アロエはその多くの種が赤色〜黄色の花を咲かせます。それは鳥に対するアピールであり、実際にアロエの花には蜜を吸いに沢山の鳥が訪れます。つまり、アロエは鳥により花粉が運ばれて受粉する鳥媒花であるということです。しかし、小型のアロエの中には、地味で目立たない花を咲かせるものもあり、一見して鳥媒花には見えません。私の育てているAloe bowieaも緑色の小さな花をつけますから、とても気になっています。さて、アロエの受粉生物学はAloe feroxやAloe marlothiiなど大型のアロエを中心に行われており、小型アロエについてはまだまだ研究が不足しているように思われます。そこで、小型アロエの受粉生物学の嚆矢である、A. L. Hargreavesらの2008年の論文、『Aloe inconspicua: The first record of an exclusively insect-pollinated aloe』をご紹介しましょう。
アロエは花粉媒介者
アロエの多くは鳥媒花ですが、アロエの花には様々な昆虫が訪れます。もっとも一般的なのは蜂で、その一部は鳥媒花であるアロエの受粉にも貢献していますが、受粉には関係しない花粉泥棒もいます。これまでの研究では、ミツバチはアロエの花粉媒介者としては不十分であることが分かっています。しかし、過去の研究は鮮やかで大きな花を持つ「典型的」なアロエのみが対象とされてきました。
一部のアロエには、昆虫による受粉を示唆する形態学的な特徴があります。それは、Aloe albida、Aloe bowiea、Aloe minima、Aloe myriacantha、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe inconspicua、Chortolirion angolense(=A. welwitschii)です。これらの種は高さ50cm 以下と小型で目立たず、長さ2cm未満の小さな淡い色の単花序をつけます。

Aloe bowiea
ボウィエアの花は緑色で目立ちません。
Aloe inconspicuaの特徴
Aloe inconspicuaはKwaZulu-Natal州中部のいくつかの地域でのみ知られる小型のアロエです。高さ15cmになり、葉は多肉質ではありますが、周囲の草との区別は容易ではありません。花は高さ8〜12cmの単一の花序で、最大50個の白緑色の花が下から咲いていきます。花は雄蕊が長く、6つの葯が裂開するまで柱頭は開きません。また、花に香りはありません。

Haworthiopsis limifolia var. glaucophylla
ハウォルチアやハウォルチオプシスの花は、小型で白色系です。
Aloe inconspicuaは自家不和合性か?
A. inconspicuaの自家不和合性の程度と、花粉媒介者への依存度を評価するため、花を布で遮断しました。実験は、①1m以上離れた植物の花粉による人工受粉、②自家花粉による人工受粉、③布で遮断し人工受粉なし(自然な自家受粉)の3群を行いました。
結果は③の人工受粉しない自家受粉では結実は見られませんでした。②の人工受粉による自家受粉ではわずか4%の結実率で、①の他家受粉では72%の結実率でした。また、自家受粉による果実には平均4個の種子がありましたが、他家受粉による果実には平均15個の種子が見られました。A. inconspicuaは大部分のアロエと同じく、自家不和合性であると考えられます。

Aloe saundersiae
淡い色合いのサウンデルシアエの花。
花粉媒介者を探る
A. inconspicuaは開花より3日間咲き続けます。観察によると、採蜜性の鳥であるタイヨウチョウは訪花しませんでした。また、夕方に蛾を観察しましたが、やはりA. inconspicuaの花を訪れませんでした。観察期間中、A. inconspicuaの花を訪れたのは、ミツバチ(Amegilla fallax)がほとんどであり、稀に小型の蜂の訪花も観察されました。ミツバチや小型の蜂の体には大量の花粉の付着を観察しました。
観察結果からA. inconspicuaの有効な花粉媒介者はミツバチであると考えられます。A. inconspicuaが鳥媒花ではないことは、観察によるものだけではなく、花蜜量が平均0.097μLと極めて少量であることからもうかがえます。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
鳥媒花とされてきたアロエの中で、初めて虫媒花であるアロエの存在を証明した重要な論文です。アロエ類の進化を考えた場合、もっとも起源的なグループは樹木状のアロエであるAloidendronとされています。このAloidendronからAloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeといったアロエ属から独立したグループとGasteriaは、おそらく鳥媒花でしょう。つまり、アロエ類の起源は鳥媒花であり、虫媒花はそこからの派生であると考えられます。虫媒花はHaworthia、Haworthiopsis、Tulista、Astroloba(A. rubrifloraは鳥媒花)ですが、アロエ属はその一部の種が虫媒花へ移行したのでしょう。分子系統的に見た場合、虫媒花へ移行したグループ同士は必ずしも近縁ではなく、それぞれ独立して進化したことがうかがえます。個人的な感想ですが、アロエ類の小型化が鳥媒花から虫媒花への移行をもたらしているような気がします。アロエ属は属内があまりに多様であるため、鳥媒花と虫媒花を内包しているのでしょう。
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アロエは花粉媒介者
アロエの多くは鳥媒花ですが、アロエの花には様々な昆虫が訪れます。もっとも一般的なのは蜂で、その一部は鳥媒花であるアロエの受粉にも貢献していますが、受粉には関係しない花粉泥棒もいます。これまでの研究では、ミツバチはアロエの花粉媒介者としては不十分であることが分かっています。しかし、過去の研究は鮮やかで大きな花を持つ「典型的」なアロエのみが対象とされてきました。
一部のアロエには、昆虫による受粉を示唆する形態学的な特徴があります。それは、Aloe albida、Aloe bowiea、Aloe minima、Aloe myriacantha、Aloe parviflora、Aloe saundersiae、Aloe inconspicua、Chortolirion angolense(=A. welwitschii)です。これらの種は高さ50cm 以下と小型で目立たず、長さ2cm未満の小さな淡い色の単花序をつけます。

