ユーフォルビア・オベサ・ドットコム

カテゴリ: サボテン

先日、我が弱小ブログのコメント欄に、非常に興味深い調査依頼がありました。何でも本来は直立して育つTrichocereus peruvianus(ブラジル柱)が、地を這ったり崖から垂れ下がったりして育つと言うのです。何か論文に記載はありませんかという、情報を求めるコメントでした。
iNaturalistと言うサイトに画像がありますが、少し枝が垂れ気味になるどころではなく、完全に下垂しているのです。果たしてこれが地域差なのか個体差なのか、これは確かに非常に不思議で気になりますね。

231206002450382~2
Trichocereus peruvianus
『The Cactaceae』(1920年)より。


垂れ下がる柱サボテン
iNaturalistの画像を見てみましょう。
まずは、T. macrogonus ssp. peruvianusとして同定された画像から。撮影地はペルーのHuincoです。
https://www.inaturalist.org/photos/19947200
https://www.inaturalist.org/photos/19947210

次はSanta Eulalia valley, Limaから。
https://www.inaturalist.org/photos/16276022

次はHuarochiri Provinceから。
https://www.inaturalist.org/photos/62265929

最後はSan Antonio Districtから。
https://www.inaturalist.org/photos/203737730

さて、まったくもって驚くべき光景です。一応、崖地だから根を深く張れずにずり落ちながら育ち、直立出来ないだけではないかとも、無理やり考えてもみました。しかし、最後の画像では平地でも普通に倒れて育っています。直立しないで育つことは明らかです。

論文はなし
では、早速論文を検索してみました。しかし、残念ながらそのような論文はヒットせず、それどころかトリコケレウスの論文自体がほとんどない始末です。トリコケレウスは幻覚成分を含むものがあり、そのため成分について調べた論文ばかりでした。さらに言えば、論文以外の情報を調べても、やはり幻覚成分関連の怪しげなサイトばかりで辟易しました。海外のサボテン愛好家たちのフォーラムもいくつか見てみましたが、この話題は見つかりませんでした。
しかし、調べると安請け合いした都合上、何かしらの情報は見つけたいところです。そこで、まずはトリコケレウスって何?と言うところからスタートしました。実のところ、私自身トリコケレウスをよく知らないのです。一体、トリコケレウスとは何者なのでしょうか?

パンサのサボテンランドより
まずは、「パンサのサボテンランド」を見てみます。インターネットの情報は、必ずしも一次資料ではなく、あちこちからコピペしてきた引用元がわからないものばかりです。ですから、検索して出てきた画像が正しいのかなどまったく判断はつきません。その点、このサイトの画像は一次資料ですから、非常に信頼性が高いのです。以下のリンクからトリコケレウスの画像を見てみましょう。

様々なトリコケレウス。
http://www.mirai.ne.jp/~panther/cactus/Echinopsis.html
トリコケレウスの変遷について。
http://www.mirai.ne.jp/~panther/cactus/hasira_species.html?111

さて、このサイトでは、トリコケレウスの変遷についてまとめています。論点は3つでしょうか。1つはトリコケレウスがエキノプシスに合併されたことで、Trichocereus peruvianusがEchinopsis pervianaになったと言うことです。2つ目はE. peruvianaとE. pachanoiは同種であり、E. pachanoiに一本化されました。そして、3つ目がTrichocereus peruvianusとされるサボテンの様々なタイプについてです。T. peruvianusは「青緑柱」、T. pachanoiには「多聞柱」と命名されました。また、タイプが異なる「ブラジル柱」と言う由来不明なものもあります。このサイトでは、「青緑柱」=「多聞柱」=「ブラジル柱」とまとめています。いずれにせよ、トゲの強さなど非常に変異が大きいことが分かります。

キュー王立植物園より
では、現在の最新のトリコケレウス属はどうなっているのでしょうか。キュー王立植物園のデータベースを見てみましょう。トリコケレウスはエキノプシスなど様々なグループに移動したようです。しかし、未だにトリコケレウス属は健在でした。現在、認められたトリコケレウスはT. macrogonus、T. spinibarbis、T. uyupampensisの3種類です。パンサのサボテンランドによると、T. peruvianusはEchinopsis peruvianaになったのだから今更トリコケレウスは関係ないだろうと思いきや、そうもいかないのです。なぜなら、T. peruvianusは現在ではT. macrogonusの異名となっているからです。イマイチ経緯が分からないのですが、トリコケレウス→エキノプシス→トリコケレウスと変遷したのでしょうか? それよりも、気になるのは、T. peruvianus、T. pachanoiに続くT. macrogonusなる第3の学名です。少し整理します。
そもそも、異名があった場合は命名が早い名前が優先されます。記載方法に問題があったとか、すでに命名された同じ名前を別の種類につけてしまったとか、何かしらの問題がない限りはそうなります。では、同種とされる3種類はどうでしょうか? 最初の命名年を見てみます。

1850年 Cereus macrogonus
1920年 Trichocereus peruvianus
1931年 Cereus pachanoi

おやおや、これはおかしいですね。とりあえず、T. macrogonusは除いた時、T. peruvianusとT. pachanoiを比較した場合は、明らか1920年に命名されたT. peruvianusが優先されるはずです。「P. pachanoiに一本化された」とは何だったのでしょうか。よく分かりませんね。ただ、T. macrogonus=T. peruvianus=T. pachanoiとなった以上、一番命名が早いT. macrogonusが優先されることに違いはありません。ちなみに、最初はケレウス属だったりしますが、これは問題ありません。ただ、種小名が早ければ良いのです。さらに、現在T. pachanoiはT. macrogonusの変種とされているようです。


TRICHOCEREUS.NETより
ここで視点を変えて、「Trichocereus.net」と言うサイトを見てみましょう。このサイトでは崖から垂れ下がるTrichocereusのことをTrichocereus glaucusであるとしています。また、新しい名前が出て来ました。一体、どういうことなのでしょうか?

https://trichocereusnet.blogspot.com/2016/01/trichocereus-gtlaucus-echinopsis-glauca.html?m=1

一部、引用します。
「Trichocereus glaucusは、おそらくTrichocereus peruvianusの匍匐性の種と同義です。Trichocereus glaucusは高さ1.5〜2mになり、斜面や崖からぶら下がっているのをよく見かける匍匐性の種です。その特徴はTrichocereus glaucus var. pendansでより明確です。小さいうちはTrichocereus macrogonusと呼ばれるものとまったく同じように見えます。しかし、T. macrogonusは上向きに育ちますが、本種は年齢とともに曲がる傾向があります。」
ここでは、T. peruvianusの匍匐性のものはT. glaucusであると言う内容を含んでいます。このT. glaucusとは、現在のT. uyupampensisの異名となっているようです。

Trichocereus chalaensis
また、Trichocereus chalaensisとの関係についても書かれていました。
「Trichocereus glaucusはFriedrich Ritterにより記載されたペルー原産のTrichocereusです。それは、Trichocereus chalaensisと同義か何らかの形で関連している可能性があります。T glaucusは、T. chalaensisやT. fulvilanusの名前で販売されているのを時々見かけます。Trichocereus全体が混沌としており、Ritterの説明がどの植物をカバーしているのか確認することは困難です。」
どうやら、トリコケレウスの分類はかなり混乱しているようです。販売されているものも、様々な名前で流通してしまっているようです。
ちなみに、Trichocereus chalaensisのiNaturalistの画像は以下のものです。

https://www.inaturalist.org/photos/89061958

混乱する分類
トリコケレウスのほとんどの種はエキノプシスなどに属名を変更になっていますが、Trichocereus.netでは遺伝子解析により明らかになるまではその変更を信用しないと言う立場を表明しています。これは、私も思うところがあります。現在の分類は外見の類似によるものと思われますが、そもそも外見に頼る場合は重視する形質により、分類結果が異なるかも知れません。その分類方法が適切であるかは、実はよくわからないのです。現状はある特徴を持つものを集めてしまい、何でもかんでもエキノプシスになってしまった気がします。どうしても、膨れ上がったエキノプシス属は雑多な寄せ集めではないのかという疑問が浮かびます。一応、遺伝子も多少は調べられています。2012年にエキノプシス属の遺伝子解析をした論文(B.O.Schlumpberger et.al.)では、エキノプシス属はやはり雑多な寄せ集めでしかないようです。その中では、トリコケレウスも調べています。詳細は後日記事にするとして、少し抜粋します。
「Trichocereus cladeは、Echinopsis pachanoiとEchinopsis lageniformisに代表されます。トリコケレウスの標準種であるEchinopsis macrogona(T. macrogonus)は、起源不明な標本に基づいており、Echinopsis pachanoiに関係しているようです。」
トリコケレウスは他のエキノプシスからは分離出来るようです。さらに、T. macrogonusの起源についても疑惑を提示しています。T. pachanoiにまとめたパンサのサボテンランドの記述は的を得たものなのかも知れませんね。それはそうと、論文では幅広く調べるためか、T. peruvianusを始めとしたTrichocereus.netに出てくるトリコケレウスは登場しません。トリコケレウスが2種類しかないのではなく、2種類しか調べていないだけです。Trichocereus.netがエキノプシスへの合流を保留としていたことも得心がいきます。

同定は正しいか?
iNaturalistではT. peruvianusがT. macrogonus ssp. peruvianusとなっていました。しかし、この名前はデータベースには記載がありません。T. macrogonus var. peruvianusは記載されたことがありますが、データベースに記載がない名前で同定しているのは納得がいきません。そもそも、どのような根拠で同定されたのか、そのプロセスが不明です。まさかとは思いますが、その理由がT. peruvianusが分布する地域で撮影された類似種だからでは困るわけです。いくつか画像はかなり遠くから崖上を撮影していますから、同定の根拠はあまりないような気がします。種内の変異も大きいようですから、正しく同定出来ているのかは怪しく思えてしまいます。Trichocereus.netの主張が絶対に正しいとは思いませんが、iNaturalistの同定も絶対的とは言えないように思えます。

Field number
フィールドナンバーとは採取された場所が登録された植物の番号です。ですから、フィールドナンバーがついていれば、野生個体由来のものであることが分かります。iNaturalistにある崖から垂れ下がるトリコケレウスが、T.glaucusである保証はありません。ですから、フィールドナンバーつきのT. peruvianusを調べて、iNaturalistの垂れ下がるトリコケレウスの写真が撮影された場所付近で採取されたものを購入するのも手でしょう。あるいは、フィールドナンバーがついたT. glaucusを入手することも可能かも知れません。種子販売業者からの入手なら確実です。
とりあえず、T. glaucusでフィールドナンバーを調べてみると、以下の3つが出て来ました。

①KK 336
採取地: ペルー、Arequipa, Rio Tambo, 1500m
②PH 871.04
採取地: ペルー、Lomas de Chucarapi, Rio Tambo, 750m
③CS 129.3
採取地: チリ、Tasapaca Region I, West of Parcohaylla 5, 3349m

ところが、Trichocereus.netにはKK 336についての記載がありました。
「T. peruvianusやT. macrogonus、T. pachanoiと言う名前で販売されており、T. glaucusと言うラベルがついていたものも、青白いもので美しくMatucana産のT. peruvianusを思い浮かべます。」
KK 336は垂れ下がるタイプではなさそうです。フィールドナンバーつきの種子は育ててみないとわからないギャンブル性があります。育てた人の画像があれば良いのですがないかも知れません。また、垂れ下がる傾向が強いT. glaucus var. pendansもあります。ただ、こちらはチリ原産です。

FR 270a (RITT 270a)
採取地: チリ、Camaraca, 01 Tarapaca

最後に
トリコケレウスはかなり混乱しており、販売されているものもその名前は割と怪しい場合もそれなりにあるようです。様々な名義で販売されてしまい、かつ小さいうちは区別がつかないなどと書かれていますから、欲しい種類の入手も難しそうです。海外のフォーラムにおけるトリコケレウスの話題は、種類を同定して欲しいと言うものが多いのも今は納得出来ます。一応、T. glaucusと呼ばれるものがそうではないかと推測しますが、T. uyupampensisと同種とされているのは気になります。そもそも、T. uyupampensisについてよくわからないため、T. uyupampensisと呼ばれるものが倒れて育つかよく分かりません。この場合、T. glaucusと言う名前のものを入手するのが確実なのでしょう。
しかし、色々調べてはみたものの、結局のところ確実なことは何も分かりませんでした。それっぽい情報を臭わせただけですね。とは言え、すべての情報にアクセスしたとは言えないでしょうから、まだまだ情報はあるのかも知れません。私自身も勉強になりましたが、やや消化不良でモヤモヤします。何か新しい情報があればまた取り上げるかも知れません。と言うことで、今回はここまでとさせていただきます。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンのトゲは鋭いので、うっかり触ってしまいトゲが手に刺さってしまうこともあります。普通は簡単に抜けますし、細かいトゲならとげ抜き、バニーカクタスならガムテープを使った方が早いかも知れません。しかし、これは我々趣味家がちょっとだけ、ホンの数本、バニーカクタスなら数十本刺さった程度の話です。わざわざ、病院に赴く必要はないでしょう。しかし、小さい子供や、大人でもあまりに沢山のトゲが刺さったら、流石に病院で見てもらった方が良いでしょう。
さて、たまたまサボテンのトゲについて調べていたら、サボテンのトゲの抜き方についての論文があるこあとに気が付きました。しかも、生物学関連の論文ではなく、医師が実際に診た患者についての報告のようです。少し見てみましょう。

231205233019772~2
Opuntia microdasys
『The Cactaceae』(1919年)より。


報告①
まずは、「American Journal of Diseases of Children」(アメリカ小児疾患ジャーナル)の1987年の12月号の報告である、Terry T. Martinezらの報告、『Removal of Cactus Spines From the skin』から。
「非常に細かいサボテンのトゲを皮膚から除去することは、小児患者にとって非常に苦痛です。最も効率的なのは、ピンセットでトゲの塊を取り除き、ガーゼで覆った接着剤を乾燥してから剥がしてトゲを取る方法でした。」
この報告は概要しか読めませんでしたが、接着剤は乾かすのに時間がかかりますから、子供に大人しくしてもらうのはやや難儀しそうです。

報告②
面白いのはこの報告に対する返信が、他の医師よりあったことです。それは、1988年の6月にHalim Hennesによるものです。
「Martinezらの記事を興味深く読みました。著者らはトゲを取り除く効果的な方法を発見しました。しかし、幼く大人しくしていない子供に対してピンセットの使用は難しい場合があり、接着剤の塗布と乾燥には時間がかかります。2才の女児が展示されているサボテンの上に落ちて、救急外来を訪れました。患者は左手と左前腕の1/3に複数のサボテンのトゲが刺さっていました。患者は動揺して泣き両親からの慰めも効果がありませんでした。動いてしまうため、ピンセットによるトゲの除去は失敗しました。」
残念ながら有料の論文で、概要だけで実際にどのようなに除去したのかは分かりませんでした。如何にして大人しくしてくれない子供を上手く処置したのでしょうか?

報告③
しかし、さらにこの報告に対する返信がありました。それは、1988年12月のLouis I. COOPERによるものです。
「Hennesの報告を読みました。約20年前にサンルイスオビスポ伝道所の修道女が私に勧めた治療法を提案します。粘着テープやセロハンテープを貼り付けて剥がすだけです。安全で痛みなく必要に応じて繰り返すことが出来ます。」
これは簡単です。細かいトゲならやはり粘着テープと言うのは、今もそうでしょう。


報告④
面白いことに、サボテンのトゲの抜き方については、アメリカ小児疾患ジャーナル紙の議論と同じ1988年に「The American Journal of Emergency」(アメリカ救急医学ジャーナル)に記載がありました。それは、Douglas Lindsey & Wally E. Lindseyによる『Cactus spine injuries』です。
「サボテンのトゲは損傷を引き起こし、その臨床的重要性はトゲの寸法に反比例します。SaguaroやBarrel cactusの長いトゲの場合は、トゲの破片が埋め込まれることはほとんどありません。破片が埋め込まれた場合、見つけて取り除くのは困難です。ウチワサボテンやChollaの中程度のトゲは厄介なものですが、引き抜くことで簡単に取り除くことが出来ます。Bunny ear cactusやBeavertail cactusの非常に小さなトゲは非常に厄介ですが、プロ仕様のフェイシャルジェルの乾燥膜を剥がすことで除去出来ます。」
ここでは、サボテンによりトゲが異なることも考慮されています。Saguaro(弁慶柱、Carnegiea gigantea)やBarrel cactus(Echinocactus、Ferocactus)のトゲは粘着テープよりピンセット、Bunny ear cactus(金烏帽子、Opuntia microdasys)の芒刺はピンセットより粘着テープの方が良さそうです。論文ではフェイシャルジェルを利用しています。
ちなみに、Beavertail cactusとはOpuntia basilaris、ChollaとはCylindropuntiaを指します。

報告⑤
サボテンのトゲの抜き方についての医療界隈の報告は一段落したようですが、なんと2019年に新しくサボテンのトゲの抜き方についての論文が出ました。それは、Andrew M. Fordらの『Novel Method for Remove Embedded Cactus Spines in the Emergency Department』です。簡単に見ていきます。
「低機能自閉症と先天性運動機能障害を持つ22歳の患者が、沢山のサボテンのトゲが刺さった状態で救急科を受診しました。患者は胴体と腕と下肢全体にトゲが刺さっていました。患者は意思の疎通が困難であり、患者の両親によると過去に医療関係者に対する抵抗が激しかったため、麻酔による鎮静を行いました。医療用脱毛ミットにより4人がかりでサボテンのトゲを除去しました。15分後には、脱毛ミットでは除去出来ない深さのトゲも除去しました。患者は破傷風予防薬を投与され退院しました。患者は2週間後に検査され紅斑が認められましたが、紅斑は4週間後には消失しており、追加のトゲの除去は必要ありませんでした。
刺さったトゲが少数ならピンセットで除去出来ますが、多い場合は家庭用接着剤が有効ですが乾くのに35分ほどかかります。また、粘着テープはトゲの28〜30%しか除去出来ないことが知られています。これらの方法は従順な患者ならば十分ですが、今回のケースのように好戦的な患者には不十分であることが判明しました。興奮した患者が暴れてトゲが逆により深く刺さってしまうかも知れません。」
このケースでは意思の疎通が難しく暴れる患者を対象としています。麻酔をかけていますが、それも長時間は無理でしょう。素早く取り除く必要があります。ピンセットでチマチマやるわけにはいきません。使用した医療用脱毛ミットとは、手袋のようにして使用する粘着質の道具です。粘着テープは張って剥がしてと言う一連の操作に時間がかかりますが、手袋のようにはめて使えるため、軽く手の平で叩くようにするだけで簡単にトゲが除去出来ます。

231205233226592~2
Opuntia microdasys
『Illustrated catalog』(1934年)より。


最後に
以上が医療分野におけるサボテンのトゲの除去方法の報告です。サボテンのトゲを抜きに病院に来る人は珍しいでしょうから、標準的な治療法はなかったのでしょう。最初の話は小児に関するものでした。やはり、子供はいたずらしたりしてサボテンにぶつかったりする事故も大人よりは多そうですし、大人しくトゲを抜かしてくれないでしょう。刺さったのが1本2本ならともかく、数十本となると時間がかかりますし、化膿してしまうかも知れません。病院に診てもらうのは妥当な判断と言えます。2019年のケースは医師にとってはかなり厄介な患者ですが、医療用脱毛ミットと言う新しい武器が活躍したようです。
私などは面倒臭がって素手で植え替えをするもので、手は穴だらけで、折れたトゲが沢山皮膚に残りますが基本的に放置してしまいます。そのうち新陳代謝でいつの間にやら出て来ますから、特に問題となったことはありませんでした。しかし、化膿したり破傷風だなんて考えたこともありませんでしたね。そりゃあ、刺さらないなら刺さらない方が良いだろうと言う、当たり前の感想です。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

基本的に植物は受粉のために花粉媒介者を必要とします。しかし、共通する花粉媒介者に頼った場合、花粉媒介者が競合してしまう可能性があります。しかし、ある論文では3種類の開花期の異なるサボテンが、上手く花粉媒介者の競合を避け、花粉媒介者に1年中資源を提供し支えていることが示されています。その論文の解説は以下の記事をご参照下さい。

さて、本日はギムノカリキウムの開花期について詳しく調べた研究をご紹介します。それは、Melisa A. Giorgisらの2015年の論文、『Flowering phenology, fruit set and seed mass and number of five coexising Gymnocalycium (Cactaceae) species from Cordoba mountain, Argentina』です。

この研究はアルゼンチンのCordoba州、Sierras Chicas山脈の標高1200メートルの東斜面で実施されました。Cordoba州の山々には約17種類のギムノカリキウムが生息しそのほとんどが固有種です。山脈には5種類のギムノカリキウムが局所的には共存しています。

Gymnocalycium亜属
①G. bruchii
231122222820340~2
『Latest news from cactus land』(1953年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


②G. capillense

Trichomosemineum亜属
③G. quehlianum
231122224232259~2
『Succulent news』(1956年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


Scabrosemineum亜属
④G. monvillei
231122222742430~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

⑤G. mostii

231122222755698~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

以上のギムノカリキウムは自家不和合性で自家受粉しません。主な花粉媒介者はミツバチです。花の寿命は2〜3日です。種子は約5週間で成熟し、Elaiosomeにより蟻に運ばれます。
開花が最も早いのはG. bruchiiでした。G. bruchiiの開花が減り始める頃に、入れ替わるようにG. quehlianumが開花のピークを迎えました。G. quehlianumの開花期は長く、他のギムノカリキウムの開花期の最後まで緩やかに減少しながら開花し続けました。G. quehlianumの次は、G. monvilleiとG. mostiiの開花のピークを迎えます。G. monvilleiは急激なピークを迎え、短期間で開花を終えました。対するG. mostiiは、ピークはG. monvilleiと同時期でしたが、一度下がってからやや盛り返し、最後まで咲き続けました。最後にG. capillenseが咲きましたが、開花数は少ないものでした。G. capillaenseの開花のピークは、G. monvilleiの花が急激に減少している頃で、G. mostiiの開花の谷間にあたります。G. capillenseの開花期は短く、花が減少し始めるとG. mostiiの開花が盛り返し、G. quehlianumの開花も少ないものの続きます。

種子の成熟期間を考慮すると、開花が早い種類は種子が大きく、開花が遅い種類は種子が小さいと考えられます。しかし、実際には開花が最も早いG. bruchiiと開花が最も遅いG. capillenseの種子が大型でした。
しかし、開花が遅いG. capillenseは結実率が低く、時期的に生育期の終わりであることから、気温の低下により成熟期間が短かすぎる可能性があります。また、生育期の始まりと終わりの時期は、気候条件により花粉媒介者の活動が低下していることも考慮する必要があります。
また、開花期が2番目に早く長い期間開花するG. quehlianumは、開花数が最も多く結実数も非常に多いものでした。しかし、G. quehlianumは出来る種子の数に比べ、個体数は他のギムノカリキウムよりも少ないものでした。これは、実生の生存率などによるものかも知れません。

以上が論文の簡単な要約です。
5種類のギムノカリキウムは、開花時期は多少重なるものの、そのピークは基本的には遷り変わるものでした。ある程度、花粉媒介者の競合を避けるメカニズムがあるようです。しかし、G. monvilleiとG. mostiiの開花期のピークはほぼ重なりますが、G. monvilleiは短い時期に大量開花することにより、花粉媒介者を独占的に引き寄せているのかも知れません。対するG. mostiiは開花期間が長く、他のギムノカリキウムと競合しながらも、トータルでは必要な結実数を確保しているのかも知れません。
開花時期が早いG. bruchiiや開花時期が遅いG. capillenseは、競合を避ける戦略ですが、花粉媒介者が少ないというリスクを背負うことになります。生態系は基本的に全部取りは出来ず、常にtrade-offの関係にあります。あれもこれもは難しいのです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

最近、般若(Astrophytum ornatum)の受粉に関する論文をご紹介しました。論文では般若の受粉率は低く、同じ時期に咲き、共通した花粉媒介者を持つ他の種類のサボテンと競合している可能性を指摘していました。実際にそのようなことがあるのか気になったので、関連する論文を探してみました。そこで見つけたのが、Erica Arroyo-Perezらの2021年の論文、『Shared pollinators and sequential flowering phenologies in two sympatric cactus species』です。この論文では、開花時期が重複しないメリットについて書かれています。

調査地はメキシコのQueretaro州中西部で、チワワ砂漠の最南端です。標高は1400mで、Queretaro-Hidalguense半乾燥地域に含まれるSierra Madre東部地域に属します。調査したのは、Ariocarpus kotschoubeyanusとNeolloydia conoideaで、それぞれ200個体以上を1年間観察し、花への訪問者などの繁殖システムを記録しました。この2種類のサボテンは開花期が重なりませんが、同じ色と形状の花を咲かせます。2種類は共にミツバチによる受粉(melittophily)とされています。ちなみに、2種類とも絶対的他家受粉で自家受粉はしません。

231115055805469~2
Ariocarpus kotschoubeyanus(中段右)
『The Cactaceae』(1922年)より。


調査の結果、2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。Ariocarpusは最も乾燥する季節の始まりである10月から12月まで開花し、Neolloydiaは春から夏にかけて咲き、最も温暖で湿気が多い5月に多くの花を咲かせます。両者共に9時〜10時に開花し14時〜15時に閉じました。また、開花してから2日間は雌雄同株で、やがて雌雄離熟を示しました。
2種類のサボテンの最も多い花への訪問者はミツバチとアリでした。訪問者のうち共通するのは60%でした。ただし、花における行動を観察したところ、両者を訪れる有効な花粉媒介者はミツバチであることが分かりました。ちなみに、ミツバチの共有種は75%でした。

231115055838634~2
Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。
Neolloydia conoideaは2021年にCochemiea conoideaとされています。


2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。興味深いのはこの2種類が開花しない時期には、Mammillaria parkinsoniiが開花し、3種類のサボテンで花資源の年間サイクルが出来ていたことです。このことは、異なる種のサボテンの共存を促進する重要な要素かも知れません。そのためには、花粉媒介者の共有が必要です。

231115055845208~2
Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のサボテンは類似した花を持ちますが、花の時期が異なることで花粉媒介者の競合を防いでいます。さらに、類似した花を持ち有効な花粉媒介者が共通するということは、1年を通して有効な花粉媒介者を複数種の植物で支えているとも言えるでしょう。
このような複雑なサボテンと花粉媒介者の関係性は、非常に驚くべきものでした。しかし、ある意味では繊細なバランスの下にあり、1種類のサボテンがその地域で絶滅しただけで、花粉媒介者の採蜜の年間サイクルが崩れてしまうかも知れません。場合によっては花粉媒介者の組成や絶滅により、他のサボテンの受粉に悪影響が出る可能性もあるでしょう。
N. conoideaは分布が広く個体数も多いため問題なさそうですが、A. kotschoubeyanusは分布が限られており、国際自然保護連合(IUCN)は準絶滅危惧種に指定し、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに記載され国際取引は禁止されています。しかし、絶滅危惧種に指定されても格別の保護がなされるわけではないので、絶滅の可能性はつきまといます。そのようなことはないと良いですが、希少サボテンの環境や個体数が増えて絶滅の危機から脱したという話は聞かないので、いつかは起きてしまうかも知れません。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

般若(Astrophytum ornatum)は、Astrophytumの中でも大型のサボテンです。野生のAstrophytumは減少していますが、それは般若も同じことのようです。希少生物の保護を考える場合、まずは現在の分布と個体数の調査に加えて、その生態を詳しく知る必要があります。例えば、人工的に増やした植物を砂漠に移植した時に、その植物の適切な花粉媒介者がその周囲に分布していないと、せっかく移植した植物は実を結ばず自力で増えることが出来なくなります。他の例では、花粉媒介者が減少した結果、植物は沢山生えているものの新しい実生がほとんどなくなってしまい、将来的に絶滅の可能性が出てきたということもあります。
本日はA. ornatumの受粉形式を調査したMaria Loraine Matias-Palafoxらの2017年の論文、『Reproductive ecology of the threatened "star cactus" Astrophytum ornatum (Cactaceae): A strategy of continuous reproduction with low success』をご紹介しましょう。

