ユーフォルビアは有毒で、傷つけると出てくる乳液は皮膚につくとかぶれたり、種類によっては水ぶくれが出来たりします。ところが、ユーフォルビアは様々な用途で利用されており、Euphorbia resiniferaなどは蜜蜂の蜜源植物として有名で、その蜂蜜はモロッコの特産品となっているそうです。しかし、同じアフリカの多肉質なユーフォルビアである矢毒キリン(Euphorbia virosa)は蜜にも毒があり、矢毒キリンの花蜜由来の蜂蜜は食べると口内や喉が焼けるように痛むと言いますから、毒性は種類によっても異なるのでしょう。


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Euphorbia resinifera


さて、本日はそんなユーフォルビアの蜜源植物としての側面にスポットライトを向けましょう。参照とするのは、Nihad Sahriらの2023年の論文、『Euphorbia honey: a comprehensive compile of its traditional use, quality parameters, authenticity, adulteration, and therapeutic merits』です。


蜂蜜とは何か
蜂蜜はセイヨウミツバチ(Apis mellifera)が生産する甘味料でありあるいは栄養補助食品として、さらには治療目的で世界中で消費・取り引きされています。その成分は、乾燥重量の約95%を占める主成分である炭水化物(ブドウ糖、果糖)を始め、ビタミン、酵素、有機酸、アミノ酸、タンパク質、VOC(揮発性有機化合物)、各種ポリフェノール、ミネラル、花粉などを含みます。蜂蜜は栄養価が高いだけではなく、抗酸化作用や抗菌作用、抗炎症作用、創傷治療作用、抗変異原性作用、抗発癌作用、酵素阻害能があります。蜂蜜の物理化学的パラメーターや化学成分、その期待出来る治療効果は、産地や蜜源植物の種類、収穫時期、処理工程、保存期間により異なります。


単花蜜と多花蜜
蜂蜜の分類の1つとして、単花蜜(モノフローラル)と多花蜜(マルチフローラル)があります。後者は複数の種類花蜜からなり、特定の種類の花蜜が優勢ではない蜂蜜を指します。単花蜜は単一の種類の花蜜が主成分であり、他の種類の花由来の花蜜はわずかです。多花蜜は一般的に入手出来ますが、単花蜜はその洗練された味や読独特の風味、健康効果、及び植物由来の特性により市場における需要が高まっています。


ユーフォルビアの蜂蜜
ユーフォルビアの蜂蜜は、種類によっては「Daghmous honey」、あるいは「Zakoum honey」とも呼ばれ、地中海地域で一般的な産物です。モロッコは養蜂業への関心の高さと、固有のユーフォルビアの存在により、ユーフォルビアの蜂蜜の最大の生産国となっています。
ユーフォルビアの蜂蜜はもっとも高価な蜂蜜の1つで、モロッコやレバノン、トルコでは貴重品とみなされています。ユーフォルビアの蜂蜜は、甘味料というより医薬品と認識されており、特に喘息や嚢胞、癌などの治療において用いられます。



蜂蜜の歴史
歴史的に蜂蜜は健康維持のための自然療法に用いられてきました。エジプトやギリシャ、ローマでは、多くの病気の治療に蜂蜜が使われたという記録が残されています。古代ギリシャで人気があった非発酵の葡萄と蜂蜜の飲料である「Oenomel」は、痛風や様々な神経疾患の治療に民間療法として時に用いられました。医学の父として有名なヒポクラテスは、「oxymel」(酢と蜂蜜)を鎮痛に、「hydromel」(水と蜂蜜)を喉ね渇きに、蜂蜜水を他の治療薬と混合して急性の発熱用いるといった、シンプルな食生活を推奨しました。また、局所的な消毒、避妊、喉の痛み、咳、脱毛症、創傷治癒、下剤、眼疾患にも用いました。蜂蜜には豊かな薬効の歴史があり、西洋医学だけではなく、アーユルヴェーダや中国医学でも認められています。


モロッコの蜂蜜
モロッコの民間療法では、特にユーフォルビアの蜂蜜が広く利用されています。モロッコはEuphorbia resiniferaとEuphorbia officinarum、Euphorbia regis-judaeの3種類の蜂蜜を生産しており、機能性食品あるいは栄養補助食品とみなされています。これらの蜂蜜は、力強く際立つ味と刺激的な風味、穏やかな苦味、喉に残る胡椒のような後味が特徴です。伝統医学により、喘息や気管支炎、嚢胞を伴う腎盂腎炎、癌などの治療に頻繁に使用されます。


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Euphorbia officinalum


花粉学
電子顕微鏡により花粉を分析することで、種間の差異を区別することが出来ます。単花蜜の主要な花粉比率に関する基準が確立されましたが、一般的に単一の植物種の花粉頻度が45%以上のものは単花由来であると考えられます。また、花粉粒の含有量には過小と過剰があり、柑橘類の蜂蜜は最低10%以上の花粉含有量が求められ、菜種の蜂蜜には45%以上の菜種花粉の含有が義務付けられています。同様にユーカリの蜂蜜は90%以上のユーカリ花粉が必要です。アルジェリアやモロッコなどの北アフリカ諸国における調査では、最低25%の花粉がEuphorbia spp.に由来することが報告されています。


蜂蜜の成分
蜂蜜の主成分は炭水化物であり、乾燥重量の約95%を占めています。蜂蜜に含まれる糖類の大部分は単糖類で、グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)で糖含有量の約75%を占めます。さらに、イソマルトース、マルトース(麦芽糖)、ツラノースなどの二糖類が約10〜15%を占めます。また、エルロースやテアンデロース、マルトトリオースなどの糖類は極わずかです。ユーフォルビアの蜂蜜では、スクロース(ショ糖)やマルトース(麦芽糖)、ツラノース、トレハロース、メレジトースが検出されましたが、データは不均一でした。


最後に
以上が論文の簡単な要約です。
実は論文は非常に長く、様々な成分について検討しています。しかし、ユーフォルビアの蜂蜜については、まだデータが少ないようです。成分分析は品質や純正品であるかを見極める重要なファクターのようですから、これから分析が進んでいくのでしょう。
しかし、ユーフォルビアの蜂蜜は北アフリカの特産品であることは知っていましたが、その用途が薬用であることは初めて知りました。そして、苦味や胡椒のような後味などの表現を見ると、やはりユーフォルビアの蜂蜜は普通の蜂蜜ではないことが分かります。
成分分析では、含まれるフラボノイドの種類により産地などが分かると言いますが、ユーフォルビアの蜂蜜にも多種類のフラボノイドが含まれているようです。しかし、その成分や効果については、まだまだこれからといったところのようです。



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