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カテゴリ: サボテン

植物は自生地に住む人々と無関係に存在するのではなく、常に関わり合いながら存在してきました。特にその地域を象徴するような植物には、民族学的な関係の歴史や伝説があるものです。本日は「cardon」こと、Trichocereus atacamensisを取りあげます。一般に「cardon」と言えばメキシコに自生するPachycereus plingreiを指しますが、アルゼンチンのある地域では「cardon」と言えばTrichocereus atacamensisを指すということです。T. atacamensisの自生地における伝承をみてみます。ということで、参照とするのはMaria F. Barbarich & Marie E. Suarezの2018年の論文、『LOS GUARDIANES SILENCIOSOS DE LA QUEBRADA DE HUMAHUACA: ETNOBOTANICA DEL "CARDON" (TRCHOCEREUS ATACAMENSIS, CACTACEAE) ENTRE POBLADORES ORIGINARIOS EN DEPARTAMENTO TILCARA, JUJUY, ARGENTINA』です。

Humahuaca渓谷の自然と民族
「cardon」あるいは「pasacana」と呼ばれる柱サボテン、Trichocereus atacamensis(Echinopsis atacamensis)はアンデス地方の原産で、アルゼンチン北西部、ボリビア南西部、チリ北部を含むprepuna州に限定されます。アルゼンチンのJujuy州にあるHumahuaca渓谷では「cardon」は特徴的な要素で、東西の山脈により形成される南北に走る狭い回廊により構成されます。この地域は多様な民族があり、スペイン人が到着する数十年前にはインカ帝国の南端の一部でした。Humahuaca渓谷は草原と低木が優勢で、点在する低木と豊富な柱サボテンからなります。Jujuy州ではKolla族に属していると認識している人々は、先住民族の52.5%を占めています。

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Trichocereus pasacana
『The Cactaceae II』(1920)より。
T. pasacana=Leucostele atacamensis ssp. pasacana

Humahuaca渓谷のカルドン
Kolla族の協力者たちは、「cardon」という言葉を様々な意味で使用しました。「cardon」とはこの州に生息する直立あるいは燭台状の茎を持ち、大型の3種類の柱サボテンを指します。つまり、Trichocereus atacamensis、Trichocereus tarijensis 、Trichocereus terschekiiです。T. tarijensisは「cardon poco」、あるいは「poco」、「poco-poco」、T. terschekiiは「cardon de los valles」あるいは「pocoto」と呼ばれます。また、同様の生態や形態を持つ他の小型種を「cardonctions」と呼んでいます。逆にTrichocereus schickendgntziiやOreocereus trolliiは固有名詞がありません。地元住民は3種類のカルドンを明確に区別しています。T. atacamensisは直立しており、その大きさにより区別され、花が白いことからより優れているとされます。T. tarijensisはよりサイズが小さく赤い花を咲かせます。T. terschekiiは様々な場所で育ち、より多くの枝を持ちます。住民たちはT. atacamensisのトゲはより太く長いと述べています。また、標高や気候条件の違う産地ごとに特徴に違いが見られることを認識していました。

カルドンの物語
「cardon」には、人間の起源を持つという物語があります。その物語の大まかな概要は以下の如くです。Humahuaca族の王女とTukma(Tukman)の族長が恋に落ち、しかしそれはHumahuacaの社会には受け入れられませんでした。その時、族長は王女を探すために軍隊とともにHumahuaca渓谷にいました。しかし、呪いにより彼らは棒に変えられてしまい、その棒からcardonが芽生え聖地の守護者となり、その花の美しさは聖地の愛の美しさを表しています。
物語には複数のバリエーションがあり、呪いは王女の部族が族長に対して抱いていた憎しみから生じたという主張や、不適切な恋愛に対するPachamama (アンデスの古い神話の女神)からの罰であると主張する人もいます。また、これは呪いではなく、敵対した関係の中で、主人公たちを長命の植物に変えることにより、その愛を永続させることが出来たのだと信じている人もいます。さらに、改宗中に族長が王女を抱きしめたために、王女は花に族長はcardonの体になり、彼らの子供が渓谷のcardonになったという話もあります。族長が登場しない話もあります。それは、王女とその民が征服軍の脅威にさらされ、その土地から逃れPachamamaが、王女らをcardonに変えて守ったという話もあります。王女は年に1度だけ美しい花の姿で現れて世界を見つめます。


聖域の守護者
地元住民の語る物語の中でcardonは象徴的な役割を果たしています。太古の昔から今日に至るまで、その守護者としての役割は「antigales」など、神聖さを持つ場所で強調されます。「antigales」は先祖が住んでいた集落で、現在は遺跡がありその子孫たちにとって非常に重要です。この守護者としての主導的な神話や聖域だけにとどまりません。アルゼンチンからの独立のための戦いでcardonが重要であったと地元住民は誇らしげに語ります。

カルドンと自然
cardonはまだ幼植物の頃は、「churquis」(Prosopsis sp.、マメ科の樹木)や「airampos」(Opuntia spp.、ウチワサボテン)、または岩により守られます。逆にcardonは動物に隠れ場所を提供します。「choschori」(Octodontomys gliroides、マウンテン・デグー)のようなげっ歯類は巣穴を作り、果実を食べ、場合によっては茎も食べます。鳥も枝や枝と枝の間に巣を作ります。鳥はcardonの種子を運び、害虫を食べるため肯定的に捉えられています。家畜もcardonに関連しています。食糧や水が足りていない時には、ヤギやヒツジが小さなcardonを食べます。
cardon蛾(Cactoblastis bucyrus)は幼虫がcardonを食べる蛾で、過去20年で大幅に増加しています。都市化や大気汚染、農薬の使用の増加により鳥が減少によるものです。地元住民はcardonの健康状態は環境の状態を反映していると考えています。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
cardonは地元住民にとって馴染み深い植物であると同時に、自分たちの出自や信仰に関わる重要かつシンボリックな植物です。記事で紹介した他にも、異なるバージョンの物語もあり、大変興味深いフォークロアでした。多肉植物は人と関わりながら文化となっている例もありますから、今後も多肉植物との関わりについても調べてもいきたいと考えております。
最後に蛇足ですが、Trichocereus atacamensisの学名が変更されているようですから少し触れておきます。2012年にT. atacamensisは意外にもLeucosteleに移されました。さらに、2021年に亜種であるL. atacamensis ssp. pasacanaが命名されています。


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当ブログでは多肉植物の分類についてもぼちぼち記事にしていますが、近年では遺伝子解析を用いた分子系統による分類が当たり前となっています。サボテンもまた盛んに遺伝子解析がなされており、サボテンの属分類はだいぶ様変わりしました。さて、マミラリアだのパロディアだのと分類の記事を書いていましたが、私の好きなギムノカリキウムについては記事を書いていないことに気が付きました。論文自体は数年前に読んでいて、たまに引っ張り出しては参考にしていましたが、今更ですが記事にしておこうという次第です。
さて、本日ご紹介するのはPablo H. Demaioらの2011年の論文、『Molecular phylogeny of Gymnocalycium (Cactaceae): Assessment of alternative infrageneric systems, a new subgenus, and trends in the evolution of the genus』です。割りと有名な論文ですから、あるいは皆さんご存知かも知れませんが、お暇であればしばしお付き合い下さい。

ギムノカリキウム属とは?
Gymnocalycium Pfeiff. ex Mittlerは、球状の生長パターンと、トゲがない花托を持つ昼行性の花を特徴とする、約50種からなる属です。パタゴニア南部を除くボリビア南部、パラグアイ南西部及び北部、ブラジル南部、ウルグアイ、アルゼンチンに分布します。
Gymnocalyciumは栽培しやすく開花も早いため、サボテン愛好家の間でも人気のある属の1つです。分類群の新しい記述は個人の収集家や栽培家により行われてきたため、小さな形態的な差異を過度に強調し新しい分類群として記述する傾向があります。そのため、異名が増加しており、安定した属内の分類システムが必要となりました。

ギムノカリキウム属の分類の歴史
ギムノカリキウム属の属内分類の最初の試みはFrič(1935)によるもので、種子の形質にもとづいて5つのグループからなるシステムを発表しました。しかし、このシステムは非公式で有効に記載されませんでした。

Frič, 1935
1, Ovatiseminae
2, Macroseminae
3, Trichomoseminae
4, Microseminae
5, Muscoseminae

Schütz(1968)はFričの基準に従い、5つの亜属からなる有効なシステムを発表しました。

Schütz, 1968
1, Gymnocalycium
  =Ovatiseminae Schütz, nom illeg.
2, Macroseminae Schütz
3, Trichomoseminae Schütz
4, Microseminae Schütz
5, Muscoseminae Schütz

Buxbaum(1968)は、ギムノカリキウムの列(series)、亜列(subseries)を公表しました。また、他にもBackeberg(1941, 1958)やIto(1950, 1957)、Pazout(1964)などは、茎と花の形態に基づき属内分類群を提案しましたが、無効であると判断されています。

Schütz(1968)の分類体系は、Till & Hesse(1985)及びMetzing(1992)により修正され、Till(2001)及びTill et al.(2008)が果実と花、種子の特徴に基づく新しい体系が発表されるまで、ほぼ30年間に渡り研究者や趣味家に広く受け入れられてきました。Tillの分類体系はSchützとは大きく異なりますが、どちらが自然な分類を反映しているのか判断する決定的な証拠はありませんでした。

分子系統解析
ギムノカリキウム属内分類における論争は、形態に基づく方法では分類体系の解決が困難であることを示しています。しかし、形態学的な情報と遺伝子情報を組み合わせて利用したなら、安定した分類が出来ます。

  ┏━Gymnocalycium
  ┃
  ┣━Trichomosemineum
 ┏┫
┏┫┗━Macrosemineum
┃┃
┃┗━━Scabrosemineum

┃┏━━Muscosemineum
┣┫
┃┗━━Pirisemineum

┗━━━Microsemineum

Microsemineum亜属
G. saglionis

Microsemineumはギムノカリキウムの中でもっとも早く分岐した分類群であることが示唆されます。特徴は茎は大型で、果実は色鮮やかかつジューシーで甘いため、鳥などの脊椎動物を引き寄せます。果実の特徴はPirisemineum亜属と似ています。ジューシーな果実はギムノカリキウム属を含むBCT系統群の多くの属、TrichocereusやStetsonia、Echinopsisと共通します。
G. saglionisはアルゼンチン北西部の山脈に自生します。ギムノカリキウム属の分子系統の基底にあるため、ギムノカリキウムの祖先はアルゼンチン北西部とボリビア南部の山岳地帯が起源であると考えられます。

Pirisemineum亜属+Muscosemineum亜属
Pirisemineum亜属
G. pflanzii ssp. pflanzii, G. pflanzii ssp. zegarrae, G. chacoense
Muscosemineum亜属
G. marsoneri ssp. marsoneri, G. marsoneri ssp. megatae, G. eurypleurum, G. schickendantzii ssp. schickendantzii, G. mihanovichii, G. anisitsii ssp. damsii

Pirisemineum亜属とMuscosemineum亜属は、分布域がアルゼンチン中央部まで広がるG. schickendantziiを除き、ほとんどの種はアルゼンチン北部、ボリビア南部、パラグアイ西部のグラン・チャコ森林に生息します。Pirisemineum亜属はジューシーな果実とムール貝のような形の種子を特徴としています。果実はMicrosemineum亜属と似ていますが、主にアリにより散布されます。

Scabrosemineum亜属
G. hossei, G. glaucum ssp. glaucum, G. glaucum ssp. ferrarii, G. castellasonii ssp. castellasonii, G. castellasonii ssp. ferocius, G. oenanthemum, G. bayrianum, G. monvillei, G. ritterianum, G. mostii ssp. valnicekianum, G. mostii ssp. mostii, G. horridispinum ssp. horridispinum, G. horridispinum ssp. achirasense, G. rhodanthemum, G. spegazzinii

このグループは広義(sensu lato)のMicrosemineum亜属で、Schütz(1968)より分類されました。Tillら(2008)はMicrosemineum亜属のSection Saglionia(節)に、Microsemineum亜節を分類しました。しかし、分子系統では分離されたグループを作っています。そのため、著者らはGymnocalycium subgen. Scabrosemineum Demaio, Barfusr, R. Kiesling and Chiapella, subgen. nov.を新亜属として記載しました。このグループのほとんどが、アルゼンチン中西部の山岳地帯の温帯亜湿潤気候に分布します。自生地は背の高い草むらが優勢で、岩の露頭が点在します。

Macrosemineum亜属
G. denudatum, G. horstii ssp. horstii, G. paraguayense, G. hyptiacanthum ssp. netrelianum, G. hyptiacanthum ssp. uruguayense, G. mesopotamicum, G. reductum ssp. leeanum

従来、Macrosemineum亜属(Macrosemineum亜節)に分類されていた種は分子系統では単系統とは見なされません。ブラジル南部に分布するG. horstiiとG. denudatumは、Trichomosemineum亜属やGymnocalycium亜属と姉妹関係にあり、まとまりがあります。解析方法によっては、G. hypticanthumはGymnocalycium亜属とされる場合もあります。Kiesling(1980)は、G. mesopotamicumの種子がTrichomosemineum亜属とG. hypticanthumの中間形態を示すことを指摘しました。分子系統でもG. mesopotamicumの位置はTrichomosemineum亜属と密接な関係があることを裏付けています。
Macrosemineum亜属のほとんどの種は形態的に類似しており、地理的に分布は限定されています。分布は、ウルグアイ、南中央パラグアイ、ブラジル南部、アルゼンチン東部の、岩の露頭などに自生します。

Trichomosemineum亜属
G. bodenbenderianum, G. quehlianum

Trichomosemineum亜属は、アルゼンチン西部から中央部の山岳地帯と乾燥した谷間に生息しまTrichomosemineum亜属の命名はSchütz(1968)によるものですが、Buxbaum(1968)はSeries Quehliana(列)、Tillら(2008)はMicrosemineum亜属、Section Saglionia(節)、Subsection Pilesperma(亜節)に分類しました。分子系統はこれらのグループを支持しており、形態学的な過去の研究内容とも一致します。ただし、Tillら(2008)のPilespermaの位置は一致していません。

Gymnocalycium亜属
G. bruchii, G. calochlorum, G. baldianum var. baldianum, G. schroederianum, G. robustum, G. gibbosum ssp. gibbosum, G. fischeri, G. kieslingii, stringlianum, G. uebelmannianum, G. andreae, G. reductum ssp. reductum, G. erinaceum, G. amerhauseri

Gymnocalycium亜属は、ほとんどが中央アルゼンチンの山岳地帯に自生し、他にはパタゴニア北部、アルゼンチン東部、ウルグアイ西部に少数の種が分断されて自生します。すべての種は、Schütz(1968)、Till(2001)、Tillら(2008)のGymnocalycium亜属に相当します。ただし、Tillら(2008)のさらなる分類は現在のところ支持されません。過去10年間に発見されたギムノカリキウム属の新種はほとんどがこのグループに属し、形態学的に非常に類似しています。分子系統でもほとんどの配列が同じであり、顕著な均質性を示しました。この解像度の低さは既存のDNA配列データによる解決は難しい可能性があります。これは、急速に新しい時代に種が放散したことを反映しているのかも知れません。

ギムノカリキウムの形態学
Nyffeler(2005)が説明したBCT clade(※1)の祖先分類群は、おそらくbarrel cacti(Ferocactus, Echinocactus)でした。BCT cladeのGymnocalycium属の祖先は、おそらく樽状(Barrel)の生長形態か球状で単独の生長形態であることが示唆されます。G. saglionisはこの属唯一の樽状生長形態を持つ種であり、おそらくはGymnocalycium属の祖先に似ています。他の種はサイズが徐々に縮小し、球状となる傾向を示します。円柱状あるいは樽状のサボテンの分布は低温により厳しく制限されていますが、球状のサボテンは寒さに強いようです。Gymnocalycium属のサイズが小さくなったのは、温暖な気候からより涼しい条件下へ適応した結果かも知れません。
かぶら状の根は水とデンプンの貯蔵に関係しています。かぶら状の根は高度の脱水に耐える能力があり、干ばつ時の水分損失を防ぎます。特にTrichomosemineum亜属とGymnocalycium亜属は、独特な多肉質の根を発達させる傾向があります。
基底系統であるMicrosemineum亜属、Pirisemineum亜属、Muscosemineum亜属は種子が小さく、果実はジューシーで色鮮やかです。この特徴は、endozoochory(※2)と関連があります。Macrosemineum亜属、Trichomosemineum亜属、Gymnocalycium亜属は乾燥した緑色の果実を持ち、これはアリ散布(myrmecochory)と関連があります。また、これらのグループは種子が大きいものもありますが、このような種子は散布されにくいものの発芽など活発な苗木を生み出す可能性があります。

※1 ) BCT caldeは、主に柱サボテンからなる巨大なグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。

※2 ) endozoochoryとは、果実が動物に食べられて体内で種子が運搬されること。被食散布される。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
注意事項としては、各亜属に書かれた学名は、論文が書かれた2011年当時のものであるため現在とは異なる部分があるかもしれません。また、書かれた学名は研究に用いた種を指しているだけで、すべての種を調査しているわけではありません。
さて、一応はギムノカリキウム属内の分類が科学的になされたわけですが、論文がやや古いためより精度の高い解析が望まれます。今回は割愛しましたが、論文では種ごとの関係まで解析されています。ただし、特にGymnocalycium亜属などは種ごとの関係性はあまり上手く解析出来ていないようです。おそらく、分散しながら急速に進化したため、既存の方法では上手くいかないのでしょう。さらなる研究が待たれます。


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植物の名前は混乱しているものが多く、1つの植物に沢山の異名があることは珍しいことではありません。古い時代に記載された種では、そもそもそれが何を指していたのかがよくわからないケースもあります。これは、国際命名規約が整備される前のもので必要な情報が足りていなかったり、古いため記述された標本が戦争などで失われてしまい現存しないなど、種の判別のために必要な情報が不足しているためです。多肉植物の記載された時の情報を知りたいため、古い時代の記述を調べることがありますが、図譜はなく標本の指定もなく、ラテン語による2〜3行の簡素な特徴の説明があるだけだったりします。このように、古い時代の記述は混乱しており、それが何を指しているのかは植物学者が丹念に調査しないとわからないものばかりです。ですから、古い記述が実はある植物を指していたことが判明し、より古いというか先に命名された名前に修正されることも珍しくありません。
ということで、本日は命名に関する内容ということで、Detlev Metzing & Roberto Kieslingの2007年の論文、『Winterocereus (Cactaceae) is the corred name for Hildewintera』をご紹介します。

Hildewinteraの歴史
Borzicactus族は球状から円柱状になるサボテンのグループで、ボリビア、ペルー、アルゼンチンに分布し、主に鳥媒花です。その中で、二重花被という特徴を持つものが、1962年にWinteria aureispina F. Ritterとして記載されました。しかし、これは1784年に記載されたWintera Murrayと同名(parahomonymy)、1878年に記載されたWinteria Saccardoと同名(Homonymy)であるため、属名を変更する必要がありました。
1966年にWinterocereus Backebergと、それより3〜4ヶ月早くHildewintera F. ritterに変更する提案がなされました。(先取権により)Hildewinteraとなり、その妥当性については疑問視されたことはありませんでした。

Hildewinteraは非合法
2003年にHildewinteraの新種が記載された論文が出されました。その論文に対するコメントとして、W. Greuter(私信)はING(Index Nominum Genericorum)において、Hildewinteraの項目に「タイプ種に対する不完全な参照」が記されていることを気が付かせてくれました。
著者らはRitter(1966)による学名への参照のページ番号が省略されているため、「完全かつ直接的」ではなかったことを見逃していました。これは属名にも当てはまり、よってHildewinteraは有効に公表されなかった(not validly published)ことが判明しました。その結果、Backeberg(1966)が公表したWinteriocereusは、規約の要件をすべてみたし、もっとも古い利用可能な名前です。Rowley(1968)による索引への記載により、Hildewinteraは有効に公表されましたが、そこでもWinteriocereus Backeberg 1966が異名として記載されているため、Hildewinteraは非合法名です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
特に疑問もなく一般的に使用されてきたHildewinteraが実は有効に公表されていない非合法名であり、これを有効に公表されているWinterocereusとしましょうという提案でした。しかし、現在はWinterocereusはCleistocactus Lem.に吸収されてしまいました。著者らもCleistocactusに含める意見については承知しており、別属とすべきであることを改めて主張していますが、結局のところCleistocactusに統廃合されつしまったわけで、この論文の提案を無駄ではないかと思われるかも知れません。とはいえ、この論文は分類学的に意味があり、特定の分類群の命名に対する正しい知識を与えてくれます。ですから、データベース上でもこの論文の知見は活用されており、将来の分類学に対する有効な資料となっています。例えば、キュー王立植物園のデータベースでCleistocactusを見てみましょう。

Cleistocactus Lem., 1861.
Heterotypic Synonyms
Winteria F. Ritter, 1962, nom illeg.
Winterocereus Backeb., 1966.
Hildewintera F. Ritter ex G. D. Rowley, nom illeg.

以上のように、論文の知見が活用されています。WinteriaやHildewinteraが非合法名であることや、HildewinteraがRowleyにより再び記載されたことなどです。また、将来的にCleistocactusの再編が行われる可能性もあるため、その時にこの論文は重大な意味を持つことになるかも知れません。


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烏羽玉の仲間、つまりはペヨーテは幻覚作用を持つアルカロイドを含み、アメリカでは先住民が宗教的な意味合いで古くから利用してきました。南米ではTrichocereusの仲間をSan Pedroと呼び、やはりその幻覚作用を利用してきました。しかし、San Pedroはペヨーテほど一般的ではないせいか、あまり良い論文を見つけ出せずにいましたが、ようやく見つけ出せたので記事にします。
本日ご紹介するのは、Marlene Dobkinの1968年の論文、『Trichocereus pachanoi -A Mescaline Cactus Used in Folk Healing in Peru』です。ペルーの民間療法を調査した民族学的な研究です。言い訳になりますが、論文の出版が1968年と非常に古く、文字が掠れてよく読めない部分が多々ありましたので、内容的に不正確な訳があるやもしれないということはご了承いただきたいところです。

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San Pedro (Trichocereus pachanoi) at Cataluco, near Huancabamba.
「Botanical Museum leaflets, Harvard University v.29」(1983年)


魔術的治療の調査
著者は1967年の夏に、リマの北約500マイルにある沿岸のメスティソの村で調査を行いました。Lambayeque県にある小さな農業コミュニティでは、100人以上の男性と3人の女性が、Trichocereus pachanoiの使用により病気の診断と治療に取り組んでいます。著者は病気に対する信念体系と、薬物と魔術について調査しました。

魔術的な治療
ペルーの沿岸農民は病気について、その経験則的な病因は認識しているものの、病気の根本原因を超自然的なものとしています。なので、経験的な治療は評価されていますが、魔術や祈祷が優先しあくまでも補助的なものです。病気の原因は聖地や墓、遺跡から発せられる蒸気や空気によると信じられます。
医療施設やバランスの取れた食事がなく、衛生設備も劣悪なため、病気からくる不安を抱えた住民は民間療法士(folk healer)であるmesaに相談します。夜通しの治療の儀式で、療法士と患者はSan Pedroで作った薬を飲みます。薬の作用がある間に療法士は病気の原因を占い、病人に投与する薬草を処方します。患者は村内だけではなく、友人や親戚から紹介され、遠く離れた地域からも訪れます。

処方
すべての療法士は治療の儀式でTrichocereus pachanoiを利用しますが、添加物や儀式にはバリエーションがあります。療法士の中には、下剤作用と不眠効果を高めるCondorillo(Lycopodium sp.、ヒカゲノカズラ類)、Misha(Datura arborea、キダチチョウセンアサガオ)、Hornamo(未確認)を加える場合もあります。ある療法士によると、Mishaは特に衰弱している患者に大量に与えると死に至る可能性があるということです。San Pedroとその添加物は吐気および激しい嘔吐を引き起こしますが、これは病人から不純物を取り除き浄化させるために重要であると考えられています。療法士は患者の体の大きさや病気の性質、罹患期間の長さに基づいて投薬量を決定します。一般的にサボテンは細かく切り刻まれ、水に入れてエッセンスだけが残るまで数時間煮られます。治癒の力は療法士が使用する物質に宿ると信じられています。

儀式
以下は著者がVallesecoで観察したある治療儀式の様子です。
バスで4時間ほど離れた町から3人の患者がやって来ました。儀式は夜間に行われ、人工的な照明は一切使われませんでした。
助手を務める治療師の弟子は、タバコと水の混合物を嗅ぎタバコとして吸い込みました。治療師はスペイン語で主の祈りに始まる、かなりメロディアスで心地良いな歌を歌い始めました。その後は、ラテン語とケチュア語の混じる自然な詩が続きました。歌にはガラガラの役目を果たすヒョウタンによるリズミカルな伴奏がありました。約1時間の歌唱の後に、San Pedroのエッセンスがカップに注がれ、その効果を高めるためにカップは石や剣、磨かれた棒により軽く叩かれました。
時折、患者と治療師、助手は外に出て催吐作用のある薬を吐き出しました。聖母マリアと神に祈りを捧げながら、さらに歌は続きました。時折、歌は治療師が病人に与えるであろう助けを朗読しました。患者は順番に立ち上がり、助手は装飾のある剣を患者の足の間に置き、患者に柄をつかませました。助手は嗅ぎタバコとして鼻にタバコをくわえ、剣を患者の体のあちこちに、十字を描くように擦り付けられました。
治療師は患者の症状とその問題について話し合い、完了すると歌を再開しました。やがて、助手が立ち上がり、空中に水を撒き、剣で空気を切り、「悪霊」(evil spirits)を追い払いました。別のタイミングで治療師は磨かれた石のいくつかを擦り合わせ、夜の暗闇の中に火花を飛ばしました。夜が明け、最後に一連の歌が歌われ儀式は終了しました。


その解釈
治療師たちはサボテンの効果が続くと、患者を苦しめている病気の性質についての洞察が得られると主張しています。石(herbal stone)を打つことで刺激されるビジョンは治療師たちの誇りであり、処方のための情報源です。治療師たちは病気を取り除く象徴として、病人にかける何らかの物体、あるいは小さなモルモット(cuye)を使用します。
治療師たちが用いる儀式の多くはローマ・カトリックの信仰と融合しており、実際の儀式にもカトリックの典礼がそのまま取り込まれています。カトリック教徒が多数を占めるこの土地では、馴染みのあるラテン語の祈りも唱えられます。祈りは様々なカトリックの聖人に向けられ、病人のためにとりなしてくれるように懇願されます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
普段あまり読まない内容ですから、割りと新鮮な気分で読めました。しかし、San Pedroは激しい嘔吐を伴うため、その使用は極めて宗教的な目的に限定せざる得ないようにも思われます。ペヨーテはドラッグとして法的に規制されている国もありますが、San Pedroはどうでしょうか? 抽出成分ならいざ知らず、サボテンを食べたり煮出した汁を飲んだけでは、ただただ苦しいだけでしょう。やはり、その豪華で美しい花を楽しむのが一番ですよね。


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トリコケレウスには幻覚作用があり、古来よりシャーマンが儀式に使用してきたと言われています。その成分や効果、あるいは使用について調べていたのですが、思わぬ論文を見つけました。それは、Cristian Corioらの2013年の論文、『An alkaloid fraction extracted from the cactus Trichocereus terscheckii affects fitness in the cactophilic fly Drosophila buzzatii (Diptera: Drosophilidae)』です。私はトリコケレウスは何故そのような成分を有しているのかは考えたことがありませんでしたが、論文では実験によりその謎を考察しています。

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Trichocereus terscheckii
『The Cactaceae II』(1920)より。

好サボテン性害虫
南米の好サボテン性のショウジョウバエであるDrosophila buzzatiiは、ウチワサボテンの腐った枝葉に好んで卵を産みますが、CereusやEchinopsisといった柱サボテンかにも見られます。しかし、柱サボテンで飼育したハエは、生存率の低下や、サイズの小型化、発育に時間がかかるなどの特徴が見られました。ウチワサボテンと異なり柱サボテンはアルカロイドや中鎖脂肪酸、ステロールジオール、トリテルペン配糖体などの毒性化合物を生成します。
ショウジョウバエはアルゼンチンのSan Juan州で、発酵させたバナナを用いて集められました。採取地ではD. buzzatiiが繁殖し、主にOpuntia sulphureaの腐った茎につきます。次いでT. terscheckiiにもつきます。

Trichocereus terscheckiiのアルカロイド
Trichocereus terscheckiiの化学的性質については、ほとんど知られていません。そこで、T. terscheckiiの抽出物の、好サボテン性ショウジョウバエのDrosophila buzzatiiへの影響を調べました。
T. terscheckiiはショウジョウバエの採取地で採取され、成分を分析しました。分析すると
T. terscheckiiの組織には、≒0.33mg/gのアルカロイドが含まれていました。これは、T. terscheckiiには0.25〜1.2%のアルカロイドが含まれている可能性を示した過去の研究内容と一致します。

アルカロイドの影響
T. terscheckiiの成分をアルカロイドと非アルカロイドに分離し、サボテンに含まれる濃度に調製し、D. buzzatiiに与えました。T. terscheckii由来成分を与えていないコントロールと比較すると、T. terscheckiiのアルカロイドを与えたショウジョウバエの生存率は低くなりました。また、T. terscheckiiの非アルカロイド成分を与えたショウジョウバエは、コントロールより生存率が高くなりました。また、幼虫の生存率には違いが見られず、生存率の差は蛹になって以降に生じているようです。
ショウジョウバエの羽を分析したところ、アルカロイドを与えたハエの多くは羽の展開に失敗したか、異常な羽脈パターンを示しました。また、アルカロイドを与えたハエは羽が小型化していました。


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Trichocereus terscheckiiの花と果実

最後に
ウチワサボテンの害虫であるDrosophila buzzatiiに対するTrichocereus terscheckiiの影響は、幼虫の成長遅延と生存率の低下でした。蛹化後に生存率が下がることから、羽化に失敗していることが考えられます。羽の小型化や異常からも、T. terscheckiiはD. buzzatiiの適した餌ではないのでしょう。ただし、ショウジョウバエの生存率が下がると言っても、それは蛹化後なのですからハエの幼虫が育ちきった後の話です。ハエは周囲のウチワサボテンからやって来ますから、生存率が低下しても食害が減少するようには思えません。ハエがT. terscheckiiを好まず産卵数が少ないなどの現象があるかなど、T. terscheckiiに有利な適応であると言えるのかを確認する必要があるかも知れません。

さて、これは蛇足なのですが、最後に少しだけ
T. terscheckiiについての話をします。他の柱サボテンと同様に、はじめに記載された時はCereusでした。1837年のことです。次いで、1920年にBritton & RoseによりTrichocereusとされました。おそらく一番使用されてきた名前でしょう。その後、TrichocereusやLobiviaをEchinopsisに統合すると言う動きがあり、T. terscheckiiも1974年にはEchinopsisとされました。しかし、近年の遺伝子解析技術により、巨大化したEchinopsis属は外見的な特徴が似ているだけで、近縁ではないものも含んだ雑多なグループであることが明らかとなったのです。肥大化したEchinopsisは徹底的に分解され、わずか20種類の小属におさまりました。T. terscheckiiも2012年にLeucosteleに分類されました。


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サボテンも生物である以上は繁殖する必要があり、そのために花を咲かせます。しかし、一口にサボテンと言ってもその繁殖戦略は様々で、花粉媒介者も昆虫だけではなくハチドリやコウモリにより受粉するサボテンもあります。当ブログでは度々サボテンの受粉様式=受粉生物学をご紹介してきました。参照とするのは、Bruno Henrique dos Santos Ferreiraらの2020年の論文、『Flowering and pollination ecology of Cleistocactus baumannii (Cactaceae) in the Brazilian Chaco: pollinator dependence and floral larceny』です。本日の主役はブラジルとその周囲に分布するヒモ状のサボテン、Cleistocactus baumanniiです。

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Cleistocactus baumannii(右)
筒状の花に注目。
『The Cactaceae II』(1920年)より。


C. baumanniiは鳥媒?
サボテンはブラジルのCaatingaやChaco植生の重要な要素の1つです。サボテン科の中でも、南米のサボテンでは様々な系統で鳥媒が想定されています。Cleistocactusは鳥による受粉に極端に特化した例として挙げられますが、それは花の特徴から推測されたものでした。Cleistocactusの受粉の評価は2016年(Gorostiague & Ortega-Baes, 2016)に行われ、C. baumanniiはハチドリによってのみ受粉し、C. smaradigoflorusはハチドリとミツバチにより受粉する可能性が示されました。
C. baumanniiはアルゼンチンやブラジルでは、アオムネヒメエメラルドハチドリ(Chlorostilbon lucidus)だけが花粉媒介者であると考えられています。しかし、花を訪問する昆虫による盗蜜の影響を調査する必要があります。


盗蜜
盗蜜者(nectar robbers)は、受粉せずに花の資源(花蜜や花粉)を集める花への訪問者ですが、花を噛んだりして傷付けるなどイリーガルな方法を用います。この花の損傷は、本来の花粉媒介者の行動や、花粉の飛散距離に影響を及ぼし、結実や種子数、種子の発芽率を低下させる可能性があります。しかし、盗蜜により蜜が減少するため、本来の花粉媒介者が訪れなければならない花の数が増えるため、他家受粉が促進される可能性もあります。
花への訪問者は次のように分類されます。
①潜在的な花粉媒介者(potential pollinators)
②非花粉媒介者(non-pollinators)
③泥棒(thieves)
④強盗(robbers)
泥棒は花粉や柱頭に触れることなく、花に損傷を与えない訪問者を指します。強盗は花に損傷を与える訪問者でこれを一次強盗、一次強盗のつけた傷口を利用する訪問者を二次強盗としました。


C. baumanniiの開花
C. baumanniiは円柱柱状のサボテンで、約1.5mの枝分かれした枝を持ちますが、他の植物に支えられている場合はより高くなることもあります。明るいオレンジがかった赤い花を沢山咲かせます。研究地域ではC. baumanniiは雨期に激しく開花します。花は両性花で、昼行性、匂いはありません。花は自家不稔で、自家不和合性です。花筒の長さは平均48.19mm、直径の平均は9.25mmでした。花は1年を通じて開花し続けます。
C. baumanniiの花の寿命は約48時間です。午前6時には花冠と葯は既に開いているものの、柱頭はまだ受容性はありません。つまり、開花開始時には花は機能的に雄蕊的です。午前8時から柱頭は一部が受容状態となります。午前10時頃には葯に花粉はほとんどなくなり、翌日まで雌性期です。翌日の午後には柱頭は萎れはじめ、翌日には完全に閉じます。
C. baumanniiの花は葯と柱頭が同じ高さで並び、雌雄離熟(herkogamy)ではありません。柱頭が受容前に花粉が放出されることから部分的雄性先熟で、自家受粉を減らし柱頭が詰まるのを防ぐと考えられます。

花への訪問者
ブラジルのChacoにおいて、C. baumanniiの花には5種のハチ、2種のアリ、1種のチョウ、1種のハチドリ(C. lucidus)が訪れました。この内、ハチドリと2種のハチは頻繁に訪花し、ほとんどの月で見られました。
観察すると、ハチドリは花の前でホバリングし、クチバシを花筒に入れて、クチバシ上部と頭が葯と柱頭に接触させて採蜜していました。採蜜は2秒間続き、1つの植物につき1つの花だけを採蜜しました。
3種のハチは花粉を集めるために葯に着地し、葯と柱頭に接触しましたが、基本的に花粉泥棒でした。さらに、Xylocopa splendulaというハチは、すべての訪花で花筒に口器を突き刺して盗蜜しました。このハチは同じ植物の別の花を訪れるため、主要な蜜泥棒です。X. splendulaの残した穴には、他の種類のハチやアリが訪れ、二次的な蜜泥棒となっていました。また、このような盗蜜を受けた花は、柱頭に付着した花粉が少ないことが分かりました。さらに、X. splendulaは自家受粉と隣花受粉(geitonogamy)を促進し柱頭を詰まらせ、盗蜜により有効な花粉媒介者であるハチドリの訪問を減らしている可能性があります。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
観察によりC. baumanniiの花の花粉媒介者はハチドリであることが確認されました。さらに、ハチは有効な花粉媒介者ではなく、それどころか花粉泥棒であり蜜泥棒でもあると判明しました。自家受粉や同じ植物個体の別の花からの受粉を受ける隣花受粉も、ハチにより引き起こされ、蜜の減少によりハチドリの訪花も減ってしまいいいことがありません。論文中で柱頭が詰まると言っているのは、柱頭に沢山の自家受粉、あるいは隣花受粉してしまうと、花粉から花粉管が花柱に伸びて行きますが自家受粉はしないので受粉はせず、後に他家受粉の花粉がついても花粉管を伸ばす隙間がないということでしょう。
まとめると、
本来ならば植物の受粉が期待さるハチが、受粉を阻害する要因になっている可能性があるのです。植物と昆虫との関係も非常に複雑です。今後もサボテンや多肉植物の受粉生物学を見つけ次第取り上げていくつもりです。


