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カテゴリ: 植物学

以前、CAM植物について簡単にまとめた記事を書いたことがあります。CAMとは光合成の方法の1つで、蒸散を抑えるために夜間に二酸化炭素を取り込み、リンゴ酸に変換して貯蔵する仕組みです。CAMという名前は、ベンケイソウ型有機酸代謝(Crassulacean Acid Metabolism)の略ですから、エケベリアやセダムなどのベンケイソウ科植物に典型的に見られ、乾燥に強いシステムですからパイナップル科植物やサボテンなどに広く見られます。
しかし、その時の記事の内容的は、あくまでも一般的に言われていることをまとめただけに過ぎないものでした。(以下、リンク)


そこで、今回は科学者によるCAMの概観とこれからについて見ていきたいと思います。参照とするのは、Kevin R. Hultineらの2019年の論文、『New perspective on crassulacean acid metabolism biology』です。

CAM植物の特徴
CAMは維管束植物の38科400属以上見つかっており、60以上の独立した進化の起源を持ちます。CAMの起源は、過去に起きた乾燥化と大気中の二酸化炭素の減少に相関しており、地球規模の気候変動に対する進化的対応の代表的な事例です。また、CAMは茎や葉の多肉質化、水の捕捉と貯蔵、厚いクチクラとワックス沈着、低い気孔密度、高い気孔応答性などの共通の適応形質と共に進化し、これらの特徴により水の利用が限られている、あるいは断続的な厳しい環境に生息出来ます。

CAMへの進化
CAMは38科の植物で知られており、その広い系統の中の分布から、CAMは独立して複数回に渡り発生したと考えられています。最古のCAMについては、証拠が化石に残らないためよくわかりません。陸生植物のCAMは乾燥が主な要因と考えられています。それは、日中の高温と相対湿度の低ささらされる砂漠に生える多肉植物でよく見られるからです。ただし、CAMは二酸化炭素を有機酸に変換し、炭素を濃縮するメカニズムですから、利用可能な二酸化炭素が少ない環境に対する適応も想定されます。例えば、Isoetes (ミズニラ属)などの原始的な水生植物はCAM植物なのは、水中の二酸化炭素の拡散係数が低いために、CAMに進化したと考えられます。陸生植物のCAMは、大気中の二酸化炭素濃度が低下し、CAMやC4という光合成経路が有利になった更新世の氷河期に反応したものと考えられます。

CAM研究
CAMの古典的なモデルは、気孔の反転と4段階のガス交換、および生化学的活性により定義されます。しかし、これはCAMの多様性と複雑性を否定するものです。CAMに関する最近の理解の進歩は、「弱い」、「通性」、「中間」のCAM植物の限界に関する研究から得られています。多くのCAM植物がCAMをC3やC4と共に発現し、その発現は発育の段階により変化することが多く、旱魃や塩分にさらされると通性で変化することもあります。

CAMの利用
CAM植物の中でも、旧世界のユーフォルビアと新世界のサボテンの茎が多肉質な種は、密猟や地球規模の気候変動により前列のない脅威にさらされています。しかし、多くのCAM植物は将来的な食料、飼料、繊維、バイオ燃料、医薬品とされる可能性がある高い農業的価値を持ち、しかも乾燥に強い作物です。少数のCAM植物製品は、テキーラ(Agave)やパイナップル、アロエ、バニラ、果実(ウチワサボテン)など、世界的に取り引きされています。しかし、これらの種は伝統的に過小評価されており、農業的改良のための投資はほとんど行われていません。これらのCAMは、遺伝学の進歩により遺伝的改良が促進されることが期待されています。中でもAgaveはバイオ燃料の原料として高く注目されています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
一応ですが、CAMについて簡単に解説しましょう。
日中に二酸化炭素を取り込もうと気孔を開くと、高温と乾燥により水分が失われてしまいます。しかし、CAM植物は気温が低い夜間に二酸化炭素を取り込みます。取り込んだ二酸化炭素は、リンゴ酸の形で濃縮・貯蔵されます。気体は貯蔵が難しく場所をとりますから、リンゴ酸という液体に変換するのは理にかなっています。また、貯蔵が出来るため、夜間でも暑い日には、気孔を閉じて二酸化炭素の取り込みをしないこともあります。
論文の内容についてですが、驚くべきことにCAMは複数回、独立して進化したことが示されています。つまり、植物が進化の過程で1回だけCAMを獲得し、その子孫がCAMというわけではないのです。CAMは様々なグループのあちらこちらで、それぞれ獲得されました。それなりに複雑なシステムですから、共通祖先が獲得したわけではないのことに驚かされます。洋蘭の仲間であるDendebiumでは、属内で複数回のCAMの進化があったことが報告されているそうです。
さて、CAMの研究は何をもたらすのでしょうか。まずは、希少植物の保全が挙げられます。その植物の生態や生理などを理解することは、保全計画には欠かせません。詳しい調査もなしに似た環境に植栽しても上手くいかないケースが度々見られます。やはり、事前の研究は必須なようです。次はやはり作物として利用です。CAM植物は乾燥に強いため、通常の作物が育ちにくいような環境でも栽培出来ます。例えば、トウモロコシは主に家畜の飼料として莫大な量が生産されていますが、バイオ燃料への利用がよく言われています。しかし、米国では地下水を汲み上げて強引に生産しているため、地下水の著しく減少を招いているそうです。CAM研究により、地下水を利用しないAgaveなどを利用したバイオ燃料の開発や、CAM回路自体を組み込んだ作物も将来的には可能となるかもしれません。論文では、CAMの進化は①乾燥化、②二酸化炭素の減少、③植物育種となっており、ヒトによる開発を第三のCAMの進化イベントと捉えているようです。CAM利用に関する、その期待の大きさが分かりますね。



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去年の8月にサボテンの新種について調べた記事をあげました。論文が出たばかりで、まだ新種として認定されていないものもありました。ということで、去年の記事を振り返ります。現在ではどうなっていますでしょうか。また、あれからの1年間で新たに発表された新種のサボテンはあるのでしょうか。以下、去年の記事のコピーです。変わった部分は【追記】としています。いくつかの新種には画像リンクを貼りました。

1753年にCarl von LinneがサボテンをCactus属と命名した時には、すでにヨーロッパでもサボテンが栽培されていました。それから、沢山のサボテンが命名されてきましたが、未だに新種のサボテンが見つかっています。最近見つかったサボテンはなんだろうかと思って、少し調べてみました。と言っても、すべての新種を調べた訳ではなく、検索してすぐに出てきたものだけです。しかし、それでも2010年以降に限っても、それなりの種類は見つかりました。主に論文のAbstractだけをサラッと読んだだけですから、あまり詳しい内容は分かりません。ですから、簡単に見ていきましょう。

2011年
【追記】メキシコのTamaulipas州からマミラリアの新種、Mammillaria cielensisが記載されました。しかし、現在はM. zubleraeの異名となっています、

2012年
★アルゼンチンのブエノスアイレス州からウチワサボテンの新種、Opuntia ventanensisが記載されました。しかし、現在ではOpuntia fragilisの異名とされています。

2013年
★ペルー南部からボルジカクタスの新種、Borzicactus hoxeyiが記載されました。しかし、2014年にLoxanthocereus属になり、Loxanthocereus hoxeyiとなりました。

2014年
★ペルー北部からエスポストアの新種、Espostoa cremnophilaが記載されました。
★メキシコのオアハカ州からウェベロケレウスの新種、
Weberocereus alliodorusが記載されました。【追記】2018年にSelenicereus alliodorusとする意見もありましたが、認められておりません。
★メキシコのタマウリパス州からマミラリアの新種、
Mammillaria huntianaが記載されました。しかし、現在ではM. roseoalbaの異名とされています。
【追記】メキシコのZacatecasからオプンチアの新種、Opuntia gallegianaが記載されました。
【追記】米国のアリゾナ州からオプンチアの新種、Opuntia diploursinaが記載されました。
【追記】米国のカリフォルニア州からキリンドロプンティアの新種、Cylindropuntia chuckwallensisが記載されました。
【追記】ブラジルのリオデジャネイロ州からリプサリスの新種、Rhipsalis flagelliformisが記載されました。


2015年
★アルゼンチンのコルドバ州からギムノカリキウムの新種、Gymnocalycium campestreが記載されました。
https://identify.plantnet.org/k-world-flora/species/Gymnocalycium%20campestre%20%C5%98epka/data
★メキシコ中央部でツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus heliaeが記載されました。 しかし、2021年にKadenicarpus属になり、Kadenicarpus heliaeとされています。
【追記】メキシコ中部からオプンチアの新種、Opuntia delafuentinaが記載されました。
【追記】メキシコのバハ・カリフォルニア州で、7種類のウチワサボテンの新種が記載されました。それは、Opuntia clarkiorumCylinderopuntia libertadensis
Cylinderopuntia waltoniorumCylinderopuntia cedrosensisCylinderopuntia alcahes var. gigantensisCylinderopuntia alcahes var. mcgilliiCylinderopuntia ganderi var. catavinensisです。このうち、3つの変種は2019年に新種を記載した著者自身により亜種に変更されています。

2017年
★エルサルバドルでディソカクタスの新種、Disocactus salvadorensisが記載されました。
★メキシコのCoahuila州からウチワサボテンの新種、
Corynopuntia deinacanthaCorynopuntia halophilaが記載されました。しかし、2018年に2種類ともGrusonia属になり、Grusonia deinacanthaGrusonia halophilaとされています。実は、Corynopuntia属は消滅し、すべてGrusonia属となっています。
【追記】ドミニカ共和国南西部のPedernales州からレプトケレウスの新種、Leptocereus demissusが記載されました。
【追記】ハイチからケレウスの新種、Cereus haitiensisが説明されました。しかし、この名前は非合法名(nom. illeg.)とされ、認められませんでした。これは、1926年にすでにC. haitiensisが命名されていたため、名前が重複してしまうことからと考えられます。ちなみに、現在ではSerrulatocereus serruliflorusの異名となっています。


2018年
★メソアメリカ地域からデアミアの新種、Deamia montalvoaeが記載されました。
★メキシコのオアハカ州からテロカクタスの新種、
Thelocactus tepelmemensisが記載されました。
https://www.thelocactus.cactus-mall.com/Species_Files/tepelmemensis.html
【追記】メキシコ原産のStenocereus griseus複合体から、Stenocereus huastecorumが分離されました。しかし、未だに未記載種となっています。
【追記】キューバ西部のPinar del Rio州のカルスト石灰岩の崖からレプトケレウスの新種、Leptocereus assurgens var. albellusLeptocereus chrysotyriusが記載されました。L. 
assurgens var. albellusは、2020年にL. assurgens subsp. albellusとなっています。また、同じく2020年にL. albellusとする意見もありました。同じく2020年にL. chrysotyriusはL. assurgens subsp. chrysotyriusとされました。

2019年
★メキシコ南部からケファロケレウスの新種、Cephalocereus parvispinusが記載されました。
https://inaturalist.ca/taxa/1133501-Cephalocereus-parvispinus
★メキシコのヌエボレオン州からツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus boedekerianusが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/858375-Turbinicarpus-boedekerianus

2020年
★ペルーからリマンベンソニアの新種、Lymanbensonia choquequiraensisが記載されました。
★メキシコのハリスコ州からアカントケレウスの新種、
Acanthocereus paradoxusが記載されました。
★メキシコのシナロアからコケミエアの新種、
Cochemiea thomasiiが記載されました。【追記】2021年にMammillaria thomasiiとする意見もありましたが、認められておりません。
★メキシコからマミラリアの新種、
Mammillaria breviplumosaが記載されました。しかし、現在ではM. sanchez-mejoradae subsp. breviplumosaの異名とされています。
★分類が曖昧だったEchinocereus pulchellus複合体が整理され、
Echinocereus acanthosetusEchinocereus sharpiiが新種として分離されました。
【追記】ドミニカ共和国のアンティル諸島原産のLeptocereus weingartianus複合体から、新種のLeptocereus velozianusが分離されました。また、2021年にNeoabbottia velozianaとする意見もありましたが認められておりません。


2021年
★メキシコのハリスコ州南部からアカントケレウスの新種、Acanthocereus atropurpureusが記載されました。
★メキシコのバハ・カリフォルニア半島からウチワサボテンの新種、Opuntia sierralagunensisOpuntia caboensisが記載されました。
★ドミニカ共和国やハイチに自生するPilosocereusはP. polygonusとされてきましたが、新種のPilosocereus brevispinusPilosocereus excelsusPilosocereus samanensisに分解されました。

2022年
★ニカラグアからデアミアの新種、Deamia funisが記載されました。
★メキシコのサン・ルイス・ポトシ州からマミラリアの新種、Mammillaria morentinianaが説明されました。しかし、キュー王立植物園のデータベースにはまだ記載がありません。新種であるか否か、正式に審査されるのはこれからのようです。【追記】現在、M. morentianaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
https://www.inaturalist.org/taxa/1433006-Mammillaria-morentiniana
★分類が曖昧だったMammillaria fittkaui複合体を分析し、ハリスコ州原産のMammillaria arreolaeを新種として説明しました。しかし、こちらもまだキュー王立植物園に記載はありません。【追記】現在、M. arreolataはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1427658-Mammillaria-arreolae/browse_photos
【追記】メキシコのBajioからステノカクタスの自然交雑種であるStenocactus × irregularisが記載されました。

2023年
★ペルーからウチワサボテンの新種、Cumulopuntia mollispinaが説明されました。【追記】現在、C. mollispimaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
★ブラジルからパロディアの新種、Parodia flavaが説明されました。【追記】まだ未記載種のようです。
★ブラジルのリオグランデ・ド・スル州西部からパロディアの新種、Parodia hofackerianaが説明されました。【追記】現在、P. hofackerianaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。また、2023年にNotocactus hofackerianusとする意見もありましたが認められておりません。ちなみに、NotocactusはParodiaに吸収され、属としては消滅しました。
【追記】ホンジュラスのCelaque山国立公園からアカントセレウスの新種、Acanthocereus lempirensisが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1491587-Acanthocereus-lempirensis
【追記】ブラジル東部の半乾燥地からタキンガの新種、Tacinga
 paiaiaが説明されました。まだ、未記載種のようです。
【追記】メキシコのGuanajuatoからマミラリアの新種、Mammillaria monochrysacanthaが記載されました。
https://www.inaturalist.org/taxa/1500362-Mammillaria-monochrysacantha
【追記】ケレウス属の遺伝子を解析し、ブラジルのミナスジェライス州とバイーア州原産のCereus ingensと、ブラジル北部原産のCereus gerardiが分離されました。しかし、まだ未記載種のようです。

2024年
2024年に公表された新種は、まだ未記載種となっています。これから、審査されることになります。
【追記】ブラジル北東部のCeara州からタキンガの新種、Tacinga mirimが説明されました。いままで、より大型のT. palmadoraと混同されてきました。
【追記】コロラド州西部からスクレロカクタスの新種、Sclerocactus dawsoniaeが説明されました。S. glaucusより小型でトゲが少なく、遺伝的にも異なります。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/1551384-Sclerocactus-dawsoniae
【追記】メキシコのBajio地域からマミラリアの新種、Mammillaria ariasiiが説明されました。M. hahnianaに似ています。
https://www.inaturalist.org/taxa/1543654-Mammillaria-ariasii/browse_photos
【追記】メキシコのSan Luis Potosi州からオプンチアの新種、Opuntia fortanelliが説明されました。
【追記】ユーベルマニア属の分子系統解析により、Ubelmannia nudaが分離されました。ブラジルのGerais州の原産で、遺伝的にはU. pectiniferaに近縁です。半地下生など珍しい特徴を持ちます。
https://www.cactuspro.com/forum/read.php?1,921125

最後に
以上が調べた限りの最近の新種のサボテンです。検索が不十分だったのでいくつか追加しました。また、2024年にも、8月までで既に5種類もの新種のサボテンが発表されています。しかし、まだ確認段階で正式に認められるのは来年以後になるでしょう。園芸的に見るならば、ユーベルマニアの新種はかなりインパクトが大きく感じます。今後、園芸市場に出回るでしょうか?
さて、今年に発表された種は、これから検証されて、将来的に正式にデータベースに記載されていく可能性があります。せっかく調べたのですから、これからは毎年チェックしていきたいですね。



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最近、ケファロケレウスについて少し調べていたところ、まあ色々な種類が出てくるわけです。では、現在認められているケファロケレウスは何種類あるのでしょうか? と、その前にケファロケレウス属自体について見てみましょう。

ケファロケレウス属
ケファロケレウス属は、正確にはCephalocereus Pfeiff.で、1838年に命名されました。一般的にサボテンの学名はCactus L.から始まりましたから、最初は当時知られていたすべてのサボテンはカクタス属でした。ケファロケレウス属では唯一、Cactus senilis(=Cephalocereus senilis)が1824年の命名されています。次に柱サボテンはやがてCereus Mill.とされました。ケファロケレウスでは、1819年にCereus euphorbioides、1828年にCereus polyophus、1837年にCereus columna-trajani、1896年にCereus tetetzoが命名されています。また、ケファロケレウス属の同義語として、1839年に命名されたPilocereus Lem.があり、Pilocereus scopariusやPilocereus fulvicepsは最初はピロケレウス属として記載されました。しかし、ケファロケレウス属のほとんど種はCephalocereus Pfeiff. として初めて記載されています。1909年のBritton & Roseの書籍を見ると、ケファロケレウス属は非常に種類が多い分類群でした。しかし、現在のケファロケレウス属はわずか13種類に過ぎません。かつて、ケファロケレウス属とされた柱サボテンは、その多くが他の属となっています。特に1957年に命名されたPilosocereus Byles & G.D.Rowleyとして分離された種が目立ちます。ちなみに、ピロソケレウス属は上で出てきたピロケレウス属と似ていますが別ものです。

2種類の異名
ここで1つ解説します。見ていただいたら分かる通り異名が沢山ありますが、異名にも2種類あります。1つは、同種に異なる名前がつけれたり、別種とされていた種類が現在は同種とされたと言う場合、これをHeterotypic Synonymと呼びます。もう1つは、ある属から分離され新属となった場合や属名が変更された場合、これをHomotypic Synonymと呼びます。
また、異名は属名が様々ですから、以下のように属名を略しました。

Cac.=Cactus
Car.=Carnegiea
Cpc.=Cephalocereus
Cpp.=Cephalophorus
Cer.=Cereus
Ec.=Echinocactus
Eu.=Euporteria
H.=Haseltonia
L.=Lemaireocereus
Mel.=Melocactus
Mit.=Mitrocereus
Nbx.=Neobuxbaumia
Ndw.=
Neodawsonia
Pa.=Pachycereus
Pi.=Pilocereus
Ps.=Pseudomitrocereus
R.=Rooksbya

ケファロケレウス属一覧
①Cpc. apicicephalium E.Y.Dawson, 1948
Homotypic Synonyms
 Ndw. apicicephalium
   (E.Y.Dawson) Backb., 1949

Heterotypic Synonyms
 Cpc. nizandensis
   (Bravo & T.MacDoug.) Buxb., 1949

 Cpc. totolapensis
   (Bravo & T.MacDoug.) Buxb., 1965
           not validly publ.

 Ndw. apicicephalium ssp. totolapensis
   Guiggi, 2020

 Ndw. guengolensis Bravo, 1959
 Ndw. nana Bravo, 1959
 Ndw. nizandensis
   Bravo & T.M.MacDoug., 1959

 Ndw. totolapensis 
   Bravo & T.M.MacDoug., 1959
          no collection cited.


②Cpc. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) K.Schum., 1897

Homotypic Synonyms
 Cpp. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Lem., 1838
 Cer. columna-trajani
   Kasw. ex Pfeiff., 1837
 H. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Backeb., 1960
 Mit. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) E.Y.Dawson, 1948
 Pa. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Britton & Rose, 1909
 Pi. columna 
(Karw. ex Pfeiff.) Lem., 1839

Heterotypic Synonyms
 Cpc. columna
   (Walp.) K.Schum., 1894
    Cpc. hoppenstedii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   K.Schum., 1894
    Cer. columna Walp., 1846
    Cer. hoppenstedtii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   Mottet, 1898-1899

    Cer. lateribarbatus Lem., 1862
    H. hoppenstedtii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   Backeb., 1951

    Mel. columna-trajani Pfeiff., 1837
          not validly publ.
    Pi. hoppenstedtii
   J.N.Haage & E.Schmidt, 1874
    Pi. lateralis F.A.C.Weber, 1898
    Pi. lateribarbatus
   Pfeiff. ex C.F.Forst. & Rumpler, 1885

③Cpc. euphorbioides (Haw.)
   Britton & Rose, 1920

Homotypic Synonyms
    Cac. euphorbioides (Haw.) Spreng., 1825
    Car. 
euphorbioides (Haw.) Backeb., 1944
    Cer. 
euphorbioides Haw., 1819
    L. 
euphorbioides (Haw.) Werderm., 1934
    Nbx. 
euphorbioides (Haw.) Buxb., 1954
    Pi. 
euphorbioides (Haw.) Rumpler, 1885
    R. 
euphorbioides (Haw.) Backeb., 1960

Heterotypic Synonyms
    Car. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) P.V.Heath, 1992
    Cer. olfersii Salm-Dyck, 1834
    Cer. oxygonus
   Salm-Dyck ex C.F.Forst., 1846
           nom illeg., 1846
    Ndw. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) Backeb., 1960
    R. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) Backeb., 1960

240421004538052~2
Cephalocereus euphorbioides

④Cpc. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   H.E.Moore, 1975

Homotypic Synonyms
    Car. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   P.V.Heath, 1992
    Cer. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   A.Berger, 1905

    Mit. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   Backeb., 1960

    Pa. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   D.R.Hunt, 1991

    Pi. fulviceps 
   F.A.C.Weber ex K.Schum., 1897
    Ps. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   Bravo & Buxb., 1961


⑤Cpc. macrocephalus
   F.A.C.Weber ex K.Schum., 1897
Homotypic Synonyms
    Car. macrocephala
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   P.V.Heath, 1992

    Cer. macrocephalus 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   A.Berger, 1905

    Nbx. macrocephala
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   E.Y.Dawson, 1952

    Pi. macrocephalus
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   F.A.C.Weber, 1898


Heterotypic Synonyms
    Cer. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Vaupel, 1913
    Mit. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Backeb., 1960
    Pa. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Britton & Rose, 1920
    Pi. ruficeps 
F.A.C.Weber 1905

240330081841864~2
Cephalocereus macrocephalus

⑥Cpc. mezcalaensis Bravo, 1932
Homotypic Synonyms
    Car. mezcalaensis
   (Bravo) P.V.Heath, 1992
    Nbx. mezcalaensis
   (Bravo) Backeb., 1941
    Pi. mezcalaensis
   (Bravo) W.T.Marshall, 1941

Heterotypic Synonyms
    Car. mezcalaensis v. multiareolata
   (E.Y.Dawson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. mezcalaensis v. 
multiareolata
   E.Y.Dawson. 1948
    Cpc. mezcalaensis v. rocustus
   E.Y.Dawson. 1948
    Cpc. multiareolatus 
(E.Y.Dawson)
   H.J.Tapia & S.Arias, 2017

    Nbx. 
mezcalaensis v. multiareolata
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952
    Nbx. 
mezcalaensis v. rocusta
   (E.Y.Dawson) Backeb., 1951
    Nbx. multiareolata
   (E.Y.Dawson) Bravo, 1972

⑦Cpc. novus
   (P.V.Heath) M.H.J. van der, 2022

Homotypic Synonyms
    Car. nova P.V.Heath, 1992

Heterotypic Synonyms
    Car. laui P.V.Heath, 1992
    Cpc. sanchezmejoradae
   (A.B.Lau) 
H.J.Tapia & S.Arias, 2017
    Nbx. laui (P.V.Heath) D.R.Hunt, 1997
          not validly publ.
    Nbx. 
sanchezmejoradae A.B.Laui, 1994

⑧Cpc. nudus E.Y.Dawson, 1948
Homotypic Synonyms
    Car. tetetzo v. nuda
   (E.Y.Dawson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. tetetzo v. nudus
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952
    Nbx. tetetzo v. nuda
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952

Heterotypic Synonyms
    Car. squamulosa
   (Scheinvar & Sanchez-Mej.)
   P.V.Heath, 1992
    Nbx. 
squamulosa
   Scheinvar & Sanchez-Mej., 1990


⑨Cpc. parvispinus S.Arias,
   H.J.Tapia & U.Guzman, 2019


⑩Cpc. polyophus
   (DC.) Britton & Rose, 1909

Homotypic Synonyms
    Car. polyopha (DC.) D.R.Hunt, 1988
    Car. polyopha (DC.) P.V.Heath, 1992
    Cer. polyophus DC., 1828
    Nbx. polyopha (DC.) Backeb., 1938
    Pi. polyophus (DC.) Salm-Dyck, 1845

240421004031041~2
Cephalocereus polyophus

⑪Cpc. scoparius
   (Poselg.)Britton & Rose, 1909

Homotypic Synonyms
    Car. scoparia (Poselg.) P.V.Heath, 1992
    Cer. scoparius (Poselg.) A.Berger, 1905
    Nbx. scoparia 
(Poselg.) Backeb., 1941
    Pi. scoparius 
Poselg., 1853

Heterotypic Synonyms
    L. setispinus E.Y.Dawson, 1948
    Pi. sterkmanii  K.Schum, 1897


⑫Cpc. senilis (Haw.) K.Schum., 1894
Homotypic Synonyms
    Cac. senilis Haw., 1824
    Cpp. senilis (Haw.) Lem., 1838
    Cer. senilis
   (Haw.) Salm-Dyck ex. DC., 1828
    Ec. senilis (Haw.) Beaton, 1839
    Eu. senilis (Haw.) Kreuz., 1941
    Pi. senilis (Haw.) Lem., 1839

Heterotypic Synonyms
    Cac. bradypus Lehm., 1826
    Cpc. senilis f. cristatus
   (Mathsson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. senilis f. fasciatus
   P.V.Heath, 1992
    Cer. bradypus (Lehm.) Steud., 1840
    Ec. staplesiae Tate, 1840
    Mel. bradypus Lehm. ex Steud., 1841
           not validly publ.
    Pi. senilis crirtatus Mathsson, 1891
    Pi. williamsii
   Scheidw. ex C.F.Forst., 1846
            not validly publ.

⑬Cpc. tetetzo
   (F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Diguet, 1928

Homotypic Synonyms
    Car. tetetzo
   (F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   P.V.Heath, 1992
    Cer. tetetzo
   F.A.C.Weber ex J.M.Coult., 1896
    Nbx. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Backeb., 1938
    Pa. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Ochot, 1922
    Pi. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   F.A.C.Weber ex K.Schum.. 1897

Heterotypic Synonyms
    Pi. tetetzo v. cristata
   F.A.C.Weber, 1897

最後に
さて、ケファロケレウス属の近年の話題としては、まず2019年に新種Cephalocereus parvispinusが発見されたことが挙げられます。また、Carnegiea、あるいはNeobuxbaumiaとされてきた柱サボテンが2022年にケファロケレウス属に移されCephalocereus novusとされました。ちなみに、CephalocereusではなくCephalophorusと言う属名がありますが、一見して似ていますから、ご注意下さい。
ケファロケレウス属はそのほとんどが始めからケファロケレウス属でしたが、ケファロケレウスからの分離が提案されたものの、現在は認められていない属もあります。1838年に命名されたCephalophorus Lem.、1938年に命名されたNeobuxbaumia Backeb.、1949年に命名されたHaseltonia Backeb.、同じくNeodawsonia Backeb.、1960年に命名されたRooksbya (Backeb.) Backeb.、1961年に命名されたPseudomitrocereus Bravo & Buxb.あたりですね。また、Pilocereus Lem.はケファロケレウス属が命名された翌年に命名されていますから、これはケファロケレウス属からの分離ではなく、重複した命名かも知れません。



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多肉植物を育てていると、その不思議な形からどのような生態なのだろうかと思うことがあります。論文などを読んでいると、多肉植物に限らず植物の生態はあまりに多様で謎に満ち溢れています。教科書的な本も多少は読みましたが例外も多く、本を読む度に知らないことなどいくらでもあることに気付かされます。本日はそんな気付きを与えてくれる1冊をご紹介します。それは、1996年に刊行された『植物の生き残り作戦』(平凡社自然叢書)です。23人の研究者が自身が専門とする植物の生態について短くまとめたアンソロジー的なものです。1つ1つは短いですが、各々の研究者が様々な視点から植物を捉えているのが特徴です。

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さて、肝心な内容についてです。浅慮なことに私もそれなりに植物に詳しいつもりではいましたが、恥ずかしながら知らないことばかりでした。読んでいて色々と考えさせる事が多く、読むのに時間がかかってしまいました。1つだけ例を挙げてみます。

遷移が進んだ森林を極相林と言い、日本の平野部だと基本的には陰樹からなります。最近では森林は一様ではなく、また必ずしも安定はせず変化しうるものであるという考えから、極相林は存在しないという考え方もあるようです。しかし、極相林は基本的には安定しており、何かが起こっても最終的には極相に収束するのですから、個人的には未だ意味がある概念だと私は捉えています。そんな中、本書ではジャックパインという北米の亜寒帯のタイガに生える松が極相林を作るという話は非常に示唆的でした。そもそも、寒冷地では寒さに適応しなければならないため、樹種が少なく純林となることは珍しくはないと私は思っていました。しかし、必ずしもそうではなく、ジャックパインは他の樹木と競争があるというのです。何とジャックパインは陽樹であり、明るい場所に生える先駆植物だと言うのです。先駆植物は遷移を経て、やがて入れ替わるものです。しかし、ジャックパインが生える森林では高い頻度で山火事が発生し、すべてを焼き払ってしまいます。ジャックパインの松ぼっくりは火事で焼かれることで、開いて種子が出て来ます。しかも、ジャックパインの種子は25年に渡り発芽能力を維持しますから、ジャックパイン林にはおびただしい数の種子が眠っていることになります。ですから、競争相手である他の樹木が消え去った場所に、素早くジャックパイン林を形成することが可能なのです。遷移や陰樹の極相を許さず、陽樹であり先駆植物である特徴を生かしてジャックパインの極相林を維持しているという驚くべき話でした。

以上のように考えさせる内容が満載です。扱われるのは雑草から野菜まで様々で、生態や受粉、種子散布、環境保全など、目下私の興味の中心をなす事柄が多くあり大変勉強になりました。やや古い本ですから分類学はあくまで数世代前のものでもはや古色蒼然とした感がありますが、観察された事象は事実であり今も変わらないでしょう。大変勉強になる非常に良い本でした。


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多肉植物が好きでボチボチ育てておりますが、基本的には植物そのものに興味があります。植物の分類や進化、生態に関する本が出たらなるべく読むようにしています。裳華房から「生命の神秘と不思議」という新しいシリーズが始まり、何冊か読んでいるのですが、いつの間にやら「植物メタボロミクス」に関する著作が出版されていました。近所の書店では取り扱いが、ないため気が付きませんでした。早速取り寄せて読んでみましたから、軽いブックレビューをしてみます。ご紹介するのは、2019年に刊行された斉藤和季 / 著、『植物メタボロミクス -ゲノムから解読する植物化学成分-』(裳華房)です。

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そもそも、植物メタボロミクスとは何ぞやという話ですが、メタボロミクスとはどうやら代謝産物の探索を指すようです。植物は様々な化学物質を合成していますが、それらを単離することは容易なことではありませんでした。しかし、遺伝子工学の発展により、遺伝子配列から植物が合成する物質を推測することが可能となりました。しかし、実際に物質を分析することはかなり難しく、複数種の機器を駆使して様々な方法で行われます。植物の代謝産物は非常に種類が多く、次々と新たな成分が特定されており、活発な分野であることが分かります。植物の代謝産物は生理活性があるものも多く、薬や漢方の主成分も含まれます。
本の前半は、植物のメタボロミクスについて、一般的な傾向や分類、特徴がやさしく解説されています。後半は実際に著者が成分の特定に関わった話が中心となります。後半はやや専門的な話があるため、少々難解に感じるかも知れません。

意外と面白いと思ったのは、遺伝子組み換えの話です。それほど詳しくは解説されませんが、中々興味深い指摘がありました。現在、新しい品種を作る方法は大まかに3種類あります。1つは昔ながらの交配と選抜によるもので、2つめは遺伝子組み換えによるものです。遺伝子組み換えは導入する遺伝子がどこに入るのか分からず、思わぬ突然変異がおこる可能性があるものでした。しかし、近年になり3つめのゲノム編集が加わりました。ゲノム編集はピンポイントに場所を指定して遺伝子導入が可能なため、非常に安全性が高い方法です。著者は昔ながらの交配は思わぬ突然変異が起きる可能性があることから、1箇所しか変わらないゲノム編集の方が安全なのではないかと述べています。まあ、それはあくまで理屈の上の話ですから、安全性は徹底的に検査する必要はあるでしょう。しかし、気になったのは、交配による突然変異の可能性です。言われなければ思いもしない意外な話でした。
少し考えたのですが、交配により新しい品種を作る場合、外見や味を基準に選抜されます。しかし、外見や味以外の、表に出てこない変異もあるはずです。例えば、毒性の高い成分が新品種では増えているかも知れません。そんなバカなと思われたかも知れませんが、食用作物でも人体には無害なレベルの有害物質は産生されています。特に害虫にかじられたりすると、植物は害虫に害のある物質を大量に産生します。ですから、無農薬野菜は良いような気もしますが、あまり害虫にやられていると有害物質が蓄積してしまいます。もし、交配によりそのような遺伝子に変異が入り、有害物質を大量に産生してしまっているかも知れません。問題は、それを見抜くことが出来ないことで、一々新品種が出来た時に安全性の確認などは行われていないのです。とは言え、だから新品種は危ないのではなく、我々はそれぐらいは平気であるということなのかも知れませんね。


