サボテンはその高い多様性にも関わらず、すべての種がサボテン科に分類されますが、その分類に関しては紆余曲折ありました。しかし、近年の遺伝子工学の発展により、サボテンに関しても遺伝子の違いを根拠とした分子系統が盛んに行われる様になりました。私もそれらの論文を読んでは、その都度ポツポツと記事にしてきましたが、ついには調子に乗ってサボテン科の分類についてまとめた記事を書いたりもしました。しかし、私のしたことは既存の論文の内容をツギハギしただのパッチワークに過ぎず、継ぎ目が怪しくなってしまうものでした。どうしても、論文の年代により解析の精度が異なるだとか、扱うサンプルの妥当性だとか、そこら辺は考慮していないというか、私の力量ではそもそも出来なかったのです。ややモヤモヤしてはいましたが、何と新たにサボテン科全体を分子系統により分類した論文が出たのです。というわけで、本日はJurriaan M. de Vosらの2025年の論文、「Phylogenomics and classification of Cactaceae based on hundreds of nuclear genes」をご紹介します。


分子系統分類
170種、属分類の90%を種の遺伝子を分子系統解析しました。サボテン科という分類の境界は安定していますが、その内部分類はDNA時代以前も以後も不安定なものでした。まず、サボテン科は形態が多様であり、しばしば直感的に「傾向」(trends)として認識されてきており、より極端な形態に向かう傾向があるとされました。しかし、分子生物学的な研究により、かつて分類に用いられた多くの形質は高い相同性を示すことが明らかとなりつつあります。形態とDNAの不一致は、形態学的収斂と並行性の高さを示す証拠であり、種間関係や進化の理解を難しくしています。良い例の1つはAstrophypumで、A. caputmedusaeは細長い疣(tubercles、結節)を持ち、他4種は稜(rib)を持ちます。また、Leuchtenbergiaは長い疣を持ちますが、稜を持つStenocactusやFerocactusと近縁です。さらに、伝統的にFerocactus(広義)とされてきた種は、形態的には一貫性があるにも関わらず、比較的大きな分子的な多様性を示します。
サボテン科の分類が不安定なもう1つの理由は、分子的に急速な放散を示すことです。サボテン科は若いグループで種の多様性が高く、すべての植物の中でも科レベルの多様率は上位5位に入ります。この急速な放散の結果、種間のDNAの分岐は非常に低く、分子系統では成功と失敗が混在します。

【解説】
この部分はわかりにくいため、少し解説します。これはサボテンの分類の難しさについての話です。1つは形態が似ていても遺伝的に近縁とは限らず、遺伝的に近縁であっても形態が似ているとは限らないということです。2つ目は、サボテン科は割りと新しい時代に急速に種分化したため、遺伝子解析をした時に上手く解析出来ない場合もあるということです。


  
サボテン科の分子系統
サボテン科の分子系統の根元にあるのは、Leuenbergeria亜科とPereskia亜科です。この2亜科は似ていますが、茎は木質化し葉は多肉質ではないなど、想定されるサボテン科の原始的な姿を表しているように見えます。しかし、高度に派生した分類群と考えられていたMaihueniaやBlossfeldiaは、考えられていたよりもサボテン科の基部系統に近かかったため、低木状あるいは樹木状であることがサボテン科の祖先であるという考えに疑問を投げかけます。また、サボテン科に近縁な他の科も、主に小型の草本で構成されており、多肉質な主根を持つことが多いも理由の1つです。

【解説】
論文中では他にも系統解析の妥当性などを議論していますが、割りと難解かつ分子遺伝学や解析プログラムの話など、あまり私の興味を惹かない話題でしたので割愛します。気になる方は論文をご確認下さい。ということで、以下にサボテン科の分子系統を示します。
まずはサボテン科の分子系統と、各亜科の解説を見ていきます。


サボテン科の分子系統(亜科レベル)

