一般的に植物の生育には適していないであろう乾燥地にも、驚くほど多様な植物が自生しています。これらの乾燥地に生える植物は、何かしらの乾燥への適応が見られます。我々が園芸植物として栽培しているサボテンや多肉植物、あるいは塊茎・塊根植物などは、体内に水分を溜め込むことにより乾燥地に適応しています。さて、このような乾燥地への適応は、どのようにして起きているのでしょうか? 当ブログでも、生態学的な見地から乾燥地への適応に迫った論文は、過去にいくつかご紹介しています。今回は視点を変えて、解剖学的な見地から塊根の成立を考えてみます。ご紹介するのは、Y. V. Aviekin, N. V. Nuzhyna, M. M. Gaidarzhyの2023年の論文、『Metamorphosis differences of caudiciform plants as an adaptation to arid conditions』です。日本では「火星人」の名前でお馴染みの塊根植物、Fockea edulisの多肉化の謎に迫っています。
キョウチクトウ科とCaudex
キョウチクトウ科(Apocynaceae)には約366属5000種以上が含まれ、5亜科に分けられます。多年生の多肉植物のグループは、Asclepiadoideae亜科、その中でもStapeliinae亜族に集中しています。このグループには30属以上が含まれ、Stapelia、Huernia、Hoodia、Pseudolithos、Orbea、Quaquaなどがあります。これらの植物の特徴は多肉質な茎を持つことで、サボテンやユーフォルビアに類似しています。樹木性、あるいはpachycaul(塊根)を持つグループは、Apocynoideae亜科のPachypodium属に代表されます。Pachypodium型のpachycaulは、Adansonia、Cyphostemma、Dendrosicyos、Dorstenia、Fouquieria、Moringaなど他属にもあります。このような多肉植物の形態を、「塊茎様多肉植物」(caudex-like succulents)と呼びます。これは、1948年にG. Rowleyにより初めて使用されました。
これらの植物は、皮層の柔組織(※1, ※2, cortex parenchyma)の生長に加え、形成層(※3)の機能により形成される「多汁質材」(juicy wood)も特徴です。形成層は導管要素(※4, tracheal element)に加え、多数の薄壁木部柔細胞(thin-walled xyleum parenchyma cells)を形成します。これらの柔細胞には皮層の柔細胞と同様に水と栄養が蓄積します。
※1 ) 皮層は茎や根の表皮と中心柱の間にある組織。主に柔細胞からなる。
※2 ) 柔組織は柔細胞からなる組織で、茎や根の皮層や髄、葉肉や果肉、地下茎をなど植物体の多くを占める。
※3 ) 形成層は茎や根の維管束の木部と師部の境にある分裂組織。細胞分裂し内側に木部、外側に師部を作り、茎や根の二次肥大生長を行い年輪を形成する。
※4 ) 導管は維管束の木部の主要部位で、根が吸収した水分を枝葉に送る。
Fockea edulis
Fockea edulisは1794年にC. ThunbergによりPergularia edulis Thunb.として記載され、1893年にK. SchumanによりFockea属が割り当てられました。F. edulisはFockea属6種類のうちの1つで、南アフリカの西ケープ州や東ケープ州の乾燥地帯、レソト王国の南部に分かれて分布します。F. edulisは多肉質な多年生半低木で、高さ0.5m、直径1mになる巨大な塊茎(tuber)を持ちます。塊茎は灰緑色で樹皮が割れて皺や突起があります。
植物のライフサイクル
Vasilivら(1978)によると、植物のライフサイクルは、潜伏期(latent)、前生殖期(pregeneration)、生殖期(generation)、老年期(senile)からなります。さらに、前生殖期は、実生(seedling)、幼植物(juvenile)、未成熟植物(immature)に分けられます。
研究はキエフ大学の植物園のコレクションから育った、F. edulisの実生、幼植物、未成熟植物を使用しました。
実生 seedling
F. edulisの種子は播種後8〜9日に発芽し、11〜13日目に種皮から実生が出てきます。子葉は多肉質ではありませんが、胚軸(※5, hypocotyl)は肥厚し円筒形で目立ちます。葉緑体は表皮に接する柔細胞にあります。
