昨日はサツマイモを含むIpomoea属のタイプを変更する提案がなされたと言う話をご紹介しました。
それは、将来的にIpomoea属が分割された時に、サツマイモ=Ipomoea butatasがIpomoea属でいられるようにと言うことでした。しかし、この提案には反論がなされています。反論があること自体は学術的に有意義なことと言えるでしょう。ただし、内容的にやや問題があるように思われます。本日はその内容を見てみましょう。
提案に対する反論
2020年に出されたIpomoeaのタイプを変更すると言う提案に対し、反論がなされています。それは、Pablo Munoz- Rodriguezらの2023年の論文、『Rebuttal to "(2786) Proposal to change the conserved type of Ipomoea, nom. cons. (Convolvulaceae)"』です。一体、何を問題としたのでしょうか?
提案の確認
まずは、反論を受けているLauren A. Esermanらの2020年の論文の内容から確認しましょう。
1. Ipomoeaは2つのグループからなり、大半を占める新世界のアストリポモエア亜連と、旧世界のアルギレイア亜連からなります。
2. Ipomoea属のタイプであるI. pes-tigridisはアルギレイア亜属に含まれます。
3. 商業的に重要なサツマイモ(I. butatas)を含むアストリポモエア亜連の種(=I.triloba)にタイプを変更するべきです。
4. 将来的にIpomoeaが分割された時に、サツマイモがIpomoeaその内に残されるために必要なことです。
提案に根拠はないと言う主張
☆主張
Ipomoea属内の分離属を認識する試みはすべて失敗に終わっています。これまで不可能であったIpomoeaの満足のいく自然な再分類が可能であると言う、この署名者グループ(その大部分はIpomoeaに関する分類学上または系統的研究の経験がほとんどない)による主張に懐疑的です。そのような分類や根拠を提出していません。
★感想
ここは正直なところ私は首を傾げました。その学術的な内容以外の部分についてです。まず、Ipomoeaの研究者以外は意見を述べてはならない、あるいは意見に重みがないかのような主張がなされています。しかし、これは誤りであると断言出来ます。ある種の権威主義であり、それは科学ではありません。あくまで、その内容に意味があり、誰が主張したかは関係がありません。実際には未だに学術世界においても権威主義は大手を振っていますが、表向きに主張するのはあまりにも馬鹿げています。
また、「署名者グループ」とは何でしょうか? Esermanらの2020年の論文では、40名を超える共著者からなるものでした。それを「署名者」と言うのは、ただ名前を貸しただけのように揶揄する目的しか見いだせません。反論はあくまでも内容で示せば良いだけの話です。
不道徳な幻想とは?
☆主張
提案を拒否する2つめの理由は、命名規則の安定性です。IpomoeaのタイプをI. trilobaに変更しても、既存のタイプであるI. pes-tigridisよりも命名上の安定性は得られません。これはMainitz(1976)により提案され、命名上の安定性を理由に数十年に渡り受け入れられています。旧世界のIpomoeaにはすべての分離属を合わせたよりも多くの種を含みます。アルギレイア亜連を含まない広義のIpomoeaが不適切にサンプリングされ、人為的に厳選された系統を使用し、誤解するように描かれている可能性があります。Esermanらの言及したアストリポモエア亜連とアルギレイア亜連は、800種以上あるIpomoeaから27種のみを含む初期の系統解析(Eserman et.al., 2014)に基づいていることに注意して下さい。したがって、拡大された単系統のIpomoeaを認識すること以外の再整理は、Munoz-Rodriguez et. al., 2019により行われたよりも沢山あり、命名上の変更が必要となることに注意することが重要です。さらに、サツマイモが「名前を失う」危険にさらされていると言う示唆は、分類学的に不安定であると言う不道徳な幻想を生み出しています。
★感想
またもや感情論が登場しました。系統に関する内容は私は確認していないため、判断出来かねます。しかし、「不道徳な幻想」とは何でしょうか? 不満があるのは分かりますが、個人のSNSではないのですからいい加減勘弁して欲しいものです。
ただし、命名法上の安定性には注意が必要です。長く使用された名前が重視されるのは著者らの指摘通りです。さらに、Esermanらの主張では新世界のアストリポモエア亜連の方が種類が多いため、アストリポモエア亜連に含まれる種をタイプとすべきであるとしています。しかし、著者らは旧世界のアルギレイア亜連の方が種類が多いと主張しています。この点は私には判断がつかない部分です。また、系統解析についてですが、Esermanらは2014年の論文による少数の解析結果に依存しているとし、その点を問題としています。私には、Esermanらが2014年の論文にのみ準拠しているようには思えませんが、いずれにせよ系統解析は道半ばで断言出来る段階ではなさそうです。
Sweet Potato
『The sweet potato in Hawaii』(1923年)より。
引用の誤り
☆主張
