かねてより、ベンケイソウ科植物の分類について幾度か記事にしてきました。遺伝子解析による分子系統の結果として分かったことは、形態と遺伝子の不一致でした。EcheveriaやGraptopetalumはSedumと分離することができません。ですから、将来的にはエケベリア属がセダム属に吸収されるか、あるいはセダム属が細分化されて新たに命名される可能性があります。さて、本日はベンケイソウ科の仲間であるクラッスラ属を中心とした分類について取り上げます。それは、Hengwa Dingらの2022年の論文、『Ten Plastomes of Crassula (Crassulaceae) and Phylogenetic Impactions』です。内容的には解析方法やゲノムの特徴、進化的な考察も含みますが、今回は分子系統のみを見てみましょう。
分子系統
ベンケイソウ科は大きく3亜科に分けられます。クラッスラ亜科はClade CrassulaからなりCrassulaのみを含みます。カランコエ亜科はClade Kalaochoeからなり、CotyledonとKalanchoeを含みます。センペルビブム亜科はClade Sempervivum、Clade Leucosedum、Clade Acre、Clade Aeonium、Clade Telephiumからなります。
┏━━Sempervivum亜科
┏┫
┃┗━━Kalanchoe亜科
┫
┗━━━Crassula亜科
クラッスラ亜科
クラッスラ亜科はクラッスラ属からなりますが、2つの亜属に分けられます。また、以下に示す名前は、論文で調べられた種類と言う意味で、以下のものしか含まないと言う意味ではありません。
ちなみに、Tillaeaはクラッスラ属に吸収された模様です。
Crassula亜属
C. alstonii、C. columella、C. dejecta、C. mesembrianthemopsis、C. tecta、C. mesembryanthoides、C. socialis、C. perforataからなります。
Disporocarpa亜属
C. volkensis、C. expansa ssp. fragilis、C. deltoideaからなります。
カランコエ亜科
カランコエ亜科はカランコエ属やコチレドン属からなります。一般的にAdromischusとTylecodonを含みます。
センペルビブム亜科
センペルビブム亜科は5つの分岐群(Clade)に分けられます。
┏━━━━Clade Telephium
┫
┃ ┏━━Clade Aeonium
┃┏┫
┃┃┃┏━Clade Acre
┃┃┗┫
┗┫ ┗━Clade Leucosedum
┃
┗━━━Clade Sempervivum
Clade Telephium
論文ではClade Telephiumは、Rhodiola+Phedimusのグループとそれ以外に分けています。論文ではRhodiolaは28種類、Phedimusは6種類と割と詳しく調べています。分子系統にオロスタキスが2箇所ありますが、①の方が本来のオロスタキスのようです。ここでは、O. minuta、O. japonica、O. fimbriataが調べられています。②の方はO. iwarenge f. magnaですが、論文ではSubsection Appendiculataと表記されていました。
┏━━━━Rhodiola
┏┫
┃┗━━━━Phedimus
┫
┃ ┏━Orostachys①
┃ ┏┫
┃ ┃┗━Meterostachys
┃ ┏┫
┃ ┃┃┏━Hylotelephium
┃┏┫┗┫
┃┃┃ ┗━Orostachys②
┃┃┃
┃┃┗━━━Sinocrassula
┗┫
┗━━━━Umbilicus
Clade Sempervivum
論文では調べられたのはS. tectorumだけです。ちなみに、Jovibarbaはセンペルビブム属に吸収された模様です。
Clade Aeonium
論文ではアエオニウム分岐群はAeoniumが9種類とMonanthesが4種類調べられています。アエオニウムとモナンテスはきれいに分離されているように見えます。しかし、Thibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、モナンテスは一部がAichrysonのグループに紛れ込んでいます。さらに、セダム属が数種類混入していました。
Clade Leucosedum
論文ではレウコセダム分岐群は、Rosularia alpestrisを調べただけのようです。レウコセダム分岐群はアクレ分岐群と共にセダム属の中心です。前述のThibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、セダム属にPrometheumが分離しがたい形で混入しています。ちなみに、Leucosedumはセダム属に吸収された模様です
Clade Acre
アクレ分岐群はアエオニウム分岐群と姉妹群で、レウコセダム分岐群とセンペルビブム分岐群と合わせて、1つのグループを形成します。アクレ分岐群はレウコセダム分岐群と同様にセダム属の中心ですが、論文ではPachyphytumやEcheveria、Graptopetalumがセダムに埋もれるように存在します。