231108230455555~2
Astrophytum ornatum
『Malayan garden plants, Botanic Gardens』(1949-1952年)より。

Astrophytum ornatumとは
Astrophytum ornatumは、高さ160cmに達する短円筒形のサボテンです。5〜8本の稜(rib)を持ち、アレオーレには1つか2つの中央棘と10本の放射状棘があります。花は昼行性です。A. ornatumはチワワ砂漠高地の石灰質土壌の急斜面に生育します。メキシコでは絶滅危惧種に指定されており、ワシントン条約では附属書IIに記載され国際取引は規制されています。

開花は年間4回
調査はCactus Sanctuary Gardenの標高1294m地点で実施されました。
花芽は一年中あるにも関わらず、1年間の観察で開花したのは4回でした。著者らは複数の花が咲いた時を開花と見なし、これを「開花イベント」と呼びました。開花イベントはすべて乾季におこり、2010年11月、2011年3月、2011年4月、2011年5月でした。開花した個体は、11月で全体の15%、3月で88%、4月で91%、5月で33%でした。11月の開花は2日間続きましたが、他の月の開花イベントは1日で終了しました。ちなみに、6月に開花した個体もありましたが、1つのみの開花で受粉しなかったため、これを開花イベントとは見なしませんでした。

花の情報
個体あたりの花芽の生産数は平均46個、開花した花は平均4個、結実は平均3.5個でした。個体の生長と花芽の生産数には関係があり、花芽の数は前の月の最低気温に反比例しました。開花は9時30分から10時に始まり17時頃に終わりました。著者らは花蜜の採取を試みましたが失敗しました。花を訪れた花粉媒介者の行動からも、花蜜は非常に少量であると考えられます。

青般若
Astrophytum ornatum

花粉媒介者
花を1時間半観察したところ、32匹の花への訪問者が確認されました。その内訳は、4属のミツバチが全体の91%を占め、甲虫は6%、バッタは3%で花粉と花被を食べていました。
A. ornatumは日中開花し、豊富で目立つ黄色の花粉を持つことから、花蜜の少なさを考慮すると、花粉が花粉媒介者を引き寄せていることが示唆されます。

絶え間ない花芽の謎
年間46個ものツボミをつけるにも関わらず、平均して4個しか開花しません。これは、花芽の89.2%が出現後2〜3週間で中止されるからです。A. ornatumの継続的な花芽生産は他のサボテンでは報告されていない珍しい現象です。この絶え間ない花芽の生産は、高いエネルギーコストが必要でしょう。
一般的に単一の大きな開花期を持つほうが、繁殖率を上がることが予測されます。しかし、乾燥した環境下においては、決まった開花期に開花に適した環境になるとは限らないため、リスクを分散させている可能性があります。

受粉率の低さ
A. ornatumの開花は1〜2日と短いにも関わらず、群落内で同調して開花することは注目に値します。おそらく、A. ornatumは自家受粉しない自家不和合性であると考えられるため、集団で咲くことに意味があるからです。
ただ、実際の結実は少ないと言えます。これは、Astrophytum asteriasでは人工的に受粉させた場合より自然に受粉する率が低いことが判明していることと同じかも知れません。つまり、有効な花粉媒介者が不足しているのです。可能性としては、外来のミツバチが多いからかも知れません。外来ミツバチApis melliferaはA. ornatumの花への訪問者の47%を占めていました。
さらに、同時期に開花する他のサボテンと花粉媒介者が競合しているからかも知れません。例えば、4月にはTurbinicarpus horripilusも開花のピークを迎えます。共通する花粉媒介者がいた場合、花粉媒介者を巡る競争が起きる可能性があります。


231108230450691~2
Astrophytum ornatum(下)
『Herman Tobusch』(1932年)より。Seed & Nursery Catalogです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
受粉生物学を扱った論文では、花粉媒介者の種類や割合を調査してそこで終わりというパターンが多いように思われます。中には受粉率を調べ有効な花粉媒介者を探し出すこともありますが、本日ご紹介した論文のように詳細に開花について調査されることは稀でしょう。
絶え間なく出来続けるツボミの謎は大変興味深いものでした。環境によく適応した結果と言えるでしょう。問題は現実的には受粉率は低いことです。他のサボテンとの花粉媒介者の競合であるならば、それが本来的な姿であるから問題はないでしょう。しかし、外来のミツバチが受粉率を下げていた場合、外来ミツバチは受粉妨害をしていることになります。果たして、般若の本来的な受粉のあり方とはどのようなものだったのでしょうか? 外来ミツバチが幅を利かせる現状では、それを窺い知ることは難しいかも知れません。

ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

以前、Gymnocalycium esperanzaeを調べていた時に、論文に面白いことが書かれていました。G. esperanzaeは、G. castellanosiiとG. bodenbenderianumとの自然交雑種である可能性があるというのです。その時の記事は以下のリンクをご参照下さい。


問題はG. esperanzaeは一時的に出来た雑種ではなく、すでに交雑親から独立しているように見えることです。論文でも、植物は自然交雑による種分化は珍しいことではなく、進化の原動力の1つであると書かれていました。交雑が進化に関係するということは、私も気になってはいたのですが、中々調べるところまでは行きませんでした。しかし、最近になりサボテンの自然交雑種に関する論文を見つけました。それは、Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文、『Unraveling Reticulate Evolution in Opuntia (Cactaceae) From Southern Mexico』です。タイトルは訳すと、「メキシコ南部のウチワサボテンの網状進化の解明」となります。「網状進化」とは何なのでしょうか?

231021032655186~2
Opuntia pilifera
『The Cactaceae』(1919年)より。


交雑は植物の約40%で発生し、その中でもウチワサボテンなど特定のグループにより頻繁に発生します。この論文では、ウチワサボテンの約12%が分布するにも関わらず、ほとんど調査されていないメキシコ南部のTehuacan-Cuicatlan渓谷において、ウチワサボテンの交雑種を遺伝子解析により調査しました。著者らの研究グループは、Opuntia tehuacanaはOpuntia piliferaとOpuntia huajuapensisの中間的な特徴を持つことから、交雑種ではないかと考えていますが、仮説が検証されたことはありませんでした。

231021003259288~2
Opuntia velutina(右上)
『The Cactaceae』(1919年)より。

著者らはTehuacan-Cuicatlan渓谷とその周辺地域から、9種類のウチワサボテンを採取しました。複数の遺伝子を解析したところ、以下のような交雑が推測されました。

O. pilifera①=O. decumbens+O. depressa
O. pilifera②=O. decumbens+O. velutina
O. tehuacana=O. decumbens+O. huajuapensis
O. decumbens=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina①=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina②=O. tehuantepecana+O. decumbens

231021003243444~2
Opuntia decumbens
『The Cactaceae』(1919年)より。


ウチワサボテンは生殖障壁が弱いため、自然交雑種は一般的です。研究に用いたウチワサボテンの開花期は春で、地理的に近い種の間では交雑が起きる可能性があります。一般的に受粉は主にミツバチにより行われますが、Tehuacan-Cuicatlan渓谷ではミツバチより長距離を移動するハチドリも受粉に関与している可能性があります。
さて、肝心のO. tehuacanaに関してですが、交雑親と考えられるO. huajuapensisは開花期が重なります。ハチドリが両方の種に訪れるため、受粉の可能性があります。しかし、共通の特徴はあるものの、交雑により予想されるような中間形質は確認されませんでした。もう片方の交雑親と当初は考えられていたのはO. piliferaですが、遺伝子解析では交雑の証拠はありませんでした。共通する特徴より異なる特徴が多く、中間形質もないため、O. piliferaが交雑親であるというシナリオは破棄されます。交雑の仕方からは、交雑親はO. decumbensが疑われます。しかし、すべてのO. tehuacanaからO. decumbensが関与しているわけではないことが判明しており、特定の遺伝子のみが移入しており、雑種種分化は発生していないことが推測されます。

以上が論文の簡単な要約です。
論文中に出てきた生殖障壁とは、交雑してしまう可能性のある近縁種同士が受粉しないような仕組みのことです。例えば、簡単な例では花の時期が異なるだとか、地形的に隔離されているとかです。やや複雑になると、花の色や形が異なり、訪れる花粉媒介者が異なる場合には交雑は起きません。しかし、Tehuacan-Cuicatlan渓谷では、ウチワサボテンが20m四方に4種類も存在するという高密度な状態でした。しかも、開花期も重なり花粉媒介者も共通します。
著者らは調べた遺伝子が少ないため、すべての交雑を検出出来たわけではないとしています。しかし、遺伝子情報からの推測方法については私には良くわからなかったため、上手く解説出来ませんでした。どうも、「網状進化」とは単純な交雑ではなく、複数種の遺伝子が混じり合って形成される、正に網状の交雑が起きているようです。しかし、論文自体は網状進化の一部を解明しただけで、すべてを解明したわけではなさそうです。実際には本当に網の目のように複雑に絡むような進化を辿ったのかも知れませんね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Pereskia属はサボテンらしからぬ姿のサボテンで、通常の樹木状で葉があり、全体的に特に多肉質ではありません。ただ、強い棘と美しい花がサボテンとの繋がりを感じさせます。Pereskiaは一般的には杢キリンだとかコノハサボテンと呼ばれますが、サボテン愛好家にもあまり人気はなさそうです。
さて、このPereskiaはサボテン科の進化を考える上で重要とされます。というのも、サボテンは本来は多肉質ではなく、Pereskiaのような多肉植物ではない姿から多肉質に進化したと考えられるからです。
そんなPereskiaはどうも単系統ではないと考えられているようです。2013年にPereskiaは単系統ではないという考えが示され、新属Leunenbergeriaが提唱されました。そこら辺の事情をまとめたJoel Lodeの2019年の論文、『Leunenbergeria, a new genus in Cactaceae』をご紹介しましょう。しかし、新種どころではなく、新属とは驚かされます。

231018043035804~2
Leunenbergeria autumnalis(左右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia tititachaとして記載。


PereskiaはSchumann(1890)とBuxbaum(1969)によりサボテン科の最も祖先的な分類群と考えられました。2002年のNyffelerの分析でも、Pereskiaはサボテン科の基底であることは示されましたが、単系統ではないとされました。2005年のButterworth & Wallaceの分子解析では、Pereskiaは単系統ではなく側系統群であることが示されました。2005年にEdwardsらは、Pereskiaの遺伝子解析を行いました。Pereskiaでは唯一コスタリカに分布するP. lychnidifloraと、Pereskia属のタイプ種であるP. aculeataとは、Pereskia属を分けなければならないレベルで遺伝的に距離がありました。2005年のCrozierの分子研究では、Pereskia属は急速に分岐した可能性を指摘しました。2007年にMarlon Machadoは、形態学的および解剖学的な特徴から、Pereskiaは2つのグループに分割出来るとしました。2008年にButterworth & Edwardsは、Pereskiaが側系統群であることを確認しましたが、GorelickはPereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており、混乱し続けていることを指摘しました。

231018043040655~2
Leunenbergeria zinniiflora(右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia zinniaefloraとして記載。

そして、2008年のNyffelerらと2010年のNyffeler & Eggliは、Pereskiaは南アメリカ北部からメキシコまでの北部クレードと、ブラジル南部から南方の熱帯および亜熱帯南アメリカの南部クレードに分けることが出来ることを示しました。南部クレードは樹皮の形成が遅れており、茎に気孔があります。北部クレードは樹皮が早く形成され茎に気孔があります。

231018043059842~2
Leunenbergeria gamacho
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia gamachoとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
論文中の用語ですが、単系統とは系統的な子孫からなるまとまりがあるグループです。側系統とは簡単に言えばまとまりのないグループです。論文ではPereskiaを2分割しました。名前のなかった南部クレードには、著者が2013年にLeunenbergeria属を提唱しました。属名はPereskiaの著名な研究者であったLeunenbergerから来ているようです。
また、本文中に「Pereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており…」とありますが、分かりにくいため簡単に説明します。例えば、2005年のEdwardsの『Basal cactus phylogeny: implications of Pereskia (Cactaceae) paraphyly for transition to the cactus life form』では、以下のような分子系統が示されました。

              ┏━カクタス亜科
          ┏┫
    ┃┗━Maihuenia
      ┏┫
      ┃┗━━
ウチワサボテン亜科
  ┏┫     
  ┃┗━━
Pereskia
  ┫
  ┗━━━
Leunenbergeria

カクタス亜科は柱サボテンや玉サボテンを含む巨大なグループです。見方としては、カクタス亜科とMaihueniaは姉妹群で、カクタス亜科+Maihueniaとウチワサボテン亜科は姉妹群、それらとPereskiaは姉妹群なのです。つまり、カクタス亜科からPereskiaまでを一塊と捉えることも可能なため、そのような表現となっているのです。

231018043113470~2
Leunenbergeria zinniiflora
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia cubensisとして記載。


Pereskiaから独立してLeunenbergeriaとなったのは8種類です。以下に示します。
①L. aureiflora
②L. bleo
③L. gamacho
④L. lychnidiflora
⑤L. marcanoi
⑥L. portulacifolia
⑦L. quisqueyana
⑧L. zinniiflora


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

最近は基本的にサボテンと多肉植物の論文をご紹介してきましたが、花と受粉に関する話題に興味があり積極的に取り上げてきました。しかし、最近は種子の行方にも興味が出て来ました。論文を漁っていたところ、「Serotiny」なる用語に出会いました。「Serotiny」とは、成熟した種子がすぐに散布されず、親個体に長く残る現象を指します。有名な植物はオーストラリアのバンクシアで、種子は火事により加熱されないと出て来ません。調べると、一部のサボテンも「Serotiny」であると言うのです。一体どういうことなのでしょうか?
本日はそんな「Serotiny」であるサボテンについて調査した、Edward M. Petersの2009年の論文、『The adaptive value of cued seed dispersal in desert plants: Seed retention and release in Mammillaria pectinifera (Cactaceae), a small globose ca cactus』をご紹介しましょう。

Mammillaria pectiniferaは直径3〜4cmの球形のサボテンで、メキシコのPuebla州Tehuacan Valleyの固有種です。土壌は保水力が高くアルカリ性です。M. pectiniferaは環境破壊や違法取引などにより絶滅が危惧されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに含まれ国際取引が制限されています。メキシコ政府の絶滅危惧種リストにも記載されています。

M. pectiniferaの櫛状のアレオーレには白い棘があり、日照を和らげています。果実は白っぽい液果で、すぐに果実ごと種子が放出されることもあれば、サボテンのイボの中に埋め込まれたまま7〜8年かけて徐々に種子を放出する場合もあります。
231014094811772~2
Mammillaria pectinifera(右)
『The Cactaceae』(1922年)より。Solisia pectiniferaとして記載。


著者らは、M. pectiniferaを2年間観察しました。1年目はエルニーニョ現象の影響により非常に乾燥し、2年目はラニーニャ現象により比較的雨が多い時期でした。乾燥した1年目は果実が放出されることはなく、埋め込まれた果実から種子がこぼれました。雨が多かった2年目は、新しい果実の21.5%は放出されました。2年目は実生が増え、苗の定着率も1年目の5倍に達しました。
また、温室内で水やりの量をコントロールすると、与えた水が多いほど果実の放出が多くなりました。年間降水量1000mm以上を想定したシミュレーションでは、ほぼすべての果実が放出されました。
M. pectiniferaの保持される種子の存在は、これが貯蔵種子(seed bank)として機能していることを示唆します。苗の死亡率が高い植物では、乾燥などの悪質な環境を避ける戦略かも知れません。それは、乾燥した年と雨が多い年の比較や、降水量をシミュレーションした実験からも伺えます。

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥していたら種子をなるべく放出せず、雨が多ければ種子を放出するという賢い戦略です。雨が多い年には実生の生存率は上がります。乾燥した年に種子を放出するリスクを減らす意味もあります。M. pectiniferaは降水量をスイッチとしたSerotinyと言えるでしょう。
さて、論文ではサボテンのSerotinyは小型の球形サボテンで、現在25種類が確認されているそうです。Serotinyとされたのは、Mammillaria、Coryphantha、Dolichothele、Neobesseya、Echinocactus、Aztekium、Lophophora、Obregonia、Ariocarpus、Pelecyphoraに含まれていました。Serotinyはサボテンの中に、割と広く存在するようです。Mammillaria、Coryphantha、Obregonia、Pelecyphoraは遺伝的にも非常に近縁なため何となく分かりますが、それほど近縁ではなさそうなものもあります。乾燥に対する戦略として有効なため、分類群のあちこちで進化したのでしょうか? サボテン科全体の遺伝子解析は調べていないため断言出来ません。また、調べないといけないことが増えてしまいました。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村


Elaiosomeとは種子についた栄養分のことですが、その栄養分を目的にアリが種子を巣穴に運ぶことが知られています。このようなアリにより拡散される種子を、Myrmecochory種子と呼びます。このような、MyrmecochoryやElaiosomeについて興味があったのですが、中々良い論文が見つかりませんでした。しかし、CaatingaのMyrmecochoryについて書かれた論文を見つけました。それは、Inara R. Lealらの2007年の論文、『Seed Dispersal by Ants in the Semi-arid Caatinga of North-east Brazil』です。
生物の多様性が高い地域をホットスポットと呼びますが、サボテンにもホットスポットが存在します。ブラジルの半乾燥地域にあるCaatingaの森も、サボテンのホットスポットの1つです。この論文ではサボテンだけではなく、様々なMyrmecochory植物について調査されています。

231013044052877~2
Jatropha mutabilis
「Das Pflanzreich」(1910年)より。J. obtusifoliaとして記載。


著者らはCaatingaのXingo'地域でアリにより散布される種子を3年間にわたり調査しました。アリによる種子の散布は、Xingo'地域の樹木の1/4を占めていましたが、Elaiosomeがついた「真のMyrmecochory」は樹木の12.8%でした。
Myrmecochoryは、Elaiosomeを持つ種子を含み、仮種皮(Aril)や偽仮種皮(Arillode)、種枕(Caruncle)を持つ種子からなります。Elaiosomeのついた種子はアリにより巣穴に運ばれ、Elaiosomeは取り除かれ種子はゴミ捨て場や巣穴の入口に捨てられます。Myrmecochoryは、火災が多かったり、土壌の栄養が貧弱な地域に良く見られるとされます。アリの巣穴は栄養分が蓄積し、火災から守られるためです。

231013044154186~2
Opuntia palmadora(右上)
「The Cactaceae」(1919年)より。


アリにより運搬された種子は、2つのタイプがありました。1 つは核果(Drupe)や液果(Berry)などの肉質の果実を持つタイプで、非Myrmecochoryです。つまりは、アリによる種子の運搬に特化していないものです。このタイプの植物は14種類が確認されました。2つめは仮種皮や種枕、肉質種皮(Sarcotesta)を含む、13種類のMyrmecochory種子でした。真のMyrmecochoryはトウダイグサ科植物の種枕を持つ11種でした。トウダイグサ科のJatropha mollissimaやCnidoscolus quercifoliusの種子は、ほとんどのアリ(10種類)を引き付けました。種子を運搬する主要なアリは7種類が確認されましたが、その平均分散距離は409.2〜538cmであり、自然に種子が落下したよりも広く拡散されます。
Myrmecochory種子はアリの運搬に特化していますが、非Myrmecochory種子でもアリにより運搬されます。非Myrmecochory種子は、本来運搬する動物が運搬して落とした種子も、二次的にアリが運搬しています。よって、Caatingaの森ではアリが種子散布者として重要な役割を果たしていることを示唆しています。

231013044123100~2
Manihot carthagensis subsp. glayiovii
「Rubber and rubber planting」(1879-1915年)より。M. glazioviiとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
種子をアリに運搬された植物は27種類ありましたが、うち11種類がトウダイグサ科と圧倒的です。やはり、真のMyrmecochory種子はアリに特化しているということなのでしょう。今回観察されたトウダイグサ科植物は、Cnldoscolus属、Croton属、Jatropha属、Manihot属でした。次に多いのが、サボテン科で液果をつけます。観察されたサボテン科はCereus jamacaru、Melocactus bahiensis、Opuntia palmadora、Pilosoceus gounelleiの4種類でした。
果実には種類があり、何かしらの方法で動物を引き寄せ、種子の拡散を手伝わせます。例えば、液果は動物に食べられて消化管で果肉が除去され、糞の中に種子だけが残ります。果肉にはアブシシン酸など発芽を抑制する植物ホルモンが含まれるため、果実を動物に食べられることが重要です。親木の近くに果実が落ちただけでは発芽せず、動物により食べられて運搬された時に初めて発芽可能となるという上手い仕組みです。どうやら、Elaiosomeを持つ種子も、Elaiosomeの除去が発芽率を上昇させるようで、やはりアリにより運搬されElaiosomeを取り除かれる必要があります。論文中ではメロカクタスの果実もアリにより運搬されたようですが、メロカクタスの本来の種子散布者はトカゲです。トカゲに食べられなかった果実は地面に落ちて、アリにより運搬されるのです。
植物を栽培したり鑑賞する最大の目的は、おそらく花でしょう。植物にとっても花は繁殖のための要ですから重要です。ですから、花の受粉は生態学的にも重要で、沢山の論文が出ており私も度々記事にしています。しかし、受粉後の種子の拡散も、植物にとっては重要なイベントであるはずです。以上のように、種子の拡散は植物により種類があり、その拡散方法も様々です。私も興味がありますから、少しずつ調べてみるつもりです。

231013044142372~2
Cereus jamacaru
「The Cactaceae」(1920年)より。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

メロカクタスは育てたことはありませんが、発達した花座が非常に特徴的なため、ひと目見たら忘れられないサボテンです。私もそれなりに興味があり、メロカクタスの論文を記事にしたことがあります。その論文では、地面に落ちたメロカクタスの果実は、アリが巣に運んだりと、アリが種子の拡散に関与しているというものでした。しかし、論文では何やら気になることが書いてあり、とても気になっていました。曰く、「メロカクタスの果実はトカゲが食べるが…」と、話の前置きとしてさらりと書かれていたのです。どうにもトカゲとサボテンの実が頭の中で結びつかず、長らく疑問に思っていました。そこで、本日はその宿題を片付けるために、メロカクタスの実を食べるトカゲについて書かれた論文を見てみましょう。それは、Vanessa Gabrielle Nobrega Gomesらの2021年の論文、『Endangered globose cactus Melocactus lanssensianus P. J. Braun depends on lizards for effective seed dispersal in the Brazilian Caatinga』です。

231003234845787~2
Melocactus spp.
花座から飛び出した果実に注目。

『The Cactaceae』(1922年)より。

Melocactus lanssensianusはブラジルのCaatingaの花崗岩の露頭に固有のサボテンです。M. lanssensianumは国際自然保護連合(IUCN)レッドリストで、絶滅危惧種(EN)に分類されています。また、違法取引が大きな脅威であり、ブラジルのレッドリストでも絶滅危惧種に指定されています。そのため、M. lanssensianumの生態を研究することは、その保護活動のために重要です。
M. lanssensianumはすべての月で果実をつくりました。果実生産のピークは、乾季と雨季の双方でありました。


著者らの観察では、M. lanssensianumには2種類のトカゲが訪れ、果実を食べました。訪れたのは雑食のトカゲである、全長20cmになるTropidurus semitaeniatusと、全長35cmになるTropidurus hispidusでした。T. semitaeniatusはサボテンを登るか、果実めがけてジャンプして、果実を食べました。また、T. semitaeniatus同士で果実を求めて争いが観察されました。T. hispidusは二足歩行で直立し、サボテンに登らずに果実を食べました。
著者らはサボテンの周囲5mに落ちたトカゲの糞を集め、中の種子を数えました。T. semitaeniatusの20個の糞から122個の種子を、T. hispidusの9個の糞から10個の種子が見つかりました。種子の散布は、75%以上がT. semitaeniatus、24%がT. hispidusにより行われてました。
T. semitaeniatusの糞から採取された種子は約85%の発芽率を示しました。これは、実験的に果肉を除去しなかった種子の発芽率41%よりも高い確率でした。


Melocactusは一般に管状の花を咲かせ、ハチドリにより受粉します。しかし、M. lanssensianumは観察期間中で一度も開花せずに結実しました。これは、閉花受粉(Cleistogamy)であり、未開花のまま自家受粉します。この繁殖戦略は、環境ストレスが高い場合や花粉媒介者が少ない生息地に対する適応である可能性があります。

以上が論文の簡単な要約です。
トカゲがメロカクタスの種子散布者であるというのは、中々面白い事実です。閉花受粉が環境や花粉媒介者に関係するかも知れないことも分かりました。一年中果実が生産されるのは、閉花受粉するからであることが分かります。気になっていたことを調べただけですが、大変勉強になる論文でした。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンの外敵とはなんでしょうか? ほとんどのサボテンはトゲに覆われており、簡単には草食動物に食べられることはないでしょう。アフリカでは、トゲだらけのアカシアの枝をキリンが食べたり、やはりトゲだらけのユーフォルビアをサイが食べたりしています。しかし、アメリカ大陸には大型の草食動物は少なく、ある程度のサイズがあるのは、ヘラジカ、バイソン、リャマ、アルパカ、グアナコ、カピバラ、マーラくらいなものでしょうか。
サボテンの分布を考えると、可能性があるのはグアナコくらいかも知れませんが、サボテンをむしゃむしゃ食べられる感じはしません。ラクダはサボテンを食べたりするらしいので、ラクダの仲間であるグアナコは食べるかも知れません。ちなみに、ラクダは中央アジアの砂漠にフタコブラクダが、アフリカから中東にはヒトコブラクダが分布します。いずれにせよ、ラクダが食べるサボテンは野生化したもので、おそらくはウチワサボテンでしょう。流石にラクダでもFerocactusを食べることは難しいような気もします。
話が脱線しました。サボテンを食べる動物については後で論文をあたるとして、本日の話題はサボテンを食べる外来種が観察されたという論文についてです。その論文は、Felipe S. Carevic & Ermindo Barrientosの2022年の論文、『Efectos de la introduction de fauna aloctona (Canis familiaris) en ecosistenmas aridos: estudio de caso en cactaceae endemics』です。


チリ北部の固有の植物相では、外来動物の影響はあまり評価されていません。著者らはAtacama州のFreirinaにあるサボテン集団に対する外来動物の被害を評価しました。自生するサボテンのうち調査したのは、Copiapoa coquimbanaとEriosyce napina、Eriosyce subgibbosaの3種類です。この論文で問題とされる外来動物とは、まさかの野良犬です。何が起こっているのでしょうか。

231003233238688~2
Copiapoa coquimbana(下)
『The Cactaceae』(1922年)より。

著者らの観察により、驚くべきことに野良犬がサボテンを齧っていることが分かりました。もちろん、頭から齧りついたわけではなく、掘り返して根の方からサボテンの内側を上手く齧っているようです。3種類のサボテンでは、そのほとんどでC. coquimbanaが野良犬による被害を受けました。調査期間に被害を受けたサボテンは、VeranoではC. coquimbanaが12個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体、InviernoではC. coquimbanaが15個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体でした。
以前の研究では、Copiapoaは水分と糖分が他のサボテンよりも豊富であるとされており、水分の補給源としてより魅力的なのかも知れません。また、著者らはEriosyceは斜面や岩の隙間に生えるため、野良犬がアクセス出来ない可能性もあるとしています。


231003233214809~2
Eriosyce napina(右)
『The Cactaceae』(1922年)より、Malacocarpus napinaとして記載。

以上が論文の簡単な要約です。
犬がサボテンを齧るという思わぬ出来事が発見されたわけですが、それ以上にトゲをこのような形で克服していることにも驚きました。そして、当然ながら野良犬は野生のサボテンにかなりの悪影響を与える新しいファクターとなってしまいました。非常に残念なことです。ただし、サボテンの保護を考えた時に、このような地道な知見が役に立つはずですから、今後に繋げていけたら素晴らしいですね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンは強烈な日照や厳しい乾燥など、様々な環境ストレスに耐え忍んでいます。しかし、その特徴や仕組みについては、意外にもあまり研究されていないようです。そんな中、ギムノカリキウムの環境ストレスへの耐性についての、今年出たばかりの論文を見つけました。それは、Maria E. Soto Acostaらの2023年の論文、『Adaptative Strategie in Gymnocalycium species (Cactaceae) and the Prerence of Ectomycorrhizae Associated with Survival in Arid Environments』です。早速、見ていきましょう。

