蘇鉄類はもっとも絶滅の可能性が高い分類群と言われています。日本では蘇鉄は身近な存在であるため、あまりピンと来ないかも知れませんが、蘇鉄のほとんどの種が絶滅危惧種です。絶滅を防ぐために何らかの対策が必要ですが、まず始めに必要なのは生息状況の調査と適切な情報に基づく評価でしょう。
さて、蘇鉄類にはオーストラリア、メソアメリカ、南アフリカという3つのホットスポットがあります。オーストラリアにはMacrozamiaやLepidozamia、Bowenia、Cycas、メソアメリカにはZamiaやDioon、Ceratozamia、南アフリカにはEncephalartosやStangeria、Cycasが分布します。今回はメソアメリカに含まれるメキシコで蘇鉄類の情報を調査し、評価を行ったJorge Antonio Gomez Diazの2025年の論文、『Assessing the extinction risk of Veracruz cycads』を見てみましょう。
メキシコのソテツ
メキシコには74種のソテツが分布しており、新熱帯区のザミア科の中心地です。Ceratozamiaが37種、Zamiaが20種、Dioonが17種が知られています。メキシコのソテツは88.9%が固有種であり、その独自性と脆弱性を際立たせます。この3属のすべてが絶滅の危機に瀕しており、種の保護と保全に急ぎ取り組む必要があります。
ベラクルス州はメキシコで3番目に蘇鉄が豊富で、Ceratozamiaは13種、Zamiaは6種、Dioonは2種が確認されています。これらの蘇鉄の保全は、森林伐採や都市化などによる生息地の喪失により、ますます脅かされています。メキシコ国立森林委員会(CONAFOR)によると、ベラクルス州では森林伐採が深刻な様相を呈しており、2010年には16023ヘクタールの森林が失われました。進行中の生息地の劣化は蘇鉄の保全活動に深刻な障害であり、森林の破壊の抑制や自然環境を保全する必要があります。
絶滅負債 - ゆっくり燃える導火線
蘇鉄の絶滅のリスクを評価する際に、重要な概念として「絶滅負債」(※)があります。Cronk(2016)は、蘇鉄のような寿命の長い植物は、絶滅プロセスが数世紀に渡り展開されることもあると指摘しました。この絶滅への緩やかな進行は、「ゆっくり燃える導火線」(slow-burning fuse)と呼ばれます。そのため、タイムリーな保全活動を行うために、本稿では絶滅リスクの評価を目的としています。
※絶滅負債(extinction debt)とは、環境破壊などにより将来的にその種の絶滅が確定している現象のことです。蘇鉄は長寿命な植物であるため、種としての再生の芽がなくなっても個体は生存はしているため、絶滅の原因が起きてから実際に絶滅するまでタイムラグが発生します。
ベラクルスの多様性
ベラクルス州はメキシコ東部に位置する、蘇鉄にとって生態学的に重要な地域です。東側はメキシコ湾に面しており、熱帯雨林、雲霧林、沿岸など様々な生態系を含み、海岸平野から標高5600mを超える山岳地帯までの複雑な地形が、ベラクルス州の多様性に貢献しています。ベラクルス州には多数の保護地域と自然保護区がありますが、これらの地域は孤立しており、体系的に優先順位が付けられた保全計画が存在しません。そのため、現在の自然保護ネットワークは、ベラクルス州の多様性を保護するには不十分であると考えられます。
絶滅リスクの評価
IUCN(2023)の保全状況の評価を含む様々な情報源を用いました。また、Ceratozamia domingueziiは最近記載された種であるため評価されていませんでした。種を記載した著者によるGBIF(Global Biodiversity Information Facility)の記録(2023)と照合されました。ベラクルス州の蘇鉄のうち、メキシコの危険種を特定する法律(NOM-059-SEMARNAT-2010)では、評価されているのは15種だけなので、残りの6種を評価しました。また、IUCNにGBIFによる生息地を追加しました。
保全・優先順位付け指数
階層的クラスター分析により、8種が絶滅リスクが高いクラスターに分類されました。Zamia vazquezii、Zamia inermis、Ceratozamia decumbens、Zamia furfuracea、Ceratozamia morettii、Ceratozamia subroseophylla、Ceratozamia tenuis、Ceratozamia domingueziiです。情報から計算されたConservation and Prioritization Index(CPI、保全・優先順位付け指数)では、スコアが高い順にZ. vazquesii(8.837)、Z. inermis(8.742)、C. dominguezii(8.354)、C. tenuis(8.139)、C. morettii(8.125)で、保全の重要性が高いことが示されました。対照的に、D. edule(3.205)、Z. loddigesii(3.258)は保全上の緊急性が低いことが示唆されました。
