サボテンの花は多肉植物の中でも、トップクラスに美しい花を咲かせます。花は受粉のためにあり、我々趣味家ではなく花粉媒介者に対するアピールのためにあります。サボテンもまた花粉媒介者に様々な方法でアピールをしていますが、単にサボテンと言ってもその戦略は様々で、花粉媒介者も虫媒花だけではなく、鳥による鳥媒花や、コウモリによるコウモリ媒花、虫媒花でも蜂だけではなく蛾媒花や蝿媒花もあります。私も植物と花粉媒介者との関係は気になっており、サボテンの花粉媒介者と受粉システムについてたびたび取り上げてきました。今回は久しぶりにサボテンの受粉システムに関する論文をご紹介しましょう。参考とするのは、Rafael Beckerらの2023年の論文、『Contrasting Pollination Strategies and Breeding Systems in Two Native Useful Cacti from』です。早速、内容を見ていきましょう。
パンパのサボテン
サボテンの多様性の大部分はメソアメリカにあり、先住民は野生種、半野生種、栽培種のサボテンから頻繁に恩恵を受けています。ブラジルはサボテンの多様性の中心の1つで、37属227種のサボテンが分布しています。中でもブラジル北東部はサボテンの多様性が高く、民族植物学的な利用も盛んです。一方でブラジルの南部にあるリオグランデ・ド・スル州には11属65種のサボテンが分布します。リオグランデ・ド・スル州には大西洋岸森林とパンパという対照的な2つの生物群が存在します。パンパは近隣のアルゼンチンやウルグアイにも広がっています。
リオグランデ・ド・スル州に分布する65種のサボテンのうち、53種がIUCN基準では絶滅の危機に瀕しており、そのほとんどがパンパの岩場に生えています。減少の原因は、生息地の喪失と違法採取によるものです。自生地の保護だけではなく、繁殖システムと送粉者への依存、または依存の欠如を理解する必要があります。これまでの、ブラジル南部のサボテンの送粉に関する研究はごくわずかです。
本研究ではリオグランデ・ド・スル州原産の、Cereus hildmannianus K.Schum.及びPereskia aculeata Mill.の繁殖システムと自然受粉を調査しました。C. hildmannianusは一般的に「Tuna」として知られており、果実は甘く刺はありません。P. aculeataは「ora-pro-nobis」と呼ばれ、広く知られています。これは、ラテン語で「我らのために祈れ」という意味で、イースターの時期に花が咲くことに由来するようです。P. aculeataの葉はタンパク質含量が高く、食用として高く評価されています。
Cereus hildmannianusの受粉
C. hildmannianusは夜間に開花し、気候条件によりますが午後9時頃に咲き始め、翌午前6時〜9時の間に咲き閉じます。花の長さは16〜20cmで、蜜は花筒の底には貯まらず、密な液滴として存在しました。蜜の量は88〜104μLで、糖の濃度は15〜29%でした。
C. hildmannianusは自家受粉した花はすべて落花したため、自家不和合性であることが示されました。他家受粉の成功率は83.3%で、自然受粉の成功率は70%でした。
送粉者として3種のスズメガが観察されました。夜間には花筒内で交尾をする甲虫が観察されましたが、柱頭には触れませんでした。夜明け後にはミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチが花粉を集めていましたが、やはり柱頭に触れませんでした。スズメガは腹側と翅で雄しべと雌しべに接触しました。スズメガの訪花のピークは午前0時から午前1時の間でした。

岩石獅子 Cereus peurvianus var. monstrosus
岩石獅子はC. hildmannianusに含まれるとされています。
市川市観賞植物園(2025年12月)
Pereskia aculeataの受粉
P. aculeataの花は昼行性で、午前6時頃に開花し、午後1時頃に閉じます。花は筒状ではなく、花被の幅は5.5〜5.8cmでした。蜜はおしべのすぐ下にあります。蜜の量は0.01mL未満で、糖の濃度は6〜15%の範囲で変動しました。
