サボテンと言えば、何と言ってもそのトゲが特徴でしょう。トゲのない烏羽玉(Lophophora williamsii)や兜丸(Astrophytum asterias)などもありますが、もっとも原始的なPereskiaやLeuenbergeriaでもトゲがあるのですから、やはりサボテンはそのトゲなくして語れません。このさて、このサボテンのトゲは、やはり研究者も気になるようで、様々な角度から研究が行われています。サボテンのトゲの役割は身を守るためであろうことは直感的に分かりますが、どうもそれだけではないようです。と言うことで、本日はNayla Lujan Aliscioniらの2021年の論文、『Spine function in Cactaceae, a review』をご紹介しましょう。タイトルの通り、過去に行われたサボテンのトゲの研究を調べレビューしています。

棘の種類
サボテンは約1850種類と種数が豊富で、トゲの形態も多様性があります。棘のサイズもばらつきがあり、数mmから20cmまであります。棘は集合しているとより効果的に防御できます。棘のほとんどは針状で、断面は円形で、片側が平らになっていたり鉤状となる場合もあります。また、種により複数種の棘を持つものもあります。例えば、Oreocereus属には通常の防御棘と毛状の棘があります。刺座(アレオーレ)から生える棘の配置はパターンがあり、1つは櫛状の配置で棘は2列に並びすべて同じ大きさです。もう1つは、中心の棘、より長い棘、放射状の棘への分化です。

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Oreocereus celsianus
Pilocereus brunnowiiとして記載。
『The illustrated dictionary of gardening』(1895年)より


棘の機能
サボテンの棘の主たる機能、おそらくはより古いものは植食者に対する防御です。サボテン科は約3000万年前の地球規模の乾燥化に関連して誕生したと考えられています。乾燥した環境では、多肉質な組織は水源となります。そのような状況で、サボテンは物理的な防御として棘を発達させた可能性があります。
現在のサボテンの棘の機能の多様性は、サボテン科の進化的な放散により機能が増加したことをあらわれています。1986年にGibson & Nobelは、防御から体温調節、紫外線からの保護機能を提案しました。


文献探索
サボテンの棘の機能について書かれた論文を調査したところ、24件の研究が見つかり、39種のサボテンが分析されていました。これらの論文において、棘の機能は抗草食防御が5件、抗寄生植物防御が2件、栄養分散が3件、体温調節が11件、集水作用が4件でした。研究のうち9件は野外で実施され、8件は実験室で、7件は野外と実験室の両方で実施されました。
調査されたサボテンはそのほとんどが北米と中米(主に米国とメキシコ)で31種類にのぼり、南米では8種類に過ぎませんでした。南米には非常に過酷な、乾燥した砂漠から熱帯雨林、海抜0mから4000mを超える高さまで生息するサボテンが豊富に存在します。サボテン科はその棘が重要であるにも関わらず、棘の機能を理解するためのモデルとされたのはごく一部に過ぎません。


抗草食防御
草食動物に対する防御は、サボテン科の進化における棘の最初の機能である可能性が高いでしょう。しかし、その機能を分析した研究は少ししかありませんでした。2009年にNassar & Lev-Yadunは、ウチワサボテンの棘密度は、草食動物が食べやすい上部では高いことを発見しました。2018年にCrofts & Andersonは、サボテンの棘が草食獣の皮膚を突き刺すため、草食獣は棘の少ない新しい枝を好むことを観察しました。また、サボテンに限らず棘のある植物は、大型草食動物による採食に長期間さらされると、棘が増えることが知られています。

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ウチワサボテン(筑波実験植物園にて)

温度調節
1970年にGibbs & Pattenは、トゲが極端な高温から茎を保護し、日照のエネルギーの多くを反射および吸収していることを発見しました。2017年にDreznerは、温度が上がるとトゲの長さが長くなることを示しました。2002年のNobel & Bobichは、トゲの密度は高度が高いほど増加し、低温から茎を保護していることが分かりました。

霧収集システム
サボテンには効率的な霧収集システムを発達させたものがあります。水分はトゲの先端で凝集し、基部に移動して茎に入り貯蔵されます。いくつかの研究では、水分がトゲを伝い茎に取り込まれることが明らかとなっています。ただし、疎水性のトゲを持つ持つ種もあり、その場合は水分がトゲの表面で凝集することはありません。

抗寄生植物防御
チリにはTrichocereus chiloensisとEulychnia acidaに寄生するヤドリギである、Tristerix aphyllusが知られています。寄生植物の種子はサボテンを止まり木にする鳥の糞により散布されます。T. chiloensisは、鳥が止まり木として利用しにくくするために、大きなトゲを発達させました。現在、サボテンのヤドリギは他に知られておらず、抗寄生植物防御が確認されているのはこれだけです。

サボテンのヤドリギの画像(リンク)
https://chileanendemics.rbge.org.uk/taxa/tristerix-aphyllus-miers-ex-dc-barlow-wiens

栄養分散
ウチワサボテンの中には、トゲが動物の皮膚に引っかかり、動物の移動により分布を広げます。しかし、栄養分散の研究では、トゲを介した分散能力は示しましたが、分散そのものは評価されていません。

考えられる機能
実証されていない機能についても、いくつかの言及があります。2001年にAndersonは、トゲがカモフラージュとして機能し、草食動物から保護される可能性を提案しました。また、トゲは花粉媒介者に簡単に認識されるため、受粉の可能性が高まるかも知れません。

その他のトゲのトピック
資源割り当てと言う観点からトゲを分析した研究は、非常に少ないようです。トゲは光合成組織ではないため、コストがかかります。また、茎に陰を作ることから、光合成能力を低下させます。一部の種では、遮光作用として重要となるものもあります。

未解決なトゲのトピック
トゲがない、あるいはトゲが少ない種を分析した研究は見つかりませんでした。例えばLophophoraやAstrophytumはトゲが減少しています。Lophophoraはアルカロイドを蓄積しており、物理的防御と化学的防御のtrade-offの関係を示しています。

最後に
サボテンと言えば何と言ってもそのトゲが目立ちますが、意外にもその機能はまだ明らかとなっていない部分がまだまだあるようです。むしろ、良いトゲを出させるために心血を注いでいる趣味家の方が詳しい部分もありそうですね。それはそうと、今回の論文は末尾に「a review」とあります通り、過去の論文を探して概観したものです。私がまだ読んでいない面白そうな論文がいくつも取り上げられていましたから、機を見て記事にしたいと思います。


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