種の多様性
ベラクルス州南部ではザミア科の多様性が高く、C. euryphyllidia、C. dominguezii、Z. purpurea、Z. loddigesiiの4種が分布します。その他の種の多様性のピークは、Sierra Madre山脈とベラクルス州南東部にあり、3種が分布します。
絶滅リスクを評価
メキシコのNOM-059-SEMARNAT-2010とIUCNの評価は、異なる基準を用いているため相関しません。複数のデータソースを統合することで、絶滅リスクの評価の効率性と堅牢性が向上します。相関関係の欠如は、国際的な保全の枠組みと国内の保全の枠組みのギャップを埋めるために、CPIのような基準の重要性が増します。

Zamia vazquezii (熱川バナナワニ園、2026年2月)
ベラクルス州の蘇鉄類の中では、Z. vazqueziiとZ. inermisの2種がもっとも絶滅の危機に瀕しています。Z. vazquesiiはベラクルス州北部にしか分布せず、生息地の喪失と観賞用の過剰採取により、深刻な脅威にさらされています。野生個体は2カ所でしか確認されていません。森林破壊により自生地の約91%が失われ、深刻な個体群の分断化がおきています。個体群は減少傾向にあり、成熟個体は2〜49個体と言われています。
Z. inermisは生長率の低下が記録されています。野生の個体群は1つしかありません。幼木の少なさと、実生の生存率の低さ、雌の球果における生存可能な種子の少なさが課題です。地元の住民が裏庭の苗床で、Z. inermisを栽培し保全に貢献しています。しかし、成熟個体に依存しているためリスクは高まっています。人工受粉のために雄花を除去することは、送粉昆虫の繁殖地を乱すなどの問題があるため、慎重に管理しなくてはなりません。


Ceratozamia mexicana (熱川バナナワニ園、2026年2月)
次に優先されるべき種は、C. dominguezii、C. tenuis、C. morettii、C. mexicanaです。最近報告されたC. domingueziiはUxpanapaで発見されましたが、Uxpanapaの森は深刻な影響を受けているため、生息地の保護と生息域外での保全など、緊急の保護活動が必要です。
C. tenuisとC. morettiiは、ベラクルス州中央南部のSierra de Chiconquiacoの雲霧林に分布します。分布シミュレーションによると、両種は減少傾向にあります。将来的な気候変動により、生息域はC. tenuisでは83%、C. morettiiでは88%の減少が予測されています。湿潤で温暖な環境に生育するこれらの蘇鉄は、干ばつによる悪影響を受ける可能性があります。限られた南部の山岳地帯を除いて、ほぼ絶滅に追いやられるでしょう。
C. mexicanaはベラクルス州中央山脈の雲霧林に分布します。生育が遅く長寿命の種です。農業による生息地の破壊により、個体数の減少と孤立が生じており、生息地の約82%が影響を受けています。撹乱地の個体群はボトルネックを経験し、遺伝的多様性の喪失につながりかねません。森林のさらなる劣化と遺伝的の損失を防がなくてはなりません。

Zamia furfuracea(自宅)
Z. vazquezii、Z. inermis、Z. furfuraceaは絶滅の危機に瀕しています。ザミア科においては、Z. restrepoiを除き、すべての種がワシントン条約(CITES)の附属書IIに掲載されています。しかし、取り引き規制が必要な種も含まれますが、保全のためのニーズを正確に反映していない可能性があります。保護を強化するために、高リスクのザミア科の種をCITESの附属書Iに再分類させることを推奨します。
保全のために
CPIはベラクルス州の蘇鉄の絶滅リスクの評価のための包括的な枠組みを提供しますが、完全なデータセット、特に遺伝子情報や個体群のサイズ、現地で検証された分布データが不足しているため、リスク評価に偏りが生じる可能性があります。しかし、蘇鉄は遠隔地やアクセスの困難な地域にある場合が多く、現地調査やデータ収集は労力と資金が必要です。また、蘇鉄類はライフサイクルが長く、繁殖率の低さから個体群の規模や構造の変化が直ぐには気が付かれない可能性があります。さらに、ベラクルス州の蘇鉄類の遺伝学的な研究は、技術的ならびに財政的な制約があります。これらの制約に対処するためには、不確実性を定量化し、リスク評価の精度を向上させるべきです。そのためには、対象をしぼったフィールド検証と遺伝子サンプリングを優先させます。今後のCPIはIUCNとMERの基準を明確に比較することで向上するでしょう。新しいデータにより指数を繰り返し更新し、遺伝学的ならびに生態学的な知見を取り入れることで、CPIは保全活動を導くツールへ進化させることが出来ます。
