マダガスカルは多肉植物の宝庫で、固有種も多く種類も豊富です。花キリンはマダガスカル固有のユーフォルビアですし、ディディエレア科植物やアロエも固有種ばかりです。コーデックスも豊富で、オペルクリカリアやパキポディウムは日本でも非常に人気があります。しかし、残念ながらマダガスカルの多肉植物の多くは自生地の破壊とともに急激に失われています。
本日はマダガスカルの12種類の多肉植物について、その保全状況を調査したBako H. Ravaomanalinaらの2011年の論文、『Conservation status of some commercialized succulent species of Madagascar』をご紹介します。
多肉植物の宝庫・マダガスカル
マダガスカルの南部と南西部には多くの多肉植物が生息し、Didierea科-Euphorbiaが優勢ですが他にも様々な植物があります。生息する維管束植物の約90%は、固有種であり、その多くは希少種で、特定の狭い分布を持ちますが、植生の急速な破壊の影響によりIUCNレッドリストでは絶滅危惧種に分類されます。多肉植物はその多様性と魅力的な形から、例えばSenna meridionalisやOperculicarya属は盆栽(bonsai tree)として世界中の植物愛好家に人気があります。マダガスカルの多肉植物の国際取引は、市場の高い需要により深刻な脅威となっています。

Operculicarya decaryi
筑波実験植物園にて。(2024年6月)
国際貿易需要植物
この研究には、国際貿易需要の高い12種類のマダガスカル固有種が選ばれました。
①Adenia firealavensis
②Adenia olaboensis
③Adenia subsessifolia
④Senna meridionalis
⑤Cyphostemma elephantopus
⑥Cyphostemma laza
⑦Cyphostemma montagnacii
⑧Operculicarya decaryi
⑨Operculicarya hyphaenoides
⑩Operculicarya pachypus
⑪Zygosicyos pubescens
⑫Zygosicyos tripartitus
この12種類はすべて鑑賞用植物として利用されており、地元の村民が野生植物を採取し、採取人や仲買人に販売しています。その植物は地元の市場で商品化されるか、海外に輸出される前に輸送され、そのまま保管されるか業者の苗床に植えられます。採取人によると、村民はこれらの植物の鑑賞用としての価値を理解しておらず、日銭稼ぎに非常に安価で販売しているそうです。また、鑑賞用以外では、Operculicarya属は薬用植物としてや木炭としても利用されています。

Cyphostemma laza
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)
個体数と再生数
単位面積あたりの個体数はO. pachypusがもっとも豊富でした。これは、伐採されても萌芽する能力が高いからです。O. decaryiも豊富で広く分布していました。C. elephantopusの個体数は少なく、生息地が居住地として開拓されたためです。落葉樹林に生えるC. lazaは成木が優勢で実生が少なく、新たな個体の加入に問題があります。
植物の再生能力は繁殖能力でもあります。最大の再生率はZ. pubescensの488%でした。調査した他の種の大部分は100%程度の再生率で、比較的良好でした。しかし、C. lazaで4%、C. elephantopusで19%、A. olaboensisで86%の再生率でした。これは、調査地周辺でかなりの生息地の劣化が起きているためです。

Operculicarya pachypus
神代植物公園にて。(2023年5月)
希少植物の脅威
マダガスカルの乾燥林の主たる脅威は焼畑農業です。さらに、森林火災や過放牧は植物の再生の可能性を低下させ、残る自然林に負荷をかけています。さらに、採取された植物数と、政府が発行する収集許可証による最大数には大きな違いがあります。採取者は損傷した植物を補うためにより多くの植物を採取する傾向があり、政府による現地での管理は不十分です。
伐採や過剰な採取は、Ekodidaの落葉樹林の1カ所でのみ発見されたZ. pubescensにとって最大の脅威です。さらに、森林火災などによる人為的撹乱により生息地は大幅に減少しています。
Toliara南部のLa Table地域は深刻な撹乱を受けた地域です。調査対象のほとんどの種が分布していますが、木炭生産のための伐採など、広範囲の人為的撹乱により自然植生は大幅に減少しています。適切な地域保全政策が欠如していることが問題です。
O. decaryiやC. laza、A. olaboensisは広く分布しますが、伐採などの脅威には敏感です。A. firealavensisやZ. tripartitusは拠水林に分布しますが、このタイプの森林は急速に伐採が進んでおり、マダガスカル南部でもっとも危機に瀕している植生の1つです。