    ┏Leuenbergerioideae
┏┫    
┃┗Pereskioideae

┃┏Opuntioideae
┃┃
┗┫┏Maihuenioideae
    ┃┃
    ┗┫┏Blosfeldioideae
        ┗┫
            ┗Cactoideae

    

①Leuenbergeria亜科
含まれる属: Leuenbergeria
低木から高木で、幹はわずかに多肉質かまったく多肉質ではありません。トゲのあるアレオーレを持ちます。茎には気孔がなく、早期に周皮(periderm)が形成されて表皮(epidermis)は急速に消失します。葉は時にやや多肉質で羽状脈があり、落葉性です。
Leuenbergeriaは伝統的にPereskiaに含まれてきましたが、分子系統学的研究により2012年に記載されました。差異は2002年より指摘されてきましたが、近年の大規模な研究でも概ね同様の結果を得ています。Leuenbergeriaはブラジル原産のL. aureifloraを除き、主にカリブ海に分布します。



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Leuenbergeria guamacho
筑波実験植物園(2024年6月)



②Pereskia亜科(狭義)
まれる属: Pereskia(※1)
※1: Rhodocactusを含む。Leuenbergeriaを含まない。
低木から高木で、幹はほぼ多肉質ではありません。トゲのあるアレオーレを持ちます。P. aculeata以外では周皮の形成は遅れ、茎には気孔があります。葉は時に多肉質で羽状脈があり、落葉性です。Leuenbergeriaを含まない狭義のPereskiaは、完全に南米の原産です。


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Pereskia aculeata
筑波実験植物園(2024年6月)


③Opuntia亜科(※2)
※2: Pereskiopsis亜科を含む。
矮性から大型の低木から高木。茎は分節し、円筒形または扁平で、トゲのあるアレオーレを持ちます。葉は円錐形で退化しており短命ですが、QuiabentiaやPereskiopsisでは扁平で平行脈があり、わずかに多肉質で長命です。球果を持ち、種子は比較的大型です。
本データは、過去の報告と同様にOpuntia亜科が単系統であることを明確に示しています。3つのサブクレードについて認めたが、互いの関係は完全には明らかとなっていません。著者らはCylindropuntia連をより狭い範囲に限定し、南米原産の種の大部分をPterocactus連として認めました。


Opuntia亜科の分子系統(連、属レベル)
3つの連(tribe)に分けられます。

          Tribe Opuntieae
    ┏Salmonopuntia salmiana
    ┃
    ┃    ┏Airampoa soehrensii

┏┫┏┫
┃┃┗Opuntia ficus-indica
┃┗┫
┃    
┃┏Tacinga funalis
┃    ┗┫
┃        ┗Brasiliopuntia brasiliensis
┃       Tribe Cylindropuntieae
┃        ┏Micropuntia pulchella
┃    ┏┫      (=Grusonia pulchella)
┃    ┃┗Pereskiopsis porteri
┃┏┫
┃┃┃
┏Cylindropuntia imbricata
┃┗┫
┃┃    
┃┏Grusonia bradtiana
┃┃    ┗┫
┃┃        
┃┏Grusonia clavata
┃┃        ┗┫(=Corynopuntia clavata)
┃┃            ┗Grusonia marenae
┃┃              (=Marenopuntia marenae)
┃┃    Tribe Pterocacteae
┗┫┏Maihuenopsis glomerata
    ┃┃
    ┗┫┏Pterocactus tuberosus
  ┃┃
  ┃
┃ ┏Tephrocactus articulatus
        ┗┫┏┫
            ┃
┃┗Tephrocactus verschaffeltii
   ┃┃    (=Banfiopuntia verschaffeltii)
            ┗┫ ┏Austrocylindropuntia
                ┃    ┃     lagopus
                ┃┏┫(=Punotia lagopus)
    ┃┃┗Austrocylindropuntia
                ┗┫           exaltata

                    ┃┏Cumulopuntia sphaerica
                    ┗┫(=Sphaeropuntia 
                        ┃       sphaerica)
                        ┗Cumulopuntia
                                    boliviana