予防的な保全は、減少している個体群を回復させるための事後的な取り組むよりも、効果的かつ費用対効果が高いものです。種が危機的なレベルに達する前に行動することで、対策が容易かつ安価となら成功率が高まります。対照的に大幅な減少の後では、個体群の回復には大きな投資が必要です。ベラクルス州の蘇鉄では、個体数の急激な減少を防ぐために、積極的な保全が不可欠です。対策を早期に実施する方が効率的かつ効果的です。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
蘇鉄類は分類群そのものが危機に瀕している植物です。にもかかわらず、開発や違法採取により現在進行系で減少し続けています。これは、正しい評価がなされていないことも重大な原因です。しかし、評価のためには調査が必要ですが、ここで障害となるのは、「plant bindness」でしょう。これは、直訳では植物失明、私は以前記事で植物盲目症と訳しましたが、最近は「盲」という表現を避けて、「Plant Awareness Disparity」に対応する訳語として「植物認識の格差」と呼ばれているものです。簡単に言えば、植物は存在するにもかかわらず、まるではじめから見えていないかのように扱われがちという意味です。具体的には、動物と比べると植物は軽視される傾向があり、絶滅危惧種は植物の方が多いにもかかわらず、保全や調査のための予算は桁違いに少ないという現実があるのです。ですから、極めて希少な蘇鉄類といえども、調査のための潤沢な予算などはじめから期待できないのです。野生生物の保全のための予算は動物に偏ります。しかも、美しかったりかわいらしい動物は人気があり、保全のための活動も活発で、予算も潤沢です。対する蘇鉄類は「plant bindness」であり、地味で美しい花も咲かせず、一般には全く人気がなく、その減少や絶滅を悲しむ人は稀です。保全のための優先順位は学術的な調査より、審美眼のような感情が優先されてしまっています。悲しいことですが、これが現実なのです。
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さて、蘇鉄類にはオーストラリア、メソアメリカ、南アフリカという3つのホットスポットがあります。オーストラリアにはMacrozamiaやLepidozamia、Bowenia、Cycas、メソアメリカにはZamiaやDioon、Ceratozamia、南アフリカにはEncephalartosやStangeria、Cycasが分布します。今回はメソアメリカに含まれるメキシコで蘇鉄類の情報を調査し、評価を行ったJorge Antonio Gomez Diazの2025年の論文、『Assessing the extinction risk of Veracruz cycads』を見てみましょう。
メキシコのソテツ
メキシコには74種のソテツが分布しており、新熱帯区のザミア科の中心地です。Ceratozamiaが37種、Zamiaが20種、Dioonが17種が知られています。メキシコのソテツは88.9%が固有種であり、その独自性と脆弱性を際立たせます。この3属のすべてが絶滅の危機に瀕しており、種の保護と保全に急ぎ取り組む必要があります。
ベラクルス州はメキシコで3番目に蘇鉄が豊富で、Ceratozamiaは13種、Zamiaは6種、Dioonは2種が確認されています。これらの蘇鉄の保全は、森林伐採や都市化などによる生息地の喪失により、ますます脅かされています。メキシコ国立森林委員会(CONAFOR)によると、ベラクルス州では森林伐採が深刻な様相を呈しており、2010年には16023ヘクタールの森林が失われました。進行中の生息地の劣化は蘇鉄の保全活動に深刻な障害であり、森林の破壊の抑制や自然環境を保全する必要があります。
絶滅負債 - ゆっくり燃える導火線
蘇鉄の絶滅のリスクを評価する際に、重要な概念として「絶滅負債」(※)があります。Cronk(2016)は、蘇鉄のような寿命の長い植物は、絶滅プロセスが数世紀に渡り展開されることもあると指摘しました。この絶滅への緩やかな進行は、「ゆっくり燃える導火線」(slow-burning fuse)と呼ばれます。そのため、タイムリーな保全活動を行うために、本稿では絶滅リスクの評価を目的としています。
