Euphorbia francoisiiと呼ばれる花キリンがありますが、現在はEuphorbia decaryiとされていま。しかし、Euphorbia decaryiという名前で流通している花キリンが他にあり、それはEuphorbia boiteauiとされているようです。このあたりの話は気にはなっていたのですが、当該論文は見つかったものの放置していました。というのも、論文がフランス語で書かれていたため、まったく読めなかったからです。一応、機械翻訳に掛けてはみましたが、専門用語や学名がどうもよろしくないようで、相当怪し気な文になってしまい記事にするのは断念しました。あれからだいぶ経ちますが、重い腰を上げて分からないなりにチャレンジしてみることにしました。
その論文はJean-Philippe Castillon & Jean-Bernard Castillonの2016年の論文、『A propos de quelques noms oublies dans le genere Euphorbia L. (Euphorbiaceae) a Madagascar』です。

誤りを正す
標本や元の情報にアクセスすることの難しさや、以前の植物学者により確立された結論への過信が後続により採用されてしまい、誤りが永続している場合があります。マダガスカルのユーフォルビアの場合、標本の古さと貧弱さ、既存の異名、元の説明の簡潔さ、さらに乾燥標本から分類群を認識することが難しいためより重大です。ユーフォルビアの改定は、Haevermans (2006)やHaevermansら(2009)により行われています。

Euphorbia subapodaの独立
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Euphorbia primulifolia Baker, 1881

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Euphorbia subapoda Baill., 1887
 =Euphorbia quartziticola Leandri, 1946

Denis(1921)はBaillonにより1887年に記載されたEuphorbia subapodaは、1881年に記載されたEuphorbia primulifoliaの異名とみなしました。それ以来、この主張に異議が唱えられることはありませんでした。Denisは2つの植物の花(Cyathophyll)の色や葉の形の違いには気がついていましたが、それをマダガスカルの産地による個体差と考えました。
Leandri(1946)はEuphorbia quartziticolaについて説明しましたが、それはBaillonの説明と完全に一致します。共に同じ丸く黄色いCyathophyllと、滑らかで多肉質な丸い葉を持ちます。葉が薄く縁が波打つ楕円形で白みがかるピンク色、三角形の
Cyathophyllを持つEuphorbia primulifoliaとは異なります。さらに、E. subapodaとE. quartziticolaはE. primulifoliaが生息しないItremoの珪岩山塊に由来します。したがって、DenisによりE. subapodaはE. primulifoliaの異名であるというのは誤りで、E. subapodaとE. quartziticolaは同義語であることを提案します。

Euphorbia decaryiとは何者か?
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★Euphorbia decaryi Guillaumin, 1934
 =Euphorbia francoisii Leandri, 1946

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★Euphorbia decaryi var. crassicaulis
   (Rauh) J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia francoisii var. crassicaulis
      Rauh, 1996


Guillaumin(1934)はFort Dauphinに近いVinanibe砂丘で採取された断片サンプルに基づき、Euphorbia decaryiと命名されたユーフォルビアを説明しています。後に同種とされるサンプルを収集したMarnier-Lepostolle(1961)、Cremers(1984)、Rauh(1998)は、形態学的な変異に基づいて説明してきました。そのE. decaryiの特徴は、AndroyとMahafay高原の植物に典型的な、葉柄がなく、灰色の縁が波打つ1〜2cmの小さな太った葉を持ち、5角に角張った茎を持つとしています。これを仮にE. decaryi auct.と呼びます。
しかし、これらの特徴はGuillauminが説明したE. decaryiではないことが分かります。E. decaryiのタイプ標本は断片的ですが、茎の上部の毛に似た多数の托葉など、特定の特徴が見て取れます。RauhやCremersがE. decaryiを誤解していたことが明らかです。タイプ標本では小柄で細長い菱形の葉があり、E. decaryi auct.の葉とは異なります。
興味深いことに、Rauhは1987年と1998年に、「E. decaryiはTolanaro近郊のVinanibeという典型的な産地では二度と発見されていない。」と書いています。しかし、現在でもE. decaryiはVinanibeに広く生息していますが、それはLeandri(1946)によりE. francoisiiという名前で別種として再記述されたため認識されませんでした。E. francoisiiのタイプ標本は、Guillauminにより記述されたE. decaryiの特徴を示しています。つまり、托葉は茎の上部に多数あり、細く柔軟で茎の下部にはなく、葉には葉柄があります。これは明らかにE.
decaryiの特徴を示しており、E. francoisiiはE. decaryiの異名です。さらに、Rauh(1996)により記載されたE. francoisii var. crassicaulisをE. decaryiに移し、E. decaryi var. crassicaulisとすることを提案します。


