しかし、アロエと言う植物は一般的であるにも関わらず意外と奥が深いもので、調べてみると知らないことばかりで驚かされることが多々あります。多肉植物の即売会などでも、見たことがない美しいアロエが何気なく販売されており、ついつい買ってしまい置き場所がなくて困っているくらいです。さて、と言うわけで本日はアロエの話題です。
アロエは似ているものも多く、分類が難しく混乱した経緯がある種も珍しくありません。また、ある種が他種に含まれてしまったりすることは、アロエに限らずですがよくあることです。しかし、そのことが問題を引き起こすこともあるようです。本日はGideon F. Smith & Ronell Klopperの2022年の論文、『Conservation status of the recently reinstated Aloe davyana, A. davyana var. subolifera, A. labiaflava (Asphodelaceae subfam. Alooideae), three maculate aloes emdemic to South Africa』を見ていきます。思わぬ問題が起きてしまいました。

Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。
アロエの保全状況の評価
アロエの保全状況の評価は、1980年、1985年、1994年、1996年、1997年、1998年、2002年、2009年に実施されてきました。しかし、他種の異名に含まれたりして学名が変遷した場合、正確な評価が行われていない可能性があります。ここでは、学名が変遷した3種のアロエ、Aloe davyana var. davyana、Aloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflavaの保全状況の評価を行います。
Aloe davyana var. davyana
Aloe davyanaは、1905年にSchonlandが記載して以来、大幅に変化しました。1987年にはGlen & Hardyが、Aloe greatheadii var. davyanaとしました。また、Reynolds(1950年)などにより、他の黄斑アロエを異名に含めるなど種の概念を拡張しました。
しかし、2020年にSmithらが独立した種であることを示す証拠を提示しました。その他の黄斑アロエも、それぞれ独立しています。さらに、2021年にSmithらが、Aloe davyana var. suboliferaを復活させたことから、従来のAloe davyanaはAloe davyana var. davyanaとなりました。
しかし、Aloe davyanaは種の概念が変遷したため、これらの調査による種と対応していないものもあります。Aloe davyanaの初めての評価は、Glen & Hardy(1987年、2000年)に従いAloe greatheadii var. davyanaとして、2000年に実施されたRaimondoらのもので、軽度懸念としました。Aloe davyanaの最新の評価(Mtshaliら、2018年)では、異名としてAloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflava、Aloe longibracteataが含まれています。
Aloe davyana var. davyanaは、南アフリカ中北東部の広い地域に分布し、草原とサバンナの低木地帯の両方の生息地の構成要素です。生息地の中心はGauteng州ですが、南アフリカでも人口の多い州です。金とプラチナの採掘により、大量の人口流入がありました。
このアロエは荒地でよく育ち、土壌を安定させて侵食を防ぐため、鉱山の尾鉱などで荒地に植えることが出来ます。
著作らは、Aloe davyana var. davyanaは分布域全体で一般的である、保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では脅威にさらされていません。
Aloe davyana var. subolifera
Aloe davyana var. suboliferaは、1939年にGroenewaldにより記載され、Reynoldsら(1950年)により認められてきました。しかし、1987年にGlen & Hardyにより、Aloe greatheadii var. davyanaの異名とされました。
2020年にAloe davyanaが復活したことから、2021年にはAloe davyana var. suboliferaも復活しました。Aloe davyana var. suboliferaは、長くAloe greatheadii var. davyanaの異名とされてきたため、保全状況は不明です。
変種suboliferaの分布範囲は、変種davyanaと比べて南アフリカ中北東部により限定されていますが、分布は重なります。非常に密な林分を形成することがあります。メトロポリスを含むShoshanguve市はその全体が変種suboliferaの分布範囲に含まれます。さらに、高速道路に隣接する地域にも生えています。都市化と人間の定住は分布に影響を与えています。また、いくつかの保護区にも分布しますが、狩猟や畜産に焦点を当てており、自然火災は意図的に防がれています。そのような状況では、低木が草原に侵入し生態系や植物の多様性に悪影響があるかも知れません。また、家畜による撹乱や過放牧は変種suboliferaの個体数の増加をもたらす可能性があります。著作らはAloe davyana var. suboliferaは、分布域が狭いにも関わらずその全域でよく見られることを発見しました。保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では絶滅の危機に瀕していません。
Aloe labiaflava
Aloe labiaflavaは、1936年にGroenewaldにより記載されました。Reynolds(1950年)は、「Aloe labiaflavaはAloe davyanaとAloe longibracteaの交雑種である」と結論づけました。1987年のGlen & Hardyは、Aloe labiaflavaはAloe greatheadii var. davyanaの異名としました。
しかし、2021年にSmith & Klopperは、Aloe labiaflavaは交雑種(nothospecies)ではないことを示し、独立した種として復活しました。Aloe labiaflavaも保全状況は不明です。
Aloe labiaflavaは他の2種より分布範囲が小さく、Mpumalanga西部のGemsbokspruit近くの狭い地域に限定されます。都市の拡大により約200個体が知られているだけです。絶滅危惧種に相当します。
最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
分類学はただ名前をつけるだけではなく、生物の保全のためにも重要です。異なる種が混同されてしまえば、正確な分布や個体数の把握は意味をなさなくなります。実際に論文でも、いくつかの種が混同されており、そのすべてを含めた調査がなされていたことが指摘されています。種の混同は、絶滅危惧種を保護の必要がないものと誤認させてしまいます。A. davyanaは絶滅の可能性はないようですが、A. labiaflavaは絶滅危惧種であるにも関わらずただの雑種として捨て置かれる可能性がありました。種の保全とその把握のためにも、分類学的研究が進展して欲しいものですね。
