植物はポリネーター(花粉媒介者)を誘うために、目立つ花を咲かせ報酬として花粉や花蜜を用意します。一般的に花はジェネラリストで様々な種類のポリネーターが集まります。しかし、これはのポリネーターは必ずしも受粉に寄与するとは限らず、花の形状から不適切な場合もあり、結果的に蜜泥棒となってしまう場合もあります。さらに、環境中にポリネーターが少ない場合、ジェネラリストは受粉効率が低下します。そのため、ラン科やウマノスズクサ科などの植物は、しばしば特定のポリネーターを呼び寄せることに特化したスペシャリストです。この植物とポリネーターの関係は、関係性が強くなるほど受粉は安定し確実性が増します。この植物とポリネーターのもっとも進んだ関係性を絶対送粉共生と呼び、イチジクとイチジクコバチ、ユッカとユッカガ、コミカンソウとハナホソガの関係が有名です。以前、ユッカとユッカガの絶対送粉共生について記事にしていますが、これはただ特定の相手を呼び寄せるだけではなく、ユッカガは故意にユッカの花粉を運び受粉させます。ユッカガは受粉したユッカに産卵することにより、ユッカガの幼虫はユッカの果実の一部を食べて育つのです。これは、互いに相手がなくてはならない関係性にまで発展しているのです。
ユッカとユッカガの関係性については以下の記事をご参照下さい。
さて、ユッカとユッカガの関係性はこれだけではありません。ユッカガに近縁な仲間であるニセユッカガなる蛾が存在するのです。果してこのニセユッカガはユッカに対して、いかなる影響を与えているのでしょうか。本日は、David M. Althoff & Kari A. Segraves & Jed D. Sparksの2024年の論文、『Characterizing the interaction between the bogus yucca moth and yuccas: do bogus yucca moth impact yucca reproductive success?』をご紹介しましょう。

Yucca gloriosa
筑波実験植物園(2025年12月)
ユッカとユッカ蛾
花粉媒介者であるユッカ蛾の幼虫はユッカのみを餌とし、雌の蛾は産卵した花を積極的に受粉させます。生長中の蛾の幼虫は果実内の種子の一部を消費するため、互いに有益です。この相利共生は植物に内在する要因と、蛾の幼虫の外在的な死亡要因により均衡が保たれています。特定の地域において、1種のユッカを利用する花粉媒介者は通常1〜2種に過ぎませんから、相利共生の進化を研究することは容易です。

Yucca aloifolia
小石川植物園(2025年7月)
偽ユッカ蛾
ユッカは花粉を媒介する蛾との相利共生に加え、他の相利共生しない蛾(prodoxid moths)にも利用されます。花粉を媒介するTegeticula系統の蛾の中には、花粉を媒介しないにも関わらず種子を食べる2種のチート種(cheater species) が進化しました。他にもユッカの種子以外を食べ花粉を媒介しないProdoxusという蛾も存在します。
Prodoxusは広く分布し、Yucca reverchoni以外のほとんどのユッカにおいて、媒介を媒介するユッカ蛾と共存しています。Prodoxusは日中はユッカの花の中で休んでおり、夜間にユッカの花の中で交尾します。しかし、Prodoxusには花粉を媒介するための特殊な口器持ちません。Prodoxus decipiensが繰り返し花粉媒介者と誤認されてきたことから、1880年に「偽ユッカ蛾」(bogus yucca moth)と命名されました。これ以降、偽ユッカ蛾という名称は属全体に適用され、利用するユッカの種類と利用部位が異なる11種の偽ユッカ蛾が記載されています。うち、7種は花序や花茎を食べ、3種は果実を食べ、1種はleafminer(潜葉虫)です。

Yucca gloriosa
新宿御苑(2025年10月)
ユッカと偽ユッカ蛾
本研究では花茎摂食性のProdoxus decipiensと、その宿主であるYucca filamentosaとの相互作用を調べました。調査地はフロリダ州中央部にあるLake Wales山脈に位置する2地点です。
Y. filamentosaは近年になり攪乱された地域に生育しています。通常は2〜3年に1回開花し、1〜2mの円錐花序を伸ばします。調査地では4月に開花が始まり6月まで続きました。花序には最大300個以上の花がつき、6〜15日間かけて開花します。花は夕暮れに開花し翌朝には閉じます。開花初日に受粉しなかった花は脱落します。1つの蒴果からは250個以上の種子が生産される可能性があります。
P. decipiens(以下、偽ユッカ蛾)はアメリカ合衆国の東海岸からテキサス州中部のEdwards高原にかけて西に分布し、分布域全体では4種のユッカを餌にします。また、研究対象地域ではY. filamentosa(以下、ユッカ)のみを餌としています。偽ユッカ蛾は夜行性でユッカの花の中で交尾し、雌の蛾はユッカの花茎に産卵します。幼虫は花茎の組織を摂食します。5齢幼虫は花茎の外から数mmまで摂食し、絹糸の繭を作り休眠します。