実際にはEuphorbia boiteauiだった
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★Euphorbia boiteaui Leandri, 1946
 =Euphorbia decaryi auct.
      (≠Euphorbia decaryi Guillaumin)

★Euphorbia boiteaui var. ampanihyensis
      (Rauh & Buchloh) 
       J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia decaryi var. ampanihyensis
      Rauh & Buchloh, 1984

★Euphorbia boiteaui var. spirosticha
    (Rauh & Buchloh) 
      J.-P.Castillon & J.-B.Castillon, 2016
 =Euphorbia decaryi var. 
spirosticha
      Rauh & Buchloh, 1986


E. decaryiという名前が広く使われている植物は、Leandri(1946)によりEuphorbia boiteauiという名前で記載されています。E. boiteauiのタイプ標本とLeandriの説明は、5つの角がある茎、トゲや葉柄のない葉、花序の特徴はE. decaryi auct.に完全に一致します。さらに、E. decaryi var. ampanihyensisとE. decaryi var. spirostichaをE. boiteauiの変種に移します。

変種robinsoniiの謎
★Euphorbia decaryi var. robinsonii Cremers, 1984

著者は意図的にEuphorbia decaryi var. robinsonii Cremersを移しませんでした。そのタイプ産地はTuleaに由来すると考えられていますが、それは近くにあるTulear地域なのか、以前はFort Dauphinを含んでいたTulear県を指しているのかが分かりません。Tulearのテーブル・マウンテン付近で行われた数多くの探索では、E. tulearensis以外のE. boiteauiグループのユーフォルビアを見つけることが出来ませんでした。E. decaryi var. robinsoniiを観察すると、茎の上部にあるトゲの束や丸いCyathophyll、細長い葉柄のある葉など、E. decaryi(=E. francoisii)によく似ています。したがって、著者らはE. decaryi var. robinsoniiの起源と正当性について懸念があり、これを「認識されていない」ものと考え、当面はE. decaryiの変種としておきます。

変種cap-saintemariensis
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★Euphorbia cap-saintemariensis Rauh, 1970
 =Euphorbia decaryi var. cap-saintemariensis
  (Rauh) Cremers, 1984

Euphorbia decaryi var. cap-saintemariens (Rauh) Cremersも移しませんでした。Cap Sainte-Marie産のこの植物の分類学的位置は不明です。Rauhにより独立種として記載されましたが、CremersはE. decaryiの変種としました。Cremersの組み合わせは不適切である一方、変種とする根拠は依然として有効であり、E. decaryi var. cap-saintemariensとなる可能性があります。しかし、この種は変種としてより独立種として広く引用されており、合理的な理由がないか限りRauhの記載した名前を保持することとします。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。一応はまあそれなりに訳せたような気がします。
さて、いくつかの論点がありますが、1つ目はE. subapodaのE. primulifoliaからの独立です。これは、Denisの主張が十分に検討されないまま基準になってしまった例ですが、それを著者らが再検討しました。ちなみに、E. primulifoliaと言えば、変種begardiiが2021年に独立種となっています。

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Euphorbia begardii (Cremers) Haev. & Hett., 2021
 =Euphorbia primlifolia var. begardii
       Cremers, 1984


次はE. physocladaの分布についての議論でしたが、今回は割愛しました。
次に今回私が気になっていたE. decaryiに関する話です。E. decaryiとE. francoisiiの名前が誤りであることは知っていましたが、その経緯や詳細な内容は知りませんでした。ですから、今回知ることが出来て良かったですね。また、
2021年のHaevermansらの論文では、Castillonらの今回の論文を受けてさらにE. decaryiグループについて考察を深めています。去年、記事にしましたから、以下のリンクをご覧下さい。

結局のところ、E. decaryiグループに関する著者らの主張は概ね認められています。しかし、後に上記リンクの論文にて、E. boiteaui var. spirostichaは独立種であるE. spirosticha (Rauh & Buchloh) Heav. & Hett., 2021とされています。

という訳で、長年の懸念だったCastillonらの論文を記事にすることが出来きてホッとしました。胸のつかえがとれたような気分です。そういえば、これが2024年最後の論文のご紹介記事となります。さて、来年も面白い論文をご紹介していきたいものですね。



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