食虫植物とは実に不思議なもので、その奇妙な姿や脅威的な生態には驚かされると同時に、多くの人を魅了してきました。かのチャールズ・ダーウィンもその一人です。近年、多肉植物ブームから派生して、珍奇植物やビザールプランツという名前で、多肉植物も含んだビカクシダやツツアナナスなども人気なようです。やはり、その姿の面白さから食虫植物も人気なようで、園芸書も沢山出版され、以前と比較にならないほど多種類の食虫植物が入手可能となっています。そんな中、食虫植物についての学術的な本が出版されました。2023年に刊行された、野村康之 / 著『あなたの知らない食虫植物の世界』(DOJIN選書)です。
内容的には食虫植物についての様々な事柄について、網羅したものとなっています。食虫植物の定義、捕虫方法、自生環境、蟲(昆虫など)との関係、進化、保全まで、非常は幅広く食虫植物の基本的事項はすべて学ぶことが出来ます。さて、本書を読んでいていくつか私個人が特に気になったトピックを、いくつかご紹介していきます。
多肉植物の定義
まずは食虫植物の定義についてです。これは中々難しい問題です。思い浮かぶだけでもテンナンショウやバケツラン、ハスに至るまで、昆虫を一時的に捕らえる植物はそれなりにありますが、これらは食虫植物ではありません。なぜなら、食虫植物は捕らえた昆虫などを、誘引、捕獲、分解、吸収、養分活用という要素があるからです。上に挙げた植物は、あくまでも受粉のためであり、捕らえた獲物の養分を活用していません。しかし、現存する食虫植物でも、必ずしもこれらの定義がすべて当てはまるわけではありません。必ずあるのは捕獲と吸収でしょう。分解は消化酵素を出すものもありますが、微生物などに分解を委ねるものもあり必須とは言えないようです。捕獲については食虫植物でない植物でも割りと見られます。例えば、害虫対策で粘液を出す植物がありますが、これらは捕らえた獲物を分解も吸収もしません。ただの防御手段なのです。さらに、分解もカビなどの感染症への対抗策として分解酵素を有している植物もあります。これらの特徴はきちんと検証しないと食虫植物と見誤ってしまいますが、実はこれらは重要な意味があるのかも知れません。なぜなら、食虫植物が今までなかった粘液や分解酵素を新たに作り出したと考えるより、防御手段として粘液や分解酵素を発達させていた植物が食虫植物に進化した際にそれらの機能を転用したと考えた方が自然だからです。これらの非食虫植物の共通する機能が詳しく研究されることにより、食虫植物の進化についてもさらに深く知ることが出来るかも知れません。
サラセニア(筑波実験植物園)
捕虫と受粉のアポリア
次に気になったのは、蟲との関係です。本書では昆虫以外の小動物を含むことから「蟲」という表現をしています。対象が食虫植物ですから、獲物としての蟲を想像してしまいます。しかし、当然ながら食虫植物も植物です。花を咲かせ受粉しなくては繁殖出来ないため、花粉媒介者としての蟲とも付き合う必要があります。ここにアポリアがあります。花を訪れた花粉媒介者が、他の花に行く前に捕虫されてしまう可能性があるのです。または、花より捕虫器に優先して引き寄せられてしまう可能性すらあります。この問題は言われて初めて気が付きましたが、確かに非常に根源的で面白い指摘でした。いくつか解決策はあるようですが、まだ完全解決とはいかないようです。とても興味深い話題でした。
ウツボカズラ(神代植物公園)
最後に
食虫植物はあまり詳しいとは言えませんでしたから、本書は大変勉強になりました。しかし、この手の網羅系の本はどうしても薄口になりがちですが、本書はかなり濃厚です。この1冊ですべてが分かるとは言いませんが、重要な議題は網羅しているように思います。皆様にもご一読をおすすめします。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
内容的には食虫植物についての様々な事柄について、網羅したものとなっています。食虫植物の定義、捕虫方法、自生環境、蟲(昆虫など)との関係、進化、保全まで、非常は幅広く食虫植物の基本的事項はすべて学ぶことが出来ます。さて、本書を読んでいていくつか私個人が特に気になったトピックを、いくつかご紹介していきます。
多肉植物の定義
まずは食虫植物の定義についてです。これは中々難しい問題です。思い浮かぶだけでもテンナンショウやバケツラン、ハスに至るまで、昆虫を一時的に捕らえる植物はそれなりにありますが、これらは食虫植物ではありません。なぜなら、食虫植物は捕らえた昆虫などを、誘引、捕獲、分解、吸収、養分活用という要素があるからです。上に挙げた植物は、あくまでも受粉のためであり、捕らえた獲物の養分を活用していません。しかし、現存する食虫植物でも、必ずしもこれらの定義がすべて当てはまるわけではありません。必ずあるのは捕獲と吸収でしょう。分解は消化酵素を出すものもありますが、微生物などに分解を委ねるものもあり必須とは言えないようです。捕獲については食虫植物でない植物でも割りと見られます。例えば、害虫対策で粘液を出す植物がありますが、これらは捕らえた獲物を分解も吸収もしません。ただの防御手段なのです。さらに、分解もカビなどの感染症への対抗策として分解酵素を有している植物もあります。これらの特徴はきちんと検証しないと食虫植物と見誤ってしまいますが、実はこれらは重要な意味があるのかも知れません。なぜなら、食虫植物が今までなかった粘液や分解酵素を新たに作り出したと考えるより、防御手段として粘液や分解酵素を発達させていた植物が食虫植物に進化した際にそれらの機能を転用したと考えた方が自然だからです。これらの非食虫植物の共通する機能が詳しく研究されることにより、食虫植物の進化についてもさらに深く知ることが出来るかも知れません。
サラセニア(筑波実験植物園)
捕虫と受粉のアポリア
次に気になったのは、蟲との関係です。本書では昆虫以外の小動物を含むことから「蟲」という表現をしています。対象が食虫植物ですから、獲物としての蟲を想像してしまいます。しかし、当然ながら食虫植物も植物です。花を咲かせ受粉しなくては繁殖出来ないため、花粉媒介者としての蟲とも付き合う必要があります。ここにアポリアがあります。花を訪れた花粉媒介者が、他の花に行く前に捕虫されてしまう可能性があるのです。または、花より捕虫器に優先して引き寄せられてしまう可能性すらあります。この問題は言われて初めて気が付きましたが、確かに非常に根源的で面白い指摘でした。いくつか解決策はあるようですが、まだ完全解決とはいかないようです。とても興味深い話題でした。
ウツボカズラ(神代植物公園)
最後に
食虫植物はあまり詳しいとは言えませんでしたから、本書は大変勉強になりました。しかし、この手の網羅系の本はどうしても薄口になりがちですが、本書はかなり濃厚です。この1冊ですべてが分かるとは言いませんが、重要な議題は網羅しているように思います。皆様にもご一読をおすすめします。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
コメント