★印がついたグループはセダム属を含んでいますが、レウコセダム分岐群やアエオニウム分岐群にもセダム属が含まれると言う事実は、エケベリア属やパキフィツム属、考え方次第ではアエオニウム属もすべてセダム属に含むべきではないかと言う疑念が浮かびます。もし、エケベリアやアエオニウムの名前を温存したいと考えるならば、セダム属を解体する必要があります。例えば、セダム②を本来のセダム属とし、セダム①やレウコセダム分岐群に含まれるセダム、アエオニウム分岐群に含まれるセダムはセダム属から分離させ、新たに新属とするか近縁属に属を移動する必要性があります。
┏━━━━━━Clade Sempervivum
┃
┫ ┏━━★Sedum①
┃ ┏┫
┃ ┃┃ ┏Graptopetalum
┃ ┃┃┏┫
┃ ┏┫┃┃┗Echeveria
┃ ┃┃┗┫
┃ ┃┃ ┗━Pachyphytum
┃ ┃┃
┃ ┃┗━━━★Sedum②
┃┏┫
┃┃┗━━━━★Clade Leucosedum
┗┫
┗━━━━━★Clade Aeonium
分類学の基本的な考え方として、以下のような3つのグループがあった場合、A、B、Cと言う3属に分けるか、A+BとCの2属に分けるか、A+B+Cで1つの属にまとめるか、いずれかになります。今回の件では、AとCがセダム属でBがエケベリア属となります。つまり、セダム属を解体するか、エケベリア属をセダム属に吸収させるかしか選択肢はないと言うことです。
┏━━A
┏┫
┃┗━━B
┫
┗━━━C
最後に
すでに過去の論文で、エケベリアの不安定な分類学上の位置やセダムの混乱について判明しています。ですから、今回取り上げた論文で再確認出来たことは、疑念を確証へ私の認識を変えることになりました。さて、ではなぜセダムやエケベリアは分子系統に従い再整理されないのでしょうか? しかし、そのためには変更するすべての種について、学名と異名、その記載論文、新しい名前などを列挙する必要があります。それには、セダム属が混入するベンケイソウ科の分類群についてすべて調べ、そのすべての名前を列挙する羽目になります。相当な大仕事になるでしょうから、なかなか難しいでしょう。現状のベンケイソウ科植物の分類は、喉に刺さった小骨の如く、どうにも収まりが悪く気になります。私の目の黒いうちに解決してくれると助かるのですが難しいですかね?
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分子系統
ベンケイソウ科は大きく3亜科に分けられます。クラッスラ亜科はClade CrassulaからなりCrassulaのみを含みます。カランコエ亜科はClade Kalaochoeからなり、CotyledonとKalanchoeを含みます。センペルビブム亜科はClade Sempervivum、Clade Leucosedum、Clade Acre、Clade Aeonium、Clade Telephiumからなります。
┏━━Sempervivum亜科
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┃┗━━Kalanchoe亜科
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┗━━━Crassula亜科
クラッスラ亜科
クラッスラ亜科はクラッスラ属からなりますが、2つの亜属に分けられます。また、以下に示す名前は、論文で調べられた種類と言う意味で、以下のものしか含まないと言う意味ではありません。
ちなみに、Tillaeaはクラッスラ属に吸収された模様です。
Crassula亜属
C. alstonii、C. columella、C. dejecta、C. mesembrianthemopsis、C. tecta、C. mesembryanthoides、C. socialis、C. perforataからなります。
Disporocarpa亜属
C. volkensis、C. expansa ssp. fragilis、C. deltoideaからなります。
カランコエ亜科
カランコエ亜科はカランコエ属やコチレドン属からなります。一般的にAdromischusとTylecodonを含みます。
センペルビブム亜科
センペルビブム亜科は5つの分岐群(Clade)に分けられます。
┏━━━━Clade Telephium
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┃ ┏━━Clade Aeonium
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┃┃┃┏━Clade Acre
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┗┫ ┗━Clade Leucosedum
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┗━━━Clade Sempervivum
Clade Telephium
論文ではClade Telephiumは、Rhodiola+Phedimusのグループとそれ以外に分けています。論文ではRhodiolaは28種類、Phedimusは6種類と割と詳しく調べています。分子系統にオロスタキスが2箇所ありますが、①の方が本来のオロスタキスのようです。ここでは、O. minuta、O. japonica、O. fimbriataが調べられています。②の方はO. iwarenge f. magnaですが、論文ではSubsection Appendiculataと表記されていました。