Adenia olaboensis
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
マダガスカルは固有の動植物の宝庫ですが、乱開発に歯止めがかからない状況です。分布が狭い小型アロエなどは、いくつかはすでに絶滅してしまっている可能性が指摘されているくらいです。しかし、調査もされずに消失する森林があることが残念でなりません。なぜなら、マダガスカルでは未だに新種が次々と発見されており、人知れず未知の新種が絶滅している可能性があるからです。
もどかしくはありますが、現地の人たちが炭焼きのために伐採したり、放牧のために森を焼き払うことを、我々は責めることは出来ません。なぜなら、現地の人たちは、その時を生きていくのに精一杯で、食べていくためには仕方のないことだからです。それが、将来の自身やその子供やその先の子孫の未来を食いつぶすものであってもです。
この論文は2011年ですから、書かれた時点からもう14年経ちます。状況は改善しないし悪化し続けているでしょう。果たして、有効な解決策はあるのでしょうか?
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多肉植物の宝庫・マダガスカル
マダガスカルの南部と南西部には多くの多肉植物が生息し、Didierea科-Euphorbiaが優勢ですが他にも様々な植物があります。生息する維管束植物の約90%は、固有種であり、その多くは希少種で、特定の狭い分布を持ちますが、植生の急速な破壊の影響によりIUCNレッドリストでは絶滅危惧種に分類されます。多肉植物はその多様性と魅力的な形から、例えばSenna meridionalisやOperculicarya属は盆栽(bonsai tree)として世界中の植物愛好家に人気があります。マダガスカルの多肉植物の国際取引は、市場の高い需要により深刻な脅威となっています。

Operculicarya decaryi
筑波実験植物園にて。(2024年6月)
国際貿易需要植物
この研究には、国際貿易需要の高い12種類のマダガスカル固有種が選ばれました。
①Adenia firealavensis
②Adenia olaboensis
③Adenia subsessifolia
④Senna meridionalis
⑤Cyphostemma elephantopus
⑥Cyphostemma laza
⑦Cyphostemma montagnacii
⑧Operculicarya decaryi
⑨Operculicarya hyphaenoides
⑩Operculicarya pachypus
⑪Zygosicyos pubescens
⑫Zygosicyos tripartitus
この12種類はすべて鑑賞用植物として利用されており、地元の村民が野生植物を採取し、採取人や仲買人に販売しています。その植物は地元の市場で商品化されるか、海外に輸出される前に輸送され、そのまま保管されるか業者の苗床に植えられます。採取人によると、村民はこれらの植物の鑑賞用としての価値を理解しておらず、日銭稼ぎに非常に安価で販売しているそうです。また、鑑賞用以外では、Operculicarya属は薬用植物としてや木炭としても利用されています。

Cyphostemma laza
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)
個体数と再生数
単位面積あたりの個体数はO. pachypusがもっとも豊富でした。これは、伐採されても萌芽する能力が高いからです。O. decaryiも豊富で広く分布していました。C. elephantopusの個体数は少なく、生息地が居住地として開拓されたためです。落葉樹林に生えるC. lazaは成木が優勢で実生が少なく、新たな個体の加入に問題があります。
植物の再生能力は繁殖能力でもあります。最大の再生率はZ. pubescensの488%でした。調査した他の種の大部分は100%程度の再生率で、比較的良好でした。しかし、C. lazaで4%、C. elephantopusで19%、A. olaboensisで86%の再生率でした。これは、調査地周辺でかなりの生息地の劣化が起きているためです。

Operculicarya pachypus
神代植物公園にて。(2023年5月)
希少植物の脅威
マダガスカルの乾燥林の主たる脅威は焼畑農業です。さらに、森林火災や過放牧は植物の再生の可能性を低下させ、残る自然林に負荷をかけています。さらに、採取された植物数と、政府が発行する収集許可証による最大数には大きな違いがあります。採取者は損傷した植物を補うためにより多くの植物を採取する傾向があり、政府による現地での管理は不十分です。
伐採や過剰な採取は、Ekodidaの落葉樹林の1カ所でのみ発見されたZ. pubescensにとって最大の脅威です。さらに、森林火災などによる人為的撹乱により生息地は大幅に減少しています。
Toliara南部のLa Table地域は深刻な撹乱を受けた地域です。調査対象のほとんどの種が分布していますが、木炭生産のための伐採など、広範囲の人為的撹乱により自然植生は大幅に減少しています。適切な地域保全政策が欠如していることが問題です。
O. decaryiやC. laza、A. olaboensisは広く分布しますが、伐採などの脅威には敏感です。A. firealavensisやZ. tripartitusは拠水林に分布しますが、このタイプの森林は急速に伐採が進んでおり、マダガスカル南部でもっとも危機に瀕している植生の1つです。

Adenia olaboensis
東京農業大学バイオリウムにて。(2025年1月)
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
マダガスカルは固有の動植物の宝庫ですが、乱開発に歯止めがかからない状況です。分布が狭い小型アロエなどは、いくつかはすでに絶滅してしまっている可能性が指摘されているくらいです。しかし、調査もされずに消失する森林があることが残念でなりません。なぜなら、マダガスカルでは未だに新種が次々と発見されており、人知れず未知の新種が絶滅している可能性があるからです。
もどかしくはありますが、現地の人たちが炭焼きのために伐採したり、放牧のために森を焼き払うことを、我々は責めることは出来ません。なぜなら、現地の人たちは、その時を生きていくのに精一杯で、食べていくためには仕方のないことだからです。それが、将来の自身やその子供やその先の子孫の未来を食いつぶすものであってもです。
この論文は2011年ですから、書かれた時点からもう14年経ちます。状況は改善しないし悪化し続けているでしょう。果たして、有効な解決策はあるのでしょうか?
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