ユーフォルビアは世界中に分布しますが、サボテンのような多肉質な種類のものは限られた地域に分布します。その多くは乾燥地への適応です。多肉質なユーフォルビアは、南北アメリカ大陸やオーストラリア、アジア地域にも分布しますが、その中心はアフリカ大陸です。特にアフリカ南部やアフリカ大陸東岸には豊富に分布します。しかし、アフリカの角の向岸であるアラビア半島や北アフリカのマカロネシア(Macaronesia)と呼ばれる島々にも多肉質なユーフォルビアは豊富です。普段あまり話題にならないこのような地域のユーフォルビアについて書かれた論文を見つけたのでご紹介しましょう。それは、A. Tahaらの2023年の論文ら『Comprehensive review of morphological adaptations and conservation strategies of cactiform succulents: A case study of Euphorbia species in arid ecosystems』です。

サボテン状ユーフォルビアの分布
稜(rib)を持つサボテン状ユーフォルビアはアフリカ大陸原産です。これらの植物はアフリカとアラビア半島のホットスポットで見られ、「Rand Flora」として知られる大陸全体に共通する古代植物相の生き残りです。これらの種は中新世の乾燥により湿潤地域に移動したため、その分布は2つの地域の境界付近にありました。結果として、マカロネシアと東アフリカ、アラビア半島南部の多肉質のユーフォルビアは、生態学的、地理的、系統学的な特徴を共有しています。

マカロネシアと中央アトラスを含む北西アフリカでは、このサボテン状ユーフォルビアはマカロネシア・グループであると考えられています。アラビア半島地域はSomaliaMasaii固有中央地域(SomaliaMasaii Center of Endemism)の一部でもあり、アラビア、アフリカ、地中海地域の植物が混在します。アラビア半島南西部のサボテン状ユーフォルビアは、約2300万年前の紅海開口後に出現したようです。これらの地域のサボテン状ユーフォルビアは、島、海岸地域、高地や高山など、海洋霧の影響を受ける地域でよく見られます。海洋霧は持続的に水分を供給する水資源です。

マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴
マカロネシアとアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアの特徴は、腺(Glant)の数は5〜6個で付属器はなく、種子は無鉤形で、茎は柱サボテンのように稜(rib)があり、トゲは対になって互生します。単純な集散花序か緑色の茎につきます。シアチアは3つのセットを形成し、中央のシアチアは通常は雄性で始めに開花し、側方の2つのシアチアは両性です。

マカロネシア近辺のサボテン状ユーフォルビア
①E. resinifera
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。通常は4本のribがあり、葉のない茎があります。主に石灰質カルスト台地に分布します。
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②E. officinarum subsp. beaumieriana
=E. officinarum subsp. officinarum
モロッコの固有種。トゲのあるサボテン状ユーフォルビア。葉のない茎に、8〜13本のribがあります。海抜300mまでの大西洋岸に頻繁に見られます。通常は石灰質台地上に見られます。
※現在、亜種officinarumは、亜種beaumierianaとは区別されています。

③E. officinarum subsp. echinus
分布は非常に広く、モロッコとマカロネシアの飛び地をカバーしています。モロッコ南部の海抜1900m以上で、岩の多い場所で育ちます。


マカロネシアのサボテン状ユーフォルビア
①E. handiensis
カナリア諸島のFuerteventura島の固有種。海抜50〜300mに見られます。トゲのあるサボテン状ユーフォルビアです。葉のない茎には8〜14本のribがあります。崩積土で生育します。E. officinarum ssp. echinusと関係します。
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②E. canariensis
カナリア諸島の固有種で、Lanzarote島を除くすべての島に分布します。海抜900mまでの岩の多い斜面、崖、溶岩に生育します。通常は高さ2〜4mで、4本のribがあります。
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アラビア半島のサボテン状ユーフォルビア
※2000年以降にアラビア半島のサボテン状ユーフォルビアが複数種の新種が記載されました。せっかくですから、いくつかは画像のリンクを貼りました。

