変わった見た目をしているドラゴンフルーツの果実を見かけるようになったのは、いつ頃のことだったでしょうか。20年くらい前はかなり珍しい果物だったような気がします。いつでもどこでも販売しているわけではありませんが、今ではドラゴンフルーツ自体はすごい珍しいものではなくなりました。沖縄でも栽培されているみたいですし、あまり見かけないのはあくまで需要と供給の話だからなのでしょう。

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Hylocereus undatus(上)

さて、そんなドラゴンフルーツですが、これはいわゆるサボテンの実ですが、ドラゴンフルーツは我々趣味家にとっては馴染み深いサボテンだったりします。なぜなら、ドラゴンフルーツとはいわゆる「三角柱」と呼ばれているサボテンのことだからです。葉緑体がない緋牡丹を三角柱に接ぎ木したものを皆様も見かけたことがあるはずです。まあ、三角柱は永久台木にはならず、寒さに弱く腐るのであまり台木としては人気がないかも知れません。
本日は原産地であるメキシコにおける、三角柱=ドラゴンフルーツの受粉に関する研究をご紹介したいと思います。それは、A. Valiente-Banuetらの2007年の論文、『Pollination biology of the hemiepiphytic cactus Hylocereus undatus in the Tehuacan Valley, Mexico』です。早速、見ていきましょう。

Hylocereus undatusとは?
メキシコ南部から中米北部に拡がるメソアメリカ文化では、サボテンが栽培されていました。メソアメリカ人が使用した118種類のサボテンのうち、約40種類は様々な程度で家畜化されており、現在でも先住民族により広く栽培されているものもあります。それらの中でも、半着生サボテンであるHylocereus undatusはその装飾的価値と食用となる果実のためにメキシコ全土で高く評価されています。H. undatusはメキシコ、西インド諸島、中米、南米北部の熱帯落葉樹林に自生します。また、カンボジア、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、インドネシア、メキシコ、ニカラグア、ペルー、台湾、ベトナムで、果実生産のために栽培されており、近年ではオーストラリアやイスラエル、日本、ニュージーランド、フィリピン、スペイン、米国でも栽培されています。

Hylocereusの受粉生物学
H. undatusは作物としての重要性のため、園芸学的にあるいは生態生理学的に広く研究されています。HylocereusとSelenicereusの受粉生物学的研究のほとんどは、温室環境下で実施されています。それらの研究によると、花は夜行性で一晩だけ開花し、コウモリや大型のスズメガが訪れます。H. polyrhizusとH. costaricensisは自家不和合性であり、結実には他家受粉が必要です。過去の報告によると、H. undatusは自家受粉では自然と結実はせず、人工的に自家受粉させるとその結実率は50〜79.6%に低下します。ちなみに、他家受粉では100%結実します。一方、Selenicereus megalanthusは自家和合性があり、自然状態でも自家受粉し結実率は60〜73%、人工的に自家受粉させると結実率は100%でした。この2種類の受粉システムの違いは、自動自家受粉(自然状態での自家受粉)を妨げたり可能とする葯や柱頭の位置と形態の違いによるものでしょう。

実験方法
メキシコ中南部のTehuacan渓谷では、現地で「pitahaya」と呼ばれているH. undatusが広く栽培されており、地元の人々によると古くから栽培されてきた作物と言うことです。現在、pitahayaの果実の生産と商品化は重要な経済活動の一部です。pitahayaは茎の一部を樹木の根元に植えるだけで、家庭菜園で沢山の果実がとれます。この地域の果実生産は非常に効率的です。それは、地元の人々による植え付けによる遺伝的な影響のためか、単に自家不和合性があるためであるのかは不明です。
そこで、著者らはこの
Tehuacan渓谷で、果実における自家受粉の役割と、夜行性および昼行性の花粉媒介者の重要性を決定するために調査を実施しました。花を夜間だけあるいは日中だけ袋をかけ、花粉媒介者の訪問を制限しました。さらに、著者らの手による自家受粉させたものと、袋をかけず自由に受粉させたもの、常に袋をかけたものも試験しました。受粉した果実が成熟したら回収し、分析しました。

観察
調査地におけるH. undatusの花は約17時に開き始め、11時頃に閉じ始めました。分析した花のすべてから花蜜は検出されませんでした。花は長さ平均34.5cmで、花の先端部から蜜室までの長さは平均29.95cm、外径は平均13.6cmでした。
野外調査では3種類のコウモリが捕獲され、付着したH. undatusの花粉が調べられました。うち、2種類のコウモリは付着した花粉が豊富でした。日中にはミツバチの訪問が観察されましたが、夜間は昆虫は採取されませんでした。

結果
人工的に受粉させた自家受粉の場合は53.8%の結実率でしたが、常に袋がけした自家受粉の場合は100%の結実率でした。袋をかけない場合は100%結実しましたが、夜間だけ袋を外した場合は76.9%の結実率、日中だけ不安定を外した場合は46%の結実率でした。
人工的に受粉、あるいは袋がけした自家受粉で100%受粉したと言うことは、花粉媒介者がいなくても結実出来ると言うことです。これは、自家受粉では結実せず、人工的な自家受粉では結実率が下がるとしたWeiss et al. , 1994の結果とは異なります。イスラエルにおけるH. undatusの果実の商業生産に関する報告(1999, 2000)では、果実の生産には人工受粉が必要であるとしています。これらの違いはクローンの違いに起因する可能性があり、調査する価値があります。
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、その商業生産にとっては重要です。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
この
Tehuacan渓谷のH. undatusの自家受粉する性質は、明らかにその果実の商業生産にとって福音となるでしょう。しかし、その性質の違い、おそらくはクローンの違いはですが、どのようにしてもたらされたのでしょうか。茎節を挿し木して増やすTehuacan渓谷の人々の長いH. undatus利用の過程で生まれたことは明らかかも知れませんが、あるいは選抜された過去が隠されているのかも知れませんね。
さて、
Tehuacan渓谷のクローンは自家受粉するため必ずしも花粉媒介者は必要ありませんが、一般的には人工受粉させるか花粉媒介者が必要です。今回の調査では夜間に花を訪れるコウモリが主たる花粉媒介者と比定されます。花蜜はないので花粉を食べに来ているのでしょう。また、H. undatusの花は夜間に開花しますが、明け方から11時位までは開いているため、ミツバチも訪れ受粉に寄与していることが分かります。果実の効率的な生産には自家受粉する性質は便利ですが、やはり他家受粉により多様な性質が現れることは、野生のH. undatusには必要なことでしょう。
最後に補足情報で終わりましょう。かつてドラゴンフルーツはHylocereus undatusなる学名で呼ばれておりましたが、近年Selenicereus undatusとなり、HylocereusはSelenicereusに吸収されてしまいました。これはHylocereusが遺伝的にSelenicereusと区別出来ないと言う研究成果に基づいています。



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