※絶滅負債(extinction debt)とは、環境破壊などにより将来的にその種の絶滅が確定している現象のことです。蘇鉄は長寿命な植物であるため、種としての再生の芽がなくなっても個体は生存はしているため、絶滅の原因が起きてから実際に絶滅するまでタイムラグが発生します。
ベラクルスの多様性
ベラクルス州はメキシコ東部に位置する、蘇鉄にとって生態学的に重要な地域です。東側はメキシコ湾に面しており、熱帯雨林、雲霧林、沿岸など様々な生態系を含み、海岸平野から標高5600mを超える山岳地帯までの複雑な地形が、ベラクルス州の多様性に貢献しています。ベラクルス州には多数の保護地域と自然保護区がありますが、これらの地域は孤立しており、体系的に優先順位が付けられた保全計画が存在しません。そのため、現在の自然保護ネットワークは、ベラクルス州の多様性を保護するには不十分であると考えられます。
絶滅リスクの評価
IUCN(2023)の保全状況の評価を含む様々な情報源を用いました。また、Ceratozamia domingueziiは最近記載された種であるため評価されていませんでした。種を記載した著者によるGBIF(Global Biodiversity Information Facility)の記録(2023)と照合されました。ベラクルス州の蘇鉄のうち、メキシコの危険種を特定する法律(NOM-059-SEMARNAT-2010)では、評価されているのは15種だけなので、残りの6種を評価しました。また、IUCNにGBIFによる生息地を追加しました。
保全・優先順位付け指数
階層的クラスター分析により、8種が絶滅リスクが高いクラスターに分類されました。Zamia vazquezii、Zamia inermis、Ceratozamia decumbens、Zamia furfuracea、Ceratozamia morettii、Ceratozamia subroseophylla、Ceratozamia tenuis、Ceratozamia domingueziiです。情報から計算されたConservation and Prioritization Index(CPI、保全・優先順位付け指数)では、スコアが高い順にZ. vazquesii(8.837)、Z. inermis(8.742)、C. dominguezii(8.354)、C. tenuis(8.139)、C. morettii(8.125)で、保全の重要性が高いことが示されました。対照的に、D. edule(3.205)、Z. loddigesii(3.258)は保全上の緊急性が低いことが示唆されました。
種の多様性
ベラクルス州南部ではザミア科の多様性が高く、C. euryphyllidia、C. dominguezii、Z. purpurea、Z. loddigesiiの4種が分布します。その他の種の多様性のピークは、Sierra Madre山脈とベラクルス州南東部にあり、3種が分布します。
絶滅リスクを評価
メキシコのNOM-059-SEMARNAT-2010とIUCNの評価は、異なる基準を用いているため相関しません。複数のデータソースを統合することで、絶滅リスクの評価の効率性と堅牢性が向上します。相関関係の欠如は、国際的な保全の枠組みと国内の保全の枠組みのギャップを埋めるために、CPIのような基準の重要性が増します。

Zamia vazquezii (熱川バナナワニ園、2026年2月)
ベラクルス州の蘇鉄類の中では、Z. vazqueziiとZ. inermisの2種がもっとも絶滅の危機に瀕しています。Z. vazquesiiはベラクルス州北部にしか分布せず、生息地の喪失と観賞用の過剰採取により、深刻な脅威にさらされています。野生個体は2カ所でしか確認されていません。森林破壊により自生地の約91%が失われ、深刻な個体群の分断化がおきています。個体群は減少傾向にあり、成熟個体は2〜49個体と言われています。
Z. inermisは生長率の低下が記録されています。野生の個体群は1つしかありません。幼木の少なさと、実生の生存率の低さ、雌の球果における生存可能な種子の少なさが課題です。地元の住民が裏庭の苗床で、Z. inermisを栽培し保全に貢献しています。しかし、成熟個体に依存しているためリスクは高まっています。人工受粉のために雄花を除去することは、送粉昆虫の繁殖地を乱すなどの問題があるため、慎重に管理しなくてはなりません。


Ceratozamia mexicana (熱川バナナワニ園、2026年2月)
次に優先されるべき種は、C. dominguezii、C. tenuis、C. morettii、C. mexicanaです。最近報告されたC. domingueziiはUxpanapaで発見されましたが、Uxpanapaの森は深刻な影響を受けているため、生息地の保護と生息域外での保全など、緊急の保護活動が必要です。