P. aculeataは自家受粉した花は、78%の高い結実率を示し、86.25%の結実率であった他家受粉した花と有意な差は見られませんでした。つまり、P. aculeataは自家和合性であることが示されました。自然受粉の成功率は100%でした。
P. aculeataの送粉者は正午以降は稀でした。観察期間中では、ハチ目、甲虫目、ハエ目が見られましたが、ハチ目がはるかに多く、マルハナバチ、クマバチ、外来性のミツバチ、小型のハリナシバチやスズメバチ類などが見られました。これらの昆虫はすべて効果的な花粉媒介者であり、雄しべと雌しべの両方に接触していました。蜂は花粉と蜜を集め、スズメバチは蜜のみを集め、甲虫(ハムシ)とハナアブは花粉のみを採餌しました。また、送粉者の訪花頻度ではハリナシバチが66%でした。
記録されたすべてのハチは、同じ花の柱頭を歩いたり着地していました。この行動は自家受粉を促進します。ハチが花に長くとどまるほど、自家受粉は促進される可能性は高くなります。ミツバチ科のハチや甲虫の訪花は長く、自家受粉を促進する可能性があります。一方、マルハナバチやクマバチのような大型のハチは花への滞在時間は短く、花粉を付着させる広い体表面から他家受粉を促進すると考えられます。

Pereskia aculeata
筑波実験植物園(2024年6月)
受粉生物学
両種は1日未満の短命な花でしたが、対照的な花の形や開花時間帯を示しました。P. aculeataの開いた円盤状の花は多様な送粉者を受け入れました。Pereskiaのような初期に分岐したグループは、汎用的な形態を示す傾向が見られます。つまり、より最近に分岐したグループは、より特殊化した送粉戦略が期待されます。C. hildmannianusの花はスズメガによるスズメガ媒(sphingophily)に適合する、夜間開花や長く香りのある蜜のある花、花筒の中に蜜があるなどの特徴を示します。長い花は長い口吻を持つ特定の訪問者だけがアクセス出来ます。花蜜の濃度はスズメガ媒のCereus peruvianusの約27%や、Cereus fernambucensisの約24%に近いものでした。P. aculeataの花の昼行性な芳香性、円盤状、鮮やかな色は、おそらくハチ媒(mellitophily)に当てはまります。花蜜の濃度は約10%で、典型的なハチ媒の花蜜濃度(約30%)より低いものでした。しかし、Faegri & van der Pijl(1979)により定義された送粉シンドロームは、野外調査により検証する必要がある仮説です。サボテン科には送粉シンドロームと実際の送粉者が一致しない事例がよく記録されています。アンデスのDenmoza rhodacanthaの花は鳥媒花を示唆する特徴を示しますが、実際にの送粉者はミツバチでした。柱状のTrichocereus pasacanaでも、花は夜行性で明らかにスズメガ媒ですが、実際にはクマバチにより受粉します。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
Pereskiaはサボテン科のもっとも原始的な形状を示す属で、樹木状に育ちサボテンには見えませんが、花は盃状の典型的なサボテン科の特徴が見られます。一般的に日中に咲く盃状の花はジェネラリストで、花は特殊化せず特定の花粉媒介者に特化していません。様々な花粉媒介者が花を訪れるため、花粉媒介者の種類が制限になりません。しかし、受粉に適さない訪花者による花粉や花蜜の窃盗もあり、花粉媒介者が少ない環境では受粉効率が低下します。花粉媒介者が少ない場合、花は自家和合性となることもあるかも知れません。Cereusはサボテン科の6亜科のうち、もっとも最後に分岐したカクタス亜科に属します。分類的にはケレウス連ケレウス亜連に属します。大型で長寿の柱状のサボテンは夜間に咲く盃状のコウモリ媒花が多く見られます。しかし、Cereus hildmannianusの花は筒状の構造を持ち、夜間に咲くことなどからスズメガ媒である可能性が高いようです。これは、長い口吻を持つスズメガに適応して進化したスペシャリストということになります。このように特定の相手に頼ることは、一蓮托生で共倒れの危険もありますが、花粉媒介者が少なかったり送粉者が安定しない環境では信頼性の高い受粉システムです。非常に強い送粉共生関係と言えるでしょう。このように、同じサボテン科の中でも多様な受粉戦略があり、花粉媒介者もまた多様であることに驚かれます。これからもサボテンの受粉システムについて記事にしていきたいと思います。
