植物にとって花は繁殖のための非常に重要な器官です。さらに、植物の分類は花の形式を基準に発展してきました。ですから、植物にとっても学者にとっても花は重要なものと言えます。花の受粉は植物と花粉媒介者との相互作用により成立しています。植物の種類ごとに受粉形式は異なる可能性があります。しかし、残念ながら植物の受粉形式については、その重要さに関わらず、それほど詳しく調査されているわけではありません。
本日はアロエの受粉についてご紹介しましょう。それは、C. T. Symesらの2009年の論文、『Appearance can be deceiving: Pollination in two sympatric winter-flowering Aloe species』です。アロエの受粉生物学については非常に未熟で、ほとんど明らかとなっておりません。Aloe feroxやAloe marlothiiなどの巨大アロエは鳥媒花であることは判明していますが、その事実が他のアロエにも通用するのでしょうか?


花粉媒介者のタイプを予測するための受粉シンドローム(※1)の信頼性は疑問視されるようになり、多くの植物では複数種の花粉媒介者が関与している可能性があります。

※1 ) 受粉シンドロームとは、花粉媒介者に合わせて花の形式を適応させること。特定の相手との関係が想定される。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


かつて、Aloe feroxは虫媒花であると予測されたことがありました。ミツバチは非常に豊富なためです。しかし、実際にはミツバチはAloe feroxの受粉にはほとんど寄与しないことが明らかとなりました。もし、その花に様々な訪問者が来たとしても、それらの訪問者が重要な花粉媒介者ではないかも知れません。一部のアロエの花粉媒介者が確認されたのは最近のことです。しかし、アフリカ熱帯地域の約450種類のアロエは、未だに花粉媒介者が確認されておりません。野外実験と観察が必要です。

著者らは南アフリカ北部および北東部に生える2種類のアロエに着目しました。調査地は夏に降雨があり、アロエは乾燥した冬に開花します。1つは高さ6mにもなるAloe marlothiiで、岩の多い北向きの斜面に生えます。目立つオレンジ色から赤色の管状花は、様々な鳥を惹きつけます。もう1つは、あまり目立たない斑点のあるAloe greatheadii var. davyanaは、岩だらけの地形や草原で育ちます。サーモンピンクから赤色の花を咲かせます。過放牧地域に密集して生えます。

A. marlothiiの花の蜜は希薄(12%)で多量(250μL)ですが、A. greatheadii var. davyanaの花の蜜はより高い濃度(21%)で少量(33μL)です。一般に蜜の濃度が低い場合(8〜12%)は一般的な日和見な鳥(※2)を惹きつけ、蜜が少量(10〜30μL)、および高濃度(15〜25%)の花はハチドリやタイヨウチョウなどの花蜜専門のスペシャリストが訪れます。一般的な傾向からすると、A. marlothiiには日和見な鳥が訪れ、A. greatheadii var. davyanaはスペシャリストであるタイヨウチョウが訪れることにより受粉することが考えられます。


※2 ) 日和見な鳥とは、花蜜を専門としない様々なエサを食べる鳥のこと。花蜜に特化したタイヨウチョウはスペシャリストであるのに対し、日和見な鳥はジェネラリストと言える。

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Aloe marlothii
『A plant ecology survey of the Tugela river basin, Natal』(1967年)より。


著者らは、アロエの花にネットをかけて花粉媒介者を妨害してみました。1つは昆虫は入ることが出来ますが、鳥は入れない網です。もう1つは、ネットをかけていない花を比較のために観察しました。
A. marlothiiの場合、ネットをかけていない花と比較すると、昆虫は入れるネットをかけた花はほとんど受粉しませんでした。つまり、A. marlothiiの花は、昆虫による花粉媒介はほとんどおこらず、主に鳥により受粉することが想定されます。
対してA. greatheadii var. davyanaの場合、ネットをかけていない花と、昆虫は入れるネットをかけた花はほぼ同じくらい受粉しました。つまり、A. greatheadii var. davyanaは、受粉は昆虫により行われ、鳥による受粉はほとんどおきていないことが想定されます。


A. marlothiiの花には、2種類のタイヨウチョウを含む39種類の鳥が訪れました。日和見の鳥は顔や体に花粉が付着しましたが、タイヨウチョウでは花粉はクチバシの先端にのみ付着し、A. marlothiiにおける花粉媒介者としての貢献度は低下していることを示唆します。
A. greatheadii var. davyanaの花には、2種類のタイヨウチョウを含む11種類の鳥が訪れました。花を訪れたほとんどの鳥は、A. greatheadii var. davyanaの垂れ下がった筒状の花よりクチバシが短く、花蜜にアクセスしにくいため花を破壊する行動も見られました。また、花を訪れたタイヨウチョウの顔に花粉は確認されませんでした。

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Aloe davyana
『Jounal of South African botany』(1936年)より。Aloe verdoorniaeとして記載。現在、Aloe greatheadii var. davyanaは、独立種であるAloe davyanaとされているようです。


以上が論文の簡単な要約です。
A. greatheadii var. davyanaの花には鳥も訪れますが、その受粉への寄与はどうやら低いようです。タイヨウチョウは花蜜に特化しているだけに、雄しべや雌しべに触れないで蜜のみを抜き取る盗蜜を行います。タイヨウチョウで受粉するのは、タイヨウチョウに適応した花だけです。A. feroxの受粉はタイヨウチョウではなく日和見な鳥であるというのもその結果です。もしかしたら、A. marlothiiもタイヨウチョウの受粉への寄与は少ないかも知れません。
最初に述べた通り、アロエの花粉媒介者はまだまだ謎だらけです。同じ地域に生え同じ時期に咲くアロエでも、花粉媒介者は異なるのです。研究が進展したら、未だに知られていない面白い受粉形式が存在するかも知れません。今後が楽しみな研究分野ですね。


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