氷河が溶けて消失したり、海水面の上昇により太平洋の小さな島が水没の危機にあるなど、気候変動は様々な悪影響を及ぼすものであることが指摘されています。このような変化は植物にも直接的・間接的な影響を及ぼします。例えば、高山植物は気温上昇の影響をダイレクトに受けるでしょう。高山植物は氷河期に分布を広げた植物の末裔で、山頂に取り残されていますから、北方に逃げる手段がありません。じわじわと追い詰められてしまうでしょう。では、多肉植物ではどうでしょうか。暑さや乾燥に適応したものが多い多肉植物は気候変動の影響を受けにくいような気もします。ということで、本日はナミビアのユーフォルビアへの気候変動の影響を調査した、J. J. Marion Meyerらの2025年の論文、『Climate Change-Induced Decline in Succulent Euphorbia in Namibia's Arid Region』を見ていきましょう。
極度の乾燥とフェアリーサークル
ナミビアは国土の90%以上が半乾燥あるいは乾燥、極度に乾燥した地域に分類されます。ナミビアは赤道以南のアフリカでもっとも乾燥した国で、国土の大部分で頻繁に干ばつが発生しています。ナミビアには西にナミブ砂漠、東にカラハリ砂漠があります。
Meyerらは、ナミビアの乾燥した砂地の平原で、Euphorbia damarana、Euphorbia gummifera、Euphorbia gregarina などの大型の多肉植物の多くが枯死、さらには枯死の過程にあることに言及しました。砂地に草が生えている場合は、何千もの円形の不毛地帯であるフェアリーサークルが見えます(※)。
※かつて、このフェアリーサークルについて記事にしたことがあります。草が生えない丸い砂地が大量に見つかり、大型のユーフォルビアがかつて生えていた跡であるという結論でした。あれから5年で調査は進展したようです。以下に記事のリンクを貼っておきます。
航空写真による解析
1967年から1969年にかけて撮影された高品質な1/36000スケールのナミビア農業・土地改革省による航空写真と、最近の衛星画像を比較しました。調査はナミビアのランダムに選ばれた3地点で、主に砂漠の砂丘で面積は2.5〜5.0ヘクタールです。また、地上における実地検証は2022年から2024年にかけて実施されました。
比較の結果、過去50年でE. damaranaは91.3%、E. gummiferaは61.4%、E. gregarinaは88.1%の著しく高い死亡率を確認しました。
フェアリーサークル
枯死しかけているユーフォルビアのサンプルを採取し、病原菌による損傷を実体顕微鏡と光学顕微鏡を用いて目視で検査しましたが、健康状態の悪化しうる病原菌は見つかりませんでした。
また、枯死したユーフォルビアの残骸は、ガスクロマトグラフィー及びメタボロミクスにより、E. damaranaであることが確認されました。フェアリーサークルから採取されたすべての残骸からは、典型的なユーフォルビアの化合物で毒性のあるトリテルペノイドであるEupholが検出されました。植物の残骸とE. damaranaの成分分析では、化学組成に密接な類似性が見られました。
実生の調査
驚くことに、1つの地点でE. damaranaの実生(直径1.0m未満)は2つしか記録されず、E. gummiferaの実生は1つの地点では5つ、もう1つの地点ではまったく見つかりませんでした。Lewandrowskiらの研究では、種子から実生への移行は、水分が制限された条件下では温度上昇に非常に脆弱であることを実証しました。水分が制限された条件下で、温度が35〜40℃に上昇すると、種子の休眠状態に関わらず種子の定着が95〜100%失敗することが示されています。
環境による死亡率の違い
砂漠の砂丘、草原、丘陵の岩場の5ヘクタールで、ユーフォルビアの死亡率が異なるかを調査しました。岩場は砂丘と比較して、生存しているE. damaranaの割合が10倍高いことを確認しました。おそらく、粘土質土壌の割合が高い岩場に比べると、砂丘の砂質土壌は蒸発と排水率が高く保水力が低いことが考えられます。さらに、砂質土壌は気温の上昇によりさらにストレスが強まる可能性があります。草原のE. damaranaは2012年から2021年にかけて約50%減少し、砂丘では2012年の時点でほぼすべてのE. damaranaがすでに不健康な状態でした。
なぜ枯死したのか
外来種、都市化、農業の拡大、過放牧などの個体群の減少に関わる人為的な要因は、3種のユーフォルビアの減少には影響を与えていませんでした。同様に鉱業や採石、違法採取、環境汚染も関与していないようです。
調査した3地点のすべてで約2℃の気温上昇が確認されており、3種のユーフォルビアの高い死亡率の主要な原因であると考えられます。気候変動は降雨パターンにも影響を与えています。
野生動物を支えるユーフォルビア
これらのユーフォルビアは人間や家畜には有毒ですが、様々な在来動物はその枝や果実を食べています。スプリングボックやオリックス、クーズー(アンテロープの仲間)、ハートマンヤマシマウマ、クロサイ、さらには地元の住人によるとKlipspringer(アンテロープの仲間)やSteenbok(小型のアンテロープ)、ヒヒ、ヤマアラシがユーフォルビアの茎や果実を食べています。干ばつの間はこれらのユーフォルビアが草食動物にとって、重要な食料源、水分源となります。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
以前読んだフェアリーサークルに関する論文が進展し、まさか大型ユーフォルビアの減少を観測するシステムを作る段階に至っているとは驚きました。このシステムを使えば現地調査せずに環境指標をモニター出来るようになるかも知れません。しかも、過去の空撮写真も利用可能とは恐れ入りましたね。