Yucca carnerosana
筑波実験植物園(2025年2月)
偽ユッカ蛾の影響
ユッカに対する偽ユッカ蛾の影響を評価するために、偽ユッカ蛾に暴露した10 株のユッカと、ケージで囲い蛾が排除した10株のユッカを比較しました。蛾を排除したユッカは、手作業で受粉させました。
偽ユッカ蛾に暴露したユッカは、花茎に平均23.0±6.44匹の偽ユッカ蛾を確認しました。しかし、偽ユッカ蛾を排除しても、開花数や開花期間、結実に差は見られませんでした。種子の生産にも影響はなく、種子の発芽率にも差はありませんでした。種子の発芽率に影響を与えたのは花序の高さで、花序が高いユッカほど種子の発芽率が高く発芽も早いものでした。
ユッカの種子の窒素含量を測定したところ、偽ユッカ蛾が存在した場合は種子の窒素含量が低下することが明らかとなりました。この減少の度合いは、花茎に存在する偽ユッカ蛾の数に依存し、負の相関が確認されました。種子の窒素含量が低下しているにも関わらず、種子の数や発芽率には影響がありませんでした。しかし、窒素含量は発芽率ではなく、その後の生長に重要なのかも知れません。また、ユッカの開花が少ない年には、花茎内の偽ユッカ蛾の密度が高まり、より種子の窒素含量が低下する可能性があります。

Yucca rostrata?
筑波実験植物園(2024年6月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユッカ蛾の他に様々なタイプの偽ユッカ蛾が存在し、偽ユッカ蛾はユッカを食害するだけで受粉には寄与しません。論文では花茎を食害するタイプの偽ユッカ蛾の影響を研究しています。結果として、偽ユッカ蛾の開花や結実に対する影響は見られませんでした。しかし、種子の窒素含量の低下が明らかとなりました。このことが、発芽率に影響を与えないとしても、苗の定着には無関係ではないかも知れません。体内では窒素はタンパク質の成分ですから、何かしらの影響はあるはずです。
さて、偽ユッカ蛾には果実を食害する種もあるようですが、このタイプの偽ユッカ蛾はユッカ蛾と競合することはないのでしょうか。ここらへんは気になるところです。少し調べてみましょう。
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ユッカとユッカガの関係性については以下の記事をご参照下さい。
さて、ユッカとユッカガの関係性はこれだけではありません。ユッカガに近縁な仲間であるニセユッカガなる蛾が存在するのです。果してこのニセユッカガはユッカに対して、いかなる影響を与えているのでしょうか。本日は、David M. Althoff & Kari A. Segraves & Jed D. Sparksの2024年の論文、『Characterizing the interaction between the bogus yucca moth and yuccas: do bogus yucca moth impact yucca reproductive success?』をご紹介しましょう。

Yucca gloriosa
筑波実験植物園(2025年12月)
ユッカとユッカ蛾
花粉媒介者であるユッカ蛾の幼虫はユッカのみを餌とし、雌の蛾は産卵した花を積極的に受粉させます。生長中の蛾の幼虫は果実内の種子の一部を消費するため、互いに有益です。この相利共生は植物に内在する要因と、蛾の幼虫の外在的な死亡要因により均衡が保たれています。特定の地域において、1種のユッカを利用する花粉媒介者は通常1〜2種に過ぎませんから、相利共生の進化を研究することは容易です。

