今年の多肉植物のニュースはいくつかありますが、その重大な1つはEchinoagaveのAgaveからの独立の提案でしょう。最近、記事にしましたから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。


さて、論文を読んだこともあり、早速11月の五反田BBでEchinoagaveとされた12種のアガヴェの1つ、Agave albopilosa=Echinoagave albopilosaを入手しました。調べて見ると、A. albopilosaは2007年に記載された割と新しい種だということです。では、何か情報はないかと調べて見たら、A. albopilosaの発見の経緯について書かれた記事を見つけました。それは、Joel Lobeの2011年のレポート、『
The True Story of Agave albopilosa』です。

メキシコへ
多くの多肉植物愛好家と同じく、著者も最近発見されたこの神秘的な植物=Agave albopilosaについて聞いていましたが、その場所は秘密にされていました。何人かの植物学者は見つける事が出来ましたが、正確な場所を教えてくれる人はいませんでした。それでも、著者は諦めませんでしたが、現地はハリケーンAlexにより道路は寸断され、橋は崩壊し、山は崩れ、洪水に見舞われていました。

自然の猛威
Huasteca渓谷への最初の訪問は失敗に終わりました。著者が到着した時には、ショベルカーが何台もの壊された車の残骸を運び始めていました。やがて雨が降り出し水位が上がってきたため、急いで引き返しました。車は滑り岩に接触しましたが、何とか通り抜ける事が出来ました。Monterreyから出るのはかなりの苦労でした。
滞在中、著者は渓谷を何度も訪れましたが、困難ばかりで何もありませんでした。崖を苦労して登るものの、Agave lechuguillaやHechtia texanaと共存する、トゲがあり激しい痛みを伴うCnidoscolus multilobus(トウダイグサ科)が自生し侵入不可能でした。石灰岩の割れ目には、Portulaca pilosaやEchinocereus reichenbachii、Mammillaria formosa、Mammillaria proliferaも見かけました。
頂上付近にはYucca rostrataの見事な群落が見えました。しかし、Agave albopilosaはありませんでした。危険な下り坂の途中では、渓谷の底にHesperaloe funiferaを見つけました。
翌日、最後の試みとして徒歩で下りました。切り立った崖の上に、Agave bracteosaやAgave victoria-regiaeなどの豊かな植生が見えました。谷にはAcanthocereus tetragonusやCylindropuntia kleiniaeを見かけました。また、Dasylirion berlandieriの赤みがかった茎は容易に判別出来ました。望遠鏡で観察したいくつかの植物は、おそらくAgave victoria-regiaeのAgave albopilosaに似た変形か、ただの交雑種でした。

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Echinoagave albopilosa
=Agave albopilosa
尖端の鉛筆の芯のようなトゲは、やがて裂けていきます。


予想外の発見者
Monterrey大学ではMarcela Goonzales Alvarez博士が生物学科の植物標本室を担当していますが、Agave albopilosaを生息地で見たことがなく、標本もありませんでした。発見者であるIsmael Cabralの記事によると、タイプ標本(Isotype)を寄贈しているはずです。Marcelaは植物標本室用の標本収集のために同行することになりましたが、A. albopilosaがHuasteca渓谷で発見されたこと以外の情報は知りませんでした。
彼女は生息地を知っているであろう研究者を紹介してくれました。その理由は、彼自身がAgave albopilosaの発見者だったからです。これには著者も当惑させられました。なぜなら、一般的に発見者とされるIsmael Cabralではなく、Agaveの分子遺伝子型判定法の発明者であるJorge Armando Verduzcoだからです。
誰もが
Ismael CabralがA. albopilosaを発見したと言いますが、VerduzcoはCabralが引用した文献には登場しません。なぜなら、Cabralは自分がA. albopilosaを発見したと言っているからです。Verduzcoを引用することは、Cabralが真の発見者ではないことを認めることになるからです。このようなことは、植物学や動物学の世界ではよく見られることで、最初の発見者になりたいということは、倫理的ではないかも知れませんが非常に人間的なことです。
Verduzcoは10年以上前に現地調査中にA. albopilosaに気が付きました。
Verduzcoはこの時、写真付きの短い記事を書き、正式な説明なしで「Victoria-montana」と名付けました。この時、若いCabralはMonterrey大学におり、博士論文に忙しくしていました。彼はVerduzcoに会い、A. albopilosaを見せてもらいました。

生長すると、尖端のトゲ部分が裂けて花が咲いたような見た目になります。(以下リンク)
http://www.llifle.com/Encyclopedia/SUCCULENTS/Family/Agavaceae/184/Agave_albopilosa

繁殖のすすめ
メキシコ人が密輸業者にすら知られている場所を秘密にしていることを不思議に思うかもしれません。さらに言えば、Agave albopilosaは主に手が届かない場所で育ち、繁殖力はかなり強く、差し迫った危険にさらされているわけではありません。いったい何が問題なのでしょうか?
A. albopilosaが知られてから10年以上経ちますが、コレクターが欲しがり入手するであろうことは当然です。なぜ、繁殖を試みなかったのでしょうか。その方が仮想的な保護より効果的です。もし、市場が密売人にとってそれほど儲かるのであれば、なぜオランダやチェコ、日本、ドイツの種苗業者のように温室を建て、種を蒔き、市場を満たさないのでしょうか。メキシコには種子や気候、土地、すべてが有利です。中国人はEchinocactus grusonii(=Kroenleinia grusonii)を幸運のサボテンと呼び、何百万本もの個体が市場に出回っています。E. grusoniiはメキシコからいつか消えるかもしれないサボテンですが、地球上から消えることはありません。万里の長城と同じように、中国には月から見えるくらい沢山のE. grusoniiがあるはずです。

最後に
以上が記事の簡単な要約です。
著者は謎めいた新種のアガヴェであるAgave albopilosaを探すために、メキシコを訪問しました。しかし、ハリケーンの到来により、著者が思わぬ苦労をする羽目になります。ハリケーンの影響と、詳細は自生地の秘匿により、結局著者はAgave albopilosaを見つけることができませんでした。
さて、この自生地の秘匿自体は、意味があることです。論文の情報を元に違法採取が行われることが明らかとなり、近年では詳細な自生地の情報は秘匿されることは珍しくありません。ただし、著者の言い分もよく分かります。CITESなどの保護政策は基本的に採取や国際的な取り引きの制限は行いますが、園芸市場における不足に対しては無力です。違法取り引きの原因は、市場において需要と供給のバランスが崩れ、飢餓感が生まれることにあります。そのことにより、違法取り引きに旨味が生まれるのです。積極的な流通が違法取り引きの旨味を潰すのは、Euphorbia susannaeなどでも確認済であり、ソテツ類では一般への流通により違法取り引きを減じる対策が進行中です。
元記事のタイトルにあるように、Agave albopilosaの記載者と発見者が実は異なるという趣旨でした。そのことはまあいいとして、気になるのは発見者のVerduzcoです。
Verduzcoはアガヴェの遺伝子についての専門家で、アガヴェには交配種が多く見られると考えているようです。Agave albopilosaも自然交雑種と考えているようですが、まだ証明されたわけではないようです。交雑種というとただの雑種のような気がしますが、実は植物にとっては進化の重要な要素の1つとされています。ウチワサボテンでは複数種が混じり合い新しい種が生まれており、これを網状進化と呼んでいるそうです。Agave albopilosaに関しては種子で繁殖していることからして、すでに独立種としての要件は満たしているのでしょう。


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