近年、マミラリア属とその近縁属の遺伝子解析が行われ、マミラリア属とその近縁属は大幅な改訂と整理を受けることになりました。過去に記事にしていますから、詳細は以下のリンクをご参照下さい。
以前の記事の内容を簡単にまとめると、マミラリア属はまとまりがないグループで、まとまりのある単系統のマミラリア属以外のマミラリアは、オルテゴカクタスやネオロイディアと合わせてコケミエア(Cocphemiea)となりました。さらに、エスコバリアとエンケファロカルプス、さらにコリファンタの一部がペレキフォラに吸収されました。
さて、以上のようなマミラリアとその近縁属に近縁なグループとして、ラピカクタスやツルビニカルプス、エピテランサがあります。本日はこのあたりの最新の分類についての論文をご紹介しましょう。それは、Monserrat Vazquez-Sanchezらの2019年の論文、『Polyphyly of the iconic cactus genus Turbinicarpus (Cactaceae) and its generic circumscription』です。
ツルビニカルプスの歴史
①ツルビニカルプス
1937年にTurbinicarpusが新属として記載されました。Buxbaumによると、小型でほとんどが球形または円筒形、アレオーレは疣の先端にあり、短い筒を持つ白あるいはピンク色の花、そのほとんどが裸の果皮、先端が裂ける果実、1.0〜1.9mmで黒色で疣贅状の荒い種子を持つなどの特徴を上げました。
②ギムノカクタス
Turbinicarpusは1938年にBackebergにより分割され、その一部はGymnocactusとされました。BackebergはGymnocactusを、トゲが細かい、種子が軽い、疣が細かい、花はほとんどが紫色でそうでない場合はピンク色または白色であるとしました。Glass & Foster(1977)はTurbinicarpusとGymnocactusの違いに説得力はないと述べました。しかし、現在(2019年当時)でもGymnocactusは健在です。
③ラピカクタス
1942年にBuxbaum & Oehmeにより、GymnocactusからのRapicactusの分離が提案されました。Rapicactusはくびれのある太い根を持ちます。Luthy(2003)は、Rapicactusはその種子の形態に基づく必要があると主張しました。
2000年にMosco & ZanovelloによりTurbinicarpus mandragoraを分離することが提案されましたが採用されませんでした。しかし、Luthy(2001, 2002)による詳細な分類学的研究により、均一な分類群であることが示唆されました。Luthyによると、ガラス質の白っぽい針状のトゲ、種皮が部分的に凸型の「ドーム型または円錐形から乳首状」でありRapicarpusであるとしました。
④ノルマンボケア
1969年にKladiwa & Buxbaumは、Turbinicarpus valdezianusに因んでNormanbokeaと言う属名を提案しました。Bravo-Hollis & Sanchez-Mejarada(1991)は、NormanbokeaはThelocactusと密接な関係があると結論付けました。しかし、近年の分類学ではT. valdezianusはTurbinicarpusとされています。
⑤ブラヴォカクタスとカデニカルプス
1998年にDoweldは、Turbinicarpus horrispilusとTurbinicarpus pseudomacrocheleをそれぞれTurbinicarpusから分離するために、BravocactusとKadenicarpusを提案しました。しかし、後者は採用されていません。
⑥不安定なツルビニカルプス
Turbinicarpusの一部は、NeolloydiaやSclerocactusの一部として扱われたToumeya、およびPediocactusなど他属に移されました。
遺伝子解析
この論文では遺伝子解析による分子系統により、不安定なTurbinicarpusを分析しました。ツルビニカルプス属とされてきた種は大きく3つに分割出来ることが明らかとなりました。ここではツルビニカルプスと近縁属をA、B、Cの3グループに分けて見ていきます。
┏━━グループC
┏┫
┃┗━━グループB
┫
┗━━━グループA
グループA【Rapicactus・Acharagma】
Turbinicarpus beguinii、T. booleanus、T. mandragora、T. subterraneus、T. zaragozaeの5種類のツルビニカルプスは単系統で、Acharagmaと種子の特徴が共通する姉妹群です。この仲間はRapicactusとしてTurbinicarpusから分離されます。Rapicarpusは種子の微細な模様や、果実が側方で開裂し、果実の粘稠度、皮下組織の同心円状の晶洞の発生など、形態学的な共通点があります。また、このグループにはObregoniaやLophophoraが含まれます。
Buxbaum & Oehme(1942)はRapicactusとNeolloydiaを近縁としましたが、分子系統では支持されません。また、RapicactusにはPediocactusには関連していません
┏━Lophophora
