乾燥地には剥き出しの岩石が見られたりしますが、岩の割れ目に多肉植物が育ったりすることは、世界中の乾燥地で知られています。通常、岩石の風化は風や雨により、それこそ万単位の時間をかけて緩やかに進行します。しかし、植物の存在により岩石は強い作用を受けることになります。その例として、メキシコのバハ・カリフォルニアの溶岩に生える象の木(Pachycormus discolor)を取りあげましょう。本日はYoav Bashanらの2006年の論文、『Primary colonization and breakdown of ingneous rocks by endemic, succulent elephant trees (Pachycormus discolor) of the deserts in Baja California, Mexico』をご紹介します。

調査地域
著者らは2002年と2005年に、ソノラ砂漠のバハ・カリフォルニア半島の中央にある2箇所を調査しました。この地域は夏の高温が特徴で、晴れた日は35〜40℃になり、良く日が当たる場所は45℃を超えます。冬は夜間の気温が3℃まで低下することがあります。植生はIdria columnaris(=Fouquieria columnaris、観峰玉) やPachycereus pringlei(cardon cacti )などが生えます。

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Pachycormus discolor
『Contribution from the United States National Herbarium』(1912-1916年)より


岩上で育つ象の木
花崗岩や玄武岩で出来た冷えた溶岩流の上で、象の木が生長していることが確認されました。岩上には他の植生は確認されませんでした。花崗岩の地域は、大きな木が岩を挟み込んでおり、1平方キロメートルあたり3.86本が生えていました。玄武岩の地域では、岩に亀裂はなく象の木は岩の中で生長し、小さな木でも引き抜くことは出来ませんでした。高さ20〜30mになる玄武岩の岩上には、高さ3m以上の成木が1平方キロメートルあたり平均8.83本生えていました。

岩石の風化
cardon cactusに関する最新の研究では、根に関係する微生物が岩石を風化させサボテンに栄養素を供給しており、裸岩上におけるサボテンの生長を可能としていることが示されました。これらの微生物が象の木の根にも存在するのかは不明です。

最後に
岩を貫通しながら育つ象の木の姿は、実に奇妙なものです。著者らは最後に微生物の存在を匂わせましたが、これは根圏にいる細菌などの微生物のことのようです。確かに根圏が発達した場合、様々な微生物が増殖し岩石にも作用することは考えられることです。しかし、私は菌根菌が重要なのではないかと考えます。植物の根と共生関係を結んだ菌根菌は、酸を出して周囲のものを溶かします。以前は菌根菌は一部の植物だけに見られるもののように言われたりもしましたが、現在ではほとんどの植物は菌根菌と共生関係を結んでいることが確認されています。当然ながら象の共生関係もまた菌根菌と共生関係にあるはずです。
象の木は岩を穿ちながら育ち、岩は侵食されて行きます。それは、わずか数十年で岩に大きな穴が開くわけですから、自然風化と比較したら大変なスピードです。象の木はやがて寿命などで枯れるものもあるかも知れませんが、象の木があった穴には象の木と微生物が作った腐食質が残り、枯れた象の木自体も腐食質となるでしょう。そこには、岩上では育たなかった植物が生えることが出来るはずです。象の木は不毛の岩上にオアシスを作り出す植物と言えるのではないでしょうか。


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