Gymnocalyciumについて
Gymnocalycium属はパラグアイ、ブラジル、ボリビア、ウルグアイ、アルゼンチンに分布しており、7亜属約60種が知られています。アルゼンチンのCatamarca州には約14種のGymnocalyciumが分布しています。その中でも、Gymnocalycium亜属のG. baldianumとG. marianae、Trchomosemineum亜属のG. stellatum、Microsemineum亜属のG. oenanthemumの4種類は固有種です。研究では自生する標高と降雨量が異なるG. marianaeとG. oenanthemumを用いました。解析のために、自生地のサボテンの根を採取しました、また、2種類のサボテンの種子を採取し、播種して3.5年生植物を研究に用いました。

G. marianae
G. marianaeはAndalgalaの標高1600〜1800mに分布します。Sierra de Ambatoの北斜面に育ち、水と風による侵食を受ける起伏のある丘にあります。年間の平均降水量は約380mmで、5〜9月は乾季となり月間降水量は10mm以下です。年間平均気温は約9.5℃で、4月から10月、あるいは11月に霜が発生します。この地域の植生は乏しいようです。この地域には16世紀半ばまでインカ人が住んでいました。
230928232115491~2
Gymnocalycium venturianum
『Cactus handbook, 1876-1951』(1951年)より。
現在、G. marianaeはG. baldianumの異名となっているようです。G. venturianumはG. baldianumの異名の1つ。


G. oenanthemum
G. oenanthemumはAmbato、San Fernando、Capayan、Catamarcaの標高500〜1000mに分布します。研究ではAmbatoのSierra de Ambatoの東斜面から採取されました。年間の平均降水量は約670mmで、4〜9月に乾季があります。
年間平均気温は15℃で4月から10月には霜が発生します。この地域は豊富な植生と野良牛がいます。G. oenanthemumは低木や草により日照から保護されることがあります。

サボテンの外生菌根
サボテンは根の内部に侵入する内生菌根と共生することが、知られています。内生菌根はアーバスキュラー菌という非常に多くの植物と共生可能な共生菌です。しかし、本研究においてサボテンでは初めて外生菌根が発見されました。また、G. marianaeの方が高い菌根菌着生率でした。
アーバスキュラー菌とは異なり、外生菌根をつくる菌類は大型のキノコをつくる担子菌や子嚢菌からなります。菌根菌は一般的に植物の水分と養分の収集、および植物の環境ストレスへの耐性が指摘されます。Gymnocalyciumで発見された外生菌根は、乾性環境への耐性に適応するために意味があるのかも知れません。

構造と成分分析
植物の表面で水分の蒸発を防ぐクチクラ層は、G. oenanthemumよりG. marianaeの方が、密度も高く厚みがありました。また、環境ストレスに耐性が上がるフラボノイドやカロテノイドも、やはりG. oenanthemumよりもG. marianaeの方が高いことが分かりました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. marianaeはG. oenanthemumと比較すると、日照や気温、乾燥などより厳しい環境に生えることが分かります。G. marianaeは環境ストレスに耐えるために、厚いクチクラや含有成分の高さだけではなく、外生菌根に適正を示し、より高い環境ストレス耐性を獲得しているようです。サボテンも環境に適応するために、様々な工夫をしていることが伺えますね。そう言えば、菌根についてはあまり話題とならず、残念ながらその重要度と比べてそれほど周知されていないように思います。当ブログではいくつか菌根関連の記事を書いてきましたが、これからも何か面白い論文がありましたら取り上げていきたいと思っております。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

外来種は日本でも問題となっていますが、この問題は国内のみならず世界中で起きています。昔から木材やコンテナに紛れて害虫が侵入したり、ペットとして持ち込まれたアライグマやミシシッピアカミミガメが捨てられて野外で繁殖してしまっているケースなどがあります。しかし、近年ではオンライン取引により、個人的に植物を輸入するケースが増えて来ました。しかし、その中には違法なものも含まれている可能性があります。現状ではオンライン取引に対する監視の目がゆるいため、違法取引の最大の懸念点となっています。ということで、本日は植物のオンライン取引について調査した、Jacob Maherらの2023年の論文、『Weed wide web: characterising illegal online trade of invasive plants in Australia』をご紹介します。

230922214939648~2
ホテイアオイ Pontederia crassipes
一般的にはEichhornia属とされますが、現在はPontederia属とされているようです。
『Nova genera et species plantarum』(1823年)より。


オーストラリアはすでに29000種以上に及ぶ外来植物が導入されており、在来植物は深刻な影響を受けています。そのため、オーストラリア政府は厳格な輸入措置とリスク評価を実施しています。管理措置は州政府が行い、管轄区域におけるその分類群の取引の禁止を「宣言」します。宣言された植物は、供給、販売、輸送が禁止され、違反に対しては罰金が科せられます。しかし、ウェブ取引では実店舗がなくでも良く、簡単に郵送されたりと、従来の措置を回避する可能性があります。国際郵送はあまりにも多いため、すべてを調べることは困難です。

230922215003100~2
Orbea variegata(上)
ガガイモ科の多肉植物で、スタペリアと同様に星型の花を咲かせます。
『Hortus botanicus panormitanus』(1877年)より、Stapelia atrataとして記載。

著者らはウェブサイトの植物取引広告を1年間監視し、植物の取引を記録しました。結果、1年間で235162件の植物広告を収集し、10000件はいずれかの州で取引が禁止されている種類でした。最も収集された違法植物は、ウチワサボテンと水草でした。ウチワサボテンは、Opuntia microdasys(金烏帽子)やOpuntia monacantha(単刺団扇)、Opuntia ficus-indica(大型宝剣)、あるいは他のウチワサボテンも取引されました。水草は、Eichhornia crassipes(ホテイアオイ)やLimnobium laevigatum(アマゾントチカガミ、アマゾンフロッグビット、現在の学名はHydrocharis laevigata)が一般的でした。また、頻繁に検出された侵入植物は、Zantedeschia aethiopica(オランダカイウ、Calla)やGazania、Hedera helix(セイヨウキヅタ、アイビー)、Lavandula stoechas(フレンチラベンダー)、Rubus fruticosus(ブラックベリー)、Orbea variegata、Azadirachta indica(インドセンダン、neem)でした。

230922215030666~2
大型宝剣 Opuntia ficus-indica(左)
『The illustrated dictionary of gardening』(1884-1888年)より。


ウチワサボテンは簡単に増やすことが出来ますが、トゲがやっかいなため、増えすぎると最終的には処分に困ることになります。その結果、ウチワサボテンは投棄されることがあるようです。また、ウチワサボテンの処分に困り、売却したいと思っている人もいるようです。

230922215053232~2
Calla(左上)
『Beautiful flowers』(1890年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
オーストラリアは有袋類など固有種の宝庫です。同じように植物も固有種が多く、独自の生態系があります。オーストラリア政府も固有種を守るために、規制はかなり厳しくしているようですが、現実問題として違法な植物の取引は行われてしまっています。ウチワサボテンなどは鉢に植えていなくても、節で切ってお手軽に発送可能です。簡単に挿し木で発根しますし、乾燥地のオーストラリアでは野外でもよく育ちます。実際にオーストラリアでウチワサボテンが増えすぎて、対応に困っているという報道を見たことがあります。1年中野外でサボテンを育てられるというのは羨ましい話ですが、環境が合いすぎるというのも、それはそれで困ったことのようです。

230922215016093~2
金烏帽子 Opuntia microdasys(右下)
しかし、刺さって抜けない芒刺のせいで、増えすぎた金烏帽子を取り除くのは大変そうです。
『The Cactaceae: description and illustrations of the catus family』(1919年)より。


さて、この違法オンライン取引はオーストラリア特有の問題ではないでしょう。インターネットは世界中のあらゆる国を結んでいますから、違法オンライン取引はすべての国で行われているのものと考えても良いかも知れません。日本ではどうでしょうか? 私にはその実態は分かりませんが、法的な問題は別にして、風潮としては違法取引に対する問題意識は薄いように感じられます。外国語の苦手な日本人は海外との取引は少ないような気もしますが、実際は分かりません。
最後に蛇足ですが、論文のタイトルの「Weed wide web」はURLのwww、つまり「world wide wide」をもじったものでしょう。wwwは世界中のウェブサイトをハイパーテキストでつなぐシステムのことらしいのですが、実質これはインターネットと同義となっているようです。ですから、「Weed wide web」は、インターネットを介したオンライン取引を示唆しています。しかし、この「Weed」とは雑草のことですが、実際には取引されるのは観賞用の植物であり、実態に合わないような気もします。よく調べると、「Weed」には雑草から転じて、庭や畑の望ましくない植物を指す意味もあるようです。ウチワサボテンは庭に植えられている時は好ましくても、敷地から逸出してしまえば生態系を脅かす「望ましくない植物」になってしまうということでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

植物の花は受粉し種子を作るための器官です。豊富な蜜や花粉は、花粉を運び受粉を手伝ってくれる受粉媒介者への報酬です。しかし、中には花そのものを食べてしまったりして、受粉を妨害してしまうような動物もいます。これを、とりあえず「送粉系撹乱」と呼ぶことにしましょう。さて、そんな送粉系撹乱の例を探してみたところ、Lophophoraを調査した論文が見つかりました。それは、Maria Isabel Briseno-Sanchezらの2022年の論文、『Biotic interaction prior to seed dispersal determine recruitment probability of peyote (Lophophora diffusa, Cactaceae), a threatened species polmllinator-dependent』です。Lophophoraは受粉にとって重要な蜜や花粉が少ない植物と言われています。報酬が少ない場合、送粉系撹乱を受けやすいような気もしますが実際はどうなのでしょうか?

230920212837530~2
Lophophora williamsii
L. diffusaの良い図がなかったのでL. williamsiiで代用。
Echinocactus williamsiiとして記載。
『Gesambescheibung der Kakteen』(1898年)より


Lophophora diffusaはチワワ砂漠の固有種です。L. diffusaは自家受粉せず、必ず相手が必要な他家受粉花です。開花期間は長く、甲虫やバッタ、ミツバチが訪れます。果実は小さく受粉後2ヶ月ほどで成熟しますが、種子は少なく1つの果実に40個未満です。種子はエライオソーム(蟻に運んでもらうための栄養)があるため、蟻により拡散しているようです。また、種子は水が染み込まず水に浮くため、雨により流される可能性もあります。

試験はメキシコの標高1438mにあるQueretaro州Penamillerで実施されました。植生はLarrea tridentata、Fouquieria splendens、Mimosa sp.、Bursera sp.などの低木が優勢です。
L. diffusaの花の蜜量を測定しましたが、22%の花は蜜がありませんでした。最も蜜量が多い花でも0.36μL(0.00036mL)に過ぎず、平均は0.054μLであり0.1μLを超えることはほとんどありませんでした。
花には甲虫(Acmaeodera=フナガタタマムシ属)と数種類のミツバチ(Macrotera、Lasioglossum、Ashmeadiellaなど)が訪れました。観察した年により甲虫が優勢の場合もミツバチが優勢な場合もありました。また、受粉率は年により変動が激しいものの、結実はほとんどが開花した花の半分以下でした。


乾燥地では水の少なさがストレスとなり、蜜の生産に悪影響を及ぼします。蜜の減少は花と花粉媒介者の相互作用を減らし、受粉率を低下差させる可能性があります。また、L. diffusaの花粉媒介者の訪問率は非常に低く、訪問者の少なさが受粉率の低さの原因かも知れません。他とは研究では、L. diffusaの花に人工的に花粉をつけると、種子が20%も増えることが示されています。

以上が論文の簡単な要約です。
L. diffusaは蜜の量が少なく、蜜がない花まであることが分かりました。そのことが花粉媒介者である昆虫にとって魅力的ではないことは明白で、訪問者の少なさは種子生産に悪影響を及ぼしています。論文では水の少なさがストレスとなるとありますが、水の量と蜜の量には相関があるのでしょうか。そうであるならば、栽培している個体は蜜量が豊富ということになります。しかし、本来L. diffusaは乾燥地に適応しているはずです。乾燥化が進み蜜生産量が減少したというのなら分かりますが、環境に適応した結果がただ示されただけのような気がします。要するに、沢山の種子を作れない代わりに、蜜の生産を最小限にしているのかも知れません。蜜が少なかったりなかったりしても、花が咲いていればとりあえず昆虫は訪れるでしょう。群体性のミツバチなら蜜がなければ仲間を呼びませんが、単独性のミツバチなら花が咲いていれば騙されて花を訪れるでしょう。花粉を目当てに訪れることも考えられますが、花粉媒介者とは基本的に一過性の付き合いなのかも知れませんね。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

最近、イベントや園芸店でウチワサボテンを以前より目にするようになりました。流通の兆しでしょうか? 思うにゲオメトリクスや武蔵野などのテフロカクタスが先鞭をつけたような気もします。しかし、ウチワサボテンの仲間はよく似ており、見分けるのは中々困難です。ただし、新しい枝を重ねる特徴から一目でウチワサボテンと分かります。
ウチワサボテンはOpuntia属とされてきましたが、やがていくつかの属が独立しました。しかし、ここいら辺の事情はよく分かりませんから、少しずつ調べてみることにしました。本日はウチワサボテンの分類について書かれた、Matias Kohlerらの2021年の論文、『"That's Opuntia, that was!", again: a new combination for an old and enigmatic Opuntia s. l. (Cactaceae)』をご紹介します。

Opuntia schickendantziiは、Catamarca & Tucumanの資料に基づいて1898年に記載された古くて謎めいた種で、Cylindropuntia亜属とされました。種の説明は、アルゼンチン北西部の山岳地帯とボリビアに沿って分布している、緑色で光沢のある枝、トゲのあるアレオーレ、エメラルドグリーンの柱頭を持つ黄色の花などの特徴で示されました。命名後は形態学的特徴から、Cylindropuntia属、Austrocylindropuntia属、Salmiopuntia属で暫定的に扱われました。しばしば、「地位が不確定(incertae sedis)」とされました。

230915115622035~2
Opuntia schickendantzii
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


2012年に遺伝子解析によりO. schickendantziiがBrasiliopuntiaのグループであることが示され、2014年にBrasiliopuntia schickendantziiが提案されました。しかし、地理的にO. schickendantziiとBrasiliopuntiaを結びつける形態学的特徴はありません。さらに、研究で使用された資料は、アリゾナのBoyce Thompson樹木園の「Lion's Tongue」と呼ばれる栽培された個体由来であることが判明しました。

230911213403947~3
Brasiliopuntia brasiliensis
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より


著者らは2006年から2019年にかけて、南アメリカ南部の主要な生態地域を網羅するフィールドワークを実施しました。採取されたウチワサボテンの遺伝子を解析しました。解析結果を以下に示します。

               ┏━━━━Opuntia spp.
               ┃
           ┏┫        ┏━Tacinga spp.

           ┃┗━━┫

           ┃            ┗━Brasiliopuntia brasiliensis
           ┃
           ┃                ┏S. salminiana1
           ┃            ┏┫
           ┃            ┃┗S. salminiana2
           ┃        ┏┫
           ┃        ┃┗━S. salminiana3
           ┃       

           ┃    ┏┫┏━O. schickendantzii
           ┃   
┃┗┫
           ┃   
┃    ┗━S. salminiana4
           ┃
┏┫
       ┏┫┃┗━━━Tunilla spp.           
       ┃┗┫
       ┃    ┗━━━━Miquelliopuntia miquelii
   ┏┫
   ┃┗━━━━━━Consolea
   ┫ 
   ┗━━━━━━━Out group


※「spp.」とは複数種を含むという意味です。

230915115608784~2
Salmiopuntia salminiana
『The Cactaceae vol. 1』(1919年)より

遺伝子解析の結果から分かったことは、O. schickendantziiはSalmiopuntiaに含まれるということです。さらに、4つの産地から採取したSalmiopuntia salminianaは3個体はまとまりがありましたが、1つの個体はO. schickendantziiと近縁でした。
ちなみに、2012年に解析された「Lion's Tongue」は、Brasiliopuntiaに含まれることが分かりました。このBoyce Thompson樹木園のウチワサボテンは野生のO. schickendantziiと比較した結果、特徴がまったく異なることが明らかになりました。このタイプのウチワサボテンは栽培されたものが世界中で野生化しており、オーストラリアやスペインなどでも誤ってO. schickendantziiの名前で報告されています。このウチワサボテンは「Lion's Tongue」という名前で市販されていますが、起源は不明であり交配種である可能性もあります。


以上が論文の簡単な要約です。
この論文は、あまり情報がないOpuntia schickendantziiがSalmiopuntiaに属するということを示したものです。このように、少しずつ研究は進んでいます。形態学的な分類から遺伝学的な分類に徐々に移行しつつあります。Opuntiaは分解され、現在のウチワサボテンはOpuntia sensu stricto(狭義のOpuntia)となっています。ウチワサボテンの仲間全体は今どうなっているのでしょうか? これからも、徐々に調べていくつもりです。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

常々、サボテンや多肉植物の原産地の環境を詳しく知ることができたら、栽培する上で何かしらの参考になるのではないかと考えたりもします。しかし、残念ながらサボテンや多肉植物の原産地の情報というものは、調べてもよくわからないものが多いように思われます。原産地の環境を再現出来るでもなし、試行錯誤するしかないと言われてしまえば、それまでかも知れませんけどね。まあ、純粋な興味からも知りたいとは思います。とは言うものの、よくよく考えたてみると、乾燥地が原産のサボテンや多肉植物が、まったく異なる環境の日本で育つというのも不思議な話です。サボテンや多肉植物は、どの程度の環境の違いならば許容出来るのでしょうか? その回答になるかは分かりませんが、メロカクタスの本来生える環境とは異なる土壌で栽培してその影響を調べた、Maxlene Maria Fernandes & Jefferson Rodrigues Macielの2023年の論文、『Adaptive potential of Melocactus violaceus Pffeiff (Cactaceae) to clay soils』をご紹介しましょう。

現在、地球温暖化による海面上昇が懸念されており、まず起こることとして海岸線の破壊が挙げられています。海岸線に近い沿岸地域の植物の生息地が短時間で減少してしまうかも知れません。例えば、ブラジル沿岸のrestingaと呼ばれる砂地の沿岸植物が危機にさらされる可能性があります。restingaの植物群落は、草本から森林まで、いくつかの植物相からなります。restingaは海との距離に大きく影響され、高い塩分、高温、強光、強風、栄養不足、貧者な水などに対処するために、植物は適応を示します。Melocactus violaceus Pffeiffは、restingaの絶滅危惧種の1つです。M. violaceusはrestingaと川の砂丘、つまりは砂地に生えるサボテンです。特定のタイプの土壌に適応した植物は、分散力が限られます。しかし、沿岸地域の都市化に伴い、砂地の環境を失った樹木が粘土質の土壌に進出していることが観察されています。同じrestingaの白い砂地に生えるM. violaceusはどうでしょうか?

230911215119678~3
Melocactus violaceus
Cactus melocactoidesとして記載(1923年)。


著者らはM. violaceusの種子を採取し発芽させました。発芽180日後、3種類の土壌で育てました。1つ目は砂と堆肥を等量、2つ目は粘土と堆肥を等量、3つ目は砂が1/4と粘土が1/4と堆肥が1/2とした中間のものです。栽培は180日間行われ、苗のサイズが測定されました。
栽培の結果、M. violaceusの苗の生長は、砂≧砂+粘土>粘土でした。砂質土壌がM. violaceusの実生にどって理想であることが分かります。粘土質土壌でも定着する可能性はありますが、実生の初期生長に制限を課します。砂質土壌は一般的に栄養素に乏しく、生える植物は根系が特殊化しています。M. violaceusも砂粒に強く付着する非常に発達した根系を持っています。
このような根の特殊化はDiscocactus placentiformisなどの他の種類のサボテンでも見られ、根が砂粒との付着と吸収面積を増加させる物質の放出がおきる「砂結合」と呼ばれる機能を持ちます。砂結合という適応を示す植物は、リンの取り込みに不可欠なカルボキシラーゼやホスファターゼを大量に放出します。砂結合は窒素ではなく、砂質土壌ではリンの制限に適応しています。


以上が論文の簡単な要約です。
単に環境の違いだけではなく、根の特性が環境適応の結果として異なるのですから、土壌の違いはクリティカルに生長に響くというのは納得のいく話です。とはいえ、著者らの試験では粘土質土壌でもまったく育たないわけでもありませんでした。これは、環境破壊による生息地の減少に対し、M. violaceusの環境適応への可能性を示したという趣旨なのでしょう。しかし、残念ながらそう上手くは行かないかも知れません。M. violaceusが本来の砂質土壌から追い出されて、砂質土壌ではない地域への移動をしようとしたとしましょう。その場所には環境適応した生態系がすでに存在するはずですから、後から入り込むM. violaceusは元来環境適応した植物と競争しなければなりません。果たして、出来上がった生態系に入り込むことが出来るでしょうか? 



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンに限らずですが、育てている鉢植えの植物の名前というものは、我々趣味家を悩ませるものです。札落ちで名前が分からないという悩みだけではなく、純血種か雑種かすら判別が難しいことがあります。ギムノカリキウムなどは、雑種が蔓延しすぎて国内の種や品種が信頼出来ない状況に陥ったこともあります。今でも、LB2178は雑種が盛んに作られ、それらがホームセンターで堂々と「LB2178」の名前で販売されてしまっています。もはや、国内のLB2178は信頼性が皆無な状態であり、趣味家が育てている個体が本物かどうかは誰にも分からないでしょう。
混乱の元は考えなしの雑な交配と、正しい名札をつける意識の薄さがあります。サボテンは原産地では希少なものが多く、ワシントン条約で国際取引が制限されています。サボテン栽培は希少植物の保存という意味もありますから、正しい名前も保存されなくては意味がありません。本日はそんな趣味家とサボテンの名前について考察したTristan J. Davisの論文、『Don't tell me, show me: the importance of maintaining data in cultivated plants』をご紹介します。

情報は大事
多くの科学的分野と異なり、サボテンと多肉植物の学術的進歩は愛好家に依存してきました。そのため、正確な情報が含まれたコレクションには、植物の分類学や保全にとって意味があります。しかし、サボテンや多肉植物の愛好家と話すと、所有する植物の情報を保存していない様々な言い訳をよく耳にします。植物の名前のような基本的な情報さえ、負担が重すぎると考える人もいます。このような考えは、植物を純粋に審美的なものとして育てたい人には受け入れられますが、それらの人が希少植物に手を出し始めると問題が生じます。個体数を減らしている希少植物に対しては、その情報を取得して保存することに責任を感じるべきです。

学名の変更
植物の学名は変わることがあるため、愛好家は分類学者を非難したりします。とはいえ、元来分類学は絶えず変化する可能性があるものです。しかし、名前が変わる度に最新の学名に名札を変更する必要はありません。なぜなら、分類学には変更の文書化がなされているためです。植物に適切な名前が書かれている限り、いつでもその後に変更された名前を知ることが出来ます。学名が変更される度に名札を変更することを好む人もいますが、必要ではありません。学名が変更される度に名札を書き換えるなら、元々の名前も併記するべきです。ある植物が亜種だとか変種とされたり、後に独立種となったりすることはよくあります。この時に、元の情報が失われるとその植物が本来何を指していたのか分からなくなってしまいます。

230911222043822~2
Loxanthocereus(右下)

学名の誤り
そもそも名前に誤りがある場合もあります。例えば、Karel Knizeの種子コレクションではペルーのSamneから採取されたBorzicactus samnensis F. Ritterとされる植物が配布されてきました。B. samnensisは紫色の花を咲かせます。しかし、著者が育てたところ、赤橙色の花を咲かせました。特徴的にはLoxanthocereusです。産地情報から調べると、SamneからはLoxanthocereus parvitesselatus F. Ritterが分布していることが分かりました。Knizeは同じ地域から採取された他の植物とコレクションを混同した可能性があります。

入手経路とコミュニティ
どこで、いつ、誰から入手したのか、という情報はあまり評価されていません。しかし、これは最も簡単に入手可能な情報です。
また、愛好家同士のコミュニケーションの促進にも役立ちます。植物の情報は愛好家による植物に対する理解を高め、関心を持つ愛好家コミュニティによる教育にも役立ちます。


疑わしい名前
著者は誤った名前で販売されている珍しいサボテンを見つけました。Siccobacatus estevesii、Pilosocereus chrysostele、Spephanocereus leucostele、Browningia hertlingiana、Oroya peruvianaなどです。
さらに、一見して正しい種に見えたとしても、似たような特徴の別種があるのかも知れません。基本的に重要な特徴は花ですから、未開花個体を適切に識別出来たと確信することは出来ません。また、栽培環境は自然環境とは異なるため、姿が異なることもあります。

インターネット上の怪しい情報
ウェブ上の情報は不正確で誤解に満ちているため、役に立たず混乱を招くだけです。オンラインコミュニティで「専門家」とされるような人たちは、正当な理由もなく古い考えや反証された識別法に固執しています。

サボテン愛好家と研究者
情報の維持は保全にとっても重要です。正確な情報を持つ植物園の植物たちは貴重です。適切な産地情報がある植物は、植物の原産地への再導入の取り込みにも使用可能です。
また、愛好家の育てているサボテンを用いた研究もあります。例えば、Copiapoaの産地情報から気候変動にどのように反応するのかを評価する研究が知られています。
サボテン愛好家の育てている植物の情報の保存は、絶滅が危惧されている植物にとって明らかに重要です。また、資金不足に悩ませられている科学者たちにとっても、重要な研究対象となります。サボテンの大多数が気候変動、環境破壊、密猟により重大な危険にさらされていることを考えると、情報を維持する努力をするべきでしょう。


最後に
学名は常に変わる可能性があります。私のブログでは、学名の変遷を扱った記事がかなり多いのですが、経験上1種類の植物に数十もの異名があることは珍しくありません。情報が増えたり、新たに詳細な研究がなされれば、これからも学名は変更されるでしょう。我々趣味家からしたら、学名は外見上はとても不安定なものです。しかし、新基準の学名が提唱された場合、過去に命名された学名と同一でありそれらは異名である旨が記載されます。ですから、分類学者は学名がどう変更されようが、その情報に簡単にアクセス出来るため、我々趣味家のように惑わされることはないのです。
対して我々趣味家は、論文の情報を追跡するのは中々ハードルが高いように思われます。論文は公的な意味合いもあり基本的に無料で一般公開されているものがほとんどです。しかし、最近は有料の論文が多くなってしまっています。私も相当な数の論文を諦めました。しかも悪いことに、ウェブ上の情報は入り乱れており、誤りが目立ちます。信頼のおけるサイトを探すのも一苦労です。何か学名が気になる、分からない、最新情報にアップデートしたいと考えられている方も多いでしょう。

この論文では情報の重要性を語っていますが、私の管理方法は3つからなります。1 つはラベルです。ラベルには購入時に記載された学名と、あれば和名、さらに入手年月日を記入しています。2つ目はノートへの記録です。ノートにイベントや園芸店の名前と訪れた日、購入した植物の名札に記入された名前、現在認められている学名を記入します。3つ目はこのブログです。ラベルの日付を見れば、ブログやノートから入手したイベントが割り出せる仕組みとなっています。手っ取り早いのは、ブログで日付で検索したら簡単に情報が出て来ます。ブログは写真つきなので便利です。とはいえ、電子データは消えてしまう可能性がありますから、一応はノートも予備として記録しています。ご参考までに。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンは主に北米から南米まで広く分布しますが、その分布は均一ではなく、沢山の種類のサボテンが集まるホットスポットが存在します。メキシコにはホットスポットがありますが、南米にはサボテンと聞いてイメージするのとは異なる森林性サボテンのホットスポットが存在します。本日はそんな南米の森林性サボテンを調査した、Weverson Cavalcante Cardosaらの2018年の論文、『Anthropic pressure on the diversity of Cactaceae in a region of Atlantic Forest in Eastern Brazil』をご紹介しましょう。