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去年の8月にサボテンの新種について調べた記事をあげました。論文が出たばかりで、まだ新種として認定されていないものもありました。ということで、去年の記事を振り返ります。現在ではどうなっていますでしょうか。また、あれからの1年間で新たに発表された新種のサボテンはあるのでしょうか。以下、去年の記事のコピーです。変わった部分は【追記】としています。いくつかの新種には画像リンクを貼りました。

1753年にCarl von LinneがサボテンをCactus属と命名した時には、すでにヨーロッパでもサボテンが栽培されていました。それから、沢山のサボテンが命名されてきましたが、未だに新種のサボテンが見つかっています。最近見つかったサボテンはなんだろうかと思って、少し調べてみました。と言っても、すべての新種を調べた訳ではなく、検索してすぐに出てきたものだけです。しかし、それでも2010年以降に限っても、それなりの種類は見つかりました。主に論文のAbstractだけをサラッと読んだだけですから、あまり詳しい内容は分かりません。ですから、簡単に見ていきましょう。

2011年
【追記】メキシコのTamaulipas州からマミラリアの新種、Mammillaria cielensisが記載されました。しかし、現在はM. zubleraeの異名となっています、

2012年
★アルゼンチンのブエノスアイレス州からウチワサボテンの新種、Opuntia ventanensisが記載されました。しかし、現在ではOpuntia fragilisの異名とされています。

2013年
★ペルー南部からボルジカクタスの新種、Borzicactus hoxeyiが記載されました。しかし、2014年にLoxanthocereus属になり、Loxanthocereus hoxeyiとなりました。

2014年
★ペルー北部からエスポストアの新種、Espostoa cremnophilaが記載されました。
★メキシコのオアハカ州からウェベロケレウスの新種、
Weberocereus alliodorusが記載されました。【追記】2018年にSelenicereus alliodorusとする意見もありましたが、認められておりません。
★メキシコのタマウリパス州からマミラリアの新種、
Mammillaria huntianaが記載されました。しかし、現在ではM. roseoalbaの異名とされています。
【追記】メキシコのZacatecasからオプンチアの新種、Opuntia gallegianaが記載されました。
【追記】米国のアリゾナ州からオプンチアの新種、Opuntia diploursinaが記載されました。
【追記】米国のカリフォルニア州からキリンドロプンティアの新種、Cylindropuntia chuckwallensisが記載されました。
【追記】ブラジルのリオデジャネイロ州からリプサリスの新種、Rhipsalis flagelliformisが記載されました。


2015年
★アルゼンチンのコルドバ州からギムノカリキウムの新種、Gymnocalycium campestreが記載されました。
https://identify.plantnet.org/k-world-flora/species/Gymnocalycium%20campestre%20%C5%98epka/data
★メキシコ中央部でツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus heliaeが記載されました。 しかし、2021年にKadenicarpus属になり、Kadenicarpus heliaeとされています。
【追記】メキシコ中部からオプンチアの新種、Opuntia delafuentinaが記載されました。
【追記】メキシコのバハ・カリフォルニア州で、7種類のウチワサボテンの新種が記載されました。それは、Opuntia clarkiorumCylinderopuntia libertadensis
Cylinderopuntia waltoniorumCylinderopuntia cedrosensisCylinderopuntia alcahes var. gigantensisCylinderopuntia alcahes var. mcgilliiCylinderopuntia ganderi var. catavinensisです。このうち、3つの変種は2019年に新種を記載した著者自身により亜種に変更されています。

2017年
★エルサルバドルでディソカクタスの新種、Disocactus salvadorensisが記載されました。
★メキシコのCoahuila州からウチワサボテンの新種、
Corynopuntia deinacanthaCorynopuntia halophilaが記載されました。しかし、2018年に2種類ともGrusonia属になり、Grusonia deinacanthaGrusonia halophilaとされています。実は、Corynopuntia属は消滅し、すべてGrusonia属となっています。
【追記】ドミニカ共和国南西部のPedernales州からレプトケレウスの新種、Leptocereus demissusが記載されました。
【追記】ハイチからケレウスの新種、Cereus haitiensisが説明されました。しかし、この名前は非合法名(nom. illeg.)とされ、認められませんでした。これは、1926年にすでにC. haitiensisが命名されていたため、名前が重複してしまうことからと考えられます。ちなみに、現在ではSerrulatocereus serruliflorusの異名となっています。


2018年
★メソアメリカ地域からデアミアの新種、Deamia montalvoaeが記載されました。
★メキシコのオアハカ州からテロカクタスの新種、
Thelocactus tepelmemensisが記載されました。
https://www.thelocactus.cactus-mall.com/Species_Files/tepelmemensis.html
【追記】メキシコ原産のStenocereus griseus複合体から、Stenocereus huastecorumが分離されました。しかし、未だに未記載種となっています。
【追記】キューバ西部のPinar del Rio州のカルスト石灰岩の崖からレプトケレウスの新種、Leptocereus assurgens var. albellusLeptocereus chrysotyriusが記載されました。L. 
assurgens var. albellusは、2020年にL. assurgens subsp. albellusとなっています。また、同じく2020年にL. albellusとする意見もありました。同じく2020年にL. chrysotyriusはL. assurgens subsp. chrysotyriusとされました。

2019年
★メキシコ南部からケファロケレウスの新種、Cephalocereus parvispinusが記載されました。
https://inaturalist.ca/taxa/1133501-Cephalocereus-parvispinus
★メキシコのヌエボレオン州からツルビニカルプスの新種、
Turbinicarpus boedekerianusが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/858375-Turbinicarpus-boedekerianus

2020年
★ペルーからリマンベンソニアの新種、Lymanbensonia choquequiraensisが記載されました。
★メキシコのハリスコ州からアカントケレウスの新種、
Acanthocereus paradoxusが記載されました。
★メキシコのシナロアからコケミエアの新種、
Cochemiea thomasiiが記載されました。【追記】2021年にMammillaria thomasiiとする意見もありましたが、認められておりません。
★メキシコからマミラリアの新種、
Mammillaria breviplumosaが記載されました。しかし、現在ではM. sanchez-mejoradae subsp. breviplumosaの異名とされています。
★分類が曖昧だったEchinocereus pulchellus複合体が整理され、
Echinocereus acanthosetusEchinocereus sharpiiが新種として分離されました。
【追記】ドミニカ共和国のアンティル諸島原産のLeptocereus weingartianus複合体から、新種のLeptocereus velozianusが分離されました。また、2021年にNeoabbottia velozianaとする意見もありましたが認められておりません。


2021年
★メキシコのハリスコ州南部からアカントケレウスの新種、Acanthocereus atropurpureusが記載されました。
★メキシコのバハ・カリフォルニア半島からウチワサボテンの新種、Opuntia sierralagunensisOpuntia caboensisが記載されました。
★ドミニカ共和国やハイチに自生するPilosocereusはP. polygonusとされてきましたが、新種のPilosocereus brevispinusPilosocereus excelsusPilosocereus samanensisに分解されました。

2022年
★ニカラグアからデアミアの新種、Deamia funisが記載されました。
★メキシコのサン・ルイス・ポトシ州からマミラリアの新種、Mammillaria morentinianaが説明されました。しかし、キュー王立植物園のデータベースにはまだ記載がありません。新種であるか否か、正式に審査されるのはこれからのようです。【追記】現在、M. morentianaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
https://www.inaturalist.org/taxa/1433006-Mammillaria-morentiniana
★分類が曖昧だったMammillaria fittkaui複合体を分析し、ハリスコ州原産のMammillaria arreolaeを新種として説明しました。しかし、こちらもまだキュー王立植物園に記載はありません。【追記】現在、M. arreolataはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1427658-Mammillaria-arreolae/browse_photos
【追記】メキシコのBajioからステノカクタスの自然交雑種であるStenocactus × irregularisが記載されました。

2023年
★ペルーからウチワサボテンの新種、Cumulopuntia mollispinaが説明されました。【追記】現在、C. mollispimaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。
★ブラジルからパロディアの新種、Parodia flavaが説明されました。【追記】まだ未記載種のようです。
★ブラジルのリオグランデ・ド・スル州西部からパロディアの新種、Parodia hofackerianaが説明されました。【追記】現在、P. hofackerianaはThe International Plant Names Index and World Checklist of Vascular Plants 2024.により新種として認定されました。また、2023年にNotocactus hofackerianusとする意見もありましたが認められておりません。ちなみに、NotocactusはParodiaに吸収され、属としては消滅しました。
【追記】ホンジュラスのCelaque山国立公園からアカントセレウスの新種、Acanthocereus lempirensisが記載されました。
https://uk.inaturalist.org/taxa/1491587-Acanthocereus-lempirensis
【追記】ブラジル東部の半乾燥地からタキンガの新種、Tacinga
 paiaiaが説明されました。まだ、未記載種のようです。
【追記】メキシコのGuanajuatoからマミラリアの新種、Mammillaria monochrysacanthaが記載されました。
https://www.inaturalist.org/taxa/1500362-Mammillaria-monochrysacantha
【追記】ケレウス属の遺伝子を解析し、ブラジルのミナスジェライス州とバイーア州原産のCereus ingensと、ブラジル北部原産のCereus gerardiが分離されました。しかし、まだ未記載種のようです。

2024年
2024年に公表された新種は、まだ未記載種となっています。これから、審査されることになります。
【追記】ブラジル北東部のCeara州からタキンガの新種、Tacinga mirimが説明されました。いままで、より大型のT. palmadoraと混同されてきました。
【追記】コロラド州西部からスクレロカクタスの新種、Sclerocactus dawsoniaeが説明されました。S. glaucusより小型でトゲが少なく、遺伝的にも異なります。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/1551384-Sclerocactus-dawsoniae
【追記】メキシコのBajio地域からマミラリアの新種、Mammillaria ariasiiが説明されました。M. hahnianaに似ています。
https://www.inaturalist.org/taxa/1543654-Mammillaria-ariasii/browse_photos
【追記】メキシコのSan Luis Potosi州からオプンチアの新種、Opuntia fortanelliが説明されました。
【追記】ユーベルマニア属の分子系統解析により、Ubelmannia nudaが分離されました。ブラジルのGerais州の原産で、遺伝的にはU. pectiniferaに近縁です。半地下生など珍しい特徴を持ちます。
https://www.cactuspro.com/forum/read.php?1,921125

最後に
以上が調べた限りの最近の新種のサボテンです。検索が不十分だったのでいくつか追加しました。また、2024年にも、8月までで既に5種類もの新種のサボテンが発表されています。しかし、まだ確認段階で正式に認められるのは来年以後になるでしょう。園芸的に見るならば、ユーベルマニアの新種はかなりインパクトが大きく感じます。今後、園芸市場に出回るでしょうか?
さて、今年に発表された種は、これから検証されて、将来的に正式にデータベースに記載されていく可能性があります。せっかく調べたのですから、これからは毎年チェックしていきたいですね。



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本日はちょっと変わったサボテンの論文を見つけましたので、ご紹介します。それは、N. B. Englishらの2021年の論文、『Age-growth relationships, temperature sensitivity and palaeclimate-archive potential of the threatened Altiplano cactus Echinopsis atacamensis』です。ボリビアに自生する絶滅危惧種である柱サボテン、Echinopsis atacamensis var. pasacanaについて様々な視点から研究を行っています。

pasacanaについて
南部Altiplanoでは、長寿の柱サボテンであるpasacana=Echinopsis atacamensis var. pasacanaが自生します。南Altiplanoのpasacanaは海抜2000〜4000mの、寒く(年間平均気温-0.6〜16.4℃)、乾燥した(年間降水量200mm)生息地に適応しており、地元の木材としての価値もあり絶滅危惧あるいは準絶滅危惧種と考えられています。
サボテンの生長に関して、従来は写真撮影や測定を繰り返し数年〜数十年にわたり行われてきました。しかし、pasacanaの自生地は遠隔地にあるため調査は困難で、その生態などについてほとんど知られておりません。

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Trichocereus pasacana
「The Cactaceae」(1922)より。


棘に刻まれた過去
著者らが開発したサボテンのトゲの放射性炭素同位体の測定手法により、1950年代以降のサボテンの樹齢を正確に判定することが出来ます。また、トゲの中の酸素同位体比はサボテンの茎の水分量と関係します。サボテンの茎の水分の貯蔵は、温度や降水量の変化に反応します。サボテンのトゲは降雨と旱魃による茎の膨張と収縮を記録しています。従って、サボテンのトゲは生長中の気候変動を反映しているのです。

pasacanaの樹齢
ボリビアのウユニ塩湖にあるPescado島に自生する2個体のpasacanaのトゲを解析しました。1個体は約70年にわたり年平均5.8cm生長し、もう1個体は約50年にわたり年平均8.3cm生長しました。Pescado島でもっとも背が高いpasacanaは高さ8.3mでしたが、計算上ではその樹齢は308〜430年と推定されます。また、生長率から生存曲線を描くと、1993年、1965年、1943年、1904年、1862年付近で生存率はピークとなっていました。

Altiplanoの過去
pasacanaのトゲの酸素同位体と放射性炭素同位体の比を測定すると、1953年〜2011年の間の変動は41.6〜62.5%と極端でした。しかし、降水量はその間に約6%の変動しかありませんでした。北米の柱サボテンでは、酸素同位体比は降水量と相関します。しかし、Altiplanoでは南米夏季モンスーン(SAMS)により、水の供給は安定しています。サボテンはCAM植物ですが、水分の蒸発を抑えるために夜間に気孔を開きます。そのため、蒸散は主に夜間に起こり、蒸散速度は夜間の気温と蒸気圧差により制御されます。標高約4000mの夜間の気温は冷涼ですから、気温のわずかな上昇が蒸気圧差に影響を与えます。そのため、夜間気温の高い年には、茎の水分が蒸発しトゲの酸素同位体比が上昇します。

最古のサボテン記録
この研究では462本のpasacanaの高さを測定しましたが、pasacanaが154cm、つまり約50〜60歳に達すると急激に死亡率が低下することが分かりました。降水量の増加や低気温が長く続いたり、深刻な旱魃がなかったりした場合に、新しい実生の加入が起きると考えられます。人口統計学的には、pasacanaは成熟するのに、つまりは腕が追加されるのに約100〜150年かかり、北米の柱サボテンより生長は遅いことが分かりました。また、約400歳に達する非常に長寿なサボテンで、これまでに推定された最古の記録となります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
樹木の放射性炭素同位体による年代測定は盛んに行われていますが、年輪を作らないサボテンの放射性炭素同位体による年代測定は初めて聞きました。トゲは確かに作られた時の環境に影響を受けていますから、言われてみれば納得です。
しかし、推定年齢はなんと400歳に達する可能性があると言うことに驚きます。巨大な柱サボテンであるSaguaro(弁慶柱)などは、あまり背が高くなると倒れるイメージでしたから、樹木のような長寿は予想だにしていませんでした。
さて、論文では古代の海洋気候などと関連付けた壮大な考察が続きますが、そこら辺は私の専門外と言うか、あまり興味がないので割愛させていただきました。
最後になりますが、pasacanaの学名の変遷を簡単におさらいしましょう。Echinopsis atacamensis var. pasacanaは、2021年にLeucostele atacamensis subsp. pasacanaとなっています。このpasacanaの歴史は、1885年のPilosocereus pasacanusから始まり、1894年のCephalocereus pasacanus、1920年のTrichocereus pasacana、1959年のHelianthocereus pasacanus、1974年のEchinopsis pasacana、1980年のTrichocereus atacamensis var. pasacanus、1996年のEchinopsis atacamensis subsp. pasacana、2012年のTrichocereus atacamensis subsp. pasacanusなど沢山の異名があります。複数種だと思われていたのではなく、どの分類群に該当するのかはっきりしなかったようですね。



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サボテンが水を蓄えて多肉質な面白い姿をしているのは、当然ながら乾燥地の厳しい環境に適応した結果です。しかし、環境の厳しさとサボテンに種ごとの特徴との関係性は、あまり詳しくは分かっていないようです。そこで、6種類のギムノカリキウムについて、それぞれの自生地の降水量と形態的な特徴との関係を調査した論文をご紹介しましょう。それは、Solana B. Perottiらの2022年の論文、『Biomass Partitioning and Morphoanatomical Traits of Six Gymnocalycium (Cactaceae) Species Occurring along a Preciptatiom Gradient』です。

ギムノカリキウム属と降水量勾配
ギムノカリキウム属は南アメリカ南部原産のサボテンで、約50種が含まれます。アルゼンチン北西部の山岳地帯にもっとも豊富に生息しています。この地域は気候が非常に不均一で、湿潤した環境から非常に乾燥した環境まで様々な生態系があります。本研究の目的は、降水量勾配に沿って分布する6種のサボテンが、バイオマス分配(茎や根、トゲなどのどこに資源をどの程度分配するか)と、形態・組織学的な特徴の点でどのように異なるのかを分析することです。

生息地域の環境
調査はアルゼンチンのCatamarca州において実施されました。乾燥地帯としてMonte ecoregionから、G. pugionacanthumとG. marianaeを採取しました。半乾燥地帯としてSan Fernando del Valle de Catamarca市近郊から、G. stellatumとG. hybopleurumを採取しました。亜湿潤地帯としてEl Rodeoから、G. oenanthemumとG. baldianumを採取しました。
この乾燥地帯は年間平均降水量は380mmで平均気温は16.3℃、半乾燥地帯の年間平均降水量は460mmで平均気温は19.7℃、亜湿潤地域の
年間平均降水量は500mmで平均気温は17.4℃でした。
属下分類は、乾燥地帯のG. 
pugionacanthumはScabrosemineum亜属、G. marianaeはGymnocalycium亜属で、半乾燥地帯のG. stellatumはTrichomosemiuneum亜属、G. hybopleurumはScabrosemineum亜属で、亜湿潤地帯のG. oenanthemumはScabrosemineum亜属、G. baldianumはGymnocalycium亜属です。

形態学的な特徴
もっとも乾燥した地域に分布するG. pugionacanthumは、非常に粗くて長く太いトゲを持ち、地下茎がもっとも長いと言う特徴がありました。さらに、乾燥地に分布するG. marianaeは高い密度のアレオーレとトゲを持っていました。
半乾燥地に分布する
G. hybopleurumは、全長のほぼ半分に達する長さの紡錘根(napiform root)を持ち、中程度の密度のアレオーレ、多数の大きく幅広いトゲを持つものの、G. pugionacanthumやG. oenanthemumと比較すると少ないものでした。G. stellatumは稜(rib)がもっとも多く、地下茎は地上部の2倍に達し、トゲの数は少なく高密度のアレオーレを有していました。
G. oenanthemumは全長のほぼ半分に達する長さの主根を持ち、長くて幅広いトゲは数が多いものの、アレオーレの密度は低いものでした。G. baldianumも長い主根があり、地上部の方が短く、もっとも高密度のアレオーレを持っています。

環境とバイオマスの分配
以上のようにバイオマスをどこに振り分けるかは異なります。G. baldianumはトゲに対する割り当てが少なく、逆にG. pugionacanthumはより多く割り当てました。特に乾燥した環境に自生するG. pugionacanthumは、主根に多くを割り当てています。しかし、湿潤な環境に自生するG. baldianumは、乾燥した環境に自生するG. marinaeよりも、主根へより多くバイオマスを割り当てていました。

組織学的な特徴
表皮は種の間で、もっとも変化に富んだ組織でした。G. pugionacanthum、G. hybopleurum、G. oenanthemum、G. stellatumは、陥没した気孔と楕円形の肥厚またはクチクラの外縁を示しました。G. pugionacanthumやG. stellatumは大きなイボ状の突起、または乳頭状突起を示しますが、G. hybopleurumやG. oenanthemumはより小さいものでした。対照的に、G. marinaeやG. baldianumでは、気孔は表皮細胞と同レベルであり非常に豊富で、薄いクチクラと表皮を持っています。G. pugionacanthumは最高値の厚いクチクラと表皮、皮下組織を持ち気孔は陥没し、その特徴は乾燥した環境と一致します。

結論
著者らは環境と形態学特徴、あるいは組織学的特徴が関係していることを想定しました。しかし、実際には特徴は系統関係と関連があるように見えます。つまり、同じ亜属内の種は類似しているのです。
皮下組織の層数と細胞壁の厚さは、乾燥に対する形態と考えられています。そのため、G. pugionacanthumとG. stellatumがもっとも乾燥環境に適していると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
著者らの想定した降水量と形態的特徴は、必ずしも相関はありませんでした。むしろ、系統関係が意味を持っているようです。これはなかなか意味深で、各種が各々で乾燥に耐えるべく進化したと言うより、各亜属が別々に乾燥に適応していった可能性を示唆するからです。
また、著者らは乾燥地帯に自生するG. pugionacanthumと、半乾燥地帯に自生するG. stellatumがもっとも乾燥に強い可能性を示しました。これはどう捉えたら良いのでしょうか。例えばですが、各種の自生地は、乾燥に耐えられる極限であるとは言えないとするのはどうでしょう。乾燥に対する耐性は、ある程度の幅があるはずです。ある一定以上の乾燥耐性があれば、割りと場所を選ばない可能性もあります。つまりは、単純に種分化する道筋で様々な環境と出会っただけで、様々な環境に出会ったからその環境に適応したわけではないと考えてはいかがでしょうか? G. pugionacanthumはその環境でもっとも上手くやれる能力があると言うだけのことです。まあ、これはただの思いつきに過ぎません。まだ、分からないことが沢山ありますから、様々な可能性がありそうです。今後の研究に期待しましょう。


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サボテンと言えば、何と言ってもそのトゲが特徴でしょう。トゲのない烏羽玉(Lophophora williamsii)や兜丸(Astrophytum asterias)などもありますが、もっとも原始的なPereskiaやLeuenbergeriaでもトゲがあるのですから、やはりサボテンはそのトゲなくして語れません。このさて、このサボテンのトゲは、やはり研究者も気になるようで、様々な角度から研究が行われています。サボテンのトゲの役割は身を守るためであろうことは直感的に分かりますが、どうもそれだけではないようです。と言うことで、本日はNayla Lujan Aliscioniらの2021年の論文、『Spine function in Cactaceae, a review』をご紹介しましょう。タイトルの通り、過去に行われたサボテンのトゲの研究を調べレビューしています。

棘の種類
サボテンは約1850種類と種数が豊富で、トゲの形態も多様性があります。棘のサイズもばらつきがあり、数mmから20cmまであります。棘は集合しているとより効果的に防御できます。棘のほとんどは針状で、断面は円形で、片側が平らになっていたり鉤状となる場合もあります。また、種により複数種の棘を持つものもあります。例えば、Oreocereus属には通常の防御棘と毛状の棘があります。刺座(アレオーレ)から生える棘の配置はパターンがあり、1つは櫛状の配置で棘は2列に並びすべて同じ大きさです。もう1つは、中心の棘、より長い棘、放射状の棘への分化です。

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Oreocereus celsianus
Pilocereus brunnowiiとして記載。
『The illustrated dictionary of gardening』(1895年)より


棘の機能
サボテンの棘の主たる機能、おそらくはより古いものは植食者に対する防御です。サボテン科は約3000万年前の地球規模の乾燥化に関連して誕生したと考えられています。乾燥した環境では、多肉質な組織は水源となります。そのような状況で、サボテンは物理的な防御として棘を発達させた可能性があります。
現在のサボテンの棘の機能の多様性は、サボテン科の進化的な放散により機能が増加したことをあらわれています。1986年にGibson & Nobelは、防御から体温調節、紫外線からの保護機能を提案しました。


文献探索
サボテンの棘の機能について書かれた論文を調査したところ、24件の研究が見つかり、39種のサボテンが分析されていました。これらの論文において、棘の機能は抗草食防御が5件、抗寄生植物防御が2件、栄養分散が3件、体温調節が11件、集水作用が4件でした。研究のうち9件は野外で実施され、8件は実験室で、7件は野外と実験室の両方で実施されました。
調査されたサボテンはそのほとんどが北米と中米(主に米国とメキシコ)で31種類にのぼり、南米では8種類に過ぎませんでした。南米には非常に過酷な、乾燥した砂漠から熱帯雨林、海抜0mから4000mを超える高さまで生息するサボテンが豊富に存在します。サボテン科はその棘が重要であるにも関わらず、棘の機能を理解するためのモデルとされたのはごく一部に過ぎません。


抗草食防御
草食動物に対する防御は、サボテン科の進化における棘の最初の機能である可能性が高いでしょう。しかし、その機能を分析した研究は少ししかありませんでした。2009年にNassar & Lev-Yadunは、ウチワサボテンの棘密度は、草食動物が食べやすい上部では高いことを発見しました。2018年にCrofts & Andersonは、サボテンの棘が草食獣の皮膚を突き刺すため、草食獣は棘の少ない新しい枝を好むことを観察しました。また、サボテンに限らず棘のある植物は、大型草食動物による採食に長期間さらされると、棘が増えることが知られています。

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ウチワサボテン(筑波実験植物園にて)

温度調節
1970年にGibbs & Pattenは、トゲが極端な高温から茎を保護し、日照のエネルギーの多くを反射および吸収していることを発見しました。2017年にDreznerは、温度が上がるとトゲの長さが長くなることを示しました。2002年のNobel & Bobichは、トゲの密度は高度が高いほど増加し、低温から茎を保護していることが分かりました。

霧収集システム
サボテンには効率的な霧収集システムを発達させたものがあります。水分はトゲの先端で凝集し、基部に移動して茎に入り貯蔵されます。いくつかの研究では、水分がトゲを伝い茎に取り込まれることが明らかとなっています。ただし、疎水性のトゲを持つ持つ種もあり、その場合は水分がトゲの表面で凝集することはありません。

抗寄生植物防御
チリにはTrichocereus chiloensisとEulychnia acidaに寄生するヤドリギである、Tristerix aphyllusが知られています。寄生植物の種子はサボテンを止まり木にする鳥の糞により散布されます。T. chiloensisは、鳥が止まり木として利用しにくくするために、大きなトゲを発達させました。現在、サボテンのヤドリギは他に知られておらず、抗寄生植物防御が確認されているのはこれだけです。

サボテンのヤドリギの画像(リンク)
https://chileanendemics.rbge.org.uk/taxa/tristerix-aphyllus-miers-ex-dc-barlow-wiens

栄養分散
ウチワサボテンの中には、トゲが動物の皮膚に引っかかり、動物の移動により分布を広げます。しかし、栄養分散の研究では、トゲを介した分散能力は示しましたが、分散そのものは評価されていません。

考えられる機能
実証されていない機能についても、いくつかの言及があります。2001年にAndersonは、トゲがカモフラージュとして機能し、草食動物から保護される可能性を提案しました。また、トゲは花粉媒介者に簡単に認識されるため、受粉の可能性が高まるかも知れません。

その他のトゲのトピック
資源割り当てと言う観点からトゲを分析した研究は、非常に少ないようです。トゲは光合成組織ではないため、コストがかかります。また、茎に陰を作ることから、光合成能力を低下させます。一部の種では、遮光作用として重要となるものもあります。

未解決なトゲのトピック
トゲがない、あるいはトゲが少ない種を分析した研究は見つかりませんでした。例えばLophophoraやAstrophytumはトゲが減少しています。Lophophoraはアルカロイドを蓄積しており、物理的防御と化学的防御のtrade-offの関係を示しています。

最後に
サボテンと言えば何と言ってもそのトゲが目立ちますが、意外にもその機能はまだ明らかとなっていない部分がまだまだあるようです。むしろ、良いトゲを出させるために心血を注いでいる趣味家の方が詳しい部分もありそうですね。それはそうと、今回の論文は末尾に「a review」とあります通り、過去の論文を探して概観したものです。私がまだ読んでいない面白そうな論文がいくつも取り上げられていましたから、機を見て記事にしたいと思います。


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サボテンの受粉システムは種により様々ですが、本日はアリオカルプス属に焦点を当てます。アリオカルプスの花は雌雄離熟、つまり柱頭と葯の位置が離れており、自家受粉しにくい構造になっています。では、アリオカルプスは自家不和合性なのでしょうか? と言うことで、本日はConcepcion Martinez-Peraltaらの2014年の論文、『Haw common is self-incompatibility across species of the herkogamous genus Ariocarpus?』をご紹介しましょう。

自殖を防ぐシステム
植物の有性生殖システムは花の様々な異系交配を促し、近交弱勢や適応度の低さなど自殖の悪影響を軽減すると考えられています。雌雄離熟(herkogamy)や雌雄異熟(dichogamy)は、性別を空間的・時間的に分離しますが、必ず自殖を防ぐことが出来るわけではありません。
自家不和合性(Self-incompatibility)は、自家花粉の遺伝的な認識と抑制が非常に効果的であり、もっとも効果的な自家受粉を防止するメカニズムです。少なくとも被子植物の約60%は、何らかのタイプの自家不和合性を備えています。もっとも一般的なタイプの自家不和合性は、配偶体自家不和合性(gametophytic self-
incompatibility)=GSIであり、認識は雌蕊と花粉管の相互作用によります。GSIでは花粉管の阻害が起きます。
近年、サボテンの生殖システムに関する研究は増加していますが、自家不和合性などの問題はほとんど注目されていません。自家不和合性が確認されているのは、Schlumbergera、Hatiora、Echinopsis、Hylocereus、およびSelenicereusの一部です。
自家不和合性から自家和合性に移行し自家受粉率が高まる現象は、被子植物の中でもよく見られます。これらの移行は、花粉媒介者や交配相手の不足により促進されます。

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Ariocarpus retusus
『The Cactaceae Vol. III』(1922年)より。


アリオカルプスの受粉試験
著者らは7種のアリオカルプスを、それぞれの自生地で受粉試験を行いました。成り行きに任せた自然受粉と、人工的に他家受粉あるいは自家受粉させた花を、48時間後に回収しました。同様に受粉から5〜6ヶ月後に果実を回収しました。
自然受粉あるいは人工的な他家受粉では子房に到達する花粉管が多く、自家受粉では柱頭の途中で花粉管は阻止されており、アリオカルプス属は自家不和合性であることが示されました。うち、6種類は子房にも花粉管が観察されたため、一部の遺伝子は自家和合性です。1種類は子房に自家受粉の花粉管が観察されませんでしたが、自家受粉でも果実は2%結実しました。A. kotschoubeyanusとA. agavoidesは子房に到達する自家受粉の花粉管の割合が高く、結実率も高いものでした。A. retususおよびA. trigonusは、子房に自家受粉の花粉管が到達する割合が低く、A. scaphirostrisは子房に自家受粉した花粉管はなく厳密な自家不和合性であることが分かりました。

自家不和合性から自家和合性へ
アリオカルプスでは、そのほとんどが自家不和合性であるものの、一部の遺伝子は自家受粉が可能であることが示されました。このパターンは疑似自家不和合性あるいは部分的自家不和合性として説明されます。これは、厳密な自家不和合性から自家和合性への移行を表している可能性もあります。自家和合性をもたらす突然変異は自然の集団でも比較的頻繁に起こるようです。進化論的観点からは、花粉や配偶者が制限されている環境では、部分的な自家和合性が発達する可能性があります。配偶者が少ない環境では種子が減少し、局所的な絶滅のリスクが高まるため、自家和合性が選択されるかも知れません。アリオカルプスの中でも、A. kotschoubeyanusは花粉制限されており、子房に到達する花粉管が多く、部分的自家不和合性が促進されている可能性があります。

最後に
アリオカルプスは基本的には自家不和合性であることが確認されました。自家受粉では花粉管が拒絶されるためですが、厳密な自家不和合性であるA. scaphirostris以外では稀に自家受粉により結実することもあるようです。さらに、A. kotschoubeyanusでは自家受粉による結実率が高く、自家不和合性から自家和合性への移行が起きている可能性があります。

さて、自家不和合性は植物では非常に一般的な性質です。なぜ、自家不和合性と言うシステムが選択されたのでしょうか。これは、「選択」と言う語感とは異なり植物が自身で選んだのではなく、自然選択により自家不和合性の方が有利だったのでより生き残ったと言うだけのことなのでしょう。他家受粉では、異なる遺伝子が混ざることにより遺伝子に多様性が生まれ、より環境や生存に適応的になります。それにより、様々な環境に適応するだけではなく、病原菌に対する耐性が異なる場合もよくあることです。しかし、厳しい環境に自生する植物では、水や栄養などの資源が不足するなど、他の植物では有利なシステムが不利になる、あるいはあまり意味がない場合もあります。本日ご紹介した論文では、A. 
kotschoubeyanusが受粉のシステムが変更される過程を観測しているのかも知れません。しかし、例えばOpuntia macrocentraは、自生地により自家不和合性の個体群と自家和合性の個体群が存在することが明らかとなっています。もしかしたら、アリオカルプスも個体群によっては、より進行した自家和合性への適応を持っていることも考えられます。まだサボテンの自家不和合性に関する研究は少ないようですが、これからの研究の進展を待ちたいと思います。


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植物の繁殖形式は種によって異なりますが、そのすべてが明らかとなっているわけではありません。例えば、園芸的に著名なサボテンですら、実際に調査されたのは極一部です。当ブログにおいても、サボテンの繁殖に関する論文はそれなりの数を取り上げて来ました。しかし、まだ取り上げていない論文が沢山あります。と言うことで、本日はチワワ砂漠に広く分布する紫色のウチワサボテン、Opuntia macrocentraについて見ていきましょう。参照するのは、L. Eder Ortiz-Martinezらの2022年の論文、『Variability in mating strategies in a widespread cactus in the Chihuahuan Desert』です。

繁殖戦略
サボテン科の中ではウチワサボテン属(Opuntia)が最も成功し広範囲に分布する属です。ウチワサボテンはクローン性と多様な有性生殖システムを持ち、高い繁殖能力と分散能力を兼ね備えています。しかし、ウチワサボテン属のうち、繁殖に関する研究がされているようはわずか15%に過ぎず、しかもそのほとんどは1つの個体群のみの結果に基づいています。
多くの植物で自殖あるいは異系交配率が、集団間で大きな変動を示す証拠が増えています。そのため、単一の集団の研究に基づいて繁殖システムを一般化することは問題があります。
花粉媒介者(pollinator)による受粉は、場合によっては不確実で非効率的となることもあります。花粉媒介者の訪問頻度の変化は、花粉媒介者が豊富な状況では異系交配による遺伝的変異が起き、花粉媒介者が貧弱な状況なら自家受粉による生殖の保証との間にtrade-offを引き起こし、植物の交配システムの変異を促進する可能性があります。
花粉の量的あるいは質的な制限は自家不和合性でより起きやすく、自家不和合性から自家和合性への進化などの生殖システムの変化につながる可能性があります。Ariocarpus kotschoubeyanus(黒牡丹)は、厳密な自家不和合性であるAriocarpus属の中で唯一の自家和合性種です。A. 
kotschoubeyanusの自家和合性の進化は、花粉の制限、個体群密度の高さ、花粉媒介者の少なさの相互作用により説明されます。

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Opuntia macrocentra(下)
花はapproach herkogamyではないことに注意。
『The fantastic clan. The cactus family.』(1932)より


紫色のウチワサボテン
紫色のウチワサボテン(purple prickly pear)と呼ばれるOpuntia macrocentraは、チワワ砂漠とソノラ砂漠に広く分布するサボテンです。研究にはチワワ砂漠内で708km離れた2つの個体群を観察しました。1つは米国ニューメキシコ州立大学チワワ砂漠放牧地研究センター(CR)内にあり、もう1つはメキシコのDurango州Mapimi生物圏保護区(MBR)内にあります。この2つの個体群は、個体数が均衡していることが明らかとなっています。
MBRの個体群は密度、種子生産、新規加入率(recruitment rate)が低くなっています。CR個体群は混合交配システムと自律的な自家受粉、花粉媒介者の多様性の低さ(2種の蜂)、花粉媒介者の訪問頻度の低さが特徴です。しかし、MBRのO. macrocentraの生殖システムは不明です。


花への訪問者
MBRのO. macrocentraは昼行性で、ほとんどの花は1日(9:00〜20:00)しか咲かず、12:00〜13:00の間に最も花が開きます。10%未満の花は19:00に開き、夜間は閉じて、翌14:00頃まで咲くものもありました。
O. macrocentraの中から32個体を選び、5日間にわたり開花中の花を訪れる花粉媒介者を調査しました。

22時間の観察中にO. macrocentraの花には、287回の訪問者がありました。訪れたのは、8種類のハチとチョウ、ハエでした。一般に訪問頻度が高いのは、12:00〜15:00の間でした。この内、Diadasia rinconisとLasioglossum sp.の2種類のミツバチは、O. macrocentraの花への訪問の約70%を占めており、花粉媒介者であると考えられました。D. 
rinconisは大量の花粉を付着させる行動が観察されており、主な花粉媒介者であると考えられます。D. rinconisはチワワ砂漠の少なくとも17種類のウチワサボテンの主な花粉媒介者で、このハチはウチワサボテンと共進化したと考えられています。

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Opuntia macrocentra
『Transaction of the Texas Academy opsis Science』(1929-1937)より