Yucca aloifolia
小石川植物園(2025年7月)
偽ユッカ蛾
ユッカは花粉を媒介する蛾との相利共生に加え、他の相利共生しない蛾(prodoxid moths)にも利用されます。花粉を媒介するTegeticula系統の蛾の中には、花粉を媒介しないにも関わらず種子を食べる2種のチート種(cheater species) が進化しました。他にもユッカの種子以外を食べ花粉を媒介しないProdoxusという蛾も存在します。
Prodoxusは広く分布し、Yucca reverchoni以外のほとんどのユッカにおいて、媒介を媒介するユッカ蛾と共存しています。Prodoxusは日中はユッカの花の中で休んでおり、夜間にユッカの花の中で交尾します。しかし、Prodoxusには花粉を媒介するための特殊な口器持ちません。Prodoxus decipiensが繰り返し花粉媒介者と誤認されてきたことから、1880年に「偽ユッカ蛾」(bogus yucca moth)と命名されました。これ以降、偽ユッカ蛾という名称は属全体に適用され、利用するユッカの種類と利用部位が異なる11種の偽ユッカ蛾が記載されています。うち、7種は花序や花茎を食べ、3種は果実を食べ、1種はleafminer(潜葉虫)です。

Yucca gloriosa
新宿御苑(2025年10月)
ユッカと偽ユッカ蛾
本研究では花茎摂食性のProdoxus decipiensと、その宿主であるYucca filamentosaとの相互作用を調べました。調査地はフロリダ州中央部にあるLake Wales山脈に位置する2地点です。
Y. filamentosaは近年になり攪乱された地域に生育しています。通常は2〜3年に1回開花し、1〜2mの円錐花序を伸ばします。調査地では4月に開花が始まり6月まで続きました。花序には最大300個以上の花がつき、6〜15日間かけて開花します。花は夕暮れに開花し翌朝には閉じます。開花初日に受粉しなかった花は脱落します。1つの蒴果からは250個以上の種子が生産される可能性があります。
P. decipiens(以下、偽ユッカ蛾)はアメリカ合衆国の東海岸からテキサス州中部のEdwards高原にかけて西に分布し、分布域全体では4種のユッカを餌にします。また、研究対象地域ではY. filamentosa(以下、ユッカ)のみを餌としています。偽ユッカ蛾は夜行性でユッカの花の中で交尾し、雌の蛾はユッカの花茎に産卵します。幼虫は花茎の組織を摂食します。5齢幼虫は花茎の外から数mmまで摂食し、絹糸の繭を作り休眠します。

Yucca carnerosana
筑波実験植物園(2025年2月)
偽ユッカ蛾の影響
ユッカに対する偽ユッカ蛾の影響を評価するために、偽ユッカ蛾に暴露した10 株のユッカと、ケージで囲い蛾が排除した10株のユッカを比較しました。蛾を排除したユッカは、手作業で受粉させました。
偽ユッカ蛾に暴露したユッカは、花茎に平均23.0±6.44匹の偽ユッカ蛾を確認しました。しかし、偽ユッカ蛾を排除しても、開花数や開花期間、結実に差は見られませんでした。種子の生産にも影響はなく、種子の発芽率にも差はありませんでした。種子の発芽率に影響を与えたのは花序の高さで、花序が高いユッカほど種子の発芽率が高く発芽も早いものでした。
ユッカの種子の窒素含量を測定したところ、偽ユッカ蛾が存在した場合は種子の窒素含量が低下することが明らかとなりました。この減少の度合いは、花茎に存在する偽ユッカ蛾の数に依存し、負の相関が確認されました。種子の窒素含量が低下しているにも関わらず、種子の数や発芽率には影響がありませんでした。しかし、窒素含量は発芽率ではなく、その後の生長に重要なのかも知れません。また、ユッカの開花が少ない年には、花茎内の偽ユッカ蛾の密度が高まり、より種子の窒素含量が低下する可能性があります。

Yucca rostrata?
筑波実験植物園(2024年6月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ユッカ蛾の他に様々なタイプの偽ユッカ蛾が存在し、偽ユッカ蛾はユッカを食害するだけで受粉には寄与しません。論文では花茎を食害するタイプの偽ユッカ蛾の影響を研究しています。結果として、偽ユッカ蛾の開花や結実に対する影響は見られませんでした。しかし、種子の窒素含量の低下が明らかとなりました。このことが、発芽率に影響を与えないとしても、苗の定着には無関係ではないかも知れません。体内では窒素はタンパク質の成分ですから、何かしらの影響はあるはずです。
さて、偽ユッカ蛾には果実を食害する種もあるようですが、このタイプの偽ユッカ蛾はユッカ蛾と競合することはないのでしょうか。ここらへんは気になるところです。少し調べてみましょう。
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