★Opuntia連
含まれる属: Brasiliopuntia、Consolea、Opuntia(※3)、Miqueliopuntia、Salmonopuntia(※4 )、Tacinga、Airampoa(※5)

※3: Nopaleaを含む。狭義。※4: =Salmiopuntia、Mortolopuntiaを含む。※5: =Tunilla

矮性低木から高木。幹や樹冠が明瞭に区別出来ることは稀で、茎は分節し円錐形あるいは扁平です。葉は短命で退化しています。

伝統的に単型のSalmonopuntiaは、2つの亜系統に分類される残りの属の姉妹群です。1つ目の亜系統はAirampoa(南米アンデス)とOpuntia(カナダ南部からアルゼンチン中部)からなり、扁平化した枝を持ちます。2つ目の亜系統は、南米東部(主にブラジル)に限定され、TacingaとBrasiliopuntiaからなります。この両者は花糸の基部に毛があります。Brasiliopuntiaは、樹木のような構造を持ち、円柱状の分節しない主幹を形成し、枝は分節し円柱状からやや扁平まで様々です。Tacingaは中間型で、ブラジル東部およびカリブ海諸島という謎めいた分離した分布を示しますが、これはLeuenbergeriaやPseudocanthocerus(=Strophocactus)も同様の傾向があります。

本研究ではチリ原産で全体が円柱状のMiqueliopuntiaと、カリブ海諸島原産で成体は円柱状の主幹を持つConsoleaを解析していません。Consoleaを広義のOpuntiaに含める意見もありますが、狭義のOpuntiaとは明確に異なります。Consoleaは倍数体種のみ知られ、系統解析ではTacinga+Brasiliopuntia+Opuntiaの姉妹群であることは判明しています。Nopaleaは鳥媒花(ornithophilous flower)であるため、伝統的に分離されてきました。しかし、遺伝的には狭義のOpuntiaに含まれることが明らかとなっています。



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Opuntia tuna
筑波実験植物園(2024年6月)


★Cylindropuntia連(※6)
含まれる属: Cylindropuntia、Grusonia(※7)、Micropuntia、Pereskiopsis、Quiabentia

※6: Pereskiopsis連を含む。※7CorynopuntiaとMarenopuntiaを含み、Micropuntiaを含まない。

矮性から大型の低木で、稀に地下に塊茎を持ちます。茎は円錐形で節があり、稀に節がないものもあります。葉はわずかに多肉質あるいはやや多肉質で、平らで平行脈があり長命です。
Nyffeler & Eggli(2010)によりCylindropuntia連に分類された南米原産の属は、独立しPterocactus連に分類します。このことにより、Cylindropuntia連は節のある円錐形の茎を持つ、ほぼ北米原産の系統群となります。
広義のGrusoniaは支持されず、単一型で米国のモハーベ砂漠に分布するMicropuntiaを分離します。逆にCorynopuntiaとMarenopuntiaをGrusoniaに含めることが妥当であることが分かりました。不可解なことに、Micropuntiaはメキシコとグアテマラ原産のPereskiopsisと姉妹群です。Majureら(2019, 2023)によると、南米原産のQuiabentiaとPereskiopsis、Micropuntiaは、残りのCylindropuntia連(広義のGrusonia + Cylindropuntia)の姉妹群であることを特定しています。
QuiabentiaとPereskiopsisは、節のない主茎と扁平で平行脈を持つ多肉質の葉を持ちます。また、これらの葉は、Pereskiaの葉とは相同性がありません。



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Pereskiopsis diguetii
東京農業大学バイオリウム(2025年1月)



★Pterocactus連(※8)
含まれる属: Austrocylindropuntia(※9)、Cumulopuntia(※10)、Maihueniopsis(※11)、Pterocactus、Tephrocactus(※12) 

※8: Tephrocactus連、Austrocylindropuntia連を含む。※9: AndinopuntiaとPunotiaを含む。※10: Sphaeropuntiaを含む。※11: Punaを含む。※12: Banfiopuntiaを含み、Pseudotephrocactusを含まない。