異なる交配システム
人工受粉の結果から、MBRのO. macrocentraは絶対的異系交配であり、自家受粉しない自家不和合性であることが示唆されました。自家和合性および自殖性のCRの個体群と異なる交配システムが存在することが明らかとなったのです。
MBRとCRの個体群では、花の特徴が一部異なります。さらに、MBRの花は1日以上開花するものもあります。これは、一部の自家不和合性のサボテンに見られる特徴で、不十分な受粉率によるリスクを最低限とし、交配の機会を増やします。
MBRの個体群には雌雄離熟(※1)が確認されました。これはCRの個体群には存在しません。MBRの個体群では、柱頭が花糸の2倍以上の長さがあり突き出しています。つまり、近接性雌性受粉(※2)です。


※1 ) 雌雄離熟(herkogamy)とは、柱頭と葯の位置が離れていること。
※2 ) 近接性雌性受粉(approach herkogamy)とは、柱頭が葯の高さより上にあること。花を訪問した昆虫は花粉に触れる前に柱頭に接触する。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
同種のウチワサボテンでも、異なる個体群では繁殖システムが異なることが示されました。確かに、過去に読んだ論文では、1つの地域に生える個体群のみを調査したものばかりでした。しかし、この論文を前提とすると、1つの地域の個体群で、その種を代表してよいものか怪しくなってきました。繁殖システムの調査は、純粋に生物学的な資料の積み重ねだけではなく、植物の保護を考える上でも重要です。自生地で減少しているサボテンや多肉植物についての、このような地道な研究が増えることを願っております。


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以前※欄でサボテンの根の様々な働きについて、ご指摘いただいたことがあります。実に有り難いことです。しかし、なるほどこれは面白いと思い少し論文を漁ってみました。すると、アリオカルプスの根の働きについて書かれた論文を見つけました。それは、Tadao Y. Garretらの2010年の論文、『Root Contraction Helps the "Living Rock" Cactus Ariocarpus fissuratus from Lethal High Temperatures when Growing in Rocky Soil』です。

砂漠の酷暑と植物
砂漠では直射日光が強く、土壌表面の温度は70℃を超えることもあります。サボテンなどのCAM植物は日中に気孔を閉じるため、蒸散による冷却も最小限です。Lithopsなどのように小型の多肉植物は、大部分が地下に埋まるものがあり、受ける温度は低下します。しかし、サボテンは土壌と同じ高さ高さでははるかに高温となるからです。

「生きた岩」
Ariocarpus fissuratusは「生きた岩」(Living Rock)と言うあだ名が示すように、地面と同じ高さに生えます。このような小さな植物は、特に隠蔽色の場合には草食動物に見つかりにくくなるかも知れません。また、地表より下に体の多くを配置すると、蒸散による水分の損失を減らすことが出来ます。また、植物が地表より下にあると、水分が地表より長く存在する可能性が高くなり、水分の吸収が改善されるかも知れません。

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Ariocarpus fissuratus
『The Cactaceae Vol. III』(1922)より。

収縮根
収縮根はアスパラガス科やリュウゼツラン科など、多くの多肉植物にあります。サボテンではLeuchtenbergia principisやLophophora williamsii、Neomammillaria macdougali、Pediocactusなどで報告されています。A. fissuratusはその生態から収縮根を持つことが推測されますが、明らかとはされていません。

A. fissuratusの場合
A. fissuratusを栽培すると、秋〜冬と夏に主に根の収縮により地中に引き込まれました。根の収縮は夏よりも秋〜冬に大きくなりました。晩冬に90日間水やりを減らした時に最も収縮しました。A. fissuratusの原産地の冬は1.2℃になりますが、実験に使用した温室の最低気温は約5℃でした。低温と乾燥の組み合わせは、収縮のきっかけとなります。

仮説
野外で育つA. fissuratusは、根の収縮により地表面と同じ高さになります。その理由を説明ですために、
つの仮説をたてました。すなわち、より低い位置にあることにより、①水分が良好、②気温がが良好、③隠蔽効果です。

①水分が良好
低い位置にあることにより、水分の損失を減らすことが出来るかを試験しました。しかし、地上に剥き出しであるか、地表面と水平であるかは、水分の損失に関係していませんでした。Lithosでは土壌に埋め込まれている場合の方が水分の損失は少なくなります。これは、Lithosでは根が湿った土壌にあり自由に蒸散していたのに対し、A. fissuratusは乾燥しておりおそらく気孔を閉じていたからからかも知れません。いずれにせよ、A. fissuratusの根の収縮は水分の損失とは無関係です。

②気温が良好
根の収縮により適した温度に出来るかを試験しました。まず低温ですが、冬に最大の根の収縮が起きたことから可能性があります。しかし、ほとんどの場合、植物自体の方が気温より低温であることが分かりました。A. fissuratusは茎に含まれる粘液が低温に耐えるために重要で、根の収縮は関係がないと考えられます。
高温に対する根の収縮の効果は、砂質の土壌で鉢栽培した場合には、根の収縮に利点はありませんでした。つまり、地表面と水平の場合の方が高い温度(60℃)を記録したのです。しかし、岩石質がある用土の場合、わずか(56.5℃)に温度が下がりました。砂質土壌に植えられたA. fissuratusは真夏の8日間の猛暑の後に全て枯死しましたが、岩石土壌の場合は全て生き残りました。野外のA. fissuratusは根の収縮と土壌の岩石の組み合わせにより、芽を致命的な高温に達するのを防ぐことができます。

③隠蔽効果
この仮説は検証していませんが、岩の多い土壌に埋め込まれる利点は明らかです。しかし、A. fissuratusは豊富な粘液を持ち、アルカロイドによる化学的防御がなされているため、根の収縮による隠蔽は防御手段として重要ではないかも知れません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
以前、論文を読んでいた際、鉄甲丸(Euphorbia bupleurifolia)はその特徴的な茎は自生地では地下に埋もれて見えないと言うことを知りました。鉄甲丸は乾燥時には縮んで地中に引っ込むと言うことです。まあ、厳しい環境に耐えるための収斂進化なのでしょう。しかし、その期待される効果は同じではないかも知れません。
さて、論文では根の収縮は温度上昇を抑える働きがあることを明らかとしました。とは言え、対して変わっていないようにも思えます。著者らはA. fissuratusの細胞の半数が死亡する温度(半数致死温度)を実験で確かめており、低温ではマイナス10.2℃、高温では56.8℃でした。すると、岩石土壌ではわずか0.3℃ではありますが、半数致死温度に達していません。逆に砂質土壌では半数致死温度より3.2℃も高く、実際に枯死してしまいました。また、白っぽい明るい色合いの土壌では光を反射しますから、温度が下がります。自生地ではそのような効果もあるかも知れません。
多少の疑問もあります。論文では夏期に高温となる温室内で試験が行われました。しかし、実際の自生地では半数致死温度に達するような環境なのでしょうか? これは自生地で確かめないと分からないでしょう。重要なのは温度の低下だけではなく、根の収縮による引き込みにより、実際にA. fissuratusの生存にどの程度の影響を受けるのかです。もしかしたら、温度の低下は起きていても生存率の向上には寄与しないかも知れません。冬期により収縮することを鑑みれば、単純に水分がないから縮んだだけで、特に意味はない可能性もあります。何かが発見されると何かしらの意味を付加したくなりますが、必ずしも意味があるとは限りません。むしろ、A. fissuratusが縮む乾燥期に水分を求めている動物からの隠蔽効果が一番重要な気もします。


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岩場に生える植物は、乾燥や土壌の不足、それに伴う栄養素の欠乏など、大変厳しい環境に生きています。岩場は基本的に乾燥しますから、生える植物は多肉化するものも多く見られます。多肉植物の代表格であるサボテンも岩場に生えるものがあり、岩のわずかな割れ目に根を伸ばし、岩上に張り付くように生えます。このような生態が可能な理由は何なのでしょうか? 本日は、岩場に生えるMammillaria fraileanaに着目した、Blanca R. Lopez、Yoav Bashan、Macario Bacilioの2011年の論文、『Endophytic bacteria of Mammillaria fraileana, an endemic rock-colonizing cactus of the southern Sonora Desert』を見てみましょう。

先駆植物と内生細菌
Mammillaria fraileanaは、高さ10〜15cm、直径3cmになる細い円筒形のサボテンです。このサボテンはバハ・カリフォルニア半島南部の東海岸沿いの岩場でよく見られます。多くの個体は土壌がなくても岩の割れ目や岩の表面に生育します。
M. fraileanaが岩場に先駆的に定着するサボテンであると仮定するならば、窒素固定し岩を風化させることが出来る内生細菌を有しているはずです。内生細菌は、植物の根に住む細菌で、植物の生育を支えています。内生細菌は大気の窒素ガスを固定し、酸を放出して岩石を溶かします。このような内生細菌の窒素を固定し岩石を風化させる働きは、植物の生長と土壌形成を促進し、M. fraileanaのような先駆植物の定着を助けると考えられます。


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Mammillaria fraileana
2021年にマミラリアから分離され、Cochemiea fraileanaとなりました。


M. fraileanaの採取と内生細菌の確認
メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州、La Paz市の北約2kmにある海岸平野に接する丘陵の尾根に生えるM. fraileanaを採取しました。気候は亜熱帯性で高温で乾燥しています。M. fraileanaが生える岩は、流紋デイサイトや流紋岩からなります。
採取したサボテンの根を消毒し、表面に付着した細菌を除去しました。根を観察すると内部に内生細菌が確認されました。また、種子の内部にも内生細菌が含まれていました。さらに、根から取り出した内生細菌を実生に接種することにより、実生の根に内生細菌の侵入を確認しました。

内生細菌の能力
窒素固定能力
根に含まれる窒素固定細菌は人工的に培養出来なかったため、切断された根の窒素固定能力を試験しました。培地成分を分析しM. fraileanaの根に含まれる内生細菌が窒素固定能力を持つことを確認しました。
リンの可溶化
根から取り出した内生細菌を難溶性の無機リンを含む培地に接種したところ、10の分離株のうち5株はリンを可溶化しました。
岩石の風化作用

粉砕した流紋デイサイトを含む培地に内生細菌を接種したところ、培地に含まれる岩石の小粒子が9%から403%に増加しました。これは岩石の風化を示しますが、培地の酸性化により起こると考えられます。接種1週間後の培地のpHは1.68〜1.86低下しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
乾燥した砂漠地帯の岩場と言う極限環境に生えるMammillaria fraileanaは、内生細菌との共生関係により環境に適応している可能性が示されました。岩場は栄養が不足しますが、窒素固定細菌の働きと、岩石を溶かして風化させリンを可溶化する細菌の働きにより栄養を確保しているのです。また、岩石の風化は土壌の形成を意味しますから、サボテンの生長とともに根域と土壌は増加することになります。岩場に生えるサボテンはただ乾燥に強いのではなく、微生物の力も借りて極限環境を生き抜いているのです。



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変わった見た目をしているドラゴンフルーツの果実を見かけるようになったのは、いつ頃のことだったでしょうか。20年くらい前はかなり珍しい果物だったような気がします。いつでもどこでも販売しているわけではありませんが、今ではドラゴンフルーツ自体はすごい珍しいものではなくなりました。沖縄でも栽培されているみたいですし、あまり見かけないのはあくまで需要と供給の話だからなのでしょう。

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Hylocereus undatus(上)

さて、そんなドラゴンフルーツですが、これはいわゆるサボテンの実ですが、ドラゴンフルーツは我々趣味家にとっては馴染み深いサボテンだったりします。なぜなら、ドラゴンフルーツとはいわゆる「三角柱」と呼ばれているサボテンのことだからです。葉緑体がない緋牡丹を三角柱に接ぎ木したものを皆様も見かけたことがあるはずです。まあ、三角柱は永久台木にはならず、寒さに弱く腐るのであまり台木としては人気がないかも知れません。
本日は原産地であるメキシコにおける、三角柱=ドラゴンフルーツの受粉に関する研究をご紹介したいと思います。それは、A. Valiente-Banuetらの2007年の論文、『Pollination biology of the hemiepiphytic cactus Hylocereus undatus in the Tehuacan Valley, Mexico』です。早速、見ていきましょう。

Hylocereus undatusとは?
メキシコ南部から中米北部に拡がるメソアメリカ文化では、サボテンが栽培されていました。メソアメリカ人が使用した118種類のサボテンのうち、約40種類は様々な程度で家畜化されており、現在でも先住民族により広く栽培されているものもあります。それらの中でも、半着生サボテンであるHylocereus undatusはその装飾的価値と食用となる果実のためにメキシコ全土で高く評価されています。H. undatusはメキシコ、西インド諸島、中米、南米北部の熱帯落葉樹林に自生します。また、カンボジア、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、メキシコ、ニカラグア、ペルー、台湾、ベトナムで、果実生産のために栽培されており、近年ではオーストラリアやイスラエル、日本、ニュージーランド、フィリピン、スペイン、米国でも栽培されています。

Hylocereusの受粉生物学
H. undatusは作物としての重要性のため、園芸学的にあるいは生態生理学的に広く研究されています。HylocereusとSelenicereusの受粉生物学的研究のほとんどは、温室環境下で実施されています。それらの研究によると、花は夜行性で一晩だけ開花し、コウモリや大型のスズメガが訪れます。H. polyrhizusとH. costaricensisは自家不和合性であり、結実には他家受粉が必要です。過去の報告によると、H. undatusは自家受粉では自然と結実はせず、人工的に自家受粉させるとその結実率は50〜79.6%に低下します。ちなみに、他家受粉では100%結実します。一方、Selenicereus megalanthusは自家和合性があり、自然状態でも自家受粉し結実率は60〜73%、人工的に自家受粉させると結実率は100%でした。この2種類の受粉システムの違いは、自動自家受粉(自然状態での自家受粉)を妨げたり可能とする葯や柱頭の位置と形態の違いによるものでしょう。

実験方法
メキシコ中南部のTehuacan渓谷では、現地で「pitahaya」と呼ばれているH. undatusが広く栽培されており、地元の人々によると古くから栽培されてきた作物と言うことです。現在、pitahayaの果実の生産と商品化は重要な経済活動の一部です。pitahayaは茎の一部を樹木の根元に植えるだけで、家庭菜園で沢山の果実がとれます。この地域の果実生産は非常に効率的です。それは、地元の人々による植え付けによる遺伝的な影響のためか、単に自家不和合性があるためであるのかは不明です。
そこで、著者らはこの
Tehuacan渓谷で、果実における自家受粉の役割と、夜行性および昼行性の花粉媒介者の重要性を決定するために調査を実施しました。花を夜間だけあるいは日中だけ袋をかけ、花粉媒介者の訪問を制限しました。さらに、著者らの手による自家受粉させたものと、袋をかけず自由に受粉させたもの、常に袋をかけたものも試験しました。受粉した果実が成熟したら回収し、分析しました。

観察
調査地におけるH. undatusの花は約17時に開き始め、11時頃に閉じ始めました。分析した花のすべてから花蜜は検出されませんでした。花は長さ平均34.5cmで、花の先端部から蜜室までの長さは平均29.95cm、外径は平均13.6cmでした。
野外調査では3種類のコウモリが捕獲され、付着したH. undatusの花粉が調べられました。うち、2種類のコウモリは付着した花粉が豊富でした。日中にはミツバチの訪問が観察されましたが、夜間は昆虫は採取されませんでした。

結果
人工的に受粉させた自家受粉の場合は53.8%の結実率でしたが、常に袋がけした自家受粉の場合は100%の結実率でした。袋をかけない場合は100%結実しましたが、夜間だけ袋を外した場合は76.9%の結実率、日中だけ不安定を外した場合は46%の結実率でした。
人工的に受粉、あるいは袋がけした自家受粉で100%受粉したと言うことは、花粉媒介者がいなくても結実出来ると言うことです。これは、自家受粉では結実せず、人工的な自家受粉では結実率が下がるとしたWeiss et al. , 1994の結果とは異なります。イスラエルにおけるH. undatusの果実の商業生産に関する報告(1999, 2000)では、果実の生産には人工受粉が必要であるとしています。これらの違いはクローンの違いに起因する可能性があり、調査する価値があります。
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、その商業生産にとっては重要です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、明らかにその果実の商業生産にとって福音となるでしょう。しかし、その性質の違い、おそらくはクローンの違いはですが、どのようにしてもたらされたのでしょうか。茎節を挿し木して増やすTehuacan渓谷の人々の長いH. undatus利用の過程で生まれたことは明らかかも知れませんが、あるいは選抜された過去が隠されているのかも知れませんね。
さて、
Tehuacan渓谷のクローンは自家受粉するため必ずしも花粉媒介者は必要ありませんが、一般的には人工受粉させるか花粉媒介者が必要です。今回の調査では夜間に花を訪れるコウモリが主たる花粉媒介者と比定されます。花蜜はないので花粉を食べに来ているのでしょう。また、H. undatusの花は夜間に開花しますが、明け方から11時位までは開いているため、ミツバチも訪れ受粉に寄与していることが分かります。果実の効率的な生産には自家受粉する性質は便利ですが、やはり他家受粉により多様な性質が現れることは、野生のH. undatusには必要なことでしょう。
最後に補足情報で終わりましょう。かつてドラゴンフルーツはHylocereus undatusなる学名で呼ばれておりましたが、近年Selenicereus undatusとなり、HylocereusはSelenicereusに吸収されてしまいました。これはHylocereusが遺伝的にSelenicereusと区別出来ないと言う研究成果に基づいています。



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植物は育てていると、稀に生長点が異常になる「帯化」が起きることがあります。これは石化とも呼ばれますが、サボテンでも綴化と呼ばれ珍重されています。さて、園芸的には帯化は肥料過多が原因なのではないかと言われているようですが、その実態はよく分かりません。帯化の直接の原因は生長点の異常ですが、その異常を引き起こす原因がよく分からないのです。以前、Gymnocalycium vatteriのトゲがアレオーレではない場所から出る突然変異の報告を読んだことがあります。その報告は写真がメインで、特に考察や原因の特定がないため、記事にはしませんでした。しかし、関連論文として、サボテンの生長の異常に関するものがあったため、今回ご紹介することにしました。それは、Vladimir A. Basiukの2013年の論文、『Teratopia in Cactaceae Family: The Effect to Temperature』です。

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Ferocactus wiskizenii forma cristata
『Saguaroland Bulletin』(1954)より。

生長異常を起こすサボテン
著者の約350株のサボテンコレクションを詳しく調べ、どのような種類の生長異常が見られたかを要約しました。著者のサボテンの育成環境は、アルミニウム温室です。場所は北緯18.55°(※1)、標高は約1500mですから日射量は強いことが分かります。温室は遮光率70%のネットにより、特に午後の強い日射から守られます。日中の気温は高く軽く40℃を超え、これは夏でも冬でも起こります。また、温室のサイズが小さいことに加え、動物からサボテンを保護するために、入口は閉じ続けなければなりませんでした。小さな2つの窓は換気にはほとんど意味がありません。

※1 ) 著者はメキシコの大学に所属しています。

化学的、あるいは物理的な異常を誘発する試みは行われず、殺虫剤や肥料の過度の使用は控えられました。以上のことから、著者はサボテンに起こる生育異常を引き起こしているのは、高温の影響ではないかと考えています。

Case 1 稜の変異
約4年前にAstrophytum myriostigmaに出た2つの花芽は開花せず、数ヶ月後に不規則な形の新芽に変わりました。約1cmほどになったタイミングで切り取り、Opuntia compressaに継ぎました。その形状は1つは「複隆」、もう1つは「Lotusland」として知られるものと同じです。
悪い条件で花芽が子株に変換されることは珍しくありませんが、このような複雑な形態になることはほとんどありません。


Case 2 花芽から子株へ
Gymnocalycium baldianumで花芽が子株に変換されました。子株には萼片がありますが、次第にトゲのあるアレオーレが発達します。やがて、子株から花を咲かせました。しかし、中には新たに花芽を付けるのではなく、生長点がそのまま花芽に変化したものもありました。この場合、子株と花芽は一体化しており、はっきりした境界はありません。これは、子株が花芽に回帰し誤りを正そうとした例かも知れません。やがて開花しましたが、柱頭や雄しべの形態には異常が見られました。開花後も子株と一体化した花は落ちずに残りました。

Case 3 モンスト
Copiapoa tenuissimaやCopiapoa lauiのモンスト(monstrose)は古くから知られており、広く商品化されています。これらは接ぎ木により容易に増やせますが、通常のサボテンからどのように出現するのか観察した栽培家は非常に少数です。著者はモンストが一般的ではないEriosyce esmeraldanaでモンストの発生を観察しました。この個体は種子から育てられ、約26年経ちます。すでに2つの子株を作りましたが、3つ目は大量の羊毛状の毛に覆われて分頭を繰り返すようになりました。

Case 4 双結節
著者の育てているAriocarpus retususは、18年前に直径15cmくらいで入手しました。2007年までは異常は見られませんでしたが、それ以降は結節(疣)が2つあるいは3つに分かれています。これは、やがて例外ではなく規則となりました。

Case 5 綴化
Rebutia heliosaやRebutia rauschii、Parodia haselbergiiは生長点が帯化し始めました。

最後に
論文を読んでいて意外に思ったのは、これらの変異が遺伝的な突然変異ではないということです。綴化は物理的な生長点の障害だろうと考えていましたが、複隆やモンストも遺伝的なものではないのです。もちろん、遺伝的な変異でも突然変異体は誕生する可能性はありますから、そのすべてがそうであるとは限らないでしょう。しかし、論文のケースを見るにつけ、おそらくこのような変異体は物理的な障害の方が発生しやすいはずです。さらに、サボテンは接ぎ木により容易に増やせますから、一度変異が発生したならば無限に増やすことが出来ます。と言うことは、このような変異体を交配に用い、新たな変異体を作出することは難しいかも知れませんね。今回の論文は瓢箪から駒のような感じでしたが、サボテンの理解において意外と重要な観察がなされているように感じます。私のような趣味家にとっても非常に関心がある内容でした。


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近年、マミラリア属とその近縁属の遺伝子解析が行われ、マミラリア属とその近縁属は大幅な改訂と整理を受けることになりました。過去に記事にしていますから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。

以前の記事の内容を簡単にまとめると、マミラリア属はまとまりがないグループで、まとまりのある単系統のマミラリア属以外のマミラリアは、オルテゴカクタスやネオロイディアと合わせてコケミエア(Cocphemiea)となりました。さらに、エスコバリアとエンケファロカルプス、さらにコリファンタの一部がペレキフォラに吸収されました。
さて、以上のようなマミラリアとその近縁属に近縁なグループとして、ラピカクタスやツルビニカルプス、エピテランサがあります。本日はこのあたりの最新の分類についての論文をご紹介しましょう。それは、Monserrat Vazquez-Sanchezらの2019年の論文、『Polyphyly of the iconic cactus genus Turbinicarpus (Cactaceae) and its generic circumscription』です。

ツルビニカルプスの歴史
①ツルビニカルプス
1937年にTurbinicarpusが新属として記載されました。Buxbaumによると、小型でほとんどが球形または円筒形、アレオーレは疣の先端にあり、短い筒を持つ白あるいはピンク色の花、そのほとんどが裸の果皮、先端が裂ける果実、1.0〜1.9mmで黒色で疣贅状の荒い種子を持つなどの特徴を上げました。

②ギムノカクタス
Turbinicarpusは1938年にBackebergにより分割され、その一部はGymnocactusとされました。BackebergはGymnocactusを、トゲが細かい、種子が軽い、疣が細かい、花はほとんどが紫色でそうでない場合はピンク色または白色であるとしました。Glass & Foster(1977)はTurbinicarpusとGymnocactusの違いに説得力はないと述べました。しかし、現在(2019年当時)でもGymnocactusは健在です。

③ラピカクタス
1942年にBuxbaum & Oehmeにより、GymnocactusからのRapicactusの分離が提案されました。Rapicactusはくびれのある太い根を持ちます。Luthy(2003)は、Rapicactusはその種子の形態に基づく必要があると主張しました。
2000年にMosco & ZanovelloによりTurbinicarpus mandragoraを分離することが提案されましたが採用されませんでした。しかし、Luthy(2001, 2002)による詳細な分類学的研究により、均一な分類群であることが示唆されました。Luthyによると、ガラス質の白っぽい針状のトゲ、種皮が部分的に凸型の「ドーム型または円錐形から乳首状」でありRapicarpusであるとしました。

④ノルマンボケア
1969年にKladiwa & Buxbaumは、Turbinicarpus valdezianusに因んでNormanbokeaと言う属名を提案しました。Bravo-Hollis & Sanchez-Mejarada(1991)は、NormanbokeaはThelocactusと密接な関係があると結論付けました。しかし、近年の分類学ではT. valdezianusはTurbinicarpusとされています。

⑤ブラヴォカクタスとカデニカルプス
1998年にDoweldは、Turbinicarpus horrispilusとTurbinicarpus pseudomacrocheleをそれぞれTurbinicarpusから分離するために、BravocactusとKadenicarpusを提案しました。しかし、後者は採用されていません。

⑥不安定なツルビニカルプス
Turbinicarpusの一部は、NeolloydiaやSclerocactusの一部として扱われたToumeya、およびPediocactusなど他属に移されました。

遺伝子解析
この論文では遺伝子解析による分子系統により、不安定なTurbinicarpusを分析しました。ツルビニカルプス属とされてきた種は大きく3つに分割出来ることが明らかとなりました。ここではツルビニカルプスと近縁属をA、B、Cの3グループに分けて見ていきます。

      ┏━━グループC
  ┏┫
  ┃┗━━グループB
  ┫
  ┗━━━グループA


グループA【Rapicactus・Acharagma】
Turbinicarpus beguinii、T. booleanus、T. mandragora、T. subterraneus、T. zaragozaeの5種類のツルビニカルプスは単系統で、Acharagmaと種子の特徴が共通する姉妹群です。この仲間はRapicactusとしてTurbinicarpusから分離されます。Rapicarpusは種子の微細な模様や、果実が側方で開裂し、果実の粘稠度、皮下組織の同心円状の晶洞の発生など、形態学的な共通点があります。また、このグループにはObregoniaやLophophoraが含まれます。
Buxbaum & Oehme(1942)はRapicactusとNeolloydiaを近縁としましたが、分子系統では支持されません。また、RapicactusにはPediocactusには関連していません


              ┏
━Lophophora
          ┏┫
          ┃┗━Obregonia
      ┏┫
      ┃┗━
━Acharagma
  ┏┫
  ┃┗━━━Turbinicarpus①
  ┫
  ┗━━━━グループB


グループB【Mammillaria・Cochemiea】
このグループにはTurbinicarpusは含まれないため、論文では解説されません。私が最新の情報に基づいて少し補足しましょう。
ここで解析されているCumariniaは、論文ではC. odorataと表記されていましたが、Coryphanthaから分離された種です。Neolloydia odorataとされたこともあります。MammillariaはM. lentaを解析しています。また、EscobariaはE. missouriensisとE. laredoi、PelecyphoraはP. aselliformis、NeolloydiaはN. conoideaが解析されています。しかし、現在ではEscobariaはPelecyphoraに吸収されました。OrtegocactusとNeolloydiaはCochemieaに吸収されました。ちなみに、ここでは登場しないEncephalocarpusもPeclecyphoraに吸収されています。

          ┏━━Cumarinia
      ┏┫
      ┃┗━━Mammillaria
      ┃
      ┃    ┏━Escobaria
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗━Pelecyphora
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Ortegocactus
  ┫
  ┗━━━━Neolloydia


グループC【Turbinicarpus・Kadenicarpus】
Turbinicarpusは1936年にBackebergによりStrombocactusの亜属として命名されたことから始まりましたが、1937年にBuxbaum & Backebergにより独特した属Turbinicarpusとなり、T. schmedickeanusを属の基準種に指定しました。Turbinicarpusの基準種であるT. schmedickeanusは分子系統のTurbinicarpus③に含まれ、本来のTurbinicarpusはTurbinicarpus③で、Ariocarpusの姉妹群です。Turbinicarpus②には、T. horripilusとT. pseudomacrocheleからなります。Kadenicarpusに属する2種は、それぞれDoweldにより提案されたBravocactusとKadenicarpusのタイプです。このTurbinicarpus②をTurbinicarpusから分離し、Kadenicarpusを復活させました。Anderson(1986)は、形態学的特徴からKadenicarpusの2種をNeolloydiaに含めましたが、分子系統ではこの提案を支持しません。また、Kadenicarpusは、関係が深いとされたこともあるMammillariaやNeolloydia、Pediocactus、Thelocactusと近縁ではありません。
                  
              ┏━Turbinicarpus③
          ┏┫
          ┃┗━Ariocarpus
      ┏┫
      ┃┗━━Turbinicarpus②
  ┏┫
  ┃┗━━━Strombocactus
  ┫
  ┗━━━━Epithelantha


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では各属の分岐した年代や、分岐した地理的な拡散を推察していますが、長くなるため割愛させていただきました。
さて、論文ではRapicactusやKadenicarpusの復活を提案していますが、現在(2024年5月)ではそれぞれ独立した属として認められています。近年のツルビニカルプスの仲間の分類をまとめると以下のようになっています。論文の書かれた2019年当時は健在だったGymnocactusもTurbinicarpusに吸収されました。

Gymnocactus→Turbinicarpus
Normanbokea→Turbinicarpus
Bravocactus→Kadenicarpus
Ortegocactus→Cochemiea
Neolloydia→
Cochemiea
Escobaria→Pelecyphora
Encephalocarpus→Pelecyphora


ちなみに、あまり聞き慣れないAcharagmaは以下の3種からなります。ご参考までに。

Acharagma aguirreanum
 =Escobaria 
aguirreana
 =Gymnocactus 
aguirreanus
 =Thelocactus 
aguirreanus

Acharagma galeanense
 =Escobaria roseanum
                  ssp. 
galeanensis
 =Acharagma 
roseanum
                  ssp. galeanense

Acharagma roseanum
 =Escobaria 
roseana
 =Gymnocactus 
roseanus
 =Neolloydia 
roseana
 =Thelocactus 
roseanus
 =Echinocactus 
roseanus
 =Acharagma huasteca


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最近、某匿名掲示板をダラダラ見ていたら、サボテンが霧から水分を得るという仮説に対して、かなり否定的な論調が見受けられました。しかし、実際に色素液をアレオーレに滴下してからサボテンを輪切りにすると、アレオーレから吸収された色素がサボテン内の維管束に拡がる様子が観察出来ます。砂漠は日中と夜間の寒暖差が激しいので、夜間に霧が発生しますから、いわゆる夜露を吸収することは理にかなった生態です。霧を吸収するなら、某匿名掲示板では地面に染み込んだ霧を根から吸収した方がいいと言うような書き込みもありましたが、露は表土を濡らすだけで深く染み込むほどの量はありません。サボテンは深く根を張るものが多く、日中高温になり乾燥しますから露が染み込むほど浅い場所に細根は張らないでしょう。とは言え、すべてのサボテンが露を頼りにしているわけではないようです。露をキャッチするのはトゲで、トゲは表面の微細構造により露をアレオーレに運びます。しかし、サボテンによってはトゲの微細構造が露を運ぶのに適しておらず、露を利用していないと考えられるものもあります。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はトゲを介した吸水の話をしましょう。以前も記事にしましたが、今回は異なる種類のサボテンを対象とした論文です。

以前の記事です。ご参照までに。
本日はYahya S. Masrahiの2020年の論文、『Glochids microstructure and dew harvesting ability in Opuntia stricta (Cactaceae)』をご紹介します。

霧と露
霧と露は空気中の過剰な水蒸気から発生し、水滴として凝縮する浮遊水のもっとも顕著な発生源です。液滴が浮遊する場合を霧と呼びます。霧は空気が露点以下に冷却されて水滴が結露することにより形成されます。多くの乾燥地域や半乾燥地域では、霧と露がその時の気候条件に応じて一定量の水源となります。干ばつが深刻な年には、霧が年間降水量を超えることもあります。そのような厳しい環境では、霧や露が重要な役割を果たします。

疎水性と親水性
個体表面上での液滴形成にとって重要なのは、三相境界で形成される接触角です。ちなみに三相境界とは、液体と蒸気の境界面が固体表面と接する場所のことです。接触角が90°未満の場合は親水性で、これは濡れが発生し広い領域を液滴が覆います。一方、接触角が90°を超えると疎水性となり濡れ性は低くなります。疎水性表面上の液滴はより球形になる傾向があり、小さな領域しか固体表面に触れません。

霧を集めるサボテン
サボテンの中でトゲ(spine)や芒刺(glochid)で霧や露を集めることが知られている種類はほとんどありません。トゲや特に芒刺は表面の微細構造が大きく異なります。結露は気温、湿度、表面の微細構造により制御されるため、結露を集める能力はサボテンのトゲの微細構造次第です。現在までにトゲが水分を集めることが確認されたサボテンはわずか数種類しかありません。

実験
芒刺を持つOpuntia strictaと言うウチワサボテンを実験に使用しました。O. strictaには、長さ10〜25mmのトゲと、微細な毛状突起である芒刺があります。サンプルはサウジアラビアでは侵略的外来種であるO. strictaを野外で採取し使用しました。トゲは表面に目立った構造はなく、ほとんど無毛で露の収集能力を示しませんでした。
芒刺は電子顕微鏡で表面構造を調べました。また、夜霧を想定した人工的な霧がある環境で、トゲと芒刺がついたアレオーレを置き、顕微鏡で液滴の形成を観察しました。


芒刺の微細構造
芒刺はアレオーレに約80本あり、長さは約5mmでした。芒刺の表面は逆向きの扁平で先の尖った突起に覆われていました。突起の先端はほぼ滑らかで、基部には微細な溝があり表面は先端よりも粗くなっていました。芒刺の先端部の頂角は9.25°前後で鋭く、突起の先端部の頂角は41.5°前後で弱く扇形でした。

液滴形成の過程
人工的な霧の中で芒刺の表面に水滴が堆積し始めます。まず、芒刺の先端部にコアが形成され、小さな液滴が芒刺の基部に移動しながら、他の液滴と合体して大きな液滴を形成します。直径約130mm以上となった液滴は芒刺の基部へ移動し合体します。
液滴が表面上を移動している時、液滴の接触角が最大(膨張)になる前進接触角と、最小(収縮)となる後退接触をからなります。芒刺では76.25°前後の前進接触角と、52.5°前後の後退接触角が明らかとなりました。実験で使用した芒刺は垂直か半垂直でしたが、液滴の堆積は水平方向の芒刺でも発生します。

ラプラス圧力勾配
芒刺と芒刺の突起は9.25〜41.5°の円錐頂角を持ちますが、このような形態は表面にラプラス圧力勾配を生じます。この時、基部よりも先端部でより強いラプラス圧力を持ちます。この差は円錐の先端部小さな半径と高い曲率、円錐の基部の大きな半径と低い曲率により生じます。これはラプラスの定理で表すことができます。
円錐に沿った先端部から基部までの間の液滴のラプラス圧力勾配は、液滴の臨界サイズである約130mmに達した場合、液滴の自発的な移動を引き起こす駆動力の1つです。

Wenzel状態
芒刺は基部に向かうにつれ顕著な溝があります。この特徴は芒刺の突起にもあり、基部に向かうほど増加します。これがWenzel状態であるならば、芒刺と芒刺の突起の表面の「粗さ」が基部に向かうほど増大することにより、錐体構造の先端から基部に向かう液滴の移動に推進力が生まれる可能性があります。

表面エネルギー勾配
表面エネルギー勾配の原理では、水滴は低い表面エネルギー(濡れ性が低い)から高い表面エネルギー(濡れ性が高い)まで、濡れ性の勾配に沿って移動する傾向があります。サボテンのトゲと芒刺はクチクラと石細胞により防水性がありますが、芒刺の基部にある毛状突起(アレオーレの毛のようなもの)は湿潤性があります。吸湿性の毛状突起は湿潤性が高く、芒刺と芒刺の突起の先端部は表面エネルギーが低くなります。この表面エネルギー勾配も液滴の移動を引き起こす駆動力の1つであると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
水滴がトゲを伝ってアレオーレに向かって流れ落ちるだけならば、あまり濡れ性は関係ないと思われる方もおられるでしょう。しかし、濡れ性が低いと言うことは、蓮の葉の上の水滴が弾かれて転がるように、トゲに水滴は付着しないと言うことです。濡れ性が低い場合は、水滴は単純に重力により落下しますから、トゲを伝ってではなく垂直方向への自由落下により地面に落ちてしまいます。逆に濡れ性が高い場合は、トゲに水滴が付着し、表面の勾配により水滴は移動します。この時、水滴は単純に重力により落下しているわけではありません。特に水滴が出来る最初のコアは非常に小さな粒子なのですから、勾配がなければただ表面に貼り付くだけで移動しないでしょう。水平方向の芒刺にも水滴の移動が起こるのは、重力よりも表面の微細構造による勾配の力が影響しているからです。
さて、このように芒刺とアレオーレを介した霧からの水分吸収は理屈の上からも、観察した結果からも明らかです。しかし、その吸水量がサボテンの生存や生長にどれだけ貢献しているのかは、実はよく分かりません。論文の中では霧からの吸水が確認されたのは数種類とありますが、これは数種類しかないのではなくて、数種類しか調査されていないと言うことです。例えば、サボテンの種類ごとの生息環境と、霧からの吸水能力の有無を沢山の種類で確認出来た場合、間接的に霧からの吸水が環境に適応した結果であるかを考察出来るかも知れません。また、アレオーレからの吸水の影響を、栽培されたサボテンで試験することも出来るでしょう。根からの吸水とアレオーレからの吸水は、吸水力や吸水量以外にも違いがある可能性もあります。もし、その違いがサボテンの生育に深い関係があるのなら、サボテンの栽培方法にも新たな工夫が出来るかも知れませんね。


