自生地のサボテンは様々な形で利用されており、コチニール色素をとるためにカイガラムシをウチワサボテンで育てたり、様々に利用しているようです。自生地ではありませんが、マダガスカルでは増えたウチワサボテンのトゲを焼いてから家畜に与えているという話を聞いたことがあります。また、ウチワサボテンの中でも、Opuntia ficus-indicaなどは産業利用出来ないかと、様々な分野から研究されているようです。さて、本日はサボテンと家畜の関係について、1つの報告を見つけましたのでご紹介します。それは、Walter H. C. Pequenoの2021年の論文、『Ocular and oral lesions caused by Tacinga inamoena in sheep and goats in Northeart Brazil』です。

サボテンと家畜
ブラジル北東部にはサボテンが多数生息しており、飼料が減少する干ばつの時期には、これらのサボテンを飼料とすることは一般的です。しかし、飼料とされるサボテンは飼料に適しているか研究されておらずに、家畜の健康に与える影響は確認されていませんでした。

Tacinga inamoena
Tacingaはブラジルの半乾燥地域の固有種です。Tacingaという名前はCaatingaという地名が変形したものです。Tacinga inamoenaは高さ20〜100cmまで生長する低木です。茎は長さ8〜9cm、幅は4.5〜5.5cm、厚さ1.0〜1.2cmの楕円形です。植物は緑色からわずかに灰色がかる色合いで、直径4〜5cmの昼行性のオレンジ色の花を咲かせます。T. inamoenaにはトゲはなく、ほぼ結晶質のセルロースの小さく鋭いgloquids(芒刺)の束があります。この「微小トゲ」は、容易に剥がれてしまい、皮膚に刺さると炎症を引き起こす可能性があります。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。
Tacinga inamoenaは、1890年にOpuntiaとして記載され、1979年にはPlatyopuntia、そして2002年にTacingaとされました。


症例①
2019年にPocinhos市で70頭のヤギと羊が飼育されていますが、飼い主が言うには少なくとも過去5年に渡り、家畜には重篤な目の合併症が発生していたということです。これらの問題は年間を通じて観察されましたが、乾季にはより顕著になる傾向がありました。飼い主により眼病治療用の抗生物質と抗炎症薬による治療を受けていましたが効果はありませんでした。他にも、一部の家畜は過剰な唾液分泌と摂食困難が認められました。
調査したところ、21.4%の家畜に眼の病変があり、顔面、眼瞼、結膜、耳介に芒刺が確認されました。検査をすると、過剰の流涙、眼瞼炎、羞明、角膜混濁、涙液腫、角膜血管新生、角膜潰瘍が見られました。口腔病変がある個体もおり、流血、摂食困難、口臭、歯肉および舌の潰瘍がありました。
放牧地にはT. inamoenaが存在し、飼い主によると家畜はT. inamoenaの果実を食べる姿がよく見られたということです。
潰瘍性角膜炎をおこした動物には抗生物質の点眼薬を潰瘍が治癒するまで処方し、口腔病変を示した動物には、治癒するまで柔らかい飼料を与えました。

症例②
2020年にBarra de Santa Rosa市にて、ヤギと羊を含む約100頭の家畜が飼育され、飼い主は羊たちの口内炎に悩まされてきました。動物は不快な口臭があり、摂食困難になり死亡する個体もありました。やはり、乾季に重篤な症状が出るということです。
1頭は動物病院に運ばれました。食欲不振により痩せ、ボディスコア(※)は1.5でした。被毛全体から芒刺が見つかりました。口臭、過剰な唾液分泌、広範な出血性潰瘍、および触診で痛みがある圧痛がありました。舌や頬、歯茎から液体の漏出が認められました。血液検査では、貧血や低アルブミン血症が確認されました。検査では結果から見た症状の重症度から、この個体は予後が好ましくないことが考えられるため安楽死となりました。剖検では、潰瘍とびらんを伴う潰瘍性丘疹病変が上下の唇、口腔粘膜、舌、口蓋で確認されました。これらは隆起し硬く不規則で、黄色から淡褐色まで様々な色と紅斑による壊死の跡に覆われていました。病理組織学的検査により、芒刺は真皮より深い筋肉層にまで浸潤していました。

※ ) Body Condition Scoreとは、動物の脂肪の蓄積具合を数値化したもので、動物の栄養状態を把握することができる。5段階評価で3が標準で、値が小さいほど痩せており、大きいほど太っている。例えば、ボディスコア=2は、骨が浮いて見える状態。

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Tacinga inamoena
『The Cactaceae』(1919年)より。
Opuntia inamoenaとして記載。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
ラクダがトゲだらけのウチワサボテンを食べる姿をテレビで見たことがありますから、草食獣は強いなあと思っていました。しかし、ヤギや羊はウチワサボテンを食べて体調不良に陥っていますから、必ずしも平気と言うわけではないようです。この場合、芒刺が良くないようですが、普通のトゲなら問題ないとも言えません。と言うのも、Opuntia strictaと言う芒刺ではない、世界中で侵略的に増えているウチワサボテンは、ヤギの眼や消化管に障害を引き起こしているそうです。サボテンは乾燥地にあっては、水分を大量に含みますから、草食動物にとっては魅力的な植物でしょう。ですから、サボテンはトゲで身を守っているわけです。サボテンのトゲが防御に役に立っていると言う実例を知ることが出来ました。


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