サボテン科全体を分子系統により分類した論文の続きです。引き続きJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。本日はCactus亜科のPhyllocactus連を見ていきます。Phyllocactus連は森林性サボテンで、熱帯林に分布ししばしば着生します。クジャクサボテンや月下美人、三角柱や金紐などのヒモサボテンが有名です。Echinocereus亜連は次回に扱います。


Cactus亜科の分子系統(連レベル)
本日はPhyllocactus連を扱います。

 ┏Lymanbensonieae
┏┫
┃┗Copiapoeae

┫┏Cacteae
┃┃
┗┫┏Phyllocacteae
    ┃┃
    ┗┫    ┏Fraileeae 
        ┃┏┫
        ┃┃┗Rhipsalideae
        ┗┫
            ┃┏Notocacteae
            ┗┫
                ┗Cereeae


★Phyllocactus連(※1)
※1: Echinocereeae、Hylocereeae、Leptocereeae、Pachycereeae、Monvilleeae、Peniocereeaeを含む。

Phyllocactus連の分子系統(亜連レベル)

Corryocactinae

┫┏Leptocereinae
┃┃
┗┫┏Hylocereinae
    ┗┫
        ┗Echinocereinae


Phyllocactus連は長らくHylocereus連(2001, 2005)の名前で知られていましたが、Phyllocactus連(1845)が優先されます。初期の分岐のいくつかは支持が乏しいのですが、多様なPhyllocactus連の複雑な関係性を強調するために4亜連を認めます。Phyllocactus連は多数の独立した着生が見られます。従来型の肋(rib)がある直立した茎から、垂れ下がる葉のような形態まで見られます。


☆Corryocactus亜連(※2)
含まれる属: Austrocactus、Brachycereus、Corryocactus(※3)、Eulychnia、Jasminocereus、Neoraimondia(※4)、Pfeiffera(※5)、Strophocactus(※6)

※2: Pfeifferinae、Eulychniinaeを含む。※3: Erdisia、Eulychnocactusを含む。※4: Neocardenasiaを含む。※5: 狭義のAchanthorhipsalisとBolivihanburyaを含み、Lepismium p.p.とLymanbensoniaを含まない。※6: Pseudoacanthocereusを含む。以前はSelenicereusに含まれていた。

Corryocactus亜連の分子系統

 ┏Pfeiffera ianthothele
┏┫(=Lepismium ianthothele)
┃┗Pfeiffera miyagawae
┃    (=Lepismium miyagawae)
┃    ┏Eulychnia acida
┫┏┫
┃┃┗Austrocactus spiniflorus
┃┃
┃┃    ┏Corryocactus squarrosus
┗┫┏┫(=Erdisia squarrosa)
    ┃┃┃┏Corryocactus brevistylus
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗Corryocactus melanotrichus
    ┗┫     (=Erdisia melanotricha)  
        ┃┏Strophocactus brasiliensis
        ┃┃  (=Pseudoacanthocereus  
        ┗┫         brasiliensis)
            ┃┏Leptocereus亜連
            ┗┫
    ┃┏Hylocereus亜連
                ┗┫
                    ┗Echinocereus亜連


チリ沿岸やパタゴニアのステップ地帯、湿潤なアマゾンの森林に生息する。地上性または着生性で、小型の低木から樹木状まであります。茎は通常は分節し、肋(rib)がありトゲがあるものから平らでやや細い枝を持つものまで多様です。花は非常に変異が多く、昼行性から夜行性で、通常はトゲのある果皮を持ちます。

他のすべてのPhyllocactus連の姉妹群はPfeifferaですが、分類学上の複雑な歴史があります。伝統的にPfeifferaは、着生あるいは岩生のP. ianthotheleと、短い肋がありトゲのある茎を持つ類似したいくつかの分類群に限定されてきました。Barthlott & Taylor(1995)は、PfeifferaをLepismiumに含めました。しかし、Nyffeler(2000)はこの説が妥当ではないことを示し、Huntら(2006)はPfeifferaを独立した属として認めました。Korotkovaら(2010)は、Pfeifferaは多系統であり、一部はLymanbensoniaやLepismiumとして分離されるべきであることを示しました。現在のPfeifferaは、肋骨状のトゲのある柱サボテン状(cereoid)の茎から平行な跛行(cladodia)まで、形態的に連続しています。