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ヒマワリの花は太陽の方向を向くと言われています。私の好きなギムノカリキウムの花は花茎が短く球体に貼り付くように咲きますから、花の向きなどは気にしたことはありませんでした。しかし、花はアレオーレから出ますが、すべての稜(rib)に万遍なく蕾がつくのでしょうか?
調べて見ると、柱サボテンに関してはいくつか論文が出ているようです。本日はその中でも割と有名な武倫柱(Pachycereus pringlei)の花の付き方を調査した、Clara Tinoco-Ojanguren & Francisco Molina-Freanerの2011年の論文、『Flower orientation in Pachycereus pringlei』をご紹介しましょう。

花のつく向き
柱サボテンの花は様々な位置で咲きます。花をつけるアレオーレは頂端や頂端下、あるいは側方にあります。また、Cephalium(※1)や疑似Cehalium(※2)を持つものもあります。Cephalocereus columna-trajaniでは、疑似Cephaliumは太陽の直射を避けています。しかし、温帯砂漠に生息する柱サボテンの中には、太陽に向かって花を咲かせるものもあります。Carnegiea giganteaなど頂端で開花する種では、花は東側あるいは南東の稜に形成されます。側方に花をつける主幹では、主に太陽の方角につきます。南米原産のTrichocereus chilensisでは花は北を向いています。
さて、このように柱サボテンでは花のつく位置に偏りがあります。Johnson(1924年)はC. giganteaの花は花の発育に適した温度になる時間が長い頂端の東側と南東側で発達すると主張しました。

※1 ) メロカクタスのように先端部に出来る羊毛と剛毛からなる構造。
※2 ) Pseudocephalium。CephalocereusやEspostoaに見られる茎の頂端付近にある毛状構造。

Pachycereus pringlei
Pachycereus pringleiはソノラ砂漠に固有の柱サボテンです。この地域で最大のサボテンで高さ15〜20mになり、稜(rib)は10〜15本で幹は直径1.5mに達します。成熟するまでは単幹で、成熟すると枝分かれし始めます。この種はバハ・カリフォルニアの大部分とカリフォルニア湾のほとんどの島に広く分布します。
P. pringleiの花芽は2月に出現し、3月下旬から6月上旬まで咲き続けます。花は主に幹の上部で咲きます。8.7〜10.2cmの白い花は日没直後に開花し、翌時の正午に閉じます。夜には花にコウモリが訪れ、日の出後出しは数種類の鳥やミツバチが訪れます。

測定結果
P. pringleiの花はその70〜77%が90度〜270度の方角に面した稜にありました。P. pringleiの花は主に東、南、西向きの稜につきました。東、南、西向きの稜は周辺温度より5〜8℃温度が上昇しましたが、北向きは周辺温度に近い温度でした。南向きの稜は日中の温度が25℃以上に保たれていました。
また、花の数は枝の長さと相関がありました。長さ1m未満の枝には花は咲かず、長さが1mを超える枝では、長さに依存して花がつきました、

考察
著者らは太陽光が二酸化炭素摂取と幹の温度に影響を与えたことが、P. pringleiの花のつき方の原因である可能性を指摘しています。北向きの稜の太陽光は制限される可能性が高く、炭素の増加は最小限となる可能性があります。柱サボテンでは、方角の異なる稜は炭素増加量に違いが発生することが知られています。よって、花を咲かせるためのアレオーレの誘導が炭水化物の蓄積に依存するならば、花を咲かせることを可能とするために十分な炭水化物を蓄積出来るのは北向き以外の方角の稜であると考えられます。Opuntia ficus-indicaでは、炭水化物の蓄積に加えて、温度周期が新しい器官の形成に影響を与えることが知られています。しかし、柱サボテンでは温度周期の影響は不明です。
また、人工照明を当てたり遮光処理をしたり、炭水化物の注入したりと、実験的に確認することも出来るかも知れません。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
花のつき方が日当たりと関係していると言う内容でした。しかし、この現象はすべてのサボテンで見られるわけではないようです。それでも、育てているサボテンの花のつき方と太陽光の向きについては、今後は気になってしうかも知れませんね。


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先日、ケファロケレウスは現在何種類あるのと言う記事を上げました。これはケファロケレウスを調べていた際のある種の副産物で、本来は本日の記事に入れ込むつもりでしたが、ボリューム的に無理なので独立した記事にしたと言う経緯があります。

さて、いくつかの論文をサッと斜め読みしましたが、研究者たちがケファロケレウスにどのような興味を抱いてきたのかが何となく分かりました。と言うわけで、本日はケファロケレウスの面白そうな論文を、私の好みでいくつかピックアップしてみました。簡単に概要のみをご紹介しましょう。

*ケファロケレウスの新種を発見*
2019年のSalvador Ariasらの2019年の論文、『A new species of Cephalocereus (Cactaceae) from southern Mexico』によると、メキシコはオアハカ州のMixtecan地域より、Cephalocereus parvispinusを新種として記載しました。C. parvispinusは高さ8メートルになり、樹枝状で15〜23本の稜(rib)を持ちます。花は長さ3.5〜4センチメートル、果皮にトゲはありません。暗赤色の果実は長さ1.7〜2.2センチメートルで果肉は白く、種子は約1.4×0.6mmで暗褐色でシワがあります。遺伝子解析によると、C. polyophusおよびC. euphorbioidesの姉妹種であることが示されました。

*ケファロケレウスの表皮には結晶がある
ケファロケレウスは表皮組織に結晶構造物があり、種により固有の性質を持つと言います。ここでは、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2015年の論文、『The polymorphic weddellite crystals in three species of Cephalocereus (Cactaceae)』を見てみましょう。
メキシコのテワンテペク地峡に自生するC. apicicepharium、C. nizandensis、C. 
totolapensisの表皮に豊富ある角柱状の結晶を調査しました。種類により異なる水和度を持つウェッデル石を持つことが分かりました。結晶の形態の違いは含まれる元素の組成に関連している可能性があります。

*ケファロケレウスは土質により住み分ける*
同じ地域に生える3種類のケファロケレウスを調査した、Maria Luisa Barcenas- Arguelloらの2010年の論文、『Rock-Soil Preferences of Three (Cactaceae) Species of Tropical Dry Forests』を見てみましょう。
メキシコはテワンテペク地峡にて、岩石と土壌の成分と自生するケファロケレウスの種類を調査しました。Cephalocereus apicicephariumは丘の頂上から裏斜面までの石英を含む石灰岩の露頭でのみ育ち、C. nizandensisは丘の肩のメタ石灰岩(metalimestone)の露頭に育ちます。C. totolapensisは安山岩の酸性土壌を好み、丘の肩から斜面のシルト岩や雲母片麻岩でも育ちました。

*ケファロケレウスの自然交雑種*
雑種は不稔であると一般的には言われています。不稔とは種子が出来ない、つまり雑種は有性生殖出来ないと言うことです。しかし、サボテンでは自然交雑による雑種はよく起こることで、雑種にも種子が出来る場合もあるようです。さらに言えば、近年では雑種が進化の原動力の1つではないかと言う意見もあります。さて、そのような自然交雑を観察したGabriel Merinoらの2022年の論文、『Mating systems in a natural hybrid of Cephalocereus (Cactaceae) and comparative seed germination』を見てみましょう。
メキシコのTehuacan-Cuicatlan保護区では、C. columna-trajaniとC. tetetzo、さらには両者の雑種が共存しています。雑種の交配成功率は親よりも高く、種子は親よりも発芽率が高く雑種強勢であると解釈されました。雑種個体間の交配は雑種の生殖が成功した証拠です。雑種の不稔製が反証され、雑種は「進化の終点」を表すと言う見解に異議を唱えることが出来ます。


*なぜケファロケレウスは傾くのか?
Cephalocereus columna-trajaniは自生地では傾いて育つことが多いと言います。研究者たちも不思議に思ったようで、いくつかの論文が出ています。ここでは、Pedro Luis Valverdeらの2007年の論文、『Stem tilting, pseudocephalium orientation, and stem allometry in Cephalocereus columna-trajani along a short latitudinal gradient』を参照としましょう。
メキシコの
Tehuacan-Cuicatlan渓谷に沿った緯度勾配に従い5つの個体群をピックアップしました。サボテンの高さと直径、茎の傾斜角、pseudocephalium(頂端付近にある花が咲く毛状構造)の方角を調査しました。茎の北部ほどより高い傾斜角を持ち、pseudocephaliumの方角は一貫して北北西でした。また、南部の個体群ほど、直径に対してはるかに速く高さが増加することが分かりました。
分かりにくい話ですが、これは太陽の当たる角度とpseudocephaliumの関係を示しています。要するにpseudocephaliumを太陽に当てないようにしているわけです。さらに、Jose Alejandro Zavala-Hurtadoらの1998年の論文を見ると、茎が傾くことにより年間の遮光量が増加するとしています。しかし、その代わり枝分かれが不可能となり、傾斜が激しい個体ほど背の高さに制限があるでしょう。


*分子系統による分類
ケファロケレウス属内の系統関係はどうなっているのでしょうか。Hector J. Tapiaらの2023年の論文、『Phylogenetic and geographic diversification/differentiation as an evolutionary avenue in the genus Cephalocereus (Cactaceae) Evolutionary Avenue in Cephalocereus』を見てみましょう。遺伝子解析による分子系統です。
まず、C. apicicephalium〜C. scopariusのグループと、★〜C. parvispinusのグループに大別出来ます。さらに、後者のグループは★〜C. fulvicepsのグループと、C. euphorbioides〜C. parvispinusのグループに分けられます。ちなみに、★は沢山の種類が含まれるため、★だけでまとめました。

              ┏★
          ┏┫
          ┃┗C. sanchezmejoradae
      ┏┫
      ┃┗━C. fulviceps
      ┃       
      ┃    ┏C. euphorbioides
  ┏┫┏┫
  ┃┃┃┗C. polyophus
  ┃┗┫
  ┫    ┗━C. parvispinus
  ┃
  ┃        ┏C. apicicephalium
  ┃    ┏┫
  ┃    ┃┗C. nizandensis
  ┃┏┫
  ┃┃┗━C. totolapensis
  ┗┫
      ┗━━C. scoparius

           ┏━━C. mezcalaensis
           ┃
           ┃    ┏C. multiareolata
       ┏┫┏┫
       ┃┃┃┗C. nudus1
       ┃┗┫
   ┏┫    ┗━C. nudus2,3
   ┃┃
   ┃┗━━━C. macrocephalus
   ┃
  ★┫┏━━━C. tetetzo
   ┃┃
   ┗┫┏━━C. columna-trajani
       ┗┫
           ┗━━C. senilis


見ていただいた通りで特に解説はありませんが、少し補足します。
・現在、ケファロケレウス属は13種類が認められていますが、論文では16種類となっています。まあ、これは便宜上の分け方で、この分け方とすべきであると言うわけではありません。
・C. sanchezmejoradaeは現在ではC. novusの異名となっています。C. novusが論文に登場しないのは、C. novusが2022年にケファロケレウス属とされたため、研究段階ではケファロケレウスではなかったからでしょう。ただ、C. 
sanchezmejoradaeが本当にC. novusと同種であるかは再確認が必要でしょう。
・C. nizandensisとC. totolapensisは、C. apicicephaliumの異名とされています。分子系統では一塊となっており、非常に近縁であることは間違いがないようです。ただし、これら3種が同種か別種かは分子系統からは分かりません。
この3種類は表皮の結晶や自生する土壌は異なるため、別種なのでは? と言う気もします。しかし、遺伝的には非常に近縁ですから、あるいは亜種や変種くらいの立ち位置なのかも知れませんね。
・C. multiareolatusは現在ではC. mezcalaensisの異名とされています。しかし、分子系統ではC. nidusの3個体と区別出来ていません。C. mezcalaensis系統ではなくC. nidus系統であることは間違いないでしょう。
・C. nidusはかつてはC. tetetzo v. nudusとされてきましたから、C. tetetzoと近縁に思えます。しかし、C. nudusはC. tetetzoよりC. mezcalaensisに近縁です。


最後に
何となくケファロケレウスを調べて見ましたが、なかなか興味深い研究が沢山ありました。今回はいくつか見繕って記事にしましたが、まだまだ面白そうな研究はありました。論文はじっくり読むと大変ですが、サッと概要だけなら結構沢山読めます。サボテンは属が沢山ありますから、今後も不定期にボチボチ記事にしていきたいと思っております。


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最近、ケファロケレウスについて少し調べていたところ、まあ色々な種類が出てくるわけです。では、現在認められているケファロケレウスは何種類あるのでしょうか? と、その前にケファロケレウス属自体について見てみましょう。

ケファロケレウス属
ケファロケレウス属は、正確にはCephalocereus Pfeiff.で、1838年に命名されました。一般的にサボテンの学名はCactus L.から始まりましたから、最初は当時知られていたすべてのサボテンはカクタス属でした。ケファロケレウス属では唯一、Cactus senilis(=Cephalocereus senilis)が1824年の命名されています。次に柱サボテンはやがてCereus Mill.とされました。ケファロケレウスでは、1819年にCereus euphorbioides、1828年にCereus polyophus、1837年にCereus columna-trajani、1896年にCereus tetetzoが命名されています。また、ケファロケレウス属の同義語として、1839年に命名されたPilocereus Lem.があり、Pilocereus scopariusやPilocereus fulvicepsは最初はピロケレウス属として記載されました。しかし、ケファロケレウス属のほとんど種はCephalocereus Pfeiff. として初めて記載されています。1909年のBritton & Roseの書籍を見ると、ケファロケレウス属は非常に種類が多い分類群でした。しかし、現在のケファロケレウス属はわずか13種類に過ぎません。かつて、ケファロケレウス属とされた柱サボテンは、その多くが他の属となっています。特に1957年に命名されたPilosocereus Byles & G.D.Rowleyとして分離された種が目立ちます。ちなみに、ピロソケレウス属は上で出てきたピロケレウス属と似ていますが別ものです。

2種類の異名
ここで1つ解説します。見ていただいたら分かる通り異名が沢山ありますが、異名にも2種類あります。1つは、同種に異なる名前がつけれたり、別種とされていた種類が現在は同種とされたと言う場合、これをHeterotypic Synonymと呼びます。もう1つは、ある属から分離され新属となった場合や属名が変更された場合、これをHomotypic Synonymと呼びます。
また、異名は属名が様々ですから、以下のように属名を略しました。

Cac.=Cactus
Car.=Carnegiea
Cpc.=Cephalocereus
Cpp.=Cephalophorus
Cer.=Cereus
Ec.=Echinocactus
Eu.=Euporteria
H.=Haseltonia
L.=Lemaireocereus
Mel.=Melocactus
Mit.=Mitrocereus
Nbx.=Neobuxbaumia
Ndw.=
Neodawsonia
Pa.=Pachycereus
Pi.=Pilocereus
Ps.=Pseudomitrocereus
R.=Rooksbya

ケファロケレウス属一覧
①Cpc. apicicephalium E.Y.Dawson, 1948
Homotypic Synonyms
 Ndw. apicicephalium
   (E.Y.Dawson) Backb., 1949

Heterotypic Synonyms
 Cpc. nizandensis
   (Bravo & T.MacDoug.) Buxb., 1949

 Cpc. totolapensis
   (Bravo & T.MacDoug.) Buxb., 1965
           not validly publ.

 Ndw. apicicephalium ssp. totolapensis
   Guiggi, 2020

 Ndw. guengolensis Bravo, 1959
 Ndw. nana Bravo, 1959
 Ndw. nizandensis
   Bravo & T.M.MacDoug., 1959

 Ndw. totolapensis 
   Bravo & T.M.MacDoug., 1959
          no collection cited.


②Cpc. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) K.Schum., 1897

Homotypic Synonyms
 Cpp. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Lem., 1838
 Cer. columna-trajani
   Kasw. ex Pfeiff., 1837
 H. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Backeb., 1960
 Mit. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) E.Y.Dawson, 1948
 Pa. columna-trajani
   (Karw. ex Pfeiff.) Britton & Rose, 1909
 Pi. columna 
(Karw. ex Pfeiff.) Lem., 1839

Heterotypic Synonyms
 Cpc. columna
   (Walp.) K.Schum., 1894
    Cpc. hoppenstedii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   K.Schum., 1894
    Cer. columna Walp., 1846
    Cer. hoppenstedtii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   Mottet, 1898-1899

    Cer. lateribarbatus Lem., 1862
    H. hoppenstedtii
   (J.N.Haage & E.Schmidt)
   Backeb., 1951

    Mel. columna-trajani Pfeiff., 1837
          not validly publ.
    Pi. hoppenstedtii
   J.N.Haage & E.Schmidt, 1874
    Pi. lateralis F.A.C.Weber, 1898
    Pi. lateribarbatus
   Pfeiff. ex C.F.Forst. & Rumpler, 1885

③Cpc. euphorbioides (Haw.)
   Britton & Rose, 1920

Homotypic Synonyms
    Cac. euphorbioides (Haw.) Spreng., 1825
    Car. 
euphorbioides (Haw.) Backeb., 1944
    Cer. 
euphorbioides Haw., 1819
    L. 
euphorbioides (Haw.) Werderm., 1934
    Nbx. 
euphorbioides (Haw.) Buxb., 1954
    Pi. 
euphorbioides (Haw.) Rumpler, 1885
    R. 
euphorbioides (Haw.) Backeb., 1960

Heterotypic Synonyms
    Car. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) P.V.Heath, 1992
    Cer. olfersii Salm-Dyck, 1834
    Cer. oxygonus
   Salm-Dyck ex C.F.Forst., 1846
           nom illeg., 1846
    Ndw. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) Backeb., 1960
    R. 
euphorbioides v. olfersii
   (Salm-Dyck) Backeb., 1960

240421004538052~2
Cephalocereus euphorbioides

④Cpc. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   H.E.Moore, 1975

Homotypic Synonyms
    Car. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   P.V.Heath, 1992
    Cer. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   A.Berger, 1905

    Mit. fulviceps
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   Backeb., 1960

    Pa. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   D.R.Hunt, 1991

    Pi. fulviceps 
   F.A.C.Weber ex K.Schum., 1897
    Ps. fulviceps 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   Bravo & Buxb., 1961


⑤Cpc. macrocephalus
   F.A.C.Weber ex K.Schum., 1897
Homotypic Synonyms
    Car. macrocephala
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   P.V.Heath, 1992

    Cer. macrocephalus 
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   A.Berger, 1905

    Nbx. macrocephala
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   E.Y.Dawson, 1952

    Pi. macrocephalus
   (F.A.C.Weber ex K.Schum.)
   F.A.C.Weber, 1898


Heterotypic Synonyms
    Cer. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Vaupel, 1913
    Mit. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Backeb., 1960
    Pa. ruficeps
   (F.A.C.Weber) Britton & Rose, 1920
    Pi. ruficeps 
F.A.C.Weber 1905

240330081841864~2
Cephalocereus macrocephalus

⑥Cpc. mezcalaensis Bravo, 1932
Homotypic Synonyms
    Car. mezcalaensis
   (Bravo) P.V.Heath, 1992
    Nbx. mezcalaensis
   (Bravo) Backeb., 1941
    Pi. mezcalaensis
   (Bravo) W.T.Marshall, 1941

Heterotypic Synonyms
    Car. mezcalaensis v. multiareolata
   (E.Y.Dawson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. mezcalaensis v. 
multiareolata
   E.Y.Dawson. 1948
    Cpc. mezcalaensis v. rocustus
   E.Y.Dawson. 1948
    Cpc. multiareolatus 
(E.Y.Dawson)
   H.J.Tapia & S.Arias, 2017

    Nbx. 
mezcalaensis v. multiareolata
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952
    Nbx. 
mezcalaensis v. rocusta
   (E.Y.Dawson) Backeb., 1951
    Nbx. multiareolata
   (E.Y.Dawson) Bravo, 1972

⑦Cpc. novus
   (P.V.Heath) M.H.J. van der, 2022

Homotypic Synonyms
    Car. nova P.V.Heath, 1992

Heterotypic Synonyms
    Car. laui P.V.Heath, 1992
    Cpc. sanchezmejoradae
   (A.B.Lau) 
H.J.Tapia & S.Arias, 2017
    Nbx. laui (P.V.Heath) D.R.Hunt, 1997
          not validly publ.
    Nbx. 
sanchezmejoradae A.B.Laui, 1994

⑧Cpc. nudus E.Y.Dawson, 1948
Homotypic Synonyms
    Car. tetetzo v. nuda
   (E.Y.Dawson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. tetetzo v. nudus
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952
    Nbx. tetetzo v. nuda
   (E.Y.Dawson) E.Y.Dawson, 1952

Heterotypic Synonyms
    Car. squamulosa
   (Scheinvar & Sanchez-Mej.)
   P.V.Heath, 1992
    Nbx. 
squamulosa
   Scheinvar & Sanchez-Mej., 1990


⑨Cpc. parvispinus S.Arias,
   H.J.Tapia & U.Guzman, 2019


⑩Cpc. polyophus
   (DC.) Britton & Rose, 1909

Homotypic Synonyms
    Car. polyopha (DC.) D.R.Hunt, 1988
    Car. polyopha (DC.) P.V.Heath, 1992
    Cer. polyophus DC., 1828
    Nbx. polyopha (DC.) Backeb., 1938
    Pi. polyophus (DC.) Salm-Dyck, 1845

240421004031041~2
Cephalocereus polyophus

⑪Cpc. scoparius
   (Poselg.)Britton & Rose, 1909

Homotypic Synonyms
    Car. scoparia (Poselg.) P.V.Heath, 1992
    Cer. scoparius (Poselg.) A.Berger, 1905
    Nbx. scoparia 
(Poselg.) Backeb., 1941
    Pi. scoparius 
Poselg., 1853

Heterotypic Synonyms
    L. setispinus E.Y.Dawson, 1948
    Pi. sterkmanii  K.Schum, 1897


⑫Cpc. senilis (Haw.) K.Schum., 1894
Homotypic Synonyms
    Cac. senilis Haw., 1824
    Cpp. senilis (Haw.) Lem., 1838
    Cer. senilis
   (Haw.) Salm-Dyck ex. DC., 1828
    Ec. senilis (Haw.) Beaton, 1839
    Eu. senilis (Haw.) Kreuz., 1941
    Pi. senilis (Haw.) Lem., 1839

Heterotypic Synonyms
    Cac. bradypus Lehm., 1826
    Cpc. senilis f. cristatus
   (Mathsson) P.V.Heath, 1992
    Cpc. senilis f. fasciatus
   P.V.Heath, 1992
    Cer. bradypus (Lehm.) Steud., 1840
    Ec. staplesiae Tate, 1840
    Mel. bradypus Lehm. ex Steud., 1841
           not validly publ.
    Pi. senilis crirtatus Mathsson, 1891
    Pi. williamsii
   Scheidw. ex C.F.Forst., 1846
            not validly publ.

⑬Cpc. tetetzo
   (F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Diguet, 1928

Homotypic Synonyms
    Car. tetetzo
   (F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   P.V.Heath, 1992
    Cer. tetetzo
   F.A.C.Weber ex J.M.Coult., 1896
    Nbx. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Backeb., 1938
    Pa. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   Ochot, 1922
    Pi. tetetzo
   (
F.A.C.Weber ex J.M.Coult.)
   F.A.C.Weber ex K.Schum.. 1897

Heterotypic Synonyms
    Pi. tetetzo v. cristata
   F.A.C.Weber, 1897

最後に
さて、ケファロケレウス属の近年の話題としては、まず2019年に新種Cephalocereus parvispinusが発見されたことが挙げられます。また、Carnegiea、あるいはNeobuxbaumiaとされてきた柱サボテンが2022年にケファロケレウス属に移されCephalocereus novusとされました。ちなみに、CephalocereusではなくCephalophorusと言う属名がありますが、一見して似ていますから、ご注意下さい。
ケファロケレウス属はそのほとんどが始めからケファロケレウス属でしたが、ケファロケレウスからの分離が提案されたものの、現在は認められていない属もあります。1838年に命名されたCephalophorus Lem.、1938年に命名されたNeobuxbaumia Backeb.、1949年に命名されたHaseltonia Backeb.、同じくNeodawsonia Backeb.、1960年に命名されたRooksbya (Backeb.) Backeb.、1961年に命名されたPseudomitrocereus Bravo & Buxb.あたりですね。また、Pilocereus Lem.はケファロケレウス属が命名された翌年に命名されていますから、これはケファロケレウス属からの分離ではなく、重複した命名かも知れません。



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ここ数年、コピアポアが人気なようでよく目にします。多肉植物のイベントではサボテンはすっかり日陰者であまり見かけませんが、必ずといっていいほどコピアポアはあったりします。さて、そんなコピアポアですが、分類学上の立ち位置は長らく不明でした。しかし、近年では遺伝子解析により大まかな立ち位置は判明しています。さて、そんなコピアポアですが、属内の分類はどうなっているのでしょうか? 本日はIsabel Larridonらの2015年の論文、『An integrative approach to understanding the evolution and diversity of Copiapoa (Cactaceae), a threatened endemic Chilean genus from the Atacama Desert』をご紹介しましょう。

コピアポアの履歴
Copiapoaは32種類と5亜種が含まれています(2015年時点)。30種類は4つの節(Section)と2つの亜節(Subsection)に分類されますが、2種類は未分類のままです。
さて、Copiapoaは1922年にBritton & Roseにより定義されました。つまり、球形または短い円筒形のトゲのあるサボテンで、昼行性の黄色い花を咲かせます。この時に、新属には6種類が含まれ、そのうち5種類はEchinocactusに分類されていた種でした。
1930年代から1980年代にかけて、Backeberg(1966)やRitter(1980)などの著者により新種が記載され、合計46種に達しました。しかし、それ以降の著者の多くは、種数の削減を提案しました。
これまでに発表された分類学的提案と種は、形態学的類似性に基づいています。ただし、サボテン科は重大な同型形質(Homoplasy)があるため問題があります。


240411013440009~2
Copiapoa cinerea

分子系統
遺伝子解析による分子系統では、大き4つに分けられます。Copiapoa属は全体としてはまとまりのあるグループで、単系統でした。分子系統と過去の分類の適合性が低いため、コピアポア属の分類を改訂する必要があります。
分子系統の根元にあるClade PilocopiapoaはC. solarisからなりますが、正式に記載されていないC. australisが近縁です。C. australisはC. humilisの最南端に生えるグループと考えられてきました。次にC. lauiが分岐します。C. lauiはC. hypogaeaの亜種とされることもありますが、C. hypogaeaはClade Copiapoaに含まれ、C. lauiとは近縁ではありません。次に分岐したのはClade Mammillopoaで、C. humilisからなります。論文では亜種humilis、亜種tenuissima、亜種tocopillana、亜種variispinataがまとまりのあるグループであることが分かりました。Clade EchinopoaはC. armata(=C. coquimbana var. armata)とC. fiedlerianaのグループと、C. coquimbanaとC. dealbashi、C. echinoidesを含むグループからなります。
また、コピアポア属のほとんどの種類はClade IIIに含まれます。Clade IIIは2つに分割できます。園芸的に有名なC. cinerea(黒王丸)はCinereiに含まれます。


                  ┏IIIb, Copiapoa
              ┏┫ 
              ┃┗IIIa, Cinerei
          ┏┫
          ┃┗━IV, Echinopoa
      ┏┫
      ┃┗━━II, Mammillopoa
  ┏┫
  ┃┗━━━C. laui
  ┫
  ┗━━━━I, Pilocopiapoa

240411013449850~2
Copiapoa coquimbana

Clade III
Clade IIIはC. longispinaとC. megarhiza以外はコピアポ渓谷の北に分布し、Clade IVはコピアポ渓谷の南に分布します。コピアポ渓谷は地理的な遺伝子流動の障壁として働いています。
Clade IIIaはHuntら(2006)の分類によると、C. cinereaとC. krainzianaが含まれ、C. giganteaはC. cinerea subsp. haseltonianaとしました。しかし、分子系統ではC. 
krainzianaはC. cinereaの中に含まれ、C. giganteaはC. cinereaと区別されます。
Clade IIIbは、まずC. longispina、C. megarhiza、C. conglomerateが分岐し、C. longistaminea〜C. derertorumのグループと、C. taltalensis〜*の2つのグループに分岐しました。*は、C. mollicula〜C. esmeraldianaのグループとC. grandiflora〜C. parvulaのグループに分岐しています。

  ┏━━━━━━C. longispina
  ┃
  ┫┏━━━━━C. megarhiza
  ┗┫
      ┃┏━━━━C. conglomerate
      ┗┫
          ┃    ┏━━C. longistaminea
          ┃┏┫
          ┃┃┃┏━C. rupestris
          ┃┃┗┫
          ┃┃    ┃┏C. aphanes
          ┃┃    ┗┫
          ┃┃        ┗C. desertorum
          ┗┫
              ┃┏━━C. taltalensis
              ┗┫
                  ┣━━C. serpentisulcata
                  ┃
                  ┣━━C. decorticans
                  ┃
                  ┃┏━C. cineraescens
                  ┗┫
                      ┗━*

     ┏━━━C. mollicula
 ┏┫
 ┃┃┏━━C. angustifolia
 ┃┗┫
 ┃    ┗━━C. esmeraldiana
*┫ 
 ┃┏━━━C. grandiflora
 ┗┫ 
     ┃┏━━C. montana
     ┃┃
     ┃┣━━C. calderana
     ┃┃
     ┃┣━━C. marginata
     ┗┫
         ┃┏━C. hypogaea
         ┗┫
             ┃┏C. atacamensis
             ┗┫
                 ┣C. leonensis
                 ┃ 
                 ┗C. parvula

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
コピアポア属内は分類は割と上手く出来ているようです。意外と重要なのが分類と地理的分布の関係で、論文では地理的な拡散と分類の関係を考察しています。それによると、コピアポア属の起源はペルー南部とチリの極北の間にあるとしています。また、コピアポア属は、外見的に類似しているからと言って必ずしも近縁であるとは限らず、生息環境に対する適応の結果として相似しているだけだと述べられていました。
このように、様々な角度からコピアポアが解析されましたが、まだ解明されていない謎も多いでしょう。そうであるならば、コピアポア研究はまだまだ続くはずです。その時にはまた論文をご紹介出来ればと考えております。


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。本日で最後になります。

サボテン科の進化と分子系統①
サボテン科の進化と分子系統②

Core Cactoideae II
Core Cactoideae IIの分子系統を以下に示します。詳細を見てみましょう。

        ┏━Pachycerinae
    ┏┫
    ┃┃┏Stenocerinae
┏┫┗┫
┃┃    ┗Echinocereus
┃┃
┃┣━━Leptocereusなど
┃┃
┃┗━━Hylocereeae
┫ 
┣━━━Coryocactus

┣━━━Eulychnia, Austrocactus
┃    
┗━━━Pfeiffera

240330082045256~2
Nyctocereus serpentinus(左)
Stenocereus dumortieri(右上)
Eulychnia iquiquensis


パキケレウスの仲間
Pachycerinaeはパキケレウスの仲間です。ここでは、PachycereusとStenocereus、Echinocereusを分けていますが、これらはすべてPachycereenaeとしてまとめられていたりします。ここでは、Salvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではPachycereinaeとEchinocereeae + Stenocereinaeと言う2つのグループに大別しています。まずはPachycereinaeの分子系統を示します。AはPachycereusとCarnegiaeからなります。BはLophocereusとMarshallocereus、Pterocereusからなります。CはPeniocereus、DはNyctocereus、EはCephalocereusとNeobuxbaumia、FはLemaireocereusからなります。

                  ┏A
              ┏┫ 
              ┃┗B
          ┏┫
          ┃┗━C
      ┏┫
      ┃┗━━D
  ┏┫
  ┃┗━━━E
  ┫
  ┗━━━━F


240330081847811~2
Pachycereus militaris
Pachycereus chrysomallusとして記載。

240330081934192~2
Peniocereus greggi

240330081841864~2
Cephalocereus macrocephalus

エキノケレウスの仲間
次にEchinocereeae + Stenocereinaeを見てみます。同じくSalvador Ariasらの2005年の論文を参考に見ていきます。論文ではEchinocereus + Stenocereus + Myrtillcactusが、Pachycereusの姉妹群となっています。

   ┏━━Pachycereus
  ┏┫
  ┃┃┏━Echinocereus
  ┃┗┫
  ┫    ┃┏Stenocereus
  ┃    ┗┫
  ┃        ┗Myrtillocactus
  ┃
  ┗━━━Pseudoacanthocereus

240330082138987~2
Myrtillocactus

240330081903838~2
Echinocereus poselgeri
Wilcoxia poselgeriとして記載。


レプトケレウスの仲間
Core Cactoideae IIの分子系統では、「Leptocereusなど」と書きましたが、論文ではLeptocereus、Dendrocereus、Armatocereus、Neoraimondia、Pseudoacanthocereusと書かれていました。さて、Salvador Ariasらの2005年の論文では、Pseudoacanthocereusはパキケレウスやエキノケレウスの姉妹群で、LeptocereusとArmatocereus、Neoraimondiaは1つのグループで、Pseudoacanthocereusに近い仲間です。

ヒロケレウスの仲間
Hylocereeaeは論文ではHylocereus、Selenicereus、Acanthocereus、Disocactusが含まれています。さて、ここでもSalvador Ariasらの2005年の論文を見ていきます。分子系統を見ると、不思議なことにAcanthocereusとPeniocereusが入り乱れています。ちなみに、Acanthocereus①には2種類、Acanthocereus②には3種類、Peniocereus①には10種類、Acanthocereus②には1種類を含みます。実はPeniocereusは上の「パキケレウスの仲間」でも登場しています。パキケレウスの近縁のPeniocereusは2系統あり、1つは分子系統のCにあたるものでこれが正統なPeniocereusです。もう1つは分子系統のDにあたるもので、現在はNyctocereusとなっています。さて、肝心の「ヒロケレウスの仲間」に現れたPeniocereusですが、これは「パキケレウスの仲間」のPeniocereusとは遺伝的に異なるため、Peniocereusから分離されます。さらに、Acanthocereusとも遺伝的に区別出来ないため、Peniocereus①とPeniocereus②はAcanthocereusに吸収されました。また、分子系統ではSelenicereusとHylocereusは非常に近縁ですが、現在HylocereusはSelenicereusに統合されています。

          ┏━Acanthocereus①
      ┏┫
      ┃┗━Peniocereus①
  ┏┫
  ┃┃┏━Acanthocereus②
  ┃┗┫
  ┃    ┗━Peniocereus②
  ┫
  ┃┏━━Disocactus
  ┗┫
      ┃┏━Weberocereus
      ┗┫
          ┃┏Selenicereus
          ┗┫
              ┗Hylocereus

240330082109669~3
Acanthocereus tetragona

240330082116171~2
Disocactus speciosus(上、下)
Heliocereus speciosa、Heliocereus elegantissimusとして記載。
Harrisia portoricensis(中)


240330082145560~2
Selenicereus ocamponis
=Hylocereus ocampoins


最後に
3回に分けて記事にしてきました。元の論文の分子系統はかなり大雑把なので、ある程度は補完する情報を追加しました。しかし、流石に種まで書き込むことはできなかったので、属レベルで表記させていただきました。
本日の記事なのですが、実はトラブルがありました。属名が変更されたりすることはよくあることですから、事前にある程度は下調べをします。私は主にキュー王立植物園のデータベースを参照とするのですが、今回はそれが出来ていません。と言うのも、この記事を書いているのは昨日なのですが、昨日はキュー王立植物園にアクセス出来ませんでした。どうやら、サーバーが落ちているようです。仕方がないので、信頼性は落ちますが、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)で学名を確認しました。しかし、GBIFは情報が古かったりしますから、本当は使いたくなかったのですけどね。後ほど訂正するかも知れませんが、ご容赦のほどお願いします。
ところで、未だスッキリしない部分やあやふやな部分もそれなりにあります。そもそも、私が調査した論文のチョイスがどれほど妥当であったかは分かりません。本来ならば、複数の論文の情報を総合的に判断すべきなのでしょう。しかし、そこはただのドシロウトの悲しいところで、時間も知識も能力も足りていないため、なかなか難しいところです。それでも、また内容を補完するような、あるいは新しい論文が見つかりましたら、懲りずにまたご紹介出来ればと考えております。


