バオバブ(Baobab)と言えばアフリカに生える、ずんぐりした幹から短い枝が伸びる奇妙な姿を思い浮かべます。私も植物園で実際にバオバブを見たりしましたが、流石に国内の植物園ではあの威容は見られません。まあ、そもそもあの見た目になるためには樹齢が最低でも数百年はかかりますから、どだい無理な話です。そういえば、この前行った東京農業大学のバイオリウム温室にて、バオバブの種子を販売していたので何となく購入してみました。本来なら気温が高い夏に播種すべきでしたが、既に10月末でしたから発芽しない可能性もあり悩みました。来年まで種子が生きているか分からなかったため、3粒は播種して残り3粒は来年に播種しようということになりました。結局、夏に播種したら直ぐに発芽するようですが、3週間かかって3粒とも無事に発芽しました。ということで、せっかくですからバオバブの論文をご紹介します。本日、ご紹介するのはJun-Nan Wanらの2024年の論文、『The rise of Baobab trees in Madagascar』です。


251116143121307
Adansonia digitata


バオバブの分子系統
現存するバオバブは8種で、アフリカ大陸に分布するAdansonia digitata、オーストラリア北西部に分布するA. gregorii、マダガスカルな分布するA. rubrostipa、A. za、A. madagascariensis、A. perrieri、A. grandidieri、A. suarezensisからなります。

※A. rubrostipa=A. fony var. rubrostipa
 
    ┏A. digitata
┏┫
┃┗A. gregorii
┃    Brevitubae
┫┏A. suarezensis
┃┃
┗┫┏A. grandidieri
    ┃┃   Longitubae
    ┗┫┏A. za
        ┃┃
        ┃┃    ┏A. rubrostipa
        ┗┫┏┫
            ┃┃┗A. madagascariensis
            ┗┫
                ┗A. perrieri



バオバブの分子系統にはゲノム全体の系統の不一致が見られ、遺伝子移入などの可能性があります。著者らは3つのアプローチにより遺伝子移入の影響を調査しました。パターソンのD統計量により、A. gregoriiとマダガスカルのバオバブとの間で遺伝子移入の強力な証拠が示されました。それを考慮すると、A. gregoriiを参照ゲノムとした場合を除き、全てを参照ゲノムで同様の結果が得られました。マダガスカルのバオバブの場合、姉妹群ではない系統間で共有対立遺伝子が頻繁に出現するのは、種間交雑の結果であると考えられます。例えば、ある解析方法によりA. zaとA. perrieriの間で広く遺伝子流動しています。これは、形態学的に中間的な個体の存在や、分布と開花時期の重複により交雑が継続していることを示唆しています。同様に、A. zaとA. rubrostipaの間でも遺伝子流動が予測されています。重要なのはBrevitubaeの祖先と、A. rubrostipa以外のLongitubaeの共通祖先との間の遺伝子流動を示していることです。開花時期がBrevitubaeは乾季でLongitubaeが雨季であることから、開花時期が変化する前に交雑が起きた可能性があります。

A. digitataとA. gregoriiは姉妹群であり、A. gregoriiとマダガスカルのバオバブとの間で遺伝子流動があることから、A. gregoriiはマダガスカルのバオバブと同所していたことが推測されます。さらに、マダガスカルのバオバブは、他の2種から分岐した後に遺伝子流動が起きたことを意味します。さらに、複数の解析でA. digitataとマダガスカルのバオバブとの間に遺伝子流動の兆候が見られ、A. digitata、あるいはA. digitataとA. gregoriiの祖先とマダガスカルのバオバブか同所していた可能性があります。


250809095025388
Adansonia digitata
新宿御苑(2025年8月)



地質と環境
A. zaはもっとも広範囲な環境条件に耐性があり、他の種が占めるニッチの多くを包含します。A. zaは潜在的にニッチをめぐる競争力が強く、局所的に分布しA. zaと分布が重なるA. suarezensis、A. grandidieri、A. perrieriと置き換えることが出来ます。Longitubaeの全ての種はニッチが重複しています。A. suarezensisとA. grandidieriは系統的距離が近いにも関わらず、非常に異なるニッチを示しており、地理的隔離の後に局所的に適応したと考えられます。また、マダガスカルの気温や高度、降水量の不均一性が、現在のバオバブの分布につながる主たる環境要因である可能性がデータから示されています。A. madagascariensisとA. rubrostipaは主に気温と高度の影響を受けており、他の種は主に降水量と高度の影響を受けています。