著者らはIpomoeaのタイプを変更することを相談されておらず、Esermanらは誤って研究を引用しています。「アルギレイア亜連はIpomoea連における再境界の最も有用な更新に向けた障害であると考えられています…」 著者らはIpomoea連の分割を主張したことはなく、すべての出版物で単系統の分類群(属、亜属、節)を特定することは不可能かつ不要であり失敗する運命にあると主張してきました。
★感想
学術論文は協力しても良いのですが、通常は自由競争です。一々お伺いを立てる必要はありません。ですから、Esermanらは著者らのグループに相談してもしなくても構いません。
正直、言った言わないの話はどうでも良いのですが、まあとにかく著者らはIpomoea属を分割せず、と言うか事実上は出来ないので、拡張されたIpomoeaの維持を主張していることは理解出来ます。
タイプの変更は時期尚早
☆主張
署名者(Esermanら)はさらに次のように続けてもいます。「命名法がより安定した論理的な分類の発展を妨げるべきではないと考えており、Ipomoeaのタイプをアストリポモエア亜連に含まれる種に置き換えることを提案します。」 著者らはIpomoeaの入れ子状に非単系統の属が含まれている場合に、拡張されたIpomoea属を拒否することで、より安定した論理的か達成可能であると言う主張を裏付ける証拠や議論を何も提供していません。タイプの変更は、Ipomoeaの分類学と系統発生の研究が行われ、Ipomoeaの生物学、進化、形態が何らかの形で異なることが実証された後にのみ考慮されるべきです。
★感想
煩わしいので著者らの煽りは無視して進めます。実はこの部分は非常に重要な話です。確かに現状において、Ipomoeaの分類はあまりにも分からないことばかりです。ですから、Ipomoea属を分割すると言う話が近々で起きるとはとても思えず、今やらなくてはならないことかと聞かれると微妙な気もします。将来的に詳細が明らかとなってから考慮したら良いと言う著者らの主張は、私には正論に思えました。
まとめ
この論文の要点は、単純にIpomoea属のタイプを変更する必要はないと言うことです。まず、現状において、Ipomoea属が現時点においては分割される可能性は低いため、分割される可能性を考慮してタイプを変更するのは意味がないとしています。これらの著者らの主張は、傾聴に値するもののように思われます。しかし、Ipomoea属が将来的には分割される運命にあるような気もしています。この反論を受けて、Ipomoea属のタイプの変更を主張したEsermanらが反論に返答しています。記事がまたもや長くなりすぎたため、ここで切ります。明日がこの一連の記事の締めになります。
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それは、将来的にIpomoea属が分割された時に、サツマイモ=Ipomoea butatasがIpomoea属でいられるようにと言うことでした。しかし、この提案には反論がなされています。反論があること自体は学術的に有意義なことと言えるでしょう。ただし、内容的にやや問題があるように思われます。本日はその内容を見てみましょう。
提案に対する反論
2020年に出されたIpomoeaのタイプを変更すると言う提案に対し、反論がなされています。それは、Pablo Munoz- Rodriguezらの2023年の論文、『Rebuttal to "(2786) Proposal to change the conserved type of Ipomoea, nom. cons. (Convolvulaceae)"』です。一体、何を問題としたのでしょうか?
提案の確認
まずは、反論を受けているLauren A. Esermanらの2020年の論文の内容から確認しましょう。
1. Ipomoeaは2つのグループからなり、大半を占める新世界のアストリポモエア亜連と、旧世界のアルギレイア亜連からなります。
2. Ipomoea属のタイプであるI. pes-tigridisはアルギレイア亜属に含まれます。
3. 商業的に重要なサツマイモ(I. butatas)を含むアストリポモエア亜連の種(=I.triloba)にタイプを変更するべきです。
4. 将来的にIpomoeaが分割された時に、サツマイモがIpomoeaその内に残されるために必要なことです。
提案に根拠はないと言う主張
☆主張
Ipomoea属内の分離属を認識する試みはすべて失敗に終わっています。これまで不可能であったIpomoeaの満足のいく自然な再分類が可能であると言う、この署名者グループ(その大部分はIpomoeaに関する分類学上または系統的研究の経験がほとんどない)による主張に懐疑的です。そのような分類や根拠を提出していません。
★感想
ここは正直なところ私は首を傾げました。その学術的な内容以外の部分についてです。まず、Ipomoeaの研究者以外は意見を述べてはならない、あるいは意見に重みがないかのような主張がなされています。しかし、これは誤りであると断言出来ます。ある種の権威主義であり、それは科学ではありません。あくまで、その内容に意味があり、誰が主張したかは関係がありません。実際には未だに学術世界においても権威主義は大手を振っていますが、表向きに主張するのはあまりにも馬鹿げています。
また、「署名者グループ」とは何でしょうか? Esermanらの2020年の論文では、40名を超える共著者からなるものでした。それを「署名者」と言うのは、ただ名前を貸しただけのように揶揄する目的しか見いだせません。反論はあくまでも内容で示せば良いだけの話です。
不道徳な幻想とは?