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過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として、サボテン科植物の系統関係を見ています。昨日は原始的なサボテンであるコノハサボテンやウチワサボテン、マイフエニアに加え、玉サボテンや柱サボテンを含むサボテン亜科の一部の系統関係をご紹介しました。本日はサボテン亜科の残り、Core Cactoideaeについて解説します。

サボテン科の進化と分子系統①は以下のリンクから。

                     ┏━━Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫
         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━━Leunenbergerioideae


Core Cactoideae
Core CactoideaeはCore Cactoideae IとCore Cactoideae II、さらにCopiapoaやFraileaからなります。しかし、分子系統を見ると分岐していません。これは、上手く分離出来ていないためです。そのため、Core Cactoideae I・IIとCopiapoa、Calymmanthium、Fraileaの関係性はよく分かりません。しかし、おおよその立ち位置としては、おそらくこのあたりなのでしょう。
さて、ではCore Cactoideaeの内容を見てみましょう。

    ┏━━Core Cactoideae I
┏┫
┃┗━━Core Cactoideae II
┫ 
┣━━━Copiapoa

┣━━━Calymmanthium
┃    
┗━━━Frailea
 
Core Cactoideae I
Core Cactoideae Iは、Rhipsalidae、Core Notocacteae、BCT cladeからなります。BCT cladeとはCereeaeやTrichocereeaeからなる巨大なグループです。

      ┏━━BCT clade
  ┏┫
  ┃┗━━Core Notocacteae
  ┫
  ┗━━━Rhipsalidae

リプサリスの仲間
Rhipsalidaeは森林サボテンの仲間ですが、岩や樹木に着生するものがあります。Rhipsalidaeには、RhipsalisやLepismium、Hatiora、Schlumbergera、Rhipsalidopsisが含まれます。

230911215654071~2
Hatiola

230911221604543~2
Rhipsalis

230911220651285~2
Lepismium

ノトカクタスの仲間
Core NotocacteaeはParodiaやEriosyceの仲間です。 NotocacteaeはParodia、Eriosyce、Neowerdermannia、Yaviaからなります。
YaviaはY. cryptocarpaからなる2001年に記載された単形属ですが、Blossfeldiaとされたこともあります。
ParodiaやEriosyceは、まとめられる傾向があり、沢山の属が吸収合併されました。NotocactusやEriocactus、Brasilcactus、Malacocarpus、WigginsiaはすべてParodiaに吸収されてしまいました。また、NeoporteriaやNeochilenia、Islaya、Horridocactusは、すべてEriosyceに吸収されてしまいました。

トリコケレウスの仲間
BCT cladeは、Reto Nyffelerの2002年の論文やRolando T. Barcenasらの2011年の論文を見ると、主に柱サボテンからなるグループです。UebelmanniaやCereus、BrowningiaなどからなるCereeaeと、EchinopsisやHarrisia、Oreocereus、Matucana、GymnocalyciumなどからなるTrichocereeaeからなります。近年にその特徴の共通点からTrichocereusやLobiviaがEchinopsisに吸収され、Echinopsisは巨大化しました。しかし、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文では、遺伝的にEchinopsisがTrichocereeaeの柱サボテンの中のあちこちに現れることを明らかにしました。つまり、巨大化したEchinopsisはまとまりがないグループだったのです。現在、このあたりは整理中といった雰囲気がありますが、多少は改訂されているようです。この論文では大きく4つに分けられています。
1つ目のグループはReicheocereusで、かつてはEchinopsisやLobiviaとされてきました。2つ目のグループは狭義のEchinopsisを含みます。Echinopsis、Cleistocereus、Harrisia、Leucosteleなどからなります。3つ目のグループはOreocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucana、Espostoa、Loxanthocereus、Borzicactusなどからなります。このグループはやや混乱しており、将来的に改訂される可能性もあります。4つ目のグループは旧Echinopsisですが、かつてのTrichocereusやLobiviaからなるグループです。Denmoza、Acanthocalycium、Trichocereus、Chamaecereus、Soehrensia、Lobiviaなどからなります。

230911222043822~2
Arrojadoa(右上)、Borzicactus(右下)、Stenocereus(左)

ケレウスの仲間
BCT cladeのCereeaeは基本的には柱サボテンです。2011年のRolando T. Barcenasの論文では、CereusとMicrothocereusは近縁ですが、Pilosocereus、Coleophalocereus、Uebermannia、Browningia、Stetosoniaは上手く互いの系統関係を解析出来ていません。CereinaeとRebutiinaeに分ける場合、RebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、WeingartiaなどはRebutiinaeに含まれるようです。この場合のCereinaeはCereusやMelocactus、Arrojadoa、Cipocereus、Pilosocereus、Leocereus、Coleocephalocereus、Micranthocereusなどからなります。ここで、Mariana R. Fantinatiらの2021年の論文を見てみましょう。この論文の分子系統を以下に示します。若干、解析が甘い部分もありますが、大まかな傾向は分かります。ただ、この論文ではRebutiinaeはUebelmannia以外は含まれていません。Gymnocalyciumなどは、TrichocereenaeとされたりRebutiinaeとされたり論文により立ち位置が違います。

                      ┏
Arrojadoa
                  ┏┫
                  ┃┗━
Stephanocereus
                  ┃                  
                  ┃┏━Melocactus
                  ┣┫
                  ┃┗━Discocactus
              ┏┫
              ┃┃┏━Pilosocereus
              ┃┣┫
              ┃┃┗━Coleocephalocereus
              ┃┃
              ┃┗━━Microthocereus1
              ┃
          ┏┫┏━━Microthocereus2
          ┃┗┫
          ┃    ┗━━Xiquexique
          ┃
          ┃    ┏━━Cipocereus
      ┏┫┏┫
      ┃┃┃┗━━Mirabella
  ┏┫┗┫
  ┃┃    ┗━━━Cereus
  ┃┃
  ┃┃┏━━━━Brasilicereus
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━━━Leocereus
  ┫
  ┗━━━━━━Uebelmannia


230911214051537~2
Coleocephalocereus

230911214539161~2
Pilosocereus

レブチアの仲間
ここまで登場しなかったRebutiaやGymnocalycium、つまりRebutiinaeを見ていきます。RebutiinaeはRebutiaやGymnocalycium、Uebelmannia、Aylostera、Browningia、Stetosonia、Weingartiaなどからなるとされています。ここでは、Stefano Mostiらの2011年の論文を参加に見ていきます。見てお分かりのように、ケレウスの仲間が2つに分かれていたりさしますから、やや不確実かも知れません。しかし、そもそもこの論文は、Rebutiaを解析することを目的としていますから、まずはその点を見てみます。さて、この論文では、Rebutiaは2つに分けられるとしています。Rebutia①ではWeingartiaやSulcorebutia、Cintiaと入り乱れており、これらを区別することが出来ません。ですから、現在ではWeingartiaやSulcorebutia、CintiaはRebutiaに統合されました。また、Rebutia②は明らかにRebutia①と近縁ではありません。これは、Rebutiaに吸収されていたAylosteraで、現在ではRebutiaから分離されています。
さて、やや不確実な解析結果ではありますが、大まかな傾向は分かります。GymnocalyciumやAylosteraはトリコケレウスやケレウスの仲間と近縁であると言うことです。また、RebutiaとBrowningiaは姉妹群のようです。


          ┏━━Rebutia①
      ┏┫
      ┃┗━━Browningia
      ┃
  ┏┫        ┏Rebutia②
  ┃┃    ┏┫
  ┃┃    ┃┗Cereeae①
  ┃┃┏┫
  ┫┃┃┗━Gymnocalycium
  ┃┗┫
  ┃    ┗━━Trichocereeae
  ┃
  ┗━━━━Cereeae②

最後に
本日はサボテン亜科のCore Cactoideae Iをご紹介しました。Core Cactoideae Iは多くの柱サボテンを含む巨大なグループです。完全に解明されたわけではありませんが、大まかな分類は分かります。思うに、かつては形態学的な類似のみが分類の指標でした。そのため、外見的に共通点があるエキノプシスやトリコケレウス、ロビビアなどが統合されたこともあります。しかし、遺伝子工学の発達により、現在では遺伝子解析による分類が当たり前のように行われ認められております。そのため、巨大化したエキノプシスは解体されることになりました。

さて、明日はCore Cactoideae IIをご紹介します。これで、サボテン科の分類は最後です。PachycereusやHylocereusが登場します。


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サボテンはサボテン科(Cactaceae)に分類されますが、大変種類が多く非常に多様です。樹木状のサボテンに見えないサボテンであるPereskiaなどは原始的な特徴を残しているのだろうと何となく予想しますが、柱サボテンや玉サボテンの関係などはまったく分かりません。現在、サボテンの分類はどうなっているのでしょうか。ここでは、過去のサボテンの遺伝子解析の結果をまとめたPablo C. Guerreroらの2018年の論文、『Phylogenetic Relationship and Evolutionary Trends in the Cactus Family』を参照として見ていきます。ただし、大まかな分類が示されているだけなので、詳細は随時私の知っている論文から情報を追加しました。

分子系統
以下に示す分子系統を見てみます。一番根元にあるのは樹木状サボテンです。そこからOpuntioideae、(ウチワサボテン亜科)、Maihuenioideae(マイフエニア亜科)が順次分岐しました。オプンチア亜科とマイフエニア亜科以外は、Cactoideae(サボテン亜科)です。サボテン亜科は柱サボテンや玉サボテン、リプサリスやクジャクサボテンまで含む巨大なグループです。
さらにサボテン亜科は、Aztekium + Geohintonia + CacteaeとCore Cactoideaeに分かれます。ここからは、それぞれについて見てみましょう。

                     ┏━
Core Cactoideae
                     ┃
                 ┏┫┏━Cacteae
                 ┃┗┫
                 ┃    ┃┏Aztekium
           ┃    ┗┫
             ┏┫        ┗Geohintonia
       ┃┃
             ┃┗━━━Blossfeldia
         ┏┫

         ┃┗━━━━Maihuenioideae
     ┏┫ 
     ┃┗━━━━━Opuntioideae
 ┏┫
 ┃┗━━━━━━Pereskioideae
 ┫
 ┗━━━━━━Leuenbergerioideae 

樹木状サボテン(コノハサボテン)
樹木状サボテンは一般的にPereskiaとされてきましたが、Leuenbergeriaが分離されました。2属で1つのグループを形成しているのではなく、それぞれ単独のグループを形成します。それぞれ、Leuenbergerioideae(レウエンベルゲリア亜科)と、Pereskioideae(コノハサボテン亜科)に大別されます。
Joel Lodeの2019年の論文では、そのあたりについてよくまとめられています。Leuenbergeriaは茎気孔が発達せず比較的急速に樹皮を形成しますが、Pereskiaは茎気孔が発達し樹皮形成は緩やかです。Pereskiaは茎で光合成をして茎から二酸化炭素を取り込んでいるわけですから、サボテン科の多肉植物化の始まりが示されていると言えます。分布も異なりLeuenbergeriaはメキシコ以北、Pereskiaは南米原産です。
また、コノハサボテン亜科はPereskiaからRhodocactusに4種類が移されました。


231018043113470~2
Leuenbergeria zinniiflora

Opuntioideae
いわゆるウチワサボテンの仲間ですが、Cylindropuntieae、Opuntieae、Tephrocacteaeからなります。ウチワサボテンは分布が近い種類同士で自然交雑しており、絡まり合うように遺伝子が混ざっています。Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文では、ウチワサボテンは複雑に絡み合うように交雑している網状進化の様子が示されています。ウチワサボテンの種類の多さや分布の広さ、その多様性は盛んにおきている自然交雑によるものなのかも知れません。CylinderopuntieaeにはPereskiopsisのような大きな葉を持つ古いタイプのサボテンを含みます。
Opuntieaeはウチワサボテンの中でもっとも多様で広範囲に分布するグループです。約230種類のうち、約200種類からなるOpuntia属は、カナダからアルゼンチンまで分布します。OpuntieaeにはTacingaやConsolea、Salmonopuntia、Miqueliopuntia、Brasiliopuntiaを含みます。
Cylindropuntieaeは約70種類からなり、一般的に「chollas」と呼ばれる仲間です。このグループは、Cylindropuntia、Corynopuntia、Grusonia、Micropuntia、Pereskiopsis、Quiabentiaからなります。PereskiopsisやQuiabentiaは葉が多いサボテンです。
TephrocacteaeはTephrocactusやAustrocylindropuntia、Cumulopuntia、Maihueniopsis、Peterocactus、Punotiaからなります。

240202231910199~2
Cylindropuntia fulgida

Maihuenioideae
マイフエニア亜科はチリ、アルゼンチンの寒冷で半乾燥したパタゴニアに生える低木で、2種類が知られています。MaihueniaはC3植物であり、気孔はアレオーレに限定されるなど、サボテンの典型的な特徴を持ちません。

Cacteae
論文ではCacteaeは以下の分子系統のように分類されています。アストロフィツムとエキノカクタスは非常に近縁で、フェロカクタスも近いですね。マミラリア類(Mammilloyd)とラピカクタス、ツルビニカルプス、エピテランサは近縁です。Cacteaeは、Aztekium + Geohintoniaと姉妹群です。

              ┏━Mammilloyd
          ┏┫
          ┃┗━Rapicactus
          ┃
      ┏┫┏━Turbinicarpus
      ┃┗┫
      ┃    ┗━Epithelantha
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Ferocactus
  ┫
  ┗━━━━Astrophytum,
                      Echinocactus
                     
さて、まずはAstrophytumからFerocactusあたりを見ていきます。これは、Mario Daniel Vargas-Lunaらの2018年の論文を参照しましょう。やはりここでも、AstrophytumとEchinocactusは近縁です。ただし、Echinocactusは分割されHomalocephalaが復活しています。さらに、金鯱(E. grusonii)はKroenleinia属として独立しましたが、遺伝的にはFerocactusに含まれます。ちなみに、GlandulicactusはFerocactusへ、EchinomastusはSclerocactusに分類されているようです。

次にフェロカクタスとマミラリア類をつなぐグループを見ていきます。このグループは、Rolando T. Barcenasらの2011年の論文を参照とします。TurbinicarpusはAriocarpusと非常に近縁で、Strombocactusも近縁です。さらに、EpithelanthaとThelocactusは近縁です。他にも、RapicactusやPediocactus、Lophophoraも近縁です。

次にマミラリア類を見ていきます。このグループは、Cristian R. Cervantesらの2021年の論文を参照とします。マミラリアの仲間はMammillaria、Ortegocactus、Neolloydia、Coryphantha、Escobaria、Pelecyphora、Encephalocarpusあたりが含まれます。しかし、マミラリア属は再編され大きく変わりました。実は遺伝的に見るとこれらの属は種類により入れ子状となっており、属ごとにまとまっていません。ですから、改めて近縁なグループごとに分ける必要があったのです。
Coryphanthaは分割され一部はPelecyphoraに吸収されました。EscobariaやEncephalocarpusは消滅し、やはりPelecyphoraに吸収されました。本来のMammillaria属とPelecyphora属をつなぐグループはCochemieaとしてまとめられました。Cochemieaは、Mammillariaの一部とOrtegocactus、Neolloydiaを含みます。
現在ではEncephalocarpus strobiliformis(松毬玉)はPelecyphora strobiliformisへ、Ortegocactus
macdougalliiはCochemiea macdougalliiとなっています。ちなみに、一部のCoryphanthaがPelecyphoraになりましたが、C. viviparaやC. hesteriなどのEscobariaとされることもあった微妙なラインのものです。

また、いくつかの論文を見たところ、LeuchtenbergiaやSclerocactusはおそらくCacteaeですが、立ち位置は論文によりやや違いがあります。


最後に
まだ途中ですが、記事が長くなったので本日はここまでとしましょう。と言うわけで、明日に続きます。
しかし、球状のサボテンではBlossferdiaが原始的な位置にあったことに驚きました。また、マミラリアの仲間はかなり改訂が進んでいます。今後はEchinocactusやFerocactusの改訂があるかも知れません。このように、サボテンもその分類は急速に整理されつつあります。それは、ここ20年くらいの遺伝子工学の発展によるものです。とはいえ、まだすべてが解析されたわけではありませんから、まだ分からない部分もあります。しかし、それも時間の問題でしょう。これからは、サボテンの名前は大幅な改訂を受けるはずです。長い間親しんだ名前は変わってしまい、属レベルですら消滅を免れないでしょう。



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日本では「菊水」の名前でお馴染みのStrombocactus disciformisは渋いサボテンですが、今でも人気種です。今ではすっかり普及種となっていますから、育てておられる方も多いでしょう。
このS. disciformisの由来は古く、はじめて命名されたのは1828年のことで、Mammillaria disciformisと命名されましたが、1922年にストロンボカクタスになりました。1924年にはStrombocactus turbiniformis、1996年にはStrombocactus jarmilaeが命名されましたが、現在はS. disciformisの同種とされています。さらに、1996年にはStrombocactus pulcherrimusが命名されましたが、現在はS. disciformisの亜種であるsubsp. esperanzaeとされています。このように、ストロンボカクタスの新種は記載されるものの、異名扱いかせいぜい亜種とされてきました。ところが、2010年に待望の新種であるStrombocactus corregidoraeが記載されました。明らかに菊水とは別種でしたから、実に182年ぶりの新種でした。
さて、本日はこの新種のストロンボカクタスについての話です。参照とするのは、Rolando T. Barcenasらの2021年の論文、『Chichimecactus (Cactoideae, Cactaceae), a new genus based on molecular characterisation of highly endangered Strombocactus species』です。

分子系統
論文の分子系統を見てみましょう。
まず驚くのは、ツルビニカルプスが2つに分かれることです。よく見たらTurbinicarpus②は、RapicactusとされるT. beguinii、T. subterraneus、T. mandragoraの3種でした。本来のツルビニカルプスはTurbinicarpus①ですね。
次に、アリオカルプスとツルビニカルプスは近縁で、S. disciformisその2属と近縁でした。ちなみに、ssp. disciformisとssp. esperanzaeは遺伝的にはきれいに分離されています。本題のS. 
corregidoraeは、興味深いことにS. disciformisと近縁ではあるものの、思ったより距離があり、同属とするのは困難に見えます。

                      ┏Ariocarpus
                  ┏
      ┃┗Turbinicarpus①
              ┏┫
              ┃┗━Strombocactus
              ┃            disciformis
          ┏┫
          ┃┗━━Strombocactus
          ┃                corregidorae
          ┃
      ┏┫┏━━Epithelantha
      ┃┗┫
      ┃    ┗━━Thelocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━━Lophophora
  ┫                   
  ┗━━━━━Turbinicarpus②

特徴
Strombocactus corregidoraeは、S. disciformisより長く(18〜21cm)、幅があり(8〜13cm)、やや縦長になります。以下に①S. corregidorae、②亜種disciformis、③亜種esperanzaeで、それぞれの特徴を示します。

        ①   ②    ③

最大サイズ(cm) 
21×13 12×9   4.5×3.5
トゲ      持続的 脱落   脱落
トゲの数                 3~5        1~5       1~2

トゲの長さ(cm) 1.8~3.5  1.5     0.8~1.1
種阜       無           有          有


以上のようにS. corregidoraeの特徴はまとめられます。特に脱落しにくいトゲや、種阜がないことはS. disciformisと比較した時に特徴的です。種阜(strophile)とはエライオソームの1種で、種子に栄養分がついており、アリは種阜目当てで種子を運搬します。

良い図版がなかったので、原産地の画像のリンクを貼っておきます。

Strombocactus disciformis ssp. disciformis

https://www.inaturalist.org/photos/349020628

Strombocactus disciformis ssp. esperanzae
https://www.inaturalist.org/photos/59472790

Chichimecactus corregidorae
https://www.inaturalist.org/photos/334800540
円筒形に育つ様子
https://www.inaturalist.org/photos/275414627

新属の提案
著者らは、米国南西部からメキシコ北部の乾燥地に住んでいたChichimeca族にちなみ、新属Chichimecactusを提案しました。そして、Strombocactus corregidoraeをChichimecactus corregidoraeとして配置しました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
著者らは新属
Chichimecactusを提案しましたが、これは現在学術的に認められています。つまり、Strombocactus corregidoraeは正式にストロンボカクタスから分離されました。この論文は2021年の掲載ですから、実に最近のことでした。
さて、華々しく新属が記載されましたが、ストロンボカクタス待望の新種は幻に終わりました。結局、ストロンボカクタスは1属1種のままです。いつか、菊水以外のストロンボカクタスも発見される時が来るのでしょうか?


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2014年に金鯱(Echinocactus grusonii)がエキノカクタスから独立し、新属であるKroenleinia属に分類されました。つまり、Kroenleinia grusoniiです。しかし、2018年に行われたホマロケファラとエキノカクタス、フェロカクタスの遺伝的解析の結果では意外な事実が明らかとなっています。当該論文である2018年のMario Daniel vargas-Lunaらの『Homalocephala as a distinct genus in the Cacteae』を見てみましょう。参照とするのは分子系統だけで、以下の解説は私の考えなので悪しからず。

240317223044640~2
Homalocephala texensis
『The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。


遺伝的解析
この論文は、ホマロケファラ(Homalocephala)の分類をはっきりさせることを目的としているようですが、近縁と考えられるエキノカクタスやフェロカクタスなどとの比較がなされています。
ホマロケファラ、つまり綾波(Homalocephala texensis)は、1842年にEchinocactus texensisと命名され、1922年に新設されたホマロケファラ属となり独立しました。しかし、現在はエキノカクタス属に戻されています。
下の分子系統を見ると、ホマロケファラはエキノカクタスから明確に分離されています。意外にもエキノカクタスはホマロケファラやフェロカクタスより、アストロフィツムに近縁であることが明らかとなりました。もし、ホマロケファラをエキノカクタスに含めると言うのならば、アストロフィツムもエキノカクタスに含める必要がありますが、あまりに非現実的です。やはり、エキノカクタスからのホマロケファラの分離が好ましいようです。


          ┏━━Astrophytum
      ┏┫
      ┃┗━━Echinocactus
  ┏┫ 
  ┃┗━━━Homalocephala
  ┫
  ┗━━━━Ferocactus

240317224257576~2
Echinocactus platyacanthus
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus ingensとして記載。


エキノカクタスの解体
エキノカクタス属そのものの範囲も論文では異なります。この論文では、エキノカクタスに含まれるのはE. platyacanthus(広刺丸)とE. horizonthalonius(太平丸)だけです。E. parryi(神竜玉)やE. polycephalus ssp. polycephalus(大竜冠)、E. polycephalus ssp. xeranthemoides(竜女冠)はホマロケファラに含まれてしまいます。気になるE. grusonii(金鯱)はフェロカクタスに含まれることが明らかになっています。遺伝的に見ると、エキノカクタスはわずか2種類に縮小することになります。
また、論文では太平丸(E. horizonthalonius)は、ニコリー太平丸(ssp. nicholii)も調べていますが、ssp. horizonthaloniusとそれほど上手く分離出来ていません。外見上は異なっていても、遺伝的にはそれほどの違いはないと言うことかも知れません。ちなみに、現在ssp. nicholiiはssp. horizonthaloniusに含まれてしまいました。逆にssp. australisが2022年に新亜種として記載されています。

240317224234334~2
Echinocactus polycephalus ssp. xeranthemoides
The Cactaceae Vol.3』(1922年)より。
Echinocactus 
xeranthemoidesとして記載。

現在の分類
現在の学術分類では、この2018年の論文の成果は反映されていません。しかし、将来的には大きく整理されるかも知れません。とりあえず、キュー王立植物園のデータベースを見てみます。

①Echinocactus

1, E. × diabolicus
2, E. horizonthalonius
3, E. parryi
4, E. platyacanthus
5, E. polycephalus
6, E. texensis

E. × diabolicusは、2006年にE. horizonthaloniusの亜種として記載されましたが、これはE. horizonthaloniusとE. platyacanthusの自然交雑種であるとされました。そのため、2020年に交雑種であることを示す「×」がつけられました。
分子系統でエキノカクタスに含まれるのは、E. horizonthaloniusとE. platyacanthusだけです。残りの3種類はホマロケファラです。

②Kroenleinia
1, K. grusonii

金鯱は2014年にクロエンレイニア属とされましたが、分子系統ではフェロカクタスです。ちなみに、金鯱をフェロカクタスとする意見も2021年に提出されています。

DSC_0579
Kroenleinia grusonii

最後に
この論文ではホマロケファラの立ち位置を確定させるためのものですが、思わぬ結果が示されています。ホマロケファラはエキノカクタスから分離されますが、エキノカクタス自体が分解されることが明らかとなったのです。また、副産物でKroenleiniaがフェロカクタスであることも判明しました。しかし、ホマロケファラは、エキノカクタス→ホマロケファラ→エキノカクタスと来て、遺伝的にはホマロケファラと行ったり来たりしています。この論文の結果を持って最終的な回答となるのでしょうか。しばらくは経緯を見守りたいと思います。


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生物は基本的にトレード・オフです。例えば、卵は大きなものほど子供の生存率が高く、小さい卵ほど子供の生存率は低くなります。これは、生まれてくる子供のサイズが異なり、卵が大きいほど1匹の子供に使われる栄養が多いことが原因です。しかし、実際のところ、大きい卵は少なく産卵され、小さい卵は沢山産卵されます。これは、少数の生存率を上げるのか、生存率が低くても数を揃えるのかと言うトレード・オフの関係にあります。一見して生存率が高い方が有利な気もしますが、生存率が低くくても数が多ければ最終的には生き残ることが出来るため、どちら一方が優れているわけではありません。
生物はアレもコレもと言うわけにはいきません。大きい卵を沢山生めば良いような気もしますが、生物の利用出来る資源や産卵に振り分けられるエネルギーは有限です。仮に100の栄養があった時に、栄養50の卵を2つ生むのか(50×2=100)、栄養2の卵を50個生むのか(2×50=100)と言う選択肢はありますが、栄養50の卵を50個生むこと(50×50=2500)は出来ないのです。ニワトリが鶏卵を一度に何十個も産むことを考えたら、非現実的な意見であることが分かるでしょう。これを、一般的にトレード・オフと言います。アレもコレもではなく、アレかコレかを選ばなくてはなりません。
植物でも資源をどの程度振り分けるのかは問題となります。特に生長と繁殖のバランスは重要でしょう。例えば、生長を優先するのか、繁殖(開花)を優先させるのかです。本日はサボテンのトレード・オフを検証したM. A. Lorenzaniらの2024年の論文、『Growing or reproducing? Assessing the existence of a trade-off in the globose cactus Gymnocalycium monvillei』をご紹介しましょう。

植物のサイズと資源分配
サボテンにおいて、トレード・オフについては調べられていませんが、サイズと繁殖の関係を調べた研究は行われています。いくつかのサボテンではサイズが大きくなるほど種子の数が増えることが確認されています。例えば、Pterocereus gaumeriやStenocereus thunberi、Lophocereus schottii、Escobaria robbinsorum、Ferocactus wislizeni、Coryphantha werdermannii、Lophophora diffusaなどで確認されています。

Gymnocalycium monvillei
著者らはアルゼンチンのコルドバのGymnocalycium monvilleiを調査しました。調査地の標高は1600mで、年間平均気温は13.9℃、年間降水量は800mmでした。雨は9月から4月の温暖な時期に集中します。G. monvilleiは自家不和合性で、ミツバチにより受粉します。花は1〜10個で雌雄同体です。
著者らは、G. monvilleiが生長する時期である9月から4月の生長を測定し、生産された果実を数えました。


230829225644206~2
Gymnocalycium monvillei
Gymnocalycium multiflorumとして記載。
『Adissonia』(1918年)より。


サイズと種子を測定
G. monvilleiの直径は、2018年から2019年の1回目の調査では5.4〜17.9cm、2019年から2020年の2回目の調査では6.1〜17.9cmでした。生長率は0%〜27.8%で、25%は生長しませんでした。すべての個体は開花しましたが、1回目では5%、2回目では6.7%が種子を生産しませんでした。
G. monvilleiの直径は種子生産量および総種子重量に関係がありました。しかし、直径と平均種子重量には関係がありませんでした。さらに、生長と種子の数、平均重量、総重量とも関係がありませんでした。また、種子の平均発芽時間も直径や生長とは関係がありませんでした。


トレード・オフはない
結果として、G. monvilleiは生長と種子生産量の間にトレード・オフの関係はないことが分かりました。過去の報告では、植物の種類によりトレード・オフがある場合とない場合があります。サイズと種子量の相関は、Opuntia engelmanniiやMammillaria magnimamma、Harrisia portoricensis、Astrophytum ornatumで確認されています。Wigginsia sessilifloraはサイズの増加に伴い種子生産が減少すると言う報告もあります。サボテンでも種によりトレード・オフの関係があるものとないものがある可能性があります。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. monvilleiにおいては、生長と種子生産の間にトレード・オフの関係はありませんでした。個人的には個体ごとのコンディションに左右されているような気もしますが、はっきりしたことは言えません。ただ、あくまでも余力で賄えるだけの開花を行っているはずですから、やはりアレもコレもと言うわけには行かないのでしょう。
さて、論文中でWigginsiaの話がありましたが、過去に当ブログでも取り上げたことがあります。種子生産量は中型個体が多く、大型個体は種子生産が減少すると言う結果でした。ただし、大型個体の種子由来の実生ほど背が高いなど、異なる利点もあるようですから、単純に種子生産数だけで考えるべきではないのかも知れませんね。




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バハ・カリフォルニア半島はサボテンが非常に豊富なことで知られています。しかし、バハ・カリフォルニア沿岸に散在する小島にも、サボテンが沢山生えていることは、一般的にはあまり知られていないようです。さて、このような海洋に浮かぶ小島は、大抵は海鳥の繁殖地となっていることが多く、海鳥の糞が堆積しています。この蓄積して固まった鳥の糞を「グアノ」と呼び、かつては肥料の成分とするために、盛んにリン鉱石として採掘されました。と言うわけで、本日はこのグアノとサボテンの関係についてのお話です。本日、ご紹介しますのは、Benjamin T. Wilderらの2022年の論文、『Marine subsides produce cactus forests on desert islands』です。

グアノと鳥島
カリフォルニア湾には、オグロカモメやユウガアジサシ、アオアシカツオドリ、アメリカオオセグロカモメなどの海鳥が多く生息しています。場所によってはグアノが岩上に10cmも堆積しています。そのため、このような鳥島では、窒素やリンの濃度が高いため多くの植物は生えることが出来ないようで、植物の多様性は大幅に減少します。北アメリカ南西部では、エルニーニョやハリケーンにより降水量が多い年はグアノから窒素が流入し、土壌中の窒素は元の100倍に増加する可能性があります。しかし、カリフォルニア湾の鳥島では、サボテンが豊富で多様性が高くなっています。いくつかの島では、cardonと呼ばれるサボテンが高密度で生息します。cardonとはPachycereus pringleiのことで、カリフォルニア半島とソノラ本土のソノラ砂漠に広く分布する柱サボテンです。

240226012127846~2
Cardon
『Proceedings of the California Academy of Sciences』(1960-1968年)より。


同位体窒素の変動
グアノにはアンモニア態や硝酸態、あるいは尿酸の形で窒素が含まれます。これらは異なる速度で分解されます。窒素の原子量は14ですが、極わずかに原子量が15の同位体が存在します。グアノからはアンモニアが揮発し原子量14の窒素(14N)が多少失われるため、グアノは原子量15の同位体窒素(15N)の割合が増加します。自然環境下では、窒素同位体比が+25%を超えることは稀です。従って、植物そのものの15Nの割合を調べれば、グアノを栄養として取り込んだか否かが分かります。

鳥島のcardonは15N値が高い
San Pedro Martir島では、魚の15N値は平均+17.7%、海鳥の羽は平均19.7%でした。新鮮なグアノの15N値は平均14.8%でしたが、分解されて土壌中に残ったグアノの15N値は平均+32.4%に達しました。San Pedro Martir島のcardonは、15N値の平均は+30.3%でした。
また、鳥島ではないメキシコ湾の島の土壌の15N値は平均+15.0%、cardonでは+11.7%でした。バハ・カリフォルニア半島に生えるcardonの15N値は+8.13%、ソノラ本土に生えるcardonでは+11.2%でした。

鳥島の異様なサボテン密度
San Pedro Martir島のサボテン林の密度は、約2700本/haで、隣接する鳥島であるCholludo島では約23500本/haと言う桁違いに多くのcardonが生えています。バハ・カリフォルニアで約150本/ha、ソノラでは約60本/haですから、鳥島のサボテン密度は非常に高いものです。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文中のcardonとは
Pachycereus pringleiのことですが、日本では「武倫柱」の名前で知られている柱サボテンです。この論文では、武倫柱に対する鳥島のグアノの影響を調査しました。
鳥島であるSan Pedro Martir島の武倫柱の密度は1坪あたり0.9本、Cholludo島では1坪あたり8本にもなります。バハ・カリフォルニア半島の武倫柱は1坪あたり0.05本、ソノラ本土の
武倫柱は1坪あたり0.02本にしかなりませんから、いかにグアノが武倫柱の生育に影響を与えているかが分かります。
グアノに含まれる同位体窒素の割合により、
武倫柱はグアノ由来の窒素を大量に取り込んだことは明らかです。一般的に畑作では、肥料は与え過ぎると肥料焼けをおこして根をやられてしまうことが知られています。ですから、グアノの過剰な窒素やリン酸は植物には有害です。しかし、武倫柱は過剰な栄養素を取り込んで、異常な密度で生育することが出来るのです。


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エキノプシスは割と庶民的なサボテンで、短毛丸などは庭先に放置された鉢でも花を咲かせていたりします。さて、どうもエキノプシスと言えばそのようなイメージだったわけですが、神代植物公園の大温室に行った時に意外な事実に遭遇しました。益荒丸と言う巨大な柱サボテンが植えられており、ネームプレートには「Echinopsis rhodotricha」とありました。驚くべきことに、この巨大な柱サボテンがエキノプシスだったのです。

DSC_0585
益荒丸 Echinopsis rhodotricha
エキノプシスに見えませんが、ネームプレートにはそうありました。


いつの間にやら全部Echinopsis
また、トリコケレウス属を調べていた時に、いくつかの種類がエキノプシスとされたことがあることを知りました。これは一体どういうことなのでしょうか? まず、トリコケレウスがエキノプシスに含まれるとした考え方に対する、いくつかのサイトの説明を見てみましょう。

「問題は1974年にH. friedrichが、EchinopsisとTrichocereusは種子や花により区別出来る違いはなく、区別して分類すべきではないことを発見しました。そして、Echinopsisの方が(命名が)早いため、TrichocereusはEchinopsisに折り畳まれます。サン・ペドロ(=Trichocereus)をEchinopsisの一部には呼ぶことも正しいのでしょう。」

「1974年にH. FriedrichはTrichocereusとEchinopsisの花は同じ種類であると結論付けました。彼の主張では、子房と花管にトゲはないが毛があり、開放型あるいは散在型の蜜腺と、2連の雄しべがあると言うものでした。結論は、Echinopsisが古い属であると言う事実により、Trichocereusのすべての種はEchinopsisに再分類されました。」


遺伝子解析
以上のように、1974年にTrichocereusはEchinopsisの一部であると言う意見が出されました。もし、サイズ以外の違いがないのなら、それは正しい意見と言うことになります。では、外見上の違いではなく、遺伝的な違いはどうでしょうか? ここでは、Boris O. Schlumpberger & Susanna S. Reinnerの2012年の論文、『Molecular Phylogenetics of Echinopsis (Cactaceae): Polyphyly at all levels and convergent evolution of pollination modes and growth forms』を見てみましょう。内容は省略して、遺伝子解析の結果だけ見てみましょう。

遺伝子を解析して分子系統を作成しています。とりあえず、Echinopsisを含むグループは4つに大きく分けられるようです。ここでは仮にA、B、C、Dとしました。また、現在のキュー王立植物園のデータベースの情報も加えました。

          ┏━━D
      ┏┫
      ┃┗━━C
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B
  ┫
  ┗━━━━A

グループA
グループAは、E. famatimensisとE. bonnieaeが含まれます。
実はグループBとグループDにもEchinopsisが含まれるため、グループAに含まれる種はEchinopsisとすべきではありません。この2種はかつてはLobiviaとされてきましたが、本来のLobiviaとも系統的に遠い種です。現在はReicheocactusに分類されています。


グループB
グループBは非常に複雑ですから、以下に分子系統を示します。

          ┏━━B4
      ┏┫
      ┃┗━━B3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━B2
  ┫
  ┗━━━━B1

B1はArthrocereusです。

B2はCleistocactus(C. bmaumannii、C. smaragdiflorus)、Espostoa、Weberbauerocereus、Yungasocereus、Cephalocleistocactus、Samaipaticereusからなります。
ただし、現在はCephalocleistocactusはCleistocactusに吸収されました。また、B2に含まれるEspostoa(E. guentheri)はVatricaniaとなっています。

B3はHarrisiaと、E. terscheckii、E. atacamensisからなります。
B3に含まれるEchinopsisは、現在では
Leucosteleとされています。

B4はすべてEchinopsisです。E. tubiflora、E. aurea、E. oxygona、E. calochloa、E. densispina、E. haematantha、E. chrysantha、E. breviflora、E. jajoana、E. marsoneriからなります。かつてLobiviaとされたものが多いようです。