植物は約39万種が知られておりますが、そのほとんどの種は代謝産物が特定されておりません。それどころか、遺伝子解析されている植物など、研究用植物や稲など極一部の有用植物だけです。当然ながら、代謝産物が研究されたのは、すでに効果が知られている薬用植物程度となっています。植物は種により異なる代謝産物を複数持っているかもしれず、未だ未知の成分が数え切れないぐらい存在することは自明でしょう。このような植物の代謝産物の解明が進めば、様々な分野に応用可能な成分も沢山あるはずです。実際、2015年には、クソニンジンから抽出された抗マラリア薬アルテミシニンの発見により、ノーベル賞が与えられています。これからも新たな発見が続くかも知れません。非常に今後が楽しみな分野ですね。


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実はサボテンや多肉植物も、毎年のように新種が発見されています。地球上のすべての土地が調査し尽くされているわけではないため、未踏の場所を調査したら新種は見つかるもののようです。さらに、詳しく研究されず、似た種類を1種類にまとめてしまっていたりもします。そのようなものは、最近になって再び研究されて整理され始めています。ここ10年ちょいの多肉植物の新種については、サボテン、アロエ、アガベ、セダムについて最近記事にしてまとめて来ました。本日はエケベリアの近年の新種について見てみましょう。論文を軽く漁っただけなので、すべての新種を網羅してはいないかも知れません。

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Echeveria whitei
『Addisonia』(1925年)より。


2011年
・メキシコのMichoacanより、新種のEcheveria purhepechaが記載されました。

2012年
・メキシコのSinaloaより、新種のEcheveria cheveriaが記載されました。

2013年
・メキシコ西部のSierra de Manantlanより、新種のEcheveria yalmanantlanensisが記載されました。石灰岩の山塊Cerro de Grandeの固有種です。

2014年
・メキシコのColima火山より、新種であるEcheveria muniziiが記載されました。E. fulgensに似ています。
・メキシコ西部Colimaの石灰岩地より、新種であるEcheveria cerrograndensisが記載されました。E. fulgensと近縁と考えられます。
・メキシコのJaliscoより、新種のEcheveria marianaeが記載されました。E. novogaliciana、E. dactyliferaに似ています。

2015年
・メキシコのJaliscoより、Echeveria rulfianaが記載されました。

2016年
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria pistioidesが記載されました。
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria coruanaが記載されました。


2017年
・Echeveria pringlei var. parvaを独特させ、Echeveria fjammigeraを代替名として提案しました。しかし、この提案は認められておりません。

2019年
・メキシコのMichoacanより、新種であるEcheveria michihuacanaが記載されました。
・メキシコのGuerreroより、新種であるEcheveria xochipalensisが記載されました。
・メキシコのNevado de Colima火山より、新種であるEcheveria sonianevadensisが記載されました。


2020年
・エクアドルとペルーの国境より、既存種より2種の新種が分離されました。1つはEcheveria quitensisとされてきた中から、Echeveria cojitambensisが分離されました。もう1つはEcheveria cuencaensisと混同されてきたEcheveria tabaconasensisが分離されました。
・メキシコのSinaloaより、新種であるEcheveria coppiiが記載されました。

2021年
・ペルーのTayacaja州より、新種であるEcheveria incaicaが記載されました。E. oreophilaに似ています。
・ペルーのCastrovirreyna州より、新種のEcheveria ostolazaeが記載されました。
・メキシコのGuerreroより、新種であるEcheveria islasiaeが記載されました。
・メキシコのDurangoより、新種であるEcheveria kristeniiが記載されました。E. dactyliferaおよびE. novogalicianaに似ています。


2022年
・メキシコのOaxacaのMixteca Atla産地より、新種であるEcheveria andreaeが記載されました。

以上がエケベリアの新種たちです。意外と新種は見つかっていますし、これからも見つかる可能性が高そうです。エケベリアの分布の中心はメキシコのようですが、エクアドルでも新種が見つかっていますね。もしかしたら、メキシコ以外では調査が遅れているだけで、これからまだまだ新種が見つかるかも知れません。また、今は何と言っても遺伝子解析の時代です。エケベリアは形態学的によく似た種類が多いため、混同されている種類もありそうですから、遺伝子解析により大幅に改訂されてしまうかも知れません。これからのエケベリア研究は目が離せませんね。


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近年、多肉植物で最も盛り上がっているのはAgaveでしょう。「サボテン・多肉植物のビッグバザール」でも、Agaveの専門店が出店するようになり、あちこちでAgaveを出しています。多肉植物に強い園芸店でもAgaveはコーデックスに代わる目玉となっています。いつまでAgaveブームが続くのかは分かりませんが、流行っているオテロイ(Agave oteroi)は2019年に記載されたばかりの新種であることを考えたら、まだまだ盛り上がる要素は出てくるかも知れませんね。さて、そんなAgaveですが、オテロイの例にあるように新種が見つかっています。ここ10年と少しのAgaveの新種を見てみましょう。ちなみに、最近のAgaveに関する論文をざっと漁っただけなので、漏れもあるでしょうし、Abstractを流し読みしただけなので何かしらの間違いがあるかも知れません。まあ、ご参考までにということで。

2011年
・メキシコのバハ・カリフォルニアから、新種のAgave turneriが記載されました。
・メキシコ南部から、新種のManfreda justosierranaManfreda umbrophilaManfreda verhoekiaeが記載されました。しかし、2012年にはAgave属に移され、それぞれAgave justorierranaAgave umbrophilaAgave verhoekiaeとされました。


2012年
・メキシコ西部のmanantlanicola山脈の高地から、新種であるAgave manantlanicolaが記載されました。
・メキシコのJulisco州から、新種であるAgave temacapulinensisが記載されました。Agave wocomahiと近縁と考えられます。


2013年
・Agave gypsophilaを再評価し、Agave abisaiiAgave andreaeAgave kristeniiAgave pablocarrilloiが分離されました。
・メキシコのVeracruzより、新種であるAgave jimenoiが記載されました。

2014年
・メキシコのバハ・カリフォルニアのVizcaino半島から、新種のAgave azureaが記載されました。Agave vizcainoensisに近縁と思われます。
・メキシコ西部のQueretaroから、新種のAgave doctorensisが記載されました。Agave montium-sancticaroiに似ています。
・メキシコのOaxacaより、新種であるPolianthes alboaustralisが記載されました。しかし、2015年にはAgave属に移され、Agave alboaustralisとされました。

2016年
・メキシコ西部より、新種であるPolianthes quilaeが記載されました。しかし、2017年にはAgave属に移され、Agave quilaeとされました。

2017年
・コロンビアから新種であるAgave paxが記載されました。
・メキシコ西部より、新種であるManfreda occidentalisが記載されました。しかし、2019年にはAgave属に移され、Agave occidentalisとされました。

2018年
・メキシコのVeracruz中央海岸より、新種であるAgave maria-patriciaeが記載されました。
・メキシコのOaxaca南東部より、新種であるAgave cremnophilaが記載されました。
・メキシコ西部のSierra del  Surより、新種であるManfreda santana-micheliiが記載されました。しかし、2019年にはAgave属に移され、Agave santana-micheliiとされました。
・メキシコのMichoacan州より、新種であるPolianthes venustulifloraが記載されました。しかし、2019年にはAgave属に移され、Agave venustulifloraとされました。


2019年
・メキシコのTmaulipas州より、Agave lexiiが記載されました。Agave tenuifoliaやAgave striataに似ています。
・メキシコのOaxaca北中部より、新種であるAgave oteroiが記載されました。
・メキシコ西部のChorros del Varal州立保護区より、新種であるAgave garciaruziiが記載されました。Agave angustiarumおよびAgave imppressaに関連するようです。


2020年
・メキシコのOaxaca南部から、新種であるAgave calciphilaが記載されました。Agave angustiarumやAgave ghiesbreghtii、Agave huehuetecaに似ています。
・コロンビアから新種であるAgave sylvesterianaが記載されました。
・メキシコのGerrero州から、新種であるManfreda arceliensisが説明されました。しかし、この種は認められておりません。

2021年
・メキシコのTamaulipas州の湿った渓谷で、新種であるAgave crypticaが記載されました。Agave tenuifoliaと混同されてきたようです。

2022年
・メキシコ西部のBalsas盆地から、新種であるAgave internilloensisが記載されました。Agave gypsicolaに似ていますが、新種は葉が1mを超える大型種です。
・メキシコのOaxaca州西部より、新種であるAgave rosalesiiが記載されました。Agave ellemeetiana var. subdentataより分離されました。
・メキシコのJaliscoより、新種であるAgave martaelenaeAgave servandoanaが説明されました。しかし、データベースへの記載はまだのようです。

2023年
2023年に出た論文で説明された新種は、まだデータベースへの記載はありません。これから精査されるのでしょう。
・メキシコのSinaloaより、新種であるAgave mayoが記載されました。Agave schidigeraと共通する特徴があります。
・メキシコ原産のPolianthes montanaから、Polianthes aarodrigueziiが分離されました。


さて、Agaveの新種を漏れはあるかも知れませんが、大体の種類は収集出来たのではないでしょうか。ここでは、ManfredaやPolianthesが入っていますが、2000年代後半から2010年代前半にかけてManfredaやPolianthesがAgaveに含まれることが遺伝子解析により明らかになりました。そのため、ManfredaやPolianthesは徐々にAgaveへ改名されていきました。しかし、その最中でも新種は相変わらずManfredaやPolianthesと命名され続けたようですね。まあ、結局はAgaveに訂正されてしまいましたが。


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Sedumは丈夫で育てやすく、寄植えやグランドカバーなど用途の幅も広く、その種類も非常に沢山あります。しかも、近年に至っても沢山の新種が発見されています。新たな調査により発見される場合もありますが、近年の特徴は遺伝子解析による新種の発見でしょう。産地ごとの微妙な違い程度と考えられて変種や亜種とされてきたものが、遺伝子解析により分離されるという報告がなされるようになりました。このように、新種の発見は大変興味深いものです。しかし、我々趣味家には中々情報が入って来ないものです。本日はそんなセダムのここ10年と少しの新種について、ごく簡単にご紹介しましょう。ただ、私もそのすべてを歩漁出来ませんから、おそらくご紹介出来たのはその一部に過ぎないかも知れません。

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Sedum spp.
『Illustrations of the British flora』(1908年)より。


2010年
・米国のアイダホ州から新種であるSedum valensが記載されました。


2012年
・メキシコから新種であるSedum kristeniiが記載されました。
・メキシコとグアテマラから新種であるSedum mesoamericanumが記載されました。
・中国から新種であるSedum plumbizinicicolaが記載されました。
・メキシコから新種であるSedum perezdelarosaeが記載されました。
・メキシコから新種であるSedum jarochoが記載されました。
・メキシコから新種であるSedum brachetiiが記載されました。


2013年
・台湾の石灰岩地から新種であるSedum tarokoenseが記載されました。
・中国から新種であるSedum kuntsunianumが記載されました。


2014年
・米国のカリフォルニア州から新種であるSedum citrinumが記載されました。
・中国から新種であるSedum spiralifoliumが記載されました。


2015年
・メキシコから新種であるSedum moniliformeが記載されました。Sedum longipesに良く似ているということです。
・メキシコから新種であるSedum piaxtlaenseが記載されました。
・メキシコから新種であるSedum pyriseminumが記載されました。


2016年
・東アフリカのケニア山高地から、新種であるSedum kenienseが記載されました。


2017年
・日本の男女群島より新種であるSedum danjoenseが記載されました。Sedum formosanumとされてきましたが、遺伝子解析により別種として分離されました。
・メキシコから新種であるSedum sinforosanumが記載されました。
・中国からSedum peltatumが説明されました。しかし、キュー王立植物園のデータベースには記載がありません。


2019年
・中国の石灰岩地から新種であるSedum lipingenseが記載されました。
・中国から新種であるSedum ichangensisが記載されました。
・台湾から新種であるSedum kwanwuenseSedum taiwanalpinumが記載されました。


2020年
・中国から新種であるSedum nanlingensisが記載されました。Sedum onychopetalumやSedum kiangnanenseに近縁とされます。
・ペルー北部から新種であるSedum hutchisoniiが記載されました。
・日本の小笠原諸島から新種のSedum mukojimenseが記載されました。Sedum boninenseから分離されました。


2022年
・メキシコから新種であるSedum dormiensが記載されました。
・日本の九州地方から沖縄に分布するSedum japonicum subsp. uniflorumあるいはSedum uniflorumとされるセダムは、Sedum ryukyuenseとされました。これは、1838年に記載されたSedum uniflorum Hook. & Arn.は、過去に同名のセダムが命名されていたため非合法名として命名され直されました。ちなみに、同名のセダムとは、1810年に命名されたSedum uniflorum Raf.(=Phedimus stellatus)です。 


2023年
2023年に出た論文で説明された新種は、まだデータベースに記載がありません。
・中国から新種とされるSedum jinglaniiが説明されました。
・中国から新種とされるSedum yangjifengensisが説明されました。
・中国から新種とされるSedum danxiacolaが説明されました。
・日本の九州地方の石灰岩地より、新種とされるSedum kawarenseが説明されました。Sedum lipingenseに近縁とされます。


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Sedum bourgaei
『Addisonia』(1917年)より。


セダムは種類が多く皆よく似ていますから、種類の判別は中々困難です。意外にも日本でもまだ新種のセダムが見つかっていますが、その経緯は種の整理や分離独立といった形です。これは、日本のセダムが広く分布する種類と似ていたら、基本的に広域種の地方変異程度に考えてしまうため、このような事態となっているのでしょう。今は遺伝子解析という武器があるため、隠蔽されていた新種が見つけ出されたのです。これからも、このようなケースは増えてくることは確実ですから、場合によっては新種が次々と見つかる可能性もあります。セダムはある意味、今熱い分野なのかも知れませんね。


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鈴木正彦・末光隆志 / 著、『「利他」の生物学 適者生存を超える進化のドラマ』(中公新書)が刊行されました。生物は利己的であるというのは基本的なことですが、共生関係など利他的な戦略は、ただ利己的であるよりも生存に有利であったりします。そんな、共生関係について生物界を広く見渡し紹介した1冊です。内容的には植物だけではありませんが、植物も扱われており、以外と本では触れられない話が多いように思われます。内容について、植物関連部分の概要だけ少しご紹介します。

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①細胞内共生説
ミトコンドリアや葉緑体は元来は細菌であったという細胞内共生説は、1970年のリン・マーグリスの『真核生物の起源』にまで遡ります。すぐに認められたわけではなく、中々受け入れられなかったとはいえ、細胞内共生説について学術レベルの内容を一般書籍で解説した本はあまりなかったと言えます。葉緑体の誕生は植物の誕生でもあるわけですから、生物の進化の歴史では非常に重要なイベントです。マーグリスの時代より研究は進んでいますから、最新の情報を得ることが出来ます。

②虫媒花と昆虫の進化
当ブログでも、サボテンや多肉植物と花粉媒介者の関係についての論文をいくつかご紹介してきました。しかし、論文は狭い範囲の的を絞った話でしたから、その基本的な有り様についてはわかりませんでした。本書では、様々な実例を挙げて花粉媒介の有り様を解説しています。共進化やアリ植物を始めとした、植物と昆虫の関係性を広く解説しており勉強になります。

③菌根菌と植物の関係
野生の植物は菌類と共生関係を結んでいるものが非常に多く、乾燥地に生えるサボテンや多肉植物も例外ではありません。私も何度か記事にしたことがあります。根粒菌の話だけではなく、蘭菌の話やアーバスキュラー菌の話もあり、植物と菌類の共生関係の基本的な部分を学ぶことが出来ます。

内容的には動物や菌類の話も沢山あります。しかし、このように植物だけを分けないという書き方は少し珍しいですね。研究者は基本的に1分野に突出するため、広く扱うのは中々難しいように思われます。本書は2人の専門が異なる研究者の共著で、お互いに内容を補っています。読んでいて感じたのは、植物もまた生物界の一部分に過ぎないのだという当たり前のものでした。しかし、基本的に生物学の一般書籍は、動物は動物、植物は植物に絞って書かれがちですから、その当たり前の意識が薄れがちです。私などはサボテンや多肉植物の論文に前のめりで入り込んでいるため、そのことをついつい忘れがちです。一度立ち止まって、広く見回してみるのも必要なことだと思いなしました。おすすめします。


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先日、ここ10年ちょいくらいの、サボテンの新種についての記事を書きました。サボテンは巨大なグループで分布も広く、新種が見つかる余地はまだまだありそうです。その他の多肉植物では、何と言ってもアロエは新種が見つかる可能性が高いと言えます。アロエの新種を説明した論文を探してみたので、少し見てみましょう。まあ、サボテンの時と同じく、すべての新種を調べた訳ではなく、簡単に調べて出てきたものだけです。一応、アロエと近縁なAstrolobaやHaworthia、Gasteriaと、旧・アロエ属についても一部の情報を追加しました。

2010年
・モザンビークから南アフリカのKwaZulu-Natalにかけての地域より、新種のAloe tongaensisが記載されました。しかし、2013年にAloidendron属に移され、Aloidendron tongaensisとなりました。

2011年
・エチオピアから4種類の新種のアロエが記載されました。Aloe benishangulanaAloe ghibensisAloe weloensisAloe welmelensisです。

2012年
・北ソマリアから新種のAloe nugalensisが記載されました。
・マダガスカルから新種の3種類のアロエが記載されました。Aloe beankaensisAloe ivakoanyensisAloe analavelonensisです。
・ナミビアのBaynes山から新種のAloe huntleyanaが記載されました。
・南アフリカのMpumalngaから新種のAloe condyaeが記載されました。
・アンゴラ南西部のナミブ砂漠から新種のAloe mocamedensisが記載されました。


2014年
・マダガスカル北部から新種のAloe gautieriが記載されました。
・南アフリカのMpumalangaから新種のAloe andersoniiが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のAloe liliputanaが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria loedolffiaeが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州新種のからGasteria barbaeが記載されました。

2015年
・ウガンダから新種のAloe lukeanaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のAstroloba cremnophilaが記載されました。

2017年
・マダガスカル北西部から新種のAloe belitsakensisが記載されました。
・マダガスカルから新種のLomatophyllum類である、Aloe maningoryensisAloe alaotrensisが記載されました。
・ケニアから新種のAloe zygorabaiensisAloe uncinataが記載されました。
・南アフリカから新種のAstroloba tenaxAstroloba robustaが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のHaworthia grenieriが記載されました。
・南アフリカの西ケープ州から新種のGasteria koelniiが記載されました。

2018年
・南アフリカのCape Provから新種のHaworthia duraHaworthia ernstiiHaworthia vitrisが記載されました。

2019年
・ソマリランドから新種のAloe sanguinalisが記載されました。

2020年
・マダガスカル東部の湿潤林から新種のAloe vatovavensisAloe rakotonasoloiが記載されました。
・インドの砂漠から新種のAloe ngutwaensisが記載されました。
・南アフリカの東ケープ州から新種のGasteria visseriiGasteria camillaeが記載されました。


2021年
・アンゴラ北西部から新種のAloe uigensis が記載されました。

2022年
・南アフリカ北部から新種のLeptaloe類であるAloe hankeyiが記載されました。

2023年
・アンゴラ南部からの新種としてGonialoe borealisが説明されました。まだ、キュー王立植物園のデータベースには記載されていません。

と言う訳で、近年のアロエ類の新種でした。基本的に調べたのは名前だけで、画像検索はしていないため、園芸的な重要度は分かりません。しかし、個人的にはゴニアロエの新種が気になります。ゴニアロエは3種類しかありませんから、新種の発見は大変な驚きです。とはいえ、論文が出たばかりですから、正式な学名として認められるかどうかはこれからでしょう。また、Aloe tongaensisは巨大なAloidendronの新種と言うことで、このような目立つ植物が今まで記載されていなかったのは不思議です。あと、Aloe ngutwaensisはインドからの新種と言うことですが、アロエの自然分布がインドまであることに驚きました。アロエの私の持つイメージでは、アフリカ大陸とマダガスカル、アラビア半島に少しあるくらいなものでした。まあ、これは勝手な思い込みで、調べれば簡単に分かることでしたね。


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1753年にCarl von LinneがサボテンをCactus属と命名した時には、すでにヨーロッパでもサボテンが栽培されていました。それから、沢山のサボテンが命名されてきましたが、未だに新種のサボテンが見つかっています。最近見つかったサボテンはなんだろうかと思って、少し調べてみました。と言っても、すべての新種を調べた訳ではなく、検索してすぐに出てきたものだけです。しかし、それでも2010年以降に限っても、それなりの種類は見つかりました。主に論文のAbstractだけをサラッと読んだだけですから、あまり詳しい内容は分かりません。ですから、簡単に見ていきましょう。

2012年
アルゼンチンのブエノスアイレス州からウチワサボテンの新種、Opuntia ventanensisが記載されました。しかし、現在ではOpuntia fragilisの異名とされています。

2013年
・ペルー南部からボルジカクタスの新種、Borzicactus hoxeyiが記載されました。しかし、2014年にLoxanthocereus属になり、Loxanthocereus hoxeyiとなりました。

2014年
・ペルー北部からエスポストアの新種、Espostoa cremnophilaが記載されました。
・メキシコのオアハカ州からウェベロケレウスの新種、
Weberocereus alliodorusが記載されました。
・メキシコのタマウリパス州からマミラリアの新種、
Mammillaria huntianaが記載されました。しかし、現在ではM. roseoalbaの異名とされています。

2015年
・アルゼンチンのコルドバ州からギムノカリキウムの新種、Gymnocalycium campestreが記載されました。
・メキシコ中央部でツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus heliaeが記載されました。 しかし、2021年にKadenicarpus属になり、Kadenicarpus heliaeとされています。

2017年
・エルサルバドルでディソカクタスの新種、Disocactus salvadorensisが記載されました。
・メキシコのCoahuila州からウチワサボテンの新種、
Corynopuntia deinacanthaCorynopuntia halophilaが記載されました。しかし、2018年に2種類ともGrusonia属になり、Grusonia deinacanthaGrusonia halophilaとされています。実は、Corynopuntia属は消滅し、すべてGrusonia属となっています。

2018年
・メソアメリカ地域からデアミアの新種、Deamia montalvoaeが記載されました。
・メキシコのオアハカ州からテロカクタスの新種、
Thelocactus tepelmemensisが記載されました。

2019年
・メキシコ南部からケファロケレウスの新種、Cephalocereus parvispinusが記載されました。
・メキシコのヌエボレオン州からツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus boedekerianusが記載されました。

2020年
・ペルーからリマンベンソニアの新種、Lymanbensonia choquequiraensisが記載されました。
・メキシコのハリスコ州からアカントケレウスの新種、
Acanthocereus paradoxusが記載されました。
・メキシコのシナロアからコケミエアの新種、
Cochemiea thomasiiが記載されました。
・メキシコからマミラリアの新種、
Mammillaria breviplumosaが記載されました。しかし、現在ではM. sanchez-mejoradae subsp. breviplumosaの異名とされています。
・分類が曖昧だったEchinocereus pulchellus複合体が整理され、
Echinocereus acanthosetusEchinocereus sharpiiが新種として分離されました。

2021年
・メキシコのハリスコ州南部からアカントケレウスの新種、Acanthocereus atropurpureusが記載されました。
・メキシコのバハ・カリフォルニア半島からウチワサボテンの新種、Opuntia sierralagunensisOpuntia caboensisが記載されました。
・ドミニカ共和国やハイチに自生するPilosocereusはP. polygonusとされてきましたが、新種のPilosocereus brevispinusPilosocereus excelsusPilosocereus samanensisに分解されました。

2022年
・ニカラグアからデアミアの新種、Deamia funisが記載されました。
・メキシコのサン・ルイス・ポトシ州からマミラリアの新種、Mammillaria morentinianaが説明されました。しかし、キュー王立植物園のデータベースにはまだ記載がありません。新種であるか否か、正式に審査されるのはこれからのようです。
・分類が曖昧だったMammillaria fittkaui複合体を分析し、ハリスコ州原産のMammillaria arreolaeを新種として説明しました。しかし、こちらもまだキュー王立植物園に記載はありません。

2023年
2023年に記載された新種は、まだキュー王立植物園のデータベースには記載がありません。
・ペルーからウチワサボテンの新種、Cumulopuntia mollispinaが説明されました。
・ブラジルからパロディアの新種、Parodia flavaが説明されました。
・ブラジルのリオグランデ・ド・スル州西部からパロディアの新種、Parodia hofackerianaが説明されました。

以上が調べた限りの最近の新種です。しかし、よく考えたら新種が書かれたサイトとかありそうですね。海外ではそういうデータを集めたようなサイトも多いですし。まあ、でも論文から直に名前を抽出して、データベースと照合して、自分で確かめた内容ですから、勉強になったと思うことにしました。今年に発表された種は、これから検証されて、将来的に正式にデータベースに記載されていく可能性があります。せっかく調べたのですから、これからは注視していきたいですね。


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「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以外、CITES)」は希少な野生の動植物の国際的な取引を禁止しています。サボテンや多肉植物の多くはCITESの附属書に記載された希少な植物です。我々のような趣味家にも無関係ではなく、知らずに違法取引による植物を入手してしまう可能性もありますが、それでも知らないでは済まされないことだと私は思います。ですから、私自身の勉強を兼ねて、CITESや植物の違法取引について、今日から何本かの論文を参照に見ていきましょう。
CITESは重要ですが、条約が存在するだけでは意味がなく、有効的に運用されて初めて意味を持ちます。本日は、サボテンや多肉植物に関するCITESの取り組みについて書かれた、Maurizio Sajevaらの2007年の論文、『The Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) and its Role in Conservation of Cacti and Other Succulent Plants』をご紹介します。少し古い論文ですが、基礎的なことから丁寧に解説されています。

CITESの誕生と目的
生息地の破壊は生物多様性の減少の主な原因ですが、2番目は野生動植物の取引が原因です。野生生物の取引の規制は、1963年のICUN(国際自然保護連合)に承認された決議草案により生まれました。CITESのテキストは、1973年に約80か国により承認され、1975年の7月に発効しました。CITESはUNEP(国連環境計画)を通じて国連の傘下にあります。現在(2007年)、170か国以上がCITESの加盟国になっています。
CITESは生息地での生存に対する深刻な脅威となる、あるいは将来に取引される可能性のある種の取引を管理・規制することを目的としています。


CITESの骨格
CITESは国際条約であり、締結国は管理当局と科学当局を任命する必要があります。管理当局は政府の部門であり、条約の規定を実行しCITESの許可を発行する責任があります。CITESの事務局はスイスのジュネーブに本拠があり、条約の実施を支援します。
科学当局はCITES許可する申請について管理当局に科学的な助言をします。また、植物の輸出、または輸入が野生の生物に有害であるかを管理当局に助言します。CITES締結国会議(CoP)の会合は、2〜3年ごとに開催され、締結国が附属書を修正し、政策の問題について議論します。採決は投票により行われ、各国政府に1票の投票権があります。非政府組織もCoPに参加出来ますが、投票権はありません。

附属書
CITESは脅威のレベルに応じ、3種類の附属書を発行しています。CITES附属書には、約5000種類の動物と25000種類以上の植物が含まれています。
附属書Iは、絶滅の危機に瀕しており、その取引が絶滅につながる種です。野生個体の取引は禁止されていますが、人工繁殖個体は適切な承認を条件に許可されています。
附属書IIは、取引が制御されず継続した場合、絶滅する可能性がある種です。附属書IIには、絶滅の危機に瀕していないかも知れないが、判別が困難な種も含まれています。ほとんどの野生植物は附属書IIに含まれ、その取引には許可が必要です。
附属書IIIは、各国により保護され、CITESの締結国から協力を求められている種です。

CITESの及ぶ範囲
CITESは植物そのものだけではなく、植物の一部や、植物から作られた製品の取引も管理の対象です。また、植物標本などの科学資料も含まれます。
各国は自国の貿易に関する年次報告書を作成しなくてはなりません。問題が発生した場合、CITES常任委員会が制裁を行う可能性があり、多くの場合は是正措置が行なわれるまで貿易禁止の対象となります。

サボテンと多肉植物
昔からサボテンや多肉植物は栽培されてきましたが、第二次世界大戦後は福祉と輸送の改善のため、その栽培と取引は急増しました。
野生植物に対する高い需要は、野生の個体群に非常に高い圧力をもたらし、一部の分類群は1970年代の終わりまでに絶滅しました。

サボテン科 Cactaceae
サボテンはアメリカ大陸に固有で、リプサリスなどの着生種の一部はマダガスカルやスリランカに自生します。サボテン科は祖先型のペレスキアから、アリオカルプス、メロカクタスまで非常に幅広い形態を持ちます。直径はブロスフェルディアの数センチメートルから、エキノカクタスの1メートル以上まで、高さはカーネギアの数メートルまで様々です。
CITESが発効された時、サボテン科はすべて附属書IIに記載され、一部は附属書Iに記載されました。附属書Iには約90種が含まれます。


②ユーフォルビア属 Euphorbia

ユーフォルビア属には2000種類以上が含まれ、世界中に分布しています。一年草から木本、多肉植物まで様々な形態を持ちます。最も有名なユーフォルビアは、ポインセチア(Euphorbia pulcherrima)です。
ほとんどの多肉質のユーフォルビアは緑色の茎を持ち、高さは数センチメートルから高さ4メートルを超えるものまで様々です。通常、葉は短命で、トゲを持つものもあります。多肉質なユーフォルビアは、アメリカ大陸でサボテンが担う役割をアフリカで果たしています。多肉質なユーフォルビア約700種は附属書IIに記載され、10種類のマダガスカルの矮性種が附属書Iに記載されています。

③アロエ属  Aloe

アロエ属には500種以上が含まれ、アフリカ南部とアフリカ東部、マダガスカルに集中しています。
22種類のアロエが附属書Iに記載され、Aloe vera以外のアロエは附属書IIに記載されています。Aloe veraはCITESの対象とならない唯一のアロエで、医薬品や化粧品産業に供給するために世界中で栽培されています。1994年のCoPでAloe veraは野生個体が存在しないとされ、CITESから除外されました。

④パキポディウム属 Pachypodium

パキポディウム属は附属書IIに記載され、3種類は附属書Iに記載されています。附属書Iに記載された種はマダガスカル原産で、その希少性と貿易需要のため1990年代にリストアップされました。

⑤ディディエレア科 Didiereaceae

ディディエレア科はAlluaudia、Alluaudiopsis、Decarya、Didiereaからなる多肉植物です。マダガスカル南部と南西部の乾燥したトゲのある森林の重要な構成員です。ディディエレア科植物は伐採により生息地は脅かされています。園芸取引の需要は1980年代にピークを迎え、その後は一般化しました。ディディエレア科のすべては附属書IIに記載されています。

⑥フォウクエリア属 Fouquieria

フォウクエリア属には11種類が含まれ、メキシコと米国南西部に限定的に分布します。
附属書IにはF. fasciculataとF. purpusiiが記載され、F. columnarisなど3種類は附属書IIに記載されています。

⑦アナカンプセロスとアボニア
     Anacampseros & Avonia
アナカンプセロスとアボニア(かつてはアナカンプセロスに含まれていた)には20種類以上が含まれ、その大部分はアフリカ原産です。すべての種は附属書IIに記載されています。
アフリカ原産種は園芸的に価値が高く、コレクターは脅威です。しかし、現在のCITESの貿易データでは、取引はほとんどされていないことになっていますが、違法取引の報告はあります。

⑧Welwitschia mirabilis

ウェルウィッチアは霧などの湿気で生存する最大1500年に及ぶ長寿命の固有種です。以前は附属書Iに記載されていましたが、生息数はそれほど珍しくはなく、十分に保護されていることから、附属書IIに下げられました。種子を除いて野生個体が取引される可能性は低いと考えられます。アンゴラとナミビアの原産です。

⑨アガヴェ Agave

リュウゼツラン属には200種類以上が含まれますが、CITESで規制されているのは2種類だけです。附属書IにはA. parvifloraが、附属書IIにはA. victoria-reginaeが記載されています。これらの種類が国際取引される可能性はあまりありません。

⑩パイナップル科 Bromeliaceae
いわゆるアナナスとかブロメリアの仲間ですが、これらを多肉植物と考える人もいます。熱帯アメリカに300種類以上あり、着生植物でエアプラントと呼ばれています。原産地では電線などにも着生し一般的です。これらのうち、7種類は附属書IIに記載されています。グアテマラは主要な生産・輸出国です。アナナスの貿易は持続可能と考えられて来ましたが、Tillandsia xerographicaの栽培品とされるものが、CITESの人工繁殖の定義に当てはまるのか疑問視されています。

人工繁殖の免除
CITESの利点の1つは、多くの植物の人工繁殖を促進することです。人工繁殖は野生個体への圧を取り除き、野生植物を採取する必要をなくし、安価で高品質で病気のない植物を提供出来ます。このことから、締結国はCITESの管理からいくつかの種類を免除しました。サボテンの栽培品種を始め、ユーフォルビアの3種、蘭の栽培品種が含まれます。
CITESの人工繁殖の定義は、管理された環境下での栽培品を指します。野生個体を採取してきて栽培したものは当てはまりません。栽培品はCITESの許可により確立したものでなくてはなりません。違法採取された野生個体から種子をとり、その種子を実生してできた個体は人工繁殖したものとは見なされません。人工繁殖をするためには野生個体を採取する必要が生じますが、これもCITESの許可により実施されるべきです。


以上が論文の簡単な要約です。
しかし、読んでいて思うのは、内容があまりに理想主義過ぎるということです。そうであるべきであるというのは分かりますが、実際にそうであるかはまた別の問題です。CITESは万能ではありません。明日はそんなCITESの現実的な話についてご紹介したいと思います。残念ながら多肉植物ではありませんが、貴重な植物の宝庫であるマダガスカルも関係する樹木の輸出に関する話題です。CITESのこれからを占う重要な論文です。ぜひ、御一読のほどをお願いいただけますと嬉しく思います。