┏━━━━Rhodiola
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┃┗━━━━Phedimus
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┃ ┏━Orostachys①
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┃ ┃┗━Meterostachys
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┃ ┃┃┏━Hylotelephium
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┃┃┃ ┗━Orostachys②
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┃┃┗━━━Sinocrassula
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┗━━━━Umbilicus
Clade Sempervivum
論文では調べられたのはS. tectorumだけです。ちなみに、Jovibarbaはセンペルビブム属に吸収された模様です。
Clade Aeonium
論文ではアエオニウム分岐群はAeoniumが9種類とMonanthesが4種類調べられています。アエオニウムとモナンテスはきれいに分離されているように見えます。しかし、Thibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、モナンテスは一部がAichrysonのグループに紛れ込んでいます。さらに、セダム属が数種類混入していました。
Clade Leucosedum
論文ではレウコセダム分岐群は、Rosularia alpestrisを調べただけのようです。レウコセダム分岐群はアクレ分岐群と共にセダム属の中心です。前述のThibaud F. E. Messerschmidらの2020年の論文では、セダム属にPrometheumが分離しがたい形で混入しています。ちなみに、Leucosedumはセダム属に吸収された模様です
Clade Acre
アクレ分岐群はアエオニウム分岐群と姉妹群で、レウコセダム分岐群とセンペルビブム分岐群と合わせて、1つのグループを形成します。アクレ分岐群はレウコセダム分岐群と同様にセダム属の中心ですが、論文ではPachyphytumやEcheveria、Graptopetalumがセダムに埋もれるように存在します。
★印がついたグループはセダム属を含んでいますが、レウコセダム分岐群やアエオニウム分岐群にもセダム属が含まれると言う事実は、エケベリア属やパキフィツム属、考え方次第ではアエオニウム属もすべてセダム属に含むべきではないかと言う疑念が浮かびます。もし、エケベリアやアエオニウムの名前を温存したいと考えるならば、セダム属を解体する必要があります。例えば、セダム②を本来のセダム属とし、セダム①やレウコセダム分岐群に含まれるセダム、アエオニウム分岐群に含まれるセダムはセダム属から分離させ、新たに新属とするか近縁属に属を移動する必要性があります。
┏━━━━━━Clade Sempervivum
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┃ ┃┗━━━★Sedum②
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┗━━━━━★Clade Aeonium
分類学の基本的な考え方として、以下のような3つのグループがあった場合、A、B、Cと言う3属に分けるか、A+BとCの2属に分けるか、A+B+Cで1つの属にまとめるか、いずれかになります。今回の件では、AとCがセダム属でBがエケベリア属となります。つまり、セダム属を解体するか、エケベリア属をセダム属に吸収させるかしか選択肢はないと言うことです。
┏━━A
┏┫
┃┗━━B
┫
┗━━━C
最後に
すでに過去の論文で、エケベリアの不安定な分類学上の位置やセダムの混乱について判明しています。ですから、今回取り上げた論文で再確認出来たことは、疑念を確証へ私の認識を変えることになりました。さて、ではなぜセダムやエケベリアは分子系統に従い再整理されないのでしょうか? しかし、そのためには変更するすべての種について、学名と異名、その記載論文、新しい名前などを列挙する必要があります。それには、セダム属が混入するベンケイソウ科の分類群についてすべて調べ、そのすべての名前を列挙する羽目になります。相当な大仕事になるでしょうから、なかなか難しいでしょう。現状のベンケイソウ科植物の分類は、喉に刺さった小骨の如く、どうにも収まりが悪く気になります。私の目の黒いうちに解決してくれると助かるのですが難しいですかね?
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