Echinopsisと呼ばれる種は、この時点でB3とB4に含まれています。属は近縁でまとまりのあるグループですから、B4のみをEchinopsisとするか、B3とB4を合わせてEchinopsisとするかしかありません。後者の場合、HarrisiaはEchinopsisに吸収されてしまいます。著者らは前者の立場です。つまり、B4に含まれる種のみをEchinopsisと考えるのです。また、Harrisiaは遺伝的にまとまりがありますから、Harrisia以外のB3に含まれるEchinopsisにも新たな名前が必要となります。著者の
SchlumpbergerはLeucosteleを提唱し、現在は認められています。

グループC
グループCはOreocereusの仲間です。Oreocereus、Pygmaeocereus、Mila、Oroya、Haageocereus、Rauhocereus、Matucanaが含まれます。ただし、B2に含まれていたCleistocactusやEspostoaも含みます。つまり、CleistocactusとEspostoaは近縁ではない種で構成されていたと言うことになります。また、グループCのCleistocactusとMatucanaは単系統ではなく、まとまりがありません。グループC全体の見直しが必要です。
現在、PygmaeocereusはHaageocereusに吸収されました。グループCに含まれているCleistocactusは、Loxanthocereus(C. sextonianus)やBorzicactus(C. sepium)となっています。CleistocactusはグループBに含まれる方を指します。しかし、これでも整理が中途に思えます。


グループD
グループDも非常に複雑です。

              ┏━D5
          ┏┫
          ┃┗━D4
      ┏┫
      ┃┗━
━D3
  ┏┫ 
  ┃┗━━━D2
  ┫
  ┗━━━━D1


D1はDenmozaとAcanthocalycium、E. mirabilis、E. leucanthaからなります。しかし、B4を本来のEchinopsisとした場合、D1に含まれる種はEchinopsisではありません。
現在、E. 
mirabilisはSetiechinopsisとなり、E. leucanthaはAcanthocalyciumとなっています。私が植物園で見た巨大なEchinopsisはD1に含まれ、現在はAcanthocalyciumとされています。

D2はE. pachanoiとE. lageniformisからなります。旧Trichocereusです。
現在、E. pachanoiはTrichocereus macrogonus var. pachanoiとなっています。E. lageniformisはTrichocereus bridgesiiと呼ばれていましたが、データベース上ではEchinopsisのままです。

D3のE. saltensisやE. chamaecereus、E. schreiteriは、かつてLobiviaとされたこともありますが、現在は著者によりChamaecereusとされています。また、E. formosaやE. warteri、E. huascha、E. strgona、E. rowleyi、E. lobivioides、E. bruchii、E. candidens、E. angelesiae、E. hahnianaは、LobiviaやTrichocereusとされたこともありますが、現在は著者によりSoehrensiaとされています。
D3は本来のEchinopsisとは近縁ではなく、Lobiviaの姉妹群です。

D4にはE. pereziensis、E. bridgesii、E. sucrensis、E. caineana、E. mamillosaが含まれます。D4は元よりEchinopsisとされて来ましたが、本来のEchinopsisとは近縁ではなく、著者によりLobiviaとされています。
D5にはE. rojasii、E. calorubra、E. obrepanda、E. calliantholiacina、E. coronata、E. pojoensis、E. callichroma、E oligotricha、E. boyuibensis、E. subdenudata、E. cardenasiana、E. ancistrophora、E. chrysochete、E. schieliana、E. maximiliana、E. tegeleriana、E. hertrichiana、E. arachnacantha、E. tiegeliana、E. pentlandii、E. cinnabarina、E. ferox、E. lateritia、E. pugionacantha、E. backebergii、E. tacaquirensis、E. yuquinaが含まれます。D5はもともとLobiviaとされてきたグループです。
D4はよくまとまったグループであるため、D4とD5を別属とすることも可能なような気もしますが、著者らは合わせてLobiviaとしています。


最後に
よく見てみると、Echinopsisとされる種は、他の柱サボテンの属のあちこちに散在することが分かります。つまり、現在Echinopsisと言われている種は、まとまりがない雑多な寄せ集めでしかないと言うことです。また、グループDはEchinopsisと近縁ではなく、外見的類似により統合されてしまったことは明らかです。明確にLobiviaやTrichocereusは分離可能です。一方で、あちこちに現れるEchinopsisは、著者により新属とされました。
論文はすべてのEchinopsisとされる種の遺伝子を確認したわけではありませんから、名前がないものも多いでしょう。さらに、この論文の結果がすべて分類学的に反映されているわけでもありません。しかし、形態学的な分類が難しいEchinopsisが、分けられることが明らかとなりました。消滅したTrichocereusも復活し、Echinopsisとよく似た近縁ではない種も独立し、Echinopsisは大幅に縮小しました。最盛期は100〜150種と目されていたEchinopsisも、今や20種しかありません。
せっかくですから一覧を示して終わります。

Echinopsis albispinosa
Echinopsis aurea
Echinopsis breviflora
Echinopsis calochlora
Echinopsis chalaensis
Echinopsis chrysantha
Echinopsis clavata
Echinopsis cuzcoensis
Echinopsis densispina
Echinopsis haematantha
Echinopsis jajoana
Echinopsis lageniformis
Echinopsis marsoneri
Echinopsis oligotricha
Echinopsis oxygona
Echinopsis rauschii
Echinopsis rojasii
Echinopsis tacaquirensis
Echinopsis torrefluminensis
Echinopsis werdermannii



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最近、トリコケレウスの誕生やその経緯について記事にしました。内容的にはSofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』を参照としました。しかし、この論文には続きがあり、Trichocereus peruvianusやTrichocereus pachanoiはTrichocereus macrogonusに含まれるというのです。一体どういうことなのか、内容を見て見ましょう。
ちなみに、トリコケレウスは、始めはケレウス属でトリコケレウス属とされ、最終的にエキノプシスとされました。ですから、同じ種でも複数の名前が出て来ますから、ご注意下さい。

Trichocereus macrogonus
=Cereus macrogonus
=Echinopsis macrogona

Trichocereus pachanoi
=Echinopsis pachanoi

Trichocereus peruvianus
=Cereus peruvianus
=Echinopsis peruviana

また、Trichocereusの命名の経緯を記事にしていますから、こちらを先に読んだ方が理解がしやすいと思います。


T. peruvianusとT. pachanoi
Britton & Rose(1920年)は、Trichocereus peruvianusとTrichocereus pachanoiという2種類の新種のトリコケレウスを記載しました。
T. macrogonusとT. peruvianusの密接な関係は、Backeberg & Knuth(1936年)を含む数人の著者により言及されていますが、Backebergの一部の著書ではこの意見を支持していません。Ritter(1981年)は、野外観察に基づきT. peruvianusをT. pachanoiの1種であることを提案しました。ただし、RitterはT. macrogonusには言及していません。
Madsen(1989年)は、E. pachanoiを詳細に説明し、T. peruvianusを異名として挙げています。この時のE. pachanoiの図は非常に明瞭で、その説明は、Cereus macrogonusを記載したSalm-DyckのC. macrogonusの説明と一致しています。


T. macrogonusとは?
Huntら(2006年)は、E. peruvianaとE. pachanoiを種として認識していましたが、E. macrogonaは「元の用途が不明または議論の余地がある名前」のカテゴリーにリストアップしました。Huntらによると、「E. macrogonaの現代の記述は、オリジナルから逸脱しており、その名前は誤って適用されている可能性がある」としています。しかし、その根拠は示されませんでした。もっともらしい仮説として、この判断がアマチュアの温室で栽培された植物を観察したものではないかというものです。つまり、栽培されている植物がSalm-Dyckの記述に対応していないだけではないかと言うのです。

トゲが異なると言う記述
トゲの有無とサイズが、T. peruvianusとT. pachanoiを区別する主な特徴であるとされています。しかし、T. pachanoiの最初の記述はタイプ標本で見られるように、トゲのないものから長さ1〜2cmで3〜7本まで多様性があります。Schultes & Hoffman(1979年)は、栽培されたT. pachanoiにはトゲはありませんが、野生条件下ではトゲが発達すると指摘しました。著者らも、T. pachanoiを比較的暗い場所から直射光が当たる場所に移動した際、同じ経験をしました。
標本や写真、参考文献、Britton & Roseの説明などを見ると、T. peruvianusは高さ2〜4m(最大5m)で、T. pachanoiは高さ3〜6m(最大7m)です。特徴を以下に示します。

T. macrogonus v. macrogonus
=T. peruvianus
古いアレオーレにもトゲは18〜20本あり、そのうち3〜4本はより強く頑丈で長さ約5cmになります。枝は直立あるいは斜上し、幹は太く直径16〜20cmになります。

240213214531251~3
Trichocereus peruvianus Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. peruvianusはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonus v. pachanoi
=T. pachanoi
古いアレオーレにはトゲがないか少なく場合があり、3〜7本です。トゲは同じサイズで長さ約1〜2cmです。茎は直立し互いに平行になります。 茎は細く直径6〜11(〜15)cmとなります。

240213214523597~2
Trichocereus pachanoi Britton & Rose
『The Cactaceae, II』(1920年)より。
T. pachanoiはこのBritton & Roseの著作において命名されました。


T. macrogonusに含まれる
種が初めて記載された時の記述と、実際のTrichocereusを比較した結果、C. macrogonusはT. peruvianusと同種です。T. pachanoiは同種ではあるが、区別可能です。形態学的および遺伝的証拠による分類学的分析により、T. peruvianusとT. pachanoiとの間に密接な関係があることが確認されています(Albesiano & Terrazas, 2012年)。
一方でフィールドで植物を広く観察したRitter(1981年)やMadsen(1989年)が、それぞれT. peruvianusとT. pachanoiを認識していたことは注目に値します。これらは、別の2種ではなく、同一種内の変種としました。

T. macrogonusの履歴書
以上が論文の簡単な要約です。
初めてC. macrogonus=T. macrogonusを記載したSalm-Dyckの記述は、T. peruvianusの特徴とよく符合します。著者らはT. macrogonus=T. peruvianusであると主張します。さらに、T. pachanoiは形態学的にも遺伝的にもT. peruvianusと近縁ではあるものの、はっきりと判別出来ることからT. macrogonusの変種としました。ここで、T. macrogonusの異名についてまとめてみましょう。

T. macrogonus系
1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
               (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


T. pachanoi系
1920年 T. pachanoi
1931年 C. pachanoi
1956年 T. santaensis
              (publ. 1957)
1958年 T. schoenii
1974年 E. pachanoi
              E. santaensis
              E. schoenii
1981年 T. torataensis
2012年 T. macrogonus v. pachanoi
2022年 T. macrogonus ssp. sanpedro


現在の分類は著者らの主張通りとなっています。見てお分かりのように、エキノプシスに統合する動きがありました。現在はエキノプシスではなくトリコケレウスとされています。しかし、現在はトリコケレウス属自体が縮小しています。具体的には、T. macrogonus、T. spinibarbis、T. uyupampensis(=E. glauca=T. glaucus)のわずか3種類です。エキノプシスと言う肥大化したグループについても、気になっていますから、そのうち記事にする予定です。


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以前、トリコケレウスを調べていた時に、その立ち位置の微妙さであるとか、分類の混乱を感じました。果たしてトリコケレウスとは何者なのか、調べてもよく分からないのが現状です。本日は、トリコケレウス属のタイプであるTrichocereus macrogonusの歴史を少し見て見ましょう。参照とするのは、Sofia Albesiano & Roberto Kieslingの2012年の論文、『Identity and Neotypification of Cereus macrogonus, the Type Species of the Genus Trichocereus (Cactaceae)』です。
Trichocereusは基本的にアンデスに分布し、エクアドルならペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン南東部を経て大西洋きしまで広がっています。Trichocereusは円筒形の茎を持ち、丈夫で稜(rib)があり、根本から枝分かれしています。20世紀初頭まではTrichocereusはCereusに含まれていました。

始まりはCereus
Cereus macrogonusと言う学名は、Salm-Dyck(1850年)により記述されました。花や原産地の情報はまったくありませんでしたが、種を特定出来るいくつかの特徴が記されています。
K. Schumann(1890年, 1897〜1898年)は、現在Pilosocereusとされているブラジル原産種にCereus macrogonusの名前を使用しました。Schumannはベルリン植物園に在籍し、Salm-Dyckから標本を受け取ったとされているため、オリジナルのC. macrogonusを持っていた可能性があります。ただし、Schumannの著作ではSalm-Dyckの説明とは特徴が異なります。このSchumannの誤認はBerger(1904年)により否定されました。Bergerは現在のTrichocereusにあたる植物に対する完全な説明を行いました。

トリコケレウス属の誕生
Berger(1905年)は、いくつかの亜属を作ることにより、後に行われたCereusの分離に重要な役割を果たしました。BergerはTrichocereus亜属として14種を認識しました。そのうちの1つが、Cereus macrogonus(=T. macrogonus)です。
Riccobono(1909年)は、Bergerの亜属の中でもTrichocereusを属レベルまで引き上げました。この時のTrichocereusには、T. macrogonusとT. spachianusからなっていました。
Britton & Rose(1920年)はTrichocereusを属として採用し、19種類に拡大し、C. macrogonus=T. macrogonusを属のタイプとして指定しました。この指定は以降のすべての著者に踏襲されています。同時に、T. pervianusとT. pachanoiについても記載しました。さらに、Schumannの説明するC. macrogonusとは、Cephalocereus arabidae(=Pilosocereus arabidae)を指していると指摘しました。Werdermann(1942年)も同様の見解を示しています。

240207234515010~2
Cereus macrogonus
『Flora Brasiliensis v.4, pt.2』(1893年)より。
この図譜は正しいマクロゴヌスを示しているのでしょうか?


いくつかの情報
Schelle(1926年)は、C. macrogonusを説明し図を示しました。写真の解像度は低いのですが、5本程度の鈍い肋と頂端に花が咲く栽培された円柱状のサボテンで、Trichocereusの特徴を示しています。Borg(1937年, 1951年)は、T. macrogonusについての長い解説を行いました。その原産地はアルゼンチンとボリビアであるとしています。BorgはTrichocereusを接ぎ木の素材としての利用に注目していました。Rauh(1958年)は、ペルーのサボテンに関する著作でT. macrogonusについては言及していませんが、近縁種類をいくつか記載しています。

不鮮明なマクロゴヌス
Backeberg & Knuth(1936年)は、T. macrogonusについて言及していますが、以前から知られている情報だけでした。Backeberg(1966年)は、1941年のメモではペルーの野生のT. macrogonusを発見し1ページ以上の文書と鮮明な写真を報告したと述べています。しかし、奇妙なことに、同時にT. macrogonus=T. peruvianusという明確な異名を作りました。
さらに、Backeberg(1959年)は、Werner Rauhがペルー中央で見つけた植物の図を、T. macrogonusの野生型として示しました。栽培植物よりも強力なトゲがあります。また、ペルー北部産のT. santaensisや、ペルー南部産のT. chalaensis、T. peruvianus、T. pachanoiなどよく似た種が示されています。しかし、1941年のメモや、ペルーでの調査や野生のT. macrogonusの発見についての言及は見当たりません。

Krainz(1975年)は、T. macrogonusを説明し、栽培されたトリコケレウスの花の写真を示しました。しかし、同時にスペインの庭園で育てられている他の2枚の写真も掲載しましたが、その果実の特徴からするとPilosocereusに相当します。Schumannのように、様々なサボテンを混同していた可能性があります。さらに、KrainzはSchumannの情報に従い、Trichocereusをブラジル原産としました。

その後のマクロゴヌス
Cereus macrogonusと言う名前は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて一貫して使用されてきました。最近では、Trichocereus macrogonusやEchinopsis macrogonaと言う名前が、植物学者により使用され続けています。Schelle(1929年)やBabkeberg(1959年)、Anderson(2001年, 2005年)などの出版物にはイラストも掲載されています。Hunt(1989年)はHausteinのイラスト(1983年)に言及しました。ブラジル原産と記されている以外は、著者らの種の同定と一致しています。参考文献のほとんどが、著しく光沢のある表皮と、優れた接ぎ木材料としての使用を強調しています。
Ostolaza(2011年)は、E. pachanoiとE. peruvianaを認識し、その違いはE. peruvianaのより強力なトゲと、含まれるアルカロイド濃度が高いことにより区別されます。

エキノプシス?
Friedrich(1974年)がTrichocereusをEchinopsisに含めました。しかし、Friedrichの意見は後の研究者たちに必ずしも共有されませんでした。
TrichocereusとEchinopsisは近縁ですが、ほとんどの種は形態学的に明確かつ明瞭に分けることが出来ます。

Trichocereus
高さ0.5〜12mで、枝の高さは中央の茎とほぼ同じです。茎は円筒形です。花は夜行性あるいは昼行性で、釣鐘状です。果実は果汁質です。幹は繊維質で硬く、エクアドルからアルゼンチン、チリにかけてアンデス山脈に生えます。

Echinopsis
高さ0.1〜0.3mです。茎は球形で円筒形にはなりません。ただし、E. leucantha complexとE. ayopayanaは通常1m、稀に1.5mに達し、茎は円筒形になります。花は主に夜行性で、漏斗状です。果実は半乾燥状態です。幹は繊維がなく、主に南アメリカ東部、一部はアルゼンチンとボリビアのアンデス山脈に生えます。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
トリコケレウスのタイプであるマクロゴヌスの混乱が見て取れます。
気になって、キュー王立植物園のデータベースを調べてみましたが、T. macrogonusは以下のような名前の変遷があったとしています。

1850年 C. macrogonus
1909年 T. macrogonus
1920年 T. peruvianus
1931年 C. rosei
1956年 T. puquiensis
              (publ. 1957)
1957年 T. trichosus
1974年 E. macrogona
              E. peruviana
              E. puquiensis
              E. trichora
1981年 T. pachanoi f. peruvianus
              T. tacnaensis
1998年 E. peruviana ssp. puquiensis
2013年 T. macrogonus v. peruvianus
              (publ. 2012)
2014年 T. peruvianus ssp. puquiensis


Trichocereus macrogonusが現在の正式な学名で、Cereus macrogonusは現在の学名のもとになったバシオニムです。さらに、Echinopsis macrogonaは、Homotypic Synonymです。
それ以外の学名は、Trichocereus macrogonus var. macrogonusのHeterotypic Synonymとなります。よく見るとT. peruvianusはT. macrogonus var. macrogonusの異名扱いです。変種macrogonusがあると言うことは、当然ながら他にも変種があると言うことになります。それは、Trichocereus macrogonus var. pachanoiとなります。
しかし、T. peruvianusやT. pachanoiがT. macrogonusと関連して整理されていますが、これは一体どういうことなのでしょうか? 実は本日の内容は論文の前半部分だけで、TperuvianusやT. pachanoiの話は後半に出て来ます。記事が長くなったので、続きはまたの機会としましょう。


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サボテンはリプサリスなど一部を除き、南北アメリカ大陸およびその周囲の島嶼部に分布します。しかし、サボテンは乾燥地に良く適応した植物であるため、世界中の乾燥地域に侵入し外来種として猛威を振るっています。もちろん、これは初めは人間が移動させたものですが、競争がないことや天敵がいないなど有利な環境であっという間に増殖して手に負えなくなってしまったのです。砂漠の緑化になるような気もしますが、競合する元来自生していた他の植物やそれらを頼って生きている他の生物にとっては、サボテンはある種の災害のようなものです。
さて、現実問題として外来サボテンを駆除しようと言う動きはありますが、あまり上手くいってはおりません。特にウチワサボテンは厄介で、トゲがあるため重機で駆除したりします。しかし、節がバラけてしまい、バラけた節が根を張って直ぐに再生してしまいます。では一体どうしたら良いのでしょうか?

本日はアフリカに侵入したサボテンの駆除を目指した、I. D. Patersonらの2011年の論文、『Biological control of Cactaceae in South Africa』をご紹介します。如何なる成果が得られたのでしょうか。

①Pererkia aculeata
Pererkia aculeataはよく発達した葉と木質の茎と枝を持つ原始的な匍匐性サボテンです。P. aculeataは中央アメリカとカリブ海地域の一部、並びにブラジル南東部とアルゼンチン北部に自生します。

240202231851224~2
Pererkia aculeata
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Pererkia pereskiaとして記載。

アフリカへの侵入
1858年に南アフリカのケープタウン植物園で初めて記録され、ケープタウン周辺とGauteng州、Mpumalanga州、Limpopo州に帰化しました。また、東ケープ州とKwaZulu-Natal州の東海岸沿いにも帰化し、非常に侵入性が高く森林や海岸植生に豊富に生息しています。P. aculeataは繁殖しすぎて、固有の植生を消滅させています。1983年には農業資源保護法により雑草に指定され、2004年の生物多様性法により侵略的外来植物とされています。

防除方法
P. aculeataは在来の植生に絡み合って育つため、機械的に除去することは困難です。さらに、P. aculeataは千切れた破片からも再生するため、これは有効な方法ではありません。よって、生物学的防除がP. aculeataを防除する唯一の、経済的に実行可能かつ持続可能な方法です。

ハムシの放出
Phenrica gueriniと言うハムシの仲間を天敵として、KwaZulu-Natalでは少数を放出しましたが、P. aculeataの目立つ減少は見られませんでした。最近、より多くのハムシが放出されたことにより、KwaZulu-Natalの一部ではハムシが定着しました。

新たな天敵の発見
1984年から2007年までに、P. aculeataの自生地であるブラジル南部やアルゼンチン北部、ベネズエラ、ドミニカ共和国で8回の現地調査が実施されました。調査中に43種の昆虫がP. aculeata上で発見され、この内6種は一般的に見かけました。
・Loxomorpha cambogialisや、未記載種のPorphyrosela sp.と言う蛾は、宿主範囲が広く他の植物にも影響があるため使用出来ませんでした。
・Maracayia chlorisalisと言う蛾は非常に有効な天敵ですが、ドラゴン・フルーツが採れるHylocereusの害虫です。ドラゴン・フルーツはアフリカでも有望な新作物であり、この蛾の導入は利益相反を引き起こす可能性があります。しかし、効果が期待出来る天敵です。
・未記載のハチが発見されましたが、類似した幼虫が他の植物でも観察されたため、確認が必要です。
・Bruchophagus sp.と言うハバチは虫瘤を作りますが、必ずしもP. aculeataに強いダメージを与えているわけではないようです。
・ゾウムシの幼虫がブラジルで見つかりましたが、成虫が同定されておらず、宿主範囲も不明です。

今後
発見されたP. aculeataの天敵を採取し研究する必要があります。同時に新たな天敵の探索も行われる必要があります。また、南アフリカで栽培されるドラゴン・フルーツに対するM. chlorisalisの影響も調査するべきでしょう。また、一部地域ではP. gueriniが定着し、P. aculeataに対する大規模な被害が発生しています。P. guerini放出の評価を行う必要があります。


②Opuntia stricta
南アフリカにおけるOpuntia strictaの生物学的防除では、蛾とカイガラムシにより個体数を抑制することに成功しています。

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Opuntia stricta(左上)
『The Cactaceae I』(1919年)より。


コチニールカイガラムシ
クルーガー国立公園では、O. strictaのバイオマスが、Dactylopius opuntiae(コチニールカイガラムシ)の放出から6年で約90%減少しました。それ以来、サボテンの生息数は低いままです。ただ、雨が多い年にはコチニールカイガラムシは減少し、一時的にO. strictaは増加しました。しかし、コチニールカイガラムシは、サボテンの個体数を減らすだけではなく、平均サイズの大幅な減少を引き起こし、2005年以降はO. strictaの結実が見られませんでした。よって、O. strictaはコチニールカイガラムシにより完全に封じ込めることが出来ます。


③Cylindropuntia fulgida
Cylindropuntia fulgida var. fulgidaは、直立しよく枝分かれしたサボテンです。末枝は簡単に外れ、通る動物や人の服に付着します。果実のアレオーレから新しい花を咲かせるため、連結した果実が形成されます。この種はアリゾナ州のソノラ砂漠や、シナロア州ソノラ、バハ・カリフォルニア北部に自生します。一般には「chain-fruit cholla」あるいは「jumping cholla」と呼ばれています。

240202231910199~2
Cylindropuntia fulgida
『The Cactaceae I』(1919年)より。
Opuntia fulgidaとして記載。


chain-fruit chollaの蔓延
chain-fruit chollaは、少なくとも1940年代には南アフリカに観賞用として輸入されました。現在は牧草地や自然保護区にも侵入し、家畜や小型アンテロープ、その他の小型哺乳類や鳥に至るまでに危害を与えています。時としてそれらの動物の死を招くこともあります。北ケープ州のダグラス周辺やLimpopo州などで蔓延しています。
農務省の補助金による防除は1970年代後半から実施されていますが、あまり成果がありません。侵入が多い特に価値の低い土地では、かかる費用は法外に高くなります。

分類上の疑義
このサボテンは分類上の混乱がおきており、最適な天敵の探索や使用を妨げています。長年に渡りC. rosea(=C. pallida)とされてきましたし、それ以前はC. tunicataと混同されてきました。
C. roseaにつくDactylopius tomentosusと言うカイガラムシを放出したものの、小型の植物を枯らすことはありましたが、大型の植物には効果はありませんでした。この時、このサボテンの正体について若干の疑問が生じたため、メキシコや米国のサボテンの分類学者と協議した結果、C. fulgida var. fulgidaであることが確認されました。これは、ダグラス近郊では化学物質による防除が行われていたため、連結する特徴的な果実が見られなかったからです。しかし、ジンバブエ近くでは管理されていないサボテンがあり、特徴的な連結する果実が確認されました。また、ダグラス近郊の古い写真からも、その連結する果実が確認されています。


生物型の違い
D. tomentosusを調査し、C. fulgida var. fulgida、C. fulgida var. mamillata、C. chollaから採取しました。コチニールカイガラムシは異なる生物型を持つものがあります。生物型の違いにより、成熟にかかる時間などが異なります。C. chollaから採取した「cholla」タイプが一番上手く定着しました。
「cholla」タイプのカイガラムシはダグラス近郊の農場で大規模なや放出されました。しかし、サボテンに対する被害は予想されたほどではありませんでした。カイガラムシの大量飼育中にC. imbricataにつくカイガラムシが混入した可能性があるため、新たに「cholla」タイプのカイガラムシを採取し、大量飼育が開始されました。


効果あり
2008年には大量放出され、4ヶ月後には大量のカイガラムシが定着し、サボテンの枝は落ちて小さいサボテンは枯死しました。放出場所から最大5mまでの拡散が確認されました。2009年には多くのサボテンが枯れ、その地域でカイガラムシがいないサボテンを見つかることは困難となりました。2010年にはカイガラムシは87ヘクタールを拡散しました。小さいサボテンは枯死し、大型のサボテンも枝が枯れ落ちました。現在、除草剤を撒く代わりにカイガラムシの散布が行われることが決定されました。C. fulgida var. fulgidaは完全に制御されていると考えられます。


④Cereus jamacaru
「queen of the night cactus」として知られるCereus jamacaru(ヤマカル柱)は、コナカイガラムシの仲間であるHypogeococcus pungensと、幼虫が茎に穿孔するカミキリムシの仲間であるNealcidion cereicolaを生物学的防除として利用しました。これらは、Harrisia martinii由来ですが、C. jamacaruに直ぐに定着しました。

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Cereus jamacaru
『The Cactaceae II』(1920年)より。


天敵の効果
カミキリムシは少数の場所でしか定着しませんでしたが、個体数が多くなると非常に効果的です。サボテンの構造組織が弱くなり植物全体が倒れたりします。
コナカイガラムシは南アフリカのC. jamacaruの分布域全体に広がり、ほとんどの地域では生物学的防除として効果的です。このコナカイガラムシは植物の異常生長を引き起こし、特に茎の先端が腫れてしまいます。節間が短くなりトゲの間隔が狭くなり、シュートが細くねじれながら増殖します。このコナカイガラムシに寄生された植物は、何れ枯れてしまいます。若い個体は開花するサイズに達する前に枯れますが、高さ数メートルになってからコナカイガラムシに寄生されると、枯れるまで最大4年かかる場合もあります。しかし、コナカイガラムシは蕾に集まるため、果実の生産量は著しく減少します。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
天敵を利用した生物学的防除は、思いの外効果的なようです。すべての植物には、その植物に特有の害虫がいると言う発想による外来サボテンの防除が目指されています。しかし、Pererkiaのように適切な害虫の選定段階のものもあります。コチニールカイガラムシのように実績のある害虫とは異なり、他の植物に対する悪影響も考慮する必要があります。
また、論文に取り上げられた例では、非常に上手くいっていますが、これからは少し注意が必要な場面も考えられます。これはマダガスカルの例なのですが、ウチワサボテンが蔓延してしまったことから、害虫のカイガラムシを放出しました。ウチワサボテンはほぼ壊滅状態になりましたが、ウチワサボテンが減少したためカイガラムシも減少しいなくなってしまいました。やがて、害虫がいなくなったことでウチワサボテンは再増殖をしてしまったのです。この話の教訓は、害虫を温存しておいて、外来植物が減少してきた時に害虫の再散布による追い打ちをかける必要があると言うことです。また、外来植物の再増殖に備える体制も必要です。常に監視し必要ならば介入すべきです。今後の外来サボテンの同行は注視していきたいですね。


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植物は種類により様々な受粉システムをとりますが、サボテンもまた種類により様々な受粉システムがあります。しかし、サボテンの多くは雌雄同株で、1つの花に雄しべと雌しべがセットになった花を咲かせます。ところが、その常識を覆す論文を見つけました。それは、Alicia Callejas-Chaveroらの2021年の論文、『Breeding system in a population of the globose cactus Mammillaria magnimamma at Valle del Mezquital, Mexico』です。サボテンの大変特殊な受粉システムを明らかとしました。

サボテンの祖先は雌雄同株
雌雄異株はサボテン科では非常に稀です。既知の1438種のうち、24種のみが雌雄異株(dioecy)、あるいは不完全異株(subdioecy)、雌性雌雄異株・雄性雌雄異株(gynodioecy)、三雌異性体(trioecy)を示します。
雌雄異株はサボテン科の中でいくつか独立に進化しています。しかし、原始的なPererkiaにも両性花を持ち、単性花を持つConsolea、Cylindropuntia、Opuntia、Echinocereus、Pachycereusなどでも雌雄同株の痕跡が見られるため、サボテン科の祖先は雌雄同株と見られています。


M. magnimammaの花
古典的な著作であるBravo-Hallis & Sanchez-Mejorada(1991)では、Mammillaria magnimamma Haw.の花について説明しています。「雌雄同株で、雌しべが雄しべより長い。」しかし、2018年に著者らは雌雄同株ではないと思われるM. magnimammaを発見しました。

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Mammillaria magnimamma
『The Cactaceae』(1923年)より。Neomammillaria magnimammaとして記載。


調査地
調査地はHidalgo州Valle del Mezquitalの標高2358mで、Acacia fernesiana、Coryphantha cornifera、C. octacantha、Cylindropuntia imbricata、Echinocereus cinerascens、Ferocactus latispinus、Myrtillocactus geometrizans、Opuntia engelmannii、O. hyptiacantha、O. lasiacantha、O. robusta、Yucca filiferaと共に乾生低木を形成します。

雄性不稔個体の発見
2018年の調査では、M. magnimammaは雌雄同株である個体とそうではない個体が混在していることが明らかとなりました。調査した107個体中、94個体は雌雄同株で、13個体は雄性不稔個体でした。雄性不稔個体は雄蕊群が機能していない状態となっていました。また、2019年の再調査においても、性的状態は年ごとに変化しないことが確認されました。
電子顕微鏡による観察では、雄性不稔個体の葯は開裂せず、花粉は奇形を示しました。花のサイズも異なり、雌雄同株の花は平均14.0mmの長さであるのに対し、雄性不稔個体の花は平均2.2mmと著しく短いものでした。

受粉数と発芽率
また、著者らの観察によると、M. magnimammaは主にミツバチにより受粉されるようです。さらに、雌雄同株の花も雄性不稔個体の花も結実することが確認されたため、雄性不稔でも雌性機能は正常であることを示しています。ただし、雌雄同株の花は平均97.5個の種子を生産したのに対し、雄性不稔個体の花は平均120.0個の種子を生産しました。種子のサイズも異なり、雄性不稔個体の種子はより大きい傾向が認められました。これらの種子を採取し播種したところ、雄性不稔個体の種子の方が発芽率が高いことが確認されました。

雄性不稔種子の優位
花粉媒介者は、雄性不稔個体の花より約2倍の頻度で雌雄同株の花を訪れました。しかし、出来た種子は雄性不稔個体の方が多いものでした。雄性不稔個体の花は生殖能力が高いと考えられます。また、雄性不稔個体の種子の方が大きく発芽率が高いことから、種子の品質が非常に高いことが分かります。対する雌雄同株の花は、一部では自家受粉している可能性もあり、その場合は種子の発芽能力が低下することも考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
雌雄同株とされてきたM. magnimammaの野生個体群において、驚くべきことに雄しべや花粉が機能していない雄性不稔個体が見つかったと言うのです。さらに、雄性不稔個体は種子の数や品質において、雌雄同株個体より優れていることが分かりました。しかし、優位に見える雄性不稔個体は全体の12%に過ぎませんでした。これが何を指すのかは難しいところです。もしかしたら、雌雄同株から雌雄異株への進化の過程を、我々は目撃しているのかも知れませんね。



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タイトルだけ見ると熱狂的な烏羽玉ファンの話かと勘違いしてしまいますが、残念ながら今回は異なります。烏羽玉はPeyoteと呼ばれ、宗教的に古くから利用されてきました。Peyoteにはメスカリンと言う幻覚成分が入っているからです。Peyoteの利用はその合法性を巡って、米国ではあれやこれやといったいざこざがありましたが、過去に記事にしたことがあります。さて、日本では烏羽玉の栽培や販売は違法ではありませんが、その成分自体は違法です。しかし、海外では烏羽玉自体が違法だったりします。と言うことで、今回は烏羽玉の幻覚作用に関する話です。ご紹介するのは、Cengiz CENGiSiZらの2016年の論文、『Mescaline abuse via peyote cactus: the first case report in Turkey』です。トルコで初めてのPeyoteの乱用に関するものです。

ある症例
症例は18歳男性患者によるものでした。患者は大麻使用のために3ヶ月の保護観察処分となり、外来病院で治療を受けていました。しかし、患者は強い不安、パニック発作、幻視の症状を訴えて入院しました。患者には活性炭の投与と腸洗浄が施され、抗不安薬が使用されました。

Peyoteの摂取
患者の状態が安定してから、詳しいアンケートを実施しました。すると、保護観察所が実施している大麻の尿検査に引っかからないように、Peyoteを摂取したと語りました。患者はシリアから持ち込んだPeyoteを粉末にして、お茶にして煎じたり巻煙草にして摂取していました。その後、インターネットで購入するようになり、Peyoteを噛んで使い始めました。
これら、トルコにおけるPeyoteを介した初めてののメスカリン乱用です。Peyoteは米国南西部とメキシコ原産地で、収穫出来るサイズに育つまでに20年程度かかる可能性があります。しかし、トルコは原産地から遠く離れ、Peyoteの栽培にも適しておらず、その使用は考えにくい薬物と言えます。

Peyoteの作用
Peyoteの誤用があった場合、激しいめまい、嘔吐、瞳孔拡張、心拍上昇、血圧上昇、激しい発汗、発熱、頭痛、筋肉の弛緩などに悩まされる可能性があります。ほとんどの場合、幻視の症状が認められます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
トルコでまさかの烏羽玉を摂取して中毒に陥る患者が出現しました。インターネットから入手したとありますが、様々な違法薬物がインターネットを介して取引されていることが分かります。もはや、物理的距離など意味をなさない時代です。なお、論文中ではシリアの内戦と関連付けられていました。曰く、シリアの内戦により大量の難民がトルコに移住し、若者同士の交流により薬物が広まったと推測しています。これは何もシリアから違法薬物が入って来たと言うことではなく、シリアとトルコの違法薬物に興味があったり違法薬物を摂取している若者たちが、交流することにより情報が交換されたと言うことなのでしょう。

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Lophophora williamsii
『Hallucinogenic plants』(1976年)より。


さて、日本では烏羽玉の栽培や販売は違法ではありません。しかし、国内の烏羽玉の成分を調べた論文では、烏羽玉や大型烏羽玉、子吹き烏羽玉からはメスカリンが検出されました。要するに、国内の烏羽玉にも幻覚成分は含まれているのです(※翠冠玉や銀冠玉からはメスカリンは検出されず)。しかし、その量が多いのか少ないのかはよく分かりません。どうもメスカリンは生長に伴い蓄積していくものらしく、ある程度大型にならないと利用には適さないようです。メスカリンが蓄積していない烏羽玉はただ苦いだけとも言われています。まあ、麻薬は駄目だよと言うことだけではなく、伝統的な利用法を知らない我々日本人は手を出さない方が良いのは間違いありません。トルコのこの若者のように病院に担ぎ込まれて、腸内洗浄される羽目に陥るかも知れませんからね。


