念ながら、国内ではフルフラケアはプミラという誤った名札付きで売られることがほとんどです。海外の園芸サイトではプミラとフルフラケアの混同はほとんどないので、日本国内特有の事情のようです。古い園芸図鑑を見ると、いくつかの図鑑ではフルフラケアの同じ写真が使われていて、解説にプミラと書かれているため、国内の混乱の原因はこれが元なのではと疑っています。

フルフラケアの葉は幅が広く先端は鈍角で、葉は厚みがあり黄色から褐色の毛が生えています。プミラの葉は細長く先端は尖りますから見分けは簡単です。
実際の自生地の写真を見てみれば一目瞭然です。
こちらはメキシコで撮影されたフルフラケア。
https://www.gbif.org/ja/occurrence/4034640026
こちらはプエルトリコで撮影されたプミラ。
https://www.gbif.org/occurrence/3759066079
まったく似ていないのに、なんで混同されているのかわかりません。とても不思議です。
ちなみに下の写真は、神代植物公園のザミア・フルフラケアという名札付きのソテツ。
DSC_1126
Zamia furfuracea(神代植物公園の大温室)

ちなみに、図鑑やサイトなどに小葉の枚数が書いてありますが、これは昔のいい加減な図鑑からの引用なので種類の判別には使えません。だいたい似た感じなので、伝言ゲーム方式で伝えられてきた秘伝情報みたいなものなのでしょう。
実際に育ててみればわかりますが、ソテツは大きくなると葉が長くなり、小葉も増えていきます。育てていれば、確実に言われているより小葉の枚数を越えます。これは、プミラにもフルフラケアにも言えることです。何でも実際にやってみないとわからないことって、この情報化社会でもまだまだあるみたいですね。

そういえば、最近良く見るザミア・フロリダーナZamia floridanaも実は異名で、ザミア・インテグリフォリアZamia integrifoliaが正式な学名だったりします。いったいどういったことなんでしょうね。いい加減な感じがして、嫌になります。


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最近、ミニ多肉植物のコーナーで、様々な多肉植物とともにザミア・フロリダーナという海外原産のソテツの苗が売られているのを見ます。私も購入して育てていますが、よくよく調べてみると学名は様々な変遷を辿ってきたようです。

フロリダーナという名前は、1868年に命名されたZamia floridana A.DC.から始まりました。また、1791年に命名されたZamia angustifolia Jacq.の変種として、1878年に命名されたZamia angustifolia var. floridana (A.DC.) Regalとされたことがあります。パルミフォリウム属とされたこともありますが、フロリダヌムと語尾が変化しています。すなわち、1891年に命名されたPalmifolium floridanum (A.DC.) Kuntzeがあります。

さらに、フロリダーナ以外の種小名の場合もあります。1798年に命名されたZamia media Jacq.、1806年のZamia tenuis Willd.、1829年のZamia dentata Voigt、1921年のZamia umbrosa Small、1926年のZamia silvicola Small1932年のZamia subcoriacea H.L.Wendl. ex J.Schust.がありました。
これらは、現在ではフロリダーナと同種とされていますが、沢山の種にわかれていると考えられていたのかもしれません。さらに、1891年にKuntzeによりPalmifolium属とされました。すなわち、Palmifolium media (Jacq.) KuntzePalmifolium tenuis (Willd.) Kuntzeですが、Palmifolium属は現在は存在しない属名です。また、変わったところでは、1939年にはエンケファラルトス属とする、Encephalartos prunifer Sweetとする学名もありました。

ここからが本題です。私もフロリダーナという学名を当たり前のように使っていたのですが、これは上記のごとく1868年の命名です。学名は先に命名されたほうが優先というルールがありますが、フロリダーナ以外の学名のほうが早いことに気がつきます。上記で一番早いのは、1798年のザミアメディアです。では、ザミア・メディアが正式学名かというと、実はそれも違います。実は1789年Zamia integrifolia L.f.が命名されているのです。この、ザミア・インテグリフォリアが現在学術的に認められている正式な学名です。一番有名なフロリダーナは異名です。なぜ、フロリダーナのほうで定着してしまっているのかは、良くわかりません。しかし、園芸的な通称としてフロリダーナと呼ばれるのは構わないでしょうが、正式な学名はインテグリフォリアですから、間違わない様にしましょう。

DSC_0543
ザミア・インテグリフォリア
Zamia integrifolia


他のザミアについての記事はこちら。


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ソテツ(Cycas revoluta)は中国南東部から南西諸島を経て日本まで分布する、ソテツ科の植物です。日本では沖縄から宮崎県まで自生地があります。ソテツ類は熱帯から亜熱帯に生える南方系の植物なので、日本のソテツはかなり北方に生えるソテツ類と言えます。
しかし、栽培した場合は霜が降りて雪が多少降っても大丈夫なため、関東地方でも地植えで育ちます。古い民家の玄関先に背丈を越える立派なソテツが植えられていることも、珍しいことではありません。

DSC_0398
ソテツ

上の写真のソテツは、私が30年ほど育てている株です。購入時、茎が数cmで種子は着いていなかったのでカキコだったのでしょう。ずっと鉢栽培で、植えかえも限界まで行わないため、あまり大きくなりません。ソテツ類は地植えすると生長が早いというのは有名な話です。
見ての通り葉の痛みが激しいのですが、これは根詰まりによるものです。鉢が崩れて来るまで植えかえしなければこうなります。写真は植えかえ後なので、新しい葉はきれいです。