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アロエは似ているものも多く、分類が難しく混乱した経緯がある種も珍しくありません。また、ある種が他種に含まれてしまったりすることは、アロエに限らずですがよくあることです。しかし、そのことが問題を引き起こすこともあるようです。本日はGideon F. Smith & Ronell Klopperの2022年の論文、『Conservation status of the recently reinstated Aloe davyana, A. davyana var. subolifera, A. labiaflava (Asphodelaceae subfam. Alooideae), three maculate aloes emdemic to South Africa』を見ていきます。思わぬ問題が起きてしまいました。

Aloe davyana
『Journal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。
アロエの保全状況の評価
アロエの保全状況の評価は、1980年、1985年、1994年、1996年、1997年、1998年、2002年、2009年に実施されてきました。しかし、他種の異名に含まれたりして学名が変遷した場合、正確な評価が行われていない可能性があります。ここでは、学名が変遷した3種のアロエ、Aloe davyana var. davyana、Aloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflavaの保全状況の評価を行います。
Aloe davyana var. davyana
Aloe davyanaは、1905年にSchonlandが記載して以来、大幅に変化しました。1987年にはGlen & Hardyが、Aloe greatheadii var. davyanaとしました。また、Reynolds(1950年)などにより、他の黄斑アロエを異名に含めるなど種の概念を拡張しました。
しかし、2020年にSmithらが独立した種であることを示す証拠を提示しました。その他の黄斑アロエも、それぞれ独立しています。さらに、2021年にSmithらが、Aloe davyana var. suboliferaを復活させたことから、従来のAloe davyanaはAloe davyana var. davyanaとなりました。
しかし、Aloe davyanaは種の概念が変遷したため、これらの調査による種と対応していないものもあります。Aloe davyanaの初めての評価は、Glen & Hardy(1987年、2000年)に従いAloe greatheadii var. davyanaとして、2000年に実施されたRaimondoらのもので、軽度懸念としました。Aloe davyanaの最新の評価(Mtshaliら、2018年)では、異名としてAloe davyana var. subolifera、Aloe labiaflava、Aloe longibracteataが含まれています。
Aloe davyana var. davyanaは、南アフリカ中北東部の広い地域に分布し、草原とサバンナの低木地帯の両方の生息地の構成要素です。生息地の中心はGauteng州ですが、南アフリカでも人口の多い州です。金とプラチナの採掘により、大量の人口流入がありました。
このアロエは荒地でよく育ち、土壌を安定させて侵食を防ぐため、鉱山の尾鉱などで荒地に植えることが出来ます。
著作らは、Aloe davyana var. davyanaは分布域全体で一般的である、保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では脅威にさらされていません。
Aloe davyana var. subolifera
Aloe davyana var. suboliferaは、1939年にGroenewaldにより記載され、Reynoldsら(1950年)により認められてきました。しかし、1987年にGlen & Hardyにより、Aloe greatheadii var. davyanaの異名とされました。
2020年にAloe davyanaが復活したことから、2021年にはAloe davyana var. suboliferaも復活しました。Aloe davyana var. suboliferaは、長くAloe greatheadii var. davyanaの異名とされてきたため、保全状況は不明です。
変種suboliferaの分布範囲は、変種davyanaと比べて南アフリカ中北東部により限定されていますが、分布は重なります。非常に密な林分を形成することがあります。メトロポリスを含むShoshanguve市はその全体が変種suboliferaの分布範囲に含まれます。さらに、高速道路に隣接する地域にも生えています。都市化と人間の定住は分布に影響を与えています。また、いくつかの保護区にも分布しますが、狩猟や畜産に焦点を当てており、自然火災は意図的に防がれています。そのような状況では、低木が草原に侵入し生態系や植物の多様性に悪影響があるかも知れません。また、家畜による撹乱や過放牧は変種suboliferaの個体数の増加をもたらす可能性があります。著作らはAloe davyana var. suboliferaは、分布域が狭いにも関わらずその全域でよく見られることを発見しました。保護状況の観点からは軽度懸念であり、現時点では絶滅の危機に瀕していません。
Aloe labiaflava
Aloe labiaflavaは、1936年にGroenewaldにより記載されました。Reynolds(1950年)は、「Aloe labiaflavaはAloe davyanaとAloe longibracteaの交雑種である」と結論づけました。1987年のGlen & Hardyは、Aloe labiaflavaはAloe greatheadii var. davyanaの異名としました。
しかし、2021年にSmith & Klopperは、Aloe labiaflavaは交雑種(nothospecies)ではないことを示し、独立した種として復活しました。Aloe labiaflavaも保全状況は不明です。
Aloe labiaflavaは他の2種より分布範囲が小さく、Mpumalanga西部のGemsbokspruit近くの狭い地域に限定されます。都市の拡大により約200個体が知られているだけです。絶滅危惧種に相当します。
最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
分類学はただ名前をつけるだけではなく、生物の保全のためにも重要です。異なる種が混同されてしまえば、正確な分布や個体数の把握は意味をなさなくなります。実際に論文でも、いくつかの種が混同されており、そのすべてを含めた調査がなされていたことが指摘されています。種の混同は、絶滅危惧種を保護の必要がないものと誤認させてしまいます。A. davyanaは絶滅の可能性はないようですが、A. labiaflavaは絶滅危惧種であるにも関わらずただの雑種として捨て置かれる可能性がありました。種の保全とその把握のためにも、分類学的研究が進展して欲しいものですね。
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