私たちは日常的に植物を栽培していますが、それはあくまでも園芸的なものであり、ついつい栽培される植物でも自然の中では生態系の一部をなすということを忘れがちです。特に原産地が遠く植生や気候が著しく異なる多肉植物は、その自然な生態はなかなか想像しにくいのではないでしょうか。本日は竜神木(Myrtillocactus geometrizans)に展開される生態系を見てみましょう。参考とするのは、Alicia Callejas-Chaveroらの2023年の論文、『Herbivory in Myrtillocactus geometrizans (Cactaceae): Do Parasitoids Provide Indirect Defense or a Direct Advantage?』です。

Myrtillocactus geometrizans(右)
中央はMarginatocereus marginatus、左はPilosocereus palmeri=P. leucocephalus
筑波実験植物園にて(2025年12月)
植物と害虫の相互作用
近年まで、植物と昆虫の関係に関する研究は直接的な関係である、植物と植食者、植物と花粉媒介者、植物と種子散布者などの関係に焦点を当ててきました。しかし、植物と昆虫との相互作用をより包括的に捉え、捕食者や寄生者、重寄生者、分解者、さらには競争者も考慮に入れる必要があります。
植物の植食者に対する反応は複雑で、被食から逃れる、あるいは防御する、耐えるなどがあります。間接的な防御としては、草食動物の天敵(捕食者、寄生者、病原体)を引き寄せたり、天敵に報酬や隠れ家を提供することがあります。植物は草食動物を誘因する揮発性の化合物(HIPV)を放出することで、草食動物の天敵を引き寄せることはよく知られています。
CespedesはMyrtillocactus geometrizansの昆虫に対する耐性の高さは、トリペルテンとステロールにより説明可能であることを指摘しました。これらの化合物は、Lamaireocereus chichipeやMyrtillocactus cochal、Myrtillocactus schenckii、Myrtillocactus eichlamiiからも単離されています。これらの化合物は、室内実験でツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)やミルワーム(Tenebrio molitor)といった害虫の防除に効果がありました。しかし、M. geometrizansの植食者に対して同じ効果があるのか、さらには植食者の天敵を引き寄せる作用があるかは不明です。
竜神木をめぐる生態系
M. geometrizansの害虫である軟カイガラムシ(Toumeyella martinezae)は、別種のカイガラムシ(Opuntiaspis philococcus)と競合関係があります。さらに、カイガラムシには少なくとも2種の寄生者が存在し、寄生蜂であるMexidalgus toumeyellusを調査しました。また、カイガラムシはアリ(Liometopum apiculatum)とは共生関係を結んでいます。アリはカイガラムシの世話をすることで、代わりに餌となる甘露を与えます。カイガラムシが大量発生すると、植物に付着した過剰な甘露がカビを増殖させ、短期間で植物を枯死させます。
カイガラムシの有無による影響
M. geometrizans(以下、サボテン)のカイガラムシの有無を比較しました。カイガラムシがない場合は、カイガラムシがある場合と比べてサボテンの枝は平均2倍生長しました。蕾や開花数はカイガラムシがいない場合に有意に多くなりました。しかし、成熟した果実数や果実の大きさ、種子の発芽率には有意差はありませんでした。種子や実生のサイズは、カイガラムシがいない方が大きいことが確認されました。
蟻・カイガラムシ・寄生蜂の関係
研究開始から2カ月間は、蟻のいるサボテンといないサボテンでは、寄生蜂に寄生されたカイガラムシの割合は約15%で同程度でした。しかし、蟻がいない場合は寄生されたカイガラムシは平均25%に達し、蟻がいる場合は寄生されたカイガラムシは平均10%まで減少しました。
カイガラムシは口器による穿刺とそれに伴う栄養の搾取と壊死という直接的な影響と、病原体の伝播や汚染などの間接的な影響があります。カイガラムシはサボテンの生長や繁殖、実生の生育に影響を及ぼし、サボテンの適応度を著しく低下させます。M. geometrizansはカイガラムシの個体数が少ない場合にはある程度の抵抗性と耐性を示しますが、カイガラムシの個体数が増えるとその悪影響が顕著となります。