C. tenuisとC. morettiiは、ベラクルス州中央南部のSierra de Chiconquiacoの雲霧林に分布します。分布シミュレーションによると、両種は減少傾向にあります。将来的な気候変動により、生息域はC. tenuisでは83%、C. morettiiでは88%の減少が予測されています。湿潤で温暖な環境に生育するこれらの蘇鉄は、干ばつによる悪影響を受ける可能性があります。限られた南部の山岳地帯を除いて、ほぼ絶滅に追いやられるでしょう。
C. mexicanaはベラクルス州中央山脈の雲霧林に分布します。生育が遅く長寿命の種です。農業による生息地の破壊により、個体数の減少と孤立が生じており、生息地の約82%が影響を受けています。撹乱地の個体群はボトルネックを経験し、遺伝的多様性の喪失につながりかねません。森林のさらなる劣化と遺伝的の損失を防がなくてはなりません。

Zamia furfuracea(自宅)
Z. vazquezii、Z. inermis、Z. furfuraceaは絶滅の危機に瀕しています。ザミア科においては、Z. restrepoiを除き、すべての種がワシントン条約(CITES)の附属書IIに掲載されています。しかし、取り引き規制が必要な種も含まれますが、保全のためのニーズを正確に反映していない可能性があります。保護を強化するために、高リスクのザミア科の種をCITESの附属書Iに再分類させることを推奨します。
保全のために
CPIはベラクルス州の蘇鉄の絶滅リスクの評価のための包括的な枠組みを提供しますが、完全なデータセット、特に遺伝子情報や個体群のサイズ、現地で検証された分布データが不足しているため、リスク評価に偏りが生じる可能性があります。しかし、蘇鉄は遠隔地やアクセスの困難な地域にある場合が多く、現地調査やデータ収集は労力と資金が必要です。また、蘇鉄類はライフサイクルが長く、繁殖率の低さから個体群の規模や構造の変化が直ぐには気が付かれない可能性があります。さらに、ベラクルス州の蘇鉄類の遺伝学的な研究は、技術的ならびに財政的な制約があります。これらの制約に対処するためには、不確実性を定量化し、リスク評価の精度を向上させるべきです。そのためには、対象をしぼったフィールド検証と遺伝子サンプリングを優先させます。今後のCPIはIUCNとMERの基準を明確に比較することで向上するでしょう。新しいデータにより指数を繰り返し更新し、遺伝学的ならびに生態学的な知見を取り入れることで、CPIは保全活動を導くツールへ進化させることが出来ます。
予防的な保全は、減少している個体群を回復させるための事後的な取り組むよりも、効果的かつ費用対効果が高いものです。種が危機的なレベルに達する前に行動することで、対策が容易かつ安価となら成功率が高まります。対照的に大幅な減少の後では、個体群の回復には大きな投資が必要です。ベラクルス州の蘇鉄では、個体数の急激な減少を防ぐために、積極的な保全が不可欠です。対策を早期に実施する方が効率的かつ効果的です。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
蘇鉄類は分類群そのものが危機に瀕している植物です。にもかかわらず、開発や違法採取により現在進行系で減少し続けています。これは、正しい評価がなされていないことも重大な原因です。しかし、評価のためには調査が必要ですが、ここで障害となるのは、「plant bindness」でしょう。これは、直訳では植物失明、私は以前記事で植物盲目症と訳しましたが、最近は「盲」という表現を避けて、「Plant Awareness Disparity」に対応する訳語として「植物認識の格差」と呼ばれているものです。簡単に言えば、植物は存在するにもかかわらず、まるではじめから見えていないかのように扱われがちという意味です。具体的には、動物と比べると植物は軽視される傾向があり、絶滅危惧種は植物の方が多いにもかかわらず、保全や調査のための予算は桁違いに少ないという現実があるのです。ですから、極めて希少な蘇鉄類といえども、調査のための潤沢な予算などはじめから期待できないのです。野生生物の保全のための予算は動物に偏ります。しかも、美しかったりかわいらしい動物は人気があり、保全のための活動も活発で、予算も潤沢です。対する蘇鉄類は「plant bindness」であり、地味で美しい花も咲かせず、一般には全く人気がなく、その減少や絶滅を悲しむ人は稀です。保全のための優先順位は学術的な調査より、審美眼のような感情が優先されてしまっています。悲しいことですが、これが現実なのです。
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