皮層の柔組織の厚みには、維管束(vascular bundles)の隣に不明瞭な乳液管(※6, latex duct)があります。また、F. edulisの実生には二次的な維管束が17〜18本あります。師管部(phloem zones)はあまり発達しておらず、一次木部の真上に位置します。
※5 ) 胚軸とは胚の主根(幼根)原基と子葉の付着部をつなぐ軸の部分。
※6 ) 乳跡(latex trace)は乳液を含んだ樹木、特にキョウチクトウ科の樹木の材に見られる、裂け目状の通路のこと。その起源は葉や脇芽に進入する維管束とされる。誤ってlatex canal、latex ductとも呼ばれることがある。
幼植物 juvenile plants
6〜7週の生長後、幼植物の兆候を示します。茎の上部は直交異方性(※7)で、断面は丸みを帯び草状(grassy)です。表皮層は壁が厚くなった立方体の細胞で、一部の表皮細胞は単純な被覆毛突起を有します。表皮の下には周皮(※12)が見られ、木質化した細胞壁を持つコルク組織細胞(※8, phellem cell)が1層と、単層のコルク形成層(※9, phellogen)、および葉緑体を持つ円筒形で薄壁のコルク皮層細胞(※10, phelloderm cell)の層で構成されます。
断面を見ると二次外皮(secondary integuments)の形成と表皮のほぼ完成な剥離が明確です。茎の基部の周皮は上部と比べて厚みが3倍あり、細胞層の数が多いだけではなく細胞のサイズも大きくなっています。皮層の柔組織はより発達し、10〜12層の大きな薄壁の等直径細胞からなります。実生と比べてサイズが大きい木部導管要素の増加により、維管束の面積が増加しています。維管束には茎の上部と比較してはるかに面積が大きい内部師部(※11)の領域があります。髄は他の部位と比較すると大幅に発達しています。
※7 ) 直交異方性(orthotropic)とは、互いに直交する3つの面に対して、弾性特性が鏡対称であること。
※8 ) コルク組織は細胞壁にコルク質を沈着した組織。
※9 ) コルク形成層は二次肥大生長を行う、茎や根の皮層に出来る後生分裂組織。分裂によりコルク組織を形成する。
※10 ) コルク形成層は、外側にコルク組織、内側にコルク皮層を形成する。
※11 ) 師部は維管束を形成する師管を中心とする部分。師管、師部繊維、師部柔組織、伴細胞からなる。同化物質(光合成産物など)の移動を行う。
未成熟植物 immature plants
F. edulisは発芽後11〜12週で成体と同様の特徴を獲得し未成熟植物に達します。幼植物と比較すると、すべての栄養器官な顕著に発達しています。茎の上部は幼植物と比較して10倍以上増加しますが、直径は2倍に過ぎません。未成熟植物では茎の上部が徐々に生長する多年生の木質部分と、植生サイクルの初めに再生する一年生の草本部分からなります。やがて、茎の木質化した部分が分岐し追加のシュートを形成します。木質化した部分の周皮(※12, periderm)の厚みは、草本部分と比較すると5倍に増加します。これは、木質化した6〜7層の細胞からなるコルク組織によります。
茎の基部は著しく発達し長さは幼植物の約2倍、直径は約4倍以上になります。表面はザラつきますが、これは周皮が厚くなり割れているからです。周皮の構造は変わりませんが、コルク組織は細胞が大きく11〜13層に増えているため厚さほぼ2倍になっています。幼植物と比較すると、皮層の柔組織の厚さは4倍以上なっています。
※12 ) 周皮は木本植物の肥大生長する茎や根の表皮下に形成される組織。コルク層、コルク形成層、コルク皮層からなり、表皮が剥離すると代わりに茎や根を保護する。
他のCaudexとの比較
以前に研究したPetopentia natalensisでは、苗木の胚軸に顕著な肥厚は見られず、活発な発達は発芽後2〜3週間に始まります。胚軸の形態は異なりますが、その発達は皮層と髄の一次肥厚の結果として起こり、同様の構成を示します。
Adenium obesumの実生の胚軸には、F. edulisやP. natalensisとは異なり、二次被覆組織が確認されています。これは、A. obesumがより厳しい環境への適応と考えられます。
これらの3種類の幼植物には、第一胚軸節(first hypocotyl internode)間の皮層と髄が活発に一次肥厚するため、多肉質の基部が形成されます。F. edulisやP. natalensisは多肉質ではない蔓を出しますが、A. obesumは茎の上部はより多肉質です。しかし、まだそれほど顕著ではありません。
