多肉植物ブームが続いていますが、明らかにその柱の1つはエケベリアでしょう。多肉植物のイベントでは必ず専門店が出店しますし、エケベリアのオンリーイベントも沢山開催されています。さて、そんな人気があるエケベリアですが、分類学的にはベンケイソウ科(Crassulaceae)に属します。ベンケイソウ科には人気のEcheveriaや、寄せ植えや花壇を賑わせるSedumやCrassula、Aeonium、Kalanchoe、Sempervivum、Graptopetalum、個性的なDudleyaやAdromischus、塊根塊茎好きにも愛されるCotyledonやTylecodonなど39属からなります。しかし、うち4属は近年出来た属のようで、私も聞いたことがない分類群でした。ということで、本日はそのうちの1つ、ジェロニモア属を取り上げましょう。参照とするのは、Jose Antonio Vázquez-Garciaらの2023年の論文、『Jeronimoa(Crassulaceae, Saxifragales), UN NUEVO GENERO ENDEMICO DE CUICATLAN, OAXACA, MEXICO Y SU, CORRESPONDIENTE COMBINATCION NUEVA, Jeronimoa cuicatecana: UN CASO DE CONVERGENCIA EVOLUTIVA CON Pachyphyum』です。

ベンケイソウ科の困難
ベンケイソウ科及びエケベリア属は、50を超える異なる染色体が関与する倍数体の存在や、形態学的な同型性のため、歴史的にその分類は困難でした。最近の分子研究によりエケベリア属が単系統ではないことが明らかとなっています。これらのグループは系統ゲノミクスを含む様々なアプローチで検討し再定義する必要があります。

謎めいた新種の記載
2004年にTehuacán-Cuicatlán生物圏保護区内で発見されたベンケイソウ科植物の新種の記載は、Echeveria lauiとの類似性とPachyphytum属との花序の類似性により著者らの注目を集めました。当初はEcheveria cuicatecanaとして記載されましたが、後にPachyphytum cuicatecanumとされました。しかし、分子系統によると、この種はPachyphytum属に属さず、形態学的な特徴はEcheveria属にも当てはまりません。

新属・Jeronimoa
著者らはPachyphytum cuicatecanumを新属であるJeronimoaに移します。垂れ下がる花茎や花冠に付く萼片などPachyphytum属との高度な進化的収斂を示します。ただし、Pachyphytumには花弁の内側に付属物がありますが、Jeronimoaでは膨らみだけです。Echeveriaとの違いは外観的なものと、萼片が多肉質で押すと花冠を覆うことが挙げられます。また、花筒がありません。新属に移されたPachyphytum cuicatecanumの学名は以下の通りです。
Jeronimoa cuicatecana (J. Reyes, Joel Pérez & Brachet) B. Vázquez, Islas &  Rosales, comb. nov.

系統分類学
Jeronimoaはその形態に基づき、花序が完全に対応していないものの、主に茎や葉の多肉性によりSeries Purinosae内のEcheveria属に分類されました。Jeronimoa cuicatecanaの注目すべき点は、葉や苞により簡単に繁殖でき、似ているE. lauiではできません。 Cruzら(2019)の分子系統により、Series PuinosaeはClade IVに属することが判明しました。しかし、JeronimoaはClade IVではなく、Clade IIIに属することが明らかとなりました。

            ┏Clade IV
        ┏┫
    ┏┫┗Clade III
    ┃┃
┏┫┗━Clade II
┃┃
┫┗━━Clade I

┗━━━Outgroup

Outgroup: Dudleya、Lenophyllum、Sedum①、Villadia

Clade I: Pachyphytum

Clade II: Urbiniae

Clade III: Chloranthae、Ciliatae、Echeveria①、Racemosea、spicatae、Thompsonella、Thyrsiflorae、Jeronimoa

Clade IV: Angulatae、Cremnophila、Echeveria②、Gibbiflorae、Graptopetalum、Occidentales、Paniculatae、Pruinosae、Reidmorania、Secundae、Sedum②、Tacitus、Urbiniae、Valvatae

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
エケベリアあるいはパキフィツムとされた新種を新属ジェロニモアとして分離・独立させました。形態学的にはパキフィツムですが、遺伝的にはパキフィツムとは近縁ではありません。どちらかと言えばエケベリアに近縁なのでしょう。
しかし、分子系統を見ていただければ分かりますが、セダムやエケベリアは異なる枝に出現します。エケベリアは単系統ではないということがさらっと述べられていますが、事はさらに重大です。膨大な種類があるセダムが単系統ではなく、あちこちのグループで進化した「セダム的」な外見の種をセダム属としていた事が判明したのです。セダム属は膨大な種類がありますから、今後のベンケイソウ科植物の分類は、非常に困難なものとなるでしょう。おそらく、細分化される流れのような気がしますが、どう分けたら良いのかかなりの難問です。まあ、すべてが明らかとなるのはだいぶ先の話でしょう。
それはそうと、冒頭で4つの新属があると述べましたが、ジェロニモア以外の新属についても調べていますから、そのうち記事にする予定です。



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