植物の中にはサボテンやバラなど、トゲを持つものが沢山あります。この植物のトゲは、基本的には外敵から身を守るための防御として働きます。サボテンやユーフォルビアなど多肉植物にはトゲを持つものが多く、私も植物のトゲに関するいくつかの論文をご紹介してきました。例えば、トゲには遮光や温度調整の役割、さらには寄生植物に抵抗する働きもあるとされています。他にも多肉植物の派手な色合いのトゲは、警告色として働き草食動物に対する忌避効果が考えられます。しかし、トゲがシンボリックで目立つことが、ネガティブに働くこともあるようです。本日、ご紹介するのはKevin D. Kohlらの2015年の論文、『Evolutionary irony: evidence that 'defensive' plant spines act as a proximate cue to attract a mammalian herbivore』です。


トゲは防御に有効か?
多くの植物は、草食動物による食害を防ぐために防御機構を発達させています。しかし、植物のトゲが草食動物に対する防御としての有効性を検証した多くの検証では、一貫性のない結果となっています。
この曖昧な結果は、草食動物の対抗適応(counter-adaptation)であると考えられます。
著者らはサボテンを専門に食べるwhite-throated woodrat(Neotoma albigula、以下ウッドラット)で潜在的な対抗適応を検証しました。



サボテンが主食
ユタ州キャッスルバレーに生息するウッドラットの毛に含まれる安定同位体を分析したところ、生息地に生える他の植物と一致せず、ウチワサボテン(Opuntia macrorhiza × Opuntia polycantha)と一致しました。キャッスルバレーに生息するウッドラットはウチワサボテンを主食としていることが分かりました。


飼育下における嗜好性
野生で捕獲され飼育下にあるウッドラットにトゲのあるウチワサボテンと、トゲを切除したウチワサボテンを与えたところ、8匹中7匹はトゲのあるウチワサボテンを巣に持ち帰りました。持ち帰らなかった1匹は、トゲのあるサボテンを置いた場所に巣を作ってしまったためです。また、ウッドラットはサボテンのトゲを切り取り、ほとんどの部位を食べることが出来ました。
また、飼育下で生まれた2個体のウッドラットも、トゲのあるウチワサボテンを巣に持ち帰りました。飼育下で生まれたウッドラットもまたサボテンのトゲを切り取る行動を示しました。


トゲが目印
サボテンのトゲの防御としての有効性を検証しましたが、ウッドラットの行動適応によりトゲには効果がないことが分かりました。興味深いことに、ウッドラットはトゲのないサボテンよりトゲのあるサボテンを好んでいます。サボテンはトゲのあるものはないものよりタンパク質含有率が高く繊維含有率が低いことが分かっています。これらのことから、トゲがウッドラットを引き付けるための手掛かりとして機能しているように見えます。


トゲの対抗適応
ウッドラットはトゲの防御を克服するために、サボテンのトゲを切り取るという独特の行動を示しました。しかし、同属のN. lepidaはトゲを切り取る行動は示さず、トゲのない部位を齧るだけでした。そして、飼育下で生まれたウッドラットもトゲを切り取ったため、この行動は生得的なものであると考えられます。
サボテンの分析結果から、トゲのあるサボテンはシュウ酸濃度が高いことが分かりました。しかし、ウッドラットはシュウ酸が9%も含まれる餌でも悪影響なく摂餌出来るため、サボテンの1.3〜1.5%の濃度のシュウ酸濃度は、行動を決める重大な要因ではないと考えられます。
ウッドラットはトゲを除去したサボテンよりトゲあるサボテンを好みましたが、このトゲを除去したサボテンはトゲのあるサボテンと同じものであり、その栄養価に違いはありません。ウッドラットはある程度の栄養価の違い、すなわち「栄養的知恵」(nutritional wisdom)を持っています。よって、採餌においては「経験則」仮説によるものと考えられます。例えば、捕食者は獲物の栄養価を調べることは出来ませんが、代わりに大きな獲物=収益性の高い獲物として、獲物のサイズを指標にしています。同様に草食動物は、大きさな色などの目に見える指標を持って選択することがあります。ウッドラットは、繊維質が少なく栄養価が高い可能性が高いトゲのあるサボテンを経験則により選択していると考えられます。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ウッドラットがより栄養価が高いトゲのあるサボテンを選択しているという話でした。ウッドラットもニオイや見た目から栄養価を判断する能力は持っていますが、トゲのあるサボテンの方が栄養価が高いという経験則から、わざわざ調べないという合理的な判断で行動しているのです。特にネズミのような小型の動物は、餌を探したり採取するのは危険が伴う行為で、なるべく素早く済まして巣に帰る方が良いということになります。実際にウッドラットはサボテンを切り取り巣に持ち帰って食べます。ゆっくり餌を調べることが出来ない場合、つまり素早く餌を探さなくてはならない時に、当てずっぽうで採取した餌が栄養価が高かったり低かったりするより、トゲがある=栄養価が高いという指標があれば、素早く栄養価が高い餌を採取することが出来るのです。
対抗適応(counter-adaptation)という言葉が出てきましたが、これは毒を持つ植物に対しその毒に耐性を獲得した昆虫の例などがよく知られています。植食者が対抗適応を獲得していると、植物の物理防御や化学防御に効果がないように見えてしまいます。ですから、トゲのような植物の物理防御を調査した場合に、植物の周囲の環境に住む植食者は対抗適応を有している可能性がありますから、トゲの効果はいまいちはっきりしないものとなります。しかし、サボテンのトゲは様々な植食者に対する物理防御として働きますから、1種の植食者の対抗適応だけでその効果を測るべきではないでしょう。
まったく、生物の生態は恐ろしく複雑で、その関係性を知るだけでもこのような難しさがあります。サボテンの他の生物との関わりを含めた生態は、一般的にはあまり知られていないように思われます。これからも、そのような論文をご紹介していければと考えております。




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