Espirito Santo州はサボテンのホットスポットの1つで、13属41種のサボテンが自生します。これは、ブラジルのサボテンの31%を占めています。この41種類の在来種のうち約69%はブラジル大西洋岸森林の固有種です。さらに、その63%は着生植物であり、森林環境に依存しています。
この研究は、詳細な調査によりサボテンの分布を正確に把握し、人為的脅威が与える影響を分析することにあります。

230911213403947~2
Brasiliopuntia brasiliensis(右上)
Opuntia brasiliensisとして記載(1919年)。


230911214051537~2
Coelocephalocereus fluminensis
Cephalocereus melocactusとして記載(1890年)。


調査によりEspirito Santo州では、38種類のサボテンが確認されました。一部の地域では、予想よりもサボテンが減少していました。
生物多様性の優先地域であるForno Grande、Santa Lucia、Augusto Ruschi、Domingos Martins東部は、Espirito Santoの中央山岳地帯にあります。しかし、優先地域の約25%を占める山岳地帯は依然として過小評価されています。同じく優先度の高いGrande Vitoriaにある保護地域もサボテンの種類が豊富です。しかし、Espirito Santoの経済の中心地であるVitoria、Vila Velha、Serraの各自治体には大きな人為的圧力があり、森林は12%しか残っていません。

230911214539161~2
Pilosocereus arrabidae(上)
Cephalocereus arrabidaeとして記載(1920年)。

230911215119678~2
Melocactus violaceus(右下)
Cactus melocactoidesとして記載(1923年)。


Espirito Santoにおいては、サボテンに悪影響を与える様々な要因があります。第一に岩上性のサボテンは常に牛、山羊、馬の踏みつけに苦しんでおり、固有種の衰退に繋がっている可能性があります。さらに、Espirito Santoはブラジルの装飾用石材の主要な産地で、ブラジルの採掘のほぼ半分を占めています。Cachoeiro de ItapemirimやNova Veneciaは装飾用石材加工の中心地であり、サボテンの多様性の高いあるいは中程度の地域です。また、大規模なユーカリのプランテーションに加え、コーヒーやココア、果実など、単一栽培により、州から多くの植生が失われたました。Rhipsalisの多くは着生性で樹木に着生するため、悪影響が考えられます。さらに、鉄鉱石の輸出のための港湾ネットワークの拡大は、地上性のサボテンに圧力を加えます。生物多様性の優先地域や保護地域は違法な砂の採取が行われており、希少なブラジル固有種であるPilosocereus arrabidaeは大幅な生息地の喪失に見舞われています。

230911215654071~2
Hatiora cylindrica(左上), 1923年
Hatiora salicornioides(右下)

230911220651285~2
Lepismium houlletianum
Rhipsalis houlletianaとして記載(1923年)。


以上が論文の簡単な要因です。
特に解説することはありませんが、やはりと言うか、中々厳しい状況に置かれていることが分かります。開発との折り合いをどうつけるのかは、未だに解決し難い問題と言えます。
さて、せっかくですから、調査で見つかった38種類のサボテンを以下に示しましょう。

230911221129137
Rhipsalis pachyptera(左), 1923年

230911221604543~2
Rhipsalis lindbergiana(赤花), 1923年

230911222250984~2
Peleskia grandiflora(中央), 1923年

低危険種(LC)
Brasiliopuntia brasiliensis(岩生性・地上性)
Cereus fernambucensis(岩生性・地上性)
Coleocephalocereus fluminensis(岩生性)
Epiphyllum phyllanthus(着生性)
Hatiora salicornioides(着生性)
Hylocereus setaceus(岩生性・着生性・地上性)
Lepismium cruciforme(岩生性)
Lepismium houlletianum(着生性)
Lepismium warmingianum(着生性)
Opuntia monacantha(岩生性・地上性)
Pereskia aculeata(岩生性・地上性)
Pereskia grandiflora(岩生性・着生性)
Pilosocereus brasiliensis(岩生性)
Rhipsalis elliptica(着生性)
Rhipsalis floccosa(着生性)
Rhipsalis juengeri(岩生性)
Rhipsalis lindbergiana(着生性)
Rhipsalis neves-armondii(着生性)
Rhipsalis pachyptera(着生性)
Rhipsalis paradoxa(着生性)
Rhipsalis pulchra(着生性)
Rhipsalis puniceodiscus(着生性)
Rhipsalis teres(着生性)

準絶滅危惧種(NT)
Pilosocereus arrabidae(岩生性・地上性)
Rhipsalis clavata(着生性)
Rhipsalis cereoides(着生性)

絶滅危惧II類(VU)
Melocactus violaceus(地上性)
Rhipsalis pilocarpa(着生性)
Rhipsalis russellii(着生性)

絶滅危惧IB類(EN)
Coelocephalocereus pluricostatus(岩生性)
Hatiora cylindrica(着生性)
Rhipsalis pacheco-leonis(着生性)
Schlumbergera kautskyi(着生性)

絶滅危惧IA類(CR)
Coelocephalocereus braunii(岩生性)
Coelocephalocereus diersianus(岩生性)

情報不足(DD)
Rhipsalis hoelleri(着生性)
Rhipsalis sulcata(着生性)

評価されていない(NE)
Coleocephalocereus decumbens(岩生性)


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Rhipsalisというサボテンがありますが、サボテンファンにはあまり人気がないかも知れません。Rhipsalisは熱帯性のサボテンで、多湿な環境で樹木に着生して垂れ下がるように育ったりします。栽培環境からすると、洋蘭や食虫植物の栽培と相性が良いかも知れません。私も沢山の種類があることくらいは知っていますが、イマイチ興味が持てないでいました。しかし、詳細不明であったRhipsalisの1種が近年再発見されたと知り、それ自体が大変喜ばしいことですから、ぜひご紹介したいと思った次第です。ご紹介したいのは、Weverson Cavalcante Cardosoらの2021年の論文、『Rediscovering Rhipsalis hoelleri (Cactaceae), a Critically Endangered species from Brazilian Atlantic Forest』です。

1995年に記載
Rhipsalis hoelleriはブラジルのEspirito Santo州に固有の着生サボテンです。カーマインの花により他のRhipsalisとは区別されます。R. hoelleriは1987年に採取され、ドイツのボン大学の植物園に収容された栽培標本に基づき1995年に記載されました。しかし、その正確な生息地などの情報は不明であり、保全状況は評価出来ませんでした。

230909223035108~2
Rhipsalis

新しい分布地域
著者らの調査により、R. hoelleriの分布地域を拡大することが出来ました。観察されたのは、CasteloのForno Grande州立公園、Domingos MartinsのPedra Azul州立公園、Santana Maria de JetibaのPedra do Garrafao、Santa Lucia Biological Station、Augusto Ruschi生物保護区、Santa Teresaの私有地内の森林、Morro de Sao Carlos、Vergem Altaの保護されていない地域でした。

多様性
新種として記載された情報と、新しく発見された地域の個体を比較すると、ある程度のばらつきがあり多様性があることが分かりました。花の直径は10mmとされていましたが、観察された個体は8.5〜15mmでした。この変異は、他のRhipsalisでも確認されている一般的な特徴です。花色にも変化があり、カーマインから鮮紅色(Cerise)、深紅色まで様々でした。果実の色は濃いトマトレッドで不透明とされてきましたが、ピンク色で光沢のある果実も観察されました。また、栽培していると、トマトレッドからオレンジ色まで変化することが報告されており、果実の色では種の判別は出来ない可能性があります。

生態
R. hoelleriはブラジルの春である9月から11月の間に咲きます。ヨーロッパでも同じ季節に開花することが報告されています。また、夏にあたる2月下旬に稀に開花することもあるようです。果実は成熟に6ヶ月かかると言われています。

保全状況
R. hoelleriは多くの場合、inselberg(※)に関連する特異性の高い小さな亜集団からなります。発生範囲(EOO)は1578平方キロメートルと推定され、占有面積(AOO)は36平方キロメートルであり、どちらも絶滅危惧種の閾値を下回ります。亜集団は5〜7で個体数ら少なく、観察された個体数から250個体未満と推定されました。成熟個体は多くても10個体、多くは5個体未満で、集団がひどく断片化されてしまっています。IUCNレッドリストでは絶滅危惧IA(CR)に相当します。

(※) inselbergとは、地形の侵食により露出した花崗岩や片麻岩などでできた孤立した岩の丘のことです。

以上が論文の簡単な要約です。
このような分布が狭く個体数が少ない植物は、絶滅の可能性について評価される前に、開発などで絶滅してしまうことは珍しいことではありません。保全活動において、植物は動物と比べて軽視される傾向があり、保全状況や個体数などの基本的な情報すら不明なものが大半です。しかし、そのための資金も動物に偏っており、希少な植物の調査は難しい現状があります。動物並みに調査や保全が行われて欲しいところです。でもまあ、調査が実施されただけ良かったとは思います。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

乾燥地ではほとんど雨が降らない地域もありますが、地形や立地、風向きなどにより霧が発生する場合があります。例えば、山地や海に近い場合などです。霧が発生すると、植物や土壌表面には露がつきます。植物についた露は、植物を伝って根元に集められますから、乾燥地の植物にとっては大変貴重な水分となります。では、サボテンはどうでしょうか? サボテンは葉はありませんが、代わりにトゲがあります。トゲを伝って露を集めることは可能でしょうか? というわけで、本日はサボテンと露の関係を試験した、F. T. Malikらの2016年の論文、『Hierarchical structures of cactus spines that aid in the directional movement of dew droplets』をご紹介しましょう。

アタカマ砂漠は地球上で最も乾燥した場所です。アタカマ砂漠にはCopiapoa cinerea var. haseltoniana(=C. gigantea)が自生していますが、Copiapoaのトゲが露を集めることが観察されています。また、他の地域からも露を集めるサボテンの報告があり、報告されたMammillaria columbiana subsp. yucatanensisとParodia mammulosa、さらにC. cinerea var. haseltonianaの露とトゲの関係を詳しく調べました。また、そのトゲが露を集めないと言われるFerocactus wislizeniiを比較のためにともに調べました。

230907215949841~2
230907220007400~2
230907221517598~2
Mammillaria columbiana subsp. yucatanensis
Neomammillaria yucatanensisとして記載(上)。
Neomammillaris graessnerianaとして記載(中)。

Neomammillaria woburnensisとして記載(下)。
『The Cactaceae vol. 4』(1923年)より

サボテンを野外に置き、夜露が発生する様子をタイムラプスで撮影しました。また、トゲで集められた露がどのように吸収されるかを知るために、蛍光剤を水に混ぜた蛍光標識水にトゲを浸しました。また、MRIで断面を撮影しました。さらに、トゲの表面の微細構造を電子顕微鏡で観察しました。

230907222535244~3
Parodia mammulosus(左上)
Malacocarpus mammulosusとして記載。
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より


Copiapoaのトゲは、重力に逆らっても水滴は基部に向かうことが分かりました。また、蛍光標識水はアレオーレを通って吸収されたことが分かりました。
電子顕微鏡の観察では、CopiapoaとMammillaria、Parodiaではトゲの表面は繊維状の溝からなっていました。溝は先端と基部近くでは溝の深さや細かさが異なり、粗さの勾配により水を輸送している可能性があります。F. wislizeniiのトゲの表面は、大きな逆剥けのような突起に密に覆われており、水の輸送を妨げているようです。Copiapoaのトゲの表面にも突起は観察されましたが、小さく数も少ないため、水の輸送を妨げていないことが分かります。この突起はMammillariaとParodiaでもわずかに見られましたが、トゲの表面に水滴を形成する働きが予想されます。CopiapoaとMammillaria、Parodiaのトゲは親水性で濡れ性が高く、Ferocactusのトゲは疎水性で濡れ性が低いことが分かります。


230907222313074~3
Ferocactus wislizenii(下)
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥地に生えるサボテンは、根からだけではなく、トゲを利用してアレオーレから水分を吸収する仕組みがあることが分かりました。サボテンが工学的な発想で研究されることは珍しく、非常に面白い論文でした。しかし、アレオーレからの吸水を知ってしまうと、その効果を試してみたくなります。どなたか、試してみたいという方はいらっしゃいませんかね? 


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Harrisia属は森林性サボテンで、細長く紐状に伸び月下美人のように大きな花を咲かせます。そのうちの1種であるHarrisia adscendensの名前には、何やら一悶着あった模様です。ということで、本日はAlan R. Franckの2015年の論文、『Proposal to conserve the name Cereus adscendens (Harrisia adscendens) against C. platygonus (Cactaceae)』をご紹介しましょう。

230831224830384~2
Harrisia adscendens
『The Cactaceae descriptia and illustration of plant of cactus family』(1920年)より


Cereus platygonusはBerlin Garden由来の出所不明資料に記述があります。しかし、その標本は見つかっていません。タイプ標本がベルリンにあった場合、第二次世界大戦により1943年に破壊された可能性があります。また、C. platygonusは栽培されている植物から記載された場合、標本は作られなかった可能性もあります。著者はC. platygonusの元資料と一致するのは、Harrisia adscendensとして知られるブラジルのCaatinga原産のサボテンであるとしています。

SchumannはCleistocactus属とされるいくつかの種とともに、C. platygonusを広義のCereus属series Graciles(列)に分類しました。CleistocactusとHarrisiaは、どちらもTrichocereus亜属とされますが、これらの関係は曖昧です。SchumannはC. platygonusは12〜15本の剛棘があるとし、Riccobono(1909)は幼時生長と解釈しました。剛棘はHarrisiaなどの多くのサボテンの幼時の茎に見られます。

RiccobonoはC. platygonusをEriocereus属としましたが、後にBritton & RoseはHarrisia属としました。学名はHarrisia platygonaとなりました。Britton & RoseはH. platygonaは、H. adscendensの丸みを帯びた目立つ稜(ribs)と比較して、平らで幅広い稜を持つとして区別しました。Britton & Roseは、ニューヨーク植物園でH. platygonaの小さな生きた植物を研究することについて言及しました。現在、C. platygonusとされるニューヨーク植物園の3つの標本は、H. adscendenrsと特徴が一致します。標本のうち1つはBritton & Roseの言及したものに由来する可能性があります。これは、「1901年、パリのSimonの植物」というラベルがあり、おそらく園芸家のCharles Simonから購入したものです。Britton & RoseはC. Simonのカタログに対し言及があります。2つ目は、Alwin Berger多肉植物ハーバリウムの「K. Sch. 99」とラベルがあり、Schumannの試料由来である可能性があります。

Harrisia platygonaがHarrisia adscendensと同種であった場合、優先される名前はH. platygonaです。しかし、H. platygonaという名前は、現在H. adscendensと呼ばれる植物とリンクした文献はありません。H. platygonaという名前はBritton & Roseの後は放棄され、2012年のFranckにより最近コメントされただけです。H. adscendensという名前を使用した文献は豊富にあり、レクトタイプ化されています。論文でもH. platygonaは参照されず、H. adscendensの名前が長く使用されています。ICN14.2条に従い、Cereus adscendensはCereus platygonusに対して保存されることを提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
何やら長々と説明されましたが、要するにC. platygonusは割と起源があやふやですが、記述された特徴からはH. adscendensと思われるも、長く使われてきたH. adscendensを使用しましょうというだけの話です。しかし、最後の提案はCereusになっていますが、これは元の名前の命名年が早い方に優先権があるため重要だからです。分かりやすく年表にしてみましょう。

1850年 Cereus platygonus
1908年 Cereus adscendens
1909年 Eriocereus platygonus
1920年 Harrisia adscendens
              Harrisia platygona

以上のように、命名が一番早いのはC. platygonusです。ですから、このC. platygonusを受け継いだH. platygonaが規約上は正しい名前ということになります。しかし、著者はC. platygonusではなくC. adscendensを正式な名前とすることを提案しているのです。2023年現在、Harrisia adscendensが正式な学名となっており、Harrisia platygonaあるいはCereus platygonusは異名とされています。この提案は認められているようです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンやアガヴェと言えば砂漠に生えているイメージですが、砂漠と言ってもサラサラした砂が舞う砂丘ばかりではありません。サボテンに限らず乾燥地に生える多肉植物が生えるのは、実際には硬く締まった土砂漠だったりします。乾燥の具合も様々で、うっすら草が生えるサバンナ/ステップ気候も見られます。そのため、砂漠では火災が発生することがあります。最近、Euphorbia mlanjeanaという多肉植物が沢山輸入されていますが、巨大なゴツゴツした塊から枝を伸ばす奇妙な姿をしています。これは度重なる火災で焼かれながらも、その都度再生して生き延びてきた証です。しかし、サボテンの自生地でも火災は発生するはずですが、サボテンを始めとした砂漠植物たちはどのように火災を対処しているのでしょうか? ということで、本日はDante Arturo Rodriguez-Trejoらの2019年の論文、『Plant responses to fire in a Mexican arid shrubland』をご紹介しましょう。

230902211555941~2
Echinocactus platycanthus
Echinocactus visnagaとして記載。
『Curtis's botanical magazine』(1851)より


研究はメキシコのPuebla州とOaxaca州にあるTehuacan-Cuicatlan生物圏保護区において行われました。保護区の低木林のうち最大面積はDasylirion lucidumを含むバラ色低木林て、調査地はこの中で行われました。斜面にはEchinocactus platyacanthusやAgave potatorumが生え、平野部には針葉樹(ビャクシン)であるJuniperus deppeanaが生えます。
保護区では火災はそれほど頻繁ではなく、2013年から2016年の間に報告されただけで26件の森林火災がありました。

調査地域で最も豊富なのはDasylirion lucidumで、100メートル四方に286本もありました。火災によりすべての個体が焦げており、すべての葉は焼けています。ロゼットの低い部分は平均0.6メートルでした。しかし、その生存率は97.7%に達しました。大きな個体ほど新しい葉をよく出しました。火事のあとでもよく開花し、火事に見舞われなかった個体との差はありませんでした。
Dasylirionの葉は可燃性は高いものの、早く燃え尽きるため火力は弱くなり、生長点は守られます。また、Dasylirionの茎はは肥厚環と呼ばれる形成層を有し、断熱作用があります。


調査地域では少ないJuniperus deppeanaは、100メートル四方に1.8本しかありませんでした。しかし、調査地域で最も背が高い植物でした。最大5.8メートルに達します。火災後、その25.5%が枯死しました。生き残った木のうち、55.2%は根元から新芽を出しました。
Juniperusの厚い樹皮は耐火性がありますが、乾燥により樹皮の生産は減少し薄くなります。


調査地域ではあまり見られないEchinocactus platyacanthusは、100メートル四方に2.1本ありました。しかし、調査地域で最も直径のある植物でした。最大の個体は高さ1.3メートルでした。火災後、4.8%が枯死しました。しかし生き残っているサボテンも活力はありませんでした。サボテンの高さの平均89.1%が壊死しました。
サボテンは水分が多く火に抵抗性があります。しかし、他の調査では、Ferocactus wislizeniiでは火災により棘が失われると、昆虫やネズミ、ウサギや家畜により食害され枯死することが知られています。また、棘は過度の過熱や霜害から生長点を保護する働きがあります。サボテンは棘の喪失がその後の生存率を左右します。


Agave potatorumは割と豊富で、100メートル四方に17.6本ありました。火災後、10%が枯死しました。生き残っているAgaveはすべて発芽し、新しい葉を出しました。
Agaveの葉の多肉質でクチクラ層が非常に厚いなどの特徴は、可燃性を低下させ耐火性を高めます。また、Agaveの古い葉は、火災から受ける熱から本体を守ります。


以上が論文の簡単な要約です。
乾燥地では火災が起きやすく、自生する植物も火災に適応した生態系を持ちます。Tehuacan-Cuicatlan生物圏保護区では、異なる分類群の4種類の植物を調査しましたが、すべてである程度火災に適応していることが分かりました。調査地ではDasylirionが優勢なのは、火災に対する強さも関係があるのかも知れませんね。
しかし、サボテンは割とダメージが強いようですが、これはサボテンの形も関係するような気もします。球状の玉サボテンではいくら大きくても、光合成する表面積の大半を焼かれてしまいます。枝を出すタイプでもありませんから、復活は中々難しそうです。これが柱サボテンならば、根元は木質化していきますから上部が無事ならば問題なさそうです。また、ウチワサボテンならば、茎が焼かれても新しい芽が沢山吹いて直ぐに復活可能かも知れません。サボテンの形状による耐火性の違いも気になります。何か良い論文がないか調べてみるつもりです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

植物は様々な環境に適応して分布しています。一地点にしか生えない植物ばかりではなく、大抵の植物はある程度の広さの地理的分布を持っています。しかし、必ずしも分布域が均一な環境とは限りません。当然ながら、植物はそれぞれの環境にある程度は適応していることが想定されます。本日はサボテンの環境適応の一端を調査した、Karen Baukらの2016年の論文、『Germination characteristic of Gymnocalycium monvillei (Cactaceae) along its entire altitudinal range』をご紹介しましょう。

230829225644206~2
Gymnocalycium monvillei
Gymnocalycium multiflorumとして記載。
『Adissonia』(1918年)より


Gymnocalycium monvilleiは、アルゼンチンのCordoba山脈に固有のサボテンで、非常に広い高度分布を持ちます。過去に低地のG. monvilleiが調査され、発芽率は40%と低く、発芽にあまり光やは必要としていないようです。しかし、G. monvilleiは標高1900m付近に多く、それより高い(〜2200m)やより低い(〜800m)では減少していきます。高度により日照、温度、土壌の水分量などに重大な違いがあり、種子の発芽に影響を与える可能性があります。
G. monviするの自生地の平均温度は高高度で10.3℃、低高度で16.5℃でした。暖かい月の平均気温は、高高度で15℃、低高度で24℃でした。標高1900mを超えると雪が降ります。
G. monvilleiは1〜7個の果実をつけ、200〜4000個の種子を作ります。著者らは5つの標高に生える同じサイズ(10cm)のG. monvilleiから種子を採取しました。各高度から20個体を選びました。
種子は採取から1年後に播種されました。温度は25℃と32℃で試験しました。また、種子の発芽に光が必要かも確認しました。

種子は32℃よりも25℃でより発芽率が高いことが、すべての高度で確認されました。熱阻害を受けている可能性があります。
25℃の発芽率は、最も標高が高い2230mが80%を超え非常に高く、1940mで70%以上、1555mで60%以上、1250mで約20%でした。しかし、878mでは50%以上でした。著者らは、より寒い場所では種子の熟成が遅く、長い熟成期間が種子の品質にプラスの影響を与えた可能性があるということです。
種子の発芽には光が必要であることが分かりました。1250〜2230mではほぼ同じ結果でしたが、878mだけは発芽率が低下しました。


以上が論文の簡単な要約です。
最もG. monvilleiが多い標高1900m付近から採取された種子のポテンシャルが高いことが期待されましたが、結果は異なりました。意外にも最も標高が高い地点の種子が高かったのです。実際の自生地では冬の寒さなどの、論文では試験していないパラメーターの影響もあるのかも知れません。ただ、高い標高の種子ほど発芽率が高いのは、種子の品質に関係があるのかも知れません。また、不思議なことに最も標高が低い878m地点の種子だけは、全体の傾向に従っていません。これは、種子の品質ではなく、G. monviが低地に適応して進化したからかも知れません。もしかしたら、G. monvilleiは低地の集団と1250m以上の集団の2つが、遺伝的に隔離されているのかも知れません。種子の光に対する発芽率も低地だけは異なります。これは、何やら気になりますね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

以前、サボテンの地理的二分法仮説をご紹介しました。地理的二分法仮説とは、熱帯のサボテンはサボテンの花を専門とする特定の少ない種類の花粉媒介者により受粉し、温帯のサボテンは様々な花を訪れる沢山の種類の花粉媒介者により受粉するというものでした。その関連で、亜熱帯アンデス山脈に分布するオレオケレウスの受粉について調査した論文がありましたから、ご紹介しましょう。それは、Daniel M. Larrea-Alcazar & Ramiro P. Lopezの2011年の論文、『Pollination biology of Oreocereus celsianus (Cactaceae), a columnar cactus inhabiting the high subtropical Andes』です。

230829224631368~2
Oreocereus celsianus
Pilocereus brunnowiiとして記載。
『The illustrated dictionary of gardening』(1895年)より


柱サボテンのコウモリ媒花
一般的に熱帯域に生える柱サボテンは、蜜食のコウモリによるコウモリ媒花であるとされています。コウモリ媒花の特徴は、夜間に咲き、蜜が多く、開いたカップ状の形、強い香りが挙げられています。温帯の柱サボテンは、夜行性のコウモリや蛾、昼行性のミツバチやハチドリの両方で受粉していることが示されています。しかし、熱帯アンデスに分布するOreocereus celsianusの自生地は標高が高く、コウモリが分布しない可能性があります。O. celsianusの花粉媒介者はどのような動物なのでしょうか。

調査地点
調査はアンデス山脈中部のPrepunaで実施されました。Prepunaの標高は2000〜3300mです。平均気温は高度に応じて約12〜19℃の範囲でした。冬は寒くマイナス10℃になります。調査地点はボリビアの3140mにあるPrepunaで、O. celsianusの大きな集団があります。調査は夏の開花期に行われました。
O. celsianusは、ボリビア、ペルー、アルゼンチン北部の高地アンデス山脈に育ちます。枝分かれした円柱状のサボテンで、高さ6mになります。Trichocereus tacaquirensisやTrichocereus werdermannianusと混じって育ちます。O. celsianusは白い毛とトゲに覆われます。


花の訪問者たち
O. celsianusの花は約3日間咲きます。初日は日没(16〜18時)に咲き、4日目の正午に閉じました。花は漏斗型で紫がかるピンク色、弱いニオイを発します。O. celsianusは雌雄同体で、自家受粉もするサボテンです。しかし、他家受粉の方が受粉率は高いようです。また、夜間および昼間の花粉媒介者を制限した場合、夜間の訪問者よる受粉は少なく、昼間の訪問者による受粉が多いことが分かりました。
O. celsianusの最も重要な花への訪問者は、ハチドリでした。ハチドリは日中に花を訪れました。花を訪れた3種類のハチドリの中でも、ジャイアントハチドリ(Patagona gigas)の訪問頻度が高いことが分かりました。
また、2種類のミツバチと1種類のスズメバチも日中に訪問しました。しかし、ミツバチやスズメバチは柱頭に触れないため、ただの花粉泥棒として活動していることが分かりました。また、2種類のアリがスズメバチが開けた穴から花に侵入し、蜜泥棒として活動していました。夜間には2種類の蛾が花を訪れただけでした。

調査では開花し始めた16時〜18時のハチドリの訪問が、受粉にとって重要であることが分かりました。また、調査地であるPrepunaではP. gigasが広く分布し、OreoceusだけではなくTrichocereusの花にも訪れます。P. gigasがO. celsianusの最も重要な花粉媒介者と考えられます。

以上が論文の簡単な要約です。
Oreocereus celsianusは標高の高い地域に生えるサボテンで、熱帯性とは言えません。しかし、標高を無視すれば地理的には熱帯域と言えます。O. celsianusは主にP. gigasにより受粉することから、地理的二分法仮説を肯定する結果と言えます。様々な花粉媒介者が訪問することはないのです。
O. celsianusはコウモリがいない環境で、ハチドリ媒花に適応したサボテンのようです。しかし、P. gigasの好みは分かりませんが、一般的にハチドリ媒花は赤く細長い花が多いように思われます。また、O. celsianusのかすかな香りは、コウモリ媒花だった時代の名残りでしょうか。これは、O. celsianusの進化の過程に関わる重大な問題かも知れませんね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

