植物は種類により様々な受粉システムをとりますが、サボテンもまた種類により様々な受粉システムがあります。しかし、サボテンの多くは雌雄同株で、1つの花に雄しべと雌しべがセットになった花を咲かせます。ところが、その常識を覆す論文を見つけました。それは、Alicia Callejas-Chaveroらの2021年の論文、『Breeding system in a population of the globose cactus Mammillaria magnimamma at Valle del Mezquital, Mexico』です。サボテンの大変特殊な受粉システムを明らかとしました。
サボテンの祖先は雌雄同株
雌雄異株はサボテン科では非常に稀です。既知の1438種のうち、24種のみが雌雄異株(dioecy)、あるいは不完全異株(subdioecy)、雌性雌雄異株・雄性雌雄異株(gynodioecy)、三雌異性体(trioecy)を示します。
雌雄異株はサボテン科の中でいくつか独立に進化しています。しかし、原始的なPererkiaにも両性花を持ち、単性花を持つConsolea、Cylindropuntia、Opuntia、Echinocereus、Pachycereusなどでも雌雄同株の痕跡が見られるため、サボテン科の祖先は雌雄同株と見られています。
M. magnimammaの花
古典的な著作であるBravo-Hallis & Sanchez-Mejorada(1991)では、Mammillaria magnimamma Haw.の花について説明しています。「雌雄同株で、雌しべが雄しべより長い。」しかし、2018年に著者らは雌雄同株ではないと思われるM. magnimammaを発見しました。
Mammillaria magnimamma
『The Cactaceae』(1923年)より。Neomammillaria magnimammaとして記載。
調査地
調査地はHidalgo州Valle del Mezquitalの標高2358mで、Acacia fernesiana、Coryphantha cornifera、C. octacantha、Cylindropuntia imbricata、Echinocereus cinerascens、Ferocactus latispinus、Myrtillocactus geometrizans、Opuntia engelmannii、O. hyptiacantha、O. lasiacantha、O. robusta、Yucca filiferaと共に乾生低木を形成します。
雄性不稔個体の発見
2018年の調査では、M. magnimammaは雌雄同株である個体とそうではない個体が混在していることが明らかとなりました。調査した107個体中、94個体は雌雄同株で、13個体は雄性不稔個体でした。雄性不稔個体は雄蕊群が機能していない状態となっていました。また、2019年の再調査においても、性的状態は年ごとに変化しないことが確認されました。
電子顕微鏡による観察では、雄性不稔個体の葯は開裂せず、花粉は奇形を示しました。花のサイズも異なり、雌雄同株の花は平均14.0mmの長さであるのに対し、雄性不稔個体の花は平均2.2mmと著しく短いものでした。
受粉数と発芽率
また、著者らの観察によると、M. magnimammaは主にミツバチにより受粉されるようです。さらに、雌雄同株の花も雄性不稔個体の花も結実することが確認されたため、雄性不稔でも雌性機能は正常であることを示しています。ただし、雌雄同株の花は平均97.5個の種子を生産したのに対し、雄性不稔個体の花は平均120.0個の種子を生産しました。種子のサイズも異なり、雄性不稔個体の種子はより大きい傾向が認められました。これらの種子を採取し播種したところ、雄性不稔個体の種子の方が発芽率が高いことが確認されました。
雄性不稔種子の優位
花粉媒介者は、雄性不稔個体の花より約2倍の頻度で雌雄同株の花を訪れました。しかし、出来た種子は雄性不稔個体の方が多いものでした。雄性不稔個体の花は生殖能力が高いと考えられます。また、雄性不稔個体の種子の方が大きく発芽率が高いことから、種子の品質が非常に高いことが分かります。対する雌雄同株の花は、一部では自家受粉している可能性もあり、その場合は種子の発芽能力が低下することも考えられます。
最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