250713110920048

250713110909927
Adansonia digitata
小石川植物園(2025年7月)


著者らは過去1000万年の平均海面がマダガスカルのバオバブの分布に及ぼした影響を調べました。約400万年前にマダガスカルは約11%小さく、約2万年前には19%大きくなっています。海面が比較的低かった時代には、バオバブの分布は拡大と分散に適していたと考えられますが、海面が高かった時期には適した地域が狭まり、個体群の断片化、種の隔離、遺伝子流動の減少につながりました。1000万年前から現在までマダガスカル北部が隆起し火山活動も起きており、バオバブに影響を与えたと考えられます。海面レベルの変化と古地理学的イベントにより、マダガスカル北部でA. suarezensisとA. perrieriの分布が限られていることが説明出来ます。しかし、過去においては分布が広かった可能性があります。分布域が広いA. zaとA. madagascariensisは、個体群の拡大により他のバオバブ種の個体群減少に関係した可能性もあります。


251011100652880
Adansonia gregorii
東京農業大学バイオリウム(2025年10月)



バオバブの起源
バオバブは化石がないため、その起源地域を特定することら困難でした。しかし、種間の移入の証拠から、A. gregoriiは属の多様化の過程で分岐したマダガスカルのバオバブと同所していた可能性が高いと考えられます。この仮定に基づくと、「アフリカ大陸起源」仮説では3つのシナリオがあります。1つは現在のマダガスカルのバオバブは、アフリカで絶滅する前にいくつかの分散イベントによりマダガスカルに定着したというものです。これは、マダガスカルのバオバブの多様化がアフリカ大陸で起きた場合ですが、これは可能性が低いと言えます。2つ目は現在のマダガスカルのバオバブの祖先がマダガスカルに定着しマダガスカルで多様化したというものです。この場合、オーストラリア原産のA. gregoriiとマダガスカルのバオバブの間で、それぞれが独立して海洋を越えた遺伝子交流が必要です。しかし、このような海洋を越えた遺伝子交流の実証例がないため、このシナリオも可能性が低いと言えます。3 つ目はアフリカからマダガスカルへ2回の海洋を越えた分散があった可能性です。マダガスカルのバオバブの祖先が多様化し、マダガスカルのバオバブと交雑したマダガスカルで絶滅したであろうA. gregorii系統があるはずです。これも、海洋を越えた分散が必要です。

「オーストラリア起源」仮説は、「アフリカ大陸起源」仮説と同様に複数の独立した分散と、大規模な海洋を横断した遺伝子流動が必要です。さらに、A.
gregoriiの祖先にボトルネックが存在する可能性が高く、これは長距離分散の結果として生じるため疑問視されています。

上記の2つの仮説と比べ、「マダガスカル起源」仮説はもっとも合理的な説明が可能です。まず、マダガスカルからオーストラリアへのA. gregoriiの分散が1 回で済み、ありそうもない海洋横断遺伝子流動や複数回の分散といったファクターを緩和します。さらに、マダガスカルを起源とした場合のみ、マダガスカル系統とそれ以外のバオバブとの地理的隔離が、マダガスカル系統の多様化の後に生じ、全てのバオバブの間での遺伝子流動を可能とします。この仮説ではマダガスカルのバオバブとA. gregoriiやA. digitataの間にある遺伝子流動と整合性があります。


251011094836190
Adansonia za
東京農業大学バイオリウム(2025年10月)



最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
論文では他にもバオバブの保全状況についても記述がありますが割愛させていただきます。単純に開発等によるダメージだけではなく、バオバブの種間で競争があることも懸念点のようです。
さて、内容的に中心となるのはバオバブの伝播についてです。アフリカ大陸、マダガスカル、オーストラリアと3つの海洋を挟んだ離れた分布を持ちますから、いかなる経路を辿ったかは気になるところです。一般的な考え方では、種が多様なマダガスカルが起源で、アフリカ大陸やオーストラリアに派生したというのが分かりやすいのですが、そう簡単ではありません。例えばですが、起源地は環境が厳しいなどあまり増殖出来ずに種分化が抑えられ、環境の良い伝播先で一気に種分化したというシナリオもあるでしょう。または、起源地の環境が変わったり他植物との競争があったりして絶滅してしまい種数が減少し、一見して伝播先の方が種数があるように見えることもあるかも知れません。そもそも、起源地では絶滅してしまい現存しない可能性すら存在します。このように、進化の歴史を辿らないと、現在の分布=結果だけ見てしまうと誤る可能性があります。論文では現存するバオバブはマダガスカルを起源とした場合に整合性があるとしています。しかし、実際の伝播経路はどうなるのでしょうか。大陸がくっついていたパンゲア大陸ということになるのかは論文を読んだだけではよくわかりませんでした。ぜひ、分岐年代を特定してほしいところです。


ブログランキング参加中です。
下のにほんブログ村のバナーをクリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村