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自生地のサボテンは様々な形で利用されており、コチニール色素をとるためにカイガラムシをウチワサボテンで育てたり、様々に利用しているようです。自生地ではありませんが、マダガスカルでは増えたウチワサボテンのトゲを焼いてから家畜に与えているという話を聞いたことがあります。また、ウチワサボテンの中でも、Opuntia ficus-indicaなどは産業利用出来ないかと、様々な分野から研究されているようです。さて、本日はサボテンと家畜の関係について、1つの報告を見つけましたのでご紹介します。それは、Walter H. C. Pequenoの2021年の論文、『Ocular and oral lesions caused by Tacinga inamoena in sheep and goats in Northeart Brazil』です。

サボテンと家畜
ブラジル北東部にはサボテンが多数生息しており、飼料が減少する干ばつの時期には、これらのサボテンを飼料とすることは一般的です。しかし、飼料とされるサボテンは飼料に適しているか研究されておらずに、家畜の健康に与える影響は確認されていませんでした。

Tacinga inamoena
Tacingaはブラジルの半乾燥地域の固有種です。Tacingaという名前はCaatingaという地名が変形したものです。Tacinga inamoenaは高さ20〜100cmまで生長する低木です。茎は長さ8〜9cm、幅は4.5〜5.5cm、厚さ1.0〜1.2cmの楕円形です。植物は緑色からわずかに灰色がかる色合いで、直径4〜5cmの昼行性のオレンジ色の花を咲かせます。T. inamoenaにはトゲはなく、ほぼ結晶質のセルロースの小さく鋭いgloquids(芒刺)の束があります。この「微小トゲ」は、容易に剥がれてしまい、皮膚に刺さると炎症を引き起こす可能性があります。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。
Tacinga inamoenaは、1890年にOpuntiaとして記載され、1979年にはPlatyopuntia、そして2002年にTacingaとされました。


症例①
2019年にPocinhos市で70頭のヤギと羊が飼育されていますが、飼い主が言うには少なくとも過去5年に渡り、家畜には重篤な目の合併症が発生していたということです。これらの問題は年間を通じて観察されましたが、乾季にはより顕著になる傾向がありました。飼い主により眼病治療用の抗生物質と抗炎症薬による治療を受けていましたが効果はありませんでした。他にも、一部の家畜は過剰な唾液分泌と摂食困難が認められました。
調査したところ、21.4%の家畜に眼の病変があり、顔面、眼瞼、結膜、耳介に芒刺が確認されました。検査をすると、過剰の流涙、眼瞼炎、羞明、角膜混濁、涙液腫、角膜血管新生、角膜潰瘍が見られました。口腔病変がある個体もおり、流血、摂食困難、口臭、歯肉および舌の潰瘍がありました。
放牧地にはT. inamoenaが存在し、飼い主によると家畜はT. inamoenaの果実を食べる姿がよく見られたということです。
潰瘍性角膜炎をおこした動物には抗生物質の点眼薬を潰瘍が治癒するまで処方し、口腔病変を示した動物には、治癒するまで柔らかい飼料を与えました。

症例②
2020年にBarra de Santa Rosa市にて、ヤギと羊を含む約100頭の家畜が飼育され、飼い主は羊たちの口内炎に悩まされてきました。動物は不快な口臭があり、摂食困難になり死亡する個体もありました。やはり、乾季に重篤な症状が出るということです。
1頭は動物病院に運ばれました。食欲不振により痩せ、ボディスコア(※)は1.5でした。被毛全体から芒刺が見つかりました。口臭、過剰な唾液分泌、広範な出血性潰瘍、および触診で痛みがある圧痛がありました。舌や頬、歯茎から液体の漏出が認められました。血液検査では、貧血や低アルブミン血症が確認されました。検査では結果から見た症状の重症度から、この個体は予後が好ましくないことが考えられるため安楽死となりました。剖検では、潰瘍とびらんを伴う潰瘍性丘疹病変が上下の唇、口腔粘膜、舌、口蓋で確認されました。これらは隆起し硬く不規則で、黄色から淡褐色まで様々な色と紅斑による壊死の跡に覆われていました。病理組織学的検査により、芒刺は真皮より深い筋肉層にまで浸潤していました。

※ ) Body Condition Scoreとは、動物の脂肪の蓄積具合を数値化したもので、動物の栄養状態を把握することができる。5段階評価で3が標準で、値が小さいほど痩せており、大きいほど太っている。例えば、ボディスコア=2は、骨が浮いて見える状態。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ラクダがトゲだらけのウチワサボテンを食べる姿をテレビで見たことがありますから、草食獣は強いなあと思っていました。しかし、ヤギや羊はウチワサボテンを食べて体調不良に陥っていますから、必ずしも平気と言うわけではないようです。この場合、芒刺が良くないようですが、普通のトゲなら問題ないとも言えません。と言うのも、Opuntia strictaと言う芒刺ではない、世界中で侵略的に増えているウチワサボテンは、ヤギの眼や消化管に障害を引き起こしているそうです。サボテンは乾燥地にあっては、水分を大量に含みますから、草食動物にとっては魅力的な植物でしょう。ですから、サボテンはトゲで身を守っているわけです。サボテンのトゲが防御に役に立っていると言う実例を知ることが出来ました。


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先日、我が弱小ブログのコメント欄に、非常に興味深い調査依頼がありました。何でも本来は直立して育つTrichocereus peruvianus(ブラジル柱)が、地を這ったり崖から垂れ下がったりして育つと言うのです。何か論文に記載はありませんかという、情報を求めるコメントでした。
iNaturalistと言うサイトに画像がありますが、少し枝が垂れ気味になるどころではなく、完全に下垂しているのです。果たしてこれが地域差なのか個体差なのか、これは確かに非常に不思議で気になりますね。

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Trichocereus peruvianus
『The Cactaceae』(1920年)より。


垂れ下がる柱サボテン
iNaturalistの画像を見てみましょう。
まずは、T. macrogonus ssp. peruvianusとして同定された画像から。撮影地はペルーのHuincoです。
https://www.inaturalist.org/photos/19947200
https://www.inaturalist.org/photos/19947210

次はSanta Eulalia valley, Limaから。
https://www.inaturalist.org/photos/16276022

次はHuarochiri Provinceから。
https://www.inaturalist.org/photos/62265929

最後はSan Antonio Districtから。
https://www.inaturalist.org/photos/203737730

さて、まったくもって驚くべき光景です。一応、崖地だから根を深く張れずにずり落ちながら育ち、直立出来ないだけではないかとも、無理やり考えてもみました。しかし、最後の画像では平地でも普通に倒れて育っています。直立しないで育つことは明らかです。

論文はなし
では、早速論文を検索してみました。しかし、残念ながらそのような論文はヒットせず、それどころかトリコケレウスの論文自体がほとんどない始末です。トリコケレウスは幻覚成分を含むものがあり、そのため成分について調べた論文ばかりでした。さらに言えば、論文以外の情報を調べても、やはり幻覚成分関連の怪しげなサイトばかりで辟易しました。海外のサボテン愛好家たちのフォーラムもいくつか見てみましたが、この話題は見つかりませんでした。
しかし、調べると安請け合いした都合上、何かしらの情報は見つけたいところです。そこで、まずはトリコケレウスって何?と言うところからスタートしました。実のところ、私自身トリコケレウスをよく知らないのです。一体、トリコケレウスとは何者なのでしょうか?

パンサのサボテンランドより
まずは、「パンサのサボテンランド」を見てみます。インターネットの情報は、必ずしも一次資料ではなく、あちこちからコピペしてきた引用元がわからないものばかりです。ですから、検索して出てきた画像が正しいのかなどまったく判断はつきません。その点、このサイトの画像は一次資料ですから、非常に信頼性が高いのです。以下のリンクからトリコケレウスの画像を見てみましょう。

様々なトリコケレウス。
http://www.mirai.ne.jp/~panther/cactus/Echinopsis.html
トリコケレウスの変遷について。
http://www.mirai.ne.jp/~panther/cactus/hasira_species.html?111

さて、このサイトでは、トリコケレウスの変遷についてまとめています。論点は3つでしょうか。1つはトリコケレウスがエキノプシスに合併されたことで、Trichocereus peruvianusがEchinopsis pervianaになったと言うことです。2つ目はE. peruvianaとE. pachanoiは同種であり、E. pachanoiに一本化されました。そして、3つ目がTrichocereus peruvianusとされるサボテンの様々なタイプについてです。T. peruvianusは「青緑柱」、T. pachanoiには「多聞柱」と命名されました。また、タイプが異なる「ブラジル柱」と言う由来不明なものもあります。このサイトでは、「青緑柱」=「多聞柱」=「ブラジル柱」とまとめています。いずれにせよ、トゲの強さなど非常に変異が大きいことが分かります。

キュー王立植物園より
では、現在の最新のトリコケレウス属はどうなっているのでしょうか。キュー王立植物園のデータベースを見てみましょう。トリコケレウスはエキノプシスなど様々なグループに移動したようです。しかし、未だにトリコケレウス属は健在でした。現在、認められたトリコケレウスはT. macrogonus、T. spinibarbis、T. uyupampensisの3種類です。パンサのサボテンランドによると、T. peruvianusはEchinopsis peruvianaになったのだから今更トリコケレウスは関係ないだろうと思いきや、そうもいかないのです。なぜなら、T. peruvianusは現在ではT. macrogonusの異名となっているからです。イマイチ経緯が分からないのですが、トリコケレウス→エキノプシス→トリコケレウスと変遷したのでしょうか? それよりも、気になるのは、T. peruvianus、T. pachanoiに続くT. macrogonusなる第3の学名です。少し整理します。
そもそも、異名があった場合は命名が早い名前が優先されます。記載方法に問題があったとか、すでに命名された同じ名前を別の種類につけてしまったとか、何かしらの問題がない限りはそうなります。では、同種とされる3種類はどうでしょうか? 最初の命名年を見てみます。

1850年 Cereus macrogonus
1920年 Trichocereus peruvianus
1931年 Cereus pachanoi

おやおや、これはおかしいですね。とりあえず、T. macrogonusは除いた時、T. peruvianusとT. pachanoiを比較した場合は、明らか1920年に命名されたT. peruvianusが優先されるはずです。「P. pachanoiに一本化された」とは何だったのでしょうか。よく分かりませんね。ただ、T. macrogonus=T. peruvianus=T. pachanoiとなった以上、一番命名が早いT. macrogonusが優先されることに違いはありません。ちなみに、最初はケレウス属だったりしますが、これは問題ありません。ただ、種小名が早ければ良いのです。さらに、現在T. pachanoiはT. macrogonusの変種とされているようです。


TRICHOCEREUS.NETより
ここで視点を変えて、「Trichocereus.net」と言うサイトを見てみましょう。このサイトでは崖から垂れ下がるTrichocereusのことをTrichocereus glaucusであるとしています。また、新しい名前が出て来ました。一体、どういうことなのでしょうか?

https://trichocereusnet.blogspot.com/2016/01/trichocereus-gtlaucus-echinopsis-glauca.html?m=1

一部、引用します。
「Trichocereus glaucusは、おそらくTrichocereus peruvianusの匍匐性の種と同義です。Trichocereus glaucusは高さ1.5〜2mになり、斜面や崖からぶら下がっているのをよく見かける匍匐性の種です。その特徴はTrichocereus glaucus var. pendansでより明確です。小さいうちはTrichocereus macrogonusと呼ばれるものとまったく同じように見えます。しかし、T. macrogonusは上向きに育ちますが、本種は年齢とともに曲がる傾向があります。」
ここでは、T. peruvianusの匍匐性のものはT. glaucusであると言う内容を含んでいます。このT. glaucusとは、現在のT. uyupampensisの異名となっているようです。

Trichocereus chalaensis
また、Trichocereus chalaensisとの関係についても書かれていました。
「Trichocereus glaucusはFriedrich Ritterにより記載されたペルー原産のTrichocereusです。それは、Trichocereus chalaensisと同義か何らかの形で関連している可能性があります。T glaucusは、T. chalaensisやT. fulvilanusの名前で販売されているのを時々見かけます。Trichocereus全体が混沌としており、Ritterの説明がどの植物をカバーしているのか確認することは困難です。」
どうやら、トリコケレウスの分類はかなり混乱しているようです。販売されているものも、様々な名前で流通してしまっているようです。
ちなみに、Trichocereus chalaensisのiNaturalistの画像は以下のものです。

https://www.inaturalist.org/photos/89061958

混乱する分類
トリコケレウスのほとんどの種はエキノプシスなどに属名を変更になっていますが、Trichocereus.netでは遺伝子解析により明らかになるまではその変更を信用しないと言う立場を表明しています。これは、私も思うところがあります。現在の分類は外見の類似によるものと思われますが、そもそも外見に頼る場合は重視する形質により、分類結果が異なるかも知れません。その分類方法が適切であるかは、実はよくわからないのです。現状はある特徴を持つものを集めてしまい、何でもかんでもエキノプシスになってしまった気がします。どうしても、膨れ上がったエキノプシス属は雑多な寄せ集めではないのかという疑問が浮かびます。一応、遺伝子も多少は調べられています。2012年にエキノプシス属の遺伝子解析をした論文(B.O.Schlumpberger et.al.)では、エキノプシス属はやはり雑多な寄せ集めでしかないようです。その中では、トリコケレウスも調べています。詳細は後日記事にするとして、少し抜粋します。
「Trichocereus cladeは、Echinopsis pachanoiとEchinopsis lageniformisに代表されます。トリコケレウスの標準種であるEchinopsis macrogona(T. macrogonus)は、起源不明な標本に基づいており、Echinopsis pachanoiに関係しているようです。」
トリコケレウスは他のエキノプシスからは分離出来るようです。さらに、T. macrogonusの起源についても疑惑を提示しています。T. pachanoiにまとめたパンサのサボテンランドの記述は的を得たものなのかも知れませんね。それはそうと、論文では幅広く調べるためか、T. peruvianusを始めとしたTrichocereus.netに出てくるトリコケレウスは登場しません。トリコケレウスが2種類しかないのではなく、2種類しか調べていないだけです。Trichocereus.netがエキノプシスへの合流を保留としていたことも得心がいきます。

同定は正しいか?
iNaturalistではT. peruvianusがT. macrogonus ssp. peruvianusとなっていました。しかし、この名前はデータベースには記載がありません。T. macrogonus var. peruvianusは記載されたことがありますが、データベースに記載がない名前で同定しているのは納得がいきません。そもそも、どのような根拠で同定されたのか、そのプロセスが不明です。まさかとは思いますが、その理由がT. peruvianusが分布する地域で撮影された類似種だからでは困るわけです。いくつか画像はかなり遠くから崖上を撮影していますから、同定の根拠はあまりないような気がします。種内の変異も大きいようですから、正しく同定出来ているのかは怪しく思えてしまいます。Trichocereus.netの主張が絶対に正しいとは思いませんが、iNaturalistの同定も絶対的とは言えないように思えます。

Field number
フィールドナンバーとは採取された場所が登録された植物の番号です。ですから、フィールドナンバーがついていれば、野生個体由来のものであることが分かります。iNaturalistにある崖から垂れ下がるトリコケレウスが、T.glaucusである保証はありません。ですから、フィールドナンバーつきのT. peruvianusを調べて、iNaturalistの垂れ下がるトリコケレウスの写真が撮影された場所付近で採取されたものを購入するのも手でしょう。あるいは、フィールドナンバーがついたT. glaucusを入手することも可能かも知れません。種子販売業者からの入手なら確実です。
とりあえず、T. glaucusでフィールドナンバーを調べてみると、以下の3つが出て来ました。

①KK 336
採取地: ペルー、Arequipa, Rio Tambo, 1500m
②PH 871.04
採取地: ペルー、Lomas de Chucarapi, Rio Tambo, 750m
③CS 129.3
採取地: チリ、Tasapaca Region I, West of Parcohaylla 5, 3349m

ところが、Trichocereus.netにはKK 336についての記載がありました。
「T. peruvianusやT. macrogonus、T. pachanoiと言う名前で販売されており、T. glaucusと言うラベルがついていたものも、青白いもので美しくMatucana産のT. peruvianusを思い浮かべます。」
KK 336は垂れ下がるタイプではなさそうです。フィールドナンバーつきの種子は育ててみないとわからないギャンブル性があります。育てた人の画像があれば良いのですがないかも知れません。また、垂れ下がる傾向が強いT. glaucus var. pendansもあります。ただ、こちらはチリ原産です。

FR 270a (RITT 270a)
採取地: チリ、Camaraca, 01 Tarapaca

最後に
トリコケレウスはかなり混乱しており、販売されているものもその名前は割と怪しい場合もそれなりにあるようです。様々な名義で販売されてしまい、かつ小さいうちは区別がつかないなどと書かれていますから、欲しい種類の入手も難しそうです。海外のフォーラムにおけるトリコケレウスの話題は、種類を同定して欲しいと言うものが多いのも今は納得出来ます。一応、T. glaucusと呼ばれるものがそうではないかと推測しますが、T. uyupampensisと同種とされているのは気になります。そもそも、T. uyupampensisについてよくわからないため、T. uyupampensisと呼ばれるものが倒れて育つかよく分かりません。この場合、T. glaucusと言う名前のものを入手するのが確実なのでしょう。
しかし、色々調べてはみたものの、結局のところ確実なことは何も分かりませんでした。それっぽい情報を臭わせただけですね。とは言え、すべての情報にアクセスしたとは言えないでしょうから、まだまだ情報はあるのかも知れません。私自身も勉強になりましたが、やや消化不良でモヤモヤします。何か新しい情報があればまた取り上げるかも知れません。と言うことで、今回はここまでとさせていただきます。


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サボテンのトゲは鋭いので、うっかり触ってしまいトゲが手に刺さってしまうこともあります。普通は簡単に抜けますし、細かいトゲならとげ抜き、バニーカクタスならガムテープを使った方が早いかも知れません。しかし、これは我々趣味家がちょっとだけ、ホンの数本、バニーカクタスなら数十本刺さった程度の話です。わざわざ、病院に赴く必要はないでしょう。しかし、小さい子供や、大人でもあまりに沢山のトゲが刺さったら、流石に病院で見てもらった方が良いでしょう。
さて、たまたまサボテンのトゲについて調べていたら、サボテンのトゲの抜き方についての論文があるこあとに気が付きました。しかも、生物学関連の論文ではなく、医師が実際に診た患者についての報告のようです。少し見てみましょう。

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Opuntia microdasys
『The Cactaceae』(1919年)より。


報告①
まずは、「American Journal of Diseases of Children」(アメリカ小児疾患ジャーナル)の1987年の12月号の報告である、Terry T. Martinezらの報告、『Removal of Cactus Spines From the skin』から。
「非常に細かいサボテンのトゲを皮膚から除去することは、小児患者にとって非常に苦痛です。最も効率的なのは、ピンセットでトゲの塊を取り除き、ガーゼで覆った接着剤を乾燥してから剥がしてトゲを取る方法でした。」
この報告は概要しか読めませんでしたが、接着剤は乾かすのに時間がかかりますから、子供に大人しくしてもらうのはやや難儀しそうです。

報告②
面白いのはこの報告に対する返信が、他の医師よりあったことです。それは、1988年の6月にHalim Hennesによるものです。
「Martinezらの記事を興味深く読みました。著者らはトゲを取り除く効果的な方法を発見しました。しかし、幼く大人しくしていない子供に対してピンセットの使用は難しい場合があり、接着剤の塗布と乾燥には時間がかかります。2才の女児が展示されているサボテンの上に落ちて、救急外来を訪れました。患者は左手と左前腕の1/3に複数のサボテンのトゲが刺さっていました。患者は動揺して泣き両親からの慰めも効果がありませんでした。動いてしまうため、ピンセットによるトゲの除去は失敗しました。」
残念ながら有料の論文で、概要だけで実際にどのようなに除去したのかは分かりませんでした。如何にして大人しくしてくれない子供を上手く処置したのでしょうか?

報告③
しかし、さらにこの報告に対する返信がありました。それは、1988年12月のLouis I. COOPERによるものです。
「Hennesの報告を読みました。約20年前にサンルイスオビスポ伝道所の修道女が私に勧めた治療法を提案します。粘着テープやセロハンテープを貼り付けて剥がすだけです。安全で痛みなく必要に応じて繰り返すことが出来ます。」
これは簡単です。細かいトゲならやはり粘着テープと言うのは、今もそうでしょう。


報告④
面白いことに、サボテンのトゲの抜き方については、アメリカ小児疾患ジャーナル紙の議論と同じ1988年に「The American Journal of Emergency」(アメリカ救急医学ジャーナル)に記載がありました。それは、Douglas Lindsey & Wally E. Lindseyによる『Cactus spine injuries』です。
「サボテンのトゲは損傷を引き起こし、その臨床的重要性はトゲの寸法に反比例します。SaguaroやBarrel cactusの長いトゲの場合は、トゲの破片が埋め込まれることはほとんどありません。破片が埋め込まれた場合、見つけて取り除くのは困難です。ウチワサボテンやChollaの中程度のトゲは厄介なものですが、引き抜くことで簡単に取り除くことが出来ます。Bunny ear cactusやBeavertail cactusの非常に小さなトゲは非常に厄介ですが、プロ仕様のフェイシャルジェルの乾燥膜を剥がすことで除去出来ます。」
ここでは、サボテンによりトゲが異なることも考慮されています。Saguaro(弁慶柱、Carnegiea gigantea)やBarrel cactus(Echinocactus、Ferocactus)のトゲは粘着テープよりピンセット、Bunny ear cactus(金烏帽子、Opuntia microdasys)の芒刺はピンセットより粘着テープの方が良さそうです。論文ではフェイシャルジェルを利用しています。
ちなみに、Beavertail cactusとはOpuntia basilaris、ChollaとはCylindropuntiaを指します。

報告⑤
サボテンのトゲの抜き方についての医療界隈の報告は一段落したようですが、なんと2019年に新しくサボテンのトゲの抜き方についての論文が出ました。それは、Andrew M. Fordらの『Novel Method for Remove Embedded Cactus Spines in the Emergency Department』です。簡単に見ていきます。
「低機能自閉症と先天性運動機能障害を持つ22歳の患者が、沢山のサボテンのトゲが刺さった状態で救急科を受診しました。患者は胴体と腕と下肢全体にトゲが刺さっていました。患者は意思の疎通が困難であり、患者の両親によると過去に医療関係者に対する抵抗が激しかったため、麻酔による鎮静を行いました。医療用脱毛ミットにより4人がかりでサボテンのトゲを除去しました。15分後には、脱毛ミットでは除去出来ない深さのトゲも除去しました。患者は破傷風予防薬を投与され退院しました。患者は2週間後に検査され紅斑が認められましたが、紅斑は4週間後には消失しており、追加のトゲの除去は必要ありませんでした。
刺さったトゲが少数ならピンセットで除去出来ますが、多い場合は家庭用接着剤が有効ですが乾くのに35分ほどかかります。また、粘着テープはトゲの28〜30%しか除去出来ないことが知られています。これらの方法は従順な患者ならば十分ですが、今回のケースのように好戦的な患者には不十分であることが判明しました。興奮した患者が暴れてトゲが逆により深く刺さってしまうかも知れません。」
このケースでは意思の疎通が難しく暴れる患者を対象としています。麻酔をかけていますが、それも長時間は無理でしょう。素早く取り除く必要があります。ピンセットでチマチマやるわけにはいきません。使用した医療用脱毛ミットとは、手袋のようにして使用する粘着質の道具です。粘着テープは張って剥がしてと言う一連の操作に時間がかかりますが、手袋のようにはめて使えるため、軽く手の平で叩くようにするだけで簡単にトゲが除去出来ます。

231205233226592~2
Opuntia microdasys
『Illustrated catalog』(1934年)より。


最後に
以上が医療分野におけるサボテンのトゲの除去方法の報告です。サボテンのトゲを抜きに病院に来る人は珍しいでしょうから、標準的な治療法はなかったのでしょう。最初の話は小児に関するものでした。やはり、子供はいたずらしたりしてサボテンにぶつかったりする事故も大人よりは多そうですし、大人しくトゲを抜かしてくれないでしょう。刺さったのが1本2本ならともかく、数十本となると時間がかかりますし、化膿してしまうかも知れません。病院に診てもらうのは妥当な判断と言えます。2019年のケースは医師にとってはかなり厄介な患者ですが、医療用脱毛ミットと言う新しい武器が活躍したようです。
私などは面倒臭がって素手で植え替えをするもので、手は穴だらけで、折れたトゲが沢山皮膚に残りますが基本的に放置してしまいます。そのうち新陳代謝でいつの間にやら出て来ますから、特に問題となったことはありませんでした。しかし、化膿したり破傷風だなんて考えたこともありませんでしたね。そりゃあ、刺さらないなら刺さらない方が良いだろうと言う、当たり前の感想です。


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基本的に植物は受粉のために花粉媒介者を必要とします。しかし、共通する花粉媒介者に頼った場合、花粉媒介者が競合してしまう可能性があります。しかし、ある論文では3種類の開花期の異なるサボテンが、上手く花粉媒介者の競合を避け、花粉媒介者に1年中資源を提供し支えていることが示されています。その論文の解説は以下の記事をご参照下さい。

さて、本日はギムノカリキウムの開花期について詳しく調べた研究をご紹介します。それは、Melisa A. Giorgisらの2015年の論文、『Flowering phenology, fruit set and seed mass and number of five coexising Gymnocalycium (Cactaceae) species from Cordoba mountain, Argentina』です。

この研究はアルゼンチンのCordoba州、Sierras Chicas山脈の標高1200メートルの東斜面で実施されました。Cordoba州の山々には約17種類のギムノカリキウムが生息しそのほとんどが固有種です。山脈には5種類のギムノカリキウムが局所的には共存しています。

Gymnocalycium亜属
①G. bruchii
231122222820340~2
『Latest news from cactus land』(1953年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


②G. capillense

Trichomosemineum亜属
③G. quehlianum
231122224232259~2
『Succulent news』(1956年)より。
Johnson Cactus Gardenのカタログ。


Scabrosemineum亜属
④G. monvillei
231122222742430~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

⑤G. mostii

231122222755698~2
『The Cactaceae』(1922年)より。

以上のギムノカリキウムは自家不和合性で自家受粉しません。主な花粉媒介者はミツバチです。花の寿命は2〜3日です。種子は約5週間で成熟し、Elaiosomeにより蟻に運ばれます。
開花が最も早いのはG. bruchiiでした。G. bruchiiの開花が減り始める頃に、入れ替わるようにG. quehlianumが開花のピークを迎えました。G. quehlianumの開花期は長く、他のギムノカリキウムの開花期の最後まで緩やかに減少しながら開花し続けました。G. quehlianumの次は、G. monvilleiとG. mostiiの開花のピークを迎えます。G. monvilleiは急激なピークを迎え、短期間で開花を終えました。対するG. mostiiは、ピークはG. monvilleiと同時期でしたが、一度下がってからやや盛り返し、最後まで咲き続けました。最後にG. capillenseが咲きましたが、開花数は少ないものでした。G. capillaenseの開花のピークは、G. monvilleiの花が急激に減少している頃で、G. mostiiの開花の谷間にあたります。G. capillenseの開花期は短く、花が減少し始めるとG. mostiiの開花が盛り返し、G. quehlianumの開花も少ないものの続きます。

種子の成熟期間を考慮すると、開花が早い種類は種子が大きく、開花が遅い種類は種子が小さいと考えられます。しかし、実際には開花が最も早いG. bruchiiと開花が最も遅いG. capillenseの種子が大型でした。
しかし、開花が遅いG. capillenseは結実率が低く、時期的に生育期の終わりであることから、気温の低下により成熟期間が短かすぎる可能性があります。また、生育期の始まりと終わりの時期は、気候条件により花粉媒介者の活動が低下していることも考慮する必要があります。
また、開花期が2番目に早く長い期間開花するG. quehlianumは、開花数が最も多く結実数も非常に多いものでした。しかし、G. quehlianumは出来る種子の数に比べ、個体数は他のギムノカリキウムよりも少ないものでした。これは、実生の生存率などによるものかも知れません。

以上が論文の簡単な要約です。
5種類のギムノカリキウムは、開花時期は多少重なるものの、そのピークは基本的には遷り変わるものでした。ある程度、花粉媒介者の競合を避けるメカニズムがあるようです。しかし、G. monvilleiとG. mostiiの開花期のピークはほぼ重なりますが、G. monvilleiは短い時期に大量開花することにより、花粉媒介者を独占的に引き寄せているのかも知れません。対するG. mostiiは開花期間が長く、他のギムノカリキウムと競合しながらも、トータルでは必要な結実数を確保しているのかも知れません。
開花時期が早いG. bruchiiや開花時期が遅いG. capillenseは、競合を避ける戦略ですが、花粉媒介者が少ないというリスクを背負うことになります。生態系は基本的に全部取りは出来ず、常にtrade-offの関係にあります。あれもこれもは難しいのです。


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最近、般若(Astrophytum ornatum)の受粉に関する論文をご紹介しました。論文では般若の受粉率は低く、同じ時期に咲き、共通した花粉媒介者を持つ他の種類のサボテンと競合している可能性を指摘していました。実際にそのようなことがあるのか気になったので、関連する論文を探してみました。そこで見つけたのが、Erica Arroyo-Perezらの2021年の論文、『Shared pollinators and sequential flowering phenologies in two sympatric cactus species』です。この論文では、開花時期が重複しないメリットについて書かれています。

調査地はメキシコのQueretaro州中西部で、チワワ砂漠の最南端です。標高は1400mで、Queretaro-Hidalguense半乾燥地域に含まれるSierra Madre東部地域に属します。調査したのは、Ariocarpus kotschoubeyanusとNeolloydia conoideaで、それぞれ200個体以上を1年間観察し、花への訪問者などの繁殖システムを記録しました。この2種類のサボテンは開花期が重なりませんが、同じ色と形状の花を咲かせます。2種類は共にミツバチによる受粉(melittophily)とされています。ちなみに、2種類とも絶対的他家受粉で自家受粉はしません。

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Ariocarpus kotschoubeyanus(中段右)
『The Cactaceae』(1922年)より。


調査の結果、2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。Ariocarpusは最も乾燥する季節の始まりである10月から12月まで開花し、Neolloydiaは春から夏にかけて咲き、最も温暖で湿気が多い5月に多くの花を咲かせます。両者共に9時〜10時に開花し14時〜15時に閉じました。また、開花してから2日間は雌雄同株で、やがて雌雄離熟を示しました。
2種類のサボテンの最も多い花への訪問者はミツバチとアリでした。訪問者のうち共通するのは60%でした。ただし、花における行動を観察したところ、両者を訪れる有効な花粉媒介者はミツバチであることが分かりました。ちなみに、ミツバチの共有種は75%でした。

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Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。
Neolloydia conoideaは2021年にCochemiea conoideaとされています。


2種類のサボテンの開花期は重なりませんでした。興味深いのはこの2種類が開花しない時期には、Mammillaria parkinsoniiが開花し、3種類のサボテンで花資源の年間サイクルが出来ていたことです。このことは、異なる種のサボテンの共存を促進する重要な要素かも知れません。そのためには、花粉媒介者の共有が必要です。

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Neolloydia conoidea
『The Cactaceae』(1923年)より。

以上が論文の簡単な要約です。
2種類のサボテンは類似した花を持ちますが、花の時期が異なることで花粉媒介者の競合を防いでいます。さらに、類似した花を持ち有効な花粉媒介者が共通するということは、1年を通して有効な花粉媒介者を複数種の植物で支えているとも言えるでしょう。
このような複雑なサボテンと花粉媒介者の関係性は、非常に驚くべきものでした。しかし、ある意味では繊細なバランスの下にあり、1種類のサボテンがその地域で絶滅しただけで、花粉媒介者の採蜜の年間サイクルが崩れてしまうかも知れません。場合によっては花粉媒介者の組成や絶滅により、他のサボテンの受粉に悪影響が出る可能性もあるでしょう。
N. conoideaは分布が広く個体数も多いため問題なさそうですが、A. kotschoubeyanusは分布が限られており、国際自然保護連合(IUCN)は準絶滅危惧種に指定し、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに記載され国際取引は禁止されています。しかし、絶滅危惧種に指定されても格別の保護がなされるわけではないので、絶滅の可能性はつきまといます。そのようなことはないと良いですが、希少サボテンの環境や個体数が増えて絶滅の危機から脱したという話は聞かないので、いつかは起きてしまうかも知れません。


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般若(Astrophytum ornatum)は、Astrophytumの中でも大型のサボテンです。野生のAstrophytumは減少していますが、それは般若も同じことのようです。希少生物の保護を考える場合、まずは現在の分布と個体数の調査に加えて、その生態を詳しく知る必要があります。例えば、人工的に増やした植物を砂漠に移植した時に、その植物の適切な花粉媒介者がその周囲に分布していないと、せっかく移植した植物は実を結ばず自力で増えることが出来なくなります。他の例では、花粉媒介者が減少した結果、植物は沢山生えているものの新しい実生がほとんどなくなってしまい、将来的に絶滅の可能性が出てきたということもあります。
本日はA. ornatumの受粉形式を調査したMaria Loraine Matias-Palafoxらの2017年の論文、『Reproductive ecology of the threatened "star cactus" Astrophytum ornatum (Cactaceae): A strategy of continuous reproduction with low success』をご紹介しましょう。

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Astrophytum ornatum
『Malayan garden plants, Botanic Gardens』(1949-1952年)より。

Astrophytum ornatumとは
Astrophytum ornatumは、高さ160cmに達する短円筒形のサボテンです。5〜8本の稜(rib)を持ち、アレオーレには1つか2つの中央棘と10本の放射状棘があります。花は昼行性です。A. ornatumはチワワ砂漠高地の石灰質土壌の急斜面に生育します。メキシコでは絶滅危惧種に指定されており、ワシントン条約では附属書IIに記載され国際取引は規制されています。

開花は年間4回
調査はCactus Sanctuary Gardenの標高1294m地点で実施されました。
花芽は一年中あるにも関わらず、1年間の観察で開花したのは4回でした。著者らは複数の花が咲いた時を開花と見なし、これを「開花イベント」と呼びました。開花イベントはすべて乾季におこり、2010年11月、2011年3月、2011年4月、2011年5月でした。開花した個体は、11月で全体の15%、3月で88%、4月で91%、5月で33%でした。11月の開花は2日間続きましたが、他の月の開花イベントは1日で終了しました。ちなみに、6月に開花した個体もありましたが、1つのみの開花で受粉しなかったため、これを開花イベントとは見なしませんでした。

花の情報
個体あたりの花芽の生産数は平均46個、開花した花は平均4個、結実は平均3.5個でした。個体の生長と花芽の生産数には関係があり、花芽の数は前の月の最低気温に反比例しました。開花は9時30分から10時に始まり17時頃に終わりました。著者らは花蜜の採取を試みましたが失敗しました。花を訪れた花粉媒介者の行動からも、花蜜は非常に少量であると考えられます。

青般若
Astrophytum ornatum

花粉媒介者
花を1時間半観察したところ、32匹の花への訪問者が確認されました。その内訳は、4属のミツバチが全体の91%を占め、甲虫は6%、バッタは3%で花粉と花被を食べていました。
A. ornatumは日中開花し、豊富で目立つ黄色の花粉を持つことから、花蜜の少なさを考慮すると、花粉が花粉媒介者を引き寄せていることが示唆されます。

絶え間ない花芽の謎
年間46個ものツボミをつけるにも関わらず、平均して4個しか開花しません。これは、花芽の89.2%が出現後2〜3週間で中止されるからです。A. ornatumの継続的な花芽生産は他のサボテンでは報告されていない珍しい現象です。この絶え間ない花芽の生産は、高いエネルギーコストが必要でしょう。
一般的に単一の大きな開花期を持つほうが、繁殖率を上がることが予測されます。しかし、乾燥した環境下においては、決まった開花期に開花に適した環境になるとは限らないため、リスクを分散させている可能性があります。

受粉率の低さ
A. ornatumの開花は1〜2日と短いにも関わらず、群落内で同調して開花することは注目に値します。おそらく、A. ornatumは自家受粉しない自家不和合性であると考えられるため、集団で咲くことに意味があるからです。
ただ、実際の結実は少ないと言えます。これは、Astrophytum asteriasでは人工的に受粉させた場合より自然に受粉する率が低いことが判明していることと同じかも知れません。つまり、有効な花粉媒介者が不足しているのです。可能性としては、外来のミツバチが多いからかも知れません。外来ミツバチApis melliferaはA. ornatumの花への訪問者の47%を占めていました。
さらに、同時期に開花する他のサボテンと花粉媒介者が競合しているからかも知れません。例えば、4月にはTurbinicarpus horripilusも開花のピークを迎えます。共通する花粉媒介者がいた場合、花粉媒介者を巡る競争が起きる可能性があります。


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Astrophytum ornatum(下)
『Herman Tobusch』(1932年)より。Seed & Nursery Catalogです。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
受粉生物学を扱った論文では、花粉媒介者の種類や割合を調査してそこで終わりというパターンが多いように思われます。中には受粉率を調べ有効な花粉媒介者を探し出すこともありますが、本日ご紹介した論文のように詳細に開花について調査されることは稀でしょう。
絶え間なく出来続けるツボミの謎は大変興味深いものでした。環境によく適応した結果と言えるでしょう。問題は現実的には受粉率は低いことです。他のサボテンとの花粉媒介者の競合であるならば、それが本来的な姿であるから問題はないでしょう。しかし、外来のミツバチが受粉率を下げていた場合、外来ミツバチは受粉妨害をしていることになります。果たして、般若の本来的な受粉のあり方とはどのようなものだったのでしょうか? 外来ミツバチが幅を利かせる現状では、それを窺い知ることは難しいかも知れません。

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以前、Gymnocalycium esperanzaeを調べていた時に、論文に面白いことが書かれていました。G. esperanzaeは、G. castellanosiiとG. bodenbenderianumとの自然交雑種である可能性があるというのです。その時の記事は以下のリンクをご参照下さい。


問題はG. esperanzaeは一時的に出来た雑種ではなく、すでに交雑親から独立しているように見えることです。論文でも、植物は自然交雑による種分化は珍しいことではなく、進化の原動力の1つであると書かれていました。交雑が進化に関係するということは、私も気になってはいたのですが、中々調べるところまでは行きませんでした。しかし、最近になりサボテンの自然交雑種に関する論文を見つけました。それは、Xochitl Granados-Aguilarらの2021年の論文、『Unraveling Reticulate Evolution in Opuntia (Cactaceae) From Southern Mexico』です。タイトルは訳すと、「メキシコ南部のウチワサボテンの網状進化の解明」となります。「網状進化」とは何なのでしょうか?

