サボテンや多肉植物の共通点と言えば、乾燥地への適応やその結果としての多肉質な葉や茎、塊茎や塊根があります。さらに、不思議と乾燥地にはトゲで武装した植物が多いような気がします。新大陸の代表はサボテンですが、AgaveやFouquieria、Dyckiaにもトゲがあります。アフリカにはサボテン様のEuphorbiaやPachypodium、Aloe、Alluaudiaなどがあります。恐らく水分が少ない乾燥地では、水分を豊富に含む多肉植物は優れた餌でしょう。ですから、草食動物からの食害を防ぐために、トゲで武装したり毒を溜め込んだりするのでしょう。
さて、多肉植物好きとしては、サボテンや多肉植物のトゲは気になる存在です。それは研究者も同様で、サボテンのトゲについては幾つもの論文が出ています。私もサボテンのトゲの機能についての研究や、トゲを介した霧の水分の集積の論文について、過去に記事にしています。しかし、トゲそのものや草食動物との関係について考察したものはありませんでした。そこで、本日は植物のトゲそのものが動物に対して警告を発している可能性を指摘したSimcha Lev-Yadunの2001年の論文、『Aposematic (Warning) Coloration Associated with Thorns in Higher Plants』をご紹介しましょう。


植物は警告するか?
動物ではよく知られた現象である警告色は、植物ではほとんど注目されてきませんでした。橙色や黄色、白地に黒い模様などの動物は、捕食者にとって危険な存在です。それは、捕食者がその色を不快な性質と関連付けて学習するからです。しかし、植物の目立つトゲの役割りについては報告がありません。植物の警告色については、シロツメクサ(Trifolium repens)を食べるヒツジが、白紋のある葉より無紋の葉を好むことを明らかとした報告(Cahn & Harper, 1976)があるくらいです。


サボテンのトゲの様々な色
サボテン科の多くの種においてカラフルなトゲが見られ、その多くは多色です。通常のトゲ(thorn)は褐色、黄色、赤色、白色、灰色、ピンク色、黒色、黄褐色です。
Benson(1982)は174種のサボテンをリストアップしました。そのうち、80.5%にあたる140種が色のついたトゲを持ち、33.9%にあたる59種が色のついた芒刺(glochid)を持つとしています。トゲが1色であるのは8種、2色は39種、3色は48種、4色は24種、5色は14種、6色は5種、7色は2種でした。芒刺は、褐色もものが13種、赤色が7種、黄色が28種、黄褐色が10種、灰色が1種でした。
Preston-Mafham(1994)は973種のサボテンを掲載しており、そのうち862種には白い模様が、6種には褐色/黒色の模様がありました。トゲはカラフルな縞模様や白い縞模様により目立つことはよくあります。


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刈穂玉(Ferocactus gracilis)
刈穂玉の鮮烈な紅色の強刺。
筑波実験植物園にて(2025年2月)。



アガヴェのトゲの様々な色
アガヴェ属(Agave)の葉には、尖端にトゲがあるもの(※)と、葉縁に鋸歯があるものの2種類のトゲがあります。多くのアガヴェの葉には、鋸歯に加えてトゲや鋸歯の視認性を高める縞模様があります。葉縁の鋸歯は褐色、赤みがかった色、灰色、黒色、白色、黄色のいずれかでした。
Gentry(1982)は194種のアガヴェをリストアップしました。そのうち、112種が葉の頂端にトゲを持ち、86種は葉縁にトゲを持っていました。47種は葉縁に縞模様がありました。



(※) 葉の尖端にのみトゲがある吹上のようなアガヴェは、Echinoagaveとして独立しアガヴェから分離されました。


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Agave utahensis var. eborispina
ウタヘンシス変種エボリスピナの飴色の強刺。
神代植物公園の多肉植物展示にて(2022年5月)。


アロエのトゲの様々な色
アロエ属(Aloe)のトゲは、白色、赤色、黒色、黄色など色彩豊かです。多くのアロエは白色の模様を持ち、多くの種は色彩豊かです。Reynolds(1969)は137種のアロエを取り上げており、そのうち133種は葉縁にトゲを持っています。さらに、94種には色のついたトゲを持ち、37種は葉縁に白色のトゲを持っていました。13種は葉縁にトゲはあるものの葉に白色の斑点はなく、50種には葉に葉縁に色のついたトゲがあり白色の斑点を持ち、3種には葉に白色の斑点はあるものの葉縁にトゲはなく、42種には葉縁に色のついたトゲはあるものの葉に白色の斑点はなく、2種には葉縁に色のついたトゲを持ち葉には色のついた斑点を持ちます。


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Aloe flutteana
白色のトゲと斑点がよく目立ちます。


ユーフォルビアのトゲの様々な色
ユーフォルビアは色鮮やかなトゲや、トゲな付随する白色や白っぽい斑点、あるいは白色の模様は一般的です。Sajeva
& Costanzo(1994)は80種のユーフォルビアをリストアップしており、そのうちの60%にあたる48種が色のついたトゲを有しています。13種はトゲの縁に白色の模様を持ち、9種はトゲの縁に他の色の模様があります。



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Euphorbia 
ユーフォルビアはこのような斑が全体的に入るものも珍しくありません。


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Euphorbia poissonii
ユーフォルビアの新トゲは鮮やかな赤色のものは一般的です。



トゲの色はベネフィットするか?
植物のトゲの色彩や模様は広範囲に見られ、おそらくは中立的あるいはランダムな現象ではありません。動物の警告色と同様に適応的価値があると著者は考えます。
目立つトゲは草食動物がその記号を記憶し、その記号を有した植物を避ける傾向があるため、植物にとって警告色は有益であると考えられます。目立つトゲの生成と維持にかかるコストが、草食動物の食害の減少のコストより低いならば、そのような突然変異の選択に有利に働きます。草食動物が警告色を示す個体を避けて警告色がない個体を食べるならば、警告色のある個体とそうではない個体との間の競争が減少します。
色鮮やかなトゲや模様を生み出すにはコストがかかりますが、それが複数の目的を果たす場合はそのコストは低減するでしょう。例えば、サボテンで白い毛やフェルトが日中の極端な温度変化を制御し生長点を保護する役割りを果たしています。
生物学的なシグナル伝達の評価は複雑です。植物の鮮やかな色が非警告的な記号を果たしている場合、例えば花粉媒介者や果実食動物へのサインであったり、植物の温度低下などにも利用されているからです。したがって、植物の色やトゲはそれを有することを示すだけではなく、「注意を向けている」を示すことも出来ます。警告色は植物を食べる草食動物により維持されます。



最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この論文はトゲの色についての調査結果を参照しているだけで、実際にそれが草食動物に対して如何なる作用を及ぼすのかについては明らかではありません。あくまでも仮説であり、実証する必要があります。しかし、考え方としては面白く、わざわざコストをかけている以上は何らかの効果がある可能性は高いでしょう。
さて、著者である
Simcha Lev-Yadunの植物の警告色に関する一連の論文は面白いので、しばらくは年代順にご紹介する予定です。


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