竜血樹とは厳密に言えば、マカロネシアに分布するドラカエナ(Dracaena、ドラセナ)であるD. dracoを指します。一般的にはソコトラ島産のD. cinnabariも竜血樹と呼ばれますし、「竜血」が採れる全ての種を指す場合もあります。この「竜血」(Dragon's blood)は竜血樹から採取される赤色の樹脂で、薬用などの用途のために古くから取り引きされてきました。
本日はこの「竜血」の役割について解析した、Joanna Juna-Morawiec、Jan Marcinkiewicz、Juli Caujape-Castellsの2022年の論文、『Unraveling the role of dragon's blood in the undisturbed growth of dragon tree』をご紹介しましょう。
植物の化学防御システム
植物は様々な環境に適応するために多様なメカニズムを持ち、病原体や植食者の攻撃に対する毒や忌避物質などによる化学防御もその1つです。これらの物質は樹脂管(resin ducts)、乳管(laticifers)、腺毛状突起(glandular trichomes)、あるいは非分泌細胞や組織に蓄積される可能性があります。樹脂の生成と分泌は、裸子植物と被子植物の双子葉類で一般的で、単子葉類ではサトイモ科、ヤシ科、キジカクシ科、ツルボラン科、ススキノキ科でのみ確認されています。


Dracaena draco
夢の島熱帯植物館(2024年12月)
竜血樹
本研究はグラン・カナリア島の植物園である「Viera y Clavijo」において、屋外に育つ様々な年齢の竜血樹を用いられました。マカロネシアやモロッコ、カーボベルデ島固有のD. draco、グラン・カナリア島固有のD. tamaranae、ソコトラ島固有のD. cinnabariのロゼットを観察しました。

Dracaena draco
左のヤシはWashingtonia filifera。
筑波実験植物園(2024年6月)
観察
竜血樹では樹脂の存在を示す赤みがかる色素沈着は葉の基部に限られていました。
葉の基部の切片を顕微鏡で観察したところ、樹脂層はロゼットの先端の近く、発育中の葉の基部に観察されました。幹が木質化する柔組織の近くに樹脂層はあり、最終的に葉の基部全体に広がる離層を形成し始めました。葉が落ちた後は、樹脂は葉痕の維管束を塞ぎ、葉痕の細胞壁と細胞の間の空間を満たしました。
樹脂の新たな機能
竜血樹における樹脂分泌は、葉と葉のない成熟した幹を保護する組織の正常な発達に必要であることを示唆します。これは、樹脂の見過ごされてきた機能です。なぜなら、これまでの研究は①樹脂の化学成分と薬効の重要性、または②組織の機械的な損傷後、あるいは菌類の接種後の樹脂分泌に焦点を当ててきたからです。
樹脂は落葉と組織の保護層の形成を助けることが示されます。樹脂は茎頂付近にかなり早い時期に現れますが、竜血樹はヤシの葉と同様に落葉するまでに数年かかるため、葉の分離の経過はゆっくりと進行します。
竜血樹は樹齢が増すにつれ、樹脂で覆われる葉の基部表面の面積が拡大します。竜血樹の葉の基部は貯水槽でもあるため、3つの説明が考えられます。
①樹脂は視覚的、機械的、化学的な防御として、さらに乾燥から保護し、昆虫の侵入を防ぐ役割が考えられます。実際に樹脂がオレンジ色や赤色の有毒な樹脂が、警告色である可能性が指摘されています。そのため、葉が古くなると基部が広くなり、保護すべき範囲が広くなります。
②葉の基部の樹脂は水分が少なく葉が縮小した時に生じた損傷により生じた可能性があります。
③樹脂で覆われた表面は落葉の準備で、離層の樹脂の生産量の増加と関係している可能性があります。
竜血樹は落葉後に葉痕と芽痕が幹の表面を完全に覆い、種により特異的な模様を形成します。葉痕の輪郭は、樹齢約50年の個体でも場合により視認出来ます。幹を覆う組織は比較的薄く、幹表面の樹脂は病原菌の侵入や乾燥に対する防御力を高める重要な適応であると考えられます。また、自然環境下の竜血樹は密集した群落を形成しないため、幹を紫外線から保護する必要があります。樹脂は主にフラボノイドで構成され、紫外線の遮蔽と吸収に働きます。