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Opuntia pilifera
『The Cactaceae』(1919年)より。


交雑は植物の約40%で発生し、その中でもウチワサボテンなど特定のグループにより頻繁に発生します。この論文では、ウチワサボテンの約12%が分布するにも関わらず、ほとんど調査されていないメキシコ南部のTehuacan-Cuicatlan渓谷において、ウチワサボテンの交雑種を遺伝子解析により調査しました。著者らの研究グループは、Opuntia tehuacanaはOpuntia piliferaとOpuntia huajuapensisの中間的な特徴を持つことから、交雑種ではないかと考えていますが、仮説が検証されたことはありませんでした。

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Opuntia velutina(右上)
『The Cactaceae』(1919年)より。

著者らはTehuacan-Cuicatlan渓谷とその周辺地域から、9種類のウチワサボテンを採取しました。複数の遺伝子を解析したところ、以下のような交雑が推測されました。

O. pilifera①=O. decumbens+O. depressa
O. pilifera②=O. decumbens+O. velutina
O. tehuacana=O. decumbens+O. huajuapensis
O. decumbens=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina①=O. tehuantepecana+O. depressa
O. velutina②=O. tehuantepecana+O. decumbens

231021003243444~2
Opuntia decumbens
『The Cactaceae』(1919年)より。


ウチワサボテンは生殖障壁が弱いため、自然交雑種は一般的です。研究に用いたウチワサボテンの開花期は春で、地理的に近い種の間では交雑が起きる可能性があります。一般的に受粉は主にミツバチにより行われますが、Tehuacan-Cuicatlan渓谷ではミツバチより長距離を移動するハチドリも受粉に関与している可能性があります。
さて、肝心のO. tehuacanaに関してですが、交雑親と考えられるO. huajuapensisは開花期が重なります。ハチドリが両方の種に訪れるため、受粉の可能性があります。しかし、共通の特徴はあるものの、交雑により予想されるような中間形質は確認されませんでした。もう片方の交雑親と当初は考えられていたのはO. piliferaですが、遺伝子解析では交雑の証拠はありませんでした。共通する特徴より異なる特徴が多く、中間形質もないため、O. piliferaが交雑親であるというシナリオは破棄されます。交雑の仕方からは、交雑親はO. decumbensが疑われます。しかし、すべてのO. tehuacanaからO. decumbensが関与しているわけではないことが判明しており、特定の遺伝子のみが移入しており、雑種種分化は発生していないことが推測されます。

以上が論文の簡単な要約です。
論文中に出てきた生殖障壁とは、交雑してしまう可能性のある近縁種同士が受粉しないような仕組みのことです。例えば、簡単な例では花の時期が異なるだとか、地形的に隔離されているとかです。やや複雑になると、花の色や形が異なり、訪れる花粉媒介者が異なる場合には交雑は起きません。しかし、Tehuacan-Cuicatlan渓谷では、ウチワサボテンが20m四方に4種類も存在するという高密度な状態でした。しかも、開花期も重なり花粉媒介者も共通します。
著者らは調べた遺伝子が少ないため、すべての交雑を検出出来たわけではないとしています。しかし、遺伝子情報からの推測方法については私には良くわからなかったため、上手く解説出来ませんでした。どうも、「網状進化」とは単純な交雑ではなく、複数種の遺伝子が混じり合って形成される、正に網状の交雑が起きているようです。しかし、論文自体は網状進化の一部を解明しただけで、すべてを解明したわけではなさそうです。実際には本当に網の目のように複雑に絡むような進化を辿ったのかも知れませんね。


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Pereskia属はサボテンらしからぬ姿のサボテンで、通常の樹木状で葉があり、全体的に特に多肉質ではありません。ただ、強い棘と美しい花がサボテンとの繋がりを感じさせます。Pereskiaは一般的には杢キリンだとかコノハサボテンと呼ばれますが、サボテン愛好家にもあまり人気はなさそうです。
さて、このPereskiaはサボテン科の進化を考える上で重要とされます。というのも、サボテンは本来は多肉質ではなく、Pereskiaのような多肉植物ではない姿から多肉質に進化したと考えられるからです。
そんなPereskiaはどうも単系統ではないと考えられているようです。2013年にPereskiaは単系統ではないという考えが示され、新属Leuenbergeriaが提唱されました。そこら辺の事情をまとめたJoel Lodeの2019年の論文、『Leuenbergeria, a new genus in Cactaceae』をご紹介しましょう。しかし、新種どころではなく、新属とは驚かされます。

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Leuenbergeria autumnalis(左右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia tititachaとして記載。


PereskiaはSchumann(1890)とBuxbaum(1969)によりサボテン科の最も祖先的な分類群と考えられました。2002年のNyffelerの分析でも、Pereskiaはサボテン科の基底であることは示されましたが、単系統ではないとされました。2005年のButterworth & Wallaceの分子解析では、Pereskiaは単系統ではなく側系統群であることが示されました。2005年にEdwardsらは、Pereskiaの遺伝子解析を行いました。Pereskiaでは唯一コスタリカに分布するP. lychnidifloraと、Pereskia属のタイプ種であるP. aculeataとは、Pereskia属を分けなければならないレベルで遺伝的に距離がありました。2005年のCrozierの分子研究では、Pereskia属は急速に分岐した可能性を指摘しました。2007年にMarlon Machadoは、形態学的および解剖学的な特徴から、Pereskiaは2つのグループに分割出来るとしました。2008年にButterworth & Edwardsは、Pereskiaが側系統群であることを確認しましたが、GorelickはPereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており、混乱し続けていることを指摘しました。

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Leuenbergeria zinniiflora(右)
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia zinniaefloraとして記載。

そして、2008年のNyffelerらと2010年のNyffeler & Eggliは、Pereskiaは南アメリカ北部からメキシコまでの北部クレードと、ブラジル南部から南方の熱帯および亜熱帯南アメリカの南部クレードに分けることが出来ることを示しました。南部クレードは樹皮の形成が遅れており、茎に気孔があります。北部クレードは樹皮が早く形成され茎に気孔がありません。

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Leuenbergeria gamacho
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia guamachoとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
論文中の用語ですが、単系統とは系統的な子孫からなるまとまりがあるグループです。側系統とは簡単に言えばまとまりのないグループです。論文ではPereskiaを2分割しました。名前のなかった南部クレードには、著者が2013年にLeuenbergeria属を提唱しました。属名はPereskiaの著名な研究者であったLeuenbergerから来ているようです。
また、本文中に「Pereskiaの側系統の中に、Maihuenia、ウチワサボテン亜科、カクタス亜科が埋め込まれてしまっており…」とありますが、分かりにくいため簡単に説明します。例えば、2005年のEdwardsの『Basal cactus phylogeny: implications of Pereskia (Cactaceae) paraphyly for transition to the cactus life form』では、以下のような分子系統が示されました。

              ┏━カクタス亜科
          ┏┫
    ┃┗━Maihuenia
      ┏┫
      ┃┗━━
ウチワサボテン亜科
  ┏┫     
  ┃┗━━
Pereskia
  ┫
  ┗━━━
Leuenbergeria

カクタス亜科は柱サボテンや玉サボテンを含む巨大なグループです。見方としては、カクタス亜科とMaihueniaは姉妹群で、カクタス亜科+Maihueniaとウチワサボテン亜科は姉妹群、それらとPereskiaは姉妹群なのです。つまり、カクタス亜科からPereskiaまでを一塊と捉えることも可能なため、そのような表現となっているのです。

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Leuenbergeria zinniiflora
『The Cactaceae』(1919年)より。Pereskia cubensisとして記載。


Pereskiaから独立してLeuenbergeriaとなったのは8種類です。以下に示します。
①L. aureiflora
②L. bleo
③L. guamacho
④L. lychnidiflora
⑤L. marcanoi
⑥L. portulacifolia
⑦L. quisqueyana
⑧L. zinniiflora


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最近は基本的にサボテンと多肉植物の論文をご紹介してきましたが、花と受粉に関する話題に興味があり積極的に取り上げてきました。しかし、最近は種子の行方にも興味が出て来ました。論文を漁っていたところ、「Serotiny」なる用語に出会いました。「Serotiny」とは、成熟した種子がすぐに散布されず、親個体に長く残る現象を指します。有名な植物はオーストラリアのバンクシアで、種子は火事により加熱されないと出て来ません。調べると、一部のサボテンも「Serotiny」であると言うのです。一体どういうことなのでしょうか?
本日はそんな「Serotiny」であるサボテンについて調査した、Edward M. Petersの2009年の論文、『The adaptive value of cued seed dispersal in desert plants: Seed retention and release in Mammillaria pectinifera (Cactaceae), a small globose ca cactus』をご紹介しましょう。

Mammillaria pectiniferaは直径3〜4cmの球形のサボテンで、メキシコのPuebla州Tehuacan Valleyの固有種です。土壌は保水力が高くアルカリ性です。M. pectiniferaは環境破壊や違法取引などにより絶滅が危惧されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Iに含まれ国際取引が制限されています。メキシコ政府の絶滅危惧種リストにも記載されています。

M. pectiniferaの櫛状のアレオーレには白い棘があり、日照を和らげています。果実は白っぽい液果で、すぐに果実ごと種子が放出されることもあれば、サボテンのイボの中に埋め込まれたまま7〜8年かけて徐々に種子を放出する場合もあります。
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Mammillaria pectinifera(右)
『The Cactaceae』(1922年)より。Solisia pectiniferaとして記載。


著者らは、M. pectiniferaを2年間観察しました。1年目はエルニーニョ現象の影響により非常に乾燥し、2年目はラニーニャ現象により比較的雨が多い時期でした。乾燥した1年目は果実が放出されることはなく、埋め込まれた果実から種子がこぼれました。雨が多かった2年目は、新しい果実の21.5%は放出されました。2年目は実生が増え、苗の定着率も1年目の5倍に達しました。
また、温室内で水やりの量をコントロールすると、与えた水が多いほど果実の放出が多くなりました。年間降水量1000mm以上を想定したシミュレーションでは、ほぼすべての果実が放出されました。
M. pectiniferaの保持される種子の存在は、これが貯蔵種子(seed bank)として機能していることを示唆します。苗の死亡率が高い植物では、乾燥などの悪質な環境を避ける戦略かも知れません。それは、乾燥した年と雨が多い年の比較や、降水量をシミュレーションした実験からも伺えます。

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥していたら種子をなるべく放出せず、雨が多ければ種子を放出するという賢い戦略です。雨が多い年には実生の生存率は上がります。乾燥した年に種子を放出するリスクを減らす意味もあります。M. pectiniferaは降水量をスイッチとしたSerotinyと言えるでしょう。
さて、論文ではサボテンのSerotinyは小型の球形サボテンで、現在25種類が確認されているそうです。Serotinyとされたのは、Mammillaria、Coryphantha、Dolichothele、Neobesseya、Echinocactus、Aztekium、Lophophora、Obregonia、Ariocarpus、Pelecyphoraに含まれていました。Serotinyはサボテンの中に、割と広く存在するようです。Mammillaria、Coryphantha、Obregonia、Pelecyphoraは遺伝的にも非常に近縁なため何となく分かりますが、それほど近縁ではなさそうなものもあります。乾燥に対する戦略として有効なため、分類群のあちこちで進化したのでしょうか? サボテン科全体の遺伝子解析は調べていないため断言出来ません。また、調べないといけないことが増えてしまいました。


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Elaiosomeとは種子についた栄養分のことですが、その栄養分を目的にアリが種子を巣穴に運ぶことが知られています。このようなアリにより拡散される種子を、Myrmecochory種子と呼びます。このような、MyrmecochoryやElaiosomeについて興味があったのですが、中々良い論文が見つかりませんでした。しかし、CaatingaのMyrmecochoryについて書かれた論文を見つけました。それは、Inara R. Lealらの2007年の論文、『Seed Dispersal by Ants in the Semi-arid Caatinga of North-east Brazil』です。
生物の多様性が高い地域をホットスポットと呼びますが、サボテンにもホットスポットが存在します。ブラジルの半乾燥地域にあるCaatingaの森も、サボテンのホットスポットの1つです。この論文ではサボテンだけではなく、様々なMyrmecochory植物について調査されています。

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Jatropha mutabilis
「Das Pflanzreich」(1910年)より。J. obtusifoliaとして記載。


著者らはCaatingaのXingo'地域でアリにより散布される種子を3年間にわたり調査しました。アリによる種子の散布は、Xingo'地域の樹木の1/4を占めていましたが、Elaiosomeがついた「真のMyrmecochory」は樹木の12.8%でした。
Myrmecochoryは、Elaiosomeを持つ種子を含み、仮種皮(Aril)や偽仮種皮(Arillode)、種枕(Caruncle)を持つ種子からなります。Elaiosomeのついた種子はアリにより巣穴に運ばれ、Elaiosomeは取り除かれ種子はゴミ捨て場や巣穴の入口に捨てられます。Myrmecochoryは、火災が多かったり、土壌の栄養が貧弱な地域に良く見られるとされます。アリの巣穴は栄養分が蓄積し、火災から守られるためです。

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Opuntia palmadora(右上)
「The Cactaceae」(1919年)より。


アリにより運搬された種子は、2つのタイプがありました。1 つは核果(Drupe)や液果(Berry)などの肉質の果実を持つタイプで、非Myrmecochoryです。つまりは、アリによる種子の運搬に特化していないものです。このタイプの植物は14種類が確認されました。2つめは仮種皮や種枕、肉質種皮(Sarcotesta)を含む、13種類のMyrmecochory種子でした。真のMyrmecochoryはトウダイグサ科植物の種枕を持つ11種でした。トウダイグサ科のJatropha mollissimaやCnidoscolus quercifoliusの種子は、ほとんどのアリ(10種類)を引き付けました。種子を運搬する主要なアリは7種類が確認されましたが、その平均分散距離は409.2〜538cmであり、自然に種子が落下したよりも広く拡散されます。
Myrmecochory種子はアリの運搬に特化していますが、非Myrmecochory種子でもアリにより運搬されます。非Myrmecochory種子は、本来運搬する動物が運搬して落とした種子も、二次的にアリが運搬しています。よって、Caatingaの森ではアリが種子散布者として重要な役割を果たしていることを示唆しています。

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Manihot carthagensis subsp. glayiovii
「Rubber and rubber planting」(1879-1915年)より。M. glazioviiとして記載。


以上が論文の簡単な要約です。
種子をアリに運搬された植物は27種類ありましたが、うち11種類がトウダイグサ科と圧倒的です。やはり、真のMyrmecochory種子はアリに特化しているということなのでしょう。今回観察されたトウダイグサ科植物は、Cnldoscolus属、Croton属、Jatropha属、Manihot属でした。次に多いのが、サボテン科で液果をつけます。観察されたサボテン科はCereus jamacaru、Melocactus bahiensis、Opuntia palmadora、Pilosoceus gounelleiの4種類でした。
果実には種類があり、何かしらの方法で動物を引き寄せ、種子の拡散を手伝わせます。例えば、液果は動物に食べられて消化管で果肉が除去され、糞の中に種子だけが残ります。果肉にはアブシシン酸など発芽を抑制する植物ホルモンが含まれるため、果実を動物に食べられることが重要です。親木の近くに果実が落ちただけでは発芽せず、動物により食べられて運搬された時に初めて発芽可能となるという上手い仕組みです。どうやら、Elaiosomeを持つ種子も、Elaiosomeの除去が発芽率を上昇させるようで、やはりアリにより運搬されElaiosomeを取り除かれる必要があります。論文中ではメロカクタスの果実もアリにより運搬されたようですが、メロカクタスの本来の種子散布者はトカゲです。トカゲに食べられなかった果実は地面に落ちて、アリにより運搬されるのです。
植物を栽培したり鑑賞する最大の目的は、おそらく花でしょう。植物にとっても花は繁殖のための要ですから重要です。ですから、花の受粉は生態学的にも重要で、沢山の論文が出ており私も度々記事にしています。しかし、受粉後の種子の拡散も、植物にとっては重要なイベントであるはずです。以上のように、種子の拡散は植物により種類があり、その拡散方法も様々です。私も興味がありますから、少しずつ調べてみるつもりです。

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Cereus jamacaru
「The Cactaceae」(1920年)より。


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メロカクタスは育てたことはありませんが、発達した花座が非常に特徴的なため、ひと目見たら忘れられないサボテンです。私もそれなりに興味があり、メロカクタスの論文を記事にしたことがあります。その論文では、地面に落ちたメロカクタスの果実は、アリが巣に運んだりと、アリが種子の拡散に関与しているというものでした。しかし、論文では何やら気になることが書いてあり、とても気になっていました。曰く、「メロカクタスの果実はトカゲが食べるが…」と、話の前置きとしてさらりと書かれていたのです。どうにもトカゲとサボテンの実が頭の中で結びつかず、長らく疑問に思っていました。そこで、本日はその宿題を片付けるために、メロカクタスの実を食べるトカゲについて書かれた論文を見てみましょう。それは、Vanessa Gabrielle Nobrega Gomesらの2021年の論文、『Endangered globose cactus Melocactus lanssensianus P. J. Braun depends on lizards for effective seed dispersal in the Brazilian Caatinga』です。

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Melocactus spp.
花座から飛び出した果実に注目。

『The Cactaceae』(1922年)より。

Melocactus lanssensianusはブラジルのCaatingaの花崗岩の露頭に固有のサボテンです。M. lanssensianumは国際自然保護連合(IUCN)レッドリストで、絶滅危惧種(EN)に分類されています。また、違法取引が大きな脅威であり、ブラジルのレッドリストでも絶滅危惧種に指定されています。そのため、M. lanssensianumの生態を研究することは、その保護活動のために重要です。
M. lanssensianumはすべての月で果実をつくりました。果実生産のピークは、乾季と雨季の双方でありました。


著者らの観察では、M. lanssensianumには2種類のトカゲが訪れ、果実を食べました。訪れたのは雑食のトカゲである、全長20cmになるTropidurus semitaeniatusと、全長35cmになるTropidurus hispidusでした。T. semitaeniatusはサボテンを登るか、果実めがけてジャンプして、果実を食べました。また、T. semitaeniatus同士で果実を求めて争いが観察されました。T. hispidusは二足歩行で直立し、サボテンに登らずに果実を食べました。
著者らはサボテンの周囲5mに落ちたトカゲの糞を集め、中の種子を数えました。T. semitaeniatusの20個の糞から122個の種子を、T. hispidusの9個の糞から10個の種子が見つかりました。種子の散布は、75%以上がT. semitaeniatus、24%がT. hispidusにより行われてました。
T. semitaeniatusの糞から採取された種子は約85%の発芽率を示しました。これは、実験的に果肉を除去しなかった種子の発芽率41%よりも高い確率でした。


Melocactusは一般に管状の花を咲かせ、ハチドリにより受粉します。しかし、M. lanssensianumは観察期間中で一度も開花せずに結実しました。これは、閉花受粉(Cleistogamy)であり、未開花のまま自家受粉します。この繁殖戦略は、環境ストレスが高い場合や花粉媒介者が少ない生息地に対する適応である可能性があります。

以上が論文の簡単な要約です。
トカゲがメロカクタスの種子散布者であるというのは、中々面白い事実です。閉花受粉が環境や花粉媒介者に関係するかも知れないことも分かりました。一年中果実が生産されるのは、閉花受粉するからであることが分かります。気になっていたことを調べただけですが、大変勉強になる論文でした。


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サボテンの外敵とはなんでしょうか? ほとんどのサボテンはトゲに覆われており、簡単には草食動物に食べられることはないでしょう。アフリカでは、トゲだらけのアカシアの枝をキリンが食べたり、やはりトゲだらけのユーフォルビアをサイが食べたりしています。しかし、アメリカ大陸には大型の草食動物は少なく、ある程度のサイズがあるのは、ヘラジカ、バイソン、リャマ、アルパカ、グアナコ、カピバラ、マーラくらいなものでしょうか。
サボテンの分布を考えると、可能性があるのはグアナコくらいかも知れませんが、サボテンをむしゃむしゃ食べられる感じはしません。ラクダはサボテンを食べたりするらしいので、ラクダの仲間であるグアナコは食べるかも知れません。ちなみに、ラクダは中央アジアの砂漠にフタコブラクダが、アフリカから中東にはヒトコブラクダが分布します。いずれにせよ、ラクダが食べるサボテンは野生化したもので、おそらくはウチワサボテンでしょう。流石にラクダでもFerocactusを食べることは難しいような気もします。
話が脱線しました。サボテンを食べる動物については後で論文をあたるとして、本日の話題はサボテンを食べる外来種が観察されたという論文についてです。その論文は、Felipe S. Carevic & Ermindo Barrientosの2022年の論文、『Efectos de la introduction de fauna aloctona (Canis familiaris) en ecosistenmas aridos: estudio de caso en cactaceae endemics』です。


チリ北部の固有の植物相では、外来動物の影響はあまり評価されていません。著者らはAtacama州のFreirinaにあるサボテン集団に対する外来動物の被害を評価しました。自生するサボテンのうち調査したのは、Copiapoa coquimbanaとEriosyce napina、Eriosyce subgibbosaの3種類です。この論文で問題とされる外来動物とは、まさかの野良犬です。何が起こっているのでしょうか。

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Copiapoa coquimbana(下)
『The Cactaceae』(1922年)より。

著者らの観察により、驚くべきことに野良犬がサボテンを齧っていることが分かりました。もちろん、頭から齧りついたわけではなく、掘り返して根の方からサボテンの内側を上手く齧っているようです。3種類のサボテンでは、そのほとんどでC. coquimbanaが野良犬による被害を受けました。調査期間に被害を受けたサボテンは、VeranoではC. coquimbanaが12個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体、InviernoではC. coquimbanaが15個体、E. napinaが3個体、E. subgibbosaが2個体でした。
以前の研究では、Copiapoaは水分と糖分が他のサボテンよりも豊富であるとされており、水分の補給源としてより魅力的なのかも知れません。また、著者らはEriosyceは斜面や岩の隙間に生えるため、野良犬がアクセス出来ない可能性もあるとしています。


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Eriosyce napina(右)
『The Cactaceae』(1922年)より、Malacocarpus napinaとして記載。

以上が論文の簡単な要約です。
犬がサボテンを齧るという思わぬ出来事が発見されたわけですが、それ以上にトゲをこのような形で克服していることにも驚きました。そして、当然ながら野良犬は野生のサボテンにかなりの悪影響を与える新しいファクターとなってしまいました。非常に残念なことです。ただし、サボテンの保護を考えた時に、このような地道な知見が役に立つはずですから、今後に繋げていけたら素晴らしいですね。


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サボテンは強烈な日照や厳しい乾燥など、様々な環境ストレスに耐え忍んでいます。しかし、その特徴や仕組みについては、意外にもあまり研究されていないようです。そんな中、ギムノカリキウムの環境ストレスへの耐性についての、今年出たばかりの論文を見つけました。それは、Maria E. Soto Acostaらの2023年の論文、『Adaptative Strategie in Gymnocalycium species (Cactaceae) and the Prerence of Ectomycorrhizae Associated with Survival in Arid Environments』です。早速、見ていきましょう。

Gymnocalyciumについて
Gymnocalycium属はパラグアイ、ブラジル、ボリビア、ウルグアイ、アルゼンチンに分布しており、7亜属約60種が知られています。アルゼンチンのCatamarca州には約14種のGymnocalyciumが分布しています。その中でも、Gymnocalycium亜属のG. baldianumとG. marianae、Trchomosemineum亜属のG. stellatum、Microsemineum亜属のG. oenanthemumの4種類は固有種です。研究では自生する標高と降雨量が異なるG. marianaeとG. oenanthemumを用いました。解析のために、自生地のサボテンの根を採取しました、また、2種類のサボテンの種子を採取し、播種して3.5年生植物を研究に用いました。

G. marianae
G. marianaeはAndalgalaの標高1600〜1800mに分布します。Sierra de Ambatoの北斜面に育ち、水と風による侵食を受ける起伏のある丘にあります。年間の平均降水量は約380mmで、5〜9月は乾季となり月間降水量は10mm以下です。年間平均気温は約9.5℃で、4月から10月、あるいは11月に霜が発生します。この地域の植生は乏しいようです。この地域には16世紀半ばまでインカ人が住んでいました。
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Gymnocalycium venturianum
『Cactus handbook, 1876-1951』(1951年)より。
現在、G. marianaeはG. baldianumの異名となっているようです。G. venturianumはG. baldianumの異名の1つ。


G. oenanthemum
G. oenanthemumはAmbato、San Fernando、Capayan、Catamarcaの標高500〜1000mに分布します。研究ではAmbatoのSierra de Ambatoの東斜面から採取されました。年間の平均降水量は約670mmで、4〜9月に乾季があります。
年間平均気温は15℃で4月から10月には霜が発生します。この地域は豊富な植生と野良牛がいます。G. oenanthemumは低木や草により日照から保護されることがあります。

サボテンの外生菌根
サボテンは根の内部に侵入する内生菌根と共生することが、知られています。内生菌根はアーバスキュラー菌という非常に多くの植物と共生可能な共生菌です。しかし、本研究においてサボテンでは初めて外生菌根が発見されました。また、G. marianaeの方が高い菌根菌着生率でした。
アーバスキュラー菌とは異なり、外生菌根をつくる菌類は大型のキノコをつくる担子菌や子嚢菌からなります。菌根菌は一般的に植物の水分と養分の収集、および植物の環境ストレスへの耐性が指摘されます。Gymnocalyciumで発見された外生菌根は、乾性環境への耐性に適応するために意味があるのかも知れません。

構造と成分分析
植物の表面で水分の蒸発を防ぐクチクラ層は、G. oenanthemumよりG. marianaeの方が、密度も高く厚みがありました。また、環境ストレスに耐性が上がるフラボノイドやカロテノイドも、やはりG. oenanthemumよりもG. marianaeの方が高いことが分かりました。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
G. marianaeはG. oenanthemumと比較すると、日照や気温、乾燥などより厳しい環境に生えることが分かります。G. marianaeは環境ストレスに耐えるために、厚いクチクラや含有成分の高さだけではなく、外生菌根に適正を示し、より高い環境ストレス耐性を獲得しているようです。サボテンも環境に適応するために、様々な工夫をしていることが伺えますね。そう言えば、菌根についてはあまり話題とならず、残念ながらその重要度と比べてそれほど周知されていないように思います。当ブログではいくつか菌根関連の記事を書いてきましたが、これからも何か面白い論文がありましたら取り上げていきたいと思っております。


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外来種は日本でも問題となっていますが、この問題は国内のみならず世界中で起きています。昔から木材やコンテナに紛れて害虫が侵入したり、ペットとして持ち込まれたアライグマやミシシッピアカミミガメが捨てられて野外で繁殖してしまっているケースなどがあります。しかし、近年ではオンライン取引により、個人的に植物を輸入するケースが増えて来ました。しかし、その中には違法なものも含まれている可能性があります。現状ではオンライン取引に対する監視の目がゆるいため、違法取引の最大の懸念点となっています。ということで、本日は植物のオンライン取引について調査した、Jacob Maherらの2023年の論文、『Weed wide web: characterising illegal online trade of invasive plants in Australia』をご紹介します。

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ホテイアオイ Pontederia crassipes
一般的にはEichhornia属とされますが、現在はPontederia属とされているようです。
『Nova genera et species plantarum』(1823年)より。


オーストラリアはすでに29000種以上に及ぶ外来植物が導入されており、在来植物は深刻な影響を受けています。そのため、オーストラリア政府は厳格な輸入措置とリスク評価を実施しています。管理措置は州政府が行い、管轄区域におけるその分類群の取引の禁止を「宣言」します。宣言された植物は、供給、販売、輸送が禁止され、違反に対しては罰金が科せられます。しかし、ウェブ取引では実店舗がなくでも良く、簡単に郵送されたりと、従来の措置を回避する可能性があります。国際郵送はあまりにも多いため、すべてを調べることは困難です。

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Orbea variegata(上)
ガガイモ科の多肉植物で、スタペリアと同様に星型の花を咲かせます。
『Hortus botanicus panormitanus』(1877年)より、Stapelia atrataとして記載。

著者らはウェブサイトの植物取引広告を1年間監視し、植物の取引を記録しました。結果、1年間で235162件の植物広告を収集し、10000件はいずれかの州で取引が禁止されている種類でした。最も収集された違法植物は、ウチワサボテンと水草でした。ウチワサボテンは、Opuntia microdasys(金烏帽子)やOpuntia monacantha(単刺団扇)、Opuntia ficus-indica(大型宝剣)、あるいは他のウチワサボテンも取引されました。水草は、Eichhornia crassipes(ホテイアオイ)やLimnobium laevigatum(アマゾントチカガミ、アマゾンフロッグビット、現在の学名はHydrocharis laevigata)が一般的でした。また、頻繁に検出された侵入植物は、Zantedeschia aethiopica(オランダカイウ、Calla)やGazania、Hedera helix(セイヨウキヅタ、アイビー)、Lavandula stoechas(フレンチラベンダー)、Rubus fruticosus(ブラックベリー)、Orbea variegata、Azadirachta indica(インドセンダン、neem)でした。

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大型宝剣 Opuntia ficus-indica(左)
『The illustrated dictionary of gardening』(1884-1888年)より。


ウチワサボテンは簡単に増やすことが出来ますが、トゲがやっかいなため、増えすぎると最終的には処分に困ることになります。その結果、ウチワサボテンは投棄されることがあるようです。また、ウチワサボテンの処分に困り、売却したいと思っている人もいるようです。

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Calla(左上)
『Beautiful flowers』(1890年)より。


以上が論文の簡単な要約です。
オーストラリアは有袋類など固有種の宝庫です。同じように植物も固有種が多く、独自の生態系があります。オーストラリア政府も固有種を守るために、規制はかなり厳しくしているようですが、現実問題として違法な植物の取引は行われてしまっています。ウチワサボテンなどは鉢に植えていなくても、節で切ってお手軽に発送可能です。簡単に挿し木で発根しますし、乾燥地のオーストラリアでは野外でもよく育ちます。実際にオーストラリアでウチワサボテンが増えすぎて、対応に困っているという報道を見たことがあります。1年中野外でサボテンを育てられるというのは羨ましい話ですが、環境が合いすぎるというのも、それはそれで困ったことのようです。

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金烏帽子 Opuntia microdasys(右下)
しかし、刺さって抜けない芒刺のせいで、増えすぎた金烏帽子を取り除くのは大変そうです。
『The Cactaceae: description and illustrations of the catus family』(1919年)より。


さて、この違法オンライン取引はオーストラリア特有の問題ではないでしょう。インターネットは世界中のあらゆる国を結んでいますから、違法オンライン取引はすべての国で行われているのものと考えても良いかも知れません。日本ではどうでしょうか? 私にはその実態は分かりませんが、法的な問題は別にして、風潮としては違法取引に対する問題意識は薄いように感じられます。外国語の苦手な日本人は海外との取引は少ないような気もしますが、実際は分かりません。
最後に蛇足ですが、論文のタイトルの「Weed wide web」はURLのwww、つまり「world wide wide」をもじったものでしょう。wwwは世界中のウェブサイトをハイパーテキストでつなぐシステムのことらしいのですが、実質これはインターネットと同義となっているようです。ですから、「Weed wide web」は、インターネットを介したオンライン取引を示唆しています。しかし、この「Weed」とは雑草のことですが、実際には取引されるのは観賞用の植物であり、実態に合わないような気もします。よく調べると、「Weed」には雑草から転じて、庭や畑の望ましくない植物を指す意味もあるようです。ウチワサボテンは庭に植えられている時は好ましくても、敷地から逸出してしまえば生態系を脅かす「望ましくない植物」になってしまうということでしょう。


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植物の花は受粉し種子を作るための器官です。豊富な蜜や花粉は、花粉を運び受粉を手伝ってくれる受粉媒介者への報酬です。しかし、中には花そのものを食べてしまったりして、受粉を妨害してしまうような動物もいます。これを、とりあえず「送粉系撹乱」と呼ぶことにしましょう。さて、そんな送粉系撹乱の例を探してみたところ、Lophophoraを調査した論文が見つかりました。それは、Maria Isabel Briseno-Sanchezらの2022年の論文、『Biotic interaction prior to seed dispersal determine recruitment probability of peyote (Lophophora diffusa, Cactaceae), a threatened species polmllinator-dependent』です。Lophophoraは受粉にとって重要な蜜や花粉が少ない植物と言われています。報酬が少ない場合、送粉系撹乱を受けやすいような気もしますが実際はどうなのでしょうか?

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Lophophora williamsii
L. diffusaの良い図がなかったのでL. williamsiiで代用。
Echinocactus williamsiiとして記載。
『Gesambescheibung der Kakteen』(1898年)より


Lophophora diffusaはチワワ砂漠の固有種です。L. diffusaは自家受粉せず、必ず相手が必要な他家受粉花です。開花期間は長く、甲虫やバッタ、ミツバチが訪れます。果実は小さく受粉後2ヶ月ほどで成熟しますが、種子は少なく1つの果実に40個未満です。種子はエライオソーム(蟻に運んでもらうための栄養)があるため、蟻により拡散しているようです。また、種子は水が染み込まず水に浮くため、雨により流される可能性もあります。

試験はメキシコの標高1438mにあるQueretaro州Penamillerで実施されました。植生はLarrea tridentata、Fouquieria splendens、Mimosa sp.、Bursera sp.などの低木が優勢です。
L. diffusaの花の蜜量を測定しましたが、22%の花は蜜がありませんでした。最も蜜量が多い花でも0.36μL(0.00036mL)に過ぎず、平均は0.054μLであり0.1μLを超えることはほとんどありませんでした。
花には甲虫(Acmaeodera=フナガタタマムシ属)と数種類のミツバチ(Macrotera、Lasioglossum、Ashmeadiellaなど)が訪れました。観察した年により甲虫が優勢の場合もミツバチが優勢な場合もありました。また、受粉率は年により変動が激しいものの、結実はほとんどが開花した花の半分以下でした。


乾燥地では水の少なさがストレスとなり、蜜の生産に悪影響を及ぼします。蜜の減少は花と花粉媒介者の相互作用を減らし、受粉率を低下差させる可能性があります。また、L. diffusaの花粉媒介者の訪問率は非常に低く、訪問者の少なさが受粉率の低さの原因かも知れません。他とは研究では、L. diffusaの花に人工的に花粉をつけると、種子が20%も増えることが示されています。

以上が論文の簡単な要約です。
L. diffusaは蜜の量が少なく、蜜がない花まであることが分かりました。そのことが花粉媒介者である昆虫にとって魅力的ではないことは明白で、訪問者の少なさは種子生産に悪影響を及ぼしています。論文では水の少なさがストレスとなるとありますが、水の量と蜜の量には相関があるのでしょうか。そうであるならば、栽培している個体は蜜量が豊富ということになります。しかし、本来L. diffusaは乾燥地に適応しているはずです。乾燥化が進み蜜生産量が減少したというのなら分かりますが、環境に適応した結果がただ示されただけのような気がします。要するに、沢山の種子を作れない代わりに、蜜の生産を最小限にしているのかも知れません。蜜が少なかったりなかったりしても、花が咲いていればとりあえず昆虫は訪れるでしょう。群体性のミツバチなら蜜がなければ仲間を呼びませんが、単独性のミツバチなら花が咲いていれば騙されて花を訪れるでしょう。花粉を目当てに訪れることも考えられますが、花粉媒介者とは基本的に一過性の付き合いなのかも知れませんね。



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