┏┫
┃┗━Obregonia
┏┫
┃┗━━Acharagma
┏┫
┃┗━━━Turbinicarpus①
┫
┗━━━━グループB
グループB【Mammillaria・Cochemiea】
このグループにはTurbinicarpusは含まれないため、論文では解説されません。私が最新の情報に基づいて少し補足しましょう。
ここで解析されているCumariniaは、論文ではC. odorataと表記されていましたが、Coryphanthaから分離された種です。Neolloydia odorataとされたこともあります。MammillariaはM. lentaを解析しています。また、EscobariaはE. missouriensisとE. laredoi、PelecyphoraはP. aselliformis、NeolloydiaはN. conoideaが解析されています。しかし、現在ではEscobariaはPelecyphoraに吸収されました。OrtegocactusとNeolloydiaはCochemieaに吸収されました。ちなみに、ここでは登場しないEncephalocarpusもPeclecyphoraに吸収されています。
┏━━Cumarinia
┏┫
┃┗━━Mammillaria
┃
┃ ┏━Escobaria
┏┫┏┫
┃┃┃┗━Pelecyphora
┃┗┫
┃ ┗━━Ortegocactus
┫
┗━━━━Neolloydia
グループC【Turbinicarpus・Kadenicarpus】
Turbinicarpusは1936年にBackebergによりStrombocactusの亜属として命名されたことから始まりましたが、1937年にBuxbaum & Backebergにより独特した属Turbinicarpusとなり、T. schmedickeanusを属の基準種に指定しました。Turbinicarpusの基準種であるT. schmedickeanusは分子系統のTurbinicarpus③に含まれ、本来のTurbinicarpusはTurbinicarpus③で、Ariocarpusの姉妹群です。Turbinicarpus②には、T. horripilusとT. pseudomacrocheleからなります。Kadenicarpusに属する2種は、それぞれDoweldにより提案されたBravocactusとKadenicarpusのタイプです。このTurbinicarpus②をTurbinicarpusから分離し、Kadenicarpusを復活させました。Anderson(1986)は、形態学的特徴からKadenicarpusの2種をNeolloydiaに含めましたが、分子系統ではこの提案を支持しません。また、Kadenicarpusは、関係が深いとされたこともあるMammillariaやNeolloydia、Pediocactus、Thelocactusと近縁ではありません。
┏━Turbinicarpus③
┏┫
┃┗━Ariocarpus
┏┫
┃┗━━Turbinicarpus②
┏┫
┃┗━━━Strombocactus
┫
┗━━━━Epithelantha
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では各属の分岐した年代や、分岐した地理的な拡散を推察していますが、長くなるため割愛させていただきました。
さて、論文ではRapicactusやKadenicarpusの復活を提案していますが、現在(2024年5月)ではそれぞれ独立した属として認められています。近年のツルビニカルプスの仲間の分類をまとめると以下のようになっています。論文の書かれた2019年当時は健在だったGymnocactusもTurbinicarpusに吸収されました。
Gymnocactus→Turbinicarpus
Normanbokea→Turbinicarpus
Bravocactus→Kadenicarpus
Ortegocactus→Cochemiea
Neolloydia→Cochemiea
Escobaria→Pelecyphora
Encephalocarpus→Pelecyphora
ちなみに、あまり聞き慣れないAcharagmaは以下の3種からなります。ご参考までに。
Acharagma aguirreanum
=Escobaria aguirreana
=Gymnocactus aguirreanus
=Thelocactus aguirreanus
Acharagma galeanense
=Escobaria roseanum
ssp. galeanensis
=Acharagma roseanum
ssp. galeanense
Acharagma roseanum
=Escobaria roseana
=Gymnocactus roseanus
=Neolloydia roseana
=Thelocactus roseanus
=Echinocactus roseanus
=Acharagma huasteca
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以前の記事の内容を簡単にまとめると、マミラリア属はまとまりがないグループで、まとまりのある単系統のマミラリア属以外のマミラリアは、オルテゴカクタスやネオロイディアと合わせてコケミエア(Cocphemiea)となりました。さらに、エスコバリアとエンケファロカルプス、さらにコリファンタの一部がペレキフォラに吸収されました。
