本日は新刊案内です。「生物の科学・遺伝」という雑誌をたまに買っていますが、今回は植物に関係する内容でしたからご紹介します。今回の特集は高山植物です。巻頭の高山植物図鑑は見ていて楽しいのですが、それだけではなく最新の高山植物研究を知ることが出来ます。その内容について、私が気になった部分を少しだけご紹介しましょう。

高山植物の受粉形式
やはり、植物の重要な形質は花でしょう。花は花粉媒介者との関係や自家受粉/他家受粉といった、繁殖のための戦略を表します。高山という特殊な環境における花の戦略とは如何なるものなのでしょうか。
高山は非常に厳しい環境で花粉媒介者も少ないことから、自家受粉するものが多いような気がしてしまいます。しかし、被子植物の平均よりも高山植物は他家受粉の比率が高いことが明らかとなっています。これは、高山植物が厳しい環境に適応するために、常に遺伝的多様性をプールする必要があるということなのでしょう。
高山植物研究最前線
さて、上記以外にも高山植物研究について様々な角度から迫っています。簡単に内容を確認しましょう。
①「総論: 高山植物の生きざまと地球温暖化の影響」
まずは総論で高山植物研究の全体を見廻します。章タイトルは例えば「寒冷環境で生き延びる知恵」、「高山植物はなぜきれいなのか?」、「地球温暖化の脅威」などどれも面白く興味深いものでした。近年は笹が増えてしまい、生態系が変わってしまっており心配されているそうです。
②「日本の高山植物はどこからきたのか?」
日本の高山植物は氷河期に南下してきた北方系の植物の遺残種と言われてきました。しかし、近年の遺伝子解析技術の発展により、思わぬことが分かったようです。どうも、日本の個体群から北方に派生したように見える種もあるというのです。これからさらなる検証が行われるようですが、実に気になる研究です。
③「あの手この手で種子を作る高山植物の花の工夫」
私が最も気にする花と花粉媒介者の関係についての話です。高山では花粉媒介者の多様性が低いようで、蜂と蝿が受粉の主役です。高山植物の花は蜂や蝿に特化しており、その形状は相手を想定したものとなっています。興味深いのはハエ媒花です。私も蝿は舐め取り型ですから、花は窄まらない開いた形状であることは知っていました。しかし、仮雄しべという偽物の雄しべがある高山植物もあり、それらは本物の雄しべ以上に目立ち花粉媒介者にアピールしています。高山植物は自家受粉しないものが多いのですが、あの手この手で受粉を目指しているわけです。
④「お花畑の彩りを創る高山の送粉者たち」
日本とニュージーランドの高山植物の比較を行っています。ニュージーランドの高山ではハエ媒花が多いということで、これはニュージーランドの地質的な成り立ちからハナバチ類が来ることが困難だったことが原因のようです。著者らはニュージーランドの花の色合いを調べ、赤色〜紫色系統の花が少なく、白色や黄色が多いなっています。おそらく、蝿が好む色合いの花が進化したのでしょう。
⑤「高山植物の生育場所はどのように決定されているのだろうか」
日本は世界屈指の降雪地帯ですから、高山植物も降雪と深い関係にあります。地形や標高により雪の積もり方は異なり、生える高山植物も異なります。あまり知られていないのは、積雪は保温効果があることです。雪の中では氷点下にはなりませんが、雪がないと地面は簡単に氷点下になってしまいます。雪の有無と植生はtrade-offの関係にあり、雪がなかなか溶けないと生育期間が短くなってしまい、雪がないと冬の地面が凍結するほどの寒さに耐えなければなりません。また、気候変動は高山植物に重大な影響を与えることが想定されますから、ドローンによる積雪量の調査も行われているそうです。
⑥「高山植物と倍数体」
遺伝子は対となった一組からなり、通常は2倍体です。しかし、遺伝子が3倍や4倍と増えてしまった状態を倍数体と言います。この倍数体は進化の原動力の1つとされており、維管束植物の約35%は倍数体であるとされています。倍数体は理論上は定着しにくいと考えられますが、これだけ倍数体が一般的ならば利点があるはずです。
さて、高緯度ほど倍数体が生じやすいと言われており、高山植物もまた倍数体が多いと言われています。しかし、必ずしもそうではなくて、コケモモは標高が高い個体群は2倍体で海岸など低地の個体群は4倍体でした。このように、考えられてきたシナリオから逸脱するものもおり、高山植物も非常に複雑な経緯を辿ってきたことが推察されます。
⑦「高山植物憧憬」
この論考では高山植物研究の黎明期の資料をあたり、報告された高山植物について述べられています。八ヶ岳、白山、立山の採取登山のメンバーとルート、見られた植物が考察されます。当時に採取された標本を見つけることができれば、生物学的に見て非常に貴重な資料となるでしょう。標本探索がなされることを期待します。
最後に
大まかな内容をダラダラ述べてまいりましたが、総評としては大変良い内容でした。高山植物研究を知る機会はほとんどないことを思えば、大変貴重な知見です。研究の進展により高山植物の進化や分布など様々なことが、過去のシミュレーションとは異なる結果を生み出しつつあります。今、正に発展中の熱い研究に触れることが出来て感動しました。私自身は山に登ることはありませんから、高山のお花畑とは無縁です。しかし、高山という特殊な環境に生きる植物は、乾燥地に生える多肉植物と同様に植物好きとしては見逃せません。また、気になる植物が増えてしまいました。いつかまた、高山植物研究のさらなる進展に触れる日が来ることを願っております。
