花の受粉に関わる話は面白く、私も度々記事にしています。例えばサボテンで言えば、昆虫だけではなくハチドリやコウモリも花粉媒介者として受粉に寄与しています。花の受粉様式は恐ろしく多様で、花粉媒介者だけではなく、雌雄異株と雌雄同株、雌雄異熟、雌雄離熟など、様々な用語が飛び交います。しかし、受粉した後の話、つまり結実して種子が散布される植物の繁殖ではとても重要な部分は、何故か受粉と比較すると論文も少なく感じます。この部分は重要かつ面白いため、以前から気になっていました。ところが驚くべきことに、動物による種子散布に関する本が出版されたのです。それは、総勢18人の研究者による2024年9月の新刊、『タネまく動物』(文一総合出版)です。様々な動物の様々な種類の植物の種子散布について語られます。その中の一部のトピックを少しご紹介しましょう。
植物の種子散布は、ホウセンカやユーフォルビアのように種子をはね飛ばしたり、タンポポの綿毛がついた種子が風で運ばれたりと、必ずしも動物が種子散布に関与するわけではありません。しかし、全体的に見れば、植物の種子散布は動物に依存していると言っていいはずです。もっとも一般的な動物による種子散布は被食散布でしょう。果実を食べた動物が糞として種子を動き回りながら散布するのです。この図式は割りと一般的にも知られていますが、一部の昆虫も被食散布を行っていることは私も初めて知りました。しかも、まだまだ未開拓な分野のようです。研究されていないだけで、あるいは昆虫による種子散布は特殊な事例ではなく、一般化するかもしれません。また、果実を食べた動物を肉食動物が食べて、肉食動物の糞から2次的に種子が散布されるという話には驚きました。確かに言われて見れば、そのようなことは日常的に起こっているのでしょう。
種子散布の様式は実に多様です。私は果実ではなく種子そのものを食べる動物のことをすっかり失念していました。ですから、大型動物の糞に含まれる大量の種子を、ネズミが持ち去るという話には驚かされました。もちろん、種子を食べられてしまいますから、持ち去られた種子は発芽しません。場合によっては冬のために種子を隠して忘れてしまうこともあるかもしれません。しかし、確実なのは糞虫が糞の下に穴を掘って、種子ごと糞を埋めてしまうことです。このように、動物に食べられて糞として散布されて終わりではないのです。まったく、生態系の複雑さには驚かされます。
被食散布の次によく知られているのは付着散布でしょう。オナモミやセンダングサなど鉤爪などで動物の体毛に付着して運ばれるものや、粘着質なものもあるようです。しかし、付着散布はそれだけではなく、海洋鳥には付着種子ではない雑草の種子も付着しており、島を越えて種子が散布されています。さらに、驚いたのはカナリア諸島の猛禽類の話で、捕獲した獲物を調べると様々な種子が見つかったということです。カナリア諸島には複数の島に分布するEuphorbia canariensisと1つの島にしか分布しないEuphorbia handiensisという2種類のサボテン様ユーフォルビアが生えています。E. canariensisの種子は付着種子ではないのに複数の島に分布し、E. handiensisは1つの島にしか分布しない謎は、もしかしたらこのあたりに解決の鍵があるのかも知れませんね。
さて、本書は動物による種子散布に特化した稀有な読み物と言えます。研究者の手による本にも関わらず、初学者にも分かりやすく誰でも読める難易度となっています。しかし、それでも研究された内容は鋭く、まったく知らなかった話も多く大変勉強になりました。このようなニッチな分野を扱った本はあまりないため、このような本が出版されたことを嬉しく思います。普通に読み物としても面白い本ですから、ぜひ多くの方に手にとっていただきたいと思います。おすすめします。
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植物の種子散布は、ホウセンカやユーフォルビアのように種子をはね飛ばしたり、タンポポの綿毛がついた種子が風で運ばれたりと、必ずしも動物が種子散布に関与するわけではありません。しかし、全体的に見れば、植物の種子散布は動物に依存していると言っていいはずです。もっとも一般的な動物による種子散布は被食散布でしょう。果実を食べた動物が糞として種子を動き回りながら散布するのです。この図式は割りと一般的にも知られていますが、一部の昆虫も被食散布を行っていることは私も初めて知りました。しかも、まだまだ未開拓な分野のようです。研究されていないだけで、あるいは昆虫による種子散布は特殊な事例ではなく、一般化するかもしれません。また、果実を食べた動物を肉食動物が食べて、肉食動物の糞から2次的に種子が散布されるという話には驚きました。確かに言われて見れば、そのようなことは日常的に起こっているのでしょう。
種子散布の様式は実に多様です。私は果実ではなく種子そのものを食べる動物のことをすっかり失念していました。ですから、大型動物の糞に含まれる大量の種子を、ネズミが持ち去るという話には驚かされました。もちろん、種子を食べられてしまいますから、持ち去られた種子は発芽しません。場合によっては冬のために種子を隠して忘れてしまうこともあるかもしれません。しかし、確実なのは糞虫が糞の下に穴を掘って、種子ごと糞を埋めてしまうことです。このように、動物に食べられて糞として散布されて終わりではないのです。まったく、生態系の複雑さには驚かされます。
被食散布の次によく知られているのは付着散布でしょう。オナモミやセンダングサなど鉤爪などで動物の体毛に付着して運ばれるものや、粘着質なものもあるようです。しかし、付着散布はそれだけではなく、海洋鳥には付着種子ではない雑草の種子も付着しており、島を越えて種子が散布されています。さらに、驚いたのはカナリア諸島の猛禽類の話で、捕獲した獲物を調べると様々な種子が見つかったということです。カナリア諸島には複数の島に分布するEuphorbia canariensisと1つの島にしか分布しないEuphorbia handiensisという2種類のサボテン様ユーフォルビアが生えています。E. canariensisの種子は付着種子ではないのに複数の島に分布し、E. handiensisは1つの島にしか分布しない謎は、もしかしたらこのあたりに解決の鍵があるのかも知れませんね。
さて、本書は動物による種子散布に特化した稀有な読み物と言えます。研究者の手による本にも関わらず、初学者にも分かりやすく誰でも読める難易度となっています。しかし、それでも研究された内容は鋭く、まったく知らなかった話も多く大変勉強になりました。このようなニッチな分野を扱った本はあまりないため、このような本が出版されたことを嬉しく思います。普通に読み物としても面白い本ですから、ぜひ多くの方に手にとっていただきたいと思います。おすすめします。
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