矮性低木で、肥大した主根または多肉質の塊茎を持つ。しばしばコンパクトなクッションを形成します。茎には節があり円錐形です。葉は円錐形で短命です。
Austrocylindropuntia連とTephrocactus連を含みます。最近、系統分類の論文で使用されるTephrocactus連より、Pterocactus連の方が命名上の優先権があります。Maihueniopsisは他属の姉妹群で、次にPterocactusと残りの属が続きます。この2属の支持は低く議論の余地がありますが、過去の論文の解析結果とまったく同じです。
最近分離された単型属であるPunotiaは非常に高い裏付けによりAustrocylindropuntiaの姉妹群です。過去の報告ではAustrocylindropuntia + Cumulopuntiaの姉妹群とされましたが、裏付けに乏しくデータも限られています。かつてAustrocylindropuntiaに分類されていた単型のBanfiopuntiaは、Tephrocactusの初期分岐段階の一部として示されており、Sphaeropuntiaとして分離された種はCumulopuntiaに属します。


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Pterocactus tuberosus
神代植物公園(2023年5月)



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Tephrocactus articulatus
筑波実験植物園(2025年2月)



最後に
以上が論文の簡単な要約です。記事が長くなったので、本日は3亜科のみです。記事はまだまだ続きます。
さて、以前サボテンの分類を記事にしましたが、大まかな分類ではそれほどの違いはなさそうです。過去記事は以下になります。






今回の記事のポイントの1つは、Leuenbergeriaでしょう。Pereskiaとの違いは以前から指摘されてきましたが、伝統的に樹木状のサボテンとしてまとめられてきました。しかし、近年Leuenbergeriaをより原始的な特徴を持つ分類群としてPereskiaから独立する意見が立ち続けに出されました。今回ご紹介した論文においてもその正当性が確認されています。外見はPereskiaと似ていますが、論文ではLeuenbergeriaは亜科レベルで異なる分類群であるとしています。


Leuenbergeriaの分離を提案した論文の記事はこちら。


今回の記事のメインはOpuntia亜科=ウチワサボテン亜科でしょう。私自身がウチワサボテンに疎いため、その分類を調べたことがありませんでした。しかし、論文では3つの群に綺麗に分かれており、かなり整理された感じがします。論文では解析していない属もあるため、完全なものではありませんが、基本的にはこの分子系統がこれからの研究の基調となっていくのではないでしょうか。

ちなみに、本論文は案を提唱している段階ですので、現在認められている分類ではないことに注意が必要です。今回扱った範囲の現在の属分類を一応お示しして終わります。

Leuenbergeria(8種)、Pereskia(10種、Carpophillus、Peirescia、Rhodocactusを含む)

Brasiliopuntia(1種、Mortolopuntiaを含む)、Consolea(8種)、Opuntia(152種.Cactodendron、Chaffeyopuntia、Clavarioidia、Ficindica、Nopal、Nopalea、Phyllarthus、Platyopuntia、Plutonopuntia、Subulatopuntia、Tunasを含む)、Miqueliopuntia(1種)、Salmonopuntia(2種、Salmiopuntiaを含む )、Tacinga(12種)、Airampoa(4種、Tunillaを含む)
Cylindropuntia(41種)、Grusonia(19種、CorynopuntiaとMarenopuntiaを含む)、Micropuntia(1種)、Pereskiopsis(6種)、Quiabentia(2種)
Austrocylindropuntia(7種、Andinopuntia、Banfiopuntia、Peruviopuntia、Pseudotephrocactus、Trichopuntiaを含む)、Cumulopuntia(14種、Sphaeropuntiaを含む)、Maihueniopsis(20種、Punaを含む)、Pterocactus(10種)、Tephrocactus(12種、Pseudomaihueniopsis、Ursopuntia、Weberiopuntiaを含む)、 Punotia(1種)



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