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花の誕生はいつまでさかのぼるのでしょうか? おそらく初めての花は、シダ植物から裸子植物が進化する段階において誕生した風媒花だったのでしょう。しかし、その裸子植物の花は針葉樹のように実に目立たないものだったはずです。しかし、現在の植物の大半は目立つ花を咲かせる虫媒花です。これらの花は被子植物に特有ですが、その起源は謎に包まれていました。かのダーウィンが「忌まわしき謎」と称したぐらいです。この「忌まわしき謎」に化石記録から挑んだ本があります。されは、髙橋正道による『花のルーツを探る -被子植物の化石-』(裳華房、2017年)です。

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被子植物はどのくらい前から花を咲かせているのでしょうか。遺伝的変異の蓄積を時間軸に当てはめて計算した分子時計というものがあります。参照とする植物により結果が変わりますが、予測される被子植物の誕生時期は石炭紀〜白亜紀とかなり広いものでした。しかし、被子植物の花には1億年以上の歴史があることは明らかです。
とりあえず、現在見つかっている確かな最古の被子植物は、イスラエルの1億3200万年前の地層から見つかった花粉の化石です。しかし、裸子植物やシダ植物の花粉が圧倒的で、被子植物の花粉はわずか0.2%以下しかありませんでした。とはいえ、白亜紀には被子植物が存在したということだけは確かでしょう。また、さらに古い被子植物の花粉や花などの化石が報告されていますが、保存状態が悪くはっきりと断定できないものばかりで、可能性はありますが確実とは言えませんでした。
これまで発見された化石は時代を遡るほど単純化するため、著者は1億3500万年前くらいに被子植物が誕生したのではないかと考えているようです。

著者の専門は花の化石ですが、ここで化石について基本的なことを解説しておきます。ド素人の私の解説で申し訳ないのですが、結構勘違いされる向きがあるようですから少しお付合い下さい。まあとにかく言いたいのは、遺骸は化石として必ずしも残る訳ではないということです。基本的に生き物は死ぬといずれ腐ってしまい、消えて無くなります。分解されにくい骨や貝殻も、少しずつカルシウムが溶け出してしまい、脆くなり粉になってしまいます。
縄文時代には縄文人の骨が見つかりますが、弥生時代には見つからなくなります。昔は弥生人に滅ぼされたようにも考えられたりしましたが、実際には異なりました。というのも、日本の土壌は酸性で骨は溶けてすぐになくなってしまいます。縄文時代には海面が上昇(縄文海進)したため巨大な干潟が出現し、縄文人は干潟で採った貝の殻や魚の骨を穴に捨てました。いわゆる貝塚ですが、このため縄文時代は貝塚付近は土壌がアルカリ性となり縄文人の骨は残ったのです。次に弥生時代には、縄文海進が終わり貝塚が作られなくなりました。そのため、縄文人の骨はほとんど見つからないのです。ちなみに、弥生人の骨は壺に入れられて埋葬されたため溶けずに見つかるのです。ただし、そのような骨は大陸に近い海岸沿いでしか見つからず、縄文人の代わりになったというにはささやかなものです。
という訳で、化石は特殊な条件があって初めて出来るものです。昔、人類の化石が少ししか見つからず、しかもそれぞれの年代が離れていたので、それを「ミッシング・リンク」と呼びました。ただ問題は「ミッシング・リンク」を過大視して、進化論を否定する人が沢山いたことです。それは、古代人骨が必ず化石になるという素朴な勘違いによるものでした。ある意味、見つからない方が自然です。むしろ、化石が見つかった場合は何か特別なことが起きたからなのです。

長くなりましたが、化石は奇跡の産物です。植物化石なら、落ち葉の化石がよく見つかります。しかし、これは柔らかい粘土などに押された跡が残ったものです。そのものではありません。植物化石で確実なのは炭化することです。日本では遺跡から炭化した米が見つかりますが、これは米を炊いた時に出来たお焦げです。炭化した植物は立体的な構造が綺麗に残ります。野生の植物なら、山火事による偶然を期待するしかありません。しかも、偶然化石となっても、地層の圧力や褶曲により破壊されてしまいます。著者もあちこち調査に赴くも上手く行かず中々苦労したみたいです。
採取した堆積岩を溶かし、ふるいにかけ、塩酸に浸けてからフッ化水素に浸けて石英などの鉱物を溶かします。これらの処理を何度か繰り返し、1つのサンプルで3〜4ヶ月あるいはそれ以上かかるそうです。ここからが一番大変で、残ったものを顕微鏡で観察していきます。実際には壊れて破片になったゴミばかりですが、稀に壊れていないものが見つかるのです。そのような苦労の末、著者は日本で初めて白亜紀の花の化石を発見しました。日本は火山活動が活発なので、このような化石が見つかるのは中々にして奇跡的なことです。さて、白亜紀の被子植物の花はミリ単位の超小型な花です。被子植物の誕生時はこのようなサイズだったようです。日本の白亜紀はまだ大陸の一部だったころで、熱帯性のバンレイシ科植物の花化石がみつかるなど、暖かい気候だったようです。

被子植物の花化石の傾向を見ると様々なことが分かります。例えば、原初の花はモクレン科の花が想定され、枝の頂点に1つ付くとされます。しかし、花化石からは、古いものでも複数の花が集合しているものが沢山あり、著者はそのような集合した花序が古い形質と考えているそうです。また、モクレン科説では、花の中央の雄しべと雌しべからなる部分(花床、花托)は螺旋状ですが、原始的な花は螺旋状の花床が軸状に長くなったものとされます。しかし、古い花化石は短い花床のものが多いようです。この他にも、原始的な花について、その傾向が様々な角度から述べられています。
花の進化を知る上で、本書は非常に参考になります。白亜紀の花の電子顕微鏡写真が沢山載せてあり、原始的な花の姿を見ることが出来ます。メジャーなレーベルではないため本書の存在を知らない方が多いとは思いますが、良い本ですから是非おすすめしたい一冊です。


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5月に神代植物公園のバラフェスタに行ってきました。バラも大変素晴らしかったのですが、大温室では様々な熱帯植物を見ることが出来ました。その中でもTacca chantrieriの花を見ることが出来て感激しました。実は去年も大温室に行きましたが、その時は残念ながら花を見ることが出来なかったのです。ですから、余計に嬉しかった訳です。
DSC_0521
Tacca chantrieri
見てお分かりのように、非常に不思議な形の花です。ぶら下がっている丸いものが花で、後ろの花ビラのようなものは苞でしょうか? しかし、垂れ下がる長いヒゲのようなものはいったい何でしょうか? 何より不思議なのは、なぜこのような形状をとったのかということです。花の形や色は意味があり、大抵は花粉媒介者に対するアピールです。このような地味な色合いの花には蝿が来たりしますが、その場合は腐敗臭やキノコ臭で蝿を呼ぶものが多いような気がします。では、この不思議な花を咲かせるT. chantrieriの受粉はどのように行われるのでしょうか。調べてみたところ、T. chantrieriの受粉に関してのLing Zhangらの2011年の論文、『PREDICTING MATING PATTERNS FROM POLLINATION SYNDROMES: THE CASE OF "SAPROMYIOPHILY" IN TACCA CHANTRIERI (TACCACEAE)』を見つけました。簡単に見ていきましょう。

Tacca chantrieriは中国南部や東南アジアに分布します。奇妙な花のために園芸で利用されます。しかし、奇妙な花を持つにも関わらず、Tacca属の受粉に関する調査はなされてきませんでした。1972年のDrenthや1993年のSawは、花の色と臭いが腐った有機物を模しており、訪れる蝿により受粉することを想定しました。暗い花色、長い糸状の付属物と苞、花のトラップ、蜜の欠如、腐敗臭は、蝿を利用するサトイモ科、ラン科、ウマノスズクサ科などの花の特徴です。しかし、T. chantrieriからは腐敗臭を感じません。著書らは人間には感知出来ない種類の臭気を発している可能性はあるとしています。

DSC_0508
Aristrochia salvadorensis
ウマノスズクサ科の花。

さて、実際の自生地における観察では、ほとんど昆虫は訪れませんでした。アリやコオロギが来ることがありましたが、雌しべや雄しべに触れることはありませんでした。まれに蜂が訪れて花粉を収集し受粉に寄与していましたが、頻度は低くメインの受粉媒介者ではなさそうです。不思議なことに、当初考えていた蝿は訪れませんでした。T. chantrieriは暗く湿った林床に生えますから、環境中に蝿は非常に豊富にも関わらずです。分かったことは、花に袋を被せて花粉媒介者を除外しても、受粉の効率に差はありませんでした。そこで、遺伝的を調べたところ、ほとんどの種子が自家受粉によるものでした。

私はこの結果を受けて、すぐに共進化による特殊化を思い浮かべました。植物が特定の昆虫と一対一の関係を結んでいた場合、花は特殊化し昆虫も適した形状に特殊化します。つまり、T. chantrieriはある昆虫に適した形状に進化しており、対応する昆虫はすでに絶滅している可能性です。もちろん、その昆虫が絶滅したのは今回の調査地である中国南部だけのことで、東南アジアの他のT. chantrieriは本来の受粉関係を結んでいる可能性もあるわけです。しかし、著者らは、対応する昆虫以外の昆虫が花に来れないような仕組みがT. chantrieriにはないため、その可能性は疑わしいとしています。著者らは訪れる昆虫の発生の増減が関係している可能性を指摘します。つまりは、訪れる昆虫が大量に発生した場合のみ、有効な他家受粉が起きるのです。また、中国南部が有効な花粉媒介者に適さない環境になったため、一見して受粉者がいないように見えるだけかもしれないとも言います。

DSC_0541
Anguraecum florulenthum
長い距がありますが、その先端に蜜が溜まっています。この蜜を吸えるのは、口器が特殊化した蛾のみです。蛾はこのランの蜜を吸うために特殊化し、ランと蛾は一対一の関係を結んでいます。しかし、もしその蛾が絶滅した場合、このランは受粉出来ず、いずれ絶滅してしまいます。

では、T. chantrieriは自家受粉に適応しているかというと、それも疑わしいとしています。何故なら、自家受粉に適応した植物は花が咲けばほぼ確実に結実しますが、T. chantrieriはそうではありませんでした。

さて、花の構造も受粉媒介者に影響する可能性があります。私はBulbophyllumというランを育てていますが、風で動く部分があります。花は大変な悪臭を放ちますから、蝿を呼んでいるのでしょう。すると、風で動く部分は蝿にアピールする効果があるのかも知れません。T. chantrieriも糸状の構造が沢山ありますから、受粉に関係していそうです。そこで、大きな苞葉や糸状の構造を除去する実験も行なわれました。しかし、そもそも除去していない植物にも昆虫がほとんどこないこともあり、除去しても差はありませんでした。
また、大きな苞葉は、日光を浴びて果実の発育のために光合成をしているとかも知れません。しかし、生える環境が暗い森の中であり、花茎が垂直に伸びるT. chantrieriは最適とは言えないため、説明としては疑問です。そのため、T. chantrieriの構造がどのような意味を持つのかは分かりません。

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Bulbophyllum wendlandianum
花の根本に毛があり風になびきます。さらに、中心部分がピコピコ動きます。大変な悪臭を放ちます。


以上が論文の簡単な要約です。
割と詳しく調査されたにも関わらず、結局は何も分からない実にスッキリしない結果でした。著者らの考察もいまいち説得力がありません。しかし、明らか進展はありました。以前は確証もなく、蝿が来るだろうと思われていましたが、最低限この研究における観察中は蝿は訪れませんでした。もちろん、蝿の種類や、他の地域に生えるT. chantrieriは異なるのかも知れません。今回、判明したことを基礎に置いて、後続の研究が行われることを期待します。あるいは、他の種類のTaccaではどうなのでしょうか? もし、他種では普通に蝿が来ていたりした場合、合わせて系統関係を調べたら、花の謎は一気に解けるかも知れません。


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植物にも病気になるものがあり、場合によっては病気が原因で枯れてしまうこともあります。症状は様々で、その原因も様々です。植物の病原菌の大半は真菌、細菌、ウイルスが原因です。真菌とはカビやキノコの仲間のことですが、その多くは落ち葉や動物の遺骸を腐らせ分解しますが、一部は生きた植物に感染します。植物寄生性の細菌は葉に茶色い斑点を作ったりしますが、このような斑点は生理障害や葉焼けなどが原因の場合もあります。植物にウイルスが感染すると、葉に斑模様が現れ花が縮れるなどの症状が現れます。昔はこのようなウイルス斑が入った植物を珍しがって高値で取引されたこともあります。
さて、このような植物に感染する病原菌に興味を持ち何冊かの本を読んだりしましたが、2019年に非常に良い本が出版されたのでご紹介します。日本植物病理学会による『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(講談社ブルーバックス)です。少しだけ内容を見てみましょう。

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植物は動けないからといって無抵抗な訳ではありません。まず、植物の葉には病原菌から見ると非常に分厚いクチクラ層や細胞壁があり、簡単に侵入することは出来ません。いったいどのように侵入しているのでしょうか?
まず、カビから見ていきましょう。カビは付着器という器官を持ち、そこから穴を開けて侵入します。穴を開ける仕組みも巧妙です。付着器には粘性の高いグリセロールが溜まっており、水が流入すると膨れ上がります。その圧力は自動車のタイヤの空気圧の40倍にもなるそうです。その高い圧力で葉の表面に穴を開けているのです。
次に、非常に小さな細菌では葉に穴を開けることば出来ませんから、植物の気孔から侵入します。植物は光合成のために二酸化炭素を取り込まなくてはならないため、気孔という穴を開閉する必要があります。しかし、気孔は細菌を感知すると閉じてしまうのだそうです。そのため、細菌は植物ホルモンの類似物質や様々な毒素を分泌して気孔を開かせるのです。


植物はただ硬くなるだけではありません。病原菌に侵入を許したとしても、様々な防御機構があります。
その1つが、ファイトアンティシピンと呼ばれる抗菌性の化学物質群です。常に存在するものや、病原菌の侵入により活性化するものなど様々です。ファイトアンティシピンとして有名なのは、お茶に含まれるカテキンなどのポリフェノールです。しかし、病原菌はファイトアンティシピンを分解する物質を作って対抗するものもあります。
また、植物は病原菌に攻撃されると、様々なタンパク質を分泌します。例えば、17のタイプがあるPRタンパク質は、カビの細胞壁の成分であるキチンやグルクンを分解するキチナーゼやグルカナーゼといった酵素や、カビや細胞に抗菌性を示すディフェンシンやチオチン、卵菌に抗菌性を示すPR-1やソーマチン様タンパク質、ウイルスに対するリボヌクレアーゼなど様々です。

さらに、極端な植物の防衛策として、過敏感反応があります。過敏感反応は病原菌の周囲の植物の細胞が自ら死を選び、自分もろとも病原菌に対抗する反応です。これは、生きた細胞内でしか生きられないような、完全に寄生性の病原菌には非常に有効です。しかし、毒素を撒き散らしながら組織を浸潤するような病原菌の場合、逆に病原菌が活性化してしまいます。

思いもよらぬ対抗策もあります。実験用の植物の細胞の内外の糖分の出し入れに関わるタンパク質に変異がが入った場合、何故か細菌に感染しやすくなることがわかりました。詳しく調べると、細菌に感染するとこのタンパク質は活性化して急速に糖分を細胞内に吸収します。細菌は細胞内ではなく細胞の間に潜むため、細胞外の糖分が失くなると栄養分が足りなくなります。ある種の兵糧攻めのようなものです。

以上はごく一部の要約です。実際には詳しいメカニズムも解説されます。さらに言うならば、以上の話は本の前半のみの内容です。これ以上に激しい植物と病原菌とのせめぎあいがあります。
しかし、どうやら植物の病原体は環境中にいくらでもおり、動かない植物ですが常にそれらの病原体と激しい攻防を繰り返しているようです。この本を読んで、私の持っていた植物のイメージは完全に変わってしまいました。大変、勉強になる本ですのでぜひ一読してみて下さい。


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以前、アロエの葉の配置についてのBayerの見解を記事にしました。これは要するに二列性と三列性の話でした。

以下の記事をご参照下さい。
この時、コメント欄で「2/5葉序」ではないかというご指摘をいただきました。大変、有難いことです。
さて、この2/5葉序は葉が重ならないで、太陽光が満遍なく当たる上手い配置です。しかし、なぜこのような葉の配置となるのでしょうか? もちろん、進化の結果として適者生存の理によって、2/5葉序が選択されたのだと言ってしまえばそれまででしょう。それでも、進化は新たな機能の付加より、すでに存在するものの改変や転用が多いことを考えたら、2/5葉序も既存のシステムを利用しているような気がします。
とりあえずは、色々と広く浅く調べたところ、フィボナッチ数に行き当たりました。Wikipediaではフィボナッチ数の例としてヒマワリの花の螺旋状の構造を示しています。この螺旋状の構造は、何となく多肉植物のロゼット型を想起させます。まず、そこからスタートしましょう。

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Aloiampelosに見られる葉序。葉が回転しながら重ならないように配置されます。

さて、とは言うものの、Wikipediaに書かれた沢山の数式を眺めていたところで、残念ながら私の頭では意味がまったく分かりません。介助してくれる本が必要です。調べたところ、近藤滋による『波紋と螺旋とフィボナッチ』(秀潤社、2013年)という本を見つけました。生物の形、例えば巻き貝の巻き方、羊などの角の巻き方、シマウマや魚の縞模様など、生物界に現れる様々なパターンについて解説している本です。
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フィボナッチ数とは、連続した2項の和が次の項になる、ということらしいです。わかったようなわからないような感じですが、具体的には1、1、2、3、5、8、13、21、34、55…、という数列です。なるほど、1+2=3、2+3=5、3+5=8、5+8=13という規則ですね。
一般的に植物の花弁はフィボナッチ数が多く、パイナップルや松ぼっくりなどの螺旋構造もフィボナッチ数とされるようです。マーガレットなどのキク科植物の花の中央部分はよく見ると螺旋状で、右巻きの螺旋と左巻きの螺旋を数えると正にフィボナッチ数なのだそうです。試しに、螺旋状の構造をとるGymnocalycium saglionisとEuphorbia gorgonisで螺旋の本数を数えて見ました。
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Gymnocalycium saglionisの右巻きの螺旋は7本。フィボナッチ数ではありません。
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左巻きの螺旋は11本。うーん、フィボナッチ数ではありませんね。しかし、サボテンは稜が増えていくため、例として適切ではないかもしれません。このG. saglionisはまだ20cm程度で最大サイズではないため、稜が最大となった場合に、右巻き螺旋が8本、左巻き螺旋が13本になるのかもしれません。

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Euphorbia gorgonisの右巻きの螺旋は13本。フィボナッチ数です。
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左巻きの螺旋は8本。なんと、こちらもフィボナッチ数でした。

フィボナッチ数での葉の展開は黄金角という角度になっており、約137.507度ということです。確かにこのこの角度だと、葉が重ならないように葉が配置されます。しかし、よくよく考えたら約137.507度である必然性はないのかもしれません。なぜなら、例えば132度で葉が展開した場合、回転するようにしてつく葉が一回りして重なるのは、実に11枚後ということになります。11枚も葉があれば茎もそれなりに伸びて距離がありますし、そもそも太陽光は真上から当たるわけではありません。キク科植物の花に見られるフィボナッチ数は太陽光と何ら関係がないということを加味すると、フィボナッチ数は葉が重ならないように葉を展開するためという考え方は誤りである可能性があるのです。
著者はもっと機械的な見方をしています。植物は生長点から出る植物ホルモンにより新しい葉が生長しますが、植物ホルモンが古い葉に影響しないためにはどうしたら良いでしょうか。一つは植物ホルモンに濃度勾配がある場合、新しい葉の原基は古い葉の原基から距離があれば良いということになります。あるいは、古い葉に植物ホルモンを阻害する物質が出ているとしても、やはり同じことです。3枚前の古い原基の影響まで加味すると、影響を受けない理想的な角度は黄金角となるそうです。要するに、植物が螺旋構造を構築する際に、植物ホルモンの影響により必然的に黄金角となってしまうというのです。


本のおかげで基本的なことは分かりました。さらに調べたところ、2018年の岡部拓也の論文、『葉序の究極要因』を見つけました。論文では葉序は光合成効率には関係がないと、初めから明言されています。著者が言うには、計算上では光が当たる効率は葉序以外の要素の方が大きいということです。さらに、パイナップルや松ぼっくりなどの光合成しない器官の方が、規則性が正しく現れるということです。
さて、よく見られる葉の配列は2/5葉序と3/8葉序です。3/8葉序では葉が重なるまでに8枚の葉があり、茎を3周します。自然界に見られる開度には法則性があり、これをシンパー・ブラウンの法則と呼ぶそうです。最もよく見られる開度は1/2、1/3、2/5、3/8、5/13、8/21、13/34、21/55…、といういわゆる葉序の主列と呼ばれるものです。なにやら見覚えのある数字が並んでいますが、これは要するにフィボナッチ数です。螺旋葉序では2/5葉序でも3/8葉序でも、開度は変わらずに約137.5度です。黄金角ですね。これは、分数開度の極限値であり、137.5度は極限開度と呼ばれます。
そもそも開度が137.5度ならば、茎の伸長により主列は1/3、2/5、3/8、5/13…となるのは数学的必然です。フィボナッチ数を実現するために開度137.5度になっているのではなく、逆に開度が137.5度だから自然とフィボナッチ数になっているだけかもしれません。
とは言うものの、一般的に特定の植物に特定の葉序があるように書かれがちですが、実際には枝によって葉序が異なっていたり、同じ枝の根元と葉先では葉序が変化することもよくあることだそうです。これを、葉序転移と呼ぶそうです。

ここで面白いことが書いてありました。シンパー・ブラウンの法則のブラウンによると、ヤナギの尾状花序、スゲの穂、サトイモの肉穂花序、バンクシア、サボテン、トウダイグサ(Euphorbia)、ヒカゲノカズラの螺旋構造は例外的であるとしています。どうも、サボテンはフィボナッチ数とは関係がなさそうです。また、Euphorbiaはやはり無関係かと思いきや、Euphorbia gorgonisはばっちりフィボナッチ数でした。とはいえ、Euphorbiaと言っても広いですからね。多肉植物ではなく、草本のEuphorbiaを例に調べただけかもしれません。


開度137.5度からは様々な葉序系列が導かれますが、若い時には1/3、2/5、3/8などのより単純な葉序を経由します。いわゆる葉序転移ですが、この葉序転移にかかるコストを計算すると、開度99.5度と137.5度の時に最小となります。この事実も重要なファクターかもしれません。
また、葉は茎の維管束と繋がっていることから、維管束の配置とも関係があります。葉が縦列をなす傾向は維管束が縦に並ぶからであり、これが葉の原基のパターン形成に選択圧を及ぼすと考えられます。維管束は自由自在に出せないため、維管束の伸長が葉のつきかたを限定するのです。
葉は縦に規則的に並びますが、これが葉序の規則性を進化させる駆動力であり究極要因です。
よって、葉序は外部環境(日照)への適応ではなく、あくまで内部的な適応と考えた方が自然であるとしています。


始まりは二列性・三列性の話でしたが、2/5葉序を知ったことにより黄金角やフィボナッチ数に行き当たり、葉が重ならないからよく日が当たるという常識的な見方の否定にまで至りました。正直なところ、読んだ資料の全てを理解出来ておりませんし、内容的にも完全に証明された訳でもないように思われます。様々な可能性は示されますが、それを証明する手段がないような気もします。ただし、葉序により良く日が当たるからだという説明は、確かに間違いなのでしょう。今後、何か学術的に進展がありましたらまた記事にしたいと思います。まあ、あくまで私に理解出来る範囲の話ならばですが。


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花を咲かせる植物は花粉を作りますが、花粉は受粉して種子を作るためです。というよりも、花粉のために花があるといった方が正しいかもしれません。受粉が風任せな風媒花(杉などの針葉樹、オオブタクサ、イネ科植物など)は目立たない花を咲かせますが、昆虫を呼び寄せて花粉を運んでもらう虫媒花は、昆虫を呼び寄せるために目立つ花を咲かせるのです。
もちろん、風媒花以外の花はすべて虫媒花という訳ではありません。アフリカのタイヨウチョウや新大陸のハチドリなど花の蜜を専門とする鳥もいることから、鳥媒花も存在します。また、コウモリにより受粉する蝙蝠媒花も存在します。とは言うものの、やはり動物による花粉の媒介は、その多くが昆虫によるものと考えられています。

アフリカの鳥媒花については、こちらの記事をご参照下さい。

蝙蝠媒花については、こちらの記事をご参照下さい。

一口に虫媒花と言っても花粉を媒介する昆虫は様々です。花を訪れる昆虫と言えば蜜蜂や蝶が思い浮かびますが、それだけではなく蝿や蛾も重要なポリネーター(花粉媒介者)です。これらの花と花粉を媒介する昆虫の関係について書かれた石井博の著作、『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』(2020年、ベレ出版)を本日はご紹介します。

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花粉を運ぶ昆虫と言えばミツバチを思い浮かべますが。これは養蜂からの発想に過ぎません。実際には狩りバチや寄生バチ、ハバチなど様々なタイプのハチが花を訪れます。その中でも重要なのはハナバチの仲間です。ハナバチは非常に種類も多く、ハナバチが訪れることが重要な意味を持つ植物も多いようです。赤・橙・黄色系統の花を咲かせるアロエにもハチは訪れますから、暖色系の赤色の花にハチが来ると思っていましたが、ハチは赤色を認識出来ないようです。まあ、アロエの花は純粋な赤色ではないので、特におかしなことではないのでしょう。また、ハチが訪れる花の色は様々で幅が広く、それほど強い傾向はないようです。まあ、ハチの種類ごとには傾向があるのかもしれませんが。
しかし、ハチの口器の形からして、筒状あるいは先端や根元がすぼまった形の花からは採蜜は出来ないでしょう。例外はあるようですが基本的には開いた花に訪れます。ハチが訪れる花には、花の中央付近の色が濃くなったり異なる色の模様が入っているものが割と多く、これを蜜標(nectar guide)と呼ぶそうです。


次はやはり花に訪れる昆虫の代表格であるチョウを見てみましょう。しかし、チョウは口器がストロー状ですから花粉に触れないで採蜜出来るような気がします。つまりは、いわゆる盗蜜者ではないのかと私は考えていました。ところが、実際にクサギではアゲハチョウが花を訪れないと、受粉効率が低下するようです。そもそも、チョウが多く訪れる花には、蝶媒とも呼べる共通する特徴があると言います。それは、花の形がラッパ状や漏斗状で、葯や柱頭が飛び出しており、花粉に粘着性があり甘い芳香があるなどです。また、赤系統の花が多い傾向もあるようです。

次は蛾についてです。ガもチョウと同じく鱗翅目の昆虫ですから、当たり前ですが採蜜します。ガもやはり蛾媒と言える花の特徴があります。夜間に咲き、花は白か緑色、あるいは薄い色、葯や柱頭が飛び出しており、花筒や距が発達しており、強くて甘い香りを持つなどです。花は白や薄い色が多いのは、薄暗くても比較的見つけやすいとあります。しかし、個人的に思うのは、暗いためガは視覚ではなく嗅覚に頼っているので、花の色が不要なだけなような気もします。

次は蝿です。ハナアブやツリアブは花に特化しており、長い口器を持つものもあります。普通のハエも花を訪れて採蜜するそうです。花虻・蝿媒の花は皿状や椀状で単純な形で、葯や柱頭、蜜腺が露出し、花色は白か黄色、薄い緑色が多く、日中に開花し香りは弱いものが多いようです。一般的にハエ目の昆虫は色を識別する能力が低いため、花色は地味なのでしょう。長い口吻を持つツリアブは花筒が長く花蜜が、奥深くにある花を好みます。そして、様々な色の花を訪れ、他のハエよりハナバチに似た傾向があるようです。
他にも、ハエはラフレシアなど腐臭がする花に引き付けられます。マムシグサなどサトイモ科植物はキノコバエを誘引するため、キノコの匂いを出しているのかもしれません。

この他にも、ハナムグリやケシキスイなどの甲虫や、アザミウマによる花粉媒介なども知られています。また、鳥媒花とコウモリ媒花も紹介されています。赤い花にはハナバチが来ないため、Fouquieriaの赤い花は昆虫ではなくハチドリだけを呼ぶ算段なのかもしれませんね。ちなみに、コウモリ媒花の花は、夜間に咲いて、白かクリーム色、緑色などで、発酵臭などの強い匂いがあったりするそうです。面白いことに、綿毛に覆われた柱サボテンであるEspostoa frutescensは、綿毛が音を吸収することにより、花の音響を際立たせていると考えられているそうです。音の反射を利用して飛ぶコウモリに対する適応なのかもしれません。他にも、ヤドカリ、トカゲやヤモリ、ネズミなどが受粉に関与するケースもあるそうです。
本の内容的には以上の話はほんのさわりで、花と昆虫の複雑な関係のディープな話が盛り沢山です。植物と昆虫が一対一の関係を築いたり、昆虫が花を選択してある個体は同じ種類の花にばかり訪れたり、植物が昆虫を騙しておびき寄せたり、逆に昆虫が花の蜜を盗んだりと様々な事象が語られます。非常に勉強になり、かつ面白い本でした。


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植物の研究では分野によりますが、野外で植物を観察したり標本を作製したりすることもあります。これらの標本は研究者個人のコレクションではなく、大学や博物館に貴重な資料として納められます。もちろん、これはプロの研究者が採取地などの詳細な情報と共に標本化されるものですから、私のような素人が採取したものとは重要性・信頼性・学術性において雲泥の差があります。これらのコレクションは乾燥標本、つまりは押し花ですからペッタンコで色も褪せてしまっています。そのようなものが役に立つのかと思ってしまいますが、実際大いに役に立ちます。単純に葉や花の形を比較するだけではなく、例えば茎に細かい筋がある、葉の裏に微小な毛がまばらにあるなど、後から詳細に調べることも可能です。さらに、過去の標本や、違う産地の標本同士を比較することも可能です。最近では、標本から遺伝子を取り出して解析することも出来るようになりました。同じ種類の産地の異なる標本の遺伝子を調べるだけで、実は良く似ている別種であったなんてこともあり得る話なのです。

という訳で、前置きが長くなりましたが、標本の採取はこのデジタルな時代にあってもなお重要です。本日は、そんな研究者の標本採取の旅について書かれた本をご紹介したいと思います。それは、塚谷裕一/著『秘境ガネッシュヒマールの植物』(研成社)です。

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表紙はいわゆるヒマラヤの青いケシです。この調査は、ネパール・ヒマラヤのガネッシュヒマールで行われました。ガネッシュヒマールは王政時代は入山禁止だった秘境中の秘境で、ほとんど調査が及んでいない地域です。調査の目的はガネッシュヒマールに分布する植物をリストアップすることです。1種類につき最低6セットの採取を目標としていますが、これは世界6箇所の研究機関に配布して、広く世界中の研究者たちに利用してもらうためです。もちろん、必ずしも6セット揃うとは限りませんが。
調査はチームで行われ、それぞれが専門分野を持っています。とはいえ、自分の専門分野外についても採取する必要があります。ちなみに、著者はシロイヌナズナを実験材料としていますが、ヒマラヤ地域にも分類的に近い固有種が分布しています。国内にはほとんど標本が存在しないため、著者は標本を必要としているのです。また、今回は標本だけではなく生きた植物を採取して持ち帰り、種子をとることを目指しています。
流石にヒマラヤ地域ですから、標高も高く環境は厳しいものです。著者も高山病で常に頭痛に見舞われながら採取をこなしていきます。ポーターがいるとは言え、野営地では標本を作るために採取した植物を乾燥させたりと、中々忙しい道中です。標高が上がれば高山病、下がれば蛭だらけと楽は出来ないのです。

さて、中々このような学術調査の道中については語られませんから、大変興味深く読みました。というのも、このようなフィールドワークは道中に様々な出来事があったはずですが、そのような細々したことは論文には書かれません。研究に関係ないことは記載しないのは当たり前のルールです。今回は採取が目的ですから論文は書かれないかもしれませんが、国から研究費が出ていますから報告書の提出が必要です。しかし、この場合の報告書は論文よりさらに簡潔な無味乾燥な代物です。著者が見たもの感じたことは論文には示されません。このような本は大好物なので、見かけたら必ず入手するようにしていますが、大きな出版社ではなく有名なものではないため中々難しいものです。1960~1980年くらいには、この手の本はよく出ていたのですが、最近はあまりないみたいです。昔は海外調査自体が稀で、海外旅行も今より少なかった時代の読者も、見知らぬ海外に興味が高かったのかもしれません。現代人は海外旅行は当たり前な上、ネットの膨大な情報で、感覚的に秘境など無いに等しいのかもしれません。個人的には寂しくもあるのです。


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植物の葉の形は様々です。当たり前のように思われるかもしれませんが、生存に適した形や大きさというものがあるならば、似たような葉ばかりになるのではないのでしょうか? この葉の多様性は大変興味深い分野で、日本では植物学者の塚谷裕一さんが何冊か本を出しています。本日は日本植物生理学会が監修する2008年に刊行された『進化し続ける植物たち』(化学同人)という本から、塚谷裕一さんの論考、「植物の柔軟性はどのように進化してきたのか」をご紹介します。

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屋久島は多くの植物が本土とは異なります。構成は同じなのですが、全体的に小型で大抵は本土に生える植物の変種扱いとされています。塚谷さんは屋久島の小型の植物は渓流植物ではないかと考えました。渓流植物は文字通り渓流に生える植物で、水の増減が激しい渓流ではふいに強い水流を受けやすい環境です。ですから、渓流植物は小型になる傾向があるのです。
例えば、屋久島原産のヒメツルアリドオシという植物は、日本各地に見られるアリドオシの変種とされます。ヒメツルアリドオシはまるでアリドオシのミニチュア版のような大変小さな植物ですが、ただ小さいから変種とするのは大げさではないかと塚谷さんは考えたようです。そこで、日本中のアリドオシを集めて葉の縦の長さと横幅を測定してみました。すると、日本各地のアリドオシは様々なサイズの葉を持ちますが、葉の縦の長さと横幅の比率はほぼ同じでした。縦軸に葉の長さ、横軸に葉の幅を表したグラフを書いてみると、綺麗な直線となるのです。驚くべきことに、ヒメツルアリドオシはその直線の一部で連続しており、確かに小さいもののアリドオシとの境は見つかりませんでした。ヒメツルアリドオシの葉を顕微鏡で見てみると、葉のサイズは異なるのにアリドオシとまったく区別はつきませんでした。つまり、細胞のサイズが小さくなるわけではなく、細胞数を減らしてミニチュアの同じ形を作っているのです。

