植物の名前は混乱しているものが多く、1つの植物に沢山の異名があることは珍しいことではありません。古い時代に記載された種では、そもそもそれが何を指していたのかがよくわからないケースもあります。これは、国際命名規約が整備される前のもので必要な情報が足りていなかったり、古いため記述された標本が戦争などで失われてしまい現存しないなど、種の判別のために必要な情報が不足しているためです。多肉植物の記載された時の情報を知りたいため、古い時代の記述を調べることがありますが、図譜はなく標本の指定もなく、ラテン語による2〜3行の簡素な特徴の説明があるだけだったりします。このように、古い時代の記述は混乱しており、それが何を指しているのかは植物学者が丹念に調査しないとわからないものばかりです。ですから、古い記述が実はある植物を指していたことが判明し、より古いというか先に命名された名前に修正されることも珍しくありません。
ということで、本日は命名に関する内容ということで、Detlev Metzing & Roberto Kieslingの2007年の論文、『Winterocereus (Cactaceae) is the corred name for Hildewintera』をご紹介します。
Hildewinteraの歴史
Borzicactus族は球状から円柱状になるサボテンのグループで、ボリビア、ペルー、アルゼンチンに分布し、主に鳥媒花です。その中で、二重花被という特徴を持つものが、1962年にWinteria aureispina F. Ritterとして記載されました。しかし、これは1784年に記載されたWintera Murrayと同名(parahomonymy)、1878年に記載されたWinteria Saccardoと同名(Homonymy)であるため、属名を変更する必要がありました。
1966年にWinterocereus Backebergと、それより3〜4ヶ月早くHildewintera F. ritterに変更する提案がなされました。(先取権により)Hildewinteraとなり、その妥当性については疑問視されたことはありませんでした。
Hildewinteraは非合法
2003年にHildewinteraの新種が記載された論文が出されました。その論文に対するコメントとして、W. Greuter(私信)はING(Index Nominum Genericorum)において、Hildewinteraの項目に「タイプ種に対する不完全な参照」が記されていることを気が付かせてくれました。
著者らはRitter(1966)による学名への参照のページ番号が省略されているため、「完全かつ直接的」ではなかったことを見逃していました。これは属名にも当てはまり、よってHildewinteraは有効に公表されなかった(not validly published)ことが判明しました。その結果、Backeberg(1966)が公表したWinteriocereusは、規約の要件をすべてみたし、もっとも古い利用可能な名前です。Rowley(1968)による索引への記載により、Hildewinteraは有効に公表されましたが、そこでもWinteriocereus Backeberg 1966が異名として記載されているため、Hildewinteraは非合法名です。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
特に疑問もなく一般的に使用されてきたHildewinteraが実は有効に公表されていない非合法名であり、これを有効に公表されているWinterocereusとしましょうという提案でした。しかし、現在はWinterocereusはCleistocactus Lem.に吸収されてしまいました。著者らもCleistocactusに含める意見については承知しており、別属とすべきであることを改めて主張していますが、結局のところCleistocactusに統廃合されつしまったわけで、この論文の提案を無駄ではないかと思われるかも知れません。とはいえ、この論文は分類学的に意味があり、特定の分類群の命名に対する正しい知識を与えてくれます。ですから、データベース上でもこの論文の知見は活用されており、将来の分類学に対する有効な資料となっています。例えば、キュー王立植物園のデータベースでCleistocactusを見てみましょう。
Cleistocactus Lem., 1861.
Heterotypic Synonyms
Winteria F. Ritter, 1962, nom illeg.
Winterocereus Backeb., 1966.
Hildewintera F. Ritter ex G. D. Rowley, nom illeg.
以上のように、論文の知見が活用されています。WinteriaやHildewinteraが非合法名であることや、HildewinteraがRowleyにより再び記載されたことなどです。また、将来的にCleistocactusの再編が行われる可能性もあるため、その時にこの論文は重大な意味を持つことになるかも知れません。
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Hildewinteraの歴史
Borzicactus族は球状から円柱状になるサボテンのグループで、ボリビア、ペルー、アルゼンチンに分布し、主に鳥媒花です。その中で、二重花被という特徴を持つものが、1962年にWinteria aureispina F. Ritterとして記載されました。しかし、これは1784年に記載されたWintera Murrayと同名(parahomonymy)、1878年に記載されたWinteria Saccardoと同名(Homonymy)であるため、属名を変更する必要がありました。
1966年にWinterocereus Backebergと、それより3〜4ヶ月早くHildewintera F. ritterに変更する提案がなされました。(先取権により)Hildewinteraとなり、その妥当性については疑問視されたことはありませんでした。
Hildewinteraは非合法
2003年にHildewinteraの新種が記載された論文が出されました。その論文に対するコメントとして、W. Greuter(私信)はING(Index Nominum Genericorum)において、Hildewinteraの項目に「タイプ種に対する不完全な参照」が記されていることを気が付かせてくれました。
著者らはRitter(1966)による学名への参照のページ番号が省略されているため、「完全かつ直接的」ではなかったことを見逃していました。これは属名にも当てはまり、よってHildewinteraは有効に公表されなかった(not validly published)ことが判明しました。その結果、Backeberg(1966)が公表したWinteriocereusは、規約の要件をすべてみたし、もっとも古い利用可能な名前です。Rowley(1968)による索引への記載により、Hildewinteraは有効に公表されましたが、そこでもWinteriocereus Backeberg 1966が異名として記載されているため、Hildewinteraは非合法名です。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
特に疑問もなく一般的に使用されてきたHildewinteraが実は有効に公表されていない非合法名であり、これを有効に公表されているWinterocereusとしましょうという提案でした。しかし、現在はWinterocereusはCleistocactus Lem.に吸収されてしまいました。著者らもCleistocactusに含める意見については承知しており、別属とすべきであることを改めて主張していますが、結局のところCleistocactusに統廃合されつしまったわけで、この論文の提案を無駄ではないかと思われるかも知れません。とはいえ、この論文は分類学的に意味があり、特定の分類群の命名に対する正しい知識を与えてくれます。ですから、データベース上でもこの論文の知見は活用されており、将来の分類学に対する有効な資料となっています。例えば、キュー王立植物園のデータベースでCleistocactusを見てみましょう。
Cleistocactus Lem., 1861.
Heterotypic Synonyms
Winteria F. Ritter, 1962, nom illeg.
Winterocereus Backeb., 1966.
Hildewintera F. Ritter ex G. D. Rowley, nom illeg.
以上のように、論文の知見が活用されています。WinteriaやHildewinteraが非合法名であることや、HildewinteraがRowleyにより再び記載されたことなどです。また、将来的にCleistocactusの再編が行われる可能性もあるため、その時にこの論文は重大な意味を持つことになるかも知れません。
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