あれは去年の秋のことでした。鶴仙園で行われたPlant's Workとのコラボイベントに行った時のことです。「Astroloba aspera」と言う名前の美しい多肉植物を購入しました。外見的にはアストロロバですが、どうも聞いたことがない名前です。どのような植物なのか、少し調べてみました。
Astroloba aspera
配置のない名前
あまり情報がない、と言うかアストロロバ自体が情報のない植物です。調べても販売サイトばかりなので、まずはキュー王立植物園のデータベースを見てみましょう。
Astroloba aspera (Haw.) Uitewaal
Synonym of : Aloe aspera Haw.
おやおや、これはおかしいですね。Astroloba asperaはAloe asperaの異名だと言うのです。アロエには見えませんが…。とりあえず、Aloe asperaを見てみましょう。
Aloe aspera Haw.
This name is unplaced
Unplaced names are names that cannot be accepted, nor can they be put into synonym.
まあ、何となく分かりました。
「配置されていない名前は受け入れられず、異名にも含めることが出来ない名前です。」
配置されていない名前とは、まあ要するに当てはまるものがないと言うことでしょう。その理由は、正しい名前が存在しないであるとか、タイプ標本が知られていないためどの種か鑑定出来ない、あるいは文字資料だけでは同一性を確立出来ないといったあたりでしょう。
何故、アロエなのか?
何故、アロエなのかと言うと、現在のハウォルチアやアストロロバはすべてアロエだったからです。アロエはCarl von Linneが現在の学名のシステムを作った1753年に作りました。つまり、「Aloe L.」です。その後、1809年にDuvalが「Haworthia Duval」を提唱し、1947年にUitewaalが「Astroloba Uitewaal」を提唱し、アロエから独立していきました。アストロロバはアロエ→ハウォルチア→アストロロバと言う経緯をたどりました。
現在、Astroloba asperaと呼ばれている植物が何者であるかは、実はまったく重要ではありません。一番始めに記載された名前であるAloe asperaとは何者かです。なぜなら、現在語られるAstroloba asperaとHaworthが記載したAloe asperaが、果たして同じ植物を指しているのか分からないからです。
Haworthの記述
では、初めにAloe asperaが記載された時、どのような表記がされていたのでしょうか。データベースでは以下のように書かれていました。
First published in Trans. Lin. Soc. London 7 : 6 (1804)
これは、1804年に出版された、「Transactions of the Linnean Society of London」の7号6ページに記載があると言うことです。とりあえず探して見ました。
この表記がAloe asperaの初めての記述となります。内容はまずラテン語で特徴が記してあります。ラテン語は分からないので、合っているかは分かりませんが、機械翻訳にかけてみます。
「アロエの葉は、三辺が円形の卵形で尖った緑色。上は凹面。下に非常に結節があり、茎は短い。」
やや怪し気な訳文ですが、意味は理解出来ます。また、簡単過ぎる気もしますが、よく特徴を捉えています。
また、下にある英語文は、「この種は栽培が難しく、おそらくヨーロッパでは長く生き残ることはないでしょう。」とあります。本格的な温室栽培が広まる前だったものかも知れません。なんせ、1804年の記述ですからね。
気になるのは中段です。おそらくは採取情報で、南アフリカでMassonが採取したと読めます。Massonと言えば、キュー王立植物園が派遣した公式では初めてのプラントハンターである、Francis Massonが思い浮かびます。Massonは1772年から南アフリカで植物採取を行い、1775年に帰国しました。この採取旅行により採取された標本をもとに、Haworthが新種として記載したのでしょうか。
問題点?
さて、この記載のどこに問題があるのでしょうか? とりあえず、標本があれば万事解決なのですが、Massonの標本は現存しないのでしょう。イラストがありませんから、ラテン語の特徴だけでは判別が難しいのかも知れません。
図版を探す
古い図版を探して見ました。Salm-Dyckが1836年に出版した、『Monographia geneum aloes et mesembryanthemi』の図版を見てみましょう。
私のAstroloba asperaと言う植物に非常によく似ています。しかし、このような図版があるにも関わらず、タイプとして指定されていないのは少し不思議です。まあ、Aloe asperaは1804年ですから、Haworthの記述と同じ種であるかは分かりません。
A. corrugata?
そう言えば、2022年にアストロロバは何種類あるか調べた記事を書いたことがあります。その時はAloe asperaはAstroloba corrugataの異名と書きました。
しかし、Aloe asperaは「配置されていない名前」となっていますから、情報が更新されているようです。今回改めてAstroloba corrugataの情報を見てみると、以下のような記述ががありました。
Heterotypic Synonyms
Apicra aspera var. major Haw., 1819
Haworthia aspera var. major (Haw.) Parr., 1971
A. corrugataはA. asperaではなく、Apicra aspera var. majorを指すと言うのです。と言うことは、Salm-Dyckの図版も、A. asperaではなくA. aspera var. majorを指していたのかも知れません。ちなみに、Apicraとはハウォルチアなどを含んでいた今は現存しない属名です。Aloe asperaも1811年にApicra asperaとする意見がありました。
Astroloba corrugataとは?
Astroloba corrugataと言っても様々なタイプがありますが、ここではAstroloba asperaに似たタイプの野生個体の写真を探してみました。
https://www.inaturalist.org/photos/329261689
https://www.inaturalist.org/photos/245276813
Aloe asperaとは?