次に金華山(宮城県)ではオオバコが小さな葉をつけ、しかもそれは鹿が食べるからだという話を聞き、調査に向かいました。実際に金華山で植物は小型化したり、匂いがきつくなったり、トゲが長くなったりと鹿に対する防衛策が発達しています。ちなみに、小さくなることがなぜ防衛策となるのかと言うと、鹿は地面に鼻を着けて草を食べないので背の低い草は食べられにくいということです。
さて、金華山には自然のブナ林がありますが、鹿が苗を食害してしまうため、新しい木がまったく育ちません。実は金華山にはもともと鹿はいなかったのですが、金華山に神社を建てた時に人為的に鹿を放したということです。鹿に苗を食べられてしまうため、ブナは古木ばりで若い木でも樹齢500年ということです。しかし、よく考えたら鹿が放たれたのは、500年前くらいだったのかもしれません。この樹齢500年の「若い樹」は鹿に食べられずに育ったからです。
ここで、面白いことに気がつきます。鹿が放たれてからたった500年ほどしか経っていないのに、植物は防衛策をこれだけ発達させているのです。進化は急激に進んだことが分かります(※1)。

(※1)直ぐに思い付く疑問として、なぜブナは食べられる一方で食べられないように進化しないのか?、他の植物が出来ているならばおかしいのではないか? というものです。私も最初、そう思いました。しかし、ブナは種子が発芽してから、その個体が生長して実をつけるまでの時間が長すぎるのではないでしょうか。発芽してから1年以内に種子をつける一年草とは条件が異なり、世代交代が遅く進化速度も緩やかなはずです。そして、そもそも実生が食べられてしまうため、次世代が育たないので進化しようがありません。ブナは倒木更新が一般的ですから、発芽して育つ苗自体の数も少ないので、鹿害を受けやすいのではないでしょうか。

これらは非常に希なケースかと思いきや、実は鹿のいる宮島(広場県沖)でもオオバコなどの植物が小さいというのです。島+鹿は植物の葉を小さくするのでしょうか? 。さっそく、全国の島を調査しましたが、必ずしも島+鹿で葉が小さくなる訳ではないようです。ある程度の大きさのある島じゃないと植物の小型化は起きないようです。どうやら、島が小さすぎると鹿が植物を食べ尽くしてしまい、植物が進化する前に全滅するということが分かりました。
さて、実は鹿だけではなく、古い神社仏閣に生えるオオバコなども小型化するということが知られているそうで、これを神社仏閣型と呼んでいるそうです。これは鹿ではなく、神社仏閣の境内など敷地内はよく整備されており、雑草が抜かれる傾向が強いからかもしれません。古くは江戸時代の書物にもその旨が書かれており、由緒正しい神社仏閣ほど小型化するとされていたようです。つまり、由緒正しいということは、その神社仏閣が古くからあるということでもあります。それだけ長い年月、植物に淘汰圧がかかっていたということのでしょう。ちなみに、古い神社仏閣は数百年の歴史があり、金華山の約500年と年月的に似ていますね。
オオバコは日本中に分布しますが、やはり屋久島のオオバコは小型でヤクシマオオバコとされています。しかし、やはり小型の宮島のオオバコもヤクシマオオバコではないかという考え方もあるのだそうです。しかし、日本中のオオバコを集めて遺伝子を調べたところ、意外なことが分かりました。大型のオオバコ、小型のオオバコがそれぞれ分布を広げたのではなく、小型化はあちこちでその都度起こっていたのです。様々な実例を見てきた私たちには特に意外な話ではありませんが、これまでの一般的な考え方を覆したのです。

葉の大きさは思ったよりも可変で、環境に合わせて柔軟に変わってしまうことが分かりました。しかも、それがせいぜい数百年で起こることも驚きです。植物は単純に大きさの大小で別種や変種に分類されたりしますが、もしかしたらそれらは誤りである可能性もあります。まあ、大きさに限らず、例えば日本の南北に分布する植物では、南限と北限の植物は驚くほど異なっていたりしますが、実際には南北の中間地点はグラデーションのように特徴が移り変わり、どこかで区切ることが出来ないこともあります。そもそも種とは何かとは大変な難問ですが、これらの知見を踏まえるとさらにややこしいことになり、恐ろしく曖昧なものになってしまうかもしれません。
さて、実は塚谷さんの本領はこれからで、葉のサイズに関わる遺伝子を解析しています。大変興味深い話ではありますが、またの機会とします。塚谷さんの著作は何冊か手元にありますから、またそのうちご紹介出来ればと考えております。


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どれだけ小さな庭でも、そこに土があれば何かしらの雑草がたくましくも生えてきます。ガーデニングを趣味としている方なら、雑草は大なり小なり厄介な存在でしょう。私も育てている多肉植物の鉢に、どこから来たのか様々な雑草が生えてきます。早期に抜かないと根を深く張ってしまい、中々取り除くのにも手を焼くことになります。こんな趣味の範疇の園芸でも厄介な存在なのですから、農業における雑草は厄介どころの話ではないでしょう。もちろん、科学の力により除草剤なるものが開発され使用されます。しかし、たかが雑草と侮るなかれ。雑草には人間の知恵など凌駕する力があるようです。本日はその雑草が主役の話をしたいと思います。参考とするのは2003年に出版された『雑草の逆襲』(全国農村教育協会)です。早速、簡単に内容をご紹介しましょう。

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農業では雑草は実に厄介な存在です。せっかくまいた肥料を吸ってしまいますし、背丈が高くなれば日照を遮ります。あまりに雑草が蔓延ると、そこから病害虫が拡がることもあります。風通しも悪くなりカビなどによる病気も起こりやすくなります。そのため、除草剤がまかれますが、日本各地で異変が起きているというのです。雑草は本来、実に沢山の種類があります。しかし、除草剤をまいていると、何故か1種類の雑草のみが蔓延る、奇妙な光景が現れ始めたのです。
事の起こりは1980年の埼玉県のことでした。荒川堤外地の桑畑でパラコートなどのビピリジリウム系除草剤に抵抗性があるハルジオンが見つかりました。驚くべきことに、このハルジオンは通常の16倍の除草剤にも耐えることが分かりました。

では何故除草剤が効かないのでしょうか? そもそもパラコートはどのように効くのかというと、葉に光が当たると光合成しますが、その反応にパラコートが作用して活性酸素を生じて葉の組織に損傷が生じるようです。そこで、パラコートに耐性のあるハルジオンやアレチノギクの葉を切って、切り口から標識したパラコートを吸わせてみました。すると、パラコートは葉脈にはありましたが、葉の組織にはありませんでした。つまり、光合成がおきる葉の組織にパラコートが行かないため、活性酸素が生じないということのようです。
しかし、不思議なのはハルジオンのパラコート耐性が、原産地の北米ではなく日本で初めて発生したという事実です。一般的に原産地は種内の多様性が高いことから、北米でこそパラコート耐性が出てくるような気がします。ただ、ハルジオンは日本では大量発生しますが、北米では重要な雑草ではありません。これは、ハルジオンが本来は存在しない侵略者であるため、競争相手がいないだとか、北米でハルジオンにつく病害虫が日本にはいないだとか理由は色々と考えられます。そのため、ハルジオンに対し日本では北米より大量のパラコートが使われてきたということかもしれません。

さて、除草剤に限らず薬剤耐性が起きる仕組みとは、①薬剤の吸収・移行を阻害する、②薬剤を分解してしまう、③薬剤の作用部位が変異してしまう、という3つが考えられます。ハルジオンのケースは①の薬剤の吸収・移行の阻害によるものですね。
さらに、北海道や東北で、水田雑草であるミズアオイやアゼトウガラシにSU剤という除草剤に対する耐性が見られました。SU剤は植物がアミノ酸を合成する過程のアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害しますが、ミズアオイやアゼトウガラシはALSの変異によりSU剤が効かないと考えられているようです。つまり、③の薬剤の作用部位の変異によるものです。
また、何も除草剤抵抗性は日本だけの話ではなく、世界中で起きている現象です。しかも、複数種類の作用機序が異なる除草剤に抵抗性を獲得した雑草も現れているようです。さらには、オーストラリアのボウムギやカリフォルニアのイヌビエのように、解毒機構を発達させてほとんどの除草剤を無効化する「スーパーバイオタイプ」と呼ばれる恐ろしい雑草さえ出てきてしまっています。②の薬剤の分解によるものですね。


しかし、考えて見れば雑草とは実にたくましいもので、人類の叡智など軽々と乗り越えてしまいます。まったく異なるタイプの除草剤が開発されても、基本的にはいたちごっこで、直ぐに乗り越えられてしまうのでしょう。これは、近年重大な問題と化している抗生物質に耐性のある細菌の出現と同じ現象です。こちらも多剤耐性菌の出現により医療現場に多大な負荷がかかってしまっています。やはり、こちらも除草剤と同様に終わりのない戦いを強いられています。
除草剤自体は人体にも有害な物質ですから、使わないに越したことはないのでしょう。しかし、狭い庭ですら雑草を蔓延らせている私には、農家は広い農地を手作業で雑草を抜くべきだとはとても言えません。やはり、人間の知恵など「たかが雑草」にすら勝てないのでしょうか? こうなってしまうと、除草剤とはまったく異なる手法による、新たな除草方法が求められているのかもしれませんね。


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最近、植物と菌類との関係について、幾つか記事にしています。ここで一つ、良い本がありますからご紹介します。それほど重要な話には思えないかもしれませんが、大抵の植物は菌類と共生関係を結んでいます。
さて、本日は2020年に出版された『菌根の世界』(築地書館)をご紹介します。内容はまあ実際に手にとって読んでいただくとして、菌根の基礎的な部分のみ解説させていただきます。なお、説明しにくい部分もありますから、私が一部情報を追加していますので悪しからず。

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さて、まずはキノコの話から始めましょう。キノコには大まかに分けて3つのタイプの生態があります。1つは落ち葉を分解するキノコで、身近な例ではブナシメジやツクリタケ(マッシュルーム)、えのき茸、フクロタケなどです。2つ目は木材を分解するキノコで、身近な例では椎茸や舞茸、ヒラタケ、ナメコ、キクラゲなどがあります。そして、3つ目が植物と共生関係を結ぶ菌根菌です。菌根菌では松茸やトリュフ、ポルチーニなどが有名ですが、一般的に栽培が難しく高額なキノコです。もちろん、ここに名前が出たキノコだけではなく、他にも沢山の種類のキノコがあります。これらのキノコが作る菌根を「外生菌根」と呼び、植物の根の周囲に服を着せたかのように、キノコの菌糸が被います。植物とキノコの間で栄養分のやり取りがあり、植物の生育にとって非常にプラスとなっていることが分かっています。

菌類にはキノコを作らないものもあり、一般的にカビと呼ばれています。カビには、生き物の死骸を腐らせるものと、植物に寄生するタイプの病害菌と、植物と共生するカビがあります。植物と共生するカビは、アーバスキュラー菌根と呼ばれる特殊な菌根を形成します。アーバスキュラー菌根は、なんと植物の根の組織にカビの菌糸が入り込んで、植物と菌が一体化してしまいますから、これを「内生菌根」と呼んでいます。アーバスキュラー菌根は痩せ地に生える植物でよく発達し、貧栄養に育つ植物にとって極めて重要な存在です。また、様々な作物などでアーバスキュラー菌根菌の接種により、植物の生育が良くなることが確認されています。アーバスキュラー菌根菌は、栽培困難な外生菌根とは異なり、相手を選ばずしかも簡単に接種できます。
さらに、驚くべきことに4億3000年前に初めて植物が陸上に進出した時、すでにアーバスキュラー菌根が存在していた可能性があります。なぜなら、上陸したばかりの植物にはちゃんとした根がないため、栄養分を上手く吸収出来ていたとは考えにくいのです。アーバスキュラー菌根菌が存在していれば、根の代わりに菌糸が栄養分を運んでいたのではないかというのです。さらに、アグラオフィトンという植物化石の仮根(まだ未発達な根)にアーバスキュラー菌根に類似な構造が観察されています。アーバスキュラー菌根菌であるグロムス菌亜門は、(おそらく遺伝子解析により)4~5億年前に近縁な菌類から分かれたと考えられており、その点においても符合します。


アーバスキュラー菌根菌は農業への応用が期待されますが、実はすでに製品化されているそうです。しかし、残念ながらあまり普及していない現実があります。なぜなら、菌根は土壌中の栄養分が少なく場合により効果が期待できるわけで、日本のような過剰に化成肥料をまく農業では効果が表に出にくからです。実験的には肥料を減らしても高い収率が期待できるということですから、使い方次第では面白いのではないかと思います。最近、サボテンにアーバスキュラー菌根菌を接種した論文をご紹介しましたが、生長が良くなり病原菌の影響を減じました。乾燥した過酷な環境に生きる多肉植物はいかにも菌根菌と関係していそうです。アーバスキュラー菌根菌の応用は効果が期待できるかもしれません。

以上のように、簡単に菌根について解説させていただきました。しかし、これはいわばさわりの部分でしかなく、内容的には様々な角度から菌根について語られています。植物と菌類の関係は様々で非常に複雑です。外生菌根の話や蘭菌の話、苔やシダの菌根の話など大変興味深い内容です。大変面白く勉強になる良い本ですからオススメします。


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植物は常に闘っています。とはいえ、動物の喰う・喰われるの関係に比べると、非常に静かで密やかな闘いです。植物は常に周囲の他の植物と、光や栄養分を巡り競いあっているのです。その闘いには植物ごとに独自の戦略があります。本日はオオブタクサの戦略を例に、植物の闘いを見てみましょう。参考としたのは1996年に出版された、鷲谷いづみによる『オオブタクサ、闘う -競争と適応の生態学』(平凡社・自然叢書)です。

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まずはオオブタクサとはどんな植物なのでしょうか。実はオオブタクサは正式な名称ではなく、実際にはクワモドキというそうです。ブタクサに似ていて(実際に近縁)、とても大きいのですから、オオブタクサの方が実態を表しているような気がしますから、以降はクワモドキではなくオオブタクサで統一します。
オオブタクサは北米原産の帰化植物で、大豆に混入して持ち込まれた可能性があるそうです。輸入された大豆は種苗用ではなく加工用ですから、どのような経緯で野外に逸出したのかは良く分かりません。河原などによく生えるのだそうです。関東地方でもかなり増えているようです。しかし、生える場所からしてあまり目につきにくいような気がします。
オオブタクサは一時期のセイダカアワダチソウのように、ある区域を埋め尽くしてしまうことがあります。オオブタクサは風媒花ですから、密集地では花が咲くと大量の花粉で周囲が黄色く見えるほどだそうです。風媒花は風任せですから、数打ちゃ当たる方式で虫媒花より多くの花粉を作り、しかも周囲にばらまきやすい構造となっています。ですから、オオブタクサは花粉症の原因の1つになっています。ちなみに、セイダカアワダチソウは虫媒花ですから、それほど沢山の花粉を作りませんし花粉をやたらに環境中にばらまいたりはしません。風媒花ではないのでそんなもったいないことはしないでしょう。セイダカアワダチソウが花粉症の原因のように言われますが、果たして本当なのでしょうか。あのように、目立つ花を咲かせるのですから、虫媒花であるのはどちらかと言われたら分かりやすい方ですよね。


さて、日本の植物からするとオオブタクサはインベーダー(侵入者)なわけですが、そもそも日本の環境中にインベーダーの入り込む余地がなければ定着しません。一般的には隙を付くのが定石で、空いたニッチに侵入する場合と、攪乱地に侵入する場合があります。ニッチとは生態的地位という分かりにくい訳語がありますが、要するにどういう場所でどんな環境かということです。空いたニッチ、つまりある環境を他の生き物が利用していない場合、競争相手がいないため簡単に侵入出来ます。次に攪乱地ですが、一般的には山火事や崩落地、洪水の跡など流動的な場所です。攪乱地では本来の生態系が崩壊していますから、様々な生き物が侵入するチャンスがあります。そのため、攪乱地では周囲より様々な生き物が見られ多様性が著しく高いことがあります。また、人工的な都市環境は本来の自然とは全く異なりますから、侵入者の比率が高い環境と言えます。しかし、オオブタクサは隙を付く戦略ではなく、あくまで競争して打ち勝つという在来の植物に真っ向勝負を挑んでいます。
※河原自体は攪乱地でもあります。

そもそも、オオブタクサは北米においても特殊な植物です。アメリカで実施された調査では、オオブタクサが生えると遷移が進まなくなるそうです。一般的に裸地には、まずイネ科の雑草など生長の早い一年草が生えてきます。その後は、先駆植物という荒れた環境に生える植物、例えばアカメガシワや松が生えます。環境は移り変わり、対応するように植物相も移り変わりますが、これを遷移と言います。オオブタクサは一年草としては非常に大型で、最大6mにもなります。背が高いと日照を独占できますから、オオブタクサは大変有利です。日照を巡る競争に勝てないのなら、オオブタクサが占有する区域では他の植物が生えることは非常に困難です。オオブタクサが生えると種の多様性は1/8にまで低下するということです。

では、なぜオオブタクサは他の雑草と競争して打ち勝つことが出来るのでしょうか? 背が高くなり太陽光を独占出来るということも確かに1つの理由ですが、オオブタクサより早く芽吹き生長する植物がいたら、オオブタクサの実生は陰となり育たないかもしれません。なぜ、オオブタクサが勝てるのか、非常に不思議です。
その理由の1つが、オオブタクサの種子のサイズが1cm近くにもなり、周辺の雑草の中では大型であることが原因だと考えられています。種子が大きければそれだけ沢山の養分を含んでいますから、発芽すると種子の沢山の養分を使って急激に生長することが出来るのです。
種子が大きいほど養分が多くなり生長が早くなりますから、他の雑草も種子を大きくした方が有利な気もします。しかし、種子の大きさは種によってバラバラですが、そこにもやはり意味があります。オオブタクサは親植物が巨大なので、大きな種子を作ることが出来るという側面もあります。しかし、それだけではないのかもしれません。
種子を作るには沢山の栄養分をつぎ込まなくてはなりませんから、親植物が種子を作れる限界があります。仮に親植物の種子につぎ込める栄養分が等量と仮定しましょう。その場合、大きな種子ならコストが高いので少数しか出来ず、小さな種子ならコストが低いので沢山作ることが出来ます。小さな種子は大量にばらまかれて、種子の養分は少ないので育たないものも多いのでしょう。しかし、実は種子のサイズは、種子に貯蔵された養分だけの問題ではありません。なぜなら、大きな種子は重いため基本的に親植物の近くに落下しますが、小さな種子は軽いため親植物から離れてあちこちに分散します。オオブタクサが同じ場所に高密度に生えるのは、種子が重くあまり拡散されないからでしょう。小さな種子はオオブタクサ集落でオオブタクサと競争する必要はなく、広く拡散してそのうちのどれかが良い条件であれば問題がないという訳です。そう考えると、必ずしも大きな種子が有利とは言えないような気がします。要するに戦略が異なるだけと言えるでしょう。


次にオオブタクサは種子の目覚めが早いと言います。関東地方では2月頃だと言います。種子は暖かくなると芽を出しますが、オオブタクサは他の雑草の種子が目覚める前にいち早く芽を出すのです。これは非常に有利な戦略ですが欠点もあります。早く芽を出してしまうと、まだ寒いこともあって霜が降りたり寒波などでせっかくの実生がダメージを受けて枯れてしまうかもしれません。しかし、オオブタクサはイヤらしいことに、種子の発芽にバラつきがあり、次から次へと順次発芽するので問題がないようです。
これは非常に優れた戦略です。何でも、オオブタクサはオギ原にまで侵入しているそうですが、これは種子の目覚めの早さと関係があるかもしれません。オギやススキなどは地下茎に栄養分を貯蔵しているため、暖かくなると急激に生長します。オギは人の背丈ほどになりますから、オギ原はオギが占有することは普通です。しかし、オギが目覚める4月までにオオブタクサはすでに生長を開始しており、アドバンテージがある状態から競争を始めるのです。


今回はオオブタクサを例に取りましたが、非常に面白い生態を持っていました。しかし、他の植物も非常に多様な戦略を取っています。何となく庭に生えているように見える雑草も、実は優れた戦略の末にそこに生えているのかもしれませんね。


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以前、Aloe parvulaについて調べていた時に、嫌石灰植物という言葉を知りました。嫌石灰植物とはケイ酸植物とも言われるようです。最近、イネ科植物などケイ素要求性が高い植物があるという記事を書いたことがあります。取り込んだケイ素で植物は体を補強しています。逆にトマトはほとんどケイ素を吸収しませんが、どうやらトマトは石灰を吸収して体を補強しているみたいです。そのため、トマトはカルシウム要求性が高く、カルシウムが不足すると尻腐れになるそうです。また、バラやカラタチもトゲにカルシウムを蓄積しているようです。しかし、残念ながら日本ではアルカリ性土壌ではまともに植物を育てるのは難しいようです。それは、どうしてでしょうか?

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Aloe parvula

ここで、森林総合研究所の2011年のレポートを見てみましょう。それは、香山雅純、山中高史、青木菜保子による『石灰質土壌に移植されたカシ2種の外生菌根菌の接種効果』です。九州には石灰岩地が多く石灰を採掘しています。そして、鉱山の採掘跡地は緑化が義務付けられているそうです。しかし、そもそも石灰岩地は自然に樹木が生えにくい土地ですから植樹が難しいのです。なぜなら、多量のカルシウムにより土壌が強いアルカリ性となっており、その影響で鉄やマンガン等の微量元素の吸収が抑制され、リンがカルシウムと結合してしまい植物が利用出来ないのです。そのため、石灰岩地の植生は構成が異なります。樹木では、低い標高の石灰岩地の主要樹種であるアラカシや、標高の高い石灰岩地にみられるウラジロガシが知られています。アラカシやウラジロガシはブナ科の植物ですが、ブナ科の植物は菌類と共生関係を結んでおり植物の根に菌糸がまとわりつく菌根を形成します。石灰岩地では菌類菌が分泌する酸により、カルシウムと結合したリンを溶かして植物が活用出来るようなるそうです。
さて、この研究ではアラカシとウラジロガシのドングリを植えて、菌根を形成する茸であるツチグリとニセショウロを培養したものを接種しました。①茸を接種しないグループ、②ツチグリを接種したグループ、③ニセショウロを接種したグループで、10ヶ月栽培しました。1グループあたり10本の個体数で実験しています。土壌のpHは7.03で弱アルカリ性です。

気になる結果は以下のようになりました。
ウラジロガシ
①接種していないグループでは、葉は0.5倍と減ってしまいました。幹と枝は2.5倍と微増、根は1.0倍と変化無しでした。
②ニセショウロを接種したグループでは、葉は1.1倍、幹と枝は2.1倍、根は1.8倍とすべて微増しました。
③ツチグリを接種したグループでは、葉は5.1倍、幹と枝は9,9倍、根は6.4倍とすべて著しく生長しました。

アラカシ
①接種していないグループでは、葉は0.7倍と減ってしまいました。幹と枝は1.4倍、根は1.2倍と共に微増しました。
②ニセショウロを接種したグループでは、葉は3.0倍、幹と枝は3.6倍、根は2.5倍とすべてで増加しました。
③ツチグリを接種したグループでは、葉は7.6倍、幹と枝は9.8倍、根は6.6倍とすべて著しく生長しました。

というように、アラカシもウラジロガシも、菌根菌の接種により生長が促進されました。ここから2つのことが読み取れます。1つは、石灰岩地に生える=アルカリ性土壌に強いと思われるアラカシやウラジロガシが、菌根菌がいないとまともに生長出来ないということです。というよりも、菌根菌と共生しているから石灰岩地で育つことが出来ていたのでしょう。2つ目は、ニセショウロよりツチグリの方が効果的であったことです。これは、ニセショウロがアルカリ性土壌に弱いので、ニセショウロ自体が上手く育たないのでしょう。もしかしたら、嫌石灰植物は共生する菌類がアルカリ性に弱いということもあり得るのかもしれません。
しかし、植物と菌類との共生関係は思った以上に重要であることがわかります。サボテンも菌類との共生が有効であるという論文を昨日記事にしました。他の様々な多肉植物も知られていないだけで、地下では菌類と共生関係を結んでいるのかもしれませんね。



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ケイ素と言ってもあまりぴんとこないかもしれませんが、実はケイ素自体は地球の地殻の30%弱を占めるくらい大量に存在します。ガラスや水晶は二酸化ケイ素ですから、実は大変身近な存在です。半導体やシャンプーなどに入っているシリコンはケイ素が原料です。流石に植物には関係なさそうですが、大いに関係があります。身近な例ではイネ科の植物には大量のケイ素が取り込まれており、細胞の中に小さな水晶の結晶としてケイ素が存在します。イネ科の雑草が生い茂る草地に入ると皮膚に切り傷がついたりしますが、これは取り込まれたケイ素が原因で切れるのだと言われています。という訳で、植物とケイ素には関係があります。それはどんな関係か、昭和62年(1987年)に出版された『ケイ酸植物と石灰植物』(農文協)を参考にして見ていきましょう。

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日本の土壌は火山灰由来のものが多いのですが、雨が多く火山灰は透水性が良いため、土壌中のケイ素は溶脱してアルミニウムの割合が高くなります。アルミニウムはリン酸と結合してしまうため、地力を著しく落とします。そういう意味においては、日本の土壌は農作物を育てるのに適さないと言えます。土壌から流出したケイ素は河川水に溶け込みますが、 この溶けたケイ素を上手く利用したのが水田です。

そもそも、稲の栽培にはケイ素は不可欠です。なぜなら、水田にケイ素が不足すると生育が遅れ、さらに稲が倒れてしまい健全な生育が困難となるからです。ですから、地力が落ちた水田には、製鉄でできるスラグ(鉱滓)を投入します。スラグの主成分はケイ酸カルシウムですから、非常にケイ素が豊富です。ケイ素が豊富であると、茎や葉がしっかりするだけではなく、いもち病などに強くなることがわかっています。実は稲の葉や茎の15%以上がケイ素からなるわけで、稲は選択的にケイ素を吸収していることがわかります。

稲は強力にケイ素を吸収する希な例ですが、調べると多くの作物にケイ素は関係してきます。例外としてトマトがあり、ほとんどケイ素を吸収しませんから、ケイ素を与えても生長が良くなることはありません。しかし、実験的にケイ素が存在しない条件でトマトを育てると生育に問題が出てくるそうです。全くないというのも良くないのでしょう。さて、他の例を見てみるとキュウリが上げられています。キュウリは稲ほどではないにしろ、ある程度はケイ素を吸収するみたいです。実験的にケイ素を除くと生育に問題が出て、ウドンコ病にかかりやすくなりました。逆にキュウリはケイ素を与えるとウドンコ病に強くなります。実際に私もキュウリにケイ酸カルシウムを与えたところ、葉のサイズが大きくなり厚みが出て、茎に生えるトゲが非常に強くなって触ると刺さって痛いくらいでした。しかも、毎年発生するウドンコ病が出なくなったことには驚きました。あとは、個人的にはオクラの生育が非常に良好になった経験はあります。

という訳で植物もケイ素が必要なのだという話でした。しかし、この本はかなり専門的で盛り沢山な内容ですから、上記の内容は触りに過ぎません。このような良質な本は少ないので大変貴重です。
さて、私が稲の中にあるケイ素を知ったのは、実は園芸関係の話ではなく考古学でした。考古学では稲自体は腐ってしまうため、出土しません。たまたま炭になった炭化米がたまたま見つかった場合のみ、古代に稲作を行っていたと判断されてきました。しかし、上手く炭になった米があって、それがたまたま見つかることは中々ありません。炭化米が見つかっていないから、稲作が行われていなかったとは言いがたいのです。研究者が考えたのは、稲の中にあるケイ素を探すことです。イネ科植物の中には結晶となったケイ素があり、これをプラント・オパールと呼びます。イネ科と言っても種類によりプラント・オパールの形が異なり見分けることが可能です。そこで、遺跡の周囲を調べると、高い密度でプラント・オパールが見つかる場所が見つかったのです。昔は稲穂は地際から刈り取らず、穂刈りしていました。ですから、水田には稲の葉や茎由来のプラント・オパールが大量に残されることになります。このような手法で古代の水田跡を見つけているという話は大変な驚きで、大したものだと感心したものです。
この本を読んだことで、考古学と園芸が繋がりました。本を読んでいるとこのような偶然があり、より読書を楽しむことが出来ます。園芸関係で良い本がありましたら、また紹介させていただきます。


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昨日はネコブカビにより引き起こされる根コブ病についての話をしました。しかし、根にコブが出来るのはネコブカビが原因の場合と、ネコブセンチュウが原因の場合とがあります。一般的に根コブ病と言った場合はネコブカビによる病害ですが、何が異なるのでしょうか? ネコブカビはアブラナ科植物の根元に大きなコブができますが、ネコブセンチュウは根のところどころに小さなコブが出来ます。ネコブセンチュウはアブラナ科以外の植物にもコブを作ります。また、ネコブカビとネコブセンチュウが同時に感染することもあります。

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本日はどうしたら線虫の病害を防ぐことが出来るのかを解説した、『センチュウ おもしろい生態とかしこい防ぎ方』(農文協、1993年)をご紹介します。ちなみに、今回の記事ではネコブセンチュウを取り上げますが、この本は他の線虫の防除についても解説しています。

さて、そもそも線虫とは何かですが、現在は線形動物に分類されています。有名なのは回虫や蟯虫、アニサキスなどの寄生虫ですが、実際にはそのほとんどが土壌中に住む自由生活者で寄生性のものは全体から見ればほんの一握りです。土壌中にはおびただしい量の線虫がおりますが、その大半はカビを食べる食カビ線虫、他の線虫などを捕食する食肉性線虫、細菌を食べる食細菌線虫からなります。今回の主題は植物寄生性線虫です。
植物寄生性線虫にはネコブセンチュウだけではなく、ジャガイモを腐らせるジャガイモシストセンチュウも知られます。また、ネグサレセンチュウも根を腐らせる原因とされがちですが、ネグサレセンチュウはカビを食べる線虫ですから実際の病害の原因ではありません。カビに寄生されて腐った植物で見つかるため、原因とされてきました。重要な植物病害カビであるフザリウムや、ナス科植物で多発する半身萎ちょう病の原因のカビによく見られます。

本題のネコブセンチュウについて見てみましょう。ネコブセンチュウは寄生した植物内で増殖し、やがて耐久性の高い卵を生みます。これが厄介な点で、線虫害の対策として殺線虫剤によりガス消毒が行われてきましたが、残念ながら耐久性の高い線虫の卵は死にません。活動している線虫は死にますから一時的な線虫害は減りますが、翌年にはネコブセンチュウは逆に増殖してしまいます。なぜなら、土壌中には捕食性の線虫や他のネコブセンチュウの天敵が沢山いますが、消毒によりそれらも死んでしまい、ネコブセンチュウにとっては快適な環境となってしまうからです。
実際に線虫害が減ったのは、作付けの関係で夏に2ヶ月くらい畑が裸地だった、イネ科の雑草が沢山生えていた、作付けせずに畑で堆肥を作っていた、線虫が寄生しない作物を作っていた、などの後に作付けした場合です。ネコブセンチュウは寄生性ですから、植物の根の中でしか生きられません。卵の状態ではないネコブセンチュウは何もしなくても、やがて死んでしまいます。ということで、線虫を減らすためには耐久性のある卵を積極的に孵化させてしまうことが重要です。ネコブセンチュウと一言に言っても種類がありますから、まずはそこを見分けることが重要です。
日本で最も一般的なネコブセンチュウは4種類あります。判別方法は、落花生、唐辛子、スイカ(あるいはスイカかトウモロコシ)を植えてみて、根にコブがで来るかどうかで分かります。(+)は根にコブが出来た場合で、(-)は出来なかった場合です。

①落花生(+)→西瓜(+)
             →アレナリアネコブセンチュウ
②落花生(+)→西瓜(-)
             →キタネコブセンチュウ
③落花生(-)→唐辛子(+)
             →サツマイモネコブセンチュウ
④落花生(-)→唐辛子(-)
             →ジャワネコブセンチュウ


さて、後はそれぞれのネコブセンチュウの寄生しにくい作物を作付けして行けば、徐々に土中のネコブセンチュウの卵は減っていきます。アレナリアネコブセンチュウなら苺、キタネコブセンチュウならサツマイモ、小麦、トウモロコシ、西瓜、キュウリ、里芋、サツマイモネコブセンチュウなら苺、落花生、里芋、ジャワネコブセンチュウなら苺、落花生、唐辛子にはほとんど寄生しません。計画的に輪作することにより効果的に被害を減少させることが出来ます。
また、トラップ(罠)作物という方法もあります。被害を受けやすい作物を植えて、線虫が感染したら作物を抜き取ってしまうか、畑に漉き混んでしまいます。ネコブセンチュウは寄生性ですから、植物が枯れてしまうと死んでしまいます。卵を作る前ならば、畑に漉き混んでしまっても問題ないのです。

土壌を豊かにすることも有効な手段です。土壌中に有機物が少なく化成肥料にたよる畑では、土壌中の線虫の90%が有害な線虫であったというような事例が多く見られます。有機肥料や堆肥は寄生性じゃない線虫や他の微生物を増やし、植物寄生線虫を減らす効果があります。
また、作物の生育を良くすることで、根にコブが出来ても収量を高めることが出来ます。木炭の粉末を撒くと根の張りが良くなり、菌類などの微生物の活動が活発になりネコブセンチュウの活動を抑制する効果もあります。また、木酢液はネコブセンチュウが原因のトマトやキュウリの萎ちょうに効果的で、新しい根の伸長を促す効果があります。木酢液は殺菌効果も高く、ネコブセンチュウの感染により引き起こされるナスの青枯病などの二次感染病にも効果があります。