Pseudoacanthocereusの2種、P. brasiliensisとP. sicariguensisは分子系統では分離して出現します。かつてはAchanthocereusに分類されていましたが、この2種の種子は非常に大きく共通する特徴を持ちます。PseudoacanthocereusがEchinocereus亜連ではなく、Corryocactus亜連を含む祖先種の一部と位置付けられていることは、Korotkovaら(2017)による分子系統により初めて明らかとなりました。その系統樹では、PseudoacanthocereusはNeoraimondiaおよびLeptocereus亜連の姉妹群として記載されています。また、不思議なことに、StrophocactusのタイプであるS. wittiiがPseudoacanthocereusに組み込まれていることを発見しました。
StrophocactusはAnderson(2001, 2005)などによりSelenicereusの異名として扱われてきました。Huntら(2006)は、Strophocactusを3種、S. wittii、S. testudo(Deamia testudo)、S.chontalensis(Nyctocereus chontalensis)からなる属として認めました。しかし、現在はD. testudoとN. chontalensisがEchinocereus亜連のDeamiaとして認識されていることから、表面的な類似が生じた平行進化の好例です。Pseudoacanthocereusは命名上の優先権を持つStrophocactusに分類するのが望ましい解決策であると思われます。

Neoraimondiaの2種はおそらく同属ではありません。ペルーのアンデス山脈西斜面に分布するN.
arequipensisは、Nyffeler(2002)によるとLeptocereus亜連の一部です。一方、Hernandez-Hernandezら(2011)やKorotkovaら(2017)は、ボリビアのアンデス山脈東斜面に分布するN. herzogiana(=Neocardenasia)をPseudoacanthocereusの姉妹群としています。両種は多数の花を咲かせるアレオーレを持ち、わずかな解剖学的差異しかありません。

BrachycereusとJasminocereusの分類は暫定的なものです。分子生物学的な研究のために採取されたことは著者らの知る限りありません。Barthlott & Hunt(1993)は両者をTrichocereus連とし、Endler & Buxbaum(1958)はBrachycereusをEchinocereus連に分類し後にHylocereus連に、JasminocereusはCereus連に分類しました。


☆Leptocereus亜連
含まれる属: Armatocereus、Castellanosia、Leptocereus(※7)

※7: Dendrocereus、Neoabbottiaを含む。

Leptocereus亜連の分子系統

┏Castellanosia caineana
┃(=Browningia caineana)
┫┏Armatocereus laetus
┃┃(=Lemaireocereus laetus)
┗┫┏Leptocereus quadricostatus
    ┗┫
        ┗Leptocereus nudiflorus
            (=Dendrocereus nudiflorus)


地上性で円柱状の、主に枝分かれの多い低木から高木。茎には節と肋があります。花は夜行性で、Castellanosia以外は外果皮にはトゲがあります。

Leptocereus亜連は、Nyffeler(2002)およびHernandez-Hernandezら(2011)において、漠然と記載されていましたが、支持度は低いものでした。本研究においては、高い支持度を得ています。Leptocereus亜連は形態的にも地理的にも異質です。LeptocereusとArmatocereusの周皮は多数のアレオーレがあり通常は密にトゲが生えていますが、Dendrocereusの周皮はトゲは生えているもののアレオーレの位置が緩く、Castellanosiaの周皮は完全にトゲがありません。地理的には3属は非連続的で、以前はBrowningiaに含まれていたCastellanosiaはボリビアの低地産で、Armatocereusは南米北西部のコロンビア、エクアドル、ペルー産て、Leptocereusはカリブ海地域に分布します。また、Barriosら(2020)は、DendrocereusがLeptocereusに含まれることを示しました。


☆Hylocereus亜連(※8)
含まれる属: Acanthocereus(※9)、Aporocactus、Disocactus(※10)、Epiphyllum(※11)、Hylocereus(※12)、Kimnachia、Pseudorhipsalis(※13)、Selenicereus(※14)、Weberocereus(※15)