結局、Aloe asperaとは何かは分かりませんでした。おそらく、現在流通しているAstroloba asperaとはAstroloba corrugataのことであり、タイプとしてはApicra aspera var. majorにあたるのでしょう。しかし、Haworthの記述したAloe asperaとは何者だったのでしょうか? 今後もHaworthやUitewaalの記述を探してみます。何か分かりましたら、また記事にします。
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Astroloba aspera
配置のない名前
あまり情報がない、と言うかアストロロバ自体が情報のない植物です。調べても販売サイトばかりなので、まずはキュー王立植物園のデータベースを見てみましょう。
Astroloba aspera (Haw.) Uitewaal
Synonym of : Aloe aspera Haw.
おやおや、これはおかしいですね。Astroloba asperaはAloe asperaの異名だと言うのです。アロエには見えませんが…。とりあえず、Aloe asperaを見てみましょう。
Aloe aspera Haw.
This name is unplaced
Unplaced names are names that cannot be accepted, nor can they be put into synonym.
まあ、何となく分かりました。
「配置されていない名前は受け入れられず、異名にも含めることが出来ない名前です。」
配置されていない名前とは、まあ要するに当てはまるものがないと言うことでしょう。その理由は、正しい名前が存在しないであるとか、タイプ標本が知られていないためどの種か鑑定出来ない、あるいは文字資料だけでは同一性を確立出来ないといったあたりでしょう。
何故、アロエなのか?
何故、アロエなのかと言うと、現在のハウォルチアやアストロロバはすべてアロエだったからです。アロエはCarl von Linneが現在の学名のシステムを作った1753年に作りました。つまり、「Aloe L.」です。その後、1809年にDuvalが「Haworthia Duval」を提唱し、1947年にUitewaalが「Astroloba Uitewaal」を提唱し、アロエから独立していきました。アストロロバはアロエ→ハウォルチア→アストロロバと言う経緯をたどりました。
現在、Astroloba asperaと呼ばれている植物が何者であるかは、実はまったく重要ではありません。一番始めに記載された名前であるAloe asperaとは何者かです。なぜなら、現在語られるAstroloba asperaとHaworthが記載したAloe asperaが、果たして同じ植物を指しているのか分からないからです。
Haworthの記述
では、初めにAloe asperaが記載された時、どのような表記がされていたのでしょうか。データベースでは以下のように書かれていました。
First published in Trans. Lin. Soc. London 7 : 6 (1804)
これは、1804年に出版された、「Transactions of the Linnean Society of London」の7号6ページに記載があると言うことです。とりあえず探して見ました。
この表記がAloe asperaの初めての記述となります。内容はまずラテン語で特徴が記してあります。ラテン語は分からないので、合っているかは分かりませんが、機械翻訳にかけてみます。
「アロエの葉は、三辺が円形の卵形で尖った緑色。上は凹面。下に非常に結節があり、茎は短い。」
やや怪し気な訳文ですが、意味は理解出来ます。また、簡単過ぎる気もしますが、よく特徴を捉えています。
また、下にある英語文は、「この種は栽培が難しく、おそらくヨーロッパでは長く生き残ることはないでしょう。」とあります。本格的な温室栽培が広まる前だったものかも知れません。なんせ、1804年の記述ですからね。
気になるのは中段です。おそらくは採取情報で、南アフリカでMassonが採取したと読めます。Massonと言えば、キュー王立植物園が派遣した公式では初めてのプラントハンターである、Francis Massonが思い浮かびます。Massonは1772年から南アフリカで植物採取を行い、1775年に帰国しました。この採取旅行により採取された標本をもとに、Haworthが新種として記載したのでしょうか。
問題点?
さて、この記載のどこに問題があるのでしょうか? とりあえず、標本があれば万事解決なのですが、Massonの標本は現存しないのでしょう。イラストがありませんから、ラテン語の特徴だけでは判別が難しいのかも知れません。
図版を探す
古い図版を探して見ました。Salm-Dyckが1836年に出版した、『Monographia geneum aloes et mesembryanthemi』の図版を見てみましょう。
私のAstroloba asperaと言う植物に非常によく似ています。しかし、このような図版があるにも関わらず、タイプとして指定されていないのは少し不思議です。まあ、Aloe asperaは1804年ですから、Haworthの記述と同じ種であるかは分かりません。
A. corrugata?
そう言えば、2022年にアストロロバは何種類あるか調べた記事を書いたことがあります。その時はAloe asperaはAstroloba corrugataの異名と書きました。
しかし、Aloe asperaは「配置されていない名前」となっていますから、情報が更新されているようです。今回改めてAstroloba corrugataの情報を見てみると、以下のような記述ががありました。
Heterotypic Synonyms
Apicra aspera var. major Haw., 1819
Haworthia aspera var. major (Haw.) Parr., 1971
A. corrugataはA. asperaではなく、Apicra aspera var. majorを指すと言うのです。と言うことは、Salm-Dyckの図版も、A. asperaではなくA. aspera var. majorを指していたのかも知れません。ちなみに、Apicraとはハウォルチアなどを含んでいた今は現存しない属名です。Aloe asperaも1811年にApicra asperaとする意見がありました。
Astroloba corrugataとは?
Astroloba corrugataと言っても様々なタイプがありますが、ここではAstroloba asperaに似たタイプの野生個体の写真を探してみました。
https://www.inaturalist.org/photos/329261689
https://www.inaturalist.org/photos/245276813
Aloe asperaとは?
結局、Aloe asperaとは何かは分かりませんでした。おそらく、現在流通しているAstroloba asperaとはAstroloba corrugataのことであり、タイプとしてはApicra aspera var. majorにあたるのでしょう。しかし、Haworthの記述したAloe asperaとは何者だったのでしょうか? 今後もHaworthやUitewaalの記述を探してみます。何か分かりましたら、また記事にします。
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