昨日と今日は植物の根にコブを作る病害について解説してきました。植物の病害虫は植物を育てる上で重要なことですから、それなりに関心があります。しかし、あまりこういう特に農学者が書いた良質な本はありません。今後も何か良い本がありましたら、また紹介出来ればと思います。


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植物の根というのは様々で、普段は隠れて見えませんが、植え替えをすると近縁な植物でも根の雰囲気が異なることもあります。しかし、根は隠れて見えないだけに、病害虫が気付かないうちに蔓延ってしまうこともあります。本日はそんな根の異常の1つである根コブ病についての話です。

植物の根にコブが出来る原因は様々です。コブがあったとしても必ずしも病気ではなく、マメ科植物やソテツの根粒だったり植物にとって有用なものもあります。しかし、基本的には根にコブが出来ると植物は極端に生育が悪化するか、枯れてしまいます。コブの原因は多くの場合はネコブカビかネコブセンチュウです。このうち、ネコブカビは主にアブラナ科植物に発生します。アブラナ科植物には、キャベツや白菜、大根、カブ、チンゲン菜、漬け菜類(小松菜、水菜、野沢菜など)があり、ネコブカビの発生は野菜の価格上昇につながり我々の生活に直結します。
本日はそんなネコブカビによる被害を防ぐためにはどうしたら良いのかを解説した『根こぶ病 土壌病害から見直す土づくり』(農文協, 2006)をご紹介します。

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ネコブカビは名前の通りカビの仲間、つまりは菌類です。根にコブが出来ると、カビの菌糸が根の中で育ち、大量の胞子が作られ土壌中にばらまかれます。この胞子で増える性質は実に厄介です。なぜなら、カビの胞子には殺菌剤が効かないからです。活発に生長している菌糸には殺菌剤は効果的ですが、活動を休止し休眠状態の胞子には意味がありません。今までは根コブ病が発生すると土壌を殺菌剤で燻蒸していましたが、この対処法方ではカビの胞子を殺すことは出来ないのです。基本的に畑に何も植えていない時に殺菌しますから、効果のある菌糸は存在しない状態です。しかし、この土壌燻蒸はある程度の効果があるのも事実です。詳しい調べると殺菌剤が胞子の発芽を抑制していることが分かりました。しかし、広い畑の全面を燻蒸するのは多額の費用と手間がかかります。しかも、一度やれば終わりではなく、胞子は生きているので効果が切れる前に繰り返し燻蒸する必要があります。我々消費者から見ても、殺菌剤漬けの畑で作られた野菜はあまり食べたくありませんよね。

一般的にカビは酸性を好みますが、日本の土壌は酸性に成りやすい条件が揃っています。まず、雨が多く土中のカルシウムが溶けて流出しやすく、そもそも河川水が軟水で弱酸性です。さらに、畑では作物を連作しますから、どんどん酸性側に片寄っていきます。作物を植える前に石灰を撒きますが、それは一時的に中和されるだけで直ぐに酸性に戻ってしまい根本的な解決にはなりません。では、次に実験的にネコブカビの胞子を含むアルカリ性土壌で白菜を育ててみると、なんと白菜の根にネコブカビが感性していることが分かりました。では、アルカリ性にしても意味がないのかと思いきや、不思議といつまで観察しても根にコブは出来ません。さらに不思議なことに、土壌中のネコブカビの胞子が減少していることが分かったのです。これは、一体どういうことなのでしょうか? それは、土壌をアルカリ性にしてもネコブカビの胞子は死にませんし普通に発芽し感染しますが、感染しても菌糸は生長出来ず胞子を作ることが出来なくなるようです。しかも、どうやら土壌中の胞子はアブラナ科植物の根に触れると発芽します。ですから、アルカリ性土壌で育つ白菜の根に対しても胞子が次々と発芽してしまうため、土壌中の胞子も減っていくのです。

このアブラナ科植物の根に触れると発芽するネコブカビの胞子の性質を利用して、胞子を減らす方法も考案されています。実はアブラナ科植物の中で大根だけはネコブカビに感染しないことが確認されています。何故かは不明ですが、大根に含まれる辛味成分のおかげではないかとは言われています。大根を植えるとネコブカビの胞子は次々と発芽しますが、感染出来ずに死んでしまいます。ネコブカビは寄生カビですから、休眠に特化した胞子形態でないと土壌中で生きることが出来ないのです。ですから、大根と他のアブラナ科植物を交互に育てると、ネコブカビの被害を最小限に押さえることが出来るのです。

しかし、大根を植えることは対策のひとつであり、被害を減らすための工夫で、根本的な解決策ではありません。ではどうしたら良いのかと言えば、土壌をアルカリ性にしたらいいだけです。しかし、石灰を撒いても一時的なもので、土壌はアルカリ性にはなりません。大量に石灰を撒いても雨の多い日本では、直ぐに流出してしまいます。さらに言うと、ただの石灰を土壌がアルカリ性になるまで撒くと、マンガンやホウ素などの微量元素が不溶化してしまい作物が吸収出来なくなります。特にアブラナ科植物はホウ素要求性が高いので、過剰な石灰の使用は控えなければなりません。

そこで注目される資材が転炉スラグです。スラグとは鉱滓のことで、鉱石の精製過程で出てくる鉱石の滓のことです。転炉スラグの場合は、鉄鉱石を精製する際の残り滓です。その転炉スラグの主成分はケイ酸カルシウムです。畑に撒くとまずは微量に含まれる生石灰により土壌はアルカリ性となりますが、やがてケイ酸カルシウムがじわじわ溶けてアルカリ性を保ち続けます。最初に十分量を撒いておけば、効果は10年以上保たれることが確認されています。転炉スラグはマグネシウム、マンガン、ホウ素、モリブデンなどの微量元素が豊富で、しかも雨が降っても溶けだして流出しません。植物の根からは酸が出て根の周囲の鉱物を溶かして養分とする働きがありますが、転炉スラグに含まれる微量元素は「く溶性」(クエン酸に溶ける性質)であるため、植物が出す酸により少しずつ溶けて長期間吸収出来るのです。

土壌がアルカリ性だとネコブカビの胞子は発芽するものの育ちませんから、連作するほど根にコブが出来にくくなります。なぜなら、作物を植えれば植えるほど胞子が発芽して死にますから、年々土壌中の胞子が減っていくからです。ただし、転炉スラグにはマグネシウムがカルシウム分に比べて少ないため、マグネシウム不足になりがちですから水酸化マグネシウムを撒く必要があります。また、ジャガイモは土壌がアルカリ性だとジャガイモそうか病になりやすいため、育てることは難しくなります。

現在、戦火に見舞われているウクライナは豊かな土壌を持つ穀倉地帯として有名で、かつての旧ソ連の食を支えたことでも知られています。ウクライナには非常に豊かな黒土がありますが、不思議とネコブカビが発生しません。この謎は土壌がアルカリ性でかつマグネシウムなどの微量元素が豊富であるためです。
そういえば、鉱滓なので残存する重金属が心配される向きもかもしれませんが、炉は約1700℃の高温ですから水銀や砒素、カドミウムなどの重金属は蒸発しており、安全性は確認されている資材です。
根にコブが出来るのはネコブカビだけではなく、ネコブセンチュウが原因の場合もありますが、そちらはまた別の対策が必要となります。そのうち記事にします。


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熱帯雨林は植物の宝庫ですから、昔から大変興味があります。生える植物も面白いものばかりです。日本でも世界中の植物が販売されるようになり、熱帯雨林原産の珍しい植物も見かけるようになっています。私も本などで熱帯雨林について調べたりしたものです。本日はそんな熱帯雨林についてのとりとめのない話をします。熱帯雨林とは何かとか、その定義とか言う話ではなく、単純に植物の話です。

熱帯雨林は高さ数十メートルの高木が隙間なく生えています。ですから、林床(森林の中の地面)は非常に暗く、下草すら生えていません。我々が熱帯と言って想像するカラフルな花々やトロピカル・フルーツは全く見当たりません。雑草の1本もなく、樹木の枝もはるか頭上にありますから、緑の葉すらないひたすらに薄暗い空間です。そもそも、熱帯雨林の土壌は貧弱で浅いことが知られています。立ち並ぶ巨木も深く根を張ることが出来ません。これは、落ち葉が地上に落ちてきても直ぐに分解されてしまい、積もらないことが原因です。暖かく湿潤なので微生物も活発です。そこにスコールでも降れば、葉の分解物も流されてしまいいつまで経っても土壌が堆積しないことになります。しかも、熱帯雨林には冬がありませんから、日本の秋のように一斉に落ち葉が降り積もることもありませんからなおさらです。
ただし、熱帯雨林は温暖・湿潤ですから、非常に多様性が高い世界です。単位面積あたりの樹木の種類は非常に高くなっています。ある1本の樹木の周囲数十メートル範囲に、同じ種類の樹木が存在しないなんてことも珍しくありません。樹木で言うならば、森林の多様性は暖かさに依存します。雪が多く湿潤でも、寒冷地では1種類の樹木からなる純林であることもあります。これは、環境の持つキャパシティーや、樹木が寒冷地に適応出来るか否かなどの複数の要因がありそうです。
とは言うものの、以上は極度に成熟した、ある種理想的な熱帯雨林の話です。実際には熱帯雨林は非常に動的です。実際の熱帯雨林は環境や地形も一様ではありませんから、多少は落ち葉も積もりますし、林床に生える植物は沢山あります。とは言うものの、やはり熱帯雨林に生える草本は暗い環境に適応したものが多いのも事実です。インテリアとして室内に飾られる観葉植物でも熱帯雨林原産のものは深く濃い緑色をしていて、室内でも日照不足にならずに育てることが出来るのです。
熱帯雨林の樹木は、常に古いものや、腐朽菌に侵されたもの、日照の奪い合いに敗れた樹木などが次々と枯れていきます。枯れた林床には日が差し、一斉に沢山の種類の芽生えが生えてきます。これを倒木更新と言いますが、熱帯雨林だけではなく世界中の森林で起きている現象です。この倒木更新は偶然起きている訳ではありません。なぜなら、たまたま倒木の周囲で種子がその時に出来て、その種子がこぼれて倒木により日が差して芽が出たというまぐれ当たりでは、一斉に生えてくる急速な芽生えを説明出来ないからです。一斉に生えてくる芽生えには、2つのメカニズムがあります。1つは暗い林床で発芽して耐える実生の存在です。日本のブナ林ではカイワレ大根のようにヒョロヒョロしたブナの実生が沢山生えています。ブナ林の林床は暗いので、まともな生長は望めませんからいつかは枯れてしまいます。しかし、このブナの実生は数年間、この状態で耐えることが出来ます。倒木があった時に、既に発芽しているヒョロヒョロの苗は日を浴びて急速に生長し、周囲の苗と競争するのです。もう1つが、貯蔵種子の存在です。これは、周囲の環境が変わるまで何年も種子のまま耐えるものや、種子がばらまかれても直ぐには発芽せずに、バラバラに発芽するものものがあります。後者は一斉に発芽してすべて枯れてしまうより、発芽をずらしてどれか1つが生き残れば良いという戦略です。

次に林冠を見てみます。林冠とは樹木が葉を広げる日照の争奪戦が行われる最前線です。実はこの林冠には沢山の草本が見られます。それは、いわゆる着生植物と呼ばれるもので、根で樹木の枝や幹に貼りついて育ちます。着生は寄生とは異なり根はただの足場で、自身で光合成を行っています。着生植物は日照を求めて明るい林冠に進出した植物ですが、熱帯雨林ではメジャーな存在です。我々日本人が見慣れた温帯の森林では、着生植物はほとんど見ることはありませんから実に対照的です。
代表的な着生植物と言えばラン科の植物です。もちろん、紫蘭やアツモリソウ、ジュエル・オーキッドなど地上に生える種類もありますが、ランの大半は着生です。よく栽培されるDendrobium(デンファレやセッコクを含む)、Cymbidium、Phalaenopsis(胡蝶蘭)、Cattleya、Oncidium、風ランなどはすべて野生種は着生植物です。
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このように、胡蝶蘭はコルク板に着生させて育てることも出来ます。

ラン科は超巨大なグループで、世界中に分布します。特に南アジアから東南アジア、熱帯アフリカ、中南米の熱帯域に集中しています。着生ランは毎日発生する濃霧から水分を吸収しているといいます。着生ランの根はうどんのように太く、スポンジのように水を吸収する特殊な仕組みがあります。

次にパイナップル科が有名です。その中でも、Tillandsiaはエアープラントなどと呼ばれて昔から流通しています。Tillandsiaはかなり特殊な植物で、根は固着するためだけにあり、本来の水を吸収する働きはありません。そのかわり、葉の全体から水分を吸収することが出来ます。また、最近流行りのタンク・ブロメリアなども着生するパイナップルの仲間です。タンク・ブロメリアも着生しますが、葉を筒状にして水を貯めます。この小さな水たまりの中で育つオタマジャクシもいるそうです。
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Tillandsia
たまに思い出したかのように針金のような硬い根を出すこともあります。


次はシダ植物です。日本でも沖縄に行くと、あちこちにシマオオタニワタリが着いています。着生シダでは、最近ビカクシダが人気ですね。日本でもシノブの仲間が木の幹や岩に着いていることがあります。
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シマオオタニワタリ
シダの葉は硬いものが多いので普通はシダを専門としている種類のヨトウムシくらいしかつきませんが、シマオオタニワタリの葉は柔らかいので普通の毛虫に食害されることがあります。

他にも熱帯雨林には様々な着生植物が自生します。例えば、アリノスダマと呼ばれるアリ植物は、現在地では珍しい植物ではなくあちこちに生えています。アリノスダマは膨らんだ茎の中が迷路状となっており、アリが巣を作ります。住み着いたアリの存在は、アリノスダマにとって2つのメリットがあります。1つは外敵からの防御です。葉を食害する毛虫などが来ても、直ぐにアリが気付いて排除に動きます。アリからしたら家に危害を加えて来たのですから、攻撃は当たり前のことです。もう1つは栄養面です。迷路の中の決まった部屋に、アリはゴミや仲間の死骸を捨てます。その部屋には根が出て来て養分を吸収するのです。
熱帯ではアリを利用するアリ植物が沢山あります。アリに住み家を提供するだけではなく、蜜や養分を与える植物すらあります。蜜を出してアリを集める植物は熱帯以外でも見られ、日本でもアカメガシワなどの葉に蜜腺が見られます。そういえば、クスノキの葉にはダニ室という小さな部屋があり、そこに肉食性のダニが住み着いてハダニを食べるのだそうです。あまり研究されていませんが、このようなダニを利用する植物も沢山あるのかもしれません。

基本的に着生は根がむき出しですから、基本的に養分不足です。養分を如何にして得るかも重要です。アリノスダマは上手くアリを利用していますね。そういえば、シマオオタニワタリも葉の内側に落ち葉を貯めて、水分と栄養を得ていると聞いたことがあります。また、ランの種子の発芽にはラン菌と呼ばれる菌類が必要とされますが、実はラン菌はランに支配されており都合よくランに栄養を提供させられています。共生関係でも完全に対等であるとは限らないのです。松茸なんかは逆に強引に松に共生関係を強いるらしく、見方によっては松茸は松の病気のようなものかもしれません。この植物と菌との関係はとても重要ですから、そのうち記事にしたいと思います。


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アロエ属(広義)が分割されて、アロエ(狭義, Aloe)、アロイデンドロン(Aloidendron)、アロイアンペロス(Aloiampelos)、クマラ(Kumara)、アリスタロエ(Aristaloe)、ゴニアロエ(Gonialoe)となりました。とは言うものの、そのほとんどの種はアロエ属(狭義)に含まれ、分割されて出来た新属は皆小さなグループです。
アロエと言えば非常に多くの種類があり、様々な種類がホームセンターや園芸店で販売されています。昔から知られるキダチアロエ(Aloe arborescens)やアロエ・ベラ(Aloe vera)だけではなく、割と珍しい種類も見かけます。また、アロエから分割されて出来た新属は、大抵は旧・学名で販売されています。ディコトマ(Aloe dichotoma=Aloidendron dichotomum)もたまに見かけますし、千代田錦(Aloe variegata=Gonialoe variegata)や綾錦(Aloe aristata=Aristaloe aristata)は古くから普及し、乙姫の舞扇(Aloe plicatilis=Kumara plicatilis)も最近は良く目にします。これらは、特に近年では入手が容易になってきています。
しかし、そんな中でもアロイアンペロス(Aloiampelos)だけは、何故かまったく見かけません。普及種もなく、情報も貧弱です。どのような多肉植物なのでしょうか?
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Aloiampelos striatula var. caesia

アロイアンペロスはヒョロヒョロと伸びて、ややだらしない感じがするアロエの仲間です。しかし、これは枝同士が絡まりながら長く伸びてブッシュを形成したり、あるいは低木に寄りかかるする育ち方をするからです。学名自体がAloe+ampelos(ツル植物)ですから、特徴をよく表しています。
アロイアンペロスは低地に育ち沿岸部付近に多いのですが、A. striatulaのように内陸部の標高の高い降雪地帯に生えるものもあります。
花には普通のアロエと同様に太陽鳥が訪れます。


アロイアンペロスは1825年に4種がアロエ属として命名されました。しかし、2013年には命Aloiampelos Klopper & Gideon F.Sm.と命名され、アロエ属から独立しました。アロイアンペロス属に含まれる種類を見てみましょう。

①Aloiampelos ciliaris
キリアリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos ciliaris (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。最初に命名されたのは1825年で学名はAloe ciliaris Haw.でした。また、キリアリスには4変種が知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. ciliaris
異名として1903年に命名されたAloe ciliaris var. franaganii Schönlandが知られています。
・Aloiampelos ciliaris var. redacta (S.Carter) Klopper & Gideon F.Sm.
1990年に命名されたAloe ciliaris var. redacta S.Carterに由来します。
・Aloiampelos ciliaris var. tidmarshii (Schönland) Klopper & Gideon F.Sm.
1903年に命名されたAloe ciliaris var. tidmarshii Schönlandに由来します。1943年にはAloe tidmarshii (Schönland) F.S.Mull. ex R.A.Dyerと命名されました。
・Aloiampelos ciliaris nothovar. gigas (Resende) Gideon F.Sm. & Figueiredo 
1943年に命名されたAloe ciliaris nothof. gigas Resendeに由来します。

②Aloiampelos commixta
コミクスタの学名は、2013年に命名されたAloiampelos commixta (A.Berger) Klopper & Gideon F.Sm.です。1908年に命名されたAloe commixta A.Bergerに由来します。

③Aloiampelos decumbens
デクンベンスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos decumbens (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.です。1950年に命名されたAloe gracilis var. decumbens Reynoldsに由来します。2008年に命名されたAloe decumbens (Reynolds) van Jaarsv.もあります。

④Aloiampelos gracilis
グラシリスの学名は、2013年に命名されたAloiampelos gracilis (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe gracilis Haw.に由来します。異名として、1906年に命名されたAloe laxiflora N.E.Br.が知られています。

⑤Aloiampelos juddii
ジュディイの学名は、2013年に命名されたAloiampelos juddii (van Jaarsv.) Klopper & Gideon F.Sm.です。2008年に命名されたAloe juddii van Jaarsv.に由来します。

⑥Aloiampelos striatula
ストリアツラの学名は、2013年に命名されたAloiampelos striatula (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe striatula Haw.に由来します。ストリアツラには2変種が知られています。
・Aloiampelos striatula var. striatula
変種ストリアツラには、1869年に命名されたAloe subinermis Lem.、1880年に命名されたAloe macowanii、1892年に命名されたAloe aurantiaca Baker、1898年に命名されたAloe cascadensis Kuntzeという異名が知られています。
・Aloiampelos striatula var. caesia (Reynolds) Klopper & Gideon F.Sm.

1936年に命名されたAloe striatula var. caesia Reynoldsに由来します。

⑦Aloiampelos tenuior 
テヌイオルの学名は、2013年に命名されたAloiampelos tenuior (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm.です。1825年に命名されたAloe tenuior Haw.に由来します。また、テヌイオルには5変種が命名されましたが、現在では認められておりません。一応記しておくと、1900年(publ. 1901)に命名されたAloe tenuior var. glaucescens Zahlbr.、1936年に命名されたAloe tenuior var. decidua Reynolds、1936年に命名されたAloe tenuior var. rubriflora Reynolds、1956年に命名されたAloe tenuior var. densiflora、2007年に命名されたAloe tenuior var. viridifolia van Jaarsv.です。

終わりに
アロイアンペロスは国内ではほとんど見かけないアロエの仲間です。鉢に植えられた苗は、何やら徒長してしまったアロエのように見えて、いまいち食指が動かないかもしれません。しかし、地植えをして地際から枝が沢山出て絡まるようにブッシュを形成させるのが本来の楽しみかたです。南アフリカではキリアリスやテヌイオルなどアロイアンペロスは園芸に広く使われています。テヌイオルは「庭師のアロエ(the gardener's aloe)」という名前で知られているくらいです。ストリアツラは生け垣として、特にレソトでは植栽されるようです。アロイアンペロスは、沢山の太陽鳥をはじめとした鳥を庭に引き付けることでも楽しませてくれます。とは言うものの、日本国内では庭に植えるわけにもいかないでしょうし、本来の姿を楽しむことは中々難しいかもしれませんね。


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アロエの仲間というかアロエと近縁な植物と言えば、ガステリア(Gasteria)、ハウォルチア(Haworthia)、アストロロバ(Astroloba)とされてきました。これは、主に花の構造から推察された分類でした。この分類は、近年の遺伝子解析の結果からも支持されており、まとめてアロエ類などと呼ばれています。しかし、意外なこともわかりました。ハウォルチア属(広義)は3分割され、Haworthia(狭義)、Haworthiopsis、Tulistaとなり、しかもそれぞれが特別近縁ではないということが分かりました。それはアロエ属(広義)も同様で、Aloe(狭義)、Aloidendron、Aloiampelos、Aristaloe、Gonialoe、Kumaraとなりました。この旧・アロエ属のうち、AristaloeとGonialoeはどうやら近縁である可能性が高いようです。

長い前置きとなりましたが、本日の主役はアロエ属から分離されたゴニアロエ属(Gonialoe)です。ゴニアロエは3種類しかありませんが、代表種はGonialoe variegata(千代田錦)です。G. variegataは昔から園芸店で販売されてきましたが、G. variegata以外のゴニアロエは園芸店には出回りません。そんな中、正月明けに五反田TOCで開催されたサボテン・多肉植物のビッグバザールで、Gonialoe sladenianaを入手しました。良い機会ですから、ゴニアロエとは何者なのか調べみました。

Gonialoeの誕生
ゴニアロエの3種はすべて最初はアロエ属とされました。しかし、2014年にゴニアロエ属とされました。つまり、Gonialoe (Baker) Boatwr. & J.C.Manningです。ここで括弧の中のBakerとは何かという疑問が浮かびます。単純にBoatwr. & J.C.Manningが命名しただけではないことが分かります。調べてみると1880年にJohn Gilbert Bakerがアロエ属の内部の分類において、ゴニアロエ亜属(subgenus Gonialoe)を創設したということのようです。このゴニアロエ亜属を2014年にBoatwr. & J.C.Manningが亜属から新属に昇格させたということが事の経緯です。

①Gonialoe variegata
ゴニアロエで一番早く命名されたヴァリエガタの学名から見ていきましょう。ヴァリエガタの学名は2014年に命名されたGonialoe variegata (L.) Boatwr. & J.C.Manningです。はじめて命名されたのは1753年のAloe variegata L.で、ゴニアロエとなるまでこの学名でした。1753年に現在の二名式学名を考案したCarl von Linneの命名ですから、ヴァリエガタはアロエ属の初期メンバーということになりますね。
G. variegataには異名があり、1804年に命名されたAloe punctata Haw.や、1908年に命名された変種であるAloe variegata var. haworthii A.Bergerがありますが、現在では認められておりません。また、1928年にはAloe variegataのより大型で模様が美しいとされたAloe ausana Dinterも命名されますが、現在このタイプは確認されていないようです。

ヴァリエガタはナミビア南部から南アフリカのNorthen Cape、Western Cape、Eastern Cape西部から自由州西部まで広く分布します。粘土質、まれに花崗岩の崩壊した土壌で育ちます。生息地の冬は寒くなります。葉の長さは最大15cmです。
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Gonialoe variegata(千代田錦)

②Gonialoe sladeniana
スラデニアナもヴァリエガタと同様に2014年にGonialoe sladeniana (Pole-Evans) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。はじめてスラデニアナが命名されたのは1920年のAloe sladeniana Pole-Evansです。また、1938年には命名されたAloe carowii Reynoldsは異名とされています。
スラデニアナはナミビア中西部の断崖にのみ分布し、崩壊した花崗岩上で育ちます。生息地の冬は非常に寒いということです。葉の長さは最大9cmと小型です。
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Gonialoe sladeniana

③Gonialoe dinteri
ディンテリもヴァリエガタやスラデニアナと同様に、2014年にGonialoe dinteri (A.Berger) Boatwr. & J.C.Manningと命名されました。ディンテリがはじめて命名されたのは1914年のAloe dinteri A.Bergerです。
ディンテリはナミビア北西部とアンゴラ南西部に分布します。砂地あるいは岩場、石灰岩の割れ目、茂みに生えます。葉は長さ30cmとゴニアロエでは最大種です。

Tulista?
また、ゴニアロエ属が誕生した2014年に、G.D.Rowleyによりこの3種類はTulista Raf.とする意見もありました。G.D.Rowleyはツリスタ属を広くとり、現在のGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astroloba、さらに一部のHaworthiopsisを含んだものでした。基本的にはGonialoe、Aristaloe、Tulista、Astrolobaは遺伝的にも近縁ですから、格別おかしな意見ではありません。これは、どの範囲で区切るかという尺度の問題です。それほどはっきりしたものでもないでしょう。ただ、Astrolobaなどは属内で非常によくまとまっており、アストロロバ属として独立していることに意味はあるのでしょう。ただ、HaworthiopsisはGasteriaと近縁で、Gonialoeとは近縁ではありません。

Aloe variegataの発見
オランダ東インド会社は1652年に現在のケープタウンに相当する場所に基地を設立しました。1679年にSimon van der Stelが司令官に任命され、1690年には総督に就任しました。1685年から1686年にかけて、van der Stelはナマクア族の土地で銅資源を探索する遠征を行いました。遠征隊は1685年の10月にCopper(=銅)山脈に到着しました。遠征隊に同行した画家のHendrik Claudiusにより、遠征中の地理、地質学、動物、植物、先住民の絵が描かれました。
また、遠征隊の日記が作成されましたが、van der StelもClaudiusも資料を出版しませんでした。これらの資料は1922年に、何故かアイルランドの首都ダブリンで発見されました。そして1932年にWaterhouseにより出版されました。
それによると、ヴァリエガタは1685年の10月16日、Springbok地域で記録されました。これが、ヴァリエガタの知られている限りの一番最初の記録です。


最後に
幾つかのサイト、主としてキュー王立植物園のデータベースや南アフリカ国立生物多様性研究所(South African National Biodiversity Institute)の資料を参考にしましたが、過去に論文等で知ったことも補足情報として追記しています。しかし、調べてみて分かりましたが、ゴニアロエは情報があまりありませんね。特別珍しくもなく、ヴァリエガタなどは普及種であるにも関わらずです。情報の質も良くありませんから、ゴニアロエについての良い論文が出てほしいものです。特にGonialoe sladenianaなどは、現在の個体数や環境情報がほとんどないような状況らしいので、将来的な保護のためにも科学的な調査が必要でしょう。


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いよいよ、ガステリア属の種類についての記事は、19世紀篇、20世紀篇と来て本日の21世紀篇で終了です。21世紀に入ると、南アフリカのvan Jaarsveldの一強時代となります。驚くべきことに、20年間に9種類の新種のガステリアが命名されており、そのすべてにvan Jaarsveldが関わっているのです。では、21世紀に命名されたガステリア属を見ていきましょう。

①Gasteria polita van Jaarsv., 2001

②Gasteria doreeniae
        van Jaarsv. & A.E.van Wyk, 2004


③Gasteria tukhelensis
                             van Jaarsv., 2005


④Gasteria barbae van Jaarsv., 2014

⑤Gasteria loedolffiae
                        van Jaarsv., 2014


⑥Gasteria koenii van Jaarsv., 2017

⑦Gasteria langebergensis
                   (van Jaarsv.)
              van Jaarsv. & Zonn., 2019

Homotypic synonym
Gasteria disticha var. langebergensis
                                van Jaarsv., 2007


⑧Gasteria visserii van Jaarsv., 2020

⑨Gasteria camillae
              van Jaarsv. & Molteno, 2020



ここ3日間の記事で、ガステリア属全26種の学名を、その命名年ごとに19世紀8種、20世紀9種、21世紀9種についてまとめてみました。18世紀はガステリア属はまだありませんからアロエ属とされており、1809年にDuvalによりガステリア属が創設されてからは19世紀はアロエ属かガステリア属かという駆け引きがあった模様です。しかし、20世紀前半は無風状態でしたが、後半はvan Jaarsveldの独断場と化します。1753年に後のGasteria disticha、つまりはAloe distichaが命名されていますからそこから数えて約270年、ガステリア属が1809年に創設されてからと考えても200年以上の歴史があります。そう考えるとここ30年あまりのvan Jaarsveldの活躍には目を見張るものがあります。
そのvan Jaarsveldは1987年にGasteria vlokiiを命名して以来、実に12種2亜種6変種を命名し認められています。ガステリア属26種類のうち12種類ですから、半分近くがvan Jaarsveldの命名しました。大変な速さで新種が見つかっています。

しかし、これだけ古くから知られており、しかも南アフリカに固有という条件で、21世紀に入ってから新種が発見されるペースが加速することは珍しく感じます。考えてみればガステリア属は急な崖に生えるものが多く、いまだに調査が及んでいない地域は沢山ありそうです。しかも、何故かガステリアは内陸部や隣国では見つからず、南アフリカにU字型に分布します。これからも、新種が発見される可能性が高いのではないでしょうか? 引き続きvan Jaarsveldの活躍と、21世紀の新世代の植物学者たちの研究に期待したいですね。



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昨日は19世紀に命名されたガステリア属についてまとめました。本日は20世紀篇です。
19世紀のガステリアは異名が非常に多く、それなりに混乱していたことがうかがえます。ガステリア属を採用するか、それとも今まで通りアロエ属のままにしていくのかという論争もあったのでしょう。しかし、20世紀に入るとガステリア属は定着し、もはやアロエ属の所属と考える学者は現れません。

20世紀に命名されたガステリア属は9種類です。19世紀と比較すると異名が少なく、異名が多いのは19世紀にアロエ属として命名されているGasteria brachyphyllaだけです。
では、20世紀に命名されたガステリア属を見ていきましょう。


①Gasteria pillansii Kensit, 1910

変種ピランシイ
Gasteria pillansii var. pillansii
Heterotypic synonym
Gasteria neliana Poelln., 1929
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Gasteria pillansii

変種エルネスティ-ルスキイ
Gasteria pillansii var. ernesti-ruschii
        (Dinter & Poelln.) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Gasteria ernesti-ruschii
                Dinter & Poelln., 1938

変種ハリイ
Gasteria pillansii var. halii
                    van Jaarsv., 2007


②Gasteria rawlinsonii
                      Oberm., 1976


③Gasteria baylissiana
                           Rauh, 1977
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Gasteria baylissiana

④Gasteria vlokii
                   van Jaarsv., 1987
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Gasteria vlokii

⑤Gasteria ellaphieae
                    van Jaarsv., 1991
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Gasteria ellaphieae

⑥Gasteria glomerata
                    van Jaarsv., 1991
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Gasteria glomerata

⑦Gasteria brachyphylla
      (Salm-Dyck) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Aloe brachyphylla Salm-Dyck, 1840

変種ブラキフィラ
Gasteria brachyphylla
                     var. brachyphylla
Heterotypic synonym
Aloe pseudonigricans Salm-Dyck, 1817
Gasteria nigricans
                 var. marmorata Haw., 1821
Aloe subnigricans Spreng., 1825
Gasteria subnigricans Haw., 1827
Gasteria subnigricans
                      var. glabrior Haw., 1827
Gasteria fasciata var. laxa Haw., 1827
Aloe subnigricans
       var. canaliculata Salm-Dyck, 1840
Gasteria nigricans
                  var. platyphylla Baker, 1880
Gasteria nigricans
                     var. polyspila Baker, 1880
Gasteria transvaalensis Baker, 1889
Gasteria angustiarum Poelln., 1937
Gasteria triebneriana Poelln., 1938
Gasteria joubertii Poelln., 1940
Gasteria vlaaktensis Poelln., 1940

変種バイエリ
Gasteria brachyphylla
                  var. bayeri van Jaarsv., 1992


⑧Gasteria batesiana
                     G.D.Rowley, 1995


変種バテシアナ
Gasteria batesiana var. batesiana
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Gasteria batesiana var. batesiana

変種ドロミティカ
Gasteria batesiana var. dolomitica
        van Jaarsv. & A.E.van Wyk, 1999


⑨Gasteria glauca
                          van Jaarsv., 1998
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Gasteria glauca

時代が変わりガステリアの研究者も代わりました。もはや、19世紀を主導した研究者たちは見られません。
さらに、19世紀は8種類が命名されているのに対し、20世紀は9種類が命名されていますから、一見してガステリア研究は活発に見えますが、それは実のところ見かけだけのことです。なぜなら、20世紀前半で命名されたのはGasteria pillansiiのみで、しかも活動していたのはPoellnitz、
Schönland、Alwin Bergerくらいで、命名された学名の数も少なく19世紀ほどの熱気は感じられません。
しかし、20世紀後半はその様相はガラリと変わります。1976年から1995年までの19年間に残りの8種類が命名されているのです。このガステリアの命名ラッシュを主導したのはvan Jaarsveldです。1990年代以降はまさにvan Jaarsveldの時代と言えます。21世紀になってもvan Jaarsveldは活発に研究し、20世紀以上のペースでガステリアの新種を発見していくのです。