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高山植物の受粉形式
やはり、植物の重要な形質は花でしょう。花は花粉媒介者との関係や自家受粉/他家受粉といった、繁殖のための戦略を表します。高山という特殊な環境における花の戦略とは如何なるものなのでしょうか。
高山は非常に厳しい環境で花粉媒介者も少ないことから、自家受粉するものが多いような気がしてしまいます。しかし、被子植物の平均よりも高山植物は他家受粉の比率が高いことが明らかとなっています。これは、高山植物が厳しい環境に適応するために、常に遺伝的多様性をプールする必要があるということなのでしょう。
高山植物研究最前線
さて、上記以外にも高山植物研究について様々な角度から迫っています。簡単に内容を確認しましょう。
①「総論: 高山植物の生きざまと地球温暖化の影響」
まずは総論で高山植物研究の全体を見廻します。章タイトルは例えば「寒冷環境で生き延びる知恵」、「高山植物はなぜきれいなのか?」、「地球温暖化の脅威」などどれも面白く興味深いものでした。近年は笹が増えてしまい、生態系が変わってしまっており心配されているそうです。
②「日本の高山植物はどこからきたのか?」
日本の高山植物は氷河期に南下してきた北方系の植物の遺残種と言われてきました。しかし、近年の遺伝子解析技術の発展により、思わぬことが分かったようです。どうも、日本の個体群から北方に派生したように見える種もあるというのです。これからさらなる検証が行われるようですが、実に気になる研究です。
③「あの手この手で種子を作る高山植物の花の工夫」
私が最も気にする花と花粉媒介者の関係についての話です。高山では花粉媒介者の多様性が低いようで、蜂と蝿が受粉の主役です。高山植物の花は蜂や蝿に特化しており、その形状は相手を想定したものとなっています。興味深いのはハエ媒花です。私も蝿は舐め取り型ですから、花は窄まらない開いた形状であることは知っていました。しかし、仮雄しべという偽物の雄しべがある高山植物もあり、それらは本物の雄しべ以上に目立ち花粉媒介者にアピールしています。高山植物は自家受粉しないものが多いのですが、あの手この手で受粉を目指しているわけです。
④「お花畑の彩りを創る高山の送粉者たち」
日本とニュージーランドの高山植物の比較を行っています。ニュージーランドの高山ではハエ媒花が多いということで、これはニュージーランドの地質的な成り立ちからハナバチ類が来ることが困難だったことが原因のようです。著者らはニュージーランドの花の色合いを調べ、赤色〜紫色系統の花が少なく、白色や黄色が多いなっています。おそらく、蝿が好む色合いの花が進化したのでしょう。
⑤「高山植物の生育場所はどのように決定されているのだろうか」
日本は世界屈指の降雪地帯ですから、高山植物も降雪と深い関係にあります。地形や標高により雪の積もり方は異なり、生える高山植物も異なります。あまり知られていないのは、積雪は保温効果があることです。雪の中では氷点下にはなりませんが、雪がないと地面は簡単に氷点下になってしまいます。雪の有無と植生はtrade-offの関係にあり、雪がなかなか溶けないと生育期間が短くなってしまい、雪がないと冬の地面が凍結するほどの寒さに耐えなければなりません。また、気候変動は高山植物に重大な影響を与えることが想定されますから、ドローンによる積雪量の調査も行われているそうです。
⑥「高山植物と倍数体」
遺伝子は対となった一組からなり、通常は2倍体です。しかし、遺伝子が3倍や4倍と増えてしまった状態を倍数体と言います。この倍数体は進化の原動力の1つとされており、維管束植物の約35%は倍数体であるとされています。倍数体は理論上は定着しにくいと考えられますが、これだけ倍数体が一般的ならば利点があるはずです。
さて、高緯度ほど倍数体が生じやすいと言われており、高山植物もまた倍数体が多いと言われています。しかし、必ずしもそうではなくて、コケモモは標高が高い個体群は2倍体で海岸など低地の個体群は4倍体でした。このように、考えられてきたシナリオから逸脱するものもおり、高山植物も非常に複雑な経緯を辿ってきたことが推察されます。
⑦「高山植物憧憬」
この論考では高山植物研究の黎明期の資料をあたり、報告された高山植物について述べられています。八ヶ岳、白山、立山の採取登山のメンバーとルート、見られた植物が考察されます。当時に採取された標本を見つけることができれば、生物学的に見て非常に貴重な資料となるでしょう。標本探索がなされることを期待します。
最後に
大まかな内容をダラダラ述べてまいりましたが、総評としては大変良い内容でした。高山植物研究を知る機会はほとんどないことを思えば、大変貴重な知見です。研究の進展により高山植物の進化や分布など様々なことが、過去のシミュレーションとは異なる結果を生み出しつつあります。今、正に発展中の熱い研究に触れることが出来て感動しました。私自身は山に登ることはありませんから、高山のお花畑とは無縁です。しかし、高山という特殊な環境に生きる植物は、乾燥地に生える多肉植物と同様に植物好きとしては見逃せません。また、気になる植物が増えてしまいました。いつかまた、高山植物研究のさらなる進展に触れる日が来ることを願っております。
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