寄生蜂が宿主の位置を特定し産卵するために、視覚や嗅覚などん利用します。さらに、HIPVの量は植食者の密度に依存しています。植食者の密度が大きくなると植物の被害も増大し、寄生蜂が検知できる揮発性化合物の放出量も増加します。この寄生蜂を誘引する化合物は未だに特定されていませんが、散在するカイガラムシの位置を特定するのに十分なことは明らかです。
蟻はカイガラムシの個体群の急激な生長を促進するため、逆に寄生蜂にとってより魅力的なものとなっています。しかし、蟻はカイガラムシの上を巡回し、寄生蜂の産卵を防いでいます。蟻は他の植食者から植物を守ることで植物に恩恵をもたらす可能性がありますが、カイガラムシの保護は植物や植物に関係する他の生物に間接的に悪影響を及ぼします。カイガラムシの増加は過剰な甘露による煤病の増殖により、サボテンの茎を覆い光合成を阻害します。カイガラムシの大量発生によりM. geometrizansは数年で枯死します。これが、調査地域のM. geometrizansの枯死する主要な要因となっています。
植物と寄生蜂の関係は相利共生関係と言えます。しかし、蟻がいる場合は寄生率が大きく下がるため、植物はわずかな利益しか得られず、寄生蜂は引き続き利益を得ることが出来るため、片利共生関係に近くなります。そのため、植物と天敵の相利共生関係を表す「敵の敵は味方」(my enemy's enemy is friend)という表現は当てはまりません。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
蟻と甘露をもたらすアブラムシやカイガラムシの関係はよく知られており、昔から研究されています。寄生蜂や寄生蝿の研究も行われていますが、内部寄生であるため観察だけでは済まないことと、種類が膨大なため研究はまだまだのように思います。寄生蜂や寄生蝿は実は膨大な種類があり、1種の昆虫に1種以上の寄生昆虫がいるとまで言われています。さて、サボテンとサボテンに関わる三者の関係はというと非常に複雑になります。サボテンとカイガラムシの関係、カイガラムシと蟻の関係、蟻と寄生蜂の関係、寄生蜂とサボテンの関係、サボテンと蟻の関係、寄生蜂とカイガラムシの関係がありますからね。このような複雑な生態関係を解明した研究は稀な気がします。大変、勉強になりました。今後もサボテンや多肉植物に関する生態学的研究を取り上げていきたいと思います。
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Myrtillocactus geometrizans(右)
中央はMarginatocereus marginatus、左はPilosocereus palmeri=P. leucocephalus
筑波実験植物園にて(2025年12月)
植物と害虫の相互作用
近年まで、植物と昆虫の関係に関する研究は直接的な関係である、植物と植食者、植物と花粉媒介者、植物と種子散布者などの関係に焦点を当ててきました。しかし、植物と昆虫との相互作用をより包括的に捉え、捕食者や寄生者、重寄生者、分解者、さらには競争者も考慮に入れる必要があります。
植物の植食者に対する反応は複雑で、被食から逃れる、あるいは防御する、耐えるなどがあります。間接的な防御としては、草食動物の天敵(捕食者、寄生者、病原体)を引き寄せたり、天敵に報酬や隠れ家を提供することがあります。植物は草食動物を誘因する揮発性の化合物(HIPV)を放出することで、草食動物の天敵を引き寄せることはよく知られています。
CespedesはMyrtillocactus geometrizansの昆虫に対する耐性の高さは、トリペルテンとステロールにより説明可能であることを指摘しました。これらの化合物は、Lamaireocereus chichipeやMyrtillocactus cochal、Myrtillocactus schenckii、Myrtillocactus eichlamiiからも単離されています。これらの化合物は、室内実験でツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)やミルワーム(Tenebrio molitor)といった害虫の防除に効果がありました。しかし、M. geometrizansの植食者に対して同じ効果があるのか、さらには植食者の天敵を引き寄せる作用があるかは不明です。