☆主張
提案を拒否する2つめの理由は、命名規則の安定性です。IpomoeaのタイプをI. trilobaに変更しても、既存のタイプであるI. pes-tigridisよりも命名上の安定性は得られません。これはMainitz(1976)により提案され、命名上の安定性を理由に数十年に渡り受け入れられています。旧世界のIpomoeaにはすべての分離属を合わせたよりも多くの種を含みます。アルギレイア亜連を含まない広義のIpomoeaが不適切にサンプリングされ、人為的に厳選された系統を使用し、誤解するように描かれている可能性があります。Esermanらの言及したアストリポモエア亜連とアルギレイア亜連は、800種以上あるIpomoeaから27種のみを含む初期の系統解析(Eserman et.al., 2014)に基づいていることに注意して下さい。したがって、拡大された単系統のIpomoeaを認識すること以外の再整理は、Munoz-Rodriguez et. al., 2019により行われたよりも沢山あり、命名上の変更が必要となることに注意することが重要です。さらに、サツマイモが「名前を失う」危険にさらされていると言う示唆は、分類学的に不安定であると言う不道徳な幻想を生み出しています。
★感想
またもや感情論が登場しました。系統に関する内容は私は確認していないため、判断出来かねます。しかし、「不道徳な幻想」とは何でしょうか? 不満があるのは分かりますが、個人のSNSではないのですからいい加減勘弁して欲しいものです。
ただし、命名法上の安定性には注意が必要です。長く使用された名前が重視されるのは著者らの指摘通りです。さらに、Esermanらの主張では新世界のアストリポモエア亜連の方が種類が多いため、アストリポモエア亜連に含まれる種をタイプとすべきであるとしています。しかし、著者らは旧世界のアルギレイア亜連の方が種類が多いと主張しています。この点は私には判断がつかない部分です。また、系統解析についてですが、Esermanらは2014年の論文による少数の解析結果に依存しているとし、その点を問題としています。私には、Esermanらが2014年の論文にのみ準拠しているようには思えませんが、いずれにせよ系統解析は道半ばで断言出来る段階ではなさそうです。
Sweet Potato
『The sweet potato in Hawaii』(1923年)より。
引用の誤り
☆主張
著者らはIpomoeaのタイプを変更することを相談されておらず、Esermanらは誤って研究を引用しています。「アルギレイア亜連はIpomoea連における再境界の最も有用な更新に向けた障害であると考えられています…」 著者らはIpomoea連の分割を主張したことはなく、すべての出版物で単系統の分類群(属、亜属、節)を特定することは不可能かつ不要であり失敗する運命にあると主張してきました。
★感想
学術論文は協力しても良いのですが、通常は自由競争です。一々お伺いを立てる必要はありません。ですから、Esermanらは著者らのグループに相談してもしなくても構いません。
正直、言った言わないの話はどうでも良いのですが、まあとにかく著者らはIpomoea属を分割せず、と言うか事実上は出来ないので、拡張されたIpomoeaの維持を主張していることは理解出来ます。
タイプの変更は時期尚早
☆主張
署名者(Esermanら)はさらに次のように続けてもいます。「命名法がより安定した論理的な分類の発展を妨げるべきではないと考えており、Ipomoeaのタイプをアストリポモエア亜連に含まれる種に置き換えることを提案します。」 著者らはIpomoeaの入れ子状に非単系統の属が含まれている場合に、拡張されたIpomoea属を拒否することで、より安定した論理的か達成可能であると言う主張を裏付ける証拠や議論を何も提供していません。タイプの変更は、Ipomoeaの分類学と系統発生の研究が行われ、Ipomoeaの生物学、進化、形態が何らかの形で異なることが実証された後にのみ考慮されるべきです。
★感想
煩わしいので著者らの煽りは無視して進めます。実はこの部分は非常に重要な話です。確かに現状において、Ipomoeaの分類はあまりにも分からないことばかりです。ですから、Ipomoea属を分割すると言う話が近々で起きるとはとても思えず、今やらなくてはならないことかと聞かれると微妙な気もします。将来的に詳細が明らかとなってから考慮したら良いと言う著者らの主張は、私には正論に思えました。
まとめ
この論文の要点は、単純にIpomoea属のタイプを変更する必要はないと言うことです。まず、現状において、Ipomoea属が現時点においては分割される可能性は低いため、分割される可能性を考慮してタイプを変更するのは意味がないとしています。これらの著者らの主張は、傾聴に値するもののように思われます。しかし、Ipomoea属が将来的には分割される運命にあるような気もしています。この反論を受けて、Ipomoea属のタイプの変更を主張したEsermanらが反論に返答しています。記事がまたもや長くなりすぎたため、ここで切ります。明日がこの一連の記事の締めになります。
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