①E. madinahensis
サウジアラビアの固有種。高さ1.5mまでで、茎は3〜5本のribがあります。標高1050〜2350mの降水量の少ない花崗岩地に生えます。2007年に記載された絶滅危惧II(VU)。
https://guatemala.inaturalist.org/taxa/785985-Euphorbia-madinahensis

②E. saudiarabica
サウジアラビア南西部のQunfudhah-Djizan地域の固有種。高さ3mに達することもあり、3〜5本のribがあります。2007年に記載された絶滅危惧IB類(EN)。
https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:77084100-1

③E. parciramulosa
イエメンとサウジアラビアの固有種。3〜4つのribがある、マカロネシア・ユーフォルビアの姉妹です。標高400〜2000mの低山の麓の、岩石と花崗岩の砂質土壌に生育します。

④E. taifensis
サウジアラビアの固有種。高さ10mに及び、3〜6(7)のribがあります。標高1700〜2100mのワジ(枯れ川)の石の多い土壌や、岩の多い斜面に見られます。2007年に記載されました。
https://www.inaturalist.org/observations/115071557

⑤E. collenetteae
紅海の島々や海岸沿いに生育します。茎は3〜8本のribを持ち、基部から枝分かれし高さ3〜4mになります。海抜75mまでの玄武岩質の露頭やサンゴ由来の土壌にも生育します。準絶滅危惧種への指定が提案されています。2007年に記載されました。

⑥E. cacturs
エリトリア、エチオピア、アラビア半島を含むSomaliaMasaii地域が分布の中心です。特にFayfa山脈、イエメン、オマーンのDhofar地域に生息します。標高2000mまでの岩の多い斜面や河原の石の堆積物にも生息します。3(まれに4または5)のribがあり、高さ1〜3mになります。

⑦E. inarticulata
アラビア半島の固有種。イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3〜5つのribがあり、高さ2mになります。標高300〜2000mの崖や石の多い場所に生育します。
https://www.inaturalist.org/taxa/1116311-Euphorbia-inarticulata/browse_photos

⑧E. fruticosa
イエメンの固有種。高さ約40cmで、茎は7〜10つのribがあります。ribは時として12本になります。標高1094〜2200mの崖や岩の多い平原に生えます。

⑨E. fractiflexa
イエメンとサウジアラビアの固有種。茎は3つのribを持ち、高さは最大2.5mになります。一般に標高150〜539mの海岸平野の岩の多い砂利や石の土壌に生育します。

https://www.inaturalist.org/taxa/1177654-Euphorbia-fractiflexa

⑩E. ammak
イエメンとサウジアラビアの固有種。高さ10mになる
2007年に記載されました。茎は通常4つのribを持ち、枝先は乱れることがあります。標高1000〜2500mの岩場に生育します。
https://uk.inaturalist.org/taxa/192176-Euphorbia-ammak

⑪E. momccoyae
オマーンのDhofar州の固有種。茎は5〜6つのribがあり、高さ1.25mで主茎から10〜30本の枝を出します。イエメンと国境を接するアラビア湾の海岸沿いの石灰岩の崖に生育します。インド洋の南西モンスーンの影響により、標高1000mまで見られます。2011年に記載されました。

https://www.inaturalist.org/observations/58404648

最後に
モロッコはアフリカ大陸のユーフォルビアの中心を考えると、アフリカ大陸の中では外れに位置します。E. officinarumやE. resiniferaは園芸的には珍しい種ではありませんが、面白いユーフォルビアです。モロッコに近いカナリア諸島を代表する2種のユーフォルビアは、かつて読んだ報告ではE. handiensisはE. officinarumと近縁ですがE. canariensisはアラビア半島経由で入ってきた種ではないかとされていました。さらなる研究が望まれます。
しかし、アラビア半島から沢山の新種が見つかっていることを初めて知りました。調査が未開拓な地域もまだまだあるのでしょう。これからも新種が見つかるホットな地域なのかも知れません。これは目が離せませんね。


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