※8: Epiphyllinae、Disocactinae、Heliocereinae、Weberocereinae、Achanthocereinaeを含む。※9: Monvillea、Peniocereusを含む。※10: Bonifazia、Chiapasia、Nopalxochiaを含み、Aporocactusを含まない。※11: Marnieraを含む。※12: Wilmatteaを含む。※13: Wittocactus=Wittiaを含む。※14: Cryptocereus、Werckleocereusを含み、Deamia(→Echinocereus亜連)、Strophocactus(→Corryocactus亜連)を含まない。※15: Eccremocactusを含み、Werckleocereusを含まない。

Hylocereus亜連の分子系統

 ┏Acanthocereus tetragonus
┏┫
┃┗Acanthocereus cuixmalensis
┃     (=Peniocereus cuixmalensis)
┫┏Weberocereus frohningiorum
┃┃
┃┃        ┏Selenicereus guatemalensis
┃┃    ┏┫(=Hylocereus guatemalensis)
┃┃    ┃┗Selenicereus undatus
┃┃    ┃     (=Hylocereus undatus)
┗┫┏┫┏Selenicereus grandiflorus
    ┃┃┗┫
    ┃┃    ┗Selenicereus tonduzii
    ┗┫         (=Werckleocereus tonduzii)
        ┃         (=Weberocereus tonduzii)
        ┃┏Epiphyllum phyllanthus
        ┃┃
        ┗┫┏Pseudorhipsalis acuminata
            ┃┃(=Pseudorhipsalis horichii)
            ┗┫┏Aporocactus flagelliformis
                ┗┫ (=Disocactus flagelliformis)  
                    ┗Disocactus biformis

斜上または登攀性の肋がある茎を持つ低木が、斜上あるいは匍匐、垂下する茎を持つ半着生から着生植物。茎は節の有無に関わらず肋があり、扁平で枝分かれします。主にメソアメリカ、カリブ海地域および南米北部の熱帯湿潤な地域に分布します。その多くは夜行性でしばしば大きな花を咲かせ、通常はスズメガ媒(sphingophilous)です。
Hylocereus亜連の形態の多様性は驚異的で、従来型の多数の肋がある柱サボテン状(Acanthocereus、Aporocactus、Selenicereus)から、肋が少ない柱サボテン状および斜上するツタ植物(Hylocereus)、平らな茎を持つ低木(Weberocereus frohningiorum、Epiphyllum、Disocactus)まで、あらゆる形態が見られます。また、Hylocereus亜連は栽培において容易に属間雑種が出来ることが知られています。Acanthocereusを除くHylocereus亜連は「Epiphyllum comparium」とも呼ばれ、様々な交雑種に、数十もの学名がついています。

本研究におけるデータでは、HylocereusとSelenicereusを含む亜系統、「hylocereoid clade」(Korotkovaら, 2017)に関しては完全な解明はされません。2属は伝統的に果皮と果実の特徴により区別されてきました。Hylocereusの果皮と果実は鱗状でトゲがなく、Selenicereusの果皮と果実は鱗状ではなく多少なりともトゲがあります。Hernandez-Hernandezら(2011)の非常に少ないサンプルによる解析ではHylocereusとSelenicereusはそれぞれが単系統であり姉妹群であることが示され、Cruzら(2016)はこれらを未解決な多分岐群と見なしました。しかし、Plumeら(2023)やKorotkovaら(2017)による広範囲なサンプルによる解析では、Selenicereus(以前はWerckleocereusとして分離されていたWeberocereusを含むが、Deamiaは含まない)は、Hylocereusの末端系統群に対する側系統群であることが特定されました。それらすべてを広義のSelenicereus(Deamiaは除く)に統合する提案があります。現状ではその提案は時期尚早であると思われます。Deamiaの除外以外は、Echinocereus亜連の基底段階の一部として明示されており、著者らのデータによっても裏付けられています。

狭義のWeberocereus(Werckleocereusを除く)は、Korotkovaら(2017)による解析で比較的よく裏付けられた単系統群です。

PseudorhipsalisはCruzら(2016)により狭義のEpiphyllumの姉妹群とされましたが、Korotkovaら(2017)においては多系統である事が示され、ほとんどの種はEpiphyllum + Disocactusの姉妹群とされています。一方でP. ramulosa(Kimnachia)は、Epiphyllum + Disocactusと多系統を形成します。

