エピジェネティクスとは、一般的に「遺伝子の配列を変えずに遺伝子を制御」する仕組みと言われていますが、これだけだと何だかわかりませんね。初めてこの言葉を聞いたのは、某ネット掲示板の書き込みで、確か「その世代が獲得した特徴が子孫に伝わる仕組み」のように言われていたように記憶しています。しかし、それはラマルクの進化論のように聞こえて、首を傾げたものです。一体どういうことなのでしょうか。まあ、知らないのなら調べたら良いではないかということで、手軽に読める新書を手にとってみました。本日は、2014年に刊行された、仲野徹 / 著、『エピジェネティクス -新しい生命像をえがく』(岩波新書)をご紹介します。
まず、読んで直ぐに少しだけ知っている話だと気が付きました。要するにこれは、ヒストンのメチル化に関係する話ですね。それがエピジェネティクスと呼ばれていることを知りませんでした。とはいえ、私の知識はえらくぼんやりしていて、具体例と言われるとよくわかりません。一体どういうことなのでしょうか?
エピジェネティクスの仕組みは、簡単にいうとDNAやDNAを折りたたむヒストンというタンパク質がメチル化やアセチル化などの修飾・脱修飾をされると、その遺伝子がオンになったりオフになったりするということです。遺伝子は生きている間に変わりませんが、このスイッチのオン・オフは変わりうるものです。そして、そのオン・オフは次世代に伝わる可能性があります。しかし、エピジェネティクスはどうもそれほど万能なものではないようです。なぜなら、受精の際に遺伝子は脱メチル化され、一度リセットされるからです。ですから、必ずしもスイッチのオン・オフが次世代に伝わるとはいえないようです。正確には、この時にリセットされないでオン・オフが保存されるものもあるということです。
エピジェネティクスは遺伝子に依存しない仕組みのように捉えられる向きもあるようです。どちらかと言えば、遺伝子を制御する仕組みの一部と考えた方が自然かも知れません。遺伝子自体は変わりませんから、ラマルクの用不用説とも異なりますね。また、エピジェネティクスの制御は、ある遺伝的な現象に対し、それを主体的に制御しているのか、一部が関連するだけなのか、全く関与していないのか、かなり温度差があるようです。重要ではあるものの、すべての事象を説明しうるものではないということです。
エピジェネティクスの具体例としては、植物では春化現象が挙げられます。秋まき小麦を低温で処理(春化処理)すると、春まき小麦になるという現象です。これは、悪名高きルイセンコが見つけた現象です。観察された現象自体は正しいものの、解釈が間違っていました。春化処理するとその獲得形質は遺伝するとし、遺伝学や進化論を歪めてしまいました。これは、遺伝ではなく、エピジェネティクスの変化によるものだったのです。また、植物は受精の際の脱メチル化が動物のように広範に起きないとされているようです。
ここで、ラマルクの用不用説との違いを明確にしておきましょう。よくある用不用説の例として、キリンの首の長さに対する説明があります。曰く、高い場所にある枝についた葉を食べるために首を伸ばしていたら、世代を重ねる毎に徐々に首が長くなったというものです。エピジェネティクスで考えた場合、首の周囲の筋細胞のエピジェネティクスの変化でしかなく、生殖細胞のエピジェネティクスは変わっていないため、次世代には伝わりません。エピジェネティクスは生殖細胞に起きている必要があるのです。例として挙げると、飢饉が起きていた時に生まれた子供は、将来的に糖尿病などの生活習慣病になりやすいという調査の結果があります。これは、低栄養に耐えられるようにエピジェネティクスが変化した例です。この場合、生殖細胞を含めたすべての細胞にエピジェネティクスの変化があるため、次世代に伝わる可能性があります。さらに言えば、エピジェネティクスは用不用説の想定する新たに獲得した形質などではなく、既存の遺伝子が働くか働かないかというものですから、まったく異なりますね。
読んでいて驚いたのは、遺伝的には問題がなくてもメチル化の違いにより発病する病気があるなど、思いの外様々な部分に影響を及ぼしていることです。しかし、分かっている部分はまだまだ少ないようで、はっきりとしないモヤモヤした部分が残りました。エピジェネティクスが一部の病気に関わるため、例えば癌については研究が進行中です。もちろん、メチル化の制御が癌治療に有用な可能性があるからです。しかし、それも始まったばかりで、その他のエピジェネティクスについてはこれからの分野のようです。エピジェネティクスが関係していることは分かっていても、それがどれだけの重要性があるのかすら解明が難しいのです。実際にエピジェネティクスの関連が言われている現象でも、エピジェネティクスを確実に証明することはなかなか困難なようです。まあ、エピジェネティクスは仕組みの一端なのですから、エピジェネティクス以外の仕組みも合わせて理解しないと意味がないのかも知れません。
本書では植物のエピジェネティクスは扱いが少ないのですが、これは著者の専門外であるからなのか、植物のエピジェネティクス研究が進んでいないからなのかは、よくわかりません。ただ、医学研究などと比べると重要性は下がるため、それほどの進展はないであろうことが予想されます。植物のエピジェネティクスはかなり複雑なようですから、研究も難しそうです。本書によりエピジェネティクスに興味が湧きました。何か良い論文がないか調べてみます。そのうち、ブログで取り上げるかも知れません。
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まず、読んで直ぐに少しだけ知っている話だと気が付きました。要するにこれは、ヒストンのメチル化に関係する話ですね。それがエピジェネティクスと呼ばれていることを知りませんでした。とはいえ、私の知識はえらくぼんやりしていて、具体例と言われるとよくわかりません。一体どういうことなのでしょうか?