種子を作るのは植物にとって体力を消費する行為です。植物が小さいうちは沢山の種子は作れませんが、大きくなれば養分を種子生産により多く割り当てることが可能になります。しかし、その種子の品質はどうでしょうか? 植物が大きくなると、種子あたりに注ぎ込める養分も増えますが、そのようなことはあり得るのでしょうか?
本日はサボテンのサイズと種子の品質の関係を追った、C. Ceballosらの2022年の論文、『Do large plants produce more and better seeds and seedlings? Testing the hypothesis in a globose cactus, Wigginsia sessiliflora』をご紹介しましょう。

230824211956275~2
Parodia erinaceus
=Wigginsia sessiliflora
Echinocactus erinaceus Lem.として記載。
『Gesamtbeschreribung der Kakteen』(1908年)より


研究はアルゼンチンのCordoba州のSan Pedro Norte townの近くで行われました。Wigginsia sessilifloraを185個体の果実を調査し、直径と種子の関係を調べました。W. sessilifloraは11月の短期間に咲くため、果実は同時期に熟します。種子を洗浄し3ヶ月保管してから発芽試験を実施しました。

調査したW. sessilifloraのサイズは14〜130mmでしたが、うち54%(97個体)は果実を作りませんでした。果実を生産した個体のサイズは、44〜120mmでした。分析すると、中型個体が最も多くの果実を生産していました。同様に中型個体の種子数と種子重量も最大でした。しかし、種子の発芽率はサイズと関係がありませんでした。発芽した実生は、親植物のサイズが大きいほど背が高いことが明らかとなりました。

意外にも、種子数は小型個体では少なく、中型個体では多く、大型個体では減少しました。これは、例えば樹木は幹の内部組織は生きていませんが、サボテンは大きくなるにつれて光合成しない組織の割合が増えてます。そのため、非光合成組織の維持に消費されるコストが増えてしまい、種子生産に割けるリソースが少なくなる可能性があります。

実生のサイズと形は、発芽後の苗の定着率に関係するかも知れません。大きな親から生まれた種子は、発芽させると、背が高くなり円柱状になります。背が高いと光を得やすくなる可能性があります。また、表面体積比が高くより生長率が高くなる可能性があります。その場合、大きなW. sessilifloraは種子の生産は少なくなるものの、実生の生存率が高くなるのかも知れません。

生殖可能なサイズのW. sessilifloraの50%以上は観察期間中に果実をつけませんでした。資源の節約のため、毎年繁殖するわけではなく、十分な準備が出来るまで回復させていると考えられます。

以上が論文の簡単な要約です。
植物が小さければ少量の種子、大きければ沢山の種子を作るというのは分かりやすい話です。しかし、その品質も変化するという驚きの結果でした。考察が正しいものとして内容をまとめると、小さな植物は種子数も少なく種子生存率も低い、中型の植物は種子数は多く種子生存率は普通、大きな植物は種子数は少なく種子生存率は高いということになります。生長期のサボテンはとにかく種子を沢山生産することを目指し、いわゆる数撃ちゃ当たる方式ですが、大型になり熟成した個体は個々の種子の品質を高めて生存率を高くしているのでしょう。
ただし、これはすべての種子植物がそうであるかは分かりませんから、様々な植物で追試する必要があります。果たして、W. sessiliflora特有の特徴なのか、サボテン科の特徴なのか、乾燥地の植物の特徴なのか、あるいはすべての植物の特徴なのか、現時点では分かりません。
ちなみに、論文ではWigginsia sessilifloraという名前ですが、現在ではParodia erinaceusの異名となっているようです。これはWigginsia erinaceusとも呼ばれていましたね。Wigginsia属はParodia属に吸収されて消滅したため、旧・Wigginsia属は名前がすべて変更されているので、注意が必要です。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

烏羽玉(Lophophora williamsii)は幻覚作用を持つアルカロイドを含み、その成分は法律で禁止されている国が多いようです。一般的にペヨーテ(Peyote)と呼ばれていますから、ここではペヨーテと呼ぶことにします。ところで、歴史的にその幻覚作用が宗教的に利用されてきた経緯から、アメリカ合衆国ではペヨーテの宗教的利用が許可されています。アメリカ合衆国でもペヨーテの幻覚成分は規制物質ですが、宗教的に許可されたその経緯とはどのようなものでしょうか。本日は、その経緯を辿ったMartin Terry & Keeper Troutの2017年の論文、『Regulation of Peyote (Lophophora williamsii: Cactaceae) in the U.S.A.: A historical victory of region and politics over science and medicine』をご紹介します。

230826073536389~2
Lophophora williamsii
Anhalonium williamsiiとして記載。
『Gartenflora』(1888年)より


ペヨーテはメキシコとテキサス州の国境地帯のチワワ砂漠とTamaulipan Thornscrub地域に自生します。少なくとも6000年前に人が利用したとされます。現在、アメリカ先住民教会(NAC)におけるペヨーテの利用が行われています。
アメリカ合衆国では、アメリカインディアンによるペヨーテの使用は部族以外にはほとんど知られていませんでしたが、1人のインディアン局の職員により1912年に公表され、デモナイズ(悪しき者として、demonize)されました。それは、大麻が1930年代と1940年代に単独の個人により激しくデモナイズされた時と同じ方法でした。1954年にAldous Huxleyが『The Doors of Perception(知覚の扉)』を出版し、1955年にBeat GenerationはPeyoteの主要なアルカロイドであるメスカリンの精神活性効果を発見しました。

1960年代、1970年代に、ヒッピーを含む新しいカウンターカルチャーがあらわれました。古い価値観とは異なる若者たちの主張で、音楽や文学でも表現されました。カウンターカルチャーでは向精神薬なども利用されました。1960年代にペヨーテの規制に力がかかるようになりました。当時の状況を整理すると、まずカウンターカルチャーによる薬物に対する開放性や、ベトナム戦争における米兵の間での大麻や阿片の使用により、一般的に薬物使用が増加しました。次にペヨーテがアメリカ先住民以外に侵略され始めました。1990年代には、好ましいサイズのペヨーテの不足が気付かれ始めました。このペヨーテの不足は、NAC以外の人を式典に招待することが難しくなりました。米国麻薬取締局(DEA)による、許可されたペヨーテの使用の定義を狭める可能性があるという発表により、それはより悪化しました。

薬物による幻覚作用について、主流文化とカウンターカルチャーの間のギャップが拡大しました。1970年の規制物質法(CSA)は、薬物問題の主流文化側からの解決策でした。しかし、CSAはペヨーテを規制物質としてしまいました。米国議会は薬物問題の解決に関心があり、先住民の使用の正当性を認証せずにペヨーテを幻覚剤としました。
NACが1918年に設立されて以来、ペヨーテを合法的に使用して来ました。しかし、20世紀初頭にはペヨーテ宗教に対する禁止主義者や宗教的反対者により、激しいロビー活動が行われていました。先住民は何年にも渡りいくつか議会で主張を繰り返し、1944年のアメリカインディアン宗教自由法改正(AIRFAA)によりペヨーテの使用を禁止すべきではないということになりました。
しかし、議会は長い間、ペヨーテを中毒性が高いと見なしていました。しかし、ペヨーテに中毒性があるという主張は科学的に立証されていません。現実的には、ペヨーテを使用する儀式は連続して行われません。ペヨーテの使用頻度は多くて週1回、ほとんどのNACのメンバーは月1回かそれ以下です。このようにペヨーテの使用頻度は低く、日常的に繰り返して使用される中毒性薬物とは異なります。また、ペヨーテを
用いて定期的に儀式を行っているNACのメンバーに対する研究が行われ、神経毒性や認知障害は引き起こされていないことが確認されました。また、ペヨーテ中毒者の治療は行われたことはありません。

米国社会では、大麻はペヨーテよりはるかに良く知られており、広く使用されています。アメリカ人の49%が大麻を経験していますが、ペヨーテは約2%に過ぎません。大麻と異なり、ペヨーテは海外輸出用の観賞用植物として小規模に栽培されているだけです。ペヨーテは種子の播種から収穫まで約10年かかり、商業的な利益は少なく、ペヨーテの安全性や医学的用途のための研究は不足しています。メキシコではリウマチの痛み止めとして、局所チンキや軟膏が広く使用されています。

以上が論文の簡単な要約です。
宗教的な文脈とはいえ、幻覚成分を含むペヨーテの合法性を擁護する論文です。しかし、著者らが指摘するように、ペヨーテは大量生産が難しく時間がかかり、金にならないため、流行することはなさそうです。ペヨーテの幻覚成分はある程度のサイズにならないと蓄積しないため、効率が非常に悪いと言えます。
さて、日本ではペヨーテは規制されておりませんが、その成分は規制の対象です。つまり、ペヨーテから成分を抽出したら違法となります。とはいえ、日本にはペヨーテを利用する習慣はありませんから、特に問題にほならないのでしょう。こういうものは、基本的に文化に根ざしたものです。例えば酒は日本でも非常に長い歴史があり、日本特有の文化と文脈があります。しかし、例えば大麻などは日本に大麻文化がないため、その合法化は難しいかも知れません。それを利用するに際してのTPOがまったく存在しないため、濫用されるだろうことは想像に難くありません。慣習は文化が規定するため、文化がなければ社会の一部にはなりません。現在の日本の大麻解禁に関する話は文化を無視しており、他人への理解を求めるようなものではありません。現状の攻撃的で個人主義的な主張からは、とても大麻解禁を求める声が多数派になることは考えにくいことでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

非常に沢山の稜があるサボテンとして、縮玉や千波万波などを含むEchinofossulocactusが有名です。しかし、いつの頃からかStenocactusと呼ぶようになりました。少し気になって軽く学名を検索したところ、非常に面倒くさい話であることを察したため、その時は見なかったことにしました。しかし、そこら辺の面倒くさい話についてまとめた論文を見つけてしまい、何とはなしに読み始めたところ、やはり非常に面倒くさい話でした。説明するのも面倒くさいのですが、読んでしまった以上は記事にします。それは、L. Zahoraらの2020年の論文、『Echinofossulocactus or Stenocactus』です。ただ読むだけで忍耐力を試されますから、ご注意下さい。

始めはEchinocactusから
1841年以前、Echinofossulocactus Lawr.はEchinocactusに含まれていました。医師のLudovico Pfeifferは、1837年に出版した本でEchinocactusの中のEchinofossulocactusに相当するグループについて、波打ち圧縮された稜という形態を説明しました。

Echinofossulocactusの始まり
1841年にイギリスのガーデナーのGeorge Lawrenceは、London' s Gardeners' Magazineに、雇用主のTheodore Williams牧師のコレクションからサボテンのカタログを発表しました。その中でEchinofossulocactusが初めて登場しました。しかし、この時のEchinofossulocactusはあまりにも広い概念であり、それが後に問題となります。LawrenceはEchinofossulocactusを3つに分けており、1つ目が「Gladiatores」とラベルされた現在のEchinofossulocactus、2つ目が現在のFerocactus、3つ目はEchinocactusやFerocactus、Thelocactus、Astrophytum、Strombocactusが含まれていました。Echinofossulocactusの由来は、小さな溝や水路を表した「fossula」に由来しますが、この特徴はEchinofossulocactusだけの特徴ではないため、判別するための名前としては微妙かも知れません。また、Lawrenceはタイプ標本を指定しなかったことも問題です。

Stenocactusの登場
1898年に最も偉大なサボテンの権威の1人であるKarl Moritz Schumannは、Echinocactusの中にStenocactus亜属を確立しました。「stenos」はギリシャ語の「狭い」に由来し、特徴を表しています。

混乱の始まり
1922年にアメリカの植物学者Nathaniel Lord Britton & Joseph Nelson RoseはLawrenceの命名した「Gladiatores」ではなく、正式にEchinofossulocactus属を命名し直しました。タイプ標本はLawrenceが最初にリスト化したE. coptonogonusを選びました。
翌1923年にCarlos SpegazziniはEchinofossulocactusはハイブリッドであり、非常に長い名前のため、これは非合法名であり拒否されるべきであると提案しました。そして、Brittonrosea Speg.を提唱しました。
1926年にはC. OrcuttはSpegazziniの命名を知らなかったようで、Efossusを提案しました。タイプ標本はBritton & Roseに従いE. coptonogonusを指定しました。

Stenocactusの拡散
SchumannはおそらくEchinofossulocactusの命名を知らずにStenocactusを命名しましたが、これは亜属としての命名でした。これを属として使用したのは1929年のA. Bergerです。しかし、Bergerは属と亜属を厳密に区別していませんでした。属名としてStenocactusを使用したのは1935年のW. Marshall & F. M. Knuthでした。1937年にはHelia Bravo & J. Borgが続き、1941年にはアマチュア・コレクター向けに出版された「Cactaceae」にW. Marshall & T. M. BockがStenocactusを使用しました。

Echinofossulocactusの復権
しかし、国際命名規約が重視されるようになり、Stenocactusの正しい使用についても見直されました。1961年のBackebergなどの著者によりEchinofossulocactus Britton & Roseという名前が受け入れられ、翌年にはF. Buxbaumにも受け入れられました。

Echinofossulocactusを埋葬せよ
1980年にDavid Richard Huntは「Echinofossulocactusの正しい再埋葬」と銘打ち、Stenocactusを復活させようと、Nigel Taylorと共に出版した雑誌で主張しました。Huntによれば、Lawrenceの簡単な説明、「fossula」はE. helophorusに対応しているとしています。HuntはE. coptonogonusのレクトタイプを置き換えました。E. helophorusはEchinocactus platycanthus Link & Ottoの異名です。Echinofossulocactusを無効としました。Brittonrosea Spegazziniは受け入れられなかったので、Stenocactusを正当化する提案をしました。TaylorはHuntの考え方を支持し、1980年にE. coptonogonusとFerocactusの類似を指摘してEchinofossulocactusとFerocactusの統合を主張しました。

Stenocactusの正当化
1981年にHuntはEchinofossulocactusの最も古い有効な学名はBrittonroseaであったと過りを認めました。しかし、HuntはStenocactusを正当化しました。その提案は当時の国際植物命名法(1978年版)の第63.1条を見落としていました。また、HuntはTaylorにより指定されたレクトタイプはEchinocactus crispatus DC.であるとしました。
1982年にW. L. Tjadenは、植物委員会にStenocactusという名前を保存するための提案を提出しました。Tjadenによると、植物法第34.1条ならびに第34.3条の下で、Echinofossulocactusに対する無効性を示しました。Lawrenceの属の広すぎる概念や、SectionあるいはSubsectionの分割、スペルミスなどの正確性を指摘しました。Tjadenによれば、Lawrenceの名前は無効であり、Stenocactusが便利であることから正当化されるということです。

植物委員会の判断
TjadenのStenocactusは保存するための提案は、1987年に植物委員会で議論されました。委員会は1841年のLawrenceによるEchinofossulocactusは無効であるなどの意見に同意しませんでした。特にHuntによる再レクトタイプ化に関して、いくつかの命名法上の問題を提起しました。
Echinofossulocactusのタイプは1841年にLawrenceにより命名されて以来E. helophorusであり、1922年にBritton & Roseが新しくEchinofossulocactus Britton & Roseと命名し直した時にE. coptonogonusを指定しました。これは、1923年のBrittonrosea SpegazziniがBritton & Roseの代わりに出版され、E. helophorusが除外された時に合法となります。
植物委員会のメンバーは、7人がStenocactus、1人がBrittonrosea、3人がEchinofossulocactusが正しいと考えました。委員会のBrummittはEchinofossulocactusが正しいとしても、それはE. helophorusはEchinocactusの異名となってしまうため、Stenocactusを使用するべきであると結論付けました。

Heathの批判
P. V. Heath(1989年)は、Huntの恣意的な傾向のある議論の不正確さを説明しました。①Brittonの選択が不十分であったことを示す。②有効なレクトタイプを作成する。③Huntの選択がより優れていることを示す。④現在の使用法を維持する。という4つが必要としていますが、Huntはすべてで失敗していると言います。Heathによると、「Huntは意図的に公然と現在の使用法を歪めた」としています。そして、Echinofossulocactusは正しい名前であり、Brittonrosea、Efossus、Stenocactusは異名としました。

以上が論文の簡単な要約です。
タイプの話は分かりにくいので、少し解説します。Echinofossulocactusのタイプは、Echinofossulocactus helophorusでした。しかし、現在ではE. helophorusはEchinocactus platyacanthusの異名とされています。つまり、Echinofossulocactusの代表を事もあろうにEchinocactusを選択してしまったのです。
著者らはStenocactusではなくEchinofossulocactusを正当な学名と考えています。しかし、タイプのミスは致命的な誤りに見えます。Heathの批判や著者らの考えにも関わらず、現在の学名はすべてStenocactusとなっており、EchinofossulocactusはEchinocactusの異名とされています。Huntの考え方が認められている形です。
しかし、植物委員会の判断は意外にもばらつきました。植物委員会もいくつか問題を提起しているように、完全決着ではないのかも知れません。しかし、現状ではEchinofossulocactusはEchinocactusの異名に過ぎず、使用されない名前です。完全に終わってしまったのでしょうか? 今後、再び議論される可能性はどのくらいあるのでしょうか? 


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

少々忙しく記事を書く時間が中々取れません。ネタはまだあるのですが…。昨日は天気雨で降ったり止んだりでよくわからない天気でした。夕方に隙をついてサボテンの植え替えをしました。サボテンは割と放置気味でしたから、かなり荒れてましたね。

230827171025841
日の出丸 Ferocactus latispinus
たぶん10年くらい前にオザキフラワーパークで購入した日の出丸。ワンコインで買ったミニサボテンでした。ほとんど植え替えしていないので、鉢が小さすぎますね。

230827171924543
根は大分きつきつです。ちょっと老化気味。
230827172017000
根は健康そうです。

230827171031584
Gymnocalycium pungens
最近、鶴仙園で入手したばかりのサボテンです。現在はG. schickendantzii subsp. schickendantziiの異名になっていますね。

230827171911395
根が少ないですが、たまにこういうことがあります。化粧砂の下に、かなり重い湿っぽい用土がありました。気付かないと加湿になりこうなっちゃいます。

230823222401609
縮玉 Stenocactus multicostatus
種子がこぼれて実生が生えてきたので植えましたが、1株だけ生き残りました。そう言えば、縮玉の学名ははっきりしませんね。Echinofossulocactus multicostatusとか、Echinofossulocactus zacatecasensisとか呼ばれています。まあ、とはいえEchinofossulocactusは現在Stenocactusとされています。実はEchinofossulocactusはEchinocactusの異名扱いになってしまいました。そのあたりの話は実にややこしいので、出来れば明日記事にします。

230827171921004
根の張りは非常に良いですね。

230827172731634
大中小の鉢に植え替え。

230828000602057
鸞鳳玉の成長点が潰れて雪だるま状態となったので、外しました。引っ越したり、まあ色々あってサボテンは大分枯らしました。残っているものも大分荒れているので、少しずつ仕立て直す予定です。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

植物にとって花は繁殖のために重要です。それは、サボテンや多肉植物も同様です。そのため、最近はサボテンの受粉に関する論文をいくつかご紹介して来ました。しかし、繁殖のためには受粉して終わりではなく、種子を作りばら撒かなくてはなりません。せっかく出来た種子がただ親植物の根元に落ちるだけでは、あまり意味はありません。あまりにも近いと、親植物と光や養分の競争をしなくてはならないからです。また、繁殖は個体を増やす目的があります。ですから、ある程度は離れた場所に運ばれて、分布を拡大出来れば最良です。ですから、種子に綿毛をつけて風で飛ばされたり、細かいトゲや毛を生やして動物の毛に付着して遠くに運ばれたりします。しかし、種子がどれだけ発芽可能な場所に運ばれるかも重要です。例えば、エライオソーム(Elaiosome)という養分をつけた種子は、蟻により種子が蟻の巣に運ばれます。蟻の巣の中は湿っているため、種子が発芽しやすい環境です。乾燥地に生えるサボテンは、種子が地下に運ばれるということは非常に意味があるでしょう。しかし、エライオソームがないサボテンもあります。種子の散布はどのように行われているのでしょうか? エライオソームがないサボテンの種子散布はどのように行われているのでしょうか? 本日はKatielle Silva Brito-Kateivas & Michele Martins Correaの2012年の論文、『Ants interacting with fruits of Melocactus conoideus Buining & Brederoo (Cactaceae) in southwestern Bahia, Brazil』をご紹介します。

230826073729452~2
Melocactus intortus
Melocactus communisとして記載。
M. conoideusの良い図譜がなかったので、代わりにM. intortusを示しました。発達した花座に注目。
『Verhandlungen des Vereins zur Beforderung des Gartenbaues in den Koniglich Preussischen Staaten』(1827年)より


Melocactus conoideusは、石英砂利で出来たわずか10キロ平方メートルの面積に生えます。しかし、土木工事用に砂利が採掘されているため、数を減らしています。M. conoideusは絶滅危惧種に指定されていますが、その生態は詳しく調査されておりません。著者らはM. conoideusの種子の分散を調査することが、今後の種の保全のための計画において有用な情報を提供することが期待されます。
研究はブラジルのBahia州Vitoria da ConquistaにあるSerra do Periperi公園で実施されました。6月〜10月は乾燥し、11月〜3月に雨が降ります。植生は季節性の森林とステップ状サバンナの混合からなります。

M. conoideusは長さ17〜21mmの果実を一年中生産し、4月が生産のピークです。果実は多肉質で赤〜ピンクで、花座(cephalium)内で発達します。果実は熟すと花座から露出します。果実には黒い小さな種子があり、おそらくはトカゲや蟻により分散されると考えられています。
調査らはお互いに最低10m以上離れた同程度のサイズの30個体のサボテンを観察しました。M. conoideusの花座から落ちた果実に対し、7種類の蟻が集まりました。花座から落ちた果実のうち、60個の果実にをマーキングして追跡しました。60個のうち23個が蟻に来ました。蟻のうち3種類は種類散布に適した行動を示しました。

以上が論文の簡単な要約となります。
蟻による種子の散布は、エライオソームが関与します。しかし、エライオソームを持たない種子も蟻により種子が分散されることが分かります。種子ではなく、蟻が運搬出来る小さな果実も意味があるようです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

フェロカクタス(Ferocactus)はそのトゲの強さから強棘類などと呼ばれていますが、始めはエキノカクタス(Echinocactus)に含まれていました。エキノカクタスも強棘類に含まれて呼ばれたりしますが、実際にフェロカクタスとエキノカクタスは近縁な仲間です。
何とはなしにフェロカクタスについてデータベースを漁っていたところ、Ferocactus acanthodesはFerocactus viridescensの異名とありました。おそらくですが、F. viridescensは「竜眼」のことですよね。しかし、F. acanthodesとは何者なんでしょうか。普通はF. cylindraceusを「鯱頭」と呼ぶわけですが、「鯱頭」をFerocactus acanthodesとしているサイトもあるようです。このF. acanthodesは命名が1922年のようです。引用された元の名前があり、1839年に命名されたEchinocactus acanthodesがあります。さて、ここで現在正式な学名とされるF. viridescensの命名年はと言うと1922年でした。これは、F. acanthodesと同じですが、共に命名者であるBritton & RoseがEchinocactusからFerocactusに移動させたからです。しかし、F. viridescensの由来となった引用元の学名は、1840年に命名されたEchinocactus viridescensです。おやおや、何やらおかしいのではないでしょうか? 命名年は早い方が優先されますから、命名年が早いE. acanthodesを引用したF. acanthodesが正しい学名ではないのでしょうか? そうなっていない以上は、何かがあったと言うことでしょう。調べてみました。結果として出てきたのは、Wendy Hodgsonらの2011の論文、『Proposal to reject the name Echinocactus acanthodes (Cactaceae)』です。何が問題だったのでしょう。

230824212010390~2
Ferocactus viridescens
Echinocactus orcuttii Englem. ex Orcuttとして記載

「The West-American scientist」(1886年)より

事の起こり
Echinocactus acanthodes Lem.は、ガーデナーであるJames CourantがLemaireに贈った乾燥標本に基づいています。採取は「カリフォルニア」とありますが、カリフォルニア州なのかバハ・カリフォルニアのことなのかは分かりません。
1898年にWeberはカリフォルニア南東部とバハ・カリフォルニア北部、ネバダ州南部の内陸種に、以前から知られていたEchinocactus cylindraceusを当てました。Weberは「1846年にMonvilleで開花しました。Celsに保管されている乾燥標本を見ましたが、Engelmannが1852年にE. cylindraceusとして記述したものと完全に同一です」と述べました。

Taylorの議論
Taylor(1979年)は、WeberのMonvilleのコレクションと標本の比較に対して、Monville標本がCourantによりLemaireに贈られた乾燥標本と同種であると信じる理由はないと言う説得力のある議論を提示しました。南カリフォルニアの乾燥した砂漠の山岳地帯の内陸部で標本を収集することは、Courantの標本の1830年代でも、Monvilleの標本の1840年代でも困難だったはずです。Taylorは、むしろCourantの標本は未知の収集家により太平洋岸で入手したもので、F. viridescens、F. fordii、F. chrysacanthusなどのフェロカクタスの沿岸種の1つを示しているのではないかと言います。さらに、Monvilleの収集家が内陸部を旅したとしても、Courantのサボテンと同じ起源であるという証拠はないことを指摘しました。よってTaylorは、E. acanthodesと言う名前が、1979年にF. acanthodesとされたサボテンに適応された可能性は低いと結論付けました。従ってTaylorは、E. acanthodesは曖昧な名前とみなすことを提案しました。しかし、F. acanthodesの名前の使用は継続され、1982年にこの名前を取り上げたLyman Bensonに強く影響されたに違いありません。

名前を拒否する提案
アメリカの系統学的文献では、F. cylindraceusの使用はBensonがTaylorを取り上げたにも関わらず、徐々にF. acanthodesから移行しました。多くの著者は、E. acanthodesが「reject」されたと言う見解を維持し続けました。しかし、E. acanthodesを拒否する正式な提案はされていません。
「Intermountain Flora」の最終巻のサボテン科について検討された時に、この問題が再浮上しました。Lemaireの曖昧な決定とTaylorの議論を踏まえると、E. acanthodesをネオタイプ化(※)するか、名前を拒否する必要があります。F. cylindraceusが1979年以来、系統学的、園芸的、民族植物学的、さらには一般的な文献で使用されています。ICBN第56条に基づく却下が最善であると思われるため、この提案を検討のために提出します。この提案が受け入れられない場合、E. acanthodesはネオタイプ化する必要が生じます。また、F. cylindraceusの継続的な使用に影響を与えない可能性は高いが、沿岸部のフェロカクタスの1種の命名に悪影響を与える可能性があります。それは、「acanthodes」の名前が常に内陸種に使用されてきたため、命名の安定性をさらに破壊する可能性があります。


(※) ネオタイプ : 最初に命名された時に指定された模式標本(ホロタイプ、シンタイプ、パラタイプ)が失われた時に、原記載をもとに新たに補充した標本。新基準標本。

以上が論文の簡単な要約です。
ややこしい話のようですが、要はE. acanthodesは実際は何だったのかよくわからないから、使わないようにしましょうというだけのことです。ただ、ちゃんと名前を廃棄しておかないと、Taylorの言うところではF. cylindraceus、F. fordii、F. chrysacanthusあたりのいずれかに相当する可能性があります。そうなると、著者によってはそれらと混同してしまう可能性も出てきます。その都度訂正するよりも、ちゃんと議論して正式に名前を廃棄しておいた方が、後の混乱のもとを断つという意味においては有効でしょう。
そう言えば、フェロカクタスやエキノカクタスは、現在ややごたついていますね。いわゆる金鯱(Echinocactus grusonii)がEchinocactusから独立し
Kroenleiniaになりましたが、後の論文では遺伝子解析により、金鯱はなんとFerocactusに入ることが分かりました。また、現在は綾波(Homalocephala texensis)はEchinocactusとなっていますが、やはり遺伝子解析の結果ではEchinocactusではないようです。これらの遺伝子解析の結果はまだ反映されておらず、データベースでは金鯱はKroenleiniaで、綾波はEchinocactusのままです。しかし、いずれ訂正されるのかも知れません。今は遺伝子解析が進行中ですから、過渡期と言えます。ある意味、ダイナミックに変動する面白い時期に我々は生きているのかも知れませんね。

ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

進化とは基本的には効率化する傾向があります。その特徴が有利にも不利にもならないならば、不要に思えるものも残りますが、そうでないならば有利な方向へ進化します。それは多肉植物も同じで、砂漠などの乾燥地に進出したものは、環境に最適化する傾向があります。乾燥地への適応において、サボテンとユーフォルビアは最も多様化したグループでしょう。サボテンとユーフォルビアが乾燥地に対して最も最適化されているとは限りませんが、水分を貯蔵するために多肉質となり、蒸散を最低限とするために葉を無くしたり夜間に二酸化炭素を吸収したり(CAM植物)と、共通する特徴があり収斂進化の教科書的なお手本のようです。
さて、ユーフォルビアは非常に小さく地味な花を咲かせますが、サボテンは割と大きく派手な花を咲かせます。花を作るにはサイズに見合ったコストがかかりますし、貴重な水分を浪費し花からの蒸散も起こります。一般論としては、乾燥地の植物ほどコストが高い大きな花は短命になることが予想されます。乾燥地に最適化した進化として、短命な花が選択されるのではないでしょうか?
前置きが長くなりましたが、本日はサボテンの花の開花寿命を調査した、Marbela Cuartas-Dominguezらの2022年の論文、『Large flowers can be short-lived: Insights from a high Andean cactus』をご紹介しましょう。著者らはチリ中部の標高2200mのアンデス山脈の乾燥地帯で、Eriosyce curvispinaを調査しました。


230824211908660~2
Eriosyce curvispina
Echinocactus horridus Guyとして記載
「Historia fisica y politica de Chile segun documentos adquiridos en esta republicada durante doce anos de residencia en ella y publicada bajo los auspicios del supremo gobierno」(1848年)より


まず、著者らは乾燥地の花の特性として、気温の上昇と、受粉が花の寿命に影響を与える可能性を考えました。あまり高温だと花からの水分喪失が多くなるため、開花は短い方が良いようにも思えます。しかし、実際には気温は花の寿命に関係はありませんでした。
次に受粉についてです。受粉した後も花を咲かせ続けるのは、如何にも非効率です。アルストロメリアなどいくつかの植物でこの受粉誘発性花の老化は確認されています。E. curvispinaは基本的に自家受粉しない自家不和合性ですから、他家受粉したら花を閉じればいいだけです。しかし、受粉も花の寿命には関係がないようです。サボテン科では受粉誘発性花は未確認で、Mammillaria glochidiataやM. grahamiiでもやはり受粉と花の寿命は関係がないことが確認されています。

Primack(1985)は大きな花は大量の資源が費やされているため、小さな花より長持ちするはずであると主張しました。実際に熱帯雨林に生えるラン科のPaphiopedilumでは、花の寿命は花の重量と相関がありました。しかし、水資源が乏しい乾燥地の植物は、水資源を消費するため花は短命であると予想されます。E. curvispinaは40枚以上の花弁花被片を持ち、調査地域で最も高い花の資源量があります。花が全開となった時間は約10時間でした。E. curvispinaが完全に開花した時間は、チリ中央アンデスの山地に自生する24種類の花で記録された平均花寿命4.2日よりも45%短くなっています。

以上が論文の簡単な要約です。
少し解説します。花と気温の関係を気にするのは、花が蒸散しやすいからかも知れません。サボテンは体表から水分が逃げないように表皮を厚くするなどの仕組みがありますが、花は薄くそのような仕組みがありませんから、水分は逃げやすくなります。気温が高ければ、花自体の水分はあっという間に失われ萎れてしまいますが、実際にはサボテン本体から水分が供給され続けるため簡単には萎れないのです。
次に花の寿命についてですが、あまり開花時間が短いと受粉に悪影響があるような気がします。自家受粉する花ならば問題にはなりませんが、E. curvispinaは他家受粉する花です。著者らはE. curvispinaの花を訪れる花粉媒介者を記録しました。複数種類のミツバチと大型のハチドリが訪れましたが、2種類のミツバチで98.9%の割合に達しました。E. curvispinaの1つの花あたりの花粉媒介者の訪問数は平均16回でした。非常に短い開花時間にも関わらず、結実率は62.2%と高いものでした。高コストの花を咲かせるのは、非常に目立ち花粉媒介者を呼び寄せるのに最適な花と言えます。コストを最小限とするために開花時間を短くして、短時間で受粉すると言う戦略なのでしょう。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

植物と昆虫は非常に複雑かつ密接な関係を結んでいます。蝶や蛾の幼虫は植物を食害しますが、成虫は受粉に重要な役目を果たしたりもします。植物との関係においては、蟻に勝る高度な関係性はあまりないかも知れません。ということで、本日の議題は植物と蟻の関係についてです。
蟻は植物を食害する昆虫を捕えたりするため、植物に対してポジティブに働くこともあります。中にはアリ植物という、蟻に住処やエサを与える植物も存在し、蟻は他の昆虫を積極的に攻撃します。しかし、アブラムシから蜜を得るために、蟻がアブラムシを保護してしまうこともあります。ちょうど、サボテンと蟻の関係性について調査した論文があったのでご紹介します。それは、Katherine E. LeVanらの2014年の論文、『Floral visitation by the Argentine ant reduces pollinator visitation and seed set in the coast barrel cactus, Ferocactus viridescens』です。


植物の蟻を利用する戦略として花外蜜腺があります。花以外に蜜腺を持つ植物は、蜜を求めて訪れる蟻により害虫などが排除されます。しかし、花外蜜腺に蟻が沢山集まれば、蟻が花に来てしまうかも知れません。蟻が花にいると花粉媒介者は蟻を嫌がり近づきません。この、蟻を巡る2つ出来事はトレード・オフの関係にあります。
南カリフォルニア沿岸に自生するFerocactus viridescensは花外蜜腺を持ちます。F. viridescensを訪れる在来種の蟻(Crematogaster californica)と、外来種で侵略性のアルゼンチンアリ(Linepithema humile)を比較しました。なお、1個体のサボテンには1種類の蟻が集まります。

230823223727446~2
(→)日の出丸の花外蜜腺

F. viridescensを最も多く訪れた花粉媒介者は、Diadasia属のミツバチでした。全体の60.4%を占めています。観察では、在来アリが占有するサボテンでは、アルゼンチンアリが占有するサボテンよりミツバチの訪問時間が62%長くなりました。さらに、アルゼンチンアリが集まるサボテンでは、果実の種子数は6〜33%減少しました。
F. viridescensはその受粉をミツバチ(Diadasia)に依存しており、アルゼンチンアリは受粉に悪影響を与えています。著者らはアルゼンチンアリが訪れたミツバチを攻撃することを観察しました。


以上が論文の簡単な要約です。
ここで言われていることは、サボテンと蟻が長い時間をかけて築いてきた共生関係を、外来種が撹乱しているということです。在来アリは花外蜜腺に引き寄せられても、受粉には影響を与えません。アリは花外蜜腺より蜜を得ることができ、サボテンはアリにより害虫を排除出来るのです。しかし、外来種であるアルゼンチンアリはサボテンとの付き合い方が分からないため、花外蜜腺だけではなく花も独占してしまいます。サボテンにとっては、害虫からは守られますが、受粉効率が低下してしまいます。アルゼンチンアリは数を増やしているということですから、将来的にはサボテンの花外蜜腺はアルゼンチンアリに占有されてしまい、サボテンは数を減らしていく可能性もあります。外来種が思わぬ影響を及ぼしかねないという実例が示された、非常に優れた論文でした。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

ナース植物(nurse plants)と言う言葉があります。砂漠などの乾燥地では、何も遮るものがない場所ではなく、他の植物の陰で実生や小型の植物は育つのではないかという考え方です。日陰を提供する植物を看護する植物=ナース植物と呼ぶ訳です。この、ナース植物と言う言葉自体は、いくつかの論文では主題ではありませんでしたが見かけていました。ですから、ナース植物について調べた論文を探してみました。と言う訳で、本日はそんなナース植物とサボテンの関係を調査した、Enrique Juradoらの2013年の論文、『Are nurse plants always necessary for succulent plants? Observation in northeastern Mexico, including endangered and threatened species』をご紹介します。

メキシコ北東部のTamaulipas州BurgosのTamaulipan thornscrub(米国南部とメキシコ北東部の砂漠と低木林からなる地域)で、4種類のサボテン、Ariocarpus retusus、Astrophytum asterias、Mammillaria heyderi、Sclerocactus scheeriと、リュウゼツラン科植物のManfreda longifloraを調査しました。さらに、細長い円筒形の枝を支えるために物理的にナース植物を必要としている可能性があるCylindropuntia leptocaulisと、ナース植物を必要としていないように見えるEchinocactus texensisも調査しました。
主な植生は、Cordia boissieri、Forestiera angustifolia、Guaiacum angustifolium、Bernardia myricaefolia、Karwainskia humboldtiana、Prosopis laevigata、Sideroxylon lanuginosum、Acasia farnesianaなどの低木が生えます。

結果として、ナース植物の下でより頻繁に見られたのはManfledaだけでした。EchinocactusとSclerocactusはナース植物の下以外でよく見られました。他のサボテンはナース植物の下でもそれ以外でも見られました。Manfledaは100個体のうちAcasia rigidulaの下に49個体、Cordia boissieriの下に48個体、残り3個体も他のナース植物の下で見つかりました。A. rigidulaは植生の5%、C. boissieriは14%を占めるに過ぎないため、Manfledaとの強い関係性を疑わせます。

さて、以上の結果からは、サボテンは必ずしもナース植物を必要としていないことが分かります。リュウゼツラン科のAgaveでは、ナース植物が非常に重要であることがすでに判明しています。ですから、Manfledaもまたナース植物を必要としています(※)。
しかし、DurangoのCanon de Fernandez州立公園における過去の調査ではProsopis(マメ科の樹木)の下で3種類のサボテンが生育していることが分かっています。州立公園の降水量は著者らの調査地の1/3でした。著者らはより厳しい環境において、ナース植物が有効に働くと考えました。このProsopisは一般的なナース植物ですが、著者らの調査地でも自生するにも限らず、ナース植物ではありませんでした。

(※) Manfledaは現在ではAgaveに吸収されました。つまり、Manfleda longiflora=Agave longiflora。


以上が論文の簡単な要約です。
一般的にナース植物は、遮光したり温度を低下させたり、土壌の水分の蒸発を緩やかにしたり、草食動物から保護します。この論文の場合は、砂漠の中では水分が多い環境であることから、ナース植物の役割は遮光かも知れません。しかし、サボテンはナース植物の保護がなくても問題はないようです。しかし、Manfledaはサボテンよりも多肉植物として高度化しておらず、より乾燥に敏感な様子が受け取れます。また、より乾燥が厳しい環境ではサボテンでもナース植物が必要なようです。そもそも、砂漠では実生が育てるほどの水分が、サボテンがある程度育って自立出来るまで続く環境ばかりではないことは、なんとなく分かります。また、柱サボテンや大型玉サボテンなどでは、育つにつれ小型のナース植物をやがて圧迫して枯らしてしまうかも知れません。その場合、ナース植物があったかどうかは分からないでしょう。このように、ナース植物の研究は、まだまだ発展途上なようです。他にも良い論文があればまたご紹介したいと思います。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Weberbauerocereusはペルーとボリビア原産の中型の柱サボテンです。なにやら、このWeberbauerocereusはHaageocereusの異名であるという意見もあるそうです。しかし、その意見に対して反対し、Weberbauerocereusの名前を保存する提案が提出されています。それは、Paul Hoxey & Nigel Taylorの2020年の論文、『Proposal to conserve the name Weberbauerocereus (Cactaceae) with a conserved type』です。一体、どのような経緯があるのでしょうか?

ただし、論文は基本情報を知っている前提で書かれているようで、説明がないので非常に分かりにくくなっています。私が情報を追加しつつ解説します。
Weberbauerocereus Backeb.は1942年にBackebergにより命名されました。その時にBackebergが記載した種が、Weberbauerocereus fascicularis (Meyen) Backeb.でした。 問題はここからです。
1980年にE. Ritterは、W. fascicularisの前身である、1833年に命名されたCereus fascicularis Meyen、あるいは1934年に命名されたCactus fascicularis (Meyen) Meyenについて、これはWeberbauerocereusではなくHaageocereusを指していたのではないかという指摘をしました。つまり、Haageocereus Backeb.は1933年の命名でありWeberbauerocereusより命名が早いため、Weberbauerocereusという属自体が無効となってしまいます。W. fascicularisも使えないということになります。
著者のうちHoxeyは2020年に、Meyenのペルーでの足取りを追い、Ritterと同じ結論に達しました。Cereus fascicularisとはHaageocereusを指しています。F. Ritterは1981年にCereus fascicularisをHaageocereus fascicularis (Meyen) F. Ritterと命名しました。ただ、Meyenの説明には混同が見られ、幼体のBrowningia candelaris (Meyen) Britton & Roseを含んでいるようです。
さて、
Cereus fascicularis Meyenをタイプとして利用することは出来ません。そのため、Weberbauerocereusを説明するためには使用出来なくなりました。しかし、Weberbauerocereus Backeb.は過去70年間に渡りサボテンに関する文献で一貫して使用されており、サボテン愛好家や植物園のラベルや植物標本のデータベース、サボテン業者のカタログなどでも使われて来ました。もし、Weberbauerocereusが保存されない場合、新しい名前をつける必要があります。

以上が論文の簡単な要約です。
しかし、相当に噛み砕いて情報を加味しましたが、それでも分かりにくい内容です。簡単にまとめると、Weberbauerocereusは始めて命名された時にHaageocereusをタイプ標本として説明してしまったため正当性がなくなり、Haageocereusの異名となってしまう可能性があったということです。そこで、著者らはWeberbauero属をこのまま存続させて使用することを提案しているのです。現在では、Weberbauerocereusは著者らの提案通り存続しており、Haageocereusとは別属として独立しています。

さらに情報を追加すると、Weberbauerocereusの新しいタイプは、1956年(publ. 1957)に命名されたWeberbauerocereus weberbaueri (K. Schum. ex Vaupel) Backeb.です。これは、1913年に命名されたCereus weberbaueri K. Schum. ex Vaupelから来ているようです。1987年にはHaageocereus weberbaueri (K. Schum. ex Vaupel) D. R. Huntも命名されていますが、認められておりません。ちなみに、1879年にはCereus fascicularis K. Schum.という命名もありましたが、これはMeyenの命名したC. fascicularisと同名なため除外された学名です。

最後に現在認められているWeberbauerocereus属8種類と、Weberbauerocereus属の名前がつけられたことがある異名を記して終わります。

Weberbauerocereus Backeb.
①W. albus
②W. cephalomacrostibas
③W. churinensis
④W. cuzcoensis
⑤W. madidiensis
⑥W. rauhii
⑦W. weberbaueri
⑧W. winterianus

異名(→現在の学名)
①W. fascicularis
 →Haageocereus fascicularis
②W. horridispinus
    →W. weberbaueri
③W. johnsonii
    →W. winterianus
④W. longicomus
 →W. albus
⑤W. seyboldianus
 →W. weberbaueri
⑥W. torataensis
 →W. weberbaueri


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

厳しい環境に暮らすサボテンと言えども、その繁殖のためには花を咲かせ、昆虫などの花粉媒介者を呼び寄せ種子を作る必要があります。受粉と花粉媒介者の関係について、このブログでは度々記事にしています。例えば、カップ型の白い花を咲かせる柱サボテンはコウモリにより受粉するコウモリ媒花が多く、小型の花を咲かせるFerocactusはサボテンミツバチによる受粉、夜間に開花するLophocereus scottiiは蛾媒花、管状の赤い花を咲かせるOreocereus、Cleistocactus、Matucana、Denmozaなどはハチドリにより受粉する鳥媒花だったりと、サボテンは花粉媒介者も多様です。
私は個人的に受粉生物学には多大な興味があります。サボテンの種類により様々ですから、なるべく沢山の種類について知りたいところです。とはいえ、すべてのサボテンでこのような研究がなされている訳ではありませんが、少しずつ学んで行ければと考えましたおります。
と言う訳で、調べていたら鸞鳳玉(Astrophytum myriostigma)の受粉について調査した論文が見つかりました。それは、Cristian A. Martinez-Adrianoらによる2015年の論文、『Floral visitor of Astrophytum myriostigma in La Sierra El Sarnoso, Durango, Mexico』です。早速、内容を見ていきましょう。

花への訪問者の構成と豊富さは、受粉システムの理解や生態学的にも重要です。効果的な花粉媒介者の特定は希少種の保全にとっても価値が高い研究です。サボテンの多くは自家受粉しない自家不和合性です。しかし、花を訪れる動物の全てが効率的な花粉媒介者であるとは限りません。
著者らはメキシコのDurango州、Sierra El Sarnosoにおいて、鸞鳳玉の花に来た昆虫を撮影し、どのような種類が花のどこに触れたかを記録しました。この時、花の外側に来た昆虫はカウントはされましたが、花粉媒介者とは見なされません。重要なのは、蜜が目的の採蜜者、花粉を食べる採餌者、雄しべに触れた者、花の内側に来た者です。
鸞鳳玉の花に最も多く来た昆虫は、Anamboderia属の甲虫でした。タマムシの仲間のようです。花を訪れた昆虫165匹中122匹と圧倒的な数です。そのうち112匹は花粉と蜜を食べ、6匹は蜜だけを食べました。次に多いのがミツバチの仲間で21匹です。ミツバチはDiadasia olivaceaが16匹、Ancyloscelis apiformisが3匹、Augochloropsis metallicaが2匹でしたが、すべて採蜜者でした。他にもPhaedrotettixと言うトゲバッタが19匹も訪れましたが、どうやら花そのものを食べに来たようです。また、2種類のハエも計3匹来ましたが、受粉に関与していないようです。
著者らはDiadasiaと言うミツバチが鸞鳳玉の主たる花粉媒介者であると考えているようです。一般的にDiadasiaの中にはサボテンミツバチと呼ばれる種類もおり、サボテンをよく訪れるミツバチです。ちなみに、サボテンミツバチ(Diadasia rinconis)は兜丸(Astrophytum astesias)の主要な花粉媒介者とされています。


以上が論文の簡単な要約です。
論文では訪花昆虫の行動別に重要度を分けています。著者らはミツバチの採蜜行動を評価しているようです。しかし、一般的に花粉媒介者を調べる時は、受粉したかを確認することが普通です。それは昆虫と鳥、昆虫とコウモリなどネットなどを用いサイズで花を訪れることが出来ないようにしたりして、受粉率を比較します。ただ、今回はサイズで分けることが出来ません。実験室でそれぞれの昆虫を鸞鳳玉の花と同じケージなどに入れ、花を訪れた後に柱頭についた花粉を数えるなどの確認が必要かも知れませんね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

我々趣味家にとって、サボテンは育てるものであり、ある意味では観葉植物と言えます。しかし、世界では観賞用だけではなく、様々な用途に利用しています。例えば、ウチワサボテンを家畜の餌にしたり、色素をとるためにコチニールカイガラムシを育てたりします。また、ドラゴンフルーツの実は日本でも販売していることがあり、食べたことがある人もいるでしょう。しかし、それらのほとんどは近代以降のグローバル化が進んだ後の話で、まだ文化と呼べるものではないでしょう。考えてみれば、サボテンの自生地には大昔から人が暮らしており、身近な植物を利用して来ました。当然ながらサボテンも活用してきたはずです。簡潔にまとめられた論文を見つけましたので、ご紹介します。それは、Kamila Marques Pedrosaらの2018年の論文、『Traditional Techniques for the Management of Cactaceae in the Americas: The Relationship between Use and Conservation』です。

サボテンは季節的な干ばつの間に、人間の食糧、家畜の飼料、および薬として、管理の下で使用されます。サボテンは長い干ばつ期間中に人間が利用可能な数少ない水源の1つです。例えば、ブラジル北東部の内陸部にあるCaatingaサボテンの種類と個体数が最も豊富で、19属62種類が確認されています。Pilosocereus pachycladusやCereus jamacaru、Pilosocereus gounelleiは地元の人々に最も利用されているサボテンです。ブラジルの半乾燥地域の農村は家畜の飼育を主な生活手段としています。年間を通じて牧草が手に入らないので、サボテンが家畜の飼料として利用されています。

Tehuacan-Cuicatlan渓谷では、1400年前の柱サボテンの食糧としての記録があります。さらに、幻覚作用のあるメスカリンを含むPeyote(Lophophora williamsii)やSan Pedroサボテン(Trichocereus pachanoi)は非常に古くから儀式に使用されてきました。San Pedroサボテンは3000年以上に渡りアンデス山脈で宗教的な占いなどに使用されており、初期のChavin文化(紀元前900年頃)には驚くほどリアルなサボテンの絵が残されています。

サボテンのいくつかの種は伝統的に使用され、挿し木により維持できる種類が選択され、管理を受けている可能性があります。好ましい特性を意図的に選択することは、選抜されて野生型とは異なる姿になっているかも知れません。このように、地元住民が望む果実の大きさや甘さ、肉質などは選抜され、有用ではないサボテンは排除されてきたようです。
サボテンの管理は、目的の個体を保護し害虫などを排除し、有用なサボテンが拡大します。また、肥料や剪定などにより、個体数の増加を促進します。種子の播種や移植も行われています。


ブラジルでは、地域の経済や文化におけるサボテンの重要性から、サボテンの管理に関する研究が行われています。伝統的な管理技術が遺伝的変異とどう関係するのか、あるいはCereus jamacaruの栽培植物としての側面を理解しようとしています。C. jamacaruはブラジル半乾燥地域の地元住民により集中的に使用されるサボテンです。しかし、現在のサボテンの乱獲と、再生プロセスの欠如が環境問題を引き起こし、個体数の減少につながる可能性があることが指摘されています。

以上が論文の簡単な要約です。
意外と実例が少なく総論的な内容でした。しかし、論文にある伝統的なサボテン管理は重要な概念かも知れません。なぜなら、資源を管理し維持出来ると言うことは、再生可能ということだからです。人口が増えて人が外部から流入するようになると、伝統的な管理による資源では足りなくなり、焼畑や伐採による牧場化が行われ、やがて伝統的な管理方法は衰退し忘れ去られていきます。ところが、これらの開発では再生力がないため、次々と新しい土地を開拓し続ける必要があります。当然ながらそこには絶滅危惧種の希少なサボテンも沢山自生していますから、大変な脅威と言えるでしょう。ですから、人口規模を考慮した伝統的な管理方法が求められるのです。伝統的な管理方法ではすぐに規模を急拡大出来ないため、人口の爆発的な増加には適応は難しかったのでしょう。しかし、計画的に時間をかければ準備は可能なはずです。サボテンの未来のためにも、このような研究が発展することを望みます。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村  

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

1753年にCarl von LinneがサボテンをCactus属と命名した時には、すでにヨーロッパでもサボテンが栽培されていました。それから、沢山のサボテンが命名されてきましたが、未だに新種のサボテンが見つかっています。最近見つかったサボテンはなんだろうかと思って、少し調べてみました。と言っても、すべての新種を調べた訳ではなく、検索してすぐに出てきたものだけです。しかし、それでも2010年以降に限っても、それなりの種類は見つかりました。主に論文のAbstractだけをサラッと読んだだけですから、あまり詳しい内容は分かりません。ですから、簡単に見ていきましょう。

2012年
アルゼンチンのブエノスアイレス州からウチワサボテンの新種、Opuntia ventanensisが記載されました。しかし、現在ではOpuntia fragilisの異名とされています。

2013年
・ペルー南部からボルジカクタスの新種、Borzicactus hoxeyiが記載されました。しかし、2014年にLoxanthocereus属になり、Loxanthocereus hoxeyiとなりました。

2014年
・ペルー北部からエスポストアの新種、Espostoa cremnophilaが記載されました。
・メキシコのオアハカ州からウェベロケレウスの新種、
Weberocereus alliodorusが記載されました。
・メキシコのタマウリパス州からマミラリアの新種、
Mammillaria huntianaが記載されました。しかし、現在ではM. roseoalbaの異名とされています。

2015年
・アルゼンチンのコルドバ州からギムノカリキウムの新種、Gymnocalycium campestreが記載されました。
・メキシコ中央部でツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus heliaeが記載されました。 しかし、2021年にKadenicarpus属になり、Kadenicarpus heliaeとされています。

2017年
・エルサルバドルでディソカクタスの新種、Disocactus salvadorensisが記載されました。
・メキシコのCoahuila州からウチワサボテンの新種、
Corynopuntia deinacanthaCorynopuntia halophilaが記載されました。しかし、2018年に2種類ともGrusonia属になり、Grusonia deinacanthaGrusonia halophilaとされています。実は、Corynopuntia属は消滅し、すべてGrusonia属となっています。

2018年
・メソアメリカ地域からデアミアの新種、Deamia montalvoaeが記載されました。
・メキシコのオアハカ州からテロカクタスの新種、
Thelocactus tepelmemensisが記載されました。

2019年
・メキシコ南部からケファロケレウスの新種、Cephalocereus parvispinusが記載されました。
・メキシコのヌエボレオン州からツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus boedekerianusが記載されました。

2020年
・ペルーからリマンベンソニアの新種、Lymanbensonia choquequiraensisが記載されました。
・メキシコのハリスコ州からアカントケレウスの新種、
Acanthocereus paradoxusが記載されました。
・メキシコのシナロアからコケミエアの新種、
Cochemiea thomasiiが記載されました。
・メキシコからマミラリアの新種、
Mammillaria breviplumosaが記載されました。しかし、現在ではM. sanchez-mejoradae subsp. breviplumosaの異名とされています。
・分類が曖昧だったEchinocereus pulchellus複合体が整理され、
Echinocereus acanthosetusEchinocereus sharpiiが新種として分離されました。

2021年
・メキシコのハリスコ州南部からアカントケレウスの新種、Acanthocereus atropurpureusが記載されました。
・メキシコのバハ・カリフォルニア半島からウチワサボテンの新種、Opuntia sierralagunensisOpuntia caboensisが記載されました。
・ドミニカ共和国やハイチに自生するPilosocereusはP. polygonusとされてきましたが、新種のPilosocereus brevispinusPilosocereus excelsusPilosocereus samanensisに分解されました。

2022年
・ニカラグアからデアミアの新種、Deamia funisが記載されました。
・メキシコのサン・ルイス・ポトシ州からマミラリアの新種、Mammillaria morentinianaが説明されました。しかし、キュー王立植物園のデータベースにはまだ記載がありません。新種であるか否か、正式に審査されるのはこれからのようです。
・分類が曖昧だったMammillaria fittkaui複合体を分析し、ハリスコ州原産のMammillaria arreolaeを新種として説明しました。しかし、こちらもまだキュー王立植物園に記載はありません。

2023年
2023年に記載された新種は、まだキュー王立植物園のデータベースには記載がありません。
・ペルーからウチワサボテンの新種、Cumulopuntia mollispinaが説明されました。
・ブラジルからパロディアの新種、Parodia flavaが説明されました。
・ブラジルのリオグランデ・ド・スル州西部からパロディアの新種、Parodia hofackerianaが説明されました。

以上が調べた限りの最近の新種です。しかし、よく考えたら新種が書かれたサイトとかありそうですね。海外ではそういうデータを集めたようなサイトも多いですし。まあ、でも論文から直に名前を抽出して、データベースと照合して、自分で確かめた内容ですから、勉強になったと思うことにしました。今年に発表された種は、これから検証されて、将来的に正式にデータベースに記載されていく可能性があります。せっかく調べたのですから、これからは注視していきたいですね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンに限らず生物は突然変異をおこして、場合によっては姿が大きく変化します。しかし、もとより環境に適応した姿が変わってしまうため、あるべき特徴がない場合、環境適応が出来ない一過性の突然変異であることが多いように思われます。死亡率がノーマルタイプより高いため子孫には広がっていかず、普通は消滅してしまいます。動物なら目立ってしまい、捕食率が高くなってしまうアルビノが有名です。サボテンでもトゲがなかったりする変異はたまにあり、園芸的には珍重されます。なにか良い論文はないか調べたところ、Richard R. Montanucci & Klaus-Peter Kleszewskiの2020年の論文、『A TAXONOMIC EVALUATION OF ASTROPHYTUM MYRIOSTIGMA VAR. NUDUM (CACTACEAE)』を見つけました。鸞鳳玉の白点がないタイプを調査した論文です。
鸞鳳玉(Astrophytum myriostigma)は、メキシコ原産の白点に覆われた美しいサボテンです。しかし、自生する鸞鳳玉の中にも、白点があまりないか、あるいはまったくないタイプも存在すると言います。サボテン図鑑では、Astrophytum myriostigma "nuda"などと表記されますが、一体どのような存在なのでしょうか? 