Disocactusの分類は長年の問題領域となっています。Anderson(2001, 2005)やHuntら(2006)が用いた広域な範囲はBarthlott(1991)にまで遡ります。Barthlottは茎と花の特徴の組み合わせにより、AporocactusやHeliocereus、Nopalxochiaなどを含めました。この分類では、柱サボテン状のトゲが沢山ある茎を持つものから、トゲの有無に関わらず扁平な枝まで、通常は着生植物として生育する一連のサボテン全体を含んでいました。Cruzら(2016)やKorotkovaら(2017)、Rosas-Reinholdら(2022)は、これらの広義のDisocactusの単系統性に疑問を呈しました。さらに、Aporocactusが独立した系統であること、またはAcanthocereusや残りのHylocereusの位置が未解決であるとしました。Cruzら(2016)やKorotkovaら(2017)は、Epiphyllumの一部、例えばよく知られているE. crenatumがDisocactusとクラスターを形成することを明らかとしており、形態に基づくHylocereus亜連の同定をさらに複雑にしています。しかし、集晶(crystal druses)の有無やクチクラの厚さといった解剖学的形質は、狭義のSelenicereusとWeberocereusを除くすべての属で類縁関係を示します。また、Hylocereus亜連は、Epiphyllum chrysocardiumやWeberocereus imitans、Disocactus anguliger、Selenicereus anthonyanusにおいて、シダの葉を思わせる切り込みのある茎が、平行進化したことは注目します。

AcanthocereusはかつてCorryocactus亜連に分類されていました。しかし、著者らの系統樹では残りのHylocereus亜連と姉妹群であることが確認されており、Korotkovaら(2017)の結果を裏付けています。PeniocereusはAriasら(2005)により多系統であることが示されており、PseudoacanthocereusはAcanthocereusに対応する系統群の一部です。


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クジャクサボテン Epiphyllum cv.
東京都薬用植物園(2025年5月)



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ドラゴンフルーツ
Hylocereus undatus=Selenicereus undatus

新宿御苑(2024年9月)


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
本日はPhyllocactus連についてでした。今回はたった3亜連についてだけなのに解説はやたらに長いものでした。これは、Phyllocactus連に含まれる種が、分類学上ややこしいものが多いからでしょう。着生したり扁平だったり紐状だったりという特徴は、Rhipsalis連でも見られる特徴です。しかし、この共通点は似た環境で似た生態であることから、形態的に収斂しただけにも思えます。さらに、Phyllocactus連の内部分類も、はっきりしない部分があるように思えます。本論文では解析していない属もありますから、今後に期待しましょう。次回はPhyllocactus連の残りのEchinocereus亜連についてですが、また来週となります。

ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しします。

Austrocactus(11種)、Brachycereus(1種)、Corryocactus(15種、Corryocereus、Erdisia、Eulychnocactusを含む)、Eulychnia(9種、Philippicereusを含む)、Jasminocereus(1種)、Neoraimondia(2種、Neocardenasiaを含む)、Pfeiffera(6種、Bolivihanburyaを含む)、Strophocactus(4種、Strophocereus、Pseudoacanthocereusを含む)

Armatocereus(7種)、Castellanosia(1種)、Leptocereus(19種、Dendrocereus、Neoabbottiaを含む)

Acanthocereus(17種)、Aporocactus(2種)、Disocactus(18種、Aporocereus、Bonifazia、Chiapasia、Disisocactus、Disisorhipsalis、Heliocereus、Lobeira、Mediocactus、Mediocereus、Nopalxochia、Pseudonopalxochia、Trochilocactus)、Epiphyllum(10種、Athrophyllum、Phyllocereus、Marniera、Phyllocactus)、Hylocereus(→Selenicereusに含まれる)、Kimnachia(1種)、Pseudorhipsalis(5種、Wittia、Wittiocactusを含む)、Selenicereus(32種、Cereaster、Chiapasophyllum、Cladoblasia、Cryptocereus、Hylocereus、Werckleocereus、Wilmattea)、Weberocereus(6種、Eccremocactus、Eccremocereus)、Monvillea(→Praecereusに含まれる)、Peniocereus(8種、Cullmannia、Neoevansiaを含む)


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