久しぶりにダーウィンに関する新書が出版されました。2024年7月の新刊、鈴木紀之 / 著、『ダーウィン 「進化論の父」の大いなる遺産』(中公新書)です。実は進化生物学に関する本は割とでていますが、ダーウィンその人、あるいは「ダーウィンの進化論」についてはあまり語られません。本書では珍しくダーウィンの植物に関する本についても取り上げられていますから、今回記事にしてみました。

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種の起源
ダーウィンと言えば進化論を世に問うた「種の起源」が有名で、一般的に解説されるのも大抵はこの本です。しかし、意外にも大きな理論はともかく、詳細は語られないことが多いように思われます。本書ではそこに至るまでの道筋となる研究が示されます。
ダーウィンが進化論の問題点をまとめて議論している章もあり、大変興味深く読みました。なぜなら、意外にもこの時点の議論で、現代のウェブ上の進化論否定論者の批判の多くに対し、すでに回答しているからです。今日でも、ウェブ上などではラマルクやその他の進化論を批判することにより、ダーウィンの進化論を否定すると言う不可思議な言説が目立ちます。結局のところ、ダーウィンの進化論については実はよく知らないのでしょう。いみじくも、ダーウィンその人による「知識より無知のほうがより多くの自信を生み出すものだ。」と言う戒めは、未だに通用する考えでしょう。

性淘汰
本書では珍しいことに「人間の由来と性淘汰」が取り上げられています。進化論は当時のキリスト教下のヨーロッパ世界に対する重大な挑戦でした。しかし、「種の起源」では慎重に避けられていた人間の進化について、ついに語られる時が来たのです。しかし、「人間の由来と性淘汰」は、やはりダーウィンの実に独創的な理論である性淘汰について語られることが重要です。しかし、性淘汰は進化論の同士であるウォレスにすら批判されるなど、当時は理解されない理論でした。性淘汰が学術的に認められたのは、「人間の由来と性淘汰」が出版されてから約100年後であったことを思うと、ダーウィンはあまりに先駆的過ぎたのでしょう。

ダーウィンと植物
植物については専門家ではないとダーウィン自身が述べていますが、実際には6冊もの植物を研究した本を書いています。ダーウィンの植物研究についてはほとんど語られませんが、非常に重要な内容を含んでいます。
「ランの受精」では、花粉媒介者の役割りについて言及されます。実は当時の花に対する理解としては、人々を楽しませるために神が創造したとされており、花を訪れる昆虫の働きは注目されていませんでした。「ランの受精」では他家受粉のメリットについても説明されますが、「植物の受精」において自家受粉のデメリットについて徹底的に実験し検証しています。
また、「植物の運動力」では、芽の光に対する屈曲を実験により確認しています。この光の屈曲は、植物ホルモンの働きとして教科書に載る重要な現象です。ダーウィンが植物ホルモンを見つけたわけではありませんが、当時の権威の説く常識に真っ向から対立する考え方でした。後にダーウィンの方が正しいことが明らとなりましたが、徹底した実験と観察により証明するダーウィンの真骨頂ですね。


最後に
本書はダーウィンの著作について、一通り解説しています。珍しいことです。ちゃんと、ダーウィンの行った実験を1つずつ丁寧に解説された本は、実はそれほどないような気もします。ダーウィン本と言えば、その生涯や場合によってはゴシップ、あるいは社会ダーウィニズムなどへのダーウィンには責がないことへの悪影響などを綴るものもありますが、それらは個人的には偉人伝以上の価値はないと感じてしまいます。本書はあくまでも科学的な見地から解説し、科学的な価値や影響を示しています。残念なことに流言飛語に満ち誤解されたダーウィンの進化論について、正しく学べる良い機会です。皆様もこの機会に手にとってみては如何でしょうか?


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