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パンパのサボテン
サボテンの多様性の大部分はメソアメリカにあり、先住民は野生種、半野生種、栽培種のサボテンから頻繁に恩恵を受けています。ブラジルはサボテンの多様性の中心の1つで、37属227種のサボテンが分布しています。中でもブラジル北東部はサボテンの多様性が高く、民族植物学的な利用も盛んです。一方でブラジルの南部にあるリオグランデ・ド・スル州には11属65種のサボテンが分布します。リオグランデ・ド・スル州には大西洋岸森林とパンパという対照的な2つの生物群が存在します。パンパは近隣のアルゼンチンやウルグアイにも広がっています。
リオグランデ・ド・スル州に分布する65種のサボテンのうち、53種がIUCN基準では絶滅の危機に瀕しており、そのほとんどがパンパの岩場に生えています。減少の原因は、生息地の喪失と違法採取によるものです。自生地の保護だけではなく、繁殖システムと送粉者への依存、または依存の欠如を理解する必要があります。これまでの、ブラジル南部のサボテンの送粉に関する研究はごくわずかです。
本研究ではリオグランデ・ド・スル州原産の、Cereus hildmannianus K.Schum.及びPereskia aculeata Mill.の繁殖システムと自然受粉を調査しました。C. hildmannianusは一般的に「Tuna」として知られており、果実は甘く刺はありません。P. aculeataは「ora-pro-nobis」と呼ばれ、広く知られています。これは、ラテン語で「我らのために祈れ」という意味で、イースターの時期に花が咲くことに由来するようです。P. aculeataの葉はタンパク質含量が高く、食用として高く評価されています。
Cereus hildmannianusの受粉
C. hildmannianusは夜間に開花し、気候条件によりますが午後9時頃に咲き始め、翌午前6時〜9時の間に咲き閉じます。花の長さは16〜20cmで、蜜は花筒の底には貯まらず、密な液滴として存在しました。蜜の量は88〜104μLで、糖の濃度は15〜29%でした。
C. hildmannianusは自家受粉した花はすべて落花したため、自家不和合性であることが示されました。他家受粉の成功率は83.3%で、自然受粉の成功率は70%でした。
送粉者として3種のスズメガが観察されました。夜間には花筒内で交尾をする甲虫が観察されましたが、柱頭には触れませんでした。夜明け後にはミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチが花粉を集めていましたが、やはり柱頭に触れませんでした。スズメガは腹側と翅で雄しべと雌しべに接触しました。スズメガの訪花のピークは午前0時から午前1時の間でした。

岩石獅子 Cereus peurvianus var. monstrosus
岩石獅子はC. hildmannianusに含まれるとされています。
市川市観賞植物園(2025年12月)
Pereskia aculeataの受粉
P. aculeataの花は昼行性で、午前6時頃に開花し、午後1時頃に閉じます。花は筒状ではなく、花被の幅は5.5〜5.8cmでした。蜜はおしべのすぐ下にあります。蜜の量は0.01mL未満で、糖の濃度は6〜15%の範囲で変動しました。
P. aculeataは自家受粉した花は、78%の高い結実率を示し、86.25%の結実率であった他家受粉した花と有意な差は見られませんでした。つまり、P. aculeataは自家和合性であることが示されました。自然受粉の成功率は100%でした。