雌雄同株とされてきたM. magnimammaの野生個体群において、驚くべきことに雄しべや花粉が機能していない雄性不稔個体が見つかったと言うのです。さらに、雄性不稔個体は種子の数や品質において、雌雄同株個体より優れていることが分かりました。しかし、優位に見える雄性不稔個体は全体の12%に過ぎませんでした。これが何を指すのかは難しいところです。もしかしたら、雌雄同株から雌雄異株への進化の過程を、我々は目撃しているのかも知れませんね。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
サボテンの祖先は雌雄同株
雌雄異株はサボテン科では非常に稀です。既知の1438種のうち、24種のみが雌雄異株(dioecy)、あるいは不完全異株(subdioecy)、雌性雌雄異株・雄性雌雄異株(gynodioecy)、三雌異性体(trioecy)を示します。
雌雄異株はサボテン科の中でいくつか独立に進化しています。しかし、原始的なPererkiaにも両性花を持ち、単性花を持つConsolea、Cylindropuntia、Opuntia、Echinocereus、Pachycereusなどでも雌雄同株の痕跡が見られるため、サボテン科の祖先は雌雄同株と見られています。
M. magnimammaの花
古典的な著作であるBravo-Hallis & Sanchez-Mejorada(1991)では、Mammillaria magnimamma Haw.の花について説明しています。「雌雄同株で、雌しべが雄しべより長い。」しかし、2018年に著者らは雌雄同株ではないと思われるM. magnimammaを発見しました。
Mammillaria magnimamma
『The Cactaceae』(1923年)より。Neomammillaria magnimammaとして記載。
調査地
調査地はHidalgo州Valle del Mezquitalの標高2358mで、Acacia fernesiana、Coryphantha cornifera、C. octacantha、Cylindropuntia imbricata、Echinocereus cinerascens、Ferocactus latispinus、Myrtillocactus geometrizans、Opuntia engelmannii、O. hyptiacantha、O. lasiacantha、O. robusta、Yucca filiferaと共に乾生低木を形成します。
雄性不稔個体の発見
2018年の調査では、M. magnimammaは雌雄同株である個体とそうではない個体が混在していることが明らかとなりました。調査した107個体中、94個体は雌雄同株で、13個体は雄性不稔個体でした。雄性不稔個体は雄蕊群が機能していない状態となっていました。また、2019年の再調査においても、性的状態は年ごとに変化しないことが確認されました。
電子顕微鏡による観察では、雄性不稔個体の葯は開裂せず、花粉は奇形を示しました。花のサイズも異なり、雌雄同株の花は平均14.0mmの長さであるのに対し、雄性不稔個体の花は平均2.2mmと著しく短いものでした。
受粉数と発芽率
また、著者らの観察によると、M. magnimammaは主にミツバチにより受粉されるようです。さらに、雌雄同株の花も雄性不稔個体の花も結実することが確認されたため、雄性不稔でも雌性機能は正常であることを示しています。ただし、雌雄同株の花は平均97.5個の種子を生産したのに対し、雄性不稔個体の花は平均120.0個の種子を生産しました。種子のサイズも異なり、雄性不稔個体の種子はより大きい傾向が認められました。これらの種子を採取し播種したところ、雄性不稔個体の種子の方が発芽率が高いことが確認されました。
雄性不稔種子の優位
花粉媒介者は、雄性不稔個体の花より約2倍の頻度で雌雄同株の花を訪れました。しかし、出来た種子は雄性不稔個体の方が多いものでした。雄性不稔個体の花は生殖能力が高いと考えられます。また、雄性不稔個体の種子の方が大きく発芽率が高いことから、種子の品質が非常に高いことが分かります。対する雌雄同株の花は、一部では自家受粉している可能性もあり、その場合は種子の発芽能力が低下することも考えられます。
最後に
以上が論文の簡単な要約となります。
雌雄同株とされてきたM. magnimammaの野生個体群において、驚くべきことに雄しべや花粉が機能していない雄性不稔個体が見つかったと言うのです。さらに、雄性不稔個体は種子の数や品質において、雌雄同株個体より優れていることが分かりました。しかし、優位に見える雄性不稔個体は全体の12%に過ぎませんでした。これが何を指すのかは難しいところです。もしかしたら、雌雄同株から雌雄異株への進化の過程を、我々は目撃しているのかも知れませんね。
ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。
にほんブログ村
にほんブログ村
コメント