岩場に生える植物は、乾燥や土壌の不足、それに伴う栄養素の欠乏など、大変厳しい環境に生きています。岩場は基本的に乾燥しますから、生える植物は多肉化するものも多く見られます。多肉植物の代表格であるサボテンも岩場に生えるものがあり、岩のわずかな割れ目に根を伸ばし、岩上に張り付くように生えます。このような生態が可能な理由は何なのでしょうか? 本日は、岩場に生えるMammillaria fraileanaに着目した、Blanca R. Lopez、Yoav Bashan、Macario Bacilioの2011年の論文、『Endophytic bacteria of Mammillaria fraileana, an endemic rock-colonizing cactus of the southern Sonora Desert』を見てみましょう。
先駆植物と内生細菌
Mammillaria fraileanaは、高さ10〜15cm、直径3cmになる細い円筒形のサボテンです。このサボテンはバハ・カリフォルニア半島南部の東海岸沿いの岩場でよく見られます。多くの個体は土壌がなくても岩の割れ目や岩の表面に生育します。
M. fraileanaが岩場に先駆的に定着するサボテンであると仮定するならば、窒素固定し岩を風化させることが出来る内生細菌を有しているはずです。内生細菌は、植物の根に住む細菌で、植物の生育を支えています。内生細菌は大気の窒素ガスを固定し、酸を放出して岩石を溶かします。このような内生細菌の窒素を固定し岩石を風化させる働きは、植物の生長と土壌形成を促進し、M. fraileanaのような先駆植物の定着を助けると考えられます。
Mammillaria fraileana
2021年にマミラリアから分離され、Cochemiea fraileanaとなりました。
M. fraileanaの採取と内生細菌の確認
メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州、La Paz市の北約2kmにある海岸平野に接する丘陵の尾根に生えるM. fraileanaを採取しました。気候は亜熱帯性で高温で乾燥しています。M. fraileanaが生える岩は、流紋デイサイトや流紋岩からなります。
採取したサボテンの根を消毒し、表面に付着した細菌を除去しました。根を観察すると内部に内生細菌が確認されました。また、種子の内部にも内生細菌が含まれていました。さらに、根から取り出した内生細菌を実生に接種することにより、実生の根に内生細菌の侵入を確認しました。
内生細菌の能力
窒素固定能力
根に含まれる窒素固定細菌は人工的に培養出来なかったため、切断された根の窒素固定能力を試験しました。培地成分を分析しM. fraileanaの根に含まれる内生細菌が窒素固定能力を持つことを確認しました。
リンの可溶化
根から取り出した内生細菌を難溶性の無機リンを含む培地に接種したところ、10の分離株のうち5株はリンを可溶化しました。
岩石の風化作用
粉砕した流紋デイサイトを含む培地に内生細菌を接種したところ、培地に含まれる岩石の小粒子が9%から403%に増加しました。これは岩石の風化を示しますが、培地の酸性化により起こると考えられます。接種1週間後の培地のpHは1.68〜1.86低下しました。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
乾燥した砂漠地帯の岩場と言う極限環境に生えるMammillaria fraileanaは、内生細菌との共生関係により環境に適応している可能性が示されました。岩場は栄養が不足しますが、窒素固定細菌の働きと、岩石を溶かして風化させリンを可溶化する細菌の働きにより栄養を確保しているのです。また、岩石の風化は土壌の形成を意味しますから、サボテンの生長とともに根域と土壌は増加することになります。岩場に生えるサボテンはただ乾燥に強いのではなく、微生物の力も借りて極限環境を生き抜いているのです。
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先駆植物と内生細菌
Mammillaria fraileanaは、高さ10〜15cm、直径3cmになる細い円筒形のサボテンです。このサボテンはバハ・カリフォルニア半島南部の東海岸沿いの岩場でよく見られます。多くの個体は土壌がなくても岩の割れ目や岩の表面に生育します。
M. fraileanaが岩場に先駆的に定着するサボテンであると仮定するならば、窒素固定し岩を風化させることが出来る内生細菌を有しているはずです。内生細菌は、植物の根に住む細菌で、植物の生育を支えています。内生細菌は大気の窒素ガスを固定し、酸を放出して岩石を溶かします。このような内生細菌の窒素を固定し岩石を風化させる働きは、植物の生長と土壌形成を促進し、M. fraileanaのような先駆植物の定着を助けると考えられます。
Mammillaria fraileana
2021年にマミラリアから分離され、Cochemiea fraileanaとなりました。
M. fraileanaの採取と内生細菌の確認
メキシコのバハ・カリフォルニア・スル州、La Paz市の北約2kmにある海岸平野に接する丘陵の尾根に生えるM. fraileanaを採取しました。気候は亜熱帯性で高温で乾燥しています。M. fraileanaが生える岩は、流紋デイサイトや流紋岩からなります。
採取したサボテンの根を消毒し、表面に付着した細菌を除去しました。根を観察すると内部に内生細菌が確認されました。また、種子の内部にも内生細菌が含まれていました。さらに、根から取り出した内生細菌を実生に接種することにより、実生の根に内生細菌の侵入を確認しました。
内生細菌の能力
窒素固定能力
根に含まれる窒素固定細菌は人工的に培養出来なかったため、切断された根の窒素固定能力を試験しました。培地成分を分析しM. fraileanaの根に含まれる内生細菌が窒素固定能力を持つことを確認しました。
リンの可溶化
根から取り出した内生細菌を難溶性の無機リンを含む培地に接種したところ、10の分離株のうち5株はリンを可溶化しました。
岩石の風化作用
粉砕した流紋デイサイトを含む培地に内生細菌を接種したところ、培地に含まれる岩石の小粒子が9%から403%に増加しました。これは岩石の風化を示しますが、培地の酸性化により起こると考えられます。接種1週間後の培地のpHは1.68〜1.86低下しました。
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
乾燥した砂漠地帯の岩場と言う極限環境に生えるMammillaria fraileanaは、内生細菌との共生関係により環境に適応している可能性が示されました。岩場は栄養が不足しますが、窒素固定細菌の働きと、岩石を溶かして風化させリンを可溶化する細菌の働きにより栄養を確保しているのです。また、岩石の風化は土壌の形成を意味しますから、サボテンの生長とともに根域と土壌は増加することになります。岩場に生えるサボテンはただ乾燥に強いのではなく、微生物の力も借りて極限環境を生き抜いているのです。
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