Dracaena draco
新宿御苑(2024年9月)
本日はこの「竜血」の役割について解析した、Joanna Juna-Morawiec、Jan Marcinkiewicz、Juli Caujape-Castellsの2022年の論文、『Unraveling the role of dragon's blood in the undisturbed growth of dragon tree』をご紹介しましょう。
植物の化学防御システム
植物は様々な環境に適応するために多様なメカニズムを持ち、病原体や植食者の攻撃に対する毒や忌避物質などによる化学防御もその1つです。これらの物質は樹脂管(resin ducts)、乳管(laticifers)、腺毛状突起(glandular trichomes)、あるいは非分泌細胞や組織に蓄積される可能性があります。樹脂の生成と分泌は、裸子植物と被子植物の双子葉類で一般的で、単子葉類ではサトイモ科、ヤシ科、キジカクシ科、ツルボラン科、ススキノキ科でのみ確認されています。


Dracaena draco
夢の島熱帯植物館(2024年12月)
竜血樹
本研究はグラン・カナリア島の植物園である「Viera y Clavijo」において、屋外に育つ様々な年齢の竜血樹を用いられました。マカロネシアやモロッコ、カーボベルデ島固有のD. draco、グラン・カナリア島固有のD. tamaranae、ソコトラ島固有のD. cinnabariのロゼットを観察しました。

Dracaena draco
左のヤシはWashingtonia filifera。
筑波実験植物園(2024年6月)
観察
竜血樹では樹脂の存在を示す赤みがかる色素沈着は葉の基部に限られていました。
葉の基部の切片を顕微鏡で観察したところ、樹脂層はロゼットの先端の近く、発育中の葉の基部に観察されました。幹が木質化する柔組織の近くに樹脂層はあり、最終的に葉の基部全体に広がる離層を形成し始めました。葉が落ちた後は、樹脂は葉痕の維管束を塞ぎ、葉痕の細胞壁と細胞の間の空間を満たしました。
樹脂の新たな機能
竜血樹における樹脂分泌は、葉と葉のない成熟した幹を保護する組織の正常な発達に必要であることを示唆します。これは、樹脂の見過ごされてきた機能です。なぜなら、これまでの研究は①樹脂の化学成分と薬効の重要性、または②組織の機械的な損傷後、あるいは菌類の接種後の樹脂分泌に焦点を当ててきたからです。
樹脂は落葉と組織の保護層の形成を助けることが示されます。樹脂は茎頂付近にかなり早い時期に現れますが、竜血樹はヤシの葉と同様に落葉するまでに数年かかるため、葉の分離の経過はゆっくりと進行します。
竜血樹は樹齢が増すにつれ、樹脂で覆われる葉の基部表面の面積が拡大します。竜血樹の葉の基部は貯水槽でもあるため、3つの説明が考えられます。
①樹脂は視覚的、機械的、化学的な防御として、さらに乾燥から保護し、昆虫の侵入を防ぐ役割が考えられます。実際に樹脂がオレンジ色や赤色の有毒な樹脂が、警告色である可能性が指摘されています。そのため、葉が古くなると基部が広くなり、保護すべき範囲が広くなります。
②葉の基部の樹脂は水分が少なく葉が縮小した時に生じた損傷により生じた可能性があります。
③樹脂で覆われた表面は落葉の準備で、離層の樹脂の生産量の増加と関係している可能性があります。
竜血樹は落葉後に葉痕と芽痕が幹の表面を完全に覆い、種により特異的な模様を形成します。葉痕の輪郭は、樹齢約50年の個体でも場合により視認出来ます。幹を覆う組織は比較的薄く、幹表面の樹脂は病原菌の侵入や乾燥に対する防御力を高める重要な適応であると考えられます。また、自然環境下の竜血樹は密集した群落を形成しないため、幹を紫外線から保護する必要があります。樹脂は主にフラボノイドで構成され、紫外線の遮蔽と吸収に働きます。

Dracaena draco
新宿御苑(2024年9月)