未成熟植物では、茎の上部と基部が共に大きくなり、周皮が発達し根系にも顕著な変化が見られます。F. edulisやP. natalensisの茎の上部と基部は、最初の子葉節(cotyledon node)の領域で簡単に判別出来ます。A. obesumでは、維管束形成層(intervascular cambium)により通導要素の連続的なリングが形成されます。
F. edulisの太く多肉質な「ラディッシュ様の根(radish-like root)」は、木部柔組織の生長により形成されますが、P. natalensisは典型的な二次根構造が形成され、中央の大部分が木部導管(vessel xylem)により占められ柱状構造を形成します。強力な木部柔組織により「ラディッシュ様の根」が形成される点において、F. edulisとA. obesumは共通しています。
収斂適応
異なる分類群に属する3種類の植物は、茎の基部と髄の複合的な肥厚と言う形で、乾燥した気候条件への収斂適応(convergent adaptation)が見られます。この適応は多肉質の基部の大部分が土壌により保護され、水の輸送と蓄積にかかるエネルギーコストが削減されます。さらに、F. edulisとA. obesumは多肉質の根も形成します。このような根の変形は多くの多肉植物に見られ、特に原始的なサボテン(Pereskia, Pereskiopsis)で研究されてきました。J. Mauseth & J. Pateによると、研究された多くの多肉質に変形した根は、その水と栄養を貯蔵する機能は発達した木部柔組織によるものです。さらに、このような変形した根を持つ多肉植物は、ほぼすべての大陸の乾燥地域および半乾燥地域で発見されています。よって、主根の変形による多肉質化は、乾燥条件に対する収斂適応であることが分かります。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
解剖学的に実生からの生育を観察することにより、植物の多肉質化の様子を解き明かそうと言う意欲的な論文でした。異なる分類群の植物にも類似した形状の塊根・塊根が見られます。それらは、組織の発達の仕組みも基本的には同じです。乾燥した環境に適応するために結果的に類似したのは、組織の構成は同じですから、肥厚させて水分を貯蔵させるには同じ手段を取らざる得ないからなのでしょう。進化とは、何も無いところから何かを新たに生み出すというより、既存の構造を変形・転用させることだったりします。乾燥に対する進化は明らかにパターンがあり、葉や幹、根を肥大させます。ですから、まったく異なる分類群の異なる自生地の植物でも、サボテンとユーフォルビアのように驚くほど類似してくるのです。これらは収斂進化による適応、つまりは収斂適応と言えるでしょう。
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キョウチクトウ科とCaudex
キョウチクトウ科(Apocynaceae)には約366属5000種以上が含まれ、5亜科に分けられます。多年生の多肉植物のグループは、Asclepiadoideae亜科、その中でもStapeliinae亜族に集中しています。このグループには30属以上が含まれ、Stapelia、Huernia、Hoodia、Pseudolithos、Orbea、Quaquaなどがあります。これらの植物の特徴は多肉質な茎を持つことで、サボテンやユーフォルビアに類似しています。樹木性、あるいはpachycaul(塊根)を持つグループは、Apocynoideae亜科のPachypodium属に代表されます。Pachypodium型のpachycaulは、Adansonia、Cyphostemma、Dendrosicyos、Dorstenia、Fouquieria、Moringaなど他属にもあります。このような多肉植物の形態を、「塊茎様多肉植物」(caudex-like succulents)と呼びます。これは、1948年にG. Rowleyにより初めて使用されました。
これらの植物は、皮層の柔組織(※1, ※2, cortex parenchyma)の生長に加え、形成層(※3)の機能により形成される「多汁質材」(juicy wood)も特徴です。形成層は導管要素(※4, tracheal element)に加え、多数の薄壁木部柔細胞(thin-walled xyleum parenchyma cells)を形成します。これらの柔細胞には皮層の柔細胞と同様に水と栄養が蓄積します。
※1 ) 皮層は茎や根の表皮と中心柱の間にある組織。主に柔細胞からなる。
※2 ) 柔組織は柔細胞からなる組織で、茎や根の皮層や髄、葉肉や果肉、地下茎をなど植物体の多くを占める。