鸞鳳玉の分類
その前に、鸞鳳玉の現在の分類について軽く触れておきます。鸞鳳玉の学名は、1839年に命名されたAstrophytum myriostigma Lem.です。亜種はsubsp. myriostigmaと、1932年に命名されたsubsp. quadricostatum (H. Moeller) K. Kayserの2つだけが認められています。var. strongylogonumが有名ですが、命名者のBackebergはタイプ標本を指定しなかったため、現在ではA. myriostigma subsp. myriostigmaの異名とされています。というより、Backebergの説明は我々がイメージする丸みを帯びたタイプとは異なるため、そもそも別のものを指しているのかも知れません。また、var. potosinum、あるいはsubsp. potosinumはsubsp. myriostigmaの異名に、var. tamaulipense、あるいはsubsp. tamaulipenseはsubsp. quadricostatumの異名とされています。白点がないタイプは1925年にvar. nudumとされましたが、現在では認められておりません。ちなみに、var. coahuilense、あるいはsubsp. coahuilenseは、Astrophytum coahuilenseとして独立種となりました。

2つの"nuda"タイプ
白点がないヌード植物は、メキシコの中央高原とJaumave渓谷北部で発生します。Hoockの1993年のSan Luis Potosiでの観察では、ヌード植物とまばらに白点があるセミヌード植物は互いに近接して育っていました。ヌード植物とセミヌード植物は、低木の陰になる場所に優先的に自生していました。さらに、著者らによる2019年のJaumave渓谷北部の観察では、やはり同様の環境が見られ、逆に白点のあるタイプは完全に太陽光にさらされていました。
中央高原とJaumave渓谷では遺伝的交流はなく、まったく個別にヌードタイプが発生したと考えられます。中央高原の鸞鳳玉はsubsp. myriostigmaで、Jaumave渓谷の鸞鳳玉はsubsp. quadricostatumと推定されています。

標高が上がるとよりヌードに
2004年のHoock & Kleszewskiの観察によると、ヌード植物の集団は、標高1700m以上の高地でのみ発生すると言います。しかも、標高が上がるにつれヌード植物が増加する傾向が見られました。また、太陽光を浴びる場所に生えたヌード植物は、しばしば淡い黄色で部分的に赤味を帯びていました。著者らはアントシアニンによるものと考えましたが、アントシアニンはサボテンには存在しません。サボテンの作る赤色の色素はベタシアニンです。

ヌード植物は日照に弱い
光合成色素のクロロフィルは過度な太陽光線により変性しやすく、ヌード植物の色はクロロフィル変性によるストレスにさらされていることが分かります。鸞鳳玉の白点は日照を和らげる働きがあり、白点がないヌード植物はアガヴェなどの陰で育ちます。また、完全な日照にさらされたまだ小さなヌード植物は、今後の生長は難しいと見られました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
他にも論点はありましたが、はっきりしない感じがあり割愛させていただきました。さて、どうやら、いわゆる"nuda"タイプの鸞鳳玉は、亜種と言えるほど独立してはいないようです。過去に観察されたvar. nudumアレオーレが赤味を帯びるだとか言われていました。しかし、自生地のヌード植物を観察すると、アレオーレが赤味があるものも灰色のものもあり、ヌード植物特有の共通した特徴とは言えないようです。
しかし、鸞鳳玉の白点の効果を考えれば、ヌード植物は通常の日照では枯れてしまうはずです。ですから、ヌード植物は偶発的に発生してもやがて消滅するはずですが、意外にも他の植物の陰で上手く生き残っているところが非常に面白いですね。サボテンも思いの外、強かに環境に適応しているのです。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

2日続けて烏羽玉ネタで記事を書きましたが、何と今日も烏羽玉ネタです。本日は烏羽玉の学名である、Lophophora williamsiiに関するお話しです。本日、ご紹介するのはAnton Hoferの2021年の論文、『Proposal to conserve the name Echinocactus williamsii Lem. ex Salm-Dyck (Lophophora williamsii) against E. williamsianum Lem. (Cactaceae)』です。
論文はほぼ解説はないため、最初に簡単に烏羽玉の学名についてお話しします。烏羽玉の学名は、1894年に命名されたLophophora williamsii (Lem. ex Salm-Dyck) J. M. Coult.ですが、初めて命名された時はEchinocactusでした。と言うより、L. williamsiiが命名された時にLophophora属が誕生したのです。現在の学名の元になったのは、1845年に命名されたEchinocactus williamsii Lem. ex Salm-Dyckです。学名は「属名+種小名」が基本ですが、その後に命名者(正式に記載した人)がついたほうが正式な形です。この場合、Lem.とかSalm-Dyckは命名者の略された名前です。Lem.はLemaireのことですが、E. williamsiiは始めLemaireが命名したものの、内容に不足があったのかSalm-DyckがLemaireを引用して詳しく説明したので、Lem. ex Salm-Dyckとなったのでしょう。最終的には、J. M. CoultがE. williamsiiをLophophora属としたため、Lophophora williamsii (Lem. ex Salm-Dyck) J. M. Coultとなったのです。属名が変わると引用される前の学名の命名者を( )で表します。前置きが長くなりましたが、内容を見てみましょう。


Prince Joseph Salm-Reifferscheidt-Dyckは、1845年にEchinocactus williamsiiについて説明しました。Salm-Dyckはフランスのサボテン業者と非常に良好な関係を築いており、Freres Cels社からE. williamsiiを購入したようです。Celsによる種の説明がない場合、Salm-Dyckはラテン語とドイツ語の完全な説明でE. williamsiiを有効に公開しました。1894年にJohn M. CoulterはEchinocactus williamsii Lem. ex Salm-Dyckをオリジナルとして引用し、Lophophora J. M. Coultを樹立しました。この学名は科学者やアマチュアまで、世界中で受け入れられています。Lophophoraにはアルカロイドを含むため、Lophophora williamsiiの名前は世界中の薬物法に記載されています。

しかし、Salm-Dyckの命名の2年前にEchinocactus williamsianum Lem.が1843年に公表されています。しかし、後のLemaireはSalm-Dyckの公開したE. williamsiiを使用しています。E. williamsianumの名前は170年に渡り見過ごされてきており、キュー王立植物園のデータベースにも記載がありません(2021年当時)。
ここでは、Echinocactus williamsii Lem. ex Salm-Dyckを、国際命名規約のArt14.2に従い、Echinocactus williamsianum Lem.に対して保存することを提案します。提案が受け入れられない時は、一般的に流通した名前を、これまで知られていなかった名前に変える必要があり、世界中の薬物法の記載された名前も変えなくてはなりません。

以上が論文の簡単な要約です。
少し分かりにくい話ですが、命名が早い名前が優先されると言う「先取権の原理」に関する話です。内容は知られていなかったE. williamsianumと言う学名が存在していたため、E. williamsiiが廃棄されてしまうのを防ごうと言う提案でした。まだLophophoraではなくEchinocactusとなっていますから、現在の学名には関係がないように思われるかも知れませんが、実は関係があるのです。なぜなら、属名を変更する場合、どの学名を変更するのかを明らかにするために、旧・学名と記載年などを引用する必要があるからです。E. williamsiiが廃棄されてしまうと、E. williamsiiを引用して命名されたL. williamsiiも自動的に廃棄されてしまうのです。ですから、著者はまったく使用されてこなかった、と言うか知られてすらいなかった名前は廃棄して、今まで使用されてきた名前を保存しましょうと提案したのです。我々趣味家もこの提案には賛成でしょう。やはり、私も親しみのある名前が良いような気がします。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

昨日は日本で入手した烏羽玉(Lophophora williamsii)の遺伝子と幻覚成分を分析した論文をご紹介しました。本日は烏羽玉の原産地における、烏羽玉と兜丸との意外な逸話をご紹介します。それは、Martin Terryらの2007年の論文、『A Tale of Two Cacti-The Complex Relationship between Peyote (Lophophora williamsii) and Endangered Star Cactus (Astrophytum asterias).』です。

兜丸は絶滅危惧種
一般に兜丸(Astrophytum asterias)はStar cactusと呼ばれ、米国テキサス州南部やメキシコのタマウリパス州に固有の絶滅危惧種のサボテンで、テキサス州では3つの個体群で4000個体未満しか自生していません。兜丸はコレクターに大変な人気があり、個体数が少なく採取の脅威が高いことから、米国では1993年に絶滅危惧種とされています。また、CITESの附属書Iに記載されており国際取引は禁止されています。しかし、種子から容易に育てられるにも関わらず、野生植物の採取が行われています。
さて、烏羽玉(Lophophora williamsii)と希少な兜丸の分布はテキサス州南部のリオグランデ川下流域とタマウリパス州北部で重複します。このことが、思わぬ問題を引き起こしていると言うのです。

ペヨーテの利用
烏羽玉は原産地ではペヨーテと呼ばれていますが、一般的にペヨーテは麻薬取締局およびテキサス州公安局により規制されています。しかし、ペヨーテ信仰を持つアメリカ先住民教会(NAC)に対してはその利用を許可しており、認可された業者のみがペヨーテを扱うことができます。伝統的なペヨーテの採取方法は、地際から切断し根を残します。このことにより、地上部分が復活する可能性があります。

兜丸の混入
認可された業者は事業所のペヨーテ・ガーデンでペヨーテを栽培していますが、どういう訳か兜丸も混じっており、ペヨーテを購入した客にお土産として配られています。客は兜丸を栽培しますが、採取時に根が痛むことからいずれ枯れてしまいます。認可業者が兜丸を積極的に集めることはなく、地元の人たちが採取したペヨーテを買い取りますが、その時に混入するようです。1年に採取されるペヨーテが200万個体とされていますが、もしそのうちの0.1%が混入した兜丸だった場合、年間2000個体の兜丸が失われることになります。非常に個体数を減らしている兜丸には大変なダメージです。

以上が論文の簡単な要約です。
栽培される兜丸は烏羽玉にあまり似ていませんが、野生個体は少し似ている場合もあるようです。自生地の烏羽玉や兜丸は地面に半分埋まっており、頭だけが見えていたりします。また、栽培される兜丸は園芸的に選抜されていますが、野生の兜丸は白点も少なく土埃で汚れており、一見して見間違います。論文に示された自生地の写真では中々見分け辛い場合もあることが分かります。採取時にはわかりそうなものですが、いちいち仕分けたりはしないのでしょう。
さて、このように意外なことで兜丸が、ある意味とばっちりを受けてしまっていることが分かりました。しかし、宗教的儀式が関係し、しかも混入が原因ですから、これは中々解決が難しい問題かも知れません。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

烏羽玉(Lophopiora williamsii)はトゲがなく、何やらモチモチしている柔らかいサボテンで、様々な姿をとるサボテンの中でもかなり変わった部類でしょう。特筆すべきは、烏羽玉には幻覚作用のあるメスカリンと言う物質が含まれており、大昔から呪術師に使われて来たと言うことです。現地ではペヨーテと呼ばれています。しかし、この幻覚作用は日本で栽培されているものには、ほとんど含まれていないと言われています。原産地の烏羽玉は生長に時間がかかり、見た目よりも長く生きているため、メスカリンを沢山蓄積しているのだなどと言われたりしますが、本当かどうかは分かりません。ただ、鉢栽培した烏羽玉はただひたすらに苦いだけだそうです。そのためか、日本では法律で規制されておりません。そこら辺の事情を知りたかったのですが、中々見当たらないので、代わりに烏羽玉に関する面白そうな論文を見つけました。それは、Masako Araganeらの2011年の論文、『Peyote identification on the basis of differences in morphology, mescaline content, and trnL/trnF sequence between Lophophora williamsii and L. diffusa』です。日本発の論文です。
内容に入る前に、現在のLophophoraの分類を見てみましょう。キュー王立植物園のデータベースによると、現在認められているLophophoraは4種類あり、変種や亜種は認められておりません。1つ目は、1894年に命名されたL. williamsiiです。日本では烏羽玉と呼ばれ、タイプによって大型烏羽玉や仔吹き烏羽玉が園芸上では区別されています。また、銀冠玉はL. williamsii var. decipiensとする人もいるようです。L. decipiensと書かれたサイトもありましたが、おそらくは学術的に記載された学名ではないと思います。いずれにせよ、
現在ではL. williamsiiと同種とされています。2つ目は1967年に命名されたL. diffusa、翠冠玉と呼ばれています。3つ目は1975年に命名されたL. fricii、最後は2008年に命名されたL. alberto-vojtechiiです。ちなみに、現在はL. friciiを銀冠玉としているようです。ただし、この論文ではLophophoraは、L. williamsiiとL. diffusaの2種類があると言う立場のようです。CITESなどの情報からそう判断したようですが、2011年当時は4種類とも命名されていましたが、命名されただけでまだ認められていなかったのかも知れません。

L. williamsiiはメスカリンを含み、L. diffusaは含まないという報告があります。L. williamsiiは原産地ではペヨーテと呼ばれ、伝統医学や宗教的儀式で広く使用されます。著者らは日本国内ではL. williamsiiが規制されていないため、規制する必要があると言います。その場合、メスカリンを含有したL. williamsiiを確実に見分けられなければなりません。そのため、著者らは日本国内で入手したL. williamsiiおよびL. diffusaの遺伝子とメスカリン濃度を測定しました。

結果として過去の報告通り、調べた4個体のL. diffusaからはメスカリンは検出されませんでした。対して10個体のL. williamsiiからは22.2〜48.3mg/gのメスカリンが検出されました。また、大型烏羽玉と呼ばれる2個体からも12.7mg/gと35.4mg/gのメスカリンを、1個体の仔吹き烏羽玉からも25.0mg/gのメスカリンを検出しました。さて、問題はかつて銀冠玉と呼ばれたタイプで、何とメスカリンは検出されませんでした。メスカリン以外の特徴も見てみましょう。
花色は烏羽玉と大型烏羽玉はパールピンク、銀冠玉はピンクか深いピンク、L. diffusaは白花です。電子顕微鏡で表面の構造を見た場合、表面の微小突起が烏羽玉と大型烏羽玉、仔吹き烏羽玉は小さく、銀冠玉は大きく、L. diffusaは中間くらいでした。遺伝子のタイプは4つに分かれており、烏羽玉はAタイプ、大型烏羽玉はAタイプおよびBタイプ、仔吹き烏羽玉はAタイプ、銀冠玉はCタイプ、L. diffusaはDタイプでした。

以上が論文の簡単な要約となります。
しかし、その特徴を見ると、かつて烏羽玉と呼ばれていた種は2つに分離出来ます。このメスカリンを含まないタイプは要するにE. friciiにあたる種類のことなのでしょう。様々な特徴が異なるため、別種とするのが妥当と言えます。
しかし、この論文では栽培された烏羽玉からもメスカリンは検出されています。すべてが現地球とも思えませんから、栽培品でも幻覚成分は含まれていることが分かります。まあ、それが麻薬として使用できる濃度のメスカリンが含まれているかは別問題でしょう。この検出量が多いのか少ないのか分かりませんが、あるいは問題にならない量かも知れません。いずれにせよ、日本にはペヨーテの利用方法に関する知識や習慣が皆無なので、安くもない烏羽玉を齧ろうとする人はいないとは思いますけどね。まあ、日本の烏羽玉は殺ダニ剤をタップリ吸っているでしょうから、違う意味で食べるのは危険な感じがします。
始めに書きましたが、栽培個体と野生個体でメスカリン含有量が異なるのか興味があり、無駄にアレコレと烏羽玉を調べてしまったので、ネタはもう少しだけあります。せっかくですから明日も烏羽玉の記事を書く予定です。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

サボテンや多肉植物を沢山育てていると温室が欲しくなります。しかし、真夏の温室は地獄のような暑さになってしまいます。あまりにも暑いとサボテンですら生理障害がおきると言われますが、実際のところはどうなんでしょうか? 言われているのは野生のサボテンなので、熱波やら強烈な日照やら干ばつやらもあるわけで、気温上昇だけが原因ではないような気もします。中々そこら辺の良い論文はまだ見つかっていませんが、代わりに熱々になった蒸し風呂のような温室で、サボテンへの影響を研究した日本人による論文を見つけました。本日は、そのToshihide NAGANOらの1980年の論文、『Temperacture of Cacpi Grown in the Cactus-house in Aichi Prefecture』をご紹介します。

温度は植物にとっても重要で、分布を制限する要因です。光合成や様々な酵素活性、原形質流動などのいくつかの生理学的プロセスは42〜45℃を超える温度では分解し始めるため、高等植物はこれより低い温度で生存します。強い日照ストレスを受けた植物の葉は外気温より温度が高くなります。例えば、葉の温度がモーリタニアのPhoenix dactyliferaで53.3℃、スペインのLonicera implexaで47.7℃、米国のOpuntia sp.で45.0℃、ブラジルはCaatingaのOpuntia inamoenaで45.0℃、広島のLiliodendron tulipiferia(ユリノキ)で50.4℃が測定されています。

この研究は愛知県大口市のサボテンハウスで1978年と1979年に実施されました。名古屋近郊では湿度の高い温室で栽培されたサボテンは、中央アメリカで栽培されるサボテンの2〜3倍の成長率があります。
研究は8月に実施されましたが、外気温が32〜33℃の時に温室内は52〜55℃に達しました。実際に測定された最高温度は、Gymnocalycium mihanovichiiの57.3℃でした。これは、過去に報告された無傷な高等植物の最高温度です。他にも、Gymnocalycium denudatum var.  paraguayseが55.6℃、Astrophytum asteriasが56.0℃、Echinocactus grusoniiが54.5℃、Ferocactus flavovirensが54.5℃、Mammillaria angularisで57.0℃を記録しました。50℃を超える温度でも、Hamatocactus setispinus var. orcuttiiやG. denudatum var. paraguayseなどは花を咲かせました。つまり、厳しい環境下でもサボテンハウスのサボテンは、正常な生理活性を保持しているように思われます。

以上が論文の簡単な要約です。
温室栽培している方は、50℃なんて普通に超えるし、当たり前のことのように思われるかも知れません。しかし、当たり前のことも正確に記録し公表されることに意味があります。
しかし、40年以上前の論文ですから、学名がよくわからないものや、今と名前が、変わってしまっているものもあります。Echinocactus grusonii(金鯱)が、2014年にKroenleinia属としてEchinocactus属から独立したことは有名ですが、Hamatocactus属がThelocactus属に吸収されて消滅したことはあまり知られていないかも知れません。また、論文に出て来るMammillaria angulariaはM. compressaの異名となっています。あと、G. denudatum var. paraguayeは一体何者なんでしょうか? 現在のG. paraguayenseのことなのでしょうか? よくわかりません。
さて、この論文は1980年のもので、実際の測定は1970年代末です。当時と比較すると、近年の気温の方が高いでしょうから、温室の温度もさらに上がりそうです。外気温が33〜34℃の時にとありますが、私の住む街も、すでに今年は39℃を超える日もありました。異常な暑さが続きますが、多肉植物も参ってしまいそうですね。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

近年、遺伝子解析が植物にも適応され、サボテンも盛んに解析が行われています。そのため、サボテンの分類は大幅な改訂が進んでいます。
本日は、まず2000年にAlexander B. Doweldによるサボテンの名前に関する2つの提案をご紹介します。その後、その提案がどうなっているかを提示して終わりたいと思います。では、まず2つの提案から見ていきましょう。

Proposal to conserve the name Brasilicactus against Acanthocephala (Cactaceae)
C. Backenbergは、定義が曖昧なNotocactusからいくつかの種を分離し、1938年にAcanthocephala Backeb.を設立しました。しかし、数年後にAcanthocephalaが、1842年に命名されたAcanthocephalus Karelin & Kirilov(キク科植物)の同音異義語であることに気が付きました。そのため、Backenbergは1941年にAcanthocephala Backeb.をBrasilicactus Backeb.に置き換えました。そして、一般的なのはBrasilicactusの方で、サボテンの研究者やサボテン愛好家の間で使用されました。
最新の命名規則を照らし合わせると、AcanthocephalaはAcanthocephalusの同音異義語とは見なされず、Brasilicactusは異名となります。AcanthocephalaとAcanthocephalusは異なる分類群に属し、分布もまったく異なり、混同される可能性は低いでしょう。しかし、1938年以降のサボテン研究ではAcanthocephalaは使用されておらず、受け入れられていません。著者は、Brasilicactusから使用歴が皆無なAcanthocephalaに命名を変更することを回避し、現在のBrasilicactusを保存してはどうかと提案しています。
以上が1つめの提案の内容です。この論文の趣旨は、BackenbergがAcanthocephalaとAcanthocephalusを同音異義語として、Acanthocephalaを退けたものの、新しい命名規則では同音異義語とは見なされないため、にわかに廃棄されたはずのAcanthocephalaが正当な学名として復活してしまうことを避けようとするものです。


Proposal to conserve the name Eriocactus against Eriocephala (Cactaceae)
C. Backenbergは、1938年にEriocephala Backeb.を命名しましたが、1753年に命名されたEriocephalus L.(キク科)の同音異義語と考えたため、1941年にEriocactus Backeb.としました。
後は基本的に上の提案と同じです。命名規則により使用されていないEriocephalaが復活してしまうため、Eriocactusの名前を保存しましょうという提案です。

さて、このように、命名規則を厳密に適応すると、かつて廃棄されたはずの名前が浮かび上がってしまい、慣れ親しんだ名前が廃棄されてしまいます。ですから、AcanthocephalaとEriocephalaではなく、BrasilicactusとEriocactusをこれからも使用したいということです。
では、現在のBrasilicactusやEriocactusの学名はどうなっているのでしょうか? AcanthocephalaやEriocephalaに取って代わられてしまったのでしょうか?
ここからは、キュー王立植物園のデータベースを参照にします。それによると、現在はBrasilicactusもEriocactusも使用されておりません。では、Acanthocephala、Eriocephalaとなったかと言うとそれも間違いで、BrasilicactusもEriocactusもParodiaに吸収されてしまいました。いや、それどころではありません。現在のParodiaには、Notocactus、Brasilicactus、Eriocactus、Malacocarpusといった属が吸収されました。割と新しく(1999〜2000年)命名されたBoliricactus、Peronocactus、RitterocactusもParodiaに吸収されました。BrasilicactusやEriocactusの名前を保存しようという働きも虚しく、すべてはParodiaになってしまいました。これが残念な結果であるかは分かりませんが、慣れ親しんだ名前が使われなくなるのは悲しいことです。しかし、これからもサボテンの再編成は進行し、名前も次々と変わってしまうのでしょう。昔ながらのサボテン好きな私は、慣れるのに時間がかかりそうです。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

愛知県春日井市はサボテンの町として知られています。私は訪れたことはありませんが、名前だけは知っていました。さて、いつものように論文を漁っていたところ、この春日井市を取り上げたレポートを見つけました。海外の学術誌に掲載されたDavid I. Bacsekによる『The Cactus City, Kasugai, Japan』です。なんと2023年、今年発表されたばかりのものです。

著者は日本中を旅していましたが、インターネットでサボテンの形の彫像があることを知り、それが当時滞在していた名古屋から近い春日井という街にあることが分かりました。春日井には有名なサボテンと多肉植物の苗床があることや、ウチワサボテンが一般に利用されていることを知りました。

著者はインターネットではそれ以上は分かりませんでしたが、ウチワサボテンの利用の経緯は著者予想していたシナリオとは異なるものでした。
台風Veraは1959年9月末、大変な猛威をふるい、現在の名古屋市を壊滅させました。これらの地域は最大4ヶ月間浸水し、病気の蔓延や飲料水や食料品の不足が起こりました。農地や鉄道の破壊による経済的なダメージももたらしました。(※伊勢湾台風のこと)
当時の農家は、副業として栽培していたサボテンを新しい食料源として選択しました。

1960年代に日本でサボテンブームを迎えた時、50軒以上の農家がサボテンを生産していましたが、その後は老朽化によりほんの一握りまで減少しました。後藤さん(※後藤カクタスの後藤容充さん)の祖父は、伊勢湾台風を経験し食料難を乗り切るためにウチワサボテン栽培に参加した農家の一人でした。

サボテン農家が街から消えてしまうことを危惧し、地元のレストランと協力してウチワサボテンを使った食品の開発するプロジェクトが始まりました。地元で有名なサボテン農家の後藤さんは、2006年に春日井市の商工会議所と立ち上げた「春日井サボテン」プロジェクトのために、食用サボテンのための温室を設置しました。著者は温室を見学させてもらいました。プロジェクトが始まってから17年経ちますが、後藤さんはサボテンの食品利用の促進だけではなく、その健康上の利点を認められ学校でのオプションの食材として正式に導入する法案が可決したことを喜んでいます。

春日井市で利用されるウチワサボテンは、コチニールサボテン(Opuntia cochenillifera)と呼ばれ、メキシコ、カリブ海地域、パナマ、キューバ、プエルトリコに分布します。抗酸化物質、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD(主に果実に含まれる)を含みます。食物繊維やビタミンが豊富で機能性食品と言えます。

後藤さんの目標は、乾性植物を育ててその人気を高めるだけではなく、誰もが農業の美しさと、これらのサボテンの健康上の利点を体験する機会を作ることであると著者に話してくれました。この街は食用サボテンの生産の中心地に成長し、人々が農業と乾性植物を祝う場に育ち、誰もがサボテンの街、春日井の魔法を体験する機会を得る事ができます。

以上が簡単な要約となります。
しかし、非常に面白いレポートでした。掲載誌はサボテンの利用についての研究を掲載している『Journal of Professional Association for Cactus Development』です。バックナンバーを見てみると、やはりウチワサボテンの利用や効率的な栽培についての研究が多いようです。このような社会活動的な話はメインではないため目を引きます。しかし、日本のサボテン農家が街と共に国際ジャーナルで話題になることは非常に珍しい事です。昔からサボテン栽培が普及している日本ですから、サボテンの歴史についてもう少し語ってくれる人がいてくれたらなあとは思いました。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

マミラリア属(Mammillaria)は、非常に種類が多くあるものの、陵が突出してイボ状でその先に柔いトゲがあり、また花の特徴も割と似ています。しかし、種類が多いだけに、遺伝子解析では単系統であることを疑わせるものもあります。それは、Cristian R. Cervantesらの2021年の論文、『Evaluting the monophyly of Mammillaria series Supertextae (Cactaceae)』です。

今回は論文から遺伝子解析結果のみを抽出しました。詳しく見てみましょう。グループAからグループJまでの10グループに分けました。グループJは内容が複雑ですから、別枠で詳細を示しました。
ただ、論文の図のサボテンの学名が異様に小さな文字で書かれており、マミラリアに詳しくないので学名はスペルミスがあるかも知れません。

                             ┏━━A
                               ┏┫
                               ┃┗━━B
                           ┏┫
                           ┃┗━━━C
                       ┏┫
                       ┃┗━━━━D
                   ┏┫
                   ┃┗━━━━━E
               ┏┫
               ┃┗━━━━━━F
           ┏┫
           ┃┗━━━━━━━G
       ┏┫
       ┃┗━━━━━━━━H
   ┏┫
   ┃┗━━━━━━━━━I
   ┫ 
   ┃    
   ┗━━━━━━━━━━J
           