さて、以上のようなマミラリアとその近縁属に近縁なグループとして、ラピカクタスやツルビニカルプス、エピテランサがあります。本日はこのあたりの最新の分類についての論文をご紹介しましょう。それは、Monserrat Vazquez-Sanchezらの2019年の論文、『Polyphyly of the iconic cactus genus Turbinicarpus (Cactaceae) and its generic circumscription』です。
ツルビニカルプスの歴史
①ツルビニカルプス
1937年にTurbinicarpusが新属として記載されました。Buxbaumによると、小型でほとんどが球形または円筒形、アレオーレは疣の先端にあり、短い筒を持つ白あるいはピンク色の花、そのほとんどが裸の果皮、先端が裂ける果実、1.0〜1.9mmで黒色で疣贅状の荒い種子を持つなどの特徴を上げました。
②ギムノカクタス
Turbinicarpusは1938年にBackebergにより分割され、その一部はGymnocactusとされました。BackebergはGymnocactusを、トゲが細かい、種子が軽い、疣が細かい、花はほとんどが紫色でそうでない場合はピンク色または白色であるとしました。Glass & Foster(1977)はTurbinicarpusとGymnocactusの違いに説得力はないと述べました。しかし、現在(2019年当時)でもGymnocactusは健在です。
③ラピカクタス
1942年にBuxbaum & Oehmeにより、GymnocactusからのRapicactusの分離が提案されました。Rapicactusはくびれのある太い根を持ちます。Luthy(2003)は、Rapicactusはその種子の形態に基づく必要があると主張しました。
2000年にMosco & ZanovelloによりTurbinicarpus mandragoraを分離することが提案されましたが採用されませんでした。しかし、Luthy(2001, 2002)による詳細な分類学的研究により、均一な分類群であることが示唆されました。Luthyによると、ガラス質の白っぽい針状のトゲ、種皮が部分的に凸型の「ドーム型または円錐形から乳首状」でありRapicarpusであるとしました。
④ノルマンボケア
1969年にKladiwa & Buxbaumは、Turbinicarpus valdezianusに因んでNormanbokeaと言う属名を提案しました。Bravo-Hollis & Sanchez-Mejarada(1991)は、NormanbokeaはThelocactusと密接な関係があると結論付けました。しかし、近年の分類学ではT. valdezianusはTurbinicarpusとされています。
⑤ブラヴォカクタスとカデニカルプス
1998年にDoweldは、Turbinicarpus horrispilusとTurbinicarpus pseudomacrocheleをそれぞれTurbinicarpusから分離するために、BravocactusとKadenicarpusを提案しました。しかし、後者は採用されていません。
⑥不安定なツルビニカルプス
Turbinicarpusの一部は、NeolloydiaやSclerocactusの一部として扱われたToumeya、およびPediocactusなど他属に移されました。
遺伝子解析
この論文では遺伝子解析による分子系統により、不安定なTurbinicarpusを分析しました。ツルビニカルプス属とされてきた種は大きく3つに分割出来ることが明らかとなりました。ここではツルビニカルプスと近縁属をA、B、Cの3グループに分けて見ていきます。
┏━━グループC
┏┫
┃┗━━グループB
┫
┗━━━グループA
グループA【Rapicactus・Acharagma】
Turbinicarpus beguinii、T. booleanus、T. mandragora、T. subterraneus、T. zaragozaeの5種類のツルビニカルプスは単系統で、Acharagmaと種子の特徴が共通する姉妹群です。この仲間はRapicactusとしてTurbinicarpusから分離されます。Rapicarpusは種子の微細な模様や、果実が側方で開裂し、果実の粘稠度、皮下組織の同心円状の晶洞の発生など、形態学的な共通点があります。また、このグループにはObregoniaやLophophoraが含まれます。
Buxbaum & Oehme(1942)はRapicactusとNeolloydiaを近縁としましたが、分子系統では支持されません。また、RapicactusにはPediocactusには関連していません
┏━Lophophora
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┃┗━Obregonia
┏┫
┃┗━━Acharagma
┏┫
┃┗━━━Turbinicarpus①
┫
┗━━━━グループB
グループB【Mammillaria・Cochemiea】