※3 ) 形成層は茎や根の維管束の木部と師部の境にある分裂組織。細胞分裂し内側に木部、外側に師部を作り、茎や根の二次肥大生長を行い年輪を形成する。
※4 ) 導管は維管束の木部の主要部位で、根が吸収した水分を枝葉に送る。
Fockea edulis
Fockea edulisは1794年にC. ThunbergによりPergularia edulis Thunb.として記載され、1893年にK. SchumanによりFockea属が割り当てられました。F. edulisはFockea属6種類のうちの1つで、南アフリカの西ケープ州や東ケープ州の乾燥地帯、レソト王国の南部に分かれて分布します。F. edulisは多肉質な多年生半低木で、高さ0.5m、直径1mになる巨大な塊茎(tuber)を持ちます。塊茎は灰緑色で樹皮が割れて皺や突起があります。
植物のライフサイクル
Vasilivら(1978)によると、植物のライフサイクルは、潜伏期(latent)、前生殖期(pregeneration)、生殖期(generation)、老年期(senile)からなります。さらに、前生殖期は、実生(seedling)、幼植物(juvenile)、未成熟植物(immature)に分けられます。
研究はキエフ大学の植物園のコレクションから育った、F. edulisの実生、幼植物、未成熟植物を使用しました。
実生 seedling
F. edulisの種子は播種後8〜9日に発芽し、11〜13日目に種皮から実生が出てきます。子葉は多肉質ではありませんが、胚軸(※5, hypocotyl)は肥厚し円筒形で目立ちます。葉緑体は表皮に接する柔細胞にあります。
皮層の柔組織の厚みには、維管束(vascular bundles)の隣に不明瞭な乳液管(※6, latex duct)があります。また、F. edulisの実生には二次的な維管束が17〜18本あります。師管部(phloem zones)はあまり発達しておらず、一次木部の真上に位置します。
※5 ) 胚軸とは胚の主根(幼根)原基と子葉の付着部をつなぐ軸の部分。
※6 ) 乳跡(latex trace)は乳液を含んだ樹木、特にキョウチクトウ科の樹木の材に見られる、裂け目状の通路のこと。その起源は葉や脇芽に進入する維管束とされる。誤ってlatex canal、latex ductとも呼ばれることがある。
幼植物 juvenile plants
6〜7週の生長後、幼植物の兆候を示します。茎の上部は直交異方性(※7)で、断面は丸みを帯び草状(grassy)です。表皮層は壁が厚くなった立方体の細胞で、一部の表皮細胞は単純な被覆毛突起を有します。表皮の下には周皮(※12)が見られ、木質化した細胞壁を持つコルク組織細胞(※8, phellem cell)が1層と、単層のコルク形成層(※9, phellogen)、および葉緑体を持つ円筒形で薄壁のコルク皮層細胞(※10, phelloderm cell)の層で構成されます。
断面を見ると二次外皮(secondary integuments)の形成と表皮のほぼ完成な剥離が明確です。茎の基部の周皮は上部と比べて厚みが3倍あり、細胞層の数が多いだけではなく細胞のサイズも大きくなっています。皮層の柔組織はより発達し、10〜12層の大きな薄壁の等直径細胞からなります。実生と比べてサイズが大きい木部導管要素の増加により、維管束の面積が増加しています。維管束には茎の上部と比較してはるかに面積が大きい内部師部(※11)の領域があります。髄は他の部位と比較すると大幅に発達しています。
※7 ) 直交異方性(orthotropic)とは、互いに直交する3つの面に対して、弾性特性が鏡対称であること。
※8 ) コルク組織は細胞壁にコルク質を沈着した組織。
※9 ) コルク形成層は二次肥大生長を行う、茎や根の皮層に出来る後生分裂組織。分裂によりコルク組織を形成する。
※10 ) コルク形成層は、外側にコルク組織、内側にコルク皮層を形成する。
※11 ) 師部は維管束を形成する師管を中心とする部分。師管、師部繊維、師部柔組織、伴細胞からなる。同化物質(光合成産物など)の移動を行う。
未成熟植物 immature plants
F. edulisは発芽後11〜12週で成体と同様の特徴を獲得し未成熟植物に達します。幼植物と比較すると、すべての栄養器官な顕著に発達しています。茎の上部は幼植物と比較して10倍以上増加しますが、直径は2倍に過ぎません。未成熟植物では茎の上部が徐々に生長する多年生の木質部分と、植生サイクルの初めに再生する一年生の草本部分からなります。やがて、茎の木質化した部分が分岐し追加のシュートを形成します。木質化した部分の周皮(※12, periderm)の厚みは、草本部分と比較すると5倍に増加します。これは、木質化した6〜7層の細胞からなるコルク組織によります。