エピジェネティクスの仕組みは、簡単にいうとDNAやDNAを折りたたむヒストンというタンパク質がメチル化やアセチル化などの修飾・脱修飾をされると、その遺伝子がオンになったりオフになったりするということです。遺伝子は生きている間に変わりませんが、このスイッチのオン・オフは変わりうるものです。そして、そのオン・オフは次世代に伝わる可能性があります。しかし、エピジェネティクスはどうもそれほど万能なものではないようです。なぜなら、受精の際に遺伝子は脱メチル化され、一度リセットされるからです。ですから、必ずしもスイッチのオン・オフが次世代に伝わるとはいえないようです。正確には、この時にリセットされないでオン・オフが保存されるものもあるということです。
エピジェネティクスは遺伝子に依存しない仕組みのように捉えられる向きもあるようです。どちらかと言えば、遺伝子を制御する仕組みの一部と考えた方が自然かも知れません。遺伝子自体は変わりませんから、ラマルクの用不用説とも異なりますね。また、エピジェネティクスの制御は、ある遺伝的な現象に対し、それを主体的に制御しているのか、一部が関連するだけなのか、全く関与していないのか、かなり温度差があるようです。重要ではあるものの、すべての事象を説明しうるものではないということです。
エピジェネティクスの具体例としては、植物では春化現象が挙げられます。秋まき小麦を低温で処理(春化処理)すると、春まき小麦になるという現象です。これは、悪名高きルイセンコが見つけた現象です。観察された現象自体は正しいものの、解釈が間違っていました。春化処理するとその獲得形質は遺伝するとし、遺伝学や進化論を歪めてしまいました。これは、遺伝ではなく、エピジェネティクスの変化によるものだったのです。また、植物は受精の際の脱メチル化が動物のように広範に起きないとされているようです。
ここで、ラマルクの用不用説との違いを明確にしておきましょう。よくある用不用説の例として、キリンの首の長さに対する説明があります。曰く、高い場所にある枝についた葉を食べるために首を伸ばしていたら、世代を重ねる毎に徐々に首が長くなったというものです。エピジェネティクスで考えた場合、首の周囲の筋細胞のエピジェネティクスの変化でしかなく、生殖細胞のエピジェネティクスは変わっていないため、次世代には伝わりません。エピジェネティクスは生殖細胞に起きている必要があるのです。例として挙げると、飢饉が起きていた時に生まれた子供は、将来的に糖尿病などの生活習慣病になりやすいという調査の結果があります。これは、低栄養に耐えられるようにエピジェネティクスが変化した例です。この場合、生殖細胞を含めたすべての細胞にエピジェネティクスの変化があるため、次世代に伝わる可能性があります。さらに言えば、エピジェネティクスは用不用説の想定する新たに獲得した形質などではなく、既存の遺伝子が働くか働かないかというものですから、まったく異なりますね。
読んでいて驚いたのは、遺伝的には問題がなくてもメチル化の違いにより発病する病気があるなど、思いの外様々な部分に影響を及ぼしていることです。しかし、分かっている部分はまだまだ少ないようで、はっきりとしないモヤモヤした部分が残りました。エピジェネティクスが一部の病気に関わるため、例えば癌については研究が進行中です。もちろん、メチル化の制御が癌治療に有用な可能性があるからです。しかし、それも始まったばかりで、その他のエピジェネティクスについてはこれからの分野のようです。エピジェネティクスが関係していることは分かっていても、それがどれだけの重要性があるのかすら解明が難しいのです。実際にエピジェネティクスの関連が言われている現象でも、エピジェネティクスを確実に証明することはなかなか困難なようです。まあ、エピジェネティクスは仕組みの一端なのですから、エピジェネティクス以外の仕組みも合わせて理解しないと意味がないのかも知れません。
本書では植物のエピジェネティクスは扱いが少ないのですが、これは著者の専門外であるからなのか、植物のエピジェネティクス研究が進んでいないからなのかは、よくわかりません。ただ、医学研究などと比べると重要性は下がるため、それほどの進展はないであろうことが予想されます。植物のエピジェネティクスはかなり複雑なようですから、研究も難しそうです。本書によりエピジェネティクスに興味が湧きました。何か良い論文がないか調べてみます。そのうち、ブログで取り上げるかも知れません。
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