DSC_0637
茎部

傷んだ葉を取り除きました。ソテツは葉が完全に枯れるまで切らないほうがいいのですが、今回は仕方がないということで。

そう言えばソテツはCycas属ですが、一般にこれをサイカスと読んでいるみたいですね。Cycasの名前の元は、ギリシアの哲学者テオフラストスがエジプトのドームヤシにつけたギリシア語のkoikasが由来とのことです。なぜドームヤシの名前がソテツの名前に変わってしまったかはわかりません。さらに、このkoikasが書き間違えられて、kykasとなりCycasとして採用されたわけです。サイカスという読み方は、大元のkoikasから見た場合は正しいと言えなくもありません。

しかし、植物分類学ではラテン語読みが基本ですので、Cycasは「キカス」が正当な読み方です。ただ、キカスはやや間が抜けた感じがしますから、サイカスのほうが言いやすいし格好良いかんじです。まあ、Cをサ行読みはおかしいわけですけど。ca,ci,cu,ce,coは、サシスセソではなく、カキクケコなはずなんですけどね。何故か英語圏では、学名は英語ではないのに英語読みされたりします。英語読みは法則性がなくて初見では読めないので困ってしまいます。

他のソテツ類の記事はこちら。

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蘇鉄のすべて
栄 喜久元






ザミアの種類

最近、海外のソテツが販売されているのを、園芸店で目にします。代表格はザミア(Zamia)という、北米産のソテツです。
ネット含め、国内で主に販売されているのは3種類。

プミラ(Z.pumila)
フロリダーナ(Z.floridana)
フルフラケア(Z.furfuracea)

ところが、この内プミラとフルフラケアの区別がつかないんです。フロリダーナは葉が細く全体に華奢なので、簡単に区別できるのですが、プミラとフルフラケアは葉の幅が広く肉厚で短い毛の様な繊維をまとっています。まったく同じ特徴です。

園芸店で最近見かける長田カクタスさんの小苗は、フロリダーナとフルフラケアという名で販売されています。じゃあ、プミラって何者?ということで、少し調べてみました。

DSC_0543
フロリダーナの苗

図鑑

山と溪谷社の『山溪カラー名鑑 観葉植物』(1991)では、プミラとフロリダーナが紹介されています。写真はプミラですが、これはフルフラケアと区別がつきません。 

小学舘の『園芸植物大事典』(1994)では、やはりプミラとフロリダーナで写真入りです。何とこのプミラの写真は山と溪谷社のものとまったく同じ写真じゃあないですか。やはり、区別はつきません。

ここまでプミラばかりで、フルフラケアが出てきません。逆にフルフラケアがわからない感じです。

平凡社の『世界有用植物事典』(1989)では、フルフラケアとフロリダーナが記載されております。写真はありませんが。はじめて出てきたフルフラケアは、ヒロハザミアという和名がついています。葉の幅が3.5cmと、確かにヒロハザミアの名前の通りです。

上の2冊はあまり特徴を記載しておりません。やはり、プミラが怪しい。

論文

新種の発見時には詳しい特徴が論文に記載されるはずです。なので、プミラとフルフラケアの記載された時の論文を探してみましたが、見つけられませんでした。
これは、ネットでヒットするのは、ネットが普及したあとの論文だけだからです。誰か親切な人がスキャナーで取り込んでPDF化してくれいればいいんですけどね。 

ちなみに、『Native cycad coontie』という論文では、プミラの写真が小さく掲載されておりましたが、葉は細長く日本では見たことがない形でした。ただし、写真が小さいので何とも言えない感じはまだあります。

海外のサイト

これは直接の証明にはなりませんが、英語のサイトはアメリカ人のみだけではなく世界中の人がアクセスします。要するに、日本以外がどうなっているのか気になるところです。

幾つかのサイトを見てみました。その結果、日本で販売されている葉の幅が広いザミアはフルフラケア、プミラは日本では見たことがないものでした。

『FLORA & FAUNA WEB』では特徴が細かく書かれています。
プミラ→a feathery like appearance、要するに鳥の羽の様に葉が並んでいるということです。 

フルフラケア→Leaflets are leathery, obovate to oblanceolate shaped, margin slighly toothed and covered in yellowish brown hairs.
葉は革のようで、細い卵型、黄色から茶色の毛に覆われいる。

どうでしょうか。日本で販売されているのは、プミラではなくフルフラケアの様な気がしてきましたね。

GBIF

Gbifというサイトに、大学、博物館、植物園の収集した植物標本が掲載されていることに気がつきました。普段は学名の確認のために利用しているので、今まで気が付きませんでした。
検索してみると、やはり日本で販売されているのはフルフラケアで、プミラはフロリダーナほどではないですが細長い葉がぎっしり並んでいます。海外の園芸サイトの説明の通りでした。

ちなみに標本は、スミソニアン博物館、フロリダ自然史博物館、テネシー大学植物園、ニューヨーク植物園の収集品で確認しました。

和名

国内の販売サイトでは、プミラ=ヒロハザミアとなっていますが、特徴からみても間違いです。ヒロハザミア=フルフラケアです。同様にプミラ=メキシコソテツも間違い。正しくは以下の通り。

プミラ→ヒメザミア
フルフラケア→ヒロハザミア、メキシコソテツ
フロリダーナ→フロリダザミア

結論

国内で販売されているザミアは、主にフロリダーナとフルフラケア。
葉の幅が広くて厚みがあり、葉の表面に毛が生えていればフルフラケア。
この混乱は日本国内だけの問題であることから、図鑑の写真が間違っており、そこから誤った名前が広がったのではないでしょうか。

DSC_0397
ヒロハザミア Zamia furfuracea

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