明日はいよいよ21世紀篇です。もはやガステリア属の第一人者となったvan Jaarsveldが大活躍します。

20世紀のガステリア属に関する代表的な命名者たちは以下の通り。

☆Poelln.=Karl von Poellnitz(1896-1945年)ドイツの植物学者。
Schönland.=Selmar Schonland(1860-1940年)ドイツ出身で南アフリカで活躍した植物学者。
☆A.Berger=Alwin Berger(1871-1931年)ドイツの植物学者・園芸家。
☆Kensit=Harrit Margaret Louisa Bolus née Kensit(1877-1970年)南アフリカの植物学者。L.Bolusと表記されることが多い。
☆Oberm.=Anna Amelia Mauve、旧姓Obermeyer(1907-2001)南アフリカの植物学者。
☆Rauh=Werner Rauh(1913-2000年)ドイツの植物学者・生物学者・作家。
☆G.D.Rowley=Gordon Douglas Rowley(1921-2019年)イギリスの植物学者。
☆van Jaarsv.=Ernst Jacobus van Jaarsveld(1953- )南アフリカの植物学者。



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ガステリアは赤系統の特徴的な花を咲かせるアロエ類(アロエ属やハウォルチア属などをまとめたグループ)です。属名のガステリア(Gasteria)は胃(garter)から来た名前で、花がちょうど胃袋のような形をしています。ガステリアは花の蜜を求めて訪れるタイヨウチョウにより受粉する鳥媒花です。
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ガステリアの花

ガステリアは1753年に設立されたアロエ属(Aloe L.)に含まれていましたが、1809年にDuvalによりガステリア属(Gasteria Duval)として独立しました。1866年にはプティアス属(Ptyas Salib.)も提唱されましたが、これは現在認められていない属名です。
2022年現在、学術的に認められているガステリアは26種類です。

本日は19世紀にガステリア属として命名された8種類について、異名を含め一覧としました。ガステリア属が創設される前はアロエ属でしたから、初命名は18世紀だったりしますが、ガステリア属が19世紀はじめに創設されましたからガステリア属としての命名は19世紀からということになります。しかし、19世紀に命名されたガステリアは異名が非常に多いですね。
異名は現在の正式な学名につながるHomotypic synonymと、正統性が認められないHeterotypic synonymがあります。
先に命名された学名を優先するという「先取権の原理」がありますから、一番はじめに命名された学名の種小名に正統性があります。ですから、もし属が変更になっても、種小名は基本的にはじめに命名されたものが受け継がれます。
しかし、19世紀のガステリア属の命名者を見てみると、Duval、Haworth、Bakerとアロエ属やハウォルチア属でもお馴染みの学者ばかりですね。

①Gasteria carinata
                (Mill.) Duval, 1809

Homotypic synonym
Aloe carinata Mill., 1768

変種カリナタ
Gasteria carinata var. carinata 

Heterotypic synonym
Aloe tristicha Medik., 1786
Aloe linguiformis DC, 1801
Aloe lingua var. angulata Haw., 1804
Aloe lingua var. multifaria Haw., 1804
Aloe carinata var. subglabra Haw., 1804
Gasteria angulata (Haw.) Duval, 1809
Aloe carinata Kew Gawl., 1810
Aloe excavata Willd., 1811
Aloe angulata Willd., 1811
Aloe angulata var. truncata Willd., 1811
Gasteria glabra Haw., 1812
Aloe leavis Salm-Dyck, 1817
Aloe pseudoangulata Salm-Dyck, 1817
Aloe subcarinata Salm-Dyck, 1817
Gasteria subcarinata
               (Salm-Dyck) Haw., 1819 
Aloe sulcata Salm-Dyck, 1821
Aloe glabra (Haw.) Salm-Dyck, 1821
Gasteria laetepunctata Haw., 1827
Gasteria parva Haw., 1827
Gasteria strigata Haw., 1827
Gasteria undata Haw., 1827
Gasteria sulcata
                (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria angulata (Willd.) Haw., 1827
Gasteria leavis (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria excavata (Willd.) Haw., 1827
Gasteria humilis Poelln., 1829 
Aloe pusilla Schult. & Schult.f., 1829
Aloe umdata Schult. & Schult.f., 1829
Aloe laetepunctata
         (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Gasteria pallescens Baker, 1880
Gasteria porphyrophylla Baker, 1880
Gasteria parviflora Baker, 1880
Gasteria disticha var. angulata
                        (Willd.) Baker, 1880
Gasteria carinata var. parva
                       (Haw.) Baker, 1896
Gasteria carinata var. strigata
                       (Haw.) Baker, 1896
Gasteria trigona var. kewensis
                        A.Berger, 1908
Gasteria carinata var. falcata
                        A.Berger, 1908
Gasteria carinata var. latifolia
                        A.Berger, 1908
Gasteria bijliae Poelln., 1937
Gasteria schweickerdtiana
                             Poelln., 1938
Gasteria patentissima Poelln., 1940
Gasteria carinata var. glabra
          (Salm-Dyck) van Jaarsv., 1998

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Gasteria carinata var. carinata

変種レツサ
Gasteria carinata var. retusa
                         van Jaarsv., 1992

Homotypic synonym
Gasteria retusa
       (van Jaarsv.) van Jaarsv., 2007

変種ヴェルコサ
Gasteria carinata var. verrucosa
                (Mill.) van Jaarsv., 1992

Homotypic synonym
Aloe verrucosa Mill., 1768
Gasteria verrucosa (Mill.) Duval, 1809

Heterotypic synonym
Aloe acuminata Lam., 1783
Aloe recemosa Lam., 1783
Aloe verrucula Medik., 1784
Aloe carinata DC., 1801
Aloe intermedia Haw., 1804
Aloe lingua Kew Gawl., 1810
Gasteria intermedia
               (Haw.) Haw., 1812
Aloe verrucosa var. striata
                     Salm-Dyck, 1817
Gasteria repens Haw., 1821
Gasteria intermedia var. asperrima
                               Haw., 1821
Aloe verrucosa var. latifolia
                      Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa var. grandipunctata
                               Salm-Dyck, 1821
Aloe subverrucosa var. parvipunctata
                               Salm-Dyck, 1821
Aloe intermedia var. asperrima
                               Salm-Dyck, 1821
Gasteria subverrucosa
                  (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria intermedia var. laevior Haw., 1827
Gasteria intermedia var. longior Haw., 1827
Aloe repens Schult. & Schult.f., 1829
Aloe scaberrima Salm-Dyck, 1834
Gasteria var. intermedia
                           (Haw.) Baker, 1880
Gasteria subverrucosa var. marginata
                                 Baker, 1880
Gasteria radulosa Baker, 1889
Gasteria verrucosa var. scaberrima
                     (Salm-Dyck) Baker, 1896
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Gasteria carinata var. verrucosa

②Gasteria obliqua
               (Aiton) Duval, 1809

Homotypic synonym
Aloe maculata var. obliqua
                     Aiton, 1789
Aloe obliqua (Aiton) Haw., 1804

Heterotypic synonym
Aloe maculata Thunb., 1785
Aloe lingua Kew Gawl., 1806
Aloe nigricans var. fasciata
                      Salm-Dyck, 1821
Gasteria bicolor Haw., 1826 publ. 1827
Gasteria picta Haw., 1827
Gasteria retata Haw., 1827
Gasteria maculata Haw., 1827
Gasteria formosa Haw., 1827
Gasteria maculata var. fallax
                         Haw., 1827
Gasteria fasciata
                      (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe formosa
           (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe dictyodes Schult. & Schult.f., 1829
Aloe boureana Schult. & Schult.f., 1829
Aloe bicolor 
            (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe vittata Schult. & Schult.f., 1829
Aloe guttata Salm-Dyck, 1834
Aloe quadrangularis Da Pare, 1835
Aloe macchiata Da Pare, 1835
Aloe zeyheri Salm-Dyck, 1836
Aloe marmorata Steud., 1840
Aloe planifolia Baker, 1869
Gasteria variolosa Baker, 1873
Gasteria colubrina N.E.Br., 1877
Gasteria planifolia (Baker) Baker, 1880
Gasteria marmorata Baker, 1880
Gasteriazeyheri (Salm-Dyck) Baker, 1880
Gasteria spiralis Baker, 1880
Gasteria spiralis var. tortulata Baker, 1880
Gasteria maculata var. dregeana
                A.Berger, 1908
Gasteria lingua
            (Kew Gawl.) A.Berger, 1908
Gasteria caespitosa Poelln., 1937
Gasteria chamaegigas Poelln., 1938
Gasteria salmdyckiana Poelln., 1938
Gasteria liliputana Poelln., 1938
Gasteria longiana Poelln., 1938
Gasteria longibracteata Poelln., 1938
Gasteria herreana Poelln., 1938
Gasteria kirsteana Poelln., 1940
Gasteria loeriensis Poelln., 1940
Gasteria multiplex Poelln., 1940
Gasteria biformis Poelln., 1940
Gasteria bicolor var. liliputana
              (Poelln.) van Jaarsv., 1992
Gasteria bicolor var. fallax
               (Haw.) van Jaarsv., 2007
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Gasteria obliqua

③Gasteria pulchra
               (Aiton) Haw., 1812

Homotypic synonym
Aloe pulchra (Aiton) Jacq., 1804

Heterotypic synonym
Aloe obliqua DC, 1802
Gasteria poellnitziana
                 H.Jacobsen, 1954


④Gasteria acinacifolia
                  (J.Jacq.) Haw., 1819

Homotypic synonym
Aloe acinacifolia J.Jacq., 1813


Heterotypic synonym
Aloe acinacifolia J.Jacq., 1813
Aloe acinacifolia var. minor
                         Salm-Dyck, 1817
Gasteria nitens Haw., 1819
Aloe acinacifolia var. nitens
                         (Haw.) Haw., 1821
Gasteria venusta Haw., 1827
Gasteria ensifolia Haw., 1825
Gasteria candicans Haw., 1827
Gasteria pluripunctata Haw., 1827
Gasteria  linita Haw., 1827
Aloe ensifolia
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe candicans
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe venusta
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe nitens
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe pluripunctata
        (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Gasteria fuscopunctata Baker, 1880
Gasteria acinacifolia var. nitens
                            (Haw.) Baker, 1880
Gasteria acinacifolia var. ensifolia
                        (Haw.) Baker, 1880
Gasteria acinacifolia
     var. pluripunctata (Haw.) Baker, 1896
Gasteria acinacifolia
              var. venusta (Haw.) Baker, 1896
Gasteria huttoniae N.E.Br., 1908
Gasteria lutziii Poelln., 1933
Gasteria inexpectata Poelln., 1938
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Gasteria acinacifolia

⑤Gasteria disticha (L.) Haw., 1827
Homotypic synonym
Aloe disticha L., 1753
Ptyas disticha (L.) Salib., 1866


変種ディスティカ
Gasteria disticha var. disticha

Heterotypic synonym
Aloe linguiformis Mill., 1768
Aloe lingua var. crassifolia Aiton, 1789
Aloe lingua var. angustifolia Aiton, 1789
Aloe nigricans Haw., 1804
Aloe obliqua Jacq., 1804
Aloe lingua var. latifolia Haw., 1804
Aloe lingua var. longifolia Haw., 1804
Gasteria nigricans (Haw.) Duval, 1809
Gasteria longifolia (Haw.) Duval, 1809
Gasteria angustifolia (Aiton) Duval, 1809
Aloe obscura Willd., 1811
Aloe longifolia (Haw.) Haw., 1812
Gasteria latifolia (Haw.) Haw., 1812
Aloe nigricans
           var. crassifolia Salm-Dyck, 1817
Gasteria denticulata Haw., 1819
Aloe obtusifolia Salm-Dyck, 1821
Aloe conspurcata Salm-Dyck, 1821
Aloe angustifolia
           (Aiton) Salm-Dyck, 1821
Gasteria mollis Haw., 1821
Gasteria nigricans
        var. crassifolia (Aiton) Haw., 1821
Gasteria disticha var. major Haw., 1827
Gasteria disticha var. minor Haw., 1827
Gasteria obtusifolia Haw., 1827
Gasteria conspurcata
           (Salm-Dyck) Haw., 1827
Gasteria crassifolia
           (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe mollis
      (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe crassifolia
   (Salm-Dyck) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe retusifolia Haw. ex Steud., 1840
Gasteria disticha var. angustifolia
                        Baker, 1880
Gasteria disticha var. conspurcata
                  (Salm-Dyck) Baker, 1880
Gasteria platyphylla Baker, 1880
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Gasteria disticha

変種ロブスタ
Gasteria disticha var. robusta
                        van Jaarsv., 2007


⑥Gasteria nitida
          (Salm-Dyck) Haw., 1827

Homotypic synonym
Aloe nitida Salm-Dyck, 1817
Haworthia nitida
            (Salm-Dyck) G.Don, 1830

変種ニティダ
Gasteria nitida var. nitida

Heterotypic synonym
Aloe nitida var. major Salm-Dyck, 1817
Aloe nitida var. minor Salm-Dyck, 1817
Aloe nitida var. obtusa Salm-Dyck, 1817
Aloe trigona Salm-Dyck, 1821
Haworthia nigricans Haw., 1824
Gasteria obtusa (Salm-Dyck) Haw., 1827
Aloe decipiens (Haw.)
              Schult. & Schult.f. 1829
Gasteria beckeri 
Schönland, 1908
Gasteria stayneri Poelln., 1938


変種アルムストロンギイ
Gasteria nitida var. armstrongii
        (
Schönland) van Jaarsv., 1992
Homotypic synonym
Gasteria armstrongii 
Schönland, 1912
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Gasteria nitida var. armstrongii

⑦Gasteria croucheri
              (Hook.f.) Baker, 1880

Homotypic synonym
Aloe croucheri Hook.f., 1869

亜種クロウケリ
Gasteria croucheri subsp. croucheri

Heterotypic synonym
Gasteria disticha var. natalensis
                     Baker, 1880

亜種ポンドエンシス
Gasteria croucheri subsp. pondoensis
           N.R.Croch, Gideon F.Sm.
                       & D.G.A.Styles, 2011

亜種ペンドゥリフォリア
Gasteria croucheri subsp. pendulifolia 
             (van Jaarsv.) Zonn.

Homotypic synonym
Gasteria pendulifolia van Jaarsv., 2001


⑧Gasteria excelsa Baker, 1880
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Gasteria excelsa

本日は19世紀に命名されたガステリア属をご紹介しました。明日は20世紀に命名されたガステリア属をご紹介します。
しかし、19世紀と一口に言っても実に長く、命名者も様々です。19世紀初頭はHaworthやDuvalが活躍しています。Haworthは当初はガステリアをアロエ属としていますが、Duvalがガステリア属を創設すると、歩調を合わせるようにHaworthもガステリア属を使用し始めます。しかし、1920年代から活躍するSalm-DyckやSchult. & Schult.f.は、ガステリア属を認めずアロエ属としています。19世紀中頃はSteudやBakerが、やはりアロエ属とする立場です。しかし、Bakerは19世紀後半ではガステリア属を認める立場となっています。結局のところ、19世紀のガステリア属の正式に認められている学名の命名者は、Duval、Haworth、Bakerの3人だけでした。ガステリア属を認めるか否かが重要な分岐点でしたね。

19世紀のガステリア属に関する代表的な命名者たちは以下の通り。

☆Haw.→Adrian Hardy Haworth (1767-1833年)イギリスの昆虫学者・植物学者・甲殻類学者。
☆Duval→Henri August Duval(1777-1814年)フランスの植物学者。
☆Salm-Dyck→Joseph Franz Maria Anton Hubert Ignatz Furst und Altgraf zu Salm-Reifferscheidt-Dyck(1773-1861年)ドイツのアマチュア植物学者。
☆Schult.→Joseph August Schultes(1773-1831年)オーストリアの医師・博物学者。
☆Schult.f.→Julius Hermann Schultes(1804-1840年)オーストリアの植物学者。Joseph August Schultesの息子。
☆Kew Gawl.→John Bellenden Kew、元John Gawler(1764-1842年)イギリスの植物学者。
☆Steud→Ernst Gottlieb von Steudel(1783-1856年)ドイツの医師・植物学者。
☆Baker→John Gilbert Baker(1834-1920年)イギリスの植物学者。


ちなみに、G. nitida var. armstrongiiについては、armstrongiiはG. nitidaの変種ではない可能性が出てきました。2021年に出た『Phylogeny of the Southern African genus Gasteria duval (Asphodelaceae) based on Sanger and next generation sequencing data』という論文では、遺伝子解析により別種とすべき結果が得られています。今後、armstrongiiは独立するかもしれません。



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ウンカリナ属はゴマ科の塊根植物です。最近では小型種のUncarina roeoeslianaをたまに見かけます。私もU. roeoeslianaの苗木を育てています。そんな中、Uncarinaは何種類あるのか気になりましたので、調べてみることにしました。
調べた結果、現在学術的に認められているUncarinaは14種類であることが判明しました。というわけで、Uncarinaの異名を含むリストは以下の通りです。

Uncarina leptocarpa
         (Decne.) Ihlen f. & Straka, 1962
異名
Harpagophytum leptocarpum Decne., 1865
Uncarina leptocarpa (Decne.) Kuntze, 1891

②Uncarina abbreviata
            (Baill.) Ihlen f. & Straka, 1962
異名
Harpagophytum abbreviata Baill., 1887

③Uncarina grandidieri
                     (Baill.) Stapf, 1895
異名
Harpagophytum grandidieri Baill., 1887
Harpagophytum  dimidiatum Baill., 1887
Uncarina grandidieri (Baill.) Kuntze, 1891
Uncarina didieri (Baill.) 1895
Uncarina dimidiata
                 (Baill.) Ihlen f. & Straka, 1962


④Uncarina peltata
                      (Baker) Stapf, 1895
異名
Harpagophytum peltata Baker, 1890
Uncarina peltata (Baker) Kuntze, 1891


⑤Uncarina leanarii Humbert, 1962
変種があります。
Uncarina leanarii var. leanarii
Uncarina leanarii var. rechbergeri, 1995


⑥Uncarina perrieri Humbert, 1962

⑦Uncarina sakalava Humbert, 1962

⑧Uncarina stellulifera Humbert, 1962

⑨Uncarina platycarpa
                               Larvanos, 1996


⑩Uncarina roeoesliana Rauh, 1996

⑪Uncarina turicana Larvanos, 1999

⑫Uncarina decaryi
                Humbert ex Ihlenf., 2002


⑬Uncarina ankaranensis Ihlenf., 2004

⑭Uncarina ihlenfeldtiana
                                Larvanos, 2004

以上が現在ウンカリナ属の学術的に認められている種類です。ウンカリナ属自体は1895年にオーストリア出身でイギリスの王立植物園で活動したOtto Stapfが命名したUncarina Stapfです。しかし、ウンカリナ属で初めて学術的に記載されたのは、1865年のHarpagophytum leptocarpum Decneですが、初めはハルパゴフィツム属とされました。Decneは現在のベルギー生まれのフランスの植物学者であるJoseph Decaisneです。さらに、1891年にドイツの植物学者であるCarl Ernst Otto Kuntzeにより、Uncarina leptocarpa (Decne.) Kuntzeとされました。しかし、ここに2つの謎があります。ひとつは、1891年にKuntzeによりUncarinaが命名されているはずですが、StapfがUncarinaを命名したのは1895年です。StapfがUncarinaを命名する前より4年前にUncarinaとされているのは何故でしょうか? また、このKuntzeの命名したUncarina leptocarpaは認められず、1962年にIhlen f. & StrakaによりUncarina leptocarpa (Decne.) Ihlen f. & Strakaという同じ学名が付けられているのは何故でしょう? 気になりますから詳しく調べてみるつもりです。
ちなみに、ハルパゴフィツム属はゴマ科の地面を這う植物です。ハルパゴフィツム属は1840年に創設されたHarpagophytum DC. ex Meisn.です。ハルパゴフィツムで有名なのはHarpagophytum procumbens (Burch.) DC. ex Meisn.です。H. procumbensライオンゴロシという名前で呼ばれており、鉤爪のある禍々しい果実で有名です。ウンカリナ属も鉤爪に被われた果実がなります。


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昨日に続いて、ハウォルチオプシス属の学名と異名の紹介です。

⑭Haworthiopsis scabra
                (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia scabra Haw., 1819
→Aloe scabra (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala scabra (Haw.) Kuntze, 1891

変種スカブラ
Haworthiopsis scabra var. scabra

異名
Haworthia tuberculata Poelln., 1931
→Haworthia scabra var. tuberculata
                              (Poelln.) Halda, 1997
Haworthia scabra var. johanii M.Hayashi, 2001
→Haworthia johanii (M.Hayashi) Breuer, 2010
→Haworthiopsis scabra var. johanii
                                     (M.Hayashi) Breuer, 2016

変種モリシアエ
Haworthiopsis scabra var. morrisiae
                        (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia morrisiae Poelln., 1937
→Haworthia scabra var. morrisiae
                   (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

変種スタルキアナ
Haworthiopsis scabra var. starkiana
                       (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia starkiana Poelln., 1933
→Haworthia scabra subsp. starkiana
                        (Poelln.) Halda, 1997
→Haworthia scabra var. starkiana
                 (Poelln.) M.B.Bayer, 1999

変種ラテガニアエ
Haworthiopsis scabra var. lateganiae
                     (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia lateganiae Poelln., 1937
→Haworthia starkiana var. lateganiae
                 (Poelln.) M.B.Bayer, 1976
→Haworthia scabra var. lateganiae
                 (Poelln.) M.B.Bayer, 1999

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Haworthiopsis scabra

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Haworthiopsis scabra var. starkiana

⑮Haworthiopsis sordida
                  (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia sordida Haw., 1821
→Aloe sordida (Haw.)
              Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala sordida (Haw.) Kuntze, 1891
→Haworthia scabra var. sordida
                                    (Haw.) Halda, 1997
→Haworthia scabra subsp. sordida
                                    (Haw.) Halda, 1997

変種ソルディダ
Haworthiopsis sordida var. sordida
異名
Haworthia agavoides
                  Zantner & Poelln., 1938
→Haworthiopsis sordida var. agavoides
   (Zantner & Poelln.) Breuer, 2016

変種ラブラニ
Haworthiopsis sordida var. lavrani
                   (C.L.Scott) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia sordida var. lavrani
                                   C.L.Scott, 1981
→Haworthia scabra var. lavrani
                    (C.L.Scott) Halda, 1997
→Haworthia lavrani
              (C.L.Scott) Breuer, 2010

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Haworthiopsis sordida

⑯Haworthiopsis tessellata
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia tessellata Haw., 1824
→Aloe tessellata
         (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala tessellata (Haw.) Kuntze, 1891
→Haworthia venosa subsp. tessellata
                                 (Haw.) M.B.Bayer, 1982
→Haworthia venosa var. tessellata
                                        (Haw.) Halda, 1997

変種テセラタ
Haworthiopsis tessellata var. tessellata

異名
Haworthia engleri Dinter, 1914
Haworthia parva Haw., 1824
→Aloe parva (Haw.)
               Schult. & Schult.f., 1829
Haworthia pseudotessellata Poelln., 1929
Haworthia pseudogranulata Poelln., 1937
Haworthia minutissima Poelln., 1939
Haworthia tessellata var. coriacea
                              Resende & Poelln., 1942
Haworthia coriacea
               (Resende & Poelln.) Breuer, 2010

変種クロウシイ
Haworthiopsis tessellata var. crousii
        (M.Hayashi) Gildenh. & Klopper,2016
異名
Haworthia crousii M.Hayashi, 2001


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Haworthiopsis tessellata

⑰Haworthiopsis venosa
               (Lam.) G.D.Rowley, 2013
異名
Aloe venosa lam., 1783
→Haworthia venosa (Lam.) Haw., 1821
→Catevala venosa (Lam.) Kuntze, 1891
Aloe recurva Haw., 1804
→Apicra recurva (Haw.) Willd., 1811
→Haworthia venosa subsp. recurva
                            (Haw.) M.B.Bayer, 1976
→Haworthia recurva (Willd.) Haw., 1812 
→Catevala recurva (Willd.) Kuntze, 1891
Aloe tricolor Haw., 1804
→Apicra tricolor (Haw.) Willd., 1811
Aloe anomala Haw., 1804
→Apicra anomala (Haw.) Willd., 1811
Haworthia distincta N.E.Br., 1876

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Haworthiopsis veonosa

⑱Haworthiopsis viscosa
         (L.) Gildenh. & Klopper, 2016

異名
Aloe viscosa L., 1753
→Apicra viscosa (L.) Willd., 1811
→Haworthia viscosa (L.) Haw., 1812
→Catevala viscosa (L.) Kuntze, 1891
→Tulista viscosa (L.) G.D.Rowley, 2013
Aloe triangularis Lam., 1783

変種ヴィスコサ
Haworthiopsis viscosa var. viscosa

異名
Aloe triangularis Medik., 1784
Aloe rigida Ker Gawl., 1810
Apicra tortuosa Willd. 1811
Aloe pseudotortuosa Salm-Dyck, 1817
Haworthia pseudotortuosa Haw., 1819
Haworthia asperiuscula Haw., 1819
→Aloe asperiuscula
              (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala asperiuscula
                        (Haw.) Kuntze, 1891

→Haworthia viscosa f. asperiuscula
                         (Haw.) Pilbeam, 1983
→Haworthiopsis viscosa
                        var. asperiuscula

                            (Haw.) Breuer, 2016
Haworthia concinna Haw., 1819
→Aloe concinna
            (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Haworthia cordifolia Haw., 1819
→Aloe cordifolia
          (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala cordifolia (Haw.) Kuntze, 1891
Haworthia indurata Haw., 1821
→Aloe indurata
       (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Haworthia torquata Haw., 1826 publ. 1827
→Aloe torquata 
       (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
Aloe subtortuosa
               Schult. & Schult.f., 1829
Haworthia tortuosa Sweet, 1830
Haworthia beanii G.G.Sm., 1944
→Aloe viscosa f. beanii
                        (G.G.Sm.) Pilbeam, 1983
→Haworthiopsis viscosa var. beanii
                           (G.G.Sm.) Breuer, 2016
Haworthia viscosa f. subobtusa
                          (Poelln.) Pilbeam, 1983
Haworthia viscosa subsp. derekii-clarkii
                                              Halda, 1998


変種ヴァリアビリス
Haworthiopsis viscosa var. variabilis
          (Breuer) Gildenh. & Klopper, 2016

異名
Haworthia viscosa var. variabilis
                                         Breuer, 2003
→Haworthia variabilis
                         (Breuer) Breuer, 2010
→Haworthiopsis variabilis
                          (Breuer) Zonn., 2014


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Haworthiopsis viscosa

⑲Haworthiopsis woolleyi
              (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia woolleyi Poelln., 1937
→Haworthia venosa subsp. woolleyi
                     (Poelln.) Halda, 1997
→Haworthiopsis venosa var. woolleyi
                    (Poelln.) Breuer, 2016

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Haworthiopsis woolleyi

以上がハウォルチオプシス属、全19種類です。異名が多いのは属名が変わったからだけではなく、同種に異なる学名がつけられたことが原因の1つです。それは、産地ごとの外見的な違いを別種と判断したこともあるのしょう。ただし、それが遺伝的に異なるとは限らず、環境が厳しいので育ちが悪いだけだったりもしますから、間違いも起こりやすくなります。また、記事を読んでいただけたならお分かりの様に、活発に命名されたのが1800年代と古いことがわかります。当然ながら現在と異なりネットで情報をやり取り出来ません。ですから、情報収集も不完全で遅くなります。例えば、イギリスの雑誌に発表された論文が、フランスやドイツ、アメリカに届くまでタイムラグがあります。しかも、紙の出版物ですから、世界中の学術誌をすべて収集は困難ですから、すべての論文を確認して命名することもまた困難となります。これらのことから、当時からあったであろう混乱が現在にまで及んでいたりします。非常に困った問題です。



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昨日に続いて、ハウォルチオプシス属の学名と異名の紹介です。

⑤Haworthiopsis glauca
              (Baker) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia glauca Baker, 1880
→Catevala glauca (Baker) Kuntze, 1891
→Haworthia reinwardtii var. glauca
                                   (Baker) Halda, 1997
→Haworthia reinwardtii subsp. glauca
                                   (Baker) Halda, 1997

変種グラウカ
Haworthiopsis glauca var. glauca
異名
Haworthia carrissoi Resende, 1941

変種ヘレイ
Haworthiopsis glauca var. herrei
                        (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia herrei Poelln., 1929

→Haworthia glauca var. herrei
                          (Poelln.) M.B.Bayer, 1976
→Haworthia reinwardtii var. herrei
                                 (Poelln.) Halda, 1997
Haworthia armstrongii Poelln., 1937
→Haworthia glauca f. armstrongii
                          (Poelln.) M.B.Bayer, 1976
Haworthia jacobseniana Poelln., 1937
→Haworthia glauca f. jacobseniana
                              (Poelln.) Pilbeam, 1983
Haworthia jonesiane Poelln., 1937
→Haworthia glauca f. jonesiane
                              (Poelln.) Pilbeam, 1983
Haworthia eiyae Poelln., 1937

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Haworthiopsis glauca var. herrei

⑥Haworthiopsis granulata
           (Marloth) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia granulata Marloth, 1912
→Haworthia venosa subsp. granulata
                     (Marloth) M.B.Bayer, 1976
→Haworthia scabra subsp. granulata
                             (Marloth) Halda, 1997

変種スコエマニイ
Haworthiopsis granulata var. schoemanii
                      (M.Hayashi) Breuer, 2016
異名
Haworthia schoemanii M.Hayashi, 2003

⑦Haworthiopsis henriquesii (Resende)
         Gideon F.Sm. & Vasco Silva, 2019

異名
Haworthia henriquesii Resende, 1941


⑧Haworthiopsis koelmaniorum
                        (Oberm. & D.S.Hardy)
                Boatwr. & J.C.Manning, 2014
異名
Haworthia koelmaniorum
                              Oberm. & D.S.Hardy, 1976
→Haworthia limifolia var. koelmaniorum
                (Oberm. & D.S.Hardy) Halda, 1997
→Tulista koelmaniorum
       (Oberm. & D.S.Hardy) G.D.Rowley, 2013

変種ムクムルトリイ
Haworthiopsis koelmaniorum
                   var. mucmurtryi
               (C.L.Scott) Gildenh. & Klopper, 2016

異名
Haworthia mucmurtryi C.L.Scott, 1984
→Haworthia koelmaniorum var. mucmurtryi
                (C.L.Scott) G.D.Rowley, 1999
→Tulista koelmaniorum var. mucmurtryi
                (C.L.Scott) G.D.Rowley, 2013
→Haworthiopsis mucmurtryi
                           (C.L.Scott) Zonn, 2014

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Haworthiopsis koelmaniorum

⑨Haworthiopsis limifolia
           (Marloth) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia limifolia Marloth, 1910


変種リミフォリア
Haworthiopsis limifolia var. limifolia

異名
Haworthia marlothiana Resende, 1940
Haworthia limifolia var. striata
                  Pilbeam, unknown publication
→Haworthiopsis limifolia var. striata
                               (Pilbeam) Breuer, 2016

変種ウボンボエンシス
Haworthiopsis limifolia var. ubomboensis
                           (I.Verd.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia ubomboensis I.Verd., 1941
Haworthia keithii
                  (G.G.Sm.) M.Hayashi, 2000

変種ギガンテア
Haworthiopsis limifolia var. gigantea
                (M.B.Bayer) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia limifolia var. gigantea
                                      M.B.Bayer, 1962
→Haworthia gigantea
               (M.B.Bayer) M.Hayashi, 2000

変種グラウコフィラ
Haworthiopsis limifolia var. glaucophylla
                            (M.B.Bayer) Breuer, 2010
異名
Haworthia limifolia var. glaucophylla
                                            M.B.Bayer, 2003
→Haworthia glaucophylla
                             (M.B.Bayer) Breuer, 2010

変種アルカナ
Haworthiopsis limifolia var. arcana
            (Gideon F.Sm. & N.R.Crouch)
                                 G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia limifolia var. arcana
           Gideon F.Sm. & N.R.Crouch, 2001
→Haworthia arcana
       (Gideon F.Sm. & N.R.Crouch)
                                     Breuer, 2013

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Haworthiopsis limifolia

⑩Haworthiopsis longiana
                 (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia longiana Poelln., 1937

→Haworthia pumila subsp. longiana
                                   (Poelln.) Halda, 1997

⑪Haworthiopsis nigra
                   (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Apicra nigra Haw., 1824
→Aloe nigra (Haw.)
               Schult. & Schult.f., 1829 
→Haworthia nigra (Haw.) Baker, 1880
→Catevala nigra (Haw.) Kuntze, 1891
→Haworthia venosa subsp. nigra
                                (Haw.) Halda, 1997
→Haworthia viscosa subsp. nigra
                                (Haw.) Halda, 1998

変種ニグラ
Haworthia nigra var. nigra
異名
Haworthia schmidtiana Poelln., 1929
→Haworthia schmidtiana
              var. elongata Poelln., 1938
→Haworthiopsis nigra var. elongata
                    (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
Haworthia ryneveldii Poelln., 1939
Haworthia nigra f. angustata
                         (Poelln.) Pilbeam, 1983

変種ディヴェルシフォリア
Haworthiopsis nigra var. diversifolia
                   (Poelln.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia diversifolia Poelln., 1937

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Haworthiopsis nigra

⑫Haworthiopsis pungens
                   (M.B.Bayer)
       Boatwr. & J.C.Manning, 2014
異名
Haworthia pungens M.B.Bayer, 1999
Tulista pungens (M.B.Bayer)
                           G.D.Rowley, 2013

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Haworthiopsis pungens

⑬Haworthiopsis reinwardtii
      (Salm-Dyck) G.D.Rowley, 2013
異名
Aloe reinwardtii Salm-Dyck, 1821
→Haworthia reinwardtii
                (Salm-Dyck) Haw., 1821
→Catevala reinwardtii
             (Salm-Dyck) Kuntze, 1891