Aloe bowiea
ボウィエアの花は緑色で目立ちません。
Aloe inconspicuaの特徴
Aloe inconspicuaはKwaZulu-Natal州中部のいくつかの地域でのみ知られる小型のアロエです。高さ15cmになり、葉は多肉質ではありますが、周囲の草との区別は容易ではありません。花は高さ8〜12cmの単一の花序で、最大50個の白緑色の花が下から咲いていきます。花は雄蕊が長く、6つの葯が裂開するまで柱頭は開きません。また、花に香りはありません。

Haworthiopsis limifolia var. glaucophylla
ハウォルチアやハウォルチオプシスの花は、小型で白色系です。
Aloe inconspicuaは自家不和合性か?
A. inconspicuaの自家不和合性の程度と、花粉媒介者への依存度を評価するため、花を布で遮断しました。実験は、①1m以上離れた植物の花粉による人工受粉、②自家花粉による人工受粉、③布で遮断し人工受粉なし(自然な自家受粉)の3群を行いました。
結果は③の人工受粉しない自家受粉では結実は見られませんでした。②の人工受粉による自家受粉ではわずか4%の結実率で、①の他家受粉では72%の結実率でした。また、自家受粉による果実には平均4個の種子がありましたが、他家受粉による果実には平均15個の種子が見られました。A. inconspicuaは大部分のアロエと同じく、自家不和合性であると考えられます。

Aloe saundersiae
淡い色合いのサウンデルシアエの花。
花粉媒介者を探る
A. inconspicuaは開花より3日間咲き続けます。観察によると、採蜜性の鳥であるタイヨウチョウは訪花しませんでした。また、夕方に蛾を観察しましたが、やはりA. inconspicuaの花を訪れませんでした。観察期間中、A. inconspicuaの花を訪れたのは、ミツバチ(Amegilla fallax)がほとんどであり、稀に小型の蜂の訪花も観察されました。ミツバチや小型の蜂の体には大量の花粉の付着を観察しました。
観察結果からA. inconspicuaの有効な花粉媒介者はミツバチであると考えられます。A. inconspicuaが鳥媒花ではないことは、観察によるものだけではなく、花蜜量が平均0.097μLと極めて少量であることからもうかがえます。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
鳥媒花とされてきたアロエの中で、初めて虫媒花であるアロエの存在を証明した重要な論文です。アロエ類の進化を考えた場合、もっとも起源的なグループは樹木状のアロエであるAloidendronとされています。このAloidendronからAloiampelos、Kumara、Gonialoe、Aristaloeといったアロエ属から独立したグループとGasteriaは、おそらく鳥媒花でしょう。つまり、アロエ類の起源は鳥媒花であり、虫媒花はそこからの派生であると考えられます。虫媒花はHaworthia、Haworthiopsis、Tulista、Astroloba(A. rubrifloraは鳥媒花)ですが、アロエ属はその一部の種が虫媒花へ移行したのでしょう。分子系統的に見た場合、虫媒花へ移行したグループ同士は必ずしも近縁ではなく、それぞれ独立して進化したことがうかがえます。個人的な感想ですが、アロエ類の小型化が鳥媒花から虫媒花への移行をもたらしているような気がします。アロエ属は属内があまりに多様であるため、鳥媒花と虫媒花を内包しているのでしょう。
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