多肉植物の分布域は大抵は砂漠など、あまり人が住んでいないような場所です。しかし、近年では開発により生息地が破壊される速度が加速しています。本日はそんな開発により生息地を失った、とある多肉植物の救出作戦についてご紹介します。それは、Herta Kolbergの2014年の論文、『Relocation of Adenia pechuelii (Passifloraceae) -a viable rescue option?』です。Adenia pechueliiというアデニア属の塊茎植物の移転とその後の経過についての報告です。アデニア属と言えば、Adenia glaucaやAdenia globosaなど、緑色の塊茎からつるを伸ばす植物が稀に販売されています。

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Adenia pechuelii
『Die Pflanzenwelt Afrikas, insbesondere seiner propischen Gebiete』(1910年)より。

ウラン開発の余波
世界的なエネルギー危機と市場価格の高騰により、ナミビアにおけるウラン探査と採掘が増加しています。その計画の1つとして、カナダの企業がナミブ砂漠の東端にある農場でウラン採掘が行われることになりました。予定地の環境影響評価と環境管理計画では、一般的にElephant's Footと呼ばれるAdenia pechueliiの大規模な個体群が見つかりました。1994年のIUCN基準ではA. pechueliiは絶滅危惧IB(EN)として評価されていました。A. pechueliiはナミビアの固有種で西海岸沿いの霧が発生する地域に生えます。その生態はあまり良く知られていません。

移植試験
2008年にA. pechueliiの移植が可能であるかが試験されました。掘削機で植物の周囲を掘り、その後はスコップやバールを用いて丁寧に掘り上げ、なるべく根の損傷がないように深く掘り下げました。今回の試験では無作為に60本のA. pechueliiが選ばれ、様々な処理をして採掘予定地以外でA. pechueliiが生える地域に移植されました。移植は、ただ移植しただけの場合と、殺菌剤で処理したもの、発根ホルモンで処理したもの、定期的に水やりしたものなど、複数の条件が試されました。

移植後の経過観察
移植後は定期的な経過観察を行いましたが、移植から1年後にはすべての個体が生存していました。移植から4年後においても80%にあたる48個体が生存していました。枯死した個体のほとんどは移植によるダメージではなく、野生動物による食害によるものでした。移植しなかった個体も比較のために観察していましたが、やはり野生動物による食害により枯死するものが観察されています。また、食害による枯死は小型の個体が受けやすいようです。
これは、湿潤な年が続いた後で、干ばつが起こったことにより、野生動物による食害が発生しやすくなった可能性があります。野生動物の食害を受けないで枯死した個体は、わずか1個体でした。移植によるダメージを受けた可能性のある個体だけを考慮すると、移植後の生存率は98.5%にもなります。移植は有効であると判断されました。
移植時に様々な処理を試みましたが、これらは移植後の生存率や生長量には影響がありませんでした。ただ、定期的な水やりについては、移植した年は湿潤でよく雨が降ったため、その影響を推測することが出来ませんでした。しかし、移植時の水やりは、根の安定や発根の刺激のために必要であると考えられます。

最後に
以上が論文の簡単な要約です。
A. pechueliiに関しては移植は有効なようです。移植先の環境が異なると上手くいかない場合もありますが、A. pechueliiの場合は自生地が広く、移植先が豊富にあったことが幸いしたようです。とは言え、開発が進めばA. pechueliiの生息地は減少し続けるでしょう。その時に、有効な移植先がなかったり、残された自生地に過密に移植されるようなことがなければ良いのですけどね。


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