多肉質なユーフォルビアの中心地はアフリカ大陸ですが、南アメリカでも多肉質なユーフォルビアを見ることが出来ます。ただし、南アメリカの多肉質なユーフォルビアは、節を重ねたような不思議な形をしています。普段、南米ユーフォルビアはあまり見かけないでしょうから、あまりピンと来ない方もおられるかも知れません。本日は、そんな南米ユーフォルビアについての論文をご紹介しましょう。それは、Fernanda Hurbathらの2020年の論文、『Biography of succulent spurges from Brazilian Seasonally Dry Tropical Forest(SDTF)』です。

SDTFとは何か
乾燥した熱帯季節林(SDTF)は、メキシコ北西部からアルゼンチン北部、ブラジル南西部及ぶ東部に至る新熱帯地域に点在し、ブラジル東部にはCaatingaとして知られている最大の孤立したSDTFがあります。SDTFは南アメリカの生態系の中でもっとも脅威にさらされており、ほとんど研究されていません。
SDTFは5〜6ヶ月の乾季と非常に低い平均年間降水量が特徴で、植物は長期の水不足に耐えられるように適応しています。

SDTFのユーフォルビア
ユーフォルビアはSDTFの重要な構成要素であるにも関わらず、研究されず無視されてきました。新熱帯地域のユーフォルビア属の中では、多肉質で乾生植物であるのはSection Brasiliensisだけで、Section Euphorbia(ほとんどの多肉質なユーフォルビアを含むグループ)はアフリカの種と比べると強い乾生種はほとんどありません。
Section Brasiliensisに含まれる種、はトゲのない鉛筆状の多肉低木で、光合成をする緑色の茎を持つCAM植物です。このグループはブラジル東部のSDTFの岩の露出した、あるいは浅い土壌に生えます。Section Brasiliensisは、E. attastoma、E. holochlorina、E. phosphorea、E. sipolisii、E. tetrangularisの5種類からなります。

遺伝子解析
南アフリカのユーフォルビアの遺伝子を解析したところ、以下のような分子系統が得られました。

※南北アメリカ大陸で多様化したユーフォルビアの仲間であるNew World Cladeを解析したものです。Sectionで示されていますが、Sectionとは属と種類の間の分類カテゴリーで「節」と訳されます。

※※Section Stacydiumは中南米の原産の草本。Section 
NummulariopsisやSection Portulacastrumは大半が中南米原産の草本です。Section Crepidariaは北米原産で一部は多肉質となりますが、木本になるものが多いようです。

※※※Section 
Euphorbiastrumは中南米原産の木本ですが、多肉質なものもあります。Section Calyculataeはメキシコ原産の木本です。Section Lactifluaeは中南米原産の木本です。Section Tanquahueteはメキシコ原産の木本です。Section Cubanthusはカリブ海地域の島嶼部に分布する木本です。

              ┏━Brasiliensis
          ┏┫
          ┃┗━Stachydium
      ┏┫
      ┃┗━━Nummulariopsis
  ┏┫   +Portulacastrum
  ┃┗━━━Crepidaria
  ┫
  ┃    ┏━━Euphorbiastrum
  ┃┏┫
  ┗┫┗━━Calyculatae
      ┃   +Lactifluae
      ┃   +Tanquahuete
      ┗━━━Cubanthus

多様化の起源
Section BrasiliensisとSection Stacydiumは姉妹群で、分子系統から中新世中期頃に分岐したと考えられます。Section Brasiliensisは鮮新世後期に多様化し、Section Stacydiumは中新世後期に多様化したと考えられます。この推定は、大きな気候変動がこれらのグループの分岐と多様化に大きな影響を与えた可能性がを示します。
New World Cladeのほとんどは中新世の間に多様化しました。中新世は現在の新熱帯地方の地理的特徴の多くが定義されました。これには、アンデス山脈の隆起(約1200〜450万年前)やアマゾン河の起源(約1180万年前〜現在)などのほとんどの地形的変異を含みます。さらに、この時期は世界的に寒冷化と乾燥化し、大気中の二酸化炭素の急激な減少が起こりました。


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Euphorbia weberbaueri
Section Euphorbiastrumに属します。エクアドル、ペルー原産。


SDTFの孤立
ブラジル東部のSection Brasiliensisは、Section Stacydiumから分岐して以来、長く孤立していました。その後、鮮新世後期頃に多様化しました。SDTFの断片化した分布は、種は孤立し多様化は促進されます。ブラジル東部のSDTFは固有種の割合が高く、長い孤立が示唆されます。また、SDTFの孤立は、セラード(ブラジルのサバンナ)やアマゾンの熱帯雨林と隣接することにより起こります。セラードはブラジル中央を占めており、約1000万年前に起源を持つSDTFを隔離する障壁です。セラードは火災に適応した植物が進化しており、一般的に火災に耐性がないSDTFの多肉植物に対する抑止力になります。さらに、Section Brasiliensisのユーフォルビアは種子の分散力が弱く、分布がブラジル東部に限定されます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
アフリカでよく見られる柱サボテンのようなユーフォルビアは、Section Euphorbiaです。しかし、新大陸ではSection Euphorbiaはあまり乾燥に適応出来ていないようです。むしろ、新大陸ではNew World Cladeと言う新たな分類群が進化しました。その中でも、Section Brasiliensisはブラジル東部の乾燥地(SDTF)に良く適応しています。遺伝子を用いた分子系統解析では、種ごとの分岐年代を計算出来ます。南アメリカで起きた地質学的イベントや気候変動と対応させれば、進化の原動力を推測することも可能となるのです。実は論文では、他のNew World CladeのSectionの進化も推測されていましたが、今回は長くなるため割愛しました。興味がありましたら、論文を参照して下さい。


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