変種レインワルドティイ
Haworthiopsis reinwardtii var. reinwardtii
異名
Haworthia reinwardtii var. zebrina
                                      G.G.Sm., 1944
→Haworthia reinwardtii f. zebrina
                 (G.G.Sm.) M.B.Bayer, 1977

変種ブレビクラ
Haworthiopsis reinwardtii var. brevicula
                       (G.G.Sm.) G.D.Rowley, 2013
異名
Haworthia reinwardtii var. brevicula
                                         G.G.Sm., 1944
→Haworthia brevicula
                         (G.G.Sm.) Breuer, 2010

品種オリバケア
Haworthiopsis reinwardtii f. oliviacea
            (G.G.Sm.) Gildenh. & Klopper, 2016
異名
Haworthia reinwardtii var. oliviacea
                                          G.G.Sm., 1944
→Haworthia reinwardtii f. oliviacea
                                       M.B.Bayer, 1976
→Haworthia oliviacea
                        (G.G.Sm.) Breuer, 2010
→Haworthiopsis reinwardtii var. oliviacea
                            (G.G.Sm.) Breuer, 2019

品種カルムネンシス
Haworthiopsis reinwardtii f. chalumnensis
        (G.G.Sm.) Gildenh. & Klopper, 2016
異名
Haworthia reinwardtii var. chalumnensis
                               G.G.Sm., 1943
→Haworthia reinwardtii f. chalumnensis
          (G.G.Sm.) M.B.Bayer, 1976

品種カフィルドリフテンシス
Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis
         (G.G.Sm.) Gildenh. & Klopper, 2016  
異名
Haworthia reinwardtii var. kaffirdriftensis
                               G.G.Sm., 1941
→Haworthia reinwardtii f. kaffirdriftensis
         (G.G.Sm.) M.B.Bayer, 1976

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Haworthiopsis reinwardtii f. kaffirdriftensis

本日はここまで。異名が非常に多いため、どうしても記事が長くなってしまいます。明日に続きます。


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多肉植物は沢山の種類があり、様々な分類群に所属します。そのため、多肉植物の種類は何種類あるのか、膨大過ぎてよく分かりません。しかし、1つのグループ=属レベルならば、調べることも可能です。
というわけで、私は今までオペルクリカリア属(Operculicarya)やダシリリオン属(Dasylirion)、フォウクィエリア属(Fouquieria)、アストロロバ属(Astroloba)について、果たして何種類あるのかを記事にしてきました。最近、ハウォルチオプシス属(Haworthiopsis)について書かれた論文を読んでいたところ、硬葉系ハウォルチアと呼ばれていたハウォルチオプシス属は18種類と書かれていました。その程度の種類なら調べられますし、論文が書かれた2016年から6年経って種類数は変わったのか興味があります。ということで、果たしてハウォルチオプシス属は何種類あるのかを、記事にしてみました。

先ずは、ハウォルチオプシス属が誕生するまでの経緯を見てみましょう。
スウェーデンのCarl von Linneによって現在使われる二名式学名というシステムが作られたのが、1753年のことでした。このときはハウォルチオプシス属はまだ存在せずに、最初はアロエ属でした。その後、1809年にフランスのHenri August Duvalによりハウォルチア属が創設され、ハウォルチオプシス属もハウォルチア属とされました。日本ではあくまで園芸上での話ですが、ハウォルチア属を軟葉系と硬葉系に分けています。軟葉系は現在のハウォルチア属で、硬葉系は現在のハウォルチオプシス属とツリスタ属に相当します。
ちなみに、1786年にドイツのFriedrich Kasimir Medikusにより創設されたカテバラ属、1811年にドイツのCarl Ludwig Willdenowにより創設されたアピクラ属という属もありましたが、アロエ属やハウォルチオプシス属の一部からなるグループでしたが、現在では存在しない属名です。
1840年にオスマン帝国生まれでアメリカで活動した
Constantine Samuel Rafinesqueがツリスタ属を提唱しましたが認められませんでした。しかし、2013年にイギリスのGordon Douglas Rowleyはハウォルチア属を解体し3属に分けました。解体されたハウォルチア属は、ハウォルチア属、ハウォルチオプシス属、ツリスタ属となり、忘れ去られていたツリスタ属は79年の年月を経てついに日の目を見ました。このとき、ツリスタ属にはアストロロバ属やハウォルチア属の一部も含まれていたので、ハウォルチオプシス属はツリスタ属とされた異名を持つ種類も存在します。現在ではツリスタ属は4種類まで減少し、含まれていたハウォルチア属はハウォルチオプシス属とされました。この時、ツリスタ属からハウォルチオプシス属への移動は、南アフリカのJames Boatwright & John C. Manningや、同じく南アフリカのSean D. Gildenhuys & Ronell R. Klopperによるものです。この南アフリカの研究者たちは、遺伝子解析という新しい武器により、次々と新しい見解を公表しており目が離せません。

ハウォルチオプシス属の経緯
1753年 Aloe L.
1786年 Catevala Medik.
1809年 Haworthia Duval
1811年 Apicra Willd.
1840年 Tulista Raf.
2013年 Haworthiopsis G.D.Rowley

それでは、いよいよハウォルチオプシス属の種類を見ていきます。最初に言ってしまうと、現在学術的に認められているハウォルチオプシス属は19種です。最新の情報では、Haworthia henriquesiiが2019年にハウォルチオプシス属とされました。これからも、ハウォルチオプシス属は増える可能性はあるのでしょうか?
また、異名もすべてを網羅できているのかは分かりませんが、できただけ盛り込みました。あと、変種に対する異名も調べました。異名が多い種類では、場合によっては異名で流通している種もあるでしょうから、自分の育てているハウォルチオプシスは正式な学名か見比べて見ると異なるかもしれません。また、学名は変更されてきた経緯からわかります通り不変のものではなく、常に見直され改定を受けるものです。この記事の一覧も、やがて古くなり通じなくなるのでしょう。


①Haworthiopsis attenuata
                     (Haw.) G.D.Rowley, 2013
異名
Aloe attenuata Haw., 1804
→Apicra attenuata (Haw.) Willd., 1811
→Haworthia attenuata (Haw.) Haw., 1812
→Catevala attenuata (Haw.) Kuntze, 1891
→Haworthiopsis attenuata (Haw.) 1997


変種アテヌアタ
Haworthiopsis attenuata var. attenuata

異名
Aloe redula Ker Gawl., 1807
Aloe subulata Salm-Dyck, 1822
→Haworthia subulata (Salm-Dyck) Baker, 1880
→Catevala subulata (Salm-Dyck) Kuntze, 1891
Haworthia clariperla Haw., 1827 publ. 1828
→Haworthia attenuata f. clariperla
                        (Haw.) M.B.Bayer, 1976
Aloe clariperla Schult. & Schult.f., 1829
Aloe subattenuata
        Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f., 1830
→Haworthia subattenuata
(
Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f.) Baker, 1880
→Catevala 
subattenuata
(Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f.) Kuntze, 1891
Haworthia tisleyi Baker, 1880
→Catevala tisleyi (Baker) Kuntze, 1891
Haworthia argyrostigma Baker, 1896
Haworthia britteniana Poelln., 1937
Haworthia attenuata f. caespitosa
                  (A.Berger) Pilbeam, 1983

変種グラブラタ
Haworthiopsis attenuata var. glabrata
                (Salm-Dyck) G.D.Rowley, 2015

異名
Aloe glabrata Salm-Dyck, 1834
→Haworthia glabrata
                       (Salm-Dyck) Baker, 1880
→Catevala glabrata (Salm-Dyck) Kuntze, 1891
→Haworthia attenuata var. glabrata
               (Salm-Dyck) M.B.Bayer, 2012
Aloe redula Jacq., 1804
→Apicra redula (Jacq.) Willd., 1811
→Haworthia redula (Jacq.) Haw., 1812
→Catevala redula (Jacq.) Kuntze, 1891
→Haworthia pumila subsp. redula
                                  (Jacq.) Halda, 1997
→Haworthia attenuata var. redula
                          (Jacq.) M.B.Bayer, 1999
→Haworthia attenuata var. redula
                         (Jacq.) G.D.Rowley, 2015
Aloe rugosa Salm-Dyck, 1834
→Haworthia rugosa (Salm-Dyck) Baker, 1880
→Catevala rugosa (Salm-Dyck) Kuntze, 1891

DSC_1547
Haworthiopsis attenuata

②Haworthiopsis bruynsii
          (M.B.Bayer) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia bruynsii M.B.Bayer, 1981
→Haworthia retusa var. bruynsii
                    (M.B.Bayer) Halda, 1997


③Haworthiopsis coarctata
                     (Haw.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia coarctata Haw., 1824
→Aloe coarctata
                     (Haw.) Schult. & Schult.f., 1829
→Catevala coarctata (Haw.) Kuntze, 1891
→Haworthia reinwardtii var. coarctata
                                           (Haw.) Halda, 1997
→Haworthia reinwardtii subsp. coarctata
                                           (Haw.) Halda, 1997
→Haworthiopsis reinwardtii var. coarctata
                                           (Haw.) Breuer, 2016

変種コアルクタタ
Haworthiopsis coarctata var. coarctata
異名
Haworthia greenii Baker, 1880
→Catevala greenii (Baker) Kuntze, 1891
→Haworthia coarctata var. greenii
                                  (Baker) M.B.Bayer, 1973
→Haworthia coarctata f. greenii
                                  (Baker) M.B.Bayer, 1999
→Haworthia reinwardtii var. greenii
                                          (Baker) Halda, 1997
→Haworthiopsis reinwardtii var. greenii
                                         (Baker) Breuer, 2016
Haworthia peacockii Baker, 1880
→Catevala peacockii (Baker) Kuntze, 1891
Haworthia chalwinii Marloth & A.Berger, 1906
→Haworthia coarctata f. chalwinii
               (Marloth & A.Berger) Pilbeam, 1983
Haworthia fallax Poelln., 1932
Apicra bicarinata Resende, 1937
Haworthia resendeana Poelln., 1938
→Haworthiopsis resendeana
                   (Poelln.) Gildenh. & Klopper, 2016
Haworthia fulva G.G.Sm., 1943
Haworthia baccata G.G.Sm., 1944
Haworthia musculina G.G.Sm., 1948
Haworthia coarctatoides
                                 Resende & Viveiros,1948
Haworthia coarctata f. conspicua
                        (Poelln.) Pilbeam, 1983 

変種テヌイス
Haworthiopsis coarctata var. tenuis
                        (G.G.Sm.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia reinwardtii var. tenuis
                                              G.G.Sm., 1948
Haworthia coarctata var. tenuis
                         (G.G.Sm.) M.B.Bayer, 1973
Haworthia tenuis (G.G.Sm.) Breuer, 2010
Haworthia reinwardtii var. tenuis
                                (G.G.Sm.) Breuer, 2016

変種アデライデンシス
Haworthiopsis coarctata var. adelaidensis
                           (Poelln.) G.D.Rowley, 2013

異名
Haworthia reinwardtii var. adelaidensis
                                                     Poelln., 1940
→Haworthia coarctata subsp. adelaidensis
                               (Poelln.) M.B.Bayer, 1973
→Haworthia coarctata f. bellula
                                (G.G.Sm.) Pilbeam, 1983
→Haworthia coarctata var. adelaidensis
                               (Poelln.) M.B.Bayer, 1999
→Haworthia adelaidensis
                                     (Poelln.) Breuer, 2010

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Haworthiopsis coarctata

④Haworthiopsis fasciata
                    (Willd.) G.D.Rowley, 2013

異名
Apicra fasciata Willd., 1811
→Haworthia fasciata (Willd.) Haw., 1821
→Aloe fasciata (Willd.)
     Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f., 1830
→Catevala fasciata (Willd.) Kuntze, 1891
→Haworthia pumila subsp. fasciata
                                      (Willd.) Halda, 1997

変種ファスキアタ
Haworthiopsis fasciata var. fasciata

異名
Aloe subfasciata
      Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f., 1830
→Haworthia subfasciata
(Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f.) Baker, 1880
→Catevala 
subfasciata
(Salm-Dyck ex Schult. & Schult.f.) Kuntze, 1891

変種ブロウニアナ
Haworthiopsis fasciata var. browniana
                (Poelln.) Gildenh. & Klopper, 2016

異名
Haworthia browniana Poelln., 1937
Haworthia fasciata f. browniana
                 (Poelln.) M.B.Bayer, 1976

DSC_1544
Haworthiopsis fasciata

どうやら記事が長過ぎるようで、文字入力時に変なタイムラグが発生するため記事を分割します。というわけで、続きます。しかし、異名が多い…



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ダシリリオン属 Dasylirionは、キジカクシ科のスズラン亜科の植物です。トックリランやノリナ、サンスベリアに近い仲間です。
生長すると太いソテツの様な渋い幹から、細長い葉が沢山伸びて独特の姿となります。

そんなダシリリオンですが、たまたまダシリリオンの一種であるロンギシマムを入手しました。

ダシリリオン自体が一般的ではありませんが、ロンギシマムはその中でもまだ流通しているほうです。他の種類は入手できないだろうと思っていたのですが、春のサボテン・多肉植物のビッグバザールで、ダシリリオンを2種類見かけて仰天しました。
そこで、ダシリリオンは何種類あるのかを調べてみました。以前、ダシリリオン・ロンギシマムを入手したときに調べた限りでは11種類を確認しましたが、詳しく調べると学術的に認められているダシリリオンは26種類ありました。まあ、議論はありますし、今後変更はあるかもしれませんが。
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Dasylirion longissimum

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Dasylirion berlandieri

ダシリリオン属は1838年に、ドイツの植物学者であるJoseph Gerhard Zuccariniが創設しました。この時に、はじめてダシリリオン属とされたのはYucca serratifoliaでした。Yucca serratifoliaの学名は1830年の命名ですから、命名後わずか8年でユッカ属ではないとZuccariniは気が付いたということになります。
正式な学名だけではなく、異名や旧名も併記していきます。

1, Dasylirion acrotrichum (Schielde) Zucc., 1843
アクロトリクムは異名が多いようです。このアクロトリクムという種小名は、1829年に命名されたYucca acrotricha Schieldeから来ているようです。さらには、1840年にはRoulinia acrotricha (Schielde) Brongn.とする意見もあったようです。
さらに、1840年に命名されたRoulinia gracilis Brongn.は、1845年にはDasylirion gracile (Brongn.) Zucc.とされましたが、現在ではアクロトリクムと同種であるとして認められていません。1880年にはBarbacenia gracilis (Brongn.) Bakerとする意見もありました。
さらに、1911年に命名されたDasylirion robustum Gorl. ex Trel.は、やはりアクロトリクムと同種とされています。

2, Dasylirion berlandieri S.Watson, 1879

3, Dasylirion bromeliifolium Lem., 1846

4, Dasylirion cedrosanum Trel., 1911
1911年に命名されたDasylirion palmeri Trel.は、ケドゥロサヌムと同種とされています。

5, Dasylirion durangense Trel., 1911
D. wheeleriの変種であるとする意見もあります。1991年に命名されたDasylirion wheeleri var. durangense (Trel.) Laferr.ですが、現在では独立種とされています。

6, Dasylirion filiforme, 1895
フィリフォルメはあまり情報がありません。やや不確実かもしれません。
 
7, Dasylirion gentryi Bogler, 1998

8, Dasylirion glaucophyllum Hook., 1858
異名として、1872年に命名されたDasylirion glaucum Carriere、1872年に命名されたDasylirion serratifolium Baker、1889年に命名されたBonapartea glauca (Carriere) W.Watsonがあります。

9, Dasylirion juncaefolium hort. ex W.Watson, 1889

10, Dasylirion leiophyllum Engelm. ex Trel., 1911
異名として、1943年に命名されたDasylirion heteracanthium I.M.Johnst、Dasylirion stewartii I.M.Johnstがあります。


11, Dasylirion longissimum Lem., 1856

12, Dasylirion longistylum J.F.Macbr., 1918

13, Dasylirion lucidum Rose, 1906

14, Dasylirion micropterum Villarreal,A.E.Estrada & Encina, 2016

15, Dasylirion miquihuanense Bogler, 1998

16, Dasylirion occidentalis Bogler ex Hochstatter, 2011

17, Dasylirion palaciosii Rzed., 1955

18, Dasylirion parryanum Trel., 1911
1879年に命名されたDasylirion acrotrichum var. parryanum (Trel.) Boglerから独立しました。

19, Dasylirion quadrangulatum S.Watson, 1879
異名として、1906年に命名されたDasylirion juncifolium Rehneltがあります。

20, Dasylirion sereke Bogler, 1998

21, Dasylirion serratifolium (Karw. ex Schult & Schult.f.) Zucc., 1838
1830年に命名されたYucca serratifolia Karw. ex Schult. & Schult.f.という旧名があります。また、1840年に命名されたRoulinia serratifolia (Karw. ex Schult. & Schult.f.) Brongn.がありますが認められていません。

22, Dasylirion simplex Trel., 1911

23, Dasylirion texanum Scheele, 1850

24, Dasylirion treleasei (Bogler) Hochstatter, 2011
1998年に命名されたDasylirion longissimum var. treleasei Bogler から独立しました。

25, Dasylirion viridiflorum Graessner, 1937

26, Dasylirion wheeleri S.Watson ex Rothr., 1878






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昨日の続きです。
ハウォルチアとガステリアについて。まあ、ガステリアは勉強中であまり手持ちはないのですが…

③ハウォルチア属 Haworthia
ハウォルチア属は1809年に命名された
Haworthia Duvalです。Duvalはフランスの植物学者のHenri August Duvalのことです。Duvalはハウォルチアとガステリアの創設者です。ハウォルチアはイギリスの植物学者・昆虫学者・甲殻類学者のAdrian Hardy Haworthに対する献名です。
ハウォルチア属から分かれた属は以下の通り。

1809年 Haworthia Duval
1840年 
Tulista Raf.
2013年 Haworthiopsis G.D.Rowley

Raf.はオスマン帝国生まれでアメリカで活動した独学で多くの動植物を命名したConstantine Samuel Rafinesqueのことです。ハウォルチオプシスを命名したG.D.Rowleyはサボテン・多肉植物を専門とする、イギリスの植物学者で作家であるGordon Dougles Rowleyです。Rowleyは2013年にハウォルチアからハウォルチオプシスとツリスタを分けましたが、Rafinesqueが命名されたものの認められなかったツリスタを復活させました。

DSC_0767
Haworthia arachnoidea (L.) Duval

IMG_20211219_164839
Tulista pumila (L.) G.D.Rowley

DSC_0691
Haworthiopsis tessellata
           
    (Haw.) G.D.Rowley


DSC_0713
Tulista marginata (Lam.) G.D.Rowley

DSC_0776
Haworthiopsis viscosa 
               (L.) Gildenh. & Klopper

DSC_0833
Haworthiopsis fasciata
          (Willd.) G.D.Rowley DMC05265


DSC_0836
Haworthiopsis scabra var. starkiana
               
(Poelln.) G.D.Rowley

DSC_0848
Haworthia herbacea (Mill.) Stern

DSC_0973
Haworthiopsis koelmaniorum
       
(
Oberm. & D.S.Hardy) Boatwr. & J.C.Manning

DSC_1409
Haworthiopsis glauca var. herrei RIB0217

④ガステリア属 Gasteria
ガステリア属は1809年に命名された
Gasteria Duvalです。ガステリアはギリシャ語の胃Gasterに由来しますが、ガステリアの花の形が胃の様に見えるからです。

1809年 Gasteria Duval

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ガステリアの胃の様な形の花

DSC_0916
Gasteria baylissiana Rauh

DSC_1408
Gasteria carinata (Mill.) Duval

DSC_1407
Gasteria nitida
      var. armstrongii 
(Schönland) van Jaarsv.
                                                     GM07c-5

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私のメイン多肉植物であるユーフォルビアについて、その学名の命名者を調べてみたりしました。多肉ユーフォルビアと同様に、ハウォルチアやアロエの仲間はアフリカ原産なので、命名者も古いものは重なる部分があります。
そこで、最近気になって集めているアロエ類についても、学名の命名者を調べて見ようということになりました。ここで言うアロエ類とは、アロエ属Aloe・ハウォルチア属Haworthia・ガステリア属Gasteria・アストロロバ属Astrolobaのことです。これらは遺伝子解析の結果から、近縁なグループと認められました。
さらに言うと、アロエ属Aloeとハウォルチア属Haworthiaは細分化されて、それぞれの属の近縁性も再編されています。アロエ属Aloeは、アロエ属Aloe、アロイデンドロン属Aloidendron、アロイアンペロス属Aloiampelos、ゴニアロエ属Gonialoe、アリスタロエ属Aristaloe、クマラ属Kumaraに分けられました。ハウォルチア属Haworthiaも、ハウォルチア属Haworthiaとハウォルチオプシス属Haworthiopsis、さらにツリスタ属Tulistaに分けられました。よって、これにガステリア属Gasteriaとアストロロバ属Astrolobaを含めた11属がアロエ類のメンバーということになります。

アロエ類の系統図
┏Aloidendron属
┃    ┏Kumara属
┃┏┃
┗┃┗Haworthia属
    ┃┏Aloiampelos属
    ┗┃┏Aloe属
        ┗┃    ┏Astroloba属
            ┃┏┃┏  Aristaloe属
            ┃┃┗┃┏Gonialoe属
            ┗┃    ┗┃
                ┃        ┗Tulista属
                ┃┏Haworthiopsis属
                ┗┃
                    ┗Gasteria属


①アロエ属 Aloe
アロエ属は1753年に命名された
Aloe L.です。LはスウェーデンのCarl von Linneのことです。現在の二名式学名は1753年にリンネが「Species Plantarum」を出版し提唱しました。ですから、その1753年に命名されたアロエ属は実に由緒正しき属名と言えます。
アロエ属から分かれた属の命名年と命名者は以下の通り。クマラ属Kumaraだけ命名が古いのですが、これはアロエ属が解体された時に、過去に命名されて認められなかった属であるクマラ属Kumaraを引っ張り出してきたからです。

1753年 Aloe L.
1786年 
Kumara Medik.
2013年 Aloidendron (A.Berger)
                       Klopper & Gideon F.Sm.

              Aloiampelos
                       Klopper & Gideon F.Sm.
2014年 Gonialoe (Baker) 
                        Boatwr. & J.C.Manning

              Aristaloe Boatwr. & J.C.Manning

新しく別れた属に所属する種は、すべて新しく命名され直されました。ですから、命名者もそれぞれの属の創設者になっているため、単純でやや面白みがありません。

DSC_0066
Aloe arborescens Mill.

DSC_0900
Gonialoe variegata
          (L.) Boatwr. & J.C.Manning


DSC_0870
Aloiampelos striatula 
        (Haw.) Klopper & Gideon F.Sm. 

DSC_0746
Aloidendron dichotomum
          (Masson) Klopper & Gideon F.Sm.


DSC_0621
Kumara pulicatilis (L.) G.D.Rowley

DSC_0950
Aloe parvula (A.Berger) P.V.Heath

DSC_0887
Aloe polyphylla Pillans

DSC_1990
Aristaloe aristata
         (Haw.) Boatwr. & J.C.Manning


IMG_20220209_005844
Aloe erinacea D.S.Hardy

DSC_0105
Aloe humilis (L.) Mill. 

②アストロロバ属 Astroloba
アストロロバ属は1947年に命名された
Astroloba Uitewaalです。Uitewaalはオランダの植物学者である、Adrian Joseph Antoon Uitewaalのことです。アストロロバ自体がアロエだったりハウォルチアだったりハウォルチオプシスだったりしたため、基本的にはアストロロバ属創設者のUitewaalが命名者となっています。

1947年 Astroloba Uitewaal

DSC_0982
Astroloba rubriflora
       (L.Bolus) Gideon F.Sm. & J.C.Manning


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Astroloba spiralis (L.) Uitewaal

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Astroloba foliolosa (Haw.) Uitewaal


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植物は葉緑体を持ち光合成をします。光合成は植物の基本的なエネルギー獲得システムであり、植物の緑色や赤色は葉緑体に含まれる光合成色素の色が現れたものです。そんな植物の中でも、乾燥地に生える多肉植物は、特別な光合成システムを獲得しています。簡単に解説して行きます。
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光合成の基本システムとC3植物
まず、光合成を簡単に説明します。水と光エネルギーからNADPに水素をつけてNADPHとする光化学系Iと、ADPにリン酸をつけてATPとする光化学系IIがあり、副産物としてできる酸素を放出します。この、光と水からNADPHとATPを作る反応を明反応と言います。さらに、NADPHとATPのエネルギーを用いて、二酸化炭素をカルビン・ベンソン回路に取り込んで、ブドウ糖を合成する反応を暗反応と言います。この時に光が必要なのは明反応で、暗反応は明反応で作られたNADPHとATPがあれば光がなくても作動します。これが光合成の基本ですが、二酸化炭素がカルビン・ベンソン回路に入ると3個の炭素からなる物質に変換されることから、このシステムで光合成する植物をC3植物と言います。日本に生える植物の多くはC3植物です。
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呼吸
注意が必要なのは、光合成で作られたブドウ糖はそのままではエネルギーにはならないということです。ブドウ糖は呼吸により最終的にATPに変換されます。ATPは植物でも動物でも共通のエネルギー源です。ブドウ糖を解糖系によってピルビン酸に変換し、アセチルCoAとなりクエン酸回路に入ってNADとFADに水素が渡されて、NADHとFADHとなります。この時に副産物として二酸化炭素が出来ます。水素伝達系によりNADHやFADHの水素が水と酸素と反応して、大量のATPが合成されます。
動物の呼吸は酸素を吸って二酸化炭素を出しますが、これはATPを合成するために呼吸していることになります。

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気孔と乾燥
光合成をする時の酸素の放出や二酸化炭素の取り込みは、葉の表面にある気孔と呼ばれる開閉する穴で行われます。しかし、乾燥地に生えることが多い多肉植物は、二酸化炭素を取り込むために頻繁に気孔を開くと、水分まで失われてしまいます。これを防ぐために、C3植物とは異なるシステムを進化させたものもあります。それは、C4植物とCAM植物です。
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C4植物
C4植物は、取り込んだ二酸化炭素を炭素が4つの物質に変換するC4回路があります。そのC4回路からカルビン・ベンソン回路に炭素が渡されて、最終的にブドウ糖を合成します。C4回路は低濃度の二酸化炭素でも働き、二酸化炭素を濃縮します。そのため、高温・乾燥時に気孔を閉じたまま、二酸化炭素不足にならないで光合成を効率的に行うことが出来ます。
では、C4植物はC3植物よりも有利なのではないかと考えてしまいますが、必ずしもそうとは言えません。C4植物は二酸化炭素を固定するのにC3植物よりも多くのエネルギーが必要なため、日本の様な温帯域ではC3植物の方が有利でしょう。特に太陽光が届きにくい林床などの日陰~半日陰の環境では、C4植物は圧倒的に不利です。あくまでも、C4植物は高温や乾燥に適応した方法なのです。
C4植物は必ずしも多肉植物ではありませんが、イネ科、カヤツリグサ科、アカザ科、トウダイグサ科(Euphorbia)やヒユ科、キク科(Othonna、Senecio)が代表格です。しかし、トウダイグサ科はC3、C4、CAM植物を含むなど、必ず分類群ごとに別れているわけではないので注意が必要です。
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CAM植物
CAM植物はサボテン科やパイナップル科(Tillandsia、Dyckia)で見られる乾燥に耐性を持つ植物に特有の光合成の方式です。ベンケイソウ科(Adromischus、Aeonium、Curassula、Dudleya、Echeveria、Sedum、Sempervivum)で典型的に見られるためベンケイソウ型有機酸代謝といわれ、頭文字をとってCAM(Curassulacean Acid Metabolism)植物と呼びます。また、CAM植物はマダガスカル島の植物に多いと言われているそうです。
基本的にCAM植物はC4植物と同じで、二酸化炭素をC4回路に取り込みます。CAM植物では日中は気孔を閉じて、気温が下がる夜間に気孔を開きます。そして、二酸化炭素をC4回路に取り込んで、リンゴ酸を合成します。このリンゴ酸は液胞に貯蔵されます。夜間も乾燥する場合は気孔を閉じて、呼吸により出された二酸化炭素を使ってリンゴ酸を合成します。最後は貯蔵されたリンゴ酸の炭素を用いてカルビン・ベンソン回路が働きます。
ちなみに、多肉植物の葉が分厚く水分を溜め込んでいるのは、リンゴ酸を液胞に貯蔵するためでもあるわけですが、あまり知られていない様に思われます。
この様にCAM植物はC4植物よりも水分の損失が少なく、乾燥への耐性が強いと言えます。しかし、最大光合成速度は小さく、CAM植物の生長は遅いとされます。ただし、ベンケイソウ科植物は、あまり乾燥していない場合にはC3植物の様に、直接カルビン・ベンソン回路に二酸化炭素を供給することもあり、必ずしも生長が遅いとは限りません。
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おわりに
光合成は寄生性や腐生性のもの意外のほとんどの植物にとって、その生の根幹を司るものです。ですから、光合成のシステムは植物好きならば知っていて当然とは言いませんが、知っておいてもいいのではないでしょうか。例えば光合成を促進するために、一日中光を当てていれば、それだけ植物は良く育つのかというと、そうは上手くいきません。もう、お分かりですよね?
植物についてそのメカニズムまで知ることは、意外と植物栽培に有用だったりします。例えば葉や根、茎の役目は何か、知ることはとても重要です。根毛は水分や栄養の吸収のためにありますが、太い根は水分や栄養の吸収には、まったく関係がないことはご存知ですか? ではなんのためにあるのでしょうか? こんなこと一つとっても、植え替え時の根の扱いが変わります。皆さんも植物学を学んでみてはいかがでしょうか。


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私のメインとしてそだてている多肉植物のユーフォルビア属は、1753年にCarl von Linneが命名しました。つまりは、Euphorbia L.です。
現在の二名式学名は1753年にリンネが「Species Plantarum」を出版し提唱しました。ですから、その1753年に命名されたユーフォルビア属は実に由緒正しき属名と言えます。

多肉ユーフォルビアは、その多くが南アフリカやマダガスカル原産ですから、調査する学者も割りと決まった人が多いと思います。育てているユーフォルビアを調べていると、同じ名前を目にします。多肉ユーフォルビアを命名した代表的な学者を挙げてみます。あと、私が育てているユーフォルビアの学名も記してみました。

①L.
スウェーデンのCarl von Linne。
E. mammillaris、E. caput-medusae、E. officinarum、E. canariensis、E. heptagonaなど。

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Euphorbia mammillaris L.

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Euphorbia officinarum L.
(=Euphorbia echinus Hook.f. & Coss.)


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Euphorbia canariensis L.

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Euphorbia heptagona L.
(=Euphorbia enopla Boiss)


②A.Berger
ドイツのAlwin Berger。
E. submamillaris、E. cooperi、E. pseudocactusなど。
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Euphorbia cooperi N.E.Br. ex A.Berger

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Euphorbia submamillaris (A.Berger) A.Berger

③Boiteau
フランスのPierre Louis Boiteau。
E. neohumbertii、E. pachypodioides、E. guillauminianaなど。
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Euphorbia pachypodioides Boiteau

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Euphorbia neohumbertii Boiteau

④Rauh.
ドイツのWerner Rauh。
E. bongolavensis、E. tulearensis、E. ambovombensis、E. cylindrifolia、E. rossii
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Euphorbia cylindrifolia Marn.Lap. & Rauh

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Euphorbia tulearensis (Rauh) Rauh

⑤R.A.Dyer
南アフリカのRobert Allen Dyer。
E. tortirama、E. grandialata、E. inconstantia、E. curviramaなど。
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Euphorbia glandialata R.A.Dyer

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Euphorbia curvirama R.A.Dyer

⑥Marloth
ドイツのHermann Wilhelm Rudolf Marloth。
E. pseudoglobosa、E. ferox、E. pulvinata、E. susannaeなど。
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Euphorbia susannae Marloth

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Euphorbia ferox Marloth

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Euphorbia pulvinata Marloth

⑦N.E.Br.
イギリスのNicholaus Edward Brown。
E. phillipsiae、E. franaganii、E. clavigeraなど。
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Euphorbia franaganii N.E.Br.

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Euphorbia phillipsiae N.E.Br.

⑧S.Carter
イギリスのSusan Carter Holmes。
E. makallensis、E. phillipsioides、E. baioensisなど。
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Euphorbia makallensis S.Carter

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Euphorbia baioensis S.Carter

⑨Willd.
ドイツのCarl Ludwig Willdenow。調べていたら良く出てくる名前ですが、異名や旧名の命名者として出てくる名前です。
E. stellata、E. virosaなど。
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Euphorbia stellata Willd.

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Euphorbia virosa Willd.

⑩Pax
ドイツのFerdinand Albin Pax。
E. knuthii、E. schoenlandii、E. poissoniiなど。
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Euphorbia knuthii Pax

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Euphorbia poissonii Pax

⑪その他にも、Mill.、Haw.、Boiss、L.C.Leach、Sweetは、やはりWilld.と同じく旧名・異名として、良く見る名前です。
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Euphorbia inermis Mill.

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Euphorbia stellispina Haw.