グループA
このグループは、グループBとグループDと分離出来ていない種があります。M. haageanaは、Aの中でも遺伝的にやや離れた2種類があり、グループBにも3種あるように見えます。M. lanataはグループAとグループDで見られ、2種類に分けられるかも知れません。M. albicanataは、3亜種はグループAに含まれますが、subsp. oaxacanaは個体によりグループAとグループBに分けられます。著者らは何やら交雑の可能性を考えているようです。
含まれる種類: M. crucigera、M. erinacantha、M. columbiana、M. haageana、M. albicanata、M. lanata


グループB
含まれる種類: M. dixanthocentron、M. flaricentra、M. supertexta、M. haageana、M. albicanata

グループC
含まれる種類: M. spinosissima、M. magnifica、M. backebergiana、M. rekoi

グループD
含まれる種類: M. geminispina、barchmannii、cadereytensis、M. parkinsonii、M. klissingiana、M. grusonii、M. rhodantha、M. penisularis、M. lindsayi、M. mammillaris、M. magnimamma 、M. voburnensis、M. carnea、M. polyedra、M. karrlinskiana、M. mystax、M. melanocentra、M. lanata

グループE
含まれる種類: M. prolifera、M. picta、M. pectinifera、M. glassii、M. plumosa、M. perezdelarosa、M. bombycina、M. pottsii、M. vetula ssp. gracilis

グループF
含まれる種類: M. microhelia、M. elongata、M. decipiens、M. moelleriana、M. hermandezii、M. longimamma

グループG
含まれる種類: M. zactecasensis、M. jaliscana、M. mercadensis、M. rettigiana、M. nazasensis、M. brachytrichion、M. pennispinosa、M. sinistrohamata、M. lasiacantha、M. gasseriana、M. stella de tacubaya、M. weingartiana、M. senilis

グループH
含まれる種類: M. humboldtii、M. herrerae、M. candida

グループI
含まれる種類: M. zephyranthoides、M. oteroi、M. sphacelata、M. beneckei

グループJ
グループJには、OrtegocactusやNeolloydia、Coryphantha、Escobaria、Pelecyphoraがマミラリアと入れ子状に現れます。しかも、EscobariaやCoryphanthaはまとまりがありません。まあ、c. viviparaやC. hesteriは論文ではコリファンタとしていますが、コリファンタというよりエスコバリアとしてのほうが有名かも知れません。

                       ┏━グループK
                   ┏┫
                   ┃┗━Ortegocactus macdougalii
               ┏┫
               ┃┃┏━M. tetrancistra
               ┃┗┫
               ┃    ┗━M. guelzowiana
               ┃ 
           ┏┫┏━━Neolloydia conoidea
           ┃┗┫
           ┃    ┗━━M. luethyi
       ┏┫
       ┃┃┏━━━M. wrigntii
       ┃┗┫
       ┃    ┗━━━M. barbata
   ┏┫
   ┃┃    ┏━━━Coryphantha vivipara
   ┃┃┏┫
   ┃┃┃┗━━━Coryphantha hesteri
   ┃┗┫
   ┃    ┗━━━━Escobaria zilziana
   ┃
   ┫ ┏━━━━Pelecyphora aselliformis
   ┃┏┫
   ┗┫┗━━━━Escobaria chihuahuensis
    ┃
       ┃┏━━━━Coryphantha pallida
       ┗┫
           ┗━━━━Coryphantha durangensis

グループK
M. patonii、M. mazatlanensis、M. cerralboa、M. neopalmeri、M. insularis、M. thornberi、M. armillata、M. fraileana、M. albicans、M. blossferdiana、M. mahiniae、M. poselgeri、M. halei、M. pondii、M. schumannii、M. boolii

驚くべき結果ですが、遺伝子解析は絶対ではなく、あくまで確率の高い分岐を採用しているだけです。2000年代初めくらいの遺伝子解析は精度が今ひとつでした。しかし、この論文は2021年ですから、精度は高そうです。また、種分化が短期間に起こると分離が甘くなりがちですが、マミラリアは細かい部分まで分離出来ているのでその問題もなさそうです。
さて、この結果を信じるならば、マミラリア属とはグループAからグループIまでのことです。なぜなら、他の属と入れ子状になっており、マミラリア属だけを分離出来ないからです。もし、グループJのマミラリアもマミラリア属に含めるならば、OrtegocactusやNeolloydia、Coryphantha、Escobaria、Pelecyphoraをマミラリア属にしなくてはいけなくなります。そうしないのならば、OrtegocactusやNeolloydia、
Coryphantha、Escobaria、Pelecyphoraは、明らかに分類が間違っています。グループJのマミラリアを含め、再編する必要があります。1〜6属に分類し直す方が自然かも知れません。

などと考えていた時に、現在の学名はどうなっているのか気になりました。早速、キュー王立植物園のデータベースを漁って見ました。すると驚くべきことに、2020〜2022年くらいにかけて、マミラリアとマミラリアに近縁な仲間の大幅な再編成がすでに行われていました。やはり、マミラリア属はグループAからグループIまでに限定されるようです。
では、グループJのマミラリアだった連中は、Cochemia属に変更されました。ちなみに、Ortegocactus属とNeolloydia属は現在はなくなり、やはりCochemia属にまとめられています。
次にCoryphantha viviparaやCoryphantha hesteriは、Pelechyphora属になっています。ちなみに、Escobaria属は消滅しPelecyphora属に吸収されました。よくよく調べると、Encephalocarpus strobiliformis(松毬玉)もPelechyphoraになっていました。
Coryphantha属は健在です。C. pallidaの位置にあるようです。

という訳で、オルテゴカクタス属、ネオロイディア属、エスコバリア属、エンケファロカルプス属は消滅し、マミラリア属、コケミア属、ペレキフォラ属、コリファンタ属に再編されました。大変な変わりようです。気づかない内にこのような再編成があちこちで行われているのかも知れません。サボテンの分類も、色々調べてみる必要がありそうです。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

昨日から引き続き猛暑の中のギムノカリキウムの様子を見てみましょう。

230730105529493
武勲丸
Gymnocalycium ochoterenae系と言われている武勲丸です。暑さにも負けず、新しいトゲを出しています。
そう言えば、同じくG. ochoterenae系のバッテリーは良く見かけますが、武勲丸は見かけませんね。


230730105703623
Gymnocalycium vatteri
バッテリーも元気です。暑い中、よく開花します。
トゲがあまり強くなく、全体的に陵が角張らない昔のタイプです。最近は強刺タイプのバッテリーが人気みたいですね。G. vatteriだとか、G. ochoterenae subsp. vatteriだとか言われますが、最近は単なるG. ochoterenaeに含まれる傾向みたいです。


230730105609300
Gymnocalycium intertextum
インターテクスツムは強光にも強く、強いトゲを出しています。
G. bodenbenderhanum subsp. intertextumとも言われますが、最近ではG. ochoterenaeと同種とされています。ただし、インターテクスツムの名前がついているものが、すべてインターテクスツムかは怪しいとも言われます。私の所有個体は長刺タイプですが、海外のサイトでは強刺タイプが一般的なようで、同じ種類かは分かりません。まあ、かなり変異が激しいようなので、すべて同一種かも知れませんけどね。


230730105543789
Gymnocalycium ochoterenae var. cinereum
オコテレナエ変種キネレウムも暑さに負けず元気です。ある程度の強光にも耐えています。
しかし、キネレウムのトゲは黒っぽいはずですが、ご覧のようにトゲが白いので、やや怪しい感じがします。最近、大量に流通しているのはこのタイプなんですよね。なんとなく守殿玉に似ているような気もします。


230730105648368
守殿玉
守殿玉は暑くなってから動き出しました。
Gymnocalycium bodenbenderianumと言われます。


230730105619841
瑞昌玉
瑞昌玉もちらほら花を咲かせています。
竜頭などと共に、Gymnocalycium quehlianum系とされているようです。


230730105616973
瑞昌玉
こちらの瑞昌玉も元気ですが、中々花を咲かせてくれません。
ネットやホームセンターでは、このような特徴がはっきりしないものもよく目にします。


230730105632749
鳳頭
少し焦がしてしまいました。しかし、トゲは動いています。
G. quehlianum系。


230730105539381
新鳳頭
新鳳頭もゆっくり育っていますが、中々大きくなりません。少し厳しくし過ぎなのでしょうか?
G. quehlianum系。


230730105613463
竜頭
竜頭も順調に育っています。割と丈夫みたいですね。
G. quehlianum系。我が家の竜頭は、割と陵が多いタイプです。


この暑いさなかの、我が家のギムノカリキウムの育ち具合をご紹介しました。しかし、写真を取り忘れたものが結構あって、記事を書きながらアレもないコレもないなんて感じになりましたが、まあ取りこぼした連中はまた今度ご紹介します。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

暑い暑いと言っていましたが、さらに輪をかけて暑い日が続き、多肉植物も参ってしまいそうです。まあ、しかしそんな中でもサボテンは割と元気です。そんなサボテンというかギムノカリキウムたちの現在はどうでしょうか? あまり遮光していないので、今年はやや心配です。

230730105559625
Gymnocalycium prochazkianum
プロカズキアヌムは暑いさなかでも元気に新しいトゲが出ています。こういう粉を吹くタイプは日照に強い印象があります。


230730105548368
Gymnocalycium prochazkianum
      subsp. simile VoS 147
プロカズキアヌム亜種シミレも元気です。新しいトゲが綺麗ですね。


230730105552826
Gymnocalycium berchtii TOM 6/481
ベルクティイも粉を吹くタイプです。まだ小さいですが日照に強いみたいです。


230730105533931
Gymnocalycium esperanzae VoS 1791
エスペランザエは黒いトゲが美しいギムノです。強い日照にもよく耐えています。

230730105652147
Gymnocalycium gibbosum subsp. borthii
ギボスム亜種ボルティイはややしわがよっています。巨大な塊根があるタイプですから、まあ大丈夫なのでしょう。


230730105637739
Gymnocalycium andreae v. leucanthum LB15239
ややしぼみがちなアンドレアエ変種レウカンツムですが、夏の間はもう少し遮光した方が良いかも知れません。同じようにエリナケウムや大型鬼胆丸あたりも、しぼみがちです。

230730105644896
Gymnocalycium ragonesei
我が家では割と新入りのラゴネセイですが、新しいトゲが出ているのかよくわかりません。干ばつ耐性は強そうです。

230730105605962
Gymnocalycium pseudoquehlianum nom. nud.
プセウドクエフリアヌムは正体不明のギムノで、正式に記載されていない裸名です。G. quehlianumは竜頭や瑞昌玉にあたると言われますが、現時点ではあまり似ていません。


230730105517712
Gymnocalycium saglionis
新天地も元気にトゲを出しています。そう言えば、新天地は冬でも新しいトゲを出しますよね。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Astrophytum属は白点が特徴のサボテンです。現在4種類、あるいは6種類あるとされていますが、その分類には問題もあるとされています。1つは白鸞鳳玉は独立種であるかです。白鸞鳳玉は鸞鳳玉A. myriostigmaの亜種、つまりA. myriostigma subsp. coahuliensisとされたり、単純にA. myriostigmaの同種であるとする見解もあり、独立種であるA. coahulienseとされることもあります。もう1つは新種であるA. caput-medusaeは、2002年に記載されたときは新属Digitostigmaに分類されましたが、A. caput-medusaeは本当にAstrophytumなのでしょうか?
という訳で、本日はAstrophytumの分類に挑んだAlejandra Vazquez-Loboらの2015年の論文、『Phylogeny and biogeographic history of Astrophytum (Cactaceae)』の内容を少しだけご紹介しましょう

著者らは遺伝子解析によりAstrophytumの分子系統を解明しました。その前に、Astrophytumは、A. myriostigma(鸞鳳玉)とA. ornatum(般若)からなるAstrophytum亜属と、A. asterias(兜丸)とA. capricorne(瑞鳳玉)、およびA. coahuliense(白鸞鳳玉)からなるNeoastrophytum亜属、A. caput-medusaeからなるStigmatodactylus亜属からなるとする意見があります。この分類は花の形態からなされたものです。
さて、では遺伝子解析の結果を見てみましょう。

         ┏━━A. asterias
           ┏┫
           ┃┗━━A. capricorne
       ┏┫
       ┃┗━━━A. coahuliense
   ┏┫
   ┃┗━━━━A. caput-medusae 
   ┫ 
   ┃    ┏━━━A. myriostigma
   ┗━┫
           ┗━━━A. ornatum


驚くべきことに、花の形態からの分類がかなり正確であることが分かりました。はっきりしたことは、A. myriostigmaとA. coahulienseはまったく近縁ではなく、別種であるということです。面白いことに、近縁であるA. myriostigmaとA. ornatumはメキシコ南部の原産で、産地的にも他とは分けられるということです。次にA. caput-medusaeは明らかにAstrophytum属に含まれるということです。Astrophytum属であったとしても形態がまったく異なるので、他の種類とは離れて孤立していそうなものですが、A. asteriasとA. capricorne、A. coahulienseと近縁で1つのグループを形成しています。要するに、Astrophytumは2つのグループからなるということが明らかになったのです。

実際の論文の内容は、Astrophytumの種類が分岐した年代を推測し、地理的分布と気候変動から進化について考察しています。しかし、今回私が知りたい主題ではないため、割愛させていただきます。論文の内容はここまでですが、せっかくなのでAstrophytumの歴史について簡単な解説をして締めましょう。

Astrophytumは、サボテンの研究で知られるフランスの植物学者、Charles Antoinie Lemaire(1800-1871)により命名されました。1839年に命名された、Astrophytum Lem.です。この時、LemaireはAstrophytum myriostigma Lem.を新種として命名しました。しかし、A. myriostigmaが一番早くに命名されたのではなく、Astrophytumの命名前から他の種類は発見されていました。Astrophytumの命名前でしたから、初めはEchinocactusとして命名されていました。一番、命名が早いのは、1828年に命名されたEchinocactus ornatus DC.、つまり現在のAstrophytum ornatum (DC.) Britton & Roseです。1828年の命名でした。しかし、1922年にはAstrophytumとされました。実はこの1922年のBritton & RoseによるAstrophytumへの移動は重要で、Astrophytum capricorne (A. Dietr.) Britton & Roseもこの時にAstrophytumとなりました。ちなみに、A. capricorneは、1851年にEchinocactus capricornis A. Dietr.として初めて命名されています。つぎに、1845年にEchinocactus asterias Zucc.が命名されました。現在のAstrophytum asterias (Zucc.) Lem.です。1868年にLemaireがAstrophytumへ移動させました。ここまでは、19世紀の命名でしたが20世紀に入ります。1927年の命名されたEchinocactus myriostigma subsp. coahuliensis H. Moeller、現在のAstrophytum coahuliense (H. Moeller) Kanferです。1932年にAstrophytumへ移動させました。同年には、Astrophytum myriostigma  subsp. coahuliense (H. Moeller) Kanferも提唱されていました。さらに時代は流れて、21世紀によもやの新種が発見されます。2002年に命名されたDigitostigma caput-medusae Velazco & Nevarezです。2003年にAstrophytum caput-medusae (Velazco & Nevarez) D. R. Huntという意見がありましたが、2015年のVazquez-Loboらの論文によりこれが正しいことが確認されました。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

Carnegiea giganteaは巨大な柱サボテンです。映画などで砂漠の風景に登場するサボテンと言ったほうがわかりやすいかも知れません。日本では弁慶柱とも呼ばれています。育つのが遅く巨大に育つため、個人で栽培するタイプのサボテンではありませんから、日本では基本的に植物園で見ることになります。
私がちょうどCarnegieaについの論文を読んでいた時、衝撃的なニュースが流れて来ました。以下のニュースはアリゾナのCarnegieaが暑さて次々と枯死しているというのです。論文の内容とも合致します。

さて、本日ご紹介するのはカーネギアの将来を占うThomas V. Orumらの2016年の論文、『Saguaro (Carnegiea gigantea) Mortality and Population in the Cactus Forest of Saguaro National Park: Seventy-Five Years and Counting』です。国立公園でカーネギアの個体数を実に75年に渡り調査した驚きの記録です。以降はカーネギアのネイティブな呼び名であるSaguaroと呼ぶことにしましょう。

DSC_1049
弁慶柱 Carnegiea gigantea

DSC_1244
神代植物公園の大温室の巨大なカーネギア

「サボテンの森」
調査はアリゾナ州のTucsonにあるSaguaro国立公園のRincon Mountain地区にある「サボテンの森」で、野生のSaguaroの個体群の死亡率と再生について、1942年から2016年までの75年間に渡り調査されました。
「サボテンの森」では調査からわずか7年後の1940年には、管理人がSaguaroの高い死亡率に気が付きました。個体数に対する懸念から死亡率が研究され始めました。さらに、Mielkeは調査地域に若いSaguaroがほとんどいないことを観察し、大きなSaguaro以外は被覆がなく地面が剥き出しであることを説明しました。これらは、過放牧や木材(木版画用)、げっ歯類の多さに起因していました。1950年代は深刻な長期間の干ばつに見舞われ、これは過去400年間で最悪の干ばつであったと見なされました。

再生の始まりから終わりまで
1942年はSaguaroの加齢に伴い著しく死亡率が上昇しました。しかし、Saguaroの再生は1959年頃に始まり、1977年〜1984年の間にピークを迎えました。その後は先細りとなり、1993年には再生は終了しました。再生期間中に828個体の新しいSaguaroが増えましたが、1993年以降はわずか3個体しか増えませんでした。
1962年にAlcorn & Mayは、このまま再生が起こらなければ、2000年にはすべてのSaguaroが失われると予測しました。1962年の予測の10年半後に再生が始まったものの、1942年に調査された6区間のSaguaroの1437個体は2016年には34個体(2%)まで減少してしまいました。
1963年にNiering、Whittaker、Lowe は、「サボテンの森」で放牧が続いているため、個体群の再生には悲観的でした。彼らは自然環境の影響ではなく、人為的な原因である放牧と捕食者(コヨーテ)の制御を指摘しました。牛は大地を被覆する草本を減らしてしまい、捕食者の欠如がげっ歯類の数を増やしてしまい、若いSaguaroが定着する前にげっ歯類に食べられてしまいます。彼らの努力もあって、最終的に放牧は削減されました。
再生が終わった1993年以降は、長期間の干ばつにより、Saguaroの芽生えを保護してくれるナース植物(paloverdeとmesquite)が大幅に減少しました。

エルニーニョによる再生
Betancourtらは、1900年から1930年の間、および1960年から少なくとも1993年の間には、頻繁なエルニーニョ現象が発生したと述べています。エルニーニョの頻繁する期間はSaguaroの再生とリンクしています。Swetnam & Betancourtは、1976年以降(1977年〜1984年)はニューメキシコの樹木からは、前例のない年輪により特徴づけられると述べています。これは、より湿った状態を意味します。

繁殖能力
Pierson、Turner、Betancourtは、長期間の再生不良が続くと、繁殖能力が低下した状態が続いてしまうと指摘しました。繁殖能力を測るために、個体数ではなく分岐した枝の数を1ヘクタールあたりの本数で調べたところ、再生期間中は最高で63〜80本に達しました。しかし、2003年にはわずか29本に減少し最小を記録しました。それでも、2010年には68年ぶりに上昇し、2012年を除いて上昇を続けています。

現在の干ばつ
Weiss、Castro、Overpeckは、1950年代と2000年代の干ばつを比較し、2000年代の干ばつの方が気温が高いことを指摘しています。彼らは気温が高いほど、特にモンスーン前に蒸散を増加させているようです。つまり、現在は枝の本数=繁殖能力よりも、干ばつがSaguaroの再生を妨げる要因と考えられます。
2000年以降の干ばつは、実際には1996年から始まりました。1993年以降の干ばつ前に発芽したSaguaroは、1〜4歳の時に始まった干ばつによりほぼ全滅したと考えられます。1997年から1998 年にかけてエルニーニョがありましたが、干ばつ前に間に埋め込まれたエルニーニョでは、Saguaroの再生を支えるには不十分でした。アリゾナ州Tucsonに近いTumamoc Hillでの85年に渡る研究に基づき、Pierson & Turnerは、凍結や干ばつの影響を受けやすい苗木は死亡率が高く、雨期がSaguaroの再生につながるとは限らないと警告しています。


凍結による枯死
Saguaroの枯死の主な理由は凍結によるものです。しかし、1979年から2011年まで、30年以上に渡り壊滅的な凍結はありませんでしたが、Saguaroの老化に伴う枯死率の増加は急速に続いています。
2007年には大規模な凍結が発生し、1978年以来最大の凍結でしたが、壊滅的なものではありませんでした。しかし、2011年には壊滅的な凍結がおきました。非常に若い個体と老化した個体は高い枯死率でした。若い個体はナース植物や被覆により守られています。また、通常の個体は枝にダメージを受けても回復可能でした。特に80歳以上の個体が凍結の影響を受けやすいことが分かりました。

 
以上が論文の簡単な要約です。
Saguaroが数を減らし新しく芽生えた若い個体が少ないことが分かります。しかし、それが地球規模の気候変動のせいなのかどうかは分かりません。
Saguaroは30〜45歳で果実の生産を始め、寿命は125〜175歳と推定されます。この長い寿命は、毎年種子をばらまいて、苗が育つ環境になるのを待っているからでしょう。おそらく、苗は数年間、干ばつがなければ育つのかも知れません。しかし、沢山の雨が降って沢山の苗が芽生えても、翌年に干ばつがあれば1歳の苗はすべて枯死するでしょう。
多肉植物は寿命が長いものが多いようです。過去に読んだ論文や報告でも、Haworthiopsis koelmaniorumには若い個体がいないだとか、Gasteriaでは若い個体がいないが種子を蒔くとほぼ100%発芽するから実生はほとんど枯死するのだろうなどという内容でした。これらの多肉植物も毎年のように種子を作り、いつか種子が育つ環境になるまで待っているのでしょう。
とはいえ、近年の異常気象や温暖化を考えると、これらの多肉植物たちにはもうチャンスは訪れないのかも知れません。ニュース記事では次々と枯死しており、将来に期待するのも中々困難です。野生の多肉植物たちに、我々はいつまで出会うことが出来るのでしょうか。


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

野生の多肉植物は様々な原因で減少しており、絶滅が危惧されているものも珍しくありません。サボテンは種類も多く、そのうち絶滅危惧種もまた多いとされています。そんな野生のサボテンは今どうなっているのでしょうか? とりあえず、Barbara Goettschらの2015年の論文、『High proportion of cactus species threatened with extinction』をご紹介しましょう。

植物は調査不足
近い将来、多くの植物が絶滅の危機に瀕すると予測されています。しかし、動物と比較するとあまり調査がなされず、植物が直面するリスクの大きさとその性質は不明です。しかも、植物の絶滅の危機に対する評価は、ソテツや針葉樹、マングローブ、海草(海藻ではなくアマモなどの顕花植物)など、少数の植物群に偏よっています。そのため、推定30万種類のうち19374種、つまりわずか6%が評価されたに過ぎません。植物はデータが少なく、動物より人気がないため評価のための資金も足りていません。
この論文では、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにカテゴリーされた最大の植物分類群であるサボテン科の評価を報告します。サボテンは最も絶滅の危機に瀕している分類群の1つです。著者らはサボテンの1480種類を評価しました。うち、2種類は情報不足で評価出来ませんでしたが、評価された1478種類のうち31%に絶滅の可能性あります。これは、すべての動植物群のうち5番目に高い絶滅の危機率で、ソテツ(63%)、両生類(41%)、針葉樹(34%)、サンゴ(33%)に次ぎます。

サボテンの豊富さと危機
サボテンの種類の豊富さのピークは、ブラジルのRio Grande do Sul州南部とウルグアイのArtigas北部のごく限られた地域にあります。また、この地域は絶滅の危機に瀕している種類のピークも示しています。その他のサボテンの絶滅の絶滅に瀕している比率の高い地域は、Queretaro州とSan Luis Potosi州、Tehuacan-Cuicatlan地域のOaxaca州とPuebla州、ブラジルのBahia州東部とMinas Gerais州北部、チリのAntofagasta南部、ウルグアイ東部にあります。

サボテンの脅威
農業および水産養殖への土地の転換、野生植物の採取、宅地および商業開発は、メキシコ北部やメソアメリカ、南アメリカ南部の大部分のサボテンにとって主たる脅威となっています。メキシコやカリブ海地域、バハ・カリフォルニア半島などの沿岸地域は、主に宅地開発や商業開発の影響を受けています。メキシコの太平洋岸とブラジル中央海岸に沿った地域では、農業開拓の影響を受けています。ペルーやチリの海岸沿いに分布するものは、コレクション目的の採取や材木用の伐採が影響を与えています。もちろん、これらのすべての要素の影響を受けているメキシコ中部やブラジル東部もあり、絶滅危惧種が集中しています。
絶滅危惧種のサボテンに与える脅威は、園芸用取引や個人によるコレクション目的の採取が47%、放牧用地としての開拓が31%、農地開拓が24%となっています。ブラジル東部と南部では牧畜と農地開拓により、それぞれ61種と46種に影響を及ぼしています。しかし、ブラジル南部の最大の脅威は、ユーカリのプランテーション開発か原因です。絶滅危惧種のParodia muricataを含む27種類が影響を受けています。ユーカリの落ち葉がサボテンを覆ってしまい、受粉や開花を阻害したり枯らしてしまいます。また、ブラジル東部では採石によりBahia州で15種、Minas Gerais州で19種が影響を受け、状況は悪化する一方です。これらの植物は土壌特異性で、Acanthocereus glazioviiやColeocephalocereus purpureusなどのブラジル原産種は鉱業に重要な鉄分が豊富な赤鉄鉱々床または残丘でのみ育ちます。最も危機的なのはArrojadoa marylaniaeで、白い石英岩上にのみ生えるため、その採掘により脅かされています。メキシコ中北部では脅威はブラジルと似ていますが、遊牧民の放牧も要因として追加されます。メキシコ北西部ではエビ養殖が砂漠に向けて拡大しており、Mammillaria bocensisやCorynopuntia reflexispinaなどが予想以上にダメージを受けています。

サボテンの利用
他の絶滅の危機に瀕している植物とサボテンの違いは、サボテンの57%の種が人々により利用されているということです。最も一般的な用途は観賞用で674種類が栽培され、コレクションのために野生の植物や種子が採取されます。また、サボテンは154種類は食用、および64種類は薬(家畜用を含む)にも利用されます。調査によると、保護地域と比較して保護されていない地域は、脆弱種や絶滅危惧種の割合が高いことが確認されました。また、栽培される絶滅危惧種のサボテンのうち、86%が野生植物由来であることが分かりました。それでも、1975年以来CITESによる規制や、国際市場で種子繁殖による植物が入手可能となり違法取引は減少しました。しかし、ペルーのようにCITESが施工されたばかりの国では、違法取引により脅威が蔓延しています。特に新種は違法採取されやすく、脅威にさらされます。例えば、Mammillaria luethyiの正確な産地は伏せられ、野生個体群の保護のために少数の専門家にのみ知られています。

データが足りない
絶滅のリスクを評価するためには、その種に対する十分な情報が必要です。サボテンはデータ不足とされた種類は、129種類(8.7%)もありました。他の植物では、針葉樹1%、ソテツ1%、マングローブ4%、海草12%となっています。
サボテンの場合、種の評価には約6時間かかり、人件費で167米ドルかかりました。1人で1年あたり約363種類を評価出来ます。従って、割合安価で評価は可能です。サボテン以外の植物も保全活動をするための評価が必要です。2020年までに記載されたすべての植物を評価するには、少なくとも157人のスタッフが5年間フルタイムで働くことにより達成出来ます。この場合、約4700万米ドルの費用が必要です。植物種のかなりの割合を評価することは不可能ではありません。


以上が論文の簡単な要約です。
この論文の趣旨は、ただサボテンの絶滅の危機を評価することだけではなく、その他の植物にも適応出来ることを示したということです。しかし、サボテンはその多くが危機的な状況にあるようです。開発による危機はそのキャスティング・ボードは自生地の国々にあるわけですから、我々趣味家にはどうにもならない問題です。しかし、違法採取や違法取引については、我々にも出来ることがあります。まあ、気をつけましょうという話です。しょっ引かれることは無いにしろ、犯罪に加担したくはありませんからね。



ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村

このページのトップヘ