茎の基部は著しく発達し長さは幼植物の約2倍、直径は約4倍以上になります。表面はザラつきますが、これは周皮が厚くなり割れているからです。周皮の構造は変わりませんが、コルク組織は細胞が大きく11〜13層に増えているため厚さほぼ2倍になっています。幼植物と比較すると、皮層の柔組織の厚さは4倍以上なっています。
※12 ) 周皮は木本植物の肥大生長する茎や根の表皮下に形成される組織。コルク層、コルク形成層、コルク皮層からなり、表皮が剥離すると代わりに茎や根を保護する。
他のCaudexとの比較
以前に研究したPetopentia natalensisでは、苗木の胚軸に顕著な肥厚は見られず、活発な発達は発芽後2〜3週間に始まります。胚軸の形態は異なりますが、その発達は皮層と髄の一次肥厚の結果として起こり、同様の構成を示します。
Adenium obesumの実生の胚軸には、F. edulisやP. natalensisとは異なり、二次被覆組織が確認されています。これは、A. obesumがより厳しい環境への適応と考えられます。
これらの3種類の幼植物には、第一胚軸節(first hypocotyl internode)間の皮層と髄が活発に一次肥厚するため、多肉質の基部が形成されます。F. edulisやP. natalensisは多肉質ではない蔓を出しますが、A. obesumは茎の上部はより多肉質です。しかし、まだそれほど顕著ではありません。
未成熟植物では、茎の上部と基部が共に大きくなり、周皮が発達し根系にも顕著な変化が見られます。F. edulisやP. natalensisの茎の上部と基部は、最初の子葉節(cotyledon node)の領域で簡単に判別出来ます。A. obesumでは、維管束形成層(intervascular cambium)により通導要素の連続的なリングが形成されます。
F. edulisの太く多肉質な「ラディッシュ様の根(radish-like root)」は、木部柔組織の生長により形成されますが、P. natalensisは典型的な二次根構造が形成され、中央の大部分が木部導管(vessel xylem)により占められ柱状構造を形成します。強力な木部柔組織により「ラディッシュ様の根」が形成される点において、F. edulisとA. obesumは共通しています。
収斂適応
異なる分類群に属する3種類の植物は、茎の基部と髄の複合的な肥厚と言う形で、乾燥した気候条件への収斂適応(convergent adaptation)が見られます。この適応は多肉質の基部の大部分が土壌により保護され、水の輸送と蓄積にかかるエネルギーコストが削減されます。さらに、F. edulisとA. obesumは多肉質の根も形成します。このような根の変形は多くの多肉植物に見られ、特に原始的なサボテン(Pereskia, Pereskiopsis)で研究されてきました。J. Mauseth & J. Pateによると、研究された多くの多肉質に変形した根は、その水と栄養を貯蔵する機能は発達した木部柔組織によるものです。さらに、このような変形した根を持つ多肉植物は、ほぼすべての大陸の乾燥地域および半乾燥地域で発見されています。よって、主根の変形による多肉質化は、乾燥条件に対する収斂適応であることが分かります。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
解剖学的に実生からの生育を観察することにより、植物の多肉質化の様子を解き明かそうと言う意欲的な論文でした。異なる分類群の植物にも類似した形状の塊根・塊根が見られます。それらは、組織の発達の仕組みも基本的には同じです。乾燥した環境に適応するために結果的に類似したのは、組織の構成は同じですから、肥厚させて水分を貯蔵させるには同じ手段を取らざる得ないからなのでしょう。進化とは、何も無いところから何かを新たに生み出すというより、既存の構造を変形・転用させることだったりします。乾燥に対する進化は明らかにパターンがあり、葉や幹、根を肥大させます。ですから、まったく異なる分類群の異なる自生地の植物でも、サボテンとユーフォルビアのように驚くほど類似してくるのです。これらは収斂進化による適応、つまりは収斂適応と言えるでしょう。
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