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Euphorbia polyacantha Boiss

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Euphorbia debilispina L.C.Leach

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Euphorbia silenifolia Sweet


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アストロロバ属Astrolobaは、アロエや硬葉系ハウォルチアに近い多肉植物です。
アストロロバ属は1947年にUitewaalにより創設された分類群です。アストロロバ属が創設されるまでは、アロエ属Aloeやアピクラ属Apicraとされてきました。また、アストロロバ属創設後、ハウォルチア属Haworthiaやツリスタ属Tulistaとする考え方もあります。
さて、そんなアストロロバ属ですが、分類はやや混乱しているようです。アストロロバは、そもそもあまり売っていないわけですが、ごく稀に売っていてもラベルの名前が異名(synonym)なパターンが多いようです。現在、『World Checklist of Selected Plant Families』 によると、アストロロバ属は10種類とされています。
旧名と異名をまとめてみました。


①Astroloba bullulata (Jacq.) Uitewaal,1947
   
=Aloe bullulata Jacq.,1809
    =Apicra bullulata (Jacq.) Willd.,1811
    =Haworthia bullulata (Jacq.) Parr,1971
    =Tulista bullulata (Jacq.) G.D.Rowley,2013
    =Apicra egregia Poelln.,1930
    =Astroloba egregia (Poelln.) Uitewaal,1947
    =Haworthia egregia (Poelln.) Parr,1971

②Astroloba congesta
              (Salm-Dyck) Uitewaal,1947

    =Aloe congesta Salm-Dyck,1836
    =Apicra congesta (Salm-Dyck) Baker,1880
    =Haworthia congesta (Salm-Dyck) Parr,1971
    =Tulista congesta (Salm-Dyck)
                                    G.D.Rowley,2013
    =Aloe deltoidea Hook.f.,1873
    =Apicra deltoidea (Hook.f.) Baker,1880
    =Astroloba deltoidea (Hook.f.)
                                           Uitewaal,1947
    =Haworthia deltoidea (Hook.f.) Parr,1971
    =Apicra turgida Baker,1889
    =Astroloba turgida (Baker) H.Jacobsen,1960
    =Haworthia shieldsiana Parr,1971

③Astroloba corrugata N.L.Mey.
                                & Gideon F.Sm.,1998
    =Haworthia corrugata
      (N.L.Mey & Gideon F.Sm.) M.Hayashi,2000
    =Tulista corrugata
      (N.L.Mey & Gideon F.Sm.) G.D.Rowley,2013
   
=Astroloba muricata L.E.Groen
    =Astroloba rugosa Robertson Reinecke
    =Aloe aspera Salm-Dyck

④Astroloba cremnophila van Jaarsv.,2015

⑤Astroloba foliolosa (Haw.) Uitewaal,1947
    =Aloe foliolosa Haw.,1804
    =Apicra foliolosa (Haw.) Willd.,1811
    =Apicra foliosa Willd.  ※おそらく誤記
    =Haworthia foliolosa (Haw.) Haw.,1812
    =Tulista foliolosa (Haw.) G.D.Rowley,2013
    =Astroloba spiralis
              subsp. foliolosa (Haw.) L.E.Groen,1987
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Astroloba foliolosa

⑥Astroloba herrei Uitewaal,1948
    =Tulista herrei (Uitewaal) G.D.Rowley,2013 
    =Astroloba dodsoniana Uitewaal,1950
    =Haworthia dodsoniana
                            (Uitewaal) Parr,1971
    =Haworthia harlandiana Parr,1971

⑦Astroloba robusta P.Reinecke ex. Molteno,
             van Jaarsv. & Gideon F.Sm.,2017

⑧Astroloba rubriflora (L.Bolus)
              Gideon F.Sm. & J.C.Manning,2000
     =Apicra rubriflora L.Bolus,1920
     =Aloe rubriflora  (L.Bolus) G.D.Rowley,1981
     =Haworthia rubriflora (L.Bolus) Parr,1971
     =Tulista rubriflora
                         (L.Bolus) G.D.Rowley, 2013
     =Poellnitzia rubriflora (L.Bolus)
                                              Uitewaal,1940
     =Poellnitzia rubriflora var. jacobseniana
                              (Poelln.) Uitewaal,1955
     =Apicra jacobseniana Poelln.,1939
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Astroloba rubriflora

⑨Astroloba spiralis (L.) Uitewaal
     =Aloe spiralis L.,1753
     =Haworthia spiralis (L.) Duval,1809
     =Apicra spiralis (L.) Baker,1880
     =Tulista spiralis (L.) G.D.Rowley,2013
     =Aloe spiralis Haw.,1804
     =Apicra spiralis Willd.,1811
     =Haworthia spirella Haw.,1812
     =Aloe spirella (Haw.) Salm-Dyck,1817
     =Apicra spirella Willd. ex. Haw.,1819
     =Haworthia gweneana Parr,1971
     =Aloe pentagona Haw.,1804
     =Apicra pentagona (Haw.) Willd.,1811 
     =Haworthia pentagona (Haw.) Haw.,1812
     =Astroloba pentagona (Haw.)
                                          Uitewaal,1947
     =Astroloba halii nom. nud.
     =Aloe cylindracea Lam.,1783
     =Aloe imbricata Haw.,1804
     =Apicra imbricata (Haw.) Willd.,1811
     =Haworthia imbricata (Haw.) Haw.,1812
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Astroloba spiralis

⑩Astroloba tenax Molteno,
             van Jaarsv. & Gideon F.Sm.,2017

  

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APG分類体系
アロエとハウォルチアは昔から近縁であるとされてきました。実際に植物分類学では花の構造を重視しますが、それによるとアロエ、ガステリア、ハウォルチア、アストロロバは良く似ています。
アロエの仲間はユリ科、アロエ科、ススキノキ科と変遷しました。
しかし、遺伝子解析により植物を分類しようというプロジェクトが世界中の植物学者の協力の元、APG分類体系という形で結実しました。データを蓄積しバージョンアップを重ね、1998年にAPG l、2003年にAPG ll、2009年にAPG lll、2016年にAPG lVが公表されています。

アロエはツルボラン科
APG分類体系(APG lll)によると、アロエはツルボラン科に含まれます。ツルボラン科はキスゲ亜科、ススキノキ亜科、ツルボラン亜科に別れます。
このうち、アロエはツルボラン亜科に分類されます。
キスゲ亜科はカンゾウを含むヘメロカリスが代表です。ススキノキ亜科はブラックボーイが有名です。ツルボラン類には多肉植物のブルビネや、球根植物でアロエに良く似た花をつけるシャグマユリが知られます。
ツルボラン科全体では、オーストラリア固有種が非常に多いことが特徴です。それ以外の種はアフリカ原産が主で、アロエ類もアフリカ原産です。

ツルボラン科の系統図
    ┏キスゲ亜科
┏┃
┃┗ススキノキ亜科

┃                                 ┏ツルボラン類
┗ツルボラン亜科 ━┃
                                     ┗アロエ類

アロエ類の誕生
このAPG分類体系により、やはりアロエとハウォルチアは近縁であることがわかりました。しかし、アロエ属の中でも木質の茎を持ち大型になるものはアロイデンドロン属Aloidendron、トゲがなくロゼット型にならないクマラ属Kumara、トゲはなく硬く平たいロゼットをつくるアリスタロエ属Aristaloe、トゲはなく硬く三角形のゴニアロエ属Gonialoe、茎がひょろひょろと伸びて分岐し草むら状態となるアロイアンペロス属Aloiampelosとなり、アロエ属から分離し独立しました。
ハウォルチア属はかつて園芸上では、軟葉系と硬葉系が区別されていました。このうち軟葉系をハウォルチア属として、硬葉系は分離・独立しました。硬葉系はほとんどがハウォルチオプシス属Haworthiopsisとなり、一部がツリスタ属Tulistaとされました。
この旧アロエ属6属、旧ハウォルチア属3属、アストロロバ属Astroloba、ガステリア属Gasteriaを含めて、これを『アロエ類』と呼んでいます。

アロエ類の系統図
┏アロイデンドロン属(旧アロエ属)
┃    ┏クマラ属(旧アロエ属)
┃┏┃
┗┃┗ハウォルチア属(旧ハウォルチア属)
    ┃┏アロイアンペロス属(旧アロエ属)
    ┗┃┏アロエ属(旧アロエ属)
        ┗┃    ┏アストロロバ属
            ┃┏┃┏  アリスタロエ属(旧アロエ属)
            ┃┃┗┃┏ゴニアロエ属(旧アロエ属)
            ┗┃    ┗┃
                ┃        ┗ツリスタ属(旧ハウォルチア属)
                ┃┏ハウォルチオプシス属(旧ハウォルチア属)
                ┗┃
                    ┗ガステリア属


葉の硬さと進化
アロエ類の系統を見ていて最初に気付くのは、葉の硬さです。系統図の根元に近いアロイデンドロン属、クマラ属、ハウォルチア属、アロイアンペロス属は葉が柔らかく、アロエ属は葉が柔らかいものと硬いものがいます。
アストロロバ属、ゴニアロエ属、ツリスタ属、ハウォルチオプシス属、ガステリア属は葉が硬く、系統図でも一つのグループとしてまとまっています。
アロエ属が系統図の葉の柔らかいグループと硬いグループの中間にあり、葉の柔らかい種類と硬い種類を含むことは進化を考える上で重要な気もします。この葉の硬さは、アロエ属から出てきた形質なのでしょう。

トゲとイボの進化
アロエ類ではトゲやイボ、ノギ(禾)があるものが多いことも特徴です。クマラ属はトゲなどはなく、ハウォルチア属にもトゲはありません。クマラ属とハウォルチア属はトゲを失う進化をしたグループなのかもしれません。ハウォルチアはトゲのかわりにノギと呼ばれる柔らかい突起がありますが(全くないものもある)、これは恐らくはトゲの変形なのでしょう。毛の様に長くなるノギもあり、ハウォルチア属はトゲを特殊化したグループと言えます。
葉が硬いアストロロバ属、ゴニアロエ属、ツリスタ属、ハウォルチオプシス属、ガステリア属にはトゲがありません。明らかにひとまとまりのグループを形成しています。ツリスタ属とハウォルチオプシス属は肉イボを持ちますが、それぞれが独自に進化して手に入れた形質のようです。ツリスタ属は半透明のイボで、ハウォルチオプシス属は白い不透明なイボを持ちます。

ロゼットの進化
APG分類体系を知るまでは、ガステリア属の様な形からロゼット型のアロエが進化したのではないかと考えていました。なぜなら、アロエ属は小さく若いうちはロゼットを形成せず、ある程度大きくなってから葉が旋回し始めて、ロゼット型となります。これは進化の道筋を繰り返している様に見えたのです。「個体発生は進化を繰り返す」みたいな話と思ったりしましたが、残念ながら異なるようです。
そもそも、系統的に近いツルボラン類やススキノキ亜科は、ガステリアの様な形ではないのですから、当たり前の話と言えばそうです。

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オペルクリカリアはマダガスカル原産のウルシ科の植物です。オペルクリカリア・パプキスはコーデックスとして有名です。私もオペルクリカリア属を入手したので、オペルクリカリア属について調べてみました。
オペルクリカリア属は現在、9種類あります。


オペルクリカリア属はマダガスカルの植物専門のフランスのJoseph Marie Henry Alfred Parrier dela Bâthieが、1944年に提唱した属名です。学名では、Operculicarya H. Perrierと表記されます。
1944年にH.Perrierは3種類のオペルクリカリア属を命名しました。しかし、そのうちの1種類であるOperculicarya monstruosa H.Perrierは、1962年にCommiphora monstruosa (H.Perrier) Capronとなり、オペルクリカリア属から外されました。

1944年
 O. decaryi H.Perrier
 O. hyphaenoides H.Perrier
1975年
O. gummifera (Sprague) Capron
 ※
Poupartia gummifera Spragueは旧学名
1995年
O. pachypus Eggli
O. borealis Eggli
O. hirsutissima Eggli
2006年
O. multijuga Randrian. & Lowry
O. capuronii Randrian & Lowry
2015年 
O. calcicola Randrian & Lowry

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オペルクリカリア・ボレリアリス
オペルクリカリア・ボレリアリスは、あまり流通していない種類の様です。
1995年にOperculicarya borealis Eggliと命名されました。Eggliはスイスの植物学者・ノンフィクション作家のUrs Eggliのことです。Eggliはクラッスラ、サボテン、スベリヒユの専門家です。
オペルクリカリア・ボレリアリスはオペルクリカリア属の中でも寒さに弱いそうです。生長はかなり遅いらしく、なかなか太くなりそうにありません。




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フォークィエリア
観峰玉でお馴染みのコーデックス 、フォークィエリアに関するお話です。
フォークィエリアは多肉・コーデックスのブームで、目にする機会も増えているのではないでしょうか。そんなフォークィエリアですが、最近は観峰玉以外の種類も見かけるようになりました。私もその流れで、2種類ほど苗を入手しました。そこで、早速調べてみると、なんと現時点でフォークィエリア属として学術的に認められている種類はたったの11種類なんだそうです。この程度なら、フォークィエリア属の来歴を調べるのも簡単そうです。
とりあえずは、命名された年を基準に年表にしてみました。旧学名や学術的に認められていないシノニム(異名)も入っています。

1819年 Cantua fasciculata(=F. fasciculata) ※旧学名
1823年 Bronnia spinosa(=F. fasciculata) ※異名
              Fouquieria formosa
1848年 Fouquieria splendens
1863年 Idria columnaria(=F. columnaris) ※旧学名
1885年 Fouquieria columnaris(観峰玉)
1886年 Fouquieria gigantea(=F. columnaris) ※異名
1899年 Bronnia diguetii(=F. diguetii) ※旧学名
1903年 Fouquieria peninsularis(=F. diguetii) ※異名
              Fouquieria fasciculata
              Fouquieria macdougalii
1909年 Fouquieria purpusii
1911年 Fouquieria jaboncillo
                                       (=F. macdougalii) ※異名
              Fouquieria burragei
1925年 Fouquieria diguetii
1939年 Fouquieria shrevei
1942年 Fouquieria ochoterenae
1961年 Fouquieria leonilae

分類
フォークィエリアは現在の分類体系では、ツツジ目フォークィエリア科フォークィエリア属とされています。フォークィエリア科はフォークィエリア属のみで構成される、1科1属の分類群です。フォークィエリア科はハナシノブ科に近いとされています。ハナシノブ科と言えば、その代表格はフロックスでしょう。芝桜もフロックスに含まれます。
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Fouquieria macdougalii

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Fouquieria diguetii

自生地
フォークィエリアは乾燥地に生えていますが、幹や根が太るいわゆるコーデックスの特徴を示す種類は、F. columnaris(観峰玉)やF. purpusii、F. fasciculata位です。それ以外の種類は幹は太らず、メキシコの砂漠を含む乾燥地の灌木として自生しています。
ですから、育て方、楽しみかたは色々ありそうです。一つは、あくまでもコーデックスとして育てるパターンです。伸びる枝を切り詰めながら幹を太らせます。言わば盆栽的な作り方です。パキポディウムの天馬空なんかと同じような仕立てかたとなります。
他には、自生地の様に灌木として背が高く育てて、豪華な花を楽しむというのもアリでしょう。まあ、この場合は場所をとりますから、誰でも出来るわけではありませんが。

育て方
実は、というほどのことではないのですが、私はフォークィエリアの育て方が良くわかりません。私はフォークィエリアを多肉ユーフォルビアと一緒に育てています。しかも、多肉ユーフォルビアに合わせた育て方です。要するに、真夏でも無遮光で、水も絞って硬く作っています。そのせいが、葉がすぐに枯れ落ちてしまいます。葉が枯れて新しい葉が出てを繰り返していますから、生長はすこぶる遅いのです。観峰玉など幹が太るもの以外は、生長はそれほど遅くはないはずなんですけどね。
今は寒いので室内に取り込んでいますけど、私は冬でもフォークィエリアは休眠させないので、水遣りに関してちょっとした実験をしています。それは、用土の表面が乾いた位のタイミングで水遣りするというだけです。週1回の水遣りを2回にしただけなんですけどね。多肉植物の冬の水遣りは難しくて、水遣りの後になかなか乾かないと根が傷んで腐ったりすることがあります。ですから、私は扇風機で2~3日で乾くようにしています。恐らくそれもフォークィエリアには良くないでしょう。考えてみると根本的な問題は用土が乾きすぎることにあるのですから、今年の植え替えでは乾きにくい用土をかんがえなくてはならないでしょう。


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植物とは何でしょうか?
光合成をする?葉緑体がある?動かない?きれいな花を咲かせる?
まあ、植物に対する印象は人様々でしょう。
しかし、光合成、葉緑体、動かない、花というこれらの特徴は、残念ながら植物全体に共通するものではありません。実は植物の学術的な定義ははっきりと決まっています。それは、『葉緑体の一次共生』、これだけです。

葉緑体があれば植物?
葉緑体を持ち光合成をする生物を見回しますと、陸上植物だけではなく、単細胞のものも沢山あります。例えば、葉緑体を持つ繊毛虫、葉緑体を持つ鞭毛虫、葉緑体を持つアメーバなどです。一見してまったく似ていないのに、何故か皆葉緑体を持ち光合成をするのです。とても不思議です。
そして、これらは全て植物とされてきました。しかし、結局はこれらはそれぞれ別の分類群として分けられることになりました。共通点である葉緑体は関係ないことになりました。なぜでしょうか?

ここで、ひとつ例え話をしましょう。
例えば、あなたの体に葉緑体を移植したとします。そうなった場合、あなたは「植物」でしょうか?
いいえ、違います。あなたは 「人間」です。正確に言えば、葉緑体を移植された「人間」でしょう。大事なのは器である人体の方であって、後で追加されただけの葉緑体ではないからです。

こんな簡単な事がなかなかわかりませんでした。そのため、光合成をする生物はまったく似ていなくても、植物とされてきました。しかし、それは仕方がない部分もあったのです。なぜなら、葉緑体という複雑な細胞内小器官が、それぞれ別に進化したとは考えられないからです。しかも、葉緑体自体はどれも似通っているので、一度の進化により獲得されたはずです。では、これらの生物はどのように葉緑体を獲得したのでしょうか?


マーギュリスの細胞内共生説

アメリカの生物学者であるリン・マーギュリスが、葉緑体、ミトコンドリア、鞭毛に関して、細胞に細菌が共生しやがて細胞内小器官となったとする「細胞内共生説」を唱えました。葉緑体やミトコンドリアがかつての共生体ではないかという説は過去にもありましたが、進化の道筋を示して定式化し、広く普及させたのはマーギュリスです。そう言えば、細胞内共生説から発想された「パラサイト・イヴ」という小説もありましたね。

さて、葉緑体やミトコンドリアは、細胞核とは別に独自の遺伝子を持っており、細胞とは独立して増えます。あと、あまり重視されない傾向がありますが、葉緑体とミトコンドリアは脂質二重膜で出来ています。細胞内小器官は細胞核以外は脂質一重膜ですから、葉緑体とミトコンドリアの特異性がわかります。細胞自体が脂質二重膜に包まれていますが、それは細菌の細胞も同じで、かつて細菌だった葉緑体とミトコンドリアも脂質二重膜に包まれているのは当然のことです。

植物は3種類

葉緑体を持ち光合成をする生物のうち、植物として認められたのは、灰色植物、紅色植物、緑色植物だけです。植物は単細胞の原生動物に藍藻が共生して、やがて細菌内小器官になりました。藍藻とは光合成する細菌(バクテリア)です。この藍藻を直接取り込んで葉緑体とした、つまり一次共生したグループを植物と呼ぶのです。

1, 灰色植物は単細胞の鞭毛を持つ、小さな分類群です。葉緑体は原始的で、藍藻によく似ています。

2, 紅色植物はいわゆる紅藻のことで、アサクサノリなど食用になるものもあります。他には寒天をとるテングサやオゴノリ、サラダに入っている赤いギザギザした形のムカデノリ、味噌汁にいれるフノリなどが有名です。

3, 緑色植物は陸上植物である種子植物、シダ植物、コケ植物が含まれます。ただし、単細胞で鞭毛で泳ぐプラシノ藻、ボルボックスやイカダモなどを含む緑藻、大型になるアオサや車軸藻なども含まれます。


謎の脂質四重膜
単細胞の葉緑体を持つ生物を詳細に調べた結果、面白いことがわかりました。葉緑体がなんと脂質四重膜に包まれていたのです。これは、一体どういう事なのでしょうか?
さらに調べてみると、四重膜の間にヌクレオモルフと命名された核の残骸がクリプト藻やクロララクニオン藻の仲間で見つかりました。これは葉緑体の遺伝子ではありません。植物の細胞核のなごりです。つまり、四重膜の内側二枚は葉緑体由来で、外側二枚は植物の細胞膜由来ということです。
これは、植物(原生動物+藍藻)を細胞内に取り込んで、藍藻ではなく植物を葉緑体としたグループです。つまりは二次共生です。
藍藻を葉緑体としたのではなく、原生動物が植物(原生動物+藍藻)を取り込んで光合成をしているため、これらは植物と見なされません。また、これらの生物は、遺伝子解析の結果から互いに近縁ではなく、様々な分類群に別れることが判明しました。

原生生物+紅藻
植物を取り込んだ二次共生生物のうち、紅色植物をセレクトしたグループです。つまりは、原生動物+紅色植物です。

1, クリプト藻は単細胞で鞭毛を持ち遊泳します。葉緑体は四重膜でヌクレオモルフがあります。

2, ハプト藻は単細胞で鞭毛を持ちますが、ハプトネマという不思議な器官を持っています。ハプトネマを移動や食作用に使用します。また、円石という奇妙な形のカルシウムの殻を持つものがあります。葉緑体は脂質四重膜を持ちます。

3, 渦鞭毛藻は不思議な鞭毛を持ち、赤潮の原因となります。葉緑体は脂質三重膜を持ちますが、これは四重膜が減少して出来たのかもしれません。光合成をしないで捕食性あるいは寄生性のものが、半数の種類を占めます。

4, 不等毛藻は3回分岐する特殊な鞭毛を持つグループです。葉緑体は脂質四重膜を持ちます。代表的なものは、珪藻土の原料となる珪藻や、昆布などの褐色の大型海藻を含む褐藻があります。

ハプト藻とクリプト藻は、星の砂で知られる太陽虫とともに、ハクロビアに分類されます。
渦鞭毛藻は繊毛虫やマラリア原虫とともに、アルベオラータに分類されます。
不等毛藻はストラメノパイルに分類され、菌や原生動物のようなグループも含みます。

原生生物+緑藻
こちらは、原生生物が緑藻を二次的に取り込んで葉緑体としたグループです。

1, ユーグレナ藻は、いわゆるミドリムシの仲間です。鞭毛があり泳ぎます。葉緑体は脂質三重膜で、ヌクレオモルフがあります。最近、健康食品でユーグレナというものがありますが、これもミドリムシが原料です。

2, クロララクニオン藻は、アメーバ状の光合成生物です。葉緑体は脂質四重膜で、ヌクレオモルフがあります。また、葉緑体から巨大なピレノイドが突出しており、見分けることは簡単です。

ユーグレナ藻は睡眠病をひきおこすトリパノゾーマてともに、エクスカバータに分類されます。
クロララクニオン藻は、リザリアに分類されます。

分類学の大転回
生物界の分類の最初は、動くもの=動物、動かないもの=植物でした。やがて、顕微鏡の発明により微生物が発見されて、プランクトンや細菌の分類学上の位置についても考察されました。ホイタッカーの五界説では、細菌が原核単細胞段階で最も原始的、派生した原生生物が真核単細胞段階、そこから真核多細胞段階の植物・菌・動物が現れたとしています。次にマーギュリスの細胞内共生説を受けて、イギリスのキャバリエ=スミスにより、分類群の細分化が進められました。
さらに、アメリカのカール・ウーズにより、生物は真正細菌・古細菌・真核生物の3つに分けられるという3ドメイン説が出ました。
真核生物の分類も刷新されて、単細胞と多細胞、葉緑体の有無は無視した体系が作られました。例えば、動物は菌類とまとめられてオピスコンタとされるなど、8つの分類群に大別されています。よって、灰色植物・紅色植物・緑色植物をまとめてアーケプラスチダ(植物)とされ、他の光合成生物はエクスカバータ、ハクロビア、アルベオラータ、ストラメノパイル、リザリアに振り分けられました。ここいら辺の話も面白いので、そのうちまとめてみたいと思っています。


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吉田よし子/著『おいしい花 花の野菜・花の薬・花の酒』八坂書房、1997年刊

  世界の植物食に関してのエキスパートによる、花の利用について書かれた本。著者の本は、過去に何冊か読ませていただいております。
  花を食べると聞いて、刺身についてくる食用菊や穂紫蘇くらいしか思い付きませんでした。しかし、ビールの苦味の元であるホップも花と言われて、確かにそうだったと納得しました。また、ジャスミンティーやカモミールティーも花なんですよね。お茶は花の形を見ないで、ティーバッグなのですっかり失念していました。また、ブロッコリーとカリフラワー、さらにミョウガも花の蕾だったこともウッカリしていました。
  上記の私のウッカリはともかくとして、一般的ではない聞いたこともないような花が、世界中で食べられているという事実に驚かされます。それぞれの土地にそれぞれ特有の花が咲いて、地元の人たちは思いもつかない様な利用法を見出しているのです。また、知った野菜や草花でも、場所が変わればその花が食べられているというのですから、何とも言えず興味深いものです。我々がその美しさを観賞するだけの園芸植物も、普通に食卓に上がるのです。
  最近流行りの装飾がメインのエディブルフラワーとは異なり、生活や文化に密接に関わる「おいしい花」の話です。中には真似してみたくなる花食もあります。著者が下ごしらえの方法や調理法を解説しておりますので、私もぜひ試してみたいと思いました。







和名 : キダチアロエ(木立アロエ)
別名 : キダチロカイ(木立蘆薈)
学名 : Aloe arborescens Mill. 1768  

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神奈川県 横浜市 鶴見区 (2月)

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埼玉県 草加市 (1月)

基本情報
南アフリカ原産。高さ1-2mとなり、分枝して叢生する。葉の縁は角質三角のトゲが密につく。
「医者いらず」の名前で、火傷、切り傷、虫刺され、胃腸薬として民間薬として利用された。明治初期に渡来した。


アロエ属の変遷
アロエ属はかつてユリ科に所属していたが、アロエ科とされることもあった。しかし、雑多な寄せ集め群であった巨大グループであるユリ科が解体されたことにより、アロエ属も新設のツルボラン科の所属となった。その間にアロエ科、ススキノキ科などの所属とされたこともあった。
さらに、アロエ属そのものも解体されてしまった。ハウォルチア属Haworthiaも解体されて、アロエ属が分解されて出来た属と、ハウォルチア属が分解させて出来た属と、ガステリア属Gasteria、アストロロバ属Astrolobaを含めて、アロエ類として再編成されることとなった。興味深いことに、旧アロエ属同士よりもハウォルチア属とクラマ属(旧アロエ属)が系統的に近いなど、旧アロエ属は内部でまとまりがある分類群ではなかったことが判明した。


和名
木質の茎があるアロエの意。
別名はアラビア語でアロエを示すロエを、漢字で蘆薈と表記したところ、誤ってロカイと読んでしまったことによる。


学名
Aloeは古いアラビア語のalloeh (苦味がある)に由来する。  

Millは、スコットランドの園芸家、植物学者のPhilip Millerの略。


分類
 新エングラーの分類体系(Melchior,1964)
    単子葉植物綱、ユリ目、ユリ科

2, クロンキストの分類体系(Cronquist,1981)
    ユリ綱、ユリ亜綱、ユリ目、アロエ科

3, マバリーの分類体系(Mabberley, 2008)
    モクレン綱(被子植物)、単子葉類、キジカクシ目、ツルボラン科

4, APG IV (2016)
    単子葉類、キジカクシ目、ツルボラン科


ツルボラン科 Asphodelaceae
ツルボラン亜科 Asphodeloides
アロエ類
1, アロエ属 Aloe
    キダチアロエ、アロエ・ベラ、青鰐、など
2, アロイデンドロン属 Aloidendron
    ディコトマム
3, ガステリア属 Gasteria
    臥牛
4, ハウォルチア属 Haworthia
    玉扇、万象
5, クマラ属 Kumara
    乙姫の舞扇
6, ゴニアロエ属 Gonialoe
    千代田錦
7, アリスタロエ属 Aristaloe
    綾錦
8, アストロロバ属 Astroloba
9, アロイアンペロス属 Aloiampelos
10, ツリスタ属 Tulista




和名 : シロザ(白藜)
別名 : シロアカザ
学名 : Chenopodium album L. 1753

和名 : アカザ(藜)
学名 : Chenopodium giganteum D.Don
異名 :
  Chenopodium album var. centrorubrum Makino 1910
  Chenopodium centrorubrum (Makino)Nakai 1936

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シロザとアカザ(収穫後の畑地)

基本情報
高さ150cmほどになる1年草。茎は直立して上部で分枝して円錐花序をつける。花季は8-10月で黄緑色で小型。若い葉には白い粉がつく。
荒れ地に生える先駆植物で、畑地やゴミ集積地に普通。好窒素性植物。
世界中の温帯から熱帯に分布。日本でも全国で見られる。

よく似たアカザは、若葉が紅紫色となりシロザより大型。好窒素性植物。中国原産と考えられるが、古い時代に帰化した可能性がある。シロザの変種とされることが多い。


和名
白いアカザの意。


学名
L.は二名式の学名を考案したスウェーデンのカール・フォン・リンネ(Carl von Linne)の略。Linnaeusと表記されることもある。D.Donはスコットランドの植物学者David Donの略。Makinoは日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎のこと。Nakaiは日本の植物分類学者の中井猛之進のこと。

シロザは1753年にリンネにより登録された。
アカザは1910年に牧野により、シロザの変種として登録された。しかし、Gbifのアクセプトされた学名はシロザの変種ではなく、C.giganteumとされている。登録年はわからないが、Donの生没年が1799-1841年なので、牧野の発表より早いことになる。
また、1936年に中井がC.centrorubrumとしたが、これもGbifではシノニム(異名)とされる。

ただ、GbifでもC.giganteumの詳細な情報が皆無で、曖昧なところがある。むしろ、C.centrorubrumとしての情報は多少存在する。また、C.giganteumはタカサゴムラサキアカザと呼ばれ、ツリースピナッチの名前で食用とされる。本当に同じ種を表しているのだろうか。
アカザがシロザの変種であるか否かはあやふやと言える。最新の遺伝子解析により系統関係の研究が望まれる。

ちなみに、日本の植物図鑑ではシロザの変種、var. centrorubrum、あるいはC.centrorubrumと表記されることが多い。


分類
エングラーの分類体系(Melchior,1964)
    双子葉植物綱、古生花被植物亜綱、アカザ目、アカザ科

2, クロンキストの分類体系(Cronquist,1981)
    モクレン綱、ナデシコ亜綱、ナデシコ目、ヒユ科

3, マバリーの分類体系(Mabberley, 2008)
    モクレン綱(被子植物)、真正双子葉類、中核真正双子葉類、ナデシコ目、ヒユ科

4, APG IV (2016)
    真正双子葉類、キク上群、ナデシコ目、ヒユ科


ヒユ科  Amaranthaceae(アカザ科を含む)
1, アカザ属 Chenopodium(旧アカザ科)
    シロザアカザ、など
2, ホウレンソウ属 Spinacia(旧アカザ科)
    ホウレンソウ
3, ホウキギ属 Kochia(旧アカザ科)
    コキア(ホウキギ、ホウキグサ)
4, ケイトウ属 Celosia
    ケイトウ、ヤリゲイトウ
5, ヒユ属 Amaranthus
    アマランサス(センニンコク)、ハゲイトウ、ヒユ
6, フダンソウ属 Beta(旧アカザ科)
    サトウダイコン(テンサイ)
7, イソフサギ属(センニチコウ属) Gomphrena
    センニチコウ
8, アタリソウ属 Dysphania(旧アカザ科)
    アタリソウ
9, アッケシソウ属 Salicornia(旧アカザ科)
10, ツルノゲイトウ属 Alternanthera
    アルテルナンテラ・レインキー
など




和名 : ムサシアブミ(武蔵鐙)
学名 : Arisaema ringens (Thunb.) Schott 1832
旧名 : Arum ringens Thunb. 1794

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基本情報
高さ60cmほどの多年草。葉は大型で3小葉。4月に開花し、雌雄異株。花は肉穂花序で、仏炎苞に包まれる。果実は液果で赤色で、種子は3個。
東アジア原産。関東以西の海岸に近い湿った林内に群生する。


和名
武蔵国で造られた鐙に似ていることから。


学名
Arisaemaはギリシア語でaris (Arumの1種) + haima (血)。Arumに近い、あるいはある種の葉の斑点に由来すると言われる。

Thunb.はスウェーデンのツンベルグ(Carl Peter Thunberg)の略。ツンベルグはリンネの弟子で、鎖国下の日本の出島に滞在したことがある。Schottはオーストリアのスコット(Heinrich Wilhelm Schott)の略。オーストリアのブラジル探検に同行した。サトイモ科植物の研究者。

1794年にツンベルグが学名を登録し、1832年にスコットがArum属からArisaema属に移動させた。なので、(Thunb.) Schottという表記となる。


分類
1, 新エングラーの分類体系(Melchior,1964)
    単子葉植物綱、サトイモ目、サトイモ科

2, クロンキストの分類体系(Cronquist,1981)
    ユリ綱、ヤシ亜綱、サトイモ目、サトイモ科

3, マバリーの分類体系(Mabberley, 2008)
    モクレン綱(被子植物)、単子葉類、オモダカ目、サトイモ科

4, APG IV (2016)
    単子葉類、オモダカ目、サトイモ科


サトイモ科 Araceae(ウキウキ科を含む)
サトイモ亜科
1, テンナンショウ属 Arisaema
    ムサシアブミ、ウラシマソウ、マムシグサ、
    ユキモチソウ、など
2, サトイモ属 Colocasia
    サトイモ(タロイモ、ヤツガシラ、ハスイモ)
3, コンニャク属 Amorphophalus
    ヤマコンニャク、ショクダイオオコンニャク
4, クワズイモ属 Alocasia
    クワズイモ
5, フィロデンドロン属 Philodendron
6, シンゴニウム属 Syngonium
7, ハイモ属 Caladium
    カラディウム(カラジューム)
8, ヒメカイウ属 Calla
    カラー
9, オランダカイウ属 Zantedeschia
    カラー(オランダカイウ)
10, ボタンウキクサ属 Pistis 
    ウォーターレタス(ボタンウキクサ)
11, ハンゲ属 Pinellia
    カラスビシャク、オオハンゲ
12, アヌビアス属 Anubias
    アヌビアス・ナナ
13, クリプトコリネ属 Cryptocoryne
など



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