このグループにはTurbinicarpusは含まれないため、論文では解説されません。私が最新の情報に基づいて少し補足しましょう。
ここで解析されているCumariniaは、論文ではC. odorataと表記されていましたが、Coryphanthaから分離された種です。Neolloydia odorataとされたこともあります。MammillariaはM. lentaを解析しています。また、EscobariaはE. missouriensisとE. laredoi、PelecyphoraはP. aselliformis、NeolloydiaはN. conoideaが解析されています。しかし、現在ではEscobariaはPelecyphoraに吸収されました。OrtegocactusとNeolloydiaはCochemieaに吸収されました。ちなみに、ここでは登場しないEncephalocarpusもPeclecyphoraに吸収されています。
┏━━Cumarinia
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┃┗━━Mammillaria
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┃ ┏━Escobaria
┏┫┏┫
┃┃┃┗━Pelecyphora
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┃ ┗━━Ortegocactus
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┗━━━━Neolloydia
グループC【Turbinicarpus・Kadenicarpus】
Turbinicarpusは1936年にBackebergによりStrombocactusの亜属として命名されたことから始まりましたが、1937年にBuxbaum & Backebergにより独特した属Turbinicarpusとなり、T. schmedickeanusを属の基準種に指定しました。Turbinicarpusの基準種であるT. schmedickeanusは分子系統のTurbinicarpus③に含まれ、本来のTurbinicarpusはTurbinicarpus③で、Ariocarpusの姉妹群です。Turbinicarpus②には、T. horripilusとT. pseudomacrocheleからなります。Kadenicarpusに属する2種は、それぞれDoweldにより提案されたBravocactusとKadenicarpusのタイプです。このTurbinicarpus②をTurbinicarpusから分離し、Kadenicarpusを復活させました。Anderson(1986)は、形態学的特徴からKadenicarpusの2種をNeolloydiaに含めましたが、分子系統ではこの提案を支持しません。また、Kadenicarpusは、関係が深いとされたこともあるMammillariaやNeolloydia、Pediocactus、Thelocactusと近縁ではありません。
┏━Turbinicarpus③
┏┫
┃┗━Ariocarpus
┏┫
┃┗━━Turbinicarpus②
┏┫
┃┗━━━Strombocactus
┫
┗━━━━Epithelantha
最後に
以上が論文の簡単な要約です。
論文では各属の分岐した年代や、分岐した地理的な拡散を推察していますが、長くなるため割愛させていただきました。
さて、論文ではRapicactusやKadenicarpusの復活を提案していますが、現在(2024年5月)ではそれぞれ独立した属として認められています。近年のツルビニカルプスの仲間の分類をまとめると以下のようになっています。論文の書かれた2019年当時は健在だったGymnocactusもTurbinicarpusに吸収されました。
Gymnocactus→Turbinicarpus
Normanbokea→Turbinicarpus
Bravocactus→Kadenicarpus
Ortegocactus→Cochemiea
Neolloydia→Cochemiea
Escobaria→Pelecyphora
Encephalocarpus→Pelecyphora
ちなみに、あまり聞き慣れないAcharagmaは以下の3種からなります。ご参考までに。
Acharagma aguirreanum
=Escobaria aguirreana
=Gymnocactus aguirreanus
=Thelocactus aguirreanus
Acharagma galeanense
=Escobaria roseanum
ssp. galeanensis
=Acharagma roseanum
ssp. galeanense
Acharagma roseanum
=Escobaria roseana
=Gymnocactus roseanus
=Neolloydia roseana
=Thelocactus roseanus
=Echinocactus roseanus
=Acharagma huasteca
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