竜神木をめぐる生態系
M. geometrizansの害虫である軟カイガラムシ(Toumeyella martinezae)は、別種のカイガラムシ(Opuntiaspis philococcus)と競合関係があります。さらに、カイガラムシには少なくとも2種の寄生者が存在し、寄生蜂であるMexidalgus toumeyellusを調査しました。また、カイガラムシはアリ(Liometopum apiculatum)とは共生関係を結んでいます。アリはカイガラムシの世話をすることで、代わりに餌となる甘露を与えます。カイガラムシが大量発生すると、植物に付着した過剰な甘露がカビを増殖させ、短期間で植物を枯死させます。
カイガラムシの有無による影響
M. geometrizans(以下、サボテン)のカイガラムシの有無を比較しました。カイガラムシがない場合は、カイガラムシがある場合と比べてサボテンの枝は平均2倍生長しました。蕾や開花数はカイガラムシがいない場合に有意に多くなりました。しかし、成熟した果実数や果実の大きさ、種子の発芽率には有意差はありませんでした。種子や実生のサイズは、カイガラムシがいない方が大きいことが確認されました。
蟻・カイガラムシ・寄生蜂の関係
研究開始から2カ月間は、蟻のいるサボテンといないサボテンでは、寄生蜂に寄生されたカイガラムシの割合は約15%で同程度でした。しかし、蟻がいない場合は寄生されたカイガラムシは平均25%に達し、蟻がいる場合は寄生されたカイガラムシは平均10%まで減少しました。
カイガラムシは口器による穿刺とそれに伴う栄養の搾取と壊死という直接的な影響と、病原体の伝播や汚染などの間接的な影響があります。カイガラムシはサボテンの生長や繁殖、実生の生育に影響を及ぼし、サボテンの適応度を著しく低下させます。M. geometrizansはカイガラムシの個体数が少ない場合にはある程度の抵抗性と耐性を示しますが、カイガラムシの個体数が増えるとその悪影響が顕著となります。
寄生蜂が宿主の位置を特定し産卵するために、視覚や嗅覚などん利用します。さらに、HIPVの量は植食者の密度に依存しています。植食者の密度が大きくなると植物の被害も増大し、寄生蜂が検知できる揮発性化合物の放出量も増加します。この寄生蜂を誘引する化合物は未だに特定されていませんが、散在するカイガラムシの位置を特定するのに十分なことは明らかです。
蟻はカイガラムシの個体群の急激な生長を促進するため、逆に寄生蜂にとってより魅力的なものとなっています。しかし、蟻はカイガラムシの上を巡回し、寄生蜂の産卵を防いでいます。蟻は他の植食者から植物を守ることで植物に恩恵をもたらす可能性がありますが、カイガラムシの保護は植物や植物に関係する他の生物に間接的に悪影響を及ぼします。カイガラムシの増加は過剰な甘露による煤病の増殖により、サボテンの茎を覆い光合成を阻害します。カイガラムシの大量発生によりM. geometrizansは数年で枯死します。これが、調査地域のM. geometrizansの枯死する主要な要因となっています。
植物と寄生蜂の関係は相利共生関係と言えます。しかし、蟻がいる場合は寄生率が大きく下がるため、植物はわずかな利益しか得られず、寄生蜂は引き続き利益を得ることが出来るため、片利共生関係に近くなります。そのため、植物と天敵の相利共生関係を表す「敵の敵は味方」(my enemy's enemy is friend)という表現は当てはまりません。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
蟻と甘露をもたらすアブラムシやカイガラムシの関係はよく知られており、昔から研究されています。寄生蜂や寄生蝿の研究も行われていますが、内部寄生であるため観察だけでは済まないことと、種類が膨大なため研究はまだまだのように思います。寄生蜂や寄生蝿は実は膨大な種類があり、1種の昆虫に1種以上の寄生昆虫がいるとまで言われています。さて、サボテンとサボテンに関わる三者の関係はというと非常に複雑になります。サボテンとカイガラムシの関係、カイガラムシと蟻の関係、蟻と寄生蜂の関係、寄生蜂とサボテンの関係、サボテンと蟻の関係、寄生蜂とカイガラムシの関係がありますからね。このような複雑な生態関係を解明した研究は稀な気がします。大変、勉強になりました。今後もサボテンや多肉植物に関する生態学的研究を取り上げていきたいと思います。
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