P. aculeataの送粉者は正午以降は稀でした。観察期間中では、ハチ目、甲虫目、ハエ目が見られましたが、ハチ目がはるかに多く、マルハナバチ、クマバチ、外来性のミツバチ、小型のハリナシバチやスズメバチ類などが見られました。これらの昆虫はすべて効果的な花粉媒介者であり、雄しべと雌しべの両方に接触していました。蜂は花粉と蜜を集め、スズメバチは蜜のみを集め、甲虫(ハムシ)とハナアブは花粉のみを採餌しました。また、送粉者の訪花頻度ではハリナシバチが66%でした。
記録されたすべてのハチは、同じ花の柱頭を歩いたり着地していました。この行動は自家受粉を促進します。ハチが花に長くとどまるほど、自家受粉は促進される可能性は高くなります。ミツバチ科のハチや甲虫の訪花は長く、自家受粉を促進する可能性があります。一方、マルハナバチやクマバチのような大型のハチは花への滞在時間は短く、花粉を付着させる広い体表面から他家受粉を促進すると考えられます。

Pereskia aculeata
筑波実験植物園(2024年6月)
受粉生物学
両種は1日未満の短命な花でしたが、対照的な花の形や開花時間帯を示しました。P. aculeataの開いた円盤状の花は多様な送粉者を受け入れました。Pereskiaのような初期に分岐したグループは、汎用的な形態を示す傾向が見られます。つまり、より最近に分岐したグループは、より特殊化した送粉戦略が期待されます。C. hildmannianusの花はスズメガによるスズメガ媒(sphingophily)に適合する、夜間開花や長く香りのある蜜のある花、花筒の中に蜜があるなどの特徴を示します。長い花は長い口吻を持つ特定の訪問者だけがアクセス出来ます。花蜜の濃度はスズメガ媒のCereus peruvianusの約27%や、Cereus fernambucensisの約24%に近いものでした。P. aculeataの花の昼行性な芳香性、円盤状、鮮やかな色は、おそらくハチ媒(mellitophily)に当てはまります。花蜜の濃度は約10%で、典型的なハチ媒の花蜜濃度(約30%)より低いものでした。しかし、Faegri & van der Pijl(1979)により定義された送粉シンドロームは、野外調査により検証する必要がある仮説です。サボテン科には送粉シンドロームと実際の送粉者が一致しない事例がよく記録されています。アンデスのDenmoza rhodacanthaの花は鳥媒花を示唆する特徴を示しますが、実際にの送粉者はミツバチでした。柱状のTrichocereus pasacanaでも、花は夜行性で明らかにスズメガ媒ですが、実際にはクマバチにより受粉します。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
Pereskiaはサボテン科のもっとも原始的な形状を示す属で、樹木状に育ちサボテンには見えませんが、花は盃状の典型的なサボテン科の特徴が見られます。一般的に日中に咲く盃状の花はジェネラリストで、花は特殊化せず特定の花粉媒介者に特化していません。様々な花粉媒介者が花を訪れるため、花粉媒介者の種類が制限になりません。しかし、受粉に適さない訪花者による花粉や花蜜の窃盗もあり、花粉媒介者が少ない環境では受粉効率が低下します。花粉媒介者が少ない場合、花は自家和合性となることもあるかも知れません。Cereusはサボテン科の6亜科のうち、もっとも最後に分岐したカクタス亜科に属します。分類的にはケレウス連ケレウス亜連に属します。大型で長寿の柱状のサボテンは夜間に咲く盃状のコウモリ媒花が多く見られます。しかし、Cereus hildmannianusの花は筒状の構造を持ち、夜間に咲くことなどからスズメガ媒である可能性が高いようです。これは、長い口吻を持つスズメガに適応して進化したスペシャリストということになります。このように特定の相手に頼ることは、一蓮托生で共倒れの危険もありますが、花粉媒介者が少なかったり送粉者が安定しない環境では信頼性の高い受粉システムです。非常に強い送粉共生関係と言えるでしょう。このように、同じサボテン科の中でも多様な受粉戦略があり、花粉媒介者もまた多様であることに驚かれます。これからもサボテンの受粉システムについて記事にしていきたいと思います。
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