まあ、しかし恐ろしい速度でユーフォルビアが減少していることは大変悲しいことです。実生の少なさもその将来を悲観的にさせます。おそらく、現状において出来ることはほとんどないのでしょう。干ばつ時の野生動物の重要な資源であることを思えば、その重大さはさらに増します。
なかなか野生の多肉植物については明るい話題がありません。調べれば調べるほど、暗い気持ちになってしまいますね。
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極度の乾燥とフェアリーサークル
ナミビアは国土の90%以上が半乾燥あるいは乾燥、極度に乾燥した地域に分類されます。ナミビアは赤道以南のアフリカでもっとも乾燥した国で、国土の大部分で頻繁に干ばつが発生しています。ナミビアには西にナミブ砂漠、東にカラハリ砂漠があります。
Meyerらは、ナミビアの乾燥した砂地の平原で、Euphorbia damarana、Euphorbia gummifera、Euphorbia gregarina などの大型の多肉植物の多くが枯死、さらには枯死の過程にあることに言及しました。砂地に草が生えている場合は、何千もの円形の不毛地帯であるフェアリーサークルが見えます(※)。
※かつて、このフェアリーサークルについて記事にしたことがあります。草が生えない丸い砂地が大量に見つかり、大型のユーフォルビアがかつて生えていた跡であるという結論でした。あれから5年で調査は進展したようです。以下に記事のリンクを貼っておきます。
航空写真による解析
1967年から1969年にかけて撮影された高品質な1/36000スケールのナミビア農業・土地改革省による航空写真と、最近の衛星画像を比較しました。調査はナミビアのランダムに選ばれた3地点で、主に砂漠の砂丘で面積は2.5〜5.0ヘクタールです。また、地上における実地検証は2022年から2024年にかけて実施されました。
比較の結果、過去50年でE. damaranaは91.3%、E. gummiferaは61.4%、E. gregarinaは88.1%の著しく高い死亡率を確認しました。
フェアリーサークル
枯死しかけているユーフォルビアのサンプルを採取し、病原菌による損傷を実体顕微鏡と光学顕微鏡を用いて目視で検査しましたが、健康状態の悪化しうる病原菌は見つかりませんでした。
また、枯死したユーフォルビアの残骸は、ガスクロマトグラフィー及びメタボロミクスにより、E. damaranaであることが確認されました。フェアリーサークルから採取されたすべての残骸からは、典型的なユーフォルビアの化合物で毒性のあるトリテルペノイドであるEupholが検出されました。植物の残骸とE. damaranaの成分分析では、化学組成に密接な類似性が見られました。
実生の調査
驚くことに、1つの地点でE. damaranaの実生(直径1.0m未満)は2つしか記録されず、E. gummiferaの実生は1つの地点では5つ、もう1つの地点ではまったく見つかりませんでした。Lewandrowskiらの研究では、種子から実生への移行は、水分が制限された条件下では温度上昇に非常に脆弱であることを実証しました。水分が制限された条件下で、温度が35〜40℃に上昇すると、種子の休眠状態に関わらず種子の定着が95〜100%失敗することが示されています。
環境による死亡率の違い
砂漠の砂丘、草原、丘陵の岩場の5ヘクタールで、ユーフォルビアの死亡率が異なるかを調査しました。岩場は砂丘と比較して、生存しているE. damaranaの割合が10倍高いことを確認しました。おそらく、粘土質土壌の割合が高い岩場に比べると、砂丘の砂質土壌は蒸発と排水率が高く保水力が低いことが考えられます。さらに、砂質土壌は気温の上昇によりさらにストレスが強まる可能性があります。草原のE. damaranaは2012年から2021年にかけて約50%減少し、砂丘では2012年の時点でほぼすべてのE. damaranaがすでに不健康な状態でした。
なぜ枯死したのか
外来種、都市化、農業の拡大、過放牧などの個体群の減少に関わる人為的な要因は、3種のユーフォルビアの減少には影響を与えていませんでした。同様に鉱業や採石、違法採取、環境汚染も関与していないようです。
調査した3地点のすべてで約2℃の気温上昇が確認されており、3種のユーフォルビアの高い死亡率の主要な原因であると考えられます。気候変動は降雨パターンにも影響を与えています。
野生動物を支えるユーフォルビア
これらのユーフォルビアは人間や家畜には有毒ですが、様々な在来動物はその枝や果実を食べています。スプリングボックやオリックス、クーズー(アンテロープの仲間)、ハートマンヤマシマウマ、クロサイ、さらには地元の住人によるとKlipspringer(アンテロープの仲間)やSteenbok(小型のアンテロープ)、ヒヒ、ヤマアラシがユーフォルビアの茎や果実を食べています。干ばつの間はこれらのユーフォルビアが草食動物にとって、重要な食料源、水分源となります。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
以前読んだフェアリーサークルに関する論文が進展し、まさか大型ユーフォルビアの減少を観測するシステムを作る段階に至っているとは驚きました。このシステムを使えば現地調査せずに環境指標をモニター出来るようになるかも知れません。しかも、過去の空撮写真も利用可能とは恐れ入りましたね。
まあ、しかし恐ろしい速度でユーフォルビアが減少していることは大変悲しいことです。実生の少なさもその将来を悲観的にさせます。おそらく、現状において出来ることはほとんどないのでしょう。干ばつ時の野生